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▶ グローバル・ライフ・サイエンシズ・ソリューションズ・ジャーマニー・ゲーエムベーハーの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-16
(54)【発明の名称】DNA単離のための方法及びキット
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/10 20060101AFI20230309BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALN20230309BHJP
【FI】
C12N15/10 110Z
C12Q1/68 100Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022544819
(86)(22)【出願日】2021-01-19
(85)【翻訳文提出日】2022-09-21
(86)【国際出願番号】 EP2021051046
(87)【国際公開番号】W WO2021148393
(87)【国際公開日】2021-07-29
(31)【優先権主張番号】2001034.4
(32)【優先日】2020-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】520477463
【氏名又は名称】グローバル・ライフ・サイエンシズ・ソリューションズ・ジャーマニー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100154922
【弁理士】
【氏名又は名称】崔 允辰
(74)【代理人】
【識別番号】100207158
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 研二
(72)【発明者】
【氏名】リチャード・マーティン・ウェスト
(72)【発明者】
【氏名】アンジェラ・シアン・デイヴィーズ
(72)【発明者】
【氏名】マルコム・ジョン・ハッチャー
(72)【発明者】
【氏名】モニカ・セイデル
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QQ03
4B063QQ42
4B063QR66
4B063QS15
4B063QX02
(57)【要約】
無細胞DNAを液体生体試料から単離する方法であって、以下の工程、
a)液体生体試料を用意する工程、b)前記試料に、DNAに結合することができる固相、デタージェント及びカオトロピック剤を含む結合緩衝液、並びに2-プロパノールを添加して、それらの結合混合物を形成する工程、c)固相を洗浄して未結合の物質を除去する工程、並びに、d)結合した無細胞DNAを溶出する工程であり、溶出されたDNAの大部分が400bp未満である工程を含む方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無細胞DNAを液体生体試料から単離する方法であって、
以下の工程、
a)液体生体試料を用意する工程、
b)前記試料に、
DNAに結合することができる固相、
デタージェント及びカオトロピック剤を含む結合緩衝液、並びに
2-プロパノールを添加して、それらの結合混合物を形成する工程、
c)固相を洗浄して未結合の物質を除去する工程、並びに
d)結合した無細胞DNAを溶出する工程であり、溶出されたDNAの大部分が400bp未満である工程
を含む方法。
【請求項2】
試料が、血漿、血清又は尿である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
血漿が、無細胞DNA安定化チューブに採取された全血から得られる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
デタージェントが、非イオン性界面活性剤、例えば、Triton X-100等の親水性ポリエチレンオキシド鎖及び芳香族炭化水素親油性若しくは疎水性基(C14H22O(C2H4O)n、式中、n=9~10)を有する界面活性剤、又はTriton X-114、Nonidet P-40若しくはIgepal CA-630等の非イオン性界面活性剤である、請求項1、2又は3に記載の方法。
【請求項5】
カオトロピック剤が、チオシアン酸グアニジン又は過塩素酸ナトリウムである、請求項1から4の1つ又は複数に記載の方法。
【請求項6】
試料が血漿であり、デタージェントがTriton X-100等の非イオン性界面活性剤であり、カオトロピック剤がチオシアン酸グアニジンである、請求項1から5の1つ又は複数に記載の方法。
【請求項7】
前記結合混合物において血漿が約25~40%v/vである、請求項2から6の1つ又は複数に記載の方法。
【請求項8】
前記結合混合物において非イオン性界面活性剤又はTriton X-100が約20~30%w/vである、請求項4から7の1つ又は複数に記載の方法。
【請求項9】
前記結合混合物においてチオシアン酸グアニジンが約1.5~2.5Mである、請求項5から8の1つ又は複数に記載の方法。
【請求項10】
前記結合混合物において2-プロパノールが約15~25%v/vである、請求項1から9の1つ又は複数に記載の方法。
【請求項11】
固相が磁性マイクロビーズ、好ましくはシリカコーティング磁性ビーズを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
磁性マイクロビーズが20~200mg/mlの水性懸濁液となされている、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
無細胞DNAを液体生体試料からサイズ選択的に単離する方法であって、
以下の工程、
a)液体生体試料を用意する工程、
b)前記試料に、
- DNAを結合することができるシリカコーティング磁性マイクロビーズの水性懸濁液、
- チオシアン酸グアニジン及びTriton X-100等の非イオン性界面活性剤を含む結合緩衝液、並びに
- -2-プロパノールを添加して、それらの結合混合物を形成する工程であり、前記結合混合物が、Triton X-100等の非イオン性界面活性剤約20~30%w/v、約1.5~2.5Mのチオシアン酸グアニジン、及び2-プロパノール約15~25%v/vを含む、工程、
c)結合混合物を室温で約10~30分間インキュベートして、無細胞DNAの磁性マイクロビーズへの結合を促進する工程、
d)エタノールを含む1つ又は複数の洗浄緩衝液で磁性マイクロビーズを洗浄する工程、
e)工程d)の洗浄した磁性ビーズに溶出緩衝液を添加して、溶液中で磁性マイクロビーズに結合した無細胞DNAを放出する工程、並びに
f)任意選択で、工程e)で得られた無細胞DNAを分析又は定量化する工程
を含む方法。
【請求項14】
試料が、無細胞DNA安定化チューブに採取された全血から得られた血漿である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
血漿を、任意選択でプロテイナーゼK及びドデシル硫酸ナトリウム(SDS)で処理してそれらの混合物を形成し、前記混合物を約55~65℃で約20~30分間インキュベートする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記結合混合物において血漿が約25~40%v/vである、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
洗浄緩衝液が、エタノール50%と、約2.0Mのチオシアン酸グアニジン及びTriton X-100約22%w/vを含有する溶液50%とから構成される、請求項13から16の1つ又は複数に記載の方法。
【請求項18】
洗浄緩衝液が、エタノール80%と、約10mMのトリス-HCl、約1.0mMのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、及びTWEEN(登録商標)-20等のポリソルベート型非イオン性界面活性剤約0.5%w/vを含有する溶液20%とから構成される、請求項13から16の1つ又は複数に記載の方法。
【請求項19】
溶出緩衝液が、約10mMのトリス-HCl及び約0.5mMのEDTAを含有し、緩衝液がpH8.0に調整されている、請求項13から18の1つ又は複数に記載の方法。
【請求項20】
前記結合緩衝液、前記マイクロビーズ及び前記2-プロパノールを予め混合して、前記試料に添加する前に単一の複合試薬とする、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記マイクロビーズ及び前記結合緩衝液を、前記2-プロパノールを添加する前に前記試料に添加する、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記結合混合物が、
a)好ましくは1.75~2.25Mの範囲、より好ましくは1.9~2.1Mの範囲、例えば約2.0Mのチオシアン酸グアニジン、
b)好ましくは23~25%w/vの範囲、より好ましくは約24%w/v、例えば約24.1%w/vのTriton X-100、
c)好ましくは17~25%w/vの範囲、より好ましくは約22%w/v、例えば約22.2%w/vの2-プロパノールを含む、請求項1から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
使用する血漿の量が0.5ml~4mlである、請求項1から22の1つ又は複数に記載の方法。
【請求項24】
単離された無細胞DNAの断片分布が約50~400bpの範囲である、請求項1から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
血漿中に存在する無細胞DNAを、20~200mg/mlの水性懸濁液となされたシリカコーティング磁性マイクロビーズにサイズ選択的に結合させるための結合緩衝液組成物を形成するためのチオシアン酸グアニジン及びTriton X-100の使用であって、前記結合緩衝液が、2-プロパノール、血漿及び磁性マイクロビーズと接触させて、約1.5~2.5Mのチオシアン酸グアニジン、約20~30%w/vのTriton X-100、約15~25%v/vの2-プロパノール、及び約25~40%v/vの血漿を含む結合混合物を形成するように意図されている、使用。
【請求項26】
チオシアン酸グアニジン、Triton X-100及び2-プロパノールの存在下で、液体生体試料由来の50~400bp DNAに結合することができるシリカコーティングマイクロビーズを含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体生体試料中に存在する無細胞DNA(cfDNA)を単離する改善された方法及びシステムに関する。より詳細には、本発明は、小さい断片cfDNAの濃縮及び回収を容易にすると同時に、高分子量のより大きいゲノムDNA(gDNA)断片の回収を最小限に抑えるために、サイズ選択によって血漿からcfDNAを単離する方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
断片化されたcfDNA分子は、1948年にMandel及びMetaisによって、ヒト循環器系において最初に発見された。循環遊離DNA又は循環無細胞DNAとしても知られるcfDNAは、細胞によって血流中に放出されるDNA断片である。壊死、アポトーシス、食作用、活発な細胞分泌、エクソソーム放出、ピロトーシス、分裂期細胞死、及びオートファジー等、血液中へのcfDNA分子の放出のいくつかの機構が提唱されており、その結果、循環中に多様な物理的特性を有するcfDNA集団が存在することになる。健康な個体では、cfDNA断片は100~250bpの間で変動し、最も一般的なサイズは166bpで、これはヒストンコアに結合したDNA分子のヌクレオソーム複合体に対応する。cfDNAは、無細胞胎児DNA(cffDNA)、循環腫瘍DNA(ctDNA)又は循環無細胞ミトコンドリアDNA(ccf mtDNA)等の血流中を自由に循環する様々な形態の断片化DNAを表すために使用することができる。
【0003】
cfDNAの臨床的重要性は、研究者が健康な個体と病気の個体のcfDNAの特徴の違いを観察したときに認識された。多くの研究は、がん患者は一般的に健康な対象と比較して高レベルのcfDNAを有することを実証している。がん患者におけるcfDNAレベルの上昇は、アポトーシス細胞及び壊死細胞による過剰なDNA放出、及び/又は慢性炎症及び過剰な細胞死によるcfDNAの蓄積によって引き起こされると考えられている。健康な個体では、cfDNAレベルは主に低いが、激しい運動の後に一時的に上昇することがある。腫瘍細胞に由来するcfDNA断片のサイズは、非悪性細胞に由来するcfDNA断片よりも短いことも実証されている。同様に、胎児起源のcfDNAには、150bpより小さいDNAが高い比率で含有されている。自己免疫疾患及び移植後のドナー由来画分でも、より小さい断片の比率の増加が報告されている。したがって、より小さいcfDNA断片のサイズ選択を使用して、標的cfDNA断片(すなわち、がん診断における腫瘍由来のcfDNA又は非侵襲的出生前検査における胎児cfDNA)の量を増加させることができた。がん患者におけるcfDNAは、それらが発生する腫瘍に特徴的な独特の遺伝的及び後成的変化を受けている。したがって、cfDNAの遺伝子解析及び分子プロファイリングは、がんの検出、予後、病期分類、モニタリング、及び治療法の選択について臨床的に有望となる可能性を秘めている。日常の臨床診療におけるcfDNAアッセイのための2つのFDA承認済みアプリケーション、すなわち、肺がん患者のためのcobas EGFR変異試験v2及びSEPT9プロモーターのメチル化状態に基づいた結腸直腸がんスクリーニング検査であるEpi proColonによって、cfDNAががん管理のためのバイオマーカーであることを実証することに成功している。母体血中に存在する胎児由来のcfDNAを使用して、胎児の異常を検出することにも成功している。cfDNA分析は、臓器移植、自己免疫疾患、及びcfDNA画分がより小さいDNA分子中で富んでいる敗血症において、臨床的な使用の可能性も示されている。
【0004】
がん患者の血液では、cfDNAは、がん細胞だけでなく、腫瘍微小環境からの細胞及び体の様々な部分からの他の非がん細胞を含む複数の発生源から生じる。がん細胞からのDNAは、アポトーシス、壊死、及び活発な分泌の機構によって最も顕著に放出される。アポトーシスは、染色体DNAを160~180bpの長さの倍数に規則正しく切断し、その結果、細胞外にモノヌクレオソーム及びポリヌクレオソームが存在するようになる。アポトーシスによって生成されるcfDNAの大部分のサイズは167bpである(ヌクレオソームに巻き付けられた147bpのDNA及び2つのヌクレオソームコアを連結する約20bpのリンカーDNA)。
【0005】
固形腫瘍生検は費用が高く侵襲的であるため、高齢又は非常に若い患者には理想的とは言えない。一方、疾患バイオマーカーとしてのcfDNA分析は、血漿、尿又は血清のような患者の液体生体試料を利用する非侵襲的液体生検を使用して行うことができる。cfDNAのプール全体におけるctDNAの量は、患者、がんの種類及びがんの病期によって大きく変動することがあり、進行した転移では0.01%から90%になることがある。ctDNAは健康な細胞に由来するcfDNAよりも高度に断片化されており、断片サイズが短い(150bp未満)という意見が広く一致している。ctDNAの存在量が少なく、断片サイズが短いことはいずれも、cfDNAの単離及び更なる分析に重大な負荷となる。更に、腫瘍内の遺伝子の不均一性は、臨床腫瘍学の更に別の負荷であり、微量のサブクローン集団の特定が、新たな化学療法抵抗性の検出、わずかに残存する疾患の検出、及び疾患進行の非侵襲的モニタリングに不可欠である。検出限界は、溶解した血液細胞に由来する、血漿中に存在する可能性のある汚染高分子量gDNAの存在によって悪影響を受けるようになる。したがって、cfDNAの高収率を実現するだけでなく、より短いcfDNA断片の効率的な回収を可能にし、高分子量DNAをネガティブ選択するcfDNA抽出方法を選択することが重要である。何らかの稀な低レベルの耐性変異の検出は、腫瘍由来のcfDNAが試料に豊富に含まれ、血液細胞由来のgDNAバックグラウンドが最小限に抑えられている場合に検出される可能性が高くなる。したがって、cfDNAは通常、白血球(WBC)溶解によって引き起こされるgDNA汚染を防ぐために、WBCを含まない血漿又は血清から精製される。gDNA汚染は、腫瘍cfDNAを希釈して、稀なバリアントの検出を妨げてしまうことになり得る。cfDNAの断片化の増加は、胎児由来のcfDNA、臓器移植後のドナー由来のcfDNA、及び自己免疫疾患で広く報告されているため、サイズ選択をベースにしたcfDNA抽出は、がん診断以外にも明らかな利点をもたらす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、血漿のような液体生体試料からcfDNAを単離する改善されたサイズ選択的方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この方法の際だった利点は、汚染物質として認識される高分子量gDNAよりも小さくて高度に分解された断片と共に、主要なcfDNA画分を効率的に単離することが可能なことである。このサイズ依存性DNA結合によって、目的の画分において抽出されたcfDNAを、例えば、がんにおいて腫瘍由来のcfDNAを、又は異数性が疑われる妊娠の出生前検査において胎児cfDNAを、特異的に濃縮することができる。これによって、本発明の方法は液体生検をベースにした診断に非常に適したものとなる。
【0008】
この方法のもう1つの利点は、投入血漿試料の必要量が0.5ml~4mlの範囲と非常に少ないことである。
【0009】
この方法のもう1つの利点は、迅速であり、cfDNA単離手順を2時間未満で完了して、下流の適用に適した高品質のcfDNAを生成できることである。
【0010】
本発明の一態様によれば、無細胞DNAを液体生体試料から単離する方法は、以下の工程を含む:
a)液体生体試料を用意する工程、
b)前記試料に、
- DNAに結合することができる固相、
- デタージェント及びカオトロピック剤を含む結合緩衝液、並びに
- -2-プロパノールを添加して、それらの結合混合物を形成する工程、
c)固相を洗浄して未結合の物質を除去する工程、並びに
d)結合した無細胞DNAを溶出する工程であり、溶出されたDNAの大部分が400bp未満である工程。
【0011】
本発明の別の態様によれば、無細胞DNAを液体生体試料からサイズ選択的に単離する方法は、以下の工程を含む:
a)液体生体試料を用意する工程、
b)前記試料に、
- DNAを結合することができるシリカコーティング磁性マイクロビーズの水性懸濁液、
- チオシアン酸グアニジン及びTriton X-100等の非イオン性界面活性剤を含む結合緩衝液、並びに
- -2-プロパノールを添加して、それらの結合混合物を形成する工程であり、前記結合混合物が、Triton X-100等の非イオン性界面活性剤約20~30%w/v、約1.5~2.5Mのチオシアン酸グアニジン、及び2-プロパノール約15~25%v/vを含む工程、
c)前記結合混合物を室温で約10~30分間インキュベートして、無細胞DNAの磁性マイクロビーズへの結合を促進する工程、
d)エタノールを含む1つ又は複数の洗浄緩衝液で磁性マイクロビーズを洗浄する工程、
e)工程d)の洗浄した磁性ビーズに溶出緩衝液を添加して、溶液中で磁性マイクロビーズに結合した無細胞DNAを放出する工程、並びに
f)任意選択で、工程e)で得られた無細胞DNAを分析又は定量化する工程。
【0012】
本発明の別の態様によれば、チオシアン酸グアニジン及びTriton X-100を使用して、血漿中に存在する無細胞DNAを、20~200mg/mlの水性懸濁液となされたシリカコーティング磁性マイクロビーズにサイズ選択的に結合させるための結合緩衝液組成物を形成し、前記結合緩衝液は、2-プロパノール、血漿及び磁性マイクロビーズと接触させて、約1.5~2.5Mのチオシアン酸グアニジン、約20~30%w/vのTriton X-100、約15~25%v/vの2-プロパノール、及び約25~40%v/vの血漿を含む結合混合物を形成するように意図されている。
【0013】
本発明の別の態様によれば、チオシアン酸グアニジン、Triton X-100及び2-プロパノールの存在下で、生体試料由来の50~400bp DNAに結合することができるシリカコーティングマイクロビーズを含むキットが記載されている。
【0014】
本発明の更なる利点及び利益は、以下の詳細な説明から当業者には容易に明らかになる。
【0015】
次に、添付の図面を参照して、本発明をより詳細に説明する:
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の方法に従って、全血からcfDNAを抽出するために使用される一般的な方法論を例示する図である。
図2a】本発明の方法を使用したDNA断片のサイズ(Fragment Size)依存性回収を示すバイオアナライザプロットを示す図である。
図2b】本発明の方法を使用して選択された低分子量DNA断片及び高分子量DNA断片のパーセント回収率を示す図である。
図3】結合混合物中の2-プロパノールの比率変化の効果を示す、調製番号10A~10Dのバイオアナライザプロットを示す図である。
図4】結合混合物中の2-プロパノールの比率変化の効果を示す、調製番号10E~10Hのバイオアナライザプロットを示す図である。
図5】結合混合物中の2-プロパノールの比率変化の効果を示す、調製番号13Aリピート及び13Gリピートのバイオアナライザプロットを示す図である。
図6】結合混合物中の2-プロパノールの比率変化の効果を示す、バイオアナライザプロットを示す図である。
図7】低分子量DNA断片に関する図6の一部の拡大図を示す図である。
図8】高分子量DNA断片に関する図6の一部の別の拡大図を示す図である。
図9】結合混合物中のTriton X-100の比率変化(8.8%及び11.1%)の効果を示す、バイオアナライザプロットを示す図である。
図10】結合混合物中のTriton X-100の比率変化(8.8%及び4.5%)の効果を示す、バイオアナライザプロットを示す図である。
図11】サイズ選択に対する血漿成分の影響を示すための電気泳動図を示す図である。
図12】血漿投入量を変化させるための本発明のcfDNA単離方法の拡張性を示すバイオアナライザプロットを示す図である。
図13】標準的なEDTAチューブに採取した血漿を使用したcfDNA回収プロファイルを示す、バイオアナライザプロットを示す図である。
図14】サイズ選択しない市販のキットを上回る、がん変異検出における本発明の方法のサイズ選択の利点を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
特許請求した本発明の主題をより明確且つ簡潔に説明及び指摘するために、本明細書及び特許請求の範囲全体で使用した特定の用語の定義を以下に提供する。本明細書における特定の用語の例示は、非限定的な例と見なすべきである。
【0018】
「含む(comprising)」又は「含む(comprises)」という用語は、本出願全体を通してそれらの従来の意味を有し、薬剤又は組成物は挙げられた本質的な機能又は成分を有さなければならないが、その他のものが更に存在していてもよいことを意味する。「含む(comprising)」という用語は、好ましいサブセットとして「本質的にからなる」を含んでおり、これは、その他の機能又は成分が存在することなく、組成物が挙げられた成分を有することを意味する。
【0019】
この書面による説明は、実施例を使用して、最良の様式を含む本発明を開示しており、また、当業者が本発明を実行することができるようにし、任意の装置又はシステムの作製及び使用、並びに任意の組み込まれた方法の実施を含む。本発明の特許性のある範囲は、特許請求の範囲によって定義され、当業者に生じるその他の例を含むことができる。そのようなその他の例は、特許請求の範囲の文字通りの言語と異ならない構造要素を有する場合、又は特許請求の範囲の文字通りの言語とごくわずかに異なる同等の構造要素を含む場合、特許請求の範囲の範囲内にあることを意図している。
【0020】
略語のリスト
cfDNA:無細胞DNA
cffDNA:無細胞胎児DNA
ccf mtDNA:循環無細胞ミトコンドリアDNA
PBS:リン酸緩衝生理食塩水
GuSCN:チオシアン酸グアニジン
bp:塩基対
EDTA:エチレンジアミン四酢酸
NGS:次世代シーケンシング
SDS:ドデシル硫酸ナトリウム
gDNA:ゲノムDNA
WBC:白血球
PCR:ポリメラーゼ連鎖反応
ddPCR:デジタルドロップレットPCR
【0021】
実施例で使用した機器のリスト
1. 15mL遠心分離管及び1.5mLマイクロ遠心分離管を収容できる遠心分離機
2. 15mL遠心分離管及び1.5mLマイクロ遠心分離管を収容するための標準研究室用振盪機/ミキサー、例えば、エッペンドルフ(商標)サーモミキサー
3. インキュベータ
4. ボルテックスミキサー
5. 15mL遠心分離管及び1.5mLマイクロ遠心分離管
6. 血液採取用のcfDNA安定化チューブ
7. エアロゾルバリアの付いたピペットチップ
8. 15mL遠心分離管及び1.5mLマイクロ遠心分離管に適した磁性ラック、例えば、MagRack 6及びMagRack Maxi(GE Healthcare社)
9. バイオアナライザ2100(Agilent社)
【0022】
使用したチューブ及びピペットチップは全て、DNaseフリーのグレードであった。試料汚染を防ぐために、医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施の基準に従った。
【0023】
詳細な説明
本発明のcfDNA単離方法は、0.5ml~4mlの範囲の血漿等の少量の液体生体試料からのcfDNAの迅速な抽出及び精製を可能にし、高解像度のcfDNAサイズ選択を提供する。この方法は、より長い高分子量の汚染gDNAから短い断片のcfDNA(50bp~400bp)を選択するように特別に設計されている。本発明の単離手順は、2時間未満で完了して、PCR、デジタルドロップレットPCR(ddPCR)、遺伝子型同定、及び次世代シーケンシング(NGS)等の下流の適用に適した高品質cfDNAを生成することができる。
【0024】
図1は、本発明の方法に従って、全血からcfDNAを抽出するために使用される一般的な方法論を例示している。最高の品質及び量のcfDNAを確保するために、血液試料は通常cfDNA安定化チューブ、例えば、streck cfDNA採血管に採取する。Streck cfDNA採血管は、血液中の有核血球を安定化し、血漿への細胞DNAの放出を防ぐことによって、血液試料中のcfDNAを室温で最大14日間保存する、安定化試薬を含む採血装置である。当業者に理解されるように、EDTAチューブ又はヘパリンチューブを代替として使用することができる。採血後、血漿を得るために更に処理するまで、採取チューブを室温で保存する。採取チューブを1600×gの低速で20℃で10分間遠心分離して、無傷の血液細胞から血漿を分離する。上部血漿画分(血液10mL当たり約4~5mL)は、血漿と沈降赤血球層の間に位置するバフィーコート層を乱すことなく、新しいチューブに吸引する。次に、チューブを16000×gの高速で20℃で10分間再度遠心分離し、細胞残渣及びその他の汚染物質を取り除き、透明な血漿を得る。透明な血漿画分を新しいチューブに吸引し、細胞残留物を残す。当業者が知っているように、血漿の量を多くして、試料の均一性を確保するために、一般的に、個々の吸引をプールしてから、cfDNA単離に便利な単位、例えば、2.0mL単位に再分注することが推奨される。その後、血漿はcfDNA単離のために直ちに処理するか、必要になるまで小分けして-20℃/-80℃で保存する。精製されたcfDNAは、分析及び/又は下流の分子生物学適用に直接使用される場合は、2~8℃で短期間保存してもよい。長期間の保存には、-20℃又は-80℃が推奨される。
【0025】
血漿中に認められる主な種類のcfDNAは核ゲノムに由来しており、単一のヌクレオソームに対応する断片サイズを有する。これらの高分子複合体は、cfDNAを放出してDNA結合固相へのcfDNAの結合を促進するために、解離する必要がある。本発明の一実施形態では、固相は、好ましくは、シリカビーズ表面が表面シラン(Si-OH)基を介してDNA結合に直接関与する、シリカコーティング磁性マイクロビーズであった。一部のcfDNAはまた、脂質小胞中にカプセル化されていると考えられており、結合工程の前に放出する必要がある。これらの多様な高分子複合体及び脂質小胞からのcfDNAの放出は、カオトロピック剤及びデタージェントの組合せを使用することによって達成される。カオトロピック剤はヌクレオソーム単位を破壊してcfDNAを放出させ、デタージェントはタンパク質を可溶化及び変性させて非共有結合したcfDNAを放出するのに役立つ。血液をstreck cfDNA採血管に採取する場合、プロテイナーゼK処理は、架橋を除去することによってStreck cfDNA安定化化学作用の効果を逆転させるために更に必要で、そうしないと単離方法においてcfDNAの効率的な回収が妨げられる。当業者に理解されるように、その他の採血管を使用する場合、プロテイナーゼK処理は必要ではない場合がある。次に、変性した汚染物質は、シリカビーズを洗浄緩衝液でその後洗浄し、続いてシリカビーズを風乾することによって除去される。次に、精製されたcfDNAは、溶出緩衝液を使用してシリカビーズから溶出される。本発明の好ましい実施形態では、GE Healthcare Life Sciences社製のSeraSil-Mag 700ビーズを、放出されたcfDNAを結合するために使用し、GuSCNをカオトロピック剤として使用し、20%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)をデタージェントとして使用した。当業者によって理解されるように、シリカビーズの代わりに、その他の任意のDNA結合固相を使用することができ、例えば、固相は、固有のDNA結合又は追加のDNA結合能力を有するビーズ、粒子、シート及び膜であってもよい。
【0026】
血漿中で遭遇するcfDNAのレベルは非常に低いため、分析に十分な濃度のcfDNAを生成するには、単離方法において量を大幅に低下させることが必要である。血漿からのcfDNAの効率的な結合、穏やかな洗浄、及び最小限の溶出が、下流の適用に適した精製されたcfDNAを提供するための鍵となる。最終抽出物中のcfDNAのレベルは通常低いため、UV吸光度をベースにした分析は通常推奨されない。代わりに、cfDNA濃度は、qPCR又はQubit(商標)(Invitrogen(商標))等の蛍光をベースにした方法を使用して評価する。Qubit(商標)dsDNA HSアッセイキットは、蛍光光度計又は蛍光プレートリーダーと相性がよく、10pg/μLまでの総DNA濃度を正確に推定することができる。gDNAの存在に加えてcfDNAの品質及び収率を評価するために、Agilent 2100バイオアナライザシステムを使用して、Agilent高感度DNA分析キットを用いて評価を実施することができる。
【0027】
血漿1.0~4.0mLからcfDNAを精製するための手法
【実施例1】
【0028】
Streck cfDNA採血管に採取された全血試料は、上述のように血漿を分離するために処理した。次に、cfDNA単離方法の以下の工程を実施して、血漿試料から精製されたcfDNAを得た。各工程は、血漿試料の1ml、2ml及び4mlの3つの異なる投入血漿量を使用して実施した。
【0029】
工程1.溶解
この工程は、高分子複合体からcfDNAを放出し、Streck DNA安定化化学作用を逆転させるために実施する。プロテイナーゼK(20mg/mL)溶液及び血漿試料を15mL Streck cfDNA採血管に添加し、短時間ボルテックスして混合した。次に、20%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)をチューブに添加した。プロテイナーゼK又は血漿のどちらを最初にチューブに添加してもよい。しかし、酵素の不活性化を防ぐために、20%SDSをプロテイナーゼK溶液に直接接触させないようにする。チューブを2~3回パルスボルテックスし、15秒間ボルテックスすることによって内容物を完全に混合した。次に、チューブを約55~65℃で約20~30分間インキュベートした。以下のTable 1(表1)は、使用された様々な血漿投入量並びにプロテイナーゼK及び20%SDSの対応する量を示している。
【0030】
【表1】
【0031】
工程2:結合混合物の調製
磁性マイクロビーズ(GE Healthcare Life Sciences社製のSera-Sil Mag 700)は、分注する前にボルテックスすることによって完全に再懸濁した。工程1の血漿、結合緩衝液、磁性ビーズの水性懸濁液、及び2-プロパノールを組み合わせることによって、結合混合物を調製した。この実施例では、結合緩衝液、磁性ビーズの水性懸濁液、及び2-プロパノールを組み合わせることによって、複合試薬を最初に調製した。次に、この予め混合した複合試薬を工程1の血漿含有チューブに添加し、パルスボルテックスすることによって完全に混合して、結合混合物を形成した。当業者であれば、結合混合物はまた、予め混合した複合試薬を使用するのではなく、結合緩衝液、磁性ビーズ及び2-プロパノールを1つずつ血漿含有チューブに添加し、続いて完全にパルスボルテックスすることによっても調製することができることを理解する。本発明の一実施形態では、マイクロビーズ及び結合緩衝液は、2-プロパノールを添加する前に血漿試料に添加する。
【0032】
結合混合物中の各成分の相対量は、cfDNA回収を最大にし、gDNA結合を最小にするために重要である。以下のTable 2(表2)は、結合混合物を形成するための3つの異なる投入血漿量に対応して使用される予め混合された複合試薬の量を示している。Table 3(表3)は、Table 2(表2)で示したような複合試薬の個々の成分の量を示している。
【0033】
【表2】
【0034】
【表3】
【0035】
結合緩衝液は通常、デタージェント及びカオトロピック剤から構成される。この実施例では、Triton X-100をデタージェントとして使用し、GuSCNをカオトロピック剤として使用した。Triton X-100は、非イオン性界面活性剤、例えば、親水性ポリエチレンオキシド鎖及び芳香族炭化水素親油性又は疎水性基(C14H22O(C2H4O)n、式中、n=9~10)を有する界面活性剤である。当業者によって理解されるように、同様の効果を有するその他のデタージェント及びカオトロピック剤を使用することができる。代替となるデタージェントの一部の例は、Triton X-114、Nonidet P-40、及びIgepal CA-630である。代替となるカオトロピック剤の1例は、過塩素酸ナトリウムである。
【0036】
次に、結合混合物を含有するチューブをサーモミキサー(25℃、1400rpm)内で10分間インキュベートした後、短時間回転させ、磁性ラックに少なくとも5分間置いた。結合したcfDNAを含有するビーズを磁石に集めてビーズペレットを形成したら、変性タンパク質/脂質を含む透明な上清を注意深く吸引して廃棄した。
【0037】
工程3:ビーズの移動
チューブを磁性ラックから取り出し、400μLの洗浄緩衝液1をチューブのビーズペレットに直接添加した。洗浄緩衝液1は、エタノール50%と、約2.0MのGuSCN及びTriton X-100等の非イオン性界面活性剤約22%w/vを含有する溶液50%とから構成されていた。ビーズは、パルスボルテックスして短時間回転することによって完全に再懸濁した。ビーズ懸濁液をピペットで上下に動かし、チューブの内容物を1.5mLマイクロチューブに移した。液体粘度のため、チップの内容物をゆっくりと排出して、確実にビーズ懸濁液を完全に移した。洗浄緩衝液1の第2の一部分(400μL)をチューブに添加した。チューブをボルテックスし、短時間回転させ、内容物を同じ1.5mLマイクロチューブに移した。次に、マイクロチューブを磁性ラックに1分間置いて、ビーズを磁石に集めてから上清を廃棄した。
【0038】
工程4:ビーズの洗浄
マイクロチューブを磁性ラックから取り出し、700μLの洗浄緩衝液1をマイクロチューブに添加した。マイクロチューブをサーモミキサー内で25℃/1400rpmで1分間インキュベートし、ボルテックスした後、短時間回転させた。次に、マイクロチューブを磁性ラックに1分間置いてから、上清を廃棄した。マイクロチューブを磁性ラックから取り出し、700μLの洗浄緩衝液2をマイクロチューブに添加した。洗浄緩衝液2は、エタノール80%と、約10mMのトリス-HCl、約1.0mMのEDTA、及びTWEEN(登録商標)-20等のポリソルベート型非イオン性界面活性剤約0.5%w/vを含有する溶液20%とから構成されていた。当業者が理解するように、同様の効果を有する代替の非イオン性界面活性剤も使用することができる。一部の例は、Tween(登録商標)-80又はTween(登録商標)-60である。或いは、界面活性剤は全く排除することができた。マイクロチューブをサーモミキサー内で25℃/1400rpmで1分間インキュベートし、ボルテックスして短時間回転させた。次に、マイクロチューブを磁性ラックに1分間置いてから、上清を廃棄した。洗浄緩衝液2を使用して、洗浄をもう1回行った。
【0039】
工程5:風乾
マイクロチューブを短時間回転させて、残留洗浄緩衝液2をマイクロチューブの底に集めた。マイクロチューブを磁性ラックに1分間置いて、ビーズを磁石に集めた。小さなピペットチップを使用して、マイクロチューブの一番下から透明な残留上清を注意深く除去した。次に、磁性ラック上にある間にビーズペレットを5分間風乾させた。
【0040】
工程6:溶出
マイクロチューブを磁性ラックから取り出した。溶出緩衝液をマイクロチューブに添加し、ボルテックスすることによってよく混合して、確実にビーズペレットを完全に再懸濁した。溶出緩衝液は、約10mMのトリス-HCl及び約0.5mMのEDTAを含有し、pHは8.0に調整した。マイクロチューブをサーモミキサー内で25℃/1400rpmで3分間インキュベートし、短時間回転させてビーズ懸濁液をチューブの底に集めた。チューブを磁性ラックに1分間置いて、ビーズを磁石に集めた。ビーズが磁石に集まったら、単離されたcfDNAを含有する上清を注意深く新しいマイクロチューブに移した。以下のTable 4(表4)は、3つの異なる量の投入血漿に対応して使用される溶出緩衝液の量を示している。
【0041】
【表4】
【0042】
cfDNAを血漿500μL(0.5ml)から精製するための手法
【実施例2】
【0043】
前述のように血漿を分離するために全血試料を処理した。次に、cfDNA単離方法の以下の工程を実施して、血漿試料0.5mlから精製されたcfDNAを得た。
【0044】
工程1:溶解
プロテイナーゼK(20mg/mL)10μL及び血漿0.5mlを2mLマイクロ遠心分離管に添加し、短時間ボルテックスすることによって混合した。次に、20%SDS 25μLをチューブに添加した。プロテイナーゼK又は血漿のどちらを最初にチューブに添加してもよい。しかし、酵素の不活性化を防ぐために、20%SDSをプロテイナーゼK溶液に直接接触させないようにする。チューブを2~3回パルスボルテックスし、15秒間ボルテックスすることによって内容物を完全に混合した。次に、チューブを約55~65℃で約20~30分間インキュベートした。
【0045】
工程2:結合混合物の調製
磁性マイクロビーズ(GE Healthcare Life Sciences社製のSera-Sil Mag 700)は、分注する前にボルテックスすることによって完全に再懸濁した。複合試薬は、以下の3つの成分を組み合わせ、パルスボルテックスによって完全に混合することによって調製した。
【0046】
1. 結合緩衝液0.725mL×(処理する試料の数+10%)
2. 2-プロパノール0.35mL×(処理する試料の数+10%)
3. 磁性ビーズ懸濁液3.75μL (試料の数+10%)
【0047】
新たに調製した複合試薬1.05mlを工程1の血漿含有チューブに添加し、内容物をパルスボルテックスすることによって完全に混合して、結合混合物を調製した。上記の実施例1で述べたように、結合緩衝液、磁性ビーズ懸濁液及び2-プロパノールは、予め混合した複合試薬を使用する代わりに、工程1の血漿含有チューブに1つずつ添加することができた。
【0048】
次に、チューブをサーモミキサー内で25℃/1400rpmで10分間インキュベートした。次に、チューブを短時間回転させ、磁性ラックに少なくとも5分間置いた。結合したcfDNAを含有するビーズを磁石に集めたら、透明な上清を注意深く吸引して廃棄した。
【0049】
工程3:ビーズの洗浄
チューブを磁性ラックから取り出し、700μLの洗浄緩衝液をチューブに添加した。以下のTable 5(表5)に示したように、洗浄緩衝液1及び2を使用して洗浄を複数回実施した。
【0050】
【表5】
【0051】
使用した洗浄緩衝液1及び2は、上記の実施例1で記載した通りであった。チューブをサーモミキサー内で25℃/1400rpmで1分間インキュベートし、その後ボルテックスして短時間回転させた。次に、チューブを磁性ラックに1分間置いてから、上清を廃棄した。
【0052】
工程4:風乾
チューブを短時間回転させて、チューブの底に残留洗浄緩衝液2滴を集めた。次に、チューブを磁性ラックに1分間置いて、ビーズを磁石に集めた。小さなピペットチップを使用して、マイクロチューブの一番下から透明な残留上清を注意深く除去し、磁性ラック上にある間にビーズペレットを5分間風乾させた。
【0053】
工程5:溶出
チューブを磁性ラックから取り出した。溶出緩衝液15μLをチューブに添加し、チューブの内容物をボルテックスすることによってよく混合して、確実にビーズペレットを完全に再懸濁した。使用した溶出緩衝液は、上記の実施例1で記載したのと同じであった。チューブをサーモミキサー内で25℃/1400rpmで3分間インキュベートした後、短時間回転させてビーズ懸濁液をチューブの底に集めた。チューブを磁性ラックに1分間置いて、ビーズを磁石に集めた。ビーズが磁石に集まったら、単離されたcfDNAを含有する上清を注意深く新しいマイクロ遠心分離管に移した。
【0054】
回収対断片サイズ
本発明の方法は、例えば、進行期がんを有する患者の血漿中に存在すると報告されているような小さいcfDNA断片の回収を最大にし、腫瘍起源のDNAに富む画分を表すように設計されている。同時に、この方法の設計は、溶解した血液細胞に由来する、存在する可能性のある高分子量gDNAの共精製を大幅に低下させる。小さい断片の回収が増加し、大きい断片の回収を低減させるこの相乗効果は、以下に記載した実施例3及び実施例4で実証されており、それぞれ図2a及び図2bに示されている。
【実施例3】
【0055】
血漿2mlを、2人の健康なヒト対象からstreck cfDNA採血管に採取した血液から得た。両方の血漿試料に50bp DNAラダーを血漿の10ng/mLの濃度でスパイクし、各血漿試料を本発明の方法に従って処理してDNAを抽出した。次に、各試料から単離したDNA 1μlを、バイオアナライザ2100において高感度DNAチップで泳動した。結果は、血漿をスパイクするために使用した50bp DNAラダー断片のサイズ依存性回収を示すバイオアナライザプロットを示す図2aで示した通りである。図2aで示したように、2つの独立したDNA抽出物は、それぞれ青及び赤の線で示されている。スパイクされた投入物と同等の参照ラダーは、緑色の線で示されている。プロットからわかるように、スパイクされた両試料において、主要なcfDNAピーク(すなわち、約100bpから300bpの間)に対応する50bp DNAラダー断片及び100bp以下の断片が効率的に回収されている。50bp DNAラダー断片の相対的回収率は、2.5kbで最小の回収率を示す。この実施例は、本発明のcfDNA単離方法が、存在する可能性のある溶解した血液細胞に由来する高分子量gDNA汚染物質の共精製を大幅に低下させることを実証している。
【実施例4】
【0056】
血漿を、2人の健康なヒト対象からstreck cfDNA採血管に採取された血液から得た。両方の血漿試料に50bp DNAラダーを血漿の10ng/mLの濃度でスパイクし、各血漿試料を本発明の方法に従って処理してcfDNAを抽出した。8つの独立した実験に基づいて、50bp、100bp及び2.5kbpの選択された断片にスパイクした50bp DNAラダーのパーセント回収率を測定した。図2bは、エラーバーが標準偏差を表す測定値のプロットを示している。図2bは、低分子量断片、すなわち、50bp及び100bpのパーセント回収率が高く、2.5kbの高分子量断片のパーセント回収率が低い回収プロファイルを示している。
【0057】
相乗効果:より大きい高分子量DNAの回収の低減と併せた小さいcfDNA断片の回収の増加
本発明の発明者等は、驚くべきことに、結合混合物中におけるTriton X-100、2-プロパノール及びGuSCNの相対的比率を操作することによって、血漿試料から所望のDNA断片回収プロファイルを得ることが可能であることを発見した。結合混合物中のTriton X-100及び2-プロパノールの両方の比率を増加させると、断片サイズが短いcfDNAの回収が改善し、汚染gDNAの回収が減少することがわかった。グアニジニウムイオンの量を特定のレベルより多く増加させると、高分子量断片の結合が増加することもわかった。前述のように、結合混合物は、結合緩衝液、2-プロパノール、磁性ビーズの水性懸濁液、及び血漿の組合せである。
【0058】
結合混合物中の2-プロパノールの比率変化の効果
【実施例5】
【0059】
この実験では、結合混合物中の2-プロパノールの比率を変化させて、cfDNA回収プロファイルに及ぼす効果を判定した。試験した様々な組合せを以下のTable 6(表6)に要約する。Triton X-100の比率は、結合混合物中約8.8%に固定した。調製番号10A~10Dでは、結合混合物中のGuSCNは2Mに固定した。調製番号10E~10Hでは、結合混合物中のGuSCNは2.4Mに固定した。
【0060】
【表6】
【0061】
抽出したcfDNAをバイオアナライザ2100で泳動し、回収プロファイルを確認した。図3は、調製番号10A~10Dのバイオアナライザプロットを示している。プロットで示したように、結合混合物中の2-プロパノールの比率を増加させると、より小さいサイズのDNA断片の回収が増加する。図4は、同じ結果を有する調製番号10E~10Hのバイオアナライザプロットを示している。結合混合物中のGuSCNの比率の増加がgDNA結合を増加させることも観察された。
【実施例6】
【0062】
この実験では、結合混合物中のGuSCNを2Mに固定し、Triton X-100を8.8%に固定しながら、結合混合物中で22%から25.2%に増加した2-プロパノールの効果を試験した。
【0063】
これを以下に挙げたTable 7(表7)に要約する。
【0064】
【表7】
【0065】
抽出したcfDNAをバイオアナライザ2100で泳動し、回収プロファイルを確認した。図5は、調製番号13Aリピート及び13Gリピートのバイオアナライザプロットを示している。プロットで示したように、2-プロパノールを22%から25.2%に増加すると、高分子量DNAの結合が低下することが観察された。
【実施例7】
【0066】
この実験では、結合混合物中のGuSCNを2Mに固定し、Triton X-100を11.1%に固定しながら、結合混合物中の17.5%、19%、20.6%及び22.2%の2-プロパノールの効果を試験した。これを以下のTable 8(表8)に要約する。
【0067】
【表8】
【0068】
抽出したcfDNAをバイオアナライザ2100で泳動し、回収プロファイルを確認した。図6は、抽出されたcfDNAの回収プロファイルに対する結合混合物中の22.2%(A2)、20.6%(B2)、19%(C2)及び17.5%(D2)の比率の2-プロパノールの効果を示すバイオアナライザプロットを示している。プロットで示したように、結合混合物中の2-プロパノールの比率を17.5%から22.2%に増加すると、高分子量DNAの結合が低下し、小さいサイズのDNAの結合が増加することが観察された。図7は、低分子量DNA断片に関する図6の一部の拡大図を示している。図7で示したように、結合混合物中の2-プロパノールの比率を22.2%から20.6%に減少させると、50bp断片回収が少なくとも50%減少することが観察された。図8は、同様に高分子量DNA断片に関する図6の一部の別の拡大図を示している。図8で示したように、結合混合物中の2-プロパノールの比率を22.2%から19%に減少させると、2.5kb断片の回収が劇的に増加することが観察された。
【0069】
結合混合物中のTriton X-100の比率変化の効果
【実施例8】
【0070】
この実験では、結合混合物中のTriton X-100の比率を変化させて、cfDNA回収プロファイルに及ぼす効果を判定した。試験した様々な組合せを以下のTable 9(表9)に要約する。結合混合物中の2-プロパノールを22%に固定し、GuSCNを2Mに固定しながら、結合混合物中のTriton X-100の比率を8.8%及び11.1%で試験した。
【0071】
【表9】
【0072】
cfDNA抽出物をバイオアナライザ2100で泳動し、cfDNA回収プロファイルに対する結合混合物中のTriton X-100の比率の効果を確認した。図9は、2-プロパノールを約22%に固定した場合のバイオアナライザプロットを示している。図9に認められるように、Triton X-100を8.8から11.1%に増加させると、高分子量DNAの結合が低下し、小さいDNA断片の回収が増加した。
【実施例9】
【0073】
この実験では、結合混合物中の2-プロパノールを約25.2%に固定し、GuSCNを2Mに固定しながら、結合混合物中のTriton X-100の比率を8.8%及び4.5%で試験した。試験した様々な組合せを以下のTable 10(表10)に要約する。得られたcfDNAの抽出物をバイオアナライザ2100で泳動し、cfDNA回収プロファイルに対する効果を確認した。図10は、Triton X-100を上昇させると、より小さいサイズのDNAの回収が増加し、同時により大きいサイズのDNAの回収が低下することが観察されるバイオアナライザプロットを示している。
【0074】
【表10】
【0075】
結合混合物中の血漿成分の効果
本発明者等は、所望のcfDNA回収プロファイルを達成するために、結合混合物中に血漿が必要であることに注意した。これは、以下の実施例10で説明する。
【実施例10】
【0076】
この実験では、以下のTable 11(表11)に示したように、結合混合物中でGuSCNを2Mに固定し、Triton X-100を11.1%に固定し、2-プロパノールを22.2%に固定した。cfDNAのサイズ選択は、血漿の非存在下で試験した。これは、血漿をNaClで1回、PBSで1回置換することによって実行した。血漿、NaCl及びPBSを含有する試料のそれぞれに、50bp DNAラダーをスパイクして、サイズ選択及びDNA回収をモニターした。
【0077】
【表11】
【0078】
抽出したDNAをバイオアナライザで泳動し、サイズ選択に対する血漿の効果を確認した。図11は、血漿成分が存在しない場合にサイズ選択が失われることを確認することができる電気泳動図を示している。
【0079】
cfDNA単離方法の拡張性
【実施例11】
【0080】
Streck cfDNA採血管に採取された血液から得られた血漿に、50bp DNAラダーを血漿の10ng/mlの濃度でスパイクした。次に、スパイクした血漿を、本発明の方法に従って処理した。この実験では、4つの異なる血漿投入量(0.5ml、1ml、2ml及び4ml)を使用して、単離方法の拡張性を実証した。以下のTable 12(表12)で示したように、溶出量は、抽出物中のDNA濃度が同等になるように投入した血漿量に合わせて増減した。
【0081】
【表12】
【0082】
各抽出物1μlを、バイオアナライザ2100で高感度DNAチップで泳動した。図12は、標準の2ml投入と比較した様々な血漿投入量(0.5ml、1ml及び4ml)で達成された結果を示すバイオアナライザ2100プロットを示している。プロットの重なり合う線から推測することができるように、本発明の方法は、様々な試料投入量で使用することができる。0.5mLから4mLの血漿投入量からのcfDNAの効果的な精製が実証されている。
【0083】
標準的なEDTA採血管に採取された血漿から予測される結果
本発明の方法は、streck cfDNA採血管に採取された血漿からのcfDNAの抽出に最もよく機能する。しかし、前述と同様に、標準的なEDTAチューブに採取した血漿からcfDNAを効率的に抽出することも可能である。しかし、これらの場合、より小さい断片の回収は、streck cfDNA採血管で予測されるレベルを下回る可能性がある。
【実施例12】
【0084】
標準的なEDTAチューブに採取した血漿2mlに50bp DNAラダー(血漿の10ng/mL)をスパイクし、本発明のcfDNA単離方法を使用して処理した。抽出物1μlを50bp DNAラダー投入物と一緒に高感度DNAチップで泳動した。図13は、cfDNAの線及び標準的なEDTAチューブに採取した血漿からの50bp DNAラダー断片の回収を示すバイオアナライザ2100プロットを示している(それぞれ青と赤の線で示した2つの独立した抽出物、緑で示したラダー投入物)。
【0085】
がん変異検出におけるサイズ選択の利点
本発明の方法は、cfDNAの非常に効率的な抽出及びgDNAの最小限のキャリーオーバーを可能にする。この特有の機能は、液体生検をベースにした適用において際だった利点をもたらし、標準的な単離方法を使用した場合では通常見落とされる可能性のある非常に低いレベルで存在する変異の検出を可能にする。これは、以下の実施例13に記載されている。
【実施例13】
【0086】
標準的なEDTA採血管に採取した3人のがん患者の血漿1mlを商業的供給源から得て、cfDNAを本発明の方法及びサイズ選択をしない標準的な市販のキットを使用して単離した。単離されたcfDNA 1μlを高感度DNAチップ上で泳動したところ、結果は図14に示した通りであった。図14で示したように、患者4及び患者2では、緑色の円で示したように高分子量DNA(gDNA)がかなり存在していることに注目すべきである。残りの溶離液を濃縮し、Target Selector(商標)NGS Lung Panelを使用したライブラリー調製に供した。以下のTable 13(表13)に示した結果は、患者4及び患者2において、サイズ選択をベースにした抽出方法では、標準的な単離方法よりも、検出されたがん関連変異の頻度値がかなり高いことを示している。重要なことに、患者3では、標準的な単離方法で抽出した場合、変異頻度がアッセイの検出レベルを下回っている。
【0087】
【表13】
【0088】
本発明は、上述の実施形態及び実施例によって限定されないことがわかり、当業者に容易に明らかであるように、添付の特許請求の範囲内で変更することができる。例えば、採血管は、標準的なEDTAチューブ又はヘパリンチューブであってもよい。当業者は、本質的に同じ結果を得るために、洗浄緩衝液の組成を変更することができる。例えば、洗浄緩衝液は単に70~80%エタノール水溶液であってもよい。同様に、溶出緩衝液は、水又は任意の標準的な希薄トリス-HCl又はトリス-EDTA緩衝液であってもよい。当業者は、シリカコーティングマイクロビーズ以外の任意の適切な固相、例えば、同様にDNA結合性であるガラスマイクロビーズ及びガラス繊維膜を使用することができることも理解されたい。デタージェント及びカオトロピック剤のいくつかの代替例が当技術分野では知られており、当業者は、特許請求の範囲から逸脱することなくそれらを使用することができる。
図1
図2a
図2b
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14-1】
図14-2】
【国際調査報告】