(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-17
(54)【発明の名称】変化したエンベロープ完全性を有する遺伝子組換え細菌およびその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 1/21 20060101AFI20230310BHJP
C12P 19/34 20060101ALI20230310BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20230310BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20230310BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12P19/34 A
C12P21/02 C
C12N15/31
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022543176
(86)(22)【出願日】2021-01-18
(85)【翻訳文提出日】2022-09-07
(86)【国際出願番号】 EP2021050969
(87)【国際公開番号】W WO2021144473
(87)【国際公開日】2021-07-22
(32)【優先日】2020-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511294534
【氏名又は名称】ウニベルシテ カソリーク デ ルーベン
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】コレット,ジャン-フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】デゲル,ミカエル
(72)【発明者】
【氏名】チョウ,スン ヒョン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AF27
4B064AG01
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B065AA26X
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA01
4B065CA23
4B065CA24
4B065CA44
4B065CA45
4B065CA60
(57)【要約】
本発明は、溶解に過敏な遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌に関する。したがって、これらの細菌は、核酸抽出、好ましくはゲノム外核酸抽出(例えば、プラスミド)の収量、および/または好ましくはゲノム外核酸によってコードされるポリペプチドの収量を改善するために有用である。実際に、本発明者らは、エンベロープ完全性を変化させている少なくとも2つの変異遺伝子の組み合わせを有する大腸菌株を操作した。より具体的には、少なくとも1つの変異遺伝子は、ompAであり、少なくとも1つの変異遺伝子は、Lpp機能性に関与する遺伝子、例えばlpp遺伝子、ybiS遺伝子、ycfS遺伝子およびerfK遺伝子などである。これらの組み合わせには、ompA遺伝子および/またはlpp遺伝子に相同な遺伝子内の変異体も含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンベロープ完全性に関与するタンパク質をコードする少なくとも2つの変異遺伝子を含む、遺伝子改変された大腸菌細菌であって、前記細菌は、変化したエンベロープ完全性を有し、前記細菌は、変化していないエンベロープ完全性を有する細菌と比較して、細菌溶解に対して過敏であり、少なくとも1つの変異遺伝子はompAおよび/またはその相同体であり、少なくとも1つの変異遺伝子は、前記細菌が前記ompA遺伝子の完全な欠失およびlpp遺伝子の完全な欠失を同時に含まないという条件で、Lpp機能性に関与する遺伝子である、細菌。
【請求項2】
Lpp機能性に関与する少なくとも1つの遺伝子が、lpp、ybiS、ycfSおよびerfK遺伝子、ならびに/またはそれらの相同体、ならびにそれらの任意の組み合わせを含むまたはこれらからなる群から選択される、請求項1に記載の細菌。
【請求項3】
前記少なくとも2つの変異遺伝子が、
-ompAおよびlpp、および/またはその相同体;
-ompAおよびybiS、ならびに/またはycfSおよび/もしくはerfK、ならびに/またはその相同体;
-ompA、lpp、ybiSおよびerfK、および/またはその相同体;
-ompA、lpp、ycfS、およびerfK、および/またはその相同体;または、
-ompA、lpp、ybiSおよびycfS、および/またはその相同体;
の組み合わせのうちの1つを含む、請求項1または2に記載の細菌。
【請求項4】
前記変異ompA遺伝子が、256位のアルギニン(R)をコードするコドンの、電荷を有しないまたは負電荷を有するアミノ酸、好ましくはグルタミン酸(E)またはアラニン(A)をコードするコドンとの置換;および/または241位のアスパラギン酸(D)をコードするコドンの、電荷を有しないまたは正電荷を有するアミノ酸、好ましくはアスパラギン(N)をコードするコドンとの置換;および/または241位のアスパラギン酸(D)または256位のアルギニン(R)をコードするコドンまたはその前から始まるOmpAタンパク質のC末端部分の欠失;または前記ompA遺伝子の完全な欠失を含み、前記位置が、アミノ酸配列、配列番号3に対して定義されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の細菌。
【請求項5】
前記lpp遺伝子内の前記変異が、58位のリジン(K)をコードするコドンの欠失、57位のアルギニン(R)をコードするコドンの、別のアミノ酸、好ましくは電荷を有しないアミノ酸、より好ましくはロイシン(L)をコードするコドンとの置換;58位のリジン(K)をコードするコドンの、アルギニン(R)をコードするコドンとの置換;lpp遺伝子の完全な欠失;およびそれらの組み合わせを含むか、またはこれらからなる群から選択され、前記位置が、アミノ酸配列、配列番号6に対して定義されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の細菌。
【請求項6】
前記変異したybiS遺伝子、ycfS遺伝子および/またはerfK遺伝子、および/またはその相同体が、それぞれ、前記ybiS遺伝子、ycfS遺伝子および/またはerfK遺伝子および/またはその相同体の欠失からなる、請求項1~5のいずれか一項に記載の細菌。
【請求項7】
前記細菌が、前記ompA遺伝子内の変異であって、256位のアルギニン(R)をコードするコドンの、グルタミン酸(E)をコードするコドンとの置換からなり、前記位置が、アミノ酸配列、配列番号3に対して定義されている、変異、および前記lpp遺伝子内の前記変異であって、58位のリジン(K)をコードするコドンの欠失からなり、前記位置が、アミノ酸配列、配列番号6に対して定義されている、変異を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の細菌。
【請求項8】
前記細菌が、241位のアスパラギン酸(D)または256位のアルギニン(R)をコードするコドンまたはその前から始まるOmpAタンパク質のC末端部分の欠失であって、位置が、アミノ酸配列、配列番号3に対して定義されている欠失、および前記lpp遺伝子内の変異であって、58位のリジン(K)をコードするコドンの欠失からなり、前記位置が、アミノ酸配列、配列番号6に対して定義されている、変異を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の細菌。
【請求項9】
前記細菌が、前記ompA遺伝子内の変異であって、256位のアルギニン(R)をコードするコドンの、グルタミン酸(E)をコードするコドンとの置換からなり、前記位置が、アミノ酸配列、配列番号3に対して定義されている、変異;前記ybiS遺伝子の完全な欠失;前記ycfS遺伝子の完全な欠失;および前記erfK遺伝子の完全な欠失を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の細菌。
【請求項10】
前記細菌が、前記ompA遺伝子内の変異であって、256位のアルギニン(R)をコードするコドンの、グルタミン酸(E)をコードするコドンとの置換からなり、前記位置が、アミノ酸配列、配列番号3に対して定義されている、変異;前記lpp遺伝子内の変異であって、57位のアルギニン(R)をコードするコドンの、ロイシン(L)をコードするコドンとの置換からなり、前記位置が、アミノ酸配列、配列番号6に対して定義されている、変異;前記ybiS遺伝子のそれぞれの欠失;および前記ycfS遺伝子の完全な欠失を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の細菌。
【請求項11】
前記細菌が、前記ompA遺伝子内の変異であって、241位のアスパラギン酸(D)をコードするコドンの、アスパラギン(N)をコードするコドンとの置換からなり、前記位置が、アミノ酸配列、配列番号3に対して定義されている、変異、および前記lpp遺伝子の完全な欠失を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の細菌。
【請求項12】
前記細菌が、好ましくは少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つのゲノム外核酸分子をさらに含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の細菌。
【請求項13】
前記ゲノム外核酸分子が、プラスミド、コスミド、および細菌人工染色体(BAC)を含むまたはそれらからなる群から選択される、請求項1~12のいずれか一項に記載の細菌。
【請求項14】
前記少なくとも1つのゲノム外核酸分子の産生および精製のための、少なくとも1つのゲノム外核酸分子を含み、エンベロープ完全性に関与するタンパク質をコードする少なくとも1つの変異遺伝子を含む遺伝子改変された大腸菌細菌の使用であって、前記細菌が、変化していないエンベロープ完全性を有する細菌と比較して、変化したエンベロープ完全性を有し、前記少なくとも1つの変異遺伝子が、ompAおよび/もしくはその相同体であるか、またはLpp機能性に関与する遺伝子である、使用。
【請求項15】
前記少なくとも1つのゲノム外核酸分子が、プラスミド、コスミド、および細菌人工染色体(BAC)を含むまたはそれらからなる群から選択される、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
好ましくは前記少なくとも1つのゲノム外核酸分子によってコードされる少なくとも1つのポリペプチドの産生および精製のための、少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つのゲノム外核酸分子を含み、エンベロープ完全性に関与するタンパク質をコードする少なくとも1つの変異遺伝子を含む遺伝子改変された大腸菌細菌の使用であって、前記細菌が、変化していないエンベロープ完全性を有する細菌と比較して、変化したエンベロープ完全性を有し、前記少なくとも1つの変異遺伝子が、ompAおよび/もしくはその相同体であるか、またはLpp機能性に関与する遺伝子である、使用。
【請求項17】
前記少なくとも1つのポリペプチドが、少なくとも1つの細胞質ポリペプチドである、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
前記少なくとも変異ompA遺伝子が、256位のアルギニン(R)をコードするコドンの、電荷を有しないまたは負電荷を有するアミノ酸、好ましくはグルタミン酸(E)またはアラニン(A)をコードするコドンとの置換;および/または241位のアスパラギン酸(D)をコードするコドンの、電荷を有しないまたは正電荷を有するアミノ酸、好ましくはアスパラギン(N)をコードするコドンとの置換;および/または241位のアスパラギン酸(D)または256位のアルギニン(R)をコードするコドンまたはその前から始まるOmpAタンパク質のC末端部分の欠失;またはompA遺伝子の完全な欠失からなり、前記位置が、アミノ酸配列、配列番号3に対して定義されている、請求項14~17のいずれか一項に記載の使用。
【請求項19】
Lpp機能性に関与する前記少なくとも変異した遺伝子が、前記lpp遺伝子内の変異であって、58位のリジン(K)をコードするコドンの欠失からなり、前記位置が、アミノ酸配列、配列番号6に対して定義されている、変異、または前記ybiS遺伝子の完全な欠失、および/または前記ycfS遺伝子の完全な欠失および/または前記erfK遺伝子の完全な欠失からなる、請求項14~17のいずれか一項に記載の使用。
【請求項20】
前記細菌が、前記エンベロープ完全性に関与するタンパク質をコードする少なくとも2つの変異遺伝子を含み、少なくとも1つの変異遺伝子が、ompAおよび/またはその相同体であり、少なくとも1つの変異遺伝子が、Lpp機能性に関与する遺伝子である、請求項14~17のいずれか一項に記載の使用。
【請求項21】
前記細菌が、前記ompA遺伝子の完全な欠失および前記lpp遺伝子の完全な欠失を同時に含まない、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
前記細菌が、請求項2~11のいずれか一項に記載の細菌である、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
以下のステップを含む、少なくとも1つのゲノム外核酸分子の産生および精製のための方法であって、
a)前記少なくともゲノム外核酸分子を増幅するために、エンベロープ完全性に関与するタンパク質をコードする少なくとも1つの変異遺伝子を含む遺伝子改変された大腸菌細菌を培養するステップであって、前記細菌は、変化したエンベロープ完全性を有し、前記細菌は、変化していないエンベロープ完全性を有する細菌と比較して、細菌溶解に対して過敏であり、前記少なくとも1つの変異遺伝子は、ompAおよび/もしくはその相同体であるか、またはLpp機能性に関与する遺伝子であり、前記細菌が、少なくとも1つのゲノム外核酸分子を含む、ステップと;
b)ステップa)で得られた前記細菌を、好ましくは化学的溶解によって溶解して、溶解混合物を得るステップと;
c)ステップb)で得られた前記溶解混合物から、増幅された前記ゲノム外核酸分子を精製するステップと、を含む、方法。
【請求項24】
前記少なくとも1つのゲノム外核酸分子が、プラスミド、コスミド、および細菌人工染色体(BAC)を含むまたはそれらからなる群から選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
好ましくはゲノム外核酸分子によってコードされる少なくとも1つのポリペプチドの産生および精製のための方法であって、
a)前記少なくとも1つのポリペプチドを合成するために、エンベロープ完全性に関与するタンパク質をコードする少なくとも1つの変異遺伝子を含む遺伝子改変された大腸菌細菌を培養するステップであって、前記細菌は、変化したエンベロープ完全性を有し、変化していないエンベロープ完全性を有する細菌と比較して、細菌溶解に対して過敏であり、前記少なくとも1つの変異遺伝子は、ompAおよび/もしくはその相同体であるか、またはLpp機能性に関与する遺伝子であり、前記細菌が、好ましくは、前記少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つのゲノム外核酸分子を含む、ステップと;
b)ステップa)で得られた前記細菌を溶解して、溶解混合物を得るステップと;
c)ステップb)で得られた溶解混合物から前記少なくとも1つのポリペプチドを精製するステップと、を含む、方法。
【請求項26】
前記少なくとも1つのポリペプチドが、1つの細胞質ポリペプチドである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記少なくとも変異ompA遺伝子が、256位のアルギニン(R)をコードするコドンの、電荷を有しないまたは負電荷を有するアミノ酸、好ましくはグルタミン酸(E)またはアラニン(A)をコードするコドンとの置換;および/または241位のアスパラギン酸(D)をコードするコドンの、電荷を有しないまたは正電荷を有するアミノ酸、好ましくはアスパラギン(N)をコードするコドンとの置換;および/または241位のアスパラギン酸(D)または256位のアルギニン(R)をコードするコドンまたはその前から始まるOmpAタンパク質のC末端部分の欠失;または前記ompA遺伝子の完全な欠失からなり、前記位置が、アミノ酸配列、配列番号3に対して定義されている、請求項23~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
Lpp機能性に関与する前記少なくとも変異した遺伝子が、前記lpp遺伝子内の変異であって、58位のリジン(K)をコードするコドンの欠失からなり、前記位置が、アミノ酸配列、配列番号6に対して定義されている、変異、または前記ybiS遺伝子の完全な欠失、および/または前記ycfS遺伝子の完全な欠失および/または前記erfK遺伝子の完全な欠失からなる、請求項23~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記細菌が、前記エンベロープ完全性に関与するタンパク質をコードする少なくとも2つの変異遺伝子を含み、少なくとも1つの変異遺伝子は、ompAおよび/またはその相同体であり、少なくとも1つの変異遺伝子は、Lpp機能性に関与する遺伝子である、請求項23~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記細菌が、前記ompA遺伝子の完全な欠失および前記lpp遺伝子の完全な欠失を同時に含まない、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記細菌が、請求項2~11のいずれか一項に記載の細菌である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
(i)エンベロープ完全性に関与するタンパク質をコードする少なくとも1つの変異遺伝子を含む遺伝子改変された大腸菌細菌であって、前記細菌が、変化したエンベロープ完全性を有し、変化していないエンベロープ完全性を有する細菌と比較して、細菌溶解に対して過敏であり、前記少なくとも1つの変異遺伝子が、ompAおよび/もしくはその相同体であるか、またはLpp機能性に関与する遺伝子である、大腸菌と、(ii)前記細菌をゲノム外核酸分子で形質転換するための手段と、を含むキット。
【請求項33】
前記遺伝子改変された大腸菌細菌が、エンベロープ完全性に関与するタンパク質をコードする少なくとも2つの変異遺伝子を含み、少なくとも1つの変異遺伝子は、ompAおよび/またはその相同体であり、少なくとも1つの変異遺伝子は、Lpp機能性に関与する遺伝子である、請求項32に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子改変微生物の分野に関し、特に、変化したエンベロープ完全性を有する遺伝子改変細菌に関する。より正確には、ompA遺伝子、およびlpp遺伝子またはLpp機能に関与するポリペプチドをコードする遺伝子内の変異の組み合わせを有する操作された大腸菌株は、野生型株と比較して、細菌溶解に対して過敏であることが判明している。したがって、これらの細菌株は、核酸およびポリペプチドの産生および精製を改善する方法において有用である。
【背景技術】
【0002】
一般に、ゲノム外核酸分子、特にプラスミドは、細菌染色体とは独立して細菌内で複製できる遺伝エレメントである。プラスミドおよびプラスミドにコードされたタンパク質は、発酵プロセス、その後、治療用途など、様々な用途のための大規模精製によって、大腸菌株において工業的に有利に産生され得る。実際に、大腸菌は、その発見以来十分に特徴が明らかになり、この細菌株の操作を容易にするために多数のツールが施行されている。その結果、大腸菌株は、核酸およびポリペプチドの産生に最適な産生植物に変換される。
【0003】
プラスミドの治療上の利点の例として、免疫療法およびDNAワクチン接種を挙げることができる。この場合、1つ以上の抗原をコードする遺伝子操作されたDNAプラスミドが患者に注射され、これにより、細胞が、抗原(複数可)を直接産生して、防御免疫応答をもたし得る。
【0004】
しかし、DNAプラスミド産生の収量は、現在、この新しい治療法の開発における障害であり、その需要は、将来拡大するであろう。細菌細胞の溶解は、高品質量のプラスミドの産生プロセスにおける重要なステップである。このステップには、大量の溶解バッファを伴い、他の細胞デブリおよびゲノムDNAからプラスミドDNAを分離および精製するための費用を要する下流プロセスが生じる。上記の理由から、細胞溶解時にプラスミドDNAの放出を増加させるソリューションは、何十年にもわたってこの業界の注目を集めてきた。
【0005】
現在まで、細胞溶解の最適化を目的とした研究努力のほとんどは、これまでのところ溶解プロトコルに集中している。驚くべきことに、研究者らは、出願人の知る限り、細菌溶解感受性を改善するために、細菌細胞を改変することに焦点を当てていない。
【0006】
学術研究者らの多数の報告では、細菌エンベロープ成分における成分の構造機能関係の解明に焦点を当てていた(例えば、Asmar et al.;PLOS Biology;2017;Vol.15(12):e2004303を参照されたい)。大腸菌などのグラム陰性菌には、浸透圧ショック時の溶解から細胞を保護するエンベロープが含まれていることが何十年も前から知られている。エンベロープは、細胞質と接触している細胞質膜(CM)または内膜(IM)と、環境との界面を構成する外膜(OM)によって区切られている。CM/IMおよびOMは、短いペプチドによって架橋されているグリカン鎖の単層ポリマーであるペプチドグリカン(PG)を含む区画であるペリプラズムによって分離されている。大腸菌では、OMのPGへの繋留は、Lppタンパク質によって行われる。このタンパク質は、脂質化されたN末端を介してOMに固定され、C末端のリジンを介してPGに含まれる短いペプチドに結合している。Lppは、3つのペリプラズム酵素:YbiS(LdtBとも呼ばれる)、YcfS(LdtCとも呼ばれる)、およびErfK(LdtAとも呼ばれる)によって媒介される2つの構造間の唯一の共有結合による接合をもたらす。さらなる2つのOMタンパク質は、イオン相互作用を介して、OM-PG接合に関与する。1つは、Tol-Pal収縮装置に属するリポタンパク質Palである。リポタンパク質Palは、TolA、TolB、およびOmpAと独立して相互作用する(Cascalesetal.;MolecularMicrobiology;2004,Vol.51(3):873-885を参照されたい)。もう1つは、可溶性ドメインを介してペリプラズム内に広がるβバレルOmpAタンパク質である。両方のタンパク質は、ペリプラズムドメインを介して、PGと非共有結合により相互作用する。Sonntag et al.(Journal of Bacteriology;1978;Vol.136(1):280-285)は、形態学、電解質に対する成長の必要性、疎水性抗生物質および洗浄剤に対する感受性、電子顕微鏡による外膜のトポロジーに関して、lppおよびompAに二重欠失変異を有する大腸菌株の特徴を明らかにした。さらに、Park et al.(The FASEB Journal;2012;Vol.26:219-228)は、OmpAが細胞壁のペプチドグリカンに固定されるメカニズムを特定した。
【0007】
最先端技術への関心は、細胞外培地に放出される前にペリプラズム区画内で標的化される分泌タンパク質またはタンパク質の産生および精製に対して顕著であった(特許のレビューについては、Yoon et al.;Recent patents on biotechnology;2010;Vol.4:23-29を参照されたい)。例えば、Chen et al.(Microbial Biotechnology;2014;Vol.7:360-370)は、大腸菌由来の遺伝子mrcA、mrcB、pal、およびlppがノックアウトされた、標的タンパク質の細胞外産生のための漏出株の構築について開示した。WO2014044728は、管腔内に遊離している異種タンパク質を含む外膜小胞(OMV)を調製するための方法について開示した。外膜小胞の産生メカニズムについては、Schwechheimer et al.(Biochemistry;2013;Vol.52:3031-3040;およびBMC Microbiology;2014;Vol.14:324-335)に開示されている。
【0008】
WO2016183531では、外膜をペプチドグリカン骨格に繋留するタンパク質をコードする1つ以上の遺伝子の変異を伴う遺伝子操作された細菌、および高フェニルアラニン血症を治療する方法について開示した。
【0009】
omp、tol、excC、excD、lpp、env およびlkyなどの遺伝子内に変異を有する大腸菌の漏出変異体は、細胞外培地へのそのようなペリプラズムタンパク質の放出について、特に興味深いことが報告されている(Kleiner-Grote et al.;Engineering in Life Sciences;2018,Vol.18:532-550を参照されたい)。
【0010】
最後に、WO2016210373には、組換え細菌細胞が、外因性環境シグナルに応答して異種遺伝子を発現し、最終的に組換え細菌細胞を死滅させる毒素を発現するようにプログラムされ得ることが開示された。この戦略は、疾患および障害の治療に使用され得る。
【0011】
したがって、大腸菌株などの細菌株を同定する必要があり、これは、増殖能力を維持しながら、細菌溶解に対して過敏であり、したがってゲノム外核酸分子および/または組換えポリペプチド、特に組換え細胞質ポリペプチドの産生における収量の改善を可能にする。
【発明の概要】
【0012】
本発明の第1の態様は、エンベロープ完全性に関与するタンパク質をコードする少なくとも2つの変異遺伝子を含む遺伝子改変大腸菌に関し、細菌は、変化したエンベロープ完全性を有し、変化していないエンベロープ完全性を有する細菌と比較して、細菌溶解に対して過敏であり、少なくとも1つの変異遺伝子は、ompAおよび/またはその相同体(homologue)であり、少なくとも1つの変異遺伝子は、細菌がompA遺伝子の完全な欠失およびlpp遺伝子の完全な欠失を同時に含まないという条件で、Lpp機能性に関与する遺伝子である。
【0013】
いくつかの実施形態では、Lpp機能性に関与する少なくとも1つの遺伝子は、lpp、ybiS、ycfSおよびerfK遺伝子、ならびに/またはそれらの相同体、ならびにそれらの任意の組み合わせを含むまたはこれらからなる群から選択される。
【0014】
特定の実施形態では、少なくとも2つの変異遺伝子は、以下の組み合わせのうちの1つを含む:
-ompAおよびlpp、および/またはその相同体;
-ompAおよびybiS、ならびに/またはycfSおよび/もしくはerfK、ならびに/またはその相同体;
-ompA、lpp、ybiSおよびerfK、および/またはその相同体;
-ompA、lpp、ycfS、およびerfK、および/またはその相同体;または、
-ompA、lpp、ybiSおよびycfS、および/またはその相同体。
【0015】
いくつかの実施形態では、変異ompA遺伝子は、256位のアルギニン(R)をコードするコドンの、電荷を有しないまたは負電荷を有するアミノ酸、好ましくはグルタミン酸(E)またはアラニン(A)をコードするコドンとの置換;かつ/または241位のアスパラギン酸(D)をコードするコドンの、電荷を有しないまたは正電荷を有するアミノ酸、好ましくはアスパラギン(N)をコードするコドンとの置換;および/または241位のアスパラギン酸(D)または256位のアルギニン(R)をコードするコドンまたはその前から始まるOmpAタンパク質のC末端部分の欠失、またはompA遺伝子の完全な欠失を含み;これらの位置が、アミノ酸配列、配列番号3に対して定義されている。
【0016】
特定の実施形態では、lpp遺伝子内の変異は、58位のリジン(K)をコードするコドンの欠失、57位のアルギニン(R)をコードするコドンの、別のアミノ酸、好ましくは電荷を有しないアミノ酸、より好ましくはロイシン(L)をコードするコドンとの置換;58位のリジン(K)をコードするコドンの、アルギニン(R)をコードするコドンとの置換;lpp遺伝子の完全な欠失;およびそれらの組み合わせを含むか、またはこれらからなる群から選択され、これらの位置が、アミノ酸配列、配列番号6に対して定義されている。
【0017】
いくつかの実施形態では、変異したybiS遺伝子、ycfS遺伝子および/またはerfK遺伝子、および/またはその相同体は、それぞれ、ybiS遺伝子、ycfS遺伝子および/またはerfK遺伝子、および/またはその相同体の欠失からなる。
【0018】
特定の実施形態では、細菌は、ompA遺伝子内の変異であって、256位のアルギニン(R)をコードするコドンの、グルタミン酸(E)をコードするコドンとの置換からなり、位置が、アミノ酸配列、配列番号3に対して定義されている、変異、およびlpp遺伝子内の変異であって、58位のリジン(K)をコードするコドンの欠失からなり、位置が、アミノ酸配列、配列番号6に対して定義されている、変異、を有する。
【0019】
いくつかの実施形態では、細菌は、241位のアスパラギン酸(D)または256位のアルギニン(R)をコードするコドンまたはその前から始まるOmpAタンパク質のC末端部分の欠失であって、位置が、アミノ酸配列、配列番号3に対して定義されている欠失、およびlpp遺伝子内の変異であって、58位のリジン(K)をコードするコドンの欠失からなり、位置が、アミノ酸配列、配列番号6に対して定義されている、変異を有する。
【0020】
特定の実施形態では、細菌は、ompA遺伝子内の変異であって、256位のアルギニン(R)をコードするコドンの、グルタミン酸(E)をコードするコドンとの置換からなり、位置が、アミノ酸配列、配列番号3に対して定義されている、変異;ybiS遺伝子の完全な欠失;ycfS遺伝子の完全な欠失;およびerfK遺伝子の完全な欠失を有する。
【0021】
いくつかの実施形態では、細菌は、ompA遺伝子内の変異であって、256位のアルギニン(R)をコードするコドンの、グルタミン酸(E)をコードするコドンとの置換からなり、位置が、アミノ酸配列、配列番号3に対して定義されている、変異;lpp遺伝子内の変異であって、57位のアルギニン(R)をコードするコドンの、ロイシン(L)をコードするコドンとの置換からなり、位置が、アミノ酸配列、配列番号6に対して定義されている、変異;ybiS遺伝子のそれぞれの欠失;およびycfS遺伝子の完全な欠失を有する。
【0022】
特定の実施形態では、細菌は、ompA遺伝子内の変異であって、241位のアスパラギン酸(D)をコードするコドンの、アスパラギン(N)をコードするコドンとの置換からなり、位置が、アミノ酸配列、配列番号3に対して定義されている、変異、およびlpp遺伝子の完全な欠失を有する。
【0023】
いくつかの実施形態では、細菌は、好ましくは、少なくとも1つのポリペプチドをコードする、少なくとも1つのゲノム外核酸分子をさらに含む。
【0024】
特定の実施形態では、ゲノム外核酸分子は、プラスミド、コスミド、および細菌人工染色体(BAC)を含むまたはこれらかなる群から選択される。
【0025】
本発明の別の態様は、少なくとも1つのゲノム外核酸分子を産生するおよび精製するための、少なくとも1つのゲノム外核酸分子を含み、エンベロープ完全性に関与するタンパク質をコードする少なくとも1つの変異遺伝子を含む遺伝子改変大腸菌の使用に関し、細菌は、変化していないエンベロープ完全性を有する細菌と比較して、変化したエンベロープ完全性を有し、少なくとも1つの変異遺伝子は、ompAおよび/もしくはその相同体であるか、またはLpp機能性に関与する遺伝子である。
【0026】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つのゲノム外核酸分子は、プラスミド、コスミド、および細菌人工染色体(BAC)を含むまたはそれらからなる群から選択される。
本発明のさらなる態様は、好ましくは少なくとも1つのゲノム外核酸分子によってコードされる少なくとも1つのポリペプチドの産生および精製のための、少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つのゲノム外核酸分子を含み、エンベロープ完全性に関与するタンパク質をコードする少なくとも1つの変異遺伝子を含む遺伝子改変大腸菌の使用に関し、この細菌は、変化していないエンベロープ完全性を有する細菌と比較して、変化したエンベロープ完全性を有し、少なくとも1つの変異遺伝子が、ompAおよび/もしくはその相同体であるか、またはLpp機能性に関与する遺伝子である。
【0027】
特定の実施形態では、少なくとも1つのポリペプチドは、少なくとも1つの細胞質ポリペプチドである。
【0028】
いくつかの実施形態では、少なくとも変異ompA遺伝子は、256位のアルギニン(R)をコードするコドンの、電荷を有しないまたは負電荷を有するアミノ酸、好ましくはグルタミン酸(E)またはアラニン(A)をコードするコドンとの置換;および/または241位のアスパラギン酸(D)をコードするコドンの、電荷を有しないまたは正電荷を有するアミノ酸、好ましくはアスパラギン(N)をコードするコドンとの置換;および/または241位のアスパラギン酸(D)または256位のアルギニン(R)をコードするコドンまたはその前から始まるOmpAタンパク質のC末端部分の欠失;またはompA遺伝子の完全な欠失からなり、これらの位置が、アミノ酸配列、配列番号3に対して定義されている。
【0029】
特定の実施形態では、Lpp機能性に関与する少なくとも変異した遺伝子は、lpp遺伝子内の変異であって、58位のリジン(K)をコードするコドンの欠失からなり、位置が、アミノ酸配列、配列番号6に対して定義されている、変異、またはybiS遺伝子の完全な欠失、および/またはycfS遺伝子の完全な欠失および/またはerfK遺伝子の完全な欠失からなる。
【0030】
いくつかの実施形態では、細菌は、エンベロープ完全性に関与するタンパク質をコードする少なくとも2つの変異遺伝子を含み、少なくとも1つの変異遺伝子は、ompAおよび/またはその相同体であり、少なくとも1つの変異遺伝子は、Lpp機能性に関与する遺伝子である。
特定の実施形態では、細菌は、ompA遺伝子の完全な欠失およびlpp遺伝子の完全な欠失を同時に含まない。
【0031】
いくつかの実施形態では、細菌は、本発明において定義されるとおりである。
【0032】
さらなる態様では、本発明は、少なくとも1つのゲノム外核酸分子の産生および精製のための方法に関し、本方法は、
a)少なくともゲノム外核酸分子を増幅するために、エンベロープ完全性に関与するタンパク質をコードする少なくとも1つの変異遺伝子を含む遺伝子改変大腸菌を培養するステップであって、細菌は、変化したエンベロープ完全性を有し、変化していないエンベロープ完全性を有する細菌と比較して、細菌溶解に対して過敏であり、少なくとも1つの変異遺伝子は、ompAおよび/もしくはその相同体であるか、またはLpp機能性に関与する遺伝子であり、細菌が、少なくとも1つのゲノム外核酸分子を含む、ステップと;
b)ステップa)で得られた細菌を、好ましくは化学的溶解によって溶解して、溶解混合物を得るステップと;
c)ステップb)で得られた溶解混合物から、増幅されたゲノム外核酸分子を精製するステップと、を含む。
【0033】
特定の実施形態では、少なくとも1つのゲノム外核酸分子は、プラスミド、コスミド、および細菌人工染色体(BAC)を含むまたはそれらからなる群から選択される。
本発明の別の態様は、好ましくはゲノム外核酸分子によってコードされる少なくとも1つのポリペプチドの産生および精製のための方法に関し、本方法は、
a)少なくとも1つのポリペプチドを合成するために、エンベロープ完全性に関与するタンパク質をコードする少なくとも1つの変異遺伝子を含む遺伝子改変大腸菌を培養するステップであって、細菌は、変化したエンベロープ完全性を有し、変化していないエンベロープ完全性を有する細菌と比較して、細菌溶解に対して過敏であり、少なくとも1つの変異遺伝子は、ompAおよび/もしくはその相同体であるか、またはLpp機能性に関与する遺伝子であり、細菌が、好ましくは、少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つのゲノム外核酸分子を含む、ステップと;
b)ステップa)で得られた細菌を溶解して、溶解混合物を得るステップと;
c)ステップb)で得られた溶解混合物から少なくとも1つのポリペプチドを精製するステップと、を含む。
【0034】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つのポリペプチドは、1つの細胞質ポリペプチドである。
【0035】
特定の実施形態では、少なくとも変異ompA遺伝子は、256位のアルギニン(R)をコードするコドンの、電荷を有しないまたは負電荷を有するアミノ酸、好ましくはグルタミン酸(E)またはアラニン(A)をコードするコドンとの置換;および/または241位のアスパラギン酸(D)をコードするコドンの、電荷を有しないまたは正電荷を有するアミノ酸、好ましくはアスパラギン(N)をコードするコドンとの置換;および/または241位のアスパラギン酸(D)または256位のアルギニン(R)をコードするコドンまたはその前から始まるOmpAタンパク質のC末端部分の欠失;またはompA遺伝子の完全な欠失からなり、これらの位置が、アミノ酸配列、配列番号3に対して定義されている。
【0036】
いくつかの実施形態では、Lpp機能性に関与する少なくとも変異した遺伝子は、lpp遺伝子内の変異であって、58位のリジン(K)をコードするコドンの欠失からなり、位置が、アミノ酸配列、配列番号6に対して定義されている、変異、またはybiS遺伝子の完全な欠失、および/またはycfS遺伝子の完全な欠失および/またはerfK遺伝子の完全な欠失からなる。
【0037】
特定の実施形態では、細菌は、エンベロープ完全性に関与するタンパク質をコードする少なくとも2つの変異遺伝子を含み、少なくとも1つの変異遺伝子は、ompAおよび/またはその相同体であり、少なくとも1つの変異遺伝子は、Lpp機能性に関与する遺伝子である。
いくつかの実施形態では、細菌は、ompA遺伝子の完全な欠失およびlpp遺伝子の完全な欠失を同時に含まない。
【0038】
特定の実施形態では、細菌は、本発明の開示において定義されるとおりである。
【0039】
本発明の一態様は、(i)エンベロープ完全性に関与するタンパク質をコードする少なくとも1つの変異遺伝子を含む遺伝子改変大腸菌であって、この細菌が、変化したエンベロープ完全性を有し、変化していないエンベロープ完全性を有する細菌と比較して、細菌溶解に対して過敏であり、少なくとも1つの変異遺伝子が、ompAおよび/もしくはその相同体あるか、またはLpp機能性に関与する遺伝子である、大腸菌と、(ii)この細菌をゲノム外核酸分子で形質転換するための手段と、を含むキットに関する。
【0040】
いくつかの実施形態では、遺伝子改変大腸菌は、エンベロープ完全性に関与するタンパク質をコードする少なくとも2つの変異遺伝子を含み、少なくとも1つの変異遺伝子は、ompAおよび/またはその相同体であり、少なくとも1つの変異遺伝子は、Lpp機能性に関与する遺伝子である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
定義
本発明において、以下の用語は、以下の意味を有する:
数字の前にある「約」は、その数字の値のプラスマイナス10%に及ぶ範囲を含む。「約」という用語が指す値は、それ自体も具体的にかつ好ましくは開示されることを理解されたい。
【0042】
「少なくとも1つ」には1、2、3、4、5、6、7、8、9、10以上を含む。
【0043】
「少なくとも2つ」には、2、3、4、5、6、7、8、9、10以上を含む。
【0044】
本明細書で使用される「細菌(bacterium)」は、1つの細菌細胞を指す。したがって、「細菌(bacteria)」という用語は、細菌細胞の集団を指す。
【0045】
「Lpp機能性に関与する遺伝子」とは、発現の結果、生理機能性Lppポリペプチドとなる任意の遺伝子を指す。本明細書では、「生理学的機能性Lppポリペプチド」とは、細菌エンベロープに位置し、グラム陰性菌、特に大腸菌におけるエンベロープ完全性に関与するLppポリペプチドを指すことは理解されよう。
【0046】
本明細書で使用される「ゲノム外核酸分子」は、細菌中に存在するが、細菌染色体に組み込まれていない、または細菌染色体の一部ではないデオキシリボ核酸(DNA)分子を指す。ゲノム外核酸は、線状または環状であり得る。ゲノム外核酸は、例えば抗生物質に対する耐性を宿主細菌に付与する配列、または青/白選択のためのβ-ガラクトシダーゼをコードするlacZ配列などの選択マーカーを含み得る。ゲノム外核酸は、典型的には、複製を可能にする配列(例えば、複製起点pMB1、ColE1またはf1)および細胞あたりのコピー数の調節、例えばrepE遺伝子またはrop遺伝子などを含む。ゲノム外核酸は、例えばT7プロモーターまたはSP6プロモーターなどの下流配列の発現を可能にするプロモーター配列を含み得る。「ゲノム外核酸」という表現としては、これらに限定されないが、プラスミド、コスミド、および細菌人工染色体(BAC)が挙げられる。
【0047】
「プラスミド」とは、ゲノム外の小DNA分子を指し、分子生物学においてクローニングベクターとして使用され得る環状二本鎖DNA分子として最も一般的に見られ、約15kb(すなわち15,000塩基対)までのDNA断片のコピーを作成するかつ/または改変する。プラスミドは、発現ベクターとして使用して、プロモーター配列の下流のプラスミドに見られる核酸配列によってコードされる目的のタンパク質を大量に産生することもできる。「コスミド」という用語は、ラムダファージからのcos配列を含むハイブリッドプラスミドを指し、コスミドのファージヘッドへのパッケージング、およびその後の細菌細胞の感染が可能になり、コスミドは、環状化され、プラスミドとして複製することができる。コスミドは、典型的には、サイズが約32~52kbの範囲のDNA断片のクローニングベクターとして使用される。「細菌人工染色体」または「BAC」は、細菌細胞の分裂後にゲノム外DNA分子の均等な分配を可能にする機能的稔性プラスミドをベースにしたゲノム外核酸分子を指す。BACは、典型的には、サイズが約150~350kbの範囲のDNA断片のクローニングベクターとして使用される。
【0048】
本明細書で使用される「遺伝子」は、特定の機能に関連する核酸配列を指す。遺伝子によってコードされる最終産物の例は、RNAおよびタンパク質である。
【0049】
「遺伝子改変された」は、本明細書において、活発に生成および/または選択された少なくとも1つの変異を含む微生物、特に本発明の文脈におけるグラム陰性菌に関して使用される。
【0050】
本明細書で使用される「グラム陰性」は、細胞質内膜と外膜との間に挟まれた薄いペプチドグリカン壁から構成される細胞エンベロープを特徴とする細菌を指す。グラム陰性菌は、デンマークの細菌学者Hans Christian Gramによって開発されたグラム染色によって容易に同定し得る。厚いペプチドグリカン壁に囲まれた細胞質膜を有するグラム陽性菌は、グラム染色後に紫に染色されるが、グラム陰性菌は、ピンク/赤に染色される。
【0051】
「同一性」とは、2つ以上のポリペプチドまたは2つ以上の核酸配列の配列間の関係で使用される場合、それぞれ、2つ以上のアミノ酸残基または2つ以上のヌクレオチドの鎖間の一致数によって決定されるときには、ポリペプチドまたは核酸配列(それぞれ)間の配列関連性の程度を指す。「同一性」は、特定の数学的モデルまたはコンピュータプログラム(すなわち、「アルゴリズム」)によって対処されたギャップアラインメント(存在する場合)を有する2つ以上の配列のうちの小さい方の間の同一の一致の割合(パーセント)を測定する。関連するポリペプチドまたは核酸配列の同一性は、既知の方法によって容易に計算することができる。このような方法としては、これらに限定されないが、Computational Molecular Biology,Lesk,A.M.,ed.,Oxford University Press,New York,1988;Biocomputing:Informatics and Genome Projects,Smith,D.W.,ed.,Academic Press,New York,1993;Computer Analysis of Sequence Data,Part 1,Griffin,A.M.,and Griffin,H.G.,eds.,Humana Press,New Jersey,1994;Sequence Analysis in Molecular Biology,von Heinje,G.,Academic Press,1987;Sequence Analysis Primer,Gribskov,M.and Devereux,J.,eds.,M.Stockton Press,New York,1991;およびCarilloet al.,SIAM J.Applied Math.48、1073(1988)が挙げられる。同一性を決定するための好ましい方法は、試験対象の配列間で最大の一致が得られるように設計されている。同一性を決定する方法は、公開されているコンピュータプログラム内に記載されている。2つの配列間の同一性を決定するための好ましいコンピュータプログラム方法としては、GCGプログラムパッケージ、例えば、GAP(Devereux et al.,Nucl.Acid.Res.\2,387(1984);Genetics Computer Group,University of Wisconsin,Madison,Wis.)、BLASTP、BLASTN、TBLASTNおよびFASTA(Altschul et al.,J.Mol.Biol.215,403-410(1990))が挙げられる。
【0052】
BLASTXプログラムは、National Center for Biotechnology Information(NCBI)および他の情報源(BLAST Manual,Altschul et al.NCB/NLM/NIH Bethesda,Md.20894;Altschul et al.,上記)から公的に入手可能である。周知のSmith Watermanアルゴリズムを使用して、同一性を決定することもできる。一実施形態では、同一性という用語は、それが指す配列の全長にわたって測定される。
【0053】
「変異」は、本明細書では、遺伝子に関して使用され、遺伝子の核酸配列の変化を指す。変異は、プリンをプリンに交換する(A-G)、またはピリミジンをピリミジンに交換する(C-T)トランジション、またはプリンをピリミジンに、またはピリミジンをプリンに交換するトランスバージョン(C/T-A/G)など、遺伝子の核酸配列内の1つ以上のヌクレオチドの置換を含み得る。
【0054】
変異はまた、遺伝子の核酸配列中での1つ以上のヌクレオチドの欠失または挿入を含み得る。変異は、最終的な遺伝子産物(RNAまたはタンパク質)をコードする配列に関係し得る。変異がポリペプチドのコード配列に影響を及ぼし、対応するポリペプチドのアミノ酸配列の変化をもたらす場合、変異は、ポリペプチドのアミノ酸配列の改変によって定義され得る。当業者は、ポリペプチドをコードする核酸配列内の目的のコドン(複数可)を同定し、遺伝子コードを使用して、核酸配列内の適切な改変(複数可)を設計し、転写および翻訳後に所望の変異ポリペプチド配列を得ることができる。本明細書で使用する変異という用語には、最終遺伝子産物(RNAまたはポリペプチド)をコードする配列全体を包含する遺伝子の核酸配列における欠失も含まれる。このタイプの変異は、本明細書では「完全な欠失」と称する。一実施形態では、変異という用語は、本明細書の「遺伝子x中に変異(複数可)を含む生物」という文で使用される場合、微生物中に存在する遺伝子xの任意のコピー(または複数のコピー)は、細菌染色体上またはゲノム外核酸分子上のいずれかにおいて、変異(複数可)を含むことを意味する。本明細書で使用される場合、変異は、変異遺伝子の対応するmRNAへの転写に影響を与え得、対応するポリペプチドへのmRNAの翻訳に影響を与え得る。一実施形態では、変異(複数可)を有する核酸配列は、細菌の細菌染色体中に見出される核酸配列の場合などに、微生物の子孫に受け継がれる。一実施形態では、変異(複数可)を有する核酸配列は、細菌の染色体外DNA中に見出される。
【0055】
「相同体」は、参照ポリペプチドと30%~99.99%の配列同一性を共有するポリペプチドもしくは核酸配列、または参照ポリペプチドもしくは核酸配列と同一または類似の生物学的機能を共有する核酸配列(「構造相同体」とも呼ばれる)を指し得る。配列同一性は、上で説明したように決定することができる(「機能的相同体」とも呼ばれる)。生物学的機能は、当技術分野で知られている任意の好適な方法、またはそれに由来する方法によって評価することができる。いくつかの実施形態では、相同体は、構造相同体である。いくつかの実施形態では、相同体は、機能的相同体である。
【0056】
「アミノ酸保存」は、2つ以上のポリペプチドまたは2つ以上の核酸配列の配列間の関係において使用される場合、ポリペプチドまたは核酸配列内の所与の領域間のアミノ酸配列関連性の程度を指す。例えば、所与のアミノ酸位置のアミノ酸保存は、固有のアミノ酸または関連するアミノ酸のいずれかを指し得る。実例として、Leu、Ile、Valなどの疎水性アミノ酸は、関連アミノ酸と見なすことができる。これは、Lys、Arg、Hisなどの正電荷を有するアミノ酸、およびGlu、Aspなどの負電荷を有するアミノ酸についても同じである。いくつかの実施形態では、2つ以上のポリペプチドからの領域内の保存されたアミノ酸は、「コンセンサス配列」と呼ばれ得る。
【0057】
「濃縮」または「濃縮物」は、目的の標的を局所的に蓄積する作用を指し得る。
【0058】
「精製」または「精製する」は、化合物の混合物から、目的の純粋なまたは実質的に純粋な化合物を得る作用を指し得る。
【0059】
「ポリペプチド」は、ペプチド結合によって互いに連結された少なくとも50のアミノ酸の線状ポリマーを指す。いくつかの実施形態では、ポリペプチドは、細胞質ポリペプチド、および/または非分泌ポリペプチド、すなわち、合成時に細胞質内に留まる運命にあるポリペプチドを指す。いくつかの実施形態では、細胞質ポリペプチドは折り畳まれている、すなわち、二次元または三次元構造を獲得している。
【0060】
「タンパク質」は、1つ以上のペプチドまたはポリペプチド、および任意により非ポリペプチド補因子から形成される機能実体を指す。いくつかの実施形態では、タンパク質は、細胞質タンパク質、または非分泌タンパク質、すなわち、合成時に細胞質に留まる運命にあるタンパク質を指す。いくつかの実施形態では、細胞質タンパク質は折り畳まれている、すなわち、二次元または三次元構造を獲得している。
【0061】
「細菌溶解」は、細胞質など、細胞からの可溶性物質の放出を指す。
【0062】
詳細な説明
本発明は、変化していないエンベロープ完全性を有する細菌と比較して、変化したエンベロープ完全性を有し、細菌溶解に対して過敏である遺伝子改変グラム陰性菌、すなわち大腸菌に関する。本発明者らは、好適な培養条件で成長を持続し、プラスミドまたはプラスミドコードポリペプチドを高収量で提供できる大腸菌由来の細菌株を操作した。さらに、プラスミドまたはプラスミドコードポリペプチド、特に細胞質ポリペプチドは、操作された大腸菌株の細菌溶解時に高収量で回収され得る。最後に、本明細書で提供される実験データは、ゲノム核酸、細菌の細胞質タンパク質および/または細胞デブリの汚染を低減して、プラスミドまたはプラスミドコードポリペプチド(組換えポリペプチド)などの細胞質分子を高収量で回収できることを示唆している。
【0063】
本発明の第1の態様は、エンベロープ完全性に関与するタンパク質をコードする少なくとも2つの変異遺伝子を含む遺伝子改変グラム陰性菌に関し、この細菌は、変化したエンベロープ完全性を有し、変化していないエンベロープ完全性を有する細菌と比較して、細菌溶解に対して過敏である。
【0064】
本明細書で使用される場合、「少なくとも2つ」は、2、3、4、5、6、7、8、9、10またはそれ以上を包含する。
【0065】
いくつかの実施形態では、細菌は、プロテオバクテリウム門、好ましくは、ガンマプロテオバクテリアクラス、好ましくはエンテロバクター科、好ましくはエシェリキア属、より好ましくは大腸菌の細菌を含む群から選択される。
【0066】
いくつかの実施形態では、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌は、非病原性細菌である。本明細書で使用される場合、「非病原性」という表現は、生物、特に動物生物、好ましくはヒト生物に接触しても害を及ぼさない細菌を指す。特に、「害を及ぼさない」という表現は、細菌が感染、障害または疾患を引き起こさないことを意味することを意図している。
【0067】
一実施形態では、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌は、プロテオバクテリア門の細菌を含む群から選択される。本明細書で使用される場合、プロテオバクテリア門の細菌としては、アルファプロテオバクテリアクラス、ベータプロテオバクテリアクラス、ガンマプロテオバクテリアクラス、デルタプロテオバクテリアクラス、イプシロンプロテオバクテリアクラスおよびゼータプロテオバクテリアクラスの細菌が挙げられる。
【0068】
一実施形態では、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌は、ガンマプロテオバクテリアクラスのものである。本明細書で使用される場合、ガンマプロテオバクテリアクラスの細菌としては、アシディチオバシラス科、アエロモナス科、アルテロモナス科、カルディオバクテリウム科、クロマチウム科、腸内細菌科、レジオネラ科、メチロコッカス科、オセアノスピリルム科、パスツレラ科、シュードモナス科、Thiotrichaea、ビブリオ科、およびキサントモナス科が挙げられる。
【0069】
一実施形態では、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌は、エンテロバクター科のものである。本明細書で使用される「エンテロバクター科」という用語は、50を超える属および200を超える種を含むグラム陰性菌のファミリーを指す。本発明の範囲内で、エンテロバクター科の細菌の非限定的な例としては、シトロバクター属、エンテロバクター属、エシェリキア属、クレブシエラ属、モルガネラ属、プロテウス属、プロビデンシア属、サルモネラ属、セラチア属、シゲラ属、およびエルシニア属の細菌が挙げられる。
【0070】
一実施形態では、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌は、エシェリキア属のものである。本発明の範囲内で、エシェリキア属の細菌の非限定的な例としては、E.アデカルボキシラータ、
E.アルベルティイ(E.albertii)、E.ブラタエ(E.blattae)、大腸菌、E.ファグソニイ(E.fergusonii)、E.ハーマンニイ(E.hermannii)、およびE.ブルネリス(E.vulneris)の種の細菌が挙げられる。
【0071】
一実施形態では、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌は、エシェリキア・コリ種のものである。本明細書で使用される場合、「エシェリキア・コリ」とも呼ばれる「大腸菌」は、多くの哺乳動物個体、特にヒト個体の腸内フローラに天然に見出される細菌種を指す。大腸菌種に属する細菌はまた、工業的発酵プロセスにおいて、様々な生成物を合成するために、特に本発明の文脈においては、生物学的分子、例えば、ポリペプチドおよび核酸分子などを合成するために使用される。
【0072】
本発明の別の態様は、エンベロープ完全性に関与するタンパク質をコードする少なくとも2つの変異遺伝子を含む遺伝子改変大腸菌に関し、細菌は、変化したエンベロープ完全性を有し、変化していないエンベロープ完全性を有する細菌と比較して、細菌溶解に対して過敏であり、少なくとも1つの変異遺伝子は、ompAおよび/またはその相同体であり、少なくとも1つの変異遺伝子は、細菌がompA遺伝子の完全な欠失およびlpp遺伝子の完全な欠失を同時に含まないという条件で、Lpp機能性に関与する遺伝子である。
【0073】
本明細書で使用される場合、「Lpp機能性に関与する遺伝子」とは、発現の結果、生理学的機能性Lppポリペプチドとなる任意の遺伝子を指す。いくつかの実施形態では、Lpp機能に関与する遺伝子としては、Lppポリペプチドをコードするlpp遺伝子自体が含まれる。いくつかの実施形態では、Lpp機能性に関与する遺伝子は、それぞれYbiS、YcfSおよびErfKポリペプチドをコードする遺伝子ybiS、ycfSおよびerfKのうちのいずれか1つを含む。
【0074】
いくつかの実施形態では、Lpp機能性に関与する少なくとも1つの遺伝子は、lpp、ybiS、ycfSおよびerfK遺伝子、ならびに/またはそれらの相同体、ならびにそれらの任意の組み合わせを含むまたはこれらからなる群から選択される。
【0075】
一実施形態では、大腸菌株は、BL21(DE3)株、DH5-アルファ株、DH10B株、INV110株、Mach1株、MG1655株、Rosetta(登録商標)株およびTOP10株を含む非限定的な群から選択される。
【0076】
実際には、BL21(DE3)株は、次の遺伝子型を有する:F‐ompThsdSB(rB‐,mB‐)gal dcm(DE3);
DH5-Alpha株は、次の遺伝子型を有する:F‐φ80lacZΔM15Δ(lacZYA-argF)U169 recA1 endA1 hsdR17(rK‐,mK+)phoA supE44λ‐thi-1gyrA96 relA1;
DH10B株は、次の遺伝子型を有する:
F‐mcrA Δ(mrr-hsdRMS-mcrBC) φ80lacZΔM15 ΔlacX74recA1endA1araD139 Δ(ara-leu )7697galUgalK λ‐rpsL(StrR)nupG;
INV110株は、次の遺伝子型を有する:F’[traD36proABlacIqlacZΔM15]rpsL (StrR)thr leu endAthi-1lacYgalKgalTara tonAtsx dam dcm supE44Δ(lac-proAB)Δ(mcrC-mrr)102::Tn10(TetR);
Mach1株は、次の遺伝子型を有する:F‐φ80lacZΔM15ΔlacX74hsdR(rK‐,mK+)ΔrecA1398endA1 tonA;
MG1655株は、次の遺伝子型を有する:F‐λ‐ilvG‐rfb-50rph-1;
Rosetta(登録商標)株は、次の遺伝子型を有する:F-ompT hsdSB(rB-mB-)gal dcm(DE3)pRARE(CamR);
TOP10株は、次の遺伝子型を有する:F‐ mcrA Δ(mrr-hsdRMS-mcrBC)φ80lacZΔM15 ΔlacX74recA1 araD139 Δ(ara-leu)7697galU galK λ‐rpsL(StrR)endA1 nupG。
【0077】
本発明の範囲内で、「エンベロープ完全性に関与するタンパク質」という表現は、グラム陰性菌の細菌エンベロープの構造エレメントとして、ならびに/または細菌エンベロープの合成および/もしくは維持に関与するエレメントとして知られているタンパク質を指すことを意味する。エンベロープ完全性に関与するタンパク質の例としては、これらに限定されないが、ペリプラズムタンパク質、外膜タンパク質、ペリプラズムペプチドグリカンへの内膜の付着、ペリプラズムペプチドグリカンの外膜への付着、および/または内膜の外膜への付着に関与するタンパク質が挙げられる。実例として、本発明によるエンベロープ完全性に関与するタンパク質としては、これらに限定されないが、外膜タンパク質A(OmpA)および/またはその相同体;主要外膜プロリポタンパク質Lpp(Lpp)および/またはその相同体;トランスエンベロープTol-Pal複合体のタンパク質、例えば、ペプチドグリカン関連リポタンパク質(Pal)など、およびペリプラズムペプチドグリカン中に存在する短いペプチド骨格へのLppの架橋を行うL,D-トランスペプチダーゼ、例えば、YbiS、YcfSおよびErfKなどが挙げられる。
【0078】
いくつかの実施形態では、エンベロープ完全性に関与するタンパク質をコードする遺伝子内の変異は、エンベロープ完全性を変化させる変異である。特定の実施形態では、エンベロープ完全性の変化は、エンベロープ完全性の欠陥または破壊である。
【0079】
グラム陰性菌の細菌エンベロープ完全性を評価する技術は、当業者に知られており、これらに限定されないが、既知のサイズの標識化合物(例えば、標識デキストランなど)に対する透過性、浸透圧ショックに対する耐性を試験することが挙げられる。いくつかの実施形態では、細菌エンベロープの完全性は、例えば、Ishikawa et al.(Mol Microbiol.2016 Aug;101(3):394-410)に記載のとおり、ペプチドグリカンと相互作用するタンパク質との間の相互作用を判定することによって評価することができる。
【0080】
いくつかの実施形態では、エンベロープ完全性に関与するタンパク質をコードする少なくとも2つの遺伝子のそれぞれ内の変異は、ペリプラズムペプチドグリカンへの内膜の付着、ペリプラズムペプチドグリカンの外膜への付着、または外膜への内膜の付着を破壊する変異である。
【0081】
外膜のペリプラズムペプチドグリカンへの付着を評価する技術は、当業者に知られており、これらに限定されないが、電子顕微鏡によるペリプラズムの厚さの観察、外膜ブレブ形成の顕微鏡観察、相互作用タンパク質の共免疫沈降、相互作用するタンパク質の架橋が挙げられる。
いくつかの実施形態では、少なくとも2つの変異遺伝子は、ompA、lpp、pal、ybiS、ycfSおよびerfK遺伝子、ならびに/またはそれらの相同体を含む群から選択され、少なくとも2つの変異遺伝子のうちの少なくとも1つは、ompA遺伝子またはlpp遺伝子、またはその相同体である。
【0082】
特定の実施形態では、少なくとも2つの変異遺伝子は、以下の組み合わせのうちの1つを含む:
-ompAおよびlpp、および/またはその相同体;
-lppおよびpal、および/またはその相同体;
-ompAおよびpal、および/またはその相同体;
-ompA、ybiS、ycfSおよびerfK、および/またはその相同体;
-ompA、lpp、ybiSおよびerfK、および/またはその相同体;
-ompA、lpp、ycfSおよびerfK、および/またはその相同体;または、
-ompA、lpp、ybiSおよびycfS、および/またはその相同体。
【0083】
特定の実施形態では、少なくとも2つの変異遺伝子は、以下の組み合わせのうちの1つを含む:
-ompAおよびlpp、および/またはその相同体;
-lppおよびpal、および/またはその相同体;
-ompAおよびpal、および/またはその相同体;
-ompA、ybiS、ycfSおよびerfK、および/またはその相同体;
-ompA、lpp、ybiSおよびerfK、および/またはその相同体;
-ompA、lpp、ycfS、およびerfK、および/またはその相同体;または、
-ompA、lpp、ybiSおよびycfS、および/またはその相同体。
いくつかの実施形態では、少なくとも2つの変異遺伝子は、以下の組み合わせのうちの1つを含む:
-ompAおよびlpp、および/またはその相同体;
-ompAおよびybiS、ならびに/またはycfSおよび/もしくはerfK、ならびに/またはその相同体;
-ompA、lpp、ybiSおよびerfK、および/またはその相同体;
-ompA、lpp、ycfS、およびerfK、および/またはその相同体;または、
-ompA、lpp、ybiSおよびycfS、および/またはその相同体。
【0084】
細菌遺伝子内に変異を生じさせる技術は当業者に公知であり、これらに限定されないが、ファージ形質導入、化学的変異誘発、相同組換え、CRISPR-cas9によるゲノム編集、ジンクフィンガードメイン-ヌクレアーゼ融合が挙げられる。
【0085】
一実施形態では、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌は、ompA遺伝子および/またはその相同体中に少なくとも1つの変異を含む。
【0086】
ompA遺伝子は、外膜プロテインAをコードする大腸菌のゲノム中に自然に見出される。OmpAタンパク質は、そのN末端βバレルによって、グラム陰性菌の細菌エンベロープの外膜に広がっている。タンパク質の可溶性C末端部分は、ペリプラズム内に伸長し、ペリプラズムペプチドグリカンと非共有結合により相互作用する。
【0087】
ompA遺伝子は、本発明によるグラム陰性菌のエンベロープ完全性に関与するタンパク質をコードすることが理解される。より正確には、ompA遺伝子は、細菌エンベロープの外膜のペリプラズムペプチドグリカンへの付着に関与するタンパク質をコードする。
【0088】
特定の実施形態では、ompA遺伝子は、EcoCycアクセッション番号EG10669の核酸を指す。いくつかの実施形態では、ompA遺伝子は、配列番号1に対して少なくとも75%の核酸配列同一性を有する核酸配列によって表される。本発明の範囲内で、「少なくとも75%の核酸同一性」という表現は、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%および100%の核酸同一性を包含する。
【0089】
2つの核酸配列の同一性レベルは、最新技術から利用可能な既知のアルゴリズムのいずれか1つを使用することによって実施され得る。
【0090】
実例として、核酸同一性パーセンテージは、CLUSTAL Wソフトウェア(バージョン1.83)を使用して決定することができ、パラメータは、以下のように設定する:
-遅い/正確なアライメント:(1)ギャップオープンペナルティ:15;(2)ギャップ延長ペナルティ:6.66;(3)重み行列:IUB;
-高速/近似アライメント:(4)K-タプル(ワード)サイズ:2;(5)ギャップペナルティ:5;(6)トップダイアゴナル数:5;(7)ウィンドウサイズ:4;(8)スコアリング方法:パーセント。
【0091】
いくつかの実施形態では、ompA遺伝子は、配列番号1に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%の核酸配列同一性を有する核酸配列によって表される。
【0092】
一実施形態では、ompA遺伝子は、配列番号1からなる核酸配列によって表される。
【0093】
特定の実施形態では、OmpAタンパク質は、UniProtKBアクセッション番号P0A910を有するプレタンパク質を指す。いくつかの実施形態では、OmpAプレタンパク質は、配列番号2に対して少なくとも75%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列によって表される。本発明の範囲内で、「少なくとも75%のアミノ酸同一性」という表現は、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%および100%のアミノ酸同一性を包含する。
【0094】
実例として、アミノ酸同一性パーセンテージも、CLUSTAL Wソフトウェア(バージョン1.83)を使用して決定することができ、パラメータは、以下のように設定する:
-遅い/正確なアライメント:(1)ギャップオープンペナルティ:10.00;(2)ギャップ延長ペナルティ:0.1;(3)タンパク質重み行列:BLOSUM;
-高速/近似アライメント:(4)ギャップペナルティ:3;(5)Kタプル(ワード)
サイズ:1;(6)トップダイアゴナル数:5;(7)ウィンドウサイズ:5;(8)スコアリング方法:パーセント。
【0095】
いくつかの実施形態では、OmpAプレタンパク質は、配列番号2に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列によって表される。
【0096】
一実施形態では、OmpAプレタンパク質は、配列番号2からなるアミノ酸配列によって表される。
【0097】
一実施形態では、ompA遺伝子内の変異は、ペリプラズムペプチドグリカンへのOmpAの結合の破壊を促進する変異である。本明細書で使用する場合、「OmpAのペリプラズムペプチドグリカンへの結合を破壊する」という表現は、変化していないエンベロープ完全性を有する細菌で観察される共有結合による結合レベルの最大約75%に達するペリプラズムペプチドグリカンへのOmpAの共有結合による結合レベルを指す。本発明の範囲内で、「最大で約75%」という表現は、約75%、70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、10%、5%、1%、0.5%および0.1%を包含する。
【0098】
OmpAのペリプラズムペプチドグリカンへの結合を評価する技術は当業者に知られており、これらに限定されないが、共分離ベースの技術、例えば、共免疫沈降、GSTプルダウンなど;蛍光ベースのアッセイ、例えばFRET、BiFCなど;表面プラズモン共鳴ベースのアッセイ;遺伝子レポーターベースのアッセイ、例えば、酵母2ハイブリッド、ファージディスプレイなどが挙げられる。
【0099】
OmpAプレタンパク質を外膜へ自然に整列させている間、OmpAプレタンパク質は切断され、その21aa長のN末端シグナルペプチドおよび325aa長の成熟タンパク質を放出する。
【0100】
実際には、ompA遺伝子内の変異の位置が、アミノ酸配列、配列番号3の成熟OmpAタンパク質を基準として、所与の位置のアミノ酸をコードする対応するコドンに対して定義することができる。
【0101】
一実施形態では、OmpA成熟タンパク質は、配列番号3に対して、少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列によって表される。一実施形態では、OmpA成熟タンパク質は、配列番号3からなるアミノ酸配列によって表される。
【0102】
いくつかの実施形態では、変異ompA遺伝子は、256位のアルギニン(R)をコードするコドンの、電荷を有しないまたは負電荷を有するアミノ酸、好ましくはグルタミン酸(E)またはアラニン(A)をコードするコドンとの置換;および/または241位のアスパラギン酸(D)をコードするコドンの、電荷を有しないまたは正電荷を有するアミノ酸、好ましくはアスパラギン(N)をコードするコドンとの置換;および/または241位のアスパラギン酸(D)または256位のアルギニン(R)をコードするコドンまたはその前から始まるOmpAタンパク質のC末端部分の欠失、またはompA遺伝子の完全な欠失を含み;これらの位置が、アミノ酸配列、配列番号3に対して定義されている。
【0103】
本明細書で使用される場合、「電荷を有しないアミノ酸」という表現は、アラニン(A)、アスパラギン(N)、システイン(C)、グルタミン(Q)、グリシン(G)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、フェニルアラニン(F)、プロリン(P)、セリン(S)、スレオニン(T)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)、およびバリン(V)を含むか、またはこれらからなる群から選択されるアミノ酸を指す。本明細書で使用される場合、「負電荷を有するアミノ酸」という表現は、グルタミン酸(E)およびアスパラギン酸(D)を含む、またはこれらからなる群から選択されるアミノ酸を指す。本明細書で使用される場合、「正電荷を有するアミノ酸」という表現は、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)およびリジン(K)を含む、またはこれらからなる群から選択されるアミノ酸を指す。
【0104】
いくつかの実施形態では、OmpAタンパク質のC末端部分の欠失は、241位のアスパラギン酸(D)をコードするコドンまたはその前から始まる欠失からなり、位置が、アミノ酸配列、配列番号3に対して定義されている。
【0105】
特定の実施形態では、OmpAタンパク質のC末端部分の欠失は、256位のアルギニン(R)をコードするコドンまたはその前から始まる欠失からなり、位置が、アミノ酸配列、配列番号3に対して定義されている。
【0106】
いくつかの実施形態では、ompA遺伝子の相同体(複数可)は、yfiB遺伝子およびyiaD遺伝子からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、ompAタンパク質の相同体(複数可)は、YfiBタンパク質およびYiaDタンパク質からなる群から選択される。
【0107】
実際には、yfiB遺伝子は、EcoCycアクセッション番号EG11152の核酸を指す。いくつかの実施形態では、yfiB遺伝子は、配列番号16に対して少なくとも75%の核酸配列同一性を有する核酸配列によって表される。いくつかの実施形態では、yfiB遺伝子は、配列番号16に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%の核酸配列同一性を有する核酸配列によって表される。一実施形態では、yfiB遺伝子は、配列番号16からなる核酸配列によって表される。
【0108】
特定の実施形態では、YfiBタンパク質は、UniProtKBアクセッション番号P07021のポリペプチドを指す。いくつかの実施形態では、YfiBタンパク質は、配列番号17に対して少なくとも75%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列によって表される。いくつかの実施形態では、YfiBタンパク質は、配列番号17に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列によって表される。一実施形態では、YfiBタンパク質は、配列番号17からなるアミノ酸配列によって表される。
【0109】
実例として、YfiBのアミノ酸43からアミノ酸160までの領域は、OmpAと共に保存されている。YfiBとOmpAとの間の保存されたアミノ酸を特定すると、該当する場合は、YfiBタンパク質中のOmpAタンパク質から対応する変異を得ることができ、その逆も可能である。
【0110】
実際には、yiaD遺伝子は、EcoCycアクセッション番号EG12271の核酸を指す。いくつかの実施形態では、yiaD遺伝子は、配列番号18に対して少なくとも75%の核酸配列同一性を有する核酸配列によって表される。いくつかの実施形態では、yiaD遺伝子は、配列番号18に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%の核酸配列同一性を有する核酸配列によって表される。一実施形態では、yiaD遺伝子は、配列番号18からなる核酸配列によって表される。
【0111】
特定の実施形態では、YiaDタンパク質は、UniProtKBアクセッション番号P37665のポリペプチドを指す。いくつかの実施形態では、YiaDタンパク質は、配列番号19に対して少なくとも75%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列によって表される。いくつかの実施形態では、YiaDタンパク質は、配列番号19対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列によって表される。一実施形態では、YiaDタンパク質は、配列番号19らなるアミノ酸配列によって表される。
【0112】
実例として、YiaDのアミノ酸103~アミノ酸219までの領域は、OmpAと共に保存されている。YiaDとOmpAとの間の保存されたアミノ酸を特定すると、該当する場合は、YiaDタンパク質内のOmpAタンパク質から対応する変異を得ることができ、その逆も可能である。
【0113】
一実施形態では、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌は、lpp遺伝子および/またはその相同体中に少なくとも1つの変異を含む。
【0114】
lpp遺伝子は、主要な外膜プロリポタンパク質Lppをコードする大腸菌のゲノムに自然に見出される。Lppタンパク質は、細菌エンベロープの外膜をペリプラズムのペプチドグリカンに繋留する。Lppタンパク質は、脂質化されたN末端を介して外膜に固定され、C末端のリジンを介して、ペリプラズムペプチドグリカンに存在する短いペプチド主鎖に共有結合により付着される。lpp遺伝子は、本発明によるグラム陰性菌のエンベロープ完全性に関与するタンパク質をコードすることが理解される。より正確には、lpp遺伝子は、細菌エンベロープの外膜のペリプラズムペプチドグリカンへの共有結合による付着に関与するタンパク質をコードする。
【0115】
特定の実施形態では、lpp遺伝子は、EcoCycアクセッション番号EG10544の核酸を指す。いくつかの実施形態では、lpp遺伝子は、配列番号4に対して少なくとも75%の核酸配列同一性を有する核酸配列によって表される。
【0116】
いくつかの実施形態では、lpp遺伝子は、配列番号4に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%の核酸配列同一性を有する核酸配列によって表される。
【0117】
一実施形態では、lpp遺伝子は、配列番号4からなる核酸配列によって表される。
特定の実施形態では、Lppタンパク質は、UniProtKBアクセッション番号P69776を有するプレタンパク質を指す。いくつかの実施形態では、Lppプレタンパク質は、配列番号5に対して少なくとも75%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列によって表される。
【0118】
いくつかの実施形態では、Lppプレタンパク質は、配列番号5に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列によって表される。
【0119】
一実施形態では、Lppプレタンパク質は、配列番号5からなるアミノ酸配列によって表される。
【0120】
一実施形態では、lpp遺伝子内の変異は、ペリプラズムペプチドグリカンへのLppの結合を破壊する変異である。本明細書で使用する場合、「Lppのペリプラズムペプチドグリカンへの結合を破壊する」という表現は、変化していないエンベロープ完全性を有する細菌で観察される共有結合による結合レベルの最大約75%に達するペリプラズムペプチドグリカンへのLppの共有結合による結合レベルを指す。いくつかの実施形態では、ペリプラズムペプチドグリカンへのLppの共有結合による結合のレベルは、Lppタンパク質に特異的に結合する抗体によって判定され得る。
【0121】
ペリプラズムペプチドグリカンへのLppの結合を評価する技術は当業者に知られており、ペリプラズムペプチドグリカンへのOmpAの結合を評価するのに有用な技術と同様の技術を含む。Zhang et al.(J.Biol.Chem.1992 Sept;267(27):19560-4 and 19631-5);Ishikawa et al.(Mol Microbiol.2016 Aug;101(3):394-410);Cowles et al.(Mol.Microbiol.2011 Mar;79(5):1168-81)を参照することができる。
【0122】
Lppは、長さ78aaのプレタンパク質として自然に合成され、次いでペリプラズムへ向いている間に切断され、長さ20aaのN末端シグナルペプチドおよび長さ58aaの成熟タンパク質を放出するようになる。実際には、lpp遺伝子内の変異の位置は、アミノ酸配列、配列番号6の成熟Lppタンパク質を基準として、所与の位置のアミノ酸をコードする対応するコドンに対して定義されている。
【0123】
一実施形態では、Lpp成熟タンパク質は、配列番号6に対して、少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列によって表される。一実施形態では、Lpp成熟タンパク質は、配列番号6からなるアミノ酸配列によって表される。
【0124】
一実施形態では、lpp遺伝子内の変異は、58位のリジン(K)をコードするコドンの欠失、57位のアルギニン(R)をコードするコドンの、別のアミノ酸、好ましくは電荷を有しないアミノ酸、より好ましくはロイシン(L)をコードするコドンとの置換;58位のリジン(K)をコードするコドンの、アルギニン(R)をコードするコドンとの置換;lpp遺伝子の完全な欠失;およびそれらの組み合わせを含むか、またはこれらからなる群から選択され、これらの位置が、アミノ酸配列、配列番号6に対して定義されている。
【0125】
いくつかの実施形態では、lpp遺伝子の相同体は、yqhH遺伝子である。特定の実施形態では、Lppタンパク質の相同体は、YqhHタンパク質である。
【0126】
実際には、yqhH遺伝子は、EcoCycアクセッション番号EG7567の核酸を指す。いくつかの実施形態では、yqhH遺伝子は、配列番号20に対して少なくとも75%の核酸配列同一性を有する核酸配列によって表される。いくつかの実施形態では、yqhH遺伝子は、配列番号20に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%の核酸配列同一性を有する核酸配列によって表される。一実施形態では、yqhH遺伝子は、配列番号20からなる核酸配列によって表される。
【0127】
特定の実施形態では、YqhHタンパク質は、UniProtKBアクセッション番号P65298のポリペプチドを指す。いくつかの実施形態では、YqhHタンパク質は、配列番号21に対して少なくとも75%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列によって表される。いくつかの実施形態では、YqhHタンパク質は、配列番号21対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列によって表される。一実施形態では、YqhHタンパク質は、配列番号21からなるアミノ酸配列によって表される。
【0128】
実例として、YqhHのアミノ酸25~アミノ酸71までの領域は、Lppと共に保存されている。YqhHとLppとの間の保存されたアミノ酸を特定すると、該当する場合は、YqhHタンパク質内のLppタンパク質から対応する変異を得ることができ、その逆も可能である。
【0129】
一実施形態では、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌は、pal遺伝子内に少なくとも1つの変異を含む。
【0130】
Pal遺伝子は、ペプチドグリカン関連リポタンパク質をコードする大腸菌のゲノム中に自然に見出される。Palタンパク質は、外膜の完全性を維持するために重要である。Pal遺伝子は、本発明によるグラム陰性菌のエンベロープ完全性に関与するタンパク質をコードすることが理解される。より正確には、pal遺伝子は、細菌エンベロープの外膜のペリプラズムペプチドグリカンへの付着に関与するタンパク質をコードする。
【0131】
特定の実施形態では、pal遺伝子は、EcoCycアクセッション番号EG10684の核酸を指す。いくつかの実施形態では、pal遺伝子は、配列番号7に対して少なくとも75%の核酸配列同一性を有する核酸配列によって表される。
【0132】
いくつかの実施形態では、pal遺伝子は、配列番号7に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%の核酸配列同一性を有する核酸配列によって表される。
【0133】
一実施形態では、pal遺伝子は、配列番号7からなる核酸配列によって表される。
特定の実施形態では、Palタンパク質は、UniProtKBアクセッション番号P0A912を有するプレタンパク質を指す。いくつかの実施形態では、Palプレタンパク質は、配列番号8に対して少なくとも75%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列によって表される。
【0134】
いくつかの実施形態では、Palプレタンパク質は、配列番号8に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列によって表される。
【0135】
一実施形態では、Palプレタンパク質は、配列番号8からなるアミノ酸配列によって表される。
【0136】
一実施形態では、遺伝子pal内の変異は、ペリプラズムペプチドグリカンへのPalの結合を破壊する変異である。本明細書で使用する場合、「Palのペリプラズムペプチドグリカンへの結合を破壊する」という表現は、変化していないエンベロープ完全性を有する細菌で観察される結合レベルの最大約75%に達するペリプラズムペプチドグリカンへのPalの結合レベルを指す。
【0137】
実際には、Palのペリプラズムペプチドグリカンへの結合を評価する手段は当業者に知られており、ペリプラズムペプチドグリカンへのOmpAまたはLppの結合を評価するための同じ技術を含む。
【0138】
OmpAおよびLppと同様に、Palは、長さ173aaのプレタンパク質として自然に合成され、その後ペリプラズムへ向けている間に切断される。この切断により、長さ21aaのN末端シグナルペプチドおよび長さ152aaの成熟タンパク質が放出される。実際には、pal遺伝子内の変異の位置は、アミノ酸配列、配列番号9の成熟Palタンパク質を基準として、所与の位置のアミノ酸をコードする対応するコドンに対して定義することができる。
一実施形態では、pal遺伝子内の変異は、pal遺伝子の完全な欠失、および104位のアルギニン(R)をコードするコドンの、電荷を有しないまたは負電荷を有するアミノ酸、好ましくはグルタミン酸(E)をコードするコドンとの置換を含むまたはそれらからなる群から選択され、位置が、アミノ酸配列、配列番号9に関して定義されている。
【0139】
一実施形態では、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌は、ybiS(ldtBとも呼ばれる)、ycfS(ldtCとも呼ばれる)および/またはerfK(ldtAとも呼ばれる)遺伝子内に少なくとも1つの変異を含む。
【0140】
ybiS遺伝子、ycfS遺伝子、およびerfK遺伝子はそれぞれ、酵素YbiS(LdtBとも呼ばれる)、YcfS(LdtCとも呼ばれる)、およびErfK(LdtAとも呼ばれる)をそれぞれコードし、C末端リジンを介して、成熟Lppタンパク質のペリプラズムペプチドグリカンへの共有結合による結合を触媒する。ybiS遺伝子、ycfS遺伝子およびerfK遺伝子は、本発明によるグラム陰性菌のエンベロープ完全性に関与するタンパク質をコードすることが理解される。より正確には、ybiS遺伝子、ycfS遺伝子およびerfK遺伝子は、Lpp外膜タンパク質のペリプラズムペプチドグリカンへの付着に関与するタンパク質をコードする。
【0141】
特定の実施形態では、ybiS遺伝子は、EcoCycアクセッション番号G6422の核酸を指す。いくつかの実施形態では、ybiS遺伝子は、配列番号10に対して少なくとも75%の核酸配列同一性を有する核酸配列によって表される。いくつかの実施形態では、ybiS遺伝子は、配列番号10に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%の核酸配列同一性を有する核酸配列によって表される。一実施形態では、ybiS遺伝子は、配列番号10からなる核酸配列によって表される。
【0142】
特定の実施形態では、YbiSタンパク質は、UniProtKBアクセッション番号P0AAX8を有するプレタンパク質を指す。いくつかの実施形態では、YbiSプレタンパク質は、配列番号11に対して少なくとも75%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列によって表される。いくつかの実施形態では、YbiSプレタンパク質は、配列番号11に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列によって表される。一実施形態では、YbiSプレタンパク質は、配列番号11からなるアミノ酸配列によって表される。
【0143】
いくつかの実施形態では、ybiS遺伝子の相同体、特に機能的相同体は、ldtD、ldtEまたはldtF遺伝子である。特定の実施形態では、YbiSタンパク質の相同体、特に機能的相同体は、LdtD、LdtEまたはLdtFタンパク質である。いくつかの実施形態では、ldtD遺伝子は、EcoCycアクセッション番号EG11253の核酸を指す。特定の実施形態では、ldtE遺伝子は、EcoCycアクセッション番号G6904の核酸を指す。いくつかの実施形態では、ldtF遺伝子は、EcoCycアクセッション番号G6108の核酸を指す。
【0144】
特定の実施形態では、ycfS遺伝子は、EcoCycアクセッション番号G6571の核酸を指す。いくつかの実施形態では、ycfS遺伝子は、配列番号12に対して少なくとも75%の核酸配列同一性を有する核酸配列によって表される。いくつかの実施形態では、ycfS遺伝子は、配列番号12に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%の核酸配列同一性を有する核酸配列によって表される。一実施形態では、ycfS遺伝子は、配列番号12からなる核酸配列によって表される。
【0145】
特定の実施形態では、YcfSタンパク質は、UniProtKBアクセッション番号P75954を有するプレタンパク質を指す。いくつかの実施形態では、YcfSプレタンパク質は、配列番号13に対して少なくとも75%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列によって表される。いくつかの実施形態では、YcfSプレタンパク質は、配列番号13に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列によって表される。一実施形態では、YcfSプレタンパク質は、配列番号13からなるアミノ酸配列によって表される。
【0146】
特定の実施形態では、erfK遺伝子は、EcoCycアクセッション番号G7073の核酸を指す。いくつかの実施形態では、erfK遺伝子は、配列番号14に対して少なくとも75%の核酸配列同一性を有する核酸配列によって表される。いくつかの実施形態では、erfK遺伝子は、配列番号14に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%の核酸配列同一性を有する核酸配列によって表される。一実施形態では、erfK遺伝子は、配列番号14からなる核酸配列によって表される。
【0147】
特定の実施形態では、ErfKタンパク質は、UniProtKBアクセッション番号P39176を有するプレタンパク質を指す。いくつかの実施形態では、ErfKプレタンパク質は、配列番号15に対して少なくとも75%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列によって表される。
【0148】
いくつかの実施形態では、ErfKプレタンパク質は、配列番号15に対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列によって表される。一実施形態では、ErfKプレタンパク質は、配列番号15からなるアミノ酸配列によって表される。
【0149】
特定の実施形態では、変異したybiS遺伝子、ycfS遺伝子および/またはerfK遺伝子、および/またはその相同体は、それぞれ、ybiS遺伝子、ycfS遺伝子および/またはerfK遺伝子、および/またはその相同体の欠失からなる。
【0150】
一実施形態では、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌は、変異したybiSおよびycfS遺伝子、および/またはその相同体を含む。一実施形態では、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌は、変異したybiSおよびerfK遺伝子、および/またはその相同体を含む。一実施形態では、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌は、変異したycfSおよびerfK遺伝子、および/またはその相同体を含む。一実施形態では、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌は、変異したybiS、ycfSおよびerfK遺伝子、および/またはその相同体を含む。
【0151】
本明細書では、ybiS、ycfSおよび/またはerfK遺伝子、および/またはその相同体のいずれかにおいて、変異により、ペリプラズムペプチドグリカンへの成熟Lppポリペプチドの機能的共有結合による結合がない場合があることは理解されよう。
【0152】
Lppのペプチドグリカンへの結合を測定する技術は、上記に記載されている。
【0153】
一実施形態では、ybiS遺伝子、ycfS遺伝子および/またはerfK遺伝子、および/またはその相同体内の変異は、ybiS、ycfSおよび/またはerfK、および/またはその相同体の完全な欠失、ybiSおよびerfK、および/またはその相同体の完全な欠失、ならびにybiSおよびycfSおよび/またはその相同体の完全な欠失、を含むまたはそれらからなる群から選択される。
【0154】
一実施形態では、ybiS遺伝子、ycfS遺伝子および/またはerfK遺伝子、および/またはその相同体内の変異は、これらの遺伝子によってコードされる酵素の触媒部位を損なう変異を含むか、またはそれらからなる。
【0155】
一実施形態では、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌は、少なくとも1つの以下の変異:
-ompA遺伝子および/またはその相同体内の少なくとも1つの変異であって、256位のアルギニン(R)をコードするコドンの、負電荷を有するまたは電荷を有しないアミノ酸、好ましくはグルタミン酸(E)またはアラニン(A)をコードするコドンとの置換;241位のアスパラギン酸(D)をコードするコドンの、電荷を有しないまたは正電荷を有するアミノ酸、好ましくはアスパラギン(N)をコードするコドンとの置換;241位のアスパラギン酸(D)または256位のアルギニン(R)をコードするコドンまたはその前から始まるOmpAタンパク質のC末端部分の欠失;またはompA遺伝子の完全な欠失を含み、これらの位置が、アミノ酸配列、配列番号3に対して定義されている、変異;
-lpp遺伝子および/またはその相同体内の少なくとも1つの変異であって、58位のリジン(K)をコードするコドンの欠失;57位のアルギニン(R)をコードするコドンの、別のアミノ酸、好ましくは電荷を有しないアミノ酸、より好ましくはロイシン(L)をコードするコドンとの置換;58位のリジン(K)をコードするコドンの、アルギニン(R)をコードするコドンとの置換;またはlpp遺伝子の完全な欠失を含み、これらの位置が、アミノ酸配列、配列番号6に対して定義されている、変異を含む。
【0156】
一実施形態では、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌は、少なくとも1つの以下の変異:
-lpp遺伝子および/またはその相同体内の少なくとも1つの変異であって、58位のリジン(K)をコードするコドンの欠失;57位のアルギニン(R)をコードするコドンの、別のアミノ酸、好ましくは負電荷を有するまたは電荷を有しないアミノ酸、より好ましくはロイシン(L)をコードするコドンとの置換;58位のリジン(K)をコードするコドンの、アルギニン(R)をコードするコドンとの置換;またはlpp遺伝子の完全な欠失を含み、これらの位置が、アミノ酸配列、配列番号6に対して定義されている、変異、および
-pal遺伝子内の少なくとも1つの変異であって、pal遺伝子の完全な欠失、または104位のアルギニン(R)をコードするコドンの、電荷を有しないまたは負電荷を有するアミノ酸、好ましくはグルタミン酸(E)をコードするコドンとの置換を含み、位置が、アミノ酸配列、配列番号9に対して定義されている、変異を含む。
【0157】
一実施形態では、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌、またはそのバリアントは、少なくとも1つの以下の変異:
-ompA遺伝子および/またはその相同体内の少なくとも1つの変異であって、256位のアルギニン(R)をコードするコドンの、電荷を有しないまたは負電荷を有するアミノ酸、好ましくはグルタミン酸(E)またはアラニン(A)をコードするコドンとの置換;241位のアスパラギン酸(D)をコードするコドンの、電荷を有しないまたは正電荷を有するアミノ酸、好ましくはアスパラギン(N)をコードするコドンとの置換;241位のアスパラギン酸(D)または256位のアルギニン(R)をコードするコドンまたはその前から始まるOmpAタンパク質のC末端部分の欠失;またはompA遺伝子の完全な欠失を含み、これらの位置が、アミノ酸配列、配列番号3に対して定義されている、変異;および
-pal遺伝子内の変異であって、pal遺伝子の完全な欠失、または104位のアルギニン(R)をコードするコドンの、電荷を有しないまたは負電荷を有するアミノ酸、好ましくはグルタミン酸(E)をコードするコドンとの置換を含み、位置が、アミノ酸配列、配列番号9に対して定義されている、変異を含む。
【0158】
一実施形態では、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌は、少なくとも1つの以下の変異:
-ompA遺伝子および/またはその相同体内の少なくとも1つの変異であって、256位のアルギニン(R)をコードするコドンの、負電荷を有するまたは電荷を有しないアミノ酸、好ましくはグルタミン酸(E)またはアラニン(A)をコードするコドンとの置換;241位のアスパラギン酸(D)をコードするコドンの、電荷を有しないまたは正電荷を有するアミノ酸、好ましくはアスパラギン(N)をコードするコドンとの置換;241位のアスパラギン酸(D)または256位のアルギニン(R)をコードするコドンまたはその前から始まるOmpAタンパク質のC末端部分の欠失;またはompA遺伝子の完全な欠失を含み、これらの位置が、アミノ酸配列、配列番号3に対して定義されている、変異;および
-ybiS、ycfSおよびerfK遺伝子、および/またはその相同体を含む遺伝子群のうちの少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つ、より好ましくは3つのそれぞれ内の少なくとも1つの変異であって、好ましくは、ybiS、ycfSおよびerfK遺伝子および/またはその相同体の完全な欠失を含むかまたはそれらからなる群から選択される変異(複数可)を含む。
【0159】
一実施形態では、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌、またはそのバリアントは、少なくとも1つの以下の変異:
-ompA遺伝子および/またはその相同体内の少なくとも1つの変異であって、256位のアルギニン(R)をコードするコドンの、電荷を有しないまたは負電荷を有するアミノ酸、好ましくはグルタミン酸(E)またはアラニン(A)をコードするコドンとの置換;241位のアスパラギン酸(D)をコードするコドンの、電荷を有しないまたは正電荷を有するアミノ酸、好ましくはアスパラギン(N)をコードするコドンとの置換;241位のアスパラギン酸(D)または256位のアルギニン(R)をコードするコドンまたはその前から始まるOmpAタンパク質のC末端部分の欠失;またはompA遺伝子の完全な欠失を含み、これらの位置が、アミノ酸配列、配列番号3に対して定義されている、変異;
-lpp遺伝子および/またはその相同体内の少なくとも1つの変異であって、58位のリジン(K)をコードするコドンの欠失;57位のアルギニン(R)をコードするコドンの、別のアミノ酸、好ましくは電荷を有しないアミノ酸、より好ましくはロイシン(L)をコードするコドンとの置換;58位のリジン(K)をコードするコドンの、アルギニン(R)をコードするコドンとの置換;またはlpp遺伝子の完全な欠失を含み、これらの位置が、アミノ酸配列、配列番号6に対して定義されている、変異、および
-ybiS遺伝子、ycfS遺伝子およびerfK遺伝子、および/またはその相同体を含む遺伝子群のうちの少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つ、より好ましくは少なくとも3つのそれぞれ内の少なくとも1つの変異であって、好ましくは、ybiS、ycfSおよびerfK遺伝子および/またはその相同体の完全な欠失を含むかまたはそれらからなる群から選択される変異(複数可)を含む。
【0160】
一実施形態では、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌は、少なくとも1つの以下の変異:
-lpp遺伝子および/またはその相同体の完全な欠失;および
-ompA遺伝子内の変異であって、241位のアスパラギン酸(D)または256位のアルギニン(R)をコードするコドンまたはその前から始まるOmpAタンパク質のC末端部分の欠失からなり、位置が、アミノ酸配列、配列番号3に対して定義されている、変異を含む。
【0161】
一実施形態では、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌は、少なくとも1つの以下の変異:
-lpp遺伝子および/またはその相同体の完全な欠失;ならびに
-ompA遺伝子および/またはその相同体の完全な欠失を含む。
【0162】
一実施形態では、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌は、少なくとも1つの以下の変異:
-lpp遺伝子および/またはその相同体の完全な欠失;ならびに
-ompA遺伝子および/またはその相同体の完全な欠失を含まない。
【0163】
一実施形態では、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌は、少なくとも1つの以下の変異:
-ompA遺伝子および/またはその相同体内の変異であって、256位のアルギニン(R)をコードするコドンの、グルタミン酸(E)をコードするコドンとの置換からなり、アミノ酸配列、配列番号3に対して定義されている、変異、および
-pal遺伝子の完全な欠失を含む。
【0164】
一実施形態では、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌は、少なくとも1つの以下の変異:
-lpp遺伝子および/またはその相同体内の変異であって、58位のリジン(K)をコードするコドンの欠失からなり、位置が、配列番号6に対して定義されている、変異;および
-pal遺伝子の完全な欠失を含む。
【0165】
一実施形態では、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌は、少なくとも1つの以下の変異:
-ompA遺伝子内の変異であって、256位のアルギニン(R)をコードするコドンの、グルタミン酸(E)をコードするコドンとの置換からなり、位置が、アミノ酸配列、配列番号3に対して定義されている、変異、および
-lpp遺伝子内の変異であって、58位のリジン(K)をコードするコドンの欠失からなり、位置が、配列番号6に対して定義されている変異を含む。
【0166】
一実施形態では、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌は、少なくとも1つの以下の変異:
-241位のアスパラギン酸(D)または256位のアルギニン(R)をコードするコドンまたはその前から始まるOmpAタンパク質のC末端部分の欠失であって、位置が、アミノ酸配列、配列番号3に対して定義されている、欠失、および
-lpp遺伝子内の変異であって、58位のリジン(K)をコードするコドンの欠失からなり、位置が、配列番号6に対して定義されている、変異を含む。
【0167】
一実施形態では、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌は、少なくとも1つの以下の変異:
-lpp遺伝子および/またはその相同体内の変異であって、57位のアルギニン(R)をコードするコドンの、ロイシン(L)をコードするコドンとの置換からなり、位置が、アミノ酸配列、配列番号6に対して定義されている、変異;
-ybiS遺伝子および/またはその相同体の完全な欠失;ならびに
-ycfS遺伝子および/またはその相同体の完全な欠失を含む。
【0168】
一実施形態では、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌は、少なくとも1つの以下の変異:
-ompA遺伝子および/またはその相同体内の変異であって、256位のアルギニン(R)をコードするコドンの、グルタミン酸(E)をコードするコドンとの置換からなり、位置が、アミノ酸配列、配列番号3に対して定義されている、変異、
-lpp遺伝子および/またはその相同体内の変異であって、57位のアルギニン(R)をコードするコドンの、ロイシン(L)をコードするコドンとの置換からなり、位置が、アミノ酸配列、配列番号6に対して定義されている、変異;
-ybiS遺伝子および/またはその相同体の完全な欠失;ならびに
-erfK遺伝子および/またはその相同体の完全な欠失を含む。
【0169】
一実施形態では、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌は、少なくとも1つの以下の変異:
-ompA遺伝子内の変異であって、256位のアルギニン(R)をコードするコドンの、グルタミン酸(E)をコードするコドンとの置換からなり、位置が、アミノ酸配列、配列番号3に対して定義されている、変異、および
-lpp遺伝子内の変異であって、57位のアルギニン(R)をコードするコドンの、ロイシン(L)をコードするコドンとの置換からなり、位置が、アミノ酸配列、配列番号6に対して定義されている、変異;
-ybiS遺伝子の完全な欠失;および
-ycfS遺伝子の完全な欠失を含む。
【0170】
一実施形態では、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌は、少なくとも1つの以下の変異:
-ompA遺伝子および/またはその相同体内の変異であって、256位のアルギニン(R)をコードするコドンの、グルタミン酸(E)をコードするコドンとの置換からなり、位置が、アミノ酸配列、配列番号3に対して定義されている、変異、
-lpp遺伝子および/またはその相同体内の変異であって、57位のアルギニン(R)をコードするコドンの、ロイシン(L)をコードするコドンとの置換からなり、位置が、アミノ酸配列、配列番号6に対して定義されている、変異;
-ycfS遺伝子および/またはその相同体の完全な欠失;ならびに
-erfK遺伝子および/またはその相同体の完全な欠失を含む。
【0171】
一実施形態では、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌は、少なくとも1つの以下の変異:
-ompA遺伝子内の変異であって、256位のアルギニン(R)をコードするコドンの、グルタミン酸(E)をコードするコドンとの置換からなり、位置が、アミノ酸配列、配列番号3に対して定義されている、変異、および
-ybiS遺伝子の完全な欠失、
-ycfS遺伝子の完全な欠失;および
-erfK遺伝子の完全な欠失を含む。
【0172】
一実施形態では、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌は、少なくとも1つの以下の変異:
-ompA遺伝子内の変異であって、241位のアスパラギン酸(D)をコードするコドンの、アスパラギン(N)をコードするコドンとの置換からなり、位置が、アミノ酸配列、配列番号3に対して定義されている、変異;および
-lpp遺伝子の完全な欠失を含む。
【0173】
一実施形態では、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌は、少なくとも1つの以下の変異:
-ompA遺伝子および/またはその相同体内の変異であって、256位のアルギニン(R)をコードするコドンの、グルタミン酸(E)をコードするコドンとの置換からなり、位置が、アミノ酸配列、配列番号3に対して定義されている、変異、および
-lpp遺伝子および/またはその相同体内の変異であって、58位のリジン(K)をコードするコドンの欠失からなり、位置が、配列番号6に対して定義されている、変異を含む。
【0174】
特定の実施形態では、本発明による細菌は、以下の変異を有する細菌の群から選択される;(i)ompA遺伝子内の変異であって、256位のアルギニン(R)をコードするコドンの、グルタミン酸(E)をコードするコドンとの置換からなり、位置が、アミノ酸配列、配列番号3に対して定義されている、変異、およびlpp遺伝子内の変異であって、58位のリジン(K)をコードするコドンの欠失からなり、位置が、アミノ酸配列、配列番号6に関して定義されている、変異;(ii)ompA遺伝子内の変異であって、256位のアルギニン(R)をコードするコドンの、グルタミン酸(E)をコードするコドンとの置換からなり、位置が、アミノ酸配列、配列番号3に対して定義されている、変異、およびpal遺伝子の完全な欠失;または(iii)lpp遺伝子内の変異であって、58位のリジン(K)をコードするコドンの欠失からなり、位置が、アミノ酸配列、配列番号6に関して定義されている、変異、およびpal遺伝子の完全な欠失。
【0175】
一実施形態では、エンベロープ完全性に関与するタンパク質をコードする少なくとも2つの変異遺伝子のそれぞれ内の変異は、ゲノム変異である。
【0176】
本明細書で使用される場合、「ゲノム変異」という表現は、細菌染色体からの核酸配列内の変異を指す。そのような実施形態では、変異は、安定であり、変異を含む細菌細胞の子孫に伝達される。
【0177】
特定の実施形態では、本発明による細菌は、少なくとも1つのゲノム外核酸分子をさらに含む。
【0178】
特定の実施形態では、本発明による細菌は、好ましくは、少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つのゲノム外核酸分子をさらに含む。
【0179】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つのゲノム外核酸分子は、プラスミド、コスミド、および細菌人工染色体(BAC)を含むまたはそれらからなる群から選択される。
【0180】
実際には、ゲノム外核酸分子は、特に目的の核酸分子の核酸ベクターへのクローニングから生じる、プラスミドの形態であってもよい。いくつかの実施形態では、非限定的な好適な核酸ベクターは、pBluescriptベクター、pETベクター、pETduetベクター、pGBMベクター、pBADベクター、pUCベクターである。
【0181】
一実施形態では、プラスミドは低コピープラスミドである。一実施形態では、プラスミドは高コピープラスミドである。
【0182】
実際には、ゲノム外核酸分子は、例えば、ワクチン接種または遺伝子療法などの治療目的の核酸分子を含み得る。
【0183】
実際には、治療目的の核酸分子は、例えばアンチセンスオリゴヌクレオチド、アプタマーであってもよく、または例えば短鎖干渉RNA(siRNA)などのマイクロRNAをコードしてもよい。
【0184】
いくつかの実施形態では、核酸分子によってコードされるポリペプチドの合成が想定される場合、核酸ベクターは、誘導可能なプロモーター、特にlacZ遺伝子のプロモーター、trp遺伝子のプロモーターまたはβ-ラクタマーゼコード遺伝子のプロモーターも含み得る。実際には、核酸ベクターは、抗生物質、特にアンピシリン、カナマイシン、クロラムフェニコール、テトラサイクリン、スペクチノマイシンまたはストレプトマイシンに対する耐性をコードする核酸も含み得る。
【0185】
特定の実施形態では、核酸分子によってコードされるポリペプチドは、治療的目的である。いくつかの実施形態では、ポリペプチドは、細胞質ポリペプチドである。いくつかの実施形態では、ポリペプチドは、非分泌ポリペプチドである。
【0186】
本明細書で使用される場合、「非分泌ポリペプチド」は、細菌の細胞質内で合成され、グラム陰性菌、特に大腸菌の細胞質膜および外膜などの細菌膜に埋め込まれること、または通過することのないポリペプチドを指す。換言すれば、「非分泌ポリペプチド」は、細胞質膜に埋め込まれていない、ペリプラズムに標的化されていない、外膜に埋め込まれていない、または培養培地に標的化されていないポリペプチドを指す。本発明の範囲内で、用語「細胞質膜」および「内膜」は、同等であることを意味する。
【0187】
一実施形態では、治療用ポリペプチドは、酵素活性または調節活性を有するタンパク質、特別な標的化活性を有するタンパク質、ワクチン特性を有するタンパク質、および診断特性を有するタンパク質を含む群から選択される。
【0188】
実際には、目的の核酸分子によってコードされる治療用ポリペプチドは、例えば、成長因子、抗体、ホルモン、サイトカイン、酵素、血漿因子などであり得る。実例として、本発明に従って使用するための治療用ポリペプチドは、例えば、貧血、自己免疫疾患、がん、糖尿病、血友病、感染症および神経変性疾患などの障害または疾患の治療および/または予防のための方法において実施され得る。
【0189】
本発明の範囲内で、本発明の使用および方法は、in vivoまたはin vitroで実施され得る。
【0190】
本発明による細菌は、ゲノム外核酸、例えばプラスミド、および/または核酸によってコードされるポリペプチドの工業的生産および精製のために実施され得ることが理解される。
【0191】
本発明は、少なくとも1つのゲノム外核酸分子を産生するおよび精製するための、少なくとも1つのゲノム外核酸分子を含み、エンベロープ完全性に関与するタンパク質をコードする少なくとも1つの変異遺伝子を含む遺伝子改変大腸菌の使用に関し、細菌は、変化していないエンベロープ完全性を有する細菌と比較して、変化したエンベロープ完全性を有し、少なくとも1つの変異遺伝子は、ompAおよび/もしくはその相同体であるか、またはLpp機能性に関与する遺伝子である。
【0192】
本明細書で使用される場合、「少なくとも1つ」は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10またはそれ以上を包含する。
【0193】
本発明の別の態様は、少なくとも1つのゲノム外核酸分子の産生および精製のための、本発明による遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌の使用に関する。
【0194】
特定の実施形態では、少なくとも1つのゲノム外核酸分子は、プラスミド、コスミド、および細菌人工染色体(BAC)を含むまたはそれらからなる群から選択される。
【0195】
本発明のさらなる態様は、好ましくは少なくとも1つのゲノム外核酸分子によってコードされる少なくとも1つのポリペプチドの産生および精製のための、遺伝子改変大腸菌の使用に関し、この細菌が、少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つのゲノム外核酸分子を含み、エンベロープ完全性に関与するタンパク質をコードする少なくとも1つの変異遺伝子を含み、また、この細菌が、変化していないエンベロープ完全性を有する細菌と比較して、変化したエンベロープ完全性を有し、少なくとも1つの変異遺伝子が、ompAおよび/もしくはその相同体であるか、またはLpp機能性に関与する遺伝子である。
【0196】
いくつかの実施形態では、細菌は、変化していないエンベロープ完全性を有する細菌と比較して、細菌溶解に対して過敏である。
【0197】
本発明のさらに他の態様は、好ましくは少なくとも1つのゲノム外核酸分子によってコードされる少なくとも1つのポリペプチドの産生および精製のための、本発明による遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌の使用に関する。
【0198】
特定の実施形態では、ポリペプチドは、ゲノム核酸によってコードされる。
【0199】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つのポリペプチドは、少なくとも1つの細胞質ポリペプチドである。
【0200】
特定の実施形態では、少なくとも1つのポリペプチドは、少なくとも1つの非分泌ポリペプチドである。
【0201】
特定の実施形態では、少なくとも変異ompA遺伝子は、256位のアルギニン(R)をコードするコドンの、電荷を有しないまたは負電荷を有するアミノ酸、好ましくはグルタミン酸(E)またはアラニン(A)をコードするコドンとの置換;および/または241位のアスパラギン酸(D)をコードするコドンの、電荷を有しないまたは正電荷を有するアミノ酸、好ましくはアスパラギン(N)をコードするコドンとの置換;および/または241位のアスパラギン酸(D)または256位のアルギニン(R)をコードするコドンまたはその前から始まるOmpAタンパク質のC末端部分の欠失;またはompA遺伝子の完全な欠失からなり、これらの位置が、アミノ酸配列、配列番号3に対して定義されている。
【0202】
いくつかの実施形態では、Lpp機能性に関与する変異遺伝子は、lpp遺伝子内の変異であって、58位のリジン(K)をコードするコドンの欠失からなり、位置が、アミノ酸配列、配列番号6に対して定義されている、変異、またはybiS遺伝子の完全な欠失、および/またはycfS遺伝子の完全な欠失および/またはerfK遺伝子の完全な欠失からなる。
【0203】
いくつかの実施形態では、細菌は、エンベロープ完全性に関与するタンパク質をコードする少なくとも2つの変異遺伝子を含む。特定の実施形態では、細菌は、エンベロープ完全性に関与するタンパク質をコードする少なくとも2つの変異遺伝子を含み、少なくとも1つの変異遺伝子は、ompAおよび/またはその相同体であり、少なくとも1つの変異遺伝子は、Lpp機能性に関与する遺伝子である。
【0204】
一実施形態では、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌は、ompA遺伝子の完全な欠失およびlpp遺伝子の完全な欠失を同時に含まない。
【0205】
特定の実施形態では、細菌は、本発明において定義されるとおりである。
【0206】
本発明はまた、少なくとも1つのゲノム外核酸分子を産生するための方法に関し、本方法は、
a)少なくともゲノム外核酸分子を増幅するために、少なくとも1つのゲノム外核酸分子を含む、本発明による遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌を培養するステップ;と
b)ステップa)で得られた細菌を、好ましくは化学的溶解によって溶解して、溶解混合物を得るステップと;を含む。
【0207】
本発明はまた、少なくとも1つのゲノム外核酸分子を産生および精製するための方法に関し、本方法は、
a)少なくともゲノム外核酸分子を増幅するために、少なくとも1つのゲノム外核酸分子を含む、本発明による遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌を培養するステップ;と
b)ステップa)で得られた細菌を、好ましくは化学的溶解によって溶解して、溶解混合物を得るステップと;
c)ステップb)で得られた溶解混合物から、ゲノム外核酸分子を精製するステップと、を含む。
【0208】
本発明はまた、少なくとも1つのゲノム外核酸分子を産生および精製するための方法に関し、本方法は、
a)少なくともゲノム外核酸分子を増幅するために、エンベロープ完全性に関与するタンパク質をコードする少なくとも1つの変異遺伝子を含む遺伝子改変大腸菌を培養するステップであって、細菌は、変化したエンベロープ完全性を有し、変化していないエンベロープ完全性を有する細菌と比較して、細菌溶解に対して過敏であり、少なくとも1つの変異遺伝子は、ompAおよび/もしくはその相同体であるか、またはLpp機能性に関与する遺伝子であり、細菌が、少なくとも1つのゲノム外核酸分子を含む、ステップと;
b)ステップa)で得られた細菌を、好ましくは化学的溶解によって溶解して、溶解混合物を得るステップと;
c)ステップb)で得られた溶解混合物から、増幅されたゲノム外核酸分子を精製するステップと、を含む。
【0209】
特定の実施形態では、少なくとも1つのゲノム外核酸分子は、プラスミド、コスミド、および細菌人工染色体(BAC)を含むまたはそれらからなる群から選択される。
【0210】
別の態様では、本発明は、好ましくはゲノム外核酸分子によってコードされる少なくとも1つのポリペプチドの産生のための方法に関し、本方法は、
a)少なくとも1つのポリペプチドを合成するために、好ましくは少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つのゲノム外核酸分子を含む、本発明による遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌を培養するステップと;
b)ステップa)で得られた細菌を溶解して、溶解混合物を得るステップと;を含む。
【0211】
別の態様では、本発明は、好ましくはゲノム外核酸分子によってコードされる少なくとも1つのポリペプチドの産生および精製のための方法に関し、本方法は、
a)少なくとも1つのポリペプチドを合成するために、好ましくは少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つのゲノム外核酸分子を含む、本発明による遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌を培養するステップと;
b)ステップa)で得られた細菌を溶解して、溶解混合物を得るステップと;
c)ステップb)で得られた溶解混合物から少なくとも1つのポリペプチドを精製するステップと、を含む。
【0212】
本発明のさらなる一態様は、好ましくはゲノム外核酸分子によってコードされる少なくとも1つのポリペプチドの産生および精製のための方法に関し、本方法は、
a)少なくとも1つのポリペプチドを合成するために、エンベロープ完全性に関与するタンパク質をコードする少なくとも1つの変異遺伝子を含む遺伝子改変大腸菌を培養するステップであって、細菌は、変化したエンベロープ完全性を有し、変化していないエンベロープ完全性を有する細菌と比較して、細菌溶解に対して過敏であり、少なくとも1つの変異遺伝子は、ompAおよび/もしくはその相同体であるか、またはLpp機能性に関与する遺伝子であり、細菌が、好ましくは、少なくとも1つのポリペプチドをコードする少なくとも1つのゲノム外核酸分子を含む、ステップと;
b)ステップa)で得られた細菌を溶解して、溶解混合物を得るステップと;
c)ステップb)で得られた溶解混合物から少なくとも1つのポリペプチドを精製するステップと、を含む。
【0213】
特定の実施形態では、ポリペプチドは、ゲノム核酸によってコードされる。
【0214】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つのポリペプチドは、1つの細胞質ポリペプチドである。
【0215】
特定の実施形態では、少なくとも1つのポリペプチドは、1つの非分泌ポリペプチドである。
【0216】
いくつかの実施形態では、上記の方法からの細菌は、エンベロープ完全性に関与するタンパク質をコードする少なくとも2つの変異遺伝子を含む。特定の実施形態では、上記の方法からの細菌は、エンベロープ完全性に関与するタンパク質をコードする少なくとも2つの変異遺伝子を含み、少なくとも1つの変異遺伝子は、ompAであり、少なくとも1つの変異遺伝子は、Lpp機能性に関与する遺伝子である。
【0217】
一実施形態では、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌は、ompA遺伝子の完全な欠失およびlpp遺伝子の完全な欠失を同時に含まない。
【0218】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、ステップa)の前に、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌を少なくとも一つのゲノム外核酸分子により形質転換することを含む、または形質転換することからなるステップa0)をさらに含んでもよい。
【0219】
一実施形態では、本発明の方法によって産生されるポリペプチドは、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌によって分泌されない。したがって、ポリペプチドは、産生細菌からの放出を必要とする。
【0220】
「形質転換」という用語は、本明細書では、細菌、特に大腸菌の細胞質へのゲノム外核酸分子の導入を指すために使用される。その細胞質に形質転換ステップ後の少なくとも1つのゲノム外核酸分子を含む、細菌、特に大腸菌は、「形質転換細菌」として認定される。
【0221】
細菌の形質転換は、典型的には、細胞が、形質転換時に細胞質に入るゲノム外核酸分子に対して「コンピテント」になるように前もって処理されていることを必要とする。本明細書で使用される場合、「コンピテント」という用語は、ゲノム外核酸分子をその細胞質に取り込む能力が増大している細菌を指す。当業者は、コンピテント細菌を調製するための技術に精通している。実例として、コンピテント細菌の調製、形質転換、形質転換細菌の選択のステップについて、市販のキットまたは材料が使用される場合、製造業者の説明書を参照してもよく、かつ/または例えば、J.Sambrook and D.Russell,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(2001)によって記載されているプロトコルを参照してもよい。
【0222】
いくつかの実施形態では、コンピテント細菌は、化学的コンピテント細胞、特に塩化カルシウム処理細菌であってもよい。いくつかの代替実施形態では、コンピテント細菌は、エレクトロコンピテント細菌であってもよい。実際には、化学的コンピテントまたはエレクトロコンピテント細菌は、THERMOFISHER(登録商標)、SIGMA-ALDRICH(登録商標)またNEB(登録商標)から購入され得る。
【0223】
大腸菌の場合、市販の化学的コンピテント細菌の非限定的なリストは、BL21(DE3)、DH10B、DH5α、Mach1、TOP10、INV110、SIG10を包含する。市販の大腸菌エレクトロコンピテント細菌の非限定的なリストには、Mega DH10B T1R、ElectroMAX DH5α、One shot TOP10、SIG10 MAXを包含する。
【0224】
一態様では、本発明は、コンピテント形態の、本発明による遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌に関する。換言すれば、本発明は、本発明によるコンピテント遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌に関する。コンピテント遺伝子改変グラム陰性菌は、化学的コンピテントまたはエレクトロコンピテントであり得る。
【0225】
本発明による細菌は、細菌の初期集団を増幅するため、ゲノム外核酸分子の増幅を達成するため、および/または核酸分子によってコードされるポリペプチド、特に細胞質ポリペプチドの有意な合成を達成するために、適切な培養培地中で培養されることが理解される。
【0226】
当業者は、細菌、特に大腸菌の培養技術に精通している。簡単に説明すると、好適な培養培地に細菌を接種し、一定温度(約20℃~約40℃)で、最適には、大腸菌の場合は約37℃で、所望の密度の細胞が得られるまで撹拌しながら、インキュベートする。細胞密度は、培養物の光学密度を測定することによって、または顕微鏡を使用して細胞を数えることによって評価することができる。培養培地は、典型的には、細菌に対する選択圧を維持するために、目的の少なくとも1つのゲノム外核酸分子の存在によって与えられる抗生物質耐性に適合する抗生物質が補完される。実際には、細菌の成長に好適な培養培地の非限定的な例としては、LBブロス、Terrificブロス、およびM9最小培地が含まれる。市販の培地は、例えば、SIGMA-ALDRICH(登録商標)、THERMOFISHER(登録商標)などから購入され得、いくつかの企業を挙げることができる。ポリペプチドの産生を目的とする本発明の方法において、培養培地は、ポリペプチドをコードする核酸配列の誘導プロモーターの制御下で、発現を誘発する誘導分子が補完され得る。実例として、イソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシドを使用して、lacオペレーターの制御下で核酸配列の発現を誘導することができる。
【0227】
特定の実施形態では、精製を容易にするために、ポリペプチドをタグと融合させてもよい。本発明に好適なタグの非限定的な例は、FLAGタグ、GSTタグ、Haloタグ、Hisタグ、MBPタグ、Snapタグ、SUMOタグ、およびそれらの組み合わせを含む群から選択され得る。
【0228】
実際には、および産業目的のために、本発明による細菌の培養は、例えば5L、50L、100L、500Lまたは1,000Lの発酵槽などの適切な発酵槽(バイオリアクター)で行うことができる。発酵槽内での培養は、バッチ条件または流加条件で行うことができる。
【0229】
本明細書で使用する場合、「バッチ発酵」という表現は、基質および細菌を発酵槽にバッチ式で投入することによって達成される発酵を指すことを意味する。本明細書で使用する場合、「フェドバッチ発酵」という表現は、高濃度の所与の基質が細菌培養に対して毒性である発酵を指す:基質濃度を毒性レベル未満に維持する目的で、培養によって基質が消費されるため、遅い速度で、基質を徐々に添加(「供給」)する。
【0230】
ゲノム外核酸分子の増幅および/または核酸分子によってコードされるポリペプチドの産生の際に、核酸分子および/またはポリペプチドが、細菌から抽出されることが理解される。この抽出は、細菌を溶解するステップによって行われる。本発明の範囲内で、溶解は、細菌染色体の細菌からの天然タンパク質含有物である細菌および/または細菌デブリの抽出を回避しながら、可能な限り多くの核酸分子および/または核酸分子によってコードされるポリペプチドを回収するように行われる。
【0231】
本明細書で使用される場合、「溶解すること」、「細菌溶解」および「溶解」という用語は、細胞質の内容物が少なくとも部分的に細菌の外に放出されるように、細菌エンベロープを部分的または完全に破壊することを指すために使用される。当業者は、細菌を溶解する技術に精通している。そのような技術としては、これらに限定されないが、例えば、機械的溶解技術、例えば、高圧ホモジナイザー、ビーズミルおよび超音波処理を使用する技術など;酵素溶解技術、例えば、リゾチームおよび/またはプロテイナーゼKを使用する技術など;熱溶解、例えば、凍結/解凍サイクルを使用する技術など;ならびに化学的溶解技術、例えば、浸透圧ショック、アルカリ溶解および洗浄剤溶解、ならびにそれらの組み合わせなどが挙げられる。
一実施形態では、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌の溶解は、化学的溶解、好ましくはアルカリ溶解である。
【0232】
本明細書で使用される場合、「化学的溶解」という表現は、一般的に、細菌膜の破壊をもたらす、イオンおよび/または洗浄剤など、特定の溶質を含む溶液(複数可)中での細菌のインキュベーションをベースにした溶解技術を指すことを意味する。本明細書で使用される場合、「アルカリ溶解」という表現は、OH-イオンおよびドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を含む溶液中での細菌のインキュベーションをベースにした溶解方法を指すことを意味する。
【0233】
実際には、溶解ステップのためのOH-イオンの最終濃度は、約50mM~約500mM、好ましくは約75mM~約250mMである。本発明の範囲内において、「約50mM~約500mM」という表現は、50mM、55mM、60mM、65mM、70mM、75mM、80mM、85mM、90mM、95mM、100mM、110mM、120mM、125mM、130mM、140mM、150mM、160mM、170mM、175mM、180mM、190mM、200mM、220mM、240mM、260mM、280mM、300mM、320mM、340mM、360mM、380mM、400mM、420mM、440mM、460mM、480mMおよび500mMを包含する。
【0234】
実際には、OH-イオン源は、NaOHであってもよい。
【0235】
実際には、溶解ステップのためのSDSの最終濃度は、約0.1%~約5%、好ましくは約0.2%~約2%、より好ましくは約0.25%~約0.75%である。本発明の範囲内で、「約0.1%~約5%」という表現は、0.1%、0.2%、0.25%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.75%、0.8%、0.9%、1%、1.2%、1.4%、1.6%、1.8%、2%、2.2%、2.4%、2.6%、2.8%、3%、3.2%、3.4%、3.6%、3.8%、4%、4.2%、4.4%、4.6%、4.8%、および5%を包含する。
【0236】
理論に拘束されるものではないが、OH-イオンは、細菌膜と反応し、脂肪酸-グリセロールエステル結合を破壊し、続いて細菌膜をSDSに浸透させ得、次いで、タンパク質および膜を可溶化し得る。さらに、NaOHは、細胞DNAを変性させ得、細胞DNAを線形化し、その鎖が分離される一方で、環状プラスミドDNAは、トポロジー的に拘束されたままである。実例として、アルカリ溶解ステップを実施することは、市販のキット、例えばQiagen(登録商標)のmini、midiおよびmaxi prep kit、またはMacherey-Nagel(登録商標)キットを用いて、製造業者の説明書に従って行われ得る。あるいは、J.Sambrook and D.Russell,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(2001)に記載の詳細なプロトコルを参照してもよい。
【0237】
一実施形態では、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌の溶解ステップは、細菌を浸透圧ショックに供するステップを含む。
【0238】
本明細書で使用される「浸透圧ショック」という表現は、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌を含む溶液の浸透圧濃度の突然の変化(例えば、約5分以下の期間にわたる)に相当する。
【0239】
本明細書で使用される場合、「浸透圧濃度」という表現は、溶媒1リットルあたりの溶質のオスモル数(Osm/L)または溶媒1キログラムあたりの溶質のオスモル数(Osm/kg)で表される溶質濃度の尺度を指す。
【0240】
一実施形態では、浸透圧ショックの振幅は、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌を含む溶液の浸透圧濃度の約0.9倍以下、好ましくは約0.8倍以下、0.7倍、または0.6倍、より好ましくは約0.5倍以下、0.4倍、または0.3倍、さらにより好ましくは約0.25倍以下、0.2倍、0.15倍、または0.1倍、さらにより好ましくは約0.095倍以下の減少に相当する。
【0241】
一実施形態では、浸透圧ショックの振幅は、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌を含む溶液の浸透圧濃度の少なくとも約10%の倍率、好ましくは少なくとも約15%、20%、25%の倍率、より好ましくは少なくとも約30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%の倍率の低下に相当する。いくつかの実施形態では、倍率は、100%である。本発明の範囲内で、倍率100%は、細菌が、約0mOsm/Lの浸透圧を有する培地または緩衝液に細菌が懸濁されていることを意味することを意図する。
【0242】
実例として、LB培養培地は、440mOsm/Lの浸透圧を有する。浸透圧ショックを行うために純水を使用した場合には、浸透圧は、440mOsm/Lから0sm/Lに低下する。
【0243】
したがって、浸透圧の低下は、100%である。
【0244】
一実施形態では、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌を浸透圧ショックに供するステップは、純水中で少なくとも約30秒、好ましくは少なくとも約45秒間、60秒、75秒、100秒、125秒、150秒、175秒、200秒、225秒、250秒または275秒、より好ましくは、少なくとも約300秒間インキュベーションすることを含む。
【0245】
一実施形態では、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌の浸透圧ショックに対する感受性が増大する。本実施形態において、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌は、変化していないエンベロープ完全性を有さない細菌と比較して、核酸分子またはポリペプチド抽出に対して過敏である、好ましくはゲノム外核酸分子またはポリペプチド抽出に対して過敏であると称される。
【0246】
浸透圧ショックに対する細菌の感受性は、浸透圧ショックの際に生存している(例えば、増殖できる)細菌の割合を定量化することによって評価することができる。
【0247】
浸透圧ショック時の細菌の生存率は、比率[CFU/mL]OS/[CFU/mL]T0を測定することによって評価できる。ここで、[CFU/mL]OSは、浸透圧ショック後の1mLあたりのコロニー形成単位(CFU)の数を表し、[CFU/mL]T0は、浸透圧ショック前のCFU/mLの数を表す。
【0248】
CFU/mLの数は、当技術分野における一般的な知識に従って、特に、新鮮培地中の細菌のサンプルの1:10連続希釈後に測定され得、希釈のサンプルを寒天含有固体培養培地上に堆積させ、好適な対応する希釈で、CFUをカウントする。あるいは、CFU/mLは、約600nmでの光学密度を測定することによって評価することができる。
【0249】
一実施形態では、浸透圧ショックに対して過敏な遺伝子改変グラム陰性菌は、比率[CFU/mL]OS/[CFU/mL]T0、約1:101~約1:106、好ましくは、約1:102~約1:105を有する。
【0250】
本発明の範囲内において、「約1:101~約1:106」という表現は、1:101、1:102、1:103、1:104、1:105、および1:106を包含する。
【0251】
特定の実施形態では、比率[CFU/mL]OS/[CFU/mL]T0は、log(log10)で表してもよい。差2logは、比率1:102に相当し、差5logは、比率1:105に相当する。
【0252】
一実施形態では、溶解、好ましくは化学的溶解、より好ましくはアルカリ溶解時に、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌から放出される少なくとも1つのゲノム外核酸分子および/またはポリペプチドの細胞あたり、または培養物1mLあたりの量は、同等の条件で変化していないエンベロープ完全性を有する細菌から放出される量と比較して、増加している。
【0253】
本実施形態において、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌は、核酸分子および/またはポリペプチド抽出に対して過敏である、好ましくはゲノム外核酸分子および/またはポリペプチド抽出に対して過敏であると称される。
【0254】
一実施形態では、収量は、[AM/細胞]BAI/[AM/細胞]BR比を計算することによって評価され得、式中、[AM/細胞]BAIは、本明細書に開示された方法に従って本発明に従って細菌から回収された核酸分子またはポリペプチドの量を指し、[AM/細胞]BRは、同じ方法に従って、参照細菌、すなわち変化していないエンベロープ完全性を有する細菌から回収された核酸分子またはポリペプチドの量を指す。
【0255】
一実施形態では、溶解、好ましくは化学的溶解、より好ましくはアルカリ溶解時に本発明の遺伝子改変グラム陰性菌から放出される少なくとも1つのゲノム外核酸分子および/またはポリペプチドの細胞あたり、または培養物1mLあたりの量は、参照細菌、すなわち、変化していないエンベロープ完全性を有する細菌と比較した場合、約1.1倍または少なくとも約1.1倍、好ましくは約1.2倍、または少なくとも約1.2倍、1.3倍、1.4倍、1.5倍、1.6倍、1.7倍、1.8、または1.9倍、より好ましくは約1.9倍または少なくとも約1.9倍、またはそれ以上増加している。
【0256】
本実施形態において、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌は、核酸および/またはポリペプチド抽出に対して過敏である、好ましくはゲノム外核酸またはポリペプチド抽出に対して過敏であると称される。
【0257】
一実施形態では、溶解、好ましくはアルカリ溶解時に、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌から放出されるゲノムDNAの量に対する本発明の遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌から放出された少なくとも1つのゲノム外核酸分子および/またはポリペプチドの細胞あたり、または培養物1mLあたりの量の比率は、少なくとも約1:1~少なくとも10:1であり、例えば、1:1、2:1、3:1、4:1、5:1、6:1、7:1、8:1、9:1および10:1などである。
【0258】
一実施形態では、溶解、好ましくは化学的溶解、より好ましくはアルカリ溶解時に本発明の遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌から放出される少なくとも1つのポリペプチドの細胞あたり、または培養物1mLあたりの量は、参照グラム陰性菌、特に大腸菌、すなわち、変化していないエンベロープ完全性を有する細菌と比較した場合、約1.1倍もしくは少なくとも約1.1倍、好ましくは約1.2倍もしくは少なくとも約1.2倍、1.3倍、1.4倍、1.5倍、1.6倍、1.7倍、1.8倍、または1.9倍、好ましくは、約2倍もしくは少なくとも約2倍またはそれ以上増加している。
【0259】
一実施形態では、上記の少なくとも1つのポリペプチドおよび/または少なくとも1つのゲノム外核酸分子の細胞あたりまたは培養物1mLあたりの量は、精製ステップ後の量に相当する。
【0260】
一実施形態では、上記の少なくとも1つのゲノム外核酸分子の細胞あたり、または培養物1mLあたりの量は、スーパーコイルプラスミドの量に相当する。
【0261】
一実施形態では、本発明の方法は、溶解後に、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌によって放出された少なくとも1つのゲノム外核酸分子を精製するステップを含み、このステップは、本明細書に開示される方法のステップc)に相当する。
【0262】
一実施形態では、本発明の方法は、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌によって放出された少なくとも1つのポリペプチドを精製するステップを含む。
【0263】
当業者は、核酸および/またはタンパク質を精製する技術に精通している。実例として、核酸および/またはポリペプチドの精製ステップについて、市販のキットまたは材料、例えばQiagenのmini、midiおよびmaxi prepキットまたはMacherey-Nagelキットを使用する場合、製造業者の説明書を参照してもよく、かつ/または代わりに、J.Sambrook and D.Russell,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(2001)に記載のプロトコルを参照してもよい。
【0264】
一実施形態では、産生されたゲノム外核酸分子は、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌から、好ましくは溶解ステップによって放出される。
【0265】
本発明は、少なくとも1つのゲノム外核酸分子の産生および産生細菌からの放出のための、本発明による遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌の使用にも関する。
【0266】
本発明は、少なくとも1つのゲノム外核酸分子によってコードされる少なくとも1つのポリペプチドの産生のための、本発明による遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌の使用にも関する。
【0267】
一実施形態では、産生されたポリペプチドは、本発明による遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌の細胞質から、好ましくは細胞溶解のステップによって放出される。
【0268】
本発明は、少なくとも1つのゲノム外核酸分子によってコードされる少なくとも1つのポリペプチドの産生および産生細菌からの放出のための、本発明による遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌の使用にも関する。
【0269】
いくつかの実施形態では、本発明による遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌は、外膜小胞(OMV)を産生しない。特定の実施形態では、少なくとも1つのゲノム外核酸分子および/または少なくとも1つのゲノム外核酸分子によってコードされる少なくとも1つのポリペプチドは、外膜小胞(OMV)によって放出されない。
【0270】
本発明はまた、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌、および細菌をゲノム外核酸分子で形質転換する手段を含むキットに関する。
【0271】
本発明は、エンベロープ完全性に関与するタンパク質をコードする少なくとも1つの変異遺伝子を含む遺伝子改変大腸菌であって、この細菌が、変化したエンベロープ完全性を有し、変化していないエンベロープ完全性を有する細菌と比較して、細菌溶解に対して過敏であり、少なくとも1つの変異遺伝子が、ompAおよび/もしくはその相同体あるか、またはLpp機能性に関与する遺伝子である、大腸菌と、この細菌をゲノム外核酸分子で形質転換するための手段と、を含むキットにさらに関する。
【0272】
いくつかの実施形態では、上記のキットの細菌は、エンベロープ完全性に関与するタンパク質をコードする少なくとも2つの変異遺伝子を含む。特定の実施形態では、上記のキットの細菌は、エンベロープ完全性に関与するタンパク質をコードする少なくとも2つの変異遺伝子を含み、少なくとも1つの変異遺伝子は、ompAおよび/またはその相同体であり、少なくとも1つの変異遺伝子は、Lpp機能性に関与する遺伝子である。
【0273】
いくつかの実施形態では、細菌は、ompA遺伝子の完全な欠失およびlpp遺伝子の完全な欠失を同時に含まない。
【0274】
一実施形態では、本発明による細菌は、コンピテント細菌である。
【0275】
一実施形態では、本発明のキットは、本発明の遺伝子改変グラム陰性菌、特に大腸菌の形質転換反応における陽性対照として使用するためのプラスミドを含む。
【0276】
【0277】
配列番号:1(ompA核酸配列、1041bp)
atgaaaaagacagctatcgcgattgcagtggcactggctggtttcgctaccgtagcgcaggccgctccgaaagataacacctggtacactggtgctaaactgggctggtcccagtaccatgacactggtttcatcaacaacaatggcccgacccatgaaaaccaactgggcgctggtgcttttggtggttaccaggttaacccgtatgttggctttgaaatgggttacgactggttaggtcgtatgccgtacaaaggcagcgttgaaaacggtgcatacaaagctcagggcgttcaactgaccgctaaactgggttacccaatcactgacgacctggacatctacactcgtctgggtggcatggtatggcgtgcagacactaaatccaacgtttatggtaaaaaccacgacaccggcgtttctccggtcttcgctggcggtgttgagtacgcgatcactcctgaaatcgctacccgtctggaataccagtggaccaacaacatcggtgacgcacacaccatcggcactcgtccggacaacggcatgctgagcctgggtgtttcctaccgtttcggtcagggcgaagcagctccagtagttgctccggctccagctccggcaccggaagtacagaccaagcacttcactctgaagtctgacgttctgttcaacttcaacaaagcaaccctgaaaccggaaggtcaggctgctctggatcagctgtacagccagctgagcaacctggatccgaaagacggttccgtagttgttctgggttacaccgaccgcatcggttctgacgcttacaaccagggtctgtccgagcgccgtgctcagtctgttgttgattacctgatctccaaaggtatcccggcagacaagatctccgcacgtggtatgggcgaatccaacccggttactggcaacacctgtgacaacgtgaaacagcgtgctgcactgatcgactgcctggctccggatcgtcgcgtagagatcgaagttaaaggtatcaaagacgttgtaactcagccgcaggcttaa
【0278】
配列番号:2(OmpAプレタンパク質アミノ酸配列、346aa)
MKKTAIAIAVALAGFATVAQAAPKDNTWYTGAKLGWSQYHDTGFINNNGPTHENQLGAGAFGGYQVNPYVGFEMGYDWLGRMPYKGSVENGAYKAQGVQLTAKLGYPITDDLDIYTRLGGMVWRADTKSNVYGKNHDTGVSPVFAGGVEYAITPEIATRLEYQWTNNIGDAHTIGTRPDNGMLSLGVSYRFGQGEAAPVVAPAPAPAPEVQTKHFTLKSDVLFNFNKATLKPEGQAALDQLYSQLSNLDPKDGSVVVLGYTDRIGSDAYNQGLSERRAQSVVDYLISKGIPADKISARGMGESNPVTGNTCDNVKQRAALIDCLAPDRRVEIEVKGIKDVVTQPQA
【0279】
配列番号:3(OmpA成熟タンパク質アミノ酸配列、325aa)
APKDNTWYTGAKLGWSQYHDTGFINNNGPTHENQLGAGAFGGYQVNPYVGFEMGYDWLGRMPYKGSVENGAYKAQGVQLTAKLGYPITDDLDIYTRLGGMVWRADTKSNVYGKNHDTGVSPVFAGGVEYAITPEIATRLEYQWTNNIGDAHTIGTRPDNGMLSLGVSYRFGQGEAAPVVAPAPAPAPEVQTKHFTLKSDVLFNFNKATLKPEGQAALDQLYSQLSNLDPKDGSVVVLGYTDRIGSDAYNQGLSERRAQSVVDYLISKGIPADKISARGMGESNPVTGNTCDNVKQRAALIDCLAPDRRVEIEVKGIKDVVTQPQA
【0280】
配列番号:4(lpp核酸配列,237bp)
atgaaagctactaaactggtactgggcgcggtaatcctgggttctactctgctggcaggttgctccagcaacgctaaaatcgatcagctgtcttctgacgttcagactctgaacgctaaagttgaccagctgagcaacgacgtgaacgcaatgcgttccgacgttcaggctgctaaagatgacgcagctcgtgctaaccagcgtctggacaacatggctactaaataccgcaagtaa
【0281】
配列番号:5(Lppプレタンパク質アミノ酸配列、78aa)
MKATKLVLGAVILGSTLLAGCSSNAKIDQLSSDVQTLNAKVDQLSNDVNAMRSDVQAAKDDAARANQRLDNMATKYRK
【0282】
配列番号:6(Lpp成熟タンパク質アミノ酸配列、58aa)
CSSNAKIDQLSSDVQTLNAKVDQLSNDVNAMRSDVQAAKDDAARANQRLDNATKYRK
【0283】
配列番号:7(pal核酸配列、522bp)
atgcaactgaacaaagtgctgaaagggctgatgattgctctgcctgttatggcaattgcggcatgttcttccaacaagaacgccagcaatgacggcagcgaaggcatgctgggtgccggcactggtatggatgcgaacggcggcaacggcaacatgtcttccgaagagcaggctcgtctgcaaatgcaacagctgcagcagaacaacatcgtttacttcgatctggacaagtacgatatccgttctgacttcgctcaaatgctggatgcacatgcaaacttcctgcgtagcaacccgtcttacaaagtcaccgtagaaggtcacgcggacgaacgtggtactccggaatacaacatctccctgggtgaacgtcgtgcgaacgccgttaagatgtacctgcagggtaaaggcgtttctgcagaccagatctccatcgtttcttacggtaaagaaaaacctgcagtactgggtcatgacgaagcggcatactccaaaaaccgtcgtgcggtactggtttactaa
【0284】
配列番号:8(Palプレタンパク質アミノ酸配列、173aa)
MQLNKVLKGLMIALPVMAIAACSSNKNASNDGSEGMLGAGTGMDANGGNGNMSEEQARLQMQQLQQNNIVYFDLDKYDIRSDFAQMLDAHANFLRSNPSYKVTVEGHADERGTPEYNISLGERRANAVKMYLQGKGVSADQISIVSYGKEKPAVLGHDEAAYSKNRRAVLVY
【0285】
配列番号:9(Pal成熟タンパク質アミノ酸配列、152aa)
CSSNKNASNDGSEGMLGAGTGMDANGGNGNMSSEEQARLQMQQLQQNNIVYFDLDKYDIRSDFAQMLDAHANFLRSNPSYKVTVEGHADERGTPEYNISLGERRANAVKMYLQGKGVSADQISIVSYGKEKPAVLGHDEAAYSKNRRAVLVY
【0286】
配列番号:10(ybiS核酸配列、921bp)
atgaatatgaaattgaaaacattattcgcagcggccttcgctgttgtcggcttttgcagtaccgcctctgcggtaacttatcctctgccaaccgacgggagtcgcctggttggtcagaatcaggtgatcaccattcctgaaggtaacactcagccgctggagtattttgccgccgagtaccagatggggctttccaatatgatggaagcgaacccgggtgtggataccttcctgccgaaaggcggtactgtactgaacattccgcagcagctgatcctgccggataccgttcatgaaggcatcgtcattaacagtgctgagatgcgtctttattactatccgaaagggaccaacaccgttatcgtgctgccgatcggcattggtcagttaggcaaagatacgcctatcaactggaccaccaaagttgagcgtaaaaaagcaggcccgacctggacgccgaccgccaaaatgcacgcagagtaccgcgctgcgggcgaaccgcttccggctgtcgttccggcaggtccggataacccgatggggctgtatgcactctatatcggtcgcctgtatgctatccatggcaccaacgccaacttcggtatcggcctgcgtgtaagtcatggttgtgtgcgtctgcgtaacgaagacatcaaattcctgttcgagaaagtaccggtcggtacccgcgtacagtttattgatgagccggtaaaagcgaccaccgagccagacggcagccgttatattgaagtccataacccgctgtctaccaccgaagcccagtttgaaggtcaggaaattgtgccaattaccctgacgaagagcgtgcagacagtgaccggtcagccagatgttgaccaggttgttcttgatgaagcgattaaaaaccgctccgggatgccggttcgtctgaattaa
【0287】
配列番号:11(YbiSタンパク質アミノ酸配列、306aa)
MNMKLKTLFAAAFAVVGFCSTASAVTYPLPTDGSRLVGQNQVITIPEGNTQPLEYFAAEYQMGLSNMMEANPGVDTFLPKGGTVLNIPQQLILPDTVHEGIVINSAEMRLYYYPKGTNTVIVLPIGIGQLGKDTPINWTTKVERKKAGPTWTPTAKMHAEYRAAGEPLPAVVPAGPDNPMGLYALYIGRLYAIHGTNANFGIGLRVSHGCVRLRNEDIKFLFEKVPVGTRVQFIDEPVKATTEPDGSRYIEVHNPLSTTEAQFEGQEIVPITLTKSVQTVTGQPDVDQVVLDEAIKNRSGMPVRLN
【0288】
配列番号:12(ycfS核酸配列、963bp)
gtgatgatcaaaacgcgtttttctcgctggctaacgttttttacgttcgccgctgccgtggcgctggcgctaccggcaaaagccaacacctggccgctgccgccagcgggcagtcgtctggttggcgaaaacaaatttcatgtggtggaaaatgacggtggttctctggaagccatcgccaaaaaatacaacgtcggctttctcgctctgttacaggctaaccccggcgttgatccttacgtaccgcgcgcgggcagcgtgttaacgatcccgttgcaaaccctacttccagatgcgccgcgcgaaggcattgtgatcaacattgcggagctgcgtctctattactacccgccgggtaaaaattcggtaaccgtgtatccaataggtattggtcagttaggtggtgacacgctgacaccgacaatggtgaccaccgtttcagacaaacgtgcaaacccaacctggacgccaacggcaaacatccgcgcccgttataaagcacagggaattgagttgcctgcggtagtgccggctggactggataacccaatgggccatcatgcgattcgtctggcggcctatggcggcgtttatttgcttcatggtacgaacgccgatttcggcattggcatgcgggtaagttctggctgtattcgtctgcgggatgacgatatcaaaacactctttagccaggtcaccccaggcaccaaagtgaatatcatcaacactccgataaaagtctctgccgaaccaaacggtgcgcgtctggttgaagtacatcagccgctgtcagagaagattgatgacgatccgcagctgctgccaattacgctgaatagcgcaatgcaatcatttaaagatgcagcacaaactgacgctgaagtgatgcaacatgtgatggatgtccgttccgggatgccggtggatgtccgccgtcatcaagtgagcccacaaacgctgtaa
【0289】
配列番号:13(YcfSタンパク質アミノ酸配列、320aa)
VMIKTRFSRWLTFFTFAAAVALALPAKANTWPLPPAGSRLVGENKFHVVENDGGSLEAIAKKYNVGFLALLQANPGVDPYVPRAGSVLTIPLQTLLPDAPREGIVINIAELRLYYYPPGKNSVTVYPIGIGQLGGDTLTPTMVTTVSDKRANPTWTPTANIRARYKAQGIELPAVVPAGLDNPMGHHAIRLAAYGGVYLLHGTNADFGIGMRVSSGCIRLRDDDIKTLFSQVTPGTKVNIINTPIKVSAEPNGARLVEVHQPLSEKIDDDPQLLPITLNSAMQSFKDAAQTDAEVMQHVMDVRSGMPVDVRRHQVSPQTL
【0290】
配列番号:14(erfK核酸配列、933bp)
atgcgtcgtgtaaatattctttgctcatttgctctgctttttgccagccatactagcctggcggtaacttatccattacctccagagggtagccgtttagtggggcagtcgtttactgtaactgttcctgatcacaatacccagccgctggagacttttgccgcacaatacgggcaagggttaagtaacatgctggaagcgaacccgggcgctgatgtttttttgccgaagtctggctcgcaactcaccattccgcagcaactgattttgcccgacactgttcgtaaagggattgttgttaacgtcgctgagatgcgtctttattactacccaccagacagtaatactgtggaagtctttcctattggtatcggccaggctgggcgagaaaccccgcgtaactgggtgactaccgttgaacgtaaacaagaagctccaacctggacgccaacgccgaacactcggcgcgaatatgcgaaacgaggggagagtttgcccgcatttgttcctgcgggccccgataatcccatggggctgtacgcgatttatattggcaggttgtatgccatccatggtaccaatgccaattttggtattgggctccgggtaagtcagggctgtattcgtctgcgcaatgacgatatcaaatatctgtttgataatgttcctgttgggacgcgtgtgcaaattatcgaccagccagtaaaatacaccactgaaccagatggctcgaactggctggaagttcatgagccattgtcgcgcaatcgtgcagaatatgagtctgaccgaaaagtgccattgccggtaaccccatctttgcgggcgtttatcaacgggcaagaagttgatgtaaatcgcgcaaatgctgcgttgcaacgtcgatcgggaatgcctgtgcaaattagttctggttcaagacagatgttttaa
【0291】
配列番号:15(ErfKタンパク質アミノ酸配列、310aa)
MRRVNILCSFALLFASHTSLAVTYPLPPEGSRLVGQSFTVTVPDHNTQPLETFAAQYGQGLSNMLEANPGADVFLPKSGSQLTIPQQLILPDTVRKGIVVNVAEMRLYYYPPDSNTVEVFPIGIGQAGRETPRNWVTTVERKQEAPTWTPTPNTRREYAKRGESLPAFVPAGPDNPMGLYAIYIGRLYAIHGTNANFGIGLRVSQGCIRLRNDDIKYLFDNVPVGTRVQIIDQPVKYTTEPDGSNWLEVHEPLSRNRAEYESDRKVPLPVTPSLRAFINGQEVDVNRANAALQRRSGMPVQISSGSRQMF
【0292】
配列番号:16(yfiB核酸、483bp)
atgataaagcacctggtagcacccctggttttcacctcactaatactgactggctgccagtcccctcagggaaagtttactcctgagcaagtcgccgctatgcaatcttatggatttactgaatccgccggcgactggtcgctgggcttatcagatgccattctgttcgcaaaaaatgactacaaattgctcccggaaagccagcaacagatccaaaccatggcagctaaattggcctcgacagggctaacacatgcccgtatggatggacacaccgataactatggtgaagacagttacaacgaaggcttatcattgaaacgggcgaatgtcgtggccgatgcatgggctatgggtggacaaattccacgcagcaatctcaccacacagggtttaggaaaaaaatatcccatagccagtaacaagaccgcccagggccgcgccgagaaccgccgcgtcgcagtggtgattactaccccttaa
【0293】
配列番号:17(YfiBタンパク質アミノ酸配列、160aa)
MIKHLVAPLVFTSLILTGCQSPQGKFTPEQVAAMQSYGFTESAGDWSLGLSDAILFAKNDYKLLPESQQQIQTMAAKLASTGLTHARMDGHTDNYGEDSYNEGLSLKRANVVADAWAMGGQIPRSNLTTQGLGKKYPIASNKTAQGRAENRRVAVVITTP
【0294】
配列番号:18(yiaD核酸、660bp)
atgaagaaacgtgtttatcttattgccgccgtagtgagtggcgctctggcggtatctggctgcacaactaacccttacaccggcgaacgcgaagcaggtaaatctgctatcggcgcaggtctgggctctctcgtgggcgcgggtattggtgcgctctcttcttcgaagaaagatcgcggtaaaggcgcgctgattggcgcagcagcaggcgcagctctgggcggcggcgttggttattacatggatgtgcaggaagcgaagctgcgcgacaaaatgcgcggcactggtgttagcgtaacccgcagcggggataacattatcctcaatatgccgaacaatgtgaccttcgacagcagcagcgcgaccctgaaaccggcgggcgctaacaccctgaccggcgtggcaatggtactgaaagagtatccgaaaacggcggttaacgtgattggttataccgacagcacgggtggtcacgacctgaacatgcgtctctcccagcaacgtgcggattccgttgccagcgcgttgatcacccagggcgtggacgccagccgcatccgtactcagggccttggcccggctaacccaatcgccagcaacagcaccgcagaaggtaaggcgcaaaaccgccgtgtagaaattaccttaagcccgctgtaa
【0295】
配列番号:19(YiaDタンパク質アミノ酸配列、219aa)
MKKRVYLIAAVVSGALAVSGCTTNPYTGEREAGKSAIGAGLGSLVGAGIGALSSSKKDRGKGALIGAAAGAALGGGVGYYMDVQEAKLRDKMRGTGVSVTRSGDNIILNMPNNVTFDSSSATLKPAGANTLTGVAMVLKEYPKTAVNVIGYTDSTGGHDLNMRLSQQRADSVASALITQGVDASRIRTQGLGPANPIASNSTAEGKAQNRRVEITLSPL
【0296】
配列番号:20(yqhH核酸、258bp)
atgaaaacgattttcaccgtgggagctgttgttctggcaacctgcttgctcagtggctgcgtcaatgagcaaaaggtcaatcagctggcgagcaatgtgcaaacattaaatgccaaaatcgcccggcttgagcaggatatgaaagcactacgcccacaaatctatgctgccaaatccgaagctaacagagccaatacgcgtcttgatgctcaggatcttgatgctcaggatcttgcgtgatgattgattgattgattgattgattgattgattgattgattgattg
【0297】
配列番号:21(YqhHタンパク質アミノ酸配列、85aa)
MKTIFTVGAVVLATCLLSGCVNEQKVNQLASNVQTLNAKIARLEQDMKALRPQIYAAKSEANRANTRLDAQDYFDCLRCLRMYAE
【図面の簡単な説明】
【0298】
【
図1】
図1は、野生型MG1655大腸菌株(WT;対照)、および遺伝子型ΔompA、ΔlppまたはΔpalを有するMG1655大腸菌株の純水による浸透圧ショック時の細菌生存を示す写真である。細菌の希釈は、図の下部に示す。
【
図2】
図2は、野生型MG1655大腸菌株(WT;対照)、および遺伝子型ompAR256E、またはlppΔK58、またはompAR256EおよびlppΔK58の両方を有するMG1655大腸菌株の水による浸透圧ショック時の細菌生存を示す写真である。細菌の希釈は、図の下部に示す。
【
図3】
図3は、野生型MG1655大腸菌株(WT;対照)、および遺伝子型ompAD241NまたはompAD241NおよびΔlppの両方を有するMG1655大腸菌株の水による浸透圧ショック時の細菌生存を示す写真である。細菌の希釈は、図の下部に示す。
【
図4】
図4は、野生型MG1655大腸菌株(WT;対照)、ompAR256EおよびlppΔK58遺伝子型を有するMG1655大腸菌株(対照)およびompAR256E、ΔybiS、ΔycfS、ΔerfKの変異の組み合わせを有するMG1655大腸菌株の水による浸透圧ショック時の細菌生存を示す写真である。細菌の希釈は、図の下部に示す。
【
図5】
図5は、野生型MG1655大腸菌株(WT;対照)、およびlppR57L、ompAR256E、ΔybiS、ΔycfS、ΔerfKの変異の組み合わせを有するMG1655大腸菌株の水による浸透圧ショック時の細菌生存を示す写真である。細菌の希釈は、図の下部に示す。
【
図6】
図6は、野生型MG1655大腸菌株(WT;対照)、および遺伝子型lppΔK58またはompAR256EまたはΔpalまたはlppΔK58 ompAR256EまたはlppΔK58 ΔpalまたはompAR256E Δpalを有するMG1655大腸菌株の水による浸透圧ショック時の細菌生存を示す写真である。細菌の希釈は、図の下部に示す。
【
図7】
図7は、野生型MG1655大腸菌株(対照)および遺伝子型ΔlppまたはΔlpp ΔompAまたはΔlpp ompAΔCterを有するMG1655大腸菌株の水による浸透圧ショック(A)、PBSバッファで浸透圧ショックがない(B)またはLBミラー培養液(C)での細菌生存を示す写真である。希釈率(10
-2および10
-3)は、写真の右側に示す。
【
図8】
図8は、非商用溶解バッファ(自家製)を使用した調製プロトコル後に、野生型MG1655大腸菌株(レーン1)および遺伝子型ompAR256E lppΔK58のMG1655大腸菌株(レーン2)から回収されたプラスミドDNAの電気泳動による分析を示す図である。
【
図9】
図9は、P1、P2およびP3バッファの推奨量(レーン1および3)またはその量を4で割った(レーン2および4)を使用して、Qiagen(登録商標)Maxi prepキットを使用した調製プロトコル後、対照MG1655大腸菌株(レーン1および2)および遺伝子型ompAR256E lppΔK58のMG1655大腸菌株(レーン3および4)から回収されたプラスミドDNAの電気泳動による分析を示す写真である。
【
図10】
図10は、対照DH10B大腸菌株(レーン1)、遺伝子型ompAR256E lppΔK58のDH10B大腸菌株(レーン2)、対照DH5α大腸菌株(レーン3)および遺伝子型ompAR256E lppΔK58のDH5α大腸菌株(レーン4)から回収されたプラスミドDNAの電気泳動による分析を示す写真である。矢印は、スーパーコイル形態に対応するプラスミドの集団を示す。
【実施例】
【0299】
本発明は、以下の実施例によってさらに説明される。
【0300】
実施例1:本研究で使用された細菌株
1-材料及び方法
1.1-レシピエント株
変異を操作するために使用されたレシピエント株のリストを表2に示す。
【表2】
【0301】
1.2-欠失
MG1655大腸菌株をレシピエント株として使用した。Keio strain collection(Baba et al., Mol Syst Biol.2006;2:2006.0008)から得たompA772(del)::kanまたはlpp-752(del)::kanまたはpal-790(del)::kanまたはybiS790(del)::kanまたはycfS775(del)::kanまたはerfK761(del)::kanのP1溶解物をドナーとして使用し、Thomasonetal.(Curr Protoc Mol Biol.2007 Jul;Chapter 1:Unit 1.17)に記載されているようにレシピエント株に形質導入した。
【0302】
単純変異体は、カナマイシンを含むLB/寒天プレート上で選択した。次に、カナマイシン耐性をコードする遺伝子をFLPリコンビナーゼによって切り出した。次に、他のP1形質導入を最初のバックグラウンドに実施して、組み合わせた欠失株を作成した。
【0303】
1.3-点変異および部分欠失
Thomason et al.(Plasmid.2007 Sep;58(2):148-58)で報告されているように、ラムダレッドシステムを使用して、大腸菌MG1655で、ds-DNAによる組換えを行った。
【0304】
2段階組換え法を使用した。1回目にcat-sacBを使用して目的の部位に組み込み、クロラムフェニコールで選択し、その後2回目のラムダレッド組換えを行って、周囲のDNA領域を改変することなく、cat-sacBを選択した最終変異遺伝子座に置き換えた。
ompA変異体の場合、PCR産物ompA::cat-sacBは、ompA::ompAR256EまたはompA::ompAD241NまたはompA::ompAΔcによる1回目のラムダレッド組換え、その後の2回目のラムダレッド組換えによって組み込んだ。lpp変異体の場合、lpp::cat-sacBは、1回目に組み込み、次にlpp::lppΔK58またはlpp::lppK58Rとの組換え後にカウンター選択した。
【0305】
1.4-菌株
プラスミド抽出アッセイのために、株lpp::lppΔK58の遺伝子fumDとpikFの間のラムダレッド組換えによってカナマイシン耐性遺伝子(KanR)を組み込んだ。また、菌株ompA::ompAR256Eの遺伝子ompAとmatPとの間のラムダレッド組換えによって、カナマイシン耐性遺伝子(KanR)を組み込んだ。
配列lpp::lppΔK58 fumD-kanR-PikF(lppΔK58-KanR)およびompA::ompAR256E-ΔkanR-matP(ompaR256E-ΔKanR)は、株大腸菌DH5αおよび大腸菌DH10Bにおいて、P1形質導入を用いて導入した。
【0306】
この研究で使用した菌株およびその遺伝子型を表3に示す。
【表3】
【0307】
2-結果
2.1-ompA変異
OmpAタンパク質は、そのN末端βバレルにより、グラム陰性菌の細菌エンベロープの外膜に広がっている。
【0308】
タンパク質の可溶性C末端部分は、ペリプラズム内に伸長し、ペリプラズムペプチドグリカンと非共有結合により相互作用する。外膜とペリプラズムペプチドグリカン間の相互作用を干渉するために、次のompA変異を使用した:(i)ompA遺伝子の完全な欠失(ΔompAまたはompA772(del))-(Baba et al.,Mol Syst Biol.2006;2:2006.0008)、および(ii)ompAとペリプラミックペプチドグリカンとの相互作用を媒介する残基における点変異(Ishida et al.,Biochim Biophys Acta.2014 Dec;1838(12):3014-24)。配列番号3の256位のアルギニン(R)をコードするコドンは、グルタミン酸(E)をコードするコドンで置換した-ompA::ompAR256E;配列番号3の241位のアスパラギン酸(D)をコードするコドンは、アスパラギン(N)をコードするコドンで置換した-ompA::ompAD241N。
【0309】
配列番号3のアミノ酸171~アミノ酸325までからなるC末端部分の部分的欠失も生じた-ompA::ompAΔCter。
【0310】
ompA::ompAR256Eは、以前は正電荷を有していた残基256に負電荷が生じる。これにより、変異OmpAタンパク質とペプチドグリカンとの間に静電反発力が生じ、それらの相互作用が無効になる。ompA::ompAD241Nは、残基241の電荷を無効にし、したがってペプチドグリカンとの相互作用を無効にする。
【0311】
2.2-lpp変異
大腸菌中のLppタンパク質は、細菌エンベロープの外膜をペリプラズムペプチドグリカンに繋留する。タンパク質は、脂質化されたN末端を介して外膜に固定され、C末端のリジンを介して、ペリプラズムペプチドグリカンに存在する短いペプチド主鎖に付着される。外膜とペリプラズムペプチドグリカンとの間の相互作用を干渉するために、次のlpp変異を使用した。
(i)lpp遺伝子の完全な欠失-lpp-752(del)-(Baba et al.,Mol Syst Biol.2006;2:2006.0008)、および(ii)Lppとペリプラズムペプチドグリカンとの相互作用に影響を与える点変異(Zhang et al.,J Biol Chem.1992 Sep25;267(27):19560-4)。Lppとペリプラズムペプチドグリカンとの相互作用を媒介する配列番号6のLppタンパク質の58位のリジン(K)をコードするコドンを欠失させた-lpp::lppΔK58;配列番号6の57位のアルギニン(R)をコードするコドンをロイシン(L)をコードするコドンで置換した-lpp::lppR57L。
【0312】
lpp::lppR57L変異体では、ペプチドグリカンへのLppの架橋に不可欠なリジンは、依然として存在するが、隣接する残基が改変されている。この改変により、Lppのペプチドグリカンへの結合が、野生型Lppタンパク質と比較して、70%低下する。
【0313】
2.3-ybiS、ycfS、およびerfK変異
これらの3つの遺伝子は、それぞれ、ペリプラズムペプチドグリカンへのC末端リジンを介した成熟Lppタンパク質の共有結合による結合を触媒する酵素をコードする。外膜とペリプラズムペプチドグリカンとの間の相互作用を干渉するために、以下の変異を使用した:ybiS遺伝子の完全な欠失-ybiS790(del)-、ycfS遺伝子の完全な欠失-ycfS775(del)-および、erfK遺伝子の完全な欠失-erfK761(del)(Baba et al.,Mol Syst Biol.2006;2:2006.0008)。
【0314】
2.4-pal変異
Palタンパク質は、Tol-Pal収縮装置に属するリポタンパク質である。
これは、細菌エンベロープ中の外膜とペリプラズムペプチドグリカンとの間の付着に関与する。外膜とペリプラズムペプチドグリカン間の相互作用を干渉するために、次の変異を使用した:pal遺伝子の完全な欠失-pal-790(del)-(Baba et al.,Mol Syst Biol.2006;2:2006.0008)。
【0315】
実施例2:浸透圧ショックに対する生存への、細菌細胞壁に影響を与える変異(複数可)の効果
1-材料及び方法
1.1-細菌培養
大腸菌株をLB培養培地(1%トリプトン、0.5%酵母抽出物、1%NaCl、pH7.0~7.2)中、37℃で撹拌しながら成長させた。必要に応じて、25μg/mlの抗生物質(カナマイシンなど)を使用した。
【0316】
1.2-浸透圧ショック後の生存率の定量化
指数培養期または定常培養期の大腸菌株をペレット化し、純水で最初の体積の2倍に5分間再懸濁した。次に、この再懸濁液を水で連続希釈し(10倍希釈)、37℃で一晩インキュベートしたLB/寒天プレートに直接スポットした。
【0317】
2-結果
第1に、ompA、lppまたはpalの欠失変異を有する大腸菌株MG1655の生存率を、浸透圧ショックで評価し、野生型MG1655株と比較した。
図1は、浸透圧ショック後の欠失変異体の生存率が野生型株にほぼ匹敵することを示している。換言すれば、ompA、lpp、またはpal遺伝子内の単一変異は、浸透圧ショックに対する大腸菌株の感受性にわずかに影響を与えるのみである。
【0318】
浸透圧ショック後、変異ompAR256Eを有する大腸菌株MG1655の生存率は、対照で観察されたものと類似していた。変異lppΔK58を有する大腸菌株MG1655の浸透圧ショック後の生存率は、対照と比較した場合、約10分の1減少した。
【0319】
したがって、単一変異ompAR256EおよびlppΔK58は、浸透圧ショックに対する感受性に関して、エンベロープ完全性にわずかに影響を与えるのみである。
【0320】
対照的に、変異ompAR256E lppΔK58を有する大腸菌株MG1655の浸透圧ショック後の生存率は、対照と比較して、急激に10
5減少し、lppΔK58単一変異体と比較して、10
4未満減少した(
図2)。
【0321】
同様に、単一のompAD241N変異は、対照細菌と比較した場合、浸透圧ショック時の細菌の生存率に影響を与えなかったが、ompAD241N変異とlpp遺伝子の欠失との組み合わせ(Δlpp)は、10
6の浸透圧ショック後の生存率に、影響を与えた(
図3)。変異ompAR256E ΔybiS ΔycfS ΔerfKを有する大腸菌株MG1655の浸透圧ショック後の生存率は、対照と比較して、10
4未満で減少した(
図4)。遺伝子型lppR77L ompAR256E ΔybiS ΔerfKを有する大腸菌株MG1655の浸透圧ショック後の生存率は、対照と比較した場合、約10
3減少した。遺伝子型lppR57L ompAR256E ΔybiS ΔycfSを有する大腸菌株MG1655の浸透圧ショック後の生存率は、対照と比較した場合、約10
5減少した(
図5)。
【0322】
変異ΔpalとompAR256Eとの組み合わせは、対照と比較した場合、大腸菌株MG1655の浸透圧ショック後の生存率が、約10
5減少する。変異ΔpalとlppΔK58との組み合わせは、対照と比較した場合、浸透圧ショック後の生存率が、約10
2減少する。この観察結果は、対照と同様であった単一Δpal変異体の浸透圧ショック後の生存率とは対照的である(
図6)。変異Δlpp変異体を有する大腸菌株MG1655の浸透圧ショック後の生存率は、対照と同様であった。変異ΔlppΔompAまたはΔlppompAΔcを有する大腸菌株MG1655の浸透圧ショック後の生存率は、単一のΔlpp変異体の生存率よりも低かった。注目すべきことに、浸透圧ショックのない条件は、遺伝子型Δlpp ΔompAまたはΔlpp ompAΔcを有する大腸菌株MG1655のコロニーの密度が、対照または単一のΔlpp変異体と比較して弱いことを示した(
図7)。
【0323】
3-結論
浸透圧ショック後の生存率の大幅な低下は、変異lppΔK58 ompAR256E;Δlpp ompAD241N;ompAR256E ΔybiS ΔycfS ΔerfK;lppR57L ompAR256E ΔybiS ΔycfS;ompAR256E Δpalの組み合わせを担持するMG1655大腸菌株で見られた。したがって、これらの株は、参照細菌と比較した場合、浸透圧ショックに対して過敏である。
【0324】
さらに、lppR57L ompAR256E ΔybiS ΔerfK またはlppΔK58 ΔpalまたはΔlpp ΔompAまたはΔlpp ompAΔcの変異の組み合わせを有するMG1655大腸菌株も、単一変異体または対照と比較した場合、浸透圧ショック後の生存率の低下を示したが、この低下は、上記の変異体と比較するとわずかであった。
外膜とペリプラズムペプチドグリカンとの間の相互作用に影響を与える少なくとも2つの変異を組み合わせることにより、浸透圧ショック後の大腸菌の生存率が相乗的に低下した。
【0325】
実施例3:遺伝子型lppΔK58 ompAR256Eの大腸菌株MG1655を使用することにより、染色体外DNAの回収が増加する。
1-材料及び方法
1.1-細菌培養およびコンピテント細菌の調製
LB(1%トリプトン、0.5%酵母抽出物、1%NaCl)で成長させた指数期培養を37℃で撹拌しながら、ソルビトールを添加した冷水で数回洗浄し、エレクトロポレーション前に氷上に保持した。必要に応じて、抗生物質を25μg/mL(カナマイシン;Kan)、15μg/mL(クロラムフェニコール;Cm)、または100μg/mL(アンピシリン;Amp)で使用した。
【0326】
プラスミドDNAの回収:
SDSによるアルカリ溶解((Molecular cloning:A laboratory manual.Green and Sambrook)によるプラスミドDNAの調製のプロトコルを用いて、低コピープラスミドpBAD18-Cm(pBAD18-Cm(ATCC(登録商標)87396(商標)))を、MG1655大腸菌株の対照または変異lppΔK58 ompAR256Eを含むMG1655大腸菌株のいずれかに形質転換した。
【0327】
小規模調製のために、1mLの細菌培養物を次のようにさらに処理した:
-培養液1mlを遠心分離する。
-溶解に進む。
-P1の150μLを添加する(50 mM Tris-HCL、80mM EDTA、100μg/Ml RNase A、pH8.0;氷上に保持);
-P2の150μLを添加する(100mM NaOH、1%SDS);
-チューブを数回反転させて、混合させる。
-室温で5分間インキュベートする。
-P3の300μLを添加する(3M KAc、pH8.0;氷上に保持)。
-氷上で10分間保持する。
-4℃、12,500rpmで、15分間遠心分離する。
-上清を保持する。
-0.7容量のイソプロパノール(約630μL)を添加し、チューブを数回静かに裏返す。
-4℃、12,500rpmで、15分間遠心分離する。
-上清を除去する。
-300μLエタノール70%(-20℃)を添加する。
-4℃、12,500rpmで、15分間遠心分離する。
-上清を穏やかに除去する。
-乾燥させる。
-水を再懸濁させる(約20μL)。
【0328】
中規模調製では、Qiagen maxi prep kit (QIAGEN(登録商標))を使用して、製造業者の指示に従って、または各緩衝液の容量を4で割ることにより、同数の細胞を含む100mLの各培養物からプラスミドDNAを調製した。
【0329】
いずれの場合も、DNA調製物は、500μLの水に再懸濁させた。
【0330】
回収した核酸の分析は、電気泳動によって行った。
【0331】
2-結果
浸透圧ショックに対する耐性の低下が、標準的な抽出プロトコルを使用して回収した抽出染色体DNAの量と相関するかを判断するために、MG1655大腸菌野生型株または変異lppΔK58ompAR256Eの組み合わせを保持する株における小規模調製物中のプラスミドDNAの回収率をアッセイした。
【0332】
最初に使用したプロトコルでは、非商用条件(上記参照)を使用しており、対照大腸菌株からプラスミドDNAを回収することはできなかった。
【0333】
対照的に、変異lppΔK58 ompAR256Eを有する大腸菌を使用した場合、プラスミドDNAが電気泳動によって検出された(
図8)。
【0334】
大腸菌MG1655株および大腸菌株lppΔK58 ompAR256Eのプラスミド DNAの中規模調製では、次に、P1、P2、およびN3バッファの推奨容量を使用するか、この容量を4で割って試験を行い、少量の溶解バッファを使用して、プラスミドDNAを回収できるかを判断する。
【0335】
調製物を定量化し、それらの内容物を電気泳動によって分析した(
図9)。P1、P2、およびN3バッファの推奨容量を使用した条件では、大腸菌株lppΔK58 ompAR256Eを使用した場合に回収されたプラスミドDNAの量(105ng/μL)は、対照株から回収された量(70ng/μL)よりも多かった。同様に、P1、P2、およびN3バッファの1/4量を使用した条件では、大腸菌株lppΔK58 ompAR256Eを使用した場合に回収されたプラスミドDNAの量(110ng/μL)は、同数の対照細胞から回収された量(30ng/μL)よりも多かった。推奨容量のバッファを使用した場合、大腸菌株lppΔK58 ompAR256Eで回収されたプラスミドDNA量の増加は、対照MG1655大腸菌株と比較して1.5倍であった。P1、P2、およびN3バッファの推奨量の1/4を使用した場合、大腸菌株lppΔK58 ompAR256Eで回収されたプラスミドDNA量の増加は、対照大腸菌株MG1655と比較して、3.66倍であった。
【0336】
注目すべきは、大腸菌株lppΔK58 ompAR256Eからプラスミドを調製する際の溶解物は、より透明で粘性が低く、これは、溶解時に細菌細胞が放出するゲノムDNAの量が少ないことを示唆している。
【0337】
3-結論
大腸菌MG1655株lppΔK58 ompAR256Eを使用することにより、対照の野生型MG1655大腸菌株と比較して、小規模調製および中規模調製の両方で回収されるプラスミドDNAの量を増加させることができる。この増加は、より少量の溶解バッファを使用した場合に、高くなった。後者の観察では、遺伝子型lppΔK58 ompAR256Eの大腸菌株が、必要な溶解緩衝液の量を減少させることができるので、より大規模な染色体外DNA調製において特に有利であることが示されている。
【0338】
実施例4:大腸菌株DH10Bおよび遺伝子型lppΔK58 ompAR256EのDH5αを使用することにより、ゲノム外DNAの回収が増加する。
1-材料及び方法
1.1-細菌培養およびコンピテント細菌の調製
LB(1%トリプトン、0.5%酵母抽出物、1%NaCl)で成長させた指数期培養を37℃で撹拌しながら、ソルビトールを添加した冷水で数回洗浄し、エレクトロポレーション前に氷上に置いた。必要に応じて、抗生物質を25μg/mL(カナマイシン;Kan)、15μg/mL(クロラムフェニコール;Cm)、または100μg/mL(アンピシリン;Amp)で使用した。
【0339】
1.2-大規模調製におけるプラスミドDNAの回収
プラスミドpGWIZgWiz(商標)ベクターを、Macherey-NagelNucleoBond(登録商標)XtraMidiに記載されている方法を使用して、DH10B株またはDH5α株の遺伝子型lppΔK58ompAR256Eの対照の大腸菌のいずれかに形質転換した。
【0340】
2-結果
大腸菌MG1655株lppΔK58 ompAR256Eからの調製物から回収されたゲノム外DNAの量の増加が、大腸菌株DH10BおよびDH5αでも観察されるかを判断した。対照大腸菌DH10BおよびDH5α株ならびに変異lppΔK58およびompAR256Eを保有する大腸菌DH10BおよびDH5α株からのプラスミドDNAの調製物を、溶解バッファの推奨容量を8で割って測定した。
【0341】
調製物を電気泳動によって分析し、さらに定量化した(
図10)。回収されたプラスミドDNAの量は、大腸菌DH10B株lppΔK58 ompAR256E(521ng/μL)を使用した場合に、対照株から回収された量(225ng/μL)よりも多かった。同様に、回収されたプラスミドDNAの量は、大腸菌DHα株lppΔK58 ompAR256E(643ng/μL)を使用した場合に、対照株から回収された量(191ng/μL)よりも多かった。大腸菌株DH10B lppΔK58 ompAR256Eで回収されたプラスミドDNAの量の増加は、対照の大腸菌DH10B株と比較して2.3倍であった。大腸菌株DH5α lppΔK58 ompAR256Eで回収されたプラスミドDNAの量の増加は、対照の大腸菌DH5α株と比較して3.36倍であった。
【0342】
3-結論
DH10BまたはDH5α大腸菌株lppΔK58 ompAR256Eの使用により、溶解バッファの推奨量を8で割ったときに、対照の大腸菌DH10BおよびDH5α株と比較して、回収されたプラスミドDNAの量が増加する。さらに、変異DH5α大腸菌株から回収されたプラスミドDNAの量は、同様の条件で、変異DH10B大腸菌から回収された量よりも多かった。
【0343】
実施例5:浸透圧ショック後のタンパク質放出に対する細菌細胞壁に影響を与える変異の効果
1-材料及び方法
1.1-細菌培養
大腸菌株をLB(1%トリプトン、0.5%酵母抽出物、1%NaCl)中37℃で撹拌しながら成長させた。
【0344】
1.2-浸透圧ショック後の培養培地中のタンパク質放出の定量化
指数培養期または定常培養期の大腸菌株をペレット化し、純水で最初の体積の2倍に5分間再懸濁した。次に、再懸濁液15μLをSDS-PAGE電気泳動によって分析した。タンパク質は、クーマシーブルー染色によってさらに定量化した。
【0345】
2-結果
変異ΔlppまたはΔompAまたはΔlpp ompAΔcを有する細菌細胞によって浸透圧ショック後に放出された全タンパク質の量は、対照大腸菌株MG1655の同数の細菌細胞によって放出された量より多かった。遺伝子型Δlpp ΔompAまたはΔlpp ompAΔcを有する細菌細胞によって放出される細菌細胞の量もまた、遺伝子型Δlppの同数の細菌細胞によって放出される量よりも多かった。
【0346】
3-結論
遺伝子型Δlpp ΔompAまたはΔlpp ompAΔcの大腸菌MG1655株を使用することにより、対照の大腸菌MG1655株または遺伝子型Δlppの大腸菌MG1655株と比較した場合、浸透圧ショック後に細菌細胞によって放出されるタンパク質の量が増加する。
【0347】
実施例6遺伝子型ompAR256E、遺伝子型lppΔK58、および遺伝子型ompAR256E lppΔK58の大腸菌株DH10Bを使用することにより、すべてにおいて、ゲノム外DNAの回収が増加する。
【0348】
1-材料及び方法
細菌株およびDNAの回収は、実施例3に記載のとおり実施した。
【0349】
2-結果
表4に見られるように、二重変異体ompAR256E lppΔK58は、野生型参照株(DH10B)と比較して、DNA回収の有意な増加をもたらす。
【0350】
驚くべきことに、単一の変異、ompAR256Eおよび単一変異lppΔK58はまた、野生型株と比較して、DNA回収量が増加した(表4を参照)。
【表4】
【0351】
したがって、ompAR256E変異および/またはlppΔK58変異を有する大腸菌株は、ゲノム外核酸の量の増加を得るのに有用であり得る。
【0352】
実施例7:遺伝子型lppΔK58 ompAΔCtの大腸菌株MG1655を使用することにより、ゲノム外DNAの回収が増加する。
1-材料及び方法
細菌株およびDNAの回収は、実施例3に記載のとおり実施した。
【0353】
2-結果
以下の表5に見られるように、ompAΔCt lppΔK58二重変異を有する大腸菌株は、野生型株と比較して、回収された核酸の量の有意な増加をもたらす。
【表5】
【0354】
したがって、ompAΔCt lppΔK58二重変異を有する大腸菌株は、ゲノム外核酸の量の増加を得るのに有用であり得る。
【手続補正書】
【提出日】2022-10-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
【国際調査報告】