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特表2023-511308マイクロニードル、マイクロコーン、およびフォトリソグラフィ製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-17
(54)【発明の名称】マイクロニードル、マイクロコーン、およびフォトリソグラフィ製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/20 20060101AFI20230310BHJP
   A61M 37/00 20060101ALI20230310BHJP
【FI】
G03F7/20 501
A61M37/00 510
A61M37/00 514
A61M37/00 505
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022543452
(86)(22)【出願日】2021-01-15
(85)【翻訳文提出日】2022-09-14
(86)【国際出願番号】 US2021013629
(87)【国際公開番号】W WO2021146554
(87)【国際公開日】2021-07-22
(31)【優先権主張番号】62/961,931
(32)【優先日】2020-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521437677
【氏名又は名称】カンザス、ステート、ユニバーシティ、リサーチ、ファウンデーション
【氏名又は名称原語表記】KANSAS STATE UNIVERSITY RESEARCH FOUNDATION
(71)【出願人】
【識別番号】519412523
【氏名又は名称】ラパス カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】キム, ジュンクワン
(72)【発明者】
【氏名】リー, ケウン イホ
(72)【発明者】
【氏名】キム, ジュン ドン
(72)【発明者】
【氏名】ジェオン, ドーヒョン
【テーマコード(参考)】
2H197
4C267
【Fターム(参考)】
2H197AA01
2H197AA37
2H197AA42
2H197AA43
2H197AA50
2H197BA09
2H197CA02
2H197CA03
2H197CE01
2H197DB06
2H197DB08
2H197HA06
2H197HA10
2H197JA21
2H197JA22
4C267AA72
4C267BB06
4C267BB11
4C267BB13
4C267BB31
4C267BB32
4C267BB40
4C267BB43
4C267BB48
4C267CC05
4C267EE08
4C267GG16
4C267HH07
(57)【要約】
高分子マイクロニードル、マイクロプローブ、その他の先端が尖ったミクロンサイズの構造体を製造するためのリソグラフィの製造方法である。この製造方法においては、フォトマスクの微細パターンを通して感光性樹脂を単一のステップによりボトムアップ露光し、それに伴う樹脂の屈折率の変化/上昇により樹脂内にメタ状態の導波路を形成し、これにより追加の透過エネルギーを収束させて収束形状(第1の調和構造体マイクロコーン)を形成する。エネルギーを第1の調和構造体マイクロコーンの先端から第2の調和ビームとして回折させ、第1の調和構造体マイクロコーンに隣接して第2の収束形状(第2の調和構造体形状)を形成し、追加のエネルギーを印加することにより、続いてさらなる第3の調和構造体マイクロコーンをこれらの構造体の上に形成することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
収束する先端を有する複数のマイクロサイズの構造体を作製するためのリソグラフィ方法であって、
上面および裏面を有する基板であって、放射線の透過を可能にするように構成された開口領域と放射線の透過を阻止するように構成された中実領域とを有するパターンを備える基板を提供するステップと、
前記上面上に液状の感光性樹脂の層を形成するステップと、
前記液状の感光性樹脂の露光部分を得るために、前記液状の感光性樹脂を、第1の期間にわたって前記裏面から前記基板を通した放射線に曝す露光ステップであって、前記露光部分が、前記開口領域と整列する前記上面上において、それぞれの初期の固状樹脂構造体へと架橋および/または重合され、前記初期の固状樹脂構造体が、前記液状の感光性樹脂と比較して増加した屈折率を有し、各前記初期の固状樹脂構造体が、前記パターンの前記開口領域を通過する前記放射線を収束点に導く導波路として機能し、それによって、先細の側壁および収束する先端を有する固状樹脂構造体を形成するステップと、
前記層を溶媒系と接触させるステップであって、前記液状の感光性樹脂の非露光部分を除去し、前記基板の前記上面全体に先細の側壁と収束する先端とを有する複数の前記マイクロサイズの固状樹脂構造体を残すステップとを含む方法。
【請求項2】
前記開口領域が、円形、長方形、多角形および星形からなる群から選択される幾何学的形状を有する開口部である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記開口部が、約1μmから約1000μmの大きさを有する請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記開口部が、各該開口部の中央部分を放射線が通過するのを阻止するための不透明な中央部分を有する請求項2に記載の方法。
【請求項5】
収束する先端を有する前記マイクロサイズの構造体が、中空のシャフトを有する請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記パターンが、前記基板の前記上面および/または前記裏面に隣接するフォトマスクである請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記パターンが、前記基板と一体的に形成されている請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記パターンが、前記基板を横切って分布する、複数の間隔を空けて配置された開口部のアレイからなる請求項6または請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記液状の感光性樹脂の層は、前記マイクロサイズの固状樹脂構造体の高さよりも大きい厚さを有する請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記液状の感光性樹脂の層が、約50μmから約9mmの範囲の厚さを有する請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記放射線は、約300nmから約450nmの波長の光である請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記放射線が、放射線源からのエネルギーフローの伝播方向が平行かつ、基板の裏面に対して垂直な入射角で基板に入射するように、コリメートレンズを通して照射される請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記露光ステップが、約1秒から約1時間の期間にわたって実施される請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記マイクロサイズの構造体が、1回の露光ステップにより形成され、前記方法が2回以上の露光ステップを含まない請求項1記載の方法。
【請求項15】
前記露光ステップが、前記第1の期間を含み、前記第1の期間と連続する少なくとも第2の期間をさらに含み、先細の側壁および収束した先端を有する前記マイクロサイズの固状樹脂構造体が、前記第1の期間の後に第1の高さを有し、先細の側壁および収束した先端を有する前記マイクロサイズの固状樹脂構造体が、前記第2の期間の後に前記第1の高さよりも大きい第2の高さを有する請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記第2の期間中に放射線に曝すことにより、前記第1の高さの前記初期のマイクロサイズの固状樹脂構造体の収束した先端に隣接する前記樹脂の層の領域において、さらなる架橋および/または光重合を誘発し、それによって、前記初期のマイクロサイズの固状樹脂構造体に1つ以上の追加の調和構造体を形成する請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記1つ以上の追加の調和構造体が、交互の上り勾配と下り勾配角を有し、最終的にそれぞれの先端で収束する側壁を有する請求項16に記載の方法。
【請求項18】
マイクロサイズの固状樹脂構造体が、円形、長方形、多角形、および長円形からなる群から選択される断面形状を有するそれぞれのシャフトを備え、前記断面形状のいずれかの組み合わせが、前記基板にわたる単一のマイクロサイズの構造体アレイに提供され得る請求項1に記載の方法。
【請求項19】
マイクロサイズの固状樹脂構造体が、それぞれ、約5μmから約1000μmの範囲のベースサイズ、および約30μmから約9mmの範囲の高さを有する請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記基板が実質的に平面であり、前記基板が前記露光の間静止した状態に維持される請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記感光性樹脂の層を塗布する前に、前記基板に1つ以上の介在層を塗布することをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記複数のマイクロサイズの前記固状樹脂構造体をマイクロ成形用のテンプレートとして使用することをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項23】
生物学的バリアを横切って活性剤を送達するための方法であって、
請求項1から請求項22のいずれか1項に記載の方法に従って形成された複数のマイクロニードルを用いて前記生物学的バリアを穿孔するステップを含む方法。
【請求項24】
前記生物学的バリアが、角質層、表皮、真皮、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される請求項23に記載の方法。
【請求項25】
単一の露光ステップを使用して、2つ以上の調和構造体を有する複数のマイクロサイズの構造体を作製するためのリソグラフィ方法であって、
上面および裏面を有する基板であって、放射線の透過を可能にするように構成された開口領域と放射線の透過を阻止するように構成された中実領域とを有するパターンを備える基板を提供するステップと、
前記上面上に、液状の感光性樹脂の層を形成するステップと、
前記液状の感光性樹脂を裏面から前記基板を通して第1の期間にわたって放射線に曝す露光ステップであって、前記液状の感光性樹脂の初期の露光部分が架橋および/または重合されて初期の固状樹脂構造体になり、該初期の固状樹脂構造体が、前記放射線を収束ビーム経路に自己収束させ、第2の期間にわたって露光を継続することにより、前記初期の露光部分に隣接する第2の露光部分が得られ、該第2の露光部分が、前記初期の固状樹脂構造体に隣接する収束する先端を有する第2および任意に第3の調和構造体に架橋および/または重合されるステップと、
前記層を溶媒系と接触させるステップであって、前記液状の感光性樹脂の非露光部分を除去し、前記基板の前記上面を横切る2以上の調和構造体を有する複数のマイクロサイズの固状樹脂構造体をもたらすステップとを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【関連する出願】
【0001】
本出願は、2020年1月16日に出願された、発明の名称「マイクロニードル、マイクロコーン、およびフォトリソグラフィ製造方法」の米国仮特許出願番号62/961,931の優先権の利益を主張するものであり、その全文が参照により本願に援用される。
【技術分野】
【0002】
本発明は、マイクロサイズの構造体、特にマイクロコーンおよび/またはマイクロニードルを作製するための新規なフォトリソグラフィ技術に関する。
【背景技術】
【0003】
(関連技術の説明)
マイクロニードルの開発は1990年以来長い間確立されており、多くの研究により、マイクロニードルは経口投与や皮下注射針よりも薬物送達において大きな利点があることが示されている。マイクロニードルは一般的に皮下注射針よりも先端が鋭く、長さはわずか10~2000μmであり、低侵襲な薬物送達方法である。経口投与は便利だが、薬物の分解や人体への吸収が悪いため、薬物送達効率が低いという問題がある。また、経皮投与は、多くの薬物が皮膚の一番外側を通過できないため、送達効率が低いという問題がある。しかし、最近の報告では、マイクロニードルが皮膚を貫通し、痛みを伴わずに表皮や真皮層に薬物を送達できることが明らかになっている。
【0004】
マイクロニードルの形状は、マイクロニードルの挿入時の挙動および機械的安定性に重要な役割を果たす。小さなテーパ角と直径を持つ鋭いマイクロニードル先端は、挿入力を減少させるが、破断や座屈破壊の可能性を増加させる。最近の研究では、先端部と針体のテーパ角度に基づく一般的なマイクロニードルのタイプと、それらによる鶏胸肉への平均挿入力が報告されている。この研究では、テーパ角30°の二等辺三角形形状の針先が、4種類の形状の中で座屈耐力が最も高く、破断破壊のない適度な平均挿入力を示すため、最適な針先形状であると結論付けている。しかし、曲線や先細など直線でない形状を3次元的に形成するためには、レイヤ単位の形成プロセスや複数のフォトマスクの位置合わせプロセスが必要となり、製造時間や製造コストが増加する可能性がある。
【発明の概要】
【0005】
本開示は、未架橋樹脂と架橋樹脂の屈折率の違いにより光導波路が形成される液体から固体への架橋に伴う光回折を利用し、紫外線(UV)照射と現像工程を含む30分以内の迅速かつ簡単なプロセスで様々なタイプのマイクロコーン構造を形成することを可能にするものである。提案されたマイクロニードル作製方法は、フォトマスクパターンの違いにより、円形、星形、六角形、三角形ベースなどの様々なマイクロニードル形状や、中空マイクロニードル、傾斜マイクロニードルなどの高機能マイクロニードルが得られるという専らの優位性を持っている。従来の紫外線リソグラフィによるマイクロニードル作製は、複数の紫外線照射と位置合わせプロセスを必要とするため、低コストで高度な薬物送達製品を実現するためには、汎用性が高くかつ簡便な作製プロセスを慎重に検討しなければならない。
【0006】
本発明は、先端が尖ったマイクロニードルやその他のミクロンサイズの構造体を製造するための新たな製造方法に関するもので、大きく分けて2つの方法がある。この製造方法においては、複数の開口部、例えば直径200μmの孔、または他の形状からなるフォトマスクパターンを通して液状の感光性樹脂を下から上(ボトムアップ)に照射することを利用している。フォトマスクパターンを通して紫外線を照射する。露光された感光性樹脂は重合され、先端が尖ったマイクロサイズの構造体に成長する。このとき、周囲の液状の感光性樹脂に比べ、屈折率が高くなる。後に形成される固状樹脂と液状の樹脂の屈折率差により、光の導波路のように境界で紫外線が反射し、円錐の頂点に光が送られる。つまり、液状の樹脂が固化すると、固化した領域が導波路として働き、さらに透過光を集光して円錐形状(第1の調和構造体マイクロコーン)を形成する。さらに紫外線を照射すると、円錐の頂点から紫外線が放射され、小さな尖った先端が形成される。さらに照射を続けると、光は第2の高調波ビームとして先端から再び回折し、第2の円錐形状(第2の調和構造形状)を形成する。第3の円錐は、光量が少ないためサイズが小さくなるが、同じ原理で作られる。実験では第4の円錐まで観察された。
【0007】
固状樹脂を用いた従来の研究は、垂直な側壁の形成を目的としていたが、液状の樹脂を用いた今回の研究においては、収束または先細の側壁が生じ、マイクロニードル型構造体または傾斜した側壁角度を有する構造体を形成することができる。作製した構造体は、溶媒で洗浄し、未反応の組成物を除去する。作製した構造体は、マイクロニードルやマイクロプローブとして使用することができる。
【0008】
一態様では、収束する先端を有する複数のマイクロサイズの構造体を作製するための方法であって、上面および裏面を有する基板であって、放射線が基板を透過するように構成された開口領域と放射線が基板を透過するのを阻止するように構成された中実領域とを有するパターンを備える基板を提供するステップと、上面上に液状の感光性樹脂の層を形成するステップと、前記液状の感光性樹脂の露光部分を得るために、液状の感光性樹脂を、第1の期間にわたって裏面から前記基板を通した放射線に曝す露光ステップであって、露光部分が、開口領域と整列する上面上において、それぞれの固状樹脂構造体へと架橋および/または重合され、固状樹脂構造体が、液状の感光性樹脂と比較して増加した屈折率を有し、各固状樹脂構造体が、基板の開口領域を通過する放射線を収束点に導く導波路として機能し、それによって、先細の側壁および収束する先端を有する固状樹脂構造体を形成するステップと、コーティング層を溶媒系と接触させるステップであって、液状の感光性樹脂の非露光部分を除去し、基板の前記上面全体に収束する先端を有する複数のマイクロサイズの固状樹脂構造体を残すステップとを含む方法である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
この特許または出願書類には,少なくとも1枚のカラー図面が含まれる。この特許または特許出願公開のカラー図面の写しは、必要な料金を支払って請求することにより、国内官庁から提供される。
【0010】
図1】マイクロサイズの構造体を形成するための例示的なプロセスの概略図(正確な出尺ではない)である。
図2】液状の感光性樹脂を重合させるためにマイクロサイズの開口部を通過した紫外線の伝播が円錐状の光プロファイルを示し、樹脂内を伝播するエネルギーが大きくなるとともに、時間経過とともにさらなる調和構造体が発達する様子をさらに示した説明図である。
図3】パターンサイズ200μmのフォトマスクを用いて、液状の感光性樹脂内部の光伝播を可視化した紫外線回折実験検証の画像である。
図4】表1の条件を用いてマイクロコーンを作製した際の写真数枚である。
図5】120μmのフォトパターン基板、高さ884μm、50μmの「ウエスト(くびれ部)」を用いた第2の調和構造体マイクロコーンのSEM(走査電子顕微鏡)画像(左図)、および第2の調和構造体コーンの拡大画像(右図)である。
図6A】円形開口部を有するフォトマスクを通過した平行紫外線の光量分布をガウス分布で示したものである。
図6B】中空形状形成用の不透明な芯を有する円形開口部を有するフォトマスク通過後のガウス分布による光量分布を示している。
図7】ガラスなし(点)、ガラス1枚(三角)、ガラス2枚(四角)による光源上0.5インチでの紫外線強度(375nm)測定値のグラフである。
図8】(a)1単位のマイクロニードルのSEM画像および(b)先端部の拡大図である。
図9】複数の調和構造体を有するマイクロサイズの構造体の画像であり、(a)作製したマイクロニードル、(b)紫外線の伝播、(c)第2の調和構造体および(d)第3の調和構造体を有するマイクロサイズの構造体アレイを示す。
図10】1回の同時露光で作製された、様々な基板形状と高さを有するマイクロサイズの構造体のアレイと、使用された対応するパターン化されたフォトマスク(挿入図)とを示す画像である。
図11】作製されたマイクロニードルの高さと印加エネルギーとの関係を示すグラフであり、セカンダリy軸は、対応する高さと対応する印加エネルギーの照射時間とのアスペクト比を示す。
図12】(a)2秒、(b)3秒、(c)5秒、(d)20秒の照射時間に対応する様々な印加エネルギーにおけるマイクロサイズの構造体の写真画像とその露光量を示している。
図13】(a)回折式リソグラフィによるマイクロサイズ構造体のテンプレートからPDMS(ポリジメチルシロキサン)マイクロモールドを用いて作製したPLA(ポリ乳酸)マイクロニードルアレイ、および(b)挿入痕のある豚皮の写真画像である。
図14】マイクロサイズの構造体の荷重-変位試験の結果であり、針の先端は変形したが、本体は耐久性を保ったままである。
図15】3x3の円形のマイクロサイズの構造体アレイの画像であり、(a)紫外線の伝播の円錐状の光プロファイル、(b)対応するマイクロニードル(SEM)である。
図16】異なる印加エネルギーにおけるマイクロサイズの構造体の高さの関係を示すグラフであり、(セカンダリx軸)照射時間、(セカンダリy軸)アスペクト比を示す。
図17】様々な基板形状を有するマイクロニードルアレイのSEM写真であり(挿入図)、(a)は円形、(b)は六角形、(c)は三角形、(d)は星型である。
図18】(a)中空のマイクロニードルのアレイと(b)傾斜した円形のマイクロニードルのアレイのSEM写真である。
図19】挿入試験結果からの写真であり、豚皮への挿入痕の3X3のPLA円形マイクロニードルのアレイ、および挿入前後のマイクロニードルの挿入画像である。
図20A】3x3PLA円形マイクロニードルアレイの荷重変位試験におけるSEM画像であり、挿入前(上図)、先端破損(中図)、および本体破損(下図)を示す。
図20B】荷重変位試験のデータのグラフである。
図21】405nmの紫外線発光ダイオード(UVLED)を用いた様々な光強度におけるサージカルガイド樹脂の最小架橋エネルギーを示すグラフである。
図22】サージカルガイド樹脂の様々な厚みを通る405nmの紫外線の透過率の測定値のグラフである。
図23】様々なエネルギーにおける架橋樹脂の測定された高さのグラフである。
図24】実施例4における固状のマイクロニードル作製のための実験装置の説明図である。
図25】様々な照射エネルギーおよび時間におけるマイクロニードルの測定された高さのグラフである。
図26】前図における標示された照射エネルギーに対応する第1、第2および第3の調和構造体のマイクロコーンおよびマイクロニードルの写真である。
図27A】20×20配列の固状の垂直マイクロニードルのSEM画像である。
図27B図27Aにおける個々のマイクロニードルの拡大SEM画像である。
図27C図27Bにおける個々のマイクロニードルの先端のさらなる拡大SEM画像である。
図28】実施例4における中空マイクロニードル作製のための実験装置の説明図である。
図29】底径280μm、高さ550μmの中空貫通型マイクロニードル271個のアレイの写真であり、挿入図は、使用した環状フォトマスクパターンの画像である。
図30図29における3つの異なる中空貫通型マイクロニードルの拡大画像の写真であり、アレイ全体にわたる形状プロファイルの高い一貫性を示している。
図31】挿入試験の結果および使用したマイクロニードルアレイの挿入SEM画像である。
図32A】垂直マイクロニードルの実施例4における荷重変位試験のデータを示す図である。
図32B図32Aにおける垂直マイクロニードルの画像であり、(a)前、(b)針先が破損、および(c)本体が破損した状態を示す。
図33A】角度のついたマイクロニードルの実施例4における荷重変位試験のデータを示す図である。
図33B図33Aの角度のついたマイクロニードルの画像であり、(a)前、(b)針先が折れた状態、および(c)基板から剥離した状態を示す
図34A】実施例4における角度のついたマイクロニードルに同位相と逆位相の力を印加したときのデータである。
図34B】逆位相試験と同位相試験における力の加えられる方向を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
より詳細には、図1を参照すると、このプロセスは、上面12および裏面14を有する概ね平面状の基板10を提供することを含む。基板10は、通常、基板10を通過する活性化放射線の透過を可能にするために、透明または実質的に透明である。適した基板は、ガラス、溶融シリカ、ポリマーまたはプラスチック(アクリル、プレキシガラス等)、および同様のものを含む。基板10は、放射線の通過を可能にするように構成された開口領域16と、放射線の通過を防止または遮断するように構成された中実(不透過)領域18とを有するパターン(例えば、フォトマスク)を更に含む。パターンは、図1に示すように、基板自体の一部として一体的に形成されてもよく、あるいは、パターンは、基板の上面および/または裏面表面に隣接する別のパターン化された層であってもよい。一以上の実施形態では、パターンは、表面全体に分布する間隔を空けて配置された開口部(窓)のアレイから構成されてもよい。開口部の幾何学的形状およびサイズ(例えば、幅または直径)は、以下でより詳細に議論するように、望ましい幾何学的形状を有するマイクロサイズの構造を生成するために所望に応じて設計できることが理解されよう。一般的には、本開示の文脈において、開口部は、最大1,000μmの最大サイズを有することを意味するマイクロサイズであり、ここで、「サイズ」は、最大端から端までの寸法(例えば、円形開口の場合の直径、長方形開口の場合の最大幅、または星型の場合には点から点)を意味する。
【0012】
図1(B)に図示されているように、次に、基板10の上面12に液状の感光性樹脂20を塗布してその上に被覆層を形成する。感光性樹脂20は、好ましくは、形成される構造物の所望の高さよりも大きい厚さ(基板10の上面12から測定)で塗布される。一般的には、被覆層の厚さは、約50μmから約9mmの範囲となる。本明細書で使用される「樹脂」は、種々のモノマー、オリゴマー、および/またはポリマー組成物を指し、通常、任意の光重合開始剤とともに溶媒系に分散されたモノマー、オリゴマー、および/またはポリマーから構成される。このような感光性樹脂は、マイクロエレクトロニクス製造におけるネガ型フォトレジストに従来から使用されている組成物や、3D印刷用の樹脂など、この技術分野において周知である。例示的な樹脂としては、各種エポキシ、アクリレート、ポリウレタン、メタクリル化オリゴマー、モノマー、またはポリマー、ウレタンメタクリレート、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、ビスフェノールAノボラックグリシジルエーテル(商品名SU-8)等が挙げられる。組成物の粘度は、γ-ブチロラクトン(GBL)またはプロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGMEA)、イソプロピルアルコール(IPA)等の溶媒を用いて調整することが可能である。例えば、構造体の先端部の形状を変更するために、所望により、樹脂の粘度を調整することができる。例えば、粘度の低い液状樹脂は、底角が低く、頂角が高く形成される傾向があり、粘度の高いものは、底角が高く、頂角が低く形成される傾向がある。しかし、光反応性を有する実質的に任意の透明な液状樹脂を使用することも可能であり、光重合開始剤(例えば、ベンゾフェノン、アセトフェノンなどのフェノン、ならびにホスフィンオキシド、ホスフィン酸塩など)を有するアクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルのような、添加された光開始剤を含むものが使用されてもよい。光重合開始剤は、イルガキュア(Irgacure)の商品名で市販されているもの、トリアリールスルホニウム塩(例えば、ユニオンカーバイド(Union Carbide Corp.)社製のシラキュアUVI)などが挙げられる。植物由来の感光性樹脂もまた、市販されている。いくつかの実施形態では、透明な樹脂が使用される。いくつかの実施形態では、半透明な樹脂が使用され得る。いくつかの実施形態では、樹脂は不透明であり、任意の数の利用可能な色であってもよい。
【0013】
その後、樹脂に適切な波長とエネルギー強度を有する活性化放射線を照射する。図1(C)に示すように、基板10および樹脂20は、基板の裏面から「ボトムアップ」の方向で照射される。すなわち、樹脂層20を有する基板10は、放射線(光)源の上に配置され、放射線源が基板の裏面に当てられ、裏面から上面へと基板を透過して、感光性樹脂に照射されるようにする。説明したように基板の裏側から構造体に放射線が印加される限り、構造体全体を逆さにしても、なお「ボトムアップ」と見なされることが理解されよう。
【0014】
好ましくは、放射線源は、エネルギー流(光)の伝播方向が平行であり、基板の裏面に対して垂直な入射角度で基板に入り、それに応じて感光性樹脂に入るように放射線を向けるコリメートレンズを含む。放射線は、パターンの開口部を通過すると、次に、基板10の上面12から概ね離れる方向に感光性樹脂層を透過して伝播し、樹脂層の光露光部分と非露光部分とをもたらす。特に、回折は、各開口部内の放射線の中央領域がより高い強度を有し、開口部の縁に近いところで徐々に減少するように、放射線強度を散乱させるように起こる。樹脂の大部分はある程度の量の放射線露光を受けてもよく、「非露光部分」とは単に、架橋および/または光重合を誘発するのに不十分な量の放射線を受けた樹脂層の部分を指すことが理解されよう。回折放射線は、放射線強度を一定とした照射時間により、露光部分における伝播放射線のエネルギーが感光性樹脂の重合の閾値エネルギー以上に蓄積されると、液状感光性樹脂を重合させる。光露光部分は、その部分で液状樹脂が固状樹脂構造体22に転移するように、架橋および/または光重合される。この変化には、架橋および/または光重合に伴う樹脂の屈折率の変化が含まれる。この屈折率の変化は、同様に、放射線が樹脂層の深部に進むにつれて、放射線の伝播経路を変更する(すなわち、ビームプロファイルを操作する)。特に、固状樹脂構造体22と周囲の液状の樹脂との間の屈折率の差は、界面における回折に対する障壁(バリア)を導入し、それによって放射線の伝播方向を閉じ込め、誘導する。このように、得られる固状樹脂構造体22は、架橋および/または光重合された構造体の基部が構造体の頂部(別名、構造体の先端)よりも大きい、概して先細状の構造体を有している。そのような構造体は、基板の上面から先端まで測定される第1の高さ(h1)によって初期定義される。
【0015】
放射線が樹脂層の隣接領域においてさらなる架橋および/または光重合を誘発すると、これらの架橋および/または光重合領域はその後、放射線を閉じ込めさらに収束する導波路またはレンズとして作用し、放射線の経路の断面は光源からの伝播距離とともに減少し、一点に収束する(例えば、放射線ビームが自己収束となる)。また、放射線の強度は、開口部の中央部が縁部よりも大きくなる中心放射強度を示し、樹脂層内をより深く伝播することができる。図1(D)に示すように、放射線の自己収束と、その後の隣接領域での架橋や光重合によって、構造体先端がさらに伸長することになる。さらなる照射時間により、得られる構造体22‘は、第1の高さ(h1)よりも大きい第2の高さ(h2)により規定することができる。
【0016】
実施例に示すように、円錐の高さと形状は、放射線強度と照射時間という印加エネルギーによって変化させることができる。より多くの露光は、図2に示されるように、第一の固化した円錐形状がメタ状態の光チャネルまたはレンズとして働き、第1の形成された円錐の上に第2の楕円形形状を形成するので、第2および第3の調和構造体を作成する。実施例にさらに例示すように、マイクロサイズの構造は、様々なテーパ角度を有する側壁を有していてもよい。すなわち、樹脂を伝播する際の放射線の回折は、一貫した先細形状ではなく、よりダイヤモンド形状の先端をもたらす交互の傾斜角および減少角を有する側壁をもたらし得る。本明細書で使用する「先細」という用語は、基部から尖った先端(頂点または頂部)までの相対的な先細、好ましくは基部が先端よりも広い鋭い先端を有するすべての構造を包含し、一貫した先細の側壁を有するコーンまたはピラミッド形状のみに限定されるものではない。利点としては、これらの複雑な形状およびマイクロニードルは、ただ1回の照射を用いて、照射時間および樹脂に印加される対応するエネルギー投与量を延長することによって形成することができ、これは、基板またはフォトマスクの位置変更または異なる角度からの放射線を当てる等のために露光ステップを開始および停止する必要がないことを意味している。むしろ、本発明の方法における露光ステップは、所望の形状が形成されるまで連続的に適用される。
【0017】
様々な感光性樹脂は、異なる架橋エネルギー要件を有することが理解される。さらに、放射線照射装置は、異なる光強度の能力を有する。一般に、適用されたエネルギーまたは投与量(mJ/cm)は、架橋を計算する上で最も重要なパラメータを表す。照射量=強度(mW/cm)×時間(秒)である。したがって、光強度が高い場合、同じ印加エネルギー(ドーズ量)を得るために照射時間を短くすることができる。同様に、光強度が低い場合は、必要なエネルギー量を得るために照射時間を長くすることができる。一般に、照射波長は、約300nmから約450nmの範囲で、約1秒から約1時間、好ましくは約10秒から約30分の時間、使用することができる。一般に、適用されるエネルギー投与量は、5mJ/cm2~約100,000mJ/cm2の範囲となる。また、投与量情報は公的に入手可能であるか、または、本発明の精神から逸脱することなく、特定の選択された樹脂に製造工程を較正するために実験的に決定することができることが理解されるであろう。
【0018】
所望の構造体22‘が形成された後、基板上に残存する未架橋または未重合樹脂を除去するための適切な溶媒系で基板を洗浄することにより、構造体を現像することができる。好適な溶媒としては、イソプロパノール(IPA)、アセトン、水性組成物(例えば、脱イオン(DI)水等)等が挙げられる。未反応樹脂の溶解を促進するために、機械的な攪拌(例えば、オービタルシェイク)を行うことができる。その後、基板を乾燥させることにより、その上に複数のマイクロサイズの構造体22’が形成された基板を得ることができる(図1(E))。
【0019】
この工程により、1回の露光ステップおよび/または1枚のフォトマスクで精密なマイクロサイズの構造体を形成することが容易になることが理解されよう。さらに、先細状のマイクロサイズの構造体形状は、複雑な装置なしで達成することができる。例えば、本工程において、基板は、好ましくは、平面状の基板である。好ましくは、基板は、リソグラフィの間、水平のままであるか、または一定の角度を保ったままである。さらに、好ましくは、基板は、マイクロサイズの構造体のリソグラフィの間、静止したままである。すなわち、好ましい実施形態では、先細状のマイクロサイズの構造体を形成するために、露光ステップ中に基板を傾ける、回転させる、またはその他の方法で移動させる必要はない。
【0020】
その結果得られるマイクロサイズの構造体は、通常、先細状の軸によって特徴付けられる。より好ましくは、マイクロサイズの構造体の幅または直径は、基板に隣接するマイクロサイズの構造体の基端で最大であり、基端から遠位の端で点に向かって徐々に細くなっている。構造体を形成するために使用されるパターンの形状に応じて、マイクロサイズの構造体は、円形の断面形状(円錐形)、または正方形の底部(ピラミッド形)、星形、三角形、長円形などを含む他の任意の所望の形状を有するシャフトで形成することができる。先細の角度も同様に変化させることができる。後述の圧縮試験で述べるように、角度が急であるほど先端は鋭くなる。使用目的に応じて、先端の鋭さと構造体の強さのバランスをとることができる。一般的に、頂角が小さすぎると(例えば、30°未満)、力を加えたときにマイクロサイズの構造体が簡単に壊れてしまう。しかし、破損点は、チップの全体的なサイズ/幅と同様に、マイクロサイズの構造体を作製するために使用される特定の材料によっても左右されることも理解されるであろう。一以上の実施形態において、プロセスは、基部で測定されるように、約5μm~約1,000μm、より好ましくは約50μm~約300μmのサイズ(端から端までの寸法、すなわち、直径)を有する構造体を製作するために使用することができる。基板表面からチップまで測定したマイクロサイズの構造体の高さは、約30μmから約9mm、より好ましくは約300μmから約1,000μmの範囲とすることができる。照射時間は、通常、1時間未満、さらに好ましくは45分未満、さらに好ましくは30分未満である。
【0021】
さらに、実施例にも例示されているように、このプロセスは、所望のマイクロサイズの構造体形状を達成するためにさらに変更することができる。例えば、開口部が光の透過を遮断し、それに応じてこの中心領域における架橋および/または光重合を遮断する固形コアを有するパターンを使用することによって、中空のマイクロサイズの構造体を形成することができる。このように、放射線はマスクの環状リングを透過し、マスクパターンに隣接する樹脂の対応する部分を固化させる。非架橋または非重合樹脂を除去すると、構造体の基部から先端部まで実質的に環状の孔またはチャネルを有する中空構造となる。このマイクロサイズの構造体は、基板上面12から実質的に垂直な方向に離れるように作製することができる。あるいは、実施例でも示したように、基板上面12に対して角度をつけて作製することもできる。使用されるパターンに応じて、異なるサイズおよび/または形状の開口を有するパターンを使用することによって、異なる形状および/またはサイズおよび/または角度の混合物を有する単一の露光プロセスで基板全体にマイクロサイズの構造体のアレイを作製することができる。
【0022】
さらなる変更点として
は、感光性樹脂を塗布する前に、基板上面12に隣接して1つ以上の介在層を塗布することが挙げられる。このような介在層は、マイクロサイズの構造体の剥離を促進することができる。また、活性化放射線の樹脂層への伝播方向や、透過を阻止するためのパターンをさらに精細化するために、介在層を用いてもよい。介在層は、剛性であってもよいし、可撓性であってもよい。このような介在層の一例として、実施例ではシャドウマスクが例示されているが、これはあくまでも一例である。例えば、介在層は、基板上の開口部のアレイと整列する対応する開口部を有する(例えば、予め形成されているか、または有するようにその場でパターン化されてもよい)基板に適用することができる。中空のマイクロサイズの構造体の場合、介在層は、回折式リソグラフィ中にマイクロサイズの構造体を通る内側側壁および中空の孔の形成を確実または安定させ、中空の孔が構造体の底部から先端部を通って延びることを確実にすることができる。本実施形態における介在層は、形成された構造体を安定化させるため、リソグラフィおよび現像後のパターン化されたマイクロサイズの構造体アレイの剥離を促進することもできる。さらなる実施形態において、介在層は、平坦化層として基板に適用することができる。すなわち、本明細書では平坦な基板を例示しているが、基板表面は、基板の表面にわたって1つ以上の高さ変動を有する非平坦なものであってもよい。さらに、フォトマスクは、それ自体が非平面的な表面(例えば、開孔部や中実部分)を有する介在層であってもよい。基板表面構造またはマスクに特定の変更を加えて、露光プロセス中の光の経路を変更することによって、形成されるマイクロサイズの構造体の特性を変更することができることが理解されよう。したがって、感光性樹脂を塗布する前に、基板表面(またはフォトマスク)に介在層を塗布して、最初に平坦化することができる。
【0023】
また、得られたマイクロサイズの構造体は、従来のマイクロモールディングのテンプレートとして使用し、非リソグラフィ技術を使用して追加のマイクロサイズのアレイ構造体をさらに作製できることが理解されよう。例えば、基板およびマイクロサイズの構造体は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)鋳型(ネガ)を作成するために使用することができ、次に、インプリント成形を使用して、種々の非光感性ポリマー組成物を使用してマイクロサイズの構造体を作製するために使用することができる。
この実施形態では、PDMSは、回折式リソグラフィで形成されたマイクロサイズの構造体の上に塗布され、硬化されてネガ型が作成される。このネガ型を使用して、ネガ型の上に液状樹脂を塗布し、樹脂を硬化させ、PDMS型を剥がすことによって、様々なポリマー(例えば、非感光性樹脂)を使用して対応するマイクロサイズの構造体アレイを形成することができる。その後のマイクロモールディングプロセスの選択肢によって、得られる構造体が感光性樹脂に限定されないように、マイクロサイズの構造体を作製することができる樹脂系が拡大することが理解されよう。例えば、マイクロニードルは、その後、様々な生分解性材料(例えば、被覆および/または溶解マイクロニードル用)、ならびに様々なヒドロゲルからマイクロモールディングを用いて作製することができる。
【0024】
回折式リソグラフィ(またはその後のマイクロモールディング)により形成されたマイクロサイズの構造体は、医療/臨床用および美容用のマイクロニードル、電気信号の刺激や検出用のマイクロプローブ、光の刺激や検出用など、さまざまな用途に応用できる可能性がある。マイクロコーンの作製と同じ原理で、マイクロコーンを透過した光はマイクロコーンの先端で発光するため、光の導波路として使用することができる。
【0025】
本発明の様々な実施形態のさらなる利点は、本明細書の開示および以下の実施例を検討することにより、当業者には明らかになるであろう。本明細書に記載された様々な実施形態は、本明細書で特に示されない限り、必ずしも相互に排他的ではないことが理解されよう。例えば、ある実施形態で説明または図示された特徴は、他の実施形態にも含まれる可能性があるが、必ずしも含まれるとは限らない。したがって、本発明は、本明細書に記載された特定の実施形態の様々な組み合わせおよび/または組合せを包含する。
【0026】
本明細書で用いられているように、2つ以上の項目で使用される場合、文言「および/または」は、挙げられた項目のうちの任意の1つをそれ自体で用いることができるか、または挙げられた項目のうちの2つ以上の任意の組み合わせを用いることができることを意味する。例えば、組成物が成分A、B、および/またはCを含むまたは含まないとして記載されている場合、組成物は、A単独;B単独;C単独;AおよびBの組み合わせ;AおよびCの組み合わせ;BおよびCの組み合わせ;またはA、B、およびCの組み合わせを含む、または除くことができる。
【0027】
本明細書はまた、本発明の様々な実施形態に関連する特定のパラメータを定量化するために数値範囲を使用する。数値範囲が提供される場合、そのような範囲は、範囲の低い値のみを記載する請求項の制限、および範囲の高い値のみを記載する請求項の制限に対する文字通りの根拠を提供すると解釈されることが理解されるべきである。例えば、約10~約100の開示された数値範囲は、「約10より大きい」(上限なし)と記載する請求項および「約100より小さい」(下限なし)と記載する請求項の文字通りの根拠を提供するものである。
【0028】
[実施例]
以下の実施例は、本発明による方法を示すものである。しかしながら、これらの実施例は説明のために提供されるものであり、そこに記載されていることは、本発明の全体的な範囲に対する制限として捉えられるべきものではないことが理解されるべきである。
【0029】
[序論]
本研究では、様々なマイクロコーン形状のマイクロニードル構造を作製するための自己収束型回折紫外線リソグラフィ法について述べる。一般的な工程を図1に示す。液状の感光性樹脂にフォトマスクを介して直接紫外線を照射すると、感光性樹脂の照射部分が針状構造体となるユニークな回折パターンが形成される。光重合や架橋により樹脂が液状から固状に変化することで、感光性樹脂の屈折率が変化し、光重合樹脂が光導波路として機能し、樹脂を伝播する光を導き、集光して、円錐の頂部に新たな鋭い先端形状を作り出す。未硬化の樹脂を除去すると、マイクロコーンの形状が残る。具体的には、平面波のように伝播する平行光を用い、フォトマスクの開口部に到達した時点で回折させる。回折光の強度分布は、開口部の反対側でガウス分布となり、開口部の中心で強度が高く、周辺部で低い、エアリーディスクとも呼ばれる挙動を示す。液状の感光性樹脂は回折光によって架橋/固化し、開口部上にガウス分布の小さな円錐が形成される。固化した樹脂は、周囲の未架橋の液状樹脂よりも屈折率が高く、固状の樹脂中を伝播する光は、固液界面(マイクロコーン構造の側壁を規定する)を通過する際に入射角に対して広い角度で屈折し、界面から反射して円錐形の光分布になることもある。マイクロコーン構造のこの側壁は導波路のように機能し、すべての光を1点に集めるため、中心的な光強度となり、円錐角が急になって、最終的に針状の円錐先端(第1の調和構造体)が形成される。
【0030】
図2に示すように、さらに紫外線エネルギーを照射すると、円錐先端が伸長し、異なる幾何学的分布を有する第2、第3の調和構造体の円錐形状が形成されることがある。特に、第1の調和構造体が形成されると、第1の調和構造体の鋭い先端は、第2の光収束開口のように作用し、形成される構造体の中心/先端におけるより強い光強度を介して第2の円錐構造が形成され得るようになる。この時点でのマイクロニードルの形状は、基本的に、わずかに先細の本体と約30°のテーパ角度を待つ二等辺三角形の先端を有する最適な形状である。さらに照射エネルギーを加えると、第2の調和構造体が形成され、その後、第3の芯と第3の調和構造体が形成される。
【0031】
この方法は、1枚のフォトマスクに1回のバックライト照射で、先端一体型コーンや高さや底面の形状が異なる多重調和コーンなど、側壁が直線状、角度が付いている、あるいは湾曲した様々な円錐状のマイクロサイズの構造体、最適な形状のマイクロニードル、一般的なテーパ針構造、あるいは先端が丸くなっているマイクロコーン構造体などを形成できる独自の汎用的なものである。照射エネルギーや樹脂材料を変えることで、マイクロニードルの高さや形状を調整することができる。図3には、4×4、200μmのフォトマスクパターンを用いた紫外線回折実験の検証結果の写真を示したが、基板表面へのマイクロコーンの形成が明確に確認できる。
【0032】
[実施例1]
初期の実験では、複数の開口部を持つフォトマスクをスライドガラスに貼り付け、感光性樹脂を塗布した。フォトマスクの下には、コリメートレンズを装着した紫外線発光ダイオード(UV-LED)を配置した。フォトマスクの上に液状の感光性樹脂をフォトマスクの表面を覆うまで流したが、表面張力で保持された。紫外線発光ダイオードの波長は300nmから450nmの範囲で選択可能であるため、本製造に適用可能である。波長365nm、375nm、385nm、395nm、405nmのピークLEDをテストし、マイクロコーンを形成することが確認されている。それぞれの波長は,感光性樹脂に対して、透明性、減衰性など異なる光学特性を有している。
【0033】
Anycubic POT016 LCD UV 405nm Rapid Resinの透明樹脂を用い、開口部200μmのフォトマスクアレイで1回作製した。フォトマスク上の感光性樹脂の厚さは、マイクロコーンの目標高さより厚い2mm程度であった。光の照射時間は、目標とするコーン形状に応じて、紫外線強度10mW/cmで10秒から30分まで変化させた。照射後、イソプロピルアルコール(IPA)に20rpmのオービタルシェーカーで10分間浸し、未硬化樹脂を除去した。IPAによる現像処理後、試料を乾燥させ、処理を完了した。
【0034】
【表1】
*それぞれの照射量は、200μm円形マスクを通して365nmの波長で照射、強度10mW/cm
【0035】
異なる照射時間で形成された様々なマイクロサイズの構造体の写真を図4に示す。
図5(A)-(B)の画像に示すように、初期の実験では、追加の照射時間によって第2の調和構造体の円錐を作製することも可能であった。これらの実験は、120μmのフォトマスクを用いて行った。
【0036】
[実施例2] 3次元マイクロニードル作製のための回折式リソグラフィ
図6Aおよび図6Bには、中実および中空のマイクロサイズの構造体の形成と、それに続くさまざまな形状の構築のための方法が示されている。これは、光の回折と強度分布の原理、および感光性樹脂が液体状態から光重合および/または架橋/硬化した固体状態に変化する際の屈折率の変動に基づくものである。図6Aに示すように、平行光を使用する「ボトムアップ」露光プロセスが用いられ、(1)フォトマスク開口部から光源に照射すると、基板に隣接するベース構造として初期のマイクロコーン構造が形成される。(2)において、液状樹脂が固化して形成されたマイクロコーン側壁が導波路となり、第1の調和構造体を形成するための光を導く。(3)において、樹脂中を伝播する光が自己収束して円錐状の光プロファイルとなり、光量が先端に収束することで第1の円錐状の先端が形成される。(4)において、この部分に樹脂を光重合および/または架橋/硬化させるためのエネルギーがより印加されて先端に収束するため、第2の調和構造体が形成される。この第2の調和構造体も同様に光強度を収束させて第2の尖った先端部を形成し(5)、さらにエネルギーを印加することにより同様に第3の調和構造体を形成することができる(6)。
【0037】
図6Bに示すように、フォトマスクをさらにパターニングして開口部の中央領域を遮蔽してその部分を光が通過しないようにすることで、形成構造体の中央領域に樹脂が未硬化のまま残る遮光領域を形成する以外は、同様の手法で中空のマイクロサイズの構造体を形成することが可能である。このように、パターニング後に未硬化樹脂を除去することで、構造体の中心核を中空化することができる。
【0038】
この原理を利用して、いくつかの異なるマイクロサイズの構造体が形成された。ある実験では、スライドガラスを透明基板として使用し、その上にパターンを形成したフォトマスクを置いた。このフォトマスクは感光性樹脂で覆われている。光源には、コリメーション導波路と一体化した波長365nm、375nm、405nmの紫外線発光ダイオード(UVLED)を使用した。波長が異なると、液状感光性樹脂の内部での減衰/吸収率も異なる。波長が長いと減衰率が小さくなるため、高さのある構造体になる可能性がある。通常、液状感光性樹脂の厚さは、作製する構造体の所望の高さより厚くする必要がある。
【0039】
円形の開口部を持つフォトマスクに透明な感光性樹脂(Formlabs社製、Clear Resin)を塗布し、光源から13mm上にある顕微鏡用スライドガラス上に設置した。この設定では、光が樹脂に到達するまでに2枚のスライドガラス(顕微鏡用スライドガラスとフォトマスク用ガラス)を通過する必要があることを考慮し、光源から13mm上の一定の距離にある分光器(StellarNet社製、BLUE-Wave Miniature Spectrometer)で光エネルギーを測定した。図7の結果から、測定された光エネルギーのピークは、光路上にガラスがない場合は1.7271mW/cm、ガラスが1枚の場合は1.7149mW/cm、光路上にガラスが2枚の場合は1.6932mW/cmであることがわかる。光エネルギーは2枚のスライドガラスを通過する間に0.0339mW/cm減衰したが、これもこの実験では、2%の減衰に相当するごく僅かなものである。
【0040】
感光性樹脂を直接バックライト375nmの紫外線光源で照射し、マイクロサイズの構造体をパターン化した。その後、スライドをイソプロパノール(IPA)中に移し、わずかな軌道揺動(20rpm)で未架橋樹脂を除去した。現像が完了した後、圧縮空気で緩やかに乾燥させ、先細の本体を持つマイクロニードルを完成させた。SEM像(図8(a)-(b))から、円形開口パターンを有するフォトマスク上に、1回のバックライト紫外線照射でマイクロニードルのアレイを作製することに成功したことがわかる。テーパ角が約30°の最適なマイクロニードルの先端形状を得ることができた。マイクロニードルの基部直径は180μm、高さは550μmで、アスペクト比は3.06であった。先端部の直径は3μm、テーパ角は25.7°で、破断せずに皮膚を貫通するのに十分な鋭さである。
【0041】
別の実験では、円形の開口部を小さくした別のフォトマスクにさらに照射エネルギーを印加し、図9(a)に示すような第2の調和構造体を有する800μmのマイクロニードルの作製に成功した。マイクロニードルの底面の直径と高さはそれぞれ160μmと800μmで、アスペクト比は5である。図9(b)は、作製中に撮影した紫外線の光学画像であり、液状感光性樹脂の内部を光が伝播している様子がわかる。また、十分なエネルギーを印加することで第2の調和構造体を実現できることが実験的に確認されている。図.9(c)、(d)に第2、第3の調和構造体を持つマイクロニードルのアレイを示し、本提案手法の製造能力の高さと、たった一度の紫外線照射で複雑なマイクロニードル構造を作製できる独自性を示している。
【0042】
この汎用性の高い製造方法をさらに実証するために、様々なフォトマスク開口形状(円形、三角形、星形、底面が湾曲した三角形)と開口サイズを用いて、マイクロニードルを製造した。図10は、一度の紫外線照射で同一基板上に様々なマイクロニードル形状を形成するための、異なる光回折を発生させるために使用した異なる開口形状(挿入図)である。
【0043】
液状感光性樹脂の架橋を開始するために必要な最小限のエネルギーを調べるために、円形の開口部サイズ150μm(挿入図)のフォトマスクと375nmの紫外線光源による光エネルギー1.6932mW/cmを定数とし、照射時間を変数(1秒~90秒)に設定した。データ(図11)は、作製したマイクロニードルの高さと樹脂を架橋するために印加したエネルギーとの関係を示している。二次的なY軸は対応する高さのアスペクト比を示し、二次的なX軸は対応するエネルギーを印加したときの照射時間を示している。感光性樹脂を架橋するための最小エネルギーは3.39mJ/cmで、測定された高さは8.4μmであった。マイクロコーン構造は、最初の20秒間は比較的速く成長し、その後、1mJ/cmのエネルギーを追加印加するごとに2.44μmの一定の成長速度が観察された。
【0044】
照射時間が2、3、5、20秒におけるマイクロコーン構造の光学画像を図12に示すが、照射時間が20秒からマイクロニードルの尖った先端の特性が現れ始めていることがわかる。
【0045】
作製したマイクロニードルの機能性を実証するために、挿入試験および荷重-変位試験を行った結果、試験した各マイクロニードルの先端は、破損が起こるまでに
0.15Nまで耐えられることがわかった。このように、先端が尖った円錐形のマイクロニードルは、経皮薬物送達用マイクロニードルとして大きな可能性を持っている。製作したマイクロニードルの機能性を証明するために、図8に示すような全体形状を有する4×4マイクロニードルアレイをポリ乳酸(PLA)からマイクロモールディングにより作製した。この形状は、これまで報告されているマイクロニードルの形状に類似しており、皮膚に確実に刺さることから、機械的試験用に選択された。図13(a)に示すPLAマイクロニードルアレイを豚の死体皮膚に親指で圧縮/押圧して挿入し、挿入部を青色の組織マーキング染料で染色して可視化した。
【0046】
図13(b)は、豚革に4×4の挿入痕を青色で示したものである。また、4×4のマイクロニードルアレイを用いた荷重-変位試験も行った。マイクロニードルは図11に基づき、直径150μm、高さ500μm、先端は長さ80μm、テーパ角27.6°で設計した。フォースゲージ(FC200、Torbal社.)をz軸に沿ってネジ棒と一体化したステッピングモータに取り付け、アルドゥイーノ(Arduino UNO Rev 3、アルドゥイーノ社製)により制御した。4x4のマイクロニードルアレイをフォースゲージの直下に置き、フォースゲージに1ミリ秒ごとに荷重を記録しながら1.2mm/minの速度で下降するようコマンドを実行した。総試験時間を変位量(マイクロメートル)に換算し、結果をグラフにした(図14)。マイクロニードルを圧縮(押圧)すると、最初のチップは2.38Nで変形し始め、各針先は機械的な故障なしに少なくとも0.15Nに耐えることができることが示された。その後、先端が曲がっていき、急激に力が低下した。すべての針先が完全に変形すると、検出される荷重は直線的に増加し、マイクロニードル本体が変形せずに基板に付着したままであることが示された(対応する画像にも示されている)。この特性は、「被覆して突き刺す」、「突き刺して離す」といった薬物輸送方法に対して大きな有用性を示している。言い換えれば、マイクロニードルの先端は薬物で予めコーティングされているか、または薬物自体でできており、針本体が使用後に廃棄できる送達用の補助具として機能する一方で、挿入時に折れるように設計する
こともできる。
【0047】
本製造法は、光の回折とそれに伴う強度分布により、マイクロコーン状のマイクロニードル構造を形成する独自の方法であることを実証した。LEDと光コリメーションという簡単なシステム構成で、複雑な形状のマイクロニードルアレイを30分以内に一回の照射で作製することができる。挿入試験と荷重-変位試験を行った結果、作製したマイクロニードル先端は変形するまでに0.15Nまで耐えることができ、皮膚貫通に十分な耐久性があることが実証された。作製した先端が鋭利な円錐形状のマイクロニードルは、経皮薬物送達用マイクロニードルへの応用の可能性が大きい。
【0048】
[実施例3] 紫外線発光ダイオードリソグラフィによるニップル先端、中空および傾斜マイクロニードルの作製と特性評価
提案する作製法は、1回の紫外線照射で中空マイクロニードルや傾斜マイクロニードルなどの機能性マイクロニードルを導入し、先行研究を発展させたものである。中空マイクロニードルは液体の薬物送達に有用であり、傾斜マイクロニードルは非平面的な皮膚表面にフックとして適用することができる。また、これらのマイクロニードルの作製は、試料の準備、紫外線照射、現像、洗浄を含めて30分以内に行うことができ、製造コストの大幅な削減が期待できる。様々な波長の紫外線発光ダイオード(365、375、385、395、405nm)を用いて、異なる形状のマイクロニードルを作製するテストを実施した。
【0049】
短い波長は長い波長よりも減衰が大きいため、実験条件からマイクロニードルの形状予測を調べることができる。図15は、感光性樹脂の内部における紫外線の伝播実験である。図15(a)は光伝播の形状、図15(b)は対応する3x3円形マイクロニードルアレイのSEM写真である。図16のデータは、150μmのフォトマスクで印加エネルギーを変えたときのマイクロニードルの高さの関係を示しており、図面は対応する印加エネルギーでの一般的なニードル形状を示している。このデータと様々なフォトマスク形状を用いることで、図17に示すように、異なるマイクロニードルを形成することができた。また、この製造方法を用いて、図18に示すように、中空マイクロニードルや傾斜円形マイクロニードルを製造することができた。
【0050】
また、3x3PLA円形マイクロニードルアレイを用いて、挿入実験と荷重-変位実験が行われた。豚の皮膚への挿入実験では、青い染料によるマーキングで豚の皮膚上の針挿入箇所を可視化した(図19)。荷重-変位データを図20に示す。図16のデータに基づいて作製した高さ750μmの3X3
PLA円形マイクロニードルアレイのSEM画像を図20Aに示す。マイクロニードルは荷重計の下に置かれ、荷重計の圧縮速度は1.2mm/分に設定された。上段は変位前のマイクロニードルである。中段は168μm変位させた後のマイクロニードルの形状である。圧縮後も針本体は変化せず、針先のみが変形を始めた。下段は、624μm変位後のマイクロニードルの形状を示し、針本体の大部分が変形または曲がったが、基部は比較的元の位置に留まっていることがわかる。図20Bに示すように、荷重-変位勾配もこの時点で急激に増加しており、マイクロニードル本体の耐久性がマイクロニードル用途に使用するのに適していることが示唆される。
【0051】
[実施例4] マイクロニードルの高度な加工
本研究では、フォームラブス(Formlabs)社(マサチューセッツ州ソマーヴィル)のサージカルガイド樹脂を用いてマイクロニードルを作製した。この樹脂は、一般にインプラント埋入のための歯科用サージカルガイドの3Dプリントに使用される、市販の滅菌可能で生体適合性のある樹脂である。この樹脂は、化学物質等安全データシート(MSDS)によれば、メタクリレートモノマー(25~45wt%)、ウレタンジメタクリレート(55~75wt%)、および光重合開始剤(1~2wt%)からなる同社の企業秘密の製剤である。
【0052】
I.最小架橋エネルギー
初期試験では、サージカルガイド樹脂を架橋するために必要な最小限のエネルギー量を調査した。架橋エネルギーを理解することで、より正確に架橋高さを予測することができる。
紫外線源として405nmの紫外線発光ダイオード(Shenzhen Chanzon Technology社製、UV 405nm 発光ダイオード)を使用した。3Dプリントされた導波路を紫外線発光ダイオード(UVLED)とともに使用して、光のコリメーションを行った。空間による紫外線強度の損失を最小限に抑えるため,導波路の上部に1 mmの一定距離を置いて平板のスライドガラスを配置した。サージカルガイド樹脂を厚さ50μmになるように回転塗布した。最後に、紫外線源の強度をモニタリングするために、紫外線強度計を樹脂の表面から1mmの位置に設置した。架橋のタイミングを正確に測定するために、非常に低い紫外線強度を(0.1、0.22、0.3、0.4、0.49、0.6mW/cmと)段階的に増加させながら印加した。その結果が図21であり、様々な光強度と様々な照射エネルギーで架橋された樹脂の結果としての高さを段階的に示したものである。光強度に関わらず、この樹脂の場合、照射エネルギーが6.8mJ/cmになると、架橋された樹脂の高さが高くなり、このサージカルガイド樹脂の最小架橋エネルギーは6.8mJ/cmであることを示している。
【0053】
II.405nm紫外線のさまざまな厚さのサージカルガイド樹脂の透過率
サージカルガイド樹脂の厚みを変えて、405nmの紫外線の透過率を調査した。405nmの紫外線のサージカルガイドレジンの透過率を調査した。405nmの紫外線の透過率を把握することは、サージカルガイド樹脂の架橋挙動をより的確に予測することにもつながる。紫外線源として405nmの紫外線発光ダイオード(Shenzhen
Chanzon Technology社製、UV 405nm LED)を使用した。3Dプリントされた導波路を紫外線発光ダイオードとともに使用して、光のコリメーションを行った。空間による紫外線強度の損失を最小限に抑えるため、導波路の上部に1mmの一定距離を置いて平板のスライドガラスを配置した。前述の項目とは異なり、0~3000μmのさまざまな厚さのサージカルガイド樹脂が平板ガラス上に塗布された。最後に、様々な厚さのサージカルガイド樹脂に対する紫外線源の強度をモニタリングするために、紫外線強度計を平板ガラスから11mmの一定の距離に設置した。サージカルガイド樹脂を塗布する前に、紫外線強度を測定し、初期紫外線強度をIとして記録した。樹脂を塗布した後に再度紫外線強度を測定し、パラメータ「I」とした。記録された2つの強度を用いて、以下の数式により透過率を算出した。
【数1】
その結果を図22に示す。下記の数式に示すように適合曲線が生成され、Rが0.99565824となった。サージカルガイド樹脂の減衰係数aは0.00287837であった。
【数2】
ここで、a=0.96265990
=0.00000366
=0.96265990
=0.00287837(減衰係数)である。
【0054】
架橋樹脂の高さを予測するために、まず、紫外線強度と照射時間からエネルギーを計算する基本式から始める。
【数3】
ここで、Iは、405nm紫外線強度(mW/cm)、tは照射時間(秒)である。
数式(1)から、Iはzの関数であり、zはサージカルガイド樹脂の厚さであることがわかるので、数式(1)は次のように書き直すことができる。
【数4】
そして、式(2)に代入する。
【数5】
ここで、Iはz=0のときの紫外線強度である。数式(3)から、Iとtを固定すると、Eはzに反比例し、樹脂の厚さzが大きいほど、受け取るエネルギーEは小さいことがわかる。この関係を知ることで、Iとtが一定の値のとき、サージカルガイド樹脂の垂直方向の厚みzは、サージカルガイド樹脂の最小架橋エネルギーに対応するものでなければならず、これは、我々が測定し、上記で議論したように6.8mJ/cmである。
【0055】
この数式を検証するために、以下に示すような条件で現実的なデータを作成した。
【表2】
【0056】
同じ実験システムの装置と上記の実験条件を用いて、様々なエネルギー量での架橋樹脂の高さを測定し、図23に示すように記録した。
【0057】
III.マイクロニードルの高さ特性
次に、様々な照射エネルギーにおけるマイクロニードルの特性とその高さを検証した。この実験の条件を下表に示す。
【表3】
図24に、本実験におけるマイクロニードル作製のためのシステム構成を示す。下から順に、紫外線光源として導波路一体型405nm紫外線発光ダイオードを用い、コリメートレンズにより紫外線光(LED光)を平行光に変換した。150μmの開口パターンを有するフォトマスクを紫外線光源から25.4mmの距離に設置し、サージカルガイド樹脂の基板とした。フォトマスク上にサージカルガイド樹脂を塗布し、405nmの紫外光で照射した。露光プロセスは、ある照射エネルギーに達した時点で停止され、その照射エネルギー点における対応するマイクロニードルの高さを記録した。露光プロセスが完了した後、試料をイソプロパノールで洗浄し、マイクロニードル作製が完了する。図25は、様々な照射エネルギーにおけるマイクロニードルの高さの測定値を示している。この特定の例では、グラフは、マイクロコーン構造、第1の調和構造体マイクロニードル、第2の調和構造体マイクロニードル、および第3の調和構造体マイクロニードルを含むマイクロニードル構造体の形状に基づいて4つの部分に分かれている(図25)。図26は、照射エネルギーの各段階での形状を示すマイクロコーン構造体とマイクロニードルの写真である。この結果から、1枚のフォトマスクを用い、照射エネルギーを変えるだけで、様々な大きさ、形状のマイクロニードルを作製することが可能であることがわかった。
【0058】
IV.
マイクロニードルアレイの作製
上記の装置を使用し(図24)、サージカルガイド樹脂を使用して様々なマイクロニードルアレイを作製した。150μm径の開口部が20×20に配列されたフォトマスクを用いて、ソリッドストレート(中実で真っ直ぐな)マイクロニードルを作製した。図27Aは、基板を現像し、未硬化樹脂を除去して得られたアレイのSEM画像である。見てわかるように、この工程では、サイズと形状が一定で、各マイクロニードルの底面直径が133μm、平均高さが385μmの20×20の配列が形成さ れる。個々のマイクロニードルの拡大SEM画像(図27B)および個々の先端部(図27C)の画像も示す。マイクロニードル先端は幅2.5μm、テーパ角28.5°であった。
【0059】
図28に示すような改良された装置を用いて、中空貫通型マイクロニードルを作製した。紫外線光源には、他の実験と同様、導波路一体型の405nmの紫外線発光ダイオードを使用した。紫外線光源から25.4mmの距離にパターン化されたフォトマスクを設置した。フォトマスクのアレイには271個の開口部があり、それぞれ開口部中央の光の透過を防ぐために中実の芯を有する(図29の挿入図参照)。開口部の外径は300μmで、中実の直径は200μmであり、これにより100μm幅の環状リングが光の透過のために開いている状態である。さらに効果を高めるために、3Dプリンタで完全な貫通孔を設けたシャドウマスク(樹脂製)を作成し、マスクアライナを用いてフォトマスクの開口部と位置合わせを行った。フォトマスクの上に配置されたシャドウマスクには、フォトマスクの開口部と相補的な直径300μmの完全な貫通孔(オープンコア)が271個形成されている。紫外線照射終了後、イソプロパノールで洗浄し、シャドウマスクを中空マイクロニードルとともにフォトマスクから切り離した。図29に形成された271個の写真を示す。中空マイクロニードルを形成する材料はシャドウマスクと同じであるため、シャドウマスクとの結合がフォトマスクより強く、中空マイクロニードルとともにシャドウマスクをフォトマスクから容易に剥離することができる。中空マイクロニードルの底面の直径は280μm、高さは550μmと測定された(図30の拡大図)。図30の図からわかるように、個々の針の形状や大きさは、複数の針において一貫している。
【0060】
V.挿入試験
豚の皮膚は、まずイソプロパノールアルコールで洗浄し、汚染の可能性を排除した。20×20のソリッドストレートマイクロニードルアレイを回折式リソグラフィで作製し、それをテンプレートとしてPDMSマイクロモールディング方式でPLAアレイを作製した。簡単にいえば、ガラス基板上に回折式リソグラフィのマイクロニードルアレイを作製した後、PDMS工程を行うのである。SYLGARD(登録商標)184シリコーンエラストマを硬化剤と10対1の割合で混合した。混合中に捕捉された気泡は、真空オーブンで脱気された。透明なエラストマ溶液を回折式リソグラフィのマイクロニードルアレイの上に静かに流し込み、80℃で1時間硬化させた。室温まで冷却後、固化したPDMSから回折式リソグラフィのマイクロニードルアレイを剥離し、マイクロニードルアレイ(マイクロニードルに対応する溝・孔の配列)のネガ型テンプレートとなるPDMSモールドを得た。PLAペレット(1~2mm)でPDMSモールドを覆うことを含むPLAモールディング工程を行った。試料をオーブン内で180℃に加熱してPLAペレットを溶かし、PDMSモールドの溝を埋めた。室温まで冷却した後、PLAマイクロニードルアレイをPDMSモールドから剥離し、PLAマイクロニードル作成工程を完了した。
【0061】
PLAマイクロニードルアレイは、親指の力でPLA基材の裏面を押すことで豚の皮膚に挿入された。挿入部を可視化するために青色の組織マーキング色素(CDIの組織マーキングダイ(CDIのTissue Marking Dye、Cancer
Diagnostics社製.)で染めた。図31は、豚の皮膚への挿入試験の結果である。
【0062】
VI.力変位試験
マイクロニードルの機械的強度をさらに把握するために、荷重-変位試験を実施した。3x3のマイクロニードルアレイを作製し、マイクロモールドのテンプレートとして、PDMS成形とPLA成形を含む2段階の成形工程を経て、PLAマイクロニードルアレイを作製した。ソリッドストレートマイクロニードルアレイの特徴は以下の通りである。
・直径=133μm
・高さ=526μm
・先端の直径=40μm
・先端の高さ=134μm
・素材=PLA
・針の数=9本(3×3配列)
3X3のマイクロニードルアレイを真上に配置し、フォースゲージを1.2mm/minの速度でゆっくりと下方に移動させた。マイクロニードルの先端は、まずフォースゲージで押圧され、1本あたり0.552Nと0.0613Nの測定された荷重で完全に曲げられた。フォースゲージは、プログラムされた最大時間枠に達するまで、マイクロニードル本体を押圧し続けた。フォースゲージで測定したマイクロニードル本体の最大押圧力は9.284N、1本あたり1.0316Nであり、押圧による総変位は436μmと測定され、これはその後顕微鏡を用いて測定した押圧による高さと一致する。このデータを図32Aに、各段階でのマイクロニードルの対応する画像を図32Bに示す。
【表4】
【0063】
2X2の傾斜マイクロニードルを回折リソグラフィ法を用いて作製した。作製工程は、紫外線照射で傾斜角度を追加した以外は、ソリッドストレートマイクロニードルの作製工程と全く同じであった。マイクロニードルの傾斜角度は14°と測定された。本試験では、マイクロニードルはPLAに変換されなかった。ソリッド傾斜マイクロニードルの条件は以下の通りである。
・直径=300μm
・高さ=900μm
・先端の直径=90μm
・先端の高さ=266μm
・素材=サージカルガイド樹脂
・針の数=4本(2×2配列)
【0064】
2x2の傾斜マイクロニードルアレイを真上に配置し、フォースゲージを1.2mm/minの速度でゆっくりと下方に移動させた。フォースゲージでマイクロニードル先端を押圧し、1本あたり0.106N、0.0265Nの荷重で完全に曲げた。その後、フォースゲージはマイクロニードル本体を、マイクロニードルが基板から抜けるまで押圧しつづけた。このマイクロニードルはPLAに変換されていないため、針と基板との接着力は上記のソリッドストレートマイクロニードル試験よりも弱くなる。測定された基板からの剥離力は4.06N、針1本あたり1.015Nであった。フォースゲージは、プログラムされた最大時間に達するまでマイクロニードル本体への側面への押圧を続け、この時点での荷重の測定値は、1本あたり5.276Nおよび1.319Nであった。このデータを図33Aに、各段階でのマイクロニードルの対応する画像を図33Bに示す。
【表5】
【0065】
最後に、傾斜マイクロニードルを2方向から剥離するのに必要な剥離力について検討した。ここで、フォースゲージがマイクロニードルの傾斜方向に対して移動している場合を逆位相圧力、フォースゲージがマイクロニードルの傾斜方向に向かって移動している場合を同位相圧力と呼ぶ。ソリッド傾斜マイクロニードルの条件を以下に示す。
・直径=300μm
・高さ=900μm
・先端の直径=90μm
・先端の高さ=266μm
・素材=サージカルガイド樹脂
・針の数=1本
フォースゲージを1.2mm/minの速度で下方に移動させながら、マイクロニードルを同位相か逆位相によって図34Bに示すように位置決めした。逆位相の剥離力は0.224N、同位相の剥離力は0.574Nと測定された。そのデータを図34Aに、押圧方向を示すマイクロニードルの対応する画像を図34Bに示す。
【表6】
図1(A)】
図1(B)】
図1(C)】
図1(D)】
図1(E)】
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8(a)】
図8(b)】
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20A
図20B
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27A
図27B
図27C
図28
図29
図30
図31
図32A
図32B
図33A
図33B
図34A
図34B
【国際調査報告】