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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-17
(54)【発明の名称】抗IDE抗体およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20230310BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230310BHJP
   C07K 16/40 20060101ALI20230310BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20230310BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230310BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230310BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230310BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230310BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230310BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230310BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20230310BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20230310BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20230310BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20230310BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20230310BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20230310BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20230310BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230310BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20230310BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20230310BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20230310BHJP
   A61P 21/04 20060101ALI20230310BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20230310BHJP
   A61P 29/02 20060101ALI20230310BHJP
   A61P 31/22 20060101ALI20230310BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230310BHJP
   G01N 33/573 20060101ALI20230310BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C12N15/63 Z
C07K16/40
C12P21/08
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61P43/00 121
A61K45/00
A61P43/00 111
A61P37/06
A61P25/28
A61P3/10
A61P3/04
A61P3/00
A61P9/10
A61P13/12
A61P25/00
A61P9/00
A61P17/02
A61P25/16
A61P21/04
A61P25/04
A61P29/02
A61P31/22
A61K39/395 D
A61K39/395 P
G01N33/573 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022544308
(86)(22)【出願日】2020-12-10
(85)【翻訳文提出日】2022-09-20
(86)【国際出願番号】 IL2020051279
(87)【国際公開番号】W WO2021149040
(87)【国際公開日】2021-07-29
(31)【優先権主張番号】62/964,139
(32)【優先日】2020-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】501177609
【氏名又は名称】ラモット・アット・テル・アビブ・ユニバーシテイ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】RAMOT AT TEL AVIV UNIVERSITY LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベンハー イタイ
(72)【発明者】
【氏名】ナハリー リモール
(72)【発明者】
【氏名】フレンケル ダン
(72)【発明者】
【氏名】フルシュト オフィル
(72)【発明者】
【氏名】ナッシュ ユヴァル
(72)【発明者】
【氏名】リラン ミリット
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B064DA13
4B065AA26X
4B065AA93Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4B065CA46
4C084AA19
4C084NA05
4C084ZA011
4C084ZA021
4C084ZA151
4C084ZA161
4C084ZA361
4C084ZA701
4C084ZA811
4C084ZA941
4C084ZB081
4C084ZB331
4C084ZC201
4C084ZC211
4C084ZC351
4C084ZC751
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA16
4C085BB22
4C085CC03
4C085CC07
4C085CC31
4C085DD62
4C085DD88
4C085EE01
4C085EE03
4C085GG01
4C085GG02
4C085GG03
4C085GG04
4C085GG06
4C085GG08
4C085GG10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
単離された抗IDE抗体を提供する。各抗体は、CDRアミノ酸配列を含む抗原認識ドメインを含む。それを製造する方法、それを使用する方法、それを含む医薬組成物および製品も提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
IDEを特異的に結合する抗原認識領域を含む単離された抗体であって、前記抗原認識ドメインが以下の相補性決定領域(CDR)アミノ酸配列を含む、抗体。
(i)前記抗体の重鎖のNからCへと順番に配置された配列番号4(CDR1)、配列番号6(CDR2)および配列番号8(CDR3)、ならびに前記抗体の軽鎖のNからCへと順番に配置され配列番号12(CDR1)、配列番号14(CDR2)および配列番号16(CDR3)、
(ii)前記抗体の重鎖のNからCへと順番に配置された配列番号20(CDR1)、配列番号22(CDR2)および配列番号24(CDR3)、ならびに前記抗体の軽鎖のNからCへと順番に配置され配列番号28(CDR1)、配列番号30(CDR2)および、配列番号32(CDR3)、あるいは
(iii) 前記抗体の重鎖のNからCへと順番に配置された配列番号36(CDR1)、配列番号38(CDR2)および配列番号40(CDR3)、ならびに前記抗体の軽鎖のNからCへと順番に配置され配列番号44(CDR1)、配列番号46(CDR2)および配列番号48(CDR3)。
【請求項2】
請求項1に記載の抗体(ii)または(iii)を活性成分として含み、薬学的に許容される担体をさらに含む、医薬組成物。
【請求項3】
治療を必要とする対象におけるIDE活性関連疾患を治療するための方法であって、対象に治療有効量の、請求項1に記載の抗体(ii)または(iii)あるいは請求項2に記載の医薬組成物を投与することを含み、前記投与によってIDE活性に関連した疾患を予防または治療する、方法。
【請求項4】
治療を必要とする対象におけるIDE活性関連疾患の治療に使用する、請求項1に記載の抗体(ii)または(iii)。
【請求項5】
前記疾患の治療薬を前記対象に投与することをさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記疾患の治療薬をさらに含む、請求項4に記載の使用のための抗体。
【請求項7】
前記対象の生物学的サンプルが、対照生物学的サンプルと比べて、予め定めておいた閾値を超えるIDEレベルを示す、請求項3または5に記載の方法、あるいは請求項4または6に記載の使用のための抗体。
【請求項8】
前記対象の前記生物学的サンプルにおけるIDEの前記レベルを、前記投与の前に請求項1に記載の抗体を用いて決定することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1に記載の抗体(ii)または(iii)と、前記疾患を治療するための治療薬とを含む、IDE活性関連疾患の治療用と定められた製品。
【請求項10】
前記抗体と前記治療薬とが個別の容器に含まれる、請求項9に記載の製品。
【請求項11】
前記抗体と前記治療薬とが共処方に含まれる、請求項9に記載の製品。
【請求項12】
対象のIDE活性関連疾患を診断する方法であって、請求項1の抗体を用いて前記対象の生物学的サンプルのIDEレベルを決定することを含み、対照生物学的サンプルと比べて、前記IDEレベルが予め定めた閾値を超えることをもって、前記対象を前記疾患と診断する、方法。
【請求項13】
IDE活性関連疾患と診断された対象における前記疾患に対する療法の有効性をモニタリングするための方法であって、請求項1の抗体を用いて、治療中または治療後の前記対象の生物学的サンプルのIDEレベルを決定することを含み、治療中または治療後の前記IDEレベルが予め定めた閾値より低下したことをもって、前記療法を有効とする、方法。
【請求項14】
IDE活性関連疾患の治療を必要とする対象における疾患を治療するための方法であって、
(a)請求項12に記載の方法によって前記対象を診断し、前記IDEレベルが予め定めた閾値を超えたとき、
(b)前記対象を前記疾患用の療法で治療する
ことを含む、前記対象の前記疾患を治療する方法。
【請求項15】
前記療法が、前記抗体(ii)または(iii)を含む、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
IDE活性関連疾患と診断された対象の生物学的サンプルと、請求項1に記載の抗体とを含む、組成物。
【請求項17】
前記IDE活性関連疾患が、中枢神経系の自己免疫疾患、神経変性疾患、メタボリックシンドローム、糖尿病、肥満、高血糖症、網膜損傷、腎不全、神経損傷、微小血管損傷、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)感染症および創傷からなる群より選ばれる、請求項3または5に記載の方法、請求項4または6に記載の使用のための抗体、あるいは請求項9~11のいずれか一項に記載の製品。
【請求項18】
前記IDE活性関連疾患が、メタボリックシンドローム、糖尿病、および肥満からなる群より選ばれる、請求項12~15のいずれか一項に記載の方法、あるいは請求項16に記載の組成物。
【請求項19】
前記疾患が糖尿病である、請求項17または18に記載の方法、使用のための抗体、製品あるいは組成物。
【請求項20】
前記糖尿病が1型糖尿病である、請求項17~19のいずれか一項に記載の方法、使用のための抗体、製品あるいは組成物。
【請求項21】
前記糖尿病が2型糖尿病である、請求項17~19のいずれか一項に記載の方法、使用のための抗体、製品あるいは組成物。
【請求項22】
前記疾患がメタボリックシンドロームである、請求項17または18に記載の方法、使用のための抗体、製品あるいは組成物。
【請求項23】
前記神経変性疾患がパーキンソン氏病である、請求項17に記載の方法、使用のための抗体、あるいは製品。
【請求項24】
前記神経変性疾患がアルツハイマー氏病である、請求項17に記載の方法、使用のための抗体、あるいは製品。
【請求項25】
前記中枢神経系の自己免疫疾患が、多発性硬化症、ギラン・バレー症候群、ランバート・イートン筋無力症症候群、重症筋無力症、横断性脊髄炎、進行性多巣性白質脳症、慢性頭痛および脳性麻痺からなる群より選ばれる、請求項17に記載の方法、使用のための抗体、あるいは製品。
【請求項26】
前記中枢神経系の自己免疫疾患が、多発性硬化症である、請求項17に記載の方法、使用のための抗体、あるいは製品。
【請求項27】
前記創傷が、慢性創傷、急性創傷、糖尿病性創傷、虚血性創傷、潰瘍、火傷および手術創からなる群より選ばれる、請求項17に記載の方法、使用のための抗体、あるいは製品。
【請求項28】
請求項1の抗体をコードする、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項29】
前記CDRアミノ酸配列をコードする核酸配列が、
(i)配列番号3、5、7、11、13および15、
(ii)配列番号19、21、23、27、29および31、あるいは
(iii)配列番号35、37、39、43、45および47
に示されている、請求項28に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項30】
請求項28または29に記載のポリヌクレオチドと、前記ポリヌクレオチドの発現を調節するシスエレメントとを含む、核酸構築物。
【請求項31】
請求項1の抗体、請求項28または29に記載のポリヌクレオチド、あるいは請求項30の核酸構築物を発現する宿主細胞。
【請求項32】
抗IDE抗体の製造方法であって、請求項28または29に記載のポリヌクレオチドあるいは請求項30の核酸構築物を宿主細胞内で発現させることを含む、方法。
【請求項33】
前記抗体の単離を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
抗IDE抗体の製造方法であって、
(a)複数の抗体を提供することと、
(b)野性型IDEとは結合するが、前記野性型IDEと比べて触媒活性の低下した変異IDEとは結合しない抗体を選択するための、前記抗体のスクリーニングを実施することと
を含む、方法。
【請求項35】
前記野性型IDEの配列が配列番号50の配列である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記変異IDEが、配列番号50に対応するE111Qの変換を含む、請求項34~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記IDEのインスリン分解活性を阻害する抗体を選択するための、前記抗体のスクリーニングをさらに含む、請求項34~36のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2020年1月22日出願の米国特許出願第62/964,139号の優先権を主張するものであり、この特許出願の全内容を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
【0002】
配列表に関する陳述
本願の出願と同時に提出された、2020年12月10日作成の45,056バイトのASCIIファイル「85636」を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
【0003】
本発明は、そのいくつかの実施形態において、抗IDE抗体およびその使用に関する。
【背景技術】
【0004】
インスリン分解酵素(IDE、インスリン)は、サイトゾル、ペルオキシゾーム、エンドソーム内および細胞表面に位置づけられる、大きな亜鉛結合プロテアーゼ(約110kDaのトール亜鉛メタロエンドペプチダーゼ)である。この酵素は、アミロイドβ-タンパク質(Aβ)、インスリン、グルカゴン、アミリン、心房性ナトリウム利尿因子およびカルシトニンを含む、β-プリーツシートに富んだアミロイドフィブリルを形成するという性質が共通する、多様な配列の小タンパク質を開裂させる。よってIDEは、多数の短いポリペプチドを開裂することが知られ、インスリンおよびIGF-1といった免疫応答活性の調節が報告されている種々のタンパク質の分解において重要な役割を担う。
【0005】
発見されて以来、IDE阻害剤について、例えば、糖尿病、肥満、中枢神経系の自己免疫疾患、神経変性疾患および水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)感染を含むいくつかの疾患に対する用途が示唆されている(例:Maianti et al. (2014) Nature511, 94-98、Tang, W.-J. (2016) Trends Endocrinol. etab.27, 24-34、並びに国際公開公報第2012/017439号および第2010/086867号)。例えば、同じ出願人による国際公開公報第2010/086867は、長さ25アミノ酸以下のアミノ酸配列を含み、当該アミノ酸配列が少なくとも1つのアスパラギン酸またはそのホモログを含む、インスリン分解酵素(IDE)阻害活性を有する単離されたペプチドの、糖尿病、肥満、高血糖症、網膜損傷、腎不全、神経損傷、微小血管損傷および水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)感染からなる群より選ばれる疾患の治療のために特定された医薬の製造における使用を開示する。同じ出願人による国際公開公報第2012/017439号は、中枢神経系の自己免疫疾患および神経変性疾患からなる群より選ばれる疾患の治療に使用するためのインスリン分解酵素(IDE)阻害剤(例:抗体)を提供する。
【0006】
いくつかのIDEモノクローナル抗体およびポリクローナル抗体が、ウエスタンブロッティング、免疫沈降法、免疫細胞化学、免疫組織化学、および定量的サンドウィッチELISAを含む種々の用途における、齧歯動物および/またはヒトIDEのin vitroの検出用として記載されている[例えば、Delledonne A. et al. Mol Neurodegener. (2009) 4:39を参照]。
【発明の概要】
【0007】
本発明のいくつかの実施形態の一態様において、IDEを特異的に結合する抗原認識領域を含む単離された抗体であって、抗原認識ドメインが以下の相補性決定領域(CDR)アミノ酸配列を含む抗体が提供される。
(i)抗体の重鎖のNからCへと順番に配置された配列番号4(CDR1)、配列番号6(CDR2)および配列番号8(CDR3)、ならびに抗体の軽鎖のNからCへと順番に配置され配列番号12(CDR1)、配列番号14(CDR2)および配列番号16(CDR3)、
(ii)抗体の重鎖のNからCへと順番に配置された配列番号20(CDR1)、配列番号22(CDR2)および配列番号24(CDR3)、ならびに抗体の軽鎖のNからCへと順番に配置され配列番号28(CDR1)、配列番号30(CDR2)および、配列番号32(CDR3)、あるいは
(iii)抗体の重鎖のNからCへと順番に配置された配列番号36(CDR1)、配列番号38(CDR2)および配列番号40(CDR3)、ならびに抗体の軽鎖のNからCへと順番に配置され配列番号44(CDR1)、配列番号46(CDR2)および配列番号48(CDR3)。
【0008】
本発明のいくつかの実施形態の一態様において、抗体(ii)または(iii)を活性成分として含み、薬学的に許容される担体をさらに含む、医薬組成物が提供される。
【0009】
本発明のいくつかの実施形態の一態様において、治療を必要とする対象におけるIDE活性関連疾患を治療するための方法であって、対象に治療有効量の、抗体(ii)または(iii)あるいは医薬組成物を投与することを含み、当該投与によってIDE活性に関連した疾患を予防または治療する方法が提供される。
【0010】
本発明のいくつかの実施形態の一態様において、治療を必要とする対象におけるIDE活性関連疾患の治療に使用する、抗体(ii)または(iii)が提供される。
【0011】
本発明のいくつかの実施形態によると、方法は、疾患の治療薬を対象に投与することをさらに含む。
【0012】
本発明のいくつかの実施形態によると、使用のための抗体は、疾患の治療薬をさらに含む。
【0013】
本発明のいくつかの実施形態によると、対象の生物学的サンプルは、対照生物学的サンプルと比べて、予め定めておいた閾値を超えるIDEレベルを示す。
【0014】
本発明のいくつかの実施形態によると、方法は、対象の生物学的サンプルにおけるIDEレベルを、投与の前に抗体を用いて決定することを含む。
【0015】
本発明のいくつかの実施形態の一態様において、抗体(ii)または(iii)と、疾患を治療するための治療薬とを含む、IDE活性関連疾患の治療用と定められた製品が提供される。
【0016】
本発明のいくつかの実施形態によると、抗体と治療薬は個別の容器に含まれる。
【0017】
本発明のいくつかの実施形態によると、抗体と治療薬は共処方に含まれる。
【0018】
本発明のいくつかの実施形態の一態様において、対象のIDE活性関連疾患を診断する方法であって、抗体を用いて対象の生物学的サンプルのIDEレベルを決定することを含み、対照生物学的サンプルと比べて、IDEレベルが予め定めた閾値を超えることをもって、対象を疾患と診断する方法が提供される。
【0019】
本発明のいくつかの実施形態の一態様において、IDE活性関連疾患と診断された対象における疾患に対する療法の有効性をモニタリングするための方法であって、抗体を用いて、治療中または治療後の対象の生物学的サンプルのIDEレベルを決定することを含み、治療後のIDEレベルが予め定めた閾値より低下したことをもって、療法を有効とする方法が提供される。
【0020】
本発明のいくつかの実施形態の一態様において、IDE活性関連疾患の治療を必要とする対象における疾患を治療するための方法であって、
(a)方法によって対象を診断し、IDEレベルが予め定めた閾値を超えたとき、
(b)対象を疾患用の療法で治療する
ことを含む、対象の疾患を治療する方法が提供される。
【0021】
本発明のいくつかの実施形態の一態様において、IDE活性関連疾患の治療を必要とする対象における疾患を治療するための方法であって、
(a)方法によって対象を診断し、IDEレベルが予め定めた閾値を超えたとき、
(b)IDEレベルに基づき療法を選択する、
ことを含む、対象の疾患を治療する方法が提供される。
【0022】
本発明のいくつかの実施形態によると、療法は抗体(ii)または(iii)を含む。
【0023】
本発明のいくつかの実施形態の一態様において、IDE活性関連疾患と診断された対象の生物学的サンプルと、抗体とを含む、組成物が提供される。
【0024】
本発明のいくつかの実施形態によると、IDE活性関連疾患は、中枢神経系の自己免疫疾患、神経変性疾患、メタボリックシンドローム、糖尿病、肥満、高血糖症、網膜損傷、腎不全、神経損傷、微小血管損傷、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)感染症および創傷からなる群より選ばれる。
【0025】
本発明のいくつかの実施形態によると、IDE活性関連疾患は、中枢神経系の自己免疫疾患、神経変性疾患、糖尿病、肥満、高血糖症、網膜損傷、腎不全、神経損傷、微小血管損傷、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)感染症および創傷からなる群より選ばれる。
【0026】
本発明のいくつかの実施形態によると、IDE活性関連疾患は、メタボリックシンドローム、糖尿病、および肥満からなる群より選ばれる。
【0027】
本発明のいくつかの実施形態によると、疾患は糖尿病である。
【0028】
本発明のいくつかの実施形態によると、糖尿病は1型糖尿病である。
【0029】
本発明のいくつかの実施形態によると、糖尿病は2型糖尿病である。
【0030】
本発明のいくつかの実施形態によると、疾患はメタボリックシンドロームである。
【0031】
本発明のいくつかの実施形態によると、神経変性疾患はパーキンソン氏病である。
【0032】
本発明のいくつかの実施形態によると、神経変性疾患はアルツハイマー氏病である。
【0033】
本発明のいくつかの実施形態によると、中枢神経系の自己免疫疾患は、多発性硬化症、ギラン・バレー症候群、ランバート・イートン筋無力症症候群、重症筋無力症、横断性脊髄炎、進行性多巣性白質脳症、慢性頭痛および脳性麻痺からなる群より選ばれる。
【0034】
本発明のいくつかの実施形態によると、中枢神経系の自己免疫疾患は、多発性硬化症である。
【0035】
本発明のいくつかの実施形態によると、創傷は、慢性創傷、急性創傷、糖尿病性創傷、虚血性創傷、潰瘍、火傷および手術創からなる群より選ばれる。
【0036】
本発明のいくつかの実施形態の一態様において、抗体をコードする単離されたポリヌクレオチドが提供される。
【0037】
本発明のいくつかの実施形態によると、CDRアミノ酸配列をコードする核酸配列は、
(i)配列番号3、5、7、11、13および15、
(ii)配列番号19、21、23、27、29および31、あるいは
(iii)配列番号35、37、39、43、45および47
に示されている。
【0038】
本発明のいくつかの実施形態の一態様において、ポリヌクレオチドと、ポリヌクレオチドの発現を調節するシスエレメントとを含む、核酸構築物が提供される。
【0039】
本発明のいくつかの実施形態の一態様において、抗体、ポリヌクレオチド、あるいは核酸構築物を発現する宿主細胞が提供される。
【0040】
本発明のいくつかの実施形態の一態様において、抗IDE抗体の製造方法であって、ポリヌクレオチドあるいは核酸構築物を宿主細胞内で発現させることを含む方法が提供される。
【0041】
本発明のいくつかの実施形態によると、方法は、抗体の単離を含む。
【0042】
本発明のいくつかの実施形態の一態様において、抗IDE抗体の製造方法であって、
(a)複数の抗体を提供することと、
(b)野性型IDEとは結合するが、野性型IDEと比べて触媒活性の低下した変異IDEとは結合しない抗体を選択するための、抗体のスクリーニングを実施すること
とを含む、方法が提供される。
【0043】
本発明のいくつかの実施形態によると、野性型IDEの配列が配列番号50の配列である。
【0044】
本発明のいくつかの実施形態によると、変異IDEは、配列番号50に対応するE111Qの変換を含む。
【0045】
本発明のいくつかの実施形態によると方法は、IDEのインスリン分解活性を阻害する抗体を選択するための、抗体のスクリーニングをさらに含む。
【0046】
特に定義しない限り、本明細書で使用する全ての技術および/または科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者により通常理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと同様のまたは等価な方法および材料を、本発明の実施形態の実践または試験に使用することができるが、例示的な方法および/または材料を下記に記載する。矛盾する場合、定義を含む特許明細書が優先する。加えて、材料、方法、および実施例は単なる例示であり、必ずしも限定を意図するものではない。
【0047】
本発明のいくつかの実施形態について、その例示のみを目的として添付の図面を参照して本明細書に記載する。以下、特に図面を詳細に参照して示す細部は、例示を目的とし、また本発明の実施形態の詳細な説明を目的とすることを強調する。同様に、図面と共に説明を見ることで、本発明の実施形態をどのように実践し得るかが当業者には明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1-1】図1の(A)~(G)は、抗IDE抗体の作製を示す。図1の(A)~(D)は、組換えヒト野性型(WT)IDEおよび不活性IDE変異体(E111Q)の発現および精製を示す。図1の(A)は、組換えIDEを含むpET28a+プラスミドを図形化した地図である。組換え構築物は、Genewiz Companyに発注し、ベクターのNdeIとHindIIIの間に挿入したものである。Hisタグと、触媒的に不活性のIDE(E111Q)の単一ヌクレオチド変異部位にも印を付けた。図1の(B)は、pET28a-IDEベクターを保有するRosetta BL21 E. coli細胞の0.5mMのIPTGによる誘導前および誘導後の総細胞抽出物(15μg)(それぞれ“unind”および“IPTG”と表した)、GE HisTrapカラムからイミダゾールを用いて溶出させた精製タンパク質(3μg)(“pure”と表した)、GE HisTrapカラムから洗い流したタンパク質(15μg)(“FT”と表した)のSDS-PAGEの結果を示す。図1の(C)は、pET28a-IDEベクターを保有するRosetta BL21 E. coli細胞の総細胞抽出物(15μg)のウエスタンブロット解析を示し、ベクターは、空のベクター(“mock”と表した)、誘導前および誘導後のrhIDE野性型(WT)を有するベクター(それぞれ“unind”および“IPTG”と示した)である。IDEは抗IDEポリクローナル抗体と、続く(IR)-染料二次抗体で検出した。蛍光シグナルはOddiseyスキャナー(Licor社、ピクセルサイズ21μm、0.5mmオフセット、強度-6、平均品質)でメンブランをスキャンすることで検出した。図1の(D)は、1.5μg/LのヒトインスリンをPBS中、12μg/mlのrhIDE WTまたはE111Qと37℃で2時間インキュベートしたIDE活性アッセイを示す棒グラフである。残存インスリンは後からMercodia超感受性(ultrasensitive)マウスインスリンELISAを用いて解析した。検出は450nmのELISAプレートリーダーで実施した。結果は平均±SEM(n=3)で提示した。**はp<0.01、***はp<0.001、Bonferroni補正有の一元ANOVA。
図1-2】図1の(E)は、抗IDE MBP-scFvの発現と精製を示す。A9 MBP-scFvの代表的なFPLC評価を左の画像に示した。溶菌液の可溶性画分をGE HisTrapカラムにアプライした。溶出は、流速2ml/分(ピーク)の0.5Mのイミダゾールで行った。MBP-scFvの3種の選択したクローン(A9、B1およびH3)のSDS-PAGE解析を右の画像に示した。レーン1と2:それぞれ0.5mMのIPTGによる誘導前および誘導後の、MALc-NHNN-scFvベクターを保有するRosetta BL21 E. coli細胞の15μgの総細胞抽出物、レーン4:GE HisTrapカラムからイミダゾールを用いて溶出した3μgの精製タンパク質、レーン3:GE HisTrapカラムから洗い流した15μgのタンパク質。
図1-3】図1の(F)は、抗IDEインクローナル(Inclonal)IgGの発現と精製を示す。pHAKベクター内に抗IDE抗体鎖を保有するRosetta pUBS500 E. coli細胞の細胞融解物の不溶性画分の軽鎖および重鎖のSDS-PAGE解析を上の画像に示す。各レーンに、IPTGによる誘導前および誘導後の10μgの細胞融解物(それぞれ奇数と偶数のレーン)をロードした。レーン1~2:A9 VH、レーン3~4:B1 VH、レーン5~6:H3 VH、レーン7~8:A9 VL、レーン9~10:B1 VL、レーン11~12:H3 VL。B1インクローナルIgGの代表的FPLC評価を中央の画像に示した。B1軽鎖および重鎖の再フォールディング溶液をGE MabSelectカラムにアプライした。溶出は、流速2ml/分(ピーク)のクエン酸バッファー、pH=3.0、で実施した。下の画像は、IPTGによる誘導後の、pHAKベクター内に抗IDE軽鎖および重鎖を保有するRosetta pUBS500 E. coli細胞から精製した軽鎖および重鎖の封入体(それぞれ“VL”および“VH”と示した)、再フォールディング溶液内のインキュベーション後のVLおよびVH(“再フォールド”と示した)、MabSelectカラムを用いた精製後のインクローナルIgG(“IgG”と示した)、陽性対照としての市販のIgG(erbitux)の代表的なSDS-PAGE解析であり、それぞれを還元状態および非還元状態で行った。
図1-4】図1の(G)は、逆キメラH3抗体(rcH3-IgG)の精製を表す。ここに示すのは、マウスIgG1としてのrcH3-IgGの産生と精製のSDS-PAGE(12%ゲル)解析である。レーン1:形質導入から7日後の条件培地(10μgをロード)、レーンM:分子量マーカー、レーン2:タンパク質-G精製rcH3-IgG(5μgをロード)。
図2図2の(A)~(F)は、抗IDEファージディスプレイ抗体の結合および対応する「インクローナル」IgGを示す。図2の(A)~(C)は、ファージ-ELISAによって決定した、scFvディスプレイファージであるクローンA9(図2の(A))、B1(図2の(B))およびH3(図2の(C))によるIDE結合を示すグラフである。解析したscFvディスプレイファージは段階希釈して、2.5μg/mlのWT rhIDE IDE(“IDE”と表した)または無関係のタンパク質であるBSA、HisTrap精製組換えタンパク質(“His”と表した)とMBP-LacZで被覆したELISAプレートのウェルに加えた。結合したファージは、マウス抗M13抗体と続くHRP結合ヤギ抗マウス二次抗体で検出した。結果は平均±SEMで表した(n=3)。図2の(D)~(F)は、ELISAによって決定した、精製インクローナルIgGであるクローンA9(図2の(D))、B1(図2の(E))およびH3(図2の(F))によるIDE結合を示すグラフである。解析した抗体は段階希釈して、2μg/mlのWT rhIDE IDE(“IDE”と表した)またはBSAで被覆したELISAプレートのウェルに加えた。結合した抗体は、HRP結合ヤギ抗マウス二次抗体で検出した。結果は平均±SEMで表した(n=4)。
図3-1】図3の(A)~(B)は、抗IDE MBP-scFvまたはインクローナルIgGを用いたIDE阻害アッセイを示す。図は、作製した抗体とのインキュベーション後の残存インスリンレベルで決定したIDE活性阻害を表す。1.5μg/mlのIDEを、以下のいずれか:示した濃度の抗IDE scFvクローンA9、B1またはH3、または対照scFv(図3の(A))、あるいは抗IDEインクローナルIgGクローンA9またはH3、または無関係のインクローナルIgG(“AF”と表した)(図3の(B))、あるいはIDE阻害剤ペプチドADT21と室温で1時間インキュベートし、続いて、2μg/Lのヒトインスリンと37℃で2時間のインキュベーションを行った。残存インスリンを後にMercodia超感受性マウスインスリンELISAで解析した。検出は450nmのELISAプレートリーダーで実施した。結果は平均±SEMで表した(n=3)。***はP<0.001、Bonferroni補正有の一元ANOVA。
図3-2】同上
図4図4の(A)~(C)は、作製した抗IDE抗体の構造特異性(conformational specificity)の特徴付けを示す。図4の(A)は、作製したMBP-scFvの本来のIDEへの結合を示す代表的なドットブロット画像である。段階希釈(0.1-1μg)したWT rhIDEおよび20μgのマウス脾細胞融解物を、本来のまたは変性条件で(95℃で5分の煮沸後に)メンブランにスポットした。次に、抗IDE MBP-scFv(クローンA9、B1またはH3)、続いてマウス抗MBP抗体、および後にHRP結合ヤギ抗マウス二次抗体を加えた。検出はECL反応で実行した。図4の(B)は、ELISAで決定した、逆キメラrcH3-IgGのWTまたは変異rhIDEへの結合を示すグラフを表す。5μg/mlのWT rhIDE、不活性IDE変異体(E111Q、“変異体IDE”と表した)またはBSAを、段階希釈したrcH3-IgGまたは陰性対照である抗体rc2E12-IgG(100nMから開始)インキュベートした。抗体はHRP結合ヤギ抗マウス二次抗体で検出した。結果は平均±SEMで表した(n=3)。図4の(C)は、rcH3-IgGまたは陰性対照であるrc2E12-IgGとのインキュベーション後の残存インスリンレベルによって決定した、IDE活性の阻害を示す棒グラフである。0.1μg/mlのIDEをrcH3-IgGまたはrc2E12-IgGと室温で1時間インキュベートし、続いて、1.5μg/Lのヒトインスリンと37℃で1時間のインキュベーションを行った。残存インスリンを後にMercodia超感受性マウスインスリンELISAで解析した。検出は450nmのELISAプレートリーダーで実施した。結果は平均±SEMで表した(n=3)。
図5図5の(A)~(C)は、STZ誘導糖尿病マウスモデルに対する逆キメラ抗IDE H3抗体の治療効果を示す。図5の(A)~(B)は、oGTTアッセイ(各群にn=5匹のマウス、#は群内のp<0.01、図5の(A))またはITTアッセイ(各群にn=5匹のマウス、*はp<0.05、***はp<0.001、いずれも群内、図5の(B))で決定した、STZ注射の2日後のrcH3-IgGまたは陰性対照であるrc2E12-IgGの腹腔内投与に続くインスリンレベルを示すグラフである。図5の(C)は、STZ処理マウスへの腹腔内投与後の異なる日付のrcH3-IgGレベルを示すグラフである。(各群にn=2~4匹のマウス)。結果は平均±SEMで表した。
図6図6の(A)~(B)は、パーキンソン氏病におけるミクログリアの神経毒性表現型を表す、DJ-1ノックダウン(KD)ミクログリアにおける活性酸素種(ROS)の減少に対する逆キメラ抗IDE H3抗体(本明細書では「H3 Fab」と称する)のFab2セグメントin vitro効果を示す。加えて、ROSの産生を増やすために、表示した場合は細胞をロテノンで処理した(“Rot”と表した)。示したのはメチレンブルー(MB)当たりのROSレベル(図6の(A))および培地対照と比較したH3 Fab抗体とのインキュベーション後のMB値である。DJ-1-KDミクログリアは対照ミクログリアと比べてより高いレベルのROSを示し、ロテノン誘導性増加は抗IDE H3 Fabを用いて軽減することができた。さらに、MB試験を用いた結果は、インスリン処置またはH3 Fab処置がロテノン負荷(challenge)後の細胞生存率に有意な影響を与えることがないことを示した。(N=3、各実験当たり2~4の繰り返し、nの合計=6~12)。Rot=ロテノン、ins=インスリン。結果は平均±SEMで表した***はp<0.001、N.S.は有意性なし。
図7図7の(A)~(C)は、ヒト血清中のIDEの検出のためのELISAアッセイを示す。図7の(A)は、ELISA手順の概略図である:(I)96穴ELISAプレートを捕捉抗体として機能する組換えA9 IgGで一晩被覆した、(II)ウェルをPBSで一回洗浄し、3%のスキムミルクでブロッキングし、(III)血清をプレートに加え、濃度の分かっている組換えヒトIDEを対照として使用し、(IV)検出抗体として機能するポリクローナルウサギ抗IDE抗体とウェルをインキュベートし、(V)ウェルを洗浄し、HRP結合ヤギ抗ウサギ抗体とインキュベートし、方法に記載したように現像した。図7の(B)は、ELISAアッセイの感度曲線を示す。図7の(C)は、IgG A9がrhIDEの構造エピトープを認識することを示す。5μg/mlのrhIDEのPBS溶液を調製し、ELISAプレートの半分を被覆するために直接使用するか、またはELISAプレートの残りの半分を被覆するために、使用前に80℃で20分間加熱し、次いで氷上で冷却して変性させた。被覆、ブロッキングおよび洗浄工程に続き、本来のまたは熱変性したrhIDEで被覆したウェルに100、33.3、11.1または3.7nMの濃度のIgG A9を3セットずつアプライした。結果は平均±SEMで表した(n=3)。
図8図8の(A)~(B)は、IgG A9がrhIDE上の構造エピトープを認識することを示す。5μg/mlのrhIDEのPBS溶液を調製し、ELISAプレートの半分を被覆するために直接使用するか、またはELISAプレートの残りの半分を被覆するために、使用前に80℃で20分間加熱し、次いで氷上で冷却して変性させた。4℃で一晩、50μl/ウェルでプレートを被覆した。翌日、プレートを300μl/ウェルのPBSTで1回洗浄し、37℃で1時間、300μl/ウェルの3%スキムミルクのPBS溶液でブロッキングした。次に、プレートを300μl/ウェルのPBSTで3回洗浄し、(図8の(A))本来のまたは熱変性したrhIDEで被覆した3列のウェル中の各ウェルに100、33.3、11.1または3.7nMの濃度のIgG A9をアプライした。次に、300μl/ウェルのPBSTで3回洗浄し、50μl/ウェルの×5000にPBSTで希釈したHRP結合ヤギ抗ヒトIgGを加えた。(図8の(B))ウェルに被覆された総rhIDEを定量化するために、プレートの残り半分を、PBSTで×2000、×4000、×8000、×16000に希釈したHRP結合ヤギ抗Hisタグ抗体とインキュベートした。プレートを室温で1時間静置し、300μl/ウェルのPBSTで3回洗浄した。最後に、50μl/ウェルのHRP基質であるTMBを比色するまで加えた。2分後に50μl/ウェルの1MのHSOを加えることで反応を停止し、BioTekEpochマイクロプレートリーダーで解析した。光学密度を450および620なのメーターの波長で測定した。結果は平均±SEMで表した(n=3)。
図9図9は、対照健常者(n=24)と比べてMS患者(n=51)において、血清中のIDEが高レベルであることを示す。結果は平均±SEMで表し、***はp<0.001。
図10図10の(A)~(C)は、血清IDEレベルと、MSの以下の成分との相関を示す。トリグリセリド:r=0.423,p<0.01(図10の(A))、インスリン:r=0.294,p<0.05(図10の(B))、およびHDLc:r=-0.366,p<0.05(図10の(C))。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本発明は、その幾つかの実施形態において、抗IDE抗体およびその使用に関する。
【0050】
本発明の原理および手順は、図面および以下の説明に参照することでよりよく理解されるであろう。
【0051】
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳細に説明する前に、本発明は、必ずしもその用途が、以下の記載に示すか、または実施例で例示する詳細に限定されるものではないことを理解するべきである。本発明は、他の実施形態が可能であり、また、さまざまな手段で実施または実行することが可能である。さらに、本明細書で使用する専門語および用語は説明のためのものであると理解するべきであり、限定と捉えるべきではない。
【0052】
インスリン分解酵素(IDE)は、複数の小さなポリペプチドを切断し、インスリン分解において重要な役割を担うことが知られる、大きな亜鉛結合プロテアーゼである。いくつかのIDEモノクローナルおよびポリクローナル抗体が、in vitroの用途[Delledonne A. et al. Mol Neurodegener. (2009) 4:39を参照]およびin vivoの用途(国際公開第2012/017439号参照)のために当業界では発表されている。さらに、ペプチド阻害剤を含むIDE阻害剤が種々の治療用途のために既に報告されている(国際公開第2010/086867号参照)。
【0053】
本発明の特定の実施形態を実践するに当たり、本発明者らは、IDEのインスリン分解活性を特異的にターゲティングし、阻害する新規なモノクローナル抗IDE抗体を作製した。その結果、本発明の特定の実施形態は、IDE関連の疾患および病状に対する診断および治療に抗IDE抗体を使用することを示唆した。
【0054】
後述する実施例に示したように、本発明者らは、ヒトインスリン分解酵素(IDE)および変異IDE(E111Q)をE. coliで発現させるためのプラスミドを作製した(実施例1、図1の(A))。変異IDE(E111Q)は、基質に対する求核性の攻撃ができないことによって触媒活性を失う部位特異的変異を含む。よって、触媒活性を有するIDE(即ち、野性型IDE)に高親和性で結合する特定の抗体クローンを単離するために、両方のペプチドを使用した。E. coliにIDEタンパク質を発現させて精製し、タンパク質の精製と同定を実証した(図1の(B)~(D)参照)。ファージディスプレイ技術を使用し、精製IDEを用いて組換えヒト野性型IDEの高親和性エピトープを認識し、結合する特異的単鎖可変断片(scFv)クローンを釣り上げた。ファージの3種のクローン、具体的には、A9、H3およびB1を選択した(実施例1、図2の(C))。続いて、可溶性抗体として産生するために、scFvsを再フォーマット化し、以下の3種のフォーマットで試験した:MBP-scFv、「インクローナル」として作製したヒトIgG1、および哺乳動物細胞の培養物で作製した逆キメラIgG。これら抗体の特異性とIDE阻害性の性質をさらにin vitroで実証した(実施例1~2、図1の(E)~図4の(C))。加えて、逆キメラH3 IgG抗体は、STZ誘導性マウス糖尿病モデルにおいて、血糖値およびインスリン活性を改善した(実施例2、図5の(A)~(C))。加えて、逆キメラH3 IgG抗体のFab断片は、パーキンソン氏病の表現型を有するミクログリア細胞におけるin vitroの活性酸素種の産生を減少させた(実施例3、図6の(A)~(B))。続いて、本発明者らは、作製した抗体を使用して高感度ELISAを開発した(実施例4、図7の(A)~(C))。このELISAを使用して、発明者らはヒト血清IDEレベルと、メタボリックシンドロームの存在および/または重症度との強い相関を示すことができた(実施例4,図9図10の(C))。
【0055】
よって、本発明の一態様によると、IDEを特異的に結合する抗原認識領域を含む単離された抗体であって、抗原認識ドメインが以下の相補性決定領域(CDR)アミノ酸配列を含む抗体が提供される。
(i)抗体の重鎖のNからCへと順番に配置された配列番号4(CDR1)、配列番号6(CDR2)および配列番号8(CDR3)、ならびに抗体の軽鎖のNからCへと順番に配置され配列番号12(CDR1)、配列番号14(CDR2)および配列番号16(CDR3)、
(ii)抗体の重鎖のNからCへと順番に配置された配列番号20(CDR1)、配列番号22(CDR2)および配列番号24(CDR3)、ならびに抗体の軽鎖のNからCへと順番に配置され配列番号28(CDR1)、配列番号30(CDR2)および、配列番号32(CDR3)、あるいは
(iii)抗体の重鎖のNからCへと順番に配置された配列番号36(CDR1)、配列番号38(CDR2)および配列番号40(CDR3)、ならびに抗体の軽鎖のNからCへと順番に配置され配列番号44(CDR1)、配列番号46(CDR2)および配列番号48(CDR3)。
【0056】
本明細書において使用する「インスリン分解酵素(IDE)」という用語は、アミロイドβ-タンパク質(Aβ)、インスリン、グルカゴン、アミリン、心房性ナトリウム利尿因子、カルシトニン(例:GenBankアクセッション番号NM_004969およびNP_004960)を含む複数の小さなポリペプチドの細胞内処理に関与するM16Aメタロプロテアーゼサブファミリーの大きな亜鉛結合プロテアーゼである、インスリジンまたはインスリンプロテアーゼを意味する。特定の実施形態によると、IDEはヒトIDEである。本発明の例示的なIDEはEC3.4.24.56に示されるものである。
【0057】
本明細書において使用する「野性型ヒトインスリン分解酵素」は、WT IDEとも称し、機能的ヒトIDEのIDE遺伝子の発現産物を意味する。インスリンに対して100nMの親和性を有し、インスリンを36.6マイクロモルの速度で分解し、ヒト組換えIDEはヒトインスリンを1μmole/minの速度で分解する。例示的なWT IDEを配列番号50に示した。
【0058】
本明細書において使用する「変異IDE E111Q型」は、ヒトIDEの触媒活性の減少した改変型であって、少なくとも1つの触媒部位(配列番号50に対応する111番グルタミン酸のグルタミンへ)の変異を有するものを意味する。例示的な変異IDE E111Q型を配列番号52に示した。
【0059】
本明細書において使用する「単離された」という用語は、天然の環境(例えば、血清)から少なくとも部分的に分離されたこと、あるいは複数の抗体を含むサンプル中の主たる抗体である、あるいは生物学的サンプル中の唯一の抗体であることを意味する。
【0060】
本発明で使用される「抗体」という用語は、インタクトな分子および(抗原のエピトープに結合することができる)その機能的断片を含む。
【0061】
本明細書で使用される「エピトープ」という用語は、抗体のパラトープが結合する抗原の任意の抗原決定基を意味する。エピトープ決定基は、通常、アミノ酸や炭水化物側鎖等の分子の化学的に活性な表面グループで構成されており、通常、特定の3次元構造特性を有すると共に特定の電荷特性を有する。
【0062】
特定の実施形態によると、抗体断片には、HLA拘束性に抗原のエピトープに結合することができる、単鎖、Fab、Fab’およびF(ab’)2断片、Fd、Fcab、Fv、dsFv、scFv、MBP-scFv、ダイアボディ、ミニボディ、ナノボディ、Fab発現ライブラリーまたは単一ドメイン分子、例えばVHおよびVLが含まれるが、これらに限定されない。
【0063】
特定の実施形態によると、抗体は完全なまたはインタクトな抗体である。
【0064】
特定の実施形態によると、抗体は抗体断片である。
【0065】
本発明の幾つかの実施形態を実施するための適切な抗体断片としては、免疫グロブリン軽鎖(本明細書では「軽鎖」と称する)の相補性決定領域(CDR)、免疫グロブリン重鎖(本明細書では「重鎖」と称する)の相補性決定領域、軽鎖の可変領域、重鎖の可変領域、軽鎖、重鎖、Fd断片、およびFv、単鎖Fv(scFv)、ジスルフィド安定化Fv(dsFv)、Fab、Fab’およびF(ab’)2等の軽鎖と重鎖の両方の可変領域の本質的に全体を含む抗体断片、あるいは抗体のFc領域を含む抗体断片が挙げられる。
【0066】
本明細書で使用される「相補性決定領域」又は「CDR」という用語は、重鎖および軽鎖ポリペプチドの可変領域内に見出される抗原結合領域を指すのに互換的に用いられる。一般に、抗体は、VHの各々の3種のCDR(CDR HI又はHI、CDR H2又はH2、およびCDR H3又はH3)とVLの各々の3種(CDR LI又はLI、CDR L2又はL2、およびCDR L3又はL3)を含む。
【0067】
可変領域又はCDRを構成する特定の抗体内のアミノ酸残基の同一性は、当技術分野で良く知られている方法を用いて確認することができ、Kabat et al.によって定義された配列多様性(例えば、Kabat et al., 1992, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, NIH, Washington D.C.を参照)、Chothia et al.によって定義された構造ループ領域の位置(例えば、Chothia et al., Nature 342:877-883, 1989.を参照)、Oxford MolecularのAbM抗体モデリングソフトウェア(現在Accelrys(登録商標)、Martin et al., 1989, Proc. Natl Acad Sci USA. 86:9268、およびワールドワイドウェブサイトwww.bioinf-org.uk/absを参照)を使用したKabatとChothia間の妥協案、接触定義で定められた利用可能な複合結晶構造(MacCallum et al., J. Mol. Biol. 262:732-745, 1996を参照)および「立体構造定義」(例えば、Makabe et al., Journal of Biological Chemistry, 283:1156-1166, 2008を参照)等の方法が挙げられる。
【0068】
本明細書で使用される「可変領域」および「CDR」は、当技術分野で公知の任意のアプローチ(様々なアプローチの組み合わせを含む)によって定義される可変領域およびCDRを意味し得る。
【0069】
特定の実施形態によれば、可変領域および/又はCDRを構成する抗体内のアミノ酸残基の同一性は、翻訳されたコード遺伝子から演繹されたアミノ酸配列によって確認される。
【0070】
軽鎖と重鎖の両方の可変領域の全体又は本質的に全体を含む機能的抗体断片は次のように定義される。
(i)Fv: 2本の鎖として表される、軽鎖(VL)の可変領域と重鎖(VH)の可変領域とで構成される遺伝子操作された断片と定義される。
(ii)単鎖Fv(「scFv」): 遺伝的融合単鎖分子として適切なポリペプチドリンカーによって連結された、軽鎖の可変領域と重鎖の可変領域を含む遺伝子操作された単鎖分子。
(iii)ジスルフィド安定化Fv(「dsFv」): 遺伝子操作されたジスルフィド結合によって連結された、軽鎖の可変領域と重鎖の可変領域を含む遺伝子操作された抗体。
(iv)Fab: 抗体分子の一価の抗原結合部分を含む抗体分子の断片であって、完全な抗体(whole antibody)を酵素パパインで処理してインタクトな軽鎖と、可変ドメインおよびCH1ドメインとで構成される重鎖のFd断片とを作製することによって得ることができるもの。
(v)Fab’: 完全な抗体を酵素ペプシンで処理した後に還元することで得ることができる、抗体分子の一価の抗原結合部分を含む抗体分子断片(抗体分子1個当たり2個のFab’断片が得られる)。
(vi)F(ab’)2: 完全な抗体を酵素ペプシンで処理することによって得られる、抗体分子の一価の抗原結合部分を含む抗体分子断片(即ち、2個のジスルフィド結合によって結合しているFab’断片の二量体)。
(vii)単一ドメイン抗体又はナノボディは、抗原に対して十分な親和性を示す単一のVH又はVLドメインで構成されている。
(viii)Fcab: 抗原結合能を抗体のFc領域に導入することで抗原結合ドメインとして開発された、抗体のFc部分を含む抗体分子の断片。
【0071】
特定の実施形態によると、抗体はscFvである。
【0072】
特定の実施形態によると、抗体は、MBP-scFvとしても知られる、E. coliマルトース結合タンパク質への融合によって安定化されたscFvであり、例えば、Bach H1, et al. J Mol Biol. (2001) Sep 7;312(1):79-93に記載されており、後述する実施例にも記載されているものである。
【0073】
特定の実施形態によれば、抗体の重鎖定常領域は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA1、IgA2、IgDまたはIgEである。
【0074】
特定の実施形態によれば、抗体はIgG抗体である。
【0075】
特定の実施形態によれば、抗体アイソタイプはIgG1又はIgG4である。
【0076】
抗体は単一特異性(1個のエピトープ又はタンパク質を認識可能である)、二重特異性(2個のエピトープ又はタンパク質に結合可能である)、又は多重特異性(複数のエピトープ又はタンパク質を認識可能である)とすることができる。
【0077】
特定の実施形態によれば、抗体は単一特異性抗体である。
【0078】
特定の実施形態によれば、抗体は多重特異性、例えば、二重特異性、三重特異性、四重特異性である。
【0079】
本発明の幾つかの実施形態によれば、抗体は二重特異性抗体である。
【0080】
二重機能性抗体としても知られる、二重特異性抗体は、第1の抗原のための少なくとも1種の抗原認識部位と、第2の抗原のための少なくとも1種の抗原認識部位とを有する。このような抗体は、組換えDNA手法または公知の方法で化学的に作製することができる。化学的に作られた二重特異性抗体としては、二価の特性を維持するように還元および再構成された抗体、並びに少なくとも2つの抗原認識部位を各抗原に対して有するように化学的にカップリングされた抗体が挙げられるが、これらに限定されるものではない。二重特異性抗体は、2つの異なる抗原を認識可能な全ての抗体または抗体複合体、あるいは抗体の多量体を含む。
【0081】
特定の実施形態によると、抗体はモノクローナル抗体である。
【0082】
抗体およびその断片を作製する方法は当技術分野で良く知られている(例えば、Harlow and レーン, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York, 1988を参照、この文献を本参照によって援用する)。
【0083】
特定の実施形態によると、抗体は、哺乳動物細胞内で産生された組換え体である。
【0084】
特定の実施形態によると、抗体は、細菌内で産生された組換え体である。
【0085】
本発明の幾つかの実施形態に係る抗体断片は、抗体のタンパク質分解性加水分解によって、又は断片をコードするDNAのE. coli細胞又は哺乳動物細胞(例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞培養物又は他のタンパク質発現系)での発現によって製造することができる。抗体断片は、従来の方法による完全な抗体のペプシン消化又はパパイン消化によって得ることができる。例えば、ペプシンによる抗体の酵素切断によってF(ab’)2と表示される5S断片を得て抗体断片を生成することができる。この断片を、チオール還元剤、および必要に応じてジスルフィド結合の切断から生じるスルフヒドリル基のブロッキング基を使用して更に切断し、3.5S Fab’一価断片を生成することができる。或いは、ペプシンを使用した酵素切断によって、2個の一価Fab’断片と1個のFc断片を直接生成する。これらの方法は、例えば、Goldenberg(米国特許第4,036,945号および第4,331,647号明細書)および当該特許に含まれる参考文献に記載されているが、これらの特許の全内容を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。Porter, R. R.[Biochem. J. 73: 119-126 (1959)]も参照。インタクトな抗体によって認識される抗原に断片が結合する限り、抗体を切断する他の方法(例えば、一価の軽重鎖断片を形成する重鎖の分離、断片の更なる切断、又は他の酵素的、化学的又は遺伝的技法)も用いることができる。
【0086】
Fv断片はVH鎖とVL鎖の会合を含む。Inbar et al.[Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 69:2659-62 (19720)]に記載のように、この会合は非共有結合性の可能性がある。或いは、分子間ジスルフィド結合によって可変鎖を結合するか、又はグルタルアルデヒド等の化学物質によって可変鎖を架橋することができる。好ましくは、Fv断片はペプチドリンカーによって結合されたVH鎖とVL鎖を含む。このような単鎖抗原結合タンパク質(sFv)の調製は、オリゴヌクレオチドによって結合されたVHおよびVLドメインをコードするDNA配列を含む構造遺伝子を構築することによって行う。この構造遺伝子を発現ベクターに挿入し、次にそれをE. coli等の宿主細胞に導入する。組換え宿主細胞は、2個のVドメインを架橋するリンカーペプチドによって単一ポリペプチド鎖を合成する。sFvを生成する方法は、例えば、Whitlow and Filpula, Methods 2: 97-105 (1991、Bird et al., Science 242:423-426 (1988)、Pack et al., Bio/Technology 11:1271-77 (1993)、および米国特許第4,946,778号明細書(その全内容を参照によってここに援用する)に記載されている。
【0087】
抗体断片の他の形態は、単一の相補性決定領域(CDR)をコードするペプチドである。CDRペプチド(「最小認識ユニット」)は、目的の抗体のCDRをコードする遺伝子を構築することで得ることができる。このような遺伝子は、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応を用いて抗体産生細胞のRNAから可変領域を合成して調製する。例えば、Larrick and Fry [Methods, 2: 106-10 (1991)]を参照。
【0088】
特定の実施形態によると、抗体は、キメラ抗体である。
【0089】
特定の実施形態によれば、抗体はヒト化抗体である。非ヒト(例えば、マウス)抗体のヒト化の形態は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含む、免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖又はその断片(例えば、Fv、Fab、Fab’、F(ab’)又は抗体の他の抗原結合サブ配列)のキメラ分子である。ヒト化抗体には、レシピエントの相補性決定領域(CDR)由来の残基が、所望の特異性、親和性および能力を有するマウス、ラット又はウサギ等の非ヒト種(ドナー抗体)のCDR由来の残基で置換されたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)が含まれる。場合によっては、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク残基が対応する非ヒト残基に置換される。ヒト化抗体は、レシピエント抗体にも移入されたCDR又はフレームワーク配列にも見られない残基を含むこともある。一般に、ヒト化抗体は少なくとも1個(通常は2個)の可変ドメインの実質的に全てを含み、CDR領域の全て又は実質的に全ては非ヒト免疫グロブリンのCDR領域に対応し、FR領域の全て又は実質的に全てはヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のFR領域である。ヒト化抗体は、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部、通常はヒト免疫グロブリンのそれを含むことも最適である[Jones et al., Nature, 321:522-525 (1986)、Riechmann et al., Nature, 332:323-329 (1988)、およびPresta, Curr. Op. Struct. Biol., 2:593-596 (1992)]。
【0090】
非ヒト抗体をヒト化するための方法は当技術分野で良く知られている。一般に、ヒト化抗体は非ヒトである供給源から導入された1種以上のアミノ酸残基を有する。このような非ヒトアミノ酸残基は移入残基と称されることが多く、通常は移入可変ドメインから得られる。ヒト化は本質的に、Winterとその同僚の方法[Jones et al., Nature, 321:522-525 (1986); Riechmann et al., Nature 332:323-327 (1988); Verhoeyen et al., Science, 239:1534-1536 (1988)]に従い、齧歯動物のCDR又はCDR配列をヒト抗体の対応する配列の代わりに用いて行うことができる。従って、そのようなヒト化抗体はキメラ抗体(米国特許第4,816,567号明細書)であり、インタクトなヒト可変ドメインよりも実質的に少ないものが非ヒト種由来の対応する配列で置換されている。実際には、ヒト化抗体は通常、一部のCDR残基と恐らく一部のFR残基が齧歯動物抗体の類似部位由来の残基で置換されているヒト抗体である。
【0091】
特定の実施形態によれば、抗体は、ヒト抗体である。
【0092】
ヒト抗体の生成は、ファージディスプレイライブラリーを含む、当技術分野で公知の様々な技法[Hoogenboom and Winter, J. Mol. Biol., 227:381 (1991)、Marks et al., J. Mol. Biol., 222:581 (1991)、Bitton A, Nahary L, Benhar I. Methods Mol Biol. 1701:349-363 (2018)]を用いて行うこともできる。Cole et al.およびBoerner et al.の技法もヒトモノクローナル抗体の調製にも利用することができる(Cole et al., Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, p. 77 (1985)およびBoerner et al., J. Immunol., 147(1):86-95 (1991))。同様に、トランスジェニック動物、例えば、内因性免疫グロブリン遺伝子が部分的又は完全に不活性化されたマウスにヒト免疫グロブリン遺伝子座を導入してヒト抗体を生成することができる。チャレンジの際にヒト抗体の産生が観察されるが、これは、遺伝子再編成、構築および抗体レパートリー等あらゆる点でヒトで見られるものと酷似している。このアプローチは、例えば、米国特許第5,545,807号、第5,545,806号、第5,569,825号、第5,625,126号、第5,633,425号および第5,661,016号明細書、および次の科学文献:Marks et al., Bio/Technology 10,: 779-783 (1992)、Lonberg et al., Nature 368: 856-859 (1994)、Morrison, Nature 368 812-13 (1994)、Fishwild et al., Nature Biotechnology 14, 845-51 (1996)、Neuberger, Nature Biotechnology 14: 826 (1996)、および Lonberg and Huszar, Intern. Rev. Immunol. 13, 65-93 (1995)に記載されている。
【0093】
細胞内の特定のコンパートメントのターゲティングは、細胞内抗体(「イントラボディ」としても知られる)によって達成され得ることを理解されたい。これらは実質的に細胞内局在化シグナルを付加したSCAである(例:ER、ミトコンドリア、核、細胞質由来)。この技術は、当業界で使用に成功している(報告について、Richardson and Marasco, 1995, TIBTECH vol. 13を参照)。イントラボディは、使用しなければ大量に存在する細胞表面受容体の発現を事実上排除し、細胞内のタンパク質機能を阻害する(例えば、Richardson et al., 1995, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92: 3137-3141、Deshane et al., 1994, Gene Ther. 1: 332-337、Marasco et al., 1998 Human Gene Ther 9: 1627-42、Shaheen et al., 1996 J. Virol. 70: 3392-400、Werge, T. M. et al., 1990, FEBS Letters 274:193-198、Carlson, J.R. 1993 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:7427-7428、Biocca, S. et al., 1994, Bio/Technology 12: 396-399、Chen, S-Y. et al., 1994, Human Gene Therapy 5:595-601、Duan, L et al., 1994, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:5075-5079、Chen, S-Y. et al., 1994, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:5932-5936、Beerli, R.R. et al., 1994, J. Biol. Chem. 269:23931-23936、Mhashilkar, A.M. et al., 1995, EMBO J. 14:1542-1551、Marasco et al.の国際公開第94/02610号およびDuan et al.の国際公開第95/03832号を参照)。
【0094】
特定の実施形態によると、IDEは細胞表面のみならず、サイトゾル、ペルオキシゾーム、エンドソーム内にも発現されることから、抗体は細胞内抗体である。
【0095】
この点について、細胞内抗体はタンパク質の正しいコンパートメントへの移動をブロックして活性を阻害し得ることが示されている(例えば、Boldicke J. Cell. Mol. Med. Vol 11, No 1, 2007 pp. 54-70、Persic et al. Gene 187 (1997) 1-8、およびShaki-Loewenstein et al. Journal of Immunological Methods 303 (2005) 19-39を参照)。よって、本発明のいくつかの実施形態の細胞内抗体は、IDEそのものに固有の触媒活性を必ずしも阻害する必要はない。
【0096】
細胞内抗体発現ベクターを作製するために、目的の標的タンパク質に特異的な抗体の軽鎖および重鎖を、典型的にはAPLP1に特異的なモノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマから単離した。抗APLP1モノクローナル抗体または組換えモノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマは、当業界で公知の方法によって作製することができる。APLP1タンパク質に特異的なモノクローナル抗体(例えば、ハイブリドーマ由来モノクローナル抗体と、コンビナトリアルライブラリー由来の組換え抗体のいずれか)が一度単離されたら、モノクローナル抗体の軽鎖および重鎖をコードするDNAを標準的な分子生物学的技術で単離する。ハイブリドーマ由来抗体の場合、軽鎖および重鎖のcDNAは、例えば、PCR増幅またはcDNAライブラリーのスクリーニングによって得ることができる。ファージディスプレイライブラリー等に由来の組換え抗体の場合、軽鎖および重鎖をコードするcDNAをライブラリースクリーニング工程で単離されたディスプレイパッケージ(例:ファージ)から回収し、抗体の軽鎖および重鎖の遺伝子のヌクレオチド配列を決定することができる。例えば、多くのこのような配列がKabat, E. A., et al. (1991) Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, U.S. Department of Health and Human Services, NIH Publication No. 91-3242および「Vbase」ヒト生殖系配列データベースに開示されている。得られたら、標準的な方法を用いて、抗体の軽鎖配列および重鎖配列を組換え発現ベクターにクローニングする。
【0097】
軽鎖および重鎖の細胞質発現のために、軽鎖および重鎖の疎水性リーダー配列をコードするヌクレオチド配列を除去する。細胞内抗体発現ベクターは複数の形態の内の1種の細胞内抗体をコードし得る。例えば、一実施形態において、ベクターは、全長抗体軽鎖および重鎖をコードし、細胞内で全長抗体を発現する。別の実施形態においては、ベクターは、軽鎖の全長をコードするが、重鎖のVH/CH1領域のみをコードし、細胞内でFab断片を発現する。別の実施形態においては、ベクターは単鎖抗体(scFv)をコードし、軽鎖および重鎖の可変領域は可とう性ペプチドリンカー[例:(GlySer)]で連結され、単鎖分子として発現される。細胞内でAPLP1活性を阻害するために、細胞内抗体をコードする発現ベクターを、後述する標準的な形質導入方法によって細胞に導入する。
【0098】
いくつかの実施形態において、本願で提供する抗体は、細胞浸透剤と機能的に関連付けることができる。本願で使用する「細胞浸透剤」という用語は、抗体の細胞膜を介した転移を増強する薬剤を意味する。
【0099】
例示的な細胞透過剤は、細胞浸透性ペプチドである。
【0100】
本願で使用する「細胞浸透性ペプチド」とは、膜透過性複合体の、細胞の細胞質膜および/または核膜を介した移動に関連したエネルギー依存性(即ち、非飲食作用性)転移特性を付与する短い(約12~30残基の)アミノ酸配列またはその機能的なモチーフを含むペプチドである。本発明のいくつかの実施形態において膜透過性複合体に用いられる細胞浸透性ペプチドは、ジスルフィド結合を、このような結合のために修飾した二本鎖リボ核酸と自由に形成するまたは形成するように誘導化されている少なくとも1種の非機能的システイン残基を含むことが好ましい。このような性質を付与する代表的なアミノ酸モチーフが米国特許第6,348,185号明細書に列挙されており、本参照をもってその内容を明示的に援用する。本発明のいくつかの実施形態における細胞浸透性ペプチドとしては、ペネトラチン(penetratin)、トランスポータン(transportan)、pIsl、TAT(48-60)、pVEC、MTS、およびMAPが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0101】
加えてまたは代替として、リポソーム等の脂質粒子を細胞浸透剤として使用してもよい。
【0102】
リポソームには、脂質二重膜から構成される合成(即ち、非天然の)構造であって、容積を内包するものが挙げられる。リポソームには、エマルション、フォーム、ミセル、不溶性単層、液晶、リン脂質分散液、ラメラ層等が挙げられる。リポソームは当業界で公知のいずれかの方法で作製することができる[Monkkonen, J. et al., 1994, J. Drug Target, 2:299-308、Monkkonen, J. et al., 1993, Calcif. Tissue Int., 53:139-145、Lasic D D., Liposomes Technology Inc., Elsevier, 1993, 63-105. (chapter 3)、Winterhalter M, Lasic D D, Chem Phys Lipids, 1993 September; 64(1-3):35-43]。リポソームは正電荷、負電荷を帯びていてもよいし、中性でもよい。
【0103】
例えば、Alfonso et al.[The science and practice of pharmacy, Mack Publishing, Easton Pa 19th ed., (1995)]およびKulkarni et al.[J. Microencapsul.1995, 12 (3) 229-46]に記載の方法のように、抗体をリポソームに導入するために当業界で知られるいかなる方法も使用することができる。
【0104】
本発明において特に適したリポソームを決定するために、スクリーニングアッセイを実施することができ、このようなアッセイは米国特許出願公開第20040266734号および第20040266734号、並びにDanenberg et al., Journal of cardiovascular pharmacology 2003, 42:671-9、Circulation 2002, 106:599-605、Circulation 2003, 108:2798-804に記載されている。
【0105】
一実施形態によると、本発明のいくつかの実施形態におけるの抗体は以下のようにして作製される。ヒトIDEのエピトープを認識する特異的単鎖可変断片(scFv)クローンを単離するために精製IDEを使用する。ヒト合成抗体ファージディスプレイライブラリーを用いるファージディスプレイ技術を使用する。具体的には、ヒトscFvライブラリー、例えば、Ronit 1 ライブラリー[Azriel-Rosenfeld et al. J Mol Biol. (2004) 335(1):177-192に記載、本参照をもって完全に援用される]をスクリーニングする。ライブラリーを非特異的タンパク質の除去に付し、親和性カラムを用いて細菌からタンパク質を精製し、組換えヒト野性型(WT)IDE(配列番号50)を用いて選択を行う。WT IDEを認識する、あるいは特定の実施形態によると、変異IDEよりも多く認識する、陽性ファージを富化するために、変異IDE(例:E111Q)上の数回のサイクル(例:2サイクル)によって富化されたファージを除去する(即ち、負の選択)。これら除去工程のそれぞれの後にはWT IDE上の選択工程(即ち、正の選択)が続く。親和性選択サイクルの後には、感染細菌の個別のクローンを取り出して増殖させる。各クローンのファージを次に(例:ELISAで)IDE結合対(陰性対照としての)非特異的タンパク質について試験する。陽性クローンをPCR増幅で解析し、続いて異なるクローンを検出するためにフィンガープリンティングを行い、さらに完全性とクローン間の違いを実証するためにシーケンシングを行う。
【0106】
本発明のいくつかの実施形態における抗体の単離において重要な特徴は、選択工程である。よって、一実施形態において、抗体の作製方法は、(a)(例:上述したような)複数の抗体を提供することと、(b)野性型IDEとは結合するが、前記野性型IDEと比べて触媒活性の低下した変異IDEとは結合しない抗体を選択するための、前記抗体のスクリーニングを実施することとを含む。
【0107】
一旦、抗体が得られたら、活性について試験してもよい。抗体活性の試験方法としては、例えば、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)およびin vitroインスリン分解アッセイが挙げられる。
【0108】
特定の実施形態によると、抗体のIDE阻害活性について試験する。IDE阻害活性は、IDEの酵素活性を特異的に下方制御することを意味する。例えば、IDEのIC50は、IDE阻害性ペプチドADT-21について解析したところ、10~200nM(例:1~100nM、1~50nM、1~20nMまたは1~10nM)の範囲内である。
【0109】
例示的な実施形態によると、抗体は、IDEの触媒活性の少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%または少なくとも100%を下方制御し得る。
【0110】
例示的な実施形態によると、抗体は、IDEのインスリン分解活性の少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%または少なくとも100%を下方制御し得る。
【0111】
特定の実施形態によると、抗体は、IDEのインスリン分解活性の少なくとも50%を下方制御することが可能である。
【0112】
例示的な実施形態によると、抗体は、IDEのインスリン分解活性の5~10%、10~20%、20~30%、30~40%、40~50%、50~60%、60~70%、70~80%、80~90%、90~100%、10~50%,50~100%または10~100%を下方制御し得る。
【0113】
例示的な実施形態によると、抗体は、IDEのインスリン分解速度が25~50マイクロモル、25~75マイクロモル、25~100マイクロモル、50~75マイクロモル、50~100マイクロモルまたは75~100マイクロモルとなるようにIDEの活性を下方制御し得、ヒト組換えIDEは1マイクロモルのヒトインスリン/分で分解する。
【0114】
上述したように、特定の実施形態によると、抗体の核酸を発現ベクターに連結し、続いて宿主細胞に導入する組換えDNA技術によって抗体(例:単鎖Fv)を作製してもよい。
【0115】
よって、本発明の一態様によると、本発明のいくつかの実施形態の抗体をコードする核酸配列を含む単離されたポリヌクレオチドが提供される。
【0116】
本発明の一実施形態によると、抗体の核酸配列は、配列番号3、5、7、11、13および15を含む。
【0117】
本発明の別の実施形態によると、抗体の核酸配列は、配列番号19、21、23、27、29および31を含む。
【0118】
本発明のさらに別の実施形態によると、抗体の核酸配列は、配列番号35、37、39、43、45および47を含む。
【0119】
本発明のいくつかの実施形態と共に使用可能な抗体を構成する軽鎖、重鎖、CDRおよび可変領域をコードする核酸配列の非限定的な例は、配列番号1、9、17、25、33および41によって提供される。
【0120】
よって、特定の実施形態によると、ポリヌクレオチドは、配列番号1、9、17、25、33および41からなる群より選ばれる核酸配列との同一性が少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%の核酸配列を含み、それぞれの可能性が本発明の個別の実施形態を表す。
【0121】
本明細書で使用される「ポリヌクレオチド」または「核酸配列」という用語は、RNA配列、相補的ポリヌクレオチド配列(cDNA)、ゲノムポリヌクレオチド配列および/又は複合ポリヌクレオチド配列(例えば、上述の組み合わせ)の形態で単離および提供される一本鎖又は二本鎖の核酸配列を意味する。
【0122】
外因性抗体を哺乳動物細胞に発現させるために、抗体をコードするポリヌクレオチド配列は、哺乳動物細胞発現に適した核酸構築物に連結されることが好ましい。
【0123】
よって、本発明の一態様によると、単離されたポリヌクレオチドを含む核酸構築物が提供される。
【0124】
このような核酸構築物またはシステムは、核酸配列の発現を指示する少なくとも1種のシスエレメントを含む。シスエレメント配列には、ヌクレオチド配列の恒常的発現を指示するもののみならず、特定の条件下でのみヌクレオチド配列の誘導性発現を指示するものも挙げられる。よって、例えば、細胞内でポリヌクレオチド配列の転写を恒常的または誘導的に支持するためのプロモーター配列が核酸構築物に含まれる。注目すべき点は、本発明の核酸配列は、それを必要とする対象(例:糖尿病の対象)に裸のDNAとして、または遺伝子療法に有用な核酸構築物(例:ウイルスベクター)に連結して投与される、in vivoの用途に使用することもできる
【0125】
本願に記載するポリヌクレオチド/発現ベクターを含む宿主細胞も提供される。
【0126】
このような細胞は通常、組換えタンパク質の高発現のために選択される(例えば、細菌細胞、植物細胞又は真核細胞、例えば、CHO、HEK-293細胞)が、例えば、薬剤のCDRを、養子細胞療法で使用されるT細胞受容体あるいは当該細胞に形質導入されたCARに移植する場合には、免疫細胞(例えば、マクロファージ、樹状細胞、T細胞、B細胞又はNK細胞)とすることもできる。
【0127】
従って、本発明の一態様によると、抗IDE抗体の製造方法であって、ポリヌクレオチド/発現構築物を宿主細胞内で発現させることを含む、方法が提供される。
【0128】
さらに抗体がin vitroで製造されるとき、特定の実施形態によると、組換え抗体の回収または単離は、培養の期間を得て実施される。「組換え抗体の回収」または「組換え抗体の単離」という句は、抗体を含む培養培地全体の収集を意味し、追加の分離または精製のための工程意味する必要はない。代わりに、「組換え抗体の回収」または「組換え抗体の単離」という句は、酸性細胞の溶解物から産物を回収することを意味する。上記に関わらず、本発明のいくつかの実施形態における抗体は、種々の標準的タンパク質精製技術を用いて生成することも可能であり、当該技術は、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ろ過、電気泳動、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、コンカナバリンAクロマトグラフィー、クロマトフォーカシング、および溶解度差(differential solubilization)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。特定の実施形態によると、抗体は少なくとも80%、85%、90%、95%、97%に精製されている。本願で使用する「精製されている」とは、抗体を含む組成物が、目的の抗体ではない、他のタンパク質性の物質を含まないことを意味する。
【0129】
後述する実施例の項に記載したように、本願に記載する方法論を用いて複数の抗IDE抗体が製造された。
【0130】
よって、本発明の一態様によると、配列番号4、6、8、12、14、および16に示した相補性決定領域(CDR)アミノ酸配列を含む抗原認識領域を含む、単離された抗体が提供される。
【0131】
一実施形態において、配列番号4、配列番号6および配列番号8は、抗体の重鎖上に順番に(N→C、それぞれCDR1~3として)配置され、配列番号12、配列番号14および配列番号16は、抗体の軽鎖上に順番に(N→C、それぞれCDR1~3として)配置される。
【0132】
本発明のいくつかの実施形態によると、抗体の重鎖は、配列番号2のアミノ酸配列に対して、少なくとも80%、少なくとも81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、例えば、100%の配列相同性または同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0133】
よって、本発明の一態様によると、配列番号20、22、24、28、30および32に示した相補性決定領域(CDR)アミノ酸配列を含む抗原認識領域を含む、単離された抗体が提供される。
【0134】
特定の実施形態によると、配列番号20、配列番号22および配列番号24は、抗体の重鎖上に順番に(N→C、それぞれCDR1~3として)配置され、配列番号28、配列番号30および配列番号32は、抗体の軽鎖上に順番に(N→C、それぞれCDR1~3として)配置される。
【0135】
本発明のいくつかの実施形態によると、抗体の重鎖は、配列番号18のアミノ酸配列に対して、少なくとも80%、少なくとも81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、例えば、100%の配列相同性または同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0136】
よって、本発明の一態様によると、配列番号36、38、40、44、46および48に示した相補性決定領域(CDR)アミノ酸配列を含む抗原認識領域を含む、単離された抗体が提供される。
【0137】
特定の実施形態によると、配列番号36、配列番号38および配列番号40は、抗体の重鎖上に順番に(N→C、それぞれCDR1~3として)配置され、配列番号44、配列番号46および配列番号48は、抗体の軽鎖上に順番に(N→C、それぞれCDR1~3として)配置される。
【0138】
本発明のいくつかの実施形態によると、抗体の重鎖は、配列番号34のアミノ酸配列に対して、少なくとも80%、少なくとも81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、例えば、100%の配列相同性または同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0139】
相同性(例:パーセント相同性、同一性+類似性)は、任意の相同性比較ソフトウエアを用いて決定することができ、当該ソフトウエアとしては、例えば、ポリペプチド配列から開始する場合、デフォルトのパラメーターを使用するアメリカ国立生物工学情報センター(NCBI)のBlastPまたはTBLASTNソフトウエアが挙げられる。あるいは、ヌクレオチドクェリー配列(両鎖)の6フレームのコンセプチュアルな翻訳産物をタンパク質配列データベースに対して比較するデフォルトのパラメーターを使用するtBLASTXアルゴリズム(NCBIより入手可)が挙げられる。
【0140】
例えば、tBLASTXのデフォルトパラメーターには以下が含まれる。最大標的配列数:100、予測閾値:10、ワードサイズ:3、クェリー範囲内の最大マッチ数:0、スコア付パラメーター:Matrix-BLOSUM62、フィルターおよびマスキング:Filter-低複雑性領域。
【0141】
本発明のいくつかの実施形態における抗体は、治療を必要とする対象における、IDE活性関連疾患の治療に使用してもよい。
【0142】
よって、本発明の一態様によると、治療を必要とする対象におけるIDE活性関連疾患の治療方法であって、治療有効量の、本明細書に記載する抗体(ii)または(iii)を対照に投与することを含み、当該投与によってIDE活性に関連した疾患を予防または治療する方法が提供される。
【0143】
本発明の追加のまたは代替の態様によると、治療を必要とする対象におけるIDE活性関連疾患の治療用として本明細書に記載する、抗体(ii)または(iii)が提供される。
【0144】
この点について、上述したように、IDEは細胞表面のみならず、サイトゾル、ペルオキシゾーム、エンドソーム内にも発現されることから、いくつかの実施形態の細胞に浸透可能な抗体(細胞内抗体または細胞浸透剤と機能的に関連する抗体)は、IDEの正しいコンパートメントへの移動をブロックしてその活性を阻害し得る。よって、IDE活性関連疾患を治療するためにIDEそのものに固有の触媒活性を必ずしも阻害する必要はない。
【0145】
従って、本発明の一態様によると、治療を必要とする対象におけるIDE活性関連疾患を治療するための方法であって、対象に治療有効量の、IDEに特異的に結合する抗原認識領域を含む抗体を投与し、当該抗原認識ドメインは以下の相補性決定領域(CDR)のアミノ酸配列を含み、
(i)抗体の重鎖のNからCへと順番に配置された配列番号4(CDR1)、配列番号6(CDR2)および配列番号8(CDR3)、ならびに抗体の軽鎖のNからCへと順番に配置され配列番号12(CDR1)、配列番号14(CDR2)および配列番号16(CDR3)、
(ii)抗体の重鎖のNからCへと順番に配置された配列番号20(CDR1)、配列番号22(CDR2)および配列番号24(CDR3)、ならびに抗体の軽鎖のNからCへと順番に配置され配列番号28(CDR1)、配列番号30(CDR2)および、配列番号32(CDR3)、あるいは
(iii)抗体の重鎖のNからCへと順番に配置された配列番号36(CDR1)、配列番号38(CDR2)および配列番号40(CDR3)、ならびに抗体の軽鎖のNからCへと順番に配置され配列番号44(CDR1)、配列番号46(CDR2)および配列番号48(CDR3)であって、
当該抗体が抗体(iii)のとき、当該抗体は細胞内抗体であるか、または細胞透過剤と機能的に関連したものであり、
当該投与によってIDE活性に関連した疾患を予防または治療する、方法が提供される。
【0146】
本発明の追加のまたは代替の態様によると、IDEを特異的に結合する抗原認識領域を含む抗体であって、抗原認識ドメインが以下の相補性決定領域(CDR)アミノ酸配列を含む、抗体が提供される。
(i)抗体の重鎖のNからCへと順番に配置された配列番号4(CDR1)、配列番号6(CDR2)および配列番号8(CDR3)、ならびに抗体の軽鎖のNからCへと順番に配置され配列番号12(CDR1)、配列番号14(CDR2)および配列番号16(CDR3)、
(ii)抗体の重鎖のNからCへと順番に配置された配列番号20(CDR1)、配列番号22(CDR2)および配列番号24(CDR3)、ならびに抗体の軽鎖のNからCへと順番に配置され配列番号28(CDR1)、配列番号30(CDR2)および、配列番号32(CDR3)、あるいは
(iii)抗体の重鎖のNからCへと順番に配置された配列番号36(CDR1)、配列番号38(CDR2)および配列番号40(CDR3)、ならびに抗体の軽鎖のNからCへと順番に配置され配列番号44(CDR1)、配列番号46(CDR2)および配列番号48(CDR3)であって、
当該抗体が抗体(iii)のとき、当該抗体は細胞内抗体であるか、または細胞透過剤と機能的に関連したものであり、
治療を必要とする対象におけるIDE活性に関連した疾患の治療に使用する抗体が提供される。
【0147】
本願で使用する「IDE活性関連疾患」とは、IDE活性が発症または進行に寄与する病態、疾患または症候群を意味する。
【0148】
上述したように、IDEは、インスリン、アミロイドβ-タンパク質(Aβ)、グルカゴン、アミリン、心房性ナトリウム利尿因子およびカルシトニンを含む、多様な配列からなる複数の小タンパク質を開裂する酵素である。従って、これら基質レベルの増加が症状の改善を助け、さらには疾患の治癒まで達成し得る状況において、本発明のいくつかの実施形態における抗体を使用してもよい。
【0149】
特定の実施形態によると、インスリンレベルの増加は疾患または障害の治療の根拠となる。
【0150】
このような疾患または異常としては、中枢神経系の自己免疫疾患、神経変性疾患、メタボリックシンドローム、糖尿病、肥満症、 高血糖症、網膜損傷、腎不全、神経損傷、微小血管損傷、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)感染症および創傷が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本願で使用する「中枢神経系の自己免疫疾患」とは、体の免疫系が自らの神経系(好ましくはCNS)を攻撃する疾患を意味する。
【0151】
CNSの自己免疫疾患の例としては、多発性硬化症、ギラン・バレー症候群、ランバート・イートン筋無力症症候群、重症筋無力症、横断性脊髄炎、進行性多巣性白質脳症、慢性頭痛、脳性麻痺、ループス、免疫機能不全筋中枢神経系破壊(immune dysfunction muscular central nervous system breakdown)、中枢神経性血管炎、自己免疫性小脳変性症、-遅発性多発神経障害を伴う歩行失調症(GALOP)、視神経脊髄炎、全身硬直症候群、およびHTLV-1関連脊髄症(HAM)/熱帯性痙性不全対麻痺症(TSP)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0152】
特定の実施形態によると、中枢神経系の自己免疫疾患は、多発性硬化症、ギラン・バレー症候群、ランバート・イートン筋無力症症候群、重症筋無力症、横断性脊髄炎、進行性多巣性白質脳症、慢性頭痛および脳性麻痺からなる群より選ばれる。
【0153】
特定の実施形態によると、中枢神経系の自己免疫疾患は、多発性硬化症(MS)を含む。
【0154】
本願において「神経変性疾患」は、神経組織、神経伝達物質または神経機能の、段階的且つ進行性の喪失によって特徴づけられる神経系(好ましくはCNS)の異常、疾患または病態を意味する。
【0155】
神経変性疾患の具体例としては、筋萎縮性側索硬化症(ALSまたはルー・ゲーリック病)、自己免疫性脳脊髄炎、変性神経疾患、脳炎(例:ラスムッセン脳炎)、アルツハイマー氏病、てんかん、遺伝性脳障害、卒中、パーキンソン氏病およびハンチントン氏病が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0156】
特定の実施形態によると、神経変性疾患はパーキンソン氏病である。
【0157】
特定の実施形態によると、神経変性疾患はアルツハイマー氏病である。
【0158】
特定の実施形態によると、疾患はメタボリックシンドローム、糖尿病、および肥満からなる群より選ばれる。
【0159】
特定の実施形態によると、疾患はメタボリックシンドロームである。
【0160】
本願で使用する「メタボリックシンドローム」という用語は、偶発的というよりも関連して発生することが多い一群のまたは集合的なメタボリックな症状[腹部肥満、空腹時血糖の上昇、「脂質異常」(即ち、脂質レベルの上昇)および高血圧(HBP)]であって、総合的に2型糖尿病および心血管障害の発症を促進するものを意味する。メタボリックシンドロームは、増加したトリグリセリド、減少した高密度リポタンパク質コレステロール(HDL-コレステロール)、および場合によっては、中度に上昇した低密度リポタンパク質コレステロール(LDL-コレステロール)レベルの特定の脂質プロファイルのみならず、構成リスク因子の圧力による動脈硬化症の進行の加速によって特徴づけられる。
【0161】
特定の実施形態によると、疾患は糖尿病である。
【0162】
本願で使用する「糖尿病」とは、生物における、生合成またはインスリン産生の欠陥による絶対的なインスリン欠乏(1型糖尿病)、またはインスリン抵抗性の存在下における相対的なインスリン欠乏(2型糖尿病)、即ち、不完全なインスリン活性、を意味する。糖尿病患者は、したがって、絶対的または相対的なインスリン欠乏を示し、他の症状や症候に加えて、血糖値の上昇、尿中の当の存在、過剰な排尿(多尿)、喉の渇きの増加(多飲水症)および空腹の増加(過食症)を示し得る。1型糖尿病では、症状はかなり急速(例:数週間または数カ月以内)に発生し得る。しかし、2型糖尿病の症状はより緩やかであり、微少または完全に不在の場合もある。糖尿病(両方の型)は、(正常または増加した食事量にもかかわらず)急激かつ顕著な体重減少および減少しない精神的疲労も起こし得る。本願で使用する糖尿病は、任意のステージまたは型の糖尿病(顕性糖尿病、境界型糖尿病および成人潜在性自己免疫糖尿病(LADA)が挙げられるが、これらに限定されない)を包含する。
【0163】
特定の実施形態によると、糖尿病は1型糖尿病である。
【0164】
特定の実施形態によると、糖尿病は2型糖尿病である。
【0165】
糖尿病関連疾患の例としては、I型糖尿病、II型糖尿病、妊娠性糖尿病、インスリン抵抗性、肥満、高血糖症、眼疾患(例:緑内障、白内障)、皮膚感染症、高血圧症、胃不全麻痺、ケトアシドーシス(DKA)、神経障害(例:糖尿病性神経障害)、高浸透圧性高血糖性非ケトン性症候群(HHNS)、腎疾患(腎障害)および末梢動脈疾患(PAD)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0166】
他の特定の実施形態によると、疾患は創傷である。
【0167】
本願における「創傷」という用語は、種々の方法のいずれか一種(例:床ずれ、外傷によって生じた創傷、外科的処置中または後に生じた創傷等)によって始まり、種々の特徴を有する、皮膚および皮下組織のみならず、内部器官の損傷全般を意味する。例示的なものとしては、打撲創、引掻き傷、火傷、日射創、切開創、切除創、外科創、壊死性筋膜炎、潰瘍、静脈うっ血潰瘍、糖尿病性潰瘍潰瘍、褥瘡、アフタ性潰瘍、圧迫性潰瘍、瘢痕、円形脱毛症、皮膚炎、アレルギー性接触皮膚炎、アトピー性皮膚炎、ベルロック皮膚炎、おむつかぶれ、汗疱状皮膚炎、乾癬、湿疹、いぼ、肛門疣贅、血管腫、老年性血管腫、水虫、異型母斑、基底細胞癌、ベイトマン氏紫斑、水疱性類天疱瘡、カンジダ症、軟骨皮膚炎(chondrodermatitis helicis)、クラーク氏母斑、口唇ヘルペス、コンジローマ、包嚢、ダリエー病、皮膚線維腫、円板状エリテマトーデス、貨幣状湿疹、アトピー性湿疹、異汗性湿疹、手湿疹、多形結節性紅斑、フォーダイス病、項部息肉性毛嚢炎、毛包炎、環状肉芽腫、グロヴァー病、あせも、単純ヘルペス症、帯状疱疹、化膿性汗腺炎、じんましん、多汗症、魚鱗癬、膿痂疹、毛孔性角化症、ケロイド、ケラトアカントーマ、扁平苔癬、扁平苔癬様角化症、慢性単純性苔癬、硬化性苔癬、リンパ腫様丘疹症、皮膚狼瘡、ライム病、線状苔癬、粘液様嚢胞、菌状息肉症、伝染性軟属腫、母斑、爪水虫、糖尿病性リポイド類壊死症、貨幣状湿疹、爪甲層状分裂症、爪真菌症、苔癬状粃糠疹、ばら色粃糠疹、毛孔性紅色粃糠疹、足底疣贅、ツタウルシかぶれ(Poison Ivy)、ウルシかぶれ(Poison Oak)、汗疱、須毛部仮性毛包炎、肛門そう痒症および白色粃糠疹が挙げられるが、これらに限定されるものではない。創傷はその深度によって、典型的には4つのグレードの1つに分類される。(i)グレードI:上皮に限定された創傷、(ii)グレードII:真皮に達する創傷、(iii)グレードIII:皮下組織に達する創傷、そして(iv)グレードIV(または全層創傷):骨が露出される創傷(例:大転子または仙骨等の骨性圧覚点)である。
【0168】
「表層創傷(partial thickness wound)」という用語は、本願において、グレードI~IIIを含む創傷を意味し、火傷、圧迫創、静脈うっ血潰瘍、および糖尿病性潰瘍が挙げられる。
【0169】
「深創傷」という用語は、本願において、グレードIIIおよびIVの両方を含む創傷を意味する。
【0170】
「慢性創傷」という用語は、本願において、30日以内に治癒しなかった創傷を意味する。
【0171】
創傷に対する「治癒」という用語は、例えば、瘢痕形成(例示的な実施形態においては、治癒は線維化組織形成を欠く)による、創傷の修復過程を意味する。
【0172】
特定の実施形態において、本発明のいくつかの実施形態における組成物は、治癒過程を促進、即ち、加速する。
【0173】
「皮膚創傷の治癒過程を誘導または加速する」という句は、創面収縮における肉芽組織形成の誘導、および/または上皮化(即ち、上皮における新しい細胞の産生)のいずれかを意味する。創傷治癒は創傷面積の減少によって容易に測定される。
【0174】
本発明の特定の実施形態は、深創傷、急性創傷、慢性創傷、糖尿病関連創傷、虚血性創傷、潰瘍、火傷および手術創を含む、全種類の創傷の処置を想定している。
【0175】
特定の実施形態によると、創傷は、慢性創傷、急性創傷、糖尿病性創傷、虚血性創傷、潰瘍、火傷および手術創からなる群より選ばれる。
【0176】
特定の実施形態において処置し得る追加の疾患および異常としては、非ケトン性高浸透圧性昏睡、ウイルス感染[例:帯状疱疹ウイルス(VZV)]、アテローム動脈硬化症、高血圧症、先天性心疾患等の心血管障害、心筋症、大動脈弁狭窄、心房中隔欠損症(ASD)、共通房室(A-V)弁口欠損症、動脈管(ductus arteriosus)、肺動脈弁狭窄、大動脈弁下狭窄症、心室中隔欠損症(VSD)、弁疾患、心筋梗塞、結節性硬化症、強皮症、移植、子宮内膜症、不妊症、フォンヒッペル・リンドウ(VHL)症候群、硬変症、移植、血友病、凝固亢進症、特発性血小板減少性紫斑病、免疫不全症、網膜色素変性(常染色体優性)、網膜色素変性症(常染色体劣性)、パキスタン型SEMD、尿路顔症候群、コレステロールエステル蓄積症、ティール-ベーンケ型角膜ジストロフィー、デュビン・ジョンソン症候群、T細胞急性リンパ芽球性白血病、T細胞急性リンパ芽球性白血病、感覚性ニューロパチーを伴う症に発症性脊髄小脳失調症、スプリットハンド/フット奇形症3型、トルブダミド低代謝群、ワーファリン感受性、ウォルマン病、前眼部形成異常および白内障、先天性白内障、神経線維肉腫、非増殖性糖尿病性網膜症(NPDR)および増殖性糖尿病性網膜症(PDR)等の網膜障害、慢性腎不全、糖尿病性腎症、糖尿病性神経症等の神経損傷、微小血管損傷、糖尿病関連足部潰瘍並びに移植片対宿主病が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0177】
「処置する」という用語は、病理(疾患、異常または病態)の発生の阻害、予防または阻止、および/または病理の減少、緩和または退縮を引き起こすことを意味する。当業者は、病理の発生を評価するために種々の方法論およびアッセイが使用できることを理解し、同様に、病理の減少、緩和または退縮を評価するために種々の方法論およびアッセイを使用することができる。処置は単独で、あるいは他の療法と組み合わせて実施することができる。
【0178】
本願で使用する「予防」という用語は、疾患のリスクを有し得るが、疾患を発症したとは診断されていない対象において、疾患、異常または病態の発生を抑えることを意味する。
【0179】
本願で使用する「対象」という用語は、任意の性別および任意の年齢の哺乳動物対象(例:ヒト)であり、新生児、乳児、若年層、青年層、成人および老年が含まれる。
【0180】
特定の実施形態によると、対象は上記病態と診断されたもの、患うもの、素因を有するものである。
【0181】
特定の実施形態によると、後述するように、対象の生物学的サンプル中のIDEレベルは、対照生物学的サンプルと比べて、予め定めた閾値を超える。
【0182】
従って、特定の実施形態によると、本願で開示する方法は、投与の前に、本願で開示する抗体を用いて対象の生物学的サンプル中のIDEレベルを決定することを含む。
【0183】
本発明のいくつかの実施形態における抗体は、そのままでまたは医薬組成物の一部として、対象に投与され得る。
【0184】
本発明の一態様によると、活性成分として本願で開示する抗体(ii)または(iii)を含み、薬学的に許容される担体をさらに含む医薬組成物が提供される。
【0185】
本明細書で使用される「医薬組成物」とは、本明細書に記載の1種以上の有効成分と生理学的に適切な担体や賦形剤等の他の化学成分とからなる調製物を意味する。医薬組成物の目的は化合物の生物への投与を容易にすることである。
【0186】
本明細書において「有効成分」という用語は、生物学的効果に実効的に関与する抗体を意味する。
【0187】
以下、互換的に使用される「生理学的に許容される担体」と「薬学的に許容される担体」という語句は、生物に対して重大な刺激を引き起こさず、投与された化合物の生物学的活性および特性を抑制しない担体又は希釈剤を意味する。このような語句にはアジュバントが含まれている。
【0188】
本明細書において「賦形剤」という用語は、医薬組成物に添加して有効成分の投与を更に容易にする不活性物質を意味する。賦形剤の例としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、様々な糖および各種デンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油およびポリエチレングリコールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0189】
薬物の処方と投与の技法については、“Remington’s Pharmaceutical Sciences,” Mack Publishing Co., Easton, PAの最新版(本参照をもってここに援用する)に記載されている。
【0190】
適切な投与経路としては、例えば、経口送達、直腸送達、経粘膜送達(特に経鼻送達)、腸管送達又は非経口送達が挙げられ、例えば、筋肉内注射、皮下注射および髄内注射が挙げられると共に、髄腔内注射、直接心室内注射、静脈内注射、腹腔内注射、鼻腔内注射、又は眼内注射を挙げることができる。
【0191】
或いは、例えば、患者の組織領域に直接医薬組成物を注射することによって、全身的ではなく局所的に医薬組成物を投与することができる。
【0192】
特定の実施形態によると、本発明の抗体は経鼻投与によって投与される。
【0193】
特定の実施形態によると、本発明の抗体は皮下投与によって投与される。
【0194】
本発明の医薬組成物は、当技術分野で良く知られているプロセスによって、例えば、従来の混合、溶解、造粒、糖衣錠製造、粉末化(levigating)、乳化、カプセル化、封入又は凍結乾燥プロセスによって製造することができる。
【0195】
よって、本発明の幾つかの実施形態に従って使用する医薬組成物は、薬学的に使用可能な調製物への有効成分の加工を容易にする、賦形剤および助剤を含む1種以上の生理学的に許容される担体を使用して従来の方法で処方することができる。適切な製剤は選択する投与経路によって決まる。
【0196】
注射の場合、医薬組成物の有効成分は、水溶液、好ましくは、ハンクス液、リンゲル液、又は生理食塩緩衝液等の生理的に適合性のある緩衝液に処方することができる。経粘膜投与の場合、浸透するバリアに適した浸透剤を処方に使用する。そのような浸透剤は当技術分野では一般に知られている。
【0197】
経口投与の場合、医薬組成物は、活性化合物を当技術分野で良く知られている薬学的に許容される担体と組み合わせて容易に処方することができる。そのような担体によって、患者が経口摂取できるように医薬組成物を錠剤、丸剤、糖衣錠、カプセル、液剤、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁剤等として処方することができる。経口使用のための薬理学的調製物は固体賦形剤を使用して作製し、必要に応じて得られた混合物を粉砕し、必要に応じて適切な助剤を添加した後、顆粒の混合物を処理して錠剤又は糖衣錠コアを得ることができる。適切な賦形剤は、特に、ラクトース、スクロース、マンニトール又はソルビトールを含む糖等の充填剤、トウモロコシデンプン、小麦デンプン、米デンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカントガム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ナトリウムカルボメチルセルロース等のセルロース調製物、および/又はポリビニルピロリドン(PVP)等の生理学的に許容されるポリマーである。必要に応じて、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、又はアルギン酸又はその塩(例えば、アルギン酸ナトリウム)等の崩壊剤を添加することができる。
【0198】
糖衣錠コアには適切なコーティングを設ける。この目的のために、アラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、カルボポールゲル、ポリエチレングリコール、二酸化チタン、ラッカー溶液、および適切な有機溶媒又は溶媒混合物を必要に応じて含み得る濃縮糖溶液を使用することができる。染料又は顔料を錠剤又は糖衣錠コーティングに添加して識別に用いたり、活性化合物用量の様々な組み合わせを特徴付けたりすることができる。
【0199】
経口使用可能な医薬組成物としては、ゼラチンで形成されたプッシュフィットカプセルや、ゼラチンとグリセロールやソルビトール等の可塑剤で形成されたソフトシールカプセルが挙げられる。プッシュフィットカプセルには、有効成分と混合して、ラクトース等の充填剤、デンプン等のバインダー、タルク又はステアリン酸マグネシウム等の潤滑剤、および必要に応じて安定剤を配合することができる。ソフトカプセルにおいては、有効成分を適切な液体(例えば、脂肪油、流動パラフィン、又は液体ポリエチレングリコール)に溶解又は懸濁することができる。更に安定剤を添加することができる。経口投与用の全ての製剤は、選択した投与経路に適した投与形態とすべきである。
【0200】
口腔内投与の場合、組成物は従来の方法で処方された錠剤又はトローチの形態をとることができる。
【0201】
経鼻吸入による投与の場合、本発明に係る使用のための有効成分は、適切な噴霧剤(例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン又は二酸化炭素)を使用して、加圧パック又はネブライザーからエアロゾルスプレーの形態で簡便に送達する。加圧エアロゾルの場合、計量された量を送達するバルブを設けることによって投与単位を決定することができる。ディスペンサーで使用する、例えば、ゼラチンのカプセルおよび薬包は、化合物と適切な粉末基剤(例えば、ラクトースやデンプン)との粉末混合物を含むように処方することができる。
【0202】
本明細書に記載の医薬組成物は、例えば、ボーラス注射又は持続注入による非経口投与用に処方することができる。注射用製剤は単位剤形、例えば、アンプルで供給するか、又は必要に応じて防腐剤を添加した複数回投与容器で供給することができる。組成物は油性ベヒクル又は水性ベヒクル中の懸濁液、溶液又は乳濁液とすることができ、懸濁剤、安定剤および/又は分散剤などの調合剤を含むことができる。
【0203】
非経口投与用の医薬組成物には水溶性の活性製剤の水溶液が含まれる。更に、有効成分の懸濁液は適切な油性又は水ベースの注射懸濁液として調製することができる。適切な親油性溶媒又はベヒクルとしては、ゴマ油等の脂肪油、又はオレイン酸エチル、トリグリセリド又はリポソーム等の合成脂肪酸エステルが挙げられる。水性注射懸濁液は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール又はデキストラン等の懸濁液の粘度を上昇させる物質を含むことができる。必要に応じて、懸濁液は、有効成分の溶解度を上昇させて高濃度溶液の調製を可能にする適切な安定剤又は薬剤を含むこともできる。
【0204】
或いは、有効成分は、使用前に適切なベヒクル(例えば、無菌でパイロジェンフリーの水ベースの溶液)で構成するための粉末形態とすることができる。
【0205】
本発明の医薬組成物は、例えば、カカオバターや他のグリセリド等の従来の坐剤基剤を使用して坐剤又は保持浣腸等の直腸組成物に処方することもできる。
【0206】
本発明の状況での使用に適した医薬組成物としては、本来の目的を達成するのに有効な量の有効成分(即ち、抗体)を含む組成物が挙げられる。より具体的には、治療有効量とは、障害(例えば、IDE関連疾患)の症状を予防、緩和又は改善するか、又は治療される対象の生存を延長するのに有効な有効成分の量を意味する。
【0207】
本発明の別の実施形態によると、治療有効量は、投与後の対象の血中インスリンレベルを増加させる。
【0208】
本発明の別の実施形態によると、治療有効量は、投与後の対象の膵臓ベータ細胞破壊を減少させる。
【0209】
本発明の別の実施形態によると、治療有効量は、投与後の対象の血中インスリン様成長因子1(IGF1)レベルを増加させる。
【0210】
本発明の別の実施形態によると、治療有効量は、投与後の対象のTリンパ球によるIL-17の分泌を減少させる。
【0211】
本発明の別の実施形態によると、治療有効量は、投与後の対象のTリンパ球によるIFN-γの分泌を減少させる。
【0212】
インスリン、IGF1、IL-17またはIFN-γのレベルの評価は、当業者に公知の任意の方法(例えば、ELISAが挙げられる)を用いて実施されてもよい。
【0213】
膵臓ベータ細胞の破壊の評価は、当業者に公知の任意の方法(例えば、β細胞機能の測定(例:C-ペプチド等の代謝マーカーレベルの測定が挙げられる)、またはβ細胞隗の画像化[例:エミッショントモグラフィー(PET)または単一光子放射断層撮影(SPECT)が挙げられる]を用いて実施されてもよく、これら方法はLebastchi J. and Herold K.C., Cold Spring Harb Perspect Med. June 2012; 2(6): a007708に教示されており、本参照をもってここに援用する。
【0214】
本発明の別の実施形態によると、治療有効量は、IDE活性の阻害または減少をもたらす。IDE活性の阻害または減少は、IDE活性の少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または100%の減少を含んでもよい。IDE活性減少の評価は、当業者に公知の任意の方法(例えば、蛍光定量IDE活性アッセイまたはin vitroのインスリンおよびIGF-1分解アッセイが挙げられる)を用いて実施されてもよく、これらの方法は後述する実施例の項に詳細に記載されている。
【0215】
治療有効量の決定は、特に本明細書で提供される詳細な開示を考慮して、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0216】
本発明の方法で使用される任意の調製物の場合、治療有効量又は用量は先ずin vitroおよび細胞培養アッセイから推定することができる。例えば、動物モデルにおいて用量を処方して所望の濃度又は力価を得ることができる。このような情報を用いてヒトにおける有用な用量をより正確に決定することができる。
【0217】
本明細書に記載の有効成分の毒性および治療効果は、細胞培養物又は実験動物においてin vitroでの標準的な製薬手順によって確認することができる。このようなin vitroおよび細胞培養アッセイおよび動物試験から得たデータを用いて、ヒトで使用する範囲の投与量を処方することができる。投与量は使用する剤形および利用する投与経路に応じて変わり得る。正確な処方、投与経路および投与量は、患者の状態を考慮して個々の医師によって選択することができる(例えば、“The Pharmacological Basis of Therapeutics”, Ch. 1 p.1内のFingl, et al., 1975を参照)。
【0218】
投与量と投与間隔は個別に調整して、生物学的効果を誘発又は抑制するのに十分な有効成分の血漿レベル(最小有効濃度、MEC)を得ることができる。MECは調製毎に変わるが、in vitroデータから推定することができる。MECを得るのに必要な投与量は、個々の特性と投与経路によって決まる。検出アッセイを用いて血漿中濃度を確認することができる。
【0219】
治療される病態の重症度および応答性に応じて、投薬は単回又は複数回の投与とすることができ、治療の過程は数日間から数週間、又は治癒がもたらされるか又は病状が抑制されるまで続く。
【0220】
当然のことながら、投与される組成物の量は、治療される対象、苦痛の重度、投与方法、処方医師の判断等に依存する。
【0221】
例えば、一実施形態において、本発明の抗体は、0.1mg/kg~10mg/kg、0.1mg/kg~5mg/kg、0.1mg/kg~1mg/kgの間の用量、1mg/kg~10mg/kgの間の用量、1mg/kg~5mg/kgの間の用量、2.5mg/kg~5mg/kgの間の用量、0.5mg/kg~5mg/kgの間の用量または5mg/kg~10mg/kgの間の用量を静脈注射(i.v.)してもよい。別の実施形態において、本発明の抗体は、10mg/kg~100mg/kgの間の用量、10mg/kg~50mg/kgの間の用量、25mg/kg~50mg/kgの間の用量または50mg/kg~100mg/kgの間の用量をi.v.で投与してもよい。別の実施形態において、本発明の抗体は、100mg/kg~1000mg/kgの間の用量、100mg/kg~500mg/kgの間の用量、250mg/kg~500mg/kgの間の用量または500mg/kg~1000mg/kgの間の用量をi.v.で投与してもよい。
【0222】
ヒトの治療の前に本発明の抗体を試験することのできる動物モデルが存在すること理解されたい。例えば、糖尿病のSTZ誘導性または非肥満糖尿病(NOD)マウスモデルを糖尿病のモデルとして使用してもよい。多発性硬化症動物モデルとしては、例えば、マウスEAEモデル(例:CFA中のMOG(35-55)による免疫によってNODマウスに疾患を誘導したもの)が挙げられる。アルツハイマー氏病動物モデルとしては、例えば、APP/PSIマウスおよびSamaritanアルツハイマーラットモデル(Samaritan Pharmaceuticals社より入手可)が挙げられる。創傷の治癒については、Galeano et al., Diabetes. (2004) 53(9):2509-17(参照によって援用する)によって既出の糖尿病マウス創傷モデル、またはQiu et al., J Surg Res. (2007) 138(1):64-70(参照によって援用する)によって既出の糖尿病ラットモデルが挙げられる。パーキンソン氏病動物モデルとしては、例えば、CNSニューロン内に変異アルファシヌクレインを発現するA53T Tgマウス(Giasson et al. 2002)およびC57BL/6-Tg(Thy1-SNCA*E35K*E46K*E61K)3798Nuber/J(Nuber et al., 2018)が挙げられる。
【0223】
本発明の組成物は、必要に応じて、FDA承認キット等のパック又はディスペンサー装置として提供することができ、有効成分を含む1種以上の単位剤形を含むことができる。パックは、例えばブリスターパックのように、金属又はプラスチック箔を含むことができる。パック又はディスペンサー装置には投与説明書を添付することができる。パック又はディスペンサーは、医薬品の製造、使用又は販売を規制する政府機関によって規定された形式の容器に関する通知が添付される場合もあり、この通知は、組成物の形態又はヒトや動物への投与に関する政府機関による承認を反映している。このような通知は、例えば、処方薬に関して米国食品医薬品局が承認した表示、又は承認された製品挿入物に関するものとすることができる。適合性のある医薬担体に処方された本発明の調製物を含む組成物については、上で更に詳述したように、調製し、適切な容器に入れ、表示された病態の治療用にラベルを貼ることもできる。
【0224】
本発明の治療用組成物は抗体に加えて、IDE関連疾患(例:糖尿病、CNSの自己免疫疾患、神経変性疾患)の治療用の公知の薬剤または治療薬(例えば、ステロイド、副腎皮質ステロイド、免疫抑制剤、抗ヒスタミン剤等が挙げられるが、これらに限定されない)を含んでもよいことを理解されたい。薬剤は単一のパッケージまたは個別のパッケージとして製品に含まれ得る。
【0225】
従って、本発明の一態様によると、本願で開示する抗体(ii)または(iii)と、前記疾患の治療用の治療薬とを含む、IDE活性関連疾患の治療用と定められた製品が提供される。
【0226】
特定の実施形態によれば、抗体と治療薬は別々の容器に包装される。
【0227】
特定の実施形態によれば、抗体と治療薬は共処方(co-formulation)として包装される。
【0228】
さらに、特定の実施形態によると、本願で開示する方法および使用は、対象に対して疾患を治療するための(本願で開示する抗体以外の)治療薬を投与することをさらに含む。
【0229】
後述する実施例の項に示したように、本発明者らは、作製した抗体を用いて高感度ELISAを開発し、ヒト血清IDEレベルと、メタボリックシンドロームの存在および/または重症度との強い相関性を示すために、このELISAを使用した。よって、本発明の特定の実施形態は、診断、治療有効性のモニタリングおよび/または治療の決定を目的として、IDEレベルを解析する方法をさらに提案する。
【0230】
従って、本発明の一態様によると、対象のIDE活性関連疾患を診断する方法であって、本願で開示する抗体を用いて対象の生物学的サンプルのIDEレベルを決定することを含み、対照生物学的サンプルと比べて、前記IDEレベルが予め定めた閾値を超えることをもって、前記対象を前記疾患と診断する方法が提供される。
【0231】
本願で使用する「診断する」という用語は、病理の存在または不存在の決定(即ち、癌がユーイング腫瘍であるか)、病理または症状の分類、病理の重症度の決定(例:グレードまたはステージ)、病理の進行のモニタリング、病理の結果および/または回復の見込みの予測、並びに特定の疾患に対する対象のスクリーニングを意味する。
【0232】
よって、本発明の一態様によると、対象のIDE活性関連疾患の予後判定を行うための方法であって、疾患を有すると診断された対象の生物学的サンプル中のIDEレベルを開示した抗体を用いて決定することを含み、前記IDEレベルが対照生物学的サンプルと比べて、予め定めた閾値を超えることをもって予後を予後不良と判定する方法が提供される。
【0233】
特定の実施形態によると、方法(例:決定、接触)はin vitroまたはex vivoで実施する。
【0234】
特定の実施形態によると、本願で開示する方法は、決定の前に生物学的サンプルを得ることを含む。
【0235】
本発明のいくつかの実施形態において使用可能な生物学的サンプルの非限定的な例としては、任意の組織生検から得られた細胞、組織、器官、血液細胞、骨髄細胞、血液、血清、血漿、および罹患細胞/組織と接触した可能性のある濯ぎ液等の体液が挙げられる。
【0236】
生物学的サンプルは、当業界で公知の方法、例えば、針付きの注射器、外科用メス、細針生検、針生検、コア針生検、細針穿刺吸引(FNA)、外科生検、頬側スミア、洗浄等の使用が挙げられる。
【0237】
特定の実施形態によると、タンパク質分子は対象の生物学的サンプルから抽出する。よって、特定の実施形態によると、方法は、決定の前に、生物学的サンプルからタンパク質を抽出することをさらに含む。タンパク質分子を生物学的サンプルから抽出する方法は当業界でよく知られている。
【0238】
本願において使用する「予め定めた閾値」という句は、健常サンプル、または同一条件下で解析した、同一由来の公知の疾患予後を示すサンプルを特徴づけるIDEレベルを意味する。このようなレベルは、公知のIDEレベルのサンプル(例:健常な対象、または疾患予後の分かっている対象から得たサンプル)をIDE活性関連疾患と診断された対象由来のサンプルと比べることで実験的に決定することができる。代わりに、このようなレベルは、科学論文またはデータベースから得ることもできる。
【0239】
特定の実施形態によると、予め定めた閾値は、対照サンプルから誘導したものである。
【0240】
複数の対照サンプルを特定の実施形態において使用し得る。
【0241】
生物学的特徴は様々な要因の中でも、種と年齢に依存するため、対照サンプルは、同じ種、年齢、性別であり、および同じ副集団(例:喫煙群/非喫煙群)に属する対象から得たものであることが好ましい。
【0242】
特定の実施形態によると、対照サンプルは、対象の生物学的サンプルと同じ種類の生物学的サンプルを含む。
【0243】
特定の実施形態によると、対照サンプルは、健常対象サンプルである。
【0244】
特定の実施形態によると、対照サンプルは、軽い疾患または良好な予後を示す疾患を有する対象から得たサンプルである。
【0245】
特定の実施形態によると、対照サンプルは、科学論文またはデータベースから入手する。
【0246】
特定の実施形態によると、予め定めた閾値を超えるか下回る増加/減少は統計的に有意である。
【0247】
特定の実施形態によると、予め定めた閾値は、同じアッセイ(例えば、ELISA、ウエスタンブロット、IP)で測定したとき、対象サンプルのIDEレベルと比べて、少なくとも1.5倍、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、または少なくとも20倍である。
【0248】
特定の実施形態によると、予め定めた閾値は、対象サンプルのIDEレベルと比べて、少なくとも1.5倍である。
【0249】
特定の実施形態によると、予め定めた閾値は、対象サンプルのIDEレベルと比べて、少なくとも2%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、例えば、100%、少なくとも200%、少なくとも300%、少なくとも400%、少なくとも500%、少なくとも600%である。
【0250】
特定の実施形態によると、生物学的サンプル中のIDEレベルは、本願で開示する抗体を使用する任意の公知の方法を使用して決定することができ、当該方法としては、ELISA、ウエスタンブロット、IPが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0251】
よって、いくつかの実施形態によると、IDEレベルの検出は、生物学的サンプル、組織、細胞または画分あるいはこれらの抽出物を本願に開示する抗体と接触させることによって実施する。
【0252】
特定の実施形態によると、生物学的サンプル中に存在するIDEと、抗体とを含む複合体(即ち、免疫複合体)の形成を可能にする条件下で接触を実施する。
【0253】
免疫複合体は、種々の温度、塩濃度およびpH値で形成することができ、これらは使用される方法および生物学的サンプルに応じて変化し得るが、当業者は、各免疫複合体に適した条件を調製することができる。
【0254】
よって、本発明の一態様によると、IDE活性関連疾患と診断された対象の生物学的サンプル(または対象の生物学的サンプルの溶解物)と、本願で開示した抗体とを含む組成物が提供される。
【0255】
本発明の追加のまたは代替の態様によると、IDE活性関連疾患と診断された対象の生物学的サンプル(または対象の生物学的サンプルの溶解物)と、別の容器に入った、本願で開示した抗体とを含む製品が提供される。
【0256】
特定の実施形態によると、組成物または製品は、プロテアーゼ阻害剤をさらに含む。
【0257】
特定の実施形態によると、組成物または製品は、抗体に結合可能な二次抗体をさらに含む。
【0258】
特定の実施形態によれば、本願で開示する抗体は検出可能部分に結合している。
【0259】
本発明で使用することができる検出可能部分の例としては、放射性同位体、リン光化学物質、化学発光化学物質、蛍光化学物質、酵素、蛍光ポリペプチド、放射性同位体([125]ヨウ素等)およびエピトープタグが挙げられるが、これらに限定されない。検出可能部分は、結合対のメンバー(これは結合対の更なるメンバーとの相互作用によって同定可能である)および直接視覚化される標識とすることができる。一例では、結合対のメンバーは対応する標識抗体によって同定される抗原である。一例では、標識は比色反応を生じる蛍光タンパク質又は酵素である。
【0260】
適切なフルオロフォアの例としては、フィコエリトリン(PE)、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、サイクロム、ローダミン、緑色蛍光タンパク質(GFP)、青色蛍光タンパク質(BFP)、テキサスレッド、PE-Cy5等が挙げられるが、これらに限定されない。フルオロフォアの選択に関する更なるガイダンス、フルオロフォアを様々な種類の分子に結合する方法については、Richard P. Haugland, “Molecular Probes: Handbook of Fluorescent Probes and Research Chemicals 1992-1994”, 5th ed., Molecular Probes, Inc. (1994)、米国特許第6,037,137号明細書(Oncoimmunin Inc.)、Hermanson, “Bioconjugate Techniques”, Academic Press New York, N.Y. (1995); Kay M. et al., 1995. Biochemistry 34:293; Stubbs et al., 1996. Biochemistry 35:937; Gakamsky D. et al., “Evaluating Receptor Stoichiometry by Fluorescence Resonance Energy Transfer,” in “Receptors: A Practical Approach,” 2nd ed., Stanford C. and Horton R. (eds.), Oxford University Press, UK. (2001)、米国特許第6,350,466号明細書(Targesome,Inc.)]を参照。
【0261】
多数種の酵素を抗体に結合させることができる[例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HPR)、βガラクトシダーゼ、およびアルカリホスファターゼ(AP)]。
【0262】
同定可能な部分の例としては、緑色蛍光タンパク質、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、ヒスチジンタグ、ビオチン、橙色蛍光タンパク質およびストレプトアビジンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0263】
検出可能部分の更なる例としては、陽電子放出断層撮影法(PET)および磁気共鳴画像法(MRI)によって検出可能なものが挙げられるが、これらは全て当業者には良く知られている。
【0264】
幾つかの実施形態によれば、検出可能部分は、本明細書に開示の抗体をコードするポリヌクレオチドを、治療用部分又は検出可能部分をコードする核酸配列と翻訳的に融合させて結合する。
【0265】
加えて又は代替的には、治療用部分又は検出可能部分は、当業者に公知の任意の結合方法を用いて抗体に化学的に結合(カップリング)することができる。
【0266】
特定の実施形態によると、本願で開示する方法は、当業界の公知技術を用いて診断を強化することを含む。このような方法は当業界で知られており、非限定的な例には、糖尿病用の空腹時血糖試験またはA1c血液試験が含まれる。
【0267】
特定の実施形態によると、診断方法は、診断された対象を疾患のための有効量の療法で処置することをさらに含む。
【0268】
従って、本発明の一態様によると、IDE活性関連疾患の治療を必要とする対象における疾患を治療するための方法であって、
(a)当該方法によって対象を診断し、IDEレベルが予め定めた閾値を超えたとき、
(b)対象を疾患用の療法で治療する
ことを含む、それによって対象の疾患を治療する方法が提供される。
【0269】
本発明者らによってIDEはメタボリックシンドロームの予後マーカーとなることが示されたため、IDEレベルは、対象に適した治療レジメン(例:種類、用量)の選択に使用され得る。即ち、予後の不良な疾患は、予後不良に適した治療レジメンで処置され、予後の良好な疾患は、良好な予後に適した治療レジメンで処置される。特定の実施形態によると、IDEレベルは、対象が与えられた療法に対して応答し得る傾向を示すことができる。
【0270】
よって、本発明の追加のまたは代替の態様によると、IDE活性関連疾患の治療を必要とする対象における疾患を治療するための方法であって、
(a)当該方法によって対象を診断し、IDEレベルが予め定めた閾値を超えたとき、
(b)IDEレベルに基づき療法を選択する
ことを含む、それによって対象の疾患を治療する方法が提供される。
【0271】
本発明の追加のまたは代替の態様によると、IDE活性関連疾患の治療を必要とする対象における疾患を治療するための方法であって、
(a)方法によって対象の予後判定を行い、そして
(b)予後判定に基づく療法で対象を治療することを含む方法が提供される。
【0272】
本発明の追加のまたは代替の態様によると、IDE活性関連疾患の治療を必要とする対象における疾患を治療するための方法であって、
(a)方法によって対象の予後判定を行い、そして
(b)予後判定に基づき、療法を選択することを含む方法が提供される。
【0273】
特定の実施形態によると、療法は本願で開示した抗体(ii)または(iii)を含む。
【0274】
本発明の追加のまたは代替の態様によると、IDE活性関連疾患と診断された対象における当該疾患に対する療法の有効性をモニタリングするための方法であって、本願で開示した抗体を用いて、治療中または治療後の対象の生物学的サンプルのIDEレベルを決定することを含み、治療中または治療後のIDEレベルが予め定めた閾値より低下したことをもって、当該療法を有効とする、方法が提供される。
【0275】
よって、IDEレベルの減少は、療法が有効であることの指標となる。
【0276】
一方、IDEレベルに変化がない、またはIDEレベルが増加した場合には、療法は疾患の治療に対して有効ではなく、追加および/または代わりの療法(例:治療レジメン)を使用することができる。
【0277】
本願で開示するモニタリングの態様の特定の実施形態によると、予め定めた閾値は、治療前の対象におけるIDEレベルと比較する。
【0278】
本願で開示するモニタリングの態様の特定の実施形態によると、予め定めた閾値は、同じアッセイ(例えば、ELISA、ウエスタンブロット、IP)で測定したとき、対照サンプルまたは治療前の対象におけるIDEレベルと比べて、少なくとも1.5倍、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、または少なくとも20倍である。
【0279】
特定の実施形態によると、予め定めた閾値は、対照サンプルまたは治療前の対象におけるIDEレベルと比べて、少なくとも1.5倍である。
【0280】
特定の実施形態によると予め定めた閾値は、対照サンプルまたは治療前の対象におけるIDEレベルと比べて、少なくとも2%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、例えば、100%、少なくとも200%、少なくとも300%、少なくとも400%、少なくとも500%、少なくとも600%である。
【0281】
本発明のこの態様の他の特定の実施形態によると、予め定めた閾値は、治療結果の知られている対象の部分集団で決定することもできる。
【0282】
本発明のさらに追加の態様によると、本願で開示した抗体と、それとは別の容器のELISA、ウエスタンブロット、またはIPに適した試薬と、ELISAプレートおよび/またはIDEを含む陽性対照サンプルとを含む製品が提供される。
【0283】
本明細書で使用する「約」は、±10%を指す。
【0284】
用語「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(includes)」、「含む(including)」、「有する(having)」およびその活用形は、「限定されるものではないが、含む(including but not limited to)」を意味する。
【0285】
「からなる」という用語は、「含み、限定される」ことを意味する。
【0286】
「から実質的になる」という用語は、組成物、方法または構造が追加の成分、工程および/または部分を含み得ることを意味する。但しこれは、追加の成分、工程および/または部分が、請求項に記載の組成物、方法または構造の基本的かつ新規な特性を実質的に変更しない場合に限られる。
【0287】
本明細書において、単数形を表す「a」、「an」および「the」は、文脈が明らかに他を示さない限り、複数をも対象とする。例えば、「化合物(a compound)」または「少なくとも1種の化合物」には、複数の化合物が含まれ、それらの混合物をも含み得る。
【0288】
本願全体を通して、本発明のさまざまな実施形態は、範囲形式にて示され得る。範囲形式での記載は、単に利便性および簡潔さのためであり、本発明の範囲の柔軟性を欠く制限ではないことを理解されたい。したがって、範囲の記載は、可能な下位の範囲の全部、およびその範囲内の個々の数値を特異的に開示していると考えるべきである。例えば、1~6といった範囲の記載は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6等の部分範囲のみならず、その範囲内の個々の数値、例えば1、2、3、4、5および6も具体的に開示するものとする。これは、範囲の大きさに関わらず適用される。
【0289】
本明細書において数値範囲を示す場合、それは常に示す範囲内の任意の引用数(分数または整数)を含むことを意図する。第1の指示数と第2の指示数「との間の範囲」という表現と、第1の指示数「から」第2の指示数「までの範囲」という表現は、本明細書で代替可能に使用され、第1の指示数および第2の指示数と、それらの間の分数および整数の全部を含むことを意図する。
【0290】
本明細書で使用する「方法」という用語は、所定の課題を達成するための様式、手段、技術および手順を意味し、化学、薬理学、生物学、生化学および医療の各分野の従事者に既知のもの、または既知の様式、手段、技術および手順から従事者が容易に開発できるものが含まれるが、これらに限定されない。
【0291】
明確さのために別個の実施形態に関連して記載した本発明の所定の特徴はまた、1つの実施形態において、これら特徴を組み合わせて提供され得ることを理解されたい。逆に、簡潔さのために1つの実施形態に関連して記載した本発明の複数の特徴はまた、別々に、または任意の好適な部分的な組み合わせ、または適当な他の記載された実施形態に対しても提供され得る。さまざまな実施形態に関連して記載される所定の特徴は、その要素なしでは特定の実施形態が動作不能でない限り、その実施形態の必須要件であると捉えてはならない。
【0292】
上述したように、本明細書に記載され、特許請求の範囲に請求される本発明のさまざまな実施形態および態様は、以下の実施例によって実験的に支持されるものである。
【実施例
【0293】
ここで、上記の記載と共に本発明を限定することなく説明する以下の実施例に参照する。
【0294】
一般に、本明細書で使用される命名法や本発明で利用される実験手順には、分子、生化学、微生物学および組換えDNA技術が含まれる。そのような技術は文献で十分に説明されている。例えば、“Molecular Cloning: A laboratory Manual” Sambrook et al., (1989)、“Current Protocols in Molecular Biology” Volumes I-III Ausubel, R. M., ed. (1994)、Ausubel et al., “Current Protocols in Molecular Biology”, John Wiley and Sons, Baltimore, Maryland (1989)、Perbal, “A Practical Guide to Molecular Cloning”, John Wiley & Sons, New York (1988)、Watson et al., “Recombinant DNA”, Scientific American Books, New York、Birren et al. (eds) “Genome Analysis: A Laboratory Manual Series”, Vols. 1-4, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York (1998)、米国特許第4,666,828号、第4,683,202号、第4,801,531号、第5,192,659号および第5,272,057号明細書に記載の方法、“Cell Biology: A Laboratory Handbook”, Volumes I-III Cellis, J. E., ed. (1994)、“Current Protocols in Immunology” Volumes I-III Coligan J. E., ed. (1994)、Stites et al. (eds), “Basic and Clinical Immunology” (8th Edition), Appleton & Lange, Norwalk, CT (1994)、Mishell and Shiigi (eds), “Selected Methods in Cellular Immunology”, W. H. Freeman and Co., New York (1980)、利用可能なイムノアッセイは特許および科学文献に広く記載されている(例えば、米国特許第3,791,932号、第3,839,153号、第3,850,752号、第3,850,578号、第3,853,987号、第3,867,517号、第3,879,262号、第3,901,654号、第3,935,074号、第3,984,533号、第3,996,345号、第4,034,074号、第4,098,876号、第4,879,219号、第5,011,771号および第5,281,521号明細書参照)、“Oligonucleotide Synthesis“ Gait, M. J., ed. (1984)、“Nucleic Acid Hybridization” Hames, B. D., and Higgins S. J., eds. (1985)、 “Transcription and Translation” Hames, B. D., and Higgins S. J., Eds. (1984)、“Animal Cell Culture” Freshney, R. I., ed. (1986)、“Immobilized Cells and Enzymes” IRL Press, (1986)、“A Practical Guide to Molecular Cloning” Perbal, B., (1984)、並びに“Methods in Enzymology” Vol. 1-317, Academic Press、“PCR Protocols: A Guide To Methods And Applications”, Academic Press, San Diego, CA (1990)、Marshak et al., “Strategies for Protein Purification and Characterization - A Laboratory Course Manual” CSHL Press (1996)が挙げられる。これら文献の全てを参照によってここに援用する。他の一般的な参考文献は明細書を通じて提供される。そこに記載の手順は、当技術分野で良く知られていると考えられており、読者の便宜のために提供される。そこに含まれる全ての情報を参照によってここに援用する。
【0295】
材料および方法
マウス: C57BL/6雄マウス(Jackson Laboratory)をテルアビブ大学内の特定の病原フリーな施設で飼育した。全ての実験がテルアビブ大学のガイドラインに沿っており、動物実験に関するTAU動物ケア委員会(TAU animal care committee for animal research)の許可を得て実施された。
【0296】
IDEベクターの作製と発現: 細菌発現用に最適化した野性型(WT)およびE111Q組換えヒトIDE(rhIDE)の配列をGenewiz社(米国、ニュージャージ州、サウスプレインフィールド)に発注し、pUC57ベクターのNdeI制限部位とHindIII制限部位の間に入った形で受け取った。ベクターは、Ni-NTA結合タグに融合されたrhIDEと、C末端のHisタグをコードする。Rosetta BL21 E. coli細胞をpET28a-rhIDE発現ベクター(WTおよびE111Q)で形質転換し、25μg/mlのカナマイシンを添加した0.5LのLB培地でOD600nm=0.6~0.8まで培養した。次に、培養物のタンパク質発現を、0.5mMのIPTGにより30℃で一晩誘導した。細胞を9000rpmで15分の遠心分離で回収した。ペレットを0.1%のTriton X-100を含む35mlのPBSに懸濁し、30秒の超音波処理と2分間の氷上の静置とを5回繰り返すことで融解した。可溶性画分を4℃、12000rpmで30分の遠心分離で透明化し、GE HisTrapの5mlのカラムにロードした。カラムをPBS中の5mMのイミダゾールで洗浄し、PBS中の0.5Mのイミダゾールで溶出させた。精製IDEタンパク質をPBSに対して透析し、2mg/mlのPBSおよび5%のグリセロールで希釈し、-80℃で保存した。
【0297】
バイオパニング: Azriel-Rosenfeld et al. J Mol Biol. (2004) 335(1):177-192に既出の“Ronit1”ヒト合成抗体ファージディスプレイライブラリーを用いたファージディスプレイ技術を使用した。24穴プレートのウェルを室温で2時間被覆するために使用した10μg/mlのWT rhIDE上でライブラリーを4回の親和性選択サイクルに付し、WT IDEは餌として使用した。そのうちの2回のサイクル(サイクル1とサイクル3)においては、WT酵素の触媒部位に高い親和性で結合する抗体を単離することを意図して、変異したE111Q IDEを餌として使用せずに枯渇を実施した。10μg/mlの変異IDEを24穴プレートのウェルを室温で2時間被覆するために使用した。3mlのPBSでウェルを1回洗浄し、スキムミルクの3%滅菌PBS溶液で37℃で1時間ブロッキングした。3mlのPBSでウェルを1回洗浄し、ブロックされた変異IDE被覆ウェルに25℃で1時間、ファージをアプライした。続いて、WT rhIDEで被覆したウェルも同様にスキムミルクの3%PBS溶液でブロッキングし、3mlのPBSでウェルを1回洗浄し、変異IDEウェルのファージ(枯渇されたファージ)をWT rhIDEウェルに移してさらに25℃で1時間静置した。各親和性選択サイクルの終わりには、結合ファージを100mMのTEA、pH=13、で溶出させ、直ちに1MのTris-HCl、pH=7.4、で中和した。溶出されたファージは、XL1-blue E. coliの感染に使用され、クローン増殖のために対数増殖期まで培養した。選択のインプットおよびアウトプットのファージの力価は、各ファージクローンのコピーの決定を可能にした。後に感染E. coliの1010CFU/mlのM13KO7ヘルパーファージとの37℃、250RPMで一晩のインキュベーションによって、各ファージクローンの20~100コピーを救出した。20%のPEG/NaCl中に細菌増殖上清からのウイルス粒子を沈殿させ、次の親和性選択(パニング)サイクルに使用する前にPBSに懸濁した。4サイクルの親和性選択に続き、モノクローナルファージELISAでIDE特異的scFvディスプレイファージを同定した。ファージELISAにおいては、結合ファージの検出にHRP抗m13モノクローナル抗体結合(GE Healthcare社、CAT 27-9421-01)を使用した。結合物は、全てSIGMA社(現在のMerck社)から購入したいくつかの対照抗原[BSA、Merck CAT A7030-500G;リゾチーム(卵白リゾチーム)、Merck CAT L6876;ストレプトアビジン(Streptomyces avidinii由来のストレプトアビジン)Merck CAT S0677]に対する結合を試験することで、その特異性を立証した。立証された結合物を可溶性抗体の産生用に再フォーマット化し、以下の3種のフォーマットで試験した:MBP-scFv(図1の(E))、「インクローナル」として産生されたヒトIgG1(図1の(F))、および哺乳動物細胞培養で産生された逆キメラIgG(図1の(G))。
【0298】
シーケンシング: クローニングされた遺伝子のヌクレオチド配列は、ABI 3500xl遺伝子アナライザー(米国、Applied Biosystems社)を販売社の推奨に従って使用し、決定した。クローニングされたDNA断片のDNA配列は、ApEプログラム-プラスミドエディターv2.0.47(ユタ大学、Wayne Davis)で解析した。抗体可変ドメイン配列の解析とフレームワークおよびCDR領域への帰属は、NCBIのIgBlastツール(www(dot)ncbi(dot)nlm(dot)nih(dot)gov/igblast)で実施した。
【0299】
IDE特異的「インクローナル」IgGの発現と精製: 全長「インクローナル」IgGの発現と再フォールディングは、[Hakim, R. and Benhar, I. (2009) MAbs 1, 281-287、Buchner, J. et al. (1992) Anal. Biochem. 205, 263-270、およびBenhar, I. and Pastan, I. (1994) Protein Eng. Des. Sel. 7, 1509-1515]に既出のプロトコルに従って実施した。
【0300】
ドットブロット: ドットブロットは[Mazor, Y. et al/ (2007) J. Immunol. Methods 321, 41-59]に既出の方法に従って実施した。簡単には、0.1~1μgの精製タンパク質を含む、総量50μlのタンパク質サンプルで、未変性型または95℃で5分間煮沸(変性条件)後のものを、真空マニホールドによってニトロセルロース膜にアプライし、スロットブロットPR648ろ過マニホールド(米国、カリフォルニア州、サンフランシスコ、Hoefer Scientific Instruments社)を使用した。次に、TBS中の5%BSAで室温、1時間のメンブランのブロッキングを行い、4℃のブロッキング溶液で希釈した3μg/mlのMBP(マルトース結合タンパク質)融合scFvs(後述する方法で製造)と一晩インキュベートした。TBSTで3回洗浄した後、サンプルをマウス抗MBP(TBSTで1:5000)と室温で1時間インキュベートし、続いて1回洗浄し、HRP結合ヤギ抗マウス抗体(Jackson Immunoresearch Labs、115-035-003)(TBSTで1:5,000)と室温で1時間インキュベートした。TBSTでさらに3回洗浄し、メンブランをECL試薬(WBLUR0500、米国、マサチューセッツ州、ミルフォード、Millipore社)を製造社の推奨法に従って現像し、Amersham imager 600(ペンシルバニア州、ピッツバーグ、GE Healthcare Biosciences社)で画像化し、ImageJ v1.5iで解析した。
【0301】
IDE特異的MBP-scFvsの産生: MBP-scFv IDE特異的融合タンパク質のE. coliの細胞質発現のために発現ベクターを設計した。ファージディスプレイ親和性選択プロセスの終わりに特異的IDE結合物と同定された全scFvの配列を、対応するpCC16ファージミドベクターから得た。pMALc-NHNNベクター[Birnboim-Perach, R. et al. (2019) Production of Stabilized Antibody Fragments in the E. coli Bacterial Cytoplasm and in Transiently Transfected Mammalian Cells. pp. 455-480, Humana Press, New York, NY]。NcoIおよびNotI制限酵素による消化に続き、各scFvコード配列をpCC16ファージミドから回収し、pMALc-NHNNベクターのNcoI制限部位とNotI制限部位との間に配列を連結した。ベクターは、Ni-NTA結合タグHisタグに融合したIDE特異的scFvとN末端のマルトース結合タンパク質(MBP)とをコードする。
【0302】
MBP-scFvの産生には、Rosetta BL21 E. coli細胞をpMALc-NHNN-MBP-IDE特異的-scFv発現ベクターで形質転換し、100μg/mlのアンピシリンを添加した0.5LのLB培地でOD600nm=0.8まで増殖させた。続いて、培養物のタンパク質発現を、0.5mMのIPTGにより、30℃で一晩誘導した。細胞を9000rpmで15分の遠心分離で回収した。ペレットを0.1%のTriton X-100を含む35mlのPBSに懸濁し、30秒の超音波処理と2分間の氷上の静置とを5回繰り返すことで融解した。可溶性画分を4℃、12000rpmで30分の遠心分離で透明化し、GE HisTrapの5mlのカラムにロードした。カラムを、5CVのPBS中の5mMのイミダゾールおよび5CVのPBS中の20mMのイミダゾールで洗浄し、PBS中の250mMのイミダゾールでカラムから溶出させた。精製MBP-scFv融合タンパク質をPBSに対して透析し、2mg/mlのPBSで希釈し、-80℃で保存した。
【0303】
脾細胞の調製: C57BL/6マウスから回収した脾臓を氷上、0.1mMのDTT、0.1 μMのバナジン酸ナトリウム、0.5mMのPMSFおよびプロテアーゼ阻害剤カクテル(PIC)1:100を添加した×1のRIPA溶解バッファー 中でホモジェナイズし、25℃で20分間インキュベートした。上清を4℃、12000RPMで10分の遠心分離で回収し、100μl等量を-80℃で保存した。
【0304】
逆キメラ抗マウスIDE抗体の製造: 抗体を完全長の逆キメラIgGに変換するために、作製した抗体をコードするポリヌクレオチドをpcDNA3.4プラスミド骨格にクローニングした。これらプラスミドは、一過性形質導入に基づく発現のためのExpi293(商標)キットの「抗体発現陽性対照ベクター」部分として提供されるCMVプロモーター制御pcDNA3.4ベクターに基づくものである。キットはExpi293F(商標)細胞(ThermoFisher社、#A14635)も提供する。IgG発現ベクターへの抗体可変ドメインのクローニングの詳細な説明については既報[Birnboim-Perach, R et al. (2019) Production of Stabilized Antibody Fragments in the E. coli Bacterial Cytoplasm and in Transiently Transfected Mammalian Cells. pp. 455-480, Humana Press, New York, NY]がある。簡単には、ベクターをE. coli RosettaBL21細胞に発現させ、HisTrapカラム(17-5248-01、スウェーデン国、ウプサラ、GE Healthcare社)を用いて精製した。抗体は、初めに(ヒトガンマ1 重鎖およびヒトカッパまたはラムダ 軽鎖のそれぞれの定常領域を有する)全長ヒトIgGとして産生し、続いて、マウスガンマ1 重鎖のマウス定常ドメインおよびマウスカッパ 軽鎖のと共に発現させた。クローニングは、抗体の重鎖および軽鎖のそれぞれの可変ドメインのPCR増幅と、続く、既に対応する定常ドメインをギブソン・アセンブリー[Gibson, D. G. et al. (2009) Nat. Methods 6, 343-345]により保有するpcDNA3.4プラスミドへのクローニングによって実施した。種々のpcDNA3.4ベクターによるExpi293F(商標)細胞の形質導入には、Expi Fectamine(商標)形質導入キット(Gibco社、#A14524)を製造社の推奨法に従って使用した(米国、Life Technologies社)。各形質導入において、総量30μgのプラスミドDNAは3:1のモル比でIgLとIgHをそれぞれ含んでいた。形質導入、細胞増殖、および条件培地の回収は、販売社(Life Technologies社の発現に基づく一過性形質導入用のExpi293(商標)キット)の推奨する方法で実施した。抗体含有条件培地を形質導入から6~7日後に、4℃、8000rpmで10分の遠心分離(Sorvall GSAローター)により回収した。逆キメラマウスIgG1 mAbを、製造社(米国、イリノイ州、シカゴ、GE Healthcare社)の推奨法に従ってタンパク質Gカラム上で精製した。精製の前に、抗体含有培地を20mMのリン酸バッファー、pH7、で緩衝化し、その後ろ過した。mAbを1mlの画分に溶出し、0.25mlの1.5MのTris-HCl、pH8.8、でpHを中和した。滅菌DPBS(Sigma社)へのバッファー交換は、10kDaのAmicon(登録商標)超遠心フィルター(米国、マサチューセッツ州、バーリントン、MilliporeSigma社)(図1の(G))またはPD-10脱塩カラム(米国、イリノイ州、シカゴ、GE Healthcare社)で行った。
【0305】
抗体を遠心分離で回収し、遠心ろ過フィルターを用いて最終濃度1~2mg/mlに濃縮した。精製抗体を-80℃において小さな等量で保存した。タンパク質濃度は、Thermo Scientific NanoDrop(商標)2000c分光光度計によってタンパク質の吸光度をO.D. 280nmで測定し、吸光度値をタンパク質の消光係数(消光係数はwww(dot)expasy(dot)org/tools/protparam(dot)htmlで計算)で除して決定した。
【0306】
IDE結合アッセイ: PBS中の2.5~5μg/mlのWT rhIDE、変異体IDE、および無関係のタンパク質であるBSA、HisTrap精製組換えタンパク質(His)および/またはMBP-LacZ(組換えにより研究所で作製)で96穴のELISAプレート(デンマーク国、ロスキレ、Nunc社)を4℃で一晩被覆した。PBSTによる3回の洗浄後、PBS中の3%w/vのスキムミルク(232100、米国、メリーランド州、スパークス、Difco社)でウェルを室温で1時間ブロッキングした。続いてウェルを、種々のフォーマット(段階希釈したファージクローン、MBP-scFv(データは示さない)、および種々の濃度のhIgGまたはrcIgG)のIDE特異的な作製した抗体と室温で2時間インキュベートした。結合ファージは、マウス抗M13抗体(室温で1時間)、続いてHRP結合ヤギ抗マウス二次抗体(115-035-003、メイン州、Jackson ImmunoResearch Laboratories社、PBS中に1:5,000)と室温で1時間のインキュベーションによって検出した。ヒトIDE特異的IgG抗体は、HRP結合ヤギ抗ヒト抗体(109-035-088、メイン州、Jackson ImmunoResearch Laboratories社、PBS中に1:5,000)または抗マウス抗体(115-035-062、メイン州、Jackson ImmunoResearch Laboratories社、PBS中に1:5,000)と室温で2時間インキュベートした。PBSTによる3回の洗浄後、色を帯びるまで3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB、米国、カリフォルニア州、eBioscience社)を添加した。1MのHSOの添加によって反応を停止し、Spectrafluor プラス・マイクロプレートリーダーを使用し、450nmで解析した。
【0307】
IDEインスリン消化アッセイ: 種々の濃度のIDE阻害剤を1.5μg/mlのrhIDEと室温で1時間インキュベートした。続いて、Mercodia超感受性マウスインスリンELISA(10-1249-01)カリブレーター0で希釈した組換えヒトインスリン(41-975-100、イスラエル国、キブツ ベイト ヘメック、Biological Industries社)をチューブに加え、37℃で2時間インキュベートした。各チューブから25μlを取り出し、Mercodia超感受性マウスインスリンELISAを用いて残存インスリン濃度を評価した。450nmの吸光度をSpectrafluor プラス・マイクロプレートリーダー(スイス国、メンネドルフ、Tecan社)で記録した。
【0308】
ストレプトゾシン(STZ)糖尿病マウスモデル: 10週例のC57BL/6マウスを一晩絶食させ、その後、150mg/kgの、100nMのクエン酸バッファー(pH4.5)で希釈したSTZを腹腔内に注射した。STZ注射から2日以内に全てのマウスが高血糖症を発症した。STZ注射から3日目に、各マウスに10mg/kgの作製した逆キメラmAb(rcH3またはrc2E12アイソタイプ対照)を腹腔に注射した。
【0309】
経口糖負荷試験(oGTT): マウスを2時間絶食させ、その後、作製した逆キメラmAb(10mg/kg)の単一の腹腔内注射を行い、さらに4時間絶食させた(合計6時間)。この期間の終わりに、強制飼養針を用いてマウスに2g/kgの用量のグルコースを経口投与した。グルコース投与前(0時間)およびグルコース投与から15、30、60、90および120分後にContour血糖値計(米国、インディアナ州、エルクハート、Bayer社)を用いて血糖値を測定した。
【0310】
インスリン負荷試験(ITT): マウスを2時間絶食させ、その後、作製した逆キメラmAb(10mg/kg)の単一の腹腔内注射を行い、さらに4時間絶食させた(合計6時間)。この期間の終わりに、インスリン(0.5U/Kg、PBSに溶解)をマウスに腹腔内注射した。グルコース投与前(0時間)およびグルコース投与から15、30、60、および90分後にContour血糖値計(米国、インディアナ州、エルクハート、Bayer社)を用いて血糖値を測定した。
【0311】
血清の回収: ITTおよび逆キメラmAbの注射に続き、27Gの針を用いてマウスの顔面静脈から3日ごとに採血した。血液サンプル(各回、120μl以下)を1.5mlのエッペンドルフチューブに加え、室温で1時間置いた。針を用いて血餅を除き、チューブを氷上に40分置いた。続いて、チューブを4℃、2300RPMで10分の遠心分離に付し、透明な上清を2回目の洗浄サイクルのために新しいチューブに移した。上清を新しいチューブに移し、-20℃で維持した。
【0312】
血清サンプル中の抗IDE逆キメラ抗体の検出: 96穴ELISAプレートを4℃で一晩、PBS中の5μg/mlのIDEで被覆した。PBSTで3回の洗浄後、PBS中の5%(w/v)のスキムミルクで、室温で1時間ウェルをブロッキングした。逆キメラIDE特異的抗体(rcH3-IgG)の検出のために、血清サンプルをPBSで1:2700に希釈し、一方、対照rc2E12抗体注射サンプルを陽性対照とした。対照マウス由来の1:2700希釈サンプルで希釈した既知濃度のrcH3-IgG抗体が、IDE濃度測定の参照として機能した。サンプルを室温で2時間インキュベートした。3回の洗浄に続き、50μlのHRP結合ヤギ抗マウス抗体(PBS中に1:5,000)とウェルを室温で1時間インキュベートした。PBSTで3回の洗浄に続き、色があらわれるまでTMBを加えた。1MのHSOの添加によって反応を停止させ、Spectrafluor プラス・マイクロプレートリーダーを使用し、450nmで解析した。
【0313】
逆キメラ抗IDE H3 Fabセグメントの産生: 10mgのIgGを200μgのIDES(Fabricator)酵素(www(dot)genovis(dot)com/products/igg-proteases/fabricator/)で、37℃で20時間、消化した。Fab断片は、未消化IgGおよびFc断片からMAbSelect(商標)親和性カラムで分離した。Fab2は使用するまで-80℃で保存した。
【0314】
ミクログリアのROSレベルの決定: 細胞内ROSレベルを測定するために、透明なベースに黒いフレームの24穴プレート(#4TI-0241、オランダ国、ライデン、BIOKE社)に10%FCSを含むRPMI培地中に0.5×10細胞/mlの濃度のN9ミクログリアを播種した。24時間後に培地を交換し、0.1μg/mlのLPS有または無しの無血清RPMIで細胞をさらに24時間インキュベートした。DJ-1-KD細胞のROSを検出するために、DJ-1-KDミクログリアを既報(Nash et al. 2017)に従って増殖させた。対照およびDJ-1-KDミクログリアを10%FCSを含むRPMI培地中に0.8×10細胞/mlの濃度で播種した。次の日に培地を1μMのロテノン(#R8875、Sigma社)を含む無血清RPMI培地に2時間交換した。培地を除去し、ウェルを無血清RPMI培地で1回洗浄し、細胞を抗IDE抗体のFab断片(100nM)と2時間インキュベートした。次に、インスリンをウェルに終濃度100nMとなるように加え、一晩静置した。実験の最後に、培地を10μMのHDCFDA(#D6883、Sigma社)を含むRPMI培地に交換し、既報(Trudler et al. 2014)に従い、37℃で30分、暗条件に静置した。HDCFDAのDCFへの酸化に続き、細胞の蛍光をSynergy HT分光蛍光計(米国、バーモント州、ウイヌースキ、BioTek社)を用い、励起波長485nm、発光波長528nmで測定した。ROSレベルの細胞数への正規化は、その後の細胞のMB染色(上述の通り)および各ウェルのROSレベルをMBシグナルで除することによって達成した。
【0315】
対象: 既報のコホート(Marcus Y, et al. J Clin Hypertens (Greenwich). 2016; 18(1): 19-24)から合計24人の健常ボランティアおよび51人のメタボリックシンドローム(MS)患者を動員した(下記表1)。MS患者として参加するためには、18~75歳の対象は成人治療パネル第三報(Third Report of the Adult Treatment Panel)(ATP III)(Circulation. 2002; 106(25): 3143-421)の条件を満たさなければならなかった。問題のある空腹時血糖値は≧100mg%である。いずれの対象も抗糖尿病薬の治療を受けていなかった。研究はテルアビブ-スーラスキー(Tel Aviv-Sourasky)医療センター、学内ヘルシンキ委員会(institutional Helsinki’s committee)の承認を得ていた。使用されるすべての手順の目的および性質の完全な説明後に各患者から同意を得た。
【0316】
ヒト血清サンプルの生化学的解析: 血清化学量を、標準的な市販の自動アッセイ(Centaur、インディアナ州、インディアナポリス、Roche社)で測定した。HbA1cレベルはHPLC(カリフォルニア州、サンフランシスコ、Tosoh Bioscience社)を用いて測定した。
【0317】
ポリクローナル抗IDE抗体の作製:
動物の免疫: 体重2.5kgの8週齢の雌のNZWウサギをHarlan社(イスラエル国)より購入した。不完全フロイントアジュバント(CFA)中の400μgのM. tuberculosis抽出物H37と1:1の比で乳化させた100μgのrhIDEを各動物に皮下接種することでポリクローナル抗血清を産生した。各動物は、毎週、M. tuberculosis抽出物を含まない不完全フロイントアジュバント(IFA)によって上記と同様に乳化されたrhIDEを、週1回のブースターとして受けた。1回目の接種の前および各ブースターの1週間後、および最終(停止)採血としてウサギの動脈血を回収した。血清抗体力価(>20000)がプラトーに達するには合計3回のブースター免疫が必要であった。
【0318】
抗IDE血清ポリクローナル抗体力価の解析: 各動物から回収した血液を、凝固のために、室温で1時間および4℃でさらに1時間インキュベートした。血清の上澄みを凝固血液から4℃、3000gで20分の遠心分離によって分離した。抗IDE抗体力価は以下の手順で、直接ELISAにより測定した。終濃度2.5μg/mlにPBSで希釈したrhIDEを50μl/ウェルで使用し、96穴のELISAプレート(デンマーク国、ロスキレ、Nunc社)を4℃で一晩被覆した。次の日に、300μl/ウェルの0.05%Tween 20を含むPBS(PBST)でプレートを1回洗浄し、300μl/ウェルの、3%スキムミルク(w/v、Difco(商標)スキムミルク、BD)を含むPBSで、37℃で1時間のブロッキングを行った。次に、300μl/ウェルのPBSTでプレートを洗浄し、PBSTで段階的な×3に希釈した血清サンプルをアプライし、室温で1時間結合させた。続いて、300μl/ウェルのPBSTでプレートを3回洗浄した。結合抗IDEポリクローナル抗体は、PBSで×2000に希釈したHRP結合ヤギ抗ウサギIgG(#111-035-004、Jackson Immunoresearch Laboratories社)をアプライし、プレートを室温で1時間インキュベートし、続いて、300μl/ウェルのPBSTでプレートを3回洗浄することで検出した。最後に、HRPの基質である3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB、米国、カリフォルニア州、eBioscience社)を、色を帯びるまで添加した。1MのHSOの添加によって反応を停止させ、Spectrafluor プラス・マイクロプレートリーダー(スイス国、メンネドルフ、Tecan社)を使用し、解析した。光学密度を450および570ナノメーターの波長で測定し、Magellanソフトウエアバージョン2.22(Tecan社)を用いて解析した。十分な力価が得られたら、動物を出血死させ、血液を4℃で1時間凝固させて、エッペンドルフ・マイクロ遠心機による4℃、14000gの遠心分離で血餅を血清から分離した。血清を100μl等量に分割し、-80℃で保存した。
【0319】
ELISAによるIDE血清濃度の決定: 体液中のIDEを測定するために、ヒトおよびマウスの血清中のIDEの定量化に適した高感度サンドウィッチELISAを開発した。終濃度0.5μg/mlにPBSで希釈した抗IDE抗体A9を50μl/ウェルで使用し、96穴ELISAプレート(デンマーク国、ロスキレ、Nunc社)を4℃で一晩被覆した。次の日に、300μl/ウェルのPBSTでプレートを1回洗浄し、300μl/ウェルの、3%スキムミルク(w/v、Difco(商標)スキムミルク、BD)を含むPBSで、37℃で1時間のブロッキングを行った。次に、300μl/ウェルのPBSTでプレートを3回洗浄し、PBSで×3または×9に希釈した血清サンプル50μl/ウェルをアプライし、37℃で一晩(ON)結合させた。濃度曲線は、PBS中500ng/mlから開始した段階的な×2希釈のrhIDEで対照血清(検出不能なIDE濃度)をスパイクすることによって作製した(図7の(A))。プレートを室温(約25℃)で2時間静置し、続いて、300μl/ウェルのPBSTでプレートを3回洗浄した。結合抗IDEは、PBSで×2000に希釈したウサギポリクローナル抗IDE血清をアプライし、プレートを室温で1時間インキュベートし、続いて、300μl/ウェルのPBSTでプレートを3回洗浄することで検出した。次に、PBSで×2000に希釈した50μl/ウェルのHRP結合ヤギ抗ウサギIgG(#111-035-004、Jackson Immunoresearch Laboratories社)をアプライし、プレートを室温で1時間インキュベートし、続いて、300μl/ウェルのPBSTでプレートを3回洗浄した。最後に、HRPの基質であるTMBを、色を帯びるまで添加した。1MのHSOの添加によって反応を停止させ、Spectrafluor プラス・マイクロプレートリーダー(スイス国、メンネドルフ、Tecan社)を使用し、解析した。光学密度を450および570ナノメーターの波長で測定し、Magellanソフトウエアバージョン2.22(Tecan社)を用いて解析した。
【0320】
統計解析: 後述する実施例1~3の全ての統計解析にGraphPadソフトウエア(GraphPad Prism v8)を使用した。データの比較は、2つの群を比較するための独立両側スチューデントt-検定、または3群以上を解析するための一元ANOVA配置分散分析(Bonferroni補正有)のいずれかを使用した。各実験を少なくとも3回繰り返した。P<0.05を有意とした。後述する実施例4においては、集めたデータをIBM SPSS、バージョン25.0で解析した。データの正規分布は、平均と中央値との比較、平均と5%トリム平均との比較、歪度および尖度の値、並びにシャピロ・ウィルク検定の結果によって立証した。結果は、MS群のいくつかの変数は正規分布に従わないことを示した。2群(MS患者と対照)間の差を、連続変数は独立サンプルのt検定およびマン・ホイットニー検定、並びにカテゴリー変数はカイ二乗検定で解析した。t検定およびマン・ホイットニー検定の結果が同じであったため、報告した結果はt検定のものとした。記述統計量は、平均および標準偏差、あるいは変数のスケールに応じたパーセンテージ付きの頻度として提供した。年齢の違いが有意であったため、一般線形モデル(GLM)のためにこの因子は制御し、差を試験した。p値<0.05を有意とした。報告した全てのP値が両側であった。
【0321】
実施例1
抗IDE抗体の作製およびIDE活性に対するin vitroにおけるその阻害効果の評価
抗IDE抗体の作製
スクリーニングおよび免疫化の両方の抗原として使用するための組換えヒトIDE(rhIDE)を精製した。この目的のために、野性型(WT)のタンパク質、および触媒部位の点変異によって酵素の触媒活性を著しく減少させたE111Q変異型の酵素(35)の両方を発現させた。2種類のIDEをコードする遺伝子をC末にHisタグを有するpET28a+プラスミド骨格にクローニングした。C末にHisタグを有する組換えヒトIDE(rhIDE)を発現するベクターを図1の(A)に示した。
【0322】
ベクターの発現の誘導後には、110kDaタンパク質発現の著しい増加がSDS-PAGEにより可視化され(図1の(B))、IDE特異的抗体を用いた免疫ブロット検定によってタンパク質の正体が確認された(図1の(C))。次の工程では、精製タンパク質によるインスリン分解アッセイを実施し、WT IDEタンパク質は効果的にインスリンを分解したが(37℃で2時間後に60%分解)、一方、変異IDEは同じ条件下でインスリンのわずか15%しか分解しなかった(図1の(D))。
【0323】
組換えヒトIDEのエピトープを認識する特異的scFvクローンを単離するために、精製IDEを使用した。ヒト合成抗体ファージディスプレイライブラリーを用いるファージディスプレイ技術を使用した。具体的には、ヒトscFvライブラリーであるRonit1ライブラリー[Azriel-Rosenfeld et al. J Mol Biol. (2004) 335(1):177-192に記載]をスクリーニングした。ライブラリーを、組換えヒト野性型(wt)IDE(rhIDE)上の親和性選択サイクルに4回付した。サイクルの内の2回においては、WT酵素の触媒部位に高親和性で結合する抗体の単離を意図して、E111Q IDEの枯渇を実施した。4サイクルの親和性選択に続き、モノクローナルファージELISAによって3種のIDE特異的scFvディスプレイファージが同定され、本願においてはこれらをA9、B1およびH3と称する。図2の(A)~(F)に示したように、A9、B1およびH3をディスプレイするファージを段階希釈したもの(それぞれ図2の(A)~(C))は、IDEを良好に結合し、ウェルに陰性対照として用いたBSA、MBP、または他の精製組換えタンパク質に対しての結合は0~少量であった。
【0324】
3種の抗ヒトIDE抗体の重鎖および軽鎖のみならず、CDRの核酸およびアミノ酸の配列を決定した。これらは、配列番号1~2および9~10(それぞれA9の重鎖および軽鎖)、配列番号3~8(A9の重鎖CDR)、配列番号11~16(A9の軽鎖CDR)、配列番号17~18および25~26(それぞれB1の重鎖および軽鎖)、配列番号19~24(B1の重鎖CDR)、配列番号27~32(B1の軽鎖CDR)、配列番号33~34および41~42(それぞれH3の重鎖および軽鎖)、配列番号35~40(H3の重鎖CDR)、並びに配列番号43~48(H3の軽鎖CDR)に示した。
【0325】
全長IgGの初期評価のために、抗体を「インクローナル」、即ち、E. coli発現系で発現されたもの、として作製した(29)(図1の(F))。単離されたインクローナル抗体はIDEに対して著しい結合を示し、EC50は約1nMであった(図2の(D)~(F))。インクローナル抗体は、飽和濃度でのみ明確なわずかな結合をBSAに対して示した。総合すると、これらの結果は、3種の「インクローナル」抗体が高い親和性および特異性をもってIDEに結合することを示唆する。
【0326】
作製した抗IDE抗体によるin vitroにおけるインスリン分解の阻害
作製した抗IDE scFvおよびIgGがIDE仲介性インスリン分解を阻害する能力を試験するために、MBP-scFvの形態の各抗体、またはrhIDEに結合しない対照MBP-scFvと、rhIDEとを室温で1時間インキュベートした。続いて、インスリンを37℃で2時間かけて添加した。Mercodia超感受性マウスインスリンELISAキットを用いて残存インスリンとして活性を測定した。B1 scFvおよびH3 scFvの存在下で、IDE活性の用量依存的な阻害が観察された。B1は100nMおよび10nMのscFvを用いたとき、それぞれ、64%(P<0.001)および35%(P<0.001)のインスリン分解を阻害し、H3は100nMの使用で40%(P<0.001)のインスリン分解を阻害したが、10nMの使用では有意な阻害は観察されなかった(図3の(A))。A9および対照MBP-scFvの使用の際には、明確なIDE活性の阻害はなかった。抗体の全長ヒトIgGへの再フォーマット化後にIDE活性阻害能について再評価した。IgG型では、IDE活性阻害についてH3抗体が著しい効率を示したが、A9および陰性対照抗体はそうすることはなかった(p<0.001、図3の(B))。
【0327】
作製した抗IDE抗体による立体IDEエピトープの認識
作製した抗体が結合するIDE上の結合エピトープを求めるために、ドットブロット解析を実施した。具体的には、段階希釈したrhIDEおよび対照としたマウス脾臓溶解物を、ネイティブの状態および変性状態でニトロセルロースメンブラン上にスポットした。ネイティブのrhIDEタンパク質サンプルは全抗体クローンによって検出され、B1 MBP-scFvが最も高いシグナルを示した。全ての変性タンパク質サンプルがネイティブのサンプルよりも弱いシグナルを示すか、視認できるドットをもたらさなかった(図4の(A))。これらの結果は、選択したscFvクローンが、直鎖状のエピトープではなく、変性条件下で破壊されるrhIDEの構造エピトープを認識することを示唆している。
【0328】
実施例2
作製した抗IDE抗体の糖尿病動物モデルにおける治療効果
抗IDE H3抗体の逆キメラIgGへの変換
キメラ抗体は、治療用抗体の開発において重要な節目である。キメラ抗体は、可変ドメインがマウス抗体由来であり、定常ドメインはヒト配列である組換えIgGである。マウスモノクローナル抗体(mAb)と比べて、キメラ抗体は遥かに免疫原性が低く、ヒト患者への投与の際にヒト抗マウス抗体の産生を限定する(36)。一方、逆キメラはヒト可変ドメインとマウス定常ドメインとを有する抗体である(37)。逆キメラ抗体は、トランスジェニックマウスにおける抗体の発見に有用なだけでなく、マウス抗ヒト免疫応答の発生を防止する上でマウスモデルの処置にも非常に有用である。マウスモデルにおける作製した抗IDE抗体の有効性を評価するために、ヒトH3 IgG抗体を逆キメラIgG(rcIgG)(マウスIgG1アイソタイプ)に変換し、IDE、BSAおよびE111Q IDE変異体に対するその結合能を評価した。IDEに結合しない抗体rc2E12がアイソタイプ対照となった。図4の(B)に示したように、rcH3-IgGはIDEと高い親和性をもって結合した(EC50が1.62nM)。さらに、rcH3-IgGは活性なIDEに対して特異性を示し、変異体IDEまたはBSAに対して結合しなかった。さらに、rcH3-IgG抗体がIDE活性を阻害する能力を試験した。rcH3-IgG抗体は用量依存的にIDEを阻害した(図4の(C))。まとめると、これらの結果は、逆キメラH3 IgGはヒトH3 IgG型の性質を保持していることを示唆している。
【0329】
糖尿病マウスモデルにおけるrcH3-IgG抗体によるインスリン・シグナル伝達の改善
糖尿病マウスモデルにおけるIDEの阻害はインスリン活性を改善すると過去に示唆されている(38)。よって、rcH3-IgGの血糖値(oGTT)を低下させ、インスリン活性(iTT)を向上させる能力をSTZ処置マウスで評価した。このために、oGTTおよびiTTの試験1時間前に、rcH3-IgGまたはアイソタイプ対照抗体をSTZ処置マウスの腹腔に投与した。グルコース負荷(oGTT)後、対照とrcH3-IgGで処置したマウスの両方が血糖値の上昇を示した。しかし、rcH3-IgG処置マウスは、期間中、対照処理マウスと比べてより低い血糖値を示した(p<0.05)。事後解析は、グルコース投与から90分後に、アイソタイプ対照処置マウスと比べて、rcH3-IgG処置マウスが有意に低い血糖値を有していたことを明らかにした(p<0.05、図5の(A))。さらに、rcH3-IgGがインスリン活性を改善する能力を評価した(ITT)。rcH3-IgG処置マウスがインスリン投与の30分後から有意な血糖値減少を示したものの、アイソタイプ対照処置マウスは90分後になって有意な血糖値減少を示した(p<0.05)。最後に、投与マウスの血清中のrcH3-IgG抗体の半減期を決定したところ、約11日であることが分かった。まとめると、これらの結果は、rcH3-IgGによる処置が、糖尿病マウスモデルにおいて血糖値およびインスリン活性を改善することを示唆している。
【0330】
実施例3
作製した抗IDE抗体の、パーキンソン氏病表現型を有するミクログリアに対する影響
作製した抗体のパーキンソン氏病に対する治療効果を評価するために、パーキンソン氏病に見られるミクログリアの神経毒性表現型を提示したDJ-1ノックダウン(KD)ミクログリア(Nash et al. J Neurochem. 2017 143(5):584-594、およびTrudler et al. J Neurochem. 2014 129(3):434-47)を使用した。過去の研究は、基本条件および炎症刺激条件下において、DJ-1 KDミクログリアが高レベルの活性酸素(ROS)を発生することを示した(Trudler et al. 2014)。ミクログリア膜に発現されているFc受容体によって起こり得る、作製した抗IDE抗体のミクログリアへの結合(Teeling et al. 2012)を防止するために、rcH3-IgG抗体のFabセグメント(本願において「H3 Fab」と称する)をこれらの条件で試験した。
【0331】
図6の(A)に示したように、DJ-1 KDミクログリアは、対照ミクログリアと比較して、ROSレベルの51%の上昇を示し、これは過去の報告(Trudler et al. 2014)と一致していた。さらに、パーキンソン氏病の実験モデルとなる、ミトコンドリア複合体Iの阻害剤として知られるロテノンによる細胞の短期間の刺激(Xiong et al. 2012)は、DJ-1-KDミクログリアにおけるROSの産生を有意に増加させた(ベースラインの対照細胞と比べて227%、p<0.001)。ロテノンによる損傷に続く100nMのインスリンによる刺激は、ROS産生を減少させず、細胞の100nMのH3 Fabとのインキュベーションは、DJ-1 KD細胞によるROS産生を、細胞の基底値と同等(対照細胞のベースラインの151%対ロテノン損傷に続くH3 Fab処置細胞の148%)まで有意に減少させた(p<0.001)。注目すべきことに、図6の(B)に示したように、総細胞数に対する処置の効果を測定するために使用したMBアッセイは、インスリンまたはH3処置が、ロテノン損傷後の細胞生存率に有意な影響を与えないことを示す。これは防御および非毒性効果を評価する上で重要な対照である。
【0332】
まとめると、これらの結果は、rcH3抗体がパーキンソン氏病の治療的アプローチとなり得ることを示唆している。
【0333】
実施例4
作製した抗IDE抗体を用いたメタボリックシンドロームの診断および予後判定
作製した抗IDE抗体を使用し、IDEの検出および定量のためのサンドウィッチELISAを開発した(図7の(A))。図7の(B)に示したように、このELISAアッセイは、rhIDEを、5pg/μlから500pg/μlの濃度を高感度で容易に検出する。ヒトとマウスのIDEは>95%の配列同一性を有することから、作製したポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体はマウスIDEも結合すると理由付けし、立証した。抗体A9が活性rhIDEの立体構造を認識するか否かを決定するために、変性型のrhIDEに対する結合との差を評価した。図7の(C)に示したように、rhIDEの熱変性は、A9 IgGによる検出によって生じるELISAシグナルの有意な減少(ほぼ無視できる程度までの減少)をもたらした。記録すべきは、rhIDEの熱変性は、図8に示したELISAシグナルの約2~3倍の低下をもたらし、rhIDEは×2の段階希釈した抗Hisタグ抗体(直鎖状エピトープを認識するもの)を用いて検出され、変性rhIDEがELISAプレートのウェルにも低い効率で結合し得ることを示唆している。総合すると、これらの結果は、A9 IgGが活性rhIDEの構造エピトープを特異的に認識することを示唆している。
【0334】
続いて、メタボリックシンドローム(MS)ヒト患者および対照健常者の血清サンプルにおけるIDEレベルを決定するために開発したELISAアッセイを使用した。対照と比べて、MS対象はより高いBMI、グルコース、トリグリセリドおよびインスリンレベルと、より低いHDLcレベルを有していた(下記表1)。結果は、IDEレベルがMS対照においてより高いことを表している(平均637.4±469.5対470.5±221.8pg/μL、p<0.05)(図9)。MS群の方が対照群よりも年齢が高いため、2群のIDEを、年齢について調整した後に再度比較した。この調整後にも、IDEは対照と比べてMS対象において高かった(F(1,68)=6.675、p=0.012、偏イータ2乗=0.089)。さらに、正の相関がIDEレベルと、血清トリグリセリド(r=0.423、p<0.05、図10の(A))およびインスリン(r=0.294、p<0.05、図10の(B))との間に見られ、血清c-ペプチドとは境界性の相関が検出された(図示しない)。IDEはHDLcレベルとさらに負の相関を示した(r=-0.366、p<0.05、図10の(C))。これらの知見はより高いIDEレベルが定量的にMS成分と関連することを示唆した。
【0335】
さらに、MS対象のIDEレベルは、2種の異なる下位群、即ち、正常対照群と区別することのできない分布および平均を有する低IDEの対象(n=25、272.1±157.9pg/μl)と、高IDEの対象(n=25、1002.6±383.7pg/μl、偏差のp<0.001)へと分離した。低IDE MS群は、高IDE MS群と比べて、年齢が高く(年齢54±10対45±13歳、p<0.05)、より高い血糖値を有していた(95±20対80±9mg/dl、p<0.01)(図9)。注目すべきことに、両群のインスリンレベルは同様であり、トリグリセリド、HDLc、最高血圧値と最低血圧値、および心拍数も同様であった。
【0336】
【表1】
【0337】
本発明をその特定の実施形態との関連で説明したが、多数の代替、修飾および変種が当業者には明らかであろう。したがって、そのような代替、修飾および変種の全ては、添付の特許請求の範囲の趣旨および広い範囲内に含まれることを意図するものである。
【0338】
本明細書で言及した全ての刊行物、特許および特許出願は、個々の刊行物、特許および特許出願のそれぞれについて具体的且つ個別の参照により本明細書に組み込む場合と同程度に、それらの全体が参照により本明細書に援用される。加えて、本願におけるいかなる参考文献の引用または特定は、このような参考文献が本発明の先行技術として使用できることの容認として解釈されるべきではない。また、各節の表題が使用される範囲において、必ずしも限定として解釈されるべきではない。さらに本願のいかなる基礎出願も本参照をもってその全体をここに援用する。
【0339】
参照文献
(他の参照文献は明細書中に記載)
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【配列表フリーテキスト】
【0340】
配列番号1: 抗ヒトIDEクローンA9 VH
配列番号2: 抗ヒトIDEクローンA9 VH
配列番号3: 抗ヒトIDE(クローンA9 VH) - CDR1 DNA配列
配列番号4: 抗ヒトIDE(クローンA9 VH) - CDR1
配列番号5: 抗ヒトIDE(クローンA9 VH) - CDR2 DNA配列
配列番号6: 抗ヒトIDE(クローンA9 VH) - CDR2
配列番号7: 抗ヒトIDE(クローンA9 VH) - CDR3 DNA配列
配列番号8: 抗ヒトIDE(クローンA9 VH) - CDR3
配列番号9: 抗ヒトIDEクローンA9 VL - DNA配列
配列番号10: 抗ヒトIDEクローンA9 VL
配列番号11: 抗ヒトIDE(クローンA9 VL) - CDR1 DNA配列
配列番号12: 抗ヒトIDE(クローンA9 VL) - CDR1
配列番号13: 抗ヒトIDE(クローンA9 VL) - CDR2 DNA配列
配列番号14: 抗ヒトIDE(クローンA9 VL) - CDR2
配列番号15: 抗ヒトIDE(クローンA9 VL) - CDR3 DNA配列
配列番号16: 抗ヒトIDE(クローンA9 VL) - CDR3
配列番号17: 抗ヒトIDEクローンB1 VH - DNA配列
配列番号18: 抗ヒトIDEクローンB1 VH
配列番号19: 抗ヒトIDE(クローンB1 VH) - CDR1 DNA配列
配列番号20: 抗ヒトIDE(クローンB1 VH) - CDR1
配列番号21: 抗ヒトIDE(クローンB1 VH) - CDR2 DNA配列
配列番号22: 抗ヒトIDE(クローンB1 VH) - CDR2
配列番号23: 抗ヒトIDE(クローンB1 VH) - CDR3 DNA配列
配列番号24: 抗ヒトIDE(クローンB1 VH) - CDR3
配列番号25: 抗ヒトIDEクローンB1 VL(カッパ) - DNA配列
配列番号26: 抗ヒトIDEクローンB1 VL(カッパ)
配列番号27: 抗ヒトIDE(クローンB1 VL) - CDR1 DNA配列
配列番号28: 抗ヒトIDE(クローンB1 VL) - CDR1
配列番号29: 抗ヒトIDE(クローンB1 VL) - CDR2 DNA配列
配列番号30: 抗ヒトIDE(クローンB1 VL) - CDR2
配列番号31: 抗ヒトIDE(クローンB1 VL) - CDR3 DNA配列
配列番号32: 抗ヒトIDE(クローンB1 VL) - CDR3
配列番号33: 抗ヒトIDEクローンH3 VH - DNA配列
配列番号34: 抗ヒトIDEクローンH3 VH
配列番号35: 抗ヒトIDE(クローンH3 VH) - CDR1 DNA配列
配列番号36: 抗ヒトIDE(クローンH3 VH) - CDR1
配列番号37: 抗ヒトIDE(クローンH3 VH) - CDR2 DNA配列
配列番号38: 抗ヒトIDE(クローンH3 VH) - CDR2
配列番号39: 抗ヒトIDE(クローンH3 VH) - CDR3 DNA配列
配列番号40: 抗ヒトIDE(クローンH3 VH) - CDR3
配列番号41: 抗ヒトIDEクローンH3 VL(ラムダ) - DNA配列
配列番号42: 抗ヒトIDEクローンH3 VL(ラムダ)
配列番号43: 抗ヒトIDE(クローンH3 VL) - CDR1 DNA配列
配列番号44: 抗ヒトIDE(クローンH3 VL) - CDR1
配列番号45: 抗ヒトIDE(クローンH3 VL) - CDR2 DNA配列
配列番号46: 抗ヒトIDE(クローンH3 VL) - CDR2
配列番号47: 抗ヒトIDE(クローンH3 VL) - CDR3 DNA配列
配列番号48: 抗ヒトIDE(クローンH3 VL) - CDR3
配列番号49: 野性型IDEのコード配列
配列番号50: 野性型IDEのポリペプチド配列
配列番号51: IDE - E111Q変異有、コード配列
配列番号52: IDE - E111Q変異有、ポリペプチド配列
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図1-4】
図2
図3-1】
図3-2】
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
2023511375000001.app
【国際調査報告】