(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-17
(54)【発明の名称】完全ヒトグリコシル化ヒトα-L-イズロニダーゼ(IDUA)を用いたムコ多糖症I型の治療
(51)【国際特許分類】
A61K 38/47 20060101AFI20230310BHJP
A61K 31/365 20060101ALI20230310BHJP
A61K 31/436 20060101ALI20230310BHJP
A61K 31/573 20060101ALI20230310BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230310BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230310BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20230310BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230310BHJP
C12N 15/55 20060101ALN20230310BHJP
C12N 15/63 20060101ALN20230310BHJP
【FI】
A61K38/47 ZNA
A61K31/365
A61K31/436
A61K31/573
A61K48/00
A61P25/00
A61P37/06
A61P43/00 121
C12N15/55
C12N15/63 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022544318
(86)(22)【出願日】2021-01-20
(85)【翻訳文提出日】2022-08-29
(86)【国際出願番号】 US2021014129
(87)【国際公開番号】W WO2021150570
(87)【国際公開日】2021-07-29
(32)【優先日】2020-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518362720
【氏名又は名称】レジェンクスバイオ インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン ジョセフ パコーラ
(72)【発明者】
【氏名】パウロ ファラベーラ
(72)【発明者】
【氏名】マリー‐ロール ネボレ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA13
4C084BA44
4C084CA53
4C084DC22
4C084MA17
4C084MA66
4C084NA06
4C084NA14
4C084ZA011
4C084ZA012
4C084ZC751
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA17
4C086CB22
4C086DA10
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA06
4C086ZB08
4C086ZC75
(57)【要約】
ムコ多糖症I型(MPS I)の診断を受けたヒト対象の中枢神経系(CNS)の脳脊髄液に、完全ヒトグリコシル化(HuGly)α-L-イズロニダーゼ(IDUA)を送達する組成物及び方法を記載する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ムコ多糖症I型(MPS I)の診断を受けたヒト対象の治療方法であって、前記ヒト対象の脳の脳脊髄液に、ヒト神経細胞が産生した治療有効量の組換えヒトα-L-イズロニダーゼ(IDUA)を送達することを含み、前記ヒトIDUAは、ヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発現ベクターの投与により送達され、前記組換えヌクレオチド発現ベクターは、前記ヒト対象の脳質量に応じた用量で投与され、前記脳質量は、前記対象の脳の脳磁気共鳴画像(MRI)で決定される、前記方法。
【請求項2】
MPS Iの診断を受けたヒト対象の治療方法であって、前記ヒト対象の脳の脳脊髄液に、ヒトグリア細胞が産生した治療有効量の組換えヒトIDUAを送達することを含み、前記ヒトIDUAは、ヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発現ベクターの投与により送達され、前記組換えヌクレオチド発現ベクターは、前記ヒト対象の脳質量に応じた用量で投与され、前記脳質量は、前記対象の脳の脳MRIで決定される、前記方法。
【請求項3】
前記ヒト対象の脳質量は、前記ヒト対象の脳体積cm
3に、1.046g/cm
3の係数を乗じて、前記ヒト対象の脳体積から変換され、前記ヒト対象の脳体積を、前記ヒト対象の脳MRIから得られる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記組換えヌクレオチド発現ベクターは、約2×10
9GC/g脳質量、約1×10
10GC/g脳質量、または約5×10
10GC/g脳質量の用量で投与される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記組換えヌクレオチド発現ベクターは、大槽内(IC)投与を介して投与される、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記組換えヌクレオチド発現ベクターは、脳室内(ICV)投与を介して投与される、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記組換えヌクレオチド発現ベクターは、前記ヒト対象の全脳脊髄液量の10%を超えない体積で投与される、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記ヒトIDUA治療の前に、または前記ヒトIDUA治療と同時に、前記ヒト対象に免疫抑制療法を実施し、その後、免疫抑制療法を継続することをさらに含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記免疫抑制療法が、前記ヒトIDUA治療の前に、または前記ヒトIDUA治療と同時に、(a)タクロリムス及びミコフェノール酸、(b)ラパマイシン及びミコフェノール酸、または(c)タクロリムス、ラパマイシン、及びコルチコステロイド、例えば、プレドニゾロン、及び/またはメチルプレドニゾロンの組合わせを前記ヒト対象に対して投与する、その後、継続することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記免疫抑制療法を、180日後に中止する、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記ヒトIDUAが、配列番号1のアミノ酸配列を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記組換えヌクレオチド発現ベクターは、以下の表に記載した用量で投与される、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【表1】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2020年10月1日出願の米国仮出願第63/086,145号、及び2020年1月22日出願の米国仮出願第62/964,351号の利益を主張する、当該出願のそれぞれの全内容を、参照により、本明細書で援用する。
【0002】
電子的に提出した配列表の援用
本願は、本出願と一緒に提出した、2021年1月11日に作成した、86,234バイトのサイズを有する「Sequence_Listing_12656-128-228.txt」の名称を付したテキストファイルの配列表を、参照により、援用する。
【0003】
1.前書き
ムコ多糖症I型(MPS I)の診断を受けたヒト対象の中枢神経系(CNS)の脳脊髄液に、完全ヒトグリコシル化(HuGly)α-L-イズロニダーゼ(IDUA)を送達するための組成物及び方法を記載する。
【背景技術】
【0004】
2.発明の背景
ムコ多糖症I型(MPS I)は、発生率が100,000件の出生のうち1件と推定する稀な劣性遺伝疾患である(Moore D et al.2008,Orphanet Journal of Rare Diseases 3)。MPS Iは、遍在する複合多糖類、ヘパラン硫酸及びデルマタン硫酸のリソソーム異化に必要な酵素である、α-l-イズロニダーゼ(IDUA)の欠損によって生じる。これらの多糖類はグリコサミノグリカン(GAG)と呼ばれ、MPS I患者の組織に蓄積されて、特徴的な貯蔵病変及び多様な疾患後遺症をもたらす。患者は、低身長、骨及び関節の変形、顔の特徴の粗雑化、肝脾腫、心臓弁膜疾患、閉塞性睡眠時無呼吸、再発性上気道感染症、聴覚障害、手根管症候群、及び角膜混濁による視覚障害を呈し得る(Beck M,et al.,2014,The natural history of MPS I:global perspectives from the MPS I Registry.Genetics in medicine:official journal of the American College of Medical Genetics 16(10):759-765)。さらに、多くの患者は水頭症、脊髄圧迫症、及び一部の患者では認知障害を含み得る中枢神経系でのGAGの貯蔵に関連した症状を発症する。
【0005】
MPS I患者は、広範囲の疾患重症度及びCNS障害の程度に及ぶ。この重症度の多様性は、残存するIDUAの発現と相関する;活性酵素の発現をもたらさない2つの突然変異を有する患者(ナンセンス突然変異、欠失、及び一部のミスセンス突然変異を含む)は、典型的に2歳になる前に症状を示す、正常な発達初期の後に例外なく重度の認知機能低下を示す(Terlato NJ & Cox GF,2003,Genetics in Medicine:official journal of the American College of Medical Genetics 5(4):286-294)。この重症型形態のMPS Iは、ハーラー(H)症候群とも称する。少量の活性IDUAの生産をもたらす少なくとも1つの突然変異を有する患者は、ハーラー-シャイエ(HS)症候群またはシャイエ症候群と称する軽症型表現型を示す。これらの患者は、幼少期の初期に症状を示し得る、または人生の最初の10年を経た後まで特定できない場合もある。概して、発症が遅れ、重症度が低下し得るものの、軽症形態のMPS Iを有する患者は、ハーラー症候群を有する患者と同じあらゆる身体的特徴を経験し得る(Vijay S&Wraith JE,2005,Acta Paediatrica 94(7):872-877)。また、減弱型MPS Iを有する患者は、高い割合で脊髄圧迫及び水頭症を含む神経学的合併症を経験する。減弱型MPS Iを有すると分類した患者のおよそ30%において、認知障害が報告する(Beck M,et al.,2014,Genetics in medicine:official journal of the American College of Medical Genetics 16(10):759-765)。
【0006】
酵素補充療法(ERT)[Aldurazyme(登録商標)(ラロニダーゼ)]は、MPS Iの全身症状の標準治療として認められているが、CNS症状発現を治療しない(de Ru MH,et al.,2011,Orphanet Journal of Rare Diseases 6:9;Wraith JE,et al.,2007,Pediatrics 120(1):E37-E46)。造血幹細胞移植(HSCT)は、MPS Iの神経認知症状に影響を与えるが、手順に重大な制約がある。MPS IのためのHSCTは、相当な病的状態及び最大20%の死亡率に関連付けられ、IDUA発現が安定してもなお患者はHSCTの最長1年後に神経認知機能の低下に直面するため、治療は不完全である(de Ru MH,et al.,2011,Orphanet Journal of Rare Diseases 6:9;Fleming DR,et al.,1998,Pediatric transplantation 2(4):299-304;Boelens JJ,et al.,2007,Bone Marrow Transplantation 40(3):225-233;Souillet G,et al.,2003,Bone Marrow Transplantation 31(12):1105-1117;Whitley CB,et al.,1993,American Journal of Medical Genetics 46(2):209-218)。移植に成功した患者において、知性は典型的には、正常より著しく下回ったままである。
【発明の概要】
【0007】
3.発明の概要
本発明はハーラー、ハーラー-シャイエ、またはシャイエ症候群の診断を受けた患者を含むが、これらに限定されないムコ多糖症I型(MPS I)の診断を受けたヒト対象の中枢神経系の脳脊髄液(CSF)に完全ヒトグリコシル化(HuGly)α-L-イズロニダーゼ(HuGlyIDUA)を送達することを含む。好ましい実施形態では、治療は遺伝子治療を介して、例えば、ヒトIDUA(hIDUA)またはhIDUAの誘導体をコードするウイルスベクターまたはその他のDNA発現コンストラクトをMPS Iの診断を受けた患者(ヒト対象)のCSFに投与して、継続的に完全ヒトグリコシル化導入遺伝子産物をCNSに供給する形質導入細胞の永続的なデポーを作製することにより、達成する。デポーからCSFに分泌するHuGlyIDUAは、CNSでの細胞によってエンドサイトーシスされて、レシピエント細胞での酵素欠損を「横断修正(cross-correction)」する。代替の実施形態では、HuGlyIDUAを細胞培養で生産して、酵素補充療法(「ERT」)として、例えば、酵素を注入することにより投与することができる。しかしながら、遺伝子治療アプローチは、ERTを上回るいくつかの利点を提供する-酵素は血液脳関門を通過することができないため、酵素の全身送達によってはCNSは治療されず;かつ本発明の遺伝子治療アプローチとは異なり、CNSへの酵素の直接の送達には、大きな負担となるだけでなく感染のリスクを生む反復注入が必要となるであろう。
【0008】
導入遺伝子がコードするHuGlyIDUAは、限定を意図するものではないが、配列番号1のアミノ酸配列を有するヒトIDUA(hIDUA)(
図1に示す)、ならびにアミノ酸の置換、欠失、または付加を有する、例えば、限定を意図するものではないが、
図2に示すIDUAのオーソログ中に対応する非保存的残基から選択するアミノ酸置換を含む、hIDUAの誘導体を含むことができる(ただし、そのような突然変異が、
図3に示す(その全内容を、参照により、本明細書で援用するSaito et al.,2014,Mol Genet Metab 111:107-112の57個のMPS I突然変異を列記する表3より)、またはその各々の全内容を、参照により、本明細書で援用するVenturi et al.,2002,Human Mutation #522 Online(「Venturi 2002」)、またはBertola et al.,2011 Human Mutation 32:E2189-E2210(「Bertola 2011」)が報告した、重度の、中程度に重度の、中程度の、または軽症型MPS I表現型において同定したいずれの突然変異も含まないことを条件とする)。
【0009】
例えば、hIDUAの特定位置でのアミノ酸置換は
図2(その全内容を、参照により、本明細書で援用するMaita et al.,2013,PNAS 110:14628、
図S8に報告したオーソログのアラインメントを示す)に示すIDUAオーソログでのその位置に認められる対応する非保存的アミノ酸残基から選択することができる(ただし、そのような置換は
図3に示す、または上記したVenturi 2002またはBertola 2011において報告する有害な突然変異のいずれも含まないことを条件とする)。結果として得られる導入遺伝子産物は、細胞培養または試験動物で、突然変異がIDUA機能を損なわないことを保証するためのインビトロでの従来のアッセイを使用して試験することができる。選択する好ましいアミノ酸置換、欠失、または付加は、細胞培養または動物モデルでのMPS Iのためのインビトロでの従来のアッセイによって試験するIDUAの酵素活性、安定性、または半減期を維持する、または増加させるものとすべきである。例えば、導入遺伝子産物の酵素活性は基質として4-メチルウンベリフェリルα-L-イズロニドを用いる従来の酵素アッセイを使用して評価することができる(使用可能な例示的なIDUA酵素アッセイについては、例えば、その各々の全内容を、参照により、本明細書で援用する、Hopwood et al.,1979,Clin Chim Acta 92:257-265;Clements et al.,1985,Eur J Biochem 152:21-28;及びKakkis et al.,1994,Prot Exp Purif 5:225-232を参照されたい)。導入遺伝子産物がMPS I表現型を修正する能力は、例えば、培養においてMPS I細胞にhIDUAまたは誘導体をコードするウイルスベクターまたはその他のDNA発現コンストラクトを形質導入することにより、培養でのMPS I細胞にrHuGlyIDUAまたは誘導体を加えることにより、またはMPS I細胞をrHuGlyIDUAまたは誘導体を発現及び分泌するように操作したヒト宿主細胞と共培養することにより、細胞培養において評価する、例えば、培養でのMPS I細胞でのIDUA酵素活性及び/またはGAG貯蔵量の低下を検出することにより、MPS I培養細胞の欠陥の修正を決定することができる(例えば、その各々の全内容を、参照により、本明細書で援用するMyerowitz&Neufeld,1981,J Biol Chem 256:3044-3048;及びAnson et al.1992,Hum Gene Ther 3:371-379を参照されたい)。
【0010】
MPS Iのための動物モデルは、マウス(例えば、Clarke et al.,1997,Hum Mol Genet 6(4):503-511を参照されたい)、短毛の雑種ネコ(例えば、Haskins et al.,1979,Pediatr Res 13(11):1294-97を参照されたい)、及びいくつかの品種のイヌ(例えば、Menon et al.,1992,Genomics 14(3):763-768;Shull et al.,1982,Am J Pathol 109(2):244-248を参照されたい)について記載する。イヌのMPS Iモデルは、IDUA突然変異により検出可能なタンパク質が喪失するため、MPS Iの最も重度の形態であるハーラー症候群に類似している。IDUAタンパク質間の遺伝子相同性が高いこと(
図2のアラインメントを参照されたい)は、hIDUAが動物において機能的であることを意味する、hIDUAを包含する治療はこれらの動物モデルで試験することができる。
【0011】
好ましくは、rHuGlyIDUA導入遺伝子は、神経細胞及び/またはグリア細胞において機能する発現制御エレメント、例えば、CB7プロモーター(ニワトリβ-アクチンプロモーター及びCMVエンハンサー)によって制御するべきであり、かつベクターによって駆動する導入遺伝子の発現を増強するその他の発現制御エレメント(例えば、ニワトリβ-アクチンイントロン及びウサギβ-グロビンポリAシグナル)を含むことができる。hIDUA導入遺伝子のためのcDNAコンストラクトには、形質導入したCNS細胞による適切な翻訳中及び翻訳後プロセシング(グリコシル化及びタンパク質硫酸化)を保証するシグナルペプチドのためのコード配列を含めるべきである。CNS細胞で使用するそのようなシグナルペプチドとして:
●オリゴデンドロサイト-ミエリン糖タンパク質(hOMG)シグナルペプチド:
MEYQILKMSLCLFILLFLTPGILC(配列番号2)
●E1A刺激遺伝子の細胞リプレッサー2(hCREG2)シグナルペプチド:
MSVRRGRRPARPGTRLSWLLCCSALLSPAAG(配列番号3)
●V-セット及び膜貫通ドメイン含有2B(hVSTM2B)シグナルペプチド:MEQRNRLGALGYLPPLLLHALLLFVADA(配列番号4)
●プロトカドヘリンα-1(hPCADHA1)シグナルペプチド:
MVFSRRGGLGARDLLLWLLLLAAWEVGSG(配列番号5)
●FAM19A1(TAFA1)シグナルペプチド:
MAMVSAMSWVLYLWISACA(配列番号6)
●インターロイキン-2シグナルペプチド:
MYRMQLLSCIALILALVTNS(配列番号14)とし得るが、これらに限定されない。シグナルペプチドは本明細書において、リーダー配列またはリーダーペプチドとも称することができる。
【0012】
導入遺伝子を送達するために使用する組換えベクターは、神経細胞及び/またはグリア細胞を含むがこれらに限定されない、CNSの細胞への向性を有すべきである。そのようなベクターは非複製組換えアデノ随伴ウイルスベクター(「rAAV」)を含むことができ、特にAAV9またはAAVrh10キャプシドを有するウイルスベクターが好ましい。これらに限定されないが、その全内容を、参照により、本明細書で援用する米国特許第7,906,111号においてWilsonによって記載した、特に好ましくはAAV/hu.31及びAAV/hu.32を有する、AAVバリアントキャプシド、ならびにその各々の全内容を、参照により、本明細書で援用する米国特許第8,628,966号、米国特許第8,927,514号、及びSmith et al.,2014,Mol Ther 22:1625-1634においてChatterjeeによって記載したAAVバリアントキャプシドを使用することができる。しかしながら、「ネイキッドDNA」コンストラクト(5.2節を参照されたい)と称するレンチウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、または非ウイルス性発現ベクターを含むがこれらに限定されない、その他のウイルスベクターを使用することができる。
【0013】
ある実施形態では、AAV-コンストラクト1は、導入遺伝子を送達するために使用することができる。AAV-コンストラクト1は、ヒトα-L-イズロニダーゼ(IDUA)発現カセットを含む組換えアデノ随伴ウイルス血清型9キャプシドである、また、当該カセットからの発現は、CB7プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)前初期エンハンサーと、ニワトリベータアクチンプロモーターとのハイブリッドで駆動する、また、当該IDUA発現カセットは、逆方向末端反復(ITR)に隣接しており、そして、当該発現カセットは、ニワトリベータアクチンイントロンと、ウサギベータ-グロビンポリアデニル化(ポリA)シグナルを含む。好ましい実施形態では、ITRは、AAV2 ITRである。AAV-コンストラクト1のベクターゲノムの概略図を
図6に示す。ある実施形態では、AAV-コンストラクト1は、配列番号27のヌクレオチド配列を含む核酸を含む。
【0014】
CSFへの投与に好適な医薬組成物は、生理的に適合性の水性緩衝剤、界面活性剤、及び任意の賦形剤を含む製剤緩衝液でのrHuGlyIDUAベクターの懸濁液を含む。ある実施形態では、医薬組成物は、髄腔内投与に好適である。ある実施形態では、医薬組成物は、大槽内投与(大槽内への注入)に好適である。ある実施形態では、医薬組成物は、C1-2穿刺を介した、くも膜下への注入に好適である。ある実施形態では、医薬組成物は、脳室内投与に好適である。ある実施形態では、医薬組成物は、腰椎穿刺を介する投与に好適である。
【0015】
組換えベクターの治療有効用量は、くも膜下投与を介して(すなわち、くも膜下へ注入して、組換えベクターがCSFを通じて拡散して、CNSの細胞に形質導入するようにする)、CSFに投与すべきである。このことは、いくつかの方法で、例えば、頭蓋内(大槽または脳室内)注入、または腰椎槽への注入によって達成することができる。例えば、(大槽内への)大槽内(IC)注入は、CTガイド後頭下穿刺で行うことができ、または、患者に実行できそうな場合は、C1-2穿刺を介してくも膜下腔への注入を実施することができ、または、腰椎穿刺(典型的にCSFの試料を収集するために実施する診断手順)を、CSFにアクセスするために使用することができる。あるいは、脳室内(ICV)投与(血液脳関門を透過しない抗感染剤または抗がん剤の導入に使用する、より侵襲的な技術)を使用して、組換えベクターを直接脳室内に滴下することができる。あるいは、鼻腔内投与を使用して、CNSに組換えベクターを送達してもよい。rHuGlyIDUAのCSF濃度を少なくとも9.25μg/mLのCmin、または9.25~277μg/mLの範囲の濃度に維持する用量を使用すべきである。
【0016】
CSF濃度は、後頭部または腰椎穿刺から得られるCSF流体でのrHuGlyIDUAの濃度を直接測定することでモニタリングする、または患者の血清において検出したrHuGlyIDUAの濃度から外挿によって推定することができる。ある実施形態では、血清でのrHuGlyIDUAが10ng/mL~100ng/mLであることは、CSFでのrHuGlyIDUAが1~30mgであることを示す。ある実施形態では、組換えベクターは、血清でのrHuGlyIDUAを10ng/mL~100ng/mLに維持する用量で、CSFに投与する。
【0017】
特定の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターは、ヒト対象の脳質量に応じた用量で投与する、また、脳質量は、対象の脳の脳磁気共鳴画像(MRI)で決定する。特定の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターは、MRIで決定した、約2×109GC/g脳質量の用量で投与する。特定の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターは、MRIで決定した、約1×1010GC/g脳質量の用量で投与する。特定の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターは、MRIで決定した、約5×1010GC/g脳質量の用量で投与する。特定の実施形態では、ヒト対象の脳体積cm3に、1.046g/cm3の係数を乗じて、ヒト対象の脳体積からヒト対象の脳質量に変換する、また、ヒト対象の脳体積を、ヒト対象の脳MRIから得る。
【0018】
背景として、ヒトIDUAは、653アミノ酸のポリペプチドとして翻訳され、
図1において示す6つの可能性のある部位(N110、N190、N336、N372、N415、及びN451)でN-グリコシル化する。シグナル配列が除去され、ポリペプチドはリソソーム内で成熟形態にプロセシングする:75kDaの細胞内前駆体は数時間で72kDaにまでトリミングされ、最終的に、4~5日かけて66kDaの細胞内形態にプロセシングする。IDUAの分泌形態(使用するアッセイに応じて76kDaまたは82kDa)は、マンノース-6-リン酸受容体を介して細胞に容易にエンドサイトーシスされ、より小さい細胞内形態と同様にプロセシングする。(その各々の全内容を、参照により、本明細書で援用する、Myerowitz&Neufeld,1981,J Biol Chem 256:3044-3048;Clements et al.,1989,Biochem J.259:199-208;Taylor et al.,1991,Biochem J.274:263-268;及びZhao et al.,1997 J Biol Chem 272:22758-22765を参照されたい)。
【0019】
hIDUAの全体の構造は、3つのドメインからなる:残基42-396は、古典的な(β/α)トリオースリン酸イソメラーゼ(TIM)バレルドメインを形成する、残基27-42及び397-545は、短いへリックス-ループ-へリックス(482-508)を有するβ-サンドイッチドメインを形成する、かつ残基546-642は、Ig様ドメインを形成する。最後に挙げた2つのドメインは、C
541及びC
577間のジスルフィド架橋によって連結する。β-サンドイッチ及びIg様ドメインは、TIMバレルの1番目、7番目、及び8番目のα-へリックスに結合する。β-ヘアピン(β12-β13)は、TIMバレルの8番目のβ-ストランド及び8番目のα-へリックスの間に挿入され、これは基質結合及び酵素活性に要求するN-グリコシル化N
372を含む。(
図1、及びその各々の全内容を、参照により、本明細書で援用するMaita et al.,2013,PNAS 110:14628-14633,及びSaito et al.,2014,Mol Genet Metab 111:107-112に記載の結晶構造を参照されたい)。
【0020】
本発明は部分的に、以下の原理に基づく:
(i)CNSの神経細胞及びグリア細胞はCNSでのロバストなプロセスである、グリコシル化及びチロシン-O-硫酸化を含む分泌タンパク質の翻訳後プロセシングのための細胞機構を有する分泌細胞である。ヒトCNS細胞が行う翻訳後修飾についての、その各々の全体が参照により組み込まれている、例えば、ヒト脳マンノース-6-リン酸(M6P)グリコプロテオームについて記載され、脳がその他の組織に認めるよりはるかに多くの個々のアイソフォームを有するより多くのタンパク質及びマンノース-6-リン酸化タンパク質を含むことを注記した、Sleat et al.,2005,Proteomics 5:1520-1532、及びSleat 1996,J Biol Chem 271:19191-98、ならびに神経細胞が分泌したチロシン硫酸化糖タンパク質の産生を報告しているKanan et al.,2009,Exp.Eye Res.89:559-567及びKanan&Al-Ubaidi,2015,Exp.Eye Res.133:126-131を参照されたい。
(ii)hIDUAは、
図1で特定している6つのアスパラギン(「N」)のグリコシル化部位を有する(N
110FT;N
190VS;N
336TT;N
372NT;N
415HT;N
451RS)。N
372のN-グリコシル化は、基質との結合及び酵素活性に要求され、かつマンノース-6-リン酸化は分泌した酵素の細胞取り込み及びMPS I細胞の横断修正に要求する。N-結合型グリコシル化部位は、複合型、ハイマンノース型、及びリン酸化マンノース糖質部分を含むが(
図4)、分泌形態のみが細胞によって取り込まれる(Myerowitz&Neufeld,1981,上記)。本明細書に記載した遺伝子治療アプローチは、ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって測定した場合に76~82kDaの(使用するアッセイに応じて)、2,6-シアル酸付加され、及びマンノース-6リン酸化した、IDUA糖タンパク質の継続的分泌をもたらすべきである。分泌したグリコシル化/リン酸化IDUAは、CNSの形質導入されていない神経細胞及びグリア細胞によって取り込まれ、かつ正しくプロセシングすべきである。
(iii)リソソームタンパク質の細胞性及び細胞内輸送/取り込みは、M6Pを介する。Daniele 2002(Biochimica et Biophysica Acta 1588(3):203-9)においてイズロン酸-2-スルファターゼ酵素について行われたように、分泌タンパク質のM6P含有量を測定することは、可能である。(例えば、5mMの)抑制性M6Pの存在下では、非神経細胞または非グリア細胞、例えば、Daniele 2002の遺伝子操作した腎細胞によって生成した酵素前駆体の取り込みは、Daniele 2002に示したように、コントロール細胞のレベルに近いレベルまで減少すると予測する。抑制性M6Pの存在下であっても、脳細胞、例えば、神経細胞及びグリア細胞によって生成する酵素前駆体の取り込みは、取り込み量がコントロール細胞より4倍高く、抑制性M6Pの非存在下で遺伝子操作した腎細胞によって生成した酵素前駆体の酵素活性(すなわち、取り込み)のレベルと同等であったDaniele 2002に示したように高レベルを維持すると予測する。このアッセイを用いると、脳細胞によって生成する酵素前駆体のM6P含有量を予測する、特に、異なる種類の細胞によって生成する酵素前駆体でのM6P含有量を比較することが可能となる。本明細書に記載した遺伝子治療アプローチは、そのようなアッセイにおいて抑制性M6Pの存在下で、高レベルで神経細胞及びグリア細胞に取り込まれ得る、hIDUAの継続的分泌をもたらすべきである。
(iv)N-結合型グリコシル化部位に加えて、hIDUAは、結合及び活性のために要求するN
372を含有するドメインの近くに、チロシン(「Y」)硫酸化部位(ADTPIY
296NDEADPLVGWS)を含有する。(例えば、全内容を、参照により、本明細書で援用する、タンパク質チロシン硫酸化を受けるチロシン残基を取り囲むアミノ酸の解析についてのYang et al.,2015,Molecules 20:2138-2164、特に、p.2154を参照されたい。「規則」は、以下の通りに要約することができる:Y残基がYの+5~-5位内にEまたはDを有する、かつYの-1位が中性または酸性荷電アミノ酸であるが、硫酸化を無効化する塩基性アミノ酸、例えば、R、K、またはHではない)。いかなる理論に束縛することも意図するものではないが、チロシン硫酸化領域内の突然変異(例えば、W306L)が酵素活性の減少及び疾患と関連することは公知であるため、hIDUAのこの部位の硫酸化は活性にきわめて重要となり得る。(Maita et al.,2013,PNAS 110:14628、pp.14632-14633を参照されたい)。
(v)CNSのヒト細胞によるhIDUAのグリコシル化により、安定性、半減期を向上させ、かつ導入遺伝子産物の望まない凝集を減らすことができるグリカンが付加する。重要なことに、本発明のHuGlyIDUAに付加するグリカンは2,6-シアル酸を含み、Neu5Ac(「NANA」)を組み込むが、そのヒドロキシル化誘導体NeuGc(N-グリコリルノイラミン酸、すなわち「NGNA」または「Neu5Gc」)を組み込まない高度にプロセシングした複合型二分岐N-グリカンである。そのようなグリカンは、この翻訳後修飾を行うのに要求する2,6-シアリルトランスフェラーゼを有さず、バイセクティングGlcNAcも産生しないが、Neu5Ac(NANA)の代わりにヒトにとって典型的でない(かつ潜在的に免疫原性の)シアル酸であるNeu5Gc(NGNA)を付加するCHO細胞において作製するラロニダーゼには存在しない。例えば、Dumont et al.,2016,Critical Rev in Biotech 36(6):1110-1122(Early Online pp.1-13、p.5)、及びHague et al.,1998 Electrophor 19:2612-2630(「CHO細胞株は、α2,6-シアリルトランスフェラーゼの欠如のため、グリコシル化に関して『表現形上制限する』と考えられている」)を参照されたい。さらに、CHO細胞は大部分の個体に存在する抗α-Gal抗体と反応して、高濃度でアナフィラキシーを誘発し得る免疫原性グリカン、α-Gal抗原も生産し得る。例えば、Bosques,2010,Nat Biotech 28:1153-1156を参照されたい。本発明のHuGlyIDUAのヒトグリコシル化パターンは、導入遺伝子産物の免疫原性を低下させ、かつ効力を向上させるべきである。
(vi)ヒトCNS細胞でのロバストな翻訳後プロセスである、hIDUAのチロシン硫酸化は、導入遺伝子産物のプロセシング及び活性を向上させるべきである。リソソームタンパク質のチロシン硫酸化の意義は、明らかにされていない;しかし、その他のタンパク質では、タンパク質-タンパク質相互作用(抗体及び受容体)の親和性が増大する、タンパク質分解性プロセシング(ペプチドホルモン)が促進することが示す。(Moore,2003,J Biol.Chem.278:24243-46;及びBundegaard et al.,1995,The EMBO J 14:3073-79を参照されたい)。チロシン硫酸化(IDUAプロセシングの最終ステップとして起こる場合がある)を担うチロシンタンパク質スルホトランスフェラーゼ(TPST1)は、明らかに脳(TPST1のための遺伝子発現データは、例えば、http://www.ebi.ac.uk/gxa/homeにてアクセス可能なEMBL-EBI Expression Atlasに認めることができる)でより高いレベル(mRNAに基づいて)で発現する。そのような翻訳後修飾は、最高でも、CHO細胞産物であるラロニダーゼにおいて少数しか存在しない。ヒトCNS細胞とは異なり、CHO細胞は、分泌細胞ではなく、翻訳後チロシン硫酸化のための能力が限られている。(例えば、Mikkelsen&Ezban,1991,Biochemistry 30:1533-1537、特にp.1537の考察を参照されたい)。
(vii)導入遺伝子産物の免疫原性は、患者の免疫状態、注入したタンパク質薬物の構造及び特徴、投与経路、ならびに治療の持続時間を含む様々な因子によって誘導し得る。プロセス関連不純物、例えば、宿主細胞タンパク質(HCP)、宿主細胞DNA、及び化学的残留物、ならびに産物関連不純物、例えば、タンパク質分解物及び構造特性、例えば、グリコシル化、酸化、及び凝集(肉眼不可視粒子)は免疫反応を増強するアジュバントとしての機能を果たすことで免疫原性を増加させる場合がある。プロセス関連及び産物関連不純物の量は、製造プロセス:商業生産するIDUA産物に影響を及ぼし得る細胞培養、精製、製剤、保存、及び取扱いの影響を受け得る。遺伝子治療では、タンパク質はインビボで生産され、その結果、プロセス関連不純物は存在せず、タンパク質産物は組換え技術によって生産するタンパク質と関連した生産物関連不純物/分解物、例えば、タンパク質凝集物及びタンパク質酸化物を含む可能性は低い。凝集は、例えば、タンパク質生産及び貯蔵と関連付けられ、高いタンパク質濃度、製造装置及び容器との表面相互作用、ならびに特定の緩衝液システムを用いた精製プロセスに起因する。しかし、導入遺伝子をインビボで発現させる場合、凝集を促進するこれらの条件は存在しない。また、酸化、例えば、メチオニン、トリプトファン、及びヒスチジンの酸化は、タンパク質生産及び貯蔵と関連付けられ、例えば、ストレス負荷した細胞培養条件、金属及び空気との接触、ならびに緩衝液及び賦形剤での不純物によって引き起こす。インビボで発現するタンパク質は、ストレス負荷条件下で酸化し得るが、ヒトは多くの生物と同様に、抗酸化防衛システムを備えており、それにより酸化ストレスが低下するだけでなく、酸化を修復、及び/または逆行させもする。したがって、インビボで生産するタンパク質が、酸化形態にある可能性は低い。凝集及び酸化は両方とも、効力、PK(クリアランス)に影響を及ぼし得、免疫原となる懸念を増大させ得る。本明細書に記載した遺伝子治療アプローチは、商業生産した産物と比較して免疫原性の低下したhIDUAの継続的分泌をもたらすべきである。
【0021】
上記した理由のために、HuGlyIDUAの生産は、例えば、MPS I疾患(ハーラー、ハーラー-シャイエ、またはシャイエを含むが、これらに限定はされない)と診断する患者(ヒト対象)のCSFにHuGlyIDUAをコードするウイルスベクターまたはその他のDNA発現コンストラクトを投与して、形質導入したCNS細胞が分泌する完全ヒトグリコシル化、マンノース-6-リン酸化、硫酸化導入遺伝子産物を継続的に供給するCNSでの永続的なデポーを作製することによる、遺伝子治療によって達成するMPS Iの治療のための「バイオベター」分子をもたらすべきである。デポーからCSF中に分泌するHuGlyIDUA導入遺伝子産物は、CNSでの細胞によりエンドサイトーシスされ、MPS Iレシピエント細胞での酵素欠陥を「横断修正」する。
【0022】
遺伝子治療またはタンパク質治療アプローチにおいて生産する全てのhIDUA分子が完全にグリコシル化され、硫酸化することは、必須ではない。むしろ、生産する糖タンパク質の集団は、有効性を実証する上で十分なグリコシル化(2,6-シアル酸付加及びマンノース-6-リン酸化を含む)及び硫酸化を受けるべきである。本発明の遺伝子治療処置の目的は、疾患の進行を減速させ、または停止させることである。有効性は、認知機能(例えば、神経認知機能の低下の防止または減少);CSF及び/または血清での疾患バイオマーカー(例えば、GAG)の低下;及び/または、CSF及び/または血清のIDUA酵素活性の増加を測定することでモニタリングすることができる。炎症の徴候及びその他の安全事象をモニタリングすることもできる。
【0023】
遺伝子治療に対する代替または追加治療として、rHuGlyIDUA糖タンパク質は組換えDNA技術によってヒト細胞株で生産することができ、糖タンパク質は、ERTのために、全身的に及び/またはCSFに、MPS Iの診断を受けた患者に投与することができる。そのような組換え糖タンパク質生産のために使用することができるヒト細胞株は、これらに限定されないが、数例を挙げればHT-22、SK-N-MC、HCN-1A、HCN-2、NT2、SH-SY5y、hNSC11、ReNcell VM、ヒト胎児腎293細胞(HEK293)、線維肉腫HT-1080、HKB-11、CAP、HuH-7、及び網膜細胞株、PER.C6、またはRPEを含む(例えば、全内容を、参照により、本明細書で援用する、rHuGlyIDUA糖タンパク質の組換え生産のために使用することができるヒト細胞株の総説についてのDumont et al.,2016,Critical Rev in Biotech 36(6):1110-1122の「Human cell lines for biopharmaceutical manufacturing: history,status,and future perspectives」を参照されたい)。完全なグリコシル化、特にシアル酸付加及びチロシン硫酸化を保証するために、生産に使用する細胞株をチロシン-O-硫酸化を担うα-2,6-シアリルトランスフェラーゼ(またはα-2,3-及びα-2,6-シアリルトランスフェラーゼの両方)及び/またはTPST-1及びTPST-2酵素を共発現するように宿主細胞を遺伝子操作することで強化することができる。
【0024】
rHuGlyIDUAの送達が免疫反応を最小化すべきである一方、CNS関連遺伝子治療に関する毒性の最も明白な潜在的源は、遺伝的にIDUAを欠損しており、したがってタンパク質及び/または導入遺伝子を送達するために用いるベクターを潜在的に寛容しないヒト対象において、発現したhIDUAタンパク質に対する免疫が発生する。
【0025】
したがって、好ましい実施形態では、患者を免疫抑制治療で共治療することは、特にIDUAのレベルが0に近い重度の疾患(例えば、ハーラー)を有する患者を治療する場合に、適切である。タクロリムスまたはラパマイシン(シロリムス)を、例えば、ミコフェノール酸と組合わせた、またはプレドニゾロン及び/またはメチルプレドニゾロンなどのコルチコステロイドと組合わせたレジメン、または組織移植手順において使用するその他の免疫抑制レジメンを伴う免疫抑制治療を、利用することができる。そのような免疫抑制治療は、遺伝子治療の過程で投与することができ、ある実施形態では、免疫抑制治療による前処理が好ましい場合がある。免疫抑制治療は、主治医の判断に基づいて、遺伝子治療処置の後も継続することができ、その後、免疫寛容が誘発した場合、例えば、180日後に中止し得る。
【0026】
その他の利用可能な治療の送達を伴うCSFへのHuGlyIDUAの送達の組合わせは、本発明の方法に包含する。追加治療は、遺伝子治療処置の前に、それと同時に、またはその後に投与することができる。本発明の遺伝子治療と併用することができるMPS Iのための利用可能な治療には、限定を意図するものではないが、全身的に、またはCSFに投与するラロニダーゼを使用する酵素補充療法及び/またはHSCT療法がある。
【0027】
ある態様では、ムコ多糖症I(MPS I)の診断を受けたヒト対象の治療方法を提供しており、ヒトの神経細胞が産生する治療有効量の組換えヒトα-L-イズロニダーゼ(IDUA)を、当該ヒト対象の脳の脳脊髄液に送達することを含む、また、当該ヒトIDUAは、ヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発現ベクターを投与して誘導する、また、組換えヌクレオチド発現ベクターを、ヒト対象の脳質量に応じた用量で投与する、また、対象の脳の脳磁気共鳴画像(MRI)で脳質量を決定する。
【0028】
別の態様では、ムコ多糖症I(MPS I)の診断を受けたヒト対象の治療方法を提供しており、ヒトのグリア細胞が産生する治療有効量の組換えヒトIDUAを、当該ヒト対象の脳の脳脊髄液に送達することを含む、また、当該ヒトIDUAは、ヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発現ベクターを投与して誘導する、また、組換えヌクレオチド発現ベクターを、ヒト対象の脳質量に応じた用量で投与する、また、対象の脳の脳MRIで脳質量を決定する。
【0029】
本明細書に記載した治療方法の特定の実施形態では、ヒト対象の脳体積に、1.046g/cm3の係数を乗じて、ヒト対象の脳体積cm3からヒト対象の脳質量に変換する、また、ヒト対象の脳体積を、ヒト対象の脳MRIから得る。
【0030】
本明細書に記載した治療方法の特定の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターを、MRIで決定した約2×109GC/g脳質量、MRIで決定した約1×1010GC/g脳質量、またはMRIで決定した約5×1010GC/g脳質量の用量で投与する。
【0031】
本明細書に記載した治療方法の一部の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターを、大槽内(IC)投与を介して投与する。本明細書に記載した方法のその他の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターを、脳室内(ICV)投与を介して投与する。
【0032】
本明細書に記載した方法の特定の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターを、ヒト対象の全脳脊髄液量の10%を超えない体積で投与する。
【0033】
本明細書に記載した治療方法の特定の実施形態では、当該方法は、ヒトIDUA治療の前に、またはヒトIDUA治療と同時に、免疫抑制療法をヒト対象に対して投与する、その後、免疫抑制療法を継続する、ことをさらに含む。特定の実施形態では、免疫抑制療法は、(a)タクロリムス及びミコフェノール酸、(b)ラパマイシン及びミコフェノール酸、または(c)タクロリムス、ラパマイシン、及びコルチコステロイド、例えば、プレドニゾロン及び/またはメチルプレドニゾロンなどの組み合わせを、ヒトIDUA治療の前に、またはヒトIDUA治療と同時に、ヒト対象に対して投与する、その後、免疫抑制療法を継続する、ことを含む。特定の実施形態では、免疫抑制療法は、180日後に中止する。
【0034】
本明細書に記載した方法の特定の実施形態では、ヒトIDUAは、配列番号1のアミノ酸配列を含む。
3.1 例示的実施形態
1.ムコ多糖症I型(MPS I)の診断を受けたヒト対象の治療方法であって、前記ヒト対象の脳の脳脊髄液に、ヒト神経細胞が産生した治療有効量の組換えヒトα-L-イズロニダーゼ(IDUA)を送達することを含む、また、ヒトIDUAを、ヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発現ベクターを投与して送達する、また、前記組換えヌクレオチド発現ベクターを、前記対象の脳質量に応じた用量で投与する、そして、前記脳質量を、前記対象の脳の脳磁気共鳴画像(MRI)で決定する、前記方法。
2.MPS Iの診断を受けたヒト対象の治療方法であって、前記ヒト対象の脳の脳脊髄液に、ヒトグリア細胞が産生した治療有効量の組換えヒトIDUAを送達することを含む、また、ヒトIDUAを、ヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発現ベクターを投与して送達する、また、前記組換えヌクレオチド発現ベクターは、ヒト対象の脳質量に応じた用量で投与する、そして、前記脳質量は、前記対象の脳の脳MRIによって決定する、前記方法。
3.前記ヒト対象の脳質量を、前記ヒト対象の脳体積cm
3に、1.046g/cm
3の係数を乗じて、前記ヒト対象の脳体積から変換して得る、また、前記ヒト対象の脳体積を、前記ヒト対象の脳MRIから得る、パラグラフ1または2に記載の方法。
4.前記組換えヌクレオチド発現ベクターを、約2×10
9GC/g脳質量、約1×10
10GC/g脳質量、または約5×10
10GC/g脳質量の用量で投与する、パラグラフ1~3のいずれか1つに記載の方法。
5.前記組換えヌクレオチド発現ベクターを、大槽内(IC)投与を介して投与する、パラグラフ1~4のいずれか1つに記載の方法。
6.前記組換えヌクレオチド発現ベクターを、脳室内(ICV)投与を介して投与する、パラグラフ1~4のいずれか1つに記載の方法。
7.前記組換えヌクレオチド発現ベクターを、前記ヒト対象の全脳脊髄液量の10%を超えない体積で投与する、パラグラフ1~6のいずれか1項に記載の方法。
8.ヒトIDUA治療の前に、またはヒトIDUA治療と同時に、ヒト対象に免疫抑制療法を実施する、その後、免疫抑制療法を継続することをさらに含む、パラグラフ1~7のいずれか1つに記載の方法。
9.前記免疫抑制治療が、前記ヒトIDUA治療の前に、または前記ヒトIDUA治療と同時に、(a)タクロリムス及びミコフェノール酸、(b)ラパマイシン及びミコフェノール酸、または(c)タクロリムス、ラパマイシン、及びコルチコステロイド、例えば、プレドニゾロン、及び/またはメチルプレドニゾロンの組合わせを前記対象に対して投与する、その後、継続することを含む、パラグラフ8に記載の方法。
10.前記免疫抑制治療を、180日後に中止する、パラグラフ8または9に記載の方法。
11.前記ヒトIDUAが、配列番号1のアミノ酸配列を含む、パラグラフ1~10のいずれか1つに記載の方法。
12.前記組換えヌクレオチド発現ベクターを、以下の表に記載した用量で投与する、パラグラフ1~11のいずれか1つに記載の方法。
【表1】
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】ヒトIDUAのアミノ酸配列である。6つのN-結合型グリコシル化部位(N)は、太字にして下線を引いてある;1つのチロシン-O-硫酸化部位(Y)は太字にして下線を引き、完全な硫酸化部位配列は網掛けを付けてある;そして、ジスルフィド結合(2つのシステイン残基;C)は、太字にして、下線を引いてある。CHO細胞において作製する分泌型組換え産物のN末端はA
26であるが、ヒト肝臓のネイティブ細胞内酵素のN末端はE
27である(Kakkis et al.,1994,Prot Exp Purif 5:225-232,p.230を参照されたい)。
【0036】
【
図2】hIDUAの公知のオーソログとのマルチプル配列アラインメントである。配列は、Clustal X ver.2を使用してアラインした(Larkin MA,et al.,2007,Clustal W and Clustal X version 2.0.Bioinformatics 23(21):2947-2948)。種の名前及びタンパク質IDは、以下の通りである:ヒト(Homo sapiens;NP_000194.2)、イヌ(Canis familiaris;M81893.1)、ウシ(Bos taurus;XP_002688492.1)、マウス(Mus musculus;NP_032351.2)、ラット(Rattus norvegicus;NP_001165555.1)、カモノハシ(Ornithorhynchus anatinus;XP_001514102.2)、ニワトリ(Gallus gallus;NP_001026604.1)、アフリカツメガエル(Xenopus laevis;NP_001087031.1)、ゼブラフィッシュ(Danio rerio;XP_001923689.3)、ウニ(Strongylocentrotus purpuratus;XP_796813.3)ユウレイボヤ(Ciona intestinalis;XP_002120937.1)、及びショウジョウバエ(Drosophila melanogaster;NP_609489.1)。ヒトタンパク質(N110、N190、N336、N372、T374、N415、N451)のN-グリコシル化部位;基質結合に関与する残基(R89、H91、N181、E182、H262、K264、E299、D349、及びR363)及びN372でのN-グリカンとの相互作用に関与する残基(P54、H58、W306、S307、Y355、R368及びQ370)は、網掛けによって示す。(適応元:Maita et al.,2013,PNAS 110:14628-14633;Supplementary Material,Fig.S8)。
【0037】
【
図3】MPS I突然変異、IDUAの構造変化及び表現型である。(Saito et al.,Mol Genet Metab 111:107-112,Table 3より)。
【0038】
【
図4】CHO細胞が分泌した組換えヒトα-L-イズロニダーゼの6つのグリコシル化部位のオリゴ糖である。Cは複合型;Mはハイマンノース型;Pは、リン酸化したハイマンノース型である。大文字はよく識別した、主要なオリゴ糖を意味するが、小文字は軽微なまたは不完全に特徴づけた構成要素を意味する。(Zhao et al.,1997,J Biol Chem 272:22758-22765より)。
【0039】
【
図5】AAVキャプシド1~9のClustalマルチプル配列アラインメントである(配列番号16~26)。その他のアラインしたAAVキャプシドの対応する位置からアミノ酸残基を「動員する」ことで、アミノ酸置換(一番下の列に太字で示す)がAAV9及びAAV8キャプシドになし得る。「HVR」=超可変領域と称する配列領域である。
【0040】
【
図6】AAV-コンストラクト1のベクターゲノムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
5.発明の詳細な説明
本発明はハーラー、ハーラー-シャイエ、またはシャイエ症候群の診断を受けた患者を含むが、これらに限定されないムコ多糖症I型(MPS I)の診断を受けたヒト対象の中枢神経系の脳脊髄液(CSF)に完全ヒトグリコシル化(HuGly)α-L-イズロニダーゼ(HuGlyIDUA)を送達することを含む。好ましい実施形態では、治療は遺伝子治療を介して、例えば、ヒトIDUA(hIDUA)またはhIDUAの誘導体をコードするウイルスベクターまたはその他のDNA発現コンストラクトをMPS Iの診断を受けた患者(ヒト対象)のCSFに投与して、継続的に完全ヒトグリコシル化導入遺伝子産物をCNSに供給する形質導入細胞の永続的なデポーを作製することにより、達成する。デポーからCSFに分泌するHuGlyIDUAは、CNSでの細胞によってエンドサイトーシスされて、レシピエント細胞での酵素欠損を「横断修正(cross-correction)」する。代替の実施形態では、HuGlyIDUAを細胞培養で生産して、酵素補充療法(「ERT」)として、例えば、酵素を注入することにより投与することができる。しかしながら、遺伝子治療アプローチは、ERTを上回るいくつかの利点を提供する-酵素は血液脳関門を通過することができないため、酵素の全身送達によってはCNSは治療されず;かつ本発明の遺伝子治療アプローチとは異なり、CNSへの酵素の直接の送達には、大きな負担となるだけでなく感染のリスクを生む反復注入が必要となるであろう。
【0042】
導入遺伝子がコードするHuGlyIDUAは、限定を意図するものではないが、配列番号1のアミノ酸配列を有するヒトIDUA(hIDUA)(
図1に示す)、ならびにアミノ酸の置換、欠失、または付加を有する、例えば、限定を意図するものではないが、
図2に示すIDUAのオーソログ中に対応する非保存的残基から選択するアミノ酸置換を含む、hIDUAの誘導体を含むことができる(ただし、そのような突然変異を、
図3に示す(その全内容を、参照により、本明細書で援用するSaito et al.,2014,Mol Genet Metab 111:107-112の57個のMPS I突然変異を列記する表3より)、またはその各々の全内容を、参照により、本明細書で援用するVenturi et al.,2002,Human Mutation #522 Online(「Venturi 2002」)、またはBertola et al.,2011 Human Mutation 32:E2189-E2210(「Bertola 2011」)が報告した、重度の、中程度に重度の、中程度の、または軽症型MPS I表現型において同定したいずれの突然変異も含まないことを条件とする)hIDUAの誘導体を含むことができる。
【0043】
例えば、hIDUAの特定位置でのアミノ酸置換は
図2(その全内容を、参照により、本明細書で援用するMaita et al.,2013,PNAS 110:14628、
図S8に報告したオーソログのアラインメントを示す)に示すIDUAオーソログでのその位置に認める対応する非保存的アミノ酸残基から選択することができる(ただし、そのような置換は
図3に示す、または上記Venturi 2002またはBertola 2011において報告する有害な突然変異のいずれも含まないことを条件とする)。結果として得られる導入遺伝子産物は、細胞培養または試験動物で、突然変異がIDUA機能を損なわないことを保証するためのインビトロでの従来のアッセイを使用して試験することができる。選択する好ましいアミノ酸置換、欠失、または付加は、細胞培養または動物モデルでのMPS Iのためのインビトロでの従来のアッセイによって試験するIDUAの酵素活性、安定性、または半減期を維持する、または増加させるものとすべきである。例えば、導入遺伝子産物の酵素活性は基質として4-メチルウンベリフェリルα-L-イズロニドを用いる従来の酵素アッセイを使用して評価することができる(使用可能な例示的なIDUA酵素アッセイについては、例えば、その各々の全内容を、参照により、本明細書で援用する、Hopwood et al.,1979,Clin Chim Acta 92:257-265;Clements et al.,1985,Eur J Biochem 152:21-28;及びKakkis et al.,1994,Prot Exp Purif 5:225-232を参照されたい)。導入遺伝子産物がMPS I表現型を修正する能力は、例えば、培養においてMPS I細胞にhIDUAまたは誘導体をコードするウイルスベクターまたはその他のDNA発現コンストラクトを形質導入することにより、培養でのMPS I細胞にrHuGlyIDUAまたは誘導体を加えることにより、またはMPS I細胞をrHuGlyIDUAまたは誘導体を発現及び分泌するように操作したヒト宿主細胞と共培養することにより、細胞培養において評価する、例えば、培養でのMPS I細胞でのIDUA酵素活性及び/またはGAG貯蔵量の低下を検出することにより、MPS I培養細胞の欠陥の修正を決定することができる(例えば、その各々の全内容を、参照により、本明細書で援用するMyerowitz&Neufeld,1981,J Biol Chem 256:3044-3048;及びAnson et al.1992,Hum Gene Ther 3:371-379を参照されたい)。
【0044】
MPS Iのための動物モデルは、マウス(例えば、Clarke et al.,1997,Hum Mol Genet 6(4):503-511を参照されたい)、短毛の雑種ネコ(例えば、Haskins et al.,1979,Pediatr Res 13(11):1294-97を参照されたい)、及びいくつかの品種のイヌ(例えば、Menon et al.,1992,Genomics 14(3):763-768;Shull et al.,1982,Am J Pathol 109(2):244-248を参照されたい)について記載する。イヌのMPS Iモデルは、IDUA突然変異により検出可能なタンパク質が喪失するため、MPS Iの最も重度の形態であるハーラー症候群に類似している。IDUAタンパク質間の遺伝子相同性が高いこと(
図2のアラインメントを参照されたい)は、hIDUAが動物において機能的であることを意味する、hIDUAを包含する治療はこれらの動物モデルで試験することができる。
【0045】
好ましくは、rHuGlyIDUA導入遺伝子は、神経細胞及び/またはグリア細胞において機能する発現制御エレメント、例えば、CB7プロモーター(ニワトリβ-アクチンプロモーター及びCMVエンハンサー)によって制御するべきであり、かつベクターによって駆動する導入遺伝子の発現を増強するその他の発現制御エレメント(例えば、ニワトリβ-アクチンイントロン及びウサギβ-グロビンポリAシグナル)を含むことができる。huIDUA導入遺伝子のためのcDNAコンストラクトには、形質導入したCNS細胞による適切な翻訳中及び翻訳後プロセシング(グリコシル化及びタンパク質硫酸化)を保証するシグナルペプチドのためのコード配列を含めるべきである。CNS細胞によって使用するそのようなシグナルペプチドには:
●オリゴデンドロサイト-ミエリン糖タンパク質(hOMG)シグナルペプチド:
MEYQILKMSLCLFILLFLTPGILC(配列番号2)
●E1A刺激遺伝子の細胞リプレッサー2(hCREG2)シグナルペプチド:
MSVRRGRRPARPGTRLSWLLCCSALLSPAAG(配列番号3)
●V-セット及び膜貫通ドメイン含有2B(hVSTM2B)シグナルペプチド:MEQRNRLGALGYLPPLLLHALLLFVADA(配列番号4)
●プロトカドヘリンα-1(hPCADHA1)シグナルペプチド:
MVFSRRGGLGARDLLLWLLLLAAWEVGSG(配列番号5)
●FAM19A1(TAFA1)シグナルペプチド:
MAMVSAMSWVLYLWISACA(配列番号6)
●インターロイキン-2シグナルペプチド:
MYRMQLLSCIALILALVTNS(配列番号14)があり得るが、これらに限定されない。シグナルペプチドは本明細書において、リーダー配列またはリーダーペプチドとも称することができる。
【0046】
導入遺伝子を送達するために使用する組換えベクターは、神経細胞及び/またはグリア細胞を含むがこれらに限定されない、CNSの細胞への向性を有すべきである。そのようなベクターは非複製組換えアデノ随伴ウイルスベクター(「rAAV」)を含むことができ、特にAAV9またはAAVrh10キャプシドを有するウイルスベクターが好ましい。これらに限定されないが、その全内容を、参照により、本明細書で援用する米国特許第7,906,111号においてWilsonによって記載した、特に好ましくはAAV/hu.31及びAAV/hu.32を有する、AAVバリアントキャプシド、ならびにその各々の全内容を、参照により、本明細書で援用する米国特許第8,628,966号、米国特許第8,927,514号、及びSmith et al.,2014,Mol Ther 22:1625-1634においてChatterjeeによって記載したAAVバリアントキャプシドを使用することができる。しかしながら、「ネイキッドDNA」コンストラクト(5.2節を参照されたい)と称するレンチウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、または非ウイルス性発現ベクターを含むがこれらに限定されない、その他のウイルスベクターを使用することができる。
【0047】
CSFへの投与に好適な医薬組成物は、生理的に適合性の水性緩衝剤、界面活性剤、及び任意の賦形剤を含む製剤緩衝液でのrHuGlyIDUAベクターの懸濁液を含む。ある実施形態では、医薬組成物は、大槽内投与(大槽内への注入)に好適である。ある実施形態では、医薬組成物は、C1-2穿刺を介した、くも膜下への注入に好適である。ある実施形態では、医薬組成物は、髄腔内投与に好適である。ある実施形態では、医薬組成物は、脳室内投与に好適である。ある実施形態では、医薬組成物は、腰椎穿刺を介する投与に好適である。
【0048】
組換えベクターの治療有効用量は、くも膜下投与を介して(すなわち、くも膜下へ注入して、組換えベクターがCSFを通じて拡散して、CNSの細胞に形質導入するようにする)、CSFに投与すべきである。このことは、いくつかの方法で、例えば、頭蓋内(大槽または脳室内)注入、または腰椎槽への注入によって達成することができる。例えば、(大槽内への)大槽内(IC)注入は、CTガイド後頭下穿刺で行うことができ、または、患者に実行できそうな場合は、C1-2穿刺を介してくも膜下腔への注入を実施することができ、または、腰椎穿刺(典型的にCSFの試料を収集するために実施する診断手順)を、CSFにアクセスするために使用することができる。あるいは、脳室内(ICV)投与(血液脳関門を透過しない抗感染剤または抗がん剤の導入に使用する、より侵襲的な技術)を使用して、組換えベクターを直接脳室内に滴下することができる。あるいは、鼻腔内投与を使用して、CNSに組換えベクターを送達してもよい。rHuGlyIDUAのCSF濃度を少なくとも9.25μg/mLのCmin、または9.25~277μg/mLの範囲の濃度に維持する用量を使用すべきである。
【0049】
CSF濃度は、後頭部または腰椎穿刺から得られるCSF流体でのrHuGlyIDUAの濃度を直接測定することでモニタリングする、または患者の血清において検出したrHuGlyIDUAの濃度から外挿によって推定することができる。ある実施形態では、血清でのrHuGlyIDUAが10ng/mL~100ng/mLであることは、CSFでのrHuGlyIDUAが1~30mgであることを示す。ある実施形態では、組換えベクターは、血清でのrHuGlyIDUAを10ng/mL~100ng/mLに維持する用量で、CSFに投与する。
【0050】
背景として、ヒトIDUAは、653アミノ酸のポリペプチドとして翻訳され、
図1において示す6つの可能性のある部位(N110、N190、N336、N372、N415、及びN451)でN-グリコシル化する。シグナル配列が除去され、ポリペプチドはリソソーム内で成熟形態にプロセシングする:75kDaの細胞内前駆体は数時間で72kDaまでトリミングされ、最終的に、4~5日かけて66kDaの細胞内形態にプロセシングする。IDUAの分泌形態(使用するアッセイに応じて76kDaまたは82kDa)は、マンノース-6-リン酸受容体を介して細胞に容易にエンドサイトーシスされ、より小さい細胞内形態と同様にプロセシングする。(その各々の全内容を、参照により、本明細書で援用する、Myerowitz&Neufeld,1981,J Biol Chem 256:3044-3048;Clements et al.,1989,Biochem J.259:199-208;Taylor et al.,1991,Biochem J.274:263-268;及びZhao et al.,1997 J Biol Chem 272:22758-22765を参照されたい)。
【0051】
hIDUAの全体の構造は、3つのドメインからなる:残基42-396は、古典的な(β/α)トリオースリン酸イソメラーゼ(TIM)バレルドメインを形成する、残基27-42及び397-545は、短いへリックス-ループ-へリックス(482-508)を有するβ-サンドイッチドメインを形成する、かつ残基546-642は、Ig様ドメインを形成する。最後に挙げた2つのドメインは、C
541及びC
577間のジスルフィド架橋によって連結する。β-サンドイッチ及びIg様ドメインは、TIMバレルの1番目、7番目、及び8番目のα-へリックスに結合する。β-ヘアピン(β12-β13)は、TIMバレルの8番目のβ-ストランド及び8番目のα-へリックスの間に挿入され、これは基質結合及び酵素活性に要求するN-グリコシル化N
372を含む。(
図1、及びその各々の全内容を、参照により、本明細書で援用するMaita et al.,2013,PNAS 110:14628-14633,及びSaito et al.,2014,Mol Genet Metab 111:107-112に記載の結晶構造を参照されたい)。
【0052】
本発明は部分的に、以下の原理に基づく:
(i)CNSの神経細胞及びグリア細胞はCNSでのロバストなプロセスである、グリコシル化及びチロシン-O-硫酸化を含む分泌タンパク質の翻訳後プロセシングのための細胞機構を有する分泌細胞である。ヒトCNS細胞が行う翻訳後修飾についての、その各々の全体が参照により組み込まれている、例えば、ヒト脳マンノース-6-リン酸(M6P)グリコプロテオームについて記載され、脳がその他の組織に認めるよりはるかに多くの個々のアイソフォームを有するより多くのタンパク質及びマンノース-6-リン酸化タンパク質を含むことを注記した、Sleat et al.,2005,Proteomics 5:1520-1532、及びSleat 1996,J Biol Chem 271:19191-98、ならびに神経細胞が分泌したチロシン硫酸化糖タンパク質の産生を報告しているKanan et al.,2009,Exp.Eye Res.89:559-567及びKanan&Al-Ubaidi,2015,Exp.Eye Res.133:126-131を参照されたい。
(ii)hIDUAは、
図1で特定している6つのアスパラギン(「N」)のグリコシル化部位を有する(N
110FT;N
190VS;N
336TT;N
372NT;N
415HT;N
451RS)。N
372のN-グリコシル化は、基質との結合及び酵素活性に要求され、かつマンノース-6-リン酸化は分泌した酵素の細胞取り込み及びMPS I細胞の横断修正に要求する。N-結合型グリコシル化部位は、複合型、ハイマンノース型、及びリン酸化マンノース糖質部分を含むが(
図4)、分泌形態のみが細胞に取り込まれる。(Myerowitz&Neufeld,1981,上記)。本明細書に記載した遺伝子治療アプローチは、ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって測定した場合に76~82kDaの(使用するアッセイに応じて)、2,6-シアル酸付加され、及びマンノース-6リン酸化した、IDUA糖タンパク質の継続的分泌をもたらすべきである。分泌したグリコシル化/リン酸化IDUAは、CNSの形質導入されていない神経細胞及びグリア細胞によって取り込まれ、かつ正しくプロセシングすべきである。
(iii)リソソームタンパク質の細胞性及び細胞内輸送/取り込みは、M6Pを介する。Daniele 2002においてイズロン酸-2-スルファターゼ酵素について行われたように、分泌タンパク質のM6P含有量を測定することは、可能である。(例えば、5mMの)抑制性M6Pの存在下では、非神経細胞または非グリア細胞、例えば、Daniele 2002の遺伝子操作した腎細胞によって生成した酵素前駆体の取り込みは、Daniele 2002に示したように、コントロール細胞のレベルに近いレベルまで減少すると予測する。抑制性M6Pの存在下であっても、脳細胞、例えば、神経細胞及びグリア細胞によって生成する酵素前駆体の取り込みは、取り込み量がコントロール細胞より4倍高く、抑制性M6Pの非存在下で遺伝子操作した腎細胞によって生成した酵素前駆体の酵素活性(すなわち、取り込み)のレベルと同等であったDaniele 2002に示したように高レベルを維持すると予測する。このアッセイを用いると、脳細胞によって生成する酵素前駆体のM6P含有量を予測する、特に、異なる種類の細胞によって生成する酵素前駆体でのM6P含有量を比較することが可能となる。本明細書に記載した遺伝子治療アプローチは、そのようなアッセイにおいて抑制性M6Pの存在下で、高レベルで神経細胞及びグリア細胞に取り込まれ得る、hIDUAの継続的分泌をもたらすべきである。
(iv)N-結合型グリコシル化部位に加えて、hIDUAは、結合及び活性のために要求するN
372を含有するドメインの近くに、チロシン(「Y」)硫酸化部位(ADTPIY
296NDEADPLVGWS)を含有する。(例えば、全内容を、参照により、本明細書で援用する、タンパク質チロシン硫酸化を受けるチロシン残基を取り囲むアミノ酸の解析についてのYang et al.,2015,Molecules 20:2138-2164、特に、p.2154を参照されたい。「規則」は、以下の通りに要約することができる:Y残基がYの+5~-5位内にEまたはDを有する、かつYの-1位が中性または酸性荷電アミノ酸であるが、硫酸化を無効化する塩基性アミノ酸、例えば、R、K、またはHではない)。いかなる理論に束縛することも意図するものではないが、チロシン硫酸化領域内の突然変異(例えば、W306L)が酵素活性の減少及び疾患と関連することは公知であるため、hIDUAのこの部位の硫酸化は活性にきわめて重要となり得る。(Maita et al.,2013,PNAS 110:14628、pp.14632-14633を参照されたい)。
(v)CNSのヒト細胞によるhIDUAのグリコシル化により、安定性、半減期を向上させ、かつ導入遺伝子産物の望まない凝集を減らすことができるグリカンが付加する。重要なことに、本発明のHuGlyIDUAに付加するグリカンは2,6-シアル酸を含み、Neu5Ac(「NANA」)を組み込むが、そのヒドロキシル化誘導体NeuGc(N-グリコリルノイラミン酸、すなわち「NGNA」または「Neu5Gc」)を組み込まない高度にプロセシングした複合型二分岐N-グリカンである。そのようなグリカンは、この翻訳後修飾を行うのに要求する2,6-シアリルトランスフェラーゼを有さず、バイセクティングGlcNAcも産生しないが、Neu5Ac(NANA)の代わりにヒトにとって典型的でない(かつ潜在的に免疫原性の)シアル酸であるNeu5Gc(NGNA)を付加するCHO細胞において作製するラロニダーゼには存在しない。例えば、Dumont et al.,2016,Critical Rev in Biotech 36(6):1110-1122(Early Online pp.1-13、p.5)、及びHague et al.,1998 Electrophor 19:2612-2630(「CHO細胞株は、α2,6-シアリルトランスフェラーゼの欠如のため、グリコシル化に関して『表現形上制限する』と考えられている」)を参照されたい。さらに、CHO細胞は大部分の個体に存在する抗α-Gal抗体と反応して、高濃度でアナフィラキシーを誘発し得る免疫原性グリカン、α-Gal抗原も生産し得る。例えば、Bosques,2010,Nat Biotech 28:1153-1156を参照されたい。本発明のHuGlyIDUAのヒトグリコシル化パターンは、導入遺伝子産物の免疫原性を低下させ、かつ効力を向上させるべきである。
(vi)ヒトCNS細胞でのロバストな翻訳後プロセスである、hIDUAのチロシン硫酸化は、導入遺伝子産物のプロセシング及び活性を向上させるべきである。リソソームタンパク質のチロシン硫酸化の意義は、明らかにされていない;しかし、その他のタンパク質では、タンパク質-タンパク質相互作用(抗体及び受容体)の親和性が増大する、タンパク質分解性プロセシング(ペプチドホルモン)が促進することが示す。(Moore,2003,J Biol.Chem.278:24243-46;及びBundegaard et al.,1995,The EMBO J 14:3073-79を参照されたい)。チロシン硫酸化(IDUAプロセシングの最終ステップとして起こり得る)を担うチロシンタンパク質スルホトランスフェラーゼ(TPST1)は、明らかに脳(TPST1のための遺伝子発現データは、例えば、http://www.ebi.ac.uk/gxa/homeにてアクセス可能なEMBL-EBI Expression Atlasに認めることができる)でより高いレベル(mRNAに基づいて)で発現する。そのような翻訳後修飾は、最高でも、CHO細胞産物であるラロニダーゼにおいて少数しか存在しない。ヒトCNS細胞とは異なり、CHO細胞は、分泌細胞ではなく、翻訳後チロシン硫酸化のための能力が限られている。(例えば、Mikkelsen&Ezban,1991,Biochemistry 30:1533-1537、特にp.1537の考察を参照されたい)。
(vii)導入遺伝子産物の免疫原性は、患者の免疫状態、注入したタンパク質薬物の構造及び特徴、投与経路、ならびに治療の持続時間を含む様々な因子によって誘導し得る。プロセス関連不純物、例えば、宿主細胞タンパク質(HCP)、宿主細胞DNA、及び化学的残留物、ならびに産物関連不純物、例えば、タンパク質分解物及び構造特性、例えば、グリコシル化、酸化、及び凝集(肉眼不可視粒子)は免疫反応を増強するアジュバントとしての機能を果たすことで免疫原性を増加させる場合がある。プロセス関連及び産物関連不純物の量は、製造プロセス:商業生産するIDUA産物に影響を及ぼし得る細胞培養、精製、製剤、保存、及び取扱いの影響を受け得る。遺伝子治療では、タンパク質はインビボで生産され、その結果、プロセス関連不純物は存在せず、タンパク質産物は組換え技術によって生産するタンパク質と関連した生産物関連不純物/分解物、例えば、タンパク質凝集物及びタンパク質酸化物を含む可能性は低い。凝集は、例えば、タンパク質生産及び貯蔵と関連付けられ、高いタンパク質濃度、製造装置及び容器との表面相互作用、ならびに特定の緩衝液システムを用いた精製プロセスに起因する。しかし、導入遺伝子をインビボで発現させる場合、凝集を促進するこれらの条件は存在しない。また、酸化、例えば、メチオニン、トリプトファン、及びヒスチジンの酸化は、タンパク質生産及び貯蔵と関連付けられ、例えば、ストレス負荷した細胞培養条件、金属及び空気との接触、ならびに緩衝液及び賦形剤での不純物によって引き起こす。インビボで発現するタンパク質は、ストレス負荷条件下で酸化し得るが、ヒトは多くの生物と同様に、抗酸化防衛システムを備えており、それにより酸化ストレスが低下するだけでなく、酸化を修復、及び/または逆行させもする。したがって、インビボで生産するタンパク質が、酸化形態にある可能性は低い。凝集及び酸化は両方とも、効力、PK(クリアランス)に影響を及ぼし得、免疫原となる懸念を増大させ得る。本明細書に記載した遺伝子治療アプローチは、商業生産した製品と比較して免疫原性が低下したhIDUAの継続的分泌をもたらすべきである。
【0053】
上記した理由のために、HuGlyIDUAの生産は、例えば、MPS I疾患(ハーラー、ハーラー-シャイエ、またはシャイエを含むが、これらに限定はされない)と診断する患者(ヒト対象)のCSFにHuGlyIDUAをコードするウイルスベクターまたはその他のDNA発現コンストラクトを投与して、形質導入したCNS細胞が分泌する完全ヒトグリコシル化、マンノース-6-リン酸化、硫酸化導入遺伝子産物を継続的に供給するCNSでの永続的なデポーを作製することによる、遺伝子治療によって達成するMPS Iの治療のための「バイオベター」分子をもたらすべきである。デポーからCSF中に分泌するHuGlyIDUA導入遺伝子産物は、CNSでの細胞によりエンドサイトーシスされ、MPS Iレシピエント細胞での酵素欠陥を「横断修正」する。
【0054】
遺伝子治療またはタンパク質治療アプローチにおいて生産する全てのhIDUA分子が完全にグリコシル化され、硫酸化することは、必須ではない。むしろ、生産する糖タンパク質の集団は、有効性を実証する上で十分なグリコシル化(2,6-シアル酸付加及びマンノース-6-リン酸化を含む)及び硫酸化を受けるべきである。本発明の遺伝子治療処置の目的は、疾患の進行を減速させ、または停止させることである。有効性は、認知機能(例えば、神経認知機能の低下の防止または減少);CSF及び/または血清での疾患バイオマーカー(例えば、GAG)の低下;及び/または、CSF及び/または血清のIDUA酵素活性の増加を測定することでモニタリングすることができる。炎症の徴候及びその他の安全事象をモニタリングすることもできる。
【0055】
遺伝子治療に対する代替または追加治療として、rHuGlyIDUA糖タンパク質は組換えDNA技術によってヒト細胞株で生産することができ、糖タンパク質は、ERTのために、全身的に及び/またはCSFに、MPS Iの診断を受けた患者に投与することができる。そのような組換え糖タンパク質生産のために使用することができるヒト細胞株は、これらに限定されないが、幾つかの例として、HT-22、SK-N-MC、HCN-1A、HCN-2、NT2、SH-SY5y、hNSC11、ReNcell VM、ヒト胎児腎293細胞(HEK293)、線維肉腫HT-1080、HKB-11、CAP、HuH-7、及び網膜細胞株、PER.C6、またはRPEがある(例えば、全内容を、参照により、本明細書で援用する、rHuGlyIDUA糖タンパク質の組換え生産のために使用することができるヒト細胞株の総説についてのDumont et al.,2016,Critical Rev in Biotech 36(6):1110-1122の「Human cell lines for biopharmaceutical manufacturing: history,status,and future perspectives」を参照されたい)。完全なグリコシル化、特にシアル酸付加及びチロシン硫酸化を保証するために、生産に使用する細胞株をチロシン-O-硫酸化を担うα-2,6-シアリルトランスフェラーゼ(またはα-2,3-及びα-2,6-シアリルトランスフェラーゼの両方)及び/またはTPST-1及びTPST-2酵素を共発現するように宿主細胞を遺伝子操作することで強化することができる。
【0056】
rHuGlyIDUAの送達が免疫反応を最小化すべきである一方、CNS関連遺伝子治療に関する毒性の最も明白な潜在的源は、遺伝的にIDUAを欠損しており、したがってタンパク質及び/または導入遺伝子を送達するために用いるベクターを潜在的に寛容しないヒト対象において、発現したhIDUAタンパク質に対する免疫が発生する。
【0057】
したがって、好ましい実施形態では、患者を免疫抑制治療で共治療することは、特にIDUAのレベルが0に近い重度の疾患(例えば、ハーラー)を有する患者を治療する場合に、適切である。タクロリムスまたはラパマイシン(シロリムス)を、例えば、ミコフェノール酸と組合わせた、及び/またはプレドニゾロン及び/またはメチルプレドニゾロンなどのコルチコステロイドと組合わせたレジメン、または組織移植手順において使用するその他の免疫抑制レジメンを伴う免疫抑制治療を、利用することができる。そのような免疫抑制治療は、遺伝子治療の過程で投与することができ、ある実施形態では、免疫抑制治療による前処理が好ましい場合がある。免疫抑制治療は、主治医の判断に基づいて、遺伝子治療処置の後も継続することができ、その後、免疫寛容が誘発した場合、例えば、180日後に中止し得る。
【0058】
ある実施形態では、免疫抑制は、コルチコステロイド、例えば、プレドニゾロン及び/またはメチルプレドニゾロンの投与、ならびに任意にMMFとともに投与するタクロリムス及び/またはシロリムスのレジメンを含む。例えば、1回のコルチコステロイド、例えば、メチルプレドニゾロンを注入する、その後、経口コルチコステロイドを投与する、12週の経過にわたり段階的に漸減する、続いて中止する。同時に、タクロリムス及びシロリムスを組合わせで低用量(例えば、4~8ng/mLの血清濃度を維持する)で、またはラベル用量で単独で、24~48週にわたって経口投与することができる。タクロリムスまたはシロリムスは、MMFと組合わせてラベル用量で投与することもできる。したがって、患者は直ちに利用可能なステロイドの初期の注入を受け、このステロイドは続いて経口投与によって維持されて、12週までに漸減する。さらなる免疫抑制は、任意にMMFと組合わせて、タクロリムス及び/またはシロリムスによって48週を通じて維持する。
【0059】
その他の利用可能な治療の送達を伴うCSFへのHuGlyIDUAの送達の組合わせは、本発明の方法に包含する。追加治療は、遺伝子治療処置の前に、それと同時に、またはその後に投与することができる。本発明の遺伝子治療と併用することができるMPS Iのための利用可能な治療には、限定を意図するものではないが、全身的に、またはCSFに投与するラロニダーゼを使用する酵素補充療法及び/またはHSCT療法がある。
【0060】
ある態様では、本明細書では、ムコ多糖症I(MPS I)の診断を受けたヒト対象の治療方法を提供しており、当該方法は、ヒト神経細胞が産生する治療有効量の組換えヒトα-L-イズロニダーゼ(IDUA)をヒトの脳の脳脊髄液に送達することを含む、また、ヒトIDUAは、ヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発現ベクターを投与して送達する、また、当該組換えヌクレオチド発現ベクターを、当該ヒト対象の脳質量に応じた用量で投与する、そして、当該脳質量を、当当該対象の脳の脳磁気共鳴画像(MRI)で決定する。
【0061】
別の態様では、本明細書では、MPS Iの診断を受けたヒト対象の治療方法を提供しており、当該方法は、ヒト神経細胞が産生する治療有効量の組換えヒトα-L-イズロニダーゼ(IDUA)をヒトの脳の脳脊髄液に送達することを含む、また、ヒトIDUAを送達するステップは、ヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発現ベクターを、当該ヒト対象の脳質量に応じた用量で投与する、そして、当該脳質量を、当当該対象の脳の脳MRIで決定する。
【0062】
別の態様では、本明細書では、MPS Iの診断を受けたヒト対象の治療方法を提供しており、当該方法は、ヒトグリア細胞が産生する治療有効量の組換えヒトIDUAをヒトの脳の脳脊髄液に送達することを含む、また、ヒトIDUAは、ヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発現ベクターを投与して送達する、また、当該組換えヌクレオチド発現ベクターを、当該ヒト対象の脳質量に応じた用量で投与する、そして、当該脳質量を、当当該対象の脳の脳MRIで決定する。
【0063】
別の態様では、本明細書では、MPS Iの診断を受けたヒト対象の治療方法を提供しており、当該方法は、ヒトグリア細胞が産生する治療有効量の組換えヒトIDUAをヒトの脳の脳脊髄液に送達することを含む、また、ヒトIDUAを送達するステップは、ヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発現ベクターを、当該ヒト対象の脳質量に応じた用量で投与する、そして、当該脳質量を、当当該対象の脳の脳MRIで決定する。
【0064】
ある態様では、本明細書では、MPS Iの診断を受けたヒト対象の治療方法を提供しており、当該方法は、対象の脳MRIから対象の脳質量を決定する、続いて、ヒト神経細胞が産生する治療有効量の組換えヒトIDUAをヒトの脳の脳脊髄液に送達することを含む、また、ヒトIDUAは、ヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発現ベクターを投与して送達する、また、当該組換えヌクレオチド発現ベクターを、当該ヒト対象の脳質量に応じた用量で投与する。
【0065】
ある態様では、本明細書では、MPS Iの診断を受けたヒト対象の治療方法を提供しており、当該方法は、対象の脳MRIから対象の脳質量を決定する、続いて、ヒトグリア細胞が産生する治療有効量の組換えヒトIDUAをヒトの脳の脳脊髄液に送達することを含む、また、ヒトIDUAは、ヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発現ベクターを投与して送達する、また、当該組換えヌクレオチド発現ベクターを、当該ヒト対象の脳質量に応じた用量で投与する。
【0066】
ある態様では、本明細書では、MPS Iの診断を受けたヒト対象の治療方法を提供しており、(a)対象の脳MRIから対象の脳質量を決定する、(b)ヒト対象の脳質量に基づいて用量を算出する、及び(c)続いて、ヒトIDUAをコードする当該用量の組換えヌクレオチド発現ベクターを、対象の脳の脳脊髄液に投与することを含む。
【0067】
好ましい実施態様では、ヒトIDUA導入遺伝子産物は、CNSでの細胞によるエンドサイトーシスである。好ましい実施態様では、ヒトIDUA導入遺伝子産物を、CNSの細胞のリソソームに送達する。
【0068】
本明細書に記載した治療方法の特定の実施形態では、ヒト対象の脳体積cm3に、1.046g/cm3の係数を乗じて、ヒト対象の脳体積からヒト対象の脳質量に変換する、また、ヒト対象の脳体積を、ヒト対象の脳MRIから得る。本明細書に記載した治療方法の特定の実施形態では、当該方法は、ヒト対象の脳MRIからヒト対象の脳体積を得る、ことをさらに含む。本明細書に記載した治療方法の特定の実施形態では、当該方法は、ヒト対象の脳体積cm3に、1.046g/cm3の係数を乗じて、ヒト対象の脳体積からヒト対象の脳質量に変換する、ことをさらに含む。本明細書に記載した治療方法の特定の実施形態では、当該方法は、ヒト対象の脳MRIからヒト対象の脳体積を得る、そして、ヒト対象の脳体積cm3に、1.046g/cm3の係数を乗じて、ヒト対象の脳体積からヒト対象の脳質量に変換する、ことをさらに含む。
【0069】
本明細書に記載した治療方法の特定の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターを、MRIで決定した約2×109GC/g脳質量、MRIで決定した約1×1010GC/g脳質量、またはMRIで決定した約5×1010GC/g脳質量の用量で投与する。
【0070】
本明細書に記載した治療方法の一部の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターを、大槽内(IC)投与を介して投与する。本明細書に記載した治療方法のその他の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターを、脳室内(ICV)投与を介して投与する。
【0071】
本明細書に記載した治療方法の特定の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターを、ヒト対象の全脳脊髄液量の10%を超えない体積で投与する。
【0072】
本明細書に記載した治療方法の特定の実施形態では、当該方法は、ヒトIDUA治療の前に、またはヒトIDUA治療と同時に、免疫抑制療法をヒト対象に投与する、その後、免疫抑制療法を継続する、ことをさらに含む
【0073】
本明細書に記載した治療方法の特定の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターは、液体組成物である。本明細書に記載した治療方法の特定の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターは、凍結組成物である。本明細書に記載した治療方法の特定の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターは、凍結乾燥組成物、または再構成凍結乾燥組成物である
【0074】
本明細書に記載した治療方法の特定の実施形態では、本明細書に提供する組換えヌクレオチド発現ベクターは、ICまたはICV投与のための様々な投与形態に製剤し得る。本明細書に記載した治療方法の特定の実施形態では、本明細書で提供する組換えヌクレオチド発現ベクターは、単位用量または複数単位用量で提供し得る。本明細書で使用する単位用量とは、ヒト及び動物対象への投与に適した物理的に分離した単位のことを指しており、当該技術分野で公知の通り、個々に包装する。それぞれの単位用量は、所望の治療効果を獲得する上で十分な所定量の当該組換えヌクレオチド発現ベクター、及び/またはその他の成分(複数可)を、必要とする医薬担体または賦形剤と一緒に含む。単位用量製剤の形態の例として、アンプル、バイアル、予め充填したシリンジ、またはカートリッジがある。本明細書に記載した治療方法の特定の実施形態では、単位用量を、その一部またはその倍数の用量で投与し得る。本明細書に記載した治療方法の特定の実施形態では、複数単位用量は、単位用量を分離させて投与する単一の容器に入れた複数の同一の単位用量である。複数単位用量の例として、バイアル、予め充填したシリンジ、またはカートリッジがある。特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、6.5×1012GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、7.5×1012GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、8.5×1012GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、9.75×1012GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、9.8×1012GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、1.12×1013GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、1.1×1013GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、1.3×1013GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、3.25×1013GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、3.3×1013GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、3.75×1013GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、3.8×1013GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、4.25×1013GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、4.3×1013GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、4.88×1013GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、4.9×1013GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、5.0×1013GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、6.5×1013GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、約6.5×1012GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、約7.5×1012GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、約8.5×1012GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、約9.75×1012GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、約9.8×1012GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、約1.12×1013GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、約1.1×1013GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、約1.3×1013GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、約3.25×1013GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、約3.3×1013GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、約3.75×1013GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、約3.8×1013GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、約4.25×1013GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、約4.3×1013GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、約4.88×1013GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、約4.9×1013GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、約5×1013GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、約6.5×1013GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。
【0075】
特定の実施形態では、MPS Iの診断を受けたヒト対象の治療方法を本明細書に記載しており、当該方法は、ヒト対象の脳の脳脊髄液に、ヒト神経細胞が産生する治療有効量の組換えヒトIDUAを送達することを含む。特定の実施形態では、MPS Iの診断を受けたヒト対象の治療方法を本明細書に記載しており、当該方法は、当該ヒト対象の脳の脳脊髄液に、ヒトグリア細胞が産生する治療有効量の組換えヒトIDUAを送達することを含む。
【0076】
特定の実施形態では、ムコ多糖症I(MPS I)の診断を受けたヒト対象の治療方法を本明細書で提供しており、当該方法は:当該ヒト対象の脳の脳脊髄液に、治療有効量のα2,6-シアル化ヒトα-L-イズロニダーゼ(IDUA)を送達する;及び、ヒトIDUAを使用する治療前に、または治療と同時に、免疫抑制療法を当該対象に施す、そして、その後も免疫抑制療法を継続する、ことを含む。
【0077】
特定の実施形態では、MPS Iの診断を受けたヒト対象の治療方法を本明細書で提供しており、当該方法は:当該ヒト対象の脳の脳脊髄液に、検出可能なNeuGcを含まない治療有効量のグリコシル化ヒトIDUAを送達する;及び、ヒトIDUAを使用する治療の前に、または治療と同時に、免疫抑制療法を当該対象に施す、そして、その後も免疫抑制療法を継続する、ことを含む。
【0078】
特定の実施形態では、MPS Iの診断を受けたヒト対象の治療方法を本明細書で提供しており、当該方法は:当該ヒト対象の脳の脳脊髄液に、検出可能なNeuGc、及び/またはα-Gal抗原を含まない治療有効量のグリコシル化ヒトIDUAを送達する;及び、ヒトIDUAを使用する治療の前に、または治療と同時に、免疫抑制療法を当該対象に施す、そして、その後も免疫抑制療法を継続する、ことを含む。
【0079】
特定の実施形態では、MPS Iの診断を受けたヒト対象の治療方法を本明細書で提供しており、当該方法は:当該ヒト対象の脳の脳脊髄液に、チロシン硫酸化を含む治療有効量のヒトIDUAを送達する;及び、ヒトIDUAを使用する治療の前に、または治療と同時に、免疫抑制療法を当該対象に施す、そして、その後も免疫抑制療法を継続する、ことを含む。
【0080】
特定の実施形態では、MPS Iの診断を受けたヒト対象の治療方法を本明細書で提供しており、当該方法は:当該ヒト対象の脳に、ヒトIDUAをコードする発現ベクターを投与する、また、当該IDUAが、ヒト不死化神経細胞において当該発現ベクターから発現する際にα2,6-シアル化する;及び、当該発現ベクターを投与する前に、または投与と同時に、免疫抑制療法を当該対象に施す、そして、その後も免疫抑制療法を継続する、ことを含む。
【0081】
特定の実施形態では、MPS Iの診断を受けたヒト対象の治療方法を本明細書で提供しており、当該方法は:当該ヒト対象の脳に、ヒトIDUAをコードする発現ベクターを投与する、また、当該IDUAが、ヒト不死化神経細胞において当該該発現ベクターから発現する際にグリコシル化するが、検出可能なNeuGcを含まない;及び、当該発現ベクターを投与する前に、または投与と同時に、当該対象に免疫抑制治療を施す、かつその後も免疫抑制治療を継続する、ことを含む。
【0082】
特定の実施形態では、MPS Iの診断を受けたヒト対象の治療方法を本明細書で提供しており、当該方法は:a)当該ヒト対象の脳に、ヒトIDUAをコードする発現ベクターを投与する、また、当該ヒトIDUAが、ヒトまたは不死化神経細胞において当該発現ベクターから発現する際に、グリコシル化するが検出可能なNeuGc及び/またはα-Gal抗原を含まない;及び、b)当該発現ベクターの投与の前に、及び/または投与と同時に、及び/またはその後に、当該対象に免疫抑制治療を施す、かつその後も免疫抑制治療を継続する、ステップを含む。
【0083】
特定の実施形態では、MPS Iの診断を受けたヒト対象の治療方法を本明細書で提供しており、当該方法は:当該ヒト対象の脳に、ヒトIDUAをコードする発現ベクターを投与する、また、当該IDUAが、ヒト不死化神経細胞において当該発現ベクターから発現する際にチロシン硫酸化する;及び、当該発現ベクターの投与の前に、または投与と同時に、当該対象に免疫抑制治療を施す、かつその後も免疫抑制治療を継続する、ことを含む。
【0084】
特定の実施形態では、MPS Iの診断を受けたヒト対象の治療方法を本明細書で提供しており、当該方法は:該ヒト対象の脳の脳脊髄液に、治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発現ベクターを投与する、その結果、α2,6-シアル化グリカンを含む該IDUAを放出するデポーを形成する;及び、当該発現ベクターの投与の前に、または投与と同時に、当該対象に免疫抑制治療を施す、かつその後も免疫抑制治療を継続する、ことを含む。
【0085】
特定の実施形態では、MPS Iの診断を受けたヒト対象の治療方法を本明細書で提供しており、当該方法は:当該ヒト対象の脳の脳脊髄液に、治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発現ベクターを投与する、その結果、検出可能なNeuGcを含まないグリコシル化IDUAを放出するデポーを形成する;及び、当該発現ベクターの投与の前に、または投与と同時に、当該対象に免疫抑制治療を施す、かつその後も免疫抑制治療を継続すること、を含む。
【0086】
特定の実施形態では、MPS Iの診断を受けたヒト対象の治療方法を本明細書で提供しており、当該方法は:当該ヒト対象の脳の脳脊髄液に、治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発現ベクターを投与する、その結果、検出可能なNeuGc及び/またはα-Gal抗原を含まないグリコシル化IDUAを放出するデポーを形成する;及び、当該発現ベクターの投与の前に、または投与と同時に、当該対象に免疫抑制治療を施す、かつその後も免疫抑制治療を継続する、ことを含む。
【0087】
特定の実施形態では、MPS Iの診断を受けたヒト対象の治療方法を本明細書で提供しており、当該方法は:当該ヒト対象の脳の脳脊髄液に、治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発現ベクターを投与する、その結果、チロシン硫酸化を含む当該IDUAを放出するデポーを形成する;及び、当該発現ベクターの投与の前に、または投与と同時に、当該対象に免疫抑制治療を施す、かつその後も免疫抑制治療を継続する、ことを含む。
【0088】
特定の実施形態では、α2,6-シアル化グリカンを含むIDUAの生産は、細胞培養において、ヒト神経細胞株に組換えヌクレオチド発現ベクターを形質導入して確認する。特定の実施形態では、検出可能なNeuGcを含まないグリコシル化IDUAの生産は、細胞培養において、ヒト神経細胞株に組換えヌクレオチド発現ベクターを形質導入して確認する。特定の実施形態では、検出可能なNeuGc及び/またはα-Gal抗原を含まないグリコシル化IDUAの生産は、細胞培養において、ヒト神経細胞株に組換えヌクレオチド発現ベクターを形質導入して確認する。特定の実施形態では、チロシン硫酸化を含むIDUAの生産は、細胞培養において、ヒト神経細胞株に組換えヌクレオチド発現ベクターを形質導入して確認する。特定の実施形態では、IDUA導入遺伝子は、シグナルペプチドをコードする。特定の実施形態では、ヒト神経細胞株は、HT-22、SK-N-MC、HCN-1A、HCN-2、NT2、SH-SY5y、hNSC11、またはReNcellVMである。
【0089】
特定の実施形態では、MPS Iの診断を受けたヒト対象の治療方法を本明細書で提供しており、当該方法は:当該ヒト対象の脳の脳脊髄液に、治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発現ベクターを投与する、その結果、α2,6-シアル化グリカンを含む当該IDUAを放出するデポーを形成する;及び、当該発現ベクターの投与の前に、または投与と同時に、当該対象に免疫抑制治療を施す、かつその後も免疫抑制治療を継続することを含む、また、当該組換えベクターを、培養においてヒト神経細胞の形質導入のために使用すると、当該細胞培養において当該α2,6-シアル化グリカンを含む当該IDUAを生産する。特定の実施形態では、ヒト神経細胞は、HT-22、SK-N-MC、HCN-1A、HCN-2、NT2、SH-SY5y、hNSC11、またはReNcellVM細胞である。
【0090】
特定の実施形態では、MPS Iの診断を受けたヒト対象の治療方法を本明細書で提供しており、当該方法は:当該ヒト対象の脳の脳脊髄液に、治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発現ベクターを投与する、その結果、検出可能なNeuGcを含まないグリコシル化IDUAを放出するデポーを形成する;及び、当該発現ベクターの投与の前に、または投与と同時に、当該対象に免疫抑制治療を施す、かつその後も免疫抑制治療を継続することを含む、また、当該組換えベクターは、培養においてヒト神経細胞の形質導入のために使用すると、当該細胞培養においてグリコシル化するが検出可能なNeuGcを含まない該IDUAを生産する。特定の実施形態では、ヒト神経細胞は、HT-22、SK-N-MC、HCN-1A、HCN-2、NT2、SH-SY5y、hNSC11、またはReNcellVM細胞である。
【0091】
特定の実施形態では、MPS Iの診断を受けたヒト対象の治療方法を本明細書で提供しており、当該方法は:当該ヒト対象の脳の脳脊髄液に、治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発現ベクターを投与する、その結果、検出可能なNeuGc及び/またはα-Gal抗原を含まないグリコシル化IDUAを放出するデポーを形成する;及び、当該発現ベクターの投与の前に、または投与と同時に、当該対象に免疫抑制治療を施す、かつその後も免疫抑制治療を継続することを含む、また、当該組換えベクターを、培養においてヒト神経細胞への形質導入に使用すると、当該細胞培養においてグリコシル化するが検出可能なNeuGc及び/またはα-Gal抗原を含まない当該IDUAを生産する。特定の実施形態では、ヒト神経細胞は、HT-22、SK-N-MC、HCN-1A、HCN-2、NT2、SH-SY5y、hNSC11、またはReNcellVM細胞である。
【0092】
特定の実施形態では、MPS Iの診断を受けたヒト対象の治療方法を本明細書で提供しており、当該方法は:当該ヒト対象の脳の脳脊髄液に、治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発現ベクターを投与する、その結果、チロシン硫酸化を含む当該IDUAを放出するデポーを形成する;及び、当該発現ベクターの投与の前に、または投与と同時に、当該対象に免疫抑制治療を施す、かつその後も免疫抑制治療を継続することを含む、また、当該組換えベクターを、培養においてヒト神経細胞への形質導入に使用すると、当該細胞培養においてチロシン硫酸化を含む該IDUAを生産する。特定の実施形態では、ヒト神経細胞は、HT-22、SK-N-MC、HCN-1A、HCN-2、NT2、SH-SY5y、hNSC11、またはReNcellVM細胞である。
【0093】
特定の実施形態では、ヒトIDUAは、配列番号1のアミノ酸配列を含む。特定の実施形態では、免疫抑制治療は、ヒトIDUAによる治療の前に、または治療と同時に、(a)タクロリムス及びミコフェノール酸、または(b)ラパマイシン及びミコフェノール酸の組合わせを対象に投与する、かつその後も継続することを含む。特定の実施形態では、免疫抑制療法は、180日後に中止する。
【0094】
好ましい実施形態では、グリコシル化IDUAは、検出可能なNeuGc、及び/またはα-Galを含まない。本明細書で使用する語句「検出可能なNeuGc、及び/またはα-Gal」は、NeuGc及び/またはα-Gal部分が、当該技術分野において公知である標準アッセイ方法で検出可能であることを意味する。例えば、NeuGcは、NeuGcを検出する方法について、参照により、本明細書で援用する、Hara et al.,1989,“Highly Sensitive Determination of N-Acetyl-and N-Glycolylneuraminic Acids in Human Serum and Urine and Rat Serum by Reversed-Phase Liquid Chromatography with Fluorescence Detection.” J.Chromatogr.,B:Biomed.377:111-119に従ったHPLCによって検出することができる。あるいは、NeuGcは、質量分析によって検出することができる。α-Galは、ELISAを使用して(例えば、Galili et al.,1998,“A sensitive assay for measuring alpha-Gal epitope expression on cells by a monoclonal anti-Gal antibody.”Transplantation.65(8):1129-32を参照されたい)、または質量分析により(例えば、Ayoub et al.,2013,“Correct primary structure assessment and extensive glyco-profiling of cetuximab by a combination of intact,middle-up,middle-down and bottom-up ESI and MALDI mass spectrometry techniques.” Landes Bioscience.5(5):699-710を参照されたい)検出することができる。また、Platts-Mills et al.,2015,“Anaphylaxis to the Carbohydrate Side-Chain Alpha-gal” Immunol Allergy Clin North Am.35(2):247-260において引用する参考文献も参照されたい。
【0095】
本明細書で使用する用語「約」は、所定の値または範囲の±10%以内にあることを意味する。特定の実施形態では、用語「約」は、所与の値または範囲の±1%以内であることを意味する、また、この数値は、ヒト対象の脳質量に応じた用量であり、また、脳質量は、対象の脳の脳MRIで決定する。特定の実施形態では、用語「約」は、所与の値または範囲の±2%以内であることを意味する、また、この数値は、ヒト対象の脳質量に応じた用量であり、また、脳質量は、対象の脳の脳MRIで決定する。特定の実施形態では、用語「約」は、所与の値または範囲の±5%以内であることを意味する、また、この数値は、ヒト対象の脳質量に応じた用量であり、また、脳質量は、対象の脳の脳MRIで決定する。特定の実施形態では、用語「約」は、所与の値または範囲の±7%以内であることを意味する、また、この数値は、ヒト対象の脳質量に応じた用量であり、また、脳質量は、対象の脳の脳MRIで決定する。特定の実施形態では、用語「約」は、所与の値または範囲の±10%以内であることを意味する、また、この数値は、ヒト対象の脳質量に応じた用量であり、また、脳質量は、対象の脳の脳MRIで決定する。しかしながら、本明細書では、用語「約」が、その用語に接続している正確な数値の詳細を示すことも理解されたい。例えば、「約10」は、数字の「10」に関する詳細を的確に提供する。
【0096】
5.1 N-グリコシル化及びチロシン硫酸化
5.1.1.N-グリコシル化
CNSの神経細胞及びグリア細胞は、グリコシル化及びチロシン-O-硫酸化を含む分泌タンパク質の翻訳後プロセシングのための細胞機構を備える分泌細胞である。hIDUAは、
図1において特定する6つのアスパラギン(「N」)グリコシル化部位(N
110FT;N
190VS;N
336TT;N
372NT;N
415HT;N
451RS)を有する。N
372のN-グリコシル化は、基質との結合及び酵素活性に要求され、かつマンノース-6-リン酸化は分泌した酵素の細胞取り込み及びMPS I細胞の横断修正に要求する。N-結合型グリコシル化部位は、複合型、ハイマンノース型、及びリン酸化マンノース糖質部分を含むが(
図4)、分泌形態のみが細胞によって取り込まれる。本明細書に記載した遺伝子治療アプローチでは、2,6シアル酸付加され、かつマンノース-6リン酸化したIDUA糖タンパク質の継続的分泌をもたらすべきである。分泌したグリコシル化/リン酸化IDUAは、CNSの形質導入されていない神経細胞及びグリア細胞によって取り込まれ、かつ正しくプロセシングすべきである。
【0097】
CNSのヒト細胞によるhIDUAのグリコシル化により、安定性、半減期を向上させ、かつ導入遺伝子産物の望まない凝集を減らすことができるグリカンが付加する。重要なことに、本発明のHuGlyIDUAに付加するグリカンは2,6-シアル酸を含み、Neu5Ac(「NANA」)を組み込むが、そのヒドロキシル化誘導体NeuGc(N-グリコリルノイラミン酸、すなわち「NGNA」または「Neu5Gc」)を組み込まない高度にプロセシングした複合型二分岐N-グリカンである。そのようなグリカンは、この翻訳後修飾を行うのに要求する2,6-シアリルトランスフェラーゼを有さず、バイセクティングGlcNAcも産生しないが、Neu5Ac(NANA)の代わりにヒトにとって典型的でない(かつ潜在的に免疫原性の)シアル酸であるNeu5Gc(NGNA)を付加するCHO細胞において作製するラロニダーゼには存在しない。さらに、CHO細胞は大部分の個体に存在する抗α-Gal抗体と反応して、高濃度でアナフィラキシーを誘発し得る免疫原性グリカン、α-Gal抗原も生産し得る。例えば、Bosques,2010,Nat Biotech 28:1153-1156を参照されたい。本発明のHuGlyIDUAのヒトグリコシル化パターンは、導入遺伝子産物の免疫原性を低下させ、かつ効力を向上させるべきである。
【0098】
遺伝子治療またはタンパク質治療アプローチにおいて生産する全ての分子が完全にグリコシル化され、硫酸化することは、必須ではない。むしろ、生産する糖タンパク質の集団は、有効性を実証する上で十分なグリコシル化及び硫酸化を受けるべきである。
【0099】
特定の実施形態では、本明細書に記載した方法に従って使用するHuGlyIDUAは、神経細胞またはグリア細胞においてインビボまたはインビトロで発現させた場合、そのN-グリコシル化部位の100%でグリコシル化し得る。しかしながら、当業者であれば、グリコシル化のメリットが達成するためには、必ずしも全てのHuGlyIDUAのN-グリコシル化部位がN-グリコシル化する必要はないことを認識されよう。むしろ、グリコシル化のメリットは、N-グリコシル化部位の一定の割合のみがグリコシル化する場合、及び/または発現したIDUA分子の一定の割合のみがグリコシル化する場合に実現し得る。したがって、特定の実施形態では、本明細書に記載した方法に従って使用するHuGlyIDUAは、神経細胞またはグリア細胞においてインビボまたはインビトロで発現させた場合、その利用可能なN-グリコシル化部位の10%~20%、20%~30%、30%~40%、40%~50%、50%~60%、60%~70%、70%~80%、80%~90%、または90%~100%でグリコシル化する。特定の実施形態では、神経細胞またはグリア細胞においてインビボまたはインビトロで発現させた場合、本明細書に記載した方法に従って使用するHuGlyIDUA分子の10%~20%、20%~30%、30%~40%、40%~50%、50%~60%、60%~70%、70%~80%、80%~90%、または90%~100%は、それらの利用可能なN-グリコシル化部位の少なくとも1つでグリコシル化する。
【0100】
特定の実施形態では、HuGlyIDUAを神経細胞またはグリア細胞においてインビボまたはインビトロで発現させた場合、本明細書に記載した方法に従って使用するHuGlyIDUAに存在するN-グリコシル化部位の少なくとも10%、20% 30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または99%はN-グリコシル化部位に存在するAsn残基(またはその他の関連した残基)でグリコシル化する。すなわち、結果として生じるHuGlyIDUAのN-グリコシル化部位の少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または99%は、グリコシル化する。
【0101】
別の特定の実施形態では、HuGlyIDUAを神経細胞またはグリア細胞においてインビボまたはインビトロで発現させた場合、本明細書に記載した方法に従って使用するHuGlyIDUA分子に存在するN-グリコシル化部位の少なくとも10%、20% 30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または99%は、N-グリコシル化部位に存在するAsn残基(またはその他の関連した残基)に結合する同一の結合したグリカンによりグリコシル化する。すなわち、結果として生じるHuGlyIDUAのN-グリコシル化部位の少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または99%は、同一の結合したグリカンを有する。
【0102】
重要なことに、本明細書に記載した方法に従って使用するIDUAタンパク質が神経細胞またはグリア細胞において発現する場合、原核生物宿主細胞(例えば、E.coli)または真核生物宿主細胞(例えば、CHO細胞)でのインビトロ生産の必要性は回避する。その代わりに、本明細書に記載した治療方法の結果(例えば、IDUAを発現させるための神経細胞またはグリア細胞の使用)、IDUAタンパク質のN-グリコシル化部位は、有利なことにヒトの治療に関連及び有益なグリカンで修飾する。CHO細胞またはE.coliがタンパク質生産に利用する場合、そのような利点には到達できない;それは、例えば、CHO細胞は、(1)2,6シアリルトランスフェラーゼを発現せず、したがってN-グリコシル化の間、2,6シアル酸を付加することができず、かつ(2)シアル酸としてNeu5Acの代わりにNeu5Gcを付加することができるためであり、ならびにE.coliは天然にはN-グリコシル化に必要な構成要素を含まないためである。したがって、特定の実施形態では、神経細胞またはグリア細胞において発現され、本明細書に記載した治療方法において使用するHuGlyIDUAを生じるIDUAタンパク質は、ヒト神経細胞またはグリア細胞においてタンパク質がN-グリコシル化する様式でグリコシル化するが、CHO細胞においてタンパク質がグリコシル化する様式でグリコシル化するのではない。別の実施形態では、神経細胞またはグリア細胞において発現されて本明細書に記載した治療方法において使用するHuGlyIDUAを生じるIDUAタンパク質は、神経細胞またはグリア細胞においてタンパク質がN-グリコシル化する様式でグリコシル化され、そのようなグリコシル化は、原核生物宿主細胞を使用して、例えば、E.coliを使用した場合は手を加えずには不可能である。
【0103】
タンパク質のグリコシル化パターンを決定するためのアッセイは、当該技術分野において公知である。例えば、ヒドラジン分解は、グリカンを分析するために使用することができる。第一に、多糖を、ヒドラジンとのインキュベーションによって、その会合するタンパク質から放出させる(Ludger Liberateヒドラジン分解グリカン放出キット,Oxfordshire,UKを使用することができる)。求核剤であるヒドラジンは、多糖及びキャリアタンパク質間のグリコシド結合を攻撃して、結合したグリカンを放出させる。N-アセチル基は、この処理の間、失われて、再N-アセチル化によって再構成されなければならない。遊離グリカンは、炭素カラム上で精製され、続いて蛍光色素分子である2-アミノベンズアミドを使用して還元末端を標識することができる。標識多糖は、Royle et al,Anal Biochem 2002,304(1):70-90のHPLCプロトコルに従ってGlycoSep-Nカラム(GL Sciences)上で分離することができる。結果として生じる蛍光クロマトグラムは、多糖の長さ及び繰り返し単位の数を示す。構造情報は、個々のピークを収集する、引き続きMS/MS分析を実施することで集めることができる。それにより、繰り返し単位の単糖の組成及び配列を確認することができ、さらに多糖の組成の均一性を特定することができる。低分子量の特定のピークは、MALDI-MS/MSによって分析でき、その結果を使用してグリカン配列を確認することができる。各ピークは、特定の数の繰り返し単位及びその断片からなるポリマーに対応する。したがって、クロマトグラムを用いれば、ポリマー長の分布の測定が可能となる。溶出時間はポリマー長の指標である一方、蛍光強度はそれぞれのポリマーのためのモル存在量と相関する。
【0104】
タンパク質と会合するグリカンパターンの均一性は、グリカン長及びグリコシル化部位全体に存在するグリカンの数と関係しているため、この均一性は当該技術分野で公知の方法、例えば、グリカン長及び流体力学半径を測定する方法を使用して評価することができる。サイズ排除HPLCは、流体力学半径の測定を可能にする。タンパク質でのグリコシル化部位の数が多いほど、グリコシル化部位がより少ないキャリアと比較して、流体力学半径のばらつきがより大きくなる。しかしながら、単一のグリカン鎖が分析する場合、それらは長さがより高度に制御するために、より均一になり得る。グリカン長は、ヒドラジン分解、SDS PAGE、及びキャピラリーゲル電気泳動によって測定することができる。さらに、また、均一であることは、特定のグリコシル化部位の使用パターンがより広い/より狭い範囲に変化することを意味し得る。これらの因子は、糖ペプチドLC-MS/MSで測定することができる。
【0105】
N-グリコシル化は、本明細書に記載した方法で使用するHuGlyIDUAに多くのメリットを付与する。そのようなメリットは、E.coliでのタンパク質生産によっては到達不能である。それは、E.coliは、N-グリコシル化に必要とする構成要素を天然には有しないためである。さらに、いくつかのメリットは、例えば、CHO細胞でのタンパク質生産によっては到達不能である。それは、CHO細胞が特定のグリカン(例えば、2,6シアル酸)の付加に必要な構成要素を欠いており、かつヒトにとって典型的でないグリカン、例えば、Neu5Gc及び大部分の個体において免疫原性であり、かつ高濃度ではアナフィラキシーを誘発し得るα-Gal抗原を付加し得るためである。したがって、ヒト神経細胞またはグリア細胞でのIDUAの発現により、そうせずにCHO細胞または、E.coliにおいて生産した場合はタンパク質と会合していないであろう有益なグリカンを含むHuGlyIDUAが生産する。
【0106】
5.1.2.チロシン硫酸化
N-結合型グリコシル化部位に加えて、hIDUAは、結合及び活性のために要求するN372を含有するドメインの近くに、チロシン(「Y」)硫酸化部位(ADTPIY296NDEADPLVGWS)を含有する。(例えば、全内容を、参照により、本明細書で援用する、タンパク質チロシン硫酸化を受けるチロシン残基を取り囲むアミノ酸の解析についてのYang et al.,2015,Molecules 20:2138-2164、特に、p.2154を参照されたい。「規則」は、以下の通りに要約することができる:Y残基がYの+5~-5位内にEまたはDを有する、かつYの-1位が中性または酸性荷電アミノ酸であるが、硫酸化を無効化する塩基性アミノ酸、例えば、R、K、またはHではない)。いかなる理論に束縛されることを意図するものではないが、チロシン硫酸化領域内の突然変異(例えば、W306L)が酵素活性の減少及び疾患と関連することは公知であるため、hIDUAのこの部位の硫酸化は活性にきわめて重要となり得る。(Maita et al.,2013,PNAS 110:14628、pp.14632-14633を参照されたい)。
【0107】
重要なことに、チロシン硫酸化タンパク質は、チロシン硫酸化に要求する酵素を天然には有しないE.coliでは生産することができない。さらに、CHO細胞は、チロシン硫酸化について欠陥がある-この細胞は、分泌細胞ではなく、翻訳後のチロシン硫酸化のための能力が限られている。例えば、Mikkelsen&Ezban,1991,Biochemistry 30:1533-1537を参照されたい。有利なことに、本明細書で提供する方法は、分泌型であり、かつチロシン硫酸化のための能力を備える神経細胞またはグリア細胞でのIDUA、例えば、HuGlyIDUAの発現を必要とする。チロシン硫酸化を検出するためのアッセイは、当該技術分野において公知である。例えば、Yang et al.,2015,Molecules 20:2138-2164を参照されたい。
【0108】
ヒトCNS細胞でのロバストな翻訳後プロセスである、hIDUAのチロシン硫酸化は、導入遺伝子産物のプロセシング及び活性を向上させるべきである。リソソームタンパク質のチロシン硫酸化の意義は、明らかにされていない;しかし、その他のタンパク質では、タンパク質-タンパク質相互作用(抗体及び受容体)の親和性が増大する、タンパク質分解性プロセシング(ペプチドホルモン)が促進することが示す。(Moore,2003,J Biol.Chem.278:24243-46;及びBundegaard et al.,1995,The EMBO J 14:3073-79を参照されたい)。チロシン硫酸化(IDUAプロセシングの最終ステップとして起こる場合がある)を担うチロシンタンパク質スルホトランスフェラーゼ(TPST1)は、明らかに脳(TPST1のための遺伝子発現データは、例えば、http://www.ebi.ac.uk/gxa/homeにてアクセス可能なEMBL-EBI Expression Atlasに認めることができる)でより高いレベル(mRNAに基づいて)で発現する。そのような翻訳後修飾は、最高でも、CHO細胞産物であるラロニダーゼにおいて少数しか存在しない。
【0109】
5.2 コンストラクト及び製剤
α-L-イズロニダーゼ(IDUA)、例えば、ヒトIDUA(hIDUA)をコードするウイルスベクターまたはその他のDNA発現コンストラクトは、本明細書で提供する方法での使用のためのものである。本明細書で提供するウイルスベクター及びその他のDNA発現コンストラクトは、脳脊髄液(CSF)に、導入遺伝子を送達するための任意の好適な方法を含む。導入遺伝子の送達の手段には、ウイルスベクター、リポソーム、その他の脂質を含む複合体、その他の高分子複合体、合成修飾mRNA、非修飾mRNA、小分子、非生物活性分子(例えば、金粒子)、重合分子(例えば、デンドリマー)、ネイキッドDNA、プラスミド、ファージ、トランスポゾン、コスミド、またはエピソームがある。一部の実施形態では、ベクターは、標的化ベクター、例えば、神経細胞を標的とするベクターである。
【0110】
一部の態様では、本開示は、使用のための核酸のために提供をしており、当該核酸は、IDUA、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、MMTプロモーター、EF-1アルファプロモーター、UB6プロモーター、ニワトリベータ-アクチンプロモーター、CAGプロモーター、RPE65プロモーター、及びオプシンプロモーターからなる群から選択するプロモーターと機能的に連結するhIDUAをコードする。
【0111】
特定の実施形態では、本明細書では、1つ以上の核酸(例えば、ポリヌクレオチド)を含む組換えベクターを提供する。核酸は、DNA、RNA、またはDNA及びRNAの組合わせを含むことができる。特定の実施形態では、DNAは、プロモーター配列、関心対象の遺伝子配列(導入遺伝子、例えば、IDUA)、非翻訳領域、及び終結配列からなる群から選択する1つ以上の配列を含む。特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、関心対象の遺伝子と機能的に連結したプロモーターを含む。
【0112】
特定の実施形態では、本明細書に開示した核酸(例えば、ポリヌクレオチド)及び核酸配列は、例えば、当業者に公知のあらゆるコドン-最適化技術を介して、コドン最適化することができる(例えば、Quax et al.,2015,Mol Cell 59:149-161を参照されたい)。
【0113】
5.2.1.mRNA
特定の実施形態では、本明細書で提供するベクターは、関心対象の遺伝子(例えば、導入遺伝子、例えば、IDUA)をコードする修飾mRNAである。CSFへの導入遺伝子の送達のための修飾及び非修飾mRNAの合成は、例えば、その全内容を、参照により、本明細書で援用するHocquemiller et al.,2016,Human Gene Therapy 27(7):478-496で教示している。特定の実施形態では、IDUA、例えば、hIDUAをコードしている修飾mRNAについて本明細書に記載する。
【0114】
5.2.2.ウイルスベクター
ウイルスベクターには、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV、例えば、AAV9)、レンチウイルス、ヘルパー依存的アデノウイルス、単純ヘルペスウイルス、ポックスウイルス、センダイウイルス(hemagglutinin virus of Japan)(HVJ)、アルファウイルス、ワクシニアウイルス、及びレトロウイルスベクターがある。レトロウイルスベクターには、マウス白血病ウイルス(MLV)及びヒト免疫不全ウイルス(HIV)ベースのベクターがある。アルファウイルスベクターには、セムリキ森林ウイルス(SFV)及びシンドビスウイルス(SIN)がある。特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、組換えウイルスベクターである。特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、ヒトにおいて複製欠損型となるように、改変する。特定の実施形態では、ウイルスベクターは、ハイブリッドベクター、例えば、「ヘルプレス」アデノウイルスベクターに配置するAAVベクターである。特定の実施形態では、第1のウイルスからのウイルスキャプシド、及び第2のウイルスからのウイルスエンベロープタンパク質を含むウイルスベクターを、本明細書で提供する。特定の実施形態では、第2のウイルスは、水疱性口内炎ウイルス(VSV)である。より特定の実施形態では、エンベロープタンパク質は、VSV-Gタンパク質である。
【0115】
特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、HIVベースのウイルスベクターである。特定の実施形態では、本明細書で提供するHIVベースのベクターは少なくとも2つのポリヌクレオチドを含み、gag及びpol遺伝子はHIVゲノム由来のものとする、env遺伝子は、別のウイルス由来のものとする。
【0116】
特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、単純ヘルペスウイルスベースのウイルスベクターである。特定の実施形態では、本明細書で提供する単純ヘルペスウイルスベースのベクターは、1つ以上の前初期(IE)遺伝子を含まず、そのために細胞傷害性がなくなるように改変する。
【0117】
特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、MLVベースのウイルスベクターである。特定の実施形態では、本明細書で提供するMLVベースのベクターは、ウイルス遺伝子の代わりに最高8kbの異種DNAを含む。
【0118】
特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、レンチウイルスベースのウイルスベクターである。特定の実施形態では、本明細書で提供するレンチウイルスベクターは、ヒトレンチウイルスに由来する。特定の実施形態では、本明細書で提供するレンチウイルスベクターは、非ヒトレンチウイルスに由来する。特定の実施形態では、本明細書で提供するレンチウイルスベクターは、レンチウイルスキャプシドにパッケージングする。特定の実施形態では、本明細書で提供するレンチウイルスベクターは、以下のエレメント:長い末端反復配列、プライマー結合部位、ポリプリントラクト、att部位、及びキャプシド化部位の1つ以上を含む。
【0119】
特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、アルファウイルスベースのウイルスベクターである。特定の実施形態では、本明細書で提供するアルファウイルスベクターは、組換え、複製欠損アルファウイルスである。特定の実施形態では、本明細書で提供するアルファウイルスベクターのアルファウイルスレプリコンは、それらのビリオン表面に機能的な異種リガンドを提示することで、特定の細胞種に標的化する。
【0120】
特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、AAVベースのウイルスベクターである。好ましい実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、AAV9またはAAVrh10ベースのウイルスベクターである。特定の実施形態では、本明細書で提供するAAV9またはAAVrh10ベースのウイルスベクターは、CNS細胞への向性を保持する。複数のAAV血清型を特定している。特定の実施形態では、本明細書で提供するAAVベースのベクターは、AAVの1つ以上の血清型に由来する成分を含む。特定の実施形態では、本明細書で提供するAAVベースのベクターは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAVrh10、またはAAV11の1つ以上に由来する成分を含む。好ましい実施形態では、本明細書で提供するAAVベースのベクターは、AAV8、AAV9、AAV10またはAAV11血清型の1つ以上に由来する成分を含む。AAV9ベースのウイルスベクターは、本明細書に記載した方法で使用する。AAVベースのウイルスベクターの核酸配列ならびに組換えAAV及びAAVキャプシドの作製方法は、例えば、その各々の全内容を、参照により、本明細書で援用する、米国特許第7,282,199 B2号、米国特許第7,790,449 B2号、米国特許第8,318,480 B2号、米国特許第8,962,332 B2号、及び国際特許出願第PCT/EP2014/076466号で教示している。ある態様では、導入遺伝子(例えば、IDUA)をコードするAAV(例えば、AAV9またはAAVrh10)ベースのウイルスベクターを、本明細書で提供する。特定の実施形態では、IDUAをコードするAAV9ベースのウイルスベクターを、本明細書で提供する。より特定の実施形態では、hIDUAをコードするAAV9ベースのウイルスベクターを、本明細書で提供する。
【0121】
ある実施形態では、hIDUA発現カセット(rAAV9.hIDUA)を含む血清型9キャプシドの非複製組換えAAVを、治療のために使用する。AAV9血清型は、投与(例えば、大槽内投与及び脳室内投与などのくも膜下投与)した後に、CNSでのhIDUAタンパク質の効率的な発現を可能にする。特定の実施形態では、ベクターゲノムは、AAV2-逆方向末端反復(ITR)が隣接したhIDUA発現カセットを含む。カセットからの発現は、好ましくは、強力な構成的プロモーターが駆動する。
【0122】
特定の実施形態では、(i)調節エレメントの制御下にあり、ITRと隣接している導入遺伝子を含む発現カセット;及び(ii)AAV9キャプシドタンパク質のアミノ酸配列を有する、またはAAV9キャプシドタンパク質(配列番号26)のアミノ酸配列と少なくとも95%、96%、97%、98%、99%、または99.9%が同一であり、同時にAAV9キャプシドの生物学的機能を保持するウイルスキャプシド:を含む人工ゲノムを含むAAV9ベクターを提供する。特定の実施形態では、コードしたAAV9キャプシドは、配列番号26の配列に1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、または30個のアミノ酸置換を有する、かつAAV9キャプシドの生物学的機能を保持する。
図5は、SUBSと表示した列での比較に基づくアラインした配列の特定の位置で置換し得る潜在的アミノ酸を有する異なるAAV血清型のキャプシドタンパク質のアミノ酸配列の比較アラインメントを提供する。したがって、特定の実施形態では、AAV9ベクターは、ネイティブAAV9配列でのその位置に存在しない
図5のSUBS列において特定する1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、または30個のアミノ酸置換を有するAAV9キャプシドバリアントを含む。
【0123】
特定の実施形態では、本明細書に記載した方法で使用するAAVは、全内容を、参照により、本明細書で援用するZinn et al.,2015,Cell Rep.12(6):1056-1068に記載の通り、Anc80またはAnc80L65である。特定の実施形態では、本明細書に記載した方法で使用するAAVは、その各々の全内容を、参照により、本明細書で援用する米国特許第9,193,956号、第9458517号、及び第9,587,282号、ならびに米国特許出願公開第2016/0376323号に記載の通り、以下のアミノ酸挿入:LGETTRPまたはLALGETTRPのうちの1つを含む。特定の実施形態では、その各々の全内容を、参照により、本明細書で援用する米国特許第9,193,956号、第9,458,517号、及び第9,587,282号、ならびに米国特許出願公開第2016/0376323号に記載の通り、本明細書に記載した方法で使用するAAVは、AAV.7m8である。特定の実施形態では、本明細書に記載した方法で使用するAAVは、米国特許第9,585,971号で開示する任意のAAV(例えば、AAV-PHP.B)である。特定の実施形態では、本明細書に記載した方法で使用するAAVは、その各々の全内容を、参照により、本明細書で援用する以下の特許及び特許出願:米国特許第7,906,111号;第8,524,446号;第8,999,678号;第8,628,966号;第8,927,514号;第8,734,809号;米国第9,284,357号;第9,409,953号;第9,169,299号;第9,193,956号;第9458517号;及び第9,587,282号、米国特許出願公開第2015/0374803号;第2015/0126588号;第2017/0067908号;第2013/0224836号;第2016/0215024号;第2017/0051257号;及び国際特許出願番号PCT/US2015/034799;PCT/EP2015/053335のいずれかで開示するAAVである。
【0124】
特定の実施形態では、一本鎖AAV(ssAAV)は、上記した通りにして使用することができる。特定の実施形態では、自己相補的ベクター、例えば、scAAVを使用することができる(例えば、その各々の全内容を、参照により、本明細書で援用するWu,2007,Human Gene Therapy,18(2):171-82,McCarty et al,2001,Gene Therapy,Vol 8,Number 16,Pages 1248-1254;及び米国特許第6,596,535号;第7,125,717号;及び第7,456,683号を参照されたい)。
【0125】
特定の実施形態では、本明細書に記載した方法で使用するウイルスベクターは、アデノウイルスベースのウイルスベクターである。組換えアデノウイルスベクターは、IDUAの導入に使用することができる。組換えアデノウイルスは、E1欠失を有する、E3欠失を有していてもいなくてもよく、かつ発現カセットがいずれかの欠失した領域に挿入する第一世代のベクターとし得る。組換えアデノウイルスは、E2及びE4領域の完全または部分的欠失を含む第二世代のベクターとし得る。ヘルパー依存型アデノウイルスは、アデノウイルス逆方向末端反復及びパッケージングシグナル(phi)のみを保持する。導入遺伝子は、パッケージングシグナル及び3’ITRの間に挿入され、およそ36kbの野生型のサイズの近くに人工ゲノムを維持するスタッファー配列があってもなくてもよい。アデノウイルスベクターの生産のための例示的なプロトコルは、その全内容を、参照により、本明細書で援用するAlba et al.,2005,“Gutless adenovirus:last generation adenovirus for gene therapy,”Gene Therapy 12:S18-S27に認めることができる。
【0126】
特定の実施形態では、本明細書に記載した方法で使用するウイルスベクターは、レンチウイルスベースのウイルスベクターである。組換えレンチウイルスベクターは、IDUAの導入に使用することができる。4つのプラスミドを、コンストラクト:Gag/pol配列を含むプラスミド、Rev配列を含むプラスミド、エンベロープタンパク質を含むプラスミド(すなわち、VSV-G)、ならびにパッケージングエレメント及びIDUA遺伝子を有するCisプラスミドを作製するために使用する。
【0127】
レンチウイルスベクター作製のため、とりわけポリエチレンイミンまたはリン酸カルシウムをトランスフェクション薬剤として使用し得ることにより、4つのプラスミドを細胞(すなわち、HEK293ベースの細胞)に共トランスフェクションする。続いて、上清でのレンチウイルスを採取する(レンチウイルスは、細胞から出芽させて活性を保つ必要があるので、細胞の回収を行う必要はない/すべきではない)。上清を濾過し(0.45μm)、続いて、塩化マグネシウム及びベンゾナーゼを加える。さらに下流のプロセスには、非常に様々なものがあり、TFF及びカラムクロマトグラフィーの使用が最もGMPに適合するプロセスである。その他のプロセスでは、カラムクロマトグラフィーを使用する/使用しない超遠心分離を使用する。レンチウイルスベクターの作製のための例示的なプロトコルは、その両方とも全内容を、参照により、本明細書で援用する、Lesch et al.,2011,“Production and purification of lentiviral vector generated in 293T suspension cells with baculoviral vectors,”Gene Therapy 18:531-538、及びAusubel et al.,2012,“Production of CGMP-Grade Lentiviral Vectors,”Bioprocess Int.10(2):32-43に認めることができる。
【0128】
特定の実施形態では、本明細書に記載した方法で使用するベクターはIDUA(例えば、hIDUA)をコードするベクターであり、CNSの細胞または関連した細胞(例えば、インビボまたはインビトロで神経細胞)に形質導入した際に、IDUAのグリコシル化バリアントを形質導入した細胞によって発現するようになっている。特定の実施形態では、本明細書に記載した方法で使用するベクターはIDUA(例えば、hIDUA)をコードするベクターであり、CNSの細胞または関連した細胞(例えば、インビボまたはインビトロの神経細胞)に形質導入した際に、IDUAの硫酸化バリアントが細胞によって発現するようになっている。
【0129】
5.2.3.遺伝子発現のプロモーター及び修飾因子
特定の実施形態では、本明細書で提供するベクターは、遺伝子送達または遺伝子発現(例えば、「発現制御エレメント」)を調節する構成要素を含む。特定の実施形態では、本明細書で提供するベクターは、遺伝子発現を調節する構成要素を含む。特定の実施形態では、本明細書で提供するベクターは、細胞との結合に影響を及ぼす、または細胞を標的とする構成要素を含む。特定の実施形態では、本明細書で提供するベクターは、取り込みの後に、細胞内でのポリヌクレオチド(例えば、導入遺伝子)の局在化に影響を及ぼす構成要素を含む。特定の実施形態では、本明細書で提供するベクターは、例えば、ポリヌクレオチドを取り込んだ細胞を検出する、または選択するための検出可能な、または選択可能なマーカーとして使用することができる構成要素を含む。
【0130】
特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、1つ以上のプロモーターを含む。特定の実施形態では、プロモーターは、構成的プロモーターである。代替の実施形態では、プロモーターは、誘導性プロモーターである。ネイティブのIDUA遺伝子は、大部分のハウスキーピング遺伝子と同様に、主にGCリッチプロモーターを使用する。好ましい実施形態では、hIDUAの持続的な発現を提供する強力な構成的プロモーターを使用する。そのようなプロモーターには、「C」-サイトメガロウイルス(CMV)初期エンハンサーエレメント;「A」-ニワトリβアクチン遺伝子のプロモーターならびに第一エキソン及びイントロン;ならびに「G」-ウサギβ-グロビン遺伝子のスプライスアクセプターを含む「CAG」合成プロモーターがある(Miyazaki et al.,1989,Gene 79:269-277、及びNiwa et al.,Gene 108:193-199を参照されたい)。
【0131】
特定の実施形態では、プロモーターはCB7プロモーターである(その全内容を、参照により、本明細書で援用するDinculescu et al.,2005,Hum Gene Ther 16:649-663を参照されたい)。一部の実施形態では、CB7プロモーターは、ベクターによって駆動する導入遺伝子の発現を増強するその他の発現制御エレメントを含む。特定の実施形態では、その他の発現制御エレメントには、ニワトリβ-アクチンイントロン及び/またはウサギβ-グロビンpolAシグナルがある。特定の実施形態では、プロモーターは、TATAボックスを含む。特定の実施形態では、プロモーターは、1つ以上のエレメントを含む。特定の実施形態では、1つ以上のプロモーターエレメントは、互いに対して逆向きにしても、位置を変えてもよい。特定の実施形態では、プロモーターのエレメントは、協働的に機能するように配置する。特定の実施形態では、プロモーターのエレメントは、独立して機能するように配置する。特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、ヒトCMV前初期遺伝子プロモーター、SV40初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RS)長鎖末端反復配列、及びラットインスリンプロモーターからなる群から選択する1つ以上のプロモーターを含む。特定の実施形態では、本明細書で提供するベクターは、AAV、MLV、MMTV、SV40、RSV、HIV-1、及びHIV-2 LTRからなる群から選択する1つ以上の長鎖末端反復配列(LTR)プロモーターを含む。特定の実施形態では、本明細書で提供するベクターは、1つ以上の組織特異的プロモーター(例えば、神経細胞特異的プロモーター)を含む。
【0132】
特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、1つ以上のプロモーター以外の調節エレメントを含む。特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、エンハンサーを含む。特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、リプレッサーを含む。特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、イントロンまたはキメライントロンを含む。特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、ポリアデニル化配列を含む。
【0133】
5.2.4.シグナルペプチド
特定の実施形態では、本明細書で提供するベクターは、タンパク質送達を調節する構成要素を含む。特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、1つ以上のシグナルペプチドを含む。特定の実施形態では、シグナルペプチドは、導入遺伝子産物(例えば、IDUA)の細胞内での適切なパッケージング(例えば、グリコシル化)を達成することを可能にする。特定の実施形態では、シグナルペプチドは、導入遺伝子産物(例えば、IDUA)が細胞内で適切な局在化を達成することを可能にする。特定の実施形態では、シグナルペプチドは、導入遺伝子産物(例えば、IDUA)が細胞からの分泌を達成することを可能にする。ベクターに関連して使用するシグナルペプチドの事例、及び本明細書で提供する導入遺伝子は、表1に認めることができる。シグナルペプチドは、本明細書において、リーダー配列またはリーダーペプチドとも称し得る。
【表2】
【0134】
5.2.5.非翻訳領域
特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、1つ以上の非翻訳領域(UTR)(例えば、3’及び/または5’UTR)を含む。特定の実施形態では、UTRは、タンパク質発現の所望のレベルのために最適化する。特定の実施形態では、UTRは、導入遺伝子のmRNA半減期のために最適化する。特定の実施形態では、UTRは、導入遺伝子のmRNAの安定性のために最適化する。特定の実施形態では、UTRは、導入遺伝子のmRNAの二次構造のために最適化する。
【0135】
5.2.6.逆方向末端反復
特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、1つ以上の逆方向末端反復(ITR)配列を含む。ITR配列は、ウイルスベクターのビリオンに組換え遺伝子発現カセットをパッケージングするために使用することができる。特定の実施形態では、ITRは、AAV(例えば、AAV9)に由来するものである(その各々の全内容を、参照により、本明細書で援用する、例えば、Yan et al.,2005,J.Virol.,79(1):364-379;米国特許第7,282,199 B2号、米国特許第7,790,449 B2号、米国特許第8,318,480 B2号、米国特許第8,962,332 B2号、及び国際特許出願番号PCT/EP2014/076466を参照されたい)。
【0136】
5.2.7.導入遺伝子
特定の実施形態では、本明細書で提供するベクターは、IDUA導入遺伝子をコードする。特定の実施形態では、IDUAは、神経細胞での発現に適当な発現制御エレメントによって制御する:特定の実施形態では、IDUA(例えば、hIDUA)導入遺伝子は、配列番号1のアミノ酸配列を含む。特定の実施形態では、IDUA(例えば、hIDUA)導入遺伝子は、配列番号1に記載の配列と少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%が同一のアミノ酸配列を含む。
【0137】
導入遺伝子がコードするHuGlyIDUAは、限定を意図するものではないが、配列番号1のアミノ酸配列を有するヒトIDUA(hIDUA)(
図1に示す)、ならびにアミノ酸の置換、欠失、または付加を有する、例えば、限定を意図するものではないが、
図2に示すIDUAのオーソログ中に対応する非保存的残基から選択するアミノ酸置換を含む、hIDUAの誘導体を含むことができる(ただし、そのような突然変異が、
図3に示す(その全内容を、参照により、本明細書で援用するSaito et al.,2014,Mol Genet Metab 111:107-112の57個のMPS I突然変異を列記する表3より)、またはその各々の全内容を、参照により、本明細書で援用するVenturi et al.,2002,Human Mutation #522 Online(「Venturi 2002」)、またはBertola et al.,2011 Human Mutation 32:E2189-E2210(「Bertola 2011」)によって報告した、重度の、中程度に重度の、中程度の、または軽症型MPS I表現型において同定したいずれの突然変異も含まないことを条件とする)hIDUAの誘導体を含むことができる。
【0138】
例えば、hIDUAの特定位置でのアミノ酸置換は、
図2(その全内容を、参照により、本明細書で援用するMaita et al.,2013,PNAS 110:14628、
図S8に報告したオーソログのアラインメントを示す)に示すIDUAオーソログでのその位置に認める対応する非保存的アミノ酸残基から選択することができる(ただし、そのような置換は
図3に示す、または上記Venturi 2002またはBertola 2011において報告する有害な突然変異のいずれも含まないことを条件とする)。結果として得られる導入遺伝子産物は、細胞培養または試験動物で、突然変異がIDUA機能を損なわないことを保証するためのインビトロでの従来のアッセイを使用して試験することができる。選択する好ましいアミノ酸置換、欠失、または付加は、細胞培養または動物モデルでのMPS Iのためのインビトロでの従来のアッセイによって試験するIDUAの酵素活性、安定性、または半減期を維持する、または増加させるものとすべきである。例えば、導入遺伝子産物の酵素活性は基質として4-メチルウンベリフェリルα-L-イズロニドを用いる従来の酵素アッセイを使用して評価することができる(使用可能な例示的なIDUA酵素アッセイについては、例えば、その各々の全内容を、参照により、本明細書で援用する、Hopwood et al.,1979,Clin Chim Acta 92:257-265;Clements et al.,1985,Eur J Biochem 152:21-28;及びKakkis et al.,1994,Prot Exp Purif 5:225-232を参照されたい)。導入遺伝子産物がMPS I表現型を修正する能力は、例えば、培養においてMPS I細胞にhIDUAまたは誘導体をコードするウイルスベクター、またはその他のDNA発現コンストラクトを形質導入することにより、培養でのMPS I細胞にrHuGlyIDUAまたは誘導体を加えることにより、またはMPS I細胞をrHuGlyIDUAまたは誘導体を発現及び分泌するように操作したヒト宿主細胞と共培養することにより、細胞培養において評価する、例えば、培養でのMPS I細胞でのIDUA酵素活性、及び/またはGAG貯蔵量の低下を検出することにより、MPS I培養細胞の欠陥の修正を決定することができる(例えば、その各々の全内容を、参照により、本明細書で援用するMyerowitz&Neufeld,1981,J Biol Chem 256:3044-3048;及びAnson et al.1992,Hum Gene Ther 3:371-379を参照されたい)。
【0139】
5.2.8.コンストラクト
特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、以下の順序で次のエレメント:a)第1のITR配列、b)第1のリンカー配列、c)プロモーター配列、d)第2のリンカー配列、e)イントロン配列、f)第3のリンカー配列、g)導入遺伝子(例えば、IDUA)をコードする配列、h)第4のリンカー配列、i)ポリA配列、j)第5のリンカー配列、及びk)第2のITR配列を含む。
【0140】
特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、以下の順序で次のエレメント:a)プロモーター配列、及びb)導入遺伝子(例えば、IDUA)をコードする配列を含む。特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、以下の順序で次のエレメント:a)プロモーター配列、及びb)導入遺伝子(例えば、IDUA)をコードする配列を含み、ここで導入遺伝子はシグナルペプチドを含む。
【0141】
特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、以下の順序で次のエレメント:a)第1のITR配列、b)第1のリンカー配列、c)プロモーター配列、d)第2のリンカー配列、e)イントロン配列、f)第3のリンカー配列、g)第1のUTR配列、h)導入遺伝子(例えば、IDUA)をコードする配列、i)第2のUTR配列、j)第4のリンカー配列、k)ポリA配列、l)第5のリンカー配列、及びm)第2のITR配列を含む。
【0142】
特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、以下の順序で次のエレメント:a)第1のITR配列、b)第1のリンカー配列、c)プロモーター配列、d)第2のリンカー配列、e)イントロン配列、f)第3のリンカー配列、g)第1のUTR配列、h)導入遺伝子(例えば、IDUA)をコードする配列、i)第2のUTR配列、j)第4のリンカー配列、k)ポリA配列、l)第5のリンカー配列、及びm)第2のITR配列を含み、ここで導入遺伝子はシグナルペプチドを含み、かつ導入遺伝子はhIDUAをコードする。
【0143】
特定の実施形態では、本明細書に記載したウイルスベクターは、
図6に例示したエレメントと順序を含む。
【0144】
5.2.9.ベクターの製造及び試験
本明細書で提供するウイルスベクターは、宿主細胞を使用して製造することができる。本明細書で提供するウイルスベクターは、哺乳動物の宿主細胞、例えば、A549、WEHI、10T1/2、BHK、MDCK、COS1、COS7、BSC 1、BSC 40、BMT 10、VERO、W138、HeLa、293、Saos、C2C12、L、HT1080、HepG2、初代線維芽細胞、肝細胞、及び筋芽細胞を使用して製造することができる。本明細書で提供するウイルスベクターは、ヒト、サル、マウス、ラット、ウサギ、またはハムスターから宿主細胞を使用して製造することができる。
【0145】
宿主細胞は、導入遺伝子及び関連するエレメント(すなわち、ベクターゲノム)、及びウイルスを宿主細胞で生産する手段、例えば、複製及びキャプシド遺伝子(例えば、AAVのrep及びcap遺伝子)をコードする配列を使用して安定的に形質転換する。AAV8キャプシドを有する組換えAAVベクターを生産する方法については、その全内容を、参照により、本明細書で援用する米国特許第7,282,199 B2号の詳細な説明の第IV節を参照されたい。上記ベクターのゲノムコピー力価は、例えば、TAQMAN(登録商標)分析によって決定することができる。ビリオンは、例えば、CsCl2沈降によって回収することができる。
【0146】
インビトロアッセイ、例えば、細胞培養アッセイは、本明細書に記載したベクターからの導入遺伝子発現を測定するために使用することができる、したがって、例えば、ベクターの効力を示すことができる。例えば、HT-22、SK-N-MC、HCN-1A、HCN-2、NT2、SH-SY5y、hNSC11、またはReNcell VM細胞株、または神経細胞またはグリア細胞、または神経細胞またはグリア細胞の前駆細胞に由来するその他の細胞株を、導入遺伝子発現を評価するために使用することができる。発現すると、HuGlyIDUAと関連したグリコシル化及びチロシン硫酸化のパターンの決定を含む、発現した産物(すなわち、HuGlyIDUA)の特徴を決定することができる。
【0147】
5.2.10.組成物
本明細書に記載した導入遺伝子をコードしているベクター及び好適な担体を含む組成物を記載する。好適な担体(例えば、CSF、及び例えば、神経細胞への投与のために)は、当業者であれば容易に選択する。
【0148】
5.3.遺伝子治療
MPS Iを有するヒト対象への、治療有効量の導入遺伝子コンストラクトの投与のための方法を記載する。より詳細には、MPS Iを有する患者に、治療有効量の導入遺伝子コンストラクトを投与するため、特にCSFに投与するための方法を記載する。特定の実施形態では、そのような治療有効量の導入遺伝子コンストラクトのCSFへの投与方法は、ハーラー症候群またはハーラー-シャイエ症候群を有する患者を治療するために使用することができる。
【0149】
5.3.1.標的患者集団
特定の実施形態では、治療有効用量の組換えベクターをMPS Iの診断を受けた患者に投与する。特定の実施形態では、患者は、ハーラー-シャイエ症候群の診断を受けていた。特定の実施形態では、患者は、シャイエ症候群の診断を受けていた。特定の実施形態では、患者は、ハーラー症候群の診断を受けていた。
【0150】
特定の実施形態では、治療有効用量の組換えベクターを、重度のMPS Iの診断を受けた患者に投与する。特定の実施形態では、治療有効用量の組換えベクターを、減弱型MPS Iの診断を受けた患者に投与する。
【0151】
特定の実施形態では、治療有効用量の組換えベクターを、MPS Iと診断され、IDUA(例えば、hIDUA)を用いた治療に反応することを確認した患者に投与する。
【0152】
特定の実施形態では、治療有効用量の組換えベクターを、小児患者に投与する。特定の実施形態では、治療有効用量の組換えベクターを、3歳未満の患者に投与する。特定の実施形態では、治療有効用量の組換えベクターを、2~4歳の患者に投与する。特定の実施形態では、治療有効用量の組換えベクターを、3~8歳の患者に投与する。特定の実施形態では、治療有効用量の組換えベクターを、8~16歳の患者に投与する。特定の実施形態では、治療有効用量の組換えベクターを、6~18歳の患者に投与する。特定の実施形態では、治療有効用量の組換えベクターを、6歳以上の患者に投与する。特定の実施形態では、治療有効用量の組換えベクターを、3歳未満の患者に投与する。特定の実施形態では、治療有効用量の組換えベクターを、4ヶ月齢以上~9ヶ月齢未満の患者に投与する。特定の実施形態では、治療有効用量の組換えベクターを、9ヶ月齢以上~18ヶ月齢未満の患者に投与する。特定の実施形態では、治療有効用量の組換えベクターを、18ヶ月以上~3歳未満の患者に投与する。特定の実施形態では、治療有効用量の組換えベクターを、10歳を超える患者に投与する。特定の実施形態では、治療有効用量の組換えベクターを、4ヶ月齢を超える患者に投与する。特定の実施形態では、治療有効用量の組換えベクターを、6歳未満の患者に投与する。特定の実施形態では、治療有効用量の組換えベクターを、青年期の患者に投与する。特定の実施形態では、治療有効用量の組換えベクターを、成人の患者に投与する。特定の実施形態では、治療有効用量の組換えベクターを小児患者に投与する。特定の実施形態では、治療有効用量の組換えベクターを幼乳児の患者に投与する。
【0153】
特定の実施形態では、治療有効用量の組換えベクターを、MPS Iと診断され、遺伝子治療処置の前にCSFに注入したIDUA、例えば、hIDUAによる治療に反応することを確認した患者に投与する。
【0154】
5.3.2.投与量及び投与様式
特定の実施形態では、治療有効用量の組換えベクターは、くも膜下投与(すなわち、くも膜下腔に注入して、組換えベクターがCSFを通じて拡散して、CNSの細胞に形質導入するようにする)を介して、CSFに投与する。このことは、いくつかの方法で、例えば、頭蓋内(大槽または脳室内)注入、または腰椎槽への注入によって達成することができる。特定の実施形態では、くも膜下投与は、大槽内(IC)注入(例えば、大槽に)により実施する。特定の実施形態では、大槽内注入は、CTガイド後頭下穿刺で行う。特定の実施形態では、くも膜下注入は、腰椎穿刺で行う。特定の実施形態では、患者に実行し得る場合は、くも膜下腔への注入はC1-2穿刺で行う。あるいは、脳室内(ICV)投与(血液脳関門を透過しない抗感染症薬または抗癌薬を導入するために使用する、より侵襲的な技術)、例えば、画像支援方ICV注入を使用して、組換えベクターを、脳室内に直接に注入することができる。特定の実施形態では、組換えベクターを、単一の画像支援型ICV注入を介して投与する。さらなる特定の実施態様では、組換えベクターを、投与カテーテルを直ちに除去しながら、単一の画像支援型ICV注入を介して投与する。特定の実施形態では、治療有効用量の組換えベクターは、鼻腔内投与を介してCNSに投与する。特定の実施形態では、治療有効用量の組換えベクターは、脳実質内注入によりCNSに投与する。特定の実施形態では、脳実質内注入は、線条体を標的とする。特定の実施形態では、脳実質内注入は、白質を標的とする。特定の実施形態では、治療有効用量の組換えベクターは、当該技術分野で公知のあらゆる手段、例えば、その全内容を、参照により、本明細書で援用するHocquemiller et al.,2016,Human Gene Therapy 27(7):478-496において開示した任意の手段によって、CSFに投与する。
【0155】
組換えベクターは、rHuGlyIDUAのCSF濃度を少なくとも9.25~277μg/mLのCminに維持する用量で、CSFに投与すべきである。特定の実施形態では、組換えベクターは、rHuGlyIDUAのCSF濃度を少なくとも9.25、16、46、92、185、または277μg/mL)のCminに維持する用量で、CSFに投与する。特定の実施形態では、組換えベクターは、rHuGlyIDUAのCSF濃度を少なくとも9.25、16、46、92、185、または277μg/mL)のCminに維持する用量で、CSFに投与する。特定の実施形態では、組換えベクターは、rHuGlyIDUAのCSF濃度を少なくとも9.25μg/mLのCminに維持する用量で、CSFに投与する。特定の実施形態では、組換えベクターは、rHuGlyIDUAのCSF濃度を少なくとも16μg/mLのCminに維持する用量で、CSFに投与する。特定の実施形態では、組換えベクターは、rHuGlyIDUAのCSF濃度を少なくとも46μg/mLのCminに維持する用量で、CSFに投与する。特定の実施形態では、組換えベクターは、rHuGlyIDUAのCSF濃度を少なくとも92μg/mLのCminに維持する用量で、CSFに投与する。特定の実施形態では、組換えベクターは、rHuGlyIDUAのCSF濃度を少なくとも185μg/mLのCminに維持する用量で、CSFに投与する。特定の実施形態では、組換えベクターは、rHuGlyIDUAのCSF濃度を少なくとも277μg/mLのCminに維持する用量で、CSFに投与する。
【0156】
特定の実施形態では、小児患者の場合、組換えベクターは、CSFでの総rHuGlyIDUAの1.00~30.00mgを維持する用量でCSFに投与する。特定の実施形態では、小児患者の場合、組換えベクターは、CSFでの総rHuGlyIDUAの1.00、1.74、5.00、10.00、20.00、または30.00mgを維持する用量でCSFに投与する。特定の実施形態では、小児患者の場合、組換えベクターは、CSFでの総rHuGlyIDUAの1.00mgを維持する用量でCSFに投与する。特定の実施形態では、小児患者の場合、組換えベクターは、CSFでの総rHuGlyIDUAの1.74mgを維持する用量でCSFに投与する。特定の実施形態では、小児患者の場合、組換えベクターは、CSF中に総rHuGlyIDUAの5.00mgを維持する用量でCSFに投与する。特定の実施形態では、小児患者の場合、組換えベクターは、CSFでの総rHuGlyIDUAの10.00mgを維持する用量でCSFに投与する。特定の実施形態では、小児患者の場合、組換えベクターは、CSFでの総rHuGlyIDUAの20.00mgを維持する用量でCSFに投与する。特定の実施形態では、小児患者の場合、組換えベクターは、CSFでの総rHuGlyIDUAの30.00mgを維持する用量でCSFに投与する。
【0157】
特定の実施形態では、成人患者の場合、組換えベクターは、CSFでの総rHuGlyIDUAの1.29~38.88mgを維持する用量でCSFに投与する。特定の実施形態では、成人患者の場合、組換えベクターは、CSFでの総rHuGlyIDUAの1.29、2.25、8.40、12.96、25.93、または38.88mgを維持する用量でCSFに投与する。特定の実施形態では、成人患者の場合、組換えベクターは、CSFでの総rHuGlyIDUAの1.29mgを維持する用量でCSFに投与する。特定の実施形態では、成人患者の場合、組換えベクターは、CSFでの総rHuGlyIDUAの2.25mgを維持する用量でCSFに投与する。特定の実施形態では、成人患者の場合、組換えベクターは、CSFでの総rHuGlyIDUAの8.40mgを維持する用量でCSFに投与する。特定の実施形態では、成人患者の場合、組換えベクターは、CSFでの総rHuGlyIDUAの12.96mgを維持する用量でCSFに投与する。特定の実施形態では、成人患者の場合、組換えベクターは、CSFでの総rHuGlyIDUAの25.93mgを維持する用量でCSFに投与する。特定の実施形態では、成人患者の場合、組換えベクターは、CSFでの総rHuGlyIDUA38.88mgを維持する用量でCSFに投与する。
【0158】
好ましい実施形態では、くも膜下投与(IC及びICV投与など)のために、治療有効用量の組換えベクターを、全CSF量の10%を超えない注入量でCSFに投与する、当該全CSF量は、乳児では約50mlである、そして、成人では約150mlである。くも膜下注入に好適な担体、例えば、Elliotts B溶液は、組換えベクターのためのビヒクルとして使用すべきである。Elliots B溶液(一般名:塩化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、無水デキストロース、硫酸マグネシウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、及びリン酸ナトリウム)は、静菌保存剤を含んでいない無菌の、非発熱性の等張溶液であり、化学療法薬のくも膜下投与のための希釈剤として使用する。
【0159】
CSF濃度は、後頭部または腰椎穿刺から得られるCSF流体でのrHuGlyIDUAの濃度を直接測定することでモニタリングする、または患者の血清において検出したrHuGlyIDUAの濃度から外挿によって推定することができる。特定の実施形態では、血清でのrHuGlyIDUAが10ng/mL~100ng/mLであることは、CSFでのrHuGlyIDUAが1~30mgであることを示す。特定の実施形態では、組換えベクターは、血清でのrHuGlyIDUAを、10ng/mL~100ng/mLに維持する用量で、CSFに投与する。
【0160】
特定の実施形態では、投与量は、患者のCSFに投与する(例えば、後頭下穿刺または腰椎穿刺を介して注入する)ゲノムコピーの数により測定する。特定の実施形態では、約1×1012~約2×1014ゲノムコピーを投与する。特定の実施形態では、約5×1012~約2×1014のゲノムコピーを投与する。特定の実施形態では、約1×1013~約1×1014のゲノムコピーを投与する。特定の実施形態では、約1×1013~約2×1013のゲノムコピーを投与する。特定の実施形態では、約6×1013~約8×1013のゲノムコピーを投与する。特定の実施形態では、約1.2×1012のゲノムコピーを投与する。別の特定の実施形態では、約2.0×1012のゲノムコピーを投与する。別の特定の実施形態では、約2.2×1012のゲノムコピーを投与する。別の特定の実施形態では、約6.0×1012のゲノムコピーを投与する。別の特定の実施形態では、約1.0×1013のゲノムコピーを投与する。別の特定の実施形態では、約1.1×1013のゲノムコピーを投与する。別の特定の実施形態では、約3.0×1013のゲノムコピーを投与する。別の特定の実施形態では、約5.0×1013のゲノムコピーを投与する。別の特定の実施形態では、約5.5×1013のゲノムコピーを投与する。特定の実施形態では、約1.2×1012~約6.0×1012のゲノムコピーを投与する。別の特定の実施形態では、約2.0×1012~約1.0×1013のゲノムコピーを投与する。別の特定の実施形態では、約2.2×1012~約1.1×1013のゲノムコピーを投与する。別の特定の実施形態では、約6.0×1012~約3.0×1013のゲノムコピーを投与する。別の特定の実施形態では、約1.0×1013~約5.0×1013のゲノムコピーを投与する。別の特定の実施形態では、約1.1×1013~約5.5×1013のゲノムコピーを投与する。
【0161】
特定の実施形態では、約1×1013のゲノムコピーの固定用量を、小児患者に投与する。特定の実施形態では、約5.6×1013のゲノムコピーの固定用量を、小児患者に投与する。特定の実施形態では、約1×1012~約5.6×1013のゲノムコピーの固定用量を、小児患者に投与する。特定の実施形態では、約1×1013~約5.6×1013のゲノムコピーの固定用量を、小児患者に投与する。特定の実施形態では、約1.2×1012のゲノムコピーの固定用量を、小児患者に投与する。別の特定の実施形態では、約2.0×1012のゲノムコピーの固定用量を、小児患者に投与する。別の特定の実施形態では、約2.2×1012のゲノムコピーの固定用量を、小児患者に投与する。別の特定の実施形態では、約6.0×1012のゲノムコピーの固定用量を、小児患者に投与する。別の特定の実施形態では、約1.0×1013のゲノムコピーの固定用量を、小児患者に投与する。別の特定の実施形態では、約1.1×1013のゲノムコピーの固定用量を、小児患者に投与する。別の特定の実施形態では、約3.0×1013のゲノムコピーの固定用量を、小児患者に投与する。別の特定の実施形態では、約5.0×1013のゲノムコピーの固定用量を、小児患者に投与する。別の特定の実施形態では、約5.5×1013のゲノムコピーの固定用量を、小児患者に投与する。特定の実施形態では、約1.2×1012~約6.0×1012のゲノムコピーの固定用量を、小児患者に投与する。別の特定の実施形態では、約2.0×1012~約1.0×1013のゲノムコピーの固定用量を、小児患者に投与する。別の特定の実施形態では、約2.2×1012~約1.1×1013のゲノムコピーの固定用量を、小児患者に投与する。別の特定の実施形態では、約6.0×1012~約3.0×1013のゲノムコピーの固定用量を、小児患者に投与する。別の特定の実施形態では、約1.0×1013~約5.0×1013のゲノムコピーの固定用量を、小児患者に投与する。別の特定の実施形態では、約1.1×1013~約5.5×1013のゲノムコピーの固定用量を、小児患者に投与する。特定の実施形態では、約2.6×1012のゲノムコピーの固定用量を、成人患者に投与する。特定の実施形態では、約1.3×1013のゲノムコピーの固定用量を、成人患者に投与する。特定の実施形態では、約1.4×1013のゲノムコピーの固定用量を、成人患者に投与する。特定の実施形態では、約7.0×1013のゲノムコピーの固定用量を、成人患者に投与する。特定の実施形態では、約1.4×1013~約7.0×1013のゲノムコピーの固定用量を、成人患者に投与する。特定の実施形態では、約1×1012~約5.6×1013のゲノムコピーの固定用量を、成人患者に投与する。特定の実施形態では、約1×1012~約6.5×1013のゲノムコピーの固定用量を、成人患者に投与する。特定の実施形態では、約6.5×1012~約6.5×1013のゲノムコピーの固定用量を、成人患者に投与する。
【0162】
特定の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターを、ヒト対象の脳質量に応じた用量で投与する。好ましい実施形態では、脳質量は、対象の脳の脳磁気共鳴画像(MRI)で決定する。特定の実施形態では、ヒト対象の脳体積cm3に、1.046g/cm3の係数を乗じて、ヒト対象の脳体積からヒト対象の脳質量に変換する、また、ヒト対象の脳体積を、ヒト対象の脳MRIから得る。
【0163】
特定の実施形態では、患者のCSFに投与する(例えば、後頭下穿刺または腰椎穿刺を介して注入する)ゲノムコピー数/脳質量グラムで、用量を測定する。特定の実施形態では、約2×109のゲノムコピー/脳質量グラムを投与する。特定の実施形態では、約1×1010のゲノムコピー/脳質量グラムを投与する。特定の実施形態では、約5×1010のゲノムコピー/脳質量グラムを投与する。特定の実施形態では、約1×109~約2×1010のゲノムコピー/脳質量グラムを投与する。特定の実施形態では、約2×109~約1×1010のゲノムコピー/脳質量グラムを投与する。特定の実施形態では、約5×109~約2×1010のゲノムコピー/脳質量グラムを投与する。特定の実施形態では、約9×109~約1×1010のゲノムコピー/脳質量グラムを投与する。特定の実施形態では、約1×1010~約1.5×1010のゲノムコピー/脳質量グラムを投与する。特定の実施形態では、約1×1010~約5×1010のゲノムコピー/脳質量グラムを投与する。特定の実施形態では、約5×1010~約6×1010のゲノムコピー/脳質量グラムを投与する。
【0164】
特定の実施形態では、本明細書に記載した組換えベクター(例えば、rAAV9.hIDUAベクター)を、約2×109GC/g脳質量~約5×1010GC/g脳質量の範囲の単一固定用量で、くも膜下内に投与し得る。特定の実施形態では、本明細書に記載した組換えベクター(例えば、rAAV9.hIDUAベクター)は、約2×109GC/g脳質量の単一の固定用量で、くも膜下内に投与し得る。別の特定の実施形態では、本明細書に記載した組換えベクター(例えば、rAAV9.hIDUAベクター)は、約1×1010GC/g脳質量の単一の固定用量で、くも膜下内に投与し得る。別の特定の実施形態では、本明細書に記載した組換えベクター(例えば、rAAV9.hIDUAベクター)は、約5×1010GC/g脳質量の単一の固定用量で、くも膜下内に投与し得る。別の特定の実施形態では、本明細書に記載した組換えベクター(例えば、rAAV9.hIDUAベクター)を、以下の表2に記載した、及び、表2の記載にしたがった用量1及び用量2の単一の固定用量で、くも膜下内に投与し得る。別の特定の実施形態では、本明細書に記載した組換えベクター(例えば、rAAV9.hIDUAベクター)を、以下の表3に記載した、及び、表3の記載にしたがった用量1及び用量2の単一の固定用量で、くも膜下内に投与し得る。
【0165】
特定の実施形態では、本明細書に記載した組換えベクター(例えば、rAAV9.hIDUAベクター)を、約2×109GC/g脳質量~約5×1010GC/g脳質量の範囲の単一固定用量を、IC投与によって投与し得る。特定の実施形態では、本明細書に記載した組換えベクター(例えば、rAAV9.hIDUAベクター)は、約2×109GC/g脳質量の単一の固定用量を、IC投与で投与し得る。別の特定の実施形態では、本明細書に記載した組換えベクター(例えば、rAAV9.hIDUAベクター)は、約1×1010GC/g脳質量の単一の固定用量を、IC投与で投与し得る。別の特定の実施形態では、本明細書に記載した組換えベクター(例えば、rAAV9.hIDUAベクター)は、約5×1010GC/g脳質量の単一の固定用量を、IC投与で投与し得る。別の特定の実施形態では、本明細書に記載した組換えベクター(例えば、rAAV9.hIDUAベクター)を、以下の表2に記載した、及び、表2の記載にしたがった用量1及び用量2の単一の固定用量を、IC投与で投与し得る。別の特定の実施形態では、本明細書に記載した組換えベクター(例えば、rAAV9.hIDUAベクター)を、以下の表3に記載した、及び、表3の記載にしたがった用量1及び用量2の単一の固定用量を、IC投与で投与し得る。
【0166】
特定の実施形態では、本明細書に記載した組換えベクター(例えば、rAAV9.hIDUAベクター)を、約2×109GC/g脳質量~約5×1010GC/g脳質量の範囲の単一固定用量を、ICV投与で投与し得る。特定の実施形態では、本明細書に記載した組換えベクター(例えば、rAAV9.hIDUAベクター)は、約2×109GC/g脳質量の単一の固定用量を、ICV投与で投与し得る。別の特定の実施形態では、本明細書に記載した組換えベクター(例えば、rAAV9.hIDUAベクター)は、約1×1010GC/g脳質量の単一の固定用量を、ICV投与で投与し得る。別の特定の実施形態では、本明細書に記載した組換えベクター(例えば、rAAV9.hIDUAベクター)は、約5×1010GC/g脳質量の単一の固定用量を、ICV投与で投与し得る。別の特定の実施形態では、本明細書に記載した組換えベクター(例えば、rAAV9.hIDUAベクター)を、以下の表2に記載した、及び、表2の記載にしたがった用量1及び用量2の単一の固定用量を、ICV投与で投与し得る。別の特定の実施形態では、本明細書に記載した組換えベクター(例えば、rAAV9.hIDUAベクター)を、以下の表3に記載した、及び、表3の記載にしたがった用量1及び用量2の単一の固定用量を、ICV投与で投与し得る。
【0167】
【0168】
【0169】
特定の実施形態では、本明細書に記載した組換えベクター(例えば、rAAV9.hIDUA)は、約1.4×1013GC(1.1×1010GC/g脳質量)~約7.0×1013GC(5.6×1010GC/g脳質量)の範囲での単回固定用量(好ましくは、約5~20mlの体積、または約5ml以下の体積)で、(後頭下注入で)IC投与し得る。患者がAAVに対する中和抗体を有する場合、高用量の範囲で使用し得る。特定の実施形態では、本明細書に記載した組換えベクター(例えば、rAAV9.hIDUA)は、約2.6×1012GC(2×109GC/g脳質量)~約1.3×1013GC(1×1010GC/g脳質量)の範囲での単回固定用量(好ましくは、約5~20mlの体積、または約5ml以下の体積)で、(後頭下注入で)IC投与し得る。患者が4ヶ月齢以上~9ヶ月齢未満の場合、特定の実施形態では、本明細書に記載した組換えベクター(例えば、rAAV9.hIDUA)は、約6.0×1012GC(1.0×1010GC/g脳質量)~約3.0×1013GC(5×1010GC/g脳質量)の範囲での単回固定用量(好ましくは、約5~20mlの体積、または約5ml以下の体積)で、(後頭下注入で)ICで投与し得る、そして、別の実施形態では、本明細書に記載した組換えベクター(例えば、rAAV9.hIDUA)は、約1.2×1012GC(2×109GC/g脳質量)~約6.0×1012GC(1×1010GC/g脳質量)の範囲での単回固定用量(好ましくは、約5~20mlの体積、または約5ml以下の体積)で、(後頭下注入で)IC投与し得る。患者が9ヶ月齢以上~18ヶ月齢未満の場合、特定の実施形態では、本明細書に記載した組換えベクター(例えば、rAAV9.hIDUA)は、約1.0×1013GC(1.0×1010GC/g脳質量)~約5.0×1013GC(5×1010GC/g脳質量)の範囲での単回固定用量(好ましくは、約5~20mlの体積、または約5ml以下の体積)で、ICで(後頭下注入で)投与し得る、そして、別の実施形態では、本明細書に記載した組換えベクター(例えば、rAAV9.hIDUA)は、約2.0×1012GC(2×109GC/g脳質量)~約1.0×1013GC(1×1010GC/g脳質量)の範囲での単回固定用量(好ましくは、約5~20mlの体積、または約5ml以下の体積)で、(後頭下注入で)IC投与し得る。患者が18ヶ月齢以上~3歳未満の場合、特定の実施形態では、本明細書に記載した組換えベクター(例えば、rAAV9.hIDUA)は、約1.1×1013GC(1.0×1010GC/g脳質量)~約5.5×1013GC(5×1010GC/g脳質量)の範囲での単回固定用量(好ましくは、約5~20mlの体積、または約5ml以下の体積)で、ICで(後頭下注入で)投与し得る、そして、別の実施形態では、本明細書に記載した組換えベクター(例えば、rAAV9.hIDUA)は、約2.2×1012GC(2×109GC/g脳質量)~約1.1×1013GC(1×1010GC/g脳質量)の範囲での単回固定用量(好ましくは、約5~20mlの体積、または約5ml以下の体積)で、(後頭下注入で)IC投与し得る。特定の実施形態では、本明細書に記載した組換えベクター(例えば、rAAV9.hIDUA)は、以下の表4に記載した、及び、表4の記載にしたがった用量1または用量2で、単回固定用量で(後頭下注入で)IC投与し得る。別の特定の実施形態では、本明細書に記載した組換えベクター(例えば、rAAV9.hIDUA)は、以下の表5に記載した、及び、表4の記載にしたがった用量1または用量2で、単回固定用量で(後頭下注入で)IC投与し得る。
【0170】
【0171】
【0172】
5.4 併用療法
5.4.1.免疫抑制との併用療法
rHuGlyIDUAの送達が免疫反応を最小化すべきである一方、CNS関連遺伝子治療に関する毒性の最も明白な潜在的供給源は、遺伝的にIDUAを欠損しており、したがって、タンパク質及び/または導入遺伝子を送達するために用いるベクターを潜在的に寛容しないヒト対象において、発現したhIDUAタンパク質に対する免疫が発生する。したがって、好ましい実施形態では、患者を免疫抑制治療で共治療することは、特にIDUAのレベルが0に近い重度の疾患を有する患者(例えば、ハーラー症候群を有する患者)を治療する場合に望ましい。タクロリムスまたはラパマイシン(シロリムス)を、ミコフェノール酸と組合わせたレジメン、または組織移植手順において使用するその他の免疫抑制レジメンを伴う免疫抑制治療を利用することができる。そのような免疫抑制治療は、遺伝子治療の過程で投与することができ、特定の実施形態では、免疫抑制治療による前処理が好ましい場合がある。免疫抑制治療は、主治医の判断に基づいて、遺伝子治療処置の後も継続することができ、その後、免疫寛容が誘発した場合、例えば、180日後に中止し得る。
【0173】
特定の実施形態では、本明細書で提供する治療方法は、プレドニゾロン、ミコフェノール酸、及びタクロリムスを含む免疫抑制レジメンと一緒に施す。特定の実施形態では、本明細書で提供する治療方法は、プレドニゾロン、ミコフェノール酸、及びラパマイシン(シロリムス)を含む免疫抑制レジメンと一緒に施す。特定の実施形態では、本明細書で提供する治療方法は、タクロリムスを含まない免疫抑制レジメンと一緒に施す。特定の実施形態では、本明細書で提供する治療方法は、1つ以上のコルチコステロイド、例えば、メチルプレドニゾロン及び/またはプレドニゾロン、ならびにタクロリムス及び/またはシロリムスを含む免疫抑制レジメンと一緒に施す。特定の実施形態では、免疫抑制治療は、ヒトIDUAによる治療の前に、またはそれと同時に、対象に(a)タクロリムス及びミコフェノール酸、または(b)ラパマイシン及びミコフェノール酸の組合わせを投与する、かつその後も継続することを含む。特定の実施形態では、免疫抑制療法は180日後に中止する。特定の実施形態では、免疫抑制治療は、30、60、90、120、150、または180日後に中止する。
【0174】
特定の実施形態では、タクロリムスは、血清濃度を5~10ng/mLとする用量で投与する。特定の実施形態では、タクロリムスは、血清濃度を4~8ng/mLとする用量で投与する。特定の実施形態では、特に、患者が3歳未満である場合、タクロリムスは、血清濃度を2~4ng/mLとする用量で投与する。特定の実施形態では、MMFは、血清濃度を2~3.5μg/mLとする用量で投与する。特定の実施形態では、タクロリムスは、血清濃度を5~10ng/mLとする用量で投与する、かつMMFは、血清濃度を2~3.5μg/mLとする用量で投与する。特定の実施形態では、血清濃度は、タクロリムス及び/またはMMFのトラフレベルの測定後、タクロリムス及び/またはMMFのタイトレーションによって達成する。
【0175】
特定の実施形態では、メチルプレドニゾロンは、10mg/kgの用量で1回静脈内投与する。特定の実施形態では、プレドニゾロンは、0.5mg/kgの用量で1日1回経口投与する。特定の実施形態では、プレドニゾロンは、段階的に漸減する、その後中止する。特定の実施形態では、タクロリムスは、4~8ng/mlの目標血中レベルを維持するために、1日2回1mgを経口投与する。特定の実施形態では、特に、患者が3歳未満である場合、タクロリムスは、2~4ng/mlの目標血中レベルを維持するために1日2回0.05mg/kgを経口投与する。特定の実施形態では、シロリムスも投与する。患者にシロリムスを事前投与する、続いてレジメンの間、目標血中レベルを4~8ng/mlに維持する。しかしながら、特定の実施形態では、患者が3歳未満である場合、好ましくは患者にシロリムスを事前投与する、続いてレジメンの間、目標血中レベルを1~3ng/mlに維持する。特定の実施形態では、メチルプレドニゾロンを10mg/kgの用量で1回静脈内投与する、プレドニゾロンを0.5mg/kgの用量で1日1回経口投与する、タクロリムスを1日1回0.2mg/kg経口投与する、かつシロリムスを投与する。
【0176】
特定の実施形態では、ラパマイシンを2または4mg/kgの用量で1日1回経口投与する。特定の実施形態では、MMFを25mg/kgの用量で1日2回経口投与する。特定の実施形態では、ラパマイシンを2または4mg/kgの用量で1日1回経口投与する、かつMMFを25mg/kgの用量で1日2回経口投与する。特定の実施形態では、ラパマイシンは、血清濃度を5~15ng/mLとする用量で投与する。特定の実施形態では、MMFは、血清濃度を2~3.5μg/mLとする用量で投与する。特定の実施形態では、ラパマイシンは血清濃度を5~15ng/mLとする用量で投与する、かつMMFは血清濃度を2~3.5μg/mLとする用量で投与する。特定の実施形態では、血清濃度は、ラパマイシン及び/またはMMFのトラフレベルの測定後、ラパマイシン及び/またはMMFのタイトレーションによって達成する。
【0177】
5.4.2.標準治療を含むその他の治療との共治療
CSFへのHuGlyIDUAの投与、及びこれに伴うその他の利用可能な治療を施すことの組合わせは、本発明の方法に包含する。追加治療は、遺伝子治療処置の前に、それと同時に、またはその後に行うことができる。本発明の遺伝子治療と併用することができるMPS Iのための利用可能な治療には、限定を意図するものではないが、全身的に、またはCSFに投与するラロニダーゼを使用する酵素補充療法(ERT)、及び/またはHSCT療法がある。別の実施形態では、ERTは、組換えDNA技術によってヒト細胞株において生産したrHuGlyIDUA糖タンパク質を使用して投与することができる。そのような組換え糖タンパク質生産のために使用することができるヒト細胞株は、これらに限定されないが、数例を挙げれば、HT-22、SK-N-MC、HCN-1A、HCN-2、NT2、SH-SY5y、hNSC11、ReNcell VM、ヒト胎児腎293細胞(HEK293)、線維肉腫HT-1080、HKB-11、CAP、HuH-7、及び網膜細胞株、PER.C6、またはRPEがある(例えば、全内容を、参照により、本明細書で援用する、rHuGlyIDUA糖タンパク質の組換え生産のために使用することができるヒト細胞株の総説についてのDumont et al.,2016,Critical Rev in Biotech 36(6):1110-1122の「Human cell lines for biopharmaceutical manufacturing:history,status,and future perspectives」を参照されたい)。完全なグリコシル化、特にシアル酸付加及びチロシン硫酸化を保証するために、生産に使用する細胞株をチロシン-O-硫酸化を担うα-2,6-シアリルトランスフェラーゼ(または、α-2,3-及びα-2,6-シアリルトランスフェラーゼの両方)、及び/またはTPST-1及びTPST-2酵素を共発現するように宿主細胞を遺伝子操作することで強化することができる。
【0178】
5.5 バイオマーカー/採取/モニタリング効率
有効性は、認知機能(例えば、神経認知機能の低下の防止または抑制);CSF及び/または血清での疾患バイオマーカー(例えば、GAG)の低下;及び/または、CSF及び/または血清のIDUA酵素活性の増加を測定してモニタリングすることができる。炎症の徴候及びその他の安全事象をモニタリングすることもできる。
【0179】
5.5.1.疾患マーカー
特定の実施形態では、組換えベクターによる治療の有効性を、患者の疾患バイオマーカーのレベルを測定してモニタリングする。特定の実施形態では、疾患バイオマーカーのレベルは、患者のCSFにおいて測定する。特定の実施形態では、疾患バイオマーカーのレベルは、患者の血清において測定する。特定の実施形態では、疾患バイオマーカーのレベルは、患者の尿において測定する。特定の実施形態では、疾患バイオマーカーは、GAGである。特定の実施形態では、疾患バイオマーカーは、IDUA酵素活性である。特定の実施形態では、疾患バイオマーカーは、炎症である。特定の実施形態では、疾患バイオマーカーは、安全事象である。
【0180】
5.5.2.神経認知機能の試験
特定の実施形態では、組換えベクターによる治療の有効性を、患者の認知機能のレベルを測定してモニタリングする。認知機能は、当業者に公知のあらゆる方法で測定することができる。特定の実施形態では、認知機能は、知能指数(IQ)を測定するための検証を受けた機器を介して測定する。特定の実施形態では、IQは、Wechsler Abbreviated Scale of Intelligence,Second Edition(WASI-II)で測定する。特定の実施形態では、認知機能は、記憶力を測定するための検証を受けた機器を介して測定する。特定の実施形態では、記憶力は、ホプキンス言語学習試験(HVLT)で測定する。特定の実施形態では、認知機能は、注意力を測定するための検証を受けた機器を介して測定する。特定の実施形態では、注意力は、注意変数試験(TOVA)で測定する。特定の実施形態では、認知機能は、IQ、記憶力、及び注意力の1つ以上を測定するための検証を受けた機器を介して測定する。
【0181】
5.5.3.身体的変化
特定の実施形態では、組換えベクターによる治療の有効性は、患者のリソソーム蓄積症に関連する身体的な特徴を測定してモニタリングする。特定の実施形態では、身体的な特徴は、保存損傷である。特定の実施形態では、身体的な特徴は、低身長である。特定の実施形態では、身体的な特徴は、顔表面の粗雑化である。特定の実施形態では、身体的な特徴は、閉塞性睡眠無呼吸である。特定の実施形態では、身体的な特徴は、聴覚障害である。特定の実施形態では、身体的な特徴は、視覚障害である。特定の実施形態では、視覚障害は、角膜混濁に起因する。特定の実施形態では、身体的な特徴は、水頭症である。特定の実施形態では、身体的な特徴は、脊髄圧迫症である。特定の実施形態では、身体的な特徴は、肝脾腫である。特定の実施形態では、身体的な特徴は、骨及び関節の変形である。特定の実施形態では、身体的な特徴は、心臓弁膜疾患である。特定の実施形態では、身体的な特徴は、再発性上気道感染症である。特定の実施形態では、身体的な特徴は、手根管症候群である。特定の実施形態では、身体的な特徴は、巨舌症(舌の肥大)である。特定の実施形態では、身体的な特徴は、声帯肥大及び/または変声である。そのような身体的な特徴は、当業者に公知のあらゆる方法によって測定することができる。
配列表
【表7】
【実施例】
【0182】
6.実施例
6.1 実施例1:hIDUA cDNA
hIDUA(配列番号1)を含む導入遺伝子を含むhIDUA cDNAをベースとしたベクターを構築する。また、導入遺伝子は、表1に列記する群から選択するシグナルペプチドを含む核酸を含む。任意に、ベクターは、さらにプロモーターを含む。
【0183】
6.2 実施例2:置換hIDUA cDNA
配列番号1のhIDUA配列と比較してアミノ酸置換、欠失、または付加を有する、例えば、これに限定はされないが、
図2に示すIDUAのオーソログでの対応する非保存的残基から選択するアミノ酸置換を含むhIDUAを含む、導入遺伝子を含むhIDUA cDNAをベースとしたベクターを構築する(ただし、そのような突然変異が
図3に示す(その全内容を、参照により、本明細書で援用するSaito et al.,2014,Mol Genet Metab 111:107-112、57個のMPS I突然変異を列記する表3より);または、その各々の全内容を、参照により、本明細書で援用するVenturi et al.,2002,Human Mutation #522 Online(“Venturi 2002”)、またはBertola et al.,2011 Human Mutation 32:E2189-E2210(“Bertola 2011”)によって報告した、重度の、中程度に重度の、中程度の、または軽症型MPS I表現型において同定したいずれの突然変異も含まないことを条件とする)。また、導入遺伝子は、表1に列記する群から選択するシグナルペプチドを含む核酸を含む。任意に、ベクターは、さらにプロモーターを含む。
【0184】
6.3 実施例3:hIDUAまたは置換hIDUAを用いた動物モデルでのMPS Iの治療
導入遺伝子として発現する場合、hIDUA cDNAをベースとしたベクターはMPS Iの治療に有用であると考えられる。MPS Iのための動物モデル、例えば、Clarke et al.,1997,Hum Mol Genet 6(4):503-511(マウス)、Haskins et al.,1979,Pediatr Res 13(11):1294-97(雑種のイエネコ)、Menon et al.,1992,Genomics 14(3):763-768(イヌ)、またはShull et al.,1982,Am J Pathol 109(2):244-248(イヌ)に記載する動物モデルに、導入遺伝子産物を送達する、動物のCSFにおいてCminを少なくとも9.25μg/mLの濃度に維持する上で十分な用量で、くも膜下にhIDUAをコードする組換えベクターを投与する。治療の後、動物を、特定の動物モデルの疾患と一致した症状の改善について評価する。
【0185】
6.4 実施例4:hIDUAまたは置換hIDUAを用いたMPS Iの治療
導入遺伝子として発現する場合、hIDUA cDNAをベースとしたベクターはMPS Iの治療に有用であると考えられる。MPS Iを呈する対象に導入遺伝子産物を送達する、CSFにおいてCminを少なくとも9.25μg/mLの濃度に維持する上で十分な用量で、くも膜下にhIDUAをコードするcDNAをベースとしたベクターを投与する。治療の後、対象を、MPS Iの症状の改善について評価する。hIDUAをコードするcDNAをベースとしたベクターの投与の前に、それと同時に、またはその後に、患者に、ラパマイシン、MMF、及びプレドニゾロンを含む免疫抑制治療薬を投与する。
【0186】
6.5 実施例5:MPS I治療の臨床プロトコル
以下の実施例は、ヒト対象をrAAV9.hIDUAベクターで治療してMPS Iを治療するために使用し得るプロトコルを説明している。
【0187】
患者集団。治療を受ける患者は:
●血漿、線維芽細胞、または白血球において測定した酵素活性によって確認するMPS Iの診断、
●その他のあらゆる神経学的または精神医学的な因子によって説明可能でない場合、以下のいずれかとして定義するMPS Iに起因する初期段階の神経認知機能低下:
○IQ試験での、または神経心理的機能(言語理解、記憶力、注意力、または知覚推理)の1つの領域において平均を下回る標準偏差≧1のスコア、
○逐次試験での標準偏差が>1低下していることを証明する文書化した過去の証拠(医療記録)、を有する男性または女性を含み得る。
【0188】
患者には、ERT(例えば、ALDURAZYME[ラロニダーゼ]IV)の安定レジメンを受けている患者を含み得る。妊娠が疑わしい女性は、治療の日に血清妊娠試験陰性であるべきである。性交を希望する対象(女性及び男性の両方とも)は、ベクター投与の24週間後まで医学的に認めたバリア避妊法(例えば、コンドーム、ダイアフラム、または禁欲法)を使用すべきである。大槽内(IC)治療から除外し得る患者には、IC注入または腰椎穿刺についての禁忌を有する対象が含まれ得る。IC注入に関する禁忌として、以下のいずれかを含むことができる:
●過去の頭部/頸部手術の既往歴の結果、IC注入が禁忌である。
●CT(または造影剤)または全身麻酔に対して禁忌である。
●MRI(またはガドリニウム)に対して禁忌である。
●推算糸球体濾過量(eGFR)<30mL/分/1.73m2である。
【0189】
あらゆる時点でIT治療を受けており、IT投与に関係すると考えられる重大な有害反応を経験した患者は、ICで治療すべきではない。
【0190】
主治医が免疫抑制治療に適当でないと考えるあらゆる病態を有する患者は、治療を受けるべきではない(例えば、好中球の絶対数が<1.3×103/μL、血小板数<100×103/μL、及びヘモグロビン<12g/dL[男性]または<10g/dL[女性])。代替免疫抑制レジメンは、シロリムス、MMF、またはプレドニゾロンに対する過敏性反応のあらゆる既往歴を有するあらゆる患者に対して使用すべきである。
【0191】
リンパ腫または皮膚の扁平上皮細胞または基底細胞癌以外の別のがんの病歴を有する患者は、治療前少なくとも3ヶ月にわたって完全寛解にない限り、治療すべきではない。
【0192】
アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、またはアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)が>3×正常値上限(ULN)である、または総ビリルビンが>1.5×ULNである患者は、対象が過去にギルバート症候群の病歴を有する、及び総ビリルビンの<35%の抱合型ビリルビンを示す分画ビリルビンを有することが分かっている場合を除いては、治療すべきではない。
【0193】
感染症または薬物乱用の既往歴を有する患者は、治療の候補とすることはできない。例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)試験陽性の既往歴、活動性または再発性のB型肝炎またはC型肝炎、またはB型肝炎、C型肝炎、またはHIVスクリーニング試験陽性の既往歴;治療前1年以内のアルコールまたは薬物乱用の既往歴である。
【0194】
ある実施形態では、患者は、成人の患者である。別の実施形態では、患者は、小児患者である。
【0195】
施す治療-免疫抑制治療による前治療。遺伝子治療の前に、患者は、導入遺伝子及び/またはAAVキャプシドへの免疫反応を防止するために、免疫抑制治療で治療すべきである。そのような免疫抑制治療は、プレドニゾロン(-2~8日目に、60mgを1日1回、経口)、MMF(-2~60日目に、1gを1日2回、経口)、及びシロリムス(-2日に、6mgを経口で、その後、-1日~第48週まで2mgを1日1回)を含む。シロリムスの用量は、全血トラフ濃度を16~24ng/mL以内に維持するように調整する。大部分の対象において、用量調整は、式:新規用量=現在の用量×(目標濃度/現在の濃度)に基づくことができる。対象は、さらなる用量調整の前に、濃度をモニタリングしながら少なくとも7~14日間にわたり新しい維持用量を継続すべきである。好中球減少症を発症する場合(絶対好中球数<1.3×103/μL)、MMFの投与は中止する、または用量を低下させるべきである。
【0196】
遺伝子治療。hIDUA発現カセット(rAAV9.hIDUA)を含む血清型9キャプシドの非複製組換えAAVを、治療に使用する。AAV9血清型を用いると、IC投与の後に、CNSにおいてhIDUAタンパク質の効率的発現が可能となる。ベクターゲノムは、AAV2の逆方向末端反復(ITR)と隣接したhIDUA発現カセットを含む。カセットからの発現は、強力な構成的CAGプロモーターによって駆動する。rAAV9.hIDUAベクターは、くも膜下注入のためのElliotts B溶液に懸濁させる。
【0197】
rAAV9.hIDUAは、IC投与による単回固定用量として投与する:1.4×1013GC(1.1×1010GC/g脳質量)の低用量、または7.0×1013GC(5.6×1010GC/g脳質量)の高用量を、約5~20mlの量で使用することができる。患者がAAVに対する中和抗体を有する場合、高用量を使用することができる。
【0198】
rAAV9.IDUAの投与のために、対象を全身麻酔下におく。腰椎穿刺を行い、最初にCSFを5cc除去する、その後、造影剤をIT注入して大槽の視覚化を助ける。CT(造影剤を伴う)を利用して、針挿入及び後頭下空間への選択した用量のrAAV9.IDUAの投与をガイドする。
【0199】
6.6 実施例6:MPS I治療の臨床プロトコル
以下の実施例は、ヒト対象をrAAV9.hIDUAベクターで治療してMPS Iを治療するために使用し得るプロトコルを説明している。
【0200】
患者集団。治療を受ける患者は:
●血漿、線維芽細胞、または白血球において測定した酵素活性によって確認するMPS Iの診断(これには、過去にHSCTを受けたことがあり、または過去または現在に、ラロニダーゼ治療を受けている患者を含む)、
●その他のあらゆる神経学的または精神医学的な因子によって説明可能でない場合、以下のいずれかとして定義するMPS Iに起因する初期段階の神経認知機能低下:
○IQ試験での、または神経心理的機能(言語理解、注意力、または知覚推理)の1つの領域において平均を下回る標準偏差≧1のスコア、
○逐次試験での>1の標準偏差の低下、を有する6歳以上の男性または女性を含み得る。
【0201】
患者は、補助器具の有無に関係なく、必須のプロトコル試験を完了する上で十分な聴覚的及び視覚的能力を有する、利用可能な場合には、試験日に進んで補助器具を着用すべきである。
【0202】
妊娠が疑わしい女性は、治療の日に血清妊娠試験陰性であるべきである。性交を希望するすべての対象は、スクリーニング受診からベクター投与の24週間後まで医学的に認めたバリア避妊法を進んで使用しなければならない。性交を希望する女性は、スクリーニング受診からシロリムスの最後の投与後12週間のいずれか遅い方まで、効果的な避妊方法を進んで使用しなければならない。大槽内(IC)治療から除外し得る患者には、IC注入または腰椎穿刺について禁忌である対象が含まれ得る。IC注入のための禁忌として、以下のいずれかを含むことができる:
●過去の頭部/頸部手術の既往歴の結果、IC注入が禁忌である。
●CT(または造影剤)または全身麻酔に対して禁忌である。
●MRI(またはガドリニウム)に対して禁忌である。
●推算糸球体濾過量(eGFR)<30mL/分/1.73m2である。
【0203】
あらゆる時点でIT治療を受けており、IT投与に関係すると考えられる重大な有害反応を経験した患者は、ICで治療すべきではない。主治医が免疫抑制治療に適当でないと考えるあらゆる病態を有する患者は、治療を受けるべきではない(例えば、好中球の絶対数が<1.3×103/μL、血小板数<100×103/μL、及びヘモグロビン<12g/dL[男性]または<10g/dL[女性])。代替免疫抑制レジメンは、シロリムス、MMF、またはプレドニゾロンに対する過敏性反応のあらゆる既往歴を有するあらゆる患者に対して使用すべきである。
【0204】
リンパ腫または皮膚の扁平上皮細胞または基底細胞癌以外の別のがんの病歴を有する患者は、治療前の少なくとも3ヶ月にわたって完全寛解に至らない限り、治療すべきではない。
【0205】
最大限の医学的治療にもかかわらず、コントロール不良高血圧症(収縮期BP>180mmHg、拡張期BP>100mmHg)の患者は治療すべきではない。
【0206】
アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)またはアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)が>3×正常値上限(ULN)である、または総ビリルビンが>1.5×ULNである患者は、対象が過去ギルバート症候群の病歴を有する、及び総ビリルビンの<35%の抱合型ビリルビンを示す分画ビリルビンを有することが分かっている場合を除いては、治療すべきではない。
【0207】
感染症または薬物乱用の既往歴を有する患者は、治療の候補とすることはできない。例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)またはB型肝炎またはC型肝炎ウイルス感染の既往歴、またはB型肝炎表面抗原またはB型肝炎コア抗体、またはC型肝炎またはHIV抗体のスクリーニング試験陽性の既往歴;スクリーニング前1年以内のアルコールまたは薬物乱用の既往歴である。
【0208】
30日以内または5半減期前のいずれか長い方の期間内に、いずれかの治験薬を投与した患者は、事前にいつでも投与可能なITラロニダーゼを投与した患者を除き、治療すべきではない。
【0209】
妊婦の患者、産後6週未満の患者、スクリーニング時に授乳している患者、または52週目までの間に妊娠を予定している患者は、治療すべきではない。
【0210】
臨床的に重要なECG異常があり、対象の安全が損なわれるような患者は、治療すべきではない。対象の安全を損なうような重篤または不安定な医学的または精神的状態の患者は、治療すべきではない。
【0211】
施す治療-免疫抑制治療による前治療。遺伝子治療の前に、患者は、導入遺伝子、及び/またはAAVキャプシドへの免疫反応を防止するために、免疫抑制治療で治療すべきである。そのような免疫抑制治療は、プレドニゾロン(-2~8日目に、60mgを1日1回、経口)、MMF(-2~60日目に、1gを1日2回、経口)、及びシロリムス(-2日目に6mgを経口で、その後、-1日~第48週まで2mgを1日1回)を含む。シロリムスの用量は、全血トラフ濃度を16~24ng/mL以内に維持するように調整する。大部分の対象において、用量調整は、式:新規用量=現在の用量×(目標濃度/現在の濃度)に基づくことができる。対象は、さらなる用量調整前に、濃度をモニタリングしながら少なくとも7~14日間にわたり新しい維持用量を継続すべきである。
【0212】
免疫抑制レジメンの基本的原則は、免疫を完全に抑制するためにコルチコステロイドを投与することである-用量を負荷するためのIVメチルプレドニゾロンから始まり、徐々に漸減する経口プレドニゾロンが続き、患者は12週までにステロイドをやめる。コルチコステロイド治療は、タクロリムス(24週間)及び/またはシロリムス(12週間)によって補なわれ、さらにMMFで補うことができる。タクロリムス及びシロリムスの両方を使用する場合、それぞれの用量は、4~8ng/mlの血中トラフレベルを維持するように調整した低用量であるべきである。薬剤を1つだけ使用する場合は、ラベル用量(高用量)を使用するべきであり、例えば、タクロリムスを0.15~0.20mg/kg/日を12時間ごとに2回に分けて投与、及び1mg/m2/日でシロリムス;その負荷用量は3mg/m2であるべきである。MMFをレジメンに追加した場合、作用機序が異なるため、タクロリムス及び/またはシロリムスの用量を維持することができる。
【0213】
遺伝子治療。hIDUA発現カセット(rAAV9.hIDUA)を含む血清型9キャプシドの非複製組換えAAVを、治療に使用する。AAV9血清型を用いると、IC投与の後、CNSにおいてhIDUAタンパク質の効率的発現が可能となる。ベクターゲノムは、AAV2の逆方向末端反復(ITR)と隣接したhIDUA発現カセットを含む。カセットからの発現は、強力な構成的CAGプロモーターによって駆動する。rAAV9.hIDUAベクターは、くも膜下注入のためのElliotts B溶液に懸濁させる。
【0214】
rAAV9.hIDUAは、IC投与による単回固定用量:2×109GC/g脳質量(2.6×1012GC)の用量、または1×1010GC/g脳質量(1.3×1013GC)の用量のいずれかで投与する。用量は、約5~20mlの量にすることができる。
【0215】
rAAV9.IDUAの投与のために、対象を全身麻酔下におく。
【0216】
6.7 実施例7:MPS I治療の臨床プロトコル
以下の実施例は、ヒト対象をrAAV9.hIDUAベクターで治療してMPS Iを治療するために使用し得るプロトコルを説明している。
【0217】
患者集団。治療を受ける患者は:
●血漿、線維芽細胞、または白血球で測定した酵素活性で確認したMPS Iの診断(これには、過去または現在にHSCTまたはラロニダーゼ治療を受けた可能性のある患者を含む)、
●その他のあらゆる神経学的または精神医学的な因子によって説明可能でない場合、以下のいずれかとして定義するMPS Iに起因する初期段階の神経認知機能低下:
○IQ試験での、または神経心理的機能(言語理解、注意力、または知覚推理)の1つの領域において平均を下回る標準偏差≧1のスコア、
○逐次試験での>1の標準偏差の低下、を有する男性または女性を含み得る。
【0218】
患者は、補助器具の有無に関係なく、必須のプロトコル試験を完了する上で十分な聴覚的及び視覚的能力を有する、利用可能な場合には、試験日に進んで補助器具を着用すべきである。
【0219】
妊娠が疑わしい女性は、治療の日に血清妊娠試験陰性であるべきである。性交を希望するすべての対象は、スクリーニング受診からベクター投与の24週間後まで医学的に認めたバリア避妊法を進んで使用しなければならない。性交を希望する女性は、スクリーニング受診からシロリムスの最後の投与後12週間のいずれか遅い方まで、効果的な避妊方法を進んで使用しなければならない。大槽内(IC)治療から除外し得る患者には、IC注入または腰椎穿刺について禁忌である対象が含まれ得る。IC注入のための禁忌として、以下のいずれかを含むことができる:
●過去の頭部/頸部手術の既往歴の結果、IC注入が禁忌である。
●CT(または造影剤)または全身麻酔に対して禁忌である。
●MRI(またはガドリニウム)に対して禁忌である。
●推算糸球体濾過量(eGFR)<30mL/分/1.73m2である。
【0220】
あらゆる時点でIT治療を受けており、IT投与に関係すると考えられる重大な有害反応を経験した患者は、ICで治療すべきではない。主治医が免疫抑制治療に適当でないと考えるあらゆる病態を有する患者は、治療を受けるべきではない(例えば、絶対好中球数<1.3×103/μL、血小板数<100×103/μL、及びヘモグロビン<12g/dL[男性]または<10g/dL[女性])。
【0221】
代替免疫抑制レジメンは、タクロリムス、シロリムス、またはプレドニゾロンに対する過敏性反応のあらゆる既往歴を有するあらゆる患者に対して使用すべきである。原発性免疫不全症、脾臓摘出術、または感染症に罹患しやすい基礎疾患の既往歴のある患者は、免疫抑制療法で治療すべきではない。帯状疱疹、サイトメガロウイルス、またはエプスタイン・バール・ウイルス(EBV)感染症の患者で、スクリーニング前の少なくとも12週間で完治していない場合は、免疫抑制療法で治療すべきではない。(1)2回目の受診の少なくとも8週間前に消散しておらず、入院または親世代抗感染症薬による治療を必要とするあらゆる感染症を有する患者、または(2)2回目の受診前10日以内に経口抗感染症薬(抗ウイルス薬を含む)を必要とするあらゆる活動性の感染症、または活動性の結核の既往歴を有する患者、または(3)スクリーニングの間のQuantiferon_TB Gold試験で陽性となった患者、または(4)インフォームドコンセント用紙に署名をする前の8週間以内にあらゆる生ワクチンを受けた患者、または(5)インフォームドコンセントに署名をする前の8週間以内に大手術を行った患者、または(6)試験期間中に大手術を予定している患者は、免疫抑制治療で治療すべきではない。好中球の絶対数が<1.3×103/μLである患者は、免疫抑制治療で治療すべきではない。
【0222】
リンパ腫または皮膚の扁平上皮細胞または基底細胞癌以外の別のがんの病歴を有する患者は、治療前少なくとも3ヶ月にわたって完全寛解にない限り、治療すべきではない。
【0223】
最大限の医学的治療にもかかわらず、コントロール不良高血圧症(収縮期BP>180mmHg、拡張期BP>100mmHg)の患者は治療すべきではない。
【0224】
アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)またはアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)が>3×正常値上限(ULN)である、または総ビリルビンが>1.5×ULNである患者は、対象が過去ギルバート症候群の病歴を有する、及び総ビリルビンの<35%の抱合型ビリルビンを示す分画ビリルビンを有することが分かっている場合を除いては、治療すべきではない。
【0225】
感染症または薬物乱用の既往歴を有する患者は、治療の候補とすることはできない。例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)またはB型肝炎またはC型肝炎ウイルス感染の既往歴、またはB型肝炎表面抗原またはB型肝炎コア抗体、またはC型肝炎またはHIV抗体のスクリーニング試験陽性の既往歴;スクリーニング前1年以内のアルコールまたは薬物乱用の既往歴である。
【0226】
特定の実施形態では、患者は、成人の患者である。別の実施形態では、患者は、小児患者である。
【0227】
施す治療-免疫抑制治療による前治療。遺伝子治療の前に、患者は、導入遺伝子及び/またはAAVキャプシドへの免疫反応を防止するために、免疫抑制治療で治療すべきである。そのような免疫抑制治療は、コルチコステロイド(1日目にメチルプレドニゾロン10mg/kgを1回静脈内[IV]に前投与する、2日目に経口プレドニゾンを0.5mg/kg/日から開始する、段階的に漸減させて、第12週までに中止する)、タクロリムス(2日目~第24週まで1日2回[BID]1mgを経口的に[PO]、目標血中レベルを4~8ng/mLとする、第24週~第32週にかけての8週間にわたり漸減する)、及びシロリムス(-2日目に4時間ごとに1mg/m2×3用量の負荷用量、続いて-1日目以降はシロリムス0.5mg/m2/日をBIDに分けて、第48週まで目標血中レベルを4~8ng/mlとして投与する)を含む。神経学的評価及びタクロリムス/シロリムス血中レベルをモニタリングする。シロリムス及びタクロリムスの用量は、目標範囲の血中レベルを維持するように調整する。48週の経過後は、免疫抑制治療は予定しない。大部分の対象において、用量調整は、式:新規用量=現在の用量×(目標濃度/現在の濃度)に基づくことができる。対象は、さらなる用量調整前に、濃度をモニタリングしながら少なくとも7~14日間にわたり新しい維持用量を継続すべきである。
【0228】
遺伝子治療。hIDUA発現カセット(rAAV9.hIDUA)を含む血清型9キャプシドの非複製組換えAAVを、治療に使用する。AAV9血清型を用いると、IC投与の後、CNSにおいてhIDUAタンパク質の効率的発現が可能となる。ベクターゲノムは、AAV2の逆方向末端反復(ITR)と隣接したhIDUA発現カセットを含む。カセットからの発現は、強力な構成的CAGプロモーターによって駆動する。rAAV9.hIDUAベクターは、くも膜下注入のためのElliotts B溶液に懸濁させる。
【0229】
rAAV9.hIDUAは、IC投与による単回固定用量:2×109GC/g脳質量(2.6×1012GC)の用量、または1×1010GC/g脳質量(1.3×1013GC)の用量のいずれかで投与する。用量は、約5~20mlの量にすることができる。
【0230】
rAAV9.IDUAの投与のために、対象を全身麻酔下におく。
【0231】
6.8 実施例8:MPS I治療の臨床プロトコル
以下の実施例は、ヒト対象をrAAV9.hIDUAベクターで治療してMPS Iを治療するために使用し得るプロトコルを説明している。
【0232】
●患者集団。治療を受ける患者は:
血漿、線維芽細胞、または白血球で測定した酵素活性によって確認したMPS Iの診断(これには、過去または現在にHSCTまたはラロニダーゼ治療を受けた可能性のある患者を含む)、
●その他のあらゆる神経学的または精神医学的な因子によって説明可能でない場合、以下のいずれかとして定義するMPS Iに起因する初期段階の神経認知機能低下:
○IQ試験での、または神経心理的機能(言語理解、注意力、または知覚推理)の1つの領域において平均を下回る標準偏差≧1のスコア、
○逐次試験での>1の標準偏差の低下、を有する、6歳以上の男性または女性を含み得る。
【0233】
患者は、補助器具の有無に関係なく、必須のプロトコル試験を完了する上で十分な聴覚的及び視覚的能力を有する、利用可能な場合には、試験日に進んで補助器具を着用すべきである。
【0234】
妊娠が疑わしい女性は、治療の日に血清妊娠試験陰性であるべきである。性交を希望するすべての対象は、スクリーニング受診からベクター投与の24週間後まで医学的に認めたバリア避妊法を進んで使用しなければならない。性交を希望する女性は、スクリーニング受診からシロリムスの最後の投与後12週間のいずれか遅い方まで、効果的な避妊方法を進んで使用しなければならない。大槽内(IC)治療から除外し得る患者には、IC注入または腰椎穿刺について禁忌である対象が含まれ得る。IC注入のための禁忌として、以下のいずれかを含むことができる:
●過去の頭部/頸部手術の既往歴の結果、IC注入が禁忌である。
●CT(または造影剤)または全身麻酔に対して禁忌である。
●MRI(またはガドリニウム)に対して禁忌である。
●推算糸球体濾過量(eGFR)<30mL/分/1.73m2である。
【0235】
あらゆる時点でIT治療を受けており、IT投与に関係すると考えられる重大な有害反応を経験した患者は、ICで治療すべきではない。主治医が免疫抑制治療に適当でないと考えるあらゆる病態を有する患者は、ICで治療すべきではない。主治医が免疫抑制治療に適当でないと考えるあらゆる病態を有する患者は、治療を受けるべきではない(例えば、好中球数の絶対数が<1.3×103/μL、血小板数<100×103/μL、及びヘモグロビン<12g/dL[男性]または<10g/dL[女性])。
【0236】
代替免疫抑制レジメンは、タクロリムス、シロリムス、またはプレドニゾロンに対する過敏性反応のあらゆる既往歴を有するあらゆる患者に対して使用すべきである。原発性免疫不全症、脾臓摘出術、または感染症に罹患しやすい基礎疾患の既往歴のある患者は、免疫抑制療法で治療すべきではない。帯状疱疹、サイトメガロウイルス、またはエプスタイン・バール・ウイルス(EBV)感染症の患者で、スクリーニング前の少なくとも12週間は完全に解消されていない場合は、免疫抑制療法で治療すべきではない。(1)2回目の受診の少なくとも8週間前に消散しておらず、入院または親世代抗感染症薬による治療を必要とするあらゆる感染症を有する患者、または(2)2回目の受診前10日以内に経口抗感染症薬(抗ウイルス薬を含む)を必要とするあらゆる活動性の感染症、または活動性の結核の既往歴を有する患者、または(3)スクリーニングの間のQuantiferon_TB Gold試験で陽性となった患者、または(4)インフォームドコンセント用紙に署名をする前の8週間以内にあらゆる生ワクチンを受けた患者、または(5)インフォームドコンセントに署名をする前の8週間以内に大手術を行った患者、または(6)試験期間中に大手術を予定している患者は、免疫抑制治療で治療すべきではない。好中球数の絶対数が<1.3×103/μLである患者は、免疫抑制治療で治療すべきではない。
【0237】
リンパ腫または皮膚の扁平上皮細胞または基底細胞癌以外の別のがんの病歴を有する患者は、治療前少なくとも3ヶ月にわたって完全寛解にない限り、治療すべきではない。
【0238】
最大限の医学的治療にもかかわらず、コントロール不良高血圧症(収縮期BP>180mmHg、拡張期BP>100mmHg)の患者は治療すべきではない。
【0239】
アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)またはアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)が>3×正常値上限(ULN)である、または総ビリルビンが>1.5×ULNである患者は、対象が過去ギルバート症候群の病歴を有する、及び総ビリルビンの<35%の抱合型ビリルビンを示す分画ビリルビンを有することが分かっている場合を除いては、治療すべきではない。
【0240】
感染症または薬物乱用の既往歴を有する患者は、治療の候補とすることはできない。例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)またはB型肝炎またはC型肝炎ウイルス感染の既往歴、またはB型肝炎表面抗原またはB型肝炎コア抗体、またはC型肝炎またはHIV抗体のスクリーニング試験陽性の既往歴;スクリーニング前1年以内のアルコールまたは薬物乱用の既往歴である。
【0241】
施す治療-免疫抑制治療による前治療。遺伝子治療の前に、患者は、導入遺伝子、及び/またはAAVキャプシドへの免疫反応を防止するために、免疫抑制治療で治療すべきである。そのような免疫抑制治療は、コルチコステロイド(1日目にメチルプレドニゾロン10mg/kgを1回静脈内[IV]に前投与する、2日目に経口プレドニゾンを0.5mg/kg/日から開始する、段階的に漸減させて、第12週までに中止する)、タクロリムス(2日目~第24週まで1日2回[BID]1mgを経口的に[PO]、目標血中レベルを4~8ng/mLとする、第24週~第32週にかけての8週間にわたり漸減する)、及びシロリムス(-2日目に4時間ごとに1mg/m2×3用量の負荷用量、続いて-1日目以降はシロリムス0.5mg/m2/日をBIDに分けて、第48週まで目標血中レベルを4~8ng/mlとして投与する)を含む。神経学的評価及びタクロリムス/シロリムス血中レベルをモニタリングする。シロリムス及びタクロリムスの用量は、目標範囲の血中レベルを維持するように調整する。48週の経過後は、免疫抑制治療は予定していない。大部分の対象において、用量調整は、式:新規用量=現在の用量×(目標濃度/現在の濃度)に基づくことができる。対象は、さらなる用量調整前に、濃度をモニタリングしながら少なくとも7~14日間にわたり新しい維持用量を継続すべきである。
【0242】
遺伝子治療。hIDUA発現カセット(rAAV9.hIDUA)を含む血清型9キャプシドの非複製組換えAAVを、治療に使用する。AAV9血清型を用いると、IC投与の後、CNSにおいてhIDUAタンパク質の効率的発現が可能となる。ベクターゲノムは、AAV2の逆方向末端反復(ITR)と隣接したhIDUA発現カセットを含む。カセットからの発現は、強力な構成的CAGプロモーターによって駆動する。rAAV9.hIDUAベクターは、くも膜下注入のためのElliotts B溶液に懸濁させる。
【0243】
rAAV9.hIDUAは、IC投与による単回固定用量:2×109GC/g脳質量(2.6×1012GC)の用量、または1×1010GC/g脳質量(1.3×1013GC)の用量のいずれかで投与する。用量は、約5~20mlの量にすることができる。
【0244】
rAAV9.IDUAの投与のために、対象を全身麻酔下におく。
【0245】
6.9 実施例9:MPS I治療の臨床プロトコル
以下の実施例は、ヒト対象をrAAV9.hIDUAベクターで治療してMPS Iを治療するために使用し得るプロトコルを説明している。
【0246】
患者集団。治療を受ける患者は:
●血漿、線維芽細胞、または白血球で測定した酵素活性によって確認したMPS Iの診断(これには、過去または現在HSCTまたはラロニダーゼ治療を受けた可能性のある患者を含む)、
●その他のあらゆる神経学的または精神医学的な因子によって説明可能でない場合、以下のいずれかとして定義するMPS Iに起因する初期段階の神経認知機能低下:
○IQ試験での、または神経心理的機能(言語理解、注意力、または知覚推理)の1つの領域において平均を下回る標準偏差≧1のスコア、
○逐次試験での>1の標準偏差の低下、を有する、6歳以上の男性または女性、及び3歳未満の男性または女性を含み得る。
●3歳未満の患者は、神経認知機能低下を伴うハーラー症候群を引き起こすことが知られている突然変異(複数可)によって確認する重度形態のMPS I(ハーラー症候群)を有する。
【0247】
患者は、補助器具の有無に関係なく、必須のプロトコル試験を完了する上で十分な聴覚的及び視覚的能力を有する、利用可能な場合には、試験日に進んで補助器具を着用すべきである。
【0248】
妊娠が疑わしい女性は、治療の日に血清妊娠試験陰性であるべきである。全ての性交を希望する対象は、スクリーニング受診からベクター投与の24週間後まで医学的に認めたバリア避妊法を進んで使用しなければならない。性交を希望する女性は、スクリーニング受診からシロリムスの最後の投与後12週間のいずれか遅い方まで、効果的な避妊方法を進んで使用しなければならない。大槽内(IC)治療から除外し得る患者には、IC注入または腰椎穿刺についての禁忌を有する対象が含まれ得る。IC注入に関する禁忌として、以下のいずれかを含み得る:
●過去の頭部/頸部手術の既往歴の結果、IC注入が禁忌である。
●CT(または造影剤)または全身麻酔に対して禁忌である。
●MRI(またはガドリニウム)に対して禁忌である。
●推算糸球体濾過量(eGFR)<30mL/分/1.73m2である。
【0249】
あらゆる時点でIT治療を受けており、IT投与に関係すると考えられる重大な有害反応を経験した患者は、ICで治療すべきではない。主治医が免疫抑制治療に適当でないと考えるあらゆる病態を有する患者は、治療を受けるべきではない(例えば、好中球数の絶対数が<1.3×103/μL、血小板数<100×103/μL、及びヘモグロビン<12g/dL[男性]または<10g/dL[女性])。
【0250】
代替免疫抑制レジメンは、あらゆる患者に使用すべきである、またはタクロリムス、シロリムス、またはプレドニゾロンに対する過敏性反応のあらゆる既往歴を有する患者を除外すべきである。原発性免疫不全症、脾臓摘出術、または感染症に罹患しやすい基礎疾患の既往歴のある患者は、免疫抑制療法で治療すべきではない。帯状疱疹、サイトメガロウイルス、またはエプスタイン・バール・ウイルス(EBV)感染症の患者で、スクリーニング前の少なくとも12週間は完全に解消されていない場合は、免疫抑制療法で治療すべきではない。(1)2回目の受診の少なくとも8週間前に消散しておらず、入院または親世代抗感染症薬による治療を必要とするあらゆる感染症を有する患者、または(2)2回目の受診前の10日以内に経口抗感染症薬(抗ウイルス薬を含む)を必要とするあらゆる活動性の感染症、または活動性の結核の既往歴を有する患者、または(3)スクリーニングの間のQuantiferon_TB Gold試験で陽性となった患者、または(4)インフォームドコンセント用紙に署名をする前の8週間以内にあらゆる生ワクチンを受けた患者、または(5)インフォームドコンセントに署名をする前の8週間以内に大手術を行った患者、または(6)試験期間中に大手術を予定している患者は、免疫抑制治療で治療すべきではない。好中球数の絶対数が<1.3×103/μLである患者は、免疫抑制治療で治療すべきではない。
【0251】
リンパ腫または皮膚の扁平上皮細胞または基底細胞癌以外の別のがんの病歴を有する患者は、治療前少なくとも3ヶ月にわたって完全寛解にない限り、治療すべきではない。
【0252】
最大限の医学的治療にもかかわらず、コントロール不良高血圧症(収縮期BP>180mmHg、拡張期BP>100mmHg)の患者は治療すべきではない。
【0253】
アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)またはアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)が>3×正常値上限(ULN)である、または総ビリルビンが>1.5×ULNである患者は、対象が過去ギルバート症候群の病歴を有する、及び総ビリルビンの<35%の抱合型ビリルビンを示す分画ビリルビンを有することが分かっている場合を除いては、治療すべきではない。
【0254】
感染症または薬物乱用の既往歴を有する患者は、治療の候補とすることはできない。例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)またはB型肝炎またはC型肝炎ウイルス感染の既往歴、またはB型肝炎表面抗原またはB型肝炎コア抗体、またはC型肝炎またはHIV抗体のスクリーニング試験陽性の既往歴;スクリーニング前1年以内のアルコールまたは薬物乱用の既往歴である。
【0255】
施す治療-免疫抑制治療による前治療。遺伝子治療の前に、患者は、導入遺伝子、及び/またはAAVキャプシドへの免疫反応を防止するために、免疫抑制治療で治療すべきである。そのような免疫抑制治療は、6歳以上の患者に対する、コルチコステロイド(1日目にメチルプレドニゾロン10mg/kgを1回静脈内[IV]に前投与する、2日目に経口プレドニゾンを0.5mg/kg/日から開始する、段階的に漸減させて、第12週までに中止する)、タクロリムス(2日目~第24週まで1日2回[BID]1mgを経口的に[PO]、目標血中レベルを4~8ng/mLとする、第24週~第32週にかけての8週間にわたり漸減する)、及びシロリムス(-2日目に4時間ごとに1mg/m2×3用量の負荷用量、続いて-1日目以降はシロリムス0.5mg/m2/日をBIDに分けて、第48週まで目標血中レベルを4~8ng/mlとして投与する)を含む。そのような免疫抑制治療は、3歳未満の患者に対する、コルチコステロイド(1日目にメチルプレドニゾロン10mg/kgを1回静脈内[IV]に前投与する、2日目に経口プレドニゾンを0.5mg/kg/日から開始する、段階的に漸減させて、第12週までに中止する)、タクロリムス(2日目~第24週まで1日2回[BID]0.05mg/kgを経口的に[PO]、目標血中レベルを2~4ng/mLとする、第24週~第32週にかけての8週間にわたり漸減する)、及びシロリムス(-2日目に4時間ごとに1mg/m2×3用量の負荷用量、続いて-1日目以降はシロリムス0.5mg/m2/日をBIDに分けて、第48週まで目標血中レベルを1~3ng/mlとして投与する)を含む。神経学的評価及びタクロリムス/シロリムス血中レベルをモニタリングする。シロリムス及びタクロリムスの用量は、目標範囲の血中レベルを維持するように調整する。48週の経過後は、免疫抑制治療は予定していない。大部分の対象において、用量調整は、式:新規用量=現在の用量×(目標濃度/現在の濃度)に基づくことができる。対象は、さらなる用量調整前に、濃度をモニタリングしながら少なくとも7~14日間にわたり新しい維持用量を継続すべきである。
【0256】
遺伝子治療。hIDUA発現カセット(rAAV9.hIDUA)を含む血清型9キャプシドの非複製組換えAAVを、治療に使用する。AAV9血清型を用いると、IC投与の後、CNSにおいてhIDUAタンパク質の効率的発現が可能となる。ベクターゲノムは、AAV2の逆方向末端反復(ITR)と隣接したhIDUA発現カセットを含む。カセットからの発現は、強力な構成的CAGプロモーターによって駆動する。rAAV9.hIDUAベクターは、くも膜下注入のためのElliotts B溶液に懸濁させる。
【0257】
6歳以上の患者の場合、rAAV9.hIDUAは、IC投与による単回固定用量:2×109GC/g脳質量(2.6×1012GC)の用量、または1×1010GC/g脳質量(1.3×1013GC)の用量のいずれかで投与する。用量は、約5ml以下の量にすることができる。
【0258】
3歳未満の患者の場合、rAAV9.hIDUAは、IC投与による単回固定用量:1×1010GC/g脳質量の用量(4ヶ月齢以上~9ヶ月齢未満の患者については6.0×1012GC;9ヶ月齢以上~18ヶ月齢未満の患者については1.0×1013GC;18ヶ月以上~3歳未満の患者については1.1×1013GC)、または5×1010GC/g脳質量の用量(4ヶ月齢以上~9ヶ月齢未満の患者については3.0×1013GC;9ヶ月齢以上~18ヶ月齢未満の患者については5.0×1013GC;18ヶ月以上~3歳未満の患者については5.5×1013GC)のいずれかで投与する。用量は、約5ml以下の量にすることができる。
【0259】
rAAV9.IDUAの投与のために、対象を全身麻酔下におく。
【0260】
6.10 実施例10:MPS I治療の臨床プロトコル
以下の実施例は、ヒト対象をrAAV9.hIDUAベクターで治療してMPS Iを治療するために使用し得るプロトコルを説明している。
【0261】
患者集団。治療を受ける患者は:
●MPS I-Hに適合する臨床的徴候及び症状、及び/または重度表現型に排他的に関連する突然変異のホモ接合性または複合ヘテロ接合性の存在によって確認する重度MPS I-ハーラーの診断、
●55以上の知能指数(IQ)スコア、を有する3歳未満の男性または女性を含み得る。
【0262】
患者は、補助器具の有無に関係なく、必須のプロトコル試験を完了する上で十分な聴覚的及び視覚的能力を有する、利用可能な場合には、試験日に進んで補助器具を着用すべきである。
【0263】
大槽内(IC)治療から除外し得る患者には、IC注入または腰椎穿刺についての禁忌を有する対象が含まれ得る。IC注入に関する禁忌として、以下のいずれかを含み得る:
●過去の頭部/頸部手術の既往歴の結果、IC注入が禁忌である。
●CT(または造影剤)または全身麻酔に対して禁忌である。
●MRI(またはガドリニウム)に対して禁忌である。
●推算糸球体濾過量(eGFR)<30mL/分/1.73m2である。
【0264】
あらゆる時点でIT治療を受けており、IT投与に関係すると考えられる重大な有害反応を経験した患者は、ICで治療すべきではない。主治医が免疫抑制治療に適当でないと考えるあらゆる病態を有する患者は、治療を受けるべきではなく(例えば、好中球数の絶対数が<1.3×103/μL、血小板数<100×103/μL)、そして、ヘモグロビンを評価する。
【0265】
代替免疫抑制レジメンは、任意の患者に使用すべきである、またはタクロリムス、シロリムス、またはプレドニゾロンに対する過敏性反応のあらゆる既往歴を有する患者を除外すべきである。原発性免疫不全症、脾臓摘出術、または感染症に罹患しやすい基礎疾患の既往歴のある患者は、免疫抑制療法で治療すべきではない。帯状疱疹、サイトメガロウイルス、またはエプスタイン・バール・ウイルス(EBV)感染症の患者で、スクリーニング前の少なくとも12週間で完全に解消されていない場合は、免疫抑制療法で治療すべきではない。(1)2回目の受診の少なくとも8週間前に消散しておらず、入院または親世代抗感染症薬による治療を必要とするあらゆる感染症を有する患者、または(2)2回目の受診前の10日以内に経口抗感染症薬(抗ウイルス薬を含む)を必要とするあらゆる活動性の感染症、または活動性の結核の既往歴を有する患者、または(3)スクリーニングの間のQuantiferon_TB Gold試験で陽性となった患者、または(4)インフォームドコンセント用紙に署名をする前の8週間以内にあらゆる生ワクチンを受けた患者、または(5)インフォームドコンセントに署名をする前の8週間以内に大手術を行った患者、または(6)試験期間中に大手術を予定している患者は、免疫抑制治療で治療すべきではない。好中球数の絶対数が<1.3×103/μLである患者は、免疫抑制治療で治療すべきではない。
【0266】
リンパ腫または皮膚の扁平上皮細胞または基底細胞癌以外の別のがんの病歴を有する患者は、治療前少なくとも3ヶ月にわたって完全寛解にない限り、治療すべきではない。
【0267】
最大限の医学的治療にもかかわらず、コントロール不良高血圧症(収縮期BP>180mmHg、拡張期BP>100mmHg)の患者は治療すべきではない。
【0268】
アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)またはアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)が>3×正常値上限(ULN)である、または総ビリルビンが>1.5×ULNである患者は、対象が過去ギルバート症候群の病歴を有することが分かっている場合を除いては、治療すべきではない。
【0269】
感染症または薬物乱用の既往歴を有する患者は、治療の候補とすることはできない。例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)またはB型肝炎またはC型肝炎ウイルス感染の既往歴、またはB型肝炎表面抗原またはB型肝炎コア抗体、またはC型肝炎またはHIV抗体のスクリーニング試験陽性の既往歴;スクリーニング前1年以内のアルコールまたは薬物乱用の既往歴である。
【0270】
施す治療-免疫抑制治療による前治療。遺伝子治療の前に、患者は、導入遺伝子、及び/またはAAVキャプシドへの免疫反応を防止するために、免疫抑制治療で治療すべきである。プレドニゾンの投与は、0.5mg/kg/日から開始する、第12週の受診まで段階的に漸減させる。タクロリムスの用量は、最初の24週にわたり全血中トラフ濃度を2~4ng/mL以内に維持するように調整する。第24週に、用量をおよそ50%まで減少させる。第28週に、用量をおよそ50%までさらに減少させる。タクロリムスは、第32週に中止する。シロリムスの用量は、全血中トラフ濃度を1~3ng/mL以内に維持するように調整する。大部分の対象において、用量調整は、式:新規用量=現在の用量×(目標濃度/現在の濃度)に基づくことができる。対象は、さらなる用量調整前に、濃度をモニタリングしながら少なくとも7~14日間にわたり新しい維持用量を継続すべきである。さらなる詳細については以下を参照されたい。
【0271】
コルチコステロイド
【0272】
ベクター投与(1日目、前投与)の朝に、患者に対して、少なくとも30分間にわたるメチルプレドニゾロン10mg/kg(最大500mg)をIVで与える。メチルプレドニゾロンは、IPの腰椎穿刺及びIC注入の前に投与すべきである。アセトアミノフェン及び抗ヒスタミン剤による前投与は、治験責任医師の裁量で任意に行う。
【0273】
第12週までにプレドニゾンを中止することを目標として、2日目に経口プレドニゾンを開始する。プレドニゾンの用量は、以下の通りである:
2日目~第2週の終わりまで:0.5mg/kg/日
第3週及び4週:0.35 mg/kg/日
第5週~8週:0.2mg/kg/日
第9週~12週:0.1mg/kg
プレドニゾンは、第12週の後に中止する。プレドニゾンの正確な用量は、一段階増やした臨床上実用的な用量に調整することができる。
【0274】
シロリムス
【0275】
ベクター投与の2日前(-2日目):4時間ごとに1mg/m2×3用量のシロリムスの負荷用量を投与する。
【0276】
-1日目以降:目標血中レベルを1~3ng/mlとする、1日2回の投与に分割した0.5mg/m2/日のシロリムス。
【0277】
シロリムスを、第48週の受診後に中止する。
【0278】
タクロリムス
【0279】
2日目(IP投与の翌日)にタクロリムスを1日2回0.05mg/kgの用量で開始する、24週間にわたり2~4ng/mLの血中レベルを達成するように調整した。
【0280】
タクロリムスは第24週の受診から開始する、8週にわたって漸減する。第24週に、用量をおよそ50%まで減少させる。第28週に、用量をおよそ50%までさらに減少させる。タクロリムスは、第32週に中止する。
【0281】
遺伝子治療。hIDUA発現カセット(rAAV9.hIDUA)を含む血清型9キャプシドの非複製組換えAAVを治療に使用する。AAV9血清型を用いると、IC投与後に、CNSにおいてhIDUAタンパク質の効率的発現が可能となる。ベクターゲノムは、AAV2の逆方向末端反復(ITR)と隣接したhIDUA発現カセットを含む。カセットからの発現は、強力な構成的CAGプロモーターによって駆動する。rAAV9.hIDUAベクターは、くも膜下注入のためのElliotts B溶液に懸濁させる。
【0282】
rAAV9.hIDUAは、IC投与による単回固定用量:1×1010GC/g脳質量の用量(4ヶ月齢以上~9ヶ月齢未満の患者については6.0×1012GC;9ヶ月齢以上~18ヶ月齢未満の患者については1×1013GC;18ヶ月以上~3歳未満の患者については1.1×1013GC)、または5×1010GC/g脳質量の用量(4ヶ月齢以上~9ヶ月齢未満の患者については3×1013GC;9ヶ月齢以上~18ヶ月齢未満の患者については5×1013GC;18ヶ月以上~3歳未満の患者については5.5×1013GC)のいずれかで投与する。用量は、約5~20mlの量にすることができる。
【0283】
rAAV9.IDUAの投与のために、対象を全身麻酔下におく。
【0284】
6.11 実施例11:MPS I治療の臨床プロトコル
以下の実施例は、ヒト対象をrAAV9.hIDUAベクターで治療してMPS Iを治療するために使用し得るプロトコルを説明している。
【0285】
患者集団。治療を受ける患者は:
●血漿、線維芽細胞、または白血球で測定した酵素活性によって確認したMPS Iの診断(これには、過去または現在HSCTまたはラロニダーゼ治療を受けた可能性のある患者を含む)、
●その他のあらゆる神経学的または精神医学的な因子によって説明可能でない場合、以下のいずれかとして定義するMPS Iに起因する初期段階の神経認知機能低下:
○IQ試験での、または神経心理的機能(言語理解、注意力、または知覚推理)の1つの領域において平均を下回る標準偏差≧1のスコア、
○逐次試験での>1の標準偏差の低下、を有する、6歳以上の男性または女性及び3歳未満の男性または女性を含み得る。
●3歳未満の患者は、神経認知機能低下を伴うハーラー症候群をもたらすことが知られている突然変異(複数可)で確認する重度形態のMPS I(ハーラー症候群)を有する。
【0286】
患者は、補助器具の有無に関係なく、必須のプロトコル試験を完了する上で十分な聴覚的及び視覚的能力を有する、利用可能な場合には、試験日に進んで補助器具を着用すべきである。
【0287】
妊娠が疑わしい女性は、治療の日に血清妊娠試験陰性であるべきである。全ての性交を希望する対象は、スクリーニング受診からベクター投与の24週間後まで医学的に認めたバリア避妊法を進んで使用しなければならない。性交を希望する女性は、スクリーニング受診からシロリムスの最後の投与後12週間のいずれか遅い方まで、効果的な避妊方法を進んで使用しなければならない。大槽内(IC)治療から除外し得る患者には、IC注入または腰椎穿刺についての禁忌を有する対象が含まれ得る。IC注入に関する禁忌として、以下のいずれかを含み得る:
●過去の頭部/頸部手術の既往歴の結果、IC注入が禁忌である。
●CT(または造影剤)または全身麻酔に対して禁忌である。
●MRI(またはガドリニウム)に対して禁忌である。
●推算糸球体濾過量(eGFR)<30mL/分/1.73m2である。
【0288】
あらゆる時点でIT治療を受けており、IT投与に関係すると考えられる重大な有害反応を経験した患者は、ICで治療すべきではない。主治医が免疫抑制治療に適当でないと考えるあらゆる病態を有する患者は、治療を受けるべきではない(例えば、好中球数の絶対数が<1.3×103/μL、血小板数<100×103/μL、及びヘモグロビン<12g/dL[男性]または<10g/dL[女性])。
【0289】
代替免疫抑制レジメンは、あらゆる患者に使用すべきである、またはタクロリムス、シロリムス、またはプレドニゾロンに対する過敏性反応のあらゆる既往歴を有する患者を除外すべきである。原発性免疫不全症、脾臓摘出術、または感染症に罹患しやすい基礎疾患の既往歴のある患者は、免疫抑制療法で治療すべきではない。帯状疱疹、サイトメガロウイルス、またはエプスタイン・バール・ウイルス(EBV)感染症の患者で、スクリーニング前の少なくとも12週間は完全に解消されていない場合は、免疫抑制療法で治療すべきではない。(1)2回目の受診の少なくとも8週間前に消散しておらず、入院または親世代抗感染症薬による治療を必要とするあらゆる感染症を有する患者、または(2)2回目の受診前の10日以内に経口抗感染症薬(抗ウイルス薬を含む)を必要とするあらゆる活動性の感染症、または活動性の結核の既往歴を有する患者、または(3)スクリーニングの間のQuantiferon_TB Gold試験で陽性となった患者、または(4)インフォームドコンセント用紙に署名をする前の8週間以内にあらゆる生ワクチンを受けた患者、または(5)インフォームドコンセントに署名をする前の8週間以内に大手術を行った患者、または(6)試験期間中に大手術を予定している患者は、免疫抑制治療で治療すべきではない。好中球数の絶対数が<1.3×103/μLである患者は、免疫抑制治療で治療すべきではない。
【0290】
リンパ腫または皮膚の扁平上皮細胞または基底細胞癌以外の別のがんの病歴を有する患者は、治療前少なくとも3ヶ月にわたって完全寛解にない限り、治療すべきではない。
【0291】
最大限の医学的治療にもかかわらず、コントロール不良高血圧症(収縮期BP>180mmHg、拡張期BP>100mmHg)の患者は治療すべきではない。
【0292】
アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)またはアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)が>3×正常値上限(ULN)である、または総ビリルビンが>1.5×ULNである患者は、対象が過去ギルバート症候群の病歴を有する、及び総ビリルビンの<35%の抱合型ビリルビンを示す分画ビリルビンを有することが分かっている場合を除いては、治療すべきではない。
【0293】
感染症または薬物乱用の既往歴を有する患者は、治療の候補とすることはできない。例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)またはB型肝炎またはC型肝炎ウイルス感染の既往歴、またはB型肝炎表面抗原またはB型肝炎コア抗体、またはC型肝炎またはHIV抗体のスクリーニング試験陽性の既往歴;スクリーニング前1年以内のアルコールまたは薬物乱用の既往歴である。
【0294】
施す治療-免疫抑制治療による前治療。遺伝子治療の前に、患者は、導入遺伝子、及び/またはAAVキャプシドへの免疫反応を防止するために、免疫抑制治療で治療すべきである。そのような免疫抑制治療は、6歳以上の患者に対する、コルチコステロイド(1日目にメチルプレドニゾロン10mg/kgを1回静脈内[IV]に前投与する、2日目に経口プレドニゾンを0.5mg/kg/日から開始する、段階的に漸減させて、第12週までに中止する)、タクロリムス(2日目~第24週まで1日2回[BID]1mgを経口的に[PO]、目標血中レベルを4~8ng/mLとする、第24週~第32週にかけての8週間にわたり漸減する)、及びシロリムス(-2日目に4時間ごとに1mg/m2×3用量の負荷用量、続いて-1日目以降はシロリムス0.5mg/m2/日をBIDに分けて、第48週まで目標血中レベルを4~8ng/mlとして投与する)を含む。そのような免疫抑制治療は、3歳未満の患者に対する、コルチコステロイド(1日目にメチルプレドニゾロン10mg/kgを1回静脈内[IV]に前投与する、2日目に経口プレドニゾンを0.5mg/kg/日から開始する、段階的に漸減させて、第12週までに中止する)、タクロリムス(2日目~第24週まで1日2回[BID]0.05mg/kgを経口的に[PO]、目標血中レベルを2~4ng/mLとする、第24週~第32週にかけての8週間にわたり漸減する)、及びシロリムス(-2日目に4時間ごとに1mg/m2×3用量の負荷用量、続いて-1日目以降はシロリムス0.5mg/m2/日をBIDに分けて、第48週まで目標血中レベルを1~3ng/mlとして投与する)を含む。神経学的評価及びタクロリムス/シロリムス血中レベルをモニタリングする。シロリムス及びタクロリムスの用量は、目標範囲の血中レベルを維持するように調整する。48週の経過後は、免疫抑制治療は予定していない。大部分の対象において、用量調整は、式:新規用量=現在の用量×(目標濃度/現在の濃度)に基づくことができる。対象は、さらなる用量調整前に、濃度をモニタリングしながら少なくとも7~14日間にわたり新しい維持用量を継続すべきである。
【0295】
遺伝子治療。hIDUA発現カセット(rAAV9.hIDUA)を含む血清型9キャプシドの非複製組換えAAVを、治療に使用する。AAV9血清型を用いると、IC投与の後、CNSにおいてhIDUAタンパク質の効率的発現が可能となる。ベクターゲノムは、AAV2の逆方向末端反復(ITR)と隣接したhIDUA発現カセットを含む。カセットからの発現は、強力な構成的CAGプロモーターによって駆動する。rAAV9.hIDUAベクターは、くも膜下注入のためのElliotts B溶液に懸濁させる。
【0296】
6歳以上の患者の場合、rAAV9.hIDUAは、IC投与による単回固定用量:2×109GC/g脳質量(2.6×1012GC)の用量、または1×1010GC/g脳質量(1.3×1013GC)の用量のいずれかで投与する。用量は、約5ml以下の量にすることができる。
【0297】
3歳未満の患者の場合、rAAV9.hIDUAは、IC投与による単回固定用量:2×109GC/g脳質量の用量(4ヶ月齢以上~9ヶ月齢未満の患者については1.2×1012GC;9ヶ月齢以上~18ヶ月齢未満の患者については2.0×1012GC;18ヶ月以上~3歳未満の患者については2.2×1012GC)、または1×1010GC/g脳質量の用量(4ヶ月齢以上~9ヶ月齢未満の患者については6.0×1012GC;9ヶ月齢以上~18ヶ月齢未満の患者については1.0×1013GC;18ヶ月以上~3歳未満の患者については1.1×1013GC)のいずれかで投与する。用量は、約5ml以下の量にすることができる。
【0298】
rAAV9.IDUAの投与のために、対象を全身麻酔下におく。
【0299】
6.12 実施例12:MPS I治療の臨床プロトコル
以下の実施例は、ヒト対象をrAAV9.hIDUAベクターで治療してMPS Iを治療するために使用し得るプロトコルを説明している。
【0300】
患者集団。治療を受ける患者は:
●MPS I-Hに適合する臨床的徴候及び症状、及び/または重度表現型に排他的に関連する突然変異のホモ接合性または複合ヘテロ接合性の存在によって確認する重度MPS I-ハーラーの診断、
●55以上の知能指数(IQ)スコア、を有する3歳未満の男性または女性を含み得る。
【0301】
患者は、補助器具の有無に関係なく、必須のプロトコル試験を完了する上で十分な聴覚的及び視覚的能力を有する、利用可能な場合には、試験日に進んで補助器具を着用すべきである。
【0302】
大槽内(IC)治療から除外し得る患者には、IC注入または腰椎穿刺についての禁忌を有する対象が含まれ得る。IC注入に関する禁忌として、以下のいずれかを含み得る:
●過去の頭部/頸部手術の既往歴の結果、IC注入が禁忌である。
●CT(または造影剤)または全身麻酔に対して禁忌である。
●MRI(またはガドリニウム)に対して禁忌である。
●推算糸球体濾過量(eGFR)<30mL/分/1.73m2である。
【0303】
あらゆる時点でIT治療を受けており、IT投与に関係すると考えられる重大な有害反応を経験した患者は、ICで治療すべきではない。主治医が免疫抑制治療に適当でないと考えるあらゆる病態を有する患者は、治療を受けるべきではなく(例えば、好中球数の絶対数が<1.3×103/μL、血小板数<100×103/μL)、ヘモグロビンを評価する。
【0304】
代替免疫抑制レジメンは、任意の患者に使用すべきである、またはタクロリムス、シロリムス、またはプレドニゾロンに対する過敏性反応の任意の既往歴を有する患者を除外すべきである。原発性免疫不全症、脾臓摘出術、または感染症に罹患しやすい基礎疾患の既往歴のある患者は、免疫抑制療法で治療すべきではない。帯状疱疹、サイトメガロウイルス、またはエプスタイン・バール・ウイルス(EBV)感染症の患者で、スクリーニング前の少なくとも12週間は完全に解消されていない場合は、免疫抑制療法で治療すべきではない。(1)2回目の受診の少なくとも8週間前に消散しておらず、入院または親世代抗感染症薬による治療を必要とする任意の感染症を有する患者、または(2)2回目の受診前10日以内に経口抗感染症薬(抗ウイルス薬を含む)を必要とするあらゆる活動性の感染症、または活動性の結核の既往歴を有する患者、または(3)スクリーニングの間のQuantiferon_TB Gold試験で陽性となった患者、または(4)インフォームドコンセント用紙に署名をする前の8週間以内にあらゆる生ワクチンを受けた患者、または(5)インフォームドコンセントに署名をする前の8週間以内に大手術を行った患者、または(6)試験期間中に大手術を予定している患者は、免疫抑制治療で治療すべきではない。好中球数の絶対数が<1.3×103/μLである患者は、免疫抑制治療で治療すべきではない。
【0305】
リンパ腫または皮膚の扁平上皮細胞または基底細胞癌以外の別のがんの病歴を有する患者は、治療前少なくとも3ヶ月にわたって完全寛解にない限り、治療すべきではない。
【0306】
最大限の医学的治療にもかかわらず、コントロール不良高血圧症(収縮期BP>180mmHg、拡張期BP>100mmHg)の患者は治療すべきではない。
【0307】
アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)またはアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)が>3×正常値上限(ULN)である、または総ビリルビンが>1.5×ULNである患者は、対象が過去ギルバート症候群の病歴を有することが分かっている場合を除いては、治療すべきではない。
【0308】
感染症または薬物乱用の既往歴を有する患者は、治療の候補とすることはできない。例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)またはB型肝炎またはC型肝炎ウイルス感染の既往歴、またはB型肝炎表面抗原またはB型肝炎コア抗体、またはC型肝炎またはHIV抗体のスクリーニング試験陽性の既往歴;スクリーニング前1年以内のアルコールまたは薬物乱用の既往歴である。
【0309】
施す治療-免疫抑制治療による前治療。遺伝子治療の前に、患者は、導入遺伝子、及び/またはAAVキャプシドへの免疫反応を防止するために、免疫抑制治療で治療すべきである。プレドニゾンの投与は、0.5mg/kg/日から開始する、第12週の受診まで段階的に漸減させる。タクロリムスの用量は、最初の24週にわたり全血中トラフ濃度を2~4ng/mL以内に維持するように調整する。第24週に、用量をおよそ50%まで減少させる。第28週に、用量をおよそ50%までさらに減少させる。タクロリムスは、第32週に中止する。シロリムスの用量は、全血中トラフ濃度を1~3ng/mL以内に維持するように調整する。大部分の対象において、用量調整は、式:新規用量=現在の用量×(目標濃度/現在の濃度)に基づくことができる。対象は、さらなる用量調整前に、濃度をモニタリングしながら少なくとも7~14日間にわたり新しい維持用量を継続すべきである。さらなる詳細については以下を参照されたい。
【0310】
コルチコステロイド
【0311】
ベクター投与(1日目、前投与)の朝に、患者に対して、少なくとも30分間にわたるメチルプレドニゾロン10mg/kg(最大500mg)をIVで与える。メチルプレドニゾロンは、IPの腰椎穿刺及びIC注入の前に投与すべきである。アセトアミノフェン及び抗ヒスタミン剤による前投与は、治験責任医師の裁量で任意に行う。
【0312】
第12週までにプレドニゾンを中止することを目標として、2日目に経口プレドニゾンを開始する。プレドニゾンの用量は、以下の通りである:
2日目~第2週の終わりまで:0.5mg/kg/日
第3週及び4週:0.35mg/kg/日
第5週~8週:0.2mg/kg/日
第9週~12週:0.1mg/kg
プレドニゾンは、第12週の後に中止する。プレドニゾンの正確な用量は、一段階増やした臨床上実用的な用量に調整することができる。
【0313】
シロリムス
【0314】
ベクター投与の2日前(-2日目):4時間ごとに1mg/m2×3用量のシロリムスの負荷用量を投与する。
【0315】
-1日目以降:目標血中レベルを1~3ng/mlとする、1日2回の投与に分割した0.5mg/m2/日のシロリムス。
【0316】
シロリムスを、第48週の受診後に中止する。
【0317】
タクロリムス
【0318】
2日目(IP投与の翌日)にタクロリムスを1日2回0.05mg/kgの用量で開始する、24週間にわたり2~4ng/mLの血中レベルを達成するように調整した。
【0319】
タクロリムスは第24週の受診から開始する、8週にわたって漸減する。第24週に、用量をおよそ50%まで減少させる。第28週に、用量をおよそ50%までさらに減少させる。タクロリムスは、第32週に中止する。
【0320】
遺伝子治療。hIDUA発現カセット(rAAV9.hIDUA)を含む血清型9キャプシドの非複製組換えAAVを、治療に使用する。AAV9血清型を用いると、IC投与の後、CNSにおいてhIDUAタンパク質の効率的発現が可能となる。ベクターゲノムは、AAV2の逆方向末端反復(ITR)と隣接したhIDUA発現カセットを含む。カセットからの発現は、強力な構成的CAGプロモーターによって駆動する。rAAV9.hIDUAベクターは、くも膜下注入のためのElliotts B溶液に懸濁させる。
【0321】
rAAV9.hIDUAは、IC投与による単回固定用量:2×109GC/g脳質量の用量(4ヶ月齢以上~9ヶ月齢未満の患者については1.2×1012GC;9ヶ月齢以上~18ヶ月齢未満の患者については2.0×1012GC;18ヶ月以上~3歳未満の患者については2.2×1012GC)、または1×1010GC/g脳質量の用量(4ヶ月齢以上~9ヶ月齢未満の患者については6.0×1012GC;9ヶ月齢以上~18ヶ月齢未満の患者については1.0×1013GC;18ヶ月以上~3歳未満の患者については1.1×1013GC)のいずれかで投与する。用量は、約5~20mlの量にすることができる。
【0322】
rAAV9.IDUAの投与のために、対象を全身麻酔下におく。
【0323】
6.13 実施例13:MPS Iの臨床プロトコル治療
以下の実施例では、AAV-コンストラクト1を使用してヒト対象を治療して、MPS Iを治療し得るプロトコルを説明する。AAV-コンストラクト1は、hIDUA発現カセットを含む血清型9のキャプシドの非複製組換えAAVであり、当該発現カセットは、CB7プロモーター、ニワトリベータアクチンイントロン、及びウサギベータ-グロビンポリアデニル化シグナルを含む。AAV-コンストラクト1のベクターゲノムの概略を、
図6に示す。
【0324】
AAV9血清型は、IC投与した後のCNSでのhIDUAタンパク質の効率的な発現を可能にする。このベクターゲノムは、AAV2-逆方向末端反復(ITR)が隣接したhIDUA発現カセットを含む。このカセットに由来する発現はCB7プロモーター、CMV前初期エンハンサー(C4)と、ニワトリベータアクチンプロモーターとのハイブリッドによって駆動する。ニワトリベータアクチンイントロンが存在がしていると、このプロモーターからの転写は促される。この発現カセットのポリアデニル化シグナルは、ウサギベータ-グロビン遺伝子に由来する。
【0325】
最終的な治験薬を、AAVベクター活性成分(AAV9.CB7.hIDUA)の凍結溶液を入れた0.001%のPluronic(登録商標)F68を含む改変Elliots B(登録商標)溶液として出荷し、2mlをCRYSTAL ZENITH(登録商標)(CZ)バイアルに充填し、そして、ラテックス不含のゴム栓と、アルミニウムフリップオフシールとで密封した。バイアルは、-60℃以下で貯蔵すべきである。それぞれの治験薬ロットの濃度(GC/ml)を報告する。適切な希釈を投与前に行った後に、低用量及び高用量の両方を送達する生成物の総体積は、総CSF体積の10%を超えない(乳幼児脳では約50mlであり、そして、成人脳では150mであると推定する)。
【0326】
MPS I疾患の治療に好適な遺伝子治療は、現在利用可能な治療法よりも優れた次の幾つかの利点:治療用導入遺伝子産物の長期的発現をもたらす、それにより、慢性的な、長期間の治療の必要性を回避する(または、有意に短縮させる);MPS IのCNS発現を、より迅速に休止させる、または顕著に遅延させる;許容可能な安全性、及び忍容性プロフィールを提供する。
【0327】
6.13.1. 研究目的(主要エンドポイント)
24週間にわたる安全性及び忍容性:有害事象(AE)及び重大な有害事象(SAE)。
【0328】
6.13.2. 研究目的(二次エンドポイント)
104週間にわたる安全性:AE報告、臨床検査所見、バイタルサイン、心電図(ECG)、物理的検査、及び神経学的評価。
【0329】
神経認知試験のための臨床的に検証を受けた機器(Wechsler Abbreviated Scale of Intelligence [WASI-II]), Bayley Scale of Infant and Toddler Development, Third Edition (Bayley-III) 及び/または the Wechsler Preschool and Primary Scales of Intelligence, Fourth Edition (WPPSI-IV)]、適応行動(Vineland-3)。
【0330】
6歳以上の対象に注意を与えるための臨床的に検証を受けた機器(Tests of Variables of Attention [TOVA])。
【0331】
ウイルス排出:CSF、血清、及び尿でのベクター濃度(AAV-コンストラクト1 DNAに対するqPCR)。
【0332】
6.13.3. 研究目的(調査エンドポイント)
免疫原性測定
●AAV9に対する中和抗体、及びCSF及び血清でのIDUAに対して結合する抗体
●ELISPOTアッセイ:AAV9及びIDUAに対するT細胞応答
●フローサイトメトリー:AAV-及びIDUA-特異的調節性T細胞
【0333】
CNS構造異常を、脳のMRIで評価した。
【0334】
聴覚能力の変化を、聴覚的脳幹応答試験、または行動聴覚検査、及び耳音響放射試験で測定する。
【0335】
生活の質を、Peds QLで測定した。
【0336】
睡眠評価
【0337】
弁膜症及び左心室質量指標に関する心エコー図による心臓評価。
【0338】
PDバイオマーカー、すなわち、血漿(GAG及びIDUA)、白血球(IDUA)、CSF(GAG、IDUA、及びスペルミンレベル)、及び尿(GAG)でのPDバイオマーカー。
【0339】
IV ERTを中止した対象でのPDバイオマーカー、すなわち、血漿(GAG及びIDUA)、CSF(GAG、及びIDUA)、及び尿(GAG)でのPDバイオマーカー。
【0340】
物理的症状スコア。
【0341】
腹部超音波で評価した肝臓及び脾臓の大きさ。
【0342】
疾病の臨床的評価。
【0343】
患者に報告した疾患の結果評価。
【0344】
日常生活での活動。
【0345】
6.13.4. 治験デザイン
このものは、MPS I及びCNSの関与が明らかな証拠を有する対象(4ヶ月齢以上)を、AAV-コンストラクト1のI/II相、ファーストインヒューマン、多施設、非盲検、単一アームの用量増量研究である。IVラロニダーゼ治療を従前に、または現在受けている対象が、参加可能である。AAV-コンストラクト1を使用した治療は、この集団では、潜在的に、神経認知の面で有益である。MPS Iを有する約5名の対象を、2回用量のコホート、1×1010GC/g脳質量、または5×1010GC/g脳質量で治療を行い、そして、AAV-コンストラクト1の単一用量を、大槽内(IC)または脳室(ICV)注入で投与する。安全性は、治療した後の最初の24週間(初期研究期間)での第1の関心事である。初期研究期間に続いて、対象については、AAV-コンストラクト1を使用した治療に続いて、合計で104週間まで(安全性及び有効性の)評価を継続する。治験の最後に、すべての対象に対して、長期観察追跡調査への参加を促す。
【0346】
第1のコホートは、1×1010GC/g脳質量を受ける2名の適格対象を含んでおり、そして、第2のコホートは、5×1010GC/g脳質量を受ける3名の適格対象を含んでいる。AAV-コンストラクト1を、それぞれのコホートの第1の対象(センチネル)に投与した後に、安全性評価のための8週間の観察期間を設ける。スポンサーの内部安全委員会(ISC)が、コホート1の第1の対象に関して最初の8週間で得た安全性データ(8週間の間に行った受診で得たデータを含む)を検討する、そして、ISCが安全上の懸念を認めなければ、第2の対象は、AAV-コンストラクト1を受け得る。
【0347】
潜在的対象については、治験に対する適格性を決定するために、投与の-60~-2日目にスクリーニングを行う。適格性基準を満たす対象は、(実施機関の規則に従って)-2日目と1日目の朝との間に病院に赴くことが認められる、そして、ベースライン評価を投与前に行う。スクリーニングが完了した部位以外の部位に投与する必要がある対象については、当該対象について変更を行う前に、当該2箇所に関する医療情報を共有する通信計画を作成する。投与する前に、投与部位の適格性を確認する。対象は、1日目にAAV-コンストラクト1の単一のIC用量またはICV用量の投与を受ける、そして、観察のために、投与した後に、約30~36時間、病院内に留まる。初期研究期間(すなわち、24週間)の後の評価は、4週目までは毎週、そして、8週目、12週目、16週目、20週目、及び24週目に行う。初期評価期間の後に、28週目、32週目、40週目、48週目、52週目、56週目、64週目、78週目、及び104週目に受診を行う。20週目、及び28週目の評価は、電話で、AEと、それに付随する治療の評価に限って聞き取りをする。
【0348】
すべての対象は、治験でまず免疫抑制(IS)を受けて、(有効性を低下し得る)IDUAに対する抗体の形成または増加に関連するリスク、及び導入遺伝子を発現するキャプシドまたは組織に対するあらゆる免疫媒介反応を最小限にする。IS療法は、コルチコステロイド(1日目にメチルプレドニゾロン10mg/kgをIVに前投与する、そして、2日目に経口プレドニゾンを0.5mg/kg/日から開始する、段階的に漸減させて、第12週までに中止する)、タクロリムス(2日目~第24週まで1日2回、0.05mg/kgを経口的に、目標血中レベルを2~4ng/mLとする、そして、第24週~第32週にかけて8週間にわたり漸減する)、及びシロリムス(-2日目に4時間ごとに1mg/m2×3用量の負荷用量、続いて、-1日目からシロリムス0.5mg/m2/日を、1日2回に分けて、第48週まで目標血中レベルを1~3ng/mlとして投与する)を含む。神経学的評価及びタクロリムス/シロリムス血中レベルをモニタリングする。シロリムス及びタクロリムスの用量を、目標範囲内の血液レベルを維持するように調節する。
【0349】
48週間後のIS療法は予定していない。臨床的に関連する免疫応答を調節するために48週以後もISが必要であれば、臨床的必要性に応じて、メディカルモニターを確認しながら、PIが適切な免疫抑制レジメンを決定する。
【0350】
6.13.5. 治験集団の選択
MPS Iに起因する神経認知的欠損が確認された4ヶ月齢以上の約5名を、治験薬で治療を行う。
【0351】
6.13.5.1 採用基準
対象は、以下の全基準を満たさないと、この治験の参加資格は得られない。
1)男性または女性で、≧4ヶ月齢。
2)治験内容の説明を受けた後で、かつ、治験関連の手順が開始される以前に、記入、署名がされたインフォームドコンセントを提出する意志があり、かつ、そうすることが可能であること。対象がインフォームドコンセントの提出が不可能である場合には、インフォームドアセントを得て、そして、対象の法定代理人が、インフォームドコンセントを提出しなくてはならない。
3)従前にMPS Iの診断を受けており、白血球及び線維芽細胞でのIDUA欠損が確認されていること。
4)その他の神経学的因子または精神医学的因子によって説明できない場合には、以下の基準の1つに基づいたMPS Iに起因するCNSの関与が確認されていること:
a)神経認知試験での平均値よりも低い≧1の標準偏差のスコア、または神経心理学的機能の1ドメインにあること。
b)逐次神経認知検定での>1の標準偏差の減少、または3~36ヶ月間の間に投与する神経心理学的機能の1ドメインでの減少。
c)重度のMPS Iの診断を受けており、重篤な表現型を予測する両アレル突然変異によって確認されていること、または、重度のMPS I及び同じIDUA突然変異をもってして、相対的に臨床的な診断を受けている。この対象は、神経認知欠損の明確な証拠を持っている必要はない。
5)造血幹細胞移植(HSCT)を受けた対象は、治験責任医師(PI)、医療モニター、及びスポンサーが、対象が安全かつ首尾よく治験に参加できることに同意していれば、対象を治験に登録し得る。
6)補助器具の有無に関係なく、十分な聴覚及び視覚を有しており、必要とするプロトコル試験を完了する、そして、利用可能であれば、補助器具を試験日に使って必要なプロトコル試験を完了する意志があること。
7)妊娠が疑わしい女性は、スクリーニング受診時の妊娠試験がネガティブ血清でなくてはならず、1日目にネガティブ尿の結果であり、そして、治験の間にさらなる妊娠試験を行うことが望ましい。
8)性交を希望する男性対象は、スクリーニング受診から、ベクターを投与して24週間になるまで、医学的に許容されたバリヤー避妊法(例えば、コンドーム、または女性用ダイヤフラム)を使用する意志を持たなくてはならない。この時点の後での避妊は、対象の主治医と相談するべきである。
9)性交を希望する女性対象は、スクリーニング受診から、シロリムスまたはタクロリムスの最後の服用のいずれか遅い方から12週間後まで、効果的な避妊方法を使用する意志を持たなくてはならない。この時点の後での避妊の中止は、対象の主治医と相談するべきである。避妊の効果的な方法として、二重バリア法(例えば、男性のコンドームとダイヤフラムの併用)、避妊リング、またはホルモン避妊薬がある。長期間にわたる禁欲は、許容できる;しかしながら、定期禁欲、周期避妊法、及び膣外射精は、許容可能な避妊方法ではない。
【0352】
6.13.5.2 排除基準
以下の排除基準のいずれかに該当する対象は、治験の参加に関しては適格ではない。
1)MRI、造影剤、または全身麻酔に対して禁忌である。
a)ガドリニウムに対して禁忌である。
b)クレアチニンに基づいた推定糸球体濾過速度(eGFR)<30mL/分/1.73m2で決定する腎不全を有している。臨床試験で、クレアチニンレベルが、アッセイ検証または検出の下限未満であると判定した場合、最小のカットオフ値を使用してeGFRを推定する。
2)以下のいずれかを含み、ICまたはICV注入に対して禁忌である。
a)治験(1施設の)に参加している神経放射線科医/神経外科医のチームが、ベースラインMRI検査の検討を行って、ICまたはICV注入の禁忌を認める。
b)この治験に参加している神経放射線科医/神経外科医のチームが、入手可能な情報に基づいて、かつての頭部/頸部の手術歴が、ICまたはICV注入は禁忌であることを認める。
c)治験責任者、及び神経放射線科医/神経外科医のチームの意見が、かつての臨床的に顕著な頭蓋内出血の経験が、ICまたはICV注入は禁忌であることを認める。
3)MPS Iに起因しないあらゆる神経認知欠損を有している、またはPIの見解として、治験結果を誤って解釈し得る神経精神状態の診断を受けている。
4)腰椎穿刺に対して禁忌である。
5)ITラロニダーゼをいつの時点で受けても、PIの見解では、対象を過度のリスクに曝しかねないIT投与に関連するものと考えられる有意なAEを経験した。
6)ITラロニダーゼをいつの時点で受けても、PIの見解では、対象を過度のリスクに曝しかねないIV投与に関連するものと考えられる有意なAEを経験した。
7)スクリーニングの少なくとも3ヶ月前に完全な寛解に至っていないリンパ腫の既往歴、または、皮膚の扁平上皮細胞または基底細胞癌以外の別のがんの既往歴を有する。
8)最大限の医療処置にもかかわらず、制御できない高血圧(収縮期BP>180mmHg、拡張期BP>100mmHg)を有する。
9)対象が、ギルバート症候群の従前に公知の既往歴を有していなければ、スクリーニング時に、ALTまたはAST>3×ULN、または全ビリルビン>1.5×ULNを有しており、また、コンジュケートしたビリルビンが、全ビリルビンの<35%であることを示す分別したビリルビンを有する。
10)ヒト免疫不全ウイルス(HIV)またはB型肝炎またはC型肝炎ウイルス感染の既往歴、またはB型肝炎表面抗原またはB型肝炎コア抗体、またはHIV抗体のスクリーニング試験の陽性結果。
11)インフォームドコンセント用紙(ICF)に署名する30日前または5半減期前、いずれか長い期間内に治験薬の投与を受けたこと。
12)臨床施設従業員または治験の実施に関与するその他のあらゆる個人の一等親以内の家族、または、臨床施設従業員または治験の実施に関与するその他のあらゆる個人。
13)インフォームドコンセント用紙(ICF)に署名してから52週目までのあらゆる時点において、妊婦である、分娩の<6週間後である、スクリーニング時点で母乳を与えている、または(自身が、またはパートナーが)出産を考えている。52週後の妊娠の計画については、対象の主治医と相談すべきである。
14)スクリーニングの1年以内にアルコールまたは薬物乱用の既往歴を有している。
15)PIの見解において、対象の安全性を損ないかねない臨床的に有意なECG異常を有している。
16)PIの見解において、対象の安全性、または研究へ首尾良く参加させること、または、治験結果の解釈を歪めかねない、重大な、または不安定な医学的または心理的状態を有している。
【0353】
免疫抑制療法に関連する排除基準
17)タクロリムス、シロリムス、またはプレドニゾンに対する過敏症反応の既往歴。
18)重篤な免疫不全(例えば、分類不能型免疫不全症)、脾臓摘出、または対象を予め感染に曝してしまうあらゆる基礎的条件。
19)スクリーニングの少なくとも12週間前に治癒していない水痘帯状ヘルペスウイルス、帯状疱疹(herpes zoster)(帯状疱疹(shingles))、CMV、またはEBV感染。
20)受診2の少なくとも8週間前に完治していない入院または非経口抗感染剤による治療を必要とするあらゆる感染症。
21)受診2の10日以内での経口抗感染症薬(抗ウイルス剤など)を必要とするあらゆる活動性感染症。
22)スクリーニングの間での活動性結核(TB)または陽性QuantiFERON-TB Gold試験の既往歴。
23)2日目から4週間以内でのあらゆる生ワクチン。
24)ICFに署名する8週間以内に受けた大手術、または治験期間の間に計画した大手術。
25)絶対好中球数<1.3×103/μL
26)PIが、免疫抑制療法に適していないと確信するあらゆる条件または臨床検査での異常。
【0354】
6.13.6. 治療投与
AAV-コンストラクト1は、単一のIC注入または単一のICV注入で優先的に投与する、IC投与が困難である、または潜在的に安全でないことが証明されておれば、当該ICV注入による、限定したCSF区画内の標的組織へのベクターの直接送達が許容される。子宮頸部穿刺(C1-C2)は、脊髄造影法の造影剤投与のために使用する通常の臨床処置であるが、画像支援型後頭下穿刺は、主要な臨床的投与経路として提案されている。このことは、非臨床研究で使用する投与経路を模倣しており、そして、MPS Iの患者は、C1-C2穿刺に関連するリスクを実質的に高めるC1-C2くも膜下腔(IT)空間での異常狭窄の発生率が高いので、意図した患者集団でのC1-C2穿刺よりも有利であると考えられる。この手順を行う前に、それぞれの対象は、治験に参加している神経放射線科医/神経外科医のチームが検討した領域の磁気共鳴画像(MRI)を撮る。IC注入の実施が安全でないと考えられる場合には、対象は、ICV注入を考慮する。ICV注入は、小児及び成人の個体での脳室腹腔短絡術シャント配置のために、そして、最近では、CNS薬物投与で一般的に使用する経路を使用している(Drake et al., 2000, Childs Nerv Syst 16(10-11):800-804;Cohen-Pfeffer et al., 2017, Pediatric Neurology 67:23-25;及び Slavc et al., 2018, Mol Genetics and Metabolism 124(2018):184-188)。このプロトコルで提案する画像支援型単一ICV注入は、定位脳生検術に匹敵するものであり、新たに出現した高精度MRIとコンピューター断層撮影(CT)技術を利用する通常の神経外科的介入にもなる。AAV-コンストラクト1を有するMPS IIマウスで実施した薬理学的研究は、AAV9ベクターをベースとした治験薬の生体分布と導入遺伝子発現プロファイルは、ICV及びIC経路に匹敵することを示しており、投与の代替経路としてのICVの使用は、IC投与が困難である、または潜在的に安全でないことを証明する、ことを支持している。
【0355】
2つの用量レベルで研究する:1×1010GC/g脳質量、及び5×1010GC/g脳質量。1用量を超えるIP投与を受ける対象はいない。
【0356】
発達過程の子供で早期に起こる比較的に迅速な脳の成長が故に、AAV-コンストラクト1をICで投与する総投与量は、研究対象のスクリーニング脳MRIから得た推定脳質量に応じて変化する。対象のMRIから得た研究対象の推定脳体積は、表2に示すように、脳質量に変換して、投与する正確な用量を計算するために使用する。適切な用量を決定するステップは:(1)対象の脳体積cm3をスクリーニング脳MRIから取得する;(2)対象のMRI脳体積を、次のように、脳質量に変換する:脳質量=(脳体積cm3)×1.046g/cm3(脳密度を、itis.swiss/virtual-population/tissue-properties/database/densityから得た);及び(3)表2に示すように、適切な用量を同定する、ことにある。
【0357】
6.13.7. 免疫抑制療法投与
コルチコステロイド
●ベクター投与(1日目、前投与)の朝に、患者に対して、少なくとも30分間にわたるメチルプレドニゾロン10mg/kg(最大500mg)を静脈内投与(IV)で与える。メチルプレドニゾロンは、治験薬の腰椎穿刺及びIC注入の前に投与すべきである。アセトアミノフェン及び抗ヒスタミン剤の前投与は、治験責任医師の裁量で任意に行う。
●第12週までにプレドニゾンを中止することを目標として、2日目に経口プレドニゾンを開始する。プレドニゾンの用量は、以下の通りである:
○2日目~第2週の終わりまで:0.5mg/kg/日
○第3週及び4週:0.35 mg/kg/日
○第5週~8週:0.2mg/kg/日
○第9週~12週:0.1mg/kg
○プレドニゾンは、第12週の後に中止する。プレドニゾンの正確な用量は、一段階増やした臨床上実用的な用量に調整することができる。
【0358】
シロリムス
●ベクター投与の2日前(-2日目):4時間ごとに1mg/m2×3用量のシロリムスの負荷用量を投与する。
●-1日目以降:目標血中レベルを1~3ng/mlとする、1日2回の投与に分割した0.5mg/m2/日のシロリムス。
●シロリムスを、第48週の受診後に中止する。
【0359】
タクロリムス
●2日目(IP投与の翌日)に、タクロリムスを1日2回、0.05mg/kgの用量で開始する、24週間にわたり2~4ng/mLの血中レベルを達成するように調整した。
●タクロリムスは第24週の受診から開始する、8週にわたって漸減する。第24週に、用量をおよそ50%まで減少させる。第28週に、用量をおよそ50%までさらに減少させる。タクロリムスは、第32週に中止する。
●タクロリムス及びシロリムスの血液レベルをモニタリングする。
【0360】
6.13.1.有効性評価
神経認知試験のための有効な器具:WASI-II、Bayley-III、及び/またはWPPSI-IV、適応行動(Vineland-3)、及び注意変数試験(TOVA)
【0361】
血漿でのバイオマーカー(GAG及びIDUA)、白血球(IDUA)、CSF(GAG、IDUA、及びスペルミンレベル)、及び尿(GAG)。
【0362】
腰椎穿刺は、治験施設での標準的な手法で行う。
【0363】
物理的症状スコア
【0364】
脳のMRIは、受診時に行う。推定糸球体濾過速度は、ガドリニウムを使用するスクリーニングMRIの前に確認しなくてはならない。治験責任医師は、eGFRが、<30mL/分/1.73m2でああれば、スクリーニングMRIを行う前に、医療モニターと相談しなくてはらない。
【0365】
腹部の超音波検査で、鎖骨中央線での頭尾方向の肝臓直径を確認する(Kratzer et al., J Ultrasound Med 22:1155-1161, 2003)、そして、扁長楕円体式(0.52×長さ×前後方向の寸法×幅)を使用して、脾臓の体積を計算する。
【0366】
6.14 実施例14:ムコ多糖症I型の対象に関するくも膜下AAV-1コンストラクト1遺伝子治療の安全性、忍容性、及び薬物動態を評価するためのI/II相多施設、非盲検研究
以下の実施例は、MPS I及びCNSの関与が明らかな証拠を有する対象(4ヶ月齢以上)を、AAV-コンストラクト1のI/II相、ファーストインヒューマン、多施設、非盲検、単一アームの用量増量研究である。IVラロニダーゼ治療を従前に、または現在受けている対象は、参加可能である。AAV-コンストラクト1を使用した治療は、この集団では、潜在的に、神経認知の面で有益である。MPS Iを有する約5名の対象を、2回用量のコホート、1×1010GC/g脳質量、または5×1010GC/g脳質量で治療を行い、そして、ICまたはICV注入で、AAV-コンストラクト1の単一用量を投与する。安全性は、治療した後の最初の24週間(初期研究期間)での第1の関心事である。初期研究期間に続いて、対象については、AAV-コンストラクト1を使用した治療の後に、合計で104週間まで(安全性及び有効性の)評価を継続する。治験の最後に、すべての対象に対して、長期観察追跡調査への参加を促す。
【0367】
第1のコホートは、1×1010GC/g脳質量を受ける2名の適格対象を含んでおり、そして、第2のコホートは、5×1010GC/g脳質量を受ける3名の適格対象を含んでいる。AAV-コンストラクト1を、それぞれのコホートの第1の対象(センチネル)に投与した後に、安全性評価のための8週間の観察期間を設ける。スポンサーの内部安全委員会(ISC)が、コホート1の第1の対象に関して最初の8週間で得た安全性データ(8週間の間に行った受診で得たデータを含む)を検討する、そして、ISCが安全上の懸念を認めなければ、第2の対象はAAV-コンストラクト1を受け得る。コホート1の第2の対象とコホート2の第1の対象との間の安全性については、4週間の観察期間を設ける。投与したそれぞれの対象での安全性と忍容性を検討する。SRT事象が認められなければ、第2の対象に関する4週間の観察を含めて、第1のコホートに関して利用可能なすべての安全性データを、Independent Data Monitoring Committee(IDMC)が評価する。第2のコホート(5×1010GC/g脳質量)に進むべきとの決定が出されると、後続の3名の対象は、最初のコホートと同様の投与計画(コホート2での第1の対象の後の8週間の観察期間、及びコホート2での対象2及び3の後の4週間の観察期間)に従う、または、特記しなければ、臨床データ、及び/またはIDMCの検討内容が示した方法に従う。
【0368】
潜在的対象については、治験に対する適格性を決定するために、投与の-60~-2日目にスクリーニングを行う。適格性基準を満たす対象は、(実施機関の規則に従って)-2日目と1日目の朝との間に病院に赴くことが認められる、そして、ベースライン評価を投与前に行う。対象は、1日目にAAV-コンストラクト1の単一のIC用量またはICV用量の投与を受ける、そして、観察のために、投与した後に、約30~36時間、病院内に留まる。初期研究期間(すなわち、24週間)の後の評価は、4週目までは毎週、そして、8週目、12週目、16週目、20週目、及び24週目に行う。初期評価期間の後に、28週目、32週目、40週目、48週目、52週目、56週目、64週目、78週目、及び104週目に受診を行う。20週目、及び28週目の評価は、電話で、AEと、それに付随する治療の評価に限って聞き取りをする。
【0369】
すべての対象は、治験で、まずISを受けて、導入遺伝子を発現するキャプシドまたは組織に対するあらゆる免疫媒介反応のリスクを最小限にする、ならびに、有効性を低下し得るIDUAに対する抗体の形成または増加に関連するあらゆるリスクを最小限にする。免疫抑制療法は、コルチコステロイド(1日目にメチルプレドニゾロン10mg/kgを静脈(IV)に前投与する、そして、2日目に経口プレドニゾンを0.5mg/kg/日から開始する、段階的に漸減して、第12週までに中止する)、タクロリムス(2日目~第24週まで1日2回[BID]、0.05mg/kgを経口的[PO]に投与して、目標血中レベルを2~4ng/mLとする、そして、第24週~第32週にかけて8週間にわたって漸減する)、及びシロリムス(-2日目に4時間ごとに1mg/m2×3用量の負荷用量、続いて、-1日目からシロリムス0.5mg/m2/日を、BIDで投与して、第48週まで目標血中レベルを1~3ng/mlとする)を含む。神経学的評価と、タクロリムス/シロリムス血中レベルのモニタリングを行う。シロリムス及びタクロリムスの用量を、目標範囲内の血液レベルを維持するように調節する。
【0370】
48週間後のIS療法は予定していない。臨床的に関連する免疫応答を調節するために48週以後もISが必要であれば、臨床的必要性に応じて、メディカルモニターを確認しながら、PIが適切な免疫抑制レジメンを決定する。
【0371】
NHP安全性研究での知見及びIC手順での潜在的安全性リスクを考慮して、集中的な神経学的評価や体性感覚誘発電位試験など、徹底した神経学的モニタリングを使用する。
【0372】
AAV-コンストラクト1の安全性及び忍容性は、AE及び重大な有害事象(SAE)、化学分析、血液学分析、尿検査、CSF炎症のマーカー、免疫原性、ベクターの切断(ベクター濃度)、バイタルサイン、心電図(ECG)、及び神経学的評価などの物理的検査を介してモニタリングする。血中ウイルスゲノム(エプスタイン-バーウイルス[EBV]、及びサイトメガロウイルス[CMV])の検出のための連続ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)も、対象がISを受けている間に実施する。
【0373】
二次的な有効性の評価として、神経認知度の低下、それに、CSF、血漿、及び尿でのバイオマーカーレベルの測定がある。
【0374】
治験薬、用量、及び投与経路
●AAVコンストラクト1:AAV9.CB7.hIDUA(ヒトα-L-イズロニダーゼ発現カセットを含む組換えアデノ随伴ウイルス血清型9キャプシド)
●2つの用量レベル:1×1010ゲノムコピー(GC)/g脳質量、または5×1010GC/g脳質量
●大槽内(IC)を介して単一用量を投与する、または、この投与経路が選択肢になければ、脳室内(ICV)投与を行う。
【0375】
第1目的:
●MPS Iに起因するCNSの関与を確認した対象に対して単一のICまたはICV用量を投与した後に、AAV-コンストラクト1の安全性及び耐容性を24週間にわたって評価する。
【0376】
第2目的:
●AAV-コンストラクト1の長期安全性及び耐容性を104週間にわたって評価する
●AAV-コンストラクト1の効果を、認知力及び適応機能の神経発達パラメータに関して、104週間にわたって評価する
●CSF、血漿、及び尿でのベクター切断を評価する
【0377】
調査目的:
●AAV-コンストラクト1の免疫原性を評価する
●CNS画像でAAV-コンストラクト1の効果を調べる
●聴覚能力に及ぼすAAV-コンストラクト1の影響を調べる
●生活の質(QOL)に及ぼすAAV-コンストラクト1の効果を調べる
●脳脊髄液(CSF)、血漿、及び尿でのバイオマーカーに及ぼすAAV-コンストラクト1の薬物動態(PD)効果を調べる
●疾患の全身的発現に及ぼすAAV-コンストラクト1の効果を調べる
●睡眠検査に及ぼすAAV-コンストラクト1の効果を調べる
●臨床医が報告した結果に基づいてAAV-コンストラクト1の効果を調べる
●患者が報告した結果評価に基づいてAAV-コンストラクト1の効果を調べる
【0378】
6.14.1. 採用及び排除のための診断及び基準
対象は、以下の全基準を満たさないと、この治験の参加資格は得られない。
1)男性または女性で、≧4ヶ月齢。
2)治験内容の説明を受けた後で、かつ、治験関連の手順が開始される以前に、記入、署名がされたインフォームドコンセントを提出する意志があり、かつ、そうすることが可能であること。対象がインフォームドコンセントの提出が不可能である場合には、インフォームドアセントを得て、そして、対象の法定代理人が、インフォームドコンセントを提出しなくてはならない。
3)従前にMPS Iの診断を受けており、白血球及び線維芽細胞でのIDUA欠損が確認されていること。
4)その他の神経学的因子または精神医学的因子によって説明できない場合には、以下の基準の1つに基づいたMPS Iに起因するCNSの関与が確認されていること:
a)神経認知試験での平均値よりも低い≧1の標準偏差のスコア、または神経心理学的機能の1ドメインにあること。
b)逐次神経認知検定での>1の標準偏差の減少、または3~36ヶ月間の間に投与する神経心理学的機能の1ドメインでの減少。
c)重度のMPS Iの診断を受けており、重篤な表現型を予測する両アレル突然変異によって確認されていること、または、重度のMPS I及び同じIDUA突然変異をもってして、相対的に臨床的な診断を受けている。この対象は、神経認知欠損の明確な証拠を持っている必要はない。
5)HSCTを受けた対象は、PI、医療モニター、及びスポンサーが、対象が安全かつ首尾よく治験に参加できることに同意していれば、対象を治験に登録し得る。
6)補助器具の有無に関係なく、十分な聴覚及び視覚を有しており、必要とするプロトコル試験を完了する、そして、利用可能であれば、補助器具を試験日に使って必要なプロトコル試験を完了する意志があること。
7)妊娠が疑わしい女性は、スクリーニング受診時の妊娠試験がネガティブ血清でなくてはならず、1日目にネガティブ尿の結果であり、そして、治験の間にさらなる妊娠試験を行うことが望ましい。
8)性交を希望する男性対象は、スクリーニング受診から、ベクターを投与して24週間になるまで、医学的に許容されたバリヤー避妊法(例えば、コンドーム、または女性用ダイヤフラム)を使用する意志を持たなくてはならない。この時点の後での避妊は、対象の主治医と相談するべきである。
9)性交を希望する女性対象は、スクリーニング受診から、シロリムスまたはタクロリムスの最後の服用のいずれか遅い方から12週間後まで、効果的な避妊方法を使用する意志を持たなくてはならない。この時点の後での避妊の中止は、対象の主治医と相談するべきである。避妊の効果的な方法として、二重バリア法(例えば、男性のコンドームとダイヤフラムの併用)、避妊リング、またはホルモン避妊薬がある。長期間にわたる禁欲は、許容できる;しかしながら、定期禁欲、周期避妊法、及び膣外射精は、許容可能な避妊方法ではない。
【0379】
以下の排除基準のいずれかに該当する対象は、治験の参加に関しては適格ではない。
1)MRI、造影剤、または全身麻酔に対して禁忌である。
a)ガドリニウムに対して禁忌である。
b)クレアチニンに基づいた推定糸球体濾過速度(eGFR)<30mL/分/1.73m2で決定する腎不全を有している。臨床検査で、クレアチニンレベルが、アッセイ検証または検出の下限未満であると判定した場合、最小のカットオフ値を使用してeGFRを推定する。
2)以下のいずれかを含み、ICまたはICV注入に対して禁忌である。
a)施設の神経放射線科医/神経外科医、及び少なくとも2つのさらなるスポンサーが指定した資格を有する神経放射線科医(複数可)/神経外科医(複数可)が、ベースラインMRI検査の検討を行って、ICまたはICV注入の禁忌を認める。
b)この治験に参加している神経放射線科医/神経外科医のチームが、入手可能な情報に基づいて、かつての頭部/頸部の手術歴が、ICまたはICV注入は禁忌であることを認める。
c)治験責任者、及び神経放射線科医/神経外科医のチームの意見が、かつての臨床的に顕著な頭蓋内出血の経験が、ICまたはICV注入は禁忌であることを認める。
3)MPS Iに起因しないあらゆる神経認知欠損を有している、またはPIの見解として、治験結果を誤って解釈し得る神経精神状態の診断を受けている。
4)腰椎穿刺に対して禁忌である。
5)くも膜下腔(IT)ラロニダーゼをいつの時点で受けても、PIの見解では、対象を過度のリスクに曝しかねないIT投与に関連するものと考えられる有意なAEを経験した。
6)ITラロニダーゼをいつの時点で受けても、PIの見解では、対象を過度のリスクに曝しかねないIV投与に関連するものと考えられる有意なAEを経験した。
7)スクリーニングの少なくとも1年前に完全な寛解に至っていないリンパ腫の既往歴、または、皮膚の扁平上皮細胞または基底細胞癌以外の別のがんの既往歴を有する。
8)最大限の医療処置にもかかわらず、制御できない高血圧(収縮期血圧[BP]>180mmHg、拡張期BP>100mmHg)を有する。
9)対象が、ギルバート症候群の従前に公知の既往歴を有していなければ、スクリーニング時に、ALTまたはAST>3×ULN、または全ビリルビン>1.5×ULNを有しており、また、コンジュケートしたビリルビンが、全ビリルビンの<35%であることを示す分別したビリルビンを有する。
10)ヒト免疫不全ウイルス(HIV)またはB型肝炎またはC型肝炎ウイルス感染の既往歴、またはB型肝炎表面抗原またはB型肝炎コア抗体、またはHIV抗体のスクリーニング試験の陽性結果。
11)インフォームドコンセント用紙(ICF)に署名する30日前または5半減期前、いずれか長い期間内に治験薬の投与を受けたこと。
12)臨床施設従業員または治験の実施に関与するその他のあらゆる個人の一等親以内の家族、または、臨床施設従業員または治験の実施に関与するその他のあらゆる個人。
13)インフォームドコンセント用紙(ICF)に署名してから52週目までのあらゆる時点において、妊婦である、分娩の<6週間後である、スクリーニング時点で母乳を与えている、または(自身が、またはパートナーが)出産を考えている。52週後の妊娠の計画については、対象の主治医と相談すべきである。
14)スクリーニングの1年以内にアルコールまたは薬物乱用の既往歴を有している。
15)PIの見解において、対象の安全性を損ないかねない臨床的に有意なECG異常を有している。
16)PIの見解において、対象の安全性、または研究へ首尾良く参加させること、または、治験結果の解釈を歪めかねない、重大な、または不安定な医学的または心理的状態を有している。
【0380】
免疫抑制療法に関連する排除基準
17)タクロリムス、シロリムス、またはプレドニゾンに対する過敏症反応の既往歴。
18)重篤な免疫不全(例えば、分類不能型免疫不全症)、脾臓摘出、または対象を予め感染に曝してしまうあらゆる基礎的条件。
19)スクリーニングの少なくとも12週間前に治癒していない水痘帯状ヘルペスウイルス、帯状疱疹(herpes zoster)(帯状疱疹(shingles))、CMV、またはEBV感染。
20)受診2の少なくとも8週間前に完治していない入院または非経口抗感染剤による治療を必要とするあらゆる感染症。
21)受診2の10日以内での経口抗感染症薬(抗ウイルス剤など)を必要とするあらゆる活動性感染症。
22)スクリーニングの間での活動性結核(TB)または陽性QuantiFERON-TB Gold試験の既往歴。
23)2日目から4週間以内でのあらゆる生ワクチン。
24)ICFに署名する8週間以内に受けた大手術、または治験期間の間に計画した大手術。
25)絶対好中球数<1.3×103/μL
26)PIが、免疫抑制療法に適していないと確信するあらゆる条件または臨床検査での異常。
【0381】
【0382】
6.14.3. 脳重量に基づいて投与した全用量
MPS Iを有する約5名の対象を、2つ用量のコホート、1×1010GC/g脳質量または5×1010GC/g脳質量で治療を行い、そして、以下の表7に従って、ICまたはICV注入で、AAV-コンストラクト1の単一投与量の投与を受ける。
【0383】
【0384】
6.14.4. 免疫抑制療法投与
コルチコステロイド
【0385】
ベクター投与(1日目、前投与)の朝に、患者に対して、少なくとも30分間にわたるメチルプレドニゾロン10mg/kg(最大500mg)をIVで与える。メチルプレドニゾロンは、治験薬の腰椎穿刺及びIC注入の前に投与すべきである。アセトアミノフェン及び抗ヒスタミン剤の前投与は、治験責任医師の裁量で任意に行う。
【0386】
第12週までにプレドニゾンを中止することを目標として、2日目に経口プレドニゾンを開始する。プレドニゾンの用量は、以下の通りである:
●2日目~第2週の終わりまで:0.5mg/kg/日
●第3週及び4週:0.35 mg/kg/日
●第5週~8週:0.2mg/kg/日
●第9週~12週:0.1mg/kg
●プレドニゾンは、第12週の後に中止する。プレドニゾンの正確な用量は、一段階増やした臨床上実用的な用量に調整することができる。
【0387】
シロリムス
●ベクター投与の2日前(-2日目):4時間ごとに1mg/m2×3用量のシロリムスの負荷用量を投与する。
●-1日目以降:目標血中レベルを1~3ng/mlとする、1日2回の投与に分割した0.5mg/m2/日のシロリムス。
●シロリムスを、第48週の受診後に中止する。
【0388】
タクロリムス
●2日目(治験薬投与の翌日)に、タクロリムスを1日2回、0.05mg/kgの用量で開始する、24週間にわたり2~4ng/mLの血中レベルを達成するように調整した。
●タクロリムスは第24週の受診から開始する、8週にわたって漸減する。第24週に、用量をおよそ50%まで減少させる。第28週に、用量をおよそ50%までさらに減少させる。タクロリムスは、第32週に中止する。
●タクロリムス及びシロリムスの血液レベルをモニタリングする。
【0389】
プレドニシンの用量は、0.5mg/kg/日から開始する、そして、12週目の受診から漸減する。
【0390】
タクロリムスの用量調節は、最初の24週間の間、2~4ng/mlの全血中トラフ濃度を維持するようにする。24週目で、用量は約50%減らす。28週目で、用量を、さらに約50%減らす。タクロリムスは、32週目に中止する。シロリムスの用量調節は、1~3ng/mlの全血中トラフ濃度を維持するようにする。用量調節は、臨床薬剤師が行うべきである。対象は、濃度モニタリングによってさらなる用量調整が行われるまで、少なくとも7~14日間は、新たな維持用量を継続すべきである。
【0391】
トリメトプリム/スルファメトキサゾールを原因とするニューモシスチティス肺炎の予防のために、週3回(例えば、投与スケジュール;月曜日、水曜日、金曜日)に、5mg/kgの用量から始めて、-2日目から第48週目まで継続する。サルファ剤アレルギーを有する患者については、他の薬剤:ペンタミジン、ダプソーン、及びアトバクオンを使うことができる。
【0392】
抗真菌予防薬は、絶対好中球数が<500mm3である場合に投与すべきである。治療レジメンは、適切な超専門医と相談して、現地施設の標準治療を介して決定する。
【0393】
CMVまたはEBVウイルスゲノムの増加が一連の試験で検出された場合には、適切な専門家と相談して、現地施設の標準治療を介して、ISの解除、または、抗ウイルス治療の開始を決定する。
【0394】
カルシニューリン阻害剤をラパマイシンと併用すると、カルシニューリン阻害剤誘発性血栓性細小血管障害のリスクを高め得る。細小血管障害は、血小板減少症、特発性溶血性貧血、及び様々な臓器系の関与を特徴とする障害のグループである。これらの中で顕著なものは、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)である。
【0395】
一般的に、TTPとは、重度の血小板減少症(<30×109/L)を示す微小血管症性溶血性貧血であり、血液塗抹標本での破砕赤血球、網状赤血球数の多さ(>120×109/L)、乳酸脱水素酵素レベルの上昇、それに、皮膚及び粘膜の出血、脱力感、及び呼吸困難の兆候を特徴とする。TTPは、迅速な診断と、緊急の対処を必要とする。治療は、タクロリムスの中止と、血漿の交換の開始を含む。治療に対する完全な応答は、150×109/Lを超える血小板数が2日間連続するもの、と定義する。
【0396】
均等物
本発明がその特定の実施形態に関して詳細に記載するにもかかわらず、機能的に等価である変形が本発明の範囲内にあることが理解されよう。実際、本明細書において示され、説明する発明に加え、本発明の様々な修正が、上記明細書及び添付する図面から当業者にとって明らかとなるであろう。そのような修正は、添付の特許請求の範囲の範囲内にあることを意図する。当業者であれば、本明細書に記載した発明の特定の実施形態との多くの等価物を認識するかまたは定型的な実験の範囲の域でこれを使用する、確認することが可能である。そのような等価物は、以下の特許請求の範囲に包含することを意図する。
【0397】
この明細書に言及のある全ての刊行物、特許、及び特許出願は、各個別の刊行物、特許、または特許出願の全内容を、参照により、本明細書で援用することが具体的かつ個別的に示すのと同程度に、明細書中に参照により本明細書に組み込まれる。
【手続補正書】
【提出日】2022-10-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
【国際調査報告】