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特表2023-511384培養培地中でのFGF活性化剤の利用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-17
(54)【発明の名称】培養培地中でのFGF活性化剤の利用
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/00 20060101AFI20230310BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20230310BHJP
   C12N 5/077 20100101ALI20230310BHJP
【FI】
C12N5/00
C12N1/00 G
C12N5/077
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022544321
(86)(22)【出願日】2021-01-20
(85)【翻訳文提出日】2022-09-08
(86)【国際出願番号】 IB2021050419
(87)【国際公開番号】W WO2021148960
(87)【国際公開日】2021-07-29
(31)【優先権主張番号】62/963,819
(32)【優先日】2020-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】592024572
【氏名又は名称】イッサム・リサーチ・ディベロップメント・カンパニー・オブ・ザ・ヘブルー・ユニバーシティ・オブ・エルサレム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100188374
【弁理士】
【氏名又は名称】一宮 維幸
(72)【発明者】
【氏名】ナーミアス,ヤーコブ
(72)【発明者】
【氏名】アヤシュ,ムニーフ
(72)【発明者】
【氏名】パシッカ,ローラ
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065BB32
4B065BB34
4B065BB40
4B065BC01
4B065BD39
4B065CA41
(57)【要約】
本開示は、一部では、無血清培地及び1つ又はそれ以上の線維芽細胞増殖因子(FGF)活性化剤を含む細胞培養培地、細胞培養培地及び使用のための説明書を含むキット、in vitroで細胞を増殖させる方法、及び細胞培養培地を使用して培養肉を生産する方法、並びにそのように生産された培養肉を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無血清培地及び1つ又はそれ以上の線維芽細胞増殖因子(FGF)活性化剤を含む細胞培養培地。
【請求項2】
前記培地が、1ng/ml未満のFGF、上皮増殖因子(EGF)、トランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β)、又はこれらの組合せを含む、請求項1に記載の細胞培養培地。
【請求項3】
前記培地が、ペプチドベースホルモン又はステロイドベースホルモンを除く任意のタンパク質ベース増殖因子を本質的に欠く、請求項1に記載の細胞培養培地。
【請求項4】
前記1つ又はそれ以上のFGF活性化剤が、FGFシグナル伝達経路を活性化する1つ又はそれ以上の小分子である、請求項1~3のいずれか一項に記載の細胞培養培地。
【請求項5】
前記1つ又はそれ以上の小分子が、2型糖尿病(T2DM)のためのFGF21類似体、インドール誘導体、Wnt経路の活性化剤、免疫抑制特性を有するマクロライド系抗生物質、FGFシグナル伝達の下流経路の負の制御因子の標的、又はこれらの組合せを含む、請求項4に記載の細胞培養培地。
【請求項6】
前記1つ又はそれ以上の小分子が、インドール誘導体を含む、請求項5に記載の細胞培養培地。
【請求項7】
前記インドール誘導体が、ID-8である、請求項6に記載の細胞培養培地。
【請求項8】
前記1つ又はそれ以上の小分子が、免疫抑制特性を有するマクロライド系抗生物質を含む、請求項4に記載の細胞培養培地。
【請求項9】
前記マクロライド系抗生物質が、タクロリムス(FK-506)を含む、請求項8に記載の細胞培養培地。
【請求項10】
前記1つ又はそれ以上の小分子が、ID-8及びFK-506を含む、請求項5に記載の細胞培養培地。
【請求項11】
ID-8が、約0.5μM~約50μMの濃度である、請求項7又は10に記載の細胞培養培地。
【請求項12】
ID-8が、約1μM~約10μMの濃度である、請求項11に記載の細胞培養培地。
【請求項13】
FK-506が、約1nM~約20nMの濃度である、請求項9又は10に記載の細胞培養培地。
【請求項14】
前記FK-506が、約1nM~約2nMの濃度である、請求項13に記載の細胞培養培地。
【請求項15】
ID-8が、約0.5μM~約50μMの濃度であり、FK-506が、約1nM~約20nMの濃度である、請求項10に記載の細胞培養培地。
【請求項16】
ID-8が、約1μM~約10μMの濃度であり、FK-506が、約1nM~約2nMの濃度である、請求項15に記載の細胞培養培地。
【請求項17】
前記1つ又はそれ以上の小分子が、2型糖尿病(T2DM)のためのFGF21類似体を含む、請求項5に記載の細胞培養培地。
【請求項18】
前記FGF21類似体が、PF-05231023である、請求項17に記載の細胞培養培地。
【請求項19】
前記1つ又はそれ以上の小分子が、Wnt経路の活性化剤を含む、請求項5に記載の細胞培養培地。
【請求項20】
前記活性化剤が、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3β(GSK3β)の阻害剤である、請求項19に記載の細胞培養培地。
【請求項21】
前記活性化剤が、1-アザケンパウロンである、請求項20に記載の細胞培養培地。
【請求項22】
前記1つ又はそれ以上の小分子が、FGFシグナル伝達の下流経路の負の制御因子の標的を含む、請求項5に記載の細胞培養培地。
【請求項23】
前記標的が、ERK経路を活性化することによってFGF経路を過活性化する阻害剤である、請求項22に記載の細胞培養培地。
【請求項24】
前記阻害剤が、Dusp6阻害剤である、請求項23に記載の細胞培養培地。
【請求項25】
前記Dusp6阻害剤が、(E/Z)-BCI塩酸塩である、請求項24に記載の細胞培養培地。
【請求項26】
請求項1~25のいずれか一項に記載の細胞培養培地及び使用のための説明書を含むキット。
【請求項27】
請求項1~25のいずれか一項に記載の細胞培養培地中で細胞を培養するステップ、及び培養細胞から培養肉を生産するステップを含む、培養肉を生産する方法。
【請求項28】
前記細胞が、食用動物由来である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記食用動物が、家畜、狩猟動物、家禽、魚、甲殻類、又は軟体動物である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記細胞が、線維芽細胞を含む、請求項27~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記線維芽細胞が、ウシ線維芽細胞又はニワトリ線維芽細胞である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
請求項27~31のいずれか一項に記載の方法によって生産される培養肉。
【請求項33】
前記細胞が、単一細胞懸濁液として培養される、請求項27に記載の方法。
【請求項34】
前記細胞が、CHO細胞又はEB66細胞を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
請求項1~25のいずれか一項に記載の細胞培養培地中で細胞を培養するステップを含む、in vitroで細胞を増殖させる方法。
【請求項36】
細胞培養培地中の1つ又はそれ以上のFGF活性化剤の使用であって、前記培地が、ペプチドベースホルモン又はステロイドベースホルモンを除く任意のタンパク質ベース増殖因子を本質的に欠く、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
[0001]本出願は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる2020年1月21日に出願された米国特許仮出願第62/963819号の優先権の利益を主張する。
【0002】
技術分野
[0002]本発明は、一般に、細胞増殖に関する。より詳細には、本発明は、1つ又はそれ以上の線維芽細胞増殖因子活性化剤を含む無血清細胞増殖培地及び培地中で細胞を増殖させ、それにより培養肉を生産する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
[0003]現在の世界人口は70億人を超え、依然として急速に増加している。この人口増加の栄養所要量を支えるため、ますます広い土地が食料生産に割り当てられる。天然源は要求を満たすのには不十分である。これは、世界の一部の地域では食料不足をもたらす。世界の他の地域では、問題は、厳しい条件下の密集した工場式農場での動物の大規模生産によって対処されている。この大規模生産は、動物に多大な苦痛をもたらすだけでなく、食品効率を増加させ、感染を制御するために使用する有機ヒ素化合物及び抗生物質により肉製品のヒ素レベル及び薬剤耐性菌も増加させ、したがって、動物とヒトの両方で疾患の数をさらに増加させ、その結果を悪化させる。現在の食料要求を満たすためには大規模な屠殺が必要であり、結果として、ブタペスチウイルス及び狂牛病の出現など、大規模な疾患の発生をもたらし得る。これらの疾患は、ヒトの消費のための食肉の不足を生じ、したがってそもそも動物が飼育される目的を完全に否定する。
【0004】
[0004]さらに、大規模生産は、最終製品の風味を低下させる。バタリー不使用で産ませた卵及びバタリー不使用で生産された肉を供給することができるものが好まれる。味だけの問題ではなく、それにより成長ホルモンのような様々な食品添加物の消費を避ける健康上の選択もある。大量の動物生産と関連する別の問題は、動物からの莫大な排泄物によって引き起こされ、続いて環境が対応しなければならない環境問題である。さらに、他の作物の生育、住宅、レクリエーション、野生及び森林のような代替の目的のために使用できない、動物又は動物の飼料の生産に現在必要とされる広大な土地は問題である。
【0005】
[0005]当技術分野で公知の技術の主な問題の1つは、生産に長時間かかり、コストが非常に高く、製品が、家畜由来の現在の肉を置き換えることができない及び置き換えないであろう平凡な質であることである。例えば、Just-Inc.は、抽出した動物細胞を培地中で増殖させてチキンナゲットを製造したが、その製造コストは、ナゲット当たり50ドルかかる。
【0006】
[0006]ヒト又は動物への投与のための、in vitro実験又はex vivo培養のため、細胞、例えば哺乳動物細胞又は昆虫細胞の培養は、ヒト疾患の研究及び処置の重要な手段である。細胞培養は、様々な生物学的に活性な製品、例えばウイルスワクチン、モノクローナル抗体、ポリペプチド増殖因子、ホルモン、酵素、腫瘍特異的抗原及び食品製品の生産に広く使用される。しかしながら、細胞を培養するために使用される多くの培地又は方法は、細胞増殖及び/又は未分化細胞培養の維持に負の効果を有し得る成分を含む。例えば、哺乳動物又は昆虫細胞培養培地は、培養中の細胞の増殖及び成長を促進する増殖因子、キャリアタンパク質、接着及び拡散因子、栄養及び微量元素を提供するため、ウシ胎仔血清(FCS)又はウシ胎仔血清(FBS)のような血液由来血清を補充することが多い。しかしながら、トランスフォーミング成長因子(TGF)ベータ又はレチノイン酸のような、FCS又はFBSに見出される因子は、ある特定の細胞型の分化を促進する(Ke et al.,Am J Pathol.137:833-43,1990)か又は培養中の望まない細胞活性を促進する細胞の意図しない下流のシグナル伝達を開始する(Veldhoen et al.,Nat Immunol.7(11):1151-6,2006)ことができる。
【0007】
[0007]培養培地のコストは、培養肉生産のコストの主要因である。培養培地は、炭水化物、アミノ酸、ビタミン及びミネラルを含む比較的簡単な基本培地と、アルブミン、増殖因子、酵素、接着因子及びホルモンを含むより高価な血清代替物成分から構成される。動物成分の使用を除くため、現在、産業は、細胞治療及びワクチン生産への適用のための組換えヒトタンパク質に頼っている。しかしながら、培養肉適用はヒトタンパク質の使用に限定されず、したがって、ヒトの消費に好適な材料のより容易に入手可能な供給源を利用することができる可能性がある。
【0008】
[0008]線維芽細胞増殖因子(FGF)は、ヘパリン結合細胞シグナル伝達タンパク質のファミリーである。FGFファミリーのメンバーは、胚発生、器官形成、細胞増殖、細胞遊走、細胞分化及びインテグリン発現を含む、広範な生物学的プロセスに関与する多機能タンパク質である(Burgess,et al.,Annu Rev Biochem 58,575-606,1989;Rifkin,et al.,J Cell Biol 109,1-6,1989;Basilico et al.,Adv Cancer Res 59,115-165,1992)。哺乳動物では、FGFスーパーファミリーには、20を超える異なるサブファミリーメンバータンパク質があり、そのうち18のサブファミリーメンバーは4つのシグナル伝達チロシンキナーゼFGF受容体(FGFR)と相互作用する(Beenken,et al.,Nat Rev Drug Discov 8,235-253,2009)。この相互作用は、ホスホリパーゼC-γ(PLCγ)、ホスファチジルイノシトール-3-キナーゼ(PI3K)、及びマイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)経路を含むいくつかのシグナル伝達経路の下流の活性化をもたらす。
【0009】
[0009]FGFは、重要なマイトジェンである。それらは、細胞治療、グリコシル化タンパク質、ワクチン及び培養肉の生物学的製造のための培養培地の重要な成分である。動物由来又は組換えヒトFGFのコストは、培養培地のコストのかなりの割合であり、培養肉の製品化の主な障害である。さらに、治療応用及び培養肉のため、既知の化学組成条件下で、動物成分を含まない(ゼノフリー)培地中で細胞を培養することが好ましい。したがって、FGFに代わる小分子を見出すことは、培養肉及び細胞治療の分野で有望な利点を提供するであろう。したがって、増殖又は接着因子血清成分の望まない副作用のない細胞培養培地の必要性がある。本開示は、この長年の要求を満たす。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
[0010]本開示は、一部では、線維芽細胞増殖因子(FGF)シグナル伝達経路を活性化することができる小分子の同定に基づく。これらの小分子、又はFGF活性化剤としては、限定はされないが、PF-05231023(T2DMのためのFGF21類似体)、ID-8(インドール誘導体)、1-アザケンパウロン(Wnt経路の活性化剤)、タクロリムス(FK-506)(マクロライド系抗生物質)、及び(E/Z)-BCI塩酸塩(EGFを過活性化するDusp6阻害剤)、又はこれらの組合せが挙げられる。これらの長時間作用小分子は、培養培地中のEGFの効果を置き換え、コスト効果がある細胞増殖を支持することができる。培養培地中でのそのような小分子の使用は、培養肉の生産のための培地のコストを著しく削減する。
【0011】
[0011]本開示の一態様は、無血清培地及び1つ又はそれ以上の線維芽細胞増殖因子(FGF)活性化剤を含む細胞培養培地を提供する。
[0012]一部の実施形態では、細胞培養培地は、1ng/ml未満の線維芽細胞増殖因子(FGF)、上皮増殖因子(EGF)、トランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β)、又はこれらの組合せを含む。
【0012】
[0013]一部の実施形態では、細胞培養培地は、ペプチドベースホルモン又はステロイドベースホルモンを除く任意のタンパク質ベース増殖因子を本質的に欠く。一部の実施形態では、タンパク質ベース増殖因子は、細胞成長及び増殖を刺激する。一部の実施形態では、ペプチドベースホルモンはインシュリンである。一部の実施形態では、ステロイドベースホルモンは、コルチゾン又はその誘導体である。
【0013】
[0014]一部の実施形態では、1つ又はそれ以上のFGF活性化剤は、FGFシグナル伝達経路を活性化する1つ又はそれ以上の小分子である。一部の実施形態では、1つ又はそれ以上の小分子は、2型糖尿病(T2DM)のためのFGF21類似体、インドール誘導体、Wnt経路の活性化剤、免疫抑制特性を有するマクロライド系抗生物質、FGFシグナル伝達の下流経路の負の制御因子の標的、又はこれらの組合せを含む。
【0014】
[0015]一部の実施形態では、1つ又はそれ以上の小分子は、2型糖尿病(T2DM)のためのFGF21類似体を含む。一部の実施形態では、FGF21類似体は、PF-05231023である。
【0015】
[0016]一部の実施形態では、1つ又はそれ以上の小分子は、インドール誘導体を含む。一部の実施形態では、インドール誘導体は、ID-8である。
[0017]一部の実施形態では、1つ又はそれ以上の小分子は、Wnt経路の活性化剤を含む。一部の実施形態では、活性化剤は、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3β(GSK3β)の阻害剤である。一部の実施形態では、活性化剤は、1-アザケンパウロンである。
【0016】
[0018]一部の実施形態では、1つ又はそれ以上の小分子は、免疫抑制特性を有するマクロライド系抗生物質を含む。一部の実施形態では、マクロライド系抗生物質は、タクロリムス(FK-506)である。
【0017】
[0019]一部の実施形態では、1つ又はそれ以上の小分子は、FGFシグナル伝達の下流経路の負の制御因子の標的を含む。一部の実施形態では、標的は、ERK経路を活性化することによりFGF経路を過活性化する阻害剤である。一部の実施形態では、阻害剤は、Dusp6阻害剤である。一部の実施形態では、Dusp6阻害剤は、(E/Z)-BCI塩酸塩である。
【0018】
[0020]一部の実施形態では、ID-8は、約0.5μM~約50μMの濃度である。一部の実施形態では、ID-8は、約1μM~約10μMの濃度である。
[0021]一部の実施形態では、FK-506は、約1nM~約20nMの濃度である。一部の実施形態では、FK-506は、約1nM~約2nMの濃度である。
【0019】
[0022]一部の実施形態では、1つ又はそれ以上の小分子は、ID-8及びFK-506を含む。
[0023]さらに一部の実施形態では、ID-8は約0.5μM~約50μMの濃度であり、FK-506は約1nM~約20nMの濃度である。
【0020】
[0024]一部の実施形態では、ID-8は約1μM~約10μMの濃度であり、FK-506は、約1nM~約2nMの濃度である。
[0025]本開示の別の態様は、任意の本明細書に開示の細胞培養培地及び使用のための説明書を含むキットを提供する。
【0021】
[0026]本開示のさらに別の態様は、任意の本明細書に開示の細胞培養培地中で細胞を培養することによって培養肉を生産する方法及び培養細胞から培養肉を生産する方法を提供する。
【0022】
[0027]一部の実施形態では、細胞は、食用動物由来である。一部の実施形態では、食用動物は、家畜、狩猟動物、家禽、魚、甲殻類、又は軟体動物である。
[0028]一部の実施形態では、方法は培養細胞を含み、細胞は線維芽細胞である。一実施形態では、線維芽細胞は、ウシ線維芽細胞又はニワトリ線維芽細胞である。
【0023】
[0029]本開示のさらに別の態様は、上記及び本明細書に開示される方法によって生産された培養肉を提供する。
[0030]本開示のさらに別の態様は、任意の本明細書に開示の細胞培養培地中で細胞を培養することによってin vitroで細胞を増殖させる方法を提供する。
【0024】
[0031]本発明のさらなる態様は、ペプチドベースホルモン又はステロイドベースホルモンを除く任意のタンパク質ベース増殖因子を本質的に欠く細胞培養培地中の1つ又はそれ以上のFGF活性化剤の使用を提供する。
【0025】
[0032]本発明の前述の態様及び他の特徴は、添付の図面に関して以下の記載で説明される;
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】[0033]図1は、無血清培地懸濁液中で培養したウシ線維芽細胞におけるID-8及び/又はFK-506によるFGFの置き換えを示す図である。
図2】[0034]図2は、無血清培地懸濁液中で培養したニワトリ線維芽細胞におけるID-8及びFK-506によるFGFの置き換えを示す図である。
図3】[0035]図3は、無血清培地中で培養したヒツジ線維芽細胞において様々な濃度のID-8及びFK506によるFGFの置き換えを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[0036]本開示の原理の理解を促進する目的のため、ここで実施形態が参照され、特定の言語がそれを記載するために使用されるであろう。しかしながら、それにより本開示の範囲の限定が意図されず、本明細書に示したように本開示のそのような変更及びさらなる改変は、本開示が関連する当業者に通常想起されるであろうと考えられる。
【0028】
[0037]本明細書で使用される用語は、特定の実施形態のみを記載する目的のためであり、本発明を限定することを意図しない。
[0038]本明細書で使用される場合、「任意のタンパク質ベース増殖因子を欠く」若しくは「線維芽細胞増殖因子を欠く」細胞培養培地、又は「任意のタンパク質ベース増殖因子を本質的に欠く」若しくは「線維芽細胞増殖因子を本質的に欠く」細胞培養培地は、任意の検出可能な量のタンパク質ベース増殖因子又は線維芽細胞増殖因子(FGF)を含まない培地を指す。用語「非検出可能」は、本開示の時点で当業者に公知の検出の標準的な方法に基づくと理解される。一部の実施形態では、培地は、1ng/ml未満(0ng/ml~1ng/ml未満)のタンパク質ベース増殖因子又はFGFを含み得る。一部の実施形態では、培地は、0.5ng/ml未満(0ng/ml~0.5ng/ml未満)のタンパク質ベース増殖因子又はFGFを含み得る。一部の実施形態では、培地は、0.1ng/ml未満(0ng/ml~0.1ng/ml未満)のタンパク質ベース増殖因子又はFGFを含み得る。
【0029】
[0039]本明細書で使用される場合、「タンパク質ベース増殖因子」は、細胞成長及び増殖を刺激し、限定はされないが、FGF、上皮増殖因子(EGF)、トランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β)、又はこれらの組合せが挙げられる。
【0030】
[0040]本明細書で使用される場合、「無血清」培地は、動物又はヒト血清を含有せず、成分が動物から由来しない、得られない、産生されない、又は生産されない培地を指す。成分は、組換えにより生産されるか又は植物若しくは動物以外の供給源由来であるかのいずれかであると考えられる。
【0031】
[0041]本明細書で使用される場合、「基本培地(basal media)」、「基本培地(basal medium)」、「基本培地(base media)」、「基本培地(base medium)」、「基本栄養培地(base nutritive medium)」、又は「基本栄養培地(base nutritive media)」は、正常な細胞代謝に必須の、並びに細胞内外の浸透圧の平衡を維持する水及びある特定のバルク無機イオンを細胞に提供する、基本塩栄養(複数可)又は塩の水溶液(複数可)及び他の要素を指す。一部の実施形態では、基本培地は、エネルギー源として少なくとも1つの炭水化物、及び/又は生理学的なpH範囲内に培地を維持する緩衝システムを含む。市販の基本培地の例としては、限定はされないが、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、最小必須培地(MEM)、イーグル基礎培地(BME)、RPMI1640、Ham’s F-10、Ham’s F-12、α-最小必須培地(αMEM)、グラスゴー最小必須培地(G-MEM)、イスコフ改変ダルベッコ培地、又はX-VIVO(Lonza)のような多能性細胞との使用のために改変された多目的培地、又は造血基本培地が挙げられる。
【0032】
[0042]本明細書で使用される場合、「完全培地」は、細胞増殖に貢献することができる、増殖因子、ホルモン、タンパク質、血清又は血清代替物、微量元素、糖、抗生物質、抗酸化剤等のような、添加したサプリメントをさらに含む基本培地を指す。例えば、市販の完全培地は、エタノールアミン、グルタチオン(還元)、アスコルビン酸リン酸、インシュリン、ヒトトランスフェリン、脂質リッチウシ血清アルブミン、微量塩、亜セレン酸ナトリウム、メタバナジン酸(matavanadate)アンモニウム、硫酸銅及び塩化マンガン(DMEM ADVANCED(商標)培地、Life Technologies)のようなサプリメントを含む。
【0033】
[0043]本明細書で使用される場合、「液体ベース混合物」又は「ベース生理学的緩衝液混合物」は、細胞培養培地組成物を完成させるためにリポソームが懸濁される血清代替物又は培地サプリメントのベース溶液を指す。細胞培養の細胞に融合される/取り込まれる場合、リポソームが細胞へと液体ベース混合物を送達するように、液体ベース混合物をリポソームにロードすることが考えられる。本明細書では、液体ベース混合物又はベース生理学的緩衝液体混合物が、リポソーム及び/又は本明細書の他の成分と併せて使用され、血清代替物、完全培地、培地サプリメント、又は細胞凍結保存培地を形成することができる、基本培地、完全培地又は生理学的緩衝溶液、例えばリン酸緩衝生理食塩水(PBS)及び他の平衡塩類溶液であることも考えられる。
【0034】
[0044]本明細書で使用される場合、「培地」又は「細胞培養培地」は、細胞の増殖、生存能、又は保存を提供する水ベース溶液を指す。本明細書で検討する培地は、1つ又はそれ以上の栄養素を補充し、所望の細胞活性、例えば培地中で培養した細胞の細胞生存能、成長、増殖、分化を促進することができる。培地は、本明細書で使用される場合、血清代替物、培地サプリメント、完全培地又は細胞凍結保存培地を含む。培養培地のpHは、微生物が増殖するのに好適であるはずである。ほとんどの細菌はpH6.5~7.0で増殖するが、ほとんどの動物細胞はpH7.2~7.4で成長する。
【0035】
[0045]本明細書で使用される場合、「培地サプリメント」は、細胞の培養の前に基本培地に添加される薬剤又は組成物を指す。培地サプリメントは、培養での細胞増殖に有益な薬剤、例えば増殖因子(複数可)、ホルモン(複数可)、タンパク質(複数可)、血清又は血清代替物、微量元素(複数可)、糖(複数可)、抗生物質(複数可)、抗酸化剤(複数可)等であり得る。典型的には、培地サプリメントは、細胞培養に適切な最終濃度に達するまで完全又は基本培地へと希釈される所望のサプリメントの濃縮溶液である。
【0036】
[0046]本明細書で使用される場合、「血清代替物」又は「血清代替物培地」は、培養中での細胞増殖及び生存を促進するために、基本培地と併せて又は完全培地として使用され得る組成物を指す。血清代替物は、in vitroでの細胞の培養のため、培地に特徴的に添加される任意の血清の代替物として基本又は完全培地で使用される。血清代替物は、培養中の細胞の増殖及び生存のためのタンパク質及び他の因子を含むことが考えられる。血清代替物は、細胞培養での使用の前に基本培地へと添加される。血清代替物は、血清代替物が細胞培養の無血清完全培地として有用であるように、基本培地及び、塩、アミノ酸、ビタミン、微量元素、抗酸化剤等のような基本栄養素を含み得ることがさらに考えられる。
【0037】
[0047]本明細書で使用される場合、用語「結合組織細胞」は、結合組織を作り上げる様々な細胞型を指す。例えば、結合組織細胞は、線維芽細胞、軟骨細胞、骨細胞、脂肪細胞及び平滑筋細胞、又は線維芽細胞から自然に分化され得る細胞型である。本明細書で使用される場合、用語「自然分化(natural differentiation)」又は「自然分化形態(naturally differentiated form)」は、自然に生じる分化を指すために使用され、実験室で人工的に達成され得るもののような分化転換を指すためには使用されず、また脱分化ではない。線維芽細胞から自然に分化され得る細胞型としては、軟骨細胞、脂肪細胞、骨芽細胞、骨細胞、筋線維芽細胞、衛星細胞、筋芽細胞、及び筋細胞が挙げられる。結合組織細胞は、間葉系幹細胞(MSC)又はMSC若しくは多能性細胞に由来する細胞ではない。
【0038】
[0048]一部の実施形態では、結合組織細胞は、軟骨細胞、脂肪細胞、骨芽細胞、骨細胞、筋線維芽細胞、衛星細胞、筋芽細胞、及び筋細胞からなる群から選択される。一部の実施形態では、結合組織細胞は、脂肪細胞、骨芽細胞、骨細胞、筋線維芽細胞、衛星細胞、筋芽細胞、及び筋細胞からなる群から選択される。一部の実施形態では、結合組織細胞は、線維芽細胞である。
【0039】
[0049]本明細書で使用される場合、語句「自然発生的に不死化した線維芽細胞(spontaneously immortalized fibroblast)」は、不死化を引き起こす人為的な突然変異、例えば遺伝子操作に供されることなく、無制限に細胞分化、及び好ましくは細胞増殖も行うことができる線維芽細胞を指す。自然発生的に不死化した線維芽細胞は、非遺伝的に改変されている。
【0040】
[0050]本明細書で使用される場合、「小分子」は、約1nmのオーダーの直径を有する、生物学的プロセスを制御し得る低分子量(<900ダルトン)有機化合物である。核酸及びタンパク質、並びに多くの多糖類のような大きな構造は小分子ではないが、それらの組成の単量体(それぞれリボ-又はデオキシリボヌクレオチド、アミノ酸及び単糖類)は小分子であると考えられることが多い。
【0041】
[0051]本明細書で使用される場合、1つ又はそれ以上の小分子(すなわち、FGF活性化剤)に関して、用語「FGFシグナル伝達を置き換える」、「FGFを置き換える」、及び「FGFシグナル伝達経路を活性化する」は交換可能であり、これらの活性化剤が培養培地中でFGFの効果を置き換え、コスト効果がある細胞増殖を支持する。
【0042】
[0052]本開示では、特に請求項及び/又は段落では、用語、例えば「含む(comprises)」、「含む(comprised)」、「含む(comprising)」等は、米国特許法による意味を有することができ;例えば、それらは「含む(includes)」、「含む(included)」、「含む(including)」等を意味することができ;並びに「から本質的になる(consisting essentially of)」及び「から本質的になる(consists essentially of)」のような用語は、米国特許法に帰する意味を有し、例えば明確に列挙されない要素を許容するが、先行技術に見出される、又は本発明の基本若しくは新規の特徴に影響する要素を除外することに注意されたい。
【0043】
[0053]無血清培地及び1つ又はそれ以上の線維芽細胞増殖因子(FGF)活性化剤を含む細胞培養培地が本明細書で開示される。一部の実施形態では、細胞培養培地は、ペプチドベースホルモン又はステロイドベースホルモンを除く任意のタンパク質ベース増殖因子を本質的に欠く。また、上記及び本明細書に開示の細胞培養培地中で細胞を培養する方法、並びに培養肉の生産のためにそのような培養を利用する方法も本明細書に開示される。本明細書に開示される細胞培養培地は、キットでも使用され得る。驚くべきことに、FGF活性化剤が増殖因子の代わりに細胞培養培地中で利用され、コスト効果のある細胞増殖を支持し得ることが発見された。培養培地中でのこれらのFGF活性化剤の使用は、培養肉の生産のための培地のコストを著しく削減する。
【0044】
[0054]FGF活性化剤の中で、インドール誘導体、例えばID-8は、無血清培地中のマウスESCの自己再生を支持することが示されたが(Miyabayashi,et al.,Biosci Biotechnol Biochem 72,1242-1248,2008)、ID-8、1-アザケンパウロン、及びタクロリムス(Tacrlimus)の組合せは、無血清培地中のヒトESCの自己再生を支持することが見出された(Yasuda,et al.,Nat Biomed Eng 2,173-182,2018)。ID-8は、二重特異性チロシンリン酸化制御キナーゼ(DYRK)の化学阻害剤である。1-アザケンパウロンは、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3β(GSK3β)の強力な、選択的阻害剤であり、したがってWnt経路を活性化する。タクロリムス(FK-506)は、免疫抑制特性を有するマクロライド系抗生物質である。タクロリムスは、インターロイキン2遺伝子転写、一酸化窒素合成酵素活性化、細胞脱顆粒、及びアポトーシスのような、カルシウム依存性イベントの阻害をもたらすカルシニューリンホスファターゼを阻害する(Thomson,et al.,Ther Drug Monit 17,584-591,1995)。別の小分子、PF05231023は、FGF21の類似体として働くことが報告された(Thompson,et al.,J Pharmacokinet Pharmacodyn 43,411-425,2016)。
【0045】
[0055]FGFシグナル伝達の下流経路の負の制御因子の標的化は、FGFを置き換えることができる小分子を見出す別の手法である。これらの阻害剤の1つは、(E/Z)-BCI塩酸塩であり、ERK経路を活性化することによりFGF経路を過活性化するDusp6阻害剤が、ゼブラフィッシュ心臓モデルで示された(Molina,et al.,Nat Chem Biol 5,680-687,2009)。
【0046】
[0056]本開示は、細胞培養培地中の1つ又はそれ以上の増殖因子活性化剤、例えば線維芽細胞増殖因子(FGF)シグナル伝達を置き換える1つ又はそれ以上の小分子の添加を考える。したがって、本開示の一態様は、無血清培地及び1つ又はそれ以上のFGF活性化剤を含む細胞培養培地を提供する。一部の実施形態では、細胞培養培地は、ペプチドベースホルモン又はステロイドベースホルモンを除く任意のタンパク質ベース増殖因子を本質的に欠く。一部の実施形態では、1つ又はそれ以上のFGF活性化剤は、FGFシグナル伝達経路を活性化する1つ又はそれ以上の小分子である。
【0047】
[0057]哺乳動物は、18個のFGF型(FGF1~FGF10及びFGF16~FGF23)を含有し、系統発生及び配列相同性に基づき、6つの異なるサブファミリーにグループ分けされている。4つのFGFは、類似の内部コアを共有し、ヘパリンと線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)の両方に特徴的に高い結合親和性を有する。FGFRは、ヘパリン結合配列、3つの細胞外免疫グロブリン様ドメイン(D1~D3)、疎水性膜貫通ドメイン、及び細胞内スプリットチロシンキナーゼドメインを含有するチロシンキナーゼ受容体である。哺乳動物FGFRファミリーは4つのメンバー(FGFR1~FGFR4)からなる。受容体のアミノ酸配列は高度に保存され、それらのリガンド親和性及び組織分布においてのみ違いがある。FGFRの特徴は、D1ドメインとD2ドメインの間のリンカーにおけるセリンリッチな酸性配列である酸ボックスである(Beenken,et al.,Nat Rev Drug Discov 8,235-253,2009)。酸ボックス及びD1ドメインは、受容体自己抑制に役割を果たすと考えられる。D2~D3断片は、リガンド特異性及び結合に必要とされる。脊椎動物では、4つの遺伝子がFGFR(FGFR1~FGFR4)をコードし、それらの細胞外ドメインにおいて選択的スプライシングされ、それらのリガンドに異なる親和性を有するFGFR1~FGFR4の多くのバラエティーを作り出す。
【0048】
[0058]FGFシグナル伝達カスケードは、FGFリガンドのFGFRヘの結合によって開始される。FGF結合後、リガンド依存的二量体化イベントが起こり、2つのFGF、2つのヘパリン硫酸鎖、及び2つのFGFRからなる複合体が形成される。各リガンドは両受容体に結合し、受容体はD2ドメインのパッチを介して互いに接触させる。これは、内因性のチロシンキナーゼドメインによる、各受容体単量体のトランスリン酸化を促進する。少なくとも7個のリン酸化部位が、FGFR1に関して同定された(Tyr163、Tyr583、Tyr585、Tyr653、Tyr654、Tyr730、及びTyr766)。ホスホチロシン基は、下流のシグナル伝達を制御するアダプタータンパク質のドッキング部位として寄与する。FGFシステムは、いくつかの下流のシグナル伝達経路と関連し、中でも最も理解されているのはRAS/マイトジェン活性化タンパク質(MAP)キナーゼ経路、ホスホイノシチド3(PI3)キナーゼ/AKT経路、及びホスホリパーゼCガンマ(PLCγ)経路である。
【0049】
[0059]FGFシグナル伝達と関連する主な下流の経路は、RAS/MAPキナーゼ経路である。この経路は、細胞増殖及び分化の間に関与する。MAPキナーゼは、細胞外刺激に応答して作用し、様々な細胞過程を制御するセリン/スレオニンタンパク質キナーゼである。MAPキナーゼエフェクターの例としては、c-Jun N末端キナーゼ(JNK)、細胞外シグナル制御キナーゼ(ERK)、及びp38マイトジェン活性化キナーゼが挙げられる。FGFリガンドがその受容体に結合後、シグナル伝達経路における必須のステップは、ドッキングタンパク質線維芽細胞増殖因子受容体基質2アルファ(FRS2α)のチロシン残基のリン酸化である。これは、シグナル活性化と関連するアダプタータンパク質の結合を可能にする。FRS2α、グアニンヌクレオチド交換因子2(GRB2)、GRB2関連結合タンパク質1(GAB1)、セブンレスの息子(SOS)、及びチロシンホスファターゼ(SHP2)からなるFRS2複合体が次いで形成され、RAS/MAPキナーゼ及びPI3キナーゼ/AKT経路の活性化を促進する。
【0050】
[0060]PI3キナーゼ/AKT経路は、細胞生存及び細胞運命決定と関連する。この経路は、細胞極性にも影響し得る。RAS/MAPキナーゼ経路のように、FRS2シグナル伝達複合体が形成されると、PI3キナーゼ/AKT経路が開始される。次いでGAB1タンパク質は、PI3キナーゼによって活性化されたFGFRに連結する。PI3キナーゼの下流、ホスホイノシチド依存性キナーゼ及びAKT(抗アポトーシスタンパク質キナーゼ)が活性化される。
【0051】
[0061]活性化されたFGFRの別の標的分子は、PLCγである。この経路は、PLCγ分子が、受容体のリン酸化Tyr766に結合すると活性化される。イノシトール三リン酸(IP3)及びジアシルグリセロール(DAG)は、次いで、活性化PLCγの加水分解によって生成される。IP3に応答して小胞体から放出されたDAG及び細胞質カルシウムは、共にタンパク質キナーゼC(PKC)を活性化する。完全に解明されてはいないが、PLCγキナーゼ経路は細胞形態学、遊走、及び接着に影響する。
【0052】
[0062]以下の表は、Sigma-Aldrich,Inc.から入手可能である一般に認められたモジュレーター及び追加情報を含有する。
【0053】
【表1-1】
【0054】
【表1-2】
【0055】
[0063]表の略称:PD161570:1-Tert-ブチル-3-[6-(2,6-ジクロロ-フェニル)-2-(4-ジエチルアミノ-ブチルアミノ)-ピリド[2,3-d]ピリミジン-7-イル]尿素;PD166285:6-(2,6-ジクロロフェニル)-2-[[4-[2-(ジエチルアミノ)エトキシ]フェニル]アミノ]-8-メチル-ピリド[2,3-d]ピリミジン-7(8H)-one二塩酸塩;PD166866:1-[2-アミノ-6-(3,5-ジメトキシ-フェニル)-ピリド[2,3-d]ピリミジン-7-イル]-3-tert-ブチル-尿素;PD173074:N-[2-[[4-(ジエチルアミノ)ブチル]アミノ-6-(3,5-ジメトキシフェニル)ピリド[2,3-d]ピリミジン-7-イル]-N’-(1,1-ジメチルエチル)-尿素;SU5402:3-[4-メチル-2-(2-oxo-1,2-ジヒドロ-インドール-3-イリデンメチル)-1H-ピロール-3-イル]-プロピオン酸。
【0056】
[0064]FGF受容体の公知の活性化剤はないが、複数の上流及び下流の活性化剤があり、その全てがモジュレートされFGF活性化剤となり得る。FGFシグナル伝達に関与する複数の経路があることから、本開示は、FGF活性化を模倣する任意の経路に関与する小分子を意図する。
【0057】
[0065]一部の実施形態では、1つ又はそれ以上の小分子は、2型糖尿病(T2DM)のためのFGF21類似体、インドール誘導体、Wnt経路の活性化剤、免疫抑制特性を有するマクロライド系抗生物質、FGFシグナル伝達の下流経路の負の制御因子の標的、又はこれらの組合せを含む。
【0058】
[0066]一部の実施形態では、1つ又はそれ以上の小分子は、2型糖尿病(T2DM)のためのFGF21類似体を含む。一部の実施形態では、FGF21類似体は、PF-05231023である。
【0059】
[0067]一部の実施形態では、1つ又はそれ以上の小分子は、インドール誘導体を含む。一部の実施形態では、インドール誘導体は、ID-8である。
[0068]一部の実施形態では、1つ又はそれ以上の小分子は、Wnt経路の活性化剤を含む。一部の実施形態では、活性化剤は、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3β(GSK3β)の阻害剤である。一部の実施形態では、活性化剤は、1-アザケンパウロンである。
【0060】
[0069]一部の実施形態では、1つ又はそれ以上の小分子は、免疫抑制特性を有するマクロライド系抗生物質を含む。一部の実施形態では、マクロライド系抗生物質は、タクロリムス(FK-506)である。
【0061】
[0070]一部の実施形態では、1つ又はそれ以上の小分子は、FGFシグナル伝達の下流経路の負の制御因子の標的を含む。一部の実施形態では、標的は、ERK経路を活性化することによりFGF経路を過活性化する阻害剤である。一部の実施形態では、阻害剤は、Dusp6阻害剤である。一部の実施形態では、Dusp6阻害剤は、(E/Z)-BCI塩酸塩である。
【0062】
[0071]1つ又はそれ以上の小分子の濃度(複数可)は、小分子(複数可)の活性に依存する。培地に添加する小分子(複数可)の最適な濃度の決定は、当業者の理解の範囲内である。一部の実施形態では、培地中の小分子(複数可)の濃度(複数可)は、約0.1nM~約100μM、約1nM~約10μM、又は約10nM~約1μMであり得る。一部の実施形態では、培地中の小分子(複数可)の濃度(複数可)は、約0.1nM、0.2nM、0.3nM、0.4nM、0.5nM、0.6nM、0.7nM、0.8nM、0.9nM、1nM、2nM、3nM、4nM、5nM、6nM、7nM、8nM、9nM、10nM、20nM、30nM、40nM、50nM、60nM、70nM、80nM、90nM、100nM、200nM、300nM、400nM、500nM、600nM、700nM、800nM、900nM、1μM、2μM、3μM、4μM、5μM、6μM、7μM、8μM、9μM、10μM、20μM、30μM、40μM、50μM、60μM、70μM、80μM、90μM、100μM、200μM、300μM、400μM、500μM、600μM、700μM、800μM、900μM又は1mMであり得る。
【0063】
[0072]一部の実施形態では、1つ又はそれ以上の小分子は、ID-8、FK-506又はこれらの組合せを含む。一部の実施形態では、ID-8は、約0.5μM~約50μMの濃度である。一部の実施形態では、ID-8は、約0.5μM~約40μMの濃度である。一部の実施形態では、ID-8は、約0.5μM~約30μMの濃度である。一部の実施形態では、ID-8は、約0.5μM~約20μMの濃度である。一部の実施形態では、ID-8は、約0.5μM~約10μMの濃度である。
【0064】
[0073]一部の実施形態では、ID-8は、約1μM~約50μMの濃度である。一部の実施形態では、ID-8は、約1μM~約40μMの濃度である。一部の実施形態では、ID-8は、約1μM~約30μMの濃度である。一部の実施形態では、ID-8は、約1μM~約20μMの濃度である。一部の実施形態では、ID-8は、約1μM~約10μMの濃度である。一部の実施形態では、ID-8は、約1μM~約5μMの濃度である。
【0065】
[0074]一部の実施形態では、ID-8は、約5μMの濃度である。
[0075]一部の実施形態では、FK-506は、約1nM~約20nMの濃度である。一部の実施形態では、FK-506は、約1nM~約10nMの濃度である。一部の実施形態では、FK-506は、約1nM~約5nMの濃度である。一部の実施形態では、FK-506は、約1nM~約2nMの濃度である。
【0066】
[0076]一部の実施形態では、FK-506は、約1nMの濃度である。
[0077]一部の実施形態では、ID-8は約0.5μM~約10μMの濃度であり、FK-506は約1nM~約2nMの濃度である。
【0067】
[0078]さらに一部の実施形態では、ID-8は約1μM~約5μMの濃度であり、FK-506は、約1nM~約2nMの濃度である。
[0079]一部の実施形態では、無血清培地は、動物夾雑物を本質的に欠く。
【0068】
[0080]一部の実施形態では、無血清培地は、ヒト夾雑物を本質的に欠く。
[0081]一部の実施形態では、無血清培地は、任意の抗生物質薬を本質的に欠く。
[0082]本開示の別の態様は、任意の本明細書に開示の細胞培養培地中で細胞を培養することによって培養肉を生産する方法及び培養細胞から培養肉を生産する方法を提供する。本開示のさらなる態様は、本明細書に開示の方法によって生産される培養肉を提供する。
【0069】
[0083]一部の実施形態では、細胞は、食用動物由来である。一部の実施形態では、細胞の供給源は、消費に望ましい任意の食用種であり、限定はされないが、家畜、狩猟動物、家禽、魚、貝類、甲殻類、及び軟体動物が挙げられる。
【0070】
[0084]一部の実施形態では、細胞の供給源は、家畜、例えばウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ラム、ウマ、ロバ、ウサギ、及びラバである。一部の実施形態では、細胞の供給源は、伝統的に「狩猟動物」と考えられる動物、例えばカリブー、クマ、イノシシ、シカ、ヘラジカ、及びムースである。一部の実施形態では、細胞の供給源は、家禽、例えばニワトリ、カモ、ガン、ホロホロチョウ、ウズラ、及びシチメンチョウである。一部の実施形態では、細胞の供給源は、魚、例えばバス、コイ、ナマズ、マジェランアイナメ、タラ、カレイ、オヒョウ、マヒマヒ、アンコウ、カワカマス、パーチ、オレンジラフィー、サケ、ニシンダマシ、フエダイ、メカジキ、ティラピア、マス、及びマグロである。一部の実施形態では、細胞の供給源は、甲殻類、例えばカニ、ザリガニ、ロブスター、クルマエビ、及びシュリンプである。一部の実施形態では、細胞の供給源は、軟体動物、例えば、二枚貝、ムラサキガイ、タコ、カキ、ホタテガイ、及びイカである。
【0071】
[0085]一部の実施形態では、方法は、培養細胞を含み、細胞は線維芽細胞である。線維芽細胞は、食用動物由来であり得る。一実施形態では、線維芽細胞は、ウシ線維芽細胞又はニワトリ線維芽細胞である。
【0072】
[0086]ニワトリ胚線維芽細胞は、ウイルス及びワクチンの製造に広く使用される。ニワトリ胚肝臓細胞と共に、それらは特定の病原体フリー(SPF)の胚から生産され、Charles River Laboratories(Wilmington,MA)及び他の会社によって販売される。ニワトリ肝臓細胞は、それらの哺乳動物相対物のように、培養で限定的な増殖を示すが、ニワトリ線維芽細胞は、腫瘍化せずに自然に不死化する前に、約2.6トンの細胞を生産する、30を超えて集団倍加することができる。UMNSAH/DF-1(CRL-12203)のような、自然に形質転換したニワトリ線維芽細胞は、ATCC(Manassas、VA)から直接購入することができる。線維芽細胞の増殖能は優れているが、細胞は主に食べられない結合組織を形成する。
【0073】
[0087]ニワトリ胚内皮は、容易に単離され得るが、それらの増殖能は未知であり、器官特異的であり得る。マウス内皮細胞は、30集団倍加することができるが、ヒト内皮細胞はめったに12集団倍加を超えない。ニワトリ胚筋肉細胞(筋細胞)は同様に単離され得るが、非常に限定された増殖能を有する。マウス及びヒト肉細胞は、めったに12集団倍加を超えない。筋形成、新しい筋肉組織の形成は、ほとんどの種において、一生の新生児期を過ぎると一般的ではない。本開示の小分子は、この挙動を調節するために概念的に使用され得る。
【0074】
[0088]多くのグループが、ここ10年にわたり、ニワトリ胚幹細胞(cESC)を生産した。細胞は、受精したニワトリ卵から単離され、本質的に不死である。ニワトリ人工多能性幹細胞(ciPSC)は、再プログラム化因子OCT4、NANOG、SOX2、LIN28、KLF4、及びC-MYCによりウズラ胚線維芽細胞から、より近年では、OCT4、KLF4、及びC-MYCを使用してニワトリ線維芽細胞から生産された。細胞は、本質的に不死であるが、遺伝的に操作されている。
【0075】
[0089]近年、マウス多能性幹細胞は、筋細胞、肝細胞、及び内皮細胞並びに複合胚葉体を含む、複数の細胞型の分化を可能にする小分子を使用して線維芽細胞から誘導された。ciPSCの化学誘導は、線維芽細胞を他の細胞型に変換する代替の手法を提供する。
【0076】
[0090]化学化合物は、増殖因子の魅力的な代替物を提供し、遺伝子工学は、通常細胞増殖を支持するか、又は再プログラミング若しくは分化によって1つの細胞型から別の細胞型に変換するために使用される。小分子は高価ではなく、ロット間変異性が低く、非免疫原性であり、よりずっと安定である。一研究では、ハイコンテントスクリーニングを使用して、FPH1及びFPH2、一次ヒト肝細胞の増殖を促進する小分子を同定した(Hou et al.,Science,341(6146):651-654,2013)。この手法は、小分子が無血清培地中で増殖因子を置き換えることができるため、魅力的であり、安定性を増加させる一方で、コストを劇的に削減する。
【0077】
[0091]より近年の研究では、ヒト線維芽細胞の心筋細胞への変換を誘導する9つの化合物の組合せが同定されたが(Shan et al.,Nature Chemical Biology,9:514-520,2013)、その他は、7つの化合物の組合せを使用してマウス線維芽細胞を形質転換する(Cao et al.,Science,352(6290):1216-1220,2016)。多くのシグナル伝達経路が異なる動物間で保存されることを考慮して、比較的類似の組合せを使用してニワトリ線維芽細胞を筋細胞に形質転換することができる。
【0078】
[0092]上記のように、細胞培養培地は、接着因子、脂肪酸、増殖因子、ホルモン、及びアルブミンを提供するウシ胎仔血清(FBS)を含有することが多い。FBSは、通常、トランスフェリン、インシュリン、及び脂質の多いウシ血清アルブミンに加えてアミノ酸、ビタミン、及び微量元素から構成される血清代替物(例えばKO血清)と置き換えることができる。トランスフェリンとインシュリンの両方が、組換え技術を使用して細菌において生産されるが、アルブミンは通常動物由来である。しかしながら、植物及び細菌由来組換えヒトアルブミン(例えばCellastim(商標))は、Sigma-Aldrich(St.Louis,MO)を含む、いくつかの会社から入手できる。
【0079】
[0093]ニワトリ線維芽細胞培地は、伝統的には、10% FBS、トリプトースリン酸及びグルタミンを補充したMI 99培地から構成される。しかしながら、哺乳動物線維芽細胞の増殖のための無血清培地は、現在、容易に入手できる。培地は、0.5mg/mLアルブミン、0.6μMリノレン酸、0.6μg/mLレシチン、5ng/niL bEGF、5ng/niL EGF、30pg/mL TGFpi、7.5mMグルタミン、1μg/mLヒドロコルチゾン、50μg/mLアスコルビン酸、及び5μg/mLインシュリンを補充したMI 99培地から構成される。この培地PSC-201-040は、ATCC(Manassas,VA)から入手でき、ヒト線維芽細胞の4倍速い増殖を支持することが報告されている。ニワトリ肝細胞は、ヒト及びマウス肝細胞のために設計された無血清培養培地によって同様に支持される。培地は、アルブミン、インシュリン、トランスフェリン、及びヒドロコルチゾンを補充したWilliams E基本培地から構成される。
【0080】
[0094]灌流した培養培地は、酸素担体も含み得る。ヘモグロビンベースの酸素担体は、組換え又は化学改変のいずれかのヘモグロビン誘導体、カプセル化ヘモグロビン又は改変(例えば架橋)赤血球を含む。代替物は、Nahmias et al.(The FASEB Journal,20(14):2531-2533)において開発されたもののような、パーフルオロカーボンベースの代替物を含む。
【0081】
[0095]通常、一次線維芽細胞は、限定細胞分化でき、したがって、約30集団倍加(例えば10継代)後に細胞性老化することに注意すべきである。不死化線維芽細胞系を生成する方法は、公知の方法を使用するテロメラーゼ遺伝子、又はSV40、又はHPVE6/E7遺伝子の導入による遺伝子操作を含む。
【0082】
[0096]他の鳥類の線維芽細胞、例えばカモ、ガン、及びウズラ線維芽細胞も好適であると考えられる。
[0097]本開示のさらに別の態様は、任意の本明細書に開示の細胞培養培地中で細胞を培養することによってin vitroで細胞を増殖する方法を提供する。
【0083】
[0098]本発明のさらなる態様は、ペプチドベースホルモン又はステロイドベースホルモンを除く任意のタンパク質ベース増殖因子を本質的に欠く細胞培養培地中の1つ又はそれ以上のFGF活性化剤の使用を提供する。
【0084】
[0099]本明細書に記載される培地、例えば血清代替物、培地サプリメント、完全培地は、in vitroでの細胞、特に、典型的には、in vitroでの十分な増殖のために血清サプリメント又は規定した培地を必要とする細胞の培養に有用であることが考えられる。そのような細胞は、哺乳動物細胞、及び昆虫細胞のような真核細胞を含む。血清代替物、完全培地又は培地サプリメントの使用から利益を考えられる哺乳動物細胞としては、限定はされないが、ハムスター、サル、チンパンジー、イヌ、ネコ、ウシ/雄ウシ、ブタ、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ及びヒト細胞が挙げられる。昆虫細胞としては、スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)(毛虫(caterpillar))、ネッタイシマカ(Aedes aegypti)(蚊(mosquito))、ヒトスジシマカ(Aedes albopictus)(蚊(mosquito))、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)(ミバエ(fruitfly))、及びカイコ(Bombyx mori)由来の細胞が挙げられる。
【0085】
[00100]血清代替物、完全培地又は培地サプリメントによって培養された細胞は、不死化細胞(細胞系)又は非不死化(一次又は二次)細胞であり、in vivoで見出される広範な細胞型のいずれかであり得ることが考えられる。例示的な細胞型としては、限定はされないが、線維芽細胞、ケラチノサイト、上皮細胞、卵巣細胞、内皮細胞、グリア細胞、神経細胞、血液の形成要素(例えば、リンパ球、骨髄細胞)、軟骨細胞及び他の骨由来細胞、肝細胞、膵臓、及びこれらの体細胞型の前駆体が挙げられる。
【0086】
[00101]一部の実施形態では、上記又は本明細書に開示される培地での使用を考えられる細胞は、哺乳動物対象から単離される。哺乳動物対象から単離される細胞としては、限定はされないが、多能性幹細胞、胚性幹細胞、骨髄間質細胞、造血前駆細胞、免疫幹細胞、骨髄幹細胞、リンパ球、T細胞、B細胞、マクロファージ、内皮細胞、グリア細胞、神経細胞、軟骨細胞及び他の骨由来細胞、肝細胞、膵臓細胞、体細胞型の前駆体、及び任意の癌腫又は腫瘍由来細胞が挙げられる。
【0087】
[00102]一部の実施形態では、細胞は細胞系である。例示的な細胞系としては、限定はされないが、CHOK1、DXB-11、DG-44、及びCHO/-DHFRを含むチャイニーズハムスター卵巣細胞;サル腎臓CV1、COS-7;ヒト胎児由来腎臓(HEK)293;ベビーハムスター腎臓細胞(BHK);マウスセルトリ細胞(TM4);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO);ヒト子宮頸部癌細胞(HELA);イヌ腎臓細胞(MDCK);バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A);ヒト肺細胞(W138);ヒト肝癌細胞(HepG2;SK-Hep);マウス乳房腫瘍(MMT);TRI細胞;MRC 5細胞;FS4細胞;T細胞系(Jurkat);B細胞系、マウス3T3、RIN、A549、PC12、K562、PER.C6.RTM.、SP2/0、NS-0、U20S、HT1080、L929、ハイブリドーマ、腫瘍細胞、及び不死化一次細胞が挙げられる。
【0088】
[00103]例示的な昆虫細胞系としては、限定はされないが、Sf9、Sf21、HIGH FIVE.TM.、EXPRESSF+.RTM.、S2、Tn5、TN-368、BmN、Schneider2、D2、C6/36及びKC細胞が挙げられる。
【0089】
[00104]さらなる細胞型及び細胞系が、参照によって本明細書に組み込まれる国際公開第2006/004728号に開示される。これらの細胞としては、限定はされないが、CD34+造血幹細胞及び骨髄系列の細胞、293胎児由来腎臓細胞、A-549、ジャーカット、Namalwa、Hela、293BHK細胞、HeLa子宮頸部上皮細胞、PER-C6網膜細胞(PER.C6)、MDBK(NBL-I)細胞、911細胞、CRFK細胞、MDCK細胞、BeWo細胞、Chang細胞、Detroit562細胞、HeLa229細胞、HeLa S3細胞、Hep-G2細胞、KB細胞、LS 180細胞、LS 174T細胞、NCI-H-548細胞、RPMI2650細胞、SW-13細胞、T24細胞、WI-28 VA13、2RA細胞、WISH細胞、BS-C-I細胞、LLC-MK2細胞、Clone M-3細胞、1-10細胞、RAG細胞、TCMK-I細胞、Y-I細胞、LLC-PK1細胞、PK(15)細胞、GH1細胞、GH3細胞、L2細胞、LLC-RC256細胞、MH1C1細胞、XC細胞、MDOK細胞、VSW細胞、TH-I、B1細胞、又はこれらの誘導体、任意の組織又は器官(限定はされないが、心臓、肝臓、腎臓、結腸、腸、食道、胃、神経組織(脳、脊髄)、肺、血管組織(動脈、静脈、毛細)、リンパ組織(リンパ節、アデノイド、扁桃、骨髄、及び血液)、脾臓、線維芽細胞及び線維芽細胞様細胞系)、TRG-2細胞、IMR-33細胞、Don細胞、GHK-21細胞、シトルリン血症細胞、Dempsey細胞、Detroit551細胞、Detroit510細胞、Detroit525細胞、Detroit529細胞、Detroit532細胞、Detroit539細胞、Detroit548細胞、Detroit573細胞、HEL299細胞、MR-90細胞、MRC-5細胞、WI-38細胞、WI-26細胞、MiC11細胞、CV-I細胞、COS-I細胞、COS-3細胞、COS-7細胞、Vero細胞、DBS-FrhL-2細胞、BALB/3T3細胞、F9細胞、SV-T2細胞、M-MSV-BALB/3T3細胞、K-BALB細胞、BLO-I1細胞、NOR-IO細胞、C3H/IOTI/2細胞、HSDM1C3細胞、KLN205細胞、McCoy細胞、マウスL細胞、Strain 2071(マウスL)細胞、L-M株(マウスL)細胞、L-MTK(マウスL)細胞、NCTCクローン2472及び2555、SCC-PSA1細胞、NSO、NS1、Swiss/3T3細胞、Indian muntjac細胞、SIRC細胞、Cn細胞、Jensen細胞、COS細胞及びSp2/0細胞、それらの模倣細胞及び/又は誘導体が挙げられる。
【0090】
[00105]本明細書で考えた細胞培養条件は、細胞を増殖させるために好適な任意の培養基材に適用してもよい。好適な表面を有する基材としては、組織培養ウェル、培養フラスコ、ローラーボトル、ガス透過容器、平又は平行プレートバイオリアクター又は細胞工場が挙げられる。細胞が、撹拌槽の懸濁液中に維持されるマイクロキャリア又は粒子に接着される培養条件も考えられる。
【0091】
[00106]細胞培養方法は、一般に、Culture of Animal Cells:A Manual of Basic Technique,6th edition,2010(R.I.Freshney ed.,Wiley & Sons);General Techniques of Cell Culture(M.A.Harrison & I.F.Rae,Cambridge Univ.Press)、及びEmbryonic Stem Cells:Methods and Protocols(K.Turksen ed.,Humana Press)に記載される。他の参照テキストは、Creating a High Performance Culture(Aroselli,Hu.Res.Dev.Pr.1996)及びLimits to Growth(D.H.Meadows et al.,Universe Publ.1974)を含む。組織培養サプリ及び試薬は、当業者に周知であり、市販されている。
【0092】
[00107]細胞は、血清代替物、完全培地又は培地サプリメントで使用される特定の細胞系又は単離した細胞型に適切な密度で培養に置かれることが理解される。ある特定の実施形態では、細胞は、1×10、5×10、1×10、5×10、1×10、5×10、1×10又は5×10個の細胞/mlで培養される。
【0093】
[00108]細胞培養培地中の追加の成分も企図される。一部の実施形態では、細胞培養培地が無血清完全培地として使用することができるように、細胞培養培地は、本明細書に記載の基本培地の1つ又はそれ以上の要素及びサプリメント、例えば塩、アミノ酸、ビタミン、緩衝液、ヌクレオチド、抗生物質、微量元素、抗酸化剤及びグルコース又は等価なエネルギー源を含んでもよい。
【0094】
[00109]例示的な無機塩としては、限定はされないが、リン酸カリウム、塩化カルシウム(無水)、硫酸銅、硝酸第二鉄、硫酸第二鉄、塩化マグネシウム(無水)、硫酸マグネシウム(無水)、塩化カリウム、重炭酸ナトリウム、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム二塩基性無水物、リン酸ナトリウム一塩基性、塩化スズ及び硫酸亜鉛が挙げられる。例示的な有機塩としては、限定はされないが、重炭酸ナトリウム又はHEPESが挙げられる。
【0095】
[00110]例示的な糖としては、限定はされないが、デキストロース、グルコース、ラクトース、ガラクトース、フルクトース及びこれらの糖の多量体が挙げられる。
[00111]例示的な抗酸化剤としては、限定はされないが、トコフェロール、トコトリエノール、アルファ-トコフェロール、ベータ-トコフェロール、ガンマ-トコフェロール、デルタ-トコフェロール、アルファ-トコトリエノール、ベータ-トコトリエノール、アルファ-トコフェロールキノン、トロロクス(6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-カルボン酸)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、フラボノイド、イソフラボン、リコピン、ベータカロチン、セレン、ユビキノン、ルテイン(luetin)、S-アデノシルメチオニン、グルタチオン、タウリン、N-アセチルシステイン、クエン酸、L-カルニチン、BHT、モノチオグリセロール、アスコルビン酸、没食子酸プロピル、メチオニン、システイン、ホモシステイン、グルタチオン、シスタミン及びシスタチオニン(cysstathionine)、並びにグリシン-グリシン-ヒスチジン(トリペプチド)が挙げられる。
【0096】
[00112]例示的な微量元素としては、限定はされないが、銅、鉄、亜鉛、マンガン、ケイ素、モリブデン酸(molybdnate)、モリブデン、バナジウム、ニッケル、スズ、アルミニウム、銀、バリウム、臭素、カドミウム、コバルト、クロム、カルシウム、二価カチオン、フッ素、ゲルマニウム、ヨウ素、ルビジウム、ジルコニウム、又はセレンが挙げられる。さらなる微量元素は、国際公開第2006/004728号に開示される。
【0097】
[00113]一部の実施形態では、培地又は液体ベース混合物は、鉄源又は鉄トランスポーターを含む。例示的な鉄源としては、限定はされないが、第二鉄塩及び第一鉄塩、例えば硫酸第一鉄、クエン酸第一鉄、クエン酸第二鉄、硝酸第二鉄、硫酸第二鉄、第二鉄アンモニウム化合物、例えばクエン酸第二鉄アンモニウム、蓚酸第二鉄アンモニウム、フマル酸第二鉄アンモニウム、リンゴ酸第二鉄アンモニウム及びコハク酸第二鉄アンモニウムが挙げられる。例示的な鉄トランスポーターとしては、限定はされないが、トランスフェリン、ラクトフェリンが挙げられる。
【0098】
[00114]一部の実施形態では、培地が無血清完全培地として使用することができるように、培地又は液体ベース混合物は、上記の基本培地の1つ又はそれ以上の要素及びサプリメント、例えば塩、アミノ酸、ビタミン、緩衝液、ヌクレオチド、抗生物質、微量元素、抗酸化剤及びグルコース又は等価なエネルギー源を含んでもよい。
【0099】
[00115]一部の実施形態では、培地又は液体ベース混合物は、銅源又は銅トランスポーター(例えばGHK-Cu)をさらに含み得る。例示的な銅源としては、限定はされないが、塩化銅及び硫酸銅が挙げられる。
【0100】
[00116]一部の実施形態では、鉄源又は銅源は、約0.05~250ng/ml、0.05~100ng/ml、約0.05~50ng/ml、約0.05~10ng/ml、約0.1~5ng/ml、約0.5~2.5ng/ml、又は約1~5ng/mlの範囲の最終濃度で血清代替物培地に添加される。鉄源又は銅源が、約0.05、0.1、0.25、0.35、0.45、0.5、0.6、0.7、0.8、1、1.5、2、2.5、3、4、5、6、7、8、9、又は10ng/mlの血清代替物の最終濃度であることがさらに考えられる。
【0101】
[00117]一部の実施形態では、血清代替物又は培地サプリメントが基本培地に添加された。標準的な基本培地は、細胞培養の分野で公知であり、市販されている。基本培地の例としては、限定はされないが、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、DMEM F12(1:1)、イスコフ改変ダルベッコ培地、Ham’s栄養混合物F-10又はF-12、ロズウェルパーク記念研究所培地(RPMI)、MCDB131、Click’s培地、McCoy’s 5A培地、培地199、William’s培地E、並びにGrace’s培地及びTNM-FHのような昆虫培地が挙げられる。
【0102】
[00118]本明細書に記載される血清代替物及び培地サプリメントは、市販の無血清培養培地での使用のためにも考えられる。例示的な無血清培地としては、限定はされないが、AIM-V(Life Technologies,Carlsbad,Calif.)、PER-C6(Life Technologies,Carlsbad,Calif.)、Knock-Out(商標)(Life Technologies)、StemPro(登録商標)(Life Technologies)、CellGro(登録商標)(Corning Life Sciences-Mediumtech Inc.,Manassas,VA.)が挙げられる。
【0103】
[00119]任意のこれらの培地は、場合により、塩(塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、及びリン酸など)、アミノ酸、ビタミン、緩衝液(HEPESなど)、ヌクレオチド(アデノシン及びチミジンなど)、抗生物質(ゲンタマイシン薬など)、微量元素(マイクロモル範囲の最終濃度で通常存在する無機化合物として定義される)、抗酸化剤及びグルコース又は等価なエネルギー源を補充される。任意の他の必要なサプリメントも、当業者に公知であろう適切な濃度で含まれ得る。温度、pH等のような培養条件は、当業者には明らかであろう。
【0104】
[00120]培地組成物は、単位形態でパッケージされることが考えられる。一実施形態では、培地(血清代替物、培地サプリメント、完全培地又は凍結保存培地)は、10ml、50ml、100ml、500ml又は1Lの容積でパッケージされる。
【0105】
[00121]本開示は、上記及び本明細書に記載される細胞培養培地及び使用のための説明書を含むキットをさらに提供する。一部の実施形態では、培地は、ラベルが貼り付けられた容器中にパッケージされるか又はin vitro、in vivo、又はex vivoでの使用のための組成物の使用を記載するパッケージ中に含まれる。例示的な容器としては、限定はされないが、容器、バイアル、チューブ、アンプル、ボトル、フラスコ等が挙げられる。容器は、液体又は凍結形態の培地、例えば血清代替物又は培地サプリメントをパッケージするために適当であることがさらに考えられる。容器は、限定はされないが、ガラス、ポリプロピレン、ポリスチレン、及び他のプラスチックを含む、当技術分野で周知の材料から作成されることが考えられる。一部の実施形態では、組成物は、単位剤形でパッケージされる。キットは、場合により、血清代替物又は培地サプリメントを基本培地と組み合わせるのに好適な装置を含む。一部の実施形態では、キットは、ラベル及び/又は細胞培養若しくは凍結保存のための培地の使用を記載する説明書を含有する。
【0106】
[00122]本明細書に引用した又はそれらの審査中の全ての出願及び全ての文書(「出願に引用した文書」)並びに出願に引用した文書に引用した若しくは参照した全ての文書、並びに本明細書に引用又は参照した全ての文書(「本明細書に引用した文書」)、並びに本明細書に引用した文書に引用又は参照した全ての文書は、本明細書又は本明細書に参照によって組み込まれる任意の文書に記載される任意の製品のための任意の製造業者の説明書、記載、製品仕様、及び製品シートと共に、参照によって本明細書に組み込まれ、本発明の実施に用いられてもよい。より詳細には、全ての参照した文書は、各個々の文書が参照によって組み込まれることを特に及び個々に示されたように、同程度まで参照によって組み込まれる。
【0107】
[00123]以下の実施例は、例示のために提示され、限定のためではない。
【実施例
【0108】
実施例1:ウシ線維芽細胞増殖へのID-8及び/又はFK-506の効果
[00124]ウシ足場非依存性線維芽細胞は、標準的な分化プロトコールによって足場非依存性脂肪細胞へと分化させた。FMT-SBF-1(ウシ非接着線維芽細胞)は、PPARガンマアゴニストと共に200μMオレイン酸を含有する脂肪生成培地中で増殖させた。合成阻害剤(ロシグリタゾン)及び天然阻害剤(プリスタン酸)を両方試験した。
【0109】
[00125]ウシ線維芽細胞増殖へのID-8及び/又はFK-506(単独又は組合せ)の効果を評価した。懸濁培養に適応させたウシ線維芽細胞は、細胞培養フラスコの全容積20ml中に30万個/mlで播種した。フラスコは、100rpm、37℃、及び5% COで、震盪インキュベーター中に維持した。3日目に、APOI染色による自動細胞計数器(Cellaca(登録商標))を使用して細胞計数を実施し、細胞数から死細胞を除いた。
【0110】
[00126]結果を図1に示す。ID-8単独(1μM)は、FGF(10ng/ml)と比較してウシ線維芽細胞増殖に匹敵する効果を得られ、ID-8が細胞培養培地中でFGFを少なくとも部分的に置き換えることができることを示す。FK-506単独(2nM)は、FGF(10ng/ml)と比較してウシ線維芽細胞増殖に匹敵する効果を得られなかった。FK-506は、この研究ではID-8よりもずっと低濃度で試験されたことに注意されたい。結果は、両小分子、ID-8(1μM)及びFK-506(2nM)の組合せが、FGF対照(10ng/ml)と比較した場合、培養の3日後に最大細胞増殖を示したことをさらに示す。ID-8とFK-506の濃度は、それぞれ約0.5μM~約10μM、及び約2nM~約10nMの範囲で変わり得ることが予測される。この研究は、ID-8とFK-506の両方の組合せが、ウシ線維芽細胞のための無血清培養培地中のFGFを完全に置き換えることができることを示す。
【0111】
[00127]
実施例2:ニワトリ線維芽細胞増殖へのID-8及び/又はFK-506の効果
[00128]ニワトリ足場非依存性線維芽細胞は、標準的な分化プロトコールによって足場非依存性脂肪細胞へと分化させた。FMT-SCF-2(ニワトリ非接着線維芽細胞)を、PPARガンマアゴニストと共に200μMオレイン酸を含有する脂肪生成培地中で増殖させた。合成阻害剤(ロシグリタゾン)及び天然阻害剤(プリスタン酸)を両方試験した。
【0112】
[00129]ニワトリ線維芽細胞増殖へのID-8及びFK-506の効果を評価した。懸濁培養に適応させたニワトリ線維芽細胞は、細胞培養フラスコの全容積20ml中に30万個/mlで播種した。フラスコは、100rpm、39℃、及び5% COで、震盪インキュベーター中に維持した。3日目に、APOI染色による自動細胞計数器(Cellaca(登録商標))を使用して細胞計数を実施し、細胞数から死細胞を除いた。
【0113】
[00130]結果を図2に示す。ID-8(0.5μM)とFK-506(2nM)の組合せは、FGF対照(10ng/ml)と比較して細胞増殖に類似の効果を示した。ID-8とFK-506の濃度は、それぞれ約0.5μM~約10μM、及び約2nM~約10nMの範囲で変わり得ることが予測される。この研究は、ID-8とFK-506の両方の組合せが、ニワトリ線維芽細胞のための無血清培養培地中のFGFを完全に置き換えることができることを示す。
【0114】
実施例3:ヒツジ線維芽細胞へのID-8及びFK-506の勾配濃度の効果
[00131]ID-8は約1~50μM、FK-506は約1~50nMの範囲の両小分子(ID-8及びFK-506)の勾配濃度の効果を、ヒツジ線維芽細胞2D培養で試験した。ヒツジ線維芽細胞は、1000個の細胞/ウェルの密度で96ウェルプレートに播種した。無血清培地中のID-8及びFK-506を、会社のプロトコールに従ってXTT(Biological Industries、Israelの細胞増殖アッセイ)に添加する前に48時間線維芽細胞とインキュベートした。比色分析シグナルは、XTT添加の8時間後に測定した。ブランク(培地のみ)測定値は、試料測定値から差し引いた(n=4)。
【0115】
[00132]結果は、FK-506が約1~2nMの濃度、ID-8が約1~5μMの濃度(最適濃度)であった場合、最良の細胞増殖が得られたことを示す(図3)。より高い濃度のID-8(例えば10μM又は50μM)は、依然として対照(FGFなし)よりも良い細胞増殖を示した。一方、より高い濃度のFK-506(例えば5nM、20nM、又は50nM)は、1μMの最適濃度のID-8にのもとでも細胞増殖に著しい効果を示さなかった。
【0116】
[00133]本発明及びその利点を詳細に記載したが、添付の請求項に規定した本発明の精神及び範囲を逸脱することなく、様々な変更、置換及び改変が本明細書で行われ得ることは理解されるはずである。
【0117】
[00134]当業者は、本発明が、目的を実行する、並びに記載した並びにそれらに固有の目的及び利点を得るために十分に適応されることを容易に理解するであろう。本明細書に記載の方法に沿った本実施例は、現在、好ましい実施形態の代表であり、例示であり、本発明の範囲の限定として意図されない。その変更及び他の使用は、当業者に想起され、それらは請求項の範囲によって規定されたように、本発明の範囲内に包含される。
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2022-09-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
食用動物由来の細胞を培養するための細胞培養培地であって、無血清培地及び1つ又はそれ以上の線維芽細胞増殖因子(FGF)活性化剤を含み、前記1つ又はそれ以上のFGF活性化剤は、インドール誘導体、マクロライド系抗生物質、又はこれらの組合せを含む、細胞培養培地。
【請求項2】
前記培地が、1ng/ml未満のFGF、上皮増殖因子(EGF)、トランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β)、又はこれらの組合せを含む、請求項1に記載の細胞培養培地。
【請求項3】
前記培地が、ペプチドベースホルモン又はステロイドベースホルモンを除く任意のタンパク質ベース増殖因子を本質的に欠く、請求項1に記載の細胞培養培地。
【請求項4】
前記インドール誘導体が、ID-8である、請求項に記載の細胞培養培地。
【請求項5】
前記マクロライド系抗生物質が、タクロリムス(FK-506)である、請求項に記載の細胞培養培地。
【請求項6】
前記1つ又はそれ以上のFGF活性化剤が、ID-8及びFK-506を含む、請求項に記載の細胞培養培地。
【請求項7】
ID-8が、約0.5μM~約50μMの濃度である、請求項に記載の細胞培養培地。
【請求項8】
FK-506が、約1nM~約20nMの濃度である、請求項に記載の細胞培養培地。
【請求項9】
ID-8が、約0.5μM~約50μMの濃度であり、FK-506が、約1nM~約20nMの濃度である、請求項に記載の細胞培養培地。
【請求項10】
ID-8が、約1μM~約10μMの濃度であり、FK-506が、約1nM~約2nMの濃度である、請求項に記載の細胞培養培地。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の細胞培養培地及び使用のための説明書を含むキット。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか一項に記載の細胞培養培地中で食用動物由来の細胞を培養するステップ、及び培養細胞から培養肉を生産するステップを含む、培養肉を生産する方法。
【請求項13】
前記食用動物が、家畜、狩猟動物、家禽、魚、甲殻類、又は軟体動物である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記細胞が、線維芽細胞を含む、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記線維芽細胞が、ウシ線維芽細胞又はニワトリ線維芽細胞又はヒツジ線維芽細胞である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
請求項1215のいずれか一項に記載の方法によって生産される培養肉。
【請求項17】
前記細胞が、単一細胞懸濁液として培養される、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記細胞が、CHO細胞又はEB66細胞を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
請求項1~10のいずれか一項に記載の細胞培養培地中で食用動物由来の細胞を培養するステップを含む、in vitroで食用動物由来の細胞を増殖させる方法。
【請求項20】
食用動物由来の細胞を培養するための細胞培養培地中の1つ又はそれ以上のFGF活性化剤の使用であって、前記1つ又はそれ以上のFGF活性化剤が、インドール誘導体、免疫抑制特性を有するマクロライド系抗生物質、又はこれらの組合せを含み、前記培地が、ペプチドベースホルモン又はステロイドベースホルモンを除く任意のタンパク質ベース増殖因子を本質的に欠く、使用。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0117
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0117】
[00134]当業者は、本発明が、目的を実行する、並びに記載した並びにそれらに固有の目的及び利点を得るために十分に適応されることを容易に理解するであろう。本明細書に記載の方法に沿った本実施例は、現在、好ましい実施形態の代表であり、例示であり、本発明の範囲の限定として意図されない。その変更及び他の使用は、当業者に想起され、それらは請求項の範囲によって規定されたように、本発明の範囲内に包含される。
発明の態様
[態様1]無血清培地及び1つ又はそれ以上の線維芽細胞増殖因子(FGF)活性化剤を含む細胞培養培地。
[態様2]前記培地が、1ng/ml未満のFGF、上皮増殖因子(EGF)、トランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β)、又はこれらの組合せを含む、態様1に記載の細胞培養培地。
[態様3]前記培地が、ペプチドベースホルモン又はステロイドベースホルモンを除く任意のタンパク質ベース増殖因子を本質的に欠く、態様1に記載の細胞培養培地。
[態様4]前記1つ又はそれ以上のFGF活性化剤が、FGFシグナル伝達経路を活性化する1つ又はそれ以上の小分子である、態様1~3のいずれかに記載の細胞培養培地。
[態様5]前記1つ又はそれ以上の小分子が、2型糖尿病(T2DM)のためのFGF21類似体、インドール誘導体、Wnt経路の活性化剤、免疫抑制特性を有するマクロライド系抗生物質、FGFシグナル伝達の下流経路の負の制御因子の標的、又はこれらの組合せを含む、態様4に記載の細胞培養培地。
[態様6]前記1つ又はそれ以上の小分子が、インドール誘導体を含む、態様5に記載の細胞培養培地。
[態様7]前記インドール誘導体が、ID-8である、態様6に記載の細胞培養培地。
[態様8]前記1つ又はそれ以上の小分子が、免疫抑制特性を有するマクロライド系抗生物質を含む、態様4に記載の細胞培養培地。
[態様9]前記マクロライド系抗生物質が、タクロリムス(FK-506)を含む、態様8に記載の細胞培養培地。
[態様10]前記1つ又はそれ以上の小分子が、ID-8及びFK-506を含む、態様5に記載の細胞培養培地。
[態様11]ID-8が、約0.5μM~約50μMの濃度である、態様7又は10に記載の細胞培養培地。
[態様12]ID-8が、約1μM~約10μMの濃度である、態様11に記載の細胞培養培地。
[態様13]FK-506が、約1nM~約20nMの濃度である、態様9又は10に記載の細胞培養培地。
[態様14]前記FK-506が、約1nM~約2nMの濃度である、態様13に記載の細胞培養培地。
[態様15]ID-8が、約0.5μM~約50μMの濃度であり、FK-506が、約1nM~約20nMの濃度である、態様10に記載の細胞培養培地。
[態様16]ID-8が、約1μM~約10μMの濃度であり、FK-506が、約1nM~約2nMの濃度である、態様15に記載の細胞培養培地。
[態様17]前記1つ又はそれ以上の小分子が、2型糖尿病(T2DM)のためのFGF21類似体を含む、態様5に記載の細胞培養培地。
[態様18]前記FGF21類似体が、PF-05231023である、態様17に記載の細胞培養培地。
[態様19]前記1つ又はそれ以上の小分子が、Wnt経路の活性化剤を含む、態様5に記載の細胞培養培地。
[態様20]前記活性化剤が、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3β(GSK3β)の阻害剤である、態様19に記載の細胞培養培地。
[態様21]前記活性化剤が、1-アザケンパウロンである、態様20に記載の細胞培養培地。
[態様22]前記1つ又はそれ以上の小分子が、FGFシグナル伝達の下流経路の負の制御因子の標的を含む、態様5に記載の細胞培養培地。
[態様23]前記標的が、ERK経路を活性化することによってFGF経路を過活性化する阻害剤である、態様22に記載の細胞培養培地。
[態様24]前記阻害剤が、Dusp6阻害剤である、態様23に記載の細胞培養培地。
[態様25]前記Dusp6阻害剤が、(E/Z)-BCI塩酸塩である、態様24に記載の細胞培養培地。
[態様26]態様1~25のいずれかに記載の細胞培養培地及び使用のための説明書を含むキット。
[態様27]態様1~25のいずれかに記載の細胞培養培地中で細胞を培養するステップ、及び培養細胞から培養肉を生産するステップを含む、培養肉を生産する方法。
[態様28]前記細胞が、食用動物由来である、態様27に記載の方法。
[態様29]前記食用動物が、家畜、狩猟動物、家禽、魚、甲殻類、又は軟体動物である、態様28に記載の方法。
[態様30]前記細胞が、線維芽細胞を含む、態様27~29のいずれかに記載の方法。
[態様31]前記線維芽細胞が、ウシ線維芽細胞又はニワトリ線維芽細胞である、態様30に記載の方法。
[態様32]態様27~31のいずれかに記載の方法によって生産される培養肉。
[態様33]前記細胞が、単一細胞懸濁液として培養される、態様27に記載の方法。
[態様34]前記細胞が、CHO細胞又はEB66細胞を含む、態様33に記載の方法。
[態様35]態様1~25のいずれかに記載の細胞培養培地中で細胞を培養するステップを含む、in vitroで細胞を増殖させる方法。
[態様36]細胞培養培地中の1つ又はそれ以上のFGF活性化剤の使用であって、前記培地が、ペプチドベースホルモン又はステロイドベースホルモンを除く任意のタンパク質ベース増殖因子を本質的に欠く、使用。
【国際調査報告】