(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-17
(54)【発明の名称】神経系への増強された薬物送達の方法
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20230310BHJP
A61P 25/02 20060101ALI20230310BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20230310BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20230310BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20230310BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P25/02
A61K9/08
A61K47/02
A61K47/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022544654
(86)(22)【出願日】2021-01-22
(85)【翻訳文提出日】2022-08-26
(86)【国際出願番号】 US2021014789
(87)【国際公開番号】W WO2021151019
(87)【国際公開日】2021-07-29
(32)【優先日】2020-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】592017633
【氏名又は名称】ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】アンダーソン リチャード ロックス
(72)【発明者】
【氏名】ガリビャン リリト
(72)【発明者】
【氏名】ワン イン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076BB11
4C076BB13
4C076CC01
4C076DD23
4C076DD38
4C076FF34
4C084AA17
4C084NA05
4C084NA11
4C084NA13
4C084ZA20
(57)【要約】
本明細書において、神経周膜バリアー(例えば、神経-組織)、神経内膜バリアー(例えば、血液-神経または「BNB」)、シュワン細胞バリアー、および血液脳関門の1つまたは複数を可逆的に破壊することによって、1つまたは複数の末梢神経または中枢神経系への1種または複数種の作用物質の効率的な送達を可能にする方法が開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者において末梢神経の周りの領域にアイススラリーを注入する段階であって、末梢神経の周りの血液神経関門の透過性を増加させる、段階;および
患者に薬物を投与する段階
を含む、患者において末梢神経に薬物を投与する方法。
【請求項2】
前記投与する段階が、患者に対し静脈内に薬物を導入することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記投与する段階が、アイススラリーが注入されている位置と同じ位置にまたはその近傍に薬物を注入することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記投与する段階が、患者に投与されるアイススラリー中に薬物を含むことを含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記投与する段階が、アイススラリーを注入した後に薬物を投与することを含む、請求項1~3のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
前記投与する段階が、アイススラリーを注入した5分後に行われる、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記投与する段階が、アイススラリーを注入した24時間後に行われる、請求項5記載の方法。
【請求項8】
前記注入する段階が、末梢神経を囲む組織を損傷しない、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
注入されるアイススラリーの量が15 mLである、請求項1~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
注入されるアイススラリーの量が10 mLである、請求項1~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
注入されるアイススラリーの量が5 mLである、請求項1~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
注入されるアイススラリーの量が5 mL未満である、請求項1~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
患者において末梢神経の周りの領域にアイススラリーを注入する段階であって、末梢神経の周りの血液神経関門の透過性を増加させる、段階;および
患者に物質を投与する段階
を含む、患者において末梢神経に物質を投与する方法。
【請求項14】
物質が、薬物、生物製剤、核酸、成長因子、および麻酔薬からなる群より選択される、請求項13記載の方法。
【請求項15】
対象において末梢神経の周りの領域にアイススラリーを注入する段階であって、末梢神経の周りの神経内膜バリアーの透過性を増加させる、段階、および
患者に薬物を投与する段階
を含む、患者において末梢神経に薬物を投与する方法。
【請求項16】
前記投与する段階が、患者に対し静脈内に薬物を導入することを含む、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記投与する段階が、アイススラリーを注入した位置と同じ位置に薬物を注入することを含む、請求項15記載の方法。
【請求項18】
前記投与する段階が、患者に投与されるアイススラリー中に薬物を含むことを含む、請求項15記載の方法。
【請求項19】
前記投与する段階が、アイススラリーを注入した後に薬物を投与することを含む、請求項15~17のいずれか一項記載の方法。
【請求項20】
前記投与する段階が、アイススラリーを注入した5分後に行われる、請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記投与する段階が、アイススラリーを注入した24時間後に行われる、請求項19記載の方法。
【請求項22】
前記注入する段階が、末梢神経を囲む組織を損傷しない、請求項15~21のいずれか一項記載の方法。
【請求項23】
注入されるアイススラリーの量が15 mLである、請求項15~22のいずれか一項記載の方法。
【請求項24】
注入されるアイススラリーの量が10 mLである、請求項15~22のいずれか一項記載の方法。
【請求項25】
対象において末梢神経の周りの領域にアイススラリーを注入する段階であって、末梢神経の周りの神経周膜バリアーの透過性を増加させる、段階、および
患者に薬物を投与する段階
を含む、患者において末梢神経に薬物を投与する方法。
【請求項26】
前記投与する段階が、患者に対し静脈内に、筋肉内に、または経口的に薬物を導入することを含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、その内容が参照によりその全体が本明細書に組み入れられる、2020年1月23日に出願された米国特許仮出願第62/964,988号に対して、35 U.S.C.§119(e)に基づく優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
末梢神経は、神経上膜、神経周膜、および神経内膜で構成される結合組織の保護層で包まれている。これは次に、髄鞘の層で包まれている。これらの物理的バリアーは、刺激伝達要素を遮蔽するように機能する。同様に、中枢神経系の一部は、内皮細胞、星状膠細胞の足突起、および周皮細胞で構成される、血液脳関門(BBB)として公知の拡散バリアーによって取り囲まれている。Ballabh, P. et al. Neurobiol. Dis. 2004, 16(1), 1-13(非特許文献1)を参照。脳内皮細胞間に存在するタイトジャンクションは、大部分の血液由来の物質を脳への進入から選択的に排除する、拡散バリアーを形成する。同上。星状膠細胞の足突起は、血管壁を密に鞘で覆っており、タイトジャンクションバリアーの誘導および維持に重要であるように見えるが、星状膠細胞は、哺乳類の脳においてバリアー機能を有しているとは考えられていない。同上。
【0003】
これらのバリアーはまた、安定な環境を確立し、神経および脳への有害な作用物質の透過を妨げる。しかしながら、それらはまた、治療のために神経または脳を標的とするように開発された薬物の透過も制限する。したがって、作用物質、例えば、薬物、化合物、核酸(mRNA、RNAi、およびウイルスベクターに基づく薬物におけるものなど)、および生物製剤を末梢神経に投与して、神経障害性疼痛を抑えるまたは軽減することは、作用物質が神経内膜、神経周膜、および/または血液神経関門(「BNB」)を通過して拡散する能力に左右される。例えば、末梢神経を標的とするために開発された局所麻酔薬または任意の薬物は、それらの標的部位に到達するためには、神経上膜、神経周膜、および神経内膜を透過しなければならない。したがって、単離された神経細胞での濃度よりも高い濃度の局所麻酔薬が臨床上用いられる。より高い濃度では、ほとんどの局所性、全身性、または新規の麻酔薬は全身毒性を有し、臨床でのそれらの使用を制限する。加えて、生物製剤などのある特定の作用物質は、末梢神経バリアーを通過して作用部位に到達することができないために、末梢神経の処置での使用に成功していない。経口または静脈内鎮痛薬もまた、血液神経関門を通過して神経における作用の標的部位に到達するのに困難を有する。同様の懸念が、中枢神経系を処置するための作用物質、例えば、薬物、化合物、核酸、および生物製剤の脳への投与にも当てはまる。
【0004】
したがって、低分子、生物製剤、核酸に基づく薬物、麻酔薬が末梢神経および脳を囲む生物学的バリアーを通過して流動する能力を改善する方法に対する満たされていないニーズが存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Ballabh, P. et al. Neurobiol. Dis. 2004, 16(1), 1-13
【発明の概要】
【0006】
本明細書において、神経周膜(例えば、神経-組織)、神経内膜(例えば、BNB)、およびシュワン細胞のバリアーの1つまたは複数を一時的に、急速に、および可逆的に破壊することによって、1つまたは複数の末梢神経への1種または複数種の作用物質の効率的な送達を可能にする方法が開示される。これらの方法は、インタクトな神経周膜、神経内膜、および/またはシュワン細胞のバリアーを通過する作用物質の送達および拡散を改善および促進することによって、末梢神経内の作用部位へのより効率的かつ効果的な薬物送達を可能にする。これらの方法は、インタクトな神経周膜、神経内膜、および/またはシュワン細胞のバリアーを通過する作用物質の送達および拡散を改善および促進することによって、末梢神経内の作用部位へのより効率的かつ効果的な薬物送達を可能にする。本明細書において、内皮細胞、星状膠細胞の足突起、および周皮細胞のバリアーの1つまたは複数を可逆的に破壊することによって、中枢神経系への1種または複数種の作用物質の効率的な送達を可能にする方法も開示される。これらの方法は、インタクトな血液脳関門を通過する作用物質の送達および拡散を改善および促進することによって、中枢神経系内の作用部位へのより効率的かつ効果的な薬物送達を可能にする。これらの方法は、神経周膜、神経内膜、およびシュワン細胞のバリアーの一時的かつ一過性の開口を引き起こす。さらに、これらの方法は、神経内皮組織または周囲組織に対して損傷を引き起こさず、適切な組織を選択的に標的とする。
【0007】
冷却スラリー(例えば、アイススラリー)は、その全体が本明細書において組み入れられる米国出願第15/505,042号(「’042出願」;公開番号第US2017/0274011号)に記載されているように、様々な量での、多数の氷粒子を形成する滅菌水、賦形剤または添加剤、例えば、凝固点降下剤、および任意で、1種または複数種の医薬品有効成分で作られている組成物として当技術分野において知られている。本明細書において開示される方法は、1種または複数種の作用物質によるより効果的な処置のために、神経を「プライミング」する、すなわち、神経の周囲でバリアーを開口する、アイススラリーを利用する。いくつかの態様において、作用物質は、低分子、生物製剤、標的指向性イオンチャネルブロッカー、麻酔薬、核酸、RNAもしくはDNAに基づく治療剤、またはそれらの組み合わせである。
【0008】
本明細書において開示される方法によって提供される末梢神経への作用物質の送達の改善は、神経障害性疼痛、知覚麻痺を誘発する外傷性神経損傷の処置、神経ブロック、および/または神経に影響を及ぼす自己免疫疾患の処置を含む、広範囲の適用において有用である。本明細書において開示される方法はまた、局所麻酔薬の適用でも有用であり、適切な神経ブロックを達成するのに必要とされる全身用量を低下させることによって毒性を低減させる。開示された方法は特に、生物製剤、または血液神経関門を通過できない他の分子にとって有用である。開示された方法はまた、標的神経部位での長時間作用性薬物(例えば、リポソームブピバカイン)の輸送および貯蔵でも有用であり、薬物がより長い作用持続時間を有することを可能にする。
【0009】
本明細書において開示される方法は、作用物質、例えば、薬物、生物製剤、成長因子、核酸、または麻酔薬、例えば、テトロドトキシン、ブピバカイン、またはQX314の送達を改善するのに役立つ。薬物には、摂取したときに患者の生理機能または心理状態の変化を引き起こす任意の化学物質が含まれ得る。生物製剤は、糖類、タンパク質、ペプチド、抗体、もしくは核酸、またはこれらの物質の複雑な組み合わせで構成することができる産物であるか、または細胞および組織などの生体実体であってもよい。生物製剤には、ワクチン、血液および血液成分、遺伝子療法、組織、組換え治療用タンパク質、アレルギー剤、および体細胞が含まれ得る。成長因子は、細胞増殖、創傷治癒、および細胞分化を刺激することができる天然に生じる物質である。そのような成長因子には、神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BNDF)、またはグリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)が含まれ得る。核酸治療剤は、核酸または密接に関連している化学物質に基づく。これらには、メッセンジャーRNA、低分子干渉RNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アプタマー、RNA、およびDNA改変遺伝子療法が含まれる。
【0010】
いくつかの態様において、注入されるアイススラリーは、神経周膜(例えば、神経-組織)、神経内膜(例えば、血液-神経または「BNB」)、シュワン細胞、および内皮細胞のバリアーの1つまたは複数を可逆的に破壊するために用いられる。いくつかの態様において、注入されるアイススラリーは、星状膠細胞の足突起および周皮細胞のバリアーの1つまたは複数を可逆的に破壊するために用いられる。いくつかの態様において、注入されるアイススラリーは、末梢神経または脳への作用物質、例えば、薬物、化合物、および生物製剤の標的指向性送達を促進する。
【0011】
いくつかの態様において、本明細書において開示される方法は、1種または複数種の作用物質とアイススラリーとの組み合わせを利用する。いくつかの態様において、1種または複数種の作用物質は、アイススラリーと共に適用される。いくつかの態様において、1種または複数種の作用物質は、アイススラリー後に投与される。例えば、作用物質は、アイススラリーの投与の約5分後、約5~約10分後、約10分~約1時間後、約1時間~約6時間後、約6時間~約12時間後、約12時間~約18時間後、約18時間~約24時間後、および約24時間~約36時間後に投与されてもよい。いくつかの態様において、1種または複数種の作用物質は局所麻酔薬を含む。いくつかの態様において、1種または複数種の作用物質とアイススラリーとの組み合わせは、(1)作用の持続時間(例えば、局所麻酔薬によってもたらされる神経ブロックの持続時間)、(2)1種または複数種の作用物質の作用部位への透過、および(3)生物学的反応に必要とされる1種または複数種の作用物質の量(例えば、1種または複数種の作用物質の量の低減を要し、そのために望ましくない副作用を低減させる)の1つまたは複数を改善する。
【0012】
いくつかの態様において、アイススラリーは、処置の標的とされる患者の末梢神経の周りに注入される。いくつかの態様において、アイススラリーは、処置の標的とされる患者の脳の周りに注入される。いくつかの態様において、アイススラリーは、処置の標的とされる患者の脊髄の周りに注入される。いくつかの態様において、作用物質は、静脈内注入、局所注入、経口投与、またはそれらの組み合わせによって送達される。
【0013】
いくつかの態様において、関心対象の薬物がスラリーと混合され、次いで標的部位に注入される、薬物-デバイスの組み合わせが本明細書において開示される。例えば、テトロドトキシンは、数時間にわたって神経を遮断することができる非常に強力な神経ブロッカーである。しかしながら、それは、疼痛を低減させるのに必要とされる用量では高い全身毒性を有する。本明細書において開示されるようにスラリーと共に送達されるかまたは神経のスラリー処置後に送達される場合、神経ブロックに必要とされるテトロドトキシンの用量は低減し、よって、全身毒性を低減するおよび/またはそれを妨げる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、Richner, M. et al. Frontiers Neurosci. 2019, 12(1038), 1-9において発表された血液神経関門の概略図を含む。
図1Aは、神経上膜コラーゲン原線維(神経上膜)および血管によって鞘で覆われた末梢神経の横断面概略図を表す。無髄軸索および有髄軸索ならびに微小血管からなる個々の神経束が、神経周膜によって鞘で覆われ、神経内膜微小環境を形成する。
図1Bは、内皮細胞、周皮細胞、および基底膜によって囲まれる個々の神経内膜血管の概略図を表す。
図1Cは、タイトジャンクション、周皮細胞、および基底膜によって連結される、内皮細胞によって形成される、血液神経関門の細胞構造の概略図を表す。関門は、血液中を循環する細胞および分子に曝され、神経内膜の構成成分(Remak束、有髄軸索、常在型マクロファージ、および線維芽細胞)を毒性因子から保護する。
図1Dは、拘束型の細胞間バリアーを形成するタイトジャンクションおよび接着結合によって強固に相互連結される、内皮細胞の概略図を表す。Zona occludens-1および-2(ZO-1、ZO-2)は、クローディン5、オクルディン、およびおそらくクローディン12/19と相互作用し、タイトジャンクションを形成する。β-カテニンは、VE-カドヘリンとの組み合わせで、接着結合を形成する。
【
図2】
図2は、2009年6月23日に発表されたWayan Sugiritama、Educational Staff at Medical Faculty of Udayana Universityによるプレゼンテーションから編集されている末梢神経の概略図を表す(https://www.slideshare.net/sugiritama/histologic-structure-of-nervous-system(最終閲覧日2020年1月21日)で入手可能)。
図2はさらに、太い弾性線維を有する密膠質性結合組織で構成される神経上膜を表し、これは過剰な引き伸ばしによる損傷を防ぐ。
図2はまた、密結合組織、類上皮細胞の層で構成され、かつ神経環境を隔離する、神経周膜(すなわち、血液神経関門)も表す。
図2はさらに、神経線維の微小環境を制御する疎性結合組織で構成される神経内膜を表す。
【
図3】
図3は、Ballabh, P. et al. Neurobiol. Dis. 2004, 16(1), 1-13において発表された血液脳関門およびタイトジャンクションの概略図を表す。
図3Aは、内皮、基底膜、周皮細胞、星状膠細胞、およびタイトジャンクションを示す横断面での血液脳関門の概略図を表す。ギャップジャンクション、GFAP、およびアクアポリン4の局在を示す。
図3Bは、内皮タイトジャンクションを示す哺乳類血液脳関門の電子顕微鏡写真を表し、以下から編集されている:The Blood-Brain Barrier Cellular and Molecular Biology Pardridge, W.M. (ed.), Raven Press。
図3Cは、血液脳関門でタイトジャンクションと関連するタンパク質相互作用の略図を表す。クローディン、オクルディン、および接合部接着分子は膜貫通タンパク質であり、ZO-1、ZO-2、およびZO-3、シンギュリン、ならびにその他は細胞質タンパク質である。クローディンは、中間細胞質タンパク質を通じてアクチンに連結される。
【
図4】
図4A~Cは、ラットにおけるアイススラリー注入後1日目の結果を表し、ここで、坐骨神経の神経内膜における血管の透過性変化を試験するために、エバンスブルー(「EB」)色素を静脈を通じて注入した。
図4Aは対照側を表し、
図4Bはアイススラリー処置側を表し、
図4Cは室温スラリー処置群を表す。
【
図5】
図5A~Cは、ラットにおけるアイススラリー注入後3日目の結果を表し、ここで、坐骨神経の神経内膜における血管の透過性変化を試験するために、EB色素を静脈を通じて注入した。
図5Aは対照側を表し、
図5Bはアイススラリー処置側を表し、
図5Cは室温スラリー処置群を表す。
【
図6】
図6は、処置後1日目でのアイススラリー処置後の血管透過性アッセイの結果を示す。
【
図7】
図7は、処置後3日目でのアイススラリー処置後の血管透過性アッセイの結果を示す。
【
図8】
図8は、アイススラリー処置後の血管透過性アッセイの組み合わせ結果を示す。
【
図9】
図9は、室温スラリー処置後の血管透過性アッセイの組み合わせ結果を示す。
【
図10】
図10は、アイススラリーおよび室温スラリー処置後の血管透過性アッセイの組み合わせ結果を示す。
【
図11】
図11A~Fは、1日目での神経内膜内の血管からのEB色素血管外漏出の共焦点画像を示す。画像の明るい部分は、色素が存在する部分を示す。
【
図12】
図12A~Fは、3日目での神経内膜内の血管からのEB色素血管外漏出の共焦点画像を示す。画像の明るい部分は、色素が存在する部分を示す。
【
図13】
図13A~Fは、1日目での坐骨神経の透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示す。
図13B、13Dおよび13F上の白色矢印は、内皮タイトジャンクションの位置を示す。
【
図14】
図14A~Lは、1日目での神経内膜内の血管からの異なる種類のFITC-Dextran色素の血管外漏出の共焦点画像を示す。画像の明るい部分は、色素が存在する部分を示す。
【
図15】
図15A~Bは、神経内膜内の血管からのEB色素およびFITC-Dextran色素の血管外漏出の共焦点画像および明視野画像を示す。共焦点画像の明るい部分は、色素が存在する部分を示す。
【
図16】
図16A~Lは、1日目での神経周膜全体にわたるFITC-Dextran 70色素の分布の共焦点画像および明視野画像を示し、ここで、スラリーまたは対照いずれかの投与の5分後に色素を注入した。
図16A、16C、16E、16G、16I、および16Kの明るい部分は、色素が存在する部分を示す。
【
図17】
図17A~Lは、1日目での神経周膜全体にわたるFITC-Dextran 70色素の分布の共焦点画像および明視野画像を示し、ここで、スラリーまたは対照いずれかの投与の1日後にFITC-Dextran 70色素を注入した。
図17A、17C、17E、17G、17I、および17Kの明るい部分は、色素が存在する部分を示す。
【
図18】
図18A~Lは、1日目での神経周膜全体にわたるFITC-Dextran 70色素の分布の共焦点画像および明視野画像を示し、ここで、スラリーまたは対照いずれかの投与の5分後に色素を注入した。
図18A、18C、18E、18G、18I、および18Kの明るい部分は、色素が存在する部分を示す。
【
図19】
図19A~Lは、1日目での神経周膜全体にわたるFITC-Dextran 70色素の分布の共焦点画像および明視野画像を示し、ここで、スラリーまたは対照いずれかの投与の1日後にFITC-Dextran 70色素を注入した。
図19A、19C、19E、19G、19I、および19Kの明るい部分は、色素が存在する部分を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
詳細な説明
周囲組織および神経それ自体に対して十分に生理的でありかつ非毒性である、注入の直後に末梢神経の透過性を増加させることができる、注射可能なデバイスは、現在存在しない。本明細書において用いられる組成物は、食塩水およびグリセロールなどの成分を含むことから、本開示は、生理的でありかつ生体適合性である方法を提供する。さらに、本明細書において開示される方法において用いられる組成物は注射可能であり、よって、注入の位置および標的とする神経に関して正確な精度が必要とされず、その代わりに、標的神経の近傍での注入が有効であるような、標的領域に浸潤する組成物を提供する。本明細書において開示される方法は周囲組織を損傷せず、神経選択的である。さらに、本明細書において開示される方法は、神経変性を誘導せず、むしろ、末梢神経のタイトジャンクションを選択的に開口し、末梢神経の透過性を増加させる。本明細書において開示される方法は、投与後、末梢神経の神経内膜および/または神経周膜の透過性を増加させるのに非常に急速な作用を有する。最終的に、本明細書において開示される方法は一時的なものであり;神経細胞の透過性は処置の3日目以降に減少する。
【0016】
本明細書において開示される方法は、その全体が本明細書に組み入れられる米国出願第15/505,039号(「’039出願」;公開番号第US2017/0274078号)に開示されるように、シリンジによる注入のみを必要とする低侵襲性であることから、それらは有益である。この投与方法は実施が容易であり、上述および後述の予想外の結果、主に、周囲組織を損傷することなく、末梢神経周囲のバリアーが一時的かつ即時により透過性を高くできるという結果をもたらす。この結果は、神経の変性または周囲組織への損傷を引き起こさない少量のスラリーを用いて達成することができる。
【0017】
1つの態様において、アイススラリーは、’042出願に記載されるような組成物と共に、処置の標的とされる患者の末梢神経の周りに注入される。投与されるスラリーの量は、約1 mL~約5 mL、約5 mL~約7 mL、約7 mL~約9 mL、約9 mL~約11 mL、約11 mL~約13 mL、約13 mL~約15 mL、および約15 mL~約20 mLの範囲内であり得る。投与されるスラリーの温度は、約0℃~約-15℃の範囲内であり得る。スラリー注入後数分から数時間のうちに、血液神経関門はより透過性が高くなり、患者は、標的神経部位への直接注入により、または、例えばIV輸注または経口摂取による、全身投与を介して、治療用薬物、化合物、または生物製剤を受ける。治療用薬物はまた、静脈内注入、局所注入、または経口投与によっても送達することができる。
【0018】
1つの態様において、アイススラリーは、疼痛を処置するために末梢神経系(PNS)におけるイオンチャネルを標的とする低分子および生物製剤の送達前に注入される。これらの種類の薬物の送達は、これらの薬物をPNS軸索上の作用部位に到達させるアイススラリーによる血液神経関門の開口から恩恵を受ける。最近の研究は、末梢神経軸索上に発現している電位依存性ナトリウムイオンチャネル、特に、NaV1.7、NaV1.8、およびNaV1.9が、疼痛シグナル伝達および伝達において重要であることを示している。ある特定のペプチド、例えば、タランチュラに基づく毒素ProTx-IIは、特定のナトリウムチャネルを遮断し、神経細胞が疼痛を誘発するシグナルを伝達するのを妨げることが知られている。これらのチャネルを標的とする生物製剤、ペプチド、およびモノクローナル抗体が疼痛の処置のために開発中である。しかしながら、血液神経関門(BNB)を崩壊させることなしには、これらの新たな薬物は、BNBのせいで、作用を有するように末梢神経上の標的部位に送達させることができない。したがって、そのような薬物の送達のためにBNBを安全かつ一時的に開口するアイススラリーの使用は、末梢神経上のナトリウムチャネルの遮断によって引き起こされる任意の疼痛を処置するのに有益である。
【0019】
別の態様において、アイススラリー処置は、手術由来の疼痛、神経障害、またはPNSから生じる疼痛症候群の低減のための、末梢神経に対する局所性または限局性の麻酔、鎮痛、および神経ブロックに先行する。薬物または化合物の送達を妨害する神経周膜および神経内膜のバリアーを崩壊させることは、必要とされる治療用化合物の用量を低減させるのに有益であり、有害な副作用を制限することができる。神経周膜および神経内膜のバリアーを崩壊させることは、作用部位への標的指向性送達によって薬物の治療効果の持続時間も延ばすことができる。薬物の有効性はまた、BNBを通過する標的指向性送達によっても増加させることができる。例えば、テトロドトキシンまたは長時間作用性のブピバカインもしくはQX314などの薬物は、末梢神経の疼痛を制御するかまたは長時間作用性の知覚麻痺を誘導するのに必要とされる用量では身体に対して毒性を有する。BNBの崩壊によって可能となるより少ない全身用量または局所注入は、これらの薬物の安全な使用を可能にする。
【0020】
1つの局面において、アイススラリーは、遺伝性もしくは炎症性の神経障害においてまたは神経系外傷後に神経の成長または再生を促進することができる成長因子の局所送達前に注入される。末梢神経損傷後、適時かつ無痛の再生を促進するニーズがある。この場合、神経成長因子(NGF)または脳由来神経栄養因子(BNDF)またはグリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)などの成長因子の送達は、患者にとって非常に有益である。したがって、損傷したまたは外傷を与えられた末梢神経軸索への神経再生に必要とされるそのような成長因子または他の因子の送達のためにBNBを安全かつ一時的に開口するためのアイススラリーの使用は、患者にとって非常に有益である。
【0021】
いくつかの態様において、アイススラリー処置は、神経自己免疫疾患、神経障害、または神経炎症性疾患などの神経疾患の遺伝子療法または神経修復もしくは処置の目的での、PNSへの直接的なmRNAまたは核酸に基づく治療剤の送達を改善するために用いることができる。BNBを開口するためのアイススラリーの使用は、核酸(DNAまたはRNA)に基づく治療剤の神経へのより効率的かつ効果的な送達を可能にし、標的指向性遺伝子療法を達成するのをより簡単にする。
【0022】
別の局面において、アイススラリー前処置は、調節可能な放出速度でカーゴ内に組み込まれた薬物の標的指向性送達を促進することができる。例えば、リポソームブピバカインまたは他のリポソーム持続性薬物の送達では、BNBを通過する放出は、疼痛を低減させるそれらの作用の持続時間を潜在的に延長させ、治療効果に必要とされる量を低下させ、作用部位への選択的な標的指向性送達によって副作用をさらに最小化しかつ有効性を増加させることができる。
【0023】
1つの局面において、患者において末梢神経の周りの領域にアイススラリーを注入する段階であって、末梢神経の周りの血液神経関門の透過性を増加させる、段階;および患者に薬物を投与する段階を含む、患者において末梢神経に薬物を投与する方法が、本明細書において開示される。
【0024】
別の局面において、患者において末梢神経の周りの領域にアイススラリーを注入する段階であって、末梢神経の周りの血液神経関門の透過性を増加させる、段階;および患者に物質を投与する段階を含む、患者において末梢神経に物質を投与する方法が、本明細書において開示される。
【0025】
別の局面において、対象において末梢神経の周りの領域にアイススラリーを注入する段階であって、末梢神経の周りの神経内膜バリアーの透過性を増加させる、段階、および患者に薬物を投与する段階を含む、患者において末梢神経に薬物を投与する方法が、本明細書において開示される。
【0026】
別の局面において、対象において末梢神経の周りの領域にアイススラリーを注入する段階であって、末梢神経の周りの神経周膜バリアーの透過性を増加させる、段階、および患者に薬物を投与する段階を含む、患者において末梢神経に薬物を投与する方法が、本明細書において開示される。
【0027】
いくつかの態様において、投与する段階は、患者に対し静脈内に、筋肉内に、または経口的に薬物を導入することを含む。いくつかの態様において、投与する段階は、患者に対し静脈内に薬物を導入することを含む。いくつかの態様において、投与する段階は、患者に対し筋肉内に薬物を導入することを含む。いくつかの態様において、投与する段階は、患者に対し経口的に薬物を導入することを含む。
【0028】
いくつかの態様において、投与する段階は、アイススラリーを注入した位置と同じ位置にまたはその近傍に薬物を注入することを含む。
【0029】
いくつかの態様において、投与する段階は、患者に投与されるアイススラリー中に薬物を含むことを含む。
【0030】
いくつかの態様において、投与する段階は、アイススラリーを注入した後に薬物を投与することを含む。
【0031】
いくつかの態様において、投与する段階は、アイススラリーを注入した5分後に行われる。
【0032】
いくつかの態様において、投与する段階は、アイススラリーを注入した24時間後に行われる。
【0033】
いくつかの態様において、注入する段階は末梢神経を囲む組織を損傷しない。
【0034】
いくつかの態様において、注入されるアイススラリーの量は15 mLである。
【0035】
いくつかの態様において、注入されるアイススラリーの量は10 mLである。
【0036】
いくつかの態様において、注入されるアイススラリーの量は5 mLである。
【0037】
いくつかの態様において、注入されるアイススラリーの量は5 mL未満である。
【0038】
いくつかの態様において、物質は、薬物、生物製剤、核酸、成長因子、および麻酔薬からなる群より選択される。
【0039】
いくつかの態様において、投与する段階は、アイススラリーを注入した位置と同じ位置に薬物を注入することを含む。
【実施例】
【0040】
実施例1:ラットでのアイススラリー処置および血管透過性アッセイ
一例において、36匹のラット(1群当たりn=5 または6)での実験によって、アイススラリーの注入が、1日目および3日目でのEB色素による神経血管透過性アッセイによって示されるように血液神経関門を変化させることが実証される(
図4~5を参照)。この実験は、スラリー投与後の神経細胞の神経内膜の透過性を実証した。
【0041】
アイススラリー処置を以下のように与えた。15 mlのおよそ-5℃~-6℃でのアイススラリー(10%グリセロールを含む0.9%塩化ナトリウム)または15 mlの室温スラリー(10%グリセロールを含む0.9%塩化ナトリウム)を、注入の標準的な方法を用いて、吸入イソフルラン(1~1.5 l/分酸素で1~3%)による短時間麻酔下で、各動物の右側坐骨神経の周囲に注入した。15ゲージの皮下針を注入用に用いた。対照として、左側坐骨神経は未処置のままとした。アイススラリー処置後1日目または3日目に、EB色素(2%、0.8ml)を外側静脈を通じて注入した。組織学的および画像データ用に、神経試料をラットから収集した。EB色素注入の1時間後、左側坐骨神経と右側坐骨神経との両方を回収し、坐骨神経の画像を取り込み、坐骨神経内の青色染色のレベルを評価した。EB色素はまた、回収した組織試料の半分からホルムアミドによって一晩抽出された。血管外漏出のEB色素の吸収極大(630 nm)で比色測定を行った。ホルムアミド中のEB色素の検量線を用いて、吸光度を濃度に変換した。
【0042】
図4A~Cに示すように、各動物の右側坐骨神経の周囲への15 mlのアイススラリーの注入後1日目に、蛍光トレーサ(EB色素)を静脈を通じて注入し、坐骨神経の神経内膜における血管の透過性変化を試験した。坐骨神経をEB色素注入の1時間後に回収した。
図5A~Cに示すように、各動物の右側坐骨神経の周囲への15 mlのアイススラリーの注入の3日後に、EB色素を静脈を通じて注入し、EB色素注入の1時間後での坐骨神経の神経内膜における血管の透過性変化を試験した。
図4~5に提示されるデータは、対照(
図4A)または室温スラリー処置組織(
図4C)に対してアイススラリー処置組織(
図4B)においてより多くのEB色素血管外漏出が存在し、よって処置側での血管透過性の増加を示唆することを、神経を囲む組織におけるより多くの灰色部分(矢印によって示されるような)の出現によって、定性的に示す。
図4Aおよび4Cでは、坐骨神経が隣接組織に進入している、血管の内側を通る灰色部分(矢印を参照)が存在する。しかしながら、
図4Bでは、坐骨神経および周囲組織に分布している、拡散した灰色部分が存在する。透過性は、処置後1日目により高い(
図4B)が、3日目にも依然として存在する(
図5B)。特に、
図5Aでは、坐骨神経が隣接組織に進入している、画像の上部分の血管に沿って通る灰色部分(矢印を参照)が存在する。
図5Cでは、坐骨神経の周囲にある血管中にわずかな灰色部分(矢印を参照)が存在する。一方で、
図5Bには、
図4Bと比較すると強くはないが、画像全体にわたって拡散した灰色部分が存在する。EB色素は血清アルブミンに対して高い親和性を有することから、これらのデータは、アイススラリーが、IgGの軽鎖より大きなサイズである、少なくともおよそ66.5 kDaと同じ位大きな分子の透過性をもたらすことを実証する。したがって、これらの方法は、低分子のみならず、タンパク質に基づく治療剤の送達も提供する。
【0043】
図6は、アイススラリー注入後1日目に坐骨神経試料(各群毎にn=6)から抽出されたEB色素の結果を示す。以下の表1は、
図6に提示したデータの分析を示す。これらの結果は、より多くのEB色素が、アイススラリー注入後1日目に神経内膜バリアーを透過できることを実証する。
【0044】
【0045】
図7は、アイススラリー注入後3日目に坐骨神経試料(各群毎にn=6)から抽出されたEB色素の結果を示す。以下の表2は、
図7に提示したデータの分析を示す。これらの結果は、より多くのEB色素が、アイススラリー注入後3日目に神経内膜バリアーを透過できるが、BNBの透過性は3日目に減少していることを実証する。
【0046】
【0047】
図8は、アイススラリー注入後1日目および3日目に坐骨神経試料(各群毎にn=6)から抽出されたEB色素の結果を示す。以下の表3は、
図8に提示したデータの分析を示す。これらの結果は、より多くのEB色素が、アイススラリー注入後1日目に神経内膜バリアーを透過でき、EB色素透過の量はアイススラリー注入後3日目に減少することを実証する。
【0048】
【0049】
図9は、室温スラリーおよびアイススラリー注入後1日目および3日目に坐骨神経試料(n=5)から抽出されたEB色素の結果を示す。
図8に示すように、ラットを室温スラリーで処置した場合、処置後1日目または3日目での血管透過性は変化がなかった。以下の表4は、
図9に提示したデータの分析を示す。
【0050】
【0051】
図10は、スラリーおよび室温で処置したラットおよび対照(図中、スラリー対照およびRTスラリー対照として設計される未処置のラット)の組み合わせデータの全てを示す。
図9は、アイススラリーまたは室温スラリー注入後1日目および3日目に坐骨神経試料(n=6)から抽出されたEB色素の結果を示す。スラリー対照は同じラットの未処置の神経である。この表は、神経内膜バリアーの透過性は、アイススラリー注入後1日目に増加していることを実証する。
【0052】
図11A~Fは、処置後1日目での神経内膜内の血管からのEB色素血管外漏出の共焦点画像を示す。
図11A~Fは、アイススラリー注入後または室温スラリー注入後1日目でのラット坐骨神経におけるEB色素の透過性の変化を示す。EB色素は、色素が明赤色の蛍光を有している部分である、画像上の薄灰色部分として示される。対照坐骨神経(
図11A~B)および室温スラリー処置群(
図11E~F)では、蛍光は、血管の内腔(白矢印)に限局され、神経内膜中の血管壁の外側に何も現れなかった。
図11C~Dは、明赤色の蛍光によって示される、処置した坐骨神経の神経内膜中に存在する色素を示す。
【0053】
図12A~Fは、処置後3日目での神経内膜内の血管からのEB色素血管外漏出の共焦点画像を示す。
図12A~Fは、アイススラリー注入後3日目でのラット坐骨神経におけるEB色素の透過性の変化を示す。EB色素は、色素が明赤色の蛍光を有している部分である、画像上の薄灰色部分として示される。対照群(
図12A~B)および室温スラリー処置群(
図12E~F)では、蛍光は、血管の内腔(白矢印)に限局され、神経内膜中の血管壁の外側に何も現れなかった。
図12C~Dは、カラー画像では明赤色の蛍光の領域として示される、処置された坐骨神経の神経内膜中の薄灰色の領域の分布を示す。
図11~12に提示されるデータは、対照および室温スラリー処置したラットは、アイススラリーで処置したものとは対照的に、透過性のいかなる増加も示さないことを示す。
【0054】
図13A~Fは、処置後1日目での血管のタイトジャンクション(白矢印によって示される)のTEM画像を示す。
図13E~Fは、室温スラリー注入(
図13C~D)と比較した、アイススラリー注入後1日目でのタイトジャンクションの開口を示す。対照群(
図13A~B)および室温スラリー処置群(
図13C~D)では、タイトジャンクションはインタクトな状態である。これらのデータは、アイススラリー処置が注入の1日以内にタイトジャンクションを開口できることを示す。目に見えるバリアー変性を欠いていることが明らかである。これらの知見は、予想外の結果を示しており、処置の数日後に発生する、神経変性または損傷(例えば、Wallerian変性)とは無関係だと思われる。
【0055】
図14A~Lは、スラリー処置および異なるサイズのFITC-Dextran(DX)色素の静脈内注入後1日目での坐骨神経の共焦点画像を示す。
【0056】
アイススラリー処置を
図4A~Cのように提供した。15 mlのおよそ-3.5℃~-5℃でのアイススラリー(10%グリセロールを含む0.9%塩化ナトリウム)または15 mlの室温スラリー(10%グリセロールを含む0.9%塩化ナトリウム)を、注入の標準的な方法を用いて、各動物の右側坐骨神経の周囲に注入した。対照として、左側坐骨神経は未処置のままとした。異なるサイズ(40 kDa、70 kDa、および150 kDa)のFITC-Dextran色素を、スラリー処置後1日目に外側静脈を通じて注入した。色素の注入の1時間後、免疫蛍光共焦点画像化のために、左側坐骨神経と右側坐骨神経との両方を回収した。坐骨神経試料を処理し、パラフィン中に包埋し、5 μmの薄片を作った。脱パラフィンした切片を0.1% Triton X-100で透過処理し、ヤギ血清およびウシ血清アルブミンの溶液でブロッキングし、抗ラット一次抗体で4℃にて一晩処理した。次いで、蛍光二次抗体を室温にて2時間適用した。IX81倒立顕微鏡を伴うOlympus Fluoview FV1000(Olympus,USA)レーザー走査型共焦点顕微鏡により、共焦点画像を取得した。
図14G~Lは、アイススラリー注入後1日目でのラット坐骨神経における異なったサイズの色素の異なる透過性レベルを示す。色素は、カラー画像では明緑色蛍光を示す、画像のより明るい領域によって示される。
図14G~HはDX 40色素の透過性を示し;
図14I~JはDX 70色素の透過性を示し;
図14K~LはDX 150色素の透過性を示す。アイススラリー処置の1日後、神経は、40 kDaおよび70 kDaの分子サイズを有する粒子に対して透過性であったが、150 kDaサイズを有する粒子に対しては透過性ではなかった。対照群(
図14A~B)および室温スラリー処置群(
図14C~F)では、蛍光は、血管の内腔に限局され、神経内膜中の血管壁の外側に何も現れなかった。
【0057】
図15A~Bは、アイススラリー処置ならびに異なるサイズのFITC-Dextran色素(DX 70およびDX 150)およびEB色素の静脈内注入後1日目での坐骨神経の共焦点画像およびTEM画像を示す。
【0058】
図14A~Cに示すように、坐骨神経の周囲への15 mlのアイススラリーの注入後1日目に、蛍光トレーサ(DX 70、DX 150、およびEB)を静脈内に注入した。DX 70色素およびEB色素(
図15A)は、それら2つの画像において同様の明るい部分によって示されるように、アイススラリー処置群でBNB内への同様の透過性を示した。しかしながら、DX 150色素は、EB色素とは異なり、神経の神経内膜内に透過できなかった(
図15B)。これらの実験は、アイススラリーによって誘導される神経内膜バリアーの透過性はサイズによって制限されることを示す。
【0059】
図16A~Lは、スラリー処置後の即時の神経周膜バリアーの変化の評価を示す。15 mlのアイススラリーまたは室温スラリーを、注入の標準的な方法を用いて、各動物の右側坐骨神経の周囲に注入した。対照として、左側坐骨神経は未処置のままとした。DX 70色素をスラリー注入の5分後に局所的に注入した。DX 70色素注入の1日後に、免疫蛍光共焦点画像化のために、左側坐骨神経および右側坐骨神経の両方を回収し、色素に対する神経周膜の透過性を評価した。アイススラリー処置の直後に局所的に注入した色素は、神経周膜バリアーを通過し(
図16I~L)、これは
図16Iおよび16K上のより明るい灰色部分によって示される。室温スラリー処置直後にまたは対照群において局所的に注入した色素は、神経周膜バリアーを通過しなかった(
図16A~H)。これらの実験は、アイススラリーの局所注入が神経周膜バリアーを即時に透過性にできることを示す。アイススラリー処置によって誘導される即時透過性は、アイススラリー処置の直後に続く可能性がある他の処置を適用する際にも有益である。また、これは、神経周膜バリアーが、神経内膜バリアーと同様に、さらに透過性になることを示す。
【0060】
図17A~Lは、スラリー処置後の神経周膜バリアーの変化の共焦点画像およびTEM画像を示す。15 mlのアイススラリーまたは室温スラリーを、注入の標準的な方法を用いて、各動物の右側坐骨神経の周囲に注入した。対照として、左側坐骨神経は未処置のままとした。DX 70色素をスラリー注入の1日後に局所的に注入した。DX 70色素注入の1時間後に、免疫蛍光共焦点画像化のために、左側坐骨神経および右側坐骨神経の両方を回収し、色素に対する神経周膜の透過性を評価した。アイススラリー処置の1日後に局所的に注入した色素は、神経周膜バリアーを通過し(
図17I~L)、これは
図17Iおよび
図17Kのより明るい部分によって示される。室温スラリー処置後にまたは対照群において局所的に注入した色素は、神経周膜バリアーを通過しなかった(
図17A~H)。これらの実験は、アイススラリーの局所注入が神経周膜バリアーを透過性にできることを示す。これはまた、神経周膜バリアーが、アイススラリーの注入後に、神経内膜バリアーと同様に、さらに透過性になることを示す。
【0061】
実施例2:ラットにおけるアイススラリー処置および神経周膜バリアー破壊の評価
図18A~Lは、スラリー処置後1日目での処置された坐骨神経の共焦点画像およびTEM画像を示す。10 mlのアイススラリーまたは10 mlの室温スラリーを、注入の標準的な方法を用いて、各動物の右側坐骨神経の周囲に注入した。対照として、左側坐骨神経は未処置のままとした。DX 70色素をスラリー注入の1日後に局所的に注入した。DX 70色素をスラリー注入の5分後に局所的に注入した。DX 70色素注入の1日後に、免疫蛍光共焦点画像化のために、左側坐骨神経および右側坐骨神経の両方を回収し、色素に対する神経周膜の透過性を評価した。アイススラリー処置の5分後に局所的に注入した色素は、神経周膜バリアーを通過することが示された(
図18I~L)。これは
図18Iおよび18Kのより明るい部分によって示される。室温スラリー処置の注入の5分後にまたは対照群において局所的に注入した色素は、神経周膜バリアーを通過しなかった(
図18A~H)。これらの実験は、局所的に注入した少量のアイススラリーが神経周膜バリアーを透過性にできることを示す。
【0062】
図19A~Lは、スラリー処置後1日目での坐骨神経の共焦点画像およびTEM画像を示す。10 mlのアイススラリーまたは10 mlの室温スラリーを、注入の標準的な方法を用いて、各動物の右側坐骨神経の周囲に注入した。対照として、左側坐骨神経は未処置のままとした。DX 70色素をスラリー注入の1日後に局所的に注入した。DX 70色素注入の1時間後に、免疫蛍光共焦点画像化のために、左側坐骨神経および右側坐骨神経の両方を回収し、色素に対する神経周膜の透過性を評価した。アイススラリー処置の1日後に局所的に注入した色素は、神経周膜バリアーを通過した(
図19I~L)。これは
図19Iおよび19Kのより明るい灰色部分によって示される。室温スラリー処置後にまたは対照群において局所的に注入した色素は、神経周膜バリアーを通過しなかった(
図19A~H)。これらの実験は、局所的に注入した少量のアイススラリー(10mL対15 mL)が、注入の5分後または注入の1日後のいずれかに、神経周膜バリアーを透過性にできることを示す。さらに、これらの知見は、予想外の結果を示しており、始まるのに数日を要するWallerian変性とは無関係だと思われる。アイススラリー処置によって誘導される即時透過性は、アイススラリー処置の直後に続く可能性がある他の処置を適用する際に有益である。
【0063】
等価物および範囲
本明細書、例えば、背景、概要、詳細な説明、実施例、および/または参考文献欄において言及される全ての刊行物、特許、特許出願、公開、およびデータベースエントリ(例えば、配列データベースエントリ)は、各個別の刊行物、特許、特許出願、公開、およびデータベースエントリが参照により本明細書において具体的かつ個別に組み入れられたかのように、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。矛盾が生じる場合、本明細書における任意の定義を含めて本出願が、優先する。
【0064】
当業者は、本明細書に置いて記載される態様の多数の等価物を認識するか、またはただの日常的な実験だけを用いて確かめることができる。本開示の範囲は、上述の記載に限定されることを意図せず、むしろ添付の特許請求の範囲に記載されている通りである。
【0065】
「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」などの冠詞は、相反する指示がない限りまたは文脈から明らかでない限り、1つまたは複数を意味し得る。グループの2つ以上の構成要素間に「または」を含む特許請求の範囲または説明は、相反する指示がない限りまたは文脈から明らかでない限り、グループ構成要素の1つ、複数、または全てが存在する場合に満たされるとみなされる。2つまたはそれ以上のグループ構成要素間に「または」を含むグループの記載は、グループの1つだけの構成要素が存在する態様、グループの2つ以上の構成要素が存在する態様、およびグループ構成要素の全てが存在する態様を提供する。簡潔にするために、そのような態様は、本明細書において個別に詳細に説明されていないが、これらの態様の各々が本明細書において提供され、個別に請求または放棄され得ることが理解される。
【0066】
本発明は、1つもしくは複数の請求項からの、または本説明の1つもしくは複数の関連部分にからの、1つまたは複数の限定、要素、節、または記述的用語が別の請求項に導入されている、全ての変化形態、組み合わせ、および並べ替えを包含することが理解されるべきである。例えば、別の請求項に従属する請求項は、同じ基礎となる請求項に依存する任意の他の請求項において認められる限定の1つまたは複数を含むように変更することができる。さらに、請求項が組成物を記載する場合、他に指示がない限り、または矛盾もしくは不一致が生じることが当業者に明らかでない限り、もしあれば、本明細書において開示される作製もしくは使用の方法のいずれかによるか、または当技術において公知の方法による、組成物を作製するまたは使用する方法が含まれることが理解されるべきである。
【0067】
要素がリストとして、例えば、マーカッシュグループ形式で提示される場合、要素の全ての可能性あるサブグループも開示されること、および任意の要素または要素のサブグループをグループから取り除くことができることが理解されるべきである。また、「含む」という用語は、オープンであることが意図され、追加的な要素および段階の包含が可能であることに注意されたい。一般に、態様、プロダクト、または方法が特定の要素、特徴、または段階を含むとして言及される場合、そのような要素、特徴、または段階からなるかまたは本質的にそれらからなる態様、プロダクト、または方法も同様に提供されることが理解されるべきである。簡潔にするために、そのような態様は、本明細書において個別に詳細に説明されていないが、これらの態様の各々が本明細書において提供され、個別に請求または放棄され得ることが理解される。
【0068】
範囲が与えられる場合、端点は含まれる。さらに、他に指示されない限りまたは文脈および/もしくは当業者の理解から他に明らかでない限り、範囲として表される値は、文脈が他を明示していない限り、いくつかの態様において記述される範囲内にある任意の特定の値を、範囲の下限の単位の10分の1まで想定できることが理解されるべきである。簡潔にするために、各範囲中の値は、本明細書において個別に詳述されていないが、これらの値の各々が本明細書において提供され、個別に請求または放棄され得ることが理解される。また、他に指示されない限りまたは文脈および/もしくは当業者の理解から他に明らかでない限り、範囲として表される値は、サブグループの端点が範囲の下限の単位の10分の1と同程度の正確度で表されている、所与の範囲内の任意のサブグループを想定できることも理解されるべきである。
【0069】
加えて、本発明の任意の特定の態様は請求項の任意の1つまたは複数から明確に除かれ得ることが理解されるべきである。範囲が与えられる場合、範囲内の任意の値は、請求項の任意の1つまたは複数から明確に除かれてもよい。本発明の組成物および/または方法の任意の態様、要素、特徴、適用、または局面は、任意の1つまたは複数の請求項から除くことができる。簡潔の目的のために、1つまたは複数の要素、特徴、目的、または局面が除かれている態様の全ては、本明細書において明示的に記載されているわけではない。
【国際調査報告】