(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-17
(54)【発明の名称】ヒト多能性幹細胞からのストロマフリーT細胞分化法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0783 20100101AFI20230310BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20230310BHJP
C12N 5/0789 20100101ALN20230310BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20230310BHJP
C12N 5/0735 20100101ALN20230310BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20230310BHJP
C12N 15/115 20100101ALN20230310BHJP
【FI】
C12N5/0783 ZNA
A61K35/17 Z
C12N5/0789
C12N5/10
C12N5/0735
C12N15/113 130Z
C12N15/115 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022544681
(86)(22)【出願日】2021-01-22
(85)【翻訳文提出日】2022-09-15
(86)【国際出願番号】 US2021014654
(87)【国際公開番号】W WO2021150919
(87)【国際公開日】2021-07-29
(32)【優先日】2020-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】596115687
【氏名又は名称】ザ チルドレンズ メディカル センター コーポレーション
【住所又は居所原語表記】300 Longwood Avenue, Boston, MA 02115 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】デイリー ジョージ キュー.
(72)【発明者】
【氏名】ジン ラン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BA25
4B065BB19
4B065BB32
4B065BB40
4B065BC41
4B065BD39
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA03
4C087BB64
4C087BB65
4C087CA04
4C087DA32
4C087NA06
4C087NA20
(57)【要約】
本明細書に記載される技術は、T細胞分化のストロマフリー法を対象とする。また、ストロマフリー法を使用して分化させた免疫細胞、およびそのような免疫細胞を含む組成物が本明細書に記載される。いくつかの態様では、免疫細胞は、遺伝子改変することができる。いくつかの態様では、免疫細胞または該免疫細胞を含む組成物は、病態を処置するために細胞補充治療として患者に投与することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)多能性幹細胞の集団を、凝集培地中で、CD34
+造血内皮細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させる工程;
b)結果として生じたCD34
+造血内皮細胞の集団においてヒストンメチルトランスフェラーゼを阻害する工程;および
c)結果として生じたCD34
+造血内皮細胞の集団を、CD3
+ T細胞分化培地中、Notchリガンドの存在下、CD3
+ T細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させる工程
を含む、方法。
【請求項2】
a)多能性幹細胞の集団を、凝集培地中で、CD34
+造血内皮細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させる工程;
b)結果として生じたCD34
+造血内皮細胞の集団においてエピジェネティック制御因子を阻害する工程;および
c)結果として生じたCD34
+造血内皮細胞の集団を、CD3
+ T細胞分化培地中、Notchリガンドの存在下、CD3
+ T細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させる工程
を含む、方法。
【請求項3】
a)多能性幹細胞の集団を、凝集培地中で、CD34
+造血内皮細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させる工程;
b)結果として生じたCD34
+造血内皮細胞の集団においてG9aおよび/またはGLPを阻害する工程;および
c)結果として生じたCD34
+造血内皮細胞の集団を、CD3
+ T細胞分化培地中、Notchリガンドの存在下、CD3
+ T細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させる工程
を含む、方法。
【請求項4】
a)多能性幹細胞の集団を、凝集培地中で、CD34
+造血内皮細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させる工程;および
b)結果として生じたCD34
+造血内皮細胞の集団を、CD3
+ T細胞分化培地中、Notchリガンドの存在下、CD3
+ T細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させる工程
を含む、方法。
【請求項5】
Notchリガンドが、固体基材に付着されている、請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
Notchリガンドが、細胞培養ディッシュに付着されている、請求項1~5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
Notchリガンドが、ストロマ細胞に由来しない、請求項1~6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
造血内皮細胞をNotchリガンドの存在下で分化させる工程が、Notchリガンドを発現するストロマ細胞との共培養を含まない、請求項1~7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
造血内皮細胞をNotchリガンドの存在下で分化させる工程が、OP9-DL1細胞またはOP9-DL4細胞との共培養を含まない、請求項1~8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
Notchリガンドが、デルタ様-1(DLL1)、デルタ様-4(DLL4)、固定化デルタ1
ext-IgG、および固定化デルタ4
ext-IgGからなる群より選択される、請求項1~9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
固定化デルタ1
ext-IgGが、ヒトIgG1のFcドメインに融合されたヒトデルタ様-1の細胞外ドメインからなる、請求項10記載の方法。
【請求項12】
CD3
+ T細胞の集団への分化を促進するために十分な時間が、少なくとも4週間である、請求項1~11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
CD3
+ T細胞分化培地が、無血清である、請求項1~12のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
CD3
+ T細胞分化培地が、FLT3およびIL7を含む、請求項1~13のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
CD3
+ T細胞分化培地が、15ng/ml FLT3および25ng/ml IL7を含む、請求項1~14のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
CD3
+ T細胞分化培地が、CD3
+ T細胞分化培地中での分化の少なくとも最初の2週間、5ng/mLトロンボポエチン(TPO)および/または30ng/ml SCFをさらに含む、請求項1~15のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
TPOを含むCD3
+ T細胞分化培地が、CD5
+ CD7
+ ProT細胞の集団への分化を促進する、請求項1~16のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
CD3
+ T細胞の集団が、CD4
+CD8
+ T細胞の集団を含む、請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
CD4
+CD8
+ T細胞の集団を、単一陽性T細胞分化培地中、CD4
+細胞の集団およびCD8
+細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させる工程
をさらに含む、請求項18記載の方法。
【請求項20】
CD4
+CD8
+ T細胞の集団からCD4
+ T細胞の集団およびCD8
+細胞の集団への分化を促進するために十分な時間が、少なくとも1週間である、請求項19記載の方法。
【請求項21】
CD34
+造血内皮細胞の集団からCD4
+ T細胞の集団およびCD8
+細胞の集団への分化を促進するために十分な時間が、少なくとも5週間である、請求項19記載の方法。
【請求項22】
単一陽性T細胞分化培地が、10ng/mL IL-15およびT細胞活性化因子を含む、請求項19記載の方法。
【請求項23】
T細胞活性化因子が、10ul/ml CD3/CD28 T細胞活性化因子を含む、請求項22記載の方法。
【請求項24】
T細胞活性化因子が、細胞1個当たりCD3/CD28 T細胞活性化因子ダイナビーズのビーズ1個を含む、請求項22記載の方法。
【請求項25】
少なくとも1週間後に、CD4
+細胞濃縮および/またはCD8
+細胞濃縮の工程をさらに含む、請求項18~24のいずれか一項記載の方法。
【請求項26】
多能性幹細胞の集団が、人工多能性幹細胞(iPS細胞)または胚性幹細胞(ESC)を含む、請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項27】
人工多能性幹細胞が、リプログラミング因子OCT4、SOX2、KLF4のみ、および任意でc-MYCまたはnanogおよびLIN28を成熟細胞に導入することによって産生される、請求項26記載の方法。
【請求項28】
人工多能性幹細胞が、リプログラミング因子を成熟細胞に2回以上導入することによって産生される、請求項26記載の方法。
【請求項29】
多能性幹細胞の集団が、胚様体または2D接着培養物を使用してCD34
+造血内皮細胞の集団に分化される、請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項30】
CD34
+造血内皮細胞の集団への分化を促進するために十分な時間が、少なくとも8日間である、請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項31】
凝集培地が、BMP4、SB-431542、CHIR99021、bFGF、VEGF、IL-6、IL-11、IGF-1、SCF、およびEPOを含む、請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項32】
凝集培地が、10ng/ml BMP4、6mM SB-431542、3mM CHIR99021、5ng/ml bFGF、15ng/ml VEGF、10ng/ml IL-6、5ng/mL IL-11、25ng/mL IGF-1、50ng/mL SCF、および2U/ml EPOを含む、請求項29~31のいずれか一項記載の方法。
【請求項33】
結果として生じたCD34
+造血内皮細胞の集団を、CD34
+造血内皮細胞の集団での表面マーカーの発現を利用して選択または単離する工程
をさらに含む、請求項29~32のいずれか一項記載の方法。
【請求項34】
CD34
+造血内皮細胞の集団が、CD45陰性/低発現である、請求項29~33のいずれか一項記載の方法。
【請求項35】
CD34
+造血内皮細胞の集団が、CD38陰性/低発現である、請求項29~34のいずれか一項記載の方法。
【請求項36】
結果として生じたCD34
+造血内皮細胞の集団または結果として生じたCD3
+ T細胞の集団を遺伝子改変する工程
をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項37】
遺伝子改変が、内因性HLAを編集すること、内因性TCRを除去すること、および/またはキメラ抗原受容体(CAR)を発現させることである、請求項36記載の方法。
【請求項38】
ヒストンメチルトランスフェラーゼが、ヒストン3リシン残基9(H3K9)および/またはヒストン3リシン残基27(H3K27)へのメチル基の付加を触媒する、請求項1記載の方法。
【請求項39】
ヒストンメチルトランスフェラーゼH3K9および/またはH3K27が、低分子阻害剤または核酸阻害剤によって阻害される、請求項1記載の方法。
【請求項40】
ヒストンメチルトランスフェラーゼH3K9および/またはH3K27低分子阻害剤が、ヘテロ有機化合物または有機金属化合物である、請求項39記載の方法。
【請求項41】
ヒストンメチルトランスフェラーゼH3K9および/またはH3K27低分子阻害剤が、BIX-01294、UNC0638、E72、BRD4770、A-366、ケトシン(chaetocin)、UNC0224、UNC0631、UNC0646、EPZ005687、EPZ-6438(E7438)、3-デアザネプラノシン(deazaneplanocin)A(DZNep)、EI1、GSK343、GSK126、およびUNC1999からなる群より選択される、請求項39記載の方法。
【請求項42】
核酸阻害剤が、ヒストンメチルトランスフェラーゼの発現を標的とする核酸である、請求項39記載の方法。
【請求項43】
核酸阻害剤が、RNA干渉阻害剤またはRNA干渉物質である、請求項39記載の方法。
【請求項44】
核酸阻害剤が、EZH1に結合するアプタマー、EZH1特異的RNA干渉物質、およびEZH1特異的RNA干渉物質をコードするベクターからなる群より選択されるEZH1特異的核酸であり、該RNA干渉物質が、SEQ ID NO:11~19から選択されるヌクレオチド配列の1つまたは複数を含む、請求項39記載の方法。
【請求項45】
エピジェネティック制御因子が、DNA-メチルトランスフェラーゼ(DNMT);メチル-CpG結合ドメイン(MBD)タンパク質;DNAデメチラーゼ;ヒストンメチルトランスフェラーゼ(HMT);メチル-ヒストン結合タンパク質;ヒストンデメチラーゼ;ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT);アセチル結合タンパク質;またはヒストンデアセチラーゼ(HDAC)である、請求項2記載の方法。
【請求項46】
エピジェネティック制御因子の阻害剤が、UNC0224;MC1568;およびCAY10591からなる群より選択される、請求項45記載の方法。
【請求項47】
エピジェネティック制御因子の阻害剤が、少なくとも500nMの濃度で提供される、請求項45~46のいずれか一項記載の方法。
【請求項48】
CD34+細胞の集団からCD5+CD7+ proT細胞の集団への分化を促進するために十分な時間が、約14日間である、請求項45~46のいずれか一項記載の方法。
【請求項49】
G9aおよび/またはGLP阻害剤が、UNC0224;UNC0638;A366;BRD4770;BIX01294;UNC0642;UNC0631;UNC0646;UNC0321;E72;BIX-01338;BRD9539;ケトシン;およびDCG066からなる群より選択される、請求項3記載の方法。
【請求項50】
G9aおよび/またはGLP阻害剤が、UNC0224である、請求項49記載の方法。
【請求項51】
G9aおよび/またはGLP阻害剤が、300nM~5uMの濃度で提供される、請求項49~50のいずれか一項記載の方法。
【請求項52】
CD34+細胞の集団からCD5+CD7+ proT細胞の集団への分化を促進するために十分な時間が、約14日間である、請求項49~51のいずれか一項記載の方法。
【請求項53】
a)多能性幹細胞の集団を、凝集培地中で、CD34
+造血内皮細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させる工程;および
b)結果として生じたCD34
+造血内皮細胞の集団を、15ng/ml FLT3および25ng/ml IL7を含むCD3
+ T細胞分化培地中、10μg/mL Notchリガンドの存在下、CD3
+ T細胞の集団への分化を促進するために少なくとも4週間、分化させる工程
を含む、方法であって、
CD3
+ T細胞分化培地が、少なくとも最初の2週間、5ng/mL TPOおよび30ng/ml SCFをさらに含む、方法。
【請求項54】
a)多能性幹細胞の集団を、凝集培地中で、CD34
+造血内皮細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させる工程;および
b)結果として生じたCD34
+造血内皮細胞の集団を、15ng/ml FLT3および25ng/ml IL7を含むCD3
+ T細胞分化培地中、10μg/mL Notchリガンドの存在下、CD3
+ T細胞の集団への分化を促進するために少なくとも4週間、分化させる工程
を含む、方法であって、
該CD3
+ T細胞分化培地が、少なくとも最初の2週間、5ng/mL TPO、30ng/ml SCFおよびG9a/GLP阻害剤をさらに含む、方法。
【請求項55】
CD3
+ T細胞の集団が、アルファベータT細胞に最も類似した遺伝子発現プロファイルを示す、請求項1~54のいずれか一項記載の方法。
【請求項56】
CD3
+ T細胞の集団が、アルファベータT細胞に少なくとも10%、20%、30%、40%またはそれ以上類似した遺伝子発現プロファイルを示す、請求項1~55のいずれか一項記載の方法。
【請求項57】
CD3+ T細胞の集団が、末梢血アルファベータT細胞と比較したピアソンの相関係数が少なくとも0.85である遺伝子発現プロファイルを示す、請求項1~56のいずれか一項記載の方法。
【請求項58】
CD3
+ T細胞の集団が、約0.025の有効シンプソンクロナリティ値を示す、請求項1~57のいずれか一項記載の方法。
【請求項59】
CD3
+ T細胞の集団が、メチルトランスフェラーゼの阻害なしでまたはストロマ細胞を使用して分化させた免疫細胞よりも、少なくとも3ヌクレオチド長いT細胞受容体(TCR)相補性決定領域(CDR)を示す、請求項1~58のいずれか一項記載の方法。
【請求項60】
請求項1~59のいずれか一項記載の方法によって産生される、免疫細胞。
【請求項61】
アルファベータT細胞に最も類似した遺伝子発現プロファイルを示す、請求項60記載の免疫細胞。
【請求項62】
アルファベータT細胞に少なくとも10%、20%、30%、40%またはそれ以上類似した遺伝子発現プロファイルを示す、請求項60~61のいずれか一項記載の免疫細胞。
【請求項63】
末梢血アルファベータT細胞と比較したピアソンの相関係数が少なくとも0.85である遺伝子発現プロファイルを示す、請求項60~62のいずれか一項記載の免疫細胞。
【請求項64】
約0.025の有効シンプソンクロナリティ値を示す、請求項60~63のいずれか一項記載の免疫細胞。
【請求項65】
メチルトランスフェラーゼの阻害なしでストロマ細胞を使用して分化させた免疫細胞よりも、少なくとも3ヌクレオチド長いT細胞受容体(TCR)相補性決定領域(CDR)を示す、請求項60~64のいずれか一項記載の免疫細胞。
【請求項66】
請求項60~65のいずれか一項記載の免疫細胞またはその集団を含む、組成物。
【請求項67】
薬学的に許容される担体をさらに含む、請求項66記載の組成物。
【請求項68】
請求項60~65のいずれか一項記載の免疫細胞またはその集団と、薬学的に許容される担体とを含む、薬学的組成物。
【請求項69】
対象での細胞補充治療において使用するための、請求項68記載の薬学的組成物。
【請求項70】
細胞補充治療の方法であって、請求項60~65のいずれか一項記載の免疫細胞もしくはその集団、または請求項66~67記載の組成物、または請求項68~69記載の薬学的組成物を、それを必要とするレシピエント対象に投与する工程を含む、方法。
【請求項71】
レシピエント対象が、化学療法および/または放射線照射を受けたことがある、請求項70記載の細胞補充治療の方法。
【請求項72】
レシピエント対象が、免疫機能および/またはリンパ球再構成における欠損を有する、請求項70記載の細胞補充治療の方法。
【請求項73】
移植前に、免疫細胞またはその集団が、レシピエント対象におけるその後の生着を促進するために、プロスタグランジンE2および/または抗酸化剤N-アセチル-L-システイン(NAC)でエクスビボ処理される、請求項70~72のいずれか一項記載の細胞補充治療の方法。
【請求項74】
免疫細胞またはその集団が、レシピエント対象に対して自己由来である、請求項70~73のいずれか一項記載の細胞補充治療の方法。
【請求項75】
免疫細胞またはその集団が、レシピエント対象とHLA型がマッチする、請求項70~74のいずれか一項記載の細胞補充治療の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国特許法119条(e)項の下、2020年1月23日に出願された米国仮出願第62/964,857号および2020年5月15日に出願された米国仮出願第63/025,412号の恩典を主張するものであり、その各内容は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
政府の支援
本発明は、米国国立衛生研究所により授与された助成金番号2U01DK104218の下、政府の支援を受けてなされた。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0003】
配列表
本出願は、EFS-Webを介してASCIIフォーマットで提出された配列表を含み、この配列表は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。2021年1月22日に作成された前記ASCIIコピーは、701039-096580WOPT_SL.txtと命名され、108,672バイトサイズである。
【0004】
技術分野
本明細書に記載される技術は、免疫細胞分化法に関する。
【背景技術】
【0005】
背景
インビボ細胞補充治療のため、疾患、障害および病態のホストのための治療のため、ならびに疾患モデル化、薬物スクリーニング、および血液疾患のインビトロ研究のための機能的免疫細胞の供給は、不足している。T細胞は、ヒト適応免疫系の重要な成分であり、大きな治療可能性を有する。しかしながら、現行のT細胞媒介療法は、自己由来T細胞に依拠しており、このことが、その広範な適用性を制限している。ヒト人工多能性幹細胞(iPSC)は、細胞療法に向けた既製品のスケーラブルな製造のための理想的な供給源である。しかしながら、iPSCからの成熟した機能的なT細胞の作製は、困難であることが証明されている。加えて、iPSCの分化は、マウスストロマ細胞との共培養を必要とし、このことが、iPSC由来T細胞のトランスレーショナルポテンシャルを制限している。したがって、高収率で臨床的に適用可能なT細胞分化法が必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
概要
本明細書に記載される技術は、T細胞分化の方法を対象とする。一局面では、本明細書に記載される方法は、ストロマフリーT細胞分化法、すなわち、ストロマ細胞または任意の他の種類の支持細胞との共培養を含まない方法である。マウスストロマ細胞などのストロマ細胞との共培養は、iPSC由来T細胞のトランスレーショナルポテンシャルを制限している;例えば、ストロマ細胞が存在することによる移植拒絶反応への懸念が生じ得る。さらには、ストロマ細胞を使用して分化させたT細胞は、先天性様(innate-like)表現型を示す(例えば、ガンマデルタT細胞のマーカーであるTCRgd発現によって測定された場合)。T細胞が、例えばTCR αおよびβの発現を特徴とする、適応表現型を示すことが好ましい。加えて、本明細書に記載されるように、ストロマフリーT細胞分化法は、ストロマ共培養を含む分化法と比較して、CD3+ T細胞(例えば、CD4+CD8+細胞)の数の増加をもたらす。
【0007】
したがって、ストロマフリー法を使用して分化させたT細胞は、一態様では、エピジェネティック制御因子(例えば、ヒストンメチルトランスフェラーゼ(HMT);例えば、EZH1、G9a/GLP)の阻害との組み合わせで、ストロマ共培養法と比較して、少なくとも以下の予想外の有益性を示す:(1)ヒトでの移植の可能性の増加;(2)先天性様T細胞の数の減少;(3)結果として生じるT細胞(例えば、CD5+CD7+ Pro-T細胞;CD3+ T細胞;CD4+CD8+ T細胞;CD4+ T細胞;CD8+ T細胞;アルファ-ベータT細胞)の数および/もしくは割合の増加;(4)アルファベータT細胞に最も類似した遺伝子発現プロファイル;(5)より多様なTCRレパートリー;ならびに/または(6)TCR CDR長の増加(例えば、実施例1、
図1C~1D、
図3A~3B、
図4、
図5A~5D、
図6~16を参照のこと)。
【0008】
一局面では、(a)多能性幹細胞の集団を、凝集培地中で、CD34+造血内皮細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させる工程;(b)結果として生じたCD34+造血内皮細胞の集団においてヒストンメチルトランスフェラーゼを阻害する工程;および(c)結果として生じたCD34+造血内皮細胞の集団を、CD3+ T細胞分化培地中、Notchリガンドの存在下、CD3+ T細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させる工程を含む方法が、本明細書に記載される。
【0009】
別の局面では、(a)多能性幹細胞の集団を、凝集培地中で、CD34+造血内皮細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させる工程;(b)結果として生じたCD34+造血内皮細胞の集団においてエピジェネティック制御因子を阻害する工程;および(c)結果として生じたCD34+造血内皮細胞の集団を、CD3+ T細胞分化培地中、Notchリガンドの存在下、CD3+ T細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させる工程を含む方法が、本明細書に記載される。
【0010】
別の局面では、(a)多能性幹細胞の集団を、凝集培地中で、CD34+造血内皮細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させる工程;(b)結果として生じたCD34+造血内皮細胞の集団においてG9aおよび/またはGLPを阻害する工程;および(c)結果として生じたCD34+造血内皮細胞の集団を、CD3+ T細胞分化培地中、Notchリガンドの存在下、CD3+ T細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させる工程を含む方法が、本明細書に記載される。
【0011】
別の局面では、(a)多能性幹細胞の集団を、凝集培地中で、CD34+造血内皮細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させる工程;および(b)結果として生じたCD34+造血内皮細胞の集団を、CD3+ T細胞分化培地中、Notchリガンドの存在下、CD3+ T細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させる工程を含む方法が、本明細書に記載される。
【0012】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、Notchリガンドは、固体基材に付着されている。
【0013】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、Notchリガンドは、細胞培養ディッシュに付着されている。
【0014】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、Notchリガンドは、ストロマ細胞に由来しない。
【0015】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、造血内皮細胞をNotchリガンドの存在下で分化させる工程は、Notchリガンドを発現するストロマ細胞との共培養を含まない。
【0016】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、造血内皮細胞をNotchリガンドの存在下で分化させる工程は、OP9-DL1細胞またはOP9-DL4細胞との共培養を含まない。
【0017】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、Notchリガンドは、デルタ様-1(DLL1)、デルタ様-4(DLL4)、固定化デルタ1ext-IgG、および固定化デルタ4ext-IgGからなる群より選択される。
【0018】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、固定化デルタ1ext-IgGは、ヒトIgG1のFcドメインに融合されたヒトデルタ様-1の細胞外ドメインからなる。
【0019】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、CD3+ T細胞の集団への分化を促進するために十分な時間は、少なくとも4週間である。
【0020】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、CD3+ T細胞分化培地は、無血清である。
【0021】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、CD3+ T細胞分化培地は、FLT3およびIL7を含む。
【0022】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、CD3+ T細胞分化培地は、15ng/ml FLT3および25ng/ml IL7を含む。
【0023】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、CD3+ T細胞分化培地は、CD3+ T細胞分化培地中での分化の少なくとも最初の2週間、5ng/mLトロンボポエチン(TPO)および/または30ng/ml SCFをさらに含む。
【0024】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、TPOを含むCD3+ T細胞分化培地は、CD5+CD7+ ProT細胞の集団への分化を促進する。
【0025】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、CD3+ T細胞の集団は、CD4+CD8+ T細胞の集団を含む。
【0026】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、該方法は、CD4+CD8+ T細胞の集団を、単一陽性T細胞分化培地中、CD4+細胞の集団およびCD8+細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させる工程をさらに含む。
【0027】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、CD4+CD8+ T細胞の集団からCD4+ T細胞の集団およびCD8+細胞の集団への分化を促進するために十分な時間は、少なくとも1週間である。
【0028】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、CD34+造血内皮細胞の集団からCD4+ T細胞の集団およびCD8+細胞の集団への分化を促進するために十分な時間は、少なくとも5週間である。
【0029】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、単一陽性T細胞分化培地は、10ng/mL IL-15およびT細胞活性化因子を含む。
【0030】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、T細胞活性化因子は、10ul/ml CD3/CD28 T細胞活性化因子を含む。
【0031】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、T細胞活性化因子は、細胞1個当たりCD3/CD28 T細胞活性化因子ダイナビーズのビーズ1個を含む。
【0032】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、該方法は、少なくとも1週間後に、CD4+細胞濃縮および/またはCD8+細胞濃縮の工程をさらに含む。
【0033】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、多能性幹細胞の集団は、人工多能性幹細胞(iPS細胞)または胚性幹細胞(ESC)を含む。
【0034】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、人工多能性幹細胞は、リプログラミング因子OCT4、SOX2、KLF4のみ、および任意でc-MYCまたはnanogおよびLIN28を成熟細胞に導入することによって産生される。
【0035】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、人工多能性幹細胞は、リプログラミング因子を成熟細胞に2回以上導入することによって産生される。
【0036】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、多能性幹細胞の集団は、胚様体または2D接着培養物を使用してCD34+造血内皮細胞の集団に分化される。
【0037】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、CD34+造血内皮細胞の集団への分化を促進するために十分な時間は、少なくとも8日間である。
【0038】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、凝集培地は、BMP4、SB-431542、CHIR99021、bFGF、VEGF、IL-6、IL-11、IGF-1、SCF、およびEPOを含む。
【0039】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、凝集培地は、10ng/ml BMP4、6mM SB-431542、3mM CHIR99021、5ng/ml bFGF、15ng/ml VEGF、10ng/ml IL-6、5ng/mL IL-11、25ng/mL IGF-1、50ng/mL SCF、および2U/ml EPOを含む。
【0040】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、該方法は、結果として生じたCD34+造血内皮細胞の集団を、CD34+造血内皮細胞の集団での表面マーカーの発現を利用して選択または単離する工程をさらに含む。
【0041】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、CD34+造血内皮細胞の集団は、CD45陰性/低発現である。
【0042】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、CD34+造血内皮細胞の集団は、CD38陰性/低発現である。
【0043】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、該方法は、結果として生じたCD34+造血内皮細胞の集団または結果として生じたCD3+ T細胞の集団を遺伝子改変する工程をさらに含む。
【0044】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、遺伝子改変は、内因性HLAを編集すること、内因性TCRを除去すること、および/またはキメラ抗原受容体(CAR)を発現させることである。
【0045】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、ヒストンメチルトランスフェラーゼは、ヒストン3リシン残基9(H3K9)および/またはヒストン3リシン残基27(H3K27)へのメチル基の付加を触媒する。
【0046】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、ヒストンメチルトランスフェラーゼH3K9および/またはH3K27は、低分子阻害剤または核酸阻害剤によって阻害される。
【0047】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、ヒストンメチルトランスフェラーゼH3K9および/またはH3K27低分子阻害剤は、ヘテロ有機化合物または有機金属化合物である。
【0048】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、ヒストンメチルトランスフェラーゼH3K9および/またはH3K27低分子阻害剤は、BIX-01294、UNC0638、E72、BRD4770、A-366、ケトシン(chaetocin)、UNC0224、UNC0631、UNC0646、EPZ005687、EPZ-6438(E7438)、3-デアザネプラノシン(deazaneplanocin)A(DZNep)、EI1、GSK343、GSK126、およびUNC1999からなる群より選択される。
【0049】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、核酸阻害剤は、ヒストンメチルトランスフェラーゼの発現を標的とする核酸である。
【0050】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、核酸阻害剤は、RNA干渉阻害剤またはRNA干渉物質である。
【0051】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、核酸阻害剤は、EZH1に結合するアプタマー、EZH1特異的RNA干渉物質、およびEZH1特異的RNA干渉物質をコードするベクターからなる群より選択されるEZH1特異的核酸であり、RNA干渉物質は、SEQ ID NO:11~19から選択されるヌクレオチド配列の1つまたは複数を含む。
【0052】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、エピジェネティック制御因子は、DNA-メチルトランスフェラーゼ(DNMT);メチル-CpG結合ドメイン(MBD)タンパク質;DNAデメチラーゼ;ヒストンメチルトランスフェラーゼ(HMT);メチル-ヒストン結合タンパク質;ヒストンデメチラーゼ;ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT);アセチル結合タンパク質;またはヒストンデアセチラーゼ(HDAC)である。
【0053】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、エピジェネティック制御因子の阻害剤は、UNC0224;MC1568;およびCAY10591からなる群より選択される。
【0054】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、エピジェネティック制御因子の阻害剤は、少なくとも500nMの濃度で提供される。
【0055】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、CD34+細胞の集団からCD5+CD7+ proT細胞の集団への分化を促進するために十分な時間は、約14日間である。
【0056】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、G9aおよび/またはGLP阻害剤は、UNC0224;UNC0638;A366;BRD4770;BIX01294;UNC0642;UNC0631;UNC0646;UNC0321;E72;BIX-01338;BRD9539;ケトシン;およびDCG066からなる群より選択される。
【0057】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、G9aおよび/またはGLP阻害剤は、UNC0224である。
【0058】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、G9aおよび/またはGLP阻害剤は、300nM~5uMの濃度で提供される。
【0059】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、CD34+細胞の集団からCD5+CD7+ proT細胞の集団への分化を促進するために十分な時間は、約14日間である。
【0060】
一局面では、(a)多能性幹細胞の集団を、凝集培地中で、CD34+造血内皮細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させる工程;および(b)結果として生じたCD34+造血内皮細胞の集団を、15ng/ml FLT3および25ng/ml IL7を含むCD3+ T細胞分化培地中、10μg/mL Notchリガンドの存在下、CD3+ T細胞の集団への分化を促進するために少なくとも4週間、分化させる工程を含む、方法であって、CD3+ T細胞分化培地が、少なくとも最初の2週間、5ng/mL TPOおよび30ng/ml SCFをさらに含む方法が、本明細書に記載される。
【0061】
一局面では、(a)多能性幹細胞の集団を、凝集培地中で、CD34+造血内皮細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させる工程;および(b)結果として生じたCD34+造血内皮細胞の集団を、15ng/ml FLT3および25ng/ml IL7を含むCD3+ T細胞分化培地中、10μg/mL Notchリガンドの存在下、CD3+ T細胞の集団への分化を促進するために少なくとも4週間、分化させる工程を含む、方法であって、CD3+ T細胞分化培地が、少なくとも最初の2週間、5ng/mL TPO、30ng/ml SCFおよびG9a/GLP阻害剤をさらに含む方法が、本明細書に記載される。
【0062】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、CD3+ T細胞の集団は、アルファベータT細胞に最も類似した遺伝子発現プロファイルを示す。
【0063】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、CD3+ T細胞の集団は、アルファベータT細胞に少なくとも10%、20%、30%、40%またはそれ以上類似した遺伝子発現プロファイルを示す。
【0064】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、CD3+ T細胞の集団は、末梢血アルファベータT細胞と比較したピアソンの相関係数が少なくとも0.85である遺伝子発現プロファイルを示す。
【0065】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、CD3+ T細胞の集団は、約0.025の有効シンプソンクロナリティ値(Productive Simpson Clonality value)を示す。
【0066】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、CD3+ T細胞の集団は、メチルトランスフェラーゼの阻害なしでまたはストロマ細胞を使用して分化させた免疫細胞よりも、少なくとも3ヌクレオチド長いT細胞受容体(TCR)相補性決定領域(CDR)を示す。
【0067】
一局面では、本明細書に記載されるような方法によって産生される免疫細胞が本明細書に記載される。
【0068】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、免疫細胞は、アルファベータT細胞に最も類似した遺伝子発現プロファイルを示す。
【0069】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、免疫細胞は、アルファベータT細胞に少なくとも10%、20%、30%、40%またはそれ以上類似した遺伝子発現プロファイルを示す。
【0070】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、免疫細胞は、末梢血アルファベータT細胞と比較したピアソンの相関係数が少なくとも0.85である遺伝子発現プロファイルを示す。
【0071】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、免疫細胞は、約0.025の有効シンプソンクロナリティ値を示す。
【0072】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、免疫細胞は、ストロマ細胞を使用してメチルトランスフェラーゼの阻害なしで分化させた免疫細胞よりも、少なくとも3ヌクレオチド長いT細胞受容体(TCR)相補性決定領域(CDR)を示す。
【0073】
別の局面では、本明細書に記載されるような免疫細胞またはその集団を含む組成物が本明細書に記載される。
【0074】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含む。
【0075】
一局面では、本明細書に記載されるような免疫細胞またはその集団と、薬学的に許容される担体とを含む、薬学的組成物が本明細書に記載される。
【0076】
別の局面では、対象での細胞補充治療において使用するための本明細書に記載されるような薬学的組成物が本明細書に記載される。
【0077】
一局面では、細胞補充治療の方法であって、本明細書に記載されるような免疫細胞もしくはその集団、または本明細書に記載されるような組成物、または本明細書に記載されるような薬学的組成物を、それを必要とするレシピエント対象に投与する工程を含む、方法が本明細書に記載される。
【0078】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、レシピエント対象は、化学療法および/または放射線照射を受けたことがある。
【0079】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、レシピエント対象は、免疫機能および/またはリンパ球再構成における欠損を有する。
【0080】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、移植前、免疫細胞またはその集団は、レシピエント対象におけるその後の生着を促進するために、プロスタグランジンE2および/または抗酸化剤N-アセチル-L-システイン(NAC)でエクスビボ処理される。
【0081】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、免疫細胞またはその集団は、レシピエント対象に対して自己由来である。
【0082】
諸局面のいずれかのいくつかの態様では、免疫細胞またはその集団は、レシピエント対象とHLA型がマッチする。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【
図1A】
図1A~1Dは、ヒト多能性幹細胞からのT細胞のストロマフリー分化を示す一連の概略図およびグラフである。
図1Aは、ストロマフリー法を使用したCD3
+ T細胞の分化を示す概略図である。簡潔に述べると、非組織培養処理プレートを組換えヒトDL1/DL4-Fcタンパク質(PBS中10ug/ml、室温で3時間)で被覆する。人工多能性幹細胞(iPSC)由来の造血幹細胞・前駆細胞(HSPC;例えば、CD34
+造血内皮細胞)を、notchリガンド(例えば、デルタ様古典的Notchリガンド4(DLL4))被覆プレート上、IL-7、幹細胞因子(SCF)、Flit3およびトロンボポエチン(TPO)を含む培地中で培養する。2週間後、CD5
+CD7
+ T細胞前駆体(ProT)が分化する。ProT細胞は、DLL4被覆プレート内、IL-7およびFlit3を含む培地中で分化を継続する;さらに3週間ほどの後、CD3
+ T細胞は分化していた。
図1Bは、分化の2週間後(左上、28.1% CD5
+CD7
+)または分化の5週間後(右上、59.2% CD5
+CD7
+)のCD5およびCD7の発現(例えば、T細胞前駆体のマーカーとして)と、分化の2週間後(左下、4.70% CD3
+)または分化の5週間後(右下、58.8% CD3
+)のCD3の発現(例えば、T細胞のマーカーとして)を示す一連のフローサイトメトリープロットである。2週目および5週目にCD5
+CD7
+ T細胞前駆体の割合が高いこと、5週目にCD3
+ T細胞の割合が高いことに注目されたい。
図1Cは、CD3
+細胞をCD3/CD28抗体で刺激する前(左プロット)および後(右プロット)のCD4およびCD8の発現を示す一連のフローサイトメトリープロットである。CD4およびCD8単一陽性細胞の割合が、刺激前と比較して刺激後に高いことに注目されたい。
図1Dは、OP9-DL1ストロマ細胞(左プロット、55.4% TCRgd
+)または本明細書に記載されるストロマフリー法(右プロット、5.71% TCRgd
+)を使用して分化させたT細胞上のTCRgdの発現(例えば、先天性様T細胞またはガンマデルタT細胞のマーカーとして)を示す一連のフローサイトメトリープロットである。ストロマフリー法を使用したTCRgd
+先天性様T細胞の割合が、OP9-DL1ストロマ細胞法と比較して低いことに注目されたい。
【
図2A】
図2A~2Dは、iPSC由来キメラ抗原受容体(CAR)T細胞の作製を示す一連の概略図およびプロットである。
図2Aは、iPSC HSPCへの抗CD19 CARの導入を示す概略図である;T細胞分化は、CAR iPS-T細胞の集団をもたらす。
図2Bは、T細胞分化を受けていなかった非形質導入(UTD)対照細胞(左プロット、0.95% mCherry
+);T細胞分化を受けていなかったCD19 CAR形質導入細胞(中央プロット、64.3% mCherry
+);およびT細胞分化後のCD19 CAR形質導入細胞(右プロット、80.9% mCherry
+)における、mCherryの発現(例えば、CD19 CARのマーカーとして)を示す一連のフローサイトメトリープロットである。mCherryの発現(例えば、CD19 CARのマーカーとして)が分化の間維持されたことに注目されたい。
図2Cは、培養中1週間のUTD対照およびCAR形質導入細胞のT細胞拡大を示す線グラフである。
図2Dは、刺激なしのCAR-iPSC T細胞(左プロット;32.0% CD8
- CD107a
-、55.0% CD8
+ CD107a
-、7.14% CD8
- CD107a
+、5.39% CD8
+ CD107a
+);CD19-K562細胞で刺激されたUTD-iPSC T細胞(中央プロット;28.0% CD8
- CD107a
-、50.2% CD8
+ CD107a
-、11.7% CD8
- CD107a
+、10.1% CD8
+ CD107a
+);およびCD19-K562細胞で刺激されたCAR-iPSC T細胞(右プロット;29.1% CD8
- CD107a
-、10.7% CD8
+ CD107a
-、29.8% CD8
- CD107a
+、30.4% CD8
+ CD107a
+)における、CD8およびCD107aの発現(例えば、免疫細胞活性化および細胞傷害性脱顆粒のマーカーとしてのCD107aを伴う)を示す一連のフローサイトメトリープロットである。未刺激のCAR-iPSC T細胞および刺激されたUTD-iPSC T細胞と比較して、刺激されたCAR-iPSC T細胞におけるCD107aの発現が増加したことに注目されたい。
【
図3A】
図3A~3Bは、(
図3A)TCRの機能および活性に関与するT細胞シグネチャ遺伝子、および(
図3B)αβ T細胞とγδ T細胞とを識別する遺伝子の発現レベルを示す一連のヒートマップである。abT、末梢血αβ T細胞;gdT、末梢血γδ T細胞;NK、末梢血NK細胞;conT_OP9、OP9-DL4共培養系を使用したipsc由来T細胞;conT_SF、ストロマフリーipsc-T細胞;CB_T、本明細書に記載されるストロマフリー法を使用して臍帯血CD34+ HSPCから分化させたT細胞;EZ_T、EZH1ノックダウンを伴うストロマフリーipsc-T細胞。
図3Aと3Bの両方において、EZ_T細胞は、ドナーの末梢血からのアルファベータT細胞(abT;各ヒートマップの最後の6カラムを参照のこと)に最も類似した遺伝子発現プロファイルを示す一方で、他のiPSC由来T細胞は、先天性様細胞(例えば、ガンマデルタTまたはNK細胞)により類似していることに注目されたい。
図3A~3Bのデータに基づき、ピアソンの相関係数がEZ-TとabTとの間で0.8886の値として計算された。この値は、-1~1の範囲にあることができ、1は、完全正相関である。この結果は、EZ-T細胞が、PBMCアルファベータT細胞に高度に類似していることを示す。
【
図4】
図4は、EZ-T細胞が多様なTCRレパートリーを示していることを示す一連の概略図である。EZ-T細胞は、本明細書に記載されるようなEZH1阻害およびストロマフリーT細胞分化を含む、CD34+ HEから分化させたT細胞のことを指す。TCRベータ鎖シーケンシングをEZ-T細胞に対して実施して、T細胞分化の間のランダムなTCR遺伝子組換えの結果として数万の固有のTCR再構成が特定された。円グラフ(左)は、EZ-T細胞におけるT細胞受容体ベータ鎖可変(TCRBV)遺伝子ファミリーの利用割合を示す。各陰影部は、1つのTCRBVファミリーを表す。有効シンプソンクロナリティ値は、0.0233であり、このことは、高度に多様なTCRレパートリーを示している。
【
図5A】
図5A~5Dは、EZ-T細胞が、対照のPSC-T細胞よりも長いCDR3セグメントを有することを示す一連の概略図およびグラフである。CDR3は、TCRの最も可変な領域であり、その長さは、TCR再構成の間にヌクレオチドをランダムに付加するTdT酵素の活性によって決定され得る。
図5Aは、TdTの活性を示す概略図である(例えば、SEQ ID NO:49~50を参照のこと)。CDR3が、成熟PBMC T細胞と比較して、未熟なT細胞およびiPSC由来T細胞においてより短いことが報告されている。
図5B~5Eは、ある特定の長さ(
図5Bは、6~27ヌクレオチド(nt)のCDR長を示す;
図5Cは、30~54ntのCDR長を示す;
図5Dは、57~78ntのCDR長を示す)を有する、生産的TCR再構成の割合を示す一連の棒グラフである(例えば、各生産的TCR再構成は、固有のTCR鎖へと翻訳され得る)。
図5B~5Eは、EZ-T細胞(暗灰色、各群中の左棒)が、対照iPSC由来T細胞(明灰色、各群中の右棒;対照iPSC-T細胞は、EZH1ノックダウンなしでストロマフリー分化法を使用して分化させた)と比較して増加したCDR3長を示し、PBMC T細胞(中間の灰色、各群中の中央棒)により類似していたことを実証する。
【
図6】
図6は、本明細書に記載されるようなストロマフリーT細胞分化法を使用した、T細胞特異化を促進するエピジェネティック因子の低分子阻害剤の一次スクリーニングを示す概略図である。「5F細胞」は、5つの転写因子(HOXA9、ERG、RORA、SOX4およびMYB)を発現する細胞のことを指す。ケイマン(Cayman)のエピジェネティックライブラリーは、種々のエピジェネティックな「ライターおよびイレーサー」と「リーダー」タンパク質の活性をモジュレートすることが知られている140を超える低分子を含有する。ライブラリーは、メチルトランスフェラーゼ、デメチラーゼ、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼ、およびアセチル化ヒストン結合タンパク質の活性をモジュレートする化合物を含み得る;例えば、caymanchem.com/product/11076/epigenetics-screening-library-(96-well)を参照のこと。
【
図7】
図7は、
図6に記載したスクリーニングからの一次ヒットの特定を示している散布図である。Zスコアが、すべての低分子について処理後のT前駆体の数に基づき計算された。3を超えるZスコアを有する任意の低分子が一次ヒットと見なされた。例えば、表2を参照のこと。
【
図8】
図8は、5F HSPCから作製されたProT細胞を
図7で特定された一次ヒットで処理した後の変化倍率を示す棒グラフである(例えば、表2を参照のこと)。3つの低分子:UNC0224、MC1568およびCAY10591が、T細胞特異化を促進すると確認された。
【
図9】
図9は、T細胞分化の促進についてエピジェネティック因子の低分子阻害剤を試験するための、野生型iPSC由来CD34+造血内皮細胞(HE)細胞(5F HSPCではない、例えば、
図6~9および表2において使用されるとおり)を使用した二次スクリーニングを示す概略図である。
【
図10A】
図10A~10Bは、
図9からのスクリーニングの結果を示す一連のグラフである。
図10Aは、すべての低分子について処理後のT前駆体の数に基づき計算されたZスコアの散布図である。3を超えるZスコアを有する任意の低分子が一次ヒットと見なされた。
図10Bは、一次ヒットの検証を示す棒グラフである。一次ヒットは3連で試験された。UNC0224処理は、CD34+ HE細胞から作製されたProT細胞の有意な増加を導いた。
【
図11】
図11は、2つの独立したスクリーニングが、T細胞特異化を増強するUNC0224を特定したことを示す概略図である。例えば、
図6~10、表2を参照のこと。
【
図12】
図12A~12Bは、UNC0224が、T細胞特異化を用量依存的に促進することを示す一連の概略図およびグラフである。
図12Aは、実験をまとめた概略図である(例えば、
図6~11、表2を参照のこと)。
図12Bは、CD34+ HE細胞から作製されたProT細胞を異なる用量のUNC0224で処理した後の変化倍率を示す棒グラフである。
【
図13A】
図13A~13Fは、G9阻害剤が、本明細書に記載されるようなストロマフリー分化法を使用したT細胞分化を促進することを示す一連の概略図およびグラフである。
図13Aは、実験をまとめた概略図である(例えば、
図6~12、表2を参照のこと)。
図13B~13Eは、CD34+ HE細胞から作製されたProT細胞を異なる用量の他のG9a阻害剤で処理した後の変化倍率を示す棒グラフである。
図13Bは、UNC0638に対するT細胞分化の用量反応を示す。
図13Cは、A366に対するT細胞分化の用量反応を示す。
図13Dは、BRD4770に対するT細胞分化の用量反応を示す。
図13Eは、BIX01294に対するT細胞分化の用量反応を示す。
図13Fは、UNC0642に対するT細胞分化の用量反応を示す。UNC0224に加えて、少なくとも4つの低分子:UNC0638;BRD4770;BIX01294;およびUNC0642が、T細胞分化を促進可能である;例えば、表3を参照のこと。
【
図14A】
図14A~14Cは、UNC0224が、赤血球系/骨髄球系分化能を犠牲にして、T細胞コミットメントを増強することを示す一連の概略図およびグラフである。
図14Aは、UNC0224がT細胞分化に特異的に影響を及ぼすかどうかの試験を示す概略図である。iPSC由来CD34+ HE細胞をUNC0224で処理して、CD34+CD45+造血幹細胞・前駆細胞(HSPC)に分化させた。これらのHSPCを使用してT細胞、赤血球系細胞および骨髄球系細胞を作製し、それらの多能性を判定した。
図14Bは、CD34+CD45+ HSPC細胞から作製されたProT細胞をUNC0224(500nM)で処理した後の変化倍率を示す棒グラフである。UNC0224処理が、CD5+CD7+ ProT細胞の有意な増加をもたらすことに注目されたい。
図14Cは、コロニー形成単位(CFU)アッセイにおいてCD34+CD45+ HSPCから生成した異なる種類のコロニーの数を示す棒グラフである。E、赤血球系;M、マクロファージ;G、顆粒球;GM、顆粒球/マクロファージ;GEMM、顆粒球/赤血球系/マクロファージ/巨核球。UNC0224処理が、赤血球系または骨髄球系列細胞の有意な減少をもたらすことに注目されたい。
【
図15A】
図15A~15Cは、UNC0224が、細胞増殖よりもむしろT細胞特異化を促進することを示す一連のグラフである。
図14Bは、CD34+CD45+ HSPC細胞から作製されたProT細胞をUNC0224(500nM)で処理した後の変化倍率を示す棒グラフである。UNC0224処理が、CD5+CD7+ ProT細胞の有意な増加をもたらすことに注目されたい。
図14Bは、DMSOまたはUNC0224で処理されたCD34+CD45+ HSPCの14日間のT細胞分化後の総細胞数の変化倍率を示す棒グラフである。UNC0224処理が、総細胞の有意な減少をもたらすことに注目されたい。
図14Cは、DMSOまたはUNC0224で処理されたCD34+CD45+ HSPCから作製されたProT細胞の割合を示す棒グラフである。UNC0224処理が、CD5+CD7+ ProT細胞の割合の有意な増加をもたらすことに注目されたい。N=3、**** P>0.0001。
【
図16】
図16は、H3K9メチル化およびT細胞分化に関する例示的な仮説を示す概略図である。理論に拘束されることを望むわけではないが、H3K9メチル化は、リンパ系遺伝子の抑制を媒介することが予想される。したがって、H3K9メチル化の阻害剤による処理(例えば、
図6~15、表2~3を参照のこと)は、例えば、本明細書に記載されるようなストロマフリーT細胞分化法を使用した際に、T細胞分化を促進する。
【
図17】
図17は、ストロマフリー法を使用したCD3
+ T細胞の分化を示す概略図である。簡潔に述べると、非組織培養処理プレートを組換えヒトDL1/DL4-Fcタンパク質(PBS中10ug/ml、室温で3時間)で被覆する。人工多能性幹細胞(iPSC)由来の造血幹細胞・前駆細胞(HSPC;例えば、CD34
+造血内皮細胞)を、notchリガンド(例えば、デルタ様古典的Notchリガンド4(DLL4))被覆プレート上、IL-7、幹細胞因子(SCF)、Flit3およびトロンボポエチン(TPO)を含む培地中で培養する。2週間後、CD5
+CD7
+ T細胞前駆体(ProT)が分化する。ProT細胞は、DLL4被覆プレート内、IL-7、SCFおよびFlit3を含む培地中で分化を継続する;さらに3週間ほどの後、CD3
+ T細胞は分化していた。
【発明を実施するための形態】
【0084】
詳細な説明
本明細書に記載される技術の態様は、T細胞を分化させる方法を含む。一局面では、本明細書に記載される方法は、ストロマフリーT細胞分化法、すなわち、ストロマ細胞または任意の他の種類の支持細胞との共培養を含まない方法である。マウスストロマ細胞などのストロマ細胞との共培養は、iPSC由来T細胞のトランスレーショナルポテンシャルを制限している;例えば、ストロマ細胞が存在することによる移植拒絶反応への懸念が生じ得る。さらには、ストロマ細胞を使用して分化させたT細胞は、先天性様表現型を示す(例えば、ガンマデルタT細胞のマーカーであるTCRgd発現によって測定された場合)。T細胞が、例えばTCR αおよびβの発現を特徴とする、適応表現型を示すことが好ましい。
【0085】
加えて、本明細書に記載されるように、ストロマフリーT細胞分化法は、ストロマ共培養を含む分化法と比較して、CD3+ T細胞(例えば、CD4+CD8+細胞)の数の増加をもたらす。したがって、ストロマ細胞法なしで分化させたT細胞は、一態様では、エピジェネティック制御因子(例えば、HMT;例えば、EZH1、G9a/GLP)の阻害との組み合わせで、ストロマ共培養法と比較して、少なくとも以下の予想外の有益性を示す:(1)ヒトでの移植の可能性の増加;(2)先天性様T細胞の数の減少;(3)結果として生じるT細胞(例えば、CD5+CD7+ Pro-T細胞;CD3+ T細胞;CD4+CD8+ T細胞;CD4+ T細胞;CD8+ T細胞;アルファ-ベータT細胞)の数および/もしくは割合の増加;(4)アルファベータT細胞に最も類似した遺伝子発現プロファイル;(5)より多様なTCRレパートリー;ならびに/または(6)TCR CDR長の増加(例えば、実施例1、
図1C~1D、
図3A~3B、
図4、
図5A~5D、
図6~16を参照のこと)。
【0086】
分化法
一局面では、(a)多能性幹細胞の集団を、凝集培地中、CD34+造血内皮細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させること;および(b)結果として生じたCD34+造血内皮細胞の集団を、CD3+ T細胞分化培地中、Notchリガンドの存在下、CD3+ T細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させることを含む方法が、本明細書に記載される。
【0087】
いくつかの態様では、該方法は、結果として生じたCD34+造血内皮細胞の集団においてヒストンメチルトランスフェラーゼを阻害することをさらに含む。そのような阻害は、T細胞への分化の効率を増加させることができる。したがって、一局面では、(a)多能性幹細胞の集団を、凝集培地中、CD34+造血内皮細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させること;(b)結果として生じたCD34+造血内皮細胞の集団においてヒストンメチルトランスフェラーゼを阻害すること;および(c)結果として生じたCD34+造血内皮細胞の集団を、CD3+ T細胞分化培地中、Notchリガンドの存在下、CD3+ T細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させることを含む方法が、本明細書に記載される。
【0088】
一態様では、CD34+造血内皮細胞集団は、100ng/ml SCF、100ng/ml FLT3および50ng/ml IL7を含むCD3+ T細胞分化培地中に、10μg/mL Notchリガンドの存在下、CD3+ T細胞の集団への分化を促進するために少なくとも4週間培養される。
【0089】
一態様では、CD34+造血内皮細胞集団は、100ng/ml FLT3および50ng/ml IL7を含むCD3+ T細胞分化培地中に、10μg/mL Notchリガンドの存在下、CD3+ T細胞の集団への分化を促進するために少なくとも4週間培養される。
【0090】
一態様では、CD34+造血内皮細胞集団は、30ng/ml SCF、15ng/ml FLT3および25ng/ml IL7を含むCD3+ T細胞分化培地中に、10μg/mL Notchリガンドの存在下、CD3+ T細胞の集団への分化を促進するために少なくとも4週間培養される。
【0091】
一態様では、CD34+造血内皮細胞集団は、15ng/ml FLT3および25ng/ml IL7を含むCD3+ T細胞分化培地中に、10μg/mL Notchリガンドの存在下、CD3+ T細胞の集団への分化を促進するために少なくとも4週間培養される。
【0092】
一局面では、(a)多能性幹細胞の集団を、凝集培地中で、CD34+造血内皮細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させること;および(b)結果として生じたCD34+造血内皮細胞の集団を、15ng/ml FLT3および25ng/ml IL7を含むCD3+ T細胞分化培地中、10μg/mL Notchリガンドの存在下、CD3+ T細胞の集団への分化を促進するために少なくとも4週間、分化させることを含む、方法であって、CD3+ T細胞分化培地が、少なくとも最初の2週間、5ng/mL TPOおよび30ng/ml SCFをさらに含む方法が、本明細書に記載される。
【0093】
別の局面では、(a)多能性幹細胞の集団を、凝集培地中で、CD34+造血内皮細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させること;および(b)結果として生じたCD34+造血内皮細胞の集団を、15ng/ml FLT3および25ng/ml IL7を含むCD3+ T細胞分化培地中、10μg/mL Notchリガンドの存在下、CD3+ T細胞の集団への分化を促進するために少なくとも4週間、分化させることを含む、方法であって、CD3+ T細胞分化培地が、少なくとも最初の2週間、5ng/mL TPO、30ng/ml SCFおよびG9a阻害剤をさらに含む方法が、本明細書に記載される。
【0094】
別の局面では、(a)多能性幹細胞の集団を、凝集培地中で、CD34+造血内皮細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させること;および(b)結果として生じたCD34+造血内皮細胞の集団を、100ng/ml SCF、100ng/ml FLT3および50ng/ml IL7を含むCD3+ T細胞分化培地中、10μg/mL Notchリガンドの存在下、CD3+ T細胞の集団への分化を促進するために少なくとも4週間、分化させることを含む、方法であって、CD3+ T細胞分化培地が、少なくとも最初の2週間、TPO(50ng/mL)をさらに含む方法が、本明細書に記載される。
【0095】
別の局面では、(a)多能性幹細胞の集団を、凝集培地中で、CD34+造血内皮細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させること;および(b)結果として生じたCD34+造血内皮細胞の集団を、100ng/ml SCF、100ng/ml FLT3および50ng/ml IL7を含むCD3+ T細胞分化培地中、10μg/mL Notchリガンドの存在下、CD3+ T細胞の集団への分化を促進するために少なくとも4週間、分化させることを含む、方法であって、CD3+ T細胞分化培地が、少なくとも最初の2週間、TPO(50ng/mL)およびG9a/GLP阻害剤をさらに含む方法が、本明細書に記載される。
【0096】
別の局面では、(a)多能性幹細胞の集団を、凝集培地中で、CD34+造血内皮細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させること;および(b)結果として生じたCD34+造血内皮細胞の集団を、100ng/ml FLT3および50ng/ml IL7を含むCD3+ T細胞分化培地中、10μg/mL Notchリガンドの存在下、CD3+ T細胞の集団への分化を促進するために少なくとも4週間、分化させることを含む、方法であって、CD3+ T細胞分化培地が、少なくとも最初の2週間、50ng/mL TPOおよび100ng/ml SCFをさらに含む方法が、本明細書に記載される。
【0097】
別の局面では、(a)多能性幹細胞の集団を、凝集培地中で、CD34+造血内皮細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させること;および(b)結果として生じたCD34+造血内皮細胞の集団を、100ng/ml FLT3および50ng/ml IL7を含むCD3+ T細胞分化培地中、10μg/mL Notchリガンドの存在下、CD3+ T細胞の集団への分化を促進するために少なくとも4週間、分化させることを含む、方法であって、CD3+ T細胞分化培地が、少なくとも最初の2週間、50ng/mL TPO、100ng/ml SCFおよびG9a阻害剤をさらに含む方法が、本明細書に記載される。
【0098】
多能性幹細胞
いくつかの態様では、ストロマフリーT細胞分化法は、多能性幹細胞の集団を分化させることを含む。多能性幹細胞(PSC)は、あらゆる体細胞組織を生み出す能力を有する。本明細書に記載される任意の方法、細胞または組成物の一態様では、多能性幹細胞の集団は、人工多能性幹細胞(iPSC)または胚性幹細胞(ESC)である。IPSCおよびESCは、当技術分野において公知の任意の方法によって産生することができる。いくつかの態様では、多能性幹細胞の集団は、胚性幹細胞(ESC)を含む。胚性幹細胞(ESC)は、ヒト胚の未分化内部塊細胞に由来する幹細胞である。
【0099】
PSCの定方向分化は、胚発生を繰り返して、3つの胚葉を特異化することによって患者にマッチした組織を生成させることを目的とする。全胚葉にわたる定方向分化における共通テーマは、PSCが胚性および胎児様細胞型を生み出す傾向であり、これは、成体レシピエントにおける組み込みおよび機能について問題を引き起こす。この特徴は、個体発生の間に時間的および空間的に別々の波状になって出現する造血システムで特に著しい。最初期の「原始」前駆体は、8.5dpcに卵黄嚢内に出現し、限られたレパートリーのマクロファージ、巨核球および有核赤血球を生み出す。これらの初期胚様前駆体は、一般に骨髄球ベースであり、成体レシピエントの骨髄に機能的に再増殖することができない。対照的に、造血幹細胞(HSC)分化能を有する「確定的」細胞が、その後、大動脈-性腺-中腎(AGM)内の動脈内皮および他の解剖学的部位に出現する。PSCの定方向分化は、初期胚の卵黄嚢に見いだされるものに類似した造血前駆体を生み出す。これらは、機能再構成能を欠如し、骨髄球系列に偏り、胚性グロビンを発現する。したがって、原始または確定的系列のいずれかの発生を促進する主要な運命決定メカニズムを理解することは、HSCおよびPSCからの他の成体様細胞型(例えば、赤血球)を特異化するために重要である。
【0100】
いくつかの態様では、多能性幹細胞(PSC)の集団は、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を含む。いくつかの態様では、人工多能性幹細胞は、リプログラミング因子OCT4、SOX2、KLF4のみ、および任意でc-MYCまたはnanogおよびLIN28を成熟細胞に導入することによって産生される。いくつかの態様では、人工多能性幹細胞は、リプログラミング因子を成熟細胞に2回以上導入することによって産生される。
【0101】
いくつかの態様では、本明細書に記載される多能性幹細胞(PSC)は、人工多能性幹細胞(iPSC)である。iPSCを使用する利点は、この細胞が、最終的な免疫細胞が再導入されるものと同じ対象から誘導することができることである。すなわち、体細胞を対象から得て、人工多能性幹細胞へとリプログラムし、次いで、対象に投与しようとする改変された免疫細胞(例えば、自己由来細胞)にトランスフェクトおよび分化させることができる。前駆体は、本質的には自己供給源に由来するので、生着拒絶反応またはアレルギー反応のリスクは、別の対象また対象群からの細胞の使用と比較して低減される。いくつかの態様では、iPSCを作製するための細胞は、非自己供給源に由来する。加えて、iPSCの使用は、胚性供給源から得られる細胞の必要性を打ち消す。したがって、一態様では、開示の方法において使用されるPSCは、胚性幹細胞ではない。
【0102】
分化は、生理学的状況で一般的に不可逆的であるものの、体細胞を人工多能性幹細胞にリプログラムするために、いくつかの方法が最近開発されている。例示的な方法は、当業者に公知であり、本明細書下記に簡潔に説明される。
【0103】
本明細書に使用される場合、用語「リプログラミング」は、分化細胞(例えば、体細胞)の分化状態を変化または逆戻りさせるプロセスのことを指す。別の言い方をすると、リプログラミングは、細胞の分化を、細胞のより未分化またはより原始的な型に駆動し戻すプロセスのことを指す。多くの初代細胞を培養状態に置くことで、完全分化の特徴をいくらかの喪失に導けることに留意すべきである。このように、分化細胞という用語に含まれるそのような細胞を単に培養することで、これらの細胞が非分化細胞(例えば、未分化細胞)または多能性細胞になるわけではない。分化細胞から多能性への移行は、培養において分化特徴の部分的喪失を導く刺激を超えたリプログラミング刺激を必要とする。リプログラミングされた細胞は、一般に、培養中に限られた回数の分裂能のみを有する親の初代細胞と比較して、成長能を失わずに長期継代できるという特徴も有する。
【0104】
リプログラミングしようとする細胞は、リプログラミング前に部分分化または最終分化のいずれかの状態であることができる。いくつかの態様では、リプログラミングは、分化細胞(例えば、体細胞)から多能性状態または複能性状態への分化状態の完全な逆戻りを包含する。いくつかの態様では、リプログラミングは、分化細胞(例えば、体細胞)の未分化細胞(例えば、胚様細胞)への分化状態の完全または部分的逆戻りを包含する。リプログラミングは、その発現がリプログラミングにさらに寄与する細胞による特定の遺伝子の発現をもたらすことができる。本明細書に記載されるある特定の態様では、分化細胞(例えば、体細胞)のリプログラミングは、分化細胞が未分化状態を装うようにする(例えば、未分化細胞である)。結果として生じた細胞は、「リプログラミングされた細胞」または「人工多能性幹細胞(iPSCまたはiPS細胞)」と称される。
【0105】
リプログラミングは、細胞分化の間に起こる、核酸修飾(例えば、メチル化)、クロマチン凝縮、エピジェネティック変化、ゲノムインプリンティングなどの遺伝性パターンのうちの少なくともいくつかの変質、例えば逆戻りを含むことができる。リプログラミングは、すでに多能性である細胞の既存の未分化状態を単に維持すること、またはすでに複能性細胞である細胞(例えば、骨髄球系共通幹細胞)の既存の完全未満の分化状態を維持することとは別個である。リプログラミングはまた、すでに多能性または複能性である細胞の自己複製または増殖を促進することとは別個であるが、本明細書に記載される組成物および方法は、いくつかの態様ではそのような目的のためにも有用であることができる。
【0106】
体細胞から多能性幹細胞を作製(広く「リプログラミング」と称される)するために使用される具体的なアプローチまたは方法は、記載されている方法に必ずしも重要ではない。したがって、体細胞を多能性表現型にリプログラムする任意の方法が、本明細書に記載される方法における使用のために適切であろう。
【0107】
所定の転写因子の組み合わせを使用して多能性細胞を作製するためのリプログラミング方法論が、体細胞から多能性幹細胞を誘導すると記載されている。山中および高橋は、Oct4、Sox2、Klf4および任意でc-Mycの直接形質導入により、マウス体細胞を、発生能が拡大したES細胞様細胞に変換した。山中および高橋の米国特許第8058065号および第9045738号を参照されたい。iPSCは、多能性関連転写回路系およびエピジェネティックランドスケープの多くを回復しているので、ES細胞に似ている。加えて、マウスiPSCは、多能性:具体的には、3つの胚葉の細胞型へのインビトロ分化、奇形腫形成、キメラへの寄与、生殖細胞系列伝達、および四倍体相補性についての標準的アッセイをすべて満足する。
【0108】
その後の研究は、類似の形質導入法を使用してヒトiPS細胞を得ることができることを示しており、三つの転写因子:OCT4、SOX2およびNANOGが、多能性を支配する転写因子のコアセットとして確立されている。iPS細胞の産生は、ウイルスベクターを使用して、幹細胞関連遺伝子をコードする核酸配列を成体体細胞に導入することによって達成することができる。
【0109】
OCT4、SOX2、KLF4およびc-MYCは、マウス線維芽細胞をiPSCにリプログラムすると同定された本来の4つの転写因子である。これらの同じ4つの因子はまた、ヒトiPSCを作製するためにも十分であった。OCT3/4およびSOX2は、多能性関連遺伝子の発現を調節することによって多能性ネットワークのコア転写因子として機能する。クルッペル様因子4(KLF4)は、マウスES細胞におけるLIF-STAT3シグナル伝達の下流の標的であり、自己複製を調節する。ヒトiPSCは、4つの代替的な因子を使用して作製することもでき;OCT4およびSOX2が必要であるが、KLF4およびc-MYCは、ES細胞および初期胚の両方における多能性の維持に重要なホメオボックスタンパク質であるNANOG、ならびにRNA結合タンパク質であるLIN28により置き換えることもできる。OCT4、SOX2、NANOGおよびLIN28リプログラミング因子の組み合わせは、ヒトiPSCを作製するためにも十分であると報告されている。
【0110】
本明細書に記載される任意の方法、細胞または組成物の一態様では、iPSCは、例えば、わずか3つのリプログラミング因子OCT4、SOX2およびKLF4の外因性コピーを成熟細胞または体細胞に導入することによって産生される。本明細書に記載される任意の方法、細胞または組成物の一態様では、c-MYC、またはnanogおよび/またはLIN28が、OCT4、SOX2およびKLF4の外因性遺伝子コーディングコピーを有するiPSCにさらに導入され、成熟細胞または体細胞に分化させる。本明細書に記載される任意の方法、細胞または組成物の一態様では、iPSCは、リプログラミング因子OCT4、SOX2およびKLF4の外因性コピーを、任意でc-MYCまたはnanogおよび/またはLIN28と共に導入し、成熟細胞または体細胞に分化させることによって産生される。
【0111】
本明細書に記載される任意の方法、細胞または組成物の一態様では、iPSCは、成熟細胞を少なくとも1つのベクターと接触させることによって産生され、少なくとも1つのベクターは、成熟細胞または体細胞に分化させるために、リプログラミング因子OCT4、SOX2およびKLF4の外因性遺伝子コーディングコピーを、任意でc-MYC、またはnanogおよび/またはLIN28と共に担持し、リプログラミング因子は、接触後の成熟細胞または体細胞においてインビボ発現される。接触は、インビトロまたはエクスビボである。分化に必要なリプログラミング因子はすべて、1つのベクター(例えば、OCT4、SOX2、KLF4およびc-MYCの外因性遺伝子コーディングコピーを担持するベクター)によって発現させることができる。あるいは、リプログラミング因子は、iPSCと接触させるために各々使用される1を超えるベクターにおいて発現させることができる。例えば、iPSCは、OCT4、SOX2の外因性遺伝子コーディングコピーを担持する第1のベクターと、外因性遺伝子コーディングコピーKLF4およびc-MYCを担持する第2のベクターにより接触させることができる。
【0112】
任意の開示される方法の一態様では、iPS細胞は、遺伝子Oct4(Pou5f1)、Sox2、cMyc、Klf4、Nanog、Lin 28およびGlis1からなる群より選択されるリプログラミング因子をコードする核酸配列の少なくとも1つの外因性コピーを含む。いくつかの態様では、リプログラミング因子の組み合わせが使用される。例えば、Oct4、Sox2、cMycおよびKlf4からなる4つのリプログラミング因子の組み合わせ、またはOct4、Sox2、NanogおよびLin 28からなる4つのリプログラミング因子の組み合わせ。
【0113】
本明細書に記載される任意の方法、細胞または組成物の一態様では、iPSCは、開示されるリプログラミング因子またはリプログラミング因子の任意の組み合わせを、成熟細胞または体細胞に2回以上導入することによって産生される。一態様では、リプログラミング因子の組み合わせは、組み合わせがiPSCに1回超導入される場合には異なり、例えば、最初にOct4(Pou5f1)、Sox2、cMyc、Klf4、Nanogの組み合わせがiPSCに導入され、その後Oct4(Pou5f1)、Sox2、cMycの組み合わせがiPSCに導入される。本明細書に記載される任意の方法、細胞または組成物の一態様では、iPSCは、成熟細胞を、開示されるベクター因子と2回以上接触させて成熟/体細胞内に入れることによって産生される。
【0114】
いくつかの態様では、多能性幹細胞(例えば、iPSC)の集団は、Notchリガンドの存在下で分化されない。いくつかの態様では、多能性幹細胞(例えば、iPSC)の集団からCD34+造血内皮細胞の集団への分化を促進するために使用される凝集培地は、Notchリガンドを含まない。いくつかの態様では、多能性幹細胞(例えば、iPSC)の集団からCD34+造血内皮細胞の集団への分化の間に使用される細胞培養容器は、Notchリガンドを含まない。
【0115】
iPS細胞は、最終分化した体細胞から、ならびに成体幹細胞、または体性幹細胞から作製または誘導することができる。すなわち、非多能性前駆細胞をリプログラミングにより多能性または複能性にすることができる。そのような場合、最終分化した細胞をリプログラムするために必要である同じ数のリプログラミング因子を含む必要がない場合がある。さらに、リプログラミングは、リプログラミング因子の非ウイルス性導入によって、例えば、タンパク質自体を導入すること、またはリプログラミング因子をコードする核酸を導入すること、または翻訳されるとリプログラミング因子を産生するメッセンジャーRNAを導入することによって、誘導することができる(例えば、Warren et al., Cell Stem Cell, 2010 Nov 5;7(5):618-30を参照されたく、この参考文献は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる)。リプログラミングは、例えばOct-4(Oct-3/4またはPouf51としても知られている)、Sox1、Sox2、Sox3、Sox 15、Sox 18、NANOG、Klf1、Klf2、Klf4、Klf5、NR5A2、c-Myc、l-Myc、n-Myc、Rem2、Tert、およびLIN28を含む幹細胞関連遺伝子をコードする核酸の組み合わせを導入することによって達成することができる。一態様では、本明細書に記載される方法および組成物を使用したリプログラミングは、Oct-3/4、Soxファミリーのメンバー、Klfファミリーのメンバー、およびMycファミリーのメンバーのうち1つまたは複数を体細胞に導入することをさらに含むことができる。一態様では、本明細書に記載される方法および組成物は、Oct 4、Sox2、Nanog、c-MYCおよびKlf4のそれぞれの1つまたは複数をリプログラミングのために導入することをさらに含む。上述したように、リプログラミングに使用される正確な方法は、本明細書に記載される方法および組成物に必ずしも重要ではない。しかしながら、リプログラミングされた細胞から分化させた細胞を、例えば、ヒトの治療において使用しようとする場合、一態様では、リプログラミングは、ゲノムを変化させる方法によって影響を受けない。したがって、そのような態様では、リプログラミングは、例えば、ウイルスまたはプラスミドベクターを使用せずに達成される。
【0116】
出発細胞の集団から誘導されるリプログラミングの効率(すなわち、リプログラミングされた細胞の数)は、Shi, Y., et al (2008) Cell-Stem Cell 2:525-528、Huangfu, D., et al (2008) Nature Biotechnology 26(7):795-797、および Marson, A., et al (2008) Cell-Stem Cell 3:132-135(それらの各々の内容は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる)によって示されるように様々な低分子の添加によって増強することができる。したがって、人工多能性幹細胞産生の効率または速度を高める作用物質または作用物質の組み合わせを、患者特異的または疾患特異的iPSCの産生に使用することができる。リプログラミング効率を高める作用物質のいくつかの非限定的な例としては、とりわけ、可溶性Wnt、Wnt馴化培地、BIX-01294(G9aヒストンメチルトランスフェラーゼ)、PD0325901(MEK阻害剤)、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤、バルプロ酸、5'-アザシチジン、デキサメタゾン、スベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)、ビタミンC、およびトリコスタチン(TSA)が挙げられる。
【0117】
リプログラミング増強物質の他の非限定的な例としては、スベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA(例えば、MK0683、ボリノスタット)および他のヒドロキサム酸)、BML-210、デプデシン(例えば、(-)-デプデシン)、HC毒素、ヌルスクリプト(Nullscript)(4-(1,3-ジオキソ-1H,3H-ベンゾ[デ]イソキノリン-2-イル)-N-ヒドロキシブタンアミド)、フェニル酪酸塩(例えば、フェニル酪酸ナトリウム)およびバルプロ酸((VPA)および他の短鎖脂肪酸)、スクリプタイド、スラミンナトリウム、トリコスタチンA(TSA)、APHA化合物8、アピシジン、酪酸ナトリウム、ピバロイルオキシメチルブチレート(Pivanex、AN-9)、トラポキシンB、クラミドシン、デプシペプチド(FR901228またはFK228としても知られている)、ベンズアミド(例えば、CI-994(例えば、N-アセチルジナリン)およびMS-27-275)、MGCD0103、NVP-LAQ-824、CBHA(m-カルボキシケイ皮酸ビスヒドロキサム酸)、JNJ16241199、ツバシン、A-161906、プロキサミド、オキサムフラチン、3-Cl-UCHA(例えば、6-(3-クロロフェニルウレイド)カプロイックヒドロキサム酸)、AOE(2-アミノ-8-オキソ-9,10-エポキシデカン酸)、CHAP31およびCHAP 50が挙げられる。他のリプログラミング増強物質には、例えば、HDACの優性ネガティブ型(例えば、触媒不活性型)、HDACのsiRNA阻害剤、およびHDACに特異的に結合する抗体が含まれる。そのような阻害剤は、例えば、BIOMOL International、Fukasawa、Merck Biosciences、Novartis、Gloucester Pharmaceuticals、Aton Pharma、Titan Pharmaceuticals、Schering AG、Pharmion、MethylGene、およびSigma Aldrichから入手可能である。
【0118】
本明細書に記載される方法と共に使用するための多能性幹細胞の誘導を確認するために、単離されたクローンを、幹細胞マーカーの発現について試験することができる。体細胞から派生した細胞におけるこのような発現で、その細胞が人工多能性幹細胞と特定される。幹細胞マーカーは、SSEA3、SSEA4、CD9、Nanog、Fbx15、Ecat1、Esg1、Eras、Gdf3、Fgf4、Cripto、Dax1、Zpf296、Slc2a3、Rex1、Utf1、およびNat1を含む非限定的な群から選択することができる。一態様では、Oct4またはNanogを発現する細胞は、多能性と特定される。そのようなマーカーの発現を検出するための方法は、例えば、RT-PCR、およびコードされたポリペプチドの存在を検出する免疫学的方法、例えばウエスタンブロットまたはフローサイトメトリー分析を含むことができる。いくつかの態様では、検出は、RT-PCRだけ伴うのでなく、タンパク質マーカーの検出も含む。細胞内マーカーは、RT-PCRを介して最良に特定され得るのに対し、細胞表面マーカーは、例えば免疫細胞化学的検査によって容易に特定される。
【0119】
単離された細胞の多能性幹細胞の特徴は、iPSCが3つの胚葉のそれぞれの細胞に分化する能力を評価する試験によって確認することができる。一例として、ヌードマウスにおける奇形腫形成を、単離されたクローンの多能性特徴を評価するために使用することができる。細胞を、ヌードマウスに導入し、細胞から生じた腫瘍に対して組織学的検査および/または免疫組織化学的検査を行う。3つの胚葉のすべてからの細胞を含む腫瘍の成長は、例えば、その細胞が多能性幹細胞であることをさらに示す。
【0120】
多くの米国特許および特許出願公開が、iPSCを作製する方法および関連する主題を教示および説明している。例えば、米国特許第8058065号、第9347044号、第9347042号、第9347045号、第9340775号、第9341625号、第9340772号、第9250230号、第9132152号、第9045738号、第9005975号、第9005976号、第8927277号、第8993329号、第8900871号、第8852941号、第8802438号、第8691574号、第8735150号、第8765470号、第8058065号、第8048675号、ならびに米国特許公開第20090227032号、第20100210014号、第20110250692号、第20110201110号、第20110200568号、第20110223669号、第20110306516号、第20100021437号、第20110256626号、第20110044961号、第20120276070号、第20120214243号、第20120263689号、第20120128655号、第20120100568号、第20130295064号、第20130029866号、第20130059386号、第20130183759号、第20130189786号、第20130295579号、第20130130387号、第20130157365号、第20140234973号、第20140227736号、第20140093486号、第20140301988号、第20140170746号、第20140178989号、第20140349401号、第20140065227号、および第20150140662号、これらのすべては、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0121】
いくつかの態様では、iPSCは、体細胞から誘導することができる。体細胞は、この用語が本明細書に使用される場合、生殖系列細胞を除いた、生物の身体を形成する任意の細胞のことを指す。精子および卵子、それらが作られる元となる細胞(生殖母細胞)ならびに未分化幹細胞を除けば、哺乳動物の身体におけるあらゆる細胞型が、分化体細胞である。例えば、内臓、皮膚、骨、血液および結合組織はすべて、分化体細胞でできている。本明細書に記載される任意の方法、細胞または組成物の一態様では、iPS細胞が作られる元となる成熟細胞には、Bリンパ球(B細胞)、Tリンパ球(T細胞)、ならびに線維芽細胞および角化細胞などの任意の体細胞が含まれる。
【0122】
本明細書に記載される組成物および方法と共に使用するための追加の体細胞型には、線維芽細胞(例えば、初代線維芽細胞)、筋肉細胞(例えば、筋細胞)、卵丘細胞、神経細胞、乳腺細胞、肝細胞および膵島細胞が含まれる。いくつかの態様では、体細胞は、初代細胞株であるか、または初代もしくは二次細胞株の子孫である。いくつかの態様では、体細胞は、ヒト試料、例えば、毛包、血液試料、生検(例えば、皮膚生検または脂肪生検)、スワブ試料(例えば、口腔スワブ試料)から得られ、このため、ヒト体細胞である。
【0123】
分化体細胞のいくつかの非限定的な例としては、上皮細胞、内皮細胞、神経細胞、脂肪細胞、心細胞、骨格筋細胞、皮膚細胞、免疫細胞、肝細胞、脾細胞、肺細胞、末梢循環血液細胞、消化管細胞、腎細胞、骨髄細胞、および膵細胞が挙げられるが、それらに限定されない。いくつかの態様では、体細胞は、脳、肝臓、消化管、胃、腸管、脂肪、筋肉、子宮、皮膚、脾臓、内分泌器官、骨などを非限定的に含む、任意の体細胞組織から単離された初代細胞であることができる。さらに、体細胞は、任意の哺乳動物種由来であることができ、その非限定的な例としては、マウス、ウシ、サル、ブタ、ウマ、ヒツジ、またはヒト細胞が挙げられる。いくつかの態様では、体細胞は、ヒト体細胞である。
【0124】
リプログラミングされた細胞を、疾患の治療的処置に使用しようとする前駆細胞の作製に使用する場合、処置される患者から単離された体細胞を使用することが望ましいが、必ずしもその必要はない。例えば、疾患に関与する体細胞および疾患の治療的処置に関係する体細胞などを使用することができる。いくつかの態様では、リプログラミングされた細胞とそれらが誘導または作製される元となった体細胞を含む不均一な集団からリプログラミングされた細胞を選択するための方法は、任意の公知の手段によって行うことができる。例えば、選択マーカー遺伝子のような薬物耐性遺伝子などを使用して、指標として選択マーカーを使用してリプログラミングされた細胞を単離することができる。
【0125】
本明細書に開示されるようなリプログラミングされた体細胞は、アルカリホスファターゼ(AP);ABCG2;ステージ特異的胚抗原-1(SSEA-1);SSEA-3;SSEA-4;TRA-1-60;TRA-1-81;Tra-2-49/6E;ERas/ECAT5、E-カドヘリン;ベータ-III-チューブリン;アルファ-平滑筋アクチン(α-SMA);線維芽細胞成長因子4(Fgf4)、Cripto、Dax1;ジンクフィンガータンパク質296(Zfp296);N-アセチルトランスフェラーゼ-1(Nat1);(ES細胞関連転写物1(ECAT1);ESG1/DPPA5/ECAT2;ECAT3;ECAT6;ECAT7;ECAT8;ECAT9;ECAT10;ECAT15-1;ECAT15-2;Fthl17;Sal14;未分化胚細胞転写因子(Utf1);Rex1;p53;G3PDH;TERTを含むテロメラーゼ;サイレントX染色体遺伝子;Dnmt3a;Dnmt3b;TRIM28;Fボックス含有タンパク質15(Fbx15);Nanog/ECAT4;Oct3/4;Sox2;Klf4;c-Myc;Esrrb;TDGF1;GABRB3;Zfp42、FoxD3;GDF3;CYP25A1;発生多能性関連2(DPPA2);T細胞リンパ腫切断点1(Tcl1);DPPA3/Stella;DPPA4;多能性に関する他の一般的マーカーなどを含む、いくつもの多能性細胞マーカーを発現することができる。他のマーカーは、Dnmt3L;Sox15;Stat3;Grb2;β-カテニン、およびBmi1を含むことができる。そのような細胞はまた、人工多能性幹細胞が誘導される元となる体細胞に特徴的なマーカーのダウンレギュレーションによって特徴付けることもできる。一態様では、iPSCは、成熟の分化した体細胞から誘導される。
【0126】
いくつかの態様では、本明細書に記載される分化法において使用される多能性幹細胞の集団は、患者試料から精製されたCD34+ HSPCまたは複能性リンパ系前駆体(MLP)を含まない。いくつかの態様では、多能性幹細胞の集団は、臍帯血または骨髄試料から精製または単離された幹細胞を含まない。いくつかの態様では、多能性幹細胞の集団は、患者試料(例えば、臍帯血または骨髄)から単離された幹細胞に由来しない。好ましい態様では、多能性幹細胞の集団は、iPSC、例えば、患者からの体細胞試料に由来するものを含む。例えば、Tabatabaei-Zavareh et al., J Immunol May 1, 2017, 198 (1 Supplement) 202.9を参照のこと。
【0127】
造血内皮細胞
いくつかの態様では、本明細書に記載される方法は、多能性幹細胞(例えば、iPSC)の集団を、造血分化能を有する細胞の集団へと分化させることを含む。いくつかの態様では、造血分化能を有する細胞の集団は、造血内皮細胞および/または造血幹細胞(HSC)を含む。造血分化能を有する細胞(例えば、造血内皮細胞、HSC)は、当技術分野において公知の任意の方法を使用して産生することができる。
【0128】
hPSCからHSCを作製するための例示的な一アプローチは、HSCをその個体発生前駆体から特異化することである。今や、HSCは、大動脈-性腺-中腎(AGM)内の造血内皮細胞(HE)および他の解剖学的部位における動脈内皮を起源とすると広く受け入れられている。hPSCからのHEの定方向分化に関する最近の研究は、原始または確定的集団の出現を制御するシグナル伝達経路のいくつかへの貴重な洞察を提供した;しかしながら、内皮から造血への移行(例えば、HEからHSCへ)は、ヒトの造血発生においてまだ十分に解明されていない。
【0129】
本明細書に使用される場合、用語「造血内皮細胞」は、造血細胞に分化することができる、血管内に散在している固有の内皮細胞サブセットのことを指す。マウスの発生において、HSCは、胎生期10.5日から、大動脈-性腺-中腎領域内に位置する造血分化能を有する小さな内皮細胞集団(造血内皮細胞)から生じる。内皮から造血への移行(EHT)として知られているプロセスでは、大動脈床中の内皮細胞が集まり、血管外空間で出芽し、続いて、下層静脈を介して循環に再侵入する。いくつかの態様では、造血内皮細胞の属性を含む細胞の集団は、インビトロで多能性幹細胞(例えば、iPSC)の集団から分化する。前記「造血内皮細胞の属性を含む細胞」はまた、本明細書において造血内皮細胞と称することができる。
【0130】
多能性幹細胞(PSC)からHSCを誘導する取り組みは、胚性造血が、原始造血と確定的造血の2つのプログラムからなるが、確定的造血だけが、HSC、ひいてはリンパ球系列を生成するという事実によって複雑になっている。T-リンパ球系分化能によって測定されるような確定的造血は、原始造血プログラムの確立後に出現し、造血内皮細胞の特徴を示す前駆体集団から発生する。
【0131】
いくつかの態様では、ストロマフリーT細胞分化法は、多能性幹細胞の集団を、凝集培地中で、CD34+造血内皮細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させることを含む。いくつかの態様では、結果として得られたCD34+造血内皮細胞は、確定的造血を受けることができ、かつ/または、リンパ球系分化能を示す。いくつかの態様では、造血内皮細胞は、分化するかまたは造血幹細胞(HSC)へと分化される。
【0132】
いくつかの態様では、多能性幹細胞(例えば、iPSC)の集団は、胚様体(EB)または2D接着培養物を使用してCD34+造血内皮細胞の集団へと分化される;例えば、Pineda et al., Differentiation patterns of embryonic stem cells in two versus three dimensional culture, Cells Tissues Organs. 2013; 197(5): 399-410を参照されたく、これは、参照により本明細書に組み入れられる。EBは、血清の存在下、インビトロで産生および培養された多能性幹細胞の3次元凝集体である。EBは、原始造血前駆細胞型と確定的造血前駆細胞型の混合物を生成し得る。原始前駆体は、胚発生の最初期段階に自然にインビボで生じる細胞と同等と見なされ、一方で、胚性集団は、成熟のその後の段階で成体造血に典型的な細胞と同様に挙動する確定的前駆細胞を生み出す。
【0133】
いくつかの態様では、CD34+造血内皮細胞の集団への分化を促進するために十分な時間は、少なくとも8日間(例えば、少なくとも7日間、少なくとも8日間、少なくとも9日間、少なくとも10日間、またはそれ以上)である。いくつかの態様では、CD34+造血内皮細胞の集団への分化を促進するために十分な時間は、多くても8日間、多くても9日間、多くても10日間、またはそれ以上である。
【0134】
いくつかの態様では、凝集培地は、BMP4、SB-431542、CHIR99021、bFGF、VEGF、IL-6、IL-11、IGF-1、SCF、およびEPO、またはそれらの任意の組み合わせを含む。いくつかの態様では、凝集培地は、10ng/ml BMP4、6mM SB-431542、3mM CHIR99021、5ng/ml bFGF、15ng/ml VEGF、10ng/ml IL-6、5ng/ml IL-11、25ng/ml IGF-1、50ng/ml SCF、および2U/ml EPOを含む;例えば、本明細書に提示される実施例2および表1を参照のこと。
【0135】
いくつかの態様では、凝集培地の成分は、多能性幹細胞から造血内皮細胞への分化の間、変動する。非限定的な例として、胚様体は、BMP4の存在下で分化し、続いて、bFGF、VEGFおよび造血性サイトカイン(例えば、IL-6、IL-11、IGF-1、SCFおよびEPO)のステージ特異的添加が行われる。2日目と3日目の間でアクチビンノーダルシグナル伝達を操作することができる(例えば、SB-431542およびCHIR99021を使用して)。例えば、本明細書以下の実施例2;および Sturgeon et al., Wnt signaling controls the specification of definitive and primitive hematopoiesis from human pluripotent stem cells, Nat Biotechnol. 2014 Jun; 32(6): 554-561を参照されたく、これは、参照により本明細書に組み入れられる。
【0136】
いくつかの態様では、凝集培地は、分化の0日目、1日目および/または2日目にBMP(例えば、10ug/mL BMP)を含む。いくつかの態様では、凝集培地は、分化の3日目、4日目、5日目、6日目、7日目または8日目にBMPを含まない。
【0137】
いくつかの態様では、凝集培地は、分化の2日目にSB-431542(例えば、6mM SB-431542)および/またはCHIR99021(例えば、3mM CHIR99021)を含む。SB-431542は、アクチビンノーダルシグナル伝達の低分子アンタゴニストである。CHIR99021は、GSK-3阻害剤およびWntアゴニストである。アクチビンノーダルシグナル伝達の阻害およびWntシグナル伝達の活性化は、リンパ球系分化能を有する確定的前駆体(KDR+CD235a-)へのPSC分化を駆動することが示されている(例えば、前出のSturgeon 2014を参照されたく、これは参照により本明細書に組み入れられる)。いくつかの態様では、凝集培地は、分化の0日目、1日目、3日目、4日目、5日目、6日目、7日目および/または8日目にSB-431542および/またはCHIR99021を含まない。
【0138】
いくつかの態様では、凝集培地は、分化の1日目、2日目、3日目、4日目、5日目、6日目、7日目および/または8日目にbFGF(例えば、5ng/ml bFGF)を含む。いくつかの態様では、凝集培地は、分化の0日目にbFGFを含まない。
【0139】
いくつかの態様では、凝集培地は、分化の3日目、4日目、5日目、6日目、7日目および/または8日目にVEGF(例えば、15ng/ml VEGF)を含む。いくつかの態様では、凝集培地は、分化の0日目、1日目または2日目にVEGFを含まない。
【0140】
いくつかの態様では、凝集培地は、分化の6日目、7日目および/または8日目に造血性サイトカインを含む。いくつかの態様では、凝集培地は、分化の0日目、1日目、2日目、3日目、4日目または5日目に造血性サイトカインを含まない。いくつかの態様では、造血性サイトカインは、IL-6(例えば、10ng/ml IL-6)、IL-11(例えば、5ng/ml IL-11)、IGF-1(例えば、25ng/ml IGF-1)、SCF(例えば、50ng/ml SCF)、およびEPO(例えば、2U/ml EPO)からなる群より選択される。
【0141】
いくつかの態様では、分化法は、結果として生じたCD34+造血内皮細胞の集団を、CD34+造血内皮細胞の集団での表面マーカーの発現を利用して選択または単離することをさらに含む。造血内皮細胞を選択または単離するための方法の非限定的な例としては、磁気活性化細胞分取(MACS)および蛍光活性化細胞分取(FACS)が挙げられる。いくつかの態様では、造血内皮細胞の表面マーカーは、CD34(例えば、高CD34表面発現)である。
【0142】
いくつかの態様では、造血内皮細胞の追加の陽性または陰性マーカーは、CD45、CD38、KDR、CD235およびCD43を含むことができるが、それらに限定されない。いくつかの態様では、CD34+造血内皮細胞の集団は、CD45陰性/低発現である。いくつかの態様では、CD34+造血内皮細胞の集団は、CD38陰性/低発現である。いくつかの態様では、CD34+造血内皮細胞の集団は、KDR+である。いくつかの態様では、CD34+造血内皮細胞の集団は、CD235陰性/低発現である。いくつかの態様では、CD34+造血内皮細胞の集団は、CD43陰性/低発現である。
【0143】
いくつかの態様では、造血内皮細胞および/またはHSCは、当技術分野において公知の任意の方法を使用して産生される。非限定的な例として、PSCを造血内皮細胞へと分化させる方法は、ERG、HOXA5、HOXA9、HOXA10、LCOR、RUNX1および/またはSPI1などの転写因子の導入を含むことができる;例えば、国際出願第WO 2018/048828号、米国特許出願第2019/0225940号、Doulatov et al., Cell Stem Cell. 2013 October 3, 13(4); Vo et al., Nature 2018, 553(7689): 506-510を参照のこと;それらの各々の内容は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0144】
いくつかの態様では、造血内皮細胞は、PSCに由来しないが、むしろ内皮細胞に直接由来する。例えば、内皮細胞(例えば、肺、脳および他の組織からの)を、転写因子(例えば、Fosb、Gfi1、Runx1およびSpi1)による形質導入および不死化内皮細胞株との共培養によって、造血内皮細胞に直接リプログラミングすることができる;内皮細胞は、細胞外因子(例えば、血清、SB-431542、および/または内皮分裂促進因子)にさらに曝露させることができる。例えば、Lis et al., Nature. 2017 May 25, 545(7655): 439-445;Blaser and Zon, Blood. 2018 Sep 27;132(13): 1372-1378を参照されたく、これらは、参照により本明細書に組み入れられる。
【0145】
エピジェネティック制御因子の阻害
いくつかの局面では、少なくとも1つのエピジェネティック制御因子を阻害する工程を含むT細胞分化法が、本明細書に記載される。本明細書に使用される場合、用語「エピジェネティック制御因子」は、DNAメチル化および/またはヒストン修飾(例えば、ヒストンアセチル化、ヒストンメチル化)に影響する、したがって、ゲノムのヌクレオチド配列に変化(例えば、置換または欠失)を起こすことなく遺伝子の転写レベルに影響を及ぼす、因子、例えば、ポリペプチド、例えば、酵素のことを指す。エピジェネティック制御因子の非限定的な例としては、DNA-メチルトランスフェラーゼ(DNMT;例えば、DNMT1;DNMT3a;DNMT3b);メチル-CpG結合ドメイン(MBD)タンパク質(例えば、MeCP2;MBD1;MBD2;MCD4;KAISO;ZBTB4;ZBTB38;UHRHRF2);DNAデメチラーゼ(例えば、5'-メチルサイトカインヒドロキシラーゼ;TET1;TET2;TET3);ヒストンメチルトランスフェラーゼ(HMT;例えば、SUV39s;SET1s;EZH1;EZH2;Set2s;PRDMs;SMYDs;DOT1L;PRMTs;G9a;GLP);メチル-ヒストン結合タンパク質(例えば、HP1;Chd1;BPTF;L3MBTL1;ING2;BHC80;JMJD2A);ヒストンデメチラーゼ(例えば、KDMs;例えば、LSDs;JHDMs;JMJDs;JARID;Uts;PHFs);ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT;例えば、HAT1;GCN5;PCAF;MYSTs;p300;CBP;SRC/p160);アセチル結合タンパク質(例えば、BROMO-ドメイン、DPF-ドメイン、またはYEATS-ドメイン含有タンパク質);ヒストンデアセチラーゼ(HDAC;例えば、HDAC1;HDAC2;HDAC3;HDAC4;HDAC5;HDAC6;HDAC7;HDAC8;HDAC9;HDAC10;HDAC11;Sirt1;Sirt2;Sirt3;Sirt4;Sirt5;Sirt6;Sirt7)が挙げられる。例えば、Cheng et al., Signal Transduction and Targeted Therapy volume 4, Article number: 62 (2019)を参照されたく;その内容は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0146】
いくつかの態様では、該方法は、多能性幹細胞の集団を、凝集培地中で、CD34+造血内皮細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させる工程の後に、結果として生じたCD34+造血内皮細胞の集団においてエピジェネティック制御因子を阻害する工程を含む。いくつかの態様では、該方法は、CD34+造血内皮細胞の集団を、CD3+ T細胞分化培地中、Notchリガンドの存在下、CD3+ T細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させる工程の前に、CD34+造血内皮細胞の集団においてエピジェネティック制御因子を阻害する工程を含む。
【0147】
したがって、一局面では、(a)多能性幹細胞の集団を、凝集培地中で、CD34+造血内皮細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させること;(b)結果として生じたCD34+造血内皮細胞の集団においてエピジェネティック制御因子を阻害すること;および(c)結果として生じたCD34+造血内皮細胞の集団を、CD3+ T細胞分化培地中、Notchリガンドの存在下、CD3+ T細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させることを含む方法が、本明細書に記載される。
【0148】
いくつかの態様では、CD34+造血内皮細胞は、エピジェネティック制御因子の阻害剤で処理される。エピジェネティック制御因子の例示的な阻害剤には、以下の少なくとも1つの阻害剤が含まれる:DNMT;MBD;DNAデメチラーゼ;HMT;メチル-ヒストン結合タンパク質;ヒストンデメチラーゼ;HAT;アセチル結合タンパク質;またはHDAC。いくつかの態様では、エピジェネティック制御因子は、H3K9メチルトランスフェラーゼである。ヒトにおけるH3K9のメチル化は、主にSuv39ファミリーのメンバー、すなわちEHMT1/GLP、EHMT2/G9a、SUV39H1、SUV39H2、SETDB1およびSETDB2、ならびに次に非Suv39酵素PRDM2およびASH1Lに依存する。
【0149】
DNMT阻害剤の非限定的な例としては、アザシチジン;デシタビン;グアデシタビン;ヒドララジンが挙げられる。HMT阻害剤の非限定的な例としては、ピノメトスタット;タゼメトスタット;GSK2816126;CPI-1205;TCP;ORY-2001;GSK2879552;4SC-202が挙げられる。HDAC阻害剤の非限定的な例としては、バルプロ酸、フェニル酪酸塩;ボリノスタット;トリコスタチンA;ベリノスタット;エンチノスタット;パノビノスタット;モセチノスタット;CI-994;ロミデプシン;ニコチンアミド;スラミン;PRI-724;GSK525762;CPI-0610;RO6870810;MK-8628が挙げられる。
【0150】
いくつかの態様では、エピジェネティック制御因子の阻害剤は、表2から選択される。いくつかの態様では、エピジェネティック制御因子の阻害剤は、SB939(プラシノスタット);4-ヨード-SAHA;スクリプタイド;オキサフラチン(すなわち、オキサムフラチン);s-HDAC-42;UNC0224;ピロキサミド;MC1568;CAY10398;CAY10591;SAHA(ボリノスタット)(SIH-359);SGI-1027;およびルカパリブ(Rubraca(商標))からなる群より選択される。いくつかの態様では、エピジェネティック制御因子の阻害剤は、SB939(プラシノスタット);4-ヨード-SAHA;スクリプタイド;オキサフラチン(すなわち、オキサムフラチン);s-HDAC-42;UNC0224;ピロキサミド;MC1568;CAY10398;CAY10591;およびSAHA(ボリノスタット)(SIH-359)からなる群より選択される;例えば、
図7および表2を参照のこと。
【0151】
(表2)T細胞分化を促進することができる低分子阻害剤(例えば、500nM;3を超えるZスコアを有する低分子は太字で示される;例えば、
図6~7を参照のこと)
【0152】
いくつかの態様では、エピジェネティック制御因子の阻害剤は、UNC0224;MC1568;およびCAY10591からなる群より選択される(例えば、
図8を参照のこと)。いくつかの態様では、エピジェネティック制御因子の阻害剤は、UNC0224である。いくつかの態様では、エピジェネティック制御因子の阻害剤は、MC1568である。いくつかの態様では、エピジェネティック制御因子の阻害剤は、CAY10591である。
【0153】
いくつかの態様では、エピジェネティック制御因子の阻害剤は、UNC0224または5-メチル-2'-デオキシシチジンである(例えば、
図10Bおよび以下の式I中の構造を参照のこと)。いくつかの態様では、エピジェネティック制御因子の阻害剤は、5-メチル-2'-デオキシシチジンである。5-メチル-2'-デオキシシチジンは、一本鎖DNAに組み込まれるとシスで作用してデノボDNAメチル化のシグナルを送ることができるピリミジンヌクレオシドである;例えば、Christman et al. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 92(16), 7347-7351 (1995)を参照のこと。
I:5-メチル-2'-デオキシシチジン
【0154】
いくつかの態様では、エピジェネティック制御因子の阻害剤は、少なくとも500nMの濃度で提供される。いくつかの態様では、エピジェネティック制御因子の阻害剤は、少なくとも1nM、少なくとも2nM、少なくとも3nM、少なくとも4nM、少なくとも5nM、少なくとも6nM、少なくとも7nM、少なくとも8nM、少なくとも9nM、少なくとも10nM、少なくとも20nM、少なくとも30nM、少なくとも40nM、少なくとも50nM、少なくとも60nM、少なくとも70nM、少なくとも80nM、少なくとも90nM、少なくとも100nM、少なくとも150nM、少なくとも200nM、少なくとも300nM、少なくとも400nM、少なくとも500nM、少なくとも600nM、少なくとも700nM、少なくとも800nM、少なくとも900nM、少なくとも1.0uM、少なくとも1.25uM、少なくとも1.5uM、少なくとも1.75uM、少なくとも2.0uM、少なくとも2.5uM、少なくとも3uM、少なくとも4uM、少なくとも5uM、少なくとも6uM、少なくとも7uM、少なくとも8uM、少なくとも9uM、または少なくとも10uMの濃度で提供される。いくつかの態様では、エピジェネティック制御因子の阻害剤は、1nM~10nM、10nM~50nM、50nM~100nM、100nM~500nM、500nM~1uM、1uM~5uM、または5uM~10uMの濃度で提供される。
【0155】
いくつかの態様では、細胞(例えば、CD34+造血内皮細胞)は、CD5+CD7+ proT細胞の発生まで、エピジェネティック制御因子の阻害剤に曝露させて培養される。いくつかの態様では、細胞(例えば、CD34+造血内皮細胞)は、エピジェネティック制御因子の阻害剤に約14日間曝露させて培養される。いくつかの態様では、細胞(例えば、CD34+造血内皮細胞)は、エピジェネティック制御因子の阻害剤に少なくとも1日、少なくとも2日、少なくとも3日、少なくとも4日、少なくとも5日、少なくとも6日、少なくとも7日、少なくとも8日、少なくとも9日、少なくとも10日、少なくとも10日、少なくとも11日、少なくとも12日、少なくとも13日、少なくとも14日、少なくとも15日、少なくとも16日、少なくとも17日、少なくとも18日、少なくとも19日、少なくとも20日、少なくとも21日、少なくとも22日、少なくとも23日、少なくとも24日、少なくとも25日、少なくとも26日、少なくとも27日、少なくとも28日、少なくとも29日、少なくとも30日、少なくとも31日、少なくとも32日、少なくとも33日、少なくとも34日、少なくとも35日、少なくとも36日、少なくとも37日、少なくとも38日、少なくとも39日、少なくとも40日、少なくとも41日、少なくとも42日、少なくとも43日、少なくとも44日、少なくとも45日、少なくとも46日、少なくとも47日、少なくとも48日、少なくとも49日、少なくとも50日、またはそれ以上曝露させて培養される。
【0156】
G9aおよび/またはGLPの阻害
いくつかの局面では、G9aおよび/またはGLPを阻害する工程を含むT細胞分化法が本明細書に記載される。いくつかの局面では、G9aを阻害する工程を含むT細胞分化法が本明細書に記載される。G9aはまた、真性染色質ヒストンリシンメチルトランスフェラーゼ2(EHMT2);ヒストンH3-K9メチルトランスフェラーゼ3;KMT1C;リシンN-メチルトランスフェラーゼ 1C;BAT8;またはNG36と言い換えることもできる。G9aは、ヒストンH3のリシン残基をメチル化するメチルトランスフェラーゼである(例えば、NCBI Gene ID:10919;SEQ ID NO:45~46、または少なくとも95%同一でありかつ同じ機能を維持する配列、またはその機能的断片を参照のこと)。いくつかの局面では、G9a様タンパク質(GLP)を阻害する工程を含むT細胞分化法が本明細書に記載される。GLPはまた、真性染色質ヒストンリシンメチルトランスフェラーゼ1(EHMT1);KMT1D;Eu-HMTase1;またはヒストン-リシンN-メチルトランスフェラーゼ、H3リシン-9特異的5とも言い換えられる(例えば、NCBI Gene ID:79813;SEQ ID NO:47~48、または少なくとも95%同一でありかつ同じ機能を維持する配列、またはその機能的断片を参照のこと)。
【0157】
G9aおよびGLPは、主にG9a-GLPヘテロマー複合体として存在する。G9aおよびGLPは、真正染色質におけるヒストンH3のLys 9でのモノおよびジメチル化(H3K9me1およびH3K9me2)の主要酵素である。H3K9meは、メチル化されたヒストンにHP1タンパク質を動員することによるエピジェネティックな転写抑制のための特異的タグである。G9a/GLPはまた、ヒストンH3の「Lys-27」を弱くメチル化する(H3K27me)。G9a/GLPはまた、DNAメチル化にも必要とされる;G9a/GLPのヒストンメチルトランスフェラーゼ活性は、DNAメチル化に必要とされないが、このことは、これらの2つの活性が独立に機能することを示唆している。G9a/GLPは、おそらく、異なるDNA-結合タンパク質、例えば、E2F6、MGA、MAXおよび/またはDP1によってヒストンH3に標的化される。ヒストンメチルトランスフェラーゼ活性に加えて、G9a/GLPはまた、非ヒストンタンパク質をメチル化する(例えば、p53/TP53の「Lys-373」のジメチル化)。
【0158】
G9aはまた、G1期においてヒストンH3の「Lys-56」のモノメチル化(H3K56me1)を媒介し、それにより、ヒストンH3とPCNAとの間の相互作用を促進し、DNA複製を調節する。G9aはまた、ヒストンH1をメチル化すると考えられる。G9aはまた、CDYL、WIZ、ACIN1、DNMT1、HDAC1、ERCC6、KLF12、およびそれ自体をメチル化する。G0期の間、GLPは、MYCおよびE2F応答遺伝子のサイレンシングに寄与し得るが、このことは、細胞周期のG0/G1移行において役割を果たしていることを示唆している。ヒストンメチルトランスフェラーゼ活性に加えて、GLPはまた、非ヒストンタンパク質をメチル化する:p53/TP53の「Lys-373」のジメチル化を媒介する。
【0159】
SEQ ID NO:45、ホモサピエンス真性染色質ヒストンリシンメチルトランスフェラーゼ2(EHMT2)、転写物バリアント1、mRNA、NCBI参照配列:NM_001289413.1(領域5~3706)、3702bp
【0160】
SEQ ID NO:46、ヒストン-リシンN-メチルトランスフェラーゼEHMT2アイソフォームc(ホモサピエンス)、NCBI参照配列:NP_001276342.1、1233aa
【0161】
SEQ ID NO:47、ホモサピエンス真性染色質ヒストンリシンメチルトランスフェラーゼ 1(EHMT1)、転写物バリアント2、mRNA、NCBI参照配列:NM_001145527.2(領域25~2451)、2427bp
【0162】
SEQ ID NO:48、ヒストン-リシンN-メチルトランスフェラーゼEHMT1アイソフォーム2(ホモサピエンス)、NCBI参照配列:NP_001138999.1、808aa
【0163】
いくつかの態様では、該方法は、多能性幹細胞の集団を、凝集培地中で、CD34+造血内皮細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させる工程の後、結果として生じたCD34+造血内皮細胞の集団においてG9aおよび/またはGLPを阻害する工程を含む。いくつかの態様では、該方法は、CD34+造血内皮細胞の集団を、CD3+ T細胞分化培地中、Notchリガンドの存在下、CD3+ T細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させる工程の前に、CD34+造血内皮細胞の集団においてG9aおよび/またはGLPを阻害する工程を含む。
【0164】
したがって、一局面では、(a)多能性幹細胞の集団を、凝集培地中で、CD34+造血内皮細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させること;(b)結果として生じたCD34+造血内皮細胞の集団においてG9aおよび/またはGLPを阻害すること;および(c)結果として生じたCD34+造血内皮細胞の集団を、CD3+ T細胞分化培地中、Notchリガンドの存在下、CD3+ T細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させることを含む方法が、本明細書に記載される。
【0165】
一態様では、阻害剤は、G9a/GLP阻害剤である。一態様では、G9a/GLP阻害剤は、表3に列記される化合物、またはその誘導体もしくは類似体から選択される。一態様では、G9a/GLP阻害剤は、UNC0224;UNC0638;A366;BRD4770;BIX01294;UNC0642;UNC0631;UNC0646;UNC0321;E72;BIX-01338;BRD9539;ケトシン;およびDCG066からなる群より選択される。一態様では、G9a/GLP阻害剤は、UNC0224;UNC0638;A366;BRD4770;BIX01294;およびUNC0642からなる群より選択される(例えば、
図8、10B、12B、13B~13Fを参照のこと)。いくつかの態様では、G9a/GLP阻害剤は、UNC0224;UNC0638;BRD4770;BIX01294;およびUNC0642からなる群より選択される(例えば、
図8、10B、12B、13B、13D~13Fを参照のこと)。
【0166】
いくつかの態様では、G9a/GLP阻害剤は、UNC0224;UNC0638;A366;BIX01294;UNC0642;UNC0631;UNC0646;UNC0321;およびE72からなる群より選択されるI型G9a/GLP阻害剤(例えば、BIX-01294誘導体)である。いくつかの態様では、G9a/GLP阻害剤は、BRD4770;BIX-01338;およびBRD9539からなる群より選択されるII型G9a/GLP阻害剤(例えば、BIX-01338誘導体)である。いくつかの態様では、G9a/GLP阻害剤は、ケトシンなどのIII型G9a/GLP阻害剤である。いくつかの態様では、G9a/GLP阻害剤は、DCG066からなる群より選択されるIV型G9a/GLP阻害剤である。
【0167】
(表3)T細胞分化を促進することができるG9a/GLP阻害剤(例えば、
図13A~13Fを参照のこと)。表3に引用されるすべての参考文献は、その全体が参照により本明細書に具体的に組み入れられる。
【0168】
いくつかの態様では、G9a/GLP阻害剤は、少なくとも500nMの濃度で提供される。いくつかの態様では、G9a/GLP阻害剤は、少なくとも1nM、少なくとも2nM、少なくとも3nM、少なくとも4nM、少なくとも5nM、少なくとも6nM、少なくとも7nM、少なくとも8nM、少なくとも9nM、少なくとも10nM、少なくとも20nM、少なくとも30nM、少なくとも40nM、少なくとも50nM、少なくとも60nM、少なくとも70nM、少なくとも80nM、少なくとも90nM、少なくとも100nM、少なくとも150nM、少なくとも200nM、少なくとも300nM、少なくとも400nM、少なくとも500nM、少なくとも600nM、少なくとも700nM、少なくとも800nM、少なくとも900nM、少なくとも1.0uM、少なくとも1.25uM、少なくとも1.5uM、少なくとも1.75uM、少なくとも2.0uM、少なくとも2.5uM、少なくとも3uM、少なくとも4uM、少なくとも5uM、少なくとも6uM、少なくとも7uM、少なくとも8uM、少なくとも9uM、または少なくとも10uMの濃度で提供される。いくつかの態様では、G9a/GLP阻害剤は、1nM~10nM、10nM~50nM、50nM~100nM、100nM~500nM、500nM~1uM、1uM~5uM、または5uM~10uMの濃度で提供される。
【0169】
いくつかの態様では、G9a/GLP阻害剤(例えば、UNC0224;例えば、
図8、10B、12Bを参照のこと)は、少なくとも312nM、少なくとも625nM、少なくとも1.25uM、少なくとも2.5uM、または少なくとも5uMの濃度で提供される。いくつかの態様では、G9a/GLP阻害剤(例えば、UNC0638;例えば、
図13Bを参照のこと)は、少なくとも8nMの濃度で提供される。いくつかの態様では、G9a/GLP阻害剤(例えば、BRD4770;例えば、
図13Dを参照のこと)は、少なくとも200nMの濃度で提供される。いくつかの態様では、G9a/GLP阻害剤(例えば、BIX01294;例えば、
図13Eを参照のこと)は、少なくとも200nMの濃度で提供される。いくつかの態様では、G9a/GLP阻害剤(例えば、UNC0642;例えば、
図13Fを参照のこと)は、少なくとも40nMの濃度で提供される。
【0170】
いくつかの態様では、細胞(例えば、CD34+造血内皮細胞)は、CD5+CD7+ proT細胞の発生まで、G9a/GLP阻害剤に曝露させて培養される。いくつかの態様では、細胞(例えば、CD34+造血内皮細胞)は、G9a/GLP阻害剤に約14日間曝露させて培養される。いくつかの態様では、細胞(例えば、CD34+造血内皮細胞)は、G9a/GLP阻害剤に少なくとも1日、少なくとも2日、少なくとも3日、少なくとも4日、少なくとも5日、少なくとも6日、少なくとも7日、少なくとも8日、少なくとも9日、少なくとも10日、少なくとも10日、少なくとも11日、少なくとも12日、少なくとも13日、少なくとも14日、少なくとも15日、少なくとも16日、少なくとも17日、少なくとも18日、少なくとも19日、少なくとも20日、少なくとも21日、少なくとも22日、少なくとも23日、少なくとも24日、少なくとも25日、少なくとも26日、少なくとも27日、少なくとも28日、少なくとも29日、少なくとも30日、少なくとも31日、少なくとも32日、少なくとも33日、少なくとも34日、少なくとも35日、少なくとも36日、少なくとも37日、少なくとも38日、少なくとも39日、少なくとも40日、少なくとも41日、少なくとも42日、少なくとも43日、少なくとも44日、少なくとも45日、少なくとも46日、少なくとも47日、少なくとも48日、少なくとも49日、少なくとも50日、またはそれ以上曝露させて培養される。
【0171】
いくつかの態様では、細胞(例えば、CD34+造血内皮細胞)をG9a/GLP阻害剤の存在下で培養させることは、結果として生じる細胞(例えば、CD5+CD7+ Pro-T細胞;CD3+ T細胞;CD4+CD8+ T細胞;CD4+ T細胞;CD8+ T細胞;アルファ-ベータT細胞)の数を、G9a/GLP阻害剤の存在下で培養させない細胞と比較して、少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも3%、少なくとも4%、少なくとも5%、少なくとも6%、少なくとも7%、少なくとも8%、少なくとも9%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%、少なくとも150%、少なくとも200%、少なくとも250%、少なくとも300%、少なくとも350%、少なくとも400%、少なくとも450%、少なくとも500%、少なくとも600%、少なくとも700%、少なくとも800%、少なくとも900%もしくはそれ以上、または少なくとも10×、20×、30×、40×、50×、60×、70×、80×、90×、100×、500×、1,000×もしくはそれ以上大きく増加させる;例えば、
図8、
図10B、
図12B、
図13B~13F、
図14B、
図15Aを参照のこと。
【0172】
いくつかの態様では、細胞(例えば、CD34+造血内皮細胞)をG9a/GLP阻害剤の存在下で培養させることは、赤血球系または骨髄球系列細胞(例えば、赤血球系細胞;マクロファージ;顆粒球;巨核球)の数を、G9a/GLP阻害剤の存在下で培養させない細胞と比較して、少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも3%、少なくとも4%、少なくとも5%、少なくとも6%、少なくとも7%、少なくとも8%、少なくとも9%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%、少なくとも150%、少なくとも200%、少なくとも250%、少なくとも300%、少なくとも350%、少なくとも400%、少なくとも450%、少なくとも500%、少なくとも600%、少なくとも700%、少なくとも800%、少なくとも900%もしくはそれ以上、または少なくとも10×、20×、30×、40×、50×、60×、70×、80×、90×、100×、500×、1,000×またはそれ以上大きく減少させる;例えば、
図14Cを参照のこと。
【0173】
いくつかの態様では、細胞(例えば、CD34+造血内皮細胞)をG9a/GLP阻害剤の存在下で培養させることは、分化した細胞の総数を、G9a/GLP阻害剤の存在下で培養させない細胞と比較して、少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも3%、少なくとも4%、少なくとも5%、少なくとも6%、少なくとも7%、少なくとも8%、少なくとも9%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%、少なくとも150%、少なくとも200%、少なくとも250%、少なくとも300%、少なくとも350%、少なくとも400%、少なくとも450%、少なくとも500%、少なくとも600%、少なくとも700%、少なくとも800%、少なくとも900%もしくはそれ以上、または少なくとも10×、20×、30×、40×、50×、60×、70×、80×、90×、100×、500×、1,000×もしくはそれ以上大きく減少させる;例えば、
図15Bを参照のこと。
【0174】
いくつかの態様では、細胞(例えば、CD34+造血内皮細胞)をG9a/GLP阻害剤の存在下で培養させることは、分化した細胞の総数の中の結果として生じる関心対象の細胞(例えば、CD5+CD7+ Pro-T細胞;CD3+ T細胞;CD4+CD8+ T細胞;CD4+ T細胞;CD8+ T細胞;アルファ-ベータT細胞)の割合を、G9a/GLP阻害剤の存在下で培養させない細胞と比較して、少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも3%、少なくとも4%、少なくとも5%、少なくとも6%、少なくとも7%、少なくとも8%、少なくとも9%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%、少なくとも150%、少なくとも200%、少なくとも250%、少なくとも300%、少なくとも350%、少なくとも400%、少なくとも450%、少なくとも500%、少なくとも600%、少なくとも700%、少なくとも800%、少なくとも900%もしくはそれ以上、または少なくとも10×、20×、30×、40×、50×、60×、70×、80×、90×、100×、500×、1,000×もしくはそれ以上大きく増加させる;例えば、
図15Cを参照のこと。
【0175】
いくつかの態様では、本明細書に記載されるようなT細胞を分化させるための方法(例えば、G9a/GLP阻害およびストロマフリーT細胞分化)は、少なくとも1%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%の関心対象の細胞(例えば、CD5+CD7+ Pro-T細胞;CD3+ T細胞;CD4+CD8+ T細胞;CD4+ T細胞;CD8+ T細胞;アルファ-ベータT細胞)を含む集団を産生する。いくつかの態様では、本明細書に記載されるようなT細胞を分化させるための方法(例えば、G9a/GLP阻害およびストロマフリーT細胞分化)は、少なくとも15%のCD5+CD7+ ProT細胞を含む集団を産生する。
【0176】
例えば、Greiner et al. Nature Chemical Biology 1(3), 143-145 (2005);Liu et al. Journal of Medicinal Chemistry 54(17), 6139-6150 (2011);Liu et al. J Med Chem. 2010 Aug 12;53(15): 5844-5857;Liu et al., J Med Chem. 2009 Dec 24;52(24): 7950-7953;Kondengaden et al., Eur J Med Chem. 2016 Oct 21, 122:382-393;Yuan et al. ACS Chem Biol. 2012 Jul 20;7(7): 1152-1157;Chang et al. J Mol Biol. 2010 Jul 2;400(1): 1-7;Christman et al. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 92(16), 7347-7351 (1995);Cheng et al., Signal Transduction and Targeted Therapy volume 4, Article number: 62 (2019)を参照のこと;それらの各々の内容は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0177】
ヒストンメチルトランスフェラーゼの阻害
いくつかの態様では、該分化法は、ヒストンメチルトランスフェラーゼを阻害することを含むことができる。ヒストンメチルトランスフェラーゼを阻害する工程(例えば、EZH1ノックダウン)は、分化効率(例えば、T細胞の)を増加させることができる。したがって、いくつかの態様では、該分化法は、ヒストンメチルトランスフェラーゼを、例えば、結果として生じたCD34+造血内皮細胞の集団において阻害することを含む。ヒストンメチルトランスフェラーゼを阻害する方法は、当技術分野において公知である;例えば、国際出願第WO 2018/048828号、米国出願第2019/0225940号、Doulatov et al., Cell Stem Cell. 2013 October 3, 13(4);Vo et al., Nature 2018, 553(7689): 506-510を参照のこと;その各々の内容は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0178】
しかしながら、ヒストンメチルトランスフェラーゼを阻害する工程(例えば、EZH1ノックダウン)は必要とされない。したがって、いくつかの態様では、該分化法は、ヒストンメチルトランスフェラーゼを、例えば、結果として生じたCD34+造血内皮細胞の集団において阻害することを含まない。
【0179】
これらの実験の過程で、本発明者らは、H3K9およびH3K27を標的とする特定のヒストン修飾酵素の阻害が、多能性幹細胞に由来する造血前駆体のリンパ球系分化能を促進することを発見した。ヒストン修飾酵素は、ヒストンリシンメチルトランスフェラーゼである。ヒストンタンパク質の翻訳後修飾は、クロマチンコンパクションを調節し、転写のエピジェネティック調節を媒介し、健康および疾患状態における細胞分化を制御する。ヒストン尾部のメチル化は、エピジェネティックシグナル伝達の基本事象の1つである。ヒストンH3のリシン9(H3K9)のトリメチル化は、HP1のクロマチン動員、ヘテロクロマチン凝縮および遺伝子サイレンシングを媒介する。同様に、H3K27およびH4K20のメチル化は、抑制状態のクロマチンと関連し、それに対し、発現された遺伝子は、H3K4、H3K36およびH3K79でメチル化される。ヒトでのH3K9のメチル化は、主にSuv39ファミリーのメンバー、すなわちEHMT1/GLP、EHMT2/G9a、SUV39H1、SUV39H2、SETDB1およびSETDB2、ならびに次に非Suv39酵素PRDM2およびASH1Lに依存する(例えば、Hong Wu et al., Structural Biology of Human H3K9 Methyltransferases, 2010, PLoS ONE, 5(2): e8570を参照されたく、これは参照により本明細書に組み入れられる)。対照的に、H3K27のメチル化は、ポリコーム抑制複合体2(PRC2)によって行われる。
【0180】
H3K9のジ/トリメチル化は、保存されたSUV39H1/2ヒストンメチルトランスフェラーゼによって主に触媒され、一方で、ポリコーム抑制複合体2(PRC2)は、H3K27のジ/トリメチル化を確実にする(例えば、Rea S, 2000. Nature 406:593-599;Margueron R, and Reinberg D. 2011. Nature 469:343-349を参照のこと)。PRC2は、EZH1/2触媒サブユニット、SUZ12、EEDおよびRBBP7/4を含む(例えば、Margueron R, and Reinberg D, 2011を参照のこと)。
【0181】
H3K9およびH3K27を標的とするヒストンリシンメチルトランスフェラーゼを阻害することは、ヒストンH3のメチル化に起因する転写抑制を軽減し、それにより、細胞分化、具体的にはT細胞特異化を容易にする遺伝子発現を促進することが、本明細書において具体的に想定される。
【0182】
一態様では、ヒストンメチルトランスフェラーゼは、ヒストンH3リシン残基9(H3K9)および/またはヒストンH3リシン残基27(H3K27)へのメチル基の付加を触媒する。
【0183】
一態様では、ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤は、G9a/GLPヘテロマー複合体を阻害する。
【0184】
G9a(EC 2.1.1.43)(UniProtKB:Q96KQ7)は、EHMT2(真性染色質ヒストン-リシンN-メチルトランスフェラーゼ2)、G9Aヒストンメチルトランスフェラーゼおよびタンパク質G9aとしても知られている。
【0185】
GLP(EC 2.1.1.43)(UniProtKB:Q9H9B1)は、EHMT1(真性染色質ヒストン-リシンN-メチルトランスフェラーゼ1)、G9a様タンパク質1およびGLP1としても知られている。
【0186】
一態様では、ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤は、EZH1(Zeste 1ポリコーム抑制複合体2サブユニットのエンハンサー)を阻害する。
【0187】
一態様では、H3K27ヒストンメチルトランスフェラーゼは、EZH1(EC:2.1.1.43)(UniproKB Q92800-1)である。
【0188】
一態様では、H3K27ヒストンメチルトランスフェラーゼは、EZH2(EC:2.1.1.43)(Unipro Q15910-1)ではない。
【0189】
一態様では、ヒストンメチルトランスフェラーゼの阻害剤は、ヒストンメチルトランスフェラーゼの遺伝子発現またはタンパク質触媒活性を阻害する。
【0190】
一態様では、ヒストンメチルトランスフェラーゼH3K9および/またはH3K27は、低分子または核酸またはCRISPR媒介標的遺伝子干渉によって阻害される。
【0191】
いくつかの態様では、ヒストンメチルトランスフェラーゼH3K9および/またはH3K27は、低分子阻害剤または核酸阻害剤によって阻害される。記載される任意の方法、細胞または組成物の一態様では、ヒストンメチルトランスフェラーゼ低分子阻害剤は、ペプチド、ペプチド模倣体、アミノ酸、アミノ酸類似体、ポリヌクレオチド、ポリヌクレオチド類似体、アプタマー、ヌクレオチド、ヌクレオチド類似体、約10,000グラム/モル未満の分子量を有する有機または無機化合物(すなわち、ヘテロ有機および有機金属化合物を含む)、約5,000グラム/モル未満の分子量を有する有機または無機化合物、約1,000グラム/モル未満の分子量を有する有機または無機化合物、約500グラム/モル未満の分子量を有する有機または無機化合物を非限定的に含む、化学作用物質、ならびにそのような化合物の塩、エステル、および他の薬学的に許容される形態である。いくつかの態様では、低分子は、ヘテロ有機化合物または有機金属化合物である。
【0192】
一態様では、ヒストンメチルトランスフェラーゼ低分子阻害剤には、AMI-1、A-366、BIX-01294、BIX01338、BRD4770、ケトシン、E72、UNC0224、UNC0631、UNC0638、UNC0642、UNC0646、EPZ5676、EPZ005687、GSK343、EPZ-6438(E7438)、3-デアザネプラノシンA(DZNeP)HCl、UNC1999、MM-102、SGC 0946、エンタカポン、EPZ015666、UNC0379、EI1、MI-2(メニン-MLL阻害剤)、MI-3(メニン-MLL阻害剤)、PFI-2、GSK126、またはEPZ004777が含まれるが、それらに限定されない。
【0193】
一態様では、ヒストンメチルトランスフェラーゼ低分子阻害剤は、UNC0631、BRD4770、UNC1999、CPI-360、およびBIX 01294からなる群より選択される。
【0194】
一態様では、核酸阻害剤は、ヒストンメチルトランスフェラーゼの発現を標的とする核酸である。例えば、ヒストンメチルトランスフェラーゼ、EZH1のmRNAまたは一次転写物を標的とし、それにより、酵素のタンパク質発現を阻害するものである。ヒストン-リシンN-メチルトランスフェラーゼ、Zeste 1ポリコーム抑制複合体2サブユニットのakaエンハンサー(EZH1)またはEC 2.1.1.43は、ヒストンH3(MIM 602812を参照のこと)lys27(H3K27)のメチル化を媒介し、胚性幹細胞の多能性および可塑性の維持において機能する、非古典的ポリコーム抑制複合体-2(PRC2)の一成分である。ヒトEZH1遺伝子についての外部識別は、以下の通りである:HGNC:3526;Entrez Gene:2145;Ensembl:ENSG00000108799;OMIM:601674;UniProtKB:Q92800;EMBL:AB002386 mRNAおよび対応するmRNA翻訳:BAA20842.2;GENBANK:BT009782 mRNAおよび対応するmRNA翻訳:AAP88784.1。
【0195】
一態様では、核酸阻害剤は、ヒトEZH1 mRNAを標的とする。
【0196】
一態様では、核酸阻害剤は、RNA干渉阻害剤またはCRISPR媒介遺伝子干渉阻害剤である。RNA干渉阻害剤は、Whitehead Institute、MIT、siRNAウェブサイトに見られる予測RNAiソフトウェア、Invitrogen/ThermoFisherのBLOCK-iT(商標)RNAi Designer、およびRNAi Webの他のオンラインsiRNA設計ツールを使用して、標的としてEZH1のmRNAを使用して設計することができる。
【0197】
同様に、CrisperガイドRNAを、Broad Institute(MIT)CRISPRソフトウェア(ワールドワイドウェブ、例えば、portals.broadinstitute.org/gpp/public/analysis-tools/sgrna-designで利用可能である)、dna20、Clontech、AddGene、e-crisp、およびInnovative Genomicを使用して、標的としてEZH1のmRNAまたはゲノム遺伝子を使用して設計することができる。
【0198】
CRISPR(クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート)Cas9媒介遺伝子破壊は、哺乳動物を含む多様な生物で機能喪失型変異を作製する際に広く使用されている(Cong et al., 2013, Science, 339(6121): 819-23;Hsu et al., 2014, Cell, 157(6):1262-78)に総説)。Cas9ベースのノックアウトスクリーニングが、様々な細胞株で不可欠な遺伝子および薬物耐性に関与する遺伝子を特定する際に適用されている。本発明の実施にすべて有用な、量および処方に関してなどのCRISPR-Casシステム、その構成成分、およびそのような構成成分の送達に関する全般情報について、方法、材料、送達媒体、ベクター、粒子、AAV、ならびにその製造および使用を含めて、米国特許第8,999,641号、第8,993,233号、第8,945,839号、第8,932,814号、第8,906,616号、第8,895,308号、第8,889,418号、第8,889,356号、第8,871,445号、第8,865,406号、第8,795,965号、第8,771,945号および第8,697,359号;米国特許出願公開第US 2014-0310830号、第US 2014-0287938号、第US 2014-0273234号、第US 2014-0273232号、第US 2014-0273231号、第US 2014-0256046号、第US 2014-0248702号、第US 2014-0242700号、第US 2014-0242699号、第US 2014-0242664号、第US 2014-0234972号、第US 2014-0227787号、第US 2014-0189896号、第US 2014-0186958号、第US 2014-0186919号、第US 2014-0186843号、第US 2014-0179770号および第US 2014-0179006号、第US 2014-0170753号;欧州特許EP 2 784 162 B1およびEP 2 771 468 B1;欧州特許出願EP 2 771 468(EP13818570.7)、EP 2 764 103(EP13824232.6)、およびEP 2 784 162(EP14170383.5);ならびに国際出願第WO 2014/093661号を参照されたく、それらはすべて、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0199】
本発明に関連する使用に想定されるCRISPR/Casシステムは、任意の適切なCRISPR酵素を利用することができる。いくつかの態様では、CRISPR酵素は、II型CRISPRシステム酵素である。いくつかの態様では、CRISPR酵素は、Cas9酵素である。いくつかの態様では、Cas9酵素は、肺炎連鎖球菌(S. pneumoniae)、化膿連鎖球菌(S. pyogenes)、またはS.サーモフィルス(S. thermophilus)のCas9であり、これらの生物に由来する変異型Cas9を含み得る。酵素は、Cas9ホモログまたはオーソログであり得る。いくつかの態様では、CRISPR酵素は、真核細胞における発現のためにコドン最適化される。
【0200】
本明細書に記載されるように、CRISPR/Casシステムは、関心対象の連続ゲノム領域内の多数の配列を特異的に標的化するために使用される。標的化は、典型的には、細胞集団の各細胞に、少なくとも1つのCasタンパク質および本明細書に記載されるガイドRNAライブラリーの1つまたは複数のガイドRNAを含む操作された天然に存在しないCRISPR-Casシステムを含む1つまたは複数のベクターのベクターシステムを導入することを含む。
【0201】
これらの方法において、Casタンパク質および1つまたは複数のガイドRNAは、システムの同じまたは異なるベクター上にあり得、各細胞に組み込まれ、それによって、各ガイド配列は、細胞集団中の各細胞における連続ゲノム領域内の配列を標的化する。Casタンパク質は、前記細胞における発現を確実にするために調節エレメントに、より特定すると細胞集団の細胞における発現に適したプロモーターに、機能的に連結される。特定の態様では、プロモーターは、ドキシサイクリン誘導性プロモーターなどの誘導性プロモーターである。細胞集団の細胞内で転写されるとき、ガイド配列を含むガイドRNAが、連続ゲノム領域中の標的配列へのCRISPR-Casシステムの配列特異的結合を指示する。典型的には、CRISPR-Casシステムの結合は、Casタンパク質による連続ゲノム領域の切断を誘導する。
【0202】
低分子干渉性RNA(siRNA)またはマイクロRNA(miRNA)によって媒介されるRNA干渉(RNAi)は、遺伝子発現の転写後調節のための強力な方法である。RNAiは、哺乳動物細胞における生物学的プロセスの研究に広く使用されており、遺伝子発現の選択的モジュレーションが望ましいヒト疾患への治療アプローチを構成することもできる。miRNAと標的mRNA配列との間の相補性の程度に応じて、同族mRNAの分解を誘導することまたは翻訳減衰によって遺伝子発現の喪失が起こる。内因性miRNAは、一次転写物として転写され、続いてRNAse III酵素ドローシャ(Drosha)によってプロセシングされて、ステムループ構造を創出する。核外移行およびダイサー(Dicer)による切断は、ガイド鎖およびパッセンジャー鎖に分けられる成熟短二本鎖分子(siRNA)を生成する。ガイド鎖は、標的mRNAの切断を媒介するエフェクター複合体であるRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)に負荷され、機能的ガイド鎖はRISCタンパク質に結合し、一方でパッセンジャー鎖は分解する。RISCへのパッセンジャー鎖と比べたガイド鎖の負荷は、siRNAの5'端の安定性に大きく依存し、より不安定な鎖が優先的にRISCに組み込まれるが、哺乳動物細胞における正確な調節は、十分に解明されていない。ガイド鎖の5'端は、標的特定に重要な「シード領域」を含有する。ドローシャおよびダイサーによる的確な切断が、適切な標的mRNAとの効率的な結合を媒介する所定のシード領域を有するガイドRNAを生成させるために重要である。不正確なプロセシングは、オフターゲット分子との結合をもたらすが、切断部位の移動も二重鎖端のヌクレオチド組成を変化させ、そのことは、RISCへの鎖負荷に顕著な影響を有し得る。
【0203】
選択された標的ポリペプチドの発現を阻害することは、RNA干渉物質の使用を経由する。RNA干渉(RNAi)は、選択的分解のために標的ポリペプチドをコードするメッセンジャーRNAを標的とする低分子干渉性RNA(siRNA)二重鎖を使用する。遺伝子発現のsiRNA依存性転写後サイレンシングは、siRNAによってガイドされた部位で標的メッセンジャーRNA分子を切断することを伴う。RNAiは、標的遺伝子と同一または高度に類似の配列のRNAの発現または導入が、その標的とされた遺伝子から転写されたメッセンジャーRNA(mRNA)の配列特異的分解または特異的転写後遺伝子サイレンシング(PTGS)をもたらし(例えば、Coburn, G. and Cullen, B. (2002) J. Virology 76(18):9225を参照のこと)、それにより、標的遺伝子の発現を阻害する、進化上保存されたプロセスである。一態様では、RNAは、二本鎖RNA(dsRNA)である。このプロセスは、植物、脊椎動物および哺乳動物の細胞において記載されている。RNAiは、自然界において、長鎖dsRNAからsiRNAと称される二本鎖断片への前進的切断を促進するdsRNA特異的エンドヌクレアーゼ、ダイサーによって開始される。siRNAは、標的mRNAを認識して切断するタンパク質複合体(「RNA誘導サイレンシング複合体」または「RISC」と称される)に組み込まれる。RNAiは、核酸分子、例えば合成siRNAまたはRNA干渉物質を導入することによっても開始され、標的遺伝子の発現を阻害またはサイレンシングすることができる。本明細書に使用される場合、「標的遺伝子発現の阻害」は、RNA干渉が誘導されない状況と比較して、標的遺伝子または標的遺伝子によってコードされるタンパク質の発現またはタンパク質活性またはレベルの任意の減少を含む。減少は、RNA干渉物質によって標的化されなかった標的遺伝子の発現または標的遺伝子によってコードされるタンパク質の活性もしくはレベルと比較して、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、またはそれ以上である。
【0204】
用語「RNA干渉物質」および「RNA干渉」は、これらが本明細書に使用される場合、RNA干渉物質が、siRNA、miRNA、shRNAまたは他の二本鎖RNA分子を含むかどうかにかかわらず、二本鎖RNAによって媒介される形態の遺伝子サイレンシングを包含することが意図される。siRNAは、標的遺伝子の発現を例えばRNAiにより阻害するように機能するRNA作用物質として定義される。siRNAは、化学合成される場合があり、インビトロ転写によって産生される場合があり、またはホスト細胞内で産生される場合がある。一態様では、siRNAは、約15~約40ヌクレオチド長、好ましくは約15~約28ヌクレオチド、より好ましくは約19~約25ヌクレオチド長、より好ましくは約19、20、21、22、または23ヌクレオチド長の二本鎖RNA(dsRNA)分子であり、約0、1、2、3、4、または5ヌクレオチドの長さを有する3'および/または5'オーバーハングを各鎖上に含有し得る。オーバーハングの長さは、2つの鎖の間で独立しており、すなわち、1つの鎖上のオーバーハングの長さは、2番目の鎖上のオーバーハングの長さに依存しない。好ましくは、siRNAは、標的メッセンジャーRNA(mRNA)の分解または特異的転写後遺伝子サイレンシング(PTGS)を通じてRNA干渉を促進可能である。
【0205】
siRNAはまた、低分子ヘアピン型(ステムループとも呼ばれる)RNA(shRNA)も含む。一態様では、これらのshRNAは、短い(例えば、約19~約25ヌクレオチド)アンチセンス鎖に続く、約5~約9ヌクレオチドのヌクレオチドループ、および類似のセンス鎖から構成される。あるいは、センス鎖が、ヌクレオチドループ構造に先行する場合があり、アンチセンス鎖が後続する場合がある。これらのshRNAは、プラスミド、レトロウイルス、およびレンチウイルス中に含有され、例えばpol III U6プロモーター、または別のプロモーターから発現される場合がある(例えば、Stewart, et al. (2003) RNA April; 9(4):493-501を参照されたく、これはその全体が参照により本明細書に組み入れられる)。RNA干渉物質の標的遺伝子または配列は、細胞遺伝子またはゲノム配列、例えば、G9a/GLPまたはEZH1配列であり得る。siRNAは、標的遺伝子もしくはゲノム配列、またはその断片と実質的に相同であり得る。これに関連して使用される場合、用語「相同である」は、標的のRNA干渉を引き起こすために、標的mRNAまたはその断片と実質的に同一、十分に相補的、または類似であるものと定義される。天然のRNA分子に加えて、標的配列の発現を阻害または干渉するために適したRNAは、RNA誘導体および類似体を含む。好ましくは、siRNAは、その標的と同一である。siRNAは、好ましくは1つの配列のみを標的とする。siRNAなどのRNA干渉物質の各々は、潜在的オフターゲット効果について、例えば発現プロファイリングによってスクリーニングすることができる。そのような方法は、当業者に公知であり、例えば、Jackson et al. Nature Biotechnology 6:635-637, 2003に記載されている。発現プロファイリングに加えて、配列データベースにおいて類似配列について潜在的標的配列をスクリーニングして、オフターゲット効果を有し得る潜在配列を特定してもよい。例えば、配列が同一な15個、またはおそらくわずか11個の連続ヌクレオチドが、非標的転写物のサイレンシングを指示するために十分である。したがって、潜在的オフターゲットサイレンシングを回避するために、最初に、BLASTなどの任意の公知の配列比較法による配列同一性分析を使用して、提案されたsiRNAをスクリーニングしてもよい。siRNA配列は、RISCへのsiRNAのアンチセンス(ガイド)鎖の取り込みを最大化し、それにより、RISCがG9a/GLPまたはEZH1 mRNAを分解のために標的とする能力を最大化するように選択される。これは、アンチセンス鎖の5'末端で最低の結合自由エネルギーを有する配列についてスキャンすることによって達成することができる。より低い自由エネルギーは、siRNA二重鎖のアンチセンス鎖の5'端の巻き戻しの増強をもたらし、それにより、アンチセンス鎖がRISCによって取り込まれ、ヒトG9a/GLPまたはEZH1 mRNAの配列特異的切断を指示することを確実にする。siRNA分子は、RNAのみを含有する分子に必ずしも限られず、例えば、化学修飾されたヌクレオチドおよび非ヌクレオチドをさらに包含し、リボース糖分子が、別の糖分子または類似の機能を果たす分子に置換された分子も含む。そのうえ、ヌクレオチド残基間にホスホロチオエート結合などの非天然結合を使用することができる。RNA鎖は、フルオロフォアなどのレポーター基の反応性官能基で誘導体化することができる。特に有用な誘導体は、RNA鎖の1つまたは複数の末端で、典型的にはセンス鎖の3'末端で修飾されている。例えば、3'末端の2'-ヒドロキシルを、種々の基で容易にかつ選択的に誘導体化することができる。他の有用なRNA誘導体は、2' O-アルキル化残基または2'-O-メチルリボシル誘導体および2'-O-フルオロリボシル誘導体などの修飾糖質部分を有するヌクレオチドを組み込んでいる。RNA塩基も修飾される場合がある。標的配列の発現を阻害または干渉するために有用な任意の修飾塩基が、使用され得る。例えば、5-ブロモウラシルおよび5-ヨードウラシルなどのハロゲン化塩基を組み込むことができる。塩基がアルキル化される場合もあり、例えば、7-メチルグアノシンをグアノシン残基の代わりに組み込むことができる。成功した阻害をもたらす非天然塩基も組み込むことができる。好ましいsiRNA修飾は、2'-デオキシ-2'-フルオロウリジンまたはロックド核酸(LAN)ヌクレオチド、およびホスホジエステルまたは様々な数のホスホロチオエート結合のいずれかを含有するRNA二重鎖を含む。そのような修飾は、当業者に公知であり、例えば、Braasch et al., Biochemistry, 42: 7967-7975, 2003に記載されている。アンチセンスオリゴヌクレオチド技法のために確立された化学反応を使用して、siRNA分子に有用な修飾の大部分を導入することができる。好ましくは、修飾は、最低限の2'-O-メチル修飾を含み、好ましくは修飾から2'-O-メチル修飾を除外する。好ましくは修飾からsiRNAの遊離5'-ヒドロキシル基の修飾も除外する。本明細書における実施例は、mRNAを効果的に標的とするshRNA分子などのRNA干渉物質の具体例を提供する。
【0206】
一態様では、核酸は、G9a/GLPもしくはEZH1特異的RNA干渉物質またはRNA干渉物質をコードするベクターである。一態様では、RNA干渉物質は、
からなる群より選択されるヌクレオチド配列の1つまたは複数を含む。
【0207】
いくつかの態様では、核酸阻害剤は、EZH1に結合するアプタマー、EZH1特異的RNA干渉物質およびEZH1特異的RNA干渉物質をコードするベクターからなる群より選択される、EZH1特異的核酸であり、RNA干渉物質は、SEQ ID NO:11~19から選択されるヌクレオチド配列の1つまたは複数を含む。
【0208】
一態様では、多系列造血前駆細胞を、SEQ ID NO:11~19からなる群より選択される核酸配列を含む核酸分子を担持するウイルスベクターまたはベクターと接触させる。
【0209】
一態様では、ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤との接触は、1回より多く行う。例えば、多系列造血前駆細胞を、最初に1回目、SEQ ID NO:11~19からなる群より選択される核酸配列を含む核酸分子を担持するウイルスまたはベクターと接触させた後、または本明細書に記載される低分子阻害剤と接触させた後、接触させた細胞を、そのウイルスまたはベクターを除去するために洗浄し、次に、洗浄された細胞を、最初の接触で使用された同じウイルスまたはベクターと2回目に接触させる。
【0210】
本明細書において、ゲノム編集のCas9/CRISPRシステムが、本明細書に記載される方法、細胞および組成物と共に用いられることが想定される。クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)/CRISPR関連(Cas)システムは、RNAプログラム可能なゲノム編集に有用である(例えば、Jinek, M. et al. Science (2012) 337(6096):816-821を参照のこと)。
【0211】
トランス活性化crRNA(tracrRNA)は、低分子のトランスコード(trans-encoded)RNAである。これは、ヒト病原体である化膿連鎖球菌から最初に発見された(Deltcheva E, et al. (2011). Nature 471 (7340): 602-7を参照のこと)。細菌および古細菌では、CRISPR/Cas(クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート/CRISPR関連タンパク質)は、ウイルスおよびプラスミドから防御するRNA媒介防御システムを構成する。この防御経路は、3段階を有する。最初に、侵入核酸のコピーがCRISPR遺伝子座に組み込まれる。次に、このCRISPR遺伝子座からCRISPR RNA(crRNA)が転写される。次に、crRNAがエフェクター複合体に組み込まれ、そこで、crRNAは、複合体を侵入核酸に導き、Casタンパク質がこの核酸を分解する(例えば、Terns MP and Terns RM (2011). Curr Opin Microbiol 14 (3): 321-7を参照のこと)。CRISPR活性化のいくつかの経路があり、その1つは、crRNAの成熟に役割を果たすtracrRNAを必要とする。TracrRNAは、プレcrRNAと相補的であり、それと塩基対合してRNA二重鎖を形成する。これは、RNA特異的リボヌクレアーゼであるRNase IIIによって切断されて、crRNA/tracrRNAハイブリッドを形成する。このハイブリッドは、侵入核酸を切断するエンドヌクレアーゼCas9のためのガイドとして働く(例えば、Deltcheva E, et al. 前出;Jinek M, et al. (2012), Science 337 (6096): 816-21;およびBrouns SJ (2012), Science 337 (6096): 808-9を参照のこと)。
【0212】
いくつかの態様では、Cas9/CRISPRシステムのガイドRNAは、公知のEZH1のすべての転写物に存在するEZH1遺伝子のエクソン3を標的とするように設計される。エクソン3の配列は、
である。
【0213】
エクソン3を標的とする非限定的な例示的gRNAは、
である。
【0214】
他の態様では、Cas9/CRISPRシステムのガイドRNAは、公知のEZH1のすべての転写物にも存在するEZH1遺伝子のエクソン4を標的とするように設計される。エクソン4の配列は、
である。
【0215】
エクソン4を標的とする非限定的な例示的gRNAは、
である。
【0216】
一態様では、ベクターは、本明細書に記載されるヒストンメチルトランスフェラーゼの核酸阻害剤のいずれかを本明細書に記載されるような細胞集団から選択される標的細胞(例えば、ESC;PSC;iPSC;造血内皮細胞;HSC)に導入するための輸送媒体として使用される。一態様では、ベクターは、記載されるヒストンメチルトランスフェラーゼの核酸阻害剤を含む本明細書に記載される核酸のいずれかを本明細書に記載されるような細胞集団から選択される標的細胞(例えば、ESC;PSC;iPSC;造血内皮細胞;HSC)に導入するための輸送媒体として使用される。核酸阻害剤のインビボ発現は、それぞれのヒストンメチルトランスフェラーゼの発現を低減および阻害するために、G9a/GLPまたはEZH1などの標的とされたヒストンメチルトランスフェラーゼのmRNAを分解するためのものであり、トランスフェクトされた細胞におけるヒストンH3のメチル化を低減させ、それにおける遺伝子発現の抑制を緩和することを目標とする。
【0217】
一態様では、ホスト細胞は、胚性幹細胞、体性幹細胞、前駆細胞、骨髄細胞、造血幹細胞、造血前駆細胞、T細胞もしくはB細胞などの免疫細胞、赤血球、線維芽細胞、角化細胞、または骨髄球系前駆細胞である。一態様では、ホスト細胞は、対象から単離される。一態様では、ホスト細胞は、血液疾患と診断されている対象から単離される。
【0218】
一態様では、ベクターは、脾フォーカス形成ウイルスプロモーター、テトラサイクリン誘導性プロモーター、ドキシサイクリン(Dox)誘導性、またはβ-グロビン遺伝子座制御領域およびβ-グロビンプロモーターをさらに含む。一態様では、プロモーターは、その中の核酸分子の標的指向発現を提供する。プロモーターの他の例としては、様々な導入遺伝子についてのCMVプロモーターおよびEF1-アルファプロモーター、ならびにEZH1を標的とするshRNAについてのU6プロモーターが挙げられるが、それらに限定されない。
【0219】
一態様では、ベクターは、ウイルスまたは非ウイルスベクターである。細胞における遺伝子送達および発現のためのウイルスベクターの非限定的な例は、レトロウイルス、アデノウイルス(2および5型)、アデノ随伴ウイルス(AAV)、ヘルパー依存性アデノウイルスベクター(HdAd)、雑種アデノウイルスベクター、ヘルペスウイルス、ポックスウイルス、ヒト泡沫状ウイルス(HFV)、およびレンチウイルスである。本明細書に記載される発明において有用な例示的なベクターとしては、エピソーム性ベクター、組み込み型ベクター、非組み込み型ベクター、および切除可能ベクターが挙げられる。
【0220】
ストロマフリーT細胞分化
いくつかの態様では、該分化法は、結果として生じたCD34+造血内皮細胞の集団を、CD3+ T細胞分化培地中、Notchリガンドの存在下、CD3+ T細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させることを含む。本明細書に記載される方法は、ストロマフリーT細胞分化法である。Notchリガンドを発現するストロマ細胞を用いた分化と比較して、ストロマフリー分化は、予想外なことに、分化したT細胞の数の増加をもたらし、これらのT細胞のより少ない部分が先天性様細胞である(例えば、実施例1、
図1Dを参照のこと)。予想外なことに、本発明者らは、本明細書に記載されるストロマフリープロトコルが、iPSCまたはHE由来前駆体(例えば、リンパ球系前駆体)ではなく、造血内皮細胞(HE)からの開始を必要とすることを見いだした。
【0221】
事実上、骨髄中の造血幹細胞(HSC)は、骨髄球系共通前駆体(CMP)およびリンパ球系共通前駆体(CLP)に分化する前に複能性前駆体(MPP)を生じる。CLPは、骨髄から胸腺に遊走し、そこで、デルタ様リガンド4(DLL4)を発現する胸腺上皮細胞が、初期胸腺前駆体(ETP)において古典的Notch 1シグナル伝達をトリガーする。このNotch 1シグナルは、T細胞系列の決定に不可欠であり、初期胸腺細胞分化の間、ダブルネガティブ3(DN3)期までさらに必要とされる。これらの初期T細胞発生の間の活性Notchシグナル伝達は、B細胞および骨髄球系細胞(樹状細胞(DC)を含む)分化能などの他の系列分化能を阻害する。β-選択の間に、Notchシグナル伝達は、プレT細胞受容体シグナル伝達の結果として解除される。したがって、その後のT細胞発生段階は、非常に低いレベルのNotchシグナル伝達を示す。Notchは、制御性T(TReg)細胞(具体的には、胸腺TReg細胞)の発生に影響することも示唆された。Notchシグナル伝達は、Notch 2受容体によって媒介される。Notchシグナル伝達経路は、脊椎動物種および無脊椎動物種の両方で高度に保存されており、これは、多くの異なる細胞運命の決定を調節する。これは、神経発生、血管新生または筋形成などの発生途中のパターン形成に重要であり、T細胞発生および幹細胞維持を調節する。Notchシグナル伝達はまた、成人期にわたる細胞過程に関与する。Notchを介したシグナル伝達は、隣接細胞の間で起こり、受容体およびそのリガンドの両方は、膜貫通タンパク質である。例えば、Schmitt T.M., Zuniga-Pflucker (Zuniga-Pflucker) J.C. (2002) Induction of T cell development from hematopoietic progenitor cells by delta-like-1 in vitro. Immunity 17:749-756;Mohtashami M. (2010) Direct Comparison of Dll1- and Dll4-Mediated Notch Activation Levels Shows Differential Lymphomyeloid Lineage Commitment Outcomes. J Immunol. 185(2):867-76;Ohishi K et al, これらは、参照により本明細書に組み入れられ、Delta-1 enhances marrow and thymus repopulating ability of human CD34(+) CD38(-) cord blood cells. J Clin Invest. 2002 Oct;110(8):1165-74;および Dallas MH et al. Density of The Notch ligand Delta1 determines generation of B and T cell precursors from hematopoietic stem cells J Exp Med. 2005 May 2; 201(9): 1361-1366を参照されたく、これらは、参照により本明細書に組み入れられる。
【0222】
Notchリガンド
したがって、リンパ球系列およびT細胞系列の決定において分化を開始するために、造血内皮細胞は、Notchリガンドに曝露されて、その中のNotchシグナル伝達経路を活性化する。予想外なことに、本発明者らは、Notchリガンドに曝露させることを含む本明細書に記載されるストロマフリープロトコルが、iPSCまたはHE由来前駆体(例えば、リンパ球系前駆体)ではなく、造血内皮細胞(HE)からの開始を必要とすることを見いだした。したがって、いくつかの態様では、iPSCまたはHE由来前駆体は、Notchリガンドの存在下でT細胞へと分化される初期集団ではない。
【0223】
Notchリガンドは、DSL(デルタ、セレート、LAG-2)ドメインおよび様々な数のEGF様リピートを有する1回貫通型膜貫通タンパク質である。2つのクラスの古典的Notchリガンド、デルタ/デルタ様およびセレート/Jaggedクラスがある。後者は、膜貫通ドメイン近くにシステインリッチリピートの追加的なドメインを有する。哺乳動物には5つの古典的Notchリガンド:Jagged-1、Jagged-2、DLL1、DLL3およびDLL4がある。これらは、4つのNotch受容体、Notch 1~4に結合することができる。Notchデルタリガンド、デルタ様1としても知られているDLL1は、NOTCH2受容体と相互作用するタンパク質である。例えば、Shimizu K, et al., 2001, J. Biol. Chem. 276 (28): 25753-8;Blaumueller CM, et al., 1997, Cell 90 (2): 281-91;Shimizu K, et al., 2000, Mol. Cell. Biol. 20 (18): 6913-22を参照のこと。DLL1は、ヒトにおいてDLL1遺伝子によってコードされるタンパク質である。DLL1は、Notchデルタリガンドのヒトホモログである。
【0224】
いくつかの態様では、Notchリガンドは、デルタ様-1(DLL1、DL1とも称される)、デルタ様-4(DLL4、DL4とも称される)、固定化デルタ1ext-IgG、および固定化デルタ4ext-IgGからなる群より選択される。いくつかの態様では、固定化デルタ1ext-IgGは、ヒトIgG1のFcドメインに融合されたヒトデルタ様-1の細胞外ドメインからなる。「固定化デルタ1ext-IgG」は、デルタ様1の細胞外ドメインをヒトIgG1のFcドメインに融合することによって作られる組換えNotchリガンドのことを指す(例えば、SEQ ID NO:42を参照のこと)。これは、設定可能な用量(titratable dose)のNotchリガンドを提供する合成方法である。例えば、Varnum-Finney et al., J Cell Sci. 2000 Dec;113 Pt 23:4313-8を参照されたく、これは、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。組換えNotchリガンドおよびFc融合物は、AdipoGen(商標)で市販されている。「固定化デルタ4ext-IgG」は、デルタ様4の細胞外ドメインをヒトIgG1のFcドメインに融合することによって作られる組換えNotchリガンドのことを指す(例えば、SEQ ID NO:43を参照のこと)。
【0225】
いくつかの態様では、デルタ1ext-IgGまたはデルタ4ext-IgGのIgGドメインは、当技術分野における任意の公知のIgGドメインを含むことができる。いくつかの態様では、デルタ1ext-IgGまたはデルタ4ext-IgGは、抗ヒトIgG抗体、プロテインGまたはプロテインAを非限定的に含むIgG Fcに結合する組成物を固体基材に被覆することによって、固体基材(例えば、組織培養プレート)に固定化することができる。
【0226】
いくつかの態様では、Notchリガンド(例えば、DLL1)の核酸配列は、SEQ ID NO:1~3、またはSEQ ID NO:1~3と同じ機能(例えば、Notch受容体への結合および/または活性化)を維持するSEQ ID NO:1~3の配列に対して少なくとも85%、少なくとも87%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%同一である配列を含む。
【0227】
SEQ ID NO:1、DLL1デルタ様古典的Notchリガンド1[ホモサピエンス(ヒト)]、Gene ID:28514、NCBI参照配列:NG_027940.1、8873bp
【0228】
SEQ ID NO:2 ホモサピエンスデルタ様古典的Notchリガンド1(DLL1)、mRNA、NCBI参照配列:NM_005618.4、3779bp
【0229】
SEQ ID NO:3 ホモサピエンスデルタ様古典的Notchリガンド1(DLL1)、CDS mRNA、NCBI参照配列:NM_005618.4、2172bp
【0230】
いくつかの態様では、Notchリガンド(例えば、DLL1)のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:4、またはSEQ ID NO:4と同じ機能(例えば、Notch受容体への結合および/または活性化)を維持するSEQ ID NO:4の配列に対して少なくとも85%、少なくとも87%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%同一であるアミノ酸配列を含む。
【0231】
SEQ ID NO:4 デルタ様タンパク質1前駆体[ホモサピエンス]、NCBI参照配列:NP_005609.3、723aa
【0232】
いくつかの態様では、Notchリガンド(例えば、デルタ1ext-IgG)は、ヒトDLL1の細胞外ドメインを含み、これは、DLL1のおよそアミノ酸1~536、またはアミノ酸22~544、またはアミノ酸22~537に相当する(例えば、DLL1の完全長配列についてはSEQ ID NO:4を参照のこと)。いくつかの態様では、ヒトDLL1の細胞外ドメインは、SEQ ID NO:5、または、SEQ ID NO:5の配列に対して少なくとも85%、少なくとも87%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%同一であり、SEQ ID NO:5と同じ機能(例えば、Notch受容体への結合および/または活性化)を維持するアミノ酸配列を含む。
【0233】
SEQ ID NO:5、ヒトDLL1細胞外ドメイン、536アミノ酸
【0234】
いくつかの態様では、Notchリガンド(例えば、DLL4)の核酸配列は、SEQ ID NO:6~9、またはSEQ ID NO:6~9の配列に対して少なくとも85%、少なくとも87%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%同一であり、SEQ ID NO:6~9と同じ機能(例えば、Notch受容体への結合および/または活性化)を維持する配列を含む。
【0235】
SEQ ID NO:6、DLL4デルタ様古典的Notchリガンド4[ホモサピエンス(ヒト)]、Gene ID:54567、NCBI参照配列:NG_046974.1、9734bp
【0236】
SEQ ID NO:7、ホモサピエンスデルタ様古典的Notchリガンド4(DLL4)、mRNA、NCBI参照配列:NM_019074.4、3426bp
【0237】
SEQ ID NO:8、ホモサピエンスデルタ様古典的Notchリガンド4(DLL4)、CDS mRNA、NCBI参照配列:NM_019074.4、2058 bp
【0238】
いくつかの態様では、Notchリガンド(例えば、DLL4)のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:4、またはSEQ ID NO:4の配列に対して少なくとも85%、少なくとも87%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%同一であり、SEQ ID NO:4と同じ機能(例えば、Notch受容体への結合および/または活性化)を維持するアミノ酸配列を含む。
【0239】
SEQ ID NO:9、デルタ様タンパク質4前駆体[ホモサピエンス]、NCBI参照配列:NP_061947.1、685アミノ酸
【0240】
いくつかの態様では、Notchリガンドは、ヒトDLL4の細胞外ドメインを含み、これは、DLL4のアミノ酸1~526、またはDLL4のアミノ酸1~524、またはDLL4のアミノ酸27~524に相当する(例えば、DLL4の完全長配列についてはSEQ ID NO:9を参照のこと)。いくつかの態様では、ヒトDLL4の細胞外ドメインは、SEQ ID NO:10、またはSEQ ID NO:5の配列に対して少なくとも85%、少なくとも87%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%同一であり、SEQ ID NO:10と同じ機能(例えば、Notch受容体への結合および/または活性化)を維持するアミノ酸配列を含む。
【0241】
SEQ ID NO:10、ヒトDLL4細胞外ドメイン、526アミノ酸
【0242】
いくつかの態様では、Notchリガンド(例えば、デルタ1ext-IgG)は、SEQ ID NO:42、またはSEQ ID NO:42の配列に対して少なくとも85%、少なくとも87%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%同一であり、SEQ ID NO:42と同じ機能(例えば、Notch受容体への結合および/または活性化)を維持するアミノ酸配列を含む。
【0243】
SEQ ID NO:42、組換えヒトDLL1 Fcキメラタンパク質、R&D SYSTEMS 10184-DL:ヒトDLL1(Ser22-Glu537) Accession # O00548+IEGRMDP+ヒトIgG1 Fc(Pro100-Lys330)
【0244】
いくつかの態様では、Notchリガンド(例えば、デルタ4ext-IgG)は、SEQ ID NO:43、またはSEQ ID NO:43の配列に対して少なくとも85%、少なくとも87%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%同一であり、SEQ ID NO:43と同じ機能(例えば、Notch受容体への結合および/または活性化)を維持するアミノ酸配列を含む。
【0245】
SEQ ID NO:43、ヒトDLL4タンパク質Fc Tag、ACRO BIOSYSTEMS DL4-H5259:ヒトDLL4(Ser27-Pro524)+ヒトIgG1 Fc(Pro100-Lys330)
【0246】
いくつかの態様では、Notchリガンドは、ヒトIgG1のFcドメインに(例えば、任意のリンカー配列を通じて)連結された本明細書に記載されるようなNotchリガンドの細胞外ドメインを含む。いくつかの態様では、ヒトIgG1 Fcドメインは、SEQ ID NO:44、またはSEQ ID NO:44の配列に対して少なくとも85%、少なくとも87%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%同一であり、SEQ ID NO:44と同じ機能を維持するアミノ酸配列を含む。
【0247】
SEQ ID NO:44、P01857のPro100-Lys330(IGHG1_HUMAN)
【0248】
例えば、精製組換え型のNotchリガンドまたはNotch受容体結合断片を提供することによって、Notchリガンドを提供する方法がいくつかあり、その受容体結合断片は、細胞上で細胞外Notch受容体と接触および結合すると細胞シグナル伝達事象をインビボで誘起するのに十分である。いくつかの態様では、Notchリガンドは、固体基材に、例えば共有または非共有結合または連結を使用して付着されている。いくつかの態様では、Notchリガンドは、細胞培養ディッシュに付着されている。
【0249】
いくつかの態様では、Notchリガンドは、Notchリガンドを固体基材に固定するためのドメインをさらに含む。非限定的な例として、Notchリガンドは、親和性ペアの第1のメンバーを含み、固体基材は、親和性ペアの第2のメンバーを含む。いくつかの態様では、親和性ペアの第1および第2のメンバーは、ハプテンまたは抗原性化合物と対応する抗体またはその結合部分もしくは断片との組み合わせ(例えば、FLAGと抗FLAGモノクローナル抗体、その配列は当技術分野において公知である);ジゴキシゲニンと抗ジゴキシゲニン;マウス免疫グロブリンとヤギ抗マウス免疫グロブリン;非免疫学的結合ペア;ビオチンとアビジン;ビオチンとストレプトアビジン;ホルモンとホルモン結合タンパク質;チロキシンとコルチゾールホルモン結合タンパク質;受容体と受容体アゴニスト;受容体と受容体アンタゴニスト;アセチルコリン受容体とアセチルコリンまたはその類似体;IgGとプロテインA;レクチンと炭水化物;酵素と酵素補因子;酵素と酵素阻害剤;核酸二重鎖を形成可能な相補的オリゴヌクレオチドペア;および負に荷電された第1の分子と正に荷電された第2の分子からなる群より選択される。
【0250】
いくつかの態様では、造血内皮細胞の集団は、非組織培養処理培養容器中で培養することによってCD3+ T細胞の集団へと分化される;別の言い方をすると、該培養容器は、疎水性のプラスチック表面をそれがより親水性になるよう改質するためにプラズマガスに曝露されることはない。本明細書に使用される場合、用語「培養容器」は、ディッシュ、フラスコ、プレート、マルチウェルプレートなどを含む。いくつかの態様では、培養容器に、組換えヒトDL1-Fcタンパク質(例えば、R&D SYSTEMSから商品番号10184-DLで市販されている)、組換えヒトDL4-Fcタンパク質(例えば、ACRO BIOSYSTEMSから商品番号DL4-H5259で市販されている)、または両Notchリガンドの混合物、または本明細書に記載されるような任意のNotchリガンドが被覆される。いくつかの態様では、培養容器に、Notchリガンドが、少なくとも0.5時間、少なくとも1.0時間、少なくとも1.5時間、少なくとも2.0時間、少なくとも2.5時間、少なくとも3.0時間、少なくとも3.5時間、少なくとも4.0時間、少なくとも4.5時間、または少なくとも5.0時間被覆される。いくつかの態様では、培養容器に、Notchリガンドが室温で被覆される。
【0251】
いくつかの態様では、非ストロマ由来Notchリガンド(例えば、組織培養プレート上に固定化されたNotchリガンド)は、1μg/mL~100μg/mLの濃度または5μg/mL~15μg/mLの濃度で提供される。いくつかの態様では、非ストロマ由来Notchリガンドは、少なくとも1μg/mL、少なくとも2μg/mL、少なくとも3μg/mL、少なくとも4μg/mL、少なくとも5μg/mL、少なくとも6μg/mL、少なくとも7μg/mL、少なくとも8μg/mL、少なくとも9μg/mL、少なくとも10μg/mL、少なくとも11μg/mL、少なくとも12μg/mL、少なくとも13μg/mL、少なくとも14μg/mL、少なくとも15μg/mL、少なくとも16μg/mL、少なくとも17μg/mL、少なくとも18μg/mL、少なくとも19μg/mL、少なくとも20μg/mL、少なくとも25μg/mL、少なくとも30μg/mL、少なくとも35μg/mL、少なくとも40μg/mL、少なくとも45μg/mL、少なくとも50μg/mL、少なくとも55μg/mL、少なくとも60μg/mL、少なくとも65μg/mL、少なくとも70μg/mL、少なくとも75μg/mL、少なくとも80μg/mL、少なくとも85μg/mL、少なくとも90μg/mL、少なくとも95μg/mL、または少なくとも100μg/mLの濃度で提供される。好ましい態様では、非ストロマ由来Notchリガンドは、10μg/mLの濃度で提供される。
【0252】
いくつかの態様では、細胞は、非ストロマ由来Notchリガンド(例えば、組織培養プレート上に固定化されたNotchリガンド)に、少なくとも1日、少なくとも2日、少なくとも3日、少なくとも4日、少なくとも5日、少なくとも6日、少なくとも7日、少なくとも8日、少なくとも9日、少なくとも10日、少なくとも10日、少なくとも11日、少なくとも12日、少なくとも13日、少なくとも14日、少なくとも15日、少なくとも16日、少なくとも17日、少なくとも18日、少なくとも19日、少なくとも20日、少なくとも21日、少なくとも22日、少なくとも23日、少なくとも24日、少なくとも25日、少なくとも26日、少なくとも27日、少なくとも28日、少なくとも29日、少なくとも30日、少なくとも31日、少なくとも32日、少なくとも33日、少なくとも34日、少なくとも35日、少なくとも36日、少なくとも37日、少なくとも38日、少なくとも39日、少なくとも40日、少なくとも41日、少なくとも42日、少なくとも43日、少なくとも44日、少なくとも45日、少なくとも46日、少なくとも47日、少なくとも48日、少なくとも49日、少なくとも50日、またはそれ以上曝露させて培養される。
【0253】
ストロマフリー分化
本明細書に記載される方法は、ストロマフリーT細胞分化法、すなわち、ストロマ細胞または任意の他の種類の支持細胞との共培養を含まない方法である。マウスストロマ細胞などのストロマ細胞との共培養は、iPSC由来T細胞のトランスレーショナルポテンシャルを制限している;例えば、ストロマ細胞が存在することによる移植拒絶反応への懸念が生じ得る。さらには、ストロマ細胞を使用して分化させたT細胞は、先天性様表現型を示す(例えば、ガンマデルタT細胞のマーカーであるTCRgd発現によって測定された場合)。T細胞が、例えばTCR αおよびβの発現を特徴とする、適応表現型を示すことが好ましい。加えて、本明細書に記載されるように、ストロマフリーT細胞分化法は、ストロマ共培養を含む分化法と比較して、CD3+ T細胞(例えば、CD4+CD8+細胞)の数の増加をもたらす。
【0254】
したがって、ストロマフリー法を使用して分化させたT細胞は、一態様では、エピジェネティック制御因子(例えば、HMT;例えば、EZH1、G9a/GLP)の阻害との組み合わせで、ストロマ共培養法と比較して、少なくとも以下の予想外の有益性を示す:(1)ヒトでの移植の可能性の増加;(2)先天性様T細胞の数の減少;(3)結果として生じるT細胞(例えば、CD5+CD7+ Pro-T細胞;CD3+ T細胞;CD4+CD8+ T細胞;CD4+ T細胞;CD8+ T細胞;アルファ-ベータT細胞)の数および/もしくは割合の増加;(4)アルファベータT細胞に最も類似した遺伝子発現プロファイル;(5)より多様なTCRレパートリー;ならびに/または(6)TCR CDR長の増加(例えば、実施例1、
図1C~1D、
図3A~3B、
図4、
図5A~5D、
図6~16を参照のこと)。
【0255】
本明細書に使用される場合、用語「支持細胞またはストロマ細胞」は、細胞分化との関連で使用されるとき、複能性造血前駆細胞またはT細胞またはB細胞の成長、増殖、分化または増大のための微小環境を創出、促進または支援することが可能である、任意の細胞のことを指す。本明細書に記載される分化法に含まれない支持細胞の非限定的な例としては、ストロマ細胞および線維芽細胞が挙げられるが、それらに限定されない。
【0256】
細胞分化を目的とした共培養物において過去に使用された支持細胞は、典型的には、ストロマ細胞である。しかしながら、本明細書に記載される方法は、ストロマ細胞を含む共培養物を含まない。本明細書に記載される分化法に含まれないストロマ細胞株の例としては、マウスMS5ストロマ細胞株;マウス骨髄由来ストロマ細胞株、例えばS10、S17、OP9(例えば、OP9-DL1細胞またはOP9-DL4細胞)およびBMS2細胞株;ヒト骨髄ストロマ細胞株、例えば米国特許第5,879,940号(これは、その全体が参照により本明細書に組み入れられる)に記載されているもの;またはNotchリガンドを細胞外に発現および提示もしくは分泌する任意の他の類似の細胞が挙げられるが、それらに限定されない。OP9-DL1細胞は、Notchリガンドデルタ様1(DLL1)を異所的に発現する骨髄由来ストロマ細胞株である。OP9-Notchリガンドを発現する細胞を使用して多能性幹細胞をT細胞へと分化させる方法は、当技術分野において公知である。例えば、米国特許第7575925号、第8772028号、第8871510号および第9206394号、ならびに米国特許公開第20090217403号、第20110123502号、第20110052554号、第20110027881号、第20110236363号、第20120149100号、第20130281304号、第20140322808号、第20140248248号および20140037599号を参照のこと。これらの参考文献は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0257】
本明細書では、多能性幹細胞からT細胞を分化させる方法であって、細胞を支持細胞またはストロマ細胞と共培養する工程を含まない方法が記載される。いくつかの態様では、本明細書において使用されるNotchリガンドは、ストロマ細胞に由来しない。いくつかの態様では、造血内皮細胞をNotchリガンドの存在下で分化させることは、Notchリガンドを発現するストロマ細胞との共培養を含まない。いくつかの態様では、造血内皮細胞をNotchリガンドの存在下で分化させることは、OP9-DL1細胞またはOP9-DL4細胞との共培養を含まない。
【0258】
T細胞分化培地
いくつかの態様では、該分化法は、結果として生じたCD34+造血内皮細胞の集団を、CD3+ T細胞分化培地中、CD3+ T細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させることを含む。いくつかの態様では、CD3+ T細胞の集団への分化を促進するために十分な時間は、少なくとも3週間、少なくとも3.5週間、少なくとも4週間、少なくとも4.5週間、少なくとも5週間、少なくとも5.5週間、少なくとも6週間、またはそれ以上である。いくつかの態様では、CD3+ T細胞の集団への分化を促進するために十分な時間は、多くても6週間である。
【0259】
いくつかの態様では、支持細胞またはストロマ細胞によって発現され得るポリペプチド(例えば、成長因子または分化因子)を細胞培養培地中に提供することができる。細胞培養培地に含めることができるT細胞の分化を支援するポリペプチドの非限定的な例としては、IL-7、SCF、Flt3およびTPOが挙げられる。インターロイキン-7(IL-7)は、骨髄および胸腺においてストロマ細胞によって分泌される造血成長因子であり、B細胞およびT細胞の発生に関与する。幹細胞因子(SCF、KIT-リガンド、KLまたはスチール因子としても知られている)は、c-KIT受容体(CD117)に結合し、T細胞分化に関与するサイトカインである。FLT3(Flit3またはFms様チロシンキナーゼ3とも称される)は、造血を調節するクラスIII受容体チロシンキナーゼである。トロンボポエチン(TPOまたはTHPO)は、主に巨核球産生を担っているが造血幹細胞(HSC)の維持にも役割を果たしているサイトカインである。例えば、Wang et al., Distinct roles of IL-7 and stem cell factor in the OP9-DL1 T cell differentiation culture system. Exp Hematol. 2006 Dec;34(12):1730-40を参照のこと。
【0260】
いくつかの態様では、CD3+ T細胞分化培地は、無血清である。いくつかの態様では、CD3+ T細胞分化培地は、SCF、FLT3および/またはIL7の少なくとも1つを含む。いくつかの態様では、CD3+ T細胞分化培地は、SCF、FLT3およびIL7を含む。いくつかの態様では、CD3+ T細胞分化培地は、30ng/ml SCF、15ng/ml FLT3および25ng/ml IL7を含む。いくつかの態様では、CD3+ T細胞分化培地は、100ng/ml SCF、100ng/ml FLT3および50ng/ml IL7を含む。いくつかの態様では、CD3+ T細胞分化培地は、FLT3およびIL7を含む。いくつかの態様では、CD3+ T細胞分化培地は、15ng/ml FLT3および25ng/ml IL7を含む。いくつかの態様では、CD3+ T細胞分化培地は、100ng/ml FLT3および50ng/ml IL7を含む。
【0261】
造血内皮細胞からCD3+ T細胞の集団への分化を促進するような濃度のSCF、FLT3および/またはIL7が使用されるべきである。SCFの濃度は、1ng/mL~200ng/mLの範囲であることができる。いくつかの態様では、SCFの濃度(例えば、CD3+ T細胞分化培地中の)は、30ng/mLである。いくつかの態様では、SCFの濃度(例えば、CD3+ T細胞分化培地中の)は、100ng/mlである。FLT3の濃度は、1ng/mL~200ng/mLの範囲であることができる。いくつかの態様では、FLT3の濃度(例えば、CD3+ T細胞分化培地中の)は、15ng/mlである。いくつかの態様では、FLT3の濃度(例えば、CD3+ T細胞分化培地中の)は、100ng/mlである。IL7の濃度は、1ng/mL~200ng/mLの範囲であることができる。いくつかの態様では、IL7の濃度(例えば、CD3+ T細胞分化培地中の)は、25ng/mlである。いくつかの態様では、IL7の濃度(例えば、CD3+ T細胞分化培地中の)は、50ng/mlである。
【0262】
いくつかの態様では、CD3+ T細胞分化培地は、CD3+ T細胞分化培地中での分化の少なくとも最初の2週間、トロンボポエチン(TPO)をさらに含む。非限定的な例として、CD3+ T細胞分化培地は、CD3+ T細胞分化培地中での分化の少なくとも最初の1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、11日、12日、13日、14日、15日、16日、17日、18日、19日、20日または21日、トロンボポエチン(TPO)をさらに含む。いくつかの態様では、TPOを含むCD3+ T細胞分化培地は、CD5+CD7+ ProT細胞の集団への分化を促進する。そのようなCD5+CD7+ ProT細胞は、CD3+ T細胞分化培地中での分化の少なくとも1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、11日、12日、13日または14日後に検出することができる。いくつかの態様では、CD5+CD7+ ProT細胞は、CD3+ T細胞分化培地中での分化の少なくとも2週間後に検出することができる。
【0263】
いくつかの態様では、造血内皮細胞からCD3+ T細胞の集団への分化を促進するような濃度のTPOが使用されるべきである。いくつかの態様では、TPOの濃度は、1ng/mL~200ng/mLの範囲であることができる。いくつかの態様では、TPOの濃度(例えば、CD3+ T細胞分化培地中の)は、5ng/mLである。いくつかの態様では、TPOの濃度(例えば、CD3+ T細胞分化培地中の)は、50ng/mlである。
【0264】
いくつかの態様では、CD3+ T細胞分化培地(例えば、IL-7および/またはFLT3を含む)は、CD3+ T細胞分化培地中での分化の少なくとも最初の2週間、SCFをさらに含む。非限定的な例として、CD3+ T細胞分化培地は、CD3+ T細胞分化培地中での分化の少なくとも最初の1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、11日、12日、13日、14日、15日、16日、17日、18日、19日、20日または21日、SCFをさらに含む。いくつかの態様では、SCFを含むCD3+ T細胞分化培地は、CD5+CD7+ ProT細胞の集団への分化を促進する。
【0265】
いくつかの態様では、SCF、FLT3、IL7および/またはTPOは、CD3+ T細胞分化培地中に、少なくとも1ng/mL、少なくとも2ng/mL、少なくとも3ng/mL、少なくとも4ng/mL、少なくとも5ng/mL、少なくとも6ng/mL、少なくとも7ng/mL、少なくとも8ng/mL、少なくとも9ng/mL、少なくとも10ng/mL、少なくとも11ng/mL、少なくとも12ng/mL、少なくとも13ng/mL、少なくとも14ng/mL、少なくとも15ng/mL、少なくとも16ng/mL、少なくとも17ng/mL、少なくとも18ng/mL、少なくとも19ng/mL、少なくとも20ng/mL、少なくとも25ng/mL、少なくとも30ng/mL、少なくとも35ng/mL、少なくとも40ng/mL、少なくとも45ng/mL、少なくとも50ng/mL、少なくとも55ng/mL、少なくとも60ng/mL、少なくとも65ng/mL、少なくとも70ng/mL、少なくとも75ng/mL、少なくとも80ng/mL、少なくとも85ng/mL、少なくとも90ng/mL、少なくとも95ng/mL、少なくとも100ng/mL、少なくとも105ng/mL、少なくとも110ng/mL、少なくとも115ng/mL、少なくとも120ng/mL、少なくとも125ng/mL、少なくとも130ng/mL、少なくとも135ng/mL、少なくとも140ng/mL、少なくとも145ng/mL、少なくとも150ng/mL、少なくとも155ng/mL、少なくとも160ng/mL、少なくとも165ng/mL、少なくとも170ng/mL、少なくとも175ng/mL、少なくとも180ng/mL、少なくとも185ng/mL、少なくとも190ng/mL、少なくとも195ng/mL、または少なくとも200ng/mLの濃度で提供される。SCF、FLT3、IL7および/またはTPOの濃度は、同じまた異なることができる。
【0266】
いくつかの態様では、CD3+ T細胞は、CD3+ T細胞分化培地中での分化の少なくとも5.0週間後に検出することができる。いくつかの態様では、CD3+ T細胞は、CD3+ T細胞分化培地中での分化の少なくとも1.5週間、2週間、2.5週間、3.0週間、3.5週間、4.0週間、4.5週間、または5.0週間後に検出することができる。いくつかの態様では、CD3+ T細胞の集団は、本明細書において二重陽性またはDP T細胞とも称されるCD4+CD8+ T細胞の集団を含む。そのようなCD4+CD8+ CD3+ T細胞は、CD3+ T細胞分化培地中での分化の少なくとも1.5週間、2週間、2.5週間、3.0週間、3.5週間、4.0週間、4.5週間、または5.0週間後に検出することができる。
【0267】
いくつかの態様では、該方法は、CD4+CD8+ T細胞の集団を、単一陽性T細胞分化培地中、CD4+細胞の集団およびCD8+細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させることをさらに含む。いくつかの態様では、CD4+CD8+ T細胞の集団からCD4+ T細胞の集団およびCD8+細胞の集団への分化を促進するために十分な時間は、少なくとも1日、少なくとも2日、少なくとも3日、少なくとも4日、少なくとも5日、少なくとも6日、少なくとも7日、少なくとも8日、少なくとも9日、または少なくとも10日である。いくつかの態様では、CD34+造血内皮細胞の集団からCD4+ T細胞の集団およびCD8+細胞の集団への分化を促進するために十分な時間は、少なくとも4.0週間、4.5週間、5.0週間、5.5.週間、または6.0週間である。
【0268】
いくつかの態様では、単一陽性T細胞分化培地は、10ng/mL IL-15およびT細胞活性化因子を含む。IL-7に似たインターロイキン-15(IL-15)は、インターロイキン2(IL-2)スーパーファミリーのメンバーであり、リンパ球を刺激する能力を含めIL-2と多くの活性を共有する。いくつかの態様では、CD4+CD8+ T細胞から単一陽性CD4+細胞およびCD8+細胞への分化をなお促進する限り、種々の濃度のIL-15を使用することができる。いくつかの態様では、IL15の濃度は、1ng/mL~200ng/mLの範囲であることができ、10ng/mlの濃度が好ましい。
【0269】
いくつかの態様では、T細胞活性化因子は、CD3およびCD28(および任意でCD2)細胞表面リガンドに結合する成分(例えば、可溶性の四量体抗体複合体)を含む。T細胞活性化因子の結合は、CD3およびCD28(および任意でCD2)細胞表面リガンドの架橋をもたらし、それにより、T細胞活性化に必要な一次および共刺激シグナルを提供する。
【0270】
いくつかの態様では、T細胞活性化因子は、CD3/CD28 T細胞活性化因子(例えば、10ul/mlの濃度で)を含む。そのようなCD3/CD28 T細胞活性化因子は、市販されている(例えば、StemCell Technology(商標)、item #10970から)。いくつかの態様では、CD4+CD8+ T細胞から単一陽性CD4+細胞およびCD8+細胞への分化を促進するような濃度のCD3/CD28 T細胞活性化因子が使用されるべきである。いくつかの態様では、その濃度は、1ul/mL~200ul/mLの範囲であることができ、10ul/mlの濃度が好ましい。
【0271】
いくつかの態様では、T細胞活性化因子は、CD3/CD28 T細胞活性化因子ダイナビーズ(例えば、細胞1個当たりビーズ1個で使用される)を含む。そのようなCD3/CD28 T細胞活性化因子ダイナビーズは、市販されている(例えば、ThermoFisher(商標)、#11132Dから)。いくつかの態様では、CD4+CD8+ T細胞から単一陽性CD4+細胞およびCD8+細胞への分化を促進するような濃度のCD3/CD28 T細胞活性化因子ダイナビーズが使用されるべきである。いくつかの態様では、その濃度は、ビーズ1個/細胞~ビーズ20個/細胞の範囲であることができ、ビーズ1個/細胞の濃度が好ましい。
【0272】
いくつかの態様では、該方法は、少なくとも1週間後(例えば、単一陽性T細胞分化培地中)、CD4+細胞濃縮および/またはCD8+細胞濃縮の工程をさらに含む。いくつかの態様では、CD4+細胞濃縮および/またはCD8+細胞濃縮の工程は、単一陽性T細胞分化培地中での培養の少なくとも1日、少なくとも2日、少なくとも3日、少なくとも4日、少なくとも5日、少なくとも6日、少なくとも7日、少なくとも8日、少なくとも9日、少なくとも10日、少なくとも11日、少なくとも12日、少なくとも13日、または少なくとも14日目に行うことができる。
【0273】
CD4+またはCD8+細胞を濃縮する方法は、当技術分野において公知である。非限定的な例として、CD4+またはCD8+細胞は、磁気活性化細胞分取(MACS)および蛍光活性化細胞分取(FACS)を使用して、適宜、抗CD4または抗CD8抗体を用いて濃縮することができる 。
【0274】
いくつかの態様では、本明細書に記載されるT細胞分化プロトコル全体がストロマフリー環境で行われ、例えば、細胞は、非ストロマ由来Notchリガンド(例えば、組織培養プレート上に固定化されたNotchリガンド)に曝露させて培養される。いくつかの態様では、T細胞分化プロトコルの少なくとも一部(例えば、CD3+ T細胞分化培地中および単一陽性T細胞分化培地中で培養させることを含む)がストロマフリー環境で行われ、例えば、細胞は、非ストロマ由来Notchリガンド(例えば、組織培養プレート上に固定化されたNotchリガンド)に曝露させて培養される。
【0275】
誘導させたT細胞集団
本明細書に記載されるように、本明細書に記載されるようなストロマフリー法を使用して誘導させたT細胞の集団は、一態様では、エピジェネティック制御因子(例えば、HMT;例えば、EZH1、G9a/GLP)の阻害との組み合わせで、ストロマ共培養法と比較して、少なくとも以下の予想外の有益性を示す:(1)ヒトでの移植の可能性の増加;(2)先天性様T細胞の数の減少;(3)結果として生じるT細胞(例えば、CD5+CD7+ Pro-T細胞;CD3+ T細胞;CD4+CD8+ T細胞;CD4+ T細胞;CD8+ T細胞;アルファ-ベータT細胞)の数および/もしくは割合の増加;(4)アルファベータT細胞に最も類似した遺伝子発現プロファイル;(5)より多様なTCRレパートリー;ならびに/または(6)TCR CDR長の増加(例えば、実施例1、
図1C~1D、
図3A~3B、
図4、
図5A~5D、
図6~16を参照のこと)。
【0276】
いくつかの態様では、本明細書に記載されるようなストロマフリー法および/またはエピジェネティック制御因子(例えば、HMT;例えば、EZH1、G9a/GLP)の阻害を使用して誘導させたT細胞(例えば、CD3+ T細胞;CD4+CD8+ T細胞;CD4+ T細胞;CD8+ T細胞)の集団は、ストロマ法を使用して誘導させたT細胞の集団よりも少なくとも10%高い移植または生着率を示す。いくつかの態様では、本明細書に記載されるようなストロマフリー法および/またはエピジェネティック制御因子の阻害を使用して誘導させたT細胞の集団は、ストロマ法を使用してまたはエピジェネティック制御因子の阻害なしで誘導させたT細胞の集団よりも少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも3%、少なくとも4%、少なくとも5%、少なくとも6%、少なくとも7%、少なくとも8%、少なくとも9%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%、少なくとも150%、少なくとも200%、少なくとも250%、少なくとも300%、少なくとも350%、少なくとも400%、少なくとも450%もしくは少なくとも500%もしくはそれ以上、または少なくとも10×、20×、30×、40×、50×、60×、70×、80×、90×、100×、500×、1,000×もしくはそれ以上大きい移植または生着率を示す。
【0277】
いくつかの態様では、本明細書に記載されるようなストロマフリー法および/またはエピジェネティック制御因子の阻害を使用して誘導させたT細胞(例えば、CD3+ T細胞;CD4+CD8+ T細胞;CD4+ T細胞;CD8+ T細胞)の集団の少数がTCRgd+(すなわち、先天性様ガンマデルタT細胞)である。ガンマデルタT細胞(γδ T細胞)は、その表面上に独特のT細胞受容体(TCR)を有するT細胞である。ほとんどのT細胞は、α(アルファ)およびβ(ベータ)TCR鎖と呼ばれる2本の糖タンパク質鎖から構成されるTCRを有するαβ(アルファベータ)T細胞である。対照的に、ガンマデルタ(γδ)T細胞は、1本のγ(ガンマ)鎖と1本のδ(デルタ)鎖から構成されるTCRを有する。インバリアントTCRを持つ類似の他の「非従来型」T細胞サブセット、例えば、CD1d拘束性ナチュラルキラーT細胞のガンマデルタT細胞は、これらを、種々の外来物質に対して急速で有益な応答を可能にするより進化上原始的な自然免疫系と、B細胞およびT細胞がよりゆっくりであるが高度に抗原特異的な免疫応答を調整してその後の同じ抗原による攻撃に対して持続的な記憶を導く適応免疫系との間の境域に位置付ける、いくつかの特徴を示す。ガンマデルタT細胞は、結合部多様性を生み出すためにTCR遺伝子を再構成し、メモリー表現型を発現できるという点で、適応免疫の一成分と見なされ得る。しかしながら、様々なサブセットがまた、特定のTCRがパターン認識受容体として機能できる自然免疫の一部と見なされ得る。例えば、Born WK, Reardon CL, O'Brien RL (February 2006). "The function of gammadelta T cells in innate immunity". Current Opinion in Immunology. 18 (1): 31-8を参照のこと。
【0278】
いくつかの態様では、本明細書に記載されるようなストロマフリー法および/またはエピジェネティック制御因子の阻害を使用して誘導させたT細胞(例えば、CD3+ T細胞;CD4+CD8+ T細胞;CD4+ T細胞;CD8+ T細胞)の集団の多くても10%がTCRgd+である。いくつかの態様では、T細胞(例えば、CD3+ T細胞;CD4+CD8+ T細胞;CD4+ T細胞;CD8+ T細胞)の集団の多くても1%、多くても2%、多くても3%、多くても4%、多くても5%、多くても6%、多くても7%、多くても8%、多くても9%、多くても10%、多くても11%、多くても12%、多くても13%、多くても14%、多くても15%、多くても16%、多くても17%、多くても18%、多くても19%、多くても20%、多くても21%、多くても22%、多くても23%、多くても24%、多くても25%、多くても26%、多くても27%、多くても28%、多くても29%、多くても30%、多くても31%、多くても32%、多くても33%、多くても34%、多くても35%、多くても36%、多くても37%、多くても38%、多くても39%、多くても40%、多くても41%、多くても42%、多くても43%、多くても44%、多くても45%、多くても46%、多くても47%、多くても48%、または多くても49%がTCRgd+である。
【0279】
いくつかの態様では、本明細書に記載されるようなストロマフリー法および/またはエピジェネティック制御因子の阻害を使用して誘導させたT細胞(例えば、CD3+ T細胞;CD4+CD8+ T細胞;CD4+ T細胞;CD8+ T細胞)の集団は、ストロマ法を使用してまたはエピジェネティック制御因子の阻害なしで誘導させたT細胞の集団よりも少なくとも10%多いT細胞を含む。いくつかの態様では、本明細書に記載されるようなストロマフリー法および/またはエピジェネティック制御因子の阻害を使用して誘導させたT細胞の集団は、ストロマ法を使用してまたはエピジェネティック制御因子の阻害なしで誘導させたT細胞の集団よりも少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも3%、少なくとも4%、少なくとも5%、少なくとも6%、少なくとも7%、少なくとも8%、少なくとも9%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%、少なくとも150%、少なくとも200%、少なくとも250%、少なくとも300%、少なくとも350%、少なくとも400%、少なくとも450%もしくは少なくとも500%もしくはそれより多い、または少なくとも10×、20×、30×、40×、50×、60×、70×、80×、90×、100×、500×、1,000×もしくはそれより多いT細胞を含む。
【0280】
いくつかの態様では、本明細書に記載されるようなストロマフリー法および/またはエピジェネティック制御因子の阻害を使用して誘導させたT細胞(例えば、CD3+ T細胞;CD4+CD8+ T細胞;CD4+ T細胞;CD8+ T細胞)の集団は、他の細胞(例えば、γδ T細胞;NK細胞;iPSC由来T細胞(OP9-DL4共培養系を使用);臍帯血CD34+ HSPCから分化させたT細胞)よりもαβ T細胞により類似した遺伝子発現プロファイルを示し、例えば、誘導されたT細胞の遺伝子プロファイルは、別の細胞型と比較してαβ T細胞に少なくとも0.5%より類似している。一態様では、本明細書に記載されるようなストロマフリー法および/またはエピジェネティック制御因子の阻害を使用して誘導させたT細胞の集団は、αβ T細胞の遺伝子発現プロファイルと多くても10%相違する、T細胞シグネチャ遺伝子および/またはαβ T細胞シグネチャ遺伝子の遺伝子発現プロファイルを示す。一態様では、本明細書に記載されるようなストロマフリー法および/またはエピジェネティック制御因子の阻害を使用して誘導させたT細胞の集団は、αβ T細胞の遺伝子発現プロファイルと多くても20%(例えば、多くても1%、多くても2%、多くても3%、多くても4%、多くても5%、多くても6%、多くても7%、多くても8%、多くても9%、多くても10%、多くても11%、多くても12%、多くても13%、多くても14%、多くても15%、多くても16%、多くても17%、多くても18%、多くても19%、またはそれ以上)相違する、T細胞シグネチャ遺伝子および/またはαβ Tシグネチャ細胞遺伝子の遺伝子発現プロファイルを示す。一態様では、本明細書に記載されるようなストロマフリー法および/またはエピジェネティック制御因子の阻害を使用して誘導させたT細胞の集団は、αβ T細胞の遺伝子発現プロファイルと1%~5%、2%~6%、3%~7%、4%~8%、5%~9%、5%~10%、5%~15%、10%~15%、または15%~20%相違する、T細胞シグネチャ遺伝子および/またはαβ T細胞シグネチャ遺伝子の遺伝子発現プロファイルを示す。
【0281】
一態様では、本明細書に記載されるようなストロマフリー法および/またはエピジェネティック制御因子の阻害を使用して誘導させたT細胞の集団は、ストロマ法を使用してまたはエピジェネティック制御因子の阻害なしで誘導させたT細胞の集団と比較して、αβ T細胞の遺伝子発現プロファイルに少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上類似した遺伝子発現プロファイルを示す。一態様では、誘導されたT細胞は、別の細胞型の遺伝子プロファイルよりも、αβ T細胞の遺伝子発現プロファイルにより大きな割合の類似性を有する。当業者は、標準的な方法、例えば、特定の細胞型(FACSで分取した細胞)のトランスクリプトームシーケンシングを使用して、本明細書に記載されるストロマフリー法から誘導されたT細胞とαβ T細胞における遺伝子発現の類似性を決定することができる。
【0282】
一態様では、本明細書に記載されるようなストロマフリー法および/またはエピジェネティック制御因子の阻害を使用して誘導させたT細胞の集団は、末梢血アルファベータT細胞と比較したピアソンの相関係数が少なくとも0.75、0.755、0.76、0.765、0.77、0.775、0.78、0.785、0.79、0.795、0.8、0.805、0.81、0.815、0.82、0.825、0.83、0.835、0.84、0.845、0.85、0.855、0.86、0.865、0.87、0.875、0.88、0.885、0.89、0.895、0.9、0.905、0.91、0.915、0.92、0.925、0.93、0.935、0.94、0.945、0.95、0.955、0.96、0.965、0.97、0.975、0.98、0.985、0.99、0.995または1.0である、遺伝子発現プロファイルを示す。
【0283】
いくつかの態様では、CD3+ T細胞の集団は、アルファベータT細胞に最も類似した遺伝子発現プロファイルを示す。いくつかの態様では、CD3+ T細胞の集団は、アルファベータT細胞に類似したまたは実質的に類似した遺伝子発現プロファイルを示す。いくつかの態様では、CD3+ T細胞の集団は、アルファベータT細胞に少なくとも10%、20%、30%、40%またはそれ以上類似した遺伝子発現プロファイルを示す。いくつかの態様では、CD3+ T細胞の集団は、末梢血アルファベータT細胞と比較したピアソンの相関係数が少なくとも0.85である遺伝子発現プロファイルを示す。
【0284】
いくつかの態様では、免疫細胞、例えば、本明細書に記載されるようなストロマフリーおよび/またはエピジェネティック制御因子の阻害を使用して誘導させた免疫細胞は、アルファベータT細胞に最も類似した遺伝子発現プロファイルを示す。いくつかの態様では、免疫細胞は、アルファベータT細胞に類似したまたは実質的に類似した遺伝子発現プロファイルを示す。いくつかの態様では、免疫細胞は、アルファベータT細胞に少なくとも10%、20%、30%、40%またはそれ以上類似した遺伝子発現プロファイルを示す。いくつかの態様では、免疫細胞は、末梢血アルファベータT細胞と比較したピアソンの相関係数が少なくとも0.85である遺伝子発現プロファイルを示す。
【0285】
いくつかの態様では、本明細書に記載されるようなストロマフリー法および/またはエピジェネティック制御因子の阻害を使用して誘導させたT細胞の集団は、αβ T細胞からの少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも11、少なくとも12、少なくとも13、少なくとも14、少なくとも15、少なくとも16、少なくとも17、少なくとも18、少なくとも19、少なくとも20、少なくとも21、少なくとも22、少なくとも23、少なくとも24、少なくとも25、少なくとも26、少なくとも27、少なくとも28、少なくとも29、少なくとも30、少なくとも31、少なくとも32、少なくとも33、少なくとも34、少なくとも35、少なくとも36、少なくとも37、少なくとも38、少なくとも39、少なくとも40、少なくとも41、少なくとも42、少なくとも43、少なくとも44、少なくとも45、少なくとも46、少なくとも47、少なくとも48、少なくとも49、少なくとも50、少なくとも51、少なくとも52、少なくとも53、少なくとも54、少なくとも55、少なくとも56、少なくとも57、少なくとも58、少なくとも59、少なくとも60、少なくとも61、少なくとも62、少なくとも63、少なくとも64、少なくとも65、少なくとも66、少なくとも67、少なくとも68、少なくとも69、少なくとも70、少なくとも71、少なくとも72、少なくとも73、少なくとも74、少なくとも75、少なくとも76、少なくとも77、少なくとも78、少なくとも79、少なくとも80、少なくとも81、少なくとも82、少なくとも83、少なくとも84、少なくとも85、少なくとも86、少なくとも87、少なくとも88、少なくとも89、少なくとも90、少なくとも91、少なくとも92、少なくとも93、少なくとも94、少なくとも95、少なくとも96、少なくとも97、少なくとも98、少なくとも99、少なくとも100、少なくとも125、少なくとも150、またはそれ以上のシグネチャ遺伝子を発現する。一態様では、誘導されたT細胞は、別の細胞型からのシグネチャ遺伝子よりも多くの数のαβ T細胞からのシグネチャ遺伝子を発現する。本明細書に使用される場合、用語「シグネチャ遺伝子」は、特定の細胞型(例えば、T細胞、αβ T細胞)において特徴的な発現パターンを示す遺伝子のことを指す;シグネチャ遺伝子は、特定の細胞型の機能に必要とされ得る。T細胞シグネチャ遺伝子およびαβ T細胞シグネチャ遺伝子の非限定的な例は、本明細書にさらに記載される。特定の細胞型(例えば、T細胞、αβ T細胞)は、細胞内に固有の特徴的な遺伝子発現パターンを有する遺伝子(すなわち、シグネチャ遺伝子)の一群または混成群を含む、遺伝子シグネチャまたは遺伝子発現シグネチャを示す。
【0286】
いくつかの態様では、本明細書に記載されるようなストロマフリー法および/またはエピジェネティック制御因子の阻害を使用して誘導させたT細胞の集団は、αβ T細胞からの少なくとも1、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも11、少なくとも12、少なくとも13、少なくとも14、少なくとも15、少なくとも16、少なくとも17、少なくとも18、少なくとも19、少なくとも20、少なくとも21、少なくとも22、少なくとも23、少なくとも24、少なくとも25、少なくとも26、少なくとも27、少なくとも28、少なくとも29、少なくとも30、少なくとも31、少なくとも32、少なくとも33、少なくとも34、少なくとも35、少なくとも36、少なくとも37、少なくとも38、少なくとも39、少なくとも40、少なくとも41、少なくとも42、少なくとも43、少なくとも44、少なくとも45、少なくとも46、少なくとも47、少なくとも48、少なくとも49、少なくとも50、少なくとも51、少なくとも52、少なくとも53、少なくとも54、少なくとも55、少なくとも56、少なくとも57、少なくとも58、少なくとも59、少なくとも60、少なくとも61、少なくとも62、少なくとも63、少なくとも64、少なくとも65、少なくとも66、少なくとも67、少なくとも68、少なくとも69、少なくとも70、少なくとも71、少なくとも72、少なくとも73、少なくとも74、少なくとも75、少なくとも76、少なくとも77、少なくとも78、少なくとも79、少なくとも80、少なくとも81、少なくとも82、少なくとも83、少なくとも84、少なくとも85、少なくとも86、少なくとも87、少なくとも88、少なくとも89、少なくとも90、少なくとも91、少なくとも92、少なくとも93、少なくとも94、少なくとも95、少なくとも96、少なくとも97、少なくとも98、少なくとも99、少なくとも100、少なくとも125、少なくとも150、またはそれ以上の遺伝子を発現する。一態様では、誘導されたT細胞は、別の細胞型からのシグネチャ遺伝子よりも多くの数のαβ T細胞からの遺伝子を発現する。
【0287】
T細胞シグネチャ遺伝子の非限定的な例としては、GRB2(成長因子受容体結合タンパク質2);NFATC3(活性化T細胞核内因子3);ZAP70(T細胞受容体関連タンパク質キナーゼのゼータ鎖70);RAF1(Raf-1がん原遺伝子、セリン/トレオニンキナーゼ);PIK3CG(ホスファチジルイノシトール-4,5-ビスリン酸3-キナーゼ触媒サブユニットガンマ);PIK3R1(ホスホイノシチド-3-キナーゼ調節サブユニット1);CALM3(カルモジュリン3);PTPN7(タンパク質チロシンホスファターゼ非受容体7型);LAT(T細胞活性化リンカー);NFKBIA(NFKB阻害剤アルファ);VAV1(Vavグアニンヌクレオチド交換因子1);SHC1(SHC(Srcホモロジー2ドメイン含有)アダプタータンパク質1);PRKCB(タンパク質キナーゼCベータ);MAP2K4(分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼキナーゼ4);MAP2K1(分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼキナーゼ1);RAC1(Racファミリー低分子量GTPase 1);FYN(Fynがん原遺伝子、Srcファミリーチロシンキナーゼ);RELA(RELAがん原遺伝子、NF-KBサブユニット、v-relトリ細網内皮症ウイルスがん遺伝子ホモログA);LCK(Lckがん原遺伝子、Srcファミリーチロシンキナーゼ);CALM2(カルモジュリン2);CD3D(CD3抗原、デルタサブユニット);CALM1(カルモジュリン1);CD247(T細胞表面糖タンパク質CD3ゼータ鎖);CD3E(T細胞表面糖タンパク質CD3イプシロン鎖);CD3G(T細胞表面糖タンパク質CD3ガンマ鎖);FOS(Fosがん原遺伝子、AP-1転写因子サブユニット);PIK3CA(ホスファチジルイノシトール-4,5-ビスリン酸3-キナーゼ触媒サブユニットアルファ);PLCG1(ホスホリパーゼCガンマ1);SOS1(セブンレスの息子ホモログ1、SOS Ras/Racグアニンヌクレオチド交換因子1);ELK1(ETS転写因子ELK1);PPP3CC(タンパク質ホスファターゼ3触媒サブユニットガンマ);MAP3K1(分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼキナーゼキナーゼ1);PPP3CA(タンパク質ホスファターゼ3触媒サブユニットアルファ);NFKB1(核内因子カッパBサブユニット1);NFATC2(活性化T細胞核内因子2);NFATC1(活性化T細胞核内因子1、AP-1転写因子サブユニット);JUN(Junがん原遺伝子;MAPK8(分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ8);RASA1(RAS P21タンパク質活性化因子1);PPP3CB(タンパク質ホスファターゼ3触媒サブユニットベータ);PRKCA(タンパク質キナーゼCアルファ);MAPK3(分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ3);およびNFATC4(活性化T細胞核内因子4)が挙げられる(例えば、
図3Aを参照のこと)。
【0288】
αβ T細胞シグネチャ遺伝子の非限定的な例としては、ATP11B(ATPaseリン脂質輸送11B);PPP4R3A(タンパク質ホスファターゼ4調節サブユニット3A);CAB39(カルシウム結合タンパク質39);GLS(グルタミナーゼ);UBE2Z(ユビキチン結合酵素E2 Z);INPP4A(イノシトールポリリン酸-4-ホスファターゼIA型);RAB22A(Ras関連タンパク質Rab-22A、メンバーRasがん遺伝子ファミリー);SMARCD2(SWI/SNF(スイッチ/スクロース非発酵性)関連、マトリックス関連、クロマチンのアクチン依存性レギュレーター、サブファミリーD、メンバー2);VPS26B(VPS26、レトロマー複合体成分B、液胞タンパク質選別関連タンパク質26B);CERK(セラミドキナーゼ);ESYT2(拡張シナプトタグミン2);RAC1(Racファミリー低分子量GTPase 1);EIF3B(真核生物翻訳開始因子3サブユニットB);NEK7(NIMA(有糸分裂遺伝子Aにはない)関連キナーゼ7);MDFIC(MyoD(筋芽細胞決定タンパク質1)ファミリー阻害剤ドメイン含有);YWHAH(チロシン3-モノオキシゲナーゼ/トリプトファン5-モノオキシゲナーゼ活性化タンパク質Eta);MCMBP(ミニ染色体維持複合体結合タンパク質);GOLPH3(ゴルジリンタンパク質3);PTGER4(プロスタグランジンE受容体4);B3GNT2(UDP-GlcNAc:ベータGalベータ-1,3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ2、ガラクトシルトランスフェラーゼ 7);PITPNC1(ホスファチジルイノシトール輸送タンパク質細胞質1);ARAP2(RhoGAPドメイン、アンキリンリピートおよびPHドメイン2を有するArfGAP;ArfおよびRho GAPアダプタータンパク質2);ZFP36L2(ジンクフィンガータンパク質36、C3H1型様2);EFHD2(EF-HandドメインファミリーメンバーD2、スウィプロシン-1);CPD(カルボキシペプチダーゼD);KLRB1(キラー細胞レクチン様受容体B1);DUSP1(二重特異性ホスファターゼ1);CMPK1(シチジン/ウリジンモノリン酸キナーゼ1);RASGRP1(Rasグアニル放出タンパク質1);TM9SF3(膜貫通9スーパーファミリーメンバー3);MAPK1(分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ1);GSPT1(G1からS期移行1);PNRC1(プロリンリッチ核内受容体共活性化因子1);TMEM248(膜貫通タンパク質248);STT3B(STT3(スタウロスポリンおよび温度感受性)オリゴサッカリルトランスフェラーゼ複合体触媒サブユニットB);KHDRBS1(KH(Kホモロジー)RNA結合ドメイン含有、シグナル伝達関連1);GNPTAB(N-アセチルグルコサミン-1-リン酸トランスフェラーゼサブユニットアルファおよびベータ);GRSF1(GリッチRNA配列結合因子1);TARP(TCRガンマ代替リーディングフレームタンパク質、T細胞受容体ガンマ鎖);ZBTB16(ジンクフィンガーおよびBTB(BR-C、ttkおよびbabに相当する)ドメイン含有16、ジンクフィンガータンパク質145(クルッペル様、前骨髄球性白血病において発現));TGFBR1(トランスフォーミング成長因子ベータ受容体1);LGALS3BP(ガレクチン3結合タンパク質);CD5(T細胞表面糖タンパク質CD5);CD4(T細胞表面糖タンパク質CD4);LRRN3(ロイシンリッチリピートニューロン3);SLC40A1(溶質輸送体ファミリー40メンバー1);CYSLTR1(システイニルロイコトリエン受容体1);H4C3(H4クラスター化ヒストン3);CISH(サイトカイン誘導性SH2(Srcホモロジー2)含有タンパク質);CD8B(T細胞表面糖タンパク質CD8ベータ鎖);MAL(Mal、T細胞分化タンパク質、ミエリンおよびリンパ球タンパク質);SUN2(Sad1およびUnc84ドメイン含有2、Rab5-相互作用タンパク質);CCR7(C-Cモチーフケモカイン受容体7);GNLY(グラニュリシン);ANKLE2(アンキリンリピートおよびLEM(LAP2、エメリン、MAN1)ドメイン含有2);PSIP1(PC4(陽性補因子4)およびSFRS1(セリンおよびアルギニンリッチスプライシング因子1)相互作用タンパク質1、レンズ上皮由来成長因子);PITPNA(ホスファチジルイノシトール輸送タンパク質アルファ);RBM15B(RNA結合モチーフタンパク質15B);PTPRA(タンパク質チロシンホスファターゼ受容体A型);MARK2(微小管親和性調節キナーゼ2);BLOC1S4(リソソームオルガネラ複合体生合成1サブユニット4);SIAH2(Siah E3ユビキチンタンパク質リガーゼ2);MXD4(最大二量体化タンパク質4);SRM(スペルミジンシンターゼ);SESN1(セストリン1);SSBP4(一本鎖DNA結合タンパク質4);TAF10(TATAボックス結合タンパク質関連因子10);DUSP2(二重特異性ホスファターゼ2);LPCAT1(リゾホスファチジルコリンアシルトランスフェラーゼ1);RASAL3(Rasタンパク質活性化因子様3);TRIM65(三要素モチーフ含有65);FAM50A(配列類似性50を有するファミリーメンバーA);PIM3(Pim-3がん原遺伝子、セリン/トレオニンキナーゼ);SIPA1(シグナル誘導増殖関連1);FAM89B(配列類似性89を有するファミリーメンバーB);ZBTB7A(ジンクフィンガーおよびBTB(BR-C、ttkおよびbabに相当する)ドメイン含有7A、短い転写産物の誘導因子に結合するタンパク質因子1);NIN(Ninein);NR1D2(核内受容体サブファミリー1グループDメンバー2);SIK3(塩誘導性キナーゼ3);ARHGAP26(Rho GTPase活性化タンパク質26);IL18RAP(インターロイキン18受容体アクセサリータンパク質);CNR2(カンナビノイド受容体2);EOMES(エオメソデルミン);KLRC1(キラー細胞レクチン様受容体C1);SEL1L3(Lin-12様タンパク質の抑制因子3);IL12RB2(インターロイキン12受容体サブユニットベータ2);COTL1(コアクトシン様F-アクチン結合タンパク質1);PIK3AP1(ホスホイノシチド-3-キナーゼアダプタータンパク質1);TBX21(T-ボックス転写因子21);FAM43A(配列類似性43を有するファミリーメンバーA);KLRD1(キラー細胞レクチン様受容体D1);SLAMF7(シグナル伝達リンパ球活性化分子(SLAM)ファミリーメンバー7);S1PR5(スフィンゴシン-1-リン酸受容体5);LAG3(リンパ球活性化3);ABCG1(ATP結合カセットサブファミリーGメンバー1);S100B(S100カルシウム結合タンパク質、ベータ);CCL22(C-Cモチーフケモカインリガンド22);CEBPD(CCAATボックスエンハンサー結合タンパク質デルタ);IL17F(インターロイキン17F);およびCEACAM1(CEA細胞接着分子1)が挙げられる;(例えば、
図3Bを参照のこと)。
【0289】
いくつかの態様では、本明細書に記載されるようなストロマフリー法および/またはエピジェネティック制御因子の阻害を使用して誘導させたT細胞の集団は、そのようなストロマフリー法を使用して誘導させなかったまたはエピジェネティック制御因子の阻害なしで誘導させたT細胞と比較して、より多様なTCRレパートリーを示す。いくつかの態様では、本明細書に記載されるようなストロマフリー法および/またはエピジェネティック制御因子の阻害を使用して誘導させたT細胞の集団は、約0.000~0.025の有効シンプソンクロナリティ値を示す。0により近い値は、クロナリティと比較してより高いレベルの多様性を表す。1により近い値は、多様性と比較してより高いレベルのクロナリティを表す。いくつかの態様では、本明細書に記載されるようなストロマフリー法および/またはエピジェネティック制御因子の阻害を使用して誘導させたT細胞の集団は、多くても0.01、多くても0.015、多くても0.02、多くても0.025、多くても0.03、多くても0.035、多くても0.04、多くても0.045、多くても0.05、多くても0.055、多くても0.06、多くても0.065、多くても0.07、多くても0.075、多くても0.08、多くても0.085、多くても0.09、多くても0.095、または多くても0.1の有効シンプソンクロナリティ値を示す。いくつかの態様では、本明細書に記載されるようなストロマフリー法および/またはエピジェネティック制御因子の阻害を使用して誘導させたT細胞の集団は、約0.025の有効シンプソンクロナリティ値を示す;(例えば、
図4を参照のこと)。
【0290】
T細胞受容体(TCR)α鎖およびβ鎖の両可変ドメインは、それぞれ、3つの超可変または相補性決定領域(CDR;例えば、CDR1、CDR2、CDR3)を有する。いくつかの態様では、本明細書に記載されるようなストロマフリー法および/またはエピジェネティック制御因子の阻害を使用して誘導させたT細胞の集団は、ストロマ法を使用してまたはエピジェネティック制御因子の阻害なしで誘導させたT細胞と比較して、増加したCDR(例えば、CDR1、CDR2、CDR3)長を示す。いくつかの態様では、本明細書に記載されるようなストロマフリー法および/またはエピジェネティック制御因子の阻害を使用して誘導させたT細胞の集団は、ストロマ法を使用してまたはエピジェネティック制御因子の阻害なしで誘導させたT細胞のCDRよりも、平均で約3ヌクレオチド(nt)、6nt、9ntもしくは12ntまたはより長いCDR(例えば、CDR1、CDR2、CDR3)長を示す。いくつかの態様では、本明細書に記載されるようなストロマフリー法および/またはエピジェネティック制御因子の阻害を使用して誘導させたT細胞の集団は、平均で約27nt、30nt、33nt、36nt、39nt、42nt、45nt、48nt、51nt、54nt、57ntもしくは60ntまたはより長いCDR(例えば、CDR1、CDR2、CDR3)長を示す(例えば、
図5A~5Dを参照のこと)。いくつかの態様では、本明細書に記載されるようなストロマフリー法および/またはエピジェネティック制御因子の阻害を使用して誘導させたT細胞の集団は、対照iPSC由来T細胞の平均で39nt、または末梢血単核細胞(PBMC)由来T細胞の平均で45と比較して、平均で約42ntの長さのCDR3長を示す(例えば、
図5Cを参照のこと)。
【0291】
T細胞の遺伝子改変
いくつかの態様では、結果として生じたCD34+造血内皮細胞の集団または本明細書に記載されるような別の集団(例えば、ESC;iPSC;HSC;CD5+CD7+ ProT細胞;CD3+ T細胞;CD4+CD8+ T細胞;CD4+ T細胞;CD8+ T細胞)は、遺伝子改変される。いくつかの態様では、天然のT細胞受容体遺伝子座を、標的化された特異性を高めるために除去および/または置換することができる。いくつかの態様では、内因性HLA(例えば、クラスIおよび/またはクラスII主要組織適合性複合体)を編集または除去することができる。いくつかの態様では、遺伝子改変は、NK細胞媒介溶解を抑制するための非古典的HLA-GおよびHLA-Eの導入および発現を含むことができ(例えば、Riolobos L et al. 2013を参照のこと)、これは、免疫療法、例えば、がん免疫療法のための万能なT細胞供給源を提供することができる。
【0292】
いくつかの態様では、遺伝子改変は、キメラ抗原受容体(CAR)を発現させることを含む。キメラ抗原受容体(CAR、キメラ免疫受容体、キメラT細胞受容体または人工T細胞受容体としても知られている)は、T細胞に特定のタンパク質を標的とする新たな能力を与えるように操作された受容体タンパク質である。該受容体は、抗原結合機能とT細胞活性化機能の両方を単一受容体に組み合わせるので、キメラである。キメラ抗原受容体T細胞(CAR T細胞としても知られている)を操作する方法は、当技術分野において公知である。例えば、米国特許US7446190、US8399645、US8822647、US9212229、US9273283、US9447194、US9587020、US9932405、US10125193、US10221245、US10273300、US10287354;米国特許公開US20160152723;PCT公開WO2009091826、WO2012079000、WO2014165707、WO2015164740、WO2016168595A1、WO2017040945、WO2017100428、WO2017117112、WO2017149515、WO2018067992、WO2018102787、WO2018102786、WO2018165228、WO2019084288を参照のこと;その各々の内容は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0293】
いくつかの態様では、CARを発現するように細胞を遺伝子改変する方法は、CARをコードするベクターの細胞へのトランスフェクションもしくはエレクトロポレーション;CARをコードするウイルスベクター(例えば、レトロウイルス、レンチウイルス)による形質導入;ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、メガヌクレアーゼ-TALENもしくはCRISPR-Casを使用した遺伝子編集;またはCARを発現するように細胞を遺伝子改変する当技術分野において公知の任意の他の方法を含むことができるが、それらに限定されない。
【0294】
好ましくは、分化の初期段階の細胞(例えば、ESC;PSC;iPSC;造血内皮細胞;HSC)の集団は、CARで遺伝子改変される。
【0295】
いくつかの態様では、CARの抗原結合領域は、疾患または障害、例えば限定されないががん、自己免疫疾患または心疾患(例えば、心線維化)に関与する抗原に対して指向される。本明細書に使用される場合、用語「がん」は、一般に、異常な細胞が制御されることなく分裂し、組織の近傍に浸潤することができる、疾患または病態のクラスのことを指す。がん細胞はまた、血液およびリンパ系を通じて身体の他の部位に伝播することもできる。がんにはいくつかの主要なタイプがある。がん腫は、皮膚からまたは内部器官に沿うもしくは覆う組織から発生するがんである。肉腫は、骨、軟骨、脂肪、筋肉、血管、または他の結合組織もしくは支持組織から発生するがんである。白血病は、骨髄などの造血組織から発生し、大量の異常な血液細胞を産生させて血液に浸入するがんである。リンパ腫および多発性骨髄腫は、免疫系の細胞から発生するがんである。中枢神経系がんは、脳および脊髄の組織から発生するがんである。
【0296】
いくつかの態様では、がんは、原発がんである。いくつかの態様では、がんは、悪性がんである。本明細書に使用される場合、用語「悪性」は、腫瘍細胞の一群が未制御の成長(すなわち、正常範囲を超える分裂)、浸潤(すなわち、隣接組織への侵入および破壊)、および転移(すなわち、リンパまたは血液を介した身体の他の場所への伝播)の1つまたは複数を呈するがんのことを指す。本明細書に使用される場合、用語「転移する」は、がんが身体の他の部位から別の部位に伝播することを指す。伝播した細胞によって形成された腫瘍は、「転移性腫瘍」または「転移」と呼ばれる。転移性腫瘍は、元の(原発性)腫瘍中のものと似た細胞を含有する。本明細書に使用される場合、用語「良性」または「非悪性」は、より大きく成長し得るが身体の他の部位へ伝播しない腫瘍のことを指す。良性腫瘍は、自己限定的であり、典型的には浸潤も転移もしない。
【0297】
「がん細胞」または「腫瘍細胞」は、がん性の成長物または組織の個々の細胞のことを指す。腫瘍は、一般に、異常な細胞成長によって形成された腫れ物または病変のことを指し、これには良性、前悪性または悪性があり得る。ほとんどのがん細胞が腫瘍を形成するが、一部、例えば、白血病は、必ずしも腫瘍を形成するとは限らない。腫瘍を形成するがん細胞について、がん(細胞)および腫瘍(細胞)という用語は、互換的に使用される。
【0298】
本明細書に使用される場合、用語「新生物」は、任意の新しく異常な組織の成長、例えば、異常な組織の塊であって、その成長が、正常組織の成長よりも過剰であり、協調しないもののことを指す。したがって、新生物は、良性新生物、前悪性新生物または悪性新生物であることができる。
【0299】
がんまたは腫瘍を有する対象は、対象の体内に存在する客観的に測定可能ながん細胞を有する対象である。この定義には、悪性の活発に増殖しているがんも、潜在的に休眠中の腫瘍または微小転移も含まれる。元の場所から移動して他の重要な器官に播種するがんは、最終的には罹患器官の機能低下を通じて対象の死を招き得る。
【0300】
がんの例としては、がん腫、リンパ腫、芽腫、肉腫、白血病、基底細胞がん腫、胆道がん;膀胱がん;骨がん;脳およびCNSのがん;乳がん;腹膜のがん;子宮頸部がん;絨毛がん;結腸直腸がん;結合組織がん;消化器系のがん;子宮内膜がん;食道がん;眼がん;頭頸部のがん;胃腸がん(消化管がんを含む);膠芽腫(GBM);肝細胞がん腫;肝細胞がん;上皮内新生物.;腎臓または腎がん;喉頭がん;白血病;肝臓がん;肺がん(例えば、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、肺の腺がん、および肺の扁平上皮がん);ホジキンおよび非ホジキンリンパ腫を含むリンパ腫;黒色腫;骨髄腫;神経芽腫;口腔がん(例えば、唇、舌、口および咽頭);卵巣がん;膵臓がん;前立腺がん;網膜芽腫;横紋筋肉腫;直腸がん;呼吸器系のがん;唾液腺がん腫;肉腫;皮膚がん;扁平上皮がん;胃がん;精巣がん;甲状腺がん;子宮または子宮内膜がん;泌尿器系のがん;外陰部がん;ならびに他のがん腫および肉腫;ならびにB細胞リンパ腫(低悪性度/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL);小リンパ球(SL)NHL;中悪性度/濾胞性NHL;中悪性度びまん性NHL;高悪性度免疫芽球性NHL;高悪性度リンパ芽球性NHL;高悪性度小型非切れ込み核細胞性NHL;巨大腫瘤性病変NHL;マントル細胞リンパ腫;AIDS関連リンパ腫;およびワルデンシュトレーム型マクログロブリン血症を含む);慢性リンパ球白血病(CLL);急性リンパ芽球性白血病(ALL);ヘアリー細胞白血病;慢性骨髄芽球性白血病;および移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)、ならびに母斑症に関連する異常な血管増殖、浮腫(脳腫瘍に関連するものなど)、およびメイグス症候群が挙げられるが、それらに限定されない。好ましくは、CAR T療法の場合、がんは、白血病またはリンパ腫などの血液がんである。
【0301】
キメラ抗原受容体(CAR)T細胞を用いた免疫療法は、がんを有する患者の治癒率を向上させかつ罹患率を減少させる有望な方法を提供する。この関連で、CD19特異的CAR T細胞療法は、CD19陽性白血病またはリンパ腫を有する患者の高い割合に対して劇的な客観的奏効を達成した。したがって、いくつかの態様では、CARの抗原結合領域は、CD19に対して指向される;例えば、米国特許US10221245、US10357514;米国特許公開US20160152723;PCT公開WO2016033570を参照のこと;その各々の内容は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0302】
腫瘍抗原は、免疫応答、特にT細胞媒介免疫応答を惹起する腫瘍細胞によって産生されるタンパク質である。本発明の抗原結合ドメインの選択は、処置しようとするがんの特定の種類に依存する。腫瘍抗原は、当技術分野において周知であり、例えば、神経膠腫関連抗原、がん胎児性抗原(CEA)、EGFRvIII、IL-11Ra、IL-13Ra、EGFR、B7H3、Kit、CA-IX、CS-1、MUC1、BCMA、bcr-abl、HER2、β-ヒト絨毛性ゴナドトロピン、アルファフェトタンパク質(AFP)、ALK、CD19、CD123、サイクリンB1、レクチン反応性AFP、Fos関連抗原1、ADRB3、サイログロブリン、EphA2、RAGE-1、RU1、RU2、SSX2、AKAP-4、LCK、OY-TES1、PAX5、SART3、CLL-1、フコシルGM1、GloboH、MN-CA IX、EPCAM、EVT6-AML、TGS5、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素、プリシアル酸(plysialic acid)、PLAC1、RU1、RU2(AS)、腸内カルボキシルエステラーゼ、ルイスY、sLe、LY6K、mut hsp70-2、M-CSF、MYCN、RhoC、TRP-2、CYP1B1、BORIS、プロスターゼ(prostase)、前立腺特異的抗原(PSA)、PAX3、PAP、NY-ESO-1、LAGE-1a、LMP2、NCAM、p53、p53変異体、Ras変異体、gp100、プロステイン、OR51E2、PANX3、PSMA、PSCA、Her2/neu、hTERT、HMWMAA、HAVCR1、VEGFR2、PDGFR-ベータ、レグマイン、HPV E6、E7、サバイビンおよびテロメラーゼ、精子タンパク質17、SSEA-4、チロシナーゼ、TARP、WT1、前立腺がん腫瘍抗原-1(PCTA-1)、ML-IAP、MAGE、MAGE-A1、MAD-CT-1、MAD-CT-2、メランA/MART1、XAGE1、ELF2M、ERG(TMPRSS2 ETS融合遺伝子)、NA17、好中球エラスターゼ、肉腫転座切断点、NY-BR-1、エフリンB2、CD20、CD22、CD24、CD30、CD33、CD38、CD44v6、CD97、CD171、CD179a、アンドロゲン受容体、インスリン成長因子(IGF)-I、IGF-II、IGF-I受容体、GD2、o-アセチル-GD2、GD3、GM3、GPRC5D、GPR20、CXORF61、葉酸受容体(FRa)、葉酸受容体ベータ、ROR1、Flt3、TAG72、TN Ag、Tie 2、TEM1、TEM7R、CLDN6、TSHR、UPK2、ならびにメソテリンが挙げられる。好ましい態様では、腫瘍抗原は、葉酸受容体(FRa)、メソテリン、EGFRvIII、IL-13Ra、CD123、CD19、CD33、BCMA、GD2、CLL-1、CA-IX、MUC1、HER2、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される;例えば、米国特許出願公開第20170209492号および第20180022795号を参照されたく、その各々の内容は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0303】
細胞補充治療
一態様では、本明細書に記載される方法によって産生される操作された免疫細胞の集団が本明細書に提供され、T細胞集団が、本明細書に記載されるようなストロマフリー分化法を使用して産生される。いくつかの態様では、操作された免疫細胞の集団は、PSC;iPSC;造血内皮細胞;HSC;CD5+CD7+ ProT細胞;CD3+ T細胞;CD4+CD8+ T細胞;CD4+ T細胞;CD8+ T細胞を非限定的に含む、本明細書に記載される方法を使用して分化させた免疫細胞を含む。いくつかの態様では、免疫細胞は、アルファベータT細胞に最も類似した遺伝子発現プロファイルを示す。
【0304】
一態様では、細胞の集団は、薬学的に許容される担体をさらに含む。これらの操作された免疫細胞は、使用のために、拡大培養させて細胞数を増加させることができる。
【0305】
本明細書に記載される操作された免疫細胞は、生物学研究のための実験において有用である。例えば、これら細胞は、遺伝子疾患または欠陥を有する個体から誘導させることができ、実験室において、疾患または欠陥の生物学的側面を研究するために、ならびにその疾患または欠陥のための潜在的な救済策についてスクリーニングおよび試験するために使用することができる。
【0306】
あるいは、本明細書に記載される操作された免疫細胞は、その必要性のある対象における細胞補充治療および他の医学的処置において有用である。例えば、化学療法または放射線照射または両方を受けていた患者、免疫機能および/またはリンパ球再構成において欠損を現す患者、あるいはがん免疫療法中の患者。
【0307】
様々な態様では、本明細書に記載される操作された免疫細胞は、細胞補充治療の必要のある対象に投与される(すなわち、植え込まれるまたは移植される)。
【0308】
一態様では、対象における、細胞補充治療の方法、またはがん、自己免疫障害、血液疾患もしくは他の遺伝子疾患および障害の処置のための方法であって、(a)ドナー対象から体細胞を提供すること、(b)体細胞に由来する多能性幹細胞から多系列造血前駆細胞(例えば、造血内皮細胞、HSPC)を、前項のいずれかに記載したように作製すること;(c)任意で、結果として生じた多系列造血前駆細胞の集団において、前項のいずれかに記載したようにヒストンメチルトランスフェラーゼを阻害すること;(d)結果として生じた多系列造血前駆細胞の集団を、前項のいずれかに記載したように、リンパ球系列(例えば、T細胞)への分化を促進するようにnotchリガンドの存在下で分化させること、ならびに(e)結果として得られた分化したリンパ細胞をレシピエント対象に植え込むまたは投与することを含む、方法が本明細書に提供される。
【0309】
一態様では、ホスト対象およびレシピエント対象は、同じ個体である。あるいは、ホスト対象およびレシピエント対象は、同じ個体ではないが、少なくともHLA適合性である。
【0310】
血液疾患は、主に血液に影響を及ぼす障害である。非限定的なそのような疾患または障害としては、異常ヘモグロビン症(ヘモグロビン分子またはヘモグロビン合成速度の先天性異常)、例えば、鎌状赤血球症、サラセミア、およびメトヘモグロビン血症などの骨髄球系由来の障害;貧血(赤血球またはヘモグロビンの欠如)、悪性貧血;細胞数の減少を招く障害、例えば、骨髄異形成症候群、好中球減少症(好中球の数の減少)、および血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、血小板増加症、リンパ腫、骨髄腫および白血病などの血液悪性腫瘍が挙げられる。ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、バーキットリンパ腫、未分化大細胞リンパ腫、脾臓辺縁帯リンパ腫、肝脾T細胞リンパ腫、および血管免疫芽細胞性T細胞リンパ腫(AILT)などのリンパ腫;多発性骨髄腫、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、形質細胞腫などの骨髄腫;急性リンパ球白血病(ALL)、慢性リンパ球白血病(CLL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性特発性骨髄線維症(MF)、慢性骨髄性白血病(CML)、T細胞前リンパ球白血病(T-PLL)、B細胞前リンパ球白血病(B-PLL)、慢性好中球性白血病(CNL)、ヘアリー細胞白血病(HCL)、T細胞大型顆粒リンパ球白血病(T-LGL)、および侵攻性NK細胞白血病などの欠陥WBCを増加させる白血病。
【0311】
本明細書に記載されるような免疫細胞もしくはその集団、または組成物、または薬学的組成物の有効量を、それを必要とする患者に投与することを含む、自己免疫疾患を処置する方法が本明細書に提供される。「自己免疫疾患」は、対象自体の抗体がホスト組織と反応する、または免疫エフェクターT細胞が内因性自己ペプチドに対して自己反応性であり、組織の破壊を引き起こす、疾患のクラスのことを指す。したがって、免疫応答は、自己抗原と称される対象自体の抗原に対して開始される。「自己抗原」は、本明細書に使用される場合、正常なホスト組織の抗原のことを指す。正常なホスト組織は、新生物細胞を含まない。
【0312】
処置することができる自己免疫疾患の非限定的な例としては、天疱瘡(尋常性天疱瘡、落葉状天疱瘡または腫瘍随伴性天疱瘡)、クローン病、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、重症筋無力症(MG)、および慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)が挙げられる。追加の非限定的な自己免疫疾患としては、自己免疫性血小板減少症、免疫性好中球減少症、抗血友病FVIII阻害因子(antihemophilic FVIII inhibitor)、抗リン脂質抗体症候群、川崎病、ANCA関連疾患、多発性筋炎、水疱性類天疱瘡、多発性硬化症(MS)、ギラン・バレー症候群、慢性多発性神経炎、潰瘍性大腸炎、糖尿病、自己免疫性甲状線炎、グレーブス眼症、関節リウマチ、潰瘍性大腸炎、原発性硬化性胆管炎、全身性エリテマトーデス(SLE)、自己免疫性脳脊髄炎、橋本甲状腺炎、グッドパスチャー症候群、自己免疫性溶血性貧血、抗コラーゲン抗体を伴う強皮症、混合性結合組織病、悪性貧血、特発性アジソン病、自己免疫関連不妊症、糸球体腎炎(例えば、急速進行性糸球体腎炎、増殖性糸球体腎炎)、インスリン抵抗性、および自己免疫性糖尿病(1型糖尿病;インスリン依存性糖尿病)が挙げられる。自己免疫疾患は、アテローム性動脈硬化症およびアルツハイマー病も包含すると認識されている。別の態様では、自己免疫疾患としては、肝炎、自己免疫性血友病、自己免疫性リンパ増殖症候群(ALPS)、自己免疫性ブドウ膜網膜炎、糸球体腎炎、aγグロブリン血症、円形脱毛症、アミロイドーシス、強直性脊椎炎、自己免疫性血管性浮腫、自己免疫性再生不良性貧血、自己免疫性自律神経節障害、自己免疫性高脂血症、自己免疫性免疫不全、自己免疫性内耳疾患(AIED)、自己免疫性心筋炎、自己免疫性膵炎、自己免疫性網膜症、自己免疫性蕁麻疹、自己免疫性蕁麻疹様ニューロパチー(autoimmune urticarial neuropathy)、自己免疫性軸索型ニューロパチー、Balo病、ベーチェット病、キャッスルマン病、セリアック病、シャーガス病、慢性再発性多巣性骨髄炎(CRMO)、チャーグ・ストラウス症候群、瘢痕性類天疱瘡、良性粘膜類天疱瘡、コーガン症候群、寒冷凝集素症、コックスサッキー心筋炎、CREST病、本態性混合型クリオグロブリン血症、疱疹状皮膚炎、皮膚筋炎、デビック病(視神経脊髄炎)、拡張型心筋症、円板状エリテマトーデス、ドレスラー症候群、子宮内膜症、好酸球性血管中心性線維症、好酸球性筋膜炎、結節性紅斑、エバンス症候群、線維化性肺胞炎、巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)、橋本脳炎、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病、妊娠性疱疹、特発性低補体血症性尿細管間質性腎炎(Idiopathic hypocomplementemic tubulointestitial nephritis)、多発性骨髄腫、多巣性運動ニューロパチー、NMDA受容体抗体脳炎、IgG4関連疾患、IgG4関連硬化性疾患、炎症性大動脈瘤、炎症性偽腫瘍、封入体筋炎、間質性膀胱炎、若年性関節炎、キュットナー腫瘍、ランバート・イートン症候群、白血球破砕性血管炎、扁平苔癬、硬化性苔癬、木質結膜炎、線状IgA病(LAD)、ライム病、慢性縦隔線維症、メニエール病、顕微鏡的多発血管炎、ミクリッツ症候群、モーレン潰瘍、ムッハ・ハーベルマン病、多巣性線維硬化症、ナルコレプシー、視神経炎、オーモンド病(後腹膜線維症)、回帰性リウマチ、PANDAS(レンサ球菌に関連する小児自己免疫性神経精神障害)、傍腫瘍性小脳変性症、異常タンパク性多発ニューロパチー、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、パリー・ロンバーグ症候群、パーソネイジ・ターナー症候群、大動脈周囲炎、動脈周囲炎、末梢性ニューロパチー、静脈周囲性脳脊髄炎、POEMS症候群、結節性多発動脈炎、I、II、& III型多腺性自己免疫症候群、リウマチ性多発筋痛症、心膜切開後症候群、プロゲステロン皮膚炎、原発性胆汁性肝硬変、乾癬、乾癬性関節炎、特発性肺線維症、壊疽性膿皮症、赤芽球癆、レイノー現象、反射交感神経ジストロフィー、ライター症候群、再発性多発軟骨炎、レストレスレッグス症候群、リウマチ熱、リーデル甲状腺炎、サルコイドーシス、シュミット症候群、強膜炎、シェーグレン症候群、精子および精巣自己免疫、スティッフパーソン症候群、亜急性細菌性心内膜炎(SBE)、スザック症候群、交感性眼炎、高安動脈炎、トロサ・ハント症候群、横断性脊髄炎、未分化結合組織病(UCTD)、水疱性皮膚病、尋常性白斑、ラスムッセン脳炎、ワルデンストレームマクログロブリン血症が挙げられる。
【0313】
本明細書に使用される場合、用語「投与すること」、「導入すること」および「移植すること」は、所望の効果が生じるように、損傷または修復部位などの所望の部位での導入された細胞の少なくとも部分的な局在をもたらす方法または経路による、対象への記載された細胞、例えば造血前駆細胞の配置という状況において互換的に使用される。細胞、例えば造血前駆細胞、またはそれらの分化した子孫(例えば、T細胞)は、植え込まれた細胞または細胞の成分の少なくとも一部が生存可能なまま留まる対象の所望の位置への送達をもたらす任意の適切な経路によって投与することができる。
【0314】
様々な態様では、本明細書に記載される操作された免疫細胞は、任意で、対象への投与前にエクスビボで拡大される。他の態様では、操作された免疫細胞は、任意で、一定期間凍結保存され、次に対象への投与前に解凍される。
【0315】
細胞補充治療に使用される操作された免疫細胞は、細胞のレシピエントに対して自己由来/自源性(「自己」)または非自己由来(「非自己」、例えば、同種、同系または異種)であることができる。「自己由来」は、本明細書に使用される場合、同じ対象由来の細胞のことを指す。「同種」は、本明細書に使用される場合、比較されている細胞と遺伝的に異なる同じ種の細胞のことを指す。「同系」は、本明細書に使用される場合、比較される細胞と遺伝的に同一である、異なる対象の細胞のことを指す。「異種」は、本明細書に使用される場合、比較される細胞と異なる種の細胞のことを指す。好ましい態様では、本発明の細胞は、同種である。
【0316】
様々な態様では、それを必要とする対象に植え込もうとする本明細書に記載される操作された免疫細胞は、対象に対して自己由来または同種である。
【0317】
様々な態様では、本明細書に記載される操作された免疫細胞は、1つもしくは複数のドナー由来であることができるか、または自己由来供給源から得ることができる。いくつかの態様では、操作された免疫細胞は、それを必要とする対象に投与する前に培養して拡大される。
【0318】
様々な態様では、本明細書に記載される操作された免疫細胞は、1つもしくは複数のドナー由来であることができるか、または自己供給源から得ることができる。
【0319】
様々な態様では、植え込み前に、レシピエント対象は、化学療法および/または放射線照射で処置される。
【0320】
一態様では、化学療法および/または放射線照射は、内因性幹細胞を減少させて、植え込み後の細胞の生着を促すためのものである。
【0321】
様々な態様では、植え込み前に、操作された免疫細胞またはヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害された、本明細書に記載されるようなストロマフリー法を使用して分化させた多系列造血前駆細胞またはT細胞は、レシピエント対象におけるその後の生着を促進するために、プロスタグランジンE2および/または抗酸化剤N-アセチル-L-システイン(NAC)でエクスビボ処理される。
【0322】
様々な態様では、レシピエント対象は、ヒトである。
【0323】
様々な態様では、対象は、HIVもしくは他のウイルス疾患、血液疾患と過去に診断されているか、またはがんの処置を受けている。
【0324】
一態様では、対象は、iPSCおよび本明細書に記載される操作された免疫細胞を産生するために使用される体細胞を供与するように選択される。一態様では、選択された対象は、遺伝子疾患または欠陥を有する。
【0325】
様々な態様では、ドナー対象は、ヒト、非ヒト動物、げっ歯動物または非げっ歯動物である。例えば、対象は、任意の哺乳動物、例えば、ヒト、他の霊長類、ブタ、マウスもしくはラットなどのげっ歯動物、ウサギ、モルモット、ハムスター、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、ヒツジもしくはヤギ、またはトリなどの非哺乳動物であることができる。
【0326】
様々な態様では、ドナーは、HIV、血液疾患またはがんと過去に診断されている。
【0327】
一態様では、生物学的試料、胚性幹細胞、体性幹細胞、前駆細胞、骨髄細胞、造血幹細胞、または造血前駆細胞の集団は、ドナー対象から得られる。
【0328】
様々な態様では、生物学的試料、本明細書に記載される胚性幹細胞、体性幹細胞、前駆細胞、骨髄細胞、造血幹細胞、または造血前駆細胞の集団は、1つもしくは複数のドナーに由来することができるか、または自己供給源から得ることができる。
【0329】
一態様では、胚性幹細胞、体性幹細胞、前駆細胞、骨髄細胞、造血幹細胞、造血前駆細胞は、ドナー対象から単離され、トランスフェクトされ、培養され(任意で)、同じ対象に移植し戻され、すなわち自己由来細胞移植片である。ここで、ドナーおよびレシピエント対象は、同じ個体である。別の態様では、胚性幹細胞、体性幹細胞、前駆細胞、骨髄細胞、造血幹細胞、または造血前駆細胞は、対象(レシピエント)とHLA型がマッチするドナーから単離される。ドナー-レシピエント抗原型のマッチングは、当技術分野において周知である。HLA型は、HLA-A、HLA-B、HLA-C、およびHLA-Dを含む。これらは、移植のために必要な最小数の細胞表面抗原マッチングに相当する。すなわち、トランスフェクトされた細胞は、異なる対象に移植される、すなわち、レシピエントホスト対象に対して同種である。ドナーまたは対象の胚性幹細胞、体性幹細胞、前駆細胞、骨髄細胞、造血幹細胞、または造血前駆細胞に、本明細書に記載される核酸分子を含むベクターまたは核酸をトランスフェクトすることができ、トランスフェクトされた細胞は、開示されるように培養し、阻害し、分化させ、任意で拡大させ、次にレシピエント対象に移植される。一態様では、移植後の操作された免疫細胞は、レシピエント対象に生着する。一態様では、移植後の操作された免疫細胞は、レシピエント対象における免疫系を再構成する。トランスフェクトされた細胞はまた、トランスフェクト後に凍結保存して貯蔵するか、または細胞拡大後に凍結保存して貯蔵することができる。
【0330】
操作された免疫細胞またはヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害された、本明細書に記載されるようなストロマフリー法を使用して分化させた多系列造血前駆細胞またはT細胞は、骨髄除去療法を受けたかまたは受けていない個体における骨髄または臍帯血移植片の部分として投与される場合がある。一態様では、本明細書において想定される遺伝子改変された細胞は、化学除去(chemoablative)または放射線除去(radioablative)骨髄療法を受けた個体に骨髄移植片中にて投与される。
【0331】
一態様では、一定用量の細胞が、対象に静脈内送達される。一態様では、細胞は、対象に静脈内投与される。
【0332】
特定の態様では、患者は、一定用量の本明細書に記載される改変された細胞、例えば、操作された免疫細胞またはヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害された、本明細書に記載されるようなストロマフリー法を使用して分化させた多系列造血前駆細胞またはT細胞を、約1×105個の細胞/kg、約5×105個の細胞/kg、約1×106個の細胞/kg、約2×106個の細胞/kg、約3×106個の細胞/kg、約4×106個の細胞/kg、約5×106個の細胞/kg、約6×106個の細胞/kg、約7×106個の細胞/kg、約8×106個の細胞/kg、約9×106個の細胞/kg、約1×107個の細胞/kg、約5×107個の細胞/kg、約1×108個の細胞/kg、またはより大きい単回静脈内用量で受ける。
【0333】
ある特定の態様では、患者は、一定用量の本明細書に記載される改変された細胞、例えば、操作された免疫細胞またはヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害された、本明細書に記載されるようなストロマフリー法を使用して分化させた多系列造血前駆細胞またはT細胞を、少なくとも1×105個の細胞/kg、少なくとも5×105個の細胞/kg、少なくとも1×106個の細胞/kg、少なくとも2×106個の細胞/kg、少なくとも3×106個の細胞/kg、少なくとも4×106個の細胞/kg、少なくとも5×106個の細胞/kg、少なくとも6×106個の細胞/kg、少なくとも7×106個の細胞/kg、少なくとも8×106個の細胞/kg、少なくとも9×106個の細胞/kg、少なくとも1×107個の細胞/kg、少なくとも5×107個の細胞/kg、少なくとも1×108個の細胞/kg、またはより大きい単回静脈内用量で受ける。
【0334】
追加的な態様では、患者は、一定用量の本明細書に記載される改変された細胞、例えば、操作された免疫細胞またはヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害された、本明細書に記載されるようなストロマフリー法を使用して分化させた多系列造血前駆細胞またはT細胞を、約1×105個の細胞/kg~約1×108個の細胞/kg、約1×106個の細胞/kg~約1×108個の細胞/kg、約1×106個の細胞/kg~約9×106個の細胞/kg、約2×106個の細胞/kg~約8×106個の細胞/kg、約2×106個の細胞/kg~約8×106個の細胞/kg、約2×106個の細胞/kg~約5×106個の細胞/kg、約3×106個の細胞/kg~約5×106個の細胞/kg、約3×106個の細胞/kg~約4×108個の細胞/kg、または任意の介在する細胞/kgの用量で受ける。
【0335】
一般に、操作された免疫細胞またはヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害された、本明細書に記載される多系列造血前駆細胞または本明細書に記載されるようなストロマフリー法を使用して分化させたT細胞は、薬学的に許容される担体との懸濁物として、例えば、治療用組成物として投与される。治療用組成物は、生理学的に耐容性の担体を、細胞組成物および任意で活性成分としてその中に溶解または分散された本明細書に記載されるような少なくとも1種の追加の生物活性剤と一緒に含有する。好ましい態様では、治療用組成物は、そう望まれない限り、治療目的で哺乳動物またはヒト患者に投与されたときに、実質的に免疫原性でない。当業者は、細胞組成物中に使用されるべき薬学的に許容される担体が、緩衝剤、化合物、凍結保存剤、保存剤、または他の作用物質を、対象に送達されるべき細胞の生存度を実質的に妨害する量で含まないことを認識するであろう。細胞を含む製剤は、例えば、細胞膜の完全性を維持させる浸透圧緩衝剤、および任意で細胞生存度を維持するかまたは投与時の生着を高めるための栄養素を含むことができる。そのような製剤および懸濁物は、当業者に公知であり、かつ/または日常的な実験を使用して本明細書に記載されるような細胞との使用のために適応させることができる。
【0336】
本明細書に使用される用語「薬学的に許容される」、「生理学的に耐容性の」およびその文法的変形は、組成物、担体、希釈剤および試薬のことを指す場合、互換的に使用され、悪心、めまい、胃もたれなどの望まれない生理作用を生じずにこれらの物質を哺乳動物に投与できることを表す。薬学的に許容される担体は、そう望まれない限り、混和される作用物質に対する免疫応答の発生を促進しない。その中に溶解または分散された活性成分を含有する薬理学的組成物の調製は、当技術分野において十分に理解されており、製剤に基づき限定される必要はない。典型的には、そのような組成物は、液体溶液または懸濁物のいずれかとして注射用に調製されるが、使用前に液体中に溶解または懸濁するために適した固体剤形も調製することができる。調製物を乳化させるかまたはリポソーム組成物として提示することもできる。薬学的に許容され、活性成分と適合性で、本明細書に記載される治療方法における使用に適した量の賦形剤と、活性成分を混合することができる。適切な賦形剤としては、例えば、水、食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど、およびそれらの組み合わせが挙げられる。加えて、所望であれば、組成物は、活性成分の有効性を高める湿潤または乳化剤、pH緩衝剤などの少量の補助物質を含有することができる。本発明の治療用組成物は、その中の成分の薬学的に許容される塩を含むことができる。薬学的に許容される塩には、例えば、塩酸もしくはリン酸のような無機酸、または酢酸、酒石酸、マンデル酸などのような有機酸と形成される酸付加塩(ポリペプチドの遊離アミノ基と形成される)が含まれる。遊離カルボキシル基と形成される塩も同様に、例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウムまたは水酸化第二鉄のような無機塩基、およびイソプロピルアミン、トリメチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどのような有機塩基から誘導することができる。生理学的に耐容性の担体は、当技術分野において周知である。例示的な液体担体は、活性成分および水の他に材料を含有しないか、または生理的pH値のリン酸ナトリウムのような緩衝剤、生理食塩水もしくはリン酸緩衝食塩水のような両方を含有する無菌水溶液である。なおさらに、水性担体は、1つよりも多い緩衝塩、ならびに塩化ナトリウムおよび塩化カリウムのような塩、デキストロース、ポリエチレングリコール、ならびに他の溶質も含有することができる。液体組成物はまた、水に加えておよび水を除く液相を含有することができる。そのような追加的な液相の例は、グリセリン、綿実油のような植物油、および水-油エマルションである。特定の障害または病態の処置において有効である本明細書に記載される方法で使用される活性物質の量は、障害または病態の性質に依存すると考えられ、標準的な臨床技法によって判定することができる。適切な薬学的担体は、本技術分野の標準的な参考教科書であるRemington's Pharmaceutical Sciences, A. Osolに記載されている。例えば、注射による投与に適した非経口組成物は、0.9%塩化ナトリウム溶液中に1.5重量%の活性成分を溶解することによって調製される。
【0337】
一態様では、「薬学的に許容される」担体は、インビトロ細胞培養培地を含まない。
【0338】
いくつかの態様では、記載される操作された免疫細胞の組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含む。
【0339】
様々な態様では、少なくとも2回目またはその後の用量の細胞がレシピエント対象に投与される。例えば、2回目の投与は、以前の投与から約1日~30週間の間に与えることができる。例えば、熟練臨床医によって必要と判断されれば、後続の2回、3回、4回またはより多い合計投与を個体に送達することができる。
【0340】
細胞組成物は、対象において有効な細胞補充処置をもたらす任意の適切な経路により投与することができる、すなわち、投与は、組成物の少なくとも一部が送達される、対象における所望の位置への送達をもたらす、すなわち、少なくとも1×104個の細胞が、一定期間にわたり所望の部位に送達される。投与様式としては、注射、注入または点滴注入が挙げられ、「注射」としては、非限定的に、静脈内、動脈内、脳室内、心臓内注射および注入が挙げられる。細胞の送達のために、注射または注入による投与が、一般に好ましい。
【0341】
効力の試験は、本明細書に記載される方法を使用した処置の経過途中で行うことができる。処置の開始前に、および次に処置開始後のその後の特定の期間に、特定の病気に関連するいくつかの症状の重症度の測定値が記録される。いくつかの態様では、本明細書に記載されるような免疫細胞またはその集団を含む薬学的組成物を、対象における細胞補充治療に使用することができる。
【0342】
したがって、また、本開示の目的は、インビボ細胞補充治療、がん免疫療法などの医薬療法において、ならびに疾患モデル化、薬物スクリーニングおよび血液疾患インビトロ研究のために使用するための、改変された(操作されたとも称される)細胞の組成物を提供することである。
【0343】
本開示のプロトコルの利点は、本方法が、すべて患者の身体から容易に収集することができる多様な種類の細胞供給源から、幹細胞、造血前駆細胞、ならびに成熟および分化体細胞から、所望の免疫細胞または他の種類の造血細胞(すなわち、複能性HSCから分化させた細胞)の半永久的大量産生を可能にすることである。
【0344】
産生後の操作された免疫細胞または操作されたヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害された、本明細書に記載されるようなストロマフリー法を使用して分化させたCD34+/CD 38lo/-造血前駆細胞(例えば、造血内皮細胞)またはT細胞を、免疫系再構成療法(例えば、骨髄アブレーション後)または免疫療法(例えば、がん療法または自己免疫疾患における)などの様々な医学的処置のために患者に移植することができる。追加的な一利点は、供給源細胞のドナーおよび操作された免疫細胞のレシピエントが同一人物ならば、産生された操作免疫細胞が、レシピエントと同一のHLAを有し、このことが移植後のホスト-移植片免疫拒絶を回避することである。供給源細胞のドナー人物とHLAが同種であるレシピエント患者にとって、ホスト-移植片免疫拒絶が大きく減少する。
【0345】
産生後の操作された免疫細胞または操作されたヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害された、本明細書に記載されるようなストロマフリー法を使用して分化させたCD34+/CD38-造血前駆細胞またはT細胞は、将来必要になるまで凍結保存することもできる。
【0346】
現在のところ、骨髄移植は、種々の血液障害のための最も定評のある細胞補充治療である。骨髄移植の機能単位は、複雑な細胞階層の頂点にあり、生涯にわたり血液発生を補充する造血幹細胞(HSC)である。HLAがマッチするHSCの不足は、移植、疾患モデル化および薬物スクリーニングを実施する能力を大きく制限する。このように、多くの研究が、代替的な供給源からHSCを生成させることを目的とした。人工多能性幹細胞(iPSC)へのリプログラミングにおける利点は、疾患モデル化、薬物スクリーニングおよび細胞療法のための有望な供給源である多彩な患者特異的多能性細胞へのアクセスを提供した。しかし、ヒト多能性幹細胞(hPSC)から、生着可能な造血幹細胞・前駆細胞が誘導不可能なことは、インビトロアッセイへの血液疾患の特徴付けを限定した。定方向分化によるHSCの生成は、分かりにくいままであり、この問題に対する新規なアプローチの必要がある。
【0347】
したがって、一局面では、細胞補充治療の方法であって、本明細書に記載されるような免疫細胞もしくはその集団、または前記免疫細胞もしくはその集団を含む組成物、または前記免疫細胞もしくはその集団含む薬学的組成物を、それを必要とするレシピエント対象に投与することを含む、方法が本明細書に記載される。
【0348】
いくつかの態様では、レシピエント対象は、化学療法および/または放射線照射を受けたことがある。いくつかの態様では、レシピエント対象は、免疫機能および/またはリンパ球再構成における欠損を有する。いくつかの態様では、移植前、免疫細胞またはその集団は、レシピエント対象におけるその後の生着を促進するために、プロスタグランジンE2および/または抗酸化剤N-アセチル-L-システイン(NAC)でエクスビボ処理される。
【0349】
キット
本明細書に記載される技術の別の局面は、とりわけ、本明細書に記載されるようなストロマフリー法を使用してT細胞を分化させるためのキットに関する。本明細書に記載されるキットの1つまたは複数に含めることができるキット構成成分が、本明細書に記載される。
【0350】
いくつかの態様では、キットは、CD3+ T細胞分化因子(例えば、IL-7、SCF、FLT3、および/またはTPO)の有効量;またはiPSC分化因子(例えば、OCT4、SOX2、KLF4、c-MYC、nanog、および/またはLIN28)の有効量;または造血内皮細胞分化因子(例えば、BMP4、SB-431542、CHIR99021、bFGF、VEGF、IL-6、IL-11、IGF-1、SCF、およびEPO)の有効量;または単一陽性T細胞分化因子(例えば、IL-15および/またはT細胞活性化因子、例えばCD3/CD28 T細胞活性化因子)の有効量;またはエピジェネティック制御因子の阻害剤(例えば、MC1568;CAY10591;UNC0224;UNC0638;A366;BRD4770;BIX01294;UNC0642;UNC0631;UNC0646;UNC0321;E72;BIX-01338;BRD9539;ケトシン;またはDCG066;例えば、EZH1 RNA干渉物質)の有効量を含む。当業者に認識されているように、そのような細胞分化因子は、培養細胞と共に使用する前に希釈できる凍結乾燥形態または濃縮形態で供給することができる。好ましい製剤としては、細胞に対して非毒性である製剤および/または成長率もしくは生存性などに影響を及ぼさない製剤が挙げられる。T細胞分化因子は、アリコートでまたは単位用量で供給することができる。
【0351】
いくつかの態様では、キットは、固定化されたNotchリガンドを含む細胞培養容器を含む。いくつかの態様では、キットは、細胞培養容器と、その中に提供される試薬および/または説明書を使用して細胞培養容器に固定化できるNotchリガンドとを含む。いくつかの態様では、キットは、本明細書に記載されるようにストロマ細胞を含まない。
【0352】
いくつかの態様では、キットは、CARをコードする核酸を含むベクターをさらに含む。
【0353】
いくつかの態様では、本明細書に記載される構成成分は、キットとして、単独でまたは任意の組み合わせで提供することができる。キットは、本明細書に記載される構成成分、例えば、ストロマ細胞を含まないNotchリガンドを含む組成物、分化因子を含む組成物、例えば本明細書を通して記載しているCARを含むベクターを含む組成物を含む。そのようなキットは、任意で、T細胞成熟のマーカー(例えば、CD5、CD7、CD3、CD4、CD8、TCRgd、TCR アルファまたはベータなど)またはそれらのセットの検出を可能にする1つまたは複数の作用物質を含むことができる。そのようなキットは、任意で、T細胞活性化のマーカー(例えば、CD107a、CD69、CD25、HLA-DR、IFNg、TNFaなど)またはそれらのセットの検出を可能にする1つまたは複数の作用物質を含むことができる。そのようなキットは、任意で、造血内皮細胞のマーカー(例えば、CD34、CD38、CD45、KDR、CD235、CD43など)の検出を可能にする1つまたは複数の作用物質を含むことができる。加えて、キットは、任意で、情報資料を含む。キットはまた、ラミニン、フィブロネクチン、ポリ-L-リシンまたはメチルセルロースなどの細胞ディッシュをコーティングするための基質を含有することもできる。
【0354】
いくつかの態様では、キット内の組成物は、いくつかの態様ではキットの他の構成成分を実質的に含まない、水密または気密容器中に提供することができる。例えば、細胞分化試薬は、1を超える容器内に供給することができ、例えば、試薬は、所定の分化アッセイ数、例えば、1回、2回、3回またはそれ以上のために十分な試薬を有する容器内に供給することができる。本明細書に記載されるような1つまたは複数の構成成分は、任意の形態、例えば、液体、乾燥形態または凍結乾燥形態で提供することができる。本明細書に記載される構成成分は、実質的に純粋および/または無菌であることが好ましい。本明細書に記載される構成成分が液体溶液で提供される場合、液体溶液は、好ましくは、水溶液であり、無菌の水溶液が好ましい。
【0355】
情報資料は、本明細書に記載される方法に関する説明資料、指導資料、販売資料または他の資料であることができる。キットの情報資料は、その形態に関して限定はない。一態様では、情報資料は、固定化されたNotchリガンドを含む細胞培養容器の作製;または本明細書に記載されるようなストロマフリー法を使用して分化させたT細胞の産生に関する情報;または細胞分化因子などの本明細書において使用される試薬の濃度、有効期間、バッチもしくは製造場所の情報などを含むことができる。一態様では、情報資料は、キットの構成成分の使用または投与の方法に関する。
【0356】
キットは、細胞分化のマーカーの検出のための構成成分を含むことができる。加えて、キットは、細胞マーカーに結合する1つまたは複数の抗体、またはRT-PCRもしくはPCR反応、例えば、半定量もしくは定量RT-PCRもしくはPCR反応のためのプライマーを含むことができる。そのような構成成分は、細胞成熟マーカーの活性化または未分化もしくは未熟細胞マーカーの喪失を評価するために使用することができる。検出試薬が抗体である場合、検出試薬は、乾燥調製物、例えば、凍結乾燥で、または溶液で供給することができる。抗体または他の検出試薬は、検出において使用するために、標識、例えば、放射性標識、蛍光標識(例えば、GFP)または比色標識に連結させることができる。検出試薬がプライマーである場合、検出試薬は、乾燥調製物、例えば、凍結乾燥で、または溶液で供給することができる。
【0357】
キットは、典型的には、1つのパッケージ(例えば、ファイバーベースの、例えばボール紙、またはポリマー系の、例えば発泡スチロール箱)に含まれるその様々な要素と共に提供されるであろう。封包物は、内部と外部の温度差を維持するように構成することができ、例えば、それは、予め選択された温度で予め選択された時間にわたって試薬を維持するための絶縁特性を提供することができる。
【0358】
定義
便宜上、本明細書、実施例および添付の特許請求の範囲で使用されるいくつかの用語および語句の意味を以下に提供する。別途明記されない限り、または文脈から暗示されない限り、以下の用語および語句は、以下に提供される意味を含む。定義は、特定の態様の説明を補助するために提供されるものであり、本発明の範囲は特許請求の範囲によってのみ限定されるので、特許請求する発明を限定することを意図していない。別途定義がなされない限り、本明細書において使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者によって一般的に理解されているのと同じ意味を有する。当技術分野における用語の用法と本明細書に提供されるその定義との間に明らかな相違がある場合、本明細書内に提供される定義が優先されるものとする。
【0359】
便宜上、本明細書、実施例および添付の特許請求の範囲においてその中で用いられる特定の用語をここにまとめる。
【0360】
本明細書に使用される場合、用語「細胞」は、単一の細胞のことも細胞(すなわち、1を超える)の集団のことも指す。集団は、多能性幹細胞の集団または分化したT細胞の集団などの、1つの細胞型を含む純粋な集団であり得る。本明細書に使用される場合、用語「集団」は、1つの細胞型の純粋な集団またはその大部分(例えば、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%)を含む集団のことを指す。あるいは、集団は、1を超える細胞型、例えば、混合細胞集団を含み得る。集団中の細胞の数を限定することを意味していない;例えば、細胞の混合集団は、少なくとも1つの分化した細胞を含み得る。本発明では、混合細胞集団が含み得る細胞型の数に関して限定はない。
【0361】
本明細書に使用される場合、一態様では、用語「造血幹細胞」または「HSC」は、自己複製能を有し、3つの造血系列、赤血球系、リンパ球系および骨髄球系のすべての血液細胞型も生じる、幹細胞のことを指す。これらの細胞型には、骨髄球系列(単球およびマクロファージ、好中球、好塩基球、好酸球、赤血球、巨核球/血小板、樹状細胞)、およびリンパ球系列(T細胞、B細胞、NK細胞)が含まれる。ヒトHSCは、CD34+、CD59+、CD90/Thy1+、CD38low/-、c-kit/CD117-/low、およびLin-として判定される。マウスHSC-は、CD34low/-、SCA-1+、CD90/Thy1+/low、CD38+、c-Kit/CD117+、およびLin-と見なされる。これらのマーカーパネルの発現を検出することで、蛍光標示式細胞分取(FACS)のような技法を介した特定の細胞集団の分離が可能になる。一態様では、用語「造血幹細胞」または「HSC」は、自己複製能を有し、以下の細胞表面マーカー:CD34+、CD59+、Thy1/CD90+、CD38lo/-、CD133+、c-Kit/CD117-/lo、およびLin-を有する幹細胞のことを指す。一態様では、用語「造血幹細胞」または「HSC」は、少なくともCD34+である幹細胞のことを指す。一態様では、用語「造血幹細胞」または「HSC」は、自己複製能を有し、少なくともCD34+およびc-kit/CD117lo/-である幹細胞のことを指す。一態様では、用語「造血幹細胞」または「HSC」は、自己複製能を有し、少なくともCD38low/-、c-kit/CD117-/lowである幹細胞のことを指す。HSCという用語は、用語「造血幹・前駆細胞」(HSPC)と互換的に使用することができる。
【0362】
本明細書に使用される場合、用語「iPS細胞」、「iPSC」および「人工多能性幹細胞」は、互換的に使用され、以下のリプログラミング因子:OCT4、SOX2、KLF4、ならびに任意でc-MYCまたはnanogおよびLIN28のトランスフェクションによって、分化細胞、例えば、体細胞から人工的に誘導された多能性細胞のことを指す。リプログラミング因子の代替的な組み合わせとしては、OCT4、SOX2、NANOG、and LIN28が挙げられる。hPSCという用語は、ヒト多能性幹細胞のことを指す。
【0363】
本明細書に使用される場合、幹細胞および前駆細胞の分化および発生との関連で使用されるときの用語「系列」は、細胞が完全分化細胞になるためにとることができる細胞分化および発生経路のことを指す。例えば、HSCは、3つの造血系列、赤血球系、リンパ球系および骨髄球系を有し;HSCは、すべてのこれら3つの系列で知られている最終分化細胞型に分化および発生する可能性、すなわち能力を有する。用語「多系列」が使用されるとき、本用語は、細胞が将来的に、1つよりも多い系列として知られている最終分化細胞型に分化および発生できることを意味する。例えば、HSCは、多系列分化能を有する。用語「限られた系列」が使用されるとき、本用語は、細胞が1つの系列として知られている最終分化細胞型に分化および発生できることを意味する。例えば、骨髄球系共通前駆細胞(CMP)または巨核球-赤血球系前駆体(MEP)は、この細胞がリンパ球系列ではなく骨髄球系列の最終分化細胞型にのみ分化および発生できるので、限られた系列を有する。骨髄球系列の最終分化細胞には、赤血球、単球、マクロファージ、巨核球、骨髄芽球、樹状細胞、および顆粒球(好塩基球、好中球、好酸球、およびマスト細胞)が含まれ;リンパ球系列の最終分化細胞には、Tリンパ球/T細胞、Bリンパ球/B細胞、樹状細胞、およびナチュラルキラー細胞が含まれる。
【0364】
本明細書に使用される場合、用語「前駆細胞」は、後で特定の細胞型(完全分化または最終分化細胞)、例えば、血液細胞、皮膚細胞、骨細胞または有毛細胞に成熟(分化)する可能性を有する未熟または未分化細胞のことを指す。前駆細胞は、分化によって生み出すことができる細胞と比べてより原始的な(例えば、完全分化細胞よりも発生経路または進行に沿った早い段階である)細胞表現型を有する。多くの場合に、前駆細胞は、顕著または非常に高い増殖能も有する。前駆細胞は、発生経路ならびに細胞が発生および分化する環境に応じて、複数の別個の分化細胞型、または単一の分化細胞型を生み出すことができる。前駆細胞は、増殖して、同様に未熟または未分化のより多くの前駆細胞を作製することもできる。
【0365】
用語「分化細胞」は、その天然形態で本明細書において定義される用語としての多能性ではない、任意の初代細胞を意味する。用語「分化細胞」は、複能性細胞(例えば、成体体性幹細胞)などの部分的に分化した細胞も包含する。いくつかの態様では、用語「分化細胞」はまた、あまり特殊化されていない細胞型の細胞(例えば、未分化細胞またはリプログラミングされた細胞)由来の、より特殊化された細胞型の細胞であって、細胞分化プロセスを受けた細胞のことも指す。
【0366】
細胞個体発生との関連で、用語「分化する」または「分化している」は、「分化細胞」が、その前駆細胞よりも発生経路をさらに下に進行した細胞であることを意味する、相対的な用語である。したがって、いくつかの態様では、本明細書において定義される本用語としてのリプログラミングされた細胞は、系列拘束された前駆細胞(中胚葉幹細胞または内胚葉幹細胞など)に分化することができ、この前駆細胞は、今度は経路をさらに下に進んで他の種類の前駆細胞(組織特異的前駆細胞、例えば心筋前駆細胞、または膵臓前駆細胞など)に、次に、ある特定の組織型に特徴的な役割を果たし、さらに増殖する能力を保持する場合または保持しない場合がある末期分化細胞に分化することができる。
【0367】
「複能性細胞」に関連して使用される場合の用語「複能性」は、全部で3つの胚葉に由来する細胞のすべてではなく一部に分化することができる細胞のことを指す。したがって、複能性細胞は、部分分化細胞である。複能性細胞は、当技術分野において周知であり、複能性細胞の例としては、例えば、造血幹細胞および神経幹細胞、毛包幹細胞、肝臓幹細胞などの成体体性幹細胞が挙げられる。複能性は、幹細胞が、他の系列の細胞ではなく、所与の系列の多くの細胞型を形成する場合があることを意味する。例えば、複能性血液幹細胞は、多数の異なる血液細胞型(赤血球、白血球、血小板など)を形成することができるが、ニューロンを形成することができず;心血管前駆細胞(MICP)は、特定の成熟心臓、ペースメーカー、平滑筋、および内皮細胞型に分化し;膵臓由来複能性前駆体(PMP)コロニーは、膵臓系列の細胞型(インスリン、グルカゴン、アミラーゼまたはソマトスタチンを産生する細胞)および神経系列の細胞型(形態的にニューロン様、アストロサイト様またはオリゴデンドロサイト様の細胞)を産生する。
【0368】
用語「リプログラミング遺伝子」は、本明細書に使用される場合、その発現が、分化細胞、例えば体細胞の未分化細胞(例えば、多能性状態または部分多能性状態、複能性状態の細胞)へのリプログラミングに寄与する遺伝子のことを指す。リプログラミング遺伝子は、例えば、マスター転写因子Sox2、Oct3/4、Klf4、Nanog、Lin-28、c-mycなどをコードする遺伝子であることができる。用語「リプログラミング因子」は、リプログラミング遺伝子によってコードされるタンパク質のことを指す。
【0369】
用語「外因性」は、その天然供給源以外の細胞に存在する物質のことを指す。用語「外因性」は、本明細書に使用される場合、核酸またはタンパク質が通常は見出されないまたはより低い量で見いだされる細胞または生物などの生体システムにヒトの手を伴うプロセスによって、導入された核酸(例えば、リプログラミング転写因子、例えばSox2、Oct3/4、Klf4、Nanog、Lin-28、c-mycなどをコードする核酸)またはタンパク質(例えば、転写因子ポリペプチド)のことを指す。物質(例えば、sox2転写因子をコードする核酸、またはタンパク質、例えば、SOX2ポリペプチド)は、それが細胞またはその物質を受け継ぐ細胞の祖先に導入されたならば、外因性と見なされる。
【0370】
用語「単離された」は、本明細書に使用される場合、細胞がその自然環境以外の状態に置かれることを示す。用語「単離された」は、その後これらの細胞を他の細胞と組み合わせてまたは混合して後に使用することを排除しない。
【0371】
本明細書に使用される場合、用語「拡大させること」は、細胞分裂(有糸分裂)を経由して同様の細胞の数を増加させることを指す。用語「増殖させること」および「拡大させること」は、互換的に使用される。
【0372】
本明細書に使用される場合、「細胞表面マーカー」は、細胞の表面に発現される任意の分子のことを指す。細胞表面発現は、通常、分子が膜貫通ドメインを保有することを要求する。細胞表面に通常見いだされないいくつかの分子を、細胞表面に発現するように組み換え技法によって操作することができる。多くの天然に存在する細胞表面マーカーは、「CD」または「分化クラスター」分子と名付けられている。細胞表面マーカーは、多くの場合、抗体が結合することができる抗原決定基を提供する。本明細書に記載される方法に特に関連する細胞表面マーカーは、CD34である。本開示による有用な造血前駆細胞(例えば、造血内皮細胞)は、好ましくはCD34を発現し、または言い換えると、これらの細胞は、CD34陽性である。
【0373】
細胞は、任意の細胞表面マーカーについて「陽性」または「陰性」と称することができ、このような呼称の両方が、本明細書に記載される方法の実施のために有用である。細胞をマーカーに特異的に結合する抗体と接触させ、続いてそのような接触後の細胞のフローサイトメトリー分析を行って、抗体が細胞と結合しているかどうかを判定することなどの当業者に公知の方法を用いて、細胞がその細胞表面にマーカーを検出されるに足る量で発現している場合、その細胞は、細胞表面マーカーについて「陽性」と見なされる。細胞が細胞表面マーカーについてのメッセンジャーRNAを発現する場合があるとはいえ、本明細書に記載される方法に関して陽性と見なされるために、細胞は、このマーカーをその表面に発現しなければならないことを理解されたい。同様に、細胞をマーカーに特異的に結合する抗体と接触させ、続いてそのような接触後の細胞のフローサイトメトリー分析を行って、抗体が細胞と結合しているかどうかを判定することなどの当業者に公知の方法を用いて、細胞がその細胞表面にマーカーを検出されるに足る量で発現していない場合、その細胞は、細胞表面マーカーについて「陰性」または「陰性/低発現」(「-/lo」または「lo/-」と略される)と見なされる。細胞表面系列マーカーに特異的な作用物質が使用されるいくつかの態様では、この作用物質は、すべて、蛍光タグなどの同じ標識またはタグを含むことができ、したがって、その標識またはタグについて陽性のすべての細胞を排除または除去して、本明細書に記載される方法における使用のために、未接触の造血幹細胞または前駆細胞を残すことができる。
【0374】
本明細書に使用される場合、用語「ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤」または「阻害剤」は、ヒストンメチルトランスフェラーゼ(例えば、G9a、GLP、EZH1)の発現を阻害する、または基質ヒストンタンパク質上のリシン残基をメチル化する酵素の触媒活性を阻害する、任意の分子である。例えば、ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤は、阻害された細胞におけるG9a、GLPもしくはEZH1の発現を阻害するsiRNAもしくはdsRNA、または阻害された細胞におけるG9a、GLPもしくはEZH1のmRNAの分解を促進するgRNAであることができる。例えば、ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤は、酵素活性と拮抗する低分子である。例としては、本明細書に記載されるような低分子AMI-1、A-366、BIX-01294、BIX01338、BRD4770、ケトシン、UNC0224、UNC0631、UNC0638、UNC0642、UNC0646、EPZ5676、EPZ005687、GSK343、EPZ-6438、3-デアザネプラノシンA(DZNeP)HCl、UNC1999、MM-102、SGC 0946、エンタカポン、EPZ015666、UNC0379、EI1、MI-2(メニン-MLL阻害剤)、MI-3(メニン-MLL阻害剤)、PFI-2、GSK126、EPZ004777、BRD4770、およびEPZ-6438が挙げられるが、それらに限定されない。
【0375】
本明細書に使用される場合、用語「低分子」は、ペプチド、ペプチド模倣体、アミノ酸、アミノ酸類似体、ポリヌクレオチド、ポリヌクレオチド類似体、アプタマー、ヌクレオチド、ヌクレオチド類似体、約10,000グラム/モル未満の分子量を有する有機または無機化合物(すなわち、ヘテロ有機および有機金属化合物を含む)、約5,000グラム/モル未満の分子量を有する有機または無機化合物、約1,000グラム/モル未満の分子量を有する有機または無機化合物、約500グラム/モル未満の分子量を有する有機または無機化合物を非限定的に含む、化学作用物質、ならびにそのような化合物の塩、エステル、および他の薬学的に許容される形態のことを指す。いくつかの態様では、低分子は、ヘテロ有機化合物または有機金属化合物である。
【0376】
用語「抑制性RNA」は、標的核酸のレベルまたは活性の減少を媒介する標的核酸(例えば、標的マイクロRNA)と相補的な配列を含有する核酸分子を含むことが意味される。抑制性RNAの非限定的な例としては、干渉性RNA、shRNA、siRNA、リボザイム、アンタゴミル、およびアンチセンスオリゴヌクレオチドが挙げられる。抑制性RNAを作製する方法は、本明細書に記載される。抑制性RNAを作製する追加の方法は、当技術分野において公知である。一態様では、本明細書に記載されるG9a/GLPまたはEZH1マイクロRNAは、G9a/GLPまたはEZH1 mRNAの活性の減少を引き起こす抑制性RNAである。
【0377】
本明細書に使用される場合、「干渉性RNA」は、直接的または間接的(すなわち、変換されて)のいずれかでRNA干渉を媒介することによって遺伝子発現を阻害またはダウンレギュレーションすることができる、任意の二本鎖または一本鎖RNA配列のことを指す。干渉性RNAとしては、低分子干渉性RNA(「siRNA」)および低分子ヘアピン型RNA(「shRNA」)が挙げられるが、それらに限定されない。「RNA干渉」は、配列適合性メッセンジャーRNA転写物の選択的分解のことを指す。
【0378】
本明細書に使用される場合、「shRNA」(低分子ヘアピン型RNA)は、アンチセンス領域、ループ部分およびセンス領域を含む、RNA分子であって、センス領域が、アンチセンス領域と塩基対合して二重鎖ステムを形成する相補的ヌクレオチドを有する、RNA分子のことを指す。転写後プロセシングに続いて、低分子ヘアピン型RNAは、RNase IIIファミリーのメンバーである酵素ダイサーによって媒介される切断事象によって、低分子干渉性RNAに変換される。本明細書に使用される場合、語句「転写後プロセシング」は、転写後に起こり、例えば酵素ダイサーおよび/またはドローシャによって媒介される、mRNAプロセシングのことを指す。
【0379】
「低分子干渉性RNA」または「siRNA」は、本明細書に使用される場合、RNA干渉を配列特異的に媒介することによって遺伝子発現を阻害またはダウンレギュレーションすることができる、任意の小型RNA分子のことを指す。小型RNAは、例えば、約18~21ヌクレオチド長であることができる。各siRNA二重鎖は、ガイド鎖およびパッセンジャー鎖によって形成される。エンドヌクレアーゼ、アルゴノート2(Ago 2)は、siRNA二重鎖の巻き戻しを触媒する。巻き戻された後、ガイド鎖は、RNA干渉特異性複合体(RISC)に組み込まれ、一方でパッセンジャー鎖は放出される。RISCは、ガイド鎖を用いて相補的配列を有するmRNAを見つけ、標的mRNAのヌクレオチド鎖内分解性切断(endonucleolytic cleavage)をもたらす。
【0380】
レトロウイルスは、その複製サイクルの途中に逆転写酵素を利用するRNAウイルスである。用語「レトロウイルス」は、任意の公知のレトロウイルス(例えば、モロニーマウス肉腫ウイルス(MoMSV)、ハーベイマウス肉腫ウイルス(HaMuSV)、マウス乳がんウイルス(MuMTV)、テナガザル白血病ウイルス(GaLV)、ネコ白血病ウイルス(FLV)、スプーマウイルスなどのc型レトロウイルスのことを指す。
【0381】
レトロウイルスゲノムRNAは、逆転写酵素によって二本鎖DNAに変換される。ウイルスのこの二本鎖DNA形態は、感染細胞の染色体に組み込まれることが可能であり;組み込まれた後、これは、「プロウイルス」と呼ばれる。プロウイルスは、RNAポリメラーゼIIに対する鋳型として役立ち、新しいウイルス粒子を産生するために必要な構造タンパク質および酵素をコードするRNA分子の発現を指示する。
【0382】
「末端反復配列」または「LTR」と呼ばれる構造が、プロウイルスの各末端にある。用語「末端反復配列(LTR)」は、レトロウイルスDNAの末端に位置する塩基対のドメインのことを指し、このドメインは、その天然配列状況で、ダイレクトリピートであり、U3、R、およびU5領域を含有する。LTRは、一般に、レトロウイルス遺伝子の発現およびウイルス複製の基礎となる機能(例えば、遺伝子転写物の促進、開始およびポリアデニル化)を提供する。LTRは、転写制御エレメント、ポリアデニル化シグナルならびにウイルスゲノムの複製および組み込みに必要な配列を含む、多数の調節シグナルを含有する。ウイルスLTRは、U3、RおよびU5と呼ばれる3つの領域に分けられる。U3領域は、エンハンサーおよびプロモーターエレメントを含有する。U5領域は、プライマー結合部位とR領域との間の配列であり、ポリアデニル化配列を含有する。R(反復)領域は、U3領域およびU5領域に隣接する。U3、R、およびU5領域から構成されるLTRは、ウイルスゲノムの5'末端と3'末端の両方に出現する。本発明の一態様では、5'LTRを含むLTR内のプロモーターは、異種プロモーターと置換される。使用することができる異種プロモーターの例としては、例えば、脾フォーカス形成ウイルス(SFFV)プロモーター、テトラサイクリン誘導性(TET)プロモーター、β-グロビン遺伝子座制御領域およびβ-グロビンプロモーター(LCR)、ならびにサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターが挙げられる。
【0383】
用語「レンチウイルス」は、緩徐型疾患を引き起こすレトロウイルス群(または属)のことを指す。この群に含まれるウイルスには、ヒト後天性免疫不全症候群(AIDS)の病原体であるHIV(ヒト免疫不全ウイルス;HIV1型、およびHIV2型を含む);ヒツジに脳炎(ビスナ)または肺炎(マエディ)を引き起こすビスナ-マエディ、ヤギに免疫不全、関節炎、および脳症を引き起こすヤギ関節炎脳炎ウイルス;ウマに自己免疫性溶血性貧血および脳症を引き起こすウマ伝染性貧血ウイルス;ネコに免疫不全を引き起こすネコ免疫不全ウイルス(FIV);ウシにリンパ節症、リンパ球増加症、および可能性があることには中枢神経系感染を引き起こすウシ免疫不全ウイルス(BIV);ならびに類人霊長類に免疫不全および脳症を引き起こすサル免疫不全ウイルス(SIV)が含まれる。これらのウイルスによって引き起こされる疾患は、長い潜伏期および遅延性の経過を特徴とする。通常、ウイルスは、単球およびマクロファージに潜伏感染し、これらからウイルスが他の細胞に伝播する。HIV、FIV、およびSIVは、Tリンパ球、すなわちT細胞にも容易に感染する。
【0384】
用語「R領域」は、キャッピング群の開始部(すなわち、転写開始部)に始まり、ポリA区域(tract)の開始部直前に終わるレトロウイルスLTR内の領域のことを指す。R領域は、U3領域およびU5領域に隣接するとも定義される。R領域は、逆転写の間にゲノムの一端から他端への新生DNAの移動を可能にすることに重要な役割を果たす。
【0385】
用語「プロモーター/エンハンサー」は、プロモーターおよびエンハンサー機能の両方を提供することができる配列を含有するDNAセグメントのことを指す。例えば、レトロウイルスの末端反復配列は、プロモーターおよびエンハンサー機能の両方を含有する。エンハンサー/プロモーターは、「内因性」、「外因性」または「異種」であり得る。「内因性」エンハンサー/プロモーターは、ゲノム中の所与の遺伝子と天然に連結されているものである。「外因性」または「異種」エンハンサー/プロモーターは、遺伝子操作(すなわち、分子生物学的技法)により遺伝子の近位に配置され、それにより、その遺伝子の転写が連結されているエンハンサー/プロモーターによって指示されるものである。
【0386】
本明細書に使用される場合、用語「核酸」または「核酸配列」は、リボ核酸、デオキシリボ核酸またはその類似体のユニットが組み込まれた任意の分子、好ましくはポリマー分子のことを指す。核酸は、一本鎖または二本鎖のいずれかであることができる。一本鎖核酸は、変性した二本鎖DNAの一方の核酸鎖であることができる。あるいは、それは、いかなる二本鎖DNAにも由来しない一本鎖核酸であることができる。一局面では、核酸は、DNAであることができる。別の局面では、核酸は、RNAであることができる。適切なDNAは、例えば、ゲノムDNAまたはcDNAを含むことができる。適切なRNAは、例えば、mRNA、iRNA、miRNA、siRNAなどを含むことができる。
【0387】
核酸は、例えば、関心対象のタンパク質をコードする核酸、オリゴヌクレオチド、核酸類似体、例えばペプチド-核酸(PNA)、偽性相補PNA(pc-PNA)、およびロックド核酸(LNA)を含む群より選択することができる。そのような核酸配列としては、例えば、タンパク質をコードする核酸配列、例えば、転写抑制因子、アンチセンス分子、リボザイム、低分子抑制性核酸配列、例えば非限定的に、RNAi、shRNAi、siRNA、マイクロRNAi(miRNA)、およびアンチセンスオリゴヌクレオチドとして作用する核酸配列が挙げられるが、それらに限定されない。
【0388】
本明細書に使用される場合、用語「生着」は、レシピエントホストに関して、新しい血液形成細胞が成長し始めるときであって、植え込まれた細胞由来であり、植え込みから最低10日後にレシピエントの血中に現れる健康な血液幹細胞を作るものである。生着は、早くも移植の10日後に起こることができるが、約14~20日がより一般的である。
【0389】
本明細書に使用される場合、レシピエントホストにおける免疫系または血液系に関連する用語「再構成」は、レシピエントホストの体内の生来のリザーバーもしくは動作システム、またはその部分を自然状態または機能的状態に再建することを指す。例えば、化学療法後の骨髄などは、骨髄幹細胞が消失していた。
【0390】
用語「減少する」、「低減された」、「低減」または「阻害する」はすべて、本明細書において、統計的に有意な量の減少のことを意味するために使用される。いくつかの態様では、「低減する」、「低減」または「減少する」または「阻害する」は、典型的には、参照レベル(例えば、所与の処置または作用物質の非存在下)と比較して少なくとも10%の減少のことを意味し、例えば、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、またはそれ以上の減少を含むことができる。本明細書に使用される場合、「低減」または「阻害」は、参照レベルと比較して完全な阻害または低減を包含しない。「完全な阻害」は、参照レベルと比較して100%の阻害である。減少は、好ましくは、所与の障害のない個体に関して、正常の範囲内として受け入れられるレベルまでの減少であることができる。
【0391】
用語「増加した」、「増加させる」、「増強する」または「活性化する」はすべて、本明細書において、統計的に有意な量の増加のことを意味するために使用される。いくつかの態様では、用語「増加した」、「増加させる」、「増強する」または「活性化する」は、参照レベルと比較して少なくとも10%の増加、例えば、参照レベルと比較して少なくとも約20%、または少なくとも約30%、または少なくとも約40%、または少なくとも約50%、または少なくとも約60%、または少なくとも約70%、または少なくとも約80%、または少なくとも約90%の増加、または100%を含む最大100%までの増加、または10~100%の間の任意の増加、あるいは、参照レベルと比較して少なくとも約2倍、または少なくとも約3倍、または少なくとも約4倍、または少なくとも約5倍、または少なくとも約10倍の増加、または2倍~10倍の間の任意の増加、またはそれ以上の増加のことを意味することができる。マーカーまたは症状との関連で、「増加させる」は、そのようなレベルの統計的に有意な増加である。
【0392】
本明細書に使用される場合、「対象」は、ヒトまたは動物のことを意味する。通常、動物は、霊長類、げっ歯動物、家畜または狩猟動物などの脊椎動物である。霊長類には、チンパンジー、カニクイザル、クモザルおよびマカク、例えば、アカゲザルが含まれる。げっ歯動物には、マウス、ラット、ウッドチャック、フェレット、ウサギおよびハムスターが含まれる。家畜および狩猟動物には、ウシ、ウマ、ブタ、シカ、バイソン、バッファロー、猫種、例えば、イエネコ、犬種、例えば、イヌ、キツネ、オオカミ、鳥類、例えば、ニワトリ、エミュー、ダチョウ、および魚類、例えば、マス、ナマズおよびサーモンが含まれる。いくつかの態様では、対象は、哺乳動物、例えば、霊長類、例えば、ヒトである。用語「個体」、「患者」および「対象」は、本明細書において互換的に使用される。
【0393】
好ましくは、対象は、哺乳動物である。哺乳動物は、ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマまたはウシであることができるが、これらの例に限定されない。ヒト以外の哺乳動物を、細胞補充治療の動物モデルに相当する対象として有利に使用することができる。対象は、雄性または雌性であることができる。
【0394】
対象は、処置を必要とする病態(例えば、血液疾患、がんなど)またはそのような病態に関連する1つもしくは複数の合併症と過去に診断されているか、そのような病態を患っているまたは有すると特定されており、任意で、血液疾患または血液疾患に関連する1つもしくは複数の合併症の処置を既に受けているものであることができる。あるいは、対象はまた、血液疾患または血液疾患に関連する1つもしくは複数の合併症を有すると過去に診断されていないものであることもできる。例えば、対象は、血液疾患または血液疾患に関連する1つもしくは複数の合併症の1つまたは複数のリスク因子を示すもの、またはリスク因子を示さない対象であることができる。
【0395】
特定の病態の処置を「必要とする対象」は、その病態を有する対象、その病態を有すると診断された対象、またはその病態を発症するリスクのある対象であることができる。
【0396】
バリアントアミノ酸またはDNA配列は、天然または参照配列に対して少なくとも85%、少なくとも87%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、またはそれ以上同一であることができる。天然配列と変異体配列の間の相同性の程度(パーセント同一性)は、例えば、この目的で一般的に用いられるワールドワイドウェブ上で自由に利用可能なコンピュータプログラム(例えば、デフォルト設定のBLASTpまたはBLASTn)を使用して2つの配列を比較することによって決定することができる。
【0397】
天然アミノ酸配列の変更は、当業者に公知の多数の技術のいずれかによって達成することができる。変異は、例えば、天然配列の断片への連結を可能にする制限部位に隣接して変異体配列を含有するオリゴヌクレオチドを合成することによって、特定の座に導入することができる。連結後、結果として生じた再構築された配列は、所望のアミノ酸挿入、置換または欠失を有する類似体をコードする。あるいは、必要とされる置換、欠失または挿入により変更された特定のコドンを有する変更されたヌクレオチド配列を提供するために、オリゴヌクレオチド部位特異的変異誘発手順を用いることができる。そのような変更を行う技術は、十分に確立されており、例えば、Walder et al. (Gene 42:133, 1986);Bauer et al. (Gene 37:73, 1985);Craik (BioTechniques, January 1985, 12-19);Smith et al. (Genetic Engineering: Principles and Methods, Plenum Press, 1981);ならびに米国特許第4,518,584号および第4,737,462号(その全体が参照により本明細書に組み入れられる)に開示されるものを含む。また、そのポリペプチドの適切な立体構造の維持に関与しない任意のシステイン残基を、一般にセリンで置換して、その分子の酸化安定性を改善し、異常な架橋を防ぐことができる。反対に、システイン結合をそのポリペプチドに付加して、その安定性を改善するまたはオリゴマー化を促進することができる。
【0398】
用語「発現」は、RNAおよびタンパク質の産生、ならびに必要に応じて、タンパク質の分泌に関与する細胞プロセスのことを指し、該当する場合は、例えば、転写、転写物プロセシング、翻訳ならびにタンパク質のフォールディング、修飾およびプロセシングを含むがそれらに限定されない。発現は、本発明の核酸断片(1つもしくは複数)に由来するセンス(mRNA)もしくはアンチセンスRNAの転写および安定的蓄積ならびに/またはmRNAからポリペプチドへの翻訳のことを指すことができる。
【0399】
いくつかの態様では、本明細書に記載されるバイオマーカー、標的、または遺伝子/ポリペプチドの発現は、組織特異的である。いくつかの態様では、本明細書に記載されるバイオマーカー、標的、または遺伝子/ポリペプチドの発現は、大域的(global)である。いくつかの態様では、本明細書に記載されるバイオマーカー、標的、または遺伝子/ポリペプチドの発現は、全身性である。
【0400】
「発現産物」には、遺伝子から転写されたRNA、および遺伝子から転写されたmRNAの翻訳によって得られたポリペプチドが含まれる。用語「遺伝子」は、適切な調節配列に機能的に連結されているときにインビトロまたはインビボでRNAへと転写される核酸配列(DNA)のことを意味する。遺伝子は、コード領域の前および後の領域、例えば、5'非翻訳(5'UTR)または「リーダー」配列および3'UTRまたは「トレーラー」配列、ならびに個々のコードセグメント(エクソン)の間の介在配列(イントロン)を含んでも含まなくてもよい。
【0401】
いくつかの態様では、本明細書に記載されるようなポリペプチド、核酸、または細胞は、操作することができる。本明細書に使用される場合、「操作された」は、人の手によって操作されたという局面のことを指す。例えば、ポリペプチドは、そのポリペプチドの少なくとも1つの局面、例えばその配列が、それが自然界で存在するときの局面と異なるよう人の手によって操作された場合、「操作された」と見なされる。当然のこととして、また当業者によって理解されるように、操作された細胞の子孫は、典型的には、実際の操作が以前の実体に対して行われていたとしてもなお「操作された」と称される。
【0402】
いくつかの態様では、本明細書に記載される分化および/または操作されたT細胞は、外因性である。いくつかの態様では、本明細書に記載される分化および/または操作されたT細胞は、異所性である。いくつかの態様では、本明細書に記載される分化および/または操作されたT細胞は、内因性ではない。
【0403】
用語「外因性」は、その天然源以外の細胞中に存在する物質のことを指す。「外因性」という用語は、本明細書において使用されるとき、人の手が関わるプロセスによって、生物学的システム、例えばそれが通常見いだされずかつ核酸またはポリペプチドを導入することが望まれる細胞または生物に導入された、核酸(例えば、ポリペプチドをコードする核酸)またはポリペプチドのことを指すことができる。あるいは、「外因性」は、例えば異所性発現またはレベルが確立されるよう、人の手が関わるプロセスによって、生物学的システム、例えばそれが比較的少量で見いだされかつ核酸またはポリペプチドの量を増加させることが望まれる細胞または生物に導入された、核酸またはポリペプチドのことを指すことができる。対照的に、用語「内因性」は、その生物学的システムまたは細胞にとって生来的である物質のことを指す。本明細書に使用される場合、「異所性」は、通常でない場所および/または量で見いだされる物質のことを指す。異所性物質は、所与の細胞において通常見いだされるが、はるかに少ない量でおよび/または異なる時点で見いだされるものであることができる。異所性はまた、所与の細胞においてその自然環境で天然に見いだされないまたは発現されないポリペプチドまたは核酸などの物質も含む。
【0404】
本明細書に記載されるようなポリペプチド(例えば、CARポリペプチド)をコードする核酸は、ベクターに含まれ得る。用語「ベクター」は、本明細書に使用される場合、ホスト細胞への送達または異なるホスト細胞間の移動のために設計された核酸構築物のことを指す。本明細書に使用される場合、ベクターは、ウイルスまたは非ウイルスであることができる。用語「ベクター」は、適切な制御エレメントに結合されているときに複製することが可能でありかつ遺伝子配列を細胞に移入することができる、任意の遺伝子エレメントを包含する。ベクターは、クローニングベクター、発現ベクター、プラスミド、ファージ、トランスポゾン、コスミド、染色体、ウイルス、ビリオンなどを含むことができるが、それらに限定されない。
【0405】
ベクターは、組換えであることができ、例えば、それは、少なくとも2つの異なる供給源から生じる配列を含む。いくつかの態様では、ベクターは、少なくとも2つの異なる種から生じる配列を含む。いくつかの態様では、ベクターは、少なくとも2つの異なる遺伝子から生じる配列を含み、例えば、それは、融合タンパク質または少なくとも1つの非天然(例えば、異種)遺伝子制御エレメント(例えば、プロモーター、抑制因子、活性化因子、エンハンサー、応答エレメントなど)に機能的に連結されている発現産物をコードする核酸を含む。
【0406】
いくつかの態様では、本明細書に記載されるベクターまたは核酸は、コドン最適化され、例えば、核酸配列の天然または野生型配列は、代替コドンを含むように変更または操作され、その結果、変更または操作された核酸は、天然/野生型配列と同じポリペプチド発現産物をコードするが、所望の発現系において改善された効率で転写および/または翻訳されるであろう。いくつかの態様では、発現系は、天然/野生型配列の供給源以外の生物(またはそのような生物から得られる細胞)である。いくつかの態様では、本明細書に記載されるベクターおよび/または核酸配列は、哺乳動物または哺乳動物細胞、例えば、マウス、ネズミ細胞またはヒト細胞での発現のためにコドン最適化される。いくつかの態様では、本明細書に記載されるベクターおよび/または核酸配列は、ヒト細胞での発現のためにコドン最適化される。いくつかの態様では、本明細書に記載されるベクターおよび/または核酸配列は、酵母または酵母細胞での発現のためにコドン最適化される。いくつかの態様では、本明細書に記載されるベクターおよび/または核酸配列は、細菌細胞での発現のためにコドン最適化される。いくつかの態様では、本明細書に記載されるベクターおよび/または核酸配列は、大腸菌(E. coli)細胞での発現のためにコドン最適化される。
【0407】
本明細書に使用される場合、用語「発現ベクター」は、ベクター上の転写調節配列に連結されている配列からのRNAまたはポリペプチドの発現を指令するベクターのことを指す。発現される配列は、必ずそうであるとは限らないが、多くの場合、その細胞にとって異種のものであろう。発現ベクターは、追加のエレメントを含み得、例えば、発現ベクターは、2つの複製系を有し得、したがって、発現ベクターは、2つの生物において、例えば、発現のためにヒト細胞においてならびにクローニングおよび増幅のために原核生物ホストにおいて維持されることが可能となる。
【0408】
本明細書に使用される場合、用語「ウイルスベクター」は、ウイルス起源の少なくとも1つのエレメントを含みかつウイルスベクター粒子にパッケージングされる能力を有する、核酸ベクター構築物のことを指す。ウイルスベクターは、非必須ウイルス遺伝子の代わりに本明細書に記載されるようなポリペプチドをコードする核酸を含有することができる。ベクターおよび/または粒子は、インビトロまたはインビボのいずれかで任意の核酸を細胞に移入する目的で利用され得る。多くの形態のウイルスベクターが、当技術分野において公知である。本発明のウイルスベクターの非限定的な例としては、AAVベクター、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、アルファウイルスベクター、ポックスウイルスベクター、バキュロウイルスベクター、およびキメラウイルスベクターが挙げられる。
【0409】
本明細書に記載されるベクターは、いくつかの態様では、他の適切な組成物および療法と組み合わせることができると理解されるべきである。例えば、適切なエピソーム性ベクターの使用は、対象において関心対象のヌクレオチドを高コピー数の染色体外DNAとして維持する手段を提供し、それによって、染色体組み込みの潜在的影響が排除される。
【0410】
本明細書に使用される場合、用語「処置する」、「処置」、「処置すること」または「改善」は、疾患または障害、例えば、血液疾患またはがんに関連する状態の進行または重症度を好転させる、緩和する、改善する、阻害する、遅らせるまたは停止することが目的である治療的処置のことを指す。用語「処置すること」は、血液疾患またはがんに関連する状態、疾患または障害の少なくとも1つの悪影響または症状を低減するまたは緩和することを含む。処置は、一般に、1つまたは複数の症状または臨床マーカーが低減されたならば「有効」である。あるいは、処置は、疾患の進行が低減または停止されたならば「有効」である。すなわち、「処置」は、処置の非存在下で予想されるものと比較した、症状またはマーカーの改善だけでなく、症状の進行または悪化の停止または少なくとも鈍化も含む。有益または望ましい臨床結果は、検出可能であるか検出不可能であるかを問わず、1つまたは複数の症状の緩和、疾患の規模の縮小、疾患の安定化(すなわち、悪化しない)状態、疾患の進行の遅延もしくは鈍化、疾患状態の改善もしくは軽減、寛解(部分的か完全かによらず)、および/または死亡率の低下を含むが、それらに限定されない。疾患の「処置」という用語はまた、その疾患の症状または副作用からの解放(軽減処置を含む)を提供することも含む。
【0411】
本明細書に使用される場合、用語「投与すること」は、所望の部位への作用物質の少なくとも部分的な送達をもたらす方法または経路による、対象への本明細書に開示されるような化合物の配置のことを指す。本明細書に開示される化合物を含む薬学的組成物は、対象において有効な処置をもたらす任意の適切な経路によって投与することができる。いくつかの態様では、投与は、ヒトの身体活動、例えば、注射、摂取行為、適用行為および/または送達デバイスもしくは機器の操作を含む。そのような活動は、例えば、医師および/または処置される対象によってなされ得る。
【0412】
本明細書に使用される場合、「接触させること」は、少なくとも1つの細胞に作用物質を送達するまたは曝露させる任意の適切な手段のことを指す。例示的な送達方法としては、細胞培養培地への直接送達、灌流、注射、または当業者に周知の他の送達方法が挙げられるが、それらに限定されない。いくつかの態様では、接触させることは、ヒトの身体活動、例えば、注射;分配、混合および/もしくは注入行為;ならびに/または送達デバイスもしくは機器の操作を含む。
【0413】
用語「統計的に有意な」または「有意に」は、統計的有意性のことを指し、一般に、2標準偏差(2SD)またはそれ以上の差を意味する。
【0414】
実施例以外または別途指示がある場合を除き、本明細書において使用される成分の量または反応条件を表す数値はすべて、あらゆる場合に、「約」という用語によって修飾されるものとして理解されるべきである。用語「約」は、百分率に関連して使用される場合、±1%を意味することができる。
【0415】
本明細書に使用される場合、用語「含む」は、定義された要素が存在することに加えて他の要素も存在し得ることを意味する。「含む」の使用は、限定ではなく包括を示す。
【0416】
用語「からなる」は、その態様の説明の中で列記されていないあらゆる要素を除く、本明細書に記載されるような組成物、方法およびその各成分のことを指す。
【0417】
本明細書に使用される場合、用語「から本質的になる」は、所与の態様に必要とされる要素のことを指す。この用語は、本発明の態様の基本的かつ新規または機能的な特徴に実質的に影響しない追加の要素の存在を許容する。
【0418】
本明細書に使用される場合、用語「に対応する」は、第1のポリペプチドまたは核酸における示されている位置のアミノ酸またはヌクレオチド、あるいは第2のポリペプチドまたは核酸における示されているアミノ酸またはヌクレオチドと同等のアミノ酸またはヌクレオチドのことを指す。同等の示されているアミノ酸またはヌクレオチドは、当技術分野において公知の相同性検索プログラム、例えばBLASTを使用した、候補配列のアラインメントによって決定することができる。
【0419】
単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、文脈が明確に別途指示しない限り、複数の指示対象を含む。同様に、「または、もしくは」という単語は、文脈が明確に別途指示しない限り、「および、ならびに」を含むことが意図される。本開示を実施または試験する際には本明細書に記載のものと類似または同等の方法および材料を使用することができるが、以下に適切な方法および材料が記載される。「例えば(e.g.)」という略語は、Latin exempli gratiaに由来し、本明細書において非限定的な例を示すために使用される。したがって、「例えば(e.g.)」という略語は、「例えば(for example)」という用語と同義である。
【0420】
本明細書に開示される発明の代替要素または態様のグループ化は、限定として解釈されるべきではない。各グループのメンバーは、個別にまたはグループの他のメンバーもしくは本明細書で見いだされる他の要素との任意の組み合わせで、言及かつ特許請求することができる。グループの1つまたは複数のメンバーは、便宜上および/または特許性の理由から、グループに包含されても、グループから排除されてもよい。いかなるそのような包含または排除が行われたとしても、本明細書は、変更されたものとしてグループを含むと見なされ、したがって、添付の特許請求の範囲において使用されるすべてのマーカッシュグループの書面上の説明を全うするものと見なされる。
【0421】
本明細書において別途定義がなされない限り、本出願と関連して使用される科学用語および技術用語は、本開示が属する技術分野における通常の技能を有する者によって一般的に理解されている意味を有するものとする。本発明は、本明細書に記載される特定の方法論、プロトコルおよび試薬などに限定されず、したがって、それらは変更され得ることが理解されるべきである。本明細書において使用される学術用語は、特定の態様を説明するためのものにすぎず、本発明の範囲を限定することを意図したものではなく、本発明の範囲は、もっぱら特許請求の範囲によって定義されるものである。免疫学および分子生物学における一般用語の定義は、The Merck Manual of Diagnosis and Therapy, 20th Edition, published by Merck Sharp & Dohme Corp., 2018 (ISBN 0911910190, 978-0911910421);Robert S. Porter et al. (eds.), The Encyclopedia of Molecular Cell Biology and Molecular Medicine, published by Blackwell Science Ltd., 1999-2012 (ISBN 9783527600908);および Robert A. Meyers (ed.), Molecular Biology and Biotechnology: a Comprehensive Desk Reference, published by VCH Publishers, Inc., 1995 (ISBN 1-56081-569-8);Immunology by Werner Luttmann, published by Elsevier, 2006; Janeway's Immunobiology, Kenneth Murphy, Allan Mowat, Casey Weaver (eds.), W. W. Norton & Company, 2016 (ISBN 0815345054, 978-0815345053);Lewin's Genes XI, published by Jones & Bartlett Publishers, 2014 (ISBN-1449659055);Michael Richard Green and Joseph Sambrook, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 4th ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., USA (2012) (ISBN 1936113414);Davis et al., Basic Methods in Molecular Biology, Elsevier Science Publishing, Inc., New York, USA (2012) (ISBN 044460149X);Laboratory Methods in Enzymology: DNA, Jon Lorsch (ed.) Elsevier, 2013 (ISBN 0124199542);Current Protocols in Molecular Biology (CPMB), Frederick M. Ausubel (ed.), John Wiley and Sons, 2014 (ISBN 047150338X, 9780471503385), Current Protocols in Protein Science (CPPS), John E. Coligan (ed.), John Wiley and Sons, Inc., 2005;および Current Protocols in Immunology (CPI) (John E. Coligan, ADA M Kruisbeek, David H Margulies, Ethan M Shevach, Warren Strobe, (eds.) John Wiley and Sons, Inc., 2003 (ISBN 0471142735, 9780471142737) に見いだすことができ、これらの内容はすべて、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0422】
いくつかの態様では、本明細書に記載される開示は、ヒトをクローニングするためのプロセス、ヒトの生殖系列の遺伝的同一性を改変するためのプロセス、産業もしくは商業目的でのヒト胚の使用、またはヒトもしくは動物への任意の実質的な医学的利益なしにそれらを苦しめる可能性がある動物の遺伝的同一性を改変するためのプロセスに、さらにはそのようなプロセスから生じる動物に関するものではない。
【0423】
他の用語は、本明細書において、本発明の様々な局面の説明の中で定義される。
【0424】
本出願を通して引用されている、参考文献、発行された特許、公開された特許出願および同時係属中の特許出願を含む、すべての特許および他の刊行物は、例えば本明細書に記載される技術と関連して使用され得るそのような刊行物に記載される方法論を、説明および開示する目的で、明示的に参照により本明細書に組み入れられる。これらの刊行物は、それらの開示が本願の出願日より以前に行われたために提供されるにすぎない。これに関するいかなる事情も、本発明者らが、先行発明であるためまたは任意の他の理由によりそのような開示よりも先の日付を主張する資格を有さないことの承認と見なされるべきではない。これらの書類の日付に関する声明または内容に関する表示はすべて、出願人が入手し得た情報に基づいており、これらの書類の日付または内容の正確性に関する承認をなすものではない。
【0425】
本開示の態様の説明は、排他的であることまたは本開示を開示された正確な形態に限定することを意図していない。本開示の具体的な態様および実施例は、例示目的で本明細書に記載されるにすぎず、関連技術分野の当業者が認識するように、本開示の範囲内で様々な同等の変更が可能である。例えば、方法の工程または機能は、所与の順で提示されているが、代替の態様は異なる順で機能を果たしてもよく、機能は実質的に同時に果たされてもよい。本明細書に提供される開示の教示は、必要に応じて、他の手順または方法に適用することができる。本明細書に記載される様々な態様は、さらなる態様を提供するよう組み合わせることができる。本開示の局面は、必要であれば、本開示のなおさらなる態様を提供するために、上記参考文献および出願の組成、機能および技術思想を利用するよう変更することができる。これらおよび他の変更は、詳細な説明に照らして本開示に対して行うことができる。すべてのそのような変更は、添付の特許請求の範囲内に包含されることが意図される。
【0426】
前述の態様のいずれかの具体的な要素は、他の態様における要素と組み合わせるまたは置き換えることができる。さらに、本開示のある特定の態様に関連する利点がこれらの態様の状況において記載されてきたが、他の態様もそのような利点を示す場合があり、本開示の範囲内に含まれるためにすべて態様が必ずしもそのような利点を示す必要はない。
【0427】
本明細書に記載される技術のいくつかの態様は、以下の付番された項目のいずれかに従って定義することができる:
1.a)多能性幹細胞の集団を、凝集培地中で、CD34+造血内皮細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させる工程;
b)結果として生じたCD34+造血内皮細胞の集団においてヒストンメチルトランスフェラーゼを阻害する工程;および
c)結果として生じたCD34+造血内皮細胞の集団を、CD3+ T細胞分化培地中、Notchリガンドの存在下、CD3+ T細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させる工程
を含む、方法。
2.a)多能性幹細胞の集団を、凝集培地中で、CD34+造血内皮細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させる工程;
b)結果として生じたCD34+造血内皮細胞の集団においてエピジェネティック制御因子を阻害する工程;および
c)結果として生じたCD34+造血内皮細胞の集団を、CD3+ T細胞分化培地中、Notchリガンドの存在下、CD3+ T細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させる工程
を含む、方法。
3.a)多能性幹細胞の集団を、凝集培地中で、CD34+造血内皮細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させる工程;
b)結果として生じたCD34+造血内皮細胞の集団においてG9aおよび/またはGLPを阻害する工程;および
c)結果として生じたCD34+造血内皮細胞の集団を、CD3+ T細胞分化培地中、Notchリガンドの存在下、CD3+ T細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させる工程
を含む、方法。
4.a)多能性幹細胞の集団を、凝集培地中で、CD34+造血内皮細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させる工程;および
b)結果として生じたCD34+造血内皮細胞の集団を、CD3+ T細胞分化培地中、Notchリガンドの存在下、CD3+ T細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させる工程
を含む、方法。
5.Notchリガンドが、固体基材に付着されている、項目1~4のいずれか一つ記載の方法。
6.Notchリガンドが、細胞培養ディッシュに付着されている、項目1~5のいずれか一つ記載の方法。
7.Notchリガンドが、ストロマ細胞に由来しない、項目1~6のいずれか一つ記載の方法。
8.造血内皮細胞をNotchリガンドの存在下で分化させる工程が、Notchリガンドを発現するストロマ細胞との共培養を含まない、項目1~7のいずれか一つ記載の方法。
9.造血内皮細胞をNotchリガンドの存在下で分化させる工程が、OP9-DL1細胞またはOP9-DL4細胞との共培養を含まない、項目1~8のいずれか一つ記載の方法。
10.Notchリガンドが、デルタ様-1(DLL1)、デルタ様-4(DLL4)、固定化デルタ1ext-IgG、および固定化デルタ4ext-IgGからなる群より選択される、項目1~9のいずれか一つ記載の方法。
11.固定化デルタ1ext-IgGが、ヒトIgG1のFcドメインに融合されたヒトデルタ様-1の細胞外ドメインからなる、項目10記載の方法。
12.CD3+ T細胞の集団への分化を促進するために十分な時間が、少なくとも4週間である、項目1~11のいずれか一つ記載の方法。
13.CD3+ T細胞分化培地が、無血清である、項目1~12のいずれか一つ記載の方法。
14.CD3+ T細胞分化培地が、FLT3およびIL7を含む、項目1~13のいずれか一つ記載の方法。
15.CD3+ T細胞分化培地が、15ng/ml FLT3および25ng/ml IL7を含む、項目1~14のいずれか一つ記載の方法。
16.CD3+ T細胞分化培地が、CD3+ T細胞分化培地中での分化の少なくとも最初の2週間、5ng/mLトロンボポエチン(TPO)および/または30ng/ml SCFをさらに含む、項目1~15のいずれか一つ記載の方法。
17.TPOを含むCD3+ T細胞分化培地が、CD5+ CD7+ ProT細胞の集団への分化を促進する、項目1~16のいずれか一つ記載の方法。
18.CD3+ T細胞の集団が、CD4+CD8+ T細胞の集団を含む、項目1~4のいずれか一つ記載の方法。
19.CD4+CD8+ T細胞の集団を、単一陽性T細胞分化培地中、CD4+細胞の集団およびCD8+細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させる工程
をさらに含む、項目18記載の方法。
20.CD4+CD8+ T細胞の集団からCD4+ T細胞の集団およびCD8+細胞の集団への分化を促進するために十分な時間が、少なくとも1週間である、項目19記載の方法。
21.CD34+造血内皮細胞の集団からCD4+ T細胞の集団およびCD8+細胞の集団への分化を促進するために十分な時間が、少なくとも5週間である、項目19記載の方法。
22.単一陽性T細胞分化培地が、10ng/mL IL-15およびT細胞活性化因子を含む、項目19記載の方法。
23.T細胞活性化因子が、10ul/ml CD3/CD28 T細胞活性化因子を含む、項目22記載の方法。
24.T細胞活性化因子が、細胞1個当たりCD3/CD28 T細胞活性化因子ダイナビーズのビーズ1個を含む、項目22記載の方法。
25.少なくとも1週間後に、CD4+細胞濃縮および/またはCD8+細胞濃縮の工程をさらに含む、項目18~24のいずれか一つ記載の方法。
26.多能性幹細胞の集団が、人工多能性幹細胞(iPS細胞)または胚性幹細胞(ESC)を含む、項目1~4のいずれか一つ記載の方法。
27.人工多能性幹細胞が、リプログラミング因子OCT4、SOX2、KLF4のみ、および任意でc-MYCまたはnanogおよびLIN28を成熟細胞に導入することによって産生される、項目26記載の方法。
28.人工多能性幹細胞が、リプログラミング因子を成熟細胞に2回以上導入することによって産生される、項目26記載の方法。
29.多能性幹細胞の集団が、胚様体または2D接着培養物を使用してCD34+造血内皮細胞の集団に分化される、項目1~4のいずれか一つ記載の方法。
30.CD34+造血内皮細胞の集団への分化を促進するために十分な時間が、少なくとも8日間である、項目1~4のいずれか一つ記載の方法。
31.凝集培地が、BMP4、SB-431542、CHIR99021、bFGF、VEGF、IL-6、IL-11、IGF-1、SCF、およびEPOを含む、項目1~4のいずれか一つ記載の方法。
32.凝集培地が、10ng/ml BMP4、6mM SB-431542、3mM CHIR99021、5ng/ml bFGF、15ng/ml VEGF、10ng/ml IL-6、5ng/mL IL-11、25ng/mL IGF-1、50ng/mL SCF、および2U/ml EPOを含む、項目29~31のいずれか一つ記載の方法。
33.結果として生じたCD34+造血内皮細胞の集団を、CD34+造血内皮細胞の集団での表面マーカーの発現を利用して選択または単離する工程
をさらに含む、項目29~32のいずれか一つ記載の方法。
34.CD34+造血内皮細胞の集団が、CD45陰性/低発現である、項目29~33のいずれか一つ記載の方法。
35.CD34+造血内皮細胞の集団が、CD38陰性/低発現である、項目29~34のいずれか一つ記載の方法。
36.結果として生じたCD34+造血内皮細胞の集団または結果として生じたCD3+ T細胞の集団を遺伝子改変する工程
をさらに含む、項目1~4のいずれか一つ記載の方法。
37.遺伝子改変が、内因性HLAを編集すること、内因性TCRを除去すること、および/またはキメラ抗原受容体(CAR)を発現させることである、項目36記載の方法。
38.ヒストンメチルトランスフェラーゼが、ヒストン3リシン残基9(H3K9)および/またはヒストン3リシン残基27(H3K27)へのメチル基の付加を触媒する、項目1記載の方法。
39.ヒストンメチルトランスフェラーゼH3K9および/またはH3K27が、低分子阻害剤または核酸阻害剤によって阻害される、項目1記載の方法。
40.ヒストンメチルトランスフェラーゼH3K9および/またはH3K27低分子阻害剤が、ヘテロ有機化合物または有機金属化合物である、項目39記載の方法。
41.ヒストンメチルトランスフェラーゼH3K9および/またはH3K27低分子阻害剤が、BIX-01294、UNC0638、E72、BRD4770、A-366、ケトシン(chaetocin)、UNC0224、UNC0631、UNC0646、EPZ005687、EPZ-6438(E7438)、3-デアザネプラノシン(deazaneplanocin)A(DZNep)、EI1、GSK343、GSK126、およびUNC1999からなる群より選択される、項目39記載の方法。
42.核酸阻害剤が、ヒストンメチルトランスフェラーゼの発現を標的とする核酸である、項目39記載の方法。
43.核酸阻害剤が、RNA干渉阻害剤またはRNA干渉物質である、項目39記載の方法。
44.核酸阻害剤が、EZH1に結合するアプタマー、EZH1特異的RNA干渉物質、およびEZH1特異的RNA干渉物質をコードするベクターからなる群より選択されるEZH1特異的核酸であり、該RNA干渉物質が、SEQ ID NO:11~19から選択されるヌクレオチド配列の1つまたは複数を含む、項目39記載の方法。
45.エピジェネティック制御因子が、DNA-メチルトランスフェラーゼ(DNMT);メチル-CpG結合ドメイン(MBD)タンパク質;DNAデメチラーゼ;ヒストンメチルトランスフェラーゼ(HMT);メチル-ヒストン結合タンパク質;ヒストンデメチラーゼ;ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT);アセチル結合タンパク質;またはヒストンデアセチラーゼ(HDAC)である、項目2記載の方法。
46.エピジェネティック制御因子の阻害剤が、UNC0224;MC1568;およびCAY10591からなる群より選択される、項目45記載の方法。
47.エピジェネティック制御因子の阻害剤が、少なくとも500nMの濃度で提供される、項目45~46のいずれか一つ記載の方法。
48.CD34+細胞の集団からCD5+CD7+ proT細胞の集団への分化を促進するために十分な時間が、約14日間である、項目45~46のいずれか一つ記載の方法。
49.G9aおよび/またはGLP阻害剤が、UNC0224;UNC0638;A366;BRD4770;BIX01294;UNC0642;UNC0631;UNC0646;UNC0321;E72;BIX-01338;BRD9539;ケトシン;およびDCG066からなる群より選択される、項目3記載の方法。
50.G9aおよび/またはGLP阻害剤が、UNC0224である、項目49記載の方法。
51.G9aおよび/またはGLP阻害剤が、300nM~5uMの濃度で提供される、項目49~50のいずれか一つ記載の方法。
52.CD34+細胞の集団からCD5+CD7+ proT細胞の集団への分化を促進するために十分な時間が、約14日間である、項目49~51のいずれか一つ記載の方法。
53.a)多能性幹細胞の集団を、凝集培地中で、CD34+造血内皮細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させる工程;および
b)結果として生じたCD34+造血内皮細胞の集団を、15ng/ml FLT3および25ng/ml IL7を含むCD3+ T細胞分化培地中、10μg/mL Notchリガンドの存在下、CD3+ T細胞の集団への分化を促進するために少なくとも4週間、分化させる工程
を含む、方法であって、
CD3+ T細胞分化培地が、少なくとも最初の2週間、5ng/mL TPOおよび30ng/ml SCFをさらに含む、方法。
54.a)多能性幹細胞の集団を、凝集培地中で、CD34+造血内皮細胞の集団への分化を促進するために十分な時間、分化させる工程;および
b)結果として生じたCD34+造血内皮細胞の集団を、15ng/ml FLT3および25ng/ml IL7を含むCD3+ T細胞分化培地中、10μg/mL Notchリガンドの存在下、CD3+ T細胞の集団への分化を促進するために少なくとも4週間、分化させる工程
を含む、方法であって、
該CD3+ T細胞分化培地が、少なくとも最初の2週間、5ng/mL TPO、30ng/ml SCFおよびG9a/GLP阻害剤をさらに含む、方法。
55.CD3+ T細胞の集団が、アルファベータT細胞に最も類似した遺伝子発現プロファイルを示す、項目1~54のいずれか一つ記載の方法。
56.CD3+ T細胞の集団が、アルファベータT細胞に少なくとも10%、20%、30%、40%またはそれ以上類似した遺伝子発現プロファイルを示す、項目1~55のいずれか一つ記載の方法。
57.CD3+ T細胞の集団が、末梢血アルファベータT細胞と比較したピアソンの相関係数が少なくとも0.85である遺伝子発現プロファイルを示す、項目1~56のいずれか一つ記載の方法。
58.CD3+ T細胞の集団が、約0.025の有効シンプソンクロナリティ値を示す、項目1~57のいずれか一つ記載の方法。
59.CD3+ T細胞の集団が、メチルトランスフェラーゼの阻害なしでまたはストロマ細胞を使用して分化させた免疫細胞よりも、少なくとも3ヌクレオチド長いT細胞受容体(TCR)相補性決定領域(CDR)を示す、項目1~58のいずれか一つ記載の方法。
60.項目1~59のいずれか一つ記載の方法によって産生される、免疫細胞。
61.アルファベータT細胞に最も類似した遺伝子発現プロファイルを示す、項目60記載の免疫細胞。
62.アルファベータT細胞に少なくとも10%、20%、30%、40%またはそれ以上類似した遺伝子発現プロファイルを示す、項目60~61のいずれか一つ記載の免疫細胞。
63.末梢血アルファベータT細胞と比較したピアソンの相関係数が少なくとも0.85である遺伝子発現プロファイルを示す、項目60~62のいずれか一つ記載の免疫細胞。
64.約0.025の有効シンプソンクロナリティ値を示す、項目60~63のいずれか一つ記載の免疫細胞。
65.メチルトランスフェラーゼの阻害なしでストロマ細胞を使用して分化させた免疫細胞よりも、少なくとも3ヌクレオチド長いT細胞受容体(TCR)相補性決定領域(CDR)を示す、項目60~64のいずれか一つ記載の免疫細胞。
66.項目60~65のいずれか一つ記載の免疫細胞またはその集団を含む、組成物。
67.薬学的に許容される担体をさらに含む、項目66記載の組成物。
68.項目60~65のいずれか一つ記載の免疫細胞またはその集団と、薬学的に許容される担体とを含む、薬学的組成物。
69.対象での細胞補充治療において使用するための、項目68記載の薬学的組成物。
70.細胞補充治療の方法であって、項目60~65のいずれか一つ記載の免疫細胞もしくはその集団、または項目66~67記載の組成物、または項目68~69記載の薬学的組成物を、それを必要とするレシピエント対象に投与する工程を含む、方法。
71.レシピエント対象が、化学療法および/または放射線照射を受けたことがある、項目70記載の細胞補充治療の方法。
72.レシピエント対象が、免疫機能および/またはリンパ球再構成における欠損を有する、項目70記載の細胞補充治療の方法。
73.移植前に、免疫細胞またはその集団が、レシピエント対象におけるその後の生着を促進するために、プロスタグランジンE2および/または抗酸化剤N-アセチル-L-システイン(NAC)でエクスビボ処理される、項目70~72のいずれか一つ記載の細胞補充治療の方法。
74.免疫細胞またはその集団が、レシピエント対象に対して自己由来である、項目70~73のいずれか一つ記載の細胞補充治療の方法。
75.免疫細胞またはその集団が、レシピエント対象とHLA型がマッチする、項目70~74のいずれか一つ記載の細胞補充治療の方法。
【実施例】
【0428】
実施例1:ヒト多能性幹細胞からのストロマフリーT細胞分化
T細胞は、ヒト適応免疫系の重要な成分であり、大きな治療可能性を有する。しかしながら、現行のT細胞媒介療法は、自己由来T細胞に依拠しており、このことが、その広範な適用性を制限している。ヒト人工多能性幹細胞(iPSC)は、細胞療法に向けた既製品のスケーラブルな製造のための理想的な供給源である。しかしながら、iPSCからの成熟した機能的なT細胞の作製は、困難であることが証明されている。加えて、iPSCの分化は、マウスストロマ細胞との共培養を必要とし、このことが、iPSC由来T細胞のトランスレーショナルポテンシャルを制限している。
【0429】
T細胞分化のための無血清のストロマフリー分化プロトコルが本明細書に記載される。最初に、CD34
+造血内皮細胞をiPSから誘導した(例えば、実施例2を参照のこと)。非組織培養処理プレートを組換えヒトDL1/DL4-Fcタンパク質で被覆した(PBS中10ug/ml、室温で3時間)。iPSC由来造血内皮細胞を、Notchリガンドが被覆された組織培養プレート上で培養し、T細胞発生に必須の成長因子(Flt3、SCF、Il7、TPO)を培地に順次添加した(例えば、
図1Aまたは
図17を参照のこと)。このプロトコルを使用して、分化の2週間後にCD5
+CD7
+ T細胞前駆体を作製することができ、CD3
+ T細胞は、分化の5週間後に観察される(例えば、
図1Bを参照のこと)。これらのCD3
+は、CD3/CD28抗体によってさらに刺激することができ、これにより、CD4またはCD8単一陽性T細胞の増殖および誘導の増強がもたらされる(例えば、
図1Cを参照のこと)。加えて、OP9-DL4細胞を使用した従来のT細胞分化プロトコルは、ガンマデルタTCRを発現する先天性様T細胞を産生する。本明細書に記載されるストロマフリープロトコルは、増加した数のT細胞を生成し、これら細胞のほんの一部だけが先天性様細胞であり(例えば、
図1Dを参照のこと)、このことは、本方法が、より成熟した表現型を示すT細胞を産生することを示している。つまり、より臨床的に有意義なiPSC由来T細胞の作製のための新しいプラットフォームが本明細書に記載される。
【0430】
ストロマフリーT細胞分化法の1つの用途は、CAR iPSC-T細胞の作製である。抗CD19キメラ抗原受容体(CAR)をiPSC HSPCに導入し、本明細書に記載されるストロマフリーT細胞分化法を使用して細胞をT細胞へと分化させた(例えば、
図2Aを参照のこと)。CARの発現は、分化の間維持された(例えば、
図2Bを参照のこと)。CAR T細胞を非形質導入(UTD)対照と同様に拡大させた(例えば、
図2Cを参照のこと)。CD19-K562細胞による刺激は、CAR-iPSC T細胞の活性化をもたらしたが、非形質導入(UTD)対照または未刺激のCAR-iPSC T細胞は活性化しなかった(例えば、
図2Dを参照のこと)。
【0431】
初代T細胞およびiPSC由来T細胞に対してRNA-seq解析を実施した。T細胞シグネチャ遺伝子の発現を調べて、iPSC-T細胞とPBMC αβT、γδT、およびNK細胞との類似性を比較した(例えば、
図3Aを参照のこと)。アルファベータT細胞とガンマデルタT細胞を識別する遺伝子の発現を調べて、iPSC-T細胞とTCRαβおよびTCRγδ T細胞との類似性を比較した(例えば、
図3Bを参照のこと)。結果は、本明細書に記載される分化法が、ドナーの末梢血からのアルファベータT細胞(abT)と類似した遺伝子発現プロファイルを示すiPSC-T細胞(EZ-T)の作製を可能にすることを示す。比較して、従来のiPSC-T細胞(conT_OP9)は、先天性様T細胞の表現型を有していた。したがって、本明細書に記載される方法(例えば、ストロマフリーおよびEZH1ノックダウン)は、ストロマ法と比較して、天然T細胞に最も類似した発現プロファイルを有するT細胞を生成した。
【0432】
EZ-T細胞はまた、多様なTCRレパートリーも示す。EZ-T細胞は、本明細書に記載されるようなEZH1阻害およびストロマフリーT細胞分化を含むCD34+ HEから分化させたT細胞のことを指す。TCRベータ鎖シーケンシングをEZ-T細胞に対して実施して、T細胞分化の間のランダムなTCR遺伝子組換えの結果として数万の固有のTCR再構成が特定された。EZ-T細胞におけるTCRBV遺伝子ファミリーの利用割合を調べた。各陰影部は、1つのTCRBVファミリーを表す。有効シンプソンクロナリティ値は、0.0233であり、このことは、高度に多様なTCRレパートリーを示している。例えば、
図4を参照のこと。
【0433】
EZ-T細胞はまた、対照のPSC-T細胞よりも長いCDR3セグメントを有する。CDR3は、TCRの最も可変な領域であり、その長さは、TCR再構成の間にヌクレオチドをランダムに付加するTdT酵素の活性によって決定され得る。CDR3は、成熟PBMC T細胞と比較して、未熟なT細胞およびiPSC由来T細胞においてより短いことが報告されている。EZ-T細胞は、対照iPSC由来T細胞と比較して増加したCDR3長を示し、PBMC T細胞により類似していた(例えば、
図5A~5Dを参照のこと)。EZ-T細胞は、TdTによって加えられたより長い領域を示すので、そのようなCDRは、より大きな配列変異性、ひいてはより多様なTCRレパートリーを示す。
【0434】
実施例2:造血内皮細胞を産生するための方法
人工多能性幹(iPS)細胞から造血(CD34+)内皮細胞を産生するための8日間プロトコルが本明細書に記載される;例えば、Sturgeon et al., Wnt Signaling Controls the Specification of Definitive and Primitive Hematopoiesis From Human Pluripotent Stem Cells, Nat Biotechnol. 2014 Jun; 32(6): 554-561を参照されたく、その内容は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0435】
0日目:MEF上でのiPSCからのEBの形成
一般に、マウス胚性線維芽細胞(MEF)上での培養の3日~1週間後、iPS細胞は、胚様体(EB)を形成する傾向がある。D0について、以下のプロトコルに従う。
【0436】
1. MEF上で成長させたiPS細胞をDMEM/F12培地5mLで洗浄する。
【0437】
2. 各ディッシュから培地を吸引する。0.22uMで濾過したDMEM/F12中に希釈した1×コラゲナーゼIV 5mLに置換する。
【0438】
3. 37℃で5~10分間インキュベートし、顕微鏡でiPSコロニーが剥離しているかを定期的にチェックする。
【0439】
4. コラゲナーゼIVを吸引し、濾過したDMEM/F12 5mLに置換する。
【0440】
5. 滅菌セルスクレーパーを使用して、最初にディッシュの縁の周囲、次に、左から右へ、次に上から下へコロニーを剥がす。
【0441】
6. 10mLセロロジカルピペットを使用して細胞を穏やかにかつゆっくりとコニカルチューブに移す。残留コロニーがあれば、追加の5mLでプレートを洗浄し、同じチューブに加える。
【0442】
7. 1100rpmで1分間スピンダウンする。
【0443】
8. 細胞をスピンしている間、BMP4を含む凝集培地(例えば、表1を参照のこと)9mLをCorningの超低接着(Ultra Low Adherent)10cmディッシュに加える。
【0444】
9. ペレットのiPSコロニーから培地を吸引し、BMP4を含む凝集培地1mLに再懸濁する。
【0445】
10. 細胞1mLを、凝集培地を含有する各超低接着10cmに穏やかに移す。同じピペットを使用して、いかなる細胞も含まないプレートの領域からピペットで1mLを吸い上げ、コニカルを洗浄する。その1mLをコニカルに戻す;iPS細胞の開始プレート3~4つを目下含む各プレートの最終体積は10mLである。
【0446】
11. 37℃の低酸素インキュベーター(5% O2)に移す。プレート4~5つを互いの上に積み重ねることができ、蒸発を防ぐために積み重ねの底でプレートの1つにPBSを満たす。これは、EB培養の0日目である。
【0447】
1日目:bFGFの添加
1日目に、以下のプロトコルに従う:1. EBの各10cmディッシュにbFGFを最終濃度5ng/mLで直接添加する。プレートを振盪して培地中に分配する。
【0448】
2日目:完全培地をD2培地と交換する
2日目に、D2培地を投入する。D2について、以下のプロトコルに従う。
【0449】
1. D2凝集培地は、以下を含む(例えば、表1を参照のこと):BMP4、bFGF、CHIR99021(StemCell Technologies Inc. # 72054)、およびSB431542(StemCell Technologies Inc. # 72234)。SBおよびCHIRを一旦融解したら、再凍結は推奨しない。
【0450】
2. 10mLセロロジカルピペットを使用してEBを収集し、コニカルチューブに入れる。
【0451】
3. EBを約15分間沈降させる。
【0452】
4. 培地を吸引し、D2培地(10mL/10cmディッシュ)に再懸濁し、次いで、超低接着ディッシュに穏やかに戻す。
【0453】
3日目:完全培地をD3培地と交換する
3日目に、D3培地を投入する。D3について、以下のプロトコルに従う。
【0454】
1. D3凝集培地は、以下を含む(例えば、表1を参照のこと):VEGFおよびbFGF。
【0455】
2. 10mLセロロジカルピペットを使用してEBを収集し、コニカルチューブに入れる。
【0456】
3. EBを約15分間沈降させる。
【0457】
4. 培地を吸引して、D2培地(10mL/10cmディッシュ)に再懸濁し、次いで、超低接着ディッシュに穏やかに戻す。
【0458】
4~5日目:培地交換なし
4~5日目に培地交換は行わない。
【0459】
6日目:完全培地をD6培地と交換する
6日目に、D6培地を投入する。D6について、以下のプロトコルに従う。
【0460】
1. D6凝集培地は、以下を含む(例えば、表1を参照のこと):VEGF組換えヒトVEGF165(VEGF-A)(R & D Systems (R&D) # 293-VE-500)、bFGF、SCF、EPO、IL-6組換えヒトIL-6(20ug)(Peprotech(商標) # 200-06)、IL-11、およびIGF-1。
【0461】
2. 10mLセロロジカルピペットを使用してEBを収集し、コニカルチューブに入れる。
【0462】
3. EBを約15分間沈降させる。
【0463】
4. 培地を吸引して、D6培地(10mL/10cmディッシュ)に再懸濁し、次いで、超低接着ディッシュに穏やかに戻す。
【0464】
7日目:培地交換なし
7日目に培地交換は行わない。
【0465】
8日目:CD34+細胞についてのMAC分取による造血内皮細胞の単離
8日目に、CD34+細胞について磁気活性化細胞分取(MACS)を使用して造血内皮細胞を単離する。次いで、CD34+造血内皮細胞の集団を使用し、本明細書に記載されるようなストロマフリーT細胞分化法を使用してT細胞を分化させることができる(例えば、実施例1を参照のこと)。
【0466】
【0467】
実施例3:エピジェネティック制御因子(例えば、G9a/GLP)の阻害
T細胞分化を促進する能力についてエピジェネティック制御因子の一群を試験した。5F細胞での最初のスクリーニングにおいて、UNC0224、MC1568またはCAY10591は、結果として生じたproT細胞の数を有意に増加させた(例えば、
図6~8を参照のこと)。EB由来CD34+細胞(例えば、CD34+造血内皮細胞)での、例えば、本明細書に記載されるようなストロマフリーT細胞分化法を使用した二次スクリーニングにおいて、UNC0224は、結果として生じたproT細胞の数を有意に増加させた(例えば、
図9~11を参照のこと)。用量応答は、312nM~5uMのUNC0224濃度がT細胞分化の促進に最もよく働いたことを示した(例えば、
図12A~12Bを参照のこと)。UNC0224は、G9a/GLPの一阻害剤であり、そのため、他の種々のG9a/GLP阻害剤を試験した。UNC0638、BRD4770、BIX01294およびUNC0642はそれぞれ、結果として生じたproT細胞の数を有意に増加させた(例えば、
図13B、13D~13Fを参照のこと)。
【0468】
UNC0224は、赤血球系/骨髄球系分化能を犠牲にして、T細胞関与を増強した。UNC0224処理は、CD5+CD7+ ProT細胞の有意な増加をもたらした一方で、赤血球系または骨髄球系列細胞の有意な減少も導いた(例えば、
図14A~14Cを参照のこと)。UNC0224はまた、細胞増殖よりもむしろT細胞特異化を促進した。UNC0224処理は、CD5+CD7+ ProT細胞の数または割合の有意な増加をもたらした一方で、総細胞の有意な減少も導いた(例えば、
図15A~15Cを参照のこと)。理論に拘束されることを望むわけではないが、H3K9メチル化は、リンパ系遺伝子の抑制を媒介することが予想される。したがって、H3K9メチル化の阻害剤による処理(例えば、
図6~16、表2~3を参照のこと)は、例えば、本明細書に記載されるようなストロマフリーT細胞分化法を使用した際に、T細胞分化を促進する。そのようなH3K9メチル化阻害剤を、ヒストンメチルトランスフェラーゼの阻害(例えば、EZH1ノックダウン)の代わりに、またはそれと組み合わせて使用することができる。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2023-03-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0083
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0083】
【
図1A】
図1A~1Dは、ヒト多能性幹細胞からのT細胞のストロマフリー分化を示す一連の概略図およびグラフである。
図1Aは、ストロマフリー法を使用したCD3
+ T細胞の分化を示す概略図である。簡潔に述べると、非組織培養処理プレートを組換えヒトDL1/DL4-Fcタンパク質(PBS中10ug/ml、室温で3時間)で被覆する。人工多能性幹細胞(iPSC)由来の造血幹細胞・前駆細胞(HSPC;例えば、CD34
+造血内皮細胞)を、notchリガンド(例えば、デルタ様古典的Notchリガンド4(DLL4))被覆プレート上、IL-7、幹細胞因子(SCF)、Flit3およびトロンボポエチン(TPO)を含む培地中で培養する。2週間後、CD5
+CD7
+ T細胞前駆体(ProT)が分化する。ProT細胞は、DLL4被覆プレート内、IL-7およびFlit3を含む培地中で分化を継続する;さらに3週間ほどの後、CD3
+ T細胞は分化していた。
図1Bは、分化の2週間後(左上、28.1% CD5
+CD7
+)または分化の5週間後(右上、59.2% CD5
+CD7
+)のCD5およびCD7の発現(例えば、T細胞前駆体のマーカーとして)と、分化の2週間後(左下、4.70% CD3
+)または分化の5週間後(右下、58.8% CD3
+)のCD3の発現(例えば、T細胞のマーカーとして)を示す一連のフローサイトメトリープロットである。2週目および5週目にCD5
+CD7
+ T細胞前駆体の割合が高いこと、5週目にCD3
+ T細胞の割合が高いことに注目されたい。
図1Cは、CD3
+細胞をCD3/CD28抗体で刺激する前(左プロット)および後(右プロット)のCD4およびCD8の発現を示す一連のフローサイトメトリープロットである。CD4およびCD8単一陽性細胞の割合が、刺激前と比較して刺激後に高いことに注目されたい。
図1Dは、OP9-DL1ストロマ細胞(左プロット、55.4% TCRgd
+)または本明細書に記載されるストロマフリー法(右プロット、5.71% TCRgd
+)を使用して分化させたT細胞上のTCRgdの発現(例えば、先天性様T細胞またはガンマデルタT細胞のマーカーとして)を示す一連のフローサイトメトリープロットである。ストロマフリー法を使用したTCRgd
+先天性様T細胞の割合が、OP9-DL1ストロマ細胞法と比較して低いことに注目されたい。
【
図2A】
図2A~2Dは、iPSC由来キメラ抗原受容体(CAR)T細胞の作製を示す一連の概略図およびプロットである。
図2Aは、iPSC HSPCへの抗CD19 CARの導入を示す概略図である;T細胞分化は、CAR iPS-T細胞の集団をもたらす。
図2Bは、T細胞分化を受けていなかった非形質導入(UTD)対照細胞(左プロット、0.95% mCherry
+);T細胞分化を受けていなかったCD19 CAR形質導入細胞(中央プロット、64.3% mCherry
+);およびT細胞分化後のCD19 CAR形質導入細胞(右プロット、80.9% mCherry
+)における、mCherryの発現(例えば、CD19 CARのマーカーとして)を示す一連のフローサイトメトリープロットである。mCherryの発現(例えば、CD19 CARのマーカーとして)が分化の間維持されたことに注目されたい。
図2Cは、培養中1週間のUTD対照およびCAR形質導入細胞のT細胞拡大を示す線グラフである。
図2Dは、刺激なしのCAR-iPSC T細胞(左プロット;32.0% CD8
- CD107a
-、55.0% CD8
+ CD107a
-、7.14% CD8
- CD107a
+、5.39% CD8
+ CD107a
+);CD19-K562細胞で刺激されたUTD-iPSC T細胞(中央プロット;28.0% CD8
- CD107a
-、50.2% CD8
+ CD107a
-、11.7% CD8
- CD107a
+、10.1% CD8
+ CD107a
+);およびCD19-K562細胞で刺激されたCAR-iPSC T細胞(右プロット;29.1% CD8
- CD107a
-、10.7% CD8
+ CD107a
-、29.8% CD8
- CD107a
+、30.4% CD8
+ CD107a
+)における、CD8およびCD107aの発現(例えば、免疫細胞活性化および細胞傷害性脱顆粒のマーカーとしてのCD107aを伴う)を示す一連のフローサイトメトリープロットである。未刺激のCAR-iPSC T細胞および刺激されたUTD-iPSC T細胞と比較して、刺激されたCAR-iPSC T細胞におけるCD107aの発現が増加したことに注目されたい。
【
図3A】
図3A~3Bは、(
図3A)TCRの機能および活性に関与するT細胞シグネチャ遺伝子、および(
図3B)αβ T細胞とγδ T細胞とを識別する遺伝子の発現レベルを示す一連のヒートマップである。abT、末梢血αβ T細胞;gdT、末梢血γδ T細胞;NK、末梢血NK細胞;conT_OP9、OP9-DL4共培養系を使用したipsc由来T細胞;conT_SF、ストロマフリーipsc-T細胞;CB_T、本明細書に記載されるストロマフリー法を使用して臍帯血CD34+ HSPCから分化させたT細胞;EZ_T、EZH1ノックダウンを伴うストロマフリーipsc-T細胞。
図3Aと3Bの両方において、EZ_T細胞は、ドナーの末梢血からのアルファベータT細胞(abT;各ヒートマップの最後の6カラムを参照のこと)に最も類似した遺伝子発現プロファイルを示す一方で、他のiPSC由来T細胞は、先天性様細胞(例えば、ガンマデルタTまたはNK細胞)により類似していることに注目されたい。
図3A~3Bのデータに基づき、ピアソンの相関係数がEZ-TとabTとの間で0.8886の値として計算された。この値は、-1~1の範囲にあることができ、1は、完全正相関である。この結果は、EZ-T細胞が、PBMCアルファベータT細胞に高度に類似していることを示す。
【
図4】
図4は、EZ-T細胞が多様なTCRレパートリーを示していることを示す一連の概略図である。EZ-T細胞は、本明細書に記載されるようなEZH1阻害およびストロマフリーT細胞分化を含む、CD34+ HEから分化させたT細胞のことを指す。TCRベータ鎖シーケンシングをEZ-T細胞に対して実施して、T細胞分化の間のランダムなTCR遺伝子組換えの結果として数万の固有のTCR再構成が特定された。円グラフ(左)は、EZ-T細胞におけるT細胞受容体ベータ鎖可変(TCRBV)遺伝子ファミリーの利用割合を示す。各陰影部は、1つのTCRBVファミリーを表す。有効シンプソンクロナリティ値は、0.0233であり、このことは、高度に多様なTCRレパートリーを示している。
【
図5A】
図5A~5Dは、EZ-T細胞が、対照のPSC-T細胞よりも長いCDR3セグメントを有することを示す一連の概略図およびグラフである。CDR3は、TCRの最も可変な領域であり、その長さは、TCR再構成の間にヌクレオチドをランダムに付加するTdT酵素の活性によって決定され得る。
図5Aは、TdTの活性を示す概略図である(例えば、SEQ ID NO:49~50を参照のこと)。CDR3が、成熟PBMC T細胞と比較して、未熟なT細胞およびiPSC由来T細胞においてより短いことが報告されている。
図5B~5Eは、ある特定の長さ(
図5Bは、6~27ヌクレオチド(nt)のCDR長を示す;
図5Cは、30~54ntのCDR長を示す;
図5Dは、57~78ntのCDR長を示す)を有する、生産的TCR再構成の割合を示す一連の棒グラフである(例えば、各生産的TCR再構成は、固有のTCR鎖へと翻訳され得る)。
図5B~5Eは、EZ-T細胞(暗灰色、各群中の左棒)が、対照iPSC由来T細胞(明灰色、各群中の右棒;対照iPSC-T細胞は、EZH1ノックダウンなしでストロマフリー分化法を使用して分化させた)と比較して増加したCDR3長を示し、PBMC T細胞(中間の灰色、各群中の中央棒)により類似していたことを実証する。
【
図6】
図6は、本明細書に記載されるようなストロマフリーT細胞分化法を使用した、T細胞特異化を促進するエピジェネティック因子の低分子阻害剤の一次スクリーニングを示す概略図である。「5F細胞」は、5つの転写因子(HOXA9、ERG、RORA、SOX4およびMYB)を発現する細胞のことを指す。ケイマン(Cayman)のエピジェネティックライブラリーは、種々のエピジェネティックな「ライターおよびイレーサー」と「リーダー」タンパク質の活性をモジュレートすることが知られている140を超える低分子を含有する。ライブラリーは、メチルトランスフェラーゼ、デメチラーゼ、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼ、およびアセチル化ヒストン結合タンパク質の活性をモジュレートする化合物を含み得る;例えば、caymanchem.com/product/11076/epigenetics-screening-library-(96-well)を参照のこと。
【
図7】
図7は、
図6に記載したスクリーニングからの一次ヒットの特定を示している散布図である。Zスコアが、すべての低分子について処理後のT前駆体の数に基づき計算された。3を超えるZスコアを有する任意の低分子が一次ヒットと見なされた。例えば、表2を参照のこと。
【
図8】
図8は、5F HSPCから作製されたProT細胞を
図7で特定された一次ヒットで処理した後の変化倍率を示す棒グラフである(例えば、表2を参照のこと)。3つの低分子:UNC0224、MC1568およびCAY10591が、T細胞特異化を促進すると確認された。
【
図9】
図9は、T細胞分化の促進についてエピジェネティック因子の低分子阻害剤を試験するための、野生型iPSC由来CD34+造血内皮細胞(HE)細胞(5F HSPCではない、例えば、
図6~9および表2において使用されるとおり)を使用した二次スクリーニングを示す概略図である。
【
図10A】
図10A~10Bは、
図9からのスクリーニングの結果を示す一連のグラフである。
図10Aは、すべての低分子について処理後のT前駆体の数に基づき計算されたZスコアの散布図である。3を超えるZスコアを有する任意の低分子が一次ヒットと見なされた。
図10Bは、一次ヒットの検証を示す棒グラフである。一次ヒットは3連で試験された。UNC0224処理は、CD34+ HE細胞から作製されたProT細胞の有意な増加を導いた。
【
図11】
図11は、2つの独立したスクリーニングが、T細胞特異化を増強するUNC0224を特定したことを示す概略図である。例えば、
図6~10、表2を参照のこと。
【
図12】
図12A~12Bは、UNC0224が、T細胞特異化を用量依存的に促進することを示す一連の概略図およびグラフである。
図12Aは、実験をまとめた概略図である(例えば、
図6~11、表2を参照のこと)。
図12Bは、CD34+ HE細胞から作製されたProT細胞を異なる用量のUNC0224で処理した後の変化倍率を示す棒グラフである。
【
図13A】
図13A~13Fは、G9阻害剤が、本明細書に記載されるようなストロマフリー分化法を使用したT細胞分化を促進することを示す一連の概略図およびグラフである。
図13Aは、実験をまとめた概略図である(例えば、
図6~12、表2を参照のこと)。
図13B~13Eは、CD34+ HE細胞から作製されたProT細胞を異なる用量の他のG9a阻害剤で処理した後の変化倍率を示す棒グラフである。
図13Bは、UNC0638に対するT細胞分化の用量反応を示す。
図13Cは、A366に対するT細胞分化の用量反応を示す。
図13Dは、BRD4770に対するT細胞分化の用量反応を示す。
図13Eは、BIX01294に対するT細胞分化の用量反応を示す。
図13Fは、UNC0642に対するT細胞分化の用量反応を示す。UNC0224に加えて、少なくとも4つの低分子:UNC0638;BRD4770;BIX01294;およびUNC0642が、T細胞分化を促進可能である;例えば、表3を参照のこと。
【
図14A】
図14A~14Cは、UNC0224が、赤血球系/骨髄球系分化能を犠牲にして、T細胞コミットメントを増強することを示す一連の概略図およびグラフである。
図14Aは、UNC0224がT細胞分化に特異的に影響を及ぼすかどうかの試験を示す概略図である。iPSC由来CD34+ HE細胞をUNC0224で処理して、CD34+CD45+造血幹細胞・前駆細胞(HSPC)に分化させた。これらのHSPCを使用してT細胞、赤血球系細胞および骨髄球系細胞を作製し、それらの多能性を判定した。
図14Bは、CD34+CD45+ HSPC細胞から作製されたProT細胞をUNC0224(500nM)で処理した後の変化倍率を示す棒グラフである。UNC0224処理が、CD5+CD7+ ProT細胞の有意な増加をもたらすことに注目されたい。
図14Cは、コロニー形成単位(CFU)アッセイにおいてCD34+CD45+ HSPCから生成した異なる種類のコロニーの数を示す棒グラフである。E、赤血球系;M、マクロファージ;G、顆粒球;GM、顆粒球/マクロファージ;GEMM、顆粒球/赤血球系/マクロファージ/巨核球。UNC0224処理が、赤血球系または骨髄球系列細胞の有意な減少をもたらすことに注目されたい。
【
図15A】
図15A~15Cは、UNC0224が、細胞増殖よりもむしろT細胞特異化を促進することを示す一連のグラフである。図
15Aは、CD34+CD45+ HSPC細胞から作製されたProT細胞をUNC0224(500nM)で処理した後の変化倍率を示す棒グラフである。UNC0224処理が、CD5+CD7+ ProT細胞の有意な増加をもたらすことに注目されたい。図
15Bは、DMSOまたはUNC0224で処理されたCD34+CD45+ HSPCの14日間のT細胞分化後の総細胞数の変化倍率を示す棒グラフである。UNC0224処理が、総細胞の有意な減少をもたらすことに注目されたい。図
15Cは、DMSOまたはUNC0224で処理されたCD34+CD45+ HSPCから作製されたProT細胞の割合を示す棒グラフである。UNC0224処理が、CD5+CD7+ ProT細胞の割合の有意な増加をもたらすことに注目されたい。N=3、**** P>0.0001。
【
図16】
図16は、H3K9メチル化およびT細胞分化に関する例示的な仮説を示す概略図である。理論に拘束されることを望むわけではないが、H3K9メチル化は、リンパ系遺伝子の抑制を媒介することが予想される。したがって、H3K9メチル化の阻害剤による処理(例えば、
図6~15、表2~3を参照のこと)は、例えば、本明細書に記載されるようなストロマフリーT細胞分化法を使用した際に、T細胞分化を促進する。
【
図17】
図17は、ストロマフリー法を使用したCD3
+ T細胞の分化を示す概略図である。簡潔に述べると、非組織培養処理プレートを組換えヒトDL1/DL4-Fcタンパク質(PBS中10ug/ml、室温で3時間)で被覆する。人工多能性幹細胞(iPSC)由来の造血幹細胞・前駆細胞(HSPC;例えば、CD34
+造血内皮細胞)を、notchリガンド(例えば、デルタ様古典的Notchリガンド4(DLL4))被覆プレート上、IL-7、幹細胞因子(SCF)、Flit3およびトロンボポエチン(TPO)を含む培地中で培養する。2週間後、CD5
+CD7
+ T細胞前駆体(ProT)が分化する。ProT細胞は、DLL4被覆プレート内、IL-7、SCFおよびFlit3を含む培地中で分化を継続する;さらに3週間ほどの後、CD3
+ T細胞は分化していた。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0125
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0125】
本明細書に開示されるようなリプログラミングされた体細胞は、アルカリホスファターゼ(AP);ABCG2;ステージ特異的胚抗原-1(SSEA-1);SSEA-3;SSEA-4;TRA-1-60;TRA-1-81;Tra-2-49/6E;ERas/ECAT5、E-カドヘリン;ベータ-III-チューブリン;アルファ-平滑筋アクチン(α-SMA);線維芽細胞成長因子4(Fgf4)、Cripto、Dax1;ジンクフィンガータンパク質296(Zfp296);N-アセチルトランスフェラーゼ-1(Nat1);ES細胞関連転写物1(ECAT1);ESG1/DPPA5/ECAT2;ECAT3;ECAT6;ECAT7;ECAT8;ECAT9;ECAT10;ECAT15-1;ECAT15-2;Fthl17;Sal14;未分化胚細胞転写因子(Utf1);Rex1;p53;G3PDH;TERTを含むテロメラーゼ;サイレントX染色体遺伝子;Dnmt3a;Dnmt3b;TRIM28;Fボックス含有タンパク質15(Fbx15);Nanog/ECAT4;Oct3/4;Sox2;Klf4;c-Myc;Esrrb;TDGF1;GABRB3;Zfp42、FoxD3;GDF3;CYP25A1;発生多能性関連2(DPPA2);T細胞リンパ腫切断点1(Tcl1);DPPA3/Stella;DPPA4;多能性に関する他の一般的マーカーなどを含む、いくつもの多能性細胞マーカーを発現することができる。他のマーカーは、Dnmt3L;Sox15;Stat3;Grb2;β-カテニン、およびBmi1を含むことができる。そのような細胞はまた、人工多能性幹細胞が誘導される元となる体細胞に特徴的なマーカーのダウンレギュレーションによって特徴付けることもできる。一態様では、iPSCは、成熟の分化した体細胞から誘導される。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0205
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0205】
siRNAはまた、低分子ヘアピン型(ステムループとも呼ばれる)RNA(shRNA)も含む。一態様では、これらのshRNAは、短い(例えば、約19~約25ヌクレオチド)アンチセンス鎖に続く、約5~約9ヌクレオチドのヌクレオチドループ、および類似のセンス鎖から構成される。あるいは、センス鎖が、ヌクレオチドループ構造に先行する場合があり、アンチセンス鎖が後続する場合がある。これらのshRNAは、プラスミド、レトロウイルス、およびレンチウイルス中に含有され、例えばpol III U6プロモーター、または別のプロモーターから発現される場合がある(例えば、Stewart, et al. (2003) RNA April; 9(4):493-501を参照されたく、これはその全体が参照により本明細書に組み入れられる)。RNA干渉物質の標的遺伝子または配列は、細胞遺伝子またはゲノム配列、例えば、G9a/GLPまたはEZH1配列であり得る。siRNAは、標的遺伝子もしくはゲノム配列、またはその断片と実質的に相同であり得る。これに関連して使用される場合、用語「相同である」は、標的のRNA干渉を引き起こすために、標的mRNAまたはその断片と実質的に同一、十分に相補的、または類似であるものと定義される。天然のRNA分子に加えて、標的配列の発現を阻害または干渉するために適したRNAは、RNA誘導体および類似体を含む。好ましくは、siRNAは、その標的と同一である。siRNAは、好ましくは1つの配列のみを標的とする。siRNAなどのRNA干渉物質の各々は、潜在的オフターゲット効果について、例えば発現プロファイリングによってスクリーニングすることができる。そのような方法は、当業者に公知であり、例えば、Jackson et al. Nature Biotechnology 6:635-637, 2003に記載されている。発現プロファイリングに加えて、配列データベースにおいて類似配列について潜在的標的配列をスクリーニングして、オフターゲット効果を有し得る潜在配列を特定してもよい。例えば、配列が同一な15個、またはおそらくわずか11個の連続ヌクレオチドが、非標的転写物のサイレンシングを指示するために十分である。したがって、潜在的オフターゲットサイレンシングを回避するために、最初に、BLASTなどの任意の公知の配列比較法による配列同一性分析を使用して、提案されたsiRNAをスクリーニングしてもよい。siRNA配列は、RISCへのsiRNAのアンチセンス(ガイド)鎖の取り込みを最大化し、それにより、RISCがG9a/GLPまたはEZH1 mRNAを分解のために標的とする能力を最大化するように選択される。これは、アンチセンス鎖の5'末端で最低の結合自由エネルギーを有する配列についてスキャンすることによって達成することができる。より低い自由エネルギーは、siRNA二重鎖のアンチセンス鎖の5'端の巻き戻しの増強をもたらし、それにより、アンチセンス鎖がRISCによって取り込まれ、ヒトG9a/GLPまたはEZH1 mRNAの配列特異的切断を指示することを確実にする。siRNA分子は、RNAのみを含有する分子に必ずしも限られず、例えば、化学修飾されたヌクレオチドおよび非ヌクレオチドをさらに包含し、リボース糖分子が、別の糖分子または類似の機能を果たす分子に置換された分子も含む。そのうえ、ヌクレオチド残基間にホスホロチオエート結合などの非天然結合を使用することができる。RNA鎖は、フルオロフォアなどのレポーター基の反応性官能基で誘導体化することができる。特に有用な誘導体は、RNA鎖の1つまたは複数の末端で、典型的にはセンス鎖の3'末端で修飾されている。例えば、3'末端の2'-ヒドロキシルを、種々の基で容易にかつ選択的に誘導体化することができる。他の有用なRNA誘導体は、2' O-アルキル化残基または2'-O-メチルリボシル誘導体および2'-O-フルオロリボシル誘導体などの修飾糖質部分を有するヌクレオチドを組み込んでいる。RNA塩基も修飾される場合がある。標的配列の発現を阻害または干渉するために有用な任意の修飾塩基が、使用され得る。例えば、5-ブロモウラシルおよび5-ヨードウラシルなどのハロゲン化塩基を組み込むことができる。塩基がアルキル化される場合もあり、例えば、7-メチルグアノシンをグアノシン残基の代わりに組み込むことができる。成功した阻害をもたらす非天然塩基も組み込むことができる。好ましいsiRNA修飾は、2'-デオキシ-2'-フルオロウリジンまたはロックド核酸(LNA)ヌクレオチド、およびホスホジエステルまたは様々な数のホスホロチオエート結合のいずれかを含有するRNA二重鎖を含む。そのような修飾は、当業者に公知であり、例えば、Braasch et al., Biochemistry, 42: 7967-7975, 2003に記載されている。アンチセンスオリゴヌクレオチド技法のために確立された化学反応を使用して、siRNA分子に有用な修飾の大部分を導入することができる。好ましくは、修飾は、最低限の2'-O-メチル修飾を含み、好ましくは修飾から2'-O-メチル修飾を除外する。好ましくは修飾からsiRNAの遊離5'-ヒドロキシル基の修飾も除外する。本明細書における実施例は、mRNAを効果的に標的とするshRNA分子などのRNA干渉物質の具体例を提供する。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0221
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0221】
事実上、骨髄中の造血幹細胞(HSC)は、骨髄球系共通前駆体(CMP)およびリンパ球系共通前駆体(CLP)に分化する前に複能性前駆体(MPP)を生じる。CLPは、骨髄から胸腺に遊走し、そこで、デルタ様リガンド4(DLL4)を発現する胸腺上皮細胞が、初期胸腺前駆体(ETP)において古典的Notch 1シグナル伝達をトリガーする。このNotch 1シグナルは、T細胞系列の決定に不可欠であり、初期胸腺細胞分化の間、ダブルネガティブ3(DN3)期までさらに必要とされる。これらの初期T細胞発生の間の活性Notchシグナル伝達は、B細胞および骨髄球系細胞(樹状細胞(DC)を含む)分化能などの他の系列分化能を阻害する。β-選択の間に、Notchシグナル伝達は、プレT細胞受容体シグナル伝達の結果として解除される。したがって、その後のT細胞発生段階は、非常に低いレベルのNotchシグナル伝達を示す。Notchは、制御性T(TReg)細胞(具体的には、胸腺TReg細胞)の発生に影響することも示唆された。Notchシグナル伝達は、Notch 2受容体によって媒介される。Notchシグナル伝達経路は、脊椎動物種および無脊椎動物種の両方で高度に保存されており、これは、多くの異なる細胞運命の決定を調節する。これは、神経発生、血管新生または筋形成などの発生途中のパターン形成に重要であり、T細胞発生および幹細胞維持を調節する。Notchシグナル伝達はまた、成人期にわたる細胞過程に関与する。Notchを介したシグナル伝達は、隣接細胞の間で起こり、受容体およびそのリガンドの両方は、膜貫通タンパク質である。例えば、Schmitt T.M., Zuniga-Pflucker (Zuniga-Pflucker) J.C. (2002) Induction of T cell development from hematopoietic progenitor cells by delta-like-1 in vitro. Immunity 17:749-756;Mohtashami M. (2010) Direct Comparison of Dll1- and Dll4-Mediated Notch Activation Levels Shows Differential Lymphomyeloid Lineage Commitment Outcomes. J Immunol. 185(2):867-76;Ohishi K et al, Delta-1 enhances marrow and thymus repopulating ability of human CD34(+) CD38(-) cord blood cells. J Clin Invest. 2002 Oct;110(8):1165-74;および Dallas MH et al. Density of The Notch ligand Delta1 determines generation of B and T cell precursors from hematopoietic stem cells J Exp Med. 2005 May 2; 201(9): 1361-1366を参照されたく、これらは、参照により本明細書に組み入れられる。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0240
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0240】
いくつかの態様では、Notchリガンドは、ヒトDLL4の細胞外ドメインを含み、これは、DLL4のアミノ酸1~526、またはDLL4のアミノ酸1~524、またはDLL4のアミノ酸27~524に相当する(例えば、DLL4の完全長配列についてはSEQ ID NO:9を参照のこと)。いくつかの態様では、ヒトDLL4の細胞外ドメインは、SEQ ID NO:10、またはSEQ ID NO:10の配列に対して少なくとも85%、少なくとも87%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%同一であり、SEQ ID NO:10と同じ機能(例えば、Notch受容体への結合および/または活性化)を維持するアミノ酸配列を含む。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0287
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0287】
T細胞シグネチャ遺伝子の非限定的な例としては、GRB2(成長因子受容体結合タンパク質2);NFATC3(活性化T細胞核内因子3);ZAP70(T細胞受容体関連タンパク質キナーゼのゼータ鎖70);RAF1(Raf-1がん原遺伝子、セリン/トレオニンキナーゼ);PIK3CG(ホスファチジルイノシトール-4,5-ビスリン酸3-キナーゼ触媒サブユニットガンマ);PIK3R1(ホスホイノシチド-3-キナーゼ調節サブユニット1);CALM3(カルモジュリン3);PTPN7(タンパク質チロシンホスファターゼ非受容体7型);LAT(T細胞活性化リンカー);NFKBIA(NFKB阻害剤アルファ);VAV1(Vavグアニンヌクレオチド交換因子1);SHC1(SHC(Srcホモロジー2ドメイン含有)アダプタータンパク質1);PRKCB(タンパク質キナーゼCベータ);MAP2K4(分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼキナーゼ4);MAP2K1(分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼキナーゼ1);RAC1(Racファミリー低分子量GTPase 1);FYN(Fynがん原遺伝子、Srcファミリーチロシンキナーゼ);RELA(RELAがん原遺伝子、NF-KBサブユニット、v-relトリ細網内皮症ウイルスがん遺伝子ホモログA);LCK(Lckがん原遺伝子、Srcファミリーチロシンキナーゼ);CALM2(カルモジュリン2);CD3D(CD3抗原、デルタサブユニット);CALM1(カルモジュリン1);CD247(T細胞表面糖タンパク質CD3ゼータ鎖);CD3E(T細胞表面糖タンパク質CD3イプシロン鎖);CD3G(T細胞表面糖タンパク質CD3ガンマ鎖);FOS(Fosがん原遺伝子、AP-1転写因子サブユニット);PIK3CA(ホスファチジルイノシトール-4,5-ビスリン酸3-キナーゼ触媒サブユニットアルファ);PLCG1(ホスホリパーゼCガンマ1);SOS1(セブンレスの息子ホモログ1、SOS Ras/Racグアニンヌクレオチド交換因子1);ELK1(ETS転写因子ELK1);PPP3CC(タンパク質ホスファターゼ3触媒サブユニットガンマ);MAP3K1(分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼキナーゼキナーゼ1);PPP3CA(タンパク質ホスファターゼ3触媒サブユニットアルファ);NFKB1(核内因子カッパBサブユニット1);NFATC2(活性化T細胞核内因子2);NFATC1(活性化T細胞核内因子1、AP-1転写因子サブユニット);JUN(Junがん原遺伝子
);MAPK8(分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ8);RASA1(RAS P21タンパク質活性化因子1);PPP3CB(タンパク質ホスファターゼ3触媒サブユニットベータ);PRKCA(タンパク質キナーゼCアルファ);MAPK3(分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ3);およびNFATC4(活性化T細胞核内因子4)が挙げられる(例えば、
図3Aを参照のこと)。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0302
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0302】
腫瘍抗原は、免疫応答、特にT細胞媒介免疫応答を惹起する腫瘍細胞によって産生されるタンパク質である。本発明の抗原結合ドメインの選択は、処置しようとするがんの特定の種類に依存する。腫瘍抗原は、当技術分野において周知であり、例えば、神経膠腫関連抗原、がん胎児性抗原(CEA)、EGFRvIII、IL-11Ra、IL-13Ra、EGFR、B7H3、Kit、CA-IX、CS-1、MUC1、BCMA、bcr-abl、HER2、β-ヒト絨毛性ゴナドトロピン、アルファフェトタンパク質(AFP)、ALK、CD19、CD123、サイクリンB1、レクチン反応性AFP、Fos関連抗原1、ADRB3、サイログロブリン、EphA2、RAGE-1、RU1、RU2、SSX2、AKAP-4、LCK、OY-TES1、PAX5、SART3、CLL-1、フコシルGM1、GloboH、MN-CA IX、EPCAM、EVT6-AML、TGS5、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素、ポリシアル酸、PLAC1、RU1、RU2(AS)、腸内カルボキシルエステラーゼ、ルイスY、sLe、LY6K、mut hsp70-2、M-CSF、MYCN、RhoC、TRP-2、CYP1B1、BORIS、プロスターゼ(prostase)、前立腺特異的抗原(PSA)、PAX3、PAP、NY-ESO-1、LAGE-1a、LMP2、NCAM、p53、p53変異体、Ras変異体、gp100、プロステイン、OR51E2、PANX3、PSMA、PSCA、Her2/neu、hTERT、HMWMAA、HAVCR1、VEGFR2、PDGFR-ベータ、レグマイン、HPV E6、E7、サバイビンおよびテロメラーゼ、精子タンパク質17、SSEA-4、チロシナーゼ、TARP、WT1、前立腺がん腫瘍抗原-1(PCTA-1)、ML-IAP、MAGE、MAGE-A1、MAD-CT-1、MAD-CT-2、メランA/MART1、XAGE1、ELF2M、ERG(TMPRSS2 ETS融合遺伝子)、NA17、好中球エラスターゼ、肉腫転座切断点、NY-BR-1、エフリンB2、CD20、CD22、CD24、CD30、CD33、CD38、CD44v6、CD97、CD171、CD179a、アンドロゲン受容体、インスリン成長因子(IGF)-I、IGF-II、IGF-I受容体、GD2、o-アセチル-GD2、GD3、GM3、GPRC5D、GPR20、CXORF61、葉酸受容体(FRa)、葉酸受容体ベータ、ROR1、Flt3、TAG72、TN Ag、Tie 2、TEM1、TEM7R、CLDN6、TSHR、UPK2、ならびにメソテリンが挙げられる。好ましい態様では、腫瘍抗原は、葉酸受容体(FRa)、メソテリン、EGFRvIII、IL-13Ra、CD123、CD19、CD33、BCMA、GD2、CLL-1、CA-IX、MUC1、HER2、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される;例えば、米国特許出願公開第20170209492号および第20180022795号を参照されたく、その各々の内容は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0310
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0310】
血液疾患は、主に血液に影響を及ぼす障害である。非限定的なそのような疾患または障害としては、異常ヘモグロビン症(ヘモグロビン分子またはヘモグロビン合成速度の先天性異常)、鎌状赤血球症、サラセミア、およびメトヘモグロビン血症などの骨髄球系由来の障害;貧血(赤血球またはヘモグロビンの欠如)、悪性貧血;細胞数の減少を招く障害、例えば、骨髄異形成症候群、好中球減少症(好中球の数の減少)、および血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、血小板増加症、リンパ腫、骨髄腫および白血病などの血液悪性腫瘍が挙げられる。ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、バーキットリンパ腫、未分化大細胞リンパ腫、脾臓辺縁帯リンパ腫、肝脾T細胞リンパ腫、および血管免疫芽細胞性T細胞リンパ腫(AILT)などのリンパ腫;多発性骨髄腫、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、形質細胞腫などの骨髄腫;急性リンパ球白血病(ALL)、慢性リンパ球白血病(CLL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性特発性骨髄線維症(MF)、慢性骨髄性白血病(CML)、T細胞前リンパ球白血病(T-PLL)、B細胞前リンパ球白血病(B-PLL)、慢性好中球性白血病(CNL)、ヘアリー細胞白血病(HCL)、T細胞大型顆粒リンパ球白血病(T-LGL)、および侵攻性NK細胞白血病などの欠陥WBCを増加させる白血病。
【手続補正9】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0380
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0380】
レトロウイルスは、その複製サイクルの途中に逆転写酵素を利用するRNAウイルスである。用語「レトロウイルス」は、任意の公知のレトロウイルス(例えば、モロニーマウス肉腫ウイルス(MoMSV)、ハーベイマウス肉腫ウイルス(HaMuSV)、マウス乳がんウイルス(MuMTV)、テナガザル白血病ウイルス(GaLV)、ネコ白血病ウイルス(FLV)、スプーマウイルスなどのc型レトロウイルス)のことを指す。
【手続補正10】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0437
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0437】
2. 各ディッシュから培地を吸引する。0.22umで濾過したDMEM/F12中に希釈した1×コラゲナーゼIV 5mLに置換する。
【手続補正11】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0452
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0452】
4. 培地を吸引し、D3培地(10mL/10cmディッシュ)に再懸濁し、次いで、超低接着ディッシュに穏やかに戻す。
【国際調査報告】