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特表2023-5114327-デアセチル-フォルスコリンとPVPの複合体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-17
(54)【発明の名称】7-デアセチル-フォルスコリンとPVPの複合体
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/35 20060101AFI20230310BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20230310BHJP
   A61K 9/72 20060101ALI20230310BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230310BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20230310BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20230310BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20230310BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20230310BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20230310BHJP
   A61K 47/58 20170101ALI20230310BHJP
   C07D 311/78 20060101ALN20230310BHJP
【FI】
A61K31/35
A61K47/32
A61K9/72
A61K9/08
A61P9/00
A61P11/06
A61P3/04
A61P27/06
A61P19/02
A61K47/58
C07D311/78
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022544732
(86)(22)【出願日】2021-01-22
(85)【翻訳文提出日】2022-09-22
(86)【国際出願番号】 EP2021051499
(87)【国際公開番号】W WO2021148633
(87)【国際公開日】2021-07-29
(31)【優先権主張番号】20153429.4
(32)【優先日】2020-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512031482
【氏名又は名称】サイファーム ソシエテ ア レスポンサビリテ リミテ
【氏名又は名称原語表記】SciPharm S.a r.l.
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100163784
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 健志
(72)【発明者】
【氏名】クービン,アンドレアス
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076AA93
4C076BB01
4C076BB13
4C076BB27
4C076CC10
4C076CC11
4C076CC15
4C076CC21
4C076CC41
4C076CC50
4C076EE16
4C076EE16A
4C076EE16E
4C076EE59
4C076FF15
4C076FF31
4C076FF34
4C076FF68
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA08
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA17
4C086MA52
4C086MA55
4C086MA66
4C086NA02
4C086NA05
4C086NA11
4C086ZA33
4C086ZA36
4C086ZA59
4C086ZA70
4C086ZA96
(57)【要約】
本発明の目的は、7-デアセチル-フォルスコリン(7-DAFSK)とポリビニルピロリドン(PVP)の複合体である。さらに、本発明は、このような7-DAFSK-PVP複合体を調製するための方法およびこのような複合体を含有する医薬組成物にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
7-デアセチル-フォルスコリン(7-DAFSK)及びポリビニルピロリドン(PVP)の複合体。
【請求項2】
PVPが、1~40kD、好ましくは2~25kD、特に好ましくは約2.5kDの、重量平均モル質量に対する平均モル質量を有することを特徴とする、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
7-DAFSKが、合成フォルスコリンに由来することを特徴とする、請求項1又は2に記載の複合体。
【請求項4】
複合体全体における7-DAFSKの平均質量分率が、1~50重量%の範囲内、好ましくは30重量%以上であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項5】
7-DAFSK及びPVPの混合物が、使用されるPVPのガラス転移温度を上回る温度に加熱されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の複合体の調製のためのプロセス。
【請求項6】
溶媒、好ましくは水、エタノール、メタノール、アセトン、エチルメチルケトン、ジクロロメタン、及び/又は酢酸エチル、より好ましくは水、エタノール、メタノール、プロパノール、及び/又はジクロロメタン、さらにより好ましくは水及び/若しくはエタノール又はその混合物が、7-DAFSK及びPVPの混合物に加えられることを特徴とする、請求項5に記載のプロセス。
【請求項7】
前記混合物が、使用されるPVPのガラス転移温度を上回る温度で、少なくとも5分間保たれることを特徴とする、請求項5又は6に記載のプロセス。
【請求項8】
a)7-DAFSK及びPVPの混合物を調製し、溶媒、好ましくはアルコール、好ましくはエタノールを該混合物に加えるステップ、
b)水又は水溶液を加えるステップ、
c)混合物を、PVPのガラス転移温度を上回って、少なくとも5分間加熱するステップ、
d)混合物を冷却し、水又は水溶液に溶解するステップ、
e)溶解しなかった成分を、任意選択で、濾過することによって除去するステップ
を含む、請求項5~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか1項に記載の複合体を含む、医薬組成物。
【請求項10】
医薬としての使用のための、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記組成物が、少なくとも25mg/L、好ましくは、少なくとも100mg/mL、250mg/mL、500mg/mL、1000mg/mL、2000mg/mL、3000mg/mL、又は4000mg/mL、特に好ましくは4000mg/mLの濃度で7-DAFSKを含有することを特徴とする、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項12】
静脈内、経口、又は吸入投与のための、請求項9又は11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
治療法における使用のための、請求項9~12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
心血管疾患、気管支喘息、肥満症、緑内障、肺疾患、関節の炎症、又は変形性関節症/関節炎の治療における使用のための、請求項9~13のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、7-デアセチル-フォルスコリン(7-DAFSK)とポリビニルピロリドン(PVP)の複合体およびこのような複合体を調製するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジテルペンフォルスコリンは、Plectranthus barbatus(コレウス・フォルスコリ)由来の実質的に水不溶性植物化合物である。フォルスコリンは、心血管疾患、気管支喘息、肥満症、緑内障の治療、肺疾患、関節の炎症、および変形性関節症/関節炎を含む多目的な医学的適用に主眼を置いている。フォルスコリンは、関節における軟骨形成を促進し、同時に骨化および石灰化を予防する。さらに、フォルスコリンは、分化および多能性への回帰に関する幹細胞研究において検討されている。
【0003】
フォルスコリンは、膜結合酵素であるアデニリルシクラーゼを活性化する。アデニリルシクラーゼは、アデノシン三リン酸(ATP)を環状アデノシン一リン酸(cAMP)に変換し、cAMPを細胞質基質内に放出して、大半の細胞および組織におけるcAMPの細胞内濃度を増加する(Metzger H.他、1981、Drug Research、1248~50ページ)。cAMPは、細胞のシグナル伝達におけるセカンドメッセンジャーとして働き、多くのペプチドホルモン(プロテインキナーゼ)を活性化する役割を果たす。
【0004】
フォルスコリンは、1および9位に2つのα-ヒドロキシ基、6位にβ-ヒドロキシ基、ならびに7位にβ-アセトキシ基を有するジテルペンである。この1および9位の2つのα-ヒドロキシ基は、アデニリルシクラーゼへの結合のために必須である。フォルスコリンは、水に対する溶解性が低いため(0.01mg/mL、WO2005025500A2)、診断用薬剤または治療用薬剤として使用されるための異なる製剤処方を必要としている。このような製剤処方は、アルコールまたはDMSOのような種々の溶媒を含有し、これらの溶媒は、忍容性が高くないことが多く、副作用を招く。
【0005】
文献米国特許第6346273B1号は、ポリビニルピロリドン(PVP)のような非イオン性ポリマーとの複合体形成によって、フォルスコリンのような水溶性の低い薬学的活性物質の水溶性を向上させるための方法を考察している。この文献は、フォルスコリンの水溶性における向上について述べている。
【0006】
フォルスコリンをシクロデキストリンと複合化することによって、フォルスコリンの水溶性の向上が達成される。WO2005025500A2は、水性媒体中でフォルスコリンをシクロデキストリンと複合化するための方法について述べている。
【0007】
WO2017103840A1は、とりわけPVPのような水溶性ポリマーとの複合体形成による水溶性フォルスコリン組成物について述べている。フォルスコリンをそのようなポリマーと混合した後、デンプン溶液を加え、この混合物を加熱し、次に、冷却して噴霧乾燥する。
【0008】
WO2018127600A1は、フォルスコリン-シクロデキストリン複合体を調製するための方法であって、焼結処理に基づいており、この複合体におけるフォルスコリンの含有量の増加、および水溶性の向上を可能にする方法を開示している。
【0009】
フォルスコリンの水溶性を向上させるための別の手法は、化学的誘導体化である。フォルスコリンに比べてより高い水溶性を有するフォルスコリン誘導体は、7-デアセチルフォルスコリンであり、これは、アデニリルシクラーゼに対してフォルスコリンと同様の効果を示す(Laurenza A.他、Molecular Pharmacology1987、32(1)、133~139ページ、Pinto C.他、Biochemical Pharmacology2009、78(1)、62~69ページ)。しかし、フォルスコリンの7位の脱アセチル化は、限られた程度までしか水溶性を向上できない(1mg/mLまで)。
【0010】
したがって、高い水溶性と、それによって改善されたバイオアベイラビリティの両方を特徴とし、高いフォルスコリン誘導体含有量を有する、水溶性が改善されたフォルスコリン誘導体の形態の必要性が存在する。
【0011】
このため、水に対する溶解性を高め、同時に7-デアセチル-フォルスコリンの高い含有量を有する7-デアセチル-フォルスコリンの形態を提供することは、本発明の目的である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の特許請求の範囲および実施形態に記載されるとおり、本発明の目的は、7-デアセチル-フォルスコリン(7-DAFSK)とポリビニルピロリドン(PVP)の複合体によって解決される。
【0013】
本発明は、7-デアセチル-フォルスコリン(7-DAFSK)とポリビニルピロリドン(PVP)の複合体を開示する。
一実施形態において、本発明による複合体は、複合体全体における7-DAFSKの平均質量分率が、1~50wt%の範囲内、好ましくは5、10、15、20、または25wt%、より好ましくは30wt%、35wt%、40wt%、45wt%以上であることを特徴とする。
【0014】
一実施形態において、複合体におけるPVPに対する7-DAFSKの平均モル比は、0.1以上、好ましくは1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60以上、より好ましくは3以上である。
【0015】
一実施形態において、本発明による複合体は、PVPが1~40kDの平均モル質量を有することを特徴とする。前記PVPは、好ましくは1~25kD、より好ましくは約2~3kD、最も好ましくは約2.5kDの平均モル質量を有する。
【0016】
さらなる実施形態において、本発明による複合体は、7-DAFSKが合成フォルスコリンに由来することを特徴とする。
一実施形態において、7-DAFSKは、少なくとも98.5%の純度で存在する。
【0017】
驚くべきことに、7-DAFSK-PVP複合体における7-DAFSKの特に高い質量分率は、7-DAFSKとPVPの混合物を、使用されるPVPのガラス転移温度を上回る温度に加熱することによって得られ得ることがわかった。特に、前記混合物は、前記PVPのガラス転移温度を上回る、少なくとも20℃、好ましくは、少なくとも25℃、30℃、40℃、50℃、60℃、70℃、80℃、90℃、100℃の温度に加熱される。特に、前記温度は、前記PVPのガラス転移温度を上回る、約25~50℃の範囲まで高められる。
【0018】
したがって、本発明は、本発明による7-DAFSK-PVP複合体を調製するための方法であって、7-DAFSKとPVPの混合物が、使用されるPVPのガラス転移温度より高い温度に加熱されることを特徴とする方法も提供する。
【0019】
一実施形態において、本発明によるプロセスは、溶媒、好ましくは水、エタノール、メタノール、アセトン、エチルメチルケトン、ジクロロメタン、および/または酢酸エチル、さらにより好ましくは水、エタノール、メタノール、プロパノール、および/またはジクロロメタンが、7-DAFSKとPVPの混合物に加えられることを特徴とする。
特に好ましくは、水および/もしくはエタノールまたはその混合物が、7-DAFSKとPVPの混合物に加えられる。
【0020】
特定の実施形態において、本発明による混合物は、使用されるPVPのガラス転移温度よりも高い温度で、少なくとも5分間保たれる。
一実施形態において、本発明による方法は、次のステップを含む。
【0021】
a)7-DAFSKとPVPの混合物を調製し、溶媒、好ましくはアルコール、好ましくはエタノールを前記混合物に加えるステップ、
b)水を加えるステップ、
c)前記混合物を、前記PVPのガラス転移温度を上回って、少なくとも5分間加熱するステップ、
d)前記混合物を冷却し、水に溶解するステップ、
e)溶解しなかった成分を、任意選択で、濾過することによって除去するステップ。
【0022】
ある特定の適用形態において、前記混合物は、前記PVPのガラス転移温度を上回る、少なくとも20、25、30、35、40、45、50、55、60℃、70℃、80℃、90℃、100℃に加熱される。
【0023】
本発明による方法の適用は、7-DAFSKの水溶性を顕著に向上させ、高い質量分率の7-DAFSKを含有することもあり、診断および/または治療における7-DAFSKの有益な適用を可能する7-DAFSK-PVP複合体の効率的で簡単な調製を可能にする。
【0024】
本発明による7-DAFSKのPVPとの複合体を用いることで、7-DAFSKの水溶性は、向上され得る。本発明による複合体における7-DAFSKの高い質量分率を使用することによって、7-DAFSKの水溶性は、それによって不都合に大量のPVPを必要とすることなく向上され得る。フォルスコリン誘導体を用いた製剤処方は、このため、以前より材料をより節約した方法で組み立てられることも可能である。大量のPVPおよびそれに伴う副作用を回避することによって、本発明は、診断および/または治療における7-DAFSKの使用を容易にし、また改善する。
【0025】
したがって、本発明は、本発明による7-DAFSK-PVP複合体を含有する医薬組成物も提供する。
一実施形態において、前記医薬組成物は、その組成物が、少なくとも25mg/L、50mg/L、75mg/L、100mg/L、200mg/L、300mg/L、400mg/L、500mg/L、600mg/L、800mg/L、1000mg/L、2000mg/L、3000mg/L、または4000mg/L、好ましくは4000mg/Lの濃度で7-DAFSKを含むことを特徴とする。
【0026】
本発明の一態様は、経口、静脈内、または吸入投与のための医薬組成物に関する。
特定の実施形態において、本発明による医薬組成物は、治療法に使用される。
別の特定の実施形態において、本発明による医薬組成物は、心血管疾患、気管支喘息、肥満症、緑内障、肺疾患、関節の炎症、または変形性関節症/関節炎の治療のために使用される。
【0027】
本発明の一態様は、医薬としての使用のための本発明による医薬組成物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】炭酸ナトリウム(NaCO)によるフォルスコリンの7-DAFSKへの脱アセチル化に関する反応スキームを示す図である。
図2】加熱法および溶解法によって調製されたサンプル中の7-DAFSK-PVP K12および7-DAFSK-PVP K25複合体における7-DAFSKの質量分率の比較を示す図である。
図3】使用されるPVP K12に対するDAFSKの異なる重量比における変換された7-DAFSKの割合を示す図である。
図4】PVP K12に対する7-DAFSKの異なる重量比において7-DAFSK-PVP K12複合体における7-DAFSKの質量分率の比較を示す図である。
図5】7-DAFSK-PVP K12複合体における7-DAFSKの水溶性と質量分率の間の関係を示す図である。
図6】EP2、EP4、およびIP受容体を含有するHEK293細胞を使用したcAMPアッセイを示す図である。細胞は、対照サンプル(トレプロスチニル)、30μMのフォルスコリンDMSO溶液、100μMの7-DAFSK水溶液、および100μMの7-DAFSKを含む7-DAFSK-PVP K12複合体水溶液を用いて刺激された。
【発明を実施するための形態】
【0029】
7-デアセチル-フォルスコリン(7-DAFSK)は、図1に示される構造式によって表され得る。7-DAFSKは、その分子形態以外の形態、例えば塩の形態、例えば、ナトリウム塩またはカリウム塩のようなアルカリ金属塩のような他の形態で存在する場合もある。本発明の文脈において、「7-デアセチル-フォルスコリン(7-DAFSK)」という用語は、図1の構造式で示されるような分子形態および7-DAFSKの塩、好ましくはアルカリ金属塩、特に好ましくはナトリウム塩またはカリウム塩のような全ての他の可能性のある形態のいずれも指す。
【0030】
ポリビニルピロリドン(PVP)、同様にポリビドンまたはポビドンは、化合物ビニルピロリドンのポリマーである。PVPは、様々な重合度で市販されている。重合度は、ポリマーの平均モル質量で決まる。本明細書で使用する場合、「平均モル質量」という用語は、モル質量の質量平均を指す。
【0031】
本発明の文脈において、1~40kDの平均モル質量を有するPVPは、このサイズのポリマーが、依然として腎臓によって十分に排出され得、腎臓による代謝を受けないことから好ましい。
【0032】
一実施形態において、7-DAFSK-PVP複合体は、そのPVPが、1~60kD、特に1~40kDの平均モル質量を有することを特徴とする。好ましくは、PVPは、1~25kD、好ましくは約2~9kD、2~8kD、2~7kD、2~6kD、2~5kD、2~4kD、より好ましくは2~3kD、最も好ましくは約2.5kDの平均モル質量を有する。
【0033】
本明細書で「約」という用語は、特定の値、または特定の値から+/-10%逸脱した値を指す。
PVPの分子量は、モル質量の質量平均を明記する代わりに、粘度測定によって得られ、前記モル質量の粘度平均によって決まるK値によっても定義され得る。約2.5kDの質量平均の分子量を有するPVPは、本明細書では「PVP K12」として示される約12のK値を有するPVPに相当する(K.Kolter他、「Hot-Meld Extrusion with BASF Pharma Polymers」、ISBN978-3-00-039415-7、2012)。約24kDの重量平均の分子量を有するPVPは、本明細書では「PVP K25」として示される約25のK値を有するPVPに相当する。
【0034】
本発明の文脈において、「7-DAFSK-PVP複合体」という用語は、7-DAFSKおよびPVPを含有する化学生成物を指し、7-DAFSKとPVPの間に結合が存在する事実を特徴とする。「複合体」という用語は、化合物の性質を限定することは全くないが、1つまたは複数の7-DAFSK分子と1つまたは複数のPVP分子の間に結合が存在することを単に意味する。前記結合は、例えば、共有結合または、好ましくは、例えば、ファンデルワールス結合または水素結合を介した7-DAFSKのPVPへの非共有結合的付着であってもよい。「7-DAFSK-PVP」または「7-DAFSK-PVP複合体」という用語は、前記化学生成物を全体として含み、分子レベルで単独の7-DAFSK-PVP複合体ではないことを理解されるべきである。
【0035】
「質量分率」および「モル比」という用語は、本明細書において、常に平均値として理解されるべきである。それらの用語は、分子レベルで各個別の複合体を指すのではなく、その化学生成物全体の平均値を指す。
【0036】
本発明において百分率(%)は、別段の指示がない限り、それぞれの場合において重量パーセント(wt%)を指す。
一実施形態において、複合体全体における7-DAFSKの平均質量分率は、1~50wt%、好ましくは2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、または25wt%、より好ましくは30wt%、35wt%、40wt%、45wt%以上である。前記質量分率は、本明細書において、複合体全体(7-DAFSK-PVP)の質量に対する7-DAFSKの質量の相対的割合を反映する。
【0037】
7-DAFSK-PVP複合体における7-DAFSKの割合は、モル比としても表記され得る。例えば、分子の7-DAFSK(モル質量:368.5g/mol)および約2.5kD(「PVP K12」)の平均モル質量を有するPVPからなる7-DAFSK-PVP複合体、複合体全体における7-DAFSKの平均質量分率が30wt%である7-DAFSK-PVP複合体、複合体におけるPVPに対する7-DAFSKの平均モル比が約3である7-DAFSK-PVP複合体。前記平均モル比は、本明細書において、PVPのモル量に対する7-DAFSKのモル量の比率を反映する。
【0038】
本発明の一実施形態において、複合体におけるPVPに対する7-DAFSKの平均モル比は、0.1以上、好ましくは3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60以上、より好ましくは3以上である。
【0039】
複合体全体における7-DAFSKの割合(モル比と同様に質量分率も)は、本明細書において、常に平均割合として理解されるべきである。複合体全体における7-DAFSKの平均割合を測定するための適当な方法は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)である。当業者は、このような測定の作業に精通している。
【0040】
7-DAFSKは、本発明の特定の実施例において説明されるとおり、脱アセチル化反応、例えば、炭酸塩鹸化を使用してフォルスコリンから調製され得る。天然および合成フォルスコリンは、いずれも反応物として使用され得る。天然フォルスコリンは、典型的には富化抽出物として存在し、使用前に精製される。本発明の文脈において、合成フォルスコリンは、高純度で市販されており、好ましくは、7-DAFSK合成のための反応物として使用される。
【0041】
したがって、一実施形態において、本発明による複合体は、7-DAFSKが合成フォルスコリンに由来することを特徴とする。好ましい実施形態において、7-DAFSKは、少なくとも98.5%の純度で存在する。
【0042】
本発明による7-DAFSK-PVP複合体は、非複合化7-DAFSK-PVPに比べて向上された水溶性を特徴とし、これは医薬的適用のために有利である。
驚くべきことに、7-DAFSK-PVP複合体は、7-DAFSKおよびPVPを、使用されるPVPのガラス転移温度より高い温度に加熱することによって合成することで、容易に入手可能であることが見出された。驚くべきことに、この手順は、複合体全体における7-DAFSKの高い質量分率をももたらす。
【0043】
したがって、本発明は、本発明による7-DAFSK-PVP複合体を調製するためのプロセスを含み、7-DAFSKとPVPの混合物が、使用されるPVPのガラス転移温度より高い温度に加熱されることを特徴とする。
【0044】
非晶質物質として、PVPは、融点を持たないが、いわゆるガラス転移温度を示す。ガラス転移温度は、とりわけ、PVPの重合度、すなわち平均モル質量によって異なる(表1参照)。
【0045】
【表1】
【0046】
この文脈において、「使用されるPVPのガラス転移温度」は、7-DAFSKとの本発明の混合物中のPVPのガラス転移が生じる温度として理解されるべきである。使用されるPVPのガラス転移温度は、例えば、溶媒または水が前記混合物に加えられている場合など、混合物の組成によって影響され得る。前記ガラス転移温度を測定するための方法は、当業者に知られている。好ましくは、前記ガラス転移温度は、対応するDIN規格(Wampfler B.、他、Messunsicherheit in der Kunststoffanalytik-Ermittlung mit Ringversuchsdaten.Carl Hanser Verlag、Munich2017、ISBN-10:3446452869)の手順に従って測定され得る。
【0047】
7-DAFSK-PVP複合体の調製のための本発明によるプロセスの特に好ましい実施形態は、使用されるPVPの平均モル質量が約2.5kD(「PVP K12」)であり、その混合物が93℃を上回る温度に加熱されることを特徴とする。具体的には、PVP K12のガラス転移温度を上回る、少なくとも25℃、特に30℃、40℃、45℃以上の温度に加熱が行われる。
【0048】
別の好ましい実施形態は、使用されるPVPの平均モル質量が約9kD(「PVP K17」)であり、その混合物が130℃を上回る温度に加熱されることを特徴とする。より具体的には、前記混合物は、PVP K17のガラス転移温度を上回る、少なくとも25℃、特に30℃、40℃、45℃以上の温度に加熱される。
【0049】
別の好ましい実施形態は、使用されるPVPの平均モル質量が約24kD(「PVP K25」)であり、その混合物が155℃を上回る温度に加熱されることを特徴とする。より具体的には、前記混合物は、PVP K25のガラス転移温度を上回る、少なくとも25℃、特に30℃、40℃、45℃以上の温度に加熱される。
【0050】
別の好ましい実施形態は、使用されるPVPの平均モル質量が約40kD(「PVP K30」)であり、その混合物が175℃を上回る温度に加熱されることを特徴とする。より具体的には、前記混合物は、PVP K30のガラス転移温度を上回る、少なくとも25℃、特に30℃、40℃、45℃以上の温度に加熱される。
【0051】
溶媒または溶媒の混合物を、本発明による7-DAFSKとPVPの混合物に加えることは、有利であることが見出されている。好ましくは、7-DAFSKとPVPの混合物は、少量の溶媒中でペーストのように撹拌される。溶媒の添加は、7-DAFSKおよびPVPを均一に分散させる助けとなり得、より多くの量の7-DAFSKをPVPに付着させることができる。適当な溶媒は、水、エタノール、メタノール、プロパノール、アセトン、エチルメチルケトン、ジクロロメタン、および/または酢酸エチルのような、水性溶媒、アルコール溶媒、または他の有機溶媒である。
【0052】
一実施形態において、7-DAFSK-PVP複合体の調製のための本発明によるプロセスは、溶媒、好ましくは水、エタノール、メタノール、プロパノール、アセトン、エチルメチルケトン、ジクロロメタン、および/または酢酸エチル、さらにより好ましくは水、エタノール、メタノール、プロパノール、ジクロロメタン、および/またはピリジンが、7-DAFSKとPVPの混合物に加えられることを特徴とする。特に好ましくは、水および/もしくはエタノールまたはその混合物が、7-DAFSKとPVPの混合物に加えられる。水および/またはエタノールの添加は、同時または順次であってもよい。
【0053】
製造プロセスで、7-DAFSKとPVPの混合物を、使用されるPVPのガラス転移温度より高い温度で、一定時間保つことは、有用であることが見出されている。前記混合物が、前記ガラス転移温度を上回る温度で、少なくとも5分間保たれた場合、良好な結果が得られた。
【0054】
したがって、本発明によるプロセスの特定の実施形態において、7-DAFSKとPVPの混合物は、使用されるPVPのガラス転移温度より高い温度で、少なくとも5分間保たれる。
【0055】
特定の実施形態において、本発明による方法は、順次行われる次のステップを含む。
a)7-DAFSKとPVPの混合物を調製し、溶媒、好ましくはアルコール、好ましくはエタノールを前記混合物に加えるステップ、
b)水を加えるステップ、
c)前記混合物を、前記PVPのガラス転移温度を上回って、少なくとも5分間加熱するステップ、
d)前記混合物を冷却し、水に溶解するステップ、
e)溶解しなかった成分を、任意選択で、濾過することによって除去するステップ。
【0056】
一実施形態において、7-DAFSKとPVPの混合物は、重量比が2:1~1:4、好ましくは2:1、2:1.5、1:1、2:3、1:2、1:3、および1:4、最も好ましくは1:1または1:2で調製される。
【0057】
本発明による方法の適用は、7-DAFSK-PVP複合体の効率的で簡単な調製を可能にする。
本発明によるプロセスは、7-DAFSKの高い質量分率を有する7-DAFSK-PVP複合体の調製を可能にする。PVP複合体を調製するための従来の方法は、溶媒または溶媒混合物に成分を溶解することを含み、この混合物はPVPのガラス転移温度を上回って加熱されない。本明細書で説明される具体的な実施例において、本発明のプロセスは、従来の複合体形成プロセスに比べて、7-DAFSK-PVP複合体における8~9%高い7-DAFSKの平均質量分率を得られた。
【0058】
7-DAFSK-PVP複合体における7-DAFSKの高い質量分率は、診断および/または治療における医薬的適用のために特に有利である。本発明による複合体における7-DAFSKの高い質量分率を使用することによって、7-DAFSKの水溶性は、不都合に大量のPVPを必要とすることなく向上され得る。フォルスコリン誘導体を用いた製剤処方は、このため、以前より材料をより節約した方法で組み立てられることも可能である。大量のアジュバント(PVP)およびそれに伴う副作用を回避することによって、本発明は、診断および/または治療における7-DAFSKの使用を容易にし、また改善する。
【0059】
本発明による7-DAFSK-PVP複合体は、フォルスコリンおよび/または7-DAFSKが適用可能である任意の食事療法目的または医学的目的のために使用され得る。
したがって、本発明は、有効成分として7-DAFSKを用いた本発明の7-DAFSK-PVP複合体を含有する医薬組成物にも関する。
【0060】
「医薬組成物」という用語は、有効成分として7-DAFSKを用いた本発明による7-DAFSK-PVP複合体であって、任意選択で、追加の成分および/または有効成分と組み合わせた7-DAFSK-PVP複合体に関して本明細書で使用される。
【0061】
本発明による医薬組成物は、様々な全身製剤および局所製剤で存在する場合がある。本発明の7-DAFSK-PVP複合体を含有する全身製剤または局所製剤の非限定的な例は、経口、口腔内、肺内、直腸、子宮内、皮内、局所、皮膚、非経口、腫瘍内、頭蓋内、頬側、舌下、経鼻、皮下、血管内、髄腔内、吸入可能、呼吸可能、関節内、腔内、埋め込み可能、経皮、イオン導入、眼内、膣内、光学的、静脈内、筋肉内、腺内、臓器内、リンパ管内製剤、腸溶コーティング、または徐放性製剤を含む。
【0062】
前記組成物は、1日に1回または複数回投与されてもよい。好ましい実施形態は、経口、静脈内、または吸入投与のための本発明による医薬組成物に関する。
経口投与のための製剤は、粉末または顆粒として製剤を含有するカプセル、錠剤、またはトローチのような個別の単位で提供されてもよい。経口投与のための製剤は、水性もしくは非水性媒体中の溶液または懸濁液として、あるいはエマルジョンでとして提供されてもよい。
【0063】
静脈内投与のための製剤は、水性媒体中の溶液または懸濁液、例えば、生理食塩液として提供され得る。
治療効果または予防効果を得るための7-DAFSK-PVP複合体の具体的な投薬量は、具体的な適用、例えば、投与経路、個々の患者の年齢、体重、および状態、治療される疾患、ならび症状の重症度によって異なる。
【0064】
本発明による組成物中の7-DAFSK-PVPの用量は、好ましくは、望ましくない副作用を招くことなく、治療効果または予防効果を得られる有効用量であり、前記組成物は、1回用量としてか、または複数単位で投与され得る。
【0065】
特定の実施形態において、本発明による組成物は、少なくとも25mg/L、好ましくは、少なくとも50mg/L、75mg/L、100mg/L、200mg/L、300mg/L、400mg/L、500mg/L、600mg/L、800mg/L、または1000mg/Lの濃度で7-DAFSKを含む溶液またはエアロゾルとして提供される。好ましい実施形態において、組成物は、少なくとも1mg/mL、1.5mg/mL、2mg/mL、2.5mg/mL、3mg/mL、または4mg/mL、最も好ましくは4mg/mLの濃度で7-DAFSKを含有する。
【0066】
別の特定の実施形態において、本発明による組成物は、薬学的有効量、例えば、10mg~2000mg、好ましくは、少なくとも25mg、50mg、100mg、200mg、300mg、400mg、500mg、600mg、700mg、800mg、900mg、または1000mg、より好ましくは500mgで7-DAFSKを含有するカプセルまたは錠剤として提供される。
【0067】
特定の実施形態において、本発明による医薬組成物は、治療法に使用される。
フォルスコリンおよび7-DAFSKが、非特異的cAMP刺激薬であることは知られている。本発明による7-DAFSK-PVP複合体は、フォルスコリンおよび/または7-DAFSKを用いて治療され得る任意の疾患または障害を治療するために使用され得る。このような疾患の非限定的な例は、神経変性疾患、アルツハイマー病、運動機能障害、急性および慢性の心血管疾患、喘息のような肺疾患、嚢胞性線維症、嚢胞性線維症に伴う血管疾患、気管支炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肥満症、緑内障、関節の炎症、変形性関節症/関節炎、特発性肺線維症のような線維性変性、外傷後肺線維症、気管支肺異形成症(BPD)、VPDまたは肝硬変のような中毒後肝疾患、ならびにレイノー病および強皮症を含む末梢循環障害を含む。
【0068】
特定の実施形態において、本発明による医薬組成物は、心血管疾患、気管支喘息、肥満症、緑内障、肺疾患、関節の炎症、または変形性関節症/関節炎の治療のために使用される。
【0069】
本発明の別の態様は、医薬としての使用のための本発明による医薬組成物に関する。
本発明は、以下に限定されないが、以下の実施例および図によってさらに例示される。
【実施例
【0070】
以下の実施例は、7-DAFSKの合成および7-DAFSKのPVPとの複合体形成について記載されており、そこにおいて、約2.5kD(「PVP K12」)および約24kD(「PVP K25」)の平均モル質量を有するPVPが選択され、PVPに対する7-DAFSKの量の比率は変動された。これらの実施例は、7-DAFSKの含有量、その水溶性、およびcAMPアッセイにおけるcAMP活性化剤としての効果という観点から、得られた複合体の特性評価をさらに検討する。これらの実施例は、HPLCによる含有量測定の実施、またはNMRスペクトルの測定のような定法の詳細な説明を含まない。このような方法は当業者に周知である。
【0071】
実施例1
7-デアセチルフォルスコリンの合成
Mercachem社の合成フォルスコリン(GMP-材料)、バッチMAMA07-024-5は、7-デアセチル-フォルスコリン(7-DAFSK)の合成のための反応物として使用された。フォルスコリンの脱アセチル化は、古典的な炭酸塩鹸化を介して行われた。
【0072】
脱アセチル化は、図1に示される反応スキームに従って行われた。最初に、250mL丸底フラスコ内で、200mgのフォルスコリン(合成フォルスコリン、Mercachem社、バッチMAMA07-024-5)および200mgの焼成されたNaCOを、10mLのメタノール中、室温で4時間撹拌した。次に、反応混合物を一晩(20時間)静置した。
【0073】
次に、前記フラスコからメタノールを留去し(Rotavapor)、約20mLのCHClで溶解状態とした。これを、短時間超音波で処理した(1分)。形成された7-DAFSKを、CHClで溶解状態とし、その塩を沈殿させた。前記塩を濾去した(中速濾過)。次に、分液漏斗で、濾液を2nのHClを用いて洗浄した。ジクロロメタン画分を回収し、rotavaporでその溶媒を留去した。得られた白色粉末を、HPLCによって分析した。99%を超える純度が測定された。
【0074】
7-DAFSKの構造は、H NMR 13C NMRによって確認された。得られた7-DAFSKの測定されたHおよび13C NMRスペクトルは、この化合物の過去に公表されたスペクトルと同じである(J.Org.Chem.2006、71、4619~4624ページ)。これは、図1に示される反応スキームに従ったフォルスコリンの望ましい脱アセチル化を明確にした。
【0075】
得られた7-DAFSKをHPLCによってさらに特徴付けた。デアセチルフォルスコリンおよびフォルスコリンを、アセトニトリル/水(55/45v/v)の移動相を用いて、0.6mL/分の流速で溶出した(固定相:Nucleosil120 3C18、250×4mm)。PVPとの複合体中の7-DAFSK含有量の定量のために、検量線を用意した。7-DAFSK濃度が0.014、0.028、0.056、および0.56mg/mLの較正溶液を較正のために使用した。
【0076】
実施例2
7-DAFSK-PVP複合体の調製
7-デアセチル-フォルスコリン自体は、水に対して中程度にのみ可溶性であるため、7-DAFSKは、その水溶性を向上させるためにPVPと複合化された。7-DAFSK複合体は、これ以降「加熱法」と言われる本発明の方法によって調製され、加熱しない従来の溶解(「溶解法」)と比較された。
1.PVPをそのガラス転移温度を上回って加熱することによる7-DAFSK-PVP複合体の調製(「加熱処理」)
7-DAFSK-PVP K12複合体(7-DAFSKのPVP K12との複合体)
7-デアセチル-フォルスコリンのPVP K12(「Kollidon」12PF、欧州薬局方、米国薬局方、日本薬局方;BASF、平均モル質量:約2.5kD)との複合体形成のため、磁製るつぼ内で、20mgの7-DAFSKおよび20mgのPVP K12を粉砕し、300μLのエタノールを加えて撹拌した。10分後、100μLのHOを加え、撹拌し、再度10分間静置した。次に、乾燥炉内で、この溶液を40分以内に140℃に加熱し、乾燥炉内に合計45分間放置した。冷却後、3mLのHOを加え、20~30分間撹拌した。次に、この懸濁液をシリンジで吸い上げ、0.45μmフィルター(親水性)を通して濾過した。前記るつぼを、3mLのHOで再洗浄し、この洗浄溶液も前記フィルターを通して濾過した。6mLのHO中に溶解された7-DAFSKの含有量を、HPLCによって測定した。測定のために、7-DAFSK-PVP複合体溶液を、現行の媒体(running medium)を用いて1:10に希釈した。35wt%の複合体全体における7-DAFSKの質量分率が測定された。
【0077】
7-DAFSK-PVP K25複合体(7-DAFSKのPVP K25との複合体)
7-デアセチル-フォルスコリンのPVP K25(FLUKA81399、平均モル質量:約24kD)との複合体形成のため、磁製るつぼ内で、20mgの7-DAFSKおよび20mgのPVP K25を粉砕し、300μLのエタノールを加えて撹拌した。10分後、100μLのHOを加え、撹拌し、再度10分間静置した。次に、乾燥炉内で、この溶液を40分以内に185℃に加熱し、乾燥炉内に合計45分間放置した。冷却後、3mLのHOを加え、20~30分間撹拌した。次に、この懸濁液をシリンジで吸い上げ、0.45μmフィルター(親水性)を通して濾過した。前記るつぼを、3mLのHOで再洗浄し、この洗浄溶液も前記フィルターを通して濾過した。6mLのHO中に溶解された7-DAFSKの含有量を、HPLCによって測定した。測定のために、7-DAFSK-PVP 25複合体溶液を、現行の媒体を用いて1:10に希釈した。17wt%の複合体全体における7-DAFSKの質量分率が測定された。
2.溶解プロセスによる7-DAFSK-PVP複合体の調製
7-DAFSK-PVP K12複合体
磁製るつぼ内で、20mgの7-DAFSKおよび40mgのPVP K12をすり潰し、300μLのエタノールを加えて撹拌した。10分後、100μLのHOを加え、撹拌し、再度10分間静置した。次に、この溶液を室温で45分間静置し、3mLのHOを加え、20~30分間撹拌した。次に、この懸濁液をシリンジで吸い上げ、0.45μmフィルター(親水性)を通して濾過した。前記るつぼを、3mLのHOで再洗浄し、この洗浄溶液も前記フィルターを通して濾過した。6mLのHO中に溶解された7-DAFSKの含有量を、HPLCによって測定した。24wt%の複合体全体における7-DAFSKの質量分率が測定された。
【0078】
7-DAFSK-PVP K25複合体
磁製るつぼ内で、20mgの7-DAFSKおよび40mgのPVP 25をすり潰し、300μLのエタノールを加えて撹拌した。10分後、100μLのHOを加え、撹拌し、再度10分間静置した。次に、この溶液を室温で45分間静置し、3mLのHOを加え、20~30分間撹拌した。次に、この懸濁液をシリンジで吸い上げ、0.45μmフィルター(親水性)を通して濾過した。前記るつぼを、3mLのHOで再洗浄し、この洗浄溶液も前記フィルターを通して濾過した。6mLのHO中に溶解された7-DAFSKの含有量を、HPLCによって測定した。8wt%の複合体全体における7-DAFSKの質量分率が測定された。
【0079】
実施例3
水溶性の測定
溶解度試験には、ロータリーエバポレーターを使用して乾燥させたそれぞれの複合体が使用された。規定した量の水を加え、次に、7-DAFSK-PVPが過剰となるまで複合体を加える。この過飽和溶液を超音波で処理し、撹拌し、わずかに加熱する(水浴40℃)。次に、この懸濁液を濾過し(0.45μmフィルター)、この濾液中の7-DAFSKの含有量を、HPLCによって測定する。
【0080】
実施例4
7-DAFSK-PVP複合体の特性評価
複合体全体における7-DAFSKの質量分率
図2は、20対20のPVPに対する7-DAFSKの比率が選択された7-DAFSK-PVP K12および7-DAFSK-PVP 25複合体中の測定された7-DAFSK含有量の図表を示す。ここでは、加熱法と溶解法に区別される。全ての複合体において、7-DAFSKの塩に関して、この2つの方法の間に明確な差異が認められる。加熱法を使用して、最終的な複合体中、7-DAFSKの塩の8~9%高い含有量が得られ得る。7-DAFSK-PVP K12複合体は、7-DAFSKの最も高い含有量を示す(約35wt%)。
【0081】
複合体全体中の7-DAFSKの含有量を最適化するため、使用された7-DAFSKとPVP K12の重量比を変動した(図3)。図3からわかるとおり、7-DAFSK/PVP K12の比率を変動したとしても、この方法によって7-DAFSK(20mg)と複合化され得るのは、使用された材料の50~60%以下であった。PVP 12の量を増加したにもかかわらず、最終的な複合体中の複合化された7-DAFSKの最終的な量があまり変わらないことは明白である。加熱による調製後、溶解プロセスの間に、非複合化7-DAFSKがどれくらい溶解状態になるかを確認するため、複合体サンプルと同じ方法で処理された対照サンプル(PVP 12を含まず、7-DAFSKのみ)が検討された。ここで、使用された7-DAFSKの4分の1未満が溶解状態になり得ると考えられる。したがって、PVPとの複合体形成は、7-DAFSKの溶解性の向上を成し遂げる。
【0082】
加熱前に、溶媒の量を増加することによっても、PVP K12との複合体中により多くの量の7-DAFSKを組み込むことは不可能であった。
図4は、極めて少量のPVPを用いたにもかかわらず、同程度の結果を得ることができたことを示す。
【0083】
報告された7-DAFSKの含有量wt%は、HPLCによって測定された。計算上、6mLのHOで溶解した場合、PVPの全量が溶解状態になると仮定された。
水溶性
表2は、7-DAFSKの水溶性における顕著な向上が、PVPとの複合体形成によって可能であることを示す。PVPとの複合体中の7-DAFSKの溶解性は、非複合化7-DAFSKの溶解性より最大3倍高い。7-DAFSKとは対照的に、フォルスコリンは、その立体構造のためにPVPとはほとんど溶解されず、PVPとの複合化もし得ない。
【0084】
図5は、DAFSK/PVPの比率を変えても、その水溶性はあまり変わることがないことを示す。その値は、2.5mg/mL~3.5mg/mLの間で変動する。これは、各比率において、複合体のほぼ同じ割合の7-DAFSK(50~60%)が複合化され、各比率は、その複合体の水溶性をあまり変えることはないという事実に起因する。
【0085】
【表2】
【0086】
実施例5
細胞培養試験:cAMPアッセイ
cAMPアッセイは、プロスタグランジン受容体EP2もしくはEP4、またはプロスタサイクリン受容体IPを有するHEK293細胞(ヒト胎児腎細胞、1970)を使用して実施された。HEK293細胞を、FCSおよび放射性リガンド([H]アデニン)と共にインキュベートした。cAMP([H]cAMP)の形成を実験的にモニターした。
【0087】
フォルスコリン(DMSOに溶解)、ならびに水に溶解された7-DAFSKおよび7-DAFSK-PVPによるアデニリルシクラーゼ(AC)の活性化が比較された。EP2およびEP4受容体を介したACの活性化における3種のフォルスコリン誘導体間には、わずかな違いがあり、IP受容体の活性化には、有意差がない(図6)。
【0088】
3種全てのフォルスコリン誘導体が、トレプロスチニルの存在下でさえも、前述の受容体を介してアデニリルシクラーゼを活性化する。トレプロスチニル単独(対照サンプル)では、ACの活性化を示さない。フォルスコリン、7-DAFSK、および7-DAFSK-PVPが対照を上回って活性を増強したことは、図6において明白である。したがって、これらの結果は、7-DAFSK-PVPがアデニリルシクラーゼの適当な刺激薬であることを示唆している。
【0089】
アッセイは、以下のとおり実施された。
1日目:EP2、EP4、またはIP受容体のいずれかを安定して発現しているHEK293細胞を、6-ウェルプレートの10%FCSおよび2μCi[H]-アデニンを含有する2mLのDMEM培地中で増殖させ、16時間培養した。
【0090】
2日目:細胞を、30μMのトレプロスチニル単独で、または30μmのフォルスコリンDMSO溶液、100μMの7-DAFSK水溶液、もしくは100μMの7-DAFSKを含む7-DAFSK-PVP K12複合体水溶液と組み合わせて刺激した(新たな培地中、室温で30分間)。次に、2.5%過塩素酸(PCA)を用いて、細胞を氷冷下で30分間溶解した。このPCA抽出物を、KOHを用いて中和し、DOWEXおよびアルミナカラムを使用した連続クロマトグラフィーによって、[H]cAMPを分離した。次に、シンチレータを使用して放射能を測定した。
【0091】
各ウェルからの一定量のPCA抽出物を使用して放射能を測定した。
実施例6
溶解法によってフォルスコリン-PVP複合体を調製する試み
磁製るつぼ内で、20mgのFSKおよび40mgのPVP 25を粉砕し、300μLのエタノール(代替としてプロパノール)を加えて撹拌した。10分後、100μLのHOを加え、撹拌し、再度10分間静置した。次に、この溶液を室温で45分間静置し、3mLのHOを加え、20~30分間撹拌した。次に、この懸濁液をシリンジで吸い上げ、0.45μmフィルター(親水性)を通して濾過した。前記るつぼを、3mLのHOで再洗浄し、この洗浄溶液も前記フィルターを通して濾過した。6mLのHO中に溶解されたFSKの含有量を、HPLCによって測定した。0.01wt%未満の複合体全体におけるFSKの質量分率が測定された。FSKは、HPLCによって濾液中に検出できなかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2022-09-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
7-デアセチル-フォルスコリン(7-DAFSK)及びポリビニルピロリドン(PVP)の複合体。
【請求項2】
PVPが、1~40kD、好ましくは2~25kD、特に好ましくは約2.5kDの、重量平均モル質量に対する平均モル質量を有することを特徴とする、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
7-DAFSKが、合成フォルスコリンに由来することを特徴とする、請求項1又は2に記載の複合体。
【請求項4】
複合体全体における7-DAFSKの平均質量分率が、1~50重量%の範囲内、好ましくは30重量%以上であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項5】
7-DAFSK及びPVPの混合物が、使用されるPVPのガラス転移温度を上回る温度に加熱されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の複合体の調製のためのプロセス。
【請求項6】
溶媒、好ましくは水、エタノール、メタノール、アセトン、エチルメチルケトン、ジクロロメタン、及び/又は酢酸エチル、より好ましくは水、エタノール、メタノール、プロパノール、及び/又はジクロロメタン、さらにより好ましくは水及び/若しくはエタノール又はその混合物が、7-DAFSK及びPVPの混合物に加えられることを特徴とする、請求項5に記載のプロセス。
【請求項7】
前記混合物が、使用されるPVPのガラス転移温度を上回る温度で、少なくとも5分間保たれることを特徴とする、請求項5又は6に記載のプロセス。
【請求項8】
a)7-DAFSK及びPVPの混合物を調製し、溶媒、好ましくはアルコール、好ましくはエタノールを該混合物に加えるステップ、
b)水又は水溶液を加えるステップ、
c)混合物を、PVPのガラス転移温度を上回って、少なくとも5分間加熱するステップ、
d)混合物を冷却し、水又は水溶液に溶解するステップ、
e)溶解しなかった成分を、任意選択で、濾過することによって除去するステップ
を含む、請求項5~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか1項に記載の複合体を含む、医薬組成物。
【請求項10】
医薬としての使用のための、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記組成物が、少なくとも25mg/L、好ましくは、少なくとも100mg/mL、250mg/mL、500mg/mL、1000mg/mL、2000mg/mL、3000mg/mL、又は4000mg/mL、特に好ましくは4000mg/mLの濃度で7-DAFSKを含有することを特徴とする、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項12】
静脈内、経口、又は吸入投与のための、請求項9又は11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
心血管疾患、気管支喘息、肥満症、緑内障、肺疾患、関節の炎症、又は変形性関節症/関節炎の治療における使用のための、請求項9~12のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0091
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0091】
各ウェルからの一定量のPCA抽出物を使用して放射能を測定した。
実施例6
溶解法によってフォルスコリン-PVP複合体を調製する試み
磁製るつぼ内で、20mgのFSKおよび40mgのPVP 25を粉砕し、300μLのエタノール(代替としてプロパノール)を加えて撹拌した。10分後、100μLのHOを加え、撹拌し、再度10分間静置した。次に、この溶液を室温で45分間静置し、3mLのHOを加え、20~30分間撹拌した。次に、この懸濁液をシリンジで吸い上げ、0.45μmフィルター(親水性)を通して濾過した。前記るつぼを、3mLのHOで再洗浄し、この洗浄溶液も前記フィルターを通して濾過した。6mLのHO中に溶解されたFSKの含有量を、HPLCによって測定した。0.01wt%未満の複合体全体におけるFSKの質量分率が測定された。FSKは、HPLCによって濾液中に検出できなかった。
ある態様において、本発明は以下であってもよい。
[態様1]7-デアセチル-フォルスコリン(7-DAFSK)及びポリビニルピロリドン(PVP)の複合体。
[態様2]PVPが、1~40kD、好ましくは2~25kD、特に好ましくは約2.5kDの、重量平均モル質量に対する平均モル質量を有することを特徴とする、態様1に記載の複合体。
[態様3]7-DAFSKが、合成フォルスコリンに由来することを特徴とする、態様1又は2に記載の複合体。
[態様4]複合体全体における7-DAFSKの平均質量分率が、1~50重量%の範囲内、好ましくは30重量%以上であることを特徴とする、態様1~3のいずれか1に記載の複合体。
[態様5]7-DAFSK及びPVPの混合物が、使用されるPVPのガラス転移温度を上回る温度に加熱されることを特徴とする、態様1~4のいずれか1に記載の複合体の調製のためのプロセス。
[態様6]溶媒、好ましくは水、エタノール、メタノール、アセトン、エチルメチルケトン、ジクロロメタン、及び/又は酢酸エチル、より好ましくは水、エタノール、メタノール、プロパノール、及び/又はジクロロメタン、さらにより好ましくは水及び/若しくはエタノール又はその混合物が、7-DAFSK及びPVPの混合物に加えられることを特徴とする、態様5に記載のプロセス。
[態様7]前記混合物が、使用されるPVPのガラス転移温度を上回る温度で、少なくとも5分間保たれることを特徴とする、態様5又は6に記載のプロセス。
[態様8]a)7-DAFSK及びPVPの混合物を調製し、溶媒、好ましくはアルコール、好ましくはエタノールを該混合物に加えるステップ、
b)水又は水溶液を加えるステップ、
c)混合物を、PVPのガラス転移温度を上回って、少なくとも5分間加熱するステップ、
d)混合物を冷却し、水又は水溶液に溶解するステップ、
e)溶解しなかった成分を、任意選択で、濾過することによって除去するステップ
を含む、態様5~7のいずれか1に記載の方法。
[態様9]態様1~4のいずれか1に記載の複合体を含む、医薬組成物。
[態様10]医薬としての使用のための、態様9に記載の医薬組成物。
[態様11]前記組成物が、少なくとも25mg/L、好ましくは、少なくとも100mg/mL、250mg/mL、500mg/mL、1000mg/mL、2000mg/mL、3000mg/mL、又は4000mg/mL、特に好ましくは4000mg/mLの濃度で7-DAFSKを含有することを特徴とする、態様9に記載の医薬組成物。
[態様12]静脈内、経口、又は吸入投与のための、態様9又は11に記載の医薬組成物。
[態様13]治療法における使用のための、態様9~12に記載の医薬組成物。
[態様14]心血管疾患、気管支喘息、肥満症、緑内障、肺疾患、関節の炎症、又は変形性関節症/関節炎の治療における使用のための、態様9~13のいずれか1に記載の医薬組成物。
【国際調査報告】