(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-17
(54)【発明の名称】植物及び土壌の生物栄養組成物を製造するための効率的なプロセス
(51)【国際特許分類】
C05F 3/00 20060101AFI20230310BHJP
C05F 11/10 20060101ALI20230310BHJP
C05D 9/02 20060101ALI20230310BHJP
B09B 3/60 20220101ALI20230310BHJP
B09B 5/00 20060101ALI20230310BHJP
B09B 101/70 20220101ALN20230310BHJP
【FI】
C05F3/00 ZAB
C05F11/10
C05D9/02
B09B3/60
B09B5/00 Z
B09B101:70
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022544736
(86)(22)【出願日】2021-01-22
(85)【翻訳文提出日】2022-09-21
(86)【国際出願番号】 US2021014758
(87)【国際公開番号】W WO2021150993
(87)【国際公開日】2021-07-29
(32)【優先日】2020-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521042585
【氏名又は名称】エンバイロキュア・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Envirokure, Incorporated
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【氏名又は名称】江間 晴彦
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】バラ,スシル ケイ
(72)【発明者】
【氏名】フーパー,デボン ケイ
【テーマコード(参考)】
4D004
4H061
【Fターム(参考)】
4D004AA02
4D004AC04
4D004BA04
4D004CA19
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4H061LL15
4H061LL22
4H061LL26
(57)【要約】
植物及び土壌用のバイオ栄養組成物、例えば液体生物刺激剤及び乳化バイオ肥料又は固体バイオ肥料を動物の糞尿から製造するプロセスを開示する。このプロセスには、水性動物排泄物スラリーに純酸素又は酸素富化空気を送達することが含まれ、水性動物排泄物スラリーを自己熱好熱性好気性生物反応に供することがさらに含まれる。また、プロセスには、ATAB後に、消化された、又は分解された動物排泄物組成物を、実質的に液体の成分と実質的に固体の成分とに分離する分離ステップも含まれる。各々の成分をさらに処理して、生物刺激剤及びバイオ肥料をそれぞれ生成することができる。また、生物刺激剤又はバイオ肥料としての使用に適した組成物も開示する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物排泄物からバイオ栄養組成物を製造するためのプロセスであって、
(a)動物排泄物のpHを約5~約8に調整して、安定化された動物排泄物組成物を生成するステップ;
(b)安定化された動物排泄物組成物の含水量を少なくとも約75重量%に調整して、水性動物排泄物スラリーを生成するステップ;
(c)水性動物排泄物スラリーを自己熱好熱性好気性生物反応に供して、消化された動物排泄物組成物を生成するステップであって、
(i)水性動物排泄物スラリーに純酸素又は酸素富化空気を送達して、好熱性細菌の増殖に適した好気条件下にて水性動物排泄物スラリーを第1の期間維持すること;及び
(ii)好熱性細菌の増殖に適した温度で、水性動物排泄物スラリーを第2の期間維持することを含む、ステップ;並びに
(d)消化された動物排泄物組成物を少なくとも1つの追加の処理ステップに供するステップであって、該少なくとも1つの追加の処理ステップが、
(1)消化された動物排泄物組成物を乳化して、乳化成分を生成すること;又は
(2)必要に応じて、消化された動物排泄物組成物を、実質的に固体の成分と実質的に液体の成分とに分離することを含む、ステップを含み、
安定化された動物排泄物組成物、水性動物排泄物スラリー、及び消化された動物排泄物組成物は、プロセスを通して約5~約8のpHに維持される、プロセス。
【請求項2】
ステップ(c)の前に、水性動物排泄物スラリーの成分を一定期間接触させたままにすることをさらに含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
ステップ(c)の前に、水性動物排泄物スラリーから無機固体の少なくとも一部を除去することをさらに含む、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
ステップ(c)の前に、水性動物排泄物スラリーにおける有機固体の粒子サイズを減少させることをさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
ステップ(b)に続いて、水性動物排泄物スラリーから無機固体の少なくとも一部を除去するさらなるステップ、及び水性動物排泄物スラリーにおける有機固体の粒子サイズを減少させるさらなるステップをさらに含む、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項6】
無機固体の一部が、ろ過又は水圧グリットリムーバーによって水性動物排泄物スラリーから除去される、請求項3又は5に記載のプロセス。
【請求項7】
粒子サイズを減少させるステップが、コロイドミル、ホモジナイザー、マセレータ、又は分散グラインダを含む、請求項4又は5に記載のプロセス。
【請求項8】
粒子サイズを減少させるステップが、約1ミクロン未満の粒子サイズを生成するように構成されるステータを有するコロイドミルを含む、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
ステップ(d)が、
(1)温度を約40℃未満に調整すること、
(2)安定剤を添加すること、又は
(3)温度を約40℃未満に調整すること及び安定剤を添加することの両方を含む、1つ以上の追加のステップをさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
安定剤がフミン酸である、請求項9に記載のプロセス。
【請求項11】
動物排泄物が家禽の排泄物である、請求項1~10のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項12】
家禽の排泄物が鶏の排泄物である、請求項11に記載のプロセス。
【請求項13】
第1の期間及び第2の期間が実質的に同時に生じる、請求項1~12のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項14】
ステップ(c)の前に、第3の期間、水性動物排泄物スラリーに純酸素又は酸素富化空気を送達し、水性スラリー中の嫌気性化合物の濃度を低下させることをさらに含む、請求項1~13のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項15】
水性動物排泄物スラリーが、少なくとも約1ppmの残留溶存酸素濃度を含む、請求項14に記載のプロセス。
【請求項16】
残留溶存酸素濃度が少なくとも約2ppmである、請求項15に記載のプロセス。
【請求項17】
嫌気性化合物が硫化水素を含んで成る、請求項14~16のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項18】
純酸素又は酸素富化空気を、約1ミクロン~約3ミクロンの範囲の細孔グレードを有する1つ以上のスパージャを介して注入することによって送達する、請求項1~17のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項19】
ステップ(c)において、10,000ガロン当たり約0.5CFM~約1.5CFMの速度で、純酸素又は酸素富化空気を水性動物排泄物スラリーに注入する、請求項1~18のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項20】
ステップ(c)の前に、10,000ガロン当たり約0.25CFM~約1.5CFMの速度で、純酸素又は酸素富化空気を水性動物排泄物スラリーに注入する、請求項1~19のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項21】
ステップ(b)が、安定化された動物排泄物組成物の含水量を約80重量%~約92重量%に調整し、水性動物排泄物スラリーを生成することを含む、請求項1~20のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項22】
酸を添加することで動物排泄物のpHを調整する、請求項1~21のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項23】
酸がクエン酸である、請求項22に記載のプロセス。
【請求項24】
ステップ(c)の前に、水性動物排泄物スラリーを約40℃~約65℃に加熱する、請求項1~23のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項25】
自己熱好熱性好気性生物反応が、第2の期間、水性動物排泄物スラリーを少なくとも約55℃の温度に加熱することを含む、請求項1~24のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項26】
自己熱好熱性好気性生物反応における好気性条件が、約2mg/L~約6mg/Lの溶存酸素レベルを含む、請求項1~25のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項27】
安定化された動物排泄物組成物、水性動物排泄物スラリー、及び消化された動物排泄物組成物を、プロセスを通して約5.5~約7.5のpHに維持する、請求項1~26のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項28】
第3の期間が、少なくとも約15分間である、請求項14~27のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項29】
第3の期間が、少なくとも約1時間である、請求項28に記載のプロセス。
【請求項30】
第1の期間及び第2の期間の両方が、少なくとも約1日である、請求項1~24のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項31】
第1の期間及び第2の期間の両方が、少なくとも約3日である、請求項30に記載のプロセス。
【請求項32】
植物および土壌への施用のための乳化バイオ肥料、液体生物刺激剤、及び/又は固体バイオ肥料の組成物であって、該乳化バイオ肥料、該液体生物刺激剤、及び/又は該固体バイオ肥料の組成物が、請求項1~31のいずれか一項に記載のプロセスによって製造される、組成物。
【請求項33】
インドール酢酸、12-オキソフィトジエン酸、ジャスモン酸、サリチル酸、インドール3-アセチル-アスパラギン酸、ジャスモニルイソロイシン、アブシジン酸、ピペコリン酸、N(δ)-アセチルオルニチン、アルファ-トコフェロール、ガンマ-トコフェロール、トラウマチン酸、及び3-インドールプロピオン酸から成る群から選択される1つ以上の植物ホルモン又は二次代謝産物を含んで成る、請求項32に記載の組成物。
【請求項34】
少なくとも1つの添加剤を含んで成る、請求項32又は33に記載の組成物。
【請求項35】
添加剤がマクロ栄養素又はミクロ栄養素である、請求項34に記載の組成物。
【請求項36】
植物が成長している、又は成長する土壌又は培地に適用するために配合される、請求項32~35のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項37】
種子又は植物のある部分に適用するために配合される、請求項32~35のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項38】
有機プログラムでの使用に適している、請求項32~35のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項39】
組成物が、従来の農業で使用するための合成肥料若しくは化学肥料、殺虫剤、又は他の作物投入物と混合される、請求項32~35のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項40】
動物排泄物からバイオ栄養組成物を製造するプロセスであって、
(a)動物排泄物のpHを約5~約8に調整して、安定化された動物排泄物組成物を生成するステップ;
(b)安定化された動物排泄物組成物の含水量を少なくとも約75重量%に調整して、水性動物排泄物スラリーを生成するステップ;
(c)水性動物排泄物スラリーの成分を一定期間接触させたままにするステップ;
(d)水性動物排泄物スラリー中の有機固体の粒子サイズを減少させるステップ;
(e)水性動物排泄物スラリーを、自己熱好熱性好気性生物反応(ATAB)に所定時間供するステップであって、
(i)水性動物排泄物スラリーのATABを、純酸素又は酸素富化空気の送達システムを有して成る1つ以上のバイオリアクタで発生させ;
(ii)送達システムが、水性動物排泄物スラリーに純酸素又は酸素富化空気を注入し、中温性細菌及び好熱性細菌の増殖に適した好気性条件下で水性動物排泄物スラリーを維持し;及び
(iii)バイオリアクタにおける水性動物排泄物スラリーの温度を、約55℃~約75℃の温度に維持する、ステップ;並びに
(f)消化された動物排泄物組成物を、1つ以上の追加の処理ステップに供するステップであって、該追加の処理ステップが、
(1)消化された動物排泄物組成物に安定剤を添加すること;
(2)消化された動物排泄物組成物の温度を約40℃未満に調整すること;
(3)消化された動物排泄物組成物に1つ以上の有機栄養素を添加すること;及び/若しくは
(4)必要に応じて、消化された動物排泄物組成物を、実質的に固体の成分と実質的に液体の成分とに分離することを含む、ステップを含み、
安定化された動物排泄物組成物、水性動物排泄物スラリー、及び消化された動物排泄物組成物を、プロセスを通して約5~約8のpHに維持する、プロセス。
【請求項41】
粒子サイズを減少させるステップが、コロイドミル、ホモジナイザー、マセレータ、又は分散グラインダを含む、請求項40に記載のプロセス。
【請求項42】
粒子サイズを減少させるステップが、約1ミクロン未満の粒子サイズを生成するように構成されるステータを有するコロイドミルを含む、請求項41に記載のプロセス。
【請求項43】
ステップ(d)又はステップ(e)の前に、水性動物排泄物スラリーから無機固体の少なくとも一部を除去することをさらに含む、請求項40~42のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項44】
ろ過又は水圧グリットリムーバーによって、水性動物排泄物スラリーから無機固体の一部を除去する、請求項43に記載のプロセス。
【請求項45】
送達システムが、約1ミクロン~約3ミクロンの範囲の細孔グレードを有する1つ以上のスパージャを有して成る、請求項40~44のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項46】
10,000ガロン当たり約0.25CFM~約1.5CFMの速度で、純酸素又は酸素富化空気を水性動物排泄物スラリーに注入する、請求項45に記載のプロセス。
【請求項47】
所定時間が少なくとも約1日である、請求項40~46のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項48】
所定時間が少なくとも約3日である、請求項47に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2020年1月24日に出願された米国仮特許出願第62/965,320号の利益を主張するものであり、その全内容が参照によって本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、一般的に、植物の成長及び健康な土壌構造を促進するのに有用な肥料および組成物に関する。特に、そのようなバイオ有機肥料及び組成物を製造するためのプロセスを開示する。
【背景技術】
【0003】
農業において、作物投入製品の2つの主要なカテゴリは、肥料及び農薬である。通常、肥料は、植物の成長に不可欠な1つ以上の栄養素を供給するために添加される、天然又は合成由来のいずれの有機材料又は無機材料として説明される。肥料は、植物の成長に必要な、又は有益なマクロ栄養素、二次栄養素及びミクロ栄養素を様々な割合で供する。
【0004】
前世紀では、農業には合成肥料及び農薬が広範に用いられていた。現在、合成肥料の使用は、土壌の生物学的特性に悪影響を及ぼし、植物の生産性を支持する能力を低下させることがよく認識されている。さらに、これらの化学物質が環境及びヒトに及ぼす悪影響が認識されている(例えば、Weisenberger, D.D., 1993年、“Human Health Effects of Agrichemical Use,” Hum. Pathol. 24(6): 571-576を参照)。さらに、多くの研究によれば、土壌炭素が減少するにつれて、収量を維持するために化学肥料の大幅な増加が必要となる一方で、種子の潜在力の推定67%が未実現のままにされることが示されている(例えば、Mulvaney R.L.ら, 2009年, J. Environ. Qual. 38(6):2295-2314; Tollenaar, M., 1985, Proceedings of the Conference on Physiology, Biochemistry and Chemistry Associated with Maximum Yield Corn, Foundation for Agronomic Research and Potash and Phosphate Institute. St. Louis, MO, 11-12; NASS Crop Production 2017 Summary (U.S.D.A. 2018)を参照)。その結果、合成肥料及び農薬が土壌生態学に度々及ぼす有害な影響の認識は、肥料、土壌刺激剤、並びに天然及び/又は生物由来の農薬の使用を含む、持続可能な再生生物生産への関心を拡大するための推進力を供している。従って、農業及び作物保護の改善の必要性は、有機農業分野及び従来の農業分野の双方で明らかであり、従来の合成肥料を置き換えるか若しくは供給するか、又は従来の化学除草剤/農薬と組み合わせて用いて、土壌の完全性を維持しながら作物収量を最大化できる生物処理の必要性が強調されている。
【0005】
合成肥料の代替及び/又は補足として農産業での使用が検討されている材料の1つの分類は、生物刺激剤、バイオ肥料及びバイオ農薬等の農業バイオ製剤である。バイオ肥料及び生物刺激剤は、窒素固定、リンの可溶化、及び成長促進物質の合成による植物の成長刺激の自然なプロセスを通じて植物及び土壌に栄養素を添加するため、農産業で用いられている。バイオ肥料は、化学肥料及び農薬の使用を減ずることが期待できる。また、従来の農業では、農薬と組み合わせて用いて、例えば、植物自体への化学物質によるストレスを減ずることができる。生物肥料中の微生物は、土壌の自然な養分循環を回復させ、植物の栄養素の有効性を改善し、土壌有機物を生成する。バイオ肥料を使用することで、土壌の持続可能性及び健康を高めながら、健康な植物を成長させることができる。さらに、植物成長促進根圏細菌(PGPR)と称される特定の微生物は、微生物及びその副産物を介して有機栄養素を供給することで、土壌肥沃度を高め、植物栄養素の要件を満たすのに非常に有利である。
【0006】
土壌及び根圏に利益を与えることに加えて、PGPRは、直接的又は間接的な方法で植物に影響を与え得る。例えば、植物に栄養素及びホルモンを供給することで、植物の成長を直接高めることができる。植物の成長を促進することが分かっている最近の例には、バチルス(Bacillus)、ウレイバチルス(Ureibacillus)、ゲオバチルス(Geobacillus)、ブレビバチルス(Brevibacillus)及びパエニバチルス(Paenibacillus)等の属の好熱性のものを含む特定の中温菌及び好熱菌が含まれる。これらは、全て家禽糞堆肥に蔓延していることが知られている。植物の成長に有益であると報告されている中温菌には、バチルス属、セラチア(Serratia)属、アゾトバクター(Azotobacter)属、リシニバチルス(Lysinibacillus)属及びシュードモナス(Pseudomonas)属に属するものが含まれる。
【0007】
また、PGPRは、微生物の拮抗作用によって病原性細菌の数を制御することもできる。これは、栄養素を求めて病原菌と競合し、抗生物質を生成して、抗真菌性代謝物を生成することによって達成される。拮抗作用に加えて、特定の細菌と植物との相互作用は、植物が病原性細菌、真菌及びウイルスに対して自身をより守ることのできるメカニズムを誘発し得る。メカニズムの1つは誘導全身抵抗性(ISR)として知られ、別のメカニズムは全身獲得抵抗性(SAR)として知られている(例えば、Vallad, G.E. & R.M. Goodman, 2004, Crop Sci. 44:1920-1934を参照)。誘導細菌は、根における反応を引き起こし、植物全体に広がる信号を生成する。結果として、植物細胞壁の強化、抗菌性ファイトアレキシンの生成、及び病原体関連タンパク質の合成等の防御メカニズムが活性化する。ISR又はSARを活性化できる細菌の成分又は代謝物には、リポ多糖(LPS)、鞭毛、サリチル酸、及びシデロフォアが含まれるものがある。従って、栄養素及びPGPRが豊富なバイオ肥料の必要性が残っている。
【0008】
PGPRを含むことに加え、バイオ肥料は、他の種類の細菌、藻類、真菌、又はこれらの微生物の組合せを含んでよく、窒素固定微生物(例えば、アゾトバクター(Azotobacter)、クロストリジウム(Clostridium)、アナベナ(Anabaena)、ネンジュモ(Nostoc)、根粒菌(Rhizobium)、アナベラ・アゾラエ(Anabaena azollae)、及びアゾスピリラム(Azospirillum))、リン可溶化細菌及び真菌(例えば、枯草菌(Bacillus subtilis)、シュードモナス・ストリアタ(Psuedomonas striata)、ペニシリウム(Penicillium)属、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori))、リン動員真菌(例えば、グロムス(Glomus)属、スクテロスポラ(Scutellospora)属、ラッカリア(Laccaria)属、ピソリトゥス(Pisolithus)属、ボウリータス(Boletus)属、アマナイタ(Amanita)属、及びペジゼラ・エリカエ(Pezizella ericae))、並びにケイ酸塩及び亜鉛可溶化剤(例えば、バチルス属)を含んでよい。しかしながら、従来の化学肥料と比較して、バイオ肥料が植物栄養素の有用性を高めて土壌の維持に貢献し得る一方で、微生物汚染及び他の汚染物質が無く、既存の適用方法及び技術で用いられ得る有益な微生物の好適な群集で強化されたバイオ肥料を生成する費用効果の高い方法を見出すことは、業界では比較的満たされていないニーズのままである。
【0009】
バイオ肥料及び生物刺激剤組成物の特定の供給源の1つは、動物の排泄物である。実際に、動物の糞尿、特に栄養素と微生物が豊富な家禽の糞尿は、バイオ肥料としての適合性に関する広範な研究の対象とされている。家禽の糞尿は、植物の成長に必要な全てのマクロ栄養素及びミクロ栄養素、並びに特定の植物の成長を促進する根圏細菌を費用効果の高い方法で供することができるということが、学術研究及び農場での試験を通じて十分に確立されている。しかしながら、これらの利点は、鶏糞に関連する植物及びヒトの病原菌の排除に付随する。さらに、未加工の糞尿(raw manure)の使用による重大な懸念には、栄養素の流出及び高土壌リンの浸出の可能性、並びにヒトの病原菌の食物への伝染の可能性の増加が含まれる。重要なことに、米国の生産者及び農家は、同様に、糞尿ベースのバイオ肥料がFDAによって公布された糞尿ベースの投入物の無制限の使用に関する厳しい安全規制を満たしていることを確認する必要がある。例えば、21 C.F.R. 112.51 (2016)を参照されたい。
【0010】
農産業に悪影響を与えるもう1つの問題は、雑草の種子による田畑の汚染である。さらに、未消化の雑草種子が動物の排泄物に存在し得るため、糞尿ベースの施用、特に未加工の糞尿の施用は、実際に雑草種子の汚染の一因となり得る(https://www.extension.umn.edu/agricultureで入手できるKatovich J.ら, “Weed Seed Survival in Livestock Systems,” U. Minn. Extension Servs. & U. Wis. Extensionを参照)。雑草種子の汚染は、作物の収穫量の減少を引き起こすことが多く、化学除草剤の施用を増やす必要性を生じさせる。これは、植物とヒトの両方の健康に悪影響を与え得る。雑草種子の汚染は、合成除草剤の施用が許可されていない農産業では特に問題があり、農家は、雑草の成長を制御するために機械的耕運機に頼らざるを得ない。堆肥化は、流出及び土壌侵食の総量、並びに病原菌及び雑草種子の汚染の可能性を減ずることが示されている。そのため、現在、多くの州では、田畑での施用の前に家禽糞尿を堆肥化する必要があり、堆肥化プロセスを進歩させている。
【0011】
堆肥化は、有機材料の生物分解及び安定化として説明できる。このプロセスは、微生物の活動によって熱を発生させ、実質的に病原菌及び雑草種子を含まない、安定した最終製品を生成する。製品が安定すると、臭いが減少し、病原菌が排除され、プロセスが完了したと見なされる。ほとんどの堆肥化は、固相で実施される。
【0012】
堆肥化の利点には、以下:(1)PGPRで土壌を改善すること;(2)微生物及び他の病原菌を減じ、雑草種子を始末すること;(3)土壌を調整し、それによって植物への栄養素の有効性を改善すること;(4)流出及び土壌侵食を潜在的に減じること;(5)揮発性窒素を安定化して大きなタンパク質粒子にし、損失を減ずること;並びに(6)土壌の保水力を高めることが含まれる。しかしながら、このプロセスには時間がかかり、労働集約的である。さらに、堆肥化には、以下を含む重大な障害がないわけではない:(1)効率的な堆肥化のための大きな表面積の要件;(2)商業的使用のための完全な堆肥化のために積み重ね(又は山若しくは杭、piles)を「回転」させる重機の必要性;(3)一貫した適切な炭素対窒素比を維持することの難しさ;(4)均一な加熱の必要性;(5)かさばる最終製品の輸送;並びに(6)製品及びその施用の一貫性(又は均一性、consistency)の欠如。さらに、栄養素は植え付けの前に大量に施用されるため、流出によって栄養素が失われる可能性が高い。また、分解が均一でなく、病原菌の破壊が不完全である可能性も高い。さらに、田畑での施用における栄養素の不均一な分布も懸念される。最後に、固形堆肥は水耕栽培及び/又は点滴灌漑では使用できない。
【0013】
この最後の欠点に関して、有機栽培者及び従来の栽培者は、同様に、液体の生物刺激剤として浸出液堆肥(堆肥茶(compost tea))を利用してきた。浸出液は、よく堆肥化された材料を水に浸し、液体画分から固体を分離することで生成される。このような液体材料は、点滴灌漑又は葉面散布に利用され得る一方で、その生産には時間と労力がかかる。また、液体製品には依然として病原菌が含まれている可能性があり、栄養素の含有量が均一でないという点において、固形堆肥と同じ欠点を抱える。従って、堆肥茶に存在するいずれの残留病原菌も病原菌の複製と汚染のリスクを示すため、適用される厳格な連邦安全衛生規制の下で審査を通過しない可能性がある。
【0014】
一部の有機肥料には、魚ベース及び植物性タンパク質ベースの肥料が含まれる。通常、フィッシュエマルジョン(又は魚の乳濁液、fish emulsion)製品は、海産魚の全体、並びに骨、鱗及び皮を含む死骸製品から製造される。魚はスラリーに粉砕され、次いで加熱処理されて油及び魚粉が除去される。処理後に残る液体は、フィッシュエマルジョンと称される。製品は、安定化のため、及び微生物の増殖を防ぐために酸性化される。通常、魚の加水分解肥料は、低温酵素消化プロセスによって淡水魚から製造される。魚肥料は、植物及び土壌微生物に栄養補給できる一方で、高い酸性度と、場合によっては農業機械を詰まらせ得る油性組成のため、使用が困難である。通常、植物性タンパク質ベースの肥料は、大豆等のタンパク質が豊富な植物材料の加水分解によって製造される。これは、例えば、厳密にビーガン製品を生産する栽培者及び庭師にとって魅力的な代替品である。しかしながら、調達に起因して、これらの製品は高価であり得る。さらに、上述の肥料は、いずれも自然で生物学的なものではなく、有益な微生物を加える必要がある。
【0015】
米国特許第9,688,584B2号、及び国際特許出願公開第WO2017/112605A1号に記載されているプロセス等、望ましくない有機材料を分解する好気性微生物を利用することにより、栄養豊富な液体及び固体のバイオ肥料を家禽糞尿から製造できる。しかしながら、家禽糞尿を処理してバイオ肥料を製造する既存の方法は、有機物の不完全な分解による安定性の低下、及びバイオリアクタ装置の過剰な発泡を含む多くの欠点を抱える。後者は、著しい気流の混乱とそれに続く有機材料の不完全な分解を引き起こす。結果として、液体肥料製品は、概して噴霧器及び他の田畑施用機器を詰まらせ、それによって農場プログラムの運用を混乱させ、コストを増加させる。さらに、ATABとそれに続く遠心分離を用いる従来技術(例えば、米国特許第9,688,584B2号及び国際特許出願公開第WO2017/112605A1号)は、バイオ肥料として分類される微生物/成長促進化合物が不十分な固体肥料製品を製造する。
【0016】
従って、当技術分野には、液体及び固体の両方の形態で生物由来の製品を製造するためのより効率的なプロセスの必要性が残っている。このプロセスは、優れた植物栄養素、生物刺激、土壌調整を供し、安全で使い易く、費用対効果が高いと同時に、土壌の生物多様性を改善できるものである。このような製品は、リン酸二アンモニウム、リン酸一アンモニウム、及び硝酸尿素アンモニウム等、現在使用されている合成製品の非常に有利な代替品を供し、標準化と信頼性に関する生産者の要件を満たす。
【発明の概要】
【0017】
本明細書には、植物及び土壌に施用するための組成物を製造するプロセスが記載されている。特に、本明細書で開示されるプロセスによれば、生物刺激剤及びバイオ肥料としての施用に適した、固体及び液体両方のバイオ有機組成物を生成できる。さらに、これらの組成物は、家禽糞尿等の動物の排泄物から作ることができる。いくつかの実施形態では、汎用の乳化バイオ肥料を生成できる。また、このプロセスには、特殊な液体生物刺激剤及び固体バイオ肥料の両方を生成するための分離ステップが組み込まれ得る。どちらも、従来の方法を用いて現在生成されている製品と比較して、マクロ栄養素(又は主要栄養素、macro nutrient)、ミクロ栄養素(又は微量栄養素、micro nutrient)、代謝化合物、及び植物の成長を支持する多様な微生物の量が増加している。
【0018】
一態様において、本発明は、動物の排泄物から生物栄養組成物を製造するためのプロセスを特徴とし、以下のステップを含む。(a)動物排泄物のpHを約5~約8に調整して、安定化された動物の排泄物組成物を生成するステップ;(b)安定化された動物排泄物組成物の水分含有量を、少なくとも約75重量%に調整して、水性動物排泄物スラリーを生成するステップ;(c)水性動物排泄物スラリーを自己熱性好熱性好気性生物反応(autothermal thermophilic aerobic bioreaction;ATAB)に供して、消化された動物排泄物組成物を生成するステップであって、これは、水性動物排泄物スラリーへ純酸素又は酸素富化空気を送達して、第1期間において好熱性細菌の増殖に適した好気性条件下で水性動物排泄物スラリーを維持すること、及び第2期間において好熱性細菌の増殖に適した温度で水性動物排泄物スラリーを維持することを含む、ステップ;並びに(d)消化された動物排泄物組成物に少なくとも1つの追加の処理ステップを施すステップであって、該ステップは、(1)消化された動物排泄物組成物を乳化して、乳化成分を生成すること;若しくは(2)必要に応じて、消化された動物排泄物組成物の実質的に固体の成分と実質的に液体の成分とを分離することを含む。このような態様において、安定化された動物排泄物組成物、水性動物排泄物スラリー、及び消化された動物排泄物組成物は、全てプロセス全体を通して約5~約8のpHに維持される。プロセスのいくつかのバージョンにおいて、第1期間及び第2期間は実質的に同時に発生する。プロセスのいくつかの実施形態において、動物排泄物は、鶏糞等の家禽の排泄物である。
【0019】
いくつかの実施形態において、水性動物排泄物スラリーの成分は、ATABステップの前に一定期間接触したままであることができる。他の実施形態において、無機固体の少なくとも一部は、ATABステップの前に水性動物排泄物スラリーから除去される。プロセスのいくつかのバージョンには、水性動物排泄物スラリーから無機固体の少なくとも一部を除去するステップ、及び水性動物排泄物スラリーにおける有機固体の粒子サイズを減少させるステップの両方が含まれる。いくつかの態様において、無機固体は、ろ過又は水圧グリットリムーバー(又は油圧粒子リムーバー、hydraulic grit remover)によって水性動物排泄物スラリーから除去される。他の場合、粒子サイズの減少は、コロイドミル、ホモジナイザー、マセレータ、又は分散グラインダを介して実施される。例えば、一実施形態において、約1ミクロン未満の粒子サイズを生成するように構成されたステータ(又は固定子、stator)を有するコロイドミルを介して、粒子サイズが低減される。一実施形態において、追加の処理ステップには、温度を約40℃未満に調整すること、及び/又は、限定されないものの、フミン酸等の安定剤を添加することが含まれる。
【0020】
一実施形態において、プロセスには、水性スラリー中の嫌気性化合物の濃度を減ずるため、第3期間において、ステップ(c)の前に、純酸素又は酸素富化空気を水性動物排泄物スラリーに送達することが更に含まれる。別の実施形態において、水性動物排泄物スラリーは、少なくとも約1百万分率の残留溶存酸素濃度を含む。特定の実施形態において、残留溶存酸素濃度は、少なくとも約2百万分率である。他の場合、純酸素又は酸素富化空気は、約1ミクロン~約3ミクロンの範囲の細孔グレードを有する1つ以上のスパージャを介して導入することで送達される。更に他の態様では、ステップ(c)において、純酸素又は酸素富化空気は、10,000ガロンあたり約0.5CFM~約1.5CFMの速度で水性動物排泄物スラリーに注入される。更に他の場合では、純酸素又は酸素富化空気は、ステップ(c)の前に、10,000ガロンあたり約0.25CFM~約1.5CFMの速度で水性動物排泄物スラリーに注入される。嫌気性組成物は、硫化水素を含み得る。
【0021】
他の実施形態において、ステップ(b)には、安定化された動物排泄物組成物の水分含有量を約80重量%~約92重量%の間に調整して水性動物排泄物スラリーを生成することが含まれる。更に別の実施形態において、動物排泄物のpHは、クエン酸等の酸を加えることによって調整される。プロセスの好適なバリエーションには、ステップ(c)の前に、約40℃~約65℃の範囲の温度にまで水性動物排泄物スラリーを加熱することが含まれる。さらに、典型的に、自己熱性好熱性好気性生物反応には、第2期間において、少なくとも約55℃の温度にまで水性動物排泄物スラリーを加熱することが含まれる。自己熱性好熱性好気性生物反応における好気性条件は、約2mg/l~約6mg/lの間の溶存酸素レベルに起因し得る。
【0022】
このプロセスは、安定化された動物排泄物組成物、水性動物排泄物スラリー、及び消化された動物排泄物組成物が、プロセス全体を通して、約5.5~約7.5の間のpHで維持されることを要し得る。いくつかの実施形態において、第3期間は少なくとも約15分である。他の実施形態において、第3期間は少なくとも約1時間である。更に他の実施形態において、第1期間及び第2期間の双方は、少なくとも約1日である。更に他の実施形態において、第1期間及び第2期間の双方は、少なくとも約3日である。
【0023】
上述のプロセスを用いて、植物及び土壌に施用するための乳化バイオ肥料、液体生物刺激剤、及び/又は固体バイオ肥料組成物を生成できる。いくつかの実施形態において、組成物には、インドール-酢酸、12-オキソフィトジエン酸、ジャスモン酸、サリチル酸、インドール3-アセチル-アスパラギン酸、ジャスモニルイソロイシン、アブシジン酸、ピペコリン酸、N(δ)-アセチルオルニチン、アルファ-トコフェロール、ガンマ-トコフェロール、トラウマチン酸、及び3-インドールプロピオン酸から成る群から選択される、1つ以上の植物ホルモン又は二次代謝産物を含む。他の実施形態において、組成物には、マクロ栄養素又はミクロ栄養素等の少なくとも1つの添加剤が含まれる。さらに他の実施形態において、組成物は、植物が成長している、又は成長することになる土壌又は培地に施用するために配合される(又は処方される若しくは構成される、formulate)。別の場合では、それらは種子又は植物部位に施用するために配合される。
【0024】
特定の実施形態では、上述のプロセスによって生成される組成物は、有機プログラムでの使用に適している。また、これらの組成物は、従来の農業で使用するため、合成肥料若しくは化学肥料、又は農薬、又は他の作物投入物と混合することもできる。
【0025】
本発明の別な態様は、動物排泄物からバイオ栄養組成物を製造するためのプロセスを特徴とし、以下のステップを含む:(a)動物排泄物のpHを約5~約8に調整して、安定化した動物排泄物組成物を生成するステップ;(b)安定化した動物排泄物組成物の水分含有量を少なくとも約75重量%に調整して、水性動物排泄物スラリーを生成するステップ;(c)水性動物排泄物スラリーの成分を一定時間接触させたままにするステップ;(d)水性動物排泄物スラリー中の有機固体の粒子サイズを減ずるステップ;(e)水性動物排泄物スラリーを自己熱好熱性好気性生物反応(ATAB)に所定時間供して、消化された動物排泄物組成物を生成するステップ;並びに(f)消化された動物排泄物組成物を1つ以上の追加の処理ステップに供するステップであって、該処理ステップには、(1)消化された動物排泄物組成物に安定剤を加えること;(2)消化された動物排泄物組成物の温度を約40℃未満に調整すること;(3)消化された動物排泄物組成物に1つ以上の有機栄養素を加えること;及び/又は(4)必要に応じて、消化された動物排泄物組成物の実質的に固体の成分と実質的に液体の成分とを分離することが含まれる。そのような態様において、水性動物排泄物スラリーのATABは、純酸素又は酸素富化空気の送達システムを有して成る1つ以上のバイオリアクタで起こる。送達システムは、純酸素又は酸素富化空気を水性動物排泄物スラリーに導入して、中温性細菌又は好熱性細菌の増殖に適した好気性条件下にて水性動物排泄物スラリーを維持する。バイオリアクタ中の水性動物排泄物スラリーの温度は、約55℃~約75℃の間の温度で維持される。さらに、安定化された動物排泄物組成物、水性動物排泄物スラリー及び消化された動物排泄物組成物は、プロセス全体を通して、約5~約8のpHに維持される。
【0026】
いくつかの実施形態において、粒子サイズを減ずるために、コロイドミル、ホモジナイザー、マセレータ、又は分散グラインダが用いられる。例えば、ある特定の実施形態では、約1ミクロン未満の粒子サイズを供するように構成されたステータを有するコロイドミルによって、粒子サイズが減じられる。他の実施形態において、プロセスには、ATAB又は粒子サイズ減少ステップの前に、水性動物排泄物スラリーから無機固体の少なくとも一部を除去するステップが含まれる。例えば、ろ過又は水圧グリットリムーバーによって、水性動物排泄物スラリーから無機固体が除去されてよい。
【0027】
いくつかの実施形態において、純酸素又は酸素富化空気の送達システムには、約1ミクロン~約3ミクロンの範囲の細孔グレードを有する1つ以上のスパージャが含まれる。他の実施形態において、純酸素又は酸素富化空気は、10,000ガロンあたり約0.25CFM~約1.5CFMの速度で水性動物排泄物スラリーに導入される。さらに他の場合、所定の時間は少なくとも約1日である。さらに他の場合において、処置の時間は少なくとも約3日である。
【0028】
本発明の他の特徴及び利点は、以下の図面、詳細な説明及び実施形態を参照することによって明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、栄養組成物製造プロセスの例示的な実施形態のブロック図である。点線は、任意のステップを示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本明細書には、植物及び土壌のためのバイオ有機生物刺激剤及びバイオ肥料組成物を製造するための改善されたプロセスが記載されている。本開示の方法及びプロセスによって製造される組成物には、出発材料として動物の糞尿及び関連する排泄物品から製造される液体製品及び固体製品の両方が含まれる。さらに、本開示は、環境的に安全であり、有機農業、従来の農業、及び再生型農業産業で使用するための全ての精密農業応用システムにわたって完全に適合する、乳化バイオ肥料、並びに微生物及び栄養素が豊富な液体生物刺激剤及び固体バイオ肥料製品を生成できる製造プロセスを供する。同様にして、本明細書に記載のプロセスによって生成される組成物には、化学肥料と比較して、栄養素の再利用の促進及び土壌炭素源の再生を可能とするバイオ肥料及び生物刺激剤が含まれる。
【0031】
特定の実施形態において、出発材料は、家禽糞尿を含んで成る。本明細書に記載のプロセスには、水性排泄物スラリーに自己熱好熱性好気性生物反応(ATAB)を施し、液体ストリーム(又は液体流、liquid stream)又は成分に純酸素又は酸素富化空気を送達することが含まれる。本発明者らは、最初にスラリーを液体ストリームと固体ストリームとに分離する必要がなく、排泄物材料の十分な分解をさらに達成しながら、動物排泄物スラリーを微生物消化/分解に供するプロセスを見出した。重要なことには、スラリー全体をATABプロセスに供し、十分な好熱性条件を十分な時間(例えば、少なくとも約55℃の温度で少なくとも72時間)維持する能力により、National Organic Program及びFDAの生産食品安全要件(FDA Produce Food Safety requirements)を満たす固体製品及び液体製品の両方の生産が可能になる。
【0032】
さらに、本発明者らは、従来の曝気(aeration)、又はATAB中の泡の生成を減ずる純酸素又は濃縮酸素源で大気酸素源を利用する他の方法との置き換えと本革新技術とを組み合わせた。純酸素又は濃縮酸素の使用により、ATAB中の酸素利用が促進され、それによって蒸発が減じられる。これは、結果として、熱損失を減じ、動作温度範囲を広げ、動作温度を高くする。これは、有機物質の分解が促進され、安定性及び貯蔵寿命が向上した液体肥料製品をもたらす。結果として、農場施用中に噴霧装置が目詰まりする又は詰まる可能性が減じられ、植物の成長を促進する微生物化合物の生産が増加する。さらに、初期混合中及び分離前の安定化中の動物排泄物組成物への純酸素又は酸素富化空気の注入は、通常動物排泄物で見られる、有毒で臭気の原因となる硫化水素を含む、微生物の嫌気性発行から形成される望ましくない化合物の形成を防ぐ。したがって、発明者らは、促進された酸素の送達、及び均質化された動物排泄物スラリーのより効率的な微生物消化/分解を統合し、様々なバイオ有機製品の生産を可能とした。
【0033】
さらに説明すると、動物排泄物スラリーをATABに供した後、消化された動物スラリー材料は、さらに処理して汎用の乳化バイオ肥料にされ得る。代替的には、消化された動物スラリー材料が液体画分と固体画分とに分離され、特殊な液体生物刺激剤及び固体バイオ肥料がそれぞれ供され得る。本発明者らは、いずれの分離前に動物排泄物スラリーをATABに供することにより、分離された液体画分をATABに供するだけの場合と比較して、貯蔵寿命が向上し、ミクロ/マクロ栄養素、植物及び土壌の有益好気性細菌、並びに代謝化合物を有する汎用乳化バイオ肥料の製造が可能となることを見出した。さらに、状況によっては、ATABの前のデグリッティング(degritting)及び粒子サイズ縮小の追加のステップにより、ATABプロセス中の動物排泄物組成物の微生物消化の効率が向上する。さらに、消化された動物排泄物スラリーを消化後に分離することで、液体生物刺激剤製品及び固体バイオ肥料製品の両方が生成され得る。これらの各々は、植物及び土壌に有益な好気性細菌、窒素(例えば、最大34%、又はそれより高い窒素含有量)、並びに、植物の生体刺激活性を高める代謝化合物を、さらに従来のプロセスで作成された製品と比較して、高いレベルで有する。
【0034】
本明細書での使用に適した例示的な動物排泄物は、鳥の糞尿、特に家禽糞尿である。鳥の糞尿は、窒素、リン、及び他の栄養素が非常に多く、植物の成長に必要とされる堅牢な微生物群集を含んで成る傾向がある。したがって、鳥の糞尿は、本発明の実施形態での使用に適している。いくつかの異なる家禽種の糞尿に含まれる典型的な栄養素、及び微生物含有量の比較を表1に示す。
【0035】
【0036】
したがって、家禽又は食鳥(又は家禽、poultry birds)の糞尿は、農場等で保管される傾向があり、豊富で便利な調達を可能とするため、本製造方法での使用に特に適している可能性がある。特定の実施形態において、家禽糞尿は、鶏(コーニッシュ雌鶏(Cornish hens)を含む)、シチメンチョウ、アヒル、ガチョウ及びホロホロチョウから選択される。
【0037】
好ましい実施形態において、本製造プロセスで用いられる未加工の糞尿は、鶏糞を含んで成る。養鶏場及び他の家禽農場では、床で飼育する鳥(floor-raised bird)(例えば、シチメンチョウ、ブロイラー、ブロイラー種鶏(broiler breeder pullets))として家禽が飼育され得、糞尿には、動物糞便又は糞、並びに敷料、羽毛等が含まれる。代替的には、家禽農場では、地面から持ち上げられたケージ産卵鶏(caged egg layers)として家禽が飼育され得、糞尿は、主にケージから落ちた糞便(fecal droppings)(糞便及び尿酸)で構成される。特定の態様において、鶏糞は、産卵鶏、ブロイラー鶏、及び繁殖鶏から成る群から選択される。より具体的な実施形態において、糞尿は、産卵鶏の糞尿(egg layer manure)を含んで成る。
【0038】
鶏糞の典型的な組成を表2に示す(全組成の百分率又はppmでの分析)。含水量は、45%~70%で変動し得る。マクロ及びミクロの栄養素に加えて、糞尿には、PGPRである可能性があり、病原性の特徴も有する多様な微生物の集合体が含まれる。製造プロセスは、病原性微生物を削減又は排除し、PGPRを含む有益な微生物を培養するように設計されている。
【0039】
【0040】
特定の実施形態では、選択された家禽糞尿は、約17lb/ton~約71lb/ton(すなわち、約0.85重量%~約3.55重量%)の、有機窒素、アンモニア及びアンモニウムの総量である全ケルダール窒素(TKN)を含んで成る。特定の態様において、糞尿は、約16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70又は71lb/tonのTKNを含んで成る。
【0041】
本発明の組成物は、物理的(例えば、機械的、熱的)、化学的、及び生物学的な側面を組み合わせたプロセスによって、動物排泄物から生成される。これは、病原体を減少又は排除しながら、多様な微生物群集の増殖を促進し、それらの微生物の代謝産物を生成する。以下で詳述するように、これらは全て一緒に作用して、植物及び土壌の健康を促進する。これに関して、発明者らは、プロセスの様々な段階において、時間、温度、含水量レベル、酸化還元電位値、溶存酸素含有量、及び/又はpHを制御して、組成物の微生物及び生化学プロファイルを変更できる。さらに、プロセスの様々な段階で、純酸素又は濃縮された酸素源を用いると、過剰な発泡の防止、酸素フロー(又は酸素流、oxygen flow)の改善による有機物の微生物媒介分解のさらなる完全化、臭気の原因となる汚染物質の排除、及び最終製品の安定性及び貯蔵寿命の向上等のさらなる利点がある。
【0042】
理論に拘束されることを望むものではないが、組成物中の代謝物は、植物代謝物の前駆体合成ブロック(又は前駆体構築ブロック、precursor building block)として作用し、調節機能及び成長を促進できる。一態様において、組成物中の細菌は、例えば、シデロフォア、抗生物質及び酵素を含み得るアレロケミカルを生成し得る。別の態様において、植物二次代謝産物の合成のための前駆体分子には、フラボノイド、関連するフェノール及びポリフェノール化合物、テルペノイド、窒素含有アルカロイド、及び硫黄含有化合物が含まれ得る。
【0043】
本明細書で言及される全ての百分率は、特に言及がない限り、重量パーセント(重量%)である。
【0044】
範囲を用いる場合は、範囲内のいかなる値をも列挙および記載する必要がないように、省略形として用いられる。範囲内のいずれの値も、必要に応じて、上限値、下限値、又は範囲の終点として選択され得る。
【0045】
「約」という用語は、測定値(例えば、温度、重量、百分率、長さ、濃度等)を得るために用いられる装置の典型的な誤差率による、測定数値の変動を指す。一実施形態において、「約」という用語は、報告された数値の5%以内を意味し、好ましくは、報告された数値の3%以内を意味する。
【0046】
本明細書で用いられる場合、文脈で他のことが明示されていない限り、単語の単数形は複数形を含み、その逆もまた同様である。したがって、参照「a」、「an」、及び「the」は、一般に、それぞれの用語の複数形を包含する。同様に、「含む(include)」、「含んでいる(including)」、及び「又は」という用語は、文脈からそのような解釈が明確に禁じられない限り、全て包括的であると解釈される。同様に、「例」という単語は、特に用語の列挙が後に続く場合、単なる例示及び説明であり、排他的又は包括的であると見なされるべきではない。
【0047】
「含んで成る(comprising)」という用語は、「本質的に~から成る(consisting essentially of)」及び「~から成る(consisting of)」という用語によって包含される実施形態を含むことを意図している。同様に、「本質的に~から成る」という用語は、「~から成る」によって包含される実施形態を含むことを意図している。
【0048】
本明細書で用いられる場合、「動物排泄物」は、リター(litter)、敷料、動物の糞尿が廃棄されるいずれの他の環境を含む、動物の糞尿を含むいずれの材料をも指す。一態様において、「動物排泄物」は、鳥又は家禽(または鳥類、fowl)の糞尿を含んで成り、より具体的には、家禽糞尿(例えば、ニワトリ、シチメンチョウ、アヒル、ガチョウ、ホロホロチョウ)を含んで成る。特に、「動物排泄物」は、鶏糞、例えばブロイラー又は産卵鶏の鶏糞を含んで成る。他の態様において、「動物排泄物」は、例えばブタ、畜牛、ヒツジ、ヤギ、又は本明細書に具体的に記載されていない他の動物等の他の動物からの排泄物を指し得る。さらに別の態様において、「動物排泄物」は、2種類以上の動物、例えば2種類以上の家禽の排泄物品の混合物を指し得る。
【0049】
「向上した有効性」、「改善された有効性」、又は「増加した有効性」という用語は、本明細書で互換的に用いられ、生物刺激剤、バイオ肥料、合成肥料、化学殺虫剤/除草剤、及び植物の健康、作物又は種子の収量、栄養素の摂取又は効率、耐病性、土壌の完全性、ストレス(例えば、熱、干ばつ、毒素)に対する植物の反応、縮葉病に対する耐性等を改善する他の化合物の向上した能力を指す。例えば、生物刺激剤、バイオ肥料、合成肥料、又は化学農薬/除草剤に添加剤又は補助剤を添加すると、添加剤が存在しない同等の生物刺激剤、バイオ肥料、合成肥料、又は化学農薬/除草剤と比較して、「改善された有効性」がもたらされる。特に、本明細書で開示されている方法によって生成される生物刺激剤は、合成肥料又は農薬/除草剤と混合すると、生物刺激剤の非存在下で合成肥料又は農薬/除草剤で処理された同等の植物又は根圏と比較した場合、植物の健康、作物又は種子の収量、栄養素の摂取又は効率、耐病性、土壌の完全性、ストレス(例えば、熱、干ばつ、毒素)に対する植物の反応、縮葉病への耐性等の改善がもたらされ得る。前述の植物及び土壌の特質は、当業者によって、そのような測定に適した任意の数の標準技術を用いて客観的に測定できる。
【0050】
「家禽用リター」とは、家禽飼育施設で家禽を飼育する寝床材料を指す。リターは、おがくず又は木屑及びチップ、家禽糞尿、こぼれた食物、及び羽毛等の充填剤/敷料材料を含み得る。
【0051】
「糞尿スラリー」とは、糞尿と、いずれの液体、例えば尿及び/又は水との混合物を指す。したがって、一態様において、動物の糞及び尿が接触した際、又は糞尿が外部源からの水と混合された際に糞尿スラリーを形成できる。スラリーという用語は、特定の含水量及び/又は固体含有量を意味することを意図するものではない。
【0052】
「自己熱好熱性好気性生物反応」又は「ATAB」という用語は、本発明の液体及び/又はバイオマス栄養組成物を生成するために動物排泄物スラリーが供される生物反応を説明するため、本明細書で用いられる。以下に説明するように、この用語は、動物排泄物スラリーを(少なくとも部分的に内因的に発生した)高温に所定時間さらす発熱プロセスを指す。有機物は元の排泄物材料に存在する微生物によって消費され、微生物の活動中に放出される熱によって好熱温度が維持される。
【0053】
これに関して、「生物反応」は、生物学的反応、すなわち、微生物又はそのような微生物に由来する生化学的に活性な物質が関与する化学プロセスである。「自己熱」とは、生物反応がそれ自体で熱を発生させることを意味する。本開示において、熱は外部源から加えられてもよいが、プロセス自体は内部で熱を発生する。
【0054】
本明細書において、「中温菌」という用語は、典型的には、約20℃~約45℃の間の中程度の温度で最もよく増殖する微生物を指すために用いられる。
【0055】
「好熱性」とは、好熱性微生物の生存、増殖、及び/又は活性に有利な反応を指す。当技術分野で知られているように、好熱性微生物は「熱を好む」ものであり、本明細書で詳述されているように、45℃~80℃、より好ましくは50℃~70℃の増殖範囲を有する。「好気性」とは、好気性条件下、特に好気性微生物、すなわち酸素を好む(通性)又は必要とする(偏性)微生物に有利な条件下で生物反応が行われることを意味する。
【0056】
「嫌気性」とは、嫌気性微生物、すなわち通性嫌気性微生物、耐気性微生物、又は酸素の存在によって害を受ける微生物に有利な条件であることを意味する。「嫌気性」の化合物は、嫌気性呼吸(発酵)中に微生物によって生成されるものである。
【0057】
本明細書で用いられる場合、「純酸素」という用語は、酸素が少なくとも約96%である気体、典型的には、酸素が約96%~約98%の範囲である気体を指す。
【0058】
本明細書で用いられる場合、「酸素富化空気」という用語は、酸素が少なくとも約30%である空気又は気体を指す。
【0059】
「周囲空気」又は「大気酸素」という用語は、本明細書において互換的に用いられることがあり、地球上でみられる自然状態の空気を指す。当業者であれば、「周囲空気」又は「大気酸素」とは、酸素が約21%である空気を意味することを容易に理解する。
【0060】
本明細書で用いられる場合、「内因性」という用語は、内部から生じる物質又はプロセスを指す。例えば、本明細書で説明されるように、出発材料、すなわち動物排泄物から、又は製造プロセスの成分内、すなわち、消化された動物排泄物若しくは分離された液体成分及び固体成分内から、又は製造プロセスの製品内から、すなわち栄養組成物内から生じる。組成物は、内因性及び外因性(すなわち、添加された)成分の両方を含んでいてよい。これにつき、「内因的に含む」という用語は、加えられたというより、組成物に対して内因的である成分を指す。
【0061】
本明細書において、「生物防除剤」及び「生物農薬」という用語は、動物、植物、細菌及び特定の鉱物等の天然物質に由来する農薬を指すため、互換的に用いられる。例えば、キャノーラ油及び重曹は殺虫剤の用途を有しており、生物農薬と見なされる。「生物農薬」には、生化学農薬、微生物農薬、及び植物組み込み保護剤(plant-incorporated-protectants;PIPs)が含まれる。「生化学農薬」は、無毒のメカニズムによって害虫を防除する天然に存在する物質である。「微生物農薬」とは、有効成分として微生物(例えば、細菌、真菌、ウイルス又は原生動物)を含む農薬である。例えば、いくつかの実施形態では、バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)の亜種及び株が「微生物農薬」として用いられる。B.チューリンゲンシスは、用いられる特定の亜種又は株、及び製造された特定のタンパク質に応じて、昆虫の幼虫の特定の種を標的とするタンパク質の混合物を生成する。「PIPs」は、植物に加えられた遺伝物質から植物が生成する農薬物質である。例えば、いくつかの実施形態において、B.チューリンゲンシスの殺虫性タンパク質の遺伝子が植物ゲノムに導入され、植物によってそのタンパク質に発現され得る。
【0062】
本明細書で用いられる場合、「生物刺激剤」とは、種子、植物、又は根圏に施用されると自然のプロセスを刺激し、栄養素の摂取、栄養素の効率、非生物的ストレス(例えば、干ばつ、熱及び塩分土壌)に対する耐性、若しくは作物の品質及び収量を向上させる、又は利益をもたらす物質若しくは微生物を指す。また、1つ以上の一次栄養素(例えば、窒素、リン及び/又はカリウム)並びに少なくとも1つの生きている微生物を含む「生物刺激剤」もバイオ肥料である。他の「生物刺激剤」には、植物成長調節剤、有機酸(例えば、フルボ酸)、フミン酸、及びアミノ酸/酵素が含まれていてよい。
【0063】
本明細書で用いられる場合、「バイオ肥料」という用語は、1つ以上の一次栄養素(例えば、窒素、リン及び/又はカリウム)並びに生きている微生物を含む物質を指す。これらは、種子、植物の表面又は土壌に施用されると、根圏又は植物構造にコロニーを形成し、宿主植物への一次栄養素の利用可能性を高めることで、植物の成長を促進する。特に限定されないものの、「バイオ肥料」には、植物成長促進根圏細菌(plant growth promoting rhizobacteria;PGPR)、堆肥/堆肥茶、及び特定の真菌(例えば、菌根菌)が含まれる。植物の成長を促進することがわかっている細菌の例には、中温性細菌及び好熱性細菌の両方が含まれる。植物の成長を促進することが示されている特定の好熱性細菌には、バチルス、ウレイバチルス、ジオバチルス、ブレビバチルス及びパエニバチルス等の属のメンバーが含まれ、これらは全て家禽糞尿の堆肥に蔓延していることが知られている。植物の成長に有益であると報告されている中温菌には、バチルス属、セラチア属、アゾトバクター属、リシニバチルス属及びシュードモナス属に属するものが含まれる。
【0064】
「有機肥料」という用語は、典型的に、窒素、リン、及びカリウムの最低百分率を少なくとも保証する天然資源からの土壌改良剤を指す。例えば、植物及び動物の副産物、岩石粉、海藻、接種剤(inoculants)、及びコンディショナー等が含まれる。このような肥料がNOP等の有機プログラムで使用するための基準を満たしている場合、これらの肥料は、そのようなプログラムで使用するために登録、承認、またはリストされていると見なすこともできる。
【0065】
「植物成長促進根圏細菌」及び「PGPR」は、本明細書において互換的に用いられ、植物の根にコロニーを形成し、植物の成長を促進する土壌細菌を指す。
【0066】
「植物成長調整剤」及び「PGR」は、本明細書において互換的に用いられ、植物の細胞間コミュニケーションのための化学的メッセンジャー(すなわち、ホルモン)を指す。当該分野で現在認められている植物ホルモン又はPGRには、オーキシン、ジベレリン、サイトカイニン、アブシジン酸、エチレン、ブラシノステロイド、ジャスモン酸、サリチル酸及びストリゴラクトンの9つの群がある。
【0067】
本明細書において、「有機農業」という用語は、最終製品及び環境の両方、又は人間の健康に影響を与える可能性のある化学製品又は合成製品を使用しない、環境への影響が少ない技術を適用することによって土壌及び植物の健康を維持する生産システムを指すために用いられる。
【0068】
本明細書において、「従来の農業」という用語は、合成肥料、殺虫剤、除草剤、遺伝子改変等の使用を含む生産システムを指すために用いられる。
【0069】
本明細書において、「再生農業」という用語は、生物多様性を高め、土壌を豊かにし、流域を改善し、生態系サービスを強化する農業の原則と実践のシステムを指すために用いられる。
【0070】
本明細書で用いられる「根圏」という用語は、植物の成長、呼吸、及び栄養交換によって化学及び微生物学が影響を受ける植物の根の付近の土壌の領域を指す。
【0071】
本明細書で用いられる場合、「土壌改良剤」は、土壌の物理的、化学的、又は生物学的性質、特に植物に栄養を供する能力を改善するために土壌に加えられる物質である。土壌改良剤は、痩せた土壌を改善したり、又は不適切な管理によって損害を受けた土壌を再構築したりするために用いられ得る。このような改善には、土壌有機物の増加、土壌栄養プロファイルの改善、及び/又は土壌微生物多様性の増加が含まれ得る。
【0072】
本明細書の全体で、特許、公開された出願、及び学術論文を含む様々な刊行物を引用する。これらの刊行物の各々は、参照により、その全体が本明細書に組み込まれる。
【0073】
プロセス:
製造プロセスは、一般に以下のステップを含む:(1)動物排泄物スラリーを生成するための出発材料(動物排泄物、本明細書では「供給材料(又は原料、feedstock material)」とも称される)を調製するステップ;(2)動物スラリーの成分を一定時間接触させ、動物排泄物スラリーの曝気、混合、及び加熱のうちの1つ以上を含むようにするステップ;(3)動物排泄物スラリーから無機固体の少なくとも一部を除去するステップ;(4)必要に応じて、粒子サイズを縮小するステップ;並びに(5)動物排泄物材料を自己熱好熱性好気性生物反応(ATAB)に供して、消化された動物排泄物組成物を生成するステップ。
【0074】
この時点で、消化された動物排泄物組成物を冷却し、保存し、及び必要に応じて追加の有機栄養素を配合し、並びに/又は、例えばフミン酸で安定化して汎用目的の乳化バイオ肥料を生成できる。代替的には、消化された動物排泄物組成物を実質的に固体の成分と実質的に液体の成分とに分離することができ、その各々をさらに処理して、固体バイオ肥料及び液体生物刺激剤をそれぞれ生成することができる。液体生物刺激剤は、冷却し、必要に応じて追加の有機栄養素を配合し、安定化し、保存することができる。一方、固体バイオ肥料は、微生物含有量を維持するために低温で乾燥、脱水又は粒状にすることができる。また、必要に応じて、追加の有機栄養素を配合することもできる。最終的に、典型的には、輸送若しくは包装(又は梱包、packing)の前に液体生物刺激剤製品をろ過及び/又はスクリーニングに供される。
【0075】
鶏卵鶏糞等の未加工の糞に施用される製造プロセスの例示的な実施形態を示す概略図を
図1に示し、以下でさらに説明する。糞が家禽のリターとして、例えばブロイラー鶏から供給される場合、上述で要約したプロセスの開始前に敷料を取り除く。
【0076】
一般に、本明細書で開示される製造プロセスには、プロセスにおける様々なステップに純酸素又は酸素富化空気を導入するための酸素を供給又は送達するシステムを含み得る。酸素富化空気は、少なくとも約30%、例えば、少なくとも約30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、95.5%、96%、96.5%、97%、97.5%、98%、98.5%、99%、99.1%、99.2%、99.3%、99.4%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%又は99.9%の酸素濃度を有する。好適な酸素供給システムは、混合タンク、バイオリアクタ等に設置され得る。このような酸素供給システムは、大気中の酸素(又は周囲空気)を供給する、典型的なノズルミキサー及び曝気システムの代わりに設置され得る。一般に、大気酸素は、約21%の酸素濃度を有する空気又は気体であり、これは、本プロセスで供される酸素供給よりもかなり低い。純酸素又は酸素富化空気は、スラリー調製ステップ及び/又はATABステップに導入することができる。
【0077】
当業者が理解するように、アスピレータ、ベンチュリポンプ(venturi pump)、スパージャ、バブラー、カーボネータ、パイプ又はチューブ、タンク/シリンダ等の様々な送達デバイスを用いて、液体に気体を送達又は注入できる。特定の実施形態において、気体送達デバイスはスパージャである。本明細書で開示される酸素供給システムでの使用に適したスパージャは、いずれの技術標準プラスチック(art-standard plastic)(ポリエチレン若しくはポリプロピレン等)又は金属(ステンレス鋼、チタン、ニッケル等)の多孔質構造から成ってよい。加圧ガス(例えば、酸素)は、スパージャの細孔のネットワークを介して、スラリー又は液体画分等の水性混合物に送り込まれる。本明細書での使用に適した細孔グレードは、約0.1ミクロン~約5ミクロンの範囲、例えば、約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4.0、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、又は5.0ミクロンであり、好ましくは約1~3ミクロンである。特定の実施形態において、スパージャの細孔サイズは、約1.5ミクロン~約2.5ミクロンである。例えば、一実施形態において、酸素供給システムには、2ミクロンの焼結ステンレス鋼スパージャが含まれる。
【0078】
スラリー調製
調製ステップにおいて、最初に、水分含有量と、好ましくはpHについて供給材料を調整する。いくつかの実施形態では、いずれのpHでもプロセスを実施できるものの、後述するように、所望のpH範囲内でpHを維持することが好ましい。いくつかの態様において、pHの調整は、スラリー段階又はプロセスの後にも行われる。供給材料及び/又はスラリーのpHは、pH調整剤の添加によって中性又は酸性に調整されてよい。水分の調整の前又は後にpHを調整できることが理解される。代替的には、pH及び水分の調整は、同時に実施され得る。他の実施形態において、原料及び/又はスラリーのpHを調整する必要はない(すなわち、供給材料及び/又はスラリーのpHは、既に所望のpH範囲内にある)。しかしながら、典型的には、供給材料及び/又はスラリーのpHを調整する必要がある。特定の実施形態において、供給材料/スラリーは、約4~約8、又は、より具体的には約5~約8、又は、さらにより具体的には、約5.5~約8、若しくは約5.5~約7.5のpHに調整される。好ましい実施形態において、スラリーのpHは、少なくとも約6.0、約6.1、約6.2、約6.3、約6.4、約6.5、約6.6、約6.7、約6.8、約6.9、約7.0、約7.1、約7.2、約7.3、約7.4、約7.5、約7.6、約7.7、約7.8、又は約7.9である。いくつかの実施形態において、スラリーは、約8未満、より好ましくは約7.5未満のpHに調整される。例えば、ある特定の実施形態において、供給材料及び/又はスラリーは、約7又は約7.5のpHに調整される。さもなければ、非酸性(すなわち、塩基性)原料の酸性化は、糞中の天然アンモニアを不揮発性化合物(例えば、クエン酸アンモニウム)に安定化させるために重要である。したがって、pH調整ステップにより、安定化された動物排泄物組成物又は動物排泄物スラリーを生成する。安定化された動物排泄物スラリーのpHは、製造プロセス全体を通して、所望の範囲内、例えば、約5~約8、約5.5~約8、約5.5~約7.5、約6~約7.8、又は約7~約7.5で維持される。いくつかの実施形態において、最終製品のpHは、保管/包装/輸送の前に、約5~約6(例えば約5.5)に調整される。
【0079】
動物排泄物原料及び/又はスラリーのpHを調整するため、典型的には酸が用いられる。特定の実施形態において、酸は有機酸であるものの、無機酸を用いてよく、又は有機酸
と組み合わせてもよい。限定されないものの、好適な有機酸には、ギ酸(メタン酸)、酢酸(エタン酸)、プロピオン酸(プロパン酸)、酪酸(ブタン酸)、吉草酸(ペンタン酸)、カプロン酸(ヘキサン酸)、シュウ酸(エタン二酸)、乳酸(2-ヒドロキシプロパン酸)、リンゴ酸(2-ヒドロキシブタン二酸)、クエン酸(2-ヒドロキシプロパン-1,2,3-トリカルボン酸)、及び安息香酸(ベンゼンカルボン酸)が含まれる。好ましくは、酸は、食品又は飼料のpHを調整するために典型的に用いられる。好ましい酸はクエン酸である。例えば、いくつかの実施形態において、プロセス全体を通して、動物排泄物原料及び/又はスラリーのpHを所望の範囲内に維持するため、クエン酸が用いられてよい。
【0080】
上述のように、調製ステップには、動物排泄物材料の含水量を調整してスラリーを生成することも含まれる。含水量は、液体を加えて、例えばホース又はパイプを介してポンピングし、ある容器から別の容器に流動できるほど十分に液体である水性スラリーを形成することによって調整される。液体は、水若しくは外部供給源から供給される他の液体であってよく、又は、プロセスにおける別のステップからリサイクルされる液体であってもよい。特定の実施形態において、水性動物排泄物スラリーは、少なくとも約80%の含水量を有する。より具体的には、水性動物排泄物スラリーは、少なくとも81%、少なくとも約82%、少なくとも約83%、少なくとも約84%、少なくとも約85%、少なくとも約86%、少なくとも約87%、少なくとも約88%、少なくとも約89%、少なくとも約90%、少なくとも約91%、少なくとも約92%、少なくとも約93%、少なくとも約94%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、又は少なくとも約99%の含水量を有し、約99%の含水量が上限であることを理解されたい。特定の実施形態において、スラリーは、約80%~約95%、さらにより具体的には約84%~約88%、又は約80%~約92%の含水量を有する。
【0081】
また、動物排泄物スラリーの調製には、酸素欠乏状態での微生物発酵中に生成される嫌気性汚染物質の形成を防止し、嫌気性汚染物質を酸化するため、より好気的な環境を作り出す酸素の送達も含まれ得る。これらの望ましくない化合物の1つは、硫化水素である。これは、糞尿等の有機物質の嫌気性微生物による分解をもたらし得る。硫化水素は、有毒で腐食性があり、腐敗した卵のような独特の臭いを有する。液体及び固体の肥料製品の製造中に、有毒及び臭気の原因となる硫化水素を大幅に削減、又は除去することが強く望まれている。臭気の原因となる硫化水素は、気体酸素によって酸化され得る。
【0082】
スラリー又は液体成分において、硫化水素は、式1に示すイオン形態に解離する:
【化1】
硫化物イオンは、式2に従って自由に酸素と反応する:
【化2】
硫化水素の酸化の反応率は、およそ1.0である。例えば、1ppmの硫化水素に対して1mg/kg(ppm)の酸素を要する。いくつかの実施形態において、スラリー又は液体成分中の残留溶存酸素は、少なくとも約0.5ppmであり、例えば0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0ppm、又はそれ以上である。好ましい実施形態において、スラリー又は液体成分中の残留溶存酸素レベルは、少なくとも約1ppm、より好ましくは少なくとも約2ppmである。しかしながら、典型的なスラリー混合タンクは、微生物の嫌気性代謝によって形成される化合物の生成を減ずるため、システムに大気中の酸素を供給する。大気中の酸素源は、硫化水素汚染物質を除去するのに不十分な酸素を供し得る。したがって、より効率的な酸素送達システムが望まれている。
【0083】
したがって、スラリーの調製中に混合タンクにおける硫化水素及び他の汚染物質を酸化するため、調製ステップには、スラリー中に純酸素又は酸素富化空気を注入するための酸素の供給又は送達のシステムが含まれていてよい。これは、大気中の酸素を送達する既存の曝気システムと比較して、酸素の送達を実質的に増加させる。酸素の供給又は送達システムには、スパージャ、ベンチュリポンプ、バブラー、カーボネータ、パイプ等、スラリー中に酸素を送達又は注入するためのいずれの好適な手段が含まれていてよい。特定の実施形態において、酸素の供給又は送達システムには、複数のスパージャが含まれていてよい。いくつかの実施形態において、酸素は、材料10,000ガロン当たり約0.1CFM~約3CFMの速度で、例えば、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、又は3.0CFMの速度で調製ステップの混合タンクに送達される、及び/又はスラリー中に直接注入される。好ましい実施形態において、送達速度は、材料10,000ガロン当たり約0.25CFM~約1.5CFMであってよい。例えば、ある特定の実施形態では、材料10,000ガロン当たり約0.25CFMの速度で、酸素が調製ステップの混合タンクに送達される、及び/又はスラリー中に直接注入される。したがって、本明細書で開示される酸素の供給又は送達システムは、上述の所望の閾値を満たすために残留溶存酸素含有量を増加させる。
【0084】
スラリー調製システムは、高温で、4~8のpH、好ましくは5~8のpHにて、水性媒体中で均一なスラリーを調製するように設計されている。この段階において、(1)スラリーの混合及び流動性を促進すること、(2)病原体及び/若しくは雑草の種子を始末すること、並びに/又は(3)原料中に存在する中温性細菌の増殖を開始することを含むいくつかの目的で、温度を上昇させる。限定されないものの、数例を挙げると、混合タンクの伝導加熱、含水量の調整のための温水の使用、又は蒸気の注入等を含む、当技術分野で既知であるいずれの手段によって温度を上昇させることができる。特定の実施形態において、スラリーは、少なくとも約40℃、少なくとも約41℃、少なくとも約42℃、少なくとも約43℃、少なくとも約44℃、少なくとも約45℃、少なくとも約46℃、少なくとも約47℃、少なくとも約48℃、少なくとも約49℃、少なくとも約50℃、少なくとも約51℃、少なくとも約52℃、少なくとも約53℃、少なくとも約54℃、少なくとも約55℃、少なくとも約56℃、少なくとも約57℃、少なくとも約58℃、少なくとも約59℃、少なくとも約60℃、少なくとも約61℃、少なくとも約62℃、少なくとも約63℃、少なくとも約64℃、又は少なくとも約65℃にまで徐々に加熱される。典型的には、温度は約65℃を超えず、より具体的には、約65℃未満、又は約60℃未満である。特定の実施形態において、好ましくは、スラリーの温度は約40℃~約65℃、より好ましくは約40℃~約45℃の温度範囲内で維持される。病原体を確実に破壊するため、完全に均質化したスラリーを、65℃で最低1時間さらに加熱する。代替的には、病原体を殺すため、完全に均質化したスラリーをより低温でより長い時間加熱することができる。例えば、約46℃~55℃で、温度に応じて約24時間~約1週間の間加熱することができる。例えば、特定の時間/温度は、約55℃で約24時間、又は約46℃で約1週間であることができる。
【0085】
糞尿を微細な粒子に分解し、さらなる処理のためにスラリーを完全に均質化し、天然の中温細菌を活性化するのに十分な時間、pH調整された水性動物糞尿スラリーを高温に維持する。このようにして、動物排泄物スラリーの様々な成分を、この期間接触したままにする。例えば、特定の実施形態では、少なくとも約1時間から約4時間まで、例えば、約1、1.5、2、2.5、3、3.5、又は4時間の間、動物排泄物スラリーを高温で保持する。いくつかの実施形態では、この段階でスラリーを細断、混合、及び/又は均質化する。特定の実施形態において、上述で概説した調製ステップは、プロセスの後続ステップから分離され、下流のプロセスステップが未加工の糞尿で汚染される可能性を低減する。
【0086】
例示的な実施形態において、スラリーシステムは、チョッパー/ホモジナイザー(例えば、マセレータ又はチョッパーポンプ)、酸素供給システム(例えば、スパージャ)、pH及び温度制御、及びオフガス(off-gases)用のバイオろ過システムを備えるタンク(例えば、スチールタンク又はステンレススチールタンク)から成る。
【0087】
例示的なプロセスは、タンクに水を入れ、それを約45℃以上にまで加熱し、クエン酸でpHを約7以下、好ましくは約5~約7のpH範囲にまで下げることから成る。原料を導入する前に、チョッパーポンプ、酸素供給システム(例えば、スパージャによる)、及びオフガスバイオろ過システムをオンにして、例えば85~90%の含水量を確保する。これはバッチ操作であり、様々な実施形態では、均一なスラリーとするために1~4時間かかり得る。この操作により、糞尿の各粒子を、少なくとも1時間、45℃の温度に供して中温性分解が開始される。さらに、純酸素又は酸素富化空気の注入は、嫌気性発酵によって生成される、硫化水素等の有毒で臭気の原因となる汚染物質を低減又は排除する。
【0088】
特定の実施形態において、上述のように調製される水性動物排泄物スラリーは、例えばプログレッシブキャビティポンプを用いて、ポンピングによってスラリータンクから移送される。プログレッシブキャビティポンプは、石、羽毛、木材チップ等の異物を含み得るスラリーを移動させるのに、特に好適なデバイスである。移送ラインは振動スクリーンに向けることができる。スクリーンは、垂直軸モード又は水平クロスモードのいずれかで振動することができる。選択された振動スクリーンは、適切なサイズの穴を有し、より大きな材料がスラリーシステムから確実に排除される。一実施形態において、スクリーンは、任意の寸法で、約1/8インチより大きい材料を排除する。
【0089】
次いで、スラリーのフローは、プロセスの次のステップに直接ポンピングされるか、又は、代替的に貯蔵タンクにポンピングされ得る。貯蔵タンクは、pH及び温度の制御及び/又は攪拌システムを備えていてよい。特定の実施形態では、貯蔵タンクもまた酸素供給システムを備えていてよい。このような実施形態では、スラリー10,000ガロン当たり約0.1CFM~約3CFMの速度で、例えば、スラリー10,000ガロン当たり0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、又は3.0CFMの速度で純酸素又は酸素富化空気を注入することで、好気性条件下でスラリーを保持する。好ましくは、スラリー10,000ガロン当たり約0.25CFM~約1.5CFM、より好ましくはスラリー10,000ガロン当たり約0.5CFMで、純酸素又は酸素富化空気がスラリーに送達される。いくつかの実施形態では、上述のもの等の複数のスパージャを介して酸素が送達される。好気性条件下にスラリーを保持することによって、嫌気性化合物の発酵が回避される。必要に応じて、オフガスは、バイオろ過又は他の処理手段に供される。
【0090】
デグリッティング(degritting)
動物排泄物原料及び水性動物排泄物スラリーには、砂、石、及び他のグリット(又は砂粒、grit)等の様々な無機粒子が含まれている。グリットは、バイオリアクタ、ポンプ、混合装置、遠心分離機、及び製造プロセスに含まれ得る他の装置の摩耗を増加させ得る。そのため、グリットを除去することで、この装置は摩耗から保護され、エネルギー及びメンテナンスのコストが削減される。さらに、これらの無機粒子の除去は、有機成分の表面利用可能性を向上させ、微生物の消化/分解の効率を高め、最終製品の品質をも向上させる。したがって、本明細書で開示されるプロセスの好ましい実施形態において、混合タンク又は貯蔵タンクからの水性動物排泄物スラリーのストリームは、グリット及び他のコース(course)並びに微細な無機固体の少なくとも一部を除去するように構成されたシステムに送られる。好ましくは、グリット及び他の無機固体の大部分は、水性動物排泄物スラリーから除去される。
【0091】
様々なグリット除去システムを本発明に用いることができる。いくつかの実施形態において、スラリー調製混合タンクは、グリット捕捉用に構成されるメッシュスクリーンが取付けられている。適切なメッシュスクリーンは、18メッシュ~5メッシュ(すなわち、約1mm~約4mm)の範囲であり、例えば、18、16、14、12、10、8、7、6、又は5メッシュである。好ましくは、メッシュスクリーンは12メッシュ~8メッシュ(すなわち、約1.68mm~約2.38mm)である。例えば、グリットの除去用に構成されるスラリー調製タンクは、グリットの捕捉及び除去のため、10メッシュのスクリーンを用いて、重力を利用してよい。
【0092】
他のグリット洗浄及び除去システムには、開いた自由な渦を生成するようにスラリーのフローを制御する水圧容器が含まれる。結果として、薄い流体境界で高い遠心力が発生する。その後、グリットは外周に押し出され、そこで重力によって落下し、排出される。次いで、動物排泄物スラリーは、水圧バルブを介して容器から排出される。このような実施形態において、約150gpm~約1,200gpm(約9.5L/s~約75.7L/s)の速度で、例えば、約150gpm、200gpm、250gpm、300gpm、350gpm、400gpm、450gpm、500gpm、550gpm、600gpm、650gpm、700gpm、750gpm、800gpm、850gpm、900gpm、950gpm、1,000gpm、1,050gpm、1,100gpm、1,150gpm、又は1,200gpmの速度で、接線方向にて、動物排泄物スラリーが水圧容器にポンピングされる;好ましくは、速度は約200gpm~約1,000gpm(約12.6L/s~約63.1L/s);より好ましくは、速度は約250gpm~約800gpm(約15.8L/s~約50.5L/s)である。例えば、ある特定の実施形態において、動物排泄物スラリーは、約300gpm(約18.9L/s)の速度でグリット除去容器にポンピングされる。このシステムでは、バイオリアクタに充填する前に回転ドラムフィルターを用いる必要がなく、約95μm、約90μm、約85μm、約80μm、約75μm、又は約70μmという小さなグリットを動物排泄物スラリーから捕捉、洗浄、及び分類する。
【0093】
Hydro International(ヒルズバロ、オレゴン州、米国)のSLURRYCUPグリット洗浄システム等の水圧システムが当技術分野で利用可能である。いくつかの実施形態では、動物排泄物スラリーのストリームの複数回のグリット洗浄を供するため、2つ以上の水圧容器が直列に構成される。さらに他の実施形態において、システムは、グリット出力を捕捉して脱水し、それによって固形物の取り扱い及び処理コストを削減するベルトエスカレータと共に用いることができる(例えば、GRIT SNAIL、Hydro International、ヒルズバロ、オレゴン州、米国)。
【0094】
グリット除去ステップから、上述した貯蔵タンク等の貯蔵タンクに水性動物排泄物スラリーのストリームを向けることができる。上述のように、これらの貯蔵タンクには、pH及び温度の制御、攪拌システム、及び/又は酸素供給システムが備えられる。このような実施形態にでは、スラリー10,000ガロン当たり約0.1CFM~約3CFMの速度で、例えば、スラリー10,000ガロン当たり0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、又は3.0CFMの速度で純酸素又は酸素富化空気を注入することで、好気性条件下にスラリーを保持する。好ましくは、スラリー10,000ガロン当たり約0.25CFM~約1.5CFMで、より好ましくは、スラリー10,000ガロン当たり約0.5CFMで、純酸素又は酸素富化空気がスラリーに送達される。いくつかの実施形態において、酸素は、上述のもの等の複数のスパージャを介して送達される。
【0095】
いくつかの実施形態では、動物排泄物スラリーをさらに処理して粒子サイズを減じることができる。それによって表面積が増加し、含水量が低い動物排泄物スラリーを含む動物排泄物成分の、より完全な好気性消化が支持される。限定されないものの、好適なサイズ減少装置には、コロイドミル、ホモジナイザー、マセレータ、又は分散グラインダが含まれる。ある実施形態において、本方法は、高圧で、キャビテーション、乱流、又は何らかの他の力を付与しながら、スラリー材料を狭い空間に押し込むホモジナイザーを使用して、一貫した均一な動物排泄物スラリーを生成する。別の実施形態では、コロイドミルが用いられる。当業者が理解するように、コロイドミルには、多くの小さなスロットを含む固定ステータ上で高速で回転するローターが含まれる。ローター・ステータ混合機(rotor-stator mixer)は、スラリーをステータのスロットに押し込み、それによって粒子サイズを約1.5ミクロン未満、例えば1.5ミクロン、1.4ミクロン、1.3ミクロン、1.2ミクロン、1.1ミクロン、1ミクロン、0.9ミクロン、0.8ミクロン、0.7ミクロン、0.6ミクロン、0.5ミクロン、0.4ミクロン以下、好ましくは約1ミクロン未満に減ずる。好ましい実施形態において、プロセスには、有機粒子のサイズを約1ミクロン未満に減ずるためのマセレータ又はコロイドミルを含むサイズ減少ステップが含まれる。
【0096】
自己熱好熱性好気性生物反応
次のステップには、動物排泄物スラリーを自己熱好熱性好気性生物反応(ATAB)に供することが含まれる。ATABは、細かく懸濁した固体を含む動物排泄物成分を所定の時間高温にさらす、発熱プロセスである。有機物は、元の排泄物材料に存在する微生物によって消費される。微生物活動中に放出される熱は、中温性及び/又は好熱性温度で維持され、それによって、中温性微生物及び好熱性微生物の生成がそれぞれ促進される。自己熱好熱性好気性生物反応により、マクロ栄養素及びミクロ栄養素、PGPR、二次代謝産物、酵素、及びPGR/植物ホルモンを含む、生物学的に安定した製品が生成される。
【0097】
既存の方法では、グリット除去後、典型的には、スラリーは、固体/液体分離に供される。これらのプロセスにおいて、液体成分には、次いでATABステップに供される動物排泄物が約4%~約6%しか含まれない。さらに、これらの方法で調製される固形物は、有益な細菌を破壊する乾燥ステップを含まなければ、NOP基準を満たしていない。したがって、この分離ステップは、植物にとって重要で、貴重な非水溶性栄養素を液体成分から除去する。さらに、そのようなプロセスにより、液体ストリームの効率的なATAB分解のみが可能となる。したがって、水性動物排泄物スラリーの約15%~約25%のみがATABステップに供される。次いで生成される固形物は、栄養豊富な肥料及び土壌改良剤であるものの、より価値の高い生物刺激剤又はバイオ肥料ではない。このように、本発明者らは、ATABの前に分離を必要とせず、ATABステップ中に水性動物排泄物スラリー全体の効率的な微生物分解を可能とする、上述のデグリッティング及び/又はサイズ縮小ステップを含み得る本システムを開発した。このようにして、以下に説明するように、液体の生物刺激剤及び固体のバイオ有機肥料製品の両方を、商業的ニーズ及びNOP基準を満たす適切な栄養素及び代謝化合物で製造できる。
【0098】
特定の実施形態において、高温条件は、約45℃~約80℃である。より具体的には、高温条件は、少なくとも約46℃、47℃、48℃、49℃、50℃、51℃、52℃、53℃、54℃、55℃、56℃、57℃、58℃、59℃、60℃、61℃、62℃、63℃、64℃、65℃、66℃、67℃、68℃、69℃、70℃、71℃、72℃、73℃、74℃、75℃、76℃、77℃、78℃、又は79℃である。特定の実施形態において、高温条件は、約45℃~約75℃、より具体的には約45℃~約70℃、より具体的には約50℃~約70℃、より具体的には約55℃~約65℃、特に具体的には約60℃~約65℃である。特定の実施形態において、動物排泄物スラリーは、穏やかな攪拌下(例えば、完全な回転が1時間あたり約10~約60回である)で、ATABにて維持される。
【0099】
一般に、ATABの温度は、中温相にまで、次いで好熱相にまで徐々に上昇する。中温相は、中温菌が最もよく増殖する温度範囲(例えば、約20℃~約45℃)であることが当業者に理解されている。温度が20℃を超えて約40℃にまで上昇すると、動物排泄物スラリーは中温相に入り、それによって中温菌が豊富になる。いくつかの実施形態において、中温相温度は、約30℃~約40℃であり、例えば、約30℃、31℃、32℃、33℃、34℃、35℃、36℃、37℃、38℃、39℃、又は40℃である。他の実施形態において、中温相温度は約35℃~約38度である。そのような実施形態において、1時間~数日間の期間、例えば、少なくとも約1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、11時間、12時間、13時間、14時間、15時間、16時間、17時間、18時間、19時間、20時間、21時間、22時間、23時間、1日、2日、3日、4日、又は5日の期間、動物排泄物スラリーが中温相温度で維持される。好ましい実施形態において、動物排泄物スラリーは、約1日~約4日、より好ましくは約1日~約3日の期間、中温相温度で維持される。例えば、ある特定の実施形態において、動物排泄物スラリーは、約3日間、中温相温度で維持される。温度が上昇し続けると、動物排泄物スラリーは好熱相に入り、それによって好熱菌が豊富になる。好熱相は、好熱菌が最もよく増殖する温度範囲(例えば、約40℃~約80℃)であることが当業者に理解されている。いくつかの実施形態において、好熱相温度は、約45℃~約80℃であり、例えば、約45℃、46℃、47℃、48℃、49℃、50℃、51℃、52℃、53℃、54℃、55℃、56℃、57℃、58℃、59℃、60℃、61℃、62℃、63℃、64℃、65℃、66℃、67℃、68℃、69℃、70℃、71℃、72℃、73℃、74℃、75℃、76℃、77℃、78℃、79℃、又は80℃である。他の実施形態において、好熱相温度は、約50℃~約70℃である。さらに他の実施形態では、好熱相温度は少なくとも約55℃であることが好ましい。より好ましくは、動物排泄物スラリーは、少なくとも一部の時間、約60℃~約65℃の温度範囲で維持される。
【0100】
特定の実施形態において、動物排泄物スラリーは、数時間~数日の期間、高温で維持される。多くの場合、1日~14日の範囲が用いられる。特定の実施形態において、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、又はそれ以上の間、より好ましくは1~8日の間、条件が維持される。ガイダンスのみを目的として、生物反応は、病原性生物の適切な現象を確実にするため、例えば作物の食品部分での使用に関するガイドラインを満たすため、より長い期間(例えば3日以上)高温で維持される。例えば、NOP基準では、動物排泄物スラリーは、72時間以上の期間、少なくとも約55℃の温度に供する必要がある。しかしながら、生物反応の長さが生物反応生成物の生物学的及び生化学的内容に影響を与える限りにおいて、他の時間、例えば数時間~1日又は2日を選択してよい。特定の実施形態において、好熱性細菌に適した高温に維持された後、動物排泄物スラリーの温度は、中温温度範囲にまで徐々に低下し、そこで、液体成分が急速殺菌されるか、又は熱交換器を通過して温度が急激に下がるまで、中温相の温度で維持される。多くの場合、これらのいずれかによって細菌が胞子を生成する。
【0101】
好気性好熱性条件下で操作する際の課題の1つは、高温条件で操作している間に、酸素要求を満たす又は超えることによって、プロセスを十分に好気性に保持することである。これが困難である理由の1つは、プロセスの温度が上昇するにつれて、残留溶存酸素の飽和値が減少することである。別の課題は、中温性及び好熱性の微生物の活動が温度の上昇とともに増加し、それによって微生物による酸素の消費が増加することである。これらの要因のため、様々な態様において、より多くの酸素をバイオマス含有溶液に与えるべきである。
【0102】
その内容全体が本明細書に組み込まれているWO2017/112605A1に記載されているように、既存のバイオリアクタは、ジェットエアレータ等の曝気デバイスを用いて、大気中の酸素をバイオリアクタに送達する。これは、酸素効率が高く、酸素移動の独立した制御が可能であり、混合が優れており、またオフガスの生成が削減されるためである。しかしながら、大気中の酸素は、バイオリアクタ内で過剰な発泡を引き起こし、それによって酸素供給の効率を妨げ、空気供給の頻繁な停止を引き起こす。場合によっては、例えば、発泡のレベルは、大気が供給されると数フィートを超え得、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8フィート以上を超え得る。次いで、不適切な空気の供給及び反応の中断により、望ましくない有機材料の分解が不完全となる。さらに、実質的に液体のストリームに浮遊する未分解固体が増加すると、除去が困難である。得られる液体肥料は、農場施用中に噴霧装置を詰まらせ、それによって農場作業を停止させる場合がある。さらに、最終的な生物栄養組成物製品に存在する未分解の固形物は、安定性及び貯蔵寿命を低下させる。
【0103】
したがって、これらの障害を克服するため、特定の実施形態では、純酸素又は酸素富化空気は、バイオリアクタに送達され、液体成分1,000ガロン当たり約0.1CFM~5CFMの速度で動物排泄物スラリーに注入又は送達される。例えば、速度は、動物排泄物スラリー1,000ガロン当たり0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4.0、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、又は5.0CFMである。好ましい実施形態において、純酸素及び酸素富化空気は、バイオリアクタに送達され、動物排泄物スラリー1,000ガロン当たり約0.5CFM~約1.5CFMの速度で動物排泄物スラリーに注入又は送達される。より好ましくは、速度は、動物排泄物スラリー1,000ガロン当たり約1.0CFMである。
【0104】
特定の実施形態において、純酸素又は酸素富化空気は、上述のように、複数のスパージャを用いてバイオリアクタに送達される。例えば、1つ以上の2ミクロンの焼結ステンレス鋼スパージャを用いて、ATAB中に動物排泄物スラリーに純酸素又は酸素富化空気を注入してよい。動物排泄物スラリーを好気性条件下で保持すると、好気性細菌、中温性細菌及び好熱性細菌が培養及び濃縮される。特定の実施形態において、動物排泄物スラリー中の有機物質の最初の分解は、可溶性で容易に分解可能な化合物を急速に分解する中温性生物によって実施される。中温性生物が生成する熱により、ATAB中の温度が急速に上昇し、それによって、タンパク質、脂肪、及び複合炭水化物(例えば、セルロースやヘミセルロース)の分解を加速する好熱性生物が豊富になる。これらの高エネルギー化合物の供給が枯渇すると、動物排泄物スラリーの温度は徐々に低下し、中温性生物が再び促進され、動物排泄物スラリーに残存する有機物の「硬化(curing)」又は熟成(又は成熟、maturation)の最終段階となる。したがって、大気中の酸素の供給を純酸素又は酸素富化空気の供給に置き換えることで、ATAB中にバイオリアクタで生成される発泡の量が大幅に減じられる。次いで、発泡の減少により、より効率的な酸素供給、より一貫したバイオリアクタ操作、及びより堅牢な好気性環境が可能となる。結果として、未分解の有機材料が大幅に減少し、より安定し、費用効果の高い最終製品が得られる。
【0105】
本明細書に記載のATAB条件は、PGPRとして用いるためのいくらかの好熱性微生物及び中温性微生物の増殖及び濃縮を可能にする。限定されないものの、動物性排泄物スラリーから単離できる有益な好熱性微生物及び中温性微生物には、バチルス属(例えば、B.イソロネンシス(B. isronensis)株B3W22、B.コケシフォルミス(B. kokeshiiformis)、B.リケニフォルミス(B. licheniformis)、B.リケニフォルミス株DSM13、B.パラリケニフォルミス(B. paralicheniformis)、B.パラリケニフォルミス(B. paralicheniformis)株KJ-16)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)(例えば、C.エフィシエンス(C. efficiens)株YS-314)、イディオマリナ属(Idiomarina sp.)(例えば、I.インディカ(I. indica)株SW104)、オセアノバチルス属(Oceanobacillus sp.)(例えば、O.カエニ(O. caeni)株S-11)、ソリバチルス属(Solibacillus sp.)(例えば、S.シルヴェストリス(S. silvestris)株HR2-23)、スポロサルシナ属(Sporosarcina sp.)(例えば、S.コレンシス(S. koreensis)株F73、S.ルテオラ(S.luteola)株NBRC105378、S.ニューヨーケンシス(S. newyorkensis)株6062、S.サーモトレランス(S. thermotolerans)株CCUG53480)、及びウレイバチルス属(Ureibacillus sp. (例えば、U.サーモスファエリカス(U. thermosphaericus))が含まれる。次いで、これらの細菌は、以下の表3にまとめられているように、植物成長調節剤として機能する様々な植物ホルモン及びその他の二次代謝産物を生成する。
【0106】
【0107】
一態様において、適切に構成された酸素供給システムは、約1mg/L~約8mg/Lの溶存酸素レベルを維持する必要がある。例えば、溶存酸素レベルは、約1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、5.0、5.1、5.2、5.3、5.4、5.5、5.6、5.7、5.8、5.9、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、又は8.0mg/Lである。好ましい実施形態において、酸素供給システムは、約2mg/L~約6mg/L、より好ましくは約3mg/L~約4mg/Lの溶存酸素レベルを維持する必要がある。特定の実施形態において、生物反応の酸素化は、酸化還元電位(ORP)に関して測定される。通常、生物反応のORPは、約-580mV~約+70mVに維持される。より具体的には、-250mV~+50mVの範囲内で維持される。より好ましくは、-200mV~+50mVの範囲内に維持される。
【0108】
ATABの温度、pH、及び酸素化パラメータをモニタリングするため、そのようなパラメータを制御する自動コントローラをバイオリアクタに備えることができる。いくつかの実施形態において、バイオリアクタは、バイオリアクタへの酸素空気供給及びpH調整剤の供給速度を調節することによって、pH、ORP、及び他のパラメータを効果的に制御するプログラマブルロジックコントローラ(programmable logic controller; PLC)を備える。実際、本明細書で開示されるプロセスステップのいずれかへの酸素の送達は、このようにPLCを用いて制御できる。
【0109】
任意的な分離及び配合
ATAB後の消化された動物排泄物組成物は、さらに処理され、汎用の乳化バイオ肥料又は分離された固体バイオ肥料及び液体生物刺激剤を生成し得る。汎用の乳化バイオ肥料の生成のため、消化された動物排泄物組成物は、ATABバイオリアクタからポンピングされ、乳化され、冷却され、そして保存される。乳化は、当技術分野の標準的な手段を用いて実施できる。例えば、一実施形態において、消化された動物排泄物組成物は、コロイド乳化剤によって処理される。同様に、熱交換器等の任意の標準的な手段によって冷却を促進できる。消化された動物排泄物組成物は、約25℃~約45℃の範囲の温度に冷却される。例えば、温度は25℃、26℃、27℃、28℃、29℃、30℃、31℃、32℃、33℃、34℃、35℃、36℃、37℃、38℃、39℃、40℃、41℃、42℃、43℃、44℃、又は45℃であり;好ましくは、約30℃~約40℃である。例えば、一実施形態において、消化された動物排泄物組成物は、約35℃に冷却される。さらに、pHは約5~約6.5に調整される。好ましくは、pHは約5.5である。pH調整剤に適した酸には、ギ酸(メタン酸)、酢酸(エタン酸)、プロピオン酸(プロパン酸)、酪酸(ブタン酸)、吉草酸(ペンタン酸)、カプロン酸(ヘキサン酸)、シュウ酸(エタン二酸)、乳酸(2-ヒドロキシプロパン酸)、リンゴ酸(2-ヒドロキシブタン二酸)、クエン酸(2-ヒドロキシプロパン-1,2,3-トリカルボン酸)、及び安息香酸(ベンゼンカルボン酸)が含まれる。好ましくは、酸はクエン酸である。別の実施形態において、消化された動物排泄物組成物は、フミン酸で安定化できる。
【0110】
さらに、本明細書で製造される乳化バイオ肥料は、インドール酢酸、12-オキソフィトジエン酸、ジャスモン酸、サリチル酸、インドール3-アセチル-アスパラギン酸、ジャスモニルイソロイシン、アブシジン酸、ピペコリン酸、N(δ)-アセチルオルニチン、アルファ-トコフェロール、ガンマ-トコフェロール、トラウマチン酸、及び3-インドールプロピオン酸から成る群から選択される、少なくとも1つの植物ホルモン又は二次代謝産物を含有する。他の態様において、本明細書で製造される乳化バイオ肥料は、少なくとも2つの植物ホルモン又は二次代謝産物を含有し、好ましくは、少なくとも3つの植物ホルモン又は二次代謝産物を含有する。次いで、植物ホルモン又は二次代謝産物は、植物の成長及び発達を促進し得る。最終的に、最終的な汎用乳化バイオ肥料には、後述する追加の有機栄養素を補充してよい。
【0111】
いくつかの実施形態では、消化された動物排泄物組成物を、実質的に固体の成分と実質的に液体の成分とに分離することが望ましい。したがって、ATABに続いて、プロセスの次のステップのために、消化された動物排泄物組成物は、バイオリアクタから分離システム(例えば、遠心分離機又はベルトフィルタープレス)にポンピングされる。限定されないものの、固液分離システムには、機械的スクリーニング又は清澄化が含まれ得る。好適な分離システムには、遠心分離、ろ過(例えば、フィルタープレスによる)、振動分離、沈降(例えば、重力沈降)等が含まれる。いくつかの実施形態では、2段階分離システム、例えば、遠心分離ステップ及びそれに続く振動スクリーン分離ステップを用いてよい。
【0112】
非限定的な例示的実施形態において、この方法は、連続的な機械的分離を供するデカンタ遠心分離機を採用する。デカンタ遠心分離機の動作原理は、重力分離に基づく。デカンタ遠心分離機は、連続回転を用いて沈降速度を高め、通常の重力の1000~4000倍の重力を発生させる。このような力がかかると、密度の高い固体粒子が回転するボウルの壁に外側に向かって押し付けられ、一方で密度の低い液相が同心の内層を形成する。必要に応じて液体の深さを変えるため、様々なダムプレートが用いられる。固体粒子によって形成された沈殿物は、ボウルとは異なる速度で回転するスクリューコンベアによって連続的に除去される。結果として、固体は、池から徐々に「耕され(ploughed)」、円錐形の「浜(beach)」を上がる。遠心力によって固形物が圧縮され、余分な液体が排出される。次いで、圧縮された固形物がボウルから排出される。清澄化された液相又は複数の液相は、ボウルの反対側の端にあるダムプレートから溢れ出す。遠心分離ケーシング内のバッフルは、分離された相を正しい流路に導き、交差汚染のリスクを防ぐ。固形物の負荷の変化に合わせて調整するため、可変周波数ドライブ(VFD)を用いて、スクリューコンベアの速度が自動的に調整される。いくつかの実施形態では、ポリマーを分離ステップに追加して分離効率を高め、より乾燥した固体生成物を生成してよい。好適なポリマーには、アニオン性、カチオン性、非イオン性、及び両性イオンポリアクリルアミドなどのポリアクリルアミドが含まれる。
【0113】
したがって、分離プロセスは、消化された動物排泄物組成物の実質的に固体の成分及び実質的に液体の成分の形成をもたらす。「実質的に固体」という用語は、当業者は、その中にある量の液体を有する固体を意味すると理解するであろう。特定の実施形態において、実質的に固体の成分は、例えば、約40%~約64%の水分、多くの場合、約48%~約58%の水分を含有し得る。本明細書では、「固体」、「ケーキ」又は「ウェットケーキ」と称すこともある。同様に、「実質的に液体」という用語は、その中にある量の固体を含有し得る液体を意味すると理解される。特定の実施形態において、実質的に液体の成分は、約2%~約15%の固体(すなわち、約85%~約98%の水分)を含有し得、多くの場合、約4%~約7%の固体を含有し得る。本明細書では、「液体」、「液体成分」、又は「セントレート(centrate)」(分離に遠心分離を用いた場合は後者)と称すこともある。
【0114】
実質的に固体の成分は、pHを約5~約6.5のpHに調整することによって、バイオマス/バイオ肥料製品を製造するために安定化される。好ましくは、pHは約5.5である。pH調整剤に適した酸には、ギ酸(メタン酸)、酢酸(エタン酸)、プロピオン酸(プロパン酸)、酪酸(ブタン酸)、吉草酸(ペンタン酸)、カプロン酸(ヘキサン酸)、シュウ酸(エタン二酸)、乳酸(2-ヒドロキシプロパン酸)、リンゴ酸(2-ヒドロキシブタン二酸)、クエン酸(2-ヒドロキシプロパン-1,2,3-トリカルボン酸)、及び安息香酸(ベンゼンカルボン酸)が含まれる。好ましくは、酸はクエン酸である。別の実施形態において、固体のバイオ肥料は、フミン酸で安定化させることができる。重要なことに、ATABの後に分離を行うと、代謝化合物を含む固体バイオ肥料が生成され、ATABが施されずに分離された固体バイオ肥料製品と比較して、生物刺激活性が向上する。最後に、最終的な固体バイオ肥料には、後述する追加の有機栄養素が補充される。いくつかの実施形態において、最終的な固体バイオ肥料製品は、微生物成分及び生物刺激成分を保存し、保管及び取り扱い/搬送を容易にするため、低温でさらに乾燥/脱水される(水を有さずに軽量化する)。例えば、分離ステップの後、実質的に固体の成分は、典型的には約40%~約75%の含水量を有し、好ましくは約55%~約65%の含水量を有する。実質的に固体の成分は、約100℃未満の温度(例えば、60℃、65℃、70℃、75℃、80℃、85℃、90℃、又は99℃)で、約15分~約6時間の範囲の時間、又は最終的な固体バイオ肥料の最終的な含水量が約10%~約20%になるまで、脱水される。限定されないものの、好適な脱水装置には、回転ドラム、固定式流動床、又は真空乾燥機が含まれる。
【0115】
実質的に液体の成分を更に処理して(例えば、冷却及び酸性化して)、液体生物刺激剤を生成できる。上述の汎用製品と同様に、熱交換器等の任意の標準的な手段によって、実質的に液体の成分の冷却を促進できる。実質的に液体の成分は、約25℃~約45℃の範囲の温度に冷却される。例えば、温度は、25℃、26℃、27℃、28℃、29℃、30℃、31℃、32℃、33℃、34℃、35℃、36℃、37℃、38℃、39℃、40℃、41℃、42℃、43℃、44℃、又は45℃であり、好ましくは約30℃~約40℃である。例えば、一実施形態において、実質的に液体の成分は約35℃に冷却される。さらに、pHは約5~約6.5のpHに調整され、好ましくは、pHは約5.5である。pH調整剤に好適な酸には、ギ酸(メタン酸)、酢酸(エタン酸)、プロピオン酸(プロパン酸)、酪酸(ブタン酸)、吉草酸(ペンタン酸)、カプロン酸(ヘキサン酸)、シュウ酸(エタン二酸)、乳酸(2-ヒドロキシプロパン酸)、リンゴ酸(2-ヒドロキシブタン二酸)、クエン酸(2-ヒドロキシプロパン-1,2,3-トリカルボン酸)、及び安息香酸(ベンゼンカルボン酸)が含まれる。好ましくは、酸はクエン酸である。別の実施形態において、実質的に液体の成分は、フミン酸で安定化できる。最終的に、最終的な液体生物刺激剤には、後述する追加の有機栄養素が補充される。
【0116】
本明細書に記載の方法によって生成される基本生成物(すなわち、汎用乳化バイオ肥料、固体バイオ肥料、及び液体生物刺激剤)は、インドール酢酸、12-オキソフィトジエン酸、ジャスモン酸、サリチル酸、インドール3-アセチル-アスパラギン酸、ジャスモニルイソロイシン、アブシジン酸、ピペコリン酸、N(δ)-アセチルオルニチン、アルファ-トコフェロール、ガンマ-トコフェロール、トラウマチン酸、及び3-インドールプロピオン酸から成る群から選択される、少なくとも1つの植物ホルモン又は二次代謝産物を含有する。他の態様では、本明細書で製造されるバイオ肥料又は生物刺激剤製品は、少なくとも2つの植物ホルモン又は二次代謝産物を含有する。好ましくは、それらは少なくとも3つの植物ホルモン若しくは二次代謝産物、又は少なくとも4つの植物ホルモン若しくは二次代謝物を含有する。
【0117】
また、基本生成物(すなわち、汎用乳化バイオ肥料、固体バイオ肥料、及び液体生物刺激剤)は、特定の用途のための製品を製造するためにさらに配合(又は調合、formulate)され得る。この製品は、本明細書において「配合製品」、「配合組成物」等と称されることもある。特定の実施形態において、添加剤には、窒素及びカリウム等のマクロ栄養素が含まれる。窒素及びカリウム等のマクロ栄養素の添加によって配合された製品は、当業者によって理解されるように、「規格に合うように配合された(又は等級付けされるように配合された、formulate to grade)」と称すこともある。鶏糞から調製されるバイオ有機栄養組成物を含む例示的な実施形態において、基本組成物は、約1.5%~約3%の窒素及び約3~5%のカリウムを含むように配合され、有機又は従来の農産業のいずれにおいても好適に用いられるバイオ肥料製品が製造される。従来の農業用途のみについて、植物の成長及び発達を最適化するためのスターター肥料として用いるため、例示的な実施形態は、約7%の窒素、約22%のリン、及び約5%の亜鉛を含有するように配合された基本組成物を含んで成ってよい。
【0118】
他の実施形態において、必要に応じて、又は所望に応じて、添加剤には1つ以上のミクロ栄養素が含まれる。以下に詳細に説明するように、基本組成物は既に広範囲のミクロ栄養素及び他の有益な物質を含有しているものの、そのような添加剤を含む組成物を配合することが有益な場合もある。限定されないものの、有機農業及び従来農業の両方に適した添加剤には、血粉、種子粉(例えば、大豆分離物など)、骨粉、羽毛粉、フミン物質(フミン酸、フルボ酸、フミン)、微生物接種剤、糖類、微粉化された岩リン酸塩及び硫酸マグネシウム等が含まれる。また、従来農業にのみ適切な添加剤には、限定されないものの、尿素、硝酸アンモニウム、UAN-尿素及び硝酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、並びに微生物接種剤も含まれる。当業者には、基本生成物に添加するのに好適な他の材料は明らかであろう。
【0119】
いくつかの実施形態において、基本組成物に添加される材料は、従来の農業のみでの使用が承認されている。他の実施形態において、基本組成物に添加される材料自体は、USDA NOP等の有機農業プログラムでの使用が承認されている。したがって、従来農業プログラム、有機農業プログラム、又は再生農業プログラムで用いることができる。特定の実施形態では、硝酸ナトリウムの形態で、特に有機農業プログラムで使用が承認されているチリの硝酸ナトリウムの形態で、窒素が添加される。他の実施形態では、硫酸カリウムとしてカリウムが添加される。さらに他の実施形態では、塩化カリウム、硫酸マグネシウムカリウム、及び/又は硝酸カリウムとして、カリウムが添加される。特定の実施形態において、硝酸ナトリウム及び硫酸カリウムを添加することによって、1.5-0-3又は3-0-3(N-P-K)のいずれかに等級付けされるように基本組成物を配合してよい。代替的には、従来農家及び有機農家の両方で用いるため、硫酸カリウムを添加することによって0-0-5-2S(N-P-K)として等級付けされるように基本組成物を配合してよい。
【0120】
バイオリアクタを出た後(又は、特定の液体生物刺激剤及び固体バイオ肥料製品の場合、それらが分離された後、例えば遠心分離機を出た後)、及び包装が完了する前のいずれの時点においても、基本組成物を配合できる。一実施形態において、いずれの後続の処理ステップの前に、製品にマクロ栄養素を配合する。この実施形態では、マクロ栄養素が添加される配合生成物受容容器内に生成物ストリームが向けられる。必要に応じて、この時点で他の材料を添加できる。配合された製品レシーバー(又は受容器、receiver)には、配合が適切な均一性を維持することを保証するための攪拌システムが備えられ得る。
【0121】
いくつかの実施形態において、基本生成物は貯蔵タンクに向けられる。貯蔵タンクは、pH及び温度の制御、並びに/又は攪拌システムを備えていてよい。また、特定の実施形態において、貯蔵タンクは、酸素供給システムを備えていてもよい。そのような実施形態において、ATAB後の汎用乳化バイオ肥料及び/又は分離後の液体生物刺激剤は、液体10,000ガロン当たり約0.1CFM~約3CFMの速度で、純酸素又は酸素富化空気を注入することによって、好気性条件下に保持される。例えば、速度は、液体10,000ガロン当たり0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、又は3.0CFMである。好ましくは、液体10,000ガロン当たり約0.25CFM~約1.5CFM、より好ましくは液体10,000ガロン当たり約0.5CFMで、ATAB後の液体製品に縦酸素又は酸素富化空気が送達される。いくつかの実施形態において、上述のようなもの等の複数のスパージャを介して、酸素が送達される。ATAB後の製品を好気性条件下に保持することで、嫌気性化合物の形成が回避される。
【0122】
また、包装及び/又は輸送の前に、懸濁固形物を除去するため、上述の流体組成物(すなわち、汎用乳化バイオ肥料又は液体生物刺激剤)を、1つ以上のろ過ステップに供することもできる。そのようなろ過プロセスによって保持される固体は、製造プロセスシステムに、例えば好気性バイオリアクタに戻すことができる。
【0123】
ろ過には、様々なサイズのフィルタが含まれる。特定の実施形態において、フィルタのサイズは、100メッシュ(149ミクロン)以下である。より具体的には、フィルタのサイズは、120メッシュ(125ミクロン)以下、140メッシュ(105ミクロン)以下、170メッシュ(88ミクロン)以下、200メッシュ(74ミクロン)以下、230メッシュ(63ミクロン)以下、270メッシュ(53ミクロン)以下、325メッシュ(44ミクロン)以下、又は400メッシュ(37ミクロン)以下である。特定の実施形態において、フィルタのサイズは、170メッシュ(88ミクロン)、200メッシュ(74ミクロン)、230メッシュ(63ミクロン)、又は270メッシュ(53ミクロン)である。特定の実施形態において、ろ過ステップの組み合わせには、例えば、170メッシュに続いて200メッシュ、又は200メッシュに続いて270メッシュのろ過を用いてよい。
【0124】
典型的には、ろ過は、振動スクリーン、例えば、ステンレスメッシュスクリーン、ドラムスクリーン、ディスク遠心分離機、加圧フィルタ容器、ベルトプレス、又はそれらの組合せを用いて実施される。典型的には、ろ過は、周囲空気温度、すなわち約28℃~30℃未満に冷却された生成物に対して実施される。
【0125】
最終製品の包装には、材料を注ぐことができる容器に製品を分配することが含まれ得る。特定の実施形態において、充填された容器は、メンブレンキャップ(「ベントキャップ」、例えば、W.L.Gore,Elkton,MDからのもの)で封止し、容器のヘッドスペース内の空気循環を可能にしてよい。これらのメンブレンは疎水性であり、容器が完全に逆さまになった場合においても材料が漏れないように、十分に小さい細孔を有し得る。さらに、細孔は、容器内容物の微生物汚染のリスクを排除するため、細孔を適切に小さくすることができる(例えば、0.2ミクロン)。
【0126】
例示的な実施形態
鶏糞から液体及び固体の組成物を製造するための製造プロセスの非限定的な例示的実施形態を
図1に示す。
図1に示すように、典型的には、製造プロセス10は、未加工の動物の糞15を混合タンク25に充填することで開始される。いくつかの実施形態において、糞尿は、農場から製造プラントに糞尿を輸送するトラックから移送される。好ましい実施形態において、未加工の糞は、例えば産卵鶏の鶏糞等の鶏糞である。
【0127】
いくつかの実施形態では、未加工の糞のpHを調整/安定化することが必要である。他の実施形態では、未加工の糞ではなくスラリーのpHを調整する。場合によっては、未加工の糞及び/又はスラリーのpHは、既に所望のpH範囲内にあり、それによってpHの調整の必要性が軽減されることが理解される。
図1に示されるように、混合タンク25に移送される前又は移送される間のいずれかにてクエン酸20を噴霧することによって、未加工の糞15は、約5.5~約8のpH(好ましくは、約6~約7のpH)に安定化され得る。クエン酸は、未加工の糞中の天然有機アンモニアと結合する。混合タンク25において、安定化された糞は、糞組成物の水分レベルを上昇させ、約84重量%~約88重量%の水分を有する動物排泄物スラリーを生成するのに十分な水35と混合され得る。例えば、いくつかの実施形態において、混合タンクには、純酸素を送達するための2ミクロンの焼結ステンレス鋼スパージャが取付けられる。混合中、純酸素30(>96%)は、スラリー10,000ガロン当たり0.25CFMの速度でスラリーに注入される。次いで、スチーム40を用いて、スラリーを最低15分間(好ましくは、少なくとも1~4時間)で約40~65℃に加熱して、糞尿を微細な粒子に分解し、さらに処理するため、次いでスラリーに完全に均質化する。さらに、ステップにより、天然の中温細菌が活性化される。病原体の破壊を確実にするため、均質化されたスラリーの温度を、最低1時間で65℃にまで上昇させる。
図1に示されている熱交換器45は、混合ステップ中に一貫した温度制御を供するために含まれていてよい。特定の実施形態では、製造プロセスのこの部分をシステムの残りの部分から分離して、処理された肥料材料が未加工の糞によって汚染されるリスクを減ずることができる。
【0128】
次いで、Grit Snail脱水ベルトエスカレータ(Hydro International、ヒルズバロ、オレゴン州、USA)を備えるSLURRYCUPデグリッティングシステム等のデグリッティングシステム50及び60にスラリーをポンピングする。簡潔に言えば、デグリッティングシステム50では、2つのレベルの分離及び分類を用いて、動物排泄物スラリーから75ミクロン程のグリットを除去する。
【0129】
次いで、粒子サイズを減ずる任意のステップに動物スラリーをポンピングする。
図1に示される特定の実施形態では、粒子サイズの低減のために粒子サイズ低減装置70を用いて、均質化されたスラリー組成物を製造する。いくつかの実施形態において、粒子サイズ低減装置は、市販のM MACERATORポンプ(SEEPEX GmbH)等のマセレータである。他では、約1ミクロン以下に粒子サイズを減ずるように構成されたステータを備えるコロイドミル等のコロイドミルで均質化されたスラリー組成物を処理することによって、粒子サイズが減じられる。
【0130】
任意のデグリッティング及び粒子サイズの低減の後、次いで動物スラリーは好気性バイオリアクタ80に供給される。ここで、天然の微生物は好熱性条件下及び好気性条件下で培養される。
図1に示される特定の実施形態では、2つの好気性バイオリアクタが並列に存在する(製造速度を上げるため、追加のバイオリアクタが設置されてよい)。インキュベーション中、純酸素90(>96%)が動物排泄物スラリーに注入される。微生物により、動物排泄物スラリーの有機成分は一次及び二次代謝副産物に代謝される。限定されないものの、一次及び二次代謝副産物には、植物成長因子、脂質及び脂肪酸、フェノール類、カルボン酸/有機酸、ヌクレオシド、アミン、糖、ポリオール及び糖アルコール、並びに他の化合物が含まれる。その寿命(age)に応じて、穏やかな攪拌下(例えば、1時間当たりの完全な回転数が約10~約60回である)で、最低約1日~最大約14日間、好気性バイオリアクタ80内に動物排泄物スラリーを留めることができる。スラリーが酸素に晒されると、中温性細菌が複製を開始し、有機物の分解を開始する。これにより、自然な堆肥化プロセスと同様に、スラリー温度が徐々に上昇する。スラリーが自己熱状態に達すると、およそ3~12日後、好熱性微生物の増殖に適した均一な最低温度が維持される。さらに、必要に応じて、蒸気熱85を供して、好気性微生物の最低温度を維持することができる。好ましい実施形態において、動物排泄物スラリーは、少なくとも約72時間、少なくとも約55℃(好ましくは、約60℃~約65℃)の温度で、好気性バイオリアクタ内に保持される。
【0131】
図1に示すように、好気性バイオリアクタからの生成物は、2つの方法の一方で処理され得る。第1プロセスでは、汎用乳化バイオ肥料95を製造するための消化/分解された動物排泄物組成物は、コロイド乳化剤92を介して処理され、熱交換器100で冷却され得る。さらなる処理及び保存105の間、保存のための組成物を安定化させるため、冷却された乳化バイオ肥料95のpHを低下させることができる。いくつかの実施形態では、安定化を確実にするためにフミン酸が加えられ得、必要に応じて有機栄養物が加えられ得る。輸送又は包装115の前には、乳化バイオ肥料製品は、典型的にはろ過110に供される。
【0132】
第2のプロセスでは、消化/分解された動物排泄物組成物を遠心分離機120にポンピングし、特殊な液体生物刺激剤製品130を生成する実質的に液体の成分と、固体バイオ肥料製品125を生成する実質的に固体の成分との2つのストリームに組成物を分離する。好ましい実施形態において、遠心分離機120は、デカント遠心分離機(例えば、PANX清澄遠心分離機、Alfa Laval Corporate AB)である。分離後に液体成分に対してのみ消化ステップを実施する場合と比較して、分離前に消化ステップを実施することで、バイオマス/バイオ肥料は代謝化合物を有するようになる。固体バイオ肥料製品125は、pHの調整、有機栄養素の補充、及び/又はフミン酸の添加による安定化によってさらに処理105され得る。典型的には、冷却及び乾燥は必要なく、製品はろ過せずに包装および輸送され得る。
【0133】
遠心分離された液体(すなわち、液体生物刺激剤の製造用)は、熱交換器135で冷却され、組成物を安定化するためにpHを調整され得る。また、安定性を確保するためにフミン酸を追加することもでき、必要に応じて有機栄養素を追加することもできる。特殊な液体生物刺激剤130は、典型的には、輸送又は包装115の前にマイクロスクリーンろ過140に供される。
【0134】
本発明をより詳細に説明するため、以下の実施例を供する。これらは、本発明を限定するのではなく、説明することを意図している。
【0135】
実施例1.本発明によって製造される乳化バイオ肥料、液体生物刺激剤、及び固体バイオ肥料の化学組成
ATABの前及び分離後に、動物排泄物スラリーの化学組成を測定した。簡潔に言えば、50重量%の水分を含有する20トンの未加工の鶏卵鶏糞を混合タンクに供給した。クエン酸を噴霧することで、未加工の糞を約7のpHで安定化させた。次いで、未加工の糞に水を加えて、糞組成物の水分レベルを上昇させ、水分が約88重量%である動物排泄物スラリーを生成した。混合タンクには、純酸素を送達するための2ミクロン焼結ステンレス鋼スパージャを取り付けた。混合中、スラリー10,000ガロン当たり0.25CFMの速度で、スラリーに純酸素(>96%)を注入した。次いで、スチームでスラリーを45℃に最低1時間加熱して、糞を微細な粒子に分解し、さらなる処理のために完全に均一化してスラリーとした。供給材料の調製のための混合タンクプロセスパラメータを表4に示す。
【0136】
【0137】
次に、動物スラリーを好気性バイオリアクタに供給し、そこで、好熱性及び好気性条件下で内因性微生物を培養した。インキュベーション中に、1,000ガロン当たり1.0CFMの速度で、純酸素(>96%)を動物排泄物スラリーに注入した。約55℃の均一な最低温度で、約1~約14日間、穏やかな攪拌下(例えば、1時間当たりの完全な回転数が約10~約60回である)で、動物排泄物スラリーを好気性バイオリアクタ内に留めた。好気性バイオリアクタのプロセスパラメータを表5に示す。
【0138】
【0139】
次いで、約100gpmの速度で、デカンタ遠心分離機(例えば、PANX清澄遠心分離機、Alfa Laval Corporate AB)に消化/分解された動物排泄物スラリーをポンピングして、組成物を実質的に液体の生物刺激剤と実質的に固体のバイオ肥料とに分離した。固体画分及び液体画分の分離に適した遠心分離パラメータを表6に示す。
【0140】
【0141】
未加工原料(混合前)、乳化バイオ肥料(消化後、分離前)、液体生物刺激剤(分離後)、及び固体バイオ肥料(分離後)の化学組成は、本明細書に記載のプロセスの2つの例示的な実施の平均から決定した。結果を表7Aに示し、表7Bに示すATAB前に糞尿スラリーを分離する従来の方法から生成された生成物と比較する。表7Bでは、未加工の糞、ATAB前に分離された液体ストリーム(遠心分離プレバイオリアクタ(centrate pre-bioriactor))、ATAB後の消化された液体生物刺激剤(バイオリアクタ遠心分離(bioreactor centrate)、及び、ATABを供していない分離された未消化の固体成分(ケーキ)の組成がまとめられている。従前の方法では、分離後の液体成分(バイオリアクタ遠心分離)のみがATABに供される。固体成分(ケーキ)は微生物消化に供されないため、ナショナルオーガニックプログラム(National Organic Program)の要件又はFDAの食品安全要件を満たしていない。表7A及び7Bに示されるように、本方法は、従前の方法の液体生物刺激剤の2倍の全窒素含有量を含む、増加した植物栄養素を有する3つのバイオ肥料/生物刺激剤を製造する。さらに、即時(instant)方法によって製造される3つの製品は全て、ATABに供され、ナショナルオーガニックプログラム又はFDAの食品安全要件の下で用いるのに適している。
【0142】
【0143】
【0144】
本発明は、本明細書に記載及び例示される実施形態に限定されない。添付の特許請求の範囲内で、変更及び修正が可能である。
【国際調査報告】