(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-20
(54)【発明の名称】列車車両用空気調和方法、装置、記憶媒体及びプログラム製品
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/06 20060101AFI20230313BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20230313BHJP
【FI】
C12Q1/06
C12M1/34 B
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022527144
(86)(22)【出願日】2021-10-09
(85)【翻訳文提出日】2022-05-11
(86)【国際出願番号】 CN2021122732
(87)【国際公開番号】W WO2022142569
(87)【国際公開日】2022-07-07
(31)【優先権主張番号】202011616109.X
(32)【優先日】2020-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518309666
【氏名又は名称】中南大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】劉 輝
(72)【発明者】
【氏名】李 燕飛
(72)【発明者】
【氏名】謝 佳豪
(72)【発明者】
【氏名】張 ▲潔▼
(72)【発明者】
【氏名】陳 曦睿
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB02
4B029FA02
4B063QQ06
4B063QQ18
4B063QR75
4B063QS39
(57)【要約】
本発明は列車車両用空気調和方法、装置、記憶媒体及びプログラム製品を開示し、各測定ポイント間の微生物拡散状況に応じて換気システムを調節し、更に乗客の位置するエリアの微生物汚染指標を低減する。該方法は鉄道列車の空気品質の制御に指導的な役割を果たす。本発明は微生物汚染と大気汚染物濃度とのマッピング関係について研究し、微生物検出のリアルタイム性の問題を効果的に解決し、列車車両内の微生物汚染のリアルタイム制御を確保することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車車両用空気調和方法であって、
1) 列車の給気口、排気口及び座席でのPM
2.5濃度、PM
10濃度、CO濃度、NO
2濃度、SO
2濃度、O
3濃度、及び細菌コロニー総数を検出するステップと、
2) 車両内の各測定ポイントでのPM
2.5濃度、PM
10濃度、CO濃度、NO
2濃度、SO
2濃度、O
3濃度、及び細菌コロニー総数に基づいて、測定ポイントである各微小環境ユニット内の細菌コロニー総数Dと大気汚染物濃度dとのマッピング関係を確立するステップと、
3) 時間長がN分間の実測された大気汚染物濃度データセットを選択して、前記マッピング関係に基づいて細菌コロニー総数を計算し、
【数20】
さらに各座席検出ポイント、m個の給気口及びn個の排気口の検定結果集合を取得するステップと、
4) 前記マッピング関係及び検定結果集合に基づいて、全ての座席検出ポイントの非線形記述モデルライブラリを取得するステップと、
5) 列車の全ての給気口、排気口の換気速度を灰色オオカミオプティマイザの入力とし、さまざまな換気速度における給気口/排気口での細菌コロニー総数のフィッティング結果を計算し、前記フィッティング結果を前記非線形記述モデルライブラリの入力とし、各座席での細菌コロニー総数のフィッティング結果を取得し、前記各座席での細菌コロニー総数のフィッティング結果を利用して全ての給気口及び排気口の換気速度を決定するステップと、を含むことを特徴とする列車車両用空気調和方法。
【請求項2】
ステップ2)において、各微小環境ユニット内の細菌コロニー総数Dと大気汚染物濃度dとのマッピング関係を確立することについての具体的な実現過程は、
A、連続したM個の履歴時刻内の現在微小環境ユニットの空気汚染物濃度及び細菌コロニー総数の指標データセットを読み取って、前記指標データセットをトレーニングセットとテストセットに分けることと、
B、ディープビリーフネットワークを用いて微生物-空気汚染物モデルを構築し、空気汚染物濃度をディープビリーフネットワークの入力とし、同一時刻での細菌コロニー総数をディープビリーフネットワークの出力とし、前記ディープビリーフネットワークをトレーニングすることと、
C、前記テストセットをトレーニング後のディープビリーフネットワークの入力とし、テストセットにおける記述精度が最も高い1組のパラメータを該微小環境ユニットの微生物-空気汚染物マッピングモデルとして選択することと、
D、全ての微小環境ユニットがトラバースされるまで上記ステップA~Cを繰り返し、合計m+n+p個の検出ポイント内の細菌コロニー総数と空気汚染物とのマッピング関係を取得し、m、n、pがそれぞれ給気口、排気口及び座席の検出ポイントの数であることと、を含むことを特徴とする請求項1に記載の列車車両用空気調和方法。
【請求項3】
ステップ3)において、検定結果集合は
【数21】
GCT()がグレンジャー性因果検定を代表することを特徴とする請求項1又は2に記載の列車車両用空気調和方法。
【請求項4】
ステップ4)の具体的な実現過程は、
I) 連続したP個の履歴時刻での座席、給気口、排気口のPM2.5濃度、PM10濃度、CO濃度、NO2濃度、SO2濃度、O3濃度を読み取って、前記マッピング関係に基づいて該連続したP個の履歴時刻内の各検出ポイントの細菌コロニー総数を計算することと、
【数22】
III) I
iをディープエコーステートネットワークの入力とし、O
iをディープエコーステートネットワークの出力とし、異なる履歴時刻での座席及び給気口/排気口での細菌コロニー総数の対応関係を取得することと、
IV) 全ての座席検出ポイントがトラバースされるまでステップI)~III)を繰り返し、全ての座席検出ポイントの非線形記述モデルライブラリを取得し、前記非線形記述モデルライブラリが全ての座席検出ポイント及び給気口/排気口での細菌コロニー総数の対応関係の集合であることと、を含むことを特徴とする請求項3に記載の列車車両用空気調和方法。
【請求項5】
ステップ5)において、さまざまな換気速度における給気口/排気口の細菌コロニー総数のフィッティング結果を計算することについての具体的な実現過程は、
i) 換気速度を等間隔で加速して、対応の換気速度における細菌コロニー総数を測定することと、
ii) k番目の給気口/排気口の細菌コロニー総数を最小二乗フィッティングして、細菌コロニー総数
【数23】
の換気速度v
kに関する多項式g(v
k)表現方法を取得することと、
iii) ステップi)及びステップii)を繰り返し、全ての給気口及び排気口をトラバースして、全ての給気口及び排気口の細菌コロニー総数が換気速度に従って変化する多項式フィッティング結果
【数24】
を取得し、mとnがそれぞれ給気口と排気口の検出ポイントの数であることと、を含むことを特徴とする請求項2~4のいずれか1項に記載の列車車両用空気調和方法。
【請求項6】
ステップ5)において、各座席での細菌コロニー総数のフィッティング結果を同時に最小化することを最適化目標として設定し、最適化関数は
【数25】
であり、u
kとl
kがそれぞれk番目の給気口/排気口の換気速度v
kの上限と下限であることを特徴とする請求項5に記載の列車車両用空気調和方法。
【請求項7】
ステップ5)において、評価指標
【数26】
を最小にする非劣解NS
*=arg min Eを選択し、前記非劣解は全ての給気口及び排気口の換気速度NS
*を決定することに用いられ、ここで、
【数27】
がテストセットにおける全ての座席での細菌コロニー総数の分散であることを特徴とする請求項6に記載の列車車両用空気調和方法。
【請求項8】
メモリと、プロセッサと、メモリに記憶されるコンピュータプログラムとを備えるコンピュータ装置であって、
前記プロセッサが前記コンピュータプログラムを実行することにより、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法のステップを実現することを特徴とするコンピュータ装置。
【請求項9】
コンピュータプログラム/命令が記憶されるコンピュータ可読記憶媒体であって、
前記コンピュータプログラム/命令がプロセッサにより実行されるとき、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法のステップを実現することを特徴とするコンピュータ可読記憶媒体。
【請求項10】
コンピュータプログラム/命令を含むコンピュータプログラム製品であって、
該コンピュータプログラム/命令がプロセッサにより実行されるとき、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法のステップを実現することを特徴とするコンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、列車環境モニタリングの分野に関し、特に列車車両用空気調和方法、装置、記憶媒体及びプログラム製品である。
【背景技術】
【0002】
中国の軌道交通業界の不断の発展に伴って、旅客列車の快適性への要件も徐々に大衆に注目されている。空気圧力波の影響を受けて、列車車両は高速で走行する際に適切な内外の圧力差を維持する必要があり、従って、高速列車は一般的に密閉された車体構造を用い、全ての車窓がいずれも開けられない。この場合には、車両内部の空気汚染物の処理は完全に換気システムに依存する。従って、換気システムの品質及び調節戦略は直接に乗客の快適性に影響する。列車の環境をどのようにモニタリングして換気システムを対応的に調節するかは、早急な解決の待たれる問題となっている。
【0003】
現在、列車車両の環境制御に関する技術は、主に以下の2つの態様に関わる。
第1としては、新型空気品質検出装置及び浄化装置の取付である。例えば、公開第CN101885338A号の特許出願には、周波数変換型サイクロン集塵器及び高効率フィルタなどを備える列車空調換気システムのインテリジェントサンプリング検出及び空気浄化装置が提案されている。公開第CN105172818A号の特許出願には、上筐体と、上筐体と相互に係合される下筐体とを備える列車専用の空気清浄機が提案されている。
第2としては、大気汚染物の検出に基づく車両環境調節方法である。公開第CN110239577A号の特許出願には、基本データ取得モジュール、列車外部空気品質予測モジュール、列車内部空気品質予測モジュール及び換気戦略策定モジュールを備える車内の汚染された環境における列車乗員健康保護システム及びその方法が提案されている。公開第CN104608785A号の特許出願には、高速列車空調システムのインテリジェント管理方法が提案されている。
【0004】
以上の方法は主に列車内部のPM2.5などの大気汚染物を空気品質評価の根拠とするが、従来技術において空気環境中の生物汚染による人の健康への危害を配慮しておらず、現段階において列車車両の密閉環境における生物性汚染物を重視することについての研究がまだない。また、微生物の測定メカニズムはPM2.5などの汚染物と異なるため、微生物の測定にはコロニーを長時間培養しなければならず、直接検出してリアルタイム制御措置を取ることが困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする技術的問題は、従来技術の欠陥に対して、車両内の微生物の分布状況に応じて乗客の健康に対して最適レベルの保護措置を取る列車車両用空気調和方法、装置、記憶媒体及びプログラム製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記技術的問題を解決するために、本発明が採用する技術案は、列車車両用空気調和方法、システム及び記憶媒体であり、前記列車車両用空気調和方法は、
1) 列車の給気口、排気口及び座席でのPM
2.5濃度、PM
10濃度、CO濃度、NO
2濃度、SO
2濃度、O
3濃度、及び細菌コロニー総数を検出するステップと、
2) 車両内の各測定ポイントでのPM
2.5濃度、PM
10濃度、CO濃度、NO
2濃度、SO
2濃度、O
3濃度及び細菌コロニー総数に基づいて、測定ポイントである各微小環境ユニット内の細菌コロニー総数Dと大気汚染物濃度dとのマッピング関係を確立するステップと、
3) 時間長がN分間の実測された大気汚染物濃度データセットを選択して、前記マッピング関係に基づいて細菌コロニー総数を計算し、
【数1】
さらに各座席検出ポイント並びにm個の給気口及びn個の排気口の検定結果集合を取得するステップと、
4) 前記マッピング関係及び検定結果集合に基づいて、全ての座席検出ポイントの非線形記述モデルライブラリを取得するステップと、
5) 列車の全ての給気口、排気口の換気速度を灰色オオカミオプティマイザの入力とし、さまざまな換気速度における給気口/排気口での細菌コロニー総数のフィッティング結果を計算し、前記フィッティング結果を前記非線形記述モデルライブラリの入力とし、各座席での細菌コロニー総数のフィッティング結果を取得し、前記各座席での細菌コロニー総数のフィッティング結果を利用して全ての給気口及び排気口の換気速度を決定するステップと、を含む。
【0007】
本発明は車両内の微生物汚染と空気汚染物濃度とのマッピング関係を学習し、且つ車両内の微生物の分布状況に応じて乗客の健康にとって最適な保護措置をリアルタイムに取る。本発明は列車車両の微生物に対して検出及び分析処理を行い、各測定ポイント間の微生物の分布状況に応じて換気システムを調節し、更に乗客の位置するエリアの微生物汚染を低減する。該方法は鉄道列車の空気品質制御に指導的な役割を果たす。
【0008】
ステップ2)において、各微小環境ユニット内の細菌コロニー総数Dと大気汚染物濃度dとのマッピング関係を確立することについての具体的な実現過程は、
A、連続したM個の履歴時刻内の現在微小環境ユニットの空気汚染物濃度及び細菌コロニー総数の指標データセットを読み取って、前記データセットをトレーニングセットとテストセットに分けることと、
B、ディープビリーフネットワークを用いて微生物-空気汚染物モデルを構築し、空気汚染物濃度をディープビリーフネットワークの入力とし、同一時刻での細菌コロニー総数をディープビリーフネットワークの出力とし、前記ディープビリーフネットワークをトレーニングすることと、
C、前記テストセットをトレーニング後のディープビリーフネットワークの入力とし、テストセットにおける記述精度が最も高い1組のパラメータを該微小環境ユニットの微生物-空気汚染物マッピングモデルとして選択することと、
D、全ての微小環境ユニットがトラバースされるまで上記ステップA~Cを繰り返し、合計m+n+p個の検出ポイント内の細菌コロニー総数と空気汚染物とのマッピング関係を取得し、m、n、pがそれぞれ給気口、排気口及び座席の検出ポイントの数であることと、を含む。
【0009】
本発明は微生物汚染と空気汚染物濃度とのマッピング関係について研究し、微生物検出のリアルタイム性の問題を効果的に解決し、列車車両内の微生物汚染のリアルタイム制御を確保することができる。
【0010】
【0011】
本発明の方法は異なる測定ポイント間の微生物時系列データに対して因果検定を行うことにより、更に乗客の位置する座席に緊密に関連する測定ポイントを選別して後続のモデリングに用いられ、測定ポイントの空間次元圧縮を実現し、提供されたデータ特徴に比較的強い特性評価能力を持たせる。
【0012】
ステップ4)の具体的な実現過程は、
I) 連続したP個の履歴時刻での座席、給気口、排気口のPM2.5濃度、PM10濃度、CO濃度、NO2濃度、SO2濃度、O3濃度を読み取って、前記マッピング関係に基づいて該連続したP個の履歴時刻内の各検出ポイントの細菌コロニー総数を計算することと、
【数3】
III) I
iをディープエコーステートネットワークの入力とし、O
iをディープエコーステートネットワークの出力とし、異なる履歴時刻での座席及び給気口/排気口での細菌コロニー総数の対応関係を学習することと、
IV) 全ての座席検出ポイントがトラバースされるまでステップI)~III)を繰り返し、全ての座席検出ポイントの非線形記述モデルライブラリを取得し、前記非線形記述モデルライブラリが全ての座席検出ポイント及び給気口/排気口での細菌コロニー総数の対応関係の集合であることと、を含む。
【0013】
本発明はディープニューラルネットワークを用いて微生物-空気汚染物濃度と座席-給気口/排気口の微生物との非線形マッピング関係を記述し、その記述精度が確保される。
【0014】
ステップ5)において、さまざまな換気速度における給気口/排気口の細菌コロニー総数のフィッティング結果を計算することについての具体的な実現過程は、
i) 換気速度を等間隔で加速して、対応の換気速度における細菌コロニー総数を測定することと、
ii) k番目の給気口/排気口の細菌コロニー総数を最小二乗フィッティングして、細菌コロニー総数
【数4】
の換気速度v
kに関する多項式表現方法を取得することと、
iii) 全ての給気口及び排気口がトラバースされるまでステップi)及びステップii)を繰り返し、全ての給気口及び排気口の細菌コロニー総数が換気速度に従って変化する多項式フィッティング結果
【数5】
を取得し、mとnがそれぞれ給気口と排気口の検出ポイントの数であることと、を含む。
【0015】
ステップ5)において、各座席での細菌コロニー総数のフィッティング結果を同時に最小化することを最適化目標として設定し、最適化関数は
【数6】
である。
【0016】
本発明は多目的最適化方法を用いて各座席での細菌コロニー総数を最小化し、乗客の位置するエリアの微生物汚染を全体的に最適にし、換気システムの調節過程による一部のエリアが二次汚染される現象を回避する。
【0017】
ステップ5)において、評価指標
【数7】
を最小にする非劣解NS
*=arg min Eを選択し、前記非劣解は全ての給気口及び排気口の換気速度NS
*を決定することに用いられ、ここで、
【数8】
がテストセットにおける全ての座席での細菌コロニー総数の分散であり、u
kとl
kがそれぞれk番目の給気口/排気口の換気速度v
kの上限と下限である。
【0018】
評価指標は全ての座席での細菌コロニー総数の累積フィッティング結果及び分散の組み合わせであり、全ての座席での細菌コロニー総数の累積フィッティング結果が換気制御後の微生物汚染程度を代表するが、分散が各座席間の微生物汚染の離散程度を代表する。該評価指標を最小にする非劣解を選択することは、(1)車両内の微生物汚染程度を全体的に最小にすること、(2)各座席間の微生物汚染の相違を最小にし、個別のエリアに極端な汚染が発生する状況を回避することが確保される。
【0019】
本発明は、メモリと、プロセッサと、メモリに記憶されるコンピュータプログラムとを備えるコンピュータ装置を更に提供し、前記プロセッサが前記コンピュータプログラムを実行することにより、本発明の列車車両用空気調和方法のステップを実現することを特徴とする。
【0020】
1つの発明構想として、本発明は更にコンピュータ可読記憶媒体を提供し、コンピュータプログラム/命令が記憶され、前記コンピュータプログラム/命令がプロセッサにより実行されるとき、本発明の列車車両用空気調和方法のステップを実現する。
【0021】
1つの発明構想として、本発明は更にコンピュータプログラム製品を提供し、コンピュータプログラム/命令を含み、該コンピュータプログラム/命令がプロセッサにより実行されるとき、本発明の列車車両用空気調和方法のステップを実現する。
【発明の効果】
【0022】
従来技術に比べて、本発明が有する有益な効果は以下のとおりである。
1) 本発明は列車車両の微生物に対して検出及び分析処理を行う。各測定ポイント間の微生物の拡散状況に応じて換気システムを調節し、更に乗客の位置するエリアの微生物汚染指標を低減する。該方法は鉄道列車の空気品質制御に指導的な役割を果たす。
2) 本発明は微生物汚染と大気汚染物濃度とのマッピング関係について研究し、微生物検出のリアルタイム性の問題を効果的に解決し、列車車両内の微生物汚染のリアルタイム制御を確保することができる。
3) 本発明は給気口、排気口及び座席の複数の測定ポイントをまとめて検出する方式を用い、車両内部環境の大気汚染物及び微生物の分布状況を効果的に記述し、検出結果の実際の空間分布状況に対する表現の真実性を確保することができる。
4) 本発明の方法は異なる測定ポイント間の微生物時系列データに対して因果検定を行うことにより、更に乗客の位置する座席に緊密に関連する測定ポイントを選別して後続のモデリングに用いられ、測定ポイントの空間次元圧縮を実現し、提供されたデータ特徴に比較的強い特性評価能力を持たせる。
5) 本発明はディープニューラルネットワークを用いて微生物-大気汚染物濃度と座席-給気口/排気口微生物との非線形マッピング関係を記述し、その記述精度が確保される。
6) 本発明は多目的最適化方法を用いて各座席での細菌コロニー総数を最小化し、乗客の位置するエリアの微生物汚染を全体的に最適にし、換気システムの調節過程による一部のエリアが二次汚染される現象を回避する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は本発明の方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1に示すように、本発明の実施例の具体的な実現過程は以下のとおりである。
【0025】
ステップ1:汚染データの複数の測定ポイントでの収集
列車車両の内部には、PM2.5、PM10、CO、NO2、SO2及びO3の6種類の大気汚染物、並びに細菌、真菌、ウィルスなどの微生物汚染が含まれる。微生物は空気品質状況に緊密に関連し、一般的に、空気中の細菌コロニー総数が病原性微生物(細菌、真菌、ウィルス)の存在確率と正相関し、従って、本特許は細菌コロニー総数を指標として微生物の病原性を判断する。列車車両の複数の給気口、排気口及び座席にTS WES-C空気汚染物検出器(PM2.5濃度、PM10濃度、CO濃度、NO2濃度、SO2濃度、O3濃度を測定し、リアルタイムに検出する)及びアンダーソン衝突型空気微生物サンプラー(細菌コロニー総数を測定するために、微生物を48h培養する必要がある)を配置する。
【0026】
取得されたデータは給気口、排気口及び座席でのPM
2.5濃度、PM
10濃度、CO濃度、NO
2濃度、SO
2濃度、O
3濃度、及び細菌コロニー総数を含み、
【数9】
m、n、pがそれぞれ給気口、排気口及び座席の測定ポイントの数である。各検出ポイントを微小環境ユニットとして見なし、検出データを車両番号と対応し、且つ検出データのタイムスタンプを記録し、隣接データの間隔を5分間とする。収集されたデータを4G方式でデータ記憶プラットホームに伝送する。
【0027】
ステップ2:微生物-大気汚染物のマッピング学習
車両の測定ポイントの履歴汚染データに基づいて、モデルを確立して各微小環境ユニット内の細菌コロニー総数Dと大気汚染物濃度dとのマッピング関係を学習する。具体的なモデリング過程は以下のとおりである。
A1:微小環境ユニットを選定し、連続した200個の履歴時刻内の該微小環境ユニットの大気汚染物濃度及び細菌コロニー総数の指標データセットを読み取る。
A2:データセットを分割する。上記データセットは連続した200個の履歴時刻を含み、1~160時刻でのデータをトレーニングセットとし、161~200時刻でのデータをテストセットとする。
A3:ディープビリーフネットワークを用いて微生物-大気汚染物モデルを構築し、大気汚染物濃度をディープビリーフネットワークの入力とし、同一時刻での細菌コロニー総数をディープビリーフネットワークの出力とする。ディープビリーフネットワークの層数は5分割交差検証を用いて決定され、選択範囲が[1,2,3,4,5]である。
A4:トレーニング済みのディープビリーフネットワークに対してテストセットにおいてモデル検定を行い、テストセットにおける記述精度が最も高い1組のパラメータを該微小環境ユニットの微生物-大気汚染物マッピングモデルとして選択する。
A5:全ての微小環境ユニット(即ち検出ポイント)がトラバースされるまでA1~A4を行い、合計m+n+p個の検出ポイント内の細菌コロニー総数と大気汚染物とのマッピング関係
【数10】
を取得し、ここで、fが該マッピング関係を代表する。
【0028】
ステップ3:微生物拡散メカニズムに基づく測定ポイントの因果検定
微生物の車両における空間分布及び拡散状況は空気運動の影響を受け、各測定ポイント間の細菌コロニー総数はデータレベルで因果関係がある。各車両に対して、座席及び各給気口、排気口での細菌コロニー総数時系列の因果関係を分析する。
【0029】
時間長がN分間の実測された大気汚染物濃度データセットを選択して、ステップ2で取得されたマッピング関係に基づいて細菌コロニー総数を計算する。
【数11】
GCT()はグレンジャー性因果検定を代表する。各座席検出ポイント並びにm個の給気口及びn個の排気口での検定結果集合を取得し、
【数12】
【0030】
ステップ4:因果関係のある測定ポイントでの非線形記述・モデリング
各座席検出ポイントに対してその関連する給気口/排気口の非線形記述モデルを確立し、具体的なモデリング過程は以下のとおりである。
B1:連続した100個の履歴時刻での座席、給気口、排気口PM2.5濃度、PM10濃度、CO濃度、NO2濃度、SO2濃度、O3濃度を読み取って、ステップ2で取得されたマッピング関係に基づいて、連続した100個の履歴時刻内の各測定ポイントの細菌コロニー総数を計算する。
B2:データセットを分割する。上記データセットは連続した100個の履歴時刻を含み、1~60時刻でのデータをトレーニングセットとし、61~80時刻でのデータを検証セットとし、81~100時刻のデータをテストセットとする。
【数13】
B4:ディープエコーステートネットワークを用いて非線形記述モデルを構築し、モデルの入力をI
iとし、モデルの出力をO
iとし、これにより、異なる履歴時刻での座席及び給気口/排気口での細菌コロニー総数の対応関係を学習する。ディープエコーステートネットワークのリザーバーノード数を10として設定し、リザーバーの層数及び各層でのリザーバーマトリックスのスペクトル半径が5分割交差検証を用いて決定され、上記2つのパラメータの選択範囲がそれぞれ[1,2,3,…,10]及び[0.1,0.3,0.5,0.7,0.9]であり、検証セットにおける記述精度が最も高い1組のパラメータを選択してトレーニング済みの非線形記述モデルh(I
i)を取得する。
B5:全ての座席検出ポイントがトラバースされるまでA1~A4を行い、全ての座席検出ポイントの非線形記述モデルライブラリ
【数14】
を取得する。
【0031】
ステップ5:多目的最適化に基づく車両換気調節戦略
C1:全ての給気口/排気口での細菌コロニー総数が換気速度に従って変化する関係を推計する。以下のステップに応じて行う。
1) 換気速度を等間隔で加速して、対応の換気速度における細菌コロニー総数を測定し、タイムスタンプ-換気速度-細菌コロニー総数のデータフォーマットでデータ記憶プラットホームに記録する。
2) k番目の給気口/排気口を最小二乗フィッティングして、細菌コロニー総数
【数15】
の換気速度v
kに関する多項式表現方法を取得し、
【数16】
である。
3) 全ての給気口及び排気口がトラバースされるまで以上のステップを繰り返し、全ての給気口及び排気口の細菌コロニー総数が換気速度に従って変化する多項式フィッティング結果
【数17】
を取得する。
C2:多目的最適化モデルを確立し、具体的な実施詳細は以下のとおりである。
1) 最適化アルゴリズムを選択して初期スーパーパラメータを設定し、即ち、多目的灰色オオカミ最適化を用いてリーダー選択メカニズム及びアーカイブストレージメカニズムを組み込んで収束能力を向上させる(MIRJALILI S, SAREMI S, MIRJALILI S M, et al.Multi-objective grey wolf optimizer [J]. Expert Systems With Applications, 2016, 47:106-19.)。多目的灰色オオカミ最適化における検索個体群数、最大反復回数、アーカイブサイズはそれぞれ200、100及び50として設定される。
2) 最適化変数は全ての給気口及び排気口の換気速度vであり、変数の検索範囲は、l
k≦v
k≦u
kの式を満足し、
ここで、u
kとl
kがそれぞれk番目の給気口/排気口の換気速度の上限と下限である。
3) C1で取得された給気口及び排気口の細菌コロニー総数が換気速度に従って変化する多項式フィッティング方法に基づいて、さまざまな換気速度における給気口/排気口の細菌コロニー総数のフィッティング結果を計算する。取得された細菌コロニー総数をB5で取得された座席検出ポイントの非線形記述モデルライブラリに入力し、各座席での細菌コロニー総数のフィッティング結果を出力する。各座席での細菌コロニー総数のフィッティング結果を同時に最小化することを最適化目標として設定し、最適化関数は、
【数18】
である。
4) 多目的最適化(MIRJALILI S, SAREMI S, MIRJALILI S M, et al. Multi-objective grey wolf optimizer [J]. Expert Systems With Applications, 2016, 47: 106-19.)を実行し、且つ反復回数Itr=1を記録する。全ての検索結果の最適化関数値を計算し、且つ非劣解を選択してファイルに書き込む。
5) 検索経路を更新して、新しい換気速度検索結果を生成する。
6) 検索回数をIt=It+1とし、更新されたItが最大反復回数よりも小さい場合、ステップ4)に戻し、そうでない場合、多目的最適化アルゴリズムを終了して、最終的にアーカイブされる非劣解セットNSを出力する。
7) 非劣解のテストセットにおける表現性能を評価し、評価指標は座席での細菌コロニー総数についての全ての座席の細菌コロニー総数の累積フィッティング結果及び分散(Var)の組み合わせであり、
【数19】
であり、
評価指標を最小にする非劣解NS
*=arg min Eを選択し、前記非劣解は全ての給気口及び排気口の換気速度を決定することに用いられる。
【0032】
ステップ6:取得された換気速度に基づいて列車車両の換気調節を完了した後、各検出ポイントで細菌コロニー総数を継続的に検出してデータをデータ記憶プラットホームに伝送する。
【0033】
ステップ7:1回目の換気調節が終了した後の所定期間内に、モデルトレーニングを再び行う必要がなく、後続の検出データに基づいて最適な換気調節戦略を計算して出力する必要だけがある。異なる群集行動による空気微生物の分布状況が変化するため、モデルの有効性を確保するように前記因果検定、非線形記述及び多目的最適化モデルはいずれも再トレーニング、パラメータ更新を定期的に行う必要があり、再トレーニングの時間間隔を3時間として設定してもよい。
【国際調査報告】