(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-20
(54)【発明の名称】生物学的試料における全ゲノム増幅及び標的分子の分析のための方法及びキット
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6869 20180101AFI20230313BHJP
C12Q 1/6804 20180101ALI20230313BHJP
C40B 40/06 20060101ALN20230313BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20230313BHJP
【FI】
C12Q1/6869 Z
C12Q1/6804 Z
C40B40/06 ZNA
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022536964
(86)(22)【出願日】2020-12-16
(85)【翻訳文提出日】2022-07-28
(86)【国際出願番号】 IB2020062053
(87)【国際公開番号】W WO2021124166
(87)【国際公開日】2021-06-24
(31)【優先権主張番号】102019000024159
(32)【優先日】2019-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516164519
【氏名又は名称】メナリーニ シリコン バイオシステムズ エッセ.ピー.アー.
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ニコロ・マナレージ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレア・ラスパドーリ
(72)【発明者】
【氏名】アルベルト・フェラリーニ
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA18
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR62
4B063QR82
4B063QS10
4B063QS14
4B063QS25
4B063QS36
4B063QS39
(57)【要約】
ゲノムDNA及び標的分子を含む生物学的試料における全ゲノム増幅及び複数標的分子の分析のための方法であって、結合剤バーコード配列(BAB)及び固有分子識別子配列(UMI)を含むタグ付きオリゴヌクレオチドにコンジュゲート化された、標的分子のうちの少なくとも1種に対する少なくとも1種の結合剤と、生物学的試料を接触させる工程;未結合の結合剤を選択的に除去するための分離工程を行うことにより、標識された生物学的試料を取得する工程;標識された生物学的試料に対して、全ゲノム増幅及びタグ付きオリゴヌクレオチドの増幅を同時に行う工程;増幅されたタグ付きオリゴヌクレオチドから超並列シーケンシングライブラリーを作製する工程;超並列シーケンシングライブラリーをシーケンシングする工程;各シーケンシングリードからBAB及びUMIの配列を検索する工程;各結合剤に対する異なるUMIの個数をカウントする工程を含む方法が開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲノムDNA及び標的分子を含む生物学的試料における、全ゲノム増幅及び複数標的分子の分析のための方法であって、
a)生物学的試料を用意する工程;
b)タグ付きオリゴヌクレオチドにコンジュゲート化された、標的分子のうちの少なくとも1つに対する少なくとも1つの結合剤と、該生物学的試料を接触させる工程であって、該タグ付きオリゴヌクレオチドが、
i)結合剤バーコード配列(BAB)及び固有分子識別子配列(UMI)を含む核酸のペイロード配列(PL)、及び
ii)核酸の少なくとも1つの第1のタグ付きオリゴヌクレオチド増幅配列(5-TOS)
を含み、それにより、少なくとも1つの標的分子が該生物学的試料中に存在する場合、該少なくとも1つの結合剤が、該少なくとも1つの標的分子に結合する、工程;
c)未結合の結合剤を選択的に除去するための分離工程を行うことにより、標識された生物学的試料を取得する工程;
d)該標識された生物学的試料に対して、
- i)確定的制限部位全ゲノム増幅(DRS-WGA)、又は
ii)多重アニーリング及びルーピングベース増幅サイクル全ゲノム増幅(MALBAC)
による該ゲノムDNAの全ゲノム増幅、及び
- 該少なくとも1つの結合剤とコンジュゲート化されたタグ付きオリゴヌクレオチドの増幅
を行う工程であって、全ゲノム増幅及び該タグ付きオリゴヌクレオチドの増幅が同時に行われる工程;
e)増幅されたタグ付きオリゴヌクレオチドから超並列シーケンシングライブラリーを作製する工程;
f)該超並列シーケンシングライブラリーをシーケンシングする工程;
g)各シーケンシングリードから、該結合剤バーコード配列(BAB)及び固有分子識別子配列(UMI)の配列を検索する工程;
h)各結合剤に対して、異なる固有分子識別子配列(UMI)の個数をカウントする工程
を含む方法。
【請求項2】
前記タグ付きオリゴヌクレオチドが、少なくとも1つの第2のタグ付きオリゴヌクレオチド増幅配列(3-TOS)を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記固有分子識別子配列(UMI)が、10~30ヌクレオチドの範囲の縮重又は半縮重配列である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記生物学的試料から単一細胞を単離する工程を更に含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記単離工程が、細胞を選別することにより行われる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記単離工程が、液滴中へと細胞を分割することにより行われる、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記単離工程が、工程c)の後で、且つ工程d)の前に行われる、請求項4から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程f)の前に前記超並列シーケンシングライブラリーを精製する工程を更に含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つの結合剤が、
a)抗体又はその断片、
b)アプタマー、
c)小分子、
d)ペプチド、及び
e)タンパク質
からなる群から選択される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記標的分子が、
a)タンパク質、
b)ペプチド、
c)糖タンパク質、
d)炭水化物、
e)脂質、及び
f)それらの組み合わせ
からなる群から選択される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記タグ付きオリゴヌクレオチドが、5'から3'に向かって、少なくとも、
a)さらに5'全ゲノム増幅ハンドル配列(5-WGAH)及び第1の増幅ハンドル配列(1AH)を含む、核酸の第1のタグ付きオリゴヌクレオチド増幅配列(5-TOS);
b)ペイロード配列(PL);
c)さらに核酸の第2の増幅ハンドル配列(2AH)及び3'全ゲノム増幅ハンドル配列(3-WGAH)を含む、核酸の第2のタグ付きオリゴヌクレオチド増幅配列(3-TOS)
を含む、請求項2から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記全ゲノム増幅及び前記タグ付きオリゴの増幅が、単一プライマーを用いて行われる、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記タグ付きオリゴヌクレオチドが、5'から3'に向かって、少なくとも、
a)さらに5'全ゲノム増幅ハンドル配列(5-WGAH)及び第1の増幅ハンドル配列(1AH)を含む、核酸の第1のタグ付きオリゴヌクレオチド増幅配列(5-TOS);
b)ペイロード配列(PL);
c)任意選択で、アニーリング配列(AS)
を含み、少なくとも1つのプライマーが、全ゲノム増幅及び該タグ付きオリゴヌクレオチドの増幅のために用いられ、且つ少なくとも1つのオリゴヌクレオチド(E-p)が、タグ付きオリゴヌクレオチドの伸長のために用いられ、該少なくとも1つのオリゴヌクレオチド(E-p)は、5'から3'に向かって、少なくとも、
d)5'全ゲノム増幅ハンドル配列(5-WGAH);
e)スペーサー配列(SS);
f)第2の増幅ハンドル配列(2AH);及び
g)該アニーリング配列に対して逆相補的な配列(AS-RC)又は前記結合剤バーコード配列に対して逆相補的な配列(BAB-RC)
を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記タグ付きオリゴヌクレオチドが、5'から3'に向かって、少なくとも、
a)第1の増幅ハンドル配列(1AH)に対応する核酸の第1のタグ付きオリゴヌクレオチド増幅配列(5-TOS);
b)ペイロード配列(PL);
c)第2の増幅ハンドル配列(2AH)に対応する核酸の第2のタグ付きオリゴヌクレオチド増幅配列(3-TOS)
を含み、少なくとも1つの第1のプライマーが全ゲノム増幅のために用いられ、少なくとも1つの第2のプライマー及び1つの第3のプライマーが該タグ付きオリゴヌクレオチドの増幅のために用いられ;
該少なくとも1つの第2のプライマーは、第1の増幅ハンドル配列(1AH)に対して同一な配列を有し、該少なくとも1つの第3のプライマーは、第2の増幅ハンドル配列に対して逆相補的な配列(2AH-RC)を有する、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記少なくとも1つの第2のプライマー及び少なくとも1つの第3のプライマーが、工程d)で添加される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記増幅されたタグ付きオリゴヌクレオチドから超並列シーケンシングライブラリーを作製する前記工程e)が、第1の増幅ハンドル配列(1AH)に対応する3'配列を含む少なくとも1つの第1のライブラリープライマー、及び第2の増幅ハンドル配列に対して逆相補的な配列(2AH-RC)に対応する3'配列を含む少なくとも1つの第2のライブラリープライマーを用いるPCR反応により行われる、請求項11から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
a)タグ付きオリゴヌクレオチドとコンジュゲート化された、生物学的試料中の少なくとも1つの標的分子に対する少なくとも1つの結合剤であって、該タグ付きオリゴヌクレオチドが、
i)結合剤バーコード配列(BAB)及び固有分子識別子配列(UMI)を含む核酸のペイロード配列(PL)、
ii)少なくとも1つの第1のタグ付きオリゴヌクレオチド増幅配列(5-TOS)
を含む、結合剤;
b)全ゲノム増幅を行うための少なくとも1つのプライマー及び該タグ付きオリゴヌクレオチドの増幅を行うための少なくとも1つのプライマーであって、同じ配列を有するか、又は異なる配列を有するかのいずれかである、全ゲノム増幅を行うための少なくとも1つのプライマー及び該タグ付きオリゴヌクレオチドの増幅を行うための少なくとも1つのプライマー
を含む、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法を行うためのキット。
【請求項18】
タグ付きオリゴヌクレオチドを伸長するためのオリゴヌクレオチドを更に含む、請求項20に記載のキット。
【請求項19】
前記少なくとも1つのタグ付きオリゴヌクレオチドが配列番号1に対応する配列を有し、前記タグ付きオリゴヌクレオチドの増幅を行うためのプライマーが2種類であり、それぞれ配列番号2及び配列番号3の配列を有する、請求項17又は18に記載のキット。
【請求項20】
1つ又は複数の第1のライブラリープライマー及び1つ又は複数の第2のライブラリープライマーを更に含む、請求項17から19のいずれか一項に記載のキット。
【請求項21】
前記第1のライブラリープライマーが配列番号8から配列番号15からなる群から選択される配列を有し、前記第2のライブラリープライマーが配列番号16から配列番号27からなる群から選択される配列を有する、請求項20に記載のキット。
【請求項22】
前記少なくとも1つのタグ付きオリゴヌクレオチドが配列番号28に対応する配列を有し、前記タグ付きオリゴヌクレオチドの増幅を行うためのプライマーが1種類であり、配列番号29に対応する配列を有する、請求項17又は18に記載のキット。
【請求項23】
1つ又は複数の第1のライブラリープライマー及び1つ又は複数の第2のライブラリープライマーを更に含む、請求項22に記載のキット。
【請求項24】
前記第1のライブラリープライマーが配列番号30から配列番号37からなる群から選択される配列を有し、前記第2のライブラリープライマーが配列番号38から配列番号49からなる群から選択される配列を有する、請求項23に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に対する相互参照
本特許出願は、2019年12月16日出願のイタリア特許出願第102019000024159号からの優先権を主張し、該出願の開示全体が、参照により本明細書中に組み入れられる。
【0002】
本発明は、生物学的試料における、特に単一細胞試料における、全ゲノム増幅及び標的分子の分析、特にタンパク質の定量化のための、方法及びキットに関する。
【背景技術】
【0003】
単一細胞分析のための方法は、バルク試料の不均一性から生じる複雑性を伴わずに、細胞の状況に対する情報を取得することを可能にする。同じ単一細胞中のプロテオーム及びゲノムの分析は、細胞の表現型とその遺伝子型との間の相関を提供し、したがって、多様な生物学的及び病理学的プロセスに対する独自の洞察を可能にする。このことは、腫瘍に関して特に当てはまり、腫瘍では、体細胞により獲得された遺伝的不均一性並びに転写及びタンパク質翻訳に対するその影響が、癌の発生及び発達の重要な構成要素である。
【0004】
全ゲノム増幅(WGA)は、より多くのDNAを取得する目的で、且つ、シーケンシング、SNP検出等をはじめとする様々な種類の遺伝子解析を簡潔化及び/又は可能にする目的で、単一細胞由来のゲノムを分析するために有用である。確定的制限部位に基づくLM-PCRを用いるWGA(DRS-WGA)が、EP1109938から公知である。
【0005】
WO 2017/178655及びWO 2019/016401は、低パス全ゲノムシーケンシング及びコピー数プロファイリングのためのDRS-WGA(例えば、Ampli1(商標)WGA)又はMALBACから超並列シーケンシングライブラリーを作製するための簡略化された方法を教示する。
【0006】
近年、単一細胞におけるゲノム及びトランスクリプトームの同時分析のための方法が開発された。Dey S. et al., 2015, Integrated genome and transcriptome sequencing of the same cell. Nature Biotechnology, 33(3), 285-289. http://doi.org/10.1038/nbt.3129による論文は、用手法により単離された単一細胞からのメッセンジャーRNAが、まず一本鎖cDNAへと転写され、続いて、準線形全ゲノム増幅を通して、ゲノムDNAと共に増幅される方法を教示する。続いて、一方はcDNA由来であり他方はゲノムDNA由来である2種類の異なるライブラリーが、作製及びシーケンシングされる。別のアプローチであるMacaulay, I. C., et al., 2015, G&T-seq: Parallel sequencing of single-cell genomes and transcriptomes. Nature Methods, 12(6), 519-522. http://doi.org/10.1038/nmeth.3370では、完全に溶解された単一細胞からポリアデニル化mRNA分子を捕捉及び単離するために、オリゴ-dT-被覆ビーズを用いて、mRNAがgDNAから物理的に分離される。続いて、改変型Smart-seq2プロトコール(Picelli, S. et al., 2013, Smart-seq2 for sensitive full-length transcriptome profiling in single cells. Nature Methods, 10(11), 1096-1100. http://doi.org/10.1038/nmeth.2639)を用いてmRNAが増幅され、一方で、gDNAは利用可能な全ゲノム増幅方法を用いて増幅及びシーケンシングすることができる。これらの方法は、遺伝子型をメッセンジャー転写に関連付けるために有用であるが、その転写及びターンオーバー/分解が細胞中で活発に調節されるタンパク質の直接的検出を得ることを可能にしない。
【0007】
現在、最も広く応用される単一細胞タンパク質検出アプローチは、タグ付き抗体を用いる特異的タンパク質の標的化に依存する。蛍光活性化細胞選別(FACS)又は蛍光顕微鏡観察によるタンパク質の蛍光ベースの検出及び定量化は、特異的細胞タンパク質を認識する蛍光標識抗体を用いて、低い多重化レベルを有する単一細胞におけるタンパク質検出を可能にする。しかしながら、フルオロフォアに基づく高度に多重化したアッセイが、複数色素の発光スペクトル間でのスペクトル重複によって困難であるので、このアプローチは、一般的に、10~15種類の同時測定に限定される。更に、重複スペクトルをデコンボリューションするために、複雑なアルゴリズムが必要である。
【0008】
フリューダイム(Fluidigm)マスサイトメーター(CyTOF(商標))は、タンパク質を検出するために金属含有ポリマータグ付き(MAXPAR(商標))抗体を利用する。機器は、非光学的な物理的検出原理及び標識の異なる化学的性質に基づく。蛍光標識が特別に設計された多重原子エレメントタグに置き換えられ、検出は、飛行時間型質量分析(TOF-MS)の高解像度、高感度、且つ高速の分析を活用する。多数の利用可能な安定的同位体をタグとして使用できるので、多数のタンパク質を個別の細胞において同時に検出できる可能性がある[Ornatsky, O. et al, 2010, Highly multiparametric analysis by mass cytometry. Journal of Immunological Methods, 361(1-2), 1-20. http://doi.org/10.1016/j.jim.2010.07.002]。Frei et al., 2016, Highly multiplexed simultaneous detection of RNAs and proteins in single cells. Nature Methods, 13(3), 269-275. http://doi.org/10.1038/nmeth.3742による研究は、RNAに対する近接ライゲーションアッセイ(Proximity Ligation Assay for RNA;PLAYR)に基づく、単一細胞でのRNA及びタンパク質の同時検出のための方法を教示する。PLAYRは、40種類超の異なるmRNA及びタンパク質の同時定量化を可能にするマスサイトメトリーにより、単一細胞での転写産物の高度に多重化した定量化を可能にする。最終的に、マスサイトメトリーは、タンパク質及びメッセンジャーRNA転写と共に、タンパク質リン酸化(Bendall, S. C. et. Al., 2011, Single-Cell Mass Cytometry of Differential Immune and Drug Responses Across a Human Hematopoietic Continuum. Science, 332(6030), 687-696. http://doi.org/10.1126/science.1198704)及び細胞増殖(Behbehani, G. K. et al., 2012, Single-cell mass cytometry adapted to measurements of the cell cycle. Cytometry Part A, 81A(7), 552-566. http://doi.org/10.1002/cyto.a.22075)等の、複数の細胞内プロセス及び表現型特徴を調べることを可能にした。
【0009】
これらのアプローチの限界は、以下の通りである:
- 質量分析計中でのイオン飛行の動態に起因して、マスサイトメトリーのスループットは、蛍光ベースの機器のものに後れをとる。加えて、マスレポーターの感度は、数個の比較的量子効率が高いフルオロフォア(フィコエリトリン等)にも達さず、これにより、マスサイトメトリーを用いて非常に低レベルで発現される分子特徴を測定することがより困難になる(Spitzer, M. H. et al., 2016, Mass Cytometry: Single Cells, Many Features. Cell, 165(4), 780-791. http://doi.org/10.1016/j.cell.2016.04.019)。
- 重要なことに、細胞が噴霧化及びイオン化されるので、分析後に細胞を回収することができず、したがってゲノムDNAを分析することができない。
【0010】
オリゴヌクレオチド標識抗体を通してタンパク質を検出するための方法が、Fredriksson et al., 2002, Protein detection using proximity-dependent DNA ligation assays. Nature Biotechnology, 20(5), 473-477. http://doi.org/10.1038/nbt0502-473による論文において記載されており、この論文は、2つのDNAアプタマーによる標的タンパク質の協調的且つ近接した結合が、それぞれアプタマー親和性プローブに連結されたオリゴヌクレオチドのライゲーションを促進する技術(近接ライゲーションアッセイ;PLA)を教示する。2つのそのような近接プローブのライゲーションは、標的タンパク質の正体及び量を反映する増幅可能なDNA配列を生じる。3PLA法(Schallmeiner, E. et al., 2007, Sensitive protein detection via triple-binder proximity ligation assays. Nature Methods, 4(2), 135-137. http://doi.org/10.1038/nmeth974)は、3つの認識イベントを使用することにより近接ライゲーション法の感度及び特異度を拡張し、100個ほどの少ない標的分子を検出することを可能にする。3PLAでは、3つのオリゴヌクレオチド修飾型抗体試薬のセットが、個別の標的タンパク質に結合して、近接ライゲーションにより検出可能なシグナルを生じる。2つの近接プローブ上のオリゴヌクレオチドの3'末端及び5'末端は、第3の近接プローブ上に存在するオリゴヌクレオチドへとハイブリダイズすることが可能であり、それにより、3種類のプローブ及び標的タンパク質を含む複合体が形成される。これにより、2つのオリゴヌクレオチドが、2回のライゲーション反応により中間断片を介して連結され、第3の近接プローブにより鋳型化されて、qPCRにより検出することができる特異的な増幅可能DNA鎖を形成することが可能になる。近接伸長アッセイ(Proximity Extension Assay;PEA)はPLAの変法であり、PEAでは2つのオリゴヌクレオチド標識抗体が個別のタンパク質に結合し、オリゴヌクレオチドはその3'末端で部分的にアニーリングし、ポリメラーゼによる伸長によって、qPCRにより検出することができる増幅可能なDNA配列が生成される(Lundberg, M. et al., 2011, Homogeneous antibody-based proximity extension assays provide sensitive and specific detection of low-abundant proteins in human blood. Nucleic Acids Research, 39(15). http://doi.org/10.1093/nar/gkr424)。上記で開示された方法は単一細胞タンパク質検出に対して特異的に設計されていなかったが、フリューダイムC1(Fluidigm C1(商標))単一細胞自動調製システムが、PEAアッセイを用いて、1回の測定当たり最大96個の単一細胞での92種類のタンパク質のパネルの増幅可能な標的の調製を自動化するために利用された(Egidio C. et al., 2014, A Method for Detecting Protein Expression in Single Cells Using the C1 TM Single-Cell Auto Prep System (TECH2P.874), J Immunol, 192 (1 Supplement) 135.5)。フリューダイムC1微小流体システムは、全エクソームシーケンシング及び標的化型DNAシーケンシングによるトランスクリプトーム又はゲノムDNA配列の分析のための一定範囲の単一細胞生物学法を支持するが、しかしながら、この方法は、同じ単一細胞から遺伝子型及び表現型に対する情報を取得するために容易に組み合わせることができない。
【0011】
したがって、検出がqPCRに基づくPLA及びPEAアッセイは、感度が高く非常に特異的であるが、それらのスループットが限定され、且つタンパク質のみしか検出できない。
【0012】
NanoString Technologies社によるUS 9,714,937は、標的タンパク質の第1領域に対して特異的な部分(ビオチン等)にコンジュゲート化された捕捉抗体及び標的タンパク質の第2領域に対する検出抗体を、リンカーオリゴヌクレオチドへのハイブリダイゼーションを介して検出抗体に連結された複数の脱着可能な標識を含むナノレポーターと共に用いることによる、タンパク質の検出のための方法を教示する。2種類の抗体は、標的タンパク質と複合体を形成し、この複合体は、該部分に対して高親和性を有するマトリックス又はビーズと結合を形成することができる。標的は、ナノレポーター分子の個数をカウントすることにより検出及び定量化される。nCounter(登録商標)デジタル分子バーコード化技術に基づくNanostring社から市販されているアッセイは、特異的タンパク質エピトープを標的化する固有のオリゴヌクレオチド標識抗体を用いてタンパク質を検出する。固有の一本鎖DNAタグは、ビオチン化捕捉プローブと、一連の蛍光標識RNAセグメントにアニーリングした一本鎖DNA分子により作製されるレポータープローブとの組み合わせを用いて検出される。これらの標識の線形順序が、対象となる各標的に対する固有のバーコードを生成する。次に、複合体が、ビオチンと固相化されたストレプトアビジン分子との間の非共有結合を介してイメージング表面に固相化され、蛍光バーコードが撮像及びカウントされる。タンパク質特異的バーコード当たりのカウント数は、試料中に存在する分子数に直接関連するデジタルな測定値である。タンパク質検出は、特異的標的RNAに対して設計された捕捉プローブ-レポータープローブ対を用いて、メッセンジャーRNA検出と組み合わせることができる。約30種類のタンパク質標的及び770種類のmRNA標的を、1回の分析で分析することができる。
【0013】
この方法の欠点は、RNAをプロファイリングするため(2500個の細胞と同等)及び/又はタンパク質をプロファイリングするため(100000個の細胞と同等)に大量の細胞を必要とすること、及びそのままでは単一細胞をプロファイリングするために好適でないことである。この方法は、ゲノムDNA等の他のアナライトを検出するために用いることができる可能性があるが、しかしながら、ゲノム配列の直接的なリードアウトを提供できず、既知の配列の存在/非存在のシグナルのみを提供できる。ハイブリダイゼーションに基づくので、配列変異体に対して部分的に寛容でもあり、異なる配列変異体同士を区別できない可能性がある。
【0014】
シーケンシングによるトランスクリプトーム及びエピトープの細胞インデックス化(cellular indexing of transcriptomes and epitopes by sequencing;CITE-seq)と称される、単一細胞における複数タンパク質及びRNA転写産物の統合分析のためのNGSベースの方法が、Stoeckius et al., 2017, Simultaneous epitope and transcriptome measurement in single cells, Nature Methods volume 14, pages 865-868、及びUS 2018/0251825により最初に記載された。この方法は、メッセンジャーRNA上に存在するものと類似の抗体タグ上に存在する3'-ポリアデノシンテイルを通して、細胞タンパク質及びトランスクリプトーム測定を単一細胞リードアウトへと統合するために用いられる、オリゴヌクレオチド標識抗体に依存する。この方法は、10X Genomics社により提供されるもの等の、単一細胞における試料分割のための液滴ベースのアプローチ及び単一細胞ライブラリー作製と相性が良い。より詳細には、CITE-seq法では、細胞表面エピトープに対するオリゴヌクレオチド標識抗体を用いて染色された細胞が、微小流体法により、溶解性酵素及びバーコード化されたビーズを含有する油滴中に分割される。各単一細胞/液滴由来のバーコード化抗体及びmRNAは、固有の細胞バーコードを有するビーズにより捕捉される。続いて、mRNAがレトロ転写され、バーコード抗体由来のオリゴと共に増幅されて、直ちにシーケンシングできるNGSライブラリーを生じる。最終的に、バーコード抗体の定量化のために、配列カウントが用いられる。同様に、Peterson et al., 2017, Multiplexed quantification of proteins and transcripts in single cells, Nature biotech., (35) 10:936-939は、DNA標識抗体及び液滴微小流体工学に基づくRNA発現及びタンパク質定量化アッセイ(REAP-seq)という方法を教示し、この方法によれば、82種類のバーコード化抗体を用いてタンパク質を定量化することができ、且つ20000種類超の転写を単一細胞においてプロファイリングすることができる。上記で言及された方法の両方が、ポリ(dT)細胞バーコードを用いてプライミングされたオリゴ標識抗体を伸長し、同時に、同じ反応中でmRNAから相補的DNAを合成する逆転写酵素のDNAポリメラーゼ活性を利用する。他方で、これもまた液滴アプローチに基づく他の方法が、ゲノム全体のコピー数プロファイルの分析のために、又は単一細胞におけるゲノム配列の分析のために利用可能である。例えば、10X Genomics社により市販されている溶液であるクロミウム単一細胞CNV溶液は、数百~数千の単一細胞のコピー数プロファイリングを可能にし、Mission Bio社のTapestri(登録商標)プラットフォームは、配列に関する単一細胞標的化DNAシーケンシング及び遺伝子のパネルのCNV分析を提供する。
【0015】
これらの方法の短所は、以下の通りである:
- ゲノムDNAはそれを増幅するために必要なポリアデノシンテイルを保有しないので、上記の同時トランスクリプトーム/プロテオームプロファイリングのための両方の方法が、タンパク質又は転写産物と一緒でのゲノム配列の同時分析を可能にしない。
- コピー数及び又は標的化シーケンシングのためのDropseqに基づく方法は、ゲノムDNAの分析に対してのみ好適であるが、単一細胞の表面マーカー若しくは他のタンパク質の転写プロファイル又は定量化等の表現型に関するいかなる情報も提供しない。
- 液滴ベースの単一細胞分割アプローチでは、単一細胞及びそれらの全ての情報含有物がこのプロセス中に原則として「破壊」され、手順が完了した後に、更なる分析を行うために単一細胞を回収することが可能でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】EP1109938
【特許文献2】WO 2017/178655
【特許文献3】WO 2019/016401
【特許文献4】US 9,714,937
【特許文献5】US 2018/0251825
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Dey S. et al., 2015, Integrated genome and transcriptome sequencing of the same cell. Nature Biotechnology, 33(3), 285-289. http://doi.org/10.1038/nbt.3129
【非特許文献2】Macaulay, I. C., et al., 2015, G&T-seq: Parallel sequencing of single-cell genomes and transcriptomes. Nature Methods, 12(6), 519-522. http://doi.org/10.1038/nmeth.3370
【非特許文献3】Picelli, S. et al., 2013, Smart-seq2 for sensitive full-length transcriptome profiling in single cells. Nature Methods, 10(11), 1096-1100. http://doi.org/10.1038/nmeth.2639
【非特許文献4】Ornatsky, O. et al, 2010, Highly multiparametric analysis by mass cytometry. Journal of Immunological Methods, 361(1-2), 1-20. http://doi.org/10.1016/j.jim.2010.07.002
【非特許文献5】Frei et al., 2016, Highly multiplexed simultaneous detection of RNAs and proteins in single cells. Nature Methods, 13(3), 269-275. http://doi.org/10.1038/nmeth.3742
【非特許文献6】Bendall, S. C. et. Al., 2011, Single-Cell Mass Cytometry of Differential Immune and Drug Responses Across a Human Hematopoietic Continuum. Science, 332(6030), 687-696. http://doi.org/10.1126/science.1198704
【非特許文献7】Behbehani, G. K. et al., 2012, Single-cell mass cytometry adapted to measurements of the cell cycle. Cytometry Part A, 81A(7), 552-566. http://doi.org/10.1002/cyto.a.22075
【非特許文献8】Spitzer, M. H. et al., 2016, Mass Cytometry: Single Cells, Many Features. Cell, 165(4), 780-791. http://doi.org/10.1016/j.cell.2016.04.019
【非特許文献9】Fredriksson et al., 2002, Protein detection using proximity-dependent DNA ligation assays. Nature Biotechnology, 20(5), 473-477. http://doi.org/10.1038/nbt0502-473
【非特許文献10】Schallmeiner, E. et al., 2007, Sensitive protein detection via triple-binder proximity ligation assays. Nature Methods, 4(2), 135-137. http://doi.org/10.1038/nmeth974
【非特許文献11】Lundberg, M. et al., 2011, Homogeneous antibody-based proximity extension assays provide sensitive and specific detection of low-abundant proteins in human blood. Nucleic Acids Research, 39(15). http://doi.org/10.1093/nar/gkr424
【非特許文献12】Egidio C. et al., 2014, A Method for Detecting Protein Expression in Single Cells Using the C1 TM Single-Cell Auto Prep System (TECH2P.874), J Immunol, 192 (1 Supplement) 135.5
【非特許文献13】Stoeckius et al., 2017, Simultaneous epitope and transcriptome measurement in single cells, Nature Methods volume 14, pages 865-868
【非特許文献14】Peterson et al., 2017, Multiplexed quantification of proteins and transcripts in single cells, Nature biotech., (35) 10:936-939
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
したがって、本発明の目的は、ゲノム全体のコピー数プロファイル/ゲノム配列の分析及び同じ単一細胞に対するタンパク質発現の分析を同時に可能にする、生物学的試料における全ゲノム増幅及び複数標的分子の分析のための方法を提供することであり、これにより、当技術分野の技術水準の以下の短所のうちの1つ又は複数が特に克服される:
- 単一細胞分解能まで下がって同じ試料中でタンパク質を検出及び定量化し、且つゲノムを分析することが不可能であること、
- 追加の標的化ゲノム情報に関して単一細胞を再分析することが不可能であること。
【課題を解決するための手段】
【0019】
この目的は、請求項1に規定される方法により達成される。
【0020】
本発明の更なる目的は、請求項17に規定されるキットを提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明に従う3'タグ付きオリゴ配列を用いないか(
図1A)又は用いる(
図1B)、タグ付きオリゴヌクレオチドの2種類の考えられる実施形態の全体構造を示す図である。PL=ペイロード配列;5-TOS=第1のタグ付きオリゴヌクレオチド増幅配列;3-TOS=第2のタグ付きオリゴヌクレオチド増幅配列;UMI=固有分子識別子配列;BAB=結合剤バーコード配列。
【
図2】一方は異なる温度で5-TOS及び3-TOSの間での分子内ヘアピン形成を生じ易い、2種類の異なるタグ付きオリゴからのタグ付きオリゴヌクレオチドライブラリーを表すグラフを示す図である(「ヘアピンあり」:Tm=67℃;「ヘアピンなし」:Tm=45℃)。x軸上に予測されるUMIカウントを示し、y軸上にシーケンシング後にカウントされたUMIを示す。
【
図3】27回のPCRサイクルを用いる異なる量でのオリゴ混合物の増幅を表すグラフを示す図である。各希釈は、3回の独立した希釈複製から行った。x軸上に観測が予測される異なるUMIの個数を示し、y軸上に実験的に観測されたUMIを示す。
【
図4】異なる量での異なるBABを用いた4種類のオリゴ混合物の増幅の3つのグラフを示す図である。各希釈は、それぞれ1つが各オリゴに対する、4つのデータ点を有する。
図4A:23回のPCRサイクルを行った。
図4B:27回のPCRサイクルを行った。
図4C:35回のPCRサイクルを行った。x軸上に観測が予測される異なるUMIの個数を示し、y軸上に実験的に観測されたUMIを示す。
【
図5】1回のプライマー増幅を伴うタグ付きオリゴの本発明に従う実施形態の構造を示す図である。追加の脚注:5-WGAH=5'WGAハンドル配列;3-WGAH=3'WGAハンドル配列;1AH=第1の増幅ハンドル配列;2AH=第2の増幅ハンドル配列。
【
図6】少なくとも第2のプライマー増幅を伴うタグ付きオリゴの本発明に従う別の実施形態の構造を示す図である。
図6A:タグ付きオリゴ及びBABに対応するアニーリング部位を有する相対的伸長オリゴヌクレオチドの構造。
図6B:タグ付きオリゴ及びBABに対応しないアニーリング部位を有する相対的伸長オリゴヌクレオチドの構造。追加の脚注:E-p=5'伸長オリゴヌクレオチド配列;SS=スペーサー配列;AS=アニーリング配列;AS-RC=アニーリング配列逆相補体。
【
図7】分子長の関数としての、ssDNA分子の末端に位置する15nt長相補的配列により誘導されるヘアピンの融解温度([Na
+]=150mM;[Mg
++]=4mM)のin silico予測のグラフを示す図である。
【
図8】少なくとも3回のプライマー増幅を伴うタグ付きオリゴの本発明に従う別の実施形態の構造を示す図である。
【
図9】ライブラリー作製のための一般的スキームを示す図である。
図9A:
図5の実施形態に従うタグ付きオリゴからのライブラリーの作製。
図9B:
図6Aの実施形態に従うタグ付きオリゴからのライブラリーの作製。
図9C:
図8の実施形態に従うタグ付きオリゴからのライブラリーの作製。追加の脚注:2AH-RC=第2の増幅ハンドル配列逆相補体。
【
図10】P5-Synthオリゴの設計及び実施例1に開示される対応するライブラリープライマーを示す図である。
【
図11】実施例1に従うライブラリープライマーを用いるオリゴP5-SynthのNGSライブラリー作製のスキームを示す図である。
【
図12】Ab-オリゴ及び二次蛍光抗体を用いて染色されたPBMC細胞及びSK-BR-3細胞の散布図を示す図である。x軸上にAPCチャンネルでの蛍光レベルを示し、これはAb-オリゴtag1、tag2及びtag4の量に比例する。y軸上にPEチャンネルでの蛍光レベルを示し、これはAb-オリゴtag3の量に比例する。
【
図13】実施例1に従う単一細胞からのP5-synthタグ付きオリゴから作製されたライブラリー由来の電気泳動像を示す図である。
【
図14-1】WGA後にタグ付きオリゴ増幅を用いて
図8の実施形態に従って加工された単一細胞からのタンパク質定量化結果を示す図である。それぞれ、サイトケラチン(
図14A)、Her2(
図14B)、CD45(
図14C)及びIgG1アイソタイプ対照(
図14D)定量化のUMIカウント。y軸上にUMIの個数を示し、x軸上に
図9に従って単離された細胞タイプを示す。
【
図14-2】WGA後にタグ付きオリゴ増幅を用いて
図8の実施形態に従って加工された単一細胞からのタンパク質定量化結果を示す図である。それぞれ、サイトケラチン(
図14A)、Her2(
図14B)、CD45(
図14C)及びIgG1アイソタイプ対照(
図14D)定量化のUMIカウント。y軸上にUMIの個数を示し、x軸上に
図9に従って単離された細胞タイプを示す。
【
図15-1】WGA中にタグ付きオリゴ増幅を用いて
図8の実施形態に従って加工された単一細胞からのタンパク質定量化結果を示す図である。それぞれ、サイトケラチン(
図15A)、Her2(
図15B)、CD45(
図15C)及びIgG1アイソタイプ対照(
図15D)定量化のUMIカウント。y軸上にUMIの個数を示し、x軸上に
図9に従って単離された細胞タイプを示す。
【
図15-2】WGA中にタグ付きオリゴ増幅を用いて
図8の実施形態に従って加工された単一細胞からのタンパク質定量化結果を示す図である。それぞれ、サイトケラチン(
図15A)、Her2(
図15B)、CD45(
図15C)及びIgG1アイソタイプ対照(
図15D)定量化のUMIカウント。y軸上にUMIの個数を示し、x軸上に
図9に従って単離された細胞タイプを示す。
【
図16】P5-Lib1オリゴの設計及び実施例3に開示される対応するライブラリープライマーを示す図である。
【
図17】ライブラリープライマーを用いるP5-Lib1オリゴのNGSライブラリー作製のスキームを示す図である。
【
図18】単一細胞から取得されるCNA分析に対する低パスプロファイルの例を示す図である。
図18A:P5-Lib1オリゴを用いてスパイク化され、且つ
図5の実施形態に従って加工された単一細胞CNAプロファイル。
図18B:P5-Synthオリゴを用いてスパイク化され、且つ
図8の実施形態に従って加工された単一細胞CNAプロファイル。
図18C:タグ付きオリゴスパイク化を伴わない単一細胞CNAプロファイル。全てのプロファイルは、典型的な損益を伴って、SK-BR-3細胞に対応する。小さな変動は、単一細胞ゲノム不均一性に起因する。
【
図19】P5-Synth及びP5-Lib1を用いる単一細胞スパイク化から取得されたタグ付きオリゴライブラリーを表すグラフを示す図である。x軸上に予測されるUMIカウントを示し、y軸にはシーケンシング後にカウントされたUMIを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
定義
別途定義されない限り、本明細書中で用いられる全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者により通常理解されるのと同じ意味を有する。本明細書中に記載されるものに類似するか又は等価である多数の方法及び材料を本発明の実施又は試行で用いることができるが、好ましい方法及び材料が以下に記載される。別途言及されない限り、本発明に伴う使用のために本明細書中に記載される技術は、当業者に周知の標準的方法論である。
【0023】
「ab-オリゴミックス」とは、細胞の内部(すなわち、「内部ab-オリゴミックス」)、及び/若しくは外部(すなわち、「外部ab-オリゴミックス」)エピトープ及び/又はアイソタイプ対照ab-オリゴを標的とする全てのab-オリゴを含有する溶液を意図する。
【0024】
「抗体-オリゴヌクレオチドコンジュゲート」又は「ab-オリゴコンジュゲート」又は「ab-オリゴ」とは、抗体分子とssDNAオリゴヌクレオチド分子との化学的コンジュゲート化により誘導される合成分子を意図する。化学的コンジュゲート化は、通常、共有的な2つの分子の連結を可能にする特異的化学反応を用いて行われる。抗体:オリゴヌクレオチド化学量論は、特定される比率を有するために制御することができる。WGA初期段階の間に、抗体部分は通常は消化されて、オリゴヌクレオチド部分のみが残る。簡略化のために、説明の中では、これらの分子はそれでもab-オリゴ分子又はab-オリゴアンプリコンと称されるであろう。
【0025】
頭字語「APC」とは、フルオロフォアであるアロフィコシアニンを意図する。
【0026】
「結合剤バーコード配列」(BAB)とは、結合剤を特定する固有のDNAオリゴヌクレオチド配列を意図する。
【0027】
「平衡化PCR増幅」とは、それにより、各PCRサイクルにおいて、実質的に全ての標的分子が増幅される、複数標的の増幅を行うためのPCRの特徴を意図する。
【0028】
「結合剤」とは、指定された標的分子(例えば、タンパク質又はグリコシル化タンパク質又はリン酸化タンパク質)に特異的に結合できる分子(非限定的な例として、抗体、アフィボディ、リガンド、アプタマー、合成結合性タンパク質、小分子等)を意図する。
【0029】
「CITE-Seq」又は「シーケンシングによるトランスクリプトーム及びエピトープの細胞インデックス化」とは、単一細胞における同時でのタンパク質定量化及びmRNAシーケンシングのための、Stoeckius等により開発された方法を意図する。
【0030】
「CyTOF」又は「飛行時間によるサイトメトリー」とは、サイトメトリーと組み合わせた質量分析を用いて単一細胞でのタンパク質の定量化を可能にする、マスサイトメトリー技術を行う装置を意図する。細胞は、重金属同位体とコンジュゲート化された結合剤を用いて染色される。
【0031】
用語「コンジュゲート」とは、結合剤とタグ付きオリゴヌクレオチドとの共有結合によるコンジュゲート化によって得られる分子を意図する。
【0032】
「コピー数変化」(CNA)とは、一般的に同じ個体ゲノムに関して規定される、ゲノム領域のコピー数の体細胞変化を意図する。
【0033】
「DNAライブラリー精製」とは、それによりDNAライブラリー材料が、酵素、dNTP、塩及び/又は所望のDNAライブラリーの一部分でない他の分子等の、望ましくない反応成分から分離されるプロセスを意図する。DNAライブラリー精製プロセスの例は、Agencourt AMPure、又はMerck Millipore Amiconスピンカラム又はBeckman Coulter社のもの等の固相可逆的固相化(SPRI)ビーズを用いる精製である。
【0034】
「DNAライブラリー定量化」とは、それによりDNAライブラリー材料が定量化されるプロセスを意図する。DNAライブラリー定量化プロセスの例は、QuBit技術、電気泳動アッセイ(Agilent Bioanalyzer 2100、Perkin Elmer LabChip technologies社)又はRT-PCR PicoGreenシステム(Kapa Biosystems社)を用いる定量化である。
【0035】
「ダイナミックレンジ」とは、ある量が想定できる最大値と最小値との比率を意図する。
【0036】
「ライブラリープライマー」とは、タグ付きオリゴヌクレオチドからの超並列シーケンシング可能なライブラリーを作製するために、プライマーとして機能するssDNA分子を意図する。
【0037】
「低パス全ゲノムシーケンシング」又は「低パスシーケンシング」とは、1未満の平均シーケンシング深度での全ゲノムシーケンシングを意図する。
【0038】
「超並列シーケンシング」又は「次世代シーケンシング」(NGS)とは、クローン的にシーケンシングされる(事前のクローン増幅あり又はなしで)、空間的且つ/又は時間的に分離したDNA分子のライブラリーの作製を含む、DNAをシーケンシングする方法を意図する。例としては、Illuminaプラットフォーム(Illumina社)、IonTorrentプラットフォーム(ThermoFisher Scientific社)、Pacific Biosciencesプラットフォーム、MinIon(Oxford Nanopore Technologies社)が挙げられる。
【0039】
「多重アニーリング及びループピングベース増幅サイクル」(MALBAC)とは、準線形全ゲノム増幅法を意図する(Zong et al., 2012, Genome-wide detection of single-nucleotide and copy-number variations of a single human cell, Science. Dec 21;338(6114):1622-6. doi: 10.1126/science.1229164.)。MALBACプライマーは、鋳型にハイブリダイズするための8ヌクレオチド3'ランダム配列、及び27ヌクレオチド5'共通配列(GTG AGT GAT GGT TGA GGT AGT GTG GAG)を有する。最初の伸長後、セミアンプリコンが別の伸長の鋳型として用いられて、相補的な5'末端及び3'末端を有する完全アンプリコンが生じる。数サイクルの準線形増幅に続いて、完全アンプリコンを、その後のPCRサイクルを用いて指数関数的に増幅することができる。
【0040】
用語「オリゴヌクレオチド」又は「オリゴ」とは、非限定的な例として、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、ロックド核酸(LNA)、ペプチド核酸(PNA)等のヌクレオチドの配列を含むオリゴマー分子を意図する。
【0041】
「タグ付きオリゴヌクレオチド」又は「タグ付きオリゴ」とは、結合剤(例えば、一次抗体)に直接的にコンジュゲート化されているオリゴヌクレオチド分子(例えば、ssDNA分子)を意図する。タグ付きオリゴは、結合剤に対するリガンドである標的分子(例えば、タンパク質)の間接的定量化のために用いられる。
【0042】
頭字語「PE」とは、フルオロフォアであるフィコエリトリンを意図する。
【0043】
「PFA 2%」とは、リン酸緩衝生理食塩液中の2%w/vのパラホルムアルデヒドの溶液を意図する。
【0044】
「一次WGA DNAライブラリー」(pWGAlib)とは、WGA反応から取得されるDNAライブラリーを意図する。
【0045】
用語「再増幅」又は「再amp」とは、一次WGA DNAライブラリーのうちの全部又は相当な部分が更に増幅されるPCR反応を意図する。
【0046】
「残基」とは、タンパク質においてポリペプチド鎖中に存在するアミノ酸残基を意図する。
【0047】
「シーケンシングバーコード」とは、1つのシーケンサーリード内でシーケンシングされる場合に、そのリードを、バーコードと関連付けられる特異的試料に対して割り当てることを可能にするポリヌクレオチド配列を意図する。
【0048】
「UMI」又は「固有分子識別子配列」とは、各ssDNA又はdsDNA分子に対して実質的に固有である縮重又は部分縮重(すなわち、ランダム又は半ランダム)オリゴヌクレオチド配列を意図する。
【0049】
「普遍的WGAプライマー」又は「WGA PCRプライマー」とは、制限酵素の作用により作製される各断片に対してライゲーションした追加のオリゴヌクレオチドを意図する。普遍的WGAプライマーは、Ampli1(商標)WGA等のDRS-WGAにおいて用いられる。
【0050】
発明の詳細な説明
本発明に従うゲノムDNA及び標的分子を含む生物学的試料における全ゲノム増幅及び複数標的分子の分析のための方法は、以下の工程を含む。
【0051】
工程a)では、生物学的試料が用意される。生物学的試料は、好ましくは単一細胞であるが、数個の細胞を含む試料も用いることができる。
【0052】
工程b)では、タグ付きオリゴヌクレオチドとコンジュゲート化された、少なくとも1種の標的分子に対する1種の結合剤と、生物学的試料を接触させて、それにより、少なくとも1種の標的分子が生物学的試料中に存在する場合、該少なくとも1種の結合剤は、該少なくとも1種の標的分子に結合する。
【0053】
結合剤は、好ましくは、抗体又はその断片、アプタマー、小分子、ペプチド、及びタンパク質からなる群から選択される。標的分子は、好ましくは、タンパク質、ペプチド、糖タンパク質、炭水化物、脂質、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。より好ましくは、結合剤は抗体である。結合剤は、モノクローナル抗体若しくは酵素基質等の特異的化学量論を有するか、又はポリクローナル抗体若しくは小分子等の特定されていない化学量論を有する標的分子に結合する。前者は、後者に対して標的の比較的良好な定量化を可能にする。結合剤は、共有結合相互作用又は非共有的相互作用を介して、タグ付きオリゴに化学的にコンジュゲート化される。前者の場合には、オリゴと結合剤の両方が、相互的な結合を可能にする反応性部分を保有する。結合剤:オリゴの化学量論は、コンジュゲート化手順の間に制御することができる。
【0054】
結合剤/標的分子の例の非限定的なリストは、以下の表1に報告される。
【0055】
【0056】
タグ付きオリゴヌクレオチドとして用いられるオリゴヌクレオチドは、好ましくは、5'末端又は3'末端に化学的修飾を有するssDNA又はdsDNA分子である。この修飾は、関連する結合剤との共有結合によるコンジュゲート化のために用いられる。
【0057】
結合剤とコンジュゲート化されたタグ付きオリゴにより形成されるコンジュゲートは、細胞外エピトープと細胞内エピトープの両方を標的とする場合がある。「外部」及び「内部」コンジュゲートは、それらの最終染色濃度でコンジュゲートを含有する2種類の別個のミックスとして、生物学的試料に添加することができる。第1に、外部ミックスを、外部エピトープを標識するために添加する。第2に、界面活性剤又は同様の手段を用いて細胞を透過化し、内部ミックスを、内部エピトープを標識するために試料に添加する。或いは、外部及び内部コンジュゲートを、1ステップ染色を行うために、むしろ一緒に混合することができる。最終染色濃度は、各結合剤に対して異なり、且つ実験的に決定する必要がある。
【0058】
タグ付きオリゴ配列は、結合剤とのコンジュゲート化を容易にし、且つコストを低減するために、好ましくは300塩基よりも短く、より好ましくは120塩基よりも短い。好ましい実施形態では、タグ付きオリゴ配列は、60~80ヌクレオチドである。
【0059】
図1Aを参照すると、タグ付きオリゴヌクレオチドは、
i)結合剤バーコード配列(BAB)及び固有分子識別子配列(UMI)を含む核酸のペイロード配列(PL)、及び
ii)核酸の少なくとも1種の第1のタグ付きオリゴヌクレオチド増幅配列(5-TOS)
を含む。
【0060】
ペイロード配列は、標的カウントのための必要な情報を含む。
【0061】
固有分子識別子配列(UMI)は、好ましくは、10~30ヌクレオチドの範囲の縮重又は半縮重配列である。好ましくは、UMIは、大部分の標的分子に対して十分な、理論上は4^10=1,048,576種類の異なる組み合わせに対応する、少なくとも10塩基の長さを有する。非常に豊富な標的分子に対して、12塩基等の、考えられる組み合わせを増加させるための、より長いUMIを用いることができる。半縮重塩基を用いると、考えられる組み合わせは減少し、UMI長は好ましくは増加して、例えば最大20又は30塩基となる。半縮重UMIは、配列を再アライメントして、存在する異なるUMIの過大評価を防ぐために、リードアウト中で用いることができる参照点を導入するために、有利に用いることができる。UMI配列は、BABの5'又は3'のいずれかに位置することができる。UMI配列は、優先的には、最初にシーケンシングされる塩基の複雑性を増大させるために、Read1シーケンシングプライマーアニーリング部位のすぐ後ろに位置する。初期シーケンシング工程がクラスター識別のための高い複雑性を必要とするので、これはIlluminaシーケンシングプラットフォームに関して有利である。BABは、各コンジュゲート分子に対して固定された配列である。BABは、一次PCR増幅及びシーケンシング工程を妨げ得る特徴(ホモ多量体、ヘアピン、及び/又はヘテロ二重鎖形成等)を回避するために設計され[Frank, D. N., 2009, BARCRAWL and BARTAB: software tools for the design and implementation of barcoded primers for highly multiplexed DNA sequencing. BMC Bioinformatics, 10, 362. http://doi.org/10.1186/1471-2105-10-362]、且つそれらの相対的ハミング距離を最大化して、それによりいずれかのPCR又はシーケンシングエラーがシーケンシングされたリードの誤った割り当てをもたらし得る可能性を最小限にするために、規定された長さの全ての考えられるBAB配列のプールから選択される。BAB長は、検出される標的分子の数に基づいて選択しなければならない。好ましくは、BABは、GC含量(例えば、[30%..70%])、ホモ多量体の非存在、ヘアピンの非存在及び最小ハミング距離(好ましくは3nt以上)に対するフィルターを適用した後に、約2000種類の考えられるBAB配列まで減少する、理論上は4^10=1,048,576種類の異なる組み合わせに対応する、少なくとも10ヌクレオチドの長さを有する。
【0062】
第1のタグ付きオリゴヌクレオチド増幅配列(5-TOS)は、タグ付きオリゴの5'に位置する。この配列は、タグ付きオリゴ増幅及びその後のライブラリー作製のために必要である。タグ付きオリゴ増幅は、適正なUMIカウントを妨げ得る、試料加工中の分子の喪失に起因するいかなるバイアスも回避するために必要である。
【0063】
図1Bを参照すると、標的オリゴヌクレオチドは、好ましくは、少なくとも1種の第2のタグ付きオリゴヌクレオチド増幅配列(3-TOS)を更に含む。この配列は、タグ付きオリゴの3'に位置する。この配列は、タグ付きオリゴ増幅及びその後のライブラリー作製のために必要である。タグ付きオリゴ増幅は、適正なUMIカウントを妨げ得る、試料加工中の分子の喪失に起因するいかなるバイアスも回避するために必要である。
【0064】
好ましい実施形態では、5-TOS及び3-TOS配列は、ヘアピン及び増幅温度範囲内での他の分子内の安定的二次構造の形成を回避するために設計され、なぜなら、それらはタグ付きオリゴ増幅を妨げる可能性があるからである。
図2は、一方は異なる温度で5-TOS及び3-TOSの間での分子内ヘアピン形成を生じ易い、2種類の異なるタグ付きオリゴからのタグ付きオリゴヌクレオチドライブラリーを表すグラフを示す(「ヘアピンあり」:Tm=67℃、配列番号50、ΔG=-11.15kcal/mol;「ヘアピンなし」:Tm=45℃、配列番号51、ΔG=-1.52kcal/mol)。x軸上に予測されるUMIカウントを示し、y軸上にシーケンシング後にカウントされたUMIを示す。
【0065】
タグ付きオリゴ及びそれらの増幅プライマーは、最大感度、広いダイナミックレンジ、平衡化PCR増幅及び再現性を達成するために最適化される。
【0066】
本発明の好ましい実施形態では、UMI配列長は、0~約106分子の範囲内で標的を定量化するために選択された(n=10)。
【0067】
ダイナミックレンジは、4桁の大きさにわたる(10
2~10
6分子)濃度を有するタグ付きオリゴの増幅により特徴付けられた。
図3は、27回のPCRサイクルを用いる異なる量でのオリゴ混合物の増幅を表すグラフを示す。各希釈は、3回の独立した希釈複製から行った。x軸上に観測が予測される異なるUMIの個数を示し、y軸上に実験的に観測されたUMIを示す。増幅前の観測されたUMIと予測されたUMIとの間の10
2~10
6個の分子の範囲での非常に線形な相関を観察することができる。
【0068】
平衡化PCR増幅は、同じ出発試料に対する異なるサイクルの増幅を行うことにより特徴付けられた。
図4A及び
図4Bに示される通り、異なる回数の合計PCRサイクル(それぞれ23及び27PCRサイクル)を用いるタグ付きオリゴの同じプールの増幅は、観測されたUMIでの差異を生じず、このことは、PCRサイクル数がUMIカウントに影響しないことを示した。
【0069】
感度は、異なる量(40分子まで下げられた)でのタグ付きオリゴのプールの増幅により特徴付けられた。
図4Cに示される通り、10
2個のタグ付きオリゴ分子まで下げて定量化することが可能である。連続希釈溶液実験は、体積内での分子の高度に不均一な分布に起因するサンプリングバイアスを生じ易く、このことは、非常に希釈された溶液に特に関連があることを注記すべきである。つまり、観測される定量化の限界は、アッセイの限界よりもむしろ、実験設定に関連する過小評価である可能性がある。
【0070】
本発明に従う方法の工程c)では、未結合の結合剤を選択的に除去するための分離工程が行われることにより、標識された生物学的試料が取得される。分離工程は、典型的には、好適な緩衝剤溶液中で洗浄すること、及び標識された生物学的試料を遠心分離により回収することにより行われる。
【0071】
工程d)では、標識された生物学的試料に対して、前記ゲノムDNAの全ゲノム増幅及び少なくとも1種の結合剤とコンジュゲート化されたタグ付きオリゴヌクレオチドの増幅が同時に行われる。ゲノムDNAの全ゲノム増幅は、確定的制限部位全ゲノム増幅(DRS-WGA)によるか、又は多重アニーリング及びルーピングベース増幅サイクル全ゲノム増幅(MALBAC)によるかのいずれかで行われる。
【0072】
工程e)では、増幅されたタグ付きオリゴヌクレオチドから超並列シーケンシングライブラリーが作製される。
【0073】
工程f)では、超並列シーケンシングライブラリーがシーケンシングされる。
【0074】
工程g)では、各シーケンシングリードから結合剤バーコード配列(BAB)及び固有分子識別子配列(UMI)の配列が検索される。
【0075】
工程h)では、各結合剤に対して、異なる固有分子識別子配列(UMI)の個数がカウントされる。
【0076】
工程e)、f)、g)及びh)は、説明において以下で具体的な実施形態を参照して更に詳細に開示されるであろう。
【0077】
上記で開示された方法は、好ましくは、生物学的試料から単一細胞を単離する工程を更に含む。単離は、特に、例えば、DEPArray(登録商標)NxT(Menarini Silicon Biosystems社)等の細胞選別機を用いて、細胞を選別する工程、又は、代替として、液滴中へと細胞を分割する工程により、行うことができる。単離工程は、好ましくは、工程c)の後で、且つ工程d)の前に行われる。
【0078】
上記で開示された方法は、好ましくは、工程f)の前に超並列シーケンシングライブラリーを精製する工程を含む。
【0079】
より具体的であるが、本説明の範囲を限定する意図を有しない用語では、Ampli1タンパク質(A1-P)とも指定される上記で開示された方法は、単一細胞のタンパク質の定量化及び全ゲノム遺伝学的特性決定を可能にする。単一細胞での単一又は複数タンパク質定量化は、タグ付きオリゴヌクレオチドとコンジュゲート化された結合剤(特に、抗体(Ab))のパネルを用いて達成される。これらのオリゴヌクレオチドは、DNAバーコード配列を用いてコンジュゲート化された抗体を明確に特定するために、且つエピトープ定量化のために用いられるランダム又は部分的縮重配列(すなわち、固有分子識別子(UMI))を用いて対象となるエピトープの存在量を定量化するために、設計される。生物学的試料は、それぞれが固有のDNAバーコード配列を有する、1つ又は複数のAb-オリゴコンジュゲートを用いて標識される。続いて、単一細胞又は細胞のプールを、異なる手段(すなわち、DEPArray(商標)NxTシステム)により単離することができ、且つそれらのゲノム内容物を、全ゲノム増幅(すなわち、Ampli1(商標)全ゲノム増幅キット)により増幅することができる。後者の工程中又はそのすぐ後に、タグ付きオリゴヌクレオチドを、NGSライブラリー作製手順の間のいかなるダウンサンプリングも回避するために、予備増幅する。特異的プライマー、すなわち、「ライブラリープライマー」を、直ちにシーケンシングできるNGS(Illumina社)ライブラリーを作製するために用いる。タグ付きオリゴヌクレオチドは、Ampli1(商標)WGA(A1-WGA)ワークフローと適合性になるように設計され、これにより、A1-Pを用いるタンパク質定量化と並行して、単一細胞遺伝学分析(例えば、Ampli1(商標)LowPass)が可能になる。
【0080】
以下では、本発明の3つの具体的実施形態が開示され、これらはそれぞれ、タグ付きオリゴ増幅及び全ゲノム増幅に対して異なる数のプライマーを利用する。
【0081】
第1の好ましい実施形態では、
図5を参照すると、タグ付きオリゴヌクレオチドは、5'から3'に向かって、少なくとも、
a)さらに5'全ゲノム増幅ハンドル配列(5-WGAH)及び第1の増幅ハンドル配列(1AH)を含む、核酸の第1のタグ付きオリゴヌクレオチド増幅配列(5-TOS);
b)ペイロード配列(PL);
c)さらに核酸の第2の増幅ハンドル配列(2AH)及び3'全ゲノム増幅ハンドル配列(3-WGAH)を含む、核酸の第2のタグ付きオリゴヌクレオチド増幅配列(3-TOS)
を含む。
【0082】
3-WGAHは、全ゲノム増幅中にgDNA及びタグ付きオリゴヌクレオチドの同時増幅を可能にする、5-WGAHの逆相補的配列である。1AH及び2AHは、それぞれペイロード配列の5'末端及び3'末端に位置し、且つその後のライブラリー作製のために用いられる。1AH及び2AHは、好ましくは、タグ付きオリゴ増幅を阻害し得る、ヘアピン等の安定的な分子内二次構造を回避するために設計される。上述の各配列の間には、固定された配列が存在し得る。
【0083】
全ゲノム増幅及びタグ付きオリゴの増幅は、好ましくは、単一プライマーを用いて行われる。
【0084】
第2の好ましい実施形態では、
図6A及び
図6Bを参照すると、タグ付きオリゴヌクレオチドは、5'から3'に向かって、少なくとも、
a)さらに5'全ゲノム増幅ハンドル配列(5-WGAH)及び第1の増幅ハンドル配列(1AH)を含む、核酸の第1のタグ付きオリゴヌクレオチド増幅配列(5-TOS);
b)ペイロード配列(PL);
c)任意選択で、アニーリング配列(AS)
を含む。
【0085】
全ゲノム増幅及びタグ付きオリゴヌクレオチドの増幅のために少なくとも1種のプライマーが用いられ、且つタグ付きオリゴヌクレオチドの伸長のために少なくとも1種のオリゴヌクレオチド(E-p)が用いられ、該少なくとも1種のオリゴヌクレオチド(E-p)は、5'から3'に向かって、少なくとも、
d)5'全ゲノム増幅ハンドル配列(5-WGAH);
e)スペーサー配列(SS);
f)第2の増幅ハンドル配列(2AH);及び
g)アニーリング配列に対して逆相補的な配列(AS-RC)又は結合剤バーコード配列に対して逆相補的な配列(BAB-RC)
を含む。
【0086】
言い換えると、タグ付きオリゴの増幅は、E-pの3'末端に位置するアニーリング配列逆相補体(AS-RC)によって、タグ付きオリゴの3'に位置するASに対するE-pのアニーリング(
図6A)により起こり、したがってタグ付きオリゴ及びE-pの両方の3'伸長が反応内で引き起こされ、これにより、次にWGAプライマー増幅可能分子が生じる。或いは、ASは、BAB配列と一致することができ、且つE-pは、
図6Bに示される通りにBAB逆相補体配列(BAB-RC)を介してBAB配列にアニーリングする。第1の選択肢(ASに対するアニーリング)は、単一E-pをいずれのBABと共にでも用いることができるという利点を有し、したがって、製造コスト及びプロトコールの複雑性が低減される。第2の選択肢(BABに対するアニーリング)は、存在量に大きな差異を有する標的に由来するシグナルを標準化するために有利に用いることができる。これは、非限定的な例として、非常に豊富なタグ付きオリゴの増幅を減少させるために、非常に豊富な可能性がある標的に対するプライマーの制限的な量を用いることにより、又は異なるBABアニーリング温度を用いることにより、達成できる。アニーリング温度は、BAB長及び/又は組成により調節することができる。
【0087】
タグ付きオリゴ及びE-pの伸長後に、WGAプライマーが、生じる比較的大きな分子内で、タグ付きオリゴの増幅を行うであろう。スペーサー配列(SS)は、タグ付きオリゴにより生成されるアンプリコンの長さを増加させる。増加した断片長は、断片の相補的末端により誘導されるヘアピン等の分子内二次構造を不安定化させ、したがってそれらの融解温度を低下させ(
図7)、これは他のWGA断片と一緒でのタグ付きオリゴ増幅に好都合である(M. Zuker. Mfold web server for nucleic acid folding and hybridization prediction. Nucleic Acids Res. 31 (13), 3406-15, (2003))。伸長オリゴヌクレオチド(E-p)配列長は、好ましくは、60~300塩基の範囲内である。より好ましくは、伸長オリゴヌクレオチド(E-p)配列長は、120~200塩基の範囲内である。
【0088】
第3の好ましい実施形態では、
図8を参照すると、タグ付きオリゴヌクレオチドは、5'から3'に向かって、少なくとも、
a)第1の増幅ハンドル配列(1AH)に対応する核酸の第1のタグ付きオリゴヌクレオチド増幅配列(5-TOS);
b)ペイロード配列(PL);
c)第2の増幅ハンドル配列(2AH)に対応する核酸の第2のタグ付きオリゴヌクレオチド増幅配列(3-TOS)
を含む。
【0089】
少なくとも1種の第1のプライマーが全ゲノム増幅のために用いられ、且つ少なくとも1種の第2のプライマー及び1種の第3のプライマーがタグ付きオリゴヌクレオチドの増幅のために用いられ、少なくとも1種の第2のプライマーは、第1の増幅ハンドル配列(1AH)に対して同一な配列を有し、且つ少なくとも1種の第3のプライマーは、第2の増幅ハンドル配列に対して逆相補的な配列(2AH-RC)を有する。
【0090】
タグ付きオリゴ増幅プライマーは、WGA PCR温度プロファイルの少なくとも最初の10~15サイクルに適合性である融解温度を有するように設計される。
【0091】
好ましくは、少なくとも1種の第2のプライマー及び少なくとも第3のプライマーは、工程d)で添加される。
【0092】
増幅されたタグ付きオリゴヌクレオチドから超並列シーケンシングライブラリーを作製する工程e)は、好ましくは、第1の増幅ハンドル配列(1AH)に対応する3'配列を含む少なくとも1種の第1のライブラリープライマー及び第2の増幅ハンドル配列に対して逆相補的な配列(2AH-RC)に対応する3'配列を含む少なくとも1種の第2のライブラリープライマーを用いるPCR反応により行われる。
【0093】
したがって、ライブラリープライマーは、単一PCR工程を用いる結合剤定量化分析のためのNGSライブラリーを作製するために、有利に用いられる。本説明で報告されるライブラリープライマーの具体例は、本発明の発明の範囲を限定することを意図せずに、Illuminaシーケンシングプラットフォームと適合性であるライブラリーを作製するために用いられる。
【0094】
好ましい実施形態では、フォワードプライマー及びリバースプライマーは、Illuminaアダプター(Illumina社)に基づいて設計され、5'から3'に向かって、以下を含む:
1)Illuminaシーケンシングに必要とされるIlluminaアダプター配列(IA);
- インデックスシーケンシングプライマー/フローセル結合性配列(この領域は、フローセル結合のために必要とされる)並びにi5/i7インデックスシーケンシングプライマーに対するアニーリング配列;
- i5/i7インデックス:NGS多重化反応のために用いられるインデックス;
- Read1/read2シーケンシングプライマー:Illuminaシーケンシングプライマーに対するアニーリング配列、並びにタグ付きオリゴからのライブラリーの増幅のため。
2)第1の増幅ハンドル配列(1AH)又は第2の増幅ハンドル配列に対して逆相補的な配列(2AH-RC):これらの配列は、タグ付きオリゴ増幅後には二本鎖であるタグ付きオリゴ上で、第1の増幅ハンドル配列の逆相補体及び第2の増幅ハンドル配列にそれぞれアニーリングする。
【0095】
図9は、それぞれ
図5(
図9A)、
図6A(
図9B)及び
図8(
図9C)に従う実施形態での、増幅されたタグ付きオリゴヌクレオチドからの超並列シーケンシングライブラリーの作製のために用いられるライブラリープライマーの構造を示す。
【0096】
ライブラリーの作製後、好ましくは少なくとも1回の精製工程が行われ、それにライブラリー定量化及びその後のシーケンシング手順のために必要なプール化が続く。シーケンシングは、優先的には、ペアードエンドシーケンシングとして行われ、それぞれがライブラリーDNA分子の鎖から誘導される2つのリードが生成される。
【0097】
同じアプローチを、例えば、Ion Torrent社等の他のシーケンシングプラットフォームのためのNGSライブラリーを作製するために用いることができる。
【0098】
NGSライブラリーから生成されるペアードエンドリード配列の分析は、以下の工程に従って分析する:
1.部分配列抽出。UMI、BAB及び増幅ハンドル配列(1AH及び/又は2AH)に対応する部分配列は、各タグ付きオリゴ分子に対する両方のシーケンシングリードから抽出される。
【0099】
2.リードの再アライメント。BAB及び/又は増幅ハンドル配列の部分配列が参照配列とマッチしない(5塩基毎に0.5~2個のミスマッチを許容して)場合、部分配列の位置が-nから+nの範囲の可変量だけオフセットされ、このときnは許容される最大オフセットであり(例えば、n=8)、部分配列が再抽出される。各反復に対して、参照配列からのハミング距離が算出され、最低距離に戻すオフセットが選択され、全ての部分配列(UMI、BAB、増幅ハンドル配列)が抽出される。
【0100】
3.リードフィルタリング。そのBAB及び/又はハンドル部分配列が参照配列と規定量の塩基を超えて異なるリードは、低品質リードとして廃棄される。
【0101】
4.UMI決定。リードペアからのUMI配列は、シーケンシングエラーの非存在下で完璧に相補的になると予測される。第1鎖UMIと第2鎖相補的UMI配列との間のいずれかの差異の存在下では、
a.リードペアは低信頼度として廃棄される場合があるか、又は
b.2つの配列間のコンセンサスは、UMIの各位置に対して、シーケンサーのベースコーラーにより報告される最高ベースコーリングスコアを有する2つのシーケンシングリード由来の配列のうちから塩基を選択することにより、算出することができる。
【0102】
第1の方法(a)は、シーケンシングバイアスに起因する標的分子の過大評価を引き起こしにくいが、第2の方法(b)を用いて代わりに回復される結合剤と標的分子との間の真の結合性イベントを失う場合があることを注記すべきである。
【0103】
5.標的分子定量化。標的分子のカウントが、分析された試料における特異的結合剤を表す各BAB配列に対する異なるUMI配列の個数を決定することにより行われる。
【0104】
本発明に従うキットは、
a)タグ付きオリゴヌクレオチドとコンジュゲート化された、生物学的試料中の少なくとも1種の標的分子に対する少なくとも1種の結合剤であって、タグ付きオリゴヌクレオチドは、
i)結合剤バーコード配列(BAB)及び固有分子識別子配列(UMI)を含む核酸のペイロード配列(PL)、
ii)少なくとも1種の第1のタグ付きオリゴヌクレオチド増幅配列(5-TOS)
を含む、結合剤;
b)全ゲノム増幅を行うための少なくとも1種のプライマー及びタグ付きオリゴヌクレオチドの増幅を行うための少なくとも1種のプライマーであって、同じ配列を有するか又は異なる配列を有するかのいずれかである、全ゲノム増幅を行うための少なくとも1つのプライマー及び該タグ付きオリゴヌクレオチドの増幅を行うための少なくとも1つのプライマー
を含む。
【0105】
好ましい実施形態では、キットは、タグ付きオリゴヌクレオチドを伸長するためのオリゴヌクレオチドを含む。
【0106】
好ましい実施形態では、少なくとも1種のタグ付きオリゴヌクレオチドが配列番号1に対応する配列を有し、タグ付きオリゴヌクレオチドの増幅を行うためのプライマーは2種類であり、それぞれ配列番号2及び配列番号3の配列を有する。キットは、好ましくは、1つ又は複数の第1のライブラリープライマー及び1つ又は複数の第2のライブラリープライマーを更に含む。より好ましくは、該第1のライブラリープライマーは配列番号8~配列番号15からなる群から選択される配列を有し、該第2のライブラリープライマーは配列番号16~配列番号27からなる群から選択される配列を有する。
【0107】
別の好ましい実施形態では、少なくとも1種のタグ付きオリゴヌクレオチドが配列番号28に対応する配列を有し、タグ付きオリゴヌクレオチドの伸長を行うためのオリゴヌクレオチドは1種類であり、配列番号29に対応する配列を有する。キットは、好ましくは、1つ又は複数の第1のライブラリープライマー及び1つ又は複数の第2のライブラリープライマーを更に含む。より好ましくは、該第1のライブラリープライマーは配列番号30~配列番号37からなる群から選択される配列を有し、該第2のライブラリープライマーは配列番号38~配列番号49からなる群から選択される配列を有する。
【実施例】
【0108】
(実施例1)
本実施例では、WGA後に
図8に従う設定を用いる増幅を行うために、タグ付きオリゴを設計した。「P5-Synth」(配列番号1、
図10、NNNNNNNNNN:UMI配列)と称されるタグ付きオリゴを、Ampli1(商標)WGAキット(Menarini Silicon Biosystems社)に適合するように設計した。第1の増幅ハンドル配列(1AH)は、Illumina TruSeq DNA and RNA CD IndexesからのIndex2(i5)アダプターの最後の19塩基と同一であった。第2の増幅ハンドル配列(2AH)を、いかなる分子内二次構造及びヒトゲノムに対する考えられるマッチも回避するように、in silicoで作製した。両方の増幅ハンドル配列の融解温度を、WGAプライマーのものと類似とするために設計した。タグ付きオリゴ増幅プライマー(配列番号2及び配列番号3)を、第1及び第2の増幅ハンドル配列に従って設計した。
【0109】
図10に示される通り、フォワードライブラリープライマーがIndex2(i5)アダプター(Illumina社)と同一であった一方で、リバースライブラリープライマーは、第2の増幅ハンドル配列の逆相補的配列を付加したIndex1(i7)アダプターと同一であった。より詳細には、
図10は、P5-Synthオリゴ及び対応するライブラリープライマーの設計を示す。
【0110】
オリゴP5-Synth(配列番号1):白色ボックスは、UMI及び結合剤バーコードを含む内部ドメインを示す。黒色境界を有する灰色ボックスは、第1及び第2の増幅ハンドル配列を示す。
【0111】
P5ライブラリープライマー(配列番号8):NGSライブラリー作製のために用いられるフォワードプライマー。灰色ボックス中にオリゴP5-Synthとのアニーリング部位が示される。短破線ボックス中にシーケンシングプライマー部位が示され;一点鎖線ボックス中にシーケンシング反応を多重化するために用いられるi5インデックスが示され;長破線ボックス中にインデックスシーケンシングプライマー/フローセルアダプター配列が示される。
【0112】
Synthライブラリープライマー(配列番号16):NGSライブラリー作製のために用いられるリバースプライマー。灰色ボックス中にオリゴP5-Synthとのアニーリング部位が示される。短破線ボックス中にシーケンシングプライマー部位が示され;一点鎖線ボックス中にシーケンシング反応を多重化するために用いられるi5インデックスが示され;長破線ボックス中にインデックスシーケンシングプライマー/フローセルアダプター配列が示される。
【0113】
図11に見て取れる通り、ライブラリー作製中に、Illumina Index1及び2アダプターが、それぞれタグ付きオリゴの5'及び3'に付加される。
【0114】
本実施例では、タグ付きオリゴを、5'アミノ修飾剤を介してコンジュゲート化した。その後のPCR反応に対するいかなる立体障害阻害作用も回避するために、C6又はC12スペーサーが、オリゴのアミン部分と5'との間に存在した。アミノ反応性試薬を介して、リジン、グルタミン、アルギニン及びアスパラギン残基由来の抗体中に通常存在するアミンを用いて、抗体をタグ付きオリゴに共有結合させた。4種類のAb-オリゴ(表2)を、タグ付きオリゴを用いて作製し、抗体オリゴコンジュゲート化は、抗体:タグ付きオリゴ化学量論を1:2として、Expedeon社(25 Norman Way、Over、Cambridge CB24 5QE、United Kingdom)により行った。エピトープ局在:細胞膜に対する位置を示す。
【0115】
【0116】
Ab-オリゴを、2種類の異なるタイプの細胞株を染色するために用いた。第1の細胞タイプは、サイトケラチン及びHer2タンパク質を過剰発現する乳癌由来細胞株であるSK-BR-3細胞であった。第2の細胞タイプは、CD45並びに無視できるレベルのサイトケラチン及びHer2を発現する、全血から抽出される白血球である末梢血単核細胞(PBMC)であった。
【0117】
SK-BR-3細胞(ATCC(登録商標)HTB-30(商標)、ATCC)を、製造業者の手順に従って培養中で増殖させた。PBMCは、ヒト血液試料から抽出した。両方の細胞タイプを、カスタマイズされたプロトコールに従って、PFA 2%を用いて固定した。
【0118】
Ab-オリゴを用いる細胞染色は、100000~50000個の事前に固定及び透過化された細胞に対して行った。RT、1000×gで5分間の遠心分離により、細胞を回収した。少なくとも1mLのランニングバッファー(autoMACSランニングバッファー、ref. 130-091-221、Miltenyi Biotec社)を用いて細胞を洗浄し、遠心分離により回収した。この最後の工程を、2回繰り返した。外部Ab-オリゴ及びそれらのアイソタイプAb-オリゴ対照は、それらの作業濃度まで、100μLのランニングバッファー中に希釈する。外部Ab-オリゴミックス(Ab-オリゴtag3)を細胞に添加し、RTで15分間インキュベートした。続いて、1mLのランニングバッファーを用いて試料を2回洗浄し、遠心分離により回収した。500μLのランニングバッファー中のヤギ抗マウスIgG2a-PE抗体を添加し、+4℃で30分間インキュベートした。この工程は、PEでのPBMC細胞の染色を可能にした。ランニングバッファーを用いて試料を2回洗浄した。内部Ab-オリゴ及びそれらのアイソタイプAb-オリゴ対照は、それらの作業濃度まで、200μLのInside Permバッファー(Inside染色キット、Ref. 130-090-477、Miltenyi Biotec社)中に希釈する。内部Ab-オリゴミックス(Ab-オリゴtag1、2及び4)を細胞に添加し、RTで10分間インキュベートした。1mLのInside Permバッファーを用いて試料を2回洗浄し、遠心分離により回収した。Hoechst及びヤギ抗マウスIgG1-APC抗体の500μLのInside Permバッファー中のミックスを添加し、+4℃で30分間インキュベートした。この工程は、PEでのSK-BR-3細胞及び全ての細胞核の染色を可能にした。試料を、ランニングバッファーを用いて2回洗浄した。
【0119】
フルオロフォアにコンジュゲート化された二次抗体の添加は、蛍光によるSK-BR-3細胞(APCチャンネル)及びPBMC(PEチャンネル)の特定を可能にした。更に、蛍光レベルは、Ab-オリゴの相対的存在量を反映する。単一細胞を、それらの免疫蛍光標識に基づいて、DEPArray(商標)NxTシステム(Menarini Silicon Biosystems社)を用いて精製した(
図12)。
【0120】
具体的には、
図12は、Ab-オリゴ及び二次蛍光抗体を用いて染色されたPBMC及びSK-BR-3細胞の散布図を示す。x軸上には、Ab-オリゴtag1、tag2及びtag4の量に比例する、APCチャンネルでの蛍光レベルを示す。y軸上には、Ab-オリゴtag3の量に比例する、PEチャンネルでの蛍光レベルを示す。散布図は、それらの免疫蛍光レベルに基づいて特異的細胞タイプをそれぞれ含む4つの象限に分割されている:1)PBMC(高レベルのCD45及び低レベルのCK、Her2);2)二重陽性細胞(高レベルのCD45、CK、Her2);3)二重陰性細胞(低レベルのCD45、CK、Her2);4)SK-BR-3細胞(低レベルのCD45及び高レベルのCK、Her2)。中空/中実四角/丸で強調される単一細胞が、ライブラリー作製のために単離及び使用された。
【0121】
或いは、WGA後にタグ付きオリゴ増幅を行うために、フォワード/リバースプライマーのカスタマイズされた反応ミックス及びAmpli1(商標)PCRキット試薬を、表3の左側挿入部分に従って調製した、WGA産物が入った各チューブに、15μLの反応ミックスを添加した。各試料を、表3の右側挿入部分に示される温度プロファイルに従ってインキュベートした。
【0122】
【0123】
左側挿入部分:タグ付きオリゴ増幅反応の反応混合物組成。右側挿入部分:タグ付きオリゴ増幅のための熱サイクルプログラム。
【0124】
0.5μMの最終濃度でP5及びLib1ライブラリープライマーを用いて、Ampli1(商標)PCRキットを使用して増幅されたWGA含有Ab-オリゴアンプリコンの1μLのアリコートを取得することにより、ライブラリー作製を行った。PCR熱サイクルプロファイルは、表5に示される。各試料は、バイオインフォマティクス分析中にデータを逆多重化するために、二重インデックス化のためのNGSライブラリープライマーの異なる組み合わせを有した。用いたライブラリープライマーのリストを、表4に報告する。P5ライブラリープライマーは、タグ付きオリゴP5-Synthと共に用いることができるフォワードプライマーである。
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
NGSライブラリー作製のための熱サイクルプロファイル。ステップ3のサイクル数は、回収された細胞数及び細胞中の総Ab-オリゴの有効量に応じて変わる。通常、ステージ3での27回の増幅サイクルが、単一細胞からの十分なアンプリコン量を生じた。
【0129】
ライブラリー試料を、Agencourt AmPure XPビーズ(Beckman-Coulter社)を用いて精製した。NGS DNA定量化は、KAPA SYBR(登録商標)FAST qPCRキット(Kapa Biosystems社)を用いて行った。各NGSライブラリーを、Agilent Bioanalyzer 2100(Agilent社)を用いて検査し、これにより、典型的には185bpでの単一ピークから構成されたライブラリー電気泳動像が示された(
図13)。
【0130】
試料を一緒にプールし、MiSeq試薬キットv3 150サイクル(Ref. MS-102-3001、Illumina社)を用いて、MiSeqシステム(Illumina社)上でシーケンシングを行った。データ解析は、Python社により開発されたカスタムソフトウェアを用いて行った。UMIカウントに従うタンパク質標的の定量化が、
図14に報告される。予測される通り、SK-BR-3細胞は、サイトケラチン及びHer2の高発現並びに比較的低レベルのCD45を示したが、PBMCは逆の挙動を示した。タンパク質発現レベルは、二重陽性細胞において、特にアイソタイプ対照が高く、このことは、そのような細胞が非特異的染色を比較的受け易かったことを示す。逆に、二重陰性細胞は、全4種類の標的に関して比較的低いレベルを有した。
【0131】
(実施例2)
本実施例では、WGA中に、
図8に従う設定を用いて増幅を行うために、タグ付きオリゴを設計した。実験手順は、以下を除いて実施例1と同一である。タグ付きオリゴ増幅プライマーを、0.02μMの最終濃度で、一次PCR反応ミックスに直接添加した。ライブラリー作製及びデータ解析は、実施例1に示される通りに行った。
【0132】
UMIカウントに従うタンパク質標的の定量化が、
図15に報告される。予測される通り、SK-BR-3細胞は、サイトケラチン及びHer2の高発現並びに非常に低レベルのCD45を示したが、PBMCは逆の挙動を示した。タンパク質発現レベルは、二重陽性細胞において、特にアイソタイプ対照が高く、このことは、そのような細胞が非特異的染色を比較的受け易かったことを示す。逆に、二重陰性細胞は、全4種類の標的に関して比較的低いレベルを有した。実施例1からの結果に従って、タグ付きオリゴの増幅が、WGA中及びWGA後の両方で実行可能であることが推論できる。しかしながら、絶対的UMIカウントは、2種類の手順で顕著に異なることを注記すべきである。2種類の細胞タイプの差異は、WGA中にタグ付きオリゴ増幅が行われる場合に、CKと比較して低い発現を有するCD45標的に関して予測されるものにより良く一致する。
【0133】
(実施例3)
本実施例では、タグ付きオリゴを、単一細胞中に直接添加した。「P5-Lib1」(配列番号28)と称されるタグ付きオリゴを、Ampli1(商標)WGAキット(Menarini Silicon Biosystems社)により増幅可能であるように設計した。タグ付きオリゴ増幅プライマーは、配列番号29の配列を有する(フォワードプライマー及びリバースプライマーは同一であり、Ampli1 WGA Lib1プライマーの配列を共有する)。具体的には、5'-WGAハンドル配列はLib1 WGAプライマーと同一であった一方で、3'-WGAハンドル配列はLib1 WGAプライマーの逆相補体配列であった。第1の増幅ハンドル配列は、実施例1に記載されるものと同一である。第2の増幅ハンドル配列は、3'-WGAハンドル配列及びその5'末端での追加の5bp配列からなる(
図16)。
【0134】
より詳細には、
図16は、P5-Synthオリゴ及び対応するライブラリープライマーの設計を示す。
【0135】
オリゴP5-Lib1:太線境界を有する白色中実ボックスは、UMI及び結合剤バーコードを含む内部ドメインを示す。太線境界を有する灰色中実ボックスは、2つのライブラリープライマーに対するアニーリング部位を示す。細線境界を有する灰色ボックスは、WGAハンドル配列(Lib1)である。
【0136】
P5ライブラリープライマー:NGSライブラリー作製のために用いられるフォワードプライマー。灰色中実ボックス中にタグ付きオリゴP5-Lib1とのアニーリング部位が示される。短破線ボックス中にシーケンシングプライマー部位が示され;一点鎖線ボックス中にシーケンシング反応を多重化するために用いられるi5インデックスが示され;長破線ボックス中にインデックスシーケンシングプライマー/フローセルアダプター配列が示される。
【0137】
Lib1ライブラリープライマー:NGSライブラリー作製のために用いられるリバースプライマー。灰色中実ボックス中にタグ付きオリゴP5-Lib1とのアニーリング部位が示され:この配列は、Lib1逆相補体配列の一部分及びオリゴP5-Lib1の3'末端にのみアニーリングすることを可能にする小さいテイル(ACCAC)から構成される。短破線ボックス中にシーケンシングプライマー部位が示され;一点鎖線ボックス中にシーケンシング反応を多重化するために用いられるi5インデックスが示され;長破線ボックス中にインデックスシーケンシングプライマー/フローセルアダプター配列が示される。
【0138】
フォワードライブラリープライマーがIndex2(i5)アダプター(Illumina社)と同一であった一方で、リバースライブラリープライマーは、第2の増幅ハンドル配列の逆相補的配列を付加したIndex1(i7)アダプターと同一であった(
図16)。したがって、ライブラリー作製中に、Illumina Index1及び2アダプターが、それぞれタグ付きオリゴの5'及び3'に付加される(
図17)。
【0139】
SK-BR-3細胞(ATCC(登録商標)HTB-30(商標)、ATCC)を、製造業者の手順に従って培養中で増殖させ、カスタマイズされたプロトコールに従って、PFA 2%を用いて固定した。単一細胞を、それらの形態学に基づいて、DEPArray(商標)NxTシステム(Menarini Silicon Biosystems社)を用いて精製した。P5-Lib1及びP5-Synthタグ付きオリゴを、単一細胞が入ったチューブの内部に直接添加した。異なる量の各オリゴを各単一細胞内に添加し、Ampli1(商標)WGAを行った。P5-Synthタグ付きオリゴを含有する試料を、実施例1の通りに増幅した。
【0140】
0.5μMの最終濃度でP5及びLib1ライブラリープライマーを用いて、Ampli1(商標)PCRキットを使用して増幅されたWGA含有Ab-オリゴアンプリコンの1μLのアリコートを取得することにより、タグ付きオリゴライブラリー作製を行った。PCR熱サイクルプロファイルは、表5に示される。各試料は、バイオインフォマティクス分析中にデータを逆多重化するために、二重インデックス化のためのNGSライブラリープライマーの異なる組み合わせを有した。用いたライブラリープライマーのリストを、表6に報告する。
【0141】
【0142】
【0143】
10μL WGA試料のアリコートを、SPRIビーズ(Beckmann Coulter社)を用いて精製し、続いて、Ampli1(商標)LowPassキットを用いて加工して、CNA分析のためのNGSライブラリーを作製した。WGA手順前の単一細胞におけるタグ付きオリゴのスパイク化は、下流の遺伝子解析に影響しなかった(
図18)。
図5及び
図8に示されるワークフローに適合するように設計されたタグ付きオリゴは、WGA手順に影響又は干渉しなかった。更に、それでも、両方の条件でタグ付きオリゴヌクレオチドからNGSライブラリーを取得することが可能であった。両方のタグ付きオリゴヌクレオチドを正確に定量化することができ、このことは、両方の方法論、並びにタグ付きオリゴ設計の堅牢性を示した(
図19)。
【0144】
利点
本発明に従う生物学的試料における全ゲノム増幅及び複数標的分子の分析のための方法は、ゲノム全体のコピー数プロファイル/ゲノム配列及び同じ単一細胞に対するタンパク質発現の分析を同時に得ることを可能にする。
【0145】
本発明の方法は、低パスシーケンシング又は対象となる遺伝子のパネルの標的化シーケンシングによるゲノム全体のコピー数プロファイリング等の更なる分析を可能にし、且つ、わずかな(1個まで下がる)循環腫瘍細胞(CTC)が利用可能な場合であり得るので、非常にわずかな試料を用いて、単一細胞解像度まで下げた複数タンパク質のパネルのデジタル定量化を検出及び実行するために有用な、ゲノムDNAの全ゲノム増幅を行うことを可能にする。このことは、遺伝子型、表現型及び環境の差異が、遺伝子型(配列変化のコピー数)と表現型(タンパク質発現)との相関を混乱させ且つ完全に妨げ得る、遺伝的に不均一な試料中の異なる細胞での各分子タイプを測定することに関して、特に有利である。
【0146】
本発明に従う方法は、驚くべきことに、非限定的な例として与えられる、以下の側面のうちの1つ又は複数で、当業者には達成できないと以前に考えられた実績を有して、当技術分野の技術水準を進歩させる:
・1個の細胞当たり数百コピーまで下がった単一細胞におけるタンパク質のデジタル定量化。
・プロセス中に内在するWGAの使用によって、該単一細胞の他の特徴の調査のための追加の遺伝的材料を取得できる更なる可能性、並びに10x Genomics社により提案されるもの等の液滴ベースのアプローチを用いて可能でない、確認のために単一細胞を確実に再分析できる可能性を伴って、上記の点が得られる。
【0147】
本方法の応用の主な分野は腫瘍学であるが、該方法は、皮膚科等のモザイク障害又は異常増殖表現型等の他の分野に応用することができる。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2021-11-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲノムDNA及び標的分子を含む生物学的試料における、全ゲノム増幅及び複数標的分子の分析のための方法であって、
a)生物学的試料を用意する工程;
b)タグ付きオリゴヌクレオチドにコンジュゲート化された、標的分子のうちの少なくとも1つに対する少なくとも1つの結合剤と、該生物学的試料を接触させる工程であって、該タグ付きオリゴヌクレオチドが、
i)結合剤バーコード配列(BAB)及び固有分子識別子配列(UMI)を含む核酸のペイロード配列(PL)、及び
ii)核酸の少なくとも1つの第1のタグ付きオリゴヌクレオチド増幅配列(5-TOS)
を含み、それにより、少なくとも1つの標的分子が該生物学的試料中に存在する場合、該少なくとも1つの結合剤が、該少なくとも1つの標的分子に結合する、工程;
c)未結合の結合剤を選択的に除去するための分離工程を行うことにより、標識された生物学的試料を取得する工程;
d)該標識された生物学的試料に対して、
- i)確定的制限部位全ゲノム増幅(DRS-WGA)、又は
ii)多重アニーリング及びルーピングベース増幅サイクル全ゲノム増幅(MALBAC)
による該ゲノムDNAの全ゲノム増幅、及び
- 該少なくとも1つの結合剤とコンジュゲート化されたタグ付きオリゴヌクレオチドの増幅
を行う工程であって、全ゲノム増幅及び該タグ付きオリゴヌクレオチドの増幅が同時に行われる工程;
e)増幅されたタグ付きオリゴヌクレオチドから超並列シーケンシングライブラリーを作製する工程;
f)該超並列シーケンシングライブラリーをシーケンシングする工程;
g)各シーケンシングリードから、該結合剤バーコード配列(BAB)及び固有分子識別子配列(UMI)の配列を検索する工程;
h)各結合剤に対して、異なる固有分子識別子配列(UMI)の個数をカウントする工程
を含む方法。
【請求項2】
前記タグ付きオリゴヌクレオチドが、少なくとも1つの第2のタグ付きオリゴヌクレオチド増幅配列(3-TOS)を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記固有分子識別子配列(UMI)が、10~30ヌクレオチドの範囲の縮重又は半縮重配列である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記生物学的試料から単一細胞を単離する工程を更に含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項5】
前記単離工程が、細胞を選別することにより行われる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記単離工程が、液滴中へと細胞を分割することにより行われる、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記単離工程が、工程c)の後で、且つ工程d)の前に行われる、請求項4から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程f)の前に前記超並列シーケンシングライブラリーを精製する工程を更に含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つの結合剤が、
a)抗体又はその断片、
b)アプタマー、
c)小分子、
d)ペプチド、及び
e)タンパク質
からなる群から選択される、請求項
1に記載の方法。
【請求項10】
前記標的分子が、
a)タンパク質、
b)ペプチド、
c)糖タンパク質、
d)炭水化物、
e)脂質、及び
f)それらの組み合わせ
からなる群から選択される、請求項
1に記載の方法。
【請求項11】
前記タグ付きオリゴヌクレオチドが、5'から3'に向かって、少なくとも、
a)さらに5'全ゲノム増幅ハンドル配列(5-WGAH)及び第1の増幅ハンドル配列(1AH)を含む、核酸の第1のタグ付きオリゴヌクレオチド増幅配列(5-TOS);
b)ペイロード配列(PL);
c)さらに核酸の第2の増幅ハンドル配列(2AH)及び3'全ゲノム増幅ハンドル配列(3-WGAH)を含む、核酸の第2のタグ付きオリゴヌクレオチド増幅配列(3-TOS)
を含む、請求項
2に記載の方法。
【請求項12】
前記全ゲノム増幅及び前記タグ付きオリゴの増幅が、単一プライマーを用いて行われる、請求項
1に記載の方法。
【請求項13】
前記タグ付きオリゴヌクレオチドが、5'から3'に向かって、少なくとも、
a)さらに5'全ゲノム増幅ハンドル配列(5-WGAH)及び第1の増幅ハンドル配列(1AH)を含む、核酸の第1のタグ付きオリゴヌクレオチド増幅配列(5-TOS);
b)ペイロード配列(PL);
c)任意選択で、アニーリング配列(AS)
を含み、少なくとも1つのプライマーが、全ゲノム増幅及び該タグ付きオリゴヌクレオチドの増幅のために用いられ、且つ少なくとも1つのオリゴヌクレオチド(E-p)が、タグ付きオリゴヌクレオチドの伸長のために用いられ、該少なくとも1つのオリゴヌクレオチド(E-p)は、5'から3'に向かって、少なくとも、
d)5'全ゲノム増幅ハンドル配列(5-WGAH);
e)スペーサー配列(SS);
f)第2の増幅ハンドル配列(2AH);及び
g)該アニーリング配列に対して逆相補的な配列(AS-RC)又は前記結合剤バーコード配列に対して逆相補的な配列(BAB-RC)
を含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項14】
前記タグ付きオリゴヌクレオチドが、5'から3'に向かって、少なくとも、
a)第1の増幅ハンドル配列(1AH)に対応する核酸の第1のタグ付きオリゴヌクレオチド増幅配列(5-TOS);
b)ペイロード配列(PL);
c)第2の増幅ハンドル配列(2AH)に対応する核酸の第2のタグ付きオリゴヌクレオチド増幅配列(3-TOS)
を含み、少なくとも1つの第1のプライマーが全ゲノム増幅のために用いられ、少なくとも1つの第2のプライマー及び1つの第3のプライマーが該タグ付きオリゴヌクレオチドの増幅のために用いられ;
該少なくとも1つの第2のプライマーは、第1の増幅ハンドル配列(1AH)に対して同一な配列を有し、該少なくとも1つの第3のプライマーは、第2の増幅ハンドル配列に対して逆相補的な配列(2AH-RC)を有する、請求項
1に記載の方法。
【請求項15】
前記少なくとも1つの第2のプライマー及び少なくとも1つの第3のプライマーが、工程d)で添加される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記増幅されたタグ付きオリゴヌクレオチドから超並列シーケンシングライブラリーを作製する前記工程e)が、第1の増幅ハンドル配列(1AH)に対応する3'配列を含む少なくとも1つの第1のライブラリープライマー、及び第2の増幅ハンドル配列に対して逆相補的な配列(2AH-RC)に対応する3'配列を含む少なくとも1つの第2のライブラリープライマーを用いるPCR反応により行われる、請求項
11に記載の方法。
【請求項17】
a)タグ付きオリゴヌクレオチドとコンジュゲート化された、生物学的試料中の少なくとも1つの標的分子に対する少なくとも1つの結合剤であって、該タグ付きオリゴヌクレオチドが、
i)結合剤バーコード配列(BAB)及び固有分子識別子配列(UMI)を含む核酸のペイロード配列(PL)、
ii)少なくとも1つの第1のタグ付きオリゴヌクレオチド増幅配列(5-TOS)
を含む、結合剤;
b)全ゲノム増幅を行うための少なくとも1つのプライマー及び該タグ付きオリゴヌクレオチドの増幅を行うための少なくとも1つのプライマーであって、同じ配列を有す
る、全ゲノム増幅を行うための少なくとも1つのプライマー及び該タグ付きオリゴヌクレオチドの増幅を行うための少なくとも1つのプライマー
を含む、請求項
1に記載の方法を行うためのキット。
【請求項18】
タグ付きオリゴヌクレオチドを伸長するためのオリゴヌクレオチドを更に含む、請求項
17に記載のキット。
【請求項19】
前記少なくとも1つのタグ付きオリゴヌクレオチドが配列番号1に対応する配列を有し、前記タグ付きオリゴヌクレオチドの増幅を行うためのプライマーが2種類であり、それぞれ配列番号2及び配列番号3の配列を有する、請求項
17に記載のキット。
【請求項20】
1つ又は複数の第1のライブラリープライマー及び1つ又は複数の第2のライブラリープライマーを更に含む、請求項17から19のいずれか一項に記載のキット。
【請求項21】
前記第1のライブラリープライマーが配列番号8から配列番号15からなる群から選択される配列を有し、前記第2のライブラリープライマーが配列番号16から配列番号27からなる群から選択される配列を有する、請求項20に記載のキット。
【請求項22】
前記少なくとも1つのタグ付きオリゴヌクレオチドが配列番号28に対応する配列を有し、前記タグ付きオリゴヌクレオチドの増幅を行うためのプライマーが1種類であり、配列番号29に対応する配列を有する、請求項
17に記載のキット。
【請求項23】
1つ又は複数の第1のライブラリープライマー及び1つ又は複数の第2のライブラリープライマーを更に含む、請求項22に記載のキット。
【請求項24】
前記第1のライブラリープライマーが配列番号30から配列番号37からなる群から選択される配列を有し、前記第2のライブラリープライマーが配列番号38から配列番号49からなる群から選択される配列を有する、請求項23に記載のキット。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に対する相互参照
本特許出願は、2019年12月16日出願のイタリア特許出願第102019000024159号からの優先権を主張し、該出願の開示全体が、参照により本明細書中に組み入れられる。
【0002】
本発明は、生物学的試料における、特に単一細胞試料における、全ゲノム増幅及び標的分子の分析、特にタンパク質の定量化のための、方法及びキットに関する。
【背景技術】
【0003】
単一細胞分析のための方法は、バルク試料の不均一性から生じる複雑性を伴わずに、細胞の状況に対する情報を取得することを可能にする。同じ単一細胞中のプロテオーム及びゲノムの分析は、細胞の表現型とその遺伝子型との間の相関を提供し、したがって、多様な生物学的及び病理学的プロセスに対する独自の洞察を可能にする。このことは、腫瘍に関して特に当てはまり、腫瘍では、体細胞により獲得された遺伝的不均一性並びに転写及びタンパク質翻訳に対するその影響が、癌の発生及び発達の重要な構成要素である。
【0004】
全ゲノム増幅(WGA)は、より多くのDNAを取得する目的で、且つ、シーケンシング、SNP検出等をはじめとする様々な種類の遺伝子解析を簡潔化及び/又は可能にする目的で、単一細胞由来のゲノムを分析するために有用である。確定的制限部位に基づくLM-PCRを用いるWGA(DRS-WGA)が、EP1109938から公知である。
【0005】
WO 2017/178655及びWO 2019/016401は、低パス全ゲノムシーケンシング及びコピー数プロファイリングのためのDRS-WGA(例えば、Ampli1(商標)WGA)又はMALBACから超並列シーケンシングライブラリーを作製するための簡略化された方法を教示する。
【0006】
近年、単一細胞におけるゲノム及びトランスクリプトームの同時分析のための方法が開発された。Dey S. et al., 2015, Integrated genome and transcriptome sequencing of the same cell. Nature Biotechnology, 33(3), 285-289. http://doi.org/10.1038/nbt.3129による論文は、用手法により単離された単一細胞からのメッセンジャーRNAが、まず一本鎖cDNAへと転写され、続いて、準線形全ゲノム増幅を通して、ゲノムDNAと共に増幅される方法を教示する。続いて、一方はcDNA由来であり他方はゲノムDNA由来である2種類の異なるライブラリーが、作製及びシーケンシングされる。別のアプローチであるMacaulay, I. C., et al., 2015, G&T-seq: Parallel sequencing of single-cell genomes and transcriptomes. Nature Methods, 12(6), 519-522. http://doi.org/10.1038/nmeth.3370では、完全に溶解された単一細胞からポリアデニル化mRNA分子を捕捉及び単離するために、オリゴ-dT-被覆ビーズを用いて、mRNAがgDNAから物理的に分離される。続いて、改変型Smart-seq2プロトコール(Picelli, S. et al., 2013, Smart-seq2 for sensitive full-length transcriptome profiling in single cells. Nature Methods, 10(11), 1096-1100. http://doi.org/10.1038/nmeth.2639)を用いてmRNAが増幅され、一方で、gDNAは利用可能な全ゲノム増幅方法を用いて増幅及びシーケンシングすることができる。これらの方法は、遺伝子型をメッセンジャー転写に関連付けるために有用であるが、その転写及びターンオーバー/分解が細胞中で活発に調節されるタンパク質の直接的検出を得ることを可能にしない。
【0007】
現在、最も広く応用される単一細胞タンパク質検出アプローチは、タグ付き抗体を用いる特異的タンパク質の標的化に依存する。蛍光活性化細胞選別(FACS)又は蛍光顕微鏡観察によるタンパク質の蛍光ベースの検出及び定量化は、特異的細胞タンパク質を認識する蛍光標識抗体を用いて、低い多重化レベルを有する単一細胞におけるタンパク質検出を可能にする。しかしながら、フルオロフォアに基づく高度に多重化したアッセイが、複数色素の発光スペクトル間でのスペクトル重複によって困難であるので、このアプローチは、一般的に、10~15種類の同時測定に限定される。更に、重複スペクトルをデコンボリューションするために、複雑なアルゴリズムが必要である。
【0008】
フリューダイム(Fluidigm)マスサイトメーター(CyTOF(商標))は、タンパク質を検出するために金属含有ポリマータグ付き(MAXPAR(商標))抗体を利用する。機器は、非光学的な物理的検出原理及び標識の異なる化学的性質に基づく。蛍光標識が特別に設計された多重原子エレメントタグに置き換えられ、検出は、飛行時間型質量分析(TOF-MS)の高解像度、高感度、且つ高速の分析を活用する。多数の利用可能な安定的同位体をタグとして使用できるので、多数のタンパク質を個別の細胞において同時に検出できる可能性がある[Ornatsky, O. et al, 2010, Highly multiparametric analysis by mass cytometry. Journal of Immunological Methods, 361(1-2), 1-20. http://doi.org/10.1016/j.jim.2010.07.002]。Frei et al., 2016, Highly multiplexed simultaneous detection of RNAs and proteins in single cells. Nature Methods, 13(3), 269-275. http://doi.org/10.1038/nmeth.3742による研究は、RNAに対する近接ライゲーションアッセイ(Proximity Ligation Assay for RNA;PLAYR)に基づく、単一細胞でのRNA及びタンパク質の同時検出のための方法を教示する。PLAYRは、40種類超の異なるmRNA及びタンパク質の同時定量化を可能にするマスサイトメトリーにより、単一細胞での転写産物の高度に多重化した定量化を可能にする。最終的に、マスサイトメトリーは、タンパク質及びメッセンジャーRNA転写と共に、タンパク質リン酸化(Bendall, S. C. et. Al., 2011, Single-Cell Mass Cytometry of Differential Immune and Drug Responses Across a Human Hematopoietic Continuum. Science, 332(6030), 687-696. http://doi.org/10.1126/science.1198704)及び細胞増殖(Behbehani, G. K. et al., 2012, Single-cell mass cytometry adapted to measurements of the cell cycle. Cytometry Part A, 81A(7), 552-566. http://doi.org/10.1002/cyto.a.22075)等の、複数の細胞内プロセス及び表現型特徴を調べることを可能にした。
【0009】
これらのアプローチの限界は、以下の通りである:
- 質量分析計中でのイオン飛行の動態に起因して、マスサイトメトリーのスループットは、蛍光ベースの機器のものに後れをとる。加えて、マスレポーターの感度は、数個の比較的量子効率が高いフルオロフォア(フィコエリトリン等)にも達さず、これにより、マスサイトメトリーを用いて非常に低レベルで発現される分子特徴を測定することがより困難になる(Spitzer, M. H. et al., 2016, Mass Cytometry: Single Cells, Many Features. Cell, 165(4), 780-791. http://doi.org/10.1016/j.cell.2016.04.019)。
- 重要なことに、細胞が噴霧化及びイオン化されるので、分析後に細胞を回収することができず、したがってゲノムDNAを分析することができない。
【0010】
オリゴヌクレオチド標識抗体を通してタンパク質を検出するための方法が、Fredriksson et al., 2002, Protein detection using proximity-dependent DNA ligation assays. Nature Biotechnology, 20(5), 473-477. http://doi.org/10.1038/nbt0502-473による論文において記載されており、この論文は、2つのDNAアプタマーによる標的タンパク質の協調的且つ近接した結合が、それぞれアプタマー親和性プローブに連結されたオリゴヌクレオチドのライゲーションを促進する技術(近接ライゲーションアッセイ;PLA)を教示する。2つのそのような近接プローブのライゲーションは、標的タンパク質の正体及び量を反映する増幅可能なDNA配列を生じる。3PLA法(Schallmeiner, E. et al., 2007, Sensitive protein detection via triple-binder proximity ligation assays. Nature Methods, 4(2), 135-137. http://doi.org/10.1038/nmeth974)は、3つの認識イベントを使用することにより近接ライゲーション法の感度及び特異度を拡張し、100個ほどの少ない標的分子を検出することを可能にする。3PLAでは、3つのオリゴヌクレオチド修飾型抗体試薬のセットが、個別の標的タンパク質に結合して、近接ライゲーションにより検出可能なシグナルを生じる。2つの近接プローブ上のオリゴヌクレオチドの3'末端及び5'末端は、第3の近接プローブ上に存在するオリゴヌクレオチドへとハイブリダイズすることが可能であり、それにより、3種類のプローブ及び標的タンパク質を含む複合体が形成される。これにより、2つのオリゴヌクレオチドが、2回のライゲーション反応により中間断片を介して連結され、第3の近接プローブにより鋳型化されて、qPCRにより検出することができる特異的な増幅可能DNA鎖を形成することが可能になる。近接伸長アッセイ(Proximity Extension Assay;PEA)はPLAの変法であり、PEAでは2つのオリゴヌクレオチド標識抗体が個別のタンパク質に結合し、オリゴヌクレオチドはその3'末端で部分的にアニーリングし、ポリメラーゼによる伸長によって、qPCRにより検出することができる増幅可能なDNA配列が生成される(Lundberg, M. et al., 2011, Homogeneous antibody-based proximity extension assays provide sensitive and specific detection of low-abundant proteins in human blood. Nucleic Acids Research, 39(15). http://doi.org/10.1093/nar/gkr424)。上記で開示された方法は単一細胞タンパク質検出に対して特異的に設計されていなかったが、フリューダイムC1(Fluidigm C1(商標))単一細胞自動調製システムが、PEAアッセイを用いて、1回の測定当たり最大96個の単一細胞での92種類のタンパク質のパネルの増幅可能な標的の調製を自動化するために利用された(Egidio C. et al., 2014, A Method for Detecting Protein Expression in Single Cells Using the C1 TM Single-Cell Auto Prep System (TECH2P.874), J Immunol, 192 (1 Supplement) 135.5)。フリューダイムC1微小流体システムは、全エクソームシーケンシング及び標的化型DNAシーケンシングによるトランスクリプトーム又はゲノムDNA配列の分析のための一定範囲の単一細胞生物学法を支持するが、しかしながら、この方法は、同じ単一細胞から遺伝子型及び表現型に対する情報を取得するために容易に組み合わせることができない。
【0011】
したがって、検出がqPCRに基づくPLA及びPEAアッセイは、感度が高く非常に特異的であるが、それらのスループットが限定され、且つタンパク質のみしか検出できない。
【0012】
NanoString Technologies社によるUS 9,714,937は、標的タンパク質の第1領域に対して特異的な部分(ビオチン等)にコンジュゲート化された捕捉抗体及び標的タンパク質の第2領域に対する検出抗体を、リンカーオリゴヌクレオチドへのハイブリダイゼーションを介して検出抗体に連結された複数の脱着可能な標識を含むナノレポーターと共に用いることによる、タンパク質の検出のための方法を教示する。2種類の抗体は、標的タンパク質と複合体を形成し、この複合体は、該部分に対して高親和性を有するマトリックス又はビーズと結合を形成することができる。標的は、ナノレポーター分子の個数をカウントすることにより検出及び定量化される。nCounter(登録商標)デジタル分子バーコード化技術に基づくNanostring社から市販されているアッセイは、特異的タンパク質エピトープを標的化する固有のオリゴヌクレオチド標識抗体を用いてタンパク質を検出する。固有の一本鎖DNAタグは、ビオチン化捕捉プローブと、一連の蛍光標識RNAセグメントにアニーリングした一本鎖DNA分子により作製されるレポータープローブとの組み合わせを用いて検出される。これらの標識の線形順序が、対象となる各標的に対する固有のバーコードを生成する。次に、複合体が、ビオチンと固相化されたストレプトアビジン分子との間の非共有結合を介してイメージング表面に固相化され、蛍光バーコードが撮像及びカウントされる。タンパク質特異的バーコード当たりのカウント数は、試料中に存在する分子数に直接関連するデジタルな測定値である。タンパク質検出は、特異的標的RNAに対して設計された捕捉プローブ-レポータープローブ対を用いて、メッセンジャーRNA検出と組み合わせることができる。約30種類のタンパク質標的及び770種類のmRNA標的を、1回の分析で分析することができる。
【0013】
この方法の欠点は、RNAをプロファイリングするため(2500個の細胞と同等)及び/又はタンパク質をプロファイリングするため(100000個の細胞と同等)に大量の細胞を必要とすること、及びそのままでは単一細胞をプロファイリングするために好適でないことである。この方法は、ゲノムDNA等の他のアナライトを検出するために用いることができる可能性があるが、しかしながら、ゲノム配列の直接的なリードアウトを提供できず、既知の配列の存在/非存在のシグナルのみを提供できる。ハイブリダイゼーションに基づくので、配列変異体に対して部分的に寛容でもあり、異なる配列変異体同士を区別できない可能性がある。
【0014】
シーケンシングによるトランスクリプトーム及びエピトープの細胞インデックス化(cellular indexing of transcriptomes and epitopes by sequencing;CITE-seq)と称される、単一細胞における複数タンパク質及びRNA転写産物の統合分析のためのNGSベースの方法が、Stoeckius et al., 2017, Simultaneous epitope and transcriptome measurement in single cells, Nature Methods volume 14, pages 865-868、及びUS 2018/0251825により最初に記載された。この方法は、メッセンジャーRNA上に存在するものと類似の抗体タグ上に存在する3'-ポリアデノシンテイルを通して、細胞タンパク質及びトランスクリプトーム測定を単一細胞リードアウトへと統合するために用いられる、オリゴヌクレオチド標識抗体に依存する。この方法は、10X Genomics社により提供されるもの等の、単一細胞における試料分割のための液滴ベースのアプローチ及び単一細胞ライブラリー作製と相性が良い。より詳細には、CITE-seq法では、細胞表面エピトープに対するオリゴヌクレオチド標識抗体を用いて染色された細胞が、微小流体法により、溶解性酵素及びバーコード化されたビーズを含有する油滴中に分割される。各単一細胞/液滴由来のバーコード化抗体及びmRNAは、固有の細胞バーコードを有するビーズにより捕捉される。続いて、mRNAがレトロ転写され、バーコード抗体由来のオリゴと共に増幅されて、直ちにシーケンシングできるNGSライブラリーを生じる。最終的に、バーコード抗体の定量化のために、配列カウントが用いられる。同様に、Peterson et al., 2017, Multiplexed quantification of proteins and transcripts in single cells, Nature biotech., (35) 10:936-939は、DNA標識抗体及び液滴微小流体工学に基づくRNA発現及びタンパク質定量化アッセイ(REAP-seq)という方法を教示し、この方法によれば、82種類のバーコード化抗体を用いてタンパク質を定量化することができ、且つ20000種類超の転写を単一細胞においてプロファイリングすることができる。上記で言及された方法の両方が、ポリ(dT)細胞バーコードを用いてプライミングされたオリゴ標識抗体を伸長し、同時に、同じ反応中でmRNAから相補的DNAを合成する逆転写酵素のDNAポリメラーゼ活性を利用する。他方で、これもまた液滴アプローチに基づく他の方法が、ゲノム全体のコピー数プロファイルの分析のために、又は単一細胞におけるゲノム配列の分析のために利用可能である。例えば、10X Genomics社により市販されている溶液であるクロミウム単一細胞CNV溶液は、数百~数千の単一細胞のコピー数プロファイリングを可能にし、Mission Bio社のTapestri(登録商標)プラットフォームは、配列に関する単一細胞標的化DNAシーケンシング及び遺伝子のパネルのCNV分析を提供する。
【0015】
これらの方法の短所は、以下の通りである:
- ゲノムDNAはそれを増幅するために必要なポリアデノシンテイルを保有しないので、上記の同時トランスクリプトーム/プロテオームプロファイリングのための両方の方法が、タンパク質又は転写産物と一緒でのゲノム配列の同時分析を可能にしない。
- コピー数及び又は標的化シーケンシングのためのDropseqに基づく方法は、ゲノムDNAの分析に対してのみ好適であるが、単一細胞の表面マーカー若しくは他のタンパク質の転写プロファイル又は定量化等の表現型に関するいかなる情報も提供しない。
- 液滴ベースの単一細胞分割アプローチでは、単一細胞及びそれらの全ての情報含有物がこのプロセス中に原則として「破壊」され、手順が完了した後に、更なる分析を行うために単一細胞を回収することが可能でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】EP1109938
【特許文献2】WO 2017/178655
【特許文献3】WO 2019/016401
【特許文献4】US 9,714,937
【特許文献5】US 2018/0251825
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Dey S. et al., 2015, Integrated genome and transcriptome sequencing of the same cell. Nature Biotechnology, 33(3), 285-289. http://doi.org/10.1038/nbt.3129
【非特許文献2】Macaulay, I. C., et al., 2015, G&T-seq: Parallel sequencing of single-cell genomes and transcriptomes. Nature Methods, 12(6), 519-522. http://doi.org/10.1038/nmeth.3370
【非特許文献3】Picelli, S. et al., 2013, Smart-seq2 for sensitive full-length transcriptome profiling in single cells. Nature Methods, 10(11), 1096-1100. http://doi.org/10.1038/nmeth.2639
【非特許文献4】Ornatsky, O. et al, 2010, Highly multiparametric analysis by mass cytometry. Journal of Immunological Methods, 361(1-2), 1-20. http://doi.org/10.1016/j.jim.2010.07.002
【非特許文献5】Frei et al., 2016, Highly multiplexed simultaneous detection of RNAs and proteins in single cells. Nature Methods, 13(3), 269-275. http://doi.org/10.1038/nmeth.3742
【非特許文献6】Bendall, S. C. et. Al., 2011, Single-Cell Mass Cytometry of Differential Immune and Drug Responses Across a Human Hematopoietic Continuum. Science, 332(6030), 687-696. http://doi.org/10.1126/science.1198704
【非特許文献7】Behbehani, G. K. et al., 2012, Single-cell mass cytometry adapted to measurements of the cell cycle. Cytometry Part A, 81A(7), 552-566. http://doi.org/10.1002/cyto.a.22075
【非特許文献8】Spitzer, M. H. et al., 2016, Mass Cytometry: Single Cells, Many Features. Cell, 165(4), 780-791. http://doi.org/10.1016/j.cell.2016.04.019
【非特許文献9】Fredriksson et al., 2002, Protein detection using proximity-dependent DNA ligation assays. Nature Biotechnology, 20(5), 473-477. http://doi.org/10.1038/nbt0502-473
【非特許文献10】Schallmeiner, E. et al., 2007, Sensitive protein detection via triple-binder proximity ligation assays. Nature Methods, 4(2), 135-137. http://doi.org/10.1038/nmeth974
【非特許文献11】Lundberg, M. et al., 2011, Homogeneous antibody-based proximity extension assays provide sensitive and specific detection of low-abundant proteins in human blood. Nucleic Acids Research, 39(15). http://doi.org/10.1093/nar/gkr424
【非特許文献12】Egidio C. et al., 2014, A Method for Detecting Protein Expression in Single Cells Using the C1 TM Single-Cell Auto Prep System (TECH2P.874), J Immunol, 192 (1 Supplement) 135.5
【非特許文献13】Stoeckius et al., 2017, Simultaneous epitope and transcriptome measurement in single cells, Nature Methods volume 14, pages 865-868
【非特許文献14】Peterson et al., 2017, Multiplexed quantification of proteins and transcripts in single cells, Nature biotech., (35) 10:936-939
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
したがって、本発明の目的は、ゲノム全体のコピー数プロファイル/ゲノム配列の分析及び同じ単一細胞に対するタンパク質発現の分析を同時に可能にする、生物学的試料における全ゲノム増幅及び複数標的分子の分析のための方法を提供することであり、これにより、当技術分野の技術水準の以下の短所のうちの1つ又は複数が特に克服される:
- 単一細胞分解能まで下がって同じ試料中でタンパク質を検出及び定量化し、且つゲノムを分析することが不可能であること、
- 追加の標的化ゲノム情報に関して単一細胞を再分析することが不可能であること。
【課題を解決するための手段】
【0019】
この目的は、請求項1に規定される方法により達成される。
【0020】
本発明の更なる目的は、請求項17に規定されるキットを提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明に従う3'タグ付きオリゴ配列を用いないか(
図1A)又は用いる(
図1B)、タグ付きオリゴヌクレオチドの2種類の考えられる実施形態の全体構造を示す図である。PL=ペイロード配列;5-TOS=第1のタグ付きオリゴヌクレオチド増幅配列;3-TOS=第2のタグ付きオリゴヌクレオチド増幅配列;UMI=固有分子識別子配列;BAB=結合剤バーコード配列。
【
図2】一方は異なる温度で5-TOS及び3-TOSの間での分子内ヘアピン形成を生じ易い、2種類の異なるタグ付きオリゴからのタグ付きオリゴヌクレオチドライブラリーを表すグラフを示す図である(「ヘアピンあり」:Tm=67℃;「ヘアピンなし」:Tm=45℃)。x軸上に予測されるUMIカウントを示し、y軸上にシーケンシング後にカウントされたUMIを示す。
【
図3】27回のPCRサイクルを用いる異なる量でのオリゴ混合物の増幅を表すグラフを示す図である。各希釈は、3回の独立した希釈複製から行った。x軸上に観測が予測される異なるUMIの個数を示し、y軸上に実験的に観測されたUMIを示す。
【
図4】異なる量での異なるBABを用いた4種類のオリゴ混合物の増幅の3つのグラフを示す図である。各希釈は、それぞれ1つが各オリゴに対する、4つのデータ点を有する。
図4A:23回のPCRサイクルを行った。
図4B:27回のPCRサイクルを行った。
図4C:35回のPCRサイクルを行った。x軸上に観測が予測される異なるUMIの個数を示し、y軸上に実験的に観測されたUMIを示す。
【
図5】1回のプライマー増幅を伴うタグ付きオリゴの本発明に従う実施形態の構造を示す図である。追加の脚注:5-WGAH=5'WGAハンドル配列;3-WGAH=3'WGAハンドル配列;1AH=第1の増幅ハンドル配列;2AH=第2の増幅ハンドル配列。
【
図6】少なくとも第2のプライマー増幅を伴うタグ付きオリゴの本発明に従う別の実施形態の構造を示す図である。
図6A:タグ付きオリゴ及びBABに対応するアニーリング部位を有する相対的伸長オリゴヌクレオチドの構造。
図6B:タグ付きオリゴ及びBABに対応しないアニーリング部位を有する相対的伸長オリゴヌクレオチドの構造。追加の脚注:E-p=5'伸長オリゴヌクレオチド配列;SS=スペーサー配列;AS=アニーリング配列;AS-RC=アニーリング配列逆相補体。
【
図7】分子長の関数としての、ssDNA分子の末端に位置する15nt長相補的配列により誘導されるヘアピンの融解温度([Na
+]=150mM;[Mg
++]=4mM)のin silico予測のグラフを示す図である。
【
図8】少なくとも3回のプライマー増幅を伴うタグ付きオリゴの本発明に従う別の実施形態の構造を示す図である。
【
図9】ライブラリー作製のための一般的スキームを示す図である。
図9A:
図5の実施形態に従うタグ付きオリゴからのライブラリーの作製。
図9B:
図6Aの実施形態に従うタグ付きオリゴからのライブラリーの作製。
図9C:
図8の実施形態に従うタグ付きオリゴからのライブラリーの作製。追加の脚注:2AH-RC=第2の増幅ハンドル配列逆相補体。
【
図10】P5-Synthオリゴの設計及び実施例1に開示される対応するライブラリープライマーを示す図である。
【
図11】実施例1に従うライブラリープライマーを用いるオリゴP5-SynthのNGSライブラリー作製のスキームを示す図である。
【
図12】Ab-オリゴ及び二次蛍光抗体を用いて染色されたPBMC細胞及びSK-BR-3細胞の散布図を示す図である。x軸上にAPCチャンネルでの蛍光レベルを示し、これはAb-オリゴtag1、tag2及びtag4の量に比例する。y軸上にPEチャンネルでの蛍光レベルを示し、これはAb-オリゴtag3の量に比例する。
【
図13】実施例1に従う単一細胞からのP5-synthタグ付きオリゴから作製されたライブラリー由来の電気泳動像を示す図である。
【
図14-1】WGA後にタグ付きオリゴ増幅を用いて
図8の実施形態に従って加工された単一細胞からのタンパク質定量化結果を示す図である。それぞれ、サイトケラチン(
図14A)、Her2(
図14B)、CD45(
図14C)及びIgG1アイソタイプ対照(
図14D)定量化のUMIカウント。y軸上にUMIの個数を示し、x軸上に
図9に従って単離された細胞タイプを示す。
【
図14-2】WGA後にタグ付きオリゴ増幅を用いて
図8の実施形態に従って加工された単一細胞からのタンパク質定量化結果を示す図である。それぞれ、サイトケラチン(
図14A)、Her2(
図14B)、CD45(
図14C)及びIgG1アイソタイプ対照(
図14D)定量化のUMIカウント。y軸上にUMIの個数を示し、x軸上に
図9に従って単離された細胞タイプを示す。
【
図15-1】WGA中にタグ付きオリゴ増幅を用いて
図8の実施形態に従って加工された単一細胞からのタンパク質定量化結果を示す図である。それぞれ、サイトケラチン(
図15A)、Her2(
図15B)、CD45(
図15C)及びIgG1アイソタイプ対照(
図15D)定量化のUMIカウント。y軸上にUMIの個数を示し、x軸上に
図9に従って単離された細胞タイプを示す。
【
図15-2】WGA中にタグ付きオリゴ増幅を用いて
図8の実施形態に従って加工された単一細胞からのタンパク質定量化結果を示す図である。それぞれ、サイトケラチン(
図15A)、Her2(
図15B)、CD45(
図15C)及びIgG1アイソタイプ対照(
図15D)定量化のUMIカウント。y軸上にUMIの個数を示し、x軸上に
図9に従って単離された細胞タイプを示す。
【
図16】P5-Lib1オリゴの設計及び実施例3に開示される対応するライブラリープライマーを示す図である。
【
図17】ライブラリープライマーを用いるP5-Lib1オリゴのNGSライブラリー作製のスキームを示す図である。
【
図18】単一細胞から取得されるCNA分析に対する低パスプロファイルの例を示す図である。
図18A:P5-Lib1オリゴを用いてスパイク化され、且つ
図5の実施形態に従って加工された単一細胞CNAプロファイル。
図18B:P5-Synthオリゴを用いてスパイク化され、且つ
図8の実施形態に従って加工された単一細胞CNAプロファイル。
図18C:タグ付きオリゴスパイク化を伴わない単一細胞CNAプロファイル。全てのプロファイルは、典型的な損益を伴って、SK-BR-3細胞に対応する。小さな変動は、単一細胞ゲノム不均一性に起因する。
【
図19】P5-Synth及びP5-Lib1を用いる単一細胞スパイク化から取得されたタグ付きオリゴライブラリーを表すグラフを示す図である。x軸上に予測されるUMIカウントを示し、y軸にはシーケンシング後にカウントされたUMIを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
定義
別途定義されない限り、本明細書中で用いられる全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者により通常理解されるのと同じ意味を有する。本明細書中に記載されるものに類似するか又は等価である多数の方法及び材料を本発明の実施又は試行で用いることができるが、好ましい方法及び材料が以下に記載される。別途言及されない限り、本発明に伴う使用のために本明細書中に記載される技術は、当業者に周知の標準的方法論である。
【0023】
「ab-オリゴミックス」とは、細胞の内部(すなわち、「内部ab-オリゴミックス」)、及び/若しくは外部(すなわち、「外部ab-オリゴミックス」)エピトープ及び/又はアイソタイプ対照ab-オリゴを標的とする全てのab-オリゴを含有する溶液を意図する。
【0024】
「抗体-オリゴヌクレオチドコンジュゲート」又は「ab-オリゴコンジュゲート」又は「ab-オリゴ」とは、抗体分子とssDNAオリゴヌクレオチド分子との化学的コンジュゲート化により誘導される合成分子を意図する。化学的コンジュゲート化は、通常、共有的な2つの分子の連結を可能にする特異的化学反応を用いて行われる。抗体:オリゴヌクレオチド化学量論は、特定される比率を有するために制御することができる。WGA初期段階の間に、抗体部分は通常は消化されて、オリゴヌクレオチド部分のみが残る。簡略化のために、説明の中では、これらの分子はそれでもab-オリゴ分子又はab-オリゴアンプリコンと称されるであろう。
【0025】
頭字語「APC」とは、フルオロフォアであるアロフィコシアニンを意図する。
【0026】
「結合剤バーコード配列」(BAB)とは、結合剤を特定する固有のDNAオリゴヌクレオチド配列を意図する。
【0027】
「平衡化PCR増幅」とは、それにより、各PCRサイクルにおいて、実質的に全ての標的分子が増幅される、複数標的の増幅を行うためのPCRの特徴を意図する。
【0028】
「結合剤」とは、指定された標的分子(例えば、タンパク質又はグリコシル化タンパク質又はリン酸化タンパク質)に特異的に結合できる分子(非限定的な例として、抗体、アフィボディ、リガンド、アプタマー、合成結合性タンパク質、小分子等)を意図する。
【0029】
「CITE-Seq」又は「シーケンシングによるトランスクリプトーム及びエピトープの細胞インデックス化」とは、単一細胞における同時でのタンパク質定量化及びmRNAシーケンシングのための、Stoeckius等により開発された方法を意図する。
【0030】
「CyTOF」又は「飛行時間によるサイトメトリー」とは、サイトメトリーと組み合わせた質量分析を用いて単一細胞でのタンパク質の定量化を可能にする、マスサイトメトリー技術を行う装置を意図する。細胞は、重金属同位体とコンジュゲート化された結合剤を用いて染色される。
【0031】
用語「コンジュゲート」とは、結合剤とタグ付きオリゴヌクレオチドとの共有結合によるコンジュゲート化によって得られる分子を意図する。
【0032】
「コピー数変化」(CNA)とは、一般的に同じ個体ゲノムに関して規定される、ゲノム領域のコピー数の体細胞変化を意図する。
【0033】
「DNAライブラリー精製」とは、それによりDNAライブラリー材料が、酵素、dNTP、塩及び/又は所望のDNAライブラリーの一部分でない他の分子等の、望ましくない反応成分から分離されるプロセスを意図する。DNAライブラリー精製プロセスの例は、Agencourt AMPure、又はMerck Millipore Amiconスピンカラム又はBeckman Coulter社のもの等の固相可逆的固相化(SPRI)ビーズを用いる精製である。
【0034】
「DNAライブラリー定量化」とは、それによりDNAライブラリー材料が定量化されるプロセスを意図する。DNAライブラリー定量化プロセスの例は、QuBit技術、電気泳動アッセイ(Agilent Bioanalyzer 2100、Perkin Elmer LabChip technologies社)又はRT-PCR PicoGreenシステム(Kapa Biosystems社)を用いる定量化である。
【0035】
「ダイナミックレンジ」とは、ある量が想定できる最大値と最小値との比率を意図する。
【0036】
「ライブラリープライマー」とは、タグ付きオリゴヌクレオチドからの超並列シーケンシング可能なライブラリーを作製するために、プライマーとして機能するssDNA分子を意図する。
【0037】
「低パス全ゲノムシーケンシング」又は「低パスシーケンシング」とは、1未満の平均シーケンシング深度での全ゲノムシーケンシングを意図する。
【0038】
「超並列シーケンシング」又は「次世代シーケンシング」(NGS)とは、クローン的にシーケンシングされる(事前のクローン増幅あり又はなしで)、空間的且つ/又は時間的に分離したDNA分子のライブラリーの作製を含む、DNAをシーケンシングする方法を意図する。例としては、Illuminaプラットフォーム(Illumina社)、IonTorrentプラットフォーム(ThermoFisher Scientific社)、Pacific Biosciencesプラットフォーム、MinIon(Oxford Nanopore Technologies社)が挙げられる。
【0039】
「多重アニーリング及びループピングベース増幅サイクル」(MALBAC)とは、準線形全ゲノム増幅法を意図する(Zong et al., 2012, Genome-wide detection of single-nucleotide and copy-number variations of a single human cell, Science. Dec 21;338(6114):1622-6. doi: 10.1126/science.1229164.)。MALBACプライマーは、鋳型にハイブリダイズするための8ヌクレオチド3'ランダム配列、及び27ヌクレオチド5'共通配列(GTG AGT GAT GGT TGA GGT AGT GTG GAG)を有する。最初の伸長後、セミアンプリコンが別の伸長の鋳型として用いられて、相補的な5'末端及び3'末端を有する完全アンプリコンが生じる。数サイクルの準線形増幅に続いて、完全アンプリコンを、その後のPCRサイクルを用いて指数関数的に増幅することができる。
【0040】
用語「オリゴヌクレオチド」又は「オリゴ」とは、非限定的な例として、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、ロックド核酸(LNA)、ペプチド核酸(PNA)等のヌクレオチドの配列を含むオリゴマー分子を意図する。
【0041】
「タグ付きオリゴヌクレオチド」又は「タグ付きオリゴ」とは、結合剤(例えば、一次抗体)に直接的にコンジュゲート化されているオリゴヌクレオチド分子(例えば、ssDNA分子)を意図する。タグ付きオリゴは、結合剤に対するリガンドである標的分子(例えば、タンパク質)の間接的定量化のために用いられる。
【0042】
頭字語「PE」とは、フルオロフォアであるフィコエリトリンを意図する。
【0043】
「PFA 2%」とは、リン酸緩衝生理食塩液中の2%w/vのパラホルムアルデヒドの溶液を意図する。
【0044】
「一次WGA DNAライブラリー」(pWGAlib)とは、WGA反応から取得されるDNAライブラリーを意図する。
【0045】
用語「再増幅」又は「再amp」とは、一次WGA DNAライブラリーのうちの全部又は相当な部分が更に増幅されるPCR反応を意図する。
【0046】
「残基」とは、タンパク質においてポリペプチド鎖中に存在するアミノ酸残基を意図する。
【0047】
「シーケンシングバーコード」とは、1つのシーケンサーリード内でシーケンシングされる場合に、そのリードを、バーコードと関連付けられる特異的試料に対して割り当てることを可能にするポリヌクレオチド配列を意図する。
【0048】
「UMI」又は「固有分子識別子配列」とは、各ssDNA又はdsDNA分子に対して実質的に固有である縮重又は部分縮重(すなわち、ランダム又は半ランダム)オリゴヌクレオチド配列を意図する。
【0049】
「普遍的WGAプライマー」又は「WGA PCRプライマー」とは、制限酵素の作用により作製される各断片に対してライゲーションした追加のオリゴヌクレオチドを意図する。普遍的WGAプライマーは、Ampli1(商標)WGA等のDRS-WGAにおいて用いられる。
【0050】
発明の詳細な説明
本発明に従うゲノムDNA及び標的分子を含む生物学的試料における全ゲノム増幅及び複数標的分子の分析のための方法は、以下の工程を含む。
【0051】
工程a)では、生物学的試料が用意される。生物学的試料は、好ましくは単一細胞であるが、数個の細胞を含む試料も用いることができる。
【0052】
工程b)では、タグ付きオリゴヌクレオチドとコンジュゲート化された、少なくとも1種の標的分子に対する1種の結合剤と、生物学的試料を接触させて、それにより、少なくとも1種の標的分子が生物学的試料中に存在する場合、該少なくとも1種の結合剤は、該少なくとも1種の標的分子に結合する。
【0053】
結合剤は、好ましくは、抗体又はその断片、アプタマー、小分子、ペプチド、及びタンパク質からなる群から選択される。標的分子は、好ましくは、タンパク質、ペプチド、糖タンパク質、炭水化物、脂質、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。より好ましくは、結合剤は抗体である。結合剤は、モノクローナル抗体若しくは酵素基質等の特異的化学量論を有するか、又はポリクローナル抗体若しくは小分子等の特定されていない化学量論を有する標的分子に結合する。前者は、後者に対して標的の比較的良好な定量化を可能にする。結合剤は、共有結合相互作用又は非共有的相互作用を介して、タグ付きオリゴに化学的にコンジュゲート化される。前者の場合には、オリゴと結合剤の両方が、相互的な結合を可能にする反応性部分を保有する。結合剤:オリゴの化学量論は、コンジュゲート化手順の間に制御することができる。
【0054】
結合剤/標的分子の例の非限定的なリストは、以下の表1に報告される。
【0055】
【0056】
タグ付きオリゴヌクレオチドとして用いられるオリゴヌクレオチドは、好ましくは、5'末端又は3'末端に化学的修飾を有するssDNA又はdsDNA分子である。この修飾は、関連する結合剤との共有結合によるコンジュゲート化のために用いられる。
【0057】
結合剤とコンジュゲート化されたタグ付きオリゴにより形成されるコンジュゲートは、細胞外エピトープと細胞内エピトープの両方を標的とする場合がある。「外部」及び「内部」コンジュゲートは、それらの最終染色濃度でコンジュゲートを含有する2種類の別個のミックスとして、生物学的試料に添加することができる。第1に、外部ミックスを、外部エピトープを標識するために添加する。第2に、界面活性剤又は同様の手段を用いて細胞を透過化し、内部ミックスを、内部エピトープを標識するために試料に添加する。或いは、外部及び内部コンジュゲートを、1ステップ染色を行うために、むしろ一緒に混合することができる。最終染色濃度は、各結合剤に対して異なり、且つ実験的に決定する必要がある。
【0058】
タグ付きオリゴ配列は、結合剤とのコンジュゲート化を容易にし、且つコストを低減するために、好ましくは300塩基よりも短く、より好ましくは120塩基よりも短い。好ましい実施形態では、タグ付きオリゴ配列は、60~80ヌクレオチドである。
【0059】
図1Aを参照すると、タグ付きオリゴヌクレオチドは、
i)結合剤バーコード配列(BAB)及び固有分子識別子配列(UMI)を含む核酸のペイロード配列(PL)、及び
ii)核酸の少なくとも1種の第1のタグ付きオリゴヌクレオチド増幅配列(5-TOS)
を含む。
【0060】
ペイロード配列は、標的カウントのための必要な情報を含む。
【0061】
固有分子識別子配列(UMI)は、好ましくは、10~30ヌクレオチドの範囲の縮重又は半縮重配列である。好ましくは、UMIは、大部分の標的分子に対して十分な、理論上は4^10=1,048,576種類の異なる組み合わせに対応する、少なくとも10塩基の長さを有する。非常に豊富な標的分子に対して、12塩基等の、考えられる組み合わせを増加させるための、より長いUMIを用いることができる。半縮重塩基を用いると、考えられる組み合わせは減少し、UMI長は好ましくは増加して、例えば最大20又は30塩基となる。半縮重UMIは、配列を再アライメントして、存在する異なるUMIの過大評価を防ぐために、リードアウト中で用いることができる参照点を導入するために、有利に用いることができる。UMI配列は、BABの5'又は3'のいずれかに位置することができる。UMI配列は、優先的には、最初にシーケンシングされる塩基の複雑性を増大させるために、Read1シーケンシングプライマーアニーリング部位のすぐ後ろに位置する。初期シーケンシング工程がクラスター識別のための高い複雑性を必要とするので、これはIlluminaシーケンシングプラットフォームに関して有利である。BABは、各コンジュゲート分子に対して固定された配列である。BABは、一次PCR増幅及びシーケンシング工程を妨げ得る特徴(ホモ多量体、ヘアピン、及び/又はヘテロ二重鎖形成等)を回避するために設計され[Frank, D. N., 2009, BARCRAWL and BARTAB: software tools for the design and implementation of barcoded primers for highly multiplexed DNA sequencing. BMC Bioinformatics, 10, 362. http://doi.org/10.1186/1471-2105-10-362]、且つそれらの相対的ハミング距離を最大化して、それによりいずれかのPCR又はシーケンシングエラーがシーケンシングされたリードの誤った割り当てをもたらし得る可能性を最小限にするために、規定された長さの全ての考えられるBAB配列のプールから選択される。BAB長は、検出される標的分子の数に基づいて選択しなければならない。好ましくは、BABは、GC含量(例えば、[30%..70%])、ホモ多量体の非存在、ヘアピンの非存在及び最小ハミング距離(好ましくは3nt以上)に対するフィルターを適用した後に、約2000種類の考えられるBAB配列まで減少する、理論上は4^10=1,048,576種類の異なる組み合わせに対応する、少なくとも10ヌクレオチドの長さを有する。
【0062】
第1のタグ付きオリゴヌクレオチド増幅配列(5-TOS)は、タグ付きオリゴの5'に位置する。この配列は、タグ付きオリゴ増幅及びその後のライブラリー作製のために必要である。タグ付きオリゴ増幅は、適正なUMIカウントを妨げ得る、試料加工中の分子の喪失に起因するいかなるバイアスも回避するために必要である。
【0063】
図1Bを参照すると、標的オリゴヌクレオチドは、好ましくは、少なくとも1種の第2のタグ付きオリゴヌクレオチド増幅配列(3-TOS)を更に含む。この配列は、タグ付きオリゴの3'に位置する。この配列は、タグ付きオリゴ増幅及びその後のライブラリー作製のために必要である。タグ付きオリゴ増幅は、適正なUMIカウントを妨げ得る、試料加工中の分子の喪失に起因するいかなるバイアスも回避するために必要である。
【0064】
好ましい実施形態では、5-TOS及び3-TOS配列は、ヘアピン及び増幅温度範囲内での他の分子内の安定的二次構造の形成を回避するために設計され、なぜなら、それらはタグ付きオリゴ増幅を妨げる可能性があるからである。
図2は、一方は異なる温度で5-TOS及び3-TOSの間での分子内ヘアピン形成を生じ易い、2種類の異なるタグ付きオリゴからのタグ付きオリゴヌクレオチドライブラリーを表すグラフを示す(「ヘアピンあり」:Tm=67℃、配列番号50、ΔG=-11.15kcal/mol;「ヘアピンなし」:Tm=45℃、配列番号51、ΔG=-1.52kcal/mol)。x軸上に予測されるUMIカウントを示し、y軸上にシーケンシング後にカウントされたUMIを示す。
【0065】
タグ付きオリゴ及びそれらの増幅プライマーは、最大感度、広いダイナミックレンジ、平衡化PCR増幅及び再現性を達成するために最適化される。
【0066】
本発明の好ましい実施形態では、UMI配列長は、0~約106分子の範囲内で標的を定量化するために選択された(n=10)。
【0067】
ダイナミックレンジは、4桁の大きさにわたる(10
2~10
6分子)濃度を有するタグ付きオリゴの増幅により特徴付けられた。
図3は、27回のPCRサイクルを用いる異なる量でのオリゴ混合物の増幅を表すグラフを示す。各希釈は、3回の独立した希釈複製から行った。x軸上に観測が予測される異なるUMIの個数を示し、y軸上に実験的に観測されたUMIを示す。増幅前の観測されたUMIと予測されたUMIとの間の10
2~10
6個の分子の範囲での非常に線形な相関を観察することができる。
【0068】
平衡化PCR増幅は、同じ出発試料に対する異なるサイクルの増幅を行うことにより特徴付けられた。
図4A及び
図4Bに示される通り、異なる回数の合計PCRサイクル(それぞれ23及び27PCRサイクル)を用いるタグ付きオリゴの同じプールの増幅は、観測されたUMIでの差異を生じず、このことは、PCRサイクル数がUMIカウントに影響しないことを示した。
【0069】
感度は、異なる量(40分子まで下げられた)でのタグ付きオリゴのプールの増幅により特徴付けられた。
図4Cに示される通り、10
2個のタグ付きオリゴ分子まで下げて定量化することが可能である。連続希釈溶液実験は、体積内での分子の高度に不均一な分布に起因するサンプリングバイアスを生じ易く、このことは、非常に希釈された溶液に特に関連があることを注記すべきである。つまり、観測される定量化の限界は、アッセイの限界よりもむしろ、実験設定に関連する過小評価である可能性がある。
【0070】
本発明に従う方法の工程c)では、未結合の結合剤を選択的に除去するための分離工程が行われることにより、標識された生物学的試料が取得される。分離工程は、典型的には、好適な緩衝剤溶液中で洗浄すること、及び標識された生物学的試料を遠心分離により回収することにより行われる。
【0071】
工程d)では、標識された生物学的試料に対して、前記ゲノムDNAの全ゲノム増幅及び少なくとも1種の結合剤とコンジュゲート化されたタグ付きオリゴヌクレオチドの増幅が同時に行われる。ゲノムDNAの全ゲノム増幅は、確定的制限部位全ゲノム増幅(DRS-WGA)によるか、又は多重アニーリング及びルーピングベース増幅サイクル全ゲノム増幅(MALBAC)によるかのいずれかで行われる。
【0072】
工程e)では、増幅されたタグ付きオリゴヌクレオチドから超並列シーケンシングライブラリーが作製される。
【0073】
工程f)では、超並列シーケンシングライブラリーがシーケンシングされる。
【0074】
工程g)では、各シーケンシングリードから結合剤バーコード配列(BAB)及び固有分子識別子配列(UMI)の配列が検索される。
【0075】
工程h)では、各結合剤に対して、異なる固有分子識別子配列(UMI)の個数がカウントされる。
【0076】
工程e)、f)、g)及びh)は、説明において以下で具体的な実施形態を参照して更に詳細に開示されるであろう。
【0077】
上記で開示された方法は、好ましくは、生物学的試料から単一細胞を単離する工程を更に含む。単離は、特に、例えば、DEPArray(登録商標)NxT(Menarini Silicon Biosystems社)等の細胞選別機を用いて、細胞を選別する工程、又は、代替として、液滴中へと細胞を分割する工程により、行うことができる。単離工程は、好ましくは、工程c)の後で、且つ工程d)の前に行われる。
【0078】
上記で開示された方法は、好ましくは、工程f)の前に超並列シーケンシングライブラリーを精製する工程を含む。
【0079】
より具体的であるが、本説明の範囲を限定する意図を有しない用語では、Ampli1タンパク質(A1-P)とも指定される上記で開示された方法は、単一細胞のタンパク質の定量化及び全ゲノム遺伝学的特性決定を可能にする。単一細胞での単一又は複数タンパク質定量化は、タグ付きオリゴヌクレオチドとコンジュゲート化された結合剤(特に、抗体(Ab))のパネルを用いて達成される。これらのオリゴヌクレオチドは、DNAバーコード配列を用いてコンジュゲート化された抗体を明確に特定するために、且つエピトープ定量化のために用いられるランダム又は部分的縮重配列(すなわち、固有分子識別子(UMI))を用いて対象となるエピトープの存在量を定量化するために、設計される。生物学的試料は、それぞれが固有のDNAバーコード配列を有する、1つ又は複数のAb-オリゴコンジュゲートを用いて標識される。続いて、単一細胞又は細胞のプールを、異なる手段(すなわち、DEPArray(商標)NxTシステム)により単離することができ、且つそれらのゲノム内容物を、全ゲノム増幅(すなわち、Ampli1(商標)全ゲノム増幅キット)により増幅することができる。後者の工程中又はそのすぐ後に、タグ付きオリゴヌクレオチドを、NGSライブラリー作製手順の間のいかなるダウンサンプリングも回避するために、予備増幅する。特異的プライマー、すなわち、「ライブラリープライマー」を、直ちにシーケンシングできるNGS(Illumina社)ライブラリーを作製するために用いる。タグ付きオリゴヌクレオチドは、Ampli1(商標)WGA(A1-WGA)ワークフローと適合性になるように設計され、これにより、A1-Pを用いるタンパク質定量化と並行して、単一細胞遺伝学分析(例えば、Ampli1(商標)LowPass)が可能になる。
【0080】
以下では、本発明の3つの具体的実施形態が開示され、これらはそれぞれ、タグ付きオリゴ増幅及び全ゲノム増幅に対して異なる数のプライマーを利用する。
【0081】
第1の好ましい実施形態では、
図5を参照すると、タグ付きオリゴヌクレオチドは、5'から3'に向かって、少なくとも、
a)さらに5'全ゲノム増幅ハンドル配列(5-WGAH)及び第1の増幅ハンドル配列(1AH)を含む、核酸の第1のタグ付きオリゴヌクレオチド増幅配列(5-TOS);
b)ペイロード配列(PL);
c)さらに核酸の第2の増幅ハンドル配列(2AH)及び3'全ゲノム増幅ハンドル配列(3-WGAH)を含む、核酸の第2のタグ付きオリゴヌクレオチド増幅配列(3-TOS)
を含む。
【0082】
3-WGAHは、全ゲノム増幅中にgDNA及びタグ付きオリゴヌクレオチドの同時増幅を可能にする、5-WGAHの逆相補的配列である。1AH及び2AHは、それぞれペイロード配列の5'末端及び3'末端に位置し、且つその後のライブラリー作製のために用いられる。1AH及び2AHは、好ましくは、タグ付きオリゴ増幅を阻害し得る、ヘアピン等の安定的な分子内二次構造を回避するために設計される。上述の各配列の間には、固定された配列が存在し得る。
【0083】
全ゲノム増幅及びタグ付きオリゴの増幅は、好ましくは、単一プライマーを用いて行われる。
【0084】
第2の好ましい実施形態では、
図6A及び
図6Bを参照すると、タグ付きオリゴヌクレオチドは、5'から3'に向かって、少なくとも、
a)さらに5'全ゲノム増幅ハンドル配列(5-WGAH)及び第1の増幅ハンドル配列(1AH)を含む、核酸の第1のタグ付きオリゴヌクレオチド増幅配列(5-TOS);
b)ペイロード配列(PL);
c)任意選択で、アニーリング配列(AS)
を含む。
【0085】
全ゲノム増幅及びタグ付きオリゴヌクレオチドの増幅のために少なくとも1種のプライマーが用いられ、且つタグ付きオリゴヌクレオチドの伸長のために少なくとも1種のオリゴヌクレオチド(E-p)が用いられ、該少なくとも1種のオリゴヌクレオチド(E-p)は、5'から3'に向かって、少なくとも、
d)5'全ゲノム増幅ハンドル配列(5-WGAH);
e)スペーサー配列(SS);
f)第2の増幅ハンドル配列(2AH);及び
g)アニーリング配列に対して逆相補的な配列(AS-RC)又は結合剤バーコード配列に対して逆相補的な配列(BAB-RC)
を含む。
【0086】
言い換えると、タグ付きオリゴの増幅は、E-pの3'末端に位置するアニーリング配列逆相補体(AS-RC)によって、タグ付きオリゴの3'に位置するASに対するE-pのアニーリング(
図6A)により起こり、したがってタグ付きオリゴ及びE-pの両方の3'伸長が反応内で引き起こされ、これにより、次にWGAプライマー増幅可能分子が生じる。或いは、ASは、BAB配列と一致することができ、且つE-pは、
図6Bに示される通りにBAB逆相補体配列(BAB-RC)を介してBAB配列にアニーリングする。第1の選択肢(ASに対するアニーリング)は、単一E-pをいずれのBABと共にでも用いることができるという利点を有し、したがって、製造コスト及びプロトコールの複雑性が低減される。第2の選択肢(BABに対するアニーリング)は、存在量に大きな差異を有する標的に由来するシグナルを標準化するために有利に用いることができる。これは、非限定的な例として、非常に豊富なタグ付きオリゴの増幅を減少させるために、非常に豊富な可能性がある標的に対するプライマーの制限的な量を用いることにより、又は異なるBABアニーリング温度を用いることにより、達成できる。アニーリング温度は、BAB長及び/又は組成により調節することができる。
【0087】
タグ付きオリゴ及びE-pの伸長後に、WGAプライマーが、生じる比較的大きな分子内で、タグ付きオリゴの増幅を行うであろう。スペーサー配列(SS)は、タグ付きオリゴにより生成されるアンプリコンの長さを増加させる。増加した断片長は、断片の相補的末端により誘導されるヘアピン等の分子内二次構造を不安定化させ、したがってそれらの融解温度を低下させ(
図7)、これは他のWGA断片と一緒でのタグ付きオリゴ増幅に好都合である(M. Zuker. Mfold web server for nucleic acid folding and hybridization prediction. Nucleic Acids Res. 31 (13), 3406-15, (2003))。伸長オリゴヌクレオチド(E-p)配列長は、好ましくは、60~300塩基の範囲内である。より好ましくは、伸長オリゴヌクレオチド(E-p)配列長は、120~200塩基の範囲内である。
【0088】
第3の好ましい実施形態では、
図8を参照すると、タグ付きオリゴヌクレオチドは、5'から3'に向かって、少なくとも、
a)第1の増幅ハンドル配列(1AH)に対応する核酸の第1のタグ付きオリゴヌクレオチド増幅配列(5-TOS);
b)ペイロード配列(PL);
c)第2の増幅ハンドル配列(2AH)に対応する核酸の第2のタグ付きオリゴヌクレオチド増幅配列(3-TOS)
を含む。
【0089】
少なくとも1種の第1のプライマーが全ゲノム増幅のために用いられ、且つ少なくとも1種の第2のプライマー及び1種の第3のプライマーがタグ付きオリゴヌクレオチドの増幅のために用いられ、少なくとも1種の第2のプライマーは、第1の増幅ハンドル配列(1AH)に対して同一な配列を有し、且つ少なくとも1種の第3のプライマーは、第2の増幅ハンドル配列に対して逆相補的な配列(2AH-RC)を有する。
【0090】
タグ付きオリゴ増幅プライマーは、WGA PCR温度プロファイルの少なくとも最初の10~15サイクルに適合性である融解温度を有するように設計される。
【0091】
好ましくは、少なくとも1種の第2のプライマー及び少なくとも第3のプライマーは、工程d)で添加される。
【0092】
増幅されたタグ付きオリゴヌクレオチドから超並列シーケンシングライブラリーを作製する工程e)は、好ましくは、第1の増幅ハンドル配列(1AH)に対応する3'配列を含む少なくとも1種の第1のライブラリープライマー及び第2の増幅ハンドル配列に対して逆相補的な配列(2AH-RC)に対応する3'配列を含む少なくとも1種の第2のライブラリープライマーを用いるPCR反応により行われる。
【0093】
したがって、ライブラリープライマーは、単一PCR工程を用いる結合剤定量化分析のためのNGSライブラリーを作製するために、有利に用いられる。本説明で報告されるライブラリープライマーの具体例は、本発明の発明の範囲を限定することを意図せずに、Illuminaシーケンシングプラットフォームと適合性であるライブラリーを作製するために用いられる。
【0094】
好ましい実施形態では、フォワードプライマー及びリバースプライマーは、Illuminaアダプター(Illumina社)に基づいて設計され、5'から3'に向かって、以下を含む:
1)Illuminaシーケンシングに必要とされるIlluminaアダプター配列(IA);
- インデックスシーケンシングプライマー/フローセル結合性配列(この領域は、フローセル結合のために必要とされる)並びにi5/i7インデックスシーケンシングプライマーに対するアニーリング配列;
- i5/i7インデックス:NGS多重化反応のために用いられるインデックス;
- Read1/read2シーケンシングプライマー:Illuminaシーケンシングプライマーに対するアニーリング配列、並びにタグ付きオリゴからのライブラリーの増幅のため。
2)第1の増幅ハンドル配列(1AH)又は第2の増幅ハンドル配列に対して逆相補的な配列(2AH-RC):これらの配列は、タグ付きオリゴ増幅後には二本鎖であるタグ付きオリゴ上で、第1の増幅ハンドル配列の逆相補体及び第2の増幅ハンドル配列にそれぞれアニーリングする。
【0095】
図9は、それぞれ
図5(
図9A)、
図6A(
図9B)及び
図8(
図9C)に従う実施形態での、増幅されたタグ付きオリゴヌクレオチドからの超並列シーケンシングライブラリーの作製のために用いられるライブラリープライマーの構造を示す。
【0096】
ライブラリーの作製後、好ましくは少なくとも1回の精製工程が行われ、それにライブラリー定量化及びその後のシーケンシング手順のために必要なプール化が続く。シーケンシングは、優先的には、ペアードエンドシーケンシングとして行われ、それぞれがライブラリーDNA分子の鎖から誘導される2つのリードが生成される。
【0097】
同じアプローチを、例えば、Ion Torrent社等の他のシーケンシングプラットフォームのためのNGSライブラリーを作製するために用いることができる。
【0098】
NGSライブラリーから生成されるペアードエンドリード配列の分析は、以下の工程に従って分析する:
1.部分配列抽出。UMI、BAB及び増幅ハンドル配列(1AH及び/又は2AH)に対応する部分配列は、各タグ付きオリゴ分子に対する両方のシーケンシングリードから抽出される。
【0099】
2.リードの再アライメント。BAB及び/又は増幅ハンドル配列の部分配列が参照配列とマッチしない(5塩基毎に0.5~2個のミスマッチを許容して)場合、部分配列の位置が-nから+nの範囲の可変量だけオフセットされ、このときnは許容される最大オフセットであり(例えば、n=8)、部分配列が再抽出される。各反復に対して、参照配列からのハミング距離が算出され、最低距離に戻すオフセットが選択され、全ての部分配列(UMI、BAB、増幅ハンドル配列)が抽出される。
【0100】
3.リードフィルタリング。そのBAB及び/又はハンドル部分配列が参照配列と規定量の塩基を超えて異なるリードは、低品質リードとして廃棄される。
【0101】
4.UMI決定。リードペアからのUMI配列は、シーケンシングエラーの非存在下で完璧に相補的になると予測される。第1鎖UMIと第2鎖相補的UMI配列との間のいずれかの差異の存在下では、
a.リードペアは低信頼度として廃棄される場合があるか、又は
b.2つの配列間のコンセンサスは、UMIの各位置に対して、シーケンサーのベースコーラーにより報告される最高ベースコーリングスコアを有する2つのシーケンシングリード由来の配列のうちから塩基を選択することにより、算出することができる。
【0102】
第1の方法(a)は、シーケンシングバイアスに起因する標的分子の過大評価を引き起こしにくいが、第2の方法(b)を用いて代わりに回復される結合剤と標的分子との間の真の結合性イベントを失う場合があることを注記すべきである。
【0103】
5.標的分子定量化。標的分子のカウントが、分析された試料における特異的結合剤を表す各BAB配列に対する異なるUMI配列の個数を決定することにより行われる。
【0104】
本発明に従うキットは、
a)タグ付きオリゴヌクレオチドとコンジュゲート化された、生物学的試料中の少なくとも1種の標的分子に対する少なくとも1種の結合剤であって、タグ付きオリゴヌクレオチドは、
i)結合剤バーコード配列(BAB)及び固有分子識別子配列(UMI)を含む核酸のペイロード配列(PL)、
ii)少なくとも1種の第1のタグ付きオリゴヌクレオチド増幅配列(5-TOS)
を含む、結合剤;
b)全ゲノム増幅を行うための少なくとも1種のプライマー及びタグ付きオリゴヌクレオチドの増幅を行うための少なくとも1種のプライマーであって、同じ配列を有する全ゲノム増幅を行うための少なくとも1つのプライマー及び該タグ付きオリゴヌクレオチドの増幅を行うための少なくとも1つのプライマー
を含む。
【0105】
好ましい実施形態では、キットは、タグ付きオリゴヌクレオチドを伸長するためのオリゴヌクレオチドを含む。
【0106】
好ましい実施形態では、少なくとも1種のタグ付きオリゴヌクレオチドが配列番号1に対応する配列を有し、タグ付きオリゴヌクレオチドの増幅を行うためのプライマーは2種類であり、それぞれ配列番号2及び配列番号3の配列を有する。キットは、好ましくは、1つ又は複数の第1のライブラリープライマー及び1つ又は複数の第2のライブラリープライマーを更に含む。より好ましくは、該第1のライブラリープライマーは配列番号8~配列番号15からなる群から選択される配列を有し、該第2のライブラリープライマーは配列番号16~配列番号27からなる群から選択される配列を有する。
【0107】
別の好ましい実施形態では、少なくとも1種のタグ付きオリゴヌクレオチドが配列番号28に対応する配列を有し、タグ付きオリゴヌクレオチドの伸長を行うためのオリゴヌクレオチドは1種類であり、配列番号29に対応する配列を有する。キットは、好ましくは、1つ又は複数の第1のライブラリープライマー及び1つ又は複数の第2のライブラリープライマーを更に含む。より好ましくは、該第1のライブラリープライマーは配列番号30~配列番号37からなる群から選択される配列を有し、該第2のライブラリープライマーは配列番号38~配列番号49からなる群から選択される配列を有する。
【実施例】
【0108】
(実施例1)
本実施例では、WGA後に
図8に従う設定を用いる増幅を行うために、タグ付きオリゴを設計した。「P5-Synth」(配列番号1、
図10、NNNNNNNNNN:UMI配列)と称されるタグ付きオリゴを、Ampli1(商標)WGAキット(Menarini Silicon Biosystems社)に適合するように設計した。第1の増幅ハンドル配列(1AH)は、Illumina TruSeq DNA and RNA CD IndexesからのIndex2(i5)アダプターの最後の19塩基と同一であった。第2の増幅ハンドル配列(2AH)を、いかなる分子内二次構造及びヒトゲノムに対する考えられるマッチも回避するように、in silicoで作製した。両方の増幅ハンドル配列の融解温度を、WGAプライマーのものと類似とするために設計した。タグ付きオリゴ増幅プライマー(配列番号2及び配列番号3)を、第1及び第2の増幅ハンドル配列に従って設計した。
【0109】
図10に示される通り、フォワードライブラリープライマーがIndex2(i5)アダプター(Illumina社)と同一であった一方で、リバースライブラリープライマーは、第2の増幅ハンドル配列の逆相補的配列を付加したIndex1(i7)アダプターと同一であった。より詳細には、
図10は、P5-Synthオリゴ及び対応するライブラリープライマーの設計を示す。
【0110】
オリゴP5-Synth(配列番号1):白色ボックスは、UMI及び結合剤バーコードを含む内部ドメインを示す。黒色境界を有する灰色ボックスは、第1及び第2の増幅ハンドル配列を示す。
【0111】
P5ライブラリープライマー(配列番号8):NGSライブラリー作製のために用いられるフォワードプライマー。灰色ボックス中にオリゴP5-Synthとのアニーリング部位が示される。短破線ボックス中にシーケンシングプライマー部位が示され;一点鎖線ボックス中にシーケンシング反応を多重化するために用いられるi5インデックスが示され;長破線ボックス中にインデックスシーケンシングプライマー/フローセルアダプター配列が示される。
【0112】
Synthライブラリープライマー(配列番号16):NGSライブラリー作製のために用いられるリバースプライマー。灰色ボックス中にオリゴP5-Synthとのアニーリング部位が示される。短破線ボックス中にシーケンシングプライマー部位が示され;一点鎖線ボックス中にシーケンシング反応を多重化するために用いられるi5インデックスが示され;長破線ボックス中にインデックスシーケンシングプライマー/フローセルアダプター配列が示される。
【0113】
図11に見て取れる通り、ライブラリー作製中に、Illumina Index1及び2アダプターが、それぞれタグ付きオリゴの5'及び3'に付加される。
【0114】
本実施例では、タグ付きオリゴを、5'アミノ修飾剤を介してコンジュゲート化した。その後のPCR反応に対するいかなる立体障害阻害作用も回避するために、C6又はC12スペーサーが、オリゴのアミン部分と5'との間に存在した。アミノ反応性試薬を介して、リジン、グルタミン、アルギニン及びアスパラギン残基由来の抗体中に通常存在するアミンを用いて、抗体をタグ付きオリゴに共有結合させた。4種類のAb-オリゴ(表2)を、タグ付きオリゴを用いて作製し、抗体オリゴコンジュゲート化は、抗体:タグ付きオリゴ化学量論を1:2として、Expedeon社(25 Norman Way、Over、Cambridge CB24 5QE、United Kingdom)により行った。エピトープ局在:細胞膜に対する位置を示す。
【0115】
【0116】
Ab-オリゴを、2種類の異なるタイプの細胞株を染色するために用いた。第1の細胞タイプは、サイトケラチン及びHer2タンパク質を過剰発現する乳癌由来細胞株であるSK-BR-3細胞であった。第2の細胞タイプは、CD45並びに無視できるレベルのサイトケラチン及びHer2を発現する、全血から抽出される白血球である末梢血単核細胞(PBMC)であった。
【0117】
SK-BR-3細胞(ATCC(登録商標)HTB-30(商標)、ATCC)を、製造業者の手順に従って培養中で増殖させた。PBMCは、ヒト血液試料から抽出した。両方の細胞タイプを、カスタマイズされたプロトコールに従って、PFA 2%を用いて固定した。
【0118】
Ab-オリゴを用いる細胞染色は、100000~50000個の事前に固定及び透過化された細胞に対して行った。RT、1000×gで5分間の遠心分離により、細胞を回収した。少なくとも1mLのランニングバッファー(autoMACSランニングバッファー、ref. 130-091-221、Miltenyi Biotec社)を用いて細胞を洗浄し、遠心分離により回収した。この最後の工程を、2回繰り返した。外部Ab-オリゴ及びそれらのアイソタイプAb-オリゴ対照は、それらの作業濃度まで、100μLのランニングバッファー中に希釈する。外部Ab-オリゴミックス(Ab-オリゴtag3)を細胞に添加し、RTで15分間インキュベートした。続いて、1mLのランニングバッファーを用いて試料を2回洗浄し、遠心分離により回収した。500μLのランニングバッファー中のヤギ抗マウスIgG2a-PE抗体を添加し、+4℃で30分間インキュベートした。この工程は、PEでのPBMC細胞の染色を可能にした。ランニングバッファーを用いて試料を2回洗浄した。内部Ab-オリゴ及びそれらのアイソタイプAb-オリゴ対照は、それらの作業濃度まで、200μLのInside Permバッファー(Inside染色キット、Ref. 130-090-477、Miltenyi Biotec社)中に希釈する。内部Ab-オリゴミックス(Ab-オリゴtag1、2及び4)を細胞に添加し、RTで10分間インキュベートした。1mLのInside Permバッファーを用いて試料を2回洗浄し、遠心分離により回収した。Hoechst及びヤギ抗マウスIgG1-APC抗体の500μLのInside Permバッファー中のミックスを添加し、+4℃で30分間インキュベートした。この工程は、PEでのSK-BR-3細胞及び全ての細胞核の染色を可能にした。試料を、ランニングバッファーを用いて2回洗浄した。
【0119】
フルオロフォアにコンジュゲート化された二次抗体の添加は、蛍光によるSK-BR-3細胞(APCチャンネル)及びPBMC(PEチャンネル)の特定を可能にした。更に、蛍光レベルは、Ab-オリゴの相対的存在量を反映する。単一細胞を、それらの免疫蛍光標識に基づいて、DEPArray(商標)NxTシステム(Menarini Silicon Biosystems社)を用いて精製した(
図12)。
【0120】
具体的には、
図12は、Ab-オリゴ及び二次蛍光抗体を用いて染色されたPBMC及びSK-BR-3細胞の散布図を示す。x軸上には、Ab-オリゴtag1、tag2及びtag4の量に比例する、APCチャンネルでの蛍光レベルを示す。y軸上には、Ab-オリゴtag3の量に比例する、PEチャンネルでの蛍光レベルを示す。散布図は、それらの免疫蛍光レベルに基づいて特異的細胞タイプをそれぞれ含む4つの象限に分割されている:1)PBMC(高レベルのCD45及び低レベルのCK、Her2);2)二重陽性細胞(高レベルのCD45、CK、Her2);3)二重陰性細胞(低レベルのCD45、CK、Her2);4)SK-BR-3細胞(低レベルのCD45及び高レベルのCK、Her2)。中空/中実四角/丸で強調される単一細胞が、ライブラリー作製のために単離及び使用された。
【0121】
或いは、WGA後にタグ付きオリゴ増幅を行うために、フォワード/リバースプライマーのカスタマイズされた反応ミックス及びAmpli1(商標)PCRキット試薬を、表3の左側挿入部分に従って調製した、WGA産物が入った各チューブに、15μLの反応ミックスを添加した。各試料を、表3の右側挿入部分に示される温度プロファイルに従ってインキュベートした。
【0122】
【0123】
左側挿入部分:タグ付きオリゴ増幅反応の反応混合物組成。右側挿入部分:タグ付きオリゴ増幅のための熱サイクルプログラム。
【0124】
0.5μMの最終濃度でP5及びLib1ライブラリープライマーを用いて、Ampli1(商標)PCRキットを使用して増幅されたWGA含有Ab-オリゴアンプリコンの1μLのアリコートを取得することにより、ライブラリー作製を行った。PCR熱サイクルプロファイルは、表5に示される。各試料は、バイオインフォマティクス分析中にデータを逆多重化するために、二重インデックス化のためのNGSライブラリープライマーの異なる組み合わせを有した。用いたライブラリープライマーのリストを、表4に報告する。P5ライブラリープライマーは、タグ付きオリゴP5-Synthと共に用いることができるフォワードプライマーである。
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
NGSライブラリー作製のための熱サイクルプロファイル。ステップ3のサイクル数は、回収された細胞数及び細胞中の総Ab-オリゴの有効量に応じて変わる。通常、ステージ3での27回の増幅サイクルが、単一細胞からの十分なアンプリコン量を生じた。
【0129】
ライブラリー試料を、Agencourt AmPure XPビーズ(Beckman-Coulter社)を用いて精製した。NGS DNA定量化は、KAPA SYBR(登録商標)FAST qPCRキット(Kapa Biosystems社)を用いて行った。各NGSライブラリーを、Agilent Bioanalyzer 2100(Agilent社)を用いて検査し、これにより、典型的には185bpでの単一ピークから構成されたライブラリー電気泳動像が示された(
図13)。
【0130】
試料を一緒にプールし、MiSeq試薬キットv3 150サイクル(Ref. MS-102-3001、Illumina社)を用いて、MiSeqシステム(Illumina社)上でシーケンシングを行った。データ解析は、Python社により開発されたカスタムソフトウェアを用いて行った。UMIカウントに従うタンパク質標的の定量化が、
図14に報告される。予測される通り、SK-BR-3細胞は、サイトケラチン及びHer2の高発現並びに比較的低レベルのCD45を示したが、PBMCは逆の挙動を示した。タンパク質発現レベルは、二重陽性細胞において、特にアイソタイプ対照が高く、このことは、そのような細胞が非特異的染色を比較的受け易かったことを示す。逆に、二重陰性細胞は、全4種類の標的に関して比較的低いレベルを有した。
【0131】
(実施例2)
本実施例では、WGA中に、
図8に従う設定を用いて増幅を行うために、タグ付きオリゴを設計した。実験手順は、以下を除いて実施例1と同一である。タグ付きオリゴ増幅プライマーを、0.02μMの最終濃度で、一次PCR反応ミックスに直接添加した。ライブラリー作製及びデータ解析は、実施例1に示される通りに行った。
【0132】
UMIカウントに従うタンパク質標的の定量化が、
図15に報告される。予測される通り、SK-BR-3細胞は、サイトケラチン及びHer2の高発現並びに非常に低レベルのCD45を示したが、PBMCは逆の挙動を示した。タンパク質発現レベルは、二重陽性細胞において、特にアイソタイプ対照が高く、このことは、そのような細胞が非特異的染色を比較的受け易かったことを示す。逆に、二重陰性細胞は、全4種類の標的に関して比較的低いレベルを有した。実施例1からの結果に従って、タグ付きオリゴの増幅が、WGA中及びWGA後の両方で実行可能であることが推論できる。しかしながら、絶対的UMIカウントは、2種類の手順で顕著に異なることを注記すべきである。2種類の細胞タイプの差異は、WGA中にタグ付きオリゴ増幅が行われる場合に、CKと比較して低い発現を有するCD45標的に関して予測されるものにより良く一致する。
【0133】
(実施例3)
本実施例では、タグ付きオリゴを、単一細胞中に直接添加した。「P5-Lib1」(配列番号28)と称されるタグ付きオリゴを、Ampli1(商標)WGAキット(Menarini Silicon Biosystems社)により増幅可能であるように設計した。タグ付きオリゴ増幅プライマーは、配列番号29の配列を有する(フォワードプライマー及びリバースプライマーは同一であり、Ampli1 WGA Lib1プライマーの配列を共有する)。具体的には、5'-WGAハンドル配列はLib1 WGAプライマーと同一であった一方で、3'-WGAハンドル配列はLib1 WGAプライマーの逆相補体配列であった。第1の増幅ハンドル配列は、実施例1に記載されるものと同一である。第2の増幅ハンドル配列は、3'-WGAハンドル配列及びその5'末端での追加の5bp配列からなる(
図16)。
【0134】
より詳細には、
図16は、P5-Synthオリゴ及び対応するライブラリープライマーの設計を示す。
【0135】
オリゴP5-Lib1:太線境界を有する白色中実ボックスは、UMI及び結合剤バーコードを含む内部ドメインを示す。太線境界を有する灰色中実ボックスは、2つのライブラリープライマーに対するアニーリング部位を示す。細線境界を有する灰色ボックスは、WGAハンドル配列(Lib1)である。
【0136】
P5ライブラリープライマー:NGSライブラリー作製のために用いられるフォワードプライマー。灰色中実ボックス中にタグ付きオリゴP5-Lib1とのアニーリング部位が示される。短破線ボックス中にシーケンシングプライマー部位が示され;一点鎖線ボックス中にシーケンシング反応を多重化するために用いられるi5インデックスが示され;長破線ボックス中にインデックスシーケンシングプライマー/フローセルアダプター配列が示される。
【0137】
Lib1ライブラリープライマー:NGSライブラリー作製のために用いられるリバースプライマー。灰色中実ボックス中にタグ付きオリゴP5-Lib1とのアニーリング部位が示され:この配列は、Lib1逆相補体配列の一部分及びオリゴP5-Lib1の3'末端にのみアニーリングすることを可能にする小さいテイル(ACCAC)から構成される。短破線ボックス中にシーケンシングプライマー部位が示され;一点鎖線ボックス中にシーケンシング反応を多重化するために用いられるi5インデックスが示され;長破線ボックス中にインデックスシーケンシングプライマー/フローセルアダプター配列が示される。
【0138】
フォワードライブラリープライマーがIndex2(i5)アダプター(Illumina社)と同一であった一方で、リバースライブラリープライマーは、第2の増幅ハンドル配列の逆相補的配列を付加したIndex1(i7)アダプターと同一であった(
図16)。したがって、ライブラリー作製中に、Illumina Index1及び2アダプターが、それぞれタグ付きオリゴの5'及び3'に付加される(
図17)。
【0139】
SK-BR-3細胞(ATCC(登録商標)HTB-30(商標)、ATCC)を、製造業者の手順に従って培養中で増殖させ、カスタマイズされたプロトコールに従って、PFA 2%を用いて固定した。単一細胞を、それらの形態学に基づいて、DEPArray(商標)NxTシステム(Menarini Silicon Biosystems社)を用いて精製した。P5-Lib1及びP5-Synthタグ付きオリゴを、単一細胞が入ったチューブの内部に直接添加した。異なる量の各オリゴを各単一細胞内に添加し、Ampli1(商標)WGAを行った。P5-Synthタグ付きオリゴを含有する試料を、実施例1の通りに増幅した。
【0140】
0.5μMの最終濃度でP5及びLib1ライブラリープライマーを用いて、Ampli1(商標)PCRキットを使用して増幅されたWGA含有Ab-オリゴアンプリコンの1μLのアリコートを取得することにより、タグ付きオリゴライブラリー作製を行った。PCR熱サイクルプロファイルは、表5に示される。各試料は、バイオインフォマティクス分析中にデータを逆多重化するために、二重インデックス化のためのNGSライブラリープライマーの異なる組み合わせを有した。用いたライブラリープライマーのリストを、表6に報告する。
【0141】
【0142】
【0143】
10μL WGA試料のアリコートを、SPRIビーズ(Beckmann Coulter社)を用いて精製し、続いて、Ampli1(商標)LowPassキットを用いて加工して、CNA分析のためのNGSライブラリーを作製した。WGA手順前の単一細胞におけるタグ付きオリゴのスパイク化は、下流の遺伝子解析に影響しなかった(
図18)。
図5及び
図8に示されるワークフローに適合するように設計されたタグ付きオリゴは、WGA手順に影響又は干渉しなかった。更に、それでも、両方の条件でタグ付きオリゴヌクレオチドからNGSライブラリーを取得することが可能であった。両方のタグ付きオリゴヌクレオチドを正確に定量化することができ、このことは、両方の方法論、並びにタグ付きオリゴ設計の堅牢性を示した(
図19)。
【0144】
利点
本発明に従う生物学的試料における全ゲノム増幅及び複数標的分子の分析のための方法は、ゲノム全体のコピー数プロファイル/ゲノム配列及び同じ単一細胞に対するタンパク質発現の分析を同時に得ることを可能にする。
【0145】
本発明の方法は、低パスシーケンシング又は対象となる遺伝子のパネルの標的化シーケンシングによるゲノム全体のコピー数プロファイリング等の更なる分析を可能にし、且つ、わずかな(1個まで下がる)循環腫瘍細胞(CTC)が利用可能な場合であり得るので、非常にわずかな試料を用いて、単一細胞解像度まで下げた複数タンパク質のパネルのデジタル定量化を検出及び実行するために有用な、ゲノムDNAの全ゲノム増幅を行うことを可能にする。このことは、遺伝子型、表現型及び環境の差異が、遺伝子型(配列変化のコピー数)と表現型(タンパク質発現)との相関を混乱させ且つ完全に妨げ得る、遺伝的に不均一な試料中の異なる細胞での各分子タイプを測定することに関して、特に有利である。
【0146】
本発明に従う方法は、驚くべきことに、非限定的な例として与えられる、以下の側面のうちの1つ又は複数で、当業者には達成できないと以前に考えられた実績を有して、当技術分野の技術水準を進歩させる:
・1個の細胞当たり数百コピーまで下がった単一細胞におけるタンパク質のデジタル定量化。
・プロセス中に内在するWGAの使用によって、該単一細胞の他の特徴の調査のための追加の遺伝的材料を取得できる更なる可能性、並びに10x Genomics社により提案されるもの等の液滴ベースのアプローチを用いて可能でない、確認のために単一細胞を確実に再分析できる可能性を伴って、上記の点が得られる。
【0147】
本方法の応用の主な分野は腫瘍学であるが、該方法は、皮膚科等のモザイク障害又は異常増殖表現型等の他の分野に応用することができる。
【国際調査報告】