IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ザ ユニバーシティー オブ バーミンガムの特許一覧 ▶ ユニバーシティー オブ レスターの特許一覧

<>
  • 特表-電極分離 図1
  • 特表-電極分離 図2
  • 特表-電極分離 図3
  • 特表-電極分離 図4
  • 特表-電極分離 図5
  • 特表-電極分離 図6
  • 特表-電極分離 図7
  • 特表-電極分離 図8
  • 特表-電極分離 図9
  • 特表-電極分離 図10
  • 特表-電極分離 図11
  • 特表-電極分離 図12
  • 特表-電極分離 図13
  • 特表-電極分離 図14
  • 特表-電極分離 図15
  • 特表-電極分離 図16
  • 特表-電極分離 図17
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-20
(54)【発明の名称】電極分離
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/54 20060101AFI20230313BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20230313BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20230313BHJP
【FI】
H01M10/54
H01M4/13
H01M4/66 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022540665
(86)(22)【出願日】2021-01-27
(85)【翻訳文提出日】2022-08-29
(86)【国際出願番号】 GB2021050185
(87)【国際公開番号】W WO2021152302
(87)【国際公開日】2021-08-05
(31)【優先権主張番号】2001183.9
(32)【優先日】2020-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522259751
【氏名又は名称】ザ ユニバーシティー オブ バーミンガム
(71)【出願人】
【識別番号】522259762
【氏名又は名称】ユニバーシティー オブ レスター
(74)【代理人】
【識別番号】110003258
【氏名又は名称】弁理士法人北澤・小泉特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】オルダス、イアン、エム
(72)【発明者】
【氏名】アボット、アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】レイ、チュンホン
(72)【発明者】
【氏名】アンダーソン、ポール
(72)【発明者】
【氏名】ケンドリック、エマ
(72)【発明者】
【氏名】ガストル、ドミニカ
【テーマコード(参考)】
5H017
5H031
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017BB13
5H017BB14
5H017BB19
5H017CC01
5H017EE01
5H017HH03
5H017HH09
5H017HH10
5H031AA02
5H031BB00
5H031BB02
5H031BB04
5H031EE01
5H031HH01
5H031HH08
5H031RR02
5H050AA00
5H050BA17
5H050CA02
5H050CA07
5H050CA08
5H050CB07
5H050DA04
5H050GA04
5H050GA29
5H050HA04
5H050HA10
5H050HA16
5H050HA20
(57)【要約】
【解決手段】電極シートの集電体から電極シートの電極材料を剥離する方法は、超音波処理槽に、少なくとも部分的にソノトロードの標的エリア内に入るように、電極シートを配置する工程と、ソノトロードを用いて、該ソノトロードの前面における50W/cm以上の出力密度により、電極シートを超音波処理する工程と、を含み、標的エリアにおけるソノトロードの前面と電極シートとの間の距離は、2cm以下である。本方法を実行するための電極材料剥離装置も開示される。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極シートの集電体から前記電極シートの電極材料を剥離する方法であって、
超音波処理槽に、少なくとも部分的にソノトロードの標的エリア内に入るように、前記電極シートを配置する工程と、
前記ソノトロードを用いて、該ソノトロードの前面における50W/cm以上の出力密度により、前記電極シートを超音波処理する工程と、を含み、
前記電極シートを配置する工程において、前記標的エリアにおける前記ソノトロードの前記前面と前記電極シートとの間の距離は、2cm以下であることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記電極シートは、電池から分離された後、前記超音波処理槽に配置される前に、化学的に処理又は製錬されていないことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ソノトロードの前記前面は、前記超音波処理槽において、液体に直接接触していることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ソノトロード112の前記前面は、70W/cm以上の出力密度を供給するように構成されることを特徴とする先行する請求項の何れかに記載の方法。
【請求項5】
前記標的エリアにおける前記ソノトロードの前記前面と前記電極シートとの間の前記距離は、1cm以下であることを特徴とする先行する請求項の何れかに記載の方法。
【請求項6】
前記電極シートは、電池電極又は電池の細断により形成されたリボン等の電池電極の一部分であり、
任意選択で、前記電池電極又は電池電極部分は、前記集電体の両側に一層ずつ、二層の電極材料を含み、前記集電体は金属箔であり、
任意選択で、前記電極シートは、リチウムイオン電池の電極又はその一部分であることを特徴とする先行する請求項の何れかに記載の方法。
【請求項7】
前記超音波出力は、1kW以上であり、任意選択で、2kW以上であり、さらに任意選択で、2.2kWに等しいことを特徴とする先行する請求項の何れかに記載の方法。
【請求項8】
前記電極シートは、一又は複数の剥離対象領域を有し、前記超音波処理は、1分未満、任意選択で30秒未満、15秒未満、10秒未満又は2秒未満の処理期間で、各領域に対して実施され、
各領域が、前記処理期間中、前記ソノトロードの前記標的エリアに位置するように、前記電極シートを再配置する工程をさらに含むことを特徴とする先行する請求項の何れかに記載の方法。
【請求項9】
前記電極シートは、長尺状であり、
前記処理の期間、前記超音波処理を提供するように配置された前記ソノトロードに対して、前記電極シートを連続的に相対移動させる工程をさらに含むことを特徴とする先行する請求項の何れかに記載の方法。
【請求項10】
前記集電体は金属箔であり、
前記電極シートを複数のローラに取り付ける工程と、前記複数のローラを回転させて、前記超音波処理槽の中へ入り、前記超音波処理槽内を移動し、前記超音波処理槽の外へ出るように、前記金属箔を移動させる工程と、をさらに含むことを特徴とする先行する請求項の何れかに記載の方法。
【請求項11】
前記槽に浮かぶ剥離した材料を回収することにより、前記槽から前記電極材料を除去する工程をさらに含むことを特徴とする先行する請求項の何れかに記載の方法。
【請求項12】
前記超音波処理に先立ち、水又は水溶液で前記超音波処理槽を少なくとも部分的に満たす工程をさらに含み、前記液体は、1から13の範囲のpHを有することを特徴とする先行する請求項の何れかに記載の方法。
【請求項13】
前記方法は、前記電極シート又は複数の連続する電極シートを、前記超音波処理槽内を連続的に移動させる連続的な処理であることを特徴とする先行する請求項の何れかに記載の方法。
【請求項14】
前記電極シートを配置する工程は、前記ソノトロードの前記標的エリア内で、金属表面等の剛性支持体上に前記電極シートを配置する工程を含むことを特徴とする先行する請求項の何れかに記載の方法。
【請求項15】
前記電極シートの任意の領域は、30分未満の期間、及び任意選択で1分未満の期間、前記超音波処理槽内に留まることを特徴とする先行する請求項の何れかに記載の方法。
【請求項16】
(i)電池電解質溶液
(ii)アルコール
(iii)プロピレンカーボネイト等の湿潤剤
(iv)SDS等の界面活性剤
(v)DMF等の溶媒、及び/又は
(vi)クエン酸、シュウ酸、又は乳酸等の弱酸
のうち一又は複数を、前記超音波処理槽内の前記液体に含める工程をさらに含むことを特徴とする先行する請求項の何れかに記載の方法。
【請求項17】
泡沫浮選により前記電極材料の除去を促進すべく界面活性剤又は他の起泡剤を前記超音波処理槽に加える工程をさらに含むことを特徴とする先行する請求項の何れかに記載の方法。
【請求項18】
少なくとも部分的に超音波処理槽内に配置され、前面に50W/cm以上の出力密度で超音波を発生させるように構成されたソノトロードを含むソニケータと、
電極材料でコーティングされた金属箔集電体を含む電極シートを、該電極シートの少なくとも一部分が標的エリア内に位置し、前記標的エリアにおいて前記ソノトロードの前記前面と前記電極シートとの間の距離が2cm以下となるように、保持するように構成された剛性支持体と、を含むことを特徴とする電極材料剥離装置。
【請求項19】
前記超音波処理槽を更に含み、
前記超音波処理槽は、水又は水溶液である液体を保持するように構成されることを特徴とする請求項18に記載の装置。
【請求項20】
前記支持体は、前記ソノトロードにより発生する複数の超音波処理波によって移動しないように固定されるように構成されることを特徴とする請求項18又は19に記載の装置。
【請求項21】
前記支持体は、前記ソノトロードに最も近い面を有し、前記標的エリア内における前記面の領域は、
(i)超音波が発生させられる前記ソノトロードの面である前記ソノトロードの前面に平行、及び
(ii)前記ソノトロードの前記前面から5mm未満
のうち、少なくとも一つであることを特徴とする請求項18乃至20の何れかに記載の装置。
【請求項22】
前記支持体は、前記ソノトロードと整列するように配置された領域にある連続性を有するソリッドシートと、該領域の両側にある有孔シート又はメッシュと、を含むトレイであることを特徴とする請求項18乃至21の何れかに記載の装置。
【請求項23】
前記ソノトロードは、ブレード形状をなし、前記超音波処理槽に鉛直に入るように配置されることを特徴とする請求項18乃至22の何れかに記載の装置。
【請求項24】
前記ソノトロードは、100μm以上の振幅で発振するように構成されることを特徴とする請求項18乃至23の何れかに記載の装置。
【請求項25】
前記ソノトロードの超音波が発生させられる表面は、矩形状であり、任意選択で15mm×210mmの寸法を有することを特徴とする請求項18乃至24の何れかに記載の装置。
【請求項26】
前記ソノトロードと前記支持体との間に位置するように配置されたメッシュスクリーンを更に含み、使用時に前記電極シートが前記メッシュスクリーンと前記支持体との間を通過するように前記メッシュスクリーンは配置され、
任意選択で、前記メッシュスクリーンと前記支持体との間隔は、2mm未満であり、さらに任意選択で1mmに等しいことを特徴とする請求項18乃至25の何れかに記載の装置。
【請求項27】
前記ソノトロードの周りに位置する金属バスケットを含み、
前記メッシュスクリーンは、ワイヤにより作製され、前記金属バスケットの一部を形成することを特徴とする請求項26に記載の装置。
【請求項28】
前記支持体は、前記電極シートを、前記標的エリアにおいて前記ソノトロードの前記前面に平行に保持するように配置されることを特徴とする請求項18乃至27の何れかに記載の装置。
【請求項29】
前記装置は、前記電極シートを、少なくとも2cm/sの速度で前記標的エリア内を移動させるように構成されることを特徴とする請求項18乃至28の何れかに記載の装置。
【請求項30】
前記ソノトロードは、1kW以上の出力で超音波を発生させるように構成されることを特徴とする請求項18乃至29の何れかに記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物質(材料)を分離するための方法及び装置に関し、特に、電池材料のリサイクルにおいて有用であると考えられる。より具体的には、この方法及び装置は、金属箔(電極の集電体として機能し得る)上に堆積した活物質(電極材料)の層等の電極の構成要素を分離するために使用され得る。このような材料の組合せは、リチウムイオン電池を含む様々な種類の電池によく見られる。
【0002】
本明細書では、本発明の実施の形態が、主にリチウムイオン電池に関して論じられるが、当業者は、本発明の技術及び装置がより一般的に適用可能であることを理解するであろう。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン電池は、二つの電極、通常は、銅集電体を有する炭素系負極(アノード)と、アルミニウム集電体を有する金属酸化物系正極(カソード)と、を含んで構成される。負極及び正極は、イオン伝導性の電解質、一般的にはリチウム塩の水溶液により隔てられている。一般的に、集電体は金属の膜又は箔の形態であり、各集電体箔の片側又は両側に電極活物質(炭素又は金属酸化物)の層が設けられる。
【0004】
リチウムイオン電池(LiB)の電極は、一般的に、負極用の銅箔に炭素系粉末を、正極用のアルミニウム箔に金属酸化物系化合物粉末を、それぞれコーティングして製造される。これらの粉末材料は、バインダ、大抵はポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のポリマーを用いて結び付けられるとともに、カレンダ加工により強固に圧縮されて、コーティングが金属箔から容易に分離できないようにされる。初期のリチウムイオン電池では、バインダとしてポリフッ化ビニリデンPVDFを使用していたが、最近の電池では、カルボキシメチルセルロースとスチレンブタジエンゴムとの混合物CMC-SBRの使用が一般的である。
【0005】
使用済みのLiBをリサイクルするためには、金属の基板からコーティング材料を分離する必要がある。バインダは、金銭的価値はほとんどなく、価値の有る構成要素、通常は銅、アルミニウム、リチウム金属酸化物が、互いから、バインダ自身から、及び存在する炭素から、容易に分離されることを防いでいる。
【0006】
現在のリチウムイオン電池のリサイクル方法は、電極を機械的に細断する工程と、化学エッチング液及び/又はバインダを溶解可能な溶剤で細断された材料を処理する工程と、を含む。また、比較的低出力の超音波を使用して、混合物を超音波により撹拌し、複数の電極材料部分を衝突させて摩耗を引き起こすことにより、分離を促す方法も報告されている(超音波洗浄の使用について記載した下記非特許文献1と、さらに非特許文献2とを参照)。下記非特許文献1の論文には、240Wの出力と溶剤としてのN-メチルピロリドン(NMP)とを使用することにより、30分間70℃で最適な分離効率が得られたと述べられている。この論文では、より高い出力(400Wまで)の超音波処理では、分離効率が低下することが証明されている。構成要素の化学的分離及び/又は酸性又は塩基性のエッチング液の使用により、集電体及び/又は金属酸化物活物質の金属が溶液中に溶解するため、その材料の一部を失うことになるか、或いは有用な形態でその材料を再取得するためにその後の化学反応が必要となることがある。
【0007】
他のリサイクル方法としては、乾式製錬及び湿式製錬による金属の再生が知られている。
【0008】
乾式製錬による金属の再生は、高温炉を使用して、構成する金属酸化物をCo,Cu,Fe及びNiの合金に還元する(例えば、下記特許文献1参照)。高温になるため、電池は「製錬」されることになるが、この処理は、他の種類の電池に使用される方法から自然に発展したものであり、一般消費者向けのリチウムイオン電池では既に商業的に確立されている。乾式製錬処理の生成物は、金属合金画分、スラグ及びガスである。低温(150℃未満)で発生するガス状の生成物は、電解質の構成要素及びバインダの構成要素からの揮発性有機物を含んで構成される。高温では、ポリマーは分解して燃え尽きる。金属合金は、湿式製錬処理により構成する金属に分離可能であり、スラグは、通常、アルミニウム、マンガン及びリチウム等の金属を含み、これらはさらなる湿式製錬処理により再生が可能である。或いは、スラグをセメント産業等の他の産業で使用することもできる。
【0009】
電池の製錬により生成されるスラリーを還元浸出及び化学沈殿させることにより、例えば、廃リチウムイオン電池からLiをLiCOとして、CoをCo(OH)として、回収することが可能であり、超音波を使用して化学反応を促してもよい。
【0010】
乾式製錬処理では、電解質及び/又はプラスチック(電池重量の約40-50パーセント)、或いはリチウム塩等の他の材料の再生については考慮されないことが通常である。再生される材料の数に限りがあることに加え、環境面での問題(有毒ガスの放出及び湿式製錬の後処理等)も有り、エネルギーコストも高い。
【0011】
湿式製錬の処理では、水溶液を使用して、正極材料から所望の金属を浸出させる。試薬の組合せとしては、HSO/Hが最も多く報告されている(例えば、下記非特許文献3参照)。下記特許文献2に記載されるような先行技術におけるリチウムイオン電池のリサイクル手法では、従来の処理工程(例えば、高温及び/又は酸処理)のフォローアップとして、超音波を使用して、既に緩んでいる材料を取り外す。処理のうち超音波処理の部分は、側壁にソニケータを有する溶液タンクを使用し、バルク溶液を撹拌するものである。
【0012】
様々な浸出酸及び還元剤の可能性が研究されている(例えば、下記非特許文献4参照)。また、浸出液は、続いて有機溶剤で処理し、溶媒抽出を行ってもよい(例えば、下記非特許文献5参照)。浸出された金属は、溶液のpHを操作することにより起こり得る多数の沈殿反応により回収されてもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】欧州特許第1589121号明細書
【特許文献2】中国特許第109473748号明細書
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】J. Li, P. Shi, Z. Wang, Y. Chen, C.-C. Chang, Chemosphere, 77 (2009), “A combined recovery process of metals in spent lithium-ion batteries.”, pp. 1132-1136
【非特許文献2】He, L. P., Sun, S. Y., Song, X. F., and Yu, J. G. (2015) “Recovery of cathode materials and Al from spent lithium-ion batteries by ultrasonic cleaning.” Waste management, 46. 523-528
【非特許文献3】Ferreira, D. A., Prados, L. M. Z., Majuste, D. and Mansur, M. B. “Hydrometallurgical separation of aluminium, cobalt, copper and lithium from spent Li-ion batteries.”, J. Power Sources 187, 238-246 (2009)
【非特許文献4】Nayaka, G. P., Pai, K. V., Santhosh, G. and Manjanna, J. “Dissolution of cathode active material of spent Li-ion batteries using tartaric acid and ascorbic acid mixture to recover Co.”, Hydrometallurgy 161, 54-57 (2016)
【非特許文献5】Granata, G., Moscardini, E., Pagnanelli, F., Trabucco, F. and Toro, L. “product recovery from Li-ion battery wastes coming from an industrial pretreatment plant: lab scale tests and process simulations.”, J. Power Sources 206, 393-401 (2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
これらの処理は、一般的に長い時間(一般的に、細断された電極の化学処理に対しては、少なくとも30分、通常は2時間以上)を要する。これらの処理は、時間のかかるバッチ処理であり、一般的には生成物が混合した状態(ストリーム)の出力をもたらすため、その後、生成物を分離する工程が必要となる。
【0016】
リサイクル対象の電池材料は量が多く、金属の構成要素及び炭素の構成要素は価値が比較的高いため、以下の事項が望まれている。
(i)より迅速で、好ましくは工程数がより少ない分離処理
(ii)よりきれいに分離された出力ストリームを有する分離処理
(iii)連続的な分離処理
【0017】
そこで、本発明者らは、活物質、バインダ、及び集電体/金属の3つの構成要素の分離を制御するためには、これらの間の相境界を慎重に考慮する必要があり、高出力超音波を用いてこの相境界及びその付近にキャビテーションを誘導すればよいことに着目した。キャビテーションにより形成された気泡が爆縮することにより、材料内に衝撃波を誘導し、相境界が機械的に切り離されることとなる。
【0018】
上記非特許文献2の論文では、その研究において観測された分離が、キャビテーションにより引き起こされたと示唆していたが、本発明者らは、その論文で使用された低い超音波出力及び他の反応条件では、キャビテーションが発生しないことを実証している。むしろ、その論文で指定されたレベルの超音波出力では、単に混合性を高め、摩擦による電極箔の摩耗を増やすこととなると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の第一の態様によれば、電極シートの集電体(例えば、金属箔)から電極シートの電極材料を剥離する方法が提供される。本方法は、
超音波処理槽に、少なくとも部分的にソノトロードの標的エリア内に入るように、電極シートを配置する工程と、
ソノトロードを用いて、1kW以上の超音波出力(パワー)により電極シートを超音波処理する工程と、を含む。
【0020】
標的エリアにおいて、ソノトロードの前面と電極シートとの間の距離は、2cm以下であってもよい(前面は、ソノトロードにおいて超音波を発生させる表面である)。
【0021】
前面に供給される出力密度は、50W/cm以上であってもよい。
【0022】
本発明の第二の態様によれば、電極シートの集電体から該電極シートの電極材料を剥離する方法が提供される。本方法は、
超音波処理槽に、少なくとも部分的にソノトロードの標的エリア内に入るように、電極シートを配置する工程と、
ソノトロードを用いて、該ソノトロードの前面における50W/cm以上の出力密度により、電極シートを超音波処理する工程と、を含み、
電極シートを配置する工程において、標的エリアにおけるソノトロードの前面と電極シートとの間の距離は、2cm以下である。
【0023】
超音波出力は、1kW以上であってもよい。
【0024】
以下の記載及び任意選択(オプション)は、第一の態様及び第二の態様の両方に適用される。
【0025】
高出力超音波(少なくとも1kWの超音波出力により及び/又は少なくとも50W/cmのソノトロード前面出力密度により定義されてもよい)の使用により、電極シートが標的エリアにあるときに、電極活物質と集電体箔との間の界面において或いは界面の近くに、キャビテーションを発生させる。キャビテーションにより形成された気泡の爆縮により、衝撃波を誘導し、相界面が機械的に切り離される。この物理的分離処理により、5秒未満で電極材料の剥離が発生し得る。対照的に、上記した引用論文において報告されるように、低出力超音波による材料の分離は比較的時間がかかるため、この分離には異なる処理が関与していることを示している。すなわち、先に報告された時間がかかる分離は、キャビテーションによるものではなく、複数の箔が互いを摩耗させる及び/又は支持体との間で摩耗することにより起こる。キャビテーションは、はるかに高い超音波出力においてのみ観測される。
【0026】
キャビテーションを用いたこの物理的手法による分離は、集電体(金属箔)と活物質(電極材料、一般的にブラックマスと称される)とを価値による複数のストリームに分けることができる。したがって、その後の精製工程又は分離工程は不要となり得る。電極材料は、集電体からのアルミニウム及び/又は銅の混入により、その価値が著しく低下するが、開示の手法は、集電体箔をそのままの状態にしておくことにより、そのような混入を低減又は回避し得る。
【0027】
ブラックマスは、金属箔から物理的に分離することが望ましい。物理的な分離は、化学的手法よりもきれいに分離可能であり、その後に必要となる精製工程又は沈殿工程を少なくすることができるからである。
【0028】
したがって、電池から分離した後、超音波処理槽に配置する前に、電極シートに対して化学的な処理や製錬を施す必要がない。電極シートは、単に電池から取り外され(任意選択で短冊状の複数の小片に切断され)、その後、何らの処理を介することなく、上記した方法により処理されてもよい。
【0029】
標的エリアにおいて、ソノトロードの前面と電極シートとの間の距離は、1cm以下であってよく、任意選択で0.5cm以下であってもよい。
【0030】
少なくとも標的エリアにおいて、電極シートの表面(シートの端との対比として)は、ソノトロードに対向するように配置されてもよく、特に、ソノトロードの前面に対向するように配置されてもよい。特に、電極シートは、例えば長尺状の或いはブレード形状のソノトロードに対して、ソノトロードの前面と電極シートとの間の距離が「ブレード」の長尺方向において一定となるように、ソノトロードの前面に対して少なくとも略平行であってもよい。種々の実施の形態において、電極シートは、シートとソノトロード前面との間の間隔が前面の全エリアに亘って少なくとも略一定となるように配置されてもよい。
【0031】
ソノトロードの前面は、超音波処理槽内の液体と直接接触していてもよい。したがって、前面は、液体内で自由に振動してもよい。電極シートは、少なくとも標的エリアにおいて、液体に浸漬される。したがって、利点として、また、ソノトロードがタンクの壁に接続されて壁全体を振動させる先行技術の超音波処理システムとは異なり、少なくとも標的エリアにおいて、より高い出力密度の超音波を供給可能である。
【0032】
前面に供給される出力密度は、60W/cm以上であってよく、さらに任意選択で70W/cm以上であってもよい。
【0033】
電極シートは、電池電極又は電池の細断により形成されたリボン等の電池電極の一部分であってよい。電池電極又は電池電極部分は、金属箔の両側に一層ずつ、二層の電池材料を含んで構成されてもよい。
【0034】
電極シートは、リチウムイオン電池の電極であってもよく、その一部分であってもよい。
【0035】
超音波出力は、2kW以上であってよく、任意選択で2.2kWに等しくてもよい。
【0036】
電極シートは、一又は複数の剥離対象領域を有していてもよい。超音波処理は、1分未満、任意選択で30秒未満、15秒未満、10秒未満、5秒未満、又は2秒未満の処理期間で、各領域に対して実施されてもよい。方法は、処理期間中、各領域がソノトロードの標的エリアに位置するように、電極シートを再配置する工程を含んでもよい。再配置する工程は、連続的であってもよく、設定された複数の処理位置間の離散的な移動を含んでもよい。
【0037】
電極シートは、2cm/s以上の速度で、ソノトロードの下方を移動させてもよく、ソノトロード前面を通過させてもよい。この速度は、剥離速度と称されることがある。
【0038】
電極シートは長尺状であってよく、これはつまり、ソノトロード(と、より具体的にはソノトロード前面と、)の長さよりも長い長尺を有することを意味する。方法は、処理の期間、超音波処理を提供するように配置されたソノトロードに対して、電極シートを連続的に相対移動させる工程を含んでもよい。電極シートの移動に伴い、長尺方向において異なる後続の部分が処理されるように、移動は電極シートの長尺方向に平行であってもよい。他の実施の形態では、ソノトロードと電極シートとの間の相対的な移動を実現すべく、電極シートの移動に代えて、或いは電極シートの移動とともに、ソノトロードを移動させてもよい。
【0039】
方法は、電極シートを複数のローラに取り付ける工程と、複数のローラを回転させて、超音波処理槽の中へ入り、超音波処理槽内を移動し、超音波処理槽の外へ出るように、金属箔を移動させる工程と、をさらに含んでもよい。
【0040】
方法は、槽の液体表面に浮上した剥離した材料を回収することにより、槽から電極材料を除去する工程をさらに含んでもよい。
【0041】
方法は、超音波処理に先立ち超音波処理槽を液体で少なくとも部分的に満たす(充填する)工程を含んでもよい。
【0042】
液体は、水であってもよく、或いは水溶液であってもよい。
【0043】
これは物理的な分離であるため、超音波処理に使用する輸送媒体の液体は、分離の助けとなる特定の化学的特性を有する必要はない。したがって、輸送媒体として、又は輸送媒体の主要成分として、水を使用することができるので、コストの削減、使用時の安全性の向上、及び/又は環境への負荷の軽減を実現する可能性がある。したがって、剥離処理は、水又は水性溶液を輸送媒体として、タンク内で行うことができる。
【0044】
液体は、1から13の範囲のpHを有していてもよい。
【0045】
方法は、泡沫浮選による電極材料の除去を容易にすべく界面活性剤又は他の起泡剤を超音波処理槽に加える工程を含んでもよい。
【0046】
方法は、超音波処理槽内の液体に以下のうち一又は複数を加える工程を含んでもよい。
(i)電池電解質溶液(例えば、電極シートが取り出された電池からの電池電解質溶液)
(ii)アルコール
(iii)プロピレンカーボネート等の湿潤剤
(iv)SDS等の界面活性剤
(v)DMF等の溶媒、及び/又は
(vi)クエン酸、シュウ酸又は乳酸等の弱酸
【0047】
使用する液体は純水でもよいが、酸性又は塩基性の溶液を液体として使用することにより、剥離処理をさらに加速させることができる。酸又は塩基は、金属を攻撃し、コーティング(電極材料)と金属基板(箔)との間の界面を開くことができるからである。電極材料は、金属箔から剥離して液体中に残る(一般的に水よりも密度が低いので浮遊する)が、金属箔は液体から取り出される。ブラックマスの活物質をバインダ(一般的にポリマー)から分離することが望ましい場合があり、適切な溶媒の使用によりこれを促進することができる。
【0048】
方法は、連続的な処理であってもよい。電極シートが、超音波処理槽内を連続的に移動させられてもよい。複数の連続する(一続きの)電極シートが、超音波処理槽内を連続的に移動させられてもよい。
【0049】
電極シートを配置する工程は、ソノトロードの標的エリア内で、剛性金属表面等の剛性表面上に電極シートを配置する工程を含んでもよい。いくつかの実施の形態では、回転するローラの表面が剛性表面を提供してもよい。
【0050】
電極シートの任意の領域は、30分未満の期間、任意選択で1分未満の期間、超音波処理槽内に留まってもよい。
【0051】
本発明の第三の態様によれば、電極材料剥離装置が提供される。電極材料剥離装置は、
少なくとも部分的に超音波処理槽内に配置され、超音波処理槽の標的エリア内に1kW以上の出力を有する超音波を発生させるように構成されたソノトロードを含むソニケータと、
電極材料でコーティングされた金属箔を含む電極シートを、該電極シートの少なくとも一部分が標的エリア内に位置するように保持するように構成された剛性支持体と、を含む。
【0052】
標的エリアにおいて、ソノトロードの前面と電極シートとの間の距離は、2cm以下であってもよい(前面とは、ソノトロードの超音波を発生する面である)。
【0053】
前面に供給される出力密度は、50W/cm以上であってもよい。
【0054】
本発明の第四の態様によれば、電極材料剥離装置が提供される。電極材料剥離装置は、
少なくとも部分的に超音波処理槽内に配置され、ソノトロードの前面において50W/cm以上の出力密度を有する超音波を発生させるように構成されたソノトロードを含むソニケータと、
電極シートの少なくとも一部分が標的エリア内に位置するように、また、標的エリアにおいてソノトロードの前面と電極シートとの間の距離が2cm以下となるように、電極材料でコーティングされた金属箔集電体を含む電極シートを保持/支持するように構成された剛性支持体と、を含む。
【0055】
超音波出力は、1kW以上であってもよい。
【0056】
以下の記載及び任意選択(オプション)は、第三の態様及び第四の態様の両方に適用される。
【0057】
標的エリアにおいて、ソノトロードの前面と電極シートとの間の距離は、1cm以下であってよく、任意選択で0.5cm以下であってもよい。
【0058】
剛性支持体は、電極シートを、標的エリアにおいてソノトロードの前面に対して平行に保持するように配置されてもよい。
【0059】
第三の態様又は第四の態様の装置は、第一の態様及び/又は第二の態様の方法を実行するために使用されてもよい。
【0060】
装置は、超音波処理槽をさらに含んでもよい。超音波処理槽は、液体を保持するように構成されていてもよい。液体は、水又は水溶液であってもよい。液体は、第一の態様又は第二の態様について記載されたようなものであってもよい。
【0061】
支持体は、ソノトロードにより発生した超音波波動とともに移動しないように、固定されていてもよい。
【0062】
支持体は、ステンレス鋼等の金属製であってもよい。代替として又は追加として、支持体は、セラミック(例えば、コンクリート)又は石等の他の剛性材料で作られていてもよい。支持体に選択された材料は、20GPa以上のヤング率を有していてもよい。
【0063】
支持体は、トレイの形態をとってもよい。
【0064】
トレイであってもよい支持体は、ソノトロードに最も近い面を有していてもよい。その面の標的エリア内の領域は、ソノトロードの前面に平行であってもよく、前面はソノトロードの超音波を発生する表面である。その面の標的エリア内の領域は、ソノトロードの前面から5mm未満であってもよい。
【0065】
スラリー又は混濁液を均質化するための超音波処理システムでは、微細な真空気泡が形成してその後崩壊するキャビテーション処理により、塊状粒子を分解する。この超音波処理システムとは異なり、本明細書に記載される種々の実施の形態で用いられる対象物の高出力超音波剥離は、衝撃波効果によって生じると考えられている。超音波衝撃波は、ソノトロードから物体表面までの液体を交互に通過する高圧及び低圧で構成される。局所的な圧縮応力と曲げ応力とが積層構造に作用して、電極材料の活性層と金属集電体(箔)との間の接着結合を破壊すると考えられている。ソノトロード前面の直下に、前面に対向するように(任意選択で前面に平行に)電極シートを配置することにより、剥離が進む可能性がある。したがって、トレイ(又は他の支持体)と物体との位置は、既知の超音波処理システムのそれとは異なってもよい。
【0066】
支持体は、ソノトロードと整列するように配置された領域にある連続性を有するソリッドシートを含んで構成されてもよい。支持体は、連続性を有するソリッドシートの両側に有孔シート又はメッシュを含んで構成されてもよい。
【0067】
ソノトロードはブレード形状であってもよい。ソノトロードは、超音波処理槽に鉛直に(上下方向に)入るように配置されてもよく、任意選択で、前面を下方に向け、上方から電極シートに向けて入るように配置されてもよい。シートを上方から超音波処理することにより、シートの両側のコーティングを同時に剥離することができるため、下からの超音波処理を可能とする必要性がなくなるという利点が明らかになった。ソノトロードを上方からタンク内に挿入することにより、ソニケータの大部分、特に電気部品を液体の外側/密封の必要性のない乾いた環境に配置することが容易になる。したがって、上方からの超音波処理は、装置の複雑性を低減し、特にソノトロードの取り外し及び交換を容易にし、密封の必要性を低減可能となる。ソノトロードは、100μm以上の振幅で発振するように構成されてもよい。
【0068】
ソノトロードは、20kHz以上の周波数で発振するように構成されてもよい。現在、一般的に使用される超音波コンバータの周波数は、15kHz、20kHz、30kHz及び40kHzである。一般的に、周波数が高いほど、コンバータが生成可能な振幅は小さくなる。剥離には比較的大きな振幅が望ましいため、比較的低い周波数のコンバータが選択されてもよい(例えば、容易に入手可能な選択肢から15kHz又は20kHz)。15kHzは可聴周波数帯域に近いため、可聴ノイズの発生により一部の実装では不適とみなされる場合がある。したがって、20kHz等のわずかに高い周波数が選択されてもよい。
【0069】
ソノトロードの超音波が発生する表面(ソノトロード前面と称される)は、矩形状であり、任意選択で15mm×210mmの寸法を有してもよい。
【0070】
装置は、ソノトロードと支持体との間に位置するように構成されたメッシュスクリーンをさらに含んでもよい。メッシュスクリーンは、使用時に、電極シートがメッシュスクリーンと支持体との間を通過するように配置されてもよい。メッシュスクリーンと支持体との間の間隔は、2mm未満であってもよく、さらに任意選択で1mmに等しくてもよい。電極シートは、支持体とメッシュスクリーンとの間に位置するように配置され、一般的には1mm未満、典型的には200μm程度の高さ(厚み)を有する。
【0071】
装置は、ソノトロードの周囲に位置する金属のバスケットを含んでもよい。メッシュスクリーンは、金属のバスケットの一部により提供されてもよい。メッシュスクリーンは、ワイヤで作られてもよい。
【0072】
当業者であれば、一の態様で任意選択(オプション)として記載された特徴が他の態様に準用可能であることを理解するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0073】
本発明は、以下の添付の図面を参照して例示的に説明される。
【0074】
図1】超音波処理槽内に配置されたソノトロードを含む電極材料剥離装置の側面図である。
図2図1の電極材料剥離装置で使用されるソニケータを示す図である。
図3図1の装置の使用状態を示す図(側面視)である。
図4】超音波処理前の電極シートを示す図である。
図5図1及び図3に示す支持体として使用される金属シートの平面図である。
図6】メッシュスクリーニングバスケット内に配置された図1及び図3に示すソノトロードの側面図である。
図7図6に示すようにメッシュスクリーニングバスケット内に配置されたソノトロードの前面図である。
図8図6及び図7に示すメッシュスクリーニングバスケットの平面図である。
図9】酸性槽中でLiMnCoNiO電極を超音波剥離させた場合の元素組成の経時変化のグラフである。
図10】塩基性槽中でLiMnCoNiO電極を超音波剥離させた場合の元素組成の経時変化のグラフである。
図11】ブレード形状のソノトロードを用いた超音波剥離に支持体の種類(可撓性対剛性)が及ぼす効果を示す図である。
図12】電極シートの金属箔から電極シートの電極材料を剥離する方法を示す図である。
図13】1250Wのソノトロードを用いた場合の距離(2.5mm及び5mm、処理時間5秒)に対する剥離強度の変化を示す図であり、(a)厚いアルミニウムシートにおけるキャビテーション浸食を示す図であり、(b)LiB正極シートの剥離を示す図である。
図14】LiB負極の超音波剥離の超高速映像から抽出された複数のフレームを示す図である。
図15】負極シートを示す図であり、(a)剥離前の負極シートを示す図であり、(b)本明細書に記載の方法及び装置を用いた剥離後の負極シートを示す図である。
図16】正極シートを示す図であり、(a)剥離前の正極シートを示す図であり、(b)本明細書に記載の方法及び装置を用いた剥離後の正極シートを示す図である。
図17】複数の電極シートの配置及び移動のための自動搬送システムを含む超音波剥離装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0075】
各図面において、同一の要素には同一の参照番号及び表記を付すこととする。
【0076】
本発明の別々の態様及び実施の形態に関連して記載される複数の特徴は、可能な限りにおいて、同時に使用されてもよく、置き換え可能であってもよい。同様に、簡潔に記載するために、複数の特徴が単一の実施の形態について記載されるが、これらの特徴は、別々に或いは任意の適切な組み合わせで提供されてもよい。
【0077】
本明細書に記載された種々の実施の形態は、超音波誘導キャビテーションによる機械的摩耗を使用して、電極300の活物質304,306から複数の電極箔302を急速に剥離させる。負極及び正極材料は、それぞれ、電極シート300を高出力超音波ホーン(ソノトロード112)の下を通過させることにより分離されてもよい。この手法は、細断された電極箔を用いてもよいし、或いは完全な状態の電極箔を用いてもよい。
【0078】
超音波処理は、タンク120(超音波槽)内の液体130中で行われる。電極材料304、306は一般的に液体よりも密度が低い一方、箔301は密度が高いため、一度剥離すると、これらの密度の違いにより各構成要素は自動的に離れ、剥離した電極材料が上部に浮いてくる場合がある。
【0079】
したがって、本明細書に記載の方法及び装置は、複数の箔302及び活物質304,306を容易に物理的に分離(剥離、異なる構成要素間の結合を破壊)可能とし得るとともに、自動的且つ物理的に隔離(密度によって、2つの異なる出力ストリームを提供)可能としてもよい。
【0080】
任意選択で、細断された負極と細断された正極との混合物、或いは完全な状態の負極と正極とが混合したストリームを使用してもよい。しかしながら、負極と正極とが混合すると、電極活物質(しばしばブラックマスと称される)が両者で異なるため、追加の工程で異なる活物質の分離が必要となる場合がある。
【0081】
使用される超音波は、キャビテーションの誘導に十分な出力を有する。キャビテーションにより形成された真空の気泡は、剥離対象物300の表面に当たると爆縮し、爆縮した気泡により発生した衝撃波により材料が破壊される。そして、分離したバインダと電極物質304,306とが液面に浮上した状態で、箔302を基板上に残したまま、複数の構成要素が密度に基づき分離され得る。これは物理的な分離処理であるため、任意の適切な液体を超音波媒体として使用することができる。また、化学的分離処理を追加で使用することもできるが、必須ではない。したがって、液体130として水を使用してもよい。
【0082】
したがって、高出力超音波による高速剥離のメカニズムに関する考察を用いて、本明細書に記載の装置100及び方法1200が設計された。
【0083】
記載される実施の形態では、金属箔の集電体をコーティングするLiB膜等の電極材料を急速に剥離するために、比較的高い出力を有するソニケータ110が選択された。剥離強度(音響圧力波及びキャビテーション気泡の数)は、距離とともに急速に減少する(例えば、B. Dubus et al., Ultrasonics Sonochemistry 17 (2010) 810-818及びL. Bai et al., Ultrasonics Sonochemistry 21 (2014) 121-128参照)。これは、超音波ソノトロードの前面に捕捉されたキャビテーション気泡がキャビテーションクラウドを形成することにより、音響エネルギーを遮断及び散乱可能となることに部分的に起因している。先行技術における超音波槽処理では、複数のソノトロード112が一般的に処理タンクの側壁に或いは側壁上に取り付けられ、タンク全体のバルク容積を「処理」し、既に緩んでいる材料を取り外す。この先行技術における超音波槽処理とは異なり、効果的な剥離のために、処理対象の電極材料300が、ソノトロード112の近く、例えばソノトロード112の超音波発生面の2cm以内、任意選択で5mm以内に配置される。したがって、超音波はより強く且つより集中されるため、活性物質を緩める又は剥離するための前処理無しで、超音波剥離が可能となる。
【0084】
図1及び図3に示すように、ソノトロード112の前面は、超音波処理槽120内の液体130に直接接触するように配置されている。したがって、前面は液体130内で自由に振動可能であり、前面の近傍に高い超音波出力密度を供給することができる。出力強度は距離とともに急速に低下するため、前面に近くなるように標的エリアを選択し得ることが理解されよう。
【0085】
図13は、直径20mmの円形の前面を有する1250Wのソノトロード112に対する距離に伴う剥離強度の変化を示す図である。特に、図13は、(a)ソノトロードからの距離2.5mm及び5mmにおける処理時間5秒後の厚いアルミニウムシートにおけるキャビテーション浸食を示す図であり、(b)ソノトロードからの距離2.5mm及び5mmにおける処理時間5秒後のLiB正極シートにおける剥離効果を示す図である。間隔が短いほど、より大きな面積が浸食/剥離されることがわかる。したがって、他の複数のパラメータのうち、ソノトロード112の出力と、除去対象の材料の深さ及び構造的完全性と、処理対象の電極シート300の幅と、に基づいて、距離を適宜調整してもよい。
【0086】
図13に示す例では、タンク120内の液体として、10%のエチレングリコールを含む水が選択された。1250Wのソノトロード112は、30%の出力で運転された。すなわち、当該ソニケータ110を375Wの出力レベルで運転した。したがって、電極前面に供給される出力密度は、119W/cmであった。
【0087】
本明細書に開示されている集電体箔から電極活物質を除去する剥離処理は、圧力波がコーティングを剥がし、これがキャビテーション崩壊により粉砕されることにより、すなわち音響波とキャビテーション浸食との両方の作用により起こることが実証されている。図14は、LiB負極の急速な超音波剥離を示す超高速ビデオフレームを示す図であり、記載された条件下で出力を印加することにより、剥離が非常に急速に/ほぼ瞬時に起こることを実証している。
【0088】
特に、図14は、直径20mmのソノトロードの下方に5mmの間隔で配置された負極コーティングの超音波剥離を示す図であり、1250Wの出力で(a)電源投入前、(b)電源投入後0.01秒及び(c)電源投入後0.5秒を示す図である。(c)において、電極シート300上の黒いクラウドは、粉砕された活物質であり、活物質が箔から0.5秒以内に剥離したことを実証している。図14に示す画像に使用されたソノトロード112は、前面の面積が3.1cmであるため、前面において398W/cmの出力密度を供給する。
【0089】
バインダ(一般的にポリマー)は、分離した活物質の小粒子306aに結合している。バインダを溶解可能な適切な溶媒が液体130内に存在しない限り(バインダによっては、種々の有機溶媒が適切であり得る)、バインダは、一般的に、超音波処理により(少なくとも本明細書に記載の処理における典型的な時間尺度では)分離されない。
【0090】
いくつかの実施の形態において、剥離が生じる液体(すなわち、タンク120を満たすべく選択される液体)は、バインダに応じて選択されてもよい。例えば、バインダがCMC/SBR(カルボキシメチルセルロース/スチレンブタジエンゴム)である場合、水又は水溶液(任意選択で中性のpHを有する)が使用されてもよい。PVDFがバインダである場合、剥離が起こる速度を上げるために、無機の酸性又は塩基性溶液をタンク120内で使用してもよい。
【0091】
超音波処理中、剥離した複数の活物質粒子306aは、一般的に、液体130全体に分散する。粒子306aは、一般的に浮力を有するため、タンク120の底に沈殿物は沈まない。タンク120が十分な時間乱されずに放置されると、軽い粒子(例えば、炭素)が重い粒子(例えば、金属酸化物)から分離することとなり、これらをタンク120内の液体130における異なる層から収集可能となる。
【0092】
液体130は、複数の粒子306aを除去するために濾過されてもよい。
【0093】
物理的な分離は、化学的な分離技術と比較して相対的に急速であるため、従来の手法において一般的に必要とされる30分から3時間よりも短い処理時間を可能とする。例えば、5分未満の処理時間で十分であり、任意選択で1分未満の処理時間であってもよく、或いは1秒未満の処理時間であっても十分たり得る。
【0094】
以下に、装置100及び方法1200について、より詳細に説明する。
【0095】
図1に示す電極材料剥離装置100は、ソニケータ110を含んで構成される。ソニケータ110は、超音波を発生するように構成される。ソニケータ110は、超音波振動を発生させるソノトロード112を含んで構成される。ソノトロード112は、超音波プローブ又はホーンとも称されてもよい。ソニケータ110は、1kW以上の出力で超音波を発生するように構成されてもよく、任意選択で1500Wと3000Wとの間の出力で、或いは1800Wと2600Wとの間の出力で、さらには2200W程度の出力で超音波を発生するように構成されてもよい。小さなソノトロード112ほど低い出力が使用されるが、その一方で、ソノトロード前面では十分に高い出力密度を供給可能である。
【0096】
記載される実施の形態において、超音波周波数は、15kHzと30kHzとの間であり、より具体的には、20kHzに等しいか、或いは20kHz程度である。
【0097】
記載される実施の形態において、ソニケータ110は、ソノトロード112に加えて、コンバータ114(より具体的には20kHzのコンバータ)と、ブースタ114と、を含んで構成される。
【0098】
上述したように、LiB電極コーティング304,306を高速で剥離するために、ソニケータ110は、比較的高く設定された出力で駆動されてもよい。理想的には、ソノトロード112前面の動作振幅は、コンバータ114及び/又はソノトロード112に高負荷を与えない範囲で可能な限り大きくてもよい。例えば、ブースタ114のゲインは、1:2程度となるように構成されてもよく、ソノトロード112のゲインは、1:3程度となるように構成されてもよい。種々の実施の形態において、ソノトロード112は、50μm以上又は80μm以上の振幅で発振するように構成されてもよく、任意選択で100μm以上の振幅で発振するように構成されてもよく、或いはさらに150μm以上の振幅で発振するように構成されてもよい。種々の実施の形態において、発振振幅は50μmから200μmの範囲内であってもよい。記載される実施の形態のソノトロード112は、100μm程度の振幅で発振するように構成される。
【0099】
ソニケータが20kHzのコンバータとブースタ114とを含んで構成される種々の実施の形態において、全体のゲインは1:6程度になる。例えば、ブースタのゲインは、少なくとも略1:2に等しくてもよく、ソノトロード112のゲインは、少なくとも略1:3に等しくてもよい。ゲインは、機器の許容範囲内であれば、ブースタ114及びソノトロード112間で、任意の適切な比率で配分されてもよい。他の実施の形態では、システムパラメータに応じて、より高い又はより低いゲインが提供されてもよい。
【0100】
ソノトロード112前面における振幅は、コンバータ、ブースタ及びソノトロードの全振幅の結合となる。振幅が大きすぎると、これらの部品に大きな負荷がかかり、寿命が短くなる可能性がある。したがって、より頑丈な部品が使用される場合、より大きな振幅(例えば、200μmから300μm以上)を使用することができる。
【0101】
図2に示す実施の形態では、コンバータ、ブースタ114及びソノトロード112は、スタック112,114として接続されている。ソニケータスタック112,114は、フレーム116に取り付けられる。フレーム116は、ベースプレート118に取り付けられる。図示される実施の形態において、フレーム116はタンク120の外部に位置し、ソノトロード112が下方に延びてタンク120内に入るように、ソノトロード112を保持する。代替の実施の形態では、ソニケータ110の取り付け位置は異なっていてもよく、及び/又はブースタが無くてもよく、及び/又はコンバータ114が無くてもよい。種々の実施の形態におけるソニケータ110は、必要な出力で超音波を/必要な出力密度を有する超音波を発生可能なソノトロード112と、ソノトロード112を要求通り機能させるための任意の適切な物理的支持体、電気部品及び制御装置と、を含む。
【0102】
記載の実施の形態では、ソノトロード112はチタンで作られている。他の実施の形態では、チタンに替えて、又はチタンと同様に、他の剛性材料が使用されてもよい。
【0103】
記載の実施の形態では、ソノトロード112はブレード形状であり、その前面は、幅の狭い長尺状であり、矩形状であってもよい。本明細書で使用されるように、ソノトロード112の「前面」は、ソノトロードにおいて超音波が発生する表面である。記載の実施の形態では、ソノトロード112は、槽120内に鉛直に(上下方向に)挿入されるように配置され、ソノトロード112の前面は下向きになり、ソノトロード112の最下部を形成する。ソノトロード前面と、電極シート300を保持するように構成された支持体122と、の間の隙間Gは、2cm未満であってよく、任意選択で5mm以下であってもよい。
【0104】
記載の実施の形態では、ソノトロード112の前面は、長さ15mm(図6に示すL)×幅210mm(図7に示すW、長辺の寸法)の寸法を有する。したがって、ソノトロード112は、210mmまでの幅を有するLiB電極シートを剥離可能な大きさである。より広い又はより狭い幅のソノトロード112を、例えば、より広い又はより狭い幅の対象物を剥離するために使用してもよい。剥離対象物300の幅に少なくとも等しい幅を有するブレード状のソノトロード112を使用すると、ソノトロード112の標的エリア(すなわち、記載の実施の形態ではソノトロードの近く及び下方)を一回通過させることにより、対象物を剥離することができる。
【0105】
記載の実施の形態では、ソノトロード112は、31.5cmの前面面積を有する。したがって、2.2kWのソノトロード出力では、ソノトロード前面には70W/cmの出力密度が供給される。他の実施の形態では、異なる前面面積及び/又は異なるソノトロード出力に対して、前面に供給される出力密度は、50W/cm以上であってよく、また、50から500W/cmの範囲であってよい。
【0106】
電極材料剥離装置100は、さらに、超音波処理槽120を含んで構成され、超音波処理槽120は、超音波槽又はタンク120とも称される。したがって、本装置は、バスソニケータ100と称されることもある。超音波処理槽120は、処理対象物300(例えば、電極シート300)に超音波を伝導するように構成された液体130を収容するように構成される。超音波処理槽120は、剥離が起こる場所、すなわち記載の実施の形態ではソノトロード112の下に配置され、ソノトロード112が下方に延びて、槽120内に入る。代替の実施の形態では、ソノトロード112は、上方からではなく、槽120の壁又は底を通って超音波処理槽120に入るように延びてもよく、或いは完全に超音波処理槽120内に位置してもよい。したがって、相対的配置はそれに応じて異なっていてもよい。
【0107】
記載の実施の形態の超音波処理槽120は、タンク120、支持体122(この場合、トレイ122の形態をとる)及びスクリーン124を含んで構成される。トレイ122は、剥離対象の電極シート300を支持するように構成され、当該電極シート300が、ソノトロード112の標的エリア内に少なくとも部分的に位置するように配置される。スクリーン124は、ソノトロード112と電極シート300との直接的な接触を防止するように配置される。代替の実施の形態においては、スクリーンを設けなくてもよい。
【0108】
記載の実施の形態では、スクリーン124はバスケット124の形態をとる。バスケット124は、スクリーンを提供し、電極シート300がソノトロード112に接触することを防ぐべく、ソノトロード112の下/周りに配置される。接触により、電極シート300の金属箔集電体302が損傷する及び/又はソノトロード112自身が損傷する可能性があるためである。バスケット124はメッシュで作られてもよく、メッシュスクリーニングバスケット124と称されることもある。記載の実施の形態では、バスケット124は、タンク124に取り外し可能に取り付けられている。他の実施の形態では、異なる方法で取り付けられてもよい。
【0109】
図6図7及び図8は、バスケット124を示す図である。バスケット124の最下面の長さLは、ソノトロード前面長Lよりも長くなるように構成されている。図示の配置において、バスケット124の最下面は、ソノトロード112の前面に平行に、且つその下方に位置するように配置されている。図7に示されるように、バスケット124の幅Wは、ソノトロード112の幅Wより長くなるように構成されている。したがって、バスケット124はソノトロード112の全幅を囲むことができる。代替の実施の形態では、剥離対象物300は、ソノトロード112よりもかなり幅が狭い場合がある。そのような場合、バスケット124は、対象物300の領域にのみ設けられればよく、ソノトロード112よりも狭くてもよい。
【0110】
図示される例では、ソノトロードの幅Wが約21cmであるのに対して、バスケットの幅Wは約22cmである。また、図示される例では、ソノトロードの長さLが約15mm(1.5cm)であるのに対して、バスケット124の長さLが約25mm(2.5cm)である。当業者であれば、バスケット124が、異なる形状及び大きさのソノトロードに対して適切な大きさとすることができることを理解するであろう。
【0111】
記載の実施の形態のバスケット124は、高さHを有し、複数の傾斜した側面が、平坦な最下面から上方に延びている。バスケットは、タンク120に取り付けるのに十分且つ少なくともソノトロードのブレードの大部分を覆うのに十分となるような高さが選択される。図示される例では、高さHは約8.8cmである。
【0112】
代替の実施の形態では、異なる型のスクリーンが使用されてもよく、バスケットの形状を有してもよく、有さなくてもよい。例えば、他の実施の形態では、バスケット124は、ソノトロード112の下方の平坦なスクリーン124と置き換えられてもよく、ソノトロード112の高さに沿って延びていなくてもよい。例えば、平坦なスクリーンがタンク120に取り付けられ、タンク全体を横切って延びていてもよい。図示される実施の形態では、剥離した材料の浮遊による障害を減少させるべく、ソノトロード112の周囲のバスケット形状のスクリーン124が選択された。
【0113】
図8に示す実施の形態では、バスケット124の平坦な最下面は、複数の平行なワイヤの列124bを含んで構成され、任意選択で、複数の平行なワイヤの列124bから構成されてもよい。また、2つの傾斜した側面は、複数のメッシュシートを含んで構成され、任意選択で、複数のメッシュシートから構成されてもよい。図示の実施の形態では、ワイヤ及びメッシュは、いずれもステンレス鋼で作られているが、当業者であれば、他の実施の形態において、他の適切な材料を代わりに又は同様に使用し得ることを理解するであろう。
【0114】
図示の配置では、トレイ122は、バスケット124の下方に位置し、バスケット124は、トレイ122とソノトロード112との間に位置する。トレイ122は、剥離対象物300を支持するための基板となる。トレイ122とバスケット124との間の(図示の配置において鉛直(上下)方向における)間隔は、5mm未満であってよく、任意選択で2mm未満であってもよく、より具体的には1mm程度であってもよい。
【0115】
記載の実施の形態では、図4に示されるように、剥離対象物は電極シート300である。対象物は、一般的に薄く、長さ或いは幅よりもはるかに短い高さを有するため、「シート」と称されることがある。電極シート300は、矩形であってもよい。電極シート300は、金属箔302(電極の集電体)と、箔302の少なくとも一方側に設けられた電極活物質304,306のコーティングと、を含んで構成される。図4に示す例では、箔302の両側の面がコーティングされる。代替例では、一面のみがコーティングされてもよい。
【0116】
電極シート300は、一般的に、2mm未満又は1mm未満の厚み(すなわち、Hは一般的に1mm未満)とされ、多くの場合500μm未満、200μm程度の厚みとされる。また、典型的には長さ(L)又は幅(W)が0.5cmから30cm程度である。本明細書に記載の方法は、材料が2mmよりも薄い薄箔材料に対して最も効果的となり得る。しかしながら、いくつかの実施の形態では、より厚みのあるシートに対しても有用となり得る。
【0117】
記載の例では、電極シート300は、リチウムイオン電池の電極であり、負極用の炭素コーティング304,306金属箔302、又は正極用の層状金属酸化物コーティング304,306金属箔302のいずれかである。したがって、電極材料、すなわち活物質は、負極用の炭素及び正極用の金属酸化物である。バインダは、活物質を結合させて層304,306とし、箔302に結合させるために使用される。種々の例において、バインダはPVDF(プロフッ化ビニリデン)、CMC-PS(カルボキシメチルセルロース-ポリスチレン)等であってもよく、及び/又は縮合ポリマー或いは付加ポリマーであってもよい。任意選択で、バインダは、多糖類又はポリペプチド等の天然ポリマーであってもよい。超音波処理は、箔集電体302からだけでなく、バインダからの電極活物質の分離の補助となり得る。代替例では、任意の適切な電極シート300を使用することができる。
【0118】
電極シート300の幅は、使用時にソノトロード112の幅Wと平行になるように配置され、ソノトロードの幅以下の長さとなるように構成される。図示の例では、電極シート300の幅Wは約200mmである。電極シート300の幅は、使用時にトレイ122の幅Wと平行になるように配置され、トレイの幅以下の長さとなるように構成される。いくつかの実施の形態において、トレイ122は、電極シート300の箔302がトレイ122の下方へ滑り込むことができないように、タンク120の幅全体に亘って延在してもよい。図示の例では、トレイ122は、24cm(240mm)の幅Wを有する。
【0119】
トレイ122は、剛性を有し、超音波処理の波動とともに移動しないように、しっかりと取り付けられる。本明細書で使用される「剛性」とは、トレイ122が処理条件下で曲がったり撓んだりしないことを意味する。図示の実施の形態では、トレイ122はタンク120に取り付けられるが、他の実施の形態では、別の方法で取り付けられてもよい。
【0120】
図示の実施の形態では、トレイ122は、ステンレス鋼で作られ、1mmから2mmの間の厚みを有し、任意選択で1mm程度の厚みを有してもよい。他の実施の形態では、所望の剛性が得られることを条件として、他の適切な材料及び/又は厚みが用いられてもよい。種々の実施の形態において、1mm以上の厚みを有するステンレス鋼が用いられてもよい。他の実施の形態では、全く異なる型の支持体122が使用されてもよい。
【0121】
電極シート300をトレイ122等の剛性を有する基板上に配置し、超音波衝撃波の発生に伴い電極シート300が移動しないようにすることにより、シート300に対してより大きな圧力をかけることが可能となるので、衝撃波によりシートをより効果的に剥離させることができる。図11は、可撓性基板であるプラスチックタンク(左)と、剛性基板である鋼板(右)と、に対する電極シート300の超音波処理の例を示す図である。鋼板(右)を用いた場合の剥離効果は、プラスチックタンク(左)を用いた場合よりはるかに強い。同様に、複数の穴を有する基板(例えば、メッシュ)を使用した場合、剥離効果は弱くなる。メッシュの基板を使用すると、電極シート300が圧力により撓むことが可能となり、剥離が軽減される。したがって、トレイ122は、剛性を有してしっかりと取り付けられるもの、さらに、少なくともソノトロード112の標的エリアの領域において連続性を有する(隙間又は孔がない)ものが選択される。
【0122】
使用時において、ソノトロード前面112は、トレイ122と平行に配置され、したがって、使用時において、電極シート300と平行に配置される。ソノトロード前面112とトレイ122との間の(図示の向きにおいて鉛直(上下)方向における)距離Gは、記載の実施の形態において5mm以下であり、例えば、2.5mm又は5.0mmである。電極シート300は、使用時においてトレイ122上に、トレイ122とソノトロード112との間に配置される。
【0123】
代替の実施の形態では、ソノトロード112の前面とトレイ122との間の間隔、つまり、ソノトロード112の前面と電極シート300との間の間隔は、さらに大きくてもよい。例えば、種々の実施の形態において、ソノトロード112の前面と電極シート300との間の距離は、2cm以下であってよく、任意選択で0.2cmから1cmまでの範囲内であってもよい。
【0124】
電極シート300をソノトロード前面112と平行に、且つソノトロード112の近くに配置することにより、衝撃波が電極シート300に効果的に作用可能となり得る。距離が大きいほど、衝撃波は弱くなるとともに歪み、十分な剥離力を及ぼすことができなくなる可能性がある。角度がある場合、剥離が不均一となる可能性が有り、電極シート300を、ソノトロード112下を滞りなく通過して移動させることがより困難になり得る。
【0125】
図示の例では、トレイ122は、ソノトロード112の前面と整列するように配置された領域内にある連続性を有するソリッドシート(連続ソリッドシート)122aと、この領域の両側にある有孔シート又はメッシュ122bと、を含んで構成される。連続ソリッドシート122aは、図示の例では3cmの長さLを有する。連続ソリッドシートにより標的エリア内(ソノトロード前面のほぼ下)の電極シート300全体が支持されるように、連続ソリッドシート122aの長さはソノトロード前面112の長さよりも長くなるように構成される。当業者であれば、超音波出力が、ソノトロード112の前面の両側において比較的急速に低下する可能性が高いことを理解するであろう。つまり、種々の実施の形態において使用されるソノトロード112では、超音波出力は、ソノトロード112の数ミリメートルの範囲(例えば、5mm未満)の外側で剥離を引き起こせるほど高くない。これは、ソノトロードの型により異なる可能性があり、したがって、標的エリアの形状及び大きさは、異なる実施の形態において異なる場合がある。
【0126】
図5に示す例では、トレイ122の残りの部分は有孔シートである。本実施の形態では、トレイ122は、特定の領域にのみ穿孔された単一のシートにより形成される。有孔シートは、タンク120の端部まで延びている。図示の実施の形態では、シートの各孔(穴)は5mm程度の直径を有し、穴の中心から中心への間隔は10mm程度である。他の実施の形態では、他の大きさ及び間隔でもよい。複数の孔は、電極シート300の下面306から剥離した材料306aが、箔302の下方のトレイ122を通過可能としてもよく、その後、任意選択で、箔302により覆われていない領域内でトレイ122を通り抜け、再び浮かび上がることを可能としてもよい。図3から分かるように、種々の配置において、剥離した材料306aは、トレイ122を再び通過することなく、(例えば、トレイの高さが液面よりも上となる端において)液体300の表面に到達してもよい。
【0127】
図2及び図3に示される配置において、トレイ122は、タンク120内に窪みを形成する。すなわち、トレイ122は、タンク120の端から液体130内に向けて傾斜し、そして水平になってソノトロード112の下方に平坦な水平領域を形成した後、タンク120の遠端まで傾斜して戻る。したがって、電極シート300は、トレイ122との接触を保ったまま移動して、液体130/タンク120の中へ入り、ソノトロード112の下方の液体を通り、液体130/タンク120の外へ戻ることができる。使用時には、電極シート300がソノトロード112の下方を移動するにつれて、電極材料304,306が箔302から剥離する。したがって、電極材料304,306の一部又は全てが箔から除去され、タンク120の向こう側に現れる際には、箔302のみとなり得る。
【0128】
代替の実施の形態では、トレイ122の代わりに、異なる形態の支持体又は基板が使用されてもよい。例えば、ソノトロード112の標的エリアに、剛性を有するローラが配置されてもよく、標的エリア内の電極シート300の一部分が、当該ローラにより支持されてもよい。電極シート300は、ローラ表面との接触を維持すべくローラの周囲に張架されてもよい。そのような実施の形態において、剥離した箔は、タンク120内に入ったときと同じ側から出てきてもよく、同じ側から出てこなくてもよい。当業者であれば、種々の実施の形態において、任意の適切な支持体122を使用可能であることを理解するであろう。
【0129】
使用時、液体130は、少なくとも部分的にタンク120を満たす(充填する)。記載の実施の形態では、液体130は、以下でより詳細に記載されるように、水又は水性溶液である。
【0130】
ソノトロード112は、少なくとも部分的に超音波処理槽120内にあり、超音波処理槽120内の少なくとも標的エリア内に超音波振動を発生させるように構成される。ソノトロード112は、少なくとも部分的に液体130に浸漬されている。
【0131】
図3は、連続的な超音波処理の一例を示す図である。ソニケータ110は、電極シート300がトレイ122の一方側(図示では左側)からソノトロード112の下方に送り込まれる間、連続的に動作する。ソノトロード112の前面の下方を通過すると、(電極材料の)コーティング304,306が剥離するので、電極シート300は、金属素箔302として他方側に現れる。主電体箔302の両側のコーティング304,306は、剥離し、破砕され、液体130中に拡散する。
【0132】
複数のローラ等(不図示)を使用して、トレイ122を横切るように電極シート300を搬送してもよい。
【0133】
電極シート300の箔302が、ソノトロード112の下方を一回通過する際に完全に剥離されるように、電極シート300の移動速度を設定してもよい。したがって、この速度は剥離速度と称されてもよい。剥離速度は、以下のような要因によって変化してもよい。
・超音波出力
・超音波出力密度/前面面積
・ソノトロード112の前面からの電極シート300の間隔
・液体130の組成
・電極材料304,306内のバインダの種類
・電極材料304,306の種類
・電極材料304,306の粒径
・箔302の種類
・コーティング304,306の厚み
【0134】
典型的な剥離速度は、1cm/s、2cm/s又は4cm/s、5cm/s又は6cm/sのいずれか以上であってよい。電極シート300の後続のエリアは、電極シート300の移動に伴い、ソノトロード112の標的エリアに入って剥離される。
【0135】
例えば、LiMnCoNiOの正極箔電極(~511g/m)の剥離速度は、2cm/s以上となり得る。これらの試験では、液体130として希酸が選択された。炭素の負極箔電極(284g/m)の剥離速度は、4cm/s以上となり得る。これらの試験では、液体130として水が選択された。粒子が大きいほど剥離しやすく、粒子径が重要であることが分かった。金属酸化物の正極箔電極に比べて炭素の負極箔電極の方が粒子径が大きいため、負極の方がより迅速に剥離させることが可能となり、剥離速度はより速くなる。これらの試験に使用された電極は、現在、リチウムイオン電池で標準的に使用されているものである。異なる型の電池の場合、剥離速度及び/又は出力を調整してもよい。
【0136】
実験において、本明細書に記載された方法1200及び装置100は、1時間の連続運転により約5kgの電極材料を除去可能であることが示された。
【0137】
種々の実施の形態において、使用される液体130は水であってもよい。これまでの研究では、キャビテーションによる剥離の誘導を目的とするのではなく、電極材料304,306を化学的に攻撃するために選択された溶液の混合性を高めることを目的として、超音波が使用された。これとは異なり、ここでは化学的処理は不要であり、それに代えてキャビテーション等による剥離の物理的処理にのみ依拠してもよい。したがって、超音波の輸送媒体として作用可能な任意の適切な液体130を使用してもよく、水は、安価であり、作業する上で比較的安全であり、また、(少なくとも処理の時間尺度では)所望の出力材料が大量に溶解してしまう可能性が低いという利点を有する。
【0138】
種々の実施の形態において、無機酸又は有機酸を水130に添加して、剥離の速度を上げてもよい。例えば、クエン酸、シュウ酸、又は乳酸が使用されてもよい。
【0139】
超音波剥離処理は、添加された酸又は塩基を用いて加速することができる。酸又は塩基は、金属箔を攻撃し、コーティング304,306と金属箔302との間の界面を開くことができる。図9及び図10は、酸性(図9)及び塩基性(図10)の液体130中で、LiMnCoNiO電極をバスソニケータ100で超音波処理する際の液体130中の元素濃度を示す図である。液体は水溶液である。各グラフは、溶液中の金属種の濃度(単位:百万分の一(ppm))が、合計300分間に亘って、時間と共にどのように変化するかを示している。
【0140】
0.1MのHSO溶液(図9)では、超音波処理を行わない場合、約120分後に剥離が完了した。HSOは、主にMn、Co、Ni及びLiを溶液中に浸出させる一方、Alはそのままとすることが分かった。対照的に、0.1MのNaOH溶液(図10)では、アルカリ溶液は主にAl集電体を攻撃し、活物質はほぼそのままであった。したがって、超音波剥離の際には、剥離後に意図する処理や、どの金属を溶解させたいか等に応じて、酸性の溶液又は塩基性の溶液を選択することができる。
【0141】
集電体302と活物質304,306との間の界面を弱めるべく、酸等の溶媒を用いて基板300をエッチングしてもよい。例えば、Al/金属酸化物(粒径5μm)電極を0.1Mの硫酸でエッチングすると、約5秒で分離可能であることが分かった(すなわち、液体130として0.1Mの硫酸を用いた5秒間の超音波処理により完全に剥離した)。このエッチングでは、金属箔302は最小限のエッチングに留まり、溶液中に失われる金属がほとんどないため、クロスコンタミネーション(交差汚染)が少ないことが分かった。或いは、コレクター層302からの活性層304,306の剥離を助けるべく、硫酸に代えて、シュウ酸、マロン酸又はアスコルビン酸等の弱有機酸を使用することも可能である。
【0142】
有機物-水系混合物(一般的に、純粋な有機系に比べて低コストで難燃性である)、深共晶溶媒/イオン液体(不燃性であるが高コストである)、ハイドロフルオロカーボン(不燃性であるが高コストで環境問題を有する)等、他の多くの溶媒系を使用可能である。溶媒により、バインダ、活物質及び箔302間の接着結合を弱め、次に超音波により、二成分又は三成分の界面を破壊することができる。
【0143】
ブラックマスからの(一般的にポリマーの)バインダの分離を容易にするために、バインダを溶解するが電極活物質304,306を溶解しない液体130が選択されてもよい。したがって、液体130は、バインダの種類に応じて選択されてもよい。例えば、ジメチルホルムアミド(DMF)等の溶媒、有機酸又は他の比較的弱い酸を使用してもよい(一般的に、水に対しわずか数vol%の酸を使用してもよい)。
【0144】
さらに、又は代替的に、アルコール等の有機溶媒を水130に添加して、或いは水に代えて使用して、表面の湿潤性を高めることができる。液体130との表面接触が高まることにより、超音波衝撃波が、表面により多くのエネルギーを付与し、バインダ、箔302及びブラックマス304,306をばらばらにすることを可能にし得る。さらに、又は代替的に、異なる有機溶媒が添加されてもよい。
【0145】
例えば、水性溶液130をコーティング層304,306に浸透させ、より迅速に金属箔302に到達させるために、有機溶媒であるプロピレンカーボネイト、γ-ブチロラクトン又はN-メチル-2-ピロリドンのうち一又は複数等の湿潤剤を含んでもよい。液体130は、かかる実施の形態において、水及び湿潤剤で構成されていてもよく、さらなる成分を含んでもよい。
【0146】
追加の又は代替の実施の形態では、一又は複数の界面活性剤、例えば1wt%のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を添加してもよい。界面活性剤は、表面の湿潤性を高めることができるので、湿潤剤として作用し、さらに、超音波処理中に、液体内で泡の発生を増加させることができる。泡は、分離した活物質304,306(ブラックマス)の泡浮遊を有益に増加させ得るので、タンク120の表面からのブラックマスの回収を容易にする。さらに、箔表面からのポリマーバインダの除去に役立ち、不要なポリマーを箔302から分離して泡浮遊させることができる。いくつかの実施の形態では、リサイクル対象のセル/電池からの水性電解質溶液の一部が液体に加えられてもよく、これにより、起泡を増加させることもできる。リチウムイオン電池の電解質は、多くの場合、有機溶液中のLiPF等のリチウム塩である。
【0147】
種々の実施の形態において、液体130は、1から13の範囲のpHを有し、任意選択で4から10の範囲のpHを有してもよい。
【0148】
使用される液体、浸漬時間、及び温度によっては、バインダの一部(一般的にはポリマー)が液体130に溶解する場合がある。バインダは、例えば、温度を下げて溶解度を低下させること、又は溶媒を蒸留することにより、溶液から回収することができる。
【0149】
超音波剥離方法1200は、図12に示される。この方法1200を使用して、電極シート300の金属箔302から電極シート300の電極材料304,306を剥離し得る。電極シート300は上記されたものであってよい。
【0150】
方法1200は、電極シート300を少なくとも部分的に超音波処理槽120内に配置する工程1202を含む。場合によっては、電極シート300は、槽120よりも長くてもよく、電極シート300の一部のみがタンク120の内部にあってもよい。したがって、電極シート300は、少なくとも部分的にタンク120内にあれば、タンク120内にあると記載されてもよい。
【0151】
電極シート300を配置する工程1202は、シート300を少なくとも部分的にソノトロード112の標的エリア内に配置する工程を含む。ソノトロード112の標的エリア(より正確には、標的容積又は領域)は、使用中のソノトロード112により発生した超音波が、キャビテーションにより剥離が誘導されるために十分な出力となる領域である。
【0152】
記載の実施の形態では、電極シート300を配置する工程1202は、剛性支持体又は基板上、好ましくは金属表面上に、電極シート300を配置する工程を含み、基板は、トレイ122によって、及び/又はローラ1702によって提供されてもよい。剛性基板122の少なくとも一部が、ソノトロード112の標的エリア内となるように配置されてもよく、好ましくは、ソノトロード112の標的エリア内に配置される剛性基板122の少なくとも一部は、連続性を有し(すなわち、いかなる種類の隙間、溝又は孔もない)、平坦である(或いは、電極シート300がその形状に合い、標的エリア内全体に亘って支持されるように、少なくとも滑らかに湾曲している)。
【0153】
タンク120は、発生した超音波を伝える媒体として機能するように構成された液体130を収容する。標的エリアは、液体130内にあるため、電極シートは、少なくとも部分的に浸漬されている。
【0154】
方法は、電極シート300を超音波出力により超音波処理する工程1204をさらに含む。超音波出力は、1kW以上であってよく、及び/又はソノトロード前面において少なくとも50W/cmの超音波出力密度を生成するように構成されてもよい。ソノトロード112は、超音波を発生させるために使用される。
【0155】
電極シート300は、リサイクル対象の電池、例えばリチウムイオン電池から取り出してもよい。
【0156】
いくつかの実施の形態では、電極シート300は、電池から分離された後、超音波処理槽120内に配置される前に、化学的処理も製錬もされない。したがって、完全な状態の電極300、或いは切断又は細断された電極のうち一又は複数の短冊状の切れ端(ストリップ)302が使用されてもいい。任意選択で、前処理は実施しなくてもよく、或いはシート300又はストリップ302が、例えば水で、単に洗浄されてもよい。当業者であれば、現在、電池電極は、リサイクル処理の一環として多くの場合細断されてリボン状となり、例えば、長さLは(例えば、20-30cmに)維持したまま、幅Wが(例えば、20-30cmから0.5-1cmに)狭くなることを理解するであろう。
【0157】
図示の例の電極シート300は、金属箔302の両側に一つずつ、二層の電極材料302,304を含んで構成される。代替の実施の形態では、単一の層の電極材料302のみが存在してもよい。
【0158】
電極シート300を超音波処理する工程1204は、2kW以上の超音波出力でシート300を処理する工程を含んで構成されてもよく、任意選択で2.2kWの超音波出力でシート300を処理する工程を含んでもよい。
【0159】
記載の実施の形態の処理工程1204は、1分未満、より具体的には30秒未満、15秒未満、10秒未満、及び2秒以下の処理時間で、電極シート300のうちソノトロードの標的エリア内の領域を剥離させる。対象物300のある領域に対する処理時間は、その領域が超音波処理されている(すなわち、超音波プローブ112が所望のレベルで動作している状態で、標的エリア内に存在している)時間として定義されてもよい。したがって、タンク120内の総滞在時間は、処理時間よりも長くてもよい。超音波は、タンク120内をくまなく伝播可能であるが、本明細書に記載されるように、タンク120内の標的エリアは、超音波が剥離を引き起こすに十分な出力及び強度を有する場所であるため、タンク120内の標的エリアにシートがある時間のみを、本明細書に記載の処理時間として定義していることを理解されよう。
【0160】
特に、種々の実施の形態において、ソノトロード112及び電極シート300は、集電体と積層複合材料のバインダとの間の接着結合をほぼ瞬時に破壊可能な音波が標的エリア内で発生するように構成される。この急速な処理により、処理の空時収量を著しく増加させるバッチ処理を必要とせずとも、積層材料の剥離を、連続的な流れの処理で電極300全体について発生させることができる。
【0161】
種々の実施の形態において、電極シート300は前処理を必要としない。任意選択で、電極シート300は、表面の汚染物質を除去するために、(例えば、脱イオン水で)洗浄されてもよい。記載の実施の形態では、電極シート300の全体が剥離されることになる。しかしながら、シート300はソノトロード112の標的エリアよりも大きいので、一度に一領域だけ剥離可能である。したがって、方法1200は、剥離対象の各領域が、剥離に十分な時間(処理期間)ソノトロード112の標的エリア内にあるように、電極シート300を再配置する工程をさらに含む。代替の実施の形態では、電極シート全体が処理エリア内に収まってもよく、したがって、シート300の全体が同時に剥離されてもよい。
【0162】
記載の実施の形態では、移動は、電極シートの任意の領域が、30分未満の期間、任意選択で1分未満の期間、超音波処理槽120の液体130内に留まるようになされる。周知の技術と比較して、液体130に浸漬される時間が短縮されることにより、箔302又は電極材料304,306の液体130への溶解を低減又は回避し得る。
【0163】
記載の実施の形態では、電極シート300の幅は、ソノトロードの標的エリアの幅に等しいか、又はそれより小さいが、電極シート300の長さは、標的エリアの長さよりも長い。したがって、電極シート300は、長尺状と記載される場合がある。方法1200は、超音波処理を処理期間提供するように構成されたソノトロード112に対して、電極シート300を相対移動させる工程を含む。移動は、記載の実施の形態では連続的である。代替の実施の形態では、連続的な移動に代えて、或いは連続的な移動に加えて、複数の処理位置間の離散的な移動が用いられてもよい。
【0164】
記載の実施の形態では、装置100は、複数のローラ(本実施の形態については不図示であるが、関連する実施の形態については図17に示す)を含んで構成される。方法1200は、(処理1204に先立ち)ローラに電極シート300を取り付ける工程と、ローラを回転させて、超音波処理槽120の中へ入り、超音波処理槽120内を移動し、超音波処理槽120の外へ出るように、電極シート300を移動させる工程(シートが槽120を離れる際、箔302がむき出しになり得ること、すなわち、ブラックマス304,306が後に残される場合があることに留意されたい)と、を含む。したがって、ローラの動きを利用して、配置工程1202を実施する。代替の実施の形態では、電極シート300は、異なる方法で配置及び移動されてもよい。
【0165】
記載の実施の形態の方法1200は、槽120の上部に浮かぶ剥離した材料306aを回収することにより、槽120から電極材料304,306を除去する工程を含む。スクープ、スクレーパー等を用いて、剥離した電極材料を集めて取り出してもよい。代替の実施の形態では、液体130の篩過や他のフィルタリング等、他の分離方法を使用してもよい。
【0166】
記載の実施の形態では、方法1200は、超音波処理1204に先立ち、液体、好ましくは水又は水溶液、で少なくとも部分的に超音波処理槽120を満たす(充填する)工程を含む。この実施の形態では、電極シート300がタンク内に配置される工程1202の前に、タンク120は満たされる(充填される)。代替の実施の形態では、タンク120には、電極シート300がそのままの状態で入れられてもよい。代替の実施の形態では、タンク120は、方法1200の一部として液体を加える必要がないように、予め満たされた(充填された)状態で供給されてもよい。
【0167】
液体130は、超音波の輸送媒体として機能する。記載の実施の形態では、液体130は、上記した通りである。
【0168】
超音波処理槽120に対する液体130は、水又は水溶液であってよい。上記したように、以下のうち一又は複数が液体130に添加されてもよい。
(i)電池電解質溶液(一般的に、1から10wt%)
(ii)アルコール(一般的に、1から10wt%)
(iii)湿潤剤(一般的に、1wt%程度)
(iv)SDS等の界面活性剤(一般的に、1wt%程度)
(v)DMF等の溶媒(一般的に、約10から100wt%)、及び/又は
(vi)クエン酸、シュウ酸、乳酸等の弱酸(通常は、0.1から1mol/リットル)
【0169】
一又は複数の添加物が、列挙した分類のうちの複数に該当する場合がある。例えば、アルコールは湿潤剤であってもよく、湿潤剤は界面活性剤であってもよい。
【0170】
電池電解質溶液は、電極シート300が取り出された電池の電解質であってもよい。リチウムイオン電池の例では、有機溶液中のLiPFであってもよい。
【0171】
界面活性剤又は他の起泡剤を超音波処理槽120に加えることで、泡沫浮選により電極材料304,306の除去を容易にすることができる。泡沫浮選は、親水性材料から疎水性材料を選択的に分離する処理であり、電極材料304,306は一般的に疎水性であるため、剥離した粒子は気泡表面に結合し、浮力のある気泡に助けられて、表面へと上昇する。
【0172】
記載の実施の形態の方法1200は、連続的な処理であり、電極シート300、或いは複数の連続する(一続きの)電極シート300が、超音波処理槽120内を連続的に移動し、ソノトロード112を通過する際に剥離される。剥離した電極材料304aを液体130の表面から除去する工程も、連続的に或いは一定間隔で、並行して実施されてもよい。代替の実施の形態では、方法1200は、バッチ処理として実施されてもよい。例えば、単一の電極シート300又は設定枚数の電極シート300を処理し、箔302を除去した後、液体130を篩過して電極材料304,306を分離させる。
【0173】
方法1200は、室温で実施されてもよい。
【0174】
方法1200は、最大粒径が50μmより大きな電極材料394,306の粒子(現在の電池電極材料としては比較的大きい)に対して特に有効であることが判明している。
【0175】
次に、種々の具体的な実施の形態について、例を挙げて説明する。
【0176】
第1の事例研究:LiB負極の剥離
【0177】
自動車用電池からのリチウムイオン電池(LiB)を分解し、負極及び正極の「箔」/シート300に分離した。負極シート300は、本明細書に記載の技術を用いて、以下の処理条件で、集電体ファイルから活物質を分離するために剥離された。
・槽溶液として、0.05Mのクエン酸を含む脱イオン水を選択した。
・ソニケータ110は、「連続溶接」モードの出力2200Wで動作させた。
・ソノトロード前面と剥離対象の表面との隙間が3mm未満となるように、ソノトロード前面とその下のサンプルトレイ/支持体との間隔を3mmに設定した。
・負極シート300は、3cm/sの速度で標的エリア内を搬送された。
・使用したソノトロード112のソノトロード前面は、15mm×210mmの寸法を有する矩形状である。
【0178】
LiB負極箔シート300(図15(a)に示す)は、20cm×23cmの大きさを有し、厚み15μmの銅箔(集電体)の両側が炭素粉末(電極活物質)でコーティングされている。炭素粉末は、PVDFポリマー(バインダ)により結合され、コーティングの厚みは70μmである。次に、負極シート300を1枚ずつ、3cm/sの速度でソノトロード112の下の隙間に送り込んだ。その後、槽120のソノトロード112とは反対側から、剥離した銅箔(図15(b))を取り除いた。炭素コーティングは粉砕されて溶液中に残されるので、複数の層が分離される。
【0179】
図15は、(a)剥離前の負極シートを示す図であり、灰黒色の活物質を示し、(b)剥離後の負極シートを示す図であり、銅色の集電体箔に僅かな量の活物質が残っていることを示す。したがって、ほぼ完全に剥離することができた。
【0180】
第2の事例研究:LiB正極の剥離
【0181】
第1の事例研究の負極シート200と同じ自動車用電池から取り出した正極シート300が、続いて、本明細書に記載の技術を用いて、以下の処理条件で、集電体ファイルから活物質を分離するために剥離された。
・槽溶液として、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を選択した。
・ソニケータ110は、「連続溶接」モードの出力2200Wで動作させた。
・ソノトロード前面と剥離対象の表面との間隔が3mm未満となるように、ソノトロード前面とその下のサンプルトレイ/支持体との隙間を3mmに設定した。
・負極シート300は、2.5cm/sの速度で標的エリア内を搬送された。
・使用したソノトロード112は第1の事例研究と同じであり、その前面は、15mm×210mmの寸法を有する矩形状である。
【0182】
LiB正極箔シート300(図16(a))は、19.5cm×22.5cmの大きさを有し、厚み20μmのアルミニウム箔の両側がリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(LiNiMnCoO、NMC)粉末でコーティングされている。NMC粉末に使用されるバインダは、PVDFポリマーであり、コーティングの厚みは100μm(負極層よりも厚い)である。次に、正極シート300を1枚ずつ、2.5cm/sの速度でソノトロード112の下の隙間に送り込んだ。その後、ソノトロード112とは反対側から、剥離したアルミニウム箔(図16(b))を取り出すと、コーティングされたNMCは破砕されて溶液中に残されるので、複数の層が分離される。
【0183】
図16は、(a)剥離前の正極シートを示す図であり、(b)剥離後の正極シートを示す図であり、箔からの活物質の除去を示している。
【0184】
第3の事例研究:シート取り出し・供給・搬送システムの設計例
【0185】
図17に示すように、LiB負極又は正極箔シート300を剥離装置100の内外に搬送するために、自動シート「ピックアンドプレース」搬送システム1700が設計された。
【0186】
供給速度は調整可能であり、剥離対象の電極シート300に応じて処理時間を適宜選択することを可能とする。複数のローラ1702を使用して、シート300が槽120内を搬送される。
【0187】
図17に示す実施の形態では、トレイ122がローラ1702の直下に位置し、ローラ1702は、ソノトロード112の標的エリアに向かい、標的エリア内に入り、標的エリア内を移動し、標的エリアの外へ出るように、電極シート300をトレイ122に沿って移動させる。シート300は、ローラ1702の下方且つトレイ122の上面上にある。他の実施の形態では、ローラ1702が支持体122のみを提供してもよく、そのような実施の形態では、一又は複数のローラ1702は、シート300の直下、特に標的エリア内に位置してもよく、シート300は、張力を与えるために、複数のローラ1702のうち一部の上方を通過し、他のローラ1702の下方を通過してもよく、或いは、一又は複数のローラの周囲を通過してもよい。
【0188】
図示の装置1700の場合、1回の運転で、溶液130を交換又は濾過することなく、24枚までの電極シート300を剥離可能であることが分かった。これを超えると、槽300内の溶液130が濃くなりすぎて、高い剥離強度を維持することができなくなる、或いは、濃くなりすぎて、シート供給のための隙間を確保できなくなってしまった。連続フローシステムの場合、活物質を除去するために溶液を通過させるフィルタを装置1700に取り付けて、超音波溶液を循環させてもよい。図17に示す実施の形態では、複数の真空吸引パッドを有するプレート1704が設けられ、特に、本実施の形態では正方形に配置された4つの真空吸引パッドが使用されるが、数及び配置は他の実施の形態では異なってもよい。プレート1704は、その下方の電極シート300に接触して持ち上げ、続いてシート300を搬送ベルトローラ1702上に載せるべく、上下方向に移動するように構成される。搬送ベルトローラ1702は、続いて、シート300を剥離タンク120内の複数のローラ1702へ送り、そこでシート300が超音波処理される。
【0189】
本開示を読めば、他の変形例及び修正例が当業者には明らかであろう。そのような変形例及び修正例は、当分野では既に知られている同等の及び他の特徴を含んでもよく、本明細書に既に記載されている特徴に代えて、またはそれに加えて使用されてもよい。
【0190】
別々の実施の形態の文脈で記載されている特徴も、単一の実施の形態において組み合わせて提供されてもよい。逆に、簡潔にするために、単一の実施の形態の文脈で説明されている様々な特徴も、別々に又は任意の適切な組合せで提供することができる。本出願人は、本出願又はそこから派生する任意のさらなる出願の係属中に、かかる特徴及び/又はかかる特徴の組合せに対して、新たな請求項を策定することができることをここに告示する。
【0191】
完全を期すために、用語「comprising(含む、含んで構成される)」が他の要素又はステップを除外しないこと、用語「a」又は「an」(「複数の」と記載されていない要素)が複数であることを除外しないこと、及び請求項におけるいかなる参照符号も請求の範囲を限定するものとして解釈してはならないことについても記載する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
【国際調査報告】