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特表2023-511525HMO生産における新しい主要促進剤スーパーファミリー(MFS)タンパク質(Fred)
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-20
(54)【発明の名称】HMO生産における新しい主要促進剤スーパーファミリー(MFS)タンパク質(Fred)
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/31 20060101AFI20230313BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230313BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20230313BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20230313BHJP
   C12P 19/04 20060101ALI20230313BHJP
【FI】
C12N15/31
C12N1/21 ZNA
C12N15/113 Z
C12P21/02 C
C12P19/04 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022540718
(86)(22)【出願日】2021-01-22
(85)【翻訳文提出日】2022-08-30
(86)【国際出願番号】 EP2021051479
(87)【国際公開番号】W WO2021148620
(87)【国際公開日】2021-07-29
(31)【優先権主張番号】PA202000087
(32)【優先日】2020-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508278309
【氏名又は名称】グリコム・アクティーゼルスカブ
【氏名又は名称原語表記】Glycom A/S
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】ペダーセン, マルギット
(72)【発明者】
【氏名】ダリゴ, イソッタ
(72)【発明者】
【氏名】カンプマン, カトリーヌ, ビッチ
(72)【発明者】
【氏名】パパダキス, マノス
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AF04
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC24
4B065AA26X
(57)【要約】
本発明は、遺伝子改変細胞における生物学的分子の組換え生産の分野に関する。より具体的には、それは、主要促進剤スーパーファミリー(MFS)のタンパク質を発現する遺伝子改変細胞を使用する母乳オリゴ糖(HMO)の組換え生産のための方法に関連し、発現されるタンパク質はFredである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ又は複数の母乳オリゴ糖(HMO)を産生できる遺伝子改変細胞であって、前記遺伝子改変細胞が、配列番号1で示される主要促進剤スーパーファミリー(MFS)ポリペプチドをコード化する異種核酸配列、又はアミノ酸配列が配列番号1と95.4%を超えて同一であるその機能的相同体を含んでなる、遺伝子改変細胞。
【請求項2】
前記機能的相同体が、配列番号1と少なくとも96%同一である、請求項1に記載の遺伝子改変細胞。
【請求項3】
前記細胞が、前記異種核酸配列の発現を調節するための調節エレメントを含んでなる核酸配列をさらに含んでなる、請求項1に記載の遺伝子改変細胞。
【請求項4】
前記調節エレメントが、前記配列番号1で示されるMFSポリペプチド、又はそのアミノ酸配列が配列番号1と95.4%を超えて同一であるその機能的相同体の発現を調節する、請求項3に記載の遺伝子改変細胞。
【請求項5】
前記調節エレメントが、PglpF、PglpF_SD4、及びPglpF_SD7からなる群から選択される、請求項3又は4に記載の遺伝子改変細胞。
【請求項6】
前記遺伝子改変細胞が、大腸菌(Escherichia coli)である、請求項1~5のいずれか一項に記載の遺伝子改変細胞。
【請求項7】
前記母乳オリゴ糖が、2’-フコシルラクトース(2’-FL)、3-フコシルラクトース(3-FL)、ジフコシルラクトース(DFL)、及びラクト-N-テトラオース(LNT)からなる群から選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の遺伝子改変細胞。
【請求項8】
配列番号1に記載のMFSポリペプチドをコード化する核酸配列を含んでなる核酸コンストラクト、又は配列番号1に対して95.4%を超える配列同一性を有するその機能的相同体であって、前記MFSポリペプチドをコード化する核酸配列が、配列番号2に対して少なくとも70%の配列同一性を有する、核酸コンストラクト又はその機能的相同体。
【請求項9】
前記コンストラクトが、調節エレメントを含んでなる核酸配列をさらに含んでなる、請求項8に記載の核酸コンストラクト。
【請求項10】
前記調節エレメントが、配列番号2に対して少なくとも70%の配列同一性を有する核酸配列の発現を調節する、請求項9に記載の核酸コンストラクト。
【請求項11】
前記調節エレメントが、PglpF、PglpF_SD4、及びPglpF_SD7からなる群から選択される、請求項9又は10に記載の核酸コンストラクト。
【請求項12】
(i)請求項1~7のいずれか一項に記載の遺伝子改変細胞を提供するステップと;
(ii)(i)に記載の遺伝子改変細胞を適切な細胞培養培地中で培養し、流出糖を輸送でき、1つ又は複数の母乳オリゴ糖(HMO)を産生する前記ポリペプチドを発現させるステップと;
(iii)ステップ(ii)で生産された1つ又は複数のHMOを収穫するステップと
を含んでなる、1つ又は複数の母乳オリゴ糖(HMO)を生合成生産するための方法。
【請求項13】
1つ又は複数の母乳オリゴ糖(HMO)を生合成生産するための、請求項1~7のいずれか一項に記載の遺伝子改変細胞、又は請求項8~11のいずれか一項に記載の核酸コンストラクトの使用。
【請求項14】
2’-FL、3-FL、DFL、及びLNTからなる群から選択される特定のHMOを生合成生産するための、請求項13に記載の遺伝子改変細胞又は核酸コンストラクトの使用。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[分野]
本発明は、遺伝子改変細胞における生物学的分子の組換え生産の分野に関する。より具体的には、それは、主要促進剤スーパーファミリー(MFS)のタンパク質を発現する遺伝子改変細胞を使用する母乳オリゴ糖(HMO)の組換え生産のための方法に関連し、発現されるタンパク質はFredである。
【0002】
[背景]
母乳は、炭水化物、脂肪、タンパク質、ビタミン、ミネラル、及び微量元素の複雑な混合物に相当する。圧倒的に優勢な画分は炭水化物に相当し、さらにラクトース及びより複雑なオリゴ糖(母乳オリゴ糖、HMO)に分けられる。ラクトースはエネルギー源として使用されるが、複雑なオリゴ糖は乳児によって代謝されない。複雑なオリゴ糖の画分は、総炭水化物画分の最大1/10を占め、おそらく150を超える異なるオリゴ糖からなる。これらの複雑なオリゴ糖の発生と濃度はヒトに固有であり、したがって例えば畜産動物などのその他の哺乳動物のミルクには大量に見られない。
【0003】
現在までに、少なくとも115のHMOの構造が決定されており(Urashima et al.:Milk Oligosaccharides,Nova Biomedical Books,New York,2011,ISBN:978-1-61122-831-1を参照されたい)、ヒトの母乳にはかなりより多く含まれていると思われる(Kunz C.et al.,(2014)Food Oligosaccharides:Production,Analysis and Bioactivity,1st Edition,p5-20,Eds.Moreno J.and Luz Sanz M.,John Wiley & Sons,Ltd)。
【0004】
HMOは、ヒトの発達における重要な機能性が発見されたことにより、過去10年で大きな関心を集めている。それらのプレバイオティクス特性に加えて、HMOはそれらの適用分野を拡大する、追加的なプラス効果に関連付けられている(Kunz C.et al.,(2014)Food Oligosaccharides:Production,Analysis and Bioactivity,1st Edition,p5-20,Eds.Moreno J.and Luz Sanz M.,John Wiley & Sons,Ltd)。HMOの健康上の利点により、乳児用調製粉乳及び乳児用食品などの食品、及び消費者向け健康製品での使用が承認されている。
【0005】
HMOの入手可能性は限られているため、効率的な商業的生産、すなわち大規模生産が非常に望ましい。いくつかのHMO化合物への化学的経路が開発されている。しかしながら、化学合成、酵素合成又は発酵によるHMOの生産は困難であることが判明している。食品及び医療用途に必要な量並びに品質を化学合成で大量に製造することは、まだ提供されていない。さらに、HMOへの化学合成経路は、最終生成物に汚染リスクを課すいくつかの有害化学物質を伴う。
【0006】
HMOの化学合成に関連する欠点を回避するために、いくつかの酵素的方法と発酵的アプローチが開発されている。発酵ベースのプロセスが、2’-フコシルラクトース、3-フコシルラクトース、ラクト-N-テトラオース、ラクト-N-ネオテトラオース、3’-シアリルラクトース、及び6’-シアリルラクトースなどのいくつかのHMOのために開発されている。発酵ベースのプロセスは、典型的には、組換え大腸菌(E.coli)などの遺伝子改変細菌株を利用する。
【0007】
HMOの発酵プロセスなどの生物工学的生産は、HMO製造にとって価値があり、費用効果が高い、大規模なアプローチである。それは、所望のオリゴ糖の合成に必要なグリコシルトランスフェラーゼを発現するように構築された遺伝子改変細菌に依存し、HMO前駆体として細菌の生来のヌクレオチド糖のプールを利用する。
【0008】
HMOの生物工学的生産における最近の開発により、細菌発現系の特定の固有の制限を克服することが可能になった。例えば、HMO産生細菌細胞は遺伝子改変されて、細菌内のヌクレオチド糖の限られた細胞内プールを増加させ(国際公開第2012112777号パンフレット)、HMO産生に関与する酵素の活性を改善し(国際公開第2016040531号パンフレット)、又は合成HMOの細胞外培地への分泌を促進してもよい(国際公開第2010142305号パンフレット、国際公開第2017042382号パンフレット)。さらに、組換え細胞内の目的の遺伝子の発現は、例えば、国際公開第2019123324号パンフレットに最近記載されたもののように、特定のプロモーター又はその他の遺伝子発現調節因子を使用することによって調節されてもよい。
【0009】
国際公開第2010142305号パンフレット及び国際公開第2017042382号パンフレットに記載されているアプローチは、例えば、国際公開第2012112777号パンフレット、国際公開第2016040531号パンフレット又は国際公開第2019123324号パンフレットの方法を使用して、高レベルの組換え遺伝子発現によって、産生細胞に課せられる代謝負荷を低減することを可能にするという利点を有する。このアプローチは、組換えHMO産生細胞工学においてますます注目を集めており、例えば、最近では、母乳の最も豊富なHMOである、組換え生産2’-フコシルラクトース(2’-FL)の流出を促進し得る、タンパク質及び発酵プロセスをコード化するいくつかの新しい糖トランスポーター遺伝子が報告されている(国際公開第2018077892号パンフレット、米国特許第201900323053号明細書、米国特許第201900323052号明細書)。
【0010】
しかしながら、糖トランスポーターの基質特異性を定義する構造と機能の関係がまだ十分に研究されておらず、非常に予測不可能なままであるので、現在のところ、例えば、UniProtなどの複数のタンパク質データベースにおいてトランスポーター機能が予測される複数の細菌タンパク質のうち、異なる組換え生産HMO構造を流出できる適切なトランスポータータンパク質を特定できるアルゴリズムはない。
【0011】
[概要]
本開示は、主要促進剤スーパーファミリー(MFS)からのFredタンパク質をコード化する異種遺伝子fredをHMO産生株で過剰発現させると、細胞によって産生されるHMOの量が増加することを示す。異なる組換え生産HMOに対して特異性を有する新しい効率的な糖流出トランスポータータンパク質の同定と、前記タンパク質を発現する組換え細胞の開発は、大規模な工業的HMO製造に有利である。
【0012】
したがって、その最も広い態様では、本発明は、1つ又は複数の母乳オリゴ糖(HMO)を産生できる遺伝子改変細胞に関し、ここで、前記遺伝子改変細胞は、配列番号1に示される主要促進剤スーパーファミリー(MFS)ポリペプチドをコード化する異種核酸配列、又はアミノ酸配列が配列番号1と少なくとも95.5、少なくとも96%同一であるなど、配列番号1と95.4%を超えて同一である、その機能的相同体を含んでなる。
【0013】
本発明による遺伝子改変細胞は、異種核酸配列の発現を調節するための調節エレメントを含んでなる、核酸配列をさらに含んでなり得る。一態様における前記調節エレメントは、配列番号1に示されるMFSポリペプチド、又はアミノ酸配列が配列番号1と95.4%を超えて同一であるその機能的相同体の発現を調節する。
【0014】
本明細書で配列番号1として同定されたアミノ酸配列は、GenBank登録ID WP_087817556.1を有するアミノ酸配列と100%同一のアミノ酸配列である。配列番号1のアミノ酸配列を有するMFSトランスポータータンパク質は、本明細書では、同義的に「Fredタンパク質」又は「Fredトランスポーター」又は「Fred」として同定され;Fredタンパク質をコード化する核酸配列は、本明細書では、配列番号2「Fredコーディング核酸/DNA」又は「fred遺伝子」又は「fred」として同定される。
【0015】
本発明は、Fredタンパク質を発現するHMO産生組換え細胞の使用が、HMOの発酵及び精製の双方に関連する、HMO製造プロセスの非常に明確な改善をもたらすことを示す。本明細書で開示されるHMO生産のための組換え細胞及び方法は、総生産HMOのより高い収率、より低い副生成物形成又は副生成物対生成物比の双方を提供し、発酵ブロスの下流処理中のHMOの回収を促進する。
【0016】
驚くべきことに、異なるHMO産生細胞におけるFredをコード化するDNA配列の発現は、細胞外培地中のいくつかの特定のHMO及び産生細胞中のその他のHMOの蓄積と、HMOの総生産の増加とに関連することが見いだされている。驚くべきことに、生産されたHMOの流出の増加は、単糖の3単位又は4単位からなるHMO、すなわち、本明細書の実施例に見られるように、例えば、2’-フコシルラクトース(2’-FL)、3-フコシルラクトース(3-FL)、3’-シアリルラクトース(3’-SL)、6’-シアリルラクトース(6’-SL)、ラクト-N-トリオース2、(LNT-2)、ラクト-N-ネオテトラオース(LNnT)、及びラクト-N-テトラオース(LNT)、特に2’-フコシルラクトース(2’-FL)、3-フコシルラクトース(3-FL)、及びラクト-N-テトラオース(LNT)など、三糖類及び四糖類であるHMOに特徴的であることが見いだされるが、産生細胞内に蓄積する五糖類及び六糖類のようなより大きなオリゴ糖構造には当てはまらない。
【0017】
驚くべきことに、fred遺伝子を発現する対応するHMO産生細胞中で、例えば、2’-フコシルラクトース(2’-FL)、3-フコシルラクトース(3-FL)、及びラクト-N-テトラオース(LNT)などの主要なHMOの総生産もまた増加することが見いだされた一方、これらの細胞中で、例えば、ジフコシルラクトース(DFL)、ラクト-N-フコペンタオースV(LNFPV)又はパラ-ラクト-ネオ-ヘキサオース-I(pLNH-I)などの副生成物生産は、対応して、しばしば減少し、前記副生成物オリゴ糖は、典型的には、産生細胞中に蓄積する。
【0018】
本発明による遺伝子改変細胞は、典型的には、調節エレメントを含んでなる核酸配列をさらに含んでなる。調節エレメントは主要促進剤スーパーファミリー(MFS)のポリペプチドをコード化する核酸の発現を調節し得て、PglpF、PglpF_SD4、及びPglpF_SD7からなる群から選択され得る。
【0019】
本発明はまた、主要促進剤スーパーファミリー(MFS)のポリペプチドをコード化する核酸配列を含んでなる核酸コンストラクトにも関し、ここで、主要促進剤スーパーファミリー(MFS)ポリペプチドをコード化する核酸配列は、配列番号2に対して少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、さらにより好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有し、本発明はまた、大腸菌(Escherichia coli)である核酸コンストラクトを含んでなる遺伝子改変細胞にも関する。
【0020】
一態様では、核酸コンストラクトは、主要促進剤スーパーファミリー(MFS)のポリペプチドをコード化する核酸配列を含んでなり、ここで、核酸配列は、配列番号2と少なくとも70%同一である。
【0021】
本発明はまた、
(i)本発明による遺伝子改変細胞を提供するステップと;
(ii)(i)に記載の遺伝子改変細胞を適切な細胞培養培地中で培養し、流出糖を輸送でき、1つ又は複数の母乳オリゴ糖(HMO)を産生する前記ポリペプチドを発現させるステップと、
(iii)ステップ(ii)で生産された1つ又は複数のHMOを収穫するステップと
を含んでなる1つ又は複数の母乳オリゴ糖(HMO)を生合成生産するための方法を提供する。
【0022】
本発明はまた、1つ又は複数の母乳オリゴ糖(HMO)生合成生産のための、主要促進剤スーパーファミリー(MFS)ポリペプチドをコード化する異種核酸配列を含んでなる、遺伝子改変細胞又は核酸コンストラクトの使用にも関し、前記核酸配列は、配列番号2に対して少なくとも70%の配列同一性を有する。
【0023】
上記のように、Fredトランスポータータンパク質をコード化する核酸配列を含んでなる1つ又は複数のHMOを産生できる遺伝子改変細胞の培養中に、驚くべきことに、対応する1つ又は複数のHMOが高収率で産生される一方、副生成物とバイオマスの形成が減少することが見いだされた。これにより、下流プロセス中のHMOの回収が促進され、例えば、全体的な回収及び精製手順がより少数のステップで構成され、精製の全体的な時間が短縮されてもよい。
【0024】
生成物収量の増加及び生成物回収の促進の効果は、本発明を先行技術の開示よりも優れたものにする。
【0025】
本発明のその他の態様及び有利な特徴は、以下で詳細に説明され、非限定的な実施例によって例証される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】配列番号1に記載のFred MFSトランスポータータンパク質の発現をコード化する、配列番号2に記載のfred遺伝子の組み込み存在下及び非存在下(それぞれ菌株2及び菌株1)における、改変大腸菌(E.coli)株(菌株1)の相対2’-FL生産量を示す。データは、深型ウェルフィードバッチアッセイから取得される。
図2】配列番号1に記載のFred MFSトランスポータータンパク質の発現をコード化する、配列番号2に記載のfred遺伝子の組み込み存在下及び非存在下(それぞれ菌株2及び菌株1)における、改変大腸菌(E.coli)株(菌株1)細胞内外の相対2’-FL分布を示す。データは、深型ウェルフィードバッチアッセイから取得される。
図3】配列番号1に記載のFred MFSトランスポータータンパク質の発現をコード化する、配列番号2に記載のfred遺伝子の組み込み存在下及び非存在下(それぞれ菌株4及び菌株3)における、改変大腸菌(E.coli)株(菌株3)の相対3-FL生産量を示す。データは、深型ウェルフィードバッチアッセイから取得される。
図4】配列番号1に記載のFred MFSトランスポータータンパク質の発現をコード化する、配列番号2に記載のfred遺伝子の組み込み存在下及び非存在下(それぞれ菌株4及び菌株3)における、改変大腸菌(E.coli)株(菌株3)細胞内外の相対3-FL分布を示す。データは、深型ウェルフィードバッチアッセイから取得される。
図5】配列番号1に記載のFred MFSトランスポータータンパク質の発現をコード化する、配列番号2に記載のfred遺伝子の組み込み存在下及び非存在下(それぞれ菌株6及び7対菌株5)における、改変大腸菌(E.coli)株(菌株5)の相対LNT生産量を示す。データは、深型ウェルフィードバッチアッセイから取得される。
図6】配列番号1に記載のFred MFSトランスポータータンパク質の発現をコード化する、配列番号2に記載のfred遺伝子の組み込み存在下及び非存在下(それぞれ菌株6及び7対菌株5)における、改変大腸菌(E.coli)株(菌株5)細胞内外の相対LNT分布を示す。データは、深型ウェルフィードバッチアッセイから取得される。
図7】GlcNacT及びGal4T遺伝子と異種トランスポーター遺伝子yberC0001_9420、bad、fred、marc、vag、nec、又はyabMをそれぞれ発現する7つの菌株の全サンプル中の相対LNnT濃度の百分率(%)を示す。MP3672株は、グリコシルトランスフェラーゼ遺伝子を発現し、トランスポーター遺伝子は発現しない。
図8】vag又はyabMを発現する細胞の上清中の相対LNnT濃度の百分率(%)を示す。
【0027】
[詳細な説明]
以下で、本発明の実施形態をさらに詳細に説明する。特徴のそれぞれの特定のバリエーションは、特に明記されていない限り、本発明の他の実施形態に適用され得る。
【0028】
一般に、本明細書で使用される全ての用語は、技術分野におけるそれらの通常の意味に従って解釈されるべきであり、明示的に定義されるか又は別段の記載がない限り、本発明の全ての態様及び実施形態に適用可能である。
【0029】
「a/an/the[細胞、配列、遺伝子、トランスポーター、ステップなど]」への全ての言及は、特に明記されていない限り、前記細胞、配列、遺伝子、トランスポーター、ステップなどの少なくとも1つの事例を指すものとして開放的に解釈されるべきである。
【0030】
本明細書で開示される任意の方法のステップは、明示的に記載されていない限り、開示される正確な順序で実行される必要はない。
【0031】
本発明は、一般に、オリゴ糖を効率的に生産するための遺伝子改変細胞、及びオリゴ糖を生産する方法における前記遺伝子改変細胞の使用に関する。特に、本発明は、オリゴ糖、好ましくは異種オリゴ糖、特に母乳オリゴ糖(HMO)を合成することを可能にする遺伝子改変細胞に関する。
【0032】
したがって、本発明の遺伝子改変細胞は、例えば、以下に説明するグリコシルトランスフェラーゼ活性を有する1つ又は複数の酵素をコード化する遺伝子など、細胞による1つ又は複数のHMOの合成に必要な(宿主細胞が1つ又は複数のHMOを合成することを可能にする)組換え核酸のセットを発現するように改変される。本発明のオリゴ糖産生組換え細胞は、細菌エルシニア・フレデリクセニイ(Yersinia frederiksenii)に由来する推定MFS(主要促進剤スーパーファミリー)トランスポータータンパク質をコード化する異種組換え核酸配列、好ましくはDNA配列を含んでなるようにさらに改変される。
【0033】
具体的には、本発明は、1つ又は複数の特定のオリゴ糖、特に1つ又は複数の特定のHMOの産生のために最適化された、Fredタンパク質をコード化する組換え核酸を含んでなる遺伝子改変細胞に関する。
【0034】
配列番号2の核酸配列を有するFredタンパク質をコード化する核酸配列は、本明細書では、「Fredコーディング核酸/DNA」又は「fred遺伝子」又は「fred」として同定される。
【0035】
本明細書で同義的に、「Fredタンパク質」又は「Fredトランスポーター」又は「Fred」として同定されるMFSトランスポータータンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列を有する;本明細書で配列番号1として同定されるアミノ酸配列は、GenBank受入ID WP_087817556.1を有するアミノ酸配列と100%の同一性を有するアミノ酸配列である。
【0036】
したがって、本発明の一態様は、1つ又は複数の母乳オリゴ糖(HMO)を産生できる遺伝子改変細胞に関し、ここで前記遺伝子改変細胞は、糖輸送が可能なポリペプチドをコード化する異種核酸配列を含んでなり、前記核酸配列は、配列番号2に対して少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、なおもより好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有する。
【0037】
さらに、本発明は、1つ又は複数の特定のオリゴ糖、特に1つ又は複数の特定のHMOの産生のために最適化され、配列番号1のアミノ酸配列に対して95.4%を超える、例えば、少なくとも95.5%の配列同一性、好ましくは少なくとも96%、より好ましくは少なくとも97%、より好ましくは少なくとも98%、なおもより好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有するタンパク質をコード化する組換え核酸を含んでなる、遺伝子改変細胞に関する。
【0038】
したがって、本発明の一態様は、1つ又は複数の母乳オリゴ糖(HMO)を産生できる遺伝子改変細胞に関し、ここで前記遺伝子改変細胞は、糖輸送が可能なポリペプチドをコード化する異種核酸配列を含んでなり、前記核酸配列は、配列番号2に対して少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、なおもより好ましくは少なくとも95%、99%などの配列同一性を有する。
【0039】
したがって、本発明の別の態様は、1つ又は複数のHMOを産生できる遺伝子改変細胞に関し、ここで、前記細胞は、配列番号1のタンパク質をコード化する組換え核酸、又はその機能的相同体を含んでなり、そのアミノ酸配列は、配列番号1と少なくとも95.4%同一、好ましくは少なくとも96%、より好ましくは少なくとも97%、より好ましくは少なくとも99%同一である。
【0040】
本文脈における「機能的相同体」とは、配列番号1と例えば、95.5%~99.9%など95.4%を超えて同一であるアミノ酸配列を有し、本発明の少なくとも1つの有利な効果を達成するのに有益な機能を有する、タンパク質を意味し、例えば、総HMO産生の増加、又は遺伝子改変細胞によるHMOの選択の増加は、生産されたHMOの回収、HMO産生効率、及び/又はHMO産生細胞の生存能力が促進される。
【0041】
「主要促進剤スーパーファミリー(MFS)」と言う用語は、糖、薬物、疎水性分子、ペプチド、有機イオンなどをはじめとする、一連の異なる基質を輸送を担当する、二次活性トランスポータークラスの大規模且つ極めて多様なファミリーを意味する。糖トランスポータータンパク質の特異性は非常に予測不可能であり、例えばオリゴ糖に対する特異性を有する新規トランスポータータンパク質の同定には、負担のない実験室実験が必要である(より詳細には、Reddy V.S.et al.,(2012),FEBS J.279(11):2022-2035によるレビューを参照されたい)。「MFSトランスポーター」という用語は、現在の文脈では、細胞膜を介した、好ましくはHMOであるオリゴ糖の輸送、好ましくは遺伝子改変細胞によって合成されたHMO/オリゴ糖、好ましくは例えば、2’-FL、3-FL、LNT-2、LNT、LNnT、3’-SL又は6’-SLなどの3つ又は4つの糖単位からなるHMO/オリゴ糖の細胞質ゾルから細胞培地への輸送を促進するタンパク質を意味する。さらに、又は代案としては、MFSトランスポーターはまた、ラクトース、グルコース、細胞代謝産物又は毒素など、本発明によるHMO又はオリゴ糖とは見なされない分子の流出を促進してもよい。
【0042】
2つ以上の核酸又はアミノ酸配列の文脈における「[特定の]%の配列同一性」という用語は、2つ以上の配列が、比較ウインドウ又は核酸又はアミノ酸の指定配列全体にわたって比較され最大の一致のためにアラインされたとき、所定の百分率で共通のヌクレオチド又はアミノ酸残基を有する(すなわち、配列は少なくとも90パーセント(%)の同一性を有する)ことを意味する。核酸又はアミノ酸配列の同一性百分率は、デフォルトパラメータでBLAST 2.0配列比較アルゴリズムを用いて、又は手動のアライメントと目視検査によって測定され得る(例えば、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/を参照されたい)。この定義はまた、試験配列の相補体に、及び欠失及び/又は付加を有する配列に、並びに置換を有する配列にも適用される。同一性百分率、配列同一性の判定、及びアライメントに適したアルゴリズムの一例は、Altschul et al.Nucl.Acids Res.25、3389(1997)に記載されている、BLAST 2.2.20+アルゴリズムである。BLAST 2.2.20+は、本発明の核酸及びタンパク質の百分率配列同一性を判定するために使用される。BLAST分析を実施するためのソフトウェアは、National Center for Biotechnology Informationを通じて公的に利用可能である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)。配列アライメントアルゴリズムの例は、CLUSTAL Omega(http://www.ebi.ac.uk/Tools/msa/clustalo/)、EMBOSSNeedle(http://www.ebi.ac.uk/Tools/psa/emboss_needle/)、MAFFT(http://mafft.cbrc.jp/alignment/server/)又はMUSCLE(http://www.ebi.ac.uk/Tools/msa/muscle/)である。
【0043】
本発明の文脈において、「オリゴ糖」という用語は、いくつかの単糖単位を含有する糖ポリマーを意味する。いくつかの実施形態では、好ましいオリゴ糖は、3つ又は4つの単糖単位、すなわち三糖又は四糖からなる糖ポリマーである。本発明の好ましいオリゴ糖は、母乳オリゴ糖(HMO)である。
【0044】
[HMO]
本文脈における「母乳オリゴ糖」又は「HMO」という用語は、母乳に見られる複雑な炭水化物を意味する。(参考文献として、Urashima et al.:Milk Oligosaccharides.Nova Science Publisher(2011);又はChen、Adv.Carbohydr.Chem.Biochem.72,113(2015)を参照されたい)。HMOは、1つ又は複数のβ-N-アセチル-ラクトサミニル及び/又は1つ又は複数のβ-ラクト-N-ビオシル単位によって伸長され得る還元末端に、ラクトース単位を含んでなるコア構造を有し、このコア構造は、α-L-フコピラノシル及び/又はα-N-アセチル-ニューラミニル(シアリル)部分で置換されている。この点において、非酸性(又は中性)HMOはシアリル残基を欠いており、酸性HMOの構造は少なくとも1つのシアリル残基を有する。非酸性(又は中性)HMOは、フコシル化HMO又は非フコシル化HMOであり得る。このような中性非フコース化HMOの例としては、ラクト-N-トリオース2(LNT-2)ラクト-N-テトラオース(LNT)、ラクト-N-ネオテトラオース(LNnT)、ラクト-N-ネオヘキサオース(LNnH)、パラ-ラクト-N-ネオヘキサオース(pLNnH)、パラ-ラクト-N-ヘキサオース(pLNH)、及びラクト-N-ヘキサオース(LNH)が挙げられる。中性フコシル化HMOの例としては、2’-フコシルラクトース(2’-FL)、ラクト-N-フコペンタオースI(LNFP-I)、ラクト-N-ジフコヘキサオースI(LNDFH-I)、3-フコシルラクトース(3-FL)、ジフコシルラクトース(DFL)、ラクト-N-フコペンタオースII(LNFP-II)、ラクト-N-フコペンタオースIII(LNFP-III)、ラクト-N-ジフコヘキサオースIII(LNDFH-III)、フコシル-ラクト-N-ヘキサオースII(FLNH-II)、ラクト-N-フコペンタオースV(LNFP-V)、ラクト-N-ジフコヘキサオースII(LNDFH-II)、フコシル-ラクト-N-ヘキサオースI(FLNH-I)、フコシル-パラ-ラクト-N-ヘキサオースI(FpLNH-I)、フコシル-パラ-ラクト-N-ネオヘキサオースII(F-pLNnH II)及びフコシル-ラクト-N-ネオヘキサオース(FLNnH)が挙げられる。酸性HMOの例としては、3’-シアリルラクトース(3’-SL)、6’-シアリルラクトース(6’-SL)、3-フコシル-3’-シアリルラクトース(FSL)、3’-O-シアリルラクト-N-テトラオースa(LST a)、フコシル-LST a(FLST a)、6’-O-シアリルラクト-N-テトラオースb(LST b)、フコシル-LST b(FLST b)、6’-O-シアリルラクト-N-ネオテトラオース(LST c)、フコシル-LST c(FLST c)、3’-O-シアリルラクト-N-ネオテトラオース(LST d)、フコシル-LST d(FLST d)、シアリル-ラクト-N-ヘキサオース(SLNH)、シアリル-ラクト-N-ネオヘキサオースI(SLNH-I)、シアリル-ラクト-N-ネオヘキサオースII(SLNH-II)及びジシアリル-ラクト-N-テトラオース(DSLNT)が挙げられる。本発明の文脈において、ラクトースはHMO種とは見なされない。
【0045】
本発明のいくつかの実施形態では、例えば、三糖類2’-FL、3-FL、LNT-2、3’-SL、6’-SL、及び四糖類DFL、LNT、LNnT、FSLなどの、トリHMO及びテトラHMOが好ましくあってもよい。
【0046】
本発明の現在好ましい態様では、トリHMOが好ましく、特に2’-FLと3-FLから選択される三糖類、及びDFLとLNTから選択される四糖類が好ましい。
【0047】
[2’-FL]
2’-フコシルラクトース(2-FL又は2’O-フコシルラクトース)は三糖であり、より正確には、L-フコース、D-ガラクトース、及びD-グルコース単位から構成される、コシル化された中性三糖である(Fucα1-2Galβ1-4Glc)。これは、母乳に自然に存在する最も一般的な母乳オリゴ糖(HMO)であり、全てのHMOの約30%を構成する。遺伝子改変細胞では又は酵素反応では、2’-FLは主に、ラクトースとフコシル供与体とのα-1,2-フコシルトランスフェラーゼ酵素反応によって生成される。
【0048】
[3-FL]
3-フコシルラクトース(3-FL)は三糖であり、より正確には、D-ガラクトース、L-フコース、及びD-グルコースから構成されるフコシル化された中性三糖である(Galβ1-4(Fucα1-3)Glc)。これは母乳に自然に存在する。遺伝子改変細胞では又は酵素反応では、3-FLは主に、ラクトースとフコシル供与体とのα-1,3-フコシルトランスフェラーゼ、又はα-1,3/4-フコシルトランスフェラーゼ酵素反応によって生成される。
【0049】
[LNT]
ラクト-N-テトラオース(LNT)は四糖であり、より正確には、ガラクトース、N-アセチルグルコサミン、ガラクトース、及びグルコースから構成される中性四糖である(GlcNAcβ1-3Galβ1-4Glc)。これは母乳に自然に存在する。
【0050】
[DFL]
ジフコシルラクトース(DFL又は2’,3-di-O-フコシルラクトース)は、オリゴ糖、より正確には、L-フコース、D-ガラクトース、L-フコース、及びD-グルコースから構成される、フコシル化中性四糖である(Fucα1-2Galβ1-4(Fucα1-3)Glc)。これは母乳に自然に存在する。遺伝子改変細胞では又は酵素反応では、DFLは、主に、ラクトースと2つのコシル供与体とのα-1,2-フコシルトランスフェラーゼ、α-1,3-フコシルトランスフェラーゼ及び/又はα-1,3/4-フコシルトランスフェラーゼ酵素反応によって生成される。
【0051】
[機能的酵素]
1つ又は複数のHMOを合成できるようにするために、本発明の組換え細胞は、グリコシルトランスフェラーゼ活性を有する機能的酵素をコード化する少なくとも1つの組換え核酸を含んでなる。ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子は、遺伝子改変細胞のゲノムに(染色体組み込みによって)組み込まれてもよく、又は代案としては、それはプラスミドDNAに含まれてプラスミド媒介性として発現されてもよい。例えば、LNT又はLNnTなどのHMOの生成に2つ以上のグリコシルトランスフェラーゼが必要な場合は、例えば、LNTの生産のために、β-1,3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ(第1のグリコシルトランスフェラーゼをコード化する第1の組換え核酸)と組み合わされたβ-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ(第2のグリコシルトランスフェラーゼをコード化する第2の組換え核酸)などのグリコシルトランスフェラーゼ活性を有する異なる酵素をコード化する2つ以上の組換え核酸がゲノムに組み込まれ、及び/又はプラスミドから発現されてもよく、ここで、第1及び第2の組換え核酸は、互いに独立して、染色体上又はプラスミド上に組み込まれ得る。
【0052】
好ましい一実施形態では、第1及び第2の組換え核酸の双方が、産生細胞の染色体に安定して組み込まれ;別の実施形態では、少なくとも第1の及び第2のグリコシルトランスフェラーゼの1つはプラスミド媒介性である。グリコシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質/酵素(グリコシルトランスフェラーゼ)は、異なる実施形態において、α-1,2-フコシルトランスフェラーゼ、α-1,3-フコシルトランスフェラーゼ、α-1,3/4-フコシルトランスフェラーゼ、α-1,4-フコシルトランスフェラーゼα-2,3-シアリルトランスフェラーゼ、α-2,6-シアリルトランスフェラーゼ、β-1,3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ、β-1,6-N-アセチルグルコサミントランスフェラーゼ、β-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ、及びβ-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ活性を有する酵素から選択されてもよい。例えば、2’-FLの生産には、改変細胞が活性なα-1,2-フコシルトランスフェラーゼ酵素を発現していることが必要であり;3-FLの生産には、改変細胞が活性なα-1,3-フコシルトランスフェラーゼ酵素を発現していることが必要であり;LNTの生産には、改変細胞が、β-1,3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼとβ-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼとの少なくとも2つのグリコシルトランスフェラーゼを発現していることが必要であり;6’-SLの生産には、改変細胞が、活性なα-2,6-シアリルトランスフェラーゼ酵素と、CMP-シアル酸合成経路とを発現していることが必要であり;3’SLの生産には、改変細胞が、活性なα-2,3-シアリルトランスフェラーゼ酵素と、CMP-シアル酸合成経路とを発現していることが必要である。産生細胞が含んでなる組換え遺伝子によってコード化され得る、グリコシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質のいくつかの非限定的実施形態は、表1の非限定的例から選択され得る。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
【表3】
【0056】
[異種核酸配列]
本発明の一態様は、配列番号1に示されるような主要促進剤スーパーファミリー(MFS)ポリペプチドであるか、又はアミノ酸配列が配列番号1と95.4%を超えて同一であるその機能的相同体である、糖輸送が可能なポリペプチドをコード化する異種核酸配列を含んでなる、核酸コンストラクトの提供であり、ここで、糖輸送ポリペプチドをコード化する核酸配列は、配列番号2に対して少なくとも70%の配列同一性を有する。
【0057】
「異種核酸配列」、「組換え遺伝子/核酸/DNAコード化」又は「コーディング核酸配列」という用語は、適切な制御配列、すなわちプロモーターの制御下にあるときに、mRNAに転写されてポリペプチドに翻訳される、連続的な重複しない三つ組(コドン)のセットを含んでなる、人工核酸配列(すなわち、核酸配列を作製するための標準的な実験方法を使用して生体外で生成される)を意味する。コード配列の境界は、一般にmRNAの5’末端のオープンリーディングフレームのすぐ上流に位置するリボソーム結合部位、転写開始コドン(AUG、GUG、又はUUG)、及び翻訳停止コドン(UAA、UGA又はUAG)によって決定される。コード配列は、ゲノムDNA、cDNA、合成、及び組換え核酸配列を含み得るが、これらに限定されるものではない。
【0058】
「核酸」という用語は、RNA、DNA、及びcDNA分子を含む。遺伝コードの縮重の結果として、所与のタンパク質をコード化する多数のヌクレオチド配列が生成されてもよいことが理解される。核酸という用語は、「ポリヌクレオチド」という用語と同義的に使用される。
【0059】
「オリゴヌクレオチド」は、短鎖核酸分子である。
【0060】
「プライマー」は、精製された制限消化物のように天然に存在するか、又は合成的に製造されるかにかかわらず、核酸鎖に相補的なプライマー伸長産物の合成が誘導される条件下(すなわち、ヌクレオチド及びDNAポリメラーゼなどの誘導剤の存在下、適切な温度及びpHで)に置かれたときに、合成の開始点として作用できるオリゴヌクレオチドである。プライマーは、増幅の効率を最大にするために一本鎖であることが好ましいが、或いは二本鎖であってもよい。二本鎖の場合、プライマーは、伸長産物の調製に使用される前に、最初にその鎖を分離するために処理される。好ましくは、プライマーはデオキシリボヌクレオチド配列である。プライマーは、誘導剤の存在下で伸長産物の合成をプライミングするのに十分な長さでなければならない。プライマーの正確な長さは、温度、プライマーの起源、及び方法の使用など、多くの要因に依存する。
【0061】
本発明の組換え核配列は、例えば遺伝子などのコーディングDNA配列、又は例えばプロモーター配列などの調節DNAなどの非コーディングDNA配列であり得る。本発明の一態様は、1つ又は複数のHMOの産生に必要な酵素をコード化する組換えDNA配列と、Fredトランスポーターをコード化するDNA配列とを含んでなる、組換え細胞を提供することに関する。したがって、一実施形態では本発明は、コーディング核配列、すなわち、例えば、グリコシルトランスフェラーゼ遺伝子又はfred遺伝子などの目的の遺伝子の組換えDNA配列、及び、例えば、lacオペロン又はglpオペロンのプロモーターに由来する組換えプロモーター配列など、例えばプロモーターDNA配列などの非コードDNA配列、又は別のゲノムプロモーターDNA配列に由来するプロモーター配列、又は合成プロモーター配列を含んでなる核酸コンストラクトに関する。ここで、コーディング配列とプロモーター配列は作動可能に連結されている。「作動可能に連結された」という用語は、2つ以上の核酸(例えば、DNA)セグメント間の機能的関係を指す。典型的には、それは、転写調節配列と転写された配列との機能的関係を指す。例えば、プロモーター配列は、それが適切な宿主細胞又はその他の発現系におけるコード配列の転写を刺激又は調節する場合、コード配列と作動可能に連結されている。一般に、転写配列と作動可能に連結されているプロモーター転写調節配列は、転写配列に物理的に隣接しており、すなわち、それらはシス作用性である。
【0062】
一実施形態では、本発明の核酸コンストラクトは、ベクターDNAの一部であってもよく、別の実施形態では、コンストラクトは、宿主細胞のゲノムに組み込まれる発現カセット/カートリッジである。したがって、「核酸コンストラクト」という用語は、人工的に構築された核酸のセグメント、特にDNAセグメントを意味し、それは、標的細胞、例えば細菌細胞に「移植」されて、ゲノムの遺伝子発現が改変されるか、又はコンストラクトに含まれてもよい遺伝子/コーディングDNA配列を発現させる。本発明の文脈において、核酸コンストラクトは、本質的に、プロモーターDNA配列を含んでなる非コーディングDNA配列と、宿主細胞におけるHMOの生産に有用なその他の遺伝子、例えばFredタンパク質、グリコシルトランスフェラーゼなどの目的の遺伝子をコード化するコーディングDNA配列との2つ以上の組換えDNA配列を含んでなる、組換えDNA配列を含有する。好ましくは、コンストラクトは、例えば、転写物へのリボソーム結合を促進するDNA配列、転写物を安定化する主要なDNA配列などの、コンストラクトのコーディングDNAの転写又は翻訳を調節する、非コーディングDNA配列をさらに含んでなる。
【0063】
コンストラクト(発現カセット)に含まれる目的の組換え核酸の細菌ゲノムへの組み込みは、従来の方法によって、例えば、染色体上の特定部位と相同な隣接配列を含有する線形カートリッジを使用することによって、attTn7部位について記載されているように(Waddell C.S.and Craig N.L.,Genes Dev.(1988)Feb;2(2):137-49.);組換えが、ファージλのRedリコンビナーゼ機能又はRacプロファージのRecE/RecTリコンビナーゼ機能によって媒介される、核酸配列のゲノム組み込みのための方法によって(Murphy,J Bacteriol.(1998);180(8):2063-7;Zhang et al.,Nature Genetics(1998)20:123-128 Muyrers et al.,EMBO Rep.(2000)1(3):239-243);Red/ET組換えに基づく方法によって(Wenzel et al.,Chem Biol.(2005),12(3):349-56.;Vetcher et al.,Appl Environ Microbiol.(2005);71(4):1829-35)、達成され得て、又は陽性クローン、すなわち発現カセットを保有するクローンは、例えばマーカー遺伝子、又は遺伝子機能の喪失又は獲得によって選択され得る。
【0064】
目的の遺伝子を含んでなる発現カセットの単一のコピーは、所望のHMOの産生を確保し、本発明による所望の効果を達成するのに十分であってもよい。したがって、いくつかの好ましい実施形態では、本発明は、細胞のゲノムDNAに組み込まれた目的の遺伝子の1つ、2つ、又は3つのコピーを含んでなる組換えHMO産生細胞に関する。いくつかの実施形態では、遺伝子の単一コピーが好ましい。
【0065】
好ましい一実施形態では、本発明の核酸コンストラクトの組換えコーディング核酸配列は、プロモーターに関して異種であり、これは、起源となる種のゲノムにおける同等の天然コード配列が、別のプロモーター配列(すなわち、コンストラクトのプロモーター配列ではない)の制御下で転写されることを意味する。さらに、宿主細胞に関して、コーディングDNAは、例えば、大腸菌(Escherichia coli)宿主細胞で発現されるFredタンパク質をコード化するDNA配列などの異種(すなわち、他の生物種又は属に由来する)、又は例えば、コロン酸オペロンの遺伝子、wca遺伝子などの同種(すなわち、宿主細胞に由来する)のどちらであってもよい。
【0066】
好ましくは、HMOの生合成生産に関連する遺伝子、プロモーターDNA配列、及びリボソーム結合部位配列(例えばシャイン・ダルガルノ配列)などのその他の調節配列を含んでなる、本発明のコンストラクトを遺伝子改変細胞で発現させることは、遺伝子改変細胞の懸濁液を含んでなる発酵培地1リットルの少なくとも0.03g/OD(光学密度)のレベル、例えば、約0.05g/l/OD~約0.5g/l/ODのレベルでのHMOの生産を可能にする。本発明の目的のために、HMO生産の後のレベルは「十分」と見なされ、所望のHMOのこのレベルを産生できる遺伝子改変細胞は「適切な遺伝子改変細胞」と見なされ、すなわち、細胞がさらに改変されて、例えば、FredなどのHMOトランスポータータンパク質を発現させ、HMO産生に有利な本明細書に記載の少なくとも1つの効果が達成され得る。
【0067】
本発明の遺伝子改変細胞又は核酸コンストラクトは、推定MFS(主要促進剤スーパーファミリー)トランスポータータンパク質をコード化する異種遺伝子などの核酸配列を含んでなる。
【0068】
本発明において特に興味深いMFSトランスポーターは、Fredタンパク質である。したがって、本発明の核酸コンストラクトは、配列番号2の遺伝子fredに対して少なくとも70%の配列同一性を有する核酸配列を含有する。
【0069】
遺伝子改変細胞又は核酸コンストラクトに含有される核酸配列は、配列番号1のタンパク質、又はアミノ酸配列が配列番号1と95.4%を超えて同一である、その機能的相同体をコード化する。
【0070】
配列番号1のタンパク質の機能的相同体は、変異誘発によって得られてもよい。機能的相同体は、配列番号1のアミノ酸配列の機能性と比較して、例えば、60%、70%、80%、90%又は100%など、少なくとも50%の残存機能性を有するべきである。機能的相同体は、配列番号1のアミノ酸配列の機能性と比較して、より高い機能性を有し得る。配列番号1の機能的相同体は、本発明による遺伝子改変細胞のHMO産生を増強できなければならない。
【0071】
[遺伝子改変細胞]
「遺伝子改変細胞」は、本明細書の用法では、異種ポリヌクレオチド配列によって形質転換又は形質移入された細胞として理解される。本文脈において、「遺伝子改変細胞」及び「宿主細胞」という用語は、同義的に使用される。
【0072】
したがって、「遺伝子改変細胞」又は「遺伝子改変細胞」は、本文脈において、外因性ポリヌクレオチド配列によって形質転換又は形質移入された宿主細胞として理解される。
【0073】
遺伝子改変細胞は、好ましくは原核細胞である。宿主細胞として機能してもよい適切な微生物細胞としては、酵母細胞、細菌細胞、古細菌細胞、藻類細胞、及び真菌細胞が挙げられる。
【0074】
[宿主細胞]
遺伝子改変細胞(宿主細胞又は組換え細胞)は、例えば、細菌又は酵母細胞であってもよい。好ましい一実施形態では、遺伝子改変細胞は、細菌細胞である。
【0075】
細菌宿主細胞に関しては、原則として制限はない;それらは、目的の遺伝子を挿入するための遺伝子操作を可能にし、製造規模で培養され得る限り、真正細菌(グラム陽性又はグラム陰性)又は古細菌であってもよい。好ましくは、宿主細胞は、高い細胞密度への培養を可能にする特性を有する。本発明によるHMOの組換え工業生産に適した細菌宿主細胞の非限定的な例は、エルウィニア・ヘルビコーラ(Erwinia herbicola)(パントエア・アグロメランス(Pantoea agglomerans))、シトロバクター・フロインディ(Citrobacter freundii)、パントエア・シトレア(Pantoea citrea)、ペクトバクテリウム・カロトボラム(Pectobacterium carotovorum)、又はキサントモナス・キャンペストリス(Xanthomonas campestris)であり得る。バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス・コアグランス(Bacillus coagulans)、バチルス・サーモフィルス(Bacillus thermophilus)、バチルス・ラテロスポールス(Bacillus laterosporus)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、バチルス・マイコイデス(Bacillus mycoides)、バチルス・プミルス(Bacillus pumilus)、バチルス・レンタス(Bacillus lentus)、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)、及びバチルス・サークランス(Bacillus circulans)をはじめとする、バチルス属(Bacillus)の細菌もまた使用されてもよい。同様に、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・ヘルベチカス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・デルブレッキイ(Lactobacillus delbrueckii)、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ブルガリア乳酸杆菌(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバチルス・クリスパータス(Lactobacillus crispatus)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・ロイテリー(Lactobacillus reuteri)、ラクトバチルス・ジェンセニイ(Lactobacillus jensenii)、及びラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)をはじめとするが、これらに限定されるものではない、ラクトバチルス属(Lactobacillus)及びラクトコッカス属(Lactococcus)の細菌が、本発明の方法を使用して改変されてもよい。ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)及びプロピオニバクテリウム・フリューデンレイッヒイ(Propionibacterium freudenreichii)もまた、本明細書に記載の発明に適切な細菌種である。本発明の一部として、本明細書に記載されるように改変された、腸球菌属(Enterococcus)(例えば、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)及びエンテロコッカス・サーモフィルス(Enterococcus thermophilus))、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)(例えば、ビフィドバクテリウム・ロングム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・インファンチス(Bifidobacterium infantis)、及びビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum))、スポロラクトバチルス属(Sporolactobacillus)種、ミクロモノスポラ属(Micromonospora)種、ミクロコッカス属(Micrococcus)種、ロドコッカス属(Rhodococcus)種、及びシュードモナス属(Pseudomonas)(例えば、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)及びシュードモナス・エルジノーサ(Pseudomonas aeruginosa))属からの菌株もまた含まれる。
【0076】
本明細書に記載の特徴を含んでなる細菌は、ラクトースの存在下で培養され、細胞によって産生されるHMOなどのオリゴ糖は、細菌それ自体又は細菌の培養上清のどちらかから回収される。好ましい一実施形態では、本発明の遺伝子改変細胞は、大腸菌(Escherichia coli)細胞である。
【0077】
別の好ましい実施形態では、宿主細胞は、例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、クルイベロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、クルイベロミセス・マルシアヌス(Kluyveromyces marxianus)などの酵母細胞である。
【0078】
本発明の遺伝子改変細胞は、例えば、Sambrook et al.,Wilson & Walker,“Maniatise et al.,and Ausubel et al.による手順書に記載されているものなど、当該技術分野の標準法を使用して提供され得る。
【0079】
例えば、大腸菌(E.coli)などのHMO産生に適した宿主は、内因性β-ガラクトシダーゼ遺伝子又は外因性β-ガラクトシダーゼ遺伝子を含んでなってもよく、例えば、大腸菌(E.coli)は、内因性lacZ遺伝子(例えば、GenBank受入れ番号V00296(GI:41901))を含んでなる。本発明の目的のために、HMO産生宿主細胞は、任意のβ-ガラクトシダーゼ遺伝子を含んでなるか、又は不活化された遺伝子を含んでなるように遺伝子操作される。遺伝子は、細菌ゲノムからの対応する核酸配列の完全な又は部分的な欠失によって不活化されてもよく、又は遺伝子配列は、それが転写される様式において変異され、又は転写される場合は転写物は翻訳されず、又はタンパク質(すなわちβ-ガラクトシダーゼ)に翻訳される場合はそのタンパク質は対応する酵素活性を有していない。このようにして、HMO産生細菌は、HMOの産生に有益な細胞内ラクトースプールの増加を蓄積する。
【0080】
いくつかの実施形態では、操作された細胞、例えば細菌は、欠損したシアル酸異化経路を含む。「シアル酸異化経路」とは、シアル酸の分解をもたらす、通常は酵素によって制御され触媒される一連の反応のことを指す。本明細書に記載の例示的なシアル酸異化経路は、大腸菌(E.coli)経路である。この経路では、シアル酸(Neu5Ac;N-アセチルノイラミン酸)は、全てnanATEK-yhcHオペロンからコード化される、酵素NanA(N-アセチルノイラミン酸リアーゼ)とNanK(N-アセチルマンノサミンキナーゼ)とNanE(N-アセチルマンノサミン-6-リン酸エピメラーゼ)とによって分解され、NanRによって抑制される(http://ecocyc.org/ECOLI)。欠損したシアル酸異化経路は、内因性nanA(N-アセチルニューラミネートリアーゼ)遺伝子(例えば、GenBank登録番号D00067.1(GL216588))及び/又はnanK(N-アセチルマンノサミンキナーゼ)遺伝子(例えば、GenBank登録番号(アミノ酸)BAE77265.1(GL85676015))、及び/又はnanE(N-アセチルマンノサミン-6-リン酸エピメラーゼ、GI:947745、参照により本明細書に援用される)遺伝子に変異を導入することにより、大腸菌(E.coli)宿主中で発現される。任意選択的に、nanT(N-アセチルニューラミネートトランスポーター)遺伝子もまた、不活性化又は変異された。シアル酸代謝のその他の中間体としては、(ManNAc-6-P)N-アセチルマンノサミン-6-リン酸;(GlcNAc-6-P)N-アセチルグルコサミン-6-リン酸;(GlcN-6-P)グルコサミン-6-リン酸、及び(Fruc-6-P)フルクトース-6-リン酸が挙げられる。いくつかの好ましい実施形態では、nanAが変異している。その他の好ましい実施形態では、nanAとnanKが変異している一方で、nanEは機能的なままである。別の好ましい実施形態では、nanA及びnanEが変異している一方で、nanKは変異又は不活性化又は欠失されていない。変異とは、nanA、nanK、nanE、及び/又はnanTの遺伝子産物をコードする核酸配列における1つ又は複数の変化である。例えば、変異は、核酸配列において、1、2、最大5、最大10、最大25、最大50又は最大100の変化であってもよい。例えば、nanA、nanK、nanE、及び/又はnanT遺伝子は、ヌル変異によって変異している。本明細書に記載のヌル変異は、酵素の機能喪失(すなわち、活性の低下又は欠如)又は酵素の欠失(すなわち、遺伝子産物なし)のいずれかを引き起こすアミノ酸の置換、付加、欠失、又は挿入を包含する。「欠失された」とは、(機能的)遺伝子産物が生成されないように、コード領域が完全に又は部分的に欠失していることを意味する。不活性化とは、得られる遺伝子産物が機能的に不活性であるか、又は例えば、未変性の、天然に存在する、内因性の遺伝子産物の活性の90%、80%、70%、60%、50%、40%、30%又は20%など、100%未満の遺伝子産物をコード化するように、コード配列が変更されていることを意味する。「変異していない」遺伝子又はタンパク質は、未変性の、天然に存在する、又は内因性のコード配列と、1、2、最大5、最大10、最大20、最大50、最大100、最大200又は最大500以上のコドン、又は対応するコード化アミノ酸配列の違いがない。
【0081】
さらに、細菌(例えば、大腸菌(E.coli))はまた、シアル酸合成能力を含んでなってもよい。例えば、細菌は、UDP-GlcNAc 2-エピメラーゼ(例えば、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)のneuC(GenBank AAK91727.1)又は同等物(例えば(GenBank CAR04561.1);Neu5Acシンターゼ(例えば、C.ジェジュニ(C.jejuni)のneuB(GenBank AAK91726.1)又は同等物(例えば、フラボバクテリウム・リムノセジミニス(Flavobacterium limnosediminis)シアル酸シンターゼ、GenBank WP_023580510.1);及び/又はCMP-Neu5Acシンセターゼ(例えば、C.ジェジュニ(C.jejuni)のneuA(GenBank AAK91728.1)又は同等物(例えば、ビブリオ・ブラジリエンシス(Vibrio brasiliensis)CMP-シアル酸シンターゼ、GenBank WP_006881452.1)の提供を通じたシアル酸合成能力を含んでなる。
【0082】
改変細菌における中性N-アセチルグルコサミン含有HMOの産生もまた当該技術分野で公知である(例えば、Gebus C et al.(2012)Carbohydrate Research 363 83-90を参照されたい)。
【0083】
上記のようなラクト-N-トリオース 2(LNT-2)、ラクト-N-テトラオース(LNT)、ラクト-N-ネオテトラオース(LNnT)、ラクト-N-フコペンタオース I(LNFP-I)、ラクト-N-フコペンタオース II(LNFP-II)、ラクト-N-フコペンタオース III(LNFP-III)、ラクト-N-フコペンタオース V(LNFP-V)、ラクト-N-ジフコヘキサオース I(LDFH-I)、ラクト-N-ジフコヘキサオース II(LDFH-II)、及びラクト-N-ネオジフコヘキサオース II(LNDFH-III)などのN-アセチルグルコサミン含有HMOの生産では、それは、外因性のUDP-GlcNAc:Galα/β-R β-3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ遺伝子、又はその機能的変異型若しくは断片を含んでなるように改変される。この外因性UDP-GlcNAc:Galα/β-R β-3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ遺伝子は、いくつかの供給源のいずれかから得られてもよい。例えば、髄膜炎菌(N.meningitidis)(Genbankタンパク質登録AAF42258.1)又は淋菌(N.gonorrhoeae)(Genbankタンパク質登録ACF31229.1)からのlgtA遺伝子が記載されている。任意選択的に、追加的な外因性グリコシルトランスフェラーゼ遺伝子が、外因性UDP-GlcNAc:Galα/β-R β-3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼを含んでなる細菌で同時発現されてもよい。例えば、β-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子が、UDP-GlcNAc:Galα/β-R β-3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ遺伝子と同時発現される。この外因性β-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子は、例えば、髄膜炎菌(N.meningitidis)から記載されているlgtB遺伝子(Genbankタンパク質登録AAF42257.1)、又はH.ピロリ(H.pylori)からのHP0826/galT遺伝子(Genbankタンパク質登録NP_207619.1)などのいくつかの起源のいずれか1つから得られ得る。任意選択的に、外因性UDP-GlcNAc:Galα/β-R β-3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ遺伝子を含んでなる細菌中で同時発現される追加的な外因性グリコシルトランスフェラーゼ遺伝子は、例えば、大腸菌(E.coli)055:H7から記載されているwbgO遺伝子(Genbankタンパク質登録WP_000582563.1)、H.ピロリ(H.pylori)からのjhp0563遺伝子(Genbankタンパク質登録AEZ55696.1)、又はストレプトコッカス・アガラクチアエ(Streptococcus agalactiae)タイプIb OI2からのcpslBJ遺伝子(Genbankタンパク質登録AB050723)などのP-l,3-ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子である。上記の酵素のいずれかの機能的変異型及び断片もまた、開示された本発明に包含される。
【0084】
N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ遺伝子及び/又はガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子はまた、Pglpに作動可能に連結され得て、対応するゲノム組み込みカセットから発現され得る。一実施形態では、ゲノムに組み込まれた遺伝子は、例えば、H.ピロリ(H.pylori)からのGalT酵素をコード化するHP0826遺伝子(Genbankタンパク質登録NP_207619.1)などのガラクトシルトランスフェラーゼをコード化する遺伝子であり;別の実施形態では、ゲノムに組み込まれた遺伝子は、例えば、髄膜炎菌(N.meningitidis)からのlgtA遺伝子(Genbankタンパク質登録AAF42258.1)などのβ-1,3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼをコード化する遺伝子である。これらの実施形態では、第2の遺伝子、すなわち、対応して、β-1,3-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ又はガラクトシルトランスフェラーゼをコード化する遺伝子は、ゲノム組み込みカセット又はプラスミド媒介カセットのいずれから発現されてもよい。第2の遺伝子は、任意選択的に、glpプロモーターの制御下で、又は例えば、Placなどの発現系に適したその他の任意のプロモーターの制御下で発現されてもよい。
【0085】
HMO産生宿主細胞は、典型的には、機能的なlacY及び機能不全のlacZ遺伝子を含んでなる。
【0086】
本発明の組換え細胞によって産生されたHMOは、当該技術分野で利用可能な適切な手順を使用して精製されてもよい(例えば、国際公開第2015188834号パンフレット、国際公開第2017182965号パンフレット又は国際公開第2017152918号パンフレットに記載されているような)。
【0087】
[糖輸送が可能なコード化ポリペプチド]
糖輸送は、オリゴ糖などであるがこれらに限定されるものではない、糖の輸送に関し、本発明との関連では、遺伝子改変細胞の細胞質又はペリプラズムから生産培地へ、及び/又は生産培地から遺伝子改変細胞の細胞質又はペリプラズムへの、1つ又は複数のHMOの流入及び/又は流出輸送に関する。したがって、遺伝子改変細胞で発現され、細胞質又はペリプラズムから生産培地に、及び/又は生産培地から遺伝子改変細胞の細胞質又はペリプラズムにHMOを輸送できるポリペプチドは、糖輸送が可能なポリペプチドである。したがって、本発明において、糖輸送は、オリゴ糖などであるがこれらに限定されるものではない糖の流出及び/又は流入輸送を意味し得る。
【0088】
その点で、糖輸送が可能なポリペプチドは、主要促進剤スーパーファミリー(MFS)に属するポリペプチドである。特に、ポリペプチドは、配列番号1に対して、例えば少なくとも95.5%、例えば少なくとも96%、97%、98%又は99%など、95.4%を超える配列同一性を有するか、又はそれは本明細書に記載するようにその機能的変異型である。配列番号1は、Fredタンパク質のアミノ酸配列である。
【0089】
本発明の遺伝子改変細胞又は核酸コンストラクトは、Fredタンパク質をコード化する異種遺伝子などの核酸配列を含んでなる。前記核酸配列は、配列番号2に示されるfred遺伝子に対して、例えば、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%又は99%など、少なくとも70%の配列同一性を有する。
【0090】
核酸配列コンストラクトは、配列番号1のタンパク質をコード化し、又はそのアミノ酸配列が配列番号1と、例えば少なくとも95.5%、96%、97%、98%、又は99%など、95.4%を超えて同一であるその機能的相同体をコード化する。
【0091】
配列番号1のタンパク質の機能的相同体は、変異誘発によって得られてもよい。機能的相同体は、配列番号1のアミノ酸配列の機能性と比較して、例えば、60%、70%、80%、90%又は100%など、少なくとも50%の残存機能性を有するべきである。機能的相同体は、配列番号1のアミノ酸配列の機能性と比較して、より高い機能性を有し得る。配列番号1の機能的相同体は、本発明による遺伝子改変細胞のHMO産生を増強できなければならない。
【0092】
遺伝子改変細胞又は核酸コンストラクトは、糖輸送が可能なポリペプチドをコード化する1つ又は複数の核酸配列を含有してもよい。より多くの場合、本発明の遺伝子改変細胞又は核酸コンストラクトは、糖輸送が可能なポリペプチドの単一コピーをコード化する。
【0093】
目的の遺伝子を含んでなる発現カセットの単一のコピーは、所望のHMOの産生を確保し、本発明による所望の効果を達成するのに十分であってもよい。したがって、いくつかの好ましい実施形態では、本発明は、細胞のゲノムDNAに組み込まれた目的の遺伝子又は遺伝子群の1つ、2つ、又は3つのコピーを含んでなる組換えHMO産生細胞に関する。いくつかの実施形態では、遺伝子又は遺伝子群の単一コピーが好ましい。
【0094】
遺伝子改変細胞又は核酸コンストラクトはまた、糖輸送ポリペプチドをコード化する核酸配列の発現を調節するための1つ又は複数の調節エレメントを含有してもよく、ここで、前記核酸配列は、配列番号2に対して少なくとも70%の配列同一性を有する。
【0095】
[調節エレメント]
上記のように、遺伝子改変細胞又は核酸コンストラクトは、配列番号2に対して少なくとも70%の配列同一性を有する核酸配列の発現を調節するための調節エレメントを含んでなる、核酸配列をさらに含んでなってもよい。調節領域の核酸配列は、異種であっても又は同種であってもよい。
【0096】
「調節エレメント」又は「プロモーター」又は「プロモーター領域」又は「プロモーターエレメント」という用語は、転写の開始中にDNA依存性RNAポリメラーゼによって認識され結合される核酸配列である。プロモーターは、その他の転写及び翻訳調節核酸配列(「制御配列」とも称される)と共に、所与の遺伝子又は遺伝子のグループ(オペロン)を発現するために必要である。一般に、転写及び翻訳調節配列には、プロモーター配列、リボソーム結合部位、転写開始及び停止配列、翻訳開始及び停止配列、並びにエンハンサー又はアクチベーター配列が含まれるが、これらに限定されるものではない。「転写開始部位」は、転写される最初のヌクレオチドを意味し、+1と指定されている。開始部位の下流のヌクレオチドには+2、+3、+4などの番号が付けられ、5’反対(上流)方向のヌクレオチドには-1、-2、-3などの番号が付けられている。コンストラクトのプロモーターは、種のゲノムにコード化された任意の遺伝子のプロモーター領域に由来し得る。好ましくは、大腸菌(E.coli)のゲノムDNAのプロモーター領域。したがって、RNAポリメラーゼに結合して転写を開始するできる任意のプロモーターは、本発明を実施するのに適している。原則として、任意のプロモーターを使用して、本発明のMFSトランスポーター又はグリコシルトランスフェラーゼなどの組換え遺伝子の転写が制御され得る。本発明を実施する際には、異なる又は同一のプロモーター配列を使用して、宿主細胞のゲノム又は発現ベクターDNAに組み込まれた、異なる、目的の遺伝子の転写が駆動されてもよい。一例ではプロモーター配列Aは、MFSトランスポーターの発現を促進し、もう1つのプロモーター配列B又は同一のプロモーター配列Aは、グリコシルトランスフェラーゼの発現を促進する。
【0097】
コンストラクトに含まれる組換え遺伝子の最適な発現を得るために、コンストラクトは、例えば、リボソーム結合の配列である大腸菌(E.coli)のglp遺伝子の5’非翻訳領域(5’UTR)に由来するDNA配列などの主要なDNA配列などのさらなる調節配列を含んでなってもよい。後の配列の例は、国際公開第2019123324号パンフレット(参照により本明細書に援用される)に記載されており、本明細書の非限定的な実施例に示されている。
【0098】
本発明の一態様では、本発明に従って、1つ又は複数の調節エレメントが、配列番号2に記載のfred遺伝子をコード化するDNAコンストラクト、及び/又は1つ又は複数のグリコシルトランスフェラーゼをコード化するDNAコンストラクトに挿入されてもよい。本発明の別の態様では、本発明によれば、配列番号2に記載のfred遺伝子の1つ又は複数のコピーがDNAコンストラクトに挿入されてもよい。本発明のなおも別の態様では、配列番号2に記載のfred遺伝子は、本発明に従って、1つ又は複数の同一の又は非同一のDNAコンストラクトに挿入されてもよい。
【0099】
本発明の一態様では、本発明のコンストラクトに含まれる組換え遺伝子の発現を調節するための調節エレメントは、glpFKXオペロンプロモーター、PglpFである。本発明の別の態様では、プロモーターはlacオペロンプロモーター、Placである。及び本発明のなおも別の態様では、調節エレメントはPglpF_SD4及び/又はPglpF_SD7であり、これらはプロモーター配列下流の修飾リボソーム結合部位配列を含んでなるPglpF配列の改変バージョンである。しかしながら、本発明による1つ又は複数のポリペプチドをコード化する1つ又は複数の組換え核酸の転写及び/又は転写レベルの調節を可能にする任意のプロモーターが、本発明を実施するのに適している。
【0100】
典型的には、本発明による異種遺伝子の発現のためのプロモーターは、表2から選択される。
【0101】
【表4】
【0102】
本発明の遺伝子改変細胞又は核酸コンストラクトに存在する好ましい調節エレメントは、PgatY_70UTR、PglpF、PglpF_SD1、PglpF_SD10、PglpF_SD2、PglpF_SD3、PglpF_SD4、PglpF_SD5、PglpF_SD6、PglpF_SD7、PglpF_SD8、PglpF_SD9、Plac_16UTR、Plac、PmglB_70UTR、及びPmglB_70UTR_SD4からなる群から選択される。
【0103】
本発明の遺伝子改変細胞又は核酸コンストラクトに存在する特に好ましい調節エレメントは、PglpF、PglpF_SD4、及びPglpF_SD7からなる群から選択される。
【0104】
[生合成生産のための遺伝子改変細胞]
本発明において、プロモーターは、遺伝子改変細胞における1つ又は複数のHMOの生合成生産の最適レベルを達成し、本発明による所望の効果の達成を可能にするために必要又は有益のいずれかであってもよい。したがって、本発明のプロモーター配列は、糖輸送が可能なポリペプチド及び/又は本発明のグリコシルトランスフェラーゼの転写及び/又は発現の調節を可能にし、HMO又はHMO前駆体の最適な生合成及び輸送及び/又はHMO生産の副生成物の分解をもたらす。
【0105】
本発明の遺伝子改変細胞においては、1つ又は複数のHMOの生合成生産に関連する少なくとも1つの遺伝子、プロモーターDNA配列、及びリボソーム結合部位配列(例えば、シャイン・ダルガルノ配列)などのその他の調節配列をコード化する核酸コンストラクトが、遺伝子改変細胞に含まれる。遺伝子改変細胞において、1つ又は複数のHMOの生合成生産に関連する遺伝子又は遺伝子群を発現させることにより、HMOの生産が可能となり、宿主細胞は、記載したように本発明を実施するための「適切な宿主細胞」となる。遺伝子改変細胞において、上述のようにHMOの生合成生産に関連する遺伝子又は遺伝子群を発現させることにより、遺伝子改変細胞の懸濁液を含んでなる発酵培地1リットルから、0.03g/l/OD(光学濃度)のレベルで1つ又は複数のHMOを生産できるようになる。したがって、HMOレベルは、少なくとも0.4g/L/ODなど、約0.05g/l/OD~約0.5g/l/ODであり得る。本発明の目的のために、HMO産生のレベルは「十分」であると見なされ、このレベルの所望のHMO又はHMO混合物を産生できる遺伝子改変細胞は、本発明を実施するための適切な遺伝子改変細胞と見なされる。
【0106】
したがって、本発明に照らして、「適切な遺伝子改変細胞」は、上記のようにさらに改変されて、例えばfredなどのMFSファミリーの糖輸送が可能な糖ポリペプチドが発現され、より高いHMOレベル又は生合成生産、生合成生産におけるより高いレベルの純度、より迅速な生産時間、及び/又はより効率的なHMOの生合成生産などであるがこれらに限定されるものではない、有利なHMO生産が何らかの形で達成され得る。
【0107】
[生産方法]
本発明の第2の態様は、1つ又は複数のHMOを製造するための方法に関し、方法は、以下のステップを含んでなる:
(i)HMOを産生できる遺伝子改変細胞を提供するステップ、ここで、前記細胞は、配列番号1のタンパク質をコード化する組換え核酸、又はその機能的相同体を含んでなり、そのアミノ酸配列は、配列番号1と少なくとも95.5%、好ましくは少なくとも96%同一、より好ましくは少なくとも99.9%同一であるなど95.4%を超えて同一である;
(ii)(i)の細胞を適切な細胞培養培地で培養し、HMO産生及びDNA配列発現を可能にし、配列番号1のアミノ酸配列又はその機能的(functional thereof)を有するタンパク質を生産するステップ、そのアミノ酸配列は、配列番号1と少なくとも95.5%、好ましくは少なくとも96%同一、より好ましくは少なくとも99.9%同一であるなど95.4%を超えて同一である;
(iii)ステップ(ii)で生産されたHMOを収穫するステップ。
【0108】
本発明によれば、「培養する(culturing)」(又は「培養する(cultivating)」又は「培養(cultivation)」、また「発酵」とも称される)という用語は、産業界で知られている方法による制御されたバイオリアクター内の細菌発現細胞の増殖に関する。
【0109】
1つ又は複数のHMOを生産するために、本明細書に記載のHMO産生細菌は、例えば、グルコース、グリセロール、ラクトースなどの適切な炭素源の存在下で当該技術分野で公知の手順に従って培養され、生産されたHMOは、培養培地及び培養プロセス中に形成された微生物バイオマスから収穫される。その後、HMOは、例えば、国際公開第2015188834号パンフレット、国際公開第2017182965号パンフレット又は国際公開第2017152918号パンフレットに記載されているような、当該技術分野で公知の手順に従って精製され、精製されたHMOは、栄養補給食品、医薬品、又は例えば研究などのその他の目的のために使用される。
【0110】
HMOの製造は、典型的には、大量の培養を実施することによって達成される。本発明の意味における「製造」及び「製造規模」という用語は、5Lの最小容量の培養液を用いた発酵を定義する。通常、「製造規模」のプロセスは、目的の生成物を含有する調製物を大量に処理でき、例えば治療用化合物又は組成物の場合、臨床試験並びに市場供給の要求量を満たす量の目的のタンパク質をもたらし得ることによって定義される。振盪フラスコ培養のような単純な実験室規模の方法とは対照的に、製造規模の方法は、大容量に加えて、撹拌、通気、栄養供給、プロセスパラメーター(pH、温度、溶存酸素濃度、背圧など)の監視と制御のための装置を備えたバイオリアクター(発酵槽)の技術システムの使用によって特徴付けられる。開示の実施例に記載されている、振盪フラスコ、卓上バイオリアクター又は深型ウェルフォーマットなど、実験室規模の方法における発現系の挙動は、かなりの程度、バイオリアクターの複雑な環境におけるその発現系の挙動を予測きるようにする。
【0111】
発酵プロセスで使用される適切な細胞培地に関しては、制限はない。培養液は、半定義であっても、すなわち複合培地化合物(例えば、酵母抽出物、大豆ペプトン、カザミノ酸など)を含有してもよく、又はそれは複合化合物を含有しない既知組成であってもよい。
【0112】
「1つ又は複数のHMO」という用語は、HMO産生細胞が、単一のHMO構造(第1のHMO)又は複数のHMO構造(第2、第3などのHMO)を産生できてもよいことを意味する。いくつかの実施形態では、単一のHMOを産生する遺伝子改変細胞が好ましくあってもよく、その他の好ましい実施形態では、複数のHMO構造を産生する遺伝子改変細胞が好ましくあってもよい。単一のHMO構造を産生する遺伝子改変細胞の非限定的な例は、2’-FL、3-FL、3’-SL、6’-SL又はLNT-2産生細胞である。複数のHMO構造を産生できる遺伝子改変細胞の非限定的例は、DFL、FSL、LNTLNnT、LNFP I、LNFP II、LNFP III、LNFP IV、LNFP V、pLNnH、pLNH2産生細胞であり得る。
【0113】
特に、本発明は、2’-FL、3-FL、DFL、及びLNT産生細胞からなる群から選択される単一のHMO構造からなる群から選択される、1つ又は複数を産生する遺伝子改変細胞に関する。
【0114】
本発明の文脈における「収穫」という用語は、発酵の終了に続いて、生産されたHMOを収集することに関する。異なる実施形態では、バイオマス(すなわち、遺伝子改変細胞)と培養培地の双方に含まれるHMOを、すなわち、バイオマスから発酵ブロスを分離する前に/分離なしに収集することを含んでもよい。その他の実施形態では、生産されたHMOは、バイオマス及び発酵ブロスとは別々に、すなわち、培養培地(すなわち、発酵ブロス)からのバイオマスの分離の後に/それに続いて収集されてもよい。培地からの細胞の分離は、任意の適切なタイプの遠心分離又は濾過など、当業者に良く知られた任意の方法で実施され得る。培地からの細胞の分離は、発酵ブロスを収穫した直後でも、又は適切な条件で発酵ブロスを保存した後の段階でも行われ得る。残りのバイオマス(又は発酵全体)からの生産されたHMOの回収には、バイオマス(産生細胞)からのHMOの抽出が含まれる。それは、例えば、超音波処理、煮沸、均質化、リゾチームを使用する酵素溶解、又は凍結及び粉砕による、当該技術分野の任意の適切な方法によって行われ得る。
【0115】
発酵からの回収後、HMOはさらなる処理と精製のために利用可能である。
【0116】
発酵によって生産されたHMOの精製は、国際公開第2016095924号パンフレット、国際公開第2015188834号パンフレット、国際公開第2017152918号パンフレット、国際公開第2017182965号パンフレット、米国特許第20190119314号明細書(全て参照により援用される)に記載されている適切な手順を用いて行い得る。
【0117】
本発明のいくつかの実施形態では、遺伝子改変細胞は、いくつかのHMOを産生してもよく、ここで、1つのHMOは「生成物」HMOであり、その他の一部/全部のHMOは「副生成物」HMOである。典型的には、副生成物HMOは、主要なHMO前駆体であるか、又は主要なHMOがさらに修飾された生成物であるかのどちらかである。いくつかの実施形態では、生成物HMOが豊富な量で生産され、副生成物HMOが少量で生産されることが望ましくあってもよい。本明細書に記載のHMO生成のための細胞及び方法は、例えば、一実施形態では、生成されたHMO混合物である、定義されたHMOプロファイルを有するHMO生成物の制御された生産を可能にし、ここで、生成物HMOは、混合物のその他のHMO(すなわち、副生成物HMO)と比較して優勢なHMOであり、すなわち、生成物HMOは、その他の副生成物HMOよりも大量に生産され;その他の実施形態では、同じHMO混合物を産生する細胞は、生成物HMOよりも大量に、1つ又は複数の副生成物HMOを生成するように調整されてもよい。例えば、生成物HMOである2’-FL及び/又は3-FLの生産中に、多くの場合、HMO副生成物である顕著な量のDFLが生産される。本発明の遺伝子改変細胞を用いて、2’-FL及び/又は3-FL生成物中のDFLのレベルを著しく低下させ得る。
【0118】
有利なことに、本発明は、生成物に対する副生成物の比率の減少と、生成物(及び/又は全体としてのHMO)の全体的な収率の増加の双方を提供する。この生成物形成に比べて少ない副生成物形成は、生成物の生産量を増加させ、生産プロセスと生成物回収プロセスの双方の効率を向上させ、HMOの優れた製造手順を提供する。
【0119】
異なる好ましい実施形態では、生成物又は副生成物HMOとして、2’-FL、3-FL、DFL及び/又はLNTを産生する異なる遺伝子改変細胞が選択されてもよい。好ましい一実施形態では、生成物は3-FLである。別の好ましい実施形態では、生成物は2’-FLであり、副生成物はDFLである。別の好ましい実施形態では、生成物はLNT-2であり、副生成物はLNT及びLNFP Iである。
【0120】
記載されている本発明の好ましいHMO生成物は、2’-FL、LNT及び3-FLである。
【0121】
[用途]
本発明はまた、1つ又は複数の母乳オリゴ糖(HMO)の生産に使用するための、本明細書に記載の宿主細胞の使用に関する。特に、本発明は、特定のHMOの生産のための本明細書に記載の宿主細胞の使用に関し、ここで、宿主細胞は、1つの特定のHMOの大部分を作製することを目的として選択され、好ましくは2’-FL、3-FL、及びLNT、現在最も好ましくは3-FLから選択される。
【0122】
[一般事項]
説明された本発明に関連して上述された任意の特徴及び/又は態様は、本明細書に記載された方法に類推適用されるものと理解されるべきである。
【0123】
以下に、本発明を説明するための図面と実施例を示す。これらは例証を意図し、いかなる意味においても限定的に解釈されるものではない。
【0124】
[実施例]
[材料と方法]
特に明記されない限り、分子生物学の分野で知られている標準技術、ベクター、制御配列エレメント、及びその他の発現系要素が、核酸の操作、形質転換、及び発現に使用される。このような標準技術、ベクター、及びエレメントは、例えば、Ausubel et al.(eds.),Current Protocols in Molecular Biology(1995)(John Wiley & Sons);Sambrook,Fritsch,& Maniatis(eds.),Molecular Cloning(1989)(Cold Spring Harbor Laboratory Press,NY);Berger & Kimmel,Methods in Enzymology 152:Guide to Molecular Cloning Techniques(1987)(Academic Press);Bukhari et al.(eds.),DNA Insertion Elements,Plasmids and Episomes(1977)(Cold Spring Harbor Laboratory Press,NY);Miller,J.H.Experiments in molecular genetics(1972.)(Cold spring Harbor Laboratory Press,NY)に見いだされ得る。
【0125】
以下に説明する実施形態は、本発明を例証するために選択されたものであり、本発明をいかなる意味においても限定するものではない。
【0126】
[菌株]
本実施例で利用された菌株は、以下の表3に記載されている。
【0127】
【表5】
【0128】
[培養]
特に明記されない限り、大腸菌(E.coli)株は、0.2%グルコースを含有する基礎最小培地中で、37℃で撹拌しながら増殖させた。寒天プレートは、37℃で一晩培養した。
【0129】
基礎最小培地は、以下の組成を有した:NaOH(1g/L)、KOH(2.5g/L)、KHPO(7g/L)、NHPO(7g/L)、クエン酸(0.5g/l)、微量ミネラル溶液(5mL/L)。微量ミネラルストック溶液は、以下を含有した:ZnSO 7H00.82g/L、クエン酸20g/L、MnSO O0.98g/L、FeSO 7HO3.925g/L、CuSO 5HO0.2g/L。基礎最小培地のpHを5NのNaOHで7.0に調整し、オートクレーブした。接種前に、基礎最小培地に、1mMのMgSO、4μg/mLのチアミン、0.5%の所与の炭素源(グリセロール(Carbosynth))を供給した。チアミン及び抗生物質は、濾過によって滅菌した。グリセロールの全ての濃度百分率はv/vとして表し、グルコースの場合はw/vとして表す。
【0130】
[化学コンピテント細胞及び形質転換]
大腸菌(E.coli)をLBプレートから0.2%グルコース含有5mL LBに接種し、37℃で約0.4のOD600まで振盪した。13.000gで25秒間遠心分離することによって、2mLの培養物を収穫した。上清を除去し、細胞ペレットを600μLの冷TB溶液(10mMのPIPES、15mMのCaCl2、250mMのKCl)に再懸濁した。細胞を氷上で20分間インキュベートした後、13.000gで15秒間のペレット化がそれに続いた。上清を除去し、細胞ペレットを100μLの冷TB溶液に再懸濁した。プラスミドの形質転換は、100μLのコンピテント細胞と1~10ngのプラスミドDNAを使用して行った。細胞とDNAを氷上で20分間インキュベートした後、42℃で45秒間熱ショックを与えた。氷上で2分間のインキュベーション後、400μLのSOC(20g/Lトリプトン、5g/Lの酵母抽出物、0.5g/LのNaCl、0.186g/LのKCl、10mMのMgCl2、10mMのMgSO4、及び20mMのグルコース)を添加して、細胞培養物を振盪しながら1時間37℃でインキュベートした後、選択プレート上にプレーティングした。
【0131】
プラスミドを供給業者(ThermoFisher Scientific)が推奨する条件で、TOP10化学コンピテント細胞に形質転換させた。
【0132】
[DNA技術]
QIAprep Spin Miniprepキット(Qiagen)を使用して、大腸菌(E.coli)からプラスミドDNAを単離した。QIAmp DNA Miniキット(Qiagen)を使用して、大腸菌(E.coli)から染色体DNAを単離した。PCR産物は、QIAquick PCR精製キット(Qiagen)を使用して精製した。DreamTaq PCRマスターミックス(Thermofisher)、PhusionUホットスタートPCRマスターミックス(Thermofisher)、USER Enzym(New England Biolab)は、供給業者の推奨に従って使用した。プライマーは、Eurofins Genomics,Germanyによって提供された。PCR断片及びプラスミドは、Eurofins Genomicsによって配列決定された。コロニーPCRは、T100(商標)サーマルサイクラー(Bio-Rad)において、DreamTaq PCRマスターミックスを使用して実行した。
【0133】
本発明の遺伝子改変HMO産生細胞で発現された異種タンパク質を表4に記載し、本発明の以下の例証において使用したプロモーターエレメントを表5に記載し、プラスミド骨格、プロモーター、エレメント、及びfredの増幅に使用したオリゴを表6に記載する。
【0134】
【表6】
【0135】
【表7】
【0136】
【表8】
【0137】
【表9】
【0138】
【表10】
【0139】
[プラスミドの構築]
大腸菌(E.coli)ゲノムへの相同組換えのために割り当てられた2つのDNA断片とT1転写ターミネーター配列とで区切られた、2つのI-SceIエンドヌクレアーゼ部位を含有するプラスミド骨格を合成した。例えば、1つのプラスミド骨格(pUC57::gal)中で、galオペロン(galKでの相同組換えに必要)と、T1転写ターミネーター配列とを合成した(GeneScript)。galオペロンでの相同組換えに使用されるDNA配列は、大腸菌(Escherichia coli)K-12 MG155完全ゲノムGenBank:ID:CP014225.1の塩基対3.628.621~3.628.720及び3.627.572~3.627.671をカバーしていた。相同組換えによる挿入は、galK及びgalK-表現型の949塩基対の欠失をもたらすであろう。同様の方法で、大腸菌(E.coli)ゲノムへの相同組換えのために割り当てられた2つのDNA断片とT1転写ターミネーター配列とで区切られた2つのI-SceIエンドヌクレアーゼ部位を含有する、pUC57(GeneScript)又はその他の適切なベクターをベースにした骨格が合成され得る。プライマーの設計及び大腸菌(Escherichia coli)K-12 DH1染色体DNAの特定のDNA配列の増幅のために、分子生物学の分野で良く知られている標準技術を使用した。このような標準技術、ベクター、及びエレメントは、例えば、Ausubel et al.(eds.),Current Protocols in Molecular Biology(1995)(John Wiley & Sons);Sambrook,Fritsch,& Maniatis(eds.),Molecular Cloning(1989)(Cold Spring Harbor Laboratory Press,NY);Berger & Kimmel,Methods in Enzymology 152:Guide to Molecular Cloning Techniques(1987)(Academic Press);Bukhari et al.(eds.)に見いだされ得る。
【0140】
大腸菌(E.coli)DH1から得られた染色体DNAを使用し、オリゴO261及びO262を使用したプロモーターPglpF、オリゴO261及びO459を使用したPglpF_SD4、及びオリゴO261及びO462を使用したPglpF_SD7を含有する、300bpのDNA断片を増幅した(表6)。
【0141】
エルシニア・フレデリクセニイ(Yersinia frederiksenii)に由来するfred遺伝子のコドン最適化バージョンである配列番号2を含有する1.182bpのDNA断片を、Genescriptによって合成した(表4)。fred遺伝子は、オリゴKABY733とKABY734を使用して増幅した。
【0142】
全てのPCR断片(プラスミド骨格、プロモーター含有エレメント、及びfred遺伝子)を精製し、プラスミド骨格、プロモーターエレメント(Plac、PglpF、PglpF_SD4又はPglpF_SD7)、及びfred(又はその他の目的の遺伝子、表4を参照されたい)含有DNA断片を組み立てた。プラスミドは、標準的なUSERクローニングによってクローン化した。任意の割り当てられたプラスミドのクローニングは、標準的なDNAクローニング技術を用いて実行され得る。プラスミドをTOP10細胞に形質転換し、100μg/mLのアンピシリン(又は任意の割り当てられた抗生物質)と0.2%グルコースとを含有するLBプレート上で選択した。構築されたプラスミドを精製し、プロモーター配列とfred遺伝子の5’末端は、DNA配列決定(MWG Eurofins Genomics)によって検証された。このようにして、fred遺伝子(又はその他の目的の遺伝子、表4を参照されたい)に連結された、任意の目的のプロモーターを含有する遺伝子カセットを構築した。
【0143】
[菌株の構築]
使用した細菌株MDOは、大腸菌(Escherichia coli)K-12 DH1から構築した。大腸菌(E.coli)K-12 DH1遺伝子型は、F、λ、gyrA96、recA1、relA1、endA1、thi-1、hsdR17、supE44である。大腸菌(E.coli)K-12 DH1遺伝子型に加えて、MDOは以下の改変を有する:lacZ:1.5kbpの欠失、lacA:0.5kbpの欠失、nanKETA:3.3kbpの欠失、melA:0.9kbpの欠失、wcaJ:0.5kbpの欠失、mdoH:0.5kbpの欠失、及びgmd遺伝子上流のPlacプロモーターの挿入。
【0144】
fred遺伝子と大腸菌(E.coli)K-12 DH1 MDOの染色体DNAのT1転写ターミネーター配列とにリンクされたプロモーターを含有する発現カセットの挿入は、Herring et al.(Herring,C.D.,Glasner,J.D.and Blattner,F.R.(2003).Gene(311).153-163)によって記載されたように、Gene Gorgingによって実行した。簡潔に述べると、ドナープラスミドとヘルパープラスミドをMDOに同時形質転換し、0.2%グルコース、アンピシリン(100μg/mL)又はカナマイシン(50mg/mL)、及びクロラムフェニコール(20μg/mL)を含有するLBプレート上で選択した。単一コロニーを、クロラムフェニコール(20μg/mL)及び10μLの20%L-アラビノースを含有する1mLのLBに接種し、37℃で振盪しながら7~8時間培養した。次に、大腸菌(E.coli)細胞のgalK遺伝子座に組み込むために、M9-DOGプレート上にプレーティングし、37℃で48時間インキュベートした。MM-DOGプレート上に形成した単一コロニーを、0.2%グルコースを含有するLBプレート上に再度画線塗抹し、37℃で24時間インキュベートした。マッコンキー・ガラクトース寒天プレート上で白く見え、アンピシリンとクロラムフェニコールの双方に感受性であるコロニーは、ドナーとヘルパープラスミドを失い、galK遺伝子座への挿入を含有していると予想された。galK部位への挿入は、プライマーO48(配列番号17)及びO49(配列番号18)を使用したコロニーPCRによって同定し、挿入されたDNAは、配列決定(Eurofins Genomics,Germany)によって検証された。
【0145】
大腸菌(E.coli)染色体DNAのその他の遺伝子座への遺伝子カセットの挿入は、異なる選択マーカー遺伝子と異なるスクリーニング方法を使用して、同様の方法で実行した。
【0146】
[深型ウェルアッセイ]
深型ウェルアッセイは、Lv et al(Bioprocess Biosyst Eng(2016)39:1737-1747)に最初に記載されたように実施して、本発明の目的のために最適化した。具体的には、実施例で開示された菌株を、24枚の深型ウェルプレート内で4日間のプロトコルでスクリーニングした。最初の24時間で、振盪機培養細胞を34℃、700rpmで振盪しながら高密度に増殖させる一方、続く48時間で2’-FL及び3-FL産生細胞、72時間でLNT産生細胞を、遺伝子発現と生成物の形成を誘導できる培地に移した。具体的には、1日目に、硫酸マグネシウム、チアミン、及びグルコースを添加した基礎最小培地を使用して、新鮮な接種材料を調製した。24時間のインキュベーション後、細胞を硫酸マグネシウムとチアミンを添加した新しい基礎最小培地(2ml)に移し、20%グルコース溶液(1μl)と10%ラクトース溶液(0.1ml)からなる初期ボーラスを添加し、次に、炭素源として50%スクロース溶液(0.04ml)を細胞に供給し、スクロースヒドロラーゼ(インベルターゼ、5μlの0.1g/L溶液)を添加して、インベルターゼによるスクロースの切断によって、増殖のためにグルコースが緩慢な速度で供給されるようにした。新しい培地を接種した後、細胞を700rpm、28℃で48時間振とうした。変性と引き続く遠心分離の後、上清をHPLCによって分析した。全サンプルの分析のために、煮沸によって調製された細胞溶解物を、4.700rpmで10分間の遠心分離によってペレット化した。上清中のHMO濃度は、HPLC又はHPAC法によって判定した。
【0147】
[実施例1-2’-FLの生産]
[fred遺伝子を発現する2’-FL生産のための大腸菌(Escherichia coli)の遺伝子操作]
大腸菌(Escherichia coli)K-12(DH1)MDO)株は、目的の異種遺伝子を発現するように操作され得る。例えば、菌株1は、α1,2-フコシルトランスフェラーゼ遺伝子、futC、及びコラン酸遺伝子(gmd-wcaG-wcaH-wcaI-manC-manB)を過剰発現する2’-FL産生株である。fredに連結されたプロモーターエレメント(PglpF)を含有する発現カセットを菌株1の背景に単一コピーで挿入すると、菌株2がもたらされた。深型ウェルアッセイからの結果は、PglpFを使用したfred遺伝子の発現が、i)2’-FL産生量を1.15倍増加させ(総2’-FL産生量の15%増加)、ii)細胞画分中の2’-FLの量を低下させ、培地中の2’-FLの量を増加させることによって、2’-FL生成物の分布を改善することを示した。
【0148】
[実施例2-3-FLの生産]
[fred遺伝子を発現する3-FL生産のための大腸菌(Escherichia coli)の遺伝子操作]
大腸菌(Escherichia coli)K-12(DH1)MDO)株は、目的の異種遺伝子を発現するように操作され得る。例えば、菌株3は、α1,3-フコシルトランスフェラーゼ遺伝子、futA、及びコラン酸遺伝子(gmd-wcaG-wcaH-wcaI-manC-manB)を過剰発現する、3-FL産生株である。fredに連結されたプロモーターエレメント(PglpF)を含有する発現カセットを菌株3の背景に単一コピーで挿入すると、菌株4がもたらされた。深型ウェルアッセイからの結果は、PglpFを使用したfred遺伝子の発現が、i)3-FL産生量をほぼ2倍増加させ(総3-FL生産量の90%増加)、ii)細胞画分中の3-FLの量を低下させ、培地中の3-FLの量を増加させることによって、3-FL生成物の分布を改善することを示した。
【0149】
[実施例3-LNTの生産]
[fred遺伝子を発現するLNT生産のための大腸菌(Escherichia coli)の遺伝子操作]
大腸菌(Escherichia coli)K-12(DH1)MDO)株は、目的の異種遺伝子を発現するように操作され得る。例えば、菌株5は、β-1,3-N-アセチルグルコサミニル-トランスフェラーゼ、lgtA、及びβ-1,3-ガラクトシルトランスフェラーゼgalTKを過剰発現する、LNT産生株である。fredに連結されたプロモーターエレメント(PglpF_SD4)を含有する発現カセットを菌株5の背景に単一コピーで挿入すると、菌株6がもたらされた。fredに連結されたプロモーターエレメント(PglpF_SD7)を含有する発現カセットを菌株5の背景に単一コピーで挿入すると、菌株7がもたらされた。深型ウェルアッセイからの結果は、PglpF_SD4又はPglpF_SD7を使用したfred遺伝子の発現が、i)LNTの生産量を1.2~1.3倍に増加させ(LNTの総生産量の20~30%増加)、ii)細胞画分中のLNTの量を低下させ、培地中のLNTの量を増加させることによって、LNT生成物の分布をわずかに改善することを示した。
【0150】
[実施例1~3の要約]
2’-FL、LNT又は3-FL産生株におけるfredの染色体発現はHMO生産量を増加させ、2’-FL及び3-FLの場合、fredの発現は細胞内(ペレット画分)のHMOの量を減少させた。
【0151】
したがって、主要促進剤スーパーファミリータンパク質fredによるHMOの搬出は、産生株のHMO生産能力を増加させる。
【0152】
【表11】
【0153】
[実施例4-VagトランスポーターはLNnTに対する高い選択性を備えた新規LNT-2コアトランスポーターである]
【0154】
【表12】
【0155】
目的のトランスポーター又はグリコシルトランスフェラーゼをコード化する異種遺伝子のDNA配列は、GenScriptによってコドン最適化され合成された。表4に示すトランスポータータンパク質をコード化する目的の遺伝子は、遺伝子の開始コドンATGと停止コドンTAAをカバーする、割り当てられたプライマーを使用したPCRによって増幅された(表3)。任意の目的の異種遺伝子を含むドナープラスミドを構築するために、標準的なUSERクローニングを採用し、関連する骨格、プロモーターエレメント、及び目的の遺伝子の精製されたPCR断片が組み合わされた。割り当てられたプラスミドのクローニングは、標準的なDNAクローニング技術を用いて実行され得る。クローニングに続いて、DNAをTOP10細胞に形質転換し、100μg/mLアンピシリン(又は適用する骨格に応じて50mg/mLカナマイシン)と0.2%グルコースとを含有するLBプレート上で選択した。構築されたプラスミドを精製し、プロモーター配列と目的の遺伝子の5’末端は、DNA配列決定(MWG Eurofins Genomics)によって検証された。
【0156】
[菌株の構築]
使用した細菌株MDOは、大腸菌(Escherichia coli)K-12 DH1から構築した。大腸菌(E.coli)K-12 DH1遺伝子型は、F、λ、gyrA96、recA1、relA1、endA1、thi-1、hsdR17、supE44である。大腸菌(E.coli)K-12 DH1遺伝子型に加えて、MDOは以下の改変を有する:lacZ:1.5kbpの欠失、lacA:0.5kbpの欠失、nanKETA:3.3kbpの欠失、melA:0.9kbpの欠失、wcaJ:0.5kbpの欠失、mdoH:0.5kbpの欠失、及びgmd遺伝子上流のPlacプロモーターの挿入。
【0157】
vag遺伝子とT1転写ターミネーター配列とに連結されたプロモーターを含有する発現カセットの挿入は、本質的にHerring et al(Herring,C.D.,Glasner,J.D.and Blattner,F.R.(2003).Gene(311).153-163)によって記載されたようにGene Gorgingによって実施し、本出願で提示された菌株を構築するために使用されるヘルパー及びドナープラスミドの例を表6に提供する。簡潔に述べると、ドナープラスミドとヘルパープラスミドをMDOに同時形質転換し、0.2%グルコース、アンピシリン(100μg/mL)又はカナマイシン(50mg/mL)、及びクロラムフェニコール(20μg/mL)を含有するLBプレート上で選択した。単一コロニーを、クロラムフェニコール(20μg/mL)及び10μLの20%L-アラビノースを含有する1mLのLBに接種し、37℃で振盪しながら7~8時間培養した。次に、大腸菌(E.coli)細胞のgalK遺伝子座に組み込むために、M9-DOGプレート上にプレーティングし、37℃で48時間インキュベートした。MM-DOGプレート上に形成した単一コロニーを、0.2%グルコースを含有するLBプレート上に再度画線塗抹し、37℃で24時間インキュベートした。マッコンキー・ガラクトース寒天プレート上で白く見え、アンピシリンとクロラムフェニコールの双方に感受性であるコロニーは、ドナーとヘルパープラスミドを失い、galK遺伝子座への挿入を含有していると予想された。galK部位への挿入は、プライマーO48(配列番号17)及びO49(配列番号18)を使用したコロニーPCRによって同定し、挿入されたDNAは、配列決定(Eurofins Genomics,Germany)によって検証された。
【0158】
大腸菌(E.coli)染色体DNAのその他の遺伝子座への遺伝子カセットの挿入は、異なる選択マーカー遺伝子を使用して、同様の方法で実行した。
【0159】
[配列アライメント]
NCBIデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov)上で、BLAST2.1.2(基本的局所アライメント検索ツール)(Altschul et al.1990)で実装されたヒューリスティックなペアワイズ配列アライメントを実行し、本発明で言及されるトランスポータータンパク質配列間の相同性を検証した。全てのパラメーターは、全てのBLASTアライメントでデフォルト値に保った。
【0160】
本発明において、本発明者らは、参考株、すなわちMP3672を使用して、宿主細胞からLNnTを搬出するための選択された異種MFSトランスポーターの能力を試験した。この菌株は、生成物の形成に必要な各異種グリコシルトランスフェラーゼのPglpF駆動コピーを1つ有する。
【0161】
選択された異種トランスポーター遺伝子、すなわちvag、yberC0001_9420、marc、bad、nec、yabM、及びfred(表4)の各1コピーを、中程度の転写レベルを提供することが知られているPlacプロモーターの制御下で、MP3672株のゲノムに個別に組み込んだ。Placプロモーターのリボソーム結合部位(すなわち、翻訳開始部位の16bp上流)は、合成された転写産物へのリボソーム結合を強化するように修飾されており(表5を参照)、このようにしてPlac駆動発現が翻訳レベルで正に制御される。
【0162】
上記の菌株遺伝子操作アプローチとDWAでの菌株性能の試験に続いて、本発明者らは、Vagを発現するLNnT産生細胞のみが、参考株と比較して、生産されたLNnTの流出とLNnTの総産生の双方における相対的な増加を示すことをここで報告する。
【0163】
図7に示すように、ほとんどのトランスポーター遺伝子(marc、fred、bad、nec、yabM、yberC0001_9420)のPlac駆動型発現は、LNnT生産に有意な影響を及ぼさないか、又はそれを減少させる(45%まで)。逆に、MP3672株の遺伝的背景にvag遺伝子を導入すると、LNnT力価は顕著に上昇する(図7)。
【0164】
試験した7つの推定MSFトランスポーターのアミノ酸配列のアライメントは、Vagトランスポーターが、本発明で試験した残りの6つのトランスポーターに対して非常に高い配列カバー率(99~100%)を有し、配列同一性が65%~75%の範囲であることを明らかにした。最も高い配列同一性(75%)は、Vagの配列と、yabM遺伝子によってコード化されるMFSトランスポーターの配列とについてスコア付けされた(表8)。興味深いことに、国際公開第2017042382号パンフレットでLNTの推定有効搬出体として記載されているMFSトランスポーターYabMは、最終的な総LNnT力価にもLNnT流出にも有意な影響を示さなかった(図7、8)。このように、Vagとの比較的高いタンパク質配列類似性に反して、YabMトランスポーターはLNnT輸送に関して効果がないようであり、これは対応する宿主細胞培養物の細胞外画分中に検出される生成物濃度によって明確に反映されている(図8)。具体的には、細菌培養の上清画分を解析によって明らかになったように、MP3994株(vag発現細胞)の細胞外LNnT濃度は、MP4362株(yabM発現細胞)及びMP3672株(異種トランスポーターを発現しない参考細胞)に比べてはるかにより高かった(図8)。
【0165】
総合すると、このデータは、VagトランスポーターがLNnTの効率的なトランスポーターであることを示唆する。この結論は、同じ参考株において同じ培養条件と同じプロモーターPlacの制御下でゲノム発現された、7つのトランスポーター遺伝子のスクリーニング手順からの結果と、YabM及びMarc(75%及び71%)などのVagと比較的高い相同性を有するトランスポータータンパク質が、LNnTを全く搬出しないか、又は搬出する場合は効率が非常に低いことを明らかにした、トランスポータータンパク質配列の解析との双方から導き出される。
【0166】
【表13】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
2023511525000001.app
【国際調査報告】