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特表2023-511586造血幹細胞の増殖を促進するための方法およびその方法で使用するための薬剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-20
(54)【発明の名称】造血幹細胞の増殖を促進するための方法およびその方法で使用するための薬剤
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0789 20100101AFI20230313BHJP
   C12N 9/02 20060101ALI20230313BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230313BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230313BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20230313BHJP
   A61K 31/4709 20060101ALI20230313BHJP
【FI】
C12N5/0789
C12N9/02
A61K45/00
A61P43/00 111
A61P7/00
A61K31/4709
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022544839
(86)(22)【出願日】2021-01-22
(85)【翻訳文提出日】2022-08-05
(86)【国際出願番号】 FI2021050039
(87)【国際公開番号】W WO2021148720
(87)【国際公開日】2021-07-29
(31)【優先権主張番号】20205073
(32)【優先日】2020-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504459559
【氏名又は名称】ファロン ファーマシューティカルズ オサケ ユキチュア
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヤルカネン、シルパ
(72)【発明者】
【氏名】イフテカール-イー-クダ、イムティアズ
【テーマコード(参考)】
4B050
4B065
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4B050DD11
4B050LL01
4B065AA94X
4B065AC20
4B065BC12
4B065CA44
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZA51
4C084ZC20
4C086BC60
4C086GA07
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA51
4C086ZC20
(57)【要約】
血管接着タンパク質-1(VAP-1)阻害剤は、造血幹細胞のエクスビボでの培養における活性酸素種(ROS)濃度の調節因子として使用することができ、これは、エクスビボにおける増殖した造血幹細胞の集団を産生する方法を可能にする。さらに、VAP-1阻害剤は、個体における骨髄抑制または骨髄不全の治療において使用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
増殖した造血幹細胞の集団をエクスビボで産生する方法であって、前記方法が、血管接着タンパク質-1(VAP-1)の酵素活性を阻害することができる血管接着タンパク質-1(VAP-1)阻害剤と一緒に、造血幹細胞の集団をエクスビボで培養することを含み、前記VAP-1阻害剤が、増殖した造血幹細胞の集団を産生するのに十分な量で存在する、方法。
【請求項2】
前記造血幹細胞がヒト細胞であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記造血幹細胞が、臍帯血、骨髄および/または末梢血に由来することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
VAP-1阻害剤が、VAP-1の酵素活性を阻害することができる低分子阻害剤を含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
造血幹細胞のエクスビボでの培養における活性酸素種(ROS)濃度の調節因子としての、血管接着タンパク質-1(VAP-1)の酵素活性を阻害することができる血管接着タンパク質-1(VAP-1)阻害剤の使用。
【請求項6】
血管接着タンパク質-1(VAP-1)の酵素活性を阻害することができる血管接着タンパク質-1(VAP-1)阻害剤を含む、造血幹細胞用の細胞増殖培養培地。
【請求項7】
骨髄抑制または骨髄不全の治療において使用するための、血管接着タンパク質-1(VAP-1)の酵素活性を阻害することができる血管接着タンパク質-1(VAP-1)阻害剤であって、前記VAP-1阻害剤が造血幹細胞(HSC)を維持および/または増殖させる、血管接着タンパク質-1(VAP-1)阻害剤。
【請求項8】
VAP-1阻害剤が、VAP-1の酵素活性を阻害することができる低分子阻害剤を含むことを特徴とする、請求項7に記載の骨髄抑制または骨髄不全の治療において使用するための血管接着タンパク質-1(VAP-1)阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造血幹細胞の増殖を促進するための方法、および造血幹細胞の増殖において使用するために好適な薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
健康なドナーから収集された骨髄(BM)または臍帯血(CB)から収集された造血幹細胞(HSC)の移植は、例えば、白血病、重度の再生不良性貧血、リンパ腫、多発性骨髄腫、および免疫不全障害を含むいくつかの造血病態の治療として使用される。それにより、HSCを含む病気の造血細胞を除去し、健康な細胞に置き換える。生後造血および造血幹細胞の維持は、HSCおよびその子孫が特殊なニッチに存在する骨髄で主に行われる。
【0003】
造血幹細胞(HSC)は、骨髄(BM)における血管周囲幹細胞ニッチに高度に依存している。HSCとそれらの微小環境との間の相互作用の同定は、造血幹細胞移植および造血に影響を与える治療の分野における臨床的アプローチおよび機会の同定に役立ち得る。したがって、造血を調節するメカニズムをよりよく理解することは、血液疾患の理解に役立ち、また、ドナーからの臨床移植のために得ることができるHSCの数が限定されるため、HSCの増殖を促進する方法が望ましいので、HSCのエクスビボでの増殖のための新しい方法の開発にも役立ち得る。
【発明の概要】
【0004】
今回、血管接着タンパク質-1(VAP-1)は、幹細胞ニッチの構成要素であり、造血幹細胞(HSC)の維持および増殖において役割を果たすことが分かった。VAP-1は、造血幹細胞に近接して骨髄脈管系によって発現され、VAP-1の欠如は、骨髄(BM)におけるHSCならびに造血幹・前駆細胞(HSPC)の数に影響することが分かった。VAP-1の酵素活性の阻害は、臍帯血および骨髄由来HSCの増殖を促進することが分かった。
【0005】
本願の発明者らは、ヒトHSCの増殖におけるVAP-1の役割に加えて、独自のヒトVAP-1+HSC亜集団も見出した。より具体的には、原始的なヒト造血幹細胞のサブセットは、VAP-1陽性であり、特にそれらの増殖は、血管接着タンパク質-1(VAP-1)の酵素活性を阻害することによって達成することができることが分かっている。
【0006】
本発明の発見は、VAP-1阻害剤を使用した臨床応用におけるHSCの増殖方法を提供する。本発明の発見は、損傷後の骨髄回復の改善、骨髄移植の効果の増強、ならびにHSCの動員、収穫および増殖の改善に役立ち得る。さらに、本発明の発見は、増殖した造血幹細胞の集団から利益を受けるいくつかの血液疾患または状態を治療するための新規の方法を提供する。本発明は、骨髄が正常に機能せず、患者が造血を促進する必要がある状態を治療するための方法を提供する。一態様において、臍帯血移植(UCBT)が、マッチするドナーを有しない患者のための確立された療法となり、以前に不治の病の治癒をもたらしたため、本発明の発見は、エクスビボでの臍帯血HSC数を増加させるための新規の効率的な方法を提供する。
【0007】
血管接着タンパク質-1(VAP-1)は、銅含有アミンオキシダーゼ(AOC 3)またはセミカルバジド感受性アミンオキシダーゼ(SSAO)としても知られる膜貫通タンパク質である。VAP-1の細胞外アミンオキシダーゼ活性は、一級アミンの酸化的脱アミノ化を触媒する。反応は、対応するアルデヒドの形成、ならびにアンモニアおよび活性酸素種(ROS)の1つであるH22の放出をもたらす。本発明によれば、VAP-1阻害剤は、SSAO特異的過酸化水素の発生を低減することが観察されている。より詳細には、本発明において、VAP-1阻害剤を使用して、必要とされる活性酸素種(ROS)の一貫したレベルを維持し、それによってHSCの増殖を促進することができることが見出されている。HSCの維持、増殖、および分化は、ROS濃度に対して極めて敏感である。本発明は、VAP-1阻害剤を使用してVAP-1の酵素活性を阻害することによって、ROS濃度を制御するための方法であって、ROSのレベルが、HSCに成長優位性をもたらすレベルに低減される、方法を提供する。本発明において、VAP-1の酵素活性、より具体的には、VAP-1のアミンオキシダーゼ活性をブロックまたは阻害するVAP-1阻害剤を使用して、ROSの濃度に影響を与える。本発明は、ROSの濃度に影響を与える阻害剤化合物を使用したHSCの改善された増殖に基づく。
【0008】
本発明の一態様によれば、血管接着タンパク質1(VAP-1)の酵素活性を阻害することができる、SSAO阻害剤とも呼ばれるVAP-1阻害剤を、造血幹細胞のエクスビボでの培養において活性酸素種(ROS)濃度の調節因子として使用する。
【0009】
別の態様によれば、本発明は、エクスビボで増殖した造血幹細胞の集団を産生する方法であって、当該方法が、血管接着タンパク質1(VAP-1)の酵素活性を阻害することができる血管接着タンパク質-1(VAP-1)阻害剤を用いてエクスビボで造血幹細胞を培養し、VAP-1阻害剤が、増殖した造血幹細胞の集団を産生するのに十分な量で存在する、ことを含む、方法を提供する。本発明は、移植のための臍帯血および骨髄由来HSCのエクスビボでの増殖のための改善された方法を提供する。
【0010】
さらに、本発明は、血管接着タンパク質1(VAP-1)の酵素活性を阻害することができる血管接着タンパク質(VAP-1)阻害剤を含む造血幹細胞のための細胞増殖培養培地を提供する。
【0011】
第3の態様によれば、本発明はまた、個体において造血幹細胞の増殖を促進するための方法であって、血管接着タンパク質1(VAP-1)の酵素活性を阻害することができるVAP-1阻害剤、または血管接着タンパク質1(VAP-1)の酵素活性を阻害することができるVAP-1阻害剤を含む組成物を個体に投与することを含む、方法を提供する。本発明によれば、増殖した造血幹細胞の集団から利益を受ける疾患または状態を治療する方法であって、血管接着タンパク質1(VAP-1)の酵素活性を阻害することができるVAP-1阻害剤を、そのような疾患または状態に罹患している個体に、増殖した造血幹細胞の集団を産生するのに十分な量で投与することを含む、方法。本発明の一実施形態によれば、VAP-1阻害剤は、骨髄抑制または骨髄不全の治療に使用され得、それは、骨髄が正常に機能せず、HSCの数に影響を及ぼす治療の必要性がある状態を指す。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】HSCの増殖におけるROS濃度の役割の概略図。VAP-1/SSAOは、本発明による阻害剤によってブロックされ、HSCの増殖をもたらす過酸化水素(ROSの一種)、アンモニア、およびアルデヒドを生成する。
図2】VAP-1は、ヒトBMにおける血管内皮および原始HSC上で発現され、VAP-1の阻害は、NBSGWマウスにおける生着ポテンシャルおよびCFUアッセイにおけるHSCの数を増加させる。(A)ヒト骨髄(BM)におけるVAP-1の発現。組織切片を、ポリクローナル抗VAP-1抗体またはコントロールとしてのウサギIgGで染色した。すべての観察された血管はVAP-1を発現した。矢じりはVAP-1発現小動脈を示し、矢印は小静脈を示す。スケールバー50μm、(n=2)。(B)ヒトBM中の原始HSCのフローサイトメトリー識別。BM細胞を、Lineageカクテル、抗CD34、抗CD38、抗CD90、抗CD45RA、抗CD49f抗体で染色した。プロットは、HSCのゲーティング戦略を示している。ゲートP-2、P-3、P-4、およびP-5はHSCの順次濃縮を示し、ゲートP-5は最も純粋な集団を表す。(C)抗VAP-1抗体JG-2を使用して、ゲートP-5(Lin-CD34+CD38-CD45RA-CD90+CD49f+)由来の細胞において、VAP-1の発現を分析した。P-5細胞の19.5%がVAP-1を発現する(4人中1人の代表的なドナーのデータが示されている)。(D)CD34+ゲートにおける新鮮な凍結ヒトBMからのVAP-1-およびVAP-1+/loHSCのバッチ選別。VAP-1-およびVAP-1+/loサブセットの頻度は、ドットプロット内の2つのサブセットの相対サイズを表す。(E)19000 VAP-1-またはVAP-1-+VAP-1+(16250 VAP-1-+2750 VAP-1+)FACSのインビボでの生着は、非照射NBSGWマウスにおいてヒトBM細胞を選別した。各群の動物の半分を、実験パートに記載されるように、LJP-1586(阻害剤)処理した。移植の6週後、マウスを屠殺し、BMを採取し、フローサイトメトリーによって分析した。各群からの代表的なフローサイトメトリープロットは、レシピエントマウスのBMにおけるヒトCD45+細胞生着(パーセンテージ)を示す。(F)NBSGWマウスのBMにおけるヒトCD45+細胞生着の割合の概要。すべての4つの群(VAP-1- 阻害剤またはコントロール処置、およびVAP-1-+VAP-1+ 阻害剤またはコントロール処置)は、それぞれ3匹の動物を含み、同数のBM細胞ならびに長期HSC(CD90+CD49f+)を移植した。生着のカットオフ値を0.1%とした。実験終了時のBM中のドナー細胞の数を示す。(G)VAP-1阻害は、CFUアッセイにおけるHSCの数を増加させる。500個のヒトBM由来CD34+細胞を、LJP-1586(0.5μM)またはビヒクルの存在下で、CFU条件下で培養した。12日後、細胞を再懸濁し、培養物の体積を10倍増加させた後に2回目に再播種し、再懸濁し、培養物の体積を5倍増加させた後に3回目に再播種した。3回に分けて作製された2つのドナーに由来する細胞を使用して結果を計算した。スチューデントt検定を適用した。
図3】ヒト臍帯血(CB)中の原始HSCは、VAP-1を発現する。CB細胞におけるVAP-1の発現。CD34+細胞をCBから単離し、フローサイトメトリーのために染色した。VAP-1の発現を、ゲートP-5からの細胞で分析した。10人のドナーからのCB試料を抗VAP-1抗体JG-2で分析した。10人中1人の代表的なドナーのデータを示す。
図4】LJP-1586処置は、エクスビボでの臍帯血(CB)由来HSCの増殖を促進する。(A)CD38-CD34+細胞に対するLJP-1586の効果。3人のドナー(CB-1、CB-2、CB-3)からFACS選別CD38-CD34+CB由来細胞を入手し、1μMのLJP-1586を含有するStemSpan SFEM培地II中で15日間培養した(n=3)。(B)Bに示される細胞を、ゲートP-4に示されるように、CD45RA-CD90+CD49f+発現の追加基準を使用して、原始HSCについてさらに分析した。LJP-1586処置後の倍率増殖(fold expansion)を、3人のドナーの平均から計算し、カラム(n=3)に示す。スチューデントt検定を適用した。(C)LJP-1586の長期の効果。100個のヒトCB由来のLin-CD38-CD34+VAP-1+およびVAP-1-HSCを、LJP-1586(1μM)またはビヒクルの存在下で、液体条件下で培養した。10、15および20日後、細胞を、図4BおよびC(ゲートP-3)に示すように、CD38-CD34+CD45RA-CD90+発現について分析した。データは、開始親細胞(CD38-CD34+細胞)からのパーセンテージとして提示される。HSCの倍率増殖は、10人のドナーの平均から算出した。スチューデントt検定を適用した。(D)CFUとして分析した効果。3人のドナーから得られたCB由来細胞を、LJP-1586(0.5μM)の存在下または非存在下で、15日間液体培養中で増殖させ、次いでLJP-1586の存在下または非存在下でCFUアッセイによって分析した。P値は、スチューデントt検定を使用して計算した。
図5】LJP-1586は、液体培養物中のHSCのROS産生を低減する。ROSを、それぞれ0.25Mまたは0.5MのLJP-1586を含有する9日間の液体培養物から生きたHSCを使用してDHR-123によって検出し、フローサイトメトリーによって分析した。PMAによって活性化した後のCD38-、CD34+ゲート細胞を示す。赤色のDHR-123は酸化されると緑色に変わる。閉鎖ヒストグラムは、コントロール条件を示し、開放ヒストグラムは、LJP-1586の存在下で培養されたHSCを表す。細胞は、1つのドナーおよび2つの技術的リピートから得られる。
図6】VAP-1阻害剤szTU73の構造、およびAmplex-RedアッセイにおけるVAP-1の酵素活性を阻害するその能力。
図7】VAP-1阻害剤szTU73は造血幹細胞(CD34+CD38-CD90+CD45RA-)を増殖させる。CD34+臍帯血由来細胞を、異なる濃度のszTU73と共に21日間培養した。A:CD38およびCD34をマーカーとして使用する、7-AAD細胞(生)のフローサイトメトリー分析。B:CD90およびCD45RAをマーカーとして使用する、7-AAD-CD34+CD38-細胞のさらなる分析。ゲート内の陽性細胞のパーセンテージが示される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
血管接着タンパク質-1(VAP-1)は、一級アミンの酸化的脱アミノ化を触媒し、続いてアルデヒド、アンモニウム、および過酸化水素(ROSの一種)を産生する、銅含有アミンオキシダーゼ/セミカルバジド感受性アミンオキシダーゼのファミリーに属する。図1は、HSCの増殖におけるROS濃度の役割およびHSCの増殖における本発明によるVAP-1阻害剤の機能、の概略図を示す。VAP-1のアミンオキシダーゼ活性は、アミンのその対応するアルデヒドへの酸化的脱アミノ化を触媒し、アンモニアおよび過酸化水素を産生する。過酸化水素は活性酸素種(ROS)のうちの1つである。HSCの維持、増殖、および分化は、ROS濃度に対して極めて敏感である。VAP-1の酵素活性はROSの産生につながり、HSCの発達および自己更新に影響を及ぼす。HSCの維持には低レベルのROSが必要であり、中間レベルのROSは増殖および分化を促進するが、高レベルのROSは幹細胞プールの損傷および疲弊をもたらす。VAP-1の酵素活性は、ROSの唯一の供給源ではないので、VAP-1阻害を使用して、ROS濃度を微調整することができる。本発明において、VAP-1阻害剤を使用して、HSCの増殖を促進するために必要な一貫したレベルのROSを維持および制御することができることが見出されている。本発明によれば、VAP-1阻害剤を使用して、VAP-1の酵素活性を阻害または低減させ、ROSのレベルは、HSCに増殖利点をもたらすレベルに低減される。
【0014】
本発明において、VAP-1の酵素活性、より具体的には、VAP-1のアミンオキシダーゼ活性をブロックまたは少なくとも阻害するVAP-1阻害剤を使用して、ROSの濃度に影響を与える。本発明の一態様によれば、SSAO阻害剤とも呼ばれるVAP-1阻害剤を、造血幹細胞のエクスビボでの培養において活性酸素種(ROS)濃度の調節因子として使用し、したがって、血管接着タンパク質1(VAP-1)の酵素活性を阻害することができるVAP-1阻害剤をエクスビボでの培養においてHSCの増殖を促進するために使用する。エクスビボでの培養後、増殖したHSCの集団を個体への移植に使用することができる。
【0015】
エクスビボで増殖した造血幹細胞の集団を産生するための本発明の一実施形態による方法であって、血管接着タンパク質1(VAP-1)の酵素活性を阻害することができる血管接着タンパク質1(VAP-1)阻害剤を用いて、造血幹細胞(HSC)の集団をエクスビボで培養することを含み、VAP-1阻害剤が、増殖した造血幹細胞の集団を産生するのに十分な量で存在する、方法。HSCの集団とは、HSCを含む群を指し、すなわち、本発明による方法によってHSCの数を増加させることができる。
【0016】
HSCは、当該分野における既知の方法を使用して、当該目的のための任意の好適な培地で培養することができる。本発明による造血幹細胞用の細胞増殖培養培地は、VAP-1阻害剤を含む。培養培地中のVAP-1阻害剤の濃度は、使用される阻害剤化合物に依存する。本発明によれば、VAP-1阻害剤は、増殖した造血幹細胞の集団を産生するのに十分な量で存在する。現在の阻害剤のレベルが低いまたは高いと、HSCの効率的な増殖が低下する可能性がある。一実施形態において、VAP-1阻害剤は、エクスビボでの培養物中の造血幹細胞の集団を維持するためにも使用することができる。HSCの増殖の程度もドナーに依存する。
【0017】
本発明によれば、当該造血幹細胞はヒト細胞であり、臍帯血、骨髄、および/または末梢血に由来する。好ましい実施形態において、本発明は、エクスビボ培養物における臍帯血および/または骨髄由来HSCの増殖に使用される。
【0018】
一実施形態において、本発明は、臍帯血(CB)に由来するHSCの増殖を促進するための改良された方法を提供する。臍帯CBはHSCの供給源として使用することができ、当初は小児の治療にのみ使用されたが、細胞投薬および抗原マッチングの改善により、成人におけるその有効性が増加している。成人骨髄(BM)ドナーは、反復移植のために複数回提供することができることが多いのとは異なり、MHCマッチングされた臍帯CBは唯一のものである。したがって、本発明の方法に従って、臍帯CB由来のHSCをエクスビボで増殖および維持することが有用である。CB移植に関連する別の問題は、未成熟HSCの生着の遅延および結果として、急速に増殖する多能性前駆体の欠如である。VAP-1の酵素活性の阻害は、この問題をも克服し得る。
【0019】
本発明によれば、VAP-1酵素活性、より具体的には、VAP-1のアミンオキシダーゼ活性を調節するVAP-1/SSAO阻害剤は、増殖した造血幹細胞集団から利益を受ける疾患または状態の治療であって、VAP-1阻害剤またはVAP-1阻害剤を含む化合物を、かかる疾患または状態に罹患している個体に投与することを含む治療に有用であろう。本発明は、血管接着タンパク質1(VAP-1)の酵素活性を阻害することができるVAP-1阻害剤または当該VAP-1阻害剤を含む化合物を個体に投与することを含む、個体における造血幹細胞の増殖を促進する方法に基づく。
【0020】
本発明によれば、血管接着タンパク質1(VAP-1)の酵素活性を阻害することができるVAP-1阻害剤または当該VAP-1阻害剤を含む化合物は、増殖した造血幹細胞の集団から利益を受ける疾患または状態の治療に使用される。本発明の一実施形態によれば、血管接着タンパク質1(VAP-1)の酵素活性を阻害することができるVAP-1阻害剤または当該VAP-1阻害剤を含む化合物を骨髄抑制または骨髄不全の治療に使用し、これは、本開示において、骨髄が正常に機能せず、HSCの数および造血促進に影響を及ぼす治療の必要性がある状態を指す。
【0021】
骨髄不全または骨髄抑制は、例として言及される、白血病、多発性骨髄腫、再生不良性貧血等の複数の他の疾患または状態と関連付けられ得る。骨髄抑制(myelosuppression)とも称される骨髄抑制(bone marrow suppression)は、骨髄活性が低下し、赤血球、白血球および血小板が減少する状態である。骨髄は血液細胞の製造の中心であるため、骨髄活性の抑制は血液細胞の欠損を引き起こす。この状態は、身体が侵入細菌およびウイルスに応答して白血球を産生することができないため、急速に生命を脅かす感染症につながる可能性があり、また、赤血球の欠乏による貧血および血小板の欠乏による自発的な重度の出血につながる可能性がある。一般に、骨髄抑制は、例えば、免疫系に影響を与える化学療法および/または特定の薬物の重篤な副作用である。本発明によれば、VAP-1阻害剤は、HSCの増殖を改善し、それによって造血を促進することによって、骨髄抑制の治療に使用することができる。また、骨髄不全では、不十分な量の赤血球、白血球、または血小板が産生される。骨髄不全は、出生後に遺伝するか、または獲得することができる。本発明によれば、骨髄不全または骨髄抑制は、血管接着タンパク質1(VAP-1)の酵素活性を阻害することができるVAP-1阻害剤もしくはVAP-1阻害剤を含む化合物を患者に投与することによって、および/または幹細胞移植を用いて治療することができ、本発明による改善されたエクスビボでの培養のための本発明の方法は有利である。
【0022】
本発明の一実施形態によれば、骨髄抑制または骨髄不全などの造血幹細胞の増殖した集団から利益を受ける疾患または状態を治療するための方法は、治療有効量のVAP-1阻害剤またはVAP-1阻害剤を含む医薬組成物を個体に投与することを含む。「治療」または「治療すること」という用語は、疾患または障害の完全治癒、ならびに当該疾患もしくは障害の改善または軽減を含むと理解されなければならない。「治療有効量」という用語は、VAP-1の酵素活性を阻害し、増殖した造血幹細胞の集団を産生するのに十分な任意の量の本発明によるVAP-1阻害剤を含むことを意味する。治療有効量は、単回用量または複数回用量のVAP-1阻害剤を含んでもよい。選択された用量は、VAP-1酵素活性の阻害に十分であり、個体におけるHSCの増殖を促進する必要がある。
【0023】
投与は、当業者に既知の様々な方法および送達系のうちのいずれかを使用して、個体にVAP-1阻害剤またはVAP-1阻害剤を含む医薬組成物を物理的に導入することを指す。本発明によれば、VAP-1阻害剤またはVAP-1阻害剤を含む組成物は、それらの意図した目的を達成する任意の手段によって投与し得る。本発明の一実施形態によれば、VAP-1阻害剤またはVAP-1阻害剤を含む組成物は、経口および/または注入として投与することができる。例えば、投与は、例えば、注射または注入療法による、静脈内、筋肉内、腹腔内、皮下、または他の非経口投与経路であり得る。薬理学的に活性な化合物に加えて、医薬組成物は、薬学的に使用可能な製剤への活性化合物の処理を容易にする賦形剤および補助剤を含む適切な薬学的に許容される担体を含有する。
【0024】
本発明によれば、VAP-1阻害剤は、VAP-1の酵素活性を阻害、影響、および/または調節する任意の好適な化合物であり得る。本発明の一実施形態において、VAP-1阻害剤は、血管接着タンパク質-1(VAP-1)の酵素活性を阻害することができる阻害剤化合物、より具体的には、VAP-1のアミンオキシダーゼ活性を阻害することができる阻害剤化合物を含む。本発明の一実施形態によれば、セミカルバジド感受性アミンオキシダーゼ(SSAO)として一般的に知られている銅含有アミンオキシダーゼの阻害剤は、VAP-1阻害剤として使用することができ、すなわち、VAP-1阻害剤は、セミカルバジド感受性アミンオキシダーゼ(SSAO)阻害剤とも呼ばれる。SSAOは、一級アミンの酸化的脱アミノ化を触媒する酵素である。本発明の一実施形態によれば、VAP-1/SSAO阻害剤は、SSAOの活性を阻害するために使用される。本発明の一実施形態によれば、VAP-1/SSAO阻害剤は、可溶性SSAOのSSAO活性または膜結合型VAP-1のSSAO活性を阻害することができる。
【0025】
本発明の一実施形態によれば、VAP-1阻害剤は、セミカルバジドおよび/またはヒドロキシルアミンを含む。本発明の一実施形態によれば、セミカルバジドおよび/またはヒドロキシルアミンは、HSCのエクスビボでの増殖方法で使用され得る。
【0026】
本発明の一実施形態によれば、VAP-1阻害剤は、VAP-1の酵素活性を阻害することができる抗体もしくはその断片、および/または低分子酵素阻害剤を含む。本発明の一実施形態において、VAP-1阻害剤は、VAP-1の低分子阻害剤を含む。一般に、低分子阻害剤とは、低分子量の有機化合物を指す。本発明の一実施形態によれば、VAP-1阻害剤は、VAP-1の酵素活性、より詳細なVAP-1のアミンオキシダーゼ活性をブロックおよび/または阻害し、それによってHSCに増殖利点をもたらすレベルまでROSのレベルを低減させることができる、任意の低分子阻害剤であり得る。本発明の一実施形態において、VAP-1阻害剤は、VAP-1の低分子阻害剤および/またはVAP-1に結合可能なペプチドに結合したVAP-1の低分子阻害剤を含む。
【0027】
多くの低分子阻害剤がVAP-1に対して開発されているか、または開発中である。本発明の一実施形態によれば、VAP-1阻害剤は、低分子阻害剤、例えば、SSAO/VAP-1阻害剤BI 1467335(以前は、PXS-4728A(4-(E)-2-(アミノメチル)-3-フルオロプロプ-2-エノキシ)-N-tert-ブチルベンズアミド))、PXS-4681A((Z)-4-(2-(アミノメチル)-3-フルオロアリルオキシ)ベンゼンスルホンアミド塩酸塩)、LJP-1586、PXS-4159、PXS-4206、TERN-201、ASP8232、SZV-1287(3-(3,4-ジフェニル-1,3-オキサゾール-2-イル)プロパナールオキシム)、UD-014、PRX167700、LJP 1207(N’-(2-フェニル-アリル)ヒドラジン塩酸塩)、szTU73および/またはRTU-009であり得る。これらの上述の低分子阻害剤は、現在市場で知られているVAP-1阻害剤の例示的な実施形態である。これらの低分子阻害剤は、非限定的な例としてのみ言及される。
【0028】
本発明の例示的な実施形態において、VAP-1阻害剤は、Z-3-フルオロ-2-(4-メトキシベンジル)アリルアミン塩酸塩(LJP 1586)を含む。LJP-1586(Z-3-フルオロ-2-(4-メトキシベンジル)アリルアミン塩酸塩)は、VAP-1の酵素活性をブロックするが、その接着特性には影響しない阻害剤である。化合物は、例えば、O'Rourke et al., “Anti-inflammatory effects of LJP-1586 [Z-3-fluoro-2-(4-methoxybenzyl)allylamine hydrochloride], an amine-based inhibitor of semicarbazide-sensitive amine oxidase activity”, Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics,February 2008, 324(2), pp.867-875に記載されている。
【0029】
実験項
方法の詳細
免疫組織化学
BM中のVAP-1発現を可視化するために、ツルク大学病院(Turku University Hospital)からその倫理当局の許可を得て入手した匿名のヒト骨試料を脱石灰し、パラフィンに埋め込み、厚さ5μmの切片に切断した。切片をキシレンで脱パラフィン化し、一連の減少濃度のエタノールで再水和し、抗原回収のために98℃で10分間、10mMのクエン酸ナトリウム(pH6.0)で処理した。内因性ペルオキシダーゼ活性をブロックするために、切片を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で調製した1% H22中で30分間インキュベートした。VAP-1に対するポリクローナル抗体(1:500)およびコントロールのウサギIgGによる免疫組織化学染色を、VECTASTAIN ABCキット(Vector Laboratories)で提供される指示に従って、4℃で一晩行った。試料をヘマトキシリンで対染した。Olympus BX60顕微鏡を使用して画像を得た。ImageJソフトウェアを使用して、背景減ならびに明るさおよびコントラストの調整を行った。
【0030】
骨髄移植
ヒト新鮮凍結BM CD34+細胞(LONZA)を解凍し、ヒトVAP-1の異なるエピトープに対するAPCコンジュゲートマウス抗Lineageカクテル、PE-Cy7コンジュゲート抗CD34、ならびにFITCコンジュゲートモノクローナル抗体1B2、TK8-14およびJG-2で染色した。VAP-1+/loおよびVAP-1-細胞のバッチセル選別には、我々は、130μmマイクロ流体選別チップを使用して、クラスA2レベルIIバイオセーフティキャビネットを備えたSony SH800セルソーターを使用した。ヒト細胞を受け入れるための照射を必要としないNBSGW(免疫欠損、c-Kit欠損)マウスをBMドナーとして使用した。VAP-1-群19000細胞およびVAP-1-+VAP-1+/lo群16250 VAP-1-細胞および2750 VAP-1+/lo細胞を動物ごとに静脈内に注射した。移植の1日後に、マウスにVAP-1阻害剤LJP-1586(O’Rourke et al., “Anti-inflammatory effects of LJP-1586[Z-3-fluoro-2-(4-methoxybenzyl)allylamine hydrochloride],an amine-based inhibitor of semicarbazide-sensitive amine oxidase activity”, Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics,February 2008, 324(2), pp.867-875)を、10mg/kgの用量で、または100μlのPBSをコントロールとして、1週間に3回、合計6週間にわたって腹腔内注射した。処置の終了時にマウスを屠殺し、BMを採取した。BM細胞を抗マウスCD45、抗ヒトCD45、抗ヒトCD34、抗ヒトCD19について抗ヒトCD33と共に染色した。試料をLSR fortessa上に流し、データをFlowJoで分析した。キメラ性のパーセンテージ[%キメラ性=(%試験ドナー由来細胞)×100/((%試験ドナー由来細胞+(%競合由来細胞))]は、記載の通りに計算した(Ema et al., “Adult mouse hematopoietic stem cells:purification and single-cell assays”, Nat Protoc 2006 1(6), 2979-2987)。
【0031】
Amplex Redアッセイ
VAP-1阻害剤szTU73の阻害能は、Amplex Red試薬(10-アセチル-3,7-ジヒドロキシフェノキサジン;Molecular Probes Europe BV)、H2O2についての高感度で安定したプローブを利用するAmplex Redアッセイを使用して測定した。試料の蛍光強度を測定し(励起、545nm;発光、590nm;Tecan ULTRA fluoropolarometer)、標準H2O2の連続希釈液によって生成された較正曲線からH2O2濃度を計算した。VAP-1トランスフェクト細胞溶解物によるSSAO媒介反応を介して形成されるH2O2の量を評価するために、特異的酵素阻害剤、セミカルバジド(100μM)およびヒドロキシルアミン(5μM)を同じ処理および測定に供するコントロールウェルに含め、これらの値を生成されたH2O2の総量から減じた。
【0032】
ROS産生の測定
ヒトCD34+BM細胞を、LJP-1586の有無にかかわらず、ヒト幹細胞因子(100ng/ml)、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド(100ng/ml)、およびトロンボポエチン(50ng/ml)を含有するStemSpan SFEM培地II(STEMCELL Technologies)中で9日間液体培養した。9日後、細胞を抗CD38および抗CD34抗体で染色し、DMEMを使用して洗浄し、遠心分離し、100μlのDMEM中に再懸濁した。次いで、ROSをDHR-123試薬(Molecular Probes)によって検出した。このため、DHR-123をDMSO中で希釈し、一回使用のために-20℃で5mMのストック溶液として保持した。100μlのDMEM中に懸濁したHSCに12.5μlを添加して3μMの最終濃度にする直前に、アリコートを解凍し、160倍(30μM)希釈した。次いで、細胞を37℃で10分間インキュベートし、続いてPhorbol 12-ミリステート13-アセテート(PMA)(Sigma-Aldrichで活性化した。PMAのストック溶液をDMSO中で1mg/mlで凍結し、新鮮に解凍して500倍希釈して、12.5μlを200ng/mlの最終濃度に添加した。37℃で20分後、細胞をPBSで洗浄し、再懸濁し、フローサイトメトリーによって分析した。赤いDHR123は酸化後に緑色に変わる。CD38-およびCD34+陽性細胞をゲート化し、酸化DHR-123の蛍光強度を、LSR Fortessa機器(BD Biosciences)を使用して、フィルターチャネル530nm/30nmから測定し、FlowJoソフトウェア(Tree Star)により分析した。
【0033】
コロニー形成単位(CFU)アッセイ、長期培養開始細胞(LTC-IC)アッセイ、および液体培養
ヒト臍帯CB細胞については、抗体ベースのEasySepキットを使用してCD34+CB細胞を濃縮し、その後、抗CD38および抗CD34抗体で染色した。CD38-CD34+細胞を、FACSAria IIu機器(BD Biosciences)を使用して選別し、次いで、ヒト幹細胞因子(100ng/ml)、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド(100ng/ml)、およびトロンボポエチン(50ng/ml)(すべてPeprotechから)を含有するStemSpan SFEM培地II(STEMCELL Technologies)中で培養した。細胞を1mL当たり1×103の密度で播種した。示した場合に、播種直後にLJP-1586を添加した。培養を21日間維持し、5日目、8日目、12日目、15日目、および18日目に、半分の培地を、同じサイトカインおよびLJP-1586を含有するものに置き換えた。
【0034】
上記のように得られた15日齢のインビトロ培養物から収集した900個のCD38-CD34+細胞の子孫を、LJP-1586を含有または欠損するメチルセルロース系培地(H4436、STEMCELL Technologies)中で増殖させた。14日後、単一、多系統、および混合コロニーを顕微鏡で目視スコアリングした。AllCellsからの凍結保存されたヒトCD34+細胞を解凍し、再懸濁し、製造業者のプロトコルに従ってカウントした。500個の解凍ヒトBM CD34+細胞を、LJP-1586を含有または欠如する完全なメチルセルロース系培地(H4436、STEMCELL Technologies)中で培養した。コロニーの総数は、播種後14日目にカウントした。滅菌条件下で細胞を採取して解離することにより、再播種を2回行った。
【0035】
CD34+細胞の単離、ならびにヒト臍帯CBからのVAP-1+およびVAP-1-HSCの選別
ヒト臍帯CBからのCD34+細胞を、Ficoll-Plaque勾配遠心分離(Amersham Pharmacia Biotech,Uppsala,Sweden)およびEasySep Human Cord Blood CD34 Positive Selection Kit II(STEMCELL Technologies)を使用して、2段階の手順で単離した。CBからのVAP-1+およびVAP-1-細胞のバッチおよび単一細胞選別には、我々は、130μmマイクロ流体選別チップを使用して、クラスA2 Level IIバイオセーフティキャビネットを備えたSony SH800セルソーターを使用した。このソーターは、細胞に低いせん断応力を適用し、細胞培養中のより良い生存を可能にする。CD34+細胞をさらに、VAP-1+およびVAP-1- HSC(Lineage-CD34+CD38)に選別した。これらから、次いで、ヒト幹細胞因子(100ng/ml)、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド(100ng/ml)、およびトロンボポエチン(50ng/ml)(すべてPeprotechから)を含有するStemSpan SFEM培地II(STEMCELL Technologies)中で、100個のVAP-1+およびVAP-1-HSCを培養した。LJP-1586を1μMの濃度で播種した直後に添加した。培養物を20日間維持した。同じサイトカインおよびLJP-1586を含有する新鮮な培地を、5日目、8日目、10日目、12日目、15日目および18日目に添加した。LSR Fortessa機器(BD Biosciences)を使用して、CD38-CD34+CD45RA-CD90+発現について10日目および15日目に細胞を分析した。あるいは、濃度1、5および10マイクロモーラーのCB培養物において、VAP-1阻害剤szTU73を使用した。
【0036】
結果
VAP-1は、ヒト骨髄(BM)内のHSCおよび血管内皮細胞によって発現され、VAP-1の阻害は、それらの増殖を促進する
本実施例では、BM中のヒトHSCおよび血管細胞がVAP-1を発現しているかどうかを検討した。我々は、ヒトBMの組織切片において、ポリクローナル抗VAP-1抗体を使用してVAP-1を検出した。この抗体によって、小動脈(開放矢印)および小静脈(矢印)を顕著に染色した(図2A)。我々は、ヒトBMから調製したCD34+細胞の懸濁液中のHSCを研究した。陰性細胞中のLineage-CD34+CD38-CD90+CD45RA-CD49f+細胞のフローサイトメトリー分析により、HSCのサブセットが、図2Bおよび2Cに示されるように細胞表面上でVAP-1を発現することが明らかになった。
【0037】
次に、我々は、ヒトVAP-1- HSCおよび陰性HSC中の14.5% VAP-1+を含有するプールを、照射なしでヒト細胞を受容するNBSGWマウスに移したため、VAP-1陽性BM血管系をそのまま保存した(図2D)。これらのマウスは、VAP-1阻害剤またはコントロールでの処置のいずれかを受けた。移植プールにおけるVAP-1+細胞の存在は、BMにおけるヒト起源のCD45+細胞の数(図2E)を増加させ、移植プールにおけるVAP-1+細胞を有しかつ阻害剤を投与された3/3マウスは、ヒトBM生着を受け入れたが、VAP-1+細胞および阻害剤なしではいずれも生着を実証しなかった(図2F)。
【0038】
ヒトHSCの機能を試験するために、LJP-1586の存在下でCFUアッセイを行った。BM由来のCD34+細胞を、ヒトCFUアッセイのために設計したメチルセルロース系培地中で培養した場合、LJP-1586で処理した培養物によって形成されたCFUの数は、コントロール培養物によって形成されたCFUの数よりも33%多かった。これらのコロニーがHSCを含有するかどうかを決定するために、我々はそれらを単一細胞懸濁液に解離し、細胞を再播種し、このプロセスを2回繰り返した。この手順の後、LJP-1586処理培養物によって形成されたCFUの数は、コントロール培養物によって形成されたCFUの数よりも92%多かった(図2G)。これらの発見は、BM由来のHSCがLJP-1586の存在下で生存しただけでなく、反復培養時に増殖したことを示す。
【0039】
臍帯血(CB)中のHSCはVAP-1を発現する
ヒト臍帯CBは、HSCの別の好都合な供給源であり得る。ヒト臍帯CBから単離し、HSCマーカーを使用して分析したCD34+細胞(図3)では、これらの細胞はVAP-1を発現した。この発見は、VAP-1の異なるエピトープを認識する3つのVAP-1特異的モノクローナル抗体(1B2、TK8-14、およびJG-2)を使用して確認された。我々はまた、FACS選別された臍帯血CD34+細胞を使用してVAP-1発現を確認した。結論として、VAP-1は、臍帯CB中のHSCに存在する。
【0040】
VAP-1の阻害は、インビトロでの臍帯血(CB)由来のヒトHSCの増殖を促進する
次に、VAP-1の阻害が臍帯CBにおけるHSCの増殖を促進するかどうかを調査した。このために、我々は、従来のAmplex Redアッセイを使用して、図6に示すように、種々の濃度のLJP-1586またはszTU73(VAP-1阻害剤)を含有するか、または欠如しているStemSpan SFEM培地II(Knapp et al., “Dissociation of Survival, Proliferation,and State Control in Human Hematopoietic Stem Cells”, Stem Cell Reports 2017, Jan 10:8(1), 152-162)中で、21日間、ヒトCBから選別したCD34+細胞を培養した。HSCは、1μMのLJP-1586で処理した培養物中で31倍以上増殖し、コントロール細胞(LJP-1586を含まない)と比較して18日間増殖した。HSCの増殖は、1μMのLJP-1586より高い濃度またはより低い濃度で処理した培養物においては、あまり効率が良くなかった。HSC増殖の程度はドナー依存的であったが、単一のドナーから選別した試料において一致した(図4A)。原始HSCを、追加のマーカーCD45RA-CD90+CD49f+を使用してさらに評価した。ゲートP-3におけるHSCの12%超が原始HSC(CD34+CD38-CD45RA-CD90+CD49f+)であり、これらの数は、LJP-1586処理培養物において、処理していない培養物と比較して11倍多かった(図4B)。結論として、液体培養物中のLJP-1586への曝露は、未処理の細胞と比較して、HSC(CD34+CD38-)および原始HSC(CD34+CD38-CD45RA-CD90+CD49f+)を劇的に増殖させる。我々は、液体培養物におけるVAP-1-およびVAP-1+HSCの増殖能力をさらに試験した。CFUアッセイとは異なり、VAP-1+HSCは、長期培養において唯一の生存細胞型であり、VAP-1阻害は、20日目にそれらの増殖を促進した(図4C)。同様に、szTU73阻害剤は、21日培養物において造血幹細胞を増殖させることができ、図7に示すように、その最適濃度は1~5マイクロモル濃度の範囲であった。
【0041】
阻害剤LJP-1586がVAP-1のアミンオキシダーゼ活性をブロックするため、我々は、ヒトHSC培養物中のROSの濃度を低減させ、非処理細胞に対して成長優位性をもたらすかどうかを試験した。したがって、我々は、細胞を収集し、ジヒドロローダミン(DHR 123)およびフローサイトメトリーを使用して酸化バーストアッセイを行った。細胞をLJP-1586阻害剤で培養したときに、コントロール細胞と比較して、ROSが62%(MFI)低減したことを見出した(骨髄由来HSCについて図5に示される)。
【0042】
LJP-1586の存在下で、液体培養物中で増殖したCB由来HSCは、コロニー形成において完全に機能している
我々は液体培養物中の臍帯CBから得られたHSCを増殖させることができると仮定して(図4B、4C)、我々はCFUアッセイによってこれらの細胞の幹細胞性を調査した。そのために、我々は、LJP-1586の存在下で、液体培養で15日間にわたって増殖したすべての細胞を採取し、LJP-1586を含有するメチルセルロース系培地に播種した。LJP-1586で処理した培養物によって形成されたCFUの数は、コントロール培養物によって形成されたCFUの数よりも15日後に7.9倍多かった(図4D)。総合すると、これらの結果は、VAP-1の阻害が液体培養物におけるHSCの増殖を促進し、阻害剤処理細胞がコロニーを形成することが完全に可能であることを示す。したがって、本発明による方法を使用して、臨床現場でHSCを増殖させることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】