(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-20
(54)【発明の名称】ペーストおよび導電性フィルムならびにそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/907 20170101AFI20230313BHJP
H01B 1/16 20060101ALI20230313BHJP
C01B 32/921 20170101ALI20230313BHJP
【FI】
C01B32/907
H01B1/16 Z
C01B32/921
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022545125
(86)(22)【出願日】2021-02-25
(85)【翻訳文提出日】2022-07-25
(86)【国際出願番号】 JP2021007070
(87)【国際公開番号】W WO2021172415
(87)【国際公開日】2021-09-02
(32)【優先日】2020-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(71)【出願人】
【識別番号】515015252
【氏名又は名称】ドレクセル ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】▲柳▼町 章麿
(72)【発明者】
【氏名】小柳 雅史
(72)【発明者】
【氏名】小河 佑介
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルジェ,ルイジアーヌ
(72)【発明者】
【氏名】バースーム,マイケル ダブリュー
【テーマコード(参考)】
4G146
5G301
【Fターム(参考)】
4G146MA09
4G146MA19
4G146MB03
4G146MB13
4G146MB16A
4G146MB16B
4G146NA02
4G146NA07
4G146NA21
4G146NB14
4G146PA07
4G146PA15
5G301DA02
5G301DA08
5G301DA42
5G301DD01
5G301DD02
5G301DE01
(57)【要約】
1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子を、アンモニア水溶液中に含むペーストであって、前記層が、式:MmXn(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、nは、1以上4以下であり、mは、nより大きく、5以下である)で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、前記ペーストを固形分濃度1.0質量%として測定した場合の粘度が、せん断速度1/sにて1Pa・s以上である、ペースト。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子をアンモニア水溶液中に含むペーストであって、
前記1つまたは複数の層が、以下の式:
M
mX
n
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
前記ペーストを固形分濃度1.0質量%として測定した場合の粘度が、せん断速度1/sにて1Pa・s以上である、ペースト。
【請求項2】
前記Mが、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびMnからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1に記載のペースト。
【請求項3】
前記MがTiであり、前記XがCであり、前記nが2であり、前記mが3である、請求項1に記載のペースト。
【請求項4】
前記アンモニア水溶液におけるアンモニア濃度が、0.01モル/L以上1.2モル/L以下である、請求項1~3のいずれかに記載のペースト。
【請求項5】
1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子を含む導電性フィルムであって、
前記1つまたは複数の層が、以下の式:
M
mX
n
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
前記導電性フィルムをX線回折測定して得られる、前記層状材料の(002)および(110)の各ピーク強度面積をS
(002)およびS
(110)とした場合に、S
(002)に対するS
(110)の割合が2.0%以上である、導電性フィルム。
【請求項6】
前記Mが、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびMnからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項5に記載の導電性フィルム。
【請求項7】
前記MがTiであり、前記XがCであり、前記nが2であり、前記mが3である、請求項5に記載の導電性フィルム。
【請求項8】
アンモニアを更に含む、請求項5~7のいずれかに記載の導電性フィルム。
【請求項9】
アンモニアを実質的に含まない、請求項5~7のいずれかに記載の導電性フィルム。
【請求項10】
1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子とアンモニア水溶液との混合物であって、前記1つまたは複数の層が、以下の式:
M
mX
n
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含む、混合物を準備すること、および
前記混合物にせん断力を付与して、前記混合物より高い粘度を有するペーストを得ること
を含む、ペーストの製造方法。
【請求項11】
前記Mが、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびMnからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項10に記載のペーストの製造方法。
【請求項12】
前記MがTiであり、前記XがCであり、前記nが2であり、前記mが3である、請求項10に記載のペーストの製造方法。
【請求項13】
前記アンモニア水溶液におけるアンモニア濃度が、0.01モル/L以上1.2モル/L以下である、請求項10~12のいずれかに記載のペーストの製造方法。
【請求項14】
請求項10~13のいずれかに記載の製造方法によって得られたペーストを用いて導電性フィルムの前駆体を形成すること、および
前記前駆体を乾燥させて、導電性フィルムを得ること
を含む、導電性フィルムの製造方法。
【請求項15】
前記乾燥の間および/またはその後にアンモニアを分離して、前記導電性フィルムを得る、請求項14に記載の導電性フィルムの製造方法。
【請求項16】
1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子をアンモニア水溶液中に含むペーストであって、
前記1つまたは複数の層が、以下の式:
M
mX
n
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
前記粒子が、アンモニウムイオンを介して三次元ネットワークを形成している、ペースト。
【請求項17】
前記Mが、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびMnからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項16に記載のペースト。
【請求項18】
前記MがTiであり、前記XがCであり、前記nが2であり、前記mが3である、請求項16に記載のペースト。
【請求項19】
前記アンモニア水溶液におけるアンモニア濃度が、0.01モル/L以上1.2モル/L以下である、請求項16~18のいずれかに記載のペースト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペーストおよび導電性フィルムならびにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、導電性を有する新規材料としてMXeneが注目されている。MXeneは、いわゆる二次元材料の1種であり、後述するように、1つまたは複数の層の形態を有する層状材料である。一般的に、MXeneは、かかる層状材料の粒子(粉末、フレーク、ナノシート等を含み得る)の形態を有する。
【0003】
現在、種々の電気デバイスへのMXeneの応用に向けて様々な研究がなされている。例えば、非特許文献1には、MXeneを電界効果トランジスタの電極材料として使用する際に、MXeneにNH3を化学的にドープすることによって仕事関数を低下させ得ることが報告されている。また、非特許文献2には、MXeneを水に分散させた分散液が、Fe2+などの金属イオンによりゲル化してハイドロゲルを形成すること、かかるハイドロゲルの形成は、MXene(より詳細にはMXeneのナノシート)が金属イオンを介して3D(三次元)ネットワークを形成することによるものと考えられることが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Benzheng Lyu et al., "Large-Area MXene Electrode Array for Flexible Electronics", ACS Nano, 2019, Volume 13, Issue 10, pp. 11392-11400
【非特許文献2】Yaqian Deng et al., "Fast Gelation of Ti3C2Tx MXene Initiated by Metal Ions", Advanced Materials, 2019, Volume 31, Issue 43, 1902432
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
MXeneを含むペーストまたは導電性フィルムにおいて、MXeneが3Dネットワークを形成すると、3Dネットワークを形成しない場合に比べて、電気特性や物性が異なり得、種々の電気デバイスへのMXeneの応用の更なる促進や拡大が期待される。
【0006】
非特許文献2には、MXeneの3Dネットワークは、MXeneの終端Tの水酸基に金属イオンが結合することによって形成されるものと考えられる旨が記載されている。このような金属イオンは、MXeneの活性点であり得る水酸基を塞ぐこととなるので、電気デバイスによっては、MXeneの3Dネットワークを実質的に維持しながら、金属イオンを除去することが望ましい。しかしながら、MXeneの3Dネットワークを実質的に維持しながら、金属イオンを除去することは容易でないという難点がある。
【0007】
他方、非特許文献1には、NH3のドーピングのメカニズムは、MXeneとNH3との間で水素結合を形成することによるものと考えられる旨が記載されている。しかしながら、非特許文献1には、MXeneの3Dネットワークについて言及されていない。非特許文献1では、MXene-水混合物とアンモニア水溶液とを単に混合しているだけであり、本発明者らの研究によれば、このような方法では、MXeneの3Dネットワークは形成されないものと考えらえる。
【0008】
本発明の目的は、MXeneの3Dネットワークを、金属イオンに比べて容易に除去可能な物質で形成したペーストおよび導電性フィルムならびにこれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1つの要旨によれば、1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子を、アンモニア水溶液中に含むペーストであって、
前記1つまたは複数の層が、以下の式:
MmXn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
前記ペーストを固形分濃度1.0質量%として測定した場合の粘度が、せん断速度1/sにて1Pa・s以上である、ペーストが提供される。
【0010】
本発明のもう1つの要旨によれば、1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子を含む導電性フィルムであって、
前記1つまたは複数の層が、以下の式:
MmXn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
前記導電性フィルムをX線回折測定して得られる、前記層状材料の(002)および(110)の各ピーク強度面積をS(002)およびS(110)とした場合に、S(002)に対するS(110)の割合が2.0%以上である、導電性フィルムが提供される。
【0011】
本発明のもう1つの要旨によれば、1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子とアンモニア水溶液との混合物であって、前記1つまたは複数の層が、以下の式:
MmXn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含む、混合物を準備すること、および
前記混合物にせん断力を付与して、前記混合物より高い粘度を有するペーストを得ること
を含む、ペーストの製造方法が提供される。
【0012】
本発明のもう1つの要旨によれば、上記のいずれかに記載のペーストの製造方法によって得られたペーストを用いて導電性フィルムの前駆体を形成すること、および
前記前駆体を乾燥させて、導電性フィルムを得ること
を含む、導電性フィルムの製造方法が提供される。
【0013】
本発明のもう1つの要旨によれば、1つまたは複数の層を含む層状材料の粒子を、アンモニア水溶液中に含むペーストであって、
前記1つまたは複数の層が、以下の式:
MmXn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体と、該層本体の表面に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含み、
前記粒子が、アンモニウムイオンを介して三次元ネットワークを形成している、ペーストが提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、MXeneの3Dネットワークを、金属イオンに比べて容易に除去可能なアンモニアで形成したペーストおよび導電性フィルムならびにこれらの製造方法が提供される。MXeneの3Dネットワークの形成は、後述するように、ペーストの場合は粘度に基づいて、導電性フィルムの場合はMXeneの(002)のピーク強度面積に対する(110)のピーク強度面積の割合(単に「ピーク強度面積比」とも言う)に基づいて判断される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の1つの実施形態におけるペーストを示す概略模式図である。
【
図2】本発明の1つの実施形態におけるペーストに利用可能な層状材料であるMXeneを示す概略模式断面図である。
【
図3】本発明の1つの実施形態における導電性フィルムを示す概略模式断面図である。
【
図4】本発明との比較の目的で、3Dネットワークが形成されていない導電性フィルムを示す概略模式断面図である。
【
図5】実施例1および比較例1~2で製造したペーストの粘度の測定結果を示すグラフである。
【
図6】実施例1で製造した導電性フィルムをXRD測定して得られるXRDパターンを示すグラフである。
【
図7】比較例1で製造した導電性フィルムをXRD測定して得られるXRDパターンを示すグラフである。
【
図8】比較例2で製造した導電性フィルムをXRD測定して得られるXRDパターンを示すグラフである。
【
図9】実施例1で製造したペーストを塗工し、乾燥させて得られる導電性フィルムの外観写真である。
【
図10】比較例1で製造したペーストを塗工し、乾燥させて得られる導電性フィルムの外観写真である。
【
図11】比較例2で製造したペーストを塗工し、乾燥させて得られる導電性フィルムの外観写真である。
【
図12】実施例2で製造したペーストを塗工し、乾燥させて得られる導電性フィルムの外観写真である。
【
図13】実施例6で製造したペーストを塗工し、乾燥させて得られる導電性フィルムの外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(実施形態1:ペースト)
以下、本発明の1つの実施形態におけるペーストについて、その製造方法を通じて詳述するが、本発明のペーストはかかる実施形態に限定されるものではない。
【0017】
図1を参照して、本実施形態のペースト20は、所定の層状材料の粒子10をアンモニア水溶液11中に含み、ペースト20を固形分濃度1.0質量%として測定した場合の粘度が、せん断速度1/sにて1Pa・s以上である。別の観点からみれば、本実施形態のペースト20は、所定の層状材料の粒子10をアンモニア水溶液11中に含み、これら粒子10が、アンモニウムイオンを介して三次元ネットワークを形成している。
【0018】
本実施形態のペースト20の製造方法は、
(a)所定の層状材料の粒子10とアンモニア水溶液11との混合物を準備すること、および
(b)前記混合物にせん断力を付与して、前記混合物より高い粘度を有するペースト20を得ることを含む。
【0019】
・工程(a)
まず、所定の層状材料の粒子を準備する。本実施形態において使用可能な所定の層状材料はMXeneであり、次のように規定される:
1つまたは複数の層を含む層状材料であって、該1つまたは複数の層が、以下の式:
MmXn
(式中、Mは、少なくとも1種の第3、4、5、6、7族金属であり、いわゆる早期遷移金属、例えばSc、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびMnからなる群より選択される少なくとも1種を含み得、
Xは、炭素原子、窒素原子またはそれらの組み合わせであり、
nは、1以上4以下であり、
mは、nより大きく、5以下である)
で表される層本体(該層本体は、各XがMの八面体アレイ内に位置する結晶格子を有し得る)と、該層本体の表面(より詳細には、該層本体の互いに対向する2つの表面の少なくとも一方)に存在する修飾または終端T(Tは、水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子からなる群より選択される少なくとも1種である)とを含む層状材料(これは層状化合物として理解され得、「MmXnTs」とも表され、sは任意の数であり、従来、sに代えてxが使用されることもある)。代表的には、nは、1、2、3または4であり得るが、これに限定されない。
【0020】
MXeneの上記式中、Mは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、MoおよびMnからなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましく、Ti、V、CrおよびMoからなる群より選択される少なくとも1つであることがより好ましい。
【0021】
かかるMXeneは、MAX相からA原子(および場合によりM原子の一部)を選択的にエッチング(除去および場合により層分離)することにより合成することができる。MAX相は、以下の式:
MmAXn
(式中、M、X、nおよびmは、上記の通りであり、Aは、少なくとも1種の第12、13、14、15、16族元素であり、通常はA族元素、代表的にはIIIA族およびIVA族であり、より詳細にはAl、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、P、As、SおよびCdからなる群より選択される少なくとも1種を含み得、好ましくはAlである)
で表され、かつ、MmXnで表される2つの層(各XがMの八面体アレイ内に位置する結晶格子を有し得る)の間に、A原子により構成される層が位置した結晶構造を有する。MAX相は、代表的にm=n+1の場合、n+1層のM原子の層の各間にX原子の層が1層ずつ配置され(これらを合わせて「MmXn層」とも称する)、n+1番目のM原子の層の次の層としてA原子の層(「A原子層」)が配置された繰り返し単位を有するが、これに限定されない。MAX相からA原子(および場合によりM原子の一部)が選択的にエッチング(除去および場合により層分離)されることにより、A原子層(および場合によりM原子の一部)が除去されて、露出したMmXn層の表面にエッチング液(通常、含フッ素酸の水溶液が使用されるがこれに限定されない)中に存在する水酸基、フッ素原子、塩素原子、酸素原子および水素原子等が修飾して、かかる表面を終端する。エッチングは、F-を含むエッチング液を用いて実施され得、例えば、フッ化リチウムおよび塩酸の混合液を用いた方法や、フッ酸を用いた方法などであってよい。その後、適宜、任意の適切な後処理(例えば超音波処理、ハンドシェイクまたはオートマチックシェイカーなど)により、MXeneの層分離(デラミネーション、多層MXeneを単層MXeneおよび/または少層MXeneに分離すること)を促進してもよい。なお、超音波処理は、せん断力が大きすぎてMXene粒子が破壊され得るので、アスペクト比がより大きい2次元形状のMXene(好ましくは単層MXeneおよび/または少層MXene)を得ることが望まれる場合には、ハンドシェイクまたはオートマチックシェイカーなどにより適切なせん断力を付与することが好ましい。
【0022】
MXeneは、上記の式:MmXnが、以下のように表現されるものが知られている。
Sc2C、Ti2C、Ti2N、Zr2C、Zr2N、Hf2C、Hf2N、V2C、V2N、Nb2C、Ta2C、Cr2C、Cr2N、Mo2C、Mo1.3C、Cr1.3C、(Ti,V)2C、(Ti,Nb)2C、W2C、W1.3C、Mo2N、Nb1.3C、Mo1.3Y0.6C(上記式中、「1.3」および「0.6」は、それぞれ約1.3(=4/3)および約0.6(=2/3)を意味する。)、
Ti3C2、Ti3N2、Ti3(CN)、Zr3C2、(Ti,V)3C2、(Ti2Nb)C2、(Ti2Ta)C2、(Ti2Mn)C2、Hf3C2、(Hf2V)C2、(Hf2Mn)C2、(V2Ti)C2、(Cr2Ti)C2、(Cr2V)C2、(Cr2Nb)C2、(Cr2Ta)C2、(Mo2Sc)C2、(Mo2Ti)C2、(Mo2Zr)C2、(Mo2Hf)C2、(Mo2V)C2、(Mo2Nb)C2、(Mo2Ta)C2、(W2Ti)C2、(W2Zr)C2、(W2Hf)C2、
Ti4N3、V4C3、Nb4C3、Ta4C3、(Ti,Nb)4C3、(Nb,Zr)4C3、(Ti2Nb2)C3、(Ti2Ta2)C3、(V2Ti2)C3、(V2Nb2)C3、(V2Ta2)C3、(Nb2Ta2)C3、(Cr2Ti2)C3、(Cr2V2)C3、(Cr2Nb2)C3、(Cr2Ta2)C3、(Mo2Ti2)C3、(Mo2Zr2)C3、(Mo2Hf2)C3、(Mo2V2)C3、(Mo2Nb2)C3、(Mo2Ta2)C3、(W2Ti2)C3、(W2Zr2)C3、(W2Hf2)C3
【0023】
代表的には、上記の式において、Mがチタンまたはバナジウムであり、Xが炭素原子または窒素原子であり得る。例えば、MAX相は、Ti3AlC2であり、MXeneは、Ti3C2Tsである(換言すれば、MがTiであり、XがCであり、nが2であり、mが3である)。
【0024】
なお、本発明において、MXeneは、残留するA原子を比較的少量、例えば元のA原子に対して10質量%以下で含んでいてもよい。A原子の残留量は、好ましくは8質量%以下、より好ましくは6質量%以下であり得る。しかしながら、A原子の残留量は、10質量%を超えていたとしても、ペースト(およびそれによって得られる導電性フィルム)の用途や使用条件によっては問題がない場合もあり得る。
【0025】
このようにして合成されるMXene(粒子)10は、
図2に模式的に示すように、1つまたは複数のMXene層7a、7bを含む層状材料(MXene(粒子)10の例として、
図2(a)中に1つの層のMXene10aを、
図2(b)中に2つの層のMXene10bを示しているが、これらの例に限定されない)であり得る。より詳細には、MXene層7a、7bは、M
mX
nで表される層本体(M
mX
n層)1a、1bと、層本体1a、1bの表面(より詳細には、各層にて互いに対向する2つの表面の少なくとも一方)に存在する修飾または終端T 3a、5a、3b、5bとを有する。よって、MXene層7a、7bは、「M
mX
nT
s」とも表され、sは任意の数である。MXene10は、かかるMXene層が個々に分離されて1つの層で存在するもの(
図2(a)に示す単層構造体、いわゆる単層MXene10a)であっても、複数のMXene層が互いに離間して積層された積層体(
図2(b)に示す多層構造体、いわゆる多層MXene10b)であっても、それらの混合物であってもよい。MXene10は、単層MXene10aおよび/または多層MXene10bから構成される集合体としての粒子(粉末またはフレークとも称され得る)であり得る。多層MXeneである場合、隣接する2つのMXene層(例えば7aと7b)は、必ずしも完全に離間していなくてもよく、部分的に接触していてもよい。
【0026】
本実施形態を限定するものではないが、MXeneの各層(上記のMXene層7a、7bに相当する)の厚さは、例えば0.8nm以上5nm以下、特に0.8nm以上3nm以下であり(主に、各層に含まれるM原子層の数により異なり得る)、層に平行な平面(二次元シート面)内における最大寸法は、例えば0.1μm以上200μm以下、特に1μm以上40μm以下である。
【0027】
MXeneが積層体(多層MXene)である場合、個々の積層体について、層間距離(または空隙寸法、
図2(b)中にΔdにて示す)は、例えば0.8nm以上10nm以下、特に0.8nm以上5nm以下、より特に約1nmであり、積層方向に垂直な平面(二次元シート面)内における最大寸法は、例えば0.1μm以上100μm以下、特に1μm以上20μm以下である。
【0028】
また、MXeneが積層体(多層MXene)である場合、個々の積層体について、層の総数は、2以上であればよいが、例えば50以上100,000以下、特に1,000以上20,000以下であり、積層方向の厚さは、例えば0.1μm以上200μm以下、特に1μm以上40μm以下である。
【0029】
MXeneが積層体(多層MXene)である場合、層数の少ないMXeneであることが好ましい。用語「層数が少ない」とは、例えばMXeneの積層数が6層以下であることを言う。また、層数の少ない多層MXeneの積層方向の厚さは、10nm以下であることが好ましい。本明細書において、この「層数の少ない多層MXene」(狭義の多層MXene)を「少層MXene」とも称する。
【0030】
本実施形態において、MXene10は、その大部分が単層MXene10aおよび/または少層MXeneから構成される粒子(ナノシートとも称され得る)であることが好ましい。換言すれば、MXeneの粒子全体における、積層方向の厚さが10nm以下の粒子(単層MXeneおよび/または少層MXene)の割合が50体積%以上であり得る。
【0031】
なお、上述したこれら寸法は、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)または原子間力顕微鏡(AFM)の写真に基づく数平均寸法(例えば少なくとも40個の数平均)あるいはX線回折(XRD)法により測定した(002)面の逆格子空間上の位置より計算した実空間における距離として求められる。
【0032】
そして、上述のMXeneの粒子10とアンモニア水溶液11との混合物(「MXene-アンモニア水混合物」とも称する)を調製する。アンモニア水溶液11は、水系溶媒とアンモニアとを含んで成り、アンモニアはアンモニウムイオン(NH4
+)の形態であり得る。水系溶媒は、代表的には水であり、場合により、水に加えて他の液状物質を比較的少量(全体基準で例えば30質量%以下、好ましくは20質量%以下)で含んでいてもよい。
【0033】
MXene-アンモニア水混合物を構成するアンモニア水溶液は、MXene-アンモニア水混合物を調製するにあたって任意の適切な態様でMXeneの粒子と混合され得る。例えば、MXene-アンモニア水混合物は、MXeneの粒子をアンモニア水溶液に添加して得てもよいが、MXeneの粒子10を水系溶媒中に含むMXene-水混合物を、アンモニア水溶液に添加して得てもよい。後者の場合、「アンモニア水溶液におけるアンモニア濃度」は、添加後に得られるアンモニア水溶液(添加前のアンモニア水溶液と、MXene-水混合物における水系溶媒とを合わせたもの)におけるアンモニア濃度を言うものとし、後述するせん断力を付与する工程の後も、アンモニア濃度は実質的に同等であると考えて差し支えない。
【0034】
アンモニア水溶液(MXene-アンモニア水混合物を構成するアンモニア水溶液)におけるアンモニア濃度は、ペースト(およびそれによって得られる導電性フィルム)に所望される性質等に応じて適宜選択され得る。例えば、MXeneの粒子が凝集せず、ぬりむらやひび割れがなく、よって、塗工性に優れたペーストを得るためには、アンモニア水溶液におけるアンモニア濃度は、例えば0.005モル/L以上1.3モル/L未満、好ましくは0.01モル/L以上1.2モル/L以下であり、より好ましくは0.02モル/L以上、更に好ましくは0.03モル/L以上であり得、および/または、より好ましくは1.0モル/L以下、更に好ましくは0.83モル/L以下であり得る。
【0035】
MXene-アンモニア水混合物におけるMXeneの含有割合(本実施形態において固形分濃度としても理解され得る)は、特に限定されないが、例えば0.5~2.5質量%であり得る。
【0036】
・工程(b)
次に、上記で準備したMXene-アンモニア水混合物にせん断力を付与して、せん断力を付与する前のMXene-アンモニア水混合物に比べて高い粘度を有するペーストを得る。
【0037】
MXene-アンモニア水混合物にせん断力を付与することにより、
図1に例示的に示すように、MXeneの粒子10が、アンモニウムイオン(NH
4
+)を介して3Dネットワークを形成し、これにより、MXene-アンモニア水混合物の粘度が上昇するものと考えられる。本発明はいかなる理論によっても拘束されないが、アンモニウムイオンは1価であり、単なる混合ではMXeneの3Dネットワークを形成できないが、ある程度のせん断力を付与することにより、MXeneの3Dネットワークを形成できるものと考えられる。MXene表面は負に帯電しており、この電荷がカチオンと相互作用することでネットワークが形成されていくと考えられる。相互作用の大きさは相手となるカチオンの価数に比例する。相互作用の小さい1価カチオンではせん断力により積極的にエネルギーを与えることで3Dネットワークの形成が促進されるものと推測される。
【0038】
これにより得られる本実施形態のペースト20は、MXeneの粒子10をアンモニア水溶液11中に含み、ペースト20を固形分濃度1.0質量%として測定した場合の粘度が、せん断速度1/sにて1Pa・s以上であり、好ましくは2Pa・s以上、上限は特に限定されないが、例えば100Pa・s以下であり得る。本発明者らの知見によれば、かかる粘度の値が達成されることにより、MXeneが3Dネットワークを形成しているものと判断することができる。
【0039】
なお、本実施形態により製造されるペースト20の物性の1つとして粘度を規定している。ペーストの粘度の値は、主に固形分濃度およびせん断速度により異なり得るため、固形分濃度1.0質量%およびせん断速度1/sとの測定条件を設定したものである。当然ながら、本実施形態のペースト20の固形分濃度およびせん断力付与時のせん断速度は、これらの値に限定されない。ペースト20の固形分濃度が1.0質量%でない場合には、ペースト20に純水を添加するか、ペースト20を乾燥させるかして、固形分濃度が1.0質量%となるように調節して、その粘度を測定すればよい。
【0040】
せん断力を付与する方法は、例えば、シェイカー、シェアミキサーなどを用いて、上記の粘度が得られるように、せん断力を付与する強度および時間等を適宜選択して実施できる。本実施形態を限定するものではないが、後述する実施例においては、MXene-アンモニア水混合物をオートマチックシェイカー(FAST & FLUID社製、SK-550)により15分間処理することでせん断力を加えた。せん断力は、MXene粒子を破壊しないように加えることが望ましく、MXene粒子(例えばフレーク等)に対して異方的なエネルギーを加えられることが望ましい。
【0041】
本実施形態のペースト20において、特に断りのない限り、その製造方法に関連して上述した説明がそのまま当て嵌り得る。
【0042】
本実施形態のペースト20によれば、MXeneの3Dネットワークがアンモニウムイオンにより形成されており、アンモニウムイオンは、金属イオンに比べて容易に、例えば加熱するだけで除去することができる。アンモニウムイオンの除去は、本実施形態のペースト20を使用して所望の部材(例えば、実施形態2にて後述するような導電性フィルムであり得るが、これに限定されない)を作製した後に実施してよく、これにより、該部材において、MXeneの3Dネットワークを実質的に維持しながら、アンモニウムイオンを除去することができる。
【0043】
(実施形態2:導電性フィルム)
以下、本発明の1つの実施形態における導電性フィルムについて、その製造方法を通じて詳述するが、本発明の導電性フィルムはかかる実施形態に限定されるものではない。
【0044】
図3を参照して、本実施形態の導電性フィルム30は、MXeneの粒子10を含み、導電性フィルム30をX線回折(XRD)測定して得られる、該MXeneの(002)および(110)の各ピーク強度面積をS
(002)およびS
(110)とした場合に、S
(002)に対するS
(110)の割合が2.0%以上である。なお、
図3中、除去されたアンモニウムイオンを点線円にて模式的に示している。
【0045】
本実施形態の導電性フィルム30の製造方法は、
(c)実施形態1にて上述した製造方法によって得られたペースト20を用いて導電性フィルムの前駆体を形成すること、および
(d)前記前駆体を乾燥させて、導電性フィルムを得ること
を含む。
【0046】
・工程(c)
まず、実施形態1にて上述した製造方法によって得られたペースト20を用いて導電性フィルムの前駆体(「前駆体フィルム」とも称する)を形成する。前駆体の形成方法は特に限定されず、例えば塗工、吸引ろ過、スプレーなどを利用できる。より詳細には、ペースト20をそのままで、または適宜調整(例えば水系溶媒で希釈)して、バーコーター、ロールコーター、スピンコーター、ブレードなどを使用して、任意の適切な基材(導電性フィルムと共に所定の部材を構成するものであっても、最終的に導電性フィルムから分離されてもよい)上に塗工することにより、該基材上に前駆体を形成することができる。また、ペースト20を適宜調整(例えば水系溶媒で希釈、固形分濃度0.01~0.2質量%)して、ヌッチェなどに設置したフィルター(導電性フィルムと共に所定の部材を構成するものであっても、最終的に導電性フィルムから分離されてもよい)を通じて吸引ろ過し、アンモニア水溶液(特に水系溶媒)を少なくとも部分的に除去することによって、該フィルター上に前駆体を形成することができる。フィルターは、特に限定されないが、メンブランフィルター(例えば、細孔径0.22μmのもの)などを使用し得る。また、ペースト20を適宜調整(例えば水系溶媒で希釈、固形分濃度0.01~2質量%)して、スプレーガン、エアブラシなどで任意の適切な基材(導電性フィルムと共に所定の部材を構成するものであっても、最終的に導電性フィルムから分離されてもよい)上にスプレーすることにより、該基材上に前駆体を形成することができる。
【0047】
かかる前駆体(前駆体フィルム)においては、MXeneの3Dネットワークがアンモニウムイオンを介して形成されたままで存在するものと考えられる。
【0048】
・工程(d)
次に、上記で形成した前駆体を乾燥させて、導電性フィルム30を得る。本発明において「乾燥」は、前駆体中に存在し得る水系溶媒を除去することを意味する。乾燥の間に、アンモニア(アンモニア水溶液中に存在するアンモニアおよびアンモニウムイオンを含み得、アンモニウムイオンは、アンモニア水溶液中で遊離していても、MXeneの3Dネットワーク形成に寄与していてもよい)は、水系溶媒と共に前駆体から除去されても、されなくてもよい。
【0049】
乾燥を自然乾燥(代表的には常温常圧下にて、空気雰囲気中に配置する)や空気乾燥(空気を吹き付ける)などのマイルドな条件で行う場合、乾燥後に得られる導電性フィルムにおいてアンモニアが残存し得る。残存するアンモニアは、MXeneの3Dネットワーク形成に寄与するアンモニウムイオンの形態であってよい。
【0050】
乾燥を加熱乾燥や真空乾燥などの比較的シビアな条件で行う場合、かかる乾燥の間にアンモニアが水系溶媒と共に前駆体から除去され、乾燥後に得られる導電性フィルムはアンモニアを実質的に含まないものとなり得る。
【0051】
あるいは、導電性フィルムの用途によって、導電性フィルムからアンモニアを除去すること(例えばアンモニウムイオンにより塞がれている活性点を復活させること)が望ましい場合には、乾燥の間および/またはその後に、加熱等により、アンモニアを積極的に分離して、導電性フィルムを得るようにしてもよい。
【0052】
工程(c)および/または工程(d)は、所望の導電性フィルム厚さが得られるまで適宜繰り返してもよい。例えば、工程(c)のスプレーと工程(d)の乾燥との組み合わせを複数回繰り返して実施してもよい。
【0053】
これにより得られる本実施形態の導電性フィルム30は、MXeneの粒子10を含み、導電性フィルム30をXRD測定して得られる、該記MXeneの(002)および(110)の各ピーク強度面積をS(002)およびS(110)とした場合に、S(002)に対するS(110)の割合z(単に「ピーク強度面積比」とも言う)が2.0%以上であり、好ましくは4%以上、より好ましくは6%以上、更に好ましくは8%以上、上限は特に限定されないが、例えば40%以下であり得る。本発明者らの知見によれば、かかるピーク強度面積比zの値が達成されることにより、MXeneの3Dネットワークが、アンモニウムイオンを介して、および/またはアンモニウムイオンが除去された状態で、存在するものと判断することができる。
【0054】
ピーク強度面積比zは、下記の式により算出される。
z(%)=S(110)/S(002)×100
【0055】
MXeneの(002)のピーク強度面積S(002)およびMXeneの(110)のピーク強度面積S(110)は、導電性フィルムを2θ/θ法によりXRD測定して得られるXRDパターンから、
該XRDパターンを、横軸の角度2θ(°)=xに対して、縦軸の強度I(cps)=f(x)と表現するものとし、
MXeneの(002)のピークに対応する角度2θ=2θ(002)に対して、2θ=x1~x2(°)の角度範囲(但し、x1<x2)でS(002)を算出するものとし、
MXeneの(110)のピークに対応する角度2θ=2θ(110)に対して、2θ=x3~x4(°)の角度範囲(但し、x3<x4)でS(110)を算出するものとして、
それぞれ下記の式により算出される。
【0056】
【0057】
【0058】
S(002)の場合、第1項のS1(002)は、2θ=x1~x2の範囲での、I=f(x)の下方かつI=0の上方の面積を意味し、第2項のS2(002)および第3項のS3(002)の合計は、(x1,f(x1))、(x2,f(x2))、(x2,0)、(x1,0)で囲まれる台形領域(S2(002)は三角形領域であり、S3(002)は矩形領域であり、f(x1)=f(x2)の場合はS2(002)=0となり、全体として矩形領域となる)を意味する。S(110)の場合もこれと同様に理解され得る。
【0059】
上記f(x)は、XRDパターンの測定結果の隣接点同士を結ぶことで得られる。S(002)を求める角度範囲の下限x1および上限x2は、当該MXeneの(002)面由来のピークが十分に含まれるように設定し、概略的には、2θ(002)±1~3(°)であり得、例えば2θ(002)-3(°)および2θ(002)+1(°)である。S(110)を求める角度範囲の下限x3および上限x4は、当該MXeneの(110)面由来のピークが十分に含まれるように設定し、概略的には、2θ(110)±1~3(°)であり得、例えば2θ(110)±1(°)である。本実施形態を限定するものではないが、MXeneがTi3C2Tsである場合、2θ(002)=6°であるのに対してx1=3°およびx2=7°とし、2θ(110)=64°であるのに対してx3=63°およびx4=65°とする。
【0060】
MXeneの(002)面は、MXeneの二次元シート面(MXeneの層に平行な平面)に対して平行な面であり、導電性フィルムをXRD測定して得られるXRDパターンにおいてS
(002)が大きいことは、導電性フィルムの主面に対してMXeneの二次元シート面が揃っている(平行である)MXene粒子が多いことを意味する(MXeneの3Dネットワークが形成されていない場合、
図4に示すような導電性フィルム60となる傾向にある)。MXeneの(110)面は、MXeneの二次元シート面に対して垂直な面であり、導電性フィルムをXRD測定して得られるXRDパターンにおいてS
(110)の大きさは、導電性フィルムの主面に対してMXeneの二次元シート面が揃っていない(垂直である)MXene粒子の存在程度を示す。よって、上記ピーク強度面積比zは、導電性フィルムにおけるMXene粒子のランダム配向性を示す指標として理解され、MXeneの3Dネットワークが形成されることで(
図3参照)、zが増大するものと考えられる。
【0061】
他の点については、本実施形態の導電性フィルム30において、特に断りのない限り、その製造方法に関連して上述した説明がそのまま当て嵌り得る。
【0062】
本実施形態の導電性フィルム30は、いわゆるフィルムとしての形態を有し、具体的には、互いに対向する2つの主面を有するものであり得る。導電性フィルム30の厚さ、および平面視した場合の形状および寸法などは、導電性フィルム30の用途に応じて適宜選択され得る。
【0063】
本実施形態の導電性フィルム30によれば、MXeneの3Dネットワークが、アンモニウムイオンを介して、および/またはアンモニウムイオンが除去された状態で、形成されており、存在する場合、アンモニウムイオンは、金属イオンに比べて容易に、例えば加熱するだけで除去することができる。
【0064】
本実施形態の導電性フィルム30によれば、MXeneの3Dネットワークが形成されていない場合にくらべて、MXeneの体積密度が低下し得るものの、導電性フィルム30の厚さ方向においてより高い導電性を得ることができると考えられる。
【0065】
本実施形態の導電性フィルム30は、任意の適切な用途に利用され得る。例えば、任意の適切な電気デバイスにおける電極、イオン吸着材、分子吸着剤、触媒などに利用され得る。
【0066】
以上、本発明の実施形態におけるペーストおよび導電性フィルムについて、それらの製造方法を通じて詳述したが、種々の改変が可能である。なお、本発明のペーストおよび導電性フィルムは、上述の実施形態における製造方法とは異なる方法によって製造されてもよく、また、本発明のペーストおよび導電性フィルムの製造方法は、上述の実施形態におけるペーストおよび導電性フィルムを提供するもののみに限定されないことに留意されたい。
【実施例】
【0067】
(実施例1)
実施例1は、アンモニア濃度0.2モル/Lのアンモニア水溶液を6倍希釈(よって、アンモニア濃度約0.03モル/L)で使用して、ペーストおよび導電性フィルムを作製した例に関する。
【0068】
・MAX粉末の調製
TiC粉末、Ti粉末およびAl粉末(いずれも株式会社高純度化学研究所製)を2:1:1のモル比で、ジルコニアボールを入れたボールミルに投入して24時間混合した。得られた混合粉末をAr雰囲気下にて1350℃で2時間焼成した。これにより得られた焼成体(ブロック)をエンドミルで最大寸法40μm以下まで粉砕した。これにより、MAX粉末としてTi3AlC2粉末を得た。
【0069】
・MXene粒子の調製
上記で得られたTi3AlC2粉末を1g秤量し、1gのLiFと共に12モル/Lの塩酸10mLに添加して35℃にてスターラーで24時間撹拌して、Ti3AlC2粉末に由来する固体成分を含む固液混合物(懸濁液)を得た。これに対して、純水による洗浄および遠心分離機を用いた上澄み液の分離除去(上澄みを除いた残りの沈降物は再び洗浄に付す)操作を、pH4程度になるまで繰り返し実施した。これにより、MXene粒子としてTi3C2Ts粒子の沈降物を得た。
【0070】
・MXeneペーストの製造
上記で得られたMXene粒子の沈降物の固形分濃度を測定し、かかる沈降物と純水とを適切な量で混合して、MXene-水混合物(純水5mL、MXene2質量%)を得た。このMXene-水混合物(純水5mL、MXene2質量%)に1mLのアンモニア水溶液(0.2モル/L)を添加して、MXene-アンモニア水混合物を得た。この混合操作は、アンモニア濃度0.2モル/Lのアンモニア水溶液を6倍希釈するものであるので、MXene-アンモニア水混合物におけるアンモニア水溶液のアンモニア濃度は約0.03モル/Lと計算される(表1参照)。得られたMXene-アンモニア水混合物をオートマチックシェイカー(FAST & FLUID社製、SK-550)にてせん断力を15分間加えた。これにより、実施例1のペースト(MXeneペースト)が得られた。得られたペーストの固形分濃度は1.7質量%であった。
【0071】
・導電性フィルムの製造
上記で得られたペーストを、基材(ポリエチレンテレフタレートフィルム、東レ株式会社、ルミラー(登録商標))上に、バーコーターにて約120μmの厚さで塗工して、ペーストから成る前駆体フィルムを形成した。その後、実験室内(約25℃)で常圧下空気雰囲気での自然乾燥に付して該前駆体フィルムを乾燥させて、該前駆体フィルムに由来する実施例1の導電性フィルムを得た(
図9参照、上記ペーストの塗工性を表1に併せて示す)。実施例1の導電性フィルムは、厚さ約10μmであった。
【0072】
(比較例1)
実施例1のMXeneペーストの製造において、MXene-水混合物(純水5mL、MXene2質量%)に、1mLのアンモニア水溶液(0.2モル/L)を添加する代わりに、1mLの純水を添加し、これにより得られたMXene-水混合物をオートマチックシェイカー(FAST & FLUID社製、SK-550)にてせん断力を15分間加えたことを除いて(表1参照)、実施例1と同様にして、比較例1のペーストおよび導電性フィルムを得た。
【0073】
(比較例2)
実施例1のMXeneペーストの製造において、MXene-アンモニア水混合物をオートマチックシェイカー(FAST & FLUID社製、SK-550)にてせん断力を加えなかったことを除いて(表1参照)、実施例1と同様にして、比較例2のペーストおよび導電性フィルムを得た。
【0074】
(実施例2~6)
実施例1のMXeneペーストの製造において、MXene-水混合物(純水5mL、MXene2質量%)に、1mLのアンモニア水溶液(0.2モル/L)を添加する代わりに、表1に示すようにアンモニア濃度の異なる1mLのアンモニア水溶液を添加したことを除いて、実施例1と同様にして、実施例2~6のペーストおよび導電性フィルムを得た。
【0075】
(実施例7~8)
実施例1のMXeneペーストの製造において、MXene-水混合物(純水5mL、MXene2質量%)に、1mLのアンモニア水溶液(0.2モル/L)を添加する代わりに、表1に示すようにアンモニア濃度の異なる2.5mLのアンモニア水溶液を添加したこと(すなわち、アンモニア水溶液を3倍希釈したこと)を除いて、実施例1と同様にして、実施例7~8のペーストおよび導電性フィルムを得た。
【0076】
【0077】
・ペーストの粘度
実施例1および比較例1~2で製造したペーストから、それぞれサンプル(固形分濃度1.7質量%)を分取し、固形分濃度が1.0質量%となるように調整した。次に固形分濃度1.0質量%に調整したサンプルの粘度を、粘弾性測定装置(株式会社北浜製作所製、MCR302)を使用して、せん断速度0.01~1000/sの範囲で測定した。粘度測定の結果を
図5に示す。
【0078】
図5から理解されるように、実施例1(アンモニアあり、せん断力あり)のペーストは、比較例1(アンモニアなし、せん断力あり)および比較例2(アンモニアあり、せん断力なし)のペーストに比べて、せん断速度0.01~1000/sの範囲に亘って、高い粘度を示した。せん断速度1/sでは、実施例1のペーストの粘度は1.97Pa・s、比較例1のペーストの粘度は0.47Pa・s、比較例2のペーストの粘度は0.67Pa・sであった。かかる粘度の上昇は、MXeneの3Dネットワークがアンモニウムイオンを介して形成されたことに起因するものと考えられる。
【0079】
・導電性フィルムのピーク強度面積比
実施例1および比較例1~2で製造した導電性フィルムを、X線回折装置(株式会社リガク製、MiniFlex600)の試料台に両面テープで固定して、Cu管球にて、3~65°の測定範囲で、50step/°にて、2θ/θ法によりXRD測定した。XRD測定の結果を
図6~8に示す。
【0080】
図6~8のXRDパターンから、MXene(Ti
3C
2T
s)の(002)のピーク強度面積S
(002)をx
1=3°およびx
2=7°として求め、MXene(Ti
3C
2T
s)の(110)のピーク強度面積S
(110)をx
3=63°およびx
4=65°として求め、ピーク強度面積比z(%)=S
(110)/S
(002)×100を算出した。結果を表2に示す。
【0081】
【0082】
表2から理解されるように、実施例1(アンモニアあり、せん断力あり)の導電性フィルムは、比較例1(アンモニアなし、せん断力あり)および比較例2(アンモニアあり、せん断力なし)の導電性フィルムに比べて、高いピーク強度面積比zを示した。かかるピーク強度面積比zの増大は、MXeneの3Dネットワークが(アンモニウムイオンを介して、および/またはアンモニウムイオンが除去された状態で)存在することに起因するものと考えられる。
【0083】
・ペーストの塗工性
実施例1、比較例1~2、実施例2~8において、ペーストを基材上に塗工し、乾燥させたときの塗工性を表1に併せて示す。また、実施例1、比較例1~2、実施例2、6において、ペーストを基材上に塗工し、乾燥させて得られた導電性フィルムの外観写真を
図9~13に示す。
【0084】
図9に示すように、実施例1のペーストは、導電性フィルムをひび割れなし、かつむらなしに(実質的に均一な厚さで)形成することができ、優れた塗工性を示した。
図10~11に示すように、比較例1~2のペーストは、導電性フィルムにひび割れが発生し(
図10~11中に白矢印にて示す)、塗工性に劣っており、導電性フィルムにおいて十分な強度が得られなかった。かかる相違は、実施例1のペーストでは、比較例1~2のペーストに比べて高い粘度を有していることによるものと考えられる。
【0085】
図12に示すように、実施例2(低アンモニア濃度)のペーストは、基材への濡れ性が低く(なじみが悪く)、広がり難く(
図12中にフレームで囲って示す)、塗工性に劣っていた。実施例3、4、7、8のペーストは、実施例1のペーストと同様に、導電性フィルムをひび割れなし、かつむらなしに形成することができ、優れた塗工性を示した。
図13に示すように、実施例6(高アンモニア濃度)のペーストは、MXene粒子が凝集体を形成してしまい、導電性フィルムにむらが発生した(厚さが不均一になった)。実施例5のペーストも、実施例6のペーストと同様であった。実施例1~8の結果から、ペーストを塗工して導電性フィルムを形成する場合には、MXene-アンモニア水混合物を構成するアンモニア水におけるアンモニア濃度が0.005モル/L以上1.3モル/L未満、より詳細には0.01モル/L以上1.2モル/L以下の実施例1、3、4、7、8において優れた塗工性が得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明のペーストおよび導電性フィルムは、任意の適切な用途に利用され得、例えば電気デバイスにおける電極として特に好ましく使用され得る。
【0087】
本願は、2020年2月26日付けで米国特許商標庁に仮出願された米国出願No. 62/981,737に基づく優先権を主張し、その記載内容の全てが、参照することにより本明細書に援用される。
【符号の説明】
【0088】
1a、1b 層本体(MmXn層)
3a、5a、3b、5b 修飾または終端T
7a、7b MXene層
10、10a、10b MXene(層状材料)
11 アンモニア水溶液
20 ペースト
30、60 導電性フィルム
【国際調査報告】