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特表2023-511603タンパク質の翻訳後修飾のタンデム質量タグ多重化定量
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-20
(54)【発明の名称】タンパク質の翻訳後修飾のタンデム質量タグ多重化定量
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20230313BHJP
   C07K 1/13 20060101ALI20230313BHJP
   C07K 16/00 20060101ALN20230313BHJP
【FI】
G01N27/62 V ZNA
G01N27/62 X
C07K1/13
C07K16/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022545340
(86)(22)【出願日】2021-01-26
(85)【翻訳文提出日】2022-07-26
(86)【国際出願番号】 US2021015146
(87)【国際公開番号】W WO2021154764
(87)【国際公開日】2021-08-05
(31)【優先権主張番号】62/966,151
(32)【優先日】2020-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】597160510
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ユアン・マオ
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー・クラインバーグ
【テーマコード(参考)】
2G041
4H045
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA05
2G041EA04
2G041FA12
2G041GA09
2G041HA01
2G041JA02
2G041JA04
2G041KA01
2G041LA08
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA50
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA65
4H045FA15
4H045FA74
(57)【要約】
単一の質量分析(MS)実行において複数の試料の翻訳後修飾などの複数の質属性を定量化する方法が開示され、該方法は、試料を消化するのに十分な条件下で、2つ以上の試料を消化溶液と接触させることであって、各試料は、別々に消化され、消化溶液は、トリスを含まない緩衝溶液である、接触させることと、2つ以上の消化された試料の各々内のペプチドを特定のタンデム質量タグ(TMT)標識試薬で標識するのに十分な条件下で、消化された試料の各々を特定のTMT標識試薬と接触させることと、2つ以上の消化された試料の各々内のペプチドの標識をクエンチすることと、等体積の2つ以上の標識され、消化された試料を、単一の混合試料溶液に混合することと、標的化質量スペクトル分析によって単一の混合試料溶液を分析し、それによって、2つ以上の試料の複数の質属性が単一の質量分析(MS)実行において定量化されることを可能にすることと、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一の質量分析(MS)実行において複数の試料の複数の質属性を定量化する方法であって、
2つ以上の試料を消化するのに十分な条件下で、前記2つ以上の試料を消化溶液と接触させることであって、各試料は、別々に消化され、前記消化溶液は、トリスを含まない緩衝溶液である、接触させることと、
前記2つ以上の消化された試料の各々内のペプチドを特定のタンデム質量タグ(TMT)標識試薬で標識するのに十分な条件下で、前記2つ以上の消化された試料の各々を前記特定のTMT標識試薬と接触させることと、
前記2つ以上の消化された試料の各々内のペプチドの標識をクエンチすることと、
等体積の前記2つ以上の標識され、消化された試料を、単一の混合試料溶液に混合することと、
標的化質量スペクトル分析によって前記単一の混合試料溶液を分析し、それによって、前記2つ以上の試料の複数の質属性が単一のMS実行において定量化されることを可能にすることと、を含む、方法。
【請求項2】
複数の質属性は、翻訳後修飾(PTM)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記PTMは、脱アミド化、酸化、糖化、ジスルフィド形成、N末端ピログルタミン酸形成、C末端リジン除去、およびグリコシル化のうちの1つ以上を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記PTMは、グリコシル化を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
単一のMS実行において複数の質属性を定量化することは、標的化質量スペクトルにおいて生成された結果として生じるレポートイオンの抽出されたピーク面積からPTMの相対存在量を定量化することによって、前記PTMを定量化することを含む、請求項2~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記2つ以上の消化された試料の各々を特定のTMT標識試薬と接触させる前に、前記2つ以上の消化された試料の各々を小分子添加剤と接触させることをさらに含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記小分子添加剤は、BOC-Y-OH、p-クレゾール、ヒドロキシ-フェニル酢酸(HPAA)、ヒドロキシ安息香酸(HBA)、アセトアミノフェン、およびp-アミノ安息香酸(PABA)からなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記小分子添加剤は、PABAである、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記ペプチドは、糖ペプチドである、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記糖ペプチドは、モノクローナル抗体から取得される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記モノクローナル抗体は、アイソタイプIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、または混合アイソタイプのものである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
2つ以上の試料は、2~11個の試料である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
分析される2または試料を取得することをさらに含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記2つ以上の試料を消化するのに十分な条件下で前記2つ以上の試料を消化溶液と接触させる前に、消化のための前記2つ以上の試料を調製することをさらに含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
消化前に前記2つ以上の試料を調製することは、試料の変性および還元を可能にする条件下で、前記2つ以上の試料の各々を変性および還元溶液と接触させることと、試料のアルキル化を可能にする条件下で、前記2つ以上の変性および還元された試料の各々をアルキル化溶液と接触させることと、を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
標的化質量スペクトル分析によって前記単一の混合試料溶液を分析することは、単一の混合試料を分離カラムに適用することと、溶出した試料成分に対して標的化質量スペクトル分析を行うことと、を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記分離カラムは、液体クロマトグラフィーカラムである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
溶出した試料成分に対して標的化質量スペクトル分析を行うことは、エレクトロスプレーイオン化を適用して前記溶出した試料成分から荷電イオンを生成することと、前記生成された荷電イオンを測定することと、を含む、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
単一の質量分析(MS)実行において複数の試料の翻訳後修飾(PTM)を定量化する方法であって、
2つ以上の試料を消化するのに十分な条件下で、前記2つ以上の試料を消化溶液と接触させることであって、各試料は、別々に消化され、前記消化溶液は、トリスを含まない緩衝溶液である、接触させることと、
前記2つ以上の消化された試料の各々を小分子添加剤と接触させることと、
前記2つ以上の消化された試料の各々内のペプチドを特定のタンデム質量タグ(TMT)標識試薬で標識するのに十分な条件下で、前記2つ以上の消化された試料の各々を前記特定のTMT標識試薬と接触させることと、
前記2つ以上の消化された試料の各々内のペプチドの標識をクエンチすることと、
等体積の前記2つ以上の標識され、消化された試料を、単一の混合試料溶液に混合することと、
標的化質量スペクトル分析によって前記単一の混合試料溶液を分析し、それによって、前記2つ以上の試料のPTMが単一のMS実行において定量化されることを可能にすることと、を含む、方法。
【請求項20】
前記PTMは、脱アミド化、酸化、糖化、ジスルフィド形成、N末端ピログルタミン酸形成、C末端リジン除去、およびグリコシル化のうちの1つ以上を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項21】
PTMは、グリコシル化を含む、請求項20記載の方法。
【請求項22】
PTMを定量化することは、標的化質量スペクトルにおいて生成された結果として生じるレポートイオンの抽出されたピーク面積からPTMの相対存在量を定量化することを含む、請求項19~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記小分子添加剤は、BOC-Y-OH、p-クレゾール、ヒドロキシ-フェニル酢酸(HPAA)、ヒドロキシ安息香酸(HBA)、アセトアミノフェン、およびp-アミノ安息香酸(PABA)からなる群から選択される、請求項19~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記小分子添加剤は、PABAである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記ペプチドは、糖ペプチドである、請求項19~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記糖ペプチドは、モノクローナル抗体から取得される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記モノクローナル抗体は、アイソタイプIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、または混合アイソタイプのものである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
2つ以上の試料は、2~16個の試料である、請求項19~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
分析される2または試料を取得することをさらに含む、請求項19~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記2つ以上の試料を消化するのに十分な条件下で前記2つ以上の試料を消化溶液と接触させる前に、消化のための前記2つ以上の試料を調製することをさらに含む、請求項19~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
消化前に前記2つ以上の試料を調製することは、試料の変性および還元を可能にする条件下で、前記2つ以上の試料の各々を変性および還元溶液と接触させることと、試料のアルキル化を可能にする条件下で、前記2つ以上の変性および還元された試料の各々をアルキル化溶液と接触させることと、を含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
標的化質量スペクトル分析によって前記単一の混合試料溶液を分析することは、単一の混合試料を分離カラムに適用することと、溶出した試料成分に対して標的化質量スペクトル分析を行うことと、を含む、請求項19~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記分離カラムは、液体クロマトグラフィーカラムである、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
溶出した試料成分に対して標的化質量スペクトル分析を行うことは、エレクトロスプレーイオン化を適用して前記溶出した試料成分から荷電イオンを生成することと、前記生成された荷電イオンを測定することと、を含む、請求項32または33に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
配列表の参照
本出願は、2021年1月26日に作成され、1462バイトを含むファイル10693WO01-Sequence.txtとしてコンピュータ可読形式で提出された配列表を参照により組み込む。
【0002】
本発明は、バイオ医薬品に関し、治療用モノクローナル抗体などのタンパク質の翻訳後修飾のタンデム質量タグ(TMT)多重化定量に関する。
【背景技術】
【0003】
1986年に米国食品医薬品局(FDA)によって最初に承認されて以来、組換えモノクローナル抗体(mAb)は、高い特異性、長い循環半減期、免疫細胞エフェクター応答を引き起こす可能性、および小分子薬物と比較してより少ない副作用などにより、薬物開発パイプラインおよびバイオ医薬品市場における種々のヒト疾患の処置において最も急速に成長しているクラスのバイオ治療薬のうちの1つとして浮上している。現在までに、およそ80種のIgG mAb薬物産物がFDAおよび欧州医薬品庁(EMA)によって承認されており、70種超が後期開発段階にある。
【0004】
IgG mAbは、複数のジスルフィド結合を介して共有結合してY型構造を形成する2つの同一の重鎖および軽鎖からなるおよそ150kDaの共有結合ヘテロテトラマータンパク質である。mAbは、サイズが大きく構造が複雑であるため、細胞培養、精製、製剤化および保存中に、Fcグリコシル化、メチオニン(Met)酸化、アスパラギン(Asn)脱アミド化、アスパラギン酸(Asp)環化/異性化、N末端グルタミン(Gln)またはグルタミン酸(Glu)環化、C末端リジン(Lys)クリッピング、非酵素的Lys糖化およびトリスルフィド結合などの多種多様な翻訳後修飾(PTM)を受けやすい。PTMは、構造的不均一性の主な原因であり得、mAbの生理化学的特性の調節において重要な役割を果たし得る。影響を受けた残基の位置(例えば、相補性決定領域(CDR)における)に依存するグリコシル化、脱アミド化および酸化などの一部のPTMは、安定性、機能、免疫原性および薬物動態/薬力学に対して有害な影響を与える場合もあり、これらは通常、薬物開発中の綿密なモニタリングのための抗体の重要な質属性(CQA)と考えられている(非特許文献1;非特許文献2)。ほとんどのIgG抗体における重鎖定常ドメイン2(CH2)および3(CH3)の界面に位置する2つの保存されたMet残基の酸化は、熱安定性(非特許文献3)、プロテインA結合(非特許文献4)、FcRn結合(非特許文献5)、およびIgG抗体の循環半減期(非特許文献6)を減少させ得るが、溶媒に曝露されたCDRにおけるMetまたはトリプトファン(Trp)酸化およびAsn脱アミド化は、抗原結合および効力に潜在的に影響を及ぼし得る(非特許文献7;非特許文献8)。抗体のFc領域内の重鎖CH2の保存されたAsnにおけるN結合型グリコシル化もまた、mAbの構造および安定性を維持するために重要であり、一部の場合では、Fγ受容体への結合を調節することによって、補体依存性細胞傷害(CDC)および抗体依存性細胞傷害(ADCC)などの下流エフェクター機能を調節することができる(非特許文献9)。したがって、治療用抗体の開発、生産および貯蔵中に、PTM、特にCQAとみなされるもののレベルを特徴付け、および制御し、産物の質を保証し、最終的な安全性および効力に対する任意の潜在的な効果を定義することが不可欠である。
【0005】
液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)によるペプチドマッピングは、分子レベルで治療用抗体を特徴付けるためにバイオ医薬品産業内で使用されている(非特許文献10;非特許文献11)。この方法は、非還元(非還元ペプチドマッピング)または還元(還元ペプチドマッピング)条件下でのタンパク質の酵素(すなわち、典型的にはトリプシン)消化、続いて得られたペプチドの分離および紫外線(UV)検出および/または質量分析(MS)による分析を含むボトムアップ方法論を使用するものであり、鎖間および鎖内ジスルフィド結合によって維持される構造統合性の評価、タンパク質アミノ酸の配列の確認、ならびに生産、加工または保存中に生じ得る翻訳後および化学修飾の際の部位特異的定量の提供という利点をもたらすものである(非特許文献12)。
【0006】
PTM分析のためのLC-MSベースのペプチドマッピング法において、部位特異的PTMは、対応する天然ペプチドおよび修飾ペプチドのEICピーク面積の合計に対する、PTMを含有する修飾ペプチドの抽出イオンクロマトグラム(EIC)ピーク面積の比を計算することによって、酵素消化物のMS1スペクトルから定量化される。合理化されたペプチドマッピングワークフローは、LC-MS機器およびバイオインフォマティクスソフトウェアの急速な進歩に起因して、単一のLC-MS実行において、高い配列カバレッジを生成し、抗体試料の複数の属性(例えば、異なる部位特異的PTM)を効率的に特徴付けることができるが、部位特異的PTMの相対的定量のためのこの従来の無標識アプローチは、試料調製および個々の試料についての質量分析データ取得を必要とする。これには、かなりの時間を要する可能性があり、薬物開発中のモノクローナル抗体の特徴付けについての高まる要求に対応することが困難となっている。ペプチドマッピング技術に対する最近の研究の進歩は、スループットを増加させるための自動化システムまたは試料調製時間を短縮するためのオンライン消化システムの開発など、試料調製効率の改善に主に焦点が当てられている(非特許文献13;非特許文献14;非特許文献15)。しかしながら、試料サイズが増加すると、試料のLC-MSデータ取得に必要な機器時間も直線的に増加し、これは、タンパク質特徴付けのためのペプチドマッピングワークフローの全体的な効率を制限するだけでなく、ペプチドマッピングにおける消化物のLC-MS分析中の時間および温度関連機器変動、機器ハードウェアおよびソフトウェアグリッチまたはオートサンプラーにおける試料保存安定性から生じるPTM定量に大きな変動性をもたらす可能性がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Wang et al.,J.Pharm.Sci.2007,96,1-26
【非特許文献2】Manning et al.,Pharm Res.2010,27,544-557
【非特許文献3】Houde et al.,Mol.Cell.Proteomics.2010,9,1716-1728
【非特許文献4】Bertolotti-Ciarlet et al.,Mol.Immunol.2009,46,1878-1882
【非特許文献5】Zhang et al.,Anal.Chem.2014,86,3468-3475
【非特許文献6】Wang et al.,Mol.Immunol.2011,48,860-866
【非特許文献7】Wei et al.,J.Pharm.Sci.2009,98,3509-3521
【非特許文献8】Yan et al.,J.Pharm.Sci.2009,98,3509-3521
【非特許文献9】Jennewein,M.F.;Alter,G.Trends in Immunology.2017,38,358-372
【非特許文献10】Beck et al.,Anal.Chem.2013,85,715-736
【非特許文献11】Sandra,K.et al.,J.Chromatogr.A.2014,1335,81-103
【非特許文献12】Mouchahoir,T.;Schiel,J.E.Anal.Bioanal.Chem.2018,410,2111-2126
【非特許文献13】Richardson et al.,Anal.Biochem.2011,411,284-291
【非特許文献14】Cao et al.,J.Pharm.Sci.2019,108,3540-3549
【非特許文献15】Mao et al.,mAbs.2019,11,767-778
【発明の概要】
【0008】
一態様では、本発明は、単一の質量分析(MS)実行において複数の試料の複数の質属性を定量化する方法を提供し、該方法は、2つ以上の試料を消化するのに十分な条件下で、2つ以上の試料を消化溶液と接触させることであって、各試料は、別々に消化され、消化溶液は、トリスを含まない緩衝溶液である、接触させることと、2つ以上の消化された試料の各々内のペプチドを特定のタンデム質量タグ(TMT)標識試薬で標識するのに十分な条件下で、2つ以上の消化された試料の各々を特定のTMT標識試薬と接触させることと、2つ以上の消化された試料の各々内のペプチドの標識をクエンチすることと、等体積の2つ以上の標識され、消化された試料を、単一の混合試料溶液に混合することと、標的化質量スペクトル分析によって単一の混合試料溶液を分析し、それによって、2つ以上の試料の複数の質属性が単一の質量分析(MS)実行において定量化されることを可能にすることと、を含む。
【0009】
一部の実施形態では、複数の質属性は、翻訳後修飾(PTM)を含む。
【0010】
一部の実施形態では、PTMは、脱アミド化、酸化、糖化、ジスルフィド形成、N末端ピログルタミン酸形成、C末端リジン除去、およびグリコシル化のうちの1つ以上を含む。
【0011】
一部の実施形態では、PTMは、グリコシル化を含む。
【0012】
一部の実施形態では、単一のMS実行において複数の質属性を定量化することは、標的化質量スペクトルにおいて生成された結果として生じるレポートイオンの抽出されたピーク面積からPTMの相対存在量を定量化することによって、PTMを定量化することを含む。
【0013】
一部の実施形態では、本方法は、2つ以上の消化された試料の各々を特定のTMT標識試薬と接触させる前に、2つ以上の消化された試料の各々を小分子添加剤と接触させることをさらに含む。
【0014】
一部の実施形態では、小分子添加剤は、BOC-Y-OH、p-クレゾール、ヒドロキシ-フェニル酢酸(HPAA)、ヒドロキシ安息香酸(HBA)、アセトアミノフェン、およびp-アミノ安息香酸(PABA)からなる群から選択される。
【0015】
一部の実施形態では、小分子添加剤は、PABAである。
【0016】
一部の実施形態では、ペプチドは、糖ペプチドである。
【0017】
一部の実施形態では、糖ペプチドは、モノクローナル抗体から取得される。
【0018】
一部の実施形態では、モノクローナル抗体は、アイソタイプIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、または混合アイソタイプのものである。
【0019】
一部の実施形態では、2つ以上の試料は、2~16個の試料である。
【0020】
一部の実施形態では、本方法は、分析される2または試料を取得することをさらに含む。
【0021】
一部の実施形態では、本方法は、2つ以上の試料を消化するのに十分な条件下で2つ以上の試料を消化溶液と接触させる前に、消化のための2つ以上の試料を調製することをさらに含む。
【0022】
一部の実施形態では、消化前に2つ以上の試料を調製することは、試料の変性および還元を可能にする条件下で、2つ以上の試料の各々を変性および還元溶液と接触させることと、試料のアルキル化を可能にする条件下で、2つ以上の変性および還元された試料の各々をアルキル化溶液と接触させることと、を含む。
【0023】
一部の実施形態では、標的化質量スペクトル分析によって単一の混合試料溶液を分析することは、単一の混合試料を分離カラムに適用することと、溶出した試料成分に対して標的化質量スペクトル分析を行うことと、を含む。
【0024】
一部の実施形態では、分離カラムは、液体クロマトグラフィーカラムである。
【0025】
一部の実施形態では、溶出した試料成分に対して標的化質量スペクトル分析を行うことは、エレクトロスプレーイオン化を適用して溶出した試料成分から荷電イオンを生成することと、生成された荷電イオンを測定することと、を含む。
【0026】
本発明の一態様では、単一の質量分析(MS)実行において複数の試料の翻訳後修飾(PTM)を定量化する方法は、2つ以上の試料を消化するのに十分な条件下で、2つ以上の試料を消化溶液と接触させることであって、各試料は、別々に消化され、消化溶液は、トリスを含まない緩衝溶液である、接触させることと、2つ以上の消化された試料の各々を小分子添加剤と接触させることと、2つ以上の消化された試料の各々内のペプチドを特定のタンデム質量タグ(TMT)標識試薬で標識するのに十分な条件下で、2つ以上の消化された試料の各々を特定のTMT標識試薬と接触させることと、2つ以上の消化された試料の各々内のペプチドの標識をクエンチすることと、等体積の2つ以上の標識され、消化された試料を、単一の混合試料溶液に混合することと、標的化質量スペクトル分析によって単一の混合試料溶液を分析し、それによって、2つ以上の試料のPTMが単一のMS実行において定量化されることを可能にすることと、を含む。
【0027】
一部の実施形態では、PTMは、脱アミド化、酸化、糖化、ジスルフィド形成、N末端ピログルタミン酸形成、C末端リジン除去、およびグリコシル化のうちの1つ以上を含む。
【0028】
一部の実施形態では、PTMは、グリコシル化を含む。
【0029】
一部の実施形態では、PTMを定量化することは、標的化質量スペクトルにおいて生成された結果として生じるレポートイオンの抽出されたピーク面積からPTMの相対存在量を定量化することを含む。
【0030】
一部の実施形態では、小分子添加剤は、BOC-Y-OH、p-クレゾール、ヒドロキシ-フェニル酢酸(HPAA)、ヒドロキシ安息香酸(HBA)、アセトアミノフェン、およびp-アミノ安息香酸(PABA)からなる群から選択される。
【0031】
一部の実施形態では、小分子添加剤は、PABAである。
【0032】
一部の実施形態では、ペプチドは、糖ペプチドである。
【0033】
一部の実施形態では、糖ペプチドは、モノクローナル抗体から取得される。
【0034】
一部の実施形態では、モノクローナル抗体は、アイソタイプIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、または混合アイソタイプのものである。
【0035】
一部の実施形態では、2つ以上の試料は、2~16個の試料である。
【0036】
一部の実施形態では、本方法は、分析される2または試料を取得することをさらに含む。
【0037】
一部の実施形態では、本方法は、2つ以上の試料を消化するのに十分な条件下で2つ以上の試料を消化溶液と接触させる前に、消化のための2つ以上の試料を調製することをさらに含む。
【0038】
一部の実施形態では、消化前に2つ以上の試料を調製することは、試料の変性および還元を可能にする条件下で、2つ以上の試料の各々を変性および還元溶液と接触させることと、試料のアルキル化を可能にする条件下で、2つ以上の変性および還元された試料の各々をアルキル化溶液と接触させることと、を含む。
【0039】
一部の実施形態では、標的化質量スペクトル分析によって単一の混合試料溶液を分析することは、単一の混合試料を分離カラムに適用することと、溶出した試料成分に対して標的化質量スペクトル分析を行うことと、を含む。
【0040】
一部の実施形態では、分離カラムは、液体クロマトグラフィーカラムである。
【0041】
一部の実施形態では、溶出した試料成分に対して標的化質量スペクトル分析を行うことは、エレクトロスプレーイオン化を適用して溶出した試料成分から荷電イオンを生成することと、生成された荷電イオンを測定することと、を含む。
【0042】
様々な実施形態では、上記または本明細書で考察される実施形態の特徴または構成要素のうちのいずれかは組み合わせられ得、そのような組み合わせは本開示の範囲内に包含される。上記または本明細書で考察されるいずれの特定の値も、上記または本明細書で考察される別の関連値と組み合わされて、それらの値が範囲の上限および下限を表す範囲を列挙することができ、かかる範囲およびかかる範囲内にあるすべての値は本開示の範囲内に包含される。上記または本明細書で考察される値のうちの各々は、1%、5%、10%または20%の変動で表され得る。例えば、10mMの濃度は、10mM±0.1mM(1%変動)、10mM±0.5mM(5%変動)、10mM±1mM(10%変動)、または10mM±2mM(20%変動)として表され得る。他の実施形態は、後述の発明を実施するための形態の精査から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1A】mAb-Aにおける2つの代表的なTMT標識ペプチドのレポートイオン存在量に対するNCE(35~70)の効果(図1A)、および従来のアプローチからのPTM定量結果とともにmAb-Aにおける異なるタイプのPTMの相対的定量に対するNCE(35~70)の効果を示す(図1B)。図1Bでは、各部位特異的PTMの左から右への列の順序は、対照(TMTなし)、NCE35、NCE40、NCE50、NCE55、NCE60、NCE70である。
図1B】mAb-Aにおける2つの代表的なTMT標識ペプチドのレポートイオン存在量に対するNCE(35~70)の効果(図1A)、および従来のアプローチからのPTM定量結果とともにmAb-Aにおける異なるタイプのPTMの相対的定量に対するNCE(35~70)の効果を示す(図1B)。図1Bでは、各部位特異的PTMの左から右への列の順序は、対照(TMTなし)、NCE35、NCE40、NCE50、NCE55、NCE60、NCE70である。
図2A】mAb-BにおけるLys糖化の定量に対するNCE(35~100)の効果(図2A)およびmAb-BにおけるN末端Gluでのピログルタミン酸の定量に対するNCE(27~100)の効果(図2B)を示す。黒色エラーバー:二重でのPTM割合の標準偏差。図2Aの列の順序付け(左から右)は、対照(TMTなし)、NCE35、NCE40、NCE50、NCE55、NCE60、NCE70、NCE80、NCE90、およびNCE100である。図2Bの列の順序付け(左から右)は、対照(TMTなし)、NCE27、NCE30、NCE35、NCE40、NCE50、NCE55、NCE60、NCE70、NCE80、NCE90、およびNCE100である。
図2B】mAb-BにおけるLys糖化の定量に対するNCE(35~100)の効果(図2A)およびmAb-BにおけるN末端Gluでのピログルタミン酸の定量に対するNCE(27~100)の効果(図2B)を示す。黒色エラーバー:二重でのPTM割合の標準偏差。図2Aの列の順序付け(左から右)は、対照(TMTなし)、NCE35、NCE40、NCE50、NCE55、NCE60、NCE70、NCE80、NCE90、およびNCE100である。図2Bの列の順序付け(左から右)は、対照(TMTなし)、NCE27、NCE30、NCE35、NCE40、NCE50、NCE55、NCE60、NCE70、NCE80、NCE90、およびNCE100である。
図3A】IgG1 mAb-C(図3A)およびIgG4 mAb-D(図3B)におけるトリスルフィド定量に対するNCE(35~80)の効果を、従来のアプローチからの定量結果とともに示す。
図3B】IgG1 mAb-C(図3A)およびIgG4 mAb-D(図3B)におけるトリスルフィド定量に対するNCE(35~80)の効果を、従来のアプローチからの定量結果とともに示す。
図4A】6つのTMTチャネルにおけるmAb-E中の4つのPTMの1:1:1:1:1:1の比での相対的定量の評価を示す。プールしたTMT標識試料を3回の測定から調製し、LC-MS/MSによって二重に分析した。箱ひげ図は、平均(大きい点)、25~75パーセンタイル(箱)、および5~95パーセンタイル(ひげ)を示す。従来のアプローチから計算されたPTMの割合を破線で示す。
図4B】6つのTMTチャネルにおけるmAb-E中の4つのPTMの1:1:1:1:1:1の比での相対的定量の再現性の評価を示す。プールしたTMT標識試料を3回の測定から調製し、LC-MS/MSによって二重に分析した。箱ひげ図は、平均(点)、25パーセンタイルおよび75パーセンタイル(箱)、ならびに5パーセンタイルおよび95パーセンタイル(ひげ)を示す。従来のアプローチから計算されたPTMの割合を破線で示す。
図5】6つのTMTチャネルにおけるmAb-A中の4つのPTMの1:2:4:8:16:32の比での相対的定量の感度の評価を示す。プールしたTMT標識試料を3回の測定から調製し、LC-MS/MSによって二重に分析した。箱ひげ図は、平均(点)、25パーセンタイルおよび75パーセンタイル(箱)、ならびに5パーセンタイルおよび95パーセンタイル(ひげ)を示す。従来のアプローチから計算されたPTMの割合を破線で示す。
図6】標的化MS/MSに基づくアプローチ(黒色バー)および従来のアプローチ(ストライブバー)によるmAb-Aの強制分解試料のPTM定量を示す。黒色エラーバー:二重でのPTM割合の標準偏差。各部位特異的PTMについての左から右へのバーの順序は、mAb-A-S0(TMTなし)、mAb-A-S0(TMT-126)、mAb-A-S1(TMTなし)、mAb-A-S1(TMT-127)、mAb-A-S2(TMTなし)、mAb-A-S2(TMT-128)、mAb-A-S3(TMTなし)、mAb-A-S3(TMT-129)、mAb-A-S4(TMTなし)、mAb-A-S4(TMT-130)、mAb-A-S5(TMTなし)、mAb-A-S5(TMT-131)である。
図7A】標的化MS/MSに基づくアプローチ(黒色バー)および従来のアプローチ(ストライブバー)によって異なるプロセス領域から製造されたmAb-Fの同等性試料のPTM定量を示す。図7Aは、レベル>2.5%のPTMを示し、図7Bは、レベル≦2.5%のPTMを示す。黒色エラーバー:二重でのPTM割合の標準偏差。図7Aおよび7Bの両方の各部位特異的PTMの左から右へのバーの順序は、mAb-F-P1(TMTなし)、mAb-F-P1(TMT-128)、mAb-F-P2(TMTなし)、mAb-F-P2(TMT-129)、mAb-F-P3(TMTなし)、mAb-F-P3(TMT-130)、mAb-F-P4(TMTなし)、mAb-F-P4(TMT-131)である。
図7B】標的化MS/MSに基づくアプローチ(黒色バー)および従来のアプローチ(ストライブバー)によって異なるプロセス領域から製造されたmAb-Fの同等性試料のPTM定量を示す。図7Aは、レベル>2.5%のPTMを示し、図7Bは、レベル≦2.5%のPTMを示す。黒色エラーバー:二重でのPTM割合の標準偏差。図7Aおよび7Bの両方の各部位特異的PTMの左から右へのバーの順序は、mAb-F-P1(TMTなし)、mAb-F-P1(TMT-128)、mAb-F-P2(TMTなし)、mAb-F-P2(TMT-129)、mAb-F-P3(TMTなし)、mAb-F-P3(TMT-130)、mAb-F-P4(TMTなし)、mAb-F-P4(TMT-131)である。
図8】標的化MS/MSに基づくアプローチ(黒色バー)および従来のアプローチ(点描バー)によるmAb-Eのトリスルフィド標準試料のトリスルフィド定量を示す。異なるトリスルフィドレベルを有するmAb-Eトリスルフィド標準を、HSストレス試料および参照標準試料を異なる比で混合することによって生成した。mAb-E-TS0(100:0)、mAb-E-TS1(75:25)、mAb-E-TS2(50:50)、mAb-E-TS3(25:75)およびmAb-E-TS4(0:100)である。
図9】異なるTMTタグならびにWQQGペプチド(配列番号3の残基1~4)およびTTPPペプチド(配列番号4の残基1~4)の異なるアイソフォームを有するTMT標識種の相対存在量に対する、TMT標識中の異なる小分子添加剤の効果を示す。それぞれの種におけるTMT標識部位を強調した(太字)。Boc-Y:N-(tert-ブトキシカルボニル)-チロシン;HPAA:4-ヒドロキシフェニル酢酸;HBA:4-ヒドロキシ安息香酸;PABA:4-アミノ安息香酸。
図10】例示的なタンデム質量タグおよび例示的なタンデム質量タグ試薬の構造を示す。
図11】例示的な過剰標識防止試薬-BOC-Y-OH、p-クレゾール、ヒドロキシフェニル酢酸(HPAA)、ヒドロキシ安息香酸(HBA)、アセトアミノフェン、および/またはp-アミノ安息香酸(PABA)の化学構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明が記載される前に、記載される特定の方法および実験条件が異なり得るため、本発明がかかる方法および条件に限定されないことを、理解されたい。本明細書で使用される用語は、特定の実施形態のみを説明するためのものであり、本発明の範囲が添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるため、限定することを企図するものではないことも理解されるべきである。任意の実施形態または実施形態の特徴は、互いに組み合わせることができ、そのような組み合わせは、本発明の範囲内に明示的に含まれる。
【0045】
別段定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術および科学用語は、本発明が属する当業者によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書で使用される場合、「約」という用語は、特定の列挙された数値に関して使用されるとき、その値が列挙された値から1%以下だけ変動し得ることを意味する。例えば、本明細書で使用される場合、「約100」という表現は、99および101ならびにそれらの間のすべての値(例えば、99.1、99.2、99.3、99.4など)を含む。
【0046】
本明細書に記載されるものと同様または同等のいずれの方法および材料も本発明の実施または試験に使用され得るが、好ましい方法および材料をこれから説明する。本明細書において言及されるすべての特許、出願および非特許刊行物は、それらの全体の参照により本明細書に組み込まれる。
【0047】
本明細書で使用される略語
ACN:アセトニトリル
ADCC:抗体依存性細胞傷害性
Asn:アスパラギン
AUC:曲線下面積
Boc-Y:N-(tert-ブトキシカルボニル)-チロシン
CDC:補体依存性細胞傷害
CDR:相補性決定領域
CQA:重要な質属性
CV:変動係数
EIC:抽出イオンクロマトグラフ
ELISA:酵素結合免疫吸着アッセイ
ESI-MS:エレクトロスプレーイオン化質量分析
FA:ギ酸
FDA:食品医薬品局
FLR:蛍光検出
HBA:4-ヒドロキシ安息香酸
HC:重鎖
HILIC:親水性相互作用液体クロマトグラフィー
HPAA:4-ヒドロキシフェニル酢酸
IgG:免疫グロブリンG
LC:軽鎖
LC-MS:液体クロマトグラフィー-質量分析
mAb:モノクローナル抗体
Met:メチオニン
MS:質量分析
MW:分子量
NCE:正規化衝突エネルギー
PABA:4-アミノ安息香酸
PK:薬物動態
PROCA:プロカインアミド
PQA:産物の質属性
PTM:翻訳後修飾
RP-LC-MS/MS:逆相液体クロマトグラフィータンデム質量分析
SPE:固相抽出
TCEP-HCl:トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩
TFA:トリフルオロ酢酸
TMT:タンデム質量タグ
UV:紫外線
【0048】
定義
本明細書で使用する「抗体」という用語は、4つのポリペプチド鎖、すなわちジスルフィド結合によって相互接続された2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖からなる免疫グロブリン分子(すなわち、「完全抗体分子」)、ならびにこれらの多量体(例えば、IgM)またはその抗原結合断片を指すよう企図される。各重鎖は、重鎖可変領域(「HCVR」または「V」)および重鎖定常領域(C1ドメイン、C2ドメインおよびC3ドメインからなる)からなる。種々の実施形態において、重鎖は、IgGアイソタイプのものであり得る。一部の場合において、重鎖は、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4から選択される。一部の実施形態、重鎖は、アイソタイプIgG1/IgG2またはIgG4/IgG2のキメラヒンジ領域を任意で含む、アイソタイプIgG1またはIgG4の重鎖である。各軽鎖は、軽鎖可変領域(「LCVRまたは「V」)および軽鎖定常領域(C)からなる。V領域およびV領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より保存された領域が点在する相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域へとさらに細分することができる。各VおよびVは、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順でアミノ末端からカルボキシ末端へと配置された3つのCDRおよび4つのFRからなる。「抗体」という用語は、任意のアイソタイプまたはサブクラスのグリコシル化および非グリコシル化免疫グロブリンの両方への言及を含む。「抗体」という用語は、組換え手段によって調製、発現、作製または単離された抗体分子、例えば、抗体を発現するようにトランスフェクトされた宿主細胞から単離された抗体を含む。抗体構造に関する総説については、Lefranc et al.,IMGT unique numbering for immunoglobulin and T cell receptor variable domains and Ig superfamily V-like domains,27(1)Dev.Comp.Immunol.55-77(2003);およびM.Potter,Structural correlates of immunoglobulin diversity,2(1)Surv.Immunol.Res.27-42(1983)を参照されたい。
【0049】
抗体という用語はまた、2つ以上の異なるエピトープに結合することができるヘテロ四量体免疫グロブリンを含む「二重特異性抗体」を包含する。単一の重鎖および単一の軽鎖ならびに6つのCDRを含む二重特異性抗体の半分は、1つの抗原またはエピトープに結合し、抗体のもう半分は、異なる抗原またはエピトープに結合する。一部の場合において、二重特異性抗体は、同じ抗原に結合することができるが、異なるエピトープまたは非重複エピトープにおいて結合することができる。一部の場合において、二重特異性抗体の両半分は、二重特異性を保持しながら同一の軽鎖を有する。二重特異性抗体は、米国特許出願公開第2010/0331527号(2010年12月30日)に概して記載されている。
【0050】
抗体の「抗原結合部分」(または「抗体断片」)という用語は、抗原に特異的に結合する能力を保持する抗体の1つ以上の断片を指す。抗体の「抗原結合部分」という用語に包含される結合断片の例としては、(i)Fab断片、VL、VH、CLおよびCH1ドメインからなる一価断片と、(ii)F(ab’)2断片、ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのFab断片を含む二価断片と、(iii)VHおよびCH1ドメインからなるFd断片と、(iv)抗体の単一アームのVLおよびVHドメインからなるFv断片と、(v)VHドメインからなるdAb断片(Ward et al.(1989)Nature 241:544-546)と、(vi)単離されたCDR、および(vii)VLおよびVH領域が対合して一価分子を形成する単一タンパク質鎖を形成するように合成リンカーによって連結されたFv断片の2つのドメインである、VLおよびVHからなるscFvと、が挙げられる。ダイアボディなどの一本鎖抗体の他の形態も、「抗体」という用語に包含される(例えば、Holliger et al.(1993)90 PNAS U.S.A.6444-6448;およびPoljak et al.(1994)2 Structure 1121-1123を参照されたい)。
【0051】
さらに、抗体およびその抗原結合断片は、当該分野で概して公知の標準的な組換えDNA技術を使用して得られ得る(Sambrook et al.,1989を参照されたい)。トランスジェニックマウスにおいてヒト抗体を生成するための方法もまた、当該分野で公知である。例えば、VELOCIMMUNE(登録商標)技術(例えば、US6,596,541、Regeneron Pharmaceuticals、VELOCIMMUNE(登録商標)を参照されたい)またはモノクローナル抗体を生成するための任意の他の公知の方法を使用して、ヒト可変領域およびマウス定常領域を有する所望の抗原に対する高親和性キメラ抗体が最初に単離される。VELOCIMMUNE(登録商標)技術は、マウスが抗原刺激に対する応答においてヒト可変領域と、マウス定常領域と、を含む、抗体を生成するように、ヒト重鎖可変領域と、ヒト軽鎖可変領域と、を含む、ゲノムが内在性マウス定常領域座に動作可能に連結されたトランスジェニックマウスの生成を包含する。抗体の重鎖および軽鎖の可変領域をコードするDNAを単離し、ヒト重鎖定常領域およびヒト軽鎖定常領域をコードするDNAに動作可能に連結する。次に、完全ヒト抗体を発現することができる細胞においてDNAを発現させる。
【0052】
「ヒト抗体」という用語は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する抗体を含むことを意図する。本発明のヒトmAbは、例えば、CDR、特にCDR3における、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列(例えば、インビトロでのランダムもしくは部位特異的変異誘発によってまたはインビボでの体細胞突変異によって導入された変異)によってコードされないアミノ酸残基を含み得る。しかしながら、「ヒト抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、別の哺乳動物種(例えば、マウス)の生殖系列に由来するCDR配列がヒトFR配列へと移植されたmAbを含むことは企図されない。この用語は、非ヒト哺乳類において、または非ヒト哺乳類の細胞において組換え産生された抗体を含む。この用語は、ヒト対象から単離された、またはヒト対象において生成された抗体を含むよう意図されるものではない。
【0053】
本明細書で使用される場合、「対象」という用語は、例えば疾患または障害の改善、予防および/または治療を必要とする動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトを指す。
【0054】
「翻訳後修飾」(PTM)は、タンパク質生合成後のタンパク質の共有結合修飾を指す。翻訳後修飾は、アミノ酸側鎖またはタンパク質のC末端もしくはN末端で起こり得る。抗体の例示的な翻訳後修飾としては、脱アミド化、酸化、糖化、ジスルフィド形成、N末端ピログルタミン酸形成、C末端リジン除去、およびグリコシル化が挙げられる。
【0055】
「タンデム質量タグ」(TMT)という用語は、タンパク質、ペプチドおよび核酸などの生体高分子の質量分析(MS)ベースの定量化および同定に使用される化学標識である。TMTは、同重体質量タグと称される試薬のファミリーに属する。それらは、ゲルまたは抗体に基づく定量化の代替法を提供するが、これらおよび他の方法と組み合わせて使用することもできる。タンパク質の定量を補助することに加えて、TMTタグはまた、RPLC-MS分析において、リンペプチドなどの特定の高度に親水性の分析物の検出感度を増加させることができる。現在、市販されている6種類のTMTが存在しており(Thermo Fisher Scientific,Altham,MA,USA)、すなわち、TMTzero(非同位体置換コア構造)と、TMTduplex(単一同位体置換を有する質量タグの同重体対)と、TMTsixplex(5つの同位体置換を有する6つの質量タグの同重体セット)と、TMT10-plex(TMTsixplexレポーター領域を使用するが、異なる元素同位体を使用して0.0063Daの質量差を作り出す10個の同位体質量タグのセット)と、TMTpro(元のTMTとは異なるレポーターおよび質量正規化器を有する16plexバージョン)と、TMTpro Zeroと、が存在している。タグは、4つの領域、すなわち、質量レポーター領域(M)、切断可能リンカー領域(F)、質量正規化領域(N)およびタンパク質反応性基(R)を含有する。すべてのタグの化学構造は同一であるが、質量レポーターおよび質量正規化領域が各タグにおいて異なる分子量を有するように、それぞれが種々の位置で置換された同位体を含有する。タグの組み合わされたM-F-N-R領域は、クロマトグラフィーまたは電気泳動分離の間および単一のMSモードにおいて、異なるタグで標識された分子が区別できないように、同じ総分子量および構造を有する。MS/MSモードで断片化すると、ペプチド骨格の断片化から配列情報が得られ、同時にタグの断片化から定量化データが得られ、質量レポーターイオンが生じる。
【0056】
本明細書で使用される「糖ペプチド/糖タンパク質」という用語は、それらの合成中または合成後に、共有結合した炭水化物またはグリカンを有する修飾されたペプチド/タンパク質である。ある特定の実施形態では、糖ペプチドは、モノクローナル抗体から、例えば、モノクローナル抗体のプロテアーゼ消化物から取得される。
【0057】
本明細書で使用される場合、「グリカン」という用語は、1つ以上の糖単位を含む化合物である。これらは概してグルコース(Glc)、ガラクトース(Gal)、マンノース(Man)、フコース(Fuc)、N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)およびN-アセチルノイラミン酸(NeuNAc)を含む(Frank Kjeldsen,et al.Anal.Chem.2003,75,2355-2361)。モノクローナル抗体などの糖タンパク質のグリカン部分は、その機能または細胞内の位置を特定するための重要な特性である。例えば、特定のモノクローナル抗体は、特定のグリカン部分で修飾される。
【0058】
本明細書で使用される「試料」という用語は、少なくとも分析物分子、例えば、モノクローナル抗体から得られるような糖ペプチドを含み、例えば、分離、分析、抽出、濃縮、またはプロファイリングを含む、本発明の方法に従って操作される分子の混合物を指す。
【0059】
「分析」または「分析すること」という用語は、本明細書で使用される場合、互換的に使用され、目的の分子(例えば、ペプチド)を分離、検出、単離、精製、可溶化、検出、および/または特性評価する種々の方法のいずれかを指す。例としては、これらに限定されないが、固相抽出、固相マイクロ抽出、電気泳動、質量分析(例えば、ESI-MS、SPE HILIC、またはMALDI-MS)、液体クロマトグラフィー(例えば、高速、例えば、逆相、順相、またはサイズ排除)、イオン対液体クロマトグラフィー、液-液抽出(例えば、加速流体抽出、超臨界流体抽出、マイクロ波支援抽出、膜抽出、ソックスレー抽出)、沈殿、清澄化、電気化学検出、染色、元素分析、エドモンド分解、核磁気共鳴、赤外線分析、フローインジェクション分析、キャピラリー電気クロマトグラフィー、紫外線検出、およびそれらの組み合わせなどが挙げられる。
【0060】
本明細書で使用される「プロファイリング」という用語は、試料中のペプチドなどのタンパク質の含量、組成、または特徴的な比を提供するために組み合わせて使用される種々の分析方法のいずれかを指す。
【0061】
本明細書で使用される場合、「接触させること」は、少なくとも2つの物質を溶液または固相で一緒にすることを含む。
【0062】
本明細書で使用される「標的化質量分析」は、特定の時間に特定の質量(m/z)のイオンに対して多段階のタンデム質量分析(MS、n=2または3)を使用する質量分析技術である。m/zおよび時間の値は、以前の分析から導出される包含リストにおいて定義される。
【0063】
MS/MSまたはMS2としても知られる「タンデム質量分析」は、2つ以上の質量分析計が、化学試料を分析するそれらの能力を増加させるために、付加的反応ステップを使用してともに結合される、機器分析における技術である。タンデムMSの一般的な使用は、タンパク質およびペプチドなどの生体分子の分析である。所与の試料の分子がイオン化され、第1の分光計(MS1と称される)が、これらのイオンをそれらの質量電荷比(しばしばm/zまたはm/Qとして与えられる)によって分離する。MS1から来る特定のm/z比のイオンが選択され、次いで、例えば、衝突誘起解離、イオン-分子反応、または光解離によって、より小さい断片イオンに分割される。次いで、これらの断片は、第2の質量分析計(MS2)に導入され、次いで、m/z比によって断片を分離し、それらを検出する。断片化ステップは、通常の質量分析計において非常に類似したm/z比を有するイオンを同定および分離することを可能にする。
【0064】
一般的な説明
液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)と組み合わせたペプチドマッピングは、薬物開発中にモノクローナル抗体の質属性(例えば、翻訳後修飾(PTM))を定量化するための重要な分析技術となっている。しかしながら、PTMの相対的定量のための従来の無標識アプローチは、個々の消化された試料のLC-MSデータ取得のために大量の機器時間を必要とし、これは、特にタンパク質特徴付けのための増加し続ける要求とともに、ペプチドマッピング技術の効率を制限している。
【0065】
したがって、効率が向上したタンパク質特徴付け方法が必要とされている。開示された発明は、かかる必要性に応えるものである。
【0066】
本明細書では、モノクローナル抗体を含むタンパク質の多重化された部位特異的PTM定量のための、標的化質量分析と組み合わせた新しいタンデム質量タグ(TMT)ベースのアプローチが開示される。この新しい方法は、本明細書において報告される研究に基づくものであり、本発明者らは、このアプローチが単一のLC-MS実行において複数の試料についての質属性(例えば、PTM)の同時定量を可能にするという驚くべき発見をした。特に、この方法では、複数の消化された抗体試料が、タンデム質量タグバリアントで化学的に標識され、等体積で混合した後、次いで標的化質量分析を用いて分析される。差次標識されたペプチドは、各バリアントの同じ分子構造および質量のために、インタクトなペプチドの完全なMSスペクトルにおいて識別不可能であるが、各バリアント標識ペプチドは、質量分析計内で断片化される場合、MS/MSスペクトルにおいて固有の「レポートイオン」を生成し、それにより、異なる試料中のペプチドを識別し、対応する試料中のペプチドの存在量を表す。各試料中のPTMの相対存在量は、標的化MS/MSスペクトル中の対応するバリアント標識天然および修飾ペプチドから生成された得られたレポートイオンの抽出ピーク面積から定量化され、それによって、単一のLC-MS実行において、市販のTMT試薬の現在の多重化能力に起因する最大16-plexなどの複数の試料について複数の質属性(例えば、PTM)の同時定量を可能にし、PTM定量におけるデータ取得時間および実行間変動が有意に低減される。
【0067】
一部の実施形態では、本方法は、TMTペプチドを調製することを含む。一部の実施形態では、試料の調製は、試料変性および還元を可能にする条件下で試料を変性および還元溶液と接触させることと、試料アルキル化を可能にする条件下で変性および還元された試料をアルキル化溶液と接触させることと、試料消化およびTMT標識を可能にする条件下でアルキル化試料を消化溶液と接触させることと、試料消化を停止する条件下で消化された試料をクエンチ溶液と接触させること、を含む。次いで、調製されたTMTペプチドを、例えばLC-MSによって分析することができる。
【0068】
一部の実施形態では、消化を可能にする条件下で試料を消化溶液と接触させることは、pH7.5~8のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液などのトリスを含まない緩衝液中を除いて、標準的な消化プロトコルに従うことを含む。一部の実施形態では、PBS溶液のpHは、TMT試薬を消化溶液に添加する前に調整される。タンデム質量タグ(TMT)セットは、ペプチド(N末端およびリジン、任意の塩基性NH)と容易に反応し、等しい分子量(同じMS1質量)を有し、各タグの周りの重原子分布に起因して異なるMS2レポーター断片イオンを生成する試薬である。例示的なTMTは、図10に提供されており、Thermo Fisher Scientific(Waltham,MA,USA)から市販されている。市販のTMTは、NH基(N末端、リジン)とのみ反応することが知られているが、本発明者らは、本明細書において、TMTがOH基(チロシン、スレオニン、セリン)とも有意に反応し得ることを発見した。この反応性は、積分を複雑にし、各ペプチドを複数の形態に分割し、各ピークのシグナルを減少させ、TMTの過剰標識をもたらすという点で問題であった。本明細書に開示される方法は、高濃度の小分子添加剤(例えば、ペプチド1モル当たり100モルの小分子添加剤)を添加することによってこれらの制限を解決し、TMTがペプチド上のNH基と依然として迅速に反応することを可能にするが、これは、過剰なTMTをペプチドから遠ざけ、TMT-ペプチドの大部分が単一の形態で存在することを可能にし、積分が容易となる。一部の例では、この小分子添加剤は、BOC-Y-OH、p-クレゾール、ヒドロキシフェニル酢酸(HPAA)、ヒドロキシ安息香酸(HBA)、アセトアミノフェン、および/またはp-アミノ安息香酸(PABA)である。これらの試薬の化学構造を図11に提供する。一部の実施形態では、本方法は、各TMT試薬を添加する前に、消化物試料に小分子添加剤を添加することを含む。Thermo Fisher Scientificから市販されているTMT試薬などの各TMT試薬をACNに溶解し、各タンパク質試料に添加し、室温などで1時間インキュベートする。すべての反応をクエンチし、例えば、4未満のpHにクエンチした後、1つの試料に合わせ、続いてLC-MSを評価する。実施形態では、本方法は、LC注入のために試料を調製することと、標的化MS2を実行することによってそれを評価することと、を含む。
【0069】
開示された方法は、還元(PTM%)および非還元(トリスルフィド%)ペプチドマッピングとともに使用することができる。実施形態において、非還元ペプチドマッピングの場合、非還元ペプチドは過剰標識されないので、PABAなどの過剰標識阻害剤は必要とされない。
【0070】
一部の実施形態では、試料はペプチドを含む。例えば、試料は、PTMを有するペプチドを含む。一部の実施形態において、ペプチドは、モノクローナル抗体から取得される糖ペプチドなどの糖ペプチドである。一部の実施形態では、モノクローナル抗体は、アイソタイプIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、または混合アイソタイプのものである。
【0071】
一部の実施形態では、試料はモノクローナル抗体であり、消化溶液はトリプシンなどの1つ以上のプロテアーゼを含む。一部の例では、本方法は、1つ以上のプロテアーゼで消化された抗体などのモノクローナル抗体から取得される糖ペプチドなどの糖ペプチドを特徴付ける/分析するために使用される。例えば、本方法はタンパク質、例えば、モノクローナル抗体(mAb)治療薬のグリコシル化を特徴付ける。ある特定の実施形態では、任意の介在ステップにおける試料は、濃縮、希釈、脱塩などを行ってもよい。
【0072】
実施形態において、分離カラムは、液体クロマトグラフィー(LC)分離カラムである。HPLCを含む液体クロマトグラフィーを使用して、モノクローナル抗体を含むペプチドを分析することができる。陰イオン交換クロマトグラフィー、逆相HPLC、サイズ排除クロマトグラフィー、高速陰イオン交換クロマトグラフィー、および順相(NP)クロマトグラフィー(NP-HPLCを含む)を含む種々の形態の液体クロマトグラフィーを使用して、これらの構造を研究することができる(例えば、Alpert et al.,J.Chromatogr.A676:191-202(1994)を参照されたい)。親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)は、部分的に水性の移動相を用いて行うことができるNP-HPLCのバリアントであり、ペプチド、炭水化物、核酸、および多くのタンパク質の順相分離を可能にする。HILICの溶出順序は、最も極性が低いものから最も極性が高いものであり、逆相HPLCにおけるものとは反対である。HPLCは、例えば、Waters(例えば、Waters 2695 Alliance HPLCシステム)、Agilent、Perkin Elmer、GilsonなどからのHPLCシステムで行うことができる。
【0073】
一部の実施形態では、LC-MS/MS分析は、ACQUITY UPLCペプチドBEH C18カラムを使用することによって行われる。カラム温度は、例えば、市販のカラムヒーターを使用して、クロマトグラフィーの実行を通して一定温度に維持することができる。一部の実施形態では、カラムは、約18℃~約70℃、例えば、約30℃~約60℃、約40℃~約50℃、例えば、約20℃、約25℃、約30℃、約35℃、約40℃、約45℃、約50℃、約55℃、約60℃、約65℃、または約70℃の温度で維持される。一部の実施形態では、カラム温度は約40℃である。一部の実施形態では、実行時間は、約15~約240分、例えば、約20~約70分、約30~約60分、約40~約90分、約50分~約100分、約60~約120分、約50~約80分であり得る。LC後、溶出液をMS/MS分析に供する。
【0074】
標的化または非標的化LC-MS/MS分析などの一部の実施形態では、各TMT標識試料のアリコートは、ACQUITY UPLCペプチドBEH C18カラム上で分離される。次いで、溶出液をエレクトロスプレーし、MS/MS実験のためのペプチド断片化のために使用されるHCDを用いて、Q-Exactive Plusハイブリッド質量分析計によって分析する。TMT標識天然および修飾ペプチドのトリガーm/z、z、標的保持時間窓および衝突エネルギーを含有する標的リストを包含リストにロードして、MS1サーベイスキャンで検出された前駆体のMS/MS分析をガイドする。次いで、ペプチドおよびPTMの同定を決定する。一部の実施形態では、各PTMの割合は、修飾ペプチドおよび天然ペプチドのピーク面積の合計に対する修飾ペプチドの抽出イオンクロマトグラム(EIC)ピーク面積を使用して計算される。
【実施例
【0075】
以下の実施例は、本発明の方法をどのように作製および使用するかについての完全な開示および説明を当業者に提供するために提示され、本発明者らが本発明とみなすものの範囲を限定することを意図しない。使用される数値(例えば、量、温度など)に関して正確性を確保するための努力はしてきたが、いくつかの実験上のエラーおよび偏差が考慮されるべきである。別段に示されない限り、部は重量部であり、分子量は平均分子量であり、温度は摂氏度であり、室温は約25℃であり、圧力は大気圧またはそれに近い圧力である。
【0076】
実施例1:材料および化学物質。
この研究におけるすべてのヒトIgG1およびIgG4モノクローナル抗体(mAb-A、mAb-B、mAb-C、mAb-DおよびmAb-E)は、Regeneron(Tarrytown,NY)で産生された。mAb-A安定性試料は、異なるストレス条件下で対照試料をインキュベートすることによって作製し、それぞれmAb-A-S0(対照)、mAb-A-S1(T=45℃、t=28日)、mAb-A-S2(T=25℃、t=6ヶ月)およびmAb-A-S3(T=5℃、t=24ヶ月)と標識した。mAb-B同等性試料を4つの異なるプロセス領域で製造し、それぞれmAb-B-P1、mAb-B-P2、mAb-B-P3およびmAb-B-P4と標識した。異なるトリスルフィドレベルを有するmAb-Eトリスルフィド標準を、HSストレス試料および参照標準試料を異なる比で混合することによって生成し、それぞれmAb-E-TS0(100:0)、mAb-E-TS1(75:25)、mAb-E-TS2(50:50)、mAb-E-TS3(25:75)およびmAb-E-TS4(0:100)と標識した。5×Rapid PNGase F緩衝液を含むRapid Peptide N-グリコシダーゼF(Rapid PNGase F)は、New England Biolabs Inc.(Ipswich,MA)から購入した。氷酢酸(純度≧99%)、ヨードアセトアミド、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、4-アミノ安息香酸(PABA)、4-ヒドロキシ安息香酸(HBA)、4-ヒドロキシフェニル酢酸(HPAA)およびN-(tert-ブトキシカルボニル)-チロシン(Boc-Y)は、Sigma(St.Louis,MO,USA)から購入した。配列決定グレードのトリプシンおよびAsp-Nは、Promega(Madison,WI)から購入した。タンデム質量タグ(TMT)同重体試薬、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP-HCl)、トリフルオロ酢酸(TFA、配列決定グレード)およびアセトニトリル(Optima LC/MS)は、Thermo Fisher Scientific(Waltham,MA)から購入した。UltraPure 1.0 M Tris-HCl(pH7.5)はInvitrogen Life Technologies(Carlsbad,CA)から購入し、高純度水はMilli-Q system(Bedford,MA)から購入した。
【0077】
mAbの還元ペプチドマッピング。還元ペプチドマッピングを実施して、mAb-A安定性およびmAb-B同等性試料についてのPTMレベル(例えば、N末端Gln/Glu環化、Met酸化、Asn脱アミド化、Asp環化/異性化、C末端Lysクリッピング、Lys糖化、およびFcグリコシル化)を定量化した。500μgの各試料を5mM酢酸に緩衝液交換して、TMT反応性化合物(例えば、ヒスチジン、Tris-HCl)を除去し、次いで、5mM酢酸中、5mM TCEP-HClの存在下、80℃で10分間、変性および還元した。変性および還元後、各試料を8M尿素を含有する100mM PBS(pH8.0)で希釈し、暗所、室温で30分間ヨードアセトアミドでアルキル化した。アルキル化後、各試料を50mM PBS(pH8.0)でさらに希釈して、尿素濃度を1M未満に低下させた。トリプシン消化のために、各希釈試料を、酵素対基質比1:20(w/w)でトリプシンとともに37℃で4時間インキュベートした。Asp-N消化のために、各希釈試料を、Asp-Nと、酵素対基質比1:50(w/w)で、37℃で4時間インキュベートした。グリコシル化定量のための脱グリコシル化試料を生成するために、各トリプシン消化試料のアリコートを、PNGase F(1mU/μgタンパク質)とともに37℃でさらに1時間インキュベートして、ペプチドレベルでN結合型グリカンを除去した。トリプシン、Asp-NまたはPNGase F消化後、各消化試料を2つの等しいアリコートに分割した。一方のアリコートを10%TFAの添加によってクエンチしてトリプシン消化を停止させ、オンラインLC-MS分析に供し、他方のアリコートをその後のTMT標識手順に供した。
【0078】
非還元mAbのトリプシンペプチドマッピング。非還元ペプチドマッピングを実施して、mAb-C、mAb-DおよびmAb-Eトリスルフィド標準についてのトリスルフィドレベルを定量化した。500μgの各試料を100mM PBS(pH7.5)に緩衝液交換して、TMT反応性化合物(例えば、ヒスチジン、Tris-HCl)を除去し、次いで、100mM PBS、pH7.5中の1.0mMヨードアセトアミドを含有する8M尿素中、50℃で10分間、暗所で変性させた。変性後、100mM PBS(pH7.5)を添加して尿素濃度を5倍に希釈した。次いで、各試料を、トリプシンを用いて、1:20(w/w)の酵素対基質比で、37℃で4時間消化した。トリプシン消化後、各消化試料を2つの等しいアリコートに分割した。一方のアリコートを10%TFAの添加によってクエンチしてトリプシン消化を停止させ、オンラインLC-MS分析に供し、他方のアリコートをその後のTMT標識手順に供した。
【0079】
還元および非還元mAb消化物のTMT標識。TMT6-plex試薬を、製造業者のプロトコル(Thermo Scientific)に従って41μLのアセトニトリルに溶解した。還元および非還元ペプチドマッピング実験における各消化試料のアリコート(100μg)を、標識のために、過剰標識対照試薬(PABA、HBA、HPAAまたはBoc-Y)(タンパク質1モル当たり100モルの試薬)の存在下で、アセトニトリルに溶解した41μLのTMTタグとともに周囲温度で1時間インキュベートした。10%TFAを添加することによって標識反応を停止させた。mAb-A安定性試料、mAb-B同等性試料およびmAb-Eトリスルフィド標準のTMT標識消化物をそれぞれ等量でプールし、次いでLC-MS/MS分析に供した。
【0080】
LC-MS/MS分析。非標的化LC-MS/MS分析のために、各消化物のアリコート(およそ8μg)を、ACQUITY UPLCペプチドBEH C18カラム(Waters、2.1mm×150mm、粒径1.7μm、孔径130Å)に注入した。ペプチドを、75分間かけて0.1%移動相Bから35%移動相Bに増加させた線形勾配(移動相A:水中0.05%TFA;移動相B:アセトニトリル中0.045%TFA)を用いて、流速0.25mL/分、カラム温度40℃で溶出させた。次いで、溶出液をエレクトロスプレーし、MS/MS実験のためのペプチド断片化に用いられる高エネルギー衝突解離(HCD)を用いて、Q-Exactive Plusハイブリッド質量分析計によって分析した。機器をポジティブモードで操作し、以下の取得パラメータ、すなわち、MS1分解能=70,000;MS1 AGC標的=1×10;MS1最大注入時間=50ms;MS1スキャン範囲=400~2,000m/z;MS2分解能=17,500;MS2 AGC標的=1×10;最大注入時間=100ms;TopN=5;単離窓=4.0m/z;正規化衝突エネルギー=27;アンダーフィル比=10%;ペプチドマッチ=好ましい;同位体排除=オン;動的排除=10秒に設定した。
【0081】
標的化LC-MS/MS分析のために、各TMT標識試料のアリコート(およそ8μg)を、ACQUITY UPLCペプチドBEH C18カラム(Waters、2.1mm×150mm、粒径1.7μm、孔径130Å)上で、150分かけて0.1%移動相Bから40%移動相Bに増加させたより長い線形勾配(移動相A:水中0.05%TFA;移動相B:アセトニトリル中0.045%TFA)を用いて、流速0.25mL/分、カラム温度40℃で分離した。次いで、溶出液をエレクトロスプレーし、MS/MS実験のためのペプチド断片化のために使用されるHCDを用いて、Q-Exactive Plusハイブリッド質量分析計によって分析した。TMT標識天然および修飾ペプチドのトリガーm/z、z、標的保持時間窓および衝突エネルギーを含有する標的リストを包含リストにロードして、MS1サーベイスキャンで検出された前駆体のMS/MS分析をガイドした。機器をポジティブモードで操作し、以下の取得パラメータ、すなわち、MS1分解能=17,500;MS1 AGC標的=1×10;MS1最大注入時間=50ms;MS1スキャン範囲=400~2,000m/z;MS2分解能=17,500;MS2 AGC標的=1×10;最大注入時間=100ms;固定第1質量=100;単離窓=2.0m/z;正規化衝突エネルギー=27~100に設定した。
【0082】
データ分析。ペプチドおよびPTMの同定は、(Protein Metrics Inc.,San Carlos,CA;Bern et al.,Curr.Protoc.Bioinformatics.2012,40,13.30.1-12.20.14を参照されたい)によって決定し、手動で検証した。部位特異的PTMの相対的定量のための無標識アプローチにおいて、天然ペプチドおよび修飾ペプチドの両方の第1の同位体ピークのm/zに基づくMS1スペクトルにおける抽出イオンクロマトグラムを生成し、抽出ピーク面積をskyline-daily(MacCoss Lab,University of Washington,WA;MacLean et al.,Bioinformatics.2010,26,966-968を参照されたい)を用いて積分した。
【0083】
各PTMの割合は、修飾ペプチドおよび天然ペプチドのピーク面積の合計に対する修飾ペプチドの抽出イオンクロマトグラム(EIC)ピーク面積を使用して計算した。部位特異的PTMの相対的定量のための標的化MS/MSベースのアプローチにおいて、天然ペプチドおよび修飾ペプチドの両方のレポートイオンのm/zに基づくMS/MSスペクトルにおける抽出イオンクロマトグラムを作成し、skyline-daily(MacCoss Lab,University of Washington,WA)を用いて抽出ピーク面積を積分した。各PTMの割合は、修飾ペプチドおよび天然ペプチドからのレポートイオンのピーク面積の合計に対する修飾ペプチドからのレポートイオンのEICピーク面積を使用して計算した。
【0084】
実施例2:PTM定量のためのHCD衝突エネルギー最適化
TMTペプチドは、衝突活性化時に定量的情報を生成する同重体アミン反応性標識で標識される。TMTレポートイオンは、衝突エネルギーによるアミド結合の切断を通じて形成され、タンデム質量スペクトルの低質量領域において126~131m/zのイオンのクラスターを生成する(Thompson et al.,Anal.Chem.2003,75,1895-1904)。PTM定量のためのTMTベースのアプローチにおいて、天然ペプチドおよび修飾ペプチドの標的化MS/MSスペクトルにおいて生成されたレポートイオンが、PTM割合計算のために用いられる。MS/MSスペクトルにおいて生成されたTMTレポートイオンの存在量は、TMT標識ペプチドに適用されたHCD細胞における正規化衝突エネルギー(NCE)と相関する。mAb-A中のTMT標識ペプチドのレポートイオン存在量に対するNCE(35~70)の効果を、図1Aに示すように調査した。レポートイオン強度は、NCEを50または55まで増加させたときに最大となり、次いで、NCEを70までさらに増加させることによって減少した。しかしながら、35のNCEは、ペプチド同定のための豊富な断片化情報をもたらす傾向があり、より大きなNCEは、NCEの増加につれてより少ない断片化情報をもたらす。例えば、NCEを70に増加させた場合、MS/MSスペクトル中に保持された断片化情報はごくわずかであった。
【0085】
Met酸化、Asn脱アミド化、Asp環化/異性化、C末端LysクリッピングおよびFcグリコシル化について、異なるNCEにおける天然および修飾ペプチドの標的化MS/MSスペクトルにおいて生成されたレポートイオンによるmAb-Aにおける異なるPTMタイプの定量を調べ、従来のMS1ベースのアプローチによるPTM定量と比較した。35~70のNCEで異なるPTMの割合に有意差はなく、PTM割合は、MS1サーベイスキャンにおける天然および修飾前駆体ペプチドの第1の同位体ピークを割合計算に使用した従来のアプローチ(図1Bを参照されたい)を使用することによって定量化されたものと同等であったことに留意されたい。これは、PTM定量のための標的化MS/MSベースのアプローチの実現可能性を実証するものである。結果はまた、異なるNCEでのレポートイオン存在量の変化傾向が、天然ペプチドと修飾ペプチドとの間で類似していることを示す。ペプチド配列確認のための適切な断片化情報を維持しながら、少量のPTMを定量化する感度を最大化するために、Met酸化、Asn脱アミド化、Asp環化/異性化、C末端LysクリッピングおよびFcグリコシル化の定量のためにNCE55を選択した。
【0086】
ピログルタミン酸(PyroEまたはPyroQ)を形成するための軽鎖または重鎖におけるN末端GlnまたはGluの環化は、N末端修飾の主要なタイプである(Liu et al.,mAbs.2014,6,1145-1154)。しかしながら、この修飾は、ペプチドのN末端をブロックすることによって、TMT標識試薬とN末端アミン基との反応を阻害し、これは、この修飾を定量化するためのこの多重化アプローチの能力を制限する。この制限を克服するために、N末端にGlnまたはGluを含有するmAb-AからのN末端ペプチドを調べたが、C末端にリジン残基も調べた。天然ペプチドでは、リジン側鎖のN末端アミン基およびε-アミノ基の両方をTMTタグで標識することができるが、修飾ペプチドでは、ブロックされたN末端アミン基のためにリジン側鎖のε-アミノ基のみを標識することができる。このPTM定量のために天然および修飾ペプチドから生成されたレポートイオンを使用する実現可能性を評価するために、異なるNCE(27~100)におけるピログルタミン酸の割合を計算し、従来のアプローチから得られたものと比較した。図2Bに示されるように、このアプローチは、従来のアプローチ(PyroQについてもNCE35)と比較してNCE35で最も匹敵する結果をもたらした。減少した割合は、より高いおよびより低いNCEで観察され、NCE27およびNCE55では、ピログルタミン酸の割合は、従来のアプローチからの割合のわずか約50%であった。したがって、ピログルタミン酸定量のためにNCE35を選択した。
【0087】
また、レポートイオンを使用することによるmAb-BおよびmAb-C(異なるレベルを有する)におけるLys糖化の定量を調査した。糖化は、還元糖(例えば、グルコース、フルクトース)による一級アミンの修飾をもたらし得る非酵素的プロセスである。リジン残基は、162.05Daの側鎖質量の増加を伴うタンパク質内の糖化に特に高感度であり、一級アミン側鎖を塩基性から中性に変化させることによって電荷不均一性を生成する(Liu et al.,mAbs.2014,6,1145-1154)。
【0088】
Lysの糖化は、糖化されたLys部位におけるトリプシンによるペプチド結合の切断を阻害するので、天然のLys残基を有するペプチドと比較して異なる長さを有する糖化されたLys残基を有するペプチドを生じる。したがって、Lys部位での糖化産物を分析するために、Asp-N消化によるペプチドマッピングを行った。N末端Gln/Gluピログルタミン酸と同様に、糖化は、リジン残基の物理的特性を変化させ、リジン残基をTMT試薬に対して反応性にしないため、天然ペプチドおよび糖化ペプチド上で標識されたTMTタグの数を異ならせることができる。このPTMの定量に対する異なるNCE(35~100)の効果の調査から、異なるNCEでも異なる割合が得られ、より高いNCEがより高い割合の糖化をもたらすことが明らかとなった。NCEを90~100まで増加させた場合、従来のアプローチから定量化された割合に匹敵する割合を達成することができる(図2)。ピログルタミン酸および糖化のPTM定量について観察されたNCEへの強い依存性は、天然ペプチドと修飾ペプチドとの間の異なるNCEによるレポートイオン存在量の一貫性のない変化傾向に起因し得る。例えば、レポートイオン存在量は、天然ペプチドおよび糖化ペプチドについてそれぞれ55および70の異なるNCEで最大化された。したがって、従来のアプローチに匹敵する定量を達成するために、NCE90を選択してLys糖化を定量化した。なお、豊富な断片化情報がないため、より低いNCE(35など)を用いたプレ実行を使用して、ペプチド配列およびリジン修飾を確認することができることに留意されたい。
【0089】
トリスルフィドはまた、組換えIgGのすべてのサブクラスに存在することが見出された一般的な修飾である。トリスルフィド結合は、モノクローナル抗体中の軽鎖ペプチドと重鎖ペプチドとの間に存在することが多い(Gu et al.,2010,400,89-98)。このトリスルフィド修飾は、硫黄原子を重鎖および軽鎖間ジスルフィド結合に挿入することによって生じ(Cys-S-S-Cys+HS+[O]→Cys-S-S-S-Cys+HO)、31.97Daの質量増加をもたらす。トリスルフィド結合の存在は、熱安定性、ならびに抗原結合および効力に影響を及ぼさないことが報告されている。しかしながら、トリスルフィドレベルは、生産バイオリアクター中の微量HSレベルの変動のために、ロット間およびプロセス間で変動する可能性があるため、トリスルフィドレベルは通常、細胞培養プロセス開発中にモノクローナル抗体試料中でモニタされる。トリスルフィド定量のための多重化方法を開発するために、異なるNCEでの定量結果を、それぞれmAb-C(IgG1)およびmAb-D(IgG4)モノクローナル抗体について調べた。興味深いことに、トリスルフィドの割合は、図3Aおよび3Bにおいて実証されるように、Mab-CおよびmAb-Dの両方についてNCEとの明確な線形関係を示した。NCEを55に増加させた場合、このアプローチから定量化されたトリスルフィド%は、IgG1抗体およびIgG4抗体の両方において従来のアプローチと同等であるため、トリスルフィド定量のための最適化NCEとして選択した。
【0090】
実施例3:TMT試薬の過剰標識を阻害するための小分子添加剤。
リジン側鎖のN末端アミン基およびε-アミノ基に加えて、TMT標識は、チロシン(Tyr)、トレオニン(Thr)およびセリン(Ser)においても生じ得、これらのアミノ酸における水酸基とのオフターゲット反応から生じることが報告されている(Zecha et al.,Mol.Cell.Proteomics.2019,18,1468-1478)。このTMT過剰標識は、天然ペプチドおよび修飾ペプチドの応答を、異なる数のTMTタグで標識された複数の種に分けることによって、このアプローチにおけるPTM定量の感度を低下させ得る。例えば、本発明者らの研究は、酸化されやすいメチオニンを含有するIgGの重鎖の保存されたCH3ドメインに位置するトリプシンペプチド(配列番号3、WQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQK)からのPTM定量においてこれを観察した。TMT標識後、異なるTMTタグ(最大6個)を有する種の混合物が観察され、3個、4個および5個のTMTタグを含有する種について複数のアイソフォームも観察された。図9に提供される表1は、異なるTMTタグおよび異なるアイソフォームを有するWQQGペプチド(配列番号3の残基1~4)の種の相対存在量を要約している。このペプチドの高度に不均一なTMT標識は、総存在量を、0.2~22.0%の範囲の相対存在量を有する15個もの異なる形態に分配しており、標的化MS/MSベースのアプローチを使用することによって、特にレベルが低い場合、このペプチドにおけるMet酸化を定量化するという重要な課題を提起している。
【0091】
TMT過剰標識を阻害するために、8:1~1:1の範囲の異なるTMT対タンパク質(wt/wt)比を最初に調査した。TMT試薬の量を減少させることにより、過剰標識を最小限に抑えることができるが、ペプチドの過少標識を増加させることもできる。例えば、標的ペプチドの標識効率は、比を8:1から1:1に変化させると、90%超から約35%に低下させることができる。あるいは、TMT標識の間に消化物にスパイクされた異なるヒドロキシル含有小分子(PABA、HBA、HPAAおよびBoc-Y)を、過剰量のTMT試薬と反応し、過剰標識を阻害するためのこれらのオフターゲットアミノ酸残基の競合試薬として評価した。図9に示すように、これらの小分子を添加すると、実際にペプチドのTMT過剰標識がある程度阻害された。WQQGペプチド(配列番号3の残基1~4)については、3つのTMTタグを含有する種は依然として過剰標識された産物であるが、3TMT標識ペプチドの複数のアイソフォームは、このペプチドに関連するすべての種の総存在量の50%超を含む単一の優性型に収束した。5個および6個のTMTタグを含有する種は有意に抑制され、代わりに2個および3個のTMTタグが濃縮された。同様の阻害効果は、他のTTPPペプチドについても見ることができ、小分子の添加は、3TMT標識産物の形成を26%から<7%に抑制し、予想される2TMT標識産物を約94%まで濃縮した。4つの小分子のすべてが、TMT過剰標識を阻害する能力を実証したが、PABAは、他の小分子と比較して、そのより高い親水性、より低い分子量を考慮することによって、最も好適な競合試薬として選択されており、これは、標的化されたペプチドに干渉し、質量分析バックグラウンドシグナルを導入する可能性が低い。
【0092】
実施例4:TMT多重化PTM定量の再現性および感度。
PTM定量のためのこの標的化MS/MSベースのアプローチの再現性および感度を評価するために、3つの調製物(3回の測定)からのmAb-A試料の各トリプシン消化物を、1:1:1:1:1:1および1:2:4:8:16:32の既知の比で6つの部分に等分し、次いで6重TMTタグで標識した。各比率における3つのプールされた試料を、LC-MS/MSによって2回(2つの複製)分析した。0.6~3.3%(従来のアプローチに基づいて計算された割合)の範囲のレベルを有する4つの代表的なPTM(Lys糖化、Asn脱アミド化、Asp環化/異性化およびMet酸化)を選択して、このアプローチの定量再現性および感度を評価した。天然および修飾ペプチドの抽出されたレポートイオンクロマトグラムの積分ピーク面積を使用して、各TMTチャネルにおける4つのPTMの割合を計算した。図4Aには、6つのTMTチャネルにおけるmAb-E中の4つのPTMの1:1:1:1:1:1の比での相対的定量の評価が示されている。図4Bは、1:1:1:1:1:1の比での6つのTMTチャネルにおけるmAb-E中の4つのPTMの相対的定量の再現性の評価を示している。
【0093】
図5は、それぞれ0.15、0.30、0.60、1.2、2.4および4.8μgの試料ローディング量に対応する、1:2:4:8:16:32の比で6つのTMTチャネルにおいて定量化された4つのPTMの平均割合およびRSDを示している。異なるローディング量で定量化された4つのPTMの平均割合および相対標準偏差(RSD)は、Lys糖化について0.6~0.9%および3.3~29.0%、Asn脱アミド化について1.6~1.9%および3.6~7.2%、Asp環化/異性化について2.4~2.6%および3.4~7.3%、ならびにMet酸化について3.3~3.5%および3.6~9.4%の範囲であった。全体として、異なるローディング量で定量化されたこれらのPTMの平均割合は、本研究で調査したLys糖化などの低存在量PTM(およそ0.6%)についてさえ、従来のアプローチから計算されたもの(およそ5.0μgローディング量)と同等であった。ローディング量が0.15μgであった場合、この低レベルのLys糖化を定量化するために29.0%(>15%)のRSDで大きな変動が観察されたが(これは、NCE90での修飾ペプチドから生成されたレポートイオンの非常に低い存在量に起因し得る)、より高いレベルまたはより大きいローディング量でのPTM定量のRSDはすべて15%以内であり、試料ローディング量がわずかおよそ0.15μgである場合、1.0%という低いレベルでの多重化PTM定量に対して本アプローチが高感度であること実証された。
【0094】
実施例5:mAb-Aの安定性試料についてのTMT多重化PTM定量。
mAb-Aの安定性試料を、この標的化MS/MSベースのアプローチによって分析した。対照試料を含む合計4つの試料を、還元条件下でトリプシンによって消化し、次いで4重TMT試薬(126、127、128、129、130、および131チャネル)で標識した。プールした試料を、PTM定量のためにLC-MS/MSによって分析した。TMT標識を伴わない個々の消化試料もまた、PTM定量のための従来のアプローチによって分析した。図6は、このアプローチを使用した6つの試料の多重化PTM定量結果を、比較のための従来のアプローチにおいて定量化された結果とともに要約している。PTM定量の比較可能な結果が、2つのアプローチの両方において観察された。Met258およびMet434での酸化、Asn390での脱アミド化およびAsp286での環化/異性化のレベルに対する温度効果が観察され、45℃および25℃でインキュベートした試料は、対照試料および5℃でインキュベートした試料よりも高いレベルを示した。さらに、これらのPTMは、25℃で6ヶ月間インキュベートした試料よりも45℃で28日間インキュベートした試料においてわずかに高いレベルを示した。対照試料を5℃で24ヶ月間インキュベートした試料と比較した場合、レベルに有意差はなかった。他の部位での酸化、脱アミド化および環化/異性化について、それらのレベルは、本研究において試験されたストレス条件にかかわらず、4つすべての試料において同等であった。このケーススタディは、抗体試料中のPTMレベルの差を定量化するこのアプローチの能力を実証するものである。
【0095】
実施例6:mAb-Bの試料の同等性のためのTMT多重化PTM定量。
本実施例は、異なるプロセス領域から製造されたモノクローナル抗体の同等の質を実証するために、mAb-Fの同等性試料中のPTMレベルを定量化することを示す。合計4つの比較試料を、還元条件下でトリプシンによって消化し、次いで、4重TMT試薬(128、129、130および131チャネル)で標識した。プールした試料を、PTM定量のためにLC-MS/MSによって分析した。TMT標識を伴わない個々の消化試料もまた、PTM定量のための従来のアプローチによって分析した。両方のアプローチからの4つの同等性試料のPTM定量結果を図7Aおよび7Bに要約している。2つのアプローチは、匹敵するPTM割合を定量化し、Met酸化、Asn脱アミド化、Asp環化および異性化ならびにC末端リジンを含むすべてのPTMは、異なるプロセス領域から製造された4つのmAb-B試料において匹敵するレベルを示した。図7Aは、レベル>2.5%のPTMを示し、図7Bは、レベル≦2.5%のPTMを示している。
【0096】
実施例7:mAb-Eのトリスルフィド標準試料についてのTMT多重化PTM定量。
トリスルフィド標準試料を作製して、細胞培養プロセス開発中のインプロセス試料のトリスルフィドレベルをモニタリングするための較正曲線を確立した。ここで、本発明者らは、標的化MS/MSに基づくアプローチを適用して、HSストレスを受けた試料を参照標準試料と、それぞれ100:0、75:25、50:50、25:75および0:100の異なる比で混合することによって生成されたmAb-Eの5つのトリスルフィド標準試料におけるトリスルフィドレベルを定量化した。5つのトリスルフィド標準試料を非還元条件下でトリプシンによって消化し、次いで、5重TMT試薬(126、127、128、129および130チャネル)で標識した。プールした試料を、トリスルフィド定量のためにLC-MS/MSによって分析した。TMT標識を伴わない個々の消化試料もまた、比較のために従来のアプローチによって分析した。図8に示すように、このアプローチで定量化された標準試料のトリスルフィドレベルは、それぞれ14.9%、11.1%、7.5%、3.2%および0.1%であった。これらの結果は、ストレスをかけた試料と参照標準試料との混合比に基づいて計算された値と良好に整合しており、従来のアプローチで得られた値にも匹敵し、対応するトリスルフィドレベルはそれぞれ15.2%、11.7%、7.8%、3.2%および0.1%であった。
【0097】
開示されたTMTベースの多重化アプローチは、PTM定量のための現在のペプチドマッピングワークフローと適合性があり、試料調製手順に対する変更は最小限であるが、特に試料の大きなセットが分析される場合、質量分析データ取得時間を有意に短縮する。本明細書では、NCEを35から90に調整することによって、従来のアプローチにおける割合に匹敵する割合を達成しながら、標的化MS/MSスペクトル中の天然および修飾ペプチドから生成されるレポートイオンによって、異なるタイプのPTMを定量化することが実現可能であることを実証している。このアプローチは、低い試料ローディング量であっても1.0%という低いレベルでPTMを定量化するための優れた再現性および感度を提供することが示される。このアプローチの多重化特徴は、単一のLC-MS実行において複数の試料の質属性を定量化することによって、LC-MSベースのタンパク質生物薬剤特徴付けの分析能力を前進させるが、また、試料が従来のアプローチにおいてLC-MSによって個々に分析される場合に遭遇し得るPTM定量における実行間変動性を低減し、それにより、正確かつ再現可能なPTM定量のための質量分析データの質を改善する。全体として、異なる症例研究におけるモノクローナル抗体試料の分析について本明細書で実証されるように、開発されたアプローチは、薬物開発の異なる段階におけるモノクローナル抗体の特徴付けに対する高まる要求により良好に応えるするために、従来のアプローチと比較してより効率的な方法を提供する。
【0098】
本発明は、本明細書に記載される具体的な実施形態によって範囲が限定されるべきではない。実際、本明細書に記載されたものに加えて本発明の様々な修正は、前述の記載および添付の図から当業者には明らかであろう。そのような変更は、添付の特許請求の範囲内に含まれることが意図されている。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
【配列表】
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【国際調査報告】