(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-22
(54)【発明の名称】細胞をリプログラミングする方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20230314BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20230314BHJP
C12N 15/115 20100101ALI20230314BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20230314BHJP
C12N 15/85 20060101ALI20230314BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20230314BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20230314BHJP
A61K 35/545 20150101ALI20230314BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230314BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
C12N5/10
C12N15/113 Z
C12N15/115 Z
C12N15/12
C12N15/85 Z
C12N15/86 Z
C12N5/071
A61K35/545
A61K48/00
A61P43/00 111
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022530832
(86)(22)【出願日】2019-11-26
(85)【翻訳文提出日】2022-07-21
(86)【国際出願番号】 AU2019051296
(87)【国際公開番号】W WO2021102500
(87)【国際公開日】2021-06-03
(81)【指定国・地域】
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2018年(平成30年)11月28日 11th Guangzhou International Conference on Stem Cells and Regenerative Medicineにて発表
(71)【出願人】
【識別番号】517093463
【氏名又は名称】ザ・ユニヴァーシティ・オブ・ウェスタン・オーストラリア
(71)【出願人】
【識別番号】501249191
【氏名又は名称】モナッシュ ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】リスター、ライアン
(72)【発明者】
【氏名】バックベリー、サム
(72)【発明者】
【氏名】ポロ、ホセ
(72)【発明者】
【氏名】リュー、シャオドン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA13
4C084NA20
4C084ZC02
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB33
4C087BB48
4C087BB64
4C087BB65
4C087NA20
4C087ZC02
(57)【要約】
本発明は、誘導多能性幹(iPSC)を製造するための方法に関し、この方法は、以下の工程:多能性状態に向かう細胞のリプログラミングを促進するように適合された第1の培養条件で体細胞を培養する工程と、細胞内で低メチル化DNA状態を促進するように適合された第2の培養条件で細胞を培養する工程と、プライミングされた多能性状態を促進するように適合された第3の培養条件で細胞を培養する工程とを順番に含み、それによって体細胞からiPSCを製造する。本発明はまた、これらの方法から得られる細胞及び組成物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導多能性幹(iPSC)を製造する方法であって、以下の工程:
(a) 多能性状態に向かう体細胞のリプログラミングを促進するように適合された第1の培養条件で前記細胞を培養する工程と、
(b) 低メチル化DNA状態を促進するように適合された第2の培養条件で前記細胞を培養する工程であって、前記第2の培養条件での培養は、前記細胞が樹立されたナイーブ多能性状態を達成することを可能にするには不十分な期間である、工程と、
(c) プライミングされた多能性状態を促進するように適合された第3の培養条件で前記細胞を培養する工程、
を順番に含み、それによって体細胞からiPSCを製造する、方法。
【請求項2】
体細胞を多能性細胞にリプログラミングする方法であって、以下の工程:
(a) 前記体細胞における1つ以上の因子のタンパク質発現又は量を増加させる工程であって、前記因子は、前記体細胞を多能性状態に向けてリプログラミングするためのものである、工程と、
(b) 多能性状態に向かう前記細胞の前記リプログラミングを可能にするのに十分な時間及び条件下で、第1の培養培地中で前記細胞を培養する工程と、
(c) 前記細胞のエピジェネティックプロファイルをリセットするのに十分な時間及び条件下で、低メチル化DNA状態を誘導するように適合された第2の培地中で前記細胞を培養する工程と、
(d) 前記細胞をプライミングされた多能性状態に変換するのに十分な時間及び条件下で、プライミングされた多能性状態を誘導するように適合された第3の培養培地中で前記細胞を培養する工程、
を順番に含み、それによって、前記体細胞を多能性細胞にリプログラミングする、方法。
【請求項3】
体細胞を多能性細胞にリプログラミングする方法であって、以下の工程:
(a) 前記体細胞における1つ以上の因子のタンパク質発現又は量を増加させることであって、前記因子は、前記体細胞を多能性状態に向けてリプログラミングするためのものである、工程と、
(b) 多能性状態に向かう前記細胞のリプログラミングを可能にするのに十分な時間及び条件下で、第1の培養培地中で前記細胞を培養する工程と、
(c) 前記細胞を、低メチル化DNA状態を誘導するように適合された培養培地と接触させ、低メチル化DNA状態に向かう前記細胞のリプログラミングを可能にするのに十分な時間及び条件下で前記細胞を培養する工程と、
(d) 前記細胞をプライミング培地と接触させ、前記細胞をプライミング多能性状態にリプログラミングすることを可能にするのに十分な時間及び条件下で前記細胞を培養する工程、
を順番に含み、それによって、前記体細胞を多能性細胞にリプログラミングする、方法。
【請求項4】
前記iPSCが、胚性幹細胞のエピゲノムプロファイルと少なくとも75%類似、80%類似、又は90%以上類似するエピゲノムプロファイルを有し、場合により、前記エピゲノムプロファイルが、非CGメチル化レベルを参照することによって決定される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記体細胞がヒト体細胞であり、前記方法によって製造される前記iPSCがヒトiPSCである、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞が多能性状態に向かうリプログラミングを開始する培養時間が、前記体細胞を前記第1の培養培地と接触させた後、又は前記1つ以上の因子の前記タンパク質発現若しくは量を増加させた後、少なくとも1日である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記時間が、前記細胞を前記第1の培養培地と接触させた後、又は前記1つ以上の因子の前記タンパク質発現若しくは量を増加させた後、2、3、4、5、6、7日、又はそれを超える、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞が多能性状態に向かうリプログラミングを開始する前記培養時間が、前記体細胞に関連するマーカー及び特徴の減少を促進する任意の期間であり得る、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記第2の培養条件又は第2の培養培地が、ナイーブ多能性状態を促進するように適合された任意の培養条件又は培地である、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記培地が、MEK阻害剤、PKC阻害剤、GSK3阻害剤、STAT3アクチベーター、ヒト白血病阻害剤因子(hLIF)及びROCK阻害剤を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記培地が、本明細書に記載されるT2iLGoY、5iLAF、RSeT、PXGL及びNHSMからなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記第3の培養条件又は第3の培養培地が、プライミング多能性状態を促進するように適合された任意の培養培地相違を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記培地が、本明細書に記載されるEssential 8、KSR/FGF2、mTeSR、AKIT又はB8からなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記第2の培養条件又は第2の培養培地での前記細胞の培養が、21日以下の期間である、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記期間が、13日以下、場合により10日以下、又は5日以下である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記細胞を前記第2の培養培地中で培養することが、前記細胞のナイーブ多能性状態を達成するのに十分でない期間及び条件で行われ、工程d)が、前記細胞がリプログラミングを完了する前に、且つ前記細胞がナイーブ多能性状態を達成する前に、行われる、請求項2~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記第2の培養培地中での前記細胞の培養が、前記細胞のナイーブ多能性状態を達成する期間及び条件で行われ、工程d)が、前記細胞がナイーブ多能性状態を達成した後に行われる、請求項2~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
ナイーブ多能性状態が、丸いドーム形状の細胞を含む細胞表現型を含む、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
プライミング多能性状態が、平坦な細胞コロニーの存在によって特徴付けられる細胞表現型を含む、請求項1~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
ナイーブ多能性状態が、KLF2、KLF4、TFCP2L1、TBX3、REX1、GBX2、STELLA(DPPA3)、KLF17、DPPA5、TFCP2L1、MAEL、UTF1、ZFP57、DNMT3L、FGF4、FOXR1、ARGF、TRIM60、DDX43、BRDT、ALPPL2、KHDC3L、KHDC1L及びPRAP1から選択される1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23又は全てのマーカーの発現をさらに含む、請求項1~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
プライミング多能性状態が、SFP、EOMES、BRACHYURY、OTX2、ZIC2、ZIC3、ZIC5、DNMT3B、KDR、CDH2、CER1、COL2A1、DAZL、TCF7L1、SOX11及びSALL2から選択されるマーカーの1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15又は全ての発現をさらに含む、請求項1~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記細胞が、前記第3の培養培地又は第3の培養条件と接触する前に、0.5日、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、11日、12日、13日、14日、15日、16日、17日、18日、19日、20日又は21日の期間、前記第2の培養条件又は第2の培養培地で培養される、請求項1~14又は16~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記細胞が、少なくとも約0.5日間、1日間、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、約7日間、約8日間、約9日間、約10日間、約11日間、約12日間、約13日間、約14日間、約15日間、約16日間、約17日間、約18日間、約19日間、約20日間又は約21日間、前記第3の培養培地又は第3の培養条件で培養される、請求項1~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
工程a)が、前記体細胞を多能性状態に向けてリプログラミングするための前記因子の1つ以上の発現又は量を増加させるための薬剤と前記細胞を接触させることを含む、請求項1~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記薬剤が、ヌクレオチド配列、タンパク質、アプタマー及び小分子、リボソーム、RNAi薬剤及びペプチド核酸(PNA)並びにそれらの類似体又は改変体からなる群から選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記薬剤が核酸であり、前記核酸がベクターの形態で前記細胞と接触するために提供され、好ましくは、前記ベクターがウイルスベクターである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記因子が、転写因子:その改変体のOCT4、SOX2、KLF4及びMYCから選択される、請求項24~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記因子が、転写因子OCT4、SOX2、KLF4及びMYC(OSKM)の4つ全て、又はそれらの改変体を含む、請求項24~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記転写因子が、因子LIN28及び/又はNANOGをさらに含む、請求項27又は28に記載の方法。
【請求項30】
請求項1~29のいずれか1項に記載の方法によって得られるか又は得ることができる、誘導多能性幹細胞(iPSC)又は単離されたiPSC。
【請求項31】
請求項1~29のいずれか1項に記載の方法に従って得られるか又は得ることができる、誘導多能性幹細胞(iPSC)を含む細胞の集団であって、好ましくは、前記集団中の前記細胞の少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%がiPSC、及び請求項1~29のいずれか1項に記載の方法によって得られるか又は得ることができるiPSCである、集団。
【請求項32】
請求項1~29のいずれか1項に記載の方法に従って得られるか又は得ることができるiPSCに由来する分化細胞若しくは単離された分化細胞、原始生殖細胞又は配偶子。
【請求項33】
請求項1~29のいずれか1項に記載の方法に従って得られるか又は得ることができるiPSCに由来する分化細胞、原始生殖細胞又は配偶子の集団であって、好ましくは、前記集団中の前記細胞の少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%が分化細胞、及び請求項1~29のいずれか1項に記載の方法に従って得られるか又は得ることができるiPSCに由来する分化細胞である、集団。
【請求項34】
請求項32又は33に記載のiPSCの集団又は集団分化細胞に由来する、オルガノイド又は組織化された細胞のコレクション。
【請求項35】
・ 請求項30に記載のiPSC若しくは単離されたiPSC、
・ 請求項31に記載のiPSCの集団、
・ 請求項32に記載の分化細胞若しくは単離された分化細胞、
・ 請求項33に記載の分化細胞の集団、又は
・ 請求項34に記載のオルガノイド若しくは組織化された細胞のコレクション若しくはその一部、
及び薬学的に許容される賦形剤
を含む、医薬組成物。
【請求項36】
iPSC又は細胞集団の投与を必要とする疾患又は状態を治療する方法であって、それを必要とする対象に:
・ 請求項30に記載のiPSC若しくは単離されたiPSC、
・ 請求項31に記載のiPSCの集団、
・ 請求項32に記載の分化細胞若しくは単離された分化細胞、
・ 請求項33に記載の分化細胞の集団、
・ 請求項34に記載のオルガノイド若しくは組織化された細胞のコレクション若しくはその一部、又は
・ 請求項35に記載の医薬組成物
を投与することを含む、方法。
【請求項37】
iPSC又は細胞集団の投与を必要とする疾患又は状態の治療に使用するための、請求項30に記載のiPSC若しくは単離されたiPSC、請求項31に記載のiPSCの集団、請求項32に記載の分化細胞若しくは単離された分化細胞、請求項33に記載の分化細胞の集団、請求項34に記載のオルガノイド若しくは組織化された細胞のコレクション若しくはその一部、又は請求項35に記載の医薬組成物。
【請求項38】
請求項1~29のいずれか1項に記載のiPSCを製造するためのキットであって、場合により前記キットは、体細胞を培養するための試薬と、請求項1~29のいずれか1項に記載の方法を実施するための取扱説明書とを含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体細胞を多能性状態にリプログラミングするための改善された方法、並びにその方法から得られる細胞及び組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト胚性幹細胞(ESC)に密接に類似する多能性細胞への体細胞のリプログラミングは、生物医学研究及び再生医療において大きな可能性を持つ技術への領域である。
【0003】
誘導多能性幹細胞(iPSC)技術は、典型的には、多能性細胞を生成するために、体細胞の遺伝子操作又は体細胞への規定された因子の導入を含む。次いで、これらの方法によって生成されたiPSCは、iPSCへの特定の分化条件の適用を介して、任意の数の異なる細胞型を生成するために使用され得る。
【0004】
細胞リプログラミングは、ESCのエピゲノムに密接に類似するように体細胞エピゲノムをリセットすることを必要とする。しかしながら、複数の研究により、現在のリプログラミングアプローチを用いて、iPSCは、典型的に、元の体細胞のDNAメチル化などのエピジェネティックパターンを保持し、従って、ESCとはエピジェネティックに異なることが明らかにされている。換言すれば、iPSCは、それらが由来する体細胞のエピジェネティック記憶を有している。
【0005】
さらに、リプログラミングプロセス中にiPSC特異的エピジェネティック異常が頻繁に発生する。これらは、異常(abnormal)/異常(aberrant)なエピジェネティック(例えば、DNAメチル化)パターンであり、元の細胞又はESCには存在しない状態である。これらの異常なDNAメチル化パターンは、広範なiPSC継代を通して安定であり、iPSC分化を介して伝達することができ、誘導された分化細胞における不適切な転写活性に関連している。
【0006】
体細胞のエピジェネティック記憶及び異常なエピジェネティック(例えば、DNAメチル化)状態は、得られるiPSCに機能的に影響し、転写を変化させ、iPSC分化能を元の体細胞系列に向かって偏らせる。従って、iPSCは、分化及び機能に影響を及ぼし得るエピゲノム状態及びエピゲノム記憶を保有する。さらに、不完全なエピジェネティックリプログラミングは、iPSC技術及び治療用途にとって重大な制限となり得る。
【0007】
従って、体細胞を多能性状態に向けてリプログラミングするための改善された方法が必要とされている。
【0008】
本明細書における先行技術への言及は、この先行技術が任意の管轄区域における共通の一般的知識の一部を形成すること、又はこの先行技術が当業者によって、他の先行技術と理解され、関連すると見なされ、及び/若しくは組み合わされることが合理的に期待され得ることの承認又は示唆ではない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の態様において、本発明は、誘導多能性幹細胞(iPSC)を製造する方法を提供し、この方法は、以下の工程:
(a) 多能性状態に向かう細胞のリプログラミングを促進するように適合された第1の培養条件で体細胞を培養する工程と、
(b) 細胞内で低メチル化DNA状態を促進するように適合された第2の培養条件で細胞を培養する工程であって、第2の培養条件での培養は、細胞が樹立されたナイーブ多能性状態を達成することを可能にするには不十分な期間である、工程と、
(c) プライミングされた多能性状態を促進するように適合された第3の培養条件で細胞を培養する工程、
を順番に含み、それによって体細胞からiPSCを製造する。
【0010】
第2の態様では、本発明は、体細胞を誘導多能性細胞(iPSC)にリプログラミングするための方法を提供し、この方法は、以下の工程:
(a) 体細胞における1つ以上の因子のタンパク質発現又は量を増加させる工程であって、因子は、体細胞を多能性状態に向けてリプログラミングするためのものである、工程と、
(b) 多能性状態に向かう細胞のリプログラミングを可能にするのに十分な時間及び条件下で、第1の培養培地中で細胞を培養する工程と、
(c) 細胞のエピゲノムプロファイルをリセットするのに十分な時間及び条件下で、低メチル化DNA状態を誘導するように適合された第2の培地中で細胞を培養する工程と、
(d) 細胞をプライミングされた多能性状態に変換するのに十分な時間及び条件下で、プライミングされた多能性状態に誘導するように適合された第3の培養培地中で細胞を培養する工程、
を順番に含み、それによって、体細胞をiPSCにリプログラミングする。
【0011】
さらなる態様において、本発明は、体細胞を誘導多能性幹細胞(iPSC)にリプログラミングするための方法を提供し、この方法は、以下の工程:
(a) 体細胞における1つ以上の因子のタンパク質発現又は量を増加させる工程であって、因子は、多能性状態に向けて体細胞をリプログラミングするためのものである、工程と、
(b) 多能性状態に向かう細胞のリプログラミングを可能にするのに十分な時間及び条件下で、第1の培養培地中で細胞を培養する工程と、
(c) 細胞を、低メチル化DNA状態を誘導するように適合された培養培地と接触させ、細胞を低メチル化DNA状態に向けてリプログラミングすることを可能にするのに十分な時間及び条件下で、細胞を培養する工程と、
(d) 細胞をプライミング培地と接触させ、細胞をプライミング多能性状態にリプログラミングすることを可能にするのに十分な時間及び条件下で細胞を培養する工程、
を順番に含み、それによって、体細胞をiPSCにリプログラミングする。
【0012】
本発明の方法は、iPSCにおける異常なエピジェネティックパターンの発生の可能性を最小限にするか、又は減少させるのに特に適している。従って、本発明の方法によって得られるか又は得ることができるiPSCは、従来のリプログラミング方法によって得られるか又は得ることができるiPSCよりも胚性幹細胞(ESC)のエピゲノムプロファイルにより密接に類似するエピゲノムプロファイルを有する。
【0013】
本明細書で使用される場合、細胞のエピゲノムプロファイルをリセットすることは、ESCのエピジェネティックプロファイルに類似するエピジェネティックプロファイルを樹立することを指す。
【0014】
任意の実施形態において、低メチル化DNA状態を示す細胞は、ナイーブ多能性細胞であり得る。
【0015】
本発明に従って得られるか又は得ることができる細胞のエピゲノムプロファイルは、本方法に従って得られるiPSCの少なくとも一部についてのゲノムメチル化パターンを決定し、これをESCのメチル化パターンと比較することによって、ESCのエピゲノムプロファイルと比較することができる。
【0016】
本発明の任意の態様において、本発明の方法によって得られるか又は得ることができるiPSCは、ESCの非CG DNAメチル化プロファイルに類似する非CG DNAメチル化プロファイルによって特徴付けられる。本発明の任意の態様において、列挙された方法によって得られるか又は得ることができるiPSCは、ESCのH3K9me3メチル化状態に類似する細胞におけるH3K9me3メチル化状態を樹立する。本発明の任意の態様において、エピジェネティックプロファイルをリセットすることは、ESCにおける転移因子のDNAメチル化及び/又は発現のレベルに類似する、転移因子のDNAメチル化及び/又は発現のレベルを指す。
【0017】
本発明の任意の態様において、本発明の方法によって得られるか又は得ることができるiPSCは、本明細書の表3又は4のいずれかに規定されるような遺伝子座におけるESCにおけるメチル化のレベルに類似する、CG DNAメチル化のレベル、及び/又は転移因子についてのCG DNAメチル化のレベルを有する。
【0018】
本発明の任意の態様において、体細胞はヒト体細胞であり、本方法に従って製造されるiPSCは、ヒトiPSCである。
【0019】
本発明の特定の実施形態では、細胞が脱分化又は多能性状態に向かうリプログラミングを開始する培養期間は、体細胞を第1の培養培地と接触させた後(本発明の第1の態様によれば)、又は1つ以上の因子のタンパク質発現若しくは量を増加させた後(本発明の第2又は第3の態様によれば)、少なくとも1日である。この期間は、細胞を第1の培養培地と接触させた後、又は1つ以上の因子のタンパク質発現若しくは量を増加させた後、2、3、4、5、6、7日、又はそれを超えてもよい。任意の実施形態において、細胞が脱分化又は多能性状態に向かうリプログラミングを開始する培養期間は、体細胞に関連する1つ以上のマーカー及び特徴の減少を可能にする限り、任意の期間であり得る。
【0020】
低メチル化状態を誘導するように適合された第2の培養培地又は第2の培養条件は、細胞の全体的なDNA低メチル化を促進する任意の培養条件又は培地であり得る。特定の実施形態では、培養条件又は培地は、ナイーブ多能性状態、又は多能性状態の特徴、例えば全体的なDNA低メチル化を示す状態を促進するように適合された任意の培養培地を含むことができる。そのような培地の例は、当技術分野で公知であり、本明細書にさらに記載される。特定の好ましい実施形態では、ナイーブ培地は、MEK阻害剤、PKC阻害剤、GSK3阻害剤、STAT3アクチベーター、及びROCK阻害剤を含む。
【0021】
本明細書で使用される場合、全体的なDNA低メチル化とは、体細胞(分化)細胞型、又は場合によりプリミングされたヒトESCに観察されるメチル化レベルと比較して、細胞のゲノムにわたるDNAメチル化の平均レベルの減少を指す。
【0022】
プライミング培地(又は第3の培養条件又は第3の培養培地)は、プライミング多能性状態を促進するように適合された任意の培養培地を含むことができる。そのような培地の例は、当技術分野で公知であり、本明細書にさらに記載される。特定の実施形態では、プライミング培地は、Essential 8、KSR/FGF2、mTeSR、AKIT又はB8から選択される。
【0023】
任意の態様において、第2の培養条件/培養培地中での細胞の培養は、多能性の発生に十分ではない期間であり得る。
【0024】
より詳細には、本発明の任意の態様における工程c)のタイミングは、細胞についてのナイーブ多能性表現型を達成するのに十分ではないが、細胞における全体的なDNA低メチル化を達成するのに十分である期間、DNA低メチル化を誘導するための培地又はナイーブ培地と細胞とを接触させることを含み得る。換言すれば、工程d)のタイミング、即ち、細胞をプライミング培地と接触させるタイミングは、細胞がリプログラミングを完了する前に、且つ細胞がナイーブ多能性表現型を達成する前に行うことができる。特定の実施形態では、工程c)のタイミングは、細胞が全体的なDNA低メチル化を達成したが、本明細書に記載されるナイーブ多能性のマーカーを含むナイーブ多能性マーカーの1つ以上のマーカーを発現しないタイミングである。
【0025】
本発明の第2及び第3の態様の代替の実施形態では、工程c)のタイミングは、細胞が本明細書に記載されるナイーブ多能性の1つ以上のマーカーを発現することを含む、細胞が樹立されたナイーブ多能性細胞になった後であり得る。
【0026】
本明細書で使用される場合、「ナイーブ多能性状態」又は「ナイーブ多能性表現型」はまた、丸いドーム形状の細胞を含む細胞形態又は表現型を指すと理解され得る。ナイーブ多能性状態はまた、全体的なDNA低メチル化を有する細胞を含み得る。ナイーブ多能性状態はまた、KLF2、KLF4、TFCP2L1、TBX3、REX1、GBX2、STELLA(DPPA3)、KLF17、DPPA5、TFCP2L1、MAEL、UTF1、ZFP57、DNMT3L、FGF4、FOXR1、ARGFX、TRIM60、DDX43、BRDT、ALPPL2、KHDC3L、KHDC1L及びPRAP1又は表5を含む本明細書に記載されるナイーブ多能性の他のマーカーから選択される1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23又は全てのマーカーの発現を含み得る。
【0027】
本明細書で使用される場合、「プライミング多能性状態」又は「プライミング多能性表現型」は、典型的には、平坦な細胞コロニーの存在によって特徴付けられる細胞表現型又は形態を指す。特定の実施形態では、プライミング多能性状態は、移植後胚盤葉上層特異的転写因子の1つ以上のmRNAを発現する多能性細胞を指す。例えば、プライミング細胞は、SFP、EOMES、BRACHYURY、OTX2、ZIC2、ZIC3、ZIC5、DNMT3B、KDR、CDH2、CER1、COL2A1、DAZL、TCF7L1、SOX11、SALL2、又は表5を含む本明細書に記載されるプライミング多能性状態の他のマーカーの1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15又は全てを発現し得る。
【0028】
本発明の任意の態様において、リプログラミングを受けている細胞は、第2の培養条件又は第2の培養培地で、0.5日、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、11日、12日、13日、14日、15日、16日、17日、18日、19日、20日又は21日の期間培養される。次いで、細胞を、第3の培地、第3の培養条件、又はプライミング培養培地に移す。
【0029】
本発明の任意の態様において、リプログラミングを受けている細胞は、少なくとも約0.5日、約1日、約2日、約3日、約5日、約6日、約7日、約8日、約9日、約10日、約11日、約12日、約13日、約14日、約15日、約16日、約17日、約18日、約19日、約20日又は約21日の期間、第2の培養条件又はナイーブ培養培地で培養される。次いで、細胞は、第3の培地、第3の培養条件、又はプライミング培養培地に移される。
【0030】
本発明の任意の態様の好ましい実施形態では、第2の培養条件又は第2の培養培地における細胞の培養は、少なくとも5日間である。特に好ましい実施形態では、ナイーブ培地(第2の培養培地又は第2の培養条件)における細胞の培養は、約21日間以下である。
【0031】
本発明の任意の態様において、第2の培養培地、又はナイーブ培地と接触させた細胞は、第3の培養培地又はプライミング培養培地中で、0.5日、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、11日、12日、13日、14日、15日、16日、17日、18日、19日、20日又は21日以上の期間培養される。
【0032】
本発明の任意の態様において、第2の培養培地又はナイーブ培地と接触させた細胞は、第3の培養培地又はプライミング培地中で、少なくとも約0.5日間、約1日間、約2日間、約3日間、約4日間、約5日間、約6日間、約7日間、約8日間、約9日間、約10日間、約11日間、約12日間、約13日間、約14日間、約15日間、約16日間、約17日間、約18日間、約19日間、約20日間又は約21日間培養される。
【0033】
多能性状態に向けて体細胞をリプログラミングするための任意の方法(即ち、本発明の第1の態様の工程a)又は本発明の第2及び第3の態様の工程a)及びb)を実施するための方法)が、本発明の方法に従って使用され得ることが理解されるであろう。従って、本発明は、多能性に向かうリプログラミングを促進するための特定の培養条件によって、又は関連因子のタンパク質発現若しくは量を増加させるための特定の方法によって、又は体細胞が多能性に向かうリプログラミングを開始することを可能にするための培養条件によって限定されない。そのような方法は、当技術分野で公知であり、本明細書にさらに記載される。
【0034】
特定の実施形態では、多能性状態に向けて体細胞をリプログラミングすることは、多能性を誘導する小分子組み合わせと細胞を接触させることを含む。
【0035】
好ましい実施形態において、多能性状態に向けて体細胞をリプログラミングするための因子は、転写因子である。
【0036】
多能性に関連する任意の転写因子が、本発明の方法に従って使用され得る。特定の例において、転写因子は、因子OCT4、SOX2、KLF4及びMYCのうちの1つ以上を含み得るか、又はこれらの因子からなり得るか、又はこれらの因子から本質的になり得る。特に好ましい実施形態では、転写因子は、因子OCT4、SOX2、KLF4及びMYC(OSKM)の4つ全て、又はそれらの改変体を含む。さらなる実施形態において、体細胞、例えば線維芽細胞を多能性状態に向けてリプログラミングするための転写因子はまた、因子LIN28及び/又はNANOGを含む。特定の実施形態において、OCT4、SOX2、KLF4、MYC、LIN28及びNANOGのそれぞれのタンパク質発現は、体細胞において増加する。
【0037】
典型的には、本明細書に記載の因子のタンパク質発現又は量は、細胞を因子の発現を増加させる薬剤と接触させることによって増加する。好ましくは、薬剤は、ヌクレオチド配列、タンパク質、アプタマー及び小分子、リボソーム、RNAi薬剤及びペプチド核酸(PNA)並びにそれらの類似体又は改変体からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、薬剤は外因性である。本発明はまた、1つ以上の転写因子の発現を増加させるための転写活性化系(例えば、CRISPR/Cas9又はTALENのような遺伝子制御系において使用するためのgRNA)の使用を意図する。
【0038】
典型的には、本明細書に記載の転写因子のタンパク質発現又は量は、転写因子をコードするヌクレオチド配列又はその機能的断片をコードするヌクレオチド配列を含む少なくとも1つの核酸を細胞に導入することによって増加する。
【0039】
本発明の好ましい実施形態において、転写因子タンパク質をコードする核酸配列は、プラスミドによって細胞に導入される。1つ以上の転写因子をコードする1つ以上の核酸が使用され得る。従って、1つ以上のプラスミドが、必要とされる1つ以上の転写因子の発現又は量を増加させる目的のために使用され得ることは明らかである。換言すれば、核酸配列は、単一のプラスミド中又は上にあってもよく、又は2つ以上のプラスミド中で体細胞に提供されてもよい。
【0040】
本発明の任意の実施形態において、本発明に従って使用するための1つ以上の転写因子をコードする核酸を含むプラスミドは、エピソームプラスミドであり得る。
【0041】
好ましくは、核酸は異種プロモーターをさらに含む。好ましくは、核酸はウイルスベクター又は非ウイルスベクターなどのベクター中にある。好ましくは、ベクターは宿主細胞ゲノムに組み込まれないゲノムを含むウイルスベクターである。ウイルスベクターは、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルス又はセンダイウイルスであり得る。
【0042】
本発明の任意の実施形態において、因子のタンパク質発現又は量は、体細胞を、細胞における前記因子の発現を増加させるための1つ以上の薬剤と接触させることによって、体細胞において増加する。特定の実施形態において、因子のタンパク質発現又は量は、体細胞を、前記転写因子をコードする1つ以上のベクターで形質導入又はトランスフェクションすることによって、体細胞において増加する。ベクターは、組み込み又は非組み込みウイルスベクターを含むウイルスベクターであってもよい。更なる実施形態では、ベクターはエピソームベクターであり得る。
【0043】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載される本発明の任意の方法によって得られるか又は得ることができる、誘導多能性幹細胞(iPSC)を提供する。
【0044】
さらなる実施形態において、本発明は、本明細書に記載される本発明の任意の方法によって得られるか又は得ることができる、単離された誘導多能性幹細胞(iPSC)を提供する。
【0045】
尚さらに、本発明は、本明細書に記載される本発明の任意の方法によって得られるか又は得ることができる、誘導多能性幹細胞(iPSC)を含む細胞集団を提供する。好ましくは、本発明は、細胞集団を提供し、ここで、細胞の少なくとも5%がiPSCであり、それらのiPSCは、本明細書に記載される方法によって得られるか又は得ることができる。好ましくは、集団中の細胞の少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%がiPSCであり、それらのiPSCは、本明細書に記載される方法によって得られるか又は得ることができる。
【0046】
本発明の任意の方法において、方法は、本明細書に記載される本発明の任意の方法によって得られるか又は得ることができるiPSCを分化させる工程をさらに含む。細胞を分化させる工程は、分化した細胞又は多能性状態にない細胞の少なくとも1つの特徴を有する細胞を生成するのに十分な時間及び条件下でiPSCを培養することを含んでもよい。
【0047】
従って、本発明は、本明細書に記載される本発明の任意の方法によって得られるか又は得ることができる、誘導多能性幹細胞(iPSC)から生成された分化細胞を提供する。本発明はまた、本明細書に記載される本発明の任意の方法によって得られるか又は得ることができる、誘導多能性幹細胞(iPSC)から生成された単離された分化細胞を提供する。尚さらに、本発明は、本明細書に記載される本発明の任意の方法によって得られるか又は得ることができる、誘導多能性幹細胞(iPSC)から生成された分化細胞を含む細胞集団を提供する。好ましくは、本発明は、細胞集団を提供し、ここで、細胞の少なくとも5%が分化細胞であり、それらの分化細胞は、本明細書に記載される方法によって得られるか又は得ることができるiPSCから生成される。好ましくは、集団中の細胞の少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%が分化細胞であり、それらの分化細胞は、本明細書に記載される方法によって得られるか又は得ることができるiPSCから生成される。
【0048】
本発明はまた、iPSC/iPSCから生成された分化細胞の集団に由来するオルガノイド又は他の組織化された細胞のコレクションを提供し、iPSCは、本発明の方法に従って得られるか又は得ることができる。
【0049】
本発明はまた、以下を含む医薬組成物を提供する:
・ 本発明の方法に従って得られるか若しくは得ることができる単離されたiPSC、若しくはiPSCの集団、
・ 本発明の方法に従って得られるか若しくは得ることができる1つ以上のiPSCに由来する単離された分化細胞、若しくは分化細胞の集団、又は
・ iPSC/iPSCから生成された分化細胞の集団に由来するオルガノイドであって、iPSCが本発明の方法に従って得られるか若しくは得ることができる、オルガノイド、
及び薬学的に許容される賦形剤。
【0050】
さらに、本発明は、iPSC又は細胞集団の投与を必要とする疾患又は状態を治療する方法を提供し、該方法は、それを必要とする対象に以下を投与することを含む:
・ 本発明の方法に従って得られるか若しくは得ることができる単離されたiPSC、若しくはiPSCの集団、
・ 本発明の方法に従って得られるか若しくは得ることができる1つ以上のiPSCに由来する単離された分化細胞、若しくは分化細胞の集団、又は
・ iPSC/iPSCから生成された分化細胞の集団に由来するオルガノイドであって、iPSCが本発明の方法に従って得られるか若しくは得ることができる、オルガノイド。
【0051】
本発明はまた、多能性幹細胞、又はそれに由来する分化細胞の投与を必要とする疾患又は状態を治療するための薬剤の製造における、本発明の方法に従って得られるか又は得ることができるiPSCの使用を提供する。
【0052】
本発明はまた、本明細書に記載される方法に従ってiPSCを製造するためのキットを提供する。好ましくは、キットは、本発明の方法を実施するための取扱説明書も含む。キットはまた、本明細書に定義されるような第1、第2及び/又は第3の培養培地を含む、本発明の方法を実施するための1つ以上の試薬を含み得る。尚さらに、キットは、本発明の方法に従って生成されたiPSCを分化させるための取扱説明書及び/又は試薬を含み得る。
【0053】
本明細書に記載される任意の方法は、インビトロ、エクスビボ又はインビボで行われる1つ以上又は全ての工程を有し得る。
【0054】
本明細書で使用される場合、文脈が特に必要とする場合を除き、用語「含む(comprise)」及び該用語の変形、例えば「含むこと」、「含む(comprises)」及び「含む(comprised)」は、さらなる添加剤、成分、整数又は工程を除外することを意図しない。
【0055】
本発明のさらなる態様、及び前の段落に記載された態様のさらなる実施形態は、例として与えられる以下の記載から、添付の図面を参照して、明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【
図1】異常なDNAメチル化の獲得は、プライミングリプログラミングの13日後に起こり、ナイーブiPSCには存在しない。a)iPSCとESCとの間の差次的にメチル化された領域(DMR)について試験するために使用された細胞株を示す表。列は、DMR試験で使用した各細胞株に使用した培養培地を示し、b)バープロットは、iPSCとESCとの間で検出されたDMRの数を示す。記憶DMRは、線維芽細胞とiPSCとの間でDMRが検出されなかったものである。iPSC DMRは、ESCと線維芽細胞の間でメチル化レベルが有意に異なるものである。高メチル化DMR及び低メチル化DMRは、それぞれ、レベルがESCと比較して高い及び低いiPSCであるDMRである。c)プロットは、前駆線維芽細胞状態と比較して、全DMRにわたる平均DNAメチル化変化を示す。各点は、個々のサンプルを表す。d)記憶及びiPSC DMRについての全てのサンプルにわたるDMR中のDNAメチル化レベルを示すヒートマップ。行は、相関クラスタリングによって順序付けられる。e)TCERG1L及びiPSC DMRについての転写開始部位に隣接するDNAメチル化レベルを示すゲノムブラウザープラット。プロットは、このiPSC DMRについて、異常なDNAメチル化がプライミングリプログラミングの13日目後に蓄積し、ナイーブリプログラミングには出現しないことを示す。
【
図2】ナイーブ・トゥ(to)・プライミングのリプログラミングは、体細胞記憶を消去し、ESCにより密接に類似する細胞を生成する。a)一過性ナイーブ処理(TNT)プライミングiPSC又はナイーブ・トゥ・プライミングiPSCを生成する2つの別個の戦略を示す、ナイーブ・トゥ・プライミングリプログラミングの概略図。b)ナイーブ・トゥ・プライミング及びTNTプライミングリプログラミングによって補正されるCG-DMRの数は、DMRクラスによって分離される。c)ナイーブ・トゥ・プライミング及びTNTプライミングiPSCリプログラミングがiPSCとESCの間のDNAメチル化の相違を減少させることを示す、iPSCとESCの間のDMRでのDNAメチル化レベルの相違を示すヒストグラム。垂直破線は、DMR有意性の大きさ閾値であるmCGレベルにおける20%デルタを示す。d)バープロットは、抑制性クロマチンドメインにおけるCG-DMRの濃縮の順列検定で決定された濃縮zスコアを示す。e)アップセットプロットは、線維芽細胞特異的抑制性クロマチンと交差するDMRについての高度のCG-DMR補正を示す。f)上のパネルは、非CG DMRにおけるCAメチル化レベルの集合プロファイルプロットであり、TNTプライミング及びナイーブ・トゥ・プライミングiPSCが、ESCと非常に類似した非CGメチル化プロファイルを示すことを示す。下のパネルは、プライミングiPSCと比較して、TNTプライミングiPSC及びナイーブ・トゥ・プライミングiPSCの両方で非CG DMRにおけるH3K9me3 ChIP-seq濃縮が少ないことを示す。
【
図3】ナイーブ・トゥ・プライミングリプログラミングは、より低い転移因子(TE)発現を導く。A)TEでのDNAメチル化レベルのヒストグラムは、プライミングiPSCと比較した場合、ナイーブ・トゥ・プライミングiPSCではDNAメチル化が高く、ESCとより類似していることを示す。カバレッジ加重DNAメチル化レベル(mCG/CG)を、各TEの全コピーについて計算した。ドナー32Fに由来する細胞について示したiPSCデータ。B)TE発現のデンドログラムは、ナイーブ・トゥ・プライミングiPSCがプライミングiPSCよりもESCに密接に類似することを示す。C)プライミングiPSCとナイーブ・トゥ・プライミングiPSCとの間のTE差次的発現の試験は、TE発現がナイーブ・トゥ・プライミングiPSCにおいてダウンレギュレートされることを示す。バープロットは、遺伝子及びTEに関して差次的に発現する特徴の数を示す。火山プロットは、群間の発現差の大きさ及び有意性を示す。垂直破線は、対数倍率変化>1(即ち、絶対倍率変化>2)を示す。D)差次的に発現されるTEの大部分は、LINE及びLTRエレメントであり、ナイーブ・トゥ・プライミングiPSCにおいて抑制される。点は、LINE、LTR及びSINE TEクラスの各ファミリーにおけるTEのy軸上の変化の大きさを示す。E)バープロットは、(D)で標識されたTEについての正規化されたTE発現(百万当たりのカウント)を示す。全ての場合において、ナイーブ・トゥ・プライミングiPSC TE発現は、プライミングiPSCよりもH9 ESCの発現に近い。F)DMRにおける転移因子ファミリーのDNAメチル化の分布。メチル化は、全てのサンプルについて、各TEについてmCG/CGとして計算され、次いで、TEファミリーによってグループ化される。TEにおける補正されたDMRが示されている。
【
図4】プライミング及びナイーブ・トゥ・プライミングiPSCに由来する胚様体の分化スコアカード評価は、ナイーブ・トゥ・プライミングiPSCがプライミングiPSCと比較して、中胚葉系列に向けてより少ない分化バイアスを示すことを示す(線維芽細胞は中胚葉起源であり、ドナーの体細胞型であった)。
【
図5】A)画像は、プライミングiPSC(左)及びナイーブ・トゥ・プライミングiPSC(右)からの神経幹細胞(NSC)の生成を示す。これは、プライミングiPSCのNSCへの分化がNSCコロニー間の空間において線維芽細胞様細胞を生成し、これは、NSCをナイーブ・トゥ・プライミングiPSCから分化させる場合に有意に減少することを示す。B)プライミングiPSC、TNTプライミングiPSC、及びナイーブ・トゥ・プライミングiPSCに由来するNSC培養物についての単一細胞RNA-seq実験から検出された細胞型の割合。データは、ナイーブ・トゥ・プライミング細胞及びTNTプライミング細胞の両方がマーカー遺伝子発現によって特徴付けられるように、実質的に少ない線維芽細胞様細胞を示すことを実証する。
【
図6】フローサイトメトリー分析は、MEL1 hESC、MEL1由来プライミングiPSC、MEL1由来TNTプライミングiPSC、MEL1由来ナイーブ・トゥ・プライミングiPSC(p4)及びMEL1由来ナイーブ・トゥ・プライミングiPSC(p10)の皮質ニューロン分化の8日目(D8)及び16日目(D16)におけるNCAM陽性集団の割合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0057】
ここで、本発明の特定の実施形態を詳細に参照する。本発明を実施形態に関連して説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではないことが理解されるであろう。むしろ、本発明は特許請求の範囲により定義される本発明の範囲内に含まれ得る全ての代替物、修正物、及び等価物を網羅することを意図している。
【0058】
当業者は、本明細書に記載される方法及び物質と類似するか若しくは等価である多くの方法及び物質を認識する。本発明は、記載される方法及び材料に決して限定されない。本明細書に開示され、定義された本発明は、本文若しくは図面に言及され、又は本文若しくは図面から明らかな個々の特徴の2つ以上の代替的な組み合わせの全てに及ぶことが理解されるであろう。これらの異なる組み合わせの全ては、本発明の様々な代替態様を構成する。
【0059】
本明細書を解釈する目的で、単数形で使用される用語は複数形も含み、その逆も同様である。
【0060】
従来の方法によれば、ヒト誘導多能性幹細胞(iPSC)及び胚性幹細胞(ESC)は、通常、多能性の「プライミング」状態で維持され、これは、着床後ESCに似ている。しかしながら、これらの「プライミング」iPSCは、典型的には、ESCとは異なるエピゲノム記憶を特徴とする。さらに、プライミングiPSCは、差次的にメチル化された領域(DMR)を含むiPSC特異的な異常DNAメチル化状態の存在を特徴とする。
【0061】
本発明者らは、プライミングiPSC又はナイーブiPSCのいずれかへの体細胞のリプログラミングの間のDNAメチル化の動態及びパターンの経路を包括的にマッピングした。この新しい知識に基づいて、本発明者らは、iPSCのメチル化プロファイルにおけるエピジェネティックな記憶及び異常を実質的に補正する新規なプロセスを開発した。従って、本発明者らは、従来のiPSCと比較して、エピジェネティック及び転写特性並びに分化能においてESCにより密接に類似するiPSCを生成するための新規な方法を開発した。この新規な方法又はプロセスを用いて生成されたiPSCは、本明細書では、「ナイーブ・トゥ・プライミングiPSC」(NtoP iPSC)又は「一過性ナイーブ処理プライミングiPSC」(TNTプライミングiPSC)と呼ぶことができる。
【0062】
供給源(体)細胞をリプログラミングする方法にかかわらず、ヒトiPSCを生成するための標準的なアプローチは、プライミング培地又はナイーブ培地中でiPSCを生成することによる。しかしながら、本発明者らは、リプログラミングプロセスの間に、細胞をナイーブ培地に、好ましくは短時間曝露し、その後、培地を交換し、細胞をプライミング培地に入れるプロセスを開発した。従って、本発明の方法は、プライミング状態(ヒトiPSCにおいて最も一般的に使用される多能性状態)にあるが、従来の方法を使用して生成されたiPSCと比較して真のESCにより類似するiPSCを生じる。特に、それらは、以下の利点のうちの1つ以上、又は全てを有する可能性がある:
・ iPSC特異的DMR(iDMR)の存在の有意な減少、
・ 記憶DMRの有意な減少、
・ 非CG DMRにおける非CGメチル化のESCに類似したレベルへの補正、
・ 転移因子における異常なメチル化の存在の有意な減少、
・ 線維芽細胞層関連ドメイン(元の体細胞型が線維芽細胞である)と関連する非CG DMRにおけるH3K9me3 ChIP-seqシグナルの減少、
・ 従来のプライミングiPSCと比較した転移因子の発現の減少、
・ 元の体細胞型の系統への分化バイアスの減少、
・ ナイーブ・トゥ・プライミング及びTNTプライミングiPSCの神経幹細胞(NSC)への分化中に出現する線維芽細胞様細胞がプライミング細胞(元の体細胞型が線維芽細胞である)と比較して少ないこと、
・ 遺伝的に一致したESCと同様の異なる細胞型への分化効率。
【0063】
細胞
本明細書で使用される場合、用語「多能性の」又は「多能性」は、適切な条件下で、3つの胚葉(内胚葉、中胚葉、及び外胚葉)の全てからの細胞系列に関連する特徴を集合的に示す細胞型へと分化し得る子孫を生じさせる能力を有する細胞を指す。多能性幹細胞は、出生前、出生後又は成体動物の多く又は全ての組織に寄与し得る。8~12週齢のSCIDマウスにおいて奇形腫を形成する能力など、当技術分野で受け入れられている標準的な試験を使用して、細胞集団の多能性を樹立することができるが、様々な多能性幹細胞の特徴の同定を使用して、多能性細胞を検出することもできる。
【0064】
本明細書で使用される場合、「多能性状態」、「多能性幹細胞の特徴」又は「多能性細胞の1つ以上の特性」への言及は、多能性幹細胞を他の細胞から区別する細胞の特徴を指す。適切な条件下で、3つの胚葉(内胚葉、中胚葉、及び外胚葉)の全てからの細胞系列に関連する特徴を集合的に示す細胞種に分化し得る子孫を生じさせる能力は、多能性幹細胞の特徴である。分子マーカーの特定の組み合わせの発現又は非発現もまた、多能性幹細胞の特徴である。例えば、ヒト多能性幹細胞は、以下の非限定的なリストからのマーカーの少なくとも1つ、2つ、又は3つ、及び場合により全てを発現する:SSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60、TRA-1-81、TRA-2-49/6E、ALP、SO2、E-カドヘリン、UTF-1、OCT4(POU5F1)、REX1、及びNANOG。
【0065】
多能性幹細胞に関連する細胞形態もまた、多能性幹細胞の特徴である。多能性細胞は、典型的には、自己再生能力、3つの胚葉の細胞型を生じさせる能力、並びにOCT4(POU5F1)、NANOG及びSOX2などの多能性マーカーの発現によって特徴付けられる。多能性細胞は、典型的には、明確な境界(プライミング状態にある場合)又はドーム形状(ナイーブ状態にある場合)を有する平坦なコロニー中で成長する。これは、体細胞、例えば、大きくて細長い線維芽細胞の形態と対比することができる。ナイーブ及びプライミング多能性細胞の両方によって発現されるマーカーは、OCT4(POU5F1)、SOX2、NANOG、KLF4、EPCAM、及びPRDM14を含む。
【0066】
ナイーブ多能性細胞によってのみ、又はプライミング多能性細胞によってのみ発現されるマーカーを、本明細書の表5に列挙する。
【0067】
本明細書で使用される場合、用語「幹細胞」は、最終的に分化されていない、即ち、より特定の特殊化された機能を有する他の細胞型に分化し得る細胞を指す。この用語は、胚性幹細胞、胎児幹細胞、成体幹細胞又は方向付けされた(committed)/前駆細胞を包含する。
【0068】
本明細書で使用される場合、オルガノイドは、幹細胞又は器官前駆体から発生し、細胞選別及び空間的に制限された系統コミットメントを介して、インビボと同様の様式で自己組織化し、以下を含む特性を示す器官特異的細胞型のコレクションである;多数の器官特異的細胞型;器官のいくつかの特異的機能(例えば、収縮、神経活性、内分泌、濾過、排泄)を再現することが可能である;その細胞は、器官に類似して、一緒にグループ化され、空間的に組織化される。オルガノイドは、様々な疾患プロセス、薬物スクリーニング、及び異なる環境刺激に対する応答を含む基本的な生物学的プロセスを研究するためのツールとして使用され得る。
【0069】
用語「CG」又は「CpG」は、互換的に使用され得、DNA分子内の塩基(線状鎖)の線状配列においてグアニンヌクレオチドの上流にシトシンヌクレオチドが存在するDNA分子の領域を指す。DNA分子中に線状鎖を形成するヌクレオチドは、リン酸を介して連結される。従って、CG部位は、CpG部位とも呼ばれる。CpG表記法は、さらに、シトシンとグアニンの線状配列と、シトシンとグアニンがDNA分子の反対側の鎖上に位置するシトシンとグアニンのCG塩基対形成とを区別するために用いられる。CpGジヌクレオチド中のシトシンは、メチル化されて5-メチルシトシンを形成することができる。哺乳動物では、遺伝子内のシトシンをメチル化すると遺伝子がオフになることがある。DNA分子内のシトシンにメチル基を付加する酵素は、DNAメチルトランスフェラーゼと呼ばれる。
【0070】
非CpG部位は、グアニンではないヌクレオチドの上流にシトシンヌクレオチドが存在するDNA分子の線状配列である。非CpGシトシンメチル化は、ヌクレオチドがCGジヌクレオチド配列の一部を形成しないシトシン部位で起こり得る。
【0071】
DNAメチル化は、遺伝子サイレンシングに関連するエピジェネティックなマークであり、グアニンに隣接して認められる場合(CpG部位)、主にシトシンヌクレオチドで起こる。CpG部位は、特定のゲノム領域においてクラスタリングを示す。高CpG密度のこれらのクラスターは、CpGアイランドとして知られ、遺伝子プロモーター領域にしばしば見出される。正確な機構はまだ明らかにされていないが、メチル化は遺伝子サイレンシングの「記憶」マークを提供し、一方、転写の遮断は、関連するヒストン修飾によって行われるという証拠がある。
【0072】
CpG部位は、DNAの非コードゲノム領域及び遺伝子体内にも見出される。ここで、メチル化は、DNAの安定化とLINE1などの転移因子の移動の防止に重要な役割を果たしている。LINE1は、ヒトゲノムに豊富に存在するレトロトランスポゾンであり、約500,000コピーがあり、ゲノムの17.88%に相当する。ゲノムに豊富に存在することから、LINE1のメチル化は、全体的なDNAメチル化の代替尺度として検証されている。
【0073】
iPSCを生成するための先行技術の方法は、ESCのゲノムと比較して、高メチル化又は低メチル化DMRを含むCpG部位を生じ得る。非CpG高メチル化DMRは、ヒトESCの対応する領域と比較して、より多数のメチル化非CpG部位を有する、プライミングiPSCゲノム(iPSCは、先行技術の方法によって得られる)の差次的にメチル化された領域(DMR)を指す。非CpG低メチル化DMRは、ヒトESCの対応する領域と比較して、より少ないメチル化非CpG部位を有する、プライミングiPSCゲノム(iPSCは、先行技術の方法によって得られる)の差次的にメチル化された領域(DMR)を指す。非CpG低メチル化又は高メチル化DMRは、典型的には、約100bp~4000kbの長さである。
【0074】
同様に、iPSCを生成するための先行技術の方法は、高メチル化CG-DMR及び低メチル化CG-DMRを生じ得る。CpG高メチル化又は低メチル化DMRは、典型的には、約100bp~4000kbの長さである。
【0075】
本発明の方法は、従来の方法を使用して得られたiPSCにおいて観察される異常DMRの少なくとも1つ以上の補正を可能にすることが理解されるであろう。
【0076】
本発明の任意の態様において、本発明の方法によって得られるか又は得ることができるiPSCは、ESCについての同じ遺伝子座におけるDNAメチル化プロファイルにより密接に類似する、CpG DNAメチル化のレベル、非CpGメチル化のレベル、及び/又は転移因子についてのCpG DNAメチル化のレベルを有する。いくつかの実施形態では、遺伝子座は、本明細書の表3又は4のいずれかに規定される領域の1つ以上である。
【0077】
任意の実施形態において、本発明の方法は、ESCと同じか、又は実質的に同じLINE1レトロトランスポゾンにおけるメチル化レベルを有するiPSCを提供する。
【0078】
不完全なiPSCリプログラミングに関連するCpG高メチル化又は低メチル化DMRの非限定的な例は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第9,428,811号明細書に記載されている。米国特許第9,428,811号明細書に記載されている1つ以上のDMRは、本発明に従って体細胞をリプログラミングすることによって補正されることが理解されるであろう。
【0079】
ESCの等価シグネチャーに対する細胞のエピゲノムシグネチャーを同定するための方法も、米国特許第9,428,811号明細書に記載されており、生成されたiPSC(又は本発明の方法のプロセスの間に得られた中間体)がESCと同様のエピゲノムプロファイルを有することを確認するために、本発明の方法に従って使用することができる。より詳細には、当業者は、本明細書に記載されるように、第2の培養培地と接触させた細胞のエピゲノムプロファイルを決定して、細胞が低メチル化されているか、又はESCのエピゲノム状態に似たエピゲノム状態に移行し、第3の培養培地に移行できることを確認することができる。
【0080】
本発明の好ましい実施形態において、体細胞は、低メチル化を促進するように適合された第2の培養条件又は培養培地で細胞を培養することなどによって、多能性状態に向けてリプログラミングされる。この条件は、ナイーブ多能性状態を促進する培地の使用を含み得る。しかしながら、細胞がナイーブ多能性状態に達する前に、細胞は、好ましくは、プライミング多能性状態を促進するために、第3の培養条件/培地に移行されることが理解されるであろう。
【0081】
従って、好ましい実施形態では、本明細書に記載されるように、第2の培養培地と接触させた、又は第2の培養条件に曝露された細胞は、第3の培養培地と接触させる前に、ゲノムワイドな低メチル化を有する。好ましくは、ゲノムワイドな低メチル化は、プライミング多能性幹細胞のメチル化状態の70%、60%、50%、40%、又は30%以下、好ましくは、50%以下である。
【0082】
低メチル化は、通常の(プライミング)PSCでは失われる、ヒト胚における原始細胞の特有の性質である。細胞は、本発明の方法に従って、ナイーブ培地に一時的に曝露されることに応答して、全体的な脱メチル化を示し得る。或いは、細胞は、ゲノムワイドなCpGメチル化において、少なくとも10~90%、好ましくは少なくとも約50%の減少を示し得る。メチル化レベルは、ナイーブ培地と接触させていないプライミングiPSCのメチル化と比較して測定され得る。メチル化レベルは、ヌクレオシド質量分析によって、又は深い配列決定に連結されたバイサルファイト変換によって定量化され得る。
【0083】
本発明に従って、第2の培養培地と接触する細胞はまた、第2の培養培地と接触させていないプライミングiPSCと比較して、H3K9me3などの遺伝子サイレンシングに関連するより低いレベルのヒストン修飾を有し得る。ヒストン修飾のレベルは、定量的免疫染色、又は深い配列決定に連結されたクロマチン免疫沈降(ChIP-seq)によって測定することができる。
【0084】
ナイーブ状態の女性細胞は、X染色体の可逆的なエピジェネティックな消去、より詳細には、X染色体の脱メチル化及びXXナイーブ細胞、好ましくは80%以上のXX細胞におけるH3K27me3フォーカスの非存在を示す場合がある。いくつかの実施形態では、ナイーブからプライミング状態への細胞の変換は、細胞の大部分において、好ましくは、少なくとも50%、60%、又は70%以上、H3K27me3フォーカスを回復させる。
【0085】
当業者は、幹細胞に関して「ナイーブ」及び「プライミング」という用語に精通しているであろう。これらの用語は、胚盤葉上層個体発生の初期及び後期を記述し、ESC及びEpiSC誘導体を記述するために、10年以上前に特定された。本明細書で使用される場合、ナイーブ多能性状態は、着床前胚により密接に類似する多能性状態を指す。いくつかの状況では、用語「ナイーブ状態」は、用語「基底状態」と互換的に使用される。ナイーブ状態細胞は、体細胞と比較して実質的にエピジェネティックにリセットされ、着床前胚盤葉上層の発達上の同一性及び機能的能力を有する、均一な多能性幹細胞の安定な自己再生培養物である。
【0086】
特定の実施形態では、ナイーブ多能性細胞は、着床前胚盤葉上層に特異的な転写因子のmRNA及びタンパク質を発現し得る。例えば、ナイーブ細胞は、KLF2、KLF4、TFCP2L1、TBX3、REX1、GBX2、STELLA(DPPA3)、KLF17、DPPA3、DPPA5、TFCP2L1、MAEL、UTF1、ZFP57、DNMT3L、FGF4、FOXR1、ARGFX、TRIM60、DDX43、BRDT、ALPPL2、KHDC3L、KHDC1L及びPRAP1のうちの1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25又は全てを発現し得る。ナイーブ多能性状態を示す他のマーカーを表5に示す。
【0087】
特定の実施形態では、プライミング多能性細胞は、移植後胚盤葉上層に特異的な転写因子のmRNA及びタンパク質を発現し得る。例えば、プライミング細胞は、SFP、EOMES、BRACHYURY、OTX2、ZIC2、ZIC3、ZIC5、DNMT3B、KDR、CDH2、CER1、COL2A1、DAZL、TCF7L1、SOX11、SALL2のうちの1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15又は全てを発現し得る。プライミング多能性状態を示す他のマーカーを表5に示す。
【0088】
ナイーブ及びプライミング多能性状態を同定して以来、いずれの状態においても多能性細胞を維持するのに適した多数の異なる培養培地が開発されている。当業者は、そのような培地に精通しており、その例は、本明細書でさらに提供される。
【0089】
尚さらに、ナイーブ細胞は、それらの形態によって特徴付けられ得る。ナイーブ表現型は、典型的には、きつく詰まった丸いドーム状の外観によって特徴付けられる。細胞はまた、コンパクトな屈折性コロニーを形成すると記載され得る。本発明の好ましい実施形態によれば、第2の培養培地中で培養される細胞は、それらが第3の培養培地に移行した場合にナイーブ細胞に典型的な形態を発達させていない。
【0090】
本明細書で使用される場合、「ナイーブ多能性状態」又は「ナイーブ多能性表現型」は、丸いドーム形状の細胞を含む細胞表現型を指すと理解されるであろう。本明細書で使用される場合、ナイーブ多能性状態は、着床前胚により密接に類似する多能性状態を指す。
【0091】
本明細書で使用される場合、「プライミング多能性状態」又は「プライミング多能性表現型」は、典型的には、明確な境界を有する平坦な細胞コロニーの存在によって特徴付けられる細胞表現型を指す。本明細書で使用される場合、プライミング多能性状態は、着床後胚の胚盤葉上層により密接に類似する多能性状態を指す。
【0092】
「誘導多能性幹細胞」は、非多能性細胞から人工的に誘導された多能性幹細胞を指す。
【0093】
本明細書で使用される場合、「非多能性細胞」は、多能性細胞ではない哺乳動物細胞を指す。用語「非多能性細胞」、「体細胞」及び「分化細胞」は、互換的に使用され得る。このような細胞の例には、分化細胞及び前駆細胞が含まれる。分化細胞の例には、骨髄、皮膚、骨格筋、脂肪組織及び末梢血から選択される組織由来の細胞が含まれるが、これらに限定されない。例示的な細胞型には、線維芽細胞、肝細胞、筋芽細胞、ニューロン、骨芽細胞、破骨細胞、及びT細胞が含まれるが、これらに限定されない。
【0094】
本発明の方法に従って、任意の非多能性細胞(即ち、任意の分化細胞又は体細胞)が、iPSCを生成するための出発細胞として使用され得ることが理解されるであろう。さらに、本発明に従って得られるか又は得ることができるiPSCは、非多能性状態に分化され得る。
【0095】
体細胞は、成体細胞、又は成体若しくは非胚性細胞の1つ以上の検出可能な特徴を示す成体由来の細胞であってもよい。疾患細胞は、疾患又は状態の1つ以上の検出可能な特徴を示す細胞であってもよい。
【0096】
本明細書で使用される場合、「体細胞」は、最終的に分化された細胞を指す。本明細書で使用される場合、用語「体細胞」は、生殖系列細胞とは対照的に、生物の体を形成する任意の細胞を指す。哺乳動物では、生殖系列細胞(「配偶子」としても知られる)は精子と卵子であり、これらは受精時に融合して接合子と呼ばれる細胞を生成し、そこから哺乳動物胚全体が発生する。哺乳動物の体内の他のあらゆる細胞型(精子及び卵子、そこから精子及び卵子が作られる細胞(配偶子母細胞)、及び未分化幹細胞を除いて)は、体細胞である。体内の器官、皮膚、骨、血液、結合組織は全て体細胞でできている。いくつかの実施形態において、体細胞は「非胚性体細胞」であり、これは、胚中に存在しないか、又は胚から得られず、インビトロでのこのような細胞の増殖から生じない体細胞を意味する。いくつかの実施形態において、体細胞は「成体体細胞」であり、これは、胚又は胎児以外の生物中に存在するか、若しくはそれから得られる細胞、又はインビトロでのそのような細胞の増殖から生じる細胞を意味する。体細胞は例えば、テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)のレベルを増加させることによって、細胞の無制限の供給を提供するために不死化され得る。例えば、TERTのレベルは、内因性遺伝子からのTERTの転写を増加させることによって、又は任意の遺伝子送達方法若しくは系を介して導入遺伝子を導入することによって増加され得る。
【0097】
ヒト、個体を含む胎児、新生児、幼若又は成体霊長類由来の細胞を含む分化体細胞は、本発明の方法において適切な体細胞である。適切な体細胞は、骨髄細胞、上皮細胞、内皮細胞、線維芽細胞、造血細胞、ケラチノサイト、肝細胞、腸細胞、間葉細胞、骨髄前駆細胞及び脾臓細胞を含むがこれらに限定されない。或いは、体細胞は、それ自身が増殖し、血液幹細胞、筋肉/骨幹細胞、脳幹細胞及び肝臓幹細胞を含む他のタイプの細胞に分化し得る細胞であり得る。適切な体細胞は、受容性であるか、又は転写因子をコードする遺伝物質を含む転写因子を取り込むように、科学文献において一般に公知の方法を使用して受容性にされ得る。取り込み増強方法は、細胞型及び発現系に応じて変化し得る。適切な形質導入効率を有する受容性細胞を調製するために使用される例示的な条件は、当業者に周知である。出発体細胞は、約24時間の倍加時間を有することができる。
【0098】
好ましい態様において、体細胞は、線維芽細胞(好ましくは、皮膚線維芽細胞又は心臓)、ケラチノサイト(好ましくは、表皮ケラチノサイト)、単球又は内皮細胞である。
【0099】
本明細書で使用される用語「単離された細胞」は、それが元々見出される生物から取り出された細胞又はそのような細胞の子孫を指す。場合により、細胞はインビトロで、例えば、他の細胞の存在下で培養されている。場合により、細胞は、後に第2の生物に導入されるか、又はそれが単離された生物(又はそれが由来する細胞)に再導入される。
【0100】
本明細書で使用される単離された細胞集団に関連する用語「単離された集団」は、細胞の混合又は不均一集団から取り出され及び分離された細胞集団を指す。いくつかの実施形態では、単離された集団は、細胞が単離又は濃縮された異種集団と比較して、実質的に純粋な細胞集団である。
【0101】
当業者はまた、体細胞が、体細胞に典型的な形態学的特徴を失ったときに、多能性状態に向けたリプログラミングを開始した時を決定することができるであろう。再び、当業者は、線維芽細胞を含む体細胞の形態学的特徴に精通している。
【0102】
体細胞はまた、それが多能性細胞の少なくとも1つの特徴を示す場合、多能性状態にリプログラミングされたと決定され得る。多能性細胞(例えば、iPSC又はESC)の1つ以上の特徴は、任意の1つ以上のESCマーカーのアップレギュレーション及び/又は細胞形態の変化を含む。典型的には、iPSC/ESC様細胞に変換された細胞は、iPSC/ESCの1、2、3、4、5、6、7、8以上の特徴を示す。
【0103】
個体が、得られた多能性細胞、又はそれに由来する分化細胞で治療されるいくつかの実施形態では、個体自身の非多能性細胞が、本発明の方法に従って多能性細胞を生成するために使用される。
【0104】
細胞は、例えば、ヒト又は非ヒト哺乳動物由来であり得る。例示的な非ヒト哺乳動物には、マウス、ラット、ネコ、イヌ、ウサギ、モルモット、ハムスター、ヒツジ、ブタ、ウマ、及びウシが含まれるが、これらに限定されない。
【0105】
リプログラミング
当業者は、多能性状態に向かう体細胞のリプログラミングを促進するための標準的な技術に精通しているであろう。
【0106】
多能性状態に向かって体細胞をリプログラミングするための様々な方法が、当技術分野で公知である。体細胞のリプログラミングは、典型的にはリプログラミング因子(転写因子を含む)の発現を含み、続いて、分化マーカーの喪失、及び多能性マーカーの増加を促進するための、特定の条件での培養を含む。
【0107】
体細胞をリプログラミングするための適切な方法の例は、当技術分野において豊富であり、国際公開第2009/101407号パンフレット、国際公開第2014/200030号パンフレット、国際公開第2015/056804号パンフレット、国際公開第2014/200114号パンフレット、国際公開第2014/065435号パンフレット、国際公開第2013/176233号パンフレット、国際公開第2012/060473号パンフレット、国際公開第2012/036299号パンフレット、国際公開第2011/158967号パンフレット、国際公開第2011/055851号パンフレット、国際公開第2011/037270号パンフレット、国際公開第2011/090221号パンフレット(これらの内容は、参照により本明細書に組み込まれる)に例示されている。
【0108】
本発明の方法に従って体細胞(例えば、線維芽細胞)をリプログラミングするために使用され得る、特に好ましい転写因子及びその核酸配列は、以下の表1に示される。しかしながら、本発明は、体細胞をリプログラミングするために、表1に列挙される転写因子の使用に限定されないことが理解されるであろう。
【0109】
本明細書に言及される転写因子及び他のタンパク質因子は、HUGO遺伝子命名委員会(HGNC)記号によって言及される。表1は、本明細書に列挙される転写因子についての例示的なアンサンブル遺伝子ID及びUniprot IDを提供する。ヌクレオチド配列は、Ensemblデータベース(Flicek et al.(2014).Nucleic Acids Research Volume 42,Issue D1.Pp.D749-D755)バージョン83に由来する。本明細書に言及される転写因子の任意のバリアント、ホモログ、オルソログ又はパラログもまた、本発明での使用が意図される。
【0110】
当業者はまた、ナイーブ多能性状態(プライミングされた多能性状態と比較して)に向かって体細胞をリプログラミングする能力に精通することになる。本発明の方法は、ナイーブ又はプライミングされた多能性状態に向かうリプログラミングを促進するように処理される細胞に適用されることが理解されるであろう。本発明の好ましい実施形態において、この方法は、ナイーブ多能性状態に向かって体細胞をリプログラミングするために、体細胞における1つ以上の因子のタンパク質発現を増加させることを含む。
【0111】
当業者は、この情報が例えば、体細胞において増加した量の転写因子を提供する目的のために、又は体細胞において転写因子を組換え的に発現するための核酸(組換えポリヌクレオチドを含む)などを提供する目的のために、本発明の方法を実施する際に使用され得ることを理解するであろう。
【0112】
【0113】
本発明は、本明細書に記載される転写因子の改変体の使用を意図する。改変体は、全長ポリペプチドの断片又は天然に存在するスプライスバリアントであり得る。改変体は、ポリペプチドの断片と少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、98%、又は99%同一のポリペプチドであり得、ここで断片は、全長野生型ポリペプチド又はそのドメインが、体細胞型の標的細胞型への変換を促進する能力などの目的の機能的活性を有する限り、少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%、98%、又は99%である。いくつかの実施形態では、ドメインは、配列中の任意のアミノ酸位置から始まり、C末端に向かって延びる少なくとも100、200、300、又は400アミノ酸長である。タンパク質の活性を除去又は実質的に低下させることが当該技術分野で公知の変動は、好ましくは回避される。いくつかの実施形態では、改変体は、全長ポリペプチドのN及び/又はC末端部分を欠き、例えば、いずれかの末端から10、20、又は50アミノ酸まで欠く。いくつかの実施形態において、ポリペプチドは成熟(全長)ポリペプチドの配列を有し、これは、シグナルペプチドなどの1つ以上の部分が、正常な細胞内タンパク質分解プロセシングの間(例えば、同時翻訳プロセシング又は翻訳後プロセシングの間)に除去されたポリペプチドを意味する。タンパク質がそれを天然に発現する細胞からそれを精製すること以外で生成されるいくつかの実施形態では、タンパク質はキメラポリペプチドであり、これは、それが2つ以上の異なる種からの部分を含むことを意味する。タンパク質がそれを天然に発現する細胞からそれを精製すること以外で生成されるいくつかの実施形態では、タンパク質は誘導体であり、これは、タンパク質が、タンパク質の生物学的活性を実質的に低下させない限り、タンパク質に関連しないさらなる配列を含むことを意味する。当業者は、当技術分野で公知のアッセイを用いて、特定のポリペプチド改変体、断片、又は誘導体が機能的であるかどうかを認識し、又は容易に確認することができるであろう。例えば、転写因子の改変体が体細胞を標的細胞型に変換する能力は、本明細書の実施例に開示されるアッセイを用いて評価することができる。他の簡便なアッセイは、ルシフェラーゼなどの検出可能なマーカーをコードする核酸配列に作動可能に連結された転写因子結合部位を含むレポーター構築物の転写を活性化する能力を測定することを含む。本発明の特定の実施形態では、機能的改変体又は断片は、全長野生型ポリペプチドの活性の少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%以上を有する。
【0114】
転写因子の量を増加させることに関連した用語「量を増加させる」は、目的の細胞(例えば、線維芽細胞などの体細胞)中の転写因子の量を増加させることを指す。いくつかの実施形態では、転写因子の量が、対照(例えば、発現カセットのいずれも導入されていない線維芽細胞)と比較して、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、又はそれを超える場合、転写因子の量は、目的の細胞(例えば、1つ以上の転写因子をコードするポリヌクレオチドの発現を指示する前記発現カセットが導入されている細胞)において「増加」している。しかしながら、転写因子(又はそれをコードするmRNA前駆体又はmRNA)の転写、翻訳、安定性又は活性の量、速度又は効率を増加させる任意の方法を含む、転写因子の量を増加させる任意の方法が意図される。さらに、転写発現の負の調節因子のダウンレギュレーション又は干渉、既存の翻訳の効率の増加(例えば、SINEUP)も考慮される。
【0115】
本発明は、組換え遺伝学の分野における日常的な技術に依存する。本発明における一般的な使用方法を開示する基本的なテキストは、Sambrook et al.,Molecular Cloning,A Laboratory Manual(3rd ed. 2001);Kriegler,Gene Transfer and Expression:A Laboratory Manual(1990);及びCurrent Protocols in Molecular Biology(Ausubel et al.,eds.,1994)))を含む。
【0116】
2つ以上のタンパク質が細胞中で発現される場合、1つ以上の発現カセットが使用され得ることが理解されるであろう。例えば、1つの発現カセットが複数のポリペプチドを発現する場合、ポリシストロン性発現カセットを使用することができる。
【0117】
いくつかの実施形態では、リプログラミング転写因子タンパク質をコードする発現カセットは、ベクターの一部として細胞に導入され得る。例示的なベクターには、例えば、プラスミド、及びウイルスベクター(アデノウイルス、AAV、又はレンチウイルスなどのレトロウイルスを含むが、これらに限定されない)が含まれる。
【0118】
核酸及びベクター
本明細書に記載される核酸又は核酸を含むベクターは、上記の表1に言及される配列の1つ以上を含み得る。
【0119】
用語「発現」は、適用可能な場合、例えば転写、翻訳、フォールディング、改変及びプロセシングを含むがこれらに限定されないRNA及びタンパク質の生成、並びに必要に応じてタンパク質の分泌に関与する細胞プロセスを指す。
【0120】
本明細書で使用される用語「単離された」又は「部分的に精製された」は、核酸又はポリペプチドの場合、その天然の供給源において見出される核酸若しくはポリペプチドと共に存在する、及び/又は細胞によって発現され、若しくは分泌ポリペプチドの場合、分泌されるときに核酸若しくはポリペプチドと共に存在する、少なくとも1つの他の成分(例えば、核酸又はポリペプチド)から分離された核酸又はポリペプチドを指す。化学的に合成された核酸若しくはポリペプチド、又はインビトロ転写/翻訳を用いて合成された核酸若しくはポリペプチドは、「単離された」と見なされる。
【0121】
用語「ベクター」は、宿主又は体細胞への導入のためにDNA配列が挿入され得る担体DNA分子を指す。好ましいベクターは、それらが連結される核酸の自律的複製及び/又は発現が可能なベクターである。それらが作動可能に連結される遺伝子の発現を指示することができるベクターは、本明細書で「発現ベクター」と呼ばれる。従って、「発現ベクター」とは、宿主細胞における目的の遺伝子の発現に必要な、必要な調節領域を含む特殊化されたベクターである。いくつかの実施形態において、目的の遺伝子は、ベクター中の別の配列に作動可能に連結される。ベクターは、ウイルスベクター又は非ウイルスベクターであり得る。ウイルスベクターが使用される場合、ウイルスベクターは複製欠損であることが好ましく、これは、例えば、複製をコードする全てのウイルス核酸を除去することによって達成され得る。複製欠損ウイルスベクターは、依然としてその感染性を保持し、複製アデノウイルスベクターと同様の方法で細胞に侵入するが、一旦細胞に入ると、複製欠損ウイルスベクターは複製も増殖もしない。ベクターはまた、リポソーム及びナノ粒子、並びにDNA分子を細胞に送達するための他の手段を包含する。
【0122】
用語「作動可能に連結された」は、コード配列の発現に必要な調節配列が、コード配列の発現をもたらすように、コード配列に対して適切な位置でDNA分子中に配置されることを意味する。この同じ定義は、発現ベクター中のコード配列及び転写制御エレメント(例えば、プロモーター、エンハンサー、及び終結エレメント)の配置に適用されることがある。用語「作動可能に連結された」は、発現されるべきポリヌクレオチド配列の前に適切な開始シグナル(例えば、ATG)を有することと、発現制御配列の制御下でのポリヌクレオチド配列の発現、及びポリヌクレオチド配列によってコードされる所望のポリペプチドの生成を可能にするために正確なリーディングフレームを維持することを含む。
【0123】
用語「ウイルスベクター」は、細胞中への核酸構築物の担体としてのウイルス又はウイルス関連ベクターの使用を指す。構築物は、細胞への感染又は形質導入のために、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス(AAV)、若しくは単純ヘルペスウイルス(HSV)のような非複製性の欠陥ウイルスゲノム、又はレトロウイルス及びレンチウイルスベクターを含むその他に組み込まれ及びパッケージされ得る。ベクターは、細胞のゲノムに組み込まれていても、組み込まれていなくてもよい。構築物は、所望される場合、トランスフェクションのためのウイルス配列を含み得る。或いは、構築物は、エピソーム複製が可能なベクター、例えばEPVベクター及びEBVベクターに組み込まれ得る。
【0124】
本明細書で使用される場合、用語「アデノウイルス」は、アデノウイルス科(Adenovirida)のウイルスを指す。アデノウイルスは、ヌクレオカプシド及び二本鎖線状DNAゲノムから構成された中型(90~100nm)の無エンベロープ(裸)の正二十面体ウイルスである。
【0125】
本明細書で使用される場合、用語「非組み込みウイルスベクター」は、宿主ゲノムに組み込まれないウイルスベクターを指し、ウイルスベクターによって送達される遺伝子の発現が一時的である。宿主ゲノムへの組み込みはほとんどないか全くないので、非組み込みウイルスベクターは、ゲノム中のランダムな地点に挿入することによるDNA変異の生成がないという利点を有する。例えば、非組み込みウイルスベクターは染色体外に留まり、潜在的に内在性遺伝子の発現を破壊するその遺伝子を宿主ゲノムに挿入しない。非組み込みウイルスベクターは、以下を含み得るがこれらに限定されない:アデノウイルス、アルファウイルス、ピコルナウイルス、及びワクシニアウイルス。これらのウイルスベクターは、それらのいずれかが、いくつかのまれな状況において、ウイルス核酸を宿主細胞のゲノムに組み込む可能性があるにもかかわらず、本明細書で使用される用語として、「非組み込み」ウイルスベクターである。重要なことは、本明細書に記載される方法において使用されるウイルスベクターが、原則として、又は使用される条件下でのそれらのライフサイクルの主要部分として、それらの核酸を宿主細胞のゲノムに組み込まないことである。
【0126】
本明細書に記載されるベクターは、治療における使用のためのそれらの安全性を増加させるために、所望される場合に選択及び濃縮マーカーを含ませるために、並びにそこに含まれるヌクレオチド配列の発現を最適化するために、科学文献において一般に公知の方法を用いて構築及び操作され得る。ベクターは、ベクターが体細胞型において自己複製することを可能にする構成要素を含むべきである。例えば、公知のEpstein Barr oriP/Nuclear Antigen-1(EBNA-I)の組み合わせ(例えば、Lindner,S.E.and B.Sugden,The plasmid replicon of Epstein-Barr virus:mechanistic insights into efficient,licensed,extrachromosomal replication in human cells,Plasmid 58:1(2007)参照)は、ベクター自己複製を支持するのに十分であり、また哺乳動物、特に霊長類細胞において機能することが公知の他の組み合わせも使用することができる。本発明における使用に適した発現ベクターの構築のための標準的な技術は当業者に周知であり、Sambrook J,et al.,“Molecular cloning:a laboratory manual”,(3rd ed.Cold Spring harbor Press,Cold Spring Harbor,N.Y.2001)(その全体があたかも記載されているかのように、参照により本明細書に組み込まれる)などの刊行物に見出すことができる。
【0127】
本発明の方法において、変換に必要な関連する転写因子をコードする遺伝物質は、1つ以上のリプログラミングベクターを介して体細胞に送達される。各転写因子は、体細胞中のポリヌクレオチドの発現を駆動することができる異種プロモーターに作動可能に連結された転写因子をコードするポリヌクレオチド導入遺伝子として体細胞に導入することができる。
【0128】
適切なリプログラミングベクターは、感染性又は複製能力のあるウイルスを生じるのに十分なウイルスゲノムの全て又は一部をコードしないエピソームベクター(例えば、プラスミド)を含む、本明細書に記載される任意のものであるが、ベクターは1つ以上のウイルスから得られる構造エレメントを含み得る。リプログラミングベクターの1つ又は複数を、単一の体細胞に導入することができる。1つ以上の導入遺伝子が、単一のリプログラミングベクター上に提供され得る。1つの強力な構成的転写プロモーターは、発現カセットとして提供され得る複数の導入遺伝子の転写制御を提供し得る。ベクター上の別々の発現カセットは、別々の強力な構成的なプロモーターの転写制御下に置くことができ、これは、同じプロモーターのコピーであってもよく、別個のプロモーターであってもよい。様々な異種プロモーターが当技術分野で公知であり、転写因子の所望の発現レベルなどの因子に応じて使用され得る。以下に例示されるように、細胞において異なる強度を有する異なるプロモーターを使用して、別々の発現カセットの転写を制御することが有利であり得る。転写プロモーターを選択する際に考慮すべき別の点は、プロモーターがサイレンシングされる速度である。当業者は、遺伝子の産物がリプログラミング方法におけるその役割を完了したか、又は実質的に完了した後に、1つ以上の導入遺伝子又は導入遺伝子発現カセットの発現を減少させることが有利であり得ることを理解するであろう。例示的なプロモーターは、ヒトEF1α伸長因子プロモーター、CMVサイトメガロウイルス前初期プロモーター及びCAGニワトリアルブミンプロモーター、並びに他の種由来の対応する相同プロモーターである。ヒト体細胞では、EF1αとCMVは共に強力なプロモーターであるが、前者の制御下にある導入遺伝子の発現が後者の制御下にある導入遺伝子の発現よりも早くオフになるように、CMVプロモーターはEF1αプロモーターよりも効率的にサイレンシングされる。転写因子は、体細胞において、リプログラミング効率を調節するために変化させることができる相対比で発現させることができる。好ましくは、複数の導入遺伝子が単一の転写物上にコードされる場合、内部リボソーム侵入部位は転写プロモーターから遠位の導入遺伝子の上流に提供される。因子の相対比は、送達される因子に応じて変化し得るが、本開示を所有する当業者は因子の最適比を決定することができる。
【0129】
当業者は、複数のベクターを介するのではなく単一のベクターを介して全ての因子を導入する有利な効率を理解するが、総ベクターサイズが増加するにつれて、ベクターを導入することがますます困難になることを理解するであろう。当業者はまた、ベクター上の転写因子の位置が、その時間的発現、及び得られるリプログラミング効率に影響し得ることを理解するであろう。従って、発明者らは、ベクターの組み合わせに対する因子の様々な組み合わせを使用した。本明細書では、リプログラミングを支持するために、いくつかのそのような組み合わせが示されている。
【0130】
リプログラミングベクターの導入後、及び体細胞がリプログラミングされている間、ベクターは、導入された転写遺伝子が転写及び翻訳される間、標的細胞中に存続することができる。導入遺伝子発現は、標的細胞型にリプログラミングされた細胞において、有利にダウンレギュレートされ得るか、又はオフにされ得る。リプログラミングベクターは、染色体外のまま残ることができる。極めて低い効率で、ベクターは細胞のゲノムに組み込まれることができる。以下の例は本発明を説明することを意図しているが、決して本発明を限定するものではない。
【0131】
本発明での使用のための細胞、組織又は生物の形質転換のための核酸送達に適した方法は、本明細書に記載されるように又は当業者に公知であるように、核酸(例えばDNA)を細胞、組織又は生物に導入することができる実質的に任意の方法を含むと考えられる(例えば、Stadtfeld and Hochedlinger,Nature Methods 6(5):329-330(2009);Yusa et al.,Nat.Methods 6:363-369(2009);Woltjen,et al.,Nature 458,766-770(9 Apr.2009))。そのような方法には、例えば、場合によりFugene6(Roche)又はLipofectamine(Invitrogen)などの脂質ベースのトランスフェクション試薬を用いたエクスビボトランスフェクション(Wilson et al.,Science,244:1344-1346,1989,Nabel and Baltimore,Nature 326:711-713,1987)による、マイクロインジェクション(Harland and Weintraub,J.Cell Biol.,101:1094-1099,1985;米国特許第5,789,215号明細書(参照により本明細書に組み込まれる)を含むインジェクションによる(米国特許第5,994,624号明細書、同第5,981,274号明細書、同第5,945,100号明細書、同第5,780,448号明細書、同第5,736,524号明細書、同第5,702,932号明細書、同第5,656,610号明細書、同第5,589,466号明細書及び同第5,580,859号明細書(それぞれ、参照により本明細書に組み込まれる);エレクトロポレーションによる(米国特許第5,384,253号明細書(参照により本明細書に組み込まれる);Tur-Kaspa et al.,Mol.Cell Biol.,6:716-718,1986;Potter et al.,Proc.Nat’l Acad.Sci.USA,81:7161-7165,1984);リン酸カルシウム沈殿(Graham and Van Der Eb,Virology,52:456-467,1973;Chen and Okayama,Mol.Cell Biol.,7(8):2745-2752,1987;Rippe et al.,Mol.Cell Biol.,10:689-695,1990)による;DEAE-デキストラン、続いてポリエチレングリコールを使用することによる(Gopal,Mol.Cell Biol.,5:1188-1190,19855);直接音波負荷による(Fechheimer et al.,Proc.Nat’l Acad.Sci.USA,84:8463-8467,1987);リポソーム媒介トランスフェクション(Nicolau and Sene,Biochim.Biophys.Acta,721:185-190,1982;Fraley et al.,Proc.Nat’l Acad.Sci.USA,76:3348-3352,1979;Nicolau et al.,Methods Enzymol.,149:157-176,1987;Wong et al.,Gene,10:87-94,1980;Kaneda et al.,Science,243:375-378,1989;Kato et al.,J Biol.Chem.,266:3361-3364,1991)及び受容体媒介トランスフェクション(Wu and Wu,Biochemistry,27:887-892,1988;Wu and Wu,J.Biol.Chem.,262:4429-4432,1987)によるDNAの直接送達;並びにこれらの方法の任意の組み合わせ(それぞれ、参照により本明細書に組み込まれる)が含まれるが、これらに限定されない。
【0132】
関連分子の細胞への導入を媒介することができる多数のポリペプチドが以前に記載されており、本発明に適合させることができる。例えば、Langel(2002) Cell Penetrating Peptides:Processes and Applications,CRC Press,Pharmacology and Toxicology Seriesを参照されたい。膜を横切る輸送を増強するポリペプチド配列の例としては、ショウジョウバエ(Drosophila)ホメオタンパク質アンテナペディア転写タンパク質(AntHD)(Joliot et al.,New Biol.3:1121-34,1991;Joliot et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,88:1864-8,1991;Le Roux et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:9120-4,1993)、単純ヘルペスウイルス構造タンパク質VP22(Elliott and O’Hare,Cell 88:223-33,1997);HIV-1転写アクチベーターTATタンパク質(Green and Loewenstein,Cell 55:1179-1188,1988;Frankel and Pabo,Cell 55:1 289-1193,1988);カポジFGFシグナル配列(kFGF);タンパク質形質導入ドメイン-4(PTD4);Penetratin、M918、Transportan-10;核局在化配列、PEP-Iペプチド;両親媒性ペプチド(例えば、MPGペプチド);米国特許第6,730,293号明細書に記載されるような送達増強トランスポーター(30、40、又は50アミノ酸の連続セット中に少なくとも5~25以上の連続アルギニン又は5~25以上のアルギニンを含むペプチド配列を含むが、これらに限定されない;十分な、例えば少なくとも5、グアニジノ又はアミジノ部分を有するペプチドを含むが、これに限定されない);及び商業的に入手可能なPenetratin(商標)1ペプチド;並びにフランス、パリのDaitos S.A.から入手可能なVectocell(登録商標)プラットフォームのDiatosペプチドベクター(「DPV」)が挙げられるが、これらに限定されない。国際公開第2005/084158号パンフレット及び国際公開第2007/123667号パンフレット並びにそこに記載されるさらなる輸送体も参照されたい。これらのタンパク質は原形質膜を通過することができるだけでなく、本明細書に記載される転写因子などの他のタンパク質の付着が、これらの複合体の細胞取り込みを刺激するのに十分である。
【0133】
薬剤
本明細書で使用される用語「薬剤」は、限定されるものではないが、小分子、核酸、ポリペプチド、ペプチド、薬物、イオンなどの任意の化合物又は物質を意味する。「薬剤」は、合成及び天然に存在するタンパク質性及び非タンパク質性の実体を含むが、これらに限定されない、任意の化学物質、実体又は部分であり得る。いくつかの実施形態では、薬剤は、核酸、核酸類似体、タンパク質、抗体、ペプチド、アプタマー、核酸のオリゴマー、アミノ酸、又は炭水化物であり、これらは限定されないが、タンパク質、オリゴヌクレオチド、リボザイム、DNAzyme、糖タンパク質、siRNA、リポタンパク質、アプタマー、並びにこれらの修飾及び組み合わせなどを含む。特定の実施形態では、薬剤は、化学部分を有する小分子である。例えば、化学部分は、非置換又は置換アルキル、芳香族、又は複素環部分(マクロライド、レプトマイシン、及び関連する天然産物又はその類似体を含む)を含んだ。化合物は、所望の活性及び/又は特性を有することが公知であり得るか、又は多様な化合物のライブラリーから選択され得る。
【0134】
用語「外因性」は、細胞又は生物におけるタンパク質、遺伝子、核酸、又はポリヌクレオチドに関して使用される場合、人工的若しくは天然の手段によって細胞若しくは生物に導入されたタンパク質、遺伝子、核酸、若しくはポリヌクレオチドを指し;又は細胞に関して使用される場合、単離され、その後、人工的若しくは天然の手段によって他の細胞若しくは生物に導入された細胞を指す。外因性核酸は、異なる生物若しくは細胞に由来し得るか、又は生物若しくは細胞内で天然に存在する核酸の1つ以上のさらなるコピーであり得る。外因性細胞は、異なる生物に由来し得るか、又は同じ生物に由来し得る。非限定的な例として、外因性核酸は、天然細胞の染色体位置とは異なる染色体位置にある核酸、又は天然に見出される核酸配列とは異なる核酸配列に隣接する核酸である。外因性核酸はまた、エピソームベクターのような染色体外であってもよい。
【0135】
体細胞型を多能性状態にリプログラミングするために必要な1つ以上の転写因子の量を増加させる能力について1つ以上の候補薬剤をスクリーニングすることは、転写因子の生成物又は発現を可能にする系を候補薬剤と接触させる工程、及び転写因子の量が増加したかどうかを決定する工程を含み得る。系は、インビボ、例えば生物中の組織若しくは細胞、又はインビトロ、生物から単離された細胞、又はインビトロ転写アッセイ、又は細胞若しくは組織中のエクスビボであり得る。転写因子の量は、直接的又は間接的に、タンパク質又はRNA(例えば、mRNA又はmRNA前駆体)の量を測定することによって測定され得る。候補薬剤は、転写因子をコードする遺伝子の転写における任意の段階を増加させることにより、又は対応するmRNAの翻訳を増加させることにより、転写因子の量を増加させるように機能する。或いは、候補薬剤は、転写因子をコードする遺伝子の転写のリプレッサーの阻害活性、又は転写因子をコードするmRNA若しくは転写因子自体のタンパク質の分解を引き起こす分子の活性を低下させてもよい。
【0136】
適切な検出手段としては、放射性ヌクレオチド、酵素、補酵素、蛍光剤、化学発光剤、色素原、酵素基質又は補因子、酵素阻害剤、補欠分子族複合体、フリーラジカル、粒子、染料などの標識の使用が挙げられる。このような標識試薬は、多様な周知のアッセイ(例えば、ラジオイムノアッセイ、酵素イムノアッセイ(例えば、ELISA)、蛍光イムノアッセイなど)において使用され得る。例えば、米国特許第3,766,162号明細書;同第3,791,932号明細書;同第3,817,837号明細書;及び同第4,233,402号明細書を参照されたい。
【0137】
本発明の方法は、ハイスループットスクリーニング適用を含む。例えば、転写因子の生成物又は発現を可能にする系のアリコートが、マルチウェルプレートの異なるウェル内の複数の候補薬剤に曝露される、本発明によるアッセイのいずれかを含むハイスループットスクリーニングアッセイが使用され得る。さらに、本開示によるハイスループットスクリーニングアッセイは、任意の種類の小型化アッセイシステムにおいて複数の候補薬剤に曝露される転写因子の生成物又は発現を可能にする系のアリコートを含む。
【0138】
本開示の方法は、プレート当たり24、48、96又は384ウェルなどのマルチウェルプレート、マイクロチップ又はスライドを含むがこれらに限定されない、任意の許容可能な小型化方法によって、アッセイシステムにおいて「小型化」され得る。アッセイは、マイクロチップ支持体上で実施されるようにサイズを縮小することができ、有利には、より少量の試薬及び他の材料を含む。ハイスループットスクリーニングにつながるプロセスの任意の小型化は、本発明の範囲内である。
【0139】
本発明の任意の方法において、iPSC、又はそれに由来する分化細胞を、体細胞が得られたのと同じ哺乳動物に移すことができる。換言すれば、本発明の方法において使用される体細胞は自己細胞であり得、即ち、それに由来するiPSC又は分化細胞が投与される同じ個体から得られ得る。或いは、iPSC細胞は、別の個体に同種異系的に移され得る。好ましくは、細胞は、個体における医学的状態を治療又は予防する方法において、対象に対して自己である。
【0140】
細胞の培養
多能性に誘導される細胞は、当技術分野で公知の任意の方法に従って培養され得る。一般的なガイドラインは、例えば、Maherali,et al.,Cell Stem Cell 3:595-605(2008)に見出すことができる。
【0141】
いくつかの実施形態では、細胞は、フィーダー細胞と接触させて培養される。例示的なフィーダー細胞としては、線維芽細胞(例えば、マウス胚性線維芽細胞(MEF)細胞)が挙げられるが、これに限定されない。フィーダー細胞上で細胞を培養する方法は、当技術分野で公知である。
【0142】
いくつかの実施形態において、細胞は、フィーダー細胞の非存在下で培養される。細胞は、例えば、例えば分子テザーを介して、固体培養表面(例えば、培養プレート)に直接付着され得る。本発明者らは、多能性に誘導された培養細胞が、フィーダー細胞上で培養される他の点では同一に処理された細胞の効率と比較して、細胞が固体培養表面に直接付着される場合、多能性への誘導効率がはるかに高い(即ち、細胞のより多くの部分が多能性を達成する)ことを見出した。例示的な分子テザーとしては、Matrigel、細胞外マトリックス(ECM)、ECM類似体、ラミニン、フィブロネクチン、又はコラーゲンが挙げられるが、これらに限定されない。しかしながら、当業者は、これが非限定的なリストであり、他の分子を用いて細胞を固体表面に付着させることができることを認識するであろう。固体表面へのテザーの最初の付着のための方法は、当技術分野で公知である。
【0143】
当業者は:
・ 多能性状態に向かう細胞のリプログラミングを促進する、
・ ナイーブ多能性状態を促進する、及び
・ プライミング多能性状態を促進する
ための培養培地組成及び培養条件に精通しているであろう。
【0144】
一実施形態において、ナイーブ多能性状態などの低メチル化DNA状態を促進するための培地は、MEK阻害剤、PKC阻害剤、GSK3阻害剤、STAT3アクチベーター及びROCK阻害剤を含む。
【0145】
MEK阻害剤への言及は、一般にMEK阻害剤を指す。MEK阻害剤は、MEK1、MEK2、及びMEK5を含む、タンパク質キナーゼのMEKファミリーの任意のメンバーを阻害することができる。適切なMEK阻害剤の例は、当技術分野で公知であり、PD184352及びPD98059、MEK1及びMEK2の阻害剤U0126及びSL327を含む。特に、PD184352及びPD0325901は、他の公知のMEK阻害剤と比較して、高度の特異性及び効力を有することが見出されている。
【0146】
プロテインキナーゼC(PKC)阻害剤の例には、Goe6983(3-[1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-5-メトキシ-1H-インドール-3-イル]-4-(1H-インドール-3-イル)-1H-ピロール-2,5-ジオンが含まれる(Gschwendt et al.,1996 FEBS Lett 392:77-80)。別の好ましいPKC阻害剤は、Ro-31-8425である。好ましくは、PKC阻害剤は、0.01~10μM、0.1~5μM、好ましくは、1~4μMの濃度で培地中に存在する。
【0147】
GSK3阻害への言及は、1つ以上のGSK3酵素の阻害を指す。GSK3酵素のファミリーは周知であり、多数の改変体が記載されている。特定の実施形態では、GSK3βが阻害される。GSK3-α阻害剤も使用することができる。広範囲のGSK3阻害剤、例として阻害剤CHIR 98014、CHIR 99021、AR-AO144-18、TZD-8、SB21676763及びSB415286が知られている。
【0148】
阻害剤は、従来の手段によって、又は従来の供給源から、当業者によって提供され得るか又は得ることができる。阻害剤は、小分子阻害剤又は干渉RNA(RNAi)であり得る。当業者はまた、キナーゼ阻害剤を同定するための様々な方法及びアッセイに精通している。
【0149】
STAT3アクチベーターの例には、LIF、好ましくはhLIFが含まれる。
【0150】
MEK阻害剤、GSK3阻害剤及びLIFの組み合わせは、2iLと呼ぶことができる。
【0151】
本明細書で使用される場合、ROCK阻害剤は、Rho結合キナーゼの阻害剤を指す。このような阻害剤の例には、((1R,4r)-4-(((R)-1-アミノエチル)-N-(ピリジン-4-イル)シクロヘキサンカルボキサミド、Abcam)(trans-N-(4-(1-アミノエチル)-シクロヘキサンカルボキサミドとしても知られる)、1-(5-イソキノルニル)(スルホニル)ホモピペラジン(1-(5-イソキノリニルスルホニル)ホモピペラジン)が含まれる。典型的には、ROCK阻害剤の量は、約0.1~50μM、好ましくは、約1~10μMである。
【0152】
発現又は活性の「阻害剤」、「アクチベーター」、及び「モジュレーター」は、記載された標的タンパク質(例えば、リガンド、アゴニスト、アンタゴニスト、並びにそれらの相同体及び模倣物)の発現又は活性についてのインビトロ及びインビボアッセイを用いて同定される、それぞれ、阻害、活性化、又は調節分子を指すために使用される。用語「モジュレーター」は、阻害剤及びアクチベーターを含む。阻害剤は、例えば、記載される標的タンパク質(例えば、アンタゴニスト)の発現若しくは該タンパク質への結合を阻害するか、又は刺激若しくはプロテアーゼ阻害剤活性を部分的に若しくは全体的にブロックするか、活性化を減少させるか、予防するか、遅延させるか、該タンパク質の活性を不活性化させるか、脱感作するか、又はダウンレギュレートする薬剤である。アクチベーターは、例えば、記載される標的タンパク質の発現を誘導若しくは活性化するか、又は活性化若しくはプロテアーゼ阻害剤活性を刺激するか、増加させるか、開放するか、活性化するか、促進するか、増強するか、記載される標的タンパク質(又はコードするポリヌクレオチド)、例えばアゴニストの活性を感作するか、若しくはアップレギュレートする薬剤である。モジュレーターは、天然に存在するリガンド及び合成リガンド、アンタゴニスト及びアゴニスト(例えば、アゴニスト又はアンタゴニストのいずれかとして機能する小化学分子、抗体など)を含む。阻害剤及びアクチベーターについてのそのようなアッセイは、例えば、推定モジュレーター化合物を、記載された標的タンパク質を発現する細胞に適用し、次いで、上述したように、記載された標的タンパク質活性に対する機能的効果を決定することを含む。潜在的なアクチベーター、阻害剤、又はモジュレーターで処理された、記載された標的タンパク質を含むサンプル又はアッセイを、阻害剤、アクチベーター、又はモジュレーターなしの対照サンプルと比較して、効果の程度を調べる。対照サンプル(モジュレーターで処理されていない)には、100%の相対活性値を割り当てる。記載された標的タンパク質の阻害は、対照に対する活性値が約80%、場合により50%又は25、10%、5%又は1%である場合に達成される。記載された標的タンパク質の活性化は、対照に対する活性値が110%、場合により150%、場合により200、300%、400%、500%、又は1000~3000%以上である場合に達成される。
【0153】
本明細書で使用される場合、「阻害する」、「予防する」若しくは「減少させる」、又は「阻害すること」、「予防すること」若しくは「減少させること」は、本明細書で互換的に使用される。これらの用語は、未処理の細胞(組織又は対象)と比較した、処理された細胞(組織又は対象)における測定されたパラメーター(例えば、活性、発現、ミトコンドリア呼吸、ミトコンドリア酸化、酸化的リン酸化)の減少を指す。また、同じ細胞又は組織又は対象について、処理の前後で比較を行うこともできる。この減少は、検出可能であるのに十分である。いくつかの実施形態では、処理細胞における減少は、未処理細胞と比較して、少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、又は完全に阻害される。いくつかの実施形態では、測定されたパラメーターは、未処理細胞と比較して、処理細胞において検出不能(即ち、完全に阻害されている)である。
【0154】
適切な培養培地の例を以下の表2に要約する。
【0155】
【0156】
【0157】
本明細書で使用される場合、hPGCLC誘導培地は、ヒト原始生殖細胞様細胞誘導培地を指す。この培地は、細胞における全体的な低メチル化の状態を促進するために使用され得ることが理解されるであろう。
【0158】
RSeT(商標)培地は、フィーダー依存性及び低酸素条件下でナイーブ様hPSCを維持するために使用される規定された細胞培養培地である。RSeT(商標)培地は、予めスクリーニングされた品質の成分を含み、bFGF又はTGFβを含まない。これは、ヒト胚性幹(ES)細胞及びヒト誘導多能性幹(iPS)細胞と適合する。
【0159】
RSeT(商標)培地中で培養されたhPSCは、屈折縁部を有するきつく詰まったドーム状コロニーのようなナイーブ様状態の特徴を示す。KLF2、KLF4、及びTFCP2L1などのナイーブ様hPSCに関連する重要な転写物は、RSeT(商標)培地中で培養されたhPSCにおいて発現の増加を示す。RSeT(商標)hPSCは、mTeSR(商標)1中での培養によってプライミング状態に戻すことができ、次いで標準的な技術を用いて分化させることができる。
【0160】
例示的なt2iLGoY培地:
・ 2mM L-グルタミン(Gibco)を補充したDMEM/F-12(Gibco)と神経基礎培地(Gibco)の50:50混合物
・ 0.1mM 2-メルカプトエタノール(Gibco)、
・ 0.5% N2サプリメント(Gibco)、
・ 1% B27サプリメント(Gibco)、
・ 1% Pen-strep(Gibco)、
・ 10ng/mlヒトLIF(自家製)、
・ 250μM L-アスコルビン酸(Sigma)、
・ 10μg/ml組換えヒトインスリン(Sigma)、
・ 1μM PD0325901(Miltenyi Biotec)、
・ 1μM CHIR99021(Miltenyi Biotec)、
・ 2.5μM Goe6983(Tocris)、
・ 10μM Y-27632(abcam)。
【0161】
分化
本発明はまた、本発明に従って作製されたiPSCから分化細胞を生成する方法を含む。
【0162】
分化細胞は、創薬及び医薬品開発、並びに催奇性及び毒性学試験において適用可能なヒト発達及び疾患の細胞培養モデル;臨床細胞療法における適用のための組織幹細胞及びより成熟した細胞の供給源を作製するために;診断、予後及び患者治療の進歩を容易にするための発育障害、遺伝病及び量的形質に対する遺伝学及びエピジェネティクスの相対的寄与の分析;インビトロでの生体工学による、又はヒト-動物キメラに対する系統/器官特異的寄与による移植のための組織及び器官の生成のために使用され得る。
【0163】
本発明に従って作製されたiPSCは、ニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、ケラチノサイト、上皮細胞、心筋細胞、線維芽細胞、B細胞、T細胞、マクロファージ、造血幹細胞、網膜上皮細胞、平滑筋細胞、骨格細胞、足細胞、腎細胞、肝細胞、膵β島、肺胞細胞、脂肪細胞、軟骨細胞及び骨細胞を含むがこれらに限定されない任意の体細胞に分化させることができる。
【0164】
尚さらに、本発明に従って作製されたiPSCは、原始生殖細胞(PGC)及び配偶子に分化させることができる。
【0165】
当業者は、本発明に従って生成されたiPSCを分化させるための標準的な方法に精通しているであろう。iPSCの分化についての指示を提供する、当業者が利用可能な多数の文献が存在する。iPSCを体細胞型に分化させるための分化培地を含むキットもまた、Sigma Aldrich及びThermoFisher Scientificなどから市販されている。
【0166】
体細胞型への分化の成功は、体細胞に特徴的な1つ以上のマーカーの存在を決定することによって決定され得る。さらに、分化の成功は、多能性状態から、標的細胞型に特徴的な分化した形態への形態の変化を観察することによって決定され得る。
【0167】
本方法に従って得られるか又は得ることができる分化細胞又は分化細胞の集団は、従来の方法に従って生成されたiPSCの分化によって(即ち、本明細書に記載される第2の培養培地又は第2の培養条件への一過性曝露なしに)得られた分化細胞又は分化細胞の集団と比較して、体細胞(即ち、工程a)に供される体細胞)のより少ない特徴を有する細胞によって特徴付けられ得る。さらに、分化細胞の集団は、体細胞の特徴を有する細胞がより少ない可能性がある。
【0168】
より詳細には、本明細書の実施例においてさらに実証されるように、先行技術の方法に従って得られたプライミングiPSCから分化した細胞の集団は、典型的には、供給源細胞の特徴を保持する細胞のサブセットを含む。換言すれば、線維芽細胞からリプログラミングする場合、プライミング培地でリプログラミングする場合に線維芽細胞から生成された任意の分化細胞は、典型的には、形態及び遺伝子発現特性の両方において、線維芽細胞に類似するいくつかの細胞を含む。本発明に従って生成されるiPSCは、リプログラミングにおいて使用される元の供給源細胞の特徴を有する分化細胞の可能性を減少させるエピジェネティックプロファイルを有する。
【0169】
医薬組成物及び他の用途
本発明は、特定の実施形態によれば、本発明に従って生成されたiPSCを使用して生成された任意の細胞、組織及び/又は器官/オルガノイドの使用を意図する。
【0170】
本発明の単離された細胞は、疾患モデリング、薬物スクリーニング及び患者特異的な細胞ベースの治療のためにさらに使用され得る。
【0171】
従って、本発明の特定の態様によれば、本発明の方法に従って生成される単離されたiPSC、又は本発明の方法に従って得られるか若しくは得ることができるiPSCから得られた単離された分化細胞が提供される。
【0172】
細胞の導入は、治療を必要とする対象への直接注射を介して、インビトロ又はエクスビボで行うことができる。
【0173】
本明細書で使用される場合、表現「それを必要とする対象」は、病理と診断された哺乳動物対象(例えば、ヒト)を指す。特定の実施形態では、この用語は、病理を発症する危険性がある個体を包含する。獣医学的使用も意図される。対象は、任意の性別、又は新生児、乳児、若年、青年、成人及び高齢成人を含む任意の年齢であり得る。
【0174】
本発明に従って得られるか若しくは得ることができるiPSC、又はそれから得られる分化細胞は、それ自体、又はそれらが適切な担体若しくは賦形剤と混合される医薬組成物中で、対象に移植され得る。同様に、本発明の構築物は、それ自体で、又は医薬組成物中で対象に投与されてもよい。
【0175】
本明細書で使用される場合、「医薬組成物」は、本明細書に記載される活性成分の1つ以上と、生理学的に適切な担体及び賦形剤などの他の化学成分との調製物を指す。医薬組成物の目的は、生物への化合物の投与を容易にすることである。
【0176】
本明細書において、用語「活性成分」は、生物学的効果に関与する本発明の細胞を指す。
【0177】
以下では、互換的に使用され得る表現「生理学的に許容される担体」及び「薬学的に許容される担体」は、生物に有意な刺激を引き起こさず、投与された化合物の生物学的活性及び特性を無効にしない担体又は希釈剤を指す。
【0178】
本明細書において、用語「賦形剤」は、活性成分の投与をさらに容易にするために、医薬組成物に添加される不活性物質を指す。賦形剤の非限定的な例としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、様々な糖及びデンプンのタイプ、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油並びにポリエチレングリコールが挙げられる。
【0179】
本発明の医薬組成物は、当技術分野で周知のプロセスによって、例えば、従来の混合、溶解、造粒、糖衣錠製造、粉砕(levigating)、乳化、カプセル化、封入又は凍結乾燥プロセスによって製造することができる。
【0180】
従って、本発明に従って使用するための医薬組成物は、医薬的に使用され得る調製物への活性成分の加工を容易にする賦形剤及び補助剤を含む1つ以上の生理学的に許容される担体を使用する従来の様式で処方され得る。適切な製剤は、選択される投与経路に依存する。
【0181】
注射のために、医薬組成物の活性成分は、水溶液中、好ましくはハンクス溶液、リンゲル溶液、又は生理学的塩緩衝液などの生理学的に適合性の緩衝液中で処方され得る。
【0182】
典型的には、医薬組成物は、全身的な様式ではなく局所的な様式で、例えば、医薬組成物を患者の組織領域に直接注射することによって投与される。
【0183】
本明細書に記載される医薬組成物は、例えば、ボーラス注射又は連続注入による非経口投与のために処方され得る。注射用製剤は、単位剤形で、例えば、場合により保存剤を添加して、アンプルで又は多用量容器で提供され得る。組成物は、油性又は水性ビヒクル中の懸濁液、溶液又はエマルジョンであってもよく、懸濁化剤、安定化剤及び/又は分散剤などの処方剤を含んでもよい。
【0184】
非経口投与のための医薬組成物は、水溶性形態の活性調製物の水溶液を含む。さらに、活性成分の懸濁液を、適切な油性又は水性注射懸濁液として調製することができる。適切な親油性溶媒又はビヒクルには、ゴマ油などの脂肪油、又はオレイン酸エチル、トリグリセリド又はリポソームなどの合成脂肪酸エステルが含まれる。水性注射懸濁液は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール又はデキストランなどの、懸濁液の粘度を増加させる物質を含むことができる。場合により、懸濁液はまた、高濃度溶液の調製を可能にするために、活性成分の溶解度を増加させる適切な安定剤又は薬剤を含むことができる。
【0185】
本発明の文脈での使用に適した医薬組成物は、活性成分が意図された目的を達成するのに有効な量で含まれる組成物を含む。治療有効量の決定は、特に本明細書に提供される詳細な開示に照らして、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0186】
本発明の組成物は、所望であれば、活性成分を含む1つ以上の単位剤形を含み得る、パック又はディスペンサーデバイス(例えば、FDA承認キット)中に提供され得る。パックは、例えば、ブリスターパックなどの金属又はプラスチック箔を含むことができる。パック又はディスペンサーのアドバイスは、注射器であってもよい。注射器は、細胞で予め充填されてもよい。パック又はディスペンサーデバイスは、投与のための説明書を伴ってもよい。パック又はディスペンサーはまた、医薬品の製造、使用又は販売を規制する政府機関によって規定された形態で容器に関連付けられた通知によって収容されてもよく、この通知は、組成物又はヒト若しくは獣医学的投与の形態の機関による承認を反映する。そのような通知は、例えば、米国食品医薬品局によって処方薬又は承認された製品挿入物について承認されたラベルのものであってもよい。適合性医薬担体中に処方された本発明の調製物を含む組成物はまた、上記でさらに詳述されるかのように、調製され、適切な容器中に配置され、示された状態の治療についてラベルされ得る。
【0187】
本発明は、以下の非限定的な実施例を含む。
【実施例】
【0188】
実施例1:体細胞のiPSCへのリプログラミング(「一過性ナイーブ処理」プロトコル)
核リプログラミング実験のために、LSGS(Gibco)を補充した培地106(Life Technologies)中で、初代成人ヒト皮膚線維芽細胞(HDFa、Life Technologies)を増殖させた。
【0189】
初期継代段階(<P6)の線維芽細胞を、ウェル当たり50,000~70,000細胞で6ウェルプレートに播種した後、DMEM(Gibco)、10% FBS(Hyclone)、1%非必須アミノ酸(Gibco)、1mM GlutaMAX(Gibco)、1% Pen-strep(Gibco)、0.1mM 2-メルカプトエタノール(Gibco)及び1mMピルビン酸ナトリウム(Gibco)を含有する線維芽細胞培地中で形質導入した。
【0190】
48時間後、1つのウェル中の細胞を計数のためにトリプシン処理して、形質導入に必要なウイルスの体積(MOI)を決定した。形質導入は、4つの転写因子、OCT4、SOX2、cMYC、KLF4からなるCytoTune 2.0 iPSCセンダイリプログラミングキット(Invitrogen)を使用して行った。
【0191】
24時間後、ウイルスを除去し、培地交換を1日おきに行った。形質導入の7日後、TrypLE express(Life tech)を使用して細胞を回収し、線維芽細胞培地中の照射MEFフィーダーの層上に再播種し、次いで翌日、培地をナイーブ培地(2iLGoY、Guo et al.、表2を参照されたい)に交換した。
【0192】
5日後、ドーム形状のコロニーが明らかになったとき、中間細胞を、Accutase(Stem Cell Technologies)を使用して回収し、ナイーブ条件においてビトロネクチン(Life tech)被覆プレート上に再播種した。翌日、培地をプライミング培地(Essential 8(Life tech))に交換した。或いは、細胞を分割することなく、ナイーブからプライミングへの培地交換を行うことができる。培養物がコンフルエントになったとき、細胞を、0.5mM EDTA/PBS溶液(Invitrogen)を使用して回収し、ビトロネクチン/E8フィーダーを含まないヒト多能性幹細胞培養系を維持した。細胞を37℃、5% O2、及び5% CO2インキュベーター内で培養し、培地を毎日変更した。細胞を4~5日毎に継代した。
【0193】
実施例2:樹立されたiPSCにおけるエピゲノムの補正(「ナイーブ・トゥ・プライミングプロトコル」)
核リプログラミング実験のために、LSGS(Gibco)を補充した培地106(Life Technologies)中で、初代成人ヒト皮膚線維芽細胞(HDFa、Life Technologies)を増殖させた。
【0194】
初期継代段階(<P6)の線維芽細胞をウェル当たり50,000~70,000細胞で6ウェルプレートに播種した後、DMEM(Gibco)、10% FBS(Hyclone)、1%非必須アミノ酸(Gibco)、1mM GlutaMAX(Gibco)、1% Pen-strep(Gibco)、0.1mM 2-メルカプトエタノール(Gibco)及び1mMピルビン酸ナトリウム(Gibco)を含有する線維芽細胞培地中で形質導入した。
【0195】
48時間後、1つのウェル中の細胞を計数のためにトリプシン処理して、形質導入に必要なウイルスの体積(MOI)を決定した。形質導入は、4つの転写因子、OCT4、SOX2、cMYC、KLF4からなるCytoTune 2.0 iPSC Sendai Reprogramming Kit(Invitrogen)を使用して行った。
【0196】
24時間後、ウイルスを除去し、培地交換を1日おきに行った。形質導入の7日後、TrypLE express(Life tech)を使用して細胞を回収し、線維芽細胞培地中の照射MEFフィーダーの層上に再播種し、次いで翌日、培地をナイーブ培地(2iLGoY)に交換した。
【0197】
形質導入の16~18日後(即ち、ナイーブ条件で8~10日後)、ナイーブiPSCを、Accutase(Stem cell technologies)を使用して回収し、10回を超えて継代して、樹立されたナイーブiPSCを得た。
【0198】
樹立されたナイーブiPSCのナイーブ表現型は、フローサイトメトリー、ナイーブ多能性関連マーカーに対する免疫染色によって確認された。
【0199】
次いで、ナイーブiPSCを、Accutase(Stem Cell Technologies)を使用して回収し、ナイーブ条件でビトロネクチン(Life tech)被覆プレート上に再播種した。翌日、培地をEssential 8(Life tech)培地に交換した。培養物がコンフルエントになったとき、細胞を、0.5mM EDTA/PBS溶液(Invitrogen)を使用して回収し、ビトロネクチン/E8フィーダーを含まないヒト多能性幹細胞培養系を維持した。細胞を37℃、5% O2、及び5% CO2で培養した。
【0200】
実施例3:リプログラミングの異なる段階におけるiPSCのエピジェネティックプロファイリング
リプログラミング中の異常DMRの獲得
1. 全ゲノムバイサルファイト配列決定法(MethylC-seqによる)及びDNAメチル化解析
FACS単離細胞を使用してDNAメチル化解析を行った。ゲノムDNAを、DNeasy Blood and Tissue Kitを使用して、製造業者の説明書に従って単離した。ライブラリーは、(Urich et al.(2015)Nature Protocols 10:3 p475-483)に記載されているように、ゲノムDNAを、0.5%(w/w)非メチル化ラムダファージDNAと共に使用し、Covaris S2ソニケーターで平均長200bpに断片化して調製した。断片を末端修復し、A-テールを付け、メチル化Illumina TruSeqアダプター又はBIOO Nextflexアダプターに連結し、続いてEZ DNA-メチル化Goldキット(Zymo Research)を使用してバイサルファイト変換した。次いで、ライブラリー断片を、KAPA HiFi Uracil+ DNAポリメラーゼ(KAPA Biosystems)を用いた4~9サイクルのPCR増幅に供した。配列決定は、Illumina HiSeq 1500又はNovaSeq 6000で行った。配列決定アダプターを、オプションmink=3、qtrim=r、trimq=10 minlength=20でBBdukでトリミングし、その後、オプション-n1でBowtie2及びBSseeker2でhg19に整列させた(Chen et al.(2010)BMC Bioinformatics 11 p203;Langmead et al.(2009)Genome Biology 10:3 R25)。BSseeker2によるメチル化定量化の前に、Sambambaを用いてPCR複製を除去した(Chen et al.2010;Tarasov et al.(2015)Bioinformatics 31:2 p2032-3024)。CGジヌクレオチドの読み取りカウントは、下流分析前に両鎖について凝集された。差次的メチル化領域(DMR)は、DMRseqアルゴリズム(Korthauer et al.(2018)Biostatistics 20:3 p367-383)を用いて統計学的に決定し、DMRは、メチル化差が20%を超え、DMR P値<0.05であれば有意と見なした。PMDは、MethylSeekR(Burger et al.(2013)Nucleic Acids Research 41:16 e155))に実装されているように、線維芽細胞メチル化プロファイル及び隠れマルコフモデルを用いて決定した。全ての非CG DNAメチル化値は、スパイクされたラムダファージDNAメチル化レベルによって決定された非変換率に対して補正した。
【0201】
リプログラミング中の異常なDMRの獲得は、プライミングiPSC株とESC株との間で最初にDMRを呼び出すことによって同定された。これには、4つのESC複製(KSR培地中の32F継代3;KSR培地中の32F継代10;E8培地中の32F継代26;E8培地中の38F継代20)及び5つのESC複製(mTeSR1培地中のH1;KSR培地中のHESO7;KSR培地中のHESO8;mTeSR1培地中のH9;E8培地中のH9)が含まれた。その後、プライミングiPSC株と前駆線維芽細胞との間でもDMRを呼び出した(2つの複製;1x32F線維芽細胞及び1x38F線維芽細胞)。DMRを2つのクラスに分類した。第1のクラスは、「記憶DMR」として指定され、iPSCとESCとの間で有意に異なると決定された領域であり、線維芽細胞とiPSCとの間で呼びだされたDMRと重複しなかった。これらの領域では、iPSCにおけるメチル化レベルは、ESCよりも線維芽細胞により類似していた。DMRの第2のクラスは、「iPSC DMR」として指定され、iPSCとESCとの間で有意に異なると決定された領域であり、これはまたiPSCと線維芽細胞との間で有意に異なると決定されたDMRと重複する。これらの領域では、iPSCにおけるメチル化レベルは、ESC及び前駆線維芽細胞の両方とは異なっていた。
【0202】
ナイーブ・トゥ・プライミングのリプログラミングは、体細胞記憶を消去し、ESCにより密接に類似する細胞を生成する
DNAメチル化に関して、ナイーブ・トゥ・プライミングiPSC又はTNTプライミングiPSCにおけるDMRは、領域における平均メチル化レベルがESC株と比較して20%未満の場合、ESCにより密接に類似する。遺伝子及び転移因子の発現に関しては、ナイーブ・トゥ・プライミング細胞とESC株との差は、2倍未満である。
【0203】
RNA配列決定(RNA-seq)
RNeasyマイクロキット(Qiagen、Cat#74004)をQIAcube(Qiagen)と共に使用して、約2~20×104細胞からRNA抽出を行った。RNAの濃度をQubit RNA HSアッセイキット(ThermoFisher、Cat#Q32855)によりQubit 2.0 Fluorometer(ThermoFisher)で測定した。約25ngのRNAを、SPIAキット(NuGen)を用いたライブラリー構築のために、製造業者の説明書に従って使用し、続いてHiSeq 1500又はHiSeq 3000シーケンサー(Illumina)によって配列決定した。配列決定ライブラリーは、50nt長の読み取りと20~30Mの目標読み取り数で、シングルエンドフォーマットで配列決定された。RNA-seq読み取りを、HISAT2を用いてhg19に整列させ(Kim et al.,(2015)Nature Methods 12:4 357-360)、ヒトゲノムについて推奨されるパラメーターを使用して、TEtranscriptsを使用して遺伝子及び転移因子定量化を行った(Jin et al.,(2015)Bioinformatics 31:22 p3593-3599)。遺伝子及び転移因子の差次的発現を、edgeR(Robinson et al.,(2010)Bioinformatics 26:1 139-140)を使用して、TMM正規化を用いて計算した。差次的発現は、>2倍の発現差と偽発見率<0.01を有する遺伝子又は転移因子と定義した。
【0204】
図3Aは、ESC及び従来の方法に従って生成されたiPSCと比較した、ナイーブ・トゥ・プライミング細胞におけるTEでのDNAメチル化レベルのヒストグラムを示す。
図3Bは、TE発現が、ナイーブ・トゥ・プライミングiPSCがプライミングiPSCよりもESCにより密接に類似することを示すことを示しているデンドログラムを示す。
【0205】
分化スコアカード評価
胚様体分化は、スコアカードアッセイ(Invitrogen)の製造業者の説明書に従って行った。手短には、多能性細胞を細胞塊に解離させ、次いでEB分化培地を含む非接着性皿に移した。7日後にEBを回収し、溶解し、全RNAをQIAcube(Qiagen)/RNeasyマイクロキット(Qiagen)で抽出し、SuperScript III cDNA合成キット(Invitrogen)を使用して逆転写した。次いで、cDNAをTaqMan遺伝子発現マスターミックス(Thermo Fisher)と共に384ウェルスコアカードプレート(Invitrogen)に添加し、RT-PCRを7900HTリアルタイムPCRシステム(Thermo Fisher)で行った。得られたデータを、hPSCスコアカード分析ソフトウェア(Thermo Fisher)を用いて分析した。
【0206】
プライミング及びナイーブ・トゥ・プライミングiPSCに由来する胚様体についての分化スコアカードを描写する
図4に示されるデータは、ナイーブ・トゥ・プライミングiPSCがプライミングiPSCと比較して、中胚葉系列に向かう少ない分化バイアスを示すことを示す(線維芽細胞は中胚葉起源であり、多能性へのリプログラミング前の体細胞型である)。
【0207】
実施例4:ナイーブ・トゥ・プライミングiPSCの分化
MEL1-hESC-線維芽細胞由来iPSCからの皮質ニューロン分化
分化の2日前(2日目)、hiPSCを、10μM Y-27632(Sigma-Aldrich)を補充したE8培地中、低密度(0.5~1×104細胞/cm2)でMatrigel(BD Biosciences)被覆培養容器上にプレーティングした。0日目に、E8培地を、2% B27(ビタミンAを含まない)(Life Technologies)及び100ng/ml LDN(Stem Cell Technologies)を補充したDDM培地(1X N2サプリメント(Life Technologies)、0.1mM非必須アミノ酸(Life Technologies)、1mMピルビン酸ナトリウム(Life Technologies)、500μg/mlウシ血清アルブミン(Life Technologies)、0.1mM 2-メルカプトエタノール(Life Technologies)及び50U/ml Pen/Strep)を補充したDMEM/F12+GlutaMax)(Life Technologies)に変更し、2日毎に補充した。NCAM(Miltenyi Biotec)陽性細胞のパーセンテージを、フローサイトメトリー分析によって8日目及び16日目に評価した。
【0208】
iPSCからの神経幹細胞(NSC)生成
iPSCをCultrex(R&D Systems)被覆TC皿上でE8培地(Life Technologies)中で培養し、5日毎に1:10分割した。コロニーを、PBS(Sigma)中の0.5mM EDTAで機械的に脱凝集させた。10μM ROCK阻害剤(Selleckchem)を分割後24時間添加した。
【0209】
分割後、コロニーを沈降によって収集し、ROCK阻害剤を含むE8培地に再懸濁し、ペトリ皿で培養して、懸濁液中の胚様体(EB)を形成した。24時間後、培地を、10μM SB-431542(Selleckchem)、神経誘導のための1μMドルソモルフィン(Selleckchem)、並びに3μM CHIR 99021(Cayman Chemical)及び0.5μM PMA(Sigma)を補充した20%ノックアウト血清置換(Life Technologies)、1mM β-メルカプトエタノール(Sigma)、1%非必須アミノ酸(NEAA、Life Technologies)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Life Technologies)及び1% Glutamax(Life Technologies)を含むノックアウトDMEM(Life Technologies)に変更した。培地を、3日目に、N2B27培地(50% DMEM-F12(Life Technologies)、1:200 N2サプリメント(R&D Systems)を含む50%神経基礎(Life Technologies)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Life Technologies)を含むビタミンAを欠く1:100 B27サプリメント(Miltenyi Biotec)、及び同じ小分子サプリメントを補充した1% Glutamax(Life Technologies)に交換した。4日目に、SB-431542及びドルソモルフィンを回収し、150μMアスコルビン酸(AA;Sigma)を培地に添加した。6日目に、EBを1,000μLピペットでより小さな断片に粉砕し、NSC増殖培地(CHIR、PMA、及びAAを含むN2B27)中、ウェル当たり約10~15の密度でCultrex被覆12ウェルプレート上にプレーティングした。さらに5日後、細胞を、Trypsin-EDTA(Life Technologies)及びTrypsin阻害剤(Sigma)を使用して、新たなCultrex被覆ウェル上に1:5の比で分割した。さらに5日後、37℃で10分間トリプシン処理することによって細胞を収集して、10×3’単一細胞RNA-seq v3ワークフロー(10×Genomics)のための単一細胞懸濁液を生成した。
【0210】
図5Aは、プライミングiPSC及びナイーブ・トゥ・プライミングiPSCからのNSCの画像を示す。これらの画像は、プライミングiPSCのNSCへの分化がNSCコロニー間の空間において線維芽細胞様細胞を生成することを示す。ナイーブ・トゥ・プライミングiPSCをNSCに分化させる場合、線維芽細胞様細胞の存在は有意に減少する。
【0211】
図6は、本発明に従って生成されたMEL1由来iPSC(ナイーブ・トゥ・プライミング及びTNTプライミング)、MEL1由来hESC及びプライミングiPSCから生成されたMEL1由来iPSCのフローサイトメトリーの結果を示す。結果は、TNTプライミング及びナイーブ・トゥ・プライミングiPSCからの皮質ニューロン分化の8日目及び16日目におけるNCAM陽性細胞のパーセンテージは、プライミングiPSCからよりもESCから得られたパーセンテージとより密接に類似していることを示す。
【0212】
単一細胞RNA-seq及びハッシュタグ付け
単一細胞懸濁液を、血球計算盤を使用して計数し、サンプル当たり200,000細胞を、ハッシュタグ抗体とのインキュベーションに使用した。細胞を40μm細胞ストレーナーで濾過し、800gで5分間遠心分離し、4μlのFcブロッキング試薬(Biolegend)を含む1xDPBS(Life Technologies)中の総容量46μlの細胞染色緩衝液(2% BSA(Sigma)、0.01% Tween(Sigma))に再懸濁し、氷上で10分間インキュベートした。次いで、各サンプルに0.2μgの異なるTotalSeq-A抗ヒトハッシュタグ抗体(Biolegend)を与え、抗体結合のために氷上で30分間インキュベートした。インキュベーション後、1mlの細胞染色緩衝液を添加し、サンプルを300gで3分間遠心分離した。上清を除去し、洗浄を全部で3回繰り返して、全ての未結合抗体を除去した。細胞を再び計数し、各サンプルについて等しい細胞数を合わせて、10,000個の細胞を表すことを目的とした10×Chromiumコントローラー上にロードするのに適した細胞濃度を得た。混合した細胞懸濁液を、40μm細胞ストレーナーを用いてもう1回濾過し、製造業者の説明書に従って、10×3’v3化学で単一細胞RNA-seqについて処理した。
【0213】
単一細胞RNAseqのためのライブラリーを、標準的なワークフローに従って作製し、一方、ハッシュタグ情報のためのHTOライブラリーを、以下のように生成した:cDNA増幅工程の間、HTOプライマーを添加して、HTOバーコードの増幅を可能にし、cDNA増幅PCR後のクリーンアップの第1工程からの上澄みを廃棄せずに、HTOライブラリーを調製するために使用した。HTO生成物を2×SPRIを用いて精製し、10×SI-PCRオリゴ及びTruSeq Small RNA RPIxプライマーを用いて8 PCRサイクル増幅して、約180bpサイズのライブラリーを生成した。
【0214】
単一細胞RNA-seq(scRNA-seq)解析
配列決定をNovaSeq 6000シーケンサーで行って、単一細胞RNA-seqライブラリーについては約420百万の読み取りを、HTOライブラリーについては約4000万の読み取りを生成した。RNA-seq fastqファイルは、CellRanger count 3.1.0を用いて処理し、一方、HTO fastqファイルは、CITE-seq-Count 1.4.3を用いて処理した。両方のデータセットをSeurat 3.1にロードし、細胞バーコードに基づいてそれらを交差させることによって組み合わせた。RNAデータは対数正規化され、平均分散によって可変特徴が検出され、一方、HTOデータは、中心対数比変換によって正規化された。HTODemuxを使用して、単一細胞をそれらのサンプル起源に割り当て、ダブレット及び負をさらなる解析から除外した。クラスタリング及びtSNEのために0.6の分解能を有する10次元を使用して、RNAデータのスケーリング及びPCAのために、上位1000の最も可変な特徴を使用した。
【0215】
中胚葉(BMP1、BMP4、HAND1、SNAI1、TGFB1、TGFB2)、内胚葉(CLDN6、FOXA1、NODAL)、神経幹細胞(NES、RBFOX3、PAX3、PAX6、SOX1、SOX2)又はミトコンドリア(低いUMI数、及びミトコンドリア転写物が濃縮されている)のマーカーの発現に基づいてクラスター同一性を定義した。各細胞のHTO同一性を用いて、使用される各サンプル内の細胞同一性の割合を定義することができる
【0216】
図5Bに示すデータは、ナイーブ・トゥ・プライミング及びTNTプライミング細胞の両方がマーカー遺伝子発現によって特徴付けられるように、実質的に少ない線維芽細胞様細胞を示すことを示す。
【0217】
本明細書に開示及び定義された本発明は、本文若しくは図面に言及され、又は本文若しくは図面から明らかな個々の特徴の2つ以上の代替的な組み合わせの全てに及ぶことが理解されるであろう。これらの異なる組み合わせの全ては、本発明の様々な代替態様を構成する。
【0218】
【0219】
【0220】
表4:プライミングiPSC(プライミング)、ナイーブ・トゥ・プライミングiPSC(NtoP)、TNTプライミングiPSC(TNT)、及びESCにおける補正CG-DMRと交差する転移因子(TE)についての要約されたCG DNAメチル化レベル。各TEのゲノム座標、並びにファミリー、グループ(クラス)及び個々のTE型を列挙する。メチル化レベル値は、補正CG-DMRとのオーバーラップを有するTEについて、列挙された座標についてのTE全体のmCG/CG(範囲:0~1)として計算される。(表は、次のページから始まる)。
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【国際調査報告】