(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-22
(54)【発明の名称】神経突起伸長改善用組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/10 20160101AFI20230314BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20230314BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20230314BHJP
A23L 2/38 20210101ALI20230314BHJP
A61K 31/404 20060101ALI20230314BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230314BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230314BHJP
A61K 35/745 20150101ALI20230314BHJP
A61K 31/4035 20060101ALI20230314BHJP
【FI】
A23L33/10
A23L33/135
A23L2/00 F
A23L2/52
A23L2/38 C
A61K31/404
A61P25/00
A61P43/00 105
A61K35/745
A61K31/4035
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022545027
(86)(22)【出願日】2021-01-22
(85)【翻訳文提出日】2022-08-29
(86)【国際出願番号】 JP2021002271
(87)【国際公開番号】W WO2021149806
(87)【国際公開日】2021-07-29
(31)【優先権主張番号】P 2020010080
(32)【優先日】2020-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヲン,チンブン
(72)【発明者】
【氏名】久原 徹哉
【テーマコード(参考)】
4B018
4B117
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB02
4B018LB05
4B018LB06
4B018LB07
4B018LB08
4B018LB09
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE03
4B018LE04
4B018LE05
4B018MD10
4B018MD18
4B018MD85
4B018ME14
4B117LC04
4B117LK08
4B117LK21
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC13
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA01
4C086ZB21
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC59
4C087BC60
4C087NA14
4C087ZA01
4C087ZB21
(57)【要約】
神経突起伸長改善用組成物等の特定の用途に利用できる組成物を提供する。そのような組成物は、インドール-3-乳酸(ILA)またはインドール-3-乳酸生産細菌を有効成
分として用いて提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)および/または(B)を有効成分として含有する、神経細胞分化促進用および/または神経突起伸長改善用の組成物:
(A)インドール-3-乳酸;
(B)インドール-3-乳酸生産細菌。
【請求項2】
下記成分(A)および/または(B)を有効成分として含有する、神経障害に関連する症状の予防、改善、および/または治療用の組成物:
(A)インドール-3-乳酸;
(B)インドール-3-乳酸生産細菌。
【請求項3】
前記組成物が、少なくとも、前記成分(B)を含有する、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記成分(B)が、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属細菌である、請求項
1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記成分(B)が、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)、またはビフィドバクテリウ
ム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)である、請求項1~4のいずれか1項に記
載の組成物。
【請求項6】
前記組成物が、飲食品組成物である、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物が、医薬組成物である、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
下記成分(A)および/または(B)を有効成分として対象に投与することを含む、神経細胞分化を促進する、および/または神経突起伸長を改善する方法:
(A)インドール-3-乳酸;
(B)インドール-3-乳酸生産細菌。
【請求項9】
下記成分(A)および/または(B)を有効成分として対象に投与することを含む、神経障害に関連する症状を予防、改善、および/または治療する方法:
(A)インドール-3-乳酸;
(B)インドール-3-乳酸生産細菌。
【請求項10】
少なくとも、前記成分(B)が、前記対象に投与される、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記成分(B)が、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属細菌である、請求項
8~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記成分(B)が、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)、またはビフィドバクテリウ
ム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)である、請求項8~11のいずれか1項に
記載の方法。
【請求項13】
前記対象が、ヒトである、請求項8~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
神経細胞分化を促進するため、および/または神経突起伸長を改善するための、下記成分(A)および/または(B)の使用:
(A)インドール-3-乳酸;
(B)インドール-3-乳酸生産細菌。
【請求項15】
神経障害に関連する症状を予防、改善、および/または治療するための、下記成分(A)および/または(B)の使用:
(A)インドール-3-乳酸;
(B)インドール-3-乳酸生産細菌。
【請求項16】
請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物の製造における、下記成分(A)および/または(B)の使用:
(A)インドール-3-乳酸;
(B)インドール-3-乳酸生産細菌。
【請求項17】
下記成分(A)および/または(B)を有効成分として含有する、神経細胞分化の促進および/または神経突起伸長の改善における使用のための組成物:
(A)インドール-3-乳酸;
(B)インドール-3-乳酸生産細菌。
【請求項18】
下記成分(A)および/または(B)を有効成分として含有する、神経障害に関連する症状の予防、改善、および/または治療における使用のための組成物:
(A)インドール-3-乳酸;
(B)インドール-3-乳酸生産細菌。
【請求項19】
前記組成物が、少なくとも、前記成分(B)を含有する、請求項17または18に記載の使用のための組成物。
【請求項20】
前記成分(B)が、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属細菌である、請求項
17~19のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項21】
前記成分(B)が、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)、またはビフィドバクテリウ
ム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)である、請求項17~20のいずれか1項
に記載の使用のための組成物。
【請求項22】
前記組成物が、飲食品組成物である、請求項17~21のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【請求項23】
前記組成物が、医薬組成物である、請求項17~22のいずれか1項に記載の使用のための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経突起伸長(neurite outgrowth)改善用、神経細胞分化(neuronal differentiation)促進用、またはそれらに基づく効果を得るための組成物等の特定の用途に利用できる組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
トリプトファンは、食品タンパク質に由来する、インドール環を有する必須アミノ酸である。トリプトファンは、主に小腸で消化吸収されるが、かなりの量のトリプトファンが大腸まで残り、そこで腸内細菌によって代謝され、インドール-3-乳酸(ILA)やイン
ドール-3-プロピオン酸(IPA)等の種々のインドール誘導体が生成する(非特許文献
1)。
【0003】
IPAは、アルツハイマー病のβアミロイドに対する強力な神経保護作用(非特許文献2
)や、虚血状態の海馬における神経細胞の損傷と酸化ストレスに対する強力な神経保護作用(非特許文献3)を示すことが見出されている。しかし、ILAが神経細胞の健全性に及
ぼす影響については、今後の調査が待たれる。
【0004】
ILAおよびIPAは、特定の腸内細菌種によって産生されてよい。例えば、ヒトの幼児の腸内から一般的に分離されるビフィズス菌種の菌株(例えば、Bifidobacterium longum subsp. longum、Bifidobacterium longum subsp. infantis、Bifidobacterium breve、およびBifidobacterium bifidum)は、ILAを高濃度に産生し得る(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Roager, H. M. & Licht, T. R. Microbial tryptophan catabolites in health and disease. Nat. Commun. 9, 1-10 (2018).
【非特許文献2】Chyan, Y.-J. et al. Potent neuroprotective properties against the Alzheimer β-amyloid by an endogenous melatonin-related indole structure, indole-3-propionic acid. J. Biol. Chem. 274, 21937-21942 (1999).
【非特許文献3】Hwang, I. K. et al. Indole-3-propionic acid attenuates neuronal damage and oxidative stress in the ischemic hippocampus. J. Neurosci. Res. 87, 2126-2137 (2009).
【非特許文献4】Sakurai T. et al. Production of Indole-3-Lactic Acid by Bifidobacterium Strains Isolated from Human Infants. 2019 Sep 11;7(9).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、神経突起伸長改善用、神経細胞分化促進用、またはそれらに基づく効果を得るための組成物等の特定の用途に利用できる組成物を提供することを課題とする。本発明は、in vivoおよびin vitroにおける神経保護のための手段および方法を提供することも
課題とし得る。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を進めた。その結果、本発明者は、インドール-3-乳酸(ILA)が神経突起伸長を改善することを見出し、本発明を完成させた
。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の通り例示できる。
[1]
下記成分(A)および/または(B)を有効成分として含有する、神経細胞分化促進用および/または神経突起伸長改善用の組成物:
(A)インドール-3-乳酸;
(B)インドール-3-乳酸生産細菌。
[2]
下記成分(A)および/または(B)を有効成分として含有する、神経障害に関連する症状の予防、改善、および/または治療用の組成物:
(A)インドール-3-乳酸;
(B)インドール-3-乳酸生産細菌。
[3]
前記組成物が、少なくとも、前記成分(B)を含有する、前記組成物。
[4]
前記成分(B)が、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属細菌である、前記組
成物。
[5]
前記成分(B)が、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)、またはビフィドバクテリウ
ム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)である、前記組成物。
[6]
前記組成物が、飲食品組成物である、前記組成物。
[7]
前記組成物が、医薬組成物である、前記組成物。
[8]
下記成分(A)および/または(B)を有効成分として対象に投与することを含む、神経細胞分化を促進する、および/または神経突起伸長を改善する方法:
(A)インドール-3-乳酸;
(B)インドール-3-乳酸生産細菌。
[9]
下記成分(A)および/または(B)を有効成分として対象に投与することを含む、神経障害に関連する症状を予防、改善、および/または治療する方法:
(A)インドール-3-乳酸;
(B)インドール-3-乳酸生産細菌。
[10]
少なくとも、前記成分(B)が、前記対象に投与される、前記方法。
[11]
前記成分(B)が、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属細菌である、前記方
法。
[12]
前記成分(B)が、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)、またはビフィドバクテリウ
ム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)である、前記方法。
[13]
前記対象が、ヒトである、前記方法。
[14]
神経細胞分化を促進するため、および/または神経突起伸長を改善するための、下記成分(A)および/または(B)の使用:
(A)インドール-3-乳酸;
(B)インドール-3-乳酸生産細菌。
[15]
神経障害に関連する症状を予防、改善、および/または治療するための、下記成分(A)および/または(B)の使用:
(A)インドール-3-乳酸;
(B)インドール-3-乳酸生産細菌。
[16]
前記組成物の製造における、下記成分(A)および/または(B)の使用:
(A)インドール-3-乳酸;
(B)インドール-3-乳酸生産細菌。
[17]
下記成分(A)および/または(B)を有効成分として含有する、神経細胞分化の促進および/または神経突起伸長の改善における使用のための組成物:
(A)インドール-3-乳酸;
(B)インドール-3-乳酸生産細菌。
[18]
下記成分(A)および/または(B)を有効成分として含有する、神経障害に関連する症状の予防、改善、および/または治療における使用のための組成物:
(A)インドール-3-乳酸;
(B)インドール-3-乳酸生産細菌。
[19]
前記組成物が、少なくとも、前記成分(B)を含有する、前記使用のための組成物に記載の使用のための組成物。
[20]
前記成分(B)が、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属細菌である、前記使
用のための組成物に記載の使用のための組成物。
[21]
前記成分(B)が、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)、またはビフィドバクテリウ
ム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)である、前記使用のための組成物に記載の
使用のための組成物。
[22]
前記組成物が、飲食品組成物である、前記使用のための組成物に記載の使用のための組成物。
[23]
前記組成物が、医薬組成物である、前記使用のための組成物に記載の使用のための組成物。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】PC12細胞の神経成長因子(NGF)誘導性の神経突起伸長に対する1 nM、10 nM、100 nM、および1 μMのトリプトファンおよびその代謝物の効果を示す図。PC12細胞は、NGF(25 ng/mL)および試験物質(ILA、IPA、またはTrp)で5日間連続処理した。(A)PC12細胞における神経突起を有する細胞の割合。(B)PC12細胞におけるアセチルコリンエステラーゼ(Acetylcholinesterase;AchE)活性。データは、3回の試験の平均値±SDを示す。NGF処理したコントロールに対し、*P < 0.05, **P < 0.01, ***P < 0.001。NTCは非処理コントロール、PCはポジティブコントロール、ILAはインドール-3-乳酸、IPAはインドール-3-プロピオン酸、Trpはトリプトファンを示す。
【
図2】PC12細胞の神経成長因子(NGF)誘導性の神経突起伸長に対するトリプトファンおよびその代謝物の効果を示す図(写真)。PC12細胞は、NGF(25 ng/mL)、およびILA、IPA、またはTrp(100 nM)で5日間連続処理した。(A)PC12細胞における神経突起を有する細胞の割合。(A)PC12細胞のβIII-チューブリン(緑)の免疫染色を100倍に拡大した画像。スケールバーは100 μm。核はDAPI(青)で対比染色した。(B)PC12細胞における神経突起を有する細胞の割合。(C)PC12細胞におけるアセチルコリンエステラーゼ(Acetylcholinesterase;AchE)活性。データは、3回の試験の平均値±SDを示す。NGF処理したコントロールに対し、*P < 0.05, **P < 0.01, ***P < 0.001。NTCは非処理コントロール、PCはポジティブコントロール、ILAはインドール-3-乳酸、IPAはインドール-3-プロピオン酸、Trpはトリプトファンを示す。
【
図3】PC12細胞におけるTrkA、ERK1/2、およびCREBのリン酸化に対するトリプトファンおよびその代謝物の効果を示す図(写真)。NGF(25 ng/mL)、およびILA、IPA、またはTrp(100 nM)で24時間処理したPC12細胞におけるTrkA、ERK1/2、およびCREBのリン酸化を、ウェスタンブロット解析により検出した。データは、3回の試験の平均値±SDを示す。NGF処理したコントロールに対し、*P < 0.05, **P < 0.01。NTCは非処理コントロール、PCはポジティブコントロール、ILAはインドール-3-乳酸、IPAはインドール-3-プロピオン酸、Trpはトリプトファンを示す。
【
図4】PC12細胞におけるアリール炭化水素受容体(aryl hydrocarbon receptor;AhR)に対するトリプトファンおよびその代謝物の影響を示す図(写真)。PC12細胞をAhRアンタゴニストであるα-ナフトフラボン(ANF;1 μM)で1時間前処理してから、NGF(25 ng/mL)、およびILA、IPA、またはTrp(100 nM)で5日間連続処理した。前処理していないPC12細胞をヌルコントロールとした。(A)PC12細胞におけるAhRタンパク質(95 kDa)は、AhRに特異的なモノクローナル抗体を用いたウェスタンブロット解析により検出した。対応するβ-アクチンのブロットをローディングコントロールとした。(B)PC12細胞におけるアセチルコリンエステラーゼ(Acetylcholinesterase;AchE)活性。データは、3回の試験の平均値±SDを示す。NGF処理したコントロールに対し、*P < 0.05, **P < 0.01。NTCは非処理コントロール、PCはポジティブコントロール、ILAはインドール-3-乳酸、IPAはインドール-3-プロピオン酸、Trpはトリプトファンを示す。
【
図5】PC12細胞におけるアリール炭化水素受容体(aryl hydrocarbon receptor;AhR)に対するトリプトファンおよびその代謝物の影響を示す図(写真)。PC12細胞をAhRアンタゴニストであるCH223191(1 μM)で1時間前処理してから、NGF(25 ng/mL)、およびILA、IPA、またはTrp(100 nM)で5日間連続処理した。前処理していないPC12細胞をヌルコントロールとした。(A)PC12細胞におけるAhRタンパク質(95 kDa)は、AhRに特異的なモノクローナル抗体を用いたウェスタンブロット解析により検出した。対応するβ-アクチンのブロットをローディングコントロールとした。(B)PC12細胞におけるアセチルコリンエステラーゼ(Acetylcholinesterase;AchE)活性。データは、3回の試験の平均値±SDを示す。NGF処理したコントロールに対し、*P < 0.05, **P < 0.01。NTCは非処理コントロール、PCはポジティブコントロール、ILAはインドール-3-乳酸、IPAはインドール-3-プロピオン酸、Trpはトリプトファンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
<1>有効成分
本発明においては、下記成分(A)および/または(B)を有効成分として利用する:(A)インドール-3-乳酸;
(B)インドール-3-乳酸生産細菌。
【0012】
すなわち、成分(A)および/または(B)を、「有効成分」ともいう。有効成分としては、例えば、少なくとも、成分(B)を用いてよい。有効成分は、in vivoまたはin vitroで使用できる。特に、有効成分は、in vivoで使用でき、すなわち、有効成分は、対象に投与することで使用できる。
【0013】
有効成分を利用することにより、具体的には有効成分を対象に投与することにより、当
該対象において神経突起伸長(neurite outgrowth)が改善されてよく、すなわち、神経
突起伸長を改善する効果が得られてよい。同効果を、「神経突起伸長改善効果」ともいう。神経突起伸長としては、NGF誘導性(NGF-induced)の神経突起伸長が挙げられる。NGFは、有効成分が投与される対象により生産され得る。すなわち、対象により生産されたNGFが有効成分と共に機能し得る。よって、本明細書に記載の有効成分に加えて、NGFを対象に投与する必要はない。神経突起伸長改善効果は、例えば、サンプル中の神経突起を有する細胞(neurite bearing cell)の量の増大を確認することにより、確認できる。言い換えると、神経突起伸長改善効果は、例えば、有効成分の投与後のサンプル中の神経突起を有する細胞の量が有効成分の投与前のものよりも大きい場合に、確認できる。「神経突起を有する細胞の量」とは、神経突起を有する細胞の絶対量または神経突起を有する細胞の相対量を意味してよい。神経突起を有する細胞の相対量は、例えば、サンプル中の細胞の総数に対する神経突起を有する細胞の数の比率として算出できる。神経突起を有する細胞の相対量は、特に、サンプル中の細胞の総数に対する有効成分の使用後の神経突起を有する細胞の数の比率として算出でき、神経突起伸長改善効果は、神経突起を有する細胞の相対量を有効成分の使用前と後で比較することにより、決定できる。別の態様においては、神経突起を有する細胞の絶対量または相対量は、参照対象(特に、有効成分を使用していない対象)からの神経突起を有する細胞の絶対数または相対数を用いて参照されてもよい。参照対象は、平均値または中央値を参照として用いるための対象のグループであってよい。「神経突起を有する細胞」とは、細胞体の長さの少なくとも1.5倍以上の長さの突起を提示する細胞を意味してよい。「神経突起を有する細胞」とは、特に、細胞体の長さの少なくとも1.5倍以上の長さの突起を提示する神経細胞(すなわち、ニューロン)を意味してよい。突起としては、神経突起、軸索、樹状突起が挙げられる。サンプルは、神経細胞を含有する限り、特に制限されない。サンプルは、例えば、対象からの生検により取得できる。
【0014】
神経突起伸長の改善は、神経細胞分化の指標であってよい。よって、有効成分を利用することにより、具体的には有効成分を対象に投与することにより、神経細胞分化が促進されてよく、すなわち、神経細胞分化を促進する効果が得られてよい。同効果を、「神経細胞分化促進効果」ともいう。言い換えると、神経突起伸長の改善は、神経細胞分化の促進により得られるものであってよい。すなわち、神経突起伸長改善効果は、神経細胞分化促進効果の一例であってよい。神経細胞分化促進効果は、例えば、神経突起伸長改善効果を確認することにより、確認できる。
【0015】
神経細胞分化促進効果は、例えば、対象におけるアセチルコリンエステラーゼ(Acetylcholinesterase;AchE)活性の増大を確認することによっても、確認できる。言い換えると、神経細胞分化促進効果は、例えば、有効成分の投与後のサンプル中のAchE活性が有効成分の投与前のものよりも大きい場合に、確認できる。この点について、活性は、好ましくは、同一対象から有効成分の使用前と後に得られたサンプルにおいて決定される。しかし、有効成分の使用前の活性は、有効成分を使用していない対象または対象のグループから得られた参照活性であってもよい。AchE活性は、例えば、Amplite Fluorimetric Acetylcholinesterase Assay Kit(AAT Bioquest, Sunnyvale, CA, USA)を用いて測定できる。サンプルは、神経細胞を含有する限り、特に制限されない。サンプルは、例えば、対象からの生検により取得できる。
【0016】
また、有効成分を利用することにより、具体的には有効成分を対象に投与することにより、神経細胞分化の促進および/または神経突起伸長の改善に基づく効果が提供されてよい。神経細胞分化の促進および/または神経突起伸長の改善により、例えば、神経機能が保護および/または改善されてよい。すなわち、神経細胞分化の促進および/または神経突起伸長の改善により、例えば、神経障害(nerve disorder)に関連する症状が予防、改善、および/または治療されてよい。すなわち、神経細胞分化の促進および/または神経
突起伸長の改善に基づく効果としては、神経機能を保護する効果、神経機能を改善する効果、神経障害に関連する症状を予防、改善、および/または治療する効果が挙げられる。神経障害に関連する症状は、疾病であってもよく、そうでなくてもよい。言い換えると、神経障害に関連する症状は、疾病に起因するものであってもよく、そうでなくてもよい。神経障害に関連する症状としては、神経変性疾患(neurodegenerative disease)が挙げ
られ、言い換えると、神経変性疾患に起因する症状が挙げられる。神経変性疾患としては、神経細胞分化の障害または神経突起伸長の障害を伴う疾患が挙げられる。神経変性疾患として、具体的には、アルツハイマー病(Alzheimer's disease;AD)、認知症(dementia)(レビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies;DLB)等)、前頭側頭葉変性症(frontotemporal lobar degeneration;FTLD)、進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy;PSP)、大脳皮質基底核変性症(corticobasal degeneration;CBD)、ハンチントン病(Huntington's disease)、ジストニア(dystonia)、伝達性海綿状脳症(transmissible spongiform encephalopathy;TSE)、有棘赤血球舞踏病(chorea-acanthocytosis;ChAc)、副腎白質ジストロフィー(adrenoleukodystrophy;ALD)、多系統萎縮症(multiple system atrophy;MSA)、脊髄小脳変性症(spinocerebellar degeneration;SCD)、筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis;ALS)、原発性側索硬化症(primary lateral sclerosis;PLS)、球脊髄性筋萎縮症(spinal and bulbar muscular atrophy;SBMA)、脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy;SMA)、シャルコー・マリー・トゥース病(Charcot-Marie-Tooth disease;CMT)、バッテン病(Batten disease)が挙げられる。
【0017】
トリプトファン代謝物であるキヌレニンが血液脳関門を通過できることが報告されている(Psychoneuroendocrinology. 2018;94:1-10. doi:10.1016/j.psyneuen.2018.04.019.
)。本発明において、本明細書に記載のILAが血液脳関門を通過できると予想される。
【0018】
上記の文脈において、また、添付の例示的な実施例に照らして、本発明は、神経変性疾患等の神経障害の予防、改善、および/または治療におけるインドール-3-乳酸および/またはインドール-3-乳酸生産細菌の使用にも関する。これらの疾患は、とりわけ、以下のものを含んでいてよい:アルツハイマー病(Alzheimer's disease;AD)、認知症
(dementia)(レビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies;DLB)等)、前頭側頭葉変性症(frontotemporal lobar degeneration;FTLD)、進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy;PSP)、大脳皮質基底核変性症(corticobasal degeneration;CBD)、ハンチントン病(Huntington's disease)、ジストニア(dystonia)、伝達性海綿状脳症(transmissible spongiform encephalopathy;TSE)、有棘赤血球舞踏病(chorea-acanthocytosis;ChAc)、副腎白質ジストロフィー(adrenoleukodystrophy;ALD)、多系統萎縮症(multiple system atrophy;MSA)、脊髄小脳変性症(spinocerebellar degeneration;SCD)、筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis;ALS)、原発性側索硬化症(primary lateral sclerosis;PLS)、球脊髄性筋萎縮症(spinal and bulbar muscular atrophy;SBMA)、脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy;SMA)、シャルコー・マリー・トゥース病(Charcot-Marie-Tooth disease;CMT)、バッテン病(Batten disease)。本発明の好ましい態様において、神経障害の予防、改善、および/または治療は、本明細書および添付のインドール-3-乳酸(ILA)についての実施例において驚くべきことに示されたように、神経細胞分化の促進に関連する。したがって、本発明の文脈において、驚くべきことに、インドール-3-乳酸(および/またはインドール-3-乳酸生産細菌)が神経細胞分化促進効果(それは、神経変性疾患等の神経障害の症状を改善(ameliorate)および/または改善(improve)すると考えられる)を示すことが見出された。そのような神経細胞分化促進効果は、神経細胞分化および/または神経突起伸長におけるインドール-3-乳酸(ILA)の驚くべき効果により、本明細書に開示され、添付の技術的な実施例に例示されている。したがって、本発明の文脈において、本明細書には、神経変性障害等の神経障害の治療および/または予防におけるインドール-3-乳酸(ILA)および/またはインドール-3-乳酸生産細菌の医学的用途が開示されている。インドール-3-乳酸(ILA)および/またはインドール-3-乳酸生産細菌は、この文脈において、そのような神経変性疾患等の神経障害の予防、改善、および/または治療を必要とする対象に投与できる。好ましくは、対象は、ヒト、サル、チンパンジー等の霊長類等の哺乳動物、またはウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、イヌ、ネコ等の哺乳動物である。しかし、最も好ましくは、本発明の手段および方法により治療される対象は、ヒトである。
【0019】
上記効果(神経突起伸長改善効果、神経細胞分化促進効果、およびそれらに基づく効果等)を総称して、「神経促進(neuro-promoting)効果」ともいう。
【0020】
本発明は、神経促進効果を得るための有効成分の使用を提供してよい。すなわち、本発明は、神経細胞分化の促進、神経突起伸長の改善、および/または神経障害に関連する症状の予防、改善、および/または治療のための有効成分の使用を提供してよい。また、本発明は、神経細胞分化促進用、神経突起伸長改善用、および/または神経障害に関連する症状の予防、改善、および/または治療用の組成物の製造のための有効成分の使用を提供してよい。
【0021】
本発明は、神経促進効果を得るために使用される有効成分を提供してよい。すなわち、本発明は、神経細胞分化の促進、神経突起伸長の改善、および/または神経障害に関連する症状の予防、改善、および/または治療のために使用される有効成分を提供してよい。また、本発明は、神経細胞分化促進用、神経突起伸長改善用、および/または神経障害に関連する症状の予防、改善、および/または治療用の組成物の製造のために使用される有効成分を提供してよい。
【0022】
有効成分は、治療目的で利用されてもよく、非治療目的で利用されてもよい。すなわち、神経促進効果は、特記しない限り、治療目的で得られてもよく、非治療目的で得られてもよい。
【0023】
「治療目的」とは、例えば、医療行為を含む概念を意味してよく、具体的には、治療による人体への処置行為を含む概念を意味してよい。
【0024】
「非治療目的」とは、例えば、医療行為を含まない概念を意味してよく、具体的には、治療による人体への処置行為を含まない概念を意味してよい。非治療目的としては、健康増進目的や美容目的が挙げられる。
【0025】
「症状または疾病の予防」とは、例えば、症状もしくは疾病の発症の防止および/もしくは遅延、または症状もしくは疾病の発症の可能性の低下を意味してよい。「症状または疾病の改善」または「症状または疾病の治療」とは、例えば、症状もしくは疾病の好転、症状もしくは疾病の悪化の防止もしくは遅延、または症状もしくは疾病の進行の防止もしくは遅延を意味してよい。「症状または疾病の改善」とは、特に、これらの事象であって、且つ非治療目的で得られるものを意味してよい。「症状または疾病の治療」とは、特に、これらの事象であって、且つ治療目的で得られるものを意味してよい。
【0026】
神経促進効果(神経突起伸長改善効果、神経細胞分化促進効果、およびそれらに基づく効果等)を得るためには、ILAは、インドール-3-プロピオン酸(IPA)よりも顕著に優れ得る。同様に、神経促進効果(神経突起伸長改善効果、神経細胞分化促進効果、およびそれらに基づく効果等)を得るためには、ILA生産細菌は、IPAよりも顕著に優れ得る(これは、神経促進効果を得るためには、ILA生産細菌により生産され得るILAがIPAよりも顕
著に優れ得るためである)。同様に、神経促進効果(神経突起伸長改善効果、神経細胞分
化促進効果、およびそれらに基づく効果等)を得るためには、ILAおよびILA生産細菌は、いずれも、IPA生産細菌よりも顕著に優れ得る(これは、神経促進効果を得るためには、ILAがIPA生産細菌により生産され得るIPAよりも顕著に優れ得るためである)。例えば、神経突起伸長(特にNGF誘導性の神経突起伸長)を促進するために、NGF誘導性の神経突起伸長を促進する(特にTrkAのリン酸化の促進を通じて)ために、NGF誘導性の神経突起伸長を促進する(特にERKシグナリングの促進を通じて)ために、またはそれらに基づく効果を得るために、有効成分は、IPAまたはIPA生産細菌よりも優れ得る。そのような有効成分の優位性は、例えば、アリール炭化水素受容体(aryl hydrocarbon receptor;AhR)のリガンドとしてのILAおよびIPAの基づくものであり得る。すなわち、ILAおよびIPAの作用はAhRへの結合を通じて発揮されているようであり、且つILAはIPAよりも優勢なAhRリガンドであるから、有効成分は、そのような優位性を発揮し得る。
【0027】
ILAは、フリー体、その塩、またはそれらの混合物として使用されてよい。すなわち、
「インドール-3-乳酸(ILA)」とは、特記しない限り、フリー体のILA、その塩、またはそれらの混合物を意味してよい。塩は、神経促進効果が達成される限り、特に制限されない。塩としては、アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩が挙げられる。塩としては、1種の塩を用いてもよく、2種またはそれ以上の塩を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
ILAとしては、市販品を用いてもよく、適宜製造して取得したものを用いてもよい。ILAの製造方法は、特に制限されず、例えば、公知の方法を使用できる。ILAは、例えば、化
学合成、酵素反応、抽出法、または発酵法により製造できる。ILAは、具体的には、例え
ば、ILA生産細菌を培養することにより製造できる。ILAは、所望の程度に精製されていてもよく、そうでなくてもよい。すなわち、ILAとしては、精製品を用いてもよく、ILAを含有する素材を用いてもよい。ILAを含有する素材としては、ILA生産細菌を培養して得られた培養液、同培養液から分離された培養上清、および/またはそれらの処理物(それらの濃縮物(例えば濃縮液)、それらの濃縮乾燥物、それらの分画物等)が挙げられる。素材中のILA濃度は、例えば、0.001重量%以上、0.005重量%以上、0.01重量%以上、0.05重
量%以上、0.1重量%以上、0.5重量%以上、1重量%以上、5重量%以上、10重量%以上、30重量%以上、50重量%以上、70重量%以上、または90重量%以上であってよい。
【0029】
ILAを含有する素材を使用する場合、ILAの量(例えば、本発明の組成物における含有量や本発明の方法における投与量)は、当該素材に含有されるILAそのものの量に基づいて
算出されるものとする。ILAが塩の形態で使用される場合、ILAの量(例えば、本発明の組成物における含有量や本発明の方法における投与量)は、塩の質量を等モルのフリー体の質量に換算した値に基づいて算出されるものとする。
【0030】
「インドール-3-乳酸生産細菌(ILA生産細菌)」とは、ILAを生産できる細菌を意味する。ILA生産細菌は、例えば、炭素源および/またはトリプトファンからILAを生産してよい。ILA生産細菌は、具体的には、対象に投与された場合に当該対象においてILAを生産できる細菌であってよい。ILA生産細菌は、より具体的には、対象に投与された場合に当
該対象の腸内でILAを生産できる細菌であってよい。腸としては、小腸や大腸が挙げられ
る。
【0031】
ILA生産細菌としては、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属細菌が挙げられる。ビフィドバクテリウム属細菌としては、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)、ビフィドバクテリウム・アンギュラツム(Bifidobacterium angulatum)、ビフィドバクテリウム・デンティウム(Bifidobacterium dentium)、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム(Bifidobacterium pseudocatenulatum)、ビフィドバクテリウム・アニマリス(Bifidobacterium animalis)、ビフィドバクテリウム・シュードロンガム(Bifidobacterium pseudolongum)、ビフィドバクテリウム・サーモフィラム(Bifidobacterium thermophilum)が挙げられる。ビフィドバクテリウム属細菌としては、特に、ビフィドバクテリウム・ロンガム、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・ビフィダムが挙げられる。ILA生産細菌としては、1種の細菌を用いてもよく、2種またはそれ以上の細菌を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
「ビフィドバクテリウム・ロンガム」には、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガム(B. longum subsp. longum)、ビフィドバクテリウム・ロンガム
・サブスピーシーズ・インファンティス(B. longum subsp. infantis)、ビフィドバク
テリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・スイス(B. longum subsp. suis)等の、ビフ
ィドバクテリウム・ロンガムのいずれの亜種に分類される株も包含される。「ビフィドバクテリウム・アニマリス」には、ビフィドバクテリウム・アニマリス・サブスピーシーズ・ラクティス(B. animalis subsp. lactis)等の、ビフィドバクテリウム・アニマリスのいずれの亜種に分類される株も包含される。「ビフィドバクテリウム・シュードロンガム」には、ビフィドバクテリウム・シュードロンガム・サブスピーシーズ・グロボッサム(B. pseudolongum subsp. globosum)やビフィドバクテリウム・シュードロンガム・サブスピーシーズ・シュードロンガム(B. pseudolongum subsp. pseudolongum)等の、ビフィドバクテリウム・シュードロンガムのいずれの亜種に分類される株も包含される。
【0033】
幼児型(infant-type)ヒト常在性ビフィズス菌(human-residential bifidobacteria
;HRB)は、成人型(adult-type)HRBおよび非HRB(non-HRB)と比較して顕著に高濃度のILAを生産することが報告されている(Non-patent document 4: Sakurai et al, Production of Indole-3-Lactic Acid by Bifidobacterium Strains Isolated from Human Infants. 2019 Sep 11;7(9).)。よって、本明細書で使用されるILA生産細菌の一例は、特に、幼児型HRBであってよい。幼児型HRBとしては、ビフィドバクテリウム・ロンガム(ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガムやビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティス等)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・ビフィダムが挙げられる。
【0034】
ビフィドバクテリウム・ロンガムとして、具体的には、BB536(NITE BP-02621)、ATCC
15697、ATCC 15707、ATCC 25962、ATCC 15702、ATCC 27533、M-63(NITE BP-02623)、BG7、DSM 24736、SBT 2928、NCC 490(CNCM I-2170)、NCC 2705(CNCM I-2618)が挙げられる。ビフィドバクテリウム・ロンガムとしては、特に、BB536、ATCC 15697、ATCC 15707、M-63が挙げられる。ビフィドバクテリウム・ロンガムとして、さらに特には、BB536が挙げられる。ビフィドバクテリウム・ロンガムとしては、1種の株を用いてもよく、2種またはそれ以上の株を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
ビフィドバクテリウム・ブレーベとして、具体的には、M-16V(NITE BP-02622)、MCC1274(FERM BP-11175)、ATCC 15700、B632(DSM 24706)、Bb99(DSM 13692)、ATCC 15698、DSM 24732、UCC2003、YIT4010、YIT4064、BBG-001、BR-03、C50、R0070が挙げられる。ビフィドバクテリウム・ブレーベとしては、特に、M-16V、 MCC1274、ATCC 15700が挙げられる。ビフィドバクテリウム・ブレーベとして、さらに特には、M-16Vが挙げられる。ビフィドバクテリウム・ブレーベとしては、1種の株を用いてもよく、2種またはそれ以上の株を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
ビフィドバクテリウム・ビフィダムとして、具体的には、ATCC 29521、NITE BP-02429
、NITE BP-02431、OLB6378、BF-1が挙げられる。ビフィドバクテリウム・ビフィダムとしては、特に、ATCC 29521、NITE BP-02429、NITE BP-02431が挙げられる。ビフィドバクテ
リウム・アドレセンティスとして、具体的には、ATCC 15703が挙げられる。ビフィドバクテリウム・デンティウムとして、具体的には、DSM 20436が挙げられる。ビフィドバクテ
リウム・アニマリスとして、具体的には、DSM 10140、Bb-12、DN-173 010、GCL2505、CNCM I-3446が挙げられる。ビフィドバクテリウム・シュードロンガムとして、具体的には、JCM 5820やATCC 25526が挙げられる。ビフィドバクテリウム・サーモフィラムとして、具体的には、ATCC 25525が挙げられる。
【0037】
ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガムBB536(NITE BP-02621)は、2018年1月26日付で、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(NPMD;郵便番号:292-0818、住所:日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)にブダペスト条約に基づく国際寄託がなされ、NITE BP-02621の受託番号が付与されている。
【0038】
ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスM-63(NITE BP-02623)は、2018年1月26日付で、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(NPMD;郵便番号:292-0818、住所:日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)にブダペスト条約に基づく国際寄託がなされ、NITE BP-02623の受託番号が付与されている。
【0039】
ビフィドバクテリウム・ブレーベM-16V(NITE BP-02622)は、2018年1月26日付で、独
立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(NPMD;郵便番号:292-0818、住所:日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)にブダペスト条約に基づく国際
寄託がなされ、NITE BP-02622の受託番号が付与されている。
【0040】
ビフィドバクテリウム・ブレーベMCC1274(FERM BP-11175)は、2009年8月25日付で、
独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(現 独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センター(IPOD)、郵便番号:292-0818、住所:日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)にブダペスト条約に基づく国際寄託がなされ、FERM BP-11175の受託番号が付与されている。
【0041】
ビフィドバクテリウム・ビフィダムNITE BP-02429は、2017年2月21日付で、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(NPMD;郵便番号:292-0818、住所:日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)にブダペスト条約に基づく国際寄託がな
され、NITE BP-02429の受託番号が付与されている。
【0042】
ビフィドバクテリウム・ビフィダムNITE BP-02431は、2017年2月21日付で、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(NPMD;郵便番号:292-0818、住所:日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)にブダペスト条約に基づく国際寄託がな
され、NITE BP-02431の受託番号が付与されている。
【0043】
これらの菌株は、例えば、American Type Culture Collection(ATCC, Address: 10801
University Boulevard Manassas, VA 20110, United States of America)、Belgian Coordinated Collections of Microorganisms(BCCM, Address: Rue de la Science 8, 1000 Brussels, Belgium)、または各菌株が寄託された寄託機関から入手できる。
【0044】
上記例示した菌株名で特定される菌株には、当該菌株名で所定の機関に寄託または登録されている株そのもの(以下、説明の便宜上、「寄託株」ともいう)に限られず、当該寄託株と実質的に同等な株(以下、「誘導株」ともいう)も包含される。すなわち、例えば、「ビフィドバクテリウム・ロンガムBB536」には、NITE BP-02621の寄託番号で上記寄託機関に寄託されている株そのものに限られず、当該寄託株と実質的に同等な株も包含される「寄託株と実質的に同等の株」とは、当該寄託株と同一の種に属し、ILAを生産することができ、その16SrRNA遺伝子の塩基配列が、当該寄託株の16SrRNA遺伝子の塩基配列に対して、好ましくは99.86%以上、より好ましくは99.93%以上、さらに好ましくは100%の同一性を有し、且つ、好ましくは当該寄託株と同一の生物学的性質を有する株を意味する。寄託株と実質的に同等の株は、例えば、当該寄託株を親株として得られた派生株であってよい。派生株としては、寄託株から育種された株や寄託株から自然に生じた株が挙げられる。育種方法としては、遺伝子工学的手法による改変や、突然変異処理による改変が挙げられる。突然変異処理としては、X線の照射、紫外線の照射、変異剤(N-メチル-N'-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(MNNG)、エチルメタンスルフォネート(EMS)、メチルメタンスルフォネート(MMS)等)による処理が挙げられる。寄託株から自然に生じた株としては、寄託株の使用の際に自然に生じた株が挙げられる。寄託株の使用としては、寄託株の培養(例えば継代培養)が挙げられる。派生株は、1種の改変により構築されてもよく、2種またはそれ以上の改変により構築されてもよい。
【0045】
ILA生産細菌としては、市販品を用いてもよく、適宜製造して取得したものを用いても
よい。市販品としては、森永乳業社製のビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・ロンガムBB536、ビフィドバクテリウム・ブレーベM-16V、ビフィドバクテリウム・ロンガム・サブスピーシーズ・インファンティスM-63が挙げられる。
【0046】
有効成分としての「インドール-3-乳酸生産細菌(ILA生産細菌)」とは、具体的に
は、ILA生産細菌の菌体を意味してよい。ILA生産細菌の菌体は、ILA生産細菌を培養する
ことにより容易に取得することができる。培養方法は、ILA生産細菌が増殖できる限り、
特に制限されない。培養方法としては、例えば、ビフィドバクテリウム属細菌の培養に通常用いられる方法を、そのまま、あるいは適宜修正して、用いることができる。培養温度は、例えば、25~50℃であってよく、好ましくは35~42℃であってよい。培養は、好ましくは嫌気条件下で実施することができ、例えば、炭酸ガス等の嫌気ガスを通気しながら実施することができる。あるいは、培養は、液体静置培養等の微好気条件下で実施することもできる。培養は、例えば、ILA生産細菌が所望の程度に増殖するまで実施することができる。
【0047】
培養に用いる培地は、ILA生産細菌がILAを生産できる限り、好ましくはILA生産細菌がILAを生産でき且つ増殖できる限り、特に制限されない。培地としては、例えば、ビフィドバクテリウム属細菌の培養に通常用いられる培地を、そのまま、あるいは適宜修正して、用いることができる。培地は、例えば、炭素源、窒素源、無機塩、有機成分、乳成分、またはそれらの組み合わせを含有していてよい。炭素源としては、ガラクトース、グルコース、フルクトース、マンノース、セロビオース、マルトース、ラクトース、スクロース、トレハロース、デンプン、デンプン加水分解物、廃糖蜜等の糖類が挙げられ、これらの糖類はいずれもILA生産細菌の資化性に応じて用いることができる。窒素源としては、アンモニアや、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム等のアンモニウム塩または硝酸塩が挙げられる。無機塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸カリウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、塩化マンガン、硫酸第一鉄が挙げられる。有機成分としては、ペプトン、大豆粉、脱脂大豆粕、肉エキス、酵母エキスが挙げられる。乳成分としては、乳タンパク質が挙げられる。乳タンパク質としては、カゼイン、ホエイ、それらの分解物が挙げられる。これらの成分は、単独で、あるいは適宜組み合わせて利用してよい。ILA生産細菌の培養に使用できる培地として、具体的には、強化クロストリジア培地(Reinforced Clostridial medium)、MRS培地(de Man, Rogosa, and Sharpe medium)、mMRS培地(modified MRS medium)、TOSP培地(TOS propionate medium)、TOSP Mup培地(TOS propionate mupirocin medium)が挙げられる。
【0048】
ILA生産細菌としては、ILA生産細菌の菌体そのものまたはそれを含有する画分を用いる
ことができる。すなわち、ILA生産細菌としては、例えば、ILA生産細菌の培養液をそのまま用いてもよく、培養液から回収した菌体を用いてもよい。また、菌体またはそれを含有する画分は、処理に供してから用いてもよい。処理は、神経促進効果を損なわない限り、特に制限されない。処理は、好ましくは、菌体の生残性をそれほど低下させないものであってよい。処理としては、希釈、濃縮、凍結、乾燥が挙げられる。すなわち、ILA生産細菌(具体的にはILA生産細菌の菌体)としては、ILA生産細菌の培養液、同培養液から回収した菌体、それらの処理物(希釈物、濃縮物、凍結物、乾燥物等)が挙げられる。処理として、具体的には、培養液の凍結、噴霧乾燥、凍結乾燥、オイルドロップ法が挙げられる。菌体は、投与後にILAが生産されるように、生菌体を含有する。菌体は、死菌体を含有していてもよく、いなくてもよい。
【0049】
有効成分としては、例えば、ILAとILA生産細菌の両方を含有する画分を用いてもよい。例えば、ILA生産細菌の培養液またはその処理物は、ILAとILA生産細菌の両方を含有して
よい。
【0050】
<2>本発明の組成物
本発明の組成物は、有効成分を含有する組成物である。
【0051】
すなわち、本発明の組成物は、下記成分(A)および/または(B)を含有する組成物である:
(A)インドール-3-乳酸;
(B)インドール-3-乳酸生産細菌。
【0052】
本発明の組成物は、対象に投与して利用できる。本発明の組成物は、具体的には、本発明の方法に記載するように対象に投与することができる。本発明の組成物は、例えば、神経促進効果を得るために利用することができる。
【0053】
本発明の組成物を利用することにより、具体的には本発明の組成物を対象に投与することにより、当該対象において神経突起伸長が改善されてよく、すなわち、神経突起伸長改善効果が得られてよい。すなわち、本発明の組成物は、例えば、神経突起伸長改善用組成物であってよい。
【0054】
本発明の組成物を利用することにより、具体的には本発明の組成物を対象に投与することにより、神経細胞分化が促進されてよく、すなわち、神経細胞分化促進効果が得られてよい。すなわち、本発明の組成物は、例えば、神経細胞分化促進用組成物であってよい。神経突起伸長改善用組成物は、神経細胞分化促進用組成物の一例であってよい。
【0055】
本発明の組成物を利用することにより、具体的には本発明の組成物を対象に投与することにより、神経細胞分化の促進および/または神経突起伸長の改善に基づく効果が得られてよい。すなわち、本発明の組成物は、例えば、神経細胞分化の促進および/または神経突起伸長の改善に基づく効果を得るための組成物であってよい。本発明の組成物は、具体的には、例えば、神経障害に関連する症状の予防、改善、および/または治療用の組成物であってもよい。神経細胞分化の促進および/または神経突起伸長の改善に基づく効果を得るための組成物(神経障害に関連する症状の予防、改善、および/または治療用の組成物等)は、神経細胞分化促進用組成物および/または神経突起伸長改善用組成物の一例であってよい。
【0056】
本発明の組成物が投与される対象については、本発明の方法における有効成分が投与される対象についての記載を準用できる。
【0057】
本発明の組成物は、例えば、飲食品組成物、医薬組成物、または飼料組成物であってよい。本発明の組成物は、特に、飲食品組成物または医薬組成物であってよい。すなわち、本発明は、例えば、神経促進効果を得るための(例えば、神経細胞分化促進用、神経突起伸長改善用、および/または神経障害に関連する症状の予防、改善、および/または治療用の)飲食品組成物を提供してよい。また、本発明は、例えば、神経促進効果を得るための(例えば、神経細胞分化促進用、神経突起伸長改善用、および/または神経障害に関連する症状の予防、改善、または治療用の)医薬組成物を提供してよい。また、本発明は、例えば、神経促進効果を得るための(例えば、神経細胞分化促進用、神経突起伸長改善用、および/または神経障害に関連する症状の予防、改善、および/または治療用の)飼料組成物を提供してよい。飲食品組成物、医薬組成物、または飼料組成物である本発明の組成物を、それぞれ、「本発明の飲食品組成物」、「本発明の医薬組成物」、または「本発明の飼料組成物」ともいう。
【0058】
本発明の組成物は、有効成分からなるものであってもよく、有効成分に加えて追加の成分を含有していてもよい。
【0059】
追加の成分は、神経促進効果を損なわない限り、特に制限されない。追加の成分としては、本発明の組成物の利用態様に応じて許容可能なものを利用できる。追加の成分としては、飲食品、医薬品、または飼料に配合して利用され得る成分が挙げられる。追加の成分として、具体的には、後述する飲食品組成物、医薬組成物、または飼料組成物について例示する成分が挙げられる。追加の成分としては、1種の成分を用いてもよく、2種またはそれ以上の成分を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
本発明の組成物における成分(すなわち、有効成分および任意で(optionally)追加の成分)の含有量およびその比率は、神経促進効果が達成される限り、特に制限されない。本発明の組成物における成分の含有量およびその比率は、有効成分の種類、追加の成分の種類、本発明の組成物の種類、剤形、および用法、投与対象の種類、年齢、および健康状態等の諸条件に応じて適宜設定することができる。
【0061】
本発明の組成物における有効成分の含有量は、例えば、ILAの量に換算して、0.001重量%以上、0.005重量%以上、0.01重量%以上、0.05重量%以上、0.1重量%以上、0.5重量%以上、1重量%以上、5重量%以上、10重量%以上、30重量%以上、50重量%以上、70重量%以上、または90重量%以上であってもよく、99.99重量%以下、99重量%以下、90重量%以下、70重量%以下、50重量%以下、30重量%以下、10重量%以下、5重量%以下、または1重量%以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせの範囲であってもよい。
【0062】
本発明の組成物における有効成分の含有量は、例えば、ILA生産細菌の菌体の量に換算
して、1x104cells/g以上、1x105cells/g以上、1x106 cells/g以上、1x107 cells/g以上、または1x108cells/g以上であってもよく、1x1013 cells/g以下、1x1012 cells/g以下、または1x1011 cells/g以下であってもよく、それらの組み合わせの範囲であってもよい。また、本発明の組成物における有効成分の含有量は、例えば、ILA生産細菌の菌体の量に換
算して、1x104cells/mL以上、1x105cells/mL以上、1x106 cells/mL以上、1x107 cells/mL以上、または1x108cells/mL以上であってもよく、1x1013cells/mL以下、1x1012cells/mL
以下、または1x1011 cells/mL以下であってもよく、それらの組み合わせの範囲であって
もよい。本発明の組成物における有効成分の含有量は、具体的には、例えば、ILA生産細
菌の菌体の量に換算して、1x104~1x1013 cells/g、1x105~1x1013 cells/g、1x106~1x1012 cells/g、好ましくは1x107~1x1011 cells/g、より好ましくは1x108~1x1010 cells/gであってもよい。本発明の組成物における有効成分の含有量は、具体的には、例えば、ILA生産細菌の菌体の量に換算して、1x104~1x1013 cells/mL、1x105~1x1013 cells/mL、1x106~1x1012 cells/mL、好ましくは1x107~1x1011 cells/mL、より好ましくは1x108~1x1010 cells/mLであってもよい。「cells」は、「cfu」と読み替えてもよい。「cfu」は、colony forming unit(コロニー形成単位)を表す。
【0063】
本発明の組成物における有効成分の含有量は、例えば、本発明の方法において言及する有効成分の投与量が達成されるように設定してもよい。
【0064】
本発明の組成物の形状は、特に制限されない。本発明の組成物の形状としては、本発明の組成物の利用態様に応じて許容可能なものを採用できる。本発明の組成物の形状として、具体的には、後述する飲食品組成物、医薬組成物、または飼料組成物について例示する形状が挙げられる。
【0065】
或る態様において、本発明は、下記成分(A)および/または(B)を有効成分として含む、医薬用途の組成物に関する:
(A)インドール-3-乳酸;
(B)インドール-3-乳酸生産細菌。
【0066】
一態様において、本発明は、神経成長因子(NGF)の存在下で使用される下記成分(A
)および/または(B)を有効成分として含む、医薬用途の組成物に関する:
(A)インドール-3-乳酸;
(B)インドール-3-乳酸生産細菌。
【0067】
特定の態様において、本発明は、インドール-3-乳酸またはインドール-3-乳酸生産細菌を含む、神経障害に関連する症状の予防、改善、および/または治療における使用のための組成物に関する。特定の態様において、本発明は、インドール-3-乳酸またはインドール-3-乳酸生産細菌を含む、対象における神経促進効果の達成における使用のための組成物に関する。特定の態様において、本発明は、インドール-3-乳酸またはインドール-3-乳酸生産細菌を含む、対象における神経細胞分化の促進または神経突起伸長の改善における使用のための組成物に関する。特定の態様において、本発明は、インドール-3-乳酸またはインドール-3-乳酸生産細菌を含む、神経細胞分化の障害または神経突起伸長の障害を伴う疾患に関連する症状の予防、改善、および/または治療における使用のための組成物に関する。或る態様において、本発明による使用のための組成物は、医薬組成物または飲食品組成物である。或る態様において、本発明による使用のための組成物は、医薬組成物である。
【0068】
<飲食品組成物>
本発明の飲食品組成物は、有効成分を含有する限り、特に制限されない。飲食品組成物は、液体、ペースト、固体、粉末等の任意の形状で提供されてよい。
【0069】
飲食品組成物は、例えば、飲食品そのものであってもよく、飲食品の製造に利用される素材であってもよい。そのような素材としては、調味料、食品添加物、その他の食品原料が挙げられる。飲食品組成物として、具体的には、小麦粉製品、即席食品、農産加工品、水産加工品、畜産加工品、乳製品(発酵乳、チーズ、育児用調製粉乳、等)、油脂、基礎調味料、複合調味料、冷凍食品、菓子、飲料、その他の市販の飲食品が挙げられる。飲食品組成物として、具体的には、健康食品、機能性食品、経腸栄養食品、特別用途食品、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品、等)、栄養補助食品、医薬部外品も挙げられる。飲食品組成物は、例えば、タブレット状のサプリメント等のサプリメントであってもよい。
【0070】
本発明の飲食品組成物は、例えば、有効成分と追加の成分を組み合わせることにより製
造できる。有効成分と追加の成分を組み合わせる操作を、「有効成分の添加」ともいう。本発明の飲食品組成物の製造方法は、特に制限されない。本発明の飲食品組成物は、有効成分を添加すること以外は、例えば、通常の飲食品と同様の原料を用いて通常の飲食品と同様の方法により製造することができる。本発明の飲食品組成物が飲食品の製造に利用される素材として製造される場合も同様である。有効成分の添加は、飲食品組成物の製造工程のいずれの段階で実施してもよい。有効成分の添加は、例えば、飲食品組成物の製造途中または製造後に実施してよい。すなわち、例えば、予め調製された飲食品に有効成分を添加して本発明の飲食品組成物を製造してもよい。また、本発明の飲食品組成物は、有効成分による発酵工程(具体的にはILA生産細菌による発酵工程)による発酵工程を経て、
製造されてもよい。発酵工程を経て製造される飲食品組成物としては、発酵乳やプロバイオティクス飲料等の発酵製品が挙げられる。すなわち、有効成分(具体的にはILA生産細
菌)は、例えば、発酵製品の製造用のスターターとして使用してよい。当然、有効成分は、予め調製された発酵製品に添加することもできる。
【0071】
また、本発明の飲食品組成物を用いて、別の飲食品組成物を製造することもできる。すなわち、例えば、本発明の飲食品組成物が飲食品の製造に利用される素材(調味料、食品添加物、その他の飲食品原料、等)として提供される場合、本発明の飲食品組成物の添加により別の飲食品組成物が製造されてよい。そのような別の飲食品組成物も、本発明の飲食品組成物の一例である。飲食品組成物の製造における本発明の飲食品組成物の添加については、飲食品組成物の製造における有効成分の添加についての記載を準用できる。
【0072】
本発明の飲食品組成物は、神経細胞分化促進用、神経突起伸長改善用、および/または神経障害に関連する症状の予防、改善、および/または治療用等の想定する用途(保健用途を含む)が表示された飲食品として提供および販売されてよい。本発明の飲食品組成物は、想定する対象が表示された飲食品として提供および販売されてよい。
【0073】
「表示」には、需要者に対して前記用途を知らしめるための全ての行為が含まれ、前記用途を想起または類推させうるような表現であれば、表示の目的、内容、対象物、および媒体によらず、全て「表示」に該当する。表示は、特に、需要者が前記用途を直接的に認識できるような表現により実施されてよい。
【0074】
表示として、具体的には、本発明の飲食品組成物に係る商品又は商品の包装に前記用途を記載したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引き渡しのために展示し、輸入する行為や、商品に関する広告、価格表若しくは取引書類に上記用途を記載して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に上記用途を記載して電磁気的(インターネット等)方法により提供する行為が挙げられる。表示としては、特に、包装、容器、カタログ、パンフレット、販売現場における宣伝材(POP等)、またはその他の書類への表示が挙げられる。
【0075】
表示としては、健康食品、機能性食品、経腸栄養食品、特別用途食品、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品、等)、栄養補助食品、および医薬部外品としての表示が挙げられる。表示は、好ましくは、行政等によって認可される表示(例えば、行政が定める各種制度に基づいて認可を受け、そのような認可に基づいた態様で行う表示等)であってよい。行政等によって認可される表示としては、消費者庁によって認可される表示が挙げられる。消費者庁によって認可される表示としては、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品、等)の制度およびそれに類似する制度にて認可される表示が挙げられる。消費者庁によって認可される表示として、具体的には、特定保健用食品としての表示、条件付き特定保健用食品としての表示、身体の構造や機能に影響を与える旨の表示、疾病リスク減少表示、科学的根拠に基づいた機能性の表示が挙げられる。消費者庁によって認可される表示として、より具体的には、健康増進法に規定する特別用途表示の許可等に関する内閣府令(平成二十一年八月三十一日内閣府令第五十七号)に定められた特定保健用食品としての表示(特に保健の用途の表示)およびそれに類似する表示が挙げられる。
【0076】
本発明の飲食品組成物における有効成分の含有量は、例えば、上述の範囲であってよい。本発明の飲食品組成物における有効成分の含有量は、特に、例えば、ILA生産細菌の菌体の量に換算して、1x104~1x1013 cells/g、1x105~1x1013 cells/g、1x106~1x1012 cells/g、好ましくは1x107~1x1011 cells/g、より好ましくは1x108~1x1010 cells/gであ
ってよい。また、本発明の飲食品組成物における有効成分の含有量は、特に、例えば、ILA生産細菌の菌体の量に換算して、1x104~1x1013 cells/mL、1x105~1x1013 cells/mL、1x106~1x1012 cells/mL、好ましくは1x107~1x1011 cells/mL、より好ましくは1x108~1x1010 cells/mLであってよい。
【0077】
<医薬組成物>
本発明の医薬組成物は、有効成分を含有する限り、特に制限されない。
【0078】
本発明の医薬組成物は、所望の剤形に適宜製剤化されてよい。本発明の医薬組成物の剤形は、特に制限されない。本発明の医薬組成物の剤形は、投与方法等の諸条件に応じて適宜選択することができる。本発明の医薬組成物は、経口投与用であってもよく、非経口投与用であってもよい。本発明の医薬組成物は、特に、経口投与用であってよい。経口投与の場合、剤形としては、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤等の固形剤や、溶液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤等の液剤が挙げられる。非経口投与の場合、剤形としては、座剤や軟膏剤が挙げられる。
【0079】
製剤化の方法は、特に制限されない。製剤化は、例えば、剤形に応じた公知の方法により実施できる。製剤化にあたっては、生理的に許容される添加剤を使用することができる。添加剤としては、各種の有機成分および無機成分が挙げられる。添加剤として、具体的には、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味矯臭剤、pH調整剤、着色剤、希釈剤、界面活性剤、溶剤が挙げられる。これら添加剤は、例えば、剤形等の諸条件に応じて適宜選択することができる。
【0080】
賦形剤としては、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール、ソルビトール等の糖誘導体;トウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン、α-デンプン、デキストリン、カルボキシメチルデンプン等のデンプン誘導体;結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム等のセルロース誘導体;アラビアゴム;デキストラン;プルラン;軽質無水珪酸、合成珪酸アルミニウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウム等の珪酸塩誘導体;リン酸カルシウム等のリン酸塩誘導体;炭酸カルシウム等の炭酸塩誘導体;硫酸カルシウム等の硫酸塩誘導体が挙げられる。
【0081】
結合剤としては、上記賦形剤の他、ゼラチン;ポリビニルピロリドン;マクロゴール等挙げられる。
【0082】
崩壊剤としては、上記賦形剤の他、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルデンプンナトリウム、架橋ポリビニルピロリドン等の化学修飾されたデンプンまたはセルロース誘導体が挙げられる。
【0083】
滑沢剤としては、タルク;ステアリン酸;ステアリン酸カルシウムやステアリン酸マグネシウム等のステアリン酸金属塩;コロイドシリカ;ビーカムやゲイロウ等のワックス;硼酸;グリコール;フマル酸やアジピン酸等のカルボン酸;安息香酸ナトリウム等のカル
ボン酸ナトリウム塩;硫酸ナトリウム等の硫酸塩;ロイシン;ラウリル硫酸ナトリウムやラウリル硫酸マグネシウム等のラウリル硫酸塩;無水珪酸や珪酸水和物等の珪酸;デンプン誘導体が挙げられる。
【0084】
安定剤としては、メチルパラベンやプロピルパラベン等のパラオキシ安息香酸エステル;クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール等のアルコール;塩化ベンザルコニウム;無水酢酸;ソルビン酸が挙げられる。
【0085】
矯味矯臭剤としては、甘味料、酸味料、香料が挙げられる。
【0086】
本発明の医薬組成物における有効成分の含有量は、例えば、上述の範囲であってよい。本発明の医薬組成物における有効成分の含有量は、特に、例えば、ILA生産細菌の菌体の
量に換算して、1x104~1x1013 cells/g、1x105~1x1013 cells/g、1x106~1x1012 cells/g、好ましくは1x107~1x1011 cells/g、より好ましくは1x108~1x1010 cells/gであってよい。また、本発明の医薬組成物における有効成分の含有量は、特に、例えば、ILA生産細菌の菌体の量に換算して、1x104~1x1013 cells/mL、1x105~1x1013 cells/mL、1x106~1x1012 cells/mL、好ましくは1x107~1x1011 cells/mL、より好ましくは1x108~1x1010 cells/mLであってよい。
【0087】
<飼料組成物>
本発明の飼料組成物は、有効成分を含有する限り、特に制限されない。飼料組成物としては、ペットフードや家畜飼料が挙げられる。飼料組成物は、粉末、顆粒、クランブル、ペレット、キューブ、ペースト、液体等の任意の形状で提供されてよい。
【0088】
本発明の飼料組成物は、例えば、有効成分と追加の成分を組み合わせることにより製造できる。有効成分と追加の成分を組み合わせる操作を、「有効成分の添加」ともいう。本発明の飼料組成物の製造方法は、特に制限されない。本発明の飼料組成物は、有効成分を添加すること以外は、例えば、通常の飼料と同様の原料を用いて通常の飼料と同様の方法により製造することができる。有効成分の添加は、飼料組成物の製造工程のいずれの段階で実施してもよい。有効成分の添加は、例えば、飼料組成物の製造途中または製造後に実施してよい。すなわち、例えば、予め調製された飼料に有効成分を添加して本発明の飼料組成物を製造してもよい。また、本発明の飼料組成物は、有効成分による発酵工程(具体的にはILA生産細菌による発酵工程)による発酵工程を経て、製造されてもよい。発酵工
程を経て製造される飼料組成物としては、サイレージが挙げられる。
【0089】
<3>本発明の方法
本発明の方法は、有効成分を対象に投与することを含む方法である。同工程を、「投与工程」ともいう。有効成分が投与される対象を、「投与対象」ともいう。
【0090】
すなわち、本発明の方法は、下記成分(A)および/または(B)を対象に投与することを含む方法である:
(A)インドール-3-乳酸;
(B)インドール-3-乳酸生産細菌。
【0091】
本発明の方法は、例えば、神経促進効果を得るために実施できる。
【0092】
本発明の方法を利用することにより、具体的には有効成分を対象に投与することにより、当該対象において神経突起伸長が改善されてよく、すなわち、神経突起伸長改善効果が得られてよい。すなわち、本発明の方法は、例えば、神経突起伸長を改善する方法であってよい。
【0093】
本発明の方法を利用することにより、具体的には有効成分を対象に投与することにより、神経細胞分化が促進されてよく、すなわち、神経細胞分化促進効果が得られてよい。すなわち、本発明の方法は、例えば、神経細胞分化を促進する方法であってよい。神経突起伸長を改善する方法は、神経細胞分化を促進する方法の一例であってよい。
【0094】
本発明の方法を利用することにより、具体的には有効成分を対象に投与することにより、神経細胞分化の促進および/または神経突起伸長の改善に基づく効果が得られてよい。すなわち、本発明の方法は、例えば、神経細胞分化の促進および/または神経突起伸長の改善に基づく効果を得る方法であってよい。本発明の方法は、具体的には、例えば、神経障害に関連する症状を予防、改善、および/または治療する方法であってもよい。神経細胞分化の促進および/または神経突起伸長の改善に基づく効果を得る方法(神経障害に関連する症状を予防、改善、および/または治療する方法等)は、神経細胞分化を促進する方法または神経突起伸長を改善する方法の一例であってよい。
【0095】
なお、「有効成分を対象に投与する」ことは、「対象に有効成分を摂取させる」ことと代替可能または等価に使用され得る。摂取は、自発的なもの(すなわち自由摂取)であってもよく、強制的なもの(すなわち強制摂取)であってもよい。すなわち、投与工程は、例えば、有効成分(これは飲食品または飼料に配合されていてよい)を対象に供給し、以て対象に有効成分を自由摂取させる工程であってよい。投与は、経口投与であってもよく、非経口投与であってもよい。投与は、典型的には経口投与であってよい。非経口投与としては、経管投与、直腸内投与、鼻腔内投与が挙げられる。
【0096】
有効成分の投与条件(例えば、投与対象、投与期間、投与回数、投与量、その他投与に係る条件)は、神経促進効果が達成される限り、特に制限されない。有効成分の投与条件は、有効成分の種類や、投与対象の種類、年齢、および健康状態等の諸条件に応じて適宜設定することができる。
【0097】
投与対象は、神経促進効果が達成される限り、特に制限されない。投与対象としては、哺乳動物が挙げられる。哺乳動物としては、ヒト、サル、チンパンジー等の霊長類、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等の齧歯類、ウサギ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、イヌ、ネコ等の他の各種哺乳動物が挙げられる。哺乳動物としては、特に、ヒトが挙げられる。投与対象(例えば哺乳動物)は、例えば、ペット動物、家畜、または実験動物であってよい。投与対象は、オスの被験体であってもよく、メスの被験体であってもよい。投与対象は、例えば、幼児、小児、大人、中高年、高齢者等のいずれの年代の被験体であってもよい。投与対象は、例えば、健常被験体であってもよく、非健常被験体であってもよい。非健常被験体としては、神経障害に関連する症状を呈する被験体が挙げられる。
【0098】
有効成分の投与量は、例えば、ILAの投与量に換算して、0.001 mg/kg体重/日以上、0.01 mg/kg体重/日以上、0.1 mg/kg体重/日以上、1 mg/kg体重/日以上、10 mg/kg体重/日以上、100 mg/kg体重/日以上、または1000 mg/kg体重/日以上であってもよく、10000 mg/kg体重/日以下、1000 mg/kg体重/日以下、100 mg/kg体重/日以下、10 mg/kg体重/日以下、1 mg/kg体重/日以下、0.1 mg/kg体重/日以下、または0.01 mg/kg体重/日以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせの範囲であってもよい。有効成分の投与量は、具体的には、例えば、0.001~10000 mg/kg体重/日、好ましくは0.1~1000 mg/kg体重/日、より好ましくは1~100 mg/kg体重/日、さらに好ましくは10~100 mg/kg体重/日であってもよい。
【0099】
有効成分の投与量は、例えば、ILA生産細菌の菌体の投与量に換算して、1x106cells/kg
体重/日以上、1x107 cells/kg体重/日以上、または1x108 cells/kg体重/日以上であって
もよく、1x1012 cells/kg体重/日以下、1x1011 cells/kg体重/日以下、または1x1011cells/kg体重/日以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせの範囲であってもよい。有効成分の投与量は、具体的には、例えば、ILA生産細菌の菌体の投与量に換算して、1x106~1x1012 cells/kg体重/日、好ましくは1x107~1x1011 cells/kg体重/日、より好ましくは1x108~1x1010 cells/kg体重/日であってもよい。「cells」は、「cfu」と読み替えてもよい。
【0100】
有効成分の投与期間は、例えば、1日以上、3日以上、1週以上、2週以上、4週以上、2月以上、3月以上、4月以上、6月以上、9月以上、または12月以上であってもよく、10年以下、5年以下、1年以下、または6月以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせの範囲であってもよい。有効成分は、例えば、対象の生涯を通じて投与されてもよく、対象の生涯の一部の期間に投与されてもよい。有効成分は、例えば、少なくとも、神経促進効果が達成されるまで投与してよい。有効成分は、例えば、毎日投与してもよく、数日に1回投与してもよい。有効成分は、特に、毎日投与してよい。各投与時の有効成分の投与量は、一定であってもよく、そうでなくてもよい。
【0101】
有効成分は、例えば、そのまま対象に投与されてもよく、有効成分を含有する、飲食品組成物、医薬組成物、または飼料組成物等の組成物として調製され、対象に投与されてもよい。有効成分を含有する組成物については、本発明の組成物の記載を準用できる。有効成分は、単独で投与されてもよく、追加の成分と組み合わせて投与されてもよい。追加の成分としては、飲食品、医薬品、飼料、およびそれらに含有される成分が挙げられる。また、本発明の方法で使用される追加の成分については、本発明の組成物に含有される追加の成分の記載を準用できる。
【0102】
有効成分は、例えば、本発明の組成物を利用して(具体的には、本発明の組成物を対象に投与することにより)、対象に投与することもできる。すなわち、本発明の方法の一態様は、本発明の組成物を対象に投与することを含む方法であってよい。すなわち、「有効成分の投与」には、本発明の組成物の投与も包含される。本発明の組成物の投与条件(例えば、投与対象、投与期間、投与回数、投与量、その他投与に係る条件)は、神経促進効果が達成される限り、特に制限されない。本発明の組成物の投与条件は、有効成分の種類や含有量、追加の成分の種類や含有量、組成物の種類や剤形、投与対象の種類、年齢、および健康状態等の諸条件に応じて適宜設定することができる。本発明の組成物の投与条件については、有効成分の投与条件についての記載を準用できる。すなわち、本発明の組成物は、例えば、上記例示したような対象に投与してよい。また、本発明の組成物の投与量は、例えば、上記例示したような有効成分の投与量が得られるように設定することができる。また、本発明の組成物は、単独で投与されてもよく、追加の成分と組み合わせて投与されてもよい。
【実施例】
【0103】
以下、非限定的な実施例を参照して、本発明をさらに具体的に説明する。
【0104】
<1>材料と方法
試験化合物および試薬
インドール-3-乳酸(ILA)は、東京化成工業株式会社(東京,日本)から購入した
。インドール-3-プロピオン酸(IPA)は、Merck(東京,日本)から購入した。トリプトファン、パパベリン塩酸塩、α-ナフトフラボン(AFN)、CH223191、およびその他の
化学物質は、特記しない限り、Sigma-Aldrich(St. Louis, MO, USA)から購入した。ジ
メチルスルホキシド(DMSO)およびメタノールは、Wako(大阪,日本)から入手した。ANFおよびCH223191は、10 mMの濃度でDMSOに溶解した。これらのストック溶液を、滅菌したMilliQ水で段階的に希釈し、分析試料を調製した。神経成長因子(NGF; 2.5S)は、Alomone Labs社(Jerusalem, Israel)から購入した。
【0105】
<1-1>細胞培養
PC12細胞(ラット副腎褐色細胞腫細胞株)は、European Collection of Authenticated
Cell Cultures(ECACC 88022401; Salisbury, UK)から購入した。浮遊細胞は、5% CO2
雰囲気下、37℃で、10% (v/v) 熱不活化馬血清(HS; Gibco Life Technologies)、5% (v/v) 牛胎児血清(FBS; Gibco Life Technologies)、および0.1% (v/v) penicillin/streptomycin(Gibco Life Technologies)を添加したRoswell Park Memorial Institute 1640培地(RPMI; Gibco Life Technologies, Grand Island, NY, USA)で維持した。培地は
、3日ごとに交換した。
【0106】
<1-2>トリプトファンおよびその代謝物の用量反応性
PC12細胞(継代数<13)を、完全増殖培地(10% (v/v) HS, 5% (v/v) FBS, and 1% (v/v) penicillin/streptomycinを添加したRPMI)を入れたIV型コラーゲンコート24ウェル培養プレート(静岡県いわき、日本)に10,000 cells/mL per wellの密度で播種し、24時間培養した。その後、細胞を、低血清培地(1% v/v HS)に24時間交換した。その後、細胞を、NGF(25 ng/mL)と、広い範囲の終濃度(1 μM、100 nM、10 nM、および1 nM)の試験化合物(ILA、IPA、またはトリプトファン)で5日間連続処理した。3日目に低血清培地と試験化合物を交換した。同条件で添加したパパベリン塩酸塩をポジティブコントロールとして用いた。非処理コントロール(NGFなしの細胞)とNGFコントロール(NGFのみで処理した細胞)も同じ条件で培養した。その後、細胞を、神経突起伸長の定量化のための免疫蛍光染色とアセチルコリンエステラーゼアッセイに供した。その後、試験化合物の最大有効濃度を選択してさらなる分析を実施した。
【0107】
<1-3>免疫蛍光染色
5日間の処理の後、透明なコラーゲンIVコートプレートに入れた細胞を、室温のリン酸
緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗浄し、無水メタノール(予め-20℃に冷却したもの)で5分間固定した。細胞を、氷冷したPBSで3回洗浄し、ブロッキングバッファーPBST(0.1% (v/v) Tween-20含有PBS中の1% (w/v) ウシ血清アルブミン、10% (v/v) 正常ヤギ血清、および0.3 M グリシン)で1時間インキュベートした。その後、細胞体と突起部を、1% (w/v) 牛血清アルブミンを含むPBSTで希釈した抗βIII-チューブリンマウス一次抗体(1 μg/mL; Abcam, Cambridge, UK)を用いて4℃で一晩標識し、続いてAlexa Fluor 488標識ヤギ抗マウス二次抗体(2 μg/mL; Abcam)を用いて遮光しながら室温で1時間標識した。核染色のために、細胞を、Cellstain(R) 4’,6’-Diamidino-2-phenylindole(DAPI; Dojindo Molecular Technologies、熊本、日本)を用いて37℃で10分間対比染色した。その後、プレートを、画像取得と神経突起伸長の分析に供した。
【0108】
<1-4>神経突起伸長の定量
蛍光標識した細胞を含むプレートを、マルチバンドパス発光フィルターと対応する青チャンネル(核)および緑チャンネル(細胞体および突起)用の励起フィルターを用いて倒立蛍光顕微鏡(DP73; Olympus、東京、日本)で100倍の倍率で観察した。1ウェルあたり4枚の画像を撮影した。細胞体の長さの少なくとも1.5倍以上の長さの突起を提示する細胞を陽性とみなし、神経突起を有する細胞としてカウントした。カウントは盲検法で実施した。神経突起を有する細胞のパーセンテージは、神経突起の数を細胞の総数で割ったパーセンテージとして算出した。各データポイントは、独立した3つのウェルから得られたカウントに対応する。
【0109】
<1-5>アセチルコリンエステラーゼ(AchE)活性の解析
PC12細胞の神経細胞分化の生化学的マーカーであるAchE活性に対するトリプトファンお
よびその代謝物の影響を調べるために、各サンプルの内在性AchE酵素によるアセチルチオコリンの加水分解から生成されるチオコリンを蛍光比色法で定量した。簡潔には、PC12細胞を生育させ、前述のように5日間連続で処理した。その後、細胞を、150 mM NaCl、50 mM Tris (pH 8.0)、2 mM EDTA (pH 8.0)、および1% (v/v) NP-40を含有する氷冷したNP-40細胞溶解バッファーで溶解した。細胞ライセートのAchE活性は、Amplite Fluorimetric Acetylcholinesterase Assay Kit(AAT Bioquest, Sunnyvale, CA, USA)を製造元の指示
の通りに使用して決定した。アッセイシグナルは、蛍光吸光マイクロプレートリーダーを用いてEx/Em = 490/520 nmで読み取った。AchE活性を標準曲線から求め、各サンプル中のタンパク質濃度で正規化した。タンパク質濃度は、ウシ血清アルブミンを標準物質として、bicinchoninic acid (BCA) protein assay kit(Invitrogen, Paisley, UK)を用いて測定した。
【0110】
<1-6>ウェスタンブロットによるphospho-TrkA、ERK、phospho-ERK, CREB、およびphospho-CREBタンパク質の解析
PC12細胞(継代数<13)を、完全増殖培地を入れたIV型コラーゲンコート24ウェル培養プレートに50,000 cells/mL per wellの密度で播種し、24時間培養した後、低血清培地(1% v/v HS)に24時間移してから、NGF (25 ng/mL)と試験化合物(ポジティブコントロール;終濃度100 nMのILA、IPA、またはトリプトファン)に24時間曝露した。非処理コントロール(NGFなしの細胞)とNGFコントロール(NGFのみで処理した細胞)も同じ条件で培養した。処理に続いて、細胞を、氷冷したPBSで洗浄し、150 mM NaCl、50 mM Tris (pH 8.0)、2 mM EDTA (pH 8.0)、および1% (v/v) NP-40を含有する氷冷したNP-40細胞溶解バッファー中で掻き取り、氷上で15分間インキュベートした。4℃で遠心分離(8,000 g、15分間)して細胞ライセートを回収し、ウシ血清アルブミンを標準物質とするBCA kitを用いてタンパク質濃度を決定した。
【0111】
5分間煮沸した後、細胞ライセート(20 μg)を10% SDS-PAGEで分離し、iBlot dry blotting system(Invitrogen, Paisley, UK)でポリビニリデンジフルオライド(PVDF)膜に転写した。非特異的反応は、Bullet Blocking One solution(ナカライテスク株式会社、京都、日本)により、室温で5分間、振とうしてブロッキングした。ブロットを、適切な抗体と4℃で一晩培養インキュベートした:抗phospho-TrkA (Tyr490) (1:2000)、抗phospho-p44/p42 MAPK (ERK1/2) (Thr202/Tyr204) (1:1000) (Cell Signalling Technology, Danvers, MA, USA)、抗β-actin (1:5000)、抗CREB (1:1000)、抗phospho-CREB (Ser133) (1:1000) (Abcam, Cambridge, UK)、および抗ERK (pan-ERK) (1:5000) (BD, Franklin Lakes, NJ, USA)。0.1% Tween-20を含有するTris緩衝生理食塩水(TBST)で3回洗浄した後、ブロットを適切な西洋ワサビペルオキシダーゼ標識二次抗体(1:5000)(Abcam)と1時間インキュベートした。ブロットをTBSTで洗浄し、Amersham ECL Select Western Blotting Detection Reagent(GE Healthcare, Chicago, Illinois, USA)を製造元の指示の通りに使用してタンパク質を検出した後、ChemiDoc Imagerを用いて化学発光シグナルを可視化し、Image Lab software(Bio-Rad Laboratories, Hercules, CA, USA)を用いて定量した。
【0112】
<1-7>AhR受容体のウェスタンブロット解析
PC12細胞(50,000 cells/mL/well)を、前述のようにIV型コラーゲンコートした24ウェル培養プレートで培養した。その後、細胞を、終濃度1 μMのAhR受容体アンタゴニスト(ANFおよびCH223191)に1時間暴露してから、NGF (25 ng/mL)と試験化合物(ポジティブコントロール;終濃度100 nMのILA、IPA、またはトリプトファン)で5日間連続処理した。ANFおよびCH223191なしのコントロール細胞も、同じ条件で生育させ処理した。3日後に培地と試験化合物を交換した。処理に続いて、20 μgの総タンパク質を含有する細胞ライセートを回収し、8% SDS-PAGEで分離し、iBlot dry blotting systemでPVDF膜に転写した。ブロットを、Bullet Blocking One solutionにより、室温で5分間、振とうしてブロッキングした後、適切な抗体と4℃で一晩培養インキュベートした:抗aryl hydrocarbon receptor antibody (1:1000) および抗β-actin (1:5000) (Abcam)。次に、ブロットをTBSTで3回洗浄し、適切な西洋ワサビペルオキシダーゼ標識二次抗体(1:5000)(Abcam)と1時間インキュベートした。シグナルをAmersham ECL Select Western Blotting Detection Reagentで展開し、ChemiDoc Imagerで可視化し、Image Lab softwareで定量した。
【0113】
<1-8>AhRアンタゴニストで前処理した際のAchE活性の解析
PC12細胞(10,000 cells/mL/well)を、前述のようにIV型コラーゲンコートした24ウェル培養プレートで培養した。その後、細胞を、終濃度1 μMのAhR受容体アンタゴニスト(ANFおよびCH223191)に1時間暴露してから、NGF(25 ng/mL)と試験化合物(ポジティブコントロール;終濃度100 nMのILA、IPA、またはトリプトファン)で5日間連続処理した。ANFおよびCH223191なしのコントロール細胞も、同じ条件で生育させ処理した。3日後に培地と試験化合物を交換した。処理に続いて、細胞を、氷冷したNP-40細胞溶解バッファーで溶解した。その後、細胞ライセートのAchE活性を、Amplite Fluorimetric Acetylcholinesterase Assay Kit(AAT Bioquest, Sunnyvale, CA, USA)を製造元の指示の通りに使用して決定した。AchE活性は、上記のようにして測定した。
【0114】
<1-9>統計解析
結果は、平均値と標準偏差で示した。統計解析は、全て、IBM SPSS Statistics, version 22.0, statistical software package(IBM Corp., Armonk, NY, USA)を用いて実施した。各処理群間の差の統計的有意性は、独立Student’s t-testで解析した。P < 0.05の値は、統計的に有意であると考えられた。
【0115】
<2>結果
<2-1>トリプトファンおよびその代謝物の用量反応性
用量反応性を調べるため、PC12細胞を1 nM~1 μMの範囲の濃度のトリプトファンおよ
びその代謝物で処理した。全ての試験化合物(ILA、IPA、およびトリプトファン)は、NGF非存在下でのPC12細胞の神経突起伸長に形態学的な影響を与えなかった(データは示さず)。しかし、25 ng/mLのNGF存在下では、ILA、IPA、トリプトファンは、用量依存的にPC12細胞の神経突起伸長を促進することが見出された(
図1のパネル(A))。NGFコントロールと比較して、10 nMおよび100 nMのILAで処理した細胞では有意に高い神経突起伸長(P < 0.05)が認められ、100 nMで最大の活性が認められたが、IPAで処理した細胞では有意に高い神経突起伸長は認められなかった。すなわち、神経突起伸長(特にNGF誘導性の神経突起伸長)を促進するためには、ILAはIPAよりも顕著に優れ得ることが確認された。また、100 nMのILAで処理した細胞では、有意に高いAchE活性(P < 0.01)も認められた(
図1のパネル(B))。一方、IPAの最大有効濃度は100 nMであり、同濃度では処理の際に有意に高いAchE活性(P < 0.05)が認められたが、神経突起を有する細胞のパーセンテージについては認められなかった。トリプトファンで処理した細胞では、神経突起を有する細胞のパーセンテージとAchE活性の有意な増加は認められなかった。
【0116】
<2-2>PC12細胞の神経突起伸長に対するトリプトファンおよびその代謝物の効果
トリプトファンおよびその代謝物の増強効果を確認するために、PC12細胞をNGFと100 nMの試験化合物で処理し、材料と方法に記載したように神経突起伸長の定量分析とAchE分
析を実施した。
図2のパネル(A)に示すように、ILAとIPAでは顕著な神経突起伸長が、トリプトファンではわずかな伸長が、誘発された。興味深いことに、ILA処理はNGF誘導PC12細胞(NGF-induced PC12 cells)における神経突起を有する細胞のパーセンテージを有意に増強した(P < 0.01)のに対し、IPA処理は神経突起を有する細胞のパーセンテージを有意には増強しなかった(
図2のパネル(B))。すなわち、神経突起伸長(特にNGF誘導性の神経突起伸長)を促進するためには、ILAはIPAよりも顕著に優れ得ることが再度確認された。100 nMのILA、IPA、およびトリプトファンで処理した細胞の神経突起を有する細胞のパーセンテージは、それぞれ、15.07 ± 0.50 %、14.49 ± 1.19 %、および12.29 ± 3.06 %に達した。これらは、NGFコントロール(12.68 ± 0.23 %)と同等であり、NTC(0.05 ± 0.09 %)よりも顕著に高かった。また、ILA(P < 0.05)、IPA(P < 0.01)、およびトリプトファン(P < 0.05)で処理したNGF誘導PC12細胞では、NGFコントロールと比較してAchE活性が顕著に増加した(
図2のパネル(C))。これらのデータは、インドール誘導体がPC12細胞におけるNGF誘導性の神経突起伸長を促進し得ることを示してい
る。
【0117】
<2-3>トリプトファンおよびその代謝物のRas/ERK経路への影響
本発明者は、次に、TrkA受容体および細胞外シグナルで調節されるキナーゼ1/2(ERK1/2)の活性化がPC12細胞においてインドール誘導体によって増強されるNGF誘導性の神経突起伸長必須であるかどうかを調べた。NGF(25 ng/mL)存在下でPC12細胞をILAおよびIPA(100 nM)で処理すると、24時間にわたってTrkAのリン酸化が誘導された(
図3のパネル(A))。ILA処理した細胞におけるTrkAの相対的なリン酸化レベル(1.92 ± 0.15)は、NGFコントロール(1.53 ± 0.17)と比較して有意に増加した(P < 0.05)のに対し、IPA処理した細胞におけるTrkAの相対的なリン酸化レベル(1.85 ± 0.41)は、NGFコントロール(1.53 ± 0.17)と比較して増加傾向にはあったが有意に差はなかった。すなわち、NGF誘導性の神経突起伸長を促進する(特にTrkAのリン酸化の促進を通じて)ためには、ILAはIPAよりも顕著に優れ得ることが確認された。ILAとIPAのリン酸化レベルは、それぞれの神経突起伸長促進作用に比例していた。一方、PC12細胞をトリプトファンで処理しても、TrkAのリン酸化を誘導する効果はなかった(1.62 ± 0.23)。
【0118】
また、インドール誘導体であるILA(P < 0.01)およびIPA(P < 0.05)は、24時間の処理後にERK1(44 kDa)およびERK2(42 kDa)のリン酸化(Thr202/Tyr204)を強く誘導し
た(
図3のパネル(B))。P値は、IPAよりもILAで小さい。すなわち、NGF誘導性の神経突起伸長を促進する(特にERKシグナリングの促進を通じて)ためには、ILAはIPAよりも
顕著に優れ得ることが確認された。ILAおよびIPA処理した細胞でのERK1/2のリン酸化レベルは、1.98 ± 0.11および1.82 ± 0.10に達した。それにもかかわらず、トリプトファン処理した細胞でもERK1/2のリン酸化レベルの有意な増加が認められた(1.75 ± 0.06; P < 0.05)。これらの結果から、ERKシグナルがインドール誘導体により増強されるPC12細
胞のNGF誘導性の神経細胞分化に関与していることが示唆された。
【0119】
本発明者は、CREB(cAMP response element-binding protein)がインドール誘導体に
より増強されるPC12細胞のNGF誘導性の神経突起伸長に関与している可能性について調査
を続けた。
図3のパネル(C)に示すように、PC12細胞をインドール誘導体(100 nMのILAまたはIPA)で処理すると、NGFコントロールと比較して、24時間にわたってCREBのリン酸化が有意に増加した(P < 0.05)。ILAおよびIPA処理したPC12細胞でのCREBのリン酸化レベルは、それぞれ、2.57 ± 0.48および2.51 ± 0.56に達した。しかし、トリプトファンでPC12細胞を処理しても、CREBのリン酸化は有意には誘導されなかった。これらの結果から、PC12細胞の神経突起伸長の過程において、インドール誘導体(ILAおよびIPA)がTrkAおよびERK1/2のリン酸化を誘導し、順番にCREBの転写を活性化することが強く示唆された。
【0120】
<2-4>AhRリガンドとしてのトリプトファンおよびその代謝物の潜在的役割
本発明者は、さらに、インドール誘導体のAhRリガンドとしての可能性をウェスタンブ
ロット解析により調べ、且つ神経突起伸長の過程におけるAhRシグナルの関与の可能性をAchE活性の測定により調べた。その結果、ILAとIPAはAhRリガンドとして作用する可能性があり、処理の際にAhRの相対的な発現量が有意に増加した(
図4および5)。
【0121】
AhRアンタゴニスト(ANFおよびCH223191)に対する感受性には一定の差があるものの、
AhR活性化に対するILAおよびIPAの効果は、ANFおよび/またはCH223191の存在下で抑制された。
図4のパネル(A)と
図5のパネル(A)に示すように、ANF(1μM)の前処理に
より、PC12細胞におけるILAで誘導されるAhR活性が有意に阻害され(P < 0.05)、ILA処
理した細胞のAchE活性も低下する傾向にあった。同様に、ILAで誘導されるAhR活性化とAchE活性もCH223191(1μM)の前処理により大きく阻害され、これにより、ILAで誘導される神経細胞分化の過程におけるAhRの特異的な関与が示唆された。
【0122】
一方、ANFとCH223191は、IPAで誘導されるAhR活性化とAchE活性を異なる強度で阻害し
た。IPA処理した細胞において、AhR活性は、CH223191で有意に抑制された(P < 0.05)が、ANFではそうではなかった。反対に、IPA処理した細胞において、AchE活性は、ANFで有意に抑制された(P < 0.05)が、CH223191ではそうではなかった。これらのデータから、IPAはILAよりも劣勢なAhRリガンドであるかもしれないことが示唆された。ILAとIPAの作用はaryl hydrocarbon receptor(AhR)への結合を通じて発揮されているようであるから、より優勢なAhRリガンド(これはILAであり得る)はIPAよりも強く神経突起伸長を促進し得る。よって、神経突起伸長(特にNGF誘導性の神経突起伸長)を促進するためには、ILAはIPAよりも顕著に優れ得ることが再度確認された。ANFおよびCH223191は、いずれも、ANFで前処理した細胞のAchE活性を除いて、AhR活性化とAchE活性におけるトリプトファンの活性に影響しなかった。
【0123】
<試験例>
1.菌株および培養上清(CS)
表1に示すビフィズス菌株を、それぞれ、アネロパック(三菱ガス化学、東京、日本)
を用いて、0.05% L-システイン(関東化学株式会社、東京都中央区、日本)を添加したMRSブロス(Becton Dickinson, MD, USA)(MRS-C)で、37℃で16時間、嫌気的条件で培
養した。
【0124】
次いで、増殖期の菌体を、高速遠心冷蔵装置HIMAC SCR20B(日立工機株式会社、東京、日本)を用いて5000 gで遠心(4℃で10分間)することで回収し、リン酸緩衝生理食塩水
(PBS)とDulbecco’s Formula(DSファーマバイオメディカル株式会社、大阪、日本)で2回洗浄した。続いて、全細胞ペレットを、0.05% L-システインを含有するPBS(PBS-C
)に懸濁した。各菌体懸濁液の光学密度(600 nmでの)を、PBS-Cを用いて同じ値(OD600
= 0.2)に調整した。細胞懸濁液(100 L)をMRS-C(3 mL)に添加し、37℃で24時間、嫌気的条件で培養した。培養懸濁液を5000 gで遠心(4℃で10分間)することでCSを得た。
ろ過(ポアサイズ0.22 m; Millipore, MA, USA)後、サンプルは使用するまで80℃で保存した。全ての培養は独立に3回実施し、得られたデータはそれら試験の平均値として示した。
【0125】
2.CS中のILA濃度の定量
CS中のILA濃度は、液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析法(LC-MS/MS; TSQ Quantum Discovery Max, Thermo Electron Corp., San Jose, CA, USA)で分析した。クロマトグラフィー分離は、InertSustain C18カラム(GLサイエンス株式会社、東京、日本)(粒子径2.1 μm、カラムサイズ150 mm×2 m)を用いて実施した。移動相A(水に1 g/LのAAを含む)と移動相B(アセトニトリルに1 g/LのAAを含む)を0.2 mL/minの流速でアプライした。グラジエント溶出は、10%Bから開始し、0.1~18分では10%~90%B、18.1~25分では90%、25.1~28分では90%~10%、28~40分では10%とした。定量は、CS中の代謝物濃度を、対応する合成ILA標準物質および内部標準物質(MOI)の濃度と比較することで実施した。正の前駆イオンのLC-MS/MSスペクトル(プロダクトイオンデータ)を評価して、それらの最終的な含有量を決定した。
【0126】
その結果、ビフィズス菌株はILAを表1に示す量で生産した。乳児型HRB(No. 1~10の
株等)は、成人型HRBおよび非HRB(No. 11~19の株等)と比較して、より多量のILAを生
産できることが確認された。これらNo. 1~19の株は、いずれも、IPA等の他のトリプトファン代謝物を産生しないことが報告されている(非特許文献4:Sakurai T. et al. Production of Indole-3-Lactic Acid by Bifidobacterium Strains Isolated from Human Infants. 2019 Sep 11;7(9))
【0127】
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明によれば、神経突起伸長改善用組成物等の特定の用途に利用できる組成物を提供できる。
【国際調査報告】