(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-23
(54)【発明の名称】複合糸を形成するための方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
D02G 3/36 20060101AFI20230315BHJP
D02G 3/12 20060101ALI20230315BHJP
【FI】
D02G3/36
D02G3/12
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022537617
(86)(22)【出願日】2020-12-17
(85)【翻訳文提出日】2022-07-19
(86)【国際出願番号】 US2020065673
(87)【国際公開番号】W WO2021127221
(87)【国際公開日】2021-06-24
(32)【優先日】2019-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522241354
【氏名又は名称】パトリック ヤーン ミルズ,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パトリック,ギルバート
(72)【発明者】
【氏名】ビベンズ,マックス
【テーマコード(参考)】
4L036
【Fターム(参考)】
4L036MA04
4L036MA05
4L036MA06
4L036MA09
4L036MA10
4L036MA33
4L036MA35
4L036MA37
4L036MA39
4L036PA21
4L036PA33
4L036PA46
4L036PA47
4L036RA24
4L036UA25
(57)【要約】
耐切創性および/または耐火/耐熱性を含む選択される性能特性を有する複合糸を形成するための方法およびシステム。複合糸は、1以上のフィラメントのコアと、コアの周りに巻き付けられ、繊維をコアの周りに結合するのを助ける1以上の追加のフィラメントと一体化された繊維束とを含む。追加のフィラメントまたは他の複合糸をそれと共に撚り合わせて、完成した複合糸を形成することができる。コアフィラメントは耐切創性および/または耐火/耐熱性の材料から選択され、コアの周りに巻き付けられる繊維束の繊維および追加のフィラメントは、天然もしくは合成繊維または追加の所望の特性を有するフィラメントから選択され得る。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのコアフィラメントを一連のステープルファイバーと共に紡ぐことと、
前記少なくとも1つのコアフィラメントの周りに前記一連のステープルファイバーを紡ぐ間に第1のフィラメントを導入し、前記一連のステープルファイバーおよび前記第1のフィラメントは結合して繊維束を形成し、前記繊維束は前記少なくとも1つのコアフィラメントの周りに巻き付けられて、第1の撚り方向に紡がれるベース糸を形成し、前記第1のフィラメントは、前記一連のステープルファイバーとほぼ同じ1インチ当たりの回転数で加えられることと、
少なくとも1つの追加のフィラメントまたは追加の糸束を前記ベース糸に撚り合わせ、前記少なくとも1つの追加のフィラメントを前記第1の撚り方向と反対の第2の撚り方向に撚り、複合糸を形成することと、
を備える、複合糸の製造方法。
【請求項2】
第1のフィラメントおよび前記一連のステープルファイバーは、紡績中に実質的に混合され、または埋め込まれて、実質的に前記少なくとも1つのコアフィラメントを前記繊維束内に封入する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つのコアフィラメントの周りに前記一連のステープルファイバーを紡ぐ間に第2のフィラメントを導入し、前記繊維束は前記安定した繊維と、前記第1のフィラメントと、前記第2のフィラメントとを含むことをさらに備える、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの追加のフィラメントを前記第1の撚り方向と反対の第2の撚り方向に撚ることは、前記少なくとも1つの追加のフィラメントを約10°から約45°の間の角度で撚ることを備える、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記一連のステープルファイバーは、パラ系アラミド類、メタ系アラミド類、モダクリル類、OPAN、高密度ポリエチレン、ナイロン類、ポリエステル類、ポリプロピレン類、セルロース類、レーヨン、シリカ、綿、アクリル,炭素繊維、ポリアミド類、金属、PTT、PBI、ウール、ポリエチレン、液晶ポリマー類およびそれらの混合物からなる群から選択される材料を含む繊維を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つのコアフィラメントは、鋼鉄、アルミニウム、ステンレス鋼、銅、タングステンおよびそれらの合金、パラ系アラミド類、ガラス、高密度ポリエチレン、ライクラ、高密度ポリプロピレン、シリカ、Vectran(商標)ならびに液晶ポリエステル類からなる群から選択される材料を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記第1のフィラメント、前記少なくとも1つの追加のフィラメントまたは追加の糸束は、ポリエステル、ナイロン、ライクラ、パラ系アラミド類、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、低線状ポリエチレン類、レーヨン、炭素繊維、ポリアミド類、ステンレス鋼、綿、ウール、モダクリルおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される材料を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記複合糸に対する前記少なくとも1つの追加のフィラメントの質量比は、線形重量で約10%から60%の間である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記複合糸に対する前記少なくとも1つの追加のフィラメントまたは追加の糸束の質量比は、線形重量で約3%から約50%の間である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の撚り方向はZ方向であり、前記第2の撚り方向はS方向である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の撚り方向はS方向であり、前記第2の撚り方向はZ方向である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
繊維束が周りに紡がれるまたは撚られるコアフィラメントを備えるベース糸であって、前記繊維束は、前記コアフィラメントの周りに一連のシース繊維を紡ぐ間に導入される第1のフィラメントを含み、前記第1のフィラメントおよび前記シース繊維は、一体化されたフィラメントおよび繊維束を形成し、前記一体化されたフィラメントおよび繊維束は、前記コアフィラメントを前記一体化されたフィラメントおよび繊維束内に実質的に固定および結合するために十分であるように前記コアフィラメントの周りに撚られ、前記第1のフィラメントは、前記シース繊維とほぼ同じ1インチ当たりの回転数で、前記コアフィラメントの周りに前記シース繊維と共に撚られ、第1の撚り方向を有する前記ベース糸を製造する、ベース糸と、
前記ベース糸と撚り合わされて撚られる少なくとも1つの追加のフィラメントまたは追加の糸と、を備える複合糸であって、
前記少なくとも1つの追加のフィラメントまたは追加の糸は、前記複合糸のねじれを実質的に最小にするために十分な前記第1の撚り方向と反対の第2の撚り方向に撚られる、複合糸。
【請求項13】
前記第1のフィラメントは、前記繊維束の1インチ当たりの回転数と実質的に同等の1インチ当たりの回転数で加えられる、請求項12に記載の複合糸。
【請求項14】
前記繊維束の繊維は、パラ系アラミド類、メタ系アラミド類、モダクリル類、OPAN、高密度ポリエチレン、ナイロン類、ポリエステル類、ポリプロピレン類、セルロース類、レーヨン、シリカ、ウール、綿、アクリル,炭素繊維、ポリアミド類、金属、液晶ポリマー類、低線状ポリエチレン類、PTT、PBIおよびそれらの混合物からなる群から選択される材料を含む、請求項12に記載の複合糸。
【請求項15】
前記少なくとも1つのコアフィラメントは、鋼鉄、ステンレス鋼、アルミニウム、タングステンおよびそれらの合金、ガラス、高密度ポリエチレン、高密度ポリプロピレン、Vectran(商標)、シリカ、パラ系アラミド類、ポリプロピレンならびに液晶ポリエステル類からなる群から選択される材料を含む、請求項12に記載の複合糸。
【請求項16】
前記少なくとも1つの追加のフィラメントまたは追加の糸は、ポリエステル、ナイロン、ライクラ、パラ系アラミド類、高密度ポリエチレン,Vectran(商標)、PTT、PBI、ポリプロピレン、レーヨン、ウール、炭素繊維、ポリアミド類、ステンレス鋼、綿、モダクリルおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される材料を含む、請求項12に記載の複合糸。
【請求項17】
前記少なくとも1つのコアフィラメントは、線形重量で前記複合糸の質量の約10%から約60%の間で形成されている、請求項12に記載の複合糸。
【請求項18】
前記少なくとも1つの追加のフィラメントは、線形重量で前記複合糸の質量の約3%から約55%の間で形成されている、請求項12に記載の複合糸。
【請求項19】
前記複合糸から形成される生地は、熱および/または切創から保護するための防護服に使用される、請求項12に記載の複合糸。
【請求項20】
前記生地は織物または編物構造で作られている、請求項19に記載の複合糸。
【請求項21】
前記生地は、プレーンパターン、ツイルパターン、バスケットパターン、サテンパターン、レノパターン、クレープパターン、ドビーパターン、ヘリンボーンパターン、ジャカードパターン、ピッケパターン、経パイルおよび織り構成からなる群から選択されるパターンで織られている、請求項20に記載の複合糸。
【請求項22】
前記生地は、編成されて、ジャージ、リブ、パール、フリース、ダブルウェフト、トリコット、ラッシェル、経編みおよび緯編み構造からなる群から選択される衣類を形成する、請求項20に記載の複合糸。
【請求項23】
第1のコアフィラメントを、前記第1のコアフィラメントの周りに一体化されたフィラメント/繊維シースを形成するように、一連の繊維および紡績中に導入される少なくとも1つの追加のフィラメントと共に紡ぎ、第1の構成要素を形成し、前記第1のコアフィラメントはモース硬度が少なくとも約7.0以上の材料からなり、前記フィラメント/繊維シース内に実質的に結合および固定することと、
前記第1の構成要素を、糸またはフィラメントを含む第2の構成要素と共に撚り合わせることと、
前記第1の構成要素を前記第2の構成要素と共に紡いで複合糸を形成し、前記第1の構成要素は、モース硬度が少なくとも約7.0以上である前記複合糸のコアを形成し、前記第2の構成要素で巻かれていることと、を備える、複合糸の製造方法。
【請求項24】
前記少なくとも1つの第1のコアフィラメントは、タングステンおよびその合金を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記繊維は、アラミド類、アクリル類、モダクリル類、ポリエステル類、ウール、ポリプロピレン類、ナイロン類、セルロース類、シリカ、黒鉛類、炭素繊維、高線状ポリエチレン、PTT、Vectran(商標)、ポリアミド類、金属、ポリベンゾイミダゾール、共重合体類およびそれらの混合物からなる群から選択される材料を含む繊維を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
少なくとも約7.0のモース硬度を有する材料と、少なくとも1つの第1のコアフィラメントの周りで紡がれる第1の繊維のシースと、コアの周りで前記第1の繊維のシースを紡ぐ間に導入され、前記コアを前記第1の繊維のシース内に実質的に固定するために十分な程度に前記コアの周りに撚られる追加のフィラメントとを含む第1の構成要素と、
前記コアおよび前記コアの周りに加えられる第2の繊維のシースを含む第2の構成要素と、を備え、
前記第1の構成要素は前記第2の構成要素と共にリング精紡され、前記第1の糸構成要素を複合糸の前記コアとして有し、その周りに前記第2糸構成要素が撚られた前記複合糸を形成する、複合糸。
【請求項27】
前記少なくとも1つの第1のコアフィラメントは、タングステンまたはタングステン合金を含む、請求項26に記載の複合糸。
【請求項28】
前記第1の繊維のシースの繊維は、綿、ナイロン、ウール、アラミド類、パラ系アラミド類、ポリエチレン、アクリル類、モダクリル類、ポリエステル類および炭素繊維の少なくとも1つを含む、請求項26に記載の複合糸。
【請求項29】
前記第1の繊維のシースおよび第2の繊維のシースは、アラミド類、アクリル類、モダクリル類、ポリエステル類、ポリプロピレン類、ナイロン類、セルロース類、シリカ、黒鉛類、炭素繊維、高密度ポリエチレン、ポリアミド類、ポリベンゾイミダゾール、共重合体類およびそれらの混合物からなる群から選択される材料の繊維を含む、請求項26に記載の複合糸。
【請求項30】
前記第2の構成要素の前記コアは、ガラス、鋼鉄、タングステンおよびアラミド類を含む、請求項26に記載の複合糸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権主張
本出願は、2019年12月18日に出願した先行する米国特許出願第16/718、738号の優先権を主張する。
【0002】
参照による組み込み
2019年12月18日出願の米国特許出願第16/718、738号の開示および図面は、本明細書中で参照することにより、その全体が記載されるように組み込まれる。
【0003】
本発明は、生地、糸および複合糸の製造プロセスに関する。特に、本発明は、1以上のフィラメントが埋め込まれた繊維束に囲まれたコアを有する複合紡績糸、および高い強度や耐切創性などの所望の性能特性を示すこのような複合紡績糸を形成するプロセスに関する。
【背景技術】
【0004】
耐切創性、高強度、および耐熱/耐火性のような物理的特性が強化された高性能糸および生地は、このような特性を組み込む様々な繊維およびフィラメントを組み合わせることにより形成することができる。たとえば、このような高性能糸は一般に、ガラス、金属、アラミドやパラ系アラミド類などの合成もしくは高分子材料などの1以上のフィラメントまたは繊維から形成されるコアを含む。コアは多くの場合、一般に様々な天然材料および合成または高分子材料を含む、1以上の追加のフィラメントまたは繊維で巻かれている。残念ながら、多くの従来の高性能糸の共通の欠点は、経済性と性能との最適な組み合わせを示さないことである。すなわち、このような糸は、従来の高性能糸に使用される材料の性質と、それから期待される性能特性のため、その製造により多くの費用を必要とすることが多い。加えて、このような複合糸から作られた衣服の着用者と、潜在的に研磨性のある複合糸のコアフィラメント(すなわちアラミド、パラ系アラミド、ガラスまたはスチール繊維/フィラメント)との直接の皮膚接触を最小限に抑えるように努める必要がある。結果として、上記ならびに当技術分野の他の関連する問題および関連しない問題に対処する、代替的な高性能糸および生地が継続的に必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
要約して記載すると、本開示は、一態様において、所望の性能特性を有する複合紡績糸を形成する方法およびシステムを対象とする。一実施形態では、複合糸の製造方法が提供されてもよい。複合糸の形成方法は、少なくとも1つのコアフィラメント(すなわち、耐切創性および/または耐熱性を有するガラス、金属、または合成/高分子フィラメント)を、1以上のステープルファイバーのロービングと共に紡ぐことを含む。ステープルファイバーのロービングは、コアフィラメントの周りに紡がれる実質的にブレンドされた繊維束を形成するように、同一または類似のタイプのものであってよい。たとえば、繊維束の繊維は、コアフィラメントの特性に組み込まれる透湿性や柔らかさなどの追加の選択された特性を有する、綿やナイロンなどの天然または合成/高分子繊維であってよい。コアフィラメントとロービングからの繊維とが一緒に紡がれるとき、追加のまたは第1のフィラメントがさらに精紡機に導入される。
【0006】
追加のまたは第1のフィラメントは、ロービング繊維がコアフィラメントの周りに紡がれるまたは撚られるのとほぼ同じ1インチ当たりの回転数で加えられ、繊維束と一体化される。一体化された追加のフィラメント/繊維束の集まりは、一体化されたフィラメント/繊維束内の実質的に中心に配置されて封入されたコアフィラメントの周りに紡がれ/撚られ、最初の「S」または「Z」の撚り方向を有するように、第1方向に紡がれる元糸またはベース糸を形成する。この工程の間、コアフィラメントは、一体化されたフィラメント/繊維束またはシース(sheath)内に実質的に結合および固定される程度まで、コアフィラメントの周りのシースまたはラッピング(wrapping)となる一体化されたフィラメント/繊維束によって覆われ、包み込まれる。このように一体化されたフィラメント/繊維束の撚り/巻き付けによってコアフィラメントをその中に固定することで、コアフィラメントは、得られた複合糸から生地を形成するためのその後の編成、製織、または他の工程の間に、得られた複合糸から露出したり引き出されたりすることから守られる。
【0007】
本方法はさらに、ベース糸をさらなる、すなわち第2のフィラメントまたは糸構成要素/束と撚り合わせることを含み、これは追加の紡績または撚り工程の間に、約10°~45°の角度で加えられる。このような追加のフィラメントまたは糸は、一般に、ベース糸の耐切創性およびその他の特性に加えて、得られた複合高性能糸およびそれから製織、編成、または他の方法で形成される生地に組み込まれることが所望される追加の技術的性質または特性に基づいて選択される。この追加の紡績/撚り工程の間、ベース糸およびそれと共に撚り合わされる第2の、またはさらなるフィラメントまたは糸は、反対方向に紡がれ、反対の撚り(たとえば、逆方向のZまたはS撚り)をある程度(たとえば、完成した複合糸のねじれ(トルク(torque))を実質的に最小にするために選択/設計された1インチ当たりの撚数または撚りの比率/量)まで加える。
【0008】
追加的または代替的に、第2のフィラメントまたは糸構成要素は、最初の紡績工程、すなわち第1のフィラメントと共に追加されてもよく、それにより第2のフィラメントは、第1のフィラメントおよびロービングの繊維がコアフィラメントの周りに第1方向に巻き付けられ撚られる際に、それら両方と混合され得る。その結果、第1および第2のフィラメントは、コアフィラメントを封入するラッピングまたはカバー(covering)を画定する繊維束内に実質的に一体化されることができ、追加のフィラメントがその周りで撚られ、最初の「S」または「Z」の撚り方向を有するベース糸を形成し、そのコアフィラメントは、シースまたはカバーとなる繊維/フィラメント内で実質的に固定および結合される。その後、本方法は、1以上の追加のフィラメント(たとえば、第3のフィラメント)をベース糸と共に角度をつけて撚り合わせることと、ベース糸および第3のフィラメントを、完成した複合糸のねじれを実質的に最小にするために十分な第1方向と反対の第2方向に一緒に紡ぐこととをさらに含むことができ、さらなる選択された、または所望の性能特性/特徴を糸に提供する。
【0009】
他の実施形態では、高い耐切創性および/または他の選択された技術または性能特性を有する複合高性能糸が開示される。複合糸は一般に、第1の糸構成要素を含む。第1の糸構成要素は、中央コアの周りに紡がれたラッピングまたはカバーとして加えられるブレンドされた繊維束を含むことができる。中央コアは、選択されたまたは所定の高硬度、たとえばモース硬度約7.0以上を有する材料から選択される1以上の実質的に連続的なフィラメントまたは繊維で形成されてもよい。繊維束は、コアフィラメントと人肌の接触からの保護を提供すると同時に、柔らかさ、透湿性および/または他の特性など他の所望の特徴を提供するために一般に選択される、天然および/または合成材料の繊維(たとえば、綿、ウール、ナイロンなど)を含むことができる。高硬度のコアフィラメントは典型的に、モース硬度で少なくとも約7.0以上の硬度を有する第1すなわちベース糸構成要素を形成するために、タングステンまたはその合金、または他の同様の高硬度の金属、または合成材料などから形成することができる。
【0010】
高硬度コアの第1の糸構成要素は、このように、その周りに紡がれ、または巻き付けられてシースまたはカバーを形成する繊維に基づき、高い耐切創性および追加の選択されたまたは所望の性能を持って形成される。加えて、高硬度のコアフィラメントが、たとえばステープルまたは綿やウールなどの天然繊維、またはアラミド類、パラ系アラミド類、ナイロンなどを含む合成繊維のシースと共に紡がれて巻かれる際、紡績プロセスの間に1以上の追加のフィラメントまたは糸を加えて、高硬度コアの第1の糸構成要素と一体化させて撚り合わせることができる。様々な実施形態において、追加のフィラメントまたは糸は、一般に、ポリエステル、ナイロン類、ライクラ、パラ系アラミド類、高密度ポリエチレン、低線状ポリエチレン、高密度ポリプロピレン、PTTおよびそれらを組み合わせたものまたは混合したものなどの材料を含むことができ、これは高硬度コアを繊維束内に結合または固定することを助けるために選択され得ると同時に高硬度コアに追加の性能特性および/または保護を提供する。
【0011】
追加のフィラメントもまた、繊維束と紡がれて/撚られて一体化され、一体化されたフィラメント/繊維束は、コアフィラメントの周りに巻き付けられ、および/または撚られて、コアフィラメントの周りに撚られる追加の一体化されて巻かれたフィラメントと共に、密着してラップされた(wrapped)シースまたはカバーを画定する。ラッピング繊維、コアフィラメントおよび第1のフィラメント(および実施形態によっては任意の追加の独立したフィラメント)は、さらに一緒に紡がれ、一般に第1の方向(たとえば、「S」または「Z」方向)に配向された撚りを有する元糸またはベース糸を形成し、一体化されたフィラメント/繊維束は、実質的にフィラメントと繊維束の繊維とを互いに結合し、コアフィラメントを一体化されたフィラメント/繊維束内に固定するために十分な1インチ当たりの回転数で、コアフィラメントの周りで撚られるおよび/または紡がれる。その結果、第1の糸構成要素のコアフィラメントが形成され、コアを結合して、高性能または技術的な生地を形成するために複合糸が後に受ける仕上げ、編成、製織または他の工程の間に、コアを引っ張られたり、露出したりすることから保護するために十分に一体化されたフィラメント/繊維束内に、実質的に包み込まれる。
【0012】
複合糸は、後続の紡績工程でベースまたは第1の糸構成要素と撚り合わされ、それと共に紡がれる、1以上のさらなる(たとえば、第2または第3の)フィラメント、すなわち第2の糸構成要素をさらに含むことができる。たとえば、高硬度コアの第1の紡績糸構成要素は、繊維のシース内に包み込まれたガラスまたは繊維ガラス材料のコアを有するガラスコア糸からなる第2の糸構成要素と撚り合わされ紡がれる。撚り合わされた第2の糸構成要素は一般に、追加の所望の特性または性能特性、たとえばガラスコアからの追加の耐切創性または耐磨耗性、およびシース繊維により提供され得るその他の柔らかさや透湿性などの特性を提供するために選択される。
【0013】
第2の糸構成要素は、さらに一般に、第1すなわちベース糸構成要素の周りに巻き付けられ、または撚られ、たとえば約10°~45°の角度で加えられ、および/または撚られる(ただし他の角度を使用することもできる)。このように紡ぐ間、第1すなわちベースおよび第2の糸構成要素は、さらに一般に、第1の方向と反対の第2の方向に紡がれまたは撚られ、最初の紡績工程の間にベース糸に発生したねじれを実質的に最小にするために十分な反対方向の撚りを作り出す/加える。得られた複合高性能糸は、このように実質的に縮小または最小化されたレベルのねじれを有し、また同時に第2の糸構成要素の性能特性または特徴を第1の糸構成要素の高硬度、耐切創性および他の特性に組み込む。
【0014】
一態様において、複合糸の製造方法は、少なくとも1つのコアフィラメントを一連のステープルファイバーと共に紡ぐことと、前記少なくとも1つのコアフィラメントの周りに前記一連のステープルファイバーを紡ぐ間に第1のフィラメントを導入することを含むことができる。前記一連のステープルファイバーおよび第1のフィラメントは結合されて繊維束を形成し、前記繊維束は前記少なくとも1つのコアフィラメントの周りに巻き付けられて、第1の撚り方向に紡がれるベース糸を形成する。前記第1のフィラメントはまた、一般に、前記一連のステープルファイバーとほぼ同じ1インチ当たりの回転数で加えられる。本方法はまた、少なくとも1つの追加のフィラメントまたは追加の糸束を前記ベース糸に撚り合わせてベース糸束を形成することと、前記少なくとも1つの追加のフィラメントを前記第1の撚り方向と反対の第2の撚り方向に撚ることと、を含む。
【0015】
複合糸は、繊維束が周りに紡がれるまたは撚られるコアフィラメントを備えるベース糸を備えることができ、前記繊維束は、前記コアフィラメントの周りに一連のシース繊維を紡ぐ間に導入される第1のフィラメントを含み、前記第1のフィラメントおよび前記シース繊維は、一体化されたフィラメントおよび繊維束を形成し、前記一体化されたフィラメントおよび繊維束は、前記コアフィラメントを前記一体化されたフィラメントおよび繊維束内に実質的に固定および結合するために十分であるように前記コアフィラメントの周りに撚られ、前記第1のフィラメントは、前記シース繊維とほぼ同じ1インチ当たりの回転数で、前記コアフィラメントの周りに前記シース繊維と共に撚られ、第1の撚り方向を有する前記ベース糸を製造する。少なくとも1つの追加のフィラメント、または追加すなわち第2の糸は、前記ベース糸と撚り合わされて紡がれ、前記少なくとも1つの追加のフィラメントまたは糸は、前記複合糸のねじれを実質的に最小にするために十分な前記第1の撚り方向と反対の第2の撚り方向に、前記ベース糸と共に紡がれる。
【0016】
別の態様において、複合糸の製造方法は、第1のコアフィラメントを、前記第1のコアフィラメントの周りに一体化されたフィラメント/繊維シースを形成するように、一連の繊維および紡績中に導入される少なくとも1つの追加のフィラメントと共に紡ぎ、第1の糸構成要素を形成することを備えることができ、前記第1のコアフィラメントはモース硬度が少なくとも約7.0以上の材料からなり、前記フィラメント/繊維シース内に実質的に結合および固定される。本方法はまた、前記第1の糸構成要素を、ガラス成分を含む少なくとも1つの第2のコアフィラメントを有する第2の糸構成要素と共に撚り合わせ、前記第1の糸構成要素を前記第2の糸構成要素と共に紡いで複合糸を形成することを含み、前記第1の糸構成要素は、モース硬度が少なくとも約7.0以上である前記複合糸のコアを形成し、前記第2の糸構成要素に巻かれている。
【0017】
別の態様において、複合糸は、少なくとも約7.0のモース硬度を有する材料と、少なくとも1つの第1のコアフィラメントの周りで紡がれる第1の繊維のシースと、コアの周りで前記第1の繊維のシースを紡ぐ間に導入され、前記コアを前記第1の繊維のシース内に実質的に固定するために十分な程度に前記コアの周りに撚られる追加のフィラメントとで形成される第1の糸構成要素を備えることができる。ガラスコアおよび第2の繊維のシースを含む第2の糸構成要素は、前記ガラスコアの周りに加えられ、前記第1の糸構成要素は前記第2の糸構成要素と共にリング精紡され、前記第1の糸構成要素を複合糸の前記コアとして有し、その周りに前記第2糸構成要素が撚られた前記複合糸を形成する。
【0018】
本発明の様々な目的、特徴および利点は、添付の図面と併せて以下の詳細な説明を検討することにより当業者に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図示の簡潔さおよび明確さのために、図面に示される要素は必ずしも原寸に比例して描かれていないことが理解されるであろう。たとえば、いくつかの要素の寸法は他の要素に対して誇張されている。本開示の教示に組み込まれている実施形態は、本明細書中の図面に関して示され、説明されている。異なる図面における同じ参照符号の使用は、類似または同一の項目を示す。
【0020】
【
図1A】本開示の一実施形態に係る複合糸の製造システムおよび方法の模式図である。
【
図1B】本開示の一実施形態に係る複合糸の製造システムおよび方法の模式図である。
【
図2】本開示の一実施形態に係る複合糸の製造システムおよび方法の他の例を示す。
【
図3】本開示の一実施形態に係る複合糸の製造のためのベース糸およびベース糸束の斜視図である。
【
図4A】本開示の原理に係る高硬度コアを有する複合糸の一実地形態の側面図である。
【
図4B】本開示の原理に係る高硬度コアを有する複合糸の一実地形態の側面図である。
【
図5】本開示の原理に係る複合糸の製造方法の一実施形態のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図面と組み合わせた以下の説明は、本明細書中に開示される本教示の理解を補助するために提供される。説明は本教示の特定の実装例および実施形態に焦点を当て、本教示の説明を補助するために提供される。この焦点は本教示の適用範囲または適用可能性を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0022】
概して、本発明は高性能の複合紡績糸を形成するシステムおよび方法を対象とする。これらの複合糸は一般に、高い耐切創性および強度などの特性を示す。本開示のいくつかの実施形態は、完成した複合糸に有益な性能特性を付与することを助けるプロセスを含む。これらの性能特性は、その後、このような複合糸で作られた生地およびそこから形成される衣服に付与されることが見込まれる。概して、本発明の糸は、リング精紡機または他のタイプの精紡機、および紡績プロセスを使用して製造されるように設計されている。
【0023】
これらのプロセスにより形成された完成した複合糸は、さらに一般に、糸を編成または製織して生地を作る間、および様々な性能の織物および/または不織布を形成するためのニードルパンチやタフティングなどの他の工程の間に、コアフィラメントの突出または露出を引き起こす物理的な損傷を受けることなく(すなわち、それらのコアフィラメントが引き出される、またはシースまたはカバーを通して飛び出す可能性を実質的に最小限に抑えた状態で)、編機または織機による機械的および物理的な酷使に耐えるように設計されている。複合糸から形成される得られた高性能の生地は、典型的に、高強度、耐磨耗性または耐切創性、および/または耐火/耐熱性などの高い性能特性を有する。このような生地は、防護手袋、消防士のコートのような上着などの防護服、または高い耐切創性、耐衝撃性,高強度、高い耐火性または耐熱性のような特性が求められるまたは所望される様々な他のタイプの衣服および物品の形成に使用することができるが、生地の可動性および/または柔軟性の向上を可能にする柔らかさまたは風合いなどのさらに所望される特性も有し、着用者は、糸の中の潜在的に研磨性のある耐切創性または耐火性/耐熱性の材料との接触から保護される。本開示の高性能複合糸は、工業用のウェビング、ベルト材料および他の用途にも使用することができる。
【0024】
図1Aおよび1Bは、本開示の実施形態に係る複合糸の製造システムおよびプロセスを示す。示されるように、少なくとも1つのコアフィラメント102が最初の紡績工程120のフロントデリバリロール121に導入される。最初の紡績工程120は、リング精紡プロセスの一部を形成する精紡機を含んでもよい。少なくとも1つのコアフィラメント102は、たとえば耐熱性または耐切創性のために選択される1以上の材料で構成することができ、耐切創性および/もしくは耐熱性を有するガラス、金属、合成/ポリマーまたは天然材料で構成されてもよい。
【0025】
一実施形態では、少なくとも1つのコアフィラメント102は、任意の適切な無機もしくは有機ガラス、または繊維ガラス材料を含んでもよい。追加的または代替的に、少なくとも1つのコアフィラメント102は、たとえば鋼鉄、ステンレス鋼、アルミニウム、銅、青銅およびそれらの合金などの任意の適切な金属、アクリル類、モダクリル類、ポリエステル類、SPECTRA(登録商標)、Dyneema(登録商標)およびTsunooga(登録商標)などの高密度ポリエチレン類、ポリアミド類、直鎖状低密度ポリエチレン類、ポリエチレン類、液晶ポリエステル類、Vectran(商標)などの液晶ポリマー類、ポリプロピレン類、ナイロン類、セルロース類、PBI、黒鉛類および他の炭素系繊維、共重合体類ならびにそれらの混合物から選択される合成または天然のフィラメント材料から形成されてもよい。
【0026】
実施形態によっては、少なくとも1つのコアフィラメント102として、またはその一部として、ガラスフィラメントを使用してもよく、たとえば約50デニールから約1200デニールの間で太さを変えてもよく、加撚でも無撚でもよい。他の実施形態では、少なくとも1つのコアフィラメント102として、またはその一部として使用される様々な金属(たとえば、鋼鉄、アルミニウムなど)、天然および/または合成フィラメントも同様に、一般に、たとえば約25ミクロンから約400ミクロンの間で太さを変えてもよく、加撚でも無撚でもよい。複合糸122の用途により、より大きいまたはより小さいフィラメントのサイズまたは太さも、所望または必要に応じて、ガラス、金属、天然および合成フィラメントに使用することができる。
【0027】
図1Aおよび1Bを再度参照すると、少なくとも1つのコアフィラメント102は、1以上のロービング103から供給され得る一連の繊維106と共に、最初の紡績工程120で紡がれる。繊維は凝縮されたスライバの精細なストランドとして供給されることができ、少なくとも1つのコアフィラメント102の繊維と類似の材料から形成されていてもよい。繊維106はさらに一般に、少なくとも1つのコアフィラメントの実質的に完全な被覆、および柔らかさ/風合い、静電気放電、耐切創性、耐磨耗性、および/または断熱特性などの追加の選択された特性を提供するために選択される。繊維106を形成する材料は、アラミド類、メタ系アラミド類、モダクリル類、OPAN、高密度ポリエチレン、ナイロン類、ポリエステル類、直鎖状低密度ポリエチレン類、ポリプロピレン類、セルロース類、シリカ、綿、アクリル、炭素繊維、ポリアミド類、金属およびそれらの混合物を含んでいてもよい。ロービングから供給されるステープルファイバー106は、少なくとも1つのコアフィラメント102と組み合わされて紡がれ、または少なくとも1つのコアフィラメント102の周りで撚られ、少なくとも1つのコアフィラメント102を実質的にその中に包み込んで封入するラッピング/カバー混合物、すなわち繊維束105を形成する。
【0028】
少なくとも1つのコアフィラメント102およびロービングからのステープルファイバー106が一緒に紡がれるとき、追加のまたは第1のフィラメント104がさらに最初の紡績工程120に導入される。一実施形態では、第1のフィラメント104は、少なくとも1つのコアフィラメント102の材料と実質的に同様の材料を含むことができる。他の実施形態では、第1のフィラメント104は、少なくとも1つのコアフィラメント102の材料と実質的に異なる材料を含むことができる。たとえば、第1のフィラメント104の適切な材料は、ポリエステル、ナイロン、PTT、ライクラ、パラ系アラミド類、高密度ポリエチレンおよびそれらの混合物を含むことができる。
【0029】
第1のフィラメント104は、最初の紡績工程120において繊維106と共に導入され、一般に、繊維106が少なくとも1つのコアフィラメントの周りに紡がれる領域に供給される。これにより第1のフィラメント104は、コアフィラメントの周りに紡がれて/撚られている繊維束105の繊維106と組み合わされ、および/または混合され、一体化された繊維束107を形成する。一実施形態では、第1のフィラメント104は、繊維束が形成される前、または形成されている間、または最初の紡績工程120を出るときに、たとえば図面に示されるように側方から、繊維束105に導入することができる。
【0030】
このように第1のフィラメント104を導入することにより、第1のフィラメント104を繊維106と一体化させ、少なくとも1つのコアフィラメント102を包囲する一体化された繊維束107を形成し、第1のフィラメント104および繊維106は、少なくとも1つのコアフィラメントを一体化された繊維束の実質的に中央または中心内に固定する程度に、その周りに撚られる。第1のフィラメントは、得られたベース糸112の一体的な構成要素として埋め込まれ、さらに一般に、繊維106とほぼ同じ1インチ当たりの回転数で加えられる。これによりフィラメント/繊維束107は、一体化したコアフィラメント102を、典型的な被覆プロセスによって提供されるようにゆるく被覆したり巻いたりするのではなく、実質的に糸の中心内に包み込んで結合する。このようにコアフィラメントを保護的な繊維束内に結合/固定することは、複合糸122が生地を形成するための編成や製織などの間に機械的応力を受けたときに、コアフィラメントが露出する/引き出されることを抑制する助けになる。
【0031】
一体化されたフィラメント/繊維束は、このように、少なくとも1つのコアフィラメント102の周りに巻き付けられ、結合することで、第1の方向に撚りをかけて紡がれるベース糸112を形成する。一実施形態では、撚りの第1の方向はS撚り方向または反時計回りの撚り方向であってよい。別の実施形態では、撚りの第1の方向はZ撚り方向または時計回りの撚り方向である。コアフィラメントの周りに一体化されたフィラメント/繊維束を撚るまたは紡ぐことは、少なくとも1つのフィラメント102を、一体化されたフィラメント/繊維束により画定されるラッピング/シース内に固定するために十分な程度に行われ、少なくとも1つのコアフィラメント102を摩耗または切断から確実に保護する。また、少なくとも1つのコアフィラメントが、その周りをラッピングまたはカバーするシースを形成する一体化された繊維束から突出するまたは飛び出すことを防ぎ、および/または妨げ(すなわち、コアフィラメントは、たとえば編成、製織または他の工程で機械的応力にさらされたときなどに破断したり裂けたりした場合でも、混合糸内に含まれている)、着用者を不用意なコアフィラメントとの引っ掛かりから保護する。
【0032】
図1Aおよび1Bを再度参照すると、最初の紡績工程120により形成されたベース糸112は、その後、追加の紡績/撚り工程130の間にその周りに撚られるまたは紡がれる追加の糸束または少なくとも1つの追加のフィラメント108と撚り合わされ、複合糸束122を形成してもよい。少なくとも1つの追加のフィラメントまたは糸108は一般に、約10°から45°の間の角度で導入され(ただし、他の角度も使用できる)、柔らかさ/風合い、耐磨耗性、透湿性などの追加の所望される/選択される性能特性または特徴を提供するために選択される。ベース糸および追加のフィラメントまたは糸もまた、第1の撚り方向と反対の第2の撚り方向に紡がれ(たとえば、逆方向のZまたはS撚り)、完成した複合糸122に生じたねじれを実質的に中和および/または最小にするために選択または設計される1インチ当たりの回転数または撚数で、ベース糸の周りに撚られるまたは紡がれる。
【0033】
図1Aに示されるように、一実施形態では、追加のフィラメントまたは糸は、実質的に連続的な工程の一部として導入することができ、たとえば第2の紡績システムまたは工程130のドラフトローラー131に供給され、こうして複合糸122を形成する。
【0034】
代替的に、
図1Bに示されるように、さらなる、すなわち第2のフィラメントまたは糸108の追加は、後続のまたは別個の紡績プロセス130で実行することができる。たとえば、ベース糸112は、ロービング132またはスピンドルで形成および収集され、その後、追加のフィラメントまたは糸108をその周りに紡ぐまたは撚るために、別個のまたは下流の精紡機130に移されることができる。
【0035】
一実施形態では、ベース糸束112から形成される得られた複合糸122における少なくとも1つのコアフィラメント102の質量比は、約10%から約60%の間であってよい。別の実施形態では、ベース糸束112から形成される得られた複合糸122における少なくとも1つの追加のフィラメント104の質量比は、約3%から約35%の間であってよい。これらの質量比の範囲は例示的な範囲であって、得られる複合糸の特定の所望の特徴を満たすように異なる質量比が考慮されてもよい。
【0036】
図2に示される追加の実施形態では、第2のフィラメント、少なくとも1つの追加のフィラメントまたは糸108は、最初の紡績工程120、すなわち第1のフィラメント104がコアフィラメント102の周りで紡がれてまたは撚られて繊維106と一体化されるプロセスの間に追加されてよく、さらなる糸またはフィラメント204は、得られたベース糸212と共に撚り合わされて紡がれることができる。このような実施形態では、第2のフィラメント108はまた、第1のフィラメント104およびロービング103の繊維106が、コアフィラメント102の周りに第1の方向に巻き付けられるときに、それらの両方と混合/一体化される。その結果、第1のフィラメント104および第2のフィラメント108は、コアフィラメント102の周りの結合カバーを画定するステープルファイバー束内に実質的に一体化され、最初の「S」または「Z」方向の撚りを有するベース糸112を形成する。また、中央コアフィラメントは、一体化されたフィラメントおよび繊維束内に実質的に固定されて包み込まれ、これによりコアフィラメント102は、より従来型の紡績糸におけるゆるいラッピングまたは被覆(カバー(covering))で生じる可能性のある、複合糸を生地に編成または製織するなどの後続の使用/工程の間に、引き出されるもしくは突き出る、またはその他の方法で露出することから保護される。
【0037】
その後、1以上の追加のフィラメント(たとえば、第3のフィラメント204)は、たとえば約10°から約45°の間の角度で導入されてベース糸112と撚り合わされてもよく、追加の特性または性能特性を提供し、完成した複合糸222のねじれを実質的に中和および/または最小にするために十分な1インチ当たりの撚り数で、ベース糸112と共に第1の方向と反対の第2の方向に紡がれる。
【0038】
他の実施形態では、たとえば高い耐切創性および/または耐火性または耐熱性を有する複合高性能糸(
図3の122に示す)は、コアフィラメント102の周りに紡がれたラッピングまたはカバーとして加えられるステープルファイバー束106を含む。コアフィラメント102は、高水準の耐切創性および/または耐火性または耐熱性を有する、ガラス、金属または合成/高分子材料などの材料から選択される1以上の実質的に連続的なフィラメント102により形成されてよい。繊維束106の繊維は、天然および/または合成材料(たとえば、綿、ウール、ナイロンなど)のステープルファイバーを含むことができ、これはコアフィラメントと人肌との接触からの保護を提供すると共に、柔らかさ、透湿性、および/または他の特性などの他の所望の特徴を提供するために選択される。加えて、第1のフィラメント104は、ステープルファイバー束およびコアフィラメント102に導入されて一体化され、コアフィラメント102の周りにラッピングまたはカバーの一部を形成し、第1のフィラメントの繊維および安定した繊維束の繊維をコアフィラメント102の周りに結合するために役立つ。これにより、コアフィラメント102は実質的にその中に包含されまたは包み込まれ、ベース糸112(
図3)を形成する。
【0039】
実施形態によっては、追加のすなわち第2のフィラメントまたはフィラメント群をベース糸112に導入し、その中に埋め込むこともできる。ラッピングとなるステープルファイバー106、コアフィラメント102、および第1のフィラメント104(および実施形態によっては任意の追加の独立したフィラメント)は一緒に精紡され、
図3の矢印310により示される第1の方向(たとえば、「S」または「Z」方向)に配向した撚りを一般に有する元糸またはベース糸を形成する。複合糸122(
図3)は、後続の紡績/撚り工程でベース糸112と撚り合わされる1以上の追加のフィラメント108をさらに含み、この間、撚り合わされた追加の繊維は約10°から約45°の間の角度(ただし他の角度も使用できる)でベース糸の周りに巻き付けられまたは撚られ、複合糸122は第1方向と反対の第2方向(
図3の矢印320により示される)に紡がれてまたは撚られて、最初の紡績工程により複合糸に生じたねじれを実質的に均衡させるおよび/または最小にするために十分な反対方向の撚りを生み出す/加える。
【0040】
加えて、
図1Aから3の複合糸122および222から、たとえば、高い熱防護および/または切創防護を有する防護服の形成などに使用される生地を作成することができる。このように形成される生地は、織物または編物構造で作られてもよい。たとえば、複合糸122および222から作成される生地は、パターンで織られていてもよい(すなわちプレーンパターン、ツイルパターン、バスケットパターン、サテンパターン、レノパターン、クレープパターン、ドビーパターン、ヘリンボーンパターン、ジャカードパターン、ピッケパターン、経パイルまたは織り構成において)。別の実施形態では、生地を編成して、ジャージ、リブ、パール、フリース、ダブルウェフト、トリコット、ラッシェル、経編みまたは緯編み構造などの衣料品を形成してもよい。得られた生地は様々な性能のおよび/または防護用の衣服を形成するために使用することができる。
【0041】
さらなる実施形態において、
図4Aおよび4Bは、高性能糸を形成するために組み合わされる第1の構成要素、すなわち糸10および第2の構成要素110の断面の側面図を示す。高性能糸は、第2の構成要素110を第1の構成要素10の周りに撚り合わせ/紡ぐことにより製造される。示されるように、第1の構成要素10は本開示に従って製造可能な複合糸を含み、モース硬度が約7.0以上の材料を含むコアフィラメント12を有する。一実施形態では、コアフィラメント12は、タングステンもしくはタングステンの合金または他の類似の高硬度材料を含むことができる。モース硬度約7.0以上を有する他の材料も使用することができる。モース硬度約7.0以上の材料は、
図4Aおよび4Bの第1の構成要素10および第2の構成要素110から形成される複合糸において、一定のレベルの強度、堅牢性、耐切創性、および他の性能特性を実現するために選択される。
【0042】
第1のステープルファイバーのシース24は、リングジェット紡績プロセスの間に少なくとも1つの第1のコアフィラメント12に加えられる。得られた第1の構成要素10は一般に、モース硬度が少なくとも約7.0であり、繊維のシース24を有する高硬度コアフィラメント12を備える。繊維のシース24は、様々なステープルまたは天然繊維、合成または他の繊維から選択することができ、高硬度コアフィラメント12の周りに巻き付けられる、または撚られる。
【0043】
この第1の構成要素、すなわち糸10は、さらに第2の構成要素110と共に撚り合わせる/撚って紡ぐことができる。第2の構成要素110は、耐切創性の材料から形成されるコアフィラメント112を有するフィラメントまたは糸を備えることができる。たとえば、第2の構成要素は、約20デニールから約3000デニールの範囲の太さのガラスフィラメントコアを有する複合糸を備えることができる。ガラスコアフィラメントは、柔らかさ/風合い、透湿性、静電気防止などの追加の特徴または特性を提供するために選択され得る、高硬度コアの第1の糸構成要素10に適用されるものと類似の繊維を含み得る繊維のシース124内に収められる。代替的に、第2の構成要素は、フィラメントまたはコアなしで紡がれた繊維のシースから形成される糸を備えることができ、アラミド類、アクリル類、Basofil(登録商標)、モダクリル類、ポリエステル類、SPECTRA(登録商標)、Dyneema(登録商標)およびTsunooga(登録商標)などの高密度ポリエチレン類(HPPE)、ポリアミド類、液晶ポリエステル、Vectran(商標)などの液晶ポリマー類、直鎖状低密度ポリエチレン類、ポリプロピレン類、ナイロン、セルロース類、PBI、黒鉛類および他の炭素系繊維、共重合体類ならびにそれらの混合物から選択される材料から形成される繊維を含む1以上の追加の合成もしくは天然フィラメントまたは繊維を使用することができる。
【0044】
また示されるように、リング精紡プロセスの間に、第1の繊維のシース24および第2の繊維のシース124の繊維は、繊維の固定を助けるために実質的に互いにかみ合せる、または絡め合わせることができる。その結果、第1の構成要素、すなわち糸10および第2の構成要素110は、第2糸構成要素110のガラスフィラメントコア112によって結合される得られた高性能複合糸の高硬度コア12と一緒に撚られて紡がれ、複合糸126の高硬度コア12は、保護的なカバー内に実質的に包み込まれる、または収められる。このように高硬度コア12を一体化されたガラスコア糸/繊維束内に結合および/または固定することで、高硬度コアフィラメント12および/または繊維を保護し、同時に、さらに選択または所望される性能特性または特徴を複合糸に追加する。その後、複合糸がそれから高性能生地を形成するための製織、編成、ニードリングまたは他の工程の間に機械的応力を受けるとき、高硬度コアは、引っかかるおよび引っ張られる、または露出することから保護される。
【0045】
特定の状況では、本開示の原理を具体化する高性能糸を、ガラスフィラメントを含まない第2糸構成要素110で形成することが望ましい。一実施形態では、第2の糸構成要素110は、1以上の金属フィラメントおよび1以上の非金属のフィラメントを含んでいてもよい。非金属のフィラメントまたは繊維は、粗面化、テクスチャード加工および/または牽切されていてもよい。本実施形態のコアに含まれるこのような非金属のフィラメントは、アラミド類、アクリル類、Basofil(登録商標)などのメラミン樹脂、モダクリル類、ポリエステル類、ポリプロピレン類、SPECTRA(登録商標)、Dyneema(登録商標)およびTsunooga(登録商標)などの高密度ポリエチレン類、ポリアミド類、液晶ポリエステル類、Vectran(商標)などの液晶ポリマー、ナイロン、レーヨン、シリカ、セルロース類、PBI、導電繊維、黒鉛類および他の炭素系繊維、共重合体類ならびにそれらの混合物から選択される材料から形成されてもよい。これらの非金属のフィラメントは、他のタイプのケアおよび/またはシース繊維のために牽切および/または粗面化されてもよい。その後、本実施形態のコアに加えられるステープルファイバーのシース124は、一般に、同一の材料で形成され、他のシースのために本明細書中で説明されているものと同一の方法に従って処理される。
【0046】
図5は、
図1Aから4Bの複合糸を製造する方法500を表しているフローチャートである。方法500は、少なくとも1つのコアフィラメント102を一連のステープルファイバー106と共に紡ぐこと(ステップ510)を含む。方法500は、少なくとも1つのコアフィラメント102の周りに一連のステープルファイバー106を紡ぐ間に、第1のフィラメント104を導入すること(ステップ520)をさらに含み、一連のステープルファイバー106および第1のフィラメント104は結合し、一体化された繊維束を形成する。この一体化された繊維束は、少なくとも1つのコアフィラメント102の周りに巻き付けられ、第1の撚り方向に紡がれるベース糸112を形成し、第1のフィラメント104は、一連のステープルファイバー106とほぼ同じ1インチ当たりの回転数で加えられる。方法500は、少なくとも1つの追加のフィラメント108または追加の糸束をベース糸112に撚り合わせて複合122を形成し、少なくとも1つの追加のフィラメント108を第1の撚り方向と反対の第2の撚り方向に紡ぐ、ステップ530をさらに含む。
【0047】
(試験結果)
本開示の原理および方法に従って形成された複合糸を使用して形成され、ガラスフィラメントコアの周りに巻き付けられて紡がれる一連の短いステープルファイバーから形成され、コアの周りに紡がれるステープルファイバーの周りに巻き付けられ一体化される高密度ポリエチレンのフィラメントを含む耐磨耗/耐切創生地(以下「サンプルA」と呼ぶ)が、ガラスコアの周りに紡がれた短いステープルファイバーを有する既存の耐磨耗性の糸で形成された耐磨耗/耐切創生地(以下「サンプルB」)と比較して検査された。試験にあたって、使用されたサンプル生地は以下を含んでいた。
サンプルA:生地目付-441G/M2、以下の構成のスパンコア糸で製織
32% HPPEフィラメント
24% ポリエステルフィラメント
16% 繊維ガラス
14% HPPEステープルファイバー
14% ナイロンステープルファイバー
サンプルB:生地目付-569G/M2、以下の構成のスパンコア糸で製織
46% ナイロンステープルファイバー
30% HPPEステープルファイバー
17% 繊維ガラスフィラメント
7% ポリエステルフィラメント
最初の一連の試験において、サンプルAおよびサンプルBの生地は、ASTM D3884による繊維生地の耐磨耗性試験を受けた。各生地の複数のサンプルが検査され、各サンプルは、500グラムの荷重を印加したテーバー式摩耗試験機(H-18型)の回転台に取り付けられ、一対の摩耗輪によって一定の圧力で加えられる摩擦動作を受けた。試験結果は以下の通りであった。
生地サンプルA-平均耐摩耗性=3585サイクル
生地サンプルB-平均耐摩耗性=431サイクル
本開示に従って製造された糸を用いて形成される耐磨耗生地は、このように約731.8%の磨耗に対する抵抗においておおよその増加を示した。
2番目の一連の試験において、サンプルAおよびサンプルBの生地はまた、ASTM F2992/F2992M-15「保護服に使用される材料のカット抵抗を測定するための標準試験法」に従って耐切創性試験を受けた。このような試験では、サンプルAおよびBの生地はホルダに載置され、カミソリの刃を介して各サンプルに沿った/横断した切断を受けた。試験は、試験運転ごとにカミソリの刃に異なる荷重/負荷を加えて繰り返された。試験結果は以下の通りであった。
生地サンプルA-平均耐切創性=A5(≧2200グラム、「作業リスク要因」中/高)
生地サンプルB-平均耐切創性=A4(≧1500グラム、「作業リスク要因」中)
このように、本開示に従って製造された複合糸を用いて形成された生地(サンプルA)は、既存の耐切創/耐摩耗性糸を用いて形成された生地よりも、耐摩耗性および耐切創性の両方において有意な増加を示すことがわかる。
【0048】
本明細書ではいくつかの例示の実施形態のみを詳細に説明したが、本開示の実施形態の新規の教示および利点から著しく逸脱することなく、例示的な実施形態において多くの修正が可能であることを当業者は容易に理解するであろう。従って、すべてのそのような修正は、以下の特許請求の範囲に定義される本開示の実施形態の範囲内に含まれることが意図される。特許請求の範囲において、ミーンズ・プラス・ファンクション節は、記載された機能を実行するものとして本明細書で説明される構造、および構造的な均等物だけでなく、均等な構造も包含するものとして意図される。
【国際調査報告】