(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-23
(54)【発明の名称】肺動脈性肺高血圧症をロダトリスタットで処置するための投与量および方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/506 20060101AFI20230315BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20230315BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20230315BHJP
A61K 31/505 20060101ALI20230315BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20230315BHJP
A61K 31/4985 20060101ALI20230315BHJP
A61K 31/19 20060101ALI20230315BHJP
A61K 31/4965 20060101ALI20230315BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230315BHJP
【FI】
A61K31/506
A61P9/00
A61P9/12
A61K31/505
A61K31/519
A61K31/4985
A61K31/19
A61K31/4965
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022546019
(86)(22)【出願日】2021-01-29
(85)【翻訳文提出日】2022-09-09
(86)【国際出願番号】 IB2021000046
(87)【国際公開番号】W WO2021152398
(87)【国際公開日】2021-08-05
(32)【優先日】2020-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519165489
【氏名又は名称】アルタバント・サイエンシズ・ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】ALTAVANT SCIENCES GmbH
【住所又は居所原語表記】VIADUKTSTRASSE 8,4051 BASEL,SWITZERLAND
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】リング, スティーブン エー.
(72)【発明者】
【氏名】パラシオス, ミシェル
(72)【発明者】
【氏名】ライガード クライザー, ケイトリン
(72)【発明者】
【氏名】シモンズ, ビル
(72)【発明者】
【氏名】パターソン, ダニエル
【テーマコード(参考)】
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC42
4C086BC48
4C086CB05
4C086CB06
4C086CB09
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA36
4C086ZA42
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206DA02
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206NA05
4C206NA14
4C206ZA36
4C206ZA42
4C206ZC75
(57)【要約】
肺動脈性肺高血圧症(PAH)を処置するためには、1日1回の、最大600mgのロダトリスタットエチルまたは最大1200mgのロダトリスタットエチルをそれぞれ有する2つの別個の剤形の1日投与量がある。剤形の投与によって、処置を必要とするヒト患者のPAHを処置する方法がある。また、ある量のロダトリスタットエチルの第1の化合物と、アンブリセンタン、シルデナフィル、タダラフィル、ボセンタン、トレプロスチニル、セレキシパグ、マシテンタン、およびその2またはそれを超える化合物の組み合わせの中から選択されるある量の第2の化合物の毎日の投与によってPAHを処置するための方法もある。この組み合わせは、薬物間相互作用のリスクの低い2つの化合物単独と比較して、PAHの症状または副作用の相加的または相乗的減少をもたらす(血流中のCmax、unboundが0.028μMなど)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの個別の剤形からなる、肺動脈性肺高血圧症を処置するための1日投与量であって、前記剤形の各々が最大600mgの量のロダトリスタットエチルを含む、1日投与量。
【請求項2】
前記ロダトリスタットエチルが、ロダトリスタットエチル、フォーム3である、請求項1に記載の1日投与量。
【請求項3】
前記ロダトリスタットエチルが、ロダトリスタットエチル、フォーム1である、請求項1に記載の1日投与量。
【請求項4】
前記ロダトリスタットエチルが、ロダトリスタットエチル、アモルファスである、請求項1に記載の1日投与量。
【請求項5】
前記剤形が経口剤形である、請求項1~4のいずれかに記載の1日投与量。
【請求項6】
前記剤形の各々が、ある量の薬学的に許容され得る賦形剤をさらに含む、請求項1~5のいずれかに記載の1日投与量。
【請求項7】
最大1200mgの量のロダトリスタットエチルを含む、肺動脈性肺高血圧症を処置するための1日投与量。
【請求項8】
前記ロダトリスタットエチルが、ロダトリスタットエチル、フォーム3である、請求項7に記載の1日投与量。
【請求項9】
前記ロダトリスタットエチルが、ロダトリスタットエチル、フォーム1である、請求項7に記載の1日投与量。
【請求項10】
前記ロダトリスタットエチルが、ロダトリスタットエチル、アモルファスである、請求項7に記載の1日投与量。
【請求項11】
前記量が、1またはそれを超える薬学的に許容され得る賦形剤をさらに含む、請求項7~10のいずれかに記載の1日投与量。
【請求項12】
肺動脈性肺高血圧症を処置するための方法であって、それを必要とするヒト患者に、最大600mgのロダトリスタットエチルの個々の投与量を1日2回投与することを含む、方法。
【請求項13】
前記ロダトリスタットエチルが投与され、前記ロダトリスタットエチルがロダトリスタットエチル、フォーム3である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ロダトリスタットエチルが、ロダトリスタットエチル、フォーム1である、請求項12に記載の1日投与量。
【請求項15】
前記ロダトリスタットエチルが、ロダトリスタットエチル、アモルファスである、請求項12~14のいずれかに記載の1日投与量。
【請求項16】
前記量が経口的に投与される、請求項12~15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
肺動脈性肺高血圧症を処置するための方法であって、それを必要とするヒト患者に、1日あたり最大1200mgの量のロダトリスタットエチルを投与することを含む、方法。
【請求項18】
前記ロダトリスタットエチルが投与され、前記ロダトリスタットエチルがロダトリスタットエチル、フォーム3である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記ロダトリスタットエチルが、ロダトリスタットエチル、フォーム1である、請求項17に記載の1日投与量。
【請求項20】
前記ロダトリスタットエチルが、ロダトリスタットエチル、アモルファスである、請求項17に記載の1日投与量。
【請求項21】
前記量が経口的に投与される、請求項17~20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
肺動脈性肺高血圧症を処置するための方法であって、それを必要とするヒト患者に、(A)最大1200mgの量のロダトリスタットエチルの第1の化合物と、(B)アンブリセンタン、シルデナフィル、タダラフィル、ボセンタン、トレプロスチニル、セレキシパグ、マシテンタン、および2またはそれを超える前述の化合物からなる群から選択される、ある量の第2の化合物を毎日投与することを含み、前記第1の化合物と前記第2の化合物が、薬物間相互作用のリスクの低い前記第1の化合物および前記第2の化合物単独と比較して、肺動脈性肺高血圧症の症状の相加的または相乗的な減少をもたらす組み合わせである、方法。
【請求項23】
前記ロダトリスタットエチルが、ロダトリスタットエチル、フォーム3である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記ロダトリスタットエチルが、ロダトリスタットエチル、フォーム1である、請求項22に記載の1日投与量。
【請求項25】
前記ロダトリスタットエチルが、ロダトリスタットエチル、アモルファスである、請求項22に記載の1日投与量。
【請求項26】
前記第2の化合物がセレキシパグである、請求項22~25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
前記第2の化合物がトレプロスチニルである、請求項22~25のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
前記第2の化合物がボセンタンである、請求項22~25のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
前記第2の化合物がタダラフィルである、請求項22~25のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
前記第2の化合物がシルデナフィルである、請求項22~25のいずれかに記載の方法。
【請求項31】
前記第2の化合物がアンブリセンタンである、請求項22~25のいずれかに記載の方法。
【請求項32】
前記第2の化合物がマシテンタンである、請求項22~25のいずれかに記載の方法。
【請求項33】
肺動脈性肺高血圧症を処置するための方法であって、それを必要とするヒト患者に、(A)ある量のロダトリスタットエチルの第1の化合物と、(B)アンブリセンタン、シルデナフィル、タダラフィル、ボセンタン、トレプロスチニル、セレキシパグ、マシテンタン、および2またはそれを超える前述の化合物からなる群から選択される、ある量の第2の化合物を、投与することを含み、前記第1の化合物と前記第2の化合物が、前記第1の化合物および前記第2の化合物単独と比較して、肺動脈性肺高血圧症の症状の相乗的または相加的な減少をもたらす組み合わせであり、投与されたロダトリスタットエチルの前記量により、血流中のロダトリスタットエチルおよびその活性代謝物のロダトリスタットのC
max、unboundが0.028μM未満となる、方法。
【請求項34】
前記ロダトリスタットエチルが、ロダトリスタットエチル、フォーム3である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記ロダトリスタットエチルが、ロダトリスタットエチル、フォーム1である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記ロダトリスタットエチルが、ロダトリスタットエチル、アモルファスである、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記第2の化合物がセレキシパグである、請求項33~36のいずれかに記載の方法。
【請求項38】
前記第2の化合物がトレプロスチニルである、請求項33~36のいずれかに記載の方法。
【請求項39】
前記第2の化合物がボセンタンである、請求項33~36のいずれかに記載の方法。
【請求項40】
前記第2の化合物がタダラフィルである、請求項33~36のいずれかに記載の方法。
【請求項41】
前記第2の化合物がシルデナフィルである、請求項33~36のいずれかに記載の方法。
【請求項42】
前記第2の化合物がアンブリセンタンである、請求項33~36のいずれかに記載の方法。
【請求項43】
前記第2の化合物がマシテンタンである、請求項33~36のいずれかに記載の方法。
【請求項44】
肺動脈性肺高血圧症を処置するための方法であって、それを必要とするヒト患者に、(A)ある量のロダトリスタットエチルの第1の化合物と、(B)アンブリセンタン、シルデナフィル、タダラフィル、ボセンタン、トレプロスチニル、セレキシパグ、マシテンタン、および2またはそれを超える前述の化合物からなる群から選択される、ある量の第2の化合物を、毎日投与することを含み、前記第1の化合物と前記第2の化合物が、前記第1の化合物および前記第2の化合物の単独または相加的と比較して、肺動脈性肺高血圧症の副作用の相乗的な減少をもたらす組み合わせであり、投与されたロダトリスタットエチルの前記量により、血流中のロダトリスタットエチルおよびその活性代謝物のロダトリスタットのC
max、unboundが0.028μM未満となる、方法。
【請求項45】
前記ロダトリスタットエチルが、ロダトリスタットエチル、フォーム3である、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記ロダトリスタットエチルが、ロダトリスタットエチル、フォーム1である、請求項44に記載の方法。
【請求項47】
前記ロダトリスタットエチルが、ロダトリスタットエチル、アモルファスである、請求項44に記載の方法。
【請求項48】
前記第2の化合物がセレキシパグである、請求項44~47のいずれかに記載の方法。
【請求項49】
前記第2の化合物がトレプロスチニルである、請求項44~47のいずれかに記載の方法。
【請求項50】
前記第2の化合物がボセンタンである、請求項44~47のいずれかに記載の方法。
【請求項51】
前記第2の化合物がタダラフィルである、請求項44~47のいずれかに記載の方法。
【請求項52】
前記第2の化合物がシルデナフィルである、請求項44~47のいずれかに記載の方法。
【請求項53】
前記第2の化合物がアンブリセンタンである、請求項44~47のいずれかに記載の方法。
【請求項51】
前記第2の化合物がマシテンタンである、請求項44~47のいずれかに記載の方法。
【請求項52】
肺動脈性肺高血圧症を処置するための方法であって、それを必要とするヒト患者に、(A)ある量のロダトリスタットエチルの第1の化合物および(B)アンブリセンタン、シルデナフィル、タダラフィル、ボセンタン、トレプロスチニル、セレキシパグ、マシテンタン、および2またはそれを超える前述の化合物からなる群から選択される、ある量の第2の化合物を毎日投与することを含み、前記第1の化合物と前記第2の化合物が、前記第1の化合物および前記第2の化合物単独と比較して、肺動脈性肺高血圧症の副作用の相加的または相乗的な減少をもたらす組み合わせであり、前記第1の化合物も、その活性代謝物ロダトリスタットも、血流中の前記第2の化合物の代謝に実質的に影響を与えない、方法。
【請求項53】
前記第1の化合物が、ロダトリスタットエチル、フォーム3である、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記ロダトリスタットエチルが、ロダトリスタットエチル、フォーム1である、請求項52に記載の1日投与量。
【請求項55】
前記ロダトリスタットエチルが、ロダトリスタットエチル、アモルファスである、請求項53に記載の1日投与量。
【請求項56】
前記第2の化合物がセレキシパグである、請求項52~55のいずれかに記載の方法。
【請求項57】
前記第2の化合物がトレプロスチニルである、請求項52~55のいずれかに記載の方法。
【請求項58】
前記第2の化合物がボセンタンである、請求項52~55のいずれかに記載の方法。
【請求項59】
前記第2の化合物がタダラフィルである、請求項52~55のいずれかに記載の方法。
【請求項60】
前記第2の化合物がシルデナフィルである、請求項52~55のいずれかに記載の方法。
【請求項61】
前記第2の化合物がアンブリセンタンである、請求項52~55のいずれかに記載の方法。
【請求項62】
前記第2の化合物がマシテンタンである、請求項52~55のいずれかに記載の方法。
【請求項63】
肺動脈性肺高血圧症を処置するための方法であって、それを必要とするヒト患者に、(A)ある量のロダトリスタットエチルの第1の化合物および(B)アンブリセンタン、シルデナフィル、タダラフィル、ボセンタン、トレプロスチニル、セレキシパグ、マシテンタン、および2またはそれを超える前述の化合物からなる群から選択される、ある量の第2の化合物を毎日投与することを含み、前記第1の化合物が、血流中のCYP1A2、CYP2C9、CYP2C19、およびCYP2D6からなる酵素群の1またはそれより多くに対して30μM以上のIC
50を示す、方法。
【請求項64】
前記第1の化合物が、ロダトリスタットエチル、フォーム3である、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
前記ロダトリスタットエチルが、ロダトリスタットエチル、フォーム1である、請求項63に記載の1日投与量。
【請求項66】
前記ロダトリスタットエチルが、ロダトリスタットエチル、アモルファスである、請求項63に記載の1日投与量。
【請求項67】
前記第2の化合物がセレキシパグである、請求項63~66のいずれかに記載の方法。
【請求項68】
前記第2の化合物がトレプロスチニルである、請求項63~66のいずれかに記載の方法。
【請求項69】
前記第2の化合物がボセンタンである、請求項63~66のいずれかに記載の方法。
【請求項70】
前記第2の化合物がタダラフィルである、請求項63~66のいずれかに記載の方法。
【請求項71】
前記第2の化合物がシルデナフィルである、請求項63~66のいずれかに記載の方法。
【請求項72】
前記第2の化合物がアンブリセンタンである、請求項63~66のいずれかに記載の方法。
【請求項73】
前記第2の化合物がマシテンタンである、請求項63~66のいずれかに記載の方法。
【請求項74】
肺動脈性肺高血圧症を処置するための方法であって、それを必要とするヒト患者に、(A)ある量のロダトリスタットエチルの第1の化合物および(B)アンブリセンタン、シルデナフィル、タダラフィル、ボセンタン、トレプロスチニル、セレキシパグ、マシテンタン、および2またはそれを超える前述の化合物からなる群から選択されるある量の第2の化合物を毎日投与することを含み、前記第1の化合物の活性代謝物ロダトリスタットが、CYP1A2、CYP2B6、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、およびCYP3A4からなる酵素群の1またはそれより多くに対して30μM以上のIC
50を示す、方法。
【請求項75】
前記第1の化合物が、ロダトリスタットエチル、フォーム3である、請求項74に記載の方法。
【請求項76】
前記ロダトリスタットエチルが、ロダトリスタットエチル、フォーム1である、請求項74に記載の1日投与量。
【請求項77】
前記ロダトリスタットエチルが、ロダトリスタットエチル、アモルファスである、請求項74に記載の1日投与量。
【請求項78】
前記第2の化合物がセレキシパグである、請求項74~77のいずれかに記載の方法。
【請求項79】
前記第2の化合物がトレプロスチニルである、請求項74~77のいずれかに記載の方法。
【請求項80】
前記第2の化合物がボセンタンである、請求項74~77のいずれかに記載の方法。
【請求項81】
前記第2の化合物がタダラフィルである、請求項74~77のいずれかに記載の方法。
【請求項82】
前記第2の化合物がシルデナフィルである、請求項74~77のいずれかに記載の方法。
【請求項83】
前記第2の化合物がアンブリセンタンである、請求項74~77のいずれかに記載の方法。
【請求項84】
前記第2の化合物がマシテンタンである、請求項74~77のいずれかに記載の方法。
【請求項85】
肺動脈性肺高血圧症を処置するための方法であって、それを必要とするヒト患者に、ロダトリスタットエチルおよびロダトリスタットから選択される治療上有効な量の化合物を投与することを含む、方法。
【請求項86】
前記化合物がロダトリスタットエチルである、請求項85に記載の方法。
【請求項87】
前記化合物がロダトリスタットエチル、フォーム3である、請求項86に記載の方法。
【請求項87】
前記化合物がロダトリスタットエチル、フォーム1である、請求項86に記載の方法。
【請求項88】
前記化合物がロダトリスタットエチル、アモルファスである、請求項86に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の背景
1.本開示の分野
本開示は、肺動脈性肺高血圧症を医薬活性物質で処置するための1日投与量に関する。本開示はさらに、肺動脈性肺高血圧症を医薬活性物質で処置するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2.関連技術の説明
肺動脈性肺高血圧症(PAH)は、肺動脈床のリモデリングを特徴とし、安静時平均肺動脈圧の上昇、その後の右心室肥大、最終的には右心不全と死亡に至る、重度の不治の疾患である。Am Heart J.2011 Aug;162(2):201-13,doi:10.1016/j.ahj.2011.05.012.Epub 2011 Jul 13。PAHに対する現在の標準治療は、3つの異なる経路-すなわち、エンドセリン1経路、一酸化窒素経路、プロスタサイクリン経路を標的としている。Humbert M.Ghofrani H-A.Thorax 2016:71;73-83.doi:10.1136/thoraxjnl-2015-207170。
【0003】
PAH患者は、プロスタサイクリンとプロスタサイクリン合成酵素が欠乏している。セレキシパグは、PAHの処置に承認された最初の経口活性、選択的、長時間作用性、非プロスタノイドのプロスタサイクリン受容体アゴニストであった[Scott、2016]。セレキシパグは加水分解されてその活性代謝物ACT-333679になり、これはセレキシパグよりも約37倍強力である[Kaufmann,2015、Brudererら、2017]。インビトロ実験では、セレキシパグとACT-333679がシトクロムP450(CYP)酵素であるCYP2C8およびCYP3A4による酸化的代謝を受けることが示されている。ゲムフィブロジル(CYP2C8の強力な不可逆的阻害剤)とセレキシパグで行った薬物間相互作用研究では、ACT-333679のAUC0-∞が11倍増加したことから、セレキシパグとCYP2C8の強力な阻害剤との併用投与は避けなければならないと決定された。セレキシパグとゲムフィブロジルの併用投与後に報告されたAEの発生率および/または強度は、セレキシパグ単独の投与後のものよりも有意に高かった。これは、ヒトにおけるセレキシパグの効果の主要な寄与因子である活性代謝物ACT-333679への曝露の観察された増加と一致している。[Brudererら、2017]。
【0004】
ロダトリスタットエチル(RVT-1201)は、活性型トリプトファンヒドロキシラーゼ(TPH1)阻害剤であるロダトリスタット(KAR5417)のプロドラッグであり、PAHを対象に開発中である。経口投与後、ロダトリスタットエチルは急速に吸収され、KAR5417に加水分解される。ロダトリスタットエチルまたはKAR5417をFDAに承認されたPAH製薬活性物質を組み合わせて、ロダトリスタットエチル/KAR5417またはFDAに承認された活性物質のいずれか単独と比較して、PAHの症状または副作用の処置における有効性を高める投与システムおよび方法を有することが望ましいであろう。さらに、最大600mg BIDのロダトリスタットエチルの投与を受けるヒト患者において、7日目までに高い定常状態の曝露量を提供する投与システムおよび方法を有することが望ましいであろう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Am Heart J.2011 Aug;162(2):201-13,doi:10.1016/j.ahj.2011.05.012.Epub 2011 Jul 13.
【非特許文献2】Humbert M.Ghofrani H-A.Thorax 2016:71;73-83.doi:10.1136/thoraxjnl-2015-207170
【発明の概要】
【0006】
本開示の概要
本開示によれば、肺動脈性肺高血圧症を処置するための1日投与量が提供される。1日投与量には、2つの個別の剤形があり、剤形の各々は、最大600mgの量のロダトリスタットエチルを含む。
【0007】
さらに本開示によれば、肺動脈性肺高血圧症を処置するための方法が提供される。この方法は、それを必要とするヒト患者に、ロダトリスタットエチルの最大600mgの個々の投与量を1日2回投与するステップを有する。
【0008】
さらに本開示によれば、肺動脈性肺高血圧症を処置するためのもう一つの方法であって、それを必要とするヒト患者に、最大1200mgの量のロダトリスタットエチルを1日1回投与するステップを含む、方法が提供される。
【0009】
さらに本開示によれば、肺動脈性肺高血圧症を処置するためのもう一つの方法が提供される。この方法は、それを必要とするヒト患者に、(A)1200mgまでのある量のロダトリスタットエチルの第1の化合物および(B)アンブリセンタン、シルデナフィル、タダラフィル、ボセンタン、トレプロスチニル、セレキシパグ、および2またはそれを超える前述の化合物からなる群から選択される、ある量の第2の化合物を毎日投与するステップを有する。第1の化合物と第2の化合物は、薬物間相互作用のリスクの低い第1の化合物および第2の化合物単独と比較して、肺動脈性肺高血圧症の症状の相加的または相乗的な減少をもたらす組み合わせである。
【0010】
さらに本開示によれば、肺動脈性肺高血圧症を処置するためのもう一つの方法であって、それを必要とするヒト患者に、(A)ある量のロダトリスタットエチルの第1の化合物および(B)アンブリセンタン、シルデナフィル、タダラフィル、ボセンタン、トレプロスチニル、セレキシパグ、マシテンタン、および2またはそれを超える前述の化合物からなる群から選択されるある量の第2の化合物を投与するステップを含む、方法が提供される。第1の化合物と第2の化合物は、第1の化合物および第2の化合物単独と比較して、肺動脈性肺高血圧症の症状の相乗的または相加的な減少をもたらす組み合わせであり、ロダトリスタットエチルの量は、0.028μM未満の血流中Cmax、unboundをもたらす。
【0011】
さらに本開示によれば、肺動脈性肺高血圧症を処置するためのもう一つの方法であって、それを必要とするヒト患者に、(A)ある量のロダトリスタットエチルの第1の化合物および(B)アンブリセンタン、シルデナフィル、タダラフィル、ボセンタン、トレプロスチニル、セレキシパグ、マシテンタン、および2またはそれを超える前述の化合物からなる群から選択されるある量の第2の化合物を投与するステップを含む、方法が提供され、第1の化合物と第2の化合物は、第1の化合物および第2の化合物の単独または相加的と比較して、肺動脈性肺高血圧症の副作用の相乗的な減少をもたらす組み合わせであり、KAR5417の量は、0.028μM未満の血流中のCmax、unboundをもたらす。
【0012】
さらに本開示によれば、肺動脈性肺高血圧症を処置するためのもう一つの方法であって、それを必要とするヒト患者に、(A)ある量のロダトリスタットエチルの第1の化合物および(B)アンブリセンタン、シルデナフィル、タダラフィル、ボセンタン、トレプロスチニル、セレキシパグ、マシテンタン、および2またはそれを超える前述の化合物からなる群から選択されるある量の第2の化合物を、投与するステップを含む、方法が提供され、第1の化合物と第2の化合物は、第1の化合物および第2の化合物の単独または相加的と比較して、肺動脈性肺高血圧症の副作用の相乗的な減少をもたらす組み合わせであり、ロダトリスタットエチルとKAR5417の合計量は、0.028μM未満の血流中の複合Cmax、unboundをもたらす。
【0013】
さらに本開示によれば、肺動脈性肺高血圧症を処置するためのさらにもう一つの方法であって、それを必要とするヒト患者に、(A)ある量のロダトリスタットエチルの第1の化合物および(B)アンブリセンタン、シルデナフィル、タダラフィル、ボセンタン、トレプロスチニル、セレキシパグ、マシテンタンおよび2またはそれを超える前述の化合物からなる群から選択されるある量の第2の化合物を毎日投与するステップを含む、方法が提供される。第1の化合物と第2の化合物は、第1の化合物および第2の化合物の単独または相加的と比較して、肺動脈性肺高血圧症の副作用の相乗的な減少をもたらす組み合わせであり、第1の化合物も、その活性代謝物ロダトリスタットも、血流中の第2の化合物の代謝に実質的に影響を与えない。
【0014】
さらに本発明によれば、肺動脈性肺高血圧症を処置するためのさらにもう一つの方法であって、それを必要とするヒト患者に、(A)ある量のロダトリスタットエチルの第1の化合物および(B)アンブリセンタン、シルデナフィル、タダラフィル、ボセンタン、トレプロスチニル、セレキシパグ、マシテンタンおよび2またはそれを超える前述の化合物からなる群から選択されるある量の第2の化合物を毎日投与するステップを含む、方法が提供される。ロダトリスタットエチルおよびその活性代謝物ロダトリスタットは、血流中のCYP1A2、CYP2C9、CYP2C19、およびCYP2D6からなる酵素群からなる酵素群の1またはそれより多くに対して30μM以上のIC50を示す。
【0015】
さらに本発明によれば、肺動脈性肺高血圧症を処置するためのさらにもう一つの方法であって、それを必要とするヒト患者に、(A)ある量のロダトリスタットエチルの第1の化合物および(B)アンブリセンタン、シルデナフィル、タダラフィル、ボセンタン、トレプロスチニル、セレキシパグ、マシテンタンおよび2またはそれを超える前述の化合物からなる群から選択されるある量の第2の化合物を毎日投与するステップを含む、方法が提供される。ロダトリスタットエチルおよびその活性代謝物ロダトリスタットは、CYP1A2、CYP2B6、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、およびCYP3A4からなる酵素群からなる酵素群の1またはそれより多くに対して30μM以上のIC50を示す。
【0016】
さらに本開示によれば、肺動脈性肺高血圧症を処置するための方法であって、それを必要とするヒト患者に、治療有効量のロダトリスタットエチル、フォーム3を投与するステップを含む、方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
本開示の実施形態は、以下の図面を参照して本明細書で説明される。
【0018】
【
図1】
図1は、本開示による(S)-エチル8-(2-アミノ-6-((R)-1-(5-クロロ-[1,1’-ビフェニル]-2-イル)-2,2,2-トリフルオロエトキシ)ピリミジン-4-イル)-2,8-ジアザスピロ[4.5]デカン-3-カルボキシレートの結晶性化合物のXRPDのプロットである(結晶性のフォーム3)。
【0019】
【
図2】
図2は、
図1のものとは異なる多形形態の(S)-エチル8-(2-アミノ-6-((R)-1-(5-クロロ-[1,1’-ビフェニル]-2-イル)-2,2,2-トリフルオロエトキシ)ピリミジン-4-イル)-2,8-ジアザスピロ[4.5]デカン-3-カルボキシレートの結晶性化合物のXRPDのプロットである(結晶性のフォーム1)。
【0020】
【
図3】
図3は、CYP阻害のリスクが低いREの600mg BID投与についての予測されるC
maxを示す。
【0021】
【
図4】
図4は、Rについての600mg BID投与に関する予測されるC
maxは、CYP阻害のリスクが低いと予測することを示す。
【0022】
【
図5】
図5は、RVT-1201-KAR5585、Lot CS14-075Aa-1704、フォーム3、LIMS No.470337のインデックス作成ソリューション(indexing solution)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
開示の詳細な説明
ロダトリスタットは、代謝的に安定しており、PAH薬との薬物相互作用の可能性は低い。ロダトリスタットエチルと肺動脈性肺高血圧症(PAH)の承認薬との間の代謝性薬物間相互作用(DDI)の可能性は低い。
【0024】
ロダトリスタットエチル(RE)は、PAHを対象とした第2相臨床開発(ELEVATE 2試験)中である。REは、トリプトファンヒドロキシラーゼ(TPH)阻害剤である、ロダトリスタット(R)の経口で生物学的に利用可能なプロドラッグである。TPH1は、セロトニン(5-HT)の末梢生合成のための律速酵素であり、PAHで上方調節される。過剰な5-HTは、PAHの病理に関与している。MacLean、M.R.2018.The serotonin hypothesis in pulmonary hypertension revisited:targets for novel therapies.Pulm Circ.8(2).1-9を参照されたい。
【0025】
ロダトリスタットエチルは、活性型トリプトファンヒドロキシラーゼ(TPH1)阻害剤KAR5417のプロドラッグであり、PAHを対象に開発中である。経口投与後、ロダトリスタットエチルは急速に吸収され、KAR5417に加水分解される。これまでに健康な被験者で達成された最大の曝露は、ロダトリスタットエチルの800mgを1日2回(BID)投与した後、7日目に到達した。ロダトリスタットエチルおよびKAR5417は、インビトロでCYP2C8を阻害するが、最大600mgの用量のロダトリスタットエチルをBID投与されたヒトにおいてこの酵素と臨床的に関連する阻害的相互作用を引き起こす可能性は弱いと決定された。
【0026】
PAH処置には併用療法レジメンが用いられることがあり、潜在的な薬物間相互作用(DDI)を理解することが、患者のケアを管理する際の重要な特徴である。薬物間相互作用研究を実施して、ロダトリスタットエチルの定常状態の投与がセレキシパグおよびその代謝物ACT-333679の薬物動態(PK)に及ぼす影響がある場合にはその影響を決定した。
【0027】
PAH製薬活性物質
(S)-エチル8-(2-アミノ-6-((R)-1-(5-クロロ-[1,1’-ビフェニル]-2-イル)-2,2,2-トリフルオロエトキシ)ピリミジン-4-イル)-2,8-ジアザスピロ[4.5]デカン-3-カルボキシレートは、本明細書ではロダトリスタットエチル(RE)と称され、文献ではKAR5585およびRVT-1201とも称されている。ロダトリスタットエチルは、次の構造を有する。
【化1】
【0028】
アモルファス形態の(S)-エチル8-(2-アミノ-6-((R)-1-(5-クロロ-[1,1’-ビフェニル]-2-イル)-2,2,2-トリフルオロエトキシ)ピリミジン-4-イル)-2,8-ジアザスピロ[4.5]デカン-3-カルボキシレートは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第9,199,994号の実施例63iに記載される方法によって調製され得る。このアモルファス形態は、次に、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、2020年5月14日に公開された米国特許出願公開第2020/0148681(A1)号に記載される方法によって結晶形態に変換することができる。フォーム1および3は、米国特許出願公開第2020/0148681(A1)号に記載の方法によって調製することができる。
【0029】
フォーム3は、以下のX線粉末回折パターン(XRPD)を示す。
【表7-1】
【表7-2】
【0030】
X線粉末回折パターンは、以下の方法に従ってCu Kα放射線源を使用して実行される。
【0031】
PANalytical製X’Pert PRO MPD回折計-反射配置
選択されたXRPDパターンは、PANalytical製X’Pert PRO MPD回折計で、長い微小焦点源とニッケルフィルターを使用して生成したCu Kα放射線の入射ビームを使用して収集した。回折計は、対称Bragg-Brentano配置を使用して構成された。分析に先立ち、シリコン標本(NIST SRM 640e)を分析して、観察されたSi111ピークの位置がNISTに認定された位置と一致していることを確認した。サンプルの標本は、シリコンゼロバックグラウンド基板を中心とする薄い円形の層として調製された。散乱防止スリット(SS)を使用して、空気により生成されるバックグラウンドを最小化した。入射ビームと回折ビームにはソーラースリットを使用して、軸発散による広がりを最小化した。回折パターンは、サンプルから240mmの位置にある走査位置高感度検出器(X’Celerator)とData Collectorソフトウェアv.2.2bを使用して収集した。各パターンのデータ取得パラメータは、この報告書のデータセクションの画像の上に、発散スリット(DS)および入射ビームSSを含めて表示されている。
【0032】
図は、検証済みソフトウェアPatternMatch v 2.3.6を使用して生成された。ロダトリスタットエチルについてのインデックス作成ソリューションを
図5に示す。
【0033】
ロダトリスタットエチルの代謝物は、(S)-8-(2-アミノ-6-((R)-1-(5-クロロ-[1,1’-ビフェニル]-2-イル)-2,2,2-トリフルオロエトキシ)ピリミジン-4-イル)-2,8-ジアザスピロ[4.5]デカン-3-カルボン酸であり、それは次式である。
【化2】
【0034】
(S)-8-(2-アミノ-6-((R)-1-(5-クロロ-[1,1’-ビフェニル]-2-イル)-2,2,2-トリフルオロエトキシ)ピリミジン-4-イル)-2,8-ジアザスピロ[4.5]デカン-3-カルボン酸は、本明細書においてロダトリスタットと称される。ロダトリスタットは、文献ではKAR5417とも称されている。ロダトリスタットエチルが血流に入ると、それはロダトリスタットに実質的に変換される。KAR5417のアモルファス形態は、この場合も参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第9,199,994号の実施例34cに記載される方法によって調製され得る。
【0035】
FDAに承認されたPAH製薬活性物質
以下のFDAに承認された製薬活性物質は、PAHの処置においてロダトリスタットおよびロダトリスタットエチルと併用すると有用である。
【0036】
クエン酸シルデナフィルは、サイクリックグアノシン一リン酸(cGMP)特異的ホスホジエステラーゼ5型(PDE5)の選択的阻害剤であるシルデナフィルのクエン酸塩である。クエン酸シルデナフィルは、化学的には1-[[3-(6,7-ジヒドロ-1-メチル-7-オキソ-3-プロピル-1H-ピラゾロ[4,3-d]ピリミジン-5-イル)-4-エトキシフェニル]スルホニル]-4-メチルピペラジンクエン酸塩と表され、次の構造式を有する。
【化3】
【0037】
PDE-5阻害剤であるタダラフィルは、化学的には(2R,8R)-2-(2H-1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-6-メチル-3,6,17-トリアザテトラシクロ[8.7.0.0
3,
8.0
11,
16]ヘプタデカ-1(10),11,13,15-テトラエン-4,7-ジオンと表され、次の構造式を有する。
【化4】
【0038】
ボセンタンは、高度に置換されたピリミジン誘導体のクラスに属するエンドセリン受容体アンタゴニストであり、キラル中心はない。これは、化学的には4-tert-ブチル-N-[6-(2-ヒドロキシ-エトキシ)-5-(2-メトキシ-フェノキシ)-[2,2’]-ビピリミジン4-イル]-ベンゼンスルホンアミド一水和物と表され、次の構造式を有する。
【化5】
【0039】
アンブリセンタンは、エンドセリンA型(ETA)受容体に選択的なエンドセリン受容体アンタゴニストである。アンブリセンタンの化学名は、(+)-(2S)-2-[(4,6-ジメチルピリミジン-2-イル)オキシ]-3-メトキシ-3,3-ジフェニルプロパン酸である。これは、(S)配置と決定された単一のキラル中心を含み、次の構造式を有する。
【化6】
【0040】
セレキシパグは、肺の脈管構造で血管拡張を引き起こすプロスタサイクリン受容体アゴニストである。セレキシパグは、ピラジン環の5位と6位に2つの追加のフェニル置換基を持つN-(メタンスルホニル)-2-{4-[(プロパン-2-イル)(ピラジン-2-イル)アミノ]ブトキシ}アセトアミドであるピラジンの一種である。これは、次の構造式を有する。
【化7】
【0041】
トレプロスチニルは、プロスタサイクリン(prostacycline)血管拡張薬である。トレプロスチニル(ナトリウム)は、(1R,2R,3aS,9aS)-[[2,3,3a,4,9,9a-ヘキサヒドロ-2-ヒドロキシ-1-[(3S)-3-ヒドロキシオクチル]-1Hベンズ[f]インデン-5-イル]オキシ]酢酸一ナトリウム塩である。これは、次の構造式を有する。
【化8】
【0042】
マシテンタンは、エンドセリン受容体アンタゴニスト(ERA)である。マシテンタンは、ET-1とET受容体の結合を阻害することにより、細胞内カルシウムのET1依存性の上昇を遮断する。PAHの処置ではETBを遮断するよりもETA受容体サブタイプを遮断するほうが重要であると思われる。これは、肺動脈平滑筋細胞にはETB受容体よりも多くの数のETA受容体が存在するためであると考えられる。化学式は、N-[5-(4-ブロモフェニル)-6-[2-[(5-ブロモ-2-ピリミジニル)オキシ]エトキシ]-4-ピリミジニル]-N’-プロピル-スルファミドである。CAS番号は441798-33-0である。構造式は次の通りである。
【化9】
【0043】
本明細書において使用される、「治療上有効な量」という語句は、研究者、医師または他の臨床医が求めている組織、系、個体またはヒトにおいて生物学的または医学的応答を誘発する活性化合物または医薬品の量を指す。
【0044】
本明細書において使用される、「処置すること」または「処置」という用語は、1)疾患を阻害すること;例えば、疾患、状態または障害の病理または総体的徴候を経験または示している個体の疾患、状態または障害を阻害すること(すなわち、病理および/または総体的徴候のさらなる発症を阻止すること)、または2)疾患を寛解させること;例えば、疾患、状態または障害の病理または総体的徴候を経験または示している個体の疾患、状態または障害を寛解させること(すなわち、病理および/または総体的徴候を逆転させること)を指す。
【0045】
本開示の化合物は、従来の無毒の薬学的に許容され得る担体、アジュバントおよびビヒクルを含有する投与単位製剤で、経口で、皮下に、局所に、非経口で、吸入スプレーでまたは直腸に投与することができる。非経口投与は、皮下注射、静脈内もしくは筋肉内注射または注入技術を伴い得る。
【0046】
一部の実施形態では、医薬組成物は、経口投与用の固体剤形(例えば、カプセル剤、錠剤、丸剤、糖衣錠、粉剤・散剤(powder)、顆粒剤など)として調製することができる。錠剤は、圧縮または成形によって調製することができる。圧縮錠剤は、1またはそれを超える結合剤、滑沢剤、流動促進剤、不活性希釈剤、保存剤、崩壊剤、または分散剤を含むことができる。錠剤および他の固体剤形、例えばカプセル剤、丸剤および顆粒剤には、腸溶コーティングなどのコーティングが含まれ得る。
【0047】
投与されるロダトリスタットエチルおよびロダトリスタットの量は、選択した化合物、投与方法、放出プロファイル、および組成物の処方などの要因に応じて異なる。一般的に、疾患、特にPH/PAH/APAH/IPAH/FPAHを処置または防止するための経口剤形中のロダトリスタットエチルまたはロダトリスタットの場合、典型的な投与量は、患者の体重に基づいて、約1mg/kg/日~約50mg/kg/日、より一般的には、約5mg/kg/日~約30mg/kg/日の治療用となる。最も好ましい化合物は、結晶性のフォーム3のロダトリスタットエチルである。個々の経口剤形は、通常、約50mg~約3000mgの治療量のロダトリスタットエチルと、追加の量の1またはそれを超える薬学的に許容され得る賦形剤を有する。その他の有用な個々の経口剤形は、例として、ロダトリスタットエチルまたはロダトリスタットを100mg、150mg、200mg、250mg、300mg、350mg、または400mg、450mg、500mg、550mg、575mg、600mg、625mg、650mg、675mg、700mg、725mg、750mg、775mg、800mg、900mg、950mg、1000mg、1050mg、1100mg、1150mg、および約1200mg、特に600mgおよび1200mgの量で有することができる。好ましい投与量は1200mgである。50mg~3000mgの間のその他の量、例えば、約325mg~約475mg、約350mg~約500mg、約375~約525mg、約400mg~約550mg、約425mg~約575mg、約450mg~約600mg、約475mg~約625mg、約500mg~約650mg、約525mg~約675mg、約550mg~約700mg、約575mg~約725mg、約600mg~約750mg、約625mg~約775mg、約650mg~約800mg、約675mg~約825mg、約700mg~約850mg、約725mg~約875mg、約750mg~約900mg、約775mg~約925mg、約800mg~約950mg、約825~約975、約850mg~約1000mg、約900mg~約1150mg、約1000mg~約1150mg、約1100mg~約1250mg、および約1200mg~約1350mgが可能である。好ましい経口剤形は、1日2回(BID)摂取され、1日あたりの合計が最大1200mgである、最大600mgのロダトリスタットエチル、最も好ましくはフォーム3を有する。別の好ましい経口剤形は、1日2回摂取され、1日あたりの合計が最大600mgである、最大300mgのロダトリスタットエチル、最も好ましくはフォーム3を有する。これらの好ましい剤形を、1日1回(SID)ベースで摂取することも可能である。
【0048】
本明細書に開示される方法に従って処置可能なPAHの種類には、(1)特発性肺動脈性肺高血圧症(IPAH)、(2)家族性肺動脈性肺高血圧症(FPAH)、および、PAHの最も一般的な種類である(3)各種疾患に伴う肺動脈性肺高血圧症(APAH)が含まれる。後者は、例えば、(1)強皮症またはループスなどの自己免疫疾患を含む膠原血管病(または結合組織疾患);(2)先天性の心および肺疾患;(3)門脈圧亢進症(例えば、肝疾患から生じる);(4)HIV感染;および(5)薬物(例えば、食欲抑制剤、コカイン、およびアンフェタミン)をはじめとするその他の医学的状態に関連したPAHである。APAHは、肺静脈閉塞症(PVOD)および肺毛細血管腫症などでの肺静脈および/または毛細血管の異常な狭窄に関連するPAHでもあり得る。別の種類のPAHは、新生児持続性肺高血圧症(PPHN)に関連している。
【0049】
本開示による投与量/組成物は、ロダトリスタットエチルおよび/またはロダトリスタットと、1またはそれを超える上記に開示されるその他のFDAに承認されたPAH製薬活性物質との組み合わせを含む。好ましい投与量/組成物は、ロダトリスタットエチルと、他のPAH製薬活性物質の組み合わせである。最も好ましい組み合わせは、ロダトリスタットエチルとセレキシパグである。経口剤形が好ましいが、他の投与形態、例えば、非経口投与も可能である。
【0050】
ロダトリスタットエチルとセレキシパグの好ましい投与計画は、1日あたり最大1200mgのロダトリスタットエチルと最大2400mcgのセレキシパグの形をとる。より好ましい投与計画は、最大600mgのロダトリスタットエチルと最大1200mcgのセレキシパグを1日2回である。さらにより好ましい実施形態は、約200mg~600mgのロダトリスタットエチルと約200mcg~約1200mcgのセレキシパグを1日2回である。最も好ましい実施形態は、約400mg~600mgのロダトリスタットエチルと約200mcg~約1200mcgのセレキシパグを1日2回である。経口投与の計画が好ましい。ロダトリスタットエチルとセレキシパグは、同じ剤形で投与されてもよいし、別々の剤形で投与されてもよい。
【0051】
ロダトリスタットエチルとクエン酸シルデナフィルの好ましい投与計画は、1日あたり最大1200mgのロダトリスタットエチルと最大60mgのクエン酸シルデナフィルの形をとる。より好ましい投与計画は、最大600mgのロダトリスタットエチルと最大30mgのクエン酸シルデナフィルを1日2回である。さらにより好ましい実施形態は、約200mg~600mgのロダトリスタットエチルと約10mg~約30mgのクエン酸シルデナフィルを1日2回である。最も好ましい実施形態は、約400mg~600mgのロダトリスタットエチルと約20mg~約30mgのクエン酸シルデナフィルを1日2回である。経口投与の計画が好ましい。ロダトリスタットエチルとクエン酸シルデナフィルは、同じ剤形で投与されてもよいし、別々の剤形で投与されてもよい。
【0052】
ロダトリスタットエチルとタダラフィルの好ましい投与計画は、1日あたり最大1200mgのロダトリスタットエチルと最大40mgのタダラフィルの形をとる。より好ましい投与計画は、最大600mgのロダトリスタットエチルと最大20mgのタダラフィルを1日2回である。さらにより好ましい実施形態は、約200mg~600mgのタダラフィルと約6.67mg~約20mgのタダラフィルを1日2回である。最も好ましい実施形態は、約400mg~600mgのロダトリスタットエチルと約13.33mg~約20mgのタダラフィルを1日2回である。経口投与の計画が好ましい。ロダトリスタットエチルとタダラフィルは、同じ剤形で投与されてもよいし、別々の剤形で投与されてもよい。
【0053】
ロダトリスタットエチルとボセンタンの好ましい投与計画は、1日あたり最大1200mgのロダトリスタットエチルと最大250mgのボセンタンの形をとる。より好ましい投与計画は、最大600mgのロダトリスタットエチルと最大125mgのボセンタンを1日2回である。さらにより好ましい実施形態は、約200mg~600mgのロダトリスタットエチルと約62.5mg~約125mgのボセンタンを1日2回である。最も好ましい実施形態は、約400mg~600mgのロダトリスタットエチルと約62.5mg~約125mgのボセンタンを1日2回である。経口投与の計画が好ましい。ロダトリスタットエチルとボセンタンは、同じ剤形で投与されてもよいし、別々の剤形で投与されてもよい。
【0054】
ロダトリスタットエチルとアンブリセンタンの好ましい投与計画は、1日あたり最大1200mgのロダトリスタットエチルと最大10mgのアンブリセンタンの形をとる。より好ましい投与計画は、最大600mgのロダトリスタットエチルと最大5mgのアンブリセンタンを1日2回である。さらにより好ましい実施形態は、約200mg~600mgのロダトリスタットエチルと約2.5mg~約5mgのアンブリセンタンを1日2回である。最も好ましい実施形態は、約400mg~600mgのロダトリスタットエチルと約2.5mg~約5mgのアンブリセンタンを1日2回である。経口投与の計画が好ましい。ロダトリスタットエチルとアンブリセンタンは、同じ剤形で投与されてもよいし、別々の剤形で投与されてもよい。
【0055】
ロダトリスタットエチルとトレプロスチニルの好ましい投与計画は、1日あたり最大1200mgのロダトリスタットエチルと最大24mgのトレプロスチニルの形をとる。より好ましい投与計画は、最大600mgのロダトリスタットエチルと最大12mgのトレプロスチニルを1日2回である。さらにより好ましい実施形態は、約200mg~600mgのトレプロスチニルと約4mg~約12mgのトレプロスチニルを1日2回である。最も好ましい実施形態は、約400mg~600mgのロダトリスタットエチルと約8mg~約12mgのトレプロスチニルを1日2回である。経口投与の計画が好ましい。ロダトリスタットエチルとトレプロスチニルは、同じ剤形で投与されてもよいし、別々の剤形で投与されてもよい。
【0056】
ロダトリスタットエチルとマシテンタンの好ましい投与計画は、1日あたり最大1200mgのロダトリスタットエチルと最大10mgのマシテンタンの形をとる。より好ましい投与計画は、最大600mgのロダトリスタットエチルと最大5mgのマシテンタンを1日2回である。さらにより好ましい実施形態は、約200mg~600mgのマシテンタンと約2.5mg~約5mgのマシテンタンを1日2回である。さらにより好ましい実施形態は、約400mg~600mgのロダトリスタットエチルと約2.5mg~約5mgのマシテンタンを1日2回である。経口投与の計画が好ましい。ロダトリスタットエチルとマシテンタンは、同じ剤形で投与されてもよいし、別々の剤形で投与されてもよい。
【0057】
また、ロダトリスタットエチルまたはロダトリスタットと2またはそれを超える他のPAH活性物質の組み合わせを投与することも可能である。例えば、有用な組み合わせは、ロダトリスタットエチル/タダラフィル/アンブリセンタンの三剤の組み合わせである。
【0058】
ロダトリスタットおよび/またはロダトリスタットエチルと、1またはそれを超える他のFDAに承認されたPAH製薬活性物質との組み合わせは、以下の1または複数が達成されるように処方される:(A)DDI相互作用のリスクが低いこと、(B)ロダトリスタット/ロダトリスタットエチルおよびFDAに承認されたPAH製薬活性物質(複数可)の単独と比較して、PAHの症状が相乗的または相加的に減少すること、および(C)ロダトリスタット/ロダトリスタットエチルおよびFDAに承認されたPAH製薬活性物質(複数可)の単独と比較して、PAHの副作用が相乗的または相加的に減少すること。
【0059】
PAHの症状には、疲労、嗜眠、労作時呼吸困難、前失神/失神、咳、嗄声、低血圧、体液貯留、下肢浮腫、胸痛、およびチアノーゼが含まれる。
【0060】
PAHの副作用には、前述の症状、多剤処置レジメンの副作用、そして患者および家族介護者の生活の質の低下が含まれる。
【0061】
本開示の一実施形態では、肺動脈性肺高血圧症を処置するための方法であって、それを必要とするヒト患者に、治療用量の(A)ある量のロダトリスタットエチルの第1の化合物および(B)アンブリセンタン、シルデナフィル、タダラフィル、ボセンタン、トレプロスチニル、セレキシパグ、マシテンタン、および2またはそれを超える前述の化合物からなる群から選択されるある量の第2の化合物を毎日投与することを含み、ロダトリスタットエチルおよびその活性代謝物ロダトリスタットは、血流中のCYP1A2、CYP2C9、CYP2C19、およびCYP2D6からなる酵素群の1またはそれより多くに対して30μM以上のIC50を示す、方法がある。IC50は、プールされたヒトミクロソームを使用するインビトロCYP阻害方法/技術に従って測定される。
【0062】
本開示の一実施形態では、肺動脈性肺高血圧症を処置するための方法であって、それを必要とするヒト患者に、治療用量の(A)ある量のロダトリスタットエチルの第1の化合物および(B)アンブリセンタン、シルデナフィル、タダラフィル、ボセンタン、トレプロスチニル、セレキシパグ、マシテンタン、および2またはそれを超える前述の化合物からなる群から選択されるある量の第2の化合物を毎日投与することを含み、ロダトリスタットエチルおよびその活性代謝物ロダトリスタットは、CYP1A2、CYP2B6、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、およびCYP3A4からなる酵素群の1またはそれより多くに対して30μM以上のIC50を示す、方法がある。IC50は、プールされたヒトミクロソームを使用するインビトロCYP阻害方法/技術に従って測定される。
【0063】
2020年1月31日に出願された米国仮出願第62/968,651号の主題は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0064】
本開示は、以下の限定されない実施例によって本明細書においてさらに説明される。
【実施例】
【0065】
実施例1
ロダトリスタットエチル:代謝またはトランスポーターに基づく薬物間相互作用(DDI)の可能性の評価と肺動脈性肺高血圧症の承認薬へのコンテキスト化
ロダトリスタットエチルまたはロダトリスタットが薬物間相互作用の加害物質(perpetrator)になる可能性を、インビトロでのCYPおよびトランスポーター研究で評価した(表1~4)。適切な場合には、IC50値を、血漿ELEVATE1におけるロダトリスタットエチル(149ng/mL、0.252μM)とロダトリスタット(1130ng/mL、2.01μM)の予測平均最大血漿濃度(Cmax)およびELEVATE2(600mgロダトリスタットエチル、BID投与)における最高用量レベルと比較した。この分析は、FDAドラフトガイダンスで推奨されているように、臨床的に意味のあるDDIの可能性を評価するために実施された。「In Vitro Metabolism-and Transporter-Mediated Drug-Drug Interaction Studies Guidance for Industry」;2017年10月(FDA,2017)。
【0066】
この分析は通常、血漿中の非タンパク質結合薬物レベルに基づいている。ロダトリスタットエチルおよびロダトリスタットの血漿タンパク結合(結合画分)の値は、それぞれ、0.995および0.991であった。非結合薬剤濃度は両方の化合物について1%未満であったため、FDA推奨に従って、保存的な1%遊離画分を使用して、ロダトリスタットエチルおよびロダトリスタットの非結合Cmax濃度を、それぞれ、0.0025μMおよび0.0201μMと計算した。
【0067】
インビトロ研究が可能性を示唆する例は、承認されたPAH薬との関連で考察されている。
【0068】
代謝に基づく相互作用の可能性のインビトロでの特徴付け
ロダトリスタットエチルおよびロダトリスタットは、重要なCYP酵素の主要な基質ではなく、評価したCYPアイソフォームの時間依存性阻害剤でもない。
【0069】
ロダトリスタットエチルによるCYP阻害:
ロダトリスタットエチルの代謝は、主に、ヒト、ラット、イヌ、およびカニクイザルからの肝臓組織調製物、ならびにラットおよびヒトからの腸および肺組織での、エステルプロドラッグ部分のロダトリスタットへのエステラーゼ媒介加水分解による。ロダトリスタットエチルの加水分解は、ラット血液でも観察され、イヌおよびヒト血液ではそれよりもはるかに少ない程度で観察された。ロダトリスタットは、肝臓調製物では種を超えて代謝的に安定しており、殆ど変化せずに胆汁に排出される(ラット)。
【0070】
ロダトリスタットエチルは、IC50値がそれぞれ13μM、2.8μM、13μM、および23μMでCYP2B6、CYP2C8、およびCYP3A4/5(ミダゾラム1’水酸化およびテストステロン6β水酸化の両方について)を直接阻害した。IC50値が30μMよりも大きいため、ロダトリスタットエチルによるCYP1A2、CYP2C9、CYP2C19、またはCYP2D6の臨床的に意味のある直接阻害の証拠はなかった。提案された600mg BIDレジメンのロダトリスタットエチルの予測された臨床Cmaxは0.252μMであり、これは最も高感度のCYPアイソフォーム2C8のIC50(IC50 2.8μM)よりも約10倍低く、ロダトリスタットエチルがCYP2C8に基づく相互作用を引き起こす可能性が低いことを示している。
【0071】
CYP3Aの阻害は、全身的にはリスクが低いが、腸管内での潜在的相互作用についての閾値を満たしている。このことは、Ki(R1、腸)に対する腸管内腔の用量および推定曝露量から決定される。ミダゾラムについて計算されたR1値は600を上回り、閾値の11を超えている。
【0072】
ロダトリスタットによるCYP阻害:
シトクロム(CYP)阻害は、最大30mMの濃度のロダトリスタット エチル(RE)またはロダトリスタット(R)(約120×RE Cmaxおよび約15×R Cmax)とともにインキュベートしたヒト肝ミクロソームのプール(n=200)を使用して評価した。「mM」=ミリモル濃度。CYP誘導は、20mMまでのRE/R濃度で毎日1回、3日間処置した培養ヒト肝細胞(3名のドナー由来)を使用して評価した。
【0073】
ロダトリスタットは、CYP2B6、CYP2C9、およびCYP3A4/5の弱い阻害を誘発し、30μMロダトリスタットではこれらのアイソフォーム全体にわたって27~45%の阻害を示し、IC50値が30μMより大きく、定常状態で想定されるロダトリスタットの臨床Cmax(2.01μM)の14倍よりも大きいことが示された。ロダトリスタットは、CYP1A2、CYP2C19、CYP2D6を阻害しなかった。
【0074】
ロダトリスタットは、CYP2C8を直接阻害し、IC50値は2.8μMであった。FDAのガイダンスは、血漿中の非結合Cmax値に対してIC50値をコンテキスト化することを推奨している。非結合Cmax(0.02μM)とKi(1.4μM、IC50/2に相当)の比(0.014)を使用してR値(R=1+非結合Cmax/Ki)が計算され、1.02以上の値は、臨床的に意味のある相互作用を予測できると考えられる。ロダトリスタットのR値は1.014であり、CYP2C8を介した臨床的に意味のある相互作用のリスクが低いことを裏付けている。
【0075】
CYP誘導可能性:
CYP誘導は、3名のドナーからの培養ヒト肝細胞を使用してインビトロで評価した。ロダトリスタットエチルおよびロダトリスタットは、20μM(調査した最高濃度)でCYP1A2(最も高感度のレスポンダーについてコントロールの2%未満)、CYP2B6(コントロールに対する平均±SD値が、それぞれ16.2±20.0%と15.0±17.9%)、およびCYP3A4(それぞれ7.1±6.41%と10.3±11.9%)のmRNAのごくわずかな誘導を引き起こした。20μMの濃度は、ロダトリスタットエチル(0.252μM)およびロダトリスタット(2.01μM)の600mg BID投与で予測される、予測された臨床Cmax値の少なくとも約9倍を反映している。試験したすべての濃度で個体ドナーによるCYP2B6の誘導の最高値は、ロダトリスタットエチルとロダトリスタットの10μMでそれぞれ60.1%と57.4%、CYP3A4では、20μMでそれぞれ13.3%と23.0%であった。全体として、ロダトリスタットエチルとロダトリスタットは、臨床的に関連する濃度で、CYP1A2の誘導物質、CYP2B6の潜在的に弱~中等度の誘導物質、およびCYP3A4の潜在的な弱い誘導物質とはみなされない。
【0076】
インビトロデータの評価(表1および2)は、2B6および3Aの誘導または腸3Aの阻害に対するロダトリスタットエチルまたはロダトリスタットによる加害物質の相互作用の可能性を示す。これらの潜在的な相互作用の可能性のある程度は、PBPKモデリングによって評価されている。
【0077】
薬物トランスポーターに基づく相互作用の可能性のインビトロでの特徴付け
トランスポーターの相互作用データと相互作用の可能性を表3および4に要約する。
【0078】
加害物質の相互作用:ロダトリスタットエチルとロダトリスタットは、OATP1B1とOATP1B3を阻害し、OATP1B1のIC50値は、ロダトリスタットエチルとロダトリスタットについて、それぞれ、25.4μMおよび5.74μMであり、OATP1B3では12.3μMおよび1.93μMであった。ロダトリスタットエチルとOATP1B1およびOATP1B3、およびロダトリスタットとOATP1B1のR値のFDAガイダンスは1.1未満であり、臨床的に関連する相互作用の可能性が低いことを示している。ロダトリスタットについてのR値は、OATP1B3について1.26であり、相互作用の可能性が示される。しかし、OATP1B1およびOATP1B3の薬物基質の重複は、スタチンとの相互作用のリスクが全体的に低いことを示唆している。
【0079】
ロダトリスタットエチルおよびロダトリスタットは、最大20μMの濃度でOCT2を阻害する(inhibitor)可能性をほとんど示さない(IC50値>20μM)。ロダトリスタットは、30μMの公称濃度で、多剤耐性関連タンパク質2(MRP2;25%)および多剤毒素排出(MATE)1(30%)を弱く阻害した。ロダトリスタットは、MATE2-Kを阻害しなかった(公称濃度30μMまで)。ロダトリスタットエチルもロダトリスタットも、OAT1、OAT3、および乳がん抵抗性タンパク質(BCRP)を阻害しなかった。従って、ロダトリスタットエチルおよびロダトリスタットは、BCRP、OAT1、OAT3、およびOCT2の基質である治療薬の薬物動態を変化させるとは予測されない。
【0080】
ロダトリスタットエチルは、Caco 2細胞におけるP-gpの阻害剤である(IC50=3.32μM;Igut/IC50>>10)であるが、BCRPの阻害剤ではない。ロダトリスタットは、P-gpまたはBCRPの阻害剤ではない。ロダトリスタットおよびロダトリスタットエチルの全身Cmaxレベルは、全身の薬物相互作用を誘発しないと予想される。ロダトリスタットエチルは、腸のP-gpを阻害することによってP-gpの基質の薬物動態を変化させ得る。
【0081】
犠牲物質(victim)相互作用:ロダトリスタットエチルは、P-gp、BCRP、MRP2、OATP1B1、またはOATP1B3の基質ではない。ロダトリスタットは、MRP2、またはMATE1のインビトロ基質ではない。ロダトリスタットは、OATP1B1(3μMで2.22倍蓄積)およびOATP1B3(3μMで9.28倍蓄積)取り込みトランスポーターのインビトロ基質である。ロダトリスタットは、P-gpおよびBCRPの潜在的な基質である;しかし、Caco2およびMDCK細胞研究での受動透過性および化合物の回収率が非常に低いため、基底外側から頂端(BA) 対 頂端から基底外側(AB)の流出比の正確な推定値を得ることはできなかった。従って、ロダトリスタットの胆汁への排出は、BCRP阻害剤である薬剤との共投与によって影響を受け得る。
【0082】
OATP1B1/3およびP-gpとの臨床的に意味のある相互作用の可能性は、PBPKモデリングによって評価されてきた。
【0083】
PAHにおけるロダトリスタットエチルと標準治療薬との間の潜在的な薬物間相互作用
インビトロでのCYP450とトランスポーターの相互作用データを使用して、製品モノグラフのフォレストプロットをはじめとする情報を使用する、PAH薬による全身性DDIの可能性を評価した。ロダトリスタットエチルもロダトリスタットも、CYPアイソフォームとの臨床的に意味のある全身性薬物相互作用を予測する、FDAガイダンスの判定基準を超えなかった。承認されたPAH薬の大部分が主にCYP3AまたはCYP2C9によって代謝され、トレプロスチニルおよびセレキシパグの場合はCYP2C8によって代謝されることに留意する必要がある。これらのアイソフォームは、ロダトリスタットエチルまたはロダトリスタットの代謝にほとんど関与していない。ロダトリスタットは代謝的に安定しており、CYP阻害剤によって臨床的に関連する程度に影響を受ける可能性は低い。
【0084】
ロダトリスタットエチルおよびロダトリスタットは、ヒト肝細胞におけるCYP2B6およびCYP3Aの弱いインビトロ誘導物質であった。PAH薬のモノグラフには、CYP2B6が重要な代謝酵素ではないことが示されている。CYP3Aのインビトロ誘導は低く、用量調整を必要とする可能性は低い。
【0085】
ロダトリスタットエチルまたはロダトリスタットのインビトロデータは、以下の重要な承認されたPAH薬についてコンテキスト化されている。エポプロステノールは、半減期が非常に短く、血漿中のレベルを決定するための生物分析法がないために薬物動態学的薬物相互作用研究が報告されていないため、考察されていない。
【0086】
トレプロスチニルおよびセレキシパグ:トレプロスチニルおよびセレキシパグは、主にCYP2C8によって代謝される。このアイソフォームはロダトリスタットによって阻害され、相互作用の可能性はさらに検討する必要がある。これは、両方の薬物は、その用量が通常、効果をもたらすかまたは最大耐容量になるように用量設定されるため、相互作用の犠牲物質となりやすいと考えられているためである。別の薬物によるCYP2C8の阻害は、それらの曝露量と有害事象の可能性を高めることがあり得る。
【0087】
Walskyらiは、承認された薬物が2C8の阻害を介して臨床的に意味のある薬物相互作用を引き起こす可能性を評価するための判定基準を評価した。209の化合物を評価した後、彼らは、インビトロでKiと比較した非結合肝門脈濃度(Cmax、u、portal)は、肝臓に入る非結合薬物濃度を反映しているため、末梢のCmax(FDA判定基準に使用)を超える追加の洞察をもたらすとの見解を示した。
【0088】
Cmax、u、portalの計算は、吸収された経口用量の画分(Fa)である血漿Cmax、および血液中の測定された非結合画分を使用する。ロダトリスタットの場合、ラット14C研究(20%)およびヒト血漿へのインビトロ結合(99.1%)および血液:血漿分布(RB、0.72)で決定されたFaについて実験によって導出した値を使用した。Walskyらは、0.1未満のCmax、u、portal/Kiの比を低いリスクと関連付ける閾値を提案した。この分析では、ロダトリスタットのCmax、u、portal/Kiは0.128であり、低/中リスクを反映している。しかし、これは、循環と比較して門脈血においてロダトリスタット(R)に対して高い比のロダトリスタットプロドラッグ(RE)が存在することを考慮していないため、最悪の場合の状況を表している。ラットでは、RE:Rは、末梢血と比較して門脈血で約3倍高い。従って、ロダトリスタットのCmax、u、portal/Ki比は、0.128よりはるかに小さい可能性がある。
【0089】
ゲムフィブロジル(強力な阻害剤)とともに投与されたトレプロスチニルまたはセレキシパグについての臨床DDI試験が実施された。ゲムフィブロジルは、CYP2C8の不可逆的代謝に基づく阻害剤であるアシルグルクロニドに代謝され、阻害効果を悪化させる可能性があるii。また、セレキシパグとクロピドグレル(中等度の阻害剤)またはリトナビルについての研究も実施された(IC50、3.03μMおよびCmax、u、portal/Ki、0.21;[Walskyら])。
【0090】
セレキシパグ:ゲムフィブロジルは、セレキシパグおよびその活性代謝物(ACT-333679)の曝露量(AUC)を、それぞれ2倍および11倍増加させたiii。クロピドグレルとの共投与は、セレキシパグの曝露量に影響を及ぼさなかったが、活性代謝物については2.7倍増加させた。リトナビルとの共投与は、セレキシパグの曝露量を約2倍、代謝物については2倍未満増加させた。セレキシパグの投与は、ゲムフィブロジルを摂取中の患者には禁忌であり、中等度の阻害剤では一日量を(QDまで)低下させることが推奨される。リトナビルとロダトリスタットの比較は、IC50値が類似しており(それぞれ3.03μMおよび2.8μM)、リトナビルの方が高いCmax、u、portal/Ki比(それぞれ0.21対<0.128)を有するため、有益である。リトナビルは、ロダトリスタットエチルによる処置ではセレキシパグ用量を減らす必要がないことを支持する、臨床的に意味のある程度まで、活性代謝物への曝露量を増加させなかった。
【0091】
セレキシパグおよびその代謝物は、P-gp、BCRP、OAT1B1およびOAT1B3のインビトロ基質である。ロダトリスタットはOAT1B3の阻害剤であるが、OAT1B1の阻害剤ではないため、肝臓への取り込みは影響を受けない可能性がある。
【0092】
トレプロスチニル:トレプロスチニルは、3つの製剤と4つの異なる投与経路(PO、IV、SCおよび吸入)で利用できる。IVおよびSCは、定常状態で生物学的に同等であるとみなされ、吸入投与は、全身曝露量は低くなるが肺で局所的により高い濃度が送達され、経口のトレプロスチニルではIV/SCと同様の曝露量が達成され、バイオアベイラビリティは約17%であるiv。経口経路は、門脈の薬物濃度が比較的高いため、潜在的なDDIの可能性のリスクが大きくなる可能性がある。
【0093】
トレプロスチニルは主にCYP2C8によって代謝され、CYP2C9によって代謝される程度は低い。ロダトリスタットエチルもロダトリスタットもCYP2C9を阻害しない。ゲムフィブロジルとの共投与により、トレプロスチニルのCmaxおよびAUCは約2倍増加した。中等度のCYP2C8阻害剤を用いた研究は実施されていないようであるが、これはおそらく相互作用の大きさがゲムフィブロジルの場合よりも小さく、臨床的に意味がないためであると思われる。同様に、ロダトリスタットエチル処置が、意味のある曝露量の変化を引き起こす可能性は低い。従って、ロダトリスタットエチルと経口トレプロスチニルは、用量調整なしだが、トレプロスチニルに対する忍容性の変化に注目した適切な臨床モニタリングを伴って共投与することができる。
【0094】
同様の戦略が、PH Professional NetworkvvによってHIVおよび/またはHCVのPAH患者について報告され、そこでは、トレプロスチニルとエファビレンツ(CYP2C8 IC50、4.80μMvi)またはリトナビルの共投与について「用量調整なし。治療を監視する」ことが推奨された。
【0095】
アンブリセンタン:ヒト肝組織を用いる研究により、アンブリセンタンがCYP3A、CYP2C19、およびウリジン5’-ジホスフェートグルクロノシルトランスフェラーゼ(UGT)1A9S、2B7S、および1A3Sによって代謝されることが示される(Letairis(アンブリセンタン)[添付文書]、2018)。
【0096】
複数の臨床薬物間相互作用研究において、臨床的に関連する相互作用はシクロスポリンでのみ実証されている。注目すべきことに、ジゴキシン、リトナビル、またはワルファリンを用いた加害物質研究では用量調整は必要なかった。同様に、リファンピン、リトナビル、ケトコナゾール、またはタクロリムスを用いた犠牲物質研究では、用量調整の必要は示されなかった。従って、アンブリセンタンは、CYP2C8によって代謝されず、CYP3A誘導物質リファンピンと一緒に投与した場合に用量調整を必要とせず、P-gp阻害剤またはCYP3A阻害剤または誘導物質の影響を受けないため、ロダトリスタットエチルとの臨床的に関連する薬物相互作用のリスクは低いと考えられる。
【0097】
ボセンタン:ボセンタンはCYP2C9およびCYP3A4によって代謝され、結果的にロダトリスタットエチルまたはロダトリスタットの影響を受ける可能性は低い(Tracleer(ボセンタン)[添付文書]、2018)。CYP3A誘導物質リファンピンやケトコナゾールと共投与しても用量調整は必要なく、CYP3A4に媒介される、またはP-gpに媒介されるロダトリスタットエチルとの相互作用のリスクが低いことが示される。
【0098】
シルデナフィル:シルデナフィルは、主にCYP3A(主要経路)および2C9(副次的経路)によって代謝されるため、ロダトリスタットエチルまたはロダトリスタットの影響を受ける可能性は低い(Revatio(シルデナフィル)[添付文書]、2018)。シルデナフィルをCYP3A誘導物質ボセンタン、またはサキナビルと共投与しても用量調整は必要でなく、ロダトリスタットエチルとのCYP3A4に媒介される、またはP-gpに媒介される相互作用の可能性が低いことが示唆される。
【0099】
タダラフィル:タダラフィルは主にCYP3A4によって代謝されるため、ロダトリスタットエチルまたはロダトリスタットとの代謝に基づく相互作用を有する可能性が低い(Adcirca(タダラフィル)[添付文書]、2017)。弱~中等度のCYP3A誘導物質と共投与する場合、用量調整の必要はない。タダラフィルは、ジゴキシンの薬物動態に有意な影響を及ぼさなかった。
【0100】
【0101】
全体として、これらのデータは、用量調整を行わないが、セレキシパグに対する忍容性の変化に注目した適切な臨床モニタリングを行う、セレキシパグとロダトリスタットエチルの共投与を支持する。
【0102】
FDAガイダンスのリスク評価
FDAガイダンスに従ってリスク評価を行った。IC
50値(最大半量の阻害濃度)を、ELEVATE1について血漿中のRE(149ng/mL、0.252μM)およびR(1130ng/mL、2.01μM)の予測最大血漿濃度(C
max)と比較し、600mg REの毎日2回(BID)のレジメンを投与された患者のELEVATE2研究での最大用量と比較した。遊離(非タンパク質結合)薬物レベルを使用して、R1値およびR3値を、ロダトリスタットエチル(0.995)およびロダトリスタット(0.991)の血漿タンパク結合(結合画分、fb)に基づいて計算した。FDAガイダンスは、In Vitro Metabolism-and Transporter-Mediated Drug-Drug Interaction Studies Guidance for Industry(2017)に記載されている。FDAガイダンスに従って、fb>0.99の場合に、保存的な1%遊離画分を使用して、ロダトリスタットエチルおよびロダトリスタットの非結合C
max濃度を、それぞれ、0.0025μMおよび0.0201μMと計算した。活性一次代謝物であるロダトリスタットは、カルボキシルエステラーゼによって生成され、代謝的に安定しているため、犠牲物質のPK相互作用のリスクが低くなる。ロダトリスタットエチルおよびロダトリスタットは、時間依存性CYP阻害剤ではない。全体として、インビトロデータは、CYP2B6およびCYP3A誘導または腸CYP3Aの阻害への、REまたはRによる加害物質相互作用の中程度の可能性を示す。これは、生理学に基づく薬物動態モデリングによって評価される。
図3および4に示されるように、REおよびRの600mg BID投与の予測C
maxは、CYP阻害のリスクが低いことを予測する。予測のためのパラメータは以下の表5および6に記載される。
【0103】
【0104】
知見
ロダトリスタットエチルおよびロダトリスタットは、CYPの全身阻害剤になるリスクが低い。REおよびRの予測された非結合Cmaxは、最も高感度のCYPアイソフォーム2C8のIC50(IC50 2.8μM)よりも100倍超低い。
【0105】
FDAに承認されたPAH製薬活性物質+ロダトリスタットエチルの選択:DDIリスクの概要
トレプロスチニルおよびセレキシパグ:-高感度CYP2C8基質;ロダトリスタットはインビトロでCYP2C8を阻害するが、臨床的に意味のある相互作用のリスクは低い。
【0106】
トレプロスチニル:強力な阻害剤であるゲムフィブロジルとの共投与により、CmaxおよびAUCが約2倍増加した(ORENITRAM(登録商標)(トレプロスチニル)モノグラフ(2019年10月改訂)https://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/label/2019/203496s011lbl.pdf。弱い阻害剤であるので、RE処置が意味のある曝露量の変化を引き起こす可能性は低い。トレプロスチニルは、用量調整を行わないが、トレプロスチニルに対する忍容性の変化に注目した適切な臨床モニタリングを行って、共投与することができる。
【0107】
セレキシパグ:中等度の阻害剤では一日量を(QDまで)低下させることが推奨される。UPTRAVI(登録商標)(セレキシパグ)モノグラフ(2019年9月改訂)https://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/label/2019/207947s007lbl.pdfを参照されたい。リトナビル(2C8 IC50、3.03μM5)では用量調整は必要なく、REとセレキシパグとの共投与について臨床的に意味のある相互作用のリスクが低いことが示唆される。Itkonen,M.K.,Tornio,A.,Neuvonen,M.,Neuvonen,P.J.,Niemi,M.,and Backman,J.T,2019.Drug Metab Dispos.47(4).377-385を参照されたい。共投与は、セレキシパグに対する忍容性の変化に注目した適切な臨床モニタリングを行って実施する必要がある。
【0108】
アンブリセンタン:CYP3A4、CYP2C19、UGT1A9S、UGT2B7S、UGT1A3Sによって代謝され、REとの用量調整を必要とする可能性は低い。LETAIRIS(登録商標)(アンブリセンタン)モノグラフ(2019年8月改訂)https://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/label/2019/022081s041lbl.pdfを参照されたい。
【0109】
ボセンタン:CYP2C9およびCYP3A4によって代謝され、REとの用量調整を必要とする可能性は低い。TRACLEER(登録商標)(ボセンタン)モノグラフ(2019年5月改訂)https://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/label/2019/021290s039,209279s005lbl.pdf.
【0110】
シルデナフィル(Tildenafil):CYP3A(主要経路)およびCYP2C9(副次的経路)によって代謝され、REとの用量調整を必要とする可能性は低い。REVATIO(登録商標)(シルデナフィル)モノグラフ(2018年2月改訂)https://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/label/2018/021845s018lbl.pdfを参照されたい。
【0111】
タダラフィル:主にCYP3A4によって代謝され、REとの用量調整を必要とする可能性は低い。ADCIRCA(登録商標)(タダラフィル)モノグラフ(2017年5月改訂)<https://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/label/2017/022332s009lbl.pdf>を参照されたい。
【0112】
実施例2
概要
ロダトリスタットエチルおよびロダトリスタットについて、利用可能な生理化学的なインビトロおよび臨床PKデータに基づいて、「目的に適合した」生理学に基づく薬物動態(PBPK)モデルが開発された。次に、このPBPKモデルを適用して、摂食した健康なボランティアに単回用量および複数回用量経口投与した後のロダトリスタットエチルおよびロダトリスタットの血漿濃度-時間プロファイルを予測した。
【0113】
PBPKモデルは、物理化学的データ、インビトロデータに基づいて開発され、臨床研究RVT-1201-1001(レジメンC;摂食した被験者における400mg単回投与)で収集した臨床データを使用して改良された。次に、臨床研究RVT-1201-1001において、400mg(摂食)または800mg(摂食)のロダトリスタットエチルを毎日2回(BID)投与した後のロダトリスタットエチルとロダトリスタットの複数回用量血漿濃度-時間プロファイルをシミュレートすることにより、PBPKモデルを検証した。さらに、臨床研究KAR5585-101において、400mg(摂食)ロダトリスタットエチルの複数回用量のBID投与をシミュレートすることにより、PBPKモデルをさらに検証した。各検証ステップでは、シミュレートされたデータと観察されたデータが比較された。PBPKモデルによってシミュレートされたロダトリスタットエチルとロダトリスタットのTmax、Cmax、AUC(AUC0-infまたはAUC0-12h)およびt1/2 valuesは、摂食した被験者のPBPKモデルを検証するために使用された2つの研究の11の臨床コホートで観察されたデータの2倍以内であった。ほとんどの場合(ロダトリスタットエチルおよびロダトリスタットで、それぞれ91%および85%)、母集団シミュレートされた要約薬物動態(PK)パラメータ(Tmax、CmaxおよびAUC)は、観察されたデータの1.5倍以内であった。
【0114】
次に、PBPKモデルを適用して、ロダトリスタットエチルおよびロダトリスタットがCYPまたはトランスポーター媒介DDIの加害物質として作用する薬物間相互作用(DDI)をシミュレートした。各相互作用シナリオのPBPKシミュレーションには、100人の仮想被験者が含まれていた。幾何平均AUC0-infおよびCmax比の母集団推定値を生成して、各DDIの相対的な大きさを予測した。
【0115】
PBPKモデルを適用して、複数回用量RVT-1201(600mg BID)の相互作用の可能性をシミュレートした。シミュレートされたCYP2B6の誘導と競合阻害の組み合わせは、臨床的に有意であるとは予測されなかった。これらの条件下でシミュレートされたブプロピオンCmaxおよびAUC0-inf幾何平均比は、それぞれ0.97および0.95であった。シミュレートされたCYP3A4の誘導と競合阻害の組み合わせは、「弱い」誘導として分類された(1.25倍以上;ベースラインから2倍未満)。定常状態のRVT-1201条件下でのミダゾラムのCmaxおよびAUC0-inf比は、それぞれ0.73および0.73であった(ベースラインから1.37倍の変化)。
【0116】
単回用量のロシグリタゾン(CYP2C8基質)、ジゴキシン(P-gp基質)、またはロスバスタチン(OATP1B1/3基質)の組み合わせでは、相互作用は予測されなかった。これらの条件下でシミュレートされたこれらのプローブ基質のCmaxおよびAUC0-inf比は、それぞれ1.03未満および1.04であった。
【0117】
緒言
RVT-1201(AKA KAR5585、ロダトリスタットエチル)は、肺動脈性肺高血圧症の動物モデルにおいて腸粘膜、肺、および血清中の末梢セロトニン(5-ヒドロキシトリプタミン[5-HT])レベルを低下させる強力なトリプトファンヒドロキシレート1(TPH1)阻害剤であるKAR5417(AKA KC0035、ロダトリスタット)に急速に加水分解される小分子プロドラッグである。RVT-1201は急速に代謝されて、活性種KAR5417を形成する。これは、ラットのマスバランス研究(KRS-01)における主要な循環種であり、ヒトのインビトロデータ(XT184028)および臨床データ(臨床研究KAR5585-101、臨床研究RVT-1201-1001)によって裏付けられている。
【0118】
RVT-1201は、インビトロ透過性が経口バイオアベイラビリティと一致する、生物薬剤学分類システム(Biopharmaceutics Classification System:BCS)のクラスIIまたはIVの分子であり、単純な即時放出(IR)カプセル内薬物(drug-in-capsule)製剤を使用した第1相単回漸増用量(SAD)/複数回漸増用量(MAD)研究で評価されている(臨床研究KAR5585-101)。この臨床研究で使用された医薬品有効成分は多形のフォーム1であった。患者の受け入れを改善し、用量の減少を促進するためにIRカプセル製剤と比較して経口バイオアベイラビリティを高め、被験者間の変動を減らし、より大規模な製造に適した製剤化プロセスの最適化を目的として、最適化/強化された経口製剤が開発された。経口IR錠剤製剤および多形のフォーム3を使用する2種類の噴霧乾燥分散懸濁剤が、第2の臨床研究で調査された(臨床研究RVT-1201-1001)。この研究の目的は、健康な被験者への経口投与後の選択された製剤の性能を評価することであった。
【0119】
臨床研究RVT-1201-1001は、RVT-1201およびその活性代謝物KAR5417の薬物動態プロフィールを評価するための、健康な被験者でのRVT-1201の単回および反復投与研究であった。この研究の第1部では、単回経口用量の400mg RVT-120を、レジメンAおよびBでは経口粉末として、レジメンCでは即時放出錠剤として、9名の健康な男性被験者に投与した。さらに、レジメンDでは即時放出錠剤として単回の1200mg用量が投与された。
【0120】
摂食状態での経口投与の後、RVT-1201は十分に吸収され、ピーク血漿レベルは2.5時間の中位時間後に達成された。RVT-1201血漿濃度は被験者間で変動しており、ほぼ単一指数関数的に(対数スケール)減少するように見え、400mg BID投与後の平均幾何平均血漿終末(average geometric mean plasma terminal)t1/2は5.2時間であった(臨床研究RVT-1201-1001およびKAR5585-101)。ELEVATE2におけるRVT-1201の計画された臨床投与スケジュールは、最大600mg BIDである。毎日2回の投与スケジュールは、薬物の消失半減期のために、複数回投与後のRVT-1201の蓄積は最小限となる(1.5倍未満)と予想される。臨床研究RVT-1201-1001のレジメンCでの経口投与後の幾何平均見かけのクリアランスは、900L/時であった。RVT-1201の除去は迅速で、主にKAR5417への加水分解によって促進された。KAR5417の形成は、RVT-1201の脱エステル化に起因していた。
【0121】
KAR5417は、RVT-1201の経口投与後、迅速に形成される。臨床研究RVT-1201-1001(400mg単回投与)のレジメンCでのKAR5417のTmaxの中央値は、3.50時間であった。KAR5417(517ng/mL)の幾何平均Cmaxは、RVT-1201のCmaxよりも約5倍大きかった。KAR5417の幾何平均血漿終末t1/2は12.3時間であり、KAR5417の薬物動態は排出速度に制限があることが示された。
【0122】
臨床研究RVT-1201-1001の1つのコホート(レジメンC、400mg単回投与)からのデータは、モデルの開発および改良のために使用された。このコホートからのRVT-1201およびKAR5417データを使用して、PBPKモデルのRVT-1201吸収、RVT-1201およびKAR5417分布および排出コンポーネントを開発した。
【0123】
2つの臨床研究からのデータを使用してPBPKモデルを検証した(臨床研究KAR5585-101および臨床研究RVT-1201-1001)。臨床研究KAR5585-101は、健康な被験者においてRVT-1201の単回および複数回漸増用量の薬物動態を特徴づけるための、無作為化二重盲検プラセボ対照第1相のファーストインヒューマン研究であった。摂食した被験者における400mg BID投与の1、7、および14日目のRVT-1201およびKAR5417血漿濃度データを使用して、PBPKモデルの検証を裏付けた。さらに、臨床研究RVT-1201-1001における摂食被験者における400mgまたは800mg BID投与の1、7、および14日目の複数回投与RVT-1201およびKAR5417血漿濃度データも、モデルの検証を裏付けるために使用した。
【0124】
インビトロ阻害研究により、RVT-1201およびKAR5417が、特定のCYPアイソフォーム(CYP2B6、CYP2C8(RVT-1201のみ)、CYP3A4)(XT155056)および薬物トランスポーター(P-gp(RVT-1201のみ)、OATP1B1/3)を阻害する可能性が示された(XT-158039)。RVT-1201およびKAR5417によるCYPアイソフォーム(CYP2B6、CYP3A4)のmRNA誘導もインビトロで観察された(XT153040)。そのため、KAR5585およびKAR5417のPBPKモデルの開発および検証を行って、インビボでのDDIリスクの調査を裏付けた。
【0125】
この分析の目的は、CYP2B6、CYP2C8、CYP3A4、P-gpおよびOATP1B1/3の基質と同時に加害物質として、RVT-1201(600mg BID)の臨床DDIの可能性を調査することであった。
【0126】
モデリング戦略
PBPKモデルは、利用可能なまたはシミュレータで予測された物理化学的なインビトロおよび臨床データに基づいて、インビボでヒトRVT-1201およびKAR5417 PKを予測するために開発された。モデルの開発、検証および適用について、以下に要約する。
【0127】
モデル開発
モデル開発は、臨床研究RVT-1201-1001のレジメンCで即時放出錠剤としてRVT-1201 400mgを単回投与した後のRVT-1201およびKAR5417血漿濃度データを使用して完了した。PBPKモデルの開発には、以下のステップが適用された。
・物理化学的および血液結合データ(分子量(MW)、LogP、pKa、fup、血液対血漿比(B/P)を、実験データに基づいてモデルに組み込んだ。
・RVT-1201の経口吸収を一次モデルで説明した。
・RVT-1201およびKAR5417の全身分布を最小PBPKモデルで説明した。
・RVT-1201分布容積パラメータの最初の推定を、インビトロのLogP、pKa、fup、B/Pパラメータ、および研究RVT-1201-1001のレジメンC(モデル開発に使用されるデータセット)からの幾何平均CLPOに基づいて行った。
・RVT-1201のTlagおよびkaを、臨床研究RVT-1201-1001のレジメンCからの平均血漿濃度データに基づいて推定した。
・RVT-1201のCLoutのシミュレータ推定値を、RVT-1201の全体の平均t1/2を近似するように最適化した。
・RVT-1201のクリアランス、およびKAR5417の形成を、サイトゾルの酵素を媒介するプロセスに割り当てた(RVT-1201 CLintの最初の推定は、肝臓S9データに基づいており、十分なKAR5417形成が得られるように6.5倍にスケールアップされた)。
・RVT-1201の分布容積パラメータを、CLPOからサイトゾルのClintに変更した後、再び推定した。
・KAR5417分布容積パラメータは、最初はRVT-1201についてのそれと同じに設定した。RVT-1201-研究RVT-1201-1001のレジメンCから観察されたPKプロファイルを再現するために、深部分布区画容積(deep distribution compartment volume)のさらなる改良が必要であった。
・KAR5417 CLPOを最適化して、研究RVT-1201-1001のレジメンCから観察されたPKプロファイルを再現した。
・RVT-1201およびKAR5417のIC50データを使用してKi値を推定した。
・RVT-1201およびKAR5417によるCYP2B6およびCYP3A4の誘導は、0.1、0.3、1、3、10、または20μMのRVT-1201またはKAR5417を含むインキュベーションでのヒト肝細胞におけるmRNAのインビトロ誘導に基づいてモデルに組み込んだ。
・リファンピン誘導データを使用して、RVT-1201およびKAR5417のCYP3A4 Indmaxの推定値をスケーリングした。
【0128】
モデルの検証
PBPKモデルは、母集団でシミュレートした血漿濃度-時間プロファイルおよび要約PKパラメータを、以下の臨床研究からの観察されたデータと比較することによって検証した。
・研究RVT-1201-1001レジメンE;400mg IR BID(摂食);1日目
・研究RVT-1201-1001レジメンE;400mg IR BID(摂食);7日目
・研究RVT-1201-1001レジメンE;400mg IR BID(摂食);14日目
・研究RVT-1201-1001レジメンF;800mg IR BID(摂食);1日目
・研究RVT-1201-1001レジメンF;800mg IR BID(摂食);7日目
・研究RVT-1201-1001レジメンF;800mg IR BID(摂食);14日目
・研究KAR5585-101;400mg BID(摂食);1日目AM
・研究KAR5585-101;400mg BID(摂食);1日目PM
・研究KAR5585-101;400mg BID(摂食);7日目AM
・研究KAR5585-101;400mg BID(摂食);7日目PM
・研究KAR5585-101;400mg BID(摂食);14日目AM
【0129】
モデルの適用
PBPKモデルを適用して、RVT-1201とKAR5417(RVT-1201 600mg BIDの定常状態投与後)のDDIの可能性を、以下のDDIについて加害物質としてシミュレートした。シミュレートしたDDIの大きさは、母集団でシミュレートしたプローブ基質の幾何平均CmaxおよびAUC0-inf比によって要約した。
・CYP2B6阻害の加害物質として(ブプロピオン)
・CYP2C8阻害の加害物質として(ロシグリタゾン)
・CYP3A4阻害の加害物質として(ミダゾラム)
・P-gp阻害の加害物質として(ジゴキシン)
・OATP1B1/3阻害の加害物質として(ロスバスタチン)
【0130】
RVT-1201およびKAR5417のクリアランスの予測
RVT-1201の代謝安定性を、肝細胞、肝臓ミクロソーム、肺ミクロソーム、腸S9、肺S9、肝臓S9、および全血でインビトロで測定した。ヒト肝細胞とのインキュベーションで検出された主要な代謝物は、KAR5417(KRS-02)であった。RVT-1201は急速に代謝されてKAR5417を形成し、2時間のインキュベーション後に5%未満残っていた。熱不活性化ラット肝細胞では、同じ研究で2時間のインキュベーション後に5%未満のRVT-1201が残っていた。したがって、RVT-1201代謝(およびKAR5417形成)は、酸化または共役酵素プロセスに依存していない。RVT-1201からのKAR5417の形成は脱エステル化プロセスであり、1または複数のエステラーゼが主要なメカニズムとして関与している。KAR5417を形成するRVT-1201代謝を担う1または複数の酵素は同定されていないが、1または複数のカルボキシルエステラーゼであると考えられている。加えて、RVT-1201の代謝とKAR5417の形成を、ラットおよびヒト全血で調査した(XT184028)。2μMのRVT-1201を15分間インキュベートした後、ラット血液中でRVT-1201の完全な消失が観察された。KAR5417への完全な変換がこれらのサンプルで観察された。
【0131】
しかし、ヒト全血でのインキュベーションでは、RVT-1201の消失は観察されなかった。これは、KAR5417を形成するためのRVT-1201の脱エステル化が、ヒトの血液中ではエステラーゼ活性によって媒介されないことを示す。RVT-1201からKAR5417への変換は、肺、腸および肝臓のヒトS9画分で観察され、サイトゾルの酵素がRVT-1201の代謝とKAR5417の形成に関与していることが示された。したがって、RVT-1201の代謝は、PBPKモデル内のサイトゾルのカルボキシルエステラーゼ(CES1)に割り当てられた。RVT-1201の除去とKAR5417の形成に関与する酵素は同定されていないが、この目的に適合したPBPKモデルのRVT-1201の酵素代謝を表すためにCES1を選択した。
【0132】
肝臓S9画分(XT184028)におけるRVT-1210の固有クリアランスは、20μL/分/mgタンパク質であった。
この値をPBPKモデルに組み込むと、臨床研究RVT-1201-1001のレジメンCで観察されたRCT-1201の幾何平均経口クリアランスの予測が低くなった。
【0133】
そのため、RVT-1201の観察された経口クリアランスを推定するために、追加の肝臓S9クリアランスを手作業で最適化した。さらに、肝臓S9固有クリアランスの推定では、適切なレベルのKAR5417形成が得られなかった。そのため、肝臓S9固有クリアランスを、ヒト肝細胞またはヒト肝ミクロソームのデータについてWoodら(2017)が推奨するスケーリングに一致する、6.5倍の130μL/分/mgに増加させた。他の代謝物の形成をもたらす追加の肝臓S9クリアランスを、5000μL/分/mgの推定値に手作業で最適化した。
【0134】
PBPKモデル内のKAR5417のクリアランスを、臨床研究RVT-1201-1001のレジメンCでの観察されたKAR5417の平均血漿濃度データを使用して手作業で最適化した(60L/hの値まで)。
【0135】
RVT-1201とKAR5417の相互作用の可能性の予測
RVT-1201およびKAR5417がDDIを害する(perpetrate)可能性をインビトロで調査した(XT158039、XT155056、XT153040)。
【0136】
特定のトランスポーターの競合的阻害を、トランスポーターを発現しているインビトロ系(XT158039)でRVT-1201およびKAR5417について調査した。P-gpの阻害は、ジゴキシンをプローブ基質として用いCaco-2細胞系を使用して評価した。OATP1B1およびOATP1B3の阻害は、エストラジオール-17β-グルクロニドをプローブ基質として用い、これらのトランスポーターを発現しているHEK293細胞株を使用して評価した。さらに、他のトランスポーターの阻害も調査した(BCRP、OAT1、OAT3、OCT2、MATE1、MATE2-K)。P-gp(RVT-1201)およびOATP1B1/3(RVT-1201およびKAR5417)のIC50推定値は、PBPKモデルを使用する阻害DDIの可能性のさらなる評価を裏付けた。各IC50推定値について、基質濃度およびKmを使用して、RVT-1201およびKAR5417のKiを式1を用いて推定した(ChengおよびPrusoff、1973)。
【数1】
【0137】
特定のCYPアイソフォームの競合的阻害を、ヒト肝ミクロソーム(HLM)においてRVT-1201およびKAR5417について調査した(XT155056)。インビトロで評価された8つのCYPアイソフォーム(CYP1A2、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2D6、CYP3A4、CYP3A5)のうち、RVT-1201のIC50推定値は、CYP2B6、CYP2C8、およびCYP3A4についてのみ決定された。KAR5417は、CYP2C8のみを競合的に阻害した。各IC50推定値について、基質濃度およびKmを使用して、RVT-1201およびKAR5417のKiを推定した。
【0138】
特定のCYPアイソフォーム(CYP1A2、CYP2B6、CYP3A4)の誘導を、ヒト肝細胞(HH)でRVT-1201およびKAR5417について調査した(XT153040)。RVT-1201およびKAR5417によるCYP2B6およびCYP3A4 mRNAの誘導がこれらのインビトロ実験で観察された。RVT-1201およびKAR5417によるCYP2B6およびCYP3A4 mRNA誘導(EmaxおよびEC50)を使用して、PBPKモデルパラメータ、IndmaxおよびIndC50を推定した。PBPKモデル内では、IndC50はEC50に等しく、EC50はCYPアイソフォームの最大半量の誘導を支える誘導物質の濃度である(インビトロ濃度依存性mRNA誘導データに適合するシグモイド3パラメータによって推定)。PBPKモデル内で、Indmaxは、ビヒクルのみ(ビヒクル=1)でのインキュベーションに対する最大誘導倍数を表す。RVT-1201およびKAR5417について報告されたEmaxは、インビトロ濃度依存性mRNA誘導データに適合するシグモイド3パラメータによって推定された。ベースライン活性は1ではなく0に等しく設定されたため、報告されたEmaxは、各値に1を加算して増加させ、Indmaxを推定した。CYP2B6誘導データは、報告される通りにPBPKモデルで使用した。CYP3A4誘導データは、リファンピンによる最大誘導(20μM)に基づいてスケーリングした。同じシステムからのリファンピンデータを使用するCYP3A4誘導のスケーリングは、インビトロおよびインビボでのリファンピン誘導に関する広範な文献を活用し、各インビトロインキュベーションにおけるリファンピンの相対的な性能、およびインビトロとインビボでのリファンピンによるCYP3A4の誘導間の経験的関係に基づいてインビトロ誘導データを調整することを可能にする。
【0139】
ミクロソームおよび肝細胞における非特異的タンパク質結合の予測
ミクロソームタンパク質結合(fumic)は、インビボ実験における固有クリアランスおよび阻害効力に対するタンパク質結合の影響を調整するために使用される。Fumic値は、インビボで測定することまたは、Simcyp Simulator内で予測することができる。この関係は式(2)にまとめられている。ここで、[P]micは、インビトロインキュベーションで使用されているミクロソームタンパク質濃度(mg/mL)である。
【数2】
【0140】
肝細胞タンパク質結合(fuinc)は、ヒト肝細胞インキュベーションにおけるタンパク質結合の影響を調整するために使用される。Fuincは、Kilfordら(2008)によって提案された方法論に従って、ヒト肝細胞の親油性および推定体積比に基づいて予測することができる。この関係は式(3)にまとめられている。ここで、106細胞/mLの肝細胞濃度でVR=0.005である。
【数3】
CYPアイソフォームに対するRVT-1201およびKAR5417の競合的阻害および誘導の可能性を評価するためのHLMおよびHHインキュベーションにおけるタンパク質結合は、報告されなかった。そのため、インビトロ阻害および誘導実験の遊離画分が予測された。
【0141】
PBPKモデルの適用
次に、PBPKモデルを適用して、誘導物質(RVT-1201およびKAR5417)および競合阻害剤(RVT-1201)としての、CYP2B6(ブプロピオン)およびCYP3A4(ミダゾラム)の高感度基質のPKへのRVT-1201およびKAR5417の影響、CYP2C8(ロシグリタゾン)の高感度基質のPKへのKAR5417競合的阻害の影響、P-gp(ジゴキシン)の高感度基質のPKへのRVT-1201の影響、ならびにOATP1B1/3(ロスバスタチン)の高感度基質のPKへのRVT-1201およびKAR5417の影響を予測した。シミュレーションは、シミュレートされた、摂食した健康なボランティア集団;18~55歳、女性50%を使用して完了した。すべてのPBPKシミュレーションは、400mg BIDのRVT-1201を14日間行い、14日目にプローブ基質の単回用量を投与した。各DDIシミュレーションは、それぞれ10人の仮想被験者による10回の仮想試行で構成されていた。各シミュレーションに対して、母集団の要約PKパラメータ(合計n=100に基づく)が要約された。
【0142】
考察
RVT-1201の単回および複数回経口投与(400mg BID、800mg BID)後に観察されたRVT-1201およびKAR5417の血漿濃度を正確にシミュレートするPBPKモデルを開発した。RVT-1201およびKAR5417は、インビトロでCYP2B6およびCYPP3A4 mRNAの弱い濃度依存性誘導物質である。PBPKモデルを適用して、定常状態(600mg BID)まで投与されたRVT-1201が、CYP2B6またはCYP3A4の高感度プローブ基質の単回用量を共投与される場合のDDIの可能性をシミュレートした。さらに、RVT-1201およびKAR5417は、インビトロでCYP2B6、CYP2C8、CYP3A4、P-gp(RVT-1201のみ)およびOATP1B1/3の弱い競合阻害剤であった。PBPKモデルを同様に適用して、定常状態(600mg BID)まで投与されたRVT-1201が、CYP2B6、CYP2C8、CYP3A4、P-gpまたはOATP1B1/3の高感度プローブ基質の単回用量を共投与される場合のDDIの可能性をシミュレートした。
【0143】
PBPKモデルは、RVT-1201およびKAR5417について収集された物理化学的データ、インビトロデータおよび臨床データを使用して開発された。単回投与(400mg)の血漿濃度データ(臨床研究RVT-1201-1001のレジメンC)を使用して、RVT-1210およびKAR5417の分布パラメータを推定した。さらに、このデータセットからのRVT-1201およびKAR5417血漿濃度データを使用して、RVT-1201の酵素クリアランスおよびKAR5417の経口クリアランスの推定値を改良した。
【0144】
PBPKモデルは、臨床研究RVT-1201-1001(それぞれレジメンEおよびF)で400mg BIDまたは800mg BID、14日間の後のRVT-1201およびKAR5417血漿濃度データ(1日目、7日目および14日目)をシミュレートするモデルを適用することよって検証された。さらに、臨床研究KAR5585-101(1日目(AMおよびPM)、7日目(AMおよびPM)、および14日目)における400mg BIDの14日間の投与を、モデルの検証に使用した。
【0145】
シミュレートされた母集団の要約RVT-1201のTmax、CmaxおよびAUC(単回投与後のAUC0-inf;複数回投与後のAUC0-12h)は、観察されたRVT-1201データのそれぞれ0.40~1.60倍、0.76~1.38倍および0.71~1.58倍以内であった(シミュレートされた要約PKパラメータの大部分(33個のうち30個の推定値)が観察値の1.5倍以内であった)。これらの11のデータセット(33個のシミュレートされた要約PKパラメータ)をシミュレートする際のモデルのパフォーマンスに基づいて、RVT-1201 PBPKモデルは、DDIの加害物質としてDDIの可能性のシミュレーションに適している。
【0146】
シミュレートされた母集団の要約KAR5417のTmax、CmaxおよびAUC(単回投与後のAUC0-inf;複数回投与後のAUC0-12h)は、観察されたRVT-1201データのそれぞれ0.52~1.30倍、0.60~1.00倍および0.74~1.17倍以内であった(シミュレートされた要約PKパラメータの大部分(33個のうち28個の推定値)が観察値の1.5倍以内であった)。これらの11のデータセット(33個のシミュレートされた要約PKパラメータ)をシミュレートする際のモデルのパフォーマンスに基づいて、RVT-1201 PBPKモデルは、DDIの加害物質としてDDIの可能性のシミュレーションに適している。
【0147】
PBPKモデルを適用して、CYP2B6、CYP2C8、CYP3A4、P-gp、およびOATP1B1/3媒介DDIの加害物質としてのRVT-1201およびその代謝物KAR5417のDDIの可能性をシミュレートした。
【0148】
CYP2B6の誘導可能性(CYP2B6 mRNAのインビトロ誘導)の推定値に基づいて、CYP2B6の誘導物質としてシミュレートされたRVT-1201のDDIの可能性は、「弱い」の下限閾値(1.25倍以上;ベースラインから2倍未満の変化、または曝露比が0.50超;0.80以下)を下回った。RVT-1201およびKAR5417の定常状態の条件下では、CYP2B6の高感度基質とのDDIは予測されない。CYP mRNAの誘導は、インビトロ活性よりも感度の高い誘導マーカーであると考えられている(Fahmiら、2010)。そのため、mRNAデータに基づく誘導シミュレーションは、RVT-1201のCYP2B6媒介DDI傾向の「最悪の場合」のシナリオと考えられ得るため、RVT-1201およびKAR5417の臨床的誘導の可能性の過剰予測を表すと予想される。CYP3A4誘導可能性(CYP3A4 mRNAのインビトロ誘導)の推定値に基づいて、CYP3A4の誘導物質としてシミュレートされたRVT-1201のDDIの可能性は、「弱い」の下限閾値(1.25倍以上;2倍未満)であった。RVT-1201およびKAR5417の定常状態の条件下では、CYP3A4の高感度基質との弱いDDIが予測される。CYP mRNAの誘導は、インビトロ活性よりも高感度の誘導マーカーであると考えられている(Fahmiら、2010)。そのため、mRNAデータに基づく誘導シミュレーションは、RVT-1201のCYP3A4媒介DDI傾向の「最悪の場合」のシナリオと考えられ得るため、RVT-1201およびKAR5417の臨床的誘導の可能性の過剰予測を表すと予想される。しかし、DDIシミュレーションの場合、mRNAベースの誘導パラメータに関連する過剰予測を最小限に抑えることが期待される、リファンピンでスケーリングされた推定値IndmaxをPBPKモデルに組み込んだ。
【0149】
CYP2C8の阻害可能性(インビトロKi)の推定値に基づいて、CYP2C8の競合阻害剤としてシミュレートされたRVT-1201のDDIの可能性は、「弱い」の下限閾値(1.25倍以上;2倍未満)よりも低かった。RVT-1201およびKAR5417の定常状態の条件下では、CYP2C8の高感度基質とのDDIは予測されない。RVT-1201およびKAR5417のインビトロKiが10倍減少した「最悪の場合」のシナリオの条件下では、CYP2C8の高感度基質とのDDIはないと予測される。
【0150】
P-gpの阻害可能性(インビトロKi)の推定値に基づいて、P-gpの競合阻害剤としてシミュレートされたRVT-1201のDDIの可能性は、「弱い」の下限閾値(1.25倍以上;2倍未満)よりも低かった。RVT-1201およびKAR5417の定常状態の条件下では、P-gpの高感度基質とのDDIは予測されない。RVT-1201およびKAR5417のインビトロKiが15倍減少した「最悪の場合」のシナリオの条件下では、P-gpの高感度基質とのDDIはないと予測される。
【0151】
OATP1B1/3の阻害可能性(インビトロKi)の推定値に基づいて、OATP1B1/3の競合阻害剤としてシミュレートされたRVT-1201のDDIの可能性は、「弱い」の下限閾値(1.25倍以上;2倍未満)よりも低かった。RVT-1201およびKAR5417の定常状態の条件下では、OATP1B1/3の高感度基質とのDDIは予測されない。RVT-1201およびKAR5417のインビトロKiが10倍減少した「最悪の場合」のシナリオの条件下では、OATP1B1/3の高感度基質とのDDIはないと予測される。
【0152】
結論として、400~800mgの単回または複数回(BID)用量の経口投与後に観察されたRVT-1201およびKAR5417の血漿濃度データを説明するPBPKモデルが開発された。次に、このモデルを適用して、CYP2B6、CYP2C8、CYP3A4、P-gp、またはOATP1B1/3とのDDIの加害物質として、RVT-1201およびその代謝物KAR5417のDDIの可能性をシミュレートした。PBPKモデルによって予測された唯一の相互作用は、CYP3A4媒介DDIの「弱い」可能性であった。RVT-1201は、CYP2B6、CYP2C8、P-gpまたはOATP1B1/3の高感度基質とのDDIを害するとは予測されていない。
【0153】
略語
ADME 薬物吸収、分布、代謝、排泄
AUC0-inf 無限に外挿された曲線下面積
BCS 生物薬剤学分類システム
BID 1日2回
B/P 血液対血漿比
CI 信頼区間
CLin 入力速度クリアランス(VSAC)
CLoral 経口クリアランス
CLout 排出速度クリアランス(VSAC)
CLperm 腸細胞の透過性を定義するクリアランス用語
CLPO 経口血漿クリアランス
CLrenal 腎クリアランス
CLuint,g 腸内の非結合薬物の固有クリアランス
CLu,int,H 非結合型肝固有クリアランス
Cmax 最大薬物濃度
CYP シトクロムP450酵素
DDI 薬物間相互作用
EC50 アゴニストの最大可能効果の50%をもたらすそのアゴニストの有効濃度
Emax 最大誘導
EG 腸内で初回通過代謝を受ける画分
EH 肝臓で初回通過代謝を受ける画分
fa 腸から吸収される画分
FG 腸内で初回通過代謝を逃れる画分
fmCYP 個々のCYPアイソフォームによって代謝される画分
fub 血液中の非結合画分
fugut 腸内の非結合画分
fuinc 肝細胞内の非結合画分
fumic インビトロミクロソーム調製物中の非結合画分
fup 血漿中の非結合画分
h 時間
HH ヒト肝細胞
HIM ヒト腸ミクロソーム
HLM ヒト肝ミクロソーム
IC50 最大半量の阻害濃度
Indmax 最大誘導倍率
IR 即時放出
ISEF システム間外挿係数
ka 一次吸収速度定数
kg キログラム
Ki 酵素/トランスポーター競合阻害定数(最大半量の阻害に関連する阻害剤濃度)
LogP 中性化合物のオクタノール-水分配係数の対数
μ マイクロ-
M モル濃度
MAD 複数回漸増用量
Mg ミリグラム
MW 分子量
Ng ナノグラム
Papp 見かけの透過率
PBPK 生理学に基づく薬物動態
Peff 効果的な腸間膜透過性
Peff,man 効果的なヒト空腸透過性
PK 薬物動態
pKa 酸解離定数
QD 1日1回
Qgut 腸への全体的な薬物送達のための流量
QH 肝臓の血流
QHA 肝動脈の血流
QPV 門脈の血流
Qvilli 絨毛の血流
rhCYP 組換えヒトCYP
S/O シミュレートされた/観察された
SAC 単一調整区画
SAD 単回漸増用量
t1/2 半減期
TIW 週3回
Tlag 遅延時間
Tmax 薬物の最大血漿濃度に到達する時間
V18 バージョン18
Vr 細胞とインキュベーション容積の比
VSAC 単一調節区画の容積
VSS 定常状態の分布容積
WLS 加重最小二乗
【0154】
前述の説明は、本開示の単なる例示であることを理解されたい。様々な代替手段および変更手段が、本開示から逸脱することなく、当業者によって考案され得る。したがって、本開示は、添付される特許請求の範囲内にあるそのようなすべての代替手段、変更および相違を包含することを意図する。
【国際調査報告】