(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-23
(54)【発明の名称】Liイオン電池用電極配合物及び無溶媒電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20230315BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230315BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20230315BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M4/139
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022546021
(86)(22)【出願日】2021-01-29
(85)【翻訳文提出日】2022-09-20
(86)【国際出願番号】 FR2021050166
(87)【国際公開番号】W WO2021152267
(87)【国際公開日】2021-08-05
(32)【優先日】2020-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ビゼー,ステファン
(72)【発明者】
【氏名】ボネ,アンソニー
(72)【発明者】
【氏名】コルゼンコ,オレクサンドル
(72)【発明者】
【氏名】ドゥビスム,サミュエル
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
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5H050GA10
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5H050GA24
5H050GA27
5H050GA29
5H050HA01
5H050HA02
(57)【要約】
本発明は、一般に、Liイオン型の充電式二次電池における電気エネルギー貯蔵の分野に関する。より具体的には、本発明は、フルオロポリマーの混合物に基づく結合剤を含む、Liイオン電池用の電極配合物に関する。本発明はまた、金属基材上への無溶媒堆積の技術によって、前記配合物を使用して電極を調製する方法に関する。本発明は、最終的に、この方法によって得られる電極に関し、また、少なくとも1つのそのような電極を備えるLiイオン二次電池に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード又はカソード用の活性充填剤と、電子伝導性充填剤と、フルオロポリマー結合剤とを含むLiイオン電池電極であって、前記結合剤が、
-3重量%以上のHFP含有量を有する、フッ化ビニリデン(VDF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)との少なくとも1つのコポリマーを含むフルオロポリマーAと、
-少なくともVDFホモポリマー及び/又は少なくとも1つのVDF-HFPコポリマーを含むフルオロポリマーBであって、前記ポリマーAのHFPの重量含有量よりも少なくとも3%低いHFPの重量含有量を有するフルオロポリマーBと、からなる混合物からなる
ことを特徴とするLiイオン電池電極。
【請求項2】
前記フルオロポリマーAの組成物の一部を形成する前記少なくとも1つのVDF-HFPコポリマー中のHFP含有量が、6%以上55%以下である、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記フルオロポリマーAが、3%以上のHFP含有量を有する単一のVDF-HFPコポリマーからなる、請求項1に記載の電極。
【請求項4】
前記フルオロポリマーAが、2つ以上のVDF-HFPコポリマーの混合物からなり、各コポリマーのHFP含有量が3%以上である、請求項1に記載の電極。
【請求項5】
前記フルオロポリマーBが、フッ化ビニリデンのホモポリマーである、請求項1~4のいずれか一項に記載の電極。
【請求項6】
前記フルオロポリマーBが、1%~10%のHFP含有量を有する単一のVDF-HFPコポリマーからなる、請求項1~4のいずれか一項に記載の電極。
【請求項7】
前記混合物が、
i.1%以上20%以下、優先的には5%以上20%以下のポリマーAの重量含有量と、
ii.99%以下80%超、好ましくは95%以下80%以上のポリマーBの重量含有量と、
を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の電極。
【請求項8】
前記活性充填剤が、負極用の、リチウム金属、グラファイト、ケイ素/炭素複合材、ケイ素、グラフェン、CFx型のフルオログラファイト(xは0~1である)、及びLiTi
5O
12型のチタネートから選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の電極。
【請求項9】
前記活性充填剤が、正極用の、LiMO
2型、LiMPO
4型、Li
2MPO
3F型、Li
2MSiO
4型(MはCo、Ni、Mn、Fe若しくはこれらの組み合わせである)、LiMn
2O
4型、又はS
8型の活物質から選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の電極。
【請求項10】
前記伝導性充填剤が、カーボンブラック、天然若しくは合成グラファイト、炭素繊維、カーボンナノチューブ、金属繊維及び粉末、伝導性金属酸化物又はそれらの混合物から選択される、請求項1~9のいずれか一項に記載の電極。
【請求項11】
重量で以下の組成:
-50%~99%の活性充填剤と、
-0.05%~25%の伝導性充填剤と、
-0.05%~25%のポリマー結合剤と、
-0~5%の少なくとも1つの添加剤であって、リスト:可塑剤、イオン液体、前記充填剤用の分散剤、配合物用の流動剤、フィブリル化剤から選択される少なくとも1つの添加剤と、を有し
これらすべてのパーセンテージの合計が100%である、請求項1~10のいずれか一項に記載の電極。
【請求項12】
請求項1~11に記載のLiイオン電池電極を生産するための方法であって、以下のステップ:
-無溶媒法によって金属支持体に適用することができる電極配合物を得ることを可能にする方法によって、前記活性充填剤と、前記ポリマー結合剤と、前記伝導性充填剤とを混合するステップと、
-無溶媒法によって前記電極配合物を前記金属基材上に堆積させて、Liイオン電池電極を得るステップと、
-熱処理及び/又は熱機械的処理によって前記電極を圧密化するステップと、
を含む、方法。
【請求項13】
前記混合ステップが、
-密な混合物を得るために、無溶媒法を使用して、又は共噴霧によって、前記伝導性充填剤と前記ポリマー結合剤とを混合すること、次いで
-電極配合物を得るために、無溶媒混合法を使用して前記活性充填剤を前記密な混合物と混合すること、
の2段階で行われる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記混合ステップが、撹拌、空気ジェット混合、前記混合物の粉砕、高剪断混合、Vミキサーによる混合、スクリューミキサーによる混合、ダブルコーン混合、ドラム混合、円錐混合、ダブルZアーム混合、流動床での混合、プラネタリーミキサー、押出、カレンダ加工、又はメカノフュージョンによって行われる、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
前記無溶媒粉末コーティング法が、以下の方法:空気圧スプレー、静電スプレー、流動粉末床への浸漬、ダスティング、静電転写、回転ブラシによる堆積、回転計量ロールによる堆積及びカレンダ加工から選択される方法によって、前記配合物を前記金属基材上に堆積させることによって行われる、請求項12~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記無溶媒粉末コーティング法が、2つのステップ:予備混合配合物から自己支持性フィルムを生産することからなる第1のステップと、前記自己支持性フィルムが前記金属基材と組み立てられる第2のステップと、で行われる、請求項12~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記電極の圧密化が、オーブン、赤外線ランプ下、又は加熱されたロールを有するカレンダを通過することによる熱処理によって行われる、請求項12~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
アノードと、カソードと、セパレータとを備え、前記電極の少なくとも1つが、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成を有する、二次Liイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、Liイオン型の充電式二次電池における電気エネルギー貯蔵の分野に関する。より具体的には、本発明は、フルオロポリマーの混合物に基づく結合剤を含む、Liイオン電池用の電極配合物に関する。本発明はまた、金属基材上への無溶媒堆積の技術によって、前記配合物を使用して電極を調製する方法に関する。本発明は、最終的に、この方法によって得られる電極に関し、また、少なくとも1つのそのような電極を備えるLiイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
Liイオン電池は、銅集電体に結合された少なくとも1つの負極又はアノードと、アルミニウム集電体に結合された正極又はカソードと、セパレータと、電解質とを備える。電解質は、イオン輸送及び解離を最適化するために選択される有機カーボネートの混合物である溶媒と混合されたリチウム塩、一般に六フッ化リン酸リチウムからなる。
【0003】
充電式又は二次電池は、電池の正極及び負極で起こる関連する化学反応が可逆的であるため、一次電池(充電式ではない)よりも有利である。二次電池の電極は、電荷の印加によって複数回再生することができる。電荷を貯蔵するために多くの高度な電極システムが開発されてきた。並行して、電気化学セルの容量を改善することができる電解質を開発することに多大な努力が注がれてきた。
【0004】
その部分については、電極は、一般に、少なくとも1つの集電体を備え、その上に、フィルムの形態で、リチウムに対する電気化学的活性を示すために活性物質と呼ばれる材料、結合剤として作用するポリマー、加えて一般にカーボンブラック又はアセチレンブラックである1つ以上の伝導性添加剤、及び任意に、界面活性剤からなる複合材料が堆積される。
【0005】
結合剤は、セルの容量に直接寄与しないので、いわゆる不活性成分の中に数えられる。しかしながら、電極の処理におけるそれらの重要な役割及び電極の電気化学的性能に対するそれらの多大な影響が広く説明されている。結合剤の主な関連する物理的及び化学的特性は、熱安定性、化学的及び電気化学的安定性、引張強度(強い接着性及び凝集性)並びに柔軟性である。結合剤を使用する主な目的は、電極の固体成分、すなわち活物質及び導電剤の安定なネットワーク(凝集性)を形成することである。また、結合剤は、複合電極と集電体との密着性(接着性)を確保しなければならない。
【0006】
ポリフッ化ビニリデン(PVDF)は、その優れた電気化学的安定性、良好な接着容量並びに電極及び集電体の材料への強い接着性のために、リチウムイオン電池で最も一般的に使用される結合剤である。しかしながら、PVDFは、揮発性、可燃性、爆発性及び非常に毒性であり、深刻な環境問題を引き起こすN-メチルピロリドン(NMP)などの特定の有機溶媒にしか溶解することができない。有機溶媒の使用は、生産、リサイクル及び精製設備に多大な投資を必要とする。リチウムイオン電池の電極が無溶媒法で生産される場合、同じ仕様に準拠しながら、カーボンフットプリント及び生産コストが大幅に削減される。
【0007】
Wangらによる論文(J.Electrochem.Soc.2019 166(10):A2151-A2157)は、乾燥粉末コーティング法(静電スプレー堆積)によって製作された電極に対するPVDF結合剤のいくつかの特性の影響を分析した。金属基材との接着性及び電極の凝集性を改善するために、200℃で1時間の熱処理ステップが実施される。電極は、5重量%の結合剤を含有する。異なる粘度の2つの結合剤:HSV900(50 kpoise)及びAlfa Aesarのグレード(25kpoise)が使用される。
【0008】
流体結合剤は、最良の接着性をもたらすが、高い放電速度での挙動は、粘性結合剤よりも劣る(これらの条件下で、結合強度及び長期サイクル性能を低下させることなく、容量維持率が17%から50%に改善される)。結合剤層の多孔度は、PVDFの分子量と共に増加する。
【0009】
しかしながら、乾式コーティング法によって製作された電極の特性に対する異なるPVDFブレンドの影響は記載されなかった。
【0010】
湿式懸濁液中で電極を生産する従来の方法と比較して、乾式(無溶媒)生産法は、より簡単であり、そのような方法は、揮発性有機化合物の放出を排除し、最終的なエネルギー貯蔵デバイスにおいてより高いエネルギー密度で、より大きな厚さ(>120μm)を有する電極を生産する可能性を提供する。生産技術の変更は、電極の活物質にわずかな影響を与えるが、電極の機械的完全性及びその電気的挙動を担うポリマー添加剤は、新しい製作条件に好適でなければならない。
【0011】
有機溶媒を使用せずに実施するのに好適なLiイオン電池用の新しい電極組成物を開発することが依然として必要とされている。
【0012】
したがって、本発明の目的は、変換することができるLiイオン電池電極組成物を提供することである。
【0013】
本発明はまた、金属基材上への無溶媒堆積の技術によって、前記配合物を用いるLiイオン電池用電極を生産するための方法を提供することを目的とする。最後に、本発明は、この方法によって得られる電極に関する。
【0014】
最後に、本発明は、少なくとも1つのそのような電極を備える充電式Liイオン二次電池を提供することを目的とする。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Wang et al. J.Electrochem.Soc.2019 166(10):A2151-A2157
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明によって提案される技術的解決策は、異なる結晶性を有する少なくとも2つのフルオロポリマーの混合物に基づく結合剤を含む、Liイオン電池用の電極組成物である。
【0017】
本発明は、第1に、アノード又はカソード用の活性充填剤、電子伝導性充填剤及びフルオロポリマー(系)結合剤を含むLiイオン電池電極に関する。特徴的には、前記結合剤は、少なくとも2つのフルオロポリマー:
-3重量%以上のHFP含有量を有する、フッ化ビニリデン(VDF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)との少なくとも1つのコポリマーを含むフルオロポリマーAと、
-少なくともVDFホモポリマー及び/又は少なくとも1つのVDF-HFPコポリマーを含むフルオロポリマーBであって、ポリマーAのHFPの重量含有量よりも少なくとも3%低いHFPの重量含有量を有する、フルオロポリマーBと、
の混合物からなる。
【0018】
フルオロポリマーAは、3重量%以上、好ましくは6%以上、有利には9%以上のHFP含有量を有する少なくとも1つのVDF-HFPコポリマーを含む。
【0019】
結合剤中のその重量含有量は、1重量%以上及び20重量%以下、優先的には5重量%以上及び20重量%以下である。
【0020】
フルオロポリマーBは、ポリマーAのHFPの重量含有量より少なくとも3%低いHFPの重量含有量を有する少なくとも1つのVDF-HFPコポリマーを含む。結合剤中のその重量含有量は、99%以下80%以上であり、それは、好ましくは95%以下80%以上である。
【0021】
本発明はまた、Liイオン電池電極を生産するための方法であって、以下の動作:
-「無溶媒」法によって金属支持体に適用することができる電極配合物を得ることを可能にする方法によって、活性充填剤と、ポリマー結合剤と、伝導性充填剤とを混合することと、
-「無溶媒」法によって前記電極配合物を金属基材上に堆積させて、Liイオン電池電極を得ることと、
-熱処理及び/又は熱機械的処理によって前記電極を圧密化することと、
を含む、方法に関する。
【0022】
本発明はまた、上記の方法によって生産されたLiイオン電池電極に関する。
【0023】
本発明はまた、負極と、正極と、セパレータとを備え、少なくとも1つの電極が上記の通りであるLiイオン二次電池を提供する。
【0024】
本発明は、従来技術の欠点を克服することを可能にする。より具体的には、本発明は、
-活性充填剤の表面上の結合剤及び伝導性充填剤の分布を制御する、
-無溶媒法では達成が困難であり得る配合物の良好なフィルム形成又は圧密化を保証することによって、電極の凝集性及び機械的完全性を確保する、
-金属基材上に接着性を生成する、
-PVDFホモポリマーを含有する電極と比較して、電極圧密化ステップの温度及び/又は圧密化ステップの持続時間を低下させる、
-電極の厚さ及び幅における電極組成の均一性を改善する、
-電極の多孔度を制御し、電極の厚さ及び幅におけるその均一性を確保する、
-公知の無溶媒法の場合、標準的なスラリー法の結合剤含有量よりも多いままである、電極中の結合剤含有量全体を減少させる、
-電極配合物の自己支持性フィルムの機械的強度を改善する、ことを可能にする技術を提供する。これは、無溶媒電極生産法が、集電体上での組み立て前に配合物の自己支持性フィルムの生産の中間段階を介して進行する場合、配合物が、取り扱い段階及び巻き取り/巻き戻し段階に十分な機械的挙動を達成する
ことを可能にすることを意味する。
【0025】
この技術の利点は、電極の以下の特性:厚さの組成の均一性、多孔度の均一性、凝集性及び金属基材への接着性を改善することである。また、電極に必要な結合剤の含有量を低減することができ、多孔度を制御し、接着性を改善するために熱処理温度及び時間を低減することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
ここで、本発明を、以下の説明においてより詳細及び非限定的に説明する。
【0027】
第1の態様によれば、本発明は、アノード又はカソード用の活性充填剤、電子伝導性充填剤及びフルオロポリマー(系)結合剤を含むLiイオン電池電極に関する。特徴的には、前記結合剤は、少なくとも2つのフルオロポリマー:
-3重量%以上のHFP含有量を有する、フッ化ビニリデン(VDF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)との少なくとも1つのコポリマーを含むフルオロポリマーAと、
-少なくともVDFホモポリマー及び/又は少なくとも1つのVDF-HFPコポリマーを含むフルオロポリマーBであって、ポリマーAのHFPの重量含有量よりも少なくとも3%低いHFPの重量含有量を有する、フルオロポリマーBと、
の混合物からなる。
【0028】
様々な実施形態によれば、前記電極は、適切な場合に組み合わせて、以下の特徴を含む。記載された含有量は、特に明記しない限り、重量で表される。
【0029】
フルオロポリマーAは、3重量%以上、好ましくは6%以上、有利には9%以上のHFP含有量を有する少なくとも1つのVDF-HFPコポリマーを含む。前記VDF-HFPコポリマーは、55%以下、好ましくは50%以下のHFP含有量を有する。
【0030】
フルオロポリマーA中に存在するVDF-HFPコポリマーは、あまり結晶性ではない。このコポリマーを電極に組み込むことにより、特に結合剤による活性充填剤の表面の被覆度を制御することが可能になる。
【0031】
一実施形態によれば、フルオロポリマーAは、3%以上のHFP含有量を有する単一のVDF-HFPコポリマーからなる。一実施形態によれば、このVDF-HFPコポリマーのHFP含有量は、限界値を含めて6%~55%、好ましくは限界値を含めて9%~50%である。
【0032】
一実施形態によれば、フルオロポリマーAは、2つ以上のVDF-HFPコポリマーの混合物からなり、各コポリマーのHFP含有量は、3%以上である。一実施形態によれば、コポリマーの各々は、限界値を含めて6%~55%、好ましくは限界値を含めて9%~50%のHFP含有量を有する。
【0033】
フルオロポリマー中の単位のモル組成は、赤外分光法又はラマン分光法などの様々な手段によって決定することができる。蛍光X線分光法などの元素の炭素、フッ素及び塩素又は臭素又はヨウ素の元素分析の従来の方法は、モル組成が推定されるポリマーの重量による組成を明確に計算することを可能にする。
【0034】
好適な重水素化溶媒中のポリマーの溶液の分析によって、多核NMR技術、特にプロトン(1H)及びフッ素(19F)NMR技術も使用され得る。NMRスペクトルは、多核プローブを備えたFT-NMR分光計で記録される。次いで、一方又は他方の核に従って生産されたスペクトル中の様々なモノマーによって与えられた特定の信号が設置される。
【0035】
フルオロポリマーBは、ポリマーAのHFPの重量含有量より少なくとも3%低いHFPの重量含有量を有する少なくとも1つのVDF-HFPコポリマーを含む。
【0036】
電極の組成物中の低結晶性フルオロポリマーAと結晶性フルオロポリマーとの組み合わせは、結合剤による活性充填剤の表面の被覆度を制御することを可能にする。実際、電極圧密化ステップ中、各結合剤は、温度及び圧力の影響下で活性充填剤の表面間及び表面上で変形及び流動する異なる能力を有する。結晶性フッ素化結合剤Bよりも融点が低い、及び/又は変形しやすい低結晶性フッ素化結合剤Aは、活性充填剤の表面に広がり、したがって電極の凝集を促進する傾向が大きい。これは、活性充填剤と電解質との間のリチウムイオン交換面積を犠牲にして起こり、高い放電速度での電池の性能を制限する可能性がある。また、より結晶性で変形しにくい結合剤の添加は、電極に凝集性を提供しながら、活性充填剤の被覆率を制限することを可能にする。したがって、2つの結合剤間の比の制御は、電極の多孔度及び凝集性の制御を可能にする。
【0037】
一実施形態によれば、フルオロポリマーBは、フッ化ビニリデン(VDF)ホモポリマー又はフッ化ビニリデンホモポリマーの混合物である。
【0038】
一実施形態によれば、フルオロポリマーBは、単一のVDF-HFPコポリマーからなる。一実施形態によれば、このVDF-HFPコポリマーのHFP含有量は、終点を含めて1%~10%である。一実施形態によれば、このVDF-HFPコポリマーのHFP含有量は、終点を含めて1%~15%である。
【0039】
一実施形態によれば、フルオロポリマーBは、PVDFホモポリマーとVDF-HFPコポリマーとの混合物、又は2つ以上のVDF-HFPコポリマーの混合物である。
【0040】
本発明で使用されるフルオロポリマーは、溶液、エマルジョン又は懸濁重合などの公知の重合方法によって得ることができる。一実施形態によれば、それらは、フッ素化界面活性剤の非存在下での乳化重合法によって調製される。
【0041】
一実施形態によれば、前記混合物は、
i.1%以上20%以下、優先的には5%以上20%以下のポリマーAの重量含有量と、
ii.99%以下80%超、好ましくは95%以下80%以上のポリマーBの重量含有量と、
を含有する。
【0042】
負極における活物質は、一般に、リチウム金属、グラファイト、ケイ素/炭素複合材、ケイ素、0~1のxを有するCFx型のフルオログラファイト、及びLiTi5O12型のチタネートである。
【0043】
正極における材料は、一般に、LiMO2型、LiMPO4型、Li2MPO3F型、Li2MSiO4型(Mは、Co、Ni、Mn、Fe若しくはこれらの組み合わせ)、LiMn2O4型又はS8型である。
【0044】
伝導性充填剤は、カーボンブラック、天然又は合成グラファイト、炭素繊維、カーボンナノチューブ、金属繊維及び粉末、並びに伝導性金属酸化物から選択される。それらは、カーボンブラック、天然又は合成グラファイト、炭素繊維及びカーボンナノチューブから優先的に選択される。
【0045】
これらの伝導性充填剤の混合物も生産され得る。特に、カーボンブラックなどの別の伝導性充填剤と組み合わせたカーボンナノチューブの使用は、カーボンブラックと比較して比表面積が低いため、電極中の伝導性充填剤の含有量を減少させ、ポリマー結合剤の含有量を減少させるという利点を有することができる。
【0046】
一実施形態によれば、存在する凝集体を分解し、ポリマー結合剤及び活性充填剤を含む最終配合物中でのその分散を助けるために、前記結合剤とは異なるポリマー分散剤が伝導性充填剤との混合物中で使用される。ポリマー分散剤は、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(フェニルアセチレン)、ポリ(メタ-フェニレンビニリデン)、ポリピロール、ポリ(パラ-フェニレンベンゾビスオキサゾール)、ポリ(ビニルアルコール)及びそれらの混合物から選択される。
【0047】
電極の重量組成は、
-50%~99%、好ましくは50%~99%の活性充填剤、
-25%~0.05%、好ましくは25%~0.5%の伝導性充填剤、
-25%~0.05%、好ましくは25%~0.5%のポリマー結合剤、
-0~5%の、リスト:可塑剤、イオン液体、伝導性充填剤用の分散剤、配合物用の流動剤、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフィブリル化剤から選択される少なくとも1つの添加剤、であり、
これらすべてのパーセンテージの合計は、100%である。
【0048】
本発明はまた、Liイオン電池電極を生産するための方法であって、以下のステップ:
-無溶媒法によって金属支持体に適用することができる電極配合物を得ることを可能にする方法によって、活性充填剤と、ポリマー結合剤と、伝導性充填剤と、任意の添加剤とを混合するステップと、
-「無溶媒」法によって前記電極配合物を金属基材上に堆積させて、Liイオン電池電極を得るステップと、
-熱処理(機械的圧力なしで、ポリマーの溶融温度より最大50℃高い範囲の温度の適用)及び/又はカレンダ加工若しくは熱圧縮などの熱機械的処理によって前記電極を圧密化するステップと、
を含む、方法に関する。
【0049】
「無溶媒」法は、堆積ステップの下流で残留溶媒を蒸発させるステップの必要がない方法を意味すると理解される。
【0050】
電極を生産するための方法の別の実施形態は、以下のステップ:
-構成成分が均一に混合された電極配合物を得ることを可能にする方法によって、活性充填剤と、ポリマー結合剤と、伝導性充填剤とを混合するステップと、
-押出、カレンダ加工、又は熱圧縮などの熱機械法によって配合物の自己支持性フィルムを生産するステップと、
-カレンダ加工、又は熱圧縮法によって自己支持性フィルムを金属基材上に堆積させるステップと、
-熱処理及び/又は、例えば、カレンダ加工などの熱機械的処理によって前記電極を圧密化するステップであって、後者のステップが、先行するステップが既に十分な程度の接着性及び/又は多孔度を達成している場合には任意である、ステップと、
を含む。
【0051】
電極配合物を調製するステップ
ポリマーA及びBは、粉末形態で使用され、その平均粒径は、10nm~1mm、優先的には50nm~500μm、さらにより優先的には50nm~50μmである。
【0052】
フルオロポリマー粉末は、様々な方法によって得られてもよい。粉末は、噴霧乾燥又は凍結乾燥による乾燥によるエマルジョン又は懸濁合成法によって直接得られてもよい。粉末はまた、極低温粉砕などの粉砕技術によって得られてもよい。粉末生産ステップの完了時に、粒径は、選択又はスクリーニング方法によって調整及び最適化することができる。
【0053】
一実施形態によれば、ポリマーA及びBは、混合ステップの時点で活性充填剤及び伝導性充填剤と同時に導入される。
【0054】
別の実施形態によれば、ポリマーA及びBは、活性充填剤及び伝導性充填剤と混合する前に一緒に混合される。例えば、ポリマーAとBとの混合物は、ポリマーA及びBのラテックスを共噴霧して粉末形態の混合物を得ることによって生産することができる。次に、このようにして得られた混合物を活性充填剤及び伝導性充填剤と混合することができる。
【0055】
混合ステップの別の実施形態は、2段階で進行することからなる。第1に、ポリマーA若しくはポリマーBのいずれか又は両方を、無溶媒法又は共噴霧によって伝導性充填剤と混合する。このステップにより、結合剤と伝導性充填剤との密な混合物を得ることが可能になる。次いで、第2段階で、予備混合された結合剤及び伝導性充填剤、並びにまだ使用されていない任意のフルオロポリマーを活性充填剤と混合する。活性充填剤と前記密な混合物との混合は、電極配合物を得るために無溶媒混合法を使用して行われる。
【0056】
混合ステップの別の実施形態は、2段階で進行することからなる。まず、無溶媒法、又は結合剤及び/若しくは伝導性充填剤を含有する液体を活性充填剤の流動粉末床上に噴霧する方法により、ポリマーA若しくはポリマーBのいずれか又は両方を活性充填剤と混合する。このステップにより、結合剤と活性充填剤との密な混合物を得ることが可能になる。次いで、第2段階で、結合剤、活性充填剤及びまだ使用されていない任意のフルオロポリマーを伝導性充填剤と混合する。
【0057】
混合ステップの別の実施形態は、2段階で進行することからなる。第1に、無溶媒法により、活性充填剤を伝導性充填剤と混合する。次いで、第2段階で、2つのポリマーA及びBを予備混合された活性充填剤及び伝導性充填剤と同時に混合するか、又はポリマーA及びBを予備混合された活性充填剤及び伝導性充填剤と次々に混合する。
【0058】
電極配合物の様々な構成成分のための無溶媒混合法には、網羅的なリストではないが、撹拌による混合、空気ジェット混合、高剪断混合、Vミキサーによる混合、スクリューミキサーによる混合、ダブルコーン混合、ドラム混合、円錐混合、ダブルZアーム混合、流動床での混合、プラネタリーミキサーでの混合、メカノフュージョンによる混合、押出による混合、カレンダ加工による混合、粉砕による混合が含まれる。
【0059】
他の混合法は、水などの液体を用いる混合オプション、例えば、噴霧乾燥(共噴霧)又は結合剤及び/若しくは伝導性充填剤を含有する液体を活性充填剤の流動粉末床上に噴霧する方法を含む。
【0060】
この混合ステップの終わりに、得られた配合物は、金属基材上への堆積ステップのための調製において配合物の粒子のサイズを最適化するために、粉砕及び/又はスクリーニング及び/又は選択の最終ステップを経てもよい。
【0061】
粉末形態の配合物は、嵩密度によって特徴付けられる。低密度配合物は、その使用及び用途に関して非常に制限的であることが当技術分野で知られている。高密度化に寄与する主成分は、カーボンブラック(0.4g/cm3未満の嵩密度)、カーボンナノチューブ(0.1g/cm3未満の嵩密度)、ポリマー粉末(0.9g/cm3未満の嵩密度)などの炭素系添加剤である。ポリマー結合剤/電子伝導体/他の添加剤を組み合わせた添加剤を得るための低密度成分の組み合わせは、上述の配合物の堆積の下流の予備混合ステップを改善するために推奨される。そのような組み合わせは、以下の方法:
a)水又は有機溶媒中に成分を分散させた後、溶媒を排除する(共噴霧、凍結乾燥、溶媒又は水の存在下での押出/配合)、
b)ボールミルやビーズミルなどの公知の粉砕方法を使用して乾式又は「湿式」共粉砕した後、必要に応じて乾燥ステップを行う、
ことによって生産することができる。
【0062】
そのような方法は、嵩密度の大幅な増加に特に有利である。
【0063】
支持体上に前記電極配合物を堆積させるステップ
一実施形態によれば、混合ステップの終わりに、電極は、空気圧スプレー、静電スプレー、流動粉末床への浸漬、ダスティング、静電転写、回転ブラシによる堆積、回転計量ロールによる堆積、カレンダ加工の方法により金属基材上に配合物を堆積させることによって、無溶媒粉末コーティング法によって製造される。
【0064】
一実施形態によれば、混合ステップの終わりに、電極は、2段階無溶媒粉末コーティング法によって製造される。押出、カレンダ加工、又は熱圧縮などの熱機械法によって予備混合配合物から自己支持性フィルムを生産することからなる第1のステップが行われる。次いで、この自己支持性フィルムは、カレンダ加工、又は熱圧縮などの温度と圧力とを組み合わせた方法によって金属基材と組み立てられる。
【0065】
電極の金属支持体は、一般に、カソード用にアルミニウム製であり、アノード用に銅製である。金属支持体は、表面処理されていてもよく、5μm以上の厚さの伝導性プライマーを有していてもよい。支持体はまた、炭素繊維織布又は不織布であってもよい。
【0066】
電極を圧密化するステップ
前記電極の圧密化は、加熱処理によって、オーブンを通過することによって、赤外線ランプの下で、加熱されたローラを有するカレンダを通過することによって、又は加熱されたプレートを有するプレスを通過することによって行われる。別の代替案は、2段階工程からなる。
【0067】
まず、電極は、オーブン中、赤外線ランプ下、又は加圧せずに加熱されたプレートと接触させることによって熱処理に供される。次いで、周囲温度又は高温での圧縮ステップは、カレンダ又はプレートプレスによって行われる。このステップにより、電極の多孔度を調整し、金属基材に対する接着性を改善させることが可能になる。
【0068】
本発明はまた、上記の方法によって生産されたLiイオン電池電極に関する。
【0069】
一実施形態によれば、前記電極は、アノードである。
【0070】
一実施形態によれば、前記電極は、カソードである。
【0071】
本発明はまた、負極と、正極と、セパレータとを備え、少なくとも1つの電極が上記の通りであるLiイオン二次電池を提供する。
【実施例】
【0072】
以下の実施例は、本発明の範囲を非限定的に示す。
【0073】
製品:
PVDF1:フッ化ビニリデンホモポリマー、100s-1及び230℃で2500Pa.sの溶融粘度を特徴とする。
【0074】
PVDF2:フッ化ビニリデンホモポリマー、100s-1及び230℃で2600Pa.sの溶融粘度を特徴とする。
【0075】
PVDF3:フッ化ビニリデン(VDF)と12%重量のHFPを含有する六フッ化ビニリデン(HFP)とのコポリマーであって、100s-1及び230℃で2500Pa.sの溶融粘度を特徴とする、コポリマー。
【0076】
PVDF4:フッ化ビニリデン(VDF)と25%重量のHFPを含有する六フッ化ビニリデン(HFP)とのコポリマーであって、100s-1及び230℃で1800Pa.sの溶融粘度を特徴とする、コポリマー。
【0077】
グラファイトC-NERGY ACTILION GHDR 15-4:IMERYS社から販売されているグラファイトであって、17μmの体積平均直径(Dv50)及び4.1m2/gのBET比表面積を特徴とする、グラファイト。
【0078】
フルオロポリマーとグラファイトとの混合物の調製:
5重量%のPVDF及び95重量%のグラファイトで構成されるフルオロポリマーとグラファイトとの混合物を、MERRIS International社によって販売されているMinimixミキサーを使用した乾式法によって生産した。50グラムの各配合物の混合物を、室温で1分30秒間、ブレンダー中で振盪することによって250mlの金属ジャー中で調製した。
【0079】
電極の調製
電極の製造のために、各フルオロポリマー/グラファイト混合物を、Hohsen Corp.社によって販売されている厚さ18μmの銅集電体の表面上に手作業で振りかけた。生産された堆積物の単位面積当たりの質量は、約5×5cm2の表面積にわたっておよそ30mg/cm2である。堆積の終わりに、堆積したコーティングとプレスの上部プラテンとの間にシリコーン紙を配置することによって、電極をホットプラテンプレス下で圧密化させた。各コーティングを205℃、6barで10分間プレスした。このプレス段階の終わりに、電極をプレス機から取り出し、放置して室温に冷却した。次いで、シリコーン紙を除去した。
【0080】
電極の評価
製造工程の目的は、コーティングの亀裂又は分裂なしに電極を取り扱うことを可能にするのに十分な凝集性を有する金属支持体上に約100ミクロンのコーティングを得ることである。したがって、最初に確認することは、集電体の表面に凝集性で均一なコーティングを形成する配合物の能力である。この圧密化度の指標は、プレス段階の終わりにシリコーン紙の表面に転写され、付着したままである粉末/配合物の量である。コーティングの断片がシリコーン紙に付着したままでない場合、コーティングは、記載されたプロトコルの文脈内で良好なフィルム形成及び圧密化を有すると判断される。
【0081】
良好な機械的完全性の別の基準は、集電体上で得られる接着性であり、コーティングのあらゆる自然剥離を回避しなければならない。
【0082】
表1は、本発明による実施例で使用されるPVDFの組成を示す。
【0083】
【0084】
表2は、組成が95重量%のグラファイト及び5重量%のPVDFである電極の特性を示す。
【0085】
【国際調査報告】