(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-24
(54)【発明の名称】分子ふるい炭素膜及び分離プロセスにおけるその使用
(51)【国際特許分類】
B01D 71/02 20060101AFI20230316BHJP
B01D 53/22 20060101ALI20230316BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20230316BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20230316BHJP
B01D 71/72 20060101ALI20230316BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20230316BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20230316BHJP
【FI】
B01D71/02 500
B01D53/22
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/72
B01D69/00
B01D69/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022534635
(86)(22)【出願日】2020-12-10
(85)【翻訳文提出日】2022-06-21
(86)【国際出願番号】 EP2020085597
(87)【国際公開番号】W WO2021116319
(87)【国際公開日】2021-06-17
(32)【優先日】2019-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518026545
【氏名又は名称】ファンダシオン テクナリア リサーチ アンド イノベイション
(71)【出願人】
【識別番号】522226443
【氏名又は名称】アイントホーフェン ユニバーシティ オブ テクノロジー
【氏名又は名称原語表記】EINDHOVEN UNIVERSITY OF TECHNOLOGY
【住所又は居所原語表記】Department of Chemical Engineering and Chemistry Eindhoven University of Technology (TU/e) Den Dolech 2 5612AD EINDHOVEN (NL)
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パセコ タナカ,ダヴィド アルフレド
(72)【発明者】
【氏名】リョサ タンコ,マーゴット アナベル
(72)【発明者】
【氏名】ヴィットリア ノルディオ,マリア ルイザ
(72)【発明者】
【氏名】メドラノ ヒメネス,ホセ アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】ガルッチ,ファウスト
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006KA31
4D006KB30
4D006KE11R
4D006KE30R
4D006MA03
4D006MA09
4D006MA22
4D006MB03
4D006MB04
4D006MB09
4D006MC03X
4D006MC05X
4D006MC09X
4D006NA39
4D006NA46
4D006NA54
4D006PA05
4D006PB20
4D006PB32
4D006PB62
4D006PB63
4D006PB64
4D006PB65
4D006PB66
4D006PB67
4D006PB68
4D006PB70
4D006PC69
4D006PC80
(57)【要約】
a)分子ふるい向けに0.25nm~0.55nmの細孔サイズの細孔、及び吸着拡散向けに0.55nm~0.90nmより大きいものによる細孔サイズの細孔、及び0.90nmより大きい無視できる量の細孔を含む、親水性の分子ふるい炭素膜(CMSM)を提供することであって、室温、1~4barの圧力で透過圧力に対するN2パーミアンスのプロットが0又は負の傾きを有する場合、0.90nmより大きい細孔を無視できる量有することと、b)水飽和分子ふるい炭素膜が得られるまで膜を加湿することと、により得られる、水飽和分子ふるい炭素膜が提供される。かかる水飽和膜を用いてガス混合物からガスを分離するためのプロセス、並びに溶媒の脱水の水飽和膜の使用及びメンブレンリアクタとしての使用もまた提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水飽和分子ふるい炭素膜であって、
i)分子ふるい向けに0.25nm~0.55nmの細孔サイズの細孔、及び吸着拡散向けに0.55nmよりも大きく0.90nmまでの細孔サイズの細孔、及び0.90nmより大きい無視できる量の細孔を含み、その結果、室温、1~4barの圧力で透過圧力に対する本明細書に定義されるようなN
2パーミアンスのプロットが、0又は負の傾きを有する、親水性の分子ふるい炭素膜(CMSM)を提供することと、
ii)
-水蒸気を用いた更なる処理後に、3時間といった期間などのある特定の期間中に、4barで水蒸気を用いて前記CMSMを処理する5℃~180℃の温度で、N
2又はHeなどの非吸着性ガスの透過流束が一定であるように、ある期間中、前記温度、大気圧、かつ例えば99%など95%よりも高い相対湿度で、水蒸気を用いて前記CMSMを処理することにより、又は
-代替的には、水で飽和されたN
2又はHeガス流へと更に暴露した後に、3時間といった期間などのある特定の期間中に、4barで、5℃~180℃の温度にてN
2又はHeなどの非吸着性ガスの透過流束が一定であるように、言及された前記温度で、水で充填されたタンクへと前記ガスを通気することにより水で飽和されたN
2又はHeガス流に前記CMSMを暴露させることにより、水飽和CMSMを得るように、工程i)で得られた前記CMSMを加湿することと、により得られる、水飽和分子ふるい炭素膜。
【請求項2】
前記CMSMが、分子ふるいアルミナ-炭素複合材膜(Al-CMSM)である、請求項1に記載の水飽和分子ふるい炭素膜。
【請求項3】
前記Al-CMSMが、膜の総重量に対し、0.1重量%~4.0重量%の窒素含有量、2.5%~50%のアルミナ含有量、及び50重量%~95重量%の炭素含有量を有する、請求項2に記載の水飽和分子ふるい炭素膜。
【請求項4】
水飽和分子ふるいアルミナ-炭素複合材膜(水飽和Al-CMSM)の調製プロセスであって、
i)親水性Al-CMSMを、
-多孔質α-Al
2O
3支持体を提供すること、
-5~20重量%のフェノールホルムアルデヒド樹脂、0.5~5重量%のホルムアルデヒド、0.1~2重量%のエチレンジアミン、N-メチル-2-ピロリドン中、0.1~5重量%のベーマイトを含有する溶液を調製すること、及びコーティング溶液を得るために、前記溶液を加熱(例えば、80~110℃、30分~3時間)して前重合プロセスを実行すること、
-コーティングされた支持体を得るために、前記コーティング溶液中に前記多孔質α-Al
2O
3支持体を浸漬コーティングすること、
-前記重合プロセスを完了するために、70~120℃の温度で、前記コーティングされた支持体を乾燥させること、
-Al-CMSMを得るために、450℃~750℃の炭化温度で乾燥済みのコーティングされた前記支持体を炭化することと、により、調製することと、
ii)工程i)で調製された前記Al-CMSMを加湿し、
-水蒸気を用いた更なる処理後に、3時間といった期間などのある特定の期間中に、4barで水蒸気を用いて前記Al-CMSMを処理する5℃~180℃の温度で、N
2又はHeなどの非吸着性ガスの透過流束が一定であるように、ある期間中、前記温度、大気圧で、かつ例えば99%など95%よりも高い相対湿度で、前記Al-CMSMを水蒸気で処理することにより、又は
-代替的には、水で飽和されたN
2又はHeガス流へと更に暴露した後に、3時間といった期間などのある特定の期間中に、4barで、5℃~180℃の温度で、N
2又はHeなどの非吸着性ガスの透過流束が一定であるように、言及された前記温度で、水で充填されたタンクへと前記ガスを通気することにより水で飽和されたN
2又はHeガス流に前記Al-CMSMを暴露させることにより、水飽和Al-CMSMを得るように、工程i)で調製された前記Al-CMSMを加湿すること、を含む、水飽和分子ふるいアルミナ-炭素複合材膜の調製プロセス。
【請求項5】
前記フェノールホルムアルデヒド樹脂がノボラック樹脂である、請求項4に記載のプロセス。
【請求項6】
前記炭化温度が450℃~700℃であり、特に500℃~650℃であり、例えば550℃又は600℃である、請求項4又は5に記載のプロセス。
【請求項7】
請求項4~6のいずれか一項に定義されるプロセスにより得られる、水飽和Al-CMSM。
【請求項8】
ガス混合物からガスを分離するためのプロセスであって、
a)請求項1~3のいずれか一項又は請求項7に定義されるような水飽和膜を提供することと、
b)少なくとも2種類のガスを含むガス混合物を提供することと、
c)保持物及び透過物を得るため、5℃~300℃の温度で前記水飽和CMSMに前記ガス混合物を供給することであって、前記供給の温度及び圧力で水飽和膜を得るために、前記保持物中のガスの分圧が、前記透過物中の前記ガスの分圧よりも高く、前記供給温度及び前記供給圧力で水飽和膜を得るため、加湿工程に供されることがなかった同一のCMSMと比較すると、透過における差が観察されるような圧力で実行される、プロセス。
【請求項9】
前記少なくとも2種類のガスが2~27の分極率を有し、前記少なくとも2種類のガスの少なくとも1種類が0.55nm未満の運動直径を有し、前記少なくとも2種類のガスが0.55nmよりも小さい前記運動直径を有する場合には、前記少なくとも2種類のガス間での前記運動直径の差が0.01nm以上であり、及び/又は前記少なくとも2種類のガス間での前記分極率の差が1m
3以上である、請求項8に記載のプロセス。
【請求項10】
前記少なくとも2種類のガスが、He、H
2O、Ne、H
2、NO、Ar、NH
3、N
2、O
2、CO、CO
2、CH
4、C
2H
4、C
2H
6、プロペン、プロパン、H
2S、メタノール、及びエタノールから選択される、請求項9に記載のプロセス。
【請求項11】
少なくとも2種類のガスを含む前記ガス混合物が、H
2/CH
4、H
2/N
2、H
2/CO
2、CO
2/CH
4、CO
2/N
2、O
2/N
2、並びに主にメタン及び二酸化炭素と、H
2、H
2S、N
2、及び水蒸気などのメタン及び二酸化炭素よりも少量の他のガスと、を含有するガス混合物であるバイオガスからなる群から選択される、請求項8~10のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項12】
前記ガス混合物が、5%~20%のH
2、及び95%~80%のCH
4を含み、工程c)が3bar以上の水素分圧差で、及び40℃以下の温度で実行される、請求項11に記載のプロセス。
【請求項13】
前記少なくとも2種類のガスがCO
2及びN
2であり、前記ガス混合物が10%~20%のCO
2及び65%~75%のN
2、特に約15%のCO
2及び約70%のN
2を含む、請求項11に記載のプロセス。
【請求項14】
前記少なくとも2種類のガスがH
2及びCO
2であり、前記ガス混合物が55%~65%のH
2及び30%~40%のCO
2、特に約60%のH
2及び約35%のCO
2を含む、請求項11に記載のプロセス。
【請求項15】
少なくとも2種類のガスを含む前記ガス混合物がバイオガスであり、CO
2はバイオガスから除去され、バイオガスはメタン及び二酸化炭素を含むガス混合物である、請求項11に記載のプロセス。
【請求項16】
溶媒を脱水するための、請求項1~3に定義されるような水飽和CMSM又は請求項7に記載の水飽和Al-CMSMの使用。
【請求項17】
メンブレンリアクタとしての、請求項1~3に定義されるような水飽和CMSM及び請求項7に記載の水飽和Al-CMSMの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年12月11日に出願された欧州特許出願第19383095.7号の利益を主張するものである。
【0002】
本発明は、ガス分離プロセスの分野に関する。より詳細には、水蒸気で前処理された特定の分子ふるい炭素複合材膜、及びガス分離プロセス、溶媒の脱水及びメンブレンリアクタとしてのその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
膜分離プロセスは、他の技術と比較すると相対的にエネルギー要件が低く、メンテナンスにかかるコストが低い。透過性と選択性といった2つのパラメータは、膜の分離性能を特徴付ける。
【0004】
分子ふるい炭素膜(Carbon molecular sieve membrane、CMSM)は、その均一な微孔質構造を有するゆえに、膜技術の最新世代として考えられてきた。CMSMの主な利点は、その細孔サイズ分布(pore size distribution、PSD)を所望の分離に適合するように調整可能であるという点である。この分布は、0.5~2nm(マイクロ細孔又はギャラリーとして知られる)の細孔からなっており、サイズが0.7nm未満(超マイクロ細孔として知られる)の更に小さな細孔に接続される。大きなマイクロ細孔は、強固に吸着可能な分子にとって更に高い透過性及び収着部位を提供し、同時にいっそう小さい吸着分子の通過を減少させる(吸着拡散機構)。超マイクロ細孔は、この細孔よりも小さなサイズを有する分子のみが透過する分子ふるい機構による分離を担当している。これら2つの輸送機構を組み合わせることで、これらの材料の高い透過性及び選択性といった特性が提供される。
【0005】
M.A.Llosa et al.(非特許文献1)は、前駆体としてノボラックといったフェノール樹脂及びベーマイトを使用し、1回の浸漬乾燥炭化サイクルにてアルミナチューブ(200nm細孔サイズ)上に、厚さ3μmで無欠陥のアルミナ-CMSM支持複合材(Al-CMSM)の調製を初めて報告した。膜の炭化温度を変更することで、細孔サイズ及び細孔サイズ分布及び細孔の親水性は調整された(非特許文献2)。したがって、彼らは、450℃~1000℃の温度で炭化されたこれらのAl-CMSMの細孔サイズ分布及び透過特性に関する炭化温度の影響を報告した。膜の選択性及び透過性といった特性はまた、透過温度を調節して細孔内に吸着される水の量を変更することでも制御され得る。
【0006】
メタンとの混合物中に低濃度で存在する水素の分離は、予見されている水素経済にとって興味深いものである。水素は貯蔵可能であり、既存の天然ガスグリッドを使用して分配され得る。安全上の理由から、分配ガス混合物中の水素含有量は低いものでなくてはならない(約10%)。そのうえ、水素はエンドユーザの現場にて分離されなくてはならない。
【0007】
一方、研究者らは、分離プロセス及びそれらの改善に大きく依存している、燃料及び石油化学製品の効率増大のための更に良好なプロセス、触媒及び吸着材の開発に継続して取り組んでいる。この問題を解決する適当な代替案は、メンブレンリアクタの開発である。メンブレンリアクタ(membrane reactor、MR)は、反応(水蒸気改質、乾燥改質、オートサーマル改質、メタノール合成など)と膜に基づいた分離とを、同一の物理的装置内で同時に実施するための装置である。これらの生成物のうち1つの連続抽出は平衡をシフトし、従来のシステムと比較して収率及び選択性を高めるものである。
【0008】
加えて、高濃度の無水溶媒は化学産業では非常に重要なものであるため、効果的な脱水プロセスが開発され続けている。これに関して、親水性の分子ふるい炭素膜は非常に適した候補である。
したがって、ガス分離プロセスで更なる高純度の取得、並びにメンブレンリアクタ及び溶媒の脱水で良好な効率の取得のいずれかを可能とする、CMSMを使用する良好なプロセスが引き続き必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Llosa MA et al.´´Composite-alumina-carbon molecular sieve membranes prepared from novolac resin and boehmite.Part I:Preparation,characterization and gas permeation studies´´,Int.J.Hydrogen Energy.2015,vol.40,pp.5653-5663.
【非特許文献2】M.A.Llosa et al.´´Composite-alumina-carbon molecular sieve membranes prepared from novolac resin and boehmite.Part II:Effect of the carbonization temperature on the gas permeation properties´´,Int.J.Hydrogen Energy.2015,Vol.40,pp.3485-3496.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
発明者らは、ガス分離プロセス実施前に水飽和膜を得るため、水蒸気で特定のCMSMを前処理することで膜の選択性が大幅に増大すること、及びこれが再現可能な方法で行われることを見出した。詳細には、水飽和膜において、水を用いた細孔の充填は、吸着可能なガスの透過性を増大させ(吸着-拡散機構)、かつ同時に選択性を増大させる一助となり、非吸着性ガスの透過性を減少させる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって、本発明の態様は、
i)分子ふるい向けに0.25nm~0.55nmの細孔サイズの細孔、及び吸着拡散向けに0.55nmよりも大きく0.90nmまでの細孔サイズの細孔、及び0.90nmより大きい無視できる量の細孔を含む、親水性の分子ふるい炭素膜(CMSM)を提供することであって、室温で1~4barの圧力で透過圧力に対するN2パーミアンスのプロットが0又は負の傾きを有する場合、CMSMは0.90nmより大きい細孔を無視できる量有することと、
ii)
-水蒸気を用いた更なる処理後に、3時間といった期間などのある特定の期間中に、4barで水蒸気を用いてCMSMを処理する5℃~180℃の温度で、N2又はHeなどの非吸着性ガスの透過流束が一定であるように、ある期間中、5℃~180℃の温度、大気圧、かつ例えば99%など95%よりも高い相対湿度で、水蒸気を用いてCMSMを処理することにより、又は
-代替的には、水で飽和されたN2又はHeガス流へと更に暴露した後に、3時間といった期間などのある特定の期間中に、4barで、5℃~180℃の温度で、N2又はHeなどの非吸着性ガスの透過流束が一定であるように、言及された温度で、水で充填されたタンクへとガスを通気することにより、水で飽和されたN2又はHeガス流にCMSMを暴露させることにより、水飽和CMSMを得るように、工程i)で調製されたCMSMを加湿すること、によって、得られる水飽和分子ふるい炭素膜に関する。
【0012】
工程i)の使用されるCMSMは、本明細書に定義されるように特定の細孔サイズの細孔、及び「無欠陥構造」、すなわち膜のガス分離特性(すなわち、膜のパーミアンス及び選択性)に影響を与え得る欠陥を示さない構造を含む。こうした細孔サイズの最高を含むCMSMは、0.90nmより大きい細孔の量が無視できる場合、すなわち室温及び1~4barの圧力で透過圧力に対するN2パーミアンスのプロットが0又は負の傾きを有する場合、「無欠陥」であると考えられる。これらの特徴の組合せ、すなわち言及された細孔サイズの細孔を有し、かつ多孔質構造における欠陥が存在しないという点から、工程ii)で定義されるようにCMSMを加湿する場合に求められる効果を得ることが可能となる。
【0013】
本発明の別の態様は、水飽和分子ふるいアルミナ-炭素複合材膜(水飽和Al-CMSM)の調製プロセスに関し、この調製プロセスは、
i)親水性Al-CMSMを、
-多孔質α-Al2O3支持体を提供すること、
-5~20重量%のフェノールホルムアルデヒド樹脂、0.5~5重量%のホルムアルデヒド、0.1~2重量%のエチレンジアミン、N-メチル-2-ピロリドン中、0.1~5重量%のベーマイトを含有する溶液を調製すること、及びコーティング溶液を得るために、この溶液を加熱(例えば、80~110℃、30分~3時間)して前重合プロセスを実行すること、
-コーティングされた支持体を得るために、コーティング溶液中に多孔質α-Al2O3支持体を浸漬コーティングすること、
-重合プロセスを完了するために、70~120℃の温度で、コーティングされた支持体を乾燥させること、
-Al-CMSMを得るために、450℃~750℃の炭化温度で乾燥済みのコーティングされた支持体を炭化することと、により、調製することと、
ii)工程i)で調製されたAl-CMSMを加湿し、
-水蒸気を用いた更なる処理後に、3時間といった期間などのある特定の期間中に、4barで水蒸気を用いてAl-CMSMを処理する5℃~180℃の温度で、N2又はHeなどの非吸着性ガスの透過流束が一定であるように、ある期間中、5℃~180℃の温度、大気圧、かつ例えば99%など95%よりも高い相対湿度で、水蒸気を用いてAl-CMSMを処理することにより、又は
-代替的には、水で飽和されたN2又はHeガス流へと更に暴露した後に、3時間といった期間などのある特定の期間中に、4barで、5℃~180℃の温度にてN2又はHeなどの非吸着性ガスの透過流束が一定であるように、言及された温度で、水で充填されたタンクへとガスを通気することにより、水で飽和されたN2又はHeガス流にAl-CMSMを暴露させることにより、水飽和Al-CMSMを得るように、工程i)で調製されたAl-CMSMを加湿すること、を含む。
【0014】
本発明の別の態様は、上に定義されたプロセスで得られる水飽和Al-CMSMである。
【0015】
本発明の別の態様は、ガス混合物からガスを分離するためのプロセスに関し、このプロセスは、
a)本明細書の上記及び下記にて定義されるように水飽和膜を提供することと、
b)少なくとも2種類のガスを含むガス混合物を提供することと、
c)保持物及び透過物を得るため、5℃~300℃の温度で水飽和CMSMにガス混合物を供給することであって、保持物中のガスの分圧が透過物中のガスの分圧よりも高く、膜が依然として水飽和膜である、すなわち供給温度及び供給圧力で水飽和膜を得るために加湿工程に供されることがなかった同一のCMSMと比較すると、透過における差が観察されるような圧力で実行される、供給することと、を含む。
【発明の効果】
【0016】
驚くべきことに、実施例で示されるように、水飽和CMSMはガス混合物を用いて動作する場合には、外部の物質移動制限(濃度分極)による影響を受けない。したがって、一例として、ガス混合物中に存在する水素の分離では、水素分圧差及び水素流束の依存関係は、この混合物中のH2の濃度とは関係なく、ほぼ線形である。
【0017】
本発明の別の態様は、ガス混合物からガスを分離するための、本明細書の上記及び下記に定義されるような水飽和CMSMの使用に関する。
【0018】
発明者らはまた、本明細書の上記及び下記に定義されるような水飽和CMSMが、有機溶媒の脱水及びメンブレンリアクタとしても有用であると認識した。したがって、これらの使用もまた、本発明の一部を形成する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】a)450℃及び650℃、b)550℃及び750℃で炭化された炭素膜のマイクロ細孔サイズ分布を示す。MS:分子ふるい領域、AD:吸着拡散領域。
【
図2】CMSMが被る変化を表す:i)炭化中、官能基が除去され、活性分子と反応可能な活性炭素基が残る;それにより、ii)水は化学吸着され(すなわち、活性原子は水と反応する)、酸素を含有する官能基を生じ、親水性の細孔を生成する;それにより、iii)親水基は、細孔を物理的に満たしている水を吸収可能であり、細孔サイズを減少させる。
【
図3a】400kPaの圧力差、加熱時間が毎分0.7℃でのN
2透過を示す。
【
図3b】400kPaの圧力差、加熱時間が毎分0.7℃でのN
2透過を示す。
【
図4a】
図3aからの流束の多項式フィッティングの微分曲線を示す。
【
図4b】
図3bからの流束の多項式フィッティングの微分曲線を示す。
【
図5】加湿前及び加湿後(リアクタ外部)の、600℃で炭化されたAl-CMSMのN
2パーミアンス及びH
2パーミアンスを示す。
【
図6】Robesonの上限値プロットをそれぞれ用いた、20℃で実施例3にて得られた乾燥CMSM-550膜及びCMSM-600膜のH
2及びCH
4の透過結果を示す。
【
図7】乾燥(150℃での水脱着後)CMSM-550膜又は加湿(湿潤)CMSM-550膜を使用した、50%のH
2-50%のCH
4混合物の水素透過流量の比較を示す。透過温度:20℃。
【
図8】乾燥(150℃での脱着後)CMSM-550膜及び加湿(湿潤)CMSM-550膜を使用した、50%のH
2-50%のCH
4混合物を透過させることで得られた透過物の水素純度の比較を示す。透過温度:20℃。
【
図9】加湿CMSM-550膜における、20℃、35℃、50℃及び70℃での、それぞれ10%の水素及び50%の水素を含有する2つのH
2-CH
4混合物の水素流量間の比較を示す。
【
図10】加湿CMSM-550膜を使用した、20℃、35℃、50℃及び70℃での、それぞれ10%の水素及び50%の水素を含有する2つのH
2-CH
4混合物を透過させることで得られた透過物の水素純度の比較を示す。
【
図11】加湿CMSM-550膜における、20℃、35℃、50℃での、それぞれ10%の水素及び50%の水素を含有する2つのH
2-CO
2混合物の透過している水素流量間の比較を示す。
【
図12】加湿(humidify)CMSM-550膜における、20℃、35℃、50℃及び70℃での、それぞれ10%の水素及び50%の水素を含有する2つのH
2-CO
2混合物を透過させることで得られた透過物の水素純度の比較を示す。
【
図13】加湿CMSM-550膜における、20℃、35℃、50℃及び70℃での、それぞれ10%の水素及び50%の水素を含有する2つのH
2-N
2混合物の水素流量間の比較を示す。
【
図14】加湿CMSM-550膜を使用した、20℃、35℃、50℃及び70℃での、それぞれ10%の水素及び50%の水素を含有する2つのH
2-N
2混合物を透過させることで得られた透過物の水素純度の比較を示す。
【
図15】乾燥及び加湿CMSM-600膜における、20℃、50℃、70℃及び100℃での、10%の水素を含有する2つのH
2-CH
4混合物の水素流量間の比較を示す。
【
図16】乾燥及び加湿CMSM-600膜を使用した、20℃、50℃、70℃及び100℃での、10%の水素を含有する2つのH
2-CH
4混合物を透過させることで得られた透過物の水素純度の比較を示す。
【
図17】加湿膜条件で得られた純度の相対的な増大を示す。
【
図18】1barの圧力で同一のパーミアンス(mol・m
-2s
-1・Pa
-1)を有することを考慮した、Pdベース膜(流束≒ΔP
0.5)及びAl-CMSM(流束はΔPに比例)の分圧差に対する流束の影響の一例を示す。
【
図19】PdAg支持膜の保持物(平均として)と透過物側での、H
2の分圧の平方根差における関数として、体積にして100~50%のH
2純度での、400℃でのH
2/CH
4二成分混合物の透過水素流束を示す。
【
図20】PdAg支持膜に関して、400℃で試験されたH
2-CH
4の入口部での混合物における異なる水素濃度での水素流量を示す。
【
図21】PdAg支持膜に関して、400℃で試験されたH
2-CH
4の入口部での混合物における異なる水素濃度での水素純度を示す。
【
図22】PdAg支持膜に関して、400℃、3barの全圧及び透過物側にて真空状態で、H
2/N
2、H
2/CO
2及びH
2/CH
4の混合物中の水素%の関数としての水素流束を示す。
【
図23】周囲湿度に暴露した後にCMSM-550を試験した場合、20℃の動作温度での様々なH
2/CH
4混合物の水素分圧差の関数としての水素流量を示す。
【
図24】a)水で充填された親水性細孔の略図、b)550℃で炭化された実施例2.2のAl-CMSMの、様々な温度及び圧力における水パーミアンスを示す。
【
図25】異なる温度で炭化された実施例2.2のAl-CMSMの、様々な温度及び3barの圧力差での水透過性を示す。
【
図26】異なる温度で炭化された実施例2.2のAl-CMSMの透過温度の関数における、様々なガスに対しての水ガス選択性を示す。
【発明の詳細な説明】
【0020】
本明細書で使用される全ての用語は、特段明記しない限り、当該技術分野で既知の通常の意味で理解されるものとする。本出願で使用される用語に対する他の更に明確な定義は以下に規定される。また、定義がより広範な定義を提供すると特段明確に記載しない限り、この定義は本明細書及び特許請求の範囲全体を通して一様に適用されることを意図している。
【0021】
用語「透過流(permeation flow)」は、単位時間あたりで膜を通過するガスの体積として定義される。この値は、石鹸膜流量計を用いて実験で決定される。
【0022】
用語「透過流束(permeation flux)」は、単位時間、単位面積あたりの膜を通って流れる体積として定義される。この値は、膜の面積で「透過流」を割ることで計算される。
【0023】
用語「パーミアンス(permeance、浸透、透過)」は、単位時間あたり、かつ単位圧力勾配下で膜の単位面積を通過する供給ガスの体積として定義される。CMSMで使用される共通単位は、mol・m-2s-1・Pa-1である。この値は、保持物と透過物との間の圧力差で「透過流束」を割ることで計算される。
【0024】
用語「透過性(permeability)」は、単位膜厚あたりの単位駆動力あたりの、膜を通って移動する物質の流束として定義される。
【0025】
用語「透過選択率(perm-selectivity)」又はガスに関する理想的な選択性は、同一の温度での2つのガスのパーミアンスの割合を指す。
【0026】
用語「分子ふるいアルミナ-炭素複合材膜(composite alumina-carbon molecular sieve membrane)」又は「Al-CMSM」は、炭素マトリックス内に分散したアルミナのナノ粒子を有する炭素膜を指す。
【0027】
用語「水飽和(water-saturated)CMSM」又は「水和(hydrated)CMSM」は、水蒸気を用いた更なる処理後の、4bar、CMSMが水蒸気を用いて処理される温度でのN2又はHeなどの非吸着性ガスの透過流束が3時間の期間などのある特定の期間中に一定であるように、ある期間中、例えば室温など5℃~180℃の温度で、大気圧にて、例えば99%など95%よりも高い相対湿度で水蒸気を用いて処理されたCMSMを含有するであろう、この状態に対応するある量の水を含有するCMSM(支持Al-CMSMを含む)を指す。代替的には、「水飽和CMSM」は、水で飽和されたN2又はHeガス流に更に暴露した後に、4bar、5℃~180℃の温度の例えばN2又はHeなどの非吸着性ガスの透過流束が3時間の期間などのある特定の期間中に一定であるように、室温などの言及された温度でガスを水で充填されたタンクへと通気することで、水で飽和されたN2又はHeガス流にCMSMを暴露することにより得られ得る。
【0028】
一般には、特に180℃よりも高い温度では、水飽和CMSMは、もうそれ以上水を保持しなくなるまで細孔を水で充填する目的で、透過が実行される温度及び圧力で実施される加湿処理に供されたCMSMを含有するであろう、この状態に対応する少なくともある水の量を含むものであり、この結果、こうした加湿プロセスに供されていなかった同一のCMSMと比較すると、細孔中に水が存在することに起因して、透過における差が観察される。
【0029】
用語「親水性(hydrophilic)CMSM」は、水飽和CMSMを得るために加湿される前に、300℃、4barの圧力差でのN2パーミアンスが7×10-9mol・m2s-1・Pa-1よりも高く、水飽和CMSMを得るために加湿された後に、室温、1barの圧力差でのN2パーミアンスが1×10-9mol・m2s-1・Pa-1よりも低いようなCMSMである。
【0030】
膜プロセスは、ガス混合物である供給流が、保持物及び透過物といった2つの流れに分けられるといった事実により特徴付けられる。保持物は、膜を通過しない供給物の一部であるが、透過物は膜を通過する供給物の一部(すなわち、分離されたガス)である。ガス混合物からガスを分離するため、保持物中のガスの分圧は透過物の圧力よりも高くなくてはならない。
【0031】
したがって、所望のガスの透過は、保持物中のガス及び透過物中のガスの分圧差に依存する。例えば、10%のH2及び90%のCH4の混合物である供給物にとって、透過物中での圧力が大気圧(1bar)である場合、供給物中の圧力は10barよりも高くなくてはならない。これはすなわち、供給物中のH2の分圧が1barよりも高くなくてはならないということである。
【0032】
用語「圧力差(pressure difference)」は、保持物中のガス圧と透過物中のガス圧の差を指す。
【0033】
所与のガスについて、用語「分圧差(partial pressure difference)」は保持物中のガス分圧と透過物中のガス分圧の差を指す。
【0034】
用語「無視できる」は、測定の正確さといった文脈内で0と一致する、又は定義された閾値未満のいずれかの値を指す。これらは、例えば、0からの偏差を考慮し、構造的な理由からほとんど避けられず、又はCMSMのパーミアンス及び選択性といった観点では性能に関して著しい効果を何ら有さないものである。CMSMが「無視できる量の0.90nmよりも大きい細孔」を有するかどうか、すなわちこれが無欠陥構造を有するかどうかを検証するためには、CMSMは、0又は負の傾きを有する、室温及び1~4barの圧力での透過圧力に対するN2パーミアンスのプロットの提示が可能でなければならない。
【0035】
用語「室温」は、約20℃~約25℃の温度を指す。
【0036】
本明細書で使用される用語「大気圧」は、実質的には101.325kPa(すなわち、760mmHg)±15kPaの大気圧を指す。
【0037】
本明細書で使用される場合、ガス混合物中のガス構成成分の用語である「%」又は「濃度(concentration)」は、ガス混合物の総体積に対するガスの単一成分の体積による量、又は具体的に言及される場合には、ガス混合物中の1種類以上の他のガス構成成分の体積による量を指す。
【0038】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されるように、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、文脈がはっきりとそれ以外を指示しない限り、複数の指示対象を含む。
【0039】
上述のように、本発明は上に定義されるような水飽和炭素分子に関する。
【0040】
これらの炭素膜は、透過機構が分子ふるい(細孔範囲:0.25~0.55nm)及び/又は表面拡散(0.5~0.90nm)の結果である多孔質構造を示す。Al-CMSMなどのCMSMは、不活性雰囲気下又は真空下で、例えば250℃~2500℃、又は450℃~1500℃、特に500℃~800℃の温度で、ポリマー前駆体を炭化して製造される(Llosa MA et al.(Part I)2015;Campo MC et al.2010を参照のこと)。ポリマー前駆体の例としては、ポリイミド、ポリフルフリルアルコール、フェノール樹脂、セルロース、セルロース誘導体、及びポリ(塩化ビニリデン)が挙げられるが、これらに限定されない。例えばレゾール樹脂及びノボラック樹脂などのフェノール樹脂は、高価ではないという利点を示し、高い炭素収率を有し、それらの形状を損なうことなく高温に耐えることを理由として、CMSMを調製するのに望ましい前駆体である。
【0041】
フェノール樹脂は、フェノールとホルムアルデヒドの重縮合反応の生成物であり、それらの構造及び特性は、ホルムアルデヒド/フェノール比(F/P)、触媒、pH及び温度に依存する。フェノール樹脂には、レゾール及びノボラックといった2つの形態が存在する。レゾール樹脂は、ホルムアルデヒドの方が多い塩基性触媒の生成物である(F/P>1)。ノボラック樹脂は酸性媒体にて得られ、ホルムアルデヒドの量はレゾール樹脂よりも低く、通常、F/Pに関しては約0.75~0.85である。
【0042】
本開示の水飽和Al-CMSM、及びこのプロセスで得られる水飽和Al-CMSMの調製のためのプロセスの一実施形態では、フェノールホルムアルデヒド樹脂はノボラック樹脂である。
【0043】
本開示のAl-CMSM及びこのプロセスで得られる水飽和Al-CMSMの調製のためのプロセスの別の実施形態では、任意選択的には上で定義された特定の実施形態の1つ以上の特徴と組み合わせると、炭化温度は450℃~700℃、特に500℃~650℃、例えば550℃又は600℃である。
【0044】
炭化前、自己支持膜については、ポリマー前駆体は成形され(例えばフィルム、中空繊維)、支持膜については、これらはポリマー前駆体を含有する溶液中に多孔質支持体を浸漬(コーティング)することで一般には製造される。
【0045】
上述のように、膜の加湿は、
-水蒸気を用いた更なる処理後に、例えば3時間の期間などのある特定の期間中に、例えばN2又はHeなどの非吸着性ガスについて、CMSMが水蒸気を用いて、4barで処理される温度のガス透過流束が一定であるように、ある期間中、5℃~180℃(例えば、20℃、25℃、40℃、70℃、100℃、又は120℃など)の温度、大気圧及び95%より高い相対湿度(特に99%)にて、水蒸気を用いて処理されており、
-水で飽和されたガス流への更なる暴露後に、例えば3時間の期間などのある特定の期間中に、4bar、かつ5℃~180℃(例えば、20℃、25℃、40℃、70℃、100℃、又は120℃など)の温度での例えばN2又はHeなどの非吸着性ガスの透過流束が一定であるように、言及された温度で、水で充填されたタンクへとガスを通気することで、水で飽和されたガス流に暴露されている、CMSMを含有するであろう、この状態に対応する、少なくともある量の水を含有するCMSMを得るために実行される。
【0046】
透過流束は、言及された温度及び圧力で石鹸膜流量計を用いて測定された。
【0047】
本発明の水飽和分子ふるい炭素膜の別の実施形態では、任意選択的には上で定義された特定の実施形態の1つ以上の特徴と組み合わせると、180℃よりも高い温度(例えば、200℃、250℃又は300℃など)では、膜の加湿は、もうそれ以上水を保持しなくなるまで細孔を水で充填する目的で、透過が実行される温度及び圧力で実施される加湿処理に供されたCMSMを含有するであろう、この状態に対応する、少なくともある水の量を含有するCMSMを得るために実行され、この結果、こうした加湿プロセスに供されていなかった同一のCMSMと比較すると、細孔中に水が存在することに起因して、透過における差が観察される。
【0048】
一実施形態では、膜の加湿は、水蒸気を用いた更なる処理後に、例えばN2又はHeなどの非吸着性ガスについて、例えば3時間の期間などある特定の期間中に、4barで、CMSMが水蒸気を用いて処理された温度でのガス透過流束が一定であるように、ある期間中に、室温、大気圧及び99%など95%よりも高い相対湿度にて実行される。
【0049】
本発明の水飽和分子ふるい炭素膜の一実施形態では、任意選択的には上で定義された特定の実施形態の1つ以上の特徴と組み合わせると、CMSMは分子ふるいアルミナ-炭素複合材膜(Al-CMSM)である。特に、Al-CMSMは、膜の総重量に対し、0.1重量%~4.0重量%の窒素含有量、2.5%~50%のアルミナ含有量、及び50重量%~95重量%の炭素含有量を有する。
【0050】
いくつかの物質、及びLlosa MA et al(Part I)2015(p.5655の実験セクションを参照されたい)に記載されている多孔質アルミナ支持体上に1回の浸漬乾燥炭化法を使用して、Al-CMSMが調製され得る。ただし、炭化温度は任意で選択されるため、これは除く。Al-CMSMの他の例は、例えばTeixeira et al.2011,Teixeira et al.2012,Rodrigues et al.2014に開示されている。
【0051】
細孔サイズの特性
分子ふるい炭素膜の細孔サイズ及び細孔サイズ分布は、0℃のCO2の吸着平衡から得られたデータを使用して計算された。CO2の吸着平衡等温線は、精度10-5mgであるRubotherm吊り下げ式磁気天秤による重量法により取得された。CMSMの細孔サイズ分布をどのように決定するかの詳細は、Nguyen C.and Do,D.D.1999,and Nguyen C.,et al.2003にて見出すことができる。
水飽和CMSMを得るため、膜の水蒸気による前処理は透過装置の内部又は外部で実施され得る。
【0052】
透過装置外部の水蒸気による前処理
水飽和CMSMを得るため、上に定義されるような親水性CMSMは、もうそれ以上水を保持しなくなるまで細孔を水で充填するため、水が存在する密閉容器中に、5~180℃、例えば5~120℃の温度、特に室温で、例えば99%など95%よりも高い相対湿度にて導入される。
【0053】
膜がいつ水に飽和されるのかを知るため、言及された温度、例えば室温で、4barでの膜のガス透過流束は、例えば3時間の期間などある特定の期間中に一定になるまで監視される。使用されるガスは、例えばN2又はHeなどの、透過温度(例えば室温)で非吸着性のガスである。
【0054】
透過装置内部の水蒸気による前処理
水飽和CMSMを得るための代替的な一方法として、CMSMは透過装置中に導入され、透過装置は、(i)例えば透過装置へとCMSMを供給する前に水で充填されたタンクへとガス流を通気することで得られる、水で飽和されたガス流、又は(ii)水蒸気又は水を含有するガスの混合物を、好ましくは室温にて供給される。処理時間は1分~数時間であり得る。
【0055】
処理後、4barの非吸着性ガス(すなわち、N2又はHe)のガス流束が測定される。処理及びガス透過サイクルは、3時間の期間にわたってガス透過が一定になるまで繰り返される。
【0056】
本発明の水飽和CMSMの使用
上述のように、本発明はまた、いくつかの特殊な機能を有する、上に定義されるような水飽和CMSMを使用することで、ガス混合物中のガスを分離するためのプロセスに関する。
【0057】
したがって、細孔サイズ、細孔サイズ分布及び親水性といったいくつかの特殊な機能を有するCMSMは、水で飽和するまで(圧力及び温度の透過条件にて)加湿前処理に供される。ガス混合物は少なくとも2種類のガスを含み、保持物中のガスの分圧が透過物中のガスの分圧よりも高くなり、膜が依然として水飽和膜であるような圧力で水飽和CMSMに供給される。すなわち、供給温度及び供給圧力で水飽和膜を得るために加湿工程に供されていなかった同一のCMSMと比較すると、透過における差が観察される。このプロセスは、5℃~300℃の温度で実行され得る。
【0058】
一実施形態では、任意選択的には上で定義された特定の実施形態の1つ以上の特徴と組み合わせると、工程(c)は5℃~250℃、5℃~120℃、15℃~120℃、15℃~100℃、15℃~70℃、又は20℃~50℃、例えば40℃などの温度で実行される。特定の実施形態では、工程(c)は室温で実行される。
【0059】
純粋な、又は混合物形態のガスは、デジタルマスフローコントローラにより透過装置に供給され得るが、圧力はデジタル背圧レギュレータを用いて制御され得る。保持物の最大圧は例えば40barであり得るが、透過物は(真空ポンプを使用して)真空まで、異なる圧力で操作され得る。いくつかの熱電対は、透過装置に従い温度プロファイルを記録するために使用され得る。
【0060】
本開示の親水性膜でのガス分離は、分子ふるい(MS、細孔が透過することよりも小さいガス)及び吸着拡散(AD、細孔中に存在する水とガスとの親和性の差)に基づく。本開示のCMSMの細孔は2つの群(
図1:a)0.25nm~0.55nmの細孔であり、この分離は分子ふるいによるものであり、b)0.55nm~0.90nmよりも大きい細孔サイズの細孔であり、水が吸着される)に分けられる。AD領域では、細孔中に吸着される水は細孔のサイズを減少させ、吸着された水の量は温度によって変化し、ひいては細孔サイズも水の量により変化する。ガスはそのサイズに従い通過(最小のガスはより速く通過)し、細孔中で水とより多くが相互作用(吸着)するガス(より多く吸着するガス)は優先的に透過する。水との相互作用はガスの極性によって変化し、双極性モーメント(すなわち水)を有するガスはより高い透過性を有する。ガスが極性ではない場合には、より高い分極率(Polarizability)を有するガスがより速く透過する(例えば、HeよりもCO
2及びH
2)。
【0061】
【0062】
原子又は分子の分極率は、電子及び原子核がそれらの平均位置から変位し、瞬間双極子(instantaneous dipole)を形成可能であるという容易さの尺度である。運動直径は、ガス中の分子が別の分子と衝突する見込みを表す。これは、ターゲットとしての分子サイズの指標である。ガスの分極率及び運動直径は、化学的データ及び物理的データのハンドブックにて見出すことが可能である。
【0063】
別の実施形態では、任意選択的には上で定義された特定の実施形態の1つ以上の特徴と組み合わせると、少なくとも2種類のガスは2~27、又は2~26.3の分極率を有し、少なくとも2種類のガスのうち少なくとも1種類は0.55nm未満の運動直径を有する。仮に3種類以上のガスが0.55nmより小さい運動直径を有する場合、分離は、少なくとも2種類のガス間の運動直径の差が0.01nm以上である場合、少なくとも2種類のガス間の分極率の差が1m3以上である場合、又はそれらの両方を満たす場合に生じることになる。
【0064】
特に、少なくとも2種類のガスは、He、H2O、Ne、H2、NO、Ar、NH3、N2、O2、CO2、CO、CH4、C2H4、C2H6、プロペン、C3H8(プロパン)、H2S、メタノール、エタノール、プロパノール、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、及びN-メチル-2-ピロリドンからなる群から選択される。0.55nmより大きい運動直径を有するガスの例としては、n-ブタン又はイソブタンである。0.55nmよりも大きい運動直径を有する溶媒の例としては、CHCl3、CHCl2、メタノール、エタノール、ジメチルエーテル、ジメチルカルボナート、アセトン、アセトニトリル、ジオキサンである。特に、少なくとも2種類のガスは、H2/CH4、H2/N2、H2/CO2、CO2/CH4、CO2/N2、O2/N2、及びバイオガスからなる群から選択される混合物である。
【0065】
特定の実施形態では、任意選択的には上で定義された特定の実施形態の1つ以上の特徴と組み合わせると、ガス混合物は5%~20%のH2及び95%~80%のCH4、特に約10%のH2及び約90%のCH4を含み、この場合、工程c)は、例えば3~8barなど、3bar以上の水素分圧差にて、例えば20℃又は室温など、40℃以下の温度で実行される。
【0066】
有利には、他の公知のプロセスとは異なり、本発明の水飽和CMSMにより低温でCH4との混合物からH2を分離することが可能である。結果として、透過物の純度は増大する。
【0067】
特定の実施形態では、任意選択的には上で定義された特定の実施形態の1つ以上の特徴と組み合わせると、少なくとも2種類のガスはCO2及びN2である。特に、ガス混合物は10%~20%のCO2及び65%~75%のN2、詳細には約15%のCO2及び70%のN2を含む。
【0068】
特定の実施形態では、任意選択的には上で定義された特定の実施形態の1つ以上の特徴と組み合わせると、少なくとも2種類のガスはH2及びCO2である。特に、ガス混合物は55%~65%のH2及び30%~40%のCO2、より詳細には特に約60%のH2及び35%のCO2を含む。
【0069】
別の実施形態では、任意選択的には上で定義された特定の実施形態の1つ以上の特徴と組み合わせると、ガス混合物は無水物である。
【0070】
別の実施形態では、任意選択的には上で定義された特定の実施形態の1つ以上の特徴と組み合わせると、少なくとも2種類のガスを含むガス混合物はバイオガスであり、CO2はバイオガスから除去される。
【0071】
上述のように、本発明の別の態様は、ガス混合物からガスを分離するための、本明細書の上記に定義されるような水飽和CMSMの使用に関する。
【0072】
バイオガスは、酸素を含まない(嫌気的)有機物の分解で生成され、メタン及び二酸化炭素を含むガス混合物である。特に、バイオガスは、主にメタン及び二酸化炭素、及び例えばH2、H2S、N2などの少量の他のガス、及び水蒸気を含有するガス混合物である。燃料源のエネルギー密度が増加されることから、バイオメタンの使用はバイオガスよりも好ましい。これは全ての既存の設置済みプラントで直接使用可能であり、天然ガスグリッドに送ることも可能である。
【0073】
別の実施形態では、水飽和CMSMの使用はバイオガスの品質向上(すなわち、バイオガスからCO2を除去するため)を目的とする。
【0074】
別の実施形態では、水飽和CMSMの使用は、少なくとも50%の窒素を含むガス混合物からのCO2の除去を目的とする。特に、ガス混合物は5%~10%のCO2及び65%~75%のN2、より詳細には約5%のCO2及び約70%のN2を含む。
【0075】
別の実施形態では、水飽和CMSMの使用は、CO2を更に含むガス混合物、特に水性ガスのシフト反応後に予め燃焼することによる生成物からのH2の分離を目的とし、この場合、ガス混合物は、50~70%のH2及び50%~30%のCO2であり、又は例えば30~70%のC2H4及び70~30%のC2H6を含むガス混合物において、C2H6からC2H4など、アルケンからアルカンの分離を目的とし、又は例えば30~70%のプロペン及び70%~30%のプロパンを含むガス混合物において、プロペンからプロパン、又は例えば70%~30%のプロパン、プロペン、若しくはそれらの混合物と30%~70%のブタンを含むガス混合物において、ブタンからプロパン、プロペン若しくはそれらの混合物の分離を目的とする。
【0076】
上述のように、本発明の別の態様は、溶媒の脱水、すなわち有機溶媒から水を除去し、0.1~1%の水を含有する有機溶媒を得るための、本明細書の上記に定義されるような水飽和CMSMの使用に関する。有機溶媒の例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、tert-ブタノール、アセトン、ジメチルエーテル、ジメチルカルボナート、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、ジオキサン、酢酸及び酢酸エチルが挙げられる。
【0077】
溶媒の脱水プロセスにおいて、ガスは、膜の透過される側から真空を加えることで細孔を通過する。分子ふるい(>0.55nm)にとって、溶媒分子はこれよりも大きく、又は最大細孔に近く、かつ水は非常に小さいことから、水のみが通過する。加えて、水は細孔のAD領域の親水性細孔中で優先的に吸着され、これよりも小さい他の親水性分子の通過を遮断する。双極性プロトン性溶媒は、有機合成及びポリマーの溶解に使用されるが、この溶媒中の非常に少量の水又は微量の水は有害となり得る。
【0078】
上述のように、本発明の別の態様は、メンブレンリアクタとしての、本発明の上で定義されるような水飽和CMSMの使用に関する。本発明の水飽和CMSMは、化学分野、石油化学分野、食品分野、化粧品分野にて、触媒反応中のin-situでの水の除去のプロセス強化に使用され得る。特にメタン、メタノール、ジメチルエーテル、ジメチルカルボナート(DMC)又は他の有機溶媒の製造プロセスにおいては、水が反応中に生成される。本発明の水飽和CMSMがメンブレンリアクタとして使用され得るプロセスの例としては、CH4を製造するためのCO2及びH2の反応、カルボン酸を用いたアルコールの反応によるエステルの合成、バイオディーゼル燃料及びバイオ潤滑剤、CO2及びH2から製造されるメタノール、メタノールの脱水又はCO2及びH2からの直接合成により得られるジメチルエーテル、並びにCO2及びメタノールからのジメチルカルボナートの合成が挙げられる。本発明の水飽和CMSMを使用することで、水は反応生成物から除去され、例えば酸化溶媒及びエステルなどの目的の化合物の製造。
【0079】
本発明の水飽和CMSMは、現在メンブレンリアクタ分野で研究されているゼオライト膜よりも、特にCO2及びH2の反応に関して、調製が容易で安価であり、良好な透過特性を備えている。
【0080】
上述のように、本発明の一態様は、上に定義されるような水飽和Al-CMSMの調製プロセスに関する。上述されたプロセスで得られる水飽和Al-CMSMもまた、本発明の一部を形成する。
【0081】
したがって、本発明のガス混合物からガスを分離するためのプロセスは、以下の工程を含むことでもまた定義可能である。これはすなわち:
a)上の本明細書に定義されるような水飽和Al-CMSMを提供すること、
b)上に定義されるような少なくとも2種類のガスを含むガス混合物を提供すること、
c)保持物及び透過物を得るため、5℃~300℃、特に5℃~250℃の温度で水飽和Al-CMSMにガス混合物を提供することであって、保持物中のガスの分圧が透過物中のガスの分圧よりも高くなるような圧力で実行される、供給すること、である。
【0082】
明細書及び特許請求の範囲全体を通して、用語「含む」及びこの用語の変形は、他の技術的特徴、添加剤、成分、又は工程を排除することを意図しない。更には、用語「含む」は、「からなる」の事例を包含する。本発明の更なる目的、利点及び特徴は、この説明の審査時に当業者に明らかとなる、又は本発明の実践により理解され得る。以下の実施例及び図面は例示として提供され、本発明を限定することを意図するものではない。更には、本発明は本明細書にて説明される具体的かつ好ましい実施形態の考えられる全ての組合せを網羅する。
【実施例】
【0083】
実施例1.膜の調製
いくつかの物質、及びLlosa MA et al.(Part I),(the Experimental section in p.5655を参照されたい)に記載されている多孔質アルミナ支持体上に1回の浸漬乾燥炭化法を使用し、いくつかのAl-CMSMを調製した。ただし炭化温度については除外した。特に、この文献は、500℃で膜の炭化を実行することでAl-CMSMの調製を開示している。同様に、500℃、550℃、600℃、650℃、750℃、850℃、及び1000℃にてAl-CMSMを調製した。
【0084】
透過は湿度及び貯蔵時間に依存するため(細孔の水分量の変動)、熱処理により細孔内に存在する水の大部分を除去することで得られた「乾燥膜」の性能と比較することで、Al-水蒸気を用いたCMSMの前処理の有効性を実証した。水蒸気を用いた前処理後の水飽和Al-CMSMを「加湿膜」と命名する。
【0085】
マイクロ細孔サイズ分布
様々な温度で炭化された膜のマイクロ細孔サイズ分布を
図1に表す。膜は超マイクロ細孔(0.25nm~0.55nm範囲、MS領域)及びこれらより大きいマイクロ細孔(0.55nm~0.90nm、AD領域)の存在を示す。450℃で炭化された膜は0.4nm~0.90nmの範囲の細孔を有する小体積の細孔を有し、550℃で炭化された膜は類似の細孔サイズ分布パターンを有するが、著しく大きな細孔体積を有する。650℃で炭化された場合、MS範囲(0.25~0.55nm、AD領域では、細孔の大部分は0.55~0.65nmよりも大きい範囲である)においては著しく大きな体積を有する二分散細孔サイズ分布は、選択性と透過性との間の良好な折衷案を提供した。最終的に650℃と比較すると、750℃のサンプルは、更に高い透過性の一助となり得る、まさに定義された細孔サイズ分布を有する、MS領域では小体積の更に小さい体積、及びAD領域では更に大きい体積を示す。これらの結果は、炭化温度が体積を増大させるにつれて、より小さなマイクロ細孔の数は650℃までで増大し、更に高い炭化温度ではより大きい細孔を形成することを示している。
【0086】
透過試験
背圧レギュレータを備え付けたシェルアンドチューブ式装置(下限<20キロパスカル)及び石鹸膜流量計(検出限界<0.2mL/分)を使用し、支持されたCMSMを通るガスの透過性を測定した。選択されたガスを外部シェルからメンブレンチューブへと導入し、膜を通って透過されたガスを石鹸膜流量計に導き、流量を決定した。(特段明記しない限り)室温及び異なる圧力におけるN2へのガス透過性を決定したが、透過物側は大気圧下であった。
【0087】
細孔内の親水性及び水吸着
炭化直後に空気との接触を回避しつつ、膜のN2パーミアンスを測定した。
【0088】
図2に示されるように、炭化中、官能基を除去し、活性分子と反応可能な活性炭素基を残す。これにより、水を化学吸着させて酸素を含有する官能基を生じさせ、親水性の細孔を作製可能となる。そのうえ、親水基は細孔を物理的に満たしている水を吸収し、細孔サイズを減少可能である。
【0089】
透過温度の関数における、400kPaの圧力差でのN
2の透過を測定することで、様々な温度で炭化された膜の水脱着を調査した(
図3a及び
図3b)。
図3aでは、膜の炭化温度が450℃~600℃に増大するにつれて、N
2流束は増大することが観察することができる。450℃では、N
2流束は低く、最大値が存在しない。これは、炭化温度が低いと細孔をほとんど形成しなかったことを示している。
図3a及び
図3bからの流束及び透過温度の微分曲線を、
図4a及び
図4bにそれぞれ提示する。最大値に対応する微分強度及び透過温度の強度は炭化温度とともに増大し、最大値は炭化温度とともにシフトする。この場合、炭化温度は500℃、550℃及び600℃であり、最高温度はそれぞれ150℃、175℃及び280℃である。この挙動は水と細孔との相互作用の強さに関連する。750℃及び850℃では、N
2透過性は低く、最大値は観察されなかった。これらの温度では、細孔の親水性は低くなる。とりわけ約600~650℃で試験された炭化温度では、膜は最も高い親水性を有し、より多くの水を細孔中に捕捉すると推測することが可能である。
【0090】
500℃で炭化された膜に関しては、透過リアクタから膜を取り外すことなく室温まで系を冷却し、水を含有するボートを導入し、時間の関数にて400kPaでのN
2パーミアンスを記録した。実験の最初に、透過性の急激な減少を観察した。水は、膜の最も出入り可能な箇所で吸着されている。吸着は最初の20分に関しては迅速であり、その後、緩やかでわずかな減少が透過性で観察され、水は膜の内部の細孔に吸着されている。したがって、
図3の温度での窒素透過の増大は、細孔から水が緩やかに除去された結果である。同一の膜を窒素下で300゜にて再び処理し、細孔から物理吸着された水を除去した。上に説明したように時間に伴うN
2パーミアンスを測定したが、この時にはヘキサンを含有するボートをリアクタ中に導入した。N
2パーミアンスは一定のままであったが、これは膜の細孔が親水性である(すなわち、ヘキサンは疎水性であり、細孔は吸着しない)ことを明確に示している。
【0091】
実施例2.透過装置外部のAl-CMSMの水蒸気による前処理
2.1 乾燥膜
細孔から吸着された水を除去するため、500℃で炭化されたAl-CMSMをN2下、200℃で加熱した。
【0092】
2.2 加湿膜
上に開示されるように調製された乾燥Al-CMSMを透過装置から取り外し、水による飽和状態(加湿膜)に達するまで、室温、大気圧及び例えば99%など95%よりも高い相対湿度にて、水を含有する箱中に膜を配置することで水和(透過装置外部の水蒸気による前処理)にかけた。
【0093】
2.3 N
2
及びH
2
の透過試験
実施例2に開示されているように調製されたAl-CMSMを加湿する前と後に、N
2及びH
2の透過を実行した。ただし600℃で炭化することは除いた。水和の効果は明らかであった。N
2及びH
2のパーミアンスは両者とも大幅に減少した(
図5を参照されたい)。ただし、N
2のパーミアンスにおける減少はH
2のパーミアンスよりも大きかった。これは、H
2に対する選択性に反映されている。したがって、加湿膜についての1barでのH
2/N
2の理想的な透過選択率は、加湿なしのものよりも70倍高いものである。
【0094】
実施例3.透過装置内部のAl-CMSMの水蒸気による前処理
実施例2に開示されているように、2つの分子ふるい炭素膜を調製した。ただし550℃及び600℃で炭化することは除いた。これらをCMSM-550及びCMSM-600とそれぞれ呼んだ。
【0095】
3.1 乾燥膜
CMSM-550膜及びCMSM-600膜を透過装置の内部に配置した。次いで、窒素を透過装置に導入し、1分あたり2℃の加熱速度で温度を150℃まで上昇させた。対応する脱水された膜を得るため、言及された温度を6時間にわたり維持した。
【0096】
細孔から水を脱着した後、膜を透過温度(すなわち、20~100℃)に冷却し、乾燥膜の透過研究を実施した。
【0097】
3.2 加湿膜
透過装置に供給する前に水で充填されたタンクへと室温のガスを通気することで、上で得られた乾燥膜を水で飽和されたN2ガス流に暴露させた。常に同じ加湿状態を確実なものとするために、実験を行う前に毎晩12時間にわたって加湿流からの水で膜を飽和させた。純窒素ガス透過試験を実行し、4barの圧力での窒素透過が一定であることを確認した。
【0098】
実施例4.乾燥膜及び加湿膜の透過研究
純水素及び水素を含有するガス混合物の透過を実施し、様々な圧力及び温度での水素透過及び純度の値を測定した。透過物側では真空を使用した。
【0099】
湿気を有する膜に関して、第1の興味深い結果は、
図6で示すように、Robesonの上限値と比較した場合の卓越した選択性及び透過性である。この上限は、新規膜材料を比較することができる基準を提供する。
【0100】
20℃で、かつ様々な水素分圧差で50%の水素及び50%のメタンを含有するガス混合物の水蒸気処理前(乾燥膜)及び水蒸気処理後(加湿膜)の、550℃で炭化されたAl-CMSM(CMSM-550)の水素流量及び純度における差を、
図7及び
図8にそれぞれ示す。理論に束縛されることを望むものではないが、水処理により細孔に壁ができ、結果として細孔サイズを減少させる(細孔充填)と考えられる。この結果は、水素流束が減少したにも関わらず(
図7)、水素純度が大幅に増大する(
図8)ことを示している。
【0101】
実施例5.Al-CMSM-550加湿膜を使用したガス混合物の透過
実施例3、セクション3.2にて記載された手順を使用し、水蒸気で飽和されたN2ガス流でCMSM-550を前処理した。これを使用し、様々な温度(20℃~70℃)で、かつ様々な分圧差にて、透過された側から真空を加えた状態で、10%の水素又は50%の水素を有する、CH4、CO2、又はN2と水素との二成分混合物からの透過物における、水素透過性及び水素純度を測定した。
【0102】
CMSM-550膜を使用し、10%の水素及び50%の水素を含有するメタンとの混合物中に存在する水素の分離を調査した。H
2及びCH
4の混合物(10%の水素及び50%のH
2)からの、様々な温度で、かつH
2の分圧における様々な差で得られた透過されたものにおける水素流束率を
図9に示し、コレスポンデント(correspondent)のH
2純度を
図10に示す。透過温度が上昇すると、水素パーミアンスは水素純度を犠牲にして上昇することが観察され得る。水蒸気で飽和された炭素膜については、得られた水素純度が、特に混合物中に10%のH
2含有量が存在すると考えられる場合には著しく高い点を明示することは重要である。したがって、詳細には0.55barの水素分圧にて20℃で、97.5%の純度が得られる。
【0103】
N
2又はCO
2と水素の二成分混合物に関して、同様の試験を行った。CO
2についての結果を
図11及び
図12に、N
2についての
図13及び
図14に示す。
【0104】
CO
2を含む混合物からのH
2の分離については、透過物の純度はCH
4よりも小さい。これはおそらく、CO
2がCH
4よりも小さく、吸収性が高いことによる(
図12)。
【0105】
図13及び
図14では、水素流量及び水素純度に関するH
2-N
2の結果を、異なる水素分圧差で示す。膜が水で飽和された場合、考えられる異なる全ての混合物で高い水素純度に達した。例えば100℃といった更に高い温度では、膜を加湿した場合に性能の改善が実際に期待される。
【0106】
例えばCO2/CH4又はCO2/N2など、分子サイズ又は非常にはっきりとした吸着能に関する注目すべき差を有するガスに関しては、(H2/N2、H2/CH4、及びH2/CO2で得られたものに対する)同様の結果が予想される。これらの高い水吸着能のために、500℃~750℃で、特に500℃~700℃で炭化された膜は、乾燥ガス下での加湿条件にて試験された場合に、同様の性能を発揮する。対応する加湿膜で動作する場合には、高い選択性及び純度は、100℃の動作温度までは達するものと予想される。
【0107】
したがって、同様に、500℃で炭化された加湿Al-CMSMを使用し、10%のH2及び90%のN2を含有する混合物から水素を精製した。天然ガスの既存の既存のインフラストラクチャーを使用し、水素を貯蔵及び分配することが可能であるため、この分離は重要である。安全上の理由から、低濃度のH2(すなわち10%)が混合可能である。純度は、透過温度に大きく依存することが観察された。特に30℃では、得られた水素の純度は99.4%であった。
【0108】
実施例6.乾燥CMSM-600膜及び加湿CMSM-600膜の水素透過特性における差
透過装置内部の窒素環境下で膜を150℃にて加熱することで、乾燥CMSM-600膜を得た(水の大部分を細孔から除去した)。次いで、透過装置の温度を100℃に冷却し、様々な水素分圧で10%のH2及び90%のCH4の混合物の水素透過を実施した(100℃、乾燥膜)。
【0109】
次いで、15時間にわたり水中で通気することで同一のガス混合物を水で飽和させ、100℃の透過装置に入れた。このようにして、100℃にて親水性(加湿)中で水を選択的に吸着させ、様々な水素分圧で水素透過を実施した(100℃、加湿膜)。同一の手順を、70℃、50℃及び20℃といった異なる温度で実行した。
【0110】
膜を加湿することで、水素流量は減少し(
図15)、純度の注目すべき増大をもたらした(
図16)。更に高い温度では、これは明白であった。膜が加湿された後に生じる、純度の平均増加率(加湿対乾燥)は、100℃で18%、70℃で14%、50℃では10%、20℃ではわずか4%であった(
図17)。これは、水蒸気流を用いた炭素膜の前処理コンディショニングが100℃よりも高い温度で更に重要であることを示している。
【0111】
したがって、上記結果によれば、膜を加湿することで、特に更に高温での精製に対し卓越した利点がもたらされる。
【0112】
比較例1.Al-CMSMに対するPdベース膜
水素分離のため、Pdベース膜を使用する。これは、Pdベース膜の高い水素透過性及び排他的選択性に起因する。透過は、好ましくは400℃で実行される。これは、Pdベース膜は300℃未満かつ500℃よりも高い温度で損傷する可能性があるからである。
【0113】
Pdベース膜において、水素流束は膜の両側の分圧差の平方根差における関数である(Sieverts則)。Al-CMSMにおいて、流束は分圧差に比例する。
【0114】
図18は、どちらも1barの圧力差で同一のパーミアンスを有することを考慮した、Pdベース膜の水素流束及び水で飽和するまでリアクタ内部で加湿されたAl-CMSMの水素流束に対する圧力の依存性の一例を示す。低圧では、両方の場合の流束は同様であることが観察され得る。それにもかかわらず、圧力が増大するにつれて、透過における増加はPdベース膜よりもAl-CMSMについてはるかに高い。低圧では、Al-CMSMのH
2透過は同一の厚さを有するPdベース膜よりも約10倍低く、選択性もまたAl-CMSMについては低い(実際の問題として、Pdベース膜については20~40倍低い)。それにもかかわらず、Al-CMSMの透過は低温(すなわち、室温)で、Pd膜は高温(通常、400℃)で実行することができる。
【0115】
比較例2.水素透過時の他のガスとの混合物中の水素濃度の影響
図19には、水素分圧の平方根差の関数において、1.29μmの厚さのPdAg支持膜の、400℃での純水素及び様々なH
2/CH
4の二成分混合物(100%~50%の水素)についての水素透過流束を示す(Melendez,J.et al.,´´Preparation and characterization of ceramic supported ultra-thin(~1μm)Pd-Ag membranes´´,J.Memb.Sci.528(2017),pp.12-23を参照のこと)。純水素はSieverts則に従う(圧力差の平方根によるH
2流の線形依存性)が、二成分混合物中の水素の濃度が減少するにつれて、流束は線形ではなく、圧力軸に向かって下向きのコンベクシティを示す。分圧を使用し、既に希釈の効果を含み、かつCH
4が不活性だと考えられ得るという事実から、二成分混合物の大部分からの膜表面への物質移動制限(濃度分極)がこの減少の最も可能性が高い説明であり、これは高流束の高度に選択的な膜の場合には更に重要となる。同様の挙動を、Pdが0.8、Agが0.2の2.5μm厚の支持膜で観察した。
【0116】
水素濃度が10%~70%のH
2-CH
4の異なる混合物の水素流量(
図20)及び純度(
図21)の結果を示す。20cmのPd-Agセラミック支持膜を、上述の試験のために使用した。傾向を純ガス試験と同様に比較した。保持物の圧力は8bar~40barに変更したが、透過物の圧力は真空ポンプを用いて0.15barに維持した。水素パーミアンスは、特に水素含有量が低い状態で動作させた場合に、濃度分極により大幅に減少した。同様に純度は、純H
2と得られたものとを比較すると、著しく低かった。この理由は、水素の透過性が高いことによって膜表面近くの不純物濃度が更に高いことが考えられた。
【0117】
図22では、PdAg支持膜について、400℃、3barの全圧(透過物側では真空)でのH
2含有量の関数における、H
2/N
2、H
2/CO
2及びH
2/CH
4の二成分混合物の水素透過を示す(Melendez J.et al.2017を参照のこと)。供給源における水素濃度が減少する場合、水素透過率もまた低下することが明確に知られている。更には、透過された水素流束は、100%から0%のH
2まできわめて直線的に減少し、異なるH
2混合物ときわめて類似している。
【0118】
実施例7.水飽和Al-CMSMにおける分圧差及び水素流束の依存性
水素分圧差の関数としての水素流量を、周囲湿度に暴露した後に、様々なH
2/CH
4及びH
2/N
2混合物及び550℃で炭化されたAl-CMSM(CMSM-550)について20℃で試験した。水素分圧差及び水素流束の依存性は、この混合物及び試験されたガス中のH
2の濃度とは関係なく、ほぼ線形であることが確認された。(
図23)は、濃度分極が膜のH
2流に影響しないことを証明している。
【0119】
本発明の水飽和Al-CMSMの結果及び利点
【0120】
膜に吸着された水の効果もまた、600℃で炭化されたAl-CMSMで試験した。最初に、N2下で150℃にて加熱することで水を除去し、乾燥ガス及び加湿ガスを用いた透過試験を実施し、透過されたガスの純度における、水蒸気を用いた処理の効果を研究した。様々なH2の分圧で、様々な温度(20℃、50℃、70℃及び100℃)で10%のH2を含有するH2/CH4の混合物についてこの試験を実行し、加湿条件で得られた純度の相対的増加を評価した。膜を特に高温で加湿した後、性能において明らかな改善を示した。
【0121】
より吸収性が高く、より小さな分子の透過を促進させる、細孔の壁における水の吸着のために、H2/CH4、H2/N2、H2/CO2、CO2/CH4、及びCO2/N2ガス混合物についても同様の効果が予想される。
【0122】
したがって、水飽和Al-CMSMは、物質移動制限が存在しないことを理由に、特に高圧での混合物のガス分離向けの市販の膜と比較してひけをとらず、期待できる性能を示す。更には、加湿条件で動作する場合には水吸着のため、特に高温でのガス純度の更なる改善が実現される。
【0123】
比較例1及び比較例2、並びに上記実施例から理解されるように、本発明の水飽和Al-CMSMは以下の理由から有利である。
-水飽和Al-CMSMは、乾燥Al-CMSMと比較すると、特に高温で著しく高い純度を提供する。
-Pd膜上でのH2透過は300℃~500℃で実行されるが、Al-CMSMは室温での実行が可能であり、したがって同様の透過性を考慮すると、操業コストはAl-CMSMの方が低い。
-Pdベース膜は非常に高価であるが、Al-CMSMは非常に安価なフェノール樹脂から製造される。
-Pd膜における流束はΔP0.5に依存するが、Al-CMSMの流束はΔPに依存する。したがって、高圧及び低温でのH2の流束はAl-CMSMの方が高い。
-混合ガスの透過において、Pd膜については、水素流束はH2濃度が減少するにつれて減少するが、Al-CMSMについては、流束はほぼ一定である(濃度分極によるものではない)。
【0124】
実施例8.水蒸気透過向けの炭素膜
水透過において、水圧及び水温によっては濃縮が生じる可能性があり、単層の吸着水及び自由水(ガス)の両方の存在をもたらすことになる(
図24)。細孔中の水は、圧力を増大させ、かつ温度を低下させることで増加する。
【0125】
水透過における炭化温度の効果
上で説明されるように、炭化温度を変更することで、炭素膜の親水性を修飾することが可能である。実施例2.2のAl-CMSMについて、異なる温度及び3barの圧力差での水パーミアンスを測定した。これを
図25に示す。炭化温度とは独立して、150℃にて実験を実行した場合には最も低いパーミアンスを得た。既に説明したように、これは細孔中で水が縮合したことによる。500℃及び550℃で炭化された膜について、200℃の透過温度にて最も高いパーミアンスを得た。600℃及び650℃で炭化された膜については、透過温度の最大値は250℃にシフトした(
図25)。膜の炭化温度が750~850℃に上昇した場合には、パーミアンスのピークは再び200℃にシフトした。
【0126】
透過ピークは細孔の親水性に関連付けられた。理論に束縛されることを望むものではないが、炭化温度が550~600℃に上昇するにつれ、細孔の数及びサイズは増大して更に多くの親水基に暴露することになり、水と反応する活性分子の数もまた増大して、新規親水基を形成する。650℃から温度が上昇すると親水基が除去され、活性炭素間での縮合反応が生じ、膜の多孔性が減少して結果的に水透過性が減少する。これは850℃で炭化された膜については明白である。したがって、この温度での水パーミアンスは750℃でのものよりも低い。更に多くの親水基が細孔内に存在することで、水は細孔に更に強固に結合可能となり、これを除去するためには更に多くのエネルギー(高温)を必要とする。
【0127】
水/ガスの理想的な透過選択率
実施例2.2のAl-CMSMについて、異なる温度での様々なガス(N
2、H
2、CH
4、CO、CO
2)のパーミアンスを測定し、これらの水/ガスの理想的な選択性(すなわち、水透過選択率)を計算した。この結果を
図26に示す。試験されたガスについては、全ての膜が水に対する選択性を示した。これはこの膜が最も小さい運動直径(0.26nm、分子ふるい移動)を有し、細孔に対するより高い親和性を有する(吸着拡散輸送)ことが理由である。
【0128】
水透過選択率は、炭化温度及び透過温度に依存する。
【0129】
炭化温度とは関係なく、約200℃で透過を実行した場合には最も高い選択性を得たが、H2O/N2の混合物については例外であり、この場合、750℃で炭化された膜については約250℃で最大値を得た。おそらく、この炭化温度付近では、細孔の数及びサイズは水の透過にとって最良であり、この温度未満では細孔はより少なくなり、この温度を超えると、水は細孔内で縮合を開始して多孔度、親水性及び細孔サイズを減少させる。事実、1000℃で炭化された膜では最も低い選択性を得た。
【0130】
一般に、試験されたガスについては、750℃で炭化された膜で最も高い選択性を得る。
【0131】
図26には、異なる温度で炭化された実施例2.2のAl-CMSMの運動直径及び透過温度の関数における水/ガスの理想的な選択性を示す。全ての炭化温度については、水/N
2については最も高い選択性を得る。CO
2及びH
2に対する水選択性はN
2よりも低いが、これは後者の運動直径が更に大きいことが要因として考えられる。N
2よりも大きいCOは、これよりも低い選択性を有する。COは、炭素膜の親水性の細孔上に吸着可能である極性化合物であり、これは透過の吸着拡散機構を増加させる。COとCH
4を比較すると、CH
4はCOよりも大きいため、透過は低い。N
2及びCH
4を考慮すると、CH
4は対称的な分子であり、容易に分極することができない。一方でN
2は対称性が低く、極性の細孔との双極子誘起双極子相互作用を増加させて更に容易に分極することが可能である。
【0132】
分子のサイズが水よりもわずかに大きく、これに加えて水が細孔と水素結合を形成して吸着拡散透過を増加することが可能であることから、H2については最も低い選択性を観察した。
【0133】
引用文献一覧
1.Llosa MA et al.´´Composite-alumina-carbon molecular sieve membranes prepared from novolac resin and boehmite.Part I:Preparation,characterization and gas permeation studies´´,Int.J.Hydrogen Energy.2015,vol.40,pp.5653-5663.
2.M.A.Llosa et al.´´Composite-alumina-carbon molecular sieve membranes prepared from novolac resin and boehmite.Part II:Effect of the carbonization temperature on the gas permeation properties´´,Int.J.Hydrogen Energy.2015,Vol.40,pp.3485-3496.
2.Campo MC et al.´´Carbon molecular sieve membranes from cellophane paper´´Journal of Membrane Science,2010,vol.350,pp.180-188;
3.Teixeira M et al.´´Composite phenolic resin-based carbon molecular sieve membranes for gas separation´´,Carbon 2011,vol.49,pp.4348-4358;
4.Teixeira M et al.´´Carbon-Al2O3-Ag composite molecular sieve membranes for gas separation´´ Chem.Eng.Res Des.2012,vol.90,pp.2338-2345.
5.Rodrigues SC,et al.´´Preparation and characterization of carbon molecular sieve membranes based on resorcinoleformaldehyde resin´´ J.Memb.Sci.2014,vol.459,pp.207-216.
6.Nguyen C.,Do,D.D.´´Adsorption of supercritical gases in porous media:determination of micropore size distribution´´.J.Phys.Chem.B.1999,103(33),6900-8,及び
7.Nguyen C et al.´´The structural characterization of carbon molecular sieve membrane(CMSM)via gas adsorption´´ J.Memb.Sci.,2003,220(1-2)177-82.
8.Melendez J et al.,´´Preparation and characterization of ceramic supported ultra-thin(~1μm)Pd-Ag membranes´´,J.Memb.Sci.2017,vol.528,pp.12-23.
【0134】
完全性を理由として、本発明の様々な態様を、以下の番号を付記した項にて記載する。
1.
水飽和分子ふるい炭素膜であって、
a)分子ふるい向けに0.25nm~0.55nmの細孔サイズの細孔、及び吸着拡散向けに0.55nmよりも大きく0.90nmまでの細孔サイズの細孔、及び0.90nmより大きい無視できる量の細孔を含む、親水性の分子ふるい炭素膜(CMSM)を提供することであって、室温で1~4barの圧力で透過圧力に対するN2パーミアンスのプロットが0又は負の傾きを有する場合、0.90nmより大きい細孔を無視できる量有することと、
b)水飽和分子ふるい炭素膜が得られるまで膜を加湿することと、により得られる、水飽和分子ふるい炭素膜。
2.
CMSMが、分子ふるいアルミナ-炭素複合材膜(Al-CMSM)である、条項1に記載の水飽和分子ふるい炭素膜。
3.
Al-CMSMが、膜の総重量に対し、0.1重量%~4.0重量%の窒素含有量、2.5%~50%のアルミナ含有量、及び50重量%~95重量%の炭素含有量を有する、条項2に記載の水飽和分子ふるい炭素膜。
4.
ガス混合物からガスを分離するためのプロセスであって、
a)条項1~3のいずれか1つに定義されるような水飽和膜を提供することと、
b)少なくとも2種類のガスを含むガス混合物を提供することと、
c)保持物及び透過物を得るため、5℃~300℃の温度で水飽和CMSMにガス混合物を供給することであって、保持物中のガスの分圧が透過物中のガスの分圧よりも高く、
膜が依然として水飽和膜であるような圧力で実行される、供給することと、を含む、プロセス。
5.
工程(c)の温度が5℃~250℃、5℃~120℃、15℃~120℃、15℃~100℃、15℃~70℃、又は20℃~50℃である、条項4に記載のプロセス。
6.
少なくとも2種類のガスが2~27の分極率を有し、少なくとも2種類のガスの少なくとも1種類が0.55nm未満の運動直径を有し、少なくとも2種類のガスが0.55nmよりも小さい運動直径を有する場合には、少なくとも2種類のガス間での運動直径の差は、0.01nm以上であり、及び/又は少なくとも2種類のガス間での分極率の差は、1m3以上である、条項4又は5に記載のプロセス。
7.
少なくとも2種類のガスが、He、H2O、Ne、H2、NO、Ar、NH3、N2、O2、CO、CO2、CH4、C2H4、C2H6、プロペン、プロパン、H2S、メタノール、エタノールから選択される、条項6に記載のプロセス。
8.
少なくとも2種類のガスを含むガス混合物が、H2/CH4、H2/N2、H2/CO2、CO2/CH4、CO2/N2、O2/N2、及びバイオガスからなる群から選択される、条項4~7のいずれか1つに記載のプロセス。
9.
ガス混合物が、5%~20%のH2、及び95%~80%のCH4を含み、工程c)が3bar以上の水素分圧差、及び40℃以下の温度で実行される、条項8に記載のプロセス。
10.
少なくとも2種類のガスがCO2及びN2であり、ガス混合物が10%~20%のCO2及び65%~75%のN2、特に約15%のCO2及び70%のN2を含む、条項8に記載のプロセス。
11.
少なくとも2種類のガスがH2及びCO2であり、ガス混合物が55%~65%のH2及び30%~40%のCO2、特に約60%のH2及び35%のCO2を含む、条項8に記載のプロセス。
12.
少なくとも2種類のガスを含むガス混合物がバイオガスであり、CO2がバイオガスから除去される、条項8に記載のプロセス。
13.
ガス混合物からガスを分離するための、条項1~3に定義されるような水飽和CMSMの使用。
14.
溶媒を脱水するための、条項1~3に定義されるような水飽和CMSMの使用。
15.
メンブレンリアクタとしての、条項1~3に定義されるような水飽和CMSMの使用。
【手続補正書】
【提出日】2022-08-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水飽和分子ふるい炭素膜であって、
i)分子ふるい向けに0.25nm~0.55nmの細孔サイズの細孔、及び吸着拡散向けに0.55nmよりも大きく0.90nmまでの細孔サイズの細孔、及び0.90nmより大きい無視できる量の細孔を含み、その結果、室温、1~4barの圧力で透過圧力に対する本明細書に定義されるようなN
2パーミアンスのプロットが、0又は負の傾きを有する、親水性の分子ふるい炭素膜(CMSM)を提供することと、
ii)
-水蒸気を用いた更なる処理後に、3時間といった期間などのある特定の期間中に、4barで水蒸気を用いて前記CMSMを処理する5℃~180℃の温度で、N
2又はHeなどの非吸着性ガスの透過流束が一定であるように、ある期間中、前記温度、大気圧、かつ例えば99%など95%よりも高い相対湿度で、水蒸気を用いて前記CMSMを処理することにより、又は
-代替的には、水で飽和されたN
2又はHeガス流へと更に暴露した後に、3時間といった期間などのある特定の期間中に、4barで、5℃~180℃の温度にてN
2又はHeなどの非吸着性ガスの透過流束が一定であるように、言及された前記温度で、水で充填されたタンクへと前記ガスを通気することにより水で飽和されたN
2又はHeガス流に前記CMSMを暴露させることにより、水飽和CMSMを得るように、工程i)で得られた前記CMSMを加湿することと、により得られる、水飽和分子ふるい炭素膜。
【請求項2】
前記CMSMが、分子ふるいアルミナ-炭素複合材膜(Al-CMSM)である、請求項1に記載の水飽和分子ふるい炭素膜。
【請求項3】
前記Al-CMSMが、膜の総重量に対し、0.1重量%~4.0重量%の窒素含有量、2.5%~50%のアルミナ含有量、及び50重量%~95重量%の炭素含有量を有する、請求項2に記載の水飽和分子ふるい炭素膜。
【請求項4】
水飽和分子ふるいアルミナ-炭素複合材膜(水飽和Al-CMSM)の調製プロセスであって、
i)親水性Al-CMSMを、
-多孔質α-Al
2O
3支持体を提供すること、
-5~20重量%のフェノールホルムアルデヒド樹脂、0.5~5重量%のホルムアルデヒド、0.1~2重量%のエチレンジアミン、N-メチル-2-ピロリドン中、0.1~5重量%のベーマイトを含有する溶液を調製すること、及びコーティング溶液を得るために、前記溶液を加熱(例えば、80~110℃、30分~3時間)して前重合プロセスを実行すること、
-コーティングされた支持体を得るために、前記コーティング溶液中に前記多孔質α-Al
2O
3支持体を浸漬コーティングすること、
-前記重合プロセスを完了するために、70~120℃の温度で、前記コーティングされた支持体を乾燥させること、
-Al-CMSMを得るために、450℃~750℃の炭化温度で乾燥済みのコーティングされた前記支持体を炭化することと、により、調製することと、
ii)工程i)で調製された前記Al-CMSMを加湿し、
-水蒸気を用いた更なる処理後に、3時間といった期間などのある特定の期間中に、4barで水蒸気を用いて前記Al-CMSMを処理する5℃~180℃の温度で、N
2又はHeなどの非吸着性ガスの透過流束が一定であるように、ある期間中、前記温度、大気圧で、かつ例えば99%など95%よりも高い相対湿度で、前記Al-CMSMを水蒸気で処理することにより、又は
-代替的には、水で飽和されたN
2又はHeガス流へと更に暴露した後に、3時間といった期間などのある特定の期間中に、4barで、5℃~180℃の温度で、N
2又はHeなどの非吸着性ガスの透過流束が一定であるように、言及された前記温度で、水で充填されたタンクへと前記ガスを通気することにより水で飽和されたN
2又はHeガス流に前記Al-CMSMを暴露させることにより、水飽和Al-CMSMを得るように、工程i)で調製された前記Al-CMSMを加湿すること、を含む、水飽和分子ふるいアルミナ-炭素複合材膜の調製プロセス。
【請求項5】
前記フェノールホルムアルデヒド樹脂がノボラック樹脂である、請求項4に記載のプロセス。
【請求項6】
前記炭化温度が450℃~700℃
である、請求項4又は5に記載のプロセス。
【請求項7】
請求項4~6のいずれか一項に定義されるプロセスにより得られる、水飽和Al-CMSM。
【請求項8】
ガス混合物からガスを分離するためのプロセスであって、
a)請求項1~3のいずれか一項又は請求項7に定義されるような水飽和膜を提供することと、
b)少なくとも2種類のガスを含むガス混合物を提供することと、
c)保持物及び透過物を得るため、5℃~300℃の温度で前記水飽和CMSMに前記ガス混合物を供給することであって、前記供給の温度及び圧力で水飽和膜を得るために、前記保持物中のガスの分圧が、前記透過物中の前記ガスの分圧よりも高く、前記供給温度及び前記供給圧力で水飽和膜を得るため、加湿工程に供されることがなかった同一のCMSMと比較すると、透過における差が観察されるような圧力で実行される、プロセス。
【請求項9】
前記少なくとも2種類のガスが2~27の分極率を有し、前記少なくとも2種類のガスの少なくとも1種類が0.55nm未満の運動直径を有し、前記少なくとも2種類のガスが0.55nmよりも小さい前記運動直径を有する場合には、前記少なくとも2種類のガス間での前記運動直径の差が0.01nm以上であり、及び/又は前記少なくとも2種類のガス間での前記分極率の差が1m
3以上である、請求項8に記載のプロセス。
【請求項10】
前記少なくとも2種類のガスが、He、H
2O、Ne、H
2、NO、Ar、NH
3、N
2、O
2、CO、CO
2、CH
4、C
2H
4、C
2H
6、プロペン、プロパン、H
2S、メタノール、及びエタノールから選択される、請求項9に記載のプロセス。
【請求項11】
少なくとも2種類のガスを含む前記ガス混合物が、H
2/CH
4、H
2/N
2、H
2/CO
2、CO
2/CH
4、CO
2/N
2、O
2/N
2、並びに主にメタン及び二酸化炭素と、H
2、H
2S、N
2、及び水蒸気などのメタン及び二酸化炭素よりも少量の他のガスと、を含有するガス混合物であるバイオガスからなる群から選択される、請求項8~10のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項12】
前記ガス混合物が、5%~20%のH
2、及び95%~80%のCH
4を含み、工程c)が3bar以上の水素分圧差で、及び40℃以下の温度で実行される、請求項11に記載のプロセス。
【請求項13】
前記少なくとも2種類のガスがCO
2及びN
2であり、前記ガス混合物が10%~20%のCO
2及び65%~75%のN
2
を含む、請求項11に記載のプロセス。
【請求項14】
前記少なくとも2種類のガスがH
2及びCO
2であり、前記ガス混合物が55%~65%のH
2及び30%~40%のCO
2
を含む、請求項11に記載のプロセス。
【請求項15】
少なくとも2種類のガスを含む前記ガス混合物がバイオガスであり、CO
2はバイオガスから除去され、バイオガスはメタン及び二酸化炭素を含むガス混合物である、請求項11に記載のプロセス。
【請求項16】
溶媒を脱水するための、請求項1~3に定義されるような水飽和CMSM又は請求項7に記載の水飽和Al-CMSMの使用。
【請求項17】
メンブレンリアクタとしての、請求項1~3に定義されるような水飽和CMSM及び請求項7に記載の水飽和Al-CMSMの使用。
【手続補正2】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】
【手続補正3】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】
【国際調査報告】