(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-24
(54)【発明の名称】起立性低血圧緩和装置
(51)【国際特許分類】
A63B 21/055 20060101AFI20230316BHJP
A61B 5/022 20060101ALI20230316BHJP
A61B 5/0245 20060101ALI20230316BHJP
A61B 5/021 20060101ALI20230316BHJP
A63B 23/035 20060101ALI20230316BHJP
A63B 24/00 20060101ALI20230316BHJP
【FI】
A63B21/055
A61B5/022 400L
A61B5/0245 P
A61B5/0245 100T
A61B5/021
A63B23/035 A
A63B24/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022542351
(86)(22)【出願日】2021-01-27
(85)【翻訳文提出日】2022-09-02
(86)【国際出願番号】 GB2021050191
(87)【国際公開番号】W WO2021152308
(87)【国際公開日】2021-08-05
(32)【優先日】2020-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522275223
【氏名又は名称】メディコン アイルランド リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100149294
【氏名又は名称】内田 直人
(72)【発明者】
【氏名】コノリー,ロフレン
(72)【発明者】
【氏名】フォークス,ネイル
(72)【発明者】
【氏名】マクゴーワン,イグナティウス
【テーマコード(参考)】
4C017
【Fターム(参考)】
4C017AA08
4C017AA10
4C017FF21
(57)【要約】
貫通した開口を備えた外部ケーシング、外部ケーシング内に配置され、キャリッジ変位軸に沿って開口に向かけて及び開口から離れるように往復変位するように構成されたキャリッジ、キャリッジ上に配置され、スピンドル軸を中心として回転するように構成されたスピンドル、スピンドルの周囲に少なくとも部分的に巻き付けられているテザーであって、開口を通って延びる遠位端を備え、引き込み状態から伸長状態へと伸長可能であるように構成され、伸長状態では、遠位端を開口から引き離してスピンドルをスピンドル軸を中心として回転させることによってテザーが完全に伸長されるテザー、スピンドルに接続され、テザーを引き込み状態へと付勢するように、スピンドル軸を中心としてスピンドルに付勢トルクを加えるように構成されたスピンドル付勢機構、及び、キャリッジに接続された外部ケーシング内に配置され、キャリッジを開口から離れるように付勢するように構成されたキャリッジ付勢機構、を備える、起立性低血圧緩和装置。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通した開口を備えた外部ケーシング、
外部ケーシング内に配置され、キャリッジ変位軸に沿って開口に向かけて及び開口から離れるように往復変位するように構成されたキャリッジ、
キャリッジ上に配置され、スピンドル軸を中心として回転するように構成されたスピンドル、
スピンドルの周囲に少なくとも部分的に巻き付けられているテザーであって、開口を通って延びる遠位端を備え、引き込み状態から伸長状態へと伸長可能であるように構成され、伸長状態では、遠位端を開口から引き離してスピンドルをスピンドル軸を中心として回転させることによってテザーが完全に伸長されるテザー、
スピンドルに接続され、テザーを引き込み状態へと付勢するように、スピンドル軸を中心としてスピンドルに付勢トルクを加えるように構成されたスピンドル付勢機構、及び、
キャリッジに接続された外部ケーシング内に配置され、キャリッジを開口から離れるように付勢するように構成されたキャリッジ付勢機構、
を備える、起立性低血圧緩和装置。
【請求項2】
前記キャリッジ付勢機構は、前記キャリッジと前記外部ケーシングとの間に接続される、請求項1に記載の起立性低血圧緩和装置。
【請求項3】
前記キャリッジ付勢機構は、前記キャリッジ変位軸に実質的に平行な軸に沿って伸長する少なくとも1つのキャリッジ付勢バネを備える、請求項2に記載の起立性低血圧緩和装置。
【請求項4】
前記キャリッジ付勢バネは、バネ定数kを有し、kは前記テザーへの引張力が前記スピンドルが最初に回転し始める値まで増加すると、その値で前記キャリッジ付勢バネが部分的に圧縮されるか又は部分的に伸長される値を有する、請求項3に記載の起立性低血圧緩和装置。
【請求項5】
前記キャリッジ付勢バネは、バネ定数kを有し、kの値は、前記スピンドル付勢機構によって前記スピンドルに加えられる前記トルクと釣り合うトルクを前記スピンドルに発生させる引張力P
cが前記テザーに加えられたときに、前記キャリッジ付勢バネが部分的に圧縮されるか、又は部分的に伸長される値である、請求項3に記載の起立性低血圧緩和装置。
【請求項6】
前記スピンドル付勢機構は前記スピンドルと前記キャリッジとの間に接続される、請求項1から5のいずれか一項に記載の起立性低血圧緩和装置。
【請求項7】
前記スピンドル付勢機構は、ぜんまいバネを備える、請求項1から6のいずれか一項に記載の起立性低血圧緩和装置。
【請求項8】
前記キャリッジはキャリッジプレートと、前記キャリッジプレートに接続された内部ケーシングとを備え、前記スピンドル及び前記スピンドル付勢機構は前記内部ケーシング内に配置される、請求項1から7のいずれか一項に記載の起立性低血圧緩和装置。
【請求項9】
前記内部ケーシングは前記キャリッジプレートに取り外し可能に接続される、請求項8に記載の起立性低血圧緩和装置。
【請求項10】
前記キャリッジ変位軸に沿った前記キャリッジの位置を検出するための位置検出機構をさらに備える、請求項1から9のいずれか一項に記載の起立性低血圧緩和装置。
【請求項11】
前記位置検出機構は、前記外部ケーシングの内部に配置された第1の電気接点及び第2の電気接点を備え、前記第1の接点は前記第2の接点に近接しており、前記第1の接点及び前記第2の接点は、前記キャリッジが前記変位軸に沿って移動するときに、前記キャリッジが前記第1の接点に当接して前記第2の接点との接触を促すように配置される、請求項10に記載の起立性低血圧緩和装置。
【請求項12】
加速度計、血圧センサ及び脈拍計のうちの少なくとも1つをさらに備える、請求項1から11のいずれか一項に記載の起立性低血圧緩和装置。
【請求項13】
前記人体に接続するために前記外部ケーシングに接続されたストラップをさらに備える、請求項1から12のいずれか一項に記載の起立性低血圧緩和装置。
【請求項14】
前記ストラップはリストストラップである、請求項13に記載の起立性低血圧緩和装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、起立性低血圧緩和装置に関する。より詳細には、限定されないが、本発明は、外部ケーシング内に配置されたキャリッジを備え、当該キャリッジ上に、周囲にテザー(綱)が少なくとも部分的に巻き付けられたスピンドルを有する起立性低血圧緩和装置であって、前記キャリッジはキャリッジ付勢機構によって外部ケーシングから離れるように付勢され、前記テザーはスピンドルに接続されたスピンドル付勢機構によって引き込まれた状態に付勢される、起立性低血圧緩和装置に関する。
【背景技術】
【0002】
健康な状態では、人体は、安静位(座位又は臥位)から立位に変化することによって生じる血圧変化を迅速に感知して修正することができる。起立性低血圧(OH)は、身体の反射機構(自律神経系)の障害を表す状態であり、姿勢が変化した際に、又は長時間に亘る静立状態から、患者の血圧調節不能をもたらす。この血圧障害により、頭部などの解剖学的に上部にある身体部位への血流が減少する。これにより、立ちくらみ、めまい、失神、視覚変化、脱力、認知障害、気絶、狭心症及び脳卒中を引き起こすことがある。入院を余儀なくされる転倒などの二次的な続発症は更に重大な懸念であり、脳損傷、骨折、不動などの衰弱予後に一般的に関連し得る。OHは、理論上は生理学的に良性と考えられ場合もあるが、その有病率及び予後故に患者に広範な影響を及ぼす可能性がある。
【0003】
現在のOH治療には、原因となる薬剤の回避、水分補給の増加、起立前の飲料水のボーラス投与、食事制限及び物理的圧迫衣服又は物理的圧迫手技などの非薬理学的治療が含まれる。しかし、これらの治療は一般に実用的ではなく、複雑若しくは不快であったり、又は患者へのコンプライアンスが低いために有効でない場合がある。
【0004】
物理的圧迫手技の種類は臨床的に制限されており、OHを患う患者集団では、介助なしで行うことが困難な場合が多い。等速運動(isokinetic exercise)(例えば、立ち上がる前にウェイトを持ち上げること等)を行うと患者の血圧が上昇する可能性がある。しかし、血圧と患者が行う運動の速度及び力との間に相関関係がないため推奨されない。これは、安全な治療域を超える可能性のある血圧の大きな変動につながり、脳卒中又は動脈瘤の破裂などの合併症を引き起こす可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、これらの従来技術の課題を克服しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち、本発明は、起立性低血圧緩和装置(orthostatic hypotension alleviation device)であって、
貫通した開口を備えた外部ケーシング、
外部ケーシング内に配置され、キャリッジ変位軸に沿って開口に向かけて及び開口から離れるように往復変位するように構成されたキャリッジ(carriage)、
キャリッジ上に配置され、スピンドル軸を中心として回転するように構成されたスピンドル、
スピンドルの周囲に少なくとも部分的に巻き付けられているテザー(tether;綱)であって、開口を通って延びる遠位端を備え、引き込み状態(retracted configuration)から伸長状態(extended configuration)へと伸長可能であるように構成され、伸長状態では、遠位端を開口から引き離してスピンドルをスピンドル軸を中心として回転させることによってテザーが完全に伸長されるテザー、
スピンドルに接続され、テザーを引き込み状態へと付勢するように、スピンドル軸を中心としてスピンドルに付勢トルクを加えるように構成されたスピンドル付勢機構、及び、
キャリッジに接続された外部ケーシング内に配置され、キャリッジを開口から離れるように付勢するように構成されたキャリッジ付勢機構、
を備えた、起立性低血圧緩和装置を提供する。
【0007】
本発明の装置は、2つの付勢機構を採用している。これらにより、患者はわずかな力でテザーを伸長させることができるため、等速運動を行うことによる望ましくない影響を抑制することができるが、テザーが伸長されると、キャリッジ付勢機構によって与えられる比較的強い付勢力に抗して等尺運動(isometric exercise)を行うことができる。
【0008】
好ましくは、キャリッジ付勢機構は、キャリッジと外部ケーシングとの間に接続される。
【0009】
好ましくは、キャリッジ付勢機構は、キャリッジ変位軸に実質的に平行な軸に沿って伸長する少なくとも1つのキャリッジ付勢バネを備える。
【0010】
好ましくは、キャリッジ付勢バネは、バネ定数kを有し、kは、テザーへの引張力がスピンドルが最初に回転し始める値まで増加すると、その値でキャリッジ付勢バネが部分的に圧縮されるか又は部分的に伸長されるような値を有する。
【0011】
好ましくは、キャリッジ付勢バネは、バネ定数kを有し、kの値は、スピンドル付勢機構によってスピンドルに加えられるトルクと釣り合うトルクをスピンドルに発生させる引張力PCがテザーに加えられたときに、キャリッジ付勢バネが部分的に圧縮されるか、又は部分的に伸長されるような値である。
【0012】
好ましくは、スピンドル付勢機構はスピンドルとキャリッジとの間に接続される。
【0013】
好ましくは、スピンドル付勢機構は、ぜんまいバネを備える。
【0014】
好ましくは、キャリッジはキャリッジプレートと、キャリッジプレートに接続された内部ケーシングとを備え、スピンドル及びスピンドル付勢機構は内部ケーシング内に配置される。
【0015】
好ましくは、内部ケーシングはキャリッジプレートに取り外し可能に接続される。
【0016】
好ましくは、起立性低血圧緩和装置は、キャリッジ変位軸に沿ったキャリッジの位置を検出するための位置検出機構をさらに備える。
【0017】
好ましくは、位置検出機構は、外部ケーシングの内部に配置された第1の電気接点及び第2の電気接点を備え、第1の接点は第2の接点に近接しており、第1の接点及び第2の接点は、キャリッジが変位軸に沿って移動するときに、キャリッジが第1の接点に当接して第2の接点との接触を促すように配置される。
【0018】
好ましくは、起立性低血圧緩和装置は、加速度計、血圧センサ及び脈拍計のうちの少なくとも1つをさらに備える。
【0019】
好ましくは、起立性低血圧緩和装置は、人体に接続するために外部ケーシングに接続されたストラップをさらに備える。
【0020】
好ましくは、ストラップはリストストラップである。
【0021】
本発明は、添付の図面を参照して、限定的ではない例として説明される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】運動分野で使用するための公知の装置を示す図である。
【
図2】本発明の装置の第1の実施形態を示す図である。
【
図3】
図2の装置のキャリッジの下面を示す図である。
【
図5】本発明による装置のさらなる実施形態を示す図である。
【
図6】本発明による装置のさらなる実施形態を示す図である。
【
図7a】本発明による装置のさらなる実施形態を示す図である。
【
図7b】本発明による装置のさらなる実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1に公知の運動装置1を示す。装置1は、貫通した開口3を有するケーシング2を備える。ケーシング2の外側にはループ4が取り付けられている。ケーシング2内にはスピンドル軸を中心として自由に回転するスピンドル(図示せず)が配置されている。テザー5は、このスピンドルに巻き付けられて開口3を通って延びている。
【0024】
使用時に、使用者は片方の足にループ4を取り付ける。次に、使用者はテザー5を把持してケーシング2から上方に引き出し、引き込み状態から伸長状態へとテザー5を伸長させて等速運動を行う。ケーシング2内の調節可能な付勢手段が、テザー5を引き込み状態へと付勢し、テザー5を伸長させるときに使用者が行う操作をコントロールする。
【0025】
このような装置1は、パーソナルな運動分野に適用されるが、起立性低血圧緩和装置としての使用には適さない。実際、このような装置を患者が起立性低血圧を緩和するために使用することは危険であり得る。使用者が行う運動は等速運動(すなわち、実質的に一定の速度で抵抗に対して筋肉を収縮させることを含む運動)である。血圧と、使用者が行う運動の速度及び力との間には相関関係がない。これは、安全な治療域を超える可能性のある血圧の大きな変動につながり、脳卒中又は動脈瘤の破裂などの合併症を引き起こす可能性がある。
【0026】
図2には、本発明の起立性低血圧緩和装置10の第1の実施形態が概略的に示されている。装置10は、外側ケーシング壁12によって画定された外部ケーシング11を備える。開口13は、外部ケーシング壁12を貫通している。外部ケーシング11の上半分は、外部ケーシング11の中を可視化するために図示していない。
【0027】
外部ケーシング11内には、キャリッジプレート15を備えたキャリッジ14が配置されている。キャリッジプレート15は、キャリッジ変位軸16に沿って開口13に向かっておよび開口から離れるように往復変位するように構成されている。
【0028】
図3は、キャリッジ14の下面と外部ケーシング壁12の一部とを示す。キャリッジ14の下面は舌部17を備える。外部ケーシング壁12内には、対応する溝18が配置されている。使用時に、舌部17は溝18内に配置されるため、キャリッジ14はキャリッジ変位軸16に沿って移動するように拘束される。
【0029】
図2に戻ると、装置10は、キャリッジプレート15上に配置されたスピンドル19をさらに備える。スピンドル19は、本実施形態では、キャリッジ変位軸16に対して実質的に垂直なスピンドル軸20を中心に自由に回転できる。
【0030】
テザー21は、スピンドル19の周囲に部分的に巻き付けられている。テザー21の近位端22はスピンドル19に接続されている。テザー21の遠位端23は、図示されているように外部ケーシング壁12の開口13を通過して延びている。
図2では、テザー21は、引き込み状態で示されており、テザー21の大部分はスピンドル19の周りに巻き付けられ、テザー21の遠位端23のみが外部ケーシング11の開口13を通って延びている。テザー21の遠位端23を開口13から引き離すことによってスピンドル19は回転するため、テザー21は伸長状態へと伸びる。伸長状態では、テザー21は、もはやスピンドル19の周りに巻き付けられておらず、テザー21を引っ張ってもスピンドル19のさらなる回転は生じない。これについては、以下でより詳細に説明する。
【0031】
スピンドル付勢機構24が、スピンドル19とキャリッジ14との間に接続されている。本実施形態では、スピンドル付勢機構24は、ぜんまいバネ24である。明確にするため、ぜんまいバネ24の2つの端部のみが図示されている。スピンドル付勢機構24は、テザー21を引き込み状態に向けて付勢するように、スピンドル軸20を中心としてスピンドル19にトルクを加えるように構成されている。テザー21を部分的に伸長させ、次に、解放する場合、スピンドル付勢機構24によってスピンドル19に加えられたトルクは、スピンドル19を回転させ、引き込み状態に到達するまでテザー21を引き込む。
【0032】
装置10は、キャリッジ14と外部ケーシング11との間に配置されたキャリッジ付勢機構25さらに備える。キャリッジ付勢機構25は、キャリッジ14を開口13から離れるように付勢するように構成されている。本実施形態では、キャリッジ付勢機構25は、バネ定数Kを有するキャリッジ付勢バネ25を備え、キャリッジ付勢バネ25はキャリッジ変位軸16に実質的に平行な軸に沿って伸長する。
【0033】
図4(a)は、テザー21が引き込み状態にある装置10を上から見た概略図である。ここでも、明確にするために、ぜんまいバネ24の端部のみが示されている。また、開口13に近接した外部ケーシング壁12の一部のみが図示されている。使用時に、患者は片手で外部ケーシング11を把持し、他方の手でテザー21の遠位端を把持する。あるいは、装置10は比較的コンパクトであるため、患者は、外部ケーシング11に接続されたリストストラップによって手首につなぐことができ、これによって片手操作を可能にする。次に、患者はテザー21の遠位端23を引っ張り始める。最初は、患者によって加えられる力は小さい。この引張力により、テザー21に張力が発生し、これは、スピンドル軸20を中心としてスピンドル19にトルクを発生させる。このトルクは、ぜんまいバネ24によってスピンドル軸20を中心としてスピンドル19に加えられる逆方向のトルクよりも小さいため、スピンドル19は回転しない。しかしながら、この張力は、キャリッジ付勢バネ25のわずかな圧縮を引き起こし、
図4(b)に示すように、キャリッジ14をキャリッジ変位軸16に沿って開口13に向かってわずかに変位させる。
【0034】
次に、患者は、テザー21への引張力を値Pcまで増加させる。この時点で、スピンドル軸20を中心としてスピンドル19に加えられるトルクは、反対方向のスピンドル付勢機構24によってスピンドル19に加えられるトルクと釣り合う。
【0035】
次に、患者は、P
cを超えるようにテザー21への引張力を増加させる。すると、テザー21によってスピンドル19に生じたトルクは、ぜんまいバネ24によって生じた反対方向のトルクを超える。したがって、スピンドル19は回転し始め、この引張力を維持することによって、患者は、引き込み状態から
図4(c)に示す伸長状態へとテザー21を伸長させることができる。伸長状態では、テザー21はスピンドル19から完全に解かれ、スピンドル19はそれ以上回転しない。
【0036】
ぜんまいバネ24によってスピンドル19に加えられるトルクは比較的小さい。したがって、患者は、テザー21を、引き込み状態から伸長状態へと、容易に外部ケーシング11から引っ張ることができる。この時点で患者が等速運動を行っている間、関与する力は小さく、患者の血圧の有意な上昇を引き起こさない。
【0037】
テザー21が伸長状態になると、患者は引張力をさらに増加させる。スピンドル19が回転しなくなると、この引張力の増加によってキャリッジ付勢バネ25は
図4(d)に示すように圧縮される。キャリッジ付勢バネ25は比較的硬いバネ(すなわち、高いバネ定数を有する)であるため、キャリッジ付勢バネ25の実質的な圧縮を生じさせるためには、引張力の比較的大きな増加が必要とされる。
【0038】
患者が所望の引張力(典型的には20~100Nの範囲)でテザー21を引張ると、患者は、キャリッジ付勢バネ25の付勢力に抗してテザー21を静止状態に保持し、等尺運動(isometric exercise)(すなわち、力が加えられるが筋肉の伸縮はしない運動)を行う。等尺運動により、患者の血圧を制御しながら上昇させる。患者が、テザー21を、キャリッジ付勢バネ25の付勢力に抗して、所望の時間テザーを保持した後、患者はテザー21を解放し、このテザー21はぜんまいバネ24によって引き戻されて引き込み状態に戻る。
【0039】
一般的に言えば、キャリッジ付勢バネ25は、バネ定数kを有する。このkの値は、スピンドル付勢機構24によってスピンドル19に加えられたトルクと釣り合うトルクをスピンドル19に発生させるためにテザー21に引張力Pcが加えられたときに、キャリッジ付勢バネ25が部分的に圧縮されるような値である。言い換えれば、テザー21への引張力が、スピンドル19が最初に回転し始める値まで増加すると、この引張力の値でキャリッジ付勢バネ25は部分的に圧縮される。バネ定数が小さすぎると、スピンドル付勢バネ25は完全に圧縮されてから、スピンドル19が回転し始める。すると、患者は、テザー21が伸長状態に達した後にキャリッジ付勢バネ25がさらに圧縮されることによって、次のコントロールされた等尺運動を行うことができない。
【0040】
図5には、本発明による起立性低血圧緩和装置10の代替的実施形態が示されている。本実施形態では、キャリッジ付勢バネ25は、キャリッジ14を挟んで開口13と反対側にある。本実施形態では、キャリッジ付勢バネ25は、動作中に使用者によって圧縮されるのではなく伸長される。ここでも、キャリッジ付勢バネ25のバネ定数及びぜんまいバネ24によって与えられるトルクは、テザー21が引き込み状態から伸長状態に到達したときに、キャリッジ付勢バネ25が部分的にのみ伸長されるように選択される。本実施形態では、キャリッジ付勢バネ25が完全な伸長を超えて伸長して塑性変形するのを防止するためにエンドストップ26が採用される。
【0041】
図2の実施形態では、テザー21が引き込み状態にあり、テザー21に張力がない場合、キャリッジ付勢バネ25は中立位置にある、すなわち、伸長も圧縮もされていない。本発明の代替的実施形態では、装置10がこの状態にあるとき、キャリッジ付勢バネ25は部分的に圧縮されるため、キャリッジ14を開口13からできるだけ離れるように付勢している。この実施形態の動作は、
図2の動作と同じであるが、テザー21が引張されたとき、キャリッジ14は、テザー21が伸長状態に到達し、引張力がキャリッジ付勢バネ25によってキャリッジ14に加えられる力を超える値に増加されるまで、開口13に向かって移動しない。
【0042】
本発明による装置10のさらなる実施形態が
図6に示されている。本実施形態では、キャリッジ14は、キャリッジプレート15に接続された内部ケーシング27をさらに備える。スピンドル19及びスピンドル付勢機構24は内部ケーシング27内に配置されている。スピンドル付勢機構24はスピンドル19と内部ケーシング27との間に伸長している。好ましくは、内部ケーシング27、スピンドル19、テザー21及びスピンドル付勢機構24が必要に応じて単一のユニットとして取り外し及び交換することができるように、内部ケーシング27はキャリッジプレート15に取り外し可能に接続されている。
【0043】
図4a~
図4dを参照して説明したように、テザー21が伸長状態に達すると、患者は引張力を増加させてキャリッジ付勢バネ25を圧縮させ、キャリッジ14を開口13に向かって移動させる。したがって、キャリッジ14の位置は、引張力(言い換えれば、テザー21の引張力)の関数である。患者又は装置10のいずれかに望ましくない副作用をもたらすことがあるため、患者が所定の引張力のみを加え、特に所定の引張力を超えないことが望ましい場合が多い。本発明による装置10のさらなる実施形態が、垂直断面として概略的に
図7aに示されている。本実施形態は、キャリッジ14の位置を決定するための位置検出機構28をさらに備える。位置検出機構28は、外部ケーシング11内に配置された第1の電気接点及び第2の電気接点29を備え、図示されているように、第1の接点29は第2の接点29から離れているが第2の接点29に近接している。
【0044】
患者がテザー21への引張力を増加させると、キャリッジ14は第1の電気接点29に向かって移動して当接する。患者が引張力を増加させるにつれて、キャリッジ14はさらに開口13の近くへと移動し、第1の電気接点29を第2の電気接点29に向けて傾ける。患者が加える引張力が所定の引張力に達すると、
図7bに示すように、第1の電気接点29は第2の電気接点29に接触する。装置は、この時点で、テザー21の張力が典型的に20~100Nの範囲にあるように設計されている。電気回路30が第1の電気接点29及び第2の電気接点29に接続され、2つの接点29が接触したときに音又は光などの警告を発するように構成されている。患者は、警告が発せられるまで力を増加させてテザー21を簡単に引っ張ることができ、次にテザー21をその位置に保持して所望の等尺運動を行う。
【0045】
電気回路30は、さらなる機能を提供することができる。回路30は、患者が所望の期間、等尺運動を行ったときに第2の警告を発することができるタイマーを備えていてもよい。タイマーはプログラム可能であってもよい。回路30は、運動が行われた時間及び運動の継続時間などのデータをさらに記憶してもよく、これらは後の分析のためにダウンロードすることができる。
【0046】
本発明のさらなる実施形態では、装置10は、血圧モニタ及び脈拍数モニタをさらに備える。血圧モニタは、運動中に患者の血圧が安全なレベルを超えた場合に警報を発するように適合されている。同様に、脈拍数モニタは、運動中に患者の脈拍数が安全なレベルを超えた場合に警告を発するように適合されている。両方のモニタは、後の分析のためにデータを記憶するように構成されていてもよい。装置10は、使用中に装置10の動きを測定するための加速度計をさらに備えていてもよい。
【国際調査報告】