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特表2023-512242ヒト神経細胞またはヒトグリア細胞が産生した組換えヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)によるムコ多糖症IIの治療
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-24
(54)【発明の名称】ヒト神経細胞またはヒトグリア細胞が産生した組換えヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)によるムコ多糖症IIの治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 48/00 20060101AFI20230316BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20230316BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20230316BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230316BHJP
   A61K 31/573 20060101ALI20230316BHJP
   A61K 31/505 20060101ALI20230316BHJP
   A61K 31/42 20060101ALI20230316BHJP
   A61K 31/155 20060101ALI20230316BHJP
   A61K 31/136 20060101ALI20230316BHJP
   A61K 31/122 20060101ALI20230316BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230316BHJP
   A61B 5/055 20060101ALI20230316BHJP
   A61K 31/436 20060101ALI20230316BHJP
   A61K 38/46 20060101ALN20230316BHJP
   C12N 15/55 20060101ALN20230316BHJP
   C12N 15/85 20060101ALN20230316BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20230316BHJP
   C12N 15/864 20060101ALN20230316BHJP
【FI】
A61K48/00
A61K35/76 ZNA
A61P3/00
A61P43/00 105
A61P43/00 111
A61K31/573
A61K31/505
A61K31/42
A61K31/155
A61K31/136
A61K31/122
A61K45/00
A61B5/055 380
A61K31/436
A61K38/46
C12N15/55
C12N15/85 Z
C12N15/113 Z
C12N15/864 100Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022546049
(86)(22)【出願日】2021-01-28
(85)【翻訳文提出日】2022-09-22
(86)【国際出願番号】 US2021015446
(87)【国際公開番号】W WO2021154963
(87)【国際公開日】2021-08-05
(31)【優先権主張番号】63/066,625
(32)【優先日】2020-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/967,494
(32)【優先日】2020-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/088,305
(32)【優先日】2020-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518362720
【氏名又は名称】レジェンクスバイオ インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン ジョセフ パコーラ
(72)【発明者】
【氏名】パウロ ファラベーラ
(72)【発明者】
【氏名】マリー‐ロール ネボレ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C087
4C096
4C206
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA13
4C084AA22
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA22
4C084BA34
4C084DC22
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA10
4C084NA14
4C084ZB211
4C084ZB352
4C084ZC191
4C084ZC211
4C084ZC411
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC42
4C086BC67
4C086CB22
4C086DA10
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZB08
4C086ZB35
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BC83
4C087CA08
4C087CA12
4C087MA66
4C087NA10
4C087NA14
4C087ZB21
4C087ZC19
4C087ZC21
4C087ZC41
4C096AB41
4C096AC01
4C096AD14
4C096DC22
4C096DC24
4C206AA01
4C206AA02
4C206CB27
4C206HA10
4C206JA20
4C206KA01
4C206MA03
4C206MA04
4C206NA05
4C206ZB35
(57)【要約】
ムコ多糖症II型(MPS II)の診断を受けたヒト対象の中枢神経系(CNS)の脳脊髄液に、ヒト神経細胞またはヒトグリア細胞が産生した組換えヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)を送達する組成物及び方法を記載している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ムコ多糖症II型(MPS II)の診断を受けたヒト対象の治療方法であって、前記ヒト対象の脳脊髄液(CSF)に、ヒト神経細胞またはヒトグリア細胞が産生したグリコシル化組換えヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)前駆体の治療有効量を送達することを含み、前記グリコシル化組換えヒトIDS前駆体は、ヒトIDSをコードする組換えヌクレオチド発現ベクターの投与によって送達され、前記組換えヌクレオチド発現ベクターは、前記ヒト対象の脳質量に応じた用量で投与され、前記脳質量は、前記ヒト対象の脳の脳磁気共鳴画像(MRI)で決定される、前記方法。
【請求項2】
前記グリコシル化組換えヒトIDS前駆体が、検出可能なレベルで分泌される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ヒト神経細胞またはヒトグリア細胞が、ヒトIDS前駆体をコードする内因性遺伝子に少なくとも1つの変異を有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ヒト神経細胞またはヒトグリア細胞が、組換えアデノ随伴ウイルスベクター(rAAV)で形質導入される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記グリコシル化組換えヒトIDS前駆体が、CB7プロモーターの制御下で発現する、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記グリコシル化組換えヒトIDS前駆体が、ヒトIDS前駆体をコードするcDNAから発現する、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記グリコシル化組換えヒトIDS前駆体が、ポリアクリルアミドゲル電気泳動で測定して約90kDaである、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記グリコシル化組換えヒトIDS前駆体が、ホルミルグリシンを含有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記グリコシル化組換えヒトIDS前駆体が、(a)α2,6-シアル化を受けている、(b)検出可能なNeuGcを含まない、(c)検出可能なα-Gal抗原を含まない、(d)チロシン-硫酸化を含む、及び/または、(e)マンノース-6-リン酸化を受けている、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記グリコシル化組換えヒトIDS前駆体が、配列番号1のアミノ酸配列を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記組換えヌクレオチド発現ベクターが、AAV9またはAAVrh10ベクターである、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記ヒト対象者の脳質量が、前記ヒト対象者の脳体積cmに、1.046g/cmの係数を乗じて、前記ヒト対象者の脳体積から変換され、前記ヒト対象者の脳体積は、前記ヒト対象者の脳MRIから得られる、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記組換えヌクレオチド発現ベクターが、MRIで決定した脳質量1gあたり約1.3×1010GC、またはMRIで決定した脳質量1gあたり約6.5×1010GCの用量で投与される、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記組換えヌクレオチド発現ベクターが、MRIで決定した脳質量1gあたり約2.0×1011GCの用量で投与される、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記ヒト対象者が、5歳以上、かつ18歳未満である、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記組換えヌクレオチド発現ベクターが、MRIで決定した脳質量1gあたり約6.5×1010GCの用量で投与される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記組換えヌクレオチド発現ベクターが、以下の表に記載の用量で投与される、請求項15に記載の方法:
【表1】
【請求項18】
前記ヒト対象が、4か月齢以上、かつ5歳未満である、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記組換えヌクレオチド発現ベクターが、以下の表に従って、用量1または用量2から選択される用量で投与される、請求項18に記載の方法:
【表2】
【請求項20】
前記組換えヌクレオチド発現ベクターが、以下の表に記載の用量で投与される、請求項18に記載の方法:
【表3】
【請求項21】
前記組換えヌクレオチド発現ベクターが、大槽内(IC)投与を介して投与される、請求項1~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記組換えヌクレオチド発現ベクターが、脳室内(ICV)投与を介して投与される請求項1~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記組換えヌクレオチド発現ベクターが、前記ヒト対象の脳脊髄液の総体積の10%を超えない体積で投与される、請求項1~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記グリコシル化組換えヒトIDS前駆体が、前記ヒト対象のCNSの細胞内のリソソームに対して送達される、請求項1~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記ヒトIDS前駆体治療を行う前に、または同時に、ヒト対象に対して免疫抑制療法を実施し、その後に、任意に、免疫抑制療法を継続することをさらに含む、請求項1~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記免疫抑制療法が、1つ以上のコルチコステロイド、シロリムス、及び/またはタクロリムスを投与することを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記1つ以上のコルチコステロイドが、メチルプレドニゾロン、及び/またはプレドニゾンである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
免疫抑制療法を行う前に、または同時に、1つ以上の抗生物質を、ヒト対象に対して投与することをさらに含む、請求項25~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記1つ以上の抗生物質が、トリメトプリム、スルファメトキサゾール、ペンタミジン、ダプソン、及び/またはアトバコンである、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
免疫抑制療法を行う前に、または同時に、1つ以上の抗真菌療法を、ヒト対象に対して実施することをさらに含む、請求項25~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記組換えヌクレオチド発現ベクターを投与した後に、次のバイオマーカーのうちの1つ以上を測定するステップをさらに含む、請求項1~30のいずれか1項に記載の方法:(a)CSF中のグリコサミノグリカン(GAG)のレベル、(b)CSF中のイズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)のレベル、(c)血漿中のGAGのレベル;(d)血漿中のI2Sのレベル、(e)白血球I2S酵素活性のレベル、及び(f)尿中のGAGのレベル。
【請求項32】
前記CSF中のGAGが、CSF中のヘパリン硫酸を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記CSF中のGAGが、CSF中のヘパリン硫酸である、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記血漿中のGAGが、血漿中のヘパリン硫酸を含む、請求項31~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記血漿中のGAGが、血漿中のヘパリン硫酸である、請求項31~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
前記尿中のGAGが、尿中のヘパリン硫酸を含む、請求項31~35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
前記尿中のGAGが、尿中のヘパリン硫酸である、請求項31~35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
前記測定のステップが、CSF中のヘパリン硫酸のレベルを測定することを含む、請求項31~37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記測定のステップが、白血球I2S酵素活性のレベルを測定することを含む、請求項31~38のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2020年10月06日出願の米国仮出願第63/088,305号、2020年8月17日出願の米国仮出願第63/066,625号、及び2020年1月29日出願の米国仮出願第62/967,494号の利益を主張し、当該出願のそれぞれの全内容を、参照により、本明細書で援用する。
【0002】
電子的に提出した配列表の援用
本願は、本出願と一緒に提出した、2021年1月12日に作成した、172,339バイトのサイズを有する「Sequence_Listing_12656-129-228.TXT」の名称を付したテキストファイルの配列表を、参照により、援用する。
【0003】
1.前書き
ムコ多糖症II型(MPS II)の診断を受けたヒト対象の中枢神経系(CNS)の脳脊髄液(CSF)に、ヒト神経細胞またはヒトグリア細胞が産生した組換えヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)を送達する組成物及び方法を記載する。
【背景技術】
【0004】
2.発明の背景
ハンター症候群/MPS IIは、出生男児10万人当たり0.5~1.3人に認められる稀少なX連鎖劣性遺伝性疾患である。進行性であり、かつ深刻なこの疾患は、ヘパラン硫酸、及びデルマタン硫酸のリソソーム異化作用に必要な酵素であり、また、リソソーム貯蔵酵素であるイズロン酸-2-スルファターゼの欠損を招くIDS遺伝子の遺伝子変異に起因している。GAG(グリコサミノグリカン)と称するこれらの普遍的な多糖類は、MPS II患者の組織及び臓器に蓄積し、その結果、特徴的な貯蔵病変と、多様な疾患後遺症をもたらす。この患者集団での罹患率及び死亡率は高く、重度の表現型(神経認知の悪化を特徴とする)の患者での平均寿命は11.7歳であり、軽度または弱度の表現型の患者での平均寿命は21.7歳である、と報告されている。(Young et al.,1982,A clinical and genetic study of Hunter’s syndrome.2 Differences between the mild and severe forms.J.Medical Genetics 19:408-411)。患者の大多数(3分の2)が、この疾患の重症型であると報告されている。(Wraith JE,et al.,2007,Enzyme replacement therapy in patients who have mucopolysaccharidosis I and are younger than 5 years:Results of a multinational study of recombinant human alpha-L-Iduronidase (Laronidase).Pediatrics 120(1):E37-E46)。この疾患は、主に男児が罹患するが、罹患した女性は、遺伝子の双方の対立遺伝子での非ランダムX不活性化、及び/または変異に起因すると報告されている。(Martin et al.,2008,Recognition and diagnosis of mucopolysaccharidosis II (Hunter Syndrome)。Pediatrics 121:e377)。しかしながら、女性でのMPS IIは非常に稀であり、2%未満の確率でしか発生しない。
【0005】
MPS IIの患者は、出生時には正常に見えるが、疾患の徴候及び症状は、一般的には、重症型では18か月齢~4歳の間に、軽症型では4~8歳の間に出現する。罹患したすべての患者に共通する徴候及び症状として、低身長、顔表面の粗雑化、巨頭症、巨大舌、難聴、肝腫大及び脾腫、多発異骨症、関節性拘縮、脊柱管狭窄、及び手根管症候群がある。上気道及び耳の感染症は、大抵の患者で認められることが多く、また、進行性の気道閉塞が一般的に認められており、睡眠時無呼吸を招いて、死に至ることがよくある。心臓病が、この集団での主な死因であり、左右の心室肥大と心不全を招く弁膜機能障害を特徴としている。一般的な死亡原因は、閉塞性気道疾患または心不全である。
【0006】
重症型の疾患では、初期発達の重要な段階には達し得るが、発達遅延が18~24か月齢で容易に認められる。一部の患者は、1歳時の聴力スクリーニング検査に合格することができず、また、他の発達段階、例えば、補助なしに座る能力、歩行する能力、発話に遅れが認められる。発達の進行は、3歳~5歳の間に停滞し始め、約6.5歳から退行が始まると報告されている。トイレの練習を行ったMPS IIの子供の約50%の内、すべてではないにしても、大多数の子供が、疾患が進行するにつれて、トイレを使うことができなくなってしまう。(Wraith et al.,2007(上記)、Martin et al.,2008(上記))。
【0007】
著しい神経疾患を有する患者は、多動性、頑固さ、及び攻撃性などの重度の行動障害を示し、この障害は、2歳から始まり、神経変性が、この行動を弱める8~9歳まで続く。(Muenzer,et al.,2009,Mucopolysaccharidosis I:Management and Treatment Guidelines,Pediatric 123(1):19-29)。
【0008】
10歳に達する重症患者の半数以上で発作が報告されており、死亡時までに、CNS疾患を有するほとんどの患者は、重度の精神障害を有しており、また、常に世話をする必要がある。(Wraith et al.,2007(上記)、Martin et al.,2008(上記))。重症でない疾患を有する患者は、知的機能は正常であるが、MRI画像は、MPS IIの全患者について、白質病変、脳室肥大、及び脳萎縮などの脳全体での異常を明らかにする。(Muenzer,et al.,2009(上記))。
【0009】
HT1080(線維肉腫)細胞が産生する組換えイデュルスルファーゼを使用する酵素補充療法(ERT)(Elaprase(登録商標)、Shire Human Genetic Therapies)は、ハンター症候群の治療用に承認を受けた唯一の製品であり、これは、毎週注入して投与される。(ELAPRASE(イデュルスルファーゼ)注射薬[添付文書],Lexington,MA:Shire Human Genetic Therapies,Inc;2013,http://pi.shirecontent.com/PI/PDFs/Elaprase_USA_ENG.pdfから入手可能である)。
【0010】
しかしながら、現在実施されているERTは、血液脳関門を通過せず、したがって、重症型の疾患、すなわち、CNS/神経認知及び行動に影響が及ぶMPS IIを有する患者に対処できない。この問題に対処するために設計された最近の臨床試験では、脊椎に埋め込んだ、くも膜下腔内薬物送達装置(下肋骨を切開してアクセスポートを移植して、L4/L5のレベルでカテーテルを挿入する)を使用して、くも膜下腔内投与用製剤されたイデュルスルファーゼ(Elaprase)を、小児患者に、月1回投与した。また、患者には、週1回、イデュルスルファーゼを同時に静脈内に注射した。Muenzer et al.,2016,Genetics in Med 18:73-81,esp.p.74を参照されたい。要約は、https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25834948?dopt=Abstractから入手可能である。装置の誤動作があり、治療を受けた12名の患者の内の6名(50%)で装置の一部変更、外科的全変更、または除外があった。特記すべきは、14件のSAE(重度の有害事象)の内の12件は、装置関連(装置挿入に起因する合併症、装置の移動/接続の問題、装置の破損/誤動作/故障、インプラント部位感染、処置痛、及び創傷離開)によるものであった。(Muenzer et al.,2016,p.75(第2段及び図1))。装置破損、及び脊柱管からのカテーテル移動は、この小児集団での活動レベルの大きさに起因して悪化した。(Muenzer et al.,2016 at p.78 Discussion)。
【発明の概要】
【0011】
3.発明の概要
本発明は、ハンター症候群の診断を受けた患者を含むが、これに限定されないムコ多糖症II型(MPS II)の診断を受けたヒト対象の中枢神経系(CNS)の脳脊髄液(CSF)に向けて、ヒト神経細胞またはヒトグリア細胞が産生した組換えヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(rhIDS)を送達することを含む。
【0012】
好ましい実施形態では、治療は、遺伝子治療を介して、ヒトIDS(hIDS)、またはhIDSの誘導体をコードするウイルスベクター、またはその他のDNA発現コンストラクトを、MPS IIの診断を受けた患者(ヒト対象)のCSFに投与して、継続的に導入遺伝子産物をCNSに供給する形質導入した神経細胞、及び/またはグリア細胞の永続的なデポーを作り出すことで達成する。神経細胞/グリア細胞デポーからCSFに分泌されたrhIDSは、CNSで細胞によって取り込まれて、レシピエント細胞での酵素欠損を「横断修正」する。さらに、予期せぬことに、CNSにある形質導入した神経細胞及びグリア細胞のデポーが、組換え酵素をCNS及び全身の両方に送達することができ、全身治療、例えば、毎週、酵素を静脈内注射する必要性を緩和または解消し得ることが判明した。
【0013】
代替の実施形態では、hIDSを、ヒト神経細胞またはヒトグリア細胞の細胞培養物(例えば、バイオリアクター)において生産して、酵素補充療法(「ERT」)として、例えば、CSFに、CNSに直接に、及び/または全身に酵素を注入することにより、投与することができる。しかしながら、酵素は血液脳関門を通過できないので、酵素の全身送達ではCNSの治療をもたらさず、本発明の遺伝子治療手法とは異なり、CNSへの酵素の直接の送達は、大きな負担を強いるだけでなく、感染のリスクを招く反復注射が必要となるので、遺伝子治療手法は、ERTを上回る幾つかの利点を提供する。
【0014】
導入遺伝子がコードするhIDSは、限定するものではないが、配列番号1のアミノ酸配列を有するヒトIDS(hIDS)(図1に示す)、及びアミノ酸の置換、欠失、または付加を有する、例えば、限定するものではないが、図2に示すIDSのオーソログに対応する非保存的残基から選択するアミノ酸置換などのhIDSの誘導体を含むことができる。ただし、そのような変異は、酵素活性に必要な位置84(C84)のシステイン残基の置換を含まない(Millat et al.,1997,Biochem J 326:243-247)、または、例えば、図3に示すように、または、各々を、参照により、その全内容を本明細書で援用する、Sukegawa-Hayasaka et al.,2006,J Inhert Metab Dis 29:755-761(「弱度」変異体R48P、A85T、W337R、及び切断型変異体Q531X、及び、「重度」変異体P86L、S333L、S349I、R468Q、R468Lを報告している)、Millat et al.,1998,BBA 1406:214-218(「弱度」変異体P480L、及びP480Q、及び「重度」変異体P86Lを報告している)、及び、Bonucelli et al.,2001,BBA 1537:233-238で報告されているような、重度、重度-中等度、中等度、または弱度MPS II表現型において同定されている変異を含まないことを条件とする。
【0015】
例えば、hIDSの特定位置でのアミノ酸置換は、図2に配置させて示したIDSオーソログでの当該位置に認められる対応する非保存的アミノ酸残基から選択することができる。ただし、図3に示したような、または、その各々を、参照により、その全内容を本明細書で援用する、Sukegawa-Hayasaka et al.,2006(上記)、Millat et al.,1998(上記)、及び、Bonucelli et al.,2001(上記)で報告されているような、いかなる有害な変異も含まないことを条件とする。結果として得られる導入遺伝子産物は、細胞培養または試験動物で、インビトロでの従来のアッセイを使用して試験し、変異がIDS機能を損なわないことを保証することができる。選択される好ましいアミノ酸置換、欠失、または付加は、細胞培養または動物モデルでのMPS IIのためのインビトロでの従来のアッセイで試験して、IDSの酵素活性、安定性、または半減期を維持する、または増加させるものであるべきである。例えば、導入遺伝子産物の酵素活性は、基質として、例えば、4-メチルウンベリフェリル α-L-イドピラノシズロン酸 2-硫酸塩、または4-メチルウンベリフェリル硫酸塩を用いる従来の酵素アッセイを使用して評価することができる(使用可能な例示的なIDS酵素アッセイについては、例えば、各々の全内容を、参照により、本明細書で援用する、Lee et al.,2015,Clin.Biochem.48(18):1350-1353、Dean et al.,2006,Clin.Chem.52(4):643-649を参照されたい)。導入遺伝子産物がMPS II表現型を修正する能力を、細胞培養で評価することができ、例えば、培養しているMPS II細胞に、hIDSまたは誘導体をコードするウイルスベクターまたはその他のDNA発現コンストラクトを形質導入すること、培養しているMPS II細胞に、導入遺伝子産物または誘導体を加えること、または、MPS II細胞を、rhIDSまたは誘導体を発現及び分泌するように遺伝子操作したヒト神経宿主細胞/ヒトグリア宿主細胞と共培養し、MPS II培養細胞の欠陥の修正を例えば、培養しているMPS II細胞でのIDS酵素活性、及び/またはGAG貯蔵量の低下を検出することにより決定すること(例えば、全内容を、参照により、本明細書で援用するStroncek et al.,1999,Transfusion 39(4):343-350を参照されたい)により、評価することができる。好ましい実施形態では、GAG貯蔵の減少は、ヘパラン硫酸(HS)貯蔵の減少である。別の実施形態では、GAG貯蔵の減少は、デルマタン硫酸(DS)貯蔵の減少である。別の実施形態では、GAG貯蔵の減少は、HS貯蔵及びDS貯蔵の両方の減少である。
【0016】
MPS IIのための動物モデルは、本明細書に記載する治療薬を評価するために使用することができることが記載されている。例えば、MPS IIのノックアウトマウスモデル(IDSノックアウト)が、IDS遺伝子のエクソン4及び5を、ネオマイシン耐性遺伝子で置換して開発された。(Garcia et al.,2007,J Inherit Metab Dis 30:924-34)。このIDSノックアウトマウスは、骨格異常、肝脾腫大症、尿及び組織GAGの上昇、及び脳貯蔵病変などのMPS IIの数多くの特徴を示しており(Muenzer et al.,2001,Acta Paediatr Suppl 91:98-99)、ERTの臨床試験を支援するためにMPS IIでの酵素補充療法の効果を評価するために使用された。したがって、このマウスモデルは、MPS IIの治療法として、神経細胞またはグリア細胞が産生するrIDSを送達する遺伝子療法の効果を研究するための適切なモデルである(例えば、参照により、全内容を本明細書で援用する、Polito and Cosma,2009,Am.J.Hum.Genet.85(2):296-301を参照されたい)。
【0017】
好ましくは、ヒト神経細胞/ヒトグリア細胞が産生するhIDS導入遺伝子は、神経細胞及び/またはグリア細胞において機能する発現制御エレメント、例えば、CB7プロモーター(ニワトリβ-アクチンプロモーター、及びCMVエンハンサー)で制御されるべきであり、ベクターによって駆動する導入遺伝子の発現を増強するその他の発現制御エレメント(例えば、ニワトリβ-アクチンイントロン、及びウサギβ-グロビンポリAシグナル)を含むことができる。hIDS導入遺伝子のためのcDNAコンストラクトには、形質導入したCNS細胞による適切な翻訳中プロセシング及び翻訳後プロセシング(グリコシル化及びタンパク質硫酸化)を保証するシグナルペプチドのためのコード配列を含めるべきである。CNS細胞で使用するそのようなシグナルペプチドとして、限定されないが、以下が挙げられ得る。
オリゴデンドロサイト-ミエリン糖タンパク質(hOMG)シグナルペプチド:
MEYQILKMSLCLFILLFLTPGILC(配列番号2)
E1A刺激遺伝子の細胞リプレッサー2(hCREG2)シグナルペプチド:
MSVRRGRRPARPGTRLSWLLCCSALLSPAAG(配列番号3)
V-セット及び膜貫通ドメイン含有2B(hVSTM2B)シグナルペプチド:
MEQRNRLGALGYLPPLLLHALLLFVADA(配列番号4)
プロトカドヘリンアルファ-1(hPCADHA1)シグナルペプチド:
MVFSRRGGLGARDLLLWLLLLAAWEVGSG(配列番号5)
FAM19A1(TAFA1)シグナルペプチド:
MAMVSAMSWVLYLWISACA(配列番号6)
インターロイキン-2シグナルペプチド:
MYRMQLLSCIALILALVTNS(配列番号14)
シグナルペプチドは、本明細書では、リーダー配列またはリーダーペプチドとも称することができる。
【0018】
導入遺伝子を送達するために使用される組換えベクターは、神経細胞及び/またはグリア細胞など、これらに限定されない、CNSでの細胞への向性を有すべきである。そのようなベクターは、非複製組換えアデノ随伴ウイルスベクター(「rAAV」)を含むことができ、特に、AAV9またはAAVrh10キャプシドを有するウイルスベクターが好ましい。限定するものではないが、全内容を、参照により、本明細書で援用する米国特許第7,906,111号においてWilsonが記載した、特に好ましくは、AAV/hu.31及びAAV/hu.32を有するAAVバリアントキャプシド、ならびに、各々の全内容を、参照により、本明細書で援用する米国特許第8,628,966号、米国特許第8,927,514号、及びSmith et al.,2014,Mol Ther 22:1625-1634においてChatterjeeが記載したAAVバリアントキャプシドを使用することができる。しかしながら、レンチウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、または「ネイキッドDNA」コンストラクトと称する非ウイルス性発現ベクターを含むがこれらに限定されない、その他のウイルスベクターを使用することができる。
【0019】
ある実施形態では、コンストラクト1を、導入遺伝子を送達するために使用することができる。コンストラクト1は、ヒトイズロン酸-2-スルファターゼ発現カセットを含む組換えアデノ随伴ウイルス血清型9キャプシドであり、発現は、サイトメガロウイルス(CMV)エンハンサーと、ニワトリベータアクチンプロモーター(CB7)のハイブリッドにより誘導され、当該IDS発現カセットは、逆方向末端反復(ITR)に隣接しており、当該導入遺伝子は、ニワトリベータアクチンイントロンと、ウサギベータ-グロビンポリアデニル化(ポリA)シグナルを含む。好ましい実施形態では、ITRは、AAV2 ITRである。ある実施形態では、コンストラクト1は、配列番号45のヌクレオチド配列を含む核酸を含む。
【0020】
CSFへの投与に好適な医薬組成物は、生理的に適合性の水性緩衝剤、界面活性剤、及び任意の賦形剤を含む製剤緩衝液でのrhIDSベクターの懸濁液を含む。ある特定の実施形態では、医薬組成物は、くも膜下腔内投与に好適である。ある特定の実施形態では、医薬組成物は、大槽内投与(大槽内への注入)に好適である。ある特定の実施形態では、医薬組成物は、C1-2穿刺を介した、くも膜下腔への注入に好適である。ある特定の実施形態では、医薬組成物は、脳室内投与に好適である。ある特定の実施形態では、医薬組成物は、腰椎穿刺を介する投与に好適である。
【0021】
組換えベクターの治療有効用量は、くも膜下投与を介して(すなわち、くも膜下腔へ注入して、組換えベクターがCSFを通じて拡散して、CNSの細胞に形質導入するようにする)、CSFに投与すべきである。これは、いくつかの方法、例えば、頭蓋内(大槽または脳室内)注入、または腰椎槽への注入によって達成することができる。例えば、(大槽内への)大槽内(IC)注入は、CTガイド後頭下穿刺で行うことができる、または、患者に実行し得る場合は、C1-2穿刺を介してくも膜下腔への注入を実施することができる、または、腰椎穿刺(一般的には、CSFの試料を収集するために実施する診断手順)を、CSFにアクセスするために使用することができる。あるいは、脳室内(ICV)投与(血液脳関門を透過しない抗感染剤または抗がん剤の導入に使用する、より侵襲的な技術)を使用して、組換えベクターを直接に脳室内に滴下することができる。あるいは、鼻腔内投与を使用して、CNSに組換えベクターを送達し得る。
【0022】
CSF濃度は、後頭部または腰椎穿刺から得られるCSF流体でのrhIDSの濃度を直接に測定することでモニタリングする、または患者の血清において検出したrhIDSの濃度から外挿によって推定することができる。
【0023】
ある特定の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターは、ヒト対象の脳質量に応じた用量で投与される、また、脳質量は、ヒト対象の脳の脳磁気共鳴画像(MRI)で決定される。ある特定の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターは、MRIで決定した脳質量1gあたり1.3×1010GCの用量で投与される。ある特定の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターは、MRIで決定した脳質量1gあたり6.5×1010GCの用量で投与される。ある特定の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターは、MRIで決定した脳質量1gあたり2.0×1011GCの用量で投与される。ある特定の実施形態では、ヒト対象の脳質量は、ヒト対象の脳体積cmに、1.046g/cmの係数を乗じることにより、ヒト対象の脳体積から変換され、ヒト対象の脳体積は、ヒト対象の脳MRIから得られる。
【0024】
背景として、ヒトIDSは、図1に記載する8つの潜在的なN-グリコシル化部位(N31、N115、N144、N246、N280、N325、N513、及びN537)を含む550個のアミノ酸のポリペプチドとして翻訳され、プロセシングの間に切断される25個のアミノ酸のシグナル配列を含む。最初の76kDa細胞内前駆体が、そのオリゴ糖鎖がゴルジ体装置内で修飾を受けた後に、リン酸化を受けた90kDa前駆体に変換される。この前駆体は、グリコシル化修飾、及びタンパク質分解的切断によって、様々な細胞内中間体を経て、主要な55kDa形態へと処理される。まとめると、25アミノ酸シグナル配列を除去した後に、タンパク質分解プロセシングは、N31の下流でN末端タンパク質分解切断を行って、8個のアミノ酸(残基26~33)のプロペプチドを除去し、N513の上流でC末端タンパク質分解切断を行って、18kDaのポリペプチドを放出して、62kDaの中間体を生成し、これが、55kDaの成熟形態へと変換される。さらなるタンパク質分解的切断は、リソソーム区画に位置する45kDaの成熟形態を生成する。(Millat et al.,1997,Exp Cell Res 230:362-367(「Millat 1997」)から抜粋した図面については図4を参照されたい;Millat et al.1997,Biochem J.326:243-247 (「Millat 1997a」)、及び、Froissart et al.,1995,Biochem J.309:425-430を参照されたい。これらの各々を、参照により、その全内容を本明細書で援用する)。
【0025】
酵素活性に必要なC84のホルミルグリシン修飾(図1の太字で示す)は、おそらくは初期の翻訳後事象または共翻訳事象として、小胞体で、ほぼ確かに起こる。(Schmidt et al.,1995,Cell 82:271-278を引用しているMillat 1997aを参照されたい)。ゴルジ体で翻訳後プロセシングが継続され、複合シアル酸含有グリカンを取り入れ、リソソーム区画への送達のための酵素に結合するマンノース-6-リン酸残基の取得を含む。(参照により、その全内容を本明細書で援用する簡潔な考察については、Clarke,2008,Expert Opin Pharmacother 9:311-317を参照されたい)。IDSの安定性に必須の単一のグリコシル化部位は無いが、N280位でのグリコシル化は、マンノース-6-リン酸(M6P)受容体を介した細胞の内在化、及びリソソーム標的にとって重要である。(Chung et al.,2014,Glycoconj J 31:309-315 p.310の第1段)。正常な生理学的状態では、IDSは非常に低レベルで産生され、酵素は、あったとしても、細胞からほとんど分泌されることはない。(Clarke,2008(上記))。
【0026】
本発明は、部分的には、以下の原理に基づく。
(i)CNSの神経細胞及びグリア細胞は、CNSでの堅牢なプロセスである、グリコシル化、及びマンノース-6-リン酸化、及びチロシン-O-硫酸化を含む分泌タンパク質の翻訳後プロセシングのための細胞機構を有する分泌細胞である。例えば、ヒト脳マンノース-6-リン酸グリコプロテオームについて記載をしており、脳が、他の組織で認められるよりもはるかに多くの個々のアイソフォームを有するより多くのタンパク質と、マンノース-6-リン酸化タンパク質を含むことを注記した、Sleat et al.,2005,Proteomics 5:1520-1532、及びSleat 1996,J Biol Chem 271:19191-98、及び、神経細胞が分泌するチロシン硫酸化糖タンパク質の産生について報告しているKanan et al.,2009,Exp.Eye Res.89:559-567、及びKanan&Al-Ubaidi,2015,Exp.Eye Res.133:126-131を参照されたい。ヒトCNS細胞がもたらす翻訳後修飾について、それぞれの全内容を、参照により援用する。
(ii)ヒトの脳は、天然型/ネイティブIDSの複数のアイソフォームを生成する。特に、ヒト脳マンノース-6-リン酸化糖タンパク質のN末端配列決定で、hIDSの成熟した42kDa鎖のN末端配列が、次のように、脳内で位置34または36から変化することが明らかになった:T34DALNVLLI及びA36LNVLLIIV。(Sleat,2005,Proteomics 5:1520-1532,Table S2)。8つのN結合型グリコシル化部位の内の2つ、すなわち、N280及びN116は、ヒト脳から得たIDSにおいてマンノース-6-リン酸化されていることが判明した。(Sleat et al.,2006,Mol & Cell Proeomics 5.4:686-701,Table Vで報告している)。
(iii)hIDSのプロセシングの間に、神経細胞及びグリア細胞が、76kDa及び90kDaの2つのポリペプチドを分泌するが、90kDaのポリペプチドだけが、マンノース-6-リン酸化を受けており、このものは、分泌した形態の酵素が、横断修正を達成する上で必要である。(Millat,1997、形質導入したリンパ芽球様細胞に関する図1の結果、及びFroissart 1995、形質導入した線維芽細胞に関する同様の結果を示す図4-培養培地では、90kDa形態だけがリン酸化する)。興味深いことに、神経細胞及びグリア細胞が産生する組換えIDSは、腎臓などのその他の細胞が産生する組換えIDSよりも、レシピエントCNS細胞の方が貪欲にエンドサイトーシスし得ることを実証している。Daniele 2002(Biochimica et Biophysica Acta 1588(3):203-9)は、45kDa成熟活性型に対する前駆体を適切にプロセシングした非形質導入の神経細胞及びグリア細胞のレシピエント集団による、形質導入した神経細胞及びグリア細胞培養物の馴化培地由来の組換えIDSのM6P受容体媒介エンドサイトーシスを実証した。神経細胞及びグリア細胞株が産生する組換えIDSの取り込み(74%のエンドサイトーシス)は、腎臓細胞株が産生する酵素の取り込み(5.6%のエンドサイトーシス)を遙かに上回っていた。いずれの事例でも、取り込みはM6Pによって阻害されており、このことは、組換えIDSの取り込みが、M6P受容体が媒介していることを示す。(Daniele 2002,表2及び4を参照されたい、また、pp.205-206での結果に関連する説明を、以下の表1にまとめる)。
【表1】
(iv)本明細書に記載する遺伝子治療手法は、酵素的に活性であるポリアクリルアミドゲル電気泳動(使用するアッセイによる)で測定して約90kDaのhIDS糖タンパク質前駆体の連続分泌をもたらすであろう。まず、IDS活性に必要なC84のホルミルグリシン修飾に関与する酵素であるFGly生成酵素(FGE、別名、SUMF1)は、ヒト脳の大脳皮質で発現する(SUMF1の遺伝子発現データは、例えば、GeneCardsのhttp://www.genecards.orgでアクセス可能である)。次に、インサイチュで形質導入した神経細胞及びグリア細胞が産生して分泌したグリコシル化/リン酸化rIDSは、CNSでの形質導入されていない神経細胞及びグリア細胞に取り込まれ、そして、的確にプロセシングを受けるであろう。いかなる理論の拘束をも受けるものではないが、遺伝子治療によってインサイチュで産生されて分泌されたrhIDS前駆体は、CNSに投与した場合、ERTに使用する従来の組換え酵素よりも、CNSでのレシピエント細胞の方が貪欲にエンドサイトーシスし得る。例えば、Elaprase(登録商標)(線維肉腫細胞株であるHT1080で作成)は、精製タンパク質であり、約76kDaの分子量を有すると報告がされており、神経細胞及びグリア細胞が分泌する高度にリン酸化を受けたと考えられる90kDa種のものではない。8つのN結合型グリコシル化部位は、Elaprase(登録商標)で完全に占有されており、そして、2つのビスマンノース-6-リン酸末端グリカン、ならびに、高度にシアル酸付加したグリカン複合体を含むことが報告されているが、酵素活性の絶対要件であるC84からFGlyへの翻訳後修飾は、約50%にすぎない。(Clarke,2008,Expert Opin Pharmacother 9:311-317;Elaprase(登録商標) Full Prescribing Information and EMA filing)。別の組換え産物であるHunterase(登録商標)は、CHO細胞で作成される。Elaprase(登録商標)よりもFGlyの多さと活性の高さが報告されているが、マンノース-6-リン酸化と、取り込みには差異は無かった。(Chung,2014,Glycoconj J 31:309-315)。
(v)インビボでの細胞外でのIDSの有効性は、M6Pと、その活性部位ホルミルグリシン(FGly)、すなわち、ホルミルグリシン生成酵素による翻訳後修飾によってC84から変換された、FGlyとを介した取り込み(細胞、及びリソソームの内在化)に依存している。上記表1に示したように、脳細胞(神経細胞及びグリア細胞)は、形質導入した神経細胞及びグリア細胞が分泌するIDS前駆体培地とインキュベーションすると、遺伝子操作した腎臓細胞が分泌するIDS前駆体培地とインキュベーションした場合よりも高い酵素活性を示す。結果として生じる活性の5倍もの高まりは、IDSの効率的な取り込みに依るところが大きい(Daniele 2002、表2及び4を参照されたい)。CHO細胞またはHT-1080細胞が生成するIDSの市販品でのFGly含量は、約50%~70%であり、これが、酵素活性を決定する。しかしながら、神経細胞及びグリア細胞は、IDS取り込みが改善されるので、この活性を改善し得る。
(vi)IDSなどのリソソームタンパク質の細胞性及び細胞内輸送/取り込みは、M6Pを介する。Daniele 2002、及びSleat,Proteomics,2005で報告されているように、脳細胞由来のIDSは、M6Pをより高含有量で含み得る(ヒトの脳が、その他の組織よりも多くの(定量的及び定性的意味で)Man6-P糖タンパク質を含むことを示す)。IDS前駆体のM6P含有量を測定することは、Daniele 2002で行われているように可能である。阻害性M6P(例えば、5mM)の存在下では、Daniele 2002の遺伝子操作した腎臓細胞などの非神経細胞または非グリア細胞が生成するIDS前駆体の取り込みは、Daniele 2002に示したように、コントロール細胞のそれに近いレベルにまで低下すると予測される。阻害性M6Pの存在下では、神経細胞やグリア細胞などの脳細胞が生成したIDS前駆体の取り込みは、Daniele 2002で示されたように、高レベルでとどまるものと予測され、その取り込みはコントロール細胞よりも4倍多く、また、阻害性M6Pが無いままに遺伝子操作した腎臓細胞が生成したIDS前駆体のIDS活性(または、取り込み)のレベルに匹敵する。このアッセイにより、脳細胞が生成したIDS前駆体でのM6P含量を予測する方法、及び、特に、異なるタイプの細胞が生成するIDS前駆体でのM6P含量を比較することができる。本明細書に記載する遺伝子治療手法は、結果として、このようなアッセイにおいて、阻害性M6Pの存在下で、高レベルで神経細胞及びグリア細胞に取り込まれ得るhIDS前駆体を継続的に分泌する。
(vii)IDS前駆体のM6P含量及び取り込みは、90kDa及び76kDaのゲルバンド(例えば、SDS-PAGEゲルバンド)で実証し得る。この90kDaは、高度にグリコシル化/リン酸化しており、また、M6Pを含むと報告されているが、76kDaではそうではない。遺伝子操作した腎臓細胞から生成したIDS前駆体のゲルバンド(Daniele 2002、図1)と同様に、76kDa~95kDaの範囲、及び80~85kDaの平均分子量を有する非常に広範なゲルバンドは、脳細胞から生成したIDS前駆体のゲルバンドと対比され得る。Daniele 2002では、IDS前駆体の免疫沈降が失敗に終わったので、ゲルバンドを得ることができない。本明細書に記載する遺伝子治療手法は、遺伝子操作された腎臓細胞から生成されるIDS前駆体ゲルバンドとは異なるhIDS前駆体の継続的な分泌をもたらすであろう。
(viii)市販のIDS前駆体のM6P含量は、2~2.5mol/molであり、その大部分はジ-リン酸化グリカンの形態で存在する。平均的には、すべてのIDS前駆体がリン酸化しているが、グリカンの正規分布は、複数のリン酸化部位を仮定して、2つ、1つ、及び0個のジ-リン酸化M6Pグリカンを有する一部のIDS前駆体を有する。取り込み速度は、複数回のリン酸化では大幅に高くなるであろう。
(ix)CNSのヒト細胞によるhIDSのグリコシル化により、安定性、半減期を向上させ、かつ導入遺伝子産物の望ましくない凝集を減らすことができるグリカンが付加される。重要なことに、本発明のhIDSに付加されるグリカンは2,6-シアル酸を含み、Neu5Ac(「NANA」)を組み込むが、そのヒドロキシル化誘導体であるNeuGc(N-グリコリルノイラミン酸、すなわち「NGNA」または「Neu5Gc」)を組み込まない。そのようなグリカンは、CHO細胞で作成されるHunterase(登録商標)などの組換えIDS産物には存在しない。これはすなわち、CHO細胞が、この翻訳後修飾を行う上で必要とする2,6-シアリルトランスフェラーゼを有さず、バイセクティングGlcNAcも産生しないが、Neu5Ac(NANA)の代わりにヒトにとって一般的でない(かつ潜在的に免疫原性の)シアル酸としてNeu5Gc(NGNA)を付加していることによる。例えば、Dumont et al.,2016,Critical Rev in Biotech 36(6):1110-1122(Early Online pp.1-13、p.5)、及びHague et al.,1998 Electrophor 19:2612-2630(「CHO細胞株は、α2,6-シアリルトランスフェラーゼの欠如のため、グリコシル化に関して『表現形上制限される』と考えられている」)を参照されたい。さらに、CHO細胞は大部分の個体に存在する抗α-Gal抗体と反応して、高濃度でアナフィラキシーを誘発し得る免疫原性グリカンである、α-Gal抗原も生産し得る。例えば、Bosques,2010,Nat Biotech 28:1153-1156を参照されたい。本発明のhIDSのヒトグリコシル化パターンは、導入遺伝子産物の免疫原性を低下させ、かつ効力を向上させるであろう。
(x)導入遺伝子産物の免疫原性は、患者の免疫状態、注入したタンパク質薬物の構造及び特徴、投与経路、ならびに治療の持続時間を含む様々な因子によって誘導され得る。プロセス関連不純物、例えば、宿主細胞タンパク質(HCP)、宿主細胞DNA、及び化学的残留物、ならびに産物関連不純物、例えば、タンパク質分解物及び構造特性、例えば、グリコシル化、酸化、及び凝集(肉眼不可視粒子)が免疫反応を増強するアジュバントとしての機能を果たすことで免疫原性を増加させる場合がある。プロセス関連及び産物関連不純物の量は、製造プロセス、すなわち商業生産するIDS産物に影響を及ぼし得る細胞培養、精製、製剤、保存、及び取扱いの影響を受け得る。遺伝子治療では、タンパク質はインビボで生産され、その結果、プロセス関連不純物は存在せず、タンパク質産物は組換え技術によって生産するタンパク質と関連した生産物関連不純物/分解物、例えば、タンパク質凝集物及びタンパク質酸化物を含む可能性は低い。凝集は、例えば、タンパク質生産及び貯蔵と関連付けられ、高いタンパク質濃度、製造装置及び容器との表面相互作用、ならびにある特定の緩衝液システムを用いた精製プロセスに起因する。しかし、導入遺伝子をインビボで発現させる場合、凝集を促進するこれらの条件は存在しない。また、酸化、例えば、メチオニン、トリプトファン、及びヒスチジンの酸化は、タンパク質生産及び貯蔵と関連付けられ、例えば、ストレス負荷した細胞培養条件、金属及び空気との接触、ならびに緩衝液及び賦形剤での不純物によって引き起こす。インビボで発現するタンパク質は、ストレス負荷条件下で酸化し得るが、ヒトは多くの生物と同様に、抗酸化防御システムを備えており、それにより酸化ストレスが低下するだけでなく、酸化を修復、及び/または逆行させもする。したがって、インビボで生産されるタンパク質が、酸化形態にある可能性は低い。凝集及び酸化は両方とも、効力、PK(クリアランス)に影響を及ぼし得、免疫原となる懸念を増大させ得る。本明細書に記載する遺伝子治療手法は、商業生産した産物と比較して免疫原性の低下したhIDS前駆体の継続的分泌をもたらすであろう。
(xi)N結合型グリコシル化部位に加えて、hIDSは、チロシン(「Y」)硫酸化部位(PSSEKY165ENTKTCRGPD)を含む。(例えば、Yang et al.,2015,Molecules 20:2138-2164、特に、p.2154を参照されたい、この文献は、タンパク質チロシン硫酸化に供するチロシン残基を取り囲むアミノ酸の分析に関して、その全内容を、参照により援用する。「規則」は、以下のようにまとめることができる:Yの+5~-5位以内にあるEまたはDを有するY残基、及びYの位置-1が中性である、または酸性荷電アミノ酸である。しかし、塩基性アミノ酸、例えば、硫酸化を破棄するR、K、またはHではない)。いかなる理論にも拘束されるものではないが、hIDSでのこの部位の硫酸化は、酵素の安定性、及び基質に対する結合親和性を改善し得る。ヒトCNS細胞でのロバストな翻訳後プロセスであるhIDSのチロシン硫酸化は、導入遺伝子産物のプロセシング及び活性を改善するであろう。リソソームタンパク質のチロシン硫酸化の重要性は解明されていないが、他のタンパク質では、タンパク質間相互作用(抗体と受容体)の親和性を高め、タンパク質分解プロセシング(ペプチドホルモン)を促進することが示されている。(Moore,2003,J Biol.Chem.278:24243-46;及び、Bundegaard et al.,1995,The EMBO J 14:3073-79を参照されたい)。チロシン硫酸化(IDSプロセシングの最終ステップになり得る)に関与するチロシルタンパク質スルホトランスフェラーゼ(TPST1)は、脳内で(mRNAに基づいて)さらに高レベルで発現している(TPST1の遺伝子発現データは、例えば、http://www.ebi.ac.uk/gxa/homeでアクセス可能である、EMBL-EBI Expression Atlasに認められ得る)。このような翻訳後修飾は、よくても、CHO細胞産物において十分に表されていない。ヒトCNS細胞とは異なり、CHO細胞は、分泌細胞ではなく、また、翻訳後チロシン硫酸化の能力も限られている。(例えば、Mikkelsen & Ezban,1991,Biochemistry 30:1533-1537,特に、p.1537のdiscussionを参照されたい)。
【0027】
上記した理由のために、ヒト神経細胞及び/またはヒトグリア細胞によるrhIDSの生産は、例えば、MPS II疾患(ハンターを含むが、これらに限定されない)と診断されている患者(ヒト対象)のCSFにrhIDSをコードするウイルスベクターまたは他のDNA発現コンストラクトを投与して、形質導入したCNS細胞が分泌する完全ヒトグリコシル化、マンノース-6-リン酸化、硫酸化導入遺伝子産物を継続的に供給する、CNSでの永続的なデポーを作成することによる、遺伝子治療によって達成するMPS IIの治療のための「バイオベター」分子をもたらすであろう。デポーからCSF中に分泌されるhIDS導入遺伝子産物は、CNSでの細胞によりエンドサイトーシスされ、MPS IIレシピエント細胞での酵素欠陥を「横断修正」する。
【0028】
遺伝子治療またはタンパク質治療手法において生産される全てのrhIDS分子が完全にグリコシル化され、リン酸化され、及び硫酸化されることは、必須ではない。むしろ、生産される糖タンパク質の集団は、有効性を示すのに十分なグリコシル化(2,6-シアル酸付加及びマンノース-6-リン酸化を含む)及び硫酸化を受けるべきである。本発明の遺伝子治療処置の目的は、疾患の進行を遅延させ、または停止させることである。有効性は、認知機能(例えば、神経認知機能の低下の防止または減少);CSF及び/または血清の疾患バイオマーカー(例えば、GAG)の低下;及び/または、CSF及び/または血清のIDS酵素活性の増加を測定することでモニタリングすることができる。炎症の徴候及びその他の安全事象をモニタリングすることもできる。
【0029】
遺伝子治療に対する代替治療または追加治療として、rhIDS糖タンパク質は、組換えDNA技術によってヒト神経細胞またはヒトグリア細胞が産生することができ、また、糖タンパク質は、ERTのために、全身的に、及び/またはCSFに、MPS IIの診断を受けた患者に投与することができる)。そのような組換え糖タンパク質生産のために使用することができるヒト細胞株として、HT-22、SK-N-MC、HCN-1A、HCN-2、NT2、SH-SY5y、hNSCl1、またはReNcell VMがあるが、これらに限定されない(例えば、全内容を、参照により、本明細書で援用する、rHuGlyIDS糖タンパク質の組換え生産のために使用することができるヒト細胞株の総説に関するDumont et al.,2016,Critical Rev in Biotech 36(6):1110-1122の「Human cell lines for biopharmaceutical manufacturing:history,status,and future perspectives」を参照されたい)。完全なグリコシル化、特に、シアル化、及びチロシン硫酸化を保証するために、生産に使用する細胞株を、チロシン-O-硫酸化を担うα-2,6-シアリルトランスフェラーゼ(または、α-2,3-及びα-2,6-シアリルトランスフェラーゼの両方)、及び/またはTPST-1及びTPST-2酵素を共発現するように宿主細胞を遺伝子操作して強化することができる。
【0030】
rhIDSの送達が、免疫反応を最小化するであろう一方で、CNS関連遺伝子治療に関する最も明白な潜在的毒性源は、遺伝的にIDSを欠損しており、したがって、タンパク質及び/または導入遺伝子を送達するために用いるベクターを寛容しない可能性のあるヒト対象において、発現したrhIDSタンパク質に対する免疫を生じることである。
【0031】
したがって、好ましい実施形態では、患者を免疫抑制治療で共治療することは、特に、IDSのレベルがゼロに近い重度の疾患を有する患者を治療する場合には適切である。タクロリムスまたはラパマイシン(シロリムス)とミコフェノール酸との組み合わせ、または組織移植手順において使用される他の免疫抑制レジメンが関係する免疫抑制治療を利用することができる。そのような免疫抑制治療は、遺伝子治療の過程で投与され得、ある特定の実施形態では、免疫抑制治療による前処置が好ましい場合がある。免疫抑制治療は、主治医の判断に基づいて、遺伝子治療処置の後も継続することができ、その後、免疫寛容が誘発した場合に、例えば、180日後に中止され得る。
【0032】
他の利用可能な治療の送達を伴う、CSFに対するrhIDSの送達との組み合わせが、本発明の方法に含まれる。さらなる治療を、遺伝子治療処置の前に、それと同時に、またはその後に実施することができる。本発明の遺伝子治療と併用することができ得るMPS IIのために利用可能な治療として、Elaprase(登録商標)を全身的に、またはCSFに対して投与する酵素補充療法、及び/または、HSCT療法があるが、これらに限定されない。
【0033】
一態様では、MPS IIの診断を受けたヒト対象の治療方法を提供し、当該方法は、ヒト神経細胞またはヒトグリア細胞が産生した治療有効量のグリコシル化組換えヒトIDS前駆体を、ヒト対象のCSFに送達することを含み、当該グリコシル化組換えヒトIDS前駆体は、ヒトIDSをコードする組換えヌクレオチド発現ベクターを投与することにより送達され、組換えヌクレオチド発現ベクターは、ヒト対象の脳質量に応じた用量で投与され、脳質量は、ヒト対象の脳の脳MRIで決定される。
【0034】
別の態様では、本明細書ではMPS IIの診断を受けたヒト対象の治療方法を提供し、当該方法は、(a)ヒト対象のCSFに対して、ヒト神経細胞またはヒトグリア細胞が産生したグリコシル化組換えヒトIDS前駆体の治療有効量を送達すこと、(b)ヒト対象のCSF中のヘパラン硫酸のレベルを測定すること、及び(c)ヒト対象のCSF中のヘパラン硫酸のレベルを、参照集団でのヘパラン硫酸のレベルと比較することを、この順序で含み、グリコシル化組換えヒトIDS前駆体はヒトIDSをコードする組換えヌクレオチド発現ベクターの投与によって送達され、組換えヌクレオチド発現ベクターは、ヒト対象の脳質量に応じた用量で投与され、脳質量は、ヒト対象の脳の脳磁気共鳴画像法(MRI)で決定される。ある特定の実施形態では、参照集団は、(a)少なくとも1、2、3、4、5、10、25、50、75、100、200、250、300、400、500、または1000名のMPS IIではない健常者からなり、好ましくは、当該ヒト対象と同様の年齢、体重、及び/または同じ性別の健常者からなる。
【0035】
別の態様では、本明細書ではMPS IIの診断を受けたヒト対象の治療方法を提供し、当該方法は、(a)ヒト対象のCSF中のヘパラン硫酸のレベルの第1の測定を行うこと、(b)ヒト対象のCSFに対して、ヒト神経細胞またはヒトグリア細胞が産生されたグリコシル化組換えヒトIDS前駆体の治療有効量を送達すること、及び(c)一定期間の後に、ヘパラン硫酸のレベルの第2の測定を行うことを、この順序で含み、グリコシル化組換えヒトIDS前駆体は、ヒトIDSをコードする組換えヌクレオチド発現ベクターの投与によって送達され、組換えヌクレオチド発現ベクターは、ヒト対象の脳質量に応じた用量で投与され、脳質量は、ヒト対象の脳の脳磁気共鳴画像法(MRI)で決定される。ある特定の実施形態では、期間は、約1日、2日、3日、4日、5日、6日、1週間、2週間、3週間、4週間、2か月、3か月、4か月、5か月、6か月、7か月、8か月、11か月、または1年である。
【0036】
本明細書に記載する治療方法のある特定の実施態様では、グリコシル化組換えヒトIDS前駆体が、ヒト対象のCNSでの細胞のリソソームに送達される。
【0037】
本明細書に記載する治療方法のある特定の実施形態では、ヒト対象の脳質量は、ヒト対象の脳体積に1.046g/cmの係数を乗じることにより、ヒト対象の脳体積cmから変換され、ヒト対象の脳体積は、ヒト対象の脳MRIにより決定される。
【0038】
本明細書に記載する治療方法のある特定の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターは、MRIで決定した脳質量1gあたり約1.3×1010GC、またはMRIで決定した脳質量1gあたり約6.5×1010GCの用量で投与される。本明細書に記載した治療方法のある特定の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターは、MRIで決定した脳質量1gあたり約2.0×1011GCの用量で投与される。
【0039】
本明細書に記載する治療方法の様々な実施形態では、ヒト対象は、5歳以上かつ18歳未満である。特定の実施形態では、ヒト対象は、5歳、6歳、7歳、8歳、9歳、10歳、11歳、12歳、13歳、14歳、15歳、16歳、17歳、または18歳である。特定の実施形態では、ヒト対象は、約5歳、6歳、7歳、8歳、9歳、10歳、11歳、12歳、13歳、14歳、15歳、16歳、17歳、または18歳である。特定の実施形態では、ヒト対象は、5~6歳、6~7歳、7~8歳、8~9歳、9~10歳、10~11歳、11~12歳、12~13歳、13~14歳、14~15歳、15~16歳、16~17歳、17~18歳、または18~19歳である。特定の実施形態では、ヒト対象は、約5~6歳、6~7歳、7~8歳、8~9歳、9~10歳、10~11歳、11~12歳、12~13歳、13~14歳、14~15歳、15~16歳、16~17歳、17~18歳、または18~19歳である。ある特定の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターは、MRIで決定した脳質量1gあたり約6.5×1010GCの用量で投与される。ある特定の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターを、表7に記載した用量で投与される。
【0040】
本明細書に記載する治療方法の様々な実施形態では、ヒト対象は、4か月齢以上かつ5歳未満である。特定の実施形態では、ヒト対象は、4、5、6、7、8、9、10、または11か月齢である。特定の実施形態では、ヒト対象は、約4、5、6、7、8、9、10、または11か月齢である。特定の実施形態では、ヒト対象は、4~5、5~6、6~7、7~8、8~9、9~10、10~11、または11~12か月齢である。特定の実施形態では、ヒト対象は、約4~5、5~6、6~7、7~8、8~9、9~10、10~11、または11~12か月齢である。特定の実施形態では、ヒト対象は、1歳、2歳、3歳、4歳、または5歳である。特定の実施形態では、ヒト対象は、約1歳、2歳、3歳、4歳、または5歳である。特定の実施形態では、ヒト対象は、1~2歳、2~3歳、3~4歳、4~5歳、または5~6歳である。特定の実施形態では、ヒト対象は、約1~2歳、2~3歳、3~4歳、4~5歳、または5~6歳である。ある特定の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターは、MRIで決定した脳質量1gあたり約1.3×1010GCの用量で投与される。ある特定の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターは、MRIで決定した脳質量1gあたり約6.5×1010GCの用量で投与される。ある特定の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターは、MRIで決定した脳質量1gあたり約2.0×1011GCの用量で投与される。ある特定の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターは、表5に従って用量1または用量2から選択される用量で投与される。ある特定の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターは、表6に記載した用量で投与される。
【0041】
本明細書に記載する治療方法の一部の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターは、大槽内(IC)投与を介して投与される。本明細書に記載する方法の他の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターは、脳室内(ICV)投与を介して投与される。
【0042】
本明細書に記載する方法のある特定の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターは、ヒト対象の脳脊髄液の総体積の10%を超えない体積で投与される。
【0043】
本明細書に記載する治療方法のある特定の実施形態では、グリコシル化組換えヒトIDS前駆体は、検出可能なレベルで分泌される。
【0044】
本明細書に記載する治療方法のある特定の実施形態では、ヒト神経細胞またはヒトグリア細胞は、ヒトIDS前駆体をコードする内因性遺伝子に少なくとも1つの変異を有する。
【0045】
本明細書に記載する治療方法のある特定の実施形態では、ヒト神経細胞またはヒトグリア細胞は、組換えアデノ随伴ウイルスベクター(rAAV)で形質導入される。
【0046】
好ましい態様では、組換えヌクレオチド発現ベクターは、AAV9またはAAVrh10ベクターである。
【0047】
本明細書に記載する治療方法のある特定の実施形態では、グリコシル化組換えヒトIDS前駆体は、CB7プロモーターの制御下で発現される。
【0048】
本明細書に記載する治療方法のある特定の実施形態では、グリコシル化組換えヒトIDS前駆体は、ヒトIDS前駆体をコードするcDNAから発現される。
【0049】
本明細書に記載する治療方法のある特定の実施形態では、グリコシル化組換えヒトIDS前駆体は、ポリアクリルアミドゲル電気泳動で測定して約90kDaのものである。
【0050】
本明細書に記載する治療方法のある特定の実施形態では、グリコシル化組換えヒトIDS前駆体は、ホルミルグリシンを含有する。
【0051】
本明細書に記載する治療方法のある特定の実施態様では、グリコシル化組換えヒトIDS前駆体は、(a)α2,6-シアル化を受けている、(b)検出可能なNeuGcを含まない、(c)検出可能なα-Gal抗原を含まない、(d)チロシン硫酸化を含む、及び/または(e)マンノース-6-リン酸化を受けている。
【0052】
本明細書に記載する治療方法のある特定の実施形態では、グリコシル化組換えヒトIDS前駆体は、配列番号1のアミノ酸配列を含む。
【0053】
本明細書で提供するある特定の実施形態では、当該方法は、ヒトIDS前駆体治療の前に、または同時に免疫抑制療法をヒト対象に対して実施し、任意に、その後も免疫抑制療法を継続する、ことをさらに含む。
【0054】
一部の実施形態では、免疫抑制療法は、1つ以上のコルチコステロイド、シロリムス、及び/またはタクロリムスを投与することを含む。特定の実施形態では、1つ以上のコルチコステロイドは、メチルプレドニゾロン、及び/またはプレドニゾンである。
【0055】
一部の実施形態では、当該方法は、免疫抑制療法の前に、または同時に、1つ以上の抗生物質をヒト対象に対して投与することをさらに含む。特定の実施形態では、1つ以上の抗生物質は、トリメトプリム、スルファメトキサゾール、ペンタミジン、ダプソン、及び/またはアトバコンである。
【0056】
一部の実施形態では、当該方法は、免疫抑制療法の前に、または同時に、1つ以上の抗真菌療法をヒト対象に対して実施することをさらに含む。
【0057】
一部の実施形態では、当該方法は、組換えヌクレオチド発現ベクターを投与した後に、次のバイオマーカーの1つ以上を測定するステップをさらに含む:(a)CSF中のグリコサミノグリカン(GAG)のレベル、(b)CSF中のイズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)のレベル、(c)血漿中のGAGのレベル;(d)血漿中のI2Sのレベル、(e)白血球I2S酵素活性のレベル、及び(f)尿中のGAGのレベル。特定の実施形態では、CSF内のGAGは、CSF内のヘパリン硫酸を含む。別の特定の実施形態では、CSF内のGAGは、CSF内のヘパリン硫酸である。別の特定の実施形態では、血漿内のGAGは、血漿内のヘパリン硫酸を含む。別の特定の実施形態では、血漿内のGAGは、血漿内のヘパリン硫酸である。別の特定の実施形態では、尿内のGAGは、尿内のヘパリン硫酸を含む。別の特定の実施形態では、尿内のGAGは、尿内のヘパリン硫酸である。特定の実施形態では、測定するステップは、CSF中のヘパリン硫酸のレベルを測定することを含む。別の特定の実施形態では、測定するステップは、白血球I2S酵素活性のレベルを測定することを含む。
3.1 例示実施形態
3.1.1.セット1
1.ムコ多糖症II型(MPS II)の診断を受けたヒト対象の治療方法であって、前記ヒト対象の脳脊髄液(CSF)に、ヒト神経細胞またはヒトグリア細胞が産生したグリコシル化組換えヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)前駆体の治療有効量を送達することを含み、前記グリコシル化組換えヒトIDS前駆体を、ヒトIDSをコードする組換えヌクレオチド発現ベクターを投与して送達し、前記組換えヌクレオチド発現ベクターを、前記ヒト対象の脳質量に応じた用量で投与し、及び前記脳質量を、前記ヒト対象の脳の脳磁気共鳴画像(MRI)で決定する、前記方法。
2.前記グリコシル化組換えヒトIDS前駆体が、検出可能なレベルで分泌される、パラグラフ1に記載の方法。
3.前記ヒト神経細胞またはヒトグリア細胞が、ヒトIDS前駆体をコードする内因性遺伝子に少なくとも1つの変異を有する、パラグラフ1または2に記載の方法。
4.前記ヒト神経細胞またはヒトグリア細胞に、組換えアデノ随伴ウイルスベクター(rAAV)で形質導入する、パラグラフ1~3のいずれか1つに記載の方法。
5.前記グリコシル化組換えヒトIDS前駆体が、CB7プロモーターの制御下で発現する、パラグラフ1~4のいずれか1つに記載の方法。
6.前記グリコシル化組換えヒトIDS前駆体が、ヒトIDS前駆体をコードするcDNAから発現する、パラグラフ1~5のいずれか1つに記載の方法。
7.前記グリコシル化組換えヒトIDS前駆体が、ポリアクリルアミドゲル電気泳動で測定して約90kDaのものである、パラグラフ1~6のいずれか1つに記載の方法。
8.前記グリコシル化組換えヒトIDS前駆体が、ホルミルグリシンを含有する、パラグラフ1~7のいずれか1つに記載の方法。
9.前記グリコシル化組換えヒトIDS前駆体が、(a)α2,6-シアル化を受けている、(b)検出可能なNeuGcを含まない、(c)検出可能なα-Gal抗原を含まない、(d)チロシン-硫酸化を含む、及び/または、(e)マンノース-6-リン酸化を受けている、パラグラフ1~8のいずれか1つに記載の方法。
10.前記グリコシル化組換えヒトIDS前駆体が、配列番号1のアミノ酸配列を含む、パラグラフ1~9のいずれか1つに記載の方法。
11.前記組換えヌクレオチド発現ベクターが、AAV9またはAAVrh10ベクターである、パラグラフ1~10のいずれか1つに記載の方法。
12.前記ヒト対象の脳質量を、前記ヒト対象の脳体積cmに、1.046g/cmの係数を乗じて、前記ヒト対象の脳体積から変換し、前記ヒト対象の脳体積を、前記ヒト対象の脳MRIから得る、パラグラフ1~11のいずれか1つに記載の方法。
13.前記組換えヌクレオチド発現ベクターを、MRIで決定した脳質量1gあたり約1.3×1010GC、またはMRIで決定した脳質量1gあたり約6.5×1010GCの用量で投与する、パラグラフ1~12のいずれか1つに記載の方法。
14.前記組換えヌクレオチド発現ベクターを、大槽内(IC)投与を介して投与する、パラグラフ1~13のいずれか1つに記載の方法。
15.前記組換えヌクレオチド発現ベクターを、脳室内(ICV)投与を介して投与するパラグラフ1~13のいずれか1つに記載の方法。
16.前記組換えヌクレオチド発現ベクターを、前記ヒト対象の脳脊髄液の総体積の10%を超えない体積で投与する、パラグラフ1~15のいずれか1つに記載の方法。
17.前記グリコシル化組換えヒトIDS前駆体を、前記ヒト対象のCNSの細胞内のリソソームに対して送達する、パラグラフ1~16のいずれか1つに記載の方法。
18.前記ヒトIDS前駆体治療を行う前に、または同時に、ヒト対象に対して免疫抑制療法を実施すること、及び、その後に、任意に、免疫抑制療法を継続することをさらに含む、パラグラフ1~17のいずれか1つに記載の方法。
19.前記免疫抑制療法が、1つ以上のコルチコステロイド、シロリムス、及び/またはタクロリムスを投与することを含む、パラグラフ18に記載の方法。
20.1つ以上の前記コルチコステロイドが、メチルプレドニゾロン、及び/またはプレドニゾンである、パラグラフ19に記載の方法。
21.免疫抑制療法を行う前に、または同時に、1つ以上の抗生物質を、ヒト対象に対して投与することをさらに含む、パラグラフ18~20のいずれか1つに記載の方法。
22.前記1つ以上の抗生物質が、トリメトプリム、スルファメトキサゾール、ペンタミジン、ダプソン、及び/またはアトバコンである、パラグラフ21に記載の方法。
23.免疫抑制療法を行う前に、または同時に、1つ以上の抗真菌療法を、ヒト対象に対して実施することをさらに含む、パラグラフ18~22のいずれか1つに記載の方法。
24.前記組換えヌクレオチド発現ベクターを投与した後に、次のバイオマーカーのうちの1つ以上を測定するステップをさらに含む、パラグラフ1~23のいずれか1つに記載の方法:(a)CSF中のグリコサミノグリカン(GAG)のレベル、(b)CSF中のイズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)のレベル、(c)血漿中のGAGのレベル、(d)血漿中のI2Sのレベル、(e)白血球I2S酵素活性のレベル、及び(f)尿中のGAGのレベル。
25.前記CSF中のGAGが、CSF中のヘパリン硫酸を含む、パラグラフ24に記載の方法。
26.前記CSF中のGAGが、CSF中のヘパリン硫酸である、パラグラフ24に記載の方法。
27.前記血漿中のGAGが、血漿中のヘパリン硫酸を含む、パラグラフ24~26のいずれか1つに記載の方法。
28.前記血漿中のGAGが、血漿中のヘパリン硫酸である、パラグラフ24~26のいずれか1つに記載の方法。
29.前記尿中のGAGが、尿中のヘパリン硫酸を含む、パラグラフ24~28のいずれか1つに記載の方法。
30.前記尿中のGAGが、尿中のヘパリン硫酸である、パラグラフ24~28のいずれか1つに記載の方法。
31.前記測定のステップが、CSF中のヘパリン硫酸のレベルを測定することを含む、パラグラフ24~30のいずれか1つに記載の方法。
32.前記測定のステップが、白血球12S酵素活性のレベルを測定することを含む、パラグラフ24~31のいずれか1つに記載の方法。
3.1.2.セット2
1.ムコ多糖症II型(MPS II)の診断を受けたヒト対象の治療方法であって、前記ヒト対象の脳脊髄液(CSF)に、ヒト神経細胞またはヒトグリア細胞が産生したグリコシル化組換えヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)前駆体の治療有効量を送達することを含み、前記グリコシル化組換えヒトIDS前駆体を、ヒトIDSをコードする組換えヌクレオチド発現ベクターを投与して送達し、前記組換えヌクレオチド発現ベクターを、前記ヒト対象の脳質量に応じた用量で投与し、前記脳質量を、前記ヒト対象の脳の脳磁気共鳴画像(MRI)で決定する、前記方法。
2.前記グリコシル化組換えヒトIDS前駆体が、検出可能なレベルで分泌される、パラグラフ1に記載の方法。
3.前記ヒト神経細胞またはヒトグリア細胞が、ヒトIDS前駆体をコードする内因性遺伝子に少なくとも1つの変異を有する、パラグラフ1または2に記載の方法。
4.前記ヒト神経細胞またはヒトグリア細胞に、組換えアデノ随伴ウイルスベクター(rAAV)で形質導入する、パラグラフ1~3のいずれか1つに記載の方法。
5.前記グリコシル化組換えヒトIDS前駆体が、CB7プロモーターの制御下で発現する、パラグラフ1~4のいずれか1つに記載の方法。
6.前記グリコシル化組換えヒトIDS前駆体を、ヒトIDS前駆体をコードするcDNAから発現する、パラグラフ1~5のいずれか1つに記載の方法。
7.前記グリコシル化組換えヒトIDS前駆体が、ポリアクリルアミドゲル電気泳動で測定して約90kDaのものである、パラグラフ1~6のいずれか1つに記載の方法。
8.前記グリコシル化組換えヒトIDS前駆体が、ホルミルグリシンを含有する、パラグラフ1~7のいずれか1つに記載の方法。
9.前記グリコシル化組換えヒトIDS前駆体が、(a)α2,6-シアル化を受けている、(b)検出可能なNeuGcを含まない、(c)検出可能なα-Gal抗原を含まない、(d)チロシン-硫酸化を含む、及び/または、(e)マンノース-6-リン酸化を受けている、パラグラフ1~8のいずれか1つに記載の方法。
10.前記グリコシル化組換えヒトIDS前駆体が、配列番号1のアミノ酸配列を含む、パラグラフ1~9のいずれか1つに記載の方法。
11.前記組換えヌクレオチド発現ベクターが、AAV9またはAAVrh10ベクターである、パラグラフ1~10のいずれか1つに記載の方法。
12.前記ヒト対象の脳質量を、前記ヒト対象の脳体積cmに、1.046g/cmの係数を乗じて、前記ヒト対象の脳体積から変換し、前記ヒト対象の脳体積を、前記ヒト対象の脳MRIから得る、パラグラフ1~11のいずれか1つに記載の方法。
13.前記組換えヌクレオチド発現ベクターを、MRIで決定した脳質量1gあたり約1.3×1010GC、またはMRIで決定した脳質量1gあたり約6.5×1010GCの用量で投与する、パラグラフ1~12のいずれか1つに記載の方法。
14.前記組換えヌクレオチド発現ベクターを、MRIで決定した脳質量1gあたり約2.0×1011GCの用量で投与する、パラグラフ1~12のいずれか1つに記載の方法。
15.前記ヒト対象が、5歳以上、かつ18歳未満である、パラグラフ1~12のいずれか1つに記載の方法。
16.前記組換えヌクレオチド発現ベクターを、MRIで決定した脳質量1gあたり約6.5×1010GCの用量で投与する、パラグラフ15に記載の方法。
17.前記組換えヌクレオチド発現ベクターを、以下の表に記載の用量で投与する、パラグラフ15に記載の方法。
【表2】
18.前記ヒト対象が、4か月齢以上、かつ5歳未満である、パラグラフ1~12のいずれか1つに記載の方法。
19.前記組換えヌクレオチド発現ベクターを、以下の表に従って、用量1または用量2から選択される用量で投与する、パラグラフ18に記載の方法。
【表3】
20.前記組換えヌクレオチド発現ベクターを、以下の表に記載の用量で投与する、パラグラフ18に記載の方法。
【表4】
21.前記組換えヌクレオチド発現ベクターを、大槽内(IC)投与を介して投与する、パラグラフ1~20のいずれか1つに記載の方法。
22.前記組換えヌクレオチド発現ベクターを、脳室内(ICV)投与を介して投与するパラグラフ1~20のいずれか1つに記載の方法。
23.前記組換えヌクレオチド発現ベクターを、前記ヒト対象の脳脊髄液の総体積の10%を超えない体積で投与する、パラグラフ1~22のいずれか1つに記載の方法。
24.前記グリコシル化組換えヒトIDS前駆体を、前記ヒト対象のCNSの細胞内のリソソームに対して送達する、パラグラフ1~23のいずれか1つに記載の方法。
25.前記ヒトIDS前駆体治療を行う前に、または同時に、ヒト対象に対して免疫抑制療法を実施し、及び、その後に、任意に、免疫抑制療法を継続することをさらに含む、パラグラフ1~24のいずれか1つに記載の方法。
26.前記免疫抑制療法が、1つ以上のコルチコステロイド、シロリムス、及び/またはタクロリムスを投与することを含む、パラグラフ25に記載の方法。
27.1つ以上の前記コルチコステロイドが、メチルプレドニゾロン、及び/またはプレドニゾンである、パラグラフ26に記載の方法。
28.免疫抑制療法を行う前に、または同時に、1つ以上の抗生物質を、ヒト対象に対して投与することをさらに含む、パラグラフ25~27のいずれか1つに記載の方法。
29.1つ以上の前記抗生物質が、トリメトプリム、スルファメトキサゾール、ペンタミジン、ダプソン、及び/またはアトバコンである、パラグラフ28に記載の方法。
30.免疫抑制療法を行う前に、または同時に、1つ以上の抗真菌療法を、ヒト対象に対して実施することをさらに含む、パラグラフ25~29のいずれか1つに記載の方法。
31.前記組換えヌクレオチド発現ベクターを投与した後に、次のバイオマーカーのうちの1つ以上を測定するステップをさらに含む、パラグラフ1~30のいずれか1つに記載の方法:(a)CSF中のグリコサミノグリカン(GAG)のレベル、(b)CSF中のイズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)のレベル、(c)血漿中のGAGのレベル、(d)血漿中のI2Sのレベル、(e)白血球I2S酵素活性のレベル、及び(f)尿中のGAGのレベル。
32.前記CSF中のGAGが、CSF中のヘパリン硫酸を含む、パラグラフ31に記載の方法。
33.前記CSF中のGAGが、CSF中のヘパリン硫酸である、パラグラフ31に記載の方法。
34.前記血漿中のGAGが、血漿中のヘパリン硫酸を含む、パラグラフ31~33のいずれか1つに記載の方法。
35.前記血漿中のGAGが、血漿中のヘパリン硫酸である、パラグラフ31~33のいずれか1つに記載の方法。
36.前記尿中のGAGが、尿中のヘパリン硫酸を含む、パラグラフ31~35のいずれか1つに記載の方法。
37.前記尿中のGAGが、尿中のヘパリン硫酸である、パラグラフ31~35のいずれか1つに記載の方法。
38.前記測定のステップが、CSF中のヘパリン硫酸のレベルを測定することを含む、パラグラフ31~37のいずれか1つに記載の方法。
39.前記測定のステップが、白血球12S酵素活性のレベルを測定することを含む、パラグラフ31~38のいずれか1つに記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0058】
4.図面の簡単な説明
図1】ヒトIDSのアミノ酸配列である。C84の翻訳後ホルミルグリシン修飾(図1に太字で示す)は、酵素活性に必要である。8つのN結合型グリコシル化部位(N31、N115、N144、N246、N280、N325、N513、及びN537)は、太字であり、枠で囲む。1つのチロシン-O-硫酸化部位(Y)を太字で表しており、そして、全硫酸化部位配列(PSSEKY165ENTKTCRGPD)を枠で囲む。N末端の成熟42kDa及び成熟14kDaポリペプチドを、横方向矢印で示す。脳内では、N末端の成熟42kDa形態は、図1に示すように、次のように、34位または36位から始まる:T34DALNVLLI、及びA36LNVLLIIV。(Sleat,2005,Proteomics 5:1520-1532,Table S2を参照されたい)。8つのN-結合型グリコシル化部位の2つ、すなわち、N280及びN116は、ヒト脳から得たIDSにおいてマンノース-6-リン酸化を受ける。(Sleat et al.,2006,Mol & Cell Proeomics 5.4:686-701,Table Vで報告される)。
【0059】
図2】公知のオーソログとのhIDSとの複数配列アラインメントである。種名及びタンパク質IDは、次の通りである:SP|P22304|IDS_HUMAN[ヒト];TR|K6ZGI9_PANTR[Pan troglodytes(チンパンジー)];TR|K7BKV4_PANTR[Pan troglodytes(チンパンジー)];TR|H9FTX2_MACMU[Macaca mulatta(アカゲザル)]、TRF7EJG2_CALJA[Callithrix jacchus(シロフサミミマーモセット)]、TR|U3DTL8_CALJA[Callithrix jacchus(シロフサミミマーモセット)]、TR|G7NRX7_MACMU[Macaca mulatta(アカゲザル)]、TR|G7Q1V9_MACFA[Macaca fascicularis(カニクイザル:シノモログサル)]、TR|H2PX10_PONAB[Pongo abelii(スマトラオランウータン)]、TR|A0A0D9R4D1_CHLSB[Chlorocebus sabaeus(ミドリザル)]、TR|G1RST8|G1RST8_N0MLE[Nomascus leucogenys(キタホオジロテナガザル)]、UPI0000D9F625[Macaca mulatta(アカゲザル)]、UPI000274358B[Pan paniscus(ピグミーチンパンジー、ボノボ)]、UPI00027F6FC5[Papio Anubis(オリーブヒヒ)]、UPI00027FAE03[Saimiri boliviensis(ボリビアリスザル)]、UPI0003ABBF28[Macaca fascicularis(カニクイザル、シノモログサル)]、UPI000533297F[Rhinopithecus roxellana(キンシコウ(Golden snub-nosed monkey)、キンシコウ(Pygathrix roxellana))]、UPI0005F40BD2[Colobus angolensis palliates(ピーターズアンゴラコロブス)](配列番号27~44)。
【0060】
図3】hIDS、及び対応する軽度、中等度または重度の疾患表現型でのMPS II変異である(Uniprotから得た)。
【0061】
図4】Millat et al.,1997,Exp.Cell.Res.230:362-367の図7で報告されたヒトIDSプロセシング。
【0062】
図5】コンストラクト1の概略図である。
【0063】
図6】AAVキャプシド1~9のClustal多重配列アラインメントである(配列番号16~26)。アラインメントを行った他のAAVキャプシドでの対応する位置からアミノ酸残基を「動員して」、AAV9及びAAV8キャプシドにアミノ酸置換(一番下の列に太字で示す)を行うことができる。「HVR」と表記した配列領域=超可変領域。
【発明を実施するための形態】
【0064】
5.発明の詳細な説明
本発明は、ハンター症候群の診断を受けた患者であるが、これに限定されないムコ多糖症II型(MPS II)の診断を受けたヒト対象の中枢神経系(CNS)の脳脊髄液(CSF)に向けて、ヒト神経細胞またはヒトグリア細胞が産生する組換えヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(rhIDS)を送達することを含む。本明細書に記載する発明に従って使用することができる組成物及び方法に関して、全内容を、参照により、本明細書で援用する2017年4月14日に出願された国際特許出願第PCT/US2017/027770号(2017年10月19日にWO/2017/181113として公開された)も参照されたい。
【0065】
好ましい実施形態では、治療は、遺伝子治療を介して行う、例えば、ヒトIDS(hIDS)、またはhIDSの誘導体をコードするウイルスベクターまたはその他のDNA発現コンストラクトを、MPS IIの診断を受けた患者(ヒト対象)のCSFに投与して、形質導入した神経細胞、及び/またはグリア細胞の永続的なデポーを作り出すことで、継続的に導入遺伝子産物をCNSに供給する。神経細胞/グリア細胞デポーからCSFに分泌されるrhIDSは、CNSでの細胞に取り込まれて、レシピエント細胞での酵素欠損を「横断修正」する。さらに、予期せぬことに、CNSでの形質導入した神経細胞及びグリア細胞のデポーが、組換え酵素を、CNS及び全身の両方に送達することを可能とし、全身治療、例えば、酵素の毎週の静脈内注射の必要性を緩和または解消し得ることが判明した。
【0066】
代替の実施形態では、hIDSを、ヒト神経細胞またはヒトグリア細胞の細胞培養物(例えば、バイオリアクター)において生産することができ、酵素補充療法(「ERT」)として、例えば、酵素を注射して、CSFに、CNSに直接に、及び/または全身に投与することができる。しかしながら、酵素は血液脳関門を通過できず、酵素の全身送達ではCNSの治療をもたらさず、本発明の遺伝子治療手法とは異なり、CNSへの酵素の直接の送達には、大きな負担を強いるだけでなく、感染のリスクを招く反復注射が必要となるので、遺伝子治療手法は、ERTを上回る幾つかの利点を提供する。
【0067】
導入遺伝子がコードするhIDSは、限定されないが、配列番号1のアミノ酸配列を有するヒトIDS(hIDS)(図1に示す)、及びアミノ酸の置換、欠失、または付加を有する、例えば、限定をされないが、図2に示すIDSのオーソログに対応する非保存的残基から選択されるアミノ酸置換などを有するhIDSの誘導体を含むことができるが、ただし、そのような変異は、酵素活性に必要な位置84(C84)のシステイン残基の置換を含まないことを条件とし(Millat et al.,1997,Biochem J 326:243-247)、または、例えば、図3に示すように、または、各々を、参照により全内容を本明細書で援用する、Sukegawa-Hayasaka et al.,2006,J Inhert Metab Dis 29:755-761(「弱度」変異体R48P、A85T、W337R、及び切断型変異体Q531X、及び、「重度」変異体P86L、S333L、S349I、R468Q、R468Lを報告している)、Millat et al.,1998,BBA 1406:214-218(「弱度」変異体P480L、及びP480Q;及び「重度」変異体P86Lを報告している)、及び、Bonucelli et al.,2001,BBA 1537:233-238で報告されているような、重度、重度-中等度、中等度、または弱度MPS II表現型において特定された変異を含まないことを条件とする。
【0068】
例えば、hIDSの特定位置でのアミノ酸置換は、図2に配置して示したIDSオーソログでの当該位置に認められる対応する非保存的アミノ酸残基から選択することができるが、ただし、図3に示すような、または、各々を、参照により、その全内容を本明細書で援用する、Sukegawa-Hayasaka et al.,2006,supra;Millat et al.,1998(上記)、及び、Bonucelli et al.,2001,supraで報告されているようなあらゆる有害な変異を含まないことを条件とする。結果として得られる導入遺伝子産物は、インビトロで細胞培養または試験動物で、従来のアッセイを使用して試験して、変異がIDS機能を損なわないことを保証することができる。選択される好ましいアミノ酸置換、欠失、または付加は、細胞培養または動物モデルでのMPS IIのためのインビトロでの従来のアッセイで試験して、IDSの酵素活性、安定性、または半減期を維持する、または増加させるものであるべきである。例えば、導入遺伝子産物の酵素活性は、基質として、例えば、4-メチルウンベリフェリル α-L-イドピラノシズロン酸 2-硫酸塩、または4-メチルウンベリフェリル硫酸塩を用いる従来の酵素アッセイを使用して評価することができる(使用可能な例示的なIDS酵素アッセイについては、例えば、各々の全内容を、参照により、本明細書で援用する、Lee et al.,2015,Clin.Biochem.48(18):1350-1353,Dean et al.,2006,Clin.Chem.52(4):643-649を参照されたい)。導入遺伝子産物がMPS II表現型を修正する能力を、細胞培養で評価することができる。例えば、培養しているMPS II細胞に、hIDSまたは誘導体をコードするウイルスベクターまたはその他のDNA発現コンストラクトを形質導入する、培養しているMPS II細胞に、導入遺伝子産物または誘導体を加える、または、MPS II細胞を、rhIDSまたは誘導体を発現及び分泌するように遺伝子操作されたヒト神経宿主細胞/ヒトグリア宿主細胞と共培養して、MPS II培養細胞の欠陥の修正を決定する、例えば、培養しているMPS II細胞でのIDS酵素活性及び/またはGAG貯蔵量の低下を検出することによる。(例えば、その全内容を、参照により、本明細書で援用するStroncek et al.,1999,Transfusion 39(4):343-350を参照されたい)。
【0069】
本明細書に記載する治療薬を評価するために使用することができる、MPS IIのための動物モデルが記載されている。例えば、MPS IIのノックアウトマウスモデル(IDSノックアウト)は、IDS遺伝子のエクソン4及び5を、ネオマイシン耐性遺伝子で置換して遺伝子操作された。(Garcia et al.,2007,J Inherit Metab Dis 30:924-34)。このIDSノックアウトマウスは、骨格異常、肝脾腫大症、尿及び組織GAGの上昇、及び脳貯蔵病変などのMPS IIの数多くの特徴を示し(Muenzer et al.,2001,Acta Paediatr Suppl 91:98-99)、そして、ERTの臨床試験を支援するためにMPS IIでの酵素補充療法の効果を評価するために使用された。したがって、このマウスモデルは、MPS IIの治療法として、神経細胞またはグリア細胞が産生するrIDSを送達する遺伝子療法の効果を研究するための適切なモデルである(例えば、参照により、その全内容を本明細書で援用する、Polito and Cosma,2009,Am.J.Hum.Genet.85(2):296-301を参照されたい)。
【0070】
好ましくは、ヒト神経細胞/ヒトグリア細胞が産生するhIDS導入遺伝子は、神経細胞及び/またはグリア細胞において機能する発現制御エレメント、例えば、CB7プロモーター(ニワトリβ-アクチンプロモーター及びCMVエンハンサー)によって制御するべきであり、ベクターによって駆動する導入遺伝子の発現を増強するその他の発現制御エレメント(例えば、ニワトリβ-アクチンイントロン及びウサギβ-グロビンポリAシグナル)を含むことができる。hIDS導入遺伝子のためのcDNAコンストラクトには、形質導入したCNS細胞による適切な翻訳中プロセシング及び翻訳後プロセシング(グリコシル化及びタンパク質硫酸化)を保証するシグナルペプチドのためのコード配列を含めるべきである。CNS細胞で使用するそのようなシグナルペプチドとして、以下が挙げられるが、それらに限定されない。
オリゴデンドロサイト-ミエリン糖タンパク質(hOMG)シグナルペプチド:
MEYQILKMSLCLFILLFLTPGILC(配列番号2)
E1A刺激遺伝子の細胞リプレッサー2(hCREG2)シグナルペプチド:
MSVRRGRRPARPGTRLSWLLCCSALLSPAAG(配列番号3)
V-セット及び膜貫通ドメイン含有2B(hVSTM2B)シグナルペプチド:
MEQRNRLGALGYLPPLLLHALLLFVADA(配列番号4)
プロトカドヘリンアルファ-1(hPCADHA1)シグナルペプチド:
MVFSRRGGLGARDLLLWLLLLAAWEVGSG(配列番号5)
FAM19A1(TAFA1)シグナルペプチド:
MAMVSAMSWVLYLWISACA(配列番号6)
インターロイキン-2シグナルペプチド:
MYRMQLLSCIALILALVTNS(配列番号14)。
シグナルペプチドは、本明細書では、リーダー配列またはリーダーペプチドとも称され得る。
【0071】
導入遺伝子を送達するために使用される組換えベクターは、神経細胞及び/またはグリア細胞などであるが、これらに限定されない、CNSでの細胞への向性を有すべきである。そのようなベクターは、非複製組換えアデノ随伴ウイルスベクター(「rAAV」)を含むことができ、特に、AAV9またはAAVrh10キャプシドを有するウイルスベクターが好ましい。限定されないが、全内容を、参照により、本明細書で援用する米国特許第7,906,111号においてWilsonが記載した、特に好ましくはAAV/hu.31及びAAV/hu.32を有する、AAVバリアントキャプシド、ならびにその各々の全内容を、参照により、本明細書で援用する米国特許第8,628,966号、米国特許第8,927,514号、及びSmith et al.,2014,Mol Ther 22:1625-1634においてChatterjeeが記載したAAVバリアントキャプシドを使用することができる。しかしながら、「ネイキッドDNA」コンストラクトと称するレンチウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、または非ウイルス性発現ベクターを含むがこれらに限定されない、他のウイルスベクターを使用することができる。
【0072】
CSFへの投与に好適な医薬組成物は、生理的に適合性の水性緩衝剤、界面活性剤、及び任意の賦形剤を含む製剤緩衝液でのrhIDSベクターの懸濁液を含む。ある特定の実施形態では、医薬組成物は、くも膜下腔内投与に好適である。ある特定の実施形態では、医薬組成物は、大槽内投与(大槽内への注入)に好適である。ある特定の実施形態では、医薬組成物は、C1-2穿刺を介した、くも膜下腔への注入に好適である。ある特定の実施形態では、医薬組成物は、脳室内投与に好適である。ある特定の実施形態では、医薬組成物は、腰椎穿刺を介する投与に好適である。
【0073】
組換えベクターの治療有効用量は、くも膜下投与を介して(すなわち、くも膜下腔へ注入して、組換えベクターがCSFを通じて拡散して、CNSの細胞に形質導入するようにする)、CSFに投与すべきである。このことは、いくつかの方法、例えば、頭蓋内(大槽または脳室内)注入、または腰椎槽への注入によって達成することができる。例えば、(大槽内への)大槽内(IC)注入は、CTガイド後頭下穿刺で行うことができ、または、患者に実行可能であれば、C1-2穿刺を介してくも膜下腔への注入を実施することができ、または、腰椎穿刺(一般的には、CSFの試料を収集するために実施する診断手順)を、CSFにアクセスするために使用することができる。あるいは、脳室内(ICV)投与(血液脳関門を透過しない抗感染剤または抗がん剤の導入に使用する、より侵襲的な技術)を使用して、組換えベクターを直接に脳室内に滴下することができる。あるいは、鼻腔内投与を使用して、CNSに組換えベクターを送達し得る。
【0074】
小児の成長過程の早期に起こる比較的急速な脳成長のために、ICに投与されるAAV9.hIDSの総用量は、異なる年齢層において推定した脳質量に応じて変わる、例えば、以下の表2を参照されたい。治験対象の年齢での脳質量については、例えば、AS Dekaban,Ann Neurol,1978 Oct;4(4):345-56を参照されたい。
【0075】
【表5】
【0076】
CSF濃度は、後頭部または腰椎穿刺から得られたCSF流体でのrhIDSの濃度を直接に測定することでモニタリングする、または患者の血清において検出したrhIDSの濃度から外挿によって推定することができる。
【0077】
背景として、ヒトIDSは、図1に記載した8つの潜在的なN-グリコシル化部位(N31、N115、N144、N246、N280、N325、N513、及びN537)を含む550個のアミノ酸のポリペプチドとして翻訳され、プロセシングの間に切断される25個のアミノ酸のシグナル配列を含む。最初の76kDa細胞内前駆体は、そのオリゴ糖鎖がゴルジ体装置内で修飾を受けた後に、リン酸化を受けた90kDa前駆体に変換される。この前駆体は、グリコシル化修飾、及びタンパク質分解的切断によって、様々な細胞内中間体を経て、主要な55kDa形態へと処理される。まとめると、25アミノ酸シグナル配列を除去した後に、タンパク質分解プロセシングは、N31の下流でN末端タンパク質分解切断を行って、8個のアミノ酸(残基26~33)のプロペプチドを除去し、N513の上流でC末端タンパク質分解切断を行って、18kDaのポリペプチドを放出して、62kDaの中間体を生成し、これが、55kDaの成熟形態へと変換される。さらなるタンパク質分解的切断は、リソソーム区画に位置する45kDaの成熟形態を生成する。(Millat et al.,1997,Exp Cell Res 230:362-367(「Millat 1997」)から抜粋した図面について、図4を参照されたい、Millat et al.1997,Biochem J.326:243-247 (「Millat 1997a」)、及び、Froissart et al.,1995,Biochem J.309:425-430を参照されたい。これらの各々を、参照により、その全内容を本明細書で援用する)。
【0078】
酵素活性に必要なC84のホルミルグリシン修飾(図1の太字で示す)は、おそらくは初期の翻訳後に起こる、または共翻訳事象として起こる、小胞体では、ほぼ確実に起こる。(Schmidt et al.,1995,Cell 82:271-278を引用しているMillat 1997aを参照されたい)。ゴルジ体で翻訳後プロセシングが継続し、複合シアル酸含有グリカンを取り入れる、リソソーム区画への送達のための酵素に結合するマンノース-6-リン酸残基を得る。(参照により、簡潔な考察については、全内容を本明細書で援用するClarke,2008,Expert Opin Pharmacother 9:311-317を参照されたい)。IDSの安定性に必須の単一のグリコシル化部位は無いが、N280位でのグリコシル化は、マンノース-6-リン酸(M6P)受容体を介した細胞の内在化、及びリソソーム標的にとって重要である。(Chung et al.,2014,Glycoconj J 31:309-315 p.310の第1段)。正常な生理学的状態では、IDSは非常に低レベルで産生される、酵素は、あったとしても、細胞からほとんど分泌されることはない。(Clarke,2008(上記))。
【0079】
本発明は、部分的には、以下の原理に基づく。
(i)CNSの神経細胞及びグリア細胞は、CNSでの堅牢なプロセスである、グリコシル化、及びマンノース-6-リン酸化、及びチロシン-O-硫酸化を含む分泌タンパク質の翻訳後プロセシングのための細胞機構を有する分泌細胞である。例えば、ヒト脳マンノース-6-リン酸グリコプロテオームについて記載をしており、脳が、その他の組織で認められるよりもはるかに多くの個々のアイソフォームを有するより多くのタンパク質と、マンノース-6-リン酸化タンパク質を含むことを注記した、Sleat et al.,2005,Proteomics 5:1520-1532、及びSleat 1996,J Biol Chem 271:19191-98;及び、神経細胞が分泌するチロシン硫酸化糖タンパク質の産生を報告しているKanan et al.,2009,Exp.Eye Res.89:559-567、及びKanan&Al-Ubaidi,2015,Exp.Eye Res.133:126-131を参照されたい。ヒトCNS細胞がもたらす翻訳後修飾については、それぞれの全内容を、参照により援用する。
(ii)ヒトの脳は、天然型/ネイティブIDSの複数のアイソフォームを生成する。特に、ヒト脳マンノース-6-リン酸化糖タンパク質のN末端配列決定で、hIDSの成熟した42kDa鎖のN末端配列が、次のように、脳内で位置34または36から変化することを明らかにした:T34DALNVLLI;及び、A36LNVLLIIV。(Sleat,2005,Proteomics 5:1520-1532,Table S2)。8つのN結合型グリコシル化部位の内の2つ、すなわち、N280及びN116は、ヒト脳から得たIDSにおいてマンノース-6-リン酸化されていることが判明した。(Sleat et al.,2006,Mol & Cell Proeomics 5.4:686-701,Table Vで報告している)。
(iii)hIDSのプロセシングの間に、神経細胞及びグリア細胞が、76kDa及び90kDaの2つのポリペプチドを分泌するが、90kDaのポリペプチドだけが、マンノース-6-リン酸化を受けており、このものは、分泌した形態の酵素が、クロスコレクションを達成する上で必要である。(Millat,1997、形質導入したリンパ芽球様細胞に関する図1の結果、及びFroissart 1995、形質導入した線維芽細胞に関する同様の結果を示す図4-培養培地では、90kDa形態だけがリン酸化する)。興味深いことに、神経細胞及びグリア細胞が産生する組換えIDSは、腎臓などのその他の細胞が産生する組換えIDSよりも、レシピエントCNS細胞の方が貪欲にエンドサイトーシスし得ることを実証している。Daniele 2002(Biochimica et Biophysica Acta 1588(3):203-9)は、45kDa成熟活性型に対する前駆体を適切に処理した非形質導入の神経細胞及びグリア細胞のレシピエント集団による、形質導入した神経細胞及びグリア細胞培養物の馴化培地由来の組換えIDSのM6P受容体媒介エンドサイトーシスを実証した。神経細胞及びグリア細胞株が産生する組換えIDSの取り込み(74%のエンドサイトーシス)は、腎臓細胞株が産生する酵素の取り込み(5.6%のエンドサイトーシス)を遙かに上回っていた。いずれの事例でも、取り込みはM6Pによって阻害されており、このことは、組換えIDSの取り込みが、M6P受容体が媒介していることを示す。(Daniele 2002,表2及び4を参照されたい、また、pp.205-206での結果に関連する説明を、以下の表3にまとめる)。
【表6】
(iv)本明細書に記載する遺伝子治療手法は、酵素的に活性であるポリアクリルアミドゲル電気泳動(使用するアッセイによる)で測定して約90kDaのhIDS糖タンパク質前駆体の連続分泌をもたらすであろう。まず、IDS活性に必要なC84のホルミルグリシン修飾に関与する酵素であるFGly生成酵素(FGE、別名、SUMF1)は、ヒト脳の大脳皮質で発現する(SUMF1の遺伝子発現データは、例えば、GeneCardsのhttp://www.genecards.orgでアクセス可能である)。次に、インサイチュで形質導入した神経細胞及びグリア細胞が産生して分泌したグリコシル化/リン酸化rIDSは、CNSでの形質導入されていない神経細胞及びグリア細胞に取り込まれ、そして、的確にプロセシングされるであろう。いかなる理論の拘束も受けるものではないが、遺伝子治療によってインサイチュで産生して分泌したrhIDS前駆体は、CNSに投与した場合、ERTに使用する従来の組換え酵素よりも、CNSでのレシピエント細胞の方が貪欲にエンドサイトーシスし得る。例えば、Elaprase(登録商標)(線維肉腫細胞株であるHT1080で作成)は、精製タンパク質であり、約76kDaの分子量を有すると報告がされており、神経細胞及びグリア細胞が分泌する高度にリン酸化したと考えられる90kDa種のものではない。8つのN結合型グリコシル化部位は、Elaprase(登録商標)で完全に占有されており、そして、2つのビスマンノース-6-リン酸末端グリカン、ならびに、高度にシアル化したグリカン複合体を含むことが報告されているが、酵素活性の絶対要件であるC84からFGlyへの翻訳後修飾は、約50%にすぎない。(Clarke,2008,Expert Opin Pharmacother 9:311-317;Elaprase(登録商標) Full Prescribing Information and EMA filing)。別の組換え産物であるHunterase(登録商標)は、CHO細胞で作成される。Elaprase(登録商標)よりもFGlyの多さと活性の高さが報告されているが、マンノース-6-リン酸化と、取り込みについての差異は無かった。(Chung,2014,Glycoconj J 31:309-315)。
(v)インビボでの細胞外でのIDSの有効性は、M6Pと、その活性部位ホルミルグリシン(FGly)、すなわち、ホルミルグリシン生成酵素による翻訳後修飾によってC84から変換された、FGlyとを介した取り込み(細胞、及びリソソームの内在化)に依存している。上記した表3に示したように、脳細胞(神経細胞及びグリア細胞)は、形質導入した神経細胞及びグリア細胞が分泌するIDS前駆体培地とインキュベーションすると、遺伝子操作した腎臓細胞が分泌するIDS前駆体培地とインキュベーションした場合よりも高い酵素活性を示す。結果として生じる活性の5倍もの高まりは、IDSの効率的な取り込みに依るところが大きい(Daniele 2002、表2及び4を参照されたい)。CHO細胞またはHT-1080細胞が生成するIDSの市販品でのFGly含量は、約50%~70%であり、このものが、酵素活性を決定する。しかしながら、神経細胞及びグリア細胞は、IDS取り込みが改善しているので、この活性を高め得る。
(vi)IDSなどのリソソームタンパク質の細胞性及び細胞内輸送/取り込みは、M6Pを介する。Daniele 2002、及びSleat,Proteomics,2005で報告されているように、脳細胞由来のIDSは、M6Pを高含有量で含み得る(ヒトの脳が、その他の組織よりも多くの(定量的及び定性的意味で)Man6-P糖タンパク質を含むことを示す)。IDS前駆体のM6P含有量を測定することは、Daniele 2002で行われているように可能である。阻害性M6P(例えば、5mM)の存在下では、Daniele 2002の遺伝子操作した腎臓細胞などの非神経細胞または非グリア細胞が生成するIDS前駆体の取り込みは、Daniele 2002に示したように、コントロール細胞のそれに近いレベルにまで低下すると予測される。阻害性M6Pの存在下では、神経細胞やグリア細胞などの脳細胞が生成したIDS前駆体の取り込みは、Daniele 2002で示されたように、高レベルでとどまるものと予測されており、その取り込みはコントロール細胞よりも4倍多く、また、阻害性M6Pが無いままに遺伝子操作した腎臓細胞が生成したIDS前駆体のIDS活性(または、取り込み)のレベルに匹敵する。このアッセイにより、脳細胞が生成したIDS前駆体でのM6P含量を予測する方法、及び、特に、異なるタイプの細胞が生成するIDS前駆体でのM6P含量を比較することができる。本明細書に記載する遺伝子治療手法は、結果として、このようなアッセイにおいて、阻害性M6Pの存在下で、高レベルで神経細胞及びグリア細胞に取り込まれ得るhIDS前駆体を継続的に分泌する。
(vii)IDS前駆体のM6P含量及び取り込みは、90kDa及び76kDaのゲルバンド(例えば、SDS-PAGEゲルバンド)で実証し得る。この90kDaは、高度にグリコシル化/リン酸化を受けており、また、M6Pを含むと報告されているが、76kDaではそうではない。遺伝子操作した腎臓細胞から生成したIDS前駆体のゲルバンド(Daniele 2002、図1)と同様に、76kDa~95kDaの範囲、及び80~85kDaの平均分子量を有する非常に広範なゲルバンドは、脳細胞から生成したIDS前駆体のゲルバンドと対比され得る。Daniele 2002では、IDS前駆体の免疫沈降が失敗に終わったので、ゲルバンドを得ることができない。本明細書に記載する遺伝子治療手法は、遺伝子操作された腎臓細胞から生成されるIDS前駆体ゲルバンドとは異なるhIDS前駆体の継続的を分泌をもたらすであろう。
(viii)市販のIDS前駆体のM6P含量は、2~2.5mol/molであり、その大部分はジ-リン酸化グリカンの形態で存在する。平均的には、すべてのIDS前駆体がリン酸化しているが、グリカンの正規分布は、複数のリン酸化部位を仮定して、2つ、1つ、及び0個のジ-リン酸化M6Pグリカンを有する一部のIDS前駆体を有する。取り込み速度は、複数回のリン酸化で大幅に高くなるであろう。
(ix)CNSのヒト細胞によるhIDSのグリコシル化により、安定性、半減期を高め、かつ導入遺伝子産物の望ましくない凝集を減らすことができるグリカンが付加される。重要なことに、本発明のhIDSに付加されるグリカンは、2,6-シアル酸を含み、Neu5Ac(「NANA」)を組み込んでいるが、そのヒドロキシル化誘導体であるNeuGc(N-グリコリルノイラミン酸、すなわち「NGNA」または「Neu5Gc」)は組み込まない。そのようなグリカンは、CHO細胞で作成されるHunterase(登録商標)などの組換えIDS産物には存在しない。これはすなわち、CHO細胞が、この翻訳後修飾を行う上で必要とする2,6-シアリルトランスフェラーゼを有しておらず;また、CHO細胞が、二等分したGlcNAcも産生せず、Neu5Ac(NANA)の代わりに、ヒトにとって一般的でない(かつ、潜在的に免疫原性の)シアル酸としてNeu5Gc(NGNA)を付加していることによる。例えば、Dumont et al.,2016,Critical Rev in Biotech 36(6):1110-1122(Early Online pp.1-13,p.5)、及びHague et al.,1998 Electrophor 19:2612-2630(“「CHO細胞株は、α2,6-シアリルトランスフェラーゼの欠如のため、グリコシル化に関して『表現形上制限される』と考えられている」”)を参照されたい。さらに、CHO細胞は大部分の個体に存在する抗α-Gal抗体と反応して、高濃度でアナフィラキシーを誘発することができる免疫原性グリカンである、α-Gal抗原も産生することができる。例えば、Bosques,2010,Nat Biotech 28:1153-1156を参照されたい。本発明のrhIDSのヒトグリコシル化パターンは、導入遺伝子産物の免疫原性を低下させ、かつ有効性を向上させるであろう。
(x)導入遺伝子産物の免疫原性は、患者の免疫状態、注入したタンパク質薬物の構造及び特徴、投与経路、ならびに治療の持続時間を含む様々な因子によって誘導され得る。プロセス関連不純物、例えば、宿主細胞タンパク質(HCP)、宿主細胞DNA、及び化学的残渣、ならびに産物関連不純物、例えば、タンパク質分解物及び構造特徴物、例えば、グリコシル化、酸化、及び凝集(目視不可粒子)が、免疫反応を増強するアジュバントとしての機能を果たすことで免疫原性も高め得る。プロセス関連不純物、及び産物関連不純物の量は、製造プロセス、すなわち細胞培養、精製、製剤、保存、及び取扱いによる影響を受ける、また、それらは、商業生産するIDS産物に影響を及ぼす。遺伝子治療では、タンパク質はインビボで生産する、その結果、プロセス関連不純物は存在せず、また、タンパク質産物は、組換え技術で生産するタンパク質と関連した生産物関連不純物/分解物、例えば、タンパク質凝集物及びタンパク質酸化物を含む可能性は低い。凝集は、例えば、タンパク質生産及び貯蔵と関連があり、高いタンパク質濃度、製造装置及び容器との表面相互作用、ならびにある特定の緩衝剤系を使用した精製プロセスに起因する。しかし、導入遺伝子をインビボで発現させる場合、凝集を促すこれらの条件は存在しない。また、酸化、例えば、メチオニン、トリプトファン、及びヒスチジンの酸化は、タンパク質生産及び貯蔵と関連があり、例えば、ストレスを負荷した細胞培養条件、金属及び空気との接触、ならびに緩衝剤及び賦形剤での不純物に起因して発生する。インビボで発現するタンパク質は、ストレスを負荷した条件下でも酸化し得るが、ヒトは多くの生物と同様に、抗酸化防御システムを備えており、それにより、酸化ストレスが低下するだけでなく、酸化を修復、及び/または逆行させる。したがって、インビボで生産されるタンパク質が、酸化形態にある可能性は低い。凝集及び酸化は両方とも、効力、薬物動態(クリアランス)に影響を及ぼし得る、また、免疫原となる懸念を増大させる。本明細書に記載する遺伝子治療手法は、商業生産した産物と比較して免疫原性の低下したhIDS前駆体の継続的分泌をもたらすであろう。
(xi)N結合型グリコシル化部位に加えて、hIDSは、チロシン(「Y」)硫酸化部位(PSSEKY165ENTKTCRGPD)を含む。(例えば、Yang et al.,2015,Molecules 20:2138-2164、特に、p.2154、この文献は、タンパク質チロシン硫酸化に供するチロシン残基を取り囲むアミノ酸の分析に関して、その全内容を、参照により援用する。「規則」は、以下のようにまとめることができる:Yの+5~-5位以内にあるEまたはDを有するY残基、及びYの位置-1が中性である、または酸性荷電アミノ酸である。しかし、塩基性アミノ酸、例えば、硫酸化を破棄するR、K、またはHではない)。いかなる理論にも拘束されるものではないが、hIDSでのこの部位の硫酸化は、酵素の安定性、及び基質に対する結合親和性を改善し得る。ヒトCNS細胞での堅牢な翻訳後プロセスであるhIDSのチロシン硫酸化は、導入遺伝子産物のプロセシング及び活性を改善するであろう。リソソームタンパク質のチロシン硫酸化の重要性は解明されていないが、その他のタンパク質では、タンパク質間相互作用(抗体と受容体)の親和性を高め、そして、タンパク質分解プロセシング(ペプチドホルモン)を促すことを示している。(Moore,2003,J Biol.Chem.278:24243-46;及び、Bundegaard et al.,1995,The EMBO J 14:3073-79を参照されたい)。チロシン硫酸化(IDSプロセシングの最終ステップとして起こり得る)に関与するチロシルタンパク質スルホトランスフェラーゼ(TPST1)は、脳内で(mRNAに基づいて)さらに高レベルで発現している(TPST1の遺伝子発現データは、例えば、http://www.ebi.ac.uk/gxa/homeでアクセス可能である、EMBL-EBI Expression Atlasに認められ得る)。このような翻訳後修飾は、よくても、CHO細胞産物において過小評価される。ヒトCNS細胞とは異なり、CHO細胞は、分泌細胞ではなく、また、翻訳後チロシン硫酸化の能力も限られている。(例えば、Mikkelsen & Ezban,1991,Biochemistry 30:1533-1537,特に、p.1537のdiscussionを参照されたい)。
【0080】
上記した理由のために、ヒト神経細胞及び/またはグリア細胞によるrhIDSの産生は、例えば、MPS II疾患(ハンターなどがあるが、これに限定はされない)の診断を受けた患者(ヒト対象)のCSFに、rhIDSをコードするウイルスベクターまたはその他のDNA発現コンストラクトを投与して、形質導入したCNS細胞が分泌する完全ヒトグリコシル化、マンノース-6-リン酸化、硫酸化導入遺伝子産物を継続的に供給する、CNSでの永続的なデポーを作成することによる、遺伝子治療を達成するMPS IIの治療のための「バイオベター」分子をもたらすであろう。デポーからCSFに分泌されるhIDS導入遺伝子産物は、CNSでの細胞によってエンドサイトーシスされ、MPS IIレシピエント細胞での酵素欠陥を「横断修正」する。
【0081】
遺伝子治療またはタンパク質治療手法において生産される全てのrhIDS分子が完全にグリコシル化する、リン酸化する、及び硫酸化することは、必須ではない。むしろ、生産される糖タンパク質の集団は、有効性を示すのに十分なグリコシル化(2,6-シアル化、及びマンノース-6-リン酸化を含む)及び硫酸化を受けるべきである。本発明の遺伝子治療処置の目的は、疾患の進行を遅延させ、または停止させることである。有効性は、認知機能(例えば、神経認知機能の低下の防止または抑制);CSF及び/または血清での疾患のバイオマーカー(例えば、GAG)の低下;及び/または、CSF及び/または血清でのIDS酵素活性の増加を測定することでモニタリングすることができる。炎症の徴候、及びその他の安全事象をモニタリングすることもできる。
【0082】
遺伝子治療に対する代替治療または追加治療として、rhIDS糖タンパク質は、組換えDNA技術によってヒト細胞神経細胞またはグリア細胞が生産することができ、また、糖タンパク質は、ERTのために、全身的に、及び/またはCSFに、MPS IIの診断を受けた患者に投与することができる)。そのような組換え糖タンパク質生産のために使用することができるヒト細胞株として、HT-22、SK-N-MC、HCN-1A、HCN-2、NT2、SH-SY5y、hNSC11、またはReNcell VMがあるが、これらに限定されない(例えば、全内容を、参照により、本明細書で援用する、rHuGlyIDS糖タンパク質の組換え生産のために使用することができるヒト細胞株の総説に関するDumont et al.,2016,Critical Rev in Biotech 36(6):1110-1122の「Human cell lines for biopharmaceutical manufacturing:history,status,and future perspectives」を参照されたい)。完全なグリコシル化、特に、シアル化、及びチロシン硫酸化を保証するために、生産に使用する細胞株を、チロシン-O-硫酸化を担うα-2,6-シアリルトランスフェラーゼ(または、α-2,3-及びα-2,6-シアリルトランスフェラーゼの両方)、及び/またはTPST-1及びTPST-2酵素を共発現するように宿主細胞を遺伝子操作することで強化することができる。
【0083】
rhIDSの送達が、免疫反応を最小化するであろう一方で、CNS関連遺伝子治療に関する最も明白な潜在的毒性源は、遺伝的にIDSを欠損しており、したがって、タンパク質及び/または導入遺伝子を送達するために用いるベクターを寛容しない可能性のあるヒト対象において、発現したrhIDSタンパク質に対する免疫を生じることである。
【0084】
したがって、好ましい実施形態では、患者を免疫抑制治療で共治療することは、特に、IDSのレベルがゼロに近い重度の疾患を有する患者を治療する場合には適切である。タクロリムスまたはラパマイシン(シロリムス)とミコフェノール酸との組み合わせ、または組織移植手順において使用される他の免疫抑制レジメンが関係する免疫抑制治療を利用することができる。そのような免疫抑制治療は、遺伝子治療の過程で投与され得、ある特定の実施形態では、免疫抑制治療による前処置が好ましい場合がある。免疫抑制治療は、主治医の判断に基づいて、遺伝子治療処置の後も継続することができ、その後、免疫寛容が誘発した場合、例えば、180日後に中止され得る。
【0085】
他の利用可能な治療の送達を伴う、CSFに対するrhIDSの送達との組み合わせが、本発明の方法に含まれる。さらなる治療を、遺伝子治療処置の前に、それと同時に、またはその後に実施することができる。本発明の遺伝子治療と併用することができ得るMPS IIのために利用可能な治療として、Elaprase(登録商標)を全身的に、またはCSFに対して投与する酵素補充療法、及び/または、HSCT療法があるが、これらに限定されない。
【0086】
特定の態様では、本明細書に記載する方法は、ムコ多糖症II型(MPS II)の診断を受けたヒト対象の治療方法であり、当該ヒト対象の脳脊髄液(CSF)に、ヒト神経細胞またはヒトグリア細胞が産生する組換えヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)前駆体の治療有効量を送達することを含む。
【0087】
特定の態様では、本明細書に記載する方法は、ムコ多糖症II型(MPS II)の診断を受けたヒト対象の治療方法であり、当該ヒト対象の脳脊髄液(CSF)に、組換えヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)前駆体の治療有効量を送達することを含み、当該前駆体は、ポリアクリルアミドゲル電気泳動で測定して約90kDa(例えば、85kDa、86kDa、87kDa、88kDa、89kDa、90kDa、91kDa、92kDa、93kDa、94kDa、または95kDa)のものであり、C84にホルミルグリシン残基を有し(図1)、α2,6-シアル化を受けており、検出可能なNeuGcを含まず、マンノース-6-リン酸化を受けている。
【0088】
特定の態様では、本明細書に記載する方法は、ムコ多糖症II型(MPS II)の診断を受けたヒト対象の治療方法であり、当該ヒト対象の脳脊髄液(CSF)に、組換えヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)糖タンパク質前駆体の治療有効量を送達することを含み、当該前駆体は、ポリアクリルアミドゲル電気泳動で測定して約90kDa(例えば、85kDa、86kDa、87kDa、88kDa、89kDa、90kDa、91kDa、92kDa、93kDa、94kDa、または95kDa)のものであり、C84にホルミルグリシン残基を有し(図1)、α2,6-シアル化を受けており、検出可能なNeuGc及び/またはα-Galを含まず、マンノース-6-リン酸化を受けている。
【0089】
ある特定の実施形態では、ヒトIDS前駆体は、当該IDS前駆体をCSFに分泌するように遺伝子操作された中枢神経系の細胞のデポーからCSFに送達する。ある特定の実施形態では、デポーを、当該対象の脳内で形成する。ある特定の実施形態では、ヒト対象は、IDS活性を欠損している。ある特定の実施形態では、ヒトIDSは、配列番号1のアミノ酸配列を含む。
【0090】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載する方法は、ムコ多糖症II型(MPS II)の診断を受けたヒト対象の治療方法であり、当該ヒト対象の脳脊髄液(CSF)に、ヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)をコードする組換えヌクレオチド発現ベクターを投与することを含み、当該発現ベクターは、培養物での初代ヒト神経細胞を形質導入するために使用する場合、ポリアクリルアミドゲル電気泳動で測定して約90kDa(例えば、85kDa、86kDa、87kDa、88kDa、89kDa、90kDa、91kDa、92kDa、93kDa、94kDa、または95kDa)のものであり、C84にホルミルグリシン残基を有し(図1)、α2,6-シアル化を受けており、マンノース-6-リン酸化を受けている。
【0091】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載する方法は、ムコ多糖症II型(MPS II)の診断を受けたヒト対象の治療方法であり、当該ヒト対象の脳の脊髄液に向けて、ヒトIDSをコードする組換えヌクレオチド発現ベクターの治療有効量を投与することを含み、それにより、α2,6-シアル化を受けている、そして、マンノース-6-リン酸化を受けている組換えヒトIDS糖タンパク質前駆体を分泌するデポーを当該対象の中枢神経系に形成する。
【0092】
ある特定の実施形態では、α2,6-シアル化した当該組換えヒトIDS糖タンパク質前駆体の分泌を、細胞培養で、ヒト神経細胞株に当該組換えヌクレオチド発現ベクターを形質導入して確認する。ある特定の実施形態では、マンノース-6-リン酸化した前記組換えヒトIDS糖タンパク質前駆体の分泌を、細胞培養で、ヒト神経細胞株に当該組換えヌクレオチド発現ベクターを形質導入して確認する。ある特定の実施形態では、マンノース-6-リン酸の存在下及び非存在下で分泌を確認する。
【0093】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載する方法は、ムコ多糖症II型(MPS II)の診断を受けたヒト対象の治療方法であり、当該ヒト対象の脳の脊髄液に、ヒトIDSをコードする組換えヌクレオチド発現ベクターの治療有効量を投与することを含み、それにより、α2,6-シアル化グリカンを含有するグリコシル化IDS前駆体を分泌するデポーを形成し、当該組換えベクターは、培養で、ヒト神経細胞の形質導入のために使用すると、当該細胞培養で、α2,6-シアル化グリカンを含む当該グリコシル化IDS前駆体の分泌をもたらす。
【0094】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載する方法は、ムコ多糖症II型(MPS II)の診断を受けたヒト対象を治療する方法であり、当該ヒト対象の脳の脳脊髄液に、ヒトIDSをコードする組換えヌクレオチド発現ベクターの治療有効量を投与することを含み、それにより、マンノース-6-リン酸を含むグリコシル化IDS前駆体を分泌するデポーを形成し、当該組換えベクターは、培養で、ヒト神経細胞の形質導入のために使用すると、当該細胞培養で、マンノース-6-リン酸化した当該グリコシル化IDS前駆体の分泌をもたらす。
【0095】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載する方法は、ムコ多糖症II型(MPS II)の診断を受けたヒト対象を治療する方法であり、当該ヒト対象の脳の脳脊髄液に、ヒトIDSをコードする組換えヌクレオチド発現ベクターの治療有効量を投与することを含み、それにより、ホルミルグリシンを含むグリコシル化IDS前駆体を分泌するデポーを形成し、当該組換えベクターは、培養で、ヒト神経細胞の形質導入のために使用すると、当該細胞培養で、ホルミルグリシンを含有する当該グリコシル化IDS前駆体の分泌をもたらす。
【0096】
ある特定の実施形態では、ヒトIDSは、配列番号1のアミノ酸配列を含む。ある特定の実施形態では、IDS導入遺伝子は、リーダーペプチドをコードする。ある特定の実施形態では、発現ベクターは、複製欠損AAVベクターである。ある特定の実施形態では、発現ベクターは、くも膜下内(例えば、大槽内、患者に対して実施可能であればC1-2穿刺、または腰椎穿刺)、脳室内、または鼻腔内投与によって、当該対象のCSFに送達する。ある特定の実施形態では、ヒト対象は、IDS活性が欠損している。
【0097】
好ましい実施形態では、グリコシル化IDSは、検出可能なNeuGc及び/またはα-Galを含まない。本明細書で使用する「検出可能なNeuGc及び/またはα-Gal」という表現は、当該技術分野で公知の標準的なアッセイ方法によって検出可能なNeuGc及び/またはα-Gal部分のことを意味する。例えば、NeuGcは、NeuGcを検出する方法に関して、参照により、本明細書で援用する、Hara et al.,1989,“Highly Sensitive Determination of N-Acetyl-and N-Glycolylneuraminic Acids in Human Serum and Urine and Rat Serum by Reversed-Phase Liquid Chromatography with Fluorescence Detection.” J.Chromatogr.,B:Biomed.377:111-119に従ってHPLCで検出し得る。あるいは、NeuGcは、質量分析で検出し得る。α-Galは、ELISAを使用して検出し得、例えば、Galili et al.,1998,“A sensitive assay for measuring alpha-Gal epitope expression on cells by a monoclonal anti-Gal antibody.” Transplantation.65(8):1129-32を参照されたい、または、質量分析を使用して検出し得、例えば、Ayoub et al.,2013,“Correct primary structure assessment and extensive glyco-profiling of cetuximab by a combination of intact,middle-up,middle-down and bottom-up ESI and MALDI mass spectrometry techniques.” Landes Bioscience.5(5):699-710を参照されたい。また、Platts-Mills et al.,2015,“Anaphylaxis to the Carbohydrate Side-Chain Alpha-gal” Immunol Allergy Clin North Am.35(2):247-260で引用している文献も参照されたい。
【0098】
一態様では、本明細書では、MPS IIの診断を受けたヒト対象の治療方法を提供し、ヒトの神経細胞またはグリア細胞が産生する治療有効量のグリコシル化組換えヒトIDS前駆体を、ヒト対象のCSFに送達することを含み、当該グリコシル化組換えヒトIDS前駆体を、ヒトIDSをコードする組換えヌクレオチド発現ベクターを投与して誘導し、組換えヌクレオチド発現ベクターを、ヒト対象の脳質量に応じた用量で投与し、ヒト対象の脳の脳MRIで脳質量を決定する。
【0099】
別の態様では、本明細書では、MPS IIの診断を受けたヒト対象の治療方法を提供し、ヒト対象の脳質量を、ヒト対象の脳MRIで決定して、続いて、ヒト神経細胞またはヒトグリア細胞が産生するグリコシル化組換えヒトIDS前駆体の治療有効量をヒト対象のCSFに送達することを含み、当該グリコシル化組換えヒトIDS前駆体を、ヒトIDSをコードする組換えヌクレオチド発現ベクターを投与して送達し、当該組換えヌクレオチド発現ベクターを、ヒト対象の脳質量に応じた用量で投与する。
【0100】
別の態様では、本明細書では、MPS IIの診断を受けたヒト対象の治療方法を提供して、(a)ヒト対象の脳MRIからヒト対象の脳質量を決定すること、(b)ヒト対象の脳質量に基づいて用量を計算すること、及び(c)続いて、ヒトIDSをコードする組換えヌクレオチド発現ベクターの当該用量を、当該対象のCSFに投与することを含む。
【0101】
別の態様では、本明細書では、MPS IIの診断を受けたヒト対象の治療方法を提供し、(a)ヒト対象のCSFに対して、ヒト神経細胞またはヒトグリア細胞が産生するグリコシル化組換えヒトIDS前駆体の治療有効量を送達すること(b)ヒト対象のCSF中のヘパラン硫酸のレベルを測定すること、及び(c)ヒト対象のCSF中のヘパラン硫酸のレベルを、参照集団でのヘパラン硫酸のレベルと比較することを、この順序で含み、当該グリコシル化組換えヒトIDS前駆体を、ヒトIDSをコードする組換えヌクレオチド発現ベクターの投与によって誘導し、組換えヌクレオチド発現ベクターを、ヒト対象の脳質量に応じた用量で投与し、ヒト対象の脳の脳磁気共鳴画像法(MRI)で脳質量を決定する。ある特定の実施形態では、参照集団は、(a)少なくとも1、2、3、4、5、10、25、50、75、100、200、250、300、400、500、または1000名のMPS IIでない健常者からなり、好ましくは、ヒト対象と同様の年齢、体重、及び/または同じ性別の健常者からなる。
【0102】
別の態様では、本明細書では、MPS IIの診断を受けたヒト対象の治療方法を提供し、(a)ヒト対象のCSF中のヘパラン硫酸のレベルに関する第1の測定を行うこと、(b)ヒト対象のCSFに対して、ヒト神経細胞またはヒトグリア細胞が産生するグリコシル化組換えヒトIDS前駆体の治療有効量を送達すること、及び(c)一定期間の後に、ヘパラン硫酸のレベルに関する第2の測定を行うことを、この順序で含み、当該グリコシル化組換えヒトIDS前駆体を、ヒトIDSをコードする組換えヌクレオチド発現ベクターの投与によって誘導すし、当該組換えヌクレオチド発現ベクターを、ヒト対象の脳質量に応じた用量で投与し、ヒト対象の脳の脳磁気共鳴画像法(MRI)で脳質量を決定する。ある特定の実施形態では、当該期間は、約1日、2日、3日、4日、5日、6日、1週間、2週間、3週間、4週間、2か月、3か月、4か月、5か月、6か月、7か月、8か月、11か月、または1年である。
【0103】
好ましい実施態様では、グリコシル化組換えヒトIDS前駆体を、ヒト対象のCNSでの細胞が取り込む。好ましい実施態様では、グリコシル化組換えヒトIDS前駆体を、ヒト対象のCNSでの細胞のリソソームに送達する。
【0104】
本明細書に記載する治療方法のある特定の実施形態では、ヒト対象の脳体積に、1.046g/cmの係数を乗じて、ヒト対象の脳体積cmからヒト対象の脳質量に変換し、ヒト対象の脳体積を、ヒト対象の脳MRIから得る。
【0105】
本明細書に記載する治療方法のある特定の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターを、MRIで決定した脳質量1gあたり約1.3×1010GC、またはMRIで決定した脳質量1gあたり約6.5×1010GCの用量で投与する。
【0106】
本明細書に記載する治療方法の様々な実施形態では、ヒト対象は、5歳以上、かつ18歳未満である。ある特定の実施形態では、ヒト対象は、5歳、6歳、7歳、8歳、9歳、10歳、11歳、12歳、13歳、14歳、15歳、16歳、17歳、または18歳である。ある特定の実施形態では、ヒト対象は、約5歳、6歳、7歳、8歳、9歳、10歳、11歳、12歳、13歳、14歳、15歳、16歳、17歳、または18歳である。ある特定の実施形態では、ヒト対象は、5~6歳、6~7歳、7~8歳、8~9歳、9~10歳、10~11歳、11~12歳、12~13歳、13~14歳、14~15歳、15~16歳、16~17歳、17~18歳、または18~19歳である。ある特定の実施形態では、ヒト対象は、約5~6歳、6~7歳、7~8歳、8~9歳、9~10歳、10~11歳、11~12歳、12~13歳、13~14歳、14~15歳、15~16歳、16~17歳、17~18歳、または18~19歳である。ある特定の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターは、MRIで決定した脳質量1gあたり約6.5×1010GCの用量で投与する。ある特定の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターを、表7に記載した用量で投与する。
【0107】
本明細書に記載する治療方法の様々な実施形態では、ヒト対象は、4か月齢以上、かつ5歳未満である。特定の実施形態では、ヒト対象は、4、5、6、7、8、9、10、または11か月齢である。特定の実施形態では、ヒト対象は、約4、5、6、7、8、9、10、または11か月齢である。特定の実施形態では、ヒト対象は、4~5、5~6、6~7、7~8、8~9、9~10、10~11、または11~12か月齢である。特定の実施形態では、ヒト対象は、約4~5、5~6、6~7、7~8、8~9、9~10、10~11、または11~12か月齢である。特定の実施形態では、ヒト対象は、1歳、2歳、3歳、4歳、または5歳である。特定の実施形態では、ヒト対象は、約1歳、2歳、3歳、4歳、または5歳である。特定の実施形態では、ヒト対象は、1~2歳、2~3歳、3~4歳、4~5歳、または5~6歳である。特定の実施形態では、ヒト対象は、約1~2歳、2~3歳、3~4歳、4~5歳、または5~6歳である。ある特定の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターは、MRIで決定した脳質量1gあたり約1.3×1010GCの用量で投与する。ある特定の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターは、MRIで決定した脳質量1gあたり約6.5×1010GCの用量で投与する。ある特定の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターは、MRIで決定した脳質量1gあたり約2.0×1011GCの用量で投与する。ある特定の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターは、表5に従って用量1または用量2から選択する用量で投与する。ある特定の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターは、表6に記載した用量で投与する。
【0108】
本明細書に記載する治療方法の一部の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターを、大槽内(IC)投与を介して投与する。本明細書に記載する方法の他の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターを、脳室内(ICV)投与を介して投与する。
【0109】
本明細書に記載する方法のある特定の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターを、ヒト対象の脳脊髄液の総体積の10%を超えない体積で投与する。
【0110】
本明細書に記載する治療方法のある特定の実施形態では、グリコシル化組換えヒトIDS前駆体が、検出可能なレベルで分泌される。
【0111】
本明細書に記載する治療方法のある特定の実施形態では、ヒト神経細胞またはヒトグリア細胞は、ヒトIDS前駆体をコードする内因性遺伝子に少なくとも1つの変異を有する。
【0112】
本明細書に記載する治療方法のある特定の実施形態では、ヒト神経細胞またはヒトグリア細胞を、組換えアデノ随伴ウイルスベクター(rAAV)で形質導入する。
【0113】
好ましい態様では、組換えヌクレオチド発現ベクターは、AAV9またはAAVrh10ベクターである。
【0114】
本明細書に記載する治療方法のある特定の実施形態では、グリコシル化組換えヒトIDS前駆体を、CB7プロモーターの制御下で発現する。
【0115】
本明細書に記載する治療方法のある特定の実施形態では、グリコシル化組換えヒトIDS前駆体が、ヒトIDS前駆体をコードするcDNAから発現する。
【0116】
本明細書に記載する治療方法のある特定の実施形態では、グリコシル化組換えヒトIDS前駆体は、ポリアクリルアミドゲル電気泳動で測定して約90kDaのものである。
【0117】
本明細書に記載する治療方法のある特定の実施形態では、グリコシル化組換えヒトIDS前駆体は、ホルミルグリシンを含有する。
【0118】
本明細書に記載する治療方法の特定の実施態様では、グリコシル化組換えヒトIDS前駆体は、(a)α2,6-シアル化を受けている、(b)検出可能なNeuGcを含まない、(c)検出可能なα-Gal抗原を含まない、(d)チロシン硫酸化を含む、及び/または(e)マンノース-6-リン酸化を受けている。
【0119】
本明細書に記載する治療方法のある特定の実施形態では、グリコシル化組換えヒトIDS前駆体は、配列番号1のアミノ酸配列を含む。
【0120】
本明細書で提供するある特定の実施形態では、当該方法は、ヒトIDS前駆体治療の前に、または同時に免疫抑制療法をヒト対象に対して実施し、任意に、その後も免疫抑制療法を継続する、ことをさらに含む。
【0121】
一部の実施形態では、免疫抑制療法は、1つ以上のコルチコステロイド、シロリムス、及び/またはタクロリムスを投与することを含む。特定の実施形態では、1つ以上のコルチコステロイドは、メチルプレドニゾロン、及び/またはプレドニゾンである。
【0122】
特定の実施形態では、免疫抑制療法は、プレドニゾンを、約0.10mg/kg、0.11mg/kg、0.12mg/kg、0.13mg/kg、0.14mg/kg、0.15mg/kg、0.16mg/kg、0.17mg/kg、0.18mg/kg、0.19mg/kg、0.20mg/kg、0.21mg/kg、0.22mg/kg、0.23mg/kg、0.24mg/kg、0.25mg/kg、0.26mg/kg、0.27mg/kg、0.28mg/kg、0.29mg/kg、0.30mg/kg、0.31mg/kg、0.32mg/kg、0.33mg/kg、0.34mg/kg、0.35mg/kg、0.36mg/kg、0.37mg/kg、0.38mg/kg、0.39mg/kg、0.40mg/kg、0.41mg/kg、0.42mg/kg、0.43mg/kg、0.44mg/kg、0.45mg/kg、0.46mg/kg、0.47mg/kg、0.48mg/kg、0.49mg/kg、0.5mg/kg、0.6mg/kg、0.7mg/kg、0.8mg/kg、0.9mg/kg、または1mg/kgの用量で投与することを含む。特定の実施形態では、免疫抑制療法は、プレドニゾンを、約0.10mg/kg~約0.20mg/kgの範囲の用量で投与することを含む。特定の実施形態では、免疫抑制療法は、プレドニゾンを、約0.20mg/kg~約0.30mg/kgの範囲の用量で投与することを含む。特定の実施形態では、免疫抑制療法は、プレドニゾンを、約0.30mg/kg~約0.40mg/kgの範囲の用量で投与することを含む。特定の実施形態では、免疫抑制療法は、プレドニゾンを、約0.40mg/kg~約0.50mg/kgの範囲の用量で投与することを含む。特定の実施形態では、免疫抑制療法は、プレドニゾンを、約0.50mg/kg~約1mg/kgの範囲の用量で投与することを含む。特定の実施形態では、これらの用量は、毎日投与する。特定の実施形態では、免疫抑制療法は、プレドニゾンを、0.5mg/kg/日の用量で投与することを含む。別の特定の実施形態では、免疫抑制療法は、プレドニゾンを、0.5mg/kg/日の用量で投与することを含み、漸減及び中止する。
【0123】
ある特定の実施形態では、免疫抑制療法は、メチルプレドニゾロンを、約0.5mg/kg、0.6mg/kg、0.7mg/kg、0.8mg/kg、0.9mg/kg、1mg/kg、1.5mg/kg、2mg/kg、2.5mg/kg、3mg/kg、3.5mg/kg、3.5mg/kg、4mg/kg、4.5mg/kg、5mg/kg、5.5mg/kg、6mg/kg、6.5mg/kg、7mg/kg、7.5mg/kg、8mg/kg、8.5mg/kg、9mg/kg、9.5mg/kg、10mg/kg、11mg/kg、12mg/kg、13mg/kg、14mg/kg、15mg/kg、16mg/kg、17mg/kg、18mg/kg、19mg/kg、または20mg/kgの用量で投与することを含む。特定の実施形態では、免疫抑制療法は、メチルプレドニゾロンを、約0.50mg/kg~約1.0mg/kgの範囲の用量で投与することを含む。特定の実施形態では、免疫抑制療法は、メチルプレドニゾロンを、約1.0mg/kg~約2.0mg/kgの範囲の用量で投与することを含む。特定の実施形態では、免疫抑制療法は、メチルプレドニゾロンを、約2.0mg/kg~約3.0mg/kgの範囲の用量で投与することを含む。特定の実施形態では、免疫抑制療法は、メチルプレドニゾロンを、約3.0mg/kg~約5.0mg/kgの範囲の用量で投与することを含む。特定の実施形態では、免疫抑制療法は、メチルプレドニゾロンを、約5.0mg/kg~約10.0mg/kgの範囲の用量で投与することを含む。特定の実施形態では、免疫抑制療法は、メチルプレドニゾロンを、約10.0mg/kg~約15.0mg/kgの範囲の用量で投与することを含む。特定の実施形態では、免疫抑制療法は、メチルプレドニゾロンを、約15.0mg/kg~約20.0mg/kgの範囲の用量で投与することを含む。特定の実施形態では、メチルプレドニゾロンを1度投与する。特定の実施形態では、メチルプレドニゾロンを、静脈内投与する。特定の実施形態では、メチルプレドニゾロンを、最大で500mg投与する。特定の実施形態では、メチルプレドニゾロンを、少なくとも30分間にわたって投与する。特定の実施形態では、免疫抑制療法は、メチルプレドニゾロンを、10mg/kg IVの用量で、少なくとも30分間にわたって、最大で500mgを投与することを含む。
【0124】
ある特定の実施形態では、免疫抑制療法は、1~3ng/mLの標的血中レベルを維持する用量でシロリムスを投与することを含む。特定の実施形態では、免疫抑制療法は、シロリムスを、約0.25mg/m/日、0.3mg/m/日、0.4mg/m/日、0.5mg/m/日、0.6mg/m/日、0.7mg/m/日、0.8mg/m/日、0.9mg/m/日、1mg/m/日、1.25mg/m/日、1.5mg/m/日、1.75mg/m/日、2mg/m/日、2.25mg/m/日、2.5mg/m/日、2.75mg/m/日、3mg/m/日、3.25mg/m/日、3.5mg/m/日、3.75mg/m/日、4mg/m/日、4.25mg/m/日、4.5mg/m/日、4.75mg/m/日、または5mg/m/日の用量で投与することを含む。特定の実施形態では、免疫抑制療法は、シロリムスを、0.25mg/m/日~約0.5mg/m/日の範囲の用量で投与することを含む。特定の実施形態では、免疫抑制療法は、シロリムスを、約0.50mg/m/日~約1.0mg/m/日の範囲の用量で投与することを含む。特定の実施形態では、免疫抑制療法は、シロリムスを、約1.0mg/m/日~約1.5mg/m/日の範囲の用量で投与することを含む。特定の実施形態では、免疫抑制療法は、シロリムスを、約1.5mg/m/日~約2mg/m/日の範囲の用量で投与することを含む。特定の実施形態では、免疫抑制療法は、シロリムスを、約2mg/m/日~約5mg/m/日の範囲の用量で投与することを含む。特定の実施形態では、用量を、BID投与用に分割する。特定の実施形態では、免疫抑制療法は、シロリムスを、約1mg/m/日の用量で、4時間ごとに投与することを含む。特定の実施形態では、免疫抑制療法は、シロリムスを、BID投与用に分割した約0.5mg/m/日の用量で投与することを含む。
【0125】
特定の実施形態では、免疫抑制療法は、タクロリムスを、2~4ng/mLの標的血中レベルを維持する用量で投与することを含む。特定の実施形態では、免疫抑制療法は、タクロリムスを、約0.01mg/kg、0.02mg/kg、0.03mg/kg、0.04mg/kg、0.05mg/kg、0.06mg/kg、0.07mg/kg、0.08mg/kg、0.09mg/kg、または0.10mg/kgの用量で投与することを含む。特定の実施形態では、免疫抑制療法は、タクロリムスを、0.01mg/kg~0.02mg/kgの範囲の用量で投与することを含む。特定の実施形態では、免疫抑制療法は、タクロリムスを、0.02mg/kg~0.03mg/kgの範囲の用量で投与することを含む。特定の実施形態では、免疫抑制療法は、タクロリムスを、0.03mg/kg~0.05mg/kgの範囲の用量で投与することを含む。特定の実施形態では、免疫抑制療法は、タクロリムスを、0.05mg/kg~0.07mg/kgの範囲の用量で投与することを含む。特定の実施形態では、免疫抑制療法は、タクロリムスを、0.07mg/kg~0.10mg/kgの範囲の用量で投与することを含む。特定の実施形態では、当該用量を、1日2回投与する。特定の実施形態では、免疫抑制療法は、タクロリムスを、約0.05mg/kgの用量で、1日2回投与することを含む。
【0126】
一部の実施形態では、当該方法は、免疫抑制療法の前に、または同時に、1つ以上の抗生物質を、ヒト対象に投与することをさらに含む。特定の実施形態では、1つ以上の抗生物質は、トリメトプリム、スルファメトキサゾール、ペンタミジン、ダプソン、及び/またはアトバコンである。別の特定の実施形態では、1つ以上の抗生物質は、トリメトプリム、及び/またはスルファメトキサゾールである。別の特定の実施形態では、1つ以上の抗生物質は、ペンタミジン、ダプソン、及び/またはアトバコンである。特定の実施形態では、1つ以上の抗生物質を、約1mg/kg、2mg/kg、3mg/kg、4mg/kg、5mg/kg、6mg/kg、7mg/kg、8mg/kg、9mg/kg、または10mg/kgの用量で投与する。特定の実施形態では、1つ以上の抗生物質を、約1mg/kg~2mg/kgの範囲の用量で投与する。特定の実施形態では、1つ以上の抗生物質を、約2mg/kg~3mg/kgの範囲の用量で投与する。特定の実施形態では、1つ以上の抗生物質を、約3mg/kg~5mg/kgの範囲の用量で投与する。特定の実施形態では、1つ以上の抗生物質を、約5mg/kg~7mg/kgの範囲の用量で投与する。特定の実施形態では、1つ以上の抗生物質を、約7mg/kg~10mg/kgの範囲の用量で投与する。特定の実施形態では、1つ以上の抗生物質を、週に約3回の用量で投与する。ある特定の実施形態では、1つ以上の抗生物質を、Pneumocystis carinii肺炎を予防するために投与する。
【0127】
一部の実施形態では、当該方法は、免疫抑制療法の前に、または同時に、1つ以上の抗真菌療法をヒト対象に実施することをさらに含む。ある特定の実施形態では、1つ以上の抗真菌療法は、絶対好中球数が500mm未満であれば開始する。
【0128】
一部の実施形態では、当該方法は、組換えヌクレオチド発現ベクターを投与した後に、次のバイオマーカーの1つ以上を測定するステップをさらに含む:(a)CSF中のグリコサミノグリカン(GAG)のレベル、(b)CSF中のイズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)のレベル;(c)血漿中のGAGのレベル、(d)血漿中のI2Sのレベル、(e)白血球I2S酵素活性のレベル、及び(f)尿中のGAGのレベル。特定の実施形態では、CSF中のGAGは、CSF中のヘパリン硫酸を含む。別の特定の実施形態では、CSF中のGAGは、CSF中のヘパリン硫酸である。別の特定の実施形態では、血漿中のGAGは、血漿中のヘパリン硫酸を含む。別の特定の実施形態では、血漿中のGAGは、血漿中のヘパリン硫酸である。別の特定の実施形態では、尿中のGAGは、尿中のヘパリン硫酸を含む。別の特定の実施形態では、尿中のGAGは、尿中のヘパリン硫酸である。特定の実施形態では、測定するステップは、CSF中のヘパリン硫酸のレベルを測定すること含む。別の特定の実施形態では、測定するステップは、白血球I2S酵素活性のレベルを測定することを含む。
【0129】
本明細書に記載する治療方法の特定の実施態様では、組換えヌクレオチド発現ベクターは、液体組成物である。本明細書に記載する治療方法のある特定の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターは、凍結組成物である。本明細書に記載する治療方法のある特定の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターは、凍結乾燥組成物、または再構成凍結乾燥組成物である。本明細書に記載する治療方法のある特定の実施形態では、本明細書で提供する組換えヌクレオチド発現ベクターは、ICまたはICV投与のための様々な剤形で製剤し得る。本明細書に記載する治療方法のある特定の実施形態では、本明細書に提供する組換えヌクレオチド発現ベクターは、単位投与量製剤または複数投与量製剤で提供し得る。本明細書で使用する単位投与量製剤とは、ヒト及び動物対象への投与に適した物理的に別個の単位のことを指しており、当該技術分野で公知の包装方法で個別に包装する。それぞれの単位投与量製剤は、必要な医薬担体または賦形剤と共同して所望の治療効果を奏する上で十分な所定量の当該組換えヌクレオチド発現ベクター、及び/またはその他の成分(複数可)を含む。単位投与量製剤の例として、アンプル、バイアル、予め充填したシリンジ、またはカートリッジがある。
【0130】
本明細書に記載する治療方法のある特定の実施形態では、単位投与量を、その一部またはその倍数の用量で投与し得る。本明細書に記載する治療方法のある特定の実施形態では、複数単位投与量とは、単一の容器に同一の単位投与量が複数入れてあり、当該単位投与量に分けて投与する。複数単位投与量の例として、バイアル、予め充填したシリンジ、またはカートリッジがある。ある特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、8.5×1012GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。ある特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、9.8×1012GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。ある特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、1.1×1013GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。ある特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、1.3×1013GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。ある特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、1.5×1013GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。ある特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、1.7×1013GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。ある特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、4.2×1013GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。ある特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、4.9×1013GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。ある特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、5.5×1013GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。ある特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、6.3×1013GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。ある特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、7.3×1013GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。ある特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、8.5×1013GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。ある特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、9.0×1013GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。ある特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、1.0×1014GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。ある特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、1.1×1014GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。ある特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、1.2×1014GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。ある特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、1.3×1014GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。ある特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、1.4×1014GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。ある特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、1.5×1014GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。ある特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、1.6×1014GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。ある特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、1.7×1014GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。ある特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、1.8×1014GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。ある特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、1.9×1014GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。ある特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、2.0×1014GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。ある特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、2.1×1014GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。ある特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、2.2×1014GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。ある特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、2.3×1014GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。ある特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、2.4×1014GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。ある特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、2.5×1014GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。ある特定の実施形態では、予め充填したシリンジは、2.6×1014GCの組換えヌクレオチド発現ベクターを含む。
【0131】
本明細書で使用する用語「約」は、所定の値または範囲の±10%以内にあることを意味する。ある特定の実施形態では、用語「約」は、所与の値または範囲の±1%以内であることを意味する、また、この数値は、ヒト対象の脳質量に応じた用量であり、また、脳質量は、ヒト対象の脳の脳MRIで決定する。ある特定の実施形態では、用語「約」は、所与の値または範囲の±2%以内であることを意味する、また、この数値は、対象の脳の脳MRIで決定する用量である、そして、脳質量は、ヒト対象の脳の脳MRIで決定する。ある特定の実施形態では、用語「約」は、所与の値または範囲の±5%以内であることを意味する、また、この数値は、ヒト対象の脳質量に応じた用量であり、また、脳質量は、ヒト対象の脳の脳MRIで決定する。ある特定の実施形態では、用語「約」は、所与の値または範囲の±7%以内であることを意味する、また、この数値は、ヒト対象の脳質量に応じた用量であり、また、脳質量は、ヒト対象の脳の脳MRIで決定する。ある特定の実施形態では、用語「約」は、所与の値または範囲の±10%以内であることを意味する、また、この数値は、ヒト対象の脳質量に応じた用量であり、また、脳質量は、ヒト対象の脳の脳MRIで決定する。しかしながら、本明細書では、用語「約」が、その用語に接続している正確な数値の詳細を示すことも理解されたい。例えば、「約10」は、数字の「10」に関する詳細を的確に提供する。
【0132】
5.1 プロセシング、N-グリコシル化、及びチロシン硫酸化
5.1.1.プロセシング
ヒトIDSは、プロセシングの間に切断される25個のアミノ酸のシグナル配列を含む。最初の76kDa細胞内IDS前駆体は、そのオリゴ糖鎖がゴルジ体装置内で修飾を受けた後に、リン酸化を受けた90kDa IDS前駆体に変換される。この前駆体は、グリコシル化修飾、及びタンパク質分解的切断によって、様々な細胞内中間体を経て、主要な55kDa形態へとプロセシングされる。まとめると、25アミノ酸シグナル配列を除去した後に、タンパク質分解プロセシングは、N31の下流でN末端タンパク質分解切断を行って、8個のアミノ酸(残基26~33)のプロペプチドを除去し、N513の上流でC末端タンパク質分解切断を行って、18kDaのポリペプチドを放出して、62kDaの中間体を生成し、これが、55kDaの成熟形態へと変換される。さらなるタンパク質分解的切断は、リソソーム区画に位置する45kDaの成熟形態を生成する。(Millat et al.,1997,Exp Cell Res 230:362-367(「Millat 1997」)から抜粋した図面については図4を参照されたい;Millat et al.1997,Biochem J.326:243-247 (「Millat 1997a」);及び、Froissart et al.,1995,Biochem J.309:425-430を参照されたい。これらの各々を、参照により、その全内容を本明細書で援用する)。
【0133】
酵素活性に必要なC84のホルミルグリシン修飾(図1の太字で示す)は、おそらくは初期の翻訳後事象、または共翻訳事象として、小胞体では、ほぼ確かに起こる。(Schmidt et al.,1995,Cell 82:271-278を引用しているMillat 1997aを参照されたい)。ゴルジ体で翻訳後プロセシングが継続され、複合シアル酸含有グリカンを取り入れ、リソソーム区画への送達のための酵素に結合するマンノース-6-リン酸残基の取得を含む。(参照により、その全内容を本明細書で援用する簡潔な考察については、Clarke,2008,Expert Opin Pharmacother 9:311-317を参照されたい)。
【0134】
特定の実施形態では、本明細書に記載する方法に従って使用するHuGlyIDSは、神経細胞またはグリア細胞において、インビボまたはインビトロで発現する場合、90kDa(例えば、85kDa、86kDa、87kDa、88kDa、89kDa、90kDa、91kDa、92kDa、93kDa、94kDa、または95kDa)の酵素のマンノース-6-リン酸化形態とすることができる。神経細胞及びグリア細胞から産生したIDSは、Daniele 2002及びSleat,Proteomics,2005が報告しているように、M6Pをより高含量で含み得る(このことは、ヒトの脳が、他の組織よりも(定量的及び定性的の双方の意味で)M6P糖タンパク質を多く含むことを示す)。IDS前駆体のM6P含有量を測定することは、Daniele 2002で行われているようにして行うことができる。
【0135】
したがって、ある特定の実施形態では、本明細書に記載する方法に従って使用するHuGlyIDSは、神経細胞またはグリア細胞で発現する場合、インビボまたはインビトロで、非神経細胞またはグリア細胞において発現するIDSよりも高レベルでマンノース-6-リン酸化を受ける。特に、本明細書に記載する方法に従って使用するHuGlyIDSは、神経細胞またはグリア細胞で発現する場合、インビボまたはインビトロで、HT1080またはCHO細胞で発現するIDSよりも高レベルでマンノース-6-リン酸化を受ける。ある特定の実施形態では、発現したIDSのマンノース-6-リン酸化レベルは、M6P(例えば、5mM M6P)の存在下でのヒト神経細胞によるIDSの取り込みによって測定する。ある特定の実施形態では、インビボまたはインビトロで神経細胞またはグリア細胞で発現させると、本明細書に記載する方法に従って使用するHuGlyIDS分子の10%~20%、20%~30%、30%~40%、40%~50%、50%~60%、60%~70%、70%~80%、80%~90%、または90%~100%は、マンノース-6-リン酸化を受ける。
【0136】
5.1.2 N-グリコシル化
CNSでの神経細胞及びグリア細胞は、グリコシル化及びチロシン-O-硫酸化など、分泌タンパク質の翻訳後プロセシングのための細胞機構を有する分泌細胞である。hIDSは、図1に示す8つのアスパラギン(「N」)グリコシル化部位を有する(N31ST、N115FS、N144HT、N246IT、N280IS、N325ST、N513FS、N537DS)。8つのN結合型グリコシル化部位の2つ、すなわち、N280及びN116は、ヒト脳から得たIDSにおいてマンノース-6-リン酸化を受ける。(Sleat et al.,2006,Mol & Cell Proeomics 5.4:686-701,Table Vで報告している)。IDSの安定性に必須の単一のグリコシル化部位は無いが、N280位でのグリコシル化は、マンノース-6-リン酸(M6P)受容体を介した細胞の内在化、及びリソソーム標的にとって重要である。(Chung et al.,2014,Glycoconj J 31:309-315 p.310の第1段)。正常な生理学的状態では、IDSは非常に低レベルで産生され、酵素、合ったとしても、細胞からほとんど分泌されることはない。(Clarke,2008(上記))。
【0137】
遺伝子治療またはタンパク質治療手法において生産する全ての分子が完全にグリコシル化され、硫酸化することは、必須ではない。むしろ、生産した糖タンパク質の集団には、有効性を示す上で十分なグリコシル化及び硫酸化を与えるであろう。
【0138】
特定の実施形態では、本明細書に記載する方法に従って使用するHuGlyIDSは、神経細胞またはグリア細胞においてインビボまたはインビトロで発現させた場合、そのN-グリコシル化部位の100%でグリコシル化し得る。しかしながら、当業者であれば、グリコシル化のメリットが達成するためには、必ずしも全てのHuGlyIDSのN-グリコシル化部位がN-グリコシル化する必要はないことを認識する。むしろ、グリコシル化のメリットは、N-グリコシル化部位の一定の割合のみがグリコシル化する場合、及び/または発現したIDS分子の一定の割合のみがグリコシル化する場合に実現し得る。したがって、ある特定の実施形態では、本明細書に記載する方法に従って使用するHuGlyIDSは、神経細胞またはグリア細胞においてインビボまたはインビトロで発現させた場合、その利用可能なN-グリコシル化部位の10%~20%、20%~30%、30%~40%、40%~50%、50%~60%、60%~70%、70%~80%、80%~90%、または90%~100%でグリコシル化する。ある特定の実施形態では、神経細胞またはグリア細胞においてインビボまたはインビトロで発現させた場合、本明細書に記載する方法に従って使用するHuGlyIDS分子の10%~20%、20%~30%、30%~40%、40%~50%、50%~60%、60%~70%、70%~80%、80%~90%、または90%~100%が、それらの利用可能なN-グリコシル化部位の少なくとも1つでグリコシル化する。
【0139】
特定の実施形態では、HuGlyIDSを神経細胞またはグリア細胞においてインビボまたはインビトロで発現させた場合、本明細書に記載する方法に従って使用するHuGlyIDSに存在するN-グリコシル化部位の少なくとも10%、20% 30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または99%が、N-グリコシル化部位に存在するAsn残基(または、その他の関連した残基)でグリコシル化する。すなわち、結果として生じるHuGlyIDSのN-グリコシル化部位の少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または99%が、グリコシル化する。
【0140】
別の特定の実施形態では、HuGlyIDSを神経細胞またはグリア細胞においてインビボまたはインビトロで発現させた場合、本明細書に記載する方法に従って使用するHuGlyIDS分子に存在するN-グリコシル化部位の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または99%が、N-グリコシル化部位に存在するAsn残基(または、その他の関連した残基)に結合する同一の結合したグリカンによってグリコシル化する。すなわち、結果として生じるHuGlyIDSのN-グリコシル化部位の少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または99%が、同一の結合したグリカンを有する。
【0141】
重要なことに、本明細書に記載する方法に従って使用するIDSタンパク質が神経細胞またはグリア細胞において発現する場合、原核生物宿主細胞(例えば、E.coli)または真核生物宿主細胞(例えば、CHO細胞)でのインビトロ生産の必要性が回避される。その代わりに、本明細書に記載する治療方法(例えば、IDSを発現させるための神経細胞またはグリア細胞の使用)の結果、IDSタンパク質のN-グリコシル化部位は、有利なことに、ヒトの治療に適切で、及び有益なグリカンで修飾され、特に、治療の標的箇所で修飾される。CHO細胞またはE.coliをタンパク質生産に利用する場合、そのような利点は得られない。なぜなら、例えば、CHO細胞は、(1)2,6シアリルトランスフェラーゼを発現せず、したがって、N-グリコシル化の間、2,6シアル酸を付加することができず、(2)シアル酸としてNeu5Acの代わりにNeu5Gcを付加し得るからであり、E.coliは、天然にはN-グリコシル化に必要な構成要素を含まないからである。さらに、このような利点は、神経細胞またはグリア細胞ではないヒト細胞を、タンパク質産生のために利用しても達成し得ない。したがって、一実施形態では、神経細胞またはグリア細胞において発現して、本明細書に記載する治療方法で使用するHuGlyIDSをもたらすIDSタンパク質は、ヒト神経細胞またはヒトグリア細胞においてタンパク質がN-グリコシル化する様式でグリコシル化を受けるが、CHO細胞においてタンパク質がグリコシル化する様式ではグリコシル化しない。別の実施形態では、神経細胞またはグリア細胞で発現して本明細書に記載する治療方法で使用するHuGlyIDSをもたらすIDSタンパク質は、神経細胞またはグリア細胞においてタンパク質がN-グリコシル化する様式でグリコシル化を受けるが、そのようなグリコシル化は、原核生物宿主細胞、例えば、E.coliを使用した場合は自然には達成できない。一実施形態では、ヒト神経細胞またはヒトグリア細胞で発現して、本明細書に記載する治療方法で使用するHuGlyIDSをもたらすIDSタンパク質は、タンパク質がヒト神経細胞またはヒトグリア細胞においてN-グリコシル化する様式でグリコシル化を受けるが、神経細胞またはグリア細胞ではないヒト細胞においてタンパク質がグリコシル化を受ける様式ではグリコシル化されない。
【0142】
タンパク質のグリコシル化パターンを決定するためのアッセイは、当該技術分野において公知である。例えば、ヒドラジン分解は、グリカンを分析するために使用することができる。まず、多糖を、ヒドラジンとインキュベーションして、会合するタンパク質から放出させる(Ludger Liberate Hydrazinolysis Glycan Release Kit,Oxfordshire,UKを使用することができる)。求核剤であるヒドラジンは、多糖とキャリアタンパク質との間のグリコシド結合を攻撃して、結合したグリカンを放出させる。N-アセチル基が、この処理の間に失われ、再度のN-アセチル化によって再構成しなくてはならない。遊離グリカンは、炭素カラム上で精製され、続いて、蛍光色素分子である2-アミノベンズアミドを使用して還元末端を標識することができる。標識多糖は、Royle et al,Anal Biochem 2002,304(1):70-90のHPLCプロトコールに従って、GlycoSep-Nカラム(GL Sciences)上で分離することができる。結果として生じる蛍光クロマトグラムは、多糖の長さ、及び繰り返し単位の数を示す。構造情報は、個々のピークを収集する、続いて、MS/MS分析を実施して集めることができる。それにより、繰り返し単位の単糖の組成及び配列を確認することができ、さらに多糖の組成の均一性を特定することができる。低分子量の特定のピークは、MALDI-MS/MSによって分析でき、その結果を使用してグリカン配列を確認することができる。それぞれのピークは、ある特定の数の繰り返し単位、及びそのフラグメントからなるポリマーに対応する。このように、クロマトグラムを使用すれば、ポリマー長の分布の測定が可能となる。溶出時間は、ポリマー長の指標である一方で、蛍光強度は、それぞれのポリマーのためのモル存在量と相関する。
【0143】
タンパク質と関連するグリカンパターンの均一性は、グリカン長、及びグリコシル化部位全体に存在するグリカンの数と関係しているので、この均一性は、当該技術分野で公知の方法、例えば、グリカン長と流体力学半径を測定する方法を使用して評価することができる。サイズ排除HPLCは、流体力学半径の測定を可能にする。タンパク質でのグリコシル化部位の数が多いほど、グリコシル化部位がより少ないキャリアと比較して、流体力学半径のばらつきがより大きくなる。しかしながら、単一のグリカン鎖を分析する場合、それらは、長さがより高度に制御されるために、より均一になり得る。グリカン長は、ヒドラジン分解、SDS PAGE、及びキャピラリーゲル電気泳動によって測定することができる。加えて、均一であることは、ある特定のグリコシル化部位の使用パターンがより広い/より狭い範囲に変化することも意味し得る。これらの因子は、糖ペプチドLC-MS/MSで測定することができる。
【0144】
N-グリコシル化は、本明細書に記載する方法で使用するHuGlyIDSに多くのメリットを与える。そのようなメリットは、E.coliでのタンパク質生産では得られない。それはすなわち、E.coliは、N-グリコシル化に必要とする構成要素を天然には有しないためである。さらに、一部のメリットは、例えば、CHO細胞でのタンパク質生産では得られない。それは、CHO細胞が、特定のグリカン(例えば、2,6シアル酸)の付加に必要な構成要素を欠いており、ヒトにとって一般的でないグリカン、例えば、Neu5Gc、及び大部分の個体において免疫原性であり、高濃度ではアナフィラキシーを誘発し得るα-Gal抗原を付加し得るからである。さらに、一部のメリットは、神経細胞またはグリア細胞ではないヒト細胞でのタンパク質産生では得られない。したがって、ヒト神経細胞またはヒトグリア細胞でのIDSの発現は、有益なグリカンを含むHuGlyIDSを生産するが、このものと、CHO細胞、またはE.coli、または神経細胞またはグリア細胞ではないヒト細胞が産生したタンパク質との関連性はない。
【0145】
5.1.3 チロシン硫酸化
N-結合型グリコシル化部位に加えて、hIDSは、チロシン(「Y」)硫酸化部位(PSSEKY165ENTKTCRGPD)を含有する。(例えば、全内容を、参照により、本明細書で援用する、タンパク質チロシン硫酸化を受けるチロシン残基を取り囲むアミノ酸の解析に関するYang et al.,2015,Molecules 20:2138-2164、特に、p.2154を参照されたい。「規則」は、以下のようにまとめることができる:Yの+5~-5位以内にあるEまたはDを有するY残基、及びYの位置-1が中性である、または酸性荷電アミノ酸である-しかし、塩基性アミノ酸、例えば、硫酸化を止めるR、K、またはHではない)。
【0146】
重要なことに、チロシン硫酸化タンパク質は、チロシン硫酸化に求められる酵素を天然には有しないE.coliでは生産することができない。さらに、CHO細胞は、チロシン硫酸化について欠陥がある。この細胞は、分泌細胞ではなく、翻訳後のチロシン硫酸化のための能力が限られている。例えば、Mikkelsen & Ezban,1991,Biochemistry 30:1533-1537を参照されたい。有利なことに、本明細書で提供する方法は、分泌型であり、かつチロシン硫酸化のための能力を備える神経細胞またはグリア細胞でのIDS、例えば、HuGlyIDSの発現を必要とする。チロシン硫酸化を検出するためのアッセイは、当該技術分野において公知である。例えば、Yang et al.,2015,Molecules 20:2138-2164を参照されたい。
【0147】
ヒトCNS細胞での堅実な翻訳後プロセスであるhIDSのチロシン硫酸化は、導入遺伝子産物のプロセシング及び活性を向上させる。リソソームタンパク質のチロシン硫酸化の意義は、明らかにされていないが、他のタンパク質では、タンパク質-タンパク質相互作用(抗体及び受容体)の親和性が高まり、タンパク質分解性プロセシング(ペプチドホルモン)を促すことが示されている。(Moore,2003,J Biol.Chem.278:24243-46、及びBundegaard et al.,1995,The EMBO J 14:3073-79を参照されたい)。チロシン硫酸化(IDSプロセシングの最終ステップとして起こり得る)を担うチロシンタンパク質スルホトランスフェラーゼ(TPST1)は、明らかに、脳において高レベルで(mRNAに基づいて)発現する(TPST1のための遺伝子発現データは、例えば、http://www.ebi.ac.uk/gxa/homeでアクセス可能なEMBL-EBI Expression Atlasに認め得る)。
【0148】
5.2 コンストラクト及び製剤
イズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)、例えば、ヒトIDS(hIDS)をコードするウイルスベクターまたはその他のDNA発現コンストラクトが、本明細書で提供する方法での使用のために提供される。本明細書で提供するウイルスベクター、及び他のDNA発現コンストラクトは、脳脊髄液(CSF)に、導入遺伝子を送達するための任意の好適な方法を含む。導入遺伝子の送達の手段には、ウイルスベクター、リポソーム、その他の脂質を含む複合体、その他の高分子複合体、合成修飾mRNA、非修飾mRNA、小分子、非生物活性分子(例えば、金粒子)、重合分子(例えば、デンドリマー)、ネイキッドDNA、プラスミド、ファージ、トランスポゾン、コスミド、またはエピソームがある。一部の実施形態では、ベクターは、標的ベクター、例えば、神経細胞を標的とするベクターである。
【0149】
一部の態様では、本開示は、使用のための核酸を提供をし、当該核酸は、IDS、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、MMTプロモーター、EF-1アルファプロモーター、UB6プロモーター、ニワトリベータ-アクチンプロモーター、CAGプロモーター、RPE65プロモーター、及びオプシンプロモーターからなる群から選択されるプロモーターと機能的に連結されているhIDSをコードする。
【0150】
ある特定の実施形態では、本明細書では、1つ以上の核酸(例えば、ポリヌクレオチド)を含む組換えベクターを提供する。核酸は、DNA、RNA、またはDNAとRNAとの組み合わせを含み得る。ある特定の実施形態では、DNAは、プロモーター配列、関心対象の遺伝子配列(導入遺伝子、例えば、IDS)、非翻訳領域、及び終止配列からなる群から選択される1つ以上の配列を含む。ある特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、関心対象の遺伝子と機能的に連結したプロモーターを含む。
【0151】
ある特定の実施形態では、本明細書に開示する核酸(例えば、ポリヌクレオチド)及び核酸配列は、例えば、当業者に公知のあらゆるコドン-最適化技術を介して、コドン最適化することができる(例えば、Quax et al.,2015,Mol Cell 59:149-161を参照されたい)。
【0152】
別の態様では、本開示は、ヒトIDSをコードする組換えヌクレオチド発現ベクターを含む製剤を提供し、当該製剤は、ヒト脳の脳脊髄液への投与に適しており、それにより、デポーが、ヒト中枢神経系で形成され、当該デポーは、ポリアクリルアミドゲル電気泳動で測定して約90kDa(例えば、85kDa、86kDa、87kDa、88kDa、89kDa、90kDa、91kDa、92kDa、93kDa、94kDa、または95kDa)であり、ホルミルグリシンを含む、α2,6-シアル化を受けた、検出可能なNeuGcを含まない、α-Gal抗原を含まない、及び/またはマンノース-6-リン酸化を受けた、組換えヒトIDS糖タンパク質前駆体を分泌する。例えば、製剤は、ヒト脳の脳脊髄液への投与に適した緩衝液(例えば、特定のpHを有する緩衝液、または特定の成分を含有する緩衝液)を含有し得、それにより、ポリアクリルアミドゲル電気泳動で測定して約90kDa(例えば、85kDa、86kDa、87kDa、88kDa、89kDa、90kDa、91kDa、92kDa、93kDa、94kDa、または95kDa)であり、ホルミルグリシンを含む、α2,6-シアル化を受けた、検出可能なNeuGcを含まない、α-Gal抗原を含まない、及び/またはマンノース-6-リン酸化を受けた、組換えヒトIDS糖タンパク質前駆体を分泌するデポーを、ヒト中枢神経系で形成する。特定の実施形態では、緩衝液は、生理学的に適合する水性緩衝液、界面活性剤、及び任意の賦形剤を含む。
【0153】
別の態様では、本開示は、ヒトIDSをコードする組換えヌクレオチド発現ベクター、及び医薬として許容可能な担体を含むキットを提供し、当該組換えヌクレオチド発現ベクターは、ヒト脳の脳脊髄液(CSF)への投与に適しており、それにより、デポーが、ヒト中枢神経系で形成され、当該デポーは、ポリアクリルアミドゲル電気泳動で測定して約90kDa(例えば、85kDa、86kDa、87kDa、88kDa、89kDa、90kDa、91kDa、92kDa、93kDa、94kDa、または95kDa)であり、ホルミルグリシンを含む、α2,6-シアル化を受けた、検出可能なNeuGcを含まない、α-Gal抗原を含まない、及び/またはマンノース-6-リン酸化を受けた、組換えヒトIDS糖タンパク質前駆体を分泌する。別の態様では、本開示は、ヒトIDSをコードする組換えヌクレオチド発現ベクターを含む製剤を含むキットを提供し、当該製剤は、ヒト脳のCSFへの投与に適しており、それにより、デポーが、ヒト中枢神経系で形成され、当該デポーは、ポリアクリルアミドゲル電気泳動で測定して約90kDa(例えば、85kDa、86kDa、87kDa、88kDa、89kDa、90kDa、91kDa、92kDa、93kDa、94kDa、または95kDa)であり、ホルミルグリシンを含む、α2,6-シアル化を受けた、検出可能なNeuGcを含まない、α-Gal抗原を含まない、及び/またはマンノース-6-リン酸化を受けた、組換えヒトIDS糖タンパク質前駆体を分泌する。本明細書に記載するキットは、1つ以上の容器中に組換えヌクレオチド発現ベクター、または製剤を含む。そのような1つ以上の容器には、医薬品または生物学的製剤の製造、使用、または販売を規制する政府機関が定めた形式の通知が任意に伴い、この通知は、当該機関が、ヒトへの投与に関して、製造、使用、または販売を承認していることを反映している。
【0154】
本明細書が包含する製剤及びキットは、本開示で提供するヒト患者の治療方法に従って使用することができる。
【0155】
5.2.1.mRNA
ある特定の実施形態では、本明細書で提供するベクターは、関心対象の遺伝子(例えば、導入遺伝子、例えば、IDS)をコードする修飾mRNAである。CSFへの導入遺伝子の送達のための修飾及び非修飾mRNAの合成は、例えば、全内容を参照により本明細書で援用するHocquemiller et al.,2016,Human Gene Therapy 27(7):478-496で教示している。ある特定の実施形態では、IDS、例えば、hIDSをコードする修飾mRNAについて本明細書に記載する。
【0156】
5.2.2.ウイルスベクター
ウイルスベクターには、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV、例えば、AAV9)、レンチウイルス、ヘルパー依存的アデノウイルス、単純ヘルペスウイルス、ポックスウイルス、センダイウイルス(hemagglutinin virus of Japan)(HVJ)、アルファウイルス、ワクシニアウイルス、及びレトロウイルスベクターがある。レトロウイルスベクターには、マウス白血病ウイルス(MLV)及びヒト免疫不全ウイルス(HIV)をベースとしたベクターがある。アルファウイルスベクターには、セムリキ森林ウイルス(SFV)及びシンドビスウイルス(SIN)がある。ある特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、組換えウイルスベクターである。ある特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、ヒトにおいて複製欠損型となるように改変されている。ある特定の実施形態では、ウイルスベクターは、ハイブリッドベクター、例えば、「ヘルプレス」アデノウイルスベクターに配置されるAAVベクターである。ある特定の実施形態では、第1のウイルスからのウイルスキャプシド、及び第2のウイルスからのウイルスエンベロープタンパク質を含むウイルスベクターを、本明細書で提供する。特定の実施形態では、第2のウイルスは、水疱性口内炎ウイルス(VSV)である。より特定の実施形態では、エンベロープタンパク質は、VSV-Gタンパク質である。
【0157】
ある特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、HIVをベースとしたウイルスベクターである。ある特定の実施形態では、本明細書で提供するHIVをベースとしたベクターは少なくとも2つのポリヌクレオチドを含み、gag及びpol遺伝子はHIVゲノム由来であり、env遺伝子は、別のウイルス由来である。
【0158】
ある特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、単純ヘルペスウイルスをベースとしたウイルスベクターである。ある特定の実施形態では、本明細書で提供する単純ヘルペスウイルスをベースとしたベクターは、1つ以上の前初期(IE)遺伝子を含まず、そのために細胞傷害性がなくなるように改変されている。
【0159】
ある特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、MLVをベースとしたウイルスベクターである。ある特定の実施形態では、本明細書で提供するMLVをベースとしたベクターは、ウイルス遺伝子の代わりに最大で8kbの異種DNAを含む。
【0160】
ある特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、レンチウイルスをベースとしたウイルスベクターである。ある特定の実施形態では、本明細書で提供するレンチウイルスベクターは、ヒトレンチウイルスに由来する。ある特定の実施形態では、本明細書で提供するレンチウイルスベクターは、非ヒトレンチウイルスに由来する。ある特定の実施形態では、本明細書で提供するレンチウイルスベクターは、レンチウイルスキャプシドにパッケージングされる。ある特定の実施形態では、本明細書で提供するレンチウイルスベクターは、以下のエレメントうちの1つ以上を含む:長い末端反復配列、プライマー結合部位、ポリプリントラクト、att部位、及びキャプシド化部位。
【0161】
ある特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、アルファウイルスをベースとしたウイルスベクターである。ある特定の実施形態では、本明細書で提供するアルファウイルスベクターは、組換え、複製欠損アルファウイルスである。ある特定の実施形態では、本明細書で提供するアルファウイルスベクターのアルファウイルスレプリコンは、それらのビリオン表面に機能的な異種リガンドを提示することで、特定の細胞種が標的とされる。
【0162】
ある特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、AAVをベースとしたウイルスベクターである。好ましい実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、AAV9またはAAVrh10をベースとしたウイルスベクターである。ある特定の実施形態では、本明細書で提供するAAV9またはAAVrh10をベースとしたウイルスベクターは、CNS細胞への向性を保持する。複数のAAV血清型が特定されている。ある特定の実施形態では、本明細書で提供するAAVをベースとしたベクターは、AAVの1つ以上の血清型に由来する成分を含む。ある特定の実施形態では、本明細書で提供するAAVをベースとしたベクターは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAVrh10、AAV10、またはAAV11のうちの1つ以上に由来する成分を含む。好ましい実施形態では、本明細書で提供するAAVをベースとしたベクターは、AAV8、AAV9、AAVrh10、AAV10、またはAAV11血清型の1つ以上に由来する成分を含む。AAV9をベースとしたウイルスベクターが、本明細書に記載する方法で使用される。AAVをベースとしたウイルスベクターの核酸配列ならびに組換えAAV及びAAVキャプシドの作製方法は、例えば、各々の全内容を、参照により、本明細書で援用する、米国特許第7,282,199 B2号、米国特許第7,790,449 B2号、米国特許第8,318,480 B2号、米国特許第8,962,332 B2号、及び国際特許出願第PCT/EP2014/076466号で教示している。ある態様では、導入遺伝子(例えば、IDS)をコードするAAV(例えば、AAV9またはAAVrh10)をベースとしたウイルスベクターを、本明細書で提供する。特定の実施形態では、IDSをコードするAAV9をベースとしたウイルスベクターを、本明細書で提供する。なおも特定の実施形態では、hIDSをコードするAAV9をベースとしたウイルスベクターを、本明細書で提供する。
【0163】
特定の実施形態では、(i)調節エレメントの制御下にあり、ITRと隣接している導入遺伝子を含む発現カセット、及び(ii)AAV9キャプシドタンパク質のアミノ酸配列を有する、またはAAV9キャプシドタンパク質(配列番号26)のアミノ酸配列と少なくとも95%、96%、97%、98%、99%、または99.9%が同一であり、同時にAAV9キャプシドの生物学的機能を保持するウイルスキャプシドを含む人工ゲノムを含むAAV9ベクターを提供する。ある特定の実施形態では、コードされたAAV9キャプシドは、配列番号26の配列に1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、または30個のアミノ酸置換を有し、AAV9キャプシドの生物学的機能を保持する。図6は、SUBSと表示した列での比較に基づいて配置した配列の特定の位置で置換し得る潜在的アミノ酸を有する異なるAAV血清型のキャプシドタンパク質のアミノ酸配列の比較アラインメントを提供する。したがって、特定の実施形態では、AAV9ベクターは、ネイティブAAV9配列での当該位置に存在しない図6のSUBS列において特定される1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、または30個のアミノ酸置換を有するAAV9キャプシドバリアントを含む。
【0164】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載する方法で使用するAAVは、全内容を、参照により、本明細書で援用するZinn et al.,2015,Cell Rep.12(6):1056-1068に記載の、Anc80またはAnc80L65である。ある特定の実施形態では、本明細書に記載する方法で使用するAAVは、各々の全内容を、参照により、本明細書で援用する米国特許第9,193,956号、第9458517号、及び第9,587,282号、ならびに米国特許出願公開第2016/0376323号に記載の、以下のアミノ酸挿入のうちの1つを含む:LGETTRPまたはLALGETTRP。ある特定の実施形態では、本明細書に記載する方法で使用するAAVは、各々の全内容を、参照により、本明細書で援用する米国特許第9,193,956号、第9,458,517号、及び第9,587,282号、ならびに米国特許出願公開第2016/0376323号に記載の、AAV.7m8である。ある特定の実施形態では、本明細書に記載する方法で使用するAAVは、米国特許第9,585,971号で開示される任意のAAV、例えば、AAV-PHP.Bである。ある特定の実施形態では、本明細書に記載する方法で使用するAAVは、各々の全内容を、参照により、本明細書で援用する以下の特許及び特許出願のいずれかで開示するAAVである:米国特許第7,906,111号、第8,524,446号、第8,999,678号、第8,628,966号、第8,927,514号、第8,734,809号、米国第9,284,357号、第9,409,953号、第9,169,299号、第9,193,956号、第9458517号、及び第9,587,282号、米国特許出願公開第2015/0374803号、第2015/0126588号、第2017/0067908号、第2013/0224836号、第2016/0215024号、第2017/0051257号、及び国際特許出願番号PCT/US2015/034799、PCT/EP2015/053335。
【0165】
ある特定の実施形態では、一本鎖AAV(ssAAV)は、上記した通りにして使用することができる。ある特定の実施形態では、自己相補的ベクター、例えば、scAAVを使用することができる(例えば、各々の全内容を、参照により、本明細書で援用するWu,2007,Human Gene Therapy,18(2):171-82,McCarty et al,2001,Gene Therapy,Vol 8,Number 16(1248~1254ページ)、及び米国特許第6,596,535号、第7,125,717号、及び第7,456,683号を参照されたい)。
【0166】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載する方法で使用するウイルスベクターは、アデノウイルスをベースとしたウイルスベクターである。組換えアデノウイルスベクターは、IDSの導入に使用し得る。組換えアデノウイルスは、E1欠失を有する、E3欠失を有していてもいなくてもよく、かついずれかの欠失した領域に発現カセットが挿入された第一世代のベクターであり得る。組換えアデノウイルスは、E2及びE4領域の完全または部分的欠失を含む第二世代のベクターであり得る。ヘルパー依存型アデノウイルスは、アデノウイルス逆方向末端反復及びパッケージングシグナル(phi)だけを保持する。導入遺伝子は、パッケージングシグナル及び3’ITRの間に挿入され、人工ゲノムのサイズをおよそ36kbの野生型サイズに近く維持するスタッファー配列の有無は問わない。アデノウイルスベクターの生産のための例示的なプロトコールは、全内容を、参照により、本明細書で援用するAlba et al.,2005,“Gutless adenovirus:last generation adenovirus for gene therapy,”Gene Therapy 12:S18-S27に見出すことができる。
【0167】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載する方法で使用するウイルスベクターは、レンチウイルスをベースとしたウイルスベクターである。組換えレンチウイルスベクターを、IDSの導入に使用することができる。4つのプラスミドが、コンストラクトを作成するために使用される:Gag/pol配列を含むプラスミド、Rev配列を含むプラスミド、エンベロープタンパク質を含むプラスミド(すなわち、VSV-G)、ならびにパッケージングエレメント、及びIDS遺伝子を有するCisプラスミド。
【0168】
レンチウイルスベクター産生のために、4つのプラスミドが、細胞(すなわち、HEK293をベースとした細胞)と共トランスフェクションされ、それにより特に、ポリエチレンイミンまたはリン酸カルシウムをトランスフェクション薬剤として使用し得る。続いて、レンチウイルスは上清で採取される(レンチウイルスは、細胞から出芽させて活性を保つ必要があるので、細胞の回収を行う必要はない/すべきではない)。上清を濾過し(0.45μm)、続いて、塩化マグネシウム及びベンゾナーゼを加える。さらに下流のプロセスは、非常に様々であり、TFF及びカラムクロマトグラフィーの使用が最もGMPに適合するプロセスである。他のプロセスでは、カラムクロマトグラフィーを使用する/使用しない超遠心分離を使用する。レンチウイルスベクターの作製のための例示的なプロトコールは、両方とも全内容を、参照により、本明細書で援用する、Lesch et al.,2011,“Production and purification of lentiviral vector generated in 293T suspension cells with baculoviral vectors,”Gene Therapy 18:531-538、及びAusubel et al.,2012,“Production of CGMP-Grade Lentiviral Vectors,”Bioprocess Int.10(2):32-43に見出すことができる。
【0169】
特定の実施形態では、本明細書に記載する方法で使用するベクターはIDS(例えば、hIDS)をコードするベクターであり、CNSの細胞または適切な細胞(例えば、インビボまたはインビトロで神経細胞)に形質導入した際に、IDSのグリコシル化バリアントを形質導入した細胞が発現する。ある特定の実施形態では、本明細書に記載する方法で使用するベクターはIDS(例えば、hIDS)をコードするベクターであり、CNSの細胞または関連した細胞(例えば、インビボまたはインビトロの神経細胞)に形質導入した際に、IDSの硫酸化バリアントを細胞が発現する。
【0170】
5.2.3.遺伝子発現のプロモーター及び修飾因子
ある特定の実施形態では、本明細書で提供するベクターは、遺伝子送達または遺伝子発現(例えば、「発現制御エレメント」)を調節する構成要素を含む。ある特定の実施形態では、本明細書で提供するベクターは、遺伝子発現を調節する構成要素を含む。ある特定の実施形態では、本明細書で提供するベクターは、細胞との結合または細胞への標的化に影響を及ぼす構成要素を含む。ある特定の実施形態では、本明細書で提供するベクターは、取り込みの後に、細胞内でのポリヌクレオチド(例えば、導入遺伝子)の局在化に影響を及ぼす構成要素を含む。ある特定の実施形態では、本明細書で提供するベクターは、例えば、ポリヌクレオチドを取り込んだ細胞を検出する、または選択するための検出可能なマーカーまたは選択可能なマーカーとして使用することができる構成要素を含む。
【0171】
ある特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、1つ以上のプロモーターを含む。ある特定の実施形態では、プロモーターは、構成的プロモーターである。代替の実施形態では、プロモーターは、誘導性プロモーターである。ネイティブのIDS遺伝子は、大部分のハウスキーピング遺伝子と同様に、主にGCリッチプロモーターを使用する。好ましい実施形態では、hIDSの持続的な発現を提供する強力な構成的プロモーターを使用する。そのようなプロモーターには、「C」-サイトメガロウイルス(CMV)初期エンハンサーエレメント、「A」-ニワトリベータアクチン遺伝子のプロモーターならびに第一エキソン及びイントロン、ならびに「G」-ウサギベータ-グロビン遺伝子のスプライスアクセプターを含む「CAG」合成プロモーターがある(Miyazaki et al.,1989,Gene 79:269-277、及びNiwa et al.,Gene 108:193-199を参照されたい)。
【0172】
ある特定の実施形態では、プロモーターはCB7プロモーターである(全内容を、参照により、本明細書で援用するDinculescu et al.,2005,Hum Gene Ther 16:649-663を参照されたい)。一部の実施形態では、CB7プロモーターは、ベクターによって駆動する導入遺伝子の発現を増強するその他の発現制御エレメントを含む。ある特定の実施形態では、その他の発現制御エレメントには、ニワトリβ-アクチンイントロン及び/またはウサギβ-グロビンpolAシグナルがある。ある特定の実施形態では、プロモーターは、TATAボックスを含む。ある特定の実施形態では、プロモーターは、1つ以上のエレメントを含む。ある特定の実施形態では、1つ以上のプロモーターエレメントは、互いに対して逆向きにしても、位置を変えてもよい。ある特定の実施形態では、プロモーターのエレメントは、協働的に機能するように配置される。ある特定の実施形態では、プロモーターのエレメントは、独立して機能するように配置される。ある特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、ヒトCMV前初期遺伝子プロモーター、SV40初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RS)長鎖末端反復配列、及びラットインスリンプロモーターからなる群から選択される1つ以上のプロモーターを含む。ある特定の実施形態では、本明細書で提供するベクターは、AAV、MLV、MMTV、SV40、RSV、HIV-1、及びHIV-2 LTRからなる群から選択される1つ以上の長鎖末端反復配列(LTR)プロモーターを含む。ある特定の実施形態では、本明細書で提供するベクターは、1つ以上の組織特異的プロモーター(例えば、神経細胞特異的プロモーター)を含む。
【0173】
ある特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、プロモーター以外の1つ以上の調節エレメントを含む。ある特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、エンハンサーを含む。ある特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、リプレッサーを含む。ある特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、イントロンまたはキメライントロンを含む。ある特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、ポリアデニル化配列を含む。
【0174】
5.2.4.シグナルペプチド
ある特定の実施形態では、本明細書で提供するベクターは、タンパク質送達を調節する構成要素を含む。ある特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、1つ以上のシグナルペプチドを含む。ある特定の実施形態では、シグナルペプチドは、導入遺伝子産物(例えば、IDS)の細胞内での適切なパッケージング(例えば、グリコシル化)を可能にする。ある特定の実施形態では、シグナルペプチドは、導入遺伝子産物(例えば、IDS)が細胞内で適切に局在化することを可能にする。ある特定の実施形態では、シグナルペプチドは、導入遺伝子産物(例えば、IDS)を細胞から分泌することを可能にする。ベクターに関連して使用するシグナルペプチドの事例、及び本明細書で提供する導入遺伝子は、表4に見出すことができる。シグナルペプチドは、本明細書において、リーダー配列またはリーダーペプチドとも称し得る。
【表7】
【0175】
5.2.5.非翻訳領域
ある特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、1つ以上の非翻訳領域(UTR)(例えば、3’及び/または5’UTR)を含む。ある特定の実施形態では、UTRは、所望のレベルのタンパク質発現に関して最適化される。ある特定の実施形態では、UTRは、導入遺伝子のmRNA半減期に関して最適化される。ある特定の実施形態では、UTRは、導入遺伝子のmRNAの安定性に関して最適化される。ある特定の実施形態では、UTRは、導入遺伝子のmRNAの二次構造に関して最適化される。
【0176】
5.2.6.逆方向末端反復
ある特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、1つ以上の逆方向末端反復(ITR)配列を含む。ITR配列は、ウイルスベクターのビリオンに組換え遺伝子発現カセットをパッケージングするために使用することができる。ある特定の実施形態では、ITRは、AAV(例えば、AAV9)に由来するものである(その各々の全内容を、参照により、本明細書で援用する、例えば、Yan et al.,2005,J.Virol.,79(1):364-379、米国特許第7,282,199 B2号、米国特許第7,790,449 B2号、米国特許第8,318,480 B2号、米国特許第8,962,332 B2号、及び国際特許出願番号PCT/EP2014/076466を参照されたい)。
【0177】
5.2.7.導入遺伝子
ある特定の実施形態では、本明細書で提供するベクターは、IDS導入遺伝子をコードする。特定の実施形態では、IDSは、神経細胞での発現のために、好適な発現制御エレメントによって制御される。ある特定の実施形態では、IDS(例えば、hIDS)導入遺伝子は、配列番号1のアミノ酸配列を含む。ある特定の実施形態では、IDS(例えば、hIDS)導入遺伝子は、配列番号1に記載の配列と、少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%が同一であるアミノ酸配列を含む。
【0178】
導入遺伝子がコードするHuGlyIDSは、限定されないが、配列番号1のアミノ酸配列を有するヒトIDS(hIDS)(図1に示す)、ならびにアミノ酸の置換、欠失、または付加を有するhIDSの誘導体、例えば、限定されないが、図2に示すIDSのオーソログにおいて対応する非保存的残基から選択するアミノ酸置換を含む当該誘導体を含むことができるが、ただし、そのような変異は、酵素活性に必要な位置84(C84)のシステイン残基の置換を含まない(Millat et al.,1997,Biochem J 326:243-247)、または、例えば、図3に示したもの、または、各々を、参照により、本明細書で援用する、Sukegawa-Hayasaka et al.,2006,J Inhert Metab Dis 29:755-761(「弱度」変異体R48P、A85T、W337R、及び切断型変異体Q531X、及び、「重度」変異体P86L、S333L、S349I、R468Q、R468Lを報告している)、Millat et al.,1998,BBA 1406:214-218(「弱度」変異体P480L及びP480Q;及び、「重度」変異体P86Lを報告している);及び、Bonucelli et al.,2001,BBA 1537:233-238で報告されたような、重度、重度~中等度、中等度、または弱度MPS II表現型において特定された変異を含まないことを条件とする。
【0179】
例えば、hIDSの特定位置でのアミノ酸置換は、図2でアラインメントしたIDSオーソログでの当該位置に認める対応する非保存的アミノ酸残基から選択することができるが、ただし、そのような置換は、図3に示したもの、または、各々を、参照により、本明細書で援用する、Sukegawa-Hayasaka et al.,2006(上記)、Millat et al.,1998,(上記)、または、Bonucelli et al.,2001(上記)で報告されたような有害な変異のいずれも含まないことを条件とする。結果として得られる導入遺伝子産物は、インビトロでの細胞培養、または試験動物で、変異がIDS機能を損なわないことを保証するための従来のアッセイを使用して試験することができる。選択される好ましいアミノ酸置換、欠失、または付加は、インビトロでの細胞培養、または動物モデルでのMPS IIのための従来のアッセイによって試験するIDSの酵素活性、安定性、または半減期を維持する、または増加させるべきである。例えば、導入遺伝子産物の酵素活性は、基質として4-メチルウンベリフェリル α-L-イドピラノシズロン酸 2-硫酸塩、または4-メチルウンベリフェリル硫酸塩を用いる従来の酵素アッセイを使用して評価することができる(使用できる例示的なIDS酵素アッセイについては、例えば、各々の全内容を、参照により、本明細書で援用する、Lee et al.,2015,Clin.Biochem.48(18):1350-1353、Dean et al.,2006,Clin.Chem.52(4):643-649を参照されたい)。導入遺伝子産物がMPS II表現型を修正する能力は、細胞培養において評価することができる。例えば、培養において、MPS II細胞に、hIDSまたは誘導体をコードするウイルスベクター、またはその他のDNA発現コンストラクトを形質導入すること、培養において、MPS II細胞に、当該導入遺伝子または誘導体を加えること、または、MPS II細胞を、rhIDSまたは誘導体を発現及び分泌するように遺伝子操作されたヒト神経宿主細胞/ヒトグリア宿主細胞と共培養することにより、及び、MPS II細胞培養での欠陥の修正を、例えば、培養でのMPS II細胞のIDS酵素活性、及び/またはGAG貯蔵量の低下を検出して決定することにより、評価することができる(例えば、全内容を、参照により、本明細書で援用するStroncek et al.,1999,Transfusion 39(4):343-350を参照されたい)。
【0180】
5.2.8.コンストラクト
ある特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、次のエレメントを、次の順序で含む:a)第1のITR配列、b)第1のリンカー配列、c)プロモーター配列、d)第2のリンカー配列、e)イントロン配列、f)第3のリンカー配列、g)導入遺伝子(例えば、IDS)をコードする配列、h)第4のリンカー配列、i)ポリA配列、j)第5のリンカー配列、及びk)第2のITR配列。
【0181】
ある特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、次のエレメントを、次の順序で含む:a)プロモーター配列、及びb)導入遺伝子(例えば、IDS)をコードする配列。ある特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、次のエレメントを次の順序で含む:a)プロモーター配列、及びb)導入遺伝子(例えば、IDS)をコードする配列。ここで、導入遺伝子はシグナルペプチドを含む。
【0182】
ある特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、次のエレメントを、次の順序で含む:a)第1のITR配列、b)第1のリンカー配列、c)プロモーター配列、d)第2のリンカー配列、e)イントロン配列、f)第3のリンカー配列、g)第1のUTR配列、h)導入遺伝子(例えば、IDS)をコードする配列、i)第2のUTR配列、j)第4のリンカー配列、k)ポリA配列、l)第5のリンカー配列、及びm)第2のITR配列。
【0183】
ある特定の実施形態では、本明細書で提供するウイルスベクターは、次のエレメントを、次の順序で含む:a)第1のITR配列、b)第1のリンカー配列、c)プロモーター配列、d)第2のリンカー配列、e)イントロン配列、f)第3のリンカー配列、g)第1のUTR配列、h)導入遺伝子(例えば、IDS)をコードする配列、i)第2のUTR配列、j)第4のリンカー配列、k)ポリA配列、l)第5のリンカー配列、及びm)第2のITR配列。ここで、導入遺伝子は、シグナルペプチドを含み、導入遺伝子はhIDSをコードする。
【0184】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載するウイルスベクターは、図5に例示したエレメントを例示した順序で含む。
【0185】
5.2.9.ベクターの製造及び試験
本明細書で提供するウイルスベクターは、宿主細胞を使用して製造することができる。本明細書で提供するウイルスベクターは、哺乳動物の宿主細胞、例えば、A549、WEHI、10T1/2、BHK、MDCK、COS1、COS7、BSC 1、BSC 40、BMT 10、VERO、W138、HeLa、293、Saos、C2C12、L、HT1080、HepG2、初代線維芽細胞、肝細胞、及び筋芽細胞を使用して製造することができる。本明細書で提供するウイルスベクターは、ヒト、サル、マウス、ラット、ウサギ、またはハムスター由来の宿主細胞を使用して製造することができる。
【0186】
宿主細胞は、導入遺伝子及び関連するエレメント(すなわち、ベクターゲノム)、及びウイルスを宿主細胞で生産する手段、例えば、複製及びキャプシド遺伝子(例えば、AAVのrep及びcap遺伝子)をコードする配列を使用して安定的に形質転換される。AAV8キャプシドを有する組換えAAVベクターを生産する方法については、その全内容を、参照により、本明細書で援用する米国特許第7,282,199 B2号の詳細な説明の第IV節を参照されたい。上記ベクターのゲノムコピー力価は、例えば、TAQMAN(登録商標)分析によって決定することができる。ビリオンは、例えば、CsCl沈降によって回収することができる。
【0187】
インビトロアッセイ、例えば、細胞培養アッセイを、本明細書に記載するベクターからの導入遺伝子発現を測定するために使用することができ、したがって、例えば、ベクターの効力を示すことができる。例えば、HT-22、SK-N-MC、HCN-1A、HCN-2、NT2、SH-SY5y、hNSC11、またはReNcell VM細胞株、または神経細胞またはグリア細胞、または神経細胞またはグリア細胞の前駆細胞に由来するその他の細胞株を、導入遺伝子発現を評価するために使用することができる。発現すると、HuGlyIDSと関連したグリコシル化及びチロシン硫酸化のパターンの決定など、発現産物(すなわち、HuGlyIDS)の特性を決定することができる。
【0188】
5.2.10.組成物
本明細書に記載する導入遺伝子をコードするベクター及び好適な担体を含む組成物を記載する。好適な(例えば、CSF、及び、例えば、神経細胞への投与のための)担体は、当業者により容易に選択されるであろう。
【0189】
5.3 遺伝子治療
MPS IIを有するヒト対象への治療有効量の導入遺伝子コンストラクトの投与のための方法を記載する。より詳細には、MPS IIを有する患者に、治療有効量の導入遺伝子コンストラクトを投与するための方法、特に、CSFに投与するための方法を記載する。特定の実施形態では、そのような治療有効量の導入遺伝子コンストラクトのCSFへの投与方法を、ハンター症候群を有する患者を治療するために使用することができる。
【0190】
5.3.1.標的患者集団
ある特定の実施形態では、組換えベクターの治療有効用量を、MPS IIの診断を受けた患者に投与する。特定の実施形態では、患者は、軽度のMPS IIの診断を受けている。特定の実施形態では、患者は、重度のMPS IIの診断を受けている。特定の実施形態では、患者は、ハンター症候群の診断を受けている。特定の実施形態では、患者は、神経障害性MPS IIの診断を受けている。
【0191】
ある特定の実施形態では、組換えベクターの治療有効用量を、MPS IIの診断を受けた患者、すなわち、IDS、例えば、hIDSを使用する治療に応答を示すことが認められた患者に投与する。
【0192】
ある特定の態様では、組換えベクターの治療有効量を、小児患者に投与する。ある特定の実施形態では、組換えベクターの治療有効量を、3歳未満の患者に投与する。ある特定の実施形態では、組換えベクターの治療有効量を、2~4歳の患者に投与する。ある特定の実施形態では、組換えベクターの治療有効量を、4か月齢以上、かつ5歳未満の患者に投与する。特定の実施形態では、組換えベクターの治療有効量を、重度のMPS IIを有している、4か月齢以上、かつ5歳未満の患者に投与する。ある特定の実施形態では、組換えベクターの治療有効量を、5歳以上、かつ18歳未満の患者に投与する。特定の実施形態では、組換えベクターの治療有効量を、神経障害性MPS IIを有している、5歳以上、かつ18歳未満の患者に投与する。ある特定の実施形態では、組換えベクターの治療有効量を、18か月齢以上、かつ8歳以下の患者に投与する。特定の実施形態では、組換えベクターの治療有効量を、小児男性患者である、18か月齢以上、かつ8歳以下の患者に投与する。ある特定の実施形態では、組換えベクターの治療有効量を、3~8歳の患者に投与する。ある特定の実施形態では、組換えベクターの治療有効量を、8~16歳の患者に投与する。ある特定の実施形態では、組換えベクターの治療有効量を、5~18歳の患者に投与する。ある特定の実施形態では、組換えベクターの治療有効量を、10歳以下の患者に投与する。ある特定の実施形態では、組換えベクターの治療有効量を、重度のMPS IIを有する、10歳以下の患者に投与する。ある特定の実施形態では、組換えベクターの治療有効量を、18歳以下の患者に投与する。ある特定の実施形態では、組換えベクターの治療有効量を、5歳以上の患者に投与する。ある特定の実施形態では、組換えベクターの治療有効量を、10歳超の患者に投与する。
【0193】
特定の態様では、組換えベクターの治療有効量を、4、5、6、7、8、9、10、または11か月齢の患者に投与する。ある特定の実施形態では、組換えベクターの治療有効量を、約4、5、6、7、8、9、10、または11か月齢の患者に投与する。ある特定の実施形態では、組換えベクターの治療有効量を、4~5、5~6、6~7、7~8、8~9、9~10、10~11、または11~12か月齢の患者に投与する。ある特定の実施形態では、組換えベクターの治療有効量を、約4~5、5~6、6~7、7~8、8~9、9~10、10~11、または11~12か月齢の患者に投与する。ある特定の実施形態では、組換えベクターの治療有効量を、1、2、3、4、または5歳の患者に投与する。ある特定の実施形態では、組換えベクターの治療有効量を、約1歳、2歳、3歳、4歳、または5歳の患者に投与する。ある特定の実施形態では、組換えベクターの治療有効量を、1~2歳、2~3歳、3~4歳、4~5歳、または5~6歳の患者に投与する。ある特定の実施形態では、組換えベクターの治療有効量を、約1~2歳、2~3歳、3~4歳、4~5歳、または5~6歳の患者に投与する。ある特定の実施形態では、組換えベクターの治療有効量を、5~6歳、6~7歳、7~8歳、8~9歳、9~10歳、10~11歳、11~12歳、12~13歳、13~14歳、14~15歳、15~16歳、16~17歳、17~18歳、または18~19歳の患者に投与する。ある特定の実施形態では、組換えベクターの治療有効量を、約5~6歳、6~7歳、7~8歳、8~9歳、9~10歳、10~11歳、11~12歳、12~13歳、13~14歳、14~15歳、15~16歳、16~17歳、17~18歳、または18~19歳の患者に投与する。
【0194】
特定の態様では、組換えベクターの治療有効用量を、思春期の患者に投与する。ある特定の実施形態では、組換えベクターの治療有効用量を、成人患者に投与する。一部の実施形態では、組換えベクターの治療有効用量を、男性患者に投与する。その他の実施形態では、組換えベクターの治療有効用量を、女性患者に投与する。
【0195】
ある特定の実施形態では、治療有効用量の組換えベクターを、MPS IIと診断され、遺伝子治療処置の前にCSFに注入したIDS、例えば、hIDSによる治療に反応することを確認した患者に投与する。
【0196】
5.3.2.投与量及び投与様式
ある特定の実施形態では、治療有効用量の組換えベクターを、くも膜下投与(すなわち、くも膜下腔に注入して、組換えベクターがCSFを通じて拡散して、CNSの細胞に形質導入するようにする)を介して、CSFに投与する。これは、いくつかの方法で、例えば、頭蓋内(大槽内または脳室内)注入、または腰椎槽への注入によって達成することができる。ある特定の実施形態では、くも膜下投与は、大槽内(IC)(例えば、大槽内への)注入により実施する。ある特定の実施形態では、大槽内注入は、CTガイド後頭下穿刺で行う。ある特定の実施形態では、くも膜下注入は、腰椎穿刺で行う。ある特定の実施形態では、患者に対して実行できるのであれば、くも膜下腔への注入はC1-2穿刺で行う。あるいは、脳室内(ICV)投与(血液脳関門を透過しない抗感染症薬または抗癌薬を導入するために使用する、より侵襲的な技術)、例えば、画像支援型ICV注入を使用して、組換えベクターを、脳室内に直接に注入することができる。ある特定の実施形態では、組換えベクターを、単一の画像支援型ICV注入を介して投与する。さらなる特定の実施態様では、組換えベクターを、投与カテーテルを直ちに除去しながら、単一の画像支援型ICV注入を介して投与する。ある特定の実施形態では、治療有効用量の組換えベクターを、鼻腔内投与を介してCNSに投与する。ある特定の実施形態では、治療有効用量の組換えベクターを、脳実質内注入によりCNSに投与する。ある特定の実施形態では、脳実質内注入は、線条体を標的とする。ある特定の実施形態では、脳実質内注入は、白質を標的とする。ある特定の実施形態では、治療有効用量の組換えベクターは、当該技術分野で公知の任意の手段、例えば、全内容を、参照により、本明細書で援用するHocquemiller et al.,2016,Human Gene Therapy 27(7):478-496において開示される任意の手段で、CSFに投与する。
【0197】
好ましい実施形態では、くも膜下投与(IC及びICV投与など)のために、治療有効用量の組換えベクターを、全CSF量の10%を超えない注入量でCSFに投与し、その全CSF量は、乳児では約50mlであり、成人では約150mlである。くも膜下注入に好適な担体、例えば、Elliotts B溶液を、組換えベクターのためのビヒクルとして使用すべきである。Elliots B溶液(一般名:塩化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、無水デキストロース、硫酸マグネシウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、及びリン酸ナトリウム)は、静菌保存剤を含んでいない無菌で、かつ非発熱性の等張溶液であり、化学療法薬のくも膜下投与のための希釈剤として使用する。
【0198】
ある実施形態では、ヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)を発現する非複製組換えAAV9ベクターを、治療のために使用する。ある特定の実施形態では、IDS発現カセットは、逆方向末端反復(ITR)に隣接しており、そして、サイトメガロウイルス(CMV)エンハンサーとニワトリベータアクチンプロモーター(CB7)とのハイブリッドが発現を駆動する。ある特定の実施形態では、導入遺伝子は、ニワトリベータアクチンイントロンと、ウサギベータ-グロビンポリアデニル化(ポリA)シグナルを含む。
【0199】
ある特定の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターを、ヒト対象の脳質量に応じた用量で投与する。好ましい実施形態では、脳質量は、対象の脳の脳磁気共鳴画像(MRI)で決定する。ある特定の実施形態では、ヒト対象の脳体積cmに、1.046g/cmの係数を乗じて、ヒト対象の脳体積からヒト対象の脳質量に変換し、ヒト対象の脳体積は、ヒト対象の脳MRIから得る。
【0200】
ある特定の実施形態では、rAAV9.hIDSは、約5~20mlの体積において、1.4×1013GC(脳質量1gあたり1.1×1010GC)~7.0×1013GC(脳質量1gあたり5.6×1010GC)の範囲の単回固定用量を、IC(後頭下注射で)投与する。患者がAAVに対する中和抗体を有している場合には、高い範囲の用量を使用し得る。
【0201】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載する組換えベクターは、(例えば、ヒト患者が、4か月齢以上、かつ5歳未満である場合は)脳質量1gあたり約1.3×1010GC~脳質量1gあたり約6.5×1010GCの範囲の単回固定用量で、くも膜下に投与し得る。特定の実施形態では、本明細書に記載する組換えベクターは、(例えば、ヒト患者が、4か月齢以上、かつ5歳未満である場合は)脳質量1gあたり約1.3×1010GCの単回固定用量で、くも膜下に投与し得る。別の特定の実施形態では、本明細書に記載する組換えベクターは、(例えば、ヒト患者が、4か月齢以上、かつ5歳未満である場合は)脳質量1gあたり約6.5×1010GCの単回固定用量で、くも膜下に投与し得る。別のある特定の実施形態では、本明細書に記載する組換えベクターは、(例えば、ヒト患者が、4か月齢以上、かつ5歳未満である場合は)以下の表5に記載した用量1または用量2の単回固定用量で、くも膜下に投与し得る。
【0202】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載する組換えベクターは、(例えば、ヒト患者が、4か月齢以上、かつ5歳未満である場合に)脳質量1gあたり約1.3×1010GC~脳質量1gあたり約2.0×1011GCの範囲の単回固定用量で、くも膜下に投与し得る。特定の実施形態では、本明細書に記載する組換えベクターは、(例えば、ヒト患者が、4か月齢以上、かつ5歳未満である場合に)脳質量1gあたり約2.0×1011GCの単回固定用量で、くも膜下に投与し得る。別の特定の実施形態では、本明細書に記載する組換えベクターは、(例えば、ヒト患者が、4か月齢以上、かつ5歳未満である場合に)以下の表6に記載した用量3の単回固定用量で、くも膜下に投与し得る。
【0203】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載する組換えベクターは、(例えば、ヒト患者が、4か月齢以上、かつ5歳未満である場合に)脳質量1gあたり約1.3×1010GC脳質量~約6.5×1010GC/g脳質量の範囲の単回固定用量で、IC投与で投与し得る。特定の実施形態では、本明細書に記載する組換えベクターは、(例えば、ヒト患者が、4か月齢以上、かつ5歳未満である場合に)脳質量1gあたり約1.3×1010GC脳質量の単回固定用量で、IC投与で投与し得る。別の特定の実施形態では、本明細書に記載する組換えベクターは、(例えば、ヒト患者が、4か月齢以上、かつ5歳未満である場合に)脳質量1gあたり約6.5×1010GCの単回固定用量で、IC投与で投与し得る。別の特定の実施形態では、本明細書に記載する組換えベクターは、(例えば、ヒト患者が、4か月齢以上、かつ5歳未満である場合に)以下の表5に記載した用量1または用量2の単回固定用量で、IC投与で投与し得る。
【0204】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載する組換えベクターは、(例えば、ヒト患者が、4か月齢以上、かつ5歳未満である場合に)脳質量1gあたり約1.3×1010GC~脳質量1gあたり約2.0×1011GCの範囲の単回固定用量で、IC投与で投与し得る。特定の実施形態では、本明細書に記載する組換えベクターは、(例えば、ヒト患者が、4か月齢以上、かつ5歳未満である場合に)脳質量1gあたり約2.0×1011GCの単回固定用量で、IC投与で投与し得る。別の特定の実施形態では、本明細書に記載する組換えベクターは、(例えば、ヒト患者が、4か月齢以上、かつ5歳未満である場合に)以下の表6に記載した用量3の単回固定用量で、IC投与で投与し得る。
【0205】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載する組換えベクターは、(例えば、ヒト患者が、4か月齢以上、かつ5歳未満である場合に)脳質量1gあたり約1.3×1010GC~脳質量1gあたり約6.5×1010GCの範囲の単回固定用量で、ICV投与で投与し得る。特定の実施形態では、本明細書に記載する組換えベクターは、(例えば、ヒト患者が、4か月齢以上、かつ5歳未満である場合に)脳質量1gあたり約1.3×1010GCの単回固定用量で、ICV投与で投与し得る。別の特定の実施形態では、本明細書に記載する組換えベクターは、(例えば、ヒト患者が、4か月齢以上、かつ5歳未満である場合に)脳質量1gあたり約6.5×1010GCの単回固定用量で、ICV投与で投与し得る。別の特定の実施形態では、本明細書に記載する組換えベクターは、(例えば、ヒト患者が、4か月齢以上、かつ5歳未満である場合は)以下の表5に記載した用量1または用量2の単回固定用量で、ICV投与で投与し得る。
【0206】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載する組換えベクターは、(例えば、ヒト患者が、4か月齢以上、かつ5歳未満である場合に)脳質量1gあたり約1.3×1010GC~脳質量1gあたり約2.0×1011GCの範囲の単回固定用量で、ICV投与で投与し得る。特定の実施形態では、本明細書に記載する組換えベクターは、(例えば、ヒト患者が、4か月齢以上、かつ5歳未満である場合に)脳質量1gあたり約2.0×1011GCの単回固定用量で、ICV投与で投与し得る。別の特定の実施形態では、本明細書に記載する組換えベクターは、(例えば、ヒト患者が、4か月齢以上、かつ5歳未満である場合に)以下の表6に記載した用量3の単回固定用量で、ICV投与で投与し得る。
【0207】
【表8】
【0208】
【表9】
【0209】
特定の実施形態では、本明細書に記載する組換えベクターは、(例えば、ヒト患者が、5歳以上、かつ18歳未満である場合は)脳質量1gあたり約6.5×1010GCの単回固定用量で、くも膜下に投与し得る。別の特定の実施形態では、本明細書に記載する組換えベクターは、(例えば、ヒト患者が、5歳以上、かつ18歳未満である場合は)以下の表7に記載する、及び表7に従った単回固定用量で、くも膜下に投与し得る。
【0210】
特定の実施形態では、本明細書に記載する組換えベクターは、(例えば、ヒト患者が、5歳以上、かつ18歳未満である場合に)脳質量1gあたり約6.5×1010GCの単回固定用量で、IC投与で投与し得る。別の特定の実施形態では、本明細書に記載する組換えベクターは、(例えば、ヒト患者が、5歳以上、かつ18歳未満である場合に)以下の表7に記載した、及び表7に従った単回固定用量で、IC投与で投与し得る。
【0211】
特定の実施形態では、本明細書に記載する組換えベクターは、(例えば、ヒト患者が、5歳以上、かつ18歳未満である場合は)脳質量1gあたり約6.5×1010GCの単回固定用量で、ICV投与で投与し得る。別の特定の実施形態では、本明細書に記載する組換えベクターは、(例えば、ヒト患者が、5歳以上、かつ18歳未満である場合に)以下の表7に記載した、及び表7に従った単回固定用量で、ICV投与で投与し得る。
【0212】
【表10】
【0213】
5.4 併用療法
CSFへのHuGlyIDSの投与、及びこれに伴う他の利用可能な治療の実施との組み合わせを、本発明の方法は包含する。さらなる治療は、遺伝子治療処置の前に、それと同時に、またはその後に行い得る。本発明の遺伝子治療と併用することができるMPS IIのための利用可能な治療として、限定を意図するものではないが、全身的に、またはCSFに投与されるイズルスルファーゼを使用する酵素補充療法(ERT)、及び/または、HSCT療法がある。別の実施形態では、ERTは、組換えDNA技術によってヒト神経細胞/ヒトグリア細胞株が産生したrHuGlyIDS糖タンパク質を使用して投与することができる。そのような組換え糖タンパク質生産のために使用することができるヒト神経細胞/ヒトグリア細胞株は、限定されないが、数例を挙げれば、HT-22、SK-N-MC、HCN-1A、HCN-2、NT2、SH-SY5y、hNSC11、またはReNcell VMがある。完全なグリコシル化、特に、シアル化、及びチロシン硫酸化を保証するために、生産に使用する細胞株を、チロシン-O-硫酸化を担うα-2,6-シアリルトランスフェラーゼ(または、α-2,3-及びα-2,6-シアリルトランスフェラーゼの両方)、及び/またはTPST-1及びTPST-2酵素を共発現するように宿主細胞を遺伝子操作することで、強化することができる。
【0214】
5.5 バイオマーカー/試料採取/有効性のモニタリング
有効性は、認知機能(例えば、神経認知機能の低下の防止または低減)、CSF及び/または血清での疾患バイオマーカー(例えば、ヘパラン硫酸、及びデルマタン硫酸などのGAG)の低下、及び/または、CSF及び/または血清でのIDS酵素活性の増加を測定してモニタリングすることができる。炎症の徴候及びその他の安全事象をモニタリングし得る。
【0215】
5.5.1.疾患マーカー
ある特定の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターを使用する治療の有効性を、患者の疾患バイオマーカーのレベルを測定してモニタリングする。ある特定の実施形態では、疾患バイオマーカーのレベルを、患者のCSFにおいて測定する。ある特定の実施形態では、疾患バイオマーカーのレベルを、患者の血清において測定する。ある特定の実施形態では、疾患バイオマーカーのレベルを、患者の血漿において測定する。ある特定の実施形態では、疾患バイオマーカーのレベルを、患者の尿において測定する。ある特定の実施形態では、疾患バイオマーカーは、GAGである。好ましい実施形態では、疾患バイオマーカーは、ヘパラン硫酸である。ある特定の実施形態では、疾患バイオマーカーは、デルマタン硫酸である。ある特定の実施形態では、疾患バイオマーカーは、IDS酵素活性である。ある特定の実施形態では、疾患バイオマーカーは、炎症である。ある特定の実施形態では、疾患バイオマーカーは、安全事象である。
【0216】
ある特定の実施形態では、組換えヌクレオチド発現ベクターを使用する治療の有効性を、患者由来の試料での次のバイオマーカーのうちの1つ以上を測定してモニタリングする:(a)CSF中のGAGのレベル、(b)CSF中のI2Sのレベル、(c)血漿中のGAGのレベル、(d)血漿中のI2Sのレベル、(e)白血球I2S酵素活性のレベル、(f)尿中のGAGのレベル、(g)CSF中のヘパラン硫酸のレベル、及び(h)CSF中のデルマタン硫酸のレベル。
【0217】
一部の実施形態では、CSF中のヘパラン硫酸(HS)グリコサミノグリカン(CAG)を、生物分析LC/MSを使用して測定する。一部の実施形態では、CNS中のヘパラン硫酸非還元末端、及び総ヘパラン硫酸を、生物分析LC/MSを使用して測定する。一部の実施形態では、血漿中のヘパラン硫酸非還元末端、及び総ヘパラン硫酸を、生物分析LC/MSを使用して測定する。一部の実施形態では、尿中のHS CAGを、生物分析LC/MSを使用して測定する。一部の実施形態では、尿での総CAG濃度を、比色アッセイを使用して測定する。一部の実施形態では、使用可能なアッセイに関するより詳細な説明を、本開示のセクション6で提供する。
【0218】
5.5.2.神経認知機能の試験
ある特定の実施形態では、組換えベクターによる治療の有効性を、患者の認知機能のレベルを測定してモニタリングする。認知機能は、当業者に公知の任意の方法で測定することができる。ある特定の実施形態では、認知機能は、検証された手段を用いて知能指数(IQ)を測定する。特定の実施形態では、IQは、Wechsler Abbreviated Scale of Intelligence,Second Edition(WASI-II)で測定する。ある特定の実施形態では、認知機能は、検証された手段を用いて記憶力を測定する。特定の実施形態では、記憶力は、ホプキンス言語学習試験(HVLT)で測定する。ある特定の実施形態では、認知機能は、検証された手段を用いて注意力を測定する。特定の実施形態では、注意力は、注意変数試験(TOVA)で測定する。ある特定の実施形態では、認知機能は、検証された手段を用いて、IQ、記憶力、及び注意力のうちの1つ以上を測定する。
【0219】
5.5.3.身体的変化
ある特定の実施形態では、組換えベクターによる治療の有効性は、患者のリソソーム蓄積症に関連する身体的な特徴を測定してモニタリングする。ある特定の実施形態では、身体的な特徴は、保存損傷である。ある特定の実施形態では、身体的な特徴は、低身長である。ある特定の実施形態では、身体的な特徴は、顔表面の粗雑化である。ある特定の実施形態では、身体的な特徴は、閉塞性睡眠無呼吸である。ある特定の実施形態では、身体的な特徴は、聴覚障害である。ある特定の実施形態では、身体的な特徴は、視覚障害である。ある特定の実施形態では、視覚障害は、角膜混濁に起因する。ある特定の実施形態では、身体的な特徴は、水頭症である。ある特定の実施形態では、身体的な特徴は、脊髄圧迫症である。ある特定の実施形態では、身体的な特徴は、肝脾腫である。ある特定の実施形態では、身体的な特徴は、骨及び関節の変形である。ある特定の実施形態では、身体的な特徴は、心臓弁膜疾患である。ある特定の実施形態では、身体的な特徴は、再発性上気道感染症である。ある特定の実施形態では、身体的な特徴は、手根管症候群である。ある特定の実施形態では、身体的な特徴は、巨舌症(舌の肥大)である。ある特定の実施形態では、身体的な特徴は、声帯肥大、及び/または変声である。そのような身体的な特徴は、当業者に公知のあらゆる方法によって測定することができる。
配列表
【表11】
【実施例
【0220】
6.実施例
6.1 実施例1:hIDS cDNA
hIDS(配列番号1)を含む導入遺伝子を含むhIDS cDNAをベースとしたベクターを構築する。導入遺伝子は、表4に記載した群から選択されるシグナルペプチドを含む核酸を含む。任意に、ベクターは、さらにプロモーターを含む。
【0221】
6.2実施例2:置換hIDS cDNA
hIDS cDNAをベースとしたベクターを、配列番号1のhIDS配列と比較して、アミノ酸置換、欠失、または付加を有するhIDSを含むベクターを構築する。hIDSは、例えば、限定されないが、図2に示すIDSのオーソログでの対応する非保存的残基から選択されるアミノ酸置換を含み、そのような変異は、酵素活性に必要な位置84(C84)のシステイン残基の置換を含まず(Millat et al.,1997,Biochem J 326:243-247)、例えば、図3に示したもの、または、各々を、参照により、本明細書で援用する、Sukegawa-Hayasaka et al.,2006,J Inhert Metab Dis 29:755-761(「弱度」変異体R48P、A85T、W337R、及び切断型変異体Q531X、及び、「重度」変異体P86L、S333L、S349I、R468Q、R468Lを報告している)、Millat et al.,1998,BBA 1406:214-218(「弱度」変異体P480L及びP480Q;及び、「重度」変異体P86Lを報告している)、及び、Bonucelli et al.,2001,BBA 1537:233-238で報告されたような、重度、重度~中等度、中等度、または弱度MPS II表現型において同定された変異を含まないことを条件とする。また、導入遺伝子は、表4に記載した群から選択されるシグナルペプチドを含む核酸を含む。任意に、ベクターは、プロモーターをさらに含む。
【0222】
6.3 実施例3:hIDSまたは置換hIDSを有する動物モデルでのMPS IIの治療
導入遺伝子として発現させる場合、hIDS cDNAをベースとしたベクターは、MPS IIの治療に有用であると考えられる。MPS IIのための動物モデル、例えば、Garcia et al.,2007,J Inherit Metab Dis 30:924-34、またはMuenzer et al.,2001,Acta Paediatr Suppl 91:98-99に記載されたマウスモデルに対して、くも膜下に、hIDSをコードする組換えベクターを、動物のCSFに治療有効濃度の導入遺伝子産物を送達及び維持する上で十分な用量で投与する。治療の後に、動物を、特定の動物モデルの疾患と一致した症状の改善について評価する。
【0223】
6.4 実施例4:hIDSまたは置換hIDSによるMPS IIの治療
導入遺伝子として発現させる場合、hIDS cDNAをベースとしたベクターは、MPS IIの治療に有用であると考えられる。MPS IIを呈する対象に対して、くも膜下に、hIDSをコードするcDNAをベースとしたベクター(例えば、コンストラクト1(以下を参照されたい)などを、CSFに治療有効濃度の導入遺伝子産物を送達及び維持する上で十分な用量で投与する。治療の後に、対象を、MPS IIの症状の改善について評価する。
【0224】
6.5 実施例5:MPS II(ハンター症候群)の小児対象でのコンストラクト1の安全性、忍容性、及び薬力学を評価するための第I/II相多施設非盲検試験
6.5.1.概要
治験薬、用量、及び投与経路
【0225】
コンストラクト1:AAV9.CB7.hIDS(ヒトイズロン酸-2-スルファターゼ発現カセットを含む組換えアデノ随伴ウイルス血清型9キャプシド)。段落(0019)及び図 5を参照されたい。
【0226】
治験薬を、単回大槽内(IC)用量として送達する。
【0227】
2つの用量レベル、すなわち脳質量1gあたり1.3×1010ゲノムコピー(GC)(用量1)、及び脳質量1gあたり6.5×1010GC(用量2)を評価する。投与総用量は、治験対象の年齢に基づいて推定した脳サイズを考慮に含める。投与する治験薬の総体積は、5mLを超えない。
【0228】
目的
【0229】
主要目的:
【0230】
重度のMPS IIを有する小児対象者に対して単回IC投与をして24週間にわたるコンストラクト1の安全性及び忍容性を評価する。
【0231】
副次目的:
【0232】
コンストラクト1の長期安全性及び忍容性を評価する。
【0233】
脳脊髄液(CSF)、血漿、尿でのバイオマーカーに対するコンストラクト1の効果を評価する。
【0234】
認知機能、行動機能、適応機能の神経発達パラメーターに対するコンストラクト1の効果を評価する。
【0235】
CSF、血漿、及び尿でのベクターの切断を評価する。
【0236】
探索目的:
●コンストラクト1の免疫原性を評価する
●CNSの物理的変化に対するコンストラクト1の影響を調べる
●疾患の全身症状に対するコンストラクト1の効果を調べる
●聴覚能力に対するコンストラクト1の効果を調べる
●IV ERT(ELAPRASE(登録商標))を一時的に中止した対象の血漿及び尿でのバイオマーカーに対するコンストラクト1の効果を調べる
●生活の質(QOL)と睡眠測定に対するコンストラクト1の効果を調べる。
【0237】
治験デザインと方法
【0238】
これは、コンストラクト1の第I/II相、ファーストインヒューマン、多施設、非盲検、単一アーム用量漸増試験である。コントロール群は含まない。重度のMPS IIの約6名の小児対象者を、2つの用量コホート、すなわち脳質量1gあたり1.3×1010GC(用量1)、または脳質量1gあたり6.5×1010GC(用量2)に登録することができ、当該コホートは、コンストラクト1の単回用量の投与をIC注射で受ける。治療を行って最初の24週間(一次試験期間)は、安全性が主要な注目点となる。主要治験期間が終了した後に、対象者に対して、コンストラクト1の治療を受けた後、合計で104週間目まで、評価(安全性及び有効性)を継続する。当該治験が終わると、対象者には、長期追跡調査への参加を促す。
【0239】
最初の3名の適格対象者が、用量1コホート(1.3×1010GC/g脳質量)に登録される。第1の対象者にコンストラクト1を投与した後に、安全性に関する8週間の観察期間を設ける。Internal Safety Committee(ISC)が、この対象者に関して最初の8週間で得た安全性データ(8週目の受診の間に得たデータを含む)を検討し、安全性の懸念が無ければ、第2の対象者を登録し得る。同じプロセスを使用して、第3の対象者を登録する。安全性検討トリガー(SRT)事象が認められなければ、第3の対象者の第8週目の受診時までに得た用量1コホートに関して利用可能なすべての安全性データを、Independent Data Monitoring Committee(IDMC)が評価する。第2の用量(6.5×1010GC/g脳質量)へ移行する決定が出れば、続く2名の対象者が、最後に投与した対象者に関して最初の8週間で得たすべての安全性データ(8週目の受診時に得たデータを含む)を検討した後に決めた後続の各対象者に関する用量を使用して、当初の用量コホートと同じ投与スキームに従う。ISCは、第2の対象者の2週目までの受診、及び2週目での受診で得た当該対象者のすべての安全性データを検討し、この評価の直後に、第3の対象者への投与に進むことが安全であると判断し得る。用量2コホートについて入手可能なすべての安全性データを、用量2コホートでの第3の対象者の8週目での受診後にIDMCが評価する。
【0240】
潜在的な対象者を、投与の35日前までにスクリーニングして、治験への適格性を決定する。適格基準を満たす対象者は、-2日目~1日目の朝(施設の基準による)の間に入院し、ベースライン評価を投与前に行う。対象者は、1日目に、コンストラクト1の単一IC用量の投与を受け、観察のために、投薬後の約30~36時間は病院に留まる。主要治験期間(すなわち、第24週目まで)以降の評価は、第4週目まで毎週、及び、第8週、第12週、第16週、第20週、及び第24週目に実施する。主要治験期間の後に、第28週、第32週、第40週、第48週、第52週、第56週、第64週、第78週、及び第104週目に受診する。第12週、第40週、第64週目の受診は、在宅保健師が行い得る。第20週と第28週の評価は、電話で聞き取りをして、AEと併用療法の評価だけを行う。
【0241】
すべての対象者は、動物で実施した非臨床安全性/毒物学治験での潜在的免疫原性の知見に基づいて、まず、本治験では免疫抑制(IS)を受け、コルチコステロイド(1日目にメチルプレドニゾロン10mg/kgを1回静脈内[IV]に前投与する、2日目に経口プレドニゾンを0.5mg/kg/日から開始する、段階的に漸減させて、第12週目までに中止する)、タクロリムス(2日目~第24週目まで1日2回[BID]1mgを経口的に[PO]、目標血中レベルを4~8ng/mLとする、そして、第24週~第32週にかけての8週間にわたり漸減する)、及びシロリムス(-2日目に4時間ごとに1mg/m×3用量の負荷用量、続いて、-1日目以降はシロリムス0.5mg/m/日をBIDに分けて、第48週目まで目標血中レベルを4~8ng/mlとして投与する)を含む。神経学的評価及びタクロリムス/シロリムス血中レベルをモニタリングする。シロリムス及びタクロリムスの用量を、目標範囲内の血中レベルを維持するように調節する。
【0242】
48週間後のIS療法は予定していない。臨床的に関連する免疫応答を調節するために48週以後もISが必要であれば、臨床的必要性に応じて、メディカルモニター及びスポンサーと確認しながら、治験責任医師(PI)が適切な免疫抑制レジメンを決定する。
【0243】
有効性評価は、神経認知機能、聴覚能力、脳MRI、肝臓及び脾臓の大きさ、及びCSF、血漿、そして尿での薬力学(PD)バイオマーカーのレベルの測定を含む。治験に参加している間、対象者の標準治療の一部として実施した神経認知評価尺度または適応評価尺度も、施設と協議した後に、治験スポンサーの決定にしたがって収集し得る。
【0244】
評価項目
【0245】
主要評価項目:
● 第24週目までの安全性:AE及び重度の有害事象(SAE)
【0246】
副次評価項目:
●第104週目までの安全性:AE報告、検査室評価、バイタルサイン、ECG、身体診察、及び神経学的評価
●CSF(GAG、I2S活性)、血漿(GAG、I2S活性)、及び尿(GAG)でのバイオマーカー
●認知、行動、及び適応機能の神経発達パラメーター:
■Bayley Scales of Infant and Toddler Development,3rd Edition (BSID-III) (Bayley,2005,Scales of Infant and Toddler Development,3rd Ed.,Springer,New York,NY)またはKaufman Assessment Battery for Children,2nd Edition (KABC-II) (Kaufman,2004,Kaufman Assessment Battery for Children,2nd Ed.)
■Vineland Adaptive Behavior Scales,2nd Edition,Comprehensive Interview Form (VABS-II) (Sparrow et ak,2005,Vineland Adaptive Behavior Scales,2nd Ed.)
●コンストラクト1デオキシリボ核酸(DNA)に対する定量的ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によるCSF、血漿、尿中のベクター濃度
【0247】
探索評価項目:
●免疫原性測定
○AAV9に対する中和抗体価、及びCSFと血清でのI2Sに対する結合抗体価
○酵素結合イムノスポット(ELISPOT)アッセイ:AAV9及びI2Sに対するT 細胞応答
○フローサイトメトリー:AAV及びI2S特異的制御性T細胞
●脳の磁気共鳴画像法(MRI)で評価したCNS構造異常
●腹部のMRI及び超音波で評価した肝臓及び脾臓のサイズ
●聴覚脳幹応答(ABR)検査で測定した聴覚能力の変化
●IV ERT(ELAPRASE(登録商標))を一時的に中止した対象者での血漿及び尿中GAG
●PedsQL(バージョン4)
●睡眠尺度の全体的印象
【0248】
本治験の全期間を、投与後の104週間であり得、安全性の主要評価時点は、24週間目である。スクリーニングには、最長で35日を要し得る。
【0249】
診断、及び採用と除外の基準
【0250】
本治験に参加する資格を得るにあたって、対象者は、以下の全採用基準に該当しなくてはならない。
1.対象者の法的保護者(複数可)は、治験の趣旨説明を受けた後、かつ治験関連の手続きを行う前に、インフォームドコンセント用紙に署名をして提供する意思があり、かつ、そうすることが可能である。
2.男性である
3.以下のいずれか1つの基準に該当していること:
a.文書によるMPS IIの診断があり、かつ、4か月齢以上、5歳未満であり、かつ、神経認知検査スコアが55超、77以下(BSID-IIIまたはKABC-II)である、または
b.文書によるMPS IIの診断があり、かつ、4か月齢以上、5歳未満であり、かつ、神経認知検査(BSID-IIIまたはKABC-II)で1以上の標準偏差の低下がある、及び、試験スコアが55超である、または
c.対象者と同じIDS変異を有する重度のMPS IIの診断を受けた血縁者がおり、かつ、遺伝学者の意見で、重度のMPS IIの形態を受け継いでいる
4.補助器具の有無に関係なく、必須のプロトコール試験を完了する上で十分な聴覚的及び視覚的能力を有し、該当する場合には、試験日に進んで補助器具を利用する。
【0251】
以下の除外基準のいずれかに該当する対象者は、治験に参加する資格が無い:
1.IC注射に対して次のいずれかの禁忌を示す:
a.治験(1施設につき1)に参加している神経放射線科医/神経外科医のチームがベースラインMRI検査の検討を行って、IC注射に対して禁忌を認める
b.この治験に参加している神経放射線科医/神経外科医のチームが、入手可能な情報に基づいて、IC注射に対して禁忌である頭部/頸部の手術歴を認める。
c.コンピューター断層撮影(CT)、造影剤、または全身麻酔に対して禁忌を認める
d.MRIまたはガドリニウムに対して禁忌を認める
e.推算糸球体濾過量(eGFR)が、30mL未満/分/1.73mである
2.プレドニゾン、タクロリムス、またはシロリムスを使用する治療に対して禁忌であるいずれかの病態を有する
3.MPS IIまたは神経精神病態の診断に起因しない神経認知障害があり、PIの意見では、研究結果の解釈に混乱を招き得る
4.腰椎穿刺に対して禁忌を示す
5.心室シャントを有する
6.造血幹細胞移植(HSCT)を受けている
7.AAVをベースとした遺伝子治療薬を使用する治療を受けたことがある
8.くも膜下腔(IT)投与を介して、イデュルスルファーゼ[ELAPRASE(登録商標)]の投与を受けている
9.イデュルスルファーゼ[ELAPRASE(登録商標)]IVの投与を受けて、IVイデュルスルファーゼ[ELAPRASE(登録商標)]投与に関連すると考えられるアナフィラキシーなど、重度な過敏反応を経験した
10.インフォームドコンセント用紙(ICF)に署名する前に、第一日目の30日以内または5半減期以内のうち、いずれか長い期間内に治験薬の投与を受けた
11.スクリーニングの少なくとも3か月前に完全な寛解に至っていないリンパ腫の既往歴、または、皮膚の扁平上皮細胞または基底細胞癌以外の別のがんの既往歴を有する
12.血小板数が、100,000/マイクロリットル(μL)未満である
13.アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、またはアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)が、3×ULN超である、または総ビリルビンが1.5×ULN超である。ただし、対象者がギルバート症候群の病歴を有する、及び総ビリルビン35%未満が抱合型ビリルビンである分画ビリルビンを有することが分かっている場合は、この限りではない
14.最大限の医学的治療にもかかわらず、制御不良高血圧症(収縮期血圧[BP]>180mmHg、拡張期BP>100mmHg)である
15.ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、またはB型肝炎またはC型肝炎ウイルス感染の既往歴、またはB型肝炎表面抗原またはB型肝炎コア抗体、またはC型肝炎またはHIV抗体のスクリーニング試験が陽性である
16.臨床施設従業員または治験の実施に関与する他のいずれかの個人の一等親以内の家族、または、臨床施設従業員または治験の実施に関与するその他のあらゆる個人
17.PIの見解では、対象者の安全性を損ねかねない臨床的に有意なECG異常を有している
18.PIの見解では、対象者の安全性を損ねかねない、または治験への参加の成功を妨げかねない、または、治験結果の解釈を歪めかねない、重大な、または不安定な医学的または心理的状態を有している
19.PIの見解では、対象者を過度のリスクに曝しかねない制御不能な発作を有する
免疫抑制療法に関連する除外基準:
20.タクロリムス、シロリムス、またはプレドニゾロンに対して過敏反応の既往歴を有する
21.原発性免疫不全(例えば、共通可変免疫不全症候群)、脾臓摘出術、または感染症に罹患しやすいあらゆる基礎疾患の既往歴のある患者
22.帯状疱疹(VZV)、サイトメガロウイルス(CMV)、またはエプスタイン-バールウイルス(EBV)に感染しており、スクリーニング前の少なくとも12週間に完全に解消していない
23.入院または親世代抗感染症薬による治療を必要とするいずれの感染症も、2回目の受診の少なくとも8週間前に消散していない
24.2回目の受診前の10日以内に経口抗感染症薬(抗ウイルス薬を含む)を必要とするいずれかの活動性の感染症に罹患した
25.スクリーニングの間の活動性の結核(TB)またはQuantiferon-TB Gold試験での陽性結果
26.ICFに署名をする前の8週間以内に何らかの生ワクチンを受けている
27.ICFに署名をする前の8週間以内に大手術を受けた、または、治験期間中に大手術の計画がある
28.登録して6か月以内にアデノイド摘出術または扁桃摘出術の必要性が考えられる
29.好中球数の絶対数が1.3×10未満/μLである
30.PIが免疫抑制療法に適さないと考える病態または正常でない検査所見がある
【0252】
統計的手法
【0253】
すべてのデータを、対象者データ表に記載する。カテゴリ変数を、頻度とパーセンテージを使用してまとめ、連続変数を、記述統計(n、平均、標準偏差、中央値、最小値、及び最大値)を使用してまとめる。必要に応じて、グラフ表示を使用する。安全性及びPD評価項目を、用量群で報告し、また、2つの用量群の組み合わせも報告し得る。
【0254】
サンプルサイズと検出力の計算:試料の大きさを決定するための正式な計算は行わなかった。
6.5.2.略語と用語
【表12】
【0255】
6.5.3.治験計画
評価項目
【0256】
主要評価項目:
●第24週目までの安全性:AE及びSAE
【0257】
副次評価項目:
●第104週目までの安全性:AE報告、検査室評価、バイタルサイン、心電図(ECG)、身体診察、及び神経学的評価
●CSF(GAG、I2S活性)、血漿(GAG、I2S活性)、及び尿(GAG)中のバイオマーカー
●認知、行動、及び適応機能の神経発達パラメーター:
■Bayley Scales of Infant and Toddler Development,3rd Edition (BSID-III) (Bayley,2005,Scales of Infant and Toddler Development,3rd Ed.,Springer,New York,NY)またはKaufman Assessment Battery for Children,2nd Edition (KABC-II) (Kaufman,2004,Kaufman Assessment Battery for Children,2nd Ed.)
■Vineland Adaptive Behavior Scales,2nd Edition,Comprehensive Interview Form (VABS-II) (Sparrow et al,2005,Vineland Adaptive Behavior Scales,2nd Ed.)
●定量的ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による、コンストラクト1 DNAに対するCSF、血漿、尿でのベクター濃度
【0258】
探索評価項目:
●免疫原性測定
○AAV9に対する中和抗体価、及びCSFと血清でのI2Sに対する結合抗体価
○酵素結合イムノスポット(ELISPOT)アッセイ:AAV9及びI2Sに対するT 細胞応答
○フローサイトメトリー:AAV及びI2S特異的制御性T細胞
●脳のMRIで評価したCNS構造異常
●腹部のMRIで評価した肝臓及び脾臓のサイズ
●聴覚脳幹応答(ABR)検査で測定した聴覚能力の変化
●IV ERT(ELAPRASE(登録商標))を一時的に中止した対象者での血漿及び尿中GAG
●PedsQL(バージョン4)
●睡眠尺度の全体的印象
【0259】
治験デザイン
【0260】
これは、コンストラクト1の第I/II相、ファーストインヒューマン、多施設、非盲検、単一アーム用量漸増試験である。重度のMPS IIの約6名の小児対象者を、2つの用量コホート、すなわち脳質量1gあたり1.3×1010GC(用量1)、または脳質量1gあたり6.5×1010GC(用量2)に登録することができ、当該コホートは、コンストラクト1の単回用量の投与をIC注射で受ける。治療を行って最初の24週間(一次試験期間)は、安全性が主要な注目点となる。主要治験期間が終了した後に、対象者に対して、コンストラクト1の治療を受けた後、合計で104週間目まで、評価(安全性及び有効性)を継続する。当該治験が終わると、対象者には、長期追跡調査への参加を促す。
【0261】
潜在的な対象者を、投与の35日前までにスクリーニングして、治験への適格性を決定する。適格基準を満たす対象者は、-2日目~1日目の朝(施設の基準による)の間に入院する、そして、ベースライン評価を投与前に行う。対象者は、1日目に、コンストラクト1の単一IC用量の投与を受ける、そして、観察のために、投与後の約30~36時間は病院に留まる。主要治験期間(すなわち、第24週目まで)以降の評価は、第4週目まで毎週、及び、第8週、第12週、第16週、第20週、及び第24週目に実施する。主要治験期間の後に、第28週、第32週、第40週、第48週、第52週、第56週、第64週、第78週、及び第104週目に受診する。第12週、第40週、第64週目の受診は、在宅保健師が行い得る。第20週と第28週の評価は、電話で聞き取りをして、AEと併用療法の評価だけを行う。
【0262】
すべての対象者は、動物で実施した非臨床安全性での知見に基づいて、まず、本治験ではISを受ける。ISには、コルチコステロイド(1日目にメチルプレドニゾロン10mg/kgを1回IVに前投与する、2日目に経口プレドニゾンを0.5mg/kg/日から開始する、段階的に漸減させて、第12週目までに中止する)、タクロリムス(2日目~第24週目まで1日2回[BID]1mgを経口的に[PO]、目標血中レベルを4~8ng/mLとする、そして、第24週~第32週にかけての8週間にわたり漸減する)、及びシロリムス(-2日目に4時間ごとに1mg/m×3用量の負荷用量、続いて、-1日目以降はシロリムス0.5mg/m/日を1日に2回に分けて、第48週目まで目標血中レベルを4~8ng/mlとして投与する)を含む。神経学的評価及びタクロリムス/シロリムス血中レベルをモニタリングする。シロリムス及びタクロリムスの用量を、目標範囲内の血中レベルを維持するように調節する。
【0263】
48週間後のIS療法は予定していない。臨床的に関連する免疫応答を調節するために48週以後もISが必要であれば、臨床的必要性に応じて、メディカルモニター及びスポンサーと確認しながら、治験責任医師(PI)が適切な免疫抑制レジメンを決定する。
【0264】
コンストラクト1の安全性及び忍容性は、AE及び重大な有害事象(SAE)、化学分析、血液学分析、尿検査、CSF炎症のマーカー、免疫原性、ベクターの切断(ベクター濃度)、バイタルサイン、心電図(ECG)、及び神経学的評価などの身体診察を介してモニタリングする。
【0265】
有効性評価は、神経認知及び適応機能、聴覚能力、脳MRI、肝臓及び脾臓の大きさ、及びCSF、血漿、そして尿でのPDバイオマーカーのレベルの測定を含む。
【0266】
6.5.4.対象者集団と選択
治験集団の選択
【0267】
約6名の4か月齢以上、5歳未満の小児対象者で、MPS IIに起因する神経認知障害が確定している者、または重度のMPS IIの遺伝型からなる遺伝子型及び家族歴を有する者を治験薬(IP)で治療する。
【0268】
採用基準
【0269】
本治験に参加する資格を得るにあたって、対象者は、以下の全採用基準に該当しなくてはならない:
1.対象者の法的保護者(複数可)は、治験の趣旨説明を受けた後、かつ治験関連の手続きを行う前に、インフォームドコンセント用紙に署名をして提供する意思があり、かつ、そうすることが可能である。
2.男性である
3.以下のいずれか1つの基準を満足していること:
a.MPS IIの診断が確定している、かつ、4か月齢以上、5歳未満であり、かつ、神経認知検査スコアが、55超、77以下(BSID-IIIまたはKABC-II)である、または
b.MPS IIの診断が確定している、かつ、4か月齢以上5歳未満であり、かつ、神経認知検査(BSID-IIIまたはKABC-II)で1以上の標準偏差の低下がある、及び、試験スコアが55超である、または
c.対象者と同じIDS変異を有する重度のMPS IIの診断を受けた血縁者がいる、かつ、遺伝学者の意見で、重度のMPS IIの形態を受け継いでいる
4.補助器具の有無に関係なく、必須のプロトコール試験を完了する上で十分な聴覚的及び視覚的能力を有し、該当する場合には、試験日に進んで補助器具を利用する。
【0270】
除外基準
【0271】
以下の除外基準のいずれかに該当する対象者は、治験に参加する資格が無い:
1.IC注射に対して次のいずれかの禁忌を示す:
a.治験(1施設につき1)に参加している神経放射線科医/神経外科医のチームがベースラインMRI検査の検討を行って、IC注射に対して禁忌を認める
b.この治験に参加している神経放射線科医/神経外科医のチームが、入手可能な情報に基づいて、IC注射に対して禁忌である頭部/頸部の手術歴を認める。
c.コンピューター断層撮影(CT)、造影剤、または全身麻酔に対して禁忌を認める
d.MRIまたはガドリニウムに対して禁忌を認める
e.推算糸球体濾過量(eGFR)が、30mL未満/分/1.73mである
2.プレドニゾン、タクロリムス、またはシロリムスを使用する治療に対して禁忌であるいずれかの病態を有する
3.MPS IIまたは神経精神病態の診断に起因しない神経認知障害があり、PIの意見では、研究結果の解釈に混乱を招き得る
4.腰椎穿刺に対して禁忌を示す
5.心室シャントを有する
6.造血幹細胞移植(HSCT)を受けている
7.AAVをベースとした遺伝子治療薬を使用する治療を受けたことがある
8.くも膜下腔(IT)投与を介して、イデュルスルファーゼの投与を受けている
9.IVイデュルスルファーゼ[ELAPRASE(登録商標)]の投与を受けて、IVイデュルスルファーゼ[ELAPRASE(登録商標)]投与に関連すると考えられるアナフィラキシーなど、重度な過敏反応を経験した
10.インフォームドコンセント用紙(ICF)に署名する前に、第一日目の30日以内または5半減期以内のうち、いずれか長い期間内に治験薬の投与を受けた
11.スクリーニングの少なくとも3か月前に完全な寛解に至っていないリンパ腫の既往歴、または、皮膚の扁平上皮細胞または基底細胞癌以外の別のがんの既往歴を有する
12.血小板数が、<100,000/マイクロリットル(μL)である
13.アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、またはアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)が、3×ULN超である、または総ビリルビンが1.5×ULN超である、ただし、対象者がギルバート症候群の病歴を有する、及び総ビリルビン35%未満が抱合型ビリルビンである分画ビリルビンを有することが分かっている場合は、この限りではない
14.最大限の医学的治療にもかかわらず、制御不良高血圧症(収縮期血圧[BP]>180mmHg、拡張期BP>100mmHg)である
15.ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、またはB型肝炎またはC型肝炎ウイルス感染の既往歴、またはB型肝炎表面抗原またはB型肝炎コア抗体、またはC型肝炎またはHIV抗体のスクリーニング試験が陽性である
16.臨床施設従業員または治験の実施に関与するその他のいずれかの個人の一等親以内の家族、または、臨床施設従業員または治験の実施に関与するその他のあらゆる個人
17.PIの見解では、対象者の安全性を損ねかねない臨床的に有意なECG異常を有している
18.PIの見解では、対象者の安全性を損ねかねない、または治験への参加の成功を妨げかねない、または、治験結果の解釈を歪めかねない、重大な、または不安定な医学的または心理的状態を有している
19.PIの見解では、対象者を過度のリスクに曝しかねない制御不能な発作を有する
免疫抑制療法に関連する除外基準:
20.タクロリムス、シロリムス、またはプレドニゾロンに対して過敏反応の既往歴を有する
21.原発性免疫不全(例えば、共通可変免疫不全症候群)、脾臓摘出術、または感染症に罹患しやすいあらゆる基礎疾患の既往歴のある患者
22.帯状疱疹(VZV)、サイトメガロウイルス(CMV)、またはエプスタイン-バール・ウイルス(EBV)に感染しており、スクリーニング前の少なくとも12週間に完全に解消されていない
23.入院または親世代抗感染症薬による治療を必要とするいずれの感染症も、2回目の受診の少なくとも8週間前に消散していない
24.2回目の受診前の10日以内に経口抗感染症薬(抗ウイルス薬を含む)を必要とするいずれかの活動性の感染症に罹患した
25.スクリーニングの間の活動性の結核(TB)またはQuantiferon-TB Gold試験での陽性結果
26.ICFに署名をする前の8週間以内に何らかの生ワクチンを受けている
27.ICFに署名をする前の8週間以内に大手術を受けた、または、治験期間中に大手術の計画がある
28.登録して6か月以内にアデノイド摘出術または扁桃摘出術の必要性が考えられる
29.好中球数の絶対数が1.3×10未満/μLである
30.PIが免疫抑制療法に適さないと考える病態または正常でない検査所見がある
【0272】
6.5.5.治療
実施する治療
【0273】
治験薬(IP)、コンストラクト1(図5を参照されたい)を、単一用量IC投与として投与する。2つの用量レベル:脳質量1gあたり1.3×1010GC(用量1)、または脳質量1gあたり6.5×1010GC(用量2)。投与する総用量(総GC)は、年齢による脳の大きさの違いを考慮して調整する。投与する治験薬の総体積は、5mLを超えない。
【0274】
この治験の間は、参照療法は実施しない。以下に説明するように、IS療法は、IPに加えて行う。
【0275】
治験薬
【0276】
コンストラクト1は、hIDS発現カセットを含む血清型9キャプシドの非複製組換えAAVである。段落(0019)を参照されたい。
【表13】
【0277】
コンストラクト1は、くも膜下腔(IT)に投与した後の中枢神経系(CNS)においてヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(hIDS)産物の効率的な発現を許容する非複製組換えAAV9ベクターである。このベクターゲノムは、AAV2逆方向末端反復(ITR)に隣接するhIDS発現カセットを含む。カセットからの発現は、CB7プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)即時早期エンハンサーとニワトリβ-アクチンプロモーターとの間のハイブリッドが駆動する。このプロモーターからの転写は、ニワトリβ-アクチンイントロン(CI)の存在によって高まる。発現カセットのポリアデニル化シグナルは、ウサギβ-グロビン(RBG)遺伝子に由来する。コンストラクト1の概略を、図5に示す。
【0278】
最終的なIPを、AAVベクター活性成分(AAV9.CB7.hIDS)の凍結溶液を入れた0.001%のPluronic(登録商標)F68を含む改変Elliots B(登録商標)溶液として供給し、2mlをCRYSTAL ZENITH(登録商標)(CZ)バイアルに充填し、そして、ラテックス不含のゴム栓と、アルミニウムフリップオフシールとで密封する。バイアルは、-60℃以下で貯蔵すべきである。それぞれのIPロットの濃度(GC/ml)を分析証明書(CoA)で報告する。治験薬の濃度に基づいた詳細な投与指示は、管理マニュアルに記載している。
【0279】
免疫抑制療法
【0280】
コルチコステロイド
●ベクター投与(1日目、前投与)の朝に、患者に対して、少なくとも30分間にわたって、メチルプレドニゾロン10mg/kg(最大500mg)をIVで与える。メチルプレドニゾロンは、IPの腰椎穿刺及びIC注入の前に投与すべきである。アセトアミノフェン及び抗ヒスタミン剤の前投与は、治験責任医師の裁量で任意に行う。
●第12週目までにプレドニゾンを中止することを目標として、2日目に経口プレドニゾンを開始する。プレドニゾンの用量は、以下の通りである:
○2日目~第2週の終わりまで:0.5mg/kg/日
○第3週及び4週:0.35mg/kg/日
○第5週~8週:0.2mg/kg/日
○第9週~12週:0.1mg/kg
○プレドニゾンは、第12週の後に中止する。プレドニゾンの正確な用量は、一段階増やした臨床上実用的な用量に調整することができる。
【0281】
シロリムス
●ベクター投与の2日前(-2日目):4時間ごとに1mg/m×3用量のシロリムスの負荷用量を投与する。
●-1日目以降:0.5mg/m/日のシロリムスを1日2回に分割して投与する、目標血中レベルを4~8ng/mlとする。
●シロリムスを、第48週目の受診後に中止する。
【0282】
タクロリムス
●2日目(IP投与の翌日)に、タクロリムスを1日2回、1mgの用量で開始する、24週間にわたり4~8ng/mLの血中レベルを達成するように調整する。
●タクロリムスは第24週目の受診から8週にわたって漸減する。第24週に、用量をおよそ50%まで減少させる。第28週に、用量をおよそ50%までさらに減少させる。タクロリムスは、第32週に中止する。
●タクロリムス及びシロリムスの血中レベルをモニタリングする。投薬調整は、本開示で説明を行っている(例えば、段落(0124)~(0125)、(0220)~(0222)、セクション6)。
【0283】
治療に供する対象者を割り当てる方法
【0284】
適格な対象者を登録し、IDMCによる安全性データの検討を経てから、用量コホートに順次に割り当てる。最初の3名は、脳質量1gあたり1.3×1010GCの用量コホート、次の3名は、脳質量1gあたり6.5×1010GCの用量コホートに割り当てる。
【0285】
投薬に関する考慮事項
【0286】
治験薬
【0287】
本開示では、個々の対象者の間での安全性データの検討、及びそれぞれのコホートが任意の用量レベルで投与を受けた後の安全性データの検討など、対象者に対して順次に投与する計画についての説明を開示する(例えば、(0237)~(0265);(0175)~(0186))。
【0288】
免疫抑制療法
【0289】
プレドニゾンの投与は 0.5mg/kg/日から開始して、第12週目の受診まで漸減する。
【0290】
タクロリムスの用量調節は、最初の24週間の間、4~8ng/mlの全血中トラフ濃度を維持するようにする。24週目で、用量は約50%減らす。28週目で、用量を、さらに約50%減らす。タクロリムスは、32週目に中止する。シロリムスの用量調節は、4~8ng/mlの全血中トラフ濃度を維持するようにする。大部分の対象者において、用量調整は、式:新規用量=現在の用量×(目標濃度/現在の濃度)に基づくことができる。対象者は、濃度モニタリングによってさらなる用量調整が行われるまで、少なくとも7~14日間は、新たな維持用量を継続すべきである。
【0291】
以下の投薬及び処置は、禁止する:
●スクリーニングから6か月以内のIT ERTは許可しない。
●ICFに署名する前の30日以内または5半減期以内のいずれか長い期間内、または治験の間(第104週目まで)のあらゆる時点での治験薬。
●シロリムス及び/またはタクロリムスを服用している間の生ワクチンは避ける
●シロリムス及び/またはタクロリムス投与中は、CYP3A4及び/またはP-糖タンパク質(PgP)の強力な阻害剤(ケトコナゾール、ボリコナゾール、イトラコナゾール、ポサコナゾール、エリスロマイシン、テリスロマイシン、またはクラリスロマイシンなど)、またはCYP3A4及び/またはPgpの強力な誘導物質(リファンピンまたはリファブチンなど)は避ける
●グレープフルーツジュースは、CYP3A酵素を阻害し、その結果、タクロリムス及びシロリムスの全血トラフ濃度が高まる。対象者は、タクロリムス及び/またはシロリムスと一緒にグレープフルーツの摂食、または、グレープフルーツジュースを飲むことは避ける。
【0292】
許可する投薬及び処置
【0293】
対象者が、IV ERTの安定したレジメン、ならびに、あらゆる対症療法(例えば、理学療法)を続けることを許可する。地域の病院の標準治療に従って、対象者が、MRIを行う間の閉所恐怖症を予防する薬を服用すること、そして、腰椎穿刺、MRI、及び神経伝導研究(ABR、または感覚誘発電位)のために全身麻酔を受けることを許可する。
【0294】
対象者の安全及び健康の上で必要であると考えられる(例えば、高血圧症の)場合には、地域の標準治療に従って、治験責任医師の裁量で、上記した以外の投薬を行い得る、そして、CRFの適切なセクションに記録し得る。
【0295】
6.6 実施例6:MPS II(ハンター症候群)の小児対象者でのコンストラクト1の安全性、忍容性、及び薬力学を評価するための第I/II相多施設非盲検試験
上記したように、コンストラクト1は、AAV9.CB7.hIDS(ヒトイズロン酸-2-スルファターゼ発現カセットを含む組換えアデノ随伴ウイルス血清型9キャプシド)である。段落(0019)、図5、及びセクション5.5(実施例5)を参照されたい。
【0296】
コンストラクト1を、単回大槽内(IC)または単回脳室内(IC)用量として送達する。
【0297】
2つの用量レベル、すなわち脳質量1gあたり1.3×1010ゲノムコピー(GC)(用量1)、及び脳質量1gあたり6.5×1010GC(用量2)を評価する。投与する総用量は、対象者のスクリーニング磁気共鳴画像(MRI)に基づいて推定した治験対象者の脳サイズを考慮に含める。投与する治験薬の総体積は、CSFの総体積(乳幼児の脳では約50mL、そして、成人の脳では約150mLと推定する)の10%を超えない。
【0298】
6.6.1.目標:
主要目的:
●重度のMPS IIを有する小児対象者に対して単回IC、またはICが禁忌である場合にはICVを投与して24週間にわたるコンストラクト1の安全性及び忍容性を評価する。
【0299】
副次目的:
●コンストラクト1の長期安全性及び忍容性を評価する。
●脳脊髄液(CSF)、血漿、尿でのバイオマーカーに対するコンストラクト1の効果を評価する。
●認知機能、行動機能、適応機能の神経発達パラメーターに対するコンストラクト1の効果を評価する。
●CSF、血漿、及び尿中のベクターの切断を評価する。
【0300】
探索目的:
●コンストラクト1の免疫原性を評価する
●CNSイメージングに対するコンストラクト1の効果を調べる
●疾患の全身症状に対するコンストラクト1の効果を調べる
●聴覚能力に対するコンストラクト1の効果を調べる
●静脈内(IV)ERT(ELAPRASE(登録商標))を一時的に中止した対象者の血漿及び尿中のバイオマーカーに対するコンストラクト1の効果を調べる
●生活の質(QOL)と睡眠測定に対するコンストラクト1の効果を調べる
●睡眠測定に対するコンストラクト1の効果を調べる。
●転帰に関して臨床医が報告したコンストラクト1の効果を調べる
●転帰に関して介護士が報告したコンストラクト1の効果を調べる
【0301】
6.6.2.治験デザインと方法
これは、コンストラクト1の第I/II相、ファーストインヒューマン、多施設、非盲検、単一アーム用量漸増試験である。コントロール群は含まない。重度のMPS IIの約6名の小児対象者を、2つの用量コホート、すなわち脳質量1gあた1.3×1010GC(用量1)、または脳質量1gあたり6.5×1010GC(用量2)に登録することができ、当該コホートは、コンストラクト1の単回用量の投与をICまたはICV注射で受ける。治療を行って最初の24週間(主要試験期間)は、安全性が主要な注目点となる。主要治験期間が終了した後に、対象者に対して、コンストラクト1の治療を受けた後、合計で104週間目まで、評価(安全性及び有効性)を継続する。当該治験が終わると、対象者には、長期追跡調査への参加を促す。
【0302】
最初の3名の適格対象者は、用量1コホート(1.3×1010GC/g脳質量)に登録される。第1の対象者にコンストラクト1を投与した後に、安全性に関する8週間の観察期間を設ける。Internal Safety Committee(ISC)が、この対象者に関して最初の8週間で得た安全性データ(8週目の受診の間に得たデータを含む)を検討し、安全性の懸念が無ければ、第2の対象者を登録し得る。同じプロセスを使用して、第3の対象者を登録する。次の対象者のインフォームドコンセントとスクリーニングを、前の対象者の観察期間中に進め得る。
【0303】
安全性検討トリガー(SRT)事象が認められなければ、第3の対象者の第8週目の受診時までに得た用量1コホートに関して利用可能なすべての安全性データを、Independent Data Monitoring Committee(IDMC)が評価する。第2の用量(6.5×1010GC/g脳質量)へ移行する決定が出れば、続く2名の対象者が、最後に投与した対象者に関して最初の8週間で得たすべての安全性データ(8週目の受診時に得たデータを含む)を検討した後に決めた後続の各対象者に関する用量を使用して、当初の用量コホートと同じ投与スキームに従う。ISCは、第2の対象者の2週目までの受診、及び2週目での受診で得た当該対象者のすべての安全性データを検討し、この評価の直後に、第3の対象者への投与に進むことが安全であると判断し得る。用量2コホートについて入手可能なすべての安全性データを、用量2コホートでの第3の対象者に関する8週目での受診後に、IDMCが評価する。IDMCの承認が得られると、治験薬が利用可能となり、そして、スポンサーも承認しており、ISCまたはIDMCのいずれかに従って登録の停止が認められる安全事象が無い限りは、さらなる対象者を、用量2の拡大コホートで投与し得る。拡大コホートでのそれぞれの対象者には、少なくとも2週間の間隔で交互に投与する。
【0304】
あらゆる所与のIDMC会合において、用量コホートの終了時に計画しているものである、または、SRTが要請したものであるかに関係なく、IDMCは、試験の中止、現在の用量のさらなる対象者に対する投与、次の用量コホートへの進行、または低用量での進行を勧告し得る。最後の用量2コホート対象者から8週間のデータが利用可能になり、用量2コホート対象者において何らのSRT事象も認められない場合、治験への登録は完了したとみなす。拡大コホートへの登録は、上記に定めた通りに継続し得る。拡大コホートに登録した最後の対象者が第2週目の受診を完了すると、前回の対象者の第2週目の受診からのデータを含めて、拡大コホートのすべての安全性データをIDMCが評価する。
【0305】
いずれかの事象が、停止規則の基準に該当する場合、REGENXBIO、及び外部IDMCが、すべての安全性データを詳細に検討するまで、新規対象者に対する投与は停止する。
【0306】
潜在的な対象者を、投与の35日前までにスクリーニングして、治験への適格性を決定する。インフォームドコンセント用紙(ICF)に署名した後にスクリーニング評価するが、この機会以外では、治験責任医師が決定し、かつメディカルモニターが承認した場合には許可し得る。スクリーニング機会以外で実施する評価は、メディカルモニターの判断で繰り返して行う。対象者は、当初に登録を済ましていなければ、治験のために1度の再スクリーニングを行い得る;対象者の再スクリーニングには、スポンサーの承認が必要である。再スクリーニングは、対象者の初期スクリーニングを行い得なかった時点から少なくとも3か月が経過した後にすることができる。
【0307】
適格基準を満たす対象者は、-2日目~1日目の朝(施設の基準による)の間に入院し、ベースライン評価を投与前に行う。対象者は、1日目に、コンストラクト1の単一ICまたはICV用量の投与を受け、観察のために、投薬後の約1~2日間は入院する。治験責任医師が2泊以上の入院延長は不要と判断した後に対象者は退院する。主要治験期間(すなわち、第24週目まで)以降の評価は、第4週目まで毎週、及び、第8週、第12週、第16週、第20週、及び第24週目に実施する。主要治験期間の後に、第28週、第32週、第40週、第48週、第52週、第56週、第64週、第78週、及び第104週目に受診する。第64週目の受診は、IV ERTを中止した対象者に対してのみ実施する。第20週と第28週の評価は、電話で聞き取りをして、有害事象(AE)と併用療法の評価だけを行う。
【0308】
すべての対象者は、まず、本試験では免疫抑制(IS)を受けて、導入遺伝子を発現する組織に対するあらゆる免疫媒介反応のリスクを最小化し、かつ有効性の低下を招き得るIDSに対する抗体の形成または増加に関連するあらゆるリスクを最小限に抑える。ISレジメンは、コルチコステロイド(1日目にメチルプレドニゾロン10mg/kgを1回IVに前投与する、2日目に経口プレドニゾンを0.5mg/kg/日から開始する、段階的に漸減させて、第12週目までに中止する)、タクロリムス(2日目~第24週目まで1日2回[BID]0.05mgを経口的に[PO]、目標血中レベルを2~4ng/mLとする、そして、第24週~第32週にかけての8週間にわたり漸減する)、及びシロリムス(-2日目に4時間ごとに1mg/m×3用量の負荷用量、続いて、-1日目以降はシロリムス0.5mg/m/日をBIDに分けて、第48週目まで目標血中レベルを1~3ng/mlとして投与する)を含む。神経学的評価及びタクロリムス/シロリムス血中レベルをモニタリングする。シロリムス及びタクロリムスの用量を、目標範囲内の血中レベルを維持するように調節する。
【0309】
48週間後のIS療法は予定していない。臨床的に関連する免疫応答を調節するために48週以後もISが必要であれば、臨床的必要性に応じて、メディカルモニター及びスポンサーと確認しながら、治験責任医師(PI)が適切な免疫抑制レジメンを決定する。
【0310】
非臨床的安全性/毒物学治験で認められた後根神経節及び関連する軸索障害の組織病理学的所見、及びIC投与手順による潜在的な安全性リスクを考慮して、焦点を絞った神経学的評価、及び体性感覚誘発電位(SSEP)試験などの綿密な神経学的モニタリングを使用する。
【0311】
動物データは、IC及びICVでのコンストラクト1の投与が全身的利益を提供し得ることを示唆しているので、IVイデュルスルファーゼ(ELAPRASE(登録商標))を服用している対象者には、第52週目の受診後に、ERTを中止する選択肢を提供し得る。ERTを中止する決定は、PIの臨床的判断に委ねられており、治験スポンサーと合意した通りに行われる。ERTを停止する決定に有用な追加情報は、第52週目の受診までに得た血漿I2S及び血漿及び尿GAGのトラフ測定(ERT投薬に基づいたもの)、ならびに超音波による肝臓及び脾臓サイズの測定結果である。第52週、第56週、第60週、第64週、及び第78週目での受診には、ERTの中止を選択した対象者の血漿I2S、それに、対象者の血漿及び尿GAGレベルのさらなるモニタリングが含まれる。IV ERTを中止した対象者は、64週目に追加の腹部超音波検査を受けて、肝臓及び脾臓サイズの測定を行う。IV ERTは、以下の基準のいずれかに該当した場合に再開する:第52週目の受診時に測定した尿中GAGレベルよりも2倍にまで尿中GAGが高まっている、または第52週目での肝臓径の数値よりも>20%も大きくなっている、またはIV ERTの再開を許可するにあたって、内部安全委員会及び/またはIDMCが考慮したその他の安全パラメーターに変更があったとき。しかしながら、PIが必要と判断した場合にはいつでも、対象者に対してERTを再開し得る。
【0312】
コンストラクト1の安全性及び忍容性は、AE及び重大な有害事象(SAE)、化学分析、血液学分析、尿検査、CSF炎症のマーカー、免疫原性、ベクターの切断(ベクター濃度)、バイタルサイン、心電図(ECG)、SSEP検査、及び神経学的評価などの身体診察の評価を介してモニタリングする。循環ウイルスゲノム(EBV及びCMV)を検出するための連続PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)も、対象者がISを受けている間に行う。
【0313】
有効性評価は、薬力学(PD)バイオマーカー(CSF及び血漿中のGAG及びI2S、白血球I2S酵素活性、及び尿でのGAG)のレベルの測定、ならびに神経認知機能、聴覚能力、脳MRI、肝臓及び脾臓の大きさ、及び心エコー図による心臓評価を含む。治験に参加する一方で、対象者の標準治療の一部として実施した神経認知評価または適応評価も、施設と協議した後に、治験スポンサーの決定にしたがって収集し得る。
【0314】
6.6.3.評価項目
主要評価項目:
● 第24週目までの安全性:AE及びSAE
【0315】
副次評価項目:
●第104週目までの安全性:AE報告、検査室評価、バイタルサイン、ECG、身体診察、及び神経学的評価
●CSF(GAG、I2S活性)、血漿(GAG、I2S活性)、及び尿(GAG)でのバイオマーカー
●認知、行動、及び適応機能の神経発達パラメーター:
○Bayley Scales of Infant and Toddler Development,3rd Edition (BSID-III) (Bayley,2005,Scales of Infant and Toddler Development,3rd Ed.,Springer,New York,NY)またはKaufman Assessment Battery for Children,2nd Edition (KABC-II) (Kaufman,2004,Kaufman Assessment Battery for Children,2nd Ed.)
○Vineland Adaptive Behavior Scales,2nd Edition,Expanded Interview Form (VABS-II) (Sparrow et ak,2005,Vineland Adaptive Behavior Scales,2nd Ed.)
●定量的ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による、コンストラクト1デオキシリボ核酸(DNA)に対するCSF、血漿、尿でのベクター濃度
【0316】
探索評価項目:
●免疫原性測定
○AAV9に対する中和抗体価、及びCSFと血清でのI2Sに対する結合抗体価
○酵素結合イムノスポット(ELISPOT)アッセイ:AAV9及びI2Sに対するT 細胞応答
○フローサイトメトリー:AAV及びI2S特異的制御性T細胞
●脳のMRIで評価したCNS構造異常
●腹部のMRIで評価した肝臓及び脾臓のサイズ
●心エコー図による、弁膜症及び左室心筋重量係数に関する心臓評価
●聴覚脳幹応答(ABR)検査、または行動聴力及び耳音響放射試験で測定した聴覚能力の変化
●IV ERT(ELAPRASE(登録商標))を一時的に中止した対象者での血漿及び尿中GAG
●PedsQL
●睡眠評価(Ferreira et al.,2009,Sleep Medicine;10(4):457-463)
●疾患の臨床評価
●疾患の介護者評価
●日常生活の活動度(Tanjuakio et al.2015,Mol Genet Metab,114(2):161-169;Kato et al.,2007,Brain Dev,29(5):298-305)
●病気の負担
【0317】
6.6.4.計画した対象者の数と実施期間
最大で12名の対象者を登録する。
●用量1コホートの対象者3名
●用量2コホートの対象者3名
●用量2拡大コホートで最大6名の対象者
●IDMCは、対象者の追加を勧め得る。
【0318】
本治験の総期間は、投与後の104週間であり、一次安全性評価は24週間目で行う。スクリーニングには、最長で35日を要し得る。
【0319】
6.6.5.診断、及び採用と除外の基準
罹患している血縁者に関する以下の情報は、利用可能であれば、血縁者のインフォームドコンセントを得た後に収集する。
●人口統計(年齢、性別)
●医学的及び外科的病歴(例えば、心臓病、手根管症候群、股関節形成不全、または亜脱臼など)
●重度のMPS IIの診断時の年齢、及び診断に至るまでの経緯
●遺伝子型決定の結果
●認知、発話及び言語、微細運動及び粗大運動などの神経発達検査の結果(利用可能であり、かつ重度のMPS IIの診断は神経発達検査で行った)
●脳MRIの結果
●ERTまたはHSCTなどのMPS IIの治療
●現在服用している薬
【0320】
対象者は、当初に登録を済ましていなければ、治験のために1度の再スクリーニングを行い得る。対象者の再スクリーニングには、スポンサーの承認が必要である。再スクリーニングは、対象者の初期スクリーニングを行い得なかった時点から少なくとも3か月が経過した後にすることができる。再スクリーニングを受けた参加者は、新たなICFに署名する必要がある。MRIを除いた全スクリーニング手順を繰り返して、神経放射線科医/神経外科医が再試験について決定をする。
【0321】
本治験に参加する資格を得るにあたって、対象者は、以下の全採用基準に該当しなくてはならない:
●1.対象者の法的保護者(複数可)は、治験の趣旨説明を受けた後、かつ治験関連の手続きを行う前に、インフォームドコンセント用紙に署名をして提供する意思があり、かつ、そうすることが可能である。
●2.4か月齢以上、5歳未満の男児である
●3.以下のいずれかの基準に該当していること:
○a.文書に記録されているMPS IIの診断があり、かつ、神経認知検査スコアが、77以下(BSID-IIIまたはKABC-II)である、または
○b.文書に記録されているMPS IIの診断があり、かつ3~36か月の間隔で受けた神経認知検査(BSID-IIIまたはKABC-II)で、1以上の標準偏差の低下を示している、または
○c.対象者と同じIDS変異を有する重度のMPS IIの診断を受けた血縁者がおり、かつ、遺伝学者の意見で、重度のMPS IIの形態を受け継いでいる、または
○d.遺伝学者の意見では、神経障害性表現型(例えば、完全な欠失、または大きな欠失(例えば、1以上のエクソンに及ぶもの)、または組換え)を招くことが知られているIDSの変異(複数可)が文書に記録されており、かつ、臨床医の意見では、重症型のMPS IIである
●4.補助器具の有無に関係なく、必須のプロトコール試験を完了する上で十分な聴覚的及び視覚的能力を有する、該当する場合には、試験日に進んで補助器具を利用する。
【0322】
以下の除外基準のいずれかに該当する対象者は、治験に参加する資格が無い:
●1.ICまたはICV注射に対して次のいずれかの禁忌を示す:
○a.治験(1名の神経放射線科医または神経外科医/施設)に参加している神経放射線科医/神経外科医のチームがベースラインMRI検査の検討を行って、ICまたはICV注射に対して禁忌を認める
○b.この治験に参加している神経放射線科医/神経外科医のチームが、入手可能な情報に基づいて、IC注射に対して禁忌である頭部/頸部の手術歴を認める。
○c.コンピューター断層撮影、造影剤、または全身麻酔に対して禁忌を認める
○d.MRIまたはガドリニウムに対して禁忌を認める
○e.クレアチニンに基づいた推算糸球体濾過量(eGFR)が30mL未満/分/1.73mである。検査所見から、クレアチニンが、アッセイ検証または検出の下限未満であると判断した場合には、下限カットオフ値を使用してeGFRを推定する。
○f.治験責任医師、及び神経放射線科医/神経外科医のチームの意見では、以前に臨床的に有意な頭蓋内出血を経験しており、IC及びICV注射に対して禁忌を認める
●2.プレドニゾン、タクロリムス、またはシロリムスを使用する治療に対して禁忌であるいずれかの病態を有する
●3.MPS IIまたは神経精神病態の診断に起因しない神経認知障害があり、PIの意見では、研究結果の解釈に混乱を招き得る
●4.腰椎穿刺に対して禁忌を示す
●5.施設の神経放射線科医/神経外科医の意見、それに、メディカルモニターとの協議では、(大脳)心室シャントを有しており、対象者への投与と適切な投薬に影響を与え得る
●6.HSCTを受けている
●7.AAVをベースとした遺伝子治療薬を使用する治療を受けたことがある
●8.ICFに署名する4か月以内に、くも膜下腔(IT)投与を介して、イデュルスルファーゼ(ELAPRASE(登録商標))の投与を受けている
●9.イデュルスルファーゼ(ELAPRASE(登録商標))IVの投与を受けて、IVイデュルスルファーゼ(ELAPRASE(登録商標))投与に関連すると考えられるアナフィラキシーなど、重度な過敏反応を経験した。現在もIVでイデュルスルファーゼの投与を受けており、投与を中断している、または毎週異なる用量レジメンを使っている場合には、REGENXBIOメディカルモニターとの協議が必要である。
●10.ICFの署名日である1日目から30日以内または5半減期以内のいずれか長い期間内に治験薬の投与を受けた
●11.スクリーニングの少なくとも1年前に完全な寛解に至っていないリンパ腫の既往歴、または、皮膚の扁平上皮細胞または基底細胞癌以外の別のがんの既往歴を有する
●12.血小板数が、100,000未満/マイクロリットル(μL)である
●13.アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、またはアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)が、3×ULN超である、または総ビリルビンが1.5×ULN超である。ただし、対象者がギルバート症候群の病歴を有している場合は、この限りではない。
●14.医学的治療にもかかわらず、コントロール不良な高血圧症であり、これは、年齢、性別、身長の規範的基準に基づいて、17歳以下の小児では、収縮期血圧または拡張期血圧が99パーセンタイル+5mmHg超と定義されている
●15.ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、またはB型肝炎またはC型肝炎ウイルス感染の既往歴、またはB型肝炎表面抗原またはB型肝炎コア抗体、またはC型肝炎またはHIV抗体のスクリーニング試験が陽性である
●16.臨床施設従業員または治験の実施に関与する他のいずれかの個人の一等親以内の家族、または、臨床施設従業員または治験の実施に関与する他のいずれかの個人
●17.PIの見解では、対象者の安全性を損ねかねない臨床的に有意なECG異常を有している
●18.PIの見解では、対象者の安全性を損ねかねない、または治験への参加の成功を妨げかねない、または、治験結果の解釈を歪めかねない、重大な、または不安定な医学的または心理的状態を有している
●19.PIの見解では、対象者を過度のリスクに曝しかねない制御不能な発作を有する
【0323】
免疫抑制療法に関連する除外基準:
●20.タクロリムス、シロリムス、またはプレドニゾロンに対して過敏反応の既往歴を有する
●21.原発性免疫不全(例えば、共通可変免疫不全症候群)、脾臓摘出術、または感染症に罹患しやすいあらゆる基礎疾患の既往歴のある患者
●22.帯状疱疹(VZV)、サイトメガロウイルス(CMV)、またはエプスタイン-バール・ウイルス(EBV)に感染しており、スクリーニング前の少なくとも12週間に完全に解消されていない
●23.入院または親世代抗感染症薬による治療を必要とするいずれかの感染症が、2回目の受診の少なくとも8週間前に消散していない
●24.2回目の受診前の10日以内に経口抗感染症薬(抗ウイルス薬を含む)を必要とするいずれかの活動性の感染症に罹患している
●25.スクリーニングの間の活動性の結核(TB)またはQuantiferon-TB Gold試験での陽性結果
●26.-2日目以前の4週間以内に何らかの生ワクチンを受けている
●27.ICFに署名をする前の8週間以内に大手術を受けた、または、治験期間中に大手術の計画がある
●28.登録して6か月以内にアデノイド摘出術または扁桃摘出術の必要性が考えられる。アデノイド摘出術または扁桃摘出術を予定する場合には、スクリーニング前に行う
●29.好中球数の絶対数が1.0×10未満/μLである
●30.PIが免疫抑制療法に適さないと考える病態または正常でない検査所見がある
【0324】
6.6.6.提案用量
コンストラクト1は、単一のIC注入または単一のICV注入で優先的に投与される、またはIC投与が困難である、あるいは潜在的に安全でないことが証明されておれば、限定したCSF区画内の標的組織へのベクターの直接送達が許容される。頸部穿刺(C1-C2)は、脊髄造影法の造影剤投与のために使用する通常の臨床処置であるが、画像支援型後頭下穿刺は、主要な臨床的投与経路として提案されている。これは、非臨床研究で使用する投与経路を模倣しており、そして、MPS IIの患者では、C1-C2穿刺に関連するリスクを実質的に高めるC1-C2 IT空間での異常狭窄の発生率が高いので、意図した患者集団でのC1-C2穿刺よりも有利であると考えられる。この手順を行う前に、それぞれの対象者は、治験に参加している神経放射線科医/神経外科医のチームが検討した領域の磁気共鳴画像(MRI)を撮る。IC注入の実施が安全でないと考えられる場合には、対象者は、ICV注入を考慮する。ICV注入は、小児及び成人の個体での脳室腹腔短絡術シャント配置のために、そして、最近では、CNS薬物投与のために一般的に使用する経路を使用している(Drake et al.,2000,Childs Nerv Syst 16(10-11):800-804;Cohen-Pfeffer et al.,2017,Pediatric Neurology 67:23-25;Slavc et al.,2018,Mol Genetics and Metabolism 124(2018):184-188)。このプロトコールで提案する画像支援型単一ICV注入は、定位脳生検術に匹敵するものであり、新たに出現した高精度MRIとコンピューター断層撮影(CT)技術を利用する通常の神経外科的介入にもなる。
【0325】
MPS IIIマウスに対してコンストラクト1を使用して行った薬理学的研究は、AAV9ベクターをベースとした治験薬の生体分布と導入遺伝子発現プロファイルが、ICV及びIC経路に匹敵することを示しており、IC投与が困難であること、または潜在的に安全でないことを証明されれば、投与の代替経路としてのICVの使用を支持する。IC及びICV手順の詳細については、それぞれの管理マニュアルに概説されている。
【0326】
投与する治験薬の総体積は、CSFの総体積(乳幼児の脳では約50mL、そして、成人の脳では約150mLと推定する)の10%を超えない。
【0327】
発達過程の子供で早期に起こる比較的に迅速な脳の成長が故に、コンストラクト1をICまたはICVで投与する総投与量は、治験対象者のスクリーニングMRIから得た推定脳質量に応じて変化する。対象者のMRIから得た治験対象者の推定脳体積は、表5、セクション5.3.2に示すように、脳質量に変換され、投与する正確な用量を計算するために使用される。
【0328】
6.6.7.免疫抑制療法
コルチコステロイド
●ベクター投与(1日目、前投与)の朝に、患者に対して、少なくとも30分間にわたるメチルプレドニゾロン10mg/kg(最大500mg)をIVで与える。メチルプレドニゾロンは、治験薬の腰椎穿刺及びICまたはICV注入の前に投与すべきである。アセトアミノフェン及び抗ヒスタミン剤の前投与は、治験責任医師の裁量で任意に行う。
●第12週目までにプレドニゾンを中止することを目標として、2日目に経口プレドニゾンを開始する。プレドニゾンの用量は、以下の通りである:
○2日目~第2週の終わりまで:0.5mg/kg/日
○第3週及び4週:0.35mg/kg/日
○第5週~8週:0.2mg/kg/日
○第9週~12週:0.1mg/kg
○プレドニゾンは、第12週の後に中止する。プレドニゾンの正確な用量は、一段階増やした臨床上実用的な用量に調整することができる。
【0329】
シロリムス
●ベクター投与の2日前(-2日目):4時間ごとに1mg/m×3用量のシロリムスの負荷用量を投与する。
●-1日目以降:0.5mg/m/日のシロリムスを1日2回に分割して投与する、目標血中レベルを1~3ng/mlとする。
●シロリムスを、第48週目の受診後に中止する。
【0330】
タクロリムス
●2日目(IP投与の翌日)に、タクロリムスを1日2回、0.05mg/kgの用量で開始する、24週間にわたり2~4ng/mLの血中レベルを達成するように調整する。
●タクロリムスは第24週目の受診から8週にわたって漸減する。第24週に、用量をおよそ50%まで減少させる。第28週に、用量をおよそ50%までさらに減少させる。タクロリムスは、第32週に中止する。
●タクロリムス及びシロリムスの血中レベルをモニタリングする。
【0331】
用量調整
【0332】
プレドニゾンの投与は 0.5mg/kg/日で開始する、そして、第12週目の受診まで漸減する。
【0333】
タクロリムスの用量調整は、最初の24週間は、全血トラフ濃度を2~4ng/mL以内に維持する。第24週目に、用量を約50%にまで減らす。第28週目には、用量を、さらに約50%減らす。タクロリムスは、第32週目に中止する。シロリムスの用量調整は、全血トラフ濃度を1~3ng/mL以内に維持するようにして行う。用量調整は、臨床薬剤師が行う。対象者は、濃度モニタリングで、さらなる用量調整を行う前に、少なくとも7~14日間、新しい維持用量を継続するべきである。
【0334】
トリメトプリム/スルファメトキサゾール(Bactrim(商標);BACTRIM(商標) USPI,2013)を使用するPneumocystis carinii肺炎(PCP)の予防は、週に3回の投与(投与スケジュールの例、月曜日、水曜日、金曜日)を、-2日目に5mg/kgの用量から開始して、第48週目まで継続する。トリメトプリム/スルファメトキサゾール(BACTRIM(商標) USPI、2013)の使用に関連するリスクについては、処方情報を参照されたい。サルファアレルギーの患者については、代替薬として、ペンタミジン、ダプソン、アトバコンがある。
【0335】
ANCが500mm未満であれば、抗真菌予防薬を始める。治療レジメンは、適切な超専門医と協議して、地域の施設の標準治療を勘案して決定する。
【0336】
カルシニューリン阻害剤とラパムネとの併用は、カルシニューリン阻害剤誘発血栓性微小血管障害のリスクを高め得る。血栓性微小血管障害(TMA)とは、血小板減少症、微小血管新生性溶血性貧血、及び様々な臓器系の関与を特徴とする障害の群である。
【0337】
これは、重度の血小板減少症(<30×10/L)、血液塗抹標本上の破砕赤血球を特徴とする微小血管障害性溶血性貧血、網状赤血球数の増加(>120×10/L)、乳酸デヒドロゲナーゼレベル(LDH)の上昇、及び、皮膚及び粘膜出血、衰弱、及び呼吸困難の徴候を呈し得る。治療として、タクロリムスの中止と、血漿交換の開始がある。
【0338】
連続試験の間にCMVまたはEBVウイルスゲノムの上昇を検出した場合に、ISを低減する、または、抗ウイルス療法を開始するとの決定は、適切な超専門医と協議をして、地域の施設の標準治療を勘案して決定する。
【0339】
6.6.8.禁止薬物と処置
以下の投薬及び処置は、禁止する:
●ICFに署名をして4か月以内のIT ERTは許可しない
●ICFに署名する前、30日以内または5半減期以内のいずれか長い期間内、または治験の間(第104週目まで)のあらゆる時点での治験薬
●シロリムス及び/またはタクロリムスを服用している間の生ワクチンは避ける
●シロリムス及び/またはタクロリムス投与中は、CYP3A4及び/またはP-糖タンパク質(PgP)の強力な阻害剤(ケトコナゾール、ボリコナゾール、イトラコナゾール、ポサコナゾール、エリスロマイシン、テリスロマイシン、またはクラリスロマイシンなど)、またはCYP3A4及び/またはPgpの強力な誘導物質(リファンピンまたはリファブチンなど)は避ける
●グレープフルーツジュースは、CYP3A酵素を阻害し、その結果、タクロリムス及びシロリムスの全血トラフ濃度が高まる。対象者は、タクロリムス及び/またはシロリムスと一緒にグレープフルーツの摂食、または、グレープフルーツジュースを飲むことは避ける。
【0340】
6.6.9.許可する投薬及び処置
対象者は、IV ERTの安定したレジメン、ならびに、あらゆる対症療法(例えば、理学療法)を続けることを許可する。地域の病院の標準治療に従って、対象者は、MRIを行う間の閉所恐怖症を予防する薬を服用すること、そして、腰椎穿刺、MRI、及び神経伝導研究(ABR、またはSSEP)のために全身麻酔を受けることが許可される。
【0341】
対象者の安全及び健康の上で必要であると考えられる(例えば、高血圧症の)場合には、地域の標準治療に従って、治験責任医師の裁量で、上記した以外の投薬を行い得る、そして、CRFの適切なセクションに記録し得る。
【0342】
6.6.10.有効性評価
バイオマーカー
●CSF:GAG、I2S
●血漿:GAG、I2S。毎週のIV ERTで治療した対象者については、ERT注入して少なくとも96時間後から次の注入の開始までと定義するトラフでの血漿バイオマーカーを採取する。
●白血球I2S酵素活性。毎週のIV ERTで治療した対象者については、ERT注入して少なくとも96時間後から次の注入の開始までと定義するトラフでの全血を採取する。
●尿:GAG。毎週のIV ERTで治療した対象者については、ERT注入して少なくとも96時間後から次の注入の開始までと定義するトラフでの尿中GAGを採取する。
【0343】
認知、行動、及び適応機能の神経発達パラメーター:
●Bayley Scales of Infant and Toddler Development,3rd Edition (BSID-III)またはKaufman Assessment Battery for Children,2nd Edition (KABC-II)
●Vineland Adaptive Behavior Scales,2nd Edition,Expanded Interview Form (VABS-II)
●治験に参加している間、対象者の標準治療の一部として実施した神経認知評価または適応評価も、施設と協議した後に、治験スポンサーの決定にしたがって採取し得る。
【0344】
画像評価
●脳のMRIを、ある特定の受診時に行う。推定糸球体濾過速度(eGFR)は、ガドリニウムを使用するスクリーニングMRIの前に文書記録しなくてはならない。治験責任医師は、eGFRが、30mL未満/分/1.73mでああれば、スクリーニングMRIを行う前に、メディカルモニターと相談しなくてはらない。
●腹部の超音波検査を、ある特定の受診時に行って、鎖骨中央線での頭尾方向の肝臓直径を確認し(Kratzer et al.,2003,J Ultrasound Med. 22:1155-1161)、扁長楕円体式(0.52×長さ×前後方向の寸法×幅)を使用して、脾臓の体積を計算する。
●2-D心エコーを、ある特定の受診時に行って、弁膜症及び左室心筋重量係数を評価する。
●聴覚能力の変化は、行動聴力試験及び耳音響放射試験で測定する。行動聴力の測定が無理な場合には、ABR試験を行う。聴覚能力は、特定の受診時に評価する。治験責任医師が臨床的に必要と判断した場合には、第24週目の受診時でのさらなる評価が許可される。
●PedsQLを使用したQOL評価
●睡眠評価
●疾患の臨床評価
●疾患の介護者評価
●ADL
●病気の負担
【0345】
6.6.11.臨床検査
以下のCSF安全性検査、及び抗体試験で評価する:
●CSF炎症のマーカー:CSF圧力、赤血球細胞数、差異が認められるWBC計数、総タンパク質、及びグルコース
●免疫応答モニタリング:AAV9に対する中和抗体、及びI2Sに対する結合抗体
●ベクター濃度(qPCR):コンストラクト1濃度
【0346】
以下の臨床検査所見を評価する:
●化学:グルコース、血中尿素窒素、クレアチニン、ナトリウム、カリウム、塩化物、二酸化炭素、カルシウム、マグネシウム、リン、総タンパク質、アルブミン、総ビリルビン、直接ビリルビン、アルカリホスファターゼ(ALP)、ALT、AST、ガンマグルタミルトランスフェラーゼ、及びクレアチンキナーゼ
●脂質パネル:総コレステロール、低密度リポタンパク質(LDL)コレステロール、高密度リポタンパク質(HDL)コレステロール、及びトリグリセリド
●血液学:差次CBC、及び、血小板の計数、例えば、ヘマトクリット、ヘモグロビン、赤血球(RBC)、WBC、血小板、好中球、リンパ球、単球、好酸球、及び好塩基球の計数。
●凝固:プロトロンビン時間(PT)、及び部分トロンボプラスチン時間(PTT)。
●尿検査:グルコース、ケトン、タンパク質、及び血液に関する尿試験紙検査(検査の妥当性を保証する場合には、顕微鏡評価を行う)
●免疫原性測定:AAV9に対する中和抗体、及びI2Sに対する結合抗体;ELISPOTアッセイ:AAV9及びI2Sに対するT細胞応答;AAV及びI2S特異的制御性T細胞に対するフローサイトメトリー
●ベクター濃度(qPCR):血清及び尿でのコンストラクト1の濃度
●血清学及びゲノム検出のためのウイルス検査:
○VZV:Ab力価(ベースライン)
○EBV及びCMV:ウイルスゲノム(ベースライン及び連続的)PCR検査
●B型肝炎表面抗原、B型肝炎コア抗体、抗C型肝炎、及びHIV:スクリーニング目的に限る
●Quantiferon-Gold_TB Plus:スクリーニング目的に限る
●血漿バイオマーカー
●尿バイオマーカー
【0347】
適切な臨床検討を確実にするために、検査結果が適時にPIに提供される。PIは、すべての検査報告書の確認と署名を行う責任を負う。
【0348】
6.6.12.バイタルサイン及び心電図
バイタルサイン(収縮期/拡張期BP、脈拍数、体温、呼吸数)、頭囲、身長、体重、及びECGの評価は、受診時に取得/実施する。
【0349】
6.6.13.神経学的評価
神経学的評価は、次を含む:
●意識レベル
●脳神経検査
●運動機能
●感覚機能
●協調運動と歩行
【0350】
SSEP試験も、選択した時点で実行する。SSEP試験のプロトコール要件の詳細については、SSEPマニュアルを参照されたい。
【0351】
6.7 実施例7:MPS IIマウスモデル試験
MPS IIまたはハンター症候群は、イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)の欠損に起因する、組織でのグリコサミノグリカン(GAG)の蓄積をもたらす。重度のMPS IIは、組換えI2S酵素を使用する静脈内投与酵素補充療法で対応できない不可逆的な神経認知機能低下と行動症状をもたらす。コンストラクト1は、ヒトイズロン酸-2-スルファターゼ発現カセット(AAV9.CB7.hIDS)を含む組換えアデノ随伴ウイルス血清型9キャプシド(AAV9)である。MPS IIマウスモデルでは、脳脊髄液(CSF)に投与したコンストラクト1は、用量依存的なI2S活性、GAGレベルの低下、中枢神経系での貯蔵病態の改善、及び神経行動機能の改善を実証した。ベクター分布、及びGAGレベルの低下が末梢臓器で認められ、また肝臓のサイズ及び重量の正常化も認められた。
【0352】
6.8 実施例8:第1/2相、ファーストインヒューマン、多施設、非盲検、用量漸増試験
ムコ多糖症II型(MPS II)は、リソソーム酵素イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)の欠損に起因する稀少なX連鎖劣勢疾患であり、ヘパリン硫酸(HS)などのグリコサミノグリカン(GAG)の蓄積をもたらし、最終的には、細胞、組織、及び臓器の機能障害をもたらす。この疾患の重症型では、初期発育の重要な段階には達し得るが、発達の遅延が、18~24か月齢で明らかになる。MPS IIの患者は、全身酵素補充療法が利用可能であるにもかかわらず、認知発達障害などの中枢神経系(CNS)での疾患の症状には対応できないなど、依然として大きな困難を抱えている。MPS IIの神経学的症状に対応する、そして、認知機能低下を予防または安定化させるための特定の治療は、依然として課題が残っている重要な医療ニーズである。MPS II患者でのI2S酵素活性の主要なバイオマーカーとして、その基質HSがあり、これは、障害の神経認知症状と相関することが示されている。
【0353】
進行中の第1/2相、ファーストインヒューマン、多施設、非盲検、用量漸増試験では、コンストラクト1を、4か月齢~5歳の重度MPS IIの参加者の大槽に1度だけ注射をして投与した。コンストラクト1は、AAV9ベクターを使用してI2S酵素をコードする遺伝子をCNSに直接に送達するようにデザインしており、分泌したI2Sが血液脳関門を越えて恒久的に供給源を提供することで、CNS全体の細胞の長期的なクロスコレクションを可能ならしめることを目的としている。
【0354】
評価には、第104週目までの安全性及び忍容性;CSF、血漿、及び尿バイオマーカー;免疫原性;神経発達尺度(Bayley Scales of Infant and Toddler Development、またはKaufman Assessment Battery for Children,Vineland Adaptive Behavior Scales);聴力測定;脳、肝臓、及び脾臓のイメージング;臨床医及び患者が報告した転帰尺度が含められる。
【0355】
コホート1は、登録を完了しており、少なくとも1名の患者が、16か月の追跡調査を完了していた。第1/2相試験のコホート1では、3名の患者が、5か月齢(患者1)、35か月齢(患者2)、及び7か月齢(患者3)の年齢で、脳質量1gあたり1.3×1010ゲノムコピー(GC/g)で大槽内に投与を受けた。コンストラクト1を投与した後の安全性追跡調査を、12週間~68週間の範囲で行う。コンストラクト1投与の忍容性は良好であり、薬物に関連する重度の有害事象(SAE)は報告されていない。プロトコールに従って、患者は、48週間の免疫抑制レジメンを受けて、免疫媒介反応の可能性を最小限に抑え、重要なことに、患者1は、免疫抑制レジメンを完了した。
【0356】
コホート1では、I2S酵素活性の主要なバイオマーカーであり、かつ、MPS IIでの神経認知機能低下の主要なGAGバイオマーカーであるHSのCSFレベルを測定したところ、48週目まで、一貫した持続性の低下が認められた。HSは、コンストラクト1を投与した後に、この第1/2相試験での脳脊髄液(CSF)で測定した。MPS II患者では、大量のHSがCNSに蓄積しており、神経認知機能低下と密接に相関している。コホート1に登録した3名の患者全員のCSFにおいて、HSレベルは、第8週目までに、ベースラインから平均で33.3%低下した。患者1は、CSF中のHSレベルの持続的な低下を経時的に示しており、第8週目では、ベースラインから27.4%低下しており、直近の第48週目では、ベースラインから43.6%低下している。患者2も、CSF中のHSレベルの低下を示しており、直近の第8週目では、ベースラインから30.9%低下している。患者3は、CSF中のHSレベルの低下を示しており、直近の第8週目では、ベースラインから41.6%低下している。
【0357】
加えて、初期の神経発達パラメーターは、継続した技能習得を実証した。第24週目以降に進行した2名の患者について、予備データが、神経認知発達の安定性を示している。患者1は、最後の評価の時点である第48週目で、予想した通りの正常な認知発達の継続を示した。患者2は、コンストラクト1の投与前に神経認知機能低下と診断されており、発達遅延が残ったままであるが、予備的評価は、投薬した後の安定した神経認知発達を示唆している。
【0358】
コホート1の3名の患者全員から得た安全性及び有効性データの検討に続いて、コンストラクト1の第I/II相試験について、Independent Data Monitoring Committeは、コホート2への移行と、用量漸増を承認した。続いて、コンストラクト1を、コホート2の第1の患者に、脳質量1gあたり6.5×1010GCの用量で投与した。コホート2は、積極的に登録をして、投薬を受けている。
【0359】
結論として、MPS IIを治療するためのコンストラクト1について実施している第1/2相試験の最初のコホートから得た中間データは、(1)コンストラクト1を、1度、大槽内に投与した後は、MPS II患者において良好な忍容性を示す、(2)コンストラクト1を使用する治療は、コンストラクト1を投与した後の第48週間目まで、MPS IIでのI2S酵素活性の重要なバイオマーカーであるヘパラン硫酸のCSFレベルを、一貫して持続的に低下させる、及び、(3)コンストラクト1を使用する治療は、以前に発達遅延の診断を受けた患者での神経認知安定性の初期徴候を達成し、若年患者では、患者は正常な認知発達を継続した。
【0360】
6.9 実施例9:MPS II(ハンター症候群)の5歳以上の小児でのコンストラクト1の安全性、忍容性、及び薬力学を評価するための第I/II相多施設非盲検試験
6.9.1.概要
治験デザイン
【0361】
これは、コンストラクト1の第I/II相多施設、非盲検、シングルアーム治験である。コントロール群は含まない。重症(神経因性)MPS IIを有する約6名の子供(5歳以上~18歳未満)は、脳質量1gあたり6.5×1010GCの単回投与コホートに登録することができ、ICまたはICV注射で、コンストラクト1の単回投与を受ける。
【0362】
主要目的:
●神経障害性MPS IIを有する年長児(5歳超)に対して、単回IC投与、またはIC経路が禁忌である場合にはICV投与をした後に、24週間にわたるコンストラクト1の安全性及び忍容性を評価する。
【0363】
副次目的:
●コンストラクト1の免疫原性を評価する
●CNSイメージングに対するコンストラクト1の評価する
●疾患の全身症状に対するコンストラクト1の効果を調査する
●IV ERT(ELAPRASE(登録商標))を中止した参加者の血漿及び尿中のバイオマーカーに関するコンストラクト1の効果を調査する
●コンストラクト1が生活の質(QOL)に及ぼす影響を調査する
●睡眠尺度に対するコンストラクト1の効果を調査する
●臨床医が報告した転帰に対するコンストラクト1の効果を調査する
●介護者が報告した転帰に対するコンストラクト1の効果を調査する
●日常の身体機能を捕捉するためにビデオ録画を使用する
●微細な運動機能に対するコンストラクト1の効果を調査する
【0364】
診断、及び主な採用基準:
【0365】
この治験に参加するにあたって、参加者は、5歳以上、18歳未満の男性であり、
●神経認知機能低下を伴うMPS IIの文書による診断を受けていること、または
●MPS IIの神経障害性形態を招くことが公知のIDSでの変異(複数可)が文書記録されていること、または
●神経症性MPS IIを有する血縁者の変異と同一のIDSでの変異(複数可)が文書記録されていること、を満たしていなくてはならない。
【0366】
加えて、参加者は、ICまたはICV注射、及び免疫抑制を安全に受けることができなくてはならない。
【0367】
治験薬、用量、及び投与経路
【0368】
コンストラクト1:AAV9.CB7.hIDS(ヒトイズロン酸-2-スルファターゼ発現カセットを含む組換えアデノ随伴ウイルス血清型9キャプシド)。段落(0019)及び図 5を参照されたい。
【0369】
治験薬を、単回ICまたはICV用量として送達する。
【0370】
1つの用量レベル、すなわち脳質量1gあたり6.5×1010GCを評価する。投与する総用量は、対象者のスクリーニングMRIに基づいて推定した治験対象者の脳のサイズに依る。投与する治験薬の総体積は、推定CSF体積の10%を超えない。
【0371】
6.9.2.安全性及び有効性の評価基準
主要評価項目:
● 第24週目までの安全性:AE及びSAE
【0372】
副次評価項目:
●第104週目までの安全性:AE及びSAE
●CSF(GAG、I2S活性)、血漿(GAG、I2S活性)、及び尿(GAG)でのバイオマーカー
●認知、行動、及び適応機能の神経発達パラメーター:
●Bayley Scales of Infant and Toddler Development,3rd Edition (BSID-III) (Bayley,2005,Scales of Infant and Toddler Development,3rd Ed.)
●Mullen Scales of Early Learning(MSEL)(Mullen,Circle Pines,MN:American Guidance Service Inc.;1995)
●Vineland Adaptive Behavior Scales,2nd Edition,Expanded Interview Form (VABS-II) (Sparrow et ak,2005,Vineland Adaptive Behavior Scales,2nd Ed.)
【0373】
探索評価項目:
●免疫原性測定
●AAV9に対する中和抗体価、及びCSFと血清でのI2Sに対する結合抗体価
-酵素結合イムノスポット(ELISPOT)アッセイ:AAV9及びI2Sに対するT 細胞応答
●脳のMRIで評価したCNS構造異常
●腹部の超音波で評価した肝臓及び脾臓のサイズ
●心エコー図による弁膜症及び左室心筋重量係数に関する心臓評価
●正中神経運動感覚性遠位伝導速度及び潜伏期間
●IV ERT(ELAPRASE(登録商標))を中止した対象者での血漿及び尿中GAG
●PedsQL
●睡眠評価(Sleep Distribution Scale for Children-SDSC)(Ferreira et al.,2009,Sleep Medicine;10(4):457-463)
●臨床医が感じた全体的な重症度の印象、及び臨床医が感じた全体的な変化の印象
●介護者が感じた全体的な重症度の印象、及び介護者が感じた全体的な変化の印象
●日常生活の活動度(Tanjuakio et al.2015,Mol Genet Metab,114(2):161-169;Kato et al.,2007,Brain Dev,29(5):298-305)
●Pediatric Evaluation of Disability Inventory Computer Adaptive Test (PEDI CAT)
●9-Hole Peg Test
●ビデオで捕捉した運動機能性
【0374】
統計的手法
【0375】
すべてのデータを、記述統計を使用して分析する。カテゴリ変数を、頻度とパーセンテージを使用してまとめる。連続変数を、記述統計を、見落としのない観察数、平均、標準偏差、中央値、最小値、及び最大値を使用してまとめる。必要に応じて、グラフ表示を使用する。参加者データリストも表示する。
【0376】
サンプルサイズと検出力の計算
【0377】
正式な計算を行って、試料の大きさを決定することはしなかった。
6.9.3.略語と用語の定義の表
【表14】
【0378】
6.9.4.全体的な治験デザイン
これは、コンストラクト1の第I/II相多施設、非盲検、シングルアーム治験である。コントロール群は含まない。重症(神経因性)MPS IIを有する約6名の子供(5歳以上~18歳未満)が、脳質量1gあたり6.5×1010GCの単回投与コホートに登録することができ、ICまたはICV注射で、コンストラクト1の単回投与を受ける。治療を行って最初の24週間(主要試験期間)は、安全性が主要な注目点となる。主要治験期間が終了した後に、参加者に対して、コンストラクト1の治療を受けた後、合計で104週間目まで、評価(安全性及び有効性)を継続する。当該治験が終わると、参加者には、長期追跡調査への参加を促す。
【0379】
最初の2名の適格な参加者が、時間を置いて登録される。第1の参加者にコンストラクト1を投与した後に、安全性に関する8週間の観察期間を設ける。Internal Safety Committee(ISC)は、ISC規約に従って、この参加者に関して、試験の最初の8週間で得た安全性データ(8週目の受診の間に得たデータを含む)を検討する、そして、安全性の懸念が無ければ、第2の参加者に投与し得る。第2の対象者のインフォームドコンセントとスクリーニングを、第1の対象者の観察期間中に進め得る。
【0380】
安全性検討トリガー(SRT)事象が認められなければ、2名の参加者について、第2の参加者の第8週目の受診時までに得た利用可能なすべての安全性データを、Independent Data Monitoring Committee(IDMC)が評価する。続行が決定されると、次の4名の参加者を登録する。
【0381】
利用可能なすべての安全性データを、6番目の参加者の8週目の受診後に、治験独自のIDMC規約に規定した間隔でIDMCが評価する。
【0382】
あらゆるIDMC会合において、SRTによる計画または要請の有無に関係なく、IDMCは、試験の中止、さらなる参加者への投与の遅延、または低用量での進行を薦め得る。6番目の参加者から8週間のデータが利用できるようになれば、試験への登録が完了する。
【0383】
何らかの事象が、事前に指定した停止規則の基準に該当すると、REGENXBIO、及び外部のIDMCが安全性データのすべての完全な検討を行うまで、新規の参加者に対する投与は停止される。
【0384】
適格基準を満たす参加者は、-2日目~1日目の朝(施設の基準による)の間に入院し、ベースライン評価を投与前に行う。参加者は、1日目に、コンストラクト1の単一ICまたはICV用量の投与を受け、観察のために、投薬後に一晩病院に留まる。参加者は、退院の準備ができており、かつ、入院の延長は必要ないと治験責任医師が判断した後に退院する。一次治験期間(すなわち、第24週目まで)以降の評価は、第1週、第2週、第3週、第4週、第12週、及び第24週目に実施する。第8週と第16週の評価は、電話で聞き取りをして、有害事象(AE)と併用療法の評価だけを行う。一次治験期間の後に、第38週、第52週、第64週、第78週、及び第104週目に受診する。第30週目の受診は、第24週からIV ERTを中止した参加者に対してのみ行う。
【0385】
発達過程の子供で起こる脳の成長と、MPS IIにおいて起こり得る脳の成長の差異のために、コンストラクト1をICまたはICVで投与する総投与量は、治験参加者のスクリーニングMRIから得た推定脳質量に応じて変化する。参加者のMRIから得た治験参加者の推定脳体積は、表10に示すように、脳質量に変換され、投与する正確な用量を計算するために使用される。
【表15】
【0386】
コンストラクト1は、コンストラクト1の治験薬概要書の情報に精通しており、かつ、臨床試験の実施経験のある選ばれた治験研究者だけが、治験用途においてのみ使用することが意図される。コンストラクト1は、スポンサーが支援/承認した臨床試験に登録しており、かつ、同意書を提出したヒト参加者だけに投与し得る。
【0387】
6.9.5.採用基準
本治験に参加する資格を得るにあたって、参加者は、以下の全採用基準に該当しなくてはならない:
1.参加者の法的保護者(複数可)は、治験の趣旨説明を受けた後であり、かつ治験関連の手続きを行う前に、インフォームドコンセント用紙に署名をして提供する意思があり、かつ、そうすることが可能である。
2.5歳以上、18歳未満の男性である
3.以下のいずれかの基準に該当していること:
a.文書によるMPS IIの診断があり、かつ、神経認知検査スコアが、基準平均(BSID-III:77、及びMSEL Visual Reception:35)から1 1/2以上の標準偏差の低下がある、または
b.文書によるMPS IIの診断があり、かつ、3~36か月の期間をあけて投与して行った一連の神経認知検査スコア(BSID-III Cognitive、またはMSEL Visual Reception)から1以上の標準偏差の低下がある、または
c.参加者と同じIDS変異を有する神経障害性MPS IIの臨床的診断を受けた血縁者がおり、かつ、遺伝学者の意見で、神経障害性MPS IIを受け継いでいる、または
d.文書記録されているIDSでの変異(複数可)があり、遺伝学者がの意見で、それは神経障害性表現型に起因するものであり、かつ、臨床医の意見で、神経障害性MPS IIを有している。
【0388】
6.9.6.除外基準
以下の除外基準のいずれかに該当する参加者は、治験に参加する資格が無い:
1.IC及びICV注射に対して次のいずれかの禁忌を示す:
a.治験に参加している神経放射線科医/神経外科医のチームがベースラインMRI検査の検討を行って、IC及びICV注射に対して禁忌を認める
b.この治験に参加している神経放射線科医/神経外科医のチームが、入手可能な情報に基づいて、かつての頭部/頸部の手術歴が、IC及びICV注射の双方に対して禁忌を認める。
c.全身麻酔に対して禁忌を認める
d.MRIまたはガドリニウムに対して禁忌を認める
e.クレアチニンに基づいた推算糸球体濾過量(eGFR)が30mL未満/分/1.73mである。クレアチニンが、アッセイ検証または検出の下限未満であると検査所見が示した場合、最低限カットオフ値を使用してeGFRを推定する。
f.治験研究者及び神経放射線科医/神経外科医のチームの意見では、以前に臨床的に有意な頭蓋内出血を経験しており、IC及びICV注射に対して禁忌を認める。
g.頭蓋内圧が上昇している(≧30cm HO)
2.プレドニゾン、タクロリムス、またはシロリムスを使用する治療に対して禁忌であるいずれかの病態を有する
3.MPS IIまたは神経精神病態の診断に起因しない神経認知障害があり、PIの意見では、研究結果の解釈に混乱を招き得る
4.腰椎穿刺に対して禁忌を示す
5.施設の神経放射線科医/神経外科医の意見、それに、メディカルモニターとの協議では、(大脳)心室シャントを有しており、参加者への投与と適切な投薬に影響を与え得る
6.AAVをベースとした遺伝子治療薬を使用する治療を受けたことがある
7.ICFに署名した時点で、くも膜下腔内(IT)投与を介して、イデュルスルファーゼ[ELAPRASE(登録商標)]の投与を受けている。参加者は、治験期間中のITイデュルスルファーゼの中止に同意しなければならず、ICFに署名した直後から履行する。
8.イデュルスルファーゼ(ELAPRASE(登録商標))IVを受けて、IVイデュルスルファーゼ([ELAPRASE(登録商標))投与に関連すると考えられるアナフィラキシーなど、重度な過敏反応を経験した
9.抗IDS抗体が中和されているので、イデュルスルファーゼ(ELAPRASE(登録商標))IVに対して応答を示さず、尿中GAGレベルの高まりが認められる。免疫調節を受けており、かつ、現在のところ、IVイデュルスルファーゼ(ELAPRASE(登録商標))に反応しておれば、当該参加者は登録し得る
10.ICFに署名する前の30日以内または5半減期以内、いずれか長い期間内に治験薬の投与を受けた
11.スクリーニングの少なくとも1年前に完全な寛解に至っていないリンパ腫の既往歴、または、皮膚の扁平上皮細胞または基底細胞癌以外の別のがんの既往歴を有する
12.血小板数が、100,000未満/マイクロリットル(μL)である
13.アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、またはアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)が、3×ULN超である、または総ビリルビンが1.5×ULN超である。ただし、参加者がギルバート症候群の病歴を有している場合は、この限りではない
14.ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、またはB型肝炎またはC型肝炎ウイルス感染の既往歴、またはB型肝炎表面抗原またはB型肝炎コア抗体、またはC型肝炎またはHIV抗体のスクリーニング試験が陽性である
15.臨床施設従業員または治験の実施に関与する他のいずれかの個人の一等親以内の家族、または、臨床施設従業員または治験の実施に関与する他のいずれかの個人
16.PIの見解では、参加者の安全性を損ねかねない臨床的に有意なECG異常を有している
17.PIの見解では、参加者の安全性を損ねる、重大な、または不安定な医学的または心理的状態を有している
18.PIの見解では、参加者を過度のリスクに曝しかねない制御不能な発作を有する
19.タクロリムス、シロリムス、またはプレドニゾロンに対して過敏反応の既往歴を有する
20.原発性免疫不全(例えば、共通可変免疫不全症候群)、脾臓摘出術、または感染症に罹患しやすいあらゆる基礎疾患の既往歴がある
21.帯状疱疹(VZV)、サイトメガロウイルス(CMV)、またはエプスタイン-バール・ウイルス(EBV)に感染しており、スクリーニング前の少なくとも12週間に完全に解消されていない
22.入院または親世代抗感染症薬による治療を必要とするいずれかの感染症が、2回目の受診の少なくとも8週間前に消散していない
23.2回目の受診前の10日以内に経口抗感染症薬(抗ウイルス薬を含む)を必要とするいずれかの活動性の感染症に罹患している
24.スクリーニングの間の活動性の結核(TB)またはQuantiferon-TB Gold試験での陽性結果
25.-2日目以前の4週間以内に何らかの生ワクチンを受けている
26.ICFに署名をする前の8週間以内に大手術を受けた、または、治験期間中に大手術の計画がある
27.登録して6か月以内にアデノイド摘出術または扁桃摘出術の必要性が考えられる。アデノイド摘出術または扁桃摘出術を予定する場合には、スクリーニング前に行う。
28.好中球数の絶対数が、1.0×10未満/μLである
29.PIが免疫抑制療法に適さないと考える病態または正常でない検査所見がある。
【0389】
6.9.7.免疫抑制療法
コルチコステロイド
●ベクター投与(1日目、前投与)の朝に、患者に対して、少なくとも30分間にわたって、メチルプレドニゾロン10mg/kg(最大500mg)をIVで与える。メチルプレドニゾロンは、IPの腰椎穿刺及びIC注射の前に投与すべきである。アセトアミノフェン及び抗ヒスタミン剤の前投与は、治験責任医師の裁量で任意に行う。
●第12週目までにプレドニゾンを中止することを目標として、2日目に経口プレドニゾンを開始する。プレドニゾンの用量は、以下の通りである:
- 2日目~第2週の終わりまで:0.5mg/kg/日
- 第3週及び4週:0.35mg/kg/日
- 第5週~8週:0.2mg/kg/日
- 第9週~12週:0.1mg/kg
- プレドニゾンは、第12週の後に中止する。プレドニゾンの正確な用量は、一段階増やした臨床上実用的な用量に調整することができる。
【0390】
シロリムス
●ベクター投与の2日前(-2日目):4時間ごとに1mg/m×3用量のシロリムスの負荷用量を投与する。
●-1日目以降:0.5mg/m/日のシロリムスを1日2回に分割して投与する、目標血中レベルを1~3ng/mlとする。
●シロリムスを、第48週目の受診後に中止する。
【0391】
タクロリムス
●2日目(IP投与の翌日)に、タクロリムスを1日2回、0.05mg/kgの用量で開始する、24週間にわたり2~4ng/mLの血中レベルを達成するように調整する。
●タクロリムスは第24週目の受診から8週にわたって漸減する。第24週目に、用量をおよそ50%まで減少させる。第28週目に、用量をおよそ50%までさらに減少させる。タクロリムスは、第32週目に中止する。
●タクロリムス及びシロリムスの血中レベルをモニタリングする。
【0392】
タクロリムスの用量調整は、最初の24週間は、全血トラフ濃度を2~4ng/mL以内に維持する。第24週目に、用量を約50%にまで減らす。第28週目には、用量を、さらに約50%減らす。タクロリムスは、第32週目に中止する。シロリムスの用量調整は、全血トラフ濃度を1~3ng/mL以内に維持するようにして行う。用量調整は、臨床薬剤師が行う。参加者は、濃度モニタリングで、さらなる用量調整を行う前に、少なくとも7~14日間、新しい維持用量を継続するべきである。
【0393】
免疫抑制剤薬物の説明責任、IS分注、シロリムス及びタクロリムス全血トラフ濃度は、通常の治験受診の間に治験研究者の方で完了させる。
【0394】
48週間後のIS療法は予定していない。臨床的に関連する免疫応答を調節するために48週以後もISが必要であれば、臨床的必要性に応じて、メディカルモニター及びスポンサーと確認しながら、PIが適切な免疫抑制レジメンを決定する。
【0395】
トリメトプリム/スルファメトキサゾール(Septra(登録商標);BACTRIM(商標) USPI,2013)を使用するPneumocystis carinii肺炎(PCP)の予防は、週に3回の投与(投与スケジュールの例;月曜日、水曜日、金曜日)を、-2日目に5mg/kgの用量から開始して、第48週目まで継続する。トリメトプリム/スルファメトキサゾール(BACTRIM(商標) USPI、2013)の使用に関連するリスクについては、処方情報を参照されたい。サルファアレルギーの患者については、代替薬として、ペンタミジン、ダプソン、アトバコンがある。
【0396】
ANCが500mm未満であれば、抗真菌予防薬を始める。治療レジメンは、適切な超専門医と協議して、地域の施設の標準治療を勘案して決定する。
【0397】
カルシニューリン阻害剤とラパムネとの併用は、カルシニューリン阻害剤誘発血栓性微小血管障害のリスクを高め得る。血栓性微小血管障害(TMA)とは、血小板減少症、微小血管新生性溶血性貧血、及び様々な臓器系の関与を特徴とする障害の群である。
【0398】
これは、重度の血小板減少症(<30×10/L)、血液塗抹標本上の破砕赤血球を特徴とする微小血管障害性溶血性貧血、網状赤血球数の増加(>120×10/L)、乳酸デヒドロゲナーゼレベル(LDH)の上昇、及び、皮膚及び粘膜出血、衰弱、及び呼吸困難の徴候を呈し得る。治療として、タクロリムスの中止と、血漿交換の開始がある。
【0399】
連続試験の間にCMVまたはEBVウイルスゲノムの上昇を検出した場合に、ISを低減する、または、抗ウイルス療法を開始するとの決定は、適切な超専門医と協議をして、地域の施設の標準治療を勘案して決定する。
【0400】
6.10 実施例10:MPS II(ハンター症候群)の小児対象者でのコンストラクト1の安全性、忍容性、及び薬力学を評価するための第I/II相多施設非盲検試験
6.10.1.概要
治験デザイン
【0401】
これは、コンストラクト1の第I/II相、ファーストインヒューマン、多施設、非盲検、単一アーム用量漸増試験である。コントロール群は含まない。重度のMPS IIの約12名の小児対象者を、3つの用量コホート、すなわち脳質量1gあたり1.3×1010GC(用量1)、脳質量1gあたり6.5×1010GC(用量2)、または脳質量1gあたり2.0×1011GC(用量3)に登録することができ、コンストラクト1の単回用量の投与をICまたはICV注射で受ける。治療を行って最初の24週間(主要試験期間)は、安全性が主要な注目点となる。主要治験期間が終了した後に、対象者に対して、コンストラクト1の治療を受けた後、合計で104週間目まで、評価(安全性及び有効性)を継続する。当該治験が終わると、対象者には、長期追跡調査への参加を促す。
【0402】
最初の3名の適格対象者が、用量1コホート(1.3×1010GC/g脳質量)に登録される。第1の対象者にコンストラクト1を投与した後に、安全性に関する8週間の観察期間を設ける。Internal Safety Committee(ISC)は、ISC規約に従って、この対象者に関して最初の8週間で得た安全性データ(8週目の受診の間に得たデータを含む)を検討する、そして、安全性の懸念が無ければ、第2の対象者を登録し得る。同じプロセスを使用して、第3の対象者を登録する。次の対象者のインフォームドコンセントとスクリーニングを、前の対象者の観察期間中に進め得る。
【0403】
安全性検討トリガー(SRT)事象が認められなければ、第3の対象者の第8週目の受診時までに得た用量1コホートに関して利用可能なすべての安全性データを、Independent Data Monitoring Committee(IDMC)が評価する。第2の用量(6.5×1010GC/g脳質量)に移行する決定が出れば、続く2名の対象者が、当初の用量コホートと同じ投与スキームに従う。ISCは、用量2コホートでの第2の対象者の2週目までの受診、及び2週目での受診で得た当該対象者のすべての安全性データを検討し、この評価の直後に、第3の対象者への投与に進むことが安全であると判断し得る。用量2コホートについて入手可能なすべての安全性データを、用量2コホートでの3番目の対象者に関する8週目での受診後に、IDMCが評価する。
【0404】
IDMCの承認が得られると、治験薬が利用可能となり、そして、スポンサーの承認を得ており、かつ、ISCまたはIDMCのいずれかに従って登録を妨げる安全事象がない限りは、最大で6名の対象者に対して用量2拡大コホートで投与し得る。
【0405】
安全性検討トリガー(SRT)事象が認められず、かつ、IDMCが承認をしておれば、第3の用量コホート(2.0×1011GC/g脳質量)の登録を開始する。ISCは、第1の対象者について、第8週目の受診に至るまでに、及び第8週目の受診で利用可能なすべての安全性データを検討する。安全性の懸念が無ければ、第2の対象者に投与をする。ISCは、用量3コホートでの第2の対象者の第2週目の受診までに得た全対象者の安全性データを検討する、そして、この評価の直後に、第3の対象者の投与に移行することが安全であるとの判断をし得る。
【0406】
主要目的:
【0407】
重度のMPS IIを有する小児対象者に対して単回IC投与、または、ICが禁忌である場合にはICVをして24週間にわたるコンストラクト1の安全性及び忍容性を評価する。
【0408】
副次目的:
●コンストラクト1の長期安全性及び忍容性を評価する。
●CSF、血漿、尿でのバイオマーカーでコンストラクト1の効果を評価する。
●認知機能、行動機能、適応機能の神経発達パラメーターでコンストラクト1の効果を評価する。
●CSF、血漿、及び尿中のベクターの切断を評価する。
【0409】
探索目的:
●コンストラクト1の免疫原性を評価する
●CNSイメージングに対するコンストラクト1の効果を評価する
●疾患の全身症状に対するコンストラクト1の効果を調査する
●聴覚能力に対するコンストラクト1の効果を調査する
●IV ERT(ELAPRASE(登録商標))を一時的に中止した対象者の血漿及び尿中のバイオマーカーでコンストラクト1の効果を調査する
●生活の質(QOL)に及ぼすコンストラクト1の効果を調査する
●睡眠尺度に関するコンストラクト1の効果を調査する
●臨床医が報告した転帰に関するコンストラクト1の効果を調査する
●介護者が報告した転帰に関するコンストラクト1の効果を調査する
【0410】
診断、及び主要な採用基準:
【0411】
本治験に参加する資格を得るにあたって、対象者は、以下の全採用基準に該当しなくてはならない:
1.対象者の法的保護者(複数可)は、治験の趣旨説明を受けた後であり、かつ治験関連の手続きを行う前に、インフォームドコンセント用紙に署名をして提供する意思があり、かつ、そうすることが可能である。
2.≧4か月齢以上、5歳未満の男児である
3.以下のいずれかの基準に該当していること:
a)文書に記録されているMPS IIの診断があり、かつ、神経認知検査スコアが、77以下(BSID-IIIまたはKABC-II)である、または
b)文書に記録されているMPS IIの診断があり、かつ、3~36か月の期間をあけて投与して行った一連の神経認知検査(BSID-IIIまたはKABC-II)から1以上の標準偏差の低下がある、または
c) 対象者と同じIDS変異を有する重度のMPS IIの臨床的診断を受けた血縁者がおり、かつ、遺伝学者がの意見で、重症型のMPS IIを受け継いでいる、または
d)文書に記録されているIDSでの変異(複数可)があり、遺伝学者の意見で、それは神経障害性表現型[例えば、完全な欠失、または大規模な欠失(例えば、1以上のエクソンに及ぶもの)、または組換え]に起因するものである、または、臨床医の意見で、重症型のMPS IIを有している。
4.補助器具の有無に関係なく、必須のプロトコール試験を完了する上で十分な聴覚的及び視覚的能力を有する、該当する場合には、試験日に進んで補助器具を利用する。
【0412】
診断、及び主要な除外基準:
【0413】
以下の除外基準のいずれかに該当する対象者は、治験に参加する資格が無い:
1.IC及びICV注射に対して次のいずれかの禁忌を示す:
a)治験に参加している神経放射線科医/神経外科医(施設あたり1名の神経放射線科医/神経外科医)のチームがベースラインMRI検査の検討を行って、IC及びICV注射の双方に対して禁忌を認める
b)この治験に参加している神経放射線科医/神経外科医のチームが、入手可能な情報に基づいて、かつての頭部/頸部の手術歴が、IC及びICV注射に対して禁忌を認める。
c)コンピューター断層撮影、造影剤、または全身麻酔に対して禁忌を認める
d)MRIまたはガドリニウムに対して禁忌を認める
e)クレアチニンに基づいた推算糸球体濾過量(eGFR)が30mL未満/分/1.73mである。クレアチニンが、アッセイ検証または検出の下限未満であると検査所見から判断した場合、最低限カットオフ値を使用してeGFRを推定する。
f)治験研究者及び神経放射線科医/神経外科医のチームの意見では、以前に臨床的に有意な頭蓋内出血を経験しており、IC及びICV注射に対して禁忌を認める。
2.プレドニゾン、タクロリムス、またはシロリムスを使用する治療に対して禁忌であるいずれかの病態を有する
3.MPS IIまたは神経精神病態の診断に起因しない神経認知障害があり、PIの意見では、研究結果の解釈に混乱を招き得る
4.腰椎穿刺に対して禁忌を示す
5.施設の神経放射線科医/神経外科医の意見、それに、メディカルモニターとの協議では、(大脳)心室シャントを有しており、対象者への投与と適切な投薬に影響を与え得る
6.HSCTを受けている
7.AAVをベースとした遺伝子治療薬を使用する治療を受けたことがある
8.ICFに署名する4か月以内に、イデュルスルファーゼ(ELAPRASE(登録商標))のくも膜下腔内(IT)投与を受けたことがある
9.イデュルスルファーゼ(ELAPRASE(登録商標))IVを受けて、IVイデュルスルファーゼ(ELAPRASE(登録商標))投与に関連すると考えられるアナフィラキシーなど、重度な過敏反応を経験した。現在もIVでイデュルスルファーゼの投与を受けており、投与を中断している、または毎週異なる用量レジメンを使っている場合には、REGENXBIO Medical Monitorとの協議が必要である。
10.ICFに署名する前の30日以内または5半減期以内の、いずれか長い期間内に治験薬の投与を受けた
11.スクリーニングの少なくとも1年前に完全な寛解に至っていないリンパ腫の既往歴、または、皮膚の扁平上皮細胞または基底細胞癌以外の別のがんの既往歴を有する
12.血小板数が、100,000未満/マイクロリットル(μL)である
13.アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、またはアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)が、3×ULN超である、または総ビリルビンが1.5×ULN超である。ただし、対象者がギルバート症候群の病歴を有している場合は、この限りではない
14.医学的治療にもかかわらず、コントロール不良な高血圧症であり、これは、年齢、性別、身長の規範的基準に基づいて、17歳以下の小児では、収縮期血圧または拡張期血圧が99パーセンタイル+5mmHg超と定義されている
15.ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、またはB型肝炎またはC型肝炎ウイルス感染の既往歴、またはB型肝炎表面抗原またはB型肝炎コア抗体、またはC型肝炎またはHIV抗体のスクリーニング試験が陽性である
16.臨床施設従業員または治験の実施に関与する他のいずれかの個人の一等親以内の家族、または、臨床施設従業員または治験の実施に関与する他のいずれかの個人
17.PIの見解では、対象者の安全性を損ねかねない臨床的に有意なECG異常を有している
18.PIの見解では、対象者の安全性を損ねかねない、または治験への円滑な参加を妨げかねない、または、治験結果の解釈を歪めかねない、重大な、または不安定な医学的または心理的状態を有している
19.PIの見解では、対象者を過度のリスクに曝しかねない制御不能な発作を有する
【0414】
免疫抑制療法に関連する除外基準:
20.タクロリムス、シロリムス、またはプレドニゾロンに対して過敏反応の既往歴を有する
21.原発性免疫不全(例えば、共通可変免疫不全症候群)、脾臓摘出術、または感染症に罹患しやすいあらゆる基礎疾患の既往歴のある患者
22.帯状疱疹(VZV)、サイトメガロウイルス(CMV)、またはエプスタイン-バール・ウイルス(EBV)に感染しており、スクリーニング前の少なくとも12週間に完全に解消されていない
23.入院または親世代抗感染症薬による治療を必要とするいずれかの感染症が、2回目の受診の少なくとも8週間前に消散していない
24.2回目の受診前の10日以内に経口抗感染症薬(抗ウイルス薬を含む)を必要とするいずれかの活動性の感染症に罹患している
25.スクリーニングの間の活動性の結核(TB)またはQuantiferon-TB Gold試験での陽性結果
26.2日目の4週間前から何らかの生ワクチンを受けている
27.ICFに署名をする前の8週間以内に大手術を受けた、または、治験期間中に大手術の計画がある
28.登録して6か月以内にアデノイド摘出術または扁桃摘出術の必要性が考えられる。アデノイド摘出術または扁桃摘出術を予定する場合には、スクリーニング前に行う。
29.好中球数の絶対数が、1.3×10未満/μLである
30.PIが免疫抑制療法に適さないと考える病態または正常でない検査所見がある。
【0415】
治験薬
【0416】
コンストラクト1:AAV9.CB7.hIDS(ヒトイズロン酸-2-スルファターゼ発現カセットを含む組換えアデノ随伴ウイルス血清型9キャプシド)。段落(0019)、及び図5を参照されたい。
【0417】
投与量
【0418】
コンストラクト1は、単一のIC注入、または単一のICV注入で優先的に投与される、またはIC投与が困難である、または潜在的に安全でないことが証明されておれば、限定したCSF区画内の標的組織へのベクターの直接送達が許容される。頸部穿刺(C1-C2)は、脊髄造影法の造影剤投与のために使用する通常の臨床処置であるが、画像支援型後頭下穿刺は、主要な臨床的投与経路として提案されている。これは、非臨床研究で使用する投与経路を模倣しており、そして、MPS IIの患者では、C1-C2穿刺に関連するリスクを実質的に高めるC1-C2 IT空間での異常狭窄の発生率が高いので、意図した患者集団でのC1-C2穿刺よりも好都合であると考えられる。この手順を行う前に、それぞれの対象者は、治験に参加している神経放射線科医/神経外科医のチームが検討した領域の磁気共鳴画像(MRI)を撮る。IC注入の実施が安全でないと考えられる場合には、対象者は、ICV注入を考慮する。
【0419】
【表16】
【0420】
コンストラクト1は、コンストラクト1の治験薬概要書の情報に精通しており、かつ、臨床試験の実施経験のある選ばれた治験研究者だけが、治験用途においてのみ使用することが意図される。コンストラクト1は、スポンサーが支援/承認した臨床試験に登録しており、かつ、同意書を提出したヒト対象者だけに投与し得る。
【0421】
6.10.2.安全性及び有効性の評価基準
主要評価項目:
● 第24週目までの安全性:AE及びSAE
【0422】
副次評価項目:
●第104週目までの安全性:AE及びSAE
●CSF(GAG、I2S活性)、血漿(GAG、I2S活性)、及び尿(GAG)でのバイオマーカー
●認知、行動、及び適応機能の神経発達パラメーター:
- Bayley Scales of Infant and Toddler Development,3rd Edition (BSID-III) (Bayley,2005,Scales of Infant and Toddler Development,3rd Ed.)
- Vineland Adaptive Behavior Scales,2nd Edition,Expanded Interview Form (VABS-II) (Sparrow et ak,2005,Vineland Adaptive Behavior Scales,2nd Ed.)
●定量的ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による、コンストラクト1 DNAに対するCSF、血清、尿でのベクター濃度
【0423】
探索評価項目:
●免疫原性測定
●AAV9に対する中和抗体価、及びCSFと血清でのI2Sに対する結合抗体価
●酵素結合イムノスポット(ELISPOT)アッセイ:AAV9及びI2Sに対するT 細胞応答
●フローサイトメトリー:AAV9及びI2S特異的制御性T細胞
●脳のMRIで評価したCNS構造異常
●腹部の超音波で評価した肝臓及び脾臓のサイズ
●心エコー図による弁膜症及び左室心筋重量係数に関する心臓評価
●聴覚脳幹応答(ABR)検査、または行動聴力及び耳音響放射試験で測定した聴覚能力の変化
●IV ERT(ELAPRASE(登録商標))を一時的に中止した対象者での血漿及び尿中GAG
●PedsQL
●睡眠評価(Ferreira et al.,2009,Sleep Medicine;10(4):457-463)
●疾患の臨床評価
●疾患の介護者評価
●日常生活の活動度(Tanjuakio et al.2015,Mol Genet Metab,114(2):161-169;Kato et al.,2007,Brain Dev,29(5):298-305)
●病気の負担
【0424】
6.10.3.略語と用語の定義の表
【表17】
【0425】
6.10.4.免疫抑制療法
コルチコステロイド
●ベクター投与(1日目、前投与)の朝に、患者に対して、少なくとも30分間にわたって、メチルプレドニゾロン10mg/kg(最大500mg)をIVで与える。メチルプレドニゾロンは、IPの腰椎穿刺及びIC注射の前に投与すべきである。アセトアミノフェン及び抗ヒスタミン剤の前投与は、治験責任医師の裁量で任意に行う。
●第12週目までにプレドニゾンを中止することを目標として、2日目に経口プレドニゾンを開始する。プレドニゾンの用量は、以下の通りである:
- 2日目~第2週の終わりまで:0.5mg/kg/日
- 第3週及び4週:0.35mg/kg/日
- 第5週~8週:0.2mg/kg/日
- 第9週~12週:0.1mg/kg
- プレドニゾンは、第12週の後に中止する。プレドニゾンの正確な用量は、一段階増やした臨床上実用的な用量に調整することができる。
●注記:プレドニゾロンは、治験責任者の裁量で、1:1の変換率でプレドニゾンに置換し得る。
【0426】
シロリムス
●ベクター投与の2日前(-2日目):4時間ごとに1mg/m×3用量のシロリムスの負荷用量を投与する。
●-1日目以降:0.5mg/m/日のシロリムスを1日2回に分割して投与する、目標血中レベルを1~3ng/mlとする。
●シロリムスを、第48週目の受診後に中止する。
【0427】
タクロリムス
●2日目(IP投与の翌日)に、タクロリムスを1日2回、0.05mg/kgの用量で開始する、24週間にわたり2~4ng/mLの血中レベルを達成するように調整する。
●タクロリムスは第24週目の受診から8週にわたって漸減する。第24週目に、用量をおよそ50%まで減少させる。第28週目に、用量をおよそ50%までさらに減少させる。タクロリムスは、第32週目に中止する。
●タクロリムス及びシロリムスの血中レベルをモニタリングする。
【0428】
プレドニゾンの投与は 0.5mg/kg/日で開始する、そして、第12週目の受診まで漸減する。
【0429】
タクロリムスの用量調整は、最初の24週間は、全血トラフ濃度を2~4ng/mL以内に維持する。第24週目に、用量を約50%にまで減らす。第28週目には、用量を、さらに約50%減らす。タクロリムスは、第32週目に中止する。シロリムスの用量調整は、全血トラフ濃度を1~3ng/mL以内に維持するようにして行う。用量調整は、臨床薬剤師が行う。対象者は、濃度モニタリングで、さらなる用量調整を行う前に、少なくとも7~14日間、新しい維持用量を継続するべきである。
【0430】
トリメトプリム/スルファメトキサゾール(Bactrim(商標);BACTRIM(商標) USPI,2013)を使用するPneumocystis carinii肺炎(PCP)の予防は、週に3回の投与(投与スケジュールの例;月曜日、水曜日、金曜日)を、-2日目に5mg/kgの用量から開始して、第48週目まで継続する。トリメトプリム/スルファメトキサゾール(BACTRIM(商標) USPI、2013)の使用に関連するリスクについては、処方情報を参照されたい。サルファアレルギーの患者については、代替薬として、ペンタミジン、ダプソン、アトバコンがある。
【0431】
ANCが500mm未満であれば、抗真菌予防薬を始める。治療レジメンは、適切な超専門医と協議して、地域の施設の標準治療を勘案して決定する。
【0432】
カルシニューリン阻害剤とラパムネとの併用は、カルシニューリン阻害剤誘発血栓性微小血管障害のリスクを高め得る。血栓性微小血管障害(TMA)とは、血小板減少症、微小血管新生性溶血性貧血、及び様々な臓器系の関与を特徴とする障害の群である。
【0433】
これは、重度の血小板減少症(<30×10/L)、血液塗抹標本上の破砕赤血球を特徴とする微小血管障害性溶血性貧血、網状赤血球数の増加(>120×10/L)、乳酸デヒドロゲナーゼレベル(LDH)の上昇、及び、皮膚及び粘膜出血、衰弱、及び呼吸困難の徴候を呈し得る。治療として、タクロリムスの中止と、血漿交換の開始がある。
【0434】
連続試験の間にCMVまたはEBVウイルスゲノムの上昇を検出した場合に、ISを低減する、または、抗ウイルス療法を開始するとの決定は、適切な超専門医と協議をして、地域の施設の標準治療を勘案して決定する。
【0435】
均等物
本発明を、そのある特定の実施形態に関して詳細に記載しているが、本発明の範囲内に機能的に等価である変形があることが理解される。実際、本明細書に記載しており、説明をしている発明に加えて、本発明の様々な修正が、上記した明細書及び添付した図面から当業者には明らかとなるであろう。そのような修正は、添付した特許請求の範囲の範囲内にあることが意図される。当業者であれば、本明細書に記載する発明のある特定の実施形態の数多くの均等物を認識する、または、日常的な実験を用いてこれを確認することが可能である。そのような等価物は、以下の特許請求の範囲に含まれることが意図される。
【0436】
本明細書に記載するすべての刊行物、特許、及び特許出願は、それぞれの個別の刊行物、特許、または特許出願の全内容を、参照により、本明細書で援用することが、具体的かつ個別的に示されるのと同程度にまで、参照により、本明細書で援用する。
図1
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図2-4】
図3
図4
図5
図6-1】
図6-2】
図6-3】
図6-4】
図6-5】
【手続補正書】
【提出日】2022-11-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
2023512242000001.app
【国際調査報告】