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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-24
(54)【発明の名称】癌の治療方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20230316BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230316BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230316BHJP
   A61K 45/06 20060101ALI20230316BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230316BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230316BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20230316BHJP
   A61K 31/4985 20060101ALI20230316BHJP
   A61K 31/505 20060101ALI20230316BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20230316BHJP
   A61K 35/15 20150101ALI20230316BHJP
   C07K 16/46 20060101ALN20230316BHJP
【FI】
C12Q1/02 ZNA
A61P35/00
A61K45/00
A61K45/06
A61P43/00 121
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K31/519
A61K31/4985
A61K31/505
A61K39/395 L
A61K39/395 C
A61K47/68
A61K35/15
C07K16/46
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022546477
(86)(22)【出願日】2021-01-28
(85)【翻訳文提出日】2022-09-28
(86)【国際出願番号】 IL2021050102
(87)【国際公開番号】W WO2021152592
(87)【国際公開日】2021-08-05
(31)【優先権主張番号】272390
(32)【優先日】2020-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IL
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】502379147
【氏名又は名称】イェダ リサーチ アンド デベロップメント カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アミット イド
(72)【発明者】
【氏名】ワイナー アッサーフ
(72)【発明者】
【氏名】カッツェンエレンボーゲン ヨナタン
(72)【発明者】
【氏名】ヤリン アダム
(72)【発明者】
【氏名】シェバン ファディ
【テーマコード(参考)】
4B063
4C076
4C084
4C085
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA20
4C076AA95
4C076CC27
4C076EE41
4C076EE59
4C076FF68
4C084AA17
4C084AA19
4C084AA20
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB072
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC202
4C084ZC751
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA27
4C085EE01
4C085EE03
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC42
4C086CB05
4C086CB06
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZB26
4C086ZC20
4C086ZC75
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB37
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZB26
4C087ZC75
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045BA50
4H045DA76
4H045EA28
(57)【要約】
ミエロイド細胞の免疫抑制活性を減少させるための方法が開示される。本方法は、トリガー受容体2(Trem2)および膜貫通糖タンパク質NMB(Gpnmb)を共に発現するミエロイド細胞の量および/または活性を特異的に減少させるのに効果的な量の薬剤をミエロイド細胞と接触させることを含む。本方法は、癌の治療に使用することができる。抗体および二重特異性抗体も開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミエロイド細胞の免疫抑制活性を減少させるための方法であって、ミエロイド細胞上に発現されるトリガー受容体2(Trem2)および膜貫通糖タンパク質NMB(Gpnmb)を共に発現するミエロイド細胞の量および/または活性を特異的に減少させるのに効果的な量の薬剤をミエロイド細胞と接触させることを含み、前記接触によってミエロイド細胞の免疫抑制活性を減少させる、方法。
【請求項2】
前記接触をin vivoで実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記接触をex vivoで実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
治療を必要とする対象の癌を治療するための方法であって、ミエロイド細胞上に発現されるトリガー受容体2(Trem2)および膜貫通糖タンパク質NMB(Gpnmb)を共に発現するミエロイド細胞の対象における量および/または活性を特異的に下方制御させるのに効果的な量の薬剤を前記対象に投与することを含み、前記投与によって癌を治療する、方法。
【請求項5】
治療を必要とする対象の癌を治療するための方法であって、
(a)請求項3に記載の方法に従ってミエロイド細胞の免疫抑制活性を減少させる工程であって、前記ミエロイド細胞が前記対象由来である工程と、次に
(b)前記ミエロイド細胞を前記対象に移植し、前記癌を治療する工程と
を含む、方法。
【請求項6】
治療を必要とする対象の癌を治療するための方法であって、前記方法が、前記対象に治療有効量の以下の薬剤:
(i)Trem2の量および/または活性を下方制御する第1の薬剤と、
(ii)Gpnmbの量および/または活性を特異的に下方制御する第2の薬剤と
を投与することを含み、前記投与によって癌を治療する、方法。
【請求項7】
前記薬剤が二重特異性抗体を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記二重特異性抗体の第1の標的がTrem2であり、前記二重特異性抗体の第2の標的がGpnmbである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の薬剤および前記第2の薬剤が阻害性抗体である、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記二重特異性抗体が細胞毒薬物に取付られている、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記癌が固形癌である、請求項4または5に記載の方法。
【請求項12】
前記固形癌が、肺癌、肝癌、卵巣癌、胃癌および乳癌からなる群より選ばれる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記肺癌が非小細胞肺癌である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記肺癌が小細胞肺癌である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記肝癌が肝細胞癌である、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
治療有効量のチェックポイント阻害剤の対象への投与をさらに含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
治療有効量のブルトン型チロシンキナーゼ(Btk)阻害剤の対象への投与をさらに含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記ブルトン型チロシンキナーゼ(Btk)阻害剤が、イブルチニブ、アカラブルチニブおよびスペブルチニブからなる群より選ばれる、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
Trem2に特異的に結合可能な第1の抗原結合ドメインと、Gpnmbに特異的に結合可能な第2の抗原結合ドメインとを含む、二重特異性抗体。
【請求項20】
対象の癌を治療するための方法であって、
(a)対象のサンプル中の、Trem2およびGpnmbを共に発現するミエロイド細胞の存在を解析する工程と、
(b)予め定めた量を超える量の前記ミエロイド細胞が存在するとき、治療有効量の、Trem2および/またはGpnmbを標的とする薬剤で対象を処置する、あるいは予め定めた量を下回る量の前記細胞が存在するとき、治療有効量の、前記Trem2および/またはGpnmbを標的とする薬剤以外の化学療法薬で対象を処置する工程と
を含む、方法。
【請求項21】
前記Trem2および/またはGpnmb抗体を標的とする薬剤が、抗体である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記抗体が、細胞毒薬物に取付られている、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記癌が固形癌である、請求項20~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記固形癌が、肺癌、肝癌、卵巣癌、胃癌および乳癌からなる群より選ばれる、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
治療有効量のチェックポイント阻害剤の対象への投与をさらに含む、請求項20~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
治療有効量のブルトン型チロシンキナーゼ(Btk)阻害剤の対象への投与をさらに含む、請求項20~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記ブルトン型チロシンキナーゼ(Btk)阻害剤が、イブルチニブ、アカラブルチニブおよびスペブルチニブからなる群より選ばれる、請求項26に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2020年1月30日出願のイスラエル国特許出願第272390号の優先権を主張するものであり、この特許出願の全内容を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
【0002】
配列表に関する陳述
本願の出願と同時に提出された、2021年1月28日作成の24,576バイトのASCIIファイル「85623SequenceListing.txt」を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
【0003】
技術分野
本発明は、そのいくつかの実施形態において、ミエロイド細胞の免疫抑制活性を減少させることで癌を治療する方法に関し、より具体的には固形癌に関するが、これに限定されるものではない。
【背景技術】
【0004】
免疫機能の多くの必須決定因子は、従来の表面マーカーで厳密に特徴づけることはできず、これらシグナルの内部プロセッシングおよび統合が、免疫の活性化、抑制および炎症に向けてどのように翻訳されるのかは不明確である。ミエロイド誘導性抑制細胞(MDSC)は、腫瘍微小環境内のエフェクターT細胞(TME)のための抑制性環境を促進し、腫瘍の成長と免疫不全を支持することが知られている。ヒトの疾患および癌の種類の広いスペクトルにおける治療結果に対するMDSCの重要な影響力にもかかわらず、それらの厳密な機能的役割および分子的正体(molecular identity)はわかりにくく、誤って定義されている。MDSCは従来の表面マーカーに基づく分類スキームに適合しておらず、広範囲わたるミエロイド表面マーカー、種々の細胞アッセイとアルギナーゼ1(Arg1)を発現する免疫抑制性代謝経路を含む代謝特性を用いて分類されている。この重要且つ異種性の一群のミエロイド細胞に関する、その抑制性代謝潜在能(suppressive metabolic potential)に基づく詳細な分子的知見は、これら分子マーカー、経路および活性の同定に繋がり得るものであり、最終的にはより効果的なバイオマーカーおよび標的化免疫療法にもつながり得る。
【0005】
背景技術には、Kim et al., Cancers (Basel). 2019 Sep; 11(9): 1315、国際公開第2017/058866号および米国特許出願公開第2018/0043014号明細書が含まれる。
【発明の概要】
【0006】
本発明の一態様においては、ミエロイド細胞の免疫抑制活性を減少させるための方法であって、ミエロイド細胞上に発現されるトリガー受容体2(Trem2)および膜貫通糖タンパク質NMB(Gpnmb)を共に発現するミエロイド細胞の量および/または活性を特異的に減少させるのに効果的な量の薬剤をミエロイド細胞と接触させることを含み、当該接触によってミエロイド細胞の免疫抑制活性を減少させる方法が提供される。
【0007】
本発明の一態様においては、治療を必要とする対象の癌を治療するための方法であって、ミエロイド細胞上に発現されるトリガー受容体2(Trem2)および膜貫通糖タンパク質NMB(Gpnmb)を共に発現するミエロイド細胞の対象における量および/または活性を特異的に下方制御させるのに効果的な量の薬剤を対象に投与することを含み、当該投与によって癌を治療する方法が提供される。
【0008】
本発明の一態様においては、治療を必要とする対象の癌を治療するための方法であって、
(a)請求項3に記載の方法に従ってミエロイド細胞の免疫抑制活性を減少させる工程であって、当該ミエロイド細胞が対象由来である工程と、次に
(b)当該ミエロイド細胞を対象に移植し、前記癌を治療する工程と
を含む、方法が提供される。
【0009】
本発明の一態様においては、治療を必要とする対象の癌を治療するための方法であって、前記対象に治療有効量の以下の薬剤:
(i)Trem2の量および/または活性を下方制御する第1の薬剤と、
(ii)Gpnmbの量および/または活性を特異的に下方制御する第2の薬剤と
を投与することを含み、当該投与によって癌を治療する方法が提供される。
【0010】
本発明の一態様においては、Trem2に特異的に結合可能な第1の抗原結合ドメインと、Gpnmbに特異的に結合可能な第2の抗原結合ドメインとを含む、二重特異性抗体が提供される。
【0011】
本発明の一態様においては、対象の癌を治療するための方法であって、
(a)対象のサンプル中の、Trem2およびGpnmbを共に発現するミエロイド細胞の存在を解析する工程と、
(b)予め定めた量を超える量の当該ミエロイド細胞が存在するとき、治療有効量の、Trem2および/またはGpnmbを標的とする薬剤で対象を処置する、あるいは予め定めた量を下回る量の当該細胞が存在するとき、治療有効量の、当該Trem2および/またはGpnmbを標的とする薬剤以外の化学療法薬で対象を処置する工程と
を含む、方法が提供される。
【0012】
いくつかの実施形態によると、接触をin vivoで実施する。
【0013】
いくつかの実施形態によると、接触をex vivoで実施する。
【0014】
いくつかの実施形態によると、薬剤は二重特異性抗体を含む。
【0015】
いくつかの実施形態によると、二重特異性抗体の第1の標的はTrem2であり、二重特異性抗体の第2の標的はGpnmbである。
【0016】
いくつかの実施形態によると、第1の薬剤および第2の薬剤は阻害性抗体である。
【0017】
いくつかの実施形態によると、二重特異性抗体が細胞毒薬物に取付られている。
【0018】
いくつかの実施形態によると、癌は固形癌である
【0019】
いくつかの実施形態によると、固形癌は、肺癌、肝癌、卵巣癌、胃癌および乳癌からなる群より選ばれる。
【0020】
いくつかの実施形態によると、肺癌は非小細胞肺癌である。
【0021】
いくつかの実施形態によると、肺癌は小細胞肺癌である。
【0022】
いくつかの実施形態によると、肝癌は肝細胞癌である。
【0023】
いくつかの実施形態によると、上記方法は、治療有効量のチェックポイント阻害剤の対象への投与をさらに含む。
【0024】
いくつかの実施形態によると、上記方法は、治療有効量のブルトン型チロシンキナーゼ(Btk)阻害剤の対象への投与をさらに含む。
【0025】
いくつかの実施形態によると、ブルトン型チロシンキナーゼ(Btk)阻害剤は、イブルチニブ、アカラブルチニブおよびスペブルチニブからなる群より選ばれる。
【0026】
いくつかの実施形態によるとTrem2および/またはGpnmb抗体を標的とする薬剤は、抗体である。
【0027】
いくつかの実施形態によると、抗体は細胞毒薬物に取り付けられている。
【0028】
特に定義しない限り、本明細書で使用する全ての技術および/または科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者により通常理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと同様のまたは等価な方法および材料を、本発明の実施形態の実践または試験に使用することができるが、例示的な方法および/または材料を下記に記載する。矛盾する場合、定義を含む特許明細書が優先する。加えて、材料、方法、および実施例は単なる例示であり、必ずしも限定を意図するものではない。
【0029】
本発明のいくつかの実施形態について、その例示のみを目的として添付の図面を参照して本明細書に記載する。以下、特に図面を詳細に参照して示す細部は、例示を目的とし、また本発明の実施形態の詳細な説明を目的とすることを強調する。同様に、図面と共に説明を見ることで、本発明の実施形態をどのように実践し得るかが当業者には明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】INs-seq: scRNA-seqおよび細胞内タンパク質測定のための先進技術。(A)INs-seq実験的アプローチの模式図。
図2-1】Trem2は、腫瘍浸潤抑制性ミエロイド細胞の2つの集団を定義する。(A)実験計画の模式図である。
図2-2】(B)Arg1+細胞およびArg1-細胞が77個のメタ細胞へとクラスター化した8580個の細胞由来の42個の遺伝子の遺伝子発現ヒートマップ。上部のバープロットはArg1富化スコア(Arg1-サンプルに対するArg1+サンプルにおける画分(fraction))を示す。
図2-3】(C)Arg1+メタ細胞およびArg1-メタ細胞内の42のマーカー遺伝子の、遺伝子-遺伝子ピアソン相関ヒートマップ。上部のバープロットは、遺伝子発現と、Arg1富化スコアとの間のピアソン相関を示す。
図2-4】(D)Arg1およびTrem2のqPCR解析。(E)Ly6c+Fと比較した、異なる細胞集団における発現倍率変化。MCA205 CD45+CD11b+集団から単離された細胞における、Pdpn対Ly6C、Cx3cr1およびGpnmbの代表的なフローサイトメトリープロット。(G)MCA205 CD45+免疫細胞のCyToFデータのUMAP投影。Arg1、Pdpn、Ly6c、Trem2およびCx3cr1の検出されたタンパク質レベルは、プロットに示したように、色の濃淡で表した。
図3-1】Trem2はT細胞機能不全および腫瘍免疫回避を促進する。(A)12081個のミエロイド細胞を代表する115個のメタ細胞の二次元グラフ投影。異なる色は、プロットに示したように、異なる細胞集団を表す。(B)グラフのプロットに対する主要なマーカー遺伝子の投影。
図3-2】(C)Mregの平均UMIカウント(log2スケール)(y軸)と、単球(Ace)(x軸)との比較を示す散布図。
図3-3】(D)TAMの平均UMIカウント(log2スケール)(y軸)と、単球(Ace)(x軸)との比較を示す散布図。
図3-4】(E)各クラスターの制御領域内の転写因子結合部位の富化を示すヒートマップ。適切なクラスターにおいて、有意な正規化富化スコア(NES>3.5)および0.1UMIを超える平均発現を有するTFのみを示した。
図3-5】(F)MCA205腫瘍微小環境(19日目)におけるWTおよびTrem2 KO内の重要細胞集団のパーセンテージ。各点は1匹の動物を表し、黒い線は平均パーセンテージを表す。(G)WTおよびTrem2 KOマウスにおけるMCA205腫瘍の体積(19日目)。各点は1匹の動物を表し、赤い線は平均体積を表す。エラーバーは平均±SEMである。(p=0.007、一元ANOVA)(H)抗CD3/抗CD28で刺激し、MCA205腫瘍内のCD11b+ Ccr2+(Mon)細胞、Cx3cr1+(TAM)細胞またはGpnmb+(Mreg)細胞と48時間共培養したWT脾臓CD8T細胞の、細胞増殖染料eFluor(商標)450の蛍光シグナルを示すT細胞増殖解析の、フローサイトメトリーヒストグラム。
図4-1】Trem2は、腫瘍浸潤抑制性ミエロイド細胞の2つの集団を定義する。(A)CD45+ CD11b+ Arg1+細胞をソートするためのゲーティング戦略を示すFACSプロット。(B)TME内のINs-seq Arg1+およびArg1-細胞のArg1 mRNAのqPCR値。(C)77個のメタ細胞内の選択した遺伝子(Arg1、Trem2、CtslおよびPlac8)の平均UMIカウント(y軸)と、Arg1+細胞対Arg1-細胞の富化スコア(log2スケール)(x軸)との比較を示す散布図。スケールバーは富化スコアを示す。
図4-2】(D)8156個のArg1+細胞およびArg1-細胞を代表する77個のメタ細胞の二次元グラフ投影。色はArg1+におけるlog2富化を表す。
図4-3】(E)示した遺伝子発現(x軸)のArg1タンパク質比との相関を表すバープロット。
図4-4】同上
図4-5】(F)MCA205 CD45+免疫細胞のCyToFデータのUMAP投影。示したタンパク質の検出されたタンパク質レベルはプロットに示したように色の濃淡で表した。
図5-1】Trem2は、T細胞機能不全および腫瘍免疫回避を促進する。(A)WTマウスおよびTrem2KOマウス由来のMCA205(19日目)の15,946個の腫瘍内CD45+を代表する82個のメタ細胞の二次元グラフ投影。
図5-2】(B)12個のメタ細胞マーカー遺伝子内の制御領域内の転写因子結合部位の富化を示すヒートマップ。有意な正規化富化スコア(NES>3.5)およびメタ細胞において0.1UMIを超える平均発現を有するTFのみを示した。
図5-3】(C)WT(上部腫瘍画像)およびTrem2 KO(下部腫瘍画像)から得たMCA205腫瘍画像。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、そのいくつかの実施形態において、ミエロイド細胞の免疫抑制活性を減少させることで癌を治療する方法に関し、より具体的には固形癌に関するが、これに限定されるものではない。
【0032】
本発明の少なくとも一実施形態を詳細に説明する前に、本発明は、必ずしもその用途が、以下の説明で示すか又は実施例で例示する詳細に限定されるものではないことを理解すべきである。本発明は、他の実施形態が可能であるか、又は様々な方法で実施又は実行することができる。
【0033】
本発明者らは、Arg1ミエロイド細胞の直接標的化を用いて腫瘍微小環境における抑制性代謝回路を解析した。発明者らは、腫瘍からArg1 Trem2細胞の2種の別個の集団、即ち、腫瘍関連マクロファージ集団と、定義されている表面マーカー(例:Gpnmb)および低酸素症を含むシグナル伝達によって特徴づけられるMregのユニークな集団とを特定した。発明者らは、Arg1 TAM集団およびMreg集団のCD8 T細胞に対する抑制活性を示した。本願の知見は、Trem2を、抑制性ミエロイド細胞のマーカーおよび潜在的な調節因子として同定した。マウスにおけるTrem2の遺伝子破壊は、Mreg集団の劇的な減少、および機能不全性CD8 T細胞の減少と、NKおよび細胞毒性T細胞の増加を含む、腫瘍に対する免疫反応性の増加をもたらした。これらの結果は、癌の治療において、腫瘍関連マクロファージ集団の標的化よりもMreg集団の特異的標的化の方がより有益となることを示唆している。
【0034】
従って、本発明の第1の態様によると、ミエロイド細胞の免疫抑制活性を減少させるための方法であって、ミエロイド細胞上に発現されるトリガー受容体2(Trem2)および膜貫通糖タンパク質NMB(Gpnmb)を共に発現するミエロイド細胞の量および/または活性を特異的に減少させるのに効果的な量の薬剤をミエロイド細胞と接触させることを含み、前記接触によってミエロイド細胞の免疫抑制活性を減少させる方法が提供される。
【0035】
本願における「ミエロイド細胞」という用語は、一般的なミエロイド前駆細胞(CMP)から生じる細胞を意味する。一実施形態において、ミエロイド細胞は、骨髄芽球およびその娘型(例:好塩基球、好中球、好酸球、単球およびマクロファージ)の系譜から生じたものである。ミエロイド細胞の副群の1つは、免疫抑制ミエロイド細胞である。
【0036】
TREM-2は、主として(マクロファージ、樹状細胞、破骨細胞、ミクログリア、単球、皮膚のランゲルハンス細胞、クッパー細胞を含むが、これらに限定されない)ミエロイド系譜細胞の発現するイムノグロブリン様受容体である。いくつかの実施形態において、TREM-2は、受容体-シグナル伝達複合体をDAP12と共に形成する。いくつかの実施形態において、TREM-2はDAP12(ITAMドメインアダプタータンパク質)をリン酸化し、それを介してシグナルを伝達する。いくつかの実施形態において、TREM-2シグナル伝達は下流のPI3Kの活性化をもたらす。いくつかの実施形態において、TREM-2シグナル伝達は下流の脾臓チロシンキナーゼ(stk)のリン酸化をもたらす。
【0037】
本開示のTREM-2タンパク質は、哺乳動物TREM-2タンパク質を含むが、これに限定されるものではなく、さらに哺乳動物TREM-2タンパク質は、ヒトTREM-2タンパク質(Uniprotアクセッション番号Q9NZC2)、マウスTREM-2タンパク質(Uniprotアクセッション番号Q99NH8)、ラットTREM-2タンパク質(Uniprotアクセッション番号D3ZZ89)、アカゲザルTREM-2タンパク質(Uniprotアクセッション番号F6QVF2)、ウシTREM-2タンパク質(Uniprotアクセッション番号Q05B59)、ウマTREM-2タンパク質(Uniprotアクセッション番号F7D6L0)、ブタTREM-2タンパク質(Uniprotアクセッション番号H2EZZ3)、およびイヌTREM-2タンパク質(Uniprotアクセッション番号E2RP46)を含むが、これに限定されるものではない。
【0038】
例示的なヒトTREM-2アミノ酸配列を配列番号49として下記に示した。
【0039】
いくつかの実施形態において、ヒトTREM-2は、シグナルペプチドを含む前駆タンパク質である。いくつかの実施形態において、ヒトTREM-2は成熟タンパク質である。いくつかの実施形態において、成熟TREM-2タンパク質はシグナルペプチドを含まない。いくつかの実施形態において、成熟TREM-2タンパク質は細胞上に発現されている。いくつかの実施形態において、TREM-2は、ヒトTREM-2(配列番号49)のアミノ酸残基1~18に位置するシグナルペプチド、ヒトTREM-2(配列番号49)のアミノ酸残基29~112に位置する細胞外イムノグロブリン様可変型(IgV)ドメイン、ヒトTREM-2(配列番号49)のアミノ酸残基113~174に位置する追加の細胞外配列、ヒトTREM-2(配列番号49)のアミノ酸175~195残基に位置する膜貫通ドメイン、ヒトTREM-2(配列番号49)のアミノ酸残基196~230に位置する細胞内ドメインを含む。
【0040】
膜貫通糖タンパク質NMB(GPNMB)は、IA型細胞表面糖タンパク質である。例示的なGPNMBは配列番号50に示したアミノ酸配列を有する。一実施形態において、「GPNMB」という用語は、その類似体、誘導体または断片、あるいはGPNMBを含む融合タンパク質、およびその類似体、誘導体または断片を意味する。一定の実施形態において、「GPNMB」という用語は、成熟した、プロセッシング後のGPNMBを意味する。別の実施形態において、「GPNMB」という用語は、GPNMBの細胞外ドメインを意味する。
【0041】
述べたように、当該ミエロイド細胞の特定の副集団、即ちTrem2およびGpnmbを共に発現するもの、の量および/または活性を減少させるために、薬剤を対象のミエロイド細胞と接触させる。
【0042】
一実施形態において、接触はin vivoで実施される。
【0043】
他の実施形態において、接触はex vivoで行われる、即ち、ミエロイド細胞を対象から取り出し、続いて薬剤と接触させる。
【0044】
ミエロイド細胞は、典型的には、骨髄生検によって対象から取り出す。
【0045】
本発明のこの態様における薬剤は、ミエロイド細胞に発現するトリガー受容体2(Trem2)および膜貫通糖タンパク質NMB(Gpnmb)を共に発現するミエロイド細胞の量および/または活性を特異的に減少させる。
【0046】
一実施形態において、薬剤は、両方のマーカーを発現する細胞の量を、一方のマーカーのみ(即ち、TREM2のみでGpnmbなし、またはその逆)を発現する細胞と比べて、少なくとも2倍も減少させる。他の実施形態において、薬剤は、両方のマーカーを発現する細胞の量を、一方のマーカーのみ(即ち、TREM2のみでGpnmbなし、またはその逆)を発現する細胞と比べて、少なくとも5倍も減少させる。他の実施形態において、薬剤は、両方のマーカーを発現する細胞の量を、一方のマーカーのみ(即ち、TREM2のみでGpnmbなし、またはその逆)を発現する細胞と比べて、少なくとも10倍も減少させる。
【0047】
一実施形態において、薬剤は、両方のマーカーを発現する細胞の活性を、一方のマーカーのみ(即ち、TREM2のみでGpnmbなし、またはその逆)を発現する細胞と比べて、少なくとも2倍も減少させる。他の実施形態において、薬剤は、両方のマーカーを発現する細胞の活性を、一方のマーカーのみ(即ち、TREM2のみでGpnmbなし、またはその逆)を発現する細胞と比べて、少なくとも5倍も減少させる。他の実施形態において、薬剤は、両方のマーカーを発現する細胞の活性を、一方のマーカーのみ(即ち、TREM2のみでGpnmbなし、またはその逆)を発現する細胞と比べて、少なくとも10倍も減少させる。
【0048】
本願で開示する、本発明のこの態様における薬剤は、TREM-2とGpnmbの両方に対してKD<1×10-7Mで結合し得る。さらに別の実施形態において、本発明の抗原結合タンパク質は、ヒトTREM-2およびヒトGpnmbの両方に対してKD<5×10-8Mで結合する。他の実施形態において、本発明の抗原結合タンパク質は、ヒトTREM-2およびヒトGpnmbの両方に対してKD<1×10-8Mで結合する。一定の実施形態において、本発明の抗原結合タンパク質は、ヒトTREM-2およびヒトGpnmbの両方に対してKD<5×10-9Mで結合する。別の実施形態において、本発明の抗原結合タンパク質は、ヒトTREM-2およびヒトGpnmbの両方に対してKD<1×10-9Mで結合する。特定の1つの実施形態において、本発明の抗原結合タンパク質は、ヒトTREM-2およびヒトGpnmbの両方に対してKD<5×10-10Mで結合する。他の特定の実施形態において、本発明の抗原結合タンパク質は、ヒトTREM-2およびヒトGpnmbの両方に対してKD<1×10-10Mで結合する。他の特定の実施形態において、本発明の抗原結合タンパク質は、ヒトTREM-2およびヒトGpnmbの両方に対してKD<1×10-11Mで結合する。他の特定の実施形態において、本発明の抗原結合タンパク質は、ヒトTREM-2およびヒトGpnmbの両方に対してKD<1×10-12Mで結合する。他の特定の実施形態において、本発明の抗原結合タンパク質は、ヒトTREM-2およびヒトGpnmbの両方に対してKD<1×10-13Mで結合する。他の特定の実施形態において、本発明の抗原結合タンパク質は、ヒトTREM-2およびヒトGpnmbの両方に対してKD<1×10-14Mで結合する。他の特定の実施形態において、本発明の抗原結合タンパク質は、ヒトTREM-2およびヒトGpnmbの両方に対してKD<1×10-15Mで結合する。
【0049】
親和性は、種々の技術(一例は親和性ELISAアッセイである)を用いて決定される。種々の実施形態において、親和性は、表面プラズモン共鳴アッセイ(例:BIAcore(登録商標)に基づくアッセイ)で決定される。この方法論を用いると、会合速度定数(ka)および解離速度定数(kd)を測定することができる。平衡解離定数(Mで表すKD)は、反応速度定数(kd/ka)から計算することができる。いくつかの実施形態において、親和性は動的な方法、例えば、Rathanaswami et al. Analytical Biochemistry, Vol. 373:52-60, 2008に記載の結合平衡除外法(KinExA)で決定される。KinExAアッセイを使用して、平衡解離定数(Mで表すKD)および会合速度定数(M’V)で表すkaを測定することができる。解離速度定数(kd)は、これらの値から計算することができる(KD×ka)。別の実施形態において、親和性は、例えば、Kumaraswamy et al., Methods Mol. Biol., Vol. 1278:165-82, 2015に記載され、Octet(登録商標)システム(Pall ForteBio社)で使用される、バイオレイヤー干渉法で決定される。速度(kaとkd)および親和性(KD)定数は、バイオレイヤー干渉法を用いてリアルタイムで計算することができる。いくつかの実施形態において、本願に記載の抗原結合タンパク質は、kd(解離速度定数)によって測定される、ヒトTREM-2およびヒトGpnmbのそれぞれに対する結合親和力が約10-2、10-3、10-4、10-5、10-6またはそれ以下(値は低いほど高い結合親和力を意味する)、および/またはKD(平衡解離定数)によって測定される、ヒトTREM-2およびヒトGpnmbのそれぞれに対する結合親和性が約10-8、10-9、10-10、10-11Mまたはそれ以下(値は低いほど高い結合親和性を意味する)といった望ましい特徴を発揮する。一定の実施形態において、本発明の抗原結合タンパク質は、ヒトTREM-2およびヒトGpnmbのそれぞれに対して、25℃のバイオレイヤー干渉法で測定したKDが約1pMから約100nMとなる特異的な結合を示す。例えば、いくつかの実施形態において、本発明の抗原結合タンパク質は、ヒトTREM-2およびヒトGpnmbのそれぞれに対して、25℃のバイオレイヤー干渉法で測定したKDが100nM未満となる特異的な結合を示す。別の実施形態において、本発明の抗原結合タンパク質は、ヒトTREM-2およびヒトGpnmbのそれぞれに対して、25℃のバイオレイヤー干渉法で測定したKDが50nM未満となる特異的な結合を示す。さらに別の実施形態において、本発明の抗原結合タンパク質は、ヒトTREM-2およびヒトGpnmbのそれぞれに対して、25℃のバイオレイヤー干渉法で測定したKDが25nM未満となる特異的な結合を示す。特定の1つの実施形態において、本発明の抗原結合タンパク質は、ヒトTREM-2およびヒトGpnmbのそれぞれに対して、25℃のバイオレイヤー干渉法で測定したKDが10nM未満となる特異的な結合を示す。他の特定の実施形態において、本発明の抗原結合タンパク質は、ヒトTREM-2およびヒトGpnmbのそれぞれに対して、25℃のバイオレイヤー干渉法で測定したKDが5nM未満となる特異的な結合を示す。他の特定の実施形態において、本発明の抗原結合タンパク質は、ヒトTREM-2およびヒトGpnmbのそれぞれに対して、25℃のバイオレイヤー干渉法で測定したKDが1nM未満となる特異的な結合を示す。
【0050】
一実施形態によると、本発明のこの態様における薬剤は、2種の異なる抗原であるTREM-2およびGpnmbを認識する二重特異性抗体、多価抗体またはキメラ抗体である。
【0051】
本発明の「二重特異性抗体」は2つの異なる抗原結合部位を有することから、抗体は2種の異なる抗原に特異的に結合する。このような抗体は、2種の異なる抗原群を認識する2つの個別の抗体または抗体断片を組み合わせるか、(本明細書で上述したように)2つの特異性を含むように単一抗体分子を修飾することで作製することができる。
【0052】
一実施形態によると、二重特異性抗体は、2種の異なる重鎖/軽鎖ペアと2種の異なる結合部位とを有するハイブリッド抗体である。
【0053】
一実施形態によると、二重特異性抗体は、抗体の構造ループ領域(例:重鎖のCH3領域)内に抗原認識ドメインを含む。よって、二重特異性抗体は、「Fcab」と呼ばれる抗体のFc領域を含む断片を含み得る。このような抗体断片は、典型的には、抗体のCH2-CH3ドメインを含む。Fcabは、抗体のループ構造をとる領域、すなわち重鎖のCH3領域において、少なくとも1つの改変を含むように設計される。そのような抗体断片は、例えば、以下のように作製することができる。ループ構造をとる少なくとも1つの領域(例えば、Fc領域)を含む抗体をコードする核酸を準備し、ループ構造をとる少なくとも1つの領域の少なくとも1つのヌクレオチド残基を改変し、改変した核酸を発現系に移し、改変抗体を発現させ、発現させた改変抗体をエピトープと接触させ、改変抗体がエピトープと結合するかどうかを判定する。例えば、参照によりその全体が本明細書に援用される米国特許第9,045,528号明細書及び同第9,133,274号明細書を参照されたい。
【0054】
より高い結合価(即ち、2以上の抗原に結合する能力)を有する抗体も作成可能であり、これらを多重特異性抗体と称する。
【0055】
本明細書に記載した方法をミエロイド細胞の免疫抑制活性の減少に使用することから、本発明者らは、本方法を癌の処置に用いることを考えた。
【0056】
よって、本発明の他の態様によると、治療を必要とする対象の癌を治療するための方法であって、ミエロイド細胞上に発現されるトリガー受容体2(Trem2)および膜貫通糖タンパク質NMB(Gpnmb)を共に発現するミエロイド細胞の対象における量および/または活性を特異的に下方制御させるのに効果的な量の薬剤を対象に投与することを含み、投与によって癌を治療する、方法が提供される。
【0057】
本願において「対象」とは、癌と診断された哺乳動物、例えば、ヒトである。
【0058】
対象においてTrem2およびGpnmbを発現するミエロイド細胞の量および/または活性を特異的に減少することが可能な薬剤については上述した。
【0059】
「癌」および「癌性」とは、未制御の悪性細胞増殖によって典型的には特徴づけられる哺乳動物の生理学的状態を意味するまたは表している。
【0060】
本発明のいくつかの実施形態によって解析及び処置可能な癌の例としては、胃腸管の腫瘍(結腸癌、直腸癌、結腸直腸癌、結腸直腸癌、結腸直腸腺腫、遺伝性非ポリポージス1型、遺伝性非ポリポージス2型、遺伝性非ポリポージス3型、遺伝性非ポリポージス6型、結腸直腸癌、遺伝性非ポリポージス7型、小腸及び/又は大腸癌、食道癌、食道癌を伴う胼胝腫、胃癌、膵臓癌、膵内分泌腫瘍)、子宮内膜癌、隆起性皮膚線維肉腫、胆嚢癌、胆道腫瘍、前立腺癌、前立腺腺癌、腎臓癌(例えば、ウィルムス腫瘍2型又は1型)、肝臓癌(例えば、肝芽腫、肝細胞癌、肝細胞癌)、膀胱癌、胎児性横紋筋肉腫、胚細胞腫瘍、絨毛性腫瘍、精巣胚細胞腫瘍、卵巣、子宮、上皮性卵巣の未熟奇形腫、仙尾骨腫瘍、絨毛癌、胎盤部トロホブラスト腫瘍、上皮性成人腫瘍、卵巣癌、漿液性卵巣癌、卵巣性索腫瘍、頸部癌、子宮頸部癌、小細胞及び非小細胞肺癌、鼻咽頭癌、乳癌(例えば、乳管癌、浸潤性乳管内癌、散発性乳癌、乳癌への感受性、4型乳癌、乳癌-1、乳癌-3、乳癌-卵巣癌)、扁平上皮癌(例えば、頭頸部)、神経原性腫瘍、星状細胞腫、神経節芽細胞腫、神経芽細胞腫、リンパ腫(例えば、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、B細胞、バーキット、皮膚T細胞、組織球性、リンパ芽球性、T細胞、胸腺)、神経膠腫、腺癌、副腎腫瘍、遺伝性副腎皮質癌腫、脳悪性腫瘍(腫瘍)、他の様々な癌腫(例えば、気管支原性大細胞、腺管、エールリッヒ-レトレ腹水、類表皮、大細胞、ルイス肺、髄質性、粘膜表皮性、燕麦細胞、小細胞、紡錘細胞、有棘細胞、移行細胞、未分化、癌肉腫、絨毛癌、嚢胞腺癌)、上衣芽細胞腫、上皮腫、赤白血病(例えば、フレンド、リンパ芽球)、線維肉腫、巨細胞腫瘍、グリア腫瘍、神経膠芽腫(例えば、多形性、星状細胞腫)、神経膠腫肝細胞腫、ヘテロハイブリドーマ、ヘテロ骨髄腫、組織球腫、ハイブリドーマ(例えば、B細胞)、グラヴィッツ腫瘍(hypernephroma)、インスリンノーマ、膵島腫瘍、角膜腫、平滑筋芽細胞腫、平滑筋肉腫、リンパ肉腫、メラノーマ、乳房腫瘍、肥満細胞腫、髄芽腫、中皮腫、転移性腫瘍、単球腫瘍、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群、骨髄腫、腎芽細胞腫、神経組織グリア腫瘍、神経組織神経腫瘍、神経鞘腫、神経芽細胞腫、乏突起膠腫、骨軟骨腫、骨髄腫、骨肉腫(例えば、ユーイング)、乳頭腫、移行細胞、褐色細胞腫、下垂体腫瘍(浸潤性)、形質細胞腫、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、肉腫(例えば、ユーイング、組織球細胞、ジェンセン、骨形成性、網状細胞)、シュワン腫、皮下腫瘍、奇形癌腫(例えば、多能性)、奇形腫、精巣腫瘍、胸腺腫及び毛包上皮腫、胃癌、線維肉腫、多形神経膠芽腫、多発性グロムス腫瘍、リー・フラウメニ症候群、脂肪肉腫、リンチ癌ファミリー症候群II、雄性生殖細胞腫瘍、肥満細胞白血病、髄様甲状腺、多発性髄膜腫、内分泌腫瘍性粘液肉腫、傍神経節腫、家族性非クロム親和性、毛母腫、乳頭状、家族性及び散発性、ラブドイド素因症候群、家族性、ラブドイド腫瘍、軟部組織肉腫、及び神経膠芽腫を伴うターコット症候群が挙げられるが、これらに限定されない。
【0061】
特定の実施形態によると、癌はメラノーマである。
【0062】
特定の実施形態によると、癌は固形腫瘍(肺癌、肝癌、卵巣癌、胃癌および乳癌)である。
【0063】
特定の実施形態によると、癌は原発腫瘍である。
【0064】
特定の実施形態によると、癌は転移性である。
【0065】
特定の実施形態によると、癌は続発性腫瘍である。
【0066】
特定の実施形態によると、肺癌は非小細胞肺癌である。
【0067】
特定の実施形態によると、肺癌は小細胞肺癌である。
【0068】
特定の実施形態によると、肝癌は肝細胞癌である。
【0069】
本発明の他の態様によると、治療を必要とする対象の癌を治療するための方法であって、対象に治療有効量の以下の薬剤:
(i)Trem2の量および/または活性を下方制御する第1の薬剤と、
(ii)Gpnmbの量および/または活性を特異的に下方制御する第2の薬剤と
を投与することを含み、前記投与によって癌を治療する、方法が提供される。
【0070】
一実施形態によると、第1の薬剤はミエロイド細胞上に発現されたTREM-2に特異的に結合する。他の実施形態によると、第2の薬剤はGpnmbに特異的に結合する。「特異的に結合」または「結合が特異的」という句は、結合分子に対して用いられるとき、TREM-2またはGpnmb等の標的分子に対して中位から高い結合親和性を独占的にまたは優先的に有することを意味する。「○○に特異的に結合する」という句は、タンパク質および他の生物成分(biologics)の異種集団の存在下における標的タンパク質(TREM-2またはGpnmb等)の存在を確定する結合反応を意味する。よって、明示するアッセイ条件において、特定した結合分子は特定の標的タンパク質(例:TREM-2またはGpnmb)に対して優先的に結合するが、試験サンプル中に存在する他の成分に対しては有意な量の結合を示さない。このような条件下における標的タンパク質への特異的な結合は、特定の標的タンパク質に対する特異性によって選択された結合分子を必要とし得る。特定の標的タンパク質と特異的に反応する結合分子を選択するために種々のアッセイ形式を使用してもよい。例えば、固相ELISA免疫アッセイ、免疫沈降法、Biacoreおよびウェスタンブロットを、TREM-2またはGpnmbに特異的に結合する結合分子の同定に使用してもよい。典型的には、特異的または選択的な反応は、バックグラウンドのシグナルまたはノイズの少なくとも2倍であり、より典型的には、バックグラウンドの10倍超である。結合分子が抗体の場合、「○○に特異的に結合する」という句は、タンパク質および他の生物成分の異種集団の存在下における抗原(TREM-2またはGpnmb等)の存在を確定する結合反応を意味する。典型的には、抗原に特異的に結合する薬剤は、少なくとも約1×10-6から1×10-7または約1×10-8から1×10-9M、または約1×10-10から1×10-11またはそれ以上の解離定数(K)で抗原に結合する、および/または予め定めた(例:TREM-2またはGpnmbの)抗原に対して、予め定めた抗原または密接に関連した抗原以外の非特異的抗原(例:BSA、カゼイン)と比べて、少なくとも2倍、5倍、10倍、20倍大きな親和性で結合する。
【0071】
特定の実施形態によると、TREM-2の量および/または活性を減少させる薬剤は、本願において拮抗性抗体とも称する、阻害性抗体である。
【0072】
本発明において使用する「抗体」という用語は、インタクトな分子のみならず、抗原のエピトープに対するその機能的断片(Fab、F(ab’)2、Fv等)または単一ドメイン(VHおよびVL)も含む。これらの機能的抗体断片は、次のように定義される。(1)Fab: 抗体分子の一価抗原結合断片を含む断片であって、インタクトな軽鎖と1つの重鎖の一部を得るために全長抗体を酵素パパインで消化することで製造することができる、(2)Fab’: インタクトな軽鎖と重鎖の一部を得るために、全長抗体をペプシンで処理し、次に還元することで得られる抗体分子の断片であり、2つのFab’断片が1つの抗体分子から得られる、(3)(Fab’)2: 全長抗体をペプシンで処理し、次の還元を行わずに得られる抗体の断片であって、F(ab’)2は、2つのFab’断片を2つのジスルフィド結合で繋いだ二量体である、(4)Fv: 2つの鎖として発現された軽鎖の可変領域と、重鎖の可変領域とを含む遺伝子工学的な断片と定義される、(5)単鎖抗体(“SCA”): 軽鎖の可変領域と重鎖の可変領域とが適切なポリペプチドリンカーで連結されてなる、遺伝的に融合された単鎖分子を含む遺伝子工学的な分子、並びに(6)単一ドメイン抗体: 単一のVHドメインまたはVLドメインで構成されたものであり、抗原に対して十分な親和性を発揮するもの。
【0073】
特定の実施形態において、抗体はモノクローナル抗体である。
【0074】
ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体及びそれらの断片を作製する方法は当技術分野で良く知られている(例えば、本参照をもって本願に援用するHarlow and Lane, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York, 1988、および後述する実施例の項を参照)。
【0075】
本発明に係る抗体断片は、抗体のタンパク質分解性加水分解によって、又は断片をコードするDNAのE. coli細胞又は哺乳動物細胞(例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞培養物又は他のタンパク質発現系)での発現によって調製することができる。完全な抗体の従来の方法によるペプシン消化又はパパイン消化によって抗体断片を得ることができる。例えば、ペプシンによる抗体の酵素切断によってF(ab’)2と表示される5S断片を得て抗体断片を生成することができる。この断片を、チオール還元剤、及び必要に応じてジスルフィド結合の切断から生じるスルフヒドリル基のブロッキング基を使用して更に切断し、3.5S Fab’一価断片を生成することができる。或いは、ペプシンを使用した酵素切断によって、2個の一価Fab’断片と1個のFc断片を直接生成する。これらの方法は、例えば、Goldenberg(米国特許第4,036,945号及び第4,331,647号明細書)及び当該特許に含まれる参考文献に記載されているが、これらの特許の全内容を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。Porter, R. R. [Biochem. J. 73: 119-126 (1959)]も参照。インタクトな抗体によって認識される抗原に断片が結合する限り、抗体を切断する他の方法(例えば、一価の軽重鎖断片を形成する重鎖の分離、断片の更なる切断、又は他の酵素的、化学的又は遺伝的技法)も用いることができる。
【0076】
Fv断片はVH鎖とVL鎖の会合を含む。Inbar et al.[Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 69:2659-62 (19720)]に記載のように、この会合は非共有結合性でもよい。或いは、分子間ジスルフィド結合によって可変鎖を結合するか、又はグルタルアルデヒド等の化学物質によって可変鎖を架橋することができる。好ましくは、Fv断片はペプチドリンカーによって結合されたVH鎖とVL鎖を含む。このような一本鎖抗原結合タンパク質(sFv)の調製は、オリゴヌクレオチドによって結合されたVH及びVLドメインをコードするDNA配列を含む構造遺伝子を構築することによって行う。この構造遺伝子を発現ベクターに挿入し、次にそれをE. coli等の宿主細胞に導入する。組換え宿主細胞は、2個のVドメインを架橋するリンカーペプチドによって単一ポリペプチド鎖を合成する。sFvを生成する方法は、例えば、Whitlow and Filpula, Methods 2: 97-105 (1991)、Bird et al., Science 242:423-426 (1988)、Pack et al., Bio/Technology 11:1271-77 (1993)、及び米国特許第4,946,778号明細書(その全内容を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する)に記載されている。
【0077】
抗体断片の他の形態は、単一の相補性決定領域(CDR)をコードするペプチドである。CDRペプチド(「最小認識ユニット」)は、目的の抗体のCDRをコードする遺伝子を構築して得ることができる。このような遺伝子は、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応を用いて抗体産生細胞のRNAから可変領域を合成して調製する。例えば、Larrick and Fry [Methods, 2: 106-10 (1991)]を参照。
【0078】
非ヒト(例えば、マウス)抗体のヒト化形態は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含む、免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖又はその断片(例えば、Fv、Fab、Fab’、F(ab’)又は抗体の他の抗原結合サブ配列)のキメラ分子である。ヒト化抗体には、レシピエントの相補性決定領域(CDR)由来の残基が、所望の特異性、親和性及び能力を有するマウス、ラット又はウサギ等の非ヒト種(ドナー抗体)のCDR由来の残基で置換されたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)が含まれる。場合によっては、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク残基が対応する非ヒト残基に置換される。ヒト化抗体は、レシピエント抗体にも移入されたCDR又はフレームワーク配列にも見られない残基を含むこともある。一般に、ヒト化抗体は少なくとも1個(通常は2個)の可変ドメインの実質的に全てを含み、CDR領域の全て又は実質的に全ては非ヒト免疫グロブリンのCDR領域に対応し、FR領域の全て又は実質的に全てはヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のFR領域である。ヒト化抗体は、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部、通常はヒト免疫グロブリンのそれを含むことも最適である[Jones et al., Nature, 321:522-525 (1986)、Riechmann et al., Nature, 332:323-329 (1988)、およびPresta, Curr. Op. Struct. Biol., 2:593-596 (1992)]。
【0079】
非ヒト抗体をヒト化するための方法は当技術分野で良く知られている。一般に、ヒト化抗体は非ヒトである供給源から導入された1種以上のアミノ酸残基を有する。このような非ヒトアミノ酸残基は移入残基と称されることが多く、通常は移入可変ドメインから得られる。ヒト化は本質的に、Winterとその同僚の方法[Jones et al., Nature, 321:522-525 (1986)、Riechmann et al., Nature 332:323-327 (1988)、Verhoeyen et al., Science, 239:1534-1536 (1988)]に従い、齧歯動物のCDR又はCDR配列をヒト抗体の対応する配列の代わりに用いて行うことができる。従って、そのようなヒト化抗体はキメラ抗体(米国特許第4,816,567号明細書)であり、インタクトなヒト可変ドメインよりも実質的に小さい部分が、非ヒト種由来の対応する配列で置換されている。実際には、ヒト化抗体は、通常、一部のCDR残基と恐らく一部のFR残基が齧歯動物抗体の類似部位由来の残基で置換されているヒト抗体である。
【0080】
ヒト抗体の生成は、ファージディスプレイライブラリーを含む、当技術分野で公知の様々な技法[Hoogenboom and Winter, J. Mol. Biol., 227:381 (1991)、Marks et al., J. Mol. Biol., 222:581 (1991)]を用いて行うこともできる。Cole et al.及びBoerner et al.の技法もヒトモノクローナル抗体の調製にも利用することができる(Cole et al., Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, p. 77 (1985)およびBoerner et al., J. Immunol., 147(1):86-95 (1991))。同様に、トランスジェニック動物、例えば、内因性免疫グロブリン遺伝子が部分的又は完全に不活性化されたマウスに、ヒト免疫グロブリン遺伝子座を導入してヒト抗体を生成することもできる。抗原投与(challenge)の際にヒト抗体の産生が観察されるが、これは、遺伝子再編成、構築及び抗体レパートリー等あらゆる点で、ヒトで見られるものと酷似している。このアプローチは、例えば、米国特許第5,545,807号、第5,545,806号、第5,569,825号、第5,625,126号、第5,633,425号及び第5,661,016号明細書、及び次の科学文献: Marks et al., Bio/Technology 10, 779-783 (1992)、Lonberg et al., Nature 368: 856-859 (1994); Morrison, Nature 368 812-13 (1994)、Fishwild et al., Nature Biotechnology 14, 845-51 (1996)、Neuberger, Nature Biotechnology 14: 826 (1996)、およびLonberg and Huszar, Intern. Rev. Immunol. 13, 65-93 (1995)に記載されている。
【0081】
TREM-2阻害性抗体の例は、国際公開第2017/058866号および米国特許出願公開第2019/0010230号明細書に開示されており、これらの内容を本参照をもって本願に援用する。
【0082】
他の例示的なTREM-2阻害性抗体は、米国特許出願公開第2020/0017584号明細書および米国特許出願公開第2019/0336615号明細書に開示されている。
【0083】
TREM-2阻害性抗体の一例は、配列番号51のCDR-H1、配列番号52のCDR-H2、配列番号53のCDR-H3、配列番号54のCDR-L1、配列番号55のCDR-L2、および配列番号56のCDR-L1を有するものである。
【0084】
本発明者らの想定した追加のTREM-2抗体には、R&D社から購入可能な、BAF1828(ヒト)、MAB17291(ヒトとマウス)、AF1828(ヒト)、およびAF1729(マウス)が含まれる。
【0085】
特定の実施形態によると、Gpnmbの量および/または活性を減少させる薬剤は、本願において拮抗性抗体とも称する、阻害性抗体である。
【0086】
Gpnmb阻害性抗体の例は、米国特許出願公開第2018/0043014号明細書に開示されており、その内容は本参照をもって本願に援用される。
【0087】
例示的なヒト抗GPNMB抗体には、Mab1.10.2、Mab1.15.1、Mab1.2.2、Mab1.7.1、Mab2.10.2、Mab2.15.1、Mab2.16.1、Mab2.17.1が含まれる。これらの抗体は、本願において同定し、下記表1および表2に示した、アミノ酸配列とそれをコードする核酸配列を有する。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
本願に記載した抗体(二重特異性または単一特性のいずれも)は、細胞毒薬物に取り付けてもよい。
【0091】
本願において「細胞毒薬物」という用語は、細胞の機能の阻害や防止および/または細胞の破壊をもたらす物質を意味する。本用語は、放射性アイソトープ(例:211At、131I、125I、32P、35Sおよび177Luを含むLuの放射性アイソトープ、86Y、90Y、111In、177Lu、225Ac、212Bi、213Bi、66Ga、67Ga、68Ga、64Cu、67Cu、71As、72As、76As、77As、65Zn、48V、203Pb、209Pb、212Pb、166Ho、149Pm、153Sm、201Tl、188Re、186Reおよび99mTc)、本願において他方に記載した抗癌剤であって、化学療法抗癌薬、例えば、メトトレキサート、アドリアマイシン、ビンカアルカロイド(ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド)、タキソール、ドキソルビシン、シスプラチン、5-フルオロウリジン、メルファラン、臭化エチジウム、マイトマイシンC、クロラムブシル、ダウノルビシンおよび他のインターカレート剤、核酸分解酵素などの酵素およびその断片、抗生物質、治療用RNA分子(例:siRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、マイクロRNA、リボザイム、RNAデコイ、アプタマー)、DNA分解酵素、抗体、タンパク質およびそれをコードするポリヌクレオチド、並びに小分子毒素、または細菌、真菌、植物または動物由来の酵素活性のある毒素(ヤマゴボウ抗ウイルスタンパク質(PAP)等)、リシン毒素A、アブリン、ゲロニン、サポリン、コレラ毒素A、ジフテリア毒素、シュードモナス外毒素、およびアルファ-サルシン等の毒素、それらの断片および/またはバリアントを含むことを意図する。
【0092】
本発明の薬剤(例:抗体)は、対象自体に投与するか、又は適切な担体又は賦形剤と混合し医薬組成物として投与可能であることを理解されたい。
【0093】
本明細書で使用される「医薬組成物」とは、本明細書に記載の1種以上の有効成分と生理学的に適切な担体や賦形剤等の他の化学成分とから成る調製物を意味する。医薬組成物の目的は。化合物の生物への投与を容易にすることである。
【0094】
本願において、「活性成分」とは、生物学的効果を担う本発明の薬剤(例:抗体)を意味する。
【0095】
以下、互換的に使用される「生理学的に許容される担体」と「薬学的に許容される担体」という語句は、生物に対して重大な刺激を引き起こさず、投与された化合物の生物学的活性及び特性を抑制しない担体又は希釈剤を意味する。このような語句にはアジュバントが含まれる。
【0096】
本明細書において「賦形剤」という用語は、医薬組成物に添加して有効成分の投与を更に容易にする不活性物質を意味する。賦形剤の例としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、様々な糖及び各種デンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油及びポリエチレングリコールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0097】
薬物の処方と投与の技法については、"Remington’s Pharmaceutical Sciences," Mack Publishing Co., Easton, PAの最新版(本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する)に記載されている。
【0098】
適切な投与経路としては、例えば、経口送達、直腸送達、神経外科戦略(例えば、脳内注射、線条体ない注入または脳室内注入、脊髄内、硬膜外)、経粘膜送達、腸管送達又は非経口送達が挙げられ、例えば、筋肉内注射、皮下注射及び髄内注射が挙げられると共に、髄腔内注射、直接心室内注射、心臓内注射、静脈内注射、腹腔内注射、鼻腔内注射、又は眼内注射を挙げることができる。
【0099】
或いは、例えば、患者の組織領域(例:脂肪組織)に直接医薬組成物を注射することによって、全身的ではなく局所的に医薬組成物を投与することができる。
【0100】
好ましい実施形態によると、薬剤は対象の脳には投与されない。
【0101】
本発明の医薬組成物は、当技術分野で良く知られているプロセスによって、例えば、従来の混合、溶解、造粒、糖衣錠製造、粉末化(levigating)、乳化、カプセル化、封入又は凍結乾燥プロセスによって製造することができる。
【0102】
従って、本発明に従って使用する医薬組成物は、薬学的に使用可能な調製物への有効成分の加工を容易にする、賦形剤及び助剤を含む1種以上の生理学的に許容される担体を使用して従来の方法で処方することができる。適切な製剤は選択する投与経路によって決まる。
【0103】
注射の場合、医薬組成物の有効成分は、水溶液、好ましくは、ハンクス液、リンゲル液、又は生理食塩バッファー等の生理的に適合性のあるバッファーに処方することができる。経粘膜投与の場合、浸透するバリアに適した浸透剤を処方に使用する。そのような浸透剤は当技術分野では一般に知られている。
【0104】
経口投与の場合、医薬組成物は、活性化合物を当技術分野で良く知られている薬学的に許容される担体と組み合わせて容易に処方することができる。そのような担体によって、患者が経口摂取できるように医薬組成物を錠剤、丸剤、糖衣錠、カプセル、液剤、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁剤等として処方することができる。経口使用のための薬理学的調製物は固体賦形剤を使用して作製し、必要に応じて得られた混合物を粉砕し、必要に応じて適切な助剤を添加した後、顆粒の混合物を処理して錠剤又は糖衣錠コアを得ることができる。適切な賦形剤は、特に、ラクトース、スクロース、マンニトール又はソルビトールを含む糖等の充填剤、トウモロコシデンプン、小麦デンプン、米デンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカントガム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ナトリウムカルボメチルセルロース等のセルロース調製物、及び/又はポリビニルピロリドン(PVP)等の生理学的に許容されるポリマーである。必要に応じて、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、又はアルギン酸又はその塩(例えば、アルギン酸ナトリウム)等の崩壊剤を添加することができる。
【0105】
糖衣錠コアには適切なコーティングを設ける。この目的のために、アラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、カルボポールゲル、ポリエチレングリコール、二酸化チタン、ラッカー溶液、及び適切な有機溶媒又は溶媒混合物を必要に応じて含み得る濃縮糖溶液を使用することができる。染料又は顔料を錠剤又は糖衣錠コーティングに添加して識別に用いたり、活性化合物用量の様々な組み合わせを特徴付けたりすることができる。
【0106】
経口使用可能な医薬組成物としては、ゼラチンで形成されたプッシュフィットカプセルや、ゼラチンとグリセロールやソルビトール等の可塑剤で形成されたソフトシールカプセルが挙げられる。プッシュフィットカプセルには、有効成分と混合させて、ラクトース等の充填剤、デンプン等のバインダー、タルク又はステアリン酸マグネシウム等の潤滑剤、及び必要に応じて安定剤を配合することができる。ソフトカプセルにおいては、有効成分を適切な液体(例えば、脂肪油、流動パラフィン、又は液体ポリエチレングリコール)に溶解又は懸濁させることができる。更に安定剤を添加することができる。経口投与用の全ての製剤は、選択した投与経路に適した投与形態とすべきである。
【0107】
口腔内投与の場合、組成物は従来の方法で処方された錠剤又はトローチの形態をとることができる。
【0108】
経鼻吸入による投与の場合、本発明に係る使用のための有効成分は、適切な噴霧剤(例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン又は二酸化炭素)を使用して、加圧パック又はネブライザーからエアロゾルスプレーの形態で簡便に送達する。加圧エアロゾルの場合、計量された量を送達するバルブを設けることによって投与単位を決定することができる。ディスペンサーで使用する、例えば、ゼラチン製のカプセル及び薬包は、化合物と適切な粉末基剤(例えば、ラクトースやデンプン)との粉末混合物を含むように処方することができる。
【0109】
本明細書に記載の医薬組成物は、例えば、ボーラス注射又は持続注入による非経口投与用に処方することができる。注射用製剤は単位剤形、例えば、アンプルで供給するか、又は必要に応じて防腐剤を添加した複数回投与容器で供給することができる。組成物は油性ベヒクル又は水性ベヒクル中の懸濁液、溶液又は乳濁液とすることができ、懸濁剤、安定剤及び/又は分散剤などの調合剤を含むことができる。
【0110】
非経口投与用の医薬組成物には水溶性の活性製剤の水溶液が含まれる。更に、有効成分の懸濁液は適切な油性又は水ベースの注射懸濁液として調製することができる。適切な親油性溶媒又はベヒクルとしては、ゴマ油等の脂肪油、又はオレイン酸エチル、トリグリセリド又はリポソーム等の合成脂肪酸エステルが挙げられる。水性注射懸濁液は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール又はデキストラン等の懸濁液の粘度を上昇させる物質を含むことができる。
【0111】
必要に応じて、懸濁液は、有効成分の溶解度を上昇させて高濃度溶液の調製を可能にする、適切な安定剤又は薬剤を含むこともできる。
【0112】
或いは、有効成分は、使用前に適切なベヒクル(例えば、無菌でパイロジェンフリーの水ベース溶液)で構成するための粉末形態とすることができる。
【0113】
本発明の医薬組成物は、例えば、カカオバターや他のグリセリド等の従来の坐剤基剤を使用して坐剤又は保持浣腸等の直腸組成物に処方することもできる。
【0114】
本発明の状況での使用に適した医薬組成物としては、本来の目的(例:脂肪細胞の数または大きさの減少、あるいは内臓脂肪量の減少)を達成するのに有効な量の有効成分を含む組成物が挙げられる。
【0115】
治療有効量の決定は、特に本明細書で提供される詳細な開示を考慮して、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0116】
本発明の方法で使用される任意の調製物の場合、治療有効量又は用量は先ずインビトロ及び細胞培養アッセイから推定することができる。例えば、動物モデルにおいて用量を処方して所望の濃度又は力価を得ることができる。このような情報を用いてヒトにおける有用な用量をより正確に決定することができる。
【0117】
本明細書に記載の有効成分の毒性及び治療効果は、細胞培養物又は実験動物においてin vitroでの標準的な製薬手順によって確認することができる。このようなin vitro及び細胞培養アッセイ及び動物試験から得たデータを用いて、ヒトで使用する範囲の投与量を処方することができる。投与量は使用する剤形及び利用する投与経路に応じて変わり得る。正確な処方、投与経路及び投与量は、患者の状態を考慮して個々の医師によって選択することができる(例えば、Fingl, et al., 1975, in "The Pharmacological Basis of Therapeutics", Ch. 1 p.1を参照)。
【0118】
投与量と投与間隔は個別に調整して、脂肪細胞の数または大きさを減少させる、あるいは内臓脂肪量を減少させるのに十分な有効成分の組織レベル(最小有効濃度、MEC)を得ることができる。MECは調製毎に変わるが、in vitroのデータから推定することができる。MECを得るのに必要な投与量は、個々の特性と投与経路によって決まる。検出アッセイを用いて血漿中濃度を確認することができる。
【0119】
治療される病態の重症度及び応答性に応じて、投薬は単回又は複数回の投与とすることができ、治療の過程は数日間から数週間、又は治癒がもたらされるか又は病状が抑制されるまで続く。
【0120】
当然のことながら、投与される組成物の量は、治療される対象、苦痛の重度、投与方法、処方医師の判断等に依拠する。
【0121】
本発明の組成物は、必要に応じて、FDA承認キット等のパック又はディスペンサー装置として提供することができ、有効成分を含む1種以上の単位剤形を含むことができる。パックは、例えばブリスターパックのように、金属又はプラスチック箔を含むことができる。パック又はディスペンサー装置には投与説明書を添付することができる。パック又はディスペンサーは、医薬品の製造、使用又は販売を規制する政府機関によって規定された形式の容器に関する通知が添付される場合もあり、この通知は、組成物の形態又はヒトや動物への投与に関する政府機関による承認を反映している。このような通知は、例えば、処方薬に関して米国食品医薬品局が承認した表示、又は承認された製品挿入物に関するものとすることができる。適合性のある医薬担体に処方された本発明の調製物を含む組成物については、上で更に詳述したように調製し、適切な容器に入れ、表示された病態の治療用にラベルを貼ることもできる。
【0122】
本発明者らは、対象に(TREM-2/Gpnmb発現細胞を標的とする上記薬剤と組み合わせて)追加の化学療法薬を投与することを考えた。このような薬剤は、癌の治療において、上述した薬剤と相乗的に働き得る。
【0123】
治療は任意の公知の抗癌療法と組み合わせることができる、抗癌療法としては、化学療法薬、放射性治療薬、ホルモン療法、免疫調節剤、遺伝子組み換え免疫細胞療法(例:CAR-T)および当業界ではよく知られている他の治療レジメン(例:外科的処置、細胞移植(例:造血幹細胞移植)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0124】
本発明に係る化学療法薬としては、シタラビン(シトシンアラビノシド、Ara-C、サイトザール-U(Cytosar-U))、アスピリン、スリンダク、クルクミン;以下を含むアルキル化剤: メクロレタミン、シクロホスファミド、イホスファミド、メルファランおよびクロラムブシル等のナイトロジェン・マスタード類;カルムスチン(BCNU)、ロムスチン(CCNU)およびセムスチン(メチル-CCNU)等のニトロソウレア類;トリエチレンメラミン(TEM)、トリエチレンチオホスホルアミド(チオテパ)、ヘキサメチレンメラミン(HMM、アルトレタミン)等のエチレンイミン/メチルメラミン;ブスルファン等のアルキルスルホネート類;ダカルバジン(DTIC)等のトリアジン類;葉酸類似体(メトトレキサートおよびトリメトレキサート等)、ピリミジン類似体(5-フルオロウラシル、フルオロデオキシウリジン、ゲムシタビン、シトシンアラビノシド(AraC、シタラビン)、5-アザシチジン、2、2-ジフルオロデオキシシチジン等)、プリン類似体(6-メルカプトプリン、6-チオグアニン、アザチオプリン、2’-デオキシコホルマイシン(ペントスタチン)、エリスロヒドロキシノニルアデニン(EHNA)、リン酸フルダラビン、および2-クロロデオキシアデノシン(クラドリビン、2-CdA)等)を含む代謝拮抗薬;有糸分裂阻害剤(パクリタキセル等)、ビンカアルカロイド類(ビンブラスチン(VLB)、ビンクリスチン、およびビノレルビンを含む)、タキソテール、エストラムスチン、およびリン酸エストラムスチンを含む天然産物;エトポシドおよびテニポシド等のエピポドフィロトキシン;アクチノマイシンD、ダウノマイシン(ルビドマイシン)、ドキソルビシン、ミトキサントロン、イダルビシン、ブレオマイシン、プリカマイシン(ミトラマイシン)、マイトマイシンC、およびアクチノマイシン等の抗生物質;L-アスパラギナー;ゼ等の酵素;インターフェロン(IFN)-ガンマ、腫瘍壊死因子(TNF)-アルファ、TNF-ベータおよびGM-CSF等のサイトカイン;アンギオスタチンおよびエンドスタチン等の抗血管新生因子;血管新生因子に対する可溶化型受容体(可溶性VGF/VEGF受容体を含む)等のFGFまたはVEGFの阻害剤;シスプラチンおよびカルボプラチン等の白金錯体複合体(platinum coordination complexes);ミトキサントロン等のアントラセンジオン類;ヒドロキシ尿素等の置換尿素;N-メチルヒドラジン(MIH)およびプロカルバジンを含むメチルヒドラジン誘導体;ミトタン(o,p’-DDD)およびアミノグルテチミド等の副腎皮質抑制剤;プレドニゾンおよびその等価物、デキサメタゾンおよびアミノグルテチミド等の副腎皮質ステロイド拮抗薬を含むホルモンおよび拮抗薬;カプロン酸ヒドロキシプロゲステロン、-酢酸メドロキシプロゲステロンおよび酢酸メゲストロール等のプロゲスチン;ジエチルスチルベストロールおよびエチニルエストラジオール等価物等のエストロゲン;タモキシフェン等の抗エストロゲン剤;プロピオン酸テストステロンおよびフルオキシメステロン/等価物を含むアンドロゲン;フルタミド、性腺刺激ホルモン放出ホルモン類似体およびリュープロレリン等の抗アンドロゲン薬;フルタミド等の非ステロイド性抗アンドロゲン薬;キナーゼ阻害剤、ヒストン脱アセチル化阻害剤、メチル化阻害剤、プロテアソーム阻害剤、モノクローナル抗体、酸化剤、抗酸化剤、テロメラーゼ阻害剤、BH3模倣物、ユビキチンリガーゼ阻害剤、stat阻害剤および受容体チロシンキナーゼ阻害剤(イマチニブメシル酸塩(GleevacまたはGlivacとして販売)およびエルロチニブ(EGF受容体阻害剤、現在はTarvecaとして販売)等);オセルタミビルリン酸塩、アムホテリシンB、およびパリビズマブ等の抗ウイルス薬が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0125】
いくつかの実施形態において、本発明における化学療法薬は、シタラビン(シトシンアラビノシド、Ara-C、サイトザール-U(Cytosar-U))、キザルチニブ(AC220)、ソラフェニブ(BAY 43-9006)、レスタウルチニブ(CEP-701)、ミドスタウリン(PKC412)、カルボプラチン、カルムスチン、クロラムブシル、ダカルバジン、イホスファミド、ロムスチン、メクロレタミン、プロカルバジン、ペントスタチン、(2’デオキシコホルマイシン)、エトポシド、テニポシド、トポテカン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、パクリタキセル、デキサメタゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾン、all-trans-レチノイン酸、三酸化二ヒ素、インターフェロン-α、リツキシマブ(リツキサン(登録商標))、ゲムツズマブオゾガマイシン、イマチニブメシル酸塩、サイトザール-U、メルファラン、ブスルファン(マイレラン(登録商標))、チオテパ、ブレオマイシン、白金(シスプラチン)、シクロホスファミド、シトキサン(登録商標))、ダウノルビシン、ドキソルビシン、イダルビシン、ミトキサントロン、5-アザシチジン、クラドリビン、フルダラビン、ヒドロキシ尿素、6-メルカプトプリン、メトトレキサート、6-チオグアニン、またはこれらの任意の組み合わせである。
【0126】
特定の実施形態によると、治療は、後述するような免疫チェックポイント阻害剤と組み合わされる。
【0127】
本願で使用する「免疫チェックポイント阻害」とは、癌免疫療法を意味する。当該療法は、免疫チェックポイント、即ち、免疫系の活性を促進または阻害する重要な制御因子であって、免疫系からの攻撃から自らを守るために腫瘍が使用することのできるもの、を標的とする。チェックポイント療法は阻害性チェックポイントを遮断したり、促進性機能を活性化したりすることで、免疫系の機能を復活させることができる。現在承認されているチェックポイント阻害剤は、CTLA4分子、PD-1分子、およびPD-L1分子を標的とする。PD-1は膜貫通プログラム細胞死1タンパク質(PDCD1およびCD279とも称される)であり、PD-L1(PD-1リガンド1、またはCD274)と相互作用する。
【0128】
免疫チェックポイント阻害剤の例としては、細胞傷害性T細胞抗原4(CTLA4)、プログラム細胞死1(PD-1)またはそのリガンド、リンパ球活性化遺伝子-3(LAG3)、B7ホモログ3(B7-H3)、B7ホモログ4(B7-H4)、インドールアミン-2、3-ジオキシゲナーゼ(IDO)、アデノシンA2a受容体、ニューリチン、B-およびT-リンパ球減衰器(BTLA)、キラーイムノグロブリン様受容体(KIR)、T細胞イムノグロブリンおよびムシンドメイン含有タンパク質3(TIM-3)、誘導性T細胞共刺激因子(ICOS)、CD27、CD28、CD40、CD244(2B4)、CD160、GARP、OX40、CD137(4-1BB)、CD25、VISTA、BTLA、TNFR25、CD57、CCR2、CCRS、CCR6、CD39、CD73、CD4、CD18、CD49b、CD1d、CDS、CD21、TIMI、CD19、CD20、CD23、CD24、CD38、CD93、IgM、B220(CD45R)、CD317、CD11b、Ly6G、ICAM-1、FAP、PDGFR、ポドプラニンおよびTIGITが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0129】
臨床的に承認済みの免疫チェックポイント阻害剤の例としては、イピリムマブ(抗CTLA-4)、ニボルマブ(抗PD-1)およびペムブロリズマブ(抗PD1)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0130】
他の実施形態によると、治療はブルトン型チロシンキナーゼ(Btk)阻害剤(例えば、イブルチニブ、アカラブルチニブまたはスペブルチニブ)と組み合わせられる。
【0131】
本発明者らは、Trem2およびGpnmbを共に発現するミエロイド細胞の存在に基づき、治療の種類を選択することも想定した。
従って、本発明のさらに別の態様において、対象の癌を治療するための方法であって、
(a)対象のサンプル中の、Trem2およびGpnmbを共に発現するミエロイド細胞の存在を解析する工程と、
(b)予め定めた量を超える量のミエロイド細胞が存在するとき、治療有効量の、Trem2および/またはGpnmbを標的とする薬剤で対象を処置する、あるいは予め定めた量を下回る量の当該細胞が存在するとき、治療有効量の、当該Trem2および/またはGpnmbを標的とする薬剤以外の化学療法薬で対象を処置する工程と
を含む、方法が提供される。
【0132】
遺伝子発現プロファイルの決定方法は、RNAまたはタンパク質のレベルで実施することができる。
【0133】
下記は単一細胞レベルで複数の遺伝子の発現を解析するために使用可能な方法に関するより詳細な説明である。
【0134】
RNAを解析および/または定量のための方法
ノーザンブロット分析: この方法では、RNAの混合物中の特定のRNAを検出する。RNA試料を塩基対間の水素結合を防ぐ薬剤(例えば、ホルムアルデヒド)で処理することによって変性し、全てのRNA分子が折り畳まれていない線形構造を持つようにする。次に、個々のRNA分子をゲル電気泳動によってサイズに応じて分離し、変性RNAが付着するニトロセルロース又はナイロンベースの膜に転写する。次に、膜を標識DNAプローブに曝露する。放射性同位元素又は酵素結合ヌクレオチドを使用してプローブを標識することができる。検出にはオートラジオグラフィー、比色反応又は化学発光を用いることができる。この方法では、特定のRNA分子の定量化と、電気泳動中のゲル内の移動距離を示す膜上の相対位置によるその同一性の確認との両方を行うことができる。
【0135】
RT-PCR分析: この方法では、比較的まれなRNA分子のPCR増幅を用いる。先ず、RNA分子を細胞から精製し、逆転写酵素(MMLV-RT等)とオリゴdT、ランダム六量体又は遺伝子特異的プライマー等のプライマーを使用して相補DNA(cDNA)に変換する。次に、遺伝子特異的プライマーとTaq DNAポリメラーゼを適用してPCR機でPCR増幅反応を行う。当業者は、特定のRNA分子を検出するのに適した遺伝子特異的プライマーの長さと配列、及びPCR条件(即ち、アニーリング温度、サイクル数等)を選択することができる。PCRサイクル数を調整し、増幅産物を公知の対照と比較することによって半定量的RT-PCR反応を使用できることが理解されよう。
【0136】
RNA in situ ハイブリダイゼーション染色: この方法では、DNA又はRNAプローブを細胞内に存在するRNA分子に結合する。通常、細胞を先ず顕微鏡スライドに固定して細胞構造を維持し、RNA分子が分解するのを防ぎ、次に標識プローブを含むハイブリダイゼーションバッファーに供する。ハイブリダイゼーションバッファーには、プローブの非特異的結合を回避しながらDNA又はRNAプローブとその標的mRNA分子との特異的in situハイブリダイゼーションを可能にするホルムアミド及び塩(例えば、塩化ナトリウム及びクエン酸ナトリウム)等の試薬が含まれる。当業者は、特定のプローブと細胞の種類に合わせて、ハイブリダイゼーション条件(即ち、温度、塩及びホルムアミドの濃度等)を調整することができる。ハイブリダイゼーション後、未結合のプローブを洗い流し、結合したプローブを公知の方法によって検出する。例えば、放射標識プローブを使用する場合、放射標識プローブによって発生したシグナルを明らかにする写真乳剤にスライドを供する。プローブを酵素で標識する場合は、酵素特異的基質を添加して比色反応を成立させる。プローブを蛍光標識によって標識する場合、結合したプローブを、蛍光顕微鏡を用いて明らかにする。プローブをタグ(例えば、ジゴキシゲニン、ビオチン等)によって標識する場合、公知の方法を用いて検出できるタグ特異的抗体との相互作用に続いて、結合したプローブを検出することができる。
【0137】
In situ RT-PCR染色: この方法は、Nuovo GJ, et al. [Intracellular localization of polymerase chain reaction (PCR)-amplified hepatitis C cDNA. Am J Surg Pathol. 1993, 17: 683-90]及びKomminoth P, et al. [Evaluation of methods for hepatitis C virus detection in archival liver biopsies. Comparison of histology, immunohistochemistry, in situ hybridization, reverse transcriptase polymerase chain reaction (RT-PCR) and in situ RT-PCR. Pathol Res Pract. 1994, 190: 1017-25]に記載されている。即ち、標識ヌクレオチドをPCR反応に組み込むことによって固定細胞でRT-PCR反応を行う。特定のin situ RT-PCR装置、例えば、Arcturus Engineering社(カリフォルニア州、マウンテンビュー)から入手可能なレーザーキャプチャーマイクロダイセクションPixCell I LCMシステムを使用して反応を行う。
【0138】
単一細胞トランスクリプトーム解析
この方法は、単一細胞のトランスクリプトームのシーケンシングに依拠する。一実施形態においては、高スループットな方法が使用され、種々の細胞由来のRNAが個別にタグ付けされることで、各リードの細胞識別子を保持しながらも、単一ライブラリーの形成を可能にする。この方法は様々な手法で実施可能であり、例えば、本参照をもって本願に援用される、米国特許出願公開第2010/0203597号明細書および米国特許出願公開第2018/0100201号明細書を参照。
【0139】
単一細胞トランスクリプトーム解析を実施するための具体的な方法の1つを以下にまとめた。
【0140】
細胞は、典型的には、各ウェルに1つの細胞のみが存在するようにウェルに分注する。細胞および核膜を破壊する薬剤で細胞を処理して、細胞のRNAがシーケンシング反応に参加できるようにする。
【0141】
一実施形態によると、RNAは以下のin vitro転写増幅プロトコルを用いて増幅される。
【0142】
(工程1): 3’末端にポリdT配列、5’末端にT7 RNAポリメラーゼプロモーター配列、ポリdT配列とRNAポリメラーゼプロモーター配列との間に位置するバーコード配列を含むオリゴヌクレオチドと、単一細胞のRNAとをRNAから一本鎖DNA分子の合成を可能にする条件下で接触させるが、ここでバーコード配列は細胞バーコードと分子識別子とを含む。
【0143】
本実施形態におけるポリdTオリゴヌクレオチドは、任意で、シーケンシングに必要なアダプター配列を含んでもよい、例えば、図5を参照。
【0144】
RNAポリメラーゼプロモーター配列は公知であり、例えば、下記T7 RNAポリメラーゼプロモーター配列を含む: 例、SCGATTGAGGCCGGTAATACGACTCACTATAGGGGC(配列番号57)。
【0145】
好ましいポリdT配列は少なくとも5ヌクレオチドを含む。他の実施形態によると、ポリdT配列は約5~50ヌクレオチド、より好ましくは約5~25ヌクレオチド、さらに好ましくは約12~14ヌクレオチドを含む。
【0146】
バーコード配列は、複数のサンプルを単一の反応にプールした多重反応の際に有用である。バーコード配列は、特定の分子、サンプルまたはライブラリーを同定するために使用することができる。バーコード配列は、ポリdT配列の5’末端およびT7 RNAポリメラーゼ配列の3’末端に取り付けられる。バーコード配列は、3~400ヌクレオチド、より好ましくは3~200、さらに好ましくは3~100ヌクレオチドであり得る。よって、バーコード配列は、6ヌクレオチド、7ヌクレオチド、8ヌクレオチド、9ヌクレオチドまたは10ヌクレオチドであり得る。
【0147】
一実施形態において、バーコード配列は、細胞種または細胞源(例:患者)の同定に用いられる。
【0148】
分子識別子は、方法の定量的精度を減少させる、増幅バイアスを補正するために有用である。分子識別子は、4~20塩基を含む。分子識別子の長さは、サンプルの各RNA分子が独自の配列を有する分子識別子によってカタログ化(標識)される長さである。
【0149】
プライマー(例:ポリdTプライマー)のRNAサンプルへのアニーリングに続き、RNA依存性DNAポリメラーゼを用いた逆転写によってRNA-DNAハイブリッドが合成され得る。本発明の方法および組成物における使用に適したRNA依存性DNAポリメラーゼには、逆転写酵素(RT)が含まれる。RTは当業界で広く知られている。RTの例としては、モロニーマウス白血病ウイルス(M-MLV)逆転写酵素、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)逆転写酵素、ラウス肉腫ウイルス(RSV)逆転写酵素、トリ骨髄芽球症ウイルス(AMV)逆転写酵素、ラウス関連ウイルス(RAV)逆転写酵素、および骨髄芽球症関連ウイルス(MAV)逆転写酵素あるいは他のトリ白血病・肉腫ウイルス(ASLV)逆転写酵素、ならびにこれらから誘導した修飾RTが挙げられるが、これらに限定されるものではない。例えば、米国特許第7,056,716号明細書を参照。多くの逆転写酵素、例えば、トリ骨髄芽球症ウイルス由来のもの(AMV-RT)およびモロニーマウス白血病ウイルス由来のもの(MMLV-RT)は、1以上の活性(例えば、ポリメラーゼ活性とリボヌクレアーゼ活性)を有し、二本鎖cDNA分子の形成において機能することができる。しかし、場合によってはRNase H活性が実質的に低下しているかまたは欠失しているRTを使用することが好ましい。
【0150】
RNase H活性を欠失したRTは公知であり、野性型逆転写酵素の変異であって、当該変異がRNase H活性を除去するものが挙げられる。RNase H活性の減少したRTの例は、米国特許出願公開第2010/0203597号明細書に記載されている。これらの場合、E. coliから単離されたもの等の他の原料からのRNase Hの追加は、一本鎖cDNAの形成のために使用することができる。RTの組み合わせも想定され、種々の非変異RTの組み合わせ、種々の変異RTの組み合わせ、および1以上の非変異RTと1以上の変異RTとの組み合わせが挙げられる。
【0151】
適切な酵素の例としては、Agilent社のAffinityScriptまたはInvitrogen社のSuperscript IIIが挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましくは、逆転写酵素は末端デオキシヌクレオチド転移酵素(TdT)活性を欠失したものである。
【0152】
逆転写反応に必要な追加の成分としては、dNTP類(dATP、dCTP、dGTPおよびdTTP)と、任意でジチオスレイトール(DTT)およびMnCl等の還元剤が挙げられる。
【0153】
合成されたcDNAが精製されるように、ポリdTオリゴヌクレオチドを固体支持体(例:ビーズ)に取り付けることができる。
【0154】
アニーリング温度および時間は、プライマーのテンプレートへのアニーリングに関する予想される効率と、許容されるミスマッチの程度の両方によって決定される。
【0155】
アニーリング温度は、通常、至適な効率と特異性が達成するように選択され、一般的には約50℃~約80℃の範囲内、通常は約55℃~約70℃、より通常は約60℃~約68℃である。アニーリング条件は、一般的には約15秒~約30分の期間、通常、約30秒~約5分間維持される。
【0156】
(工程2): cDNAが作製されたら、(上述したような同一の方法で)他の単一細胞から作製されたcDNAと共にプールしてもよい。
【0157】
サンプルは、任意で、過剰なプライマーを除去するためにエキソヌクレアーゼI等の酵素で処理してもよい。一本鎖DNAを精製するための他のオプションも想定され、例えば、常磁性微粒子の使用が挙げられる。これはサンプルをプールした後または前に実施してもよい。
【0158】
(工程3): 第二鎖の合成
cDNAの第二鎖の合成は、サンプルをヌクレオチド三リン酸およびDNAポリメラーゼの存在下でインキュベートすることで実施することができる。(RNA鎖の除去のための)RNAse Hといった追加の酵素およびバッファーを含む、本工程のための市販のキットが入手可能である。本反応は、任意で、DNAリガーゼの存在下で実施することもできる。第二鎖の合成に続き、公知の方法、例えば、常磁性微粒子の使用、によって産物を精製してもよい。
【0159】
(工程4): cDNAの第二鎖の合成に続き、対応するRNAポリメラーゼとインキュベートすることでRNAを合成してもよい。市販のキット、例えば、T7高収率RNAポリメラーゼIVTキット(New England Biolabs社)を使用してもよい。
【0160】
(工程5): 増幅されたRNAの断片化の前に、DNAse酵素を用いてDNAを除去してもよい。断片化の前にRNAの精製を行ってもよい。RNAの断片化は、公知の方法で実施してもよい。Ambion断片化キット等の断片化用キットが市販されている。
【0161】
(工程6): 増幅され、断片化されたRNAに対して、ここで3’末端を標識する。このために、一本鎖DNA(ssDNA)をRNAに実質的に連結するリガーゼ反応を実施する。増幅され、断片化されたRNAを標識するための他の方法は米国特許出願公開第2017/0137806号明細書に記載されており、本参照をもって本願にその内容を援用する。一本鎖DNAは未結合のリン酸基をその5’末端に有し、ヘッドトゥテール連結を防止するために、任意でブロッキング部分をその3’末端に有する。ブロッキング部分の例としては、C3スペーサーまたはビオチン部分が挙げられる。典型的には、ssDNAの長さは10~50ヌクレオチドであり、より好ましくは15~25ヌクレオチドの間である。
【0162】
(工程7): 次に、以前の工程で使用したプライマーに対して相補的なプライマーを用いて逆転写を実施する。その後、ライブラリーを完成させ、図5に示したネスト化PCR反応によって増幅してもよい。
【0163】
(工程8): 増幅
(一本鎖DNAをさらに伸長させるために)本発明のアダプターポリヌクレオチドが一本鎖DNAに連結されたら、増幅反応を実施してもよい。
【0164】
(工程9): シーケンシング
配列決定のための方法は当業者に一般的に知られている。好ましいシーケンシング方法は、次世代シーケンシング法または平行ハイスループットシーケンシング法、例えば、超並列署名シーケンス(MPSS)である。考えられるシーケンシング法の例はパイロシーケンシング、特に454パイロシーケンシング、例えば、Roche 454ゲノムシーケンサーに基づくものである。この方法は、油溶液中の水滴(ドロップレット)の中でDNAを増幅し、各ドロップレットは一本鎖プライマー被覆ビーズに取り付けられた一本鎖DNAテンプレートを含有し、後にクローンコロニーを形成する。パイロシーケンシングは、新生DNAに添加された個別のヌクレオチドの検出のための光を生成するためにルシフェラーゼを使用し、配列のリードアウトを作製するために組み合わせデータを使用する。さらに別の考えられる例はIlluminaまたはSolexaシーケンシング、例えば、可逆的染料ターミネーターに基づくIlluminaゲノム解析技術を使用するものである。DNA分子は、典型的にはスライド上のプライマーに取り付けられて増幅され、局所的なクローンコロニーが形成される。次に、1種類のヌクレオチドずつを添加し、導入されなかったヌクレオチドを洗い流す。次に、蛍光標識ヌクレオチドを画像化し、染料を化学的にDNAから除去し、次のサイクルを可能にする。さらに別の考えられる例は、ライゲーションによるシーケンシングを使用するApplied Biosystems社のSOLiD技術の使用である。この方法は、シーケンシングされる位置に基づき標識された、決まった長さのオリゴヌクレオチドの全ての可能なプールの使用に基づく。このようなオリゴヌクレオチドはアニーリング後に連結される。次に、マッチした配列のDNAリガーゼによる好ましい連結がその位置のヌクレオチドを表すシグナルをもたらす。DNAは典型的にはエマルションPCRによって増幅されるため、結果として得られる、同じDNA分子のコピーのみを含有するビーズをガラススライド上に堆積させることができ、その結果、Illuminaシーケンシングと同様の量及び長さの配列が得られる。さらなる方法は、Helicos社のHeliscope技術に基づくものであり、ここではアレイに繋いだポリTオリゴマーによって断片を捕捉する。各シーケンシングサイクルにおいて、ポリメラーゼと単一蛍光標識ヌクレオチドとを添加し、アレイを画像化する。蛍光タグを次に除去し、サイクルを繰り返す。本発明の方法に包含されるシーケンシング技術のさらなる例は、ハイブリダイゼーションによるシーケンシング、ナノポアを使用するシーケンシング、顕微鏡に基づくシーケンシング技術、微小流体サンガ-シーケンシング、またはマイクロチップに基づくシーケンシング法である。本発明はこれら技術のさらなる発展型、例えば、配列決定精度や、生物のゲノム配列の決定に必要な時間の改善等も想定している。
【0165】
一実施形態によると、シーケンシング方法はディープシーケンシングを含む。
【0166】
本願で使用するように、「ディープシーケンシング」という用語は、1回のテストで標的配列の読み取りが複数回行われるシーケンシング方法を意味する。単一のディープシーケンシングの実行は、同じ標的配列に対して実行される多重シーケンシング反応によって構成され、各反応が独立した配列のリードアウトを生成する。
【0167】
微小流体に依拠する方法は、単一細胞トランスクリプトーム解析の実施にも使用できると考えられる。
【0168】
従って、個別の細胞から高スループットで核酸を単離、溶解、バーコード化および調製するために、分子バーコード法とエマルションベースの微小流体法の組み合わせを使用してもよい。微小流体装置(例えば、ポリジメチルシロキサン中に組み立てられたもの)、サブナノリットル逆相エマルションドロップレット(sub-nanoliter reverse emulsion droplets)が挙げられる。これらドロップレットは、核酸をバーコード化捕捉ビーズと共に封入するために用いられる。例えば、各ビーズは、各液滴とその内容物が判別可能なように独自にバーコード化されている。核酸は公知のいかなる原料由来でもよく、例えば、単一細胞、細胞のペア、細胞溶解物または溶液由来でもよい。細胞はドロップレット内に封入される際に溶解される。単一細胞およびバーコード化ビーズをドロップレットにポワッソン統計に従ってロードするためには、約10,000~100,000個の細胞のバーコード化に、100,000から1000万個のこのようなビーズが必要である。この観点から、下記を含み得る、単一細胞シーケンシングライブラリーがあり得る: 1つの独自にバーコード化されたmRNA捕捉マイクロビーズを、直径75~125μmのエマルションドロップレット内の単一細胞と併合し、細胞のRNAがRNA捕捉マイクロビーズ上へハイブリダイゼーションによって捕捉されるように細胞を溶解し、細胞のmRNAを、mRNA捕捉マイクロビーズに共有結合によって連結されたcDNAの第1鎖に変換するために、エマルションドロップレットの内側または外側で逆転写を実施し、全細胞からのcDNA付着マイクロビーズのプール、そして上述した単一複合RNA-Seqライブラリーの調製とシーケンシングを実行する。この観点から、Macosko et al., 2015, "Highly Parallel Genome-wide Expression Profiling of Individual Cells Using Nanoliter Droptlets" Cell 161, 1202-1214、国際公開第2016/04047号として2016年5月17日に公開された国際出願番号PCT/US2015/049178、Klein et al., 2015, "Droptlet Barcoding for Single Cell Transcriptomics Applied to Embryonic Stem Cells" Cell 161, 1187-1201、Zheng, et al., 2016, "Haplotyping germline and cancer genomes with high-throughput linked-read sequencing" Nature Biotechnology 34, 303-311、および国際公開第2014/210353A2号が挙げられ、本参照をもって全内容を本願に援用する。
【0169】
タンパク質の発現及び/又は活性の検出方法
本発明の幾つかの実施形態の培養細胞が発現するタンパク質の発現及び/又は活性レベルは、当技術分野で公知の方法によって確認することができる。
【0170】
酵素結合免疫吸着測定法(ELISA): この方法では、マイクロタイタープレートのウェル等の表面にタンパク質基質を含む試料(例えば、固定細胞又はタンパク質性溶液)を固定する。酵素に結合した基質特異的抗体を適用して基質に結合させる。次に、抗体に結合した酵素を使用する比色反応によって抗体の存在を検出及び定量化する。この方法で一般的に使用される酵素としては、西洋ワサビペルオキシダーゼとアルカリホスファターゼが挙げられる。十分に較正され、線形応答範囲内にある場合、試料に存在する基質の量は発色量に比例する。基質標準を通常は使用して定量的精度を向上させる。
【0171】
ウェスタンブロット: この方法では、アクリルアミドゲルを用いて基質を他のタンパク質から分離した後、基質を膜(例えば、ナイロンやPVDF)に転写する。次に、基質に特異的な抗体によって基質の存在を検出した後、抗体結合試薬によって検出する。抗体結合試薬は、例えば、プロテインA又は他の抗体とすることができる。上述のように、抗体結合試薬を放射標識又は酵素結合することができる。オートラジオグラフィー、比色反応又は化学発光によって検出を行うことができる。この方法では、基質の量の定量化と、電気泳動中のアクリルアミドゲル内の移動距離を示す膜上の相対位置によるその同一性の確認との両方を行うことができる。
【0172】
ラジオイムノアッセイ(RIA): 1種のバージョンにおいて、この方法では、アガロースビーズ等の沈殿可能な担体に固定化された特定の抗体と、放射標識抗体結合タンパク質(例えば、I125で標識したプロテインA)とを用いて、所望のタンパク質(即ち、基質)を沈殿させる。沈殿したペレットのカウント数は基質の量に比例する。
【0173】
RIAの他のバージョンでは、標識した基質と標識していない抗体結合タンパク質を使用する。未知の量の基質を含む試料を様々な量で添加する。標識した基質からの沈殿カウントの減少は、添加した試料中の基質の量に比例する。
【0174】
蛍光活性化細胞分類(FACS): この方法では、基質特異的抗体によって細胞内の基質をin situで検出する。基質特異的抗体はフルオロフォアに結合する。各細胞が光線を通過する際に放出される光の波長を読み取る細胞選別機を用いて検出を行う。この方法では2種以上の抗体を同時に使用することができる。
【0175】
免疫組織化学的分析: この方法では、基質特異的抗体によって固定細胞内の基質をin situで検出する。基質特異的抗体は酵素結合してもよく、フルオロフォアに結合してもよい。顕微鏡観察と主観的評価又は自動評価によって検出を行う。酵素結合抗体を使用する場合、比色反応が必要になることがある。免疫組織化学的分析の後に、例えば、ヘマトキシリン染色又はギムザ染色を用いた細胞核の対比染色を行うことが多いことは理解されよう。
【0176】
In situ活性アッセイ: 本方法においては、活性酵素を含有する細胞に対して発色性基質をアプライし、酵素によって、基質が分解されて光学または蛍光顕微鏡で視認できる発色性の産物が生成される反応を触媒する。
【0177】
In vitro活性アッセイ: これらの方法においては、特定の酵素の活性を細胞から抽出したタンパク質混合物中で測定する。活性は、比色定量法を用いて分光光度計のウェル内で測定するか、あるいは非変性アクリルアミドゲル(即ち、活性ゲル)内で測定することができる。電気泳動に続き、基質と比色定量用試薬の入った溶液にゲルを浸漬する。結果として得られる染色されたバンドは、目的タンパク質の酵素活性に対応する。十分に校正され、応答の比例領域内であれば、サンプル中に存在する酵素の量は産生された色の量に比例する。定量精度を向上させるために、酵素標準を一般的に使用する。
【0178】
特定の実施形態によると、遺伝子発現はトランスクリプトーム解析によって決定される。
【0179】
特定の実施形態によると、遺伝子発現は上述した単一細胞トランスクリプトーム解析によって決定される。
【0180】
従って、一度特定のレベルの細胞(例:誘導されたサンプル中に5%超、10%超のミエロイド細胞)が観察されたら、対象を、これら細胞を標的とする療法を受ける候補とすることができる。この署名のミエロイド細胞の数が不十分な場合には、この療法を受ける候補とはしない。
【0181】
本明細書で使用する「約」は、±10%を指す。
【0182】
用語「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(includes)」、「含む(including)」、「有する(having)」およびその活用形は、「限定されるものではないが、含む(including but not limited to)」を意味する。
【0183】
「からなる」という用語は、「含み、限定される」ことを意味する。
【0184】
「から実質的になる」という用語は、組成物、方法または構造が追加の成分、工程および/または部分を含み得ることを意味する。但しこれは、追加の成分、工程および/または部分が、請求項に記載の組成物、方法または構造の基本的かつ新規な特性を実質的に変更しない場合に限られる。
【0185】
明確さのために別個の実施形態に関連して記載した本発明の所定の特徴はまた、1つの実施形態において、これら特徴を組み合わせて提供され得ることを理解されたい。逆に、簡潔さのために1つの実施形態に関連して記載した本発明の複数の特徴はまた、別々に、または任意の好適な部分的な組み合わせ、または適当な他の記載された実施形態に対しても提供され得る。さまざまな実施形態に関連して記載される所定の特徴は、その要素なしでは特定の実施形態が動作不能でない限り、その実施形態の必須要件であると捉えてはならない。
【0186】
上述したように、本明細書に記載され、特許請求の範囲に請求される本発明のさまざまな実施形態および態様は、以下の実施例によって実験的に支持されるものである。
【実施例
【0187】
ここで、上記の記載と共に本発明を限定することなく説明する以下の実施例に参照する。
【0188】
一般に、本明細書で使用される命名法や本発明で利用される実験手順には、分子、生化学、微生物学及び組換えDNA技術が含まれる。そのような技術は文献で十分に説明されている。例えば、"Molecular Cloning: A laboratory Manual" Sambrook et al., (1989)、"Current Protocols in Molecular Biology" Volumes I-III Ausubel, R. M., ed. (1994)、Ausubel et al., "Current Protocols in Molecular Biology", John Wiley and Sons, Baltimore, Maryland (1989)、Perbal, "A Practical Guide to Molecular Cloning", John Wiley & Sons, New York (1988)、Watson et al., "Recombinant DNA", Scientific American Books, New York、Birren et al. (eds) "Genome Analysis: A Laboratory Manual Series", Vols. 1-4, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York (1998)、米国特許第4,666,828号、第4,683,202号、第4,801,531号、第5,192,659号及び第5,272,057号に記載の方法、"Cell Biology: A Laboratory Handbook", Volumes I-III Cellis, J. E., ed. (1994)、"Culture of Animal Cells - A Manual of Basic Technique" by Freshney, Wiley-Liss, N. Y. (1994), Third Edition、"Current Protocols in Immunology" Volumes I-III Coligan J. E., ed. (1994)、Stites et al. (eds), "Basic and Clinical Immunology" (8th Edition), Appleton & Lange, Norwalk, CT (1994)、Mishell and Shiigi (eds), "Selected Methods in Cellular Immunology", W. H. Freeman and Co., New York (1980)、利用可能なイムノアッセイは特許及び科学文献に広く記載されている(例えば、米国特許第3,791,932号、第3,839,153号、第3,850,752号、第3,850,578号、第3,853,987号、第3,867,517号、第3,879,262号、第3,901,654号、第3,935,074号、第3,984,533号、第3,996,345号、第4,034,074号、第4,098,876号、第4,879,219号、第5,011,771号及び第5,281,521号参照)、"Oligonucleotide Synthesis" Gait, M. J., ed. (1984)、"Nucleic Acid ハイブリダイゼーション" Hames, B. D., and Higgins S. J., eds. (1985)、"Transcription and Translation" Hames, B. D., and Higgins S. J., eds. (1984)、"Animal Cell Culture" Freshney, R. I., ed. (1986)、"Immobilized Cells and Enzymes" IRL Press, (1986)、"A Practical Guide to Molecular Cloning" Perbal, B., (1984) および"Methods in Enzymology" Vol. 1-317, Academic Press、"PCR Protocols: A Guide To Methods And Applications", Academic Press, San Diego, CA (1990)、Marshak et al., "Strategies for Protein Purification and Characterization - A Laboratory Course Manual" CSHL Press (1996)。これら文献の全てを本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。他の一般的な参考文献はこの文書全体で提供される。そこに記載の手順は、当技術分野で良く知られていると考えられており、読者の便宜のために提供される。そこに含まれる全ての情報を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
【0189】
材料と方法
INs-seq固定および細胞内染色プロトコル:
1)細胞表面染色: In vitroおよびin vivo実験のそれぞれの細胞または組織を単一細胞懸濁液に解離し、10mlの冷たいPBSで洗浄した。細胞を、暗条件、蛍光体結合抗体(最終濃度5μg/mL)を含む氷冷洗浄バッファー(-/-ダルベッコのリン酸緩衝化生理食塩水(Biological industries社)、0.5%のBSA(MP-Biomedicals社)、2mMのEDTA(Merck社))中、氷上で30分間染色した。
【0190】
2)INs-seq固定: 表面染色細胞を10mlの洗浄バッファーで洗浄し、400gで5分間遠心分離した。細胞ペレット(1×10~5×10個の細胞)を1容量(100μl)の冷たいPBS(0.4U/μLのRNasin(登録商標)Plus RNase阻害剤(Promega社))に再懸濁した。細胞懸濁液を、暗条件、9容量(900μl)の冷たい100%メタノール(Bio-Lab社)(予め-20℃に冷却)中、氷上で10分間固定した。細胞の凝集を防止するために、細胞懸濁液を穏やかにボルテックスにかけながら、メタノールを液滴で加えた。
【0191】
固定の直後に、固定された細胞を900gで3分の条件でペレット化した。メタノール-PBS溶液を完全に除去した。残存メタノールを完全に除去するために、細胞ペレットを氷冷PBS(0.4U/μLのRNasin(登録商標)Plus RNase阻害剤)で、ペレットを壊さずに(再懸濁せずに)2回洗浄した。細胞ペレットを100μLの酵素ブロッキングバッファー(硫酸アンモニウム溶液(Thermo Fisher社)、0.05MのEDTA(Sigma社)、0.8U/μLのRNasin(登録商標)Plus RNase阻害剤を含む)、pH5.2、に再懸濁し、暗条件の氷上で10分間維持した。
【0192】
3)細胞内染色: 酵素ブロッキングバッファー溶液を洗浄するために、1mlの洗浄バッファー(0.4U/μLのRNasin(登録商標)Plus RNase阻害剤)を添加し、次に細胞を900g、3分でペレット化した。酵素ブロッキングバッファーを完全に除去するために、細胞ペレットを再懸濁することなく、氷冷の洗浄バッファー(0.4U/μLのRNasin(登録商標)Plus RNase阻害剤)で2回洗浄した。細胞ペレットを、次に100μlの細胞内染色バッファー(-/-ダルベッコリン酸緩衝化生理食塩水(Biological industries社)、0.5%のBSA(MP biochemical社)、2MのEDTA(Sigma社)と所望の細胞内抗体)と共に暗条件で20分間インキュベートした。インキュベーションの終了時に、1mlの洗浄バッファー(0.4U/μLのRNasin(登録商標)Plus RNase阻害剤)を100μlの細胞内染色バッファーの上に加え、細胞を900gで3分間ペレット化した。細胞ペレットを1mlの保存バッファーに再懸濁し、70μumのナイロンメッシュでろ過し、細胞ソーティングまで氷上で維持した。
【0193】
固定および細胞内染色方法
1)細胞表面染色: In vitroおよびin vivo実験のそれぞれの細胞または組織を単一細胞懸濁液に解離し、10mlの冷たいPBSで洗浄した。細胞を、暗条件、蛍光体結合抗体(最終濃度5μg/mL)を含む氷冷洗浄バッファー(-/-ダルベッコのリン酸緩衝化生理食塩水(Biological industries社)、0.5%のBSA(MP-Biomedicals社)、2mMのEDTA(Merck社))中、氷上で30分間染色した。
【0194】
2)固定法: メタノールベースの細胞固定プロトコル: (Alles et al. 2017)から採用。表面染色細胞を10mlの洗浄バッファーで洗浄し、400gで5分の遠心分離に付した。細胞の損失を最小限にするために、細胞は一般的なマイクロ遠心チューブで扱い、常に冷却した。細胞を100μlの氷冷PBSに再懸濁した。細胞の凝集を防止するために、細胞懸濁液を穏やかにボルテックスにかけながら、8容量(800μl)のメタノール(予め-20℃に冷却)を液滴で加えた(終濃度: PBS中に90%のメタノール)。メタノール固定細胞を氷上に最低15分間維持した。再加水のために、細胞を900gで4分間ペレット化し、PBS(0.01%のBSA、1U/μlのRNasin(登録商標)Plus RNase阻害剤)で再加水し、ペレット化、遠心分離を行い、PBS(0.01%のBSA、1U/μlのRNAse阻害剤)に再懸濁し、70μumのナイロンメッシュでろ過し、細胞ソーティングまで氷上で維持した。
【0195】
PFAベースの表面染色された細胞を10mlの洗浄バッファーで洗浄し、400gで5分の遠心分離に付した。市販のキットであるTrue-Nuclear転写因子バッファーセット(True-Nuclear Transcription Factor Buffer Set)を出版されているプロトコルに従って実行した。細胞を70μumのナイロンメッシュでろ過し、細胞ソーティングまで氷上で維持した。
【0196】
DSPベースの細胞固定プロトコル: (Gerlach et al. 2019)より採用。表面染色細胞を10mlの洗浄バッファーで洗浄し、400gで5分の遠心分離に付した。細胞を200mMのリン酸ナトリウム緩衝化生理食塩水、pH8.4(1Mのリン酸ナトリウムバッファーのストック溶液は、1MのNaHPO(塩基性リン酸ナトリウム(Sigma社))と、1MのNaHPO(二塩基性リン酸ナトリウム(Sigma社))溶液)と、150mMのNaCl(Sigma社)を含有)中で、DMSO中の2.5mMのDSP(Thermo Scientific社)および2.5mMのSPDP(Thermo Scientific社)の組み合わせで45分間固定した。100mMのTris-HCl(pH7.5)と150mMのNaClによる固定のためのクエンチング後に、細胞のブロッキングと透過処理をPBS中の0.5×のタンパク質フリーブロッキングバッファー(PFBB、Thermo Scientific社)、0.5U/μlのRNasin(登録商標)Plus RNaseおよび0.1%のTriton X100で実施した。次に、細胞を、2U/μlのRNasin(登録商標)Plus RNase阻害剤、0.1%のTritonおよび250ng/μlの所望の細胞内抗体を含有する、PBS中の0.5×PFBBで一晩染色した。染色後、細胞を緩やかに10mlのPBS中の0.1×PFBBで6回洗浄し、70μumのナイロンメッシュでろ過し、細胞ソーティングまで氷上で維持した。
【0197】
マウス
野性型(WT)マウス(C57Bl/6)をHarlan社から購入し、ワイツマン科学研究所(Weizmann Institute)の動物飼育施設で飼育した。Trem2-/-ノックアウト(KO)マウスは、Marco Colonna教授より寄贈された(Turnbull et al., 2006)。Foxp3RFP(Tg(Foxp3-RFP,-cre))マウスは、Jakub Abramsaon博士より寄贈された。マウスは餌と水を自由に与えられ、厳密な12時間明暗サイクルで飼育された。マウスは餌と水を自由に与えられ、厳密な12時間明暗サイクルで飼育された。全ての実験が施設内動物管理および使用委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)(IACUC)の承認を得た。
【0198】
骨髄由来培養細胞
雌のマウスを頚椎脱臼により殺処分とした。骨髄の単離のために、1本の脚の大腿骨および脛骨を取り出し、肉を取り除き、G21針付きの注射器を用い、C10培養培地(15%の血清、1%の×100非必須アミノ酸、10mMのHEPESバッファー、1mMのピルビン酸ナトリウム、2mMのL-グルタミン、および50μMのb-メルカプトエタノールを添加したRPMI-1640)で流した。流れ出た骨髄を70μmのセルストレイナーでろ過し、300×gで5分、冷やした遠心分離機で落とした。細胞を、各脚に対して250μlのRBC溶解溶液(Sigma社)に再懸濁し、室温で5分間インキュベートし、洗浄し、予め温めたC10培地に再懸濁した。100mmの非組織培養プレート内の20ng/mlのGM-CSFを添加した10mLのC10に2×106個の細胞を播種することで培養をセットし、標準培養条件(37℃、5%のCO)でインキュベートした(0日目)。2日目に、20ng/mlのGM-CSFを添加した10mlのC10を追加した。5日目に、培地の4分の3を20ng/mlのGM-CSFを添加した新鮮なC10培地と交換した。7日目に、10ng/mlのGM-CSFを添加した新鮮な5mlのC10培地を追加した。8日目に、培養上清中の非付着性および緩く付着した細胞を緩やかな洗浄によって回収し、新しい非組織培養プレート内の10ng/mlのGM-CSFを添加した新鮮なC10培地で再培養し、全てのBMDC実験の出発材料として使用した。
【0199】
腫瘍細胞系列
MCA-205線維肉腫細胞系列は、英国、ロンドン、UCL癌研究所(UCL cancer institute)のSergio Quezada研究グループによって寄贈されてものである。細胞は10%の熱変性FBS、1mMのピルビン酸ナトリウム、2mMのl-グルタミン、1%のペニシリン-ストレプトマイシンを添加したDMEM(41965-039)(Thermo Fisher Scientific社)で培養した。細胞は、37℃、加湿空気および5%のCO条件下の培養器内、100mmの組織培養プレートで培養した。細胞系列にマイコプラズマ感染が無いことをマイコプラズマ特異的16S rRNA遺伝子領域(EZPCR マイコプラズマキット、Biological Industries社)のプライマーを用いて確認した。
【0200】
腫瘍成長の測定
100μlのPBSに懸濁した5×10個のMCA-205細胞をマウスの右側腹部に皮内(i.d.)接種した。19日目に、カリパスを用いて腫瘍体積を測定した。腫瘍体積は、2つの直径を測定し、式: X×Y×0.52(式中、Xは短径、Yは長径である)を用いて計算することで求めた。
【0201】
腫瘍浸潤白血球の単離
腫瘍細胞接種から10日目および19日目に腫瘍を保有するマウスを殺処分とした。腫瘍を機械的(gentleMACS(商標)Cチューブ、カリフォルニア州、サンディエゴ、Miltenyi Biotec Inc.)および酵素的(RPMI-1640中の0.1mg/mlのDNase I型(Roche社)および1mg/mlのコラゲナーゼIV(Worthington社))な消化に、37℃で15分間付した。次に細胞を100μmのセルストレイナーでろ過し、氷冷のソーティングバッファーで洗浄し、遠心分離(5分、4℃、300g)に付して、蛍光体結合抗体で染色した。
【0202】
健常ドナーのヒト末梢血および末梢血PBMCの単離
3人の健常末梢血ドナーから採血した。末梢血回収サンプルは(0220-15-TLV)承認の一部である。1:1の比の密度遠心分離培地(フィコール-プラーク(GE Healthcare Life Sciences社))による滅菌密度勾配分離によって新鮮血液サンプルからPBMCを精製した。遠心分離(460g、25分)は10℃で実施し、単核細胞を注意深く吸引し、氷冷FACSバッファーで洗浄し、続いて赤血球の溶解(Sigma-Aldrich社)を4℃で5分間実施し、氷冷のFACSバッファーで洗浄した。
【0203】
マウスの腫瘍および頸部リンパ節からの制御性T細胞の単離
Foxp3RFPマウスの頸部リンパ節またはMCA-205線維肉腫腫瘍から、CD45+、TCR-β+、CD11b-およびFoxp3+(内因性Foxp3-RFPまたは抗Foxp3-APC結合抗体で)細胞を単離した。
【0204】
Mars-seq 2.0のためのフローサイトメトリー単一細胞ソーティング
染色に続き、細胞を洗浄し、冷たい洗浄バッファー(0.5%のBSAおよび2mMのEDTAを含むPBS)に再懸濁し、蛍光体結合抗マウスCD45抗体で染色し、そして70μmのストレイナーでろ過した。ソートする前に、死んでいる/死にそうな細胞を排除するために、細胞をヨウ化プロピジウムで染色した。細胞のソーティングは、死んだ細胞およびダブレットの排除後にCD45+細胞をゲーティングして、BD FACSAria Fusionフローサイトメーター(BD Biosciences社)で実施した。2mlの溶解溶液および既報(Keren-Shaul et. al 2019)のscRNA-seq用のバーコード化ポリ(T)逆転写(RT)プライマーを含む384ウェルの捕捉プレートに単一細胞をソートした。ソートの直後に、溶解溶液への細胞の浸漬を確実にするためにプレートをスピンダウンし、ドライアイス上で凍結し、さらなる処理まで80℃で保存した。細胞はBD FACSDIVAソフトウエア(BD Bioscience社)およびFlowJoソフトウエア(FlowJo,LLC)で解析した。
【0205】
マスサイトメトリー(CyToF)
単一細胞懸濁液を得るために、既に記載した方法によってマウス腫瘍サンプルを処理した。CD45マイクロビーズ(Miltenyi Biotech社)を用いて腫瘍浸潤免疫細胞を富化させた。細胞をCyTOF PBSで洗浄し、シスプラチン生存染色によって1分間染色し、2回洗浄し、細胞外抗体カクテルで室温で30分間染色した。細胞外染色後に細胞を2回洗浄し、CyTOF核抗原染色バッファー作業溶液[4×核抗原染色バッファー濃縮液(1部)を核抗原染色バッファー希釈液(3部)で希釈したもの]を用いて、10分毎にピペッティングしながら、30分間固定した。CyTOF Perm-Sバッファーを用いて固定細胞を透過性にし(permed)、細胞内抗体カクテルを用いて30分間染色した。固定細胞を2回洗浄し、4%のホルムアルデヒド(Thermo Fisher社)で固定し、4℃で一晩、取得するまで保存した。
【0206】
染色および固定された細胞を、CyTOF 3(Helios)システム(FLUIDIGM)を用いて解析した。データはCytobankを用いて処理した。
【0207】
qPCR実験用の、フローサイトメトリー・バルク細胞ソーティング:
BD FACSAria Fusionフローサイトメーター(BD Biosciences社)を用いて細胞集団をソートした。ソートの前に、全サンプルを70μmのナイロンメッシュでろ過した。サンプルは、CD11b+、(Gpnmb+/Pdpn+/Lyc6+)または(Cd11c+MHCII high/mid)であった。40μlの溶解/結合バッファー(Invitrogen社)を含む低結合エッペンドルフチューブに5,000~10,000個の細胞をソートした。ソートの直後に、溶解溶液への細胞の浸漬を確実にするためにチューブをスピンダウンし、ドライアイス上で凍結し、さらなる処理まで-80℃で保存した。
【0208】
遺伝子富化の立証のためのRT-qPCR:
溶解/結合バッファーにソートされた細胞のmRNAを12μlのDynabeads オリゴ(dT)(Invitrogen社)で捕捉し、洗浄し、85℃、10μlの10mMのTris-Cl(pH7.5)で溶出させた。mRNAの逆転写をSuperScript II(ThermoFisher)を用いて行い、種々の遺伝子プライマー(表3を参照)を用いたqPCR測定のためにcDNAを1:40に希釈した。
【0209】
【表3】
【0210】
ドロップレットベースのscRNA-seq(10x Chromium)
新鮮細胞またはINs-seq固定細胞をそれぞれ0.04%のPBS-BSAバッファーまたはINs-seq回収バッファーにFACSでソートした。細胞をトリパンブルーで染色し、光学顕微鏡を用いて計数し、製造者のガイドラインに従って、10x Chromiumマイクロ流体システムにロードした。10X Genomics Chromium単一細胞5’キットv2および10x Chromiumコントローラー(10x Genomics)を10x 単一細胞5’ v2プロトコルのガイドラインに従って使用し、scRNA-seqの5’遺伝子発現(GEX)ライブラリーを作製した。75ペアのエンドリードを用いるIllumina社のNextSeq 500を使用して、5’mRNAライブラリーをシーケンシングした。
【0211】
MARS-seq 2.0ライブラリーの調製
単一細胞ライブラリーを既報(Keren-Shaul et al. 2019)に従って調製した。まとめると、細胞捕捉プレートにソートした細胞由来のmRNAをバーコード化し、cDNAに変換し、自動パイプラインを用いてプールした。プールしたサンプルを次にT7 in vitro転写によって直線的に増幅し、得られたRNAを断片化し、そしてライゲーション、RTおよびPCRの際にサンプルにプール・バーコードとillumine配列をタグ付けすることでシーケンシング容易なライブラリー(sequencing-ready library)に変換した。ライブラリーの品質について各細胞プールを試験し、上記方法で濃度を求めた。全体として、バーコード化を以下の3つのレベルで実施した:細胞バーコードは各配列リードをその起源となる細胞へ帰属させることを可能にして、プール化を容易にし、独自の分子識別子(UMI)は増幅バイアスを防止するための各起源分子のタグ付けを可能にし、プレートのバーコードはバッチ効果の排除を可能にする。
【0212】
RT-qPCRを用いた、固定方法間のmRNA品質の比較:
9日目の培養BMDCを、(上述した)INS-seqを含む異なる固定化プロトコルのガイドラインに従って固定し、Cd11cを染色した。各プロトコルから5000個の細胞を直接40μlの溶解結合バッファー(Invitrogen社)にソートした。プロトコルに従って、mRNAを12μlのDynabeads オリゴ(dT)(Invitrogen社)で捕捉した。DSPサンプルのみについては、6mMのdNTP、150mMのTris(pH8)、90mMのDTT、0.1%のTriton、6U/μlのRNAsin Plusと25℃で45分、続く65℃で5分のインキュベーション、そして4℃まで冷却することで、mRNAを逆向きに架橋させた。全ての固定プロトコルにおいて、mRNA材料のそれぞれ半量を、逆転写するか、あるいは同じ反応で逆転写と増幅(14サイクル)を行った(RT-PCR)。cDNAまたは増幅されたcDNAを希釈(1:40)し、マウスActbプライマーを用いてqPCRで定量した。
【0213】
抑制アッセイ:
11週齢のWT雌(C57Bl/6)マウスから脾臓を単離し、単一細胞懸濁液に解離させ、70mmのセルストレイナーでろ過した。RBC溶解バッファー(Sigma社)を用いて赤血球細胞を溶解した。脾細胞をCD8 T細胞富化LSカラム(Miltenyi社)に掛けた。富化されたCD8 T細胞を、製造者のガイドラインに従って細胞増殖染料eFluor(商標)450(Invitrogen社)で標識し、無菌的にソートした腫瘍内(MCA205)のCd11b+ Gpnmb+細胞またはCd11b+ Cxc3r1+細胞またはCd11b+ Ccr2+細胞と個別に1:1の比で共培養した。T細胞を次に、キットのガイドラインに従って、CD3/CD28 Dynabeads(Thermo Fisher社)で活性化した。細胞は、組み換えIL-2(5ng/ml)と100U/mLのペニシリン/ストレプトマイシンを含むC10培地中、丸底のTC 96穴プレート(Conring社)で共培養した。対照として、活性有または活性無しのT細胞を単独で培養した。細胞を72時間後に回収し、T細胞のみをゲートするために細胞懸濁液をCD8-APC/Cy7で染色し、T細胞の増殖を細胞増殖染料eFluor(商標)450の希釈によってFACS解析で測定した。
【0214】
単一細胞RNAシーケンシング解析
単一細胞RNAデータ処理(10x)
デフォルトのパラメーターを用いたサンプルのアライメント、デマルチプレクシング、およびUMIの計数の実施にCell Ranger Singleソフトウエアスイート v.3.1.0を使用した。17サンプル(5個の新鮮サンプルと12個のINs-seqサンプル)からなる合計82,223個の単一細胞を回収し、サンプル当たりの回収した細胞数は343~9507個であった。細胞当たりの平均リード数は13,480と353,472の間でばらつき、中央UMIは561~8092/細胞であった。発現された遺伝子数が300未満の場合、低品質の細胞は破棄した。細胞は、そのミトコンドリア遺伝子発現が10%を超えたときも除いた。
【0215】
Chromium(10x)データ統合およびクラスター化解析
新鮮scRNA-seqデータおよびINs-seq scRNA-seqデータの両方の処理のためにSeurat Rパッケージ、バージョン3.0を用いた。初めに、細胞をふるいにかけて、発現された遺伝子数が300未満の細胞またはミトコンドリア遺伝子発現量が総UMIの10%超の画分を除いた。次に、ペアにした新鮮サンプルとINs-seqサンプルのデータを、NormalizeData関数を用いて正規化し、FindIntegrationAnchors関数を用いた複数のデータセットにまたがる方法効果(methods effects)の補正と統合した。UMAPアルゴリズムを用いて、Louvainクラスタリングと、次元縮小法を実施した。各クラスターのためのマーカー遺伝子をFindAllMarkers関数とウイルコクソン検定を用いて同定した。
【0216】
MARS-seq処理
scRNA-seqライブラリー(等モル濃度でプールしたもの)を中央シーケンシング深度が約40,000リード/細胞の条件で、Illumina NextSeq 500でシーケンシングした。配列をマウス(mm10)に対してマップした。デマルチプレクシングおよびフィルタリングは、以下の改変を加えて上述したように実施した:リードのマッピングはHISAT(バージョン0.1.6)を用いて実施し、複数のマップ位置を有するリードは排除した。ensembl遺伝子アノテーションデータベース(embl リリース90)を用いて、リードがエクソンにマップされたとき、それを遺伝子と相関させた。同鎖上のゲノム位置を共有する異なる遺伝子は、連結された遺伝子シンボルを有する単一遺伝子とみなした。データ中の偽の独自の分子識別子(UMI)のレベルを空のMARS-seqウェルに対する統計を用いて概算し、概算ノイズ値が5%を超える稀なケースを除いた(全実験に対する中央概算ノイズ値は2%)。
【0217】
メタ細胞解析
Rパッケージ“メタ細胞”を図4および図5のデータ解析に使用した。特定のミトコンドリア遺伝子、イムノグロブリン遺伝子、およびサポートの乏しい転写モデルに紐づけられた遺伝子(接頭辞“Rp-”でアノテートした)を取り除いた。その後、400UMI未満の細胞をふるいに掛けた。パラメーターTvm=0.3および最小総UMIカウント>50を用いて遺伝子の特徴を選択した。続いて、これら遺伝子(低カバレッジおよびダウンサンプルされたUMIマトリクスを用いた相関演算を有するフィルタリング遺伝子)と、アンカー遺伝子を含む選択した遺伝子クラスターとの間の相関マトリクスの階層的クラスタリングを実施した。K=100、750ブートストラップ反復(iteration)以外は標準パラメーターを使用した。公知の細胞型マーカー遺伝子(例:Ear2、Cx3cr1、Arg1、Trem2、Cd3d、Cd79b等)の直接的解析を適応することでメタ細胞のアノテーションを実施した。図5に示した単球およびマクロファージのサブセットは、異聴マトリックスの階層的クラスタリングおよびメタ細胞の同種群における富化遺伝子の目的変数ありの分析によって得た。
【0218】
結果
INs-seq: scRNA-seq測定および細胞内タンパク質測定のための先進技術。
細胞内シグナル伝達の状態と細胞転写プロファイルとを統合するために、細胞内タンパク質免疫検出および続くscRNA-seqのための先進技術であるINs-seqを開発した(図1)。このプロトコルでは、タンパク質を沈殿させて酵素活性を阻害し、RNAの保存と免疫細胞内染色の両方を可能にする、メタノールと硫酸アンモニア溶液をベースとする固定剤を用いて細胞を固定し、透過処理を行う(STAR法)。透過処理された細胞は、次に、蛍光体結合抗体によって細胞内標識し、細胞内蛍光シグナル強度に基づいてFACSソートし、続いてプレートベースまたは微小流体ベースの手法でscRNA-seqを行うことができる。
【0219】
Trem2は腫瘍浸潤抑制性ミエロイド細胞の2つの集団を定義する
ミエロイド細胞は、免疫の活性化および抑制の制御において重要な役割を担う。しかし、今日まで、一般的な系譜マーカー(CD11b、Gr-1)以外に、ミエロイド抑制性細胞を定義するための明確な細胞表面分子は見いだされておらず、この重要な系譜の分子的および機能的特徴付けは限られている。アルギニンを尿素とオルニチンに代謝するアルギナーゼ1(Arg1)酵素は、肝臓機能やコラーゲン生成といった多くの生理学的工程を支持するものである(Caldwell et al., 2018)。免疫コンパートメント内では、抑制性ミエロイド集団がArg1経路を活性化し、T細胞活性に必須のアミノ酸であるアルギニンを微小環境から枯渇させる(Bronte et al., 2003)。Arg1は、他の代謝タンパク質と並び、病理的条件下で蓄積される腫瘍関連ミエロイド抑制細胞の指標である(Gabrilovich, 2017、V. Kumar et al., 2016)。TME内のミエロイド抑制細胞を深く特徴づけるために、マウス腫瘍モデルからArg1発現細胞を単離してプロファイリングを行い、それらの細胞性および分子経路を定義するために、INs-seqを適応した(図2A)。
【0220】
CD45 CD11b Arg1細胞集団およびCD45 CD11b Arg1細胞集団がMCA205腫瘍保有マウスの腫瘍微小環境(TME)から単離された(図4A)。リンパ球集団、顆粒球集団およびDC集団を個別の解析のために8,280個のQC陽性細胞から取り出した。マーカー遺伝子発現に基づき、7,648個の細胞が単球およびマクロファージと定義された。メタ細胞解析によって6の別個の集団を含む77個のメタ細胞が同定された(図2B-C)。各メタ細胞について、Arg1集団に対するArg1集団の割合に基づき、Arg1富化スコアを計算した(図2B)。Arg1富化スコアとその転写レベルとの間に高い相関性を発見した(図4B-D)。TME中のミエロイドコンパートメントは以下の2つの主要なArg1陽性集団によって特徴づけられた: C1qa、Spp1、Cx3Cr1およびApoeの発現によって識別可能な腫瘍関連マクロファージ(TAM)、および数ある差示的に発現される遺伝子の中でGpnmb、Il7r、Hilpda、Vegfa、Hmox1およびClec4dを発現する制御性ミエロイド細胞集団(Mreg)(図2B-C)。4つのArg1集団は、特異的マーカーの発現によって識別することができる: Plac8、Ly6c2、Ccr2、MHC-II関連遺伝子、およびI型インターフェロンシグナル伝達に関連署名(図2B-C)。Arg1メタ細胞およびArg1メタ細胞の解析は、共制御遺伝子モジュールの豊富なセットのde novo同定をもたらした(図2C)。この解析は、TAM集団およびMreg集団の両方において有意に相関する遺伝子としてポドプラニン(Pdpn)およびミエロイド細胞に発現するトリガー受容体2(Trem2)をさらに同定した(図2Cと4C-E)。Trem2は、いくつかの病理においてミエロイド細胞内で活性化される受容体であり(Ulland & Colonna, 2018、Zheng et al., 2018)、増殖性および生存性の機能を有することが示されている。加えて、Trem2は疾患関連マクロファージ(DAM)(Keren-Shaul et al., 2017)、および脂肪代謝、食作用および免疫抑制を制御する脂肪関連マクロファージ(LAM)(Jaitin et al., 2019)における重要な因子であることが示された。これら知見を立証するために、本発明者らは、単一細胞データから同定された表面マーカーを使用したArg1タンパク質を高発現するミエロイド抑制性細胞の富化を実施し、次にそれらのArg1およびTrem2 mRNA量をqPCRで測定した。Pdpn、Cx3cr1およびGpnmbを標的とする抗体は、2つの主要なArg1high副集団の明確なマーカーを定義するため使用したが、一方、Ly6C細胞はArg1lowサブセットと高く相関した。これらデータと矛盾することなく、Pdpn集団、Gpnmb集団およびCx3cr1集団のqPCR解析は、Ly6C集団と比べて、高発現レベルのArg1およびTrem2転写産物を検出した(図2D-E)。
【0221】
これら結果をさらに立証するために、本発明者らは、同じ細胞表面マーカーによって染色された、TME内の異なるArg1およびArg1腫瘍内ミエロイド集団を表す、MCA205マウス腫瘍由来のCD45 CD11b細胞を解析した。これらは、PdpnhighサブセットおよびLy6Chighサブセットがフローサイトメトリーによって別個の集団として明確に検出可能であることを立証した。さらに、Pdpnhighミエロイド集団はCx3cr1highマーカーおよびGpnmbhighマーカーと強く相関した(図2F)。ソート手法をさらに工夫し、Arg1腫瘍内ミエロイド集団およびArg1腫瘍内ミエロイド集団を特徴づけるために、MCA205の腫瘍内免疫集団のプロファイリングにCyToFマスサイトメトリーを使用した。単一細胞データによって定義されたタンパク質の大きなセットのUMAP解析は、FACS解析で観察された結果に類似した結果を明らかにした(図2G)。CyToF結果は、転写に関する知見をさらに立証し、PdpnおよびLy6Cでマーキングされた2つの別個のミエロイド集団を定義した。単一細胞データと同様に、Pdpn集団は、Cx3cr1、Trem2、Arg1およびCD206(Mrc1)の発現と重複した(図2Gおよび4F)。まとめると、Arg1発現のINs-seq解析は、Arg1およびTrem2受容体の発現が共通する2つの別個のミエロイド集団、即ち、腫瘍関連マクロファージ集団および制御性ミエロイド細胞集団の分子的特徴を定義した。
【0222】
Trem2はT細胞機能不全および腫瘍の免疫回避を促進する
INs-seq腫瘍マップを立証し、腫瘍関連ミエロイド集団のより深い分子的特徴付けを得るために、MARS-seq解析のためにMCA205腫瘍から免疫細胞(CD45)をソートした。単一細胞RNA-seqデータから均一な細胞群を同定するためにメタ細胞アルゴリズムを使用し、115のメタ細胞のマップが得られた(図3A)。リンパ球集団、顆粒球集団およびDC集団をミエロイドマップから取り出し、個別に解析した(図5A)INs-seq腫瘍マップと同様に、Arg1発現はTrem2およびPdpnの発現と高い相関を示したが、Ly6C、Ccr2およびPlac8はArg1ミエロイド集団と同様であった(図3B)。この解析と矛盾することなく、Arg1 Trem2集団は、2つの別個のプログラム、即ち、成熟マクロファージマーカー(Cx3cr1、ApoeおよびC1qa等)によって特徴づけられるTAMと、Gpnmb、Il7rおよびいくつかの低酸素症関連遺伝子(Hilpda、Hmox1およびVegfa)を発現する単球様細胞であるMregとに細分することができる(図3B-D)。ミエロイド抑制プログラムと相関する複数のTFが見いだされ、公知の制御因子、および抑制性ミエロイド細胞と以前は関連付けられていなかったいくつかのTFが含まれていた(図3E)。本発明者らは、ラッソ正則化交差検証回帰モデル(STAR法)を訓練し、TFのみの発現に基づく高精度の異なるプログラムを予測した(図3Eおよび5B)。Maf、Cebpb、Atf3およびHif1aが潜在的Mreg制御因子として同定され、Spi1およびHif1aがTAMとして同定された。I型インターフェロンシグナル伝達で富化された単球クラスターは、Stat1、Irf9およびIrf7についてTFの富化を示した。
【0223】
Arg1細胞の制御メカニズムをより理解するために、本発明者らはさらに単一細胞データを解析し、抑制性ミエロイド細胞の蓄積を混乱させ得る潜在的な制御因子を探索した。それらの中から、本発明者らは、Trem2を約束された標的として同定した。Trem2は、Arg1ミエロイド細胞と高い相関性を示し、種々の病理においてミエロイド細胞の増殖、生存および免疫抑制を促進することが示されている(Gervois & Lambrichts, 2019、Zhong et al., 2017)。Trem2については、ヒト腫瘍のミエロイド細胞による発現、およびマウス腫瘍モデルにおける欠乏が、腫瘍成長を無効にすることも示されている(Tang et al., 2019、Zhang et al., 2018)。Trem2+/+(WT)およびTrem2-/-マウスにおけるMCA205腫瘍成長の比較は、Trem2-/-マウスにおける有意な腫瘍体積の減少を示した(図3Fおよび5C)。腫瘍内免疫制御におけるTrem2の役割をさらに研究するために、本発明者らは、MCA205保有マウス由来免疫細胞のscRNA-seqをTrem2+/+およびTrem2-/-のバックグラウンドから実施し、合計15,808個のQC陽性細胞を捕捉した。Trem2発現ミエロイド細胞に焦点を合わせ、本発明者らはTrem2-/-マウスとWTの比較から、TMEにおけるMreg集団の有意な減少を、TAM集団における増加と共に見出した(図3G)。WTおよびTrem2-/-マウスにおけるリンパ球の検査は、CD8機能不全性T細胞(PD1およびTim3を発現)の明確な減少を、NK集団および細胞毒性T細胞集団の有意な増殖と共に明らかにした(図3G)。種々の腫瘍浸潤ミエロイド集団の活性化Tリンパ球増殖に対する機能的影響を求めるために、T細胞増殖アッセイを使用した。腫瘍浸潤ミエロイド集団(Mreg、TAMおよびCcr2)を単離し、FACSでソートし、α-CD3およびα-CD28で活性化した細胞増殖染料標識脾臓単離ナイーブCD8 T細胞と共培養した。腫瘍内Ccr2単球と共培養したCD8 T細胞は抑制の兆候の無い完全な増殖挙動を示したが、Cx3cr1 TAM細胞と共培養された活性化CD8 T細胞には考慮すべき量の増殖減少が観察され、Gpnmb Mregと培養したときにより優位な抑制表現型が観察された(図3H)。総合すると、結果は、Arg1腫瘍浸潤ミエロイド細胞は2つの分子的に別個のミエロイド集団であるTAMとMregとを含有することを示している。Trem2ノックアウトマウスは、両方の集団がTrem2発現によって定義されるものの、Mreg集団のみがTrem2除去の影響を受けることを示した。重要な点は、Trem2欠乏が、Mreg、機能不全性CD8 T細胞および腫瘍成長の有意な減少につながる点にある。
【0224】
本発明をその特定の実施形態との関連で説明したが、多数の代替、修正および変種が当業者には明らかであろう。したがって、そのような代替、修正および変種の全ては、添付の特許請求の範囲の趣旨および広い範囲内に含まれることを意図するものである。
【0225】
本明細書で言及した全ての刊行物、特許および特許出願は、個々の刊行物、特許および特許出願のそれぞれについて具体的且つ個別の参照により本明細書に組み込む場合と同程度に、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。加えて、本願におけるいかなる参考文献の引用または特定は、このような参考文献が本発明の先行技術として使用できることの容認として解釈されるべきではない。また、各節の表題が使用される範囲において、必ずしも限定として解釈されるべきではない。
【0226】
更に、本願の優先権書類の全内容を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
【配列表フリーテキスト】
【0227】
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配列番号27: 相補性決定領域(CDR)
配列番号28: 相補性決定領域(CDR)
配列番号29: 相補性決定領域(CDR)
配列番号30: 相補性決定領域(CDR)
配列番号31: 相補性決定領域(CDR)
配列番号32: 相補性決定領域(CDR)
配列番号33: 相補性決定領域(CDR)
配列番号34: 相補性決定領域(CDR)
配列番号35: 相補性決定領域(CDR)
配列番号36: 相補性決定領域(CDR)
配列番号37: 相補性決定領域(CDR)
配列番号38: 相補性決定領域(CDR)
配列番号39: 相補性決定領域(CDR)
配列番号40: 相補性決定領域(CDR)
配列番号41: 相補性決定領域(CDR)
配列番号42: 相補性決定領域(CDR)
配列番号43: 相補性決定領域(CDR)
配列番号44: 相補性決定領域(CDR)
配列番号45: 相補性決定領域(CDR)
配列番号46: 相補性決定領域(CDR)
配列番号47: 相補性決定領域(CDR)
配列番号48: 相補性決定領域(CDR)
配列番号49: 例示的なヒトTREM-2アミノ酸配列
配列番号50: 例示的なGPNMB(膜貫通糖タンパク質NMB)アミノ酸配列
配列番号51: 相補性決定領域(CDR)
配列番号52: 相補性決定領域(CDR)
配列番号53: 相補性決定領域(CDR)
配列番号54: 相補性決定領域(CDR)
配列番号55: 相補性決定領域(CDR)
配列番号56: 相補性決定領域(CDR)
配列番号57: T7 RNAポリメラーゼプロモーター配列
配列番号58: 1本鎖DNAオリゴヌクレオチド
配列番号59: 1本鎖DNAオリゴヌクレオチド
配列番号60: 1本鎖DNAオリゴヌクレオチド
配列番号61: 1本鎖DNAオリゴヌクレオチド
配列番号62: 1本鎖DNAオリゴヌクレオチド
配列番号63: 1本鎖DNAオリゴヌクレオチド
配列番号64: 1本鎖DNAオリゴヌクレオチド
配列番号65: 1本鎖DNAオリゴヌクレオチド
配列番号66: 1本鎖DNAオリゴヌクレオチド
配列番号67: 1本鎖DNAオリゴヌクレオチド
配列番号68: 1本鎖DNAオリゴヌクレオチド
配列番号69: 1本鎖DNAオリゴヌクレオチド
図1
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図2-4】
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図3-4】
図3-5】
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図4-4】
図4-5】
図5-1】
図5-2】
図5-3】
【配列表】
2023512267000001.app
【国際調査報告】