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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-24
(54)【発明の名称】トライボロジーシステム
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/00 20060101AFI20230316BHJP
   C10M 173/00 20060101ALI20230316BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20230316BHJP
   C23C 16/22 20060101ALI20230316BHJP
   F16C 33/20 20060101ALI20230316BHJP
   F16C 33/06 20060101ALI20230316BHJP
   F16C 33/66 20060101ALI20230316BHJP
   C10M 147/02 20060101ALN20230316BHJP
   C10M 125/22 20060101ALN20230316BHJP
   C10M 125/02 20060101ALN20230316BHJP
   C10M 125/26 20060101ALN20230316BHJP
   C10M 125/24 20060101ALN20230316BHJP
   C10M 125/30 20060101ALN20230316BHJP
   C10M 101/02 20060101ALN20230316BHJP
   C10M 145/26 20060101ALN20230316BHJP
   C10M 147/04 20060101ALN20230316BHJP
   C10M 105/36 20060101ALN20230316BHJP
   C10M 105/38 20060101ALN20230316BHJP
   C10M 107/02 20060101ALN20230316BHJP
   C10M 117/00 20060101ALN20230316BHJP
   C10M 115/08 20060101ALN20230316BHJP
   C10M 113/10 20060101ALN20230316BHJP
   C10M 115/10 20060101ALN20230316BHJP
   C10M 113/00 20060101ALN20230316BHJP
   C10M 119/24 20060101ALN20230316BHJP
   C10M 119/22 20060101ALN20230316BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20230316BHJP
   C10N 10/12 20060101ALN20230316BHJP
   C10N 10/08 20060101ALN20230316BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20230316BHJP
   C10N 10/06 20060101ALN20230316BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20230316BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20230316BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20230316BHJP
   C10N 40/32 20060101ALN20230316BHJP
【FI】
C10M169/00
C10M173/00
C23C28/00 Z
C23C16/22
F16C33/20 Z
F16C33/06
F16C33/66 Z
C10M147/02
C10M125/22
C10M125/02
C10M125/26
C10M125/24
C10M125/30
C10M101/02
C10M145/26
C10M147/04
C10M105/36
C10M105/38
C10M107/02
C10M117/00
C10M115/08
C10M113/10
C10M115/10
C10M113/00
C10M119/24
C10M119/22
C10N50:10
C10N10:12
C10N10:08
C10N10:04
C10N10:06
C10N30:06
C10N40:02
C10N40:04
C10N40:32
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022547076
(86)(22)【出願日】2020-11-05
(85)【翻訳文提出日】2022-08-02
(86)【国際出願番号】 EP2020081127
(87)【国際公開番号】W WO2021155968
(87)【国際公開日】2021-08-12
(31)【優先権主張番号】102020102645.5
(32)【優先日】2020-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509350664
【氏名又は名称】クリューバー リュブリケーション ミュンヘン ソシエタス ヨーロピア ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Klueber Lubrication Muenchen SE & Co.KG
【住所又は居所原語表記】Geisenhausenerstrasse 7, D-81379 Muenchen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マーティン シュヴァイクコーフラー
(72)【発明者】
【氏名】バラスブラマニアム ヴェングドゥサミー
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン ゼーマイアー
(72)【発明者】
【氏名】ディアク ローデラー
【テーマコード(参考)】
3J011
3J701
4H104
4K030
4K044
【Fターム(参考)】
3J011AA06
3J011DA01
3J011JA01
3J011JA02
3J011MA22
3J011SB02
3J011SB04
3J011SB20
3J011SC01
3J701AA01
3J701CA12
3J701EA63
3J701FA31
3J701GA01
3J701GA24
3J701GA60
4H104AA04C
4H104AA19C
4H104AA20C
4H104AA21B
4H104AA21C
4H104AA24B
4H104AA24C
4H104AA26C
4H104BA02A
4H104BA07A
4H104BB14B
4H104BB33A
4H104BB34A
4H104BB41A
4H104BE13B
4H104BG06B
4H104CB14A
4H104CD02B
4H104CD04A
4H104CE13B
4H104DA02A
4H104DA06A
4H104FA02
4H104FA03
4H104FA04
4H104FA06
4H104LA03
4H104PA01
4H104PA02
4H104PA37
4H104QA18
4K030AA09
4K030BA01
4K030BA12
4K030BA16
4K030BA20
4K030BA21
4K030BA26
4K030BA27
4K030BA28
4K030BA29
4K030BA35
4K030BA38
4K030CA02
4K030LA23
4K044AA02
4K044AA06
4K044AA16
4K044BA11
4K044BA21
4K044BB03
4K044BC01
4K044CA13
4K044CA14
4K044CA21
4K044CA53
(57)【要約】
本発明は、基材とサンドイッチ潤滑部とを含むトライボロジーシステムに関するものであり、ここで、前記サンドイッチ潤滑部が、
- 固体潤滑物質を含むバインダーフリー固体潤滑物質層および
- 潤滑剤を含む潤滑剤層
を有し、ここで、前記バインダーフリー固体潤滑物質層および前記潤滑剤層が、別個の層として前記基材上に存在し、かつ固体潤滑物質の、潤滑剤に対する質量比が、多くとも0.05:1である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材とサンドイッチ潤滑部とを含むトライボロジーシステムであって、前記サンドイッチ潤滑部が、
- 固体潤滑物質を含むバインダーフリー固体潤滑物質層および
- 潤滑剤を含む潤滑剤層
を有し、
前記バインダーフリー固体潤滑物質層および前記潤滑剤層が、別個の層として前記基材上に存在し、かつ固体潤滑物質の、潤滑剤に対する質量比が、多くとも0.05:1である、前記トライボロジーシステム。
【請求項2】
前記固体潤滑物質が、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、二硫化モリブデン、グラファイト、グラフェン、窒化ホウ素(六方晶)、硫化スズ(IV)、硫化亜鉛(II)、二硫化タングステン、金属硫化物、リン酸カルシウム、ケイ酸塩および層状ケイ酸塩、タルク、雲母およびこれらの混合物からなる群から選択されているおよび/または前記固体潤滑物質層が、「化学蒸着」(CVD)または「物理蒸着」(PVD)によって得られたプラズマコーティング、例えば「ダイヤモンドライクカーボン」(DLC)層、窒化物層および/または炭化物層から選択されていることを特徴とする、請求項1に記載のトライボロジーシステム。
【請求項3】
前記固体潤滑物質が、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、金属硫化物、殊に二硫化モリブデン、硫化亜鉛(II)、硫化スズ(IV)、二硫化タングステン、グラファイト、グラフェン、窒化ホウ素(六方晶)、リン酸カルシウム、ケイ酸塩および層状ケイ酸塩、殊にタルク、雲母、およびこれらの混合物からなる群から選択されていることを特徴とする、請求項1または2に記載のトライボロジーシステム。
【請求項4】
前記固体潤滑物質の粒度分布が、0.3nm~50μm、よりいっそう好ましくは1nm~1μm、殊に1nm~0.5μmのd50値を有することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載のトライボロジーシステム。
【請求項5】
前記固体潤滑物質層の厚さが、透過分光法によって測定して、1μm以下、例えば0.3nm~1μm、好ましくは0.3nm~100nmであることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載のトライボロジーシステム。
【請求項6】
前記基材と相対的に運動することができる相手材を有することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載のトライボロジーシステム。
【請求項7】
基材および/または相手材が、互いに独立して、複合材料、アルミニウム、アルミニウム合金、鋼材料、特殊鋼材料および鋳造材料、非鉄重金属、プラスチック、繊維強化プラスチックおよび/またはポリマーを有することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載のトライボロジーシステム。
【請求項8】
前記トライボロジーシステムが、不定の動水力学的条件下で操作されるトライボロジーシステムとして、特に好ましくは転がり軸受およびすべり軸受、ギヤ、チェーン、すべり案内部およびジョイントとして、殊に自動車両のホイールベアリングとして、風力発電装置における軸受としておよび/または高いすべり量を有する軸受として、例えば回転すべり軸受として、例えばファンベアリングとして、または例えば編み機における、直動案内すべり軸受として、例えば機械製造における重荷重用の制御装置および調節装置における、アキシアル円筒ころ軸受としておよび/または風力発電装置のロータベアリングとしてまたは金属製および/または非金属製の小型ギヤとして、および/またはボールジョイントとして、特に自動車分野において使用するためのボールジョイントとして、構成されていることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載のトライボロジーシステム。
【請求項9】
前記潤滑剤が、合成油、鉱物油および/または天然油を主成分として含有する、潤滑油および/または潤滑グリースであることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載のトライボロジーシステム。
【請求項10】
前記潤滑油および/または潤滑グリースが、ポリグリコール、ペルフルオロポリエーテル、ジカルボン酸、トリカルボン酸またはテトラカルボン酸を有し、1種または混合物で存在する複数種のC~C22-アルコールとのエステル、さらにトリメチロールプロパン、ペンタエリトリトールまたはジペンタエリトリトールと脂肪族C~C22-カルボン酸とのエステル、C~C22-アルコールとのC18-ダイマー酸エステル、複合エステル、ポリアルファオレフィン(PAO)またはメタロセン触媒PAOならびにこれらの混合物からなる群から選択される、基油を含有することを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項に記載のトライボロジーシステム。
【請求項11】
前記潤滑グリースが、増ちょう剤を含有し、前記増ちょう剤は、尿素、アルミニウム複合石けん、周期表の第1および第2主族の元素の金属単純石けん、周期表の第1および第2主族の元素の金属複合石けん、ベントナイト、スルホネート、ケイ酸塩、ポリイミドまたはPTFEならびに前記の増ちょう剤の混合物からなる群から選択され、尿素の場合に、ジイソシアネート、好ましくは、単独でまたは組合せで使用することができる2,4-ジイソシアナトトルエン、2,6-ジイソシアナトトルエン、4,4′-ジイソシアナトジフェニルメタン、2,4′-ジイソシアナトジフェニルメタン、4,4′-ジイソシアナトジフェニル、4,4′-ジイソシアナト-3,3′-ジメチルジフェニル、4,4′-ジイソシアナト-3,3′-ジメチルフェニルメタンと、一般式(HN)R[式中、x=1または2であり、かつRは、炭素原子2~22個を有するアリール基、アルキル基またはアルキレン基であり、これらは単独でまたは組合せで存在している]のアミンおよび/またはジアミンとの反応生成物を意味していることを特徴とする、請求項9または10に記載のトライボロジーシステム。
【請求項12】
前記潤滑剤が、好ましくは、前記潤滑剤の全質量を基準として水20質量%を上回る含水率を有する潤滑物質から選択されている、水性潤滑物質であることを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項に記載のトライボロジーシステム。
【請求項13】
サンドイッチ潤滑部であって、
- 固体潤滑物質を含むバインダーフリー固体潤滑物質層および
- 潤滑剤を含む潤滑剤層
を含み、固体潤滑物質の、潤滑剤に対する質量比が、多くとも0.05:1であり、かつ前記バインダーフリー固体潤滑物質層および前記潤滑剤層が、別個の層として存在する、前記サンドイッチ潤滑部。
【請求項14】
トライボロジーシステムを製造する方法であって、次の工程:
- 基材を用意する工程、
- 固体潤滑物質を含むバインダーフリー固体潤滑物質層を、前記基材上へ塗布する工程、
- 潤滑剤を含む潤滑剤層を、前記バインダーフリー固体潤滑物質を設けた基材上へ塗布する工程、ここで、バインダーフリー固体潤滑物質の、潤滑剤に対する質量比が、多くとも0.05:1であり、前記バインダーフリー固体潤滑物質層および前記潤滑剤層が、別個の層として前記基材上に存在する
を含む、前記方法。
【請求項15】
- 固体潤滑物質を含むバインダーフリー固体潤滑物質層および
- 潤滑剤を含む潤滑剤層
を含み、固体潤滑物質の、潤滑剤に対する質量比が、多くとも0.05:1であり、かつ前記バインダーフリー固体潤滑物質層および前記潤滑剤層が、別個の層として前記基材上に存在する、サンドイッチ潤滑部の、
金属材料および/または非金属材料を有するトライボロジーシステム、例えば転がり軸受およびすべり軸受、ギヤ、チェーン、すべり案内部およびジョイント、殊に自動車両のホイールベアリング、風力発電装置における軸受および/または高いすべり量を有する軸受、例えば回転すべり軸受、例えばファンベアリング、または例えば編み機における直動案内すべり軸受、例えば機械製造における重荷重用の制御装置および調節装置における、アキシアル円筒ころ軸受および/または風力発電装置におけるロータベアリングまたは金属製および/または非金属製の小型ギヤ、および/またはボールジョイント、特に自動車分野において使用するためのボールジョイントを潤滑するための使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バインダーフリー固体潤滑物質層を含有するサンドイッチ潤滑部を含むトライボロジーシステムならびにその製造に関する。さらに、本発明は、前記サンドイッチ潤滑部自体および金属材料を潤滑するためのその使用に関する。
【0002】
トライボロジーシステム、例えば転がり軸受およびすべり軸受、ギヤ、チェーン、すべり案内部およびジョイントの潤滑には、通例、潤滑油および潤滑グリースが潤滑剤として使用される。殊に高いすべり量を有する用途において、バインダーフリー固体潤滑物質層およびプラズマ層も使用される。固体潤滑物質層にとって、重負荷が加えられる機械要素の場合にも、差し支えなくかつ整備不要な永久潤滑が可能であることが有利である。しかしながら、それらの寿命が原則として短いことは不利である。
【0003】
潤滑油または潤滑グリースを用いた潤滑の際に、トライボロジーシステムは、とりわけ、低速領域においてならびに低温で、それらの弱みを有する。しかし高速でも、前記の粘稠な潤滑物質がトライボ接触から一時的に押しのけられるかまたは振り落とされることにより、高すぎる摩擦および摩耗をまねく潤滑不足の状態が生じることがある。そのため、これは殊に、新しく使用する際に層がますます耐摩耗性になることよって寿命がますます長くなることが期待されるので、重要である。
【0004】
米国特許出願公開第2015/367381号明細書(US 2015367381 (A1))および米国特許出願公開第2018/223208号明細書(US 2018223208 (A1))には、摩耗面上のグラフェンおよびナノ粒子を含めた、超潤滑領域における摩擦係数を有する摩耗面ならびに水素にさらされているグラフェンを含有し、長い寿命を有する摩耗しにくい表面が記載されている。グラフェンおよびナノ粒子の塗布は、好ましくはその溶液から行われる(「溶液プロセスによるグラフェン」SPG)。前記の方法により、バインダーフリー固体層を得ることができる。しかしながら、上記で説明されたように、前記固体層の寿命が短いことが不利である。さらにまた、この固体層は、高速で、とりわけ動圧潤滑の領域において、所望の摩擦減少および摩耗低下をもたらさない。
【0005】
本発明の課題は、長い寿命と、高い潤滑作用、殊に高速での高い摩擦減少および摩耗低下とを兼ね備える潤滑部を有するトライボロジーシステムを提供することにある。
【0006】
この課題は、基材とサンドイッチ潤滑部とを含むトライボロジーシステムにより解決され、ここで、前記サンドイッチ潤滑部が、
- 固体潤滑物質を含むバインダーフリー固体潤滑物質層および
- 潤滑剤を含む潤滑剤層
を有し、
前記バインダーフリー固体潤滑物質層および前記潤滑剤層が、別個の層として前記基材上に存在し、かつ固体潤滑物質の、潤滑剤に対する質量比が、多くとも0.05:1である。
【0007】
驚くべきことに、特定の比におけるバインダーフリー固体潤滑物質層と潤滑剤層との本発明による組合せを用いて、潤滑作用が著しく改善され、かつ殊に摩耗がそれぞれの単独成分を用いるよりも少ないサンドイッチ潤滑部を得ることができることが見出された。これにより、トライボロジーシステムの寿命を著しく高めることができる。
【0008】
バインダーフリー固体潤滑物質が、潤滑剤と組み合わせることができるほど十分に安定であることは予測され得なかったので、この効果は驚くべきことであった。むしろ、前記固体潤滑物質が、前記潤滑剤により前記基材からはがれることが予測され得た。
【0009】
機構に縛られるものではないが、0.05超:1の固体潤滑物質の、潤滑剤に対するより高い質量比では、前記固体潤滑物質は、複数の層の形で前記基材の表面上に存在し、それにより、前記固体潤滑物質層間の構造上の障害となり、かつ前記表面上での前記固体潤滑物質の付着が損なわれることが考えられる。それにより、前記潤滑剤はより容易に、前記固体潤滑物質層中へ浸透し、かつはがれを引き起こすことができる。
【0010】
用語「バインダーフリー」とは、本発明によれば、前記固体潤滑物質層において、無バインダーである、殊に有機ポリマー、例えばポリアミドイミド(PAI)、ポリウレタン(PU)、エポキシド、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂、メラミン樹脂、アクリレート樹脂、ポリイミド(PI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルスルホン(PES)、イソシアネート、ポリオール、シリコーン樹脂またはそれらの混合物が含まれていないと理解すべきである。用語「無バインダー」とは、バインダーが多くとも痕跡量で、すなわち、前記固体潤滑物質層の質量を基準として20質量%未満の割合で含まれていると理解すべきである。
【0011】
バインダーフリー固体潤滑物質層の使用にとって、結合型固体被膜潤滑剤、すなわちバインダー含有層の場合に通常の焼付けプロセスを放棄することができることが有利である。これにより、前記基材の熱負荷を前記サンドイッチ潤滑部を塗布する際に回避することができる。そのうえ、バインダーの放棄により、材料節約が可能である。
【0012】
さらにまた、バインダーフリー固体潤滑物質層と潤滑剤層との本発明による組合せは、前記固体潤滑物質が、潤滑剤と潤滑されうる表面との間のバリアとして機能することができ、その際に材料不適合性および前記潤滑剤による材料損傷、例えば「ホワイトエッチングクラック」(WEC)を減少させることができるという利点を提供する。さらにまた、そのバリア作用により、改善された腐食防止および摩耗防止も達成することができる。このことは殊に、固体潤滑物質としてのグラフェンの使用の際に当てはまる。なぜなら、この固体潤滑物質は特に高い密閉性を有するからである。
【0013】
本発明によれば、前記固体潤滑物質層は、固体潤滑物質を含有する。好ましい固体潤滑物質は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、二硫化モリブデン、グラファイト、グラフェン、窒化ホウ素(六方晶)、硫化スズ(IV)、硫化亜鉛(II)、二硫化タングステン、金属硫化物、リン酸カルシウム、ケイ酸塩および層状ケイ酸塩、タルク、雲母およびこれらの混合物からなる群から選択されている。さらに好ましくは、前記固体潤滑物質層は、「化学蒸着」(CVD)または「物理蒸着」(PVD)によって得られるプラズマコーティング、例えば「ダイヤモンドライクカーボン」(DLC)層、窒化物層および/または炭化物層から選択されている。
【0014】
特に好ましい固体潤滑物質は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、金属硫化物、殊に二硫化モリブデン、硫化亜鉛(II)、硫化スズ(IV)、二硫化タングステン、グラファイト、グラフェン、窒化ホウ素(六方晶)、リン酸カルシウム、ケイ酸塩および層状ケイ酸塩、殊にタルク、雲母、およびこれらの混合物からなる群から選択されている。
【0015】
極めて特に好ましい固体潤滑物質は、グラファイト、グラフェン、窒化ホウ素(六方晶)、二硫化タングステン、リン酸カルシウム、ケイ酸塩および層状ケイ酸塩、殊にタルク、雲母、およびこれらの混合物からなる群から選択されている。
【0016】
前記固体潤滑物質は、好ましくは、0.3nm~50μm、よりいっそう好ましくは1nm~1μm、殊に1nm~0.5μmのd50値を有する粒度分布を有する。
【0017】
前記粒度の測定のためには、その粒度に応じて、
- ISO 13320:2009-10に従うレーザー回折(100nm超)または
- ISO 22412:2017(発行日2017-02)に従う動的光散乱(1nm~100nm)または
- TEM(Metrologia. 2013 Nov; 50(6): 663-678, Particle size distributions by transmission electron microscopy: an interlaboratory comparison case study, Stephen B Rice, Christopher Chan, Scott C Brown, Peter Eschbach, Li Han, David S Ensor, Aleksandr B Stefaniak, John Bonevich, Andras E Vladar, Angela R Hight Walker, Jiwen Zheng, Catherine Starnes, Arnold Stromberg, Jia Ye, and Eric A Grulke)(1nm未満)
が使用される。
【0018】
前記固体潤滑物質は、公知の方法により、例えば噴霧、浸漬、遠心分離、バーニシング、タンブリング、印刷またはプラズマコーティングにより、前記基材上へ塗布することができる。
【0019】
本発明によれば、前記の固体潤滑物質の、潤滑剤に対する質量比は、多くとも0.05:1、例えば0.000001:1~0.05:1、好ましくは多くとも0.02:1、例えば0.000001:1~0.02:1である。同様に、0.0001:1~0.02:1または0.0001:1~0.05:1の固体潤滑物質の、潤滑剤に対する質量比が考えられる。より高い比では、はがれ作用が起こり、その結果として摩擦が高められ、かつ寿命が低下されうるので、多くとも0.05:1の固体潤滑物質の、潤滑剤に対する質量比が有利であることが見出された。
【0020】
好ましくは、前記固体潤滑物質層の厚さは、透過分光法により測定して、1μm以下、例えば0.3nm~1μm、好ましくは0.3nm~100nmである。
【0021】
本発明によれば、前記固体潤滑物質層および前記潤滑剤層は、別個の層として前記基材上に存在する。本発明によれば好ましくは、その際に、前記潤滑剤層は、前記固体潤滑物質層の、前記基材とは反対側の面上に配置されている。これは、例えば、前記固体潤滑物質層および前記潤滑剤層が連続して前記基材上に塗布され、ここで、好ましくは最初に前記固体潤滑物質層、引き続き前記潤滑剤層が塗布されることによって達成できる。これにとっては、安定で密着かつ緻密な固体潤滑物質層を前記基材上に形成できることが有利である。したがって、この固体潤滑物質層は、前記トライボロジーシステムから熱影響(マランゴニ効果)または機械的な影響(遠心力に基づく振り落とし)に基づいて移動することがない。さらにまた、前記潤滑剤中の分散助剤を放棄することができる。また、固体潤滑物質層は、異なる潤滑剤と組み合わせることができ、こうして多様な要求プロファイルを満たすことができる。
【0022】
本発明によるトライボロジーシステムは、基材を含有する。この基材は、金属材料ならびに非金属材料、殊に複合材料、アルミニウム、アルミニウム合金、鋼材料、特殊鋼材料および鋳造材料、非鉄重金属、プラスチック、繊維強化プラスチックおよび/またはポリマーを含有していてよい。前記基材は、通常の前処理、例えばサンドブラスト、リン酸塩処理、平滑化、粗面処理にかけることができる。
【0023】
さらにまた、本発明によるトライボロジーシステムは典型的には、前記基材と相対的に運動することができる相手材を含有する。好ましくは、前記相手材は、複合材料、アルミニウム、アルミニウム合金、鋼材料、特殊鋼材料および鋳造材料、非鉄重金属、プラスチック、繊維強化プラスチック、ポリマーおよび/またはそれらの混合物を含有する。さらに、前記相手材に同様にバインダーフリー固体潤滑物質層が設けられていることが考えられる。
【0024】
本発明によれば、前記潤滑剤層は、潤滑剤を含む。この潤滑剤は、好ましくは、潤滑油、潤滑グリースおよび水性潤滑物質ならびにそれらの混合物から選択される。
【0025】
潤滑油および/または潤滑グリースが潤滑剤として使用される場合には、この潤滑剤は、好ましくは合成油、鉱物油および/または天然油を主成分として含有する(50質量%超)。これらの油は、単独でまたは組合せで、前記使用に応じて適用することができる。
【0026】
合成油は、殊に、脂肪族または芳香族のジカルボン酸、トリカルボン酸またはテトラカルボン酸と1種または混合物で存在する複数種のC~C22-アルコールとのエステル、さらにトリメチロールプロパン、ペンタエリトリトールまたはジペンタエリトリトールと脂肪族C~C22-カルボン酸とのエステル、C~C22-アルコールとのC18-ダイマー酸エステル、ならびに複合エステルを含む。複合エステルとは、本発明によれば、ポリオールと、ジカルボン酸、ならびに場合によりモノカルボン酸との反応により製造されるポリエステルであると理解される。ポリアルファオレフィン(PAO)またはメタロセン触媒PAO、アルキル化ナフタレン、アルキル化ベンゼン、ポリグリコール、シリコーン油、ペルフルオロポリエーテル、ならびにポリフェニルエーテルまたはアルキル化ジフェニルエーテルまたはトリフェニルエーテルも、本発明により使用できる合成油である。
【0027】
該鉱油は、好ましくは、パラフィン基、ナフテン基および芳香族の水素化分解油ならびにガス・ツー・リキッド(GTL)液から選択される。GTLは、天然ガスから液体炭化水素を製造する方法を記載する。好ましい天然油は、動物/植物由来のトリグリセリドであって、公知の方法、例えば水素化により精製されたものである。特に好ましいトリグリセリド油は、高いオレイン酸分を有するトリグリセリド油である。本明細書において使用される、高いオレイン酸含有率を有する典型的な植物油は、サフラワー油、とうもろこし油、なたね油、ひまわり油、大豆油、あまに油、落花生油、レスクエラ油、メドウフォーム油およびパーム油である。
【0028】
特に好ましくは、前記潤滑油および/または潤滑グリースは、ポリグリコール、ペルフルオロポリエーテル、ジカルボン酸、トリカルボン酸またはテトラカルボン酸を有し、1種または混合物で存在する複数種のC~C22-アルコールとのエステル、さらにトリメチロールプロパン、ペンタエリトリトールまたはジペンタエリトリトールと脂肪族C~C22-カルボン酸とのエステル、C~C22-アルコールとのC18-ダイマー酸エステル、複合エステル、ポリアルファオレフィン(PAO)またはメタロセン触媒PAOならびにこれらの混合物からなる群から選択される基油を含有する。
【0029】
水性潤滑物質は、好ましくは、前記潤滑剤の全質量を基準として、水20質量%を上回る含水率を有する潤滑物質から選択される。好ましくは、前記水性潤滑物質は、透明な液体であり、すなわち水中油型または油中水型のエマルションではない。水性潤滑物質は、粘度の調節のために、好ましくはポリアクリレート、ポリ(メタ)アクリレート、ポリビニルピロリドン、セルロース誘導体、例えばセルロースとスルホン酸との反応生成物またはアルキル化セルロース、または糖誘導体、例えば糖とカルボン酸との反応生成物を含有する。特に好ましくは、前記水性潤滑物質は、好ましくは200~35000g/molのモル質量を有する、ポリアルキレングリコールを含有する。前記ポリアルキレングリコールのモノマー単位は、エチレンオキシドおよび/またはプロピレンオキシドから選択されていてよく、これらは、ブロックポリマーとしてまたは統計的に分布されたポリマーとして存在する。好ましくは、水と、40個までの炭素原子を有する一官能性、二官能性および三官能性のアルコールとから選択される開始剤を用いて製造されるポリアルキレングリコールである。さらに好ましくは、前記水性潤滑物質は、C~C40-ポリオキシエチレン単位および/またはポリオキシプロピレン単位の鎖長を有するカルボン酸エステルを含有する。
【0030】
さらにまた、前記潤滑剤は、好ましくは腐食に対する通常の添加剤、例えば金属塩、カルボン酸、エステル、窒素含有化合物および複素環式化合物を含有する。酸化に対して、好ましくはラジカル捕捉剤、例えば芳香族アミンまたは置換フェノールが使用される。金属の影響に対する保護のために、好ましくはキレート形成性化合物が使用される。金属表面上の摩耗防止剤として、好ましくはリンおよび硫黄を含有する化合物、例えば亜鉛ジアルキルジチオホスフェートが使用される。摩擦係数低下のために、好ましくはグリセリンモノエステルまたはグリセリンジエステル、または固体の形でポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、グラファイト、金属酸化物、窒化ホウ素、二硫化モリブデンおよびホスフェートが使用される。粘度向上剤として、好ましくはポリイソブチレンまたはポリ(メタ)アクリレートが使用される。イオン液体も、例えば前記潤滑剤の電気伝導性の増大のためまたは前記潤滑剤の寿命の増大のために、使用することができる。
【0031】
潤滑グリースが潤滑剤として使用される場合には、これは、好ましくは増ちょう剤を含有する。好ましい増ちょう剤は、尿素、アルミニウム複合石けん、周期表の第1および第2主族の元素の金属単純石けん、周期表の第1および第2主族の元素の金属複合石けん、ベントナイト、スルホネート、ケイ酸塩、ポリイミドまたはPTFEならびに前記の増ちょう剤の混合物から選択されている。尿素の場合に、ジイソシアネート、好ましくは、単独でまたは組合せで使用することができる2,4-ジイソシアナトトルエン、2,6-ジイソシアナトトルエン、4,4′-ジイソシアナトジフェニルメタン、2,4′-ジイソシアナトジフェニルメタン、4,4′-ジイソシアナトジフェニル、4,4′-ジイソシアナト-3,3′-ジメチルジフェニル、4,4′-ジイソシアナト-3,3′-ジメチルフェニルメタンと、一般式(HN)R[式中、x=1または2であり、かつRは、炭素原子2~22個を有するアリール基、アルキル基またはアルキレン基であり、これらは単独でまたは組合せで存在している]のアミンおよび/またはジアミンとの反応生成物を意味している。
【0032】
本発明の好ましい実施態様において、前記トライボロジーシステムは、不定の動水力学的条件下で操作されるトライボロジーシステムとして、特に好ましくは転がり軸受およびすべり軸受、ギヤ、チェーン、すべり案内部およびジョイントとして、殊に自動車両のホイールベアリングとして、風力発電装置における軸受としておよび/または高いすべり量を有する軸受として、例えば回転すべり軸受として、例えばファンベアリングとして、または例えば編み機における、直動案内すべり軸受として、アキシアル円筒ころ軸受として、例えば機械製造における重荷重用の制御装置および調節装置においておよび/または風力発電装置のロータベアリングとしてまたは金属製および/または非金属製の小型ギヤとして、および/またはボールジョイントとして、特に自動車分野において使用するためのボールジョイントとして、構成されている。
【0033】
本発明のさらなる対象は、トライボロジーシステムを製造する方法であって、次の工程:
1. 基材を用意する工程、
2. 固体潤滑物質を含むバインダーフリー固体潤滑物質層を、前記基材上に塗布する工程、
3. 潤滑剤を含む潤滑剤層を、前記バインダーフリー固体潤滑物質を設けた基材上へ塗布する工程、ここで、バインダーフリー固体潤滑物質の、潤滑剤に対する質量比が、多くとも0.05:1であり、前記バインダーフリー固体潤滑物質層および前記潤滑剤層が、別個の層として前記基材上に存在する
を含む。
【0034】
本発明による方法の特徴および殊にその好ましい実施態様には、本発明によるトライボロジーシステムのために挙げられたものが相応して当てはまる。
【0035】
本発明のさらなる対象は、
- 固体潤滑物質を含むバインダーフリー固体潤滑物質層および
- 潤滑剤を含む潤滑剤層
を含むサンドイッチ潤滑部であって、前記の固体潤滑物質の、潤滑剤に対する質量比が、多くとも0.05:1であり、かつ前記バインダーフリー固体潤滑物質層および前記潤滑剤層が、別個の層として存在する。
【0036】
本発明のさらなる対象は、
- 固体潤滑物質を含むバインダーフリー固体潤滑物質層および
- 潤滑剤を含む潤滑剤層
を含み、ここで、前記の固体潤滑物質の、潤滑剤に対する質量比が、多くとも0.05:1であり、かつ前記バインダーフリー固体潤滑物質層および前記潤滑剤層が、別個の層として前記基材上に存在する、サンドイッチ潤滑部の、
金属および/または非金属の材料を有するトライボロジーシステム、例えば転がり軸受およびすべり軸受、ギヤ、チェーン、すべり案内部およびジョイント、殊に自動車両のホイールベアリング、風力発電装置における軸受および/または高いすべり量を有する軸受、例えば回転すべり軸受、例えばファンベアリング、または例えば編み機における、直動案内すべり軸受、例えば機械製造における重荷重用の制御装置および調節装置における、アキシアル円筒ころ軸受、および/または風力発電装置におけるロータベアリングまたは金属製および/または非金属製の小型ギヤ、および/またはボールジョイント、特に自動車分野において使用するためのボールジョイントを潤滑するための使用である。
【0037】
好ましい実施態様において、前記トライボロジーシステムは、金属および/または非金属の材料、好ましくは複合材料、アルミニウム、アルミニウム合金、鋼材料、特殊鋼材料および鋳造材料、非鉄重金属、プラスチック、繊維強化プラスチックおよび/またはポリマーを含有する表面を有する。
【0038】
本発明によるサンドイッチ潤滑部の特徴および殊にその好ましい実施態様には、本発明によるトライボロジーシステムのために挙げられたものが相応して当てはまる。
【国際調査報告】