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特表2023-512443生合成乳生産のための生細胞構築物及び関連製品及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-27
(54)【発明の名称】生合成乳生産のための生細胞構築物及び関連製品及び方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20230317BHJP
   A23C 9/00 20060101ALI20230317BHJP
【FI】
C12N5/071
A23C9/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022542487
(86)(22)【出願日】2021-01-08
(85)【翻訳文提出日】2022-09-05
(86)【国際出願番号】 US2021012676
(87)【国際公開番号】W WO2021142241
(87)【国際公開日】2021-07-15
(31)【優先権主張番号】62/958,407
(32)【優先日】2020-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522276541
【氏名又は名称】ギリアーノ シャイン
(71)【出願人】
【識別番号】522276552
【氏名又は名称】ストリックランド レイラ
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】ギリアーノ シャイン
(72)【発明者】
【氏名】ストリックランド レイラ
【テーマコード(参考)】
4B001
4B065
【Fターム(参考)】
4B001BC04
4B001BC07
4B001BC14
4B001BC99
4B001EC06
4B001EC99
4B065AA90X
4B065AC14
4B065CA41
(57)【要約】
本発明は、培養で乳を生成するための生細胞構築物及び生細胞構築物によって生成される乳生成物を含む組成物、及び培養で乳を生成するための生細胞構築物を作製方法、培養乳を生成する方法、及び生細胞構築物に用いる改変初代乳腺上皮細胞又は不死化乳腺上皮細胞を産生する方法、及び本発明の他の方法に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生細胞構築物であって、
上面及び底面を有する足場と、
(a)生きた初代乳腺上皮細胞、(b)生きた初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞の混合集団、及び/又は(c)前記足場の前記上面上の生きた不死化乳腺上皮細胞の連続単層であって、
(a)生きた初代乳腺上皮細胞、(b)生きた初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞の混合集団、及び/又は(c)頂端面及び基底面を有する不死化乳腺上皮細胞の前記連続単層(例えば、細胞は、極性化した連続細胞単層を形成する)と、を含み、
前記生細胞構築物は、前記(a)生きた初代乳腺上皮細胞、前記(b)生きた初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞の混合集団、及び/又は(c)前記不死化乳腺上皮細胞の前記連続単層の前記頂端面の上方であり、かつ、それに隣接する頂端区画と、前記足場の前記底面の下方であり、かつそれに隣接する基底区画と、を含むことを特徴とする生細胞構築物。
【請求項2】
前記初代乳腺上皮細胞又は前記不死化乳腺上皮細胞によって生成される乳は、前記細胞の前記頂端面を通して前記頂端区画に排出されることを特徴とする請求項1に記載の生細胞構築物。
【請求項3】
前記基底区画は、基底培養培地を含み、前記基底培養培地は、生きた前記初代乳腺上皮細胞、生きた前記初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞の前記混合集団、及び/又は前記不死化乳腺上皮細胞の基底面と接触していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の生細胞構築物。
【請求項4】
前記基底培養培地は、炭素源、化学緩衝系、1つ以上の必須アミノ酸、1つ以上のビタミン及び/又は補因子、及び1つ以上の無機塩を含むことを特徴とする請求項3に記載の生細胞構築物。
【請求項5】
前記基底培養培地は、ラクトジェニック培養培地であり、プロラクチンをさらに含むことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の生細胞構築物。
【請求項6】
前記足場は、2次元表面(例えば、トランスウェルフィルタ)、3次元微細パターン化表面(例えば、微細構造バイオリアクター、脱細胞化組織)として、又は束に組み立てることができる円筒形構造(例えば、中空糸型バイオリアクター)として作製されることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の生細胞構築物。
【請求項7】
前記足場の前記上面は、1つ以上の細胞外マトリックスタンパク質でコーティングされることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の生細胞構築物。
【請求項8】
1つ以上の前記細胞外マトリックスタンパク質は、コラーゲン、ラミニン、エンタクチン、テネイシン、及び/又はフィブロネクチンであることを特徴とする請求項6に記載の生細胞構築物。
【請求項9】
前記足場は、天然ポリマー、生体適合性合成ポリマー、合成ペプチド、及び/又はそれらの任意の組み合わせに由来する混合物を含むことを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載の生細胞構築物。
【請求項10】
前記天然ポリマーは、コラーゲン、キトサン、セルロース、アガロース、アルギン酸塩、ゼラチン、エラスチン、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸、及び/又はヒアルロン酸であることを特徴とする請求項9に記載の生細胞構築物。
【請求項11】
前記生体適合性合成ポリマーは、ポリスルホン、ポリビニリデンフルオリド、ポリエチレンコ-酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、アクリレートポリマー、及び/又はポリエチレングリコールであり得ることを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の生細胞構築物。
【請求項12】
前記足場は多孔質であることを特徴とする請求項1~9のいずれか一項に記載の生細胞構築物。
【請求項13】
生きた前記初代乳腺上皮細胞、生きた前記初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞の前記混合集団、及び/又は前記不死化乳腺上皮細胞は、哺乳動物に由来することを特徴とする請求項1~12のいずれか一項に記載の生細胞構築物。
【請求項14】
前記哺乳動物は、霊長類(例えば、チンパンジー、オランウータン、ゴリラ、サル(例えば、旧世界、新世界)、キツネザル、ヒト)、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、ラット、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、オックス、ブタ、シカ、ジャコウジカ、ウシ科の動物、クジラ、イルカ、カバ、ゾウ、サイ、キリン、シマウマ、ライオン、チータ、トラ、パンダ、レッサーパンダ、及びカワウソであることを特徴とする請求項1から13のいずれか一項に記載の生細胞構築物。
【請求項15】
前記哺乳動物は、絶滅危惧種に由来することを特徴とする請求項1~13のいずれか一項に記載の生細胞構築物。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか一項に記載の生細胞構築物を培養し、それによって培養物中で乳を生成することを含む、培養乳を生成する方法。
【請求項17】
培養乳を生成するための生細胞構築物を作製する方法であって、
(a)乳腺組織からの乳腺外植片からの初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び/又は乳腺前駆細胞を単離し、単離された乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞を生成するステップと、
(b)単離された前記初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞を培養して、前記初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞の混合集団を生成するステップと、
(c)(b)の混合集団を足場上で増殖し、前記足場は上面及び下面を有し、前記足場の上面上に、前記混合集団の前記初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞の極性化した連続(すなわち、コンフルエント)単層を生成するステップと、を含み、前記極性化した連続単層は、頂端面及び基底面を有し、それによって、培養乳を生成するための生細胞構築物を生成する方法。
【請求項18】
前記足場上で増殖させる前に、(b)の単離された前記初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞、及び/又は乳腺前駆細胞を保存するステップをさらに含み、任意選択で、前記保存は、冷凍庫中又は液体窒素中である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
培養乳を生成するための生細胞構築物を作製する方法であって、
(a)乳腺組織(例えば、乳房、乳腺、乳頭組織)からの乳腺外植片から、初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞、及び/又は乳腺前駆細胞を単離し、単離された乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞、及び/又は乳腺前駆細胞を生成するするステップと、
(b)単離された前記初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞、及び/又は乳腺前駆細胞を培養して、前記初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞、及び乳腺前駆細胞の混合集団を生成するステップと、
(c)前記初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞、及び/又は乳腺前駆細胞の前記混合集団を選別して、前記初代乳腺上皮細胞の集団を生成するステップと、
(d)足場上で前記初代乳腺上皮細胞の集団を増殖させ、前記足場は上面及び下面を有し、前記足場の上面上に前記初代乳腺上皮細胞の極性化した連続(すなわち、コンフルエント)単層を生成するステップと、を含み、前記極性化した連続単層は、頂端面及び基底面を含み、それによって、培養乳を生成するための生細胞構築物を生成することを特徴とする、方法。
【請求項20】
培養乳を生成するための生細胞構築物を作製する方法であって、
(a)不死化乳腺上皮細胞を培養して、前記不死化乳腺上皮細胞の数を増加させるステップと、
(b)(a)の前記不死化乳腺上皮細胞を足場上で増殖させ、前記足場は、上面及び下面を有し、前記足場の前記上面上に前記不死化乳腺上皮細胞の極性化した連続(すなわち、コンフルエント)単層を生成するステップと、を含み、前記極性化した連続単層は、頂端面及び基底面を含み、それによって、培養乳を生成するための生細胞構築物を生成する方法。
【請求項21】
前記不死化乳腺上皮細胞を培養する前に、
(i)乳腺組織(例えば、乳房、乳腺、乳頭組織)からの乳腺外植片から、初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞、及び/又は乳腺前駆細胞を単離し、単離された乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞、及び/又は乳腺前駆細胞を生成するステップと、
(ii)単離された前記初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞、及び/又は乳腺前駆細胞を培養して、前記初代乳腺上皮細胞、前記乳腺筋上皮細胞、及び前記乳腺前駆細胞の混合集団を生成するステップと、
(iii)前記初代乳腺上皮細胞、前記乳腺筋上皮細胞、及び/又は前記乳腺前駆細胞の前記混合集団を選別して、前記初代乳腺上皮細胞の集団を生成するステップと、
(iv)(iii)の前記初代乳腺上皮細胞の集団の1つ以上の細胞を、hTERT又はSV40をコードする1つ以上の核酸で安定的にトランスフェクトするか、又は、低分子ヘアピンRNA(shRNA)を用いてサイクリン依存性キナーゼ4のp16阻害剤(p16(INK4))及び細胞周期エントリー及び増殖性代謝のマスター調節因子(c-MYC)に形質導入して、前記不死化乳腺上皮細胞を生成するステップと、を含む請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記不死化乳腺上皮細胞の細胞株は、hTERT又はSV40をコードする1つ以上の核酸で安定的にトランスフェクトされるか、又は、(a) サイクリン依存性キナーゼ4のp16阻害剤(p16(INK4))に対する低分子ヘアピンRNA(shRNA)、及び(b)細胞周期エントリー及び増殖代謝のマスター調節因子(c-MYC)で形質導入されることを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記足場上で増殖させる前に、前記初代乳腺上皮細胞の集団又は前記不死化乳腺上皮細胞を保存することをさらに含み、任意選択で、前記保存は冷凍庫又は液体窒素中である、請求項19~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記単層の前記基底面は、前記足場の前記上面に隣接することを特徴とする請求項17~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記生細胞構築物は、前記単層の前記頂端面に隣接する頂端区画を含む請求項17~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記生細胞構築物は、前記足場の前記下面に隣接する基底区画を含む請求項17~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記培養は、約35℃~約39℃、任意選択で約37℃の温度で実行されることを特徴とする請求項17~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記培養は、約4%~約6%、任意選択で、約5%のCOの大気濃度で実行されることを特徴とする請求項17~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
(b)の前記培養は、ほぼ毎日~約10日毎に、任意選択で、ほぼ毎日~約3日毎に交換される培養培地中で培養することを含む請求項17~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
単離及び選別は、蛍光活性化細胞選別、磁気活性化細胞選別、及び/又はマイクロ流体細胞選別を介することを特徴とする請求項19~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
生細胞構築物を培養することを含む培養乳を生成する方法であって、
前記生細胞構築物は、
(a)上面及び下面を有する足場と、
生きた初代乳腺上皮細胞の連続(すなわち、コンフルエント)極性単層、生きた前記初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞の混合集団の連続極性単層、及び/又は頂端面及び基底面を有する生きた不死化乳腺上皮細胞の連続極性単層であって、生きた前記初代乳腺上皮細胞の連続極性単層、生きた前記初代乳腺上皮細胞、前記乳腺筋上皮細胞及び前記乳腺前駆細胞の混合集団の連続極性単層及び/又は生きた前記不死化乳腺上皮細胞の連続極性層は、前記足場の上面に位置する連続極性単層と、
(b)基底区画及び頂端区画であって、前記足場の前記下面が前記基底区画に隣接し、生きた前記初代乳腺上皮細胞の単層、生きた前記初代乳腺上皮細胞、前記乳腺筋上皮細胞及び前記乳腺前駆細胞の混合集団の単層、及び/又は生きた前記不死化乳腺上皮細胞の単層の頂端面が頂端区画に隣接する、前記基底区画及び前記頂端区画と、を含み、
生きた前記初代乳腺上皮細胞の単層、生きた前記初代乳腺上皮細胞、前記乳腺筋上皮細胞及び前記乳腺前駆細胞の混合集団の単層の前記初代乳腺上皮細胞、又は前記不死化乳腺上皮細胞の単層は、その前記頂端面を通じて前記頂端区画へと乳を排出し、それによって培養乳を生成することを特徴とする方法。
【請求項32】
前記基底区画は基底培養培地を含み、前記基底培養培地は、前記初代乳腺上皮細胞の前記連続極性単層の前記基底面、前記混合集団の前記連続極性単層の基底表面、又は生きた前記不死化乳腺上皮細胞の前記連続極性単層の前記基底面と接触していることを特徴とする請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記培養は、約35℃~約39℃、任意選択で、約37℃の温度で実行されることを特徴とする請求項31又は請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記培養は、約4%~約6%、任意選択で、約5%のCOの大気濃度で行われることを特徴とする請求項31~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記培養は、溶存O及びCOの濃度をモニターすることを含む、請求項31~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
プロラクチンを前記基底培養培地に添加し、それによってラクトジェニック培養培地を提供することを更に含む、請求項31~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記培養は、前記基底培養培地中及び/又は前記ラクトジェニック培養培地中における前記グルコース濃度及び/又は前記グルコース消費速度をモニタリングすることを含む、請求項31~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記プロラクチンは、前記グルコース消費速度が定常状態である場合に添加されることを特徴とする請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記プロラクチンは、組換えプロラクチン(例えば、S179D-プロラクチン)を発現する微生物細胞又はヒト細胞によって生成されることを特徴とする請求項36~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記頂端区画から前記乳を収集して、収集した前記乳を生成することを更に含む、請求項31~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記収集はポートを介して行われることを特徴とする請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記収集は重力又は真空を経て行うものであり、任意選択で、前記真空は前記ポートに取り付けられる、請求項40又は請求項41に記載の方法。
【請求項43】
収集した前記乳を凍結して凍結乳を生成し、及び/又は収集した前記乳を凍結乾燥して凍結乾燥乳を生成することを更に含む、請求項40~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
収集した前記乳、前記凍結乳及び/又は前記凍結乾燥乳を容器に包装することを更に含む、請求項40~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
収集した前記乳から1つ以上の成分を抽出することを更に含む、請求項40~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
収集した前記乳からの前記成分を凍結乾燥又は濃縮して、凍結乾燥又は濃縮乳成分製品を生成することを特徴とする請求項45に記載の方法。
【請求項47】
収集した前記乳からの前記成分は、膜濾過又は逆浸透によって濃縮されることを特徴とする請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記凍結乾燥又は濃縮乳成分製品は、容器に包装されることを特徴とする請求項45~47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
収集した前記乳からの前記成分は、乳タンパク質、脂質、炭水化物、ビタミン、及びミネラル内容物であることを特徴とする請求項45~48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
前記容器は、無菌であることを特徴とする請求項48又は請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記容器は、真空封止されることを特徴とする請求項48~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
前記容器は食品グレードの前記容器であることを特徴とする請求項48~51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
前記容器は、キャニスター、ジャー、ボトル、バッグ、箱、又はパウチであることを特徴とする請求項48~52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
改変初代乳腺上皮細胞又は不死化乳腺上皮細胞を生成する方法であって、細胞に、
(a)改変された細胞内シグナル伝達ドメインを含むプロラクチン受容体をコードするポリヌクレオチドであって、任意選択で、プロラクチン受容体が、エクソン10の154位がエクソン11の3’末端配列にスプライシングされているトランケーションを含む、前記ポリヌクレオチドと、
(b)プロラクチンの非存在下で乳合成を活性化することができるリガンドに結合するキメラプロラクチン受容体をコードするポリヌクレオチドと、
(c)構成的又は条件的に活性なプロラクチン受容体タンパク質をコードするポリヌクレオチドであって、任意選択で、アミノ酸9~187の欠失を含む構成的に活性なヒトプロラクチン受容体タンパク質をコードする、前記ポリヌクレオチドと、
(d)プロラクチンタンパク質の改変(組換え)エフェクターをコードするポリヌクレオチドであって、(i)STAT5チロシンキナーゼドメインに融合したJAK2チロシンキナーゼドメイン、及び/又は(ii)JAK2チロシンキナーゼドメインに融合したプロラクチン受容体細胞内ドメインを含む、前記ポリヌクレオチドと、
(e)概日関連遺伝子PER2(ピリオド概日タンパク質ホモログ2)への機能喪失変異、及び/又は
(f)1つ以上のグルコース輸送体遺伝子GLUT1及び/又はGLUT12をコードするポリヌクレオチドであって、それにより、単層の基底面における前記栄養素の取り込み速度を増加させる前記ポリヌクレオチドと、を導入することを特徴とする方法。
【請求項55】
前記JAK2チロシンキナーゼドメインは、前記STAT5チロシンキナーゼドメインのC末端に融合される(例えば、前記JAK2チロシンキナーゼドメインをコードする前記ポリヌクレオチドは、前記STAT5チロシンキナーゼドメインをコードする前記ポリヌクレオチドの前記3’末端配列に連結される)ことを特徴とする請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記機能喪失変異は、PER2における348位~434位までの87ーアミノ酸欠失を含むことを特徴とする請求項54に記載の方法。
【請求項57】
請求項1~15のいずれか一項に記載の生細胞構築物によって生成される生合成乳製品を含む組成物。
【請求項58】
請求項16~18又は請求項31~54のいずれか一項に記載の方法によって生成された生合成乳製品を含む組成物。
【請求項59】
毛細管内(IC)空間及び毛細管外(EC)空間を画定する管状カートリッジ内に平行アレイで配置された複数の中空毛細管上に連続単層を形成する乳分泌初代ヒト乳腺上皮細胞(HUMEC)を含む生細胞構築物であって、
半透膜から構成される各中空毛細管は、前記IC空間に隣接する内面と前記EC空間に隣接する外面とを画定し、各中空毛細管の前記外面は、コラーゲンIVとラミニンIとの混合物でコーティングされ、前記HUMECの単層は、前記コーティングされた表面と接触し、プロラクチンを補充した細胞増殖培地は前記IC空間を満たすことを特徴とする生細胞構築物。
【請求項60】
前記半透膜は、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)又はポリスルホンから作製されることを特徴とする請求項59に記載の生細胞構築物。
【請求項61】
前記半透膜は、5~80キロダルトン(kDa)の分子量カットオフ(MWCO)を有することを特徴とする請求項59又は60に記載の生細胞構築物。
【請求項62】
請求項59~61のいずれか一項に記載の前記生細胞構築物によって生成される生合成ヒト乳製品を含む組成物。
【請求項63】
脂質成分、タンパク質成分及び炭水化物成分を含む生合成ヒト乳組成物であって、前記脂質成分、タンパク質成分、及び炭水化物成分はそれぞれ、ヒト脂質、ヒトタンパク質又はペプチド、及びヒト炭水化物からなり、前記生合成ヒト乳組成物は、病原体、細胞毒、及び遺伝子改変又は操作された分子を含まない、生合成ヒト乳組成物。
【請求項64】
前記組成物は低温殺菌されていないことを特徴とする請求項63に記載の組成物。
【請求項65】
前記脂質成分は、前記組成物の1~5%を構成することを特徴とする請求項63又は64に記載の組成物。
【請求項66】
前記タンパク質成分は、前記組成物の0.5~1%を構成することを特徴とする請求項63~65のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項67】
前記炭水化物成分は、前記組成物の6~8%を構成することを特徴とする請求項63~66のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項68】
前記脂質成分は、パルミチン酸、オレイン酸、及び脂肪酸の1つ以上の生物活性脂質メディエーターを含むことを特徴とする請求項63~67のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項69】
脂肪酸の1つ以上の前記生物活性脂質メディエーターは、抗炎症性化合物であることを特徴とする請求項68に記載の組成物。
【請求項70】
前記脂肪酸の1つ以上の生物活性脂質メディエーターは、エポキシオクタデセン酸(EpOME)、エポキシエイコサトリエン酸(EpETrE)、エポキシエイコサテトラエン酸(EpETE)、エポキシドコサペンタエン酸(EpDPE)、ジヒドロキシオクタデセン酸(DiHOME)、ジヒドロキシエイコサトリエン酸(DiHETrE)、ジヒドロキシエイコサテトラエン酸(DiHETE)、ヒドロキシオクタデカジエン酸(HODE)、ヒドロキシエイコサトリエン酸(HETrE)、ヒドロキシエイコサテトラエン酸(HETE)、ヒドロキシオクタデカトリエン酸(HOTrE)、ヒドロキシエイコサペンタエン酸(HEPE)、ヒドロキシドコサヘキサエン酸(HdoHE)、及びロイコトリエンからなる群から選択される請求項68に記載の組成物。
【請求項71】
前記タンパク質成分は、α-ラクトアルブミン、胆汁酸塩活性化リパーゼ(BSAL)、ブチロフィリン、カゼイン、脂肪酸合成酵素、インスリン、ラクトアドヘリン、ラクトフェリン、ラクトトランスフェリン、リゾチーム、ムチン-1、オステオポンチン、ペリリピン-2、血清アルブミン、及びキサンチンデヒドロゲナーゼ/オキシダーゼからなる群から選択される1つ以上のタンパク質又はペプチドを含む、請求項63~70のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項72】
前記タンパク質成分は、BSAL、リゾチーム、及びラクトフェリンを含む請求項71に記載の組成物。
【請求項73】
前記炭水化物成分は、ラクトース、2’ーフコシルラクトース、ミオイノシトール、ラクト-N-ネオテトラオース(LNnT)、6’-シアリルラクトース、シアリル-ラクト-N-テトラオース、ラクト-N-フコペンタオース(LNFP)I、ラクト-N-フコペンタオース(LNFP)II、及びジシアリル-ラクト-N-テトラオースのうちの1つ以上を含むことを特徴とする請求項63~72のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項74】
前記組成物は、請求項59~61のいずれか一項に記載の生細胞構築物によって生成されることを特徴とする請求項63~73のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項75】
生合成乳製品を作製する方法であって、
IV型コラーゲンを含む基質上の増殖培地中でヒト乳腺上皮細胞(HUMEC)の集団を増殖させるステップと、 増殖したHUMECの集団を基材から取り外し、取り外したHUMECを、コラーゲンIV及びラミニンIの混合物で予めコーティングした毛細管を含む中空糸型バイオリアクターに播種するステップと、前記HUMECがコンフルエンスに達するまでの期間、前記HUMECを培養するステップと、
細胞を100ng/mlのプロラクチンと一定期間接触させた後、前記細胞を200ng/mlのプロラクチンと第二の期間接触させることを含む方法を用いて、前記HUMECをプロラクチンと接触させることによって生合成乳製品の生産を刺激するステップと、を含む方法。
【請求項76】
前記HUMECは、初代細胞、初代不死化細胞、又は組換え細胞から選択される、請求項75に記載の方法。
【請求項77】
前記HUMECを播種する前にバイオリアクターを調製するステップを更に含む方法であって、前記バイオリアクターを調製することは、前記バイオリアクター内に陰圧を作り出すことと、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中のコラーゲンIV及びラミニンIの1:1混合物を中空繊維に適用することとを含む、請求項75又は76に記載の方法。
【請求項78】
コラーゲンIV及びラミニンIの前記混合物の適用は、前記バイオリアクターのポートに挿入されたシリンジを用いて達成されることを特徴とする請求項77に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養乳腺細胞からの乳のインビトロ及び/又はエクスビボ(ex vivo)生産のための生細胞構築物及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳は、乳幼児期中及び生涯を通じて、ヒトの食事に不可欠なものである。米国小児科学会(American Academy of Pediatrics)及び世界保健機関では、乳幼児は生後6ヶ月間は母乳のみで育てられることを推奨しており、乳幼児期以降乳製品の消費は、ヒトの栄養の中心であり、世界中で7000億ドル規模の産業となっている。
【0003】
しかしながら、授乳は生理的要求が高く、代謝の激しいプロセスであり、母乳育児の母親にとって生物学的及び実用的な課題となり得る。また、乳生産は、農業の状況における環境的、社会的、及び動物福祉への影響と関連する。
【0004】
哺乳動物細胞培養物を使用して食品を生産する可能性は、近年ますます関心を集めており、培養筋肉及び脂肪細胞からの食肉及び海産物製品のいくつかの成功したプロトタイプが開発されている(Stephensら、2018 Trends Food Sci Technol.78:155-166)。さらに、微生物発現系を用いた卵及び乳タンパク質の生産を商業化する努力がなされている。しかしながら、この発酵に基づくプロセスは、個々の成分の遺伝子操作された発現及び精製に依存し、乳又は乳製品の全分子プロファイルを再現することができない。
【0005】
本発明は、培養乳腺細胞からの乳のインビトロ及び/又はエクスビボ生産のための生細胞構築物及びそれを使用する方法を提供することによって、当技術分野における欠点を克服する。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、一部において、細胞の供給及び乳(ミルク、乳汁)の分泌を区画化する乳腺細胞を含む生細胞構築物の開発に基づく。
【0007】
したがって、本発明の一態様は、生細胞構築物に関するものであり、生細胞構築物は、
上面及び底面を有する足場(scaffold)と、
(a)生きた初代乳腺上皮細胞、(b)生きた初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞の混合集団、及び/又は(c)足場の上面上の生きた不死化乳腺上皮細胞の連続単層であって、(a)生きた初代乳腺上皮細胞(b)生きた初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞の混合集団、及び/又は(c)頂端面(apical surface)及び基底面(basal surface)を有する(例えば、細胞は、極性化した連続細胞単層(confluent cell monolayer)を形成する)不死化乳腺上皮細胞の連続単層と、を含み、
構築物が、(a)生きた初代乳腺上皮細胞、(b)生きた初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞の混合集団、及び/又は(c)不死化乳腺上皮細胞の連続単層の頂端面の上方であり、かつそれに隣接する頂端区画(apical compartment)と、足場の底面の下方であり、かつそれに隣接する基底区画(basal compartment)と、を含むことを特徴とする。
【0008】
本発明の別の態様は、培養乳を生成(producing)する方法であって、本発明の生細胞構築物を培養し、それによって培養乳を生成することを含む方法を提供する。
【0009】
本発明のさらなる態様は、培養物中で乳を生成するための生細胞構築物を作製する方法を提供し、該方法は以下のステップを含む。(a)乳腺組織からの乳腺外植片(摘出物)から乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び/又は乳腺前駆細胞を単離し、単離された乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞を生成(produce、産生、生産)するステップと、(b)単離した初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞を培養して、初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞の混合集団を生成するステップと、(c)(b)の混合集団を足場上で増殖させ(cultivating)、足場は上面及び下面を有し、足場の上面上に混合集団の初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞の極性化(分極)した連続(すなわち、コンフルエント)単層を生成するステップを含み、極性化した連続単層は頂端面及び基底面を含み、それによって、培養物中で乳を生成するための生細胞構築物が生成される。
【0010】
本発明のさらなる態様は、培養物中で乳を生成するための生細胞構築物を作製する方法であって、以下のステップを含む方法に関する。(a)乳腺組織(例えば、乳房(breast)、乳腺(udder)、乳頭組織(teat tissue))からの乳腺外植片から初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び/又は乳腺前駆細胞を単離し、単離された乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び/又は乳腺前駆細胞を生成するステップと、(b)単離された初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞、及び/又は乳腺前駆細胞を培養して、初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞、及び乳腺前駆細胞の混合集団を生成するステップと、(c)初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞、及び/又は乳腺前駆細胞の混合集団を選別して、初代乳腺上皮細胞の集団を生成するステップと、(d)足場上で初代乳腺上皮細胞の集団を増殖させ、足場は上面および下面を有し、足場の上面上に極性のある連続した(すなわち、コンフルエント)単層の初代乳腺上皮細胞を生成するステップとを含み、極性のある連続単層は頂端面および基底面を含み、それによって、培養中に乳を生成するための生細胞構築物が生成される。
【0011】
本発明の別の態様は、培養物中で乳を生成するための生細胞構築物を作製する方法に関し、該方法は以下のステップを含む。(a)不死化乳腺上皮細胞を培養して、増加した数の不死化乳腺上皮細胞を生成するステップと、(b)(a)の不死化乳腺上皮細胞を足場上で増殖させ、足場は、上面及び下面を有し、足場の上面上に不死化乳腺上皮細胞の極性化した連続(すなわち、コンフルエント)単層を生成するステップとを含み、極性化した連続単層は、頂端面及び基底面を含み、それによって、培養乳を生成するための生細胞構築物を生成する。
【0012】
本発明の別の態様は、培養乳の生成方法に関し、生細胞構築物の培養は、(a)上面および下面を有する足場と、生きた初代乳腺上皮細胞の連続(すなわち、コンフルエント)極性単層、生きた初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞の混合集団の連続極性単層(continuous polarized monolayer)、及び/又は頂端面及び基底面を有する生きた不死化乳腺上皮細胞の連続極性単層であって、生きた初代乳腺上皮細胞の連続極性単層、生きた初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞の混合集団の連続極性単層、及び/又は生きた不死化乳腺上皮細胞の連続極性単層が足場の上面に位置する、連続極性単層と、(b)基底区画及び頂端区画であって、足場の下面が基底区画に隣接し、生きた初代乳腺上皮細胞の単層の頂端面、生きた初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞の混合集団の単層、及び/又は生きた不死化乳腺上皮細胞の単層が頂端区画に隣接する、基底区画および頂端区画を含み、ここで、生きた初代乳腺上皮細胞の単層、生きた初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞の混合集団の単層の生きた初代上皮乳腺房細胞、又は不死化乳腺上皮細胞の単層は、その頂端面から頂端区画に乳汁を排出し、それによって培養中に乳汁を生成する方法に関する。
【0013】
本発明のさらなる態様は、改変された初代乳腺上皮細胞又は不死化乳腺上皮細胞を生成する方法に関し、該方法は、(a)改変された細胞内シグナル伝達ドメインを含むプロラクチン受容体をコードするポリヌクレオチドであって、任意選択で、プロラクチン受容体が、エクソン10の154位がエクソン11の3’配列にスプライシングされているトランケーション(truncation、短縮化)を含むポリヌクレオチドと、(b)プロラクチンの非存在下で乳合成を活性化することができるリガンドに結合するキメラプロラクチン受容体をコードするポリヌクレオチドと、(c)構成的(constitutively)又は条件的に活性なプロラクチン受容体タンパク質をコードするポリヌクレオチドであって、任意選択で、アミノ酸9~187の欠失を含む構成的に活性なヒトプロラクチン受容体タンパク質をコードする、ポリヌクレオチドと、(d)プロラクチンタンパク質の改変された(組換え)エフェクターをコードするポリヌクレオチドであって、(i)STAT5チロシンキナーゼドメインに融合されたJAK2チロシンキナーゼドメイン、及び/又は(ii)JAK2チロシンキナーゼドメインに融合したプロラクチン受容体細胞内ドメインを含むポリヌクレオチドと、(e)概日関連遺伝子PER2(ピリオド概日タンパク質ホモログ2)への機能喪失変異、及び/又は(f)1つ以上のグルコーストランスポーター遺伝子GLUT1及び/又はGLUT12をコードするポリヌクレオチドであって、それによって、改変された初代乳腺上皮細胞又は不死化乳腺上皮細胞の細胞単層の基底面における栄養素の取り込み速度を増加させるポリヌクレオチドと、を細胞に導入することを含む。
【0014】
本発明のさらなる態様は、本明細書に記載の生細胞構築物によって生成される生合成乳生成物を含む組成物、及び本明細書に記載の方法によって生成される生合成乳生成物を含む組成物に関する。
【0015】
本発明はまた、部分的には、中空糸型バイオリアクター中で培養した初代ヒト乳腺上皮細胞(HUMEC)から生合成ヒト乳製品を生産することに成功したことに基づくものである。
【0016】
したがって、本発明のさらなる態様は、乳分泌初代ヒト乳腺上皮細胞(HMEC)を含む生細胞構築物であって、該生細胞構築物は、毛細管内(IC)空間及び毛細管外(EC)空間を画定する管状カートリッジ内に平行に配列された複数の中空毛細管(hollow capillary tubes)上に連続単層を形成し、各中空毛細管は、IC空間に隣接する内面及びEC空間に隣接する外面を画定する半透膜から構成され、各中空毛細管の外面は、コラーゲンIV及びラミニンIの混合物でコーティングされ、HUMEC単層は、コーティングされた表面と接触しており、プロラクチンを補充した細胞増殖培地がIC空間を満たすことを特徴とする。実施形態において、半透膜は、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)又はポリスルホンから作製され、及び/又は半透膜は、5~80キロダルトン(kDa)の分子量カットオフ(MWCO)を有する。
【0017】
本発明の別の態様は、複数の中空毛細管を含む生細胞構築物によって生成される生合成ヒト乳性成分を含む組成物に関する。
【0018】
さらなる態様では、本発明は、脂質成分、タンパク質成分、及び炭水化物成分を含む生合成ヒト乳組成物に関し、脂質成分、タンパク質成分、及び炭水化物成分がそれぞれ、ヒト脂質、ヒトタンパク質又はペプチド、及びヒト炭水化物からなり、組成物は、病原体、細胞毒、及び遺伝子改変又は操作された分子を含まない。この文脈において、「ヒト」成分への言及は、ヒト細胞によって生成され、ヒトにおいて天然に存在する脂質、タンパク質、及び炭水化物を意味する。ある態様において、組成物は、細菌、ウイルス、及び真菌を含む病原体を含まない。ある態様において、組成物は低温殺菌されない。ある態様において、脂質成分は、組成物の1~5%を構成し、タンパク質成分は、組成物の0.5~1%を構成し、炭水化物成分は、組成物の6~8%を構成する。ある態様において、脂質成分は、パルミチン酸、オレイン酸、及び脂肪酸の1つ以上の生物活性脂質メディエーターを含む。ある態様において、脂肪酸の1つ以上の生物活性脂質メディエーターは、抗炎症性化合物である。一態様では、脂肪酸の1つ以上の生物活性脂質メディエーターは、エポキシオクタデセン酸(EpOME)、エポキシエイコサトリエン酸(EpETrE)、エポキシエイコサテトラエン酸(EpETE)、エポキシドコサペンタエン酸(EpDPE)、ジヒドロキシオクタデセン酸(DiHOME)、ジヒドロキシエイコサトリエン酸(DiHETrE)、ジヒドロキシエイコサテトラエン酸(DiHETE)、ヒドロキシオクタデカジエン酸(HODE)、ヒドロキシエイコサトリエン酸(HETrE)、ヒドロキシエイコサテトラエン酸(HETE)、ヒドロキシオクタデカトリエン酸(HOTrE)、ヒドロキシエイコサペンタエン酸(HEPE)、ヒドロキシドコサヘキサエン酸(HdoHE)及びロイコトリエンからなる群から選択される。一態様では、タンパク質成分は、α-ラクトアルブミン、胆汁酸塩活性化リパーゼ(BSAL)、ブチロフィリン、カゼイン、脂肪酸合成酵素、インスリン、ラクトアドへリン、ラクトフェリン、ラクトトランスフェリン、リゾチーム、ムチン-1、オステオポンチン、ペリリピン-2、血清アルブミン、及びキサンチンデヒドロゲナーゼ/オキシダーゼからなる群から選択される1つ又は複数のタンパク質又はペプチドを含む。ある態様において、タンパク質成分は、BSAL、リゾチーム、及びラクトフェリンを含む。一態様では、炭水化物成分は、ラクトース、2’-フコシルラクトース、ミオイノシトール、ラクト-N-ネオテトラオース(LNnT)、6’-シアリルラクトース、シアリルラクト-N-テトラオース、ラクト-N-フコペンタオース(LNFP)I、ラクト-N-フコペンタオース(LNFP)II、及びジシアリルラクト-N-テトラオースのうちの1つ又は複数を含む。
【0019】
さらなる態様において、本発明は、生合成乳製品の製造方法に関し、方法は、ヒト乳腺上皮細胞(HUMEC)の集団を、コラーゲンIVを含む基材上の増殖培地中で増殖させるステップと、増殖したHUMECの集団を基材から取り外し、取り外されたHUMECを、コラーゲンIV及びラミニンIの混合物で予めコーティングした毛細管を含む中空糸型バイオリアクターに播種するステップと、HUMECがコンフルエンス(confluence、集密)に達するまでの期間、HUMECを培養するステップと、細胞を100ng/mlのプロラクチンとある期間接触させた後、細胞を200ng/mlのプロラクチンと第二の期間接触させることを含む方法を用いて、HUMECをプロラクチンと接触させることによって生合成乳生成物の生産を刺激するステップを含む。ある態様では、HUMECは、初代細胞、初代不死化細胞、又は組換え細胞から選択される。ある態様では、本方法は、HUMECを播種する前にバイオリアクターを調製するステップをさらに含み、バイオリアクターを調製するステップは、バイオリアクター内に陰圧を作り出すステップと、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中のコラーゲンIV及びラミニンIの1:1混合物を中空繊維に適用するステップとを含む。ある態様において、コラーゲンIV及びラミニンIの混合物の適用は、バイオリアクターのポートに挿入されたシリンジを使用して達成される。
【0020】
本発明のこれら及び他の態様は、以下の本発明の説明においてより詳細に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、新鮮な培地又は再利用培地のいずれかが基底区画に提供され、乳が頂端区画から収集される区画化培養装置においてコンフルエント単層として増殖した乳腺上皮細胞からの栄養使用のために乳を収集する一例を示す。TEERは、経上皮電気抵抗(transepithelial electrical resistance)である。
図2図2A~BのパネルAは、基底面で足場に固定された乳腺上皮細胞のコンフルエント単層にわたる栄養素の極性化された吸収及び乳分泌の例を示し、パネルBは、乳腺上皮細胞のコンフルエント単層による栄養素の区画化吸収及び乳分泌のための表面積の増加をもたらす微小パターン化された足場の例を示す。
図3図3A~Cは、毛細管の束(A)を含む中空糸型バイオリアクターの3つの図を示し、各毛細管は、外部表面及び内部表面を有し、各表面は、第1の内部区画(キャピラリー内空間、すなわちIC)及び第2の外部区画(キャピラリー外空間、すなわちEC)を画定する。乳腺上皮細胞は、毛細管の外部表面(B)又は内部表面(C)のいずれかにコンフルエントな単層を形成し、方向性のある区画化された栄養分の吸収及び乳分泌を提供し得る。
図4図4は、実施例2に記載のバイオリアクターに細胞を播種した後、中空糸型バイオリアクター中で培養したHUMECによるグルコース利用(mg/日)の経時的推移を示す。矢印は、11日目(100ng/ml)、26日目(200ng/ml)、及び32日目(100ng/ml)のプロラクチン添加を示す。
図5図5は、実施例2に記載の中空糸型バイオリアクター中で培養したHMECSをプロラクチン刺激することにより、分泌タンパク質が劇的に増加することを示す。図は、同期間におけるバイオリアクター播種後の時間(日)にわたるプロラクチンの経時的な添加(100又は200ng/mlのいずれか)および総分泌タンパク質を示す。
図6A図6A~Cは、実施例2に記載の中空糸型バイオリアクター中で培養されたHMECによる経時(日数)的なラクトース(A)及び2’-フコシルラクトース(B)(マイクロモル、μM)生産を示す。
図6B】図はまた、プロラクチン添加の時間及び量、11日目から100ng/ml、26日目から200ng/ml、32日目から100ng/mlの開始を矢印で示す。
図6C】パネルCは、HMEC培養培地中(下から1行目)ECS採取物(下から2行目)、リザーバー(下から3行目)、及びヒト乳(下から4行目)のラクトース及び2’-フコシルラクトースのいくつかの特徴的なピークのNMRスペクトルを示す。最初の3つのスペクトルは同じスケールである。ヒト乳スペクトルは、提示のために低減されている。
図7図7は、実施例2に記載の中空糸型バイオリアクター中で培養したHMECによるカゼイン産生の経時変化を示す。左から、レーン1は分子量マーカを含み、レーン2はヒト乳、レーン3~7は、バイオリアクター播種後22、25、26、27日目及び29日目にECM採取物から単離されたタンパク質を含有する。
図8図8は、実施例2に記載の中空糸型バイオリアクター中で培養されたHMECによって生成されたタンパク質と、ヒト乳中に存在するタンパク質とを比較した、クマシー染色SDS-PAGEゲルの画像である。左から、レーン1~4及びレーン5~8は、バイオリアクターの播種後31、32、33日目及び36日目に、それぞれリザーバ及びECM採取物から単離されたタンパク質を含有する。
図9図9は、実施例2に記載の中空糸型バイオリアクター中で培養したHUMECSからのタンパク質採取物。
図10図10は、実施例2で生成された生合成乳製品のサンプルのHPLCクロマトグラムである。いくつかの重要な乳タンパク質に対応するピークを示すために注釈が付されている。完全なサンプルスペクトルは、薄い灰色で示される。より暗い線は、単離されたタンパク質からの寄与を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。この説明は、本発明を実施することができるすべての異なる方法、又は本発明に追加することができるすべての特徴の詳細なカタログであることを意図するものではない。例えば、ある実施形態に関して例示される特徴は、他の実施形態に組み込まれてもよく、特定の実施形態に関して例示される特徴は、その実施形態から削除されてもよい。加えて、本明細書に示唆される様々な実施形態に対する多数の変形及び追加は、本発明から逸脱しない本開示に照らして当業者には明らかであろう。したがって、以下の明細書は、本発明のいくつかの特定の実施形態を例示することを意図しており、それらの全ての置換、組み合わせ、及び変形を網羅的に規定するものではない。
【0023】
文脈上、別段の指示がない限り、本明細書に記載の本発明の様々な特徴は、任意の組み合わせで使用され得ることが具体的に意図される。さらに、本発明はまた、本発明のいくつかの実施形態では、本明細書に記載される任意の特徴又は特徴の組み合わせを除外又は省略することができることも企図する。例示のために、本明細書が、複合体が成分A、B及びCを含むと述べている場合、A、B又はCのいずれか、又はそれらの組み合わせは、単独で又は任意の組み合わせで省略及び放棄され得ることが具体的に意図される。
【0024】
別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって通常理解されるものと同じ意味を有する。本明細書における本発明の説明において使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的としており、本発明を限定することを意図するものではない。
【0025】
ヌクレオチド配列は、本明細書では、特に別段の指示がない限り、左から右へ、5’から3’方向に一本鎖のみによって提示される。ヌクレオチド及びアミノ酸は、37C.F.R.§1.822及び確立された用法に従って、IUPAC-IUB生化学命名委員会によって推奨される様式で、又は(アミノ酸については)1文字コード又は3文字コードのいずれかによって、本明細書中に表される。
【0026】
別段の指示がない限り、組換え及び合成ポリペプチド、抗体又はその抗原結合断片の産生、核酸配列の操作、形質転換細胞の産生、ウイルスベクター構築物の構築、及び一過性にトランスフェクトされたパッケージング細胞、および安定にトランスフェクトされたパッケージング細胞には、当業者に知られた標準的な方法を使用することができる。このような技術は当業者に公知である。例えば、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual 2nd Ed.(ニューヨーク州コールド・スプリング・ハーバー, 1989)、F. Ausubelら、Current Protocols In Molecular Biology(Green Publishing Associates,Inc.及びJohn Wiley &Sons,Inc., ニューヨーク)を参照されたい。
【0027】
本明細書で言及される全ての刊行物、特許出願、特許、ヌクレオチド配列、アミノ酸配列及び他の参考文献は、参考文献が提示される文及び/又は段落に関連する教示について、その全体が参照により組み込まれる。
【0028】
定義
本発明の説明及び添付の特許請求の範囲で使用されるように、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈上、明確に別段の指示がない限り、複数形も含むものとする。
【0029】
本明細書で使用される場合、「及び/又は」は、関連する列挙された項目の1つ又は複数のありとあらゆる可能な組合せ、及び代替的に解釈される場合の組合せの欠如(「又は」)を指し、包含する。
【0030】
さらに、本発明はまた、本発明のいくつかの実施形態では、本明細書に記載される任意の特徴又は特徴の組み合わせを除外又は省略することができることも企図する。
【0031】
さらに、用語「約」は、本発明の化合物又は薬剤の量、用量、時間、温度などの測定可能な値に言及する際に本明細書で使用する「約」という用語は、指定量の±10%、±5%、±1%、±0.5%、又はさらに±0.1%の変動を包含することを意味する。
【0032】
本明細書で使用される場合、「本質的に~からなる(consisting essentially of)」という移行句は、列挙された材料又はステップ、及び特許請求される発明の基本的かつ新規な特徴(複数可)に実質的に影響を及ぼさないものを包含するものとして解釈されるべきである。したがって、本明細書で使用される用語「本質的に~からなる」は、「有する(comprising、備える)」と同等であると解釈されるべきではない。本明細書中で使用される場合、用語「ポリペプチド」は、別段の指示がない限り、ペプチド及びタンパク質の両方を包含する。本明細書に記載の生合成ヒト乳製品の文脈における用語「タンパク質成分」は、ペプチド、ポリペプチド、及びタンパク質を包含する。
【0033】
本発明のポリヌクレオチド及び/又はポリペプチドに適用される用語「実質的に改変された」(又は文法的等価物、例えば「改変された」)は、意図的な人間の介入によって組成及び/又はゲノム遺伝子座におけるその天然形態から実質的に改変されたポリヌクレオチド及び/又はポリペプチドを指す。本明細書で使用される場合、生成物を「単離する」(又は文法的等価物、例えば「抽出する」)とは、生成物が出発材料中の他の成分の少なくとも一部から少なくとも部分的に単離されることを意味する。
【0034】
特性を「実質的に保持する」とは、特性(例えば、活性又は他の測定可能な特性)の少なくとも約75%、85%、90%、95%、97%、98%、99%又は100%が保持されることを意味する。
【0035】
本明細書において、細胞及び/又は細胞の単層に関して使用される「極性化、(polarized、分極化)」という用語は、細胞の2つの異なる表面、例えば、頂端面及び基底面が存在する細胞の空間状態を指し、これらは異なっていてもよい(例えば、異なる表面及び/又は膜貫通受容体及び/又は他の構造を含み得る)。連続単層中の個々の極性化細胞は、同様に配向された頂端面及び基底面を有してもよく、個々の細胞間の交差連絡を可能にし、頂端区画(例えば、頂端面の上方かつそれに隣接する管腔)及び基底区画(例えば、基底面の下方及びそれに隣接する管腔)の分離(例えば、区画化)を作り出すために、個々の細胞間に連絡構造(例えば、密着結合(タイトジャンクション))を有してもよい。
【0036】
本明細書で使用される用語「ラクトジェニック(lactogenic、乳腺刺激性の)」は、乳の生産及び/又は分泌を刺激する能力を指す。乳腺刺激性産物は、遺伝子、タンパク質(例えば、プロラクチン)、又は他の天然及び/又は合成産物であり得る。乳腺刺激性特性を含む培養培地(例えば、プロラクチンを含み、それによって培養培地と接触している細胞による乳の生産を刺激する)は、「ラクトジェニック培養培地」と呼ばれ得る。本明細書で使用される場合、用語「食品グレード」は、例えば、米国食品医薬品局によって設定された基準によって規制されるように、消費(例えば、ヒト及び/又は他の動物の消費)に対して無毒かつ安全とみなされる材料を指す。
【0037】
本明細書中で使用される場合、用語「遺伝的に改変された又は操作された分子」は、組換え技術によって生成された分子を包含する。
【0038】
本明細書で使用される場合、「生合成乳」の文脈における「生合成」という用語は、インビトロで培養された細胞によって分泌される乳生成物又は組成物を指し、ヒトドナー乳及びヒト母乳を含む、インビボで哺乳動物によって生成される乳を含有する乳生成物又は組成物を除外する。
【0039】
生細胞構築物
本発明は、生細胞構築物、その作製方法、及び培養乳腺細胞からの乳のインビトロ及び/又はエクスビボ生産のための生細胞構築物の使用方法に関する。乳は、乳腺の内部区画を裏打ちする上皮細胞によって生成されるタンパク質、脂質、及び炭水化物から構成される複雑な高分子分泌物である。培養中の乳腺上皮細胞は、インビボで観察されるものと類似した組織化及び挙動を示すことがこれまでに示されている(Anvaloら、2016 Am J Physiol Cell Physiol.310(5):C348-356、Chenら 2019 Curr Protoc Cell Biol.82(l):e65)。
【0040】
特に、適切な細胞外マトリックス上で増殖させ、プロラクチンで刺激すると、培養乳腺上皮細胞は分極構造に組織化し、乳成分を分泌する(Blatchfordら 1999 Animal Cell Technology: Basic & Applied Aspects 10:141-145)。しかし、これまでの研究は基礎研究及び生物医学研究に焦点を当てていたため、インビトロでの乳生産の栄養学的応用は未解明であり、細胞を増殖させた培地から乳汁を分離回収する試みはなされていない。
【0041】
したがって、本発明の一態様は、生細胞構築物に関し、上面及び底面を有する足場と、(a)生きた初代乳腺上皮細胞、(b)生きた初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞の混合集団、及び/又は(c)足場の上面上の生きた不死化乳腺上皮細胞の連続単層であって、(a)生きた初代乳腺上皮細胞、(b)生きた初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞の混合集団、及び/又は(c)頂端面及び基底面を有する不死化乳腺上皮細胞(例えば、細胞は、極性化したコンフルエントな細胞単層を形成する)連続単層とを含み、構築物は、(a)生きた初代乳腺上皮細胞、(b)生きた初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞の混合集団、及び/又は(c)不死化乳腺上皮細胞の連続単層の頂端面の上方および隣接する頂端区画と、足場の底面の下に隣接する基底区画とを含むことを特徴とする。
【0042】
乳腺組織の生きた初代培養物は、乳を生成する乳腺上皮細胞、収縮性筋上皮細胞、及び/又は乳腺上皮細胞及び乳腺収縮性筋上皮細胞の両方を生じ得る前駆細胞を含み得る。乳腺上皮細胞は、乳を生成する唯一の細胞である。生きた初代乳腺上皮細胞、生きた初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞の混合集団、及び/又は不死化乳腺上皮細胞は、任意の哺乳動物、例えば、霊長類(例えば、チンパンジー、オランウータン、ゴリラ、サル(例えば、旧世界、新世界)、キツネザル、ヒト)、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、ラット、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、オックス(例えば、牛属の一種)、ブタ、シカ、ジャコウジカ、ウシ(bovid)、クジラ、イルカ、カバ、ゾウ、サイ、キリン、シマウマ、ライオン、チータ、トラ、パンダ、レッサーパンダ、及びカワウソを挙げることができる。いくつかの実施形態では、生きた初代乳腺上皮細胞、生きた初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞の混合集団、及び/又は不死化乳腺上皮細胞は、絶滅危惧種、例えば、絶滅危惧哺乳動物から得てもよい。いくつかの実施形態では、生きた初代乳腺上皮細胞、生きた初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞の混合集団、及び/又は不死化乳腺上皮細胞は、ヒト由来であってもよい。いくつかの実施形態では、生きた初代乳腺上皮細胞、生きた初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞の混合集団、及び/又は不死化乳腺上皮細胞は、ウシ属(例えば、ウシ)に由来し得る。
【0043】
いくつかの実施形態では、初代乳腺上皮細胞(例えば、単離された生きた初代乳腺上皮細胞からの初代乳腺上皮細胞及び/又は生きた初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び/又は乳腺前駆細胞の混合集団からの初代乳腺上皮細胞)又は不死化乳腺上皮細胞によって生成される乳は、細胞の頂端面を通して頂端区画に排出され得る。
【0044】
いくつかの実施形態では、基底区画は、基底培養培地を含んでもよく、基底培養培地は、生きた初代乳腺上皮細胞、生きた初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞の混合集団、及び/又は不死化乳腺上皮細胞の基底面と接触してもよい。
【0045】
いくつかの実施形態では、本発明の基底培地は、炭素源、化学緩衝系、1つ以上の必須アミノ酸、1つ以上のビタミン及び/又は補因子、及び1つ以上の無機塩を含んでもよい。
【0046】
いくつかの実施形態では、基底培養培地は、基底培養培地の約1g/L~約15g/L(例えば、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14又は15g/L、又はその中の任意の値又は範囲である)又は基底培養培地の約1、2、3、4、5又は6g/L~約7、8、9、又は10、11、12、13、14又は15g/Lの量の炭素源を含み得る。炭素源の非限定的な例としては、グルコース及び/又はピルビン酸が挙げられる。例えば、いくつかの実施形態では、基底培養培地は、基底培養培地の約1g/L~約12g/L、例えば、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、又は12g/L、又はその中の任意の値又は範囲の量のグルコースを含んでもよい。いくつかの実施形態では、基底培養培地は、約1g/L~約6g/L、約4g/L~約12g/L、約2.5g/L~約10.5g/L、約1.5g/L~約11.5g/L又は約2g/L~約10g/Lの量のグルコースを含んでもよい。いくつかの実施形態では、基底培養培地は、約1、2、3、又は4g/L~約5、6、7、8、9、10、11、又は12g/L又は約1、2、3、4、5又は6g/L~約7、8、9、10、11、又は12g/Lの量のグルコースを含んでもよい。いくつかの実施形態では、基底培養培地は、ピルビン酸を基底培養培地の約5g/L~約15g/L、例えば、約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、又は15g/L又はその中の任意の値又は範囲の量で含み得る。いくつかの実施形態では、基底培養培地は、基底培養培地の約5g/L~約14.5g/L、約10g/L~約15g/L、約7.5g/L~約10.5g/L、約5.5g/L~約14.5g/L又は約8g/L~約10g/Lの量のピルビン酸を含んでもよい。いくつかの実施形態では、基底培養培地は、約5、6、7、又は8g/L~約9、10、11、12、13、14又は15g/L又は約5、6、7、8、9、又は10g/L~約11、12、13、14又は15g/Lの量のピルビン酸を含んでもよい。
【0047】
いくつかの実施形態では、基底培養培地は、約1g/L~約4g/L(例えば、約1、1.5、2、2.5、3、3.5又は4g/L又はその中の任意の値又は範囲である)の基底培養培地又は約10mM~約25mM(例えば、約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24又は25mM、又はその中の任意の値又は範囲である)の量の化学緩衝系を含んでも良い。いくつかの実施形態において、化学緩衝系は、重炭酸ナトリウム及び/又は4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)を含み得るが、これらに限定されない。例えば、いくつかの実施形態では、基底培養培地は、重炭酸ナトリウムを、基底培養培地の約1g/L~約4g/L、例えば、約1、1.5、2、2.5、3、3.5又は4g/L又はその中の任意の値又は範囲の量で含んでもよい。いくつかの実施形態では、基底培養培地は、重炭酸ナトリウムを、約1g/L~約3.75g/L、約1.25g/L~約4g/L、約2.5g/L~約3g/L、約1.5g/L~約4g/L又は約2g/L~約3.5g/Lの基底培養培地の量で含んでもよい。いくつかの実施形態では、基底培養培地は、HEPESを、約10mM~約25mM、例えば、約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、又は25mM、又はその中の任意の値又は範囲の量で含んでもよい。いくつかの実施形態では、基底培養培地は、HEPESを、約11mM~約25mM、約10mM~約20mM、約12.5mM~約22.5mM、約15mM~約20.75mM、又は約10mM~約20mMの量で含んでもよい。
【0048】
いくつかの実施形態では、基底培養培地は、1つ以上の必須アミノ酸を、約0.5mM~約5mM(例えば、約0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、又は5mM、又はその中の任意の値又は範囲である)又は約0.5、1、1.5、2mM~約2.5、3、3.5、4、4.5、又は5mMの量で含むことができる。いくつかの実施形態において、1つ以上の必須アミノ酸は、例えば、アルギニン及び/又はシステインであり得る。例えば、いくつかの実施形態では、基底培養培地は、アルギニンを、約0.5mM~約5mM、例えば、約0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、又は5mM、又はその中の任意の値又は範囲の量で含み得る。いくつかの実施形態では、基底培養培地は、アルギニンを、約0.5mM~約4.75mM、約2mM~約3.5mM、約0.5mM~約3.5mM、約1mM~約5mM、又は約3.5mM~約5mMの量で含み得る。例えば、いくつかの実施形態では、基底培養培地は、システインを、約0.5mM~約5mM、例えば、約0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、又は5mM、又はその中の任意の値又は範囲の量で含み得る。いくつかの実施形態では、基底培養培地は、約0.5mM~約4.75mM、約2mM~約3.5mM、約0.5mM~約3.5mM、約1mM~約5mM、又は約3.5mM~約5mMの量のシステインを含み得る。
【0049】
いくつかの実施形態では、基底培養培地は、1つ以上のビタミン及び/又は補因子を、約0.01μM~約50μM(例えば、約0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、3、4、5、6、7、8、9、10、12.5、15、17.5、20、25、30、35、40、45、46、47、48、49、49.025、49.05、49.075、又は50μM、又はその中の任意の値又は範囲)又は約0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、又は0.9μM~約1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、3、4、5、6μM又は約0.02、0.025、0.05、0.075、1、1.5、2、3、4、5、6、7、8、9、10μM~約12.5、15、17.5、20、25、30、35、40、45、46、47、48、49、49.025、49.05、49.075、又は50μMの量で含み得る。いくつかの実施形態では、1つ以上のビタミン及び/又は補因子は、限定されないが、チアミン及び/又はリボフラビンを含み得る。例えば、いくつかの実施形態では、基底培養培地は、チアミンを、約0.025μM~約50μM、例えば、約0.025、0.05、0.075、1、1.5、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12.5、15、17.5、20、25、30、35、40、45、46、47、48、49、49.025、49.05、49.075、又は50μM、又はその中の任意の値又は範囲の量で含み得る。いくつかの実施形態では、基底培養培地は、約0.025μM~約45.075μM、約1μM~約40μM、約5μM~約35.075μM、約10μM~約50μM、又は約0.05μM~約45.5μMの量のチアミンを含み得る。いくつかの実施形態では、基底培養培地は、リボフラビンを、約0.01μM~約3μM、例えば、約0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、又は3μM、又はその中の任意の値又は範囲の量で含み得る。いくつかの実施形態では、基底培養培地は、約0.01μM~約2.05μM、約1μM~約2.95μM、約0.05μM~約3μM、約0.08μM~約1.55μM、又は約0.05μM~約2.9μMの量のリボフラビンを含み得る。
【0050】
いくつかの実施形態では、基底培養培地は、1つ以上の無機塩を、約100mg/L~約150mg/Lの基底培養培地(例えば、約100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、又は150mg/L、又はその中の任意の値又は範囲)又は約100mg/L~約150mg/Lの基底培養培地(例えば、約100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、又は150mg/L、又はその中の任意の値又は範囲)の量で含み得る。いくつかの実施形態では、1つ以上の無機塩は、限定されないが、カルシウム及び/又はマグネシウムを含んでもよい。例えば、いくつかの実施形態では、基底培養培地は、カルシウムを基底培養培地の約100mg/L~約150mg/L、例えば、約100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、又は150mg/L、又はその中の任意の値又は範囲の量で含み得る。いくつかの実施形態では、基底培養培地は、アルギニンを、基底培養培地の約100mg/L~約125mg/L、約105mg/L~約150mg/L、約120mg/L~約130mg/L、又は約100mg/L~約145mg/Lの量で含み得る。いくつかの実施形態では、基底培養培地は、マグネシウムを、約0.01mM~約1mM、例えば、約0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、0.91、0.92、0.93、0.94、0.95、0.96、0.97、0.98、0.99、又は1mM、又はその中の任意の値又は範囲の量で含み得る。いくつかの実施形態では、基底培養培地は、マグネシウムを、約0.05mM~約1mM、約0.01mM~約0.78mM、約0.5mM~約1mM、約0.03mM~約0.75mM、又は約0.25mM~約0.95mMの量で含み得る。
【0051】
いくつかの実施形態では、炭素源、化学緩衝系、1つ以上の必須アミノ酸、1つ以上のビタミン及び/又は補因子、及び/又は1つ以上の無機塩は、食品グレードのものであり得る。いくつかの実施形態では、基底培養培地は、ラクトジェニック培養培地であってもよく、例えば、基底培養培地は、プロラクチン(例えば、哺乳動物プロラクチン、例えば、ヒトプロラクチン)をさらに含み得る。例えば、いくつかの実施形態では、基底培養培地は、プロラクチンを、基底培養培地の約20ng/mL~約200ng/L、例えば、約20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、又は200ng/mL、又はその中の任意の値又は範囲の量で含んでもよく(又はプロラクチンが添加され得る)。いくつかの実施形態では、基底培養培地は、プロラクチンを、基底培養培地の約20ng/mL~約195ng/mL、約50ng/mL~約150ng/mL、約25ng/mL~約175ng/mL、約45ng/mL~約200ng/mL又は約75ng/mL~約190ng/mLの量で含んでもよく(又はプロラクチンを添加してもよい)。いくつかの実施形態では、基底培養培地は、限定されないが、インスリン、上皮成長因子、及び/又はヒドロコルチゾンを含み、効率を改善するための他の因子をさらに含み得る。
【0052】
いくつかの実施形態では、本発明の足場は、2次元表面、3次元マイクロパターン化表面として、及び/又は束に組み立てることができる円筒形構造として加工されてもよい。2次元表面足場の非限定的な例としては、トランスウェルフィルターが挙げられる。3次元微細パターン化表面の非限定的な例としては、微細構造バイオリアクター、脱細胞化組織(例えば、脱細胞化乳腺)及び/又は束に組み立てることができる円筒形構造(例えば、中空糸型バイオリアクター)が挙げられる。いくつかの実施形態では、本発明の足場は多孔質であってもよい。
【0053】
いくつかの実施形態では、足場の上面は、1つ以上の細胞外マトリックスタンパク質でコーティングされ得る。細胞外マトリックスタンパク質の非限定的な例としては、コラーゲン、ラミニン、エンタクチン、テネイシン、及び/又はフィブロネクチンが挙げられる。いくつかの実施形態では、足場は、天然ポリマー、生体適合性合成ポリマー、合成ペプチド、及び/又はそれらの任意の組み合わせに由来する複合体を含んでもよい。いくつかの実施形態では、本発明で有用な天然ポリマーとしては、コラーゲン、キトサン、セルロース、アガロース、アルギン酸塩、ゼラチン、エラスチン、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸、及び/又はヒアルロン酸を挙げることができるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、本発明で有用な生体適合性合成ポリマーは、限定されないが、ポリスルホン、ポリビニリデンフルオリド、ポリエチレンコ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、アクリレートポリマー、及び/又はポリエチレングリコールを含み得る。
【0054】
方法
本発明はさらに、例えば、本発明において使用するための、生細胞構築物を作製する方法、培養物中で乳を生成する方法、及び/又は改変初代乳腺上皮細胞又は不死化乳腺上皮細胞を生成する方法を提供する。
【0055】
したがって、いくつかの実施形態では、本発明は、培養乳を生成する方法であって、本発明の生細胞構築物を培養し、それによって培養乳を生成することを含む方法を提供する。
【0056】
いくつかの実施形態では、本発明は、培養物中で乳を生成するための生細胞構築物を作製する方法であって、(a)乳腺組織からの乳腺外植片(例えば、乳房、乳腺、乳頭組織)から、初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞、及び乳腺前駆細胞を単離して、単離された乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞、及び乳腺前駆細胞を生成するステップと、(b)単離された初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞を培養して、初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞の混合集団を生成するステップと、(c)(b)の混合集団を上面と下面を有する足場上で培養して、足場の上面上に混合集団の初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞および乳腺前駆細胞の極性化した連続(すなわち、コンフルエント)単層を生成し、極性化された連続単層は頂端面及び基底面を含み、それによって、培養物中で乳を生成するための生細胞構築物が生成されるステップと、を含む、方法を提供する。
【0057】
いくつかの実施形態では、本発明は、培養物中で乳を生成するための生細胞構築物を作製する方法であって、(a)乳房組織からの乳腺外植片(例えば、乳房、乳腺、乳頭組織)から、初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞、及び/又は乳腺前駆細胞を単離して、単離された乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞、及び/又は乳腺前駆細胞を生成するステップと、(b)単離された初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞、及び/又は乳腺前駆細胞を培養して、初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞、及び乳腺前駆細胞の混合集団を生成するステップと、(c)初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞、及び/又は乳腺前駆細胞の混合集団を選別(例えば、初代乳腺上皮細胞の選択)して、初代乳腺上皮細胞の集団を生成するステップと、(d)初代乳腺上皮細胞の集団を上面と下面を有する足場上で増殖させ、足場の上面上に混合集団の初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞および乳腺前駆細胞の極性化した連続(すなわち、コンフルエント)単層を生成し、極性化した連続単層は頂端面および及び基底面を含み、それによって、培養乳を生成するための生細胞構築物が生成されるステップと、を含む、方法を提供する。
【0058】
いくつかの実施形態では、本発明は、培養乳を生成するための生細胞構築物を作製する方法であって、(a)不死化乳腺上皮細胞を培養して、増加した数の不死化乳腺上皮細胞を生成するステップと、(b)(a)の不死化乳腺上皮細胞を足場上で増殖させ、足場は、上面及び下面を有し、足場の上面上に不死化乳腺上皮細胞の極性化した連続(すなわち、コンフルエント)単層を生成し、極性化した連続単層は、頂端面及び基底面を含み、それによって、培養中で乳を生成するための生細胞構築物を生成するステップとを含む方法を提供する。
【0059】
いくつかの実施形態では、乳腺組織は、哺乳動物の乳房組織、乳腺組織、及び/又は乳頭組織に由来し得る。乳腺組織は、任意の哺乳動物、例えば、霊長類(例えば、チンパンジー、オランウータン、ゴリラ、サル(例えば、旧世界、新世界)、キツネザル、ヒト)、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、ラット、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、オックス(例えば、牛属の一種)、ブタ、シカ、ジャコウジカ、ウシ、クジラ、イルカ、カバ、ゾウ、サイ、キリン、シマウマ、ライオン、チータ、トラ、パンダ、レッサーパンダ及びカワウソに由来し得る。いくつかの実施形態では、乳腺組織は、絶滅危惧種、例えば、絶滅危惧哺乳類からのものであってもよい。いくつかの実施形態では、乳腺組織はヒト由来であってもよい。いくつかの実施形態では、乳腺組織は、ウシ属(例えば、ウシ)由来であってもよい。
【0060】
いくつかの実施形態では、培養(culturing)及び/又は増殖(cultivating)は、約35℃~約39℃の温度(例えば、約35℃、35.5℃、36℃、36.5℃、37℃、37.5℃、38℃、38.5℃又は約39℃、又はその中の任意の値又は範囲、例えば、約35℃~約38℃約36℃~約39℃、約36.5℃~約39℃、約36.5℃~約37.5℃、又は約36.5℃~約38℃)の温度で行われる。いくつかの実施形態において、本発明の方法は、培養が約37℃の温度で行われることをさらに含み得る。
【0061】
いくつかの実施形態では、培養及び/又は増殖は、約4%~約6%のCOの大気濃度、例えば、約4%、4.25%、4.5%、4.75%、5%、5.25%、5.5%、5.75%、または6%のCOの大気濃度、またはその中の任意の値または範囲、例えば、約4%~約5.5%、約4.5%~約6%、約4.5%~約5.5%、または約5%~約6%)において実施される。いくつかの実施形態では、本発明の方法は、培養が約5%のCOの大気濃度で行われることをさらに含むことができる。
【0062】
いくつかの実施形態では、培養及び/又は増殖は、約1日~約10日おき(例えば、1日おき、2日おき、3日おき、4日おき、5日おき、6日おき、7日おき、8日おき、9日おき、10日おき、又はその中の任意の値又は範囲、例えば、約1日~3日おき、約3日~10日おき、約2日~5日おき)に交換される培養培地中で培養及び/又は栽培することを含んでもよい。いくつかの実施形態では、培養及び/又は栽培は、約1日おき~約数時間おき~約10日おき、例えば、約1時間おき、2時間おき、3時間おき、4時間おき、5時間おき、6時間おき、7時間おき、8時間おき、9時間おき、10時間おき、11時間おき、12時間おき、13時間おき、14時間おき、15時間おき、16時間おき、17時間おき、18時間おき、19時間おき、20時間おき、21時間おき、22時間おき、23時間おき、又は24時間おき~約1日おき、2日おき、3日おき、4日おき、5日おき、6日おき、7日おき、8日おき、9日おき、又は10日おき、又はその中の任意の値又は範囲に交換される培養培地中で培養することをさらに含んでもよい。例えば、いくつかの実施形態では、培養及び/又は栽培は、約12時間毎~約10日毎、約10時間毎~約5日毎、又は約5時間毎~約3日毎に交換される培養培地中で培養及び/又は栽培することをさらに含んでもよい。
【0063】
いくつかの実施形態では、培養物中で乳を生成するための本発明の方法によって作製された生細胞構築物の単層は、足場の上面に隣接し得る。
【0064】
いくつかの実施形態では、培養物中で乳を生成するための本発明の方法によって作製される生細胞構築物は、単層の頂端面に隣接する頂端区画をさらに含み得る。
【0065】
いくつかの実施形態では、培養物中で乳を生成するための本発明の方法によって作製される生細胞構築物は、足場の下面に隣接する基底区画を含み得る。
【0066】
いくつかの実施形態では、不死化乳腺上皮細胞を培養する前に、本発明の培養物中で乳を生成するための生細胞構築物を作製する方法は、以下、(i)乳房組織からの乳腺外植片(例えば、乳房、乳腺及び/又は乳頭組織)から初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び/又は乳腺前駆細胞を単離し、単離された乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞、及び/又は乳腺前駆細胞を生成するステップと、(ii)単離された初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞、及び/又は乳腺前駆細胞を培養して、初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞、及び乳腺前駆細胞の混合集団を生成するステップと、(iii)初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞、及び/又は乳腺前駆細胞の混合集団を選別(例えば、初代乳腺上皮細胞を選択)して、初代乳腺上皮細胞の集団を生成するステップと、(iv)(1)ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)又はサルウイルス(simian virus)40(SV40)をコードする1つ以上の核酸、又は、(2) 不死化乳腺上皮細胞を生成するためにp16(サイクリン依存性キナーゼ4の阻害剤)(p16(INK4))および細胞周期エントリーおよび増殖性代謝のマスター調節因子(c-MYC)に対する小ヘアピンRNA(shRNA)を用いて、(iii)の初代乳腺上皮細胞の集団の1つ以上の細胞を安定的に導入(例えば、トランスフェクト/形質導入)するステップと、を含んでもよい。
【0067】
いくつかの実施形態では、不死化細胞株は、(1)hTERT又はSV40をコードする1つ以上の核酸及び/又は(2)p16(サイクリン依存性キナーゼ4の阻害剤)(p16(INK4))及びおよび細胞周期エントリーおよび増殖性代謝のマスター調節因子(c-MYC)に対する小ヘアピンRNA(shRNA)を用いて、安定的に導入(例えば、トランスフェクト/形質導入)されてもよい。
【0068】
いくつかの実施形態では、培養物中で乳を生成するための生細胞構築物を作製する方法は、足場上で増殖させる前に、本発明の細胞又は細胞の集団(例えば、生きた初代乳腺上皮細胞、初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞、及び/又は不死化乳腺上皮細胞)の混合集団を保存(storing、貯蔵)することをさらに含み得、任意に、保存は、冷凍庫中又は液体窒素中である。貯蔵温度は、所望の貯蔵期間に依存し得る。例えば、細胞が6ヶ月以内(例えば、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、又は6ヶ月以内)で使用される場合、冷凍庫温度(例えば、約0℃~約-80℃以下、例えば、約0℃、-10℃、-20℃、-30℃、-40℃、-50℃、-60℃、-70℃、-80℃、-90℃、-100℃又はその中の任意の値又は範囲)の温度で使用されてもよい。例えば、液体窒素は、長期貯蔵(例えば、6ヶ月以上、例えば、6、7、8、9、10、11、又は12ヶ月、又は1、2、3、4、5、6年以上の保存)のために、(例えば、-100℃以下(例えば、約-100℃、-110℃、-120℃、-130、-140、-150、-160、-170、-180、-190℃、-200℃、又はそれ未満)の温度で用いてもよい。
【0069】
いくつかの実施形態では、培養物中で乳を生成するための生細胞構築物を作製する方法は、単離及び選別が、蛍光活性化細胞選別、磁気活性化細胞選別、及び/又はマイクロ流体細胞選別を介することを含み得る。
【0070】
いくつかの実施形態では、本発明は、以下含む生細胞構築物を培養することを含み、培養物中で乳を生成する方法を提供する。(a)上面及び下面を含む足場、及び生きた初代乳腺上皮細胞の連続(すなわち、コンフルエント)極性単層、生きた初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞、及び乳腺前駆細胞の混合集団の連続極性単層(continuous polarized monolayer)及び/又は頂端面及び基底面を有する生きた不死化乳腺上皮細胞の連続極性単層であって、生きた初代乳腺上皮細胞の連続極性単層、生きた初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞の混合集団の連続極性単層、及び/又は生きた不死化乳腺上皮細胞の連続極性単層が足場の上面に位置する、連続分極単層。(b)基底区画及び頂端区画であって、足場の下面が基底区画に隣接し、生きた初代乳腺上皮細胞の連続極性単層、生きた初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞の混合集団の連続極性単層、及び/又は生きた不死化乳腺上皮細胞の連続極性単層が頂端区画に隣接する、基底区画及び頂端区画と、を含み、生きた初代上皮乳腺房細胞の連続極性単層は、生きた初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞の混合集団の連続極性単層の生きた初代上皮乳腺房細胞であり、又は、不死化乳腺上皮細胞の連続極性単層は、その頂端面から頂端区画に乳を排出し、それによって培養中の乳を生成する生細胞構築物を培養することを含む、方法を提供する。
【0071】
いくつかの実施形態では、培養物中で乳を生成する方法のための生細胞構築物の単層は、足場の上面に隣接していてもよい。
【0072】
いくつかの実施形態では、培養物中で乳を生成する方法のための生細胞構築物は、単層の頂端面に隣接する頂端区画をさらに含んでもよい。
【0073】
いくつかの実施形態では、培養物中で乳を生成する方法のための生細胞構築物は、足場の下面に隣接する基底区画を含んでいてもよい。
【0074】
いくつかの実施形態では、本発明の培養物中で乳を生成する方法は、基底培養培地を含む基底区画をさらに含んでもよく、基底培養培地は、初代乳腺上皮細胞の連続極性単層の基底面と、混合集団の連続極性単層の基底面と、又は、生きた不死化乳腺上皮細胞の連続極性単層の基底面と接触してもよい。基底培養培地は、炭素源、化学緩衝系、1つ以上の必須アミノ酸、1つ以上のビタミン及び/又は補因子、及び1つ以上の無機塩を含んでもよい。
【0075】
いくつかの実施形態では、基底培養培地は、基底培養液の約1g/L~約15g/L(例えば、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、又はその任意の値又は範囲)、又は基底培養液の約1、2、3、4、5又は6g/L~約7、8、9又は10、11、12、13、14又は15g/Lの量の炭素源を含んでよい。いくつかの実施形態では、炭素源は、限定されないが、グルコース及び/又はピルビン酸を含んでもよい。例えば、いくつかの実施形態では、基底培養培地は、基底培養培地の約1g/L~約12g/Lの量、例えば、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、又は12g/L、又はその中の任意の値又は範囲の量のグルコースを含んでもよい。いくつかの実施形態では、基底培養培地は、基底培養培地の約1g/L~約6g/L、約4g/L~約12g/L、約2.5g/L~約10.5g/L、約1.5g/L~約11.5g/L又は約2g/L~約10g/Lの量のグルコースを含み得る。いくつかの実施形態では、基底培養培地は、ピルビン酸を基底培養培地の約5g/L~約15g/L、例えば、約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、又は15g/L、又はその中の任意の値又は範囲の量で含んでもよい。いくつかの実施形態では、基底培養培地は、基底培養培地の約5g/L~約14.5g/L、約10g/L~約15g/L、約7.5g/L~約10.5g/L、約5.5g/L~約14.5g/L又は約8g/L~約10g/Lの量のピルビン酸を含んでもよい。
【0076】
いくつかの実施形態では、基底培養培地は、約1g/L~約4g/L(例えば、約1、1.5、2、2.5、3、3.5、又は4g/L、又はその中の任意の値又は範囲)の基底培養培地又は約10mM~約25mM(例えば、約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、又は25mM、又はその中の任意の値又は範囲)の量の化学緩衝系を含んでもよい。いくつかの実施形態において、化学緩衝系は、重炭酸ナトリウム及び/又はHEPESを含んでもよいが、これらに限定されない。例えば、いくつかの実施形態では、基底培養培地は、基底培養培地の約1g/L~約4g/L、例えば、約1、1.5、2、2.5、3、3.5、又は4g/L、又はその中の任意の値又は範囲の量の重炭酸ナトリウムを含んでもよい。いくつかの実施形態では、基底培養培地は、基底培養培地の約1g/L~約3.75g/L、約1.25g/L~約4g/L、約2.5g/L~約3g/L、約1.5g/L~約4g/L又は約2g/L~約3.5g/Lの量の重炭酸ナトリウムを含んでもよい。いくつかの実施形態では、基底培養培地は、約10mM~約25mM、例えば、約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、又は25mM、又はその中の任意の値又は範囲の量のHEPESを含んでもよい。いくつかの実施形態では、基底培養培地は、約1mM~約25mM、約10mM~約20mM、約12.5mM~約22.5mM、約15mM~約20.75mM、又は約10mM~約20mMの量のHEPESを含んでもよい。
【0077】
いくつかの実施形態では、基底培養培地は、約0.5mM~約5mM(例えば、約0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、又は5mM、又はその中の任意の値又は範囲)又は約0.5、1、1.5、2mM~約2.5、3、3.5、4、4.5、又は5mMの量の1つ以上の必須アミノ酸を含んでもよい。いくつかの実施形態において、例示的な1つ以上の必須アミノ酸は、アルギニン及び/又はシステインであり得る。例えば、いくつかの実施形態では、基底培養培地は、約0.5mM~約5mMの量、例えば、約0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、又は5mM、又はその中の任意の値又は範囲の量のアルギニンを含み得る。いくつかの実施形態では、基底培養培地は、約0.5mM~約4.75mM、約2mM~約3.5mM、約0.5mM~約3.5mM、約1mM~約5mM、又は約3.5mM~約5mMの量のアルギニンを含み得る。例えば、いくつかの実施形態では、基底培養培地は、約0.5mM~約5mM、例えば、約0.5、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、又は5mM、又はその中の任意の値又は範囲の量のシステインを含み得る。いくつかの実施形態では、基底培養培地は、約0.5mM~約4.75mM、約2mM~約3.5mM、約0.5mM~約3.5mM、約1mM~約5mM、又は約3.5mM~約5mMの量のシステインを含み得る。
【0078】
いくつかの実施形態では、基底培養培地は、約0.01μM~約50μM(例えば、約0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、3、4、5、6、7、8、9、10、12.5、15、17.5、20、25、30、35、40、45、46、47、48、49、49.025、49.05、49.075、又は50μM、又はその中の任意の値又は範囲)又は約0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、又は0.9μM~約1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、3、4、5、6μM又は約0.02、0.025、0.05、0.075、1、1.5、2、3、4、5、6、7、8、9、10μM~約12.5、15、17.5、20、25、30、35、40、45、46、47、48、49、49.025、49.05、49.075、又は50μMの量の1つ以上のビタミン及び/又は補因子を含み得る。いくつかの実施形態では、1つ以上のビタミン及び/又は補因子は、限定されないが、チアミン及び/又はリボフラビンを含み得る。例えば、いくつかの実施形態では、基底培養培地は、約0.025μM~約50μM、例えば、0.025、0.05、0.075、1、1.5、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12.5、15、17.5、20、25、30、35、40、45、46、47、48、49、49.025、49.05、49.075、又は50μM、又はその中の任意の値又は範囲の量のチアミンを含み得る。いくつかの実施形態では、基底培養培地は、約0.025μM~約45.075μM、約1μM~約40μM、約5μM~約35.075μM、約10μM~約50μM、又は約0.05μM~約45.5μMの量のチアミンを含み得る。いくつかの実施形態では、基底培養培地は、約0.01μM~約3μM、例えば、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、又は3μM、又はその中の任意の値又は範囲の量のリボフラビンを含み得る。いくつかの実施形態では、基底培養培地は、約0.01μM~約2.05μM、約1μM~約2.95μM、約0.05μM~約3μM、約0.08μM~約1.55μM、又は約0.05μM~約2.9μMの量のリボフラビンを含み得る。
【0079】
いくつかの実施形態では、基底培養培地は、基底培養培地の約100mg/L~約150mg/Lの量(例えば、約100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、又は150mg/L、又はその中の任意の値又は範囲)又は約100mg/L~約150mg/Lの基底培養培地の(例えば、約100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、又は150mg/L、又はその中の任意の値又は範囲)の量で1つ以上の無機塩を含んでもよい。いくつかの実施形態において、例示的な1つ以上の無機塩は、カルシウム及び/又はマグネシウムであり得る。例えば、いくつかの実施形態では、基底培養培地は、カルシウムを基底培養培地の約100mg/L~約150mg/Lの量、例えば、約100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、又は150mg/L、又はその中の任意の値又は範囲の量で含み得る。いくつかの実施形態では、基底培養培地は、基底培養培地の約100mg/L~約125mg/L、約105mg/L~約150mg/L、約120mg/L~約130mg/L、又は約100mg/L~約145mg/Lの量のアルギニンを含み得る。いくつかの実施形態では、基底培養培地は、約0.01mM~約1mM、例えば、約0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、0.91、0.92、0.93、0.94、0.95、0.96、0.97、0.98、0.99、又は1mM、又はその中の任意の値又は範囲の量のマグネシウムを含み得る。いくつかの実施形態では、基底培養培地は、約0.05mM~約1mM、約0.01mM~約0.78mM、約0.5mM~約1mM、約0.03mM~約0.75mM、又は約0.25mM~約0.95mMの量のマグネシウムを含み得る。
【0080】
いくつかの実施形態では、炭素源、化学緩衝系、1つ以上の必須アミノ酸、1つ以上のビタミン及び/又は補因子、及び/又は1つ以上の無機塩は、食品グレードであり得る。
【0081】
いくつかの実施形態では、基底培養培地は、ラクトジェニック培養培地であり得、例えば、基底培養培地は、プロラクチン(例えば、哺乳動物プロラクチン、例えば、ヒトプロラクチン)をさらに含み得る。例えば、いくつかの実施形態では、基底培養培地は、基底培養培地の約20ng/mL~約200ng/L、例えば、約20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、又は200ng/mL、又はその中の任意の値又は範囲の量のプロラクチンを含み得る(又はプロラクチンが添加され得る)。いくつかの実施形態では、基底培養培地は、約20ng/mL~約195ng/mL、約50ng/mL~約150ng/mL、約25ng/mL~約175ng/mL、約45ng/mL~約200ng/mL又は約75ng/mL~約190ng/mLの量のプロラクチンを含み得る(又はプロラクチンが添加され得る)。いくつかの実施形態では、本発明の方法は、プロラクチンを基礎培養培地に添加し、それによってラクトジェニック培養培地を提供することをさらに含み得る。いくつかの実施形態では、プロラクチンは、組換えプロラクチン(例えば、プロラクチン遺伝子の179位のセリン残基がアスパラギン酸塩(S179D)に置換されたプロラクチン、例えば、S179D-プロラクチン)を発現する微生物細胞及び/又はヒト細胞によって生成され得る。いくつかの実施形態において、基底培養培地へのプロラクチンの添加は、プロラクチンを発現および分泌する細胞を培養すること、および初代乳腺上皮細胞の単層の基底面、混合集団の単層の基底面、または生きた不死化乳腺上皮細胞の単層の基底面へのプロラクチンを含む調整された(conditioned)基底培養培地の適用を含むことができる。
【0082】
いくつかの実施形態では、基底培養培地は、限定されないが、インスリン、上皮成長因子、及び/又はヒドロコルチゾンを含み、効率を改善するための他の因子をさらに含み得る。いくつかの実施形態では、本発明の方法は、例えば効率を改善するために、他の因子(例えば、インスリン、上皮成長因子、及び/又はヒドロコルチゾン)を基底培養培地に添加することをさらに含み得る。
【0083】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、基底培養培地及び/又はラクトジェニック培養培地におけるグルコース濃度及び/又はグルコース消費速度をモニタリングすることを含み得る。いくつかの実施形態では、プロラクチンは、基底培養培地中のグルコース消費速度が定常状態であるときに添加され得る。
【0084】
いくつかの実施形態では、培養物中で乳を生成する方法は、約35℃~約39℃(例えば、約35℃、35.5℃、36℃、36.5℃、37℃、37.5℃、38℃、38.5℃又は約39℃、又はその中の任意の値又は範囲、例えば、約35℃~約38℃の温度、約36%~約39℃、約36.5℃~約39℃、約36.5℃~約38℃、又は約36.5℃~約37.5℃)の温度で培養することを含み得る。いくつかの実施形態において、培養は、約37℃の温度で行われ得る。
【0085】
いくつかの実施形態では、培養物中で乳を生成する方法は、約4%~約6%のCOの大気濃度、例えば、約4%、4.25%、4.5%、4.75%、5%、5.25%、5.5%、5.75%又は6%又はその中の任意の値又は範囲、例えば、約4%~約5.5%、約4.5%~約6%、約4.5%~約5.5%、又は約5%~約6%)のCOの大気濃度で培養することを含み得る。いくつかの実施形態において、培養は、約5%のCOの大気濃度で実施されてもよい。
【0086】
いくつかの実施形態では、培養物中で乳を生成する方法は、溶存O及びCOの濃度を監視するステップを含んでもよい。いくつかの実施形態では、溶存Oの濃度は、約10%~約25%、又はその中の任意の値又は範囲(例えば、約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、又は25%)に維持され得る。例えば、いくつかの実施形態では、溶解Oの濃度は、約12%~約25%、約15%~約22%、約10%~約20%、約15%、約20%、又は約22%の間で維持されてもよい。いくつかの実施形態では、COの濃度は、約4%~約6%、例えば、約4%、4.25%、4.5%、4.75%、5%、5.25%、5.5%、5.75%、又は6%、又はその中の任意の値又は範囲のCOの濃度で維持することができる。例えば、約4%~約5.5%、約4.5%~約6%、約4.5%~約5.5%、又は約5%~約6%)。いくつかの実施形態では、COの濃度は、約5%に維持されてもよい。
【0087】
いくつかの実施形態では、培養物中で乳を生成する方法は、経上皮電気抵抗(TEER)を適用して、上皮細胞の単層の維持を測定することをさらに含み得る。TEERは、2つの区画(例えば、頂端区画と基底区画との間)内の流体(例えば、培地)間の電圧差を測定し、区画間の障壁が完全性を失う場合、2つの区画内の流体が混合される可能性がある。流体混合がある場合、電圧差は生じない。電圧差がある場合は、障壁が無傷であることを示す。TEERによって電圧の喪失が検出されると、足場(例えば、トランスウェルフィルター、微細構造バイオリアクター、脱細胞化組織、中空糸型バイオリアクターなど)に追加の細胞を再接種し、本発明の方法(例えば、乳生産)を再開する前に障壁(例えば、コンフルエントな連続単層)を再確立する時間を与えてもよい。
【0088】
いくつかの実施形態では、培養物中で乳を生成する方法は、足場上で増殖させる前に、本発明の細胞又は細胞の集団(例えば、生きた初代乳腺上皮細胞、混合集団の初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞、及び/又は不死化乳腺上皮細胞)を保存することをさらに含んでもよく、任意選択で、保存は、冷凍庫中又は液体窒素中である。貯蔵温度は、所望の貯蔵期間に依存し得る。例えば、細胞が6ヶ月以内(例えば、1、2、3、4、5、又は6ヶ月以内)で使用される場合、冷凍庫温度(例えば、約0℃~約-80℃以下、例えば、約0℃、-10℃、-20℃、-30℃、-40℃、-50℃、-60℃、-70℃、-80℃、-90℃、-100℃又はその中の任意の値又は範囲の温度での保存)で使用されてもよい。例えば、液体窒素は、より長期間の保存、例えば、6ヶ月以上、例えば、6、7、8、9、10、11、又は12ヶ月、又は1、2、3、4、5、6年以上の保存のために、(例えば、-100℃以下(例えば、約-100℃、-110℃、-120℃、-130、-140、-150、-160、-170、-180、-190℃、-200℃、又はそれ未満)の温度での貯蔵)で使用されてもよい。
【0089】
いくつかの実施形態では、培養物中で乳を生成する方法はさらに、頂端区画から乳を収集し、収集された乳を製造するステップを含んでもよい。いくつかの実施形態では、収集は、ポートを介して、重力を介して、及び/又は真空を介して行ってもよい。いくつかの実施形態では、真空がポートに取り付けられてもよい。
【0090】
いくつかの実施形態では、培養物中で乳を生成する方法は、収集された乳を凍結して凍結乳を生成すること、及び/又は収集された乳を凍結乾燥して凍結乾燥乳を生成することをさらに含み得る。
【0091】
いくつかの実施形態では、培養物中で乳を生産する方法は、収集された乳、凍結された乳及び/又は凍結乾燥された乳を容器にパッケージングすることをさらに含んでもよい。
【0092】
いくつかの実施形態では、培養物中で乳を生産する方法は、収集された乳から1つ以上の成分を抽出することをさらに含んでもよい。収集された乳からの成分の非限定的な例としては、乳タンパク質、脂質、炭水化物、ビタミン、及び/又はミネラル含有物が挙げられる。いくつかの実施形態では、収集された乳からの成分は、凍結乾燥及び/又は濃縮されて、凍結乾燥又は濃縮された乳成分生成物を生成することができる。いくつかの実施形態では、収集された乳からの成分は、例えば、膜濾過及び/又は逆浸透によって濃縮されてもよい。いくつかの実施形態では、凍結乾燥又は濃縮された乳成分製品は、容器に包装されてもよく、任意に、容器は、無菌及び/又は食品グレードの容器である。いくつかの実施形態では、容器は真空封止されてもよい。いくつかの実施形態では、容器は、キャニスター、ジャー、ボトル、バッグ、ボックス、又はパウチであり得る。
【0093】
本発明はまた、改変初代乳腺上皮細胞又は不死化乳腺上皮細胞を生成する方法であって、細胞に、(a)改変された細胞内シグナル伝達ドメインを含むプロラクチン受容体をコードするポリヌクレオチドであって、任意選択で、プロラクチン受容体が、エクソン10の154位でエクソン11の3’配列にスプライシングされているトランケーションを含むポリヌクレオチド、(b)プロラクチンの非存在下で乳合成を活性化することができるリガンドに結合するキメラプロラクチン受容体をコードするポリヌクレオチド、(c)構成的又は条件的に活性なプロラクチン受容体タンパク質をコードするポリヌクレオチドであって、任意選択で、アミノ酸9~187の欠失(例えば、番号付けが配列番号1として同定されるヒトプロラクチン受容体の参照アミノ酸配列に基づく、アミノ酸9~187の欠失)を含む構成的に活性なヒトプロラクチン受容体タンパク質をコードするポリヌクレオチド、(d)プロラクチンタンパク質の改変された(例えば、組換え)エフェクターをコードするポリヌクレオチドであって、(i)ヤヌスキナーゼ-2(JAK2)チロシンキナーゼドメインであって、任意選択的にJAK2チロシンキナーゼドメインがシグナル伝達兼転写活性化因子-5(STAT5)チロシンキナーゼドメイン(例えば、STAT5チロシンキナーゼドメインをコードするポリヌクレオチドの3’末端に連結されたJAK2チロシンキナーゼドメインをコードするポリヌクレオチド)に融合され得るヤヌスキナーゼ-2(JAK2)チロシンキナーゼドメインと、(ii)JAK2チロシンキナーゼドメインに融合したプロラクチン受容体細胞内ドメインとを含むポリヌクレオチド、(e)概日関連遺伝子PER2(ピリオド概日タンパク質ホモログ2)への機能喪失変異、及び/又は(f)1つ以上のグルコース輸送体遺伝子GLUT1及び/又はGLUT12をコードするポリヌクレオチドであって、それによって、単層基底面における栄養素の取り込み速度を増加させるポリヌクレオチド、を導入することを含む方法を提供する。
【0094】
いくつかの実施形態では、構成的に活性なヒトプロラクチン受容体タンパク質は、アミノ酸9~187の欠失を含んでよく、番号付けは、配列番号1として同定されるヒトプロラクチン受容体の参照アミノ酸配列に基づくものである。
【0095】
【化1】
【0096】
いくつかの実施形態において、構成的に活性なヒトプロラクチン受容体タンパク質は、以下のアミノ酸の欠失を含んでいてもよい。
VFTLLLFLNTCLLNGQLPPGKPEIFKCRSPNKETFTCWWRPGTDGGLPTNYSLTYHREGETLMHECPDYITGGPNSCHFGKQYTSMWRTYIMMVNATNQMGSSFSDELYVDVTYIVQPDPPLELAVEVKQPEDRKPYLWIKWSPPTLIDLKTGWFTLLYEIRLKPEKAA
(例えば、配列番号1のアミノ酸9~187位)。
【0097】
いくつかの実施形態では、概日関連遺伝子PER2に導入される機能喪失型変異は、PER2の348~434位からの87アミノ酸欠失を含んでもよく、番号付けは、配列番号2として同定されるヒトPER2の参照アミノ酸配列に基づく。
【0098】
【化2】
【0099】
いくつかの実施形態では、概日関連遺伝子PER2に導入される機能喪失変異は、以下のアミノ酸の欠失を含んでもよい。
CLFQDVDERAVPLLGYLPQDLIETPVLVQLHPSDRPLMLAIHKKILQSGGQPFDYSPIRFRARNGEYITLDTSWSSFINPWSRKISFIIGRHKV(例えば、配列番号2のアミノ酸348~434位)。
【0100】
いくつかの実施形態において、修飾された細胞内シグナル伝達ドメインを含むプロラクチン受容体をコードするポリヌクレオチドであって、任意選択で、プロラクチン受容体のエクソン10の154位がエクソン11の3’配列にスプライシングされているトランケーションを含み、ポリヌクレオチドは、配列番号3として同定される以下のアミノ酸配列をコードしてもよい。
【0101】
【化3】
【0102】
いくつかの実施形態では、プロラクチンタンパク質の改変された(例えば、組換)エフェクターをコードするポリヌクレオチドは、(i)ヤヌスキナーゼ-2(JAK2)チロシンキナーゼドメインが、任意選択で、シグナル伝達兼転写活性化因子-5(STAT5)チロシンキナーゼドメインに融合され得るヤヌスキナーゼ-2(JAK2)チロシンキナーゼドメイン(例えば、STAT5チロシンキナーゼドメインをコードするポリヌクレオチドの3’末端に連結されたJAK2チロシンキナーゼドメインをコードするポリヌクレオチド)を含み、配列番号4として同定される以下のアミノ酸配列をコードすることができる。太字のアミノ酸は、参照ヒトJAK2アミノ酸配列のアミノ酸757~1129位のJAK2キナーゼドメインに対応する。
【0103】
【化4】
【0104】
例示的な実施形態を以下に示す。
1) 生細胞構築物であって、以下、上面および底面を有する足場と、(a)生きた初代乳腺上皮細胞、(b)生きた初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞の混合集団、及び/又は(c)足場の上面上の生きた不死化乳腺上皮細胞の連続単層であって、
(a)生きた初代乳腺上皮細胞、(b)生きた初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞の混合集団、及び/又は(c)頂端面及び基底面を有する(例えば、細胞は、極性化したコンフルエントな細胞単層を形成する)不死化乳腺上皮細胞の連続単層を含み、
構築物が、(a)生きた初代乳腺上皮細胞、(b)生きた初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞の混合集団、及び/又は(c)不死化乳腺上皮細胞の連続単層の頂端面の上方であり、かつそれに隣接する頂端区画と、足場の底面の下方であり、かつそれに隣接する基底区画からなることを特徴とする生細胞構築物。
【0105】
2) 前記初代乳腺上皮細胞又は不死化乳腺上皮細胞によって生成される乳が、前記細胞の頂端面を通して前記頂端区画に排出される、請求項1に記載の生細胞構築物。
【0106】
3) 前記基底区画が基底培養培地を含み、前記基底培養培地が、前記生きた初代乳腺上皮細胞、生きた初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞の前記混合集団、及び/又は前記不死化乳腺上皮細胞の基底面と接触している、請求項1又は2に記載の生細胞構築物。
【0107】
4) 前記基底培地が、炭素源、化学緩衝系、1つ以上の必須アミノ酸、1つ以上のビタミン及び/又は補因子、及び1つ以上の無機塩を含む、請求項3に記載の生細胞構築物。
【0108】
5) 前記基底培養培地がラクトジェニック培養培地であり、プロラクチンをさらに含む、請求項3又は請求項4に記載の生細胞構築物。
【0109】
6) 前記足場が、2次元表面(例えば、トランスウェルフィルター)、3次元微細パターン化表面(例えば、微細構造バイオリアクター、脱細胞化組織)として、又は束に組み立てることができる円筒形構造(例えば、中空糸型バイオリアクター)として作製される、請求項1~5のいずれかに記載の生細胞構築物。
【0110】
7) 前記足場の上面が、1つ以上の細胞外マトリックスタンパク質でコーティングされている、請求項1~6のいずれかに記載の生細胞構築物。
【0111】
8) 前記1つ以上の細胞外マトリックスタンパク質が、コラーゲン、ラミニン、エンタクチン、テネイシン、及び/又はフィブロネクチンである、請求項6に記載の生細胞構築物。
【0112】
9) 前記足場が、天然ポリマー、生体適合性合成ポリマー、合成ペプチド、及び/又はそれらの任意の組み合わせから得られる複合体を含む、請求項1~8のいずれかに記載の生細胞構築物。
【0113】
10) 前記天然ポリマーが、コラーゲン、キトサン、セルロース、アガロース、アルギン酸塩、ゼラチン、エラスチン、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸、及び/又はヒアルロン酸である、請求項9に記載の生細胞構築物。
【0114】
11) 前記生体適合性合成ポリマーが、ポリスルホン、ポリビニリデンフルオリド、ポリエチレンコ-酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、アクリレートポリマー、及び/又はポリエチレングリコールであってもよい、請求項9又は請求項10に記載の生細胞構築物。
【0115】
12) 前記足場が多孔質である、請求項1~9のいずれかに記載の生細胞構築物。
【0116】
13) 生きた初代乳腺上皮細胞、生きた初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞の混合集団、及び/又は不死化乳腺上皮細胞が、哺乳動物に由来する、請求項1~13のいずれかに記載の生細胞構築物。
【0117】
14) 前記哺乳動物が、霊長類(例えば、チンパンジー、オランウータン、ゴリラ、サル(例えば、旧世界、新世界)、キツネザル、ヒト)、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、ラット、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、オックス、ブタ、シカ、ジャコウジカ、ウシ科の動物、クジラ、イルカ、カバ、ゾウ、サイ、キリン、シマウマ、ライオン、チーター、トラ、パンダ、レッサーパンダ、およびカワウソである、請求項1~13のいずれか一項に記載の生細胞構築物。
【0118】
15) 前記哺乳動物が、絶滅危惧種に由来する、請求項1~13のいずれかに記載の生細胞構築物。
【0119】
16) 請求項1~15のいずれかに記載の生細胞構築物を培養し、それにより培養物中で乳を生成することを含む、培養乳を生成する方法。
【0120】
17) 培養物中で乳を生成するための生細胞構築物を作製する方法であって、該方法は、
(a)乳腺組織からの乳腺外植片からの初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び/又は乳腺前駆細胞の単離し、単離された乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞を生成するステップと、
(b)単離された初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞を培養して、初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞の混合集団を生成するステップと、
(c)(b)の混合集団を足場上で増殖させ、足場は上面及び下面を有し、足場の上面上に混合集団の初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞の極性化された連続(すなわち、コンフルエント)単層を生成し、極性化された連続単層は頂端面及び基底面を有し、それによって、培養物中で乳を生成するための生細胞構築物が生成されるステップと、を含む。
【0121】
18) 足場上で増殖させる前に、(b)の単離された初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞、及び/又は乳腺前駆細胞を保存することをさらに含み、任意選択で、保存が、冷凍庫中又は液体窒素中である、請求項17に記載の方法。
【0122】
19) 培養物中で乳を生成するための生細胞構築物を作製する方法であって、
(a)乳腺組織(例えば、乳房、乳腺、乳頭組織)からの乳腺外植片から、初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞、及び/又は乳腺前駆細胞を単離し、単離された乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞、及び/又は乳腺前駆細胞を生成するステップと、
(b)単離された初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞、及び/又は乳腺前駆細胞を培養して、初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞、及び乳腺前駆細胞の混合集団を生成するステップと、
(c)初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞、及び/又は乳腺前駆細胞の混合集団を選別して、初代乳腺上皮細胞の集団を生成するステップと、(d)上面及び下面を有する足場上で初代乳腺上皮細胞の集団を増殖させ、足場の上面上に初代乳腺上皮細胞の極性化した連続(すなわち、コンフルエント)単層を生成するステップとを含み、極性化した連続単層は頂端面及び基底面を含み、それによって培養乳を生成するための生細胞構築物を生成することを特徴とする、方法。
【0123】
20) 培養物中で乳を生成するための生細胞構築物を作製する方法であって、該方法は、
(a)不死化乳腺上皮細胞を培養して、不死化乳腺上皮細胞の数を増加させるステップと、
(b)(a)の不死化乳腺上皮細胞を足場上で培養し、足場は、上面及び下面を有し、足場の上面上に不死化乳腺上皮細胞の極性化した連続(すなわち、コンフルエント)単層を生成するステップと、を含み、極性化した連続単層は、頂端面及び基底面を含み、それによって、培養中で乳を生成するための生細胞構築物を生成することを特徴とする、方法。
【0124】
21) 不死化乳腺上皮細胞を培養する前に、前記方法が以下のステップを含む方法であって、
(i)乳腺組織(例えば、乳房、乳腺、乳頭組織)からの乳腺外植片から、初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞、及び/又は乳腺前駆細胞の単離し、単離された乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞、及び/又は乳腺前駆細胞を生成するステップと、
(ii)単離された初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞、及び/又は乳腺前駆細胞を培養して、初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞、及び乳腺前駆細胞の混合集団を生成するステップと、
(iii)初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞、及び/又は乳腺前駆細胞の混合集団を選別して、初代乳腺上皮細胞の集団を生成するステップと、
(iv)(iii)の初代乳腺上皮細胞の集団の1つ以上の細胞を、hTERT又はSV40をコードする1つ以上の核酸で安定的にトランスフェクトするか、又は、低分子ヘアピンRNA(shRNA)を用いてサイクリン依存性キナーゼ4のp16阻害剤(p16(INK4))及び細胞周期エントリー及び増殖性代謝のマスター調節因子(c-MYC)に形質導入して、不死化乳腺上皮細胞を生成するステップと、を含む請求項20に記載の方法。
【0125】
22) 前記不死化細胞株が、hTERT又はSV40をコードする1つ以上の核酸で安定的にトランスフェクトされるか、又は、低分子ヘアピンRNA(shRNA)を用いて(a)サイクリン依存性キナーゼ4のp16阻害剤(p16(INK4))及び(b)細胞周期エントリーおよび及び増殖性代謝のマスター調節因子(c-MYC)に形質導入される、請求項20又は21に記載の方法;。
【0126】
23) 足場上で増殖させる前に、初代乳腺上皮細胞又は不死化乳腺上皮細胞の集団を貯蔵することをさらに含み、任意選択で、貯蔵は、冷凍庫中又は液体窒素中である、請求項19~22のいずれかに記載の方法。
【0127】
24) 前記単層の前記基底面が、前記足場の前記上面に隣接する、請求項17~23のいずれかに記載の方法。
【0128】
25) 生細胞構築物が、単層の頂端面に隣接する頂端区画を含む、請求項17~24のいずれかに記載の方法。
【0129】
26) 生細胞構築物が、足場の下面に隣接する基底区画を含む、請求項17~25のいずれかに記載の方法。
【0130】
27) 前記培養が、約35℃~約39℃、任意に約37℃の温度で行われる、請求項17~26のいずれかに記載の方法。
【0131】
28) 前記培養が、約4%~約6%、任意に約5%のCOの大気濃度で行われる、請求項17~27のいずれかに記載の方法。
【0132】
29) (b)の培養が、ほぼ毎日~約10日毎に、任意にほぼ毎日~約3日毎に交換される培養培地中で培養することを含む、請求項17~28のいずれかに記載の方法。
【0133】
30) 前記単離及び選別が、蛍光活性化セル選別、磁気活性化セル選別、及び/又はマイクロ流体セル選別を介する、請求項19~29のいずれか一項に記載の方法。
【0134】
31) 以下を含む生細胞構築物を培養することを含む培養物中で乳を生成する方法であって、前記生細胞構築物は、
(a)上面及び下面を含む足場と、生きた初代乳腺上皮細胞の連続(すなわち、コンフルエント)極性化した単層と、生きた初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞の混合集団の連続極性単層と、及び/又は頂端面及び基底面を有する生きた不死化乳腺上皮細胞の連続極性単層であって、生きた初代乳腺上皮細胞の連続極性単層、生きた初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞の混合集団の連続極性単層及び/又は生きた不死化乳腺上皮細胞の連続極性単層は、足場の上面に位置することを特徴とする前記足場および前記連続極性単層と、
(b)足場の下面が基底区画に隣接し、生きた初代乳腺上皮細胞の単層、生きた初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞の混合集団の単層、及び/又は生きた不死化乳腺上皮細胞の単層の頂端面が頂端区画に隣接する、基底区画及び頂端区画と、を含み、
生きた初代乳腺上皮細胞の単層、生きた初代乳腺上皮細胞、乳腺筋上皮細胞及び乳腺前駆細胞の混合集団の単層の生きた初代乳腺上皮細胞、又は不死化された乳腺上皮細胞の単層は、その頂端面から頂端区画に乳を排出し、それによって培養乳を生成することを特徴とする方法。
【0135】
32) 前記基底区画が基底培養培地を含み、前記基底培養培地が、前記初代乳腺上皮細胞の連続極性単層の基底面、前記混合集団の連続極性単層の基底面、又は前記生きた不死化乳腺上皮細胞の連続極性単層の基底面と接触している、請求項31に記載の方法。
【0136】
33) 前記培養が、約35℃~約39℃、任意選択で約37℃の温度で行われる、請求項31又は請求項32に記載の方法。
【0137】
34) 前記培養が、約4%~約6%、任意に約5%のCOの大気濃度で行われる、請求項31~33のいずれか一項に記載の方法。
【0138】
35) 前記培養が、溶存O及びCOの濃度をモニターすることを含む、請求項31~34のいずれかに記載の方法。
【0139】
36) 前記基底培養培地にプロラクチンを添加し、それによってラクトジェニック培養培地を提供することをさらに含む、請求項31~35のいずれか一項に記載の方法。
【0140】
37) 前記培養が、前記基底培養培地中、及び/又は前記ラクトジェニック培養培地中におけるグルコース濃度及び/又はグルコース消費速度をモニタリングすることを含む、請求項31~36のいずれかに記載の方法。
【0141】
38) 前記プロラクチンが、前記グルコース消費速度が定常状態であるときに添加される、請求項37に記載の方法。
【0142】
39) 前記プロラクチンが、組換えプロラクチン(例えば、S179D-プロラクチン)を発現する微生物細胞又はヒト細胞によって生成される、請求項36~38のいずれかに記載の方法。
【0143】
40) 前記頂端区画から前記乳を収集して、収集された乳を生成することをさらに含む、請求項31~39のいずれか一項に記載の方法。
【0144】
41) 前記収集がポートを介して行われる、請求項40に記載の方法。
【0145】
42) 前記収集が重力又は真空によるものであり、任意選択で、前記真空が前記ポートに取り付けられる、請求項40又は請求項41に記載の方法。
【0146】
43) 前記収集された乳を凍結して凍結乳を生成すること、及び/又は前記収集された乳を凍結乾燥して凍結乾燥乳を生成することをさらに含む、請求項40~42のいずれかに記載の方法。
【0147】
44) 前記収集された乳、前記凍結乳及び/又は前記凍結乾燥された乳を容器に包装することをさらに含む、請求項40~43のいずれかに記載の方法。
【0148】
45) 前記収集された乳から1つ以上の成分を抽出することをさらに含む、請求項40~42のいずれかに記載の方法。
【0149】
46) 前記収集された乳からの前記成分を凍結乾燥又は濃縮して、凍結乾燥又は濃縮された乳成分生成物を生成する、請求項45に記載の方法。
【0150】
47) 前記収集された乳からの前記成分が、膜濾過又は逆浸透によって濃縮される、請求項46に記載の方法。
【0151】
48) 前記凍結乾燥又は濃縮乳成分製品が容器に包装される、請求項45~47のいずれかに記載の方法。
【0152】
49) 前記収集された乳からの成分が、乳タンパク質、脂質、炭水化物、ビタミン、及びミネラル内容物である、請求項45~48のいずれかに記載の方法。
【0153】
50) 前記容器が無菌である、請求項48又は請求項49に記載の方法。
【0154】
51) 前記容器が真空封止されている、請求項48~50のいずれかに記載の方法。
【0155】
52) 前記容器が食品グレードの容器である、請求項48~51のいずれかに記載の方法。
【0156】
53) 前記容器が、キャニスター、ジャー、ボトル、バッグ、箱、又はパウチである、請求項48~52のいずれかに記載の方法。
【0157】
53) 改変初代乳腺上皮細胞又は不死化乳腺上皮細胞を生成する方法であって、前記細胞に、(a)改変された細胞内シグナル伝達ドメインを含むプロラクチン受容体をコードするポリヌクレオチドであって、任意選択で、プロラクチン受容体が、エクソン10の154位がエクソン11の3’配列にスプライシングされているトランケーションを含む、ポリヌクレオチドと、(b)プロラクチンの非存在下で乳合成を活性化することができるリガンドに結合するキメラプロラクチン受容体をコードするポリヌクレオチドと、(c)構成的又は条件的に活性なプロラクチン受容体タンパク質をコードするポリヌクレオチドであって、任意選択で、アミノ酸9~187の欠失を含む構成的に活性なヒトプロラクチン受容体タンパク質をコードする、ポリヌクレオチドと、(d)プロラクチンタンパク質の改変された(組換え)エフェクターをコードするポリヌクレオチドであって、(i)STAT5チロシンキナーゼドメインに融合したJAK2チロシンキナーゼドメイン、及び/又は(ii)JAK2チロシンキナーゼドメインに融合したプロラクチン受容体細胞内ドメインを含む、ポリヌクレオチドと、(e)概日関連遺伝子PER2(ピリオド概日タンパク質ホモログ2)への機能喪失変異、及び/又は(f)1つ以上のグルコース輸送体遺伝子GLUT1及び/又はGLUT12をコードするポリヌクレオチドであって、それにより、単層基底面における栄養素の取り込み速度を増加させるポリヌクレオチド、とを導入することを含む。
【0158】
55) JAK2チロシンキナーゼドメインがSTAT5チロシンキナーゼドメインのC末端に融合される(例えば、JAK2チロシンキナーゼドメインをコードするポリヌクレオチドは、STAT5チロシンキナーゼドメインをコードするポリヌクレオチドの3’末端に連結される)、請求項53に記載の方法。
【0159】
56) 前記機能喪失変異が、PER2における348位から434位までの87アミノ酸欠失を含む、請求項53に記載の方法。
【0160】
本発明を説明してきたが、これは、以下の実施例においてより詳細に説明する。これらは、例示目的のみのために本明細書に含まれ、本発明を限定することを意図しない。
【0161】
実施例
実施例1
乳の収集のために設計された細胞培養システムは、乳が細胞に栄養素を提供する培地に曝露されないように、生成物の区画化された分泌をサポートする必要がある。体内では、乳を生成する上皮細胞が連続した単層として乳腺の内表面に並んでいる。単層は、基底面が下にある基底膜に付着するように配向しており、乳汁が乳頭表面から分泌され、搾乳又は授乳中に除去されるまで腺房に貯蔵される。細胞の側面に沿ったタイトジャンクションは、下層組織と腺房に位置する乳との間のバリアを確保する。したがって、in vivoでは、乳腺の組織は、乳汁分泌が区画化されるように配置され、乳腺上皮細胞自体が界面を確立し、栄養素の吸収及び乳汁分泌の方向性を維持する。
【0162】
本発明は、体外で増殖した乳腺上皮細胞から乳を収集するために使用され得る乳腺の区画化能力を再現する細胞培養装置を記載する。そのような装置は、上皮単層が栄養培地と分泌乳との間の物理的境界を提供するように、2つの区画間の界面において乳腺細胞の増殖を支持するための足場を含むことができる。足場は、増殖のための表面を提供することに加えて、細胞の分極を誘導し、吸収及び分泌の方向性を確実にする空間的な手がかりを提供する。本発明は、栄養用途のための乳の生産及び収集のための区画化細胞培養装置における乳腺上皮細胞の調製、増殖及び刺激について記載する(例えば、図1参照)。
【0163】
乳腺上皮細胞の調製
乳腺上皮細胞は、解剖された乳腺組織(例えば、乳房、乳腺、乳頭)からの外科的外植片から得られる。一般的に、乳腺組織の外科的切開後、任意の脂肪組織又は間質組織を無菌条件下で手動で除去し、乳腺の残りの組織を、「一般に安全と認められる」(GRAS)成分からなるべき化学的に定義された栄養培地中に調製したコラゲナーゼ及び/又はヒアルロニダーゼで酵素的に消化させる。試料を穏やかに撹拌しながら37℃に維持する。消化後、単細胞又はオルガノイドの懸濁液を、遠心分離によって、又は試料を滅菌ナイロン細胞ストレーナーに通して注ぐことによって収集する。次いで、細胞懸濁液を、適切な細胞外マトリックス成分(例えば、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン)でコーティングした組織培養プレートに移す。
【0164】
あるいは、外植片標本は、例えば滅菌メスで細かく刻むことによって、小片に加工することができる。組織片は、適切な細胞外マトリックスでコーティングされたゼラチンスポンジ又はプラスチック組織培養プレートなどの適切な表面上にプレーティングされる。
【0165】
プレーティングした細胞を5%CO雰囲気の加湿インキュベーター内で37℃に維持する。インキュベーション中、培地を約1~3日毎に交換し、細胞を、後続の処理のために充分な生存細胞数が達成されるまで継代培養する。後続の処理には、液体窒素中での保存のための調製、SV40、TERT、又は老化に関連する他の遺伝子などの遺伝子の安定なトランスフェクションによる不死化細胞株の開発、例えば、蛍光活性化細胞選別による乳腺上皮、筋上皮、及び幹/前駆細胞型の単離及び/又はヒトが消費するための乳の生産及び収集のための区画化組織培養装置への導入などを含み得る。
【0166】
乳の生産のための乳腺上皮細胞の増殖
栄養学的使用のための乳は、上記のように単離され、栄養培地と生成物との間の分離が維持されるように区画化された分泌を支持する様式で培養される乳腺上皮細胞によって生成される。このシステムは、乳腺上皮細胞が、乳汁が分泌される頂端区画と栄養培地が供給される基底区画との間の界面に位置する適切な足場上に播種されたときに、適切な頂端-基底極性を有する連続単層を確立する能力に依存する(例えば、図2参照)。組織培養プレートに配置されたトランスウェルフィルター、及び例えば、中空糸型又は微細構造スキャフォールドに基づくバイオリアクターを使用して、これらの特徴を支持することができる。
【0167】
乳腺上皮細胞の単離及び増殖後、細胞を、食品グレードの成分から構成される化学的に定義された栄養培地に懸濁し、コラーゲン、ラミニン、及び/又はフィブロネクチンなどの細胞外マトリックスタンパク質の混合物で予めコーティングされた培養装置に播種する。細胞培養装置は、栄養分の区画された吸収と、極性化したコンフルエントな上皮単層からの生成物の分泌を可能にする任意の設計であり得る。例としては、中空糸型及び微細構造足場バイオリアクターが挙げられる(例えば、それぞれ図3及び図4を参照)。代替法としては、3次元組織培養の他の方法、例えば、脱細胞化乳腺を足場として調製し、幹細胞を再増殖させてin vitroで機能性臓器を生成するか、又はヒドロゲルマトリックス中又は懸濁液中で増殖させた乳腺上皮細胞オルガノイド又は「マンモスフェア(mammospheres)」の内腔からの乳の収集を含む。
【0168】
装置は、約5%COの加湿雰囲気中で約37℃の温度を維持する密封ハウジングを含む。グルコースの取り込みは、バイオリアクター内で細胞が増殖する際に、培養物の成長を評価するためにモニターされる。グルコース消費の安定化は、細胞がコンフルエントで接触抑制された状態に達したことを示す。単層の完全性は、経上皮電気抵抗によって保証される。センサは、複数の位置において培地中の溶解O及びCOの濃度をモニターする。コンピュータ制御のポンプにより、アンモニアや乳酸などの代謝性廃棄物の除去と栄養分の供給がバランスよく行われるよう、バイオリアクター内の培地を循環させる。
【0169】
培地は、乳酸補充及び適応技術(Freundら.2018 Int J Mol Sci.19(2))を使用して廃棄物を除去した後、又は充填ゼオライトのチャンバを通過させることによって、システムを通してリサイクルすることができる。
【0170】
乳生産の刺激
インビボ及び培養乳腺上皮細胞において、乳の生産及び分泌はプロラクチンによって刺激される。培養においては、プロラクチンを栄養培地中に、授乳期において体内で観察される濃度に近似した濃度、例えば、約20ng/ml~約200ng/mLで外来的に供給することができる。精製プロラクチンは商業的に入手することができる。しかしながら、プロラクチンを提供する又は乳汁分泌を刺激する別の方法を採用してもよく、これには微生物又は哺乳動物細胞培養物からの組換えタンパク質の発現および精製が含まれる。あるいは、プロラクチンを発現及び分泌する細胞を培養して調製した調整培地を乳腺上皮細胞培養物に適用して、乳汁産生を刺激することができる。バイオリアクターは、プロラクチン又は他の重要な培地補充物を発現する細胞の培養物を通過する培地が、記載されるような区画化培養装置中で増殖した乳腺房細胞への曝露の前に調整されるように、直列にセットアップすることができる。
【0171】
乳汁分泌を増加させ、かつ/又は外因性プロラクチンの使用を避けるための他のアプローチとしては、プロラクチンが乳腺上皮細胞の表面上のその受容体に結合することによって調節されるシグナル伝達経路の分子操作、例えば、以下のような、(a)プロラクチンの翻訳後修飾を標的とするコンストラクトの発現、(b)プロラクチン受容体の代替アイソタイプの発現、(c)細胞外ドメインが異なるリガンドに対する結合部位と交換されているキメラプロラクチン受容体の発現、(d)又は条件的に活性なプロラクチン受容体又はSTAT5やAktなどのその下流エフェクターの改変型をコードする遺伝子の導入、(e)PER2概日遺伝子のノックアウト又は改変、(f)乳腺上皮単層の基底面における栄養素の取り込み速度を増加させることを目的とする分子的アプローチが挙げられる。
【0172】
乳汁の収集
分泌された乳は、例えば、培養装置の頂端区画に設置されたポートを介して連続的に又は間隔をおいて収集される。収集を容易にするために、ポートに真空を適用してもよく、また、さらなる生産を促すことに寄与してもよい。収集した乳は、滅菌容器に包装され、流通のために密封され、保存のために冷凍又は凍結乾燥され、又は特定の成分の抽出のために処理され得る。
【0173】
本発明は、栄養用途の乳を生産するための乳腺上皮細胞培養物を提供する。ヒト母乳に加えて、この方法は、例えば、ヒトの消費又は獣医学的使用のために、他の哺乳動物種から乳を生成するために使用され得る。以前は体外で乳を生成することは不可能であったため、この技術は、既存の製品の代替的な生産様式を提供することに加えて、新規な商業的機会をもたらし得る。この技術の商業的開発の社会的及び経済的効果は幅広く、広範囲まで及ぶ。培養細胞からのヒト母乳の生産は、食糧不足の地域社会における乳幼児の栄養失調に対処するための手段を提供し、母乳を摂取することができない未熟児に必須栄養素を提供し、乳幼児の調合乳の利便性とともに最適な栄養を提供する母親への新しい授乳の選択肢を提供することができるかもしれない。牛やヤギの乳を生産することは、畜産業が環境、社会、動物福祉に与える影響を軽減する機会を提供する。ここで述べたプロセスは、細胞農業という新しい分野における重要なギャップを解決し、私たちの栄養源の中で最も基本的なものに対する生物学的・文化的愛着を損なうことなく、人間の食糧供給を劇的に更新する機会をもたらすものである。
【0174】
実施例2
この実施例は、初代ヒト乳腺上皮細胞(HMEC)を播種した中空糸型バイオリアクター中での生合成ヒト乳製品の製造の成功について説明するものである。以下で詳述するように、生合成乳製品の分析により、それが、ヒトの乳に含まれているのと同じ化合物の多くが含まれており、その中には、遺伝子操作されていない野生のヒト系では以前に生成されたことのない化合物も含まれていることが実証された。
【0175】
本明細書に記載される方法は、商業生産のために容易に拡張可能なプロセスを使用して、非遺伝子組み換えヒト生合成乳製品を生産するための概念実証を提供する。中空糸型バイオリアクターは、表面積を最大にし、同時に細胞を乳の生産及び分泌に理想的な3次元構造に組織化することを可能にするための特に有利なシステムである。この細胞培養系により、細胞が、ペプチド、タンパク質、脂質、及び炭水化物、特にオリゴ糖を含む乳分子の完全な補体を生成するために必要な密度及び複雑性の両方を達成することを可能にする。以下の実施例においては、比較的小さなバイオリアクターカートリッジ(表面積400cm)で、1日当たり約30ミリグラム(mg)の乳タンパク質を生成した。以下により詳細に記載するように、このシステムは、例えば、より大きな市販のバイオリアクターカートリッジを使用することによって、1日当たりグラムスケール(例えば、1日当たり1~3グラム)に容易に適合させることができる。
【0176】
本明細書に記載されるプロセスはまた、泌乳初期のHUMECを培養するために、病原体のない環境において、基底膜および培地成分を含む食品グレードの材料を利用する。したがって、得られた生合成ヒト乳製品は、ウシ又はヒトドナー乳の抽出物から作製された乳製品とは異なり、低温殺菌を必要としない。低温殺菌は、胆汁酸塩活性化リパーゼ(BSAL)及びリゾチームなどの重要な分子を含む、多くの乳成分の免疫学的及び栄養的生物活性を低下又は破壊することは周知である。したがって、本明細書に記載されるヒト生合成乳製品は、低温殺菌された乳製品と比較して、優れた栄養特性及び抗菌性及び抗炎症性分子などの生物活性分子の提供によって付与される他の独特の特性を有すると予想される。
【0177】
以下の段落は、小型(表面積400cm)の中空糸型バイオリアクターにおける初代HUMECの泌乳単層培養を記載し、これらの細胞から分泌される生合成ヒト乳の最初の特徴付けを提供する。
【0178】
初代ヒト乳腺上皮細胞(HMEC)の増殖
HMECはATCCから入手した(PCS-600-010)。HMEC(1アンプル、5×10細胞)を、コラーゲンIVでコーティングされたT300フラスコ(又は2つのT175フラスコ)の中、乳腺上皮細胞培地(ATCC PCS-600-30)中に増殖(expanded)させた。適切な細胞数が得られた後、コンフルエンスに達する前に、HMECを剥離し、増殖培地に再懸濁し、以下に示すように調製した中空糸型バイオリアクターに播種した。
【0179】
中空糸型バイオリアクターの調製
使用した細胞培養装置は、栄養素の区画化吸収及び極性化したコンフルエントな上皮単層からの乳生成分の分泌を可能にする中空糸型バイオリアクターであった(例えば、図3及び図4A~Cを参照)。このようなバイオリアクターは、PVDF、ポリスルホン、又は他の生物学的に適した材料から作製された毛細管を円筒形カートリッジに組み立てて作製される。細胞は毛細管外腔(EC)に播種され、培地は毛細管内腔(IC)にポンプで送られる。例示的な概略図を図4Bに示す。
【0180】
細胞を播種する前に、カートリッジを、室温で一晩、PBSとともに最低24時間インキュベートし、続いて、毛細管をPBS中のコラーゲンIV及びラミニンIの1:1混合物(25μgのラミニン-111、25μgのコラーゲンIV)でコーティングすることによって調製した。次いで、コラーゲン/ラミニン混合物を細胞増殖培地と交換し、室温で一晩インキュベートした。
【0181】
バイオリアクターにおける細胞増殖播種後、グルコース利用率から判断してコンフルエンスに達するのに必要な時間に基づいて、HMECをバイオリアクター内で10日間増殖させた。グルコース利用率は、細胞代謝の指標である。指数関数的増殖の間、グルコース利用は急激に増加し、その後減速し、細胞がコンフルエントに達するとより低い定常状態に下がる。予想通り、図4に示すように、バイオリアクターの播種後数日間はグルコース利用率が急激に上昇し、その後横ばいになって10日目頃には低い安定したレベルまで低下し、細胞がコンフルエントに達したことが示された。コンフルエントになると、単層膜は毛細管内(IC)と毛細管外(ECS)の空間を仕切るバリアを形成した。
【0182】
HMECは、高密度細胞培養(FiberCellSystems CDM-HD)のための化学的に定義された培地を含むDulbecco’s Modified Eagle’s Medium (DMEM, Sigma Aldrich社)を添加した基底乳腺上皮細胞増殖培地(ATCC(登録商標)PCS-600-030(登録商標)を用いてバイオリアクター中で培養された。DMEM/CDM-HDの量は、グルコース利用速度に基づいて調整した。グルコース利用率が10mg/日未満で安定した後(図4参照)、DMEM/CDM-HDを10容量%の量で基底増殖培地に添加した。これは、プロラクチン刺激前にグルコース含量を高め、泌乳のための炭素源としてグルコースをより利用しやすくするためであった。
【0183】
さらに、グルコース利用が安定し、細胞がコンフルエンスに達したことを示した後、試料をECSから毎日抽出し(「ECS採取物」)、以下に詳細に記載されるように、タンパク質、脂質、及び炭水化物含有量のその後の分析のために凍結保存した。試料をシリンジを用いてECSチャンバーのポート穴から収集し、遠心分離して上清を集め、0.5mLアリコートに分け、分析のために-80℃で凍結した。遠心分離の際に生じたペレット状の残骸は、元の試料と同量のPBSに再懸濁し、-80℃で凍結した。乳汁分泌は、培地へのプロラクチン添加により刺激された。
【0184】
乳生産の刺激
11日目に、グルコース利用の初期安定化後、培地に100ng/mLのプロラクチンを補充して、細胞を泌乳のために予備刺激(prime)した(図4の最初の矢印)。一般に、授乳中のヒト母親におけるプロラクチンの血清濃度は100ng/mLであると理解されるが、プロラクチンレベルは、期間中、かなり高く、約200ng/mLであることが示されている。したがって、本発明者らは、バイオリアクター増殖細胞において、一定期間経過後にプロラクチン量を増加させることが乳汁分泌の促進に有効かどうかを検証した。100ng/mlのプロラクチンを15日間補充した後、バイオリアクター中での培養26日目に、プロラクチンの量を200ng/mlに増加させた(図4の2番目の矢印)。図5に示すように、プロラクチンを200ng/mlに増加させてから約5日以内に、総タンパク質生産量が4~5倍と急激に増加することが確認された。さらに、その後のプロラクチン濃度の低下(図4の第3矢印)は、総タンパク質生産量の低下と相関しており、プロラクチンの量を変化させることにより、総タンパク質生産量を制御できることが示された。いかなる理論にも拘束されるものではないが、本発明者らは、バイオリアクター培養細胞の最大泌乳の活性化には、最初に100ng/mlのプロラクチンに曝露した後に200ng/mlに増加させることが重要であると考える。
【0185】
生合成乳製品の特性評価ラクトース合成は、乳製造のための律速段階である(Mahmoudら、Am J Physiol Endocrinol Metab.2012;303(3):E365-376)。さらに、ラクトースはまた、事実上全ての哺乳動物乳における主要な炭水化物である。その存在は、哺乳動物の乳の生合成がうまくいっていることの指標となる。したがって、本発明者らは、プロラクチン刺激後のラクトースについてECS採取物を分析した。ラクトースは、酵素アッセイ(Lactose Assay Kit、シグマ-アルドリッチ社)を用いて検出した。図6Aは、細胞をバイオリアクターに播種した後の経時的なラクトース濃度(マイクロモル、μM)を示す。図は、26日目にプロラクチンを200ng/mlに増加させた後、ラクトース生産量が劇的に増加したことを示す。
【0186】
ヒト乳はまた、脂質、アミノ酸、生体アミン及び炭水化物の形態、特にオリゴ糖の形態の代謝産物を含む機能的非栄養成分を含む。一般に、ヒト乳メタボロームは、ヒト乳中に見出される低分子量分子(1500Da未満)のセットとして定義される。したがって、本発明者らは、Smilowitzら、J.Nutr.143:1709-1718,2013に記載されるようにChenomx NMR Suiteソフトウェアを使用して核磁気共鳴(NMR)によって生合成乳生成物の代謝産物成分をさらに分析した。この技術は、ヒト乳について検証されており、炭水化物、アミノ酸及び有機酸含有量の定量的測定を提供する。
【0187】
代謝産物分析により、2’-フコシルラクトース、及びラクトース及びミオイノシトールを含む重要なヒト乳代謝産物の生合成の成功が同定された。乳はまた、ミオイノシトールの重要な供給源であり、その存在はさらに、包括的な哺乳動物の乳生合成の成功を示す。ミオイノシトールは、新生児期に不足する可能性があるため、乳児用ミルクに添加されることが多い。2’-フコシルラクトースはオリゴ糖であり、ヒト母乳中に自然に存在する最も一般的なヒト乳オリゴ糖(HMO)であり、ヒト乳中に見られる全てのHMOの約30%を構成する。上清中の2’ーフコシルラクトースの存在は、バイオリアクター細胞がヒトオリゴ糖の作製に成功したことを示す。図6Bは、細胞をバイオリアクターに播種した後の経時的な2’ーフコシルラクトース濃度(マイクロモル、μM)を示す。図は、2’ーフコシルラクトース産生が、26日目にプロラクチンを200ng/mlに増加させた後に劇的に増加したことを示す。
【0188】
ラクトース及び2’ーフコシルラクトースが単に培養液中に存在するのではなく、細胞によって分泌されていることを確認するために、本発明者らはまた、これらの炭水化物分子の存在について培養培地、ECS収集物、及びリザーバの試料を分析した。図6Cに示すように、細胞培養培地中にこれらの分子の証拠はないが、ラクトース及び2’ーフコシルラクトースの両方の代表的なピークは、ECS収集物及びリザーバ試料の両方においてはっきりと見られる。ヒト乳スペクトルは、定性的比較のために含まれるが、他のものとスケールが異なる。
【0189】
これらの重要な炭水化物に加えて、本発明者らは、ヒト乳中の主要なタンパク質の1つであるヒトカゼイン-2についての生合成乳生成物を分析した。図7は、バイオリアクターの播種後22、25、26、27日目及び29日目にECM収集物から単離されたタンパク質を用いて、カゼイン産生を経時的に示したものである。カゼインは25日目に検出可能となり、その後の数日間にわたって顕著に増加し続けた。
【0190】
代表的なECS収集物のタンパク質含量の分析を、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)を用いて行い、5~250kDaの分子量を有するタンパク質を可視化した。図8は、プロラクチン刺激後20、21、22日目及び25日目に対応する4つのリザーバ試料(左からレーン1~4)及び4つのECS収集試料(レーン5~8)をロードしたクーマシー染色ゲルの画像を示す。分子量マーカの隣のレーン9は、比較のためのヒト乳由来のタンパク質を示す。リザーバ試料は、増殖培地を含むバイオリアクターの毛細管内(IC)空間(図3Bに示すように、毛細管の内部の空間)から得た。これらの結果から、バイオリアクターが、ヒトの乳に含まれるものと同じタンパク質を多く含む生合成乳製品を生成することを示した。
【0191】
レーン5からのECS収集物を液体クロマトグラフィー及び質量分析(LC-MS)によってさらに分析して、存在するタンパク質を同定した。LC-MS分析方法の詳細を以下に提供する。この分析により、67のタンパク質群に由来する合計81のタンパク質が同定された。これらのタンパク質には、アルファ、ベータ、及びカッパ-カゼイン及びアルファ-ラクトアルブミン、及び血清アルブミン、ラクトトランスフェリン、キサンチンデヒドロゲナーゼ/オキシダーゼ、ブチロフィリン、インスリン、ペリリピン-2、及びオステオポンチンが含まれた。
【0192】
【表1(1)】
【表1(2)】
【表1(3)】
【0193】
上記の分子のいくつかは、天然にはヒトの乳汁中にしか存在せず、加熱低温殺菌又は照射低温殺菌による分解に敏感である。特に、胆汁酸塩活性化リパーゼ(BSAL)は、コレステロール及びトリアシルグリセロールの吸収を含む脂質消化において必須の役割を果たす。BSALは、ウシ乳中には見出されず、また子牛(infants)が出生時に生成するものでもない。組換えBSALは、第IIIフェーズ臨床試験に失敗し、これはおそらく、脆弱な翻訳後修飾(post-translation modifications)の喪失や不適切なタンパク質フォールディングのいずれかが生物活性の有意な喪失をもたらした可能性があるためである。脂質吸収におけるその重要な役割のため、BSALは、極めて低い出生重量の早産児のカロリー吸収を高めるために濃縮されたヒトドナー乳において利用される。
【0194】
リゾチームは、分解されやすく、その結果生物活性が失われやすいもう一つの重要な免疫分子である。この分子を組換え的に生成しようとしたが、母乳中に見出される天然タンパク質の生物活性を再現することはできなかった。
【0195】
図10は、生合成乳製品のサンプル中のいくつかの重要な乳タンパク質の相対量を示す。
【0196】
試料調製及びLC-MS分析の一般的方法
タンパク質を消化し、質量分析による分析のために、本質的にGundry,R.L.ら、Curr.Prot.Mol.Biol.2009 10.25.1-10.25.23の「Basic Protocol 2」、工程2~6に従って調製した。各試料のおおよそのタンパク質含量を、Qubit Fluorometer(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、Waltham、MA)を用いて決定した。
【0197】
マイクロプレートC18固相抽出(Glygen Corp.,Columbia,MD)によってペプチドを精製した。固相を99.9%アセトニトリル(ACN)/0.1%TFAで調整し、1%ACN/0.1%TFAで平衡化した。試料を充填し、固相を1.2mL(約6カラム体積)の1%ACN/0.1%TFAで洗浄した。次いで、ペプチドを80%ACN/0.1%TFAで溶出し、真空遠心分離によって乾燥させた。ペプチドを液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)分析のために3%ACNに再溶解した。
【0198】
ペプチドは、Agilent 6520 Accurate-Mass四重極飛行時間型(Q-TOF)LC-MSシステムでペプチドを分析した。ナノLCチップは、360nLローディングカラム及び150mm分析カラムからなり、両方ともC18で充填された。分析カラムは、0.3μL/分のナノポンプ流速で操作した。勾配溶出溶媒は、(A)3%ACN/0.1%FA及び(B)90%ACN/0.1%FAであった。前駆イオンは、少なくとも1000イオンカウント又はスペクトルの相対強度の0.01%に達したものをタンデムフラグメンテーションの対象として選択した。衝突エネルギーは、「エネルギー(V)=((m/z)/100)*勾配+切片」の式に基づいて特定され、勾配及び切片の値はそれぞれ3及び2で指定された。質量較正は、注入されたm/z 322.048121及び922.009798の較正イオンに基づいてデータ取得中に行った。
【0199】
各データファイルからの全てのスペクトルをAgilent.dファイルとして保存し、プロテオミクスソフトウェアPEAKS Studioで解析し、タンデムMSデータからペプチドを同定した。
【0200】
システインのカルバミドメチル化を固定修飾として設定した。メチオニンの酸化、リン酸化(セリン、トレオニン、及びチロシン)、脱アミド化(アスパラギン及びグルタミン)、及びカルバミル化(リジン及びN末端)は、可変翻訳後修飾として許容された。前駆体誤差耐性を20ppmに設定し、±0.035Daをフラグメントイオンに使用した。ペプチド当たりの最大欠失開裂を2に設定した。1分の保持時間窓および30ppmの質量誤差許容度で、無標識定量化のためのピーク積分を行った。全てのペプチドマッチは、1%の偽発見率で同定され、タンパク質は、少なくとも20の-10log(P値)閾値を満たすことが必要とされた。
【0201】
脂質含有量の分析
炭水化物及びタンパク質に加えて、脂質は哺乳動物の乳の重要な成分である。オキシリピンを抽出し、下記のようにLC-MSによって同定した。オキシリピンはまた、脂肪酸の生物活性脂質メディエーターとも称される。以下の表2は、2つの独立したECS試料の平均として報告された遊離オキシリピン濃度(nM)を、既知の場合の分子の分類と共に示す。ヒト脱脂乳中のGanら(Lipids 2020 Nov;55(6):661-670)によって同定された比較量はまた、生物活性脂質がECS試料中に多量に存在する重要な分子として示される。脱脂乳との比較は、乳中のより生物学的に関連する脂質である溶解した脂質を捕捉するため、適している。脱脂乳とバイオリアクター培養細胞上清中の溶解脂質を比較することにより、乳と比較した生合成乳製品の脂質含有量の品質の妥当な指標が得られる。以下の表に列挙される脂質から明らかなように、ヒト乳中に存在する多くの既知の抗炎症性脂質がECS試料中で同定された。さらに、多数の脂質が、Ganらによって報告されたものよりも同等に高い濃度でECS試料中に存在した。
【0202】
【表2(1)】
【表2(2)】
【0203】
略語:EpOME、エポキシオクタデセン酸、EpETrE、エポキシエイコサトリエン酸、EpETE、エポキシエイコサテトラエン酸、EpDPE、エポキシドコサペンタエン酸、DiHOME、ジヒドロキシオクタデセン酸、DiHETrE、ジヒドロキシエイコサトリエン酸、DiHETE、ジヒドロキシエイコサテトラエン酸、HODE、ヒドロキシオクタデカジエン酸、HETrE、ヒドロキシエイコサトリエン酸、HETE、ヒドロキシエイコサテトラエン酸、HOTrE、ヒドロキシオクタデカトリエン酸、HEPE、ヒドロキシエイコサペンタエン酸、HDoHE、ヒドロ-キシドコサヘキサエン酸、LT、ロイコトリエン。
【0204】
生物活性脂質の一般的な精製方法と分析方法
2種類のECSサンプル、それぞれ33mgと74mgから未エステル化脂質を抽出した。サンプルは氷上で解凍し、9つの重水素化された代替標準物質(surrogate standards)を含有する10μLの2μMの代替スパイク溶液でスパイクし、0.002%のBHT、250μMのEDTAおよび0.01%の酢酸を含有する600μLのメタノール:水(1:4 v:v)で抽出した。試料を5秒間ボルテックスし、13,000rpm、0℃で10分間遠心分離した。沈殿したタンパク質を廃棄し、残りの抽出物を100mg tC18Sep-Pakカラム(Waters Corp)を用いて固相抽出(SPE)に供した。オキシリピンを2mLのメタノールで重力によりカラムから溶出し、窒素下で乾燥させ、100μLのLC-MS/MSグレードのメタノールで再構成した。濾過したオキシリピン抽出物を、LC-MSMS分析まで-80℃で保存した。全ての試料を、Agilent 6460トリプル四重極タンデム質量分析計(Agilent、米国カリフォルニア州サンタクララ)に連結されたAgilent 1290 Infinity UHPLCシステムを用いて、ネガティブモードでの電子噴霧イオン化により、オキシリピン抽出の1週間以内に分析した。Zorbax Eclipse Plus C18カラム(2.1×150mm、1.8μm、Agilent、米国カリフォルニア州サンタクララ、カタログ番号959759-902)上で分離した後、最適化された動的多重反応モニタリング(dMRM)条件を用いて分析物を捕捉した。オートサンプラー及びカラムを、それぞれ4℃及び45℃に保った。移動相Aは、Milli-Q水に0.1%酢酸を溶解したものを使用した。移動相Bは、アセトニトリル/メタノール(80:15、v/v)中に0.1%酢酸を含有した。
【0205】
商業的に実現可能な規模での乳の生産
本明細書に記載される方法は、商業生産のために容易に拡張可能なプロセスを用いた、非遺伝子組み換えヒト生合成乳製品の生産のための概念実証を提供する。図9に示すように、総分泌タンパク質として分析された乳の生成量は、プロラクチンを200ng/mLに増加させてから5日後に30mg/日を超える範囲であった。この1日の生産量は、実験の授乳期間の終わりまで持続した。この量は、比較的小さなバイオリアクターカートリッジ(細胞増殖のための表面積400cm)を使用して得られたものである。市販されている最大のバイオリアクターカートリッジ(表面積約3平方メートル)(m)を使用した場合、1日当たり約1~3グラムに相当する量となる。このプロセスは、例えば、より多くの繊維及び/又はより長い繊維を、平行に整列した1つ以上のカートリッジに詰めることによって、さらに拡張可能である。
【0206】
まとめると、本明細書に提示されるデータは、ヒト乳に類似した物質が中空糸型バイオリアクター増殖HUMECによって生成されたことを示す。これらの細胞によって生成される生合成乳生成物の成分分析により、ヒト乳タンパク質、生理活性脂質、及び主要なオリゴ糖を含む炭水化物の完全な生産に成功したことを実証する。この生合成乳には、これまで他のバイオリアクターによる方法では単一製品として生成されなかった多くの重要な分子が含まれており、その中には組換え法による製造が困難であることが判明しているものもある。これらには、ラクトース、胆汁酸塩活性化リパーゼ、2’-フコシルラクトース、リゾチーム、及びオステオポンチンが含まれる。さらに、ここで生成される生合成乳製品は、低温殺菌を必要とせず、ラクトフェリンやリゾチームなど、いくつかの抗菌性ヒト乳タンパク質を含んでいるため、病原菌の心配がない。さらに、本発明者らは、食品としての使用に充分な規模で生合成乳製品を製造する実現可能性をここで実証した。本発明者らの知る限り、これは、ヒト乳、又はヒツジ、ヤギ、又はウシなどの他の哺乳動物乳を、低温殺菌を必要とせずに商業的に実現可能な規模で生産することができる初めての方法を表す。低温殺菌は、ヒトの乳に重要な利点を与えるものを含む多くのタンパク質の活性を低下又は除去することが知られているので、本明細書に記載されるプロセスは、他の形態の市販の乳よりもはるかに優れた栄養特性及び他の特性(例えば、抗菌性)を有すると予想される乳製品を生成するものである。
【0207】
前述の実施例は、本発明の例示であり、本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。本発明を好ましい実施形態を参照して詳細に説明してきたが、変形及び修正は、以下の特許請求の範囲に記載及び定義される本発明の範囲及び精神内に存在する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9
図10
【国際調査報告】