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特表2023-512447脾臓への高密度集束超音波刺激による出血及び出血性疾患の治療
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-27
(54)【発明の名称】脾臓への高密度集束超音波刺激による出血及び出血性疾患の治療
(51)【国際特許分類】
   A61N 7/00 20060101AFI20230317BHJP
【FI】
A61N7/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022542642
(86)(22)【出願日】2021-01-13
(85)【翻訳文提出日】2022-08-24
(86)【国際出願番号】 US2021013190
(87)【国際公開番号】W WO2021146247
(87)【国際公開日】2021-07-22
(31)【優先権主張番号】62/960,612
(32)【優先日】2020-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】305054418
【氏名又は名称】ザ ファインスタイン インスティチューツ フォー メディカル リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100107364
【弁理士】
【氏名又は名称】斉藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】ヒューストン,ジャレッド,エム.
(72)【発明者】
【氏名】フリッツ,ジェーソン,アール.
(72)【発明者】
【氏名】イモッシ,キャサリン,ダブリュ.
(72)【発明者】
【氏名】トレイシー,ケヴィン,ジェイ.
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160JJ25
4C160JJ33
(57)【要約】
脾臓への集束超音波(FUS)刺激によって動物の出血を抑制又は制限する装置及び方法。この装置及び方法は、血友病等の血液疾患を治療すること、又は手術や外傷の出血を抑制することに使用されてよい。この方法は、超音波エネルギの経皮印加により非侵襲的に患者に投与されてよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の失血を抑制するシステムであって、
1つ以上の超音波送信器と、ハウジングと、を含み、前記患者の脾臓に超音波刺激を印加するように構成された超音波アプリケータと、
前記超音波アプリケータと結合されたコントローラであって、前記1つ以上の超音波送信器から超音波刺激を、0.25~5.0MHzの周波数で、30秒~5分の範囲の継続時間にわたって前記患者の脾臓に送達して、前記患者の出血時間を少なくとも20%短縮するように構成された前記コントローラと、
を含むシステム。
【請求項2】
前記ハウジングは、前記患者の腹部の、前記患者の脾臓の上に固定されるように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記超音波アプリケータは超音波送信器のアレイを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記超音波送信器は、超音波刺激を前記患者の体内へ1~10cmにわたって投射するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記超音波アプリケータは1つ以上のセンサを含み、更に、前記コントローラは、肋間スペースを検出することと、前記超音波アプリケータの前記超音波送信器のうちの、前記肋間スペースの上にある1つ以上の超音波送信器を選択することと、を行うように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記1つ以上のセンサは超音波センサを含む、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記ハウジングは可撓基板を含み、前記1つ以上の超音波送信器は前記可撓基板上に固定される、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記コントローラは、前記超音波アプリケータからの超音波の印加を駆動する為に、50~350mVppの範囲の入力電圧振幅を印加するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記ハウジングは粘着パッドを含み、前記粘着パッドは、前記患者の腹部の、前記患者の脾臓の上に貼り付けられるように適合されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記超音波アプリケータは前記コントローラと導体で結合されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
前記コントローラは、前記超音波アプリケータの前記ハウジングに封入されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
患者の失血を抑制する方法であって、
前記患者の脾臓に超音波刺激を印加するステップと、
出血時間を少なくとも20%短縮するステップと、
を含む方法。
【請求項13】
前記超音波刺激を印加する前記ステップは、0.25~5.0MHzの範囲の超音波刺激周波数を、30秒~5分の範囲の継続時間にわたって前記患者の脾臓に印加することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記超音波刺激を印加する前記ステップは、50~350mVppの範囲の入力電圧振幅を使用することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記超音波刺激を印加する前記ステップは、集束超音波刺激を前記患者の脾臓に印加することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記超音波刺激は経皮的に印加される、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記超音波刺激を印加する前記ステップは、前記超音波刺激を前記患者の脾臓の中央部に集束させることを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記超音波刺激を印加する前記ステップは、前記超音波刺激を前記患者の脾臓の門に集束させることを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
前記超音波刺激を印加する前記ステップは、迷走神経を直接刺激することなく、前記患者の脾臓に前記超音波刺激を印加することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
前記超音波刺激を印加する前記ステップは、三叉神経を直接刺激することなく、前記患者の脾臓に前記超音波刺激を印加することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項21】
失血を抑制することは、出血時間を少なくとも30%短縮することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項22】
失血を抑制することは、出血時間を少なくとも40%短縮することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項23】
失血を抑制することは、出血時間を少なくとも50%短縮することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項24】
失血を抑制することは、出血時間を20~70%短縮することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項25】
前記患者の脾臓に前記超音波刺激を印加する前記ステップは、脾臓神経を刺激することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項26】
出血を抑制する為に迷走神経及び三叉神経の一方又は両方を電気的又は機械的に刺激するステップを更に含む、請求項12に記載の方法。
【請求項27】
前記患者の脾臓に前記超音波刺激を印加する前記ステップの前、途中、又は後に前記患者の出血速度を測定するステップを更に含む、請求項12に記載の方法。
【請求項28】
出血患者を治療する方法であって、
前記患者が出血しているときを特定するステップと、
周波数が0.25~5.0MHzの範囲である超音波刺激を、30秒~5分の範囲の継続時間にわたって前記患者の脾臓に印加するステップと、
を含む方法。
【請求項29】
前記超音波刺激を印加する前記ステップは、50~350mVppの範囲の入力電圧振幅を使用することを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
手術を受けている患者の出血を抑制する方法であって、
前記手術中に、又は前記患者に対して前記手術を実施してから2時間以内に、前記患者の脾臓に超音波刺激を印加するステップであって、前記超音波刺激は、前記患者の脾臓に対して、30秒~5分の範囲の継続時間にわたって、0.25~5.0MHzの範囲の超音波周波数を使用し、50~350mVppの範囲の入力電圧振幅を使用することを含む、前記印加するステップ
を含む方法。
【請求項31】
出血を20%より多く抑制するステップを更に含む、請求項30に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本特許出願は、参照によって完全な形で本明細書に組み込まれている、2020年1月13日に出願された米国特許仮出願第62/960,612号、件名「脾臓への高密度集束超音波刺激による出血及び出血性疾患の治療(TREATING BLEEDING AND BLEEDING DISORDERS VIA HIGH INTENSITY FOCUSED ULTRASOUND STIMULATION OF THE SPLEEN)」の優先権を主張するものである。
文献の引用
【0002】
本明細書において言及される全ての公表文献及び特許出願は、それぞれ個々の公表文献又は特許出願が参照により具体的且つ個別に示されて組み込まれる場合と同程度に、参照により完全な形で本明細書に組み込まれている。
【0003】
本開示は、全般的には、患者の出血の予防及び/又は治療に関する。より具体的には、本開示は、脾臓を刺激することによって患者の出血を予防及び/又は治療する装置(デバイス、システム、及び方法)に関する。
【背景技術】
【0004】
出血及び失血は、事故や手術による外傷のような幾つかの原因のいずれかによって起こりうる。例えば、米国では年間約100,000,000件の手術が行われており、世界中では更に何百万件もの手術が行われており(疾病管理予防センター(CDC)、国立健康統計センター)、これらには、軽度なものから生命を脅かすおそれのあるものまで、出血のリスクがつきものである。ごく一部の整形外科手術でのトラネキサム酸の投与を別とすれば、止血の増強及び手術出血の最小化を支援する為に投与できる予防的全身療法は存在しない。
【0005】
外傷は、米国における死亡原因の第3位である(CDC、国立健康統計センター)。外傷に次いでよくある死亡原因が制御不能な出血である(CDC、国立健康統計センター)。最新の止血帯であれば四肢外傷後の出血を止めることの支援に利用できる場合があるが、それでもこれらの外傷は危険である。圧迫できない胴体の出血を制御する方法となると更に一層限られるのは以前からのことであり、このことは、戦場における米軍兵士のよくある死亡原因である。
【0006】
分娩後出血(PPH)は、世界中の妊婦死亡の原因の第1位である。最もよくある原因は、子宮の収縮不足である。他の原因として、子宮裂傷、遺残胎盤、血液凝固不足等がある。米国では妊婦死亡の約11%がPPHに起因するが、発展途上国世界では妊婦死亡の約60%がPPHに起因する。これは、年間100,000~140,000件の死亡に相当する。既存の治療法としては、薬剤(オキシトシン、ミソプロストール、エルゴタミン等)、静脈内輸液、輸血、子宮マッサージ等がある。頸管裂傷又は膣壁裂傷又は子宮破裂を修復する手術が必要になることもある。これらの治療選択肢の多くは、資源の乏しい地域では危険であったり利用できなかったりする為、死亡率が劇的に高くなる。
【0007】
血友病Aは、凝固因子VIIIの欠乏に続発する、自然発生的且つ長引く出血症状を伴うX連鎖劣性疾患である。米国では20,000人超がこの一生続く病気に苦しんでいる。重篤な血友病の子供の最大30%が、抑制抗体の発生の為に標準第VIII因子濃縮物を受けることができない。そして止血を維持する為には、第2経路を介して凝血塊を発生させることを支援するバイパス製剤(例えば、活性プロトロンビン複合体濃縮物及び組み換え因子VIIa)が必要である。これらの高価な治療法には、副作用として重い全身性血栓症(心筋虚血、深部静脈血栓症、肺塞栓症等)がつきものである。そこで、出血障害を予防及び治療する為の新しい装置、方法、及びシステムが必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本明細書では、これらの課題、並びに失血及び出血に関連する他の課題に対処する装置、方法、及びシステムについて記載する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、患者の出血を抑制する新規な方法及び装置を表す。より具体的には、本開示は、患者の出血及び出血時間を機械刺激によって(例えば、脾臓への音響刺激によって)制御する装置(デバイス、システム)及び方法に関する。本装置は、脾臓への非侵襲的刺激を実現することが可能である。出血を制御することは、出血(例えば、手術出血、外傷出血、他の医療処置又は症状に関連する出血、及び遺伝性又は後天性の出血性疾患)を予防及び/又は治療することを含んでよい。
【0010】
超音波刺激は、機構的には、脾臓及び前述の神経止血帯を活性化することによって頸部迷走神経を直接活性化する代替の非侵襲的方法を意味してよい。この方法が薬物方式より有利な点として、潜在的に特異性が高いこと、副作用が少ないこと、コストが低いこと、及びコンプライアンスが改善されることが挙げられる。長期神経刺激印加用埋め込み式パルス発生器より有利な点として、最初の処置、及びバッテリ交換の為のその後の処置の両方に関して手術及びこれに伴う合併症を避けられること、並びにコストが低いことが挙げられる。
【0011】
例えば、本明細書では患者の出血を抑制(例えば、出血時間を短縮)する方法を記載しており、本方法は、患者の脾臓に超音波刺激を印加するステップと、出血を少なくとも20%抑制するステップと、を含む。本方法は、超音波刺激を、(例えば)0.25~5.0MHzの範囲の超音波刺激周波数で、所定の継続時間(例えば、30秒~5分)にわたって、患者の脾臓に印加するステップを含んでよい。超音波刺激は、所定の範囲の入力電圧振幅(例えば、50~350mVpp)で印加されてよい。幾つかの実施例では、超音波刺激は、集束超音波刺激を患者の脾臓に印加することを含む。超音波刺激は、経皮的に印加されてよい。代替又は追加として、幾つかの実施例では、超音波の印加は、(例えば、手術中に)非侵襲的に、且つ/又は埋め込みによって行われてよい。超音波刺激は、患者の脾臓の中央部に、且つ/又は患者の脾臓の門に向けられてよく、且つ/又は集束されてよい。超音波刺激の印加は、迷走神経及び/又は三叉神経を直接刺激することなく行われてよい。幾つかの実施例では、脾臓への超音波刺激は、出血を抑制する為に、迷走神経及び/又は三叉神経への電気刺激又は機械刺激と組み合わされて印加されてよい。幾つかの実施例では、患者の脾臓に超音波刺激を印加するステップは、脾臓神経を刺激することを含む。患者の出血速度は、患者の脾臓に超音波刺激を印加するステップの前、途中、及び/又は後に測定されてよい。
【0012】
一般に、本明細書に記載の患者(subject)は、患者(patient)、又は出血制御を必要とされる患者(patient)と見なされてよく、これらの患者はヒト患者を含んでよい(が、これに限定されない)。患者は非ヒト(例えば、家畜を含む動物)であってよい。
【0013】
又、本明細書では出血患者を治療する方法を記載しており、本方法は、患者が出血しているときを特定するステップと、超音波刺激を(例えば、0.25~5.0MHzの範囲の周波数を使用して、30秒~5分の範囲の継続時間にわたって)患者の脾臓に印加するステップと、を含む。
【0014】
又、本明細書では手術を受けている患者の出血時間を短縮する方法を記載しており、本方法は、手術中に、又は患者に対して手術を実施してから2時間以内に、患者の脾臓に超音波刺激を印加するステップであって、超音波刺激は、患者の脾臓に対して、30秒~5分の範囲の継続時間にわたって、0.25~5.0MHzの範囲の超音波周波数を使用し、50~350mVppの範囲の入力電圧振幅を使用することを含む、上記印加するステップを含む。
【0015】
これらの方法のいずれにおいても、患者はヒトでも非ヒトでもよい。
【0016】
前述のように、これらの方法はいずれも、出血時間を短縮するステップを含んでよい。例えば、出血時間を短縮するステップは、内出血又は外出血の一方又は両方の出血時間を短縮することを含んでよい。未治療の患者と比較した場合に、出血時間は、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%等より大きく短縮されることが可能である(例えば、音響エネルギの印加は、出血時間が10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%等より大きく短縮されるまで行われてよい)。
【0017】
本明細書に記載の装置は、全般的には、これらの方法のいずれかを実施するように構成されている。例えば、本明細書では、患者の出血を抑制するシステムを記載している。本システムは、1つ以上の超音波送信器と、ハウジング(例えば、ハウジング基板)と、を含み、患者の脾臓に超音波刺激を印加するように構成された超音波アプリケータと、超音波アプリケータと結合されたコントローラであって、1つ以上の超音波送信器から超音波刺激を、0.25~5.0MHzの周波数で、30秒~5分の範囲の継続時間にわたって患者の脾臓に送達して、患者の出血時間を少なくとも20%短縮するように構成されたコントローラと、を含んでよい。
【0018】
超音波アプリケータは、患者の腹部の、患者の脾臓の上に固定されるように構成されたハウジングを含んでよい。超音波アプリケータは、超音波送信器のアレイを含んでよい。幾つかの実施例では、超音波送信器は、超音波刺激を体内へ1~10cmにわたって投射するように構成されてよい。超音波アプリケータは1つ以上のセンサを含んでよく、更に、コントローラは、肋間スペースを検出することと、超音波アプリケータの超音波送信器のうちの、肋間スペースの上にある1つ以上の超音波送信器を選択することと、を行うように構成されている。例えば、1つ以上のセンサは超音波センサを含んでよい。
【0019】
ハウジングは、可撓な基板であってよい。例えば、ハウジングは可撓基板を含んでよく、この基板上又は基板内に1つ以上の超音波送信器が固定される。
【0020】
これらのシステムのいずれにおいても、コントローラは、超音波アプリケータからの超音波の印加を駆動する為に、50~350mVppの範囲の入力電圧振幅を印加するように構成されてよい。
【0021】
ハウジングは粘着パッドを含んでよく、粘着パッドは、患者の腹部の、患者の脾臓の上に貼り付けられるように適合されている。幾つかの実施例では、超音波アプリケータはコントローラとコードで結合されており、代替として、幾つかの実施例では、コントローラは、超音波アプリケータのハウジングに封入されており、且つ/又は、アプリケータのハウジング上の(例えば、副ハウジング内の)ハウジングに取り付けられている。
【0022】
本明細書ではこれら及び他の特徴及び利点を記載している。
【0023】
後述の請求項において、本発明の新規な特徴を具体的に説明する。本発明の原理が利用される例示的実施例を説明する後述の詳細説明と、以下の添付図面とを参照することにより、本発明の特徴及び利点がよりよく理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1A】出血を抑制する為に脾臓に刺激を印加する超音波装置の一例の概略図である。
図1B】出血を抑制する為に脾臓に刺激を印加する超音波装置の概略図の別の例である。
図2A】乃至
図2B】脾臓の位置及び構造を示す概略図である。
図2C】乃至
図2D】本明細書に記載の装置を患者の体の、脾臓の上に貼り付けた例を示す。
図3】患者の出血を抑制する方法の一例を示すフローチャートである。
図4A】乃至
図4B】マウスの脾臓への超音波刺激、及びマウスの大腿四頭筋への対照超音波刺激の実験セットアップの例を示す。
図5】出血時間を短縮する為のパラメータを使用した脾臓への超音波刺激による治療の後のマウスの出血時間を示すグラフである。
図6A】乃至
図6B】位置決め不良の超音波刺激による治療、及び不適当な入力電圧を使用した治療の後のマウスの出血時間を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、患者の脾臓を刺激することによって患者の出血を制御(例えば、治療及び/又は予防)することに関する。より具体的には、本明細書では、機械刺激(例えば、音響刺激(例えば、超音波刺激))を印加して出血時間を短縮することによって出血を制御する装置(デバイス、システム、及び方法)について記載する。出血時間の短縮は、それに応じて出血量(失血)を低減することにつながる。脾臓は経皮的に刺激できる為、非侵襲的であることが可能である。出血を制御することは、手術出血、外傷出血、出産関連出血、他の医療処置又は症状に関連する出血、抗凝血剤によって媒介された又は増加した出血、遺伝性又は後天性の出血性疾患(血友病等)、並びに他の形態及び原因の出血等の出血を予防及び/又は治療することを含んでよい。
【0026】
本明細書では「治療」は、予防的治療及び治療的治療を包含する。「予防的治療」は、症状(例えば、出血、炎症状態等)の発現が存在する前にその発生を予防、阻止、又は抑制する治療を意味する。
【0027】
本明細書では、患者又は被験者は、人間を含む任意の動物(好ましくは哺乳動物)であってよいが、コンパニオンアニマル(例えば、ネコやイヌ)、家畜(例えば、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ)、又は実験動物(例えば、モルモット、マウス、ラット)、又は他の任意の動物(好ましくは、脾臓を有する哺乳動物)であってもよい。
【0028】
本明細書では「出血時間」は、出血が止まるのにかかる時間の長さを意味する一般に、出血時間は、血小板がいかにうまく血小板血栓を形成するように働くかによって制御又は左右されうる。未治療の患者の場合は一般に、抗凝血剤(例えば、アスピリン、ヘパリン、及びワルファリン)が投与されると出血時間が長くなる。
【0029】
本明細書では、出血(例えば、出血時間)に言及する場合の「抑制する」という用語は、未治療の対照に比べて出血の減少が少なくとも少量ながら測定可能であることを包含する。出血時間の短縮は、約5%から約70%の範囲であってよい。出血時間は、少なくとも上述のいずれかのパーセンテージで短縮可能である。例えば、出血時間は、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、又は70%超の短縮が可能である。例えば、脾臓刺激の印加の副作用を最小化しながら出血を抑制するように構成されたプロトコル又は装置を使用する為に、これらの範囲の間の値が選択されてよい。例えば、幾つかの実施例では、出血時間は、5~70%、10~50%、20~60%、30~70%、40~70%、又は25~65%の短縮が可能である。
【0030】
本明細書に記載の脾臓刺激は非侵襲的であることが可能である。機械刺激は、例えば、(皮膚を破ることなく)経皮的であってよい。本明細書にあるように、非侵襲的刺激は、例えば、圧力手段及び/又は振動手段を患者に外から貼り付けることにより、達成可能である。機械刺激は、患者の脾臓の上の皮膚、脾臓の近くの皮膚、及び/又は脾臓の方向の皮膚に貼り付けられた音波振動子手段(例えば、超音波刺激装置)によって行われてよい。幾つかの実施例では、非侵襲的音波刺激が脾臓に印加されてよい。例えば、電気刺激が1つ以上の場所から皮膚を通して(経皮的に)印加されてよい。
【0031】
脾臓刺激は、1つ以上の神経又は神経叢に機械的エネルギを直接又は間接的に印加することが可能である。例えば、脾臓への超音波刺激は更に、脾臓神経(脾臓神経叢)を刺激することが可能である。凝血塊形成(血液凝固)を制御(加速)する内因性経路が脾臓又は脾臓神経に存在するかどうかにかかわらず、そのような凝固促進経路の活性化が振動/音波刺激によって達成されると、特に組織損傷部位において凝血塊形成が加速されて止血が増強される。これは、出血を伴う組織外傷の後の失血の減少及び出血時間の短縮につながりうる。
【0032】
場合によっては、機械的脾臓刺激によって、他の生理的経路、例えば、抗炎症経路(例えば、コリン作動性抗炎症経路)が活性化されることもある。但し、血液凝固経路の活性化を標的とする為の条件は、抗炎症経路の活性化を標的とする為の条件と異なる場合がある。例えば、抗炎症経路の活性化の為の脾臓への超音波刺激の為に最適化されたパラメータでは、出血時間を最小閾値以内まで短縮することを達成する為の血液凝固の活性化が効率的に行われない可能性がある。この、出血時間の短縮の最小閾値は、治療する症状によって異なる場合がある。例えば、遺伝性又は後天性の出血性疾患の治療の為の出血時間短縮要件は、手術出血の治療/予防の為の出血時間短縮要件と異なる場合がある。幾つかの実施例では、未治療の患者と比較した場合の出血時間短縮の最小閾値は、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、又は少なくとも70%である。症状によっては、出血だけをある程度まで減らすことが望ましい。そのような場合には、出血時間短縮の最大閾値があってよい。幾つかの実施例では、未治療の患者と比較した場合の出血時間短縮の最小閾値は、最大で10%、最大で20%、最大で30%、最大で40%、最大で50%、最大で60%、又は最大で70%である。場合によっては、出血時間短縮は、上述の値のいずれかの間の範囲であってよい(例えば、10%から70%、20%から70%、40%から60%、50%から70%、50%から60%等であってよい)。
【0033】
本明細書に記載の脾臓刺激方法はいずれも、脾臓に音響エネルギを印加することによって実施可能である。幾つかの実施例では、音響エネルギはパルス波として印加される。幾つかの実施例では、音響エネルギは連続的に印加される。他の実施例では、音響エネルギのパルス波と連続印加との組み合わせが用いられる。幾つかの実施例では、音響エネルギは、単一の超音波エミッタから印加される。他の実施例では、音響エネルギは、超音波エミッタが組み合わされたアレイから印加される。これらの方法は集束超音波(FUS)技術を用いてよく、この技術では、音響レンズを使用して音響エネルギを集束することによって音響エネルギを標的組織に集中させる。幾つかの実施例では、高密度集束超音波(HIFU)技術が用いられる。
【0034】
一般に、本明細書に記載の脾臓刺激は、患者が失血を減少させることをもたらすのに十分であることが可能である。従って、音響刺激の印加は、失血に対する他の療法を同時適用することなく行われてよい。例えば、脾臓刺激の印加は、同時薬物治療なしで行われてよい。音響刺激の印加は、迷走神経及び/又は三叉神経への直接電気刺激なしで行われてよい。直接電気神経刺激は、迷走神経及び/又は三叉神経と物理的に接触している1つ以上の電極(例えば、神経カフ)によって与えられる刺激を意味してよい。音響刺激の印加は、迷走神経及び/又は三叉神経への間接電気刺激なしで行われてよい。間接電気神経刺激は、迷走神経及び/又は三叉神経と物理的に接触していない1つ以上の電極によって(例えば、経皮電気刺激によって)与えられる刺激を意味してよい。音響刺激の印加は、迷走神経及び/又は三叉神経に対する直接又は間接の機械刺激ではなく、例えば、迷走神経及び/又は三叉神経に対する機械的な力及び/又は圧力の経皮的周期振動(例えば、音波振動又は超音波振動)によって行われてよい。
【0035】
一般に、本明細書に記載の脾臓刺激方式は、従来の療法より安全であると言える。一般に、本明細書に記載の方式は、従来の薬物療法より有効であり、安全であり、低コストであることが可能である。例えば、非侵襲的刺激方式は、薬物療法に比べて、特異性が高いこと、副作用が少ないこと、コストが低いこと、及び患者コンプライアンスが改善されることが可能である。侵襲的方式(例えば、手術方式)と比べると、非侵襲的刺激は、そのような侵襲的治療につきものの合併症を回避できる。
【0036】
失血の抑制に有効な脾臓刺激の印加は他の療法を伴わずに行われてよいが、幾つかの実施例では、音波脾臓刺激は、1つ以上の他のタイプの失血抑制治療との組み合わせで行われてよい。例えば、幾つかの実施例では、本明細書に記載の音波刺激療法は、出血抑制を目的とする迷走神経及び/又は三叉神経への刺激(例えば、電気刺激及び/又は機械刺激)との組み合わせで行われてよい。失血抑制に適する神経刺激方式の例が米国特許第8,729,129号及び米国特許出願第16/391,155号に記載されており、これらはそれぞれ、参照によって完全な形で本明細書に組み込まれている。
【0037】
本明細書に記載の出血制御方法は、任意の適切な装置で実施されてよく、そのような装置には、脾臓を刺激することに有用な超音波装置が含まれる。予備作業の結果、集束超音波療法トランスデューサ(例えば(米国ワシントン州ボセルに本拠を置くソニックコンセプツインコーポレイテッド(Sonic Concepts, Inc.)が製造する)超音波トランスデューサSonic Concept H106)を含む超音波装置を改造したものを提案した。脾臓に非侵襲的集束超音波刺激を送達する為に、超音波トランスデューサは、電力増幅器及び波形発生器(例えば(米国カリフォルニア州サンタローザに本拠を置くキーサイトテクノロジーズ(Keysight Technologies)が製造する)波形発生器Keysight Technologies(商標)33120A)に接続されてよい。
【0038】
図1Aは、出血を治療する為の一般的な超音波刺激装置100の概略図である。この例では、本装置は一般に、脾臓に超音波刺激を印加する少なくとも1つの超音波トランスデューサ103を有するアプリケータ109を含み、これは、超音波刺激の態様を制御するコントローラ101に接続されている。この1つ以上のトランスデューサは、高密度集束超音波トランスデューサであってよい。コントローラは、トランスデューサへの電子信号を発生させる波形発生器105及び任意選択の電力増幅器107を含む。コントローラは、刺激の態様(例えば、印加する音波刺激の焦点距離、パワー、及び継続時間)を制御する1つ以上のプロセッサを含んでよい。コントローラは、超音波刺激を印加する為の専用コンピューティング装置であってよい。幾つかの実施例では、コントローラは、タブレット、スマートフォン、ラップトップ、スマートウォッチ、又は他のコンピューティング装置であってよい。電力増幅器と波形発生器は、それぞれ別のユニットであってよく、(例えば、単一エンクロージャに封入された)同じユニットの一部であってもよい。
【0039】
超音波トランスデューサは、患者の皮膚に直接又は間接的に貼り付けられるプローブ(又はプローブの一部)であってよい。幾つかの実施例では、増幅器、波形発生器は、プローブと一体化されてよい。超音波の伝導を支援する為に超音波ローション又は超音波ゲルが使用されてよい。幾つかの実施例では、プローブ(又はプローブの一部)は手持ち式ユニットである。場合によっては、プローブは、プローブ/トランスデューサを患者の体に固定する為の固定装置を含む。例えば、プローブ/トランスデューサは、ストラップ、ベルト、及び/又は粘着剤で患者に固定されてよい。場合によっては、プローブ/トランスデューサは、患者が身に着ける衣服又はアクセサリに組み込まれてよい。場合によっては、プローブ/トランスデューサは、手術前、手術中、及び/又は手術後に出血を治療又は制御する手術装置の一部である。
【0040】
超音波トランスデューサが集束超音波トランスデューサ(FUS)である例では、トランスデューサは音響レンズを含んでよく、これにより、放射される集束超音波ビームが、音響レンズに対応する焦点ゾーン(例えば、焦点)及び焦点距離を有する。プローブは、脾臓がトランスデューサの焦点ゾーン/焦点距離内にあるように配置されてよい。
【0041】
図1Bは、出血を治療する為の超音波刺激装置の別の例を示す。この例では、装置100’は、脾臓に超音波刺激を印加する超音波トランスデューサのアレイ103’を含む。トランスデューサアレイはアプリケータ109’の一部であり、アプリケータ109’は、患者の胴の、上部胸郭の上(例えば、脾臓の上)に貼り付けられるように構成されてよい。例えば、アプリケータは、患者の胴にぴったりかぶさるように構成されたハウジングを含んでよい。幾つかの実施例では、ハウジングは、1つ以上の超音波トランスデューサが取り付けられる可撓基板であってよい。幾つかの実施例では、アプリケータは、アプリケータを患者の皮膚に固定して皮膚と超音波トランスデューサとの間の接続を形成することに役立ちうる粘着剤及び/又はヒドロゲル材料119を含む。アプリケータは、1回使用(例えば、使い捨て)であっても再使用可能であってもよい。幾つかの実施例では、アプリケータは、再使用可能部分に対して交換できる取り外し可能な皮膚接触部分(1つ以上のトランスデューサを含む)を含む。この1つ以上のトランスデューサは、高密度集束超音波トランスデューサであってよい。
【0042】
図1Bでは、アプリケータは、超音波刺激の態様を制御するコントローラ101に接続されている。コントローラは、トランスデューサへの電子信号を発生させる波形発生器105及び任意選択の電力増幅器107を含んでよい。コントローラは、印加する音波刺激の焦点距離、パワー、継続時間等の態様を制御する1つ以上のプロセッサを含んでよい。コントローラは、超音波刺激を印加する為の専用コンピューティング装置であってよい。幾つかの実施例では、コントローラは、タブレット、スマートフォン、ラップトップ、スマートウォッチ、又は他のコンピューティング装置であってよい。電力増幅器と波形発生器は、それぞれ別のユニットであってよく、(例えば、単一エンクロージャに封入された)同じユニットの一部であってもよい。
【0043】
これらの装置(例えば、システム、デバイス等)のいずれにおいても、本装置は、アプリケータが貼り付けられている患者の肋間領域(2つ以上の肋骨の間、具体的には、第9肋骨と第10肋骨との間、又は第10肋骨と第11肋骨との間等)を識別することによって脾臓に超音波エネルギを印加するように構成されてよい。本装置は、肋間領域を自動的に識別してよく、超音波トランスデューサのアレイのうちの、脾臓にエネルギを印加する為に使用される肋間領域の上にあるサブセットから本明細書に記載のようにエネルギを印加するように構成されてよい。従って、これらの装置は、肋間領域を検出する1つ以上の肋間センサを含んでよい。幾つかの実施例では、体にエネルギを印加することに使用される同じ超音波トランスデューサが、肋骨と肋骨の間の肋間スペースを検出することにも使用されてよい。例えば、コントローラは、サウンディング超音波パルスのシーケンスを印加することと、リターン超音波信号を検出して、アプリケータの下にある肋骨を検出することと、を行うように構成されてよい。そしてコントローラは、どの超音波トランスデューサが肋間スペースの上にあるか、且つ/又はどの超音波トランスデューサが脾臓の上にある可能性が高いかを特定してよく、そのサブセットの1つ以上の超音波トランスデューサを選択して、本明細書に記載のようにエネルギを印加してよい。
【0044】
幾つかの実施例では、コントローラユニットは、1つ以上の導体111で直接トランスデューサに接続されてよい。代替として、コントローラは、アプリケータのハウジング内にあってよく、ハウジングと結合又は一体化されてよい(例えば、後述の図2Dを参照)。本明細書に記載の装置はいずれも、1つ以上の入力を含んでよく、これにはユーザ(医師、介護者、看護師、自分/患者等)用のコントローラが含まれる。更に又は代替として、これらの装置はいずれも、患者の症状を検出する1つ以上のセンサ113を含んでよく、これは、コントローラ101又は1つ以上の他のコンピューティング装置に(有線及び/又は無線で)接続されてよい(115)。これらのセンサは、患者の1つ以上の生理的症状(例えば、失血/出血、血圧、心拍数等のうちの1つ以上)を検出することが可能である。センサデータは、フィードバックループで本装置を制御することに使用されてよい。例えば、超音波刺激のパラメータを(例えば、自動的に且つ/又は手動で)修正することに1つ以上のセンサが使用されてよい。これは、場合によってはリアルタイムで行われる。
【0045】
本明細書に記載の超音波装置は、手術を受けようとする患者に配置及び/又は固定されるように構成された手術装置に組み込まれてよい。超音波治療は、予定された手術に前に(例えば、5分前、10分前、15分前、20分前、30分前、又はそれ以上前に)連続的又は離散的に行われてよく、且つ/又は、手術中及び/又は手術後に出血を抑制又は制御する為に行われてよい。幾つかの実施例では、これらの方法は、手術後且つ/又は出産後の患者を治療する為に用いられてよい(例えば、分娩後出血又は出血が懸念となりうる他の任意の医療処置(例えば、関節交換手術や脊椎手術)に起因する出血を抑制する為に用いられてよい)。
【0046】
本明細書に記載の方法及び装置は、急性出血だけでなく慢性出血の治療にも使用されてよい。例えば、脾臓刺激によって出血を抑制するこれらの方法及び装置はいずれも、血友病の患者の治療に使用されてよい。血友病の患者は、出血のリスクを一生涯抱える場合がある。慢性出血を患っている患者に対しては、所定の間隔で(例えば、1日、1週間、又は1か月に1回以上)超音波刺激による治療が行われてよい。幾つかの実施例では、本装置はポータブルであり、それによって、患者が出血のリスクがあるときに超音波刺激を印加できるように装置を手元に保持することが可能である。代替として、患者は、超音波トランスデューサを患者に固定する為に、又は超音波刺激を印加する為に、ウェアラブルユニット(例えば、ベルト、バンド等)を使用してよい。
【0047】
本明細書に記載の方法及び装置は、脾臓の1つ以上の部分に刺激を印加することによって出血を治療するように構成されてよい。図2Aは、脾臓の大まかな位置221の概略図を示す。脾臓は一般に、左上腹部内の、横隔膜の左部分の下にある。脾臓は一般に、少なくとも一部が胸郭の後ろにあり、例えば、第9肋骨、第10肋骨、及び第11肋骨に隠れている。脾臓に音波エネルギを印加する為に、トランスデューサ/アプリケータは、典型的には、トランスデューサのヘッドが脾臓のほうを向くように、患者の胴の左背部及び/又は左側部に配置される。他の場合には、トランスデューサ/アプリケータは、上胴部の左前部の下位肋骨の場所又はその近くに配置される。トランスデューサ/アプリケータは、肋骨の干渉を回避又は低減する為に皮膚の表面に対して角度を付けて配置されてよい。場合によっては、トランスデューサのヘッドの表面は、皮膚表面に対して約5~90°(例えば、約5°、10°、15°、20°、25°、30°、35°、40°、45°、50°、55°、60°、65°、70°、75°、80°、85°、又は90°)の角度が付けられる。
【0048】
幾つかの実施例によれば、トランスデューサ/アプリケータは、脾臓の中央部が刺激されるように配置される。図2Bは、脾臓220の大まかな解剖学的構造の説明図を示す。門226は、脾臓の中央部近くの長い裂け目に相当し、胃脾間膜がつながっている場所であり、脾動脈223及び脾静脈225が挿入されている場所を含む。幾つかの実施例では、超音波エネルギは、門の少なくとも一部を含む、脾臓の中央部又はその近くで集束される。例えば、トランスデューサのヘッドの表面は、門又は門の近くにある、脾臓の中央部に向けられてよく、集束超音波トランスデューサの焦点ゾーン(焦点距離)は、門又は門の近くにある、脾臓の中央部を含むように調節される。
【0049】
図2Cは、本明細書に記載の装置が患者250に貼り付けられている一実施例を示す。図2Cでは、アプリケータ209が患者250に貼り付けられている。アプリケータは、(例えば、アプリケータ上の粘着剤及び/又は超音波伝導性ゲル(例えば、ヒドロゲル)によって)粘着的に取り付けられてよい。アプリケータは、胴の、脾臓の上の部分に取り付けられる。この実施例では、アプリケータはコントローラ201と結合されており、コントローラ201は、超音波エネルギを駆動し、且つ/又は、どの超音波トランスデューサを使用して脾臓にエネルギを印加するかを決定してよい。図2Dでは、アプリケータ209は、コントローラを封入した副ハウジング231を含み、副ハウジング231はアプリケータに組み込まれているかアプリケータと一体化している。これらの実施例のいずれにおいても、アプリケータはハウジングを含むものとされてよい。ハウジングは剛体でも可撓でもよい。例えば、ハウジングはファブリック素材であってよい。ハウジングは基板と呼ばれることもある。一般に、このハウジング(又はハウジング基板)は、1つ以上のトランスデューサを支持することが可能であり、患者の胴の、脾臓の上に貼り付けられてよい。幾つかの実施例では、ハウジングは、(例えば、曲げられた又はあらかじめ曲げられた面を含むことによって)患者の上胴部の、脾臓の上にぴったりかぶさるように構成されている。
【0050】
脾臓を刺激して出血を制御する為に音響エネルギが印加される場合、本明細書に記載のように、少なくとも最小閾値分の出血時間短縮、及び/又は最大で最大閾値分の出血時間短縮を達成する為に、音響エネルギは有効パラメータ範囲(密度、周波数、及び/又は継続時間の範囲)内で印加されてよい。幾つかの実施例では、超音波(例えば、FUS)周波数の範囲は約0.25~10.0MHz(例えば、約0.25~5.0MHz、約0.25~2.5MHz、約0.1~2MHz、約0.25~1.5MHz等)である。幾つかの実施例では、この周波数は一定である。幾つかの実施例では、可能性のある周波数のばらつきは、例えば、±5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、50%等である。
【0051】
入力電圧振幅(mVpp)で測定される超音波(例えば、FUS)密度の範囲は約50~400mVpp(例えば、約100~300mVpp、約50~350mVpp、約10~250mVpp、約10~200mVpp等)であってよい。幾つかの実施例では、入力電圧振幅は400mVpp以下(例えば、350mVpp以下、350mVpp以下、300mVpp以下、250mVpp以下、200mVpp以下、150mVpp以下、100mVpp以下等)である。超音波(例えば、FUS)刺激の入力波形は、幾つかの波形形状(例えば、正弦波、正方形、三角形、のこぎり歯等)のいずれかを有するように特性化されてよい。
【0052】
超音波(例えば、FUS)治療の(刺激の「オン時間」内の)デューティサイクルの範囲は約10~500サイクル/バースト(例えば、約50~300サイクル/バースト、約100~300サイクル/バースト、約100~200サイクル/バースト等)であってよい。超音波(例えば、FUS)バースト継続時間の範囲は、約50マイクロ秒(μs)~10ミリ秒(ms)(例えば、約100μs~5ms、約500μs~2ms、約100μs~2ms、約200μs~10ms等)であってよい。
【0053】
本明細書に記載の超音波(例えば、FUS)刺激治療のいずれにおいても、治療の総継続時間の範囲は約30秒~2時間(例えば、約30秒~5分、約1~10分、約1~5分、約30秒~5分、約1~30分、約30秒~5分、約30秒~1時間等)であってよい。幾つかの実施例では、刺激は1時間より長く印加されてよい。幾つかの実施例では、刺激の印加は、出血が抑制されたことが検出されるまで、又は装置が手動でシャットオフされるまで行われてよい。刺激のラウンド間に「オフ時間」又は遅延(例えば、休息インターバル)があってよい。例えば、オフ時間又は遅延の範囲は約1秒~30分(例えば、約30秒~1分、約15秒~5分、約30秒~2分、約30秒~10分等)であってよい。
【0054】
本明細書に記載の装置及び方法は、出血性疾患のような、何らかの原因による無用の出血を患っている又は患うリスクがある患者を治療的又は予防的に治療することに適することが可能であり、そのような出血性疾患として、無フィブリノゲン血症、第2因子欠乏症、第7因子欠乏症、フィブリン安定化因子欠乏症、ハーゲマン因子欠乏症、血友病A、血友病B、遺伝性血小板機能障害(例えば、アルポート症候群、ベルナール・スーリエ症候群、グランツマン血小板無力症、灰色血小板症候群、メイ・ヘグリン異常症、スコット症候群、及びウィスコット・アルドリッチ症候群)、パラ血友病、スチュワート・パワー因子欠乏症、フォン・ヴィレブランド病、血栓形成傾向、又は後天性血小板障害(例えば、一般的な薬剤(抗生物質、麻酔薬、抗凝血剤等)に起因するもの、並びに症状(慢性腎疾患、心臓バイパス手術、白血病等)に起因するもの)、出産、負傷、月経、及び手術があり、これらに限定されない。本明細書に記載のいずれかの装置又は方法を使用して治療される無用な出血として、内出血又は外出血があってよい。内出血は、体内の血管系から(例えば、体腔又は体空間に入ることによって)血液が失われる出血を含む。外出血は、体外の失血を含む。幾つかの実施例では、本方法及び装置は、(例えば、交通事故や他の事故による、且つ/又は戦闘による)外傷からの急性出血を制御する為に使用される。
【0055】
図3は、患者の出血を制御/抑制する方法の一例を示すフローチャートを示す。出血の抑制を必要としている患者(例えば、急性出血に遭遇している患者、又は出血性疾患を患っている患者)が、患者の脾臓の上又はその近くに超音波プローブを配置すること(301)によって治療されてよい。幾つかの実施例では、プローブと患者の皮膚との間でゲル、ローション、又は他の導電性媒体が使用される。超音波プローブは、脾臓に対して相対的なプローブの位置を維持する固定装置を含んでよい。例えば、固定装置は、プローブを、脾臓に対して所定の角度及び/又は距離で配置することが可能である。超音波プローブを配置するステップは、脾臓が超音波トランスデューサの焦点ゾーン/焦点距離内にあるようにプローブの角度/距離を調節することを含んでよい。場合によっては、脾臓の1つ以上の指定された部分(例えば、脾臓の中央部及び/又は脾臓の門)が、超音波トランスデューサの焦点ゾーン/焦点距離内にある。
【0056】
配置が適切に行われたら、脾臓に超音波刺激治療が印加されてよい(303)。治療パラメータは、重篤さ及び/又は出血のタイプ(例えば、急性か慢性か)に応じて変わってよい。場合によっては、超音波治療は、患者の出血が所定量だけ抑制されるまで(又は抑制されたと推定されるまで)調節される。例えば、一定期間の治療の後に失血/出血が測定されて、その超音波治療が失血を効果的に抑制しているかどうかが判定されてよい。刺激パラメータ(例えば、周波数、入力電圧等)は、所望の出血速度が達成されるまで、測定値に基づいて調節されてよい。
実施例
【0057】
図4A~4Bは、出血を抑制する為に齧歯類(ネズミ)の脾臓に超音波刺激を印加することを示す為に用いた実験セットアップを示しており、これは、出血時間短縮を必要とするヒトの脾臓に超音波を印加して出血時間を短縮することを予測する実験モデルシステムとして働く。使用した動物は、12時間の明暗サイクルで25℃で飼われた生後8~12週の成熟雄性C57BL/6Jマウス(20~25g、タコニック)である。標準飼料及び水は自由に利用可能であった。動物実験は全て、ファインスタイン医学研究所(Feinstein Institutes for Medical Research)の動物実験委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)によって承認されたプロトコルの下で国立衛生研究所(NIH)のガイドライン(National Institutes of Health (NIH) Guidelines)に従って実施した。
【0058】
図4Aは、マウスの脾臓に超音波刺激を印加するセットアップを示す。動物には、ケタミン(144mg/kg、腹腔内投与)及びキシラジン(14mg/kg、腹腔内投与)により麻酔を施した。動物の左側部を家畜バリカンで剃毛した。7分後、動物を右側臥位で配置した。脾臓は、胸郭の尾側縁を、耳の腹側面と尾の根元との間に引いた線に沿って触診することにより見つかった。1.1MHzのFUSトランスデューサ(Sonic Concepts、H106)の開口部の狙いをつける為に、動物の皮膚の、これら2つの線の交点にスポットを引き寄せた。肋骨を避ける為に、トランスデューサを頭側に20度傾けた。当該範囲に超音波ゲルを塗布した。トランスデューサをRF電力増幅器350L(エレクトロニクスアンドイノベーションズ(Electronics & Innovations))に接続し、信号を関数/波形発生器33120A(キーサイトテクノロジーズ)で制御した。関数/波形発生器のパラメータは、指定されたパラメータ(例えば、周波数、パルス振幅、継続時間)に従って刺激を提供するように設定した。
【0059】
図4Bは、対照として使用したマウスの脚に対照超音波刺激を印加するセットアップを示す。対照刺激を受ける動物に麻酔を施し、左側臥位で配置した。右大腿四頭筋の外側面の部分を家畜バリカンで剃毛した。筋肉の中程の、耳の腹側面と尾の根元との間の線上にトランスデューサを配置した。対照動物は、実験動物(図4A)と同じ刺激パラダイムを受けた。
【0060】
実験の第1セットでは、波形発生器のパラメータを、1.1MHz正弦波、200mVpp、0オフセット、150サイクル/バースト、500μsバーストに設定した。刺激は60秒にわたって発生し、30秒の休息インターバルを挟んで次の60秒の刺激が発生した。波形発生器のパラメータは、実験動物(図4A)と対照刺激動物(図4B)とで同じにした。
【0061】
実験動物及び対照刺激動物の両方における集束超音波刺激(FUS)の後、尾を37±1℃の水に5分間浸した。その後、尾を溶液から取り出し、尾をかみそりの刃で2mm切断し、直ちに、37℃の水を入れた50mLのビーカに入れた。尾からは、出血が止まるまで少なくとも10秒間、制御されずに出血した。この出血の継続時間を出血時間として記録した。
【0062】
図5に示すように、脾臓への高密度FUS刺激は、同じ刺激パラメータを使用した対照刺激(大腿四頭筋刺激)と比べて、尾の動脈が損傷したマウスモデルの出血時間を大幅に短縮し、出血を大幅に減らした。具体的には、脾臓を刺激された動物の出血時間は56.3±2.7秒であり、一方、対照を刺激された動物の出血時間は105.6±5.1秒であった(n=7-8/グループ、p<0.0001)。場合によっては、超音波刺激器を左胸郭の下に、頭部に向けて置き、皮膚表面に対して約20度の角度を付けた。そして、プローブを皮膚に当て、深さ約5~10mmにわたって押し込んだ。ヒトからの予備データも同様の標的設定を示せば有用であろう。
【0063】
ヒトの場合、脾臓のサイズは個人差がありうるが、脾臓は、典型的には長さが3~5.5インチ前後であり(例えば、およそ1インチ×3インチ×5インチであり)、第9肋骨と第11肋骨との間に位置する。本明細書に記載の超音波刺激は、超音波エネルギの塊を脾臓の外鞘内の部分、具体的には、白脾髄部分、又は白脾髄に分布している神経に印加するように構成されてよい。幾つかの実施例では、超音波エネルギは、白脾髄を主に又は排他的に標的にしてよい。幾つかの実施例、超音波エネルギは、赤脾髄(又は赤脾髄に分布している神経)を標的にしてよい。幾つかの実施例、赤脾髄部分及び白脾髄部分の両方が標的であってよい。
【0064】
場合によっては、(例えば、脾臓(例えば、脾臓の白脾髄に神経を分布させている脾臓部分)の)適切な標的設定によって出血時間を効果的に短縮することが可能である。幾つかの実施例では、赤脾髄部分が標的であってよい。脾臓以外の部分に印加された超音波エネルギ、又は脾臓の白脾髄部分への標的設定が不十分な超音波エネルギは、あまり効果的でないか全く効果的でない可能性がある。図6Aは、実験の第2セットの結果を示す。ここでは、超音波刺激プローブの位置決めの効果を示す為に、野生型C57BL/6Jマウスへの超音波刺激を行った。この実験セットでは、同じ刺激パラメータ(1.1MHz正弦波、200mVpp、0オフセット、150サイクル/バースト、500μsバースト)を使用してマウスに超音波刺激を印加した。同じ実験セットアップを使用して、上述(図4B)の対照(大腿四頭筋)刺激をセットアップした。これらの実験では、超音波プローブを脾臓の中心に向けて正しく位置決めする代わりに、超音波プローブを脾臓及び脾門に対して中心を外して位置決めした(位置決め不良の超音波)。上述のように、尾を切断した後の出血時間を記録した。更に、皮膚表面の超音波プローブのマーキングに対する脾臓の解剖学的位置を確認する為に解剖を実施した。これらの結果によれば、(例えば、脾臓に対する)超音波プローブの標的設定が不十分であると(例えば、代わりに脾門を標的に設定すると)出血時間の短縮が十分に行われない(図6Aで「偽」とラベル付けされた対照が105.6秒なのに対して、位置決め不良の超音波は130.7秒、p=0.26)。
【0065】
図6Bは、実験の第3セットの結果を示す。ここでは、超音波刺激プローブへの入力電圧の効果を示す為に、野生型C57BL/6Jマウスへの超音波刺激を行った。この実験セットでは、入力電圧以外は、図4Aに関して上述した同じ刺激パラメータ(1.1MHz正弦波、0オフセット、150サイクル/バースト、500μsバースト)を使用してマウスに超音波刺激を印加した。具体的には、入力電圧として200mVppの代わりに400mVpp(400mV)を使用した。上述のように、尾を切断した後の出血時間を記録した。この結果によれば、電圧が高いほど、出血時間を十分短縮することに効果的である、とはならない(図6Bで「偽」とラベル付けされた200mVppが173.3秒なのに対して、400mVの超音波は158秒、p=0.64)。従って、印加される超音波エネルギには飽和するパワーレベル(例えば、入力電圧)があると考えられ、これを超えても出血時間の着実且つ有意な短縮が更に達成されることはない。
【0066】
本明細書で提示した実施例のほとんどは非侵襲的(例えば、経皮的)刺激について述べているが、これらの方法及び装置はいずれも、(例えば、手術中に脾臓を刺激する為に)切開手術(例えば、外科手術)中に脾臓を刺激することにも使用されてよい。例えば、医療処置中の出血を抑制する装置が手術中に使用されてよい。これらの方法及び装置のいずれにおいても、医師(例えば、外科医)が、(例えば、脾臓刺激の前に)他の止血方法を試した後の出血を軽減する為に、脾臓の超音波刺激を行ってよい。更に、これらの方法又は装置はいずれも、脾臓への超音波刺激を実現する為に、脾臓がある場所又はその近くに超音波トランスデューサを埋め込むことを含んでよい。
【0067】
上述のように、本明細書では、既に図1Aに示して説明したように、出血時間を短縮する(凝血塊形成等までの時間を短縮する)システムについても記載している。これらのシステムはいずれも、印加パワー(例えば、電圧、周波数等)、適用タイミング、及び/又は標的設定(脾臓、脾臓部分等の標的設定の確認)を制御する為のソフトウェア、ハードウェア、及び/又はファームウェアを含んでよい。アプリケータ(トランスデューサ)は、脾臓及び/又は脾臓の小区域に適用量を送達するように適合されてよい。例えば、アプリケータは、脾臓等の標的設定の為に、肋骨間(第9肋骨と第10肋骨の間、又は第10肋骨と第11肋骨の間)に配置されるように構成されてよい。幾つかの実施例では、アプリケータは、反復刺激の為に体に粘着的に貼り付けられてよい。例えば、アプリケータは、適用量の送達の為に患者の背中の、脾臓の上に配置されてよい。
【0068】
予備データが示すところによれば、上述のマウスデータからの同様の結果がヒト患者にも当てはまる。具体的には、脾臓に直接印加された超音波刺激が出血時間の大幅な短縮をもたらす。出血の大幅な抑制(例えば、出血が止まるまでの時間の短縮(例えば、出血場所に凝血塊が形成されるまでの時間の短縮))を実現する為に、超音波は、1秒~10分にわたって印加されてよく、1分~12時間(例えば、1分~8時間、1分~4時間、1分~2時間、1分~1時間、10分~8時間、10分~4時間、10分~2時間、30分~12時間、30分~8時間、30分~4時間、1~12時間、1~8時間、1~4時間等)の間隔を空けた1回以上の治療(例えば、2回の治療、3回の治療、4回の治療等)が行われてよい。
【0069】
本明細書において、ある特徴又は要素が別の特徴又は要素の「上に(on)」あると言及された場合、その特徴又は要素は、直接その別の特徴又は要素に接していてよく、或いは、介在する特徴及び/又は要素が存在してもよい。これに対し、ある特徴又は要素が別の特徴又は要素の「直接上に(directly on)」あると言及された場合、介在する特徴及び/又は要素は存在しない。又、当然のことながら、ある特徴又は要素が別の特徴又は要素に「接続されている(connected)」、「取り付けられている(attached)」、又は「結合されている(coupled)」と言及された場合、その特徴又は要素は、直接その別の特徴又は要素に接続されているか、取り付けられているか、結合されていてよく、或いは、介在する特徴又は要素が存在してもよい。これに対し、ある特徴又は要素が別の特徴又は要素に、「直接接続されている(directly connected)」、「直接取り付けられている(directly attached)」、又は「直接結合されている(directly coupled)」と言及された場合、介在する特徴又は要素は存在しない。そのように記載又は図示された特徴及び要素は、1つの実施例に関して記載又は図示されているが、他の実施例にも当てはまってよい。又、当業者であれば理解されるように、ある構造又は特徴が別の特徴に「隣接して(adjacent)」配置されていて、その構造又は特徴が言及された場合、その言及は、隣接する特徴と部分的に重なり合うか、隣接する特徴の下層となる部分を有してよい。
【0070】
本明細書において使用された術語は、特定の実施例を説明することのみを目的としており、本開示の限定を意図したものではない。例えば、本明細書において使用される単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈上明らかに矛盾する場合を除き、複数形も同様に包含するものとする。更に、当然のことながら、「comprises(含む)」及び/又は「comprising(含む)」という語は、本明細書で使用された際には、述べられた特徴、手順、操作、要素、及び/又は構成要素の存在を明記するものであり、1つ以上の他の特徴、整数、手順、操作、要素、構成要素、及び/又はこれらの集まりの存在又は追加を排除するものではない。本明細書では、「及び/又は(and/or)」という用語は、関連付けられて列挙されたアイテムのうちの1つ以上のアイテムのあらゆる組み合わせを包含するものであり、「/」と略記されてよい。
【0071】
「下に(under)」、「下方に(below)」、「下方の(lower)」、「上方の(over)」、「上方の(upper)」等のような空間的に相対的な語句は、本明細書では、図面に示されるような、1つの要素又は特徴と別の要素又は特徴との関係を説明する場合に説明を簡単にする為に使用されてよい。当然のことながら、この空間的に相対的な語句は、使用時又は操作時の器具の、図面で描かれる向きに加えて、それ以外の向きも包含するものとする。例えば、図面内の器具が反転された場合、別の要素又は特徴の「下に(under)」又は「真下に(beneath)」あると記載された要素は、その別の要素又は特徴の「上に(over)」方向づけられることになる。従って、例えば、「下に(under)」という語句は、「上に(over)」及び「下に(under)」の両方の向きを包含しうる。本装置は、他の方向づけ(90度回転又は他の方向づけ)が行われてよく、それに応じて、本明細書で使用された空間的に相対的な記述子が解釈されてよい。同様に、「上方に(upwardly)」、「下方に(downwardly)」、「垂直方向の(vertical)」、「水平方向の(horizontal)」等の用語は、本明細書では、特に断らない限り、説明のみを目的として使用される。
【0072】
「第1の」及び「第2の」という語句は、本明細書では様々な特徴/要素(手順を含む)を説明する為に使用されてよいが、これらの特徴/要素は、文脈上矛盾する場合を除き、これらの語句によって限定されるべきではない。これらの語句は、ある特徴/要素を別の特徴/要素と区別する為に使用されてよい。従って、本発明の教示から逸脱しない限り、第1の特徴/要素が後述時に第2の特徴/要素と称されてもよく、同様に、第2の特徴/要素が後述時に第1の特徴/要素と称されてもよい。
【0073】
本明細書及び後続の特許請求の範囲の全体を通して、別段に記述しない限りは、「含む(comprise)」という語、及びその例である「含む(comprises)」、「含む(comprising)」等は、方法及び物品(例えば、装置(device)及び方法を含む構成及び装置(apparatus))において様々な構成要素が相互連帯して使用されてよいことを意味する。例えば、「含む(comprising)」という語は、述べられた全ての要素又はステップの包含を意味するものであって、他のあらゆる要素又はステップの排除を意味するものではないことを理解されたい。
【0074】
一般に、本明細書に記載の装置及び方法はいずれも、包括的であると理解されるべきであるが、構成要素及び/又はステップの全て又は一部が代替として排他的であってよく、且つ、様々な構成要素、ステップ、副構成要素、又は副ステップで「構成される(consisting of)」、或いは代替として「本質的に構成される(consisting essentially of)」と表現されてよい。
【0075】
実施例において使用される場合も含め、本明細書及び特許請求の範囲において使用されているように、且つ、特に断らない限り、あらゆる数値は、「約(about)」又は「およそ(approximately)」という語句が前置されているものとして読まれてよく、たとえ、その語句が明示的に現れていなくても、そのように読まれてよい。「約(about)」又は「およそ(approximately)」という語句は、大きさ及び/又は位置を示す場合に、記載された値及び/又は位置が、妥当な予想範囲の値及び/又は位置に収まっていることを示す為に使用されてよい。例えば、数値は、述べられた値(又は値の範囲)の±0.1%の値であってよく、述べられた値(又は値の範囲)の±1%の値であってよく、述べられた値(又は値の範囲)の±2%の値であってよく、述べられた値(又は値の範囲)の±5%の値であってよく、述べられた値(又は値の範囲)の±10%の値であってよく、他のそのような値であってよい。本明細書で与えられるいかなる数値も、文脈上矛盾する場合を除き、その値の前後のおおよその値も包含するものと理解されたい。例えば、値「10」が開示されている場合は、「約10」も開示されている。本明細書に記載のいかなる数値範囲も、そこに包含される全ての副範囲を包含するものとする。又、当然のことながら、当業者であれば適正に理解されるように、ある値が開示されていれば、その値「以下の」値、その値「以上の」値、及びそれらの値の間の可能な範囲も開示されている。例えば、値「X」が開示されていれば、「X以下の」値、及び「X以上の」値(例えば、Xが数値の場合)も開示されている。又、本出願全体を通して、データが幾つかの異なるフォーマットで与えられていること、並びにこのデータが終点及び始点を表していて、これらのデータ点の任意の組み合わせにわたる範囲を有することも理解されたい。例えば、特定のデータ点「10」及び特定のデータ点「15」が開示されていれば、10と15の間の値だけでなく、10及び15より大きい値、10及び15以上の値、10及び15より小さい値、10及び15以下の値、及び10及び15に等しい値も開示されていると見なされる。2つの特定の単数の間の各単数も開示されていることも理解されたい。例えば、10及び15が開示されていれば、11、12、13、及び14も開示されている。
【0076】
ここまで様々な例示的実施例について記載してきたが、特許請求の範囲によって示される本発明の範囲から逸脱しない限り、様々な実施例に対して、幾つかある変更のいずれが行われてもよい。例えば、記載された各種方法ステップが実施される順序は、代替実施例では変更されてよい場合が多く、代替実施例によっては、1つ以上の方法ステップがまとめてスキップされてもよい。装置及びシステムの様々な実施例の任意選択の特徴が、実施例によっては含まれてよく、実施例によっては含まれなくてよい。従って、上述の説明は、主に例示を目的としたものであり、特許請求の範囲に明記されている本発明の範囲を限定するように解釈されるべきではない。
【0077】
本明細書に含まれる実施例及び具体例は、本発明対象が実施されうる具体的な実施例を、限定ではなく例示として示す。言及されたように、他の実施例が利用されたり派生したりしてよく、本開示の範囲から逸脱しない限り、構造的な、或いは論理的な置換又は変更が行われてよい。本発明対象のそのような実施例は、本明細書においては、個別に参照されてよく、或いは、「本発明」という言い方でまとめて参照されてよく、「本発明」という言い方で参照することは、あくまで便宜上であって、本出願の範囲を、実際には2つ以上が開示されていても、いずれか1つの発明又は発明概念に自発的に限定することを意図するものではない。従って、本明細書では特定の実施例を図示及び説明してきたが、この、示された特定の実施例を、同じ目的を達成するように作られた任意の構成で置き換えてよい。本開示は、様々な実施例のあらゆる翻案又は例を包含するものである。当業者であれば、上述の説明を精査することにより、上述の複数の実施例の組み合わせ、及び本明細書に具体的な記載がない他の実施例が明らかになるであろう。
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
【国際調査報告】