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特表2023-512469癌療法におけるBCMA特異的キメラ抗原受容体を発現する遺伝子改変T細胞及びその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-27
(54)【発明の名称】癌療法におけるBCMA特異的キメラ抗原受容体を発現する遺伝子改変T細胞及びその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/17 20150101AFI20230317BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230317BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230317BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230317BHJP
   A61K 31/675 20060101ALI20230317BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20230317BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20230317BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20230317BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20230317BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20230317BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230317BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20230317BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20230317BHJP
【FI】
A61K35/17 Z
A61K45/00
A61P43/00 121
A61P35/00
A61K31/675
A61K9/10
A61K47/20
C12N15/13 ZNA
C12N15/12
C12N15/62 Z
C12N5/10
C12N5/0783
C12N15/09 110
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022543108
(86)(22)【出願日】2021-01-15
(85)【翻訳文提出日】2022-09-06
(86)【国際出願番号】 IB2021050305
(87)【国際公開番号】W WO2021144759
(87)【国際公開日】2021-07-22
(31)【優先権主張番号】62/962,315
(32)【優先日】2020-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/013,587
(32)【優先日】2020-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/129,973
(32)【優先日】2020-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518370079
【氏名又は名称】クリスパー セラピューティクス アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100134784
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和美
(72)【発明者】
【氏名】ジョナサン アレクサンダー テレット
(72)【発明者】
【氏名】エベリナ モラワ
(72)【発明者】
【氏名】ジェイソン サガート
(72)【発明者】
【氏名】アニー ヤン ウィーバー
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065AA94Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4C076AA22
4C076BB13
4C076CC27
4C076DD55
4C076FF67
4C084AA19
4C084MA66
4C084NA05
4C084ZB212
4C084ZB261
4C084ZC751
4C084ZC752
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA38
4C086MA03
4C086MA04
4C086MA05
4C086MA66
4C086NA05
4C086ZB26
4C086ZC75
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB37
4C087CA04
4C087MA02
4C087MA05
4C087MA23
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZB26
4C087ZC75
(57)【要約】
多発性骨髄腫、例えば、難治性及び/又は再発性多発性骨髄腫を治療するための、B細胞成熟抗原(BCMA)に結合するキメラ抗原受容体(CAR)を発現する遺伝子改変T細胞、及びその使用。遺伝子改変T細胞は、破壊された内在性TRAC遺伝子及び/又は破壊された内在性β2M遺伝子を含み得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多発性骨髄腫(MM)を治療するための方法であって、
(i)有効量の1つ以上のリンパ球除去化学療法剤を、それを必要とする対象に投与すること、及び
(ii)工程(i)の後、有効量の遺伝子改変T細胞の集団を前記対象に投与することを含み、
前記遺伝子改変T細胞の集団が、BCMAに結合するキメラ抗原受容体(CAR)をコードするヌクレオチド配列、破壊されたTRAC遺伝子、及び破壊されたβ2M遺伝子を含む核酸を含むT細胞を含み、前記CARをコードする前記核酸が、前記破壊されたTRAC遺伝子に挿入される方法。
【請求項2】
BCMAに結合する前記CARが、
(i)抗BCMAの単鎖可変フラグメント(scFv)を含む外部ドメイン、
(ii)CD8a膜貫通ドメイン、並びに
(iii)4-1BB及びCD3ζシグナル伝達ドメイン由来の共刺激ドメインを含む内部ドメインを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抗BCMA scFvが、配列番号42を含む重鎖可変ドメイン(V)及び配列番号43を含む軽鎖可変ドメイン(V)を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記抗BCMA scFvが、配列番号41を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
BCMAに結合する前記CARが、配列番号40のアミノ酸配列を含む、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記抗BCMA CARをコードする前記核酸が、配列番号33のヌクレオチド配列を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記破壊されたTRAC遺伝子が、配列番号4のスペーサー配列を含むガイドRNAを含むCRISPR/Cas9遺伝子編集システムによって生成される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記破壊されたTRAC遺伝子が、配列番号10を含む欠失を有し、任意選択により前記欠失を置換する配列番号30のヌクレオチド配列を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記破壊されたβ2M遺伝子が、配列番号8のスペーサー配列を含むガイドRNAを含むCRISPR/Cas9遺伝子編集システムによって生成される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記破壊されたβ2M遺伝子が、配列番号21~26の少なくとも1つを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記遺伝子改変T細胞の集団において、前記遺伝子改変T細胞の≧30%がCARであり、前記遺伝子改変T細胞の≦0.4%がTCRであり、及び/又は前記遺伝子改変T細胞の≦30%がB2Mである、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記遺伝子改変T細胞の集団が、1人以上の健康なヒトドナーに由来するものである、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記遺伝子改変T細胞の集団が、凍結保存溶液中に懸濁されている、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記有効量の前記遺伝子改変T細胞の集団が、約5.0×10~約7.5×10個のCART細胞の範囲であり、任意選択により、約5.0×10~約1.5×10個のCART細胞、約1.5×10~約4.5×10個のCART細胞、約4.5×10~約6.0×10個のCART細胞、又は約6.0×10~約7.5×10個のCART細胞の範囲である、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記有効量の前記遺伝子改変T細胞の集団が、約5.0×10個のCART細胞、約1.5×10個のCART細胞、約4.5×10個のCART細胞、約6.0×10個のCART細胞、又は約7.5×10個のCART細胞である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記遺伝子改変T細胞の集団が、静脈内注入によって投与される、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
工程(i)が、前記対象に1日当たり約30mg/mのフルダラビン及び約300mg/mのシクロホスファミドを3日間にわたって静脈内に同時投与することを含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
工程(i)が、前記対象に1日当たり約30mg/mのフルダラビン及び約500mg/mのシクロホスファミドを3日間にわたって静脈内に同時投与することを含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
工程(ii)が、工程(i)の2~7日後に実施される、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
工程(i)の前に、前記ヒト患者は、以下の特徴:
(a)臨床状態の著しい悪化、
(b)約91%超の飽和レベルを維持するために酸素補給を必要とすること、
(c)コントロール不良な心不整脈、
(d)血管収縮薬のサポートを必要とする低血圧、
(e)活動性感染症、及び
(f)免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)のリスクを増大させる神経毒性の1つ以上を示さない、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
工程(ii)の前及び工程(i)の後に、前記ヒト患者は、以下の特徴:
(a)活動性のコントロール不良な感染症、
(b)工程(i)の前の臨床状態と比較した前記臨床状態の悪化、及び
(c)免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)のリスクを増大させる神経毒性の1つ以上を示さない、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
(iii)工程(ii)の後の急性毒性の発症について前記ヒト患者を観察することを更に含む、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
急性毒性が、サイトカイン放出症候群(CRS)、神経毒性、腫瘍崩壊症候群、血球貪食性リンパ組織球症(HLH)、血球減少症、GvHD、低血圧、腎不全、ウイルス性脳炎、好中球減少症、血小板減少症、又はこれらの組み合わせを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記対象が、毒性の発症が観察される場合に毒性管理を受ける、請求項22又は請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記対象が、任意選択により18歳以上のヒト患者である、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記対象が、再発性及び/又は難治性MMを有する、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記対象が、少なくとも2種のMMの前治療を受けている、請求項1~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記少なくとも2種の前治療が、免疫調節剤、プロテアソーム阻害剤、抗CD38抗体、又はこれらの組み合わせを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記対象が、免疫調節剤及びプロテアソーム阻害剤を含む前治療に対して難治性である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記対象が、免疫調節剤、プロテアソーム阻害剤、及び抗CD38抗体を含む前治療に対して難治性である、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記対象が、自家幹細胞移植(SCT)の後に再発し、任意選択により前記再発が前記SCT後の12ヵ月以内に生じる、請求項1~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記対象が、以下の特徴:
(a)測定可能な疾患、
(b)米国東海岸癌臨床試験グループの一般状態が0又は1であること、
(c)十分な臓器機能、
(d)以前に同種幹細胞移植(SCT)を受けていないこと、
(e)工程(i)の前の60日以内に自家SCTを受けていないこと、
(f)形質細胞性白血病、非分泌型MM、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、POEM症候群、並びに/又は終末器官の病変及び損傷を伴うアミロイドーシスがないこと、
(g)シクロホスファミド及び/又はフルダラビンに対する禁忌がないこと、
(h)工程(i)の前の14日以内に、遺伝子療法、抗BCMA療法、及び非緩和的放射線療法を以前に受けていないこと、
(i)MMによる中枢神経系の病変がないこと、
(j)臨床的に意義のあるCNS病変、脳血管虚血及び/又は出血症状、認知症、小脳疾患、CNS病変を伴う自己免疫疾患の病歴又は存在がないこと、
(k)工程(i)の前の6ヵ月以内に不安定狭心症、不整脈、及び/又は心筋梗塞がないこと、
(l)任意選択により感染症がHIV、HBV、又はHCVによって引き起こされる、コントロール不良な前記感染症がないこと、
(m)悪性腫瘍が、基底細胞癌若しくは扁平細胞皮膚癌、十分に切除された子宮頸部の上皮内癌、又は完全に切除され、≧5年間寛解期にある過去の悪性腫瘍でないことを条件に、過去又は同時進行の前記悪性腫瘍がないこと、
(n)工程(i)の前の28日以内に生ワクチンを投与していないこと、
(o)工程(i)の前の14日以内に全身的な抗腫瘍療法を受けていないこと、並びに
(p)免疫抑制療法を必要とする原発性免疫不全疾患又は自己免疫疾患がないことの1つ以上を有するヒト患者である、請求項1~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記有効量の前記遺伝子改変T細胞の集団が、
(a)前記対象の軟部組織の形質細胞腫のサイズ(SPD)を少なくとも50%減少させること、
(b)前記対象の血清Mタンパク質レベルを少なくとも25%、任意選択により50%減少させること、
(c)前記対象の24時間の尿中Mタンパク質レベルを少なくとも50%、任意選択により90%減少させること、
(d)前記対象の関連する遊離軽鎖(FLC)レベルと関連しない遊離軽鎖レベルの差を少なくとも50%減少させること、
(e)前記対象の形質細胞数を少なくとも50%減少させること、
(f)κ軽鎖を生成する骨髄腫細胞を有する前記対象のκ軽鎖とλ軽鎖の比(κ/λ比)を4:1以下に減少させること、
(g)λ軽鎖を生成する骨髄腫細胞を有する前記対象のκ軽鎖とλ軽鎖の比(κ/λ比)を1:2以上に増加させることの1つ以上を達成するのに十分である、請求項1~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記有効量の前記遺伝子改変T細胞の集団が、前記対象の血清Mタンパク質レベルを少なくとも90%減少させ、且つ24時間の尿中Mタンパク質レベルを100mg未満まで減少させるのに十分であり、及び/又は前記有効量の前記遺伝子改変T細胞の集団が、前記対象の血清Mタンパク質、尿中Mタンパク質、及び軟部組織の形質細胞腫を検出不可能なレベルにまで減少させ、且つ形質細胞数を骨髄(BM)吸引液の5%未満まで減少させるのに十分である、請求項1~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記有効量の前記遺伝子改変T細胞の集団が、厳格な完全奏効(sCR)、完全奏効(CR)、最良部分奏効(VGPR)、部分奏効(PR)、最小奏効(MR)、又は安定疾患(SD)を達成するのに十分である、請求項1~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
遺伝子改変T細胞の集団であって、BCMAに結合するキメラ抗原受容体(CAR)をコードするヌクレオチド配列、破壊されたTRAC遺伝子、及び破壊されたβ2M遺伝子を含む核酸を含むT細胞を含み、前記CARをコードする前記ヌクレオチド配列が、前記破壊されたTRAC遺伝子に挿入され、
前記遺伝子改変T細胞の集団において、前記遺伝子改変T細胞の≧30%がCARであり、前記遺伝子改変T細胞の≦0.4%がTCRであり、及び/又は前記遺伝子改変T細胞の≦30%がB2Mである、遺伝子改変T細胞の集団。
【請求項37】
BCMAに結合する前記CARが、
(i)抗BCMAの単鎖可変フラグメント(scFv)を含む外部ドメイン、
(ii)CD8a膜貫通ドメイン、並びに
(iii)4-1BB及びCD3ζシグナル伝達ドメイン由来の共刺激ドメインを含む内部ドメインを含む、請求項36に記載の遺伝子改変T細胞の集団。
【請求項38】
前記抗BCMA scFvが、配列番号42を含む重鎖可変ドメイン(V)及び配列番号43を含む軽鎖可変ドメイン(V)を含む、請求項37に記載の遺伝子改変T細胞の集団。
【請求項39】
前記抗BCMA scFvが、配列番号41を含む、請求項37に記載の遺伝子改変T細胞の集団。
【請求項40】
BCMAに結合する前記CARが、配列番号40のアミノ酸配列を含む、請求項39に記載の遺伝子改変T細胞の集団。
【請求項41】
前記抗BCMA CARをコードする前記核酸が、配列番号33のヌクレオチド配列を含む、請求項40に記載の遺伝子改変T細胞の集団。
【請求項42】
前記破壊されたTRAC遺伝子が、配列番号4のスペーサー配列を含むガイドRNAを含むCRISPR/Cas9遺伝子編集システムによって生成される、請求項36~41のいずれか一項に記載の遺伝子改変T細胞の集団。
【請求項43】
前記破壊されたTRAC遺伝子が、配列番号10の欠失を有し、任意選択により前記欠失を置換する配列番号30のヌクレオチド配列を含む、請求項34~40のいずれか一項に記載の遺伝子改変T細胞の集団。
【請求項44】
前記破壊されたβ2M遺伝子が、配列番号8のスペーサー配列を含むガイドRNAを含むCRISPR/Cas9遺伝子編集システムによって生成される、請求項36~43のいずれか一項に記載の遺伝子改変T細胞の集団。
【請求項45】
前記破壊されたβ2M遺伝子が、配列番号21~26の少なくとも1つを含む、請求項36~43のいずれか一項に記載の遺伝子改変T細胞の集団。
【請求項46】
前記遺伝子改変T細胞の集団が、1人以上の健康なヒトドナーに由来するものである、請求項36~44のいずれか一項に記載の遺伝子改変T細胞の集団。
【請求項47】
請求項36~45のいずれか一項に記載の遺伝子改変T細胞の集団、及び前記遺伝子改変T細胞の集団が懸濁される凍結保存溶液を含む組成物。
【請求項48】
前記凍結保存溶液が、約2~10%のジメチルスルホキシド(DMSO)、任意選択により約5%のDMSOを含み、任意選択により実質的に血清を含まない、請求項46に記載の組成物。
【請求項49】
前記組成物が保存バイアルに入れられ、各保存バイアルが、約25~85×10細胞/mlを含有する、請求項46又は請求項47に記載の組成物。
【請求項50】
前記組成物が、請求項46~48のいずれか一項に記載されている、多発性骨髄腫を治療するのに使用される組成物。
【請求項51】
前記組成物が、請求項46~49のいずれか一項に記載されている、多発性骨髄腫を治療するのに使用される薬剤を製造するための組成物の使用。
【請求項52】
多発性骨髄腫を治療するのに使用されるキットであって、(a)請求項34~44のいずれか一項に記載の遺伝子改変T細胞の集団、又は請求項46~49のいずれか一項に記載の組成物、及び(b)前記遺伝子改変T細胞の集団又は前記組成物が入ったバイアルを含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年1月17日出願の米国仮特許出願第62/962,315号明細書、2020年4月22日出願の米国仮特許出願第63/013,587号明細書、及び2020年12月23日出願の米国仮特許出願第63/129,973号明細書に対する優先権の利益を主張する。先行出願の各々の内容全体が、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
多発性骨髄腫(MM)は、骨髄内で最終分化した形質細胞の悪性腫瘍である。MMは、モノクローナル免疫グロブリンタンパク質(Mタンパク質、即ちモノクローナルタンパク質としても知られている)又は異常形質細胞によるモノクローナル遊離軽鎖の分泌から生じるものであり、特徴的な骨髄生検の所見、並びに形質細胞増殖に関係する終末器官障害に起因する症状(高カルシウム血症、腎不全、貧血症、骨折)により、形質細胞異常増殖症の範囲において区別される(Kumar 2017a)。MMは、全ての造血器腫瘍の約10%に現れ、非ホジキンリンパ腫(NHL)後に2番目に最も多く見られる造血器腫瘍である(Kumar 2017a,Rajkumar and Kumar 2016)。ほとんどの患者の場合、MMは最終的に死亡に至る不治の疾患である。MM、特に再発性/難治性MMを治療するための、効果的な療法に対する要求は満たされていない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本開示は、破壊された内在性TRAC遺伝子及びβ2M遺伝子を含む同種T細胞を含み、キメラ抗原受容体(CAR)標的化B細胞成熟抗原(BCMA)を発現する免疫細胞療法の開発に少なくとも部分的に基づく。異種移植マウスモデルで観察されるように、同種抗BCMA CAR-T細胞により、(BCMA陽性腫瘍細胞を有する)ヒト多発性骨髄腫の腫瘍が根絶される結果となった。重要なことに、同種抗BCMA CAR-T細胞の投与によって腫瘍負荷が減少し、腫瘍細胞による再チャレンジから動物が保護されることが観察されている。更に、同種抗BCMA CAR-T細胞はBCMA細胞に対して高い選択性を示し、望ましくない発癌性形質転換を生じなかった。加えて、動物モデルからのデータにより、同種抗BCMA CAR-T細胞は、移植片対宿主病(GvHD)又は宿主対移植片病(HvGD)を誘導しなかったことが示された。まとめると、抗BCMA同種CAR-T細胞は、ヒト対象の治療用途(例えば、癌治療)に極めて効果的且つ安全であることが期待される。
【0004】
従って、本開示は、破壊された内在性TRAC遺伝子及びβ2M遺伝子を有し、B細胞成熟抗原(BCMA)に特異的なキメラ抗原受容体(CAR)を発現する遺伝子改変T細胞を含む組成物、並びに癌(例えば、MM)を治療するための同種抗BCMA CAR-T細胞療法を提供する。遺伝子改変T細胞は、1人以上の健康なドナー(例えば、健康なヒトドナー)に由来し得る。
【0005】
いくつかの態様では、本開示は、BCMAに結合するキメラ抗原受容体(CAR)をコードするヌクレオチド配列、破壊されたTRAC遺伝子、及び破壊されたβ2M遺伝子を含む核酸を含むT細胞を含む、遺伝子改変T細胞の集団を提供する。破壊されたTRAC遺伝子に、CARコード配列を含む核酸を挿入することができる。いくつかの実施形態では、遺伝子改変T細胞の集団は、≧30%(例えば、約35~70%)の抗BCMA CART細胞、≦0.4%のTCRT細胞、及び/又は≦30%(例えば、約15~30%)のB2MT細胞を含み得る。いくつかの実施例では、T細胞集団内のT細胞の約35~65%が、CAR/TCR/B2Mである。
【0006】
いくつかの実施形態では、抗BCMA CARは、(i)抗BCMA単鎖可変フラグメント(scFv)を含む外部ドメイン、(ii)CD8a膜貫通ドメイン、並びに(iii)4-1BB及びCD3ζシグナル伝達ドメイン由来の共刺激ドメインを含む内部ドメインを含む。例えば、抗BCMA scFvは、配列番号42を含む重鎖可変ドメイン(V)及び配列番号43を含む軽鎖可変ドメイン(V)を含み得る。いくつかの実施例では、抗BCMA scFvは、配列番号41のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施例では、抗BCMA CARは、配列番号40のアミノ酸配列を含む。
【0007】
いくつかの実施形態では、破壊されたTRAC遺伝子は、配列番号3又は配列番号4のスペーサー配列を含むガイドRNAを含む、CRISPR/Cas9遺伝子編集システムによって生成することができる。いくつかの実施例では、破壊されたTRAC遺伝子は、配列番号10の欠失を有する。代わりに又は加えて、抗BCMA CARをコードする配列番号30のヌクレオチド配列をTRAC遺伝子に挿入し、例えば、配列番号10を含む欠失させたフラグメントと置き換える。
【0008】
いくつかの実施形態では、破壊されたβ2M遺伝子は、配列番号7又は配列番号8のスペーサー配列を含むガイドRNAを含み得るCRISPR/Cas9遺伝子編集システムによって生成することができる。いくつかの実施例では、破壊されたβ2M遺伝子は、少なくとも1つの配列番号21~26を含み得る。
【0009】
更に、本開示は、本明細書に記載される遺伝子改変T細胞の集団のいずれか、及び遺伝子改変T細胞の集団が懸濁される凍結保存溶液を含む組成物を提供する。いくつかの実施形態では、凍結保存溶液は、約2~10%のジメチルスルホキシド(DMSO)、任意選択により約5%のDMSOを含み得、実質的に血清を含まない。いくつかの実施形態では、組成物は、保存バイアル内に入れることができる。いくつかの実施例では、各保存バイアルは、約25~85×10細胞/mlを含有する。
【0010】
別の態様では、本明細書で開示される遺伝子改変T細胞集団のいずれか、又は同様に本明細書で開示されるようなものを含む組成物のいずれかを使用して、多発性骨髄腫(MM)を治療するための方法が本明細書に提供される。いくつかの実施形態では、本方法は、以下を含み得る:(i)有効量の1つ以上のリンパ球除去化学療法剤を、それを必要とする対象に投与すること、及び(ii)工程(i)の後、本明細書で開示されるような有効量の遺伝子改変T細胞の集団のいずれかを対象に投与すること。
【0011】
いくつかの実施形態では、ヒト患者などの対象に与えられる有効量の遺伝子改変T細胞の集団は、以下の1つ以上を達成するのに十分なものである:(a)対象の軟部組織の形質細胞腫のサイズ(SPD)を少なくとも50%減少させ、(b)対象の血清Mタンパク質レベルを少なくとも25%、任意選択により50%減少させ、(c)対象の24時間の尿中Mタンパク質レベルを少なくとも50%、任意選択により90%減少させ、(d)対象の関連する遊離軽鎖(FLC)レベルと関連しない遊離軽鎖レベル間の差を少なくとも50%減少させ、(e)対象の形質細胞数を少なくとも50%減少させ、(f)κ軽鎖を生成する骨髄腫細胞を有する対象のκ軽鎖とλ軽鎖の比(κ/λ比)を4:1以下に減少させ、及び(g)λ軽鎖を生成する骨髄腫細胞を有する対象のκ軽鎖とλ軽鎖の比(κ/λ比)を1:2以上に増加させる。いくつかの実施例では、対象に与えられる有効量の遺伝子改変T細胞の集団は、対象の血清Mタンパク質レベルを少なくとも90%減少させ、24時間の尿中Mタンパク質レベルを100mg未満まで減少させるのに十分であり、及び/又は有効量の遺伝子改変T細胞の集団は、対象の血清Mタンパク質、尿中Mタンパク質、及び軟部組織の形質細胞腫を検出不可能なレベルにまで減少させ、且つ形質細胞数を骨髄(BM)吸引液の5%未満まで減少させるのに十分である。
【0012】
いくつかの実施例では、有効量の遺伝子改変T細胞の集団は、約2.5×10~約7.5×10個のCART細胞(例えば、約5.0×10~約7.5×10個のCART細胞)の範囲である。例えば、工程(ii)における有効量の遺伝子改変T細胞の集団は、約5.0×10~約1.5×10個のCART細胞、約1.5×10~約4.5×10個のCART細胞、約4.5×10~約6.0×10個のCART細胞、又は約6.0×10~約7.5×10個のCART細胞の範囲である。
【0013】
いくつかの実施例では、有効量の遺伝子改変T細胞の集団は、約2.5×10個のCART細胞である。いくつかの実施例では、有効量の遺伝子改変T細胞の集団は、約5×10個のCART細胞である。いくつかの実施例では、有効量の遺伝子改変T細胞の集団は、約1.5×10個のCART細胞である。いくつかの実施例では、有効量の遺伝子改変T細胞の集団は、約4.5×10個のCART細胞である。いくつかの実施例では、有効量の遺伝子改変T細胞の集団は、約6×10個のCART細胞である。いくつかの実施例では、有効量の遺伝子改変T細胞の集団は、約7.5×10個のCART細胞である。好ましくは、有効量の遺伝子改変T細胞の集団は、少なくとも1.5×10個のCART細胞、少なくとも4.5×10個のCART細胞、又は少なくとも6.0×10個のCAR+T細胞である。
【0014】
いくつかの実施形態では、本明細書で開示される方法のいずれかの工程(i)は、対象に1日当たり約30mg/mのフルダラビン及び約300mg/mのシクロホスファミドを3日間にわたって静脈内に同時投与することを含む。いくつかの実施形態では、本明細書で開示される方法のいずれかの工程(i)は、対象に1日当たり約30mg/mのフルダラビン及び約500mg/mのシクロホスファミドを3日間にわたって静脈内に同時投与することを含む。いくつかの実施形態では、工程(ii)は、工程(i)の約2~7日後に実施する。
【0015】
本明細書で開示される方法のいずれかにおいて、ヒト患者は工程(i)の前に以下の特徴の1つ以上を示さない:(a)臨床状態の著しい悪化、(b)約91%超の飽和レベルを維持するために酸素補給を必要とすること、(c)コントロール不良な心不整脈、(d)血管収縮薬のサポートを必要とする低血圧、(e)活動性感染症、及び(f)免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)のリスクを増大させる神経毒性。代わりに又は加えて、ヒト患者は、工程(ii)の前及び工程(i)の後に、以下の特徴の1つ以上を示さない:(a)活動性のコントロール不良な感染症、(b)工程(i)の前の臨床状態と比較した臨床状態の悪化、及び(c)免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)のリスクを増大させる神経毒性。
【0016】
本明細書で開示される方法のいずれもが、(iii)工程(ii)後の急性毒性の発症についてヒト患者を観察することを更に含み得る。いくつかの実施形態では、急性毒性は、サイトカイン放出症候群(CRS)、神経毒性、腫瘍崩壊症候群、血球貪食性リンパ組織球症(HLH)、血球減少症、GvHD、低血圧、腎不全、ウイルス性脳炎、好中球減少症、血小板減少症、又はこれらの組み合わせを含む。同種抗BCMA CAR-T細胞療法の間に毒性が発症したとき、対象は、毒性の発症が観察される場合に毒性管理を受ける。
【0017】
本明細書で開示されるような同種抗BCMA CAR-T細胞療法に好適な対象は、任意選択により18歳以上のヒト患者であり得る。ヒト患者は、以下の特徴:(1)十分な臓器機能、(2)以前に同種幹細胞移植(SCT)を受けていないこと、(3)工程(i)の前の60日以内に自家SCTを受けていないこと、(4)形質細胞性白血病、非分泌型MM、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、POEM症候群、並びに/又は終末器官の病変及び損傷を伴うアミロイドーシスがないこと、(5)工程(i)の前の14日以内に、遺伝子療法、抗BCMA療法、及び非緩和的放射線療法を以前に受けていないこと、(6)MMによる中枢神経系の病変がないこと、(7)臨床的に意義のあるCNS病変、脳血管虚血及び/又は出血症状、認知症、小脳疾患、CNS病変を伴う自己免疫疾患の病歴又は存在がないこと、(8)工程(i)の前の6ヵ月以内に不安定狭心症、不整脈、及び/又は心筋梗塞がないこと、(9)任意選択により感染症がHIV、HBV、又はHCVによって引き起こされた、コントロール不良な感染症がないこと、(10)悪性腫瘍が、基底細胞癌若しくは扁平細胞皮膚癌、十分に切除された子宮頸部の上皮内癌、又は完全に切除され、≧5年間寛解している過去の悪性腫瘍でないことを条件に、過去又は同時進行の悪性腫瘍がないこと、(11)工程(i)の前の28日以内に生ワクチンを投与していないこと、(12)工程(i)の前の14日以内に全身的な抗腫瘍療法を受けていないこと、並びに(13)免疫抑制療法を必要とする原発性免疫不全疾患又は自己免疫疾患がないことの1つ以上を有し得る。代わりに又は加えて、対象は、測定可能な疾患を有し、及び/又は米国東海岸癌臨床試験グループの一般状態が0若しくは1である。
【0018】
いくつかの実施形態では、対象は再発性及び/又は難治性MMを有し得る。いくつかの実施形態では、対象は、少なくとも2種のMMの前治療を受けていてもよく、前治療には、免疫調節剤、プロテアソーム阻害剤、抗CD38抗体、又はこれらの組み合わせが含まれ得る。いくつかの実施例では、対象は、免疫調節剤及びプロテアソーム阻害剤を含む前治療に対して二重難治性である。他の実施例では、対象は、免疫調節剤、プロテアソーム阻害剤、及び抗CD38抗体を含む前治療に対して三重難治性である。他の実施例では、対象は自家幹細胞移植(SCT)の後に再発し、この再発はSCT後の12ヵ月以内に生じ得る。更に他の実施例では、対象は、プロテアソーム阻害剤、免疫調節剤、及び抗CD38抗体に対して三重難治性の患者であり得る。
【0019】
更に、本開示は、いくつかの態様では、多発性骨髄腫(例えば、難治性及び/又は再発性MM)を治療するのに使用されるキットを特徴とする。キットは、(a)本明細書で開示される遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞の集団又は同様に本明細書で開示されるようなものを含む組成物、及び(b)遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞の集団又は組成物が入ったバイアルを含む。
【0020】
また、本明細書で開示されるような遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞のいずれかを含む、難治性及び/若しくは再発性MMなどの多発性骨髄腫(MM)を治療するのに使用される組成物、又は多発性骨髄腫を治療するのに使用される薬剤を製造するための組成物の使用も本開示の範囲内である。
【0021】
本発明の1つ以上の実施形態の詳細を以下の説明に記載する。本発明の他の特徴又は利点は、以下の図面及びいくつかの実施形態の詳細な説明、並びに添付の特許請求の範囲からも明らかになるであろう。
【0022】
前述のことは、同一の参照符号が異なる図を通して同じ部分を指す添付図面に図示される、以下のより詳細な例示的な実施形態の説明から明らかになるであろう。図面は必ずしも縮尺通りではなく、その代わり、実施形態を図示する際に強調されている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】破壊されたTRAC遺伝子及び破壊されたβ2M遺伝子を含み、図示されているようなキメラ抗原受容体(CAR)を発現する、例示的な同種T細胞を表す模式図である。T細胞は、抗BCMA CARを発現するが、機能的TCR又はMHC I複合体を発現しない。
図2】フローサイトメトリーによって測定された、遺伝子改変T細胞(CTX120細胞)の集団におけるTCR、β2M、抗BCMA CAR、及びTCR/β2M/抗BCMA CAR細胞の割合を表す図である。
図3A-3B】フローサイトメトリーによって測定された、遺伝子改変細胞(CTX120細胞)又は未編集の細胞の集団内のCD4T細胞(図3A)又はCD8T細胞(図3B)の割合を表す図を含む。
図4】0日目の未処置又はCTX120細胞で処置した免疫不全マウスにおける、経時的に測定された皮下BCMA発現ヒトMM腫瘍(MM.1S腫瘍)容積を表す図である。丸は、処置又は未処置動物の右側腹部に接種された原発腫瘍の増殖を示しており、全ての未処置動物は腫瘍負荷により安楽死を必要とし、全ての処置動物は原発腫瘍を拒絶した。生存する処置動物を、左側腹部に腫瘍細胞で接種することで、29日目に腫瘍細胞で再チャレンジした。白三角は、処置動物における再チャレンジした腫瘍の増殖を表すが、黒三角は新たなコホートの未処置動物の左側腹部に播種した腫瘍の増殖を表す。
図5】1日目の未処置又はCTX120細胞で処置した免疫不全マウスにおける、経時的に測定された皮下BCMA発現ヒトMM腫瘍(RPMI-8226腫瘍)容積を表す図である。
図6A-6B】BCMAの表面発現が陽性の腫瘍細胞(MM.1S及びJeko-1)、又はBCMAの発現が陰性の腫瘍細胞(K562)とインビトロで共培養した後の、エフェクターCTX120細胞によるインターフェロン-ガンマ(IFNγ)(図6A)又はインターロイキン-2(IL-2)(図6B)の産生を表すグラフを含む。
図7A-7C】異なるT細胞と標的細胞の比率で未編集の細胞又は編集されたCTX120細胞とインビトロで共培養した後の、フローサイトメトリーによって死滅/瀕死であると特性評価された標的細胞の割合を表す図を含む。標的細胞は、高BCMA発現MM.1S細胞(図7A)、低BCMA発現Jeko-1細胞(図7B)、又はBCMA陰性K562細胞(図7C)であった。
図8A-8B】陽性対照としてのBCMA発現Jeko-1細胞と比較した、BCMA発現細胞を含有するB細胞を含む、ヒト組織に由来する初代細胞とインビトロで共培養した後の、エフェクターCTX120細胞によるIFNγ(図8A)又はIL-2(図8B)の産生を表すグラフを含む。
図9】完全培地(血清+サイトカイン)、血清を含む培地(サイトカインを含まない)、又は血清及びサイトカインを含まない培地中で増殖させたときの細胞数によって測定される、編集されたCTX120細胞のエクスビボの培養の経時的な生存能を表す図である。
図10】放射線量に暴露し、且つ溶媒のみ(T細胞を含まない)、未編集のT細胞、又は編集されたCTX120細胞で処置した後の、経時的なマウスの生存を表す図である。
図11】同一のドナーに由来する末梢血単核球(PBMC)(自家PBMC)又は異なるドナーに由来する末梢血単核球(PBMC)(同種PBMC)とインビトロで共培養した後の、未編集のT細胞又は編集されたTRAC/B2MT細胞の増殖を表すグラフである。陽性対照として、T細胞をフィトヘムアグルチニン-L(PHA)で刺激して増殖を誘導した。
図12】ヒトMMを治療するための同種CTX120細胞の安全性及び有効性を評価するための、臨床試験デザインを表す図である。30mg/mのフルダラビン及び300mg/mのシクロホスファミドを3日間にわたって毎日IVで同時投与することによって、又は30mg/mのフルダラビン及び500mg/mのシクロホスファミドを3日間にわたって毎日IVで同時投与することによって、リンパ球除去化学療法を実施する。D:日;DLT:用量制限毒性;IV:静注;M:月。
図13】CTX120細胞などの抗BCMA CAR-T細胞の生成物を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーメンバー17(TNFRSF17)としても知られているB細胞成熟抗原(BCMA)は、成熟B細胞に発現する抗原決定基である。しかしながら、BCMAは特定の種類の造血器腫瘍に異なる形で発現しており、BCMAの発現は、健康な細胞よりも悪性腫瘍細胞に多い。例えば、BCMAは、多発性骨髄腫(MM)の形質細胞及び分化形質細胞の表面に選択的に発現するが、記憶B細胞、ナイーブB細胞、CD34造血幹細胞、及び他の正常組織細胞の表面には発現しない(Cho,et al.,(2018)Front Immuno 9:1821)。理論に束縛されるものではないが、BCMAはMM細胞の増殖及び生存を促進するだけでなく、MM細胞を免疫検出から保護する免疫抑制的な骨髄微小環境を促進するものと考えられている。
【0025】
本開示は、破壊された内在性TRAC遺伝子及びβ2M遺伝子を有し、抗BCMA CARを発現する遺伝子改変T細胞を含む同種T細胞療法の開発に少なくとも部分的に基づく。遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞を投与すると、動物モデルで観察されるように、BCMAを発現するヒトMM腫瘍が正常に根絶される。重要なことに、抗BCMA CAR-T細胞を投与すると腫瘍負荷が減少し、腫瘍細胞による再チャレンジから動物が保護されたことが観察される。更に、破壊された内在性TRAC遺伝子及びβ2M遺伝子を有する遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞は、動物モデルにおいて移植片対宿主病(GvHD)又は宿主対移植片病(HvGD)を誘導しなかった。従って、本明細書で開示される同種抗BCMA CAR-T療法は、ヒト患者におけるMMなどの癌の治療に極めて効果的且つ安全であることが期待される。
【0026】
I.遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞
いくつかの態様では、本開示は、BCMAに特異的に結合するCAR(抗BCMA CAR又は抗BMCA CAR-T細胞)を発現する遺伝子改変T細胞の集団を提供する。いくつかの実施形態では、遺伝子改変T細胞の少なくとも一部は、抗BCMA CARをコードする核酸、移植片対宿主病(GvHD)に関連する破壊された遺伝子、及び/又は宿主対移植片(HvG)反応に関連する破壊された遺伝子を含む。抗BCMA CAR T細胞を生成及び使用する方法は、国際公開第2019/097305号パンフレット及び国際公開第2019/215500号パンフレットに記載されており、その各々の関連する開示が、本明細書で言及される目的及び主題のために本明細書に参照により組み込まれる。
【0027】
(i)キメラ抗原受容体(CAR)標的化BCMA(抗BCMA CAR)
キメラ抗原受容体(CAR)とは、望ましくない細胞、例えば癌細胞などの疾患細胞で発現した抗原を認識して結合するように改変された人工の免疫細胞受容体を指す。CARポリペプチドを発現するT細胞は、CAR T細胞と称される。CARは、MHCに制限されない様式で、選択された標的に対しT細胞の特異性及び反応性を再誘導する能力を有する。MHCに制限されない抗原認識は、抗原プロセシングに非依存的な抗原を認識する能力をCAR-T細胞に与え、それにより腫瘍エスケープの主要な機構をバイパスする。更に、CARは、T細胞に発現する場合、有利なことに、内在性のT細胞受容体(TCR)のアルファ鎖及びベータ鎖と二量体化しない。
【0028】
本明細書で開示される抗BCMA CARとは、BCMA分子、好ましくは細胞表面に発現するBCMA分子に結合可能なCARを指す。BCMAのヒト及びマウスのアミノ酸配列及び核酸配列は、公的データベース(例えば、GenBank、UniProt、又はSwiss-Prot)において見出すことができる。例えば、Uniprot/Swiss-Prot受入番号Q02223(ヒトBCMA)及びO88472(マウスBCMA)を参照されたい。一般に、抗BCMA CARは、BCMAを認識する細胞外ドメイン(外部ドメイン)(例えば、抗体の単鎖フラグメント(scFv)又は他の抗体フラグメント)と、T細胞受容体(TCR)複合体(例えば、CD3ζ)のシグナル伝達ドメインを含み、ほとんどの場合共刺激ドメインである細胞内ドメイン(内部ドメイン)とを含む融合ポリペプチドである。(Enblad et al.,Human Gene Therapy.2015;26(8):498-505)。本明細書で開示される抗BCMA CARは更に、細胞外ドメインと細胞内ドメインとの間にヒンジ及び膜貫通ドメインを含み得、且つ表面に発現するためにN末端にシグナルペプチドを含み得る。シグナルペプチドの例としては、MLLLVTSLLLCELPHPAFLLIP(配列番号54)及びMALPVTALLLPLALLLHAARP(配列番号55)が挙げられる。他のシグナルペプチドを使用してもよい。いくつかの実施例では、抗BCMA CARは更に、GSTタグ又はFLAGタグなどのエピトープタグを含み得る。
【0029】
(a)抗原結合細胞外ドメイン
抗原結合細胞外ドメインとは、CARが細胞表面に発現すると細胞外液にさらされるCARポリペプチドの領域のことである。場合によっては、細胞表面発現を促進するために、シグナルペプチドがN末端に位置していてもよい。いくつかの実施形態では、抗原結合ドメインは、単鎖可変フラグメント(scFv)であってよく、抗体重鎖可変領域(V)及び抗体軽鎖可変領域(V)を(いずれかの方向に)含み得る。場合によっては、Vフラグメント及びVフラグメントが、ペプチドリンカーを介して連結されていてもよい。リンカーとしては、いくつかの実施形態では、可動性のために一続きのグリシン及びセリン、並びに可溶性を付与するために一続きのグルタミン酸塩及びリシンを含む親水性残基が挙げられる。リンカーペプチドは、約10~約25個のアミノ酸であり得る。特定の実施例では、リンカーペプチドは、配列番号53(表5)に記載される配列を含む。scFvフラグメントは、scFvフラグメントに由来する親抗体の抗原結合特異性を保持する。いくつかの実施形態では、scFvは、ヒト化Vドメイン及び/又はVドメインを含み得る。他の実施形態では、scFvのVドメイン及び/又はVドメインは、完全ヒト型である。
【0030】
本明細書で開示される抗BCMA CARの抗原結合細胞外ドメインは、BCMA分子、好ましくは細胞表面に発現するBCMA分子に結合可能である。抗原結合細胞外ドメインは、BCMAに特異的な抗体であってもよく、又はこれらの抗原結合フラグメントであってもよい。いくつかの実施形態では、抗原結合細胞外ドメイン(BCMA結合ドメイン)は、好適な抗体、例えば、マウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ヒト抗体、又はキメラ抗体に由来し得る単鎖可変フラグメント(scFv)を含む。場合によっては、scFvは、ヒト抗BCMA抗体に由来するものである。他の場合では、抗BCMA scFvはヒト型(例えば、完全ヒト型)である。例えば、抗BCMA scFvはヒト型であり、非ヒト種、例えば、マウス、ラット、又はウサギ由来の相補的決定領域(CDR)に由来する1つ以上の残基を含む。
【0031】
いくつかの実施形態では、抗BCMA scFvは、抗体重鎖可変領域(V)及び抗体軽鎖可変領域(V)を(いずれかの方向に)含み、これらは配列番号42のVと同一の重鎖相補性決定領域(CDR)、及び配列番号43のVと同一の軽鎖CDRを含む。同一のV CDR及び/又はV CDRを有する2つの抗体は、同一の手法(当技術分野において公知のような、例えばKabat手法、Chothia手法、AbM手法、Contact手法又はIMGT手法であり、例えば、bioinf.org.uk/abs/を参照されたい)によって決定したときに、それらのCDRが同一であることを意味する。例えば、抗BCMA scFvは、Kabat手法に従って、下記の表5に示す重鎖及び軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3を含み得る。代替として、抗BCMA scFvは、Chothia手法に従って、下記の表5に示す重鎖及び軽鎖CDR1、CDR2、及びCDR3を含み得る。
【0032】
他の実施例では、本明細書で開示される抗BCMA CAR構築物のいずれかに使用される抗BCMA scFvは、配列番号41のアミノ酸配列(例示的な抗BCMA scFv)を含む抗BCMA scFvの機能的変異体であり得る。そのような機能的変異体は、例示的な抗体に構造的にも機能的にも実質的に類似するものである。機能的変異体は、例示的な抗BCMA抗体と実質的に同一のV CDR及びV CDRを含む。例えば、機能的変異体は、例示的な抗BCMA scFvの全てのCDR領域に最大で8個(例えば8、7、6、5、4、3、2、又は1個)だけのアミノ酸残基の変異を含み得、実質的に類似した親和性を有する(例えば、同じオーダーのK値を有する)BCMAの同一のエピトープに結合する。
【0033】
例えば、本明細書で開示される抗BCMA scFvは、a)配列番号44、若しくは配列番号44に対して1~3個のアミノ酸置換を有する配列を含むV CDR1、b)配列番号45、若しくは配列番号45に対して1個のアミノ酸置換を有する配列を含むV CDR2、c)配列番号46、若しくは配列番号46に対して1~2個のアミノ酸置換を有する配列を含むV CDR3、及び/又はd)配列番号47、若しくは配列番号47に対して1個のアミノ酸置換を有する配列を含むV CDR1、e)配列番号48、若しくは配列番号48に対して1~3個のアミノ酸置換を有する配列を含むV CDR2、f)配列番号49、若しくは配列番号49に対して1~2個のアミノ酸置換を有する配列を含むV CDR3、又はそれらの任意の組み合わせを含み得る。表5を参照されたい。いくつかの実施例では、抗BCMA scFvは、配列番号44を含むV CDR1、配列番号45を含むV CDR2、配列番号46を含むV CDR3、配列番号47を含むV CDR1、配列番号48を含むV CDR2、及び配列番号49を含むV CDR3を含む。
【0034】
他の実施例では、抗BCMA scFvは、a)配列番号44、若しくは配列番号44に対して1~3個のアミノ酸置換を有する配列を含むV CDR1、b)配列番号45、若しくは配列番号45に対して1個のアミノ酸置換を有する配列を含むV CDR2、c)配列番号46、若しくは配列番号46に対して1~2個のアミノ酸置換を有する配列を含むV CDR3、及び/又はd)配列番号50、若しくは配列番号50に対して1個のアミノ酸置換を有する配列を含むV CDR1、e)配列番号51、若しくは配列番号51に対して1個のアミノ酸置換を有する配列を含むV CDR2、f)配列番号52、若しくは配列番号52に対して1~2個のアミノ酸置換を有する配列を含むV CDR3、又はそれらの任意の組み合わせ(表5)を含み得る。いくつかの実施形態では、抗BCMA scFvは、配列番号44を含むV CDR1、配列番号45を含むV CDR2、配列番号46を含むV CDR3、配列番号50を含むV CDR1、配列番号51を含むV CDR2、及び配列番号52を含むV CDR3を含む。
【0035】
場合によっては、本明細書で開示されるCDRの1つ以上のアミノ酸残基の変異又は置換は、保存的アミノ酸残基置換であってよい。本明細書で使用する場合、「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸置換が行われるタンパク質の相対的な電荷又はサイズ特性が変化しないアミノ酸置換を指す。変異体は、そのような方法をまとめた参考文献、例えば、Molecular Cloning;A Laboratory Manual,J.Sambrook,et al.,eds.,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York,1989、又はCurrent Protocols in Molecular Biology,F.M.Ausubel,et al.,eds.,John Wiley & Sons,Inc.,New Yorkに見出されるような、当業者に公知のポリペプチド配列を改変するための方法に従って調製することができる。アミノ酸の保存的置換としては、下記の群内のアミノ酸の中で行われる置換が挙げられる:(a)M、I、L、V、(b)F、Y、W、(c)K、R、H、(d)A、G、(e)S、T、(f)Q、N、及び(g)E、D。
【0036】
いくつかの実施形態では、本明細書で開示される抗BCMA scFvは、配列番号41の例示的な抗BCMA scFvのV CDRと比較して、個々に又は集合的に少なくとも80%(例えば85%、90%、95%、又は98%)配列同一性である重鎖CDRを含み得る。代わりに又は加えて、抗BCMA scFvは、例示的な抗BCMA scFvとしてのV CDRと比較して、個々に又は集合的に少なくとも80%(例えば85%、90%、95%、又は98%)配列同一性である軽鎖CDRを含み得る。本明細書で使用する場合、「個々に」とは、1つの抗体のCDRが、対応する例示的な抗体のCDRに対して、示された配列同一性を共有することを意味する。「集合的に」とは、組み合わせた3つの抗体のV CDR又はV CDRが、対応する組み合わせた3つの例示的な抗体のV CDR又はV CDRに対して、示された配列同一性を共有することを意味する。
【0037】
いくつかの実施形態では、抗BCMA scFvは、配列番号42(表5)に記載される配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%同一のアミノ酸配列を含むVドメインを含み得る。代わりに又は加えて、抗BCMA scFvは、配列番号43(表5)に記載される配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%同一のアミノ酸配列を含むVドメインを含み得る。いくつかの実施例では、リンカーペプチドにより、抗BCMAのVのN末端が抗BCMAのVのC末端に連結される。代わりに、リンカーペプチドにより、抗BCMAのVのC末端が抗BCMAのVのN末端に連結される。
【0038】
いくつかの実施例では、抗BCMA scFvは、配列番号41に記載される配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%同一のアミノ酸配列を含み得る。
【0039】
2つのアミノ酸配列の「同一性パーセント」は、Karlin and Altschul Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2264-68,1990のアルゴリズムであって、Karlin and Altschul Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873-77,1993にて変更されたアルゴリズムを用いて決定する。このようなアルゴリズムは、Altschul,et al.J.Mol.Biol.215:403-10,1990のNBLAST及びXBLASTプログラム(バージョン2.0)に組み込まれている。BLASTタンパク質検索を、XBLASTプログラム、スコア=50、ワード長=3で実施して、目的のタンパク質分子と相同なアミノ酸配列を得ることができる。2つの配列間にギャップが存在する場合、Altschul et al.,Nucleic Acids Res.25(17):3389-3402,1997に記載されるように、Gapped BLASTを利用することができる。BLAST及びGapped BLASTプログラムを利用する場合、それぞれのプログラム(例えば、XBLAST及びNBLAST)のデフォルトパラメータを用いることができる。
【0040】
(b)膜貫通ドメイン
本明細書で開示されるCARポリペプチドは、膜貫通ドメインを含有してもよく、この膜貫通ドメインは、膜にまたがる疎水性αヘリックスであり得る。本明細書で使用する場合、「膜貫通ドメイン」とは、細胞膜、好ましくは真核細胞膜内で熱力学的に安定な任意のタンパク質構造体を指す。膜貫通ドメインは、それ自体を含有するCARの安定性をもたらし得る。
【0041】
いくつかの実施形態では、本明細書で提供されるCARの膜貫通ドメインは、CD8膜貫通ドメインであり得る。他の実施形態では、膜貫通ドメインは、CD28膜貫通ドメインであり得る。更に他の実施形態では、膜貫通ドメインは、CD8及びCD28膜貫通ドメインのキメラである。本明細書に提供されるような他の膜貫通ドメインを使用してもよい。いくつかの実施形態では、膜貫通ドメインは、FVPVFLPAKPTTTPAPRPPTPAPTIASQPLSLRPEACRPAAGG AVHTRGLDFACDIYIWAPLAGTCGVLLLSLVITLYCNHRNR(配列番号60)又はIYIWAPLAGTCGVLLLSLVITLY(配列番号56)の配列を含有するCD8a膜貫通ドメインである。いくつかの実施形態では、CD8a膜貫通ドメインは、配列番号56に記載される配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%同一のアミノ酸配列を含み得る。他の膜貫通ドメインを使用してもよい。
【0042】
(c)ヒンジドメイン
いくつかの実施形態では、抗BCMA CARはヒンジドメインを更に含み、ヒンジドメインは、CARの細胞外ドメイン(抗原結合ドメインを含む)と膜貫通ドメインとの間に位置してもよく、又はCARの細胞質ドメインと膜貫通ドメインとの間に位置し得る。ヒンジドメインは、ポリペプチド鎖において膜貫通ドメインを細胞外ドメイン及び/又は細胞質ドメインに連結するように機能する任意のオリゴペプチド又はポリペプチドであり得る。ヒンジドメインは、CAR若しくはそのドメインに可動性をもたらすか、又はCAR若しくはそのドメインの立体障害を防ぐように機能し得る。
【0043】
いくつかの実施形態では、ヒンジドメインは、最大で300個のアミノ酸(例えば、10~100個のアミノ酸、又は5~20個のアミノ酸)を含み得る。いくつかの実施形態では、CARの他の領域に1つ以上のヒンジドメインを含み得る。いくつかの実施形態では、ヒンジドメインは、CD8ヒンジドメインであり得る。他のヒンジドメインを使用してもよい。
【0044】
いくつかの実施形態では、ヒンジドメインは、約5~約300個のアミノ酸、例えば、約5~約250個、約10~約250個、約10~約200個、約15~約200個、約15~約150個、約20~約150個、約20~約100個、約25~約100個、約25~約75個、又は約30~約750個のアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、抗BCMAヒンジドメインは、CD8aヒンジドメイン、及び任意選択により追加の1~10個のアミノ酸(例えば、4個のアミノ酸)をヒンジドメインのN末端に含む延長部を含む。いくつかの実施例では、延長部はアミノ酸配列SAAAを含む。
【0045】
(d)細胞内シグナル伝達ドメイン
CAR構築物のいずれもが、受容体の機能的末端である1つ以上の細胞内シグナル伝達ドメイン(例えば、CD3ζ、及び任意選択により1つ以上の共刺激ドメイン)を含む。抗原認識後、受容体がクラスター化してシグナルが細胞に伝達される。
【0046】
CD3ζは、T細胞受容体複合体の細胞質シグナル伝達ドメインである。CD3ζは、T細胞が同種抗原と会合した後にT細胞に活性化シグナルを伝達する3つの免疫受容活性化チロシンモチーフ(ITAM)を含む。多くの場合、CD3ζは、一次T細胞の活性化シグナルを提供するが、十分に適格な活性化シグナルではなく、共刺激シグナル伝達を必要とする。いくつかの実施形態では、CD3ζシグナル伝達ドメインは、配列番号59(表5)に記載される配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%、又は100%同一のアミノ酸配列を含む。
【0047】
いくつかの実施形態では、本明細書で開示されるCARポリペプチドは、1つ以上の共刺激シグナル伝達ドメインを更に含み得る。例えば、CD3ζによって媒介される一次シグナル伝達と共に、CD28及び/又は4-1BB共刺激ドメインを使用して、十分な増殖/生存シグナルを伝達することができる。いくつかの実施例では、本明細書に開示されるCARは、CD28共刺激分子を含む。他の実施例では、本明細書に開示されるCARは、4-1BB共刺激分子を含む。いくつかの実施形態では、CARは、CD3ζシグナル伝達ドメイン及びCD28共刺激ドメインを含む。他の実施形態では、CARは、CD3ζシグナル伝達ドメイン及び4-1BB共刺激ドメインを含む。更に他の実施形態では、CARは、CD3ζシグナル伝達ドメイン、CD28共刺激ドメイン、及び4-1BB共刺激ドメインを含む。
【0048】
いくつかの実施例では、抗BCMA CARは、4-1BB共刺激ドメインを含む。4-1BB共刺激ドメインは、配列番号57(表5)に記載される配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%同一のアミノ酸配列を含み得る。
【0049】
いくつかの実施例では、抗BCMA CARは、CD28共刺激ドメインを含む。CD28共刺激ドメインは、配列番号58(表5)に記載される配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%同一のアミノ酸配列を含み得る。
【0050】
(e)例示的な抗BCMA CAR
いくつかの実施例では、本明細書で開示される抗BCMA CARは、N末端からC末端に、CD8シグナル伝達ペプチド(例えば、配列番号55)、抗BCMA scFv(例えば、配列番号41)、CD8a膜貫通ドメイン(例えば、配列番号56)、4-1BB共刺激ドメイン(例えば、配列番号57)、及びCD3zシグナル伝達ドメイン(例えば、配列番号59)を含む。このような抗BCMA CARは、配列番号40(表5)に記載される配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%同一のアミノ酸配列を含み得る。抗BCMA CARは、配列番号33(表4)に記載される配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%同一の配列を含む核酸によってコードされ得る。
【0051】
特定の実施例では、抗BCMA CARは、配列番号40(表5)のアミノ酸配列を含むCTX-166bである。
【0052】
本明細書に記載される方法は、CARを発現する遺伝子改変T細胞、例えば、当技術分野において公知の、又は本明細書で開示される遺伝子改変T細胞を生成するために使用することができる、2つ以上の好適なCARを包含するということが理解されよう。実施例は、本明細書で言及される目的及び主題のためにその各々の関連する開示が参照により組み込まれる国際公開第2019/097305号パンフレット及び国際公開第2019/215500号パンフレットに見出すことができる。
【0053】
抗BCMA CARのいずれか(例えば、CTX-166b)の発現は、組み込み部位の内在性プロモーターによって誘発することができる。代わりに、抗BCMA CARの発現は、外来性プロモーターによって誘発することができる。例えば、外来性EF1αプロモーター(例えば、配列番号38のヌクレオチド配列を含む;表4を参照されたい)が、抗BCMA CARをコードする核酸配列の上流に直接位置してもよい。いくつかの実施形態では、抗BCMA CAR発現カセットは、外来性エンハンサー、インスレーター、配列内リボソーム進入部位、2Aペプチドをコードする配列、3’ポリアデニル化(ポリA)シグナル、又はこれらの組み合わせを更に含み得る。特定の実施例では、3’ポリAシグナルは、配列番号39(表4)に記載されるヌクレオチド配列を含む。
【0054】
(ii)TRAC及びB2M内在性遺伝子の遺伝子改変
抗BCMA CAR-T細胞は、GvHDに関連する内在性遺伝子(例えば、TRAC遺伝子などのTCR構成要素をコードする遺伝子)、HvGDに関連する内在性遺伝子(例えば、β2M遺伝子)を破壊するように、更に遺伝子改変してもよい。
【0055】
遺伝子破壊は、遺伝子編集(例えば、1つ以上のヌクレオチドを挿入又は欠失させるCRISPR/Cas遺伝子編集を使用する)を介した遺伝子改変を包含することが理解されよう。本明細書で使用する場合、「破壊された遺伝子」という用語は、コードされている遺伝子産物の活性を実質的に減少させるか又は完全に排除するように、野生型の対応物に対して1つ以上の変異(例えば、挿入、欠失、又はヌクレオチド置換など)を含む遺伝子を指す。1つ以上の変異が、非コード領域、例えば、プロモーター領域、転写若しくは翻訳を調節する調節領域、又はイントロン領域に位置し得る。代わりに、1つ以上の変異が、コード領域に(例えば、エクソンに)位置し得る。場合により、破壊された遺伝子は、コード化タンパク質を発現しないか、又は実質的に減少したレベルのコード化タンパク質を発現する。他の場合、破壊された遺伝子は、変異形態でコード化タンパク質を発現し、そのいずれもが機能しないか、又は活性が実質的に減少している。いくつかの実施形態では、破壊された遺伝子は、機能性タンパク質をコードしない遺伝子である。いくつかの実施形態では、破壊された遺伝子を含む細胞は、遺伝子によってコードされる、(例えば抗体によって、例えばフローサイトメトリーによって)検出可能なレベルのタンパク質を(例えば、細胞表面に)発現しない。検出可能なレベルのタンパク質を発現しない細胞は、ノックアウト細胞と称し得る。例えば、β2M遺伝子編集を有する細胞が、β2Mタンパク質に特異的に結合する抗体によって細胞表面でβ2Mタンパク質を検出することができない場合、β2Mノックアウト細胞と見なされ得る。
【0056】
破壊されたTRAC遺伝子
GvHDは、同種幹細胞移植(SCT)の場面で一般的に見られるものである。免疫適格性のドナーのT細胞(移植片)は、レシピエント(宿主)を異物として認識し、「外来抗原を保持する」宿主細胞を排除するために、活性化してレシピエントを攻撃する。臨床的には、GvHDは、臨床症状と、同種ドナー細胞の投与に対する発症時期とに基づいて、急性、慢性、及びオーバーラップ症候群に分類される。急性GvHD(aGvHD)の症状としては、斑状丘疹状皮疹;小胆管の損傷に起因して胆汁鬱滞をもたらす黄疸を伴う高ビリルビン血症;悪心、嘔吐、及び食欲不振;並びに水様性又は出血性の下痢、及び痙性腹痛が挙げられ得る(Zeiser,R.et al.(2017)N Engl J Med 377:2167-79)。aGvHDの重篤度は臨床症状に基づいており、例えば、表11で定義されるような広く受け入れられている等級パラメータを用いて当業者によって容易に評価される。
【0057】
いくつかの実施形態では、抗BCMA CAR-T細胞は、抗BCMA CAR-T細胞をレシピエントに投与したときに、GvHDのリスクを減少させるか、又はGvHDを排除するために、GvHDに関連する破壊された内在性遺伝子、例えば内在性TRAC遺伝子を有する。いくつかの実施形態では、破壊されたTRAC遺伝子は、欠失、ヌクレオチド残基の置換、挿入、又はこれらの組み合わせを含み得る。破壊されたTRAC遺伝子の構造は、内在性TRAC遺伝子を破壊するのに用いられる遺伝子編集方法に依存する。例えば、TRAC遺伝子は、好適なガイドRNA(例えば、本明細書で開示されるガイドRNA。下記の表1及び実施例1を参照されたい)を用いたCRISPR/Cas9システムによって破壊され得る。このような遺伝子編集手法により、ガイドRNA(gRNA)に標的化される遺伝子座の近傍に欠失、挿入、及び/又はヌクレオチド置換が生じ得る。
【0058】
いくつかの実施形態では、遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞は、挿入及び/又は欠失を含む、破壊されたTRAC遺伝子を含む。いくつかの実施例では、挿入及び/又は欠失がエクソン1内にある。特定の実施例では、破壊されたTRAC遺伝子は、配列番号10を含むフラグメントの欠失を有する。いくつかの実施例では、配列番号10を含むフラグメントは、抗BCMA CARをコードする核酸、例えば、配列番号30によって置換され得る。代わりに又は加えて、破壊されたTRAC遺伝子は、抗BCMA CARのいずれかをコードするヌクレオチド配列を含む核酸の挿入を含み得る。いくつかの実施例では、抗BCMA CARをコードする配列は、左側の相同性アームと右側の相同性アームとに挟まれていてもよく、これらの相同性アームは、T細胞のTRAC遺伝子を破壊するのに用いられる遺伝子編集方法によって標的化される領域に隣接する相同配列を含む。場合によっては、左側の相同性アーム及び右側の相同性アームはそれぞれ、相同組み換えによって、抗BCMA CARをコードする核酸が、破壊されたTRAC座位に挿入されるように、配列番号10の領域の近傍の5’末端及び3’末端部位に相同な配列を含む。特定の実施例では、配列番号33のヌクレオチド配列を含む外来核酸(配列番号40のアミノ酸配列を含む抗BCMA CARをコードする)を、TRAC遺伝子に、例えば、配列番号10の領域又はその近傍に挿入することができる。外来核酸は、本明細書で開示されるような遺伝子改変T細胞に抗BCMA CAR発現を誘導するために、抗BCMA CARのコード配列に動作可能に連結されたプロモーターを更に含み得る。いくつかの実施例では、プロモーターは、EF-1aプロモーターであってよく、配列番号38のヌクレオチド配列を含み得る。代わりに又は加えて、外来核酸は、抗BCMA CARコード配列の下流にポリA配列を更に含み得る。
【0059】
破壊されたB2M遺伝子
HvGDとは、レシピエントの免疫系による、ドナー細胞、例えば腫瘍標的化CAR T細胞の免疫拒絶を指す。腫瘍標的化CAR T細胞療法による腫瘍再発のリスクは、一部には、投与後の対象におけるCAR T細胞の存続性が限定的であることに起因すると考えられている(Maude,S.,et al.(2014)N Engl J Med.371:1507-17;Turtle,C.et al.,(2016)J Clin Invest.126:2123-38)。移植前にCAR T細胞から同種抗原を除去することで、宿主拒絶(例えば、HvG反応)のリスクを排除するか又は減少させ、それにより投与後の持続性を増大させることができる。
【0060】
いくつかの実施形態では、遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞は、HvGDに関連する遺伝子における遺伝子破壊を単独で、又はGvHDに関連する遺伝子(例えば、本明細書で開示されるTRAC遺伝子)の破壊と組み合わせて含み得る。いくつかの実施形態では、HvGDに関連する遺伝子は、主要組織適合(MHC)クラスI分子の成分、例えば、β2M遺伝子をコードする。HvGDに関連する遺伝子の破壊、例えばβ2M遺伝子の破壊によってHvGDのリスクが最小限に抑えられる。代わりに又は加えて、β2M遺伝子の破壊によってCAR T細胞の持続性が改善される。
【0061】
いくつかの実施形態では、遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞は、欠失、挿入、ヌクレオチド残基の置換、又はこれらの組み合わせであり得る遺伝子改変を含む、破壊されたβ2M遺伝子を単独で、又は破壊されたTRAC遺伝子と組み合わせて含む。破壊されたβ2M遺伝子の構造は、内在性β2M遺伝子を破壊するのに用いられる遺伝子編集方法に依存する。例えば、β2M遺伝子は、好適なガイドRNA(例えば、本明細書で開示されるガイドRNA。下記の表1及び実施例1を参照されたい)を用いたCRISPR/Cas9システムによって破壊され得る。このような遺伝子編集手法により、ガイドRNA(gRNA)に標的化される遺伝子座の近傍に欠失、挿入、及び/又はヌクレオチド置換が生じ得る。
【0062】
いくつかの実施例では、破壊されたβ2M遺伝子は、配列番号12(表1)に欠失、挿入、置換、又はこれらの組み合わせを含む。実施例では、破壊されたβ2M遺伝子は、配列番号21~26(表3)のいずれか1つの少なくとも1つのヌクレオチド配列を含む。
【0063】
(iii)抗BCMA CAR-T細胞の集団
本開示はまた、抗BCMA CARを発現し、破壊された内在性TRAC遺伝子、内在性β2M遺伝子、又はその両方を有する、本明細書で開示される遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞の集団を提供する。いくつかの実施形態では、遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞の集団は異種であり、即ち、本明細書で開示されるような異なる組み合わせの遺伝子改変(即ち、抗BCMA CARの発現、破壊された内在性TRAC遺伝子、及び破壊された内在性β2M遺伝子)を有する遺伝子改変T細胞を含む。例えば、遺伝子改変T細胞の集団は、本明細書で開示されるように抗BCMA CARを発現し、破壊されたTRAC遺伝子を有するT細胞の第1の群と、抗BCMA CAR及び破壊されたβ2M遺伝子を発現するT細胞の第2の群とを含み得る。T細胞の第1の群及び第2の群は重複していてもよい。いくつかの実施例では、本明細書で開示されるT細胞集団の一部は、抗BCMA CARの発現、破壊されたTRAC遺伝子、及び破壊されたβ2M遺伝子を含む、3つの全ての遺伝子改変を含む。
【0064】
いくつかの実施形態では、遺伝子改変T細胞の集団の一部は、抗BCMA CARを発現し、挿入、欠失、置換、又はこれらの組み合わせを含み得る、破壊されたTRAC遺伝子を含む。いくつかの実施形態では、TRAC遺伝子の破壊によって、遺伝子改変T細胞におけるTCRの発現を排除するか、又は減少させる。いくつかの実施例では、T細胞の50%以下、例えば、45%以下、40%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、9%以下、8%以下、7%以下、6%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、1%以下、0.9%以下、0.8%以下、0.7%以下、0.6%以下、0.5%以下、0.4%以下、0.3%以下、0.2%以下、又は0.1%以下が、TCRを発現する(TCR)。いくつかの実施例では、遺伝子改変T細胞の0.05%~50%の遺伝子改変T細胞がTCRを発現し、例えば、10%~50%、20%~50%、30%~50%、40%~50%、0.05%~40%、10%~40%、20%~40%、30%~40%、0.05%~30%、10%~30%、20%~30%、0.05%~20%、10%~20%、又は0.05%~10%が、TCRを発現する。いくつかの実施例では、遺伝子改変T細胞の0.4%以下が、TCRを発現する。
【0065】
いくつかの実施形態では、遺伝子改変T細胞の集団は、対象にGVHD反応の臨床症状を誘発しない。例えば、遺伝子改変T細胞は、対象にaGvHD(例えば、ステロイド難治性aGvHD)の臨床症状を誘発しない。いくつかの実施例では、遺伝子改変T細胞は、対象に臨床的に重大な(例えば、グレード2~4の)aGvHDを誘発しない。いくつかの実施例では、遺伝子改変T細胞は、対象に軽度なaGvHD反応(例えば、臨床グレード2、1、又は0未満)しか誘発しない。いくつかの実施例では、遺伝子改変T細胞は、臨床的に重大な(例えば、グレード2~4の)aGvHD(例えば、ステロイド難治性aGvHD)を、対象の18%未満、例えば、16%未満、14%未満、12%未満、10%未満、8%未満、6%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、又は1%未満に誘発する。
【0066】
いくつかの実施形態では、本明細書で開示されるような遺伝子改変T細胞の集団によって誘導されるGvHD(例えば、臨床的に重大なaGvHD)のリスクは、T細胞の少なくとも50%、例えば、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、又は少なくとも95%がTCRを発現するT細胞集団と比較して減少する。いくつかの実施例では、臨床的に重大なaGvHD(例えば、グレード2~4)の減少は、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、又は100%である。
【0067】
いくつかの実施形態では、aGvHDの症状は、本明細書で開示される遺伝子改変T細胞の集団を投与した後に、最大で36日間、例えば、最大で21日間、最大で24日間、最大で28日間、最大で30日間、又は最大で35日間観察される。いくつかの実施例では、aGvHDの症状は、T細胞集団を投与した後に、約20~約50日間、約25~約70日間、又は約28~約100日間観察される。
【0068】
代わりに又は加えて、遺伝子改変T細胞の一部は、抗BCMA CARを発現し、挿入、欠失、置換、又はこれらの組み合わせを含み得る、破壊されたβ2M遺伝子を含む。いくつかの実施形態では、β2M遺伝子の破壊によってβ2ミクログロブリンの発現が排除されるか又は減少し、MHC I複合体の機能の喪失がもたらされる。いくつかの実施例では、遺伝子改変T細胞集団の50%以下、例えば、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、又は5%以下が、β2ミクログロブリンを発現する。いくつかの実施例では、T細胞集団内の遺伝子改変T細胞の約5%~約50%、例えば、約10%~50%、10%~45%、15%~45%、15%~40%、20%~40%、20%~35%、又は25%~35%が、β2ミクログロブリンを発現する。いくつかの実施例では、遺伝子改変T細胞の30%以下が、β2ミクログロブリンを発現する。
【0069】
いくつかの実施形態では、HvGに関連する遺伝子(例えば、β2M遺伝子)の遺伝子破壊によって、HvGD反応のリスクが排除されるか又は減少する。代わりに又は加えて、HvGDに関連する遺伝子(例えば、β2M遺伝子)の遺伝子破壊によって、対象の同種T細胞の持続性が増大する。いくつかの実施例では、本明細書で開示される遺伝子改変T細胞集団を受けた対象は、HvGD反応の臨床症状がない。いくつかの実施例では、遺伝子改変T細胞は、投与して少なくとも1日後、例えば、少なくとも2、4、5、7、10、14、15、20、21、25、28、30、又は35日後に対象の組織(例えば、末梢血中)で検出可能となる。組織は、末梢血、脳脊髄液、腫瘍、皮膚、骨、骨髄、乳房、腎臓、肝臓、肺、リンパ節、脾臓、胃腸管、扁桃腺、胸腺、前立腺、又はこれらの組み合わせから得られ得る。
【0070】
検出可能性は、分析方法の検出限界の観点から定義される。持続性は、検出可能な量の同種T細胞が測定される、投与後の期間である。目的の組織内のT細胞を検出又は定量化するための方法は、当業者に公知である。このような方法としては、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、競合的RT-PCR、リアルタイムRT-PCR、RNアーゼ保護アッセイ(RPA)、定量的免疫蛍光法(QIF)、フローサイトメトリー、ノーザンブロット法、DNAを用いた核酸マイクロアレイ、ウエスタンブロット法、酵素免疫測定アッセイ(ELISA)、放射性免疫測定法(RIA)、組織免疫染色法、免疫沈降アッセイ、補体結合アッセイ、蛍光活性化細胞選別法(FACS)、質量分析法、電磁ビーズ-抗体免疫沈降法、又はタンパク質チップが挙げられるが、これらに限定されない。
【0071】
特定の実施例では、遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞の集団は、CTX120細胞であり(下記の実施例1も参照されたい)、標的遺伝子(TRAC及びβ2M)を破壊するためのCRISPR技術、及び配列番号40のCAR構築物を送達するためのアデノ随伴ウイルス(AAV)形質導入を用いて生成される。CRISPR-Cas9媒介遺伝子編集には、2つのガイドRNA(sgRNA):TRAC座位を標的化するTA-1 sgRNA(配列番号1)と、β2M座位を標的化するB2M-1 sgRNA(配列番号5)とが関与する。CTX120細胞の抗BCMA CARは、BCMAに特異的な抗BCMA一本鎖抗体フラグメント(scFv)、続いてCD8ヒンジ、並びに4-1BBの細胞内共シグナル伝達ドメイン及びCD3ζシグナル伝達ドメインに融合した膜貫通ドメインで構成されている。抗BCMA scFvは、配列番号41のアミノ酸配列を含み、抗BCMA CARは、配列番号40のアミノ酸配列を含む。抗BCMA CARの他の構成要素の配列を下記の表4及び5に示す。
【0072】
CTX120細胞の少なくとも一部は、配列番号10のフラグメントが欠失した、破壊されたTRAC遺伝子を有する、抗BCMA CARを発現するT細胞を含む。抗BCMA CARを発現するように構成された外来核酸を、TRAC遺伝子に挿入してもよい。外来核酸は、プロモーター配列(例えば、配列番号38のヌクレオチド配列を含み得るEF-1aプロモーター)、抗BCMA CARをコードするヌクレオチド配列(例えば、配列番号40のアミノ酸配列を含む抗BCMA CARをコードする配列番号33)、及びコード配列の下流のポリA配列(例えば、配列番号39)を含む。プロモーター配列は、CTX120細胞に抗BCMA CARの発現を誘導するように、コード配列と動作可能に連結されている。CTX120細胞の少なくとも一部は、配列番号21~26のヌクレオチド配列の1つ以上を含み得る、破壊されたβ2M遺伝子の集団を集合的に含む。図1及び下記の実施例1も参照されたい。
【0073】
更に、CTX120細胞集団内のT細胞の少なくとも30%が、抗BCMA CAR(CAR細胞)を発現する。いくつかの実施例では、CTX120細胞集団内のT細胞の約40%~約80%(例えば、約40%~75%、約45%~75%、約50%~70%、又は約50%~60%)が、CARである。加えて、CTX120細胞集団内のT細胞の35%未満(例えば、≦30%)が、検出可能なレベルのβ2M表面タンパク質を発現する。例えば、CTX120細胞集団内のT細胞の約70%~約85%が、検出可能なレベルのβ2M表面タンパク質を発現しない。更に、CTX120細胞集団内のT細胞の約1%未満(例えば、約0.8%未満、0.5%未満、又は4%未満)が、機能的TCRを発現する。
【0074】
少なくとも一部(例えば、少なくとも35%)のCTX120 T細胞は、三重改変CAR T細胞であり、例えば、上記に開示されるCRISPR/Cas9手法及びCAR構築物のAAV媒介送達によって生成される、抗BCMA CARを発現し、且つ破壊された内在性TRAC遺伝子及び内在性β2M遺伝子を有する遺伝子改変T細胞を指す。いくつかの実施例では、CTX120細胞集団内のT細胞の約35%~約70%(例えば、約40%~約70%又は約50%~約65%)が、三重改変CAR T細胞である。
【0075】
(iv)医薬組成物
いくつかの態様では、本開示は、本明細書で開示されるような遺伝子改変抗BCMA CAR T細胞のいずれか、例えば、CTX120細胞を含む医薬組成物、及び薬学的に許容されるキャリアを提供する。このような医薬組成物はヒト患者の癌治療に使用することができ、これも本明細書で開示される。
【0076】
本明細書で使用する場合、「薬学的に許容可能な」という用語は、妥当なリスク/ベネフィット比に見合った、過度の毒性、刺激、アレルギー反応、又は他の問題若しくは合併症を伴わない、対象の組織、臓器、及び/又は体液と接触させて使用するのに好適な、健全な医学的判断の範囲内にある化合物、材料、組成物、及び/又は剤形を指す。本明細書で使用する場合、「薬学的に許容されるキャリア」という用語は、生理学的に適合性のある溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌剤、抗カビ剤、等張剤及び吸収遅延剤などを指す。組成物としては、薬学的に許容される塩、例えば、酸付加塩又は塩基付加塩を挙げることができる。例えば、Berge et al.,(1977)J Pharm Sci 66:1-19を参照されたい。
【0077】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、薬学的に許容される塩を更に含む。薬学的に許容される塩の非限定的な例としては、酸付加塩が挙げられる(無機酸(例えば、塩酸若しくはリン酸)、又は酢酸、酒石酸、マンデル酸などといった有機酸を含むポリペプチドの遊離アミノ基から形成される)。いくつかの実施形態では、遊離カルボキシル基で形成される塩は、無機塩基(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、若しくは水酸化第二鉄)、又は有機塩基、例えばイソプロピルアミン、トリメチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどから誘導される。
【0078】
いくつかの実施形態では、本明細書で開示される医薬組成物は、凍結保存溶液(例えば、CryoStor(登録商標)C55)中に懸濁させた遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞(例えば、CTX120細胞)の集団を含む。場合によっては、凍結保存溶液は、約2~10%のジメチルスルホキシド(DMSO)を含有し得る。例えば、凍結保存溶液は、約2%、約3%、約4%、約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、又は約10%のDMSOを含有し得る。特定の実施例では、凍結保存溶液は、約5%のDMSOを含有し得る。
【0079】
DMSOに加えて、本開示に使用するための凍結保存溶液は、アデノシン、デキストロース、デキストラン40、ラクトビオン酸、スクロース、マンニトール、N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-N’-(2-エタンスルホン酸)(HEPES)などの緩衝剤、1種以上の塩(例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化カリウム、重炭酸カリウム、リン酸カリウムなど)、1種以上の塩基(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)、又はこれらの組み合わせも含み得る。凍結保存溶液の成分を、滅菌水(注射品質)に溶解させてもよい。凍結保存溶液は、いずれも血清を実質的に含まない(常法では検出できない)ものであり得る。
【0080】
場合によっては、凍結保存溶液(例えば、約5%のDMSOを含み、任意選択により血清を実質的に含まない)中に懸濁させた、CTX120細胞などの遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞の集団を含む医薬組成物を、保存バイアルに入れてもよい。いくつかの実施例では、各保存バイアルは、約25~85×10細胞/mlのT細胞(例えば、CTX120)を含有し得る。いくつかの実施例では、各保存バイアルは、約50×10細胞/mlを含有し得る。保存バイアル内の細胞中、≧30%がCART細胞であり、≦0.4%がTCRT細胞であり、≦30%がB2MT細胞である。
【0081】
凍結保存溶液(例えば、約5%のDMSOを含み、任意選択により血清を実質的に含まない)中に任意選択により懸濁され得る、本明細書で更に開示されるような遺伝子改変抗BCMA CAR T細胞(例えば、CTX120細胞)の集団を含む、本明細書で開示される医薬組成物はいずれも、将来使用するために、T細胞の生存及び生理活性に実質的に影響を及ぼさない環境で、例えば、細胞及び組織を保存するのに一般的に適用される条件下で保存され得る。いくつかの実施例では、医薬組成物は、≦-135℃の気相の液体窒素中で保存され得る。細胞をしばらくの間このような条件下で保存した後に、外観、細胞数、生存率、CART細胞の割合、TCRT細胞の割合、及びB2MT細胞の割合に関する著しい変化は観察されなかった。
【0082】
II.遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞の調製
本明細書で開示される遺伝子改変抗BCMA CAR T細胞を作製するために、当技術分野において公知の任意の好適な遺伝子編集方法、例えば、Znフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、又はRNA誘導型CRISPR-Cas9ヌクレアーゼ(CRISPR/Cas9;クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート関連9)を使用したヌクレアーゼ依存性標的化編集を使用することができる。
【0083】
(a)T細胞の供給源
いくつかの実施形態では、遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞は、1人以上のドナーから単離した一次T細胞を使用して作製され得る。例えば、一次T細胞は、1つ以上の健康なヒトドナーの好適な組織、例えば、末梢血単核球(PBMC)、骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺組織、感染部位由来の組織、腹水、胸水、脾臓組織、又はこれらの組み合わせから単離され得る。いくつかの実施形態では、TCRαβ、CD3、CD4、CD8、CD27 CD28、CD38、CD45RA、CD45RO、CD62L、CD127、CD122、CD95、CD197、CCR7、KLRG1、MHC-Iタンパク質、MHC-IIタンパク質、又はこれらの組み合わせを発現する一次T細胞の亜集団は、当技術分野において公知の正の選択又は負の選択の技法を用いて更に濃縮され得る。いくつかの実施形態では、T細胞亜集団は、TCRαβ、CD4、CD8、又はこれらの組み合わせを発現する。いくつかの実施形態では、T細胞亜集団は、CD3、CD4、CD8、又はこれらの組み合わせを発現する。いくつかの実施形態では、本明細書で開示される遺伝子編集を行うのに使用するための一次T細胞は、少なくとも40%、少なくとも50%、又は少なくとも60%のCD27+CD45RO-T細胞を含み得る。
【0084】
いくつかの実施形態では、遺伝子改変CAR T細胞(例えば、一次T細胞供給源に由来するT細胞のいずれか)を作製するのに使用するための親T細胞は、1回以上の刺激、活性化、増殖、又はこれらの組み合わせを受けてもよい。いくつかの実施形態では、遺伝子編集の前にインビトロで増殖させるために、親T細胞を活性化及び刺激する。いくつかの実施形態では、T細胞を、遺伝子編集の前後に活性化、増殖、又はその両方が行われる。いくつかの実施形態では、T細胞を、ゲノム編集と同時に活性化及び増殖させる。いくつかの実施形態では、T細胞を、約1~4日間、例えば、約1~3日間、約1~2日間、約2~3日間、約2~4日間、約3~4日間、約1日間、約2日間、約3日間、又は約4日間で活性化及び増殖させる。いくつかの実施形態では、同種T細胞を、約4時間、約6時間、約12時間、約18時間、約24時間、約36時間、約48時間、約60時間、又は約72時間で活性化及び増殖させる。T細胞を活性化及び/又は増殖させるための方法の非限定的な例は、米国特許第6,352,694号明細書;同第6,534,055号明細書;同第6,905,680号明細書;同第6,692,964号明細書;同第5,858,358号明細書;同第6,887,466号明細書;同第6,905,681号明細書;同第7,144,575号明細書;同第7,067,318号明細書;同第7,172,869号明細書;同第7,232,566号明細書;同第7,175,843号明細書;同第5,883,223号明細書;同第6,905,874号明細書;同第6,797,514号明細書;及び同第6,867,041号明細書に記載されている。
【0085】
(ii)CRISPR-Cas9媒介遺伝子編集システム
本明細書で開示される遺伝子編集事象を導入するために、即ち、内在性TRAC遺伝子を破壊し、内在性β2M遺伝子を破壊し、及び/又は本明細書で開示されるような抗BCMA CARのいずれかをコードする核酸を導入するために、親T細胞のいずれかを1つ以上の遺伝子編集/改変工程に供し得る。遺伝子編集手法(例えば、本明細書で開示されるもの)などの、従来の遺伝子改変手法を使用してもよい。いくつかの実施例では、T細胞の遺伝子改変は、CRISPR/Cas9媒介遺伝子編集システムによって実施することができる。
【0086】
CRISPR-Cas9システムは、遺伝子編集に使用されるRNA誘導型DNA標的化プラットフォームとして転用されている、原核生物に天然に存在する防御機構である。CRISPR-Cas9システムは、DNAヌクレアーゼであるCas9と、2つの非コードRNAであるcrisprRNA(crRNA)及びトランス活性化型RNA(tracrRNA)とに依拠するものであり、DNAを切断することを目的としている。CRISPRは、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピートの略称であり、例えば原核生物を感染又は攻撃したウイルスによってこれまでに細胞に暴露された外来DNAと類似性を有するDNAのフラグメント(スペーサーDNA)を含有する、細菌及び古細菌のゲノムに見られるDNA配列のファミリーである。例えば、その後の攻撃時に類似したウイルスが再導入すると、原核生物によってこれらのDNAのフラグメントが用いられ、類似した外来DNAを検出及び破壊する。CRISPR座位の転写によってスペーサー配列を含むRNA分子の形成がもたらされるが、このRNA分子は、異物の外来性DNAを認識して切断することができるCas(CRISPR関連)タンパク質と結合し、標的となる。CRISPR/Casシステムの多数の種類及びクラスが記載されている(例えば、Koonin et al.,(2017)Curr Opin Microbiol 37:67-78を参照されたい)。
【0087】
crRNAは、典型的には、標的DNA内の20個のヌクレオチド(nt)配列とワトソン-クリック塩基対を形成することによって、CRISPR-Cas9複合体の配列認識及び特異性を促進する。crRNA内の5’ 20ntの配列を変更することにより、CRISPR-Cas9複合体を特定の遺伝子座に標的化することが可能になる。CRISPR-Cas9複合体は、標的配列がプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)と称する特定の短いDNAモチーフ(配列NGGを有する)の後にある場合、crRNAの最初の20ntと一致する配列を含むDNA配列のみに結合する。
【0088】
TracrRNAは、crRNAの3’末端とハイブリダイズしてRNA二重鎖構造を形成し、これにCas9エンドヌクレアーゼが結合して触媒活性のあるCRISPR-Cas9複合体が形成され、続いてこのCRISPR-Cas9複合体によって標的DNAを切断することができる。
【0089】
CRISPR-Cas9複合体が標的部位でDNAに結合すると、Cas9酵素内の2つの独立したヌクレアーゼドメインが、それぞれPAM部位の上流でDNA鎖の一方を切断し、DNAの両鎖が塩基対で終端する(平滑末端)二本鎖切断(DSB)を残す。
【0090】
CRISPR-Cas9複合体が特定の標的部位でDNAに結合し、部位特異的なDSBが形成された後、次の重要な工程は、DSBの修復である。細胞は、DSBを修復するために、2つの主要なDNA修復経路、非相同末端連結(NHEJ)及び相同組み換え修復(HDR)を使用する。
【0091】
NHEJは、非分裂細胞を含む大部分の細胞型において高度に活性であるように見える頑健な修復機構である。NHEJは、誤りがちであり、多くの場合、DSBの部位で1~数百個のヌクレオチドの除去又は付加が生じる可能性があるが、このような改変は、典型的には<20ntである。結果として生じた挿入及び欠失(インデル)は、遺伝子のコード領域又は非コード領域を破壊する可能性がある。代わりに、HDRでは、内在的又は外来的に提供される長い一続きの相同性ドナーDNAを使用して、高い忠実度でDSBを修復する。HDRは、分裂細胞においてのみ活性であり、大部分の細胞型においては相対的に低い頻度で生じる。本開示の多くの実施形態では、修復オペラントとしてNHEJを利用する。
【0092】
(a)Cas9
いくつかの実施形態では、Cas9(CRISPR関連タンパク質9)エンドヌクレアーゼは、本明細書に開示されるような遺伝子改変T細胞を製作するために、CRISPR法で使用される。Cas9酵素は、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)に由来するものであり得るが、他のCas9相同体も使用することができる。本明細書で提供されるように、野生型Cas9を使用してもよく、又はCas9の改変バージョン(例えば、Cas9の発展バージョン、又はCas9オルソログ若しくは変異体)を使用してもよいことが理解されよう。いくつかの実施形態では、Cas9は、C末端及びN末端にSV40 large T抗原の核局在配列(NLS)を含むように改変されているストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)由来のCas9ヌクレアーゼタンパク質を含む。得られたCas9ヌクレアーゼ(sNLS-spCas9-sNLS)は、組み換え大腸菌(E.coli)の発酵によって生成され、クロマトグラフィーによって精製された162kDaのタンパク質である。spCas9のアミノ酸配列は、UniProt受入番号Q99ZW2として見出すことができ、本明細書では配列番号61として示される。
【0093】
Cas9ヌクレアーゼのアミノ酸配列(配列番号61):
【化1】
【0094】
(b)ガイドRNA(gRNA)
本明細書で記載されるようなCRISPR-Cas9媒介遺伝子編集は、ガイドRNA、即ちgRNAを使用することを含む。本明細書で使用する場合、「gRNA」とは、特定の標的配列で遺伝子を編集するために、Cas9をTRAC遺伝子又はβ2M遺伝子内の特定の標的配列に誘導することができるゲノム標的化核酸を指す。ガイドRNAは、編集のために標的遺伝子内の標的核酸配列とCRISPR反復配列とにハイブリダイズする少なくとも1つのスペーサー配列を含む。
【0095】
TRAC遺伝子を標的化する例示的なgRNAは、配列番号1~4のいずれか1つに示されるヌクレオチド配列を含み得る。本明細書で言及される主題及び目的のためにその関連する開示が参照により本明細書に組み込まれる、国際公開第2019/097305A2号パンフレットを参照されたい。他のgRNA配列は、14番染色体上に位置するTRAC遺伝子配列を使用して設計され得る(GRCh38:14番染色体:22,547,506~22,552,154;Ensembl;ENSG00000277734)。いくつかの実施形態では、TRACゲノム領域を標的化するgRNA及びCas9は、TRACゲノム領域に切断を生じさせてTRAC遺伝子にインデルをもたらし、mRNA又はタンパク質の発現を阻害する。
【0096】
β2M遺伝子を標的化する例示的なgRNAは、配列番号5~8のいずれか1つに示されるヌクレオチド配列を含み得る。本明細書で言及される目的及び主題のためにその関連する開示が参照により本明細書に組み込まれる、国際公開第2019/097305A2号パンフレットも参照されたい。他のgRNA配列は、15番染色体上に位置するβ2M遺伝子配列を使用して設計され得る(GRCh38の座標:15番染色体:44,711,477~44,718,877;Ensembl:ENSG00000166710)。いくつかの実施形態では、β2Mゲノム領域を標的化するgRNA及びRNA誘導型ヌクレアーゼは、β2Mゲノム領域に切断を生じさせてβ2M遺伝子にインデルをもたらし、mRNA又はタンパク質の発現を阻害する。
【0097】
II型システムでは、gRNA、tracrRNA配列と呼ばれる第2のRNAも含む。II型のgRNAでは、CRISPR反復配列及びtracrRNA配列が互いにハイブリダイズして二重鎖を形成する。V型のgRNAでは、crRNAが二重鎖を形成する。両方のシステムにおいて、二重鎖は部位特異的ポリペプチドに結合し、その結果ガイドRNAと部位特異的ポリペプチドとが複合体を形成する。いくつかの実施形態では、ゲノム標的化核酸は、その部位特異的ポリペプチドとの会合により、複合体に標的特異性をもたらす。従って、ゲノム標的化核酸は、部位特異的ポリペプチドの活性を誘導する。
【0098】
当業者に理解されるように、各ガイドRNAは、そのゲノム標的配列に相補的なスペーサー配列を含むように設計される。Jinek et al.,Science,337,816-821(2012)及びDeltcheva et al.,Nature,471,602-607(2011)を参照されたい。
【0099】
いくつかの実施形態では、ゲノム標的化核酸(例えば、gRNA)は、二重分子ガイドRNAである。いくつかの実施形態では、ゲノム標的化核酸(例えば、gRNA)は、単一分子ガイドRNAである。
【0100】
二重分子ガイドRNAは、2つの鎖のRNA分子を含む。第1の鎖は、5’から3’の方向に、任意選択のスペーサー延長配列、スペーサー配列及び最小CRISPR反復配列を含む。第2の鎖は、(最小CRISPR反復配列に相補的な)最小tracrRNA配列、3’tracrRNA配列及び任意選択のtracrRNA延長配列を含む。
【0101】
II型システムにおける単一分子ガイドRNA(「sgRNA」と称する)は、5’から3’方向に、任意選択のスペーサー延長配列、スペーサー配列、最小CRISPR反復配列、単一分子ガイドリンカー、最小tracrRNA配列、3’tracrRNA配列及び任意選択のtracrRNA延長配列を含む。任意選択のtracrRNA延長部は、ガイドRNAに更なる機能性(例えば、安定性)を付与するエレメントを含み得る。単一分子ガイドリンカーは、最小CRISPR反復配列と最小tracrRNA配列とを連結して、ヘアピン構造を形成する。任意選択のtracrRNA延長部は、1つ以上のヘアピンを含む。V型システムにおける単一分子ガイドRNAは、5’から3’方向に、最小CRISPR反復配列及びスペーサー配列を含む。
【0102】
「標的配列」とは、PAM配列に隣接している標的遺伝子のことであり、Cas9によって改変される配列のことである。「標的配列」は、PAM鎖及び相補的な非PAM鎖を含有する二本鎖分子である「標的核酸」内のいわゆるPAM鎖上にある。当業者は、gRNAスペーサー配列が、目的の標的核酸の非PAM鎖に位置する相補的配列にハイブリダイズすることを認識している。そのため、gRNAスペーサー配列は、標的配列のRNA均等物である。
【0103】
例えば、TRAC標的配列が5’-AGAGCAACAGTGCTGTGGCC-3’(配列番号10)である場合、gRNAスペーサー配列は、5’-AGAGCAACAGUGCUGUGGCC-3’(配列番号4)である。なお別の例では、β2M標的配列が5’-GCTACTCTCTCTTTCTGGCC-3’(配列番号12)である場合、gRNAスペーサー配列は、5’-GCUACUCUCUCUUUCUGGCC-3’である(配列番号8)。gRNAのスペーサーは、ハイブリダイゼーション(即ち塩基対形成)を介して配列特異的な様式で目的の標的核酸と相互作用する。そのため、スペーサーのヌクレオチド配列は、目的の標的核酸の標的配列に応じて変化する。
【0104】
本明細書のCRISPR/Casシステムでは、スペーサー配列は、このシステムで使用されるCas9酵素によって認識可能なPAMの5’に位置する標的核酸の領域にハイブリダイズするように設計されている。スペーサーは、標的配列と完全に一致し得るか、又はミスマッチを有し得る。各Cas9酵素は、標的DNA内で認識される特定のPAM配列を有する。例えば、S.ピオゲネス(S.pyogenes)は、標的核酸において、配列5’-NRG-3’(ここで、Rは、A又はGのいずれかを含み、Nは、任意のヌクレオチドであり、Nは、スペーサー配列により標的化される標的核酸配列の3’の直近にある)を含むPAMを認識する。
【0105】
いくつかの実施形態では、標的核酸配列は、20個の長さのヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、標的核酸は、20個未満の長さのヌクレオチドを有する。いくつかの実施形態では、標的核酸は、20個超の長さのヌクレオチドを有する。いくつかの実施形態では、標的核酸は、少なくとも5、10、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、30個又はそれ以上の長さのヌクレオチドを有する。いくつかの実施形態では、標的核酸は、最大で5、10、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、30個又はそれ以上の長さのヌクレオチドを有する。いくつかの実施形態では、標的核酸配列は、PAMの最初のヌクレオチドの5’の直近に20個の塩基を有する。例えば、
【化2】
を含む配列では、標的核酸は、N(ここで、Nは、任意のヌクレオチドであってよく、下線が引かれたNRG配列は、S.ピオゲネス(S.pyogenes)のPAMである)に対応する配列であってよい。
【0106】
gRNA内のスペーサー配列は、目的の標的遺伝子の標的配列(例えば、ゲノム標的配列などのDNA標的配列)を画定する配列(例えば、20個のヌクレオチド配列)である。TRAC遺伝子を標的化する例示的なgRNAのスペーサー配列を、配列番号4に示す。β2M遺伝子を標的化する例示的なgRNAのスペーサー配列を、配列番号8に示す。
【0107】
本明細書で開示されるガイドRNAは、crRNA内のスペーサー配列によって目的の任意の配列を標的化し得る。いくつかの実施形態では、ガイドRNAのスペーサー配列と標的遺伝子内の標的配列との間の相補性の程度は、約60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%又は100%であり得る。いくつかの実施形態では、ガイドRNAのスペーサー配列及び標的遺伝子内の標的配列は、100%相補的である。他の実施形態では、ガイドRNAのスペーサー配列と標的遺伝子内の標的配列は、最大で10個のミスマッチ、例えば最大で9個、最大で8個、最大で7個、最大で6個、最大で5個、最大で4個、最大で3個、最大で2個又は最大で1個のミスマッチを含み得る。
【0108】
本明細書で提供されるように使用され得るgRNAの非限定的な例は、本明細書で言及される目的及び主題のために先行出願の各々の関連する開示が参照により本明細書に組み込まれる、国際公開第2019/097305A2号パンフレット、及び国際公開第2019/215500号パンフレットに示されている。本明細書で提供されるgRNA配列のいずれかに関して、修飾を明確に示していないものは、未修飾の配列と任意の好適な修飾を有する配列との両方を包含することを意味する。
【0109】
本明細書で開示されるgRNAのいずれかにおけるスペーサー配列の長さは、CRISPR/Cas9システム、及び更に本明細書で開示される標的遺伝子のいずれかを編集するために使用される構成要素に依存し得る。例えば、異なる細菌種に由来する異なるCas9タンパク質は、様々な最適なスペーサー配列長を有する。従って、スペーサー配列は、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、35、40、45、50又は50個超の長さのヌクレオチドを有し得る。いくつかの実施形態では、スペーサー配列は、18~24個の長さのヌクレオチドを有し得る。いくつかの実施形態では、標的化配列は、19~21個の長さのヌクレオチドを有し得る。いくつかの実施形態では、スペーサー配列は、20個の長さのヌクレオチドを含み得る。
【0110】
いくつかの実施形態では、gRNAはsgRNAであってよく、sgRNA配列の5’末端に20個のヌクレオチドのスペーサー配列を含み得る。いくつかの実施形態では、sgRNAは、sgRNA配列の5’末端に20個未満のヌクレオチドのスペーサー配列を含み得る。いくつかの実施形態では、sgRNAは、sgRNA配列の5’末端に20超のヌクレオチドのスペーサー配列を含み得る。いくつかの実施形態では、sgRNAは、sgRNA配列の5’末端に17~30個のヌクレオチドを有する可変長のスペーサー配列を含む。
【0111】
いくつかの実施形態では、sgRNAは、sgRNA配列の3’末端にウラシルを含まない。他の実施形態では、sgRNAは、sgRNA配列の3’末端に1つ以上のウラシルを含み得る。例えば、sgRNAは、sgRNA配列の3’末端に1~8個のウラシル残基、例えば、sgRNA配列の3’末端に1、2、3、4、5、6、7又は8個のウラシル残基を含むことができる。
【0112】
sgRNAのいずれかを含む、本明細書に開示されるgRNAのいずれもが、未修飾であり得る。代わりに、1つ以上の修飾ヌクレオチド及び/又は修飾主鎖を含み得る。例えば、sgRNAなどの修飾gRNAは、5’末端、3’末端のいずれか又は両方に位置し得る1つ以上の2’-O-メチルホスホロチオエートヌクレオチドを含むことができる。
【0113】
特定の実施形態では、2つ以上のガイドRNAをCRISPR/Casヌクレアーゼシステムと共に使用することができる。各ガイドRNAは、CRISPR/Casシステムが2つ以上の標的核酸を切断するように、異なる標的化配列を含有し得る。いくつかの実施形態では、1つ以上のガイドRNAは、Cas9 RNP複合体内における活性又は安定性などの同じ又は異なる特性を有し得る。2つ以上のガイドRNAが使用される場合、各ガイドRNAは、同じ又は異なるベクター上にコードされ得る。2つ以上のガイドRNAの発現を駆動するために使用されるプロモーターは、同じであるか又は異なる。
【0114】
2つ以上の好適なCas9及び2つ以上の好適なgRNAを、本明細書に記載される方法、例えば当技術分野において公知の又は本明細書で開示される方法に使用することができることが理解されよう。いくつかの実施形態では、方法は、当技術分野において公知のCas9酵素及び/又はgRNAを含む。実施例は、例えば、本明細書で言及される目的及び主題のために先行出願の各々の関連する開示が参照により本明細書に組み込まれる、国際公開第2019/097305A2号パンフレット、及び国際公開第2019/215500号パンフレットに見出すことができる。
【0115】
(iii)CAR構築物をT細胞に送達するためのAAVベクター
抗BCMA CAR構築物のいずれかをコードする核酸は、アデノ随伴ウイルス(AAV)を使用して細胞に送達することができる。AAVは、宿主ゲノムに部位特異的に組み込まれ、これによってCARなどの導入遺伝子を送達することができる小型のウイルスである。逆方向末端反復(ITR)は、AAVゲノム及び/又は目的の導入遺伝子に隣接して存在し、複製開始点として機能する。また、AAVゲノムには、転写されるとAAVゲノムをカプセル化して標的細胞に送達するためのカプシドを形成するrepタンパク質及びcapタンパク質も存在する。これらのカプシド上の表面受容体によってAAVの血清型が付与され、カプシドがどの標的臓器に最初に結合するか、従っていずれの細胞にAAVが最も効率的に感染するかが決定される。現在知られているヒトAAVの血清型は、12種類である。いくつかの実施形態では、CARをコードする核酸を送達するのに使用するためのAAVは、AAV血清型6(AAV6)である。
【0116】
アデノ随伴ウイルスは、いくつかの理由のために遺伝子療法に最も頻繁に使用されるウイルスの1つである。第一に、AAVは、ヒトを含む哺乳動物への投与時に免疫応答を誘発しない。第二に、AAVは、特に適切なAAV血清型を選択することを考慮する場合、標的細胞に効率的に送達される。最後に、AAVは、ゲノムが組み込みを伴わずに宿主細胞において存続し得ることから、分裂細胞及び非分裂細胞の両方に感染する能力を有する。この特質により、AAVは、遺伝子療法の理想的な候補となる。
【0117】
抗BCMA CARをコードする核酸は、宿主T細胞内の目的のゲノム部位に挿入するように設計することができる。いくつかの実施形態では、標的ゲノム部位は、セーフハーバー遺伝子座内に存在し得る。
【0118】
いくつかの実施形態では、抗BCMA CARをコードする核酸は、(例えば、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターなどのウイルスベクターによって運ぶことが可能なドナー鋳型を介して)遺伝子改変T細胞内のTRAC遺伝子を破壊してCARポリペプチドを発現させるために、TRAC遺伝子内の位置に挿入することができるように設計することができる。TRACの破壊は、内在性TCRの機能喪失をもたらす。例えば、本明細書に記載されるようなエンドヌクレアーゼ及び1つ以上のTRACゲノム領域を標的化する1つ以上のgRNAにより、TRAC遺伝子の破壊を生じさせることができる。この目的のために、TRAC遺伝子及び標的部位に特異的なgRNAのいずれか、例えば本明細書で開示されるものを使用することができる。
【0119】
いくつかの実施例では、相同組み換え修復、即ちHDR(例えば、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターなどのウイルスベクターの一部であり得るドナー鋳型を使用した)により、TRAC遺伝子内のゲノム欠失と、抗BCMA CARをコードするセグメントによる置換とを生じさせることができる。いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるようなエンドヌクレアーゼ及び1つ以上のTRACゲノム領域を標的化する1つ以上のgRNAにより、且つCARをコードするセグメントをTRAC遺伝子に挿入することにより、TRAC遺伝子の破壊を生じさせることができる。
【0120】
本明細書で開示されるようなドナー鋳型は、抗BCMA CARのコード配列を含有し得る。いくつかの実施例では、抗BCMA CARをコードする配列は、CRISPR-Cas9遺伝子編集技術を使用して、目的の遺伝子位置、例えばTRAC遺伝子において効率的なHDRを行うことができるように、2つの相同性領域に隣接し得る。この場合、標的遺伝子座に特異的なgRNAによって誘導されたCRISPR Cas9酵素により、DNAの両方の鎖を標的遺伝子座で切断することができる。続いて、HDRが発生して二本鎖切断(DSB)を修復し、CARをコードするドナーDNAを挿入する。これを正しく発生させるために、ドナー配列は、TRAC遺伝子などの標的遺伝子のDSB部位を取り囲む配列に相補的な隣接残基(以下では「相同性アーム」)を有するように設計されている。これらの相同性アームは、DSB修復のための鋳型として機能し、HDRを本質的に誤りのない機構とすることを可能にする。相同組み換え修復(HDR)の割合は、変異部位と切断部位との間の距離の関数であり、そのため、重複しているか又は近傍の標的部位を選択することが重要である。鋳型は、相同領域に隣接した余分な配列を含むことができるか、又はゲノム配列と異なる配列を含むことができ、これによって配列編集が可能になる。隣接する相同配列を含むドナー鋳型の例を下記の表4に示す。
【0121】
代わりに、ドナー鋳型は、DNAの標的化された位置と相同性のある領域がなくてもよく、標的部位で切断された後にNHEJ依存的末端連結により組み込まれ得る。
【0122】
ドナー鋳型は、一本鎖及び/又は二本鎖のDNA又はRNAであってよく、直鎖状又は環状形態で細胞に導入することができる。直鎖状形態で導入される場合、ドナー配列の末端は、当業者に公知の方法により(例えば、エキソヌクレアーゼによる分解から)保護することができる。例えば、1つ以上のジデオキシヌクレオチド残基を直鎖状分子の3’末端に付加し、且つ/又は自己相補的オリゴヌクレオチドを一方若しくは両方の末端に連結する。例えば、Chang et al.,(1987)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:4959-4963;Nehls et al.,(1996)Science 272:886-889を参照されたい。外来性のポリヌクレオチドを分解から保護するための更なる方法としては、末端アミノ基の付加、並びに、例えばホスホロチオエート、ホスホロアミデート、及びO-メチルリボース又はデオキシリボース残基などの修飾ヌクレオチド間結合の使用が挙げられるが、これらに限定されない。
【0123】
ドナー鋳型は、例えば、複製開始点、プロモーター及び抗生物質耐性をコードする遺伝子などの追加の配列を有するベクター分子の一部として細胞に導入することができる。更に、ドナー鋳型は、裸の核酸として、リポソーム若しくはポロキサマーなどの薬剤と複合体を形成した核酸として細胞に導入することができるか、又はウイルス(例えば、アデノウイルス、AAV、ヘルペスウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス及びインテグラーゼ欠損レンチウイルス(IDLV))により送達することができる。
【0124】
いくつかの実施形態では、ドナー鋳型は、その発現が内在性プロモーターによって駆動することができるように、内在性プロモーターの近傍の部位(例えば、下流又は上流)に挿入することができる。他の実施形態では、ドナー鋳型は、CAR遺伝子の発現を制御するために、外来性プロモーター及び/又はエンハンサー、例えば、構成的プロモーター、誘導性プロモーター又は組織特異的プロモーターを含み得る。いくつかの実施形態では、外来性プロモーターは、EF1αプロモーターである。他のプロモーターを使用してもよい。
【0125】
更に、外来性配列は、転写又は翻訳制御配列、例えばプロモーター、エンハンサー、インスレーター、配列内リボソーム進入部位、2Aペプチドをコードする配列及び/又はポリアデニル化シグナルも含み得る。
【0126】
抗BCMA CARを発現し、且つ破壊されたTRAC遺伝子及び/又はβ2M遺伝子を有する、結果として得られたT細胞は、インビトロで収集され、増殖され得る。いくつかの実施例では、所望の遺伝子改変を有する細胞を濃縮するために、得られたT細胞を更に精製に供する。例えば、CART細胞を正に選択することができ、TCRT細胞及び/又はB2MT細胞を排除することができる。いくつかの実施形態では、TCRT細胞が除去される。除去方法の非限定的な例としては、細胞選別法(例えば、蛍光活性化細胞選別法)、免疫磁気分離法、クロマトグラフィー、又はマイクロ流体細胞選別法が挙げられる。いくつかの実施形態では、TCR細胞が、免疫磁気分離法を使用して除去される。いくつかの実施形態では、TCR細胞が、TCRを標的化するビオチン化抗体を使用して標識され、抗ビオチン磁気ビーズを使用して除去される。
【0127】
(iv)遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞の特性評価
本明細書で開示される方法又は一般的な手法によって調製される遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞は、目的の表面タンパク質(例えば、TCR、β2M、抗BCMA CAR、又はこれらの組み合わせ)のレベル、細胞生存率、細胞生物活性、不純物などの特徴について、慣用的な手法によって特性評価することができる。
【0128】
いくつかの実施形態では、目的の表面タンパク質を、例えば、抗体及び蛍光タグなどのタグで標識することができる。表面マーカー発現のレベルを定量化し、表面マーカーを発現するT細胞の分画を定量化し、又はこれらの組み合わせを行うために、フローサイトメトリーを使用して目的の表面タンパク質の存在を検出することができる。
【0129】
いくつかの実施形態では、TRAC遺伝子への抗BCMA CARの挿入は、デジタルドロップレットPCR(ddPCR)を使用して評価する。デジタルPCRは、試料中のDNA濃度を定量化するものであり、a)PCR反応物を分画すること、b)分画をPCR増幅すること、及びc)分画のPCR増幅を分析することを含み、プローブ及び標的分子を含む分画では増幅産物が得られ、PCRプローブを含まない分画では増幅産物が得られない。増幅産物を含む分画をポアソン分布に適合させて、未分画試料の所与の体積当たりの標的DNA分子の絶対コピー数(即ち、試料1マイクロリットル当たりのコピー)を決定する(Hindson,B.et al.,(2011)Anal Chem.83:8604-10を参照されたい)。デジタルドロップレットPCRは、試料中のDNAの絶対定量を提供し、コピー数の変動を分析し、及び/又は遺伝子編集の効率を評価するために使用することができる、デジタルPCRの変形形態である。水中油型エマルジョンを用いて核酸試料を液滴へと分画し、PCR増幅を液滴で集合的に実施し、流体システムを使用して液滴を分離して、それぞれの個々の液滴の分析を提供する。いくつかの実施形態では、ddPCRを使用して、試料組成物当たりの抗BCMA CARコピーの絶対定量を決定する。いくつかの実施形態では、ddPCRを使用して、TRAC遺伝子への抗BCMA CAR配列の挿入のHDR効率を評価する。
【0130】
いくつかの実施形態では、遺伝子改変抗BCMA CAR T細胞は、サイトカイン依存性増殖について評価することができる。T細胞は、刺激性サイトカインの存在下でのみ増殖することが予想されており、刺激性サイトカインの不在下における増殖は腫瘍形成能を示唆する。T細胞は、刺激性サイトカインの存在下で少なくとも1日間、例えば、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20日間培養され得、従来の手法によってT細胞の増殖を測定することができる。いくつかの実施例では、刺激性サイトカインは、IL-2、IL-7、又はその両方を含む。T細胞増殖は、培養期間の終了時に評価され得る。代わりに、T細胞増殖は、培養期間中、例えば、培養期間の1日目、2日目、3日目、4日目、5日目、又は6日目に評価され得る。いくつかの実施例では、T細胞増殖は、約1日毎、約2日毎、約3日毎、約4日毎、約5日毎、約6日毎、約7日毎、又は約8日毎に評価することができる。
【0131】
いくつかの実施形態では、生存T細胞は、従来の方法、例えば、フローサイトメトリー、顕微鏡、光学密度、代謝活性、又はこれらの組み合わせを使用して計数することができる。いくつかの実施形態では、本明細書で開示される遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞は、刺激性サイトカイン又はこれらの組み合わせのいずれかの不在下で増殖しない(且つ、腫瘍形成能を欠如するものとして定義される)。増殖しないとは、培養期間の終了時の生存T細胞の数が、培養期間の開始時の生存T細胞の数の150%未満、例えば、140%未満、130%未満、120%未満、110%未満、100%未満、90%未満、80%未満、70%未満、60%未満、50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、又は10%未満であるものとして定義することができる。
【0132】
いくつかの実施形態では、本明細書で開示される遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞の集団は、培養から10日後、11日後、12日後、13日後、14日後、15日後、16日後、17日後、18日後、19日後、又は20日後に評価したときに、1種以上の刺激性サイトカインの不在下では増殖しないことを示し得る。いくつかの実施例では、T細胞は、サイトカイン、増殖因子、抗原、又はこれらの組み合わせの不在下では増殖しない。
【0133】
III.同種抗BCMA CAR-T細胞療法
本明細書で開示される遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞のいずれかは、治療目的、例えば、BCMA癌を治療するのに使用され得る。従って、治療を必要とする対象に、有効量の本明細書で開示される遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞(例えば、CTX120細胞)の集団を投与することを含む、癌(例えば、BCMA癌細胞に関連する造血器腫瘍)を治療する方法が本明細書に提供される。いくつかの実施形態では、癌は、難治性及び/又は再発性MMを含むMMである。MMは、骨髄内で最終分化した形質細胞の悪性腫瘍である。MMは、異常な形質細胞によってモノクローナル免疫グロブリンタンパク質(例えば、Mタンパク質、即ちモノクローナルタンパク質)、又はモノクローナル遊離軽鎖が分泌されて生じたものである。MMは、形質細胞異常増殖症の範囲に存在し、前癌性の意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症(MGUS)が、くすぶり型(無症候性)MM、症候性MMに段階的に進行した結果として生じる。活動性MMの症状としては、疲労、低血小板数、頻発する感染症、及び/又は発熱、骨の損傷、痛み、腎機能不全が挙げられる。
【0134】
(i)患者集団
本明細書で開示される同種T細胞療法によって治療される対象は、哺乳動物、例えば、18歳以上であり得るヒト患者であってよい。いくつかの実施例では、対象は、BCMA癌細胞に関連する癌を有するヒト患者である。例えば、対象は、症候性MM及び無症候性MMを含む、MMを有するヒト患者であり得る。特定の実施例では、ヒト患者は、難治性MMを有する。他の特定の実施例では、ヒト患者は、再発性MMを有する。他の実施例では、対象は、意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症(MUGS)又は無症候性くすぶり型MMを有し得る。代わりに、対象は、MM、例えば、症候性MMなどの本明細書で開示されるサブタイプを発症するリスクが高いと診断されたヒト患者であり得る。
【0135】
MMを有する対象は、慣用的な医療行為によって診断され得る。MMを診断する方法は、当技術分野において公知である。非限定的な例としては、骨髄生検の分析、形質細胞増殖に関係する終末器官障害(例えば、高カルシウム血症、腎不全、貧血、破壊性骨病変)の分析、又はその両方が挙げられる。例えば、Kumar,et al.(2017)Leukemia 31:2443-48;Kumar,et al.,(2016)Lancet Oncol 17;e328-46;及びNCCN Guidelines v.2.2019(2018)National Comprehensive Cancer Network Clinical Practice Guidelines for Multiple Myelomaを参照されたい。いくつかの実施形態では、対象は、MGUSを有する。
【0136】
いくつかの実施形態では、対象(例えば、ヒト患者)は、高レベルのBCMAを発現するMM細胞を有する。細胞又は組織内のBCMAのmRNA及びタンパク質の発現を定量化する方法は、当技術分野において公知である。例えば、BCMAのmRNAの発現は、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、定量PCR(qPCR)、マルチプレックスPCR、デジタルPCR、及び/又は全トランスクリプトームショットガンシーケンシングを使用して測定することができ、BCMAタンパク質の発現は、質量分析法、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、タンパク質免疫沈降法、免疫電気泳動法、ウエスタンブロット法、及び/又はフローサイトメトリー若しくは顕微鏡による分析を伴う免疫染色法(例えば、免疫蛍光染色法、免疫組織化学染色法)を使用して測定することができる。
【0137】
いくつかの実施形態では、対象(例えば、ヒト患者)は、以前のMM療法から再発したか、又は以前のMM療法に対して難治性である。本明細書で使用する場合、「難治性」とは、治療に対して反応を示さないか又は抵抗性となるMMを指す。本明細書で使用する場合、「再発性」又は「再発する」とは、治療による好転(例えば、部分奏効又は完全奏効)の期間の後に再発又は進行するMMを指す。いくつかの実施形態では、治療中に再発が起こる。いくつかの実施形態では、治療後に再発が起こる。反応性の欠如は、例えば、血清Mタンパク質レベル、尿中Mタンパク質レベル、骨髄形質細胞数、骨病変のサイズ、骨病変数、又はこれらの組み合わせにおける変化の欠如として測定され得る。MMの再発又は進行は、例えば、血清クレアチニンレベル、血清Mタンパク質レベル、尿中Mタンパク質レベル、骨髄形質細胞数、骨髄形質細胞腫のサイズ、骨髄形質細胞腫数、骨病変のサイズ、骨病変数、他の条件によって解明されないカルシウムレベル、赤血球数、臓器障害、又はこれらの組み合わせにおける増加として測定され得る。
【0138】
いくつかの実施形態では、以前のMM療法は、ステロイド、化学療法、プロテアソーム阻害剤(PI)、免疫調節薬(IMiD)、モノクローナル抗体、自家幹細胞移植(SCT)、又はこれらの組み合わせを含む(例えば、NCCN Guidelines v.2.2019(2018)National Comprehensive Cancer Network Clinical Practice Guidelines for Multiple Myelomaを参照されたい)。ステロイドの非限定的な例としては、デキサメタゾン及びプレドニゾンが挙げられる。化学療法の非限定的な例としては、ベンダムスチン、シスプラチン、シクロホスファミド、ドキソルビシン塩酸塩、ドキソルビシン塩酸塩リポソーム、エトポシド、及びメルファランが挙げられる。PIの非限定的な例としては、ボルテゾミブ、イキサゾミブ、及びカルフィルゾミブが挙げられる。いくつかの実施形態では、PIは、ボルテゾミブ、カルフィルゾミブ、又はその両方を含む。IMiDの非限定的な例としては、レナリドミド、ポマリドミド、及びサリドマイドが挙げられる。いくつかの実施形態では、IMiD療法は、レナリドミド、ポマリドミド、又はその両方を含む。モノクローナル抗体の非限定的な例としては、CD38指向性モノクローナル抗体(例えば、ダラツムマブ、及びイサツキシマブ)、並びにエロツズマブ(CD319に結合する)が挙げられる。いくつかの実施形態では、モノクローナル抗体は、ダラツムマブなどのCD38指向性モノクローナル抗体を含む。
【0139】
いくつかの実施形態では、以前のMM療法は、1種より多くの系統の療法を含む。いくつかの実施形態では、以前のMM療法は、2種以上の系統の療法、例えば、3系統の前治療、4系統の前治療などを含む。いくつかの実施形態では、2種以上の系統の治療が個別に施される。いくつかの実施形態では、2種以上の系統の療法を組み合わせて施される。いくつかの実施形態では、以前のMM療法は、IMiD、PI、CD38指向性モノクローナル抗体、又はこれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態では、以前のMM療法は、IMiD及びPIを含む。いくつかの実施形態では、IMiDがPIの前に投与される。いくつかの実施形態では、IMiDがPIの後に投与される。
【0140】
いくつかの実施例では、以前のMM療法は、2系統の療法、例えば、IMiD及びPIを含む。2種の以前のMM療法に対して難治性のMM患者は、「二重難治性」と称し得る。いくつかの実施形態では、二重難治性MM患者は、2系統の療法による治療の60日目、又は60日以内に疾患が進行する。場合によっては、2系統の療法は、同一の治療計画の一部であり得る。他の場合、2系統の療法は、異なる治療計画の一部であり得る。二重難治性MM患者は、最後の治療計画の60日目、又は60日以内に疾患が進行し得る。
【0141】
いくつかの実施形態では、以前のMM療法は、3系統の療法、例えば、IMiD、PI、及びCD38指向性モノクローナル抗体を含む。3種の以前のMM療法に対して難治性のMM患者は、「三重難治性」と称し得る。いくつかの実施形態では、三重難治性MM患者は、3系統の療法による治療の60日目、又は60日以内に疾患が進行する。場合によっては、3系統の療法は、同一の治療計画の一部であり得る。他の場合、3系統の療法は、異なる治療計画の一部であり得る。三重難治性MM患者は、最後の治療計画の60日目、又は60日以内に疾患が進行し得る。
【0142】
いくつかの実施形態では、再発性又は難治性MMは、以前のMM療法後の少なくとも10日、少なくとも20日、少なくとも30日、少なくとも2ヵ月、少なくとも4ヵ月、少なくとも6ヵ月、少なくとも8ヵ月、少なくとも10ヵ月、少なくとも1年、少なくとも2年、少なくとも3年、少なくとも4年、又は少なくとも5年で検出される。いくつかの実施形態では、再発性又は難治性MMは、以前のMM療法後の10~100日以内、例えば、10~90日、20~90日、20~80日、30~80日、30~70日、40~70日、40~60日、又は50~60日以内に検出される。いくつかの実施形態では、再発性又は難治性MMは、以前のMM療法後の約100日以内、例えば、以前のMM療法後の約90日以内、約80日以内、約70日以内、約60日以内、約50日以内、約40日以内、約30日以内、約20日以内、又は約10日以内に検出される。
【0143】
いくつかの実施形態では、再発性MMは、自家SCTの間に対象で検出される。いくつかの実施形態では、再発性MMは、自家SCT後に対象で検出される。いくつかの実施形態では、再発性又は難治性MMは、自家SCT後の少なくとも10日、少なくとも20日、少なくとも30日、少なくとも2ヵ月、少なくとも4ヵ月、少なくとも6ヵ月、少なくとも8ヵ月、少なくとも10ヵ月、少なくとも1年、少なくとも2年、少なくとも2年、少なくとも3年、少なくとも4年、又は少なくとも5年で検出される。いくつかの実施形態では、再発性又は難治性MMは、自家SCT後の約18ヵ月以内、例えば、自家SCT後の約17ヵ月以内、約16ヵ月以内、約15ヵ月以内、約14ヵ月以内、約13ヵ月以内、約12ヵ月以内、約11ヵ月以内、約10ヵ月以内、約9ヵ月以内、約8ヵ月以内、約7ヵ月以内、約6ヵ月以内、約5ヵ月以内、約4ヵ月以内、約3ヵ月以内、約2ヵ月以内、又は約1ヵ月以内で検出される。いくつかの実施形態では、再発性又は難治性MMは、自家SCT後の約1~18ヵ月、例えば、自家SCT後の約2~18ヵ月、約2~16ヵ月、約3~16ヵ月、約3~14ヵ月、約4~14ヵ月、約4~12ヵ月、約5~12ヵ月、約5~10ヵ月、約6~10ヵ月、又は約6~8ヵ月で検出される。
【0144】
いくつかの実施形態では、対象は以下の特徴:十分な臓器機能、以前に同種幹細胞移植(SCT)を受けていないこと、本明細書で開示される同種T細胞療法に組み入れる前の60日以内に自家SCTを受けていないこと、形質細胞性白血病、非分泌型MM、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、POEM症候群、並びに/又は終末器官の病変及び損傷を伴うアミロイドーシスがないこと、同種T細胞療法に組み入れる前の14日以内に、遺伝子療法、抗BCMA療法、及び非緩和的放射線療法を以前に受けていないこと、MMによる中枢神経系の病変がないこと、臨床的に意義のあるCNS病変、脳血管虚血及び/又は出血症状、認知症、小脳疾患、CNS病変を伴う自己免疫疾患の病歴又は存在がないこと、同種T細胞療法に組み入れる前の6ヵ月以内に不安定狭心症、不整脈、及び/又は心筋梗塞がないこと、(例えば、感染症がHIV、HBV、又はHCVによって引き起こされた)コントロール不良な感染症がないこと、悪性腫瘍が、基底細胞癌若しくは扁平細胞皮膚癌、十分に切除された子宮頸部の上皮内癌、又は完全に切除され、≧5年間寛解期にある過去の悪性腫瘍でないことを条件に、過去又は同時進行の悪性腫瘍がないこと、同種T細胞療法に組み入れる前の28日以内に生ワクチンを投与していないこと、同種T細胞療法に組み入れる前の14日以内に全身的な抗腫瘍療法を受けていないこと、並びに免疫抑制療法を必要とする原発性免疫不全疾患又は自己免疫疾患がないことの1つ以上を有するヒトMM患者である。いくつかの実施形態では、対象は、0又は1の米国東海岸癌臨床試験グループ(ECOG)の一般状態を有するヒト患者である。ヒト患者は、シクロホスファミド及び/又はフルダラビンなどのリンパ球除去剤の禁忌を有し得ない。
【0145】
いくつかの実施例では、対象は、下記の実施例6に開示される組み入れ基準及び/又は除外基準の1つ以上を満たすヒト患者である。いくつかの実施例では、対象は、下記の実施例6に開示される組み入れ基準及び/又は除外基準の全てを満たし得る。
【0146】
(ii)移植前処置(リンパ球除去療法)
本明細書で開示されるような同種抗BCMA CAR-T細胞療法に好適な任意のヒト患者は、対象の内在性リンパ球を減少又は除去するために、抗BCMA CAR-T細胞の注入前にリンパ球除去療法を受けてもよい。
【0147】
リンパ球除去(LD)とは、内在性リンパ球及び/又はT細胞を破壊することを指し、一般に免疫移植療法及び免疫療法の前に使用される。リンパ球除去は、放射線照射及び/又は化学療法によって達成することができる。「リンパ球除去剤」とは、対象に投与したときに、内在性リンパ球及び/又はT細胞を減少、除去又は排除することが可能な任意の分子であり得る。いくつかの実施形態では、リンパ球除去剤は、薬剤を投与する前のリンパ球の数と比較して、リンパ球の数を少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、96%、97%、98%又は少なくとも99%だけ減少させるのに有効な量で投与される。いくつかの実施形態では、リンパ球除去剤は、対象のリンパ球の数が検出限界以下となるような、リンパ球の数を減少させるのに有効な量で投与される。いくつかの実施形態では、対象は、少なくとも1種の(例えば、2、3、4、5種又はそれ以上の)リンパ球除去剤が投与される。
【0148】
いくつかの実施形態では、リンパ球除去剤は、特異的にリンパ球を死滅させる細胞傷害性薬物である。リンパ球除去剤の例としては、フルダラビン、シクロホスファミド、ベンダムスチン、5-フルオロウラシル、ゲムシタビン、メトトレキサート、ダカルバジン、メルファラン、ドキソルビシン、ビンブラスチン、シスプラチン、オキサリプラチン、パクリタキセル、ドセタキセル、イリノテカン、リン酸エトポシド、ミトキサントロン、クラドリビン、デニロイキンジフチトクス又はDAB-IL2が挙げられるが、これらに限定されない。場合により、リンパ球除去剤は、低線量の放射線照射と併用され得る。移植前処置のリンパ球除去効果は、通常の診療によって観察することができる。
【0149】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載される方法は、1種以上のリンパ球除去剤、例えば、フルダラビン及びシクロホスファミドを含む移植前処置に関する。本明細書に記載される方法によって治療を受けるヒト患者は、複数用量の1種以上のリンパ球除去剤を移植前段階の適切な期間(例えば、1~5日間)に受けてもよい。患者は、リンパ球除去期間中、リンパ球除去剤の1種以上を1日当たり1回受けてもよい。一実施例では、ヒト患者は、1日当たり約20~50mg/m(例えば、30mg/m)のフルダラビンを2~4日間(例えば、3日間)にわたって受け、且つ1日当たり約300~600mg/m(例えば、500mg/m)のシクロホスファミドを2~4日間(例えば、3日間)にわたって受ける。
【0150】
一実施例では、ヒト患者は、1日当たり約30mg/mのフルダラビンを3日間にわたって受け、且つ1日当たり約300mg/mのシクロホスファミドを3日間にわたって受ける。他の実施例では、ヒト患者は、1日当たり約30mg/mのフルダラビンを3日間にわたって受け、且つ1日当たり約500mg/mのシクロホスファミドを3日間にわたって受ける。
【0151】
いくつかの実施形態では、LD化学療法は、対象におけるIL-7、IL-15、IL-2、IL-21、IL-10、IL-5、IL-8、MCP-1、PLGF、CRP、sICAM-1、sVCAM-1、又はこれらの組み合わせの血清レベルを増大させる。いくつかの実施形態では、LD化学療法は、対象におけるパーフォリン、MIP-1b、又はその両方の血清レベルを低下させる。いくつかの実施形態では、LD化学療法は、対象におけるリンパ球減少症に関連する。いくつかの実施形態では、LD化学療法は、対象における制御性T細胞の減少に関連する。
【0152】
LD化学療法の前に、LD化学療法の延期を示唆し得る症状について対象を検査してもよい。例示的な症状としては、臨床状態の著しい悪化、約90%超の飽和レベルを維持するために酸素補給を必要とすること、コントロール不良な心不整脈、血管収縮薬のサポートを必要とする低血圧、活動性感染症、及び/又はグレード≧2の急性神経毒性が挙げられる。症状の1つ以上が発生する場合は、症状が好転するまで対象に対するLC化学療法を延期すべきである。
【0153】
(iii)同種抗BCMA CAR-T細胞療法
同種CAR-T細胞療法を受けるように対象を調整した(例えば、LD化学療法を受けた)後、有効量の遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞(例えば、CTX120細胞)の集団、又は本明細書で開示されるようなものを含む(例えば、約5%のDMSOを含み得る凍結保存溶液中に懸濁させたCTX120細胞を含む)医薬組成物が、好適な経路及びスケジュールによって対象(例えば、ヒトMM患者)に与えられ得る。いくつかの実施例では、T細胞は、静脈内注入によって投与される。「同種T細胞療法」とは、レシピエントに与えられるT細胞が、レシピエント由来でなく、1つ以上の種のドナーに由来することを意味する。本明細書で開示される同種細胞療法では、遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞(例えば、CTX120細胞)は、1人以上の健康なヒトドナーに由来するものであってよく、ヒトMM患者に与えられ得る。
【0154】
いくつかの実施形態では、遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞(例えば、CTX120細胞)は、対象(例えば、ヒトMM患者)がLD化学療法を受けた後、少なくとも24時間(1日)で対象に投与することができる。例えば、遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞(例えば、CTX120細胞)の投与は、LD化学療法の2~7日後であり得る。いくつかの実施形態では、同種T細胞は、LD化学療法の投与後の10日以下、例えば、9日以下、8日以下、7日以下、6日以下、5日以下、4日以下、3日以下、2日以下、又は1日以下に投与される。いくつかの実施形態では、同種T細胞は、LD化学療法の投与後の24時間~10日、24時間~9日、30時間~9日、30時間~8日、36時間~8日、36時間~7日、又は48時間~7日以内に投与される。いくつかの実施形態では、同種T細胞は、LD化学療法の投与後の48時間~7日以内に投与される。
【0155】
LD化学療法の後、及び遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞の投与前に、同種T細胞の投与の延期を示唆し得る症状について対象(例えば、ヒトMM患者)を検査してもよい。例示的な症状としては、活動性のコントロール不良な感染症、LD化学療法前の臨床状態と比較した臨床状態の悪化、及び/又はグレード≧2の急性神経毒性が挙げられる。このような症状の1つ以上が発生する場合は、抗BCMA CAR-T細胞の投与を、好転が観察されるまで延期すべきである。LD化学療法の後に一定の期間を超えて延期が延長される場合(例えば、LD化学療法後の少なくとも10日、少なくとも12日、少なくとも15日、又は少なくとも21日)、抗BCMA CAR-T細胞の投与前にLD化学療法を繰り返してもよい。
【0156】
同種T細胞療法を実施するために、有効量の本明細書で開示されるような遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞の集団、例えば、CTX120細胞を、本明細書で開示される必要要件を満たす好適な対象(例えば、ヒトMM患者)に投与することができる。遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞(例えば、CTX120細胞)は、約2~10%のDMSO(例えば、約5%のDMSO)を含み得、任意選択により血清を実質的に含まない凍結保存溶液中に懸濁され得る。本明細書で使用する場合、「有効量」という用語は、MMの治療に望ましい効果を提供するのに十分な量を指す。望ましい効果の非限定的な例としては、対象においてMMの発症を防止すること、MMの発症の可能性を低下させること、MMの進行を遅延、延期、抑止、若しくは反転させること、MMの症状を阻害、低下、寛解、若しくは軽減させること、又はこれらの組み合わせが挙げられる。所与の場合の有効量は、通常の実験によって、例えば、入院又は他の医学的介入が必要となる、関連する目標レベルにおける変化(例えば、少なくとも10%)を評価することによって、当業者により決定することができる。
【0157】
いくつかの実施形態では、約2.5×10個~約7.5×10個のCART細胞を含む、CTX120細胞などの遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞の集団が、静脈内注入によってヒトMM患者(例えば、本明細書で開示される患者)に投与される。例えば、抗BCMA CARを発現する約5×10個~約7.5×10個の遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞(例えば、CTX120)が、静脈内注入によって患者に投与され得る。本明細書で開示される同種T細胞療法に使用するための例示的な有効量のCART細胞としては、約3×10個、約4×10個、約5×10個、約6×10個、約7×10個、約8×10個、約9×10個、約1×10個、約2×10個、約3×10個、約4×10個、約5×10個、約6×10個、又は約7×10個が挙げられる。いくつかの実施例では、約2.5×10個のCART細胞を含むCTX120細胞などの遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞の集団が、静脈内注入によって患者に投与される。
【0158】
いくつかの実施例では、約5×10個のCART細胞を含むCTX120細胞などの遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞の集団が、静脈内注入によって患者に投与される。いくつかの実施例では、約1.5×10個のCART細胞を含むCTX120細胞などの遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞の集団が、静脈内注入によって患者に投与される。いくつかの実施例では、約4.5×10個のCART細胞を含むCTX120細胞などの遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞の集団が、静脈内注入によって患者に投与される。いくつかの実施例では、約6×10個のCART細胞を含むCTX120細胞などの遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞の集団が、静脈内注入によって患者に投与される。いくつかの実施例では、約7.5×10個のCART細胞を含むCTX120細胞などの遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞の集団が、静脈内注入によって患者に投与される。
【0159】
いくつかの実施形態では、有効量の本明細書で開示されるような遺伝子改変T細胞集団(例えば、CTX120細胞)は、約1.5×10個~約7.5×10個のCART細胞、例えば、約1.5×10個~約4.5×10個のCART細胞、又は約4.5×10個~約7.5×10個のCART細胞の範囲であり得る。いくつかの実施形態では、有効量の本明細書で開示されるような遺伝子改変T細胞集団(例えば、CTX120細胞)は、約4.5×10個~約6×10個のCART細胞、又は約6×10個~約7.5×10個のCART細胞の範囲であり得る。
【0160】
いくつかの実施形態では、CTX120細胞などの本明細書で開示される有効量の遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞は、血清Mタンパク質レベルを、対象において少なくとも25%、例えば、対象において少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、又は少なくとも95%減少させるのに十分である。
【0161】
いくつかの実施形態では、CTX120細胞などの本明細書で開示される有効量の遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞は、24時間の尿中Mタンパク質レベルを、対象において少なくとも50%、例えば、対象において少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、又は少なくとも95%減少させるのに十分である。いくつかの実施形態では、有効用量は、対象における血清Mタンパク質レベルを少なくとも25%、24時間の尿中Mタンパク質レベルを少なくとも50%、又はその両方を減少させるのに十分である。いくつかの実施形態では、有効用量は、対象における血清Mタンパク質レベルを少なくとも25%、且つ24時間の尿中Mタンパク質レベルを少なくとも50%減少させるのに十分である。いくつかの実施形態では、有効用量は、対象における血清Mタンパク質レベルを少なくとも50%、24時間の尿中Mタンパク質レベルを少なくとも90%、又はその両方を減少させるのに十分である。いくつかの実施形態では、有効用量は、対象における血清Mタンパク質レベルを少なくとも50%、且つ24時間の尿中Mタンパク質レベルを少なくとも90%減少させるのに十分である。
【0162】
いくつかの実施形態では、CTX120細胞などの本明細書で開示される有効量の遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞は、24時間の尿中Mタンパク質レベルを、対象において200mg未満まで、例えば、対象において190mg未満まで、180mg未満まで、170mg未満まで、160mg未満まで、150mg未満まで、140mg未満まで、130mg未満まで、120mg未満まで、110mg未満まで、100mg未満まで、90mg未満まで、80mg未満まで、70mg未満まで、60mg未満まで、又は50mg未満まで減少させるのに十分である。いくつかの実施形態では、有効用量は、対象における血清Mタンパク質レベルを少なくとも90%、24時間の尿中Mタンパク質レベルを100mg未満まで、又はその両方を減少させるのに十分である。いくつかの実施形態では、有効用量は、対象における血清Mタンパク質レベルを少なくとも90%、且つ24時間の尿中Mタンパク質レベルを100mg未満まで減少させるのに十分である。
【0163】
いくつかの実施形態では、CTX120細胞などの本明細書で開示される有効量の遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞は、軟部組織の形質細胞腫のサイズ(SPD)を、対象において少なくとも30%、例えば、対象において少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、又は少なくとも95%減少させるのに十分である。いくつかの実施形態では、有効用量は、対象における軟部組織の形質細胞腫のサイズ(SPD)を少なくとも50%減少させるのに十分である。いくつかの実施形態では、有効用量は、軟部組織の形質細胞腫を検出不可能なレベルまで減少させるのに十分である。
【0164】
いくつかの実施形態では、CTX120細胞などの本明細書で開示される有効量の遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞は、形質細胞数を、対象において少なくとも20%、例えば、対象において少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、又は少なくとも95%減少させるのに十分である。いくつかの実施形態では、有効用量は、対象における形質細胞数を少なくとも50%減少させるのに十分である。
【0165】
いくつかの実施形態では、CTX120細胞などの本明細書で開示される有効量の遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞は、対象における形質細胞数を骨髄(BM)吸引液の10%未満、例えば、対象のBM吸引液の9%未満、8%未満、7%未満、6%未満、5%未満、4%未満、又は3%未満まで減少させるのに十分である。いくつかの実施形態では、有効用量は、対象における形質細胞数をBM吸引液の5%未満まで減少させるのに十分である。いくつかの実施形態では、有効用量は、対象における血清Mタンパク質、尿中Mタンパク質、及び軟部組織の形質細胞腫を検出不可能なレベルまで、且つ形質細胞数をBM吸引液の5%未満まで減少させるのに十分である。
【0166】
いくつかの実施形態では、CTX120細胞などの本明細書で開示される有効量の遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞は、関連する遊離軽鎖(FLC)レベルと関連しない遊離軽鎖レベル間の差を、対象において少なくとも20%、例えば、対象において少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、又は少なくとも95%減少させるのに十分である。いくつかの実施形態では、有効用量は、対象における関連する遊離軽鎖レベルと関連しない遊離軽鎖レベル間の差を少なくとも50%減少させるのに十分である。
【0167】
いくつかの実施形態では、対象は、カッパ(κ)軽鎖を生成する骨髄腫細胞を有し、有効用量は、κ軽鎖とλ軽鎖の比(κ/λ比)を6:1以下、例えば、11:2以下、11:2以下、5:1以下、9:2以下、4:1以下、7:2以下、3:1以下、5:2以下、2:1以下、3:2以下、又は1:1以下まで減少させるのに十分である。いくつかの実施形態では、対象は、κ軽鎖を生成する骨髄腫細胞を有し、有効用量は、κ/λ比を4:1以下まで減少させるのに十分である。
【0168】
いくつかの実施形態では、対象は、ラムダ(λ)軽鎖を生成する骨髄腫細胞を有し、有効用量は、κ軽鎖とλ軽鎖の比(κ/λ比)を1:4以上、例えば、2:7以上、1:3以上、2:5以上、1:2以上、1:1以上、3:2以上、又は2:1以上まで増加させるのに十分である。いくつかの実施形態では、対象は、λ軽鎖を生成する骨髄腫細胞を有し、有効用量は、κ/λ比を1:2以上まで増加させるのに十分である。
【0169】
いくつかの実施形態では、本明細書で開示されるような病状の指標のいずれか、例えば、軟部組織の形質細胞腫のサイズ(SPD)、血清Mタンパク質レベル、尿中Mタンパク質レベル、遊離軽鎖(FLC)レベル、形質細胞数、κ軽鎖とλ軽鎖の比、又はこれらの組み合わせを測定するために、1つ以上のアッセイが、本明細書で開示される抗BCMA CAR-T細胞(例えば、CTX120細胞)による治療の前及び/又は後に対象に実施され得る。慣用的な臨床検査を使用して、このような指標を測定することができる。いくつかの実施例では、抗BCMA CAR-T細胞治療の前、抗BCMA CAR-T細胞治療の後、又はその両方の時点の血清及び/若しくは尿モノクローナルタンパク質(Mタンパク質)のレベルについて対象を検査してもよい。代わりに又は加えて、CAR-T細胞治療の前及び/又は後の遊離軽鎖(FLC)レベルについて対象を検査してもよい。代わりに又は加えて、CAR-T細胞治療の前及び/又は後の骨髄形質細胞数について対象を検査してもよい。
【0170】
いくつかの実施形態では、CTX120細胞などの本明細書で開示される有効量の遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞は、1×10個以下のTCRT細胞/kg(対象)、例えば、8×10個以下、6×10個以下、4×10個以下、2×10個以下、1×10個以下、8×10個以下、6×10個以下、4×10個以下、2×10個以下、又は1×10個以下のTCRT細胞/kg(対象)を含む。いくつかの実施形態では、有効用量は、約1×10個~約1×10個のTCRT細胞/kg(対象)、例えば、約1×10個~約1×10個、約2×10個~約1×10個、約2×10個~約8×10個、約4×10個~約8×10個、約4×10個~約6×10個、約6×10個~約6×10個、約6×10個~約4×10個、約8×10個~約4×10個、又は約1×10個~約2×10個のTCRT細胞/kg(対象)を含む。いくつかの実施形態では、有効用量は、1×10個以下のTCRT細胞/kg(対象)を含む。いくつかの実施形態では、有効用量は、7×10個以下のTCRT細胞/kg(対象)を含む。
【0171】
いくつかの実施形態では、CTX120細胞のT細胞などの本明細書で開示される遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞は、注射、例えば静脈内注入される。投与経路の非限定的な例としては、静脈内、髄腔内、腹腔内、脊髄内、脳内、脊髄、及び胸骨内注入が挙げられる。いくつかの実施形態では、経路は、静脈内である。いくつかの実施形態では、CTX120細胞などの本明細書で開示される遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞は、標的部位、組織、又は臓器に直接投与される。いくつかの実施形態では、CTX120細胞などの本明細書で開示される遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞は、全身投与される(例えば、対象の循環系に)。いくつかの実施形態では、全身経路は、腹腔内投与、静脈内投与、又はその両方を含む。いくつかの実施形態では、CTX120細胞などの本明細書で開示される遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞は、単回の静脈内注入として投与される。いくつかの実施形態では、同種T細胞は、2回以上の静脈内注入として投与される。
【0172】
本明細書で開示される同種T細胞療法の後に、対象を、急性毒性、例えば、サイトカイン放出症候群(CRS)、神経毒性、腫瘍崩壊症候群、血球貪食性リンパ組織球症(HLH)、血球減少症、GvHD、低血圧、腎不全、ウイルス性脳炎、好中球減少症、血小板減少症、又はこれらの組み合わせの発症について観察しなければならない。CTX120細胞などの遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞の投与後に毒性が観察される場合は、これらの医師に公知の毒性管理を対象に実施するものとする。毒性管理に関する更なる詳細については、実施例6を参照されたい。
【0173】
場合によっては、投与後のヒトレシピエントにおけるCTX120細胞などの遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞の薬物動態(PK)プロファイルを検査してもよい。PKプロファイルにより、ヒトMM患者における同種T細胞療法の有効性を評価することができる。
【0174】
遺伝子改変CAR-T細胞は、対象に投与した後に増殖期を経てもよい。増殖は、抗原認識及び信号活性化に対する応答である(Savoldo,B.et al.(2011)J Clin Invest.121:1822;van der Stegen,S.et al.(2015)Nat Rev Drug Discov.14:499-509)。増殖後、遺伝子改変CAR-T細胞は、短命のエフェクターCAR-T細胞が排除され、長命のメモリーCAR-T細胞が残存する収縮期を経る。持続期の期間によって、増殖及び収縮後のCAR-T細胞の寿命の指標がもたらされる。
【0175】
いくつかの実施形態では、PKプロファイルは、組織内の遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞の量を経時的に含む。この分析に好適な例示的な組織としては、末梢血が挙げられる。組織試料は、毎日又は毎週採取され得る。代わりに又は加えて、組織試料は、T細胞の投与後の1日目、2日目、3日目、又は4日目から採取され得る。組織試料の採取は、T細胞の投与後の5日以降、例えば、T細胞の投与後の8日目以降、10日目以降、15日目以降、又は20日目以降に終了してもよい。いくつかの実施形態では、組織試料の採取は、T細胞の投与後に1週間につき少なくとも1回、例えば、T細胞の投与後に1週間につき少なくとも2回、又は少なくとも3回実施される。いくつかの実施形態では、組織試料の採取は、T細胞の投与後に最大で16週目、例えば、最大で15週目、最大で12週目、最大で10週目、最大で8週目、又は最大で6週目に実施される。
【0176】
いくつかの実施形態では、PKプロファイルの評価は、ベースライン測定値を得ることを含み、ベースライン測定値は、遺伝子改変抗BCMA CAR T細胞の投与前、例えば、T細胞の投与前の15日以下、例えば、T細胞の投与前の10日以下、5日以下、1日以下に得てもよい。いくつかの実施形態では、ベースライン測定値は、T細胞の投与前の0.25~48時間以内、例えば、0.5~24時間以内、1~36時間以内、1~12時間以内、又は2~12時間以内に得られる。
【0177】
いくつかの実施形態では、組織内の遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞の量の時間経過は、曲線下面積(AUC)によって測定する。AUCの計算方法は、当業者には公知であり、AUCを一連の台形によって近似させること、台形の面積を計算すること、及び台形の面積を合計してAUCを決定することからなる。いくつかの実施形態では、PKプロファイルに関してAUCが定義され、所与の組織タイプに関して遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞の量が経時的に測定される。いくつかの実施形態では、PKプロファイルに関してある指定された時点から別の指定された時点までのAUCが定義される(即ち、AUC10~80は、投与後10日目~80日目の量を示す量-時間曲線下総面積を指す)。いくつかの実施形態では、投与時間(例えば、1日目)から1日の終了時間までにわたる予め選択された期間、即ち、投与後1~7、10~20日、15~45日、20~70日、25~100日、又は40~180日に対してAUCが決定される。いくつかの実施形態では、レシピエントにおけるPKプロファイルのために測定されたAUCは、レシピエントの奏効(例えば、CR又はPR)を示す。いくつかの実施形態では、レシピエントにおけるPKプロファイルのために測定されたAUCは、レシピエントの再発のリスクを示す。
【0178】
いくつかの実施形態では、遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞は、対象の非癌細胞に毒性を誘導しない。或いは、遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞は、補体媒介溶解を引き起こさず、又は抗体依存性細胞傷害(ADCC)を刺激しない。
【0179】
いくつかの実施形態では、同種抗BCMA CAR-T細胞療法は、1種以上の抗癌療法、例えば、多発性骨髄腫に一般的に適用される療法と組み合わされ得る。
【0180】
IV.同種抗BCMA CAR-T細胞療法のためのキット
本開示はまた、難治性及び/又は再発性多発性骨髄腫などの多発性骨髄腫を治療するための方法における、本明細書で記載されるようなCTX120 T細胞などの抗BCMA CAR T細胞の集団を使用するためのキットを提供する。このようなキットは、遺伝子改変抗BCMA CAR T細胞の集団のいずれか(例えば、CTX120細胞などの本明細書に記載されるもの)、及び薬学的に許容されるキャリアを含む、第1の医薬組成物を含む第1の容器を含み得る。抗BCMA CAR-T細胞は、本明細書で開示されるような凍結保存溶液中に懸濁され得る。任意選択により、キットは、1種以上のリンパ球除去剤を含む第2の医薬組成物を含む、第2の容器を更に含み得る。
【0181】
いくつかの実施形態では、キットは、本明細書に記載される方法のいずれかにおいて使用するための指示を含み得る。添付される指示は、ヒトMM患者に意図する活性を獲得させるために、第1及び/又は第2の医薬組成物を対象に投与することに関する説明を含み得る。キットは、ヒト患者が治療を必要としているか否かを特定することに基づいて、治療に好適なヒトMM患者を選択することに関する説明を更に含み得る。いくつかの実施形態では、指示は、治療が必要なヒト患者に第1及び第2の医薬組成物を投与することに関する説明を含む。
【0182】
本明細書に記載されるCTX120 T細胞などの抗BCMA CAR-T細胞の集団の使用に関する指示には、一般に、意図する治療に関する投与量、投与スケジュール、及び投与経路などの情報が含まれる。容器は、単位用量、バルク包装(例えば、マルチドーズ包装)、又はサブユニット用量であり得る。本開示のキットで提供される指示は、典型的には、ラベル又は添付文書に記載された指示である。ラベル又は添付文書は、対象のMMの症状を治療し、発症を遅らせ、且つ/又は軽減させるために、遺伝子改変T細胞の集団を使用することを指示する。
【0183】
本明細書で提供されるキットは、好適に包装されている。好適な包装としては、バイアル、ボトル、ジャー、フレキシブル包装などが挙げられるが、これらに限定されない。吸入器、鼻腔投与器具又は注入器具などの特定の器具と組み合わせて使用するための包装も考えられる。キットは、滅菌アクセスポートを有し得る(例えば、容器は、皮下注射針が貫通可能なストッパーのある静脈内溶液バッグ又はバイアルであり得る)。容器は、滅菌アクセスポートも有し得る。医薬組成物中の少なくとも1種の活性剤は、本明細書で開示されるようなCTX120 T細胞などの抗BCMA CAR-T細胞の集団である。
【0184】
キットは、任意選択により、緩衝剤及び解説情報などの追加の構成要素を提供し得る。通常、キットは、容器と、容器上の又は容器に付随したラベル又は添付文書とを含む。いくつかの実施形態では、本開示は、上記に記載したキットの内容物を含む製造物品を提供する。
【0185】
一般的技術
本開示の実施には、特に指示しない限り、当技術分野の範囲内の分子生物学(組み換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学及び免疫学の従来技術が採用される。このような技術は、例えば下記の文献で十分に説明されている:Molecular Cloning:A Laboratory Manual,second edition(Sambrook,et al.,1989)Cold Spring Harbor Press;Oligonucleotide Synthesis(M.J.Gait,ed.1984);Methods in Molecular Biology,Humana Press;Cell Biology:A Laboratory Notebook(J.E.Cellis,ed.,1989)Academic Press;Animal Cell Culture(R.I.Freshney,ed.1987);Introuction to Cell and Tissue Culture(J.P.Mather and P.E.Roberts,1998)Plenum Press;Cell and Tissue Culture:Laboratory Procedures(A.Doyle,J.B.Griffiths,and D.G.Newell,eds.1993-8)J.Wiley and Sons;Methods in Enzymology(Academic Press,Inc.);Handbook of Experimental Immunology(D.M.Weir and C.C.Blackwell,eds.):Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells(J.M.Miller and M.P.Calos,eds.,1987);Current Protocols in Molecular Biology(F.M.Ausubel,et al.eds.1987);PCR:The Polymerase Chain Reaction,(Mullis,et al.,eds.1994);Current Protocols in Immunology(J.E.Coligan et al.,eds.,1991);Short Protocols in Molecular Biology(Wiley and Sons,1999);Immunobiology(C.A.Janeway and P.Travers,1997);Antibodies(P.Finch,1997);Antibodies:a practice approach(D.Catty.,ed.,IRL Press,1988-1989);Monoclonal antibodies:a practical approach(P.Shepherd and C.Dean,eds.,Oxford University Press,2000);Using antibodies:a laboratory manual(E.Harlow and D.Lane(Cold Spring Harbor Laboratory Press,1999);The Antibodies(M.Zanetti and J.D.Capra,eds.Harwood Academic Publishers,1995);DNA Cloning:A practical Approach,Volumes I and II(D.N.Glover ed.1985);Nucleic Acid Hybridization(B.D.Hames&S.J.Higgins eds.(1985;Transcription and Translation(B.D.Hames&S.J.Higgins,eds.(1984≫;Animal Cell Culture(R.I.Freshney,ed.(1986;Immobilized Cells and Enzymes(lRL Press,(1986;及びB.Perbal,A practical Guide To Molecular Cloning(1984);F.M.Ausubel et al.(eds.)。
【0186】
当業者であれば、更に詳細に述べることなく、上記の説明に基づいて本発明を最大限に利用することができると考えられる。従って、以下の特定の実施形態は、単なる例示として解釈すべきであり、決して以下の本開示を限定するものではない。本明細書で引用する全ての刊行物は、本明細書で言及される目的又は主題のために参照により組み込まれる。
【実施例
【0187】
実施例1:抗BCMA CAR T細胞の調製
BCMA抗原に特異的なCARを発現する遺伝子改変T細胞(例えば、CTX120細胞)は、本明細書で言及される目的及び主題のためにその各々の関連する開示が参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2019/097305号パンフレット及び国際公開第2019/215500号パンフレットに記載されるような標準的な白血球アフェレーシス手順によって得られた健康なドナーのPBMCから調製した。
【0188】
要約すると、T細胞のために単核細胞を濃縮して、抗CD3/CD28抗体をコートしたビーズで活性化した。濃縮され、活性化されたT細胞を、続いてCRISPR/Cas9を用いて遺伝子改変し、ヒトMM細胞によって発現されるBCMAに特異的なCARを同時に挿入することによって、TRAC遺伝子及びβ2M遺伝子のコード配列を破壊した(例えば、遺伝子ノックアウトを生じさせた)。CARの挿入は、Cas9/gRNAによって生成したDNAのDSBのHDRによって発生させた。CARは、TRAC遺伝子に特異的な、左側及び右側に隣接する相同性アームを含むドナーDNAによってコードされており、これによってCARをTRAC遺伝子において生成されたDNAのDSBに挿入することが可能となる。CAR相同ドナーDNAは、rAAV6を用いて投与した。TRAC遺伝子を破壊することによって、TCRの機能喪失が生じ、遺伝子編集T細胞を非アロ反応性にし、且つGvHDのリスクを最小限に抑えることによって同種移植に好適なものとする一方で、β2M遺伝子を破壊することによって、MHC Iの発現の喪失が生じ、HVG反応に対する遺伝子編集T細胞の感受性が阻害される。抗BCMA CARをTRAC遺伝子に挿入することによって、BCMA表面抗原を発現するMM腫瘍細胞に反応性のT細胞が提供される。
【0189】
遺伝子編集を実施するため、最初に、初代ヒトT細胞を、TRAC遺伝子及びβ2M遺伝子を標的化するCas9-sgRNA RNP複合体と共に電気穿孔した。Cas9ヌクレアーゼを、TA-1 sgRNA(配列番号1、TCRを標的化する)、及びB2M-1 sgRNA(配列番号5、β2Mを標的化する)と別々の微小遠心管内で混合した。それぞれの溶液を室温で10分以上インキュベートし、それぞれのリボ核タンパク質複合体を形成した。2つのCas9/gRNA混合物を混ぜ合わせ、細胞と混合し、Cas9、TA-1、及びB2M-1をそれぞれ0.3mg/mL、0.08mg/mL及び0.2mg/mLの終濃度とした。細胞をCas9-sgRNA RNPと共に電気穿孔した。電気穿孔後、TRAC座位に特異的な、隣接する左側及び右側に800bpの相同性アームを含む、抗BCMA CARをコードするrAAV6で細胞を処理した。コードされたCARを、プロモーターとして機能するように、5’伸長因子であるEF-1αに作動可能に連結し、mRNA転写の安定性を促進するように、3’ポリアデニル化配列に作動可能に連結した。CARは、ヒトBCMAに特異的なマウス抗体由来のヒト化scFvと、ヒンジ領域及び膜貫通ドメインと、CD3-ζを含むシグナル伝達ドメインと、4-1BB共刺激ドメインとを含んでいた。
【0190】
標的遺伝子配列、及びsgRNA、及びsgRNAによってコードされるスペーサー配列を表1に示す。
【0191】
【表1】
【0192】
上記の表1のTRAC sgRNAによって生成された破壊されたTRAC遺伝子は、下記の表2に示される編集されたTRAC遺伝子配列のうちの1つを含み得る(“-”は欠失を示し、太字の残基は突然変異又は挿入を示す)。
【0193】
【表2】
【0194】
遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞の一部は、編集されたTRAC遺伝子、左側及び右側の相同性アームに対応する領域における相同組み換えによって抗BCMA CARをコードするヌクレオチド配列で置換され得るフラグメントを含み得る(下記の表4を参照されたい)。そのため、本明細書で開示される遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞(例えば、CTX120細胞)の一部は、少なくともAGAGCAACAGTGCTGTGGCC(配列番号10)のフラグメントの欠失を有する破壊されたTRAC遺伝子を含み得る。抗BCMA CARをコードするヌクレオチド配列(例えば、配列番号33であり、下記の表4を参照されたい)を含む核酸は、TRAC遺伝子座に挿入され得る。CARコード配列は、配列番号38などのEF-1aプロモーターに動作可能に連結されている。ポリA配列(例えば、配列番号39)は、コード配列の下流に位置し得る。下記の表4を参照されたい。
【0195】
更に、遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞(例えば、CTX120細胞)の一部は、複数の破壊されたβ2M遺伝子を含み、下記の表3に列挙される編集されたβ2M遺伝子配列の1つ以上を集合的に含み得る(”-”は欠失を示し、太字の残基は突然変異又は挿入を示す)。
【0196】
【表3】
【0197】
ヌクレオチド配列及びアミノ酸配列を含む、抗BCMA CARをコードするrAAVの構成要素を、それぞれ表4及び表5に示す。
【0198】
【表4】
【0199】
【表5】
【0200】
【表6】
【0201】
【表7】
【0202】
【表8】
【0203】
【表9】
【0204】
【表10】
【0205】
得られた遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞(例えば、CTX120細胞)の少なくとも一部は、少なくとも配列番号10の配列の欠失を有する破壊されたTRAC遺伝子、破壊されたβ2M遺伝子を含み、且つ抗BCMA CAR(例えば、配列番号40)を発現し得る。更に、CTX120細胞集団内の細胞の一部は、配列番号21~26の配列の1つ以上が集合的に含まれ得る、複数の破壊されたβ2M遺伝子を含み得る。更に、遺伝子改変抗BCMA CAR-T細胞は、抗BCMA CARをコードするヌクレオチド配列を含む。いくつかの実施例では、CARコード配列は、TRAC遺伝子座(例えば、配列番号40の抗BCMA CARをコードする配列番号33)に挿入され得る。抗BCMA CARコード配列は、配列番号38のヌクレオチド配列を含み得る、EF-1aプロモーターに動作可能に連結される。更に、ポリA配列(例えば、配列番号39)は、コード配列の下流に位置する。
【0206】
得られた遺伝子改変T細胞を、所望の遺伝子編集の組み込み、つまりTCRの喪失、MHC I発現の喪失、及び抗BCMA CARの発現について特性評価した。遺伝子編集の約1週間後、フローサイトメトリーを使用して、TCR、β2M、及び抗BCMA CARの表面発現について同種T細胞を評価した。同種細胞をビオチン化組み換えヒトBCMA(Acro Biosystems Cat:#BC7-H82F0)で染色し、蛍光ストレプトアビジン及び細胞表面マーカーを標的化する蛍光抗体でタグ付けした。TCR、β2M、及び抗BCMA CARであった細胞の割合を求めた。CTX120細胞の9つのロットを、8人の健康なドナーから調製した。
【0207】
図2に図示されるように、TCRの発現における減少は、ほぼ定量的であり(96~99%の細胞がTCR)、β2Mの発現における減少も高く(72~86%の細胞がβ2M)、及び抗BCMA CARの組み込みは46~79%の範囲であった。三重遺伝子編集(TCR、β2M、及び抗BCMA CAR)を含むCTX120細胞の割合は、38%~67%であった。
【0208】
CD4又はCD8であったCTX120細胞の割合もフローサイトメトリーによって求めた。図3A~3Bに図示されるように、CD4T細胞(図3A)又はCD8T細胞(図3B)の割合は、遺伝子編集プロセス後に変化しないままで維持された。
【0209】
実施例2:抗BCMA CAR T細胞は、MM.1S腫瘍モデルにおいて腫瘍容積を減少させ、且つ再チャレンジから保護する
ヒトBCMA発現MM腫瘍の増殖を抑制するCTX120細胞の能力を、免疫不全マウスにおいて評価した。NOGマウス(NOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1Sug/JicTac)において、皮下MM.1S腫瘍異種移植モデルに対するCTX120細胞の有効性を評価した。簡潔に言えば、5~8週齢の雌NOGマウスを、換気されたマイクロアイソレーターケージ内で個別に収容し、無菌条件下で維持した。動物はそれぞれ右側腹部に50%マトリゲル中5×10個のMM.1S細胞の皮下接種を受けた。平均腫瘍容積が100mm(約75~125mm)に達したとき、マウスを各群5匹のマウスを含む2つの群に無作為化した。1つの群には処置をせず、一方で2つめの群には8×10個のCTX120 CART細胞を静脈注射によって投与した。
【0210】
腫瘍容積及び体重を週に2回測定し、個々のマウスを、それらの腫瘍容積が≧2000mmに達したときに安楽死させた。15日目までに、CTX120細胞で処置した動物は、最初の容積から腫瘍退縮を示したが、対照群における動物は、平均して1000mmより大きい腫瘍を有していた。29日目までに、対照群における全ての動物は、≧2000mmの腫瘍容積の評価項目に達したが、全ての処置動物は、原発腫瘍負荷を拒絶した(図4)。
【0211】
29日目に、CTX120の処置を受けた群の全てのマウスに、2回目のMM.1S腫瘍細胞の接種を更に施した(例えば、腫瘍再チャレンジ)。マウスは、左側腹部に50%マトリゲル中5×10個のMM.1S細胞の2回目の皮下接種を受けた。最初の未処置群を腫瘍負荷のために死亡させたことを踏まえ、腫瘍のない動物の第2のコホートに、陽性対照として左側腹部に再チャレンジの接種を施した。
【0212】
全てのマウスを、最初の右側腹部の腫瘍及び左側腹部における再チャレンジ腫瘍の両方の腫瘍増殖について観察した。CTX120細胞で処置した動物は、試験期間にわたって、最初の右側腹部の腫瘍と再チャレンジした左側腹部の腫瘍の両方において腫瘍増殖を正常に排除したが、未処置動物は、右側腹部又は左側腹部のいずれかの腫瘍細胞の接種を受けると、腫瘍負荷のために死亡した(表4)。
【0213】
実施例3:抗BCMA CAR T細胞の処置によるRPMI-8226腫瘍の根絶
NOGマウスにおけるRPMI-8226腫瘍異種移植モデルによって、BCMA発現ヒトMMの第2のモデルでCTX120の有効性を更に評価した。簡潔に言えば、5~8週齢の雌NOG(NOD.Cg-PrkdcscidI12rgtm1Sug/JicTac)マウスを、換気されたマイクロアイソレーターケージ内で個別に収容し、無菌条件下で維持した。処置の10日前に、マウスは、右側腹部に10×10個のRPMI-8226細胞/マウスの皮下接種を受けた。1日目に、マウスを群(各群n=5マウス)に無作為化し、未処置としたか、又は0.8×10個のCAR発現CTX120細胞を静脈注射によって投与した。
【0214】
腫瘍容積を週に2回測定した。CTX120細胞で処置した動物は、腫瘍負荷を完全に根絶したことを示したが、未処置動物の腫瘍は、試験期間の終了時までに1500mmを上回る腫瘍容積に達した(図5)。
【0215】
実施例4:抗BCMA CAR T細胞の安全性及び忍容性の評価
BCMA発現細胞及び組織に応答して活性化するCTX120細胞の選択性を評価した。そのために、CTX120 CARのscFv部分に由来するヒト化マウス抗体を、ヒト組織に対する交差反応性について評価した。要約すると、標準的な32個のヒト組織のパネル(副腎、膀胱、血液細胞、骨髄、乳房、脳の小脳、脳の大脳皮質、結腸、内皮血管、目、卵管、胃腸:管:胃、胃腸管:小腸、心臓、腎臓の糸球体、腎尿細管、肝臓、肺、リンパ節、末梢神経、卵巣、膵臓、副甲状腺、耳下腺(唾液)腺、下垂体、胎盤、前立腺、皮膚、脊髄、脾臓、横紋筋、精巣、胸腺、甲状腺、扁桃腺、尿管、子宮頸部、子宮内膜)を、2つの濃度:最適濃度(5.0μg/mL)及び高濃度(50.0μg/mL)の抗体に暴露した後の抗体の結合について評価した。病理医によって組織染色を評価し、陽性染色が組織に対する抗体の反応性を示す、免疫組織化学ベースのアッセイによって結合を評価した。陽性対照として、組織スライドに吸着させた精製BCMAタンパク質に対して、染色を評価した。抗体結合を検査する各組織について、異なる3人のヒトドナー由来の組織切片を評価した。精製BCMAタンパク質に対しては強い染色が観察されたが、ヒト組織のいずれにも陽性染色が観察されなかった。従って、抗原結合性の抗BCMA CARのscFvは、BCMAを発現する組織に対して高い選択性がある。
【0216】
BCMA発現細胞株に応答して活性化するCTX120細胞の選択性をインビトロで評価した。そのために、CTX120細胞を、BCMA発現の高い(MM.1S細胞)、BCMA発現の低い(Jeko-1細胞)、又はBCMAを発現しない(K562細胞)50,000個の標的細胞と、CAR T細胞と標的細胞が2:1の比率で24時間共培養した。共培養液上清中の活性化抗BCMA CAR T細胞によって産生されたIFNγ及びIL-2のレベルを、Luminexベースのアッセイ(Milliplex、Millipore Sigma、MA、USA)を使用して測定した。標的細胞との共培養に応答するサイトカイン産生を、4人の個々のドナーに由来するCTX120細胞について、図6A~6Bに図示される平均±標準誤差で評価した。図示されるように、CTX120細胞をBCMA発現が欠如したK562細胞と共培養した場合に、サイトカインの発現は測定されなかった。対照的に、BCMA発現MM.1S細胞又はJeKo-1細胞と共培養したCTX120細胞の共培養液中では、IFNγ及びIL-2の両方で有意なレベルが測定された(図6A~6B)。
【0217】
更に、BCMA発現細胞株の標的細胞死を誘導するCTX120細胞の選択性をインビトロで評価した。そのために、CTX120細胞又は未編集のT細胞を、50,000個の標的細胞(例えば、MM.1S細胞、JeKo-1細胞、又はK562細胞)と、T細胞と標的細胞が8:1、4:1、2:1、1:1、又は0.5:1の比率で24時間共培養した。共培養の前に、標的細胞を5μMのefluor670(eBiosciences)で標識化した。共培養後、細胞を洗浄し、死滅/瀕死細胞を計数するために、1:500希釈の4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI、Molecular Probes)を含有する200μLの培地中に懸濁した。25μLのCountBrightビーズ(Life Technologies)を各試料に加えた。細胞をフローサイトメトリーによって標識について評価し、細胞溶解のために死滅した標的細胞の割合を以下の計算によって求めた。
細胞/mL=((生存標的細胞イベントの数)/(ビーズイベントの数))×((ロットの割り当てられたビーズカウント(ビーズ/50μL))/(試料の体積))
【0218】
合計の標的細胞を、細胞/μLに細胞の総体積を掛けることによって計算した。続いて、細胞溶解の割合を、以下の式:
%細胞溶解=(1-((試験試料中の標的細胞の総数)/(対照試料中の標的細胞の総数))×100
により計算した。
【0219】
細胞死は、異なる4人のドナーに由来する未編集のT細胞及び編集されたT細胞について、図7A~7Cに図示される平均%細胞溶解±標準偏差で評価した。BCMAを発現する細胞(図7AのMM.1S及び図7BのJeKo-1)の場合、編集されたCTX120細胞によって誘導された細胞溶解は、T細胞と標的細胞の比率が低い場合であっても、未編集のT細胞によって誘導された細胞溶解よりも有意に高かった。対照的に、BCMA発現が欠如したK562細胞の場合は、未編集のT細胞と編集されたT細胞との間に細胞溶解における差異が観察されなかった(図7C)。従って、CTX120細胞によって誘導される細胞毒性は、標的細胞によるBCMAの発現に依存する。
【0220】
初代非腫瘍ヒト細胞がCTX120細胞を活性化する可能性を更に評価した。初代ヒト細胞のうち、B細胞のみがBCMA発現細胞を含むことが予想されている。下記の表6に列挙した初代ヒト細胞と共培養した後に、IFNγ及びIL-2のレベルを定量化することによって、CTX120細胞の活性化を測定した。
【0221】
【表11】
【0222】
そのために、初代ヒト細胞を、96ウェル平底プレートに、1ウェル当たり25,000個の細胞で好ましい培地中に播種し、一晩インキュベートした。24時間後、初代細胞培地を除去し、50,000個のCTX120細胞をT細胞増殖培地に添加した。共培養液を24時間インキュベートし、Luminexベースのアッセイ(Milliplex、Millipore Sigma、MA、USA)を使用して、IFNγ及びIL-2の産生についてアッセイした。陽性対照として、BCMA発現の低い細胞(例えば、Jeko-1細胞)に応答するCTX120細胞の活性化を評価した。IFNγ及びIL-2の平均±標準偏差の産生を、図8A及び図8Bにそれぞれ図示する。白抜きのバーは、値が定量化の限界を下回っていたことを示した。図8Aに図示されるように、初代ヒト細胞とCTX120細胞との間での共培養により、Jeko-1陽性対照細胞株と比較した場合に、CD19/BCMA細胞を含むことが知られている一次B細胞と共培養した場合を除き、IFNγの著しい分泌が生じなかった。図8Bに図示されるように、無培養は、Jeko-1陽性対照と比較して著しいIL-2産生をもたらした。この結果に基づくと、CTX120細胞は、通常のBCMAを発現しないヒト細胞の存在下で活性化しない。
【0223】
形質転換細胞は、サイトカインに依存しない方法で増殖する。従って、遺伝子編集が発癌性形質転換をもたらすか否かを判断するために、サイトカインの不在下で増殖する能力についてCTX120細胞を評価した。そのために、エクスビボでの培養におけるCTX120細胞の増殖を、血清並びにサイトカインIL-2及びIL-7を含む完全培地、血清を含むがサイトカインを含まない(例えば、IL-2若しくはIL-7を含まない)培地、又は血清もサイトカインも含まない(例えば、血清、IL-2、若しくはIL-7を含まない)培地中で、27日にわたって評価した。遺伝子編集(0日目)の約2週間後に、5×10個のCTX120細胞を蒔いた。様々な時点で、フローサイトメトリーを使用して生存CTX120細胞の数を計数した。図9に図示されるように、T細胞の増殖は、完全培地中で培養した場合に定常に達したが、生存T細胞の数は、サイトカインを含まない培地(血清の有無にかかわらず)中で増殖させた場合では、時間の経過と共に減少した。異なる4人のドナーに由来するCTX120細胞の生存細胞の平均数±標準誤差が図示される。従って、CTX120細胞を生成するために使用される遺伝子編集手法は、望ましくない発癌性形質転換をもたらさない。
【0224】
実施例5:抗BCMA CAR T細胞の投与による免疫反応の分析
未編集のT細胞及び編集されたCTX120細胞が単回用量後にGvHDを引き起こす可能性を、マウスで評価した。編集されたCTX120細胞は、実施例1に記載したように調製した。CTX120の抗BCMA CARは、マウスBCMAを認識しない。しかしながら、未編集のT細胞又は編集されたT細胞による処置に応答する、マウスにおけるGvHDの症状(例えば、体重減少、生存率の低下、及び/又は罹病率の増大)の評価は、T細胞のオフターゲットの反応性によって誘導される(例えば、アロ抗原に対するTCR反応による)GvHD毒性を示すものである。陽性対照として、マウス組織抗原とのTCRの反応性によってGvHD毒性を引き起こす未編集の同種T細胞でマウスを処置した。TCRの発現が極めて低い同種CTX120細胞で処置することによって、GvHD毒性の誘導を評価した。
【0225】
GvHD反応を評価するために、表7に示すように、最初にNSGマウス(NOD.Cg-PrkdcscidIl2rgtm1Wjl/SzJ)を全身照射に暴露し(200cGyの総照射線量)、続いて溶媒のみ(例えば、T細胞を含まない)、未編集のT細胞、又は編集されたCTX120細胞(例えば、TCR β2M CART細胞)で処置した。1日目の放射線照射の約6時間後に、T細胞を250μL容積のリン酸緩衝食塩水(PBS)中で静脈内低速ボーラス注射によって投与した。放射線照射は、160cGy/分の速度で送達した。
【0226】
【表12】
【0227】
治療後、放射線照射後の最大で84日にわたって、生存率、GvHD症状の出現、及び体重について動物を評価した。GvHD症状は、皮膚に対する変化(例えば、蒼白及び/又は発赤)、活動性の低下、円背姿勢、軽度から中程度のるい痩、及び呼吸数の上昇として定義した。
【0228】
未処置動物、又は放射線照射単独、若しくはCTX120細胞の投薬を併用した放射線照射に暴露した動物では、死亡は観察されなかった。しかしながら、図10に図示されるように、未編集のT細胞の投薬を併用した放射線照射を受けた動物に関しては、有意な死亡率が観察された。加えて、未編集のT細胞で処置した数匹の動物に体重減少が観察されたが、溶媒又はCTX120細胞で処置した動物では観察されなかった。加えて、CTX120細胞で処置した動物には、GvHD症状が観察されなかった。従って、これらの結果により、TCR発現細胞を排除するように編集されたCTX120細胞は、GvHD反応をもたらすオフターゲットの反応性を誘導しないことが確認された。
【0229】
未編集のT細胞と、実施例1に記載した遺伝子編集方法に従ってTCR陰性且つβ2M陰性となるように編集されたT細胞とで、ヒト細胞に対するアロ反応性を比較した。具体的には、TRAC遺伝子座及びβ2M遺伝子座を標的化するCas9-sgRNA RNP複合体と共に、初代ヒトT細胞を電気穿孔した。しかしながら、抗BCMA CARをコードするrAVVで細胞を処置せず、これによってアロ反応性におけるTCRノックアウトの効果を評価するのに使用するための、破壊されたTRAC遺伝子及びβ2M遺伝子を有するT細胞(TRAC/β2MT細胞)を含む細胞の集団を得た。
【0230】
アロ反応性を評価するために、未編集のT細胞又は編集されたT細胞を同一のドナーに由来するPBMC(例えば、自家PBMC若しくは適合PBMC)、又は異なるドナーに由来するPBMC(例えば、同種PBMC若しくは不適合PBMC)とインキュベートし、製造元のプロトコルに従って、5-エチニル-2’-デオキシウリジン(EdU:Invitrogen)の組み込みを測定するフローサイトメトリーベースのアッセイを使用してT細胞の増殖を測定することにより、活性を評価した。陽性対照として、TCRを架橋し、T細胞活性化を誘導するように機能するフィトヘムアグルチニン-L(PHA)でT細胞を処置した。PHAによる処置により、未編集のT細胞では激しく増殖する結果となったが、予想通り、TCR発現のない編集されたT細胞ではそのような結果とならなかった(図11)。また、予想通り、編集されたT細胞と未編集のT細胞とのどちらもが、自家PBMCの存在下では増殖しなかった。しかしながら、編集されたT細胞は、同種PBMCの存在下で増殖しており、不適合のヒト細胞に対するアロ反応性を示している。対照的に、編集されたT細胞は、同種PBMCに応答した増殖を示さなかった(図11)。従って、編集されたT細胞におけるTCR発現の喪失は、不適合のヒト細胞に応答する活性化の欠如と一致するものである。
【0231】
実施例6:再発性又は難治性多発性骨髄腫を有する対象における抗BCMA同種CRISPR-Cas9改変T細胞(CTX120)の安全性及び有効性に関する第I相用量漸増試験及びコホート拡大試験
本試験は、再発性又は難治性多発性骨髄腫(MM)を有する対象における、CTX120、B細胞成熟抗原(BCMA)を対象とする同種キメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法の安全性、有効性、薬物動態、及び薬力学的効果を評価するものである。
【0232】
MMは、全ての造血器腫瘍の約10%に現れ、非ホジキンリンパ腫後に2番目に最も多く見られる造血器腫瘍である、骨髄で最終分化した形質細胞の悪性腫瘍である(Kumar et al.,2017,Leukemia 31,2443-2448;Rajkumar and Kumar,2016,Mayo Clin Proc 91,101-119)。
【0233】
CTX120は、CRISPR-Cas9遺伝子編集構成要素(sgRNA及びCas9ヌクレアーゼ)を使用して、エクスビボで遺伝子改変された同種T細胞で構成される、BCMA指向性T細胞免疫療法である。改変には、T細胞受容体アルファ定常(TRAC)座位及びβ-2ミクログロブリン(B2M)座位の破壊、並びに抗BCMA CAR導入遺伝子のTRAC座位への同時挿入が含まれる。CARは、BCMAに特異的なヒト化scFv、続いてCD8ヒンジ及びCD137(4-1BB)及びCD3ζの細胞内シグナル伝達ドメインに融合した膜貫通領域で構成されている。遺伝子ノックアウトにより、GvHDの確率を低下させ、改変T細胞をBCMA発現腫瘍細胞に再誘導し、同種細胞の持続性を増大させることが意図される。
【0234】
標準的な白血球アフェレーシス手順によって得られた健康なドナーの末梢血単核球からCTX120を調製した。単核細胞をT細胞のために濃縮して、抗CD3/CD28抗体をコートしたビーズで活性化し、続いてCRISPR-Cas9リボヌクレオタンパク質複合体と共に電気穿孔して、CAR遺伝子を含有する組み換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターで形質導入する。改変T細胞を細胞培養液中で増殖させ、精製し、懸濁液中に配合して凍結保存する。生成物をその場で保存し、投与の直前に解凍する。CTX120生成物は、図13にまとめられている。
【0235】
CTX120の特異性及び抗腫瘍細胞毒性を、インビトロ及びインビボでの薬理学試験によって評価した。CTX120細胞は、腫瘍細胞死をもたらすBCMA腫瘍細胞とインビトロで共培養した場合に、エフェクターサイトカインを放出した。CTX120は、ヒト腫瘍異種移植マウスモデルにおいて、インビボで腫瘍増殖を阻害した。免疫反応性及び腫瘍形成のリスクを評価するために、インビトロ及びインビボでの安全性評価を実施した。オフターゲットの編集は同定されなかった。安全性試験により、CTX120がマウスにおいて任意の臨床的又は組織病理学的なGvHDを引き起こさなかったことが示され、CTX120細胞が遺伝子編集後にサイトカインの不在下で増殖しなかったことが確認された。
【0236】
再発性/難治性多発性骨髄腫を有する対象における、本ヒト初回投与試験は、このCRISPR-Cas9改変同種CAR T細胞手法の安全性及び有効性を評価するものである。
【0237】
1.試験目的
主目的、パートA(用量漸増):最大耐量(MTD)及び/又はコホート拡大に推奨される用量を決定するために、再発性又は難治性多発性骨髄腫を有する対象において、様々なリンパ球除去剤及び免疫調節剤を併用したCTX120の漸増用量の安全性を評価する。
主目的、パートB(コホート拡大):国際骨髄腫ワーキンググループ(IMGW)奏効基準(Kumar et al.,2016)に従ったORRによって測定される、再発性又は難治性多発性骨髄腫を有する対象におけるCTX120の有効性を評価する。副次的目的では、CTX120の有効性、安全性及び薬物動態を更に特性解明する。探索的目的では、臨床反応、抵抗性、安全性、疾患、又は薬力学的活性を提示又は予測することができる、CTX120に関連するゲノム、代謝及び/又はプロテオミクスバイオマーカーを同定する。
副次的目的(パートA及びB):CTX120の有効性、安全性及び薬物動態を更に特性解明する。
探索的目的(パートA及びB):臨床反応、抵抗性、安全性、疾患、又は薬力学的活性を提示又は予測することができる、CTX120に関連するゲノム、代謝及び/又はプロテオミクスバイオマーカーを同定する。
【0238】
2.対象の適格性
2.1 組み入れ基準
本試験に参加するのに適格であると見なされるためには、対象は以下に列挙される組み入れ基準の全てを満たさなければならない:
1.年齢が≧18歳であること。
2.プロトコルに必要とされる試験手順を理解して遵守することができ、自発的に書面のインフォームドコンセント文書に署名することができること。
3.IMWG奏効基準(下記の表22)、及び以下の少なくとも1つによって定義されるような、再発性又は難治性疾患を伴う多発性骨髄腫と診断されていること:
a)IMiD(例えば、レナリドミド、ポマリドミド)、PI(例えば、ボルテゾミブ、カルフィルゾミブ)、及びCD38指向性モノクローナル抗体(例えば、ダラツムマブ;国/地域で承認され、入手できる場合)を含む、少なくとも2系統の治療を以前に受けている。
b)同一の若しくは異なる治療計画の一部として、PI、IMiD、及び抗CD38抗体による治療の60日目若しくは60日以内における進行として定義される、三重難治性の多発性骨髄腫;又は同一の若しくは異なる治療計画の一部として、PI及びIMiDに対して二重難治性の多発性骨髄腫である。
c)多発性骨髄腫が自家SCT後の12ヵ月以内に再発している。
d)上記の基準(3a、b、又はc)の少なくとも1つであり、且つ以前にCD38指向性モノクローナル抗体を受けている。
4.以下の基準の少なくとも1つを含む、測定可能な疾患であること:
・血清Mタンパク質が≧0.5g/dLであること。
・尿中Mタンパク質が≧200mg/24時間であること。
・血清遊離軽鎖(FLC)アッセイが、以下の通りであること:血清FLC比が異常であることを条件として、関連するFLCレベルが≧10mg/dL(100mg/L)であること。
5.米国東海岸癌臨床試験グループ(ECOG)の一般状態が0又は1であること(付録B)。
6.LD化学療法及びCAR T細胞注入を受ける基準を満たしていること。
7.以下の臓器機能が十分であること:
・腎臓:推定糸球体濾過率が>50mL/分/1.73m2であること。
・肝臓:アスパラギン酸トランスアミナーゼ又はアラニントランスアミナーゼが<3×正常上限(ULN)であり、総ビリルビンが<2×ULNであること。
・心臓:血行動態的に安定しており、心エコー図による左室駆出分画率が≧45%であること。
・肺:パルスオキシメトリーによる室温での酸素飽和レベルが>91%であること。
8.妊娠可能な女性対象(閉経後1年未満の正常な子宮と少なくとも1つの卵巣とを有する初潮後の女性)は、CTX120注入後の少なくとも12ヵ月にわたって、組み入れ時より許容可能な避妊方法を使用することに同意しなければならない。
9.男性対象は、CTX120注入後の少なくとも12ヵ月にわたって、組み入れ時より有効な避妊方法を使用することに同意しなければならない。
【0239】
2.2 除外基準
本試験に参加するのに適格となるためには、対象は以下に列挙される除外基準のいずれも満たさないことが必要となる。
1.以前に同種SCTを受けていること。
2.スクリーニング時点で自家SCTから60日未満であり、未解明の重篤な病変があること。
3.形質細胞性白血病(標準差異による>2.0×109個/Lの循環血液中の形質細胞)、又は非分泌型MM、又はワルデンシュトレームマクログロブリン血症又はPOEMS(多発ニューロパチー、臓器肥大、内分泌障害、モノクローナルタンパク質、及び皮膚病変)症候群、又は終末器官の病変及び損傷を伴うアミロイドーシスであること。
4.以下の療法のいずれかによる前治療を受けていること:
・CAR T細胞又はナチュラルキラー細胞を含む任意の遺伝子療法又は遺伝子改変細胞治療。
・BCMA指向性抗体、二重特異性T細胞誘導、又は抗体薬物複合体を含む、BCMA指向性療法による前治療。
・組み入れて14日以内の放射線治療。症状管理のための緩和的放射線療法は容認される。
5.シクロホスファミド、フルダラビン又はCTX120生成物の賦形剤のいずれかに対して既知の禁忌があること。
6.多発性骨髄腫による直接的な中枢神経系(CNS)障害のエビデンスがあること。
7.発作性疾患、脳血管虚血/出血、認知症、小脳疾患、CNS病変を伴う任意の自己免疫疾患、又はCAR T細胞に関係する毒性を増大させる可能性のある別の症状などの臨床的に意義のあるCNS病変の病歴がある、又はそれらが存在すること。
8.組み入れの6ヵ月以内に不安定狭心症、臨床的に重大な不整脈、又は心筋梗塞があること。
9.コントロール不良であるか、又はIV抗感染薬を必要とする細菌感染症、ウイルス感染症、又は真菌感染症が存在すること。
10.ヒト免疫不全ウイルス(HIV)1型若しくは2型、又は活動性B型肝炎ウイルス(HBV)若しくはC型肝炎ウイルス(HCV)の感染の存在が陽性であること。ウイルス負荷が検出不可(定量的ポリメラーゼ連鎖反応[PCR]又は核酸試験による)と記録されている、HBV又はHBC感染の既往歴のある対象は容認される。インフォームドコンセント用紙(ICF)に署名して30日以内に実施する感染症疾患検査(HIV-1、HIV-2、HCV抗体及びPCR、HBV表面抗原、HBV表面抗体、HBVコア抗体)により、対象の適格性を考慮してもよい。
11.基底細胞癌若しくは扁平細胞皮膚癌、十分に切除された子宮頸部の上皮内癌又は完全に切除され、≧5年間寛解している過去の悪性腫瘍を除く、過去又は同時進行の悪性腫瘍であること。
12.組み入れて28日以内に生ワクチンを受けていること。
13.組み入れ前の14日以内に全身性抗腫瘍療法又は治験薬を使用していること。臨床的に必要であれば、以前にステロイド剤を使用している患者に、生理学的用量のステロイド(例えば、≦10mg/日のプレドニゾン又は等価物)を使用することが容認される。
14.ステロイド及び/又は他の免疫抑制療法を必要とする原発性免疫不全疾患又は活動性自己免疫疾患であること。
15.対象が試験に参加する能力を阻害する可能性がある、重大な精神疾患又は他の医学的状態が診断されること。
16.妊娠している、又は授乳中の女性であること。
【0240】
3.試験デザイン
3.1 治験計画
本試験は、再発性又は難治性多発性骨髄腫を有する対象における、様々なLD及び免疫調節剤を併用したCTX120の漸増用量の安全性及び有効性を評価する非盲検多施設第1相試験である(下記の表8)。試験は、用量漸増(パートA)、その後のコホート拡大(パートB)の2つのパートに分かれている。治療スケジュールの概要図を図12に示す。
【0241】
パートAでは、以下の1つを有する成人対象において用量漸増を開始する:IMiD、PI、及びCD38指向性モノクローナル抗体を含む、少なくとも2系統の前治療後における再発性若しくは難治性MM;PI、IMiD及び抗CD38抗体に対して三重難治性の進行性MM;又は自家SCT後の12ヵ月以内に再発したMM。用量漸増は、下記に概略する基準に従って実施する。
【0242】
パートBでは、CTX120の安全性及び有効性を更に評価するために、最適なサイモンの2段階デザインを使用して、拡大コホートを開始する。第1の段階では、最大で27人の対象が組み入れられ、パートBのコホート拡大に推奨される用量(パートAで決定したMTD以下)のCTX120で処置される。
【0243】
3.1.1 試験デザイン
用量漸増(パートA)、その後のコホート拡大(パートB)の両方の期間において、試験は以下のような3つの主な段階から構成される。
段階1:処置に対する適格性を判断するためのスクリーニング(1~2週間)。
段階2:処置(段階2A及び段階2B);コホートによる処置に関しては表2を参照されたい(1~2週間)
段階3:全てのコホートに対する追跡調査(5年間)
パートAでは、複数の独立したコホートにおいてCTX120の漸増用量を検査する。これらのコホートでは、以下の表8にまとめたように、異なるLD及び免疫調節剤と共に使用した場合のCTX120の安全性及び薬物動態学を、予備的に評価することができる。
【0244】
【表13】
【0245】
注:LD化学療法の開始及びCTX120の注入の両方を行う前に、対象は、本明細書に規定された基準を満たさなくてはならない。CTX120注入は、コホートAではDL1で開始してもよく、評価後のコホートBではDL2又はDL3で開始してもよい。
【0246】
CTX120注入後の期間に、CSR、神経毒性、GvHD、及び他の有害事象(AE)を含む急性毒性について対象を観察する。毒性管理ガイドラインを下記に示す。パートA(用量漸増)の間に、CTX120注入後の最初の7日間、全ての対象を観察のために入院させる。パートA及びBにおいて、観察のための入院の期間は、地域の規制又は現地の慣行によって必要とされる場合に延長することができる。パートA及びBのいずれの場合も、対象はCTX120注入後の28日間、調査現場の近辺の範囲内(即ち、1時間の移動時間)に留まる必要がある。
【0247】
3.1.2 試験対象
パートA(用量漸増)では、約6~60人の対象が処置される。パートB(コホート拡大)では、約70人の対象が処置される。
【0248】
3.1.3 試験期間
対象は、本試験に5年間参加する。本試験の完了後、長期安全性及び生存期間を評価するために、全ての対象は更に10年間、別の長期追跡調査試験に参加することが必要となる。
【0249】
3.2 CTX120の用量漸増
本明細書で定義されるように、DLTの発症に応じて3~6人の対象を各用量レベルで組み入れる、標準的な3+3デザインを使用して用量漸増を実施する。DLT評価期間をCTX120注入時に開始し、28日間継続する。
【0250】
表9は、本試験で評価され得るCAR+ T細胞の合計数に基づき、CTX120のCAR+ T細胞の用量を列挙したものであり、コホートAの場合はDL1で開始される。コホートBの用量レベルは、対応するコホートAの用量レベル(例えば、DL2又はDL3)が全ての対象のDLT評価期間を完了した後に開始され得る。DL4の3人の対象のうちの1人がDLTを示す場合、処置は、DL4の更に3人の対象を処置するように拡大してもよく、又は6×10個のCAR+ T細胞からなる低用量レベルに漸減してもよい。加えて、CTX120の用量は、DL3のデータを評価した後に、6×10個のCAR+ T細胞を含む用量レベル、又はDL4に漸増してもよい。第1の対象がDLT評価期間を完了したときに、各用量レベルで第2の対象のみがCTX120を受けるように、開始用量レベル及び/又は後続の用量レベルにおける各コホート内の第1の対象及び第2の対象間で投与をずらして行うことができる。
【0251】
【表14】
【0252】
DL1(及び必要であればDL-1)では、前回の対象がDLT評価期間を完了した時点で、2番目及び3番目の対象のみがCTX120を受けるように、ずらした様式で対象を処置する。DL1又は-1が3人の対象の後で拡大される場合、コホート内の追加の3人の対象が組み入れられ、同時に投与され得る。DL1でDLTが発生しなかった場合、用量漸増は後続のレベルに進む。後続の用量レベル2、3、及び4の場合、第1の対象及び第2の対象間の投与は、各用量レベルに対して28日ずらして行う。
【0253】
用量漸増は、下記の規則に従って実施する:
・3人の対象のうちの0人がDLTを示す場合、次の用量レベルに漸増する。
・3人の対象のうちの1人がDLTを示す場合、現在の用量レベルを6人の対象に拡大する。
○6人の対象のうちの1人がDLTを示す場合、次の用量レベルに漸増する。
○6人の対象のうちの≧2人がDLTを示す場合:
-DL-1である場合は、代替の投与スキーマを評価するか、又はパートBのコホート拡大に推奨される用量を決定することが不可能であると宣言する。
-DL1である場合は、DL-1に漸減する。
-DL2、DL3、又はDL4である場合は、前回の用量レベルをMTDと宣言する。
・3人の対象のうちの≧2人がDLTを示す場合:
○DL-1である場合は、代替の投与スキーマを評価するか、又はパートBのコホート拡大に推奨される用量を決定することが不可能であると宣言する。
○DL1である場合は、DL-1に減少させる。
○DL2、DL3、又はDL4である場合は、前回の用量レベルをMTDとして宣言する。
・上記の表9に列挙した最高用量を超える用量漸増がない。
【0254】
パートBのコホート拡大に推奨される用量が宣言される前に、少なくとも6人の対象にCTX120を投与する。
【0255】
3.2.1 最大耐量の定義
MTDは、対象の33%未満にDLTが観察される場合の最高用量である。MTDは、本試験で測定されないことがある。パートBの拡大コホートへの移行は、用量が本試験のパートAで試験された最大用量以下であれば、MTDなしで決定を行ってもよい。
【0256】
3.2.2 DLTの定義
毒性は、以下を除き、米国国立がん研究所の有害事象共通用語規準(CTCAE)第5版に従ってグレード分類され、記録される。
・CRS:
○パートA:Lee基準(Lee et al.,2014,Blood 124,188-195)
○パートB:米国移植細胞療法学会(ASTCT)基準(Lee et al.,2019,Biol Blood Marrow Transplant 25,625-638)
・神経毒性、パートA及びB:
○CTCAE v5.0
○免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)基準(Lee et al.,2019)
・GvHD、パートA及びB:
○Mount Sinai Acute GVHD International Consortium(MAGIC)基準(Harris et al.,2016,Biol Blood Marrow Transplant 22,4-10)
【0257】
CTX120と妥当な因果関係のないAEは、DLTであると見なされる。
【0258】
DLTは、(発症時期に対して)特定の期間を超えて持続する、DLT評価期間中に発生した、以下のCTX120に関係する事象のいずれかとして定義される。
A.グレード4のCRS。
B.グレード3又は4の神経毒性(ICANS基準に基づく)。
C.ステロイド抵抗性のグレード≧2のGvHD(例えば、ステロイド治療[例えば、1mg/kg/日]の3日後の進行性疾患、又は治療の7日後に反応がない)。
D.DLT期間中の死亡(疾患進行に起因するものを除く)。
E.任意のCTX120に関係するグレードが≧3の、任意の期間の重要な臓器毒性(例えば、肺、心臓)であり、以下に列挙されるものを除く。
【0259】
以下のものはDLTであると見なさない。
1.72時間以内にグレード≦2まで改善するグレード3のCRS。
2.<7日継続するグレード≦3の腫瘍崩壊症候群。
3.グレード3又は4の発熱。
4.支持療法を開始して48時間以内にグレード≦2まで改善する、グレード≧3のアレルギー反応。
5.<7日継続するグレード3の疲労。
6.血小板減少症(血小板数が<50×109個/L)の状態における出血、好中球減少症(好中球絶対数[ANC]が<1000/mm3)の状態における確認された細菌感染症又は発熱。
7.グレード3又は4の低ガンマグロブリン症。
8.7日以内にグレード≦2まで改善するグレード3又は4の肝機能検査。
9.7日以内にグレード≦2まで改善するグレード3又は4の腎不全。
10.48時間以内にグレード≦2まで改善するグレード3又は4の心不整脈。
11.72日以内にグレード≦2まで回復するグレード3又は4の肺毒性。個別の、CTX120に関係する、且つCRSの一部としての支持療法に続発しないグレード3又は4の事象は、DLTと見なされる。
12.後ろ向きに評価されるグレード3又は4の血小板減症少又は好中球減少症。少なくとも6人の対象に注入した後、対象の≧50%に長期間の血球減少がある(即ち、注入後28日超継続している)場合は、用量漸増を中断すべきである。LD化学療法の開始時点に存在していたグレード≧3の血球減少は、DLTと見なされないことがある。別の病因が同定され得る。
【0260】
4.試験処置
4.1 リンパ球除去(LD)化学療法
全ての対象は、CTX120の注入前にLD化学療法を受ける。LD化学療法は、以下からなる:(1)フルダラビン30mg/mをIVで毎日3用量、及び(2)シクロホスファミド300mg/mをIVで毎日3用量。
【0261】
どちらの剤も同じ日に開始し、全てのコホートに対して3日連続で投与する。対象は、試験組み入れの7日以内にLD化学療法を開始しなければならない。中程度の腎機能障害(クレアチニンクリアランス[CrCl]30~70mL/分/1.73m2)を有する成人対象は、フルダラビンの用量を20%減少させ、適用可能な処方情報に従って注意深く観察しなければならない。
【0262】
どちらのLD化学療法剤も同じ日に開始し、3日連続で投与する。対象は、試験組み入れの7日以内にLD化学療法を開始しなければならない。
【0263】
LD化学療法に関連する保存、調製、投与、支持療法の指示、及び毒性管理に関するガイダンスに関しては、フルダラビン及びシクロホスファミドに関する地域の処方情報を参照されたい。
【0264】
LD化学療法は、次の徴候又は症状のいずれかが存在する場合に延期され得る:
・LD化学療法に関連するAEの潜在的リスクを増大させる、臨床状態の著しい悪化があること。
・飽和レベル>91%を維持するために、酸素補給を必要とすること。
・新たなコントロール不良な心不整脈があること。
・血管収縮薬のサポートを必要とする低血圧があること。
・以下の活動性感染症があること:処置に反応しない細菌、真菌又はウイルスに対して陽性の血液培養。
・ICANS(例えば、発作、脳卒中、精神状態における変化)のリスクを増大させることが知られている神経毒性があること。48時間未満継続し、可逆的と見なされる良性由来の神経毒性(例えば、頭痛)は許容され得る。
【0265】
4.2 CTX120の投与
CTX120は、CRISPR-Cas9によって改変された同種T細胞からなり、凍結保存溶液(CryoStor CS-5)中に再懸濁され、6mLの注入バイアル中で提供される。CTX120の固定用量(CAR+ T細胞の数に基づく)を、単回IV注入として投与する。複数のバイアル中に総用量が含まれていてもよい。注入は、好ましくは中心静脈カテーテルを通じて行うべきである。白血球フィルターを使用する必要はない。
【0266】
CTX120注入を開始する前に、現場の薬局は、処置されたそれぞれの特定の対象のために2用量のトシリズマブ及び非常設備が利用可能であることを確認する。CTX120注入の約30~60分前に、現場の実施基準に従って、アセトアミノフェン(即ち、パラセタモール又は現場の処方書に従った等価物)をPOで、及び塩化ジフェンヒドラミン(又は現場の処方書に従った別のH1-抗ヒスタミン剤)をIV又はPOで対象に前投与する。CTX120の活性と干渉する可能性があるため、予防的な全身性副腎皮質ステロイドを投与しない。
【0267】
7×10TCR細胞/kgの用量制限が存在し、全ての用量レベルに対してこの用量制限がかけられる。投与されるCTX120ロット中のCAR細胞の割合に基づいて、より高い用量レベル(例えば、DL4)での組み入れは、TCR細胞の制限を超えないことを確実にするために、最小体重を有する対象に制限することができる。CTX120注入の前に中断しなければならない薬剤については、下記を参照されたい。
【0268】
CTX120の注入は、次の徴候又は症状のいずれかが存在する場合に延期され得る:
・新たな活動性のコントロール不良な感染症。
・毒性のリスクの増大した状況に対象が置かれるような、LD化学療法開始前と比較した臨床状態の悪化。
・ICANS(例えば、発作、脳卒中、精神状態における変化)のリスクを増大させることが知られている神経毒性があること。48時間を超えない間継続し、可逆的と見なされる良性由来の神経毒性(例えば、頭痛)は許容される。
【0269】
CTX120細胞は、LD化学療法が完了した後の少なくとも48時間(ただし7日間以下)に投与する。10日を超えてCTX120の注入を延期する場合は、LD化学療法を繰り返す必要がある。
【0270】
CTX120の調製、保存、取り扱い、及び投与における詳細な指示に関しては、注入マニュアルを参照されたい。
【0271】
4.2.1 CTX120注入後のモニタリング
CTX120を注入した後、注入して2時間後、又はあらゆる潜在的な臨床症状が回復するまで、30分毎に対象のバイタルを観察しなければならない。
【0272】
パートAの対象を、CTX120注入後の最低でも7日間、観察のために入院させる。パートBにおける注入後の入院については、用量漸増期間に得られた安全性情報に基づいて考慮され、実行され得る。パートBでは、観察のための入院が考慮され得る。パートA及びBにおいて、観察のための入院の期間は、地域の規制又は現地の慣行によって必要とされる場合に延長することができる。パート及びパートBのいずれの場合も、対象はCTX120の注入後の少なくとも28日間、調査現場の近辺(即ち、1時間の移動時間)内に留まる必要がある。急性のCTX120に関係する毒性の管理は、試験現場のみで行うべきである。
【0273】
評価スケジュール(下記の表18及び表19)に従って、CRS、腫瘍崩壊症候群(TLS)、神経毒性、GvHD、及び他のAEの徴候について対象を観察する。CAR T細胞に関係する毒性の管理に関するガイドラインを、本明細書に記載する。対象は、CTX120に関係する非血液学的毒性(例えば、発熱、低血圧、低酸素、進行中の神経毒性)がグレード1に回復するまで、入院を継続しなければならない。対象は、更に長期間にわたって入院を継続してもよい。
【0274】
4.3 既存及び併用薬
4.3.1 許容される薬剤
以下に列挙される禁止された薬剤を除く、感染症を治療するためのIV抗生物質、成長因子、血液成分、及び骨指向性療法(ゾレドロン酸又はデノスマブを含む)を含む、最適な医療に必要となる支持手段が、試験全体を通して得ることができる。
【0275】
処方薬及び非処方薬、並びに医療処置を含む全ての併用療法は、署名されたインフォームドコンセントの日付からCTX120の注入後3ヵ月まで記録しなければならない。CTX120の注入後3ヵ月からは、以下の選択された併用薬:IV免疫グロブリン、ワクチン接種、抗癌治療(例えば、化学療法、放射線照射、免疫療法)、免疫抑制剤(ステロイドを含む)、骨指向性療法、及び任意の治験薬のみが収集され得る。
【0276】
4.3.2 禁止される薬剤
下記に指定するように、試験の一定期間の間、以下の薬剤が禁止される:
・薬理学的用量(>10mg/日のプレドニゾン又は他の副腎皮質ステロイドの等価用量)での副腎皮質ステロイド療法、及び他の免疫抑制薬は、新たな毒性又はCRS若しくは本明細書で記載されるようなCTX120に関連する神経毒性の管理の一部として治療するように医学的に指示されない限り、CTX120を投与した後は避けるべきである。
・CRSの症状を悪化させる可能性があるため、CTX120注入後の顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)。
・CTX120後のG-CSFの投与には注意を払うべきである。
・組み入れの28日以内~CTX120の注入後3ヵ月の生ワクチン。
・あらゆる抗癌療法(例えば、化学療法、免疫療法、標的療法、放射線照射、若しくは他の治験薬)、又は疾患が進行する前のLD化学療法。程度、線量、部位に応じた、症状管理のための緩和的放射線療法は許容される。部位、線量、及び程度は、判断のためメディカルモニターによって規定され、報告される必要がある。
【0277】
5.毒性管理
5.1 一般的ガイダンス
LD化学療法の前に、易感染性状態のMM患者に対する施設の標準治療に従って、感染症予防(例えば、抗ウイルス剤、抗菌剤、抗真菌剤)に着手しなければならない。
【0278】
CTX120注入後、少なくとも28日間は対象を注意深く観察しなければならない。重大な毒性が、自家CAR T細胞療法で報告されている。これはヒト初回試験であり、CTX120の臨床上の安全性は説明されていないが、以下の一般的な推奨事項が示される:
・発熱はCRSの最も一般的な初期症状である。しかしながら、対象は最初の症状として脱力感、低血圧又は錯乱を示す場合もある。
・CRSの診断は、臨床検査値ではなく臨床症状に基づいて行われるべきである。
・CRSに特有の管理に反応しない対象では、常に敗血症及び抵抗性感染症を考慮する。抵抗性又は緊急を要する細菌感染症と同様に、真菌又はウイルス感染症について対象を継続的に評価しなければならない。
・CAR T細胞注入後、CRS、HLH、及びTLSが同時に発生する可能性がある。全ての状態の徴候及び症状について対象を一貫して観察し、適切に管理しなければならない。
・神経毒性は、CRSの発症時、CRSの回復時又はCRSの回復後に発生する可能性がある。神経毒性のグレード分類及び管理は、CRSと別に実施してもよい。
・トシリズマブは指示を受けたときから2時間以内に投与しなければならない。
【0279】
加えて、CTX120の同種異系の性質により、GvHDの徴候を注意深く観察すべきである(下記の説明を参照されたい)。
【0280】
5.2 毒性特異的ガイダンス
5.2.1 注入反応
注入反応が発生した場合、アセトアミノフェン(パラセタモール)及び塩化ジフェンヒドラミン(又は別のH1-抗ヒスタミン剤)をCTX120注入後の6時間毎に繰り返し与えてもよい。
【0281】
対象にアセトアミノフェンで緩和されない発熱が続く場合、必要に応じて非ステロイド系抗炎症薬を処方してもよい。全身性ステロイドは、この介入によってCAR T細胞に有害な影響を及ぼす可能性があるため、生命を脅かす緊急事態の場合を除いて投与すべきではない。
【0282】
5.2.2 発熱反応及び感染症予防
易感染性状態のMM患者に対する施設の標準治療に従って、感染症予防を行わなければならない。
【0283】
発熱反応がある場合、感染症の評価を開始し、治療する医師が医学的に指示し、決定された通りの抗生物質、輸液及び他の支持療法によって対象を適切に管理しなければならない。発熱が持続する場合、対象の医学的管理の全体を通してウイルス及び真菌の感染を考慮すべきである。CTX120注入後に対象が敗血症又は全身性菌血症を発症した場合、適切な培養及び医学的管理を開始しなければならない。更に、CTX120注入後の30日以内に発熱したいずれの場合にもCRSを考慮に入れるべきである。
【0284】
CTX120を受けた後に神経認知的症状を示す対象の鑑別診断に、ウイルス性脳炎(例えば、ヒトヘルペスウイルス[HHV]-6脳炎)を考慮に入れなければならない。腰椎穿刺(LP)は、グレード3又はそれ以上の神経認知毒性に必要とされ、グレード1及びグレード2の事象に強く推奨されている。腰椎穿刺を実施する場合は必ず、感染症疾患パネルは(少なくとも)以下の評価からのデータを精査する:HSV1及び2、エンテロウイルス、ヒトパレコウイルス、VZV、CMV、並びにHHV-6の定量検査。腰椎穿刺は、症状の発症の48時間以内に実施しなければならず、且つ、対象を適切に管理するために、LPの4日以内に感染症疾患パネルからの結果が得られるようにしなければならない。
【0285】
5.2.3 腫瘍崩壊症候群
CAR T細胞療法を受けている対象は、TLSのリスクが高い可能性がある。LD化学療法の開始からCTX120注入後28日までは、臨床検査評価及び症状によりTLSについて対象を注意深く観察する必要がある。
【0286】
スクリーニング中及びLD化学療法の開始前に、TLSのリスクの高い対象に予防的にアロプリノール(又はフェブキソスタットなどのアロプリノールでない代替薬)を受けさせ、経口/IVでの水分補給を増やす必要がある。CTX120注入後の28日後又はTLSのリスクが過ぎ去った時点で、予防を中止することができる。
【0287】
部位を観察し、TLSをそれらの施設の標準治療に従って、又は公表されたガイドラインに従って治療しなければならない(Cairo and Bishop,2004,Br J Haematol 127,3-11)。ラスブリカーゼの投与を含むTLSの管理は、臨床的に必要である場合、直ちに開始すべきである。
【0288】
5.2.4 サイトカイン放出症候群
CRSは、CARが標的抗原に結合したことに反応して免疫系が過剰に活性化するために生じるものであり、急激なT細胞の刺激及び増殖によりマルチサイトカインの上昇がもたらされる(Frey et al.,2014,Blood 124,2296;Maude et al.,2014a,Cancer J 20,119-122)。サイトカインが放出されると、心臓、胃腸(GI)、神経、呼吸器(呼吸困難、低酸素)、皮膚、心血管(低血圧、頻脈)並びに全身症状(発熱、硬直、発汗、食欲不振、頭痛、倦怠感、疲労、関節痛、悪心及び嘔吐)、並びに検査所見の異常(凝固、腎臓及び肝臓)を含む、CRSに関連した様々な臨床徴候及び症状が生じ得る。
【0289】
CRSの管理の目標は、CTX120の抗腫瘍効果の可能性を維持しながら、生命を脅かす後遺症を防止することである。症状は通常、自家CAR T細胞療法の1~14日後に発症するが、同種BCMA CAR T細胞については、症状の発症するタイミングが完全には定義されていない。
【0290】
CRSは、臨床検査でのサイトカイン測定値ではなく、臨床症状に基づいて特定し、治療すべきである。CRSが疑われる場合は、以下のようにグレード分類及び管理を実施しなければならない:
・パートAでは、グレード分類及び管理は、CRSグレード分類のために2014年のLee基準から適用される、下記の表10及び12内の推奨事項に従って実施しなければならない(Lee et al.,2014)。
・パートBでは、グレード分類は、2019年のASTCT(以前は米国造血細胞移植学会として知られている)コンセンサスの推奨事項に従って適用しなければならず(下記の表11)(Lee et al.,2019)、管理は、公表されたガイドライン(Lee et al.,2014;Lee et al.,2019)から適用される表10及び12内の推奨事項に従って実施しなければならない。
【0291】
元来のプロトコルのバージョン(V1.0)の時点では、CRSのグレード分類のために確立された2014年のLee基準が適用された(Lee et al.,2014)。しかしながら、この基準は、CRSのグレード分類の世界的標準となったASTCT基準(Lee et al.,2019)に更新されている。従って、治験のパートB(コホート拡大)の期間では、ASTCT基準が使用されることになる。公開されたCRSグレード分類基準の両方(Lee et al.,2014;Lee et al.,2019)が、今後のCRSの報告に使用されることになる。
【0292】
神経毒性は、本明細書内に記載されるようにグレード分類され、管理される。CRSの管理の文脈における終末器官毒性(Lee et al.,2019)は、肝臓及び腎臓系のみを指す(Penn Grading criteria)(Porter et al.,2018)の通り)。
【0293】
【表15】
【0294】
【表16】
【0295】
【表17】
【0296】
【表18】
【0297】
5.2.5 免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)
神経毒性は、CRSの発症時、CRSの回復時又はCRSの回復後に発生する可能性があり、その病態生理は不明である。近年のASTCTのコンセンサスの推奨事項では、CRSに関連する神経毒性を、内在性の又は注入されたT細胞及び/又は他の免疫エフェクター細胞の活性化又は会合をもたらす任意の免疫療法後のCNSに関与する病理過程を特徴とする障害であるICANSであると更に定義している(Lee et al.,2019)。
【0298】
徴候及び症状は進行性である可能性があり、失語症、意識レベルの変化、認知技能の機能障害、運動麻痺、発作及び脳浮腫を含み得る。ICANSのグレード分類(表15)は、CAR T cell-therapy-associated TOXicity(CARTOX)ワーキンググループの基準に基づいて開発されており、以前は自家CAR T細胞の臨床試験で使用されていた(Neelapu et al.,2018)。ICANSでは、ICE(免疫エフェクター細胞関連脳症)評価ツールと呼ばれる修正された評価ツールを使用することにより、意識レベル、発作の有無、運動所見、脳浮腫の有無の評価及び神経性領域の全体的な評価を組み入れている(本明細書の開示及び表21を参照されたい)。
【0299】
任意の新たに発症した神経毒性の評価には、神経学的検査(ICE評価ツール、表21を含む)、脳磁気共鳴映像法(MRI)、及び臨床的に必要であればCSFの検査(腰椎穿刺による)が含まれていなければならない。感染性の病因は、可能な限り、(特にグレード3又は4のICANSを有する対象に)腰椎穿刺を実施することによって除外する必要がある。脳MRIが実行できない場合は、全ての対象に非造影CTスキャンを受けさせて、脳内出血を除外する必要がある。臨床的に必要であれば、脳波も考慮に入れる必要がある。重症例では、気道保護のために気管内挿管が必要になる場合がある。
【0300】
CTX120注入後の少なくとも21日間、又は神経学的症状が回復した時点で、特に発作の病歴を有する対象に非鎮静性型の抗発作予防(例えば、レベチラセタム)を考慮すべきである(抗発作薬が有害な症状の要因となっていると見なされる場合を除く)。グレードが≧2のICANSを示す対象は、継続的な心電図遠隔測定及びパルスオキシメトリーによって観察する必要がある。重度又は生命を脅かす神経毒性に対しては、集中治療の支持療法を施すべきである。神経内科の受診を常に考慮すべきである。血小板及び凝固障害の徴候について観察し、脳内出血のリスクを低減させるために血液製剤を適切に輸液すること。表14に神経毒性のグレード分類を示し、表15に管理ガイダンスを示す。
【0301】
積極的なステロイド処置を3日超受ける対象には、長期間のステロイドの使用による重症感染のリスクを軽減するために、抗真菌及び抗ウイルス予防が推奨されている。抗微生物の予防も考慮に入れる必要がある。
【0302】
【表19】
【0303】
【表20】
【0304】
6.2.6 血球貪食性リンパ組織球症
血球貪食性リンパ組織球症は、活性化T細胞からのサイトカインの産生によって過剰なマクロファージの活性化をもたらす、CAR T細胞注入後の炎症反応の結果として生じる臨床症候群である。HLHの徴候及び症状には、発熱、血球減少症、肝脾腫、高ビリルビン血症を伴う肝障害、フィブリノーゲンが著しく低下する凝固障害並びにフェリチン及びC反応性タンパク質(CRP)の顕著な上昇が含まれ得る。
【0305】
CRS及びHLHは、臨床的特徴及び病態生理が重複した、類似する臨床症候群を有し得る。HLHは、CRSの発症時又はCRSが回復しているときに発生する可能性が高い場合がある。他のCRSのエビデンスの有無にかかわらず、原因不明の肝機能検査値の上昇又は血球減少がある場合、HLHを考慮すべきである。CRP及びフェリチンを観察することによって、診断を支援し、臨床経過を明確にすることができる。
【0306】
HLHが疑われる場合、
・フィブリノーゲンを含む凝固パラメータを頻繁に観察する。これらの試験は、評価スケジュールで指示されたものよりも頻繁に行われる可能性があり、臨床検査所見に基づいて頻度を促進する必要がある。
・出血のリスクを低減するため、フィブリノーゲンは≧100mg/dLに維持しなければならない。
・血液製剤によって凝固障害を是正しなければならない。
・CRSとの重複を考慮して、パートAの表10及びパートBの表12内のCRSの治療ガイダンスに従って対象を同様に管理するべきである。
【0307】
5.2.7 血球減少症
CTX120を受ける対象は、好中球減少症(例えば、グレード3)及び/又は血小板減少症について観察され、適切なサポートを受ける。血小板及び凝固障害の徴候について観察し、出血のリスクを低減させるために血液製剤を適切に輸液すること。長期間の好中球減少症の任意の対象には、抗微生物及び抗真菌予防を考慮しなければならない。
【0308】
用量漸増の期間中、CTX120注入後のグレード3又は4の好中球減少症の場合に、G-CSFが考慮され得る。用量拡大の期間中に、G-CSFが投与され得る。
【0309】
5.2.8 移植片対宿主病
GvHDは同種SCTの状態において見られるものであり、免疫適格性のドナーのT細胞(移植片)がレシピエント(宿主)を異物と認識した結果として生じるものである。その後の免疫反応では、ドナーのT細胞が活性化し、異物である抗原保有細胞を排除するためにレシピエントを攻撃する。GvHDは、同種SCTからの時間及び臨床症状の両方に基づいて、急性症候群、慢性症候群及びオーバーラップ症候群に分けられる。急性GvHDの徴候には、斑状丘疹状皮疹;胆汁鬱滞をもたらす小胆管の損傷に起因する黄疸を伴う高ビリルビン血症;悪心、嘔吐及び食欲不振;並びに水様性下痢又は血性下痢及び痙性腹痛を挙げることができる(Zeiser and Blazar,2017;N Engl J Med 377,2167-2179)。提唱されている臨床試験を裏付けるために、マウス当たり4×10個のCTX120細胞(約1.6×10細胞/kg)の単回IV用量によって処置した細胞免疫不全マウスにおいて、12週間の非臨床の優良試験所基準に準拠したGvHD及び忍容性試験を実施した。この用量レベルは、体重に標準化した場合、提唱されている最も高い臨床用量を100倍超上回るものである。CTX120は、12週間の試験過程の間に、易感染性の(NSG)マウスにおいて臨床的なGvHDを誘導しなかった。
【0310】
更に、TRAC座位でCARを挿入するという特異性により、T細胞がCAR+及びTCR+の両方である可能性は極めて低い。残りのTCR+細胞を、製造過程中に抗TCR抗体カラムのイムノアフィニティークロマトグラフィーにより除去し、最終生成物中<0.5%のTCR+細胞を得た。全ての用量レベルには、7×10TCR+細胞/kgの用量制限が課せられ得る。この制限値は、ハプロタイプ一致ドナーによるSCT中に重篤なGvHDを引き起こす可能性のある同種細胞の数に関して公表された報告書に基づいた1×10TCR+細胞/kgの制限値よりも低い(Bertaina et al.,2014,Blood 124,822-826)。CTX120の注入後は、急性GvHDの徴候について対象を注意深く観察する必要がある。
【0311】
GvHDの診断及びグレード分類は、下記の表16に概説するように、公表されているMAGIC基準(Harris et al.,2016)に基づくものでなければならない。
【0312】
【表21】
【0313】
全体的なGvHDのグレードは、最も重篤な標的臓器障害に基づいて決定され得る。
・グレード0:段階1~4の臓器がまったくない。
・グレード1:肝臓、上部GI又は下部GI障害を伴わない段階1~2の皮膚。
・グレード2:段階3の発疹及び/又は段階1の肝臓及び/又は段階1の上部GI及び/又は段階1の下部GI。
・グレード3:段階0~3の皮膚及び/又は段階0~1の上部GIを伴う段階2~3の肝臓及び/又は段階2~3の下部GI。
・グレード4:段階0~1の上部GIを伴う段階4の皮膚、肝臓又は下部GI障害。
【0314】
感染症及び薬剤に対する反応性などの、GvHDを模倣する可能性のある潜在的な交絡因子を除外しなければならない。確認のため、治療を開始する前又は治療を開始した直後に皮膚生検及び/又はGI生検を入手する必要がある。肝臓障害がある場合、臨床的に実行可能であれば、肝生検を試みるべきである。また、病理評価のために、全ての生検試料を中央検査機関に送付してもよい。試料の調製及び発送の詳細は、Laboratory Manualに収録されている。
【0315】
急性GvHDの処置に関する推奨事項を下記の表17で概説する。試験終了時に対象間の比較ができるように、これらの推奨事項に従わなければならないが、これらに従うことによって対象を危険にさらす恐れのある特定の臨床シナリオを除く。
【0316】
【表22】
【0317】
より重度のGvHDの対象に対して、二次治療を開始するという判断を直ちに下さなければならない。例えば、GvHDの症状が進行して3日後、グレード3のGvHDが持続して1週間後又はグレード2のGvHDが持続して2週間後に二次治療が指示され得る。高用量のグルココルチコイド治療に忍容性を示さない可能性のある対象には、より早期に二次全身療法が指示され得る(Martin et al.,2012,Biol Blood Marrow Transplant 18,1150-1163)。二次治療の選択及び開始時期は、医師の判断に基づく。
【0318】
難治性の急性GvHD又は慢性GvHDの処置は、施設のガイドラインに従う。免疫抑制剤(ステロイドを含む)によって対象を治療する場合、地域のガイドラインに従って抗感染症予防対策を導入する必要がある。
【0319】
5.2.9 低血圧及び腎不全
CTX120細胞を受けた対象において低血圧及び腎不全を観察すべきであり、施設の診療ガイドラインに従い、生理食塩水をIVでボーラス投与することによって処置する必要がある。適切であれば、透析を考慮する必要がある。
【0320】
6.試験手順
試験の用量漸増パート及び拡大パートは共に、以下の3つの個々の段階:(1)スクリーニング及び適格性確認、(2)種々のLD/免疫調節剤による処置、及びCTX120の注入、並びに(3)追跡調査で構成される。
【0321】
スクリーニング期間中に、上記で概説した適格性基準に従って対象を評価する。組み入れ後、対象は、種々の治療計画のLD/免疫調節剤、その後CTX120の注入を受ける。処置期間が完了した後に、MM反応性、疾患進行、及び生存について対象を評価する。全ての試験期間の全体にわたって、対象を安全性について定期的に観察する。
【0322】
完全な評価スケジュールを下記の表18及び表19に示す。本項では、全ての必要となる試験手順についての説明が示される。プロトコルに定められた評価に加えて、対象は、施設のガイドラインに従わなければならず、臨床的に必要であれば、スケジュール外の評価を実施しなければならない。
【0323】
8日目以降の来院に関する特定の評価は、在宅訪問又は代替場所での訪問として実施してもよい。評価には、病院利用、健康状態の変化及び/又は処方の変更、身体システムの評価、生命徴候、体重、PRO質問票の配布、並びに地域及び中央検査機関の評価のための血液試料の採取が含まれる。
【0324】
本プロトコルの目的上、0日目は存在しない。全ての来院日及び来院枠は、CTX120を注入した日付として、1日目によって計算されることになる。
【0325】
【表23】
【0326】
【表24】
【0327】
【表25】
【0328】
【表26】
【0329】
【表27】
【0330】
6.1 対象のスクリーニング及び組み入れ
スクリーニング期間は、対象がICFに署名した日に開始し、適格性確認から試験への組み入れまで継続する。インフォームドコンセントを入手した時点で、評価スケジュール(表XXX)に概説されるように、対象をスクリーニングして試験の適格性を確認することができる。スクリーニングの評価は、対象がインフォームドコンセントに署名して14日以内に完了しなければならない。
【0331】
対象は、単回の再度のスクリーニングが許容され、最初の同意の3ヵ月以内に行われ得る。
【0332】
6.2 試験評価
必要となる処置のタイミングについては、評価スケジュール(表18及び表19)を参照されたい。年齢、性別、人種、及び民族性を含む人口統計学的データを収集する。対象の疾患の全病歴、これまでの癌治療、及び診断データからの治療に対する反応を含む病歴を入手する。心臓の病歴、神経系の病歴、及び手術歴を入手する。試験に参加する場合、全ての対象が全ての組み入れ基準を満たし、且つ本明細書で記載されるような除外基準がないことが必要となる。
【0333】
6.2.1 身体検査
主要な身体システム、例えば、一般的外見、皮膚、首、頭、目、耳、鼻、喉、心臓、肺、腹、リンパ節、四肢、及び神経系の検査を含む身体的検査を、試験来院毎に実施し、その結果を記録する。スクリーニング時に実施した検査から認められる変化をAEとして記録する。
【0334】
座位血圧、心拍数、呼吸数、パルスオキシメトリー、及び体温を含む生命徴候を試験来院毎に記録する。表18のスケジュールに従って体重を取得し、身長はスクリーニング時のみ取得する。
【0335】
6.2.2 ECOG一般状態
一般状態をスクリーニング時、CTX120注入時(1日目、注入前)、28日目、及び3ヵ月目の来院時にECOG尺度を使用して評価し、対象の一般的な健康及び日常生活の活動を行うための能力を測定する(下記の表20)。
【0336】
【表28】
【0337】
6.2.3 心エコー図
適格性を確認するために、スクリーニング時に(左室駆出分画を評価するための)経胸壁心エコー図を実施し、訓練された医療関係者によって読み取ってもよい。
【0338】
グレード3又は4のCRSの間に、低血圧のために>1回の輸液ボーラスを必要とする全ての対象、血行動態管理のために集中治療室に移された全ての対象、又は低血圧のために任意の用量の血管収縮薬を必要とする全ての対象に更なる心臓の評価を実施するべきである(Brudno and Kochenderfer,2016,Blood 127,3321-3330)。
【0339】
6.2.4 心電図
スクリーニング中、治療初日のLD化学療法の前、1日目、及び28日目のCTX120を投与する前に、12誘導心電図(ECG)を入手する。ECGからQTc間隔及びQRS間隔を決定する。更なるECGを入手してもよい。
【0340】
6.2.5 免疫エフェクター細胞関連脳症の評価
神経認知評価は、ICE評価を用いて実施することができる。ICE評価ツールは、CARTOX-10スクリーニングツールをわずかに修正したバージョンであり、現在では受容性失語症の検査が含まれている(Neelapu et al.,2018,N Engl J Med 377,2531-2544)。ICE評価は、様々な領域の認知的機能:見当識、呼称、指示の追従、筆記、及び注意を検査するものである(表21)。
【0341】
【表29】
【0342】
ICE評価は、スクリーニング時、1日目、及び2日目、3日目、5日目、8日目、及び28日目のCTX120投与前に実施し得る。対象がCNSの症状を示す場合、症状がグレード1又はベースラインに回復するまでICE評価を約2日毎に継続して実施する必要がある。変動性を最小限に抑えるために、可能な限り、ICE評価ツールの実施に精通しているか又は訓練を受けた同一の研究職員によって評価を実施するべきである。
【0343】
6.2.6 患者報告アウトカム
表18及び表19のスケジュールに従って、3種の患者報告アウトカム(PRO)調査、欧州癌研究治療機関(EORTC)QLQ-C30、EORTC QLQ-MY20、及びEuroQol EQ-5D-5L質問票を実施する。質問票は、臨床評価を実施する前に完了しなければならない(対象が最も精通している言語で自己記入する)。
【0344】
EORTC QLQ-C30は、癌患者の肉体的、心理的、及び社会的機能を測定するためにデザインされた質問票である。5つの多項目尺度(肉体的、役割的、社会的、感情的、及び認知的機能)、並びに9つの単一項目(痛み、疲労、経済的影響、食欲の喪失、悪心/嘔吐、下痢、便秘、睡眠障害、及び生活の質)で構成されている。EORTC QLQ-C30は、有効性が確認されており、多発性骨髄腫患者を含む癌患者の間で広く使用されている(Wisloff et al.,1996,Br J Haematol 92,604-613;及びWisloff and Hjorth,1997,Br J Haematol 97,29-37)。
【0345】
QLQ-MY20質問票は、EORTC QLQ-C30の骨髄腫に特化したモジュールであり、MM患者のために、症状及び治療の副作用、並びに毎日の生活に及ぼす影響を評価するようにデザインされている。モジュールは20個の質問から構成され、骨髄腫において重要な生活の質の4つの領域:痛み、治療の副作用、社会的サポート及び将来的な見通し、疾患特異的症状及び毎日の生活に及ぼす影響、治療の副作用、社会的サポート、及び将来的な見通しに対処している(Cocks et al.,2007,Eur J Cancer 43,1670-1678)。
【0346】
EQ-5D-5Lは、健康状態を一般的に測定するものであり、運動性、身の回りの世話、日常活動能力、痛み/不快感、及び不安/抑うつ、加えて視覚的アナログスケールを含む5つの領域を評価する質問票を含む。EQ-5D-5Lは、QLQ-C30及びQLQ-MY20と共に、MMにおいて使用されてきた(Moreau et al.,2019,Leukemia 33,2934-2946)。
【0347】
6.2.7 MM疾患及び奏効評価
疾患評価は、多発性骨髄腫における奏効及び微小残存病変(MRD)を評価するためのIMWG基準(下記の表22)(Kumar et al.,2016)に従った評価に基づくものであってよく、これが評価される。試験の適格性の判断並びに対象の管理及び疾患進行に関する決定が行われる。有効性分析について、疾患のアウトカムを下記の表22に示すIMWG奏効基準を用いてグレード分類する。MM疾患及び奏効評価は、表12及び表13のスケジュールに従って実施すべきであり、下記に記載した評価が含まれ得る。全ての奏効カテゴリー(進行を含む)は、連続した2回の評価が必要であり、任意の新たな療法を開始する前の任意の時点で少なくとも1週間の間隔を空けて行われる。
【0348】
【表30】
【0349】
【表31】
【0350】
【表32】
【0351】
【表33】
【0352】
血清及び尿中のモノクローナルタンパク質の測定
Mタンパク質を測定するための血液及び24時間の尿試料を、表18及び表19のスケジュールに従って、且つ臨床的に必要である場合、中央検査機関に送付して分析してもよく、有効性を分析するためにIRCによって精査してもよい。血清及び24時間の尿試料は、各時点、及び中央検査機関によって実施される以下の試験で採取され得る:
・電気泳動による血清Mタンパク質定量化(SPEP)
・血清免疫固定法
・血清遊離軽鎖アッセイ(FLC、κ及びλ)
・電気泳動による24時間の尿中Mタンパク質定量化(UPEP)。注:スクリーニングの場合、インフォームドコンセントの前日に24時間の尿の採取を開始してもよい。
・尿免疫固定法
・必要であれば、定量的免疫グロブリン(Ig)(例えば、IgA又はIgD骨髄腫)
中央検査機関の試験に加えて、血清及び尿中Mタンパク質評価を地域で実施してもよく、これを試験の適格性の判断及び患者ケアに関する臨床判断に使用してもよい。スクリーニングの場合、スクリーニングの2週間以内に地域で得られた前回の検査機関値(MMの血清及び尿の結果)を、それらが前回の抗癌治療と関連しないのであれば(抗癌療法の最終投与から又は療法の間に疾患が進行した時点から少なくとも2週間で)使用することができる。
【0353】
全身PET/CTエックス線疾患評価
ベースラインの全身(頭頂からつま先までの)PET/CTを、スクリーニング時(即ち、CTX120注入前の28日以内)、及びCRが疑われた時点で実施すべきである。髄外疾患(例えば、髄外性形質細胞腫又は軟部組織病変を伴う骨髄腫病変)のエビデンスのある対象の場合、表18及び表19の評価スケジュールに従って、IMWG奏効基準(付録A)に従って、及び臨床的に必要である場合に、注入後のスキャンを実施してもよい。髄外疾患を有する対象では、PET/CTのCT部分は、腫瘍のサイズを測定するのに十分な診断品質(例えば、IV造影剤を使用するCT)である必要がある。CTが臨床的に禁忌である場合、又は地域の規制により必要とされる場合は、造影剤を使用したMRIがCT部分に使用され得る。
【0354】
スクリーニングの必要要件を満たすために、対象を組み入れる前の4週間以内に標準治療の一部として得られるPET/CT(IV造影剤を使用する)が使用され得る。
【0355】
スキャンの取得、加工、及び転送に関する必要要件については、Imaging Manualに概説されている。可能な限り、エックス線疾患評価に使用する画像様式、機械、及びスキャンパラメータは、試験の間に一様に保つ必要がある。有効性分析の場合、IMWG奏効基準に従い、IRCによってエックス線疾患評価を実施してもよい。
【0356】
骨髄吸引液及び生検
表18及び表19の評価スケジュールに従って、且つ臨床的に必要であれば、骨髄吸引液及び生検を実施する。14日目の骨髄吸引液/生検は任意選択であり、特別な同意が必要となる。スクリーニング時の骨髄試料採取(吸引液及び生検)は、14日のスクリーニング期間中に実施しなければならない。メディカルモニターからの療法指導及び同意があれば、スクリーニングの必要要件を満たすために、対象を組み入れる前の4週間以内に標準治療の一部として得られた骨髄生検を使用してもよい。全ての他の骨髄試料採取は、来院日の±5日に実施しなければならない。骨髄生検のための標準的な施設のガイドラインに従わなければならない。
【0357】
形質細胞の割合は、中央検査機関によって骨髄吸引液及び生検試料に基づいて評価され、IRCによってIMWG奏効基準に従い疾患奏効評価の一部として精査される。CRが疑われる対象には、免疫組織化学的検査及び(骨髄吸引液における)MRD評価による奏効評価を確認するための骨髄生検が、中央検査機関によって実施され得る。骨髄採取が実施される任意の時点で、CTX120の測定及び/又は他の探索的解析のために、吸引液試料も中央検査機関に送付しなければならない。
【0358】
髄外性形質細胞腫の生検
進行時に、疾患の確認(地域での試験)及びバイオマーカー分析(中央での試験)のために、存在する場合は髄外性形質細胞腫の生検を採取しなければならない(医学的に実現可能である場合)。髄外疾患を有する対象の場合、スクリーニング時及び少なくとも1回のCTX120注入後の時点における腫瘍生検も推奨される。
【0359】
β-2ミクログロブリン及び細胞遺伝学検査
スクリーニング時にB2Mレベルを評価するための血清試料を入手し、これを分析のために地域の検査機関に送付する。細胞遺伝学検査(核型分析及び蛍光in situハイブリダイゼーション)を評価するための骨髄試料は、スクリーニング時のみ実施すべきであり、地域で評価すべきである(表18)。
【0360】
6.2.8 研究機関試験
評価スケジュール(表18及び表19)に従って、検査機関試料が採取及び分析され得る。臨床実験改善修正法の必要要件を満たす地域の調査機関を利用して、標準的な施設の手順に従って表25に列挙される全ての試験を分析することができる。
【0361】
【表34】
【0362】
6.3 バイオマーカー
臨床反応、抵抗性、安全性、疾患、薬力学的活性、又はCTX120の作用機序を示す可能性のあるゲノム、代謝、及び/又はプロテオミクスバイオマーカーを特定するために、血液、骨髄、CSF試料(治療下で発現した神経毒性を有する対象のみ)、及び適用可能である場合は髄外性形質細胞腫の腫瘍生検を採取する。試料は、中央検査機関における試験のために採取され、発送され得る。
【0363】
6.3.1 CTX120レベルの分析
形質導入したBCMA指向性CAR+T細胞のレベルの分析を、表18及び表19に記載されているスケジュールに従って採取された血液試料について実施する。血中のCTX120の時間経過の傾向は、DNAμg当たりのCAR構築物のコピーを測定するPCRアッセイを使用して説明することができる。細胞表面上のCARタンパク質の存在を確認するために、フローサイトメトリーを使用した相補的な分析も実施され得る。
【0364】
CTX120レベルを分析するための試料は、CTX120注入後に実施される任意の血液、骨髄、CSF、又は髄外性形質細胞腫の生検に由来するものを中央検査機関に送付しなければならない。CRSを発症した場合、CTX120レベルを評価するための試料を、予定されている来院の間の48時間毎にCRSが回復するまで採取しなければならない。プロトコルに指定された試料採取に従って採取されたこれらの試料のいずれかにおいて、骨髄、CSF、又は髄外性形質細胞腫の組織内のCTX120のトラフィッキングを評価することができる。
【0365】
6.3.2 サイトカイン
IL-1β、可溶性IL-1受容体α(sIL-1Rα)、IL-2、sIL-2Rα、IL-4、IL-6、IL-8、IL-10、IL-12p70、IL-13、IL-15、IL-17a、インターフェロンγ、腫瘍壊死因子α、及びGM-CSFを含むサイトカインが分析される。近年の再調査でまとめられているように(Wang and Han,2018)、これまでの複数のCAR T細胞の臨床試験で実施された相関解析により、重度のCRS及び/又は神経毒性の潜在的な予測マーカーとして、これらのサイトカインなどが特定されている。表18に記載されているような特定の時点で、サイトカイン用の血液を採取する。CRSの徴候又は症状を示す対象では、回復するまで毎日更なる試料を取る必要がある。
【0366】
6.3.3 抗CTX120抗体
CAR構築物は、ヒト化scFvで構成されている。潜在的な免疫原性を評価するために、表18及び表19に従い、試験全体を通して血液が採取される。
【0367】
6.3.4 探索的調査バイオマーカー
臨床反応、抵抗性、安全性、疾患、薬力学的活性、及び/又は治療の作用機序を示す若しくは予測する可能性のある分子(ゲノム、代謝、及び/又はプロテオミクス)バイオマーカー及び免疫表現型を特定するために、探索的調査が実施され得る。表18のスケジュールに従って、試料が採取され得る。探索的バイオマーカー用の試料も同様に、CTX120注入後に実施される任意の腰椎穿刺又はBM試料採取(吸引液/生検)に由来するものを、分析のために送付しなければならない。CRSの場合、探索的バイオマーカーを評価するための試料は、予定されている来院の間の48時間毎にCRSが回復するまで採取され得る。探索的調査を裏付けるための血液、骨髄、髄外性形質細胞腫、及びCSF試料の採取における指示については、Laboratory Manualを参照されたい。
【0368】
7.安全性及び有害事象
質問に応答し、現場職員によって観察され、又は対象によって自発的に報告されたAEが記録される。全てのAEは、満足な結果に至るまで追跡される。
【0369】
7.1 有害事象
AEは、治験医薬品が投与された臨床試験の対象における任意の有害な医学上の出来事又は既に存在する医学的状態の悪化であり、必ずしも本治療との因果関係があるものではない。臨床試験では、AEには、試験治療が施されていない場合であっても、ベースライン又はウォッシュアウト期間を含む任意の時点で発生する、望ましくない医学的状態が含まれ得る。
【0370】
AEの例は、性質、重篤度、頻度、又は既に存在する症状の期間における、臨床的に重大な悪化である。
【0371】
エックス線像又は他の方法における悪性病変の測定によって評価する場合、「疾患進行」という用語は、試験下における悪性腫瘍の進行が、疾患の通常の経過から、その性質、症状、又は重篤度において非定型であると見なされない限り、AEとして報告すべきではない。試験下における悪性腫瘍の徴候及び症状の悪化は、症例報告書(CRF)の適切な項にAEとして報告すべきである。
【0372】
治療前の症状への介入(待機手術など)、又は試験に参加する前に計画された医療処置は、AEと見なされない。試験治療の注入のための入院又は施設の方針に従った予防対策(CTX120注入後の観察のための入院を含む)は、AE又はSAEと見なされない。更に、対象がCTX120注入後に計画された入院をした場合、観察のためだけにその入院を延長することは、他のSAE基準を満たす医学的に重大な事象と関連しない限り、SAEとして報告すべきではない。
【0373】
新たな又は悪化する臨床的続発症をもたらし、治療が必要となるか、又は現在の治療に調整が必要となる異常な臨床検査所見はAEと見なされ、CTCAE v5.0に従ってグレード分類し、報告されなければならない。適用可能な場合、(臨床検査値異常ではない)臨床的続発症は、AEとして記録されることになる。
【0374】
7.2 重篤な有害事象
任意の有害な医学的結果のAEは、以下の基準のいずれかを満たす場合、重篤な有害事象として分類しなければならない:
・死に至る。
・生命が脅かされている(即ち、対象が直ちに死のリスクにある状態に置かれるAE)。
・入院患者の入院を必要とする、又は既存の入院を延長する(予定された医学的若しくは外科的処置のための入院、又は予定された観察及び処置を実施するための入院は、これらの基準を満たさない)。
・持続的な又は重大な身体障害又は無能力に至る。
・新生児に先天異常又は先天性欠損症が生じる。
・AEは、対象を危険にさらす(即ち、対象をリスクのある状態にする)可能性のある事象であると見なされ、上記のアウトカムのうちの1つを防止するための医学的又は外科的介入(治療)と必要とし得る。
【0375】
7.3 特に注目すべき有害事象
報告された自家CAR T細胞の臨床経験に基づいて、特に注目すべき有害事象(AESI)を特定することができる。AESIは、CTX120注入後の任意の時点で報告されるべきであり、以下を含む:
・CTX120注入反応
・グレード≧3の日和見感染/侵襲的感染
・グレード≧3の腫瘍崩壊症候群
・サイトカイン放出症候群
・ICANS
・血球貪食性リンパ組織球症
・移植片対宿主病
・二次性悪性腫瘍
・コントロール不良なT細胞増殖
【0376】
上記に列挙したAESIに加えて、CTX120に場合により関係する又はCTX120に関係すると判断される任意の新たな血液疾患又は自己免疫性障害は、CTX120注入後の任意の時点で報告しなければならない。
【0377】
7.4 有害事象の重篤度
AEは、本明細書に提供される基準に従ってグレード分類される、CRS、神経毒性、及びGvHDを除き、CTCAE v5.0に従ってグレード分類される。
【0378】
CTCAEグレード又はプロトコルに指定された基準が利用できない場合、表26の毒性グレード分類を用いることができる。
【0379】
【表35】
【0380】
7.5 有害事象の因果関係
各AE及びCTX120、LD化学療法との間の関係を評価し、任意のプロトコルに定められた試験手順を評価する(全て個別に評価される)。関係の評価を行う。
関係する:試験治療又は処置とAEとの間に、明確な因果関係がある。
場合により関係する:試験治療又は処置とAEとの間に因果関係を示唆するいくつかのエビデンスが存在するが、代わりとなる潜在的原因も存在する。
関係しない:試験治療又は処置とAEとの間に因果関係を示唆するエビデンスがない。
【0381】
評価において以下が考慮され得る:(1)事象のタイミングと治療又は処置の投与のタイミングの間における時間的関連性、(2)妥当な生物学的メカニズム、及び(3)それらの因果関係を評価するときの、事象の他の潜在的原因(例えば、併用治療、基礎疾患)。
【0382】
SAEが試験介入のいずれにも関係しないと評価される場合、代替となる病因をCRFに示す必要がある。AE/SAEと治験薬との間の関係が「可能性がある」と判断される場合、規制報告を優先する目的で、事象は治験薬と関係するものと見なし得る。
【0383】
7.6 アウトカム
AE又はSAEのアウトカムは、以下のように分類され、報告される:
・致命的
・回復しない/解消しない
・回復した/解消した
・続発症を伴って回復した/解消した
・回復中/解消中
・不明
【0384】
7.7 有害事象の収集期間
本試験に組み入れられた全ての対象の安全性は、ICFに署名した時点から試験が終了するまで記録される。しかしながら、試験中の異なる期間に異なる報告要件が存在する。表27は、試験の各期間において報告すべきAEについて記載している。以下の定義に基づいている。
【0385】
【表36】
【0386】
8.終了規則
以下の事象の1つ以上が発生した場合、治療を終了しなければならない。
・管理不能且つ予想外の、CTX120に起因する生命を脅かす(グレード4の)毒性。
・注入の30日以内のCTX120に関係する死亡。
・グレード≧3のGvH、例えば、
〇7日以内にグレード≦2に回復することのない、>35%のグレード3又は4の神経毒性。
〇ステロイド難治性である、>20%のグレード≧2のGvHD。
〇>30%のグレード4のCRS。
〇28日以内に回復することのない、>50%のグレード4の好中球減少症(ベースラインで好中球減少症を有する対象を除く)。
〇>30%のグレード4の感染症。
・新たな悪性腫瘍(以前治療した悪性腫瘍の再発/進行とは区別される)。
・用量拡大における15人の対象が3ヵ月目のCTX120後の評価をした後、2以下の奏効(PR+VGPR+CR+厳格な完全奏効[sCR]を含む)として定義される、有効性の欠如。
【0387】
9.統計解析
パートAの主目的は、MTD及び/又はパートBのコホート拡大に推奨される用量を決定するために、再発性又は難治性多発性骨髄腫を有する対象において、CTX120の漸増用量の安全性を評価することである。
【0388】
パートBの主目的は、IMWG奏効基準に従ってORRにより測定された、再発性又は難治性多発性骨髄腫を有する対象におけるCTX120の有効性を評価することである。
【0389】
9.1 試験評価項目
9.1.1 主要評価項目
パートA(用量漸増):用量制限毒性として定義される有害事象の発生率、及びパートBのコホート拡大に推奨される用量の定義。
パートB(コホート拡大):IMWG奏効基準に従った客観的奏効率(sCR+CR+VGPR+PR)。
【0390】
9.1.2 パートA及びパートBの副次的評価項目
有効性:
・IMWG奏効基準(表22)に従った、厳格な完全奏効の対象の割合。
・IMWG奏効基準(表22)に従った、完全奏効の対象の割合。
・IMWG奏効基準(表22)に従った、最良部分奏効の対象の割合。
・sCR/CR/VGPR/PR事象のあった対象にのみ、奏効期間(DOR)が記録され得る。この期間は、最初のsCR/CR/VGPR/PRの客観的奏効と、IMWG奏効基準により疾患が進行した日又は何らかの原因により死亡した日との間の時間として計算され得る。
・無増悪生存期間(PFS)は、CTX120を注入した日と、疾患が進行した日又は何らかの原因により死亡した日との間の差として計算され得る。進行せず、データカットオフ日においてもなお試験に参加している対象は、最後のMM疾患評価日をもって打ち切りとしてもよい。
・全生存期間(OS)は、CTX120を注入した日と、何らかの原因により死亡した日との間の時間として計算され得る。データカットオフ日に生存している対象は、生存が確認された最後の日をもって打ち切りとしてもよい。
【0391】
安全性
有害事象の発生率及び重篤度、並びに臨床的に重大な臨床検査値異常は、パートAではLee基準(Lee et al.,2014)、及びパートBではASTCT基準(Lee et al.,2019)に従ってグレード分類され得るCRS、ICANS(Lee et al.,2019)及びCTCAE v5.0に従ってグレード分類され得る神経毒性、MAGIC基準(Harris et al.,2016)に従ってグレード分類され得るGvHDを除き、CTCAE v5.0に従ってまとめられ、報告され得る。
【0392】
薬物動態
DNAμg当たりのCAR構築物のコピーを測定するPCRアッセイを使用して、血中及び他の組織中のCTX120のレベルを経時的に評価することができる。細胞表面上にCARタンパク質の存在を確認するために、フローサイトメトリーを使用した相補的な分析も実施され得る。
【0393】
プロトコルに指定された試料採取に従って採取されたこれらの試料のいずれかにおいて、骨髄、CSF、又は髄外性形質細胞腫の組織内のCTX120のトラフィッキングが評価され得る。
【0394】
9.1.3 パートA及びパートBの探索的評価項目
・血中及び他の組織中のサイトカインのレベル。
・抗CTX120抗体の発現率。
・CTX120の増殖、CRS、及び疾患奏効に及ぼす抗サイトカイン療法の影響。
・CTX120の注入日から最初に記録される奏効(sCR/CR/VGPR/PR)までの間の時間として定義される、奏効までの時間。
・CTX120を注入した日から最初に記録されたCRまでの間の時間として定義される、CRまでの時間。
・CTX120を注入日した日から最初の疾患進行のエビデンスまでの間の時間として定義される、疾患進行までの時間。
・MRD陰性である対象の割合。
・CTX120療法後の自家又は同種SCTの発生率。
・後続の抗癌療法の頻度及び種類。
・EORTC QLQ-30及びQLQ-MY20、並びにEQ-5D-5L質問票によって測定されるような、対象によって報告される健康状態におけるベースラインからの変化。
・CTX120を注入した日と、最初の後続治療又は何らかの原因により死亡した日との間の時間として定義される、最初の後続治療のない生存期間。
・他の探索的ゲノム、プロテオミクス、代謝、又は薬力学的評価項目。
【0395】
9.2 解析方法
全ての解析(無益性解析及び主要解析)に関するORRの主要評価項目は、FASにおける本明細書に提供されるMM疾患評価の中央審査に基づく。また、ORRの感度分析も実施される。適切な人口統計、ベースライン、有効性、及び安全性パラメータに関する集計を行うべきである。ORRは、正確な95%信頼区間による割合として集計してもよく、正確な2項検定を使用して、観察された奏効率を30%の過去の奏効率と比較してもよい。DOR、PFS、及びOSなどの事象までの経過時間の変数については、カプランマイヤー法を用いて95%信頼区間の中央値を計算してもよい。
【0396】
CTX120を受ける全ての対象は、SASに含まれる。AEは、CRS(パートAではLee基準、パートBではASTCT基準)、神経毒性(ICANS及びCTCAE v5.0)、並びにGvHD(MAGIC基準)を除き、CTCAE v5.0に従ってグレード分類される。AE、SAE、及びAESIは、用量コホートによって集計され、以下の間隔に従って報告される:
・注入後3ヵ月目までのICFの署名:全てのAE
・3ヵ月目の来院後から60ヵ月目の来院まで:全てのSAE及びAESI
・3ヵ月目の試験来院後、及び対象が新たな抗癌療法を開始:CTX120に関係するSAE及びCTX120に関係するAESI
【0397】
血中のCTX120 CAR+T細胞のレベル、抗CTX120抗体の発現率、及び血清中のサイトカインのレベルが集計され得る。追加のバイオマーカーの調査には、血液成分(血清、血漿、及び細胞)、他の組織由来の細胞、髄外性形質細胞腫組織、及び他の対象由来の組織の評価が含まれ得る。これらの評価により、それらの組織に由来するDNA、RNA、タンパク質、及び他の生体分子を評価することができる。このような評価によって、対象の疾患、CTX120に対する反応、及び治験薬の作用機序に関係する因子の理解を知らしめることができる。
【0398】
結果
これまでに本試験に参加した全ての対象が、16日以内に段階1(適格性のスクリーニング)を完了しており、対象の大部分が10日未満でこの段階を完了している。適格性確認(即ち、組み入れ)のときに、全ての適格な対象は、7日以内にリンパ球除去(LD)化学療法を開始させており、これらの対象の75%超が2日以内にLD化学療法を開始させている。加えて、全ての適格な対象が14日未満にCTX120を受けており、その大多数が組み入れの8日以内にCTX120を受けている。LD化学療法を受けた全ての対象が、LD化学療法が完了してから2~7日以内にCTX120を受けるまで進んでおり、1人の対象以外の全員がLD化学療法を完了して4日以内にCTX120を受けた。組み入れられた対象は、再発性及び/又は難治性多発性骨髄腫を有する。
【0399】
組み入れられた2人の対象は、スクリーニングの時点で好中球絶対数(ANC)が1000細胞/mm未満であり、また、これらの対象のうち1人が28,000細胞/mmの血小板数を有していた。これらの血球数は、通常では血液学的な適格性基準(例えば、ANC≧1000細胞/mm;血小板≧50,000細胞/mm)が課せられる自家CAR T療法から恐らく排除されるだろう。
【0400】
治療を受けた患者は、DLTをまったく示さなかった。CTX120は、CAR T生成物で治療した全ての対象で検出された。同種CAR-T細胞療法は、注入後にCAR-T細胞の増殖及び持続性を含む所望の薬物動態特性を、治療を受けたヒト対象において示した。CTX120の増殖及び持続性の両方で用量依存効果が観察されている。CTX120細胞は、試験された最も遅い時点(CAR-Tを投与した後の28日)まで末梢血で検出され、ピークの増殖が投与後の1~2週間検出された。投与後の増殖は用量依存的であると思われ、最大の増殖が最低値の0CARコピー/μgから観察され、ピーク時で300CARコピー/μg超まで観察された。
【0401】
用量依存的な反応が観察された。例えば、DL2では、抗腫瘍反応のエビデンスが2人の対象で観察された。これらの対象では、血清/尿中モノクローナルタンパク質、血清遊離軽鎖、及び/又は骨髄形質細胞の減少が示された。
【0402】
他の実施形態
本明細書に開示される特徴は、全て任意の組み合わせで組み合わせが可能である。本明細書で開示されたそれぞれの特徴は、同一の、均等な又は類似の目的を果たす代替的な特徴によって置き換えられ得る。従って、明示的に別途指示されない限り、開示されるそれぞれの特徴は、一般的な一連の均等な又は類似の特徴の一例に過ぎない。
【0403】
上記の説明より、当業者は、それらの趣旨及び範囲を逸脱することなく、本発明の本質的な特徴を容易に把握することが可能であり、これを様々な使用法及び状況に適用させるように本発明に対する様々な変更形態及び修正形態をなし得る。従って、他の実施形態も特許請求の範囲の範疇にある。
【0404】
均等物
本明細書でいくつかの本発明の実施形態を説明及び図示してきたが、当業者であれば、本明細書で説明される機能を実施し、且つ/又は結果及び/若しくは1つ以上の利点を得るための様々な他の手段及び/又は構造を容易に想定し、このような変形形態及び/又は修正形態のそれぞれは、本明細書で説明される本発明の実施形態の範囲内にあるものと見なされる。より広義には、当業者であれば、本明細書に記載される全てのパラメータ、寸法、材料及び構成が代表的なものであり、実際のパラメータ、寸法、材料及び/又は構成が、特定の用途又は本発明の教示が使用される用途に依存することを意味することが容易に理解されるであろう。当業者であれば、通常の実験を行うのみで、本明細書に記載される本発明の特定の実施形態に対する多くの均等物を認識又は把握することができる。従って、上述の実施形態は、単に例として提示されており、また添付の特許請求の範囲及びその均等物の範囲内において、本発明の実施形態は、具体的に説明及び特許請求される以外の別の方法で実践され得ることを理解されたい。本開示の本発明の実施形態は、本明細書で説明される各個別の特徴、システム、物品、材料、キット及び/又は方法を対象とする。加えて、2つ以上のそのような特徴、システム、物品、材料、キット及び/又は方法の任意の組み合わせは、そのような特徴、システム、物品、材料、キット及び/又は方法が互いに矛盾しない場合、本開示の本発明の範囲内に含まれる。
【0405】
本明細書で定義され使用されるような全ての定義は、辞書的定義、参考として組み込まれる文献内の定義、及び/又は定義された用語の通常の意味に対して優先するものと理解されるべきである。
【0406】
本明細書で開示される全ての参考文献、特許及び特許出願は、そのそれぞれが引用されている主題に対して参照として組み込まれており、場合により文献全体を包含し得る。
【0407】
不定冠詞「1つの(a)」及び「1つの(an)」は、本明細書及び特許請求の範囲において使用される場合、反対に明確に示されない限り、「少なくとも1つ」を意味するものと理解されるべきである。
【0408】
本明細書で使用する場合、本明細書及び特許請求の範囲における「及び/又は」という語句は、そのように結合された要素、即ちある場合には接続して存在する、別の場合には離れて存在する要素の「一方又は両方」を意味するものと理解されるべきである。「及び/又は」を使用して列挙された複数の要素は、同様の方法で解釈されるべきであり、即ちそのように結合された要素の「1つ以上」と解釈されるべきである。具体的に特定されるそれらの要素に関係するか否かにかかわらず、「及び/又は」という節によって具体的に特定される要素以外の他の要素が任意選択により存在し得る。従って、非限定的な例として、「A及び/又はB」の言及は、「含む」などのオープンエンド形式の語と共に使用する場合、一実施形態では、Aのみ(任意選択によりB以外の要素を含む)を指すことができ、他の実施形態では、Bのみ(任意選択によりA以外の要素を含む)を指すことができ、更に別の実施形態では、AとBとの両方(任意選択により他の要素を含む)を指すなどであり得る。
【0409】
本明細書で使用する場合、本明細書及び特許請求の範囲における「又は」とは、上記で定義したような「及び/又は」と同様の意味を有するものと理解されるべきである。例えば、列挙内の項目を区切る場合、「又は」又は「及び/又は」は、包含的なものと解釈されるべきであり、即ち要素の数又は列挙の少なくとも1つを含むが、2つ以上も含むものであり、任意選択により追加の列挙されていない項目を含むものと解釈すべきである。「~の1つのみ」若しくは「~の正確に1つ」又は特許請求の範囲で使用する場合の「~からなる」など、反対に明確に指示される用語のみが、要素の数又は列挙の正確に1つの要素を含むことを指す。一般に、本明細書で使用する場合、「又は」という用語は、「いずれか」、「~の1つ」、「~の1つのみ」又は「~の正確に1つ」などの排他的な用語の前に置かれた場合、排他的代替物を示すに過ぎない(即ち「一方又は他方、ただし両方ではない」)ものと解釈するべきである。特許請求の範囲で使用する場合、「~から本質的になる」とは、特許法の分野で使用されるような通常の意味を有するものとする。
【0410】
本明細書で使用する場合、本明細書及び特許請求の範囲における、1つ以上の要素の列挙に関する「少なくとも1つ」という語句は、要素の列挙内の要素の任意の1つ以上から選択される少なくとも1つの要素であるが、要素の列挙内に具体的に列挙されたあらゆる要素の少なくとも1つを必ずしも含まず、且つ要素の列挙内の要素の任意の組み合わせを必ずしも除外しないことを意味するものと理解すべきである。この定義はまた、具体的に特定された要素に関連する又は関連しないにかかわらず、「少なくとも1つ」という語句を指す、要素のリスト内で具体的に特定された要素以外の要素が任意選択的に存在し得ることを許容する。従って、非限定的な例として、「A及びBの少なくとも1つ」(換言すると「A又はBの少なくとも1つ」、換言すると「A及び/又はBの少なくとも1つ」は、一実施形態では、任意選択により2つ以上のAを含み、Bが存在しない(及び任意選択によりB以外の要素を含む)少なくとも1つを指すことができ、別の実施形態では、任意選択により2つ以上のBを含み、Aが存在しない(及び任意選択によりA以外の要素を含む)少なくとも1つを指すことができ、更に別の実施形態では、任意選択により2つ以上のAを含む少なくとも1つ、且つ任意選択により2つ以上のBを含む少なくとも1つ(及び任意選択により他の要素を含む)を指すなどであり得る。
【0411】
本明細書で使用する場合、用語「約」又は「およそ」は、当業者によって決定される特定の値の許容誤差範囲内にあることを意味し、その値が測定又は決定される方法、即ち測定系の限界に部分的に依存する。例えば、「約」は、当技術分野の慣習による許容標準偏差内にあることを意味し得る。代わりに、「約」は、所与の値の最大で±20%、好ましくは最大で±10%、より好ましくは最大で±5%、更により好ましくは最大で±1%の範囲を意味し得る。代わりに、特に生体系又は生体プロセスに関しては、この用語は、値の一桁以内、好ましくは2倍以内を意味し得る。本出願及び特許請求の範囲に特定の値が記載されている場合、特に指示のない限り、用語「約」は、黙示的であり、これに関連して特定の値が許容誤差範囲内にあることを意味する。
【0412】
同様に、反対に明確に示されない限り、2つ以上の工程又は行為を含む、本明細書で特許請求される任意の方法において、この方法の工程又は行為の順序は、必ずしもこの方法の工程又は行為が列挙される順序に限定されないことも理解されるべきである。
図1
図2
図3A-3B】
図4
図5
図6A-6B】
図7A-7C】
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12
図13
【配列表】
2023512469000001.app
【国際調査報告】