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特表2023-512489慢性閉塞性肺疾患を管理するための組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-27
(54)【発明の名称】慢性閉塞性肺疾患を管理するための組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/12 20060101AFI20230317BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230317BHJP
【FI】
A61K31/12
A61P11/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022543653
(86)(22)【出願日】2021-01-16
(85)【翻訳文提出日】2022-08-29
(86)【国際出願番号】 US2021013763
(87)【国際公開番号】W WO2021146648
(87)【国際公開日】2021-07-22
(31)【優先権主張番号】62/962,343
(32)【優先日】2020-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/126,920
(32)【優先日】2020-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】501394435
【氏名又は名称】サミ-サビンサ グループ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】マジード ムハンメド
(72)【発明者】
【氏名】ナガブシャナム カリアナム
(72)【発明者】
【氏名】バニ サラング
(72)【発明者】
【氏名】パンデイ アンジャリ
【テーマコード(参考)】
4C206
【Fターム(参考)】
4C206AA01
4C206AA02
4C206CB14
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZA59
(57)【要約】
本発明は、気腫性状態において損傷を受けた肺胞細胞の再生のための、また、慢性閉塞性肺疾患および急性呼吸窮迫症候群の治療管理のための、20質量%以上のビスデメトキシクルクミンを含む組成物を開示する。該組成物は、10~35質量%のデメトキシクルクミンおよび10~45質量%のクルクミンをさらに含む。該組成物は、ウイルス感染、特にCOVID-19に起因するCOPDおよびARDSの治療、ならびに予後における肺機能の改善のために、極めて好適である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肺気腫を有する哺乳動物において肺胞細胞を再生させるための方法であって、肺気腫の特徴の低減をもたらすために、前記哺乳動物に20質量%以上のビスデメトキシクルクミンを含む組成物を投与するステップを含む、方法。
【請求項2】
組成物が、10~35質量%のデメトキシクルクミンおよび10~45質量%のクルクミンをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
肺気腫の特徴が、低酸素症、肺サーファクタントタンパク質のレベルの低下、肺胞毛細血管関門透過性の上昇、炎症、好中球の蓄積および動員の増加、肺胞内圧の上昇、酸化ストレスの増加、炎症性サイトカインおよびケモカインの増加、活性化Tリンパ球数の上昇、ならびに筋損傷からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
肺気腫が、酵素、ウイルス、細菌、喫煙、および粒状刺激物によって誘発される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
哺乳動物が、ヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
哺乳動物における慢性閉塞性肺疾患の治療管理の方法であって、慢性閉塞性肺疾患の特徴および症状の低減をもたらすために、前記哺乳動物に20質量%以上のビスデメトキシクルクミンを含む組成物を投与するステップを含む、方法。
【請求項7】
組成物が、10~35質量%のデメトキシクルクミンおよび10~45質量%のクルクミンをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
慢性閉塞性肺疾患が、気腫性および非気腫性である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
慢性閉塞性肺疾患の特徴が、低酸素症、肺サーファクタントタンパク質のレベルの低下、肺胞毛細血管関門透過性の上昇、炎症、好中球の蓄積および動員の増加、肺胞内圧の上昇、酸化ストレスの増加、炎症性サイトカインおよびケモカインの増加、活性化Tリンパ球数の上昇、ならびに筋損傷からなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
慢性閉塞性肺疾患の症状が、特に身体的活動中の息切れ、喘鳴、胸部絞扼感、粘液を生じることがある慢性咳嗽、呼吸器感染、エネルギーの欠如、意図しない体重減少、および足首、足、または下肢の腫脹からなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
慢性閉塞性肺疾患が、酵素、ウイルス、細菌、喫煙、および粒状刺激物によって誘発される、請求項6に記載の方法。
【請求項12】
哺乳動物が、ヒトである、請求項6に記載の方法。
【請求項13】
哺乳動物において慢性閉塞性肺疾患の急性呼吸窮迫症候群への進行を予防する方法であって、慢性閉塞性肺疾患の特徴および症状の低減をもたらすことによって急性呼吸器症候群の発症を予防するために、前記哺乳動物に20質量%以上のビスデメトキシクルクミンを含む組成物を投与するステップを含む、方法。
【請求項14】
組成物が、10~35質量%のデメトキシクルクミンおよび10~45質量%のクルクミンをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
慢性閉塞性肺疾患が、気腫性および非気腫性である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
慢性閉塞性肺疾患の特徴が、低酸素症、肺サーファクタントタンパク質のレベルの低下、肺胞毛細血管関門透過性の上昇、炎症、好中球の蓄積および動員の増加、肺胞内圧の上昇、酸化ストレスの増加、炎症性サイトカインおよびケモカインの増加、活性化Tリンパ球数の上昇、ならびに筋損傷からなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
慢性閉塞性肺疾患の症状が、特に身体的活動中の息切れ、喘鳴、胸部絞扼感、粘液を生じることがある慢性咳嗽、呼吸器感染、エネルギーの欠如、意図しない体重減少、および足首、足、または下肢の腫脹からなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
慢性閉塞性肺疾患が、酵素、ウイルス、細菌、喫煙、および粒状刺激物によって誘発される、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
哺乳動物が、ヒトである、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連特許出願の相互参照
本出願は、2020年1月17日に出願された米国特許仮出願第62962343号、および2020年12月17日に出願された米国特許仮出願第63126920号に基づく優先権を主張するPCT出願であり、それらの詳細は、参照により本明細書に組み込まれている。
本発明は、慢性閉塞性肺疾患を管理するための組成物に関する。より詳細には、本発明は、肺胞を再生させるための、また、慢性閉塞性肺疾患および急性呼吸窮迫症候群を管理するための、ビスデメトキシクルクミンを含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、肺からの気流閉塞を起こす、慢性炎症性肺疾患である。COPDは、典型的には、タバコの煙のような刺激性の気体、燃料燃焼、ウイルス感染、または粒状物質への長期暴露によって引き起こされる。肺気腫および慢性気管支炎の2つが、最も一般的な、COPDの一因となる状態である。
肺気腫は、肺の最小の気道(細気管支)の末端の肺胞が破壊されている状態である。肺気腫は、American Thoracic Societyによって、「肺気腫とは、終末細気管支から末梢の気腔の、それらの壁の破壊を伴う、異常な永続的な腫大を特徴とする肺の状態である」と定義されている。肺気腫は、COPDの主要な構成要素であり、肺胞細胞外マトリックスの破壊、肺胞毛細血管交換領域の低減を特徴とし、部分的に可逆的な気流閉塞をもたらす。これは、肺胞の脆弱な壁および弾性繊維を破壊し、小気道の虚脱における肺虚脱を引き起こし、肺の外への気流を減じる。徴候および症状には、特に身体的活動中の息切れ、喘鳴、胸部絞扼感、粘液を生じることがある慢性咳嗽、頻発する呼吸器感染、エネルギーの欠如、(後期における)意図しない体重減少、足首、足、または下肢の腫脹が挙げられる(Thurlbeck et al., Emphysema: Definition, Imaging, and Quantification, Benjamin Felson lecture, AJR 1994;163:1017-1025)。
【0003】
エビデンスから、正常な肺とCOPD肺との病理学的特徴における顕著な差異が示されている。健康な個体では、細胞は、抗酸化物質、DNA修復、およびオートファジーなどの修復機序を活性化することによって、外因性のROSによる軽度の損傷に反応している。損傷が非常に大きければ、細胞は老化を受けることとなり、これにより、発癌性変化を防いでいる。幹細胞複製が、組織再生および治癒において重要な役割を果たしている。しかしながら、COPDに罹病した人では、過剰なROSが、欠損のある修復機序によって悪化した肺細胞への損傷を増大させる。老化細胞の増加は、さらに、炎症、肺胞の破壊、内皮機能障害を刺激し、これらによって発癌性変化のリスクを高める。ROSはまた、静止状態の喪失を誘発することによって幹細胞の複製を喪失させ、幹細胞を老化させる。これによって、組織再生の喪失に至る(Mercado et al., Accelerated ageing of the lung in COPD: new concepts, Thorax 2015;70:482-489. doi:10.1136/thoraxjnl-2014-206084)。気腫性COPDに加え、非気腫性COPDもまた一般的である(Occhipinti et al., Emphysematous and Nonemphysematous Gas Trapping in Chronic Obstructive Pulmonary Disease: Quantitative CT Findings and Pulmonary Function, Radiology: 2018, Volume 287: Number 2-683-692)。
【0004】
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)もまた、COPDの後期に観察される。ARDSは、呼吸困難、重篤な低酸素血症、肺コンプライアンスの低下、およびびまん性両側性肺浸潤を特徴とする。ARDSの病理学は、典型的には、滲出期、増殖期、および線維化期の3段階がある。I型肺胞細胞は、非可逆的に損傷を受けており、タンパク質、フィブリン、および細胞崩壊物の沈着があり、裸出された空間に硝子膜が作り出される。肺サーファクタントを産生するII型細胞への損傷もまた、肺胞虚脱の一因となる。II型細胞は、増殖期に、一部の上皮細胞の、再生、線維芽細胞性反応、および再構築を伴って増殖する(Udobi et al., Acute Respiratory Distress Syndrome, Am Fam Physician. 2003 Jan 15;67(2):315-322)。このように、COPDおよびARDSいずれにおいても、肺胞の変性がみられる。
【0005】
最近、COPDが、より重篤なCOVID-19疾患のリスク因子である可能性があることが観察された(Alqahtani et al. Prevalence, severity and mortality associated with COPD and smoking in patients with COVID-19: a rapid systematic review and meta-analysis. PLoS One 2020; 15: e0233147)。中国全域にわたる1590名のCOVID-19患者の合併症の解析から、COPDは、ICU入院、機械的換気、または死亡の場合、年齢および喫煙について調整した後であっても、2.681のオッズ比を有しており(95%CI 1.424~5.048;p=0.002)、(非重症例では15.3%のみであったのと比較して)重症例の62.5%がCOPDの病歴を有し、(生存例では2.8%のみであったのと比較して)死亡例のうちの25%がCOPD患者であったことが見出された(Leung et al., COVID-19 and COPD, European Respiratory Journal 2020 56: 2002108; DOI: 10.1183/13993003.02108-2020)。これは、COPDが、COVID-19病理学において最も突出した原因であることを示すものである。
【0006】
典型的には、COVID-19の病態形成は、3段階に分けることができる。すなわち、該疾患の第1段階は、鼻内であり、第2段階は、誘導気道、気管支、および細気管支内であり、該疾患の第3段階は、感染が肺のガス交換部分に広がり肺胞II型細胞が感染するため、致死段階である。
肺胞の侵襲は、重度の低酸素症、および炎症氾濫が特徴である。肺胞I型およびII型細胞に対する損傷に加え、内皮に対する広範な損傷がみられる。この結果、表面への肺サーファクタントの吸着能力を減じ表面張力を低下させる、肺胞中へのフィブリノーゲンおよびその他の血漿タンパク質の漏出が起こる。このように、肺胞の変性は、COVID-19のようなウイルス感染病理学では、致命的な役割を果たしている。
【0007】
肺胞再生療法は、現在ではCOPDおよびARDSの管理のための有効な治療とみなされている。成体哺乳動物の臓器を再生する能力は、肝臓だけに限定されているように思われる。しかしながら、哺乳動物は、臓器全体レベルよりもむしろ組織において、表皮、腸管内胚葉、血液、ニューロンなどを構成している細胞を連続的に置換することができる。最近、レチノイン酸が、実験的に損傷させた成体ラット肺において肺胞の再生を誘導することができることが発見された。本発明は、肺胞の再生のための、また、COPDおよびARDSの管理のための、天然および新規組成物を開示する。
【0008】
現在、COPDを管理するために使用されている天然の化合物は多数ある。クルクミンを含むウコン組成物が、COPDおよびARDSの症状改善に有効であることが報告されている。以下の従来技術文書は、COPDの管理におけるウコンの使用、特にクルクミンの使用を開示するものである。
1.Tang et al., Curcumin ameliorates chronic obstructive pulmonary disease by modulating autophagy and endoplasmic reticulum stress through regulation of SIRT1 in a rat model, Journal of International Medical Research, 2019, Vol. 47(10) 4764-4774。
2.Jawed et al., Effect of Turmeric on Mosquito Coil Induced Emphysema in Rat Lungs, JIIMC 2018 Vol. 13, No.3, 141-145。
3.Moghaddam et al., Curcumin inhibits COPD-like airway inflammation and lung cancer progression in mice, Carcinogenesis vol.30 no.11 pp.1949-1956, 2009。
4.Santana et al., Evidences of Herbal Medicine-Derived Natural Products Effects in Inflammatory Lung Diseases, Mediators of Inflammation, Volume 2016, Article ID 2348968, 14 pages, http://dx.doi.org/10.1155/2016/2348968。
5.Butler and Kaifer, Herbs and Supplements for COPD (Chronic Bronchitis and Emphysema), Healthline, Updated on August 20, 2018, healthline.com/health/copd/herbs-supplements, accessed 5 January 2021。
【0009】
ウコンは、クルクミン、ジメトキシクルクミン、およびビスデメトキシクルクミンを主要な要素とする、様々な化合物を有する。クルクミン、ビスデメトキシクルクミン、およびデメトキシクルクミンの生物学的特性は、疾患によって変わり、COPDの管理および関連機能におけるビスデメトキシクルクミン(bidemethoxycurucmin)の効果は評価されていない。本発明は、肺胞の再生における、また、COPDおよびARDSの症状の管理における、ビスデメトキシクルクミンを含む組成物の生物学的潜在能力を開示する。
【0010】
本発明の主要な目的は、肺気腫において肺胞細胞を再生させることにおいて使用するための、20質量%以上のビスデメトキシクルクミンを含む組成物を開示することである。
本発明の別の目的は、慢性閉塞性肺疾患の症状を管理することにおいて使用するための、20質量%以上のビスデメトキシクルクミンを含む組成物を開示することである。
本発明のさらに別の目的は、慢性閉塞性肺疾患の急性呼吸窮迫症候群への進行を予防することにおいて使用するための、20質量%以上のビスデメトキシクルクミンを含む組成物を開示することである。
本発明は、上記の目的を満たし、関連した利点をもたらすものである。
【発明の概要】
【0011】
最も好ましい実施形態では、本発明は、肺気腫を有する哺乳動物において肺胞細胞を再生させるための方法であって、肺気腫の特徴の低減をもたらすために、前記哺乳動物に20質量%以上のビスデメトキシクルクミンを含む組成物を投与するステップを含む、方法を開示する。
別の好ましい実施形態では、本発明は、哺乳動物における慢性閉塞性肺疾患の治療管理の方法であって、慢性閉塞性肺疾患の特徴および症状の低減をもたらすために、前記哺乳動物に20質量%以上のビスデメトキシクルクミンを含む組成物を投与するステップを含む、方法を開示する。
別の好ましい実施形態では、本発明は、哺乳動物において慢性閉塞性肺疾患の急性呼吸窮迫症候群への進行を予防する方法であって、慢性閉塞性肺疾患の特徴および症状の低減をもたらすために、前記哺乳動物に20質量%以上のビスデメトキシクルクミンを含む組成物を投与するステップを含む、方法を開示する。
本発明の他の特徴および利点は、例として本発明の原理を例証する添付の画像と併せて以下のより詳細な説明から明らかとなろう。
本特許または出願ファイルは、カラーで作成された少なくとも1つの図面を含む。カラー図面付きの本特許または特許出願公開のコピーは、請求および必要料金の支払いに応じて、当局により提供されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A】様々な用量(mg/kg体重)のビスデメトキシクルクミン(BDMC)で処置したCOPDマウスにおける、HIF-1αレベルの用量依存的低下を、正常対照群およびCOPD対照群と比較して示すグラフ表示である。
図1B】様々な用量(mg/kg体重)のビスデメトキシクルクミン(BDMC)で処置したCOPDマウスにおける、HIF-1αレベルの低下を、クルクミンおよびデメトキシクルクミン(DMC)と比較して、示すグラフ表示である。
図1C】様々な用量(mg/kg体重)のビスデメトキシクルクミンを含む組成物(BD3複合体)で処置したCOPDマウスにおける、HIF-1αレベルの用量依存的低下を、クルクミンC3複合体と比較して示すグラフ表示である。
図2A】様々な用量(mg/kg体重)のビスデメトキシクルクミン(BDMC)で処置したCOPDマウスにおける、肺サーファクタントタンパク質Dレベルの用量依存的上昇を、正常対照群およびCOPD対照群と比較して示すグラフ表示である。
図2B】様々な用量(mg/kg体重)のビスデメトキシクルクミン(BDMC)で処置したCOPDマウスにおける、肺サーファクタントタンパク質Dレベルの用量依存的上昇を、クルクミンおよびデメトキシクルクミン(DMC)と比較して示すグラフ表示である。
図2C】様々な用量(mg/kg体重)のビスデメトキシクルクミンを含む組成物(BD3複合体)で処置したCOPDマウスにおける、肺サーファクタントタンパク質Dレベルの用量依存的上昇を、クルクミンC3複合体と比較して示すグラフ表示である。
図3A】様々な用量(mg/kg体重)のビスデメトキシクルクミン(BDMC)で処置したCOPDマウスにおける、ペリオスチンレベルの用量依存的上昇を、正常対照群およびCOPD対照群と比較して示すグラフ表示である。
図3B】様々な用量(mg/kg体重)のビスデメトキシクルクミンを含む組成物(BD3複合体)で処置したCOPDマウスにおける、ペリオスチンレベルの用量依存的上昇を、クルクミンC3複合体と比較して示すグラフ表示である。
図4A】様々な用量(mg/kg体重)のビスデメトキシクルクミン(BDMC)で処置したCOPDマウスにおける、12/15-LOXレベルの用量依存的低下を、正常対照群およびCOPD対照群と比較して示すグラフ表示である。バーの値は12LOXを表し、ラインは15LOXを表す。
図4B】様々な用量(mg/kg体重)のビスデメトキシクルクミンを含む組成物(BD3複合体)で処置したCOPDマウスにおける、12/15-LOXレベルの用量依存的低下を、クルクミンC3複合体と比較して示すグラフ表示である。バーの値は12LOXを表し、ラインは15LOXを表す。
図5A】様々な用量(mg/kg体重)のビスデメトキシクルクミン(BDMC)で処置したCOPDマウスにおける、ブラジキニンレベルの用量依存的低下を、正常対照群およびCOPD対照群と比較して示すグラフ表示である。
図5B】様々な用量(mg/kg体重)のビスデメトキシクルクミン(BDMC)で処置したCOPDマウスにおける、ブラジキニンレベルの低下を、クルクミンおよびデメトキシクルクミン(DMC)と比較して、示すグラフ表示である。
図5C】様々な用量(mg/kg体重)のビスデメトキシクルクミンを含む組成物(BD3複合体)で処置したCOPDマウスにおける、ブラジキニンレベルの用量依存的低下を、クルクミンC3複合体と比較して示すグラフ表示である。
図6A】様々な用量(mg/kg体重)のビスデメトキシクルクミン(BDMC)で処置したCOPDマウスにおける、IL-17およびIL-23レベルの用量依存的低下を、正常対照群およびCOPD対照群と比較して示すグラフ表示である。
図6B】様々な用量(mg/kg体重)のビスデメトキシクルクミンを含む組成物(BD3複合体)で処置したCOPDマウスにおける、IL-17およびIL-23レベルの用量依存的低下を、クルクミンC3複合体と比較して示すグラフ表示である。
図7A】様々な用量(mg/kg体重)のビスデメトキシクルクミン(BDMC)で処置したCOPDマウスにおける、IL-6レベルの用量依存的低下を、正常対照群およびCOPD対照群と比較して示すグラフ表示である。
図7B】様々な用量(mg/kg体重)のビスデメトキシクルクミンを含む組成物(BD3複合体)で処置したCOPDマウスにおける、IL-6レベルの用量依存的低下を、クルクミンC3複合体と比較して示すグラフ表示である。
図8A】様々な用量(mg/kg体重)のビスデメトキシクルクミン(BDMC)で処置したCOPDマウスにおける、CXCL8レベルの用量依存的低下を、正常対照群およびCOPD対照群と比較して示すグラフ表示である。
図8B】様々な用量(mg/kg体重)のビスデメトキシクルクミンを含む組成物(BD3複合体)で処置したCOPDマウスにおける、CXCL8レベルの用量依存的低下を、クルクミンC3複合体と比較して示すグラフ表示である。
図9A】様々な用量(mg/kg体重)のビスデメトキシクルクミン(BDMC)で処置したCOPDマウスにおける、LDHレベルの用量依存的低下を、正常対照群およびCOPD対照群と比較して示すグラフ表示である。
図9B】様々な用量(mg/kg体重)のビスデメトキシクルクミンを含む組成物(BD3複合体)で処置したCOPDマウスにおける、LDHレベルの用量依存的低下を、クルクミンC3複合体と比較して示すグラフ表示である。
図10】正常なマウス、COPDマウス、ならびに肺胞II型細胞の再生を示している25mg/kgおよび100mg/kg BDMCで処置したマウスの、肺組織切片の免疫組織化学的染色画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
最も好ましい実施形態では、本発明は、肺気腫を有する哺乳動物において肺胞細胞を再生させるための方法であって、肺気腫の特徴の低減をもたらすために、前記哺乳動物に20質量%以上のビスデメトキシクルクミンを含む組成物を投与するステップを含む、方法を開示する。関連した実施形態では、該組成物は、10~35質量%のデメトキシクルクミンおよび10~45質量%のクルクミンをさらに含む。別の関連した実施形態では、肺気腫の特徴は、低酸素症、肺サーファクタントタンパク質のレベルの低下、肺胞毛細血管関門透過性の上昇、炎症、好中球の蓄積および動員の増加、肺胞内圧の上昇、酸化ストレスの増加、炎症性サイトカインおよびケモカインの増加、活性化Tリンパ球数の上昇、ならびに筋損傷からなる群から選択される。さらに別の関連した実施形態では、肺気腫は、酵素、ウイルス、細菌、喫煙、および粒状刺激物によって誘発される。別の関連した実施形態では、哺乳動物は、ヒトである。
【0014】
別の好ましい実施形態では、本発明は、哺乳動物における慢性閉塞性肺疾患の治療管理の方法であって、慢性閉塞性肺疾患の特徴および症状の低減をもたらすために、前記哺乳動物に20質量%以上のビスデメトキシクルクミンを含む組成物を投与するステップを含む、方法を開示する。関連した実施形態では、該組成物は、10~35質量%のデメトキシクルクミンおよび10~45質量%のクルクミンをさらに含む。別の関連した実施形態では、慢性閉塞性肺疾患は、気腫性および非気腫性である。別の関連した実施形態では、慢性閉塞性肺疾患の特徴は、低酸素症、肺サーファクタントタンパク質のレベルの低下、肺胞毛細血管関門透過性の上昇、炎症、好中球の蓄積および動員の増加、肺胞内圧の上昇、酸化ストレスの増加、炎症性サイトカインおよびケモカインの増加、活性化Tリンパ球数の上昇、ならびに筋損傷からなる群から選択される。別の関連した実施形態では、慢性閉塞性肺疾患の症状は、特に身体的活動中の息切れ、喘鳴、胸部絞扼感、粘液を生じることがある慢性咳嗽、呼吸器感染、エネルギーの欠如、意図しない体重減少、および足首、足、または下肢の腫脹からなる群から選択される。さらに別の関連した実施形態では、慢性閉塞性肺疾患は、酵素、ウイルス、細菌、喫煙、および粒状刺激物によって誘発される。別の関連した実施形態では、哺乳動物は、ヒトである。
【0015】
別の好ましい実施形態では、本発明は、哺乳動物において慢性閉塞性肺疾患の急性呼吸窮迫症候群への進行を予防する方法であって、慢性閉塞性肺疾患の特徴および症状の低減をもたらすことによって急性呼吸器症候群の発症を予防するために、前記哺乳動物に20質量%以上のビスデメトキシクルクミンを含む組成物を投与するステップを含む、方法を開示する。関連した実施形態では、該組成物は、10~35質量%のデメトキシクルクミンおよび10~45質量%のクルクミンをさらに含む。別の関連した実施形態では、慢性閉塞性肺疾患は、気腫性および非気腫性である。別の関連した実施形態では、慢性閉塞性肺疾患の特徴は、低酸素症、肺サーファクタントタンパク質のレベルの低下、肺胞毛細血管関門透過性の上昇、炎症、好中球の蓄積および動員の増加、肺胞内圧の上昇、酸化ストレスの増加、炎症性サイトカインおよびケモカインの増加、活性化Tリンパ球数の上昇、ならびに筋損傷からなる群から選択される。別の関連した実施形態では、慢性閉塞性肺疾患の症状は、特に身体的活動中の息切れ、喘鳴、胸部絞扼感、粘液を生じることがある慢性咳嗽、呼吸器感染、エネルギーの欠如、意図しない体重減少、および足首、足、または下肢の腫脹からなる群から選択される。さらに別の関連した実施形態では、慢性閉塞性肺疾患は、酵素、ウイルス、細菌、喫煙、および粒状刺激物によって誘発される。別の関連した実施形態では、哺乳動物は、ヒトである。
本発明の好ましい実施形態を、以下の例示的実施例においてさらに説明する。
【実施例
【0016】
(実施例1)
エラスターゼ誘導性肺気腫
ウィスターラットを実験グループに分け、麻酔下で、ブタ膵臓ELTを気管内投与した(48.0U/mgタンパク質;カルシウムおよびマグネシウムフリーのダルベッコリン酸緩衝生理食塩水100μlに0、20、または160Uで溶解したもの)。ELTの気管内投与の21日後、気管支肺胞洗浄液(BALF)中の種々のパラメーター、肺ホモジネート中の炎症誘発性メディエーターの濃度および生化学的パラメーター、ならびにラットの肺機能を評価した(Inoue et al., Extensive analysis of elastase induced Pulmonary Emphysema in Rats: ALP in the Lung, a New Biomarker for Disease Progression? J. Clin. Biochem. Nutr., 46, 168-176, March 2010)。
ラットは、以下のグループに分けた。
【0017】
【表1】
【0018】
明確にするために、上記グループで投与した化合物の定義を下記に示す。
BDMC - ビスデメトキシクルクミン(純粋化合物)
クルクミンC3複合体/C3複合体 - 75~81%のクルクミン、15~19%のデメトキシクルクミン、および2.2~6.5%のビスデメトキシクルクミンを含む組成物。
BD3複合体 - 20質量%以上のビスデメトキシクルクミン、10~35質量%のデメトキシクルクミンおよび10~45質量%のクルクミンを含む組成物(米国特許仮出願第63126920号の開示の通り。これは参照により本明細書に組み込まれている)
クルクミン - 純粋クルクミン
DMC - デメトキシクルクミン(純粋化合物)
例示的実施例として、実験のために使用されるBD3複合体の濃度は、BDMC32質量%、DMC30質量%、およびクルクミン38%である。しかしながら、当業者であれば、以下の実施例に示したような効果は、ビスデメトキシクルクミン20質量%、デメトキシクルクミン10~35質量%、およびクルクミン10~45質量%の濃度に適用可能であることを理解されよう。
【0019】
BALFの採取 - ラットに腹腔内注射によりペントバルビタールナトリウム(50mg/kg)で麻酔をかけ、腹部大動脈から放血した。カニューレを気管に挿入し、縫合により固定した。それらの両側肺を、37℃で、10mlの滅菌生理食塩水をシリンジで滴下して2回洗浄した。体液を、穏やかに吸引して採取した。採取した体液は、冷却し、300gで10分間遠心分離にかけ、分析のために、上清を回収した(Inoue et al., Extensive analysis of elastase induced Pulmonary Emphysema in Rats: ALP in the Lung, a New Biomarker for Disease Progression? J. Clin. Biochem. Nutr., 46, 168-176, March 2010)。
【0020】
肺パラメーター
市販のELISAキットによって、肺サーファクタントタンパク質およびペリオスチンをBALF中で測定した。このアッセイは、定量的サンドイッチ酵素イムノアッセイ技術を用いている。SP-D特異的抗体を、マイクロプレート上に予めコートした。標準物質および試料をピペットでウェルに分注し、存在するSP-Dをすべて固定化抗体に結合させた。未結合物質を除去した後、ビオチンコンジュゲートSP-D特異的抗体をウェルに加えた。洗浄後、アビジンコンジュゲート西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)をウェルに加えた。洗浄して未結合のアビジン-酵素試薬をすべて除去した後、基質溶液をウェルに加え、開始ステップにおいて結合したSP-Dの量に比例して顕色させた。顕色を停止させ、SP-Dの存在量に比例している色の強度を測定する。
【0021】
肺組織上清中のHIF-1アルファ、12/15LOX、IL-6、CXCL-8のレベルの定量化
動物の肺を取り出し、氷冷等張生理食塩水で洗い流した。この組織に、リン緩衝生理食塩水中に1mMのフェニルメチルスルホニルフルオライド、1mg/mlのアプロチニン、および0.05%のTween 20を含有する抽出バッファーを、4ml/g組織で加えた。組織を、ポリトロンを用いて氷上でホモジナイズし、ホモジネートを、5000gで15分間、遠心分離にかけた。この上清の一定分量に分け、生化学的分析に使用した。上清は、サイトカイン分析まで-80℃で保管した(Pandey et al., Multifunctional neuroprotective effect of Withanone, a compound from Withania somnifera roots in alleviating cognitive dysfunction. Cytokine 102 (2018) 211-221)。
【0022】
IL17/IL23およびLDH-Aの測定のための血清採取
血液は、動物の後眼窩静脈叢から採取した。試料は、2時間静置し、遠心分離機にかけた。サンドイッチおよび競合ELISA法に基づく市販のキットを、製造業者の使用説明書に従って使用して、動物の様々なグループから得た血清の、サイトカインの分析用の試料を調製した。すべてのサイトカインの濃度は、検量線からの内挿によって、ELISAプレートリーダーで、450nmでの比色測定によって測定した(Pandey et al., Amelioration of Adjuvant Induced Arthritis by Apocynin. Phytother Res, 2009 Oct;23(10):1462-8)。
【0023】
AT-2の免疫組織化学的検出
肺の切片について、AT-2細胞を示すために、マウス抗ヒト甲状腺転写因子1(TTF-1)(クローンSPT24)(M/s Master diagnostica、(Cat #MAD-000486QD-12)Granada)を使用して免疫組織化学的検査を行った。
【0024】
材料
免役化学製品
1)一次抗体:マウス抗ヒト甲状腺転写因子1(TTF-1)(クローンSPT24)、M/s Master diagnostica、(Cat #MAD-000486QD-12)Granada、1:50希釈。
2)二次抗体:Super SensitiveTM(SS)Polymer-HRP IHC検出システム、M/s Biogenex、米国、抗マウスおよび抗ウサギ二次抗体
3)切片粘着剤:3-アミノプロピルトリエトキシ-シラン(APES)、Sigma chemicals、米国より入手。
4)過酸化水素(H22)メタノール溶液(3%):3%H22メタノール溶液は、1mlの30%H22を9mlのメタノールに加えて調製した。
5)抗原賦活化溶液:
a.1mM EDTA緩衝液(pH8.4):
b.1mM EDTA、pH8.0
c.EDTA 0.37g
d.蒸留水1L
pHは、1N NaOHを用いて8.4に調整した。溶液はすべて、使用する直前に新しく調製した。
6)DAB+基質:3,3-ジアミンベンジジンテトラヒドロクロライド基質は、使用時に、1mgの3,3-ジアミンベンジジンテトラヒドロクロライド(Santacruz、米国)を12μlの3%H22を加えた1mlの0.01M PBSに加えることによって、新しく調製した。
7)0.01Mリン酸緩衝生理食塩水(pH7.2):10×濃度の500ml PBSを、以下の化学薬品:塩化ナトリウム(MW58.44)40g、塩化カリウム(MW74.56)1g、オルトリン酸水素二ナトリウム(MW141.96)7.2g、無水オルトリン酸二水素カリウム(MW136.09)1g、蒸留水500mlを加えることによって調製した。1×濃度の洗浄緩衝液は、10×PBSを使用して、25mlの10×PBSを225mlの蒸留水に加えることによって調製した。これに125μlのTween 20を加え、pHを7.2に調整した。
8)核内染色用のハリスヘマトキシリン:ハリスヘマトキシリンを核内染色に使用した。対比染色は、45秒間行った。
【0025】
IHC用の有機シラン(APES)処理スライドの調製:この調製は、以下のステップを使用して実施した:
1.スライドを、ラックに置き、石鹸水で十分に洗浄し、水道水で洗い流し、最後に蒸留水で洗い流し、完全に乾燥させた。
2.乾燥した染色皿中で、2%3-アミノプロピルトリエトキシ-シラン(APES)のアセトン溶液を調製した。スライドをこのAPES溶液に5~15分間、浸漬した。
3.スライドをアセトンで洗い流し、次いで、蒸留水を2回換えて洗い流した。スライドを、37℃で2時間乾燥させ、次いで、後のさらなる処理のために、室温で保管した。
【0026】
方法
1.組織切片を、3-アミノプロピルトリエトキシ-シラン(APES)をコートをしたスライド上に載せ、37℃で3時間乾燥させた。その後、後のさらなる処理のために4℃で保管した。
2.パラフィン組織切片を、キシレンを使用して脱パラフィンし、エタノールのグレードを下げながら再水和した。
3.切片全体を3%H22メタノール溶液(100μl)で覆うことによって、内在性ペルオキシダーゼを遮断した。これを、室温で15分間インキュベートし、その後、洗浄緩衝液を3回換えて洗浄した。
4.加熱誘導性エピトープ賦活化(HIER)を、EDTA緩衝液(pH8.4)を含有するクッカー中に組織切片を浸漬することによって実行し、最大圧力に達した後、6分間、加熱した。切片は、約30分間かけて室温まで冷却させ、その後、洗浄緩衝液を3回換えて洗浄した。
5.一次抗体の付加:すぐ使用できるマウス抗ヒト甲状腺転写因子1(TTF-1)(クローンSPT24)を、切片を覆うように加えた。続いて、切片を、加湿チャンバー内で、室温で1時間インキュベートし、前述のように洗浄緩衝液で洗浄した。
6.二次抗体の付加:Super SensitiveTM(SS)Polymer-HRP IHC検出システム、M/s Biogenex、米国、抗マウスおよび抗ウサギ二次抗体を切片に加え、加湿チャンバー内で、室温で30分間インキュベートした。インキュベーション後、切片を、前述のようにPBSで洗浄した。
7.DAB+基質の付加:新しく調製した、3%H22を含む3,3-ジアミンベンジジンテトラヒドロクロライド(DAB)を、切片を覆うように注いだ。これを、15~20分間、または所望の染色強度が得られるまでインキュベートした。その後、切片を、蒸留水を3回換えて、再度洗浄した。
8.ハリスヘマトキシリンを用いた核内対比染色を、45秒間行った。切片を、蒸留水で洗浄し、エタノールのグレードを上げながら脱水し、キシレンで透徹し、DPX封入剤を用いてカバーガラスで覆った。
【0027】
結果
低酸素症
低酸素症は、体内の細胞および組織に対して酸素が十分ではない状態である。これは、たとえ血流が正常であっても起こることがある。低酸素症は、深刻な、場合によって、生命を脅かす多くの合併症を招く恐れがある。一般的には、高高度への旅行の間に、また胎児発達の間に、肺細胞が急性および慢性肺疾患において低酸素症を経験する。慢性低酸素症は、炎症の増大を招き、肺胞の変性が、COPDおよびARDSの発症の原因因子の1つである肺気腫をもたらす。COPDでは低酸素誘導因子(HIF-1)シグナル伝達経路が活性化され、HIF-1αおよびVEGFなどの関連タンパク質の過剰発現が、肺機能の低下、生活の質の低下、およびCOPDの進行と関連している。
【0028】
最近のエビデンスから、低酸素症は、原発性病態生理学的特徴であり、COVID-19重症患者が多数死亡した主因であり、COVID-19のすべての段階に附随して生じることが示されている。HIF-1αのタンパク質標的は、重度低酸素誘導性の炎症性サイトカイン発現の活性化、ならびにこれに続くCOVID-19の炎症過程およびサイトカインストーム段階に関与するものである。
【0029】
本研究では、BDMCの、HIF-1αのレベルの低減に対する効果を評価し、クルクミン、DMCと比較した。その結果、BDMCは、HIF-1αのレベルを用量依存的に低下させたことが示された(図1A)。BDMCはまた、クルクミンおよびDMCと比較して、極めて有効であり(図1B)、このことは、低酸素症の低減におけるBDMCの非自明性の効果を示すものである。BDMC、クルクミン、およびDMC(BD3複合体)を含む組成物もまた、クルクミンC3複合体と比較して、上昇したHIF-1αのレベルを低下させることにより、低酸素症の低減において有効であった(図1C)。
【0030】
肺サーファクタントタンパク質
肺サーファクタントは、肺胞を覆って表面張力を下げているため、生命維持に不可欠なものである。肺サーファクタントの主な機能としては、1)空気-液体界面の表面張力を下げて、呼気終末での肺胞虚脱を予防すること、2)病原体と相互作用し、続いて病原体を死滅させること、および3)免疫応答を調節することが挙げられる。肺サーファクタント構成成分は、主に肺胞II型細胞によって合成されており、肺胞II型細胞は、まとめてコレクチンと呼ばれる肺サーファクタントタンパク質、SP-A、SP-B、およびSP-Dを合成している。これらは、ウイルスおよび細菌に結合して、病原体の除去を助ける。炎症および滲出が中程度であってもガス交換が損なわれることから、肺胞界面での宿主防御は極めて必要性の高いものである。SP-AおよびSP-Dは、粘液層および肺胞表面に存在するため、ウイルスを中和し、凝集させ、食作用を高めることによって上皮細胞の感染を防ぐように都合よく位置している。SP-Aおよび/またはSP-Dは、A型インフルエンザウイルスのヘマグルチニンおよびノイラミニダーゼに結合して、それらの活性を阻害する。肺コレクチンはまた、HIV、呼吸器多核体ウイルス(RSV)、および重症急性呼吸器症候群(SARS)コロナウイルスを含むウイルスの糖タンパク質にも結合する。以下の文書は、肺サーファクタントタンパク質の重要性を開示しているものであり、これらは参照により本明細書に組み込まれている。
1.Qi L et al. The ability of pandemic influenza virus hemagglutinins to induce lower respiratory pathology is associated with decreased surfactant protein D binding. Virology. 2011;412:426-434。
2.Meschi J, et al. Surfactant protein D binds to human immunodeficiency virus (HIV) envelope protein gp120 and inhibits HIV replication. J Gen Virol. 2005;86:3097-3107。
3.Hickling TP, et al. A recombinant trimeric surfactant protein D carbohydrate recognition domain inhibits respiratory syncytial virus infection in vitro and in vivo. Eur J Immunol. 1999;29:3478-3484。
4.Leth-Larsen R et al. The SARS coronavirus spike glycoprotein is selectively recognized by lung surfactant protein D and activates macrophages. Immunobiology. 2007;212:201-211。
【0031】
本研究では、BDMCの、肺サーファクタントタンパク質Dのレベルの上昇に対する効果を評価し、クルクミン、DMCと比較した。その結果、BDMCは、用量依存的に肺サーファクタントタンパク質Dのレベルを高めることが示された(図2A)。BDMCはまた、クルクミンおよびDMCと比較して、極めて有効であり(図2B)、このことは、BDMCの非自明性の効果を示すものである。BDMC、クルクミン、およびDMC(BD3複合体)を含む組成物もまた、クルクミンC3複合体と比較して、肺サーファクタントタンパク質Dのレベルの上昇に有効であった(図2C)。
【0032】
ペリオスチン
肺毛細血管漏出に続いて起こる、肺胞の気腔中への血液の流入は、肺損傷の進行において決定的なステップである。この流入は、肺胞毛細血管関門透過性の上昇に起因する。毛管と上皮との間の細胞外マトリックス(ECM)が、この流入の防止に関与しており、ECM構造は、肺胞壁に局在化するマトリックス細胞タンパク質であるペリオスチンによって構築されている。ペリオスチン上の結合部位が、結合組織の機械的強度に寄与している。ペリオスチンは、近傍の分子間相互作用、および細胞外マトリックス構造へのそれらの集合を強化している。
本研究では、ペリオスチンのレベルは、COPDでは有意に低下していた。BDMCは、用量依存的にペリオスチンのレベルを上昇させている(図3A)。BDMC、クルクミン、およびDMC(BD3複合体)を含む組成物もまた、クルクミンC3複合体と比較して、ペリオスチンのレベルの上昇に有効であった(図3B)。
【0033】
肺胞損傷における12および15リポキシゲナーゼ
肺への好中球の蓄積および動員は、肺損傷の発達において重要な事象である。肺への好中球動員は、活性化、血管内蓄積、ならびに経内皮および経上皮遊走というカスケード様の過程において起こる。12/15-LOXは、ケモカイン/ケモカイン受容体恒常性を調節することによって、肺への好中球動員を調整する。12/15-LOXはまた、多価不飽和脂肪酸の酵素的酸化によって、免疫調節特性を有する脂質メディエーターを生成する。脂質メディエーターは、12/15-LOX発現を制御し、タイミングを調節することによって、炎症の消散を促進しうることが報告されている。しかしながら、その脱調節活性は、組織損傷、細胞死、および慢性炎症の一因となっている。
本研究では、12/15-LOXのレベルは、COPDでは有意に上昇していた。BDMCは、用量依存的に12/15-LOXのレベルを低下させた(図4A)。BDMC、クルクミン、およびDMC(BD3複合体)を含む組成物もまた、12/15-LOXのレベルの低減に有効であった(図4B)。
【0034】
ブラジキニン
ブラジキニンは、タンパク質のキニングループの、生理学的かつ薬理学的に活性であるペプチドであり、9つのアミノ酸からなっている。ブラジキニンは、強力な内皮依存性血管拡張剤かつ穏やかな利尿剤であり、血圧を低下させる。ブラジキニンはまた、気管支および腸の非血管性平滑筋の収縮を引き起こし、血管透過性を高め、疼痛の機序にも関与している。
本研究では、ブラジキニンのレベルは、COPDでは有意に上昇しており、これは、血管透過性、炎症、および疼痛が高まっていることを示すものである。BDMCは、用量依存的にブラジキニンのレベルを低下させた(図5A)。BDMCはまた、クルクミンおよびDMCと比較して、上昇したブラジキニンのレベルを低減させることにおいて、極めて有効であった(図5B)。BDMC、クルクミン、およびDMC(BD3複合体)を含む組成物もまた、ブラジキニンレベルを低下させることにおいて有効であり(図5C)、これによって、疼痛、炎症、および血管透過性を低減させている。
【0035】
免疫マーカーIL-1、IL-23、およびIL-6
COPD患者の気管支粘膜では、活性化Tリンパ球数の上昇がみられる。ヘルパーTタイプ17(Th17)細胞は、IL-22およびIL-23の制御下で、それらのエフェクターサイトカインとしてのインターロイキン(IL)-17を放出すること報告されている。これは、次いで、患者の気管支での、好中球の誘導および組織再構築において役割を果たす。マウス肺上皮でのIL-17の過剰発現は、CD4細胞の動員、粘液分泌過多、および小気道線維化を伴う、COPD様表現型を有する肺炎症を誘導する。IL-17はまた、多数のケモカイン(CXCL1およびCXCL8を含む)およびマトリックスメタロプロテイナーゼ-9の発現を誘導する。
【0036】
COPDにおいて好中球性炎症の存在を示すエビデンスはかなりある。タバコの煙、酸化ストレス、細菌、およびウイルスは、気道上皮細胞において、核内因子-κB(NF-κB)シグナル伝達を経て、好中球性炎症を活性化する。マクロファージもまた、Th17細胞を活性化、誘引して、IL-17を放出させ、IL-17は、上皮細胞からのIL-6およびCXCL8の放出を刺激する。好中球は、好中球エラスターゼを放出し、好中球エラスターゼは粘液分泌の強力なインデューサーである。好中球はまた、酸化ストレスを生じさせ、酸化ストレスがさらに、炎症を活性化し、副腎皮質ステロイド抵抗性を誘発する。
【0037】
本研究では、IL-17およびIL-23のレベルは、COPDでは有意に上昇しており、これは、好中球性炎症が高まったことを示すものである。BDMCは、用量依存的にこれらの炎症性マーカーのレベルを低下させた(図6A)。BDMC、クルクミン、およびDMC(BD3複合体)を含む組成物もまた、IL-17およびIL-23レベルを低下させることにおいて有効であり(図6B)、これによって、炎症ならびにサイトカインおよびケモカインの流入を低減させている。IL-6のレベルは、COPDでは有意に上昇していた。BDMCおよびBD3複合体は、用量依存的にIL-6のレベルを低下させた(図7Aおよび7B)。
【0038】
COPDにおける炎症性ケモカインの上昇
肺において上皮細胞およびマクロファージから放出されたケモカインは、循環血液から、COPDの発症をもたらす炎症性細胞を動員する。複数のケモカインによって組織化された炎症性細胞の輸送を、選択的アンタゴニストで遮断することは、この疾患における有効な抗炎症戦略である。本研究では、CXCL8のレベルは、COPDでは有意に上昇しており、これは、炎症およびケモカイン流入が高まったことを示すものである。BDMCは、用量依存的にこれらのCXCL8のレベルを低下させた(図8A)。BDMC、クルクミン、およびDMC(BD3複合体)を含む組成物もまた、CXCL8レベルを低下させることにおいて有効であり(図8B)、これによって、炎症を低減させている。
【0039】
乳酸デヒドロゲナーゼ
乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)は、ピルビン酸の乳酸への変換によって還元型NADHからNAD+を再生させる、解糖代謝の最終ステップを触媒する酵素である。細胞溶解が起こるか、または細胞膜が損傷を受けると、LDHなどの細胞質酵素が細胞外間隙へと放出される。筋肉LDH活性の上昇は、収縮性疲労を受けやすい、COPDの高齢男性患者において認められている。
本研究では、LDHのレベルが、COPD群では有意に上昇しており、これは、筋損傷および疲労の増加を示すものである。BDMCは、用量依存的にこれらのLDHのレベルを低下させた(図9A)。BDMC、クルクミン、およびDMC(BD3複合体)を含む組成物もまた、LDHレベルを低下させることにおいて有効であった(図9B)。
【0040】
免疫組織化学的検査
免疫組織化学的検査を、プロトコールに従って実施し、細胞を染色し、視覚化した。正常対照群では、病変組織は、肺胞および気管支上皮を有する正常な組織構造を示した。組織は、核内染色で2型肺胞上皮陽性であった。II型細胞の一様な分布が、肺胞および気管支管壁細胞においてみられた。しかしながら、COPD群では、病変組織は、単核球の激しい浸潤を特徴とする肺胞中隔のびまん性肥厚を示していた。肺胞は、歪曲したままであった。肺胞II型陽性細胞数は、正常対照群と比較して、皆無/無視できるほど僅かであった。気管支上皮もまた、ところどころでII型陽性細胞を示しており、これは、肺胞の変性が増加したことを示すものである。25mg/kg体重での処置群の病変組織では、単核球の浸潤を伴う肺胞中隔のびまん性肥厚を示していた。肺胞は組織切片全体にわたり歪曲したままであったが、肺胞II型陽性細胞は、実質組織全体にわたって拡散的にみられた。疾患対照群と比較して、II型陽性細胞数の有意な増加が認められた。さらに、100mg/kg体重BDMC処置群のマウスでは、病変組織は、単核球の浸潤を伴う肺胞中隔のびまん性肥厚を示していた。肺胞は組織切片全体にわたり歪曲したままであった。II型陽性細胞は、疾患対照と比較して、若干~比較的多かった。ところどころで、気管支上皮はII型陽性細胞を示しており、肺気腫およびCOPDによって損傷を受けていた肺胞が再生したことを示していた(図10
【0041】
全体として、これらの結果は、BDMC自体およびBDMCを含む組成物(BD3複合体)が、組織マクロファージの活性化を低下させ、低酸素症を低減させ、炎症性サイトカイン、ケモカイン、およびブラジキニンを減少させ、これによって、肺胞毛細血管関門を回復させることによって肺胞II型細胞を再生させことを示唆している。該組成物は、ウイルス感染、特にCOVID-19に起因するCOPDおよびARDSの治療のために、また、予後における肺機能の改善のために、極めて好適である。
【0042】
本発明のその他の修正および変形は、上述の開示および教示から当業者には明らかとなるであろう。したがって、本明細書では本発明のある特定の実施形態だけを具体的に記述しているが、数多くの修正が、本発明の精神と範囲から逸脱することなく、それらに対してなされ得、かつ添付の特許請求の範囲と併せてのみ解釈されるものであることが明らかとなるであろう。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10
【国際調査報告】