(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-27
(54)【発明の名称】脂質マーカーの検出
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20230317BHJP
G01N 27/623 20210101ALI20230317BHJP
G01N 33/92 20060101ALI20230317BHJP
C12Q 1/02 20060101ALN20230317BHJP
【FI】
G01N27/62 V
G01N27/623
G01N27/62 X
G01N27/62 G
G01N33/92 Z
C12Q1/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022544427
(86)(22)【出願日】2021-02-05
(85)【翻訳文提出日】2022-09-16
(86)【国際出願番号】 GB2021050270
(87)【国際公開番号】W WO2021156638
(87)【国際公開日】2021-08-12
(32)【優先日】2020-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】314000752
【氏名又は名称】ザ・ユニバーシティ・オブ・マンチェスター
【氏名又は名称原語表記】THE UNIVERSITY OF MANCHESTER
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】バラン ペルディタ
(72)【発明者】
【氏名】サーカー デパンジャン
(72)【発明者】
【氏名】トリヴェディ ドルパッド
(72)【発明者】
【氏名】シンクレア エラノア
(72)【発明者】
【氏名】シルヴァーデール モンティ
(72)【発明者】
【氏名】ミルネ ジョイ
【テーマコード(参考)】
2G041
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041CA02
2G041DA05
2G041EA04
2G041EA06
2G041FA10
2G041GA09
2G041HA03
2G041JA17
2G041LA08
2G045AA25
2G045CB10
2G045DA60
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ70
4B063QX04
(57)【要約】
本発明は、試料中の高分子量脂質を特定する方法に関する。このような高分子量脂質は、疾患の特定のためのバイオマーカーとして有用である可能性がある。
【選択図】
図16
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の1種以上の脂質を特定する方法であって、前記試料に対してアンビエントイオン化質量分析及びイオンモビリティ質量分析を実施する工程を含む方法。
【請求項2】
実施される前記アンビエントイオン化質量分析技術がペーパースプレーイオン化質量分析である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記1種以上の脂質が約700Da以上の分子量を有する請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記1種以上の脂質が約1000Da以上の分子量を有する請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記1種以上の脂質が約1200Da以上の分子量を有する請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記試料が生物学的試料である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記試料が皮脂である請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記方法は疾患の診断に使用される請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記疾患が、パーキンソン病、癌又は結核である請求項8に記載の方法。
【請求項10】
試料中の1種以上の脂質を特定するための装置であって、
(a)1種以上の脂質を含む試料を受容するための手段と、
(b)アンビエントイオン化質量分析を実施するための手段と、
(c)イオンモビリティ質量分析を実施するための手段と
を含む装置。
【請求項11】
実施される前記アンビエントイオン化質量分析技術がペーパースプレーイオン化質量分析である請求項10に記載の装置。
【請求項12】
試料中の1種以上の脂質を特定するためのキットであって、
(a)1種以上の脂質を含む試料を得るための手段と、
(b)アンビエントイオン化質量分析を実施するための手段と、
(c)イオンモビリティ質量分析を実施するための手段と
を含むキット。
【請求項13】
実施される前記アンビエントイオン化質量分析技術がペーパースプレーイオン化質量分析である請求項12に記載のキット。
【請求項14】
対象における1種以上の疾患又は医学的状態の有無を検出する方法であって、液体クロマトグラフィー質量分析を使用して、前記対象由来の生体試料中の1種以上の脂質を特定する工程を含む方法。
【請求項15】
前記生体試料が皮脂である請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記1種以上の疾患又は医学的状態が、感染、細菌感染、ウイルス感染、コロナウイルス感染、COVID-19感染、高血圧、2型糖尿病、高コレステロール及び/又は虚血性心疾患を含む請求項14又は請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記1種以上の脂質が約700Da以上の分子量を有する請求項14から請求項16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記1種以上の脂質が約1000Da以上の分子量を有する請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記1種以上の脂質が約1200Da以上の分子量を有する請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中のバイオマーカー、特に高分子量脂質を特定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パーキンソン病(PD)は、進行性の神経変性疾患であり、その診断は、現在、臨床症状の観察及び測定によって知らされている。PDの最も重要な臨床症状は、運動の速度及び振幅の低下である。硬直及び振戦を含む他の症状も一般的である[1、特許文献1]。そのような臨床症状は、黒質におけるドーパミン作動性ニューロンの60%超が失われる段階まで疾患が進行した時点ではじめて主に観察可能であるため[2、特許文献2]、そのような臨床症状の顕在化の前にPDを検出する緊急の必要性がある。
【0003】
40人に1人を超える人が、生涯のある時点でパーキンソン病(PD)を発症する。PDの症状は、疾患が進行するにつれて悪化し、これらの症状の大部分は、神経変性プロセスが既にかなり進行した時点でのみ検出されるため、早期介入の機会はほとんどない。これは、PDの初期段階で生じる徴候及び症状の臨床的変動と相まって、PDの原因の分子レベルでの理解が限られていることにも起因する[4、特許文献3]。
【0004】
「スーパースメラー(Super Smeller)」を用いた初期のパイロット研究は、明確な麝香(ジャコウ)臭がPD被験者由来の皮脂と関連することを示した[3、特許文献4]。このスーパースメラーは、臭いによってPDを検出する独特の能力を示した[2、特許文献2]。スーパースメラーは、においの感覚が極めて鋭敏であり、これにより、スーパースメラーは、平均的な嗅覚能力を有するものによって通常は検出されない臭いを検出及び識別することができる。Tシャツ及び医療用ガーゼを用いた予備試験は、高い皮脂産生の領域、すなわち、上背部及び額に臭いが存在し、ヒトの臭いとより一般的に関連する腋窩には存在しないことを示した[2、特許文献2]。皮脂の過剰産生、脂漏症は、PDの既知の非運動症状であり[5、特許文献5]、パーキンソン病の皮膚は、PDの分子的特徴であるリン酸化α-シヌクレインを含有することが最近示されている[6、特許文献6]。この特有のPD臭に関連する代謝産物の特定及び定量化は、PDの迅速な早期スクリーニングを可能にするだけでなく、疾患発症時に生じる分子変化への洞察を提供し、将来の疾患の層別化を可能にすることができよう。PD以外の他の状態も、検出されて疾患の有無(存在又は不存在)の指標として使用することができる臭いを生じると考えられる。
【0005】
揮発性有機化合物(VOC)は、概して、特徴的な臭いと関連するが、いくつかの揮発性物質は無臭である可能性もある[7、特許文献7]。質量分析を使用するボラチローム(揮発性代謝産物)分析は、医学的診断[8~12、特許文献8~12]、並びに油及び蜂蜜等の食品[13~15、特許文献13~15]、飲料[16、特許文献16]の品質の分析、並びに健康及び美容産業[17、特許文献17]に使用されている。TD-GC-MSは、人工呼吸器関連肺炎に関与する細菌の検出[11、特許文献11]、ヒトの分解と動物の分解との区別[18、特許文献18]、活性炭の消耗プロファイルの特徴付け[19、特許文献19]、並びに電子たばこからのエアロゾル検出[20、特許文献20]のためのボラチローム分析プラットフォームとして使用されている。
【0006】
高分子量脂質は、パーキンソン病の診断のための重要なバイオマーカーであることができよう。それゆえ、当該技術分野では、例えば、パーキンソン病の罹患者由来の生体試料中の高分子量脂質を特定する方法が必要とされている。
【0007】
一方で、エレクトロスプレーイオン化(ESI)及びマトリクス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)は、質量分析を、物理学者のツールから、現代の科学のすべての分野にとって、とりわけ生物学的研究にとって必須の技術に転換した[24、25、特許文献21、22]。それにもかかわらず、それらは、いくつかの欠点、すなわち、スループット及び試料調製工程の必要性という欠点を有し、この試料調製工程はしばしば非常に特定的であり、試料成分の分解につながりうる。液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)はしばしばESIと統合され(LC-ESI-MS)、この技術はメタボロミクスにおける支配的な分析方法である。しかしながら、典型的には、長い試料調製及びLC分離工程が必要とされる。質量分析の分野における最近の革新であるアンビエントイオン化は、試料調製を最小限にするか又は全く行わずに、未変性(天然)環境における通常の試料を分析する能力を提供する[26、特許文献23]。質量分析のこの新しい領域は、脱離エレクトロスプレーイオン化(DESI)[27、特許文献24]及びリアルタイム直接分析(DART)[28、特許文献25]からそれぞれ2004年後期及び2005年初期に開始した。これらの技術は、天然の形態での新しいサンプリング方法を示したものであって、イオン化プロセスは、開放空気及び室温で機器の外側で起こる。その後数年間で、2010年のペーパースプレーイオン化質量分析(PSI MS)を含めて、多くのアンビエントイオン化技術が導入された[26、29~31、特許文献23、26~28]。それ以来、PSI MSは、最も普及しているアンビエントイオン化技術の1つとして成熟した。PSI MSは、リアルタイム直接分析による血液、尿、及びCSF等の生体液中に存在する小分子(50~800Da)の検出においてその利点を示す[32~34、特許文献29~31]。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】DeMaagd,G.及びA.Philip、Pharmacy and Therapeutics、2015. 40(8):504-532頁
【非特許文献2】Cheng,H.-C.、C.M.Ulane、及びR.E.Burke、Annals of neurology、2010. 67(6):715-725頁
【非特許文献3】Wood-Kaczmar,A.、S.Gandhi、及びN.Wood、Trends in molecular medicine、2006. 12(11):521-528頁
【非特許文献4】Morgan,J.、The Lancet Neurology. 15(2):138-139頁
【非特許文献5】Krestin,D.、QJM:An International Journal of Medicine、1927. os-21(81):177-186頁
【非特許文献6】Donadio,V.ら、Neurology、2014. 82(15):1362-9頁
【非特許文献7】Shirasu,M.及びK.Touhara、The Journal of Biochemistry、2011. 150(3):257-266頁
【非特許文献8】Pizzini,A.ら、Journal of breath research、2018
【非特許文献9】Ishibe,A.ら、Annals of Gastroenterological Surgery、2018
【非特許文献10】Chang,J.-E.ら、Sensors and Actuators B:Chemical、2018. 255:800-807頁
【非特許文献11】Lawal,O.ら、Journal of breath research、2018. 12(2):026002頁
【非特許文献12】Rattray,N.J.W.ら、Trends in Biotechnology、2014. 32(10):538-548頁
【非特許文献13】Xie,J.ら、Food chemistry、2018. 243:269-276頁
【非特許文献14】Gatzias,I.ら、Journal of the Science of Food and Agriculture、2018
【非特許文献15】Gerhardt,N.ら、Analytical chemistry、2018
【非特許文献16】Liu,T.ら、An Electronic Nose Based Beverage Identification using an Improved Fisher Discriminate Analysis Method
【非特許文献17】Abedi,G.、Z.Talebpour、及びF.Jamechenarboo、TrAC Trends in Analytical Chemistry、2018
【非特許文献18】Rosier,E.ら、Analytical and bioanalytical chemistry、2014. 406(15):3611-3619頁
【非特許文献19】Sariol,H.C.ら、Materials Today Communications、2017. 11:1-10頁
【非特許文献20】Herrington,J.S.及びC.Myers、Journal of chromatography A、2015. 1418:192-199頁
【非特許文献21】Fenn,J.B.;Mann,M.;Meng,C.K.;Wong,S.F.;Whitehouse,C.M.、Science(Washington,D.C.,1883-) 1989、246(4926)、64-71
【非特許文献22】Hillenkamp,F.;Karas,M.;Beavis,R.C.;Chait,B.T.、Anal.Chem. 1991、63(24)、1193A-1203A
【非特許文献23】Cooks,R.G.;Ouyang,Z.;Takats,Z.;Wiseman,J.M.、Science(Washington,DC,U.S.) 2006、311(5767)、1566-1570
【非特許文献24】Takats,Z.;Wiseman,J.M.;Gologan,B.;Cooks,R.G.、Science(Washington,DC,U.S.) 2004、306(5695)、471-473
【非特許文献25】Cody,R.B.;Laramee,J.A.;Durst,H.D.、Anal.Chem. 2005、77(8)、2297-2302
【非特許文献26】Harris,G.A.;Galhena,A.S.;Fernandez,F.M.、Anal.Chem.(Washington,DC,U.S.) 2011、83(12)、4508-4538
【非特許文献27】Liu,J.;Wang,H.;Manicke,N.E.;Lin,J.-M.;Cooks,R.G.;Ouyang,Z.、Anal.Chem.(Washington,DC,U.S.) 2010、82(6)、2463-2471
【非特許文献28】Wang,H.;Liu,J.;Cooks,R.G.;Ouyang,Z.、Angew.Chem.,Int.Ed. 2010、49(5)、877-880、S877/1-S877/7
【非特許文献29】Damon,D.E.;Davis,K.M.;Moreira,C.R.;Capone,P.;Cruttenden,R.;Badu-Tawiah,A.K.、Anal.Chem.(Washington,DC,U.S.) 2016、88(3)、1878-1884
【非特許文献30】Espy,R.D.;Teunissen,S.F.;Manicke,N.E.;Ren,Y.;Ouyang,Z.;van Asten,A.;Cooks,R.G.、Anal.Chem.(Washington,DC,U.S.) 2014、86(15)、7712-7718
【非特許文献31】Michely,J.A.;Meyer,M.R.;Maurer,H.H.、Anal.Chem.(Washington,DC,U.S.) 2017、89(21)、11779-11786
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、1種以上の疾患状態の特定のために使用できる信頼性の高い診断検査を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様によれば、試料中の1種以上の脂質を特定する方法であって、試料に対してアンビエントイオン化質量分析及びイオンモビリティ質量分析を実施する工程を含む方法が提供される。
【0011】
実施されるアンビエントイオン化質量分析技術は、ペーパースプレーイオン化質量分析であってもよい。
【0012】
好ましくは、上記1種以上の脂質は、約700Da以上の分子量(分子質量)を有する。より好ましくは、1種以上の脂質は、約1000Da以上の分子量を有する。最も好ましくは、1種以上の脂質は、約1200Da以上の分子量を有する。
【0013】
上記試料は、皮脂等の生物学的試料であってもよい。
【0014】
当該方法は、限定されないがパーキンソン病、癌又は結核等の疾患の診断において使用されてもよい。
【0015】
イオンモビリティ(イオン移動度)は、イオンのサイズ、形状及び電荷に基づいてイオンを分離する気相分析技術である。測定はドリフト時間(クロマトグラフィーにおける保持時間に類似する)の形態で行われ、ドリフト時間はイオンが弱電界の影響下でガス充填モビリティセルを横断するのにかかる時間に対応する[35]。MSと結合したIMは、複雑な混合物中に存在する分子の分離、同定、及び構造的特徴付けのための強力な分析ツールである。従って、これは分析科学の分野で広く使用されている技術である。アンビエントイオン化質量分析をIMと組み合わせることは、様々な用途のための現代の分析研究にも進出している[36~39]。かなり新しい研究領域として、メタボロミクス並びに健康及び疾患研究におけるその有用性を特定するためには、より多くの探索を必要とする。ここで、本明細書において、本発明者らは1つのそのような可能性を提示した。
【0016】
本発明者らは、アンビエントイオン化質量分析とイオンモビリティ質量分析との組み合わせが、試料中の脂質を特定するための強力なツールであることを見出した。
【0017】
本明細書で、PD患者のメタボローム内の変化を測定するための生体液としての皮脂を評価するためのPSI MSの新規使用が実証される。従来のMS方法を用いた他の方法では分解(分離)できない異性体種又は同重体種の存在の可能性を調べるために、IMがPSI MSに組み込まれる。正確な質量測定と組み合わせたタンデムMS実験を用いて、PD及び対照試料を区別する脂質種が特定される。本研究は、現在存在しない迅速な臨床診断検査に発展することができるPDのバイオマーカー発見における予備研究に加えて、生体液皮脂の分析におけるPSI MSの初めての応用を報告する。
【0018】
皮膚の非滅菌環境、及び存在して試験結果に影響を及ぼす可能性がある潜在的汚染物質(石鹸等)に起因して、診断のための生体液として皮脂を使用することに対する一般的な先入観が当該技術分野において存在する。しかしながら、本発明者らは、有利かつ予想外にも、皮膚表面に存在する分子を使用して、パーキンソン病を有する個体を対照対象から区別することができることを見出した。個体のパーキンソン病状態を評価するために皮脂試料を使用することは、多くの理由から有利である。第1に、皮脂を採取することは、非侵襲的方法である。第2に、皮脂から代謝産物を調製及び抽出することを行わずに皮脂を直接サンプリング及び分析することが可能であるはずであり、それゆえ、パーキンソン病の迅速なスクリーニング/診断検査を開発する機会を提供することが可能であるはずである。そのような検査は、個体においてパーキンソン病の発症を遅延させるか、又はその進行を弱めるために、神経保護剤による治療と並行してコンパニオン診断として利用することができよう。パーキンソン病は、加齢集団に全体的に影響を及ぼし、非侵襲的である診断検査は、世界中の多数の公的及び私的な医療提供者によって良好に受け容れられるであろう。
【0019】
特定の好ましい実施形態では、当該方法は、1つ以上の揮発性化合物が対照皮脂値に対して上昇又は低下していることの特定を含む。対照皮脂値は、典型的には、健康な個体又はパーキンソン病等の疾患に罹患していないとみなされる個体における値であることが当業者には明らかであろう。あるいは、対照皮脂値は、治療に応答しているときの個体の値であってもよい。というのも、個体は、最初に治療によく応答することが多いが、その後、疾患が進行するにつれて、その用量を増加させるか、又はその療法を経時的に異なる療法に切り替える必要があるからである。
【0020】
皮脂中に存在する1つ以上の区別される化合物は、少なくとも1種以上の脂質、カルジオリピン、リン脂質、グリセロリン脂質、糖脂質、スフィンゴ脂質、セラミド、スフィンゴミエリン、脂肪酸、ワックス状エステルを含んでもよい。
【0021】
1種以上の揮発性化合物は、以下から選択される1種以上を含んでもよい:ドデカン、エイコサン、オクタコサン、馬尿酸、オクタデカナール、アルテミシン酸、ペリルアルデヒド(perillic aldehyde)(ペリルアルデヒド(Perillaldehyde)又はペリラアルデヒド(perilla aldehyde)としても知られる)、ジグリセロール、酢酸ヘキシル、3-ヒドロキシテトラデカン酸及び/又はオクタナール。
【0022】
特定の好ましい実施形態では、当該方法は、以下のもののうちの1つ以上が生じたことの特定を含む:ペリルアルデヒドが減少する;馬尿酸が上昇する;エイコサンが上昇する;及び/又はオクタデカナールが上昇する。
【0023】
用語「揮発性化合物」は、単離されかつ/又は質量分析に供されると蒸気又はガスになりやすい化合物を意味することが意図される。
【0024】
当該方法は、個体が、評価が非常に困難であることが多い早期発症パーキンソン病(PD)を有するかどうかを評価するために使用されてもよい。当該方法は、パーキンソン病を発症する遺伝的及び/又は環境的リスクを有する個体を評価する(又は継続的に評価する)ためにも使用されてもよい。
【0025】
予想外にも、本発明者らは、すべての典型的な溶媒が皮脂からの揮発性化合物の抽出に適しているわけではないことを見出した。皮脂中の揮発性化合物はメタノールを用いて最もよく抽出されることが確認されている。
【0026】
皮脂ベースの化合物を特定及び/又は定量するいくつかの方法が用いられてもよいことは当業者には明らかであろう。
【0027】
一般に、質量分析(MS)は、通常は複合技術の一部として、例えば液体クロマトグラフィー(LC)-MS又はガスクロマトグラフィー(GC)-MSとして、生体試料等の複雑なマトリクス中の分析物(揮発性化合物等)を検出、特定及び/又は定量するために使用されてもよい。従って、それぞれエレクトロスプレー(ES)及び化学イオン化(CI)等の従来のMSイオン化源が好適である。他のイオン化源も公知である。
【0028】
皮脂ベースの化合物を特定及び/又は定量するためにMSが使用される場合、好ましくは、MSは、約800m/z超、約1000m/z超、又は約1200m/z超の有意により高い分子量領域において化合物を特定するために使用される。通常、生体液(血液及び尿等)は、約1000m/z以下の低分子量領域における化合物を評価する。本発明者らは、驚くべきことに、皮脂がPSI-MSのためのサンプリング生体液として使用できること、及びそれが、約800m/z超の有意により高い分子量を有する皮膚表面分子の検出を可能にすることを初めて示した。イオンモビリティ質量分析(IM-MS)も、本発明者らによって、これらの高分子量代謝産物をさらに評価するために使用され、ヒト皮脂の質量スペクトルは、驚くべきことに、1価の荷電ピークからなるより高い質量領域(m/z約800~約2500)における4つのエンベロープの存在を示した。
【0029】
日常的な臨床検査室及び診療治療現場用途では、例えば、試料の前処理を減らし、かつ/又は分析及び/若しくはデータ解釈を単純化することが望ましい。従って、大気圧イオン化源は、例えば脱離エレクトロスプレーイオン化(desorption electrospray ionization、DESI)、リアルタイム直接分析(direct analysis in real time、DART)、大気圧固体試料分析プローブ(atmospheric solids analysis probe、ASAP)及びペーパースプレー(paper spray、PS)が好ましい場合がある。
【0030】
ペーパースプレーは、複雑な混合物を含む、質量分析のための直接サンプリングイオン化法である。試料、例えば0.4μLが三角形の紙片に載せられ、溶媒、例えば10μLのメタノール:水で湿らされる。試料からのイオンは、紙に高電圧、例えば3~5kVのDC又は4~6kVのDCを印加することによって生成される。紙の頂点で生成されたイオンを質量分析計の入口に向けることによって、その質量分析が行われてもよい。
【0031】
1つの例では、質量分析は、以下からなる群から選択されるイオン源を含む質量分析計を使用して行われる:(i)エレクトロスプレーイオン化(Electrospray ionisation、「ESI」)イオン源;(ii)大気圧光イオン化(Atmospheric Pressure Photo Ionisation、「APPI」)イオン源;(iii)大気圧化学イオン化(Atmospheric Pressure Chemical Ionisation、「APCI」)イオン源;(iv)マトリクス支援レーザー脱離イオン化(Matrix Assisted Laser Desorption Ionisation、「MALDI」)イオン源;(v)レーザー脱離イオン化(Laser Desorption Ionisation、「LDI」)イオン源;(vi)大気圧イオン化(Atmospheric Pressure Ionisation、「API」)イオン源;(vii)シリコン上脱離イオン化(Desorption Ionisation on Silicon、「DIOS」)イオン源;(viii)電子衝撃(Electron Impact、「EI」)イオン源;(ix)化学イオン化(Chemical Ionisation、「CI」)イオン源;(x)電界イオン化(フィールドイオン化、Field Ionisation、「FI」)イオン源;(xi)電界脱離(Field Desorption、「FD」)イオン源;(xii)誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma、「ICP」)イオン源;(xiii)高速原子衝撃(Fast Atom Bombardment、「FAB」)イオン源;(xiv)液体二次イオン質量分析(Liquid Secondary Ion Mass Spectrometry、「LSIMS」)イオン源;(xv)脱離エレクトロスプレーイオン化(「DESI」)イオン源;(xvi)ニッケル63放射性イオン源;(xvii)大気圧マトリクス支援レーザー脱離イオン化イオン源;(xviii)サーモスプレーイオン源;(xix)大気圧サンプリンググロー放電イオン化(Atmospheric Sampling Glow Discharge Ionisation、「ASGDI」)イオン源;(xx)グロー放電(Glow Discharge、「GD」)イオン源;(xxi)インパクタ(Impactor)イオン源;(xxii)リアルタイム直接(「DART」)イオン源;(xxiii)レーザースプレーイオン化(Laserspray Ionisation、「LSI」)イオン源;(xxiv)ソニックスプレーイオン化(Sonicspray Ionisation、「SSI」)イオン源;(xxv)マトリクス支援インレットイオン化(Matrix Assisted Inlet Ionisation、「MAII」)イオン源;(xxvi)溶媒支援インレットイオン化(Solvent Assisted Inlet Ionisation、「SAII」)イオン源;(xxvii)大気圧固体試料分析プローブ(Atmospheric Solids Analysis Probe、「ASAP」)イオン源;(xxviii)レーザーアブレーションエレクトロスプレーイオン化(Laser Ablation Electrospray Ionisation、「LAESI」)イオン源;(xxix)大気圧光イオン化脱離(Desorption atmospheric pressure photoionization、「DAPPI」)イオン源;(xxx)ペーパースプレー(「PS」)。ペーパースプレーが好ましい。
【0032】
本発明者らは、揮発性化合物を研究するためのツールとしての昇温脱離ガスクロマトグラフィー質量分析(TD-GC-MS)の汎用性、及び皮脂中のPDの明確なにおいの原因となる代謝産物の特定へのその適用可能性を有利に実証した。
【0033】
皮脂は、いくつかの方法で採取及び保存されてもよい。例えば、皮脂は、医療用ガーゼ、吸収紙又は脱脂綿で個体の背中を拭くことによって採取されてもよい。あるいは、皮脂は、スパチュラ等の剛性器具を使用して個体の背中から掻き取られ、次いで、採取管又は他の装置内に保管されてもよい。一般的に言えば、皮脂は周囲温度で比較的安定であるため、揮発性化合物の抽出前に皮脂のさらなる処理は必要ない。しかしながら、所望であれば、皮脂は、抽出前に好適な保存剤又は緩衝液と混合されてもよい。
【0034】
ある特定の実施形態では、皮脂試料を非侵襲的に採取するために使用することができ、検査室に戻すことができるスマート紙封筒であって、到着後、検査室は、非常に少量の抽出溶媒を使用して紙から試料を外して直接分析し、その後すぐに結果を提供することができるスマート紙封筒が提供される。
【0035】
当該方法は、混合物を乾燥させることをさらに含んでもよい。混合物は、SpeedVac濃縮器等の真空濃縮器を用いて乾燥されてもよい。
【0036】
皮脂は、任意の数の異なる基材上にあってもよく、そのようなものとしては、任意の織物セルロース媒体又は布地又は人工表面が挙げられる。好ましくは、皮脂は、綿棒、ガーゼ、木材又はセルロース系紙の上にあってもよい。
【0037】
標的分析物は、1種以上の揮発性化合物、例えば、以下から選択される1つ以上を含んでもよい:ドデカン、エイコサン、オクタコサン、馬尿酸、オクタデカナール又はドデカン、アルテミシン酸、ペリルアルデヒド又はジグリセロール、酢酸ヘキシル又はドデカン、及び3-ヒドロキシテトラデカン酸又はオクタナール。又は脂質、カルジオリピン、リン脂質、グリセロリン脂質、糖脂質、スフィンゴ脂質、セラミド、スフィンゴミエリン、脂肪酸、ワックス状エステル又はホスファチジルコリンから選択される1種以上を含む皮脂に見出される化合物のクラスのものである。
【0038】
当該方法は、個体がパーキンソン病(PD)、癌又は結核等の疾患を有するかどうかを評価するために使用されることが好ましい。
【0039】
抽出された標的分析物は、質量分析によるその後の分析のためのものであってもよい。
【0040】
本発明の別の態様では、試料中の1種以上の脂質を特定するための装置であって、
(a)1種以上の脂質を含む試料を受容するための手段と、
(b)アンビエントイオン化質量分析を実施するための手段と、
(c)イオンモビリティ質量分析を実施するための手段と
を含む装置が提供される。
【0041】
実施されるアンビエントイオン化質量分析技術は、ペーパースプレーイオン化質量分析であってもよい。
【0042】
本発明のなおさらなる態様では、試料中の1種以上の脂質を特定するためのキットであって、
(a)1種以上の脂質を含む試料を得るための手段と、
(b)アンビエントイオン化質量分析を実施するための手段と、
(c)イオンモビリティ質量分析を実施するための手段と
を含むキットが提供される。
【0043】
実施されるアンビエントイオン化質量分析技術は、ペーパースプレーイオン化質量分析であってもよい。
【0044】
本発明の特定の態様、実施形態又は実施例と併せて記載される特徴、整数、特性、化合物、方法、アッセイ及び装置は、特段の記載がない限り、本明細書中に記載されるいずれの他の態様、実施形態又は実施例に対しても適用可能であると理解されたい。本明細書(添付のいずれの特許請求の範囲、要約書及び図面を含む)中に開示される特徴のすべて、及び/又はそのように開示されたあらゆる方法又はプロセスの工程のすべては、そのような特徴及び/又は工程の少なくともいくつかが相互に排他的である組み合わせを除いて、いずれの組み合わせで組み合わされてもよい。本発明は、いずれの上述の実施形態の細部にも制限されない。本発明は、本明細書(いずれの添付の特許請求の範囲、要約書及び図面を含む)中に開示される特徴のいずれの新規な1つのもの、若しくはいずれの新規な組み合わせに、又はそのように開示されたいずれの方法若しくはプロセスの工程のいずれの新規な1つ、若しくはいずれの新規な組み合わせにも及ぶ。
【図面の簡単な説明】
【0045】
次に、添付の図面を参照して、本発明の態様及び実施形態を例として説明する。さらなる態様及び実施形態は、当業者には明らかであろう。本明細書で言及されるすべての文献は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0046】
【
図1A】
図1は、PLS-DA分類モデルを示す。(A.)5分割交差検証を用いた検証によるパーキンソンの試料の分類の90%正しい予測を示すPLS-DA予測を示す。
【
図1B】
図1は、PLS-DA分類モデルを示す。(B.)PLS-DAモデリングは、並べ替え検定(順列検定、permutation test)(出力分類は無作為化された;n=26)を使用してさらに検定され、結果が、並べ替えモデル(順列モデル、permutated model)について0.4~0.9の範囲のCCRをもたらす正しい分類率(CCR)の頻度分布を示すヒストグラムとしてプロットされている。観察されたモデルは、並べ替えモデルのほとんどよりも有意に良好であった(p<0.1)。矢印で示す。
【
図2A(1)】
図2は、関心のある分析物についてのROC曲線、箱ひげ図及びAUC比較を示す。(A.)両方の実験に共通するペリルアルデヒドについての発見コホート(i)及び検証コホート(ii)についてのROC曲線。括弧内の数字は、2000の階層化されたブートストラップ反復で計算された算出された信頼区間であり、灰色の線はランダム推測を表す。
【
図2A(2)】
図2は、関心のある分析物についてのROC曲線、箱ひげ図及びAUC比較を示す。(A.)両方の実験に共通するエイコサンについての発見コホート(iii)及び検証コホート(iv)についてのROC曲線。括弧内の数字は、2000の階層化されたブートストラップ反復で計算された算出された信頼区間であり、灰色の線はランダム推測を表す。
【
図2A(3)】
図2は、関心のある分析物についてのROC曲線、箱ひげ図及びAUC比較を示す。(A.)両方の実験に共通する馬尿酸についての発見コホート(v)及び検証コホート(vi)についてのROC曲線。括弧内の数字は、2000の階層化されたブートストラップ反復で計算された算出された信頼区間であり、灰色の線はランダム推測を表す。
【
図2A(4)】
図2は、関心のある分析物についてのROC曲線、箱ひげ図及びAUC比較を示す。(A.)両方の実験に共通するオクタデカナールについての発見コホート(vii)及び検証コホート(viii)についてのROC曲線。括弧内の数字は、2000の階層化されたブートストラップ反復で計算された算出された信頼区間であり、灰色の線はランダム推測を表す。
【
図2B】
図2は、関心のある分析物についてのROC曲線、箱ひげ図及びAUC比較を示す。(B.)4つの分析物について共通の発見コホート及び検証コホートの両方についての箱ひげ図であり、これらの分析物の対数スケーリングされたピーク面積の平均を比較する。
【
図2C】
図2は、関心のある分析物についてのROC曲線、箱ひげ図及びAUC比較を示す。(C.)分析物間のAUC比較。
【
図3】
図3は、3人の薬物ナイーブのパーキンソン被験者からの対照ガーゼ及びPDガーゼのGC-MSクロマトグラムからのオルファクトグラムを示し、赤色の陰影領域で重ね合わされたブランクガーゼは、リアルタイムGC-MS分析と臭気ポートを用いたにおいとの間の重複を示す。図は、10分~21分の間の保持時間を示し、スーパースメラーは、様々なピークに関連した臭いを記載した。19.2分~21分の間の強調された領域(右に拡大)は、4つの化合物のうちの3つが臭気ポートの結果と重複するので特に興味深く、この領域で、スーパースメラーは、PDの匂いが非常に強いと記述した。各クロマトグラムにおいて最高ピークに対する正規化された相対ピーク強度によって示される場合には、上記ピークは、同じ時間窓ではブランクガーゼに見られない。
【
図4A】
図4は、ROCプロットを示す。(A.)両方のコホートと、対照とPDとの間で共通及び差異的であった5つすべての代謝産物とに由来する組み合わせ試料を用いて生成されたROCプロット。陰影領域は、複数の反復を伴う平衡サブサンプリング(balanced sub-sampling)を使用するモンテカルロ交差検証(Monte Carlo Cross Validation、MCCV)によって計算された95%信頼区間を示す。
【
図4B】
図4は、ROCプロットを示す。(B.)2つのコホート間で共通した(しかし、必ずしもスチューデントのt検定(Student’s t-test)を使用して差異的ではないか、又はコホート間で同じ方向に表されるわけではない)9つの代謝産物すべてを使用して生成されたROCプロット。各モデルは、すべての変数をランク付けするためにPLS-DAを用いて構築され、上位2つの重要な変数が開始のために選択された。次いで、各後続のモデルにおいて、ランク別のさらなる変数が加えられ、ROC曲線が作成された。信頼区間は、複数の反復を伴う平衡サブサンプリングを使用して、モンテカルロ交差検証(MCCV)によって計算された。
【
図5】
図5は、ブランクガーゼ対H
2O:ACN(50:50)で再構成された試料のプロットを示す。
【
図6】
図6は、ブランクガーゼ対H
2O:MeOH(50:50)で再構成された試料のプロットを示す。
【
図7】
図7は、ブランクガーゼ対H
2O:MeOH(50:50)で再構成された1日目の試料対2日目の試料(同じ被験者)のプロットを示す。
【
図8】
図8は、
図7のプロットの拡大領域(15分~24分)を示す。
【
図9】
図9は、XCMSベースの逆畳み込み(デコンボリューション)のプロットを示す。
【
図11】
図11は、メタノール9mLデータのプロットを示す。
【
図13】
図13は、PEG領域におけるブランクにおいてより高い特徴の数のプロットを示す。
【
図14】
図14は、PEG領域における試料においてより高い特徴の数のプロットを示す。
【
図15】
図15は、実施例3における抽出プロトコル最適化の結果を示すバイアルの写真を示す。(A.)トルエン:メタノール(20:80)再構成と対になったトルエンを使用するガーゼ抽出は、固体残渣の形成を示し、クロロホルムの添加に続く遠心分離(×2工程)は、透明な上清を得ることを可能にした。(B.)トルエンガーゼ抽出に続くトルエン:メタノール(50:50)再構成は、固体物質が形成されたことを示す。(C.)ガーゼスワブのFolch(ホルチ)抽出(メタノール:水:クロロホルム)及びその後の分離されたクロロホルム層の再構成は、濁った溶液が形成されたことを示し、この濁った溶液は、水:メタノール(80:20)で再構成せず、- クロロホルム添加の段階に続く超音波処理及び遠心分離は、再構成結果を改善したが、あまりに多くの試料がこのプロセスにおいて失われた。
【
図16】
図16は、ヒト皮脂のPSI-MS分析及びそれから記録された質量スペクトルの概略図を示す。
【
図17】
図17は、Whatman42及びWhatman1から記録されたPSI-MSデータの比較を示す。(A)全イオンクロマトグラムとして。(B)平均質量スペクトルとして。
【
図18(1)】
図18は、(A)異なる診断イオンの到着時間分布を示すヒト皮脂から記録された全イオンクロマトグラム、(B)異性体構造の存在を示す単一イオンの到着時間分布、及び(C)ドリフト時間対m/zプロットを示す。赤色の点は等しいm/z値を表す。拡大画像挿入図は、同じ質量を有するが、異なるドリフト時間を有する種の存在を示す。
【
図18(2)】
図18は、(A)異なる診断イオンの到着時間分布を示すヒト皮脂から記録された全イオンクロマトグラム、(B)異性体構造の存在を示す単一イオンの到着時間分布、及び(C)ドリフト時間対m/zプロットを示す。赤色の点は等しいm/z値を表す。拡大画像挿入図は、同じ質量を有するが、異なるドリフト時間を有する種の存在を示す。
【
図19】
図19は、0.1未満のp値で統計的に重要である4つのm/z値についての箱ひげ図を示す。
【
図20(1)】
図20は、PD試料におけるドリフト時間スケールでのイオンの分離を示す、表7に示されるm/z値についてのm/z対ドリフト時間プロットを示す。対照試料では分離は観察されなかった。
【
図21】
図21:X軸=DF1、Y軸=DF2。主成分判別因子分析(principal component discriminant factor analysis、PC-DFA)スコアプロットは、TD-GC-MSを用いて検出されたm/z値に基づく3つの別個のクラスターを示す。前駆参加者は、DF1にわたる明確なクラスターであるが、PDと対照との間にDF2にわたる小さな差異が現れる。サポートベクターマシンを使用して、これらのデータから機械学習を実行し、一個抜き(リーブワンアウト)アプローチによって分類を生成した。モデルはアウトオブバッグサンプル(学習データとして扱われなかったデータ)に対して試験された。
【
図22】
図22は、A)タッチアンドロール移動(touch and roll transfer)及びB)100%EtOH中での迅速抽出を使用して皮脂から収集された質量スペクトルを示し、タッチアンドロール移動の場合におけるより高い質量の分子(m/z1200~2000の間)の存在を明確に示す。
【
図23】
図23は、14Daの差を有するピークのエンベロープを示す、ペーパースプレーイオン化を使用して皮脂から収集された拡大された(m/z800~1000)質量スペクトルを示す。
【
図24(1)】
図24は、各クラスの人々によって産生された皮脂の分子組成の有意差を示す、PD、対照、及び前駆の試料についての三次元DT対m/zプロットを示す。赤色矢印は、PD試料及び前駆試料の場合に特定の分子種が観察された特定のドリフト時間を示すが、これは対照参加者の場合に存在しなかった。
【
図25】A)選択されたイオン(m/z843.7074)についての抽出された到着時間分布、B及びC)10.43及び6.67msにおけるドリフト時間ピークからの対応する平均質量スペクトル。D)2価に荷電したピークがダイマー種に対応することを示す拡大された質量スペクトル。
【
図26(1)】
図26は、標準脂質A)L-α-ホスファチジルコリン、B)L-α-ホスファチジルセリン(ナトリウム塩)、及びC)18:1カルジオリピンのタンデム質量分析データを示し、特定のためのフィンガープリントとして頭部基のフラグメント化を示す。
【
図26(2)】
図26のD~F)は、皮脂試料からの選択されたm/z値(それぞれ760.00、839.75、865.77)のMSMSを示す。これらの選択されたイオンはすべて、m/z202.23にフラグメント化する。G)皮脂のMSMSスペクトルを示す。この際、ソースパラメータは、親イオンからm/z202.23フラグメントを作り出すためのソース内フラグメント化に続く、さらなるフラグメント化のために娘イオンの単離を得るように設定された。Dの挿入図は、皮脂から収集された拡大質量スペクトルを示し、化学式C
42O
8H
83PNを有するホスファチジルコリンとの正確な質量マッチを示す。
【
図27】
図27は、m/z1500~1700領域における選択されたイオンのMS
2スペクトルを示す。
【
図28(1)】
図28は、PD試料(A及びB)及び対照試料(C及びD)についての三次元DT対m/zプロットを示し、パーキンソン病を有する人々によって産生される皮脂の分子組成の有意差を示す。赤色矢印は、PD試料の場合に特定の分子種が観察された特定のドリフト時間を示すが、これは対照には存在しなかった。
【
図28(2)】E)及びF)低ドリフト時間ピーク及び高ドリフト時間ピークにそれぞれ対応する質量スペクトル。エンベロープにおけるピークは、14Da(Fにおいて)及び7Da(Eにおいて。2価に荷電している)である。ラベルa、b、c、及びdは、エンベロープにおけるそれぞれの一連のピークを表す。
【
図29】
図29は、参加者コホートによる臨床的特徴の概要を示す。
【
図30】
図30は、COVID-19陽性(n=30)対陰性(n=37)の特徴のボルケーノプロット(volcano plot)を示し、ラベルされた特徴はMS/MSによって検証され、点は有意性にスケーリングされている。
【
図31】
図31は、トリグリセリドレベルに対する診断指標の箱ひげ図を示す。
【
図32】
図32は、COVID-19陽性対陰性(全参加者)についての混同行列を示す。
【
図33】
図33は、COVID-19陽性/陰性によって分類された67人の参加者のPLS-DAプロットを示す。
【
図34】
図34は、異なる集団サブセットについてのモデルパラメータの概要を示す。
【
図35】
図35は、COVID-19陽性対陰性(高血圧を有する参加者)についての混同行列を示す。
【
図36】
図36は、COVID-19陽性/陰性の、高血圧を有する15人の参加者についてのPLS-DAプロットを示す。
【
図37】
図37は、異なるサブグループPLS-DAモデルに対する共通性によってランク付けされたVIPスコアのヒートマップを示す。
【
図38】
図38は、本研究で使用された質量分析計の動作条件を示す。
【
図39】
図39は、COVID-19陽性対陰性(高コレステロールを有する参加者)についての混同行列を示す。
【
図40】
図40は、COVID-19陽性/陰性による、高コレステロールについて処置された19人の参加者についてのPLS-DAプロットを示す。
【
図41】
図41は、COVID-19陽性対陰性(IHDを有する参加者)についての混同行列を示す。
【
図42】
図42は、COVID-19陽性/陰性による、IHDについて処置された11人の参加者についてのPLS-DAプロットを示す。
【
図43】
図43は、COVID-19陽性対陰性(T2DMを有する参加者)についての混同行列を示す。
【
図44】
図44は、COVID-19陽性/陰性による、T2DMについて処置された19人の参加者についてのPLS-DAプロットを示す。
【
図45】
図45は、COVID-19陽性対陰性(スタチンを摂取している参加者)についての混同行列を示す。
【
図46】
図46は、COVID-19陽性/陰性による、スタチンで処置された15人の参加者についてのPLS-DAプロットを示す。
【
図47】
図47は、実施例8においてさらに論じられる追加のデータを示す。
【
図48】
図48は、実施例8においてさらに論じられる追加のデータを示す。
【
図49】
図49は、実施例8においてさらに論じられる追加のデータを示す。
【
図50】
図50は、実施例8においてさらに論じられる追加のデータを示す。
【
図51】
図51は、実施例8においてさらに論じられる追加のデータを示す。
【
図52】
図52は、実施例8においてさらに論じられる追加のデータを示す。
【実施例】
【0047】
実施例1 - パーキンソン病についての揮発性バイオマーカーの存在について皮脂を評価する実験
研究参加者
本研究の参加者は、25の異なるNHSクリニックで行われた全国的な動員プロセスの一部であった。これらのサイトから参加者を無作為に選択した。本研究は3段階で行った。最初の2つの段階(発見及び検証)は、30試料(下記表1に示す、対照、投薬(薬物療法)を受けているPD参加者及び薬物ナイーブPD被験者の混合体)からなった。
【0048】
【0049】
第1のコホートをボラチローム発見のために使用し、第2のコホートを、第1のコホートにおいて発見された有意な特徴を検証するために使用した。3人の薬物ナイーブPD参加者からなる第3のコホートを、スーパースメラーからのにおい分析のために使用した。これらの参加者のメタデータ解析を下記表2に示す。
【0050】
【0051】
【0052】
試料採取
サンプリングは、各被験者を医療用ガーゼで上背部を拭くことによって行った。参加者の上背部の皮脂試料を含むガーゼをバックグラウンド不活性プラスチックバッグに密封し、中央施設に輸送し、そこで分析日まで-80℃で保存した。
【0053】
TD-GC-MS分析
本技術の説明
ダイナミックヘッドスペース(DHS)GC-MS法は、PD罹患個体の皮膚を拭い取る(スワイプする)ために使用されるガーゼの分析のために開発された。DHSは、ゲステル(GERSTEL)多目的サンプラー(MultiPurpose Sampler、MPS)を使用する後続のGC適用のための試料調製機能である。DHSは、液体又は固体の試料からVOCを抽出し濃縮する。試料は、ヘッドスペースが吸着剤管を通る不活性ガスの制御された流れでパージされている間にインキュベートされる。抽出及び予備濃縮が完了すると、吸着剤管は、ゲステル昇温脱離ユニット(Thermal Desorption Unit、TDU)を使用して自動的に脱離される。次いで、分析物はゲステル冷却注入システム(Cool Injection System、CIS)PTV注入器に凍結集束された後、分析のためにGCに移される。
【0054】
PD分子シグネチャーをPDのにおいに相関させるために、同じ設定をゲステル嗅覚検出ポート(Olfactory Detection Port、ODP)と組み合わせて使用した。ODPは、臭いのある化合物がにおいによってGCから溶出するので、臭いのある化合物の検出を可能にする。実際、ガス流は、選択した検出器(本研究の場合MS)とODPとの間でカラムを出る際に分割され、2つの分析ツール上で同時検出を可能にする。次いで、追加のにおいプロファイル情報を取得することができる。音声認識ソフトウェア及び強度登録は、クロマトグラムの直接注釈を可能にする。
【0055】
方法の詳細
ガーゼを20mLのヘッドスペースバイアルに移し、次いでDHS-TDU-GC-MSによって分析した。DHS予備濃縮工程については、試料を60℃で5分間インキュベートした後、捕捉工程を進めた。捕捉は、40℃に保ったTenax(登録商標)TA吸着剤管(ゲステル、ドイツ)を通して500mLの試料ヘッドスペースを50mL.min-1でパージして行った。窒素をパージガスとして使用した。分析物を放出するために、吸着剤トラップをスプリットレスモードでTDUにおいて脱離させた。TDUを30℃で1分間保持し、次いで720℃.min-1で250℃まで上昇させ、5分間保持した。脱離した分析物を、CIS注入器内で凍結集束させた。80mL.min-1の通気流を使用し、10のスプリット比を適用して、溶媒ベントモードでCISを操作した。初期温度を10℃で2分間保持し、次いで12℃.s-1で250℃まで上昇させ、10分間保持した。GC分析は、EIモードで動作する高効率ソース(HES)を備えたアジレント(Agilent) MSD 5977Bに連結されたアジレントGC 7890Bで実施した。分離は、アジレントHP-5MS Ultra不活性30m×0.25mm×0.25μmカラムで行った。カラム流量を1mL.min-1に維持した。オーブンランプを以下のようにプログラムした:40℃で5分間保持し、10℃.min-1で170℃まで、8℃.min-1で250℃まで、10℃.min-1で260℃まで昇温し、260℃で2分間保持し、合計実行時間は31分間であった。MSへの移送ラインは300℃に保った。HES源を230℃に保ち、四重極を150℃に保った。30~800m/zの質量範囲についてスキャンモードでMSDを操作した。オルファクトメトリー(嗅覚検査)アプローチについては、クロマトグラフィーフローを、アジレントテクノロジー・キャピラリフロー・テクノロジー(Agilent Technologies Capillary Flow Technology)(メイクアップガスを備えた三方スプリッタプレート)を用いて質量分析計とゲステルOlfactory Detection Port(ODP3)との間で分割した。ODP3移送ラインは100℃に保ち、ノーズコーンの湿度を一定に維持した。
【0056】
データ前処理及び逆畳み込み
TD-GC-MSデータを、ProteoWizardを使用してオープンソースmzXMLフォーマットに変換した。各コホートデータを、Rで書かれた組織内XCMSスクリプトを用いて別々に逆畳み込みした。フラグメントスペクトルを、Golmデータベース、NISTライブラリー及びFiehn GCMSライブラリーに存在する化合物スペクトルと照合することにより、逆畳み込みした分析物に推定特定を割り当てた。各コホートについて得られたマトリクス(行列)は、各試料についての変数及びそれらのそれぞれのピーク下面積からなっていた。交絡変数を考慮するために、すべてのデータを年齢及び総イオン数について正規化した(表2参照)。ウィルコクソン-マン-ホイットニー(Wilcoxon-Mann-Whitney)分析、PLS-DA、及び記載されるROC曲線の生成の前に、データを対数スケーリングし、パレート(Pareto)スケーリングした。
【0057】
結果
本研究では、試料ヘッドスペースからのVOCを2つのコホートで測定した:それぞれが30人の被験者からなる(属性については表2を参照のこと)、メタボロミクスを用いたバイオマーカー発見について示唆されるような[21]「発見」コホート及び「検証」コホート。3人の薬物ナイーブPD参加者からなる第3のコホートを、臭気ポートを介した人間のスーパースメラーと併せた質量分析に使用した。この主な研究の証拠は、パーキンソン病における皮膚ボラチロームの初めての説明を提供する。
【0058】
上記のように質量分析データを収集し、逆畳み込みし、前処理した。部分最小二乗判別分析(PLS-DA)モデルを、発見コホートデータを用いて構築した(
図1)。このモデリングは、5分割交差検証(86%の平均の正しい分類率(CCR))並びに26の並べ替え検定(68%の平均並べ替えCCR、83%の平均CCR、p値<0.1)で検証した。分類に寄与する変数(n=17)を、射影における変数重要度(variable importance in projection、VIP)スコア(VIP>1)を使用して選択した。(発見段階とは異なる集団からの)検証コホートデータにおいて測定されたボラチロームを、これらの発見されたバイオマーカーの存在又は非存在について標的とした。17種の代謝産物のうちの9個が、検証コホートデータにおいても見出された(下記表3)。
【0059】
【0060】
これらの9種の共通のバイオマーカーを、さらなる分析及び統計学的検定のために選択した。本研究の発見及び検証コホートデータからのこれらの共通のバイオマーカーの性能を評価するために、受信者動作特性(ROC)分析を、発見コホート及び検証コホートの両方からのデータを用いて行った。ROC曲線及びウィルコクソン-マン-ホイットニー検定並びに個々の代謝産物についての倍率変化計算は、これらの9種の共通代謝産物のうちの4種が、発見コホートと検証コホートとの間でPDにおいて類似の発現を有し、それらの性能も、発見コホートと検証コホートとの間でAUCによって測定すると類似していたことを示す(下記表4及び
図2を参照)。
【0061】
【0062】
目的の特徴への同一性の帰属は、データ解析のためのMSI(Metabolomics Standards Initiative(国際メタボロミクス学会標準化委員会))ガイドラインに準拠した[22]。本発明者らが特定した特徴はすべてMSIレベル2であった[22]。ペリルアルデヒド及びエイコサンは、両方のコホートにおいてPDと対照との間で有意に異なっていた(p値<0.05)。ペリルアルデヒドはPD試料においてより低いことが観察されたが、エイコサンは有意により高いレベルで観察された。馬尿酸及びオクタデカナールは有意に異ならなかったが(p>0.05)、2つのコホート間のAUC(
図2a)及び箱ひげ図(
図2b)は同等であり、同様の傾向を示した。
【0063】
両方のコホートからの試料を組み合わせ、従って、バイオマーカーのこのパネルの性能を評価しながら、試料サイズを増加させ、より良好な検定力を提供した。ROC曲線は、平衡サブサンプリングを用いてモンテカルロ交差検証(MCCV)により作成した。MCCVのそれぞれにおいて、試料の3分の2を使用して、特徴の重要度を評価した。次いで、上位2つ、3つ、5つ、7つ及び9つの重要な特徴を使用して分類モデルを構築し、試料の残りの3分の1を使用してこれらを検証した。このプロセスを500回繰り返して、各モデルの平均性能及び信頼区間を計算した。分類及び特徴ランキングは、2つの潜在変数を用いるPLS-DAアルゴリズムを用いて行った(
図4)。組み合わせたデータからの結果は、データにおける信頼度(表1のp値及び
図1の信頼区間)の増加を示す。臭気ポートから得られたオルファクトグラムを全イオンクロマトグラムに重ね合わせると(
図3)、多くの関心領域(ROI)が特定された。エキソソーム及びエンドソームの両方において、被験体間で個体差があるため、知覚されるにおいは参加者間でばらつきがあると予想される。しかしながら、いくつかのROIは、試料間で一貫して類似しており、PD個体間の類似性をさらに示した。クロマトグラフィー実行の19分から21分の間のROIは特に興味深い。というのも、その保持ウィンドウの間の分析物の混合物に関連するにおいが「非常に強い」及び「麝香臭がする」 - PDの匂い - と記載されたためである。これは、2つのコホートの間の4種の共通揮発性物質のうち3種、すなわち馬尿酸、エイコサン及びオクタデカナールが検出された領域と同じ領域である。これらの揮発性物質の3つすべてがPD被験者において上方制御されたことにも留意すべきである。これは、これらの化合物の1つ以上の存在がPDの匂いと関連しうることを示す可能性がある。
【0064】
他者から分ける1つの基礎因子(すなわちPD)を有している異なる人々に由来する3つの独立したデータセットから得られたこれらの結果から、いくつかの揮発性特徴物が対照とPD参加者との間で有意に異なることが判明したということ明らかになった。投薬を受けているPD参加者と薬物ナイーブPD参加者との間に有意差は観察されず、これは、分析されたボラチロームの大部分が薬物代謝産物を含有しない可能性があるか、又はPD投薬と関連しうる高濃度の薬物代謝産物を皮脂が欠いている可能性があることを示す。ペリルアルデヒド及びオクタデカナールは、通常、植物代謝産物又は食品添加物として観察される。不規則な皮脂分泌により、これらの脂質様疎水性代謝産物はPD被験者の皮膚上で変化する可能性があると仮定することができる。そのような効果は、皮脂中のエイコサン等の摂食由来代謝産物の排泄の調節不全をもたらす代謝の直接的な変化に起因する可能性があり、又は馬尿酸等の代謝産物の産生の変化を引き起こす皮膚微生物叢に影響を及ぼす可能性がある[23]PD皮膚の代謝変化に起因する可能性がある。これらの観察された効果は、PDの生理学的症状に対する間接的又は二次的な観察であってもよい。本研究は、PD患者からの皮脂の包括的分析の可能性を強調し、個体がその匂いに基づいて非侵襲的にスクリーニングされることができるという可能性を高める。
【0065】
実施例2 - ガーゼ - メタボロミクスのための抽出プロトコルの最適化
ガーゼ含浸試料の抽出プロトコルを最適化及び評価するために実験を行った。
【0066】
抽出手順
抽出のために、9mLのトルエンを添加し、ファルコンチューブを1時間振盪し、ガーゼを金属ワイヤー上に掛け、10分間(1500rpm)遠心分離し、乾燥ガーゼを除去した。各抽出のために、溶媒を2×エッペンドルフ(1×LC、1×GC)に分割し、speedvacを用いて乾燥させた。
【0067】
比較
以下の比較を評価した。
・ブランクガーゼ対H2O:ACN(50:50)で再構成された試料
・ブランクガーゼ対H2O:MeOH(50:50)で再構成された試料
・ブランクのガーゼ対1日目の試料対2日目の試料(同じ被験者)
・ブランク対試料(再懸濁法によらない)
【0068】
合計4つの試料及び2つのブランクを試験した。抽出比較実験の詳細を下記表5に示す。
【0069】
【0070】
図5~
図14は、比較実験の結果を示す。特に、
図13は、PEGバックグラウンドがシグナルを妨害している場合、ここでははるかに多くの代謝産物が見られると予想されることを示す。というのも、本発明者らは、このグラフにおいて2倍高い、すなわち、非常に高いノイズとみなされる任意のピークをプロットしているからである。シグナルは、高いPEGが疑われる同じRT領域においてより高いようである。これは、あらゆるガーゼ関連のバックグラウンド問題を安全に排除できることを示す。
【0071】
図14は、およそ10個の特徴がPEGによってマスキングされているとすると、マスキングされていない特徴が約100個あり、すなわち、シグナル対ノイズ比ははるかに高く、ガーゼから脱落しうる任意のPEG様汚染は、この抽出によって回避することができるということを示す。
【0072】
実施例3 - 抽出プロトコルの最適化
異なる溶媒を用いて抽出プロトコルを最適化するために実験を行った。
【0073】
トルエン抽出
トルエンは、ガーゼ残渣の除去のためのフィルターと適合しないものであることが明確であった。トルエンは、とりわけそのような高容量において、speedvacで除去することができない。トルエンは、検査室における一般のspeedvacにおいてシールを損傷することが判明した。
【0074】
とりわけ、手順を高い試料数に合わせるするために、ヒュームフードにおける蒸発は実現可能ではなく、共用の検査室において長期間にわたってエッペンドルフを(蓋をせずに)放置することは良好な実務ではない。溶媒の除去を加速するためにヒートブロックを使用することが評価されたが、これは、より低い温度で妥当な速度まで蒸発を加速せず、高温は、試料の完全性に有害である可能性があった。
【0075】
これらの問題により、再構成組成物は最適化が困難であり、試料間で一貫していなかった。
【0076】
図15Aは、トルエン:メタノール(20:80)における再構成中に固体残渣が生成したことを示す。クロロホルムの添加に続く遠心分離(×2工程)により、透明な上清が得られた。
【0077】
図15Bは、トルエン:メタノール(50:50)中での再構成時に固体物質が生成したことを示す。
【0078】
Folch抽出
この溶媒の組み合わせは、ガーゼ残渣を除去するためのフィルターと適合しないことが評価された。LC-MS用のクロロホルム層は水:メタノール(80:20)に再構成せず、濁った溶液を形成した。
【0079】
再構成中のクロロホルムの添加を評価したが、あまりに多い体積が必要であるため実行可能ではなく、遠心分離サイクルの回数を掛けると、あまりに多くの試料が失われた。
【0080】
メタノール抽出
この抽出プロトコルにおいて、9mL、15mL及び20mLの溶媒抽出体積を試験した。より少ない溶媒が最高のシグナルをもたらし、ガーゼサイズに起因して最低9mLがガーゼが吸収する溶媒の体積として必要であることが確立された。
【0081】
通常、有機溶媒中で抽出された試料は、有機溶媒に戻して再構成することができる。例えば、メタノール中で抽出され、次いで乾燥されてペレットを形成した試料は、通常、メタノール中で、及びエタノール、アセトニトリル又はイソプロパノール中でも再構成されるはずである。しかしながら、本発明者らは、本発明者らのプロトコルによって抽出された脂質及び脂質様分子が、長期間のうちにメタノール下で不安定化する傾向があることを発見した。メタボロミクス又はLC-MS分析において、標準は、抽出物を水及びメタノールの様々な組み合わせ(%)で再構成することである。しかしながら、これは本研究の分析物を不安定化し、短時間後に上記写真に示される固体残渣が形成した。これは、試料を周囲温度で冷たいトレイ上に保存した場合でも再現された。有機溶媒の混合物を評価したところ、メタノール及びエタノール(50:50v/v)が再構成された皮脂を安定化する。これは、皮脂から抽出された分子が非定型的であり、溶液中に留まるために有機-水性混合物又は単一の有機溶媒とは対照的に有機溶媒の組み合わせを必要とすることを示す。
【0082】
実施例4 - 好ましい抽出プロトコル
それゆえ、以下の抽出プロトコルが最良の性能を有することが確立された。
【0083】
Q-Tip抽出
1. QTipの木材ステムを2mLのエッペンドルフにスナップ嵌めする
2. 1mLのMeOHを加える
3. 10秒間ボルテックスする
4. 10分間超音波処理する
5. QTIPを除去する
6. 5分間遠心分離する
7. 800μLをピペットで新しいエッペンドルフに入れる(2つの画分を必要とする場合は半分に分割する)
8. speedvac濃縮器中で約6時間乾燥させる
9. -80℃の冷凍庫で保存する
【0084】
ガーゼ抽出
1)ピンセットを使用して、ガーゼを50mLのファルコンチューブに入れる
2)9mLのメタノールを添加し、ガーゼがチューブの底に着くまで振盪する
3)10秒間ボルテックスする
4)30分間超音波処理する
5)ガーゼチューブからメタノールをピペットで抽出した
6)シリンジ及びフィルターを使用して抽出溶媒を新しいチューブに入れる - 回収約7mL
7)これをエッペンドルフ中で3×2mLの画分に分ける
8)speedvac濃縮器を使用して約10/12時間乾燥させる
8)-80℃で保存する
【0085】
実施例5 - パーキンソン病診断のためのヒト皮脂のペーパースプレーイオン化質量分析
研究参加者
皮脂を用いたペーパースプレーイオン化質量分析(PSI-MS)の最初の方法開発のために、健常対照由来の試料を使用した。ヒト皮脂から収集した質量スペクトルの満足のいく再現性を達成した後、当該方法を、パーキンソン病の参加者からの試料を使用してさらに試験した。この研究の参加者は、英国全体にわたって28の異なるNHSクリニックで行われた動員プロセスの一部であった。(パーキンソン病研究にも関与する)地域の診療所から収集した、より大きい動員ドライブからのサブセットをこの研究に使用した(PD試料65個及び対照試料52個)。
【0086】
試料採取
皮脂試料を、医療用Q-tipスワブを用いて参加者の上背部/腰部から非侵襲的にスワブした。次いで、皮脂試料を伴うQ-tipスワブをそれらの個々のキャップ内に固定し、密封エンベロープ内でマンチェスター大学(University of Manchester)の中央施設に輸送し、そこで分析日まで-80℃で保存した。
【0087】
方法:ペーパースプレーイオン化質量分析(PSI-MS)
すべてのPSI-MS実験について、市販のWhatman濾紙(グレード1及び42)を紙基材として使用した。皮脂試料を、穏やかな摩擦によってQ-tipスワブから紙基材に移した。試料移動後、紙を三角形に切断した(底辺5mm、高さ10mm)。次いで、ピンセットを使用して、この三角形の紙を銅製のアリゲータークリップに慎重にクリップ留めした。紙の注意深い取り扱いは、汚染を回避するために重要であった。使用前にアセトン中で超音波処理することによって銅クリップを洗浄した。各試料について、新しいクリップ及びピンセットを使用して、試料間の交差汚染を回避した。次いで、クリップを、PSI-MS測定のために既存の質量分析計に適合させた自作のペーパースプレーホルダーに接続し、その後、調節可能なステージを使用してホルダーをMS注入口の前に配置した。ホルダーは、紙の先端がMS注入口から5~7mmの距離にあるように調整した。三角形の紙を所望の位置に置いた後、クリップを通して2.5~3kVの範囲の高電圧をそれに印加した。高電位に保持した紙を極性溶媒で溶出すると、紙の先端にテイラー(Taylor)コーン形成が観察され、それに直ちに機器ソフトウェアで観察可能なm/zシグナルが続いた。質量スペクトルはすべて50~2000m/zの範囲で記録した。各PSI-MS実験の主要な機器パラメータは、キャピラリ電圧3kV、ソース温度100℃、サンプリングコーン30V及びソースオフセット40Vとして設定した。脱溶媒又はコーンガスは使用しなかった。
【0088】
内部標準の使用
異なる試料間のペーパースプレーの再現性をチェックするために、内部標準を使用した。これらの実験のために、3.5μLの内部標準溶液を三角形の紙の上にスポットし、周囲環境で空気乾燥させた。乾燥した三角形の紙を、前の段落に記載したのと同じ方法に従って皮脂試料のPSI-MS測定に使用した。
【0089】
データ処理
データはウォーターズ(Waters)専用フォーマットで記録した。試料当たりの総分析時間は、2分で120回のスキャンであった。これらの120スキャンを単一の結合スペクトルとして集約した。結合されたスペクトルは、各行が測定されたm/z値及び絶対イオンカウントを有するように、各試料について表形式で記録した。これらのデータは、実験におけるすべてのファイルについて生成した。次いで、データを、各ファイルについて個別に.csvフォーマットで保存した。
【0090】
オープンソース統計ソフトウェアRを用いてさらなるデータ処理を行った。組織内スクリプトは、.csvファイルをデータフレームとしてRにインポートするために書かれた。各m/zは、2つの工程を使用してビニングし(bin)、まず、m/zが試料においてユニークである場合、それは保存し、m/zが以前の試料においてすでに検出された場合、それは組み合わせた。得られたデータフレームは、データセット全体にわたって検出されたすべての可能なm/z値を有していた。次の工程において、m/z値を、機器測定値の最も正確な表現、すなわちダルトン質量の小数点以下4位までに丸めた。最後に、連続するm/z値は、それらが同一である場合、同じイオンを表わすと考え、それらのピーク面積を合計した。得られたデータを、各行がm/z値及び総イオン数を示し、各列が試料を表す単一のマトリクスに組み合わせた。
【0091】
データ解析
データ再現性及び品質は、ペーパースプレーの内部標準ピーク強度を用いて評価した。内部標準参照ピークは、すべての試料において検出された。データ品質は、内部標準ピーク比の分散係数によって決定した。一元配置t検定を使用して、対照試料及びPD試料についての各変数の平均間の有意差を決定した。p<0.05のあらゆる変数を有意とみなし、推定特定のために進めた。m/z値をオンラインデータベース - 20ppmの質量精度でHuman Metabolome Database(ヒトメタボロームデータベース、HMDB)及びLipidMap中の値と照合することによって、推定特定を行った。
【0092】
結果及び考察
図16は、PSI-MS技術を用いてヒト皮脂試料を分析するための実験ワークフローの概略図を示す。Whatmanグレード1及び42をPSI-MS分析に使用し、両方の紙が同じ結果を示した(
図17)。安定かつ再現可能なスプレーを生成するために、異なる溶媒及び溶媒混合物を試験した。かなりの数の試験の後、4:1のH
2O/EtOHを、この特定の研究における最良の結果のための最適化された溶媒系として選択した。紙の先端とMS注入口との間の距離も試行錯誤によって最適化した。MS注入口から最適な距離に紙の先端を置いた後、4.5μLの溶媒で溶出した。質量スペクトルを、2秒/スキャンのスキャン速度で2分間記録した。合計60回のスキャンをさらなるデータ解析に使用した。
図16の挿入図は、ヒト皮脂から収集した代表的な質量スペクトルを示す。ヒト皮脂の質量スペクトルは、1価の荷電ピークからなるより高い質量領域(m/z1200~1800)における3つのエンベロープの存在を示す。PSI-MSは、血液、尿等の生体液中に存在する小分子を検出するために使用されてきた。この研究は、初めて、皮脂がPSI-MSのためのサンプリング生体液として使用できること、及びPSI-MSが<1200m/zの有意に高い分子量を有する皮膚表面分子の検出を可能にすることを示す。イオンモビリティ質量分析(IM-MS)も、これらの高分子量代謝産物をさらに評価するために、具体的には、低分子量脂質について以前に報告されている(NATURE COMMUNICATIONS|(2019)10:985|https://doi.org/10.1038/s41467-019-08897-5)ような立体配座異性体及び同重体構造異性体を分割するために用いた。
図18は、イオンモビリティと質量分析の組み合わせから見出すことができる向上した分離及び診断の特徴(より高い及びより低い質量領域の両方)の例を示す。
【0093】
図18Aは、異なるイオンの到着時間分布に関する全イオンクロマトグラムを示す。矢印は、ドリフト時間に対する生成されたイオン(脂質として特定される)の明確な分離を示す。
図18Bは、単一イオン(m/z689.1)の到達時間分布を示す。単一のm/z値に対するドリフト時間スケール上の2つのピークの存在は、異性体種の存在の可能性を示す。
図18Cは、ドリフト時間対m/zプロットを示し、ドットはm/z値を表す。挿入図中の(それぞれ1及び2と標識されたボックス中の)ドットは、ドリフト時間スケールで分離されたm/z689.1(ボックス1で強調表示)及びm/z1394.8(ボックス2で強調表示)の拡大図を示す。このデータは、PSI-MSと組み合わせたIMが、ヒト皮脂試料から生成された気相イオンを分離するために使用することができることを示す。
【0094】
同じ条件下ですべての参加者試料からの質量スペクトルを記録した後、データを処理し、先に概説したように統計解析を行った。表6は、本研究のデータ内の統計的に重要な分子の可能性のある分子種とともにm/z値を示す。興味深いことに、統計的に重要な分子のリストにおいて優勢であるカルジオリピン(表6においてCLとして表される)として知られる一群の分子を特定することが可能であった。
【0095】
【表6(1)】
【表6(2)】
【表6(3)】
【表6(4)】
【0096】
これらの分子を考慮して、PD試料と対照試料との間で比較研究を行った。これらの分子はPD皮脂において下方制御されることが観察された。
図19は、PD試料と対照試料との間のm/z1668及び1520(推定上カルジオリピンとして特定される)並びにm/z1452及び1454(推定上ガングリオシドとして特定される)の比較を示す。
【0097】
IM-MSデータを詳細に見ると、PD試料において上方制御されたいくつかの種を特定することができた。表7は、これらの種のm/z値及びそれぞれのドリフト時間を示す。
【0098】
【0099】
図20は、上記イオンについてのm/z対ドリフト時間プロット(データは、34個のPD試料及び30個の対照試料にわたって平均した)を示す。矢印は、PD試料(対照では存在しない)において同じm/z値を有するが、異なるドリフト時間を有するイオンを示す。このデータは、パーキンソン病診断のためのイオンモビリティと組み合わせたPSI-MSの可能性を示す。
【0100】
実施例6 - 昇温脱離ガスクロマトグラフィー質量分析(TD-GC-MS)
計測
ガーゼスワブ(HypaCover)を20mLヘッドスペースバイアルに移し、ニトリルグローブを着用しながらGilsonピペットチップを用いて押し下げた。Gertal MultiPurpose Sampler(MPS)を揮発性化合物の濃縮に使用した。アームは、試料をトレイからダイナミックヘッドスペース(DHS)ポートに輸送し、そこで試料をインキュベートし、ヘッドスペースを通して不活性ガスをパージして揮発性化合物を捕集する。Tenax吸着剤管(ゲステル、ドイツ)をバイアルの上方に置き、パージガスを通過させて揮発性分析物を捕捉する。次いで、Tenaxを、昇温脱離ユニット(TDU)が位置するGC注入口に輸送する。吸着剤管は加熱によって脱離され、揮発性化合物は冷却注入システム(CIS)に入り、このシステムは迅速に加熱して分析物がGCカラムに均一に注入されることを可能にする。本研究のQCは、匂い付き分子の混合物であり、その5μLをヘッドスペースバイアルにピペットで入れた。本発明者らは、試料をプールすることができなかったので、QCを使用して機器の安定性をチェックした。
【0101】
方法の詳細
DHSにおいて、試料をインキュベートし、揮発性化合物を濃縮した。バイアルを80℃で10分間加熱した。その後、流量70mL/分で1000mLの窒素ガスでパージした。Tenax吸着剤管を40℃に保った。次いで、Tenaxを、スプリットレスモードにあるTDUに輸送した。分析物は、30℃で1分間、次いで720℃/分の速度で280℃の温度まで昇温しこの温度で5分間保持する温度プログラムで脱離されてCISに放出された。CISを、80mL/分の流量及び10のスプリット比を使用して溶媒ベントモードで操作した。CISの温度は、10℃で0.01分間であり、12℃/秒で280℃まで上昇させ、5分間保持した。
【0102】
分析に用いたGCは、VF-5MSカラム(30m×250μm×0.25μm)及びキャリアガスとしてヘリウムを用いるアジレント7890Aであった。カラム流量は1ml/分であり、オーブンプログラムは、40℃で1分間、25℃/分で180℃まで、8℃/分で240℃まで昇温し、この温度で1分間保持し、20℃/分で300℃まで昇温し、この温度で2.9分間保持した。総ランタイム(実行時間)は21分であった。GCを、EIモードで作動するアジレント5975 MSに連結した。移送ラインを300℃に保ち、ソースを230℃に、四重極を150℃に保った。スキャンした質量範囲は30~800m/zであった。本研究のQCは、可能な限り短い方法で実行しながら、シグナル及び分離を最適化するための変更された方法で実行した。DHSを80℃で2分間インキュベートし、250mLのガスを50mL/分で用いてパージした。TDUでは、温度プログラムは、30℃で1分間、次いで600℃/分で250℃まで上昇させ、この温度で3分間保持するというものであった。CISは60mL/分の流量及び20のスプリット比を有し、温度は、10℃で0.1分間、10℃/秒で240℃まで上昇し、この温度で2分間保持した。オーブンプログラムは、40℃で1.5分間、24℃/分で280℃まで昇温し、2分間保持した(合計13.5分間)。スキャンした質量範囲は30~550m/zであり、移送ラインは280℃に保持した。
【0103】
データ処理
TD-GC-MSデータを、ProteoWizardを使用してオープンソースmzMLフォーマットに変換した。データセットを、RのeRahパッケージを用いた組織内スクリプトを使用して逆畳み込みしたところ、検出されたピークに帰属された206個の特徴が得られた。Golmデータベースを用いてフラグメントスペクトルを化合物スペクトルと照合することにより、逆畳み込みした分析物に推定特定を帰属させた。得られたマトリクスは、試料当たりの変数及びそれらの対応するピーク面積を含んでいた。すべての試料の5%超に存在しなかった特徴を除去した。得られたデータを総イオンカウントに対して正規化し、対数変換したあとで統計解析を行った。
【0104】
結果
TD-GC-MSを使用して生成されたすべてのデータを使用して、各m/zを別々のイオン種として扱い、クラスタリング技術を使用して、群内の根底にある類似性及び群間の相違性を特定した。教師あり多変量アプローチである主成分判別因子分析を使用した。このアプローチでは、まず主成分を計算してデータの次元を縮小し、続いてこれらの成分の判別分析を行う。これは、分散を維持しながら次元削減をもたらし、識別力は、因子分析を使用してチェックされる。
図21は、観察される3つの異なる表現型の3つの別個のクラスターを示す。これは、TD-GC-MSを用いて測定された代謝産物/脂質が、前駆、対照及びPDの表現型において異なる特性(強度又は存在/不存在)を有することを示す。これらのデータを用いて機械学習モデル、すなわちサポートベクターマシン(Support Vector Machines、SVM)を作成した。目的は、参加者の皮脂試料のクラスを決定する際に、これらの測定されたm/zの分類精度を決定することであった。表から、この測定量は71%及び74%の正しい分類率で、前駆試料と対照試料及び前駆試料とPD試料とを区別できることが明らかである。これは、前駆症状を有するがPDを有さない参加者を皮膚スワブによって明確に区別できることを示す。なお、表現型によって明確に異なる
図22及び23に示される主に高いm/z種があった。
【0105】
実施例7 - ペーパースプレーイオン化及びイオンモビリティ質量分析(PSI-IM-MS)
研究参加者
最初に、健常対照由来の皮脂試料を使用して、ペーパースプレーイオン化-イオンモビリティ質量分析(PSI-IM-MS)のための方法を開発した。このプロジェクト(IRASプロジェクトID191917)の倫理的承認は、NHS Health Research Authority(医療研究機構)(REC参照番号:15/SW/0354)によって得られた。臨床試験データセットについては、皮脂試料をPD(15)、対照(14)から収集し、前駆症状参加者(15)をInnsbruck(インスブルック)の収集サイトで集めた。
【0106】
試料採取
皮脂試料を、参加者の上背部から医療用Q-tip及びガーゼスワブで採取した。次いで、試料を含むスワブをその個々のキャップ/ジップロック(登録商標)バッグ(ガーゼの場合)内に固定し、密封された封筒内でマンチェスター大学の中央施設に輸送し、そこで分析日まで-80℃で保存した。
【0107】
機器設定
PSI MS測定のために、皮脂試料をQ-tipスワブから三角形の紙の上に穏やかに触れることによって移し、続いてピンセットを使用して銅製のアリゲータークリップに慎重にクリップ留めした。紙の注意深い取り扱いは、汚染を回避するために必須であった。PSI MSは、可動ステージに載置した自作のペーパースプレー源を用いて行った。三角形の紙を所望の位置に配置した後、2.5~3kVの範囲の高電圧をそれに印加した。その上昇した電位で極性溶媒で溶出すると、小さな荷電液滴の噴霧プルームが紙の先端で観察され、これを機器ソフトウェアにおいてm/zシグナルとして記録した。質量スペクトルはすべて、m/z50~2000の範囲で記録した。各PSI MS実験の主要な機器パラメータは、キャピラリ電圧3kV、ソース温度100℃、サンプリングコーン30V及びソースオフセット40Vとして設定した。脱溶媒又はコーンガスは使用しなかった。質量スペクトルを、2秒/スキャンのスキャン速度で2分間記録した。合計60回のスキャンをさらなるデータ解析に使用した。
【0108】
データ処理
同じ条件下ですべての参加者試料からのIM MSデータを記録した後に、Progenesis QI(ウォーターズ、英国、ウィルムスロー(Wilmslow))を用いて生データを逆畳み込みした。ピークピッキング、アラインメント、及び面積正規化を、パラメータのセットによって選択された、データセット内の最良の候補試料を参照して行った。ピークピッキング限界は、シグナル対ノイズ比とのバランスを保つために、デフォルトノイズレベルで自動に設定した。クロマトグラフィーピークの幅はこの直接注入データに適用しなかったが、しかしながら、注入の0.1分前及び注入の1.4分後のイオンは、再現性のあるシグナルのみを保持するために処理中に無視した。これらのパラメータを使用して、合計4150の特徴が見出された。生データから抽出された特徴は、Human Metabolome Database(HMDB)及びLipidMapsを用いた質量マッチを用いて注釈を付けた。
【0109】
方法
PSI MSを用いて皮脂試料の質量スペクトルを測定する再現性のある方法を、経験的アプローチを用いて開発した。方法開発の重要な部分は、Q-tipから紙基材への試料移動であった。2つの方法を試験した。まず、「タッチアンドロール」アプローチで三角形の紙に直接移動し、続いてそこからPSI MSを記録し、あるいはサンプリングしたQ-tipをエタノール(800μL)中で5秒間ボルテックス混合することによる急速溶媒抽出を行った。第2の場合において、PSI MSを、抽出した溶液から測定した。
図21は、これらの2つのアプローチを使用して収集した質量スペクトルを示し、これは、タッチアンドロール移動質量スペクトルにおけるより高い質量分子(m/z1200~2000の間)の存在を明確に示す(
図22B)。他方、これらの高質量分子は、溶媒抽出物に対応する質量スペクトルには存在しなかった(
図22A)。これには以下の2つの理由が推測できる。抽出時間は、存在するすべての代謝産物を完全に抽出するには短すぎたか、又はこれらのより大きい分子のより小さなフラグメントへの分解のためであった。従って、タッチアンドロールアプローチを、PSI MSを用いたすべてのさらなる皮脂分析のために選択した。
【0110】
ヒト皮脂の質量スペクトルは、より高い質量領域(m/z700~1800)における1価の荷電種の3つのエンベロープの存在を示す。これらのエンベロープは、14Daだけ異なる一連のピークであった。m/z領域800~1000における拡大質量スペクトルを
図23に示す。
【0111】
イオンモビリティ質量分析(IM MS)を用いて、これらの高分子量代謝産物をさらに評価し、具体的には、低分子量脂質について以前に報告されているような立体配座異性体及び同重体構造異性体を分割した。興味深いことに、本発明者らは、(PD、対照、及び前駆のコホートの間で(p<0.05))統計的に重要な分子のリストにおいて脂質として公知である一群の分子が優勢であることを特定することができた。これらは、合計4150個の逆畳み込みされた特徴のうちの500個の特徴であった。統計的に重要な分子についてのドリフト時間対m/z(DT対m/z)プロットを分析しているうちに、PD、対照、及び前駆の試料の間の有意差が、ある群の分子(脂質として特定された。これを支持するデータは、後の部分で論じられる)について観察された。
【0112】
上記の分析から、統計的に重要な特徴(p<0.05)のサブセットは、PD試料及び前駆試料にのみ存在し、対照には存在しない特定のm/z値でドリフト時間ピークを有することが特定された。
図24は、PD(青色ボックス)及び対照(マゼンタボックス)、並びに前駆(オレンジボックス)の試料についてのm/z700~900領域における三次元DT対m/zプロットのいくつかの例を示す。赤色矢印は、特定の分子種がPD試料及び前駆試料において観察されたが、対照試料には存在しなかった特定のドリフト時間(6.67ms)を示す。
図24のピークのクラスターは、単一イオンの同位体分布を表す。より高いドリフト時間(10.43ms)におけるピークは、1価の荷電モノマー種の同位体分布を表し、PD試料及び前駆試料の場合のより低いドリフト時間(6.67ms)におけるトレースは、2+電荷を有するダイマー種の付加物に対応する。イオンの荷電状態はイオンモビリティ分離における主要な因子であるので、より短いDT種が二量体であるにもかかわらず、それはドリフト管を通ってより迅速に移動し、より低いドリフト時間で現れる。
図25は、m/z843.7074における種について抽出された到着時間分布プロットを対応する質量スペクトルと共に示す。拡大した質量スペクトル(
図25D)は、6.67msのドリフト時間を有する2価の荷電イオンが、10.42msのドリフト時間を有する1価の荷電イオンの二量体種であることを証明するために提示される。3つのクラスの間のこの強力な視覚的差異は、パーキンソン病の迅速な診断のためのツールとしてのIMと組み合わせたPSI MSの可能性を意味する。
【0113】
統計的に重要な特徴についてのm/z値を公開されたデータベースに対して照合して、主にホスファチジルコリン及びカルジオリピンの群に属する複数の群の脂質の推定特定を明らかにした。それゆえ、タンデム質量分析研究を実施して、これらの推定注釈における信頼を高めた。これらの実験のために、L-α-ホスファチジルコリン(脳、ブタ)(PC)、L-α-ホスファチジルセリン(脳、ブタ)(ナトリウム塩)(PS)、14:1カルジオリピン、及び18:1カルジオリピン(CL)を含む様々な市販の天然脂質を購入した。PSI MSを使用して、これらの脂質のMS/MSスペクトルを記録した。CHI
3/MeOH中のPCの1mM溶液、CHCl
3中のPS、及びMeOH中のCLをタンデム質量分析測定に使用した。
図26A~Cは、それぞれPC、PS及びCLのMS
2スペクトルを示す。すべての場合において、それぞれの脂質クラスについて極性頭部基の質量に対応するフラグメントイオンが観察された(
図26A~Cでは赤色で強調されている)。これは、タンデム質量分析を用いた特定のための脂質クラスのフィンガープリントとみなすことができる。
【0114】
異なる脂質のフラグメント化パターンを理解した後、MS
2スペクトルを、皮脂試料について記録し、m/z700~900領域において異なるイオンを選択した。
図26D~Fは、分離され、続いて衝突誘起解離(CID)を使用してフラグメント化されたm/z760.00、839.75、及び865.77における種の3つの例を示す。これらのすべての場合において、MS
2スペクトルにおいてm/z202.23のフラグメントイオンが観察され、これはm/z184.08(PCのコリン頭部基)の水性付加物に対応する可能性があった。従って、この推測を証明するために、m/z202.23のさらなる検討が必要であった。本発明者らは、Synapt G2-Si機器でMS
3実験を行うことができないので、ソース内フラグメント化アプローチを実施して、m/z202.23の種のさらなるフラグメントを生成した。この実験では、皮脂中に存在する代謝産物のソース内フラグメント化を促進するために、温度及びコーン電圧を上昇させた(過酷な条件)。m/z202.23の種がこれらの条件下で存在することを確認し、次いでこの種を質量分離し、CIDを使用してフラグメント化した。これを
図26Gに示す。m/z184.11におけるピークの存在は、PC脂質の頭部基の喪失に対応する18Daの喪失に等しい。このデータは、m/z202.23で観察されたフラグメントイオンがPCのコリン頭部基の水性付加物であり、皮脂のPSI MS中にm/z700~900領域で観察された脂質分子がホスファチジルコリン脂質クラスに属することを証明している。正確な質量測定も、上記の記述を支持する。正確な質量測定の前に、1ppmの質量誤差閾値を用いて機器を較正した。
図26Dの挿入図は、化学式C
42O
8H
83PNを有するホスファチジルコリン分子に対応するm/z760.5990におけるピークの拡大図を示す。より高い分子量ピークに対するMS
2も行った。
図27は、m/z1500~1700領域における選択したイオンのMS
2スペクトルを示す(脂質様特徴を有するピークの別のエンベロープ)。タンデム質量スペクトルは、標品CL(18:1カルジオリピン)のフラグメント化パターン(
図26C)と一致するm/z750~900領域の範囲内のフラグメントイオンピークを示す。これら2つの間の唯一の違いは、皮脂の場合であり、その領域におけるフラグメントピークのアレイが見られる。この観察は、皮脂が異なる分子の複雑な混合物であるという事実に起因しうる。皮脂が、観察されるフラグメントイオンのアレイに寄与する密接に関連する化学構造を有する複数のCLを含有しうるという機会がある。皮脂の場合、極性頭部基の質量(
図26Cのm/z296.9)に似たフラグメントイオンは見えなかったが、それは異なるm/z値で付加物として存在しうる可能性が高い。例えば、m/z365.29で観察されたフラグメントイオンは、[CL+Na+K+3H
2Oの頭部基]
+であることが可能である。フラグメントイオンのより良好な特定には、注意深いMS
n実験が必要である。しかし、CL標品に一致するこれらのより高質量の分子のフラグメントパターン及びオンラインデータベース検索報告から、それらがCLであると推測する。上記のデータから、及びオンラインデータベース検索レポートから、本発明者らは、それらをCLであると推測される。上記のデータから、PC及びCLが、PSI IM MSを使用して特定することができる皮脂の重要な成分であり、パーキンソン症状を有する参加者の場合において対照的であることが明らかであった。従って、IMと組み合わせたPSI MSは、非常に早期のパーキンソン病の迅速な診断のための効率的なツールとして使用することができる。
【0115】
実施例8 - 皮膚からの迅速なサンプリングを介して観察されたCOVID-19感染時の皮脂リピドームの変化
緒言
新規なコロナウイルスであるSARS-CoV-2は、世界保健機関(World Health Organization)によって、2019年後半に中国の武漢(Wuhan)市に端を発するものとして特定され[40~41]、新型コロナウイルス感染症(Corona Virus Disease 2019、COVID-19)を引き起こした。アウトブレイク(突発的発生)を防ぎ、入院を減らすために、集団検査は、世界保健機関によって、COVID-19に対する格闘における鍵となる武器として特定されている[42]。検査への現在のアプローチは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を介して上気道から採取したSARS-CoV-2ウイルスRNAの検出を必要とする。これらのタイプの検査は容易に展開可能であり、ウイルスに対して高度に選択的であるが、有意な割合の偽陰性事象の問題も抱える。加えて、試薬の不足は、必要とされる検査の規模にとって問題となりうる。さらには、現在展開されているアプローチは、予後情報を持たない。
【0116】
(ウイルス自体の直接測定とは対照的に)宿主に対するウイルスの効果を測定するアプローチは、臨床又は集団検査の場面において補完的解決策を提供する可能性がある。例えば、ある実現可能性調査(フィジビリティスタディ)は、COVID-19患者における呼気生化学の乱れを最近特定した[43]。コロナウイルスは繁殖のために脂質を必要とするので、COVID-19はリピドームを破壊すると予想することができる[44]。リピドームの調節不全の証拠は、血漿の分析を介してCOVID-19を有する患者において観察されている[45~48]。皮膚の調節不全は、イヌがCOVID-19陽性及び陰性をにおいによって区別する能力とも一致する[49]。それゆえ、リピドミクスは、COVID-19をよりよく理解するため、及び潜在的にCOVID-19の診断のための有望な経路を提供する。皮脂は、皮脂腺によって分泌される生体液であり、脂質が豊富である。試料は、皮脂が豊富な皮膚領域(例えば、顔面、首又は背中)の穏やかなスワブ(拭き取り)を介して、容易にかつ非侵襲的に収集することができる。特徴的な特徴は、パーキンソン病及び1型糖尿病等の限られた数の疾患の皮脂から以前に特定されている[50~52]。加えて、バリア機能における皮脂の役割のメカニズムは完全には記載されていないが、皮脂脂質は直接的に、また共生細菌相互作用を介してもバリア機能する。脂質調節不全は、皮膚の健康に関与する[53]。本研究において、本発明者らは、検査のための非侵襲的サンプリング媒体としての皮脂の将来的な使用を調査すること、並びにサンプリングマトリクスとしての皮脂の理解を拡大することを目的として、COVID-19を有する患者及び有さない患者についての皮脂脂質プロファイルの差異を調査した。
【0117】
2020年5月に、いくつかの英国の団体は、資源をプールし、COVID-19国際質量分析(MS)連携(International Mass Spectrometry (MS) Coalition)を形成する意向を公表した[54]。このコンソーシアムは、感染したヒトにおけるSARS-CoV-2に関する分子レベルの情報を提供するという近位の目標と、COVID-19感染症の症例をより良好に診断及び処置するための代謝経路に対する新型コロナウイルスの影響を理解するという遠位の目標とを有する。この作業は、COVID-19 MS連携(Coalition)の一部として行われ、すべてのデータは、MS連携オープンリポジトリに格納され、完全にアクセス可能である。
【0118】
方法
参加者の動員及び倫理
このプロジェクト(IRASプロジェクトID155921)の倫理的承認は、NHS医療研究機構(REC参照番号:14/LO/1221)を介して得た。この研究に含まれる参加者は、NHSフリムリー・パークNHS基幹病院(NHS Frimley Park NHS Trust)で募集され、合計67人の参加者があった。試料の収集は、サリー大学・フリムリー・パークNHS基幹病院(University of Surrey at Frimley Park NHS Foundation Trust hospitals)からの研究者によって行われた。参加者は、臨床スタッフによって特定されて、彼らが研究に同意する能力を有することが確認され、インフォームドコンセントフォームに署名するように依頼された。この能力を有さないものはサンプリングしなかった。同意する参加者は、病院によって、「クエリーCOVID」(COVID-19感染の臨床的疑いがあったことを意味する)又は「COVID陽性」(陽性のCOVID検査結果が入院中に記録されたことを意味する)のいずれかに分類された。すべての参加者は、研究の目標を説明する患者情報シート(Patient Information Sheet)を提供された。
【0119】
試料採取、不活化及び抽出
患者は、研究に動員された直後にサンプリングされた。これは、症状の発症と皮脂サンプリングとの間の時間の範囲が1日から1ヶ月超の範囲にあり、これは、パンデミック状況において試料を収集することの不可避的な結果であることを意味する。各参加者は、4プライのスワブを作成するために各々が2回折り畳まれた15cm×7.5cmのガーゼを使用して、背上部の右側でスワブされた。サンプリングの表面積は約5cm×5cmであり、スワブを上背部にわたって10秒間移動させながら圧力を均一に加えた。このガーゼをSterilinポリスチレン30mLユニバーサル容器に入れた。
【0120】
試料を採取の4時間以内に宅配便業者によって病院からサリー大学に移し、その後、試料を室温で7日間隔離してウイルス不活化を可能にした。最後に、バイアルを、必要になるまで-80℃の保存場所に移した。皮脂採取に加えて、とりわけ、性別、年齢、併存疾患(参加者が治療を受けたかどうかに基づく)、COVID PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)検査の結果及び日付、両側胸部X線変化、喫煙状態、並びに参加者がCOVID-19の臨床症状を呈したかどうかを網羅する、すべての参加者のメタデータも収集した。リンパ球、CRP及び好酸球の値も取り込み、本研究では入院期間中の最も極端な値を記録した。これらは、皮脂試料と同時には収集されなかった。
【0121】
得られた試料の抽出、保存及び再構成は、Sinclair E、Trivedi D、Sarkar Dら[55]に従った。試料を5日間にわたって分析した。各日は、溶媒ブランク注入(n=5)、プールされたQC注入(n=3)、続いて、6回の注入毎に1回のプールされたQC注入を伴う16の参加者試料(各々の3回の注入)を組み込むランからなった。各日のランは、プールされたQC注入(n=2)及び溶媒ブランク(n=3)で完了した。フィールドブランクの三連注入も得た。
【0122】
機器及びソフトウェア
試料の分析は、サリー大学のイオンビームセンター(Ion Beam Centre)のOrbitrap Q-Exactive Plus質量分析計(サーモフィッシャーサイエンティフィック(Thermo Fisher Scientific)、英国)に連結された、バイナリー溶媒マネージャー、カラムコンパートメント及びオートサンプラーを備えたDionex Ultimate 3000 HPLCモジュールを用いて行った。クロマトグラフィー分離は、55℃で操作したウォーターズACQUITY UPLC BEH C18カラム(1.7μm、2.1mm×100mm)で流量0.3ml・min-1で行った。
【0123】
移動相は以下の通りであった。移動相Aは、0.1%ギ酸を含むアセトニトリル:水(v/v60:40)であり、移動相Bは、0.1%ギ酸(v/v)を含む2-プロパノール:アセトニトリル(v/v、90:10)であった。5μLの注入量を使用した。最初の溶媒混合物は40%Bであり、1分かけて50%Bに増加し、次いで3.6分で69%Bに増加し、12分で88%Bに最終上昇した。勾配を40%Bに戻し、2分間保持してカラム平衡化させた。Q-Exactive Plus質量分析計での分析は、150m/z~2000m/zの全スキャン範囲及び5ppmの質量精度で分割スキャンモードで実施した。特定された特徴の数を最大にしながら、m/z範囲を150~2000m/zに拡張するために、スプリットスキャンを選択した[56~57]。データ依存取得モードを使用して、プールしたQC試料に対して特徴のMS/MS検証を行った。動作条件を
図38に要約する。
【0124】
材料及び化学物質
この研究で利用した材料及び溶媒は以下の通りであった。ガーゼスワブ(リライアンス・メディカル(Reliance Medical)、英国)、30mL Sterilin(商標)チューブ(サーモサイエンティフィック(Thermo Scientific)、英国)、10mLシリンジ(ベクトン・ディッキンソン(Becton Dickinson)、スペイン)、2mL微量遠心チューブ(エッペンドルフ(Eppendorf)、英国)、0.2μmシリンジフィルター(コーニング・インコーポレーテッド(Corning Incorporated)、米国)、200μLマイクロピペットチップ(スターラボ(Starlab)、英国)及びQsert(商標)透明ガラスインサートLCバイアル(スペルコ(Supelco)、英国)。Optima(商標)(LC-MS)グレードのメタノールを抽出溶媒として使用し、Optima(商標)(LC-MS)グレードのメタノール、エタノール、アセトニトリル及び2-プロパノールを使用して注入溶媒及び移動相を調製した。ギ酸を移動相溶媒に0.1%(v/v)で添加した。溶媒はフィッシャー・サイエンティフィック(Fisher Scientific)、英国から購入した。
【0125】
データ処理
LC-MSデータのための非プラットフォーム依存的な小分子発見分析ソフトウェアであるProgenesis QI(Non-Linear Dynamics、ウォーターズ、ウィルムスロー、英国)を使用して、アライメント、正規化及びピーク特定のためにLC-MS出力(.rawファイル)を前処理した。ピークピッキング(質量許容差±5ppm)、アラインメント(RTウィンドウ±15秒)及び面積正規化を、プールしたQC試料に対して行った。MSにおいて特定された特徴には、最初に、Progenesis QIのLipid Blastとの正確な質量マッチを使用して注釈を付けたが、検証は、LipidSearch(サーモフィッシャーサイエンティフィック、英国)及びCompound Discoverer(サーモフィッシャーサイエンティフィック、英国)を使用するデータ依存的MS/MS分析を使用して実施した。このプロセスは、14,160の特徴を有する初期ピーク表をもたらした。すべてのプールされたQCにわたる分散係数が20%を超えるすべての特徴を除去し、プールされたQC注入の少なくとも90%に存在しなかったものも同様にした。次いで、これらの特徴をフィールドブランク調整した。3×未満のシグナル対ノイズ比を有するすべての特徴も除外した。残りの998個の特徴のセットは、ロバストであり、再現可能であり、フィールドブランクに見られるものとは適切に異なるとみなした。
【0126】
組入れ基準を参加者データにも適用し、メタデータの完全な完了、及びPCR COVID-19検査の結果(Y/N)とCOVID-19の臨床診断(Y/N)との間の一致の両方を必要とした。これらの組入れ基準は参加者の総数をn=87からn=67に減少させたが、これは、統計モデルの開発を混乱させる誤診の可能性を考えると価値があると考えられた。
【0127】
統計解析
パレートスケーリングしたピーク:面積マトリクスのデータ処理及び解析は、統計的プログラミング言語R[59]でユーザによって書き込まれたスクリプトによって補足されたRパッケージmixOmics[58]の組み合わせによって行った。PLS-DAをデータの分類及び予測に使用した。分離及び分類は観察間のマハラノビス距離に基づいた。一個抜き交差検証をPLS-DAモデル検証に使用して、精度、感度及び特異度を検定した。射影における変数重要度(VIP)スコアを使用して特徴の有意性を評価した。
【0128】
結果
集団メタデータ概観
この研究において分析した研究集団は、67人の参加者を含んでおり、内訳は、COVID-19臨床症状(及び関連する陽性COVID-19 RT-PCR検査)を呈する30人の参加者及びそれを呈しない37人の参加者であった。メタデータの概要を
図29に示す。
【0129】
COVID-19陽性群(M:F比0.57)において、参加者集団全体(M:F比0.52)と比較して、男性参加者がより多かった。病院環境において動員が行われたことをふまえると、これは男性間の重症度の増加を反映している可能性がある[60]。COVID-19陽性コホート及び陰性コホートの年齢分布はほぼ同一であった(平均年齢はそれぞれ64.7歳及び65.0歳である)。併存疾患は、入院及びCOVID-19感染のより重篤な転帰の両方に関連するが、参加者のメタボロームも変化させ、原因因子及び交絡因子の両方を表す。これらの併存疾患の分類精度に対する影響は、分離が改善したかどうかを調べるために、参加者データを併存疾患によって層別化することによって検定した。このプロセスは、以下の節で説明する。このパイロット研究において、併存疾患は、COVID-19陰性参加者のコホートよりもCOVID-19陽性参加者のコホートにおいてあまりよく表れなかった。
【0130】
C反応性タンパク質(CRP)のレベルはCOVID-19参加者で有意に高かったが、リンパ球及び好酸球レベルは低かった。CRP指標に対する両側マン-ホイットニーU検定は、0.031のp値を提供し、リンパ球に対して0.004のp値を提供した。効果量(effect size)(コーエン(Cohen)のDにより計算)は、それぞれ0.56及び0.85であった。COVID-19陽性参加者は、両側胸部X線変化を呈する可能性も高かった(30人のCOVID-19陽性患者のうち21人に対して、37人のCOVID-19陰性患者のうち2人)。COVID-19陽性参加者は、より高い酸素/CPAP必要率、より高い漸増率、及びより低い生存率を経験した。これらの観察結果は、COVID-19の症状及び進行の文献記載[61]と一致していた。
【0131】
液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)によって特定された特徴の概要
998個の特徴は、LC-MSによって再現性よく特定され(プールされたQC LC-MS注入の90%超において存在し、プールされたQCにわたって20%未満の分散係数、3超のシグナル対ノイズ比)、これらは、この研究における分析の基礎を形成した。COVID-19陽性及び陰性の参加者間の差異は、脂質及び代謝産物の範囲にわたって観察され、最も一貫した差異が、脂質レベル、とりわけトリグリセリドの減少において見られた(
図30)。
【0132】
MS/MSによって特定されたトリグリセリドの総計(集団)レベルは、COVID-19陽性参加者については低下し、セラミドについても低下したが、後者のクラスの脂質で特定され検証されたものはより少なかった。クラスによる集約した脂質イオンカウントの自然対数の分布は、シャピロ-ウィルク(Shapiro-Wilk)正常性検定[62]によって正常として特徴付けられなかった。両側マン-ホイットニーU検定を実施して、これらの脂質クラスの総計レベルの有意性を検定した。これらは、トリグリセリド及びセラミドについてそれぞれ0.022及び0.015のp値をもたらし、効果量(コーエンのDによって計算した)は0.44及び0.57であり、中程度の効果量を示した。これらの結果は、COVID-19による角質層内の脂質異常症を示唆する。陽性コホートと陰性コホートとの間のトリグリセリドのレベルの変化は、COVID-19状態の指標としてのCRP又はリンパ球の変化に匹敵する(
図31)。
【0133】
他の研究は、COVID-19陽性患者由来の血漿における脂質異常症の証拠を見出した[46、45、48]が、これらの脂質クラスについて上方調節が優性であるか又は下方調節が優性であるかの証拠は混在している。血漿トリグリセリド(TAG)レベルは、COVID-19の軽症例について血漿中で上昇することが見出されているが、COVID-19の重症度が高まるにつれて、血漿中のTAGレベルも低下する可能性がある[63]。
【0134】
しかしながら、皮膚の主要な役割はバリア機能であり、角質層における脂質発現は新規脂肪酸合成(脂質新生、体内での合成)に依存し、実際、血漿等の非皮膚供給源は皮脂脂質にわずかな寄与しか提供せず[64]、これはこの生体液に対するより広い経路分析の関連性を制限することを思い出されたい。ウイルスがそれ自体の繁殖のために脂質を隔離する範囲において、これが皮脂脂質の発現の欠損を引き起こす可能性がある。
【0135】
集団レベルクラスタリング分析
クラスタリングは、主成分分析(PCA)によって、すなわち教師なし分析によって全集団レベルで特定可能ではなかった。同じデータセットに対して行った部分最小二乗判別分析(PLS-DA)は、限定された分離を示し(
図33)、2つの成分にわたる受信者動作曲線下面積(AUROC)は0.88であった。AUROCは、単一の訓練データセット上でのみ使用するとき誇張される可能性があり、従って、混同行列は、一個抜きアプローチを使用して構築した。このようにして精度を検証すること(
図32)により、わずか57%の感度及び68%の特異度が示された。広範囲の併存疾患を考慮すると、これは予想外ではない。
【0136】
交絡因子の検討
年齢及び診断指標(CRP、リンパ球及び好酸球)の影響を検定するために、これらの変数をパレートスケーリングし、PLS-DAモデリングのためのマトリクスに含めた。リンパ球、CRP、及び好酸球の射影における変数重要度(VIP)スコアは、それぞれ2.47、1.77、及び0.72であり、1,002の総特徴のうち1、90、及び465にランク付けされた。単一の特徴として、低下したリンパ球レベルはCOVID-19陽性状態と高い相関を示し、リンパ球数が診断及び予後バイオマーカーの両方である[65]ことと整合する。ベクターとしての年齢は、わずか0.05のVIPスコア(合計1,002の特徴のうちの958にランク付けされる)を有し、年齢が他の因子よりも小さい角質層脂質の影響因子であることを示す。
【0137】
全体として、PLS-DA分離は、リンパ球及びCRP指標の追加によって改善され、これらの2つの変数が特徴マトリクスに含まれる場合、わずかなモデル精度の上昇があった(例えば、集団全体について精度は62%から64%へ)。しかしながら、この研究が皮脂サンプリングに焦点を当てていることをふまえて、以下の分析では、皮脂から得られる特徴のみを含め、すなわち、他の診断指標からの情報は分類モデルから除外する。
【0138】
皮脂のみに基づく分離がより小さい/より均質な群において改善するかどうかを検定するために、別々のPLS-DAモデルを、併存疾患による集団の各分割について構築した。(予測力-Q2Y-並びに一個抜き交差検証による感度及び特異度によって測定して)モデル性能が改善された場合には、これは、層別化され適合されたデータセットに基づいてモデルが構築された場合、皮脂脂質プロファイリングがより良好に機能することを示すことができる。表は、異なるモデル化されたサブセットにわたるこれらのメトリック(測定基準)の結果を示す。
【0139】
データはより細かくグループ化され、モデル化された予測力は改善されたので、分離は概して改善された。これらのサブセットの加重平均に基づいて、感度は75%に改善され、特異度は81%に改善された。例えば、高血圧の投薬を受けている参加者のサブセットのPLS-DAモデリング(
図36)は、良好な分離並びに良好な感度及び特異度の両方を示した(
図35)。これらのデータは、併存疾患が皮膚リピドミクスにおける交絡因子であることを示唆している。
【0140】
同様に、高コレステロールの投薬を受けている参加者のサブセットのPLS-DAモデリングは、良好な分離を示し(
図40)、感度は100%であり、特異度は80%であった。このサブグループは脂質低下剤、具体的にはスタチンで治療されていた。虚血性心疾患(IHD)の処置を受けている参加者を含むサブグループも、はるかに良好な分離を示し(
図42)、全体的な精度はより良好であり、感度及び特異度はそれぞれ50%及び86%であった。このサブグループは様々な投薬を受けていたが、IHDを呈する参加者はスタチンも処方されていた。最後に、T2DMの投薬を受けている参加者のサブセット(
図36)も、良好な分離並びに良好な感度及び特異度(それぞれ71%及び75%)の両方を示した。このサブグループは、典型的には、経口血糖降下薬、例えばメトホルミンで、場合によってはインスリンで、場合によっては食事制限のみで治療されていた。
【0141】
モデル性能(
図46)も、スタチンを服用している参加者に基づく層別化データセットのベース集団に対して改善した(55%の感度及び90%の特異度)。スタチンがコレステロール及び脂質のレベルを制御することを考慮すると、これは、COVID-19によるリピドームにおける摂動を測定するための、より類似した「ベースライン」を提供しうる。スタチンを服用している患者は、高コレステロールで治療された参加者と、糖尿病コントロール不良であるか又は虚血性心疾患の病歴を有する参加者との両方を含み、このような患者では、スタチンは、長期転帰を改善するために予防的に日常的に添加される。
【0142】
モデル全体を見ると、COVID-19陽性と陰性との区別において有意であると特定された特徴には共通性があった。多くの特徴は、2を超えるVIPスコアを有するすべてのサブセットにおいて特徴付けられたが(
図37の濃い灰色)、他のものはそうではなく、これは、層別化される場合、より小さい群による過剰適合を示す可能性があった。特徴間に重複が生じる場合、これは、サブセット集団間の自然な重複を反映している可能性があり、例えば、虚血性心疾患を呈する参加者及び高コレステロールを呈する参加者のサブセットは、たいていの場合、スタチンによる処置を受ける参加者のサブセットである。
【0143】
最も高い共通VIPスコアを有する特徴のうち、上位2つはトリグリセリド、TG(16.1/21.0/22.6)及びTG(17.0/22.1/22.6)であり、上位20のうち8つも同様であり、脂質、とりわけトリグリセリドの調節不全が皮膚に対するCOVID-19の影響の顕著な特徴であるという以前の観察と一致した。
【0144】
考察
総計レベルでは、本研究における参加者のメタデータの分析は、パンデミック中に良好に設計されたサンプルセットを構築することに関与する課題を示す。参加者の年齢範囲は大きく、広範囲の併存疾患が存在し、多くの交絡因子をもたらした。投薬又は併存疾患によって厳密に層別化するには少なすぎるデータポイントしか利用可能でなかったことを考えると、このパイロット研究では決定的な分離は可能であるとは証明されなかった。それにもかかわらず、総計レベルでは、陽性の臨床的COVID-19診断を有する参加者は、低下した脂質レベル(特にトリグリセリド及びセラミド)を呈し、バリア機能及び皮膚の健康の低下の可能性を伴っていた。さらには、これらの知見は、参加者のより良好な層別化ができれば、リピドームプロファイルによって陽性及び陰性COVID-19参加者のより明確な分離ができうることを示唆する。79%の層別化群における全体的な精度は、81%の呼気生化学を使用して最近報告されたもの[43]に匹敵するが、過剰適合は、小さいnを有するパイロット研究のいずれにおいてもリスクである。このリスクは、データのより大きい訓練セットと、MS連携の研究等の結束力のある努力によって可能にされるその後の将来の検証セットに対するモデルの検定との両方によってのみ低減することができる。
【0145】
注目すべき別の点は、季節性呼吸器ウイルスからの参加者集団における交絡因子の欠如の可能性である。COVID陰性患者は、呼吸器疾患(例えば、COPD、喘息)及びCOVID様症状を有する患者を含んでいたが、試料は、呼吸器ウイルスの発生率が概して低い5月から7月の間に採取した。感冒及びインフルエンザの両方は、COVID-19と重複するいくつかの症状を有し、COVID-19感染に関連する特徴の特定を妨害しうる脂質代謝の変化をもたらしうる可能性がある。英国内のこのようなウイルスは、秋及び冬においてより蔓延している[66]。季節性呼吸器ウイルスがこの研究において主要な交絡因子である可能性は低いようであるが、これは将来の研究において考慮される必要がある因子であり、他の呼吸器ウイルスに関して皮脂の選択性及び特異度を試験する機会も可能にしうる。
【0146】
結論として、本発明者らは、COVID-19感染が角質層における脂質異常症をもたらすという証拠を提供する。本発明者らはさらに、COVID陽性患者及びCOVID陰性患者の皮脂プロファイルを多変量解析法PLS-DAを用いて分離することができ、患者を特定の併存疾患に従ってセグメント化すると分離が改善することを見出した。皮脂試料が迅速かつ無痛で提供されることが可能であることを考慮すると、皮脂はCOVID-19感染の臨床的サンプリングのための将来の検討に価値があると結論付けられる。
【0147】
追加のデータ
直交部分最小二乗判別分析(OPLS-DA)を実施したところ、分離が明らかになった。訓練モデルを確立するためにペアワイズノックアウトアプローチを用いて混同行列を構築した。これらのモデルを除外された参加者にまで投影して精度を試験すると、わずか63%の感度及び70%の特異度を示した。広範囲の併存疾患及び年齢適合の欠如を考慮すると、これは予想外ではない(
図47)。
【0148】
虚血性心疾患(IHD)の治療を受けている参加者を含むサブグループも、はるかに良好な分離を示した(1.00のR2Y、この場合も、それぞれ75%及び86%のより良好な感度及び特異度)。このサブグループは様々な投薬を受けていたが、IHDを呈する参加者はスタチンも処方されていた(
図48)。
【0149】
データがより細かくグループ分けされるにつれて、分離は概して改善したが、ほとんどの亜集団について、モデル化された予測力の改善はなかった。しかしながら、4つのサブセットは、モデル性能のより興味深い改善を示した。これらは、薬物療法によって治療されている特定の併存疾患(高コレステロール、T2DM及びIHD)を有するサブセット並びにスタチンによる処置を受けているサブセットであった。高コレステロールの投薬を受けている参加者のサブセットのOPLS-DAモデリングは、両方とも良好な分離(1.00のR2Y)を示した。このサブグループは、脂質低下剤、具体的にはスタチンで治療されていた(
図49)。
【0150】
2型糖尿病(T2DM)の投薬を受けている参加者のサブセットのOPLS-DAモデリングは、78%の感度及び75%の特異度で良好な分離を示した。このサブグループは、典型的には、経口血糖降下薬、例えばメトホルミンで、場合によってはインスリンで、場合によっては食事制限のみで治療されていた(
図50)。
【0151】
スタチンがコレステロール及び脂質のレベルを制御することを考慮すると、これは、COVID-19によるリピドームにおける摂動を測定するための、より類似した「ベースライン」を提供しうる。スタチンを服用しているすべての患者(高コレステロールで治療された参加者と、糖尿病コントロール不良であるか又は虚血性心疾患の病歴を有する参加者の両方を含み、このような患者では、スタチンは、長期転帰を改善するために予防的に日常的に添加される)を分析することは、OPLS-DAモデリングによる改善された分離を示し、0.74のR2Y、71%の感度及び76%の特異度であった(
図51)。
【0152】
モデルを横断して見ると、COVID-19陽性と陰性との区別において有意であると特定された特徴における共通性は限定的であった。いくつかの特徴は、すべてのサブグループにおいて高いVIPスコアを有したが、多くはそうではなく、これは、層別化される場合、より小さい群による過剰適合を示す可能性があった。特徴間に重複が生じる場合、これは、サブセット集団間の自然な重複を反映している可能性があり、例えば、虚血性心疾患を呈する参加者及び高コレステロールを呈する参加者のサブセットは、たいていの場合、スタチンによる処置を受ける参加者のサブセットである(
図52)。
【0153】
上述の実施形態は、特許請求の範囲によって与えられる保護の範囲を限定することを意図するものではなく、むしろ、本発明がどのように実施されてもよいかの例を説明することを意図するものである。
【0154】
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