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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-27
(54)【発明の名称】組織再生パッチ
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/22 20060101AFI20230317BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20230317BHJP
   A61L 27/58 20060101ALI20230317BHJP
   A61L 27/50 20060101ALI20230317BHJP
   A61L 27/16 20060101ALI20230317BHJP
   A61L 27/18 20060101ALI20230317BHJP
   A61L 27/24 20060101ALI20230317BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20230317BHJP
   A61L 27/20 20060101ALI20230317BHJP
【FI】
A61L27/22
A61L27/54
A61L27/58
A61L27/50
A61L27/16
A61L27/18
A61L27/24
A61L27/38 300
A61L27/38 111
A61L27/20
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022548141
(86)(22)【出願日】2021-02-08
(85)【翻訳文提出日】2022-09-28
(86)【国際出願番号】 EP2021052989
(87)【国際公開番号】W WO2021156519
(87)【国際公開日】2021-08-12
(31)【優先権主張番号】2001692.9
(32)【優先日】2020-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】2006583.5
(32)【優先日】2020-05-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】500532757
【氏名又は名称】キングス カレッジ ロンドン
【氏名又は名称原語表記】KINGS COLLEGE LONDON
(71)【出願人】
【識別番号】522313938
【氏名又は名称】ユニヴァーシティー オブ キール
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF KEELE
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】ハビブ シュクリ ジェームズ
(72)【発明者】
【氏名】エル ハジ アリシア ジェニファー
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AA02
4C081AB02
4C081AC03
4C081BA12
4C081BB09
4C081CA051
4C081CA061
4C081CA161
4C081CA171
4C081CA191
4C081CA231
4C081CD041
4C081CD111
4C081CD121
4C081CD34
4C081CE02
4C081DA01
4C081DA02
(57)【要約】
組織再生及び/又は修復のためのパッチ又はバンデージが、開示される。バンデージは、i)Wntファミリー由来の1つ若しくは2つ以上のタンパク質又はWntシグナル伝達経路のアゴニストと、ii)スキャフォールドとを含み、1つ若しくは2つ以上のWntタンパク質又はWntアゴニストがスキャフォールドに固定化されており、スキャフォールドは、官能基化された生体適合性ポリマーから形成される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的組織再生パッチであって、
i)Wntファミリー由来の1つ若しくは2つ以上のタンパク質又はWntシグナル伝達経路のアゴニストと、
ii)スキャフォールドと
を含み、前記1つ若しくは2つ以上のWntタンパク質又はWntアゴニストが、前記スキャフォールドに固定化されており、前記スキャフォールドが、官能基化された生体適合性ポリマーから形成される、
前記パッチ。
【請求項2】
1つ又は2つ以上のWntタンパク質が、Wnt3であり、Wnt3aであってもよい、請求項1に記載のパッチ。
【請求項3】
1つ若しくは2つ以上のWntタンパク質又はWntアゴニストが、共有結合によってスキャフォールドに固定化されている、請求項1又は2に記載のパッチ。
【請求項4】
1つ若しくは2つ以上のWntタンパク質又はWntアゴニストが、一級アミン官能基を介してスキャフォールドに固定化されている、請求項1~3のいずれかに記載のパッチ。
【請求項5】
生体適合性ポリマーが、生分解性である、請求項1~4のいずれかに記載のパッチ。
【請求項6】
生体適合性ポリマーが、フィルムとして形成される、請求項1~5のいずれかに記載のパッチ。
【請求項7】
生体適合性ポリマーが、ポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)、ポリ(乳酸)(PLA)、ポロキサマー、ポビドン、ポリジオキサノン(PDS)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリ(グリコリド-コ-カプロラクトン)(PGCL)、ポリ(l-ラクチド-コ-ε-カプロラクトン)PLCL、ポリ-L/D-乳酸(PLDLA)、又はアルギネートである、請求項1~6のいずれかに記載のパッチ。
【請求項8】
生体適合性ポリマーが、一級アミン基で官能基化されている、請求項1~7のいずれかに記載のパッチ。
【請求項9】
生体適合性ポリマー上で培養された幹細胞をさらに含む、請求項1~8のいずれかに記載のパッチ。
【請求項10】
幹細胞が、単層として培養される、請求項9に記載のパッチ。
【請求項11】
幹細胞が、細胞外タンパク質で覆われている、請求項9又は10に記載のパッチ。
【請求項12】
細胞外タンパク質が、コラーゲンであり、1型コラーゲンであってもよい、請求項11に記載のパッチ。
【請求項13】
幹細胞が、ヒト骨格系幹細胞(hSSC)である、請求項9~12のいずれかに記載のパッチ。
【請求項14】
骨の再生及び/又は修復のための骨形成パッチである、請求項1~13のいずれかに記載のパッチ。
【請求項15】
生物学的軟部組織、結合組織、又は骨の内在性再生及び/又は修復の促進における使用のための、請求項1~14のいずれかに記載のパッチ。
【請求項16】
生物学的軟部組織、結合組織、又は骨における欠損、孔、間隙、断裂、又は破砕の内在性再生における使用のための、請求項1~14のいずれかに記載のパッチ。
【請求項17】
生物学的軟部組織、結合組織、又は骨における欠損、孔、間隙、断裂、又は破砕の処置における使用のための、請求項1~14のいずれかに記載のパッチ。
【請求項18】
生物学的軟部組織、結合組織、又は骨の内在性再生を促進及び/又は調節する治療的に有効な薬剤を特定するためのスクリーニング及び/又は毒性研究における使用のための、請求項1~14のいずれかに記載のパッチ。
【請求項19】
対象において生物学的軟部組織、結合組織、又は骨における欠損、孔、間隙、断裂、又は破砕を処置する方法であって、請求項1~14のいずれかに記載のパッチを、前記欠損、孔、間隙、断裂、又は破砕に適用するステップを含む、前記方法。
【請求項20】
請求項1~14のいずれかに記載の生物学的組織再生パッチを製造する方法であって、
i)生体適合性ポリマーから、フィルムを調製するステップと、
ii)前記ポリマーの表面を官能基化するステップと、
iii)Wntファミリー由来の1つ若しくは2つ以上のタンパク質又はWntシグナル伝達経路のアゴニストを、前記ポリマー表面にコンジュゲートするステップと
を含む、前記方法。
【請求項21】
ポリマーの表面が、一級アミン官能基を提供するように官能基化されている、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
ポリマーの表面が、酸素プラズマ及びアミノプロピル-トリエトキシシラン(APTES)での処理によって官能基化されている、請求項20又は21に記載の方法。
【請求項23】
Wnt又はそのアゴニストを官能基化されたポリマー表面にコンジュゲートした後に、幹細胞を培養するステップをさらに含む、請求項20~22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
幹細胞を、単層として培養する、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
幹細胞を、3D構造体を生成するように、5~10日間培養する、請求項23又は24に記載の方法。
【請求項26】
コラーゲンの層を幹細胞上に重ねるステップをさらに含む、請求項23~25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
請求項1~14のいずれかに記載のパッチを、欠損、孔、間隙、断裂、又は破砕全体にわたって又はその上にインプラントするステップを含む、生物学的組織再生方法。
【請求項28】
欠損、孔、間隙、断裂、又は破砕が、骨折である、請求項26に記載の生物学的組織再生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的組織の修復及び再生の分野に関する。具体的には、本発明は、スキャフォールドに固定化されたWntを使用する、重大な骨折を含む組織の修復及び再生に関する。
【背景技術】
【0002】
世界的な高齢化の進むなか、それに対応した骨折及び骨格疾患の罹患率の増加は、医療システムに対する実質的な負担を意味する(Burge, R. T. et al (2008) J. Medical Economics 4: 51-62; Steiner, C. et al (2002) Eff. Clin. Pract. 5: 143-151)。加えて、がん腫瘍切除及び傷害、例えば、頭蓋顔面の外傷後の再建手術は、相当量のドナー骨組織を必要とし得ることが多い(Hold, P. M. & Prowse, S. J. B. (2011) J. Plast. Reconstr. Aesthet. Surg. 64: 834-835)。自家骨移植などのアプローチは、ドナー部位の病的状態に関する問題によって制限される(Shenaq, S. M. (1988) Microsurgery 9: 154-158)。脱灰骨基質又は無機無生物材料を含む同種骨代用素材は、機械的破損及び感染症のおそれがある(Lee, K. et al (2005) The Spine Journal 5(6 Suppl): 217S-223S)。一方で、細胞に基づく治療法は、局所環境に応答し、傷害部位に正常な機能を回復させることができる幹細胞/骨前駆体を送達することを目的としている(Wozniak, P. & El Haj, A. J. (2007) Tissue Engineering using Ceramics and Polymers. Boccacani, A. R. & Gough J. E. (Eds.) Cambridge; Sharma, P. et al (2005) Applications of Cell Immobilization Biotechnology. Nedovic, V. & Willaert, R. (Eds.) Kluwer Academic Publishers)。このアプローチにおける主な弱点は、それが、細胞分化カスケードの範囲又は移植後に組織を再生及び回復させ続けることができる複能性前駆体の供給源を維持していないことである。
【0003】
骨髄のニッチに存在している骨格系幹細胞(SSC、Skeletal stem cell)は、自己再生し、様々な特化した細胞型、例えば、骨細胞に分化する能力を有する(Bianco, P. & Robey, P. G. (2015) Development 142: 1023-1027)。幹細胞の自己再生は、外部シグナルに依存し、鍵となるシグナルは、Wntファミリーのタンパク質である(Garcin, C. L. & Habib, S. J. A. (2017) Results Probl. Cell Differ. 61: 323-350)。ニッチシグナルの特徴は、それらの限定的な作用距離である。実際に、脂質改変から生じるそれらの疎水性に起因して、Wntタンパク質は、局所的に分泌され、応答性細胞の片側に提示されることが多い(Mills, K. M. et al (2017) Open Biology 7: 170140)。Wntタンパク質が、Frizzled及びLrp5/6という2つの受容体に結合すると、古典的なカノニカルWnt/β-カテニンシグナル伝達が、活性化される。この経路は、他のタンパク質の中でも、グリコーゲンシンターゼキナーゼ-3(glycogen synthase kinase-3、GSK-3)及び腺腫性結腸ポリープ症(adenomatous polyposis coli、APC)を含む、分解複合体によって調節される、β-カテニンの蓄積又は分解を中心としている。β-カテニンは、次いで、核内に転位し、TCF/LEFファミリーの転写因子のメンバーと相互作用して、標的遺伝子の転写に影響を及ぼす。重要なことに、Wntリガンドは、他の受容体を有し、非カノニカル経路を通じてシグナル伝達することができる(Garcin & Habib、上記)。
【0004】
強力な遺伝子ツールを使用して、Wntシグナル伝達を操作することができるが、疎水性Wntタンパク質に関する研究は、精製の技術的課題及びそれらの局在化された作用によって妨げられている。結果として、Wntタンパク質は、主として、薬物開発の標的として使用されている。これらの課題に取り組む1つの手段は、生物学的に活性なWntタンパク質を、合成表面に共有結合で固定化することであり、これにより、局所シグナルを細胞に送達し、それによってインビトロで細胞ニッチを模倣することができる(Lowndes, M. et al (2017) Nat. Protoc. 12(7): 1498-1512; Loundes, M. et al (2016) Stem Cell Reports 7: 126-130)。加えて、この技法の性質により、細胞及び組織の任意の所与の側へのWntタンパク質の特定の空間標的化が可能となる。この技術は、Wntシグナル伝達を理解するためのツールにおける大きな打開策を示す。マイクロビーズに共有結合でつながれたWnt3a(Wnt3a-ビーズ)リガンドは、単一マウス胚性幹細胞(Embryonic Stem Cells、ESC)の配向された非対称細胞分裂を誘導することができることが示されている(Habib, S. J. et al (2013) Science 339: 1445-1448)。結果として、Wnt3aの近位側の娘細胞は、高いレベルの核β-カテニン及び多能性遺伝子を発現し、一方で遠位側の娘細胞は、外胚葉幹細胞運命への分化の特徴を獲得する。したがって、局在化されたWntは、組織形成及び再生に必須のプロセスである、非対称細胞分裂を制御することによって、インビトロで単一哺乳動物幹細胞における細胞運命決定に影響を及ぼすことができることが、示されている。近年では、Wnt3aは、アルデヒドガラス-プラットフォーム(Wnt3a-プラットフォーム)に共有結合で結合されている(Lowndes, M. et al (2016) Stem Cell Reports 7: 126-137)。Wnt3a-プラットフォームは、幹細胞においてWnt/β-カテニンを活性化することができ、外因性Wnt3aタンパク質の付加を伴うことなく、長期の自己再生を促進することができる、安定な供給源であることが、示されている。Wnt3a-プラットフォームはさらに、ヒト骨ニッチを再形成する初期3Dモデルに展開されている。成体ヒト骨髄から単離されたhSSCは、発展中の細胞療法業界内でスケーラブルな単離及び増大プロトコールの利点を有するため、エキソビボで自家骨移植片を操作するための明確な選択肢である(Pittenger, M. F. et al. (1999) Science 284: 143-147; Chippendale, T. et al (2016) Comprehensive Biotechnology 2e, Moo-Young, M. (Ed.), Elsevier; Rafiq, Q. A. et al (2013) Biotechnol. Lett. 35: 1233-1245; Heathman, T. R. J. et al. (2015) Biotechnol. Bioeng. 112: 1696-1707; Ankrum, J. A., et al (2014) Nat. Biotechnol. 32: 252-260)。生物学的インプラント内で幹細胞集団、前駆体、及び成熟骨細胞の分化カスケードを維持する3DニッチにおいてhSSCを使用することには、課題が残っている。
【0005】
近年の研究は、3D培養環境において、Wnt3a-プラットフォーム上でhSSCを培養することに成功している(Lowndes, M., et al (2016)、上記)3D環境を、骨内でもっとも豊富なコラーゲンである1型コラーゲンの薄層の添加により生成し(Nimni, M. W. et al (1987) J. Biomed. Mater. Res. 21: 741-771)、増殖細胞が、プラットフォームからゲル内に遊走することを可能にした。この技術により、組織化された3DWnt誘導型ヒト骨形成組織モデル(Wnt-Induced human Osteogenic Tissue Model、WIOTM)が生成された。WIOTMは、1週間以内に形成され、Wnt3a源の近位側におけるStro1+hSSC、並びに細胞がWnt3a供給源から遠ざかって遊走すると、Stro1の下方調節及び骨形成タンパク質であるオステオカルシンの上方調節を示す多層の分化細胞をからなる。石灰化した小結節もまた、WIOTMのゲルの上部で観察されており、WIOTMが、3D生理学的ヒト骨ニッチをインビトロで再現することができることを示した。
【0006】
生体材料に基づく再生療法は、治癒しない組織を修復する/置き換える可能性を提供する。国際公開第2019/094617号パンフレットは、ポリカプロラクトンなどのスキャフォールドと、特に高密度骨再生幹細胞(dense bone regenerating stem cell、DBR-SC)、海綿骨再生幹細胞(spongy bone regenerating stem cell、SBR-SC)、又はそれらの混合物を含む間葉幹細胞製剤とを含む、骨再生生成物を開示しており、ここで、この生成物は、Wnt「リガンド」などの成長因子をさらに含み得る。スキャフォールドは、骨欠損部に、又はその全体にわたって、インプラントされる。結果として、スキャフォールドは、そのインプラントの荷重負荷条件、例えば、スキャフォールドがインプラントされる身体の運動(例えば、歩行)の間及び/又は体重に対処するのに十分な機械的強度を有する必要がある。
【0007】
国際公開第2009/131752号パンフレットは、インプラントの生物学的及び生理学的耐容性の悪さに取り組んでおり、層状に積み重ねたナノテクスチャ処理した生体適合性ポリマー、例えば、ポリカプロラクトンを含む、生物学的コンストラクトを開示している。具体的には、インプラントは、特定の組織の天然の治癒プロセスを模倣する、治療剤の一時的な定性的かつ定性的な溶出を行うことができる、ナノ相表面テクスチャを含む。コンストラクトの機能は、機能的組織を再生させ、器官に解剖学的及び生理学的完全性を回復させるために、治療剤を制御し、治療剤を組織の管腔及び反管腔表面への差示的物質/薬物送達を行うことである。治癒プロセスは、組織特異的な生物学的に操作された細胞シートの付加によって、増進させることができ、このシートは、その細胞外マトリックスとともにデバイス上に重ねられてもよい。幹細胞は、好適であることが記載されている。それぞれのポリマー層は、創傷治癒及び組織リモデリングの異なる段階に対応している。Wnt阻害剤は、傷害と関連する炎症性応答を補助するために含まれ得る。
【0008】
国際公開第2016/112111号パンフレットは、骨格系幹細胞の有効用量をマトリックスで投与する、軟骨又は骨を再生させる方法を開示している。具体的には、幹細胞は、損傷した軟骨又は骨の再生のために幹細胞の分化を刺激する因子と一緒に投与される。例えば、幹細胞は、細胞において骨形成運命を誘導するために、Wntアゴニスト、例えば、Wnt3aとともに投与され得る。マトリックス(又は格子)は、生分解性ポリマー、例えば、ポリカプロラクトンであり得る。ここでも、傷害部位に直接的に移植され得るのはマトリックス自体であるため、新しく形成された組織が、機械的負荷を受けることができるようになるまで、身体内である程度の構造的完全性を有する必要性がある。注射可能なペースト及び形成可能なパテが、開示されている。
【0009】
国際公開第2017/0214613号パンフレットは、軟骨及び骨を含む、骨格組織の再生を促進する無細胞医療デバイスを開示している。このデバイスは、多層状のスキャフォールドと、幹細胞のデバイスへのホーミングを促進する生体活性剤とを有し、次いで、そこで幹細胞が分化し、デノボ組織形成が促進される。生物学的因子は、不飽和アミン及びアニオン性オリゴ糖を介して、スキャフォールド材料に吸着又はコーティングされる。
【0010】
Chen T. et al (Scientific Reports (2018) 8: 119)は、加齢が自家骨移植の骨形成能力に具体的にどのように影響を及ぼすかを評価した。この研究は、Wntシグナル伝達が、加齢関連の自家骨移植の有効性の低下において中枢的な役割を果たすこと、及び自家移植の有効性が、Wntタンパク質治療薬を使用したエキソビボ処理によって回復され得ることを、示している。具体的には、骨移植片材料(細胞髄及び石灰化骨チップ画分)を、マウスから取得し、Wnt3aのリポソーム製剤とともにインキュベートした。骨移植片を、次いで、腎被膜下(sub-renal capsule、SRC)に10日間移植した。エキソビボでのWnt3a処理は、移植片において、対照と比較して増加した骨形成をもたらした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2019/094617号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2009/131752号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2016/112111号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2017/0214613号パンフレット
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Burge, R. T. et al (2008) J. Medical Economics 4: 51-62
【非特許文献2】Steiner, C. et al (2002) Eff. Clin. Pract. 5: 143-151
【非特許文献3】Hold, P. M. & Prowse, S. J. B. (2011) J. Plast. Reconstr. Aesthet. Surg. 64: 834-835
【非特許文献4】Shenaq, S. M. (1988) Microsurgery 9: 154-158
【非特許文献5】Lee, K. et al (2005) The Spine Journal 5(6 Suppl): 217S-223S
【非特許文献6】Wozniak, P. & El Haj, A. J. (2007) Tissue Engineering using Ceramics and Polymers. Boccacani, A. R. & Gough J. E. (Eds.) Cambridge
【非特許文献7】Sharma, P. et al (2005) Applications of Cell Immobilization Biotechnology. Nedovic, V. & Willaert, R. (Eds.) Kluwer Academic Publishers
【非特許文献8】Bianco, P. & Robey, P. G. (2015) Development 142: 1023-1027
【非特許文献9】Garcin, C. L. & Habib, S. J. A. (2017) Results Probl. Cell Differ. 61: 323-350
【非特許文献10】Mills, K. M. et al (2017) Open Biology 7: 170140
【非特許文献11】Lowndes, M. et al (2017) Nat. Protoc. 12(7): 1498-1512
【非特許文献12】Loundes, M. et al (2016) Stem Cell Reports 7: 126-130
【非特許文献13】Habib, S. J. et al (2013) Science 339: 1445-1448
【非特許文献14】Lowndes, M. et al (2016) Stem Cell Reports 7: 126-137
【非特許文献15】Pittenger, M. F. et al. (1999) Science 284: 143-147
【非特許文献16】Chippendale, T. et al (2016) Comprehensive Biotechnology 2e, Moo-Young, M. (Ed.), Elsevier
【非特許文献17】Rafiq, Q. A. et al (2013) Biotechnol. Lett. 35: 1233-1245
【非特許文献18】Heathman, T. R. J. et al. (2015) Biotechnol. Bioeng. 112: 1696-1707
【非特許文献19】Ankrum, J. A., et al (2014) Nat. Biotechnol. 32: 252-260
【非特許文献20】Nimni, M. W. et al (1987) J. Biomed. Mater. Res. 21: 741-771
【非特許文献21】Chen T. et al (Scientific Reports (2018) 8: 119)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
組織再生に関してインビボでのスキャフォールド及び幹細胞の使用が知られているが、局在化されたWntシグナル伝達の重要性と合わせると、効率的かつ有効な骨再生を促進するデバイスに対する必要性が依然として存在しており、この背景に対して、本発明が考案された。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、生物学的組織再生パッチであって、i)Wntファミリー由来の1つ若しくは2つ以上のタンパク質又はWntシグナル伝達カスケードのアゴニストと、ii)スキャフォールドとを含み、1つ若しくは2つ以上のWntタンパク質又はWntアゴニストがスキャフォールドに固定化されており、スキャフォールドが、官能基化された生体適合性ポリマーから形成される、パッチを包含する。
【0015】
1つ又は2つ以上のWntタンパク質は、Wnt3であり得、好ましくはWnt3aであり得る。
【0016】
好ましくは、1つ若しくは2つ以上のWntタンパク質又はWntアゴニストは、共有結合によってスキャフォールドに固定化されていてもよい。1つの例において、固定化は、一級アミン官能基を介している。
【0017】
一実施形態において、生体適合性ポリマーは、生分解性であってもよい。
【0018】
別の実施形態において、生体適合性ポリマーは、フィルムとして形成されてもよい。
【0019】
生体適合性ポリマーの例としては、ポリ(ε-カプロラクトン)(PCL、poly (ε-caprolactone))、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA、poly (lactic-co-glycolic acid))、ポリ(乳酸)(PLA、poly (lactide acid))、ポロキサマー、ポビドン、ポリエチレングリコール(PEG、polyethylene glycol)、又はポリ(ビニルアルコール)(PVA、poly(vinyl alcohol))が挙げられる。
【0020】
別の実施形態において、生体適合性ポリマーは、一級アミン基で官能基化されていてもよい。代替的には、生体適合性ポリマーは、カルボン酸基で官能基化されていてもよい。
【0021】
本発明はまた、生体適合性ポリマー上で培養された幹細胞をさらに含む、パッチを包含する。理想的には、幹細胞は、単層として培養される。
【0022】
一実施形態において、幹細胞は、細胞外マトリックスタンパク質で覆われていてもよい。例えば、コラーゲン、例えば、1型コラーゲン、及びラミニンが、好適であり得る。
【0023】
一実施形態において、幹細胞は、ヒト間葉又は骨格系幹細胞(hSSC)であり得る。そのため、パッチは、骨の再生及び/又は修復のための骨形成パッチである。
【0024】
本発明はまた、生物学的軟部組織、結合組織、又は骨の内在性再生及び/又は修復の促進のためのパッチの使用も包含する。組織又は骨は、欠損、孔、間隙、断裂、又は破砕を有し得る。別様に表す場合、本発明は、生物学的組織の内在性再生方法であって、本明細書全体を通じて記載されるパッチを、軟部組織、結合組織、又は骨における孔、欠損、間隙、断裂、又は破砕全体にわたって、その上又はその周辺にインプラントするステップを含む、方法を包含する。
【0025】
特定の例において、孔、欠損、間隙、断裂、又は破砕は、骨折であり得る。別の例において、孔は、頭蓋顔面欠損であってもよく、及び/又は骨がん腫瘍除去に起因するものであってもよい。別の例は、脳外科手術又は脳卒中リハビリテーション後の1つ又は2つ以上の頭蓋の孔の修復のための使用であり得る。本発明の方法及びパッチはまた、新しい骨を成長させるため、例えば、脚を伸長させるため又は骨の一部が除去された後に骨を再成長させるためにも使用され得る。
【0026】
本発明のパッチの特定の整形外科学的使用の具体的な例としては、経椎間孔腰椎椎体間固定(Transforaminal Lumbar Interbody Fusion、TLIF)脊椎固定術、単椎間関節固定術、分節系骨欠損、及び高位脛骨切断術が挙げられる。
【0027】
また、生物学的軟部組織、結合組織、又は骨の内在性修復を促進する方法であって、本明細書に記載される生物学的組織修復パッチを、組織又は骨における欠損、孔、間隙、断裂、又は破砕に適用するステップを含む、方法も提供される。
【0028】
一実施形態において、生物学的組織修復パッチは、バンデージを含むか、又はバンデージである。
【0029】
一実施形態において、生物学的組織修復パッチは、骨膜に適用される。生物学的組織修復パッチを、組織又は骨における欠損、孔、間隙、断裂、又は破砕に適用する場合、骨膜は、損傷しているか又は非連続的であり得る。この状況において、生物学的組織修復パッチは、その少なくとも一部が、骨膜の少なくとも一部と接触するように適用される。これは、内在性幹細胞が、適用の部位において、治療的に有効な構造を再構成するのを促進する利点を有する。
【0030】
一実施形態において、生物学的組織修復パッチを適用する前又はそれと同時に、コラーゲン、好適には、1型コラーゲンが、組織又は骨における欠損、孔、間隙、断裂、又は破砕に適用される。好適には、コラーゲン、例えば、1型コラーゲンは、注射によって適用されるか、又は重合したゲルとして創傷部位に適用される。これは、内在性幹細胞が、適用の部位において、治療的に有効な構造を再構成するのを促進する利点を有する。
【0031】
別の実施形態において、本発明は、生物学的軟部組織、結合組織、又は骨における欠損、孔、間隙、断裂、又は破砕の処置において使用するための、上述のパッチに関する。
【0032】
別の実施形態において、本発明は、対象において生物学的軟部組織、結合組織、又は骨における欠損、孔、間隙、断裂、又は破砕を処置する方法であって、上述のパッチを、前記欠損、孔、間隙、断裂、又は破砕に適用するステップを含む、方法に関する。
【0033】
パッチはまた、生物学的軟部組織、結合組織、又は骨の内在性再生を促進及び/又は調節する治療的に有効な薬剤を特定するためのスクリーニング及び/又は毒性研究における使用も見出される。
【0034】
本明細書に記載される生物学的組織再生パッチを製造する方法であって、i)生体適合性ポリマーから、フィルムを調製するステップと、ii)ポリマーの表面を官能基化するステップと、iii)Wntファミリー由来の1つ若しくは2つ以上のタンパク質又はWntシグナル伝達経路のアゴニストを、ポリマー表面にコンジュゲートするステップとを含む、方法も、開示される。
【0035】
好ましくは、ポリマーの表面は、一級アミン官能基を提供するように官能基化されていてもよい。そのような官能基化は、酸素プラズマ及びアミノプロピル-トリエトキシシラン(aminopropyl-triethoxysilane、APTES)での処理によって達成され得る。代替的には、官能基化は、EDC/NHS反応によるカルボン酸の活性化によって、達成され得る。
【0036】
特定の実施形態において、本方法は、Wnt又はそのアゴニストを官能基化されたポリマー表面にコンジュゲートした後に、幹細胞を培養するステップをさらに含む。
【0037】
理想的には、幹細胞は、単層として培養され、5~10日間、好ましくは、7~8日間培養され得る。
【0038】
別の実施形態において、本方法は、細胞外マトリックスタンパク質、例えば、コラーゲン、例えば、1型コラーゲンの層を、幹細胞上に重ねるステップをさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1-1】固定化されたWnt3aタンパク質は、3D培養モデルにおいて、有糸分裂面をアライメントし、骨髄由来ヒト骨格系幹細胞(hSSC)のWnt/β-カテニン経路構成成分の非対称分布を誘導する。図1A:3D Wnt誘導型ヒト骨形成組織モデル(WIOTM)において上方に遊走するhSSCの代表的な断面図である。核は、4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI、黄色)で染色されている。Z=125μm。図1B:WIOTMにおける分裂の配向及び骨形成分化プロセスの概略図である。図1C:Wnt3a又は不活性Wnt3a-WIOTMにおいて垂直方向の細胞分裂を受けるhSSCのパーセンテージの定量化である。プロットされたデータは、平均±標準偏差である。n=3回の反復、N≧15個の細胞。星印は、両側スチューデントt検定によって計算された、以下の統計学的有意性を示す:*、p<0.05。Wnt3a表面に対して垂直方向(図1D~1G)又は平行方向(図1H~1K)の細胞分裂を受けるhSSCの代表的な共焦点Zプレーン(図1D及び図1H)、3D再構成(図1E及び1I)、又は断面図(図1F及び図1J)である。細胞は、APCに対する抗体(シアン)及びβ-カテニンに対する抗体(マゼンタ)で染色されている。核は、DAPI(黄色)で染色されている。スケールバー、20μm。
図1-2】図1G及び図1K:平均蛍光強度(任意単位)として表される、Z軸(軸方向分解)にわたるAPC、β-カテニン、及びDAPIの蛍光強度分析である。図1L:概略図の右側に示されるカテゴリーに従った、Wnt3a表面に対して垂直方向又は平行方向に分裂する細胞におけるAPC及びβ-カテニンの分布の定量化である。データは、平均±標準偏差である。n=3回の反復、N≧15個の細胞。
図2-1】図2:固定化されたWnt3aタンパク質は、分裂細胞及びWIOTMにおいて、カドヘリン-13(CDH13、Cadherin-13)及びオステオポンチンの非対称分布を誘導する。図2A:断面図の画像(z=150μm)、並びに図2B:WIOTMの底部(細胞がWnt3a表面と直接接触している)、中央部(表面から10~50μm)、及び上部(表面から50~100μm)からの代表的な共焦点Zプレーンである。細胞は、CDH13に対する抗体(シアン)及びDAPIに対する抗体(黄色)で染色されている。スケールバー、100μm。図2C:WIOTMにおける3つの異なるzレベルでの骨形成及び幹細胞マーカーの発現の定量化である。n=3回の反復、N>90個の細胞。
図2-2】図2D及び図2E図2Dは垂直方向及び図2Eは平行方向に分裂する細胞における分裂中期のCDH13(シアン)及びOPN(マゼンタ)の発現を示す、一連のzプレーンの代表的な共焦点画像である。スケールバー、20μm。図2F図9Aに記載されるように計算した、垂直方向(Perp)及び平行方向(Para)に分裂する細胞におけるOPN及びCDH13の分布の定量化である。単一細胞がプロットされており、バーは、平均±標準偏差であり、N≧18個の細胞である。星印は、両側スチューデントt検定によって計算された、以下の統計学的有意性を示す:**、p<0.01。
図2-3】細胞分裂後の娘細胞の共焦点画像の代表的な3D再構成(図2G)及び2D側面図(図2H)である。T:上部(Wnt3a遠位側)細胞、B:底部(Wnt3a近位側)。スケールバー、20μm。平行方向の細胞分裂後の娘細胞の共焦点画像の代表的な3D再構成(図2I)及び2D側面図(図2J)である。T:上部(Wnt遠位側)細胞、B:底部(Wnt3a近位側)。L:左側の細胞、R:右側の細胞。図2K図9Aに記載されるように計算した、垂直方向(Perp)及び平行方向(Para)の分裂後の細胞におけるOPN及びCDH13の分布の定量化である。細胞ペアがプロットされており、バーは、平均±標準偏差であり、N≧17個の細胞ペアである。星印は、両側スチューデントt検定によって計算された、以下の統計学的有意性を示す:****、p<0.0001。
図3図3:Wnt3aバンデージのインビトロでの機能性の特徴付けである。図3A:20ng(左)又は60ng(右)のWnt3aのPCLフィルムへの固定化プロセスの代表的なαWNT3Aイムノブロットである(Wnt3aバンデージ)。それぞれのイムノブロットにおいて、Wnt3aインプット(20ng又は60ng)、それぞれのフィルム上の表面のインキュベーション及び3回のPBS洗浄(W1、W2、及びW3)後に回収した未結合Wnt3aを、ブロッティングした。0.1% BSA単独もまた、対照としてゲルにロードした。図3B:7xTCF-ルシフェラーゼレポーター細胞系(LS/L)アッセイによって測定した、PCLフィルムに固定化されたWnt3aのWnt活性である。星印は、チューキーの検定によって計算した統計学的有意性を示す:***、p<0.001;****、p<0.0001。図3C:20ng又は60ngのWnt3aをコンジュゲートしたPCLバンデージにおける7xTCF-eGFP/SV40-mCherry hSSCのWntに誘導されるeGFP発現及びmCherry発現である。BSAバンデージ及び不活性化Wntバンデージは、陰性対照として使用した。スケールバー、100μm。図3D図3CにおけるWntに誘導されるeGFP発現の定量化である。それぞれのバーは、それぞれの条件下におけるmCherry+細胞間のeGFP+細胞のパーセンテージを示す(平均±標準偏差、n=5回の反復、N>555個の細胞)。星印は、一方向ANOVA検定によって計算した、以下の統計学的有意性を示す:****、p<0.0001。
図4-1】図4:マウス頭蓋冠骨の臨界サイズ欠損部の修復におけるWnt3aバンデージ及びWIOTMバンデージのインビボでの機能の評価である。図4A:その後の外科手技の概略図である。簡単に述べると、:4mmの欠損部を、頭頂骨の片側又は両側に作製し、官能基化されたバンデージインプラントを重ね、固定した(又は欠損のみの対照についてはインプラントなし)。図4B及び図4C:インプラントを移植していないマウス(欠損のみ)、並びに不活性化Wnt3a(iWnt)バンデージ、hSSCを培養し1型コラーゲンで覆われた不活性化Wnt3aバンデージ(iWnt-hSSC)、活性Wnt3a(Wnt)バンデージ、及びWIOTMバンデージ(図4C)を移植したマウスにおける、移植の8週間後の頭蓋冠欠損部の代表的なμCTスキャン画像である。図4D:μCTスキャニングによってイメージングした、欠損部位に対する新しい骨のカバレッジの定量化である(平均±標準偏差、n≧9匹の動物)。星印は、一方向ANOVA検定によって計算した、以下の統計学的有意性を示す:ns、有意性なし;*、<0.05;***、p<0.01;****、p<0.001。
図4-2】再生された新しい骨(new bone、NB)、宿主及び新しい骨の融合、宿主骨(host bone、HB)、並びに結合/間質組織(connective/stromal tissue、CST)を示す、切片のヘマトキシリン及びエオシン(図4E)並びにモバットのペンタクローム(図4F)染色である。スケールバー、100μm(図4E)及び500μm(図4F)。BV:血管、BT:脳組織。
図5-1】図5:WIOTM、Wnt3a、及びiWnt3a-hSSCバンデージによる、インプラント8週間後の頭蓋冠骨の臨界サイズ欠損部における新しい骨の形成のインビボでの特徴付けである。図5A:新しい骨及び宿主骨の面積における総スクレロスチン(SOST、Sclerostin)陽性細胞の密度の定量化(図16Aにおける方法)である。平均±標準偏差、N≧3匹の動物から125個の細胞。全カラム間の対応のないt検定によって判定した、統計学的有意性:ns、p>0.05。図5B:ヒトマーカー(mCherry/hBMG2)及びSOSTの共発現によって判定される、WIOTMバンデージ及びiWnt3aバンデージ+hSSCにおける、ヒト起源の新しい骨における総SOST+細胞のパーセンテージの定量化である。注意:(B)と同じ試料を使用。平均±標準偏差、n=3匹の動物、N≧38個の細胞。対応のないt検定によって判定した、統計学的有意性:*、p<0.05。図5C:欠損部位における新しい骨(NB)のマイクロ-CT(μCT)及び明視野画像である。ROI1は、中央部における新しい骨であり、ROI2は、宿主骨(HB)の近傍の欠損部の縁部における新しい骨である。スケールバー、250μm。アスタリスクは、封入のアーチファクトを示す。
図5-2】~
図5-3】図5D図5E、及び図5F:欠損部位切片の代表的な免疫蛍光画像である:(D)7xTCF-eGFP//SV40-mCherryレポーターを発現する細胞を有するWIOTMバンデージがインプラントされている、(E)Wnt3aバンデージ単独、及び(F)hSSCを有し、1型コラーゲンで覆われた不活性Wnt3aバンデージ(iWnt3aバンデージ+hSSC)。切片は、DAPI(黄色)、スクレロスチンに対する抗体(シアン)、及びヒトマーカー(D)mCherry(赤色)、(F)hBMG2(赤色)で染色されている。実線の白色の枠は、ヒトマーカー+細胞を示し、破線の枠は、ヒトマーカー-を示す。アスタリスクは、非細胞アーチファクトを示す。スケールバー、20μm。
図6-1】図6:WIOTM、Wnt3a、及びiWnt3a-hSSCバンデージで処置した頭蓋冠骨の臨界サイズ欠損部において形成された新しい骨の周囲の結合/間質様組織の、インプラント8週間後のインビボでの特徴付けである。図6A:近位側(Prox、<20μm)、M(中央):組織の残りの厚みの50%、D(遠位側):組織の残りの厚みのもう50%において見出された、総細胞に対するGFP+ヒト細胞及びGFP-ヒト細胞のパーセンテージの定量化である。平均±標準偏差、n≧3、N≧3匹の動物から318個の細胞、パーセンテージはグラフに示されている。図6B:7xTCF-eGFP//SV40-mCherryを発現する細胞を有するWIOTMバンデージをインプラントした欠損部位及び宿主組織の代表的な免疫蛍光画像である。切片は、DAPI(白色)、並びにmCherryに対する抗体(赤色)及びGFPに対する抗体(緑色)で染色されている。矢印:青色:mCh-/GFP-、マゼンタ:mCh+/GFP-、白色:mCh-/GFP-。スケールバー、50μm。HB:宿主骨、Peri:骨膜。スケールバー、50μm。図6C及び図6D:欠損部位及び宿主組織の代表的な免疫蛍光画像:図6C:7xTCF-eGFP//SV40-mCherryレポーターを発現する細胞を有するWIOTMバンデージをインプラントした欠損部位の代表的な免疫蛍光画像である。
図6-2】図6D:Wnt3aバンデージ単独及びhSSCに1型コラーゲンで覆われた不活性Wnt3aバンデージ(iWnt3aバンデージ+hSSC)である。切片は、DAPI(黄色)、CDH13に対する抗体(シアン)で染色されており、(C)においては、ヒトマーカーmCherryに対する抗体(赤色)で染色されている。矢印:白色:mCh+/CDH13+、青色:mCh-/CDH13+、マゼンタ:mCh+/CDH13-、黄色:mCh-/CDH13-。スケールバー、50μm。P:骨膜、S:縫合線、HB:宿主骨、Peri:骨膜、NB:新しい骨。図6E~6G:(図6E)7xTCF-eGFP//SV40-mCherryレポーターを発現する細胞を有するWIOTMバンデージ(WIOTMバンデージ)、(図6F)Wnt3aバンデージ単独、及び(図6G)hSSCを有し1型コラーゲンで覆われた不活性Wnt3aバンデージ(iWnt3aバンデージ+hSSC)の欠損部位、並びに宿主組織における、総細胞に対するパーセンテージとしての、欠損部位における細胞部分集団の定量化である。バンデージ表面に対して近位側、<20μm)、中央部:組織の残りの厚みの50%、遠位側:組織の残りの厚みのもう50%。平均±標準偏差、n≧3、N≧3匹の動物から25個の細胞、パーセンテージはグラフに示されている。P:骨膜、S:縫合線、HB:宿主骨。Peri:骨膜、NB:新しい骨。
図6-3】(図6H)対応のないt検定によって判定した、(図6E~6G)に示されるデータの比較の統計学的有意性:ns、p>0.05;*、p<0.05;**、p<0.01;***、p<0.001。
図7図7:ウエスタンブロットによって示されるPLGAバンデージへのWntの固定化、及びWntレポーター細胞系におけるWnt/ベータ-カテニン経路の活性化である。図7A:13週齢の雌性重症複合免疫不全(SCID、severe combined immunodeficient)マウスにおける、8週間後の、直径4mmの臨界サイズの片側頭蓋冠骨欠損部の骨修復の面積パーセンテージの定量化である。孔を開けた欠損部は、コラーゲンで覆われた。欠損のみ(n=14匹)には、さらなる処置を与えなかった。PLGA-WIOTM条件(n=10匹)においては、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)Wnt3aバンデージに、hSSCを播種し、移植の前にインビトロで3D骨形成マトリックスにおいて7日間培養し、Wnt誘導型ヒト骨形成組織モデル(WIOTM)を形成した。統計学的有意性は、対応のない両側T検定によって計算した。図7B:外科手術の8週間後における頭蓋冠骨欠損のマイクロコンピュータ断層撮影法(マイクロCT)スキャンの代表的な画像である。黄色破線の楕円は、もともとの直径4mmの欠損サイズを表す。スケールバーは、2mmである。図7C:PLGAバンデージ又は組織培養プラスチックに播種した、7xTCF-ルシフェラーゼコンストラクトを有するWnt/β-カテニンレポーターLSL細胞によって測定される、ルシフェラーゼ活性の変化倍数である。条件:Wnt3a-PLGA(60ngのインプットWnt3aをPLGAに固定化)、培地対照(組織培養プラスチック及び標準的な培養培地)、並びに可溶性Wnt3a(組織培養プラスチック、及び45ngの可溶性Wnt3aを補充した培地)での読み取りを、BSA-PLGA(PLGAに固定化したウシ血清アルブミン)に対して正規化した。n=9、3回の独立した実験からプール。統計学的有意性は、対応のない両側T検定によって計算した。図7D:60ngのWnt3a(固定化ステップでインプットした量と同等)、未結合Wnt3a(固定化後に回収)、洗浄液1~3、及びBSAのみ(ウシ血清アルブミン)を示す代表的なウエスタンブロットである。分子量ラダーは、キロダルトン(kD)単位である。
図8-1】図8:3D培養物におけるhSSCの有糸分裂の軸、並びにaPKC z及びNumbの細胞分布である。図8A及び図8B:セントロソームマーカーであるセントリン1に対する抗体(マゼンタ)又はDAPI(黄色)で染色した、Wnt表面に対して平行方向(A)又は垂直方向(B)に分裂するhSSCの代表的な画像である。差し込み図は、白色枠の拡大図である。矢印は、セントロソームを示す。スケールバー、50μm。図8C図1Lのように分類される、Wnt3a表面に対して垂直方向又は平行方向に分裂する細胞におけるaPKCζの分布の定量化である。N≧15個の細胞。
図8-2】図8D及び図8E:垂直方向(図8D)又は平行方向(図8E)の細胞分裂を受けるhSSCの代表的な共焦点Zプレーン及び3D再構成である。細胞は、α-チューブリンに対する抗体(シアン)、aPKCζに対する抗体(マゼンタ)、及びDAPI(黄色)で染色されている。スケールバー、20μm。
図8-3】図8F及び図8G:垂直方向(図8F)又は平行方向(図8G)の細胞分裂を受けるhSSCの代表的な共焦点Zプレーンである。細胞は、DAPI(黄色)及び抗体NUMB(赤色)で染色されている。スケールバー、20μm。図8H及び図8I:垂直方向及び平行方向の分裂細胞の3D再構成及び2D図である。図8F及び図8Hにおける細胞は、共染色により、図10D~10Fにも示されていることに留意されたい。図8J図9Aに示されるように、垂直方向(Perp)又は平行方向(Para)の分裂細胞におけるNUMB分布の定量化である(単一細胞がプロットされており、バーは、平均±標準偏差であり、N≧10個の細胞である)。
図9-1】図9:細胞分裂中の細胞運命マーカーの分布及び培養hSSCの複能性である。図9A:垂直方向又は平行方向の分裂細胞の定量化プロトコールの概略図である。簡単に述べると、DAPI染色を、中央部の参照として使用し、マーカー1及びマーカー2の平均蛍光強度を、細胞のDAPI正中線から底部及び上部(垂直方向の分裂細胞)又は細胞のDAPI正中線から右側部分及び左側部分(平行方向の分裂細胞)について測定した。マーカー1と2との間の比を、それぞれの細胞の半分について計算し、比の間の差異倍数をプロットした。
図9-2】図9B及び図9C:CDH13に対する抗体(シアン)及びOPNに対する抗体(マゼンタ)、並びにDAPI(黄色)で染色した、分裂終期における垂直方向(図9B)又は平行方向(図9C)の分裂細胞の代表的な共焦点Zプレーンである。スケールバー、20μm。図9D:脂肪生成、軟骨形成、及び骨形成培地における培養の14日目におけるhSSC(継代5)のインビトロでの分化である。上の段:それぞれ3つの系統のマーカー(赤色)(FABP4、アグリカン、及びオステオカルシン(OCN、Osteocalcin)、並びにDAPI(青色)の免疫蛍光染色である。下の段:特異性を示すために一次抗体なしで染色した細胞。スケールバー、150μm。
図10-1】図10:WIOTM及びhSSC分裂中の細胞運命マーカーの分布である。図10A:断面画像の図(z=120μm)、及び図10B:WIOTMの底部(細胞がWnt3a表面と直接接触している)、中央部(表面から10~50μm)、及び上部(表面から50~100μm)からの代表的な共焦点Zプレーンである。細胞は、PLXNA2に対する抗体(シアン)及びOPNに対する抗体(マゼンタ)、並びにDAPI(黄色)で染色されている。スケールバー、100μm。図10C:WIOTMにおける3つの異なるzレベルでの骨形成及び幹細胞マーカーの発現の定量化である。データは、平均±標準偏差であり、n=3回の反復、N≧262個の細胞。
図10-2】図10D:垂直方向の細胞分裂を受けるhSSCの代表的な共焦点Zプレーンであり、PLXNA2に対する抗体(シアン)、OPNに対する抗体(マゼンタ)、及びDAPI(黄色)で染色されている。この細胞はまた、図8F及び8Hにも示されていることに留意されたい。スケールバー、20μm。
図10-3】図10E図10Dに示される細胞の3D再構成である。図10F図10Eの上面図における3D再構成したDAPIシグナルの拡大図である。図10G図9Aに記載されるように計算した、垂直方向(Perp)及び平行方向(Para)に分裂する細胞におけるOPN及びPLXNA2の分布の定量化である。単一細胞がプロットされており、バーは、平均±標準偏差であり、N≧17個の細胞である。星印は、両側スチューデントt検定によって計算した、統計学的有意性を示す、**、p<0.01。
図11-1】図11:hSSC分裂中の細胞運命マーカーの分布である。垂直方向(T:上部、B:底部)(図11A)及び平行方向の分裂(L:左側、R:右側)(図11B)の代表的な有糸分裂後の細胞の3D再構成である。細胞は、DAPI(黄色)及びPLXNA2(シアン)で染色されている。
図11-2】図11C図9Aに記載されるように計算した、垂直方向及び平行方向に分裂した有糸分裂後の細胞におけるOPN及びPLXNA2の分布の定量化である。細胞ペアがプロットされており、バーは、平均±標準偏差であり、N≧17個の細胞である。星印は、両側スチューデントt検定によって計算した、以下の統計学的有意性を示す:***、p<0.001。
図12-1】図12:WIOTM及びhSSC分裂中の細胞運命マーカーの分布である。図12A:上方に遊走する細胞におけるタンパク質発現の変化を示す、WIOTMの底部(z=0~10μm)又は上部(z=50~60μm)の共焦点画像の代表的な最大強度Z図である。細胞は、OCNに対する抗体(シアン)、STRO1に対する抗体(マゼンタ)、及びDAPI(黄色)で染色されている。スケールバー、50μm。
図12-2】図12B及び図12C:垂直方向(図12B)又は平行方向(図12C)の細胞分裂を受けるhSSCの代表的な共焦点Zプレーンである。細胞は、OCNに対する抗体(シアン)、Stro1に対する抗体(マゼンタ)、及びDAPI(黄色)で染色されている。スケールバー、20μm。
図12-3】図12D及び図12E図9Aに記載されるように計算した、垂直方向及び平行方向に配向された分裂中(図12D)及び有糸分裂後(図12E)の細胞におけるOPN及びPLXNA2の分布の定量化である。単一細胞(D)又は細胞ペア(E)がプロットされており、バーは、平均±標準偏差であり、それぞれ、N≧17及び18個の細胞/細胞ペアである。星印は、両側スチューデントt検定によって計算された、以下の統計学的有意性を示す:**、p<0.01。代表的な垂直方向の有糸分裂後の細胞ペアの3D再構成(図12F)及び2D図(図12G)である。T:上部細胞、B:底部細胞。
図13-1】図13:Wnt固定化のためのPCLフィルムの官能基化である。図13A:Oプラズマ処理を使用したPCL表面の酸化、及び(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン(APTES)のラジカルヒドロキシル基との二次共有結合でのコンジュゲーションによる安定な一級アミンの提供を示す概略図である。図13B:8週間にわたる培養で、一級アミン官能基化の有効性及びPCLの安定な物理的完全性を特徴付けるためのフルオレセインイソチオシアネートFITCコンジュゲーションの定量化である。PCLを、Wnt固定化の前に、ヘキサメチルジアミン(HMDA、hexamethyldiamine)、Oプラズマ又は空気で処理した。結果は、平均±標準偏差であり、任意単位で表されている。星印は、一方向ANOVAを用いて計算した、以下の統計学的有意性を示す:****、p<0.001;ns、有意性なし。図13D:結合FITC吸光度(図13B)から同等な分解FITC吸光度(図13C)への外挿による、PCL上のアミン部位の数の推定である。
図13-2】図13C:500~550nmで分解したFITC吸光度の標準曲線及び線形当てはめである。
図14図14:宿主及びWIOTMバンデージで処置した頭蓋冠骨欠損部位における結合/間質様組織の免疫組織化学である。図14A:新しい骨(NB)及び宿主骨(HB)のマイクロ-CT(μCT)スキャン、並びにSTRO1に対する抗体(図14B)及びCDH13に対する抗体(図14C)での免疫組織化学染色である。拡大図は、宿主骨及び骨膜(1)、孔を開けた欠損縁部の付近に形成された新しい骨(2)、並びに欠損部の中心に形成された新しい骨(3)の範囲を示す。黒色の矢印は、孔を開けた欠損部のもともとの縁部を示す。Cは、結合/間質様組織であり、Pは、骨膜であり、Sは、縫合線である。核は、ヘマトキシリンで対比染色されている。
図15-1】図15:頭蓋冠骨の免疫組織化学である。図15A:WIOTMバンデージで処置した欠損部における新しい骨(NB)、及び同じ試料に由来する宿主骨(HB)のOCN、OPN、及びPLXNA2の範囲の免疫組織化学(IHC)染色である。C:結合組織、P:骨膜。スケールバー、50μm。図15B:Wnt3aバンデージで処置した欠損部における新しい骨(NB)、及び同じ試料に由来する宿主骨(HB)の範囲のOCN、OPN、及びCDH13の免疫組織化学的染色、免疫組織化学的染色である。C:結合組織、P:骨膜。スケールバー、50μm。
図15-2】図15C:OCN、OPN、PLXNA2、STRO1、及びCDH13に対する抗体での矢状縫合線(S)の免疫組織化学的染色である。黒色の点線は、宿主縫合線の概要である。HB:宿主骨。スケールバー、50μm。図15D:IHCの陰性対照である。上の段:標準的なプロトコールに従って染色されているが、一次抗体なしの組織の領域である。下の段:図15A~15C及び図14B~14Cにおいて使用した抗体の、以下のアイソタイプ対照である:マウスIgG1(OPNアイソタイプ)、ウサギIgG(CDH13、OCN、PLXNA2アイソタイプ)、及びマウスIgM(Stro1アイソタイプ)。S:縫合線、HB:宿主骨、NB:新しい骨、C:結合組織。スケールバー、50μm。
図16-1】図16:免疫蛍光による定量方法の概要である。図16A:骨細胞の定量化のためのものである。(I)染色した宿主組織(すなわち、宿主骨)の範囲を選択し、目的のマーカーのもっとも高い強度の細胞シグナルを、判定する(II)。(III)この強度を使用して、試料組織(例えば、新しい骨)を閾値処理し、すべての残りのシグナルが、対照組織よりも高い強度のものとなるようにする(IV)。次いで、陽性細胞を、定量することができる。
図16-2】図16B:結合組織における細胞の定量化のためである(I)。(II)染色した宿主組織(すなわち、宿主骨膜)の範囲を選択し、目的のマーカーのもっとも高い細胞シグナルを、判定する。(III)この強度を使用して、試料組織(例えば、欠損部における結合組織)を閾値処理し、すべての残りのシグナルが、対照組織よりも高い強度のものとなるようにする(IV)。次いで、陽性細胞を、定量することができる。バンデージ処置下にある範囲の分析については、領域を以下のように判定する:P(近位側):バンデージ表面から20μm未満;M(中央部):組織の残りの厚みの50%;D(遠位側):組織の残りの厚みのもう50%。
図16-3】図16C:シグナルの有意な共局在がある、DAPI(黄色)、並びにヒトマーカーmCherryに対する抗体(赤色)及びhBMG2に対する抗体(シアン)で染色した、7xTCF-eGFP//SV40-mCherry細胞を含有するWIOTMバンデージで処置した組織及び宿主組織の代表的な免疫蛍光画像。白色の矢印は、mCherry+/hBMG2+細胞を示す。スケールバー、50μm。
図17-1】図17:WIOTMバンデージ、Wnt3aバンデージ、及びiWnt3aバンデージ+hSSCで処置した頭蓋冠骨の臨界サイズの欠損部において形成された新しい骨の周囲の結合/間質様組織のインプラント8週間後のインビボでの特徴付けである。図17A:バンデージで処置した欠損部位(N≧44個の細胞)及び宿主組織(N≧12個の細胞)における総(DAPI)及びCDH13陽性細胞の密度の定量化(図16B)である。平均±標準偏差、すべてn≧3、3匹の動物から。全カラム間で対応のないt検定によって判定された、統計学的有意性:p>0.05;ns、p>0.05。
図17-2】図17B:7xTCF-eGFP//SV40-mCherryレポーターを発現する細胞を有するWIOTMバンデージの欠損部位及び宿主組織における総細胞に対するパーセンテージとしての欠損部位における細胞部分集団の定量化である。バンデージ表面から近位側(Prox、<20μm)、中央部(Mid)及び遠位側(Dist)(それぞれ、残りの組織の厚みの50%)。平均±標準偏差、n≧3、N≧3匹の動物から16個の細胞、パーセンテージはグラフに示されている。図17D:バンデージで処置した欠損部位における総(DAPI)及びStrol陽性細胞の密度の定量化である(N≧36個の細胞)。平均±標準偏差、すべてn=3匹の動物。全カラム間で対応のないt検定によって判定された、統計学的有意性:p>0.05;ns、p>0.05。
図17-3】図17C:DAPI(黄色)、並びにPLXNA2に対する抗体(シアン)及びヒトマーカーmCherryに対する抗体(赤色)で染色した、7xTCF-eGFP//SV40-mCherry細胞を含有するWIOTMバンデージでの処置下、及び宿主組織における、欠損部位の代表的な免疫蛍光画像である。矢印:白色:mCh+/PLXNA2+、青色:mCh-/PLXNA2+、マゼンタ:mCh+/PLXNA2-、黄色:ヒト-/Strol-。Prox:近位側、Mid:中央部、Dist:遠位側、P:骨膜、S:縫合線、HB:宿主骨。スケールバー、50μm。
図17-4】図17E:7xTCF-eGFP//SV40-mCherryレポーターを発現する細胞を有するWIOTMバンデージ、及びhSSCを有する不活性Wnt3aバンデージをインプラントした欠損部位切片の代表的な免疫蛍光画像である。切片は、DAPI(黄色)、Strolに対する抗体(シアン)及びヒトマーカーmCherry又はhBMG2に対する抗体(赤色)で染色されている。矢印:白色:ヒト+/Strol+、青色:ヒト-/Strol+、マゼンタ:ヒト+/Strol-、黄色:ヒト-/Strol-。アスタリスクは、非細胞特異的染色を示す。スケールバー50μm。
【発明を実施するための形態】
【0040】
骨再生を統制することにおけるWnt/β-カテニンシグナル伝達経路の役割は、様々なモデルにおいて十分に文書化されている(Doro, D.H. et al (2017) Front Physiol. 8: 956、Zhao, H. et al (2015) Nat. Cell Biol. 17: 386-396; Maruyama, T. et al (2016) Nat. Commun. 7: 10526、Wilk, K. et al (2017) Stem Cell Reports 8: 933-946; Zhou, H. & Lee, J. (2011) Acta Biomater. 7: 2769-2781; Tan, S. H. et al (2014) Proc. Nat. Acad. Sci. U.S.A. 111: E5262-71); Krause, U. et al (2010) Proc. Nat. Acad. Sci. U.S.A. 107: 4147-4152; Baron, R. & Kneissel, M. (2013) Nat. Med. 19: 179-195; Li, S. et al (2015) PLoS ONE 10: e0138059; Minear, S. et al (2012) Sci. Transl. Med. 2: 29ra30)。Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の重要な負の調節因子としての機能を果たす、Axin2発現における異常は、マウスモデルにおいて前駆細胞の増殖及び早期分化を加速させることが見出されている(Tan, S. H. et al (2014)、上記; Li, S. et al (2015) PLoS ONE 10: e0138059)。マウスモデルにおける系統追跡により、さらに、傷害時のWnt誘導型骨形成再生が説明され、ここでは、縫合線間葉に存在するWnt応答性幹細胞集団が、増大及び分化を作動させることにおける鍵となるSSCであることが見出された(Zhao, H. et al (2015)、上記; Maruyama, T. et al (2016)、上記)。
【0041】
骨再生を促進することにおけるWntタンパク質の治療的有効性を調べるための薬理学的研究が、開発されている。リポソーム小胞によって送達されるWnt3aは、骨格前駆細胞の増殖を刺激することが特定され、したがって、骨成長の鍵である骨芽細胞分化を加速させた(Minear, S. et al (2010) Sci. Transl. Med. 2(29): 29ra30)。しかしながら、このタンパク質に基づくアプローチは、骨成長を促進/増強させるであろうWnt応答性細胞への到達を、傷害部位におけるリポソームの非標的化拡散に依存する。したがって、有望な骨成長が特定されたとはいえ、再生率は、間隙充填ツールとしての機能を果たす従来的な骨伝導性インプラントよりも低かった。他の小分子アプローチは、グリコーゲン-シンセターゼ-キナーゼ-3β(GSK3β)を阻害することによって骨形成に有利になるようにWnt/β-カテニンシグナル伝達経路を調節することを目的としており、ペルオキシソーム増殖因子-活性化受容体-γ(PPARγ、peroxisome proliferator-activated receptor-γ)が、骨誘導療法において有効であることが見出されている(Krause, U. et al (2010) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 107: 4147-4152; Zeitouni, S. et al (2012) Sci. Transl. Med. 4(132): 132ra55)。有望な候補ではあるが、小分子は、非特異的であることが多く、他のシグナル伝達経路を活性化/阻害する可能性がある(Lowndes, M. et al (2017)、上記)。さらに、GSK3βは、Wntリガンドの制御下ではない多数の細胞プロセス及びシグナル伝達経路に関与している(Beurel, E. et al (2015) Pharmacol. Ther. 148: 114-131)。
【0042】
可溶性薬物送達を使用した薬理学的アプローチが有意な治療効果を示しているが、これはまた、生物安全性の問題も呈する。可溶性薬物送達アプローチは、所望される作用を達成するために、傷害を受けた部位への複数回の注射を必要とし得、これは、感染の危険性を増加させるであろう。これらの薬剤の特異性及び局在化作用の欠如は、付帯的損傷、例えば、望ましくない細胞集団の応答の活性化/抑制をトリガーする可能性がある。結果として、標的組織のアーキテクチャ及び機能、並びに/又は拡散により薬物を受容し得る隣接する組織は、負の影響を受ける可能性がある。例えば、Wntシグナル伝達の過剰活性化は、骨体積の増加、異常な骨密度、及び骨の病理学的肥厚をもたらし得る(Morvan, F. et al (2006) J. Bone Miner. Res. 21: 934-945; Little, R. D. et al (2002) Am. J. Hum. Genet. 70: 11-19. Boyden, L. M. et al (2002) N. Engl. J. Med. 346: 1513-1521; Babij, P. et al (2003) Miner. Res. 18: 960-974)。
【0043】
腫瘍原性もまた、がんを罹患しやすい患者における懸念である。多くのがんにおいて、腫瘍原性細胞は、シグナル伝達カスケードを活性化するWnt/β-カテニン経路の下流エフェクターにおける変異を有する(Zhan, T. et al (2017) Oncogene 36: 1461-1473)。拡散によってこれらの細胞に到達し得、さらにWnt/β-カテニン経路を活性化し得る薬剤の投与は、本質的に、腫瘍原性における高い危険性として分類される。したがって、制御され、標的欠損部位に局在化されるWnt/β-カテニン経路の活性化を引き起こすことができる治療剤の標的化送達が、副作用を制限し、治癒を促進するためには必須である。本発明の生物学的組織再生パッチ及びバンデージは、この基準を満たす。
【0044】
パッチ/バンデージは、Wntタンパク質、Wntシグナル伝達経路のアゴニスト、又はR-スポンジンタンパク質を、スキャフォールドに固定することによって、その治療作用を送達する。R-スポンジン(Rspo、R-spondin)タンパク質は、Wntタンパク質と相乗的に作用してシグナル伝達レベルを増強させるが、Wntタンパク質自体が不在の場合にはシグナル伝達経路を活性化しない。特に、Rspoタンパク質は、受容体のリサイクルを阻害することによって、受容体の利用可能性を増加させると考えられている。本発明の操作設計は、自発的なタンパク質の漏出の可能性、及びそれに続く他のシグナル伝達経路又は望ましくない細胞集団の活性化の副作用、並びに発癌性の危険性を軽減し、それによって、トランスレーショナルな適用の可能性を増加させる。
【0045】
Wntシグナル伝達経路は、Wntタンパク質リガンドがFrizzledファミリー受容体に結合することによって活性化され、これにより、生物学的シグナルが、細胞内のDishevelledタンパク質に伝えられる。カノニカルWnt経路は、遺伝子転写の調節をもたらし、SPATS1遺伝子によって部分的に負に調節されると考えられている(Janda, C.Y. et al (2012). Science 337(6090): 59-64)。非カノニカル平面内細胞極性経路は、細胞の形状を担う細胞骨格を調節し、非カノニカルWnt/カルシウム経路は、細胞内のカルシウムを調節する。
【0046】
Wntタンパク質(又はアゴニスト若しくはRspoタンパク質)の固定は、理想的には、生体適合性ポリマーの表面上の一級アミン官能基に共有結合で結合するWnt(又はそのアゴニスト若しくはRspoタンパク質)との共有結合によるものである。別様に表すと、生体適合性ポリマーの表面は、一級アミン基を呈するように官能基化されており、この一級アミン基を使用して、共有結合によってWnt(又はそのアゴニスト若しくはRspoタンパク質)に結合する。
【0047】
いくつかの状況において、特に、結合組織において、Wntシグナル伝達経路のアンタゴニスト、例えば、DKK1の使用が、特定の細胞、例えば、線維芽細胞における経路の活性化を阻害するために、望ましい場合がある。
【0048】
「ポリマー」という用語は、分子が複数の(2つ又は3つ以上の)モノマーの集合から形成された場合を指す。ポリマーは、好ましくは、両親媒性であり得、有機であっても、半合成であっても、合成であってもよい。本発明に関連するポリマーの例としては、機関、例えば、US Federal Drug Agencyによって承認されている生物学的に耐容性があり薬学的に許容されるポリマーが挙げられるがこれらに限定されず、これには、ポリカプロラクトン(「PCL」)、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(「PLGA」)、ポリ(l-乳酸)(「PLA」)、ポリ(グリコール酸)(「PGA」)、ポロキサマー、ポビドン、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリジオキサノン(PDS)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリ(エーテルウレタン)、ダクロン、ポリテトラフルオロウレタン(polytetrafluorurethane)、ポリウレタン(「PU」)、ポリ(グリコリド-コ-カプロラクトン)(PGCL)、ポリ(l-ラクチド-コ-ε-カプロラクトン)PLCL、ポリ-L/D-乳酸(PLDLA)、アルギネート、及び/又はシリコンが挙げられる。
【0049】
また、ポリマーには、天然に存在する材料、例えば、I型コラーゲン、III型コラーゲン、フィブロネクチン、フィブリン、ラミニン、セルロースエステル、又はエラスチンも含まれ得る。
【0050】
理想的には、ポリマーは、生分解性であり、これにより、パッチを除去するための追加の外科手術を必要とすることなくパッチをインプラントすることが可能となる。パッチは、単純に内在性修復を促進するのに十分な期間にわたって生分解性であり得るか、又はパッチは、新しく形成された組織に機械的支持を提供するためにより長い期間にわたって生体分解されてもよい。例えば、PCLのインビボでの分解速度は、緩徐であり、数年間を要する場合があるが(Sun, H. et al (2006) Biomaterials 27: 1735-1740)、一方で、ポリ乳酸-コ-グリコール酸(PLGA)のインビボ分解速度は、1ヶ月程度と短い場合がある(Makadia, H. K. & Siegel, S. J. (2011) Polymers (Basel) 3: 1377-1397)。パッチは、欠損部位上に重ねられているため、修復が完了した後に、ポリマーの副作用の可能性を回避するために容易に除去することができる。
【0051】
ポリマーフィルムは、適切な方法によって形成され得ることが、理解されるであろう。ポリマーがPCLである場合、例えば、フィルムを作製する方法は、周知である。例えば、フィルムは、鋳型成形、3D印刷、又はエレクトロスピニングによって形成され得る。
【0052】
一実施形態において、ポリマーフィルムは、別のフィルム、例えば、ヒドロゲルフィルムに埋め込まれていてもよく、そうすることで、より大きな(ヒドロゲル)フィルムに、異なるリガンド、例えば、Wnt3aナノ粒子を片側に、及びDKK1ナノ粒子を反対側にパターン形成して、分化を増加させることが可能となる。
【0053】
Wnt(又はそのアゴニスト)をポリマー表面に固定化することを可能にするために、ポリマー表面は、好適な結合基を付加するように官能基化されていてもよい。具体的には、表面は、Wntとの共有結合による連結を提供するために、一級アミンで官能基化されていてもよい。代替的な連結としては、スクシンイミドエステルに変換され得るカルボン酸、及びグルタルアルデヒドが挙げられるが、これらに限定されない。Wntを特定の位置に維持するため、共有結合による連結が好ましく、これは、Wntの再生作用を増強させることが示されている。
【0054】
上記は、無細胞パッチ又はバンデージである。特定の実施形態において、パッチ又はバンデージは、生体適合性ポリマー上で培養された幹細胞をさらに含んでもよく、それによって、3次元(3D)細胞バンデージ又はパッチが提供される。理想的には、細胞は、官能基化されたポリマー上で単層として培養される。
【0055】
本発明者らは、幹細胞を細胞外タンパク質、例えば、コラーゲンの層で覆うことにより、修復のためにWnt源から傷害の部位への幹細胞が遊走するのが促進されることを見出している。パッチを、例えば、骨の再生に使用しようとする場合、I型コラーゲンが、特に適切であるが、これは、このバリアントが骨においてもっとも豊富であるためである。骨形成培地において1週間の後に、Wnt誘導型骨形成組織が形成され、hSSCがWnt源の近傍に維持され、分化が進む骨形成細胞のカスケードが、Wnt源から3Dヒドロゲルへと遊走される。
【0056】
1つの例において、幹細胞は、ヒト骨格系幹細胞(hSSC)であり、バンデージは、骨形成パッチである。初代ヒト骨格系幹細胞(hSSC)は、骨髄、脂肪組織を含む任意の好適な供給源から単離されてもよく、又は人工多能性幹細胞(iPSC、induced pluripotent stem cell)から作製されてもよいことが、理解されるであろう。
【0057】
細胞バンデージ又はパッチは、生物学的軟部組織、結合組織、又は骨の内在性再生の促進、例えば、生物学的軟部組織、結合組織、又は骨における間隙、断裂、又は破砕の再生及び/又は修復に使用され得ることが理解されるであろう。本発明は、任意の好適な供給源から得られた間葉及び上皮幹細胞を含む、任意のWnt応答性幹細胞に適用可能であることが理解されるであろう。
【0058】
パッチは、自家若しくは同種幹細胞、又はすべての患者に好適であり得る操作された幹細胞系を使用することによって、それぞれの患者に適合され得る。パッチはまた、可能性として、幹細胞の機能が低下した患者、例えば、老体の患者又は疾患、例えば、骨粗鬆症を罹患している患者などに使用され得る。
【0059】
本明細書に記載されるパッチのいずれも、生物学的軟部組織、結合組織、又は骨の内在性再生及び/又は修復を促進及び/又は調節する治療的に有効な薬剤を特定するためのスクリーニング及び/又は毒性研究のために使用され得る。
【0060】
本発明はまた、本明細書において上述の生物学的組織再生パッチを製造する方法も包含する。本方法は、i)生体適合性ポリマーから、フィルムを調製するステップと、ii)ポリマーの表面を官能基化するステップと、iii)Wntファミリー由来の1つ若しくは2つ以上のタンパク質又はWntシグナル伝達経路のアゴニストを、ポリマー表面にコンジュゲートするステップとを含む。
【0061】
上述のように、ポリマーの表面は、一級アミン官能基を提供するように官能基化されていてもよい。そのような官能基化の1つの例は、酸素プラズマ及びアミノプロピル-トリエトキシシラン(APTES)での表面の処理によるが、他の好適な処理が、当業者には周知であり、本開示の範囲内に包含される。
【0062】
本方法は、Wnt、そのアゴニスト、又はRspoタンパク質を官能基化されたポリマー表面にコンジュゲートした後に、幹細胞を培養するステップをさらに含み得る。理想的には、幹細胞は、単層として培養される。5~10日間、好ましくは、7~8日間の培養時間が、理想的であることが見出されている。この時間の後に、3D構造体が形成される。
【0063】
本発明はまた、生物学的組織再生方法であって、本明細書において上述のパッチを、欠損、孔、間隙、断裂、又は破砕全体にわたって又はその上にインプラントするステップを含む、方法も包含する。
【0064】
したがって、本発明のWntバンデージは、患者の骨、器官、又は組織に対して作用する。破砕又は組織が治癒すると、バンデージは除去されてもよく、又は除去を回避するために、生分解性バンデージが使用されてもよい。
【0065】
本発明のWntバンデージは、内在性治癒を促進するために使用され得ることが、理解されるであろう。本発明は、骨修復及び骨形成に関連して例証されているが、ほぼすべての幹細胞は、Wnt応答性であり、自己再生をWntに依存しているため、Wntバンデージは、他の器官のニッチを操作するために使用されてもよい。これらの組織モデル-バンデージは、損傷した器官の組織を修復する、又は/及び損傷した器官の機能を遂行するために、使用され得る。さらに、組織モデルは、薬物スクリーニング及び毒性研究に使用されてもよい。
【0066】
本明細書で使用される場合、単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、文脈により別途明確に示されない限り、単数形及び複数形の両方の参照物を含む。
【0067】
「含む(comprising)」、「含む(comprises)」、及び「から構成される(comprised of)」という用語は、本明細書で使用される場合、「含む(including)」、「含む(includes)」、又は「含む(containing)」、「含む(contains)」、と同義であり、包括的又はオープンエンドであり、追加の言及されていないメンバー、要素、又は方法ステップを除外するものではない。この用語はまた、「からなる(consisting of)」及び「から本質的になる(consisting essentially of)」を包含する。
【0068】
端点による数値範囲の記述は、それぞれの範囲内に含まれるすべての数字及び分数、並びに記載された端点を含む。
【0069】
「約(about)」という用語は、測定可能な値、例えば、パラメーター、量、時間範囲、及びその他に言及して本明細書で使用される場合、指定される値の変動、特に、指定される値の±10%以下、好ましくは、±5%以下、より好ましくは、±1%以下、なおもさらに好ましくは、±0.1%以下の変動を包含することを、そのような変動が本開示の発明を実行するのに適している範囲で意味する。修飾語「約」が指す値は、それ自体も、具体的かつ好ましく開示されることを理解されたい。
【0070】
「1つ又は2つ以上の」という用語、例えば、メンバーの群のうちの1つ又は2つ以上のメンバーは、さらなる例示によって、本質的に明確であり、この用語は、とりわけ、前記メンバーのうちのいずれか1つ、又は前記メンバーのうちのいずれか2つ若しくは3つ以上、例えば、前記メンバーのうちのいずれか3つ以上、4つ以上、5つ以上、6つ以上、又は7つ以上など、及び最大で前記メンバーすべてへの言及を包含する。
【0071】
Wnt3a
本明細書における例は、Willert et al 2003の方法によるマウスWnt3aの産生、及びそれを含むパッチ(バンデージ)の産生について記載していることが理解されるであろう。
【0072】
いくつかの実施形態において、ヒトWnt3aを使用すること、及び好適には同じヒトWnt3aを含む本明細書に記載されるパッチ(バンデージ)の産生が望ましい場合がある。したがって、好適には、この実施形態において、Wnt3aは、UniProt受託番号P56704(配列番号1)などのヒトWnt3aアミノ酸配列を有するポリペプチドを意味する。
10 20 30 40 50
MAPLGYFLLL CSLKQALGSY PIWWSLAVGP QYSSLGSQPI LCASIPGLVP
60 70 80 90 100
KQLRFCRNYV EIMPSVAEGI KIGIQECQHQ FRGRRWNCTT VHDSLAIFGP
110 120 130 140 150
VLDKATRESA FVHAIASAGV AFAVTRSCAE GTAAICGCSS RHQGSPGKGW
160 170 180 190 200
KWGGCSEDIE FGGMVSREFA DARENRPDAR SAMNRHNNEA GRQAIASHMH
210 220 230 240 250
LKCKCHGLSG SCEVKTCWWS QPDFRAIGDF LKDKYDSASE MVVEKHRESR
260 270 280 290 300
GWVETLRPRY TYFKVPTERD LVYYEASPNF CEPNPETGSF GTRDRTCNVS
310 320 330 340 350
SHGIDGCDLL CCGRGHNARA ERRREKCRCV FHWCCYVSCQ ECTRVYDVHT
【0073】
CK
好適には、ヒトWnt3aは、厳密には、マウスWnt3aについて記載されるように、当該技術分野において周知のように、Willert et al (Willert et al (2003) Nature 22;423(6938): 448-52)の方法を使用して調製されるが、Willertらによって使用されるマウス配列の代わりに、ヒトWnt3aアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を使用することが、唯一の相違点である。
【0074】
好適な核酸コーディング配列は、ユニバーサル遺伝子コードを使用して、上述のアミノ酸配列から導出することができる。
【0075】
任意のさらなる案内が必要な場合には、例示的なヒトコーディング配列は、以下に提供されている-GenBank受託番号AB060284(配列番号2)。
>ENA|AB060284|AB060284.1、ホモ・サピエンス、WNT3AのmRNA、完全なコーディング配列。
CGGCGATGGCCCCACTCGGATACTTCTTACTCCTCTGCAGCCTGAAGCAGGCTCTGGGCA
GCTACCCGATCTGGTGGTCGCTGGCTGTTGGGCCACAGTATTCCTCCCTGGGCTCGCAGC
CCATCCTGTGTGCCAGCATCCCGGGCCTGGTCCCCAAGCAGCTCCGCTTCTGCAGGAACT
ACGTGGAGATCATGCCCAGCGTGGCCGAGGGCATCAAGATTGGCATCCAGGAGTGCCAGC
ACCAGTTCCGCGGCCGCCGGTGGAACTGCACCACCGTCCACGACAGCCTGGCCATCTTCG
GGCCCGTGCTGGACAAAGCTACCAGGGAGTCGGCCTTTGTCCACGCCATTGCCTCAGCCG
GTGTGGCCTTTGCAGTGACACGCTCATGTGCAGAAGGCACGGCCGCCATCTGTGGCTGCA
GCAGCCGCCACCAGGGCTCACCAGGCAAGGGCTGGAAGTGGGGTGGCTGTAGCGAGGACA
TCGAGTTTGGTGGGATGGTGTCTCGGGAGTTCGCCGACGCCCGGGAGAACCGGCCAGATG
CCCGCTCAGCCATGAACCGCCACAACAACGAGGCTGGGCGCCAGGCCATCGCCAGCCACA
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TGGCTTCTCCCTGGGGACGGGGCTCCCCTGGACAGAGGCGGGGCTACAGATTGGGCGGGG
CTTCTCTTGGGTGGGACAGGGCTTCTCCTGCGGGGGCGAGGCCCCTCCCAGTAAGGGCGT
GGCTCTGGGTGGGCGGGGCACTAGGTAGGCTTCTACCTGCAGGCGGGGCTCCTCCTGAAG
GAGGCGGGGCTCTAGGATGGGGCACGGCTCTGGGGTAGGCTGCTCCCTGAGGGCG
【0076】
本明細書において数値アドレスを使用して特定のアミノ酸残基に言及する場合、番号付けは、野生型Wnt3aアミノ酸配列(又は核酸に言及する場合にはそれをコードするポリヌクレオチド配列)を参照して付与される。例示的な配列は、上記に提供されている。
【0077】
好適には、配列データベースの現在のバージョンに依拠する。代替としては、出願日の時点で有効なリリースに依拠する。疑いを回避するために、UniProtリリース2019_11に依拠する。より詳細には、UniProt consortium European Bioinformatics Institute (EBI), SIB Swiss Institute of Bioinformatics and Protein Information Resource (PIR)’s UniProt Knowledgebase (UniProtKB)リリース2019_11に依拠する。UniProt(Universal Protein Resource)は、タンパク質に関する情報の包括的なカタログである("UniProt: the universal protein knowledgebase" Nucleic Acids Res. 45: D158-D169 (2017))。
【0078】
GenBank(登録商標)は、NIH遺伝子配列データベースであり、すべての公的に入手可能なDNA配列の注釈付きの集合体である(Nucleic Acids Research, 2013 Jan;41(D1):D36-42)。GenBankは、International Nucleotide Sequence Database Collaborationの一部であり、これは、DNA DataBank of Japan(DDBJ)、European Nucleotide Archive(ENA)、及びGenBank at NCBIを含む。疑いを回避するために、2019年10月15日のGenBankリリース234に依拠する。
【0079】
これは、当該技術分野において周知のように、目的の残基の位置を特定するために使用される。これは、必ずしも厳密なカウント方法ではなく、内容に注意を払う必要がある。例えば、目的のタンパク質が、わずかに異なる長さのものである場合、その配列内の正しい残基の位置は、配列をアライメントし、同等又は対応する残基を選択することを必要とし得る。これは、十分に当業者の技能の範囲内である。
【0080】
変異は、当該技術分野における通常の意味を有し、1つ又は2つ以上の残基、モチーフ、又はドメインの置換又は短縮又は欠失を指し得る。変異は、例えば、変異した配列を有するポリペプチドの合成によって、ポリペプチドレベルで実行されてもよく、又は例えば、変異した配列をコードするポリヌクレオチドを作製し、このポリヌクレオチドが、続いて、翻訳されて、変異したポリペプチドを産生することによって、ヌクレオチドレベルで実行されてもよい。
【0081】
以下の実験において、本発明者らは、まず、最近特定された幹細胞マーカーであるカドヘリン13(CDH13)(Holley, R. J. et al (2015) Stem Cell Reports 4: 473-488)、及び分化マーカーオステオポンチン(OPN、Osteopontin)を使用することによって、WIOTMの細胞同一性をさらに検証する。WIOTMにおけるCDH13及びOPNの発現パターンは、それぞれ、Stro1及びOCNと類似であることが見出された。次に、WIOTMの形成の根底にある分子機序を、分析した。本発明者らはまた、頭蓋冠骨の臨界サイズの骨損傷のインビボマウスモデルにおいて、局在化されたWnt3a及びWIOTMの再生能力を評価した。
【0082】
Wntを、材料に共有結合で固定化し、ヒト骨格系幹細胞(hSSC)集団及び分化骨形成細胞のカスケードを維持するヒトWnt誘導型骨形成組織モデル(WIOTM)を、1週間以内3Dで操作した。結果は、Wntに媒介される非対称幹細胞分裂により、このプロセスが作動されることを示す。分裂hSSCにおいて、局在化されたWntタンパク質(Wnt)は、Wnt/β-カテニン経路の構成要素、極性タンパク質、及び幹細胞マーカーカドヘリン-13を、Wnt源の近傍に分極させる。紡錘体は、局在化されたWntに対して垂直方向に配向され、これもまた、分化マーカーをWntから離れて分極させ、配向された非対称細胞分裂をもたらす。
【0083】
局在化されたWnt及びWIOTMのインビボでの再生能力を証明するために、Wntを、生物学的フィルム(Wntバンデージ)に共有結合でつなげて、WIOTMを、バンデージ上で生成させた。それぞれのバンデージを、免疫不全マウスにおいて、臨界サイズの頭蓋冠骨欠損に重ねた。8週間後に、Wntバンデージは、対照と比較して有意な内在性修復を有した。WIOTMバンデージは、さらに、新しい骨組織を生成することによって、修復をさらに改善させた。重要なことに、Wnt応答性hSSCは、Wntバンデージの近傍に見出され、hSSCの子孫である成熟した新しい骨細胞が形成された。
【0084】
したがって、これらの結果は、ヒト骨形成の分子的理解、及び骨欠損を修復する新しいアプローチを提供する。
【0085】
本発明は、これより、例示のみの目的で以下の非限定的な実施形態を参照して説明される。
[実施例]
材料及び方法
ヒト骨格系幹細胞の培養
【0086】
ヒト間葉幹細胞(hSSC)を、市販入手可能な骨髄吸引液(AllCells LLC社)から単離した。骨髄吸引液を、10ng/mlのフィブロネクチン(Sigma-Aldrich社、UK)を事前にコーティングした培養フラスコに播種し、細胞を結合させた。表面マーカー発現(CD73+、CD90+、CD105+、及びCD45-、CD34-、CD14-、CD19-、及びHLA-DR-)の特徴付けを、次いで、前述のように実行した(Lowndes et al (2016)、上記; Marshak et al (1999))。hSSCを、基本培地:10%ウシ胎児血清(FBS)、1% L-グルタミン(Lonza社)、及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Lonza社)を補充した高グルコース(4.5g/L)ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)において、5% COの加湿空気下で37℃において、最大で5継代(P5)増大した。複能性を、免疫蛍光(R&D Systems社、SC006、図9D)によって判定される脂肪生成、軟骨形成、及び骨形成系統への分化によって、P5で確認した。7TCF-eGFP/SV40-mCherry(Fuerer, C. & Nusse, R. (2010) PLoS ONE 5: e9370.)を安定に感染させたhSSCもまた、いくつかの実験に使用した。これらの細胞系は、標準的な条件下において培養及び継代させた。
【0087】
WNT3A精製
組換えマウスWnt3Aを、懸濁培養で成長させたショウジョウバエ(Drosophila)S2細胞において産生させ、記載されるようにブルーセファロース親和性及びゲル濾過クロマトグラフィーによって精製した(Willert et al (2003) Nature 22;423(6938): 448-52)。Wnt3A活性を、記載されるようにSuperTOPFlashレポーターを安定にトランスフェクトしたL細胞を使用して、ルシフェラーゼレポーターアッセイにおいて判定した(Mikels A. J. & Nusse R. (2006) PLoS Biol. 4(4):e115)。
【0088】
Wntプラットフォームの官能基化
Wntプラットフォーム(Corning社PureCoat Amine 96ウェル平底マルチウェルプレート、VWR International、カタログ番号734-1475)を官能基化するために、プレートのアミン処理ウェルを、100μlのダルベッコリン酸緩衝食塩水(dPBS、Dulbecco’s phosphate buffer saline)で1回洗浄し、次いで、50μlの5%(体積/体積)グルタルアルデヒド(Sigma-Aldrich社)とともに、暗所において室温で30分間インキュベートした。ウェルを、100μlのdPBSで3回洗浄し、最後の洗浄液を残したまま、10分間インキュベートした。PBS中60ngのWnt3Aを、ウェルにおいて室温で1時間インキュベートした。また、ウェルを、100μlのdPBSで3回洗浄し、最後の洗浄液を残したまま、10分間インキュベートした。不活性Wntプラットフォームについては、100μlの20mM DTTを、ウェルにおいて、37℃で30分間インキュベートした。ウェルを、100μlのdPBSで3回洗浄した。最後の洗浄液を除去した後、ウェルを、hSSC基本培地とともに少なくとも1時間インキュベートした。
【0089】
Wntプラットフォームにおけるヒト骨格系幹細胞の培養
細胞を、100μlのhSSC基本培地を有する官能基化されたウェルに2,500個の細胞/ウェルで播種し、24時間培養し、その後、培地を除去し、1mg/mlのラット尾部1型コラーゲン(Corning社)40μlを、細胞単層の上に重ねた。添加する前に、ラット尾部1型コラーゲンを、1M NaOH(もともとのコラーゲンゲル1ml当たり23μl、0.3%体積/体積)で中和し、無血清培地において希釈した。ゲルの架橋を導入するために、ウェルを、37℃で2時間インキュベートした。150μlの骨形成培地を、次いで、ゲルの上に載せた。骨形成培地は、基本培地に、デキサメタゾン(0.1μM)、β-グリセロリン酸(10mM)、アスコルビン酸(50μM)、及び非必須アミノ酸(1%体積/体積)を加えたものから構成されていた。試料を、5% COの加湿空気下において37℃で3日間培養し、培地は、2日ごとに交換した。
【0090】
Wntプラットフォームの免疫蛍光染色
1~7日間のインキュベーションの後に、骨形成培地を除去し、ウェルを、100μlのdPBSで1回洗浄し、4%パラホルムアルデヒド(PFA、paraformaldehyde)で30分間固定した。ウェルを、次いで、dPBS(1% BSA/PBS)中の1%ウシ血清アルブミン(BSA、bovine serum albumin)で、それぞれ30分間で4回洗浄した。試料を、1% BSA/dPBS中の0.25% Triton X-100 100μlで、30分間透過処理した。ウェルを、再び、1% BSA/PBSで、それぞれ30分間で4回洗浄した。1% BSA/dPBS中の10%ヤギ血清を、室温で2時間、試料に添加した。100μlの一次抗体カクテルを、次いで、試料に添加し、これを、室温で終夜インキュベートした。1% BSA/dPBS中の一次抗体カクテルは、次の通りである:β-カテニン(BD Transduction Laboratories、610154)(1:250)及びAPC(Santa Cruz社、SC-7930)(1:250);Stro1(R&D Systems社、MAB1038)(1:50)及びオステオカルシン(OCN)(Abcam社、ab93876)(1:500);カドヘリンH(CDH13)(Abcam社、ab36905)(1:100)又はPlexin A2(PLXNA2)(Abcam社、ab39357)及びオステオポンチン(OPN)(Santa Cruz社、sc21742)(1:100);セントリン1(04-1624)(1:150)及びニネイン(Abcam社、ab4447)(1:500)、NUMB(Abcam社、ab4147)(1:250)、aPKCζ(Santa Cruz社、sc17781)、チューブリン(Abcam社、ab6160)(1:1000)。ウェルを、1% BSA/PBSで、それぞれ30分間で4回洗浄した。試料を、次いで、二次抗体(1:1000)及び4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)(1:1000)(ThermoFisher社)カクテルとともに、室温で2時間又は4℃で終夜インキュベートした。使用した二次抗体は、次の通りであった:ロバ抗マウスIgG AF488(Thermofisher社、A21202)、ロバ抗ウサギIgG AF647(Thermofisher社、A32795)、ロバ抗ヤギIgG AF555(Thermofisher社、A32816)、ロバ抗ラットIgG AF488(Thermofisher社、A21208)、ロバ抗マウスIgG AF647(Thermofisher社、A31571)、ヤギ抗マウスIgM AF488(Thermofisher社、A21042)、ヤギ抗ウサギIgG AF555(Thermofisher社、A21428)、ヤギ抗ウサギIgG AF488(Thermofisher社、A11034)、及びヤギ抗マウスIgG AF555(Thermofisher社、A21424)。2時間のインキュベーションの後に、ウェルを、1% BSA/PBSで、それぞれ30分間で4回洗浄した。試料を、dPBS中0.05%重量/体積のアジ化ナトリウム中で、画像を取得するまで4℃で保管した。
【0091】
Wntプラットフォームのイメージング及び分析
Wnt/β-カテニン経路及びセントロソームの構成成分の分布を分析するために、様々な厚さの画像を、必要とされるイメージング深度に応じて、Zeiss顕微鏡、スピニングディスク共焦点倒立顕微鏡(Nikon社)及びLeica社製共焦点顕微鏡(Leica SP8)を使用して取得した。ステップサイズは、200μm未満の総厚さで、ナイキストサンプリング基準に従って判定した。すべてのイメージングデータは、ImageJソフトウェアを使用して分析した。垂直方向の分裂細胞の分析では、標的化細胞の境界を目的の領域(ROI、region of interest)として作製した後、最大強度DAPIを有する面を、有糸分裂面を示す中心として取得した。タンパク質マーカーの平均強度は、この面のいずれかの側で測定し、それに続いて比較及び正規化を行って、差異倍数を計算した。平行方向の分裂細胞の分析では、細胞分裂の方向に応じて、分裂細胞内で2つのROIを設定した。分裂した細胞については、細胞間の境界部、又は明確ではない場合は、DAPIシグナル間の中心点を、細胞境界としてとらえた。
【0092】
生分解性ポリマーの製造
0.3gの質量を有するポリカプロラクトン(PCL)又はポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)(Sigma-Aldrich社、UK)フィルムを、アニソール(Sigma-Aldrich社)中2%(重量/体積)の濃度で7cmのガラス皿において溶媒キャストし、50℃で72時間静置して、溶媒を蒸発させた。
【0093】
生分解性ポリマーへのグルタルアルデヒド基の導入
72時間後に、フィルムを、皿から注意深く取り出し、90%(体積/体積)のイソプロパノール(Sigma-Aldrich社)中の2%(重量/体積)のヘキサメチレンジアミン(HMDA)(Sigma-Aldrich社)で、室温においてチューブローラーで1.5時間処理して、アミン基をフィルムの表面に導入した。フィルムを、次いで、100%イソプロパノールで、それぞれ10分間で3回洗浄し、乾燥させた。プラズマ-化学活性化については、フィルムを、0.2mbarの圧力で3分間、無線周波数プラズマ発生装置(周波数13.56MHz、電力50 W Diener electronic社製Zepto-W6、Ebhausen、Germany)において、20sccmの酸素ガス流下で、プラズマエッチング電極によってプラズマ活性化させた。新しくOプラズマ活性化されたフィルムを、即座に、エタノール(Sigma-Aldrich社)中5%の3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)(Sigma-Aldrich社)で2時間処理した。フィルムを、次いで、100%エタノールで、それぞれ10分間で3回洗浄し、乾燥させた。これらのアミン基反応させたフィルムは、4℃で保管することによって、それらの活性を最大3ヶ月間保持することができる。アミン基を、さらに、70%(体積/体積)エタノール(Fisher Scientific社)中0.05%(重量/体積)のグルタルアルデヒド(Sigma-Aldrich社)と室温で5分間反応させて、アルデヒド基をポリマーの表面に導入した。ポリマーを、次いで、100%エタノールで3回洗浄し、乾燥させた。ポリマーを、100%エタノールで15分間滅菌した後、dPBSで3回洗浄した。
【0094】
生分解性ポリマーのWnt3a改変
上述のように調製した精製Wnt3a溶液を、次いで、dPBS中で希釈して、20ng又は60ngのWnt3Aの量で、6mmのフィルムにおいて約29mmの作業面積をカバーするように、1滴当たり20μlの最終体積にした。フィルムを、可溶性Wnt3aとともに1時間インキュベートし、PBSで3回洗浄し、次いで、20% FBSを含有する高グルコースDMEMとともにさらにインキュベートして、任意の未反応アルデヒド基をブロッキングした。対照として、BSA及び不活性化Wnt3aフィルムもまた、産生させた。これは、室温で1時間、Wnt3Aを使用する代わりにアルデヒド基を0.1%(重量/体積)BSAと反応させること、及びWnt3A改変ポリマーを、それぞれ、37℃で30分間、20μlの20mM DDTで不活性化することによって、達成した。
【0095】
Wnt官能基化及び対照の生分解性ポリマーにおけるヒト骨格系幹細胞(hSSC)の培養
官能基化されたフィルムのインビトロでの分析のために、7xTCF-eGFP/SV40-mCherryレポーターを有するhSSCを、官能基化されたポリマーフィルムに、35,000個の細胞/cm(10,000個の細胞/バンデージ)で播種し、hSSC基本培地において24時間培養した。対照実験のために、hSSCを、96ウェルプレートに、同じ希釈で播種し、50ng/ml又は150ng/mlの可溶性Wnt3A又は0.1% BSA溶液の存在下において、24時間培養した。
【0096】
インビボでの細胞バンデージの調製のために、官能基化されたポリマーフィルム(WIOTM-バンデージは活性Wnt3a、iWnt-hSSC-バンデージは不活性Wnt3a)に、同じ密度で細胞を播種し、付着させた。次いで、基本培地を除去し、上述のように、100μlの1mg/mlラット尾部1型コラーゲンを重ね、静置させ、その上に骨形成培地を載せた。WIOTM-及びiWnt-hSSCバンデージを、それぞれ、7及び2日間培養し、それぞれ、3回及び2回の培地交換を行った。
【0097】
Wnt官能基化生分解性ポリマーにおけるWnt活性の分析
7xTCF-eGFP/SV40-mCherryを安定に感染させたWnt反応性hSSCからの蛍光強度を、Operetta High-Content Imaging System(PerkinElmer社)を使用して測定した。イメージングの前に、細胞を、Hoechst33342(ThermoFisher社)で5分間染色し、dPBSで洗浄し、次いで、10% FBSを含有するdPBS 20μlで培地を新しくした。SuperTOPFlashレポーター(LS/L)をトランスフェクトしたL細胞を、10% FBS及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを有するDMEM中で、Wnt活性化表面において培養した。また、SuperTOPFlashレポーター(LS/L)をトランスフェクトしたL細胞を、10% FBS及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを補充したDMEMにおいて終夜培養することによって、官能基化された生分解性ポリマーのWnt活性を測定し、Dual-Light Systems(Applied Biosystems社)を使用して、Wntに誘導されるルシフェラーゼ活性を定量化した。
【0098】
Wnt官能基化生分解性ポリマーのウエスタンブロット分析
インプット及びフィルム表面官能基化中の洗浄液におけるタンパク質レベルを判定するために、タンパク質電気泳動及びウエスタンブロッティングを使用した。ポリマーフィルムのWnt3A改変後に、Wnt3A又は対照溶液を、ウエスタンブロット(WB、Western blot)のために採取し、フィルムを、20μlのdPBS中で洗浄し、これもまた、WBのために3回採取した。試料を、4×レムリー緩衝液(Bio-Rad社)と混合し、Mini-PROTEAN TGX無染料ゲル(Bio-Rad社)にロードし、次いで、TBST(Tris緩衝化食塩水及びTween 20、1:1,000)中5%ミルクにおいて1時間ブロッキングした後、αWNT3A(Millipore社、09-162)に関して4℃で終夜、TBST中5%ミルクにおいてイムノブロッティングした。バンドを、ChemiDoc(Bio-Rad社)において化学発光により視覚化した。
【0099】
Wnt又はWnt誘導型ヒト骨形成組織モデル(WIOTM)バンデージの調製
移植実験において使用したWnt3A改変PCLポリマーは、Wntバンデージと命名する。Wntバンデージは、移植手術の1日前に調製した。一方で、Wntプラットフォーム実験において記載されるように3D培養条件下においてhSSCを1週間培養した、Wnt3a改変PCLポリマーは、WIOTMバンデージと命名する。WIOTMバンデージの場合、ポリマーは、外科手術の8日前に調製した。Wntバンデージを上述のように調製した細胞とともに24時間インキュベートした後に、基本培地を除去し、100μlの1mg/mlラット尾部1型コラーゲンを、細胞単層上に載せた。添加する前に、ラット尾部1型コラーゲンを、上述のように調製した。ゲルの架橋を導入するために、ウェルを、37℃で2時間インキュベートした。150μlの骨形成培地を、次いで、ゲルの上に載せた。骨形成培地は、2~3日ごとに交換し、外科手術の前に7日間培養した。
【0100】
hSSCあり又はなしのWnt官能基化生分解性ポリマーの移植
13週齢の雌性重症複合免疫不全(SCID)マウスを、頭蓋冠骨欠損部へのWntバンデージ及びWIOTMバンデージの移植に使用した。すべての手順を、滅菌条件下において実行した。まず、全身麻酔を、麻酔カクテル(10μl/体重)を使用して腹腔内経路によってマウスに投与したが、このカクテルは、滅菌塩化ナトリウム0.9%生理食塩水、7.5mg/mlのケタミン(Vetalar(登録商標))、及び0.1mg/mLのメデトミジン(Domitor(登録商標))からなっていた。尾部及び後肢引き込め反射の喪失を試験した後、頭頂部を小型のヘアトリマーで剃り、リドカイン5% M/M軟膏(登録商標)を拡げて、局所麻酔を促進させた。眼を、Viscotears(登録商標)液体ゲルで潤し、矢状皮膚切開を、外科用メスで正中線に沿って行った。マウスを、立体顕微鏡下においた。頭蓋冠を露出させ、綿棒を使用して外側方向に分離する動きによって、頭蓋に重なる骨膜層を除去した。歯科用ハンドピースを使用して、摩擦による熱の蓄積を回避しながら、緩徐に、1又は2つの4mmの欠損部の孔を開けた。骨片を除去し、欠損部を、Wntバンデージ又は40μlの1mg/mlラット尾部1型コラーゲンを有するWIOTMバンデージで被覆し、Vetbond(登録商標)を使用して正しい場所に固定した後、またVetbond(登録商標)を使用して皮膚切開部を閉じた。1.25mg/mlのアチパメゾール(Antisedan(登録商標))及び0.01mg/mLのブプレノルフィン(Vetergesic(登録商標))を有する滅菌塩化ナトリウム0.9%生理食塩水からなる回復カクテルを、マウスに注射し(10μl/体重)、これを、28℃のインキュベーターにおいて非常に注意深く観察した。
【0101】
マイクロCTスキャニング及び分析
移植の8週間後に、マウスの頭部試料を採取した。全頭部試料を、室温で終夜、ローター上のプラスチックチューブにおいて40mLの4% PFAで固定した。試料を、翌日、PBSで、それぞれ15分間で3回洗浄した。頭部試料を、次いで、Scanco社製μCT50マイクロCTスキャナー(Scanco社、Bruettisellen、Switzerland)を使用して、スキャニングした。標本を、綿ガーゼを使用して19mmのスキャニングチューブに固定化し、硬X線を減弱化するために、70kVp、114μA、及び0.5mmアルミニウムフィルタのX線設定を使用してスキャニングして、辺長10μmのボクセルサイズ体積を得た。0~790mg HA/cmの濃度の5ロッドのヒドロキシアパタイト(HA)からなる、CT製造業者によって提供されるキャリブレーションオブジェクトを使用して、スキャンを再構成時に自動的にスケーリングし、吸収値は、ハウンスフィールド単位(HU)で表した。標本を、Parallax社のMicroviewソフトウェアパッケージを使用して特徴付けし、3D画像を、未加工のCTスキャニングデータから再構成した。画像を、新しい骨の再生の面積及び体積に関して分析した(Parallax Innovations Inc.社、Ilderton、ON Canada)。柔らかい非石灰化組織及び空気に対応するバックグラウンドシグナル(250mg HA/cm未満)を、閾値によって除去し、欠損部における石灰化組織は、500mg HA/cmを上回る密度として考えた。
【0102】
凍結切片の調製
試料をトリミングするために、頭部の皮膚及び脳を、ハサミ及び2セットのピンセットを用いて、固定したマウス頭部から摘出した。トリミングの後に、試料を、脱灰のために終夜、10%ギ酸中に入れた。まず、水中30%のスクロース、次いで、水中30%のスクロース及び30%の最適切断温度(OCT、Optimal Cutting Temperature)化合物を用いて、二晩にわたって脱水を行った。試料を、OCT化合物を充填した凍結型において瞬間凍結させ、ドライアイス及び100%エタノールによって冷却した。マウス頭部試料を、Cryostats(登録商標)を使用して、12~20μmのスライスで、前方から後方への方向で、横方向に切片化した。全試料は、切片化するまで、-80℃で保管した。切片化したスライスを、染色するまで、-20℃で保管した。
【0103】
組織切片の組織学的染色
ヘマトキシリン(Vector Labs.社、H-3404)及びエオシン(Sigma-Aldrich社、318906)(H&E)染色を、標準的なプロトコールによって行った。モバットのペンタクローム染色(Abcam社、ab245884)を、供給されている方法に従って行った。切片を、DPX(Sigma-Aldrich社、06522)とともにカバーガラスに載置した。
【0104】
組織切片の免疫蛍光(IF)及び免疫組織化学(IHC)染色
まず、試料を、予熱した水(37℃)に15分ずつ入れることによって、切片化スライドからOCT化合物を除去した。IHC切片を、HRP/AEC検出IHCキット(Abcam社、ab93705)の一部として供給された過酸化水素ブロック剤でブロッキングした。IF切片を、PBST(0.1% Triton X-100、1% BSA、PBS中)を使用して、それぞれ15分間で3回、洗浄しブロッキングした。次いで、スライドを、上に列挙されるように、1:250のヒトβ-ミクログロブリン(hβMG2、human β2-Microglobulin)(Sigma-Aldrich社、M7398)、1:100のスクレロスチン(Abcam社、ab85799及びBio-Rad社、HCA230Z)、1:400のGFP(Aves Lab社、GFP-1020)、並びに1:400のRFP(Rockland社、600-401-379)を添加し、染色緩衝液(IF:0.05% TritonX-100、1% BSA、PBS中、IHC:PBS)中に希釈した一次抗体とともに、4℃で終夜インキュベートした。IFについては、PBSTを使用して、スライドを洗浄した後、室温で1時間、二次抗体とともにインキュベートした。使用した二次抗体は、上述のように、ヤギ抗マウスIgM AF488、ヤギ抗ウサギIgG AF555(ThermoFisher社、A21428)、ヤギ抗ウサギIgG AF488(ThermoFisher社、A11034)、及びヤギ抗マウスIgG AF555(ThermoFisher社、A21424)であり、ロバ抗ニワトリIgY AF488(Jackson ImmunoResearch Labs.社、703-545-155)を追加した。IF切片を、次いで、PBSTを使用して3回洗浄し、1:1000のDAPIを使用して対比染色した。IHCについては、スライドを、IHCキットに記載されるようにさらに処理し、ヘマトキシリン(Vector Labs.社、H-3404)で対比染色した。スライドを、イメージングの前に水性封入剤(Abcam社、ab128982)で封止した。すべてのタイプの染色を、少なくとも3匹の別個の動物の組織において確認した。
【0105】
インビボでの定量化
陽性細胞の定量化を、図16A~Bに記載されるように、免疫蛍光画像の閾値方法によって、判定した。染色された対照組織の面積を選択し、目的のマーカーに関してもっとも高い強度の細胞シグナルを判定した。この強度を、試料組織の閾値として使用し、すべての残りのシグナルは、対照組織よりも高い強度のものとなるようにした。陽性細胞を、次いで、細胞シグナルの存在によって定量化することができた。
【0106】
結果
局在化されたWnt3aバンデージ及びWIOTMバンデージを操作し、インビボで重度の頭蓋冠欠損を修復するそれらの能力を評価した。
【0107】
局在化されたWnt3aタンパク質は、3D Wnt誘導型ヒト骨形成組織モデル(WIOTM)を生成するように、hSSCの紡錘体を配向させた
これまでの研究(Lowndes, M. et al (2017)、上記)において、固定化されたWnt3aプラットフォームが、hSSCを、Wnt3a源の近傍に維持し、3D 1型コラーゲンゲルにおいて分化が進む骨形成細胞のカスケードを生成して、WIOTMを形成することができることが、示されている(図1A)。この実験では、このプロセスの根底にある分子機序を理解することが、目的となっていた。固定化されたWnt3aとは異なり、培地に添加された可溶性Wnt3aタンパク質は、hSSCsの増殖を誘導することができるが、細胞遊走は促進しなかった(Lowndes, M. et al (2017)、上記)。したがって、細胞分裂の配向及び多層形成は、hSSCの片側へのWnt3aの非対称提示によって、関連付けられ調節されることが推測された(図1Bを参照されたい)。
【0108】
2Dシステムにおいて、局在化されたWnt3aは、マウス胚性幹細胞の紡錘体の配向させることができ(Habib, S. J. et al (2013)、上記)、そのため、局在化されたWnt3aが、3D環境においてもhSSCの紡錘体を配向させることができるかどうかを確認するために、調査を行った。骨髄から単離されたhSSCのうちの平均で53%が、Wnt3aに応答し、Wnt/β-カテニン経路を活性化し得る(Lowndes, M. et al 2017、上記)。hSSCを、Wnt3aプラットフォームで培養し、細胞を1型コラーゲンで覆い、3D環境を作成した。分裂中期のhSSCの有糸分裂面を、3Dイメージング及びインシリコ再構成を使用して、視覚化した。2つのカテゴリーの分裂細胞を特定することができた:局在化されたWnt3aに対して垂直方向に分裂し、上から観察した場合に分裂中期には花のようなクロマチン環で染色体と整列する細胞(軸方向分解)(図1D及び図1Eを参照されたい)、又はWnt3a源及びクロマチン環と平行して分裂し、縁部に存在し、上から見た場合に楕円形に見える細胞(図1H及び図1Iを参照されたい)。有糸分裂面の配向はまた、微小管及びセントロソームを視覚化することによっても確認した(図8A、B、D、及びE)。興味深いことに、Wnt3aのジスルフィド架橋を破壊するようにDTTで処理し、タンパク質を生物学的に不活性にした不活性化Wnt3aプラットフォーム(iWnt3a)と比較して、Wnt3aプラットフォームに対して垂直方向に分裂する細胞の有意な増加が観察された(図1Cを参照されたい)(Lowndes, M. et al (2017)、上記;Lowndes, M. et al (2016)、上記)。iWnt3aプラットフォームは、Wnt3aのジスルフィド架橋を破壊するようにDTTで処理して、タンパク質を生物学的に不活性にした。hSSCの片側へのWnt3aの局在化された提示は、3Dにおいて有糸分裂の軸を配向させ、Wnt3a源に対して垂直な分裂を促進すると結論付けられた。
【0109】
特定の紡錘体配向は、細胞の片側への極性タンパク質非定形プロテインキナーゼC ζ(aPKC ζ)の区分化を必要とすることが多い(Schlessinger, K. et al (2007) J. Cell Biol. 178: 355-361)。したがって、垂直方向に分裂する単一hSSCにおいて、aPKCζは、細胞のWnt3a近位側半分において濃縮されており、一方で、平行方向に分裂する細胞では、aPKCζは、いずれの側にも最低限の偏りで細胞全体に分布していたことが見出された(図8C~8E)。対照的に、いくつかの系においてACDに関与するNotch阻害剤であるNumb(Inaba, M. & Yamashita, Y. M. (2012) Cell Stem Cell 11, 461-469)は、分裂hSSCにおいて分極されておらず、分裂配向に関係なく両側に同等に分布していた(図8F~8J)。
【0110】
ビーズにつなげたWnt3aタンパク質と接触する単一ESCは、Wnt3a/β-カテニン経路の成分、例えば、β-カテニン及びAPCを、Wnt3a-ビーズへと分極させた(Habib, S. J. et al (2013)、上記)。両方のタンパク質の1つの機能は、細胞において多数ある中でも、紡錘体配向の調節である(Garcin, C. L. & Habib, S. J. (2017)、上記)。分裂hSSCにおける両方の分子の分布を、視覚化した。Wnt3a-プラットフォームに対して垂直方向の分裂においては、APC及びβ-カテニンは、主として、細胞のWnt3a近位側半分に局在化することが、見出された(図1D図1G及び1Lを参照されたい)。Wnt3a源に対して平行方向の分裂においては、両方のタンパク質は、細胞の両半分に同様に分布していた(図1H及び1Lを参照されたい)。
【0111】
まとめると、局在化されたWnt3aタンパク質は、aPKC ζ、APC、及びβ-カテニンを、Wnt応答性かつ分裂hSSCに分極させ、有糸分裂面をWnt3a源に対して垂直方向に配向させて、ACDを促進した。この配向された分裂により、1つのWnt3a近位側hSSCが生成され、Wnt3a遠位側細胞は、骨形成分化となり、3D 1型コラーゲンゲルにおいて上方に移動する(図1B)。
【0112】
固定化されたWnt3aタンパク質は、分裂hSSCにおいて細胞運命マーカーを分離する
Wnt3aプラットフォームは、高いレベルの幹細胞マーカーStro1及び低いレベルの骨形成細胞運命マーカーオステオカルシン(OCN)を発現するhSSCを維持した。3Dゲルにおいて上方に遊走する細胞は、徐々にStro1を下方調節し、OCNを上方調節した(図12A)(Lowndes, M. et al (2016)、上記)。近年では、骨髄から単離されたhSSCのプロテオミクス及び機能的分析は、カドヘリン-13(CDH13)及びセマフォリン共受容体PLXNA2を、新規なhSSCマーカーとして示している(Holley, R. J. et al (2015) Stem Cell Reports 4: 473-488)。CDH13、PLXNA2、及び早期分化マーカーオステオポンチン(OPN)のタンパク質発現プロファイルの評価(Zohar, R. et al (1998) Eur. J. Oral Sci. 106(1): 401-407)を、WIOTMを含む細胞において行った。Stro1と同様に、CDH13及びPLXNA2は、Wnt3aの近位側の細胞において高度に発現され、固定化されたWnt3aから離れて遊走した細胞においては下方調節されていた。OPNは、OCNと類似の発現パターンを示した(図2A~2C、及び図12A)。これらのマーカーにより、WIOTMの組成及び骨形成同一性がさらに確認される。hSSCは、異なるレベルではあるが幹細胞及び分化マーカーを共発現するため、これらのマーカーの分布を、細胞分裂中にモニタリングした。Wnt3aに対して垂直方向に分裂するhSSCにおけるCDH13及びOPNの共染色は、Wnt3a近位側半分が、Wnt3a遠位側半分と比較して、高いレベルのCDH13を有したことを示した。対照的に、OPNは、細胞のWnt3a遠位側半分において濃縮されていた(図2D及びF、並びに図9A)。マーカーのこの分離パターンはまた、分裂終期及び分裂後にも観察された(図2G、2H、及び2K、並びに図9B)。有糸分裂面がWnt3a源に対して平行方向に配向されたた細胞において、幹細胞及び分化マーカーは、細胞の両半分で同様に分布していた(図2E、2F、2I、及び2K、並びに図9C)。分裂細胞のOPN:CDH13比の非対称性は、有糸分裂単一細胞及び有糸分裂後の細胞二倍体の両方において、OPN:PLXNA2及びOCN:Stro1の相対発現を定量化することによって、確認した(図10D~10G、図11A~11C、及び図12B~12G)。
【0113】
これらの結果は、Wnt3aにより配向される単一hSSCの分裂において、局在化されたWnt3aはまた、細胞の対称性も破壊することを示す。局在化されたWnt3aは、幹細胞運命マーカーと共分離するWnt/β-カテニン経路の構成成分及び極性タンパク質aPKC ζの、細胞のWnt3a近位側半分への非対称分布を誘導する。細胞のWnt3a遠位側半分は、存在するとしても、aPKC ζ、β-カテニン、及びAPCのレベルは低く、早期骨形成分化マーカーが濃縮されている。分裂中期における細胞対称性の破壊により、細胞は、2つの別個の娘細胞を産生する非対称幹細胞分裂の準備が整う:Wnt3a近位側hSSCは、Wnt源の近傍で、高いレベルの幹細胞マーカーを有し、高いレベルの骨形成分化マーカーを発現するWnt3a遠位側細胞は幹細胞ニッチから遠くに誘導される。まとめると、2D系における単一マウス胚性幹細胞(Habib, S. J. et al. (2013) Science 339, 1445-1448)から、3D培養物におけるヒト成体幹細胞まで、非対称細胞分裂(asymmetric cell division、ACD)を配向する局在化されたWnt3aタンパク質の役割に関する本発明者らの観察が、拡張された。重要なことに、局在化されたWntが、Wnt近位側細胞の幹細胞同一性を維持することによって、培地から分化の合図に打ち勝つことができることが示されている。Wnt機序と進化論的に保存された本質的な極性の合図との間の相互関係が、ACDの調節において協働することが明らかとなった。
【0114】
局在化されたWnt3aタンパク質は、hSSCのACDを作動させて、WIOTMを生成し、これが、ヒト骨ニッチの態様を再現し、骨修復の治療能力を有し得る。これを試験するために、WIOTMを骨欠損部位に送達するための生体模倣スキャフォールドを開発した。
【0115】
骨形成促進性インプラントのための生分解性Wnt3aバンデージの製造
骨膜は、寿命にわたって骨の周囲にある薄い線維細胞性の膜(70~150μm)である(Squier, C.A. et al (1990) J. Anat. 171: 233-239)。これは、骨の成長、リモデリング、及び破砕修復を担う骨格系幹細胞及び骨芽細胞を含む多様な細胞組成を有する。この実験では、WIOTMが、幹細胞集団の長期維持及び成熟骨細胞の形成に寄与する能力に関して、インビボで骨膜の態様を再現し得るかどうかを試験した。
【0116】
これまでの研究では、Wnt3aタンパク質を固定化するためにガラスプラットフォームを使用していたが、これは、インビボでの研究には好適ではない。この問題を克服するために、移植された細胞を保持することができ、それらの「幹細胞様」特性を維持することができ、移植された領域へのそれらの分布を制限することができる、Wnt3a結合型バンデージを操作した。骨組織操作のためのスキャフォールド要件としては、生体適合性及び適切な時間スケールにわたる分解性が挙げられる(Alghazali, K. M. et al (2015) Drug Metab. Rev. 47: 431-454)。
【0117】
バンデージスキャフォールドを生成するために、臨床的に承認されているポリカプロラクトン(PCL)ポリマーを使用して、溶媒蒸発によってフィルムを製造し、次いで、スキャフォールド表面を、酸素プラズマ処理した。この処理により、後続のアミノプロピル-トリエトキシシランを使用したWnt3aタンパク質コンジュゲーション(O/APTES)のための一級アミン官能基が得られた(図13A)(Wulf, K. et al (2011) J. Biomed. Mater. Re. Part B Appl. Biomater. 98: 89-100)。O/APTES表面官能基化アプローチは、従来的なヘキサメチルジアミン(HMDA)アプローチよりも効率的であることが見出された(Zhu, Y. et al (2002) Biomacromolecules 3: 1312-1319)。これは、FITC-イソチオシアネートと一級アミン官能基との間の共有結合での結合からのおよそ10倍高いフルオレセインイソチオシアネート(FITC、Fluorescein isothiocyanate)強度によって実証された(図13B)。FITC強度の標準曲線からの外挿により、1.031×10/μmの利用可能な一級アミンが、Wnt3aリガンドに架橋され得ると推定された(図13C及び13D)。スキャフォールド上の一級アミン官能基は、リン酸緩衝食塩水(PBS)中で室温において8週間の保管にわたって安定なままであった(図13B)。次に、精製したWnt3aタンパク質を、これまでに説明されているグルタルアルデヒドタンパク質コンジュゲーションアプローチを使用して、共有結合によりコンジュゲートした(Mills, K. M. et al (2017)、上記;Lowndes, M. et al (2017)、上記;Lowndes, M. et al (2016)、上記)。αWnt3aウエスタンブロットアッセイによって確認すると、Wnt3aタンパク質は、表面に効率的に結合し、未結合で系内に残るWnt3aタンパク質は最小限であった(図3A)。
【0118】
固定化されたWnt3aタンパク質の機能的活性を、次いで、Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路活性化を評価することによって、検証した。これを行うために、TCF-ルシフェラーゼレポーター細胞系(LS/L)アッセイを使用し、hSSCに、7xTCF-eGFP/SV40-mCherryレポーターを形質導入した(Lowndes, M. et al (2017)、上記;Lowndes, M. et al (2016)、上記)。LSアッセイにより、活性Wnt3aタンパク質がコンジュゲートされた表面上において、Wnt/1 β-カテニンシグナル伝達経路の活性化を示すルシフェラーゼ活性の有意な増加が明らかとなった(図3B)。ルシフェラーゼ活性は、不活性化Wnt3a(iWnt3a)では有意に減少した(Habib, S. J. et al (2013)、上記)。O/APTES官能基化方法は、Wnt3aタンパク質への共有結合による結合に関して、HMDAアプローチよりも効率的であった。これは、O/APTES-Wnt3a-PCLフィルム上で培養されたLS/L細胞において、HMDA-Wnt3a-PCLフィルムと比較して、Wnt/β-カテニン経路の有意に高い活性化倍数によって反映された(図3B)。
【0119】
固定化されたWnt3aスキャフォールドの生物学的活性を、7xTCF-eGFP/SV40-mCherryレポーターを有するhSSCを使用して、検証した。このレポーターにおいて、eGFPシグナルの産生は、7TCFの制御下にあり、Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路活性化のシグネチャーである(Fuerer, C. & Nusse, R. (2010)、上記)。mCherryは、細胞において構成的に発現される。これらのhSSCをスキャフォールドに播種すると、細胞は、用量依存性のeGFP発現の増加を示した(20ng対60ng、31.3%対48.3%)(図3C及び3D)。共有結合で固定化された不活性Wnt3aタンパク質又は非シグナル伝達分子であるウシ血清アルブミン(BSA)の対照フィルムは、存在するとしても有意に低いレベルのeGFPを示した。
【0120】
示されるように、本発明者らは、Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路を活性化し、インビボに送達することができ、移植目的でWIOTMを生成することができる、生体適合性材料から作製されるWnt3aバンデージの開発に成功した。
【0121】
Wnt3aバンデージ及びWIOTMバンデージは、インビボでの骨修復を促進する
臨界サイズの頭蓋冠骨欠損は、放射線医学的及び組織学的分析によって骨修復を評価するための標準化された一様なモデル傷害として使用することが成功している(Gomes, P. S. & Fernandes, M. H. (2011) Lab. Anim. 45, 14-24; Samsonraj, R. M. et al (2010) PLoS ONE 5: e9370)。頭蓋冠は、主として膜内骨化を介して形成される扁平骨である。このプロセスにおいて、上にある骨膜、下にある硬膜、及び頭蓋縫合により、骨修復のための骨前駆細胞が提供される(Doro, D. H. et al (2017) Front Physiol. 8: 956)。これらの幹細胞/前駆細胞の部分集団は、Wnt応答性であり、骨の形成及び修復に寄与する(Doro, D. H. et al (2017)上記;Zhao, H. et al (2015) Nat. Cell Biol. 17: 386-396; Maruyama, T. et al (2016) Nat. Commun. 7: 10526; Wilk, K. et al (2017) Stem Cell Reports 8: 933-946)。Wnt3aバンデージが、それ自体で内在性骨修復を刺激することができるかどうか、並びにインビボに組み込まれ、新しい骨の生成に寄与するWIOTMバンデージの能力を、調査した。臨界癒合不全欠損部を、13週齢の雌性重症複合免疫不全(SCID)マウスにおいて頭頂骨の両側又は片側に、直径4mmで作成した。1型コラーゲンの薄い層を、欠損部に付加し、Wnt3aバンデージ又はWIOTMバンデージを、欠損部位の上に重ね、医療用接着剤でバンデージを固定した(図4A)。3D骨形成コンストラクトの影響を判定するために、WIOTMバンデージは、インプラント時に20,000個未満の細胞を有するように制限した。同等の面積の健常な頭蓋冠骨において見出される細胞の数を考慮すると(12.6mm当たり合計およそ27万個の細胞)、これは、外因性細胞のストリンジェントな導入を表す。このアプローチは、多数の移植細胞が過剰に導入されることに寄与し得る結果及びアーチファクトを回避する。外科手術の前に、すべての種類のバンデージは、マイコプラズマが存在しないことを確認した。骨修復は、8週間後に、マイクロコンピュータ断層(マイクロ-CT、micro-Computed Tomography)及び組織学的分析を使用して、試験した。
【0122】
インプラントなしの欠損部位、iWnt3aバンデージがインプラントされたもの、又はhSSCとともに培養したiWnt3aバンデージがインプラントされたもののマイクロ-CT分析は、8週間の期間の後に無視できる程度の治癒を示した(図4B及び4D)。これら3つの対照は、組織化されていない様式で小さな表面石灰化組織が欠損面積に散乱していた(欠損部単独については6.6%、iWNT3Aバンデージについては7.4%、iWnt3a-PCL+hSSCについては7.9%の面積をカバー)。陰性対照とは対照的に、活性なWnt3aバンデージで覆われた欠損部位は、インプラントの8週間後に、有意な骨のデノボ形成(平均で17.67%の面積をカバー)を示した。さらに、WIOTMバンデージは、さらにより顕著な骨再生を示した(28.4%の面積をカバー、図4C及び4D)。高密度の石灰化を有する広い新しい骨の面積は、欠損した骨の縁部から中心までをカバーすることが見出された(図4C)。
【0123】
ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)並びにモバットのペンタクローム染色を使用したさらなる評価により、マイクロ-CT分析によって特定された欠損部位に新しく形成される骨の石灰化領域が、健康な骨のシグネチャーを示し、核が、長く、整列し、まばらに分布していると見られた。加えて、周囲の石灰化された組織は、線状痕を示し、有機マトリックスのコラーゲン繊維のアライメント及びコンピテントな層状骨の石灰化特徴を示した(図4E及び4F)。緻密に詰まった核とともに、欠損部にまたがって、結合/間質様組織もまた、観察された(図4E)。活性Wnt3aバンデージ及びWIOTMバンデージで処理した欠損部において、新しく形成される骨は、欠損部位の中央部分及び欠損縁部と直接接続された状態の両方で存在しており、これは、修復及び再生のプロセスにおける新しい骨と既存の骨との骨融合を示す(図4E)。新しく形成される骨内の血管もまた、検出された(図4F)。
【0124】
WIOTMバンデージは、幹細胞集団を維持し、頭蓋冠骨欠損部における骨の形成に寄与する。
傷害部位におけるWIOTMの組込み及び新しく形成される骨へのその寄与を、調査した。したがって、この実験は、宿主とインプラントされた細胞とを区別することができる細胞同一性マーカーの解剖学的分布を特徴付けることを目的としている。hSSCマーカーStro1及びCDH13及びPLXNA2は、WIOTMインプラント範囲において高度に発現されることが見出された。これらのマーカーを発現する細胞は、新しく形成される骨に重なる結合/間質様組織、並びにその周囲の薄層を形成した(図14A~14C、及び図15A)。宿主骨膜におけるStro1染色は、最小限であり、可能性としては非特異的であり、主としてもっとも外側の細胞層の端に限定されていた(図14B)。縫合線においては、バックグラウンド染色しか確認されなかった(図15C)。
【0125】
わずかなCDH13及びPLXNA2染色が、宿主の骨膜及び縫合線において観察された(図14A、15A、及び15C)。ヒト及びマウスCDH13及びPLXNA2は、それぞれ、94.8%及び96.6%のタンパク質配列同一性を共有し、したがって、抗体は、両方の種のタンパク質を認識すると見られる。これらの結果は、CDH13及びPLXNA2もまた、マウス頭蓋冠の幹細胞コンパートメントにおいて発現されることを示唆する。
【0126】
早期分化マーカーOPNが、新しく形成される骨及び宿主骨において、並びに低い程度で骨膜及び縫合線において、発現された(図15A及び15C)。骨前駆体コンパートメントの骨縁部に沿ったOPNのより高度な沈着は、骨芽細胞及び骨細胞が、マトリックスリモデリング及び骨の増大を誘導していたことを示す(Morinobu, M. et al (2003) J. Bone Miner. Res. 18: 1706-1715; Tsai, T.-L. & Li, W.-J. (2017) Stem Cell Reports 8, 387-400)。
【0127】
骨形成分化マーカーであるオステオカルシン(OCN)は、新しく形成される骨において豊富に発現されたが、幹細胞コンパートメントにおいても発現された(図15A及び15C)。これらの結果は、オステオカルシンが後期骨芽細胞から成熟骨細胞への発達の間に産生されるというこれまでの観察と一致する(Bonewald, L.F. (2011) J. Bone Miner. Res. 26: 229-238)。OCNは、分泌タンパク質であり、したがって、石灰化した組織だけに局在化する可能性は低い。
【0128】
陰性対照及びアイソタイプ対照により、免疫組織化学的染色の特異性を確認する(図15D)。
【0129】
免疫組織化学は、新しく形成される骨の構造及び組成に関して定性的見識を提供する。しかしながら、これらの実験において使用される幹細胞及び分化マーカーは、ヒト及びマウス細胞を特定することができる。したがって、新しく形成される骨へのWIOTMの寄与を定量するためには、ヒト特異的マーカーが必要である。Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路は、hSSCの維持及びWIOTMの形成に必須であり(Lowndes, M. et al (2016)、上記)、インビボでの骨修復を統制する(Doro, D.H. et al (2017)、上記; Zhao, H. et al (2015)、上記; Maruyama, T. et al (2016)、上記; Wilk, K. et al (2017)、上記)。骨再生に対するWIOTMインプラントの影響をさらに解明するために、7xTCF-eGFP//SV40-mCherryレポーターを有するhSSCを使用して、WIOTMバンデージを生成した。構成的に発現されるmCherryは、系統追跡目的で、ヒト細胞の特定を可能にする。分析の一部において、ヒトβ2-ミクログロブリン(hβMG2)を、マーカーとして利用した。注目すべきことに、hβMG2の染色は、mCherryとのオーバーラップを示し、ヒトマーカーの特異性を示した(図16C)。
【0130】
試料組織の免疫蛍光画像を、同じ試料内の対照組織シグナル強度に基づいて閾値処理する方法を利用して、インサイチュでの組織切片における陽性細胞の特性が可能となった(図16A及び16B)。新しく形成される骨組織の範囲のこの免疫蛍光分析により、スクレロスチン(SOST)陽性細胞が、健常な頭蓋冠骨と同等の密度のものであったことが示された(図5A及び5C~5F、図16A)。SOSTは、石灰化の進行時に成熟骨細胞において発現されるマーカーであり(Fan, J. et al. (2015) Tissue Eng. Part A 21, 2053-2065)、そのため、成熟骨の主要な細胞成分を表す。石灰化機能に加えて、スクレロスチンはまた、骨芽細胞から骨細胞への移行時に重要なWnt/β-カテニンシグナル伝達経路におけるアンタゴニストとしての機能を果たすことも見出された(Ramachandran, K. & Gouma, P.-I. (2008) Recent Pat. Nanotechnol. 2, 1-7)。
【0131】
系統追跡により、WIOTMバンデージ処置では、スクレロスチン(SOST)陽性細胞の大部分が、ヒト起源のものであったことが明らかとなった。欠損部の中央及び縁部における新しい骨の範囲内で、ヒトmCherry陽性細胞は、それぞれ、総SOST+集団(ROI1及びROI2、図5B)の39.6%及び41.6%を占め、新しい骨において全体平均で35.9%がヒト起源SOST+細胞であった(図5C及び5D)。インプラントされたヒト細胞は、宿主骨又は縫合線の近傍組織には検出されなかった(図5D図6C)。
【0132】
対照的に、不活性Wnt3aバンデージで培養し、コラーゲンゲルで覆われたhSSCは、新しい骨の最小範囲に良好に組み込まれなかった。これらの試料において、SOST+細胞のヒトマーカーhβMG2との共染色によって特定すると、ヒト細胞は、総SOST+細胞の6.5%しか構成しない(図5B、5C、及び5F)。これらの結果は、インビボにおける生存、組込み、及び骨修復への寄与において、幹細胞単独のインプラントと比べた完全な骨形成構造の重要性を強調する。この理由により、新しい骨の成長を支持する結合組織に対して同等の分析を行うことは重要であった。
【0133】
WIOTMにインプラントされたhSSCは、Wnt/β-カテニン経路が活性化されると、eGFPを発現した(図3C及び3Dを参照されたい)。Wnt応答性細胞は、主として、固定化されたWnt3aバンデージと緊密に接触し、それらは、近位側領域においては総細胞の25.6%(近位側ヒト細胞の63.8%)を占めるが、遠位側領域においては総細胞の3.6%(遠位側ヒト細胞の32.1%)のみを占める(図6A及び6B、図16B)。全体として、インプラントの8週間後に、結合/間質様組織全体に位置する細胞のうちの18.5%が、ヒト起源のものであり、mCherryを発現した。これらのヒト細胞のうちの平均45.7%が、eGFP発現によって特定すると、Wnt応答性細胞であった(560個のヒト細胞中256個、3匹の動物から得られた切片にわたって計数)。
【0134】
次に、結合/間質様組織における幹細胞マーカーを発現する細胞の分布を、調査した。組織内のCDH13細胞のパーセンテージは、固定化された活性Wnt3aの近位側で有意に高かった:Wnt3aバンデージにおいては49.5%、iWnt3a-バンデージ+hSSCにおいては27.1%のみ(図6D及び6F~6H)。CDH13細胞のこの比率は、WIOTMバンデージではさらに増加し、合計66.3%がCDH13陽性近位側細胞であった。細胞のうちの22.6%は、ヒトCDH13細胞であった(図6C、6E、及び6H)。ヒトCDH13細胞はまた、WIOTMバンデージの中央及び遠位側領域においても検出され、これはまた、Wnt3aバンデージ又はhSSCを有するiWnt3aバンデージと比較して、総CDH13+細胞の濃縮も有した。PLXNA2細胞の類似の分布が、WIOTMバンデージにおいて見られた(図17B及び17C)。
【0135】
細胞密度に関して、この結合/間質様組織(バンデージ処置の種類に関係なく)は、内在性SSC/前駆体の源である骨膜及び縫合線間葉に類似であることが見出された(DAPI、白色のバー;図6C及び6D、図17A)。しかしながら、Wnt3a及びWIOTMバンデージ処置における結合/間質様組織は、骨膜又は縫合線における宿主源のCDH13細胞(約200,000/mm未満)と比較して、有意に高いCDH13細胞密度を有した(それぞれ、約500,000/mm及び400,000/mm)。このCDH13+細胞の密度の増加は、hSSCをインプラントしたiWnt3aバンデージでは見られず(約200,000/mm)、これは、宿主骨膜と類似であった(図6D図17A)。活性及び不活性細胞バンデージ間でのCDH13細胞の密度の増加の有意な差が、hSSCマーカーStro1の分析においても見られた(図17D及び17E)。すべての結果を考慮すると、本発明者らのデータは、Wnt3aバンデージが、結合/間質様組織において幹細胞マーカーを発現する細胞集団を増加させることを示唆する。WIOTMバンデージは、組織にヒト細胞を供給することによって、この増加にさらに寄与する。
【0136】
PLGAバンデージへのWntの固定化
WIOTMバンデージのフィルムとしてのPLGAの有効性もまた、評価した。方法は、上記のように設定されており、フィルムとしてPCLを有するWIOTMバンデージに使用されたものと同じである。
【0137】
図7Aに示されるように、13週齢の雌性SCIDマウスにおいて、直径4mmの臨界サイズの片側頭蓋冠骨欠損部の骨修復の面積パーセンテージを、8週間後に定量化した。孔を開けた欠損部を、コラーゲンで覆った。欠損のみの動物(n=14匹)において、さらなる処置は与えなかった。PLGA-WIOTM処置動物(n=10匹)においては、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)Wnt3aバンデージを、hSSCとともに播種し、移植前にインビトロで3D骨形成マトリックスにおいて7日間培養して、Wnt誘導型ヒト骨形成組織モデル(WIOTM)を形成した。
【0138】
図7Bは、外科手術の8週間後の頭蓋冠骨欠損部のマイクロコンピュータ断層撮影(マイクロCT)スキャンの代表的な画像を示す。黄色破線の楕円形は、もともとも直径4mmの欠損サイズを表す。
【0139】
図7Cは、PLGAバンデージ又は組織培養プラスチックに播種した場合の7xTCF-ルシフェラーゼ構築物を有するWnt/β-カテニンレポーターLSL細胞によって測定した、ルシフェラーゼ活性の変化倍数を示す。条件からの読み取りは、次の通りである:Wnt3a-PLGA(60ngのインプット、Wnt3aをPLGAに固定化)、培地対照(組織培養プラスチック及び標準的な培養培地)、並びに可溶性Wnt3a(組織培養プラスチック、及び45ngの可溶性Wnt3aを補充した培地)。すべての読み取りは、BSA-PLGA(ウシ血清アルブミンをPLGAに固定化)に対して正規化し、結果は、3回の独立した実験からプールし、n=9匹から得られたデータを示す。
【0140】
図7Dは、60ngのWnt3a(固定化ステップにおけるインプット量と同等)、未結合Wnt3a(固定化後に回収)、洗浄液1~3、及びBSA(ウシ血清アルブミン)のみを示す、代表的なウエスタンブロットである。
【0141】
結果は、PLGAバンデージへのWntの固定化、並びにWntレポーター細胞系におけるWnt/ベータ-カテニン経路の活性化の成功を示す。WIOTM-PLGAバンデージは、8週間後に、臨界サイズの頭蓋冠骨欠損部において骨修復を有意に改善した。PCLではなくPLGAを使用する1つの利点は、PLGAが、約28日間のインビボ生分解性を有することである。対照的に、PCLの生分解性は、数年間継続し得る。結果として、PLGAは、バンデージの短い処置又は高速な分解のいずれかを必要とする用途に好適である。
【0142】
すべてを合わせると、これは、ヒトSSC集団の維持と、骨修復を促進するマウス骨欠損におけるヒト起源の分化骨形成細胞のカスケードとを初めて同時に示す。これらの発見はまた、Wnt3応答性幹細胞を動員及び増大し、同時に、成熟及び機能性骨細胞を生成することによって骨再生を統制することにおける、Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の対照的な役割をさらに強調する。
【0143】
結果は、Wnt3aバンデージが、対照バンデージと比較して、内在性骨修復の増強を促進させたことを示す。興味深いことに、WIOTMバンデージは、ヒト成熟骨細胞を含有する追加の新しい骨を形成すると同時に、Wnt応答性幹細胞集団を維持することによって、骨修復をさらに改善した。
【0144】
結果はまた、局在化されたWnt3aが、3DにおいてhSSCの非対称細胞分裂(ACD)を誘導し、これが、WIOTM形成を作動させることも示した。このプロセスにおいて、分裂中期の間、hSSCは、β-カテニン及びAPC、並びに極性タンパク質非定形プロテインキナーゼC ζ(aPKC ζ)を、細胞のWnt3a近位側半分に分極させ、有糸分裂面を、Wnt3a源に対して垂直方向に配向させる。さらに、幹細胞マーカーCDH13は、細胞のWnt3a近位側半分に濃縮されており、一方で、早期分化タンパク質マーカーオステオポンチン(OPN)は、細胞のWnt3a遠位側半分に濃縮されていたことが見出された。この分裂の結果は、Wnt3a近位側細胞がhSSC細胞運命を有し、Wnt3a遠位側細胞が骨形成分化の傾向を受け、3Dゲル内で局在化される。
【0145】
考察
非対称細胞分裂(ACD)は、細菌からヒトまで、進化論的に保存されている機序である(Pereira, G. & Yamashita, Y.M. (2011) Trends Cell Biol. 21: 526-533)。このプロセスは、多様な細胞型の生成を確実にし、これは、環境又は発達への適合、多細胞生物における組織のパターン形成及び維持に必須である。ACDはまた、組織における幹細胞の数を調節する。有糸分裂中に、幹細胞は、細胞運命決定基を分割し、幹細胞数を維持し、同時に、分化した娘細胞が生成され、増殖するように、有糸分裂の紡錘体を配向する。
【0146】
幹細胞の自己再生は、外部シグナルに依存し、これには、Wntファミリーのものが含まれることが多い(Garcin, C. L. & Habib, S. J. (2017)、上記)。Wntタンパク質は、局所的に分泌され、応答性細胞の片側に提示されることが多い(Mills, K. M. et al (2017)、上記)。線虫(C. elegans)において、Wntタンパク質のこの局在化作用は、胚性及び成体細胞において非対称細胞分裂を誘導する(Goldstein, B. et al (2006) Dev. Cell 10: 391-396)。インビボでの状況を模倣するために、本発明者らは、これまでに、Wntを、共有結合により合成表面に固定化し、哺乳動物幹細胞にそれらを導入している(Lowndes, M. et al (2017)、上記)。局在化されたWnt3aは、2D培養物において、単一マウス胚性幹細胞(mESC)のACDの配向を誘導することができる(Habib, S. J. et al (2013)、上記)。この研究においては、この観察が拡張されており、本発明者らは、局在化されたWnt3aが、分化を支持する培地において3D環境で、成体hSSCのACDの配向を誘導することができることを示した。培地全体に添加された可溶性Wnt3aタンパク質ではなく、このWnt3aのhSSCに対する局在化された指向性作用が、WIOTM形成に必須である(Lowndes, M. et al (2017)、上記)。結果は、組織形成及びパターン形成に必須のプロセスである、異なる細胞運命を有する2つの娘細胞を生成することができる細胞対称性を破壊することにおける局在化されたWnt3aの進化論的に保存された役割を強調する(Mills, K. M. et al (2017)、上記)。
【0147】
3DスキャフォールドにおけるWnt3aに誘導されるhSSCのACDのプロセスにおいて、分裂中期の細胞は、有糸分裂の軸をWnt3a源の方へと配向させる。β-カテニン及びAPC(Wnt3a/β-カテニン経路の成分)、細胞極性タンパク質aPKCζ、並びに幹細胞マーカーCDH13及びPLAXN2は、分裂細胞のWnt3a近位側半分に濃縮されている。対照的に、細胞のWnt3a遠位側半分は、高いレベルの早期分化マーカーOPN及びOCNを有する。このWntに媒介される分裂細胞の対称性の破壊は、1つのWnt3a近位側hSSC細胞と、ゲル内で局在化され、Wnt3a源から離れて分化を開始する1つのWnt3a遠位側細胞とを生成する。重要なことに、活性Wnt/β-カテニンシグナル伝達が、WIOTMにおける幹細胞コンパートメントの維持に必要である。本発明者らは、IWRによって経路を遮断することが、Stro1の発現の喪失をもたらし、WIOTM形成を重度に損なうことを、これまでに示している(Lowndes, M. et al (2016)、上記)。
【0148】
Wntに誘導されるhSSCのACDは、高い空間的/時間的分解能で、ヒト骨細胞形成の初期段階に関与する分子機序及びタンパク質ネットワークを分析する固有の機会を提供する。
【0149】
最初の観察により、CDH13及びaPKCζの上流の調節因子として、局在化されたWntが特定された。古典的なカドヘリン(CDH13を含む)及びβ-カテニンは、接着結合上に複合体を形成し得る。これらの複合体はまた、Wntに媒介されるシグナル伝達に関与するβ-カテニンの利用可能性を調節し得る。古典的カドヘリンにおける機能変異の喪失は、細胞接着の減少、及び細胞運動性の増加をもたらす(Nelson, W. J. & Nusse, R. (2004) Science 303: 1483-1487)。興味深いことにWnt3a近位側hSSCは、高いレベルのβ-カテニン及びCDH13を受け継ぎ、一方でWnt3a遠位側の細胞は、低いレベルのβ-カテニン及びCDH13を有し、ゲルへと上方に移動する。
【0150】
aPKCζタンパク質は、PAR複合体の進化論的に保存された機序の成分である。多くの生物及び発生段階において、この機序は、外部の合図から独立して、細胞極性及びACDを調節するように作用する(Rafiq, Q. A. et al (2013) Biotechnol. Lett. 35, 1233-1245)。局在化されたWntが、aPKCζの位置を制御するという本明細書に提示されている見解は固有であり、細胞非対称性を制御する両方の機序の間の新しい相互関係を追求する根拠を提供する。
【0151】
加えて、プロテインキナーゼC(PKC)シグナル伝達は、骨形成分化及び骨の形成を調節する(Lee, S. et al (2014) BMC Cell Biol. 15: 42; Jeong, H. M. et al (2012) Biochim. Biophys. Acta 1823: 1225-1232)。aPKCζを含むPKCタンパク質のいくつかのアイソフォームは、転写因子Msx2と相互作用し、そのタンパク質レベルを安定させる(Jeong, H. M. et al (2012)、上記)。Msx2は、骨形成性転写因子Runx2、Dlx3、及びDlx5の転写活性を抑制する(Yoshizawa, T. et al (2004) Mol. Cell Biol. 24: 3460-3472; Zhang, H. et al (1996) Proc. Nat. Acad. Sci. 93: 1764-1769)。Msx2はまた、DKK1発現を低減し、続いて、Wntシグナル伝達を増強させることが示されている(Cheng, S.-L. et al (2008) J. Biol. Chem. 283: 20505-20522)。
【0152】
骨再生を統制することにおけるWnt/β-カテニンシグナル伝達経路の役割は、様々なモデルにおいて十分に文書化されている(Im, J.-Y. et al (2013) Lab Anim. Res 29, 196-203; Brennan, M. A. et al (2014) Stem Cell Res. lTher. 5, 114-15; Nakahara, H. et al (2009) Transplantation 88, 346-353; Garcin, C. L. & Habib, S. J. (2017) Results Probl. Cell Differ. 61, 323-350; Mills, K. M. et al (2017) Open Biology 7, 170140; Lowndes, M. et al () Nat Protoc. 12, 1498; Lowndes, M. et al (2016) Stem Cell Reports 7, 126-137; Nimni, M. E. et al (1987) J. Biomed. Mater. Res. 21, 741-771; Habib, S. J. et al (2013) Science 339, 1445-1448; Schlessinger, K. et al (2007) J. Cell Biol. 178, 355-361)。Wnt/β-カテニンシグナル伝達経路の重要な負の調節因子としての機能を果たす、Axin2発現における異常は、マウスモデルにおいて、前駆細胞の増殖を加速させ、早期分化を引き起こすことが見出されている(Mills, K. et al (2017) Open Biology 7, 170140; Habib, S. J. et al. (2013) Science 339, 1445-1448)。マウスモデルにおける系統追跡により、傷害後のWnt誘導型骨形成性再生が説明され、ここでは、縫合線間葉に存在するWnt応答性幹細胞集団が、増大及び分化を作動させることにおける鍵となることが見出される(Im, J.-Y. et al (2013)、上記; Brennan, M. A. et al (2014)、上記)。したがって、骨再生を促進することにおけるWntタンパク質の治療的有効性を調べるための薬理学的研究が、開発された。
【0153】
リポソーム小胞によって傷害を受けた脛骨に送達されるWnt3aは、骨修復を改善することが特定された。μCTデータは欠如しているが、著者らは、Wnt3a-リポソーム処置が、骨格前駆細胞の増殖を刺激し、したがって、骨成長に必須である骨芽細胞分化を加速させたことを示す(Schlessinger, K. et al (2007)、上記)。しかしながら、このタンパク質に基づくアプローチは、骨成長を促進及び増強させるであろうWnt応答性細胞への到達を、傷害部位におけるリポソームの非標的化拡散に依存する。グリコーゲン-シンターゼ-キナーゼ-3β(GSK3β)及びペルオキシソーム増殖因子-活性化受容体-γ(PPARγ)を阻害することによって、骨形成に有利になるようにWnt/β-カテニンシグナル伝達経路を調節することを目的とする他の小分子アプローチは、骨誘導において有効であることが見出されている(Lowndes, M. et al (2016)、上記; Inaba, M. & Yamashita, Y. M. (2012) Cell Stem Cell 11, 461-469)。これらの分子は、欠損部に物理的に架橋する多孔質骨伝導性スキャフォールドを用いて送達されることが多いが、機械的特性が低い網状で多孔質の骨組織の形成をもたらす。有望な候補ではあるが、小分子は、非特異的であることが多く、他のシグナル伝達経路を活性化又は阻害する可能性がある(Lee, K. et al (2005) The Spine Journal; Holley, R. J. et al (2015) Stem Cell Reports 4, 473-488)。
【0154】
可溶性薬物送達を使用した薬理学的アプローチは、欠損部位において網状の骨を生成することによって、有望な治療効果を示しているが、これはまた、生物安全性の問題も呈する。例えば、可溶性薬物送達アプローチは、所望される作用を達成するために、傷害を受けた部位への複数回の注射を必要とし得、感染の危険性が増加する。これらの薬剤の特異性及び局在化作用の欠如は、付帯的損傷、例えば、望ましくない細胞集団の応答の活性化/抑制をトリガーする可能性がある。結果として、標的組織のアーキテクチャ及び機能、並びに/又は拡散により薬物を受容し得る隣接する組織は、負の影響を受ける可能性がある。例えば、Wntシグナル伝達の過剰活性化は、骨体積の増加、異常な骨密度、及び骨の病理学的肥厚をもたらし得る(Zohar, R. et al (1998) Eur. J. Oral. Sci. 106 Suppl. 1, 401-407; Junaid, A. et al (2007) Am. J. Physiol., Cell Physiol. 292, C919-26; Squier, C. A. et al (1990) J. Anat. 171, 233-239; Hutmacher, D. W. & Sittinger, M. (2003) Tissue Eng. 9 Suppl. 1, S45-64)。
【0155】
腫瘍原性もまた、がんを罹患しやすい患者における懸念である。多くのがんにおいて、腫瘍原性細胞は、シグナル伝達カスケードを活性化するWnt/β-カテニン経路の下流エフェクターにおける変異を有する(Alghazali, K. M. et al (2015) Drug Metab. Rev. 47, 431-454)。拡散によってこれらの細胞に到達し得、さらにWnt/β-カテニン経路を活性化し得る薬剤の投与は、がんの進行を増強させ得る。したがって、制御され、標的細胞に局在化されるWnt/β-カテニン経路の活性化を引き起こすことができる治療剤の標的化送達が、副作用を制限しながら治癒を促進するためには必須である。本発明のWnt3aパッチは、この基準を達成する。
【0156】
本発明のWnt3aパッチは、共有結合による結合を使用して、Wnt3aタンパク質をフィルムに固定することによって、骨治療作用を送達する。この操作設計は、自発的なタンパク質の漏出の危険性、並びにそれに続く他のシグナル伝達経路の活性化、望ましくない細胞集団に影響を及ぼすこと、及び発癌性の誘導という副作用を軽減し、それによって、トランスレーショナルな適用の可能性を増加させる。
【0157】
PCLのインビボでの分解速度は、遅く、完全に分解されるまで数年を必要とし得る(Yang, Y. & Haj, El, A. J. (2006) Expert Opinion on Biological Therapy 6, 485-498)。本発明において、PCLは、欠損部位の上に重ねられ、形成される骨には組み込まれないため、必要があれば、修復後に用意に除去することができる。代替的には、より高速な分解速度を有する他の種類の生体適合性材料を、Wnt3aの固定化及びインビボでの送達のためのスキャフォールドとして使用してもよい。例えば、ポリ乳酸-コ-グリコール酸(PLGA)のインビボでの分解速度は、1ヶ月程度と短くあり得る(Malikmammadov, E. et al (2018) J. Biomaterials Science, Polymer Edition 29, 863-893)。
【0158】
複数のシグナル伝達経路のリガンドが、骨修復を促進することが示されており、もっとも強力なのは、骨形成タンパク質(BMP、Bone morphogenic protein)である(Wulf, K. et al (2011) J. Biomed. Mater. Res. Part B Appl. Biomater. 98, 89-100)。本発明のWntパッチを使用するナノ規模の量のWntタンパク質と比較して、現在公知のアプローチは、有効な骨修復を促進するためには生理学的用量を上回るBMP(μg~mg)を投与する。残念なことに、これらのアプローチは、コンパートメント症候群及び進行性ミオパシー及び従属栄養性骨化を含む、多数の望ましくない副作用を有し、いくつかの事例は、生命を脅かす併発症をもたらす(Zhu, Y. et al (2002) Biomacromolecules 3, 1312-1319; Fuerer, C. & Nusse, R. (2010) PLoS ONE 5, e9370)。加えて、骨修復のための無細胞アプローチを調査した報告されている研究は、野生型若齢マウスに対して行われていた(Gomes, P. S. & Fernandes, M. H. (2011) Lab. Anim. 45, 14-24)。若齢マウスの骨格は、完全に成熟しておらず、本研究の焦点である成体動物と比較して、改善された骨治癒能力を有する(Samsonraj, R. M. et al (2017) Tissue Eng. Part C Methods 23, 686-693; Doro, D. H. et al (2017) Front Physiol. 8, 956)。さらに、本研究では、免疫不全マウスを使用しており、これは、治癒にさらなる障害を課す。SCIDマウスは、骨芽細胞成熟及び後期石灰化を含む骨形成分化及び活性を調節する適応免疫応答が欠如している(Zhao, H. et al (2015) Nat. Cell Biol. 17, 386-396)。本明細書に提供される結果は、これらの鍵となる合図の不在時であっても、本発明のWnt3aパッチが、依然として、有意な内在性骨修復を開始させることができることを示す。加えて、多孔質骨伝導性スキャフォールドを使用する他のアプローチによって産生される組織化されていない網状骨とは異なり、本発明のWnt3aパッチの結果として産生される新しく形成される骨は、組織学的に、健常な骨と同等である。
【0159】
多くの事例において、内在性修復は、老体の患者、又は骨粗鬆症、糖尿病、及びがんを含む医学的共存疾患を有するもの、又は外傷後に特定の再構成手術を必要とする患者などにおいては、骨欠損を治癒するのに十分ではない(Wulf, K. et al (2011)、上記)。細胞に基づく治療法は、この制限に取り組む可能性を有する。しかしながら、この分野における主要な課題は、hSSCを含む外因性幹細胞、及びそれらの子孫をインビボで維持することである。欠損部位における先進的な3D骨誘導スキャフォールド内での数百万個の外因性hSSCの移植でさえも、長期生存率を改善しなかったことが、いくつかの報告により示されている。これは、傷害部位の不利な環境に帰属していた(Maruyama, T. et al (2016) Nat. Commun. 7, 10526; Wilk, K. et al (2017) Stem Cell Reports 8, 933-946)。本発明者らは、幹細胞単独ではなく、幹細胞を骨形成細胞とともに含む骨形成コンストラクトであれば、傷害部位に組み込まれる改善された能力を有するであろうと仮説を立てた。3D骨形成性コンストラクトは、骨ニッチの態様を緊密に模倣し、細胞の生存及び組込みを改善するはずであることがその根拠であった。
【0160】
これを調査するために、Wnt誘導型ヒト骨形成組織モデル(WIOTM)を、操作されたWnt3aパッチ上に生成した。この仮説及び外因性ヒト細胞に取り組むために、パッチは、骨欠損の範囲及び同じ傷害モデルを使用した他の報告されている細胞療法と比較して、比較的低い細胞数である20,000個未満の細胞を含むように操作した(Krause, U. et al (2010) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 107, 4147-4152; Zeitouni, S. et al (2012) Sci. Transl. Med. 4, 132ra55-132ra55; Hyun, J. et al (2013) Stem Cells Transl. Med. 2, 690-702; Tsai, T.-L. & Li, W.-J. (2017) Stem Cell Reports 8, 387-400; Levi, B. et al (2012) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 109, 20379-20384; Brennan, M. A. et al (2014) Stem Cell Res. Ther. 5, 114-15; Nakahara, H. et al (2009) Transplantation 88, 346-353; Levi, B. et al (2010) PLoS ONE 5, e11177; Lough, D. et al (2017) Plast. Reconstr. Surg. 139, 893-905; Fan, J. et al (2015) Tissue Eng. Part A 21, 2053-2065)。骨伝導性材料によって作動される受動的宿主細胞遊走からの再生寄与を低減させるために、骨芽細胞の遊走に好ましいナノ線維性表面をもたらすエレクトロスピニングと比較して比較的平滑な表面をもたらす成形方法を使用して、PCLフィルムを生成した(Ramachandran, K. & Gouma, P.-I. (2008) Recent Pat. Nanotechnol. 2, 1-7; Gao, Y. et al (2017) Sci. Rep. 7, 947)。インプラントの形状因子及び機械的特性は、頭蓋外科手術における正確さ及び低侵襲性を促すように設計した。また、欠損部に架橋するために使用されることが多く、網状で多孔質の骨形成を増強させる従来的な骨移植鉱物質であるヒドロキシアパタイトは、排除した(Im, J.-Y. et al (2013) Lab. Anim. Res. 29, 196-203; Chung, M. T. et al (2013) Tissue Eng. Part A 19, 989-997; Quinlan, E. et al (2015) J. Control Release 207, 112-119)。したがって、製造設計は、骨修復に対する本発明のコンストラクトの影響を表す。
【0161】
免疫不全マウスにおける臨界サイズの頭蓋冠欠損部へのインプラント時に、Wnt3aパッチ及びWITOMパッチはいずれも、骨再生を有意に改善した。重要なことに、パッチの設計は、新しく形成される骨が、多孔質スキャフォールドでは網状で間のあいた新しい骨の誘導が報告されることが多いのと比較して、健常な骨と組織学的に近かったという点で、別の利点を示した。WIOTM細胞インプラントは、幹細胞マーカーStro1、CDH13、及びPLAXN2、インビボにおいて8週間後でさえもパッチの近傍に維持し、石灰化した骨の生成に寄与する成熟骨細胞を産生した。詳細な分析は、ヒト細胞が、欠損内の結合/間質様組織における細胞のうち平均で18.5%、及び新しく形成される骨におけるSOST陽性成熟骨細胞のうちの35.9%を構成することを示す。重要なことに、Wnt3a表面の近位にあるヒト幹細胞マーカー陽性細胞のうちの64%が、GFP陽性染色によって明らかなように、Wnt/β-カテニン経路活性を有した。哺乳動物細胞におけるGFPの半減期は26時間であるため、必ずしもすべてのGFP陽性細胞が、試料固定時に活性Wnt/β-カテニン経路を示すわけではないことに留意することが重要である(Corish, P. & Tyler-Smith, C. (1999) Protein Eng. 12, 1035-1040)。したがって、必ずしもすべてのGFP陽性細胞が、試料固定前に活性Wnt/β-カテニン経路を示すわけではないことに留意することが重要である。
【0162】
本研究は、高い時空間分解能を使用して、単一細胞レベルでヒト骨細胞形成を研究するための根拠を提供し、このプロセスに必須である新しい分子マーカー及び経路の特定を可能にする。高スループットのイメージングを使用することによって、本発明はまた、ヒト骨形成を調節する薬物のスクリーニング及び毒性研究のためのプラットフォームも提供し得る。最後に、Wnt3aを生体適合性かつ生分解性のフィルムに共有結合で固定化することによって、臨界サイズの骨欠損部の内在性治癒を促進する無細胞Wnt3aバンデージ/パッチを生成した。本発明の骨形成組織モデルはまた、3D細胞スキャフォールド上にも生成することができ、インビボにおいてヒト骨形成細胞の維持を促進し、骨修復を加速させるために使用することができる。
図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図3
図4-1】
図4-2】
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図6-1】
図6-2】
図6-3】
図7
図8-1】
図8-2】
図8-3】
図9-1】
図9-2】
図10-1】
図10-2】
図10-3】
図11-1】
図11-2】
図12-1】
図12-2】
図12-3】
図13-1】
図13-2】
図14
図15-1】
図15-2】
図16-1】
図16-2】
図16-3】
図17-1】
図17-2】
図17-3】
図17-4】
【国際調査報告】