IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ バイオアドヒーシブ オフサルミクスの特許一覧

特表2023-512583予め活性化されたチオマーに基づく粘膜付着性の固体または半固体の眼用送達システム
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-27
(54)【発明の名称】予め活性化されたチオマーに基づく粘膜付着性の固体または半固体の眼用送達システム
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/32 20060101AFI20230317BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20230317BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20230317BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20230317BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230317BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230317BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20230317BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20230317BHJP
   A61K 9/00 20060101ALI20230317BHJP
   A61K 31/5575 20060101ALI20230317BHJP
【FI】
A61K47/32
A61K47/36
A61K47/34
A61K47/38
A61K45/00
A61P27/02
A61P37/08
A61K9/70
A61K9/00
A61K31/5575
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022548147
(86)(22)【出願日】2021-02-05
(85)【翻訳文提出日】2022-10-03
(86)【国際出願番号】 EP2021052796
(87)【国際公開番号】W WO2021156435
(87)【国際公開日】2021-08-12
(31)【優先権主張番号】20305118.0
(32)【優先日】2020-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522314027
【氏名又は名称】バイオアドヒーシブ オフサルミクス
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ガレック,ジーン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA71
4C076AA95
4C076AA99
4C076BB24
4C076CC07
4C076CC10
4C076EE14A
4C076EE32A
4C076EE37A
4C076EE41A
4C076FF06
4C076FF09
4C076FF36
4C076FF61
4C076FF70
4C084AA17
4C084MA11
4C084MA32
4C084MA58
4C084NA13
4C084ZA33
4C084ZB13
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA10
4C086DA02
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA11
4C086MA32
4C086MA58
4C086NA13
4C086ZA33
4C086ZB13
(57)【要約】
本発明は、好ましくは眼用インサートまたは眼用フィルムの形態下にある、予め活性化されたチオマーのマトリックスを含む粘膜付着性の固体または半固体の眼用送達システムに関する。本発明の眼用送達システムは、眼疾患の処置のための眼用薬物送達に有用である。また本発明の送達システムは、ドライアイシンドロームなどの眼病態を軽減するために使用され得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め活性化されたチオマーマトリックスを含む、粘膜付着性の固体または半固体の眼用送達システムであって、
前記マトリックスが、ジスルフィド結合を介してチオール化ポリマー骨格に共有結合した2-メルカプトニコチン酸、6-メルカプトニコチン酸、2-メルカプトニコチンアミド、2-メルカプトイソニコチンアミド、6-メルカプトニコチンアミド、6-メルカプトイソニコチンアミド、6,6’-ジチオニコチンアミドまたは6-メルカプトピリドキシンの側鎖を有するポリマー化合物から選択される少なくとも1つの予め活性化されたチオマーを含む、
眼用送達システム。
【請求項2】
眼用インサートまたは眼用フィルムである、請求項1に記載の粘膜付着性の固体または半固体の眼用送達システム。
【請求項3】
前記ポリマー骨格が、側鎖として遊離チオール基を呈してもよい、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド、ビニルピロリドン、ビニルアルコール、ビニルイミダゾール、ビニルカプロラクタム、ジビニルグリコール、ポリカルボフィル、カルボマー、アリルアミン、(トリメチル化)キトサン、ヒアルロン酸、ペクチン、アルギン酸塩、(架橋した)ポリアリルアミン、ポリリジン、ポリオルニチン、ポリアミノアミド、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、およびカルボキシメチルセルロースナトリウムからなる(架橋した)ホモポリマーまたはコポリマーから選択される、請求項1または2に記載の粘膜付着性の固体または半固体の眼用送達システム。
【請求項4】
前記ポリマー化合物の側鎖が、S-(2-または6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-またはS-(6-メルカプトピリドキシン)-システイン-ジスルフィド、S-(2-または6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-またはS-(6-メルカプトピリドキシン)-ホモシステイン-ジスルフィド、S-(2-または6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-またはS-(6-メルカプトピリドキシン)-システアミン-ジスルフィド、S-(2-または6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-またはS-(6-メルカプトピリドキシン)-N-アセチルシステイン-ジスルフィド、S-(2-または6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-またはS-(6-メルカプトピリドキシン)-チオグリコール酸-ジスルフィド、S-(2-または6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-またはS-(6-メルカプトピリドキシン)-3-チオプロピオン酸-ジスルフィド、S-(2-または6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-またはS-(6-メルカプトピリドキシン)-4-チオブタン酸-ジスルフィド、S-(2-または6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-またはS-(6-メルカプトピリドキシン)-メルカプト安息香酸-ジスルフィド、S-(2-または6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-またはS-(6-メルカプトピリドキシン)-メルカプトニコチン酸-ジスルフィド、S-(2-または6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-またはS-(6-メルカプトピリドキシン)-グルタチオン-ジスルフィド、S-(2-または6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-またはS-(6-メルカプトピリドキシン)-チオエチルアミジン-ジスルフィド、S-(2-または6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-またはS-(6-メルカプトピリドキシン)-4-チオブチルアミジン-ジスルフィド、およびS-(2-または6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-またはS-(6-メルカプトピリドキシン)-メルカプトアニリン-ジスルフィドから選択され、前記側鎖が、アミド結合、アミジン結合、またはエステル結合を介して前記ポリマー骨格に結合している、請求項1~3のいずれか1項に記載の粘膜付着性の固体または半固体の眼用送達システム。
【請求項5】
前記マトリックスを形成する予め活性化されたチオマーが、ナノファイバー、好ましくはエレクトロスピニングにより得られるナノファイバーの形態下にある、請求項1~4のいずれか1項に記載の粘膜付着性の固体または半固体の眼用送達システム。
【請求項6】
1種以上の薬学的に有効な物質をさらに含み、好ましくは前記薬学的に有効な物質が、IOP低下剤、たとえばプロスタグランジン類縁体、コリン作用薬、β遮断薬、αアドレナリン受容体刺激薬、炭酸脱水酵素阻害剤、Rhoキナーゼ阻害剤、NOドナー剤およびそれらの組み合わせ;抗炎症薬、たとえば副腎皮質ステロイド抗炎症剤および非ステロイド性抗炎症剤;抗感染症薬、たとえばマクロライド系薬、aminoside、リファマイシン、抗ウイルス薬および抗真菌薬物療法;抗アレルギー薬、たとえばH1-抗ヒスタミン剤、マスト細胞安定化薬;ならびにドライアイ処置剤から選択される、請求項1~5のいずれか1項に記載の粘膜付着性の固体または半固体の眼用送達システム。
【請求項7】
増粘剤、ゲル化剤、可塑剤、可溶化剤、安定化剤、浸透促進剤、希釈剤、結合剤、崩壊剤、滑剤、チャネリング剤、および緩衝剤から選択される1種以上の薬学的に許容される賦形剤をさらに含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の粘膜付着性の固体または半固体の眼用送達システム。
【請求項8】
増粘剤およびゲル化剤が、高分子量の架橋したポリアクリル酸ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、およびヒアルロン酸から選択され;可塑剤がグリセロールであり;可溶化剤および安定化剤が、シクロデキストリンから選択され;浸透促進剤が、還元された形態のグルタチオンであり;希釈剤が、糖アルコールから選択され;結合剤が糖類およびそれらの誘導体、二糖類、多糖類およびそれらの誘導体、セルロース、修飾されたセルロース、糖アルコール、および合成ポリマーから選択され;崩壊剤が、架橋したポリマーおよび修飾されたスターチから選択され;滑剤が、ステアリン酸マグネシウム、リン酸水素カルシウム、スターチ、結晶セルロース、およびコロイド状二酸化ケイ素から選択され;チャネリング剤が、塩化ナトリウムおよびポリエチレングリコールから選択される、請求項7に記載の粘膜付着性の固体または半固体の眼用送達システム。
【請求項9】
高分子量の架橋したポリアクリル酸ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、セルロース、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸、グリセロール、シクロデキストリン、還元された形態のグルタチオン、ソルビトール、キシリトール、マンニトール、糖類およびそれらの誘導体、スクロース、ラクトース、多糖類およびそれらの誘導体、スターチ、グリコール酸でん粉ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、リン酸水素カルシウム、コロイド状二酸化ケイ素、および塩化ナトリウムから選択される1種以上の薬学的に許容される賦形剤を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の粘膜付着性の固体または半固体の眼用送達システム。
【請求項10】
眼疾患または眼病態の処置および/または予防に使用するための、請求項1~9のいずれか1項に記載の粘膜付着性の固体または半固体の眼用送達システム。
【請求項11】
前記眼疾患または眼病態が、開放隅角緑内障、黄斑浮腫、ブドウ膜炎、ドライアイ疾患、結膜炎、角膜炎、眼瞼炎、眼内炎、トラコーマ、術後アレルギーおよび季節性アレルギーから選択される、請求項10に記載の使用のための粘膜付着性の固体または半固体の眼用送達システム。
【請求項12】
粘膜付着性の固体または半固体の眼用送達システム、好ましくは眼用インサートまたは眼用フィルム、の製造のための、予め活性化されたチオマーの使用であって、前記予め活性化されたチオマーが、ジスルフィド結合を介してチオール化ポリマー骨格に共有結合した2-メルカプトニコチン酸、6-メルカプトニコチン酸、2-メルカプトニコチンアミド、2-メルカプトイソニコチンアミド、6-メルカプトニコチンアミド、6-メルカプトイソニコチンアミド、6,6’-ジチオニコチンアミドまたは6-メルカプトピリドキシンの側鎖を有するポリマー化合物から選択される、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科用製剤の分野に関し、粘膜付着性の固体または半固体の眼用送達システムを提供する。本発明の送達システムは、予め活性化されたチオマーのマトリックスに基づくものであり、好ましくは眼用インサートまたは眼用フィルムの形態下にある。本発明の送達システムは、限定するものではないがドライアイまたは緑内障などの眼疾患の処置のための眼用薬物送達に有用である。また本発明の送達システムは、眼病態の軽減に使用され得る。
【背景技術】
【0002】
眼のレベルで直接有効物質を投与することを必要とする多くの眼疾患および眼病態が存在する。局所的な眼投与の主要な問題の1つは、長期間、作用部位に十分な量の有効物質を入手および維持すること、ならびに精確な用量の有効物質を送達することである。また有効物質の経時的な制御された徐放を可能にする送達システムも必要とされている。
【0003】
大部分の眼科用薬物は、水性の点眼薬の形態下で投与される。水性点眼薬は、使用することが容易であり、患者により十分に容認されるが、点眼後に迅速に排出される欠点を有し、バイオアベイラビリティが不十分である。さらに、多くの眼科用薬物は、水への溶解度が不十分な疎水性分子である。よって、多くの点眼薬は、薬物懸濁剤であり、この薬物は吸収される前にまず眼で可溶化する必要があるため、バイオアベイラビリティの問題を悪化させている。
【0004】
眼への薬物適用を最適化するために、たとえば、逆相エマルション、in situでのゲル化ポリマー、マイクロスフィア、ナノ粒子、リポソームまたは眼用インサートなどを使用する様々な代替策が開発されている。
【0005】
眼用インサートは、眼の結膜嚢に置くための固体または半固体の眼用送達デバイスである。眼用インサートは、より長く前角膜への滞留時間を確保し、全身吸収の量を低減するため、点眼薬に代わる興味深い代替案を提供する。しかしながら、眼用インサートは、眼に異物の感覚をもたらすため、ほとんどの場合、患者に十分に受け入れられない。さらに、インサートが眼の周辺を移動する場合、これは、視覚をも妨げ得、刺激をもたらし得る。
【0006】
よって、患者が十分に許容し、生成に対する単純性を維持する粘膜付着性眼用インサートを提供する試みが行われている。
【0007】
眼用送達システムが眼の表面に置かれる場合、これはまず、3つの層:脂質層、水層、およびムチン層から形成される涙膜と接触する。よって、涙膜の下に存在するムチンは、眼の表面への眼用送達システムの接着を達成するために標的化され得る。すでに、いくつかのポリマー、たとえばチオマーが、それらの粘膜付着性の性質について試験されていた。
【0008】
チオマーは、「チオール化ポリマー」とも呼ばれており、遊離チオール部分を有する側鎖を有するポリマーである(Bernkop-Schnurch A. et al., Pharm. Res., 1999, 16, 876-881;米国特許第7,354,600号)。チオマーのポリマー骨格は、通常、生物分解性ポリマー、たとえばキトサン、ヒアルロン酸、ゼラチン、ポリアクリレート、シクロデキストリン、またはシリコーンからなる。このようなポリマー骨格のチオール化は、たとえば、システイン部分をカップリングすることにより行われ得る。チオマーは、粘膜をカバーするムチンのシステインを多く含むサブドメインと、共有結合、すなわちジスルフィド結合を形成することができる。このような共有結合は強力であり、よって、チオマーを含む剤形の効率的な粘膜接着を長期間確保することができる。
【0009】
Hornofらは、眼科用薬物の徐放に関して、チオール化ポリ(アクリル酸)に基づく粘膜付着性眼用インサートを試験した(Hornof et al., J. Controlled Release, 2003, 419-428)。乾燥した眼用インサートは、眼の結膜嚢に置かれ、in situで水和し、良好な粘膜接着を呈するハイドロゲルを形成する。このハイドロゲル形態は、従来の眼用インサートとは対照的に異物の感覚をもたらさず、粘膜接着は、インサートを所定の場所に留めることを可能にする。にも関わらず、このようなチオマー眼用インサートは、チオマーのチオール基の酸化を回避し、それらを還元された形態に維持するために、非生理的なpH(Hornofらのチオマー眼用インサートではpH5)で保存され続けなければならない。これは、ムチンとの相互作用で利用可能な十分な量の遊離チオール基を保持するために必須である。よって、チオマー眼用インサートの主な欠点は、それらの非生理的なpHにより刺激および疼痛を誘発することである。さらに、このようなpHは、このような条件下で安定しない一部の有効物質を担持するには適切ではない場合がある。
【0010】
よって、有効な粘膜付着性の特性を有し、患者により十分に容認され、かつ幅広い範囲の眼科用薬物の送達に適した新規の固体または半固体の眼用送達システム(眼用インサートおよび眼用フィルムを含む)が必要とされている。
【0011】
この目的のため、本明細書において、本出願人は、予め活性化されたチオマーのマトリックスに基づく粘膜付着性の固体または半固体の眼用送達システムを提供する。
【0012】
予め活性化されたチオマーまたはSを保護されたチオマーは、側鎖のチオール部分がジスルフィド結合でメルカプトニコチン酸、メルカプト(イソ)ニコチンアミド、またはメルカプトピリドキシン(mercatopyridoxine)とコンジュゲートしているチオマーである(米国特許公開公報第2012/0225024号)。このような予め活性化されたチオマーの粘膜付着性の性質は、たとえばポリ(アクリル酸)-システイン-2-メルカプトニコチン酸で報告されていた(Iqbal J. et al., Biomaterials, 2012, 33, 1528-1535)。にも関わらず、本出願人の知識では、このような予め活性化されたチオマーの使用は、眼用送達システム、特に眼用インサートまたは眼用フィルムの製造に関しては、報告されていなかった。
【0013】
本発明の眼用送達システムで使用されるチオマーの予め活性化されたチオール基の存在は、チオマーの安定性、粘膜接着、粘着性の特性および耐性を高め、よって、予測された特性を有する眼用送達システムを提供する。本発明の送達システムは、特に、刺激を引き起こすことなく適用部位での送達システムの滞留時間を長期化するための利点を呈する。処置に対する患者のアドヒアランスは、本発明の送達システムを使用する場合、点眼薬を使用する場合と比較して滴下を反復することが避けられるため、改善している。眼科用薬物を送達するために使用される場合、本発明の予め活性化されたチオマーベースの眼用送達システムは、そのバイオアベイラビリティを増大させることにより薬物の治療上の特性を向上する。特に、本発明の眼用送達システムは、薬物の滞留時間を増大でき、よって、薬物の浸透を高めることができる。またこれは、経時的な徐放を可能にし、点眼薬を使用する場合に達成され得る用量と比較してより正確な用量の送達を可能にする。
【0014】
眼での使用に適切であるために、本発明の固体または半固体の送達システムは、眼への配置に適した形状および大きさを有することならびに膨張が制御されている適切な水和を可能にすることなどの、いくつかの特性に直面する。
【発明の概要】
【0015】
よって、本発明は、予め活性化されたチオマーマトリックスを含む粘膜付着性の固体または半固体の眼用送達システムであって、前記マトリックスが、ジスルフィド結合を介してチオール化ポリマー骨格に共有結合した、2-メルカプトニコチン酸、6-メルカプトニコチン酸、2-メルカプトニコチンアミド、2-メルカプトイソニコチンアミド、6-メルカプトニコチンアミド、6-メルカプトイソニコチンアミド、6,6’-ジチオニコチンアミド、または6-メルカプトピリドキシンの側鎖を有するポリマー化合物から選択される少なくとも1つの予め活性化されたチオマーを含む、眼用送達システムに関する。
【0016】
一実施形態では、眼用送達システムは、眼用インサートまたは眼用フィルムである。
【0017】
一実施形態では、ポリマー骨格は、任意選択で側鎖として遊離チオール基を呈する、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド、ビニルピロリドン、ビニルアルコール、ビニルイミダゾール、ビニルカプロラクタム、ジビニルグリコール、ポリカルボフィル、カルボマー、アリルアミン、(トリメチル化)キトサン、ヒアルロン酸、ペクチン、アルギン酸塩、(架橋した)ポリアリルアミン、ポリリジン、ポリオルニチン、ポリアミノアミド、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、およびカルボキシメチルセルロースナトリウムからなる(架橋した)ホモポリマーまたはコポリマーから選択される。
【0018】
一実施形態では、ポリマー化合物の側鎖は、S-(2-または6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-またはS-(6-メルカプトピリドキシン)-システイン-ジスルフィド、S-(2-または6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-またはS-(6-メルカプトピリドキシン)-ホモシステイン-ジスルフィド、S-(2-または6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-またはS-(6-メルカプトピリドキシン)-システアミン-ジスルフィド、S-(2-または6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-またはS-(6-メルカプトピリドキシン)-N-アセチルシステイン-ジスルフィド、S-(2-または6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-またはS-(6-メルカプトピリドキシン)-チオグリコール酸-ジスルフィド、S-(2-または6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-またはS-(6-メルカプトピリドキシン)-3-チオプロピオン酸-ジスルフィド、S-(2-または6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-またはS-(6-メルカプトピリドキシン)-4-チオブタン酸-ジスルフィド、S-(2-または6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-またはS-(6-メルカプトピリドキシン)-メルカプト安息香酸-ジスルフィド、S-(2-または6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-またはS-(6-メルカプトピリドキシン)-メルカプトニコチン酸-ジスルフィド、S-(2-または6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-またはS-(6-メルカプトピリドキシン)-グルタチオン-ジスルフィド、S-(2-または6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-またはS-(6-メルカプトピリドキシン)-チオエチルアミジン-ジスルフィド、S-(2-または6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-またはS-(6-メルカプトピリドキシン)-4-チオブチルアミジン-ジスルフィド、およびS-(2-または6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-またはS-(6-メルカプトピリドキシン)-メルカプトアニリン-ジスルフィドから選択され;上記側鎖は、アミド結合、アミジン結合、またはエステル結合を介してポリマー骨格に結合している。
【0019】
一実施形態では、マトリックスを形成する予め活性化されたチオマーは、ナノファイバー、好ましくはエレクトロスピニングにより得られるナノファイバーの形態下にある。
【0020】
一実施形態では、本発明の眼用送達システムは、1種以上の薬学的に有効な物質をさらに含み;好ましくは薬学的に有効な物質は、眼圧(IOP)低下剤、たとえばプロスタグランジン類縁体、コリン作用薬、β遮断薬、αアドレナリン受容体刺激薬、炭酸脱水酵素阻害剤、Rhoキナーゼ阻害剤、NOドナー剤およびそれらの組み合わせ;抗炎症薬、たとえば副腎皮質ステロイド抗炎症剤および非ステロイド性抗炎症剤;抗感染症薬、たとえばマクロライド系薬、aminoside、リファマイシン、抗ウイルス薬、および抗真菌薬物療法;抗アレルギー薬、たとえばH1-抗ヒスタミン剤、およびマスト細胞安定化薬;ならびにドライアイ処置剤から選択される。
【0021】
一実施形態では、本発明の眼用送達システムは、増粘剤、ゲル化剤、可塑剤、可溶化剤、安定化剤、浸透促進剤、希釈剤、結合剤、崩壊剤、チャネリング剤、滑剤、および緩衝剤から選択される1種以上の薬学的に許容される賦形剤をさらに含む。一実施形態では、増粘剤およびゲル化剤は、高分子量の架橋したポリアクリル酸ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、およびヒアルロン酸から選択され;可塑剤はグリセロールであり;可溶化剤および安定化剤は、シクロデキストリンから選択され;浸透促進剤は、還元された形態のグルタチオンであり;希釈剤は、糖アルコールから選択され;結合剤は、糖類およびそれらの誘導体、二糖類、多糖類およびそれらの誘導体、セルロース、修飾されたセルロース、糖アルコール、および合成ポリマーから選択され;崩壊剤は、架橋したポリマーおよび修飾されたスターチから選択され;滑剤は、ステアリン酸マグネシウム、リン酸水素カルシウム、スターチ、結晶セルロース、およびコロイド状二酸化ケイ素から選択され;チャネリング剤は、塩化ナトリウムおよびポリエチレングリコールから選択される。
【0022】
一実施形態では、本発明の眼用送達システムは、高分子量の架橋したポリアクリル酸ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、セルロース、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸、グリセロール、シクロデキストリン、還元された形態のグルタチオン、ソルビトール、キシリトール、マンニトール、糖類およびそれらの誘導体、スクロース、ラクトース、多糖類およびそれらの誘導体、スターチ、グリコール酸でん粉ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、リン酸水素カルシウム、コロイド状二酸化ケイ素、および塩化ナトリウムから選択される1種以上の薬学的に許容される賦形剤を含む。
【0023】
また本発明は、眼疾患または眼病態の処置および/または予防に使用するための粘膜付着性の固体または半固体の眼用送達システムを提供する。一実施形態では、眼疾患または眼病態は、開放隅角緑内障、黄斑浮腫、ブドウ膜炎、ドライアイ疾患、結膜炎、角膜炎、眼瞼炎、眼内炎、トラコーマ、術後アレルギーおよび季節性アレルギーから選択される。
【0024】
さらに本発明は、粘膜付着性の固体または半固体の眼用送達システム、好ましくは眼用インサートまたは眼用フィルムの製造のための予め活性化されたチオマーの使用であって、予め活性化されたチオマーが、ジスルフィド結合を介してチオール化ポリマー骨格に共有結合した、2-メルカプトニコチン酸、6-メルカプトニコチン酸、2-メルカプトニコチンアミド、2-メルカプトイソニコチンアミド、6-メルカプトニコチンアミド、6-メルカプトイソニコチンアミド、6,6’-ジチオニコチンアミド、または6-メルカプトピリドキシンの側鎖を有するポリマー化合物から選択される、使用に関する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
定義
本発明では、以下の用語は、以下の意味を有する。
【0026】
用語「投与」またはその変形(たとえば「~を投与すること」)は、有効物質を、単独でかまたは薬学的に許容される製剤の一部として、病態、症状、または疾患を処置または予防すべき患者に提供することを意味する。
【0027】
用語「カルボマー」は、アリルスクロースまたはアリルペンタエリスリトールと架橋した合成の高分子量ポリアクリル酸を表す。カルボマーの例として、アリルペンタエリスリトールと架橋し、酢酸エチルにおいて重合化したポリアクリル酸であるカーボポール971および974が挙げられる。
【0028】
用語「エレクトロスピニング」は、3次元のポリマーナノファイバーのネットワークを作製するプロセスを表す。エレクトロスピニングは、電荷を使用して液体から非常に微細なファイバーを導く。エレクトロスピニングを行うための方法は、当業者に知られている。
【0029】
用語「ヒト」は、いずれかの成長段階(すなわち新生児、乳児、若年、青年、成年)にある両性別を含む対象を表す。
【0030】
用語「粘膜付着性」は、物質(substanceまたはmaterial)と粘液または粘膜との間の引力を表す。本発明の観点では、「粘膜付着性眼用送達システム」は、粘液または粘膜と強力に相互作用する眼用送達システムである。好ましい実施形態では、本発明の眼用送達システムは、粘液または粘膜と、チオマーとその中に存在する天然のムチンとの間のジスルフィド結合の形成により共有結合する。このジスルフィド結合の形成は、予め活性化されたチオマーの使用により促進される。
【0031】
用語「ナノファイバー」は、平均直径5000nm未満のファイバーを表す。
【0032】
用語「眼用送達システム」は、目的の有効な薬学的成分または物質、たとえば薬物または平滑剤を、眼またはそのいずれかの一部を介して対象へ投与することを可能にする送達システムを表す。「固体または半固体の眼用送達システム」は、眼用インサートおよび眼用フィルムを含む固体または半固体の剤形を表す。特に、「半固体」は、ハイドロゲルの形態下にある眼用インサートなどの、高粘稠性であり得る剤形を表す。
【0033】
用語「眼用フィルム」は、結膜嚢の中または結膜の表面に置かれるように設計された固体または半固体の一貫した二次元のフィルムを表し、この大きさおよび形状は、特に眼科用適用のために設計されている。好ましくは、眼用フィルムは、無菌性である。眼用フィルムは、たとえば眼へのフィルムの配置を容易にするために有用であり得る、3次元のデバイスを形成するようにフォールディングされ得る。
【0034】
用語「眼用インサート」は、結膜嚢の中または結膜の表面に置かれるように設計された固体または半固体の一貫した3次元のデバイスを表し、この大きさおよび形状は、特に眼科用適用のために設計されている。好ましくは、眼用インサートは、無菌性である。任意選択で、眼用インサートは、多層状であり得る。眼用インサートは、乾燥した形態または水和した形態下にあり得る。後者の場合、本発明では、眼用インサートは、ハイドロゲルのペレットの形態下にある。
【0035】
用語「眼疾患」は、眼球の表面、眼の前部および後部、ならびに眼瞼(好ましくは眼瞼の内側)を含む眼球のいずれかの領域に影響を与えるいずれかの疾患を表す。目的の眼組織は、限定するものではないが、角膜組織、結膜、眼瞼、小柱(trabeculum)、虹彩、毛様体、ブドウ膜、脈絡膜、網膜、または斑であり得る。
【0036】
用語「眼病態」は、眼球および眼瞼のいずれかの領域に影響を与えるいずれかの病態を表す。眼病態の例として、眼手術後の眼病態、ドライアイの症状、および季節性アレルギーによる眼の症状が挙げられる。
【0037】
用語「患者」は、医療の受診を待機しているか、または医療を受診しているか、または現在/将来医療の対象である/あり得る哺乳類を表す。一実施形態では、患者はヒトである。別の実施形態では、患者は動物である。
【0038】
「薬学的に許容される」との表現は、互いに適合可能であり、投与される対象に有害ではない医薬製剤の成分を表す。
【0039】
「薬学的に許容される賦形剤および/またはアジュバント」との表現は、動物、好ましくはヒトに投与される場合に、有害な反応、アレルギー反応、または他の望ましくない反応をもたらさない物質を表す。これは、あらゆる不活性な物質、たとえば溶媒、共溶媒、抗酸化剤、界面活性剤、安定化剤、乳化剤、緩衝剤、pH修正剤、保存剤(preserving agentsまたはpreservating agent)、抗細菌剤および抗真菌剤、等張化剤(isotonifier)、顆粒化剤または結合剤、潤滑剤、崩壊剤、滑剤、希釈剤またはフィラー、吸着剤、分散剤、懸濁化剤、コーティング剤、増量剤、放出剤、吸収遅延剤、甘味剤、芳香剤などを含む。ヒトへの投与では、製剤は、たとえばFDA局またはEMAなどの規制局が要求する無菌性、発熱性、全般的な安全性、および純度の基準に一致しなければならない。
【0040】
用語「ポリカルボフィル」は、ポリアクリル酸のジビニルグリコールおよびカルシウム対イオンとの架橋から製造される合成ポリマーを表す。
【0041】
用語「ポリマー化合物」は、ポリマーを表す。本発明の意味では、ポリマー化合物は、「側鎖」を有する「ポリマー骨格」を含み得る。
【0042】
用語「~を予防する」、「~を予防すること」、および「予防」は、本明細書中使用される場合、病態もしくは疾患、および/もしくはその付随する症状の発症を遅延もしくは防止するか、患者が病態または疾患に罹患しないようにするか、または病態もしくは疾患に罹患する患者のリスクを下げる方法を表す。
【0043】
用語「対象」は、ヒトおよび動物を含む哺乳類を表す。一実施形態では、対象は、疾患を有すると診断されている。一実施形態では、対象は、医療の受診を待機しているか、または医療を受診しているか、または過去/現在/将来に医療の対象であった/ある/あり得るか、または疾患の発症もしくは進行に関してモニタリングされている患者である。一実施形態では、対象は、疾患の発症または進行に関して処置および/またはモニタリングされている患者である。一実施形態では、対象は、雄性である。別の実施形態では、対象は、雌性である。一実施形態では、対象は、成年である。別の実施形態では、対象は、小児である。
【0044】
用語「治療上有効量」または「有効量」または「治療上有効用量」は、対象に有意な負または有害な副作用をもたらすことなく、(1)対象での疾患の発症を遅延もしくは予防すること、(2)疾患の重症度もしくは頻度を低減すること、(3)対象に影響を与える疾患の1つ以上の症状の進行、増悪、もしくは悪化を遅延もしくは停止すること、(4)対象に影響を与える疾患の症状の寛解をもたらすこと、または(5)対象に影響を与える疾患を治癒することを目的とする有効物質の量または用量を表す。治療上有効量は、防止的または予防的作用のため疾患の発症の前に投与され得る。あるいはまたはさらに、治療上有効量は、治療作用のため疾患の発症後に投与され得る。
【0045】
用語「~を処置すること」または「処置」は、治療上の処置(この目的は、目的の病態または疾患を予防または遅延させることである)を表す。本発明に係る処置を受けた後、対象または哺乳類が、以下:特有の疾患または病態に関連する症状のうちの1つ以上のある程度までの軽減;およびクオリティオブライフの問題の改善のうちの1つ以上の観察可能かつ/または測定可能な低減または不存在を示す場合、対象または哺乳類の疾患または障害または病態の「処置」は成功している。処置の成功または疾患の改善を評価するための上記のパラメータは、医師が精通している規定の手法により容易に測定可能である。
【0046】
用語「チオマー」または「予め活性化されていないチオマー」は、チオール化ポリマー、すなわち遊離チオール部分を有する側鎖を有するポリマーを表す。このポリマー骨格は、生物分解性ポリマー、たとえばキトサン、ヒアルロン酸、ゼラチン、ポリアクリレート、シクロデキストリン、またはシリコーンなどであり得る。このようなポリマー骨格のチオール化は、たとえばシステイン部分をカップリングすることにより行われ得る。
【0047】
用語「予め活性化されたチオマー」または「Sを保護されたチオマー」は、側鎖のチオール部分が、ジスルフィド結合を介してメルカプトニコチン酸、メルカプト(イソ)ニコチンアミド、またはメルカプトピリドキシン(mercatopyridoxine)とコンジュゲートしているチオマーを表す。予め活性化されたチオマーの例は、米国特許公開公報第2012/0225024号に開示されている。
【0048】
用語「予め活性化されたチオマーマトリックス」は、予め活性化されたチオマーから主に作製されたマトリックスを表す。
【0049】
詳細な説明
よって本発明は、眼用送達システム、特に固体または半固体の眼用送達システムに関する。本発明の眼用送達システムは、送達システムを眼の表面に長期間維持できる粘膜付着性の特性を呈する。実際に、本発明の眼用送達システムは、予め活性化されたチオマーマトリックス、すなわち1つ以上の予め活性化されたチオマーから主に作製されたマトリックスに基づくものである。水和すると、本発明の眼用送達システムの予め活性化されたチオマーマトリックスは、眼に接着するハイドロゲルを形成する。
【0050】
よって、一実施形態では、本発明は、予め活性化されたチオマーのマトリックスを含む粘膜付着性の固体または半固体の眼用送達システムを提供する。
【0051】
一実施形態では、マトリックスは、少なくとも1種の予め活性化されたチオマーを含む。
【0052】
一実施形態では、予め活性化されたチオマーは、ジスルフィド結合を介してチオール化ポリマー骨格に共有結合した、ビタミンB3またはビタミンB6誘導体の側鎖を有するポリマー化合物から選択される。一実施形態では、予め活性化されたチオマーは、ジスルフィド結合を介してチオール化ポリマー骨格に共有結合した、2-メルカプトニコチン酸、6-メルカプトニコチン酸、2-メルカプトニコチンアミド、2-メルカプトイソニコチンアミド、6-メルカプトニコチンアミド、6-メルカプトイソニコチンアミド、6,6’-ジチオニコチンアミド、または6-メルカプトピリドキシンの側鎖を有するポリマー化合物から選択される。好ましい実施形態では、予め活性化されたチオマーは、ジスルフィド結合を介してチオール化ポリマー骨格に共有結合した、2-メルカプトニコチンアミド、2-メルカプトイソニコチンアミド、6-メルカプトニコチンアミド、6-メルカプトイソニコチンアミド、または6-メルカプトピリドキシンの側鎖を有するポリマー化合物から選択される。
【0053】
「チオール化ポリマー骨格」は、遊離チオール部分を有するポリマー、好ましくは遊離チオール部分を含む側鎖を有するポリマー骨格を表す。予め活性化されたチオマーでは、メルカプトニコチン酸、メルカプト(イソ)ニコチンアミド、またはメルカプトピリドキシンが、ジスルフィド結合を介して、チオール化ポリマー骨格のチオール部分の一部または全てに結合している。
【0054】
一実施形態では、ポリマー骨格は、任意選択で側鎖として遊離チオール基を呈する、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド、ビニルピロリドン、ビニルアルコール、ビニルイミダゾール、ビニルカプロラクタム、ジビニルグリコール、ポリカルボフィル、カルボマー、アリルアミン、(トリメチル化)キトサン、ヒアルロン酸、ペクチン、アルギン酸塩、(架橋した)ポリアリルアミン、ポリリジン、ポリオルニチン、ポリアミノアミド、およびセルロース誘導体(たとえばメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、およびカルボキシメチルセルロースナトリウム)からなる(架橋した)ホモポリマーまたはコポリマーから選択される。一実施形態では、ポリマー骨格は、生物分解性ポリマー、たとえばアルギン酸塩、キトサン、ヒアルロン酸、ゼラチン、またはポリアクリレートなどである。特定の実施形態では、ポリマー骨格は、ポリカルボフィル、ポリ(アクリル酸)、およびカルボマー(たとえばカーボポール971 NFおよびカーボポール974 NF)から選択される。特定の実施形態では、ポリマー骨格は、キトサン、ヒアルロン酸、およびセルロース誘導体(たとえばメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、およびカルボキシメチルセルロースナトリウム)から選択される。
【0055】
一実施形態では、上述のものなどのポリマー骨格のチオール化は、アミド結合、アミジン結合、またはエステル結合を介して、システイン、ホモシステイン、システアミン、N-アセチルシステイン、チオグリコール酸、3-チオプロピオン酸、4-チオブタン酸、メルカプト安息香酸、メルカプトニコチン酸、グルタチオン、チオエチルアミジン、4-チオブチルアミジン、およびメルカプトアニリンから選択される部分をカップリングすることにより行われ得る。好ましくは、ポリマー骨格のチオール化は、システインまたはシステアミンをカップリングすることにより行われる。
【0056】
一実施形態では、本発明の送達システムに使用される予め活性化されたチオマーでは、ポリマー骨格に存在する側鎖は、
S-(2-または6-メルカプトニコチン酸)-、S-(2-または6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-、S-6,6’-ジチオニコチンアミド-、またはS-(6-メルカプトピリドキシン)-システイン-ジスルフィド、
S-(2-または6-メルカプトニコチン酸)-、S-(2-または6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-、S-6,6’-ジチオニコチンアミド-、またはS-(6-メルカプトピリドキシン)-ホモシステイン-ジスルフィド、
S-(2-または6-メルカプトニコチン酸)-、S-(2-または6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-、S-6,6’-ジチオニコチンアミド-またはS-(6-メルカプトピリドキシン)-システアミン-ジスルフィド、
S-(2-または6-メルカプトニコチン酸)-、S-(2-または6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-、S-6,6’-ジチオニコチンアミド-またはS-(6-メルカプトピリドキシン)-N-アセチルシステイン-ジスルフィド、
S-(2-または6-メルカプトニコチン酸)-、S-(2-または6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-、S-6,6’-ジチオニコチンアミド-またはS-(6-メルカプトピリドキシン)-チオグリコール酸-ジスルフィド、
S-(2-または6-メルカプトニコチン酸)-、S-(2-または6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-、S-6,6’-ジチオニコチンアミド-またはS-(6-メルカプトピリドキシン)-3-チオプロピオン酸-ジスルフィド、
S-(2-または6-メルカプトニコチン酸)-、S-(2-または6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-、S-6,6’-ジチオニコチンアミド-またはS-(6-メルカプトピリドキシン)-4-チオブタン酸-ジスルフィド、
S-(2-または6-メルカプトニコチン酸)-、S-(2-または6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-、S-6,6’-ジチオニコチンアミド-またはS-(6-メルカプトピリドキシン)-メルカプト安息香酸-ジスルフィド、
S-(2-または6-メルカプトニコチン酸)-、S-(2-または6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-、S-6,6’-ジチオニコチンアミド-またはS-(6-メルカプトピリドキシン)-メルカプトニコチン酸-ジスルフィド、
S-(2-または6-メルカプトニコチン酸)-、S-(2-または6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-、S-6,6’-ジチオニコチンアミド-またはS-(6-メルカプトピリドキシン)-グルタチオン-ジスルフィド、
S-(2-または6-メルカプトニコチン酸)-、S-(2-または6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-、S-6,6’-ジチオニコチンアミド-またはS-(6-メルカプトピリドキシン)-チオエチルアミジン-ジスルフィド、
S-(2-または6-メルカプトニコチン酸)-、S-(2-または6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-、S-6,6’-ジチオニコチンアミド-またはS-(6-メルカプトピリドキシン)-4-チオブチルアミジン-ジスルフィド、および
S-(2-または6-メルカプトニコチン酸)-、S-(2-または6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-、S-6,6’-ジチオニコチンアミド-、またはS-(6-メルカプトピリドキシン)-メルカプトアニリン-ジスルフィド
から選択され、
上記側鎖は、アミド結合、アミジン結合、またはエステル結合を介してポリマー骨格に結合している。
【0057】
本明細書において、S-(2-または6-メルカプトニコチン酸)-は、S-(2-メルカプトニコチン酸)-またはS-(6-メルカプトニコチン酸)-を意味し、S-(2-または6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-は、S-(2-メルカプトニコチンアミド)-、S-(2-メルカプトイソニコチンアミド)-、S-(6-メルカプトニコチンアミド)-、またはS-(6-メルカプトイソニコチンアミド)-を意味することが定義されている。
【0058】
一実施形態では、本発明の送達システムで使用される予め活性化されたチオマーは、その内容が参照により本明細書に組み込まれている米国特許公開公報第2012/0225024号に開示されるものである。
【0059】
特定の実施形態では、本発明で使用される予め活性化されたチオマーは、ポリ(アクリル酸)-システイン、ポリカルボフィル-システイン、カルボキシメチルセルロース-システイン、キトサン-システイン、ヒドロキシプロピルセルロース-システイン、アルギン酸塩-システイン、ペクチン-システイン、ヒアルロン酸-システイン、(アクリル酸およびジビニルグリコールのコポリマー)-システイン、ポリ(アクリル酸)-システアミン、ポリカルボフィル-システアミン、カルボキシメチルセルロース-システアミン、キトサン-システアミン、ヒドロキシプロピルセルロース-システアミン、アルギン酸塩-システアミン、ペクチン-システアミン、ヒアルロン酸-システアミン、(アクリル酸およびジビニルグリコールのコポリマー)-システアミンから選択されるチオール化ポリマー骨格にジスルフィド結合を介して共有結合した、2-メルカプトニコチン酸、6-メルカプトニコチン酸、2-メルカプトニコチンアミド、2-メルカプトイソニコチンアミド、6-メルカプトニコチンアミド、6-メルカプトイソニコチンアミド、6,6’-ジチオニコチンアミド、または6-メルカプトピリドキシンの側鎖を有するポリマー化合物から選択される。
【0060】
特定の実施形態では、本発明の送達システムで使用される予め活性化されたチオマーは、ポリ(アクリル酸)-システイン(cycteine)-2-メルカプトニコチン酸およびキトサン-システイン(cycteine)-6-メルカプトニコチン酸から選択される。特定の実施形態では、予め活性化されたチオマーは、ポリ(アクリル酸)-システイン(cycteine)-2-メルカプトニコチン酸である。別の特定の実施形態では、予め活性化されたチオマーは、キトサン-システイン(cycteine)-6-メルカプトニコチン酸である。
【0061】
一実施形態では、予め活性化されたチオマーの粘膜付着性の特性は、ポリマーの分子量に応じて調節され得る。陰イオン性および陽イオン性の予め活性化されたチオマーでは、非常に効率的な粘膜付着性の特性が、中間分子量、好ましくは100kDa~1000kDa、好ましくは300kDa~700kDaの範囲の分子量で、達成され得る。
【0062】
予め活性化されたチオマーの合成は、チオール化ポリマー骨格の2-メルカプトニコチン酸、6-メルカプトニコチン酸、2-メルカプトニコチンアミド、2-メルカプトイソニコチンアミド、6-メルカプトニコチンアミド、6-メルカプトイソニコチンアミド、6,6’-ジチオニコチンアミド、または6-メルカプトピリドキシンとの反応により行われ得る。
【0063】
本発明で使用される予め活性化されたチオマーの製造は、米国特許公開公報第2012/0225024号に開示された方法により行われ得る。
【0064】
一実施形態では、予め活性化されたチオマーのナノファイバーネットワークから作製されたマトリックスは、予め活性化されたチオマーにエレクトロスピニング技術を適用することにより形成され得る。これは、マトリックスを構成するナノファイバーのネットワークの密度を変えることにより送達システムに存在する有効物質の放出の速度を制御できる利点を提示する。
【0065】
一実施形態では、本発明の眼用送達システムは、予め活性化されていないチオマーを含まない。別の実施形態では、本発明の眼用送達システムは、少なくとも1つの予め活性化されたチオマーおよび少なくとも1つの予め活性化されていないチオマーを含む。「予め活性化されていないチオマー」は、チオマーを表す。
【0066】
また本発明は、粘膜付着性の固体または半固体の眼用送達システム、好ましくは眼用インサートまたは眼用フィルムの製造のための予め活性化されたチオマーの使用であって、予め活性化されたチオマーは、ジスルフィド結合を介してチオール化ポリマー骨格に共有結合した、2-メルカプトニコチン酸、6-メルカプトニコチン酸、2-メルカプトニコチンアミド、2-メルカプトイソニコチンアミド、6-メルカプトニコチンアミド、6-メルカプトイソニコチンアミド、6,6’-ジチオニコチンアミド、または6-メルカプトピリドキシンの側鎖を有するポリマー化合物から選択される。
【0067】
予め活性化されたチオマーに加え、賦形剤およびアジュバントが、本発明の眼用送達システムを製剤化するために使用され得る。好ましくは、賦形剤およびアジュバントは、薬学的に許容される賦形剤およびアジュバントである。このような適切な賦形剤およびアジュバントは、当業者に明らかであり、Remington’s Pharmaceutical Sciencesの最新版において言及がなされている。
【0068】
一実施形態では、本発明の眼用送達システムは、増粘剤、ゲル化剤、可塑剤、可溶化剤、安定化剤、浸透促進剤、希釈剤、結合剤、崩壊剤、滑剤、チャネリング剤、および緩衝剤から選択される1種以上の薬学的に許容される賦形剤をさらに含む。一実施形態では、本発明の眼用送達システムは、増粘剤、ゲル化剤、可塑剤、可溶化剤、安定化剤、浸透促進剤、希釈剤、結合剤、滑剤、および緩衝剤から選択される1種以上の薬学的に許容される賦形剤を含む。
【0069】
増粘剤およびゲル化剤の例として、高分子量の架橋したポリアクリル酸ポリマー(たとえばカーボポール)、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、セルロース誘導体(たとえばヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC))、ポリエチレングリコール、およびヒアルロン酸が挙げられる。
【0070】
可塑剤の例として、グリセロールが挙げられる。
【0071】
特に有効な医薬成分の可溶化剤および安定化剤の例として、シクロデキストリンおよび非イオン性界面活性剤が挙げられる。
【0072】
浸透促進剤の例として、還元された形態のグルタチオン(GSH;0.1%~1%)が挙げられる。
【0073】
希釈剤の例として、糖アルコール、たとえばソルビトール、キシリトール、またはマンニトールが挙げられる。
【0074】
結合剤の例として、糖類およびそれらの誘導体;二糖類、たとえばスクロースまたはラクトース;多糖類およびそれらの誘導体、たとえばスターチ、セルロース、または修飾されたセルロース、たとえば結晶セルロースおよびセルロースエーテル、たとえばヒドロキシプロピルセルロース(HPC);糖アルコール、たとえばキシリトール、ソルビトール、またはマンニトール;合成ポリマー、たとえばポリビニルピロリドン(PVP)またはポリエチレングリコール(PEG)が挙げられる。
【0075】
崩壊剤の例として、架橋したポリマー、たとえばポリビニルピロリドンまたはカルボキシメチルセルロース、修飾されたスターチ、たとえばグリコール酸でん粉ナトリウムが挙げられる。
【0076】
滑剤の例として、ステアリン酸マグネシウム、リン酸水素カルシウム、スターチ、結晶セルロース、およびコロイド状二酸化ケイ素が挙げられる。
【0077】
緩衝剤の例として、リン酸緩衝生理食塩水が挙げられる。
【0078】
チャネリング剤の例として、塩化ナトリウム(NaCl)および400~1500g/molの分子量のポリエチレングリコールが挙げられる。
【0079】
一実施形態では、本発明の眼用送達システムは、高分子量の架橋したポリアクリル酸ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、セルロース、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸、グリセロール、シクロデキストリン、還元された形態のグルタチオン、ソルビトール、キシリトール、マンニトール、糖類およびそれらの誘導体、スクロース、ラクトース、多糖類およびそれらの誘導体、スターチ、グリコール酸でん粉ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、リン酸水素カルシウム、コロイド状二酸化ケイ素、および塩化ナトリウムから選択される1種以上の薬学的に許容される賦形剤を含む。
【0080】
本発明の眼用送達システムに存在する賦形剤およびアジュバントは、水和後のその膨張を制御することを可能にし得る。実際に、眼での使用に適合しなくなるため、システムが水和後に大きすぎる体積を得ることは回避されるべきである。
【0081】
また、本発明の眼用送達システムに存在する賦形剤およびアジュバントは、特に乾燥した形態で使用されるシステムの場合に、眼用送達システムの硬度を制御することを可能にし得る。
【0082】
また、本発明の眼用送達システムに存在する賦形剤およびアジュバントの選択は、送達システムに存在する有効物質の放出の速度の制御を可能にし得る。
【0083】
本発明の眼用送達システムは、有効物質、好ましくは薬学的に有効な物質を、それを必要とする対象の眼に送達することを可能にする。
【0084】
一実施形態では、本発明の眼用送達システムは、少なくとも1種の薬学的に有効な物質をさらに含む。一実施形態では、本発明の眼用送達システムは、1種以上の薬学的に有効な物質をさらに含む。また本発明の眼用送達システムは、薬学的に有効な物質の組み合わせを含み得る。
【0085】
一実施形態では、薬学的に有効な物質は、抗緑内障薬(特に眼圧(IOP)低下剤)、抗炎症薬、抗感染症薬、抗アレルギー薬、およびドライアイ処置剤から選択される。好ましくは、薬学的に有効な物質は、眼科用薬物である。
【0086】
一実施形態では、抗緑内障薬は、IOP低下剤を含む。一実施形態では、IOP低下剤は、開放隅角緑内障の処置に使用され得るIOP低下剤である。IOP低下剤の例として、プロスタグランジン類縁体、コリン作用薬、β遮断薬、αアドレナリン受容体刺激薬、炭酸脱水酵素阻害剤、Rhoキナーゼ阻害剤、NOドナー剤、およびそれらの組み合わせが挙げられる。一実施形態では、1種以上のIOP低下剤の組み合わせ、好ましくは少なくとも2つのクラスのIOP低下剤の組み合わせが使用される。プロスタグランジン類縁体の例として、ラタノプロスト、ビマトプロスト、トラボプロスト、タフルプロスト、およびラタノプロステンブノドが挙げられる。特定の実施形態では、有効物質は、ビマトプロストである。コリン作用薬の例として、ピロカルピン、エコチオパート、およびカルバコールが挙げられる。β遮断薬の例として、チモロールおよびナドロールが挙げられる。αアドレナリン受容体刺激薬の例として、ブリモニジンおよびアプラクロニジンが挙げられる。炭酸脱水酵素阻害剤の例として、ドルゾラミド、ブリンゾラミド、アセタゾラミド(acetalozamide)、およびメタゾラミドが挙げられる。Rhoキナーゼ阻害剤の例として、ネタルスジルが挙げられる。NOドナー剤の例として、ラタノプロステンブノドが挙げられる。
【0087】
一実施形態では、抗炎症薬が、眼の手術後の術後処置に使用され得るか、または黄斑浮腫、ブドウ膜炎の処置、またはドライアイ疾患に使用され得る。抗炎症薬の例として、副腎皮質ステロイド抗炎症剤(デキサメタゾン、フルオロメトロン、リメキソロン、フルオシノロン、フルチカゾン、ロテプレドノール)、および非ステロイド性抗炎症剤(ブロムフェナクセスキ水和物、アンフェナク、ネパフェナク、アスピリン、イブプロフェン、ケトロラク、トロメタミン、ジクロフェナク、フルルビプロフェン)が挙げられる。特定の実施形態では、有効物質は、デキサメタゾンまたはその塩、たとえばリン酸デキサメタゾンナトリウムである。
【0088】
一実施形態では、抗感染症薬が、眼の手術(限定するものではないが白内障手術を含む)の後の術後の処置に使用され得るか、または結膜炎、角膜炎、眼瞼炎、眼内炎、トラコーマ、または他のいずれかの細菌性感染症、真菌感染症、またはウイルス感染症の処置に使用され得る。抗感染症薬の例として、限定するものではないが、マクロライド系薬、aminoside、リファマイシン、抗ウイルス薬、および抗真菌薬物療法(モキシフロキサシン、ナタマイシン、アジスロマイシン、ムピロシン、エリスロマイシン、シプロフロキサシン、ネチルマイシン、ベシフロキサシン、ガチフロキサシン、ゲンタマイシン硫酸塩(gentamycin sulfate)、レボフロキサシン、オフロキサシン、スルファセタミドナトリウム、トブラマイシン、バシトラシン亜鉛、ポリミキシンB硫酸塩、ネオマイシン、およびネオマイシン硫酸塩、アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビル、イトラコナゾール、ポサコナゾール、およびボリコナゾール)が挙げられる。
【0089】
一実施形態では、抗アレルギー薬が、季節性アレルギーの状況下で使用され得る。抗アレルギー薬の例として、H1-抗ヒスタミン剤およびマスト細胞安定化薬(オキシメタゾリン塩酸塩、セチリジン塩酸塩)が挙げられる。
【0090】
一実施形態では、ドライアイ処置剤は、免疫抑制剤、たとえばシクロスポリンまたはタクロリムスを含む。
【0091】
さらなる実施形態では、本発明の眼用送達システムはまた、ドライアイなどの眼病態の緩和剤を含む、他の有効物質の送達を可能にする。このような緩和剤の例として、平滑剤、たとえばポリビニル酸(PVA)またはポリビニルピロリドン(PVP)が挙げられる。
【0092】
一実施形態では、本発明の眼用送達システムは、送達システムの総重量の0.01重量%~50重量%、好ましくは0.1(w/w)%~20(w/w)%;より好ましくは0.1(w/w)%~10(w/w)%の範囲の量で有効物質を含む。
【0093】
また本発明は、眼疾患または眼病態の処置および/または予防における本発明の粘膜付着性の固体または半固体の眼用送達システムの使用に関する。特に、本発明の眼用送達システムは、対象の眼レベルに1種以上の有効物質を送達することに有用である。目的の眼組織は、限定するものではないが、角膜組織、結膜、眼瞼、小柱(trabeculum)、虹彩、毛様体、ブドウ膜、脈絡膜、網膜、または斑であり得る。本発明の眼用送達システムは、ヒトおよび獣医学での使用に有用である。
【0094】
一実施形態では、本発明は、眼疾患または眼病態の処置および/または予防に使用するための本発明の粘膜付着性の固体または半固体の眼用送達システムを提供する。
【0095】
また本発明は、眼疾患または眼病態の処置および/または予防のための医薬の製造のための、本発明の粘膜付着性の固体または半固体の眼用送達システムの使用に関する。
【0096】
さらに本発明は、患者の眼疾患または眼病態を処置および/または予防するための方法であって、本発明に係る粘膜付着性の固体または半固体の眼用送達システムを、それを必要とする患者の眼の標的部位に投与するステップを含む、方法に関する。本発明の粘膜付着性の固体または半固体の眼用送達システムは、好ましくは、それを必要とする患者の眼の結膜嚢に置かれる。
【0097】
本発明の眼用送達システムは、眼の前部の疾患および眼の後部の疾患を処置することを可能にする。
【0098】
一実施形態では、眼疾患または眼病態は、開放隅角緑内障、黄斑浮腫、ブドウ膜炎、ドライアイ疾患、結膜炎、角膜炎、眼瞼炎、眼内炎、トラコーマ、術後アレルギーおよび季節性アレルギーから選択される。一実施形態では、眼疾患は、ドライアイである。一実施形態では、眼疾患は、開放隅角緑内障である。
【0099】
一実施形態では、本発明の粘膜付着性の固体または半固体の眼用送達システムはまた、ドライアイの症状を軽減するために使用され得る。これは、眼用送達システムが上述のように平滑剤を含む場合に特に有効である。
【0100】
一実施形態では、本発明の粘膜付着性の固体または半固体の眼用送達システムは、単位剤形の中にある。
【0101】
本発明の眼用送達システムは、乾燥した形態または水和した形態下で使用され得る。一実施形態では、本発明の眼用送達システムは、乾燥した形態下にあり、すなわちこれは、存在する場合は限定された量の水を含む。このような場合、結膜嚢の中または結膜の表面に置かれた後、本発明の送達システムは、in situで水和し、水和した予め活性化されたチオマーマトリックスは、粘膜付着性ハイドロゲルを形成する(すなわちin situでのゲル化プロセス)。別の実施形態では、本発明の眼用送達システムは、水和した形態下にあり、すなわち予め活性化されたチオマーマトリックスは、ハイドロゲルの形態下で水和されている。
【0102】
本発明の固体または半固体の眼用送達システムは、眼用インサートまたは眼用フィルムであり得る。
【0103】
一実施形態では、本発明の固体または半固体の眼用送達システムは、眼用インサート、すなわち結膜嚢の中または結膜の表面に置かれるように設計された固体または半固体の一貫した3次元のデバイスであり、この大きさおよび形状は、特に眼科用適用のために設計されている。一実施形態では、眼用インサートは、乾燥した形態下にある。別の実施形態では、眼用インサートは、水和しており、ハイドロゲルのペレットの形態下にある。
【0104】
一実施形態では、本発明の眼用送達システムは、眼用インサートをエレクトロスピニングする。好ましくは、眼用インサートは、任意選択で有効物質を含む予め活性化されたチオマーマトリックスから単独で形成され、すなわち眼用インサートは、いずれのさらなる層または物質も含まない。
【0105】
眼用インサートは、凍結乾燥した形態下にあり得る予め活性化されたチオマーの直接的な圧縮により入手され得る。有効物質を含む場合、眼用インサートは、予め活性化されたチオマーに分散された有効物質の混合物の直接的な圧縮により入手され得る。
【0106】
眼用インサートは、任意の大きさおよび形状であり得、ただし、眼への配置に適切であり、好ましくは棒、条片、糸、ドーナッツ、ディスク、卵円、または半月の形状にある。一実施形態では、眼用インサートは、片側が凸型であり、片側が凹型である。眼用インサートは、その表面上にいずれの角度も呈さず、眼にも眼瞼にも刺激をもたらさない平滑的な表面を呈する。好ましくは、眼用インサートの断面は、円形、四角形、または長方形である。好ましくは、インサートは、眼またはその一部に容易にフィットするような大きさおよび形状である。一実施形態では、眼用インサートは、0.1mm~5mm、好ましくは0.5mm~2mm、より好ましくは0.5mm~1.5mmの範囲の厚さを有する。一実施形態では、眼用インサートは、1mm~10mm、好ましくは2mm~5mmの範囲の長さを有する。一実施形態では、眼用インサートは、1mm~10mm、好ましくは2mm~5mmの範囲の幅を有する。
【0107】
別の実施形態では、本発明の固体または半固体の眼用送達システムは、眼用フィルム、すなわち、結膜嚢の中または結膜の表面に置かれるように設計された固体または半固体の一貫性のある二次元のフィルムであり、この大きさおよび形状は、特に眼科用適用のために設計されている。一実施形態では、眼用フィルムは、乾燥した形態下にある。別の実施形態では、眼用フィルムは、水和した形態下にある。
【0108】
眼用フィルムは、四角形の形状、円形、楕円体、または他のいずれかの適切な形状であり得る。好ましくは、眼用フィルムは、0.01μm~1000μm、好ましくは0.5μm~500μmの範囲の厚さを有する。眼用フィルムが円形フィルムである場合、これは、2mm~20mm、好ましくは5mm~10mmの範囲の直径を有し得る。また眼用フィルムは、眼の表面への適切な配置のため湾曲してよい。
【0109】
眼用フィルムは、任意選択で有効物質を含む予め活性化されたチオール化ポリマー溶液の溶媒の蒸発により入手され得る。またあるいは、眼用フィルムは、印刷技術、たとえばインクジェットプリンティングなどにより入手され得る。
【0110】
さらに本発明は、本発明の固体または半固体の眼用送達システムを含むキットに関する。本キットは、眼疾患または眼病態の処置および/または予防に使用するための説明書を含み得る。また本キットは、アプリケーター、好ましくは無菌性アプリケーターを含み得る。
【実施例
【0111】
さらに本発明を以下の実施例により示す。
【0112】
実施例1:眼用インサート
(i)ポリ(アクリル酸)-システイン-2-メルカプトニコチン酸の予め活性化されたチオマーマトリックスと、(ii)有効物質としてのビマトプロストとを含む眼用インサートを、同時に凍結乾燥した有効物質および予め活性化されたチオマーの直接的な圧縮により調製した。
【0113】
【表1】
【0114】
予め活性化されたチオマーのポリ(アクリル酸)-システイン-2-メルカプトニコチン酸は、前述(Iqbal J. et al., Biomaterials, 2012, 33, 1528-1535)のように合成した。
【0115】
ビマトプロストを、予め活性化されたチオマーの水溶液に分散し、この分散物を凍結乾燥した。1.5mg、直径2mmのインサートを、凍結乾燥した散剤を直接的な圧縮により錠剤化することにより調製した。
【0116】
得られた眼用インサートは、眼での使用に適した特性(大きさ、形状、安定性、粘着)、良好な粘膜付着性の特性を呈し、十分に許容される。ビマトプロストは、適切な放出プロファイルで眼用インサートから放出される。
【0117】
実施例2:眼用フィルム
(i)キトサン-システイン-6-メルカプトニコチン酸の予め活性化されたチオマーマトリックスと、(ii)有効物質としてのリン酸デキサメタゾンナトリウムとを含む眼用フィルムを、溶媒蒸発により調製した。
【0118】
【表2】
【0119】
予め活性化されたチオマーのキトサンシステイン-6-メルカプトニコチン酸は、上述に報告したように合成した。
【0120】
このフィルムを、ソルベントキャスティングにより入手した。リン酸デキサメタゾンナトリウム、予め活性化されたチオマー、およびグリセロールを、最適な溶媒系に溶解し、キャスティングし、熱い空気乾燥機(40℃~50℃)で乾燥させた後、単位剤形に切断した。
【0121】
得られた眼用フィルムは、眼での使用に適した特性(大きさ、形状、安定性、粘着)、良好な粘膜付着性の特性を呈し、十分に許容される。デキサメタゾンは、適切な放出プロファイルで眼用フィルムから放出される。
【0122】
実施例3:in vitroでの眼用インサートの特性決定
本発明の眼用インサートは、それらの生体接着的な特性および水和後の膨張に関して特性決定される。
【0123】
生体接着アッセイ
目的:このアッセイは、生体液の連続した流れの下で動物の粘膜へのインサートの生体接着の持続期間を測定することにより、本発明のインサートの粘膜付着性の特性を決定することを目的とする。
【0124】
方法:このインサートを、動物の粘膜のセクションに沈着させ、10μlの生体液を適用してインサートを粘膜へ接着させる。次に、動物の粘膜のセクションを、水平と45度をなす支持ガラスのプラットフォームに載置する。ガラスのプラットフォームの上側に置かれたリザーバーおよび蠕動ポンプにより、ガラスのプラットフォーム上に生体液が連続して流れている。生体液は、粘膜に接着したインサート上を流れており、排出液は、ガラスのプラットフォームの下側で回収される。インサートが溶解するかまたは動物の粘膜からはがれる時間を決定する。これにより、動物の粘膜上のインサートの接着の持続期間が測定される。
【0125】
さらに、所定の時点で回収された排出液をアッセイして、経時的にインサートから放出される薬物を定量化する。
【0126】
膨張および水和のアッセイ
目的:このアッセイは、本発明のインサートの水和の特性および膨張の挙動を、水を取り込み定義された次元のゲルを形成するそれらの特性を測定することにより決定することを目的とする。
【0127】
方法:水の取り込みおよび膨張の挙動を決定するための方法は、Hornofらが以前に記述した方法から出典されたものであった(Hornof M. et al., Journal of Controlled Release, 2003, 89, 419-428)。水の取り込みは、重力測定法により決定した。インサートは、アッセイの間蒸発を予防するため閉鎖されたコンテナにて定義された体積のシュミレートされた涙液で水和させ、眼の表面温度である32℃でインキュベートした。インサートの重量を異なる時点で決定し、水の取り込みの速度を評価した。インサートの大きさを、肉眼で測定し、インサートの膨張の傾向(propension)を決定した。
【0128】
実施例4:in vivoでの眼用インサートの評価
目的:本発明の眼用インサートが、眼の表面への接着および害のないこと(眼の表面の悪化の非存在、結膜/角膜の炎症または結膜/角膜の感染症なし、眼痛なし)の観点からin vivoで試験される。
【0129】
方法:このアッセイは、ラットで行った。この動物は、制御された条件で飼育される。全ての実験手法の前に、全てのラットで眼の表面の精密検査を行い(細隙灯、フルオレセイン試験、角膜の機械的な感受性、in vivoでの共焦点顕微鏡)、移植していない動物に炎症もしくは感染症、またはさらには眼の表面に対する損傷もしくは外傷がないことを検証した。
【0130】
動物にガス麻酔により麻酔をかけ、試験されるインサートを、ラットの眼の下側の結膜嚢に一方的に載置する。このインサートを、動物の眼に7日間所定の場所に留置し、その結果を経過観察する。インサートの適用の終了時に、ガス麻酔を止め、動物を迅速に覚醒させる。同時に起こる動物の挙動を観察した。次に、眼の表面の完全性(細隙灯、フルオレセイン試験、結膜嚢におけるインサートの存在)、および角膜の機械的な感受性(von Frey試験)、自発痛(眼瞼裂の閉鎖の指標)の臨床的な評価を、緊張した動物において続く7日間に定期的に行う。7日目に、眼の表面の精密検査を、動物に全身麻酔をかける中でin vivoでの共焦点顕微鏡により行う。インプラントを取り外し、迅速に凍結して、細菌学的試験を行う。
【国際調査報告】