(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-27
(54)【発明の名称】PANX1関連疾患の治療
(51)【国際特許分類】
A61K 38/08 20190101AFI20230317BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230317BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230317BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20230317BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20230317BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20230317BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20230317BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20230317BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230317BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20230317BHJP
A61P 19/00 20060101ALI20230317BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20230317BHJP
C07K 7/06 20060101ALI20230317BHJP
【FI】
A61K38/08
A61P35/00
A61P43/00 111
A61P43/00 105
A61P1/16
A61P9/10
A61P9/12
A61P27/02
A61P31/00
A61P25/00
A61P25/14
A61P19/00
A61P21/00
C07K7/06 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022548162
(86)(22)【出願日】2021-02-08
(85)【翻訳文提出日】2022-10-11
(86)【国際出願番号】 EP2021052939
(87)【国際公開番号】W WO2021156504
(87)【国際公開日】2021-08-12
(32)【優先日】2020-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518017819
【氏名又は名称】ニューリタス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ノラ カルディ
(72)【発明者】
【氏名】シリル ロペス
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA01
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA09
4C084BA18
4C084BA23
4C084CA59
4C084NA14
4C084ZA021
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4C084ZA361
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4C084ZA422
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4C084ZA942
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4C084ZB211
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4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB321
4C084ZB322
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA16
4H045BA17
4H045BA18
4H045BA19
4H045EA20
4H045FA10
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、配列番号1(WKDEAGKPLVK)のペプチドがPANX1を標的にすることを開示する。本発明はまた、このペプチド又はこのペプチドを含む組成物でPANX1に関連する疾患の治療に関係する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対照に、PANX1に関連する疾患又は状態の治療又は予防のための方法に使用するための、50個までのアミノ酸を有し、配列番号1を含むペプチド、又は、配列番号1の治療に効果的な変異体であって、前記疾患又は状態が、線維症、メラノーマ、肝がん、肝臓疾患、膀胱がん、虚血、高血圧、眼疾患又は状態、微生物感染、筋骨格障害、ハンチントン病、敗血症、及び多発性硬化症を含む群から選択されるもの。
【請求項2】
前記PANX1に関連する疾患又は状態が線維症であり、線維症が、肝線維症、皮膚線維症、腎線維症、肺線維症、心筋細胞線維症、心筋線維症、骨髄線維症、腎臓の線維症(kidney fibrosis)、組織線維症、及び皮膚線維症を含む群から選択される、請求項1に記載の使用のためのペプチド。
【請求項3】
前記PANX1に関連する疾患又は状態が虚血であり、前記虚血が、脳虚血、虚血性脳卒中、心虚血、腸管虚血、肢虚血、及び外傷又は閉塞によって起こる虚血を含む群から選択される、請求項1に記載の使用のためのペプチド。
【請求項4】
前記PANX1に関連する疾患又は状態が肝がん、膀胱がん又はメラノーマである、請求項1に記載の使用のためのペプチド。
【請求項5】
前記PANX1に関連する疾患又は状態ががん疾患又は状態である、請求項1に記載の使用のためのペプチド。
【請求項6】
前記PANX1に関連する疾患又は状態が微生物感染である、請求項1に記載の使用のためのペプチド。
【請求項7】
前記PANX1に関連する疾患又は状態が筋骨格障害である、請求項1に記載の使用のためのペプチド。
【請求項8】
前記筋骨格障害が腱炎又は手根管症候群である、請求項7に記載の使用のためのペプチド。
【請求項9】
前記PANX1に関連する疾患又は状態がハンチントン病である、請求項1に記載の使用のためのペプチド。
【請求項10】
前記PANX1に関連する疾患又は状態が敗血症である、請求項1に記載の使用のためのペプチド。
【請求項11】
前記PANX1に関連する疾患又は状態が多発性硬化症である、請求項1に記載の使用のためのペプチド。
【請求項12】
前記PANX1に関連する疾患又は状態が肝疾患であり、前記肝疾患が肝細胞の損傷、胆汁鬱滞の損傷、又は浸潤性の損傷に関連するものである、請求項1に記載の使用のためのペプチド。
【請求項13】
前記肝疾患がウイルス性肝炎、急性アルコール性肝炎、C型肝炎、アルコール性脂肪肝疾患、及び肝炎に関連する肝疾患を含む群から選択される、請求項12に記載の使用のためのペプチド。
【請求項14】
前記ペプチドが配列番号1からなる、請求項1~13の何れか1項に記載の使用のためのペプチド。
【請求項15】
前記治療に有効な変異体が、配列番号1と比較して1~8の修飾を含み、当該修飾又は各修飾が、アミノ酸の挿入、付加、欠失及び置換から選択される、請求項1~14の何れか1項に記載の使用のためのペプチド。
【請求項16】
前記治療に有効な変異体が、配列番号1と比較して1~5の修飾を含み、当該修飾又は各修飾が、アミノ酸の挿入、付加、欠失及び置換から選択される、請求項1~14の何れか1項に記載の使用のためのペプチド。
【請求項17】
前記治療に有効な変異体が、配列番号1と比較して1~2の修飾を含み、当該修飾又は各修飾が、アミノ酸の挿入、付加、欠失及び置換から選択される、請求項16に記載の使用のためのペプチド。
【請求項18】
前記修飾が、配列番号1のアミノ酸の1以上をアミノ酸のD-型で置換することを含む、請求項16又は17に記載の使用のためのペプチド。
【請求項19】
前記修飾が、配列番号1の残基1、2、5、10及び11から選択される少なくとも2つの残基をアミノ酸のD-型で置換することを含む、請求項18に記載の使用のためのペプチド。
【請求項20】
前記修飾が、配列番号1の残基1、2、5、10及び11から選択される少なくとも3つ又は4つの残基をアミノ酸のD-型で置換することを含む、請求項18又は19に記載の使用のためのペプチド。
【請求項21】
前記ペプチド変異体が、配列番号2から配列番号87、及び配列番号90から選択される、請求項1~20の何れか1項に記載の使用のためのペプチド。
【請求項22】
前記ペプチド変異体が、配列番号86又は配列番号87である、請求項21に記載の使用のためのペプチド。
【請求項23】
前記ペプチドが修飾される、請求項1~22の何れか1項に記載の使用のためのペプチド。
【請求項24】
前記ペプチドが、側鎖への修飾、ペプチド合成の間における非天然アミノ酸及び/又はこれらの誘導体の取り込み、架橋-リンカー及びペプチドのコンホーメーションを束縛する他の方法によって、複合体パートナーへの複合体形成によって、融合パートナーへの融合、結合パートナーへの共有結合、脂質化、PEG化、及びアミド化によって修飾される、請求項23に記載の使用のためのペプチド。
【請求項25】
前記ペプチドが環化される、請求項1~24の何れか1項に記載の使用のためのペプチド。
【請求項26】
対照に、PANX1に関連する疾患又は状態の治療又は予防のための方法に使用するための、50個までのアミノ酸を有し、配列番号1を含むペプチド、又は配列番号1の治療に効果的な変異体を含む組成物であって、前記疾患又は状態が、線維症、メラノーマ、肝がん、肝臓疾患、膀胱がん、虚血、高血圧、眼疾患又は状態、微生物感染、筋骨格障害、ハンチントン病、敗血症、及び多発性硬化症を含む群から選択される組成物。
【請求項27】
対照におけるPANX1に関連する疾患又は状態を治療又は予防するための方法であって、対照に、治療に有効量の、50個までのアミノ酸を有し、配列番号1を含むペプチド、又は、配列番号1の治療に効果的な変異体を投与するステップを含み、前記疾患又は状態が、線維症、メラノーマ、肝がん、肝臓疾患、膀胱がん、虚血、高血圧、眼疾患又は状態、微生物感染、筋骨格障害、ハンチントン病、敗血症、及び多発性硬化症を含む群から選択される方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象におけるPANX1関連疾患の治療又は予防に関する。
【背景技術】
【0002】
パンネキシン1(PANX1)は、PANX1遺伝子及び多くのパンネキシンファミリーによってコードされるタンパク質である。パンネキシンファミリーは、3種のメンバー、即ちPANX1、PANX2及びPANX3を持つ、膜貫通(TM)チャネルタンパク質のファミリーである。ファミリーの各メンバーは、4つのα-ヘリカルTMドメイン、2つの細胞外ループ、及び1つの細胞内ループを含む(
図1)。タンパク質のN及びC末端は、細胞の細胞質に曝されている。このタンパク質は、9Åの膜チャネル孔を提供し、これはCa2+、K+、ATP及び約1.2kDaの分子が細胞に入出することを可能にする。PANX2及びPANX3の発現は、中枢神経系(CNS)、線維芽細胞及び骨芽細胞に大きく制限される。PANX1は、肝臓、腎臓、肺、消化管及び膵臓を含む多数のタイプの細胞で発現される。PANX1は、主に、細胞の原形質膜に局在化している。
【0003】
PANX1チャネルは、アデノシントリホスフェート(ATP)を放出し、広範囲の細胞及び組織型における多くの正常な病理学的プロセスに役割を有する。ATPは、多くの細胞プロセスを駆動するためのエネルギーを供給する細胞外シグナル伝達(signalling)分子である。疾患状態、例えば細胞のダメージ、脂質異常症、低酸素症、慢性炎症及び/又は感染は、細胞外(EC)ATP産生を駆動する。炎症性シグナルのEC ATP産生の増加は、PANX1チャネルの開放の増加を引き起こす。これは、ATP細胞の流出及びCa2+の細胞流入を刺激する(
図2)。この過剰なPANX1シグナル伝達は、インフラマソームアセンブリを刺激し、インターロイキン(IL)-1β及びIL-18などの炎症誘発性サイトカインの放出を促進する。これは、次に、カスパーゼの活性化を導く。調節不全炎症誘発性サイトカインも、次に、TFGβ、TNFα、PDGFなどの因子を活性化することができる。
【0004】
PANX1は、虚血、痛み、線維症、微生物感染、炎症及びがんを含む複数の疾患及び状態に関係し、多くのグループが、疾患の治療における標的としてPANX1を研究している。研究は、PANX1がてんかん、神経障害性の痛み、有痛性骨軟部疾患、虚血傷害、心筋線維症、HIV感染、ヒト膀胱の過活動及びがんに関連していることを示されている(Di Wu, et al., Acta Biochim Biophys Sin, 2016(非特許文献1))。高い又は活動過多のPANX1のレベルも、とりわけ、メラノーマ、虚血性脳卒中(ischemic stroke)、発作、大腸炎、偏頭痛、頭痛、骨関節症、てんかんを含む疾患に関連付けられている(Laird et al., Nat Rev Drug Discov., 2018(非特許文献2))。
【0005】
Goodら(Good, et al., Circulation Research, 2017(非特許文献3))は、PANX1阻害に基づいた高血圧に抵抗するための治療法(therapeutic modality)を開示した。このグループは、高血圧の薬剤、スピロノラクトンのin vivoでの標的としてPANX1を調査した。他のグループは、高度に転移したがん細胞においてPANX1の突然変異した形態が関与していることを示した。突然変異したPANX1は、研究において乳がん細胞の生存を促進することによってATPの放出を増加し、転移の効率を高めた(Furlow PW, Nat Cell Biol, 2015(非特許文献4))。この研究では、PANX1阻害剤は、転移を減少させることが示された。
【0006】
PANX1標的化治療は、関節痛を軽減するためのアプローチとして研究されている(Mousseu et al., Neurophysiology Science Advances 8 Aug 2018(非特許文献5))。痛風の治療薬であるプロベネシッドは、PANX1チャネルで誘導されるATPを弱めることが示されている(Silverman W., Am J Physiol Cell Physiol, 2008(非特許文献6))。PANX1チャネル阻害剤であるカルベノキソロン(CBX)は、胃潰瘍のための薬剤であり(Benefenati V, Channels., 2009(非特許文献7))、ハンチントン病用の試験に入っている。
【0007】
PANX1チャネルは、オピエート離脱の治療上の標的として研究されている。このグループは、PANX1をブロックすることで、オピエート無痛法に影響することなく離脱の辛さを軽減することを見出した(Burma et al., Nature Medicine, 2017(非特許文献8))。Makarenkova HPらは、パンネキシンの減少が、神経損傷後の、痛みを減少し、再生を促すための効果的な戦略であり、炎症の抑制におけるPANX1シグナル伝達経路に影響を与えうることを示唆している。
【0008】
Feigら(Feig et al., PLoS ONE 12, 2017(非特許文献9))は、抗ウイルス薬、テノホビルは、PANX1媒介性ATPの遊離の阻害剤であり、肝臓及び皮膚のアデノシンレベルを下方調節(ダウンレギュレーション)する(downregulating)ことによって肝臓及び皮膚の線維症を防ぐ。Crespo Yanguasら(Crespo Yanguas et al, Arch Toxicol, 2018(非特許文献10))は、肝線維症におけるPANX1の役割を研究し、化学的に誘導された肝線維症がPANX1発現を増加すること、及びPANX1アブレーションがCCL4で誘導された肝線維症を弱めることを報告した。
【0009】
Oritizら(Oritiz et al., Perspective 2020(非特許文献11))は、多発性硬化症の進行の調節剤としての、パンネキシン1をベースとするチャネルの役割を報告した。
【0010】
欧州特許出願公開第3329930号明細書(EP3329930)(特許文献1)及び国際公開第2018/104346号(WO2018/104346)(特許文献2)は、アミノ酸配列、WKDEAGKPLVKを含むペプチド、及び糖尿病及び筋肉疲労又はタンパク質合成の低下によって特徴付けられる疾患などの代謝異常の治療におけるその使用を開示する。嚢胞性線維症が開示されているが、これは、PANX1関連線維症ではない。
【0011】
欧州特許出願公開第3329905号明細書(EP3329905)(特許文献3)は、アンチエイジング法に使用するためのアミノ酸配列、WKDEAGKPLVKを含むペプチドを開示する。当該ペプチドを含む局所組成物も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】欧州特許出願公開第3329930号明細書(EP3329930)
【特許文献2】国際公開第2018/104346号(WO2018/104346)
【特許文献3】欧州特許出願公開第3329905号明細書(EP3329905)
【特許文献4】欧州特許出願公開第2050437号明細書(EP2050437)
【特許文献5】国際公開第2005/023290(WO2005023290)
【特許文献6】米国特許出願公開第2010/098660号明細書(US2010098660)
【特許文献7】米国特許出願公開第2007/0053845号明細書(US20070053845)
【特許文献8】欧州特許出願第1072600.2号明細書(EP1072600.2)
【特許文献9】欧州特許出願第13171757.1号明細書(EP13171757.1)
【特許文献10】米国特許出願公開第2014/120141号明細書(US2014120141)
【特許文献11】米国特許第4,766,106号明細書(U.S. Pat. No 4,766,106)
【特許文献12】米国特許第4,179,337号明細書(U.S. Pat. No 4,179,337)
【特許文献13】米国特許第4,495,285号明細書(U.S. Pat. No4,495,285)
【特許文献14】米国特許第4,609,546号明細書(U.S. Pat. No 4,609,546)
【特許文献15】米国特許第3,654,090号明細書(U.S. Pat. No. 3,654,090)
【特許文献16】米国特許第3,850,752号明細書(U.S. Pat. No. 3,850,752)
【特許文献17】米国特許第4,016,043号明細書(U.S. Pat. No. 4,016,043)
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Di Wu, et al., Acta Biochim Biophys Sin, 2016
【非特許文献2】Laird et al., Nat Rev Drug Discov., 2018
【非特許文献3】Good, et al., Circulation Research, 2017
【非特許文献4】Furlow PW, Nat Cell Biol, 2015
【非特許文献5】Mousseu et al., Neurophysiology Science Advances 8 Aug 2018
【非特許文献6】Silverman W., Am J Physiol Cell Physiol, 2008
【非特許文献7】Benefenati V, Channels., 2009
【非特許文献8】Burma et al., Nature Medicine, 2017
【非特許文献9】Feig et al., PLoS ONE 12, 2017
【非特許文献10】Crespo Yanguas et al, Arch Toxicol, 2018
【非特許文献11】Oritiz et al., Perspective 2020
【非特許文献12】Handbook of Pharmaceutical Excipients, 2nd Edition, (1994), Edited by A Wade and PJ Weller
【非特許文献13】Topical drug delivery formulations edited by David Osborne and Antonio Aman, Taylor & Francis
【非特許文献14】Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co. (A. R. Gennaro edit. 1985)
【非特許文献15】J. M. Stewart and J. D. Young, Solid Phase Peptide Synthesis, 2nd edition, Pierce Chemical Company, Rockford, Illinois (1984)
【非特許文献16】M. Bodanzsky and A. Bodanzsky, The Practice of Peptide Synthesis, Springer Verlag, New York (1984)
【非特許文献17】Cameselle, J.C., Ribeiro, J.M., and Sillero, A. (1986), Derivation and use of a formula to calculate the net charge of acid-base compounds. Its application to amino acids, proteins and nucleotides. Biochem. Educ. 14, 131-136
【非特許文献18】Topical drug delivery formulations edited by David Osborne and Antonio Aman, Taylor & Francis
【非特許文献19】O’Riordan, et al Respir Care, 2002, Nov. 47
【非特許文献20】Goodson, R. J. & Katre, N. V. (1990) Bio/Technology 8, 343
【非特許文献21】Kogan, T. P. (1992) Synthetic Comm. 22, 2417
【非特許文献22】Strohl, et al, BioDrug, 2015
【非特許文献23】Schlapschy, et al, Protein Eng Des Sel. 2013
【非特許文献24】Podust, VN, et al, Protein Eng Des Sel. 2013
【非特許文献25】Zhang, L et al, Curr Med Chem. 2012
【非特許文献26】Gaberc-Porekar, V, et al, Curr Opin Drug Discov Devel. 2008
【非特許文献27】Werle M, Bernkop-Schnurch A. Amino Acids. 2006 Jun;30(4):351-67
【非特許文献28】Strategies to improve plasma half life time of peptide and protein drugs. Werle M, Bernkop-Schnurch A. Amino Acids. 2006 Jun;30(4):351-67
【非特許文献29】Strategic Approaches to Optimizing Peptide ADME Properties. Li Di AAPS J. 2015 Jan; 17(1): 134-143
【非特許文献30】Jensen, Knud (2009-09-01). Peptide and Protein Design for Biopharmaceutical Applications. John Wiley & Sons. ISBN 9780470749715
【非特許文献31】Wenyan, Xu; Jun, Tang; Changjiu, Ji; Wenjun, He; Ninghua, Tan (2008). "Application of a TLC chemical method to detection of cyclotides in plants". Science Bulletin. 53 (11): 1671-1674. doi:10.1007/s11434-008-0178-8
【非特許文献32】Borthwick AD (May 2012). "2,5-Diketopiperazines: Synthesis, Reactions, Medicinal Chemistry, and Bioactive Natural Products". Chemical Reviews. 112 (7): 3641-3716. doi:10.1021/cr200398y. PMID 22575049
【非特許文献33】Barber, Carla J. S.; Pujara, Pareshkumar T.; Reed, Darwin W.; Chiwocha, Shiela; Zhang, Haixia; Covello, Patrick S. (2013). "The Two-step Biosynthesis of Cyclic Peptides from Linear Precursors in a Member of the Plant Family Caryophyllaceae Involves Cyclization by a Serine Protease-like Enzyme". Journal of Biological Chemistry. 288 (18): 12500-12510. doi:10.1074/jbc.M112.437947. PMC 3642298. PMID 23486480
【非特許文献34】Wenyan Xu; et al. (2011). "Various mechanisms in cyclopeptide production from precursors synthesized independently of non-ribosomal peptide synthetases". Acta Biochimica et Biophysica Sinica. 43 (10): 757-762. doi:10.1093/abbs/gmr062. PMC 3180235. PMID 21764803
【非特許文献35】Wenyan Xu; et al. "Plant Cyclopeptides and Possible Biosynthetic Mechanisms"
【非特許文献36】David J. Craik (17 March 2006). "Seamless Proteins Tie Up Their Loose Ends". Science. 311 (5767): 1563-7. doi:10.1126/science.1125248. PMID 16543448
【非特許文献37】Fusion Proteins for Half-Life Extension of Biologics as a Strategy to Make BiobettersWilliam R. Strohl BioDrugs. 2015; 29(4): 215-239
【非特許文献38】Schlapschy, M, Binder, U, Borger, C et al. PASYlation: a biological alternative to PEGylation for extending the plasma half-life of pharmaceutically active proteins. Protein Eng Des Sel. 2013;26(8):489-501
【非特許文献39】Podust, VN, Sim, BC, Kothari, D et al. Extension of in vivo half-life of biologically active peptides via chemical conjugation to XTEN protein polymer. Protein Eng Des Sel. 2013;26(11):743-53
【非特許文献40】Zhang, L, Bulaj, G. Converting Peptides into Drug Leads by Lipidation. Curr Med Chem. 2012;19(11):1602-18
【非特許文献41】Gaberc-Porekar, V, Zore, I, Podobnik, B et al. Obstacles and pitfalls in the PEGylation of therapeutic proteins. Curr Opin Drug Discov Devel. 2008;11(2):242-50
【非特許文献42】By Dr Ronald V. Swanson - Long live peptides evolution of peptide half-life extension technologies and emerging hybrid approaches. From Drug Discovery World on line.Spring 2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、驚くべきことに、PANX1関連疾患の治療又は予防のためにPANX1を標的化する薬剤(agent)を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、驚くべきことに、配列番号1のペプチド(WKDEAGKPLVK)がPANX1を標的にすることを発見した。本発明のペプチドは、PANX1又はPANX1シグナル伝達を調節する手段を提供し、PANX1に関連する疾患又は状態を治療又は予防するために使用されうる。一実施形態では、本発明のペプチドは、PANX1又はPANX1シグナル伝達をブロックすること又は阻害することによってその効果を引き出す。
【0016】
従って、第1の態様では、本発明は、対象において、PANX1に関連する疾患又は状態を治療又は予防する方法に使用するための、配列番号1を含むペプチド、又は配列番号1の機能的(又は治療的に有効な)変異体(以後、「ペプチド活性剤」又は「本発明のペプチド」)を提供する。
【0017】
更なる態様では、本発明は、対象において、PANX1に関連する疾患又は状態を治療又は予防する方法に使用するための配列番号1を含むペプチド、又は配列番号1の治療的に有効な変異体をすくむ組成物を提供する。
【0018】
適切には、組成物は複数のペプチドを含む。
【0019】
別の態様では、本発明は、対象において、PANX1に関連する疾患又は状態を治療又は予防する方法であって、治療に有効な量の、配列番号1を含むペプチド、又は配列番号1の機能的(又は治療的に有効な)変異体(以後「ペプチド活性剤」)を対象に投与するステップを含む方法に関する。
【0020】
機能的(又は治療的に有効な)変異体は、配列番号1の機能的又は治療的フラグメントでありうる。
【0021】
好ましくは、疾患又は状態は、線維症、メラノーマ、肝がん、肝臓疾患、虚血、高血圧、眼疾患又は状態、微生物感染、筋骨格障害、ハンチントン病、敗血症、及び多発性硬化症を含む群から選択される。
【0022】
好ましくは、疾患又は状態は、免疫疾患又は状態、線維性疾患、がん、虚血及び心疾患を含む群から選択されるものでありうる。
【0023】
好ましくは、疾患又は状態は、線維症、メラノーマ、肝がん、虚血、高血圧、及び多発性硬化症を含む群から選択されるものでありうる。
【0024】
疾患は、クローン病などの炎症性腸疾患、慢性胃腸炎、敗血症、肝線維症、皮膚線維症、腎線維症、肺線維症、メラノーマ、乳癌(breast carcinoma)、肝細胞癌(hepatocellular carcinoma)、脳虚血、虚血性脳卒中、痛み、心筋細胞線維症(cardiomyocyte fibrosis)、微生物感染症、脳の炎症、高血圧、神経変性疾患、及び抹消神経症を含むが、これらに限定されない。
【0025】
好ましくは、ペプチドは、長さが最大で50個のアミノ酸である。一実施形態では、ペプチドは、最大で40、35、30、25、20、又は15個のアミノ酸を有する。一実施形態では、ペプチドは11~15個のアミノ酸を有する。
【0026】
ペプチド(又は機能的変異体若しくはフラグメント)は、単独で、又は治療効果を高める他の共薬剤(co-drug)と組み合わせて投与され、共薬剤には、PANX1に関連する疾患又は状態の治療に効果が認められている薬剤(これらに限定されない)が含まれる。
【0027】
一実施形態では、ペプチドは配列番号1から本質的になる。
【0028】
一実施形態では、ペプチドの変異体は、配列番号1と比較して1~8の修飾又は変更を有し、修飾は、典型的には、アミノ酸の挿入、付加、欠失及び置換(理想的には保存的置換)から独立して選択される。
【0029】
一実施形態では、1以上のアミノ酸(例えば、1~5、1~4、1~3、又は1~2)が、D-アミノ酸で置換される。一実施形態では、1以上の残基、1、2、5、10、11が、D-アミノ酸の、例えば2、3、4、又は5個の残基で置換される。一実施形態では、1以上のアミノ酸は、保存的アミノ酸置換で置換される。
【0030】
一実施形態では、機能的又は治療的変異体は、配列{d}W{d}KDE{d}AGKPL{d}V{d}K(配列番号86)を有し、これは、アミノ酸1、2、5、10及び11がD-型のアミノ酸で置換されていること以外配列番号1と同じである。
【0031】
一実施形態では、ペプチドは修飾される。一実施形態では、ペプチドは組換えペプチドである。一実施形態では、ペプチドは環化される。
【0032】
好ましくは、ペプチドは、側鎖への修飾(単数又は複数)、ペプチド合成の間での非天然アミノ酸及び/又はそれらの誘導体の取り込み、架橋結合剤の使用及びペプチドのコンホーメーションに制限を課す他の方法によって、複合体パートナーとの複合体形成によって、融合パートナーとの融合、結合パートナーとの共有結合、脂質化、PEG化(PEGylation)及びアミド化によって修飾される。
【0033】
環化されたペプチドの例は、(1(clac)wKE(Me)EC1GK(Me)PLVk-OH)-配列番号87である。この変異体において、残基「w」及び「k」はD-アミノ酸であり、残基「E」及び「P」は、メチル化されており、このペプチドは、n-末端とシステイン残基の間でチオエーテル環化を含み、「1(clac)」及び「C1」は環の2つの端部を示す。
【0034】
好ましくは、変異体は、配列番号2から配列番号87まで、及び配列番号90から選択される。
【0035】
本発明の一態様は、配列番号2から87及び配列番号90から選択される配列を含む(又はからなる)ペプチドを提供する。この配列を含むペプチドは、長さが最大で50アミノ酸でありうる。
【0036】
本発明の他の態様及び好ましい実施形態は、以下に述べる他の請求事項(claims)で定義され、記載される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】
図1は、PANX1、PANX2及びPANX3膜貫通タンパク質を例示する。
【
図2】
図2A、B及びCは、(A)正常なホメオスタシス、(B)細胞外ATP及びK+が増加した場合、及び(C)無調節なホメオスタシス及び炎症の場合におけるPANX1の活性化を例示する。
【
図3】
図3は、ヒト膜タンパク質に対する本発明のペプチド(配列番号1のペプチド)の結合親和性を示す。CY5-標識化ペプチド(0.01及び0.05μg/ml)を、5528ヒト原形質膜タンパク質を発現するHEK293細胞に対してスクリーニングした。
【
図4】
図4は、配列番号1のペプチドが、不死化肝細胞でIL-8の分泌を低下することを示す。HepG2細胞を、24時間ペプチド(5ng/ml)で処理し、次いで、100ng/mlのLPSで24時間処理した。示されたデータは、少なくとも2つの独立した実験の平均±SEMである。(
*P<0.05
**P<0.01
***P<0.001)
【
図5】
図5A及びBは、配列番号1のペプチドが一次(primary)ヒト肝星細胞で抗線維症活性を示すことを例示する。(A)α-SMAの発現を刺激するためにTGF-β1で処理され、次いでペプチド(5nM)で処理されたヒト肝星細胞の共焦点像。(B)α-SMA発現の定量化。
【
図6】
図6は、PANX1シグナル伝達により媒介される種々の細胞プロセスを示す。
【
図7】
図7A及びBは、チャネルを活性化した場合の、チャネル活性化の前(A)及び後(B)のペプチドの細胞内濃度を示す。
【
図8】
図8は、C-末端CY5タグ化ペプチド(配列番号1)(赤)及び初期エンドソームのマーカー(緑)による共焦点顕微鏡法を示す。EAA1は、このペプチドが、ヒト骨格筋細胞で1時間の時間経過にわたって、細胞侵入の進行を表示することを示す。このペプチドとエンドソームとの共局所化(co-localisation)は、ペプチドが膜結合性細胞外標的に結合し、これ以後内部で転送された(trafficked)ことを示唆する。
【
図9A】
図9A、B及びCは、ペプチド(配列番号1)によるATP媒介性Ca2+イオンの流動(flux)の下方調節を示す。THP-1細胞のATP処理は、FITC標識化したCa
2+イオンの検出の増加を引き起こす(A)。1μMのペプチドを用いたTHP-1の45秒の予備培養(preincubation)は、ATP媒介性Ca2+イオンの流動をブロックする(B)。FITC蛍光単位の比較は、ペプチドと独立して及びペプチドの存在下でフローサイトメトリーにより検出した(C)。
【
図9B】
図9A、B及びCは、ペプチド(配列番号1)によるATP媒介性Ca2+イオンの流動(flux)の下方調節を示す。THP-1細胞のATP処理は、FITC標識化したCa
2+イオンの検出の増加を引き起こす(A)。1μMのペプチドを用いたTHP-1の45秒の予備培養(preincubation)は、ATP媒介性Ca2+イオンの流動をブロックする(B)。FITC蛍光単位の比較は、ペプチドと独立して及びペプチドの存在下でフローサイトメトリーにより検出した(C)。
【
図9C】
図9A、B及びCは、ペプチド(配列番号1)によるATP媒介性Ca2+イオンの流動(flux)の下方調節を示す。THP-1細胞のATP処理は、FITC標識化したCa
2+イオンの検出の増加を引き起こす(A)。1μMのペプチドを用いたTHP-1の45秒の予備培養(preincubation)は、ATP媒介性Ca2+イオンの流動をブロックする(B)。FITC蛍光単位の比較は、ペプチドと独立して及びペプチドの存在下でフローサイトメトリーにより検出した(C)。
【
図10】
図10A~Dは、APAP急性肝傷害マウスモデルの研究における本発明のペプチドによる肝酵素の変化の防止を例示する。APAPは0時間でIP注入により投与された。本発明のペプチド、10PANX1又は生理食塩水対照の処理を1.5時間後に施した。5匹の動物を各グループに含めた。全てのマウスのALT及びASTのレベルを、2.25及び6時間でのサバイバル及び末端出血(terminal breeds)から測定した。2.25時間では、全てのグループにおいて、APAP/生理食塩水処理と比較してペプチドの投与でALTレベルが減少し(A)、10PANXでより優れていた。APAP/生理食塩水のグループは、生理食塩水/生理食塩水のグループと比較してALT及びASTの両方の増加を示した。データは、平均±SEMである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明は、添付の図面を参照して説明される。
【0039】
本発明の詳細な説明
本明細書に記載された全ての刊行物、特許、特許出願及び他の参照文献は、あたかも、それぞれ個別の刊行物、特許又は特許出願が特に及び個別に、参照により取り込まれることを指示されたかのように、全ての目的に対してそれらの全体及び完全に引用されたそれらの内容を参照により本明細書に取り込む。
【0040】
本発明のペプチドは、驚くべきことに、組織内のPANX1タンパク質を標的とし、これに結合すること、及び、PANX1シグナル伝達に関連する細胞プロセスを調節することが見いだされた。このように、本発明のペプチドは、PANX1に関連する疾患及び状態を治療するために使用されうる。
【0041】
PANX1(アイソフォーム1)のアミノ酸配列は以下のとおりである。
【0042】
MAIAQLATEYVFSDFLLKEPTEPKFKGLRLELAVDKMVTCIAVGLPLLLISLAFAQEISIGTQISCFSPSSFSWRQAAFVDSYCWAAVQQKNSLQSESGNLPLWLHKFFPYILLLFAILLYLPPLFWRFAAAPHICSDLKFIMEELDKVYNRAIKAAKSARDLDMRDGACSVPGVTENLGQSLWEVSESHFKYPIVEQYLKTKKNSNNLIIKYISCRLLTLIIILLACIYLGYYFSLSSLSDEFVCSIKSGILRNDSTVPDQFQCKLIAVGIFQLLSVINLVVYVLLAPVVVYTLFVPFRQKTDVLKVYEILPTFDVLHFKSEGYNDLSLYNLFLEENISEVKSYKCLKVLENIKSSGQGIDPMLLLTNLGMIKMDVVDGKTPMSAEMREEQGNQTAELQGMNIDSETKANNGEKNARQRLLDSSC(配列番号88)
【0043】
PANX1のアイソフォーム2は以下の配列を有する。
【0044】
MAIAQLATEYVFSDFLLKEPTEPKFKGLRLELAVDKMVTCIAVGLPLLLISLAFAQEISIGTQISCFSPSSFSWRQAAFVDSYCWAAVQQKNSLQSESGNLPLWLHKFFPYILLLFAILLYLPPLFWRFAAAPHICSDLKFIMEELDKVYNRAIKAAKSARDLDMRDGACSVPGVTENLGQSLWEVSESHFKYPIVEQYLKTKKNSNNLIIKYISCRLLTLIIILLACIYLGYYFSLSSLSDEFVCSIKSGILRNDSTVPDQFQCKLIAVGIFQLLSVINLVVYVLLAPVVVYTLFVPFRQKTDVLKVYEILPTFDVLHFKSEGYNDLSLYNLFLEENISEVKSYKCLKVLENIKSSGQGIDPMLLLTNLGMIKMDVVDGKTPMSAEMREEQGNQTAELQDSETKANNGEKNARQRLLDSSC(配列番号89)
【0045】
PANX1に対するヌクレオチド配列は、NCBI参照配列アクセス番号NG_027936.1を有する。
【0046】
疾患又は状態は、PANX1の介在に関連するか、又はPANX1の介在によって媒介されるものである。疾患又は状態は、対象又は対象の生物学的サンプルにおけるPANX1シグナル伝達又は発現の増加に関連するか、又はこれらによって特徴付けられるものでありうる。
【0047】
注目すべきは、疾患又は状態は、炎症、線維症、がん、虚血及び心疾患を含む群から選択されうる。疾患又は状態は、痛み、神経系に関連する疾患又は状態でありうる。疾患又は状態は、脳に関連するものでありうる。
【0048】
炎症は、慢性の炎症環境によって特徴付けられるものなどの、任意のタイプの炎症又は炎症性疾患若しくは状態でありうる。炎症は、大脳の炎症、腸の炎症、脳の炎症、胃の炎症又は脈管の炎症でありうる。炎症は損傷によって引き起こされるものでありうる。炎症は、クローン病及び慢性胃腸(GI)炎などの炎症性腸疾患を含みうるが、これらに限定されない。
【0049】
線維性疾患又は状態、又は線維症は、あらゆる組織にあり、又はあらゆる組織に関連する。適切な例は、肝線維症、腎線維症(renal fibrosis)、肺線維症、心筋細胞線維症、心筋線維症、骨髄線維症、腎臓の線維症(kidney fibrosis)、組織の線維症及び皮膚の線維症を含むが、これらに限定されない。肺線維症は特発性肺線維症でありうる。線維症は、典型的には、環境因子によって誘導されるものであり、遺伝的な線維症ではない。
【0050】
がんは、メラノーマ、乳がん、肝細胞がんを含む肝がん、肺がん、膀胱がん、精巣がん、グリオーマ、多発性骨髄腫、結腸がん、白血病及び子宮内膜がんを含みうるが、これらに限定されない。
【0051】
心疾患は、冠動脈心疾患、脳卒中、末梢血管疾患、心筋梗塞、横紋筋融解症、心筋ミオパチー、アテローム性動脈硬化症を含みうるが、これらに限定されない。一実施形態では、心疾患は、アテローム性動脈硬化症を含まない。
【0052】
疾患又は状態は抵抗性高血圧でありうる。
【0053】
虚血は、脳虚血、虚血性脳卒中、心虚血、腸管虚血、肢虚血、及び外傷又は閉塞によって起こる虚血を含みうるが、これらに限定されない。
【0054】
疾患又は状態は、末梢神経疾患を含む神経系のものである。疾患又は状態は、多発性硬化症等の神経変性病でありうる。
【0055】
疾患又は状態は、敗血症及び痛みである。痛みは対象の何れの部位であってもよい。痛みは関節痛でありうる。
【0056】
状態は傷害でありうる。
【0057】
疾患又は状態は、眼の疾患又は状態でありうる。
【0058】
疾患又は状態は、細菌感染、ウイルス感染、又は真菌感染などの微生物感染でありうる。感染は、HIV感染でありうる。
【0059】
状態は、オピオイドなどの薬物からの離脱でありうる。
【0060】
疾患又は状態は、腱炎などの骨格筋障害、又は手根管症候群でありうる。
【0061】
疾患又は状態は、偏頭痛、頭痛、発作、変形性関節症性てんかん(osteoarthritis epilepsy)、病原性てんかん、薬物耐性てんかん、及びてんかんを含む群から選択されうる。
【0062】
疾患又は状態は、膀胱の過活動を含む腎臓疾患又は膀胱疾患でありうる。状態は、急性腎臓傷害でありうる。
【0063】
疾患又は状態は、胃潰瘍でありうる。疾患又は状態は、痛風でありうる。疾患又は状態は、ハンチントン病でありうる。
【0064】
疾患又は状態は、肝臓の損傷でありうる。これは、肝細胞の損傷、胆汁鬱滞の損傷及び/又は浸潤性の損傷に関連した肝臓疾患を含みうる。肝細胞では、一次傷害は肝細胞に対するものである。胆汁鬱滞では、一次傷害は、胆管に対するものである。浸潤性では、肝臓は、新生物又はアミロイド等の肝臓以外の物質によって侵入されるか又は置換される。AST及びALTは、肝臓の損傷又は肝細胞の傷害の典型的なマーカーである。肝疾患は、ウイルス性肝炎、急性アルコール性肝炎、NAFLD、C型肝炎、アルコール性脂肪肝疾患及び例えばスタチンによる薬物効果の1つ以上を含みうる。
【0065】
本発明は、対象において、PANX1に関連した疾患又は状態の治療又は予防方法に使用するための、配列番号1を含むペプチド、又は配列番号1の機能的(又は治療的に効果的な)変異体(以後、「ペプチド活性剤」又は「本発明のペプチド」)を提供する。
【0066】
特に、組成物は人工の組成物である。
【0067】
組成物は、医薬組成物であり得、少なくとも1つの適切な薬学的担体を更に含む。
【0068】
変異体は、配列番号1の機能性又は治療用フラグメントであり得る。
【0069】
一実施形態では、変異体は、配列番号1に比較して1~8のアミノ酸の変化又は修飾を有する。一実施形態では、変異体は、配列番号1に比較して1~7のアミノ酸の変化を有する。一実施形態では、変異体は、配列番号1に比較して1~6のアミノ酸の変化を有する。一実施形態では、変異体は、配列番号1に比較して1~5のアミノ酸の変化を有する。一実施形態では、変異体は、配列番号1に比較して1~4のアミノ酸の変化を有する。一実施形態では、変異体は、配列番号1に比較して1~3のアミノ酸の変化を有する。一実施形態では、変異体は、配列番号1に比較して1~2のアミノ酸の変化を有する。一実施形態では、アミノ酸の変化は、アミノ酸の置換である。一実施形態では、アミノ酸の変化は、保存的置換である。一実施形態では、アミノ酸の変化は、アミノ酸の付加である。一実施形態では、アミノ酸の変化は、アミノ酸の欠失である。
【0070】
本発明の変異体は、以下のものを含む:
配列番号1の変異体
1、2又は3つの保存的アミノ酸置換、1、2又は3つの非保存的アミノ酸置換、1、2又は3つのアミノ酸の付加、1、2又は3つのアミノ酸の欠失を有する変異体を含む配列番号1(WKDEAGKPLVK)の変異体は、以下に提供される。
【0071】
1つの保存的アミノ酸置換:
WKEEAGKPLVK(配列番号2(SEQ ID NO.2))、FKDEAGKPLVK(配列番号3(SEQ ID NO.3))、WKDEAGKPMVK(配列番号4(SEQ ID NO.4))、WKDEAGRPLVK(配列番号5(SEQ ID NO.5))、WRDEAGKPLVK(配列番号6(SEQ ID NO.6))、WKDEAGKPLMK(配列番号7(SEQ ID NO.7))、WKDQAGKPLVK(配列番号8(SEQ ID NO.8))、WKDEATKPLVK(配列番号9(SEQ ID NO.9))
【0072】
2つの保存的アミノ酸置換:
YKNEAGKPLVK(配列番号10(SEQ ID NO.10))、WKNESGKPLVK(配列番号11(SEQ ID NO.11))、WKDEAGKTLVR(配列番号12(SEQ ID NO.12))、FKDEATKPLVK(配列番号13(SEQ ID NO. 13))、FKDEAGKPLIK(配列番号14(SEQ ID NO. 14))、WKDEAGKTLLK(配列番号15(SEQ ID NO. 15))、WKNEAGKPVVK(配列番号16(SEQ ID NO.16))、WKDEAGRTLVK(配列番号17(SEQ ID NO.17))
【0073】
3つの保存的アミノ酸置換:
WEDESGKPLLK(配列番号18(SEQ ID NO.18))、WKEEAGKPIVQ(配列番号19(SEQ ID NO.19))、YKNEAGKPLVR(配列番号20(SEQ ID NO.20))、WKDQATRPLVK(配列番号21(SEQ ID NO.21))、WKDESGKPVLK(配列番号22(SEQ ID NO.22))、WQDDSGKPLVK(配列番号23(SEQ ID NO.23))、WKNEAGKTLLK(配列番号24(SEQ ID NO.24))、WKDKAGEPLVR(配列番号25(SEQ ID NO.25))
【0074】
1つの非保存的アミノ酸置換:
WKDEAGNPLVK(配列番号26(SEQ ID NO.26))、CKDEAGKPLVK(配列番号27(SEQ ID NO.27))、WKDEAGKPLGK(配列番号28(SEQ ID NO.28))、WKDENGKPLVK(配列番号29(SEQ ID NO.29))、WKDEARKPLVK(配列番号30(SEQ ID NO.30))、WKDEAGKPLVT(配列番号31(SEQ ID NO.31))、WKDEAGKRLVK(配列番号32(SEQ ID NO.32))、WKWEAGKPLVK(配列番号33(SEQ ID NO.33))
【0075】
2つの非保存的アミノ酸置換:
WKDEAGFPTVK(配列番号34(SEQ ID NO.34))、WYDMAGKPLVK(配列番号35(SEQ ID NO.35))、WKDYEGKPLVK(配列番号36(SEQ ID NO.36))、WKREAGKPGVK(配列番号137(SEQ ID NO.37))、WKLEKGKPLVK(配列番号38(SEQ ID NO.38))、WKDEAGKPCVK(配列番号39(SEQ ID NO.39))、WKKEAPKPLVK(配列番号40(SEQ ID NO.40))、SKDEAGPPLVK(配列番号41(SEQ ID NO.41))
【0076】
3つの非保存的アミノ酸置換:
WKHEPGKPLAK(配列番号42(SEQ ID NO.42))、WKDEREKPFVK(配列番号43(SEQ ID NO.43))、WKQEAGKPWRK(配列番号44(SEQ ID NO.44))、VKDEAKKPLVH(配列番号45(SEQ ID NO.45))、NWDEAGKMLVK(配列番号46(SEQ ID NO.46))、IKDEDGPPLVK(配列番号47(SEQ ID NO.47))、LKDEYGKPLVN(配列番号48(SEQ ID NO.48))、WKDRAGKELTK(配列番号49(SEQ ID NO.49))
【0077】
アミノ酸の付加
WKDEAGKPLPVK(配列番号50(SEQ ID NO.50))、WKGDENYAGKPLVK(配列番号51(SEQ ID NO.51))、LWKDEAGRKYPLVK(配列番号52(SEQ ID NO.52))、WKDCEGAGKPLVK(配列番号53(SEQ ID NO.53))、WKDEPAGKPLVVK(配列番号54(SEQ ID NO.54))、WKDEAGPKPLVK(配列番号55(SEQ ID NO.55))、WKDEAGWADKPLVK(配列番号56(SEQ ID NO.56))、WKNDEAGKPLVK(配列番号57(SEQ ID NO.57))
【0078】
アミノ酸の欠失
WKDAKPLVK(配列番号58(SEQ ID NO.58))、WKEAGKPVK(配列番号59(SEQ ID NO.59))、WKDEAKPLVK(配列番号60(SEQ ID NO.60))、WDEAGKPV(配列番号61(SEQ ID NO.61))、WKDEAGKPVK(配列番号62(SEQ ID NO.62))、WDAGKPLVK(配列番号63(SEQ ID NO.63))、WKDEAGKPLV(配列番号64(SEQ ID NO.64))、WEAGKPLV(配列番号65(SEQ ID NO.65))
DEAGKPLV(配列番号90(SEQ ID NO.90))
【0079】
配列番号1(SEQ ID NO:1)のフラグメントの例は、以下に提供される。
【0080】
WKDEAG(配列番号66(SEQ ID NO.66))、WKDEA(配列番号67(SEQ ID NO.67))、KDEAGKPL(配列番号68(SEQ ID NO.68))、KDEAG(配列番号69(SEQ ID NO.69))、DEAGKPL(配列番号70(SEQ ID NO.70))、GKPLV(配列番号71(SEQ ID NO.71))、DEAGK(配列番号72(SEQ ID NO.72))、WKDEAGKPL(配列番号73(SEQ ID NO.73))、WKD(配列番号74(SEQ ID NO.74))、KDE(配列番号75(SEQ ID NO.75))、KPLVK(配列番号76(SEQ ID NO.76))、WKDE(配列番号77(SEQ ID NO.77))、AGKPL(配列番号78(SEQ ID NO.78))、EAG(配列番号79(SEQ ID NO.79))、AGK(配列番号80(SEQ ID NO.80))、KPL(配列番号81(SEQ ID NO.81))、LVK(配列番号82(SEQ 20 ID NO.82))、GKP(配列番号83(SEQ ID NO.83))、DEA(配列番号84(SEQ ID NO.84))、PLV(配列番号85(SEQ ID NO.85))
【0081】
組成物は、複数のペプチド、フラグメント及び/又は変異体を含むことが認識される。好ましくは、組成物は、少なくとも2つの本発明のペプチドを含む。好ましくは、組成物は、少なくとも3つの本発明のペプチドを含む。好ましくは、組成物は、少なくとも4つの本発明のペプチドを含む。好ましくは、組成物は、少なくとも5つの本発明のペプチドを含む。好ましくは、組成物は、少なくとも6つの本発明のペプチドを含む。好ましくは、組成物は、少なくとも7つの本発明のペプチドを含む。好ましくは、組成物は、少なくとも8つの本発明のペプチドを含む。好ましくは、組成物は、少なくとも9の本発明のペプチドを含む。好ましくは、組成物は、少なくとも10の本発明のペプチドを含む。一実施形態では、組成物は、実質的に全てのペプチドを含む。一実施形態では、組成物は、実質的に全ての変異体を含む。一実施形態では、組成物は、実質的に他のペプチドを含まない。
【0082】
図1は、PANX1チャネルタンパク質を例示する。このタンパク質は、4つのα-ヘリカル膜貫通(TM)ドメイン、2つの細胞外ループ、及び1つの細胞内ループを含む。タンパク質のN及びC末端は細胞の細胞質に曝されている。
【0083】
図2は、正常なホメオスタシスでのPANX1の活性を例示する(A)。この図はまた、細胞外ATP及びK+が増加した場合におけるPANX1の活性を例示する(B)。この環境では、チャネルの開放の増加がある。炎症及び無調節ホメオスタシスは、ATP放出の増加及びCa2+の細胞流入の増加を伴う過剰なシグナル伝達を駆動する。
【0084】
図6は、PANX1によって媒介される、又はPANX1の関連する細胞プロセス及び/又は疾患の例を示す。含まれる全てが、本明細書において、本発明内に想定されることが認識される。
【0085】
定義及び一般的優先事項
本明細書で使用される場合、特に別段の指示がない限り、以下の用語は、その用語が当技術分野で有するよりも広い(又は狭い)意味に加えて、以下の意味を有することが意図される。
【0086】
文脈によって特に要求されない限り、本明細書での単数の使用は、複数を含み、その逆も同様であると理解されるべきである。エンティティ(実在物(entity))に対して使用される用語「a」又は「an」は、1以上のそのエンティティを言うように理解されるべきである。従って、用語「a」(又は「an」)、「1以上」、及び「少なくとも1つ」は本明細書で交換可能に使用される。
【0087】
本明細書で使用されるとき、用語「含む(comprise)」、又は、「含む(comprises)」若しくは「含んでいる(comprising)」などのその変形は、任意の列挙されたインテジャ(事項、物、完全体(integer))(例えば、特徴、要素、特性、性質、方法/プロセスステップ、又は制限)又は一群のインテジャ(特徴(複数)、要素、特性(複数)、性質(複数)、方法/プロセスステップ(複数)、又は制限(複数))を包含することを示すが、任意の他のインテジャ又は一群のインテジャを排除しない、と理解されるべきである。
【0088】
本明細書で使用するとき、語句「PANX1に関連する疾患」は、PANX1又はPANX1シグナル伝達が役割を果たす疾患又は状態をいう。この疾患又は状態は、対象又は対象の生物学的サンプルにおいてPANX1シグナル伝達又はPANX1発現の増加によって特徴づけられる、又は当該増加によって媒介されるものでありうる。この増加は、健常な対象と比較された場合である。サンプルは、血液、組織、細胞、器官などの任意の生物学的サンプルでありうる。一実施形態では、PANX1は、PANX1シグナル伝達及び/又は発現が、変異されていないPANX1と比較して増加されるように、前記対象において変異される。このような疾患及び状態は、当技術分野で公知であり、全てがここで想定される。PANX1発現及びシグナル伝達を検出する手段は、当業者に周知である。
【0089】
本明細書で使用されるとき、用語「疾患」は、生理学的機能を損ない、特定の症状に関連した任意の異常な状態を定義するために使用される。この用語は、任意の障害、病気(illness)、異常、病状、病気(sickness)、生理学的機能が、病因の性質(又は、疾患の病因学的基礎が実際に確立しているかどうか)に関わりなく損なわれる状態又は症候群を包含するように広く使用される。従って、これは、感染、外傷、傷害、手術、放射線学的焼灼(radiological ablation)、老化(age)、中毒、又は栄養失調から生じる状態を包含する。
【0090】
本明細書で使用するとき、用語「治療(treatment)」又は「治療する(treating)」は、疾患の症状を治す、改善する、又は減少させる、又はその原因を除去する(又はその影響を低下する)治療介入(例えば、対象への薬剤の投与)をいう。この場合において、この用語は、用語「治療(療法、therapy)」と同意語として使用される。
【0091】
加えて、用語「治療」又は「治療する」は、疾患の始まり又は進行を予防し又は遅らせるか、又は治療集団の範囲内でその発生を減少する(又は根絶する)治療介入(例えば、対象への薬剤の投与)をいう。この場合において、この用語は、用語「予防(Prophylaxis)」と同意語として使用される。
【0092】
本明細書で使用するとき、薬剤の「有効量」又は「治療的に有効な量」は、過度な毒性、刺激、アレルギー反応、又は他の問題若しくは合併症を伴わずに対象に投与することができ、合理的な利益/リスク比と等しい量であるが、所望の効果、例えば、対象の状態を恒久的に又は一時的に改善することによって示される治療又は予防を患者に提供する量を規定する。この量は、対象の物理的大きさ、年齢、及び個々の一般的状態、投与の方法、及び他の因子に依存して、いろいろに変化する。従って、実際の有効量を特定することは可能でないが、当業者は、日常の実験及び一般的なバックグラウンドの知識を用いて任意の個々の場合の適切な「有効」量を決定することができるであろう。この文脈での治療的な結果は、症状の根絶又は減少、痛み又は不快の低減、生存率の延長、移動の改善、及び臨床的な改善の他のマーカーを含む。治療的な結果は、必ずしも完治である必要はない。改善は、生物学的/分子マーカー、臨床的又は観察的な改善で観測されればよい。好ましい実施形態では、本発明の方法は、ヒト、大型のレーシング動物(racing animals)(ウマ、ラクダ、イヌ)、及び家庭内コンパニオンアニマル(domestic companion animals)(ネコ及びイヌ)に適用可能である。
【0093】
先に定義した治療及び有効量の文脈では、用語「対象」(これは、文脈が許す限り、「個人」、「動物」、「患者」、又は「哺乳類」を含むと理解されるべきである。)は、治療が意図される任意の対象、特に哺乳類対象を規定する。哺乳類対象は、ヒト、飼育動物(家畜(domestic animals))、畜産動物(家畜(farm animals))、動物園の動物、スポーツ動物(sport animals)、イヌ、ネコ、モルモット、ウサギ、ラット、マウス、ウマ、ラクダ、バイソン、牛(cattle)、ウシ(cow)などのペット動物、類人猿、サル、オランウータン、及びチンパンジーなどの霊長類、イヌ及びオオカミなどのイヌ科の動物、ネコ、ライオン、及びトラなどのネコ科の動物、ウマ、ロバ、及びシマウマなどのウマ化の動物、ウシ、ブタ、及びヒツジなどの食用動物、シカ及びキリンなどの有蹄類、並びに、マウス、ラット、ハムスター、及びモルモットなどの齧歯動物を含むが、これらに限定されない。好ましい実施形態では、対象はヒトである。本明細書で使用されるとき、用語「ウマ科」は、ウマ科(family Equidae)の動物をいい、これには、ウマ、ロバ(donkeys)、ロバ(asses)、キヤン(kiang)、及びシマウマが含まれる。対象は、治療を必要とする、即ち、疾患又は状態の治療又は予防が必要な対象でありうる。
【0094】
「医薬組成物」:本発明の更なる態様は、1以上の薬学的に許容可能な希釈剤、賦形剤もしくは担体と混合された、又は治療効果を高める他の薬剤と共投与されるペプチド活性剤を含む医薬組成物に関する。本発明のペプチド及び組成物は単独で投与されうるが、これらは、特にヒトの治療のための薬学的担体、賦形剤又は希釈剤との混合物として一般に投与される。医薬組成物は、ヒト及び獣医学の医薬におけるヒトもしくは動物に使用するためのものである。本明細書に記載された医薬組成物の種々の異なる形態に対するかかる適切な賦形剤の例は、「Handbook of Pharmaceutical Excipients, 2nd Edition, (1994), Edited by A Wade and PJ Weller」(非特許文献12)に見出すことができる。特に、局所送達のための製剤は、Topical drug delivery formulations edited by David Osborne and Antonio Aman, Taylor & Francis(非特許文献13)に記載されており、この全内容は参照により本明細書に取り込まれる。治療用途のための許容される担体又は希釈剤は、薬学的技術分野の当業者に周知であり、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co.(A. R. Gennaro edit. 1985)(非特許文献14)に記載されている。適切な担体の例には、ラクトース、デンプン、グルコース、メチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、マンニトール、ソルビトールなどが含まれる。適切な希釈剤の例には、エタノール、グリセロール及び水が含まれる。薬学的担体、賦形剤又は希釈剤の選択は、意図した投与経路及び標準的な薬学的実務に関して選択されうる。医薬組成物は、担体、賦形剤又は希釈剤として、又はこれらに加えて、任意の適切な、結合剤(単数又は複数)、潤滑剤(単数又は複数)、懸濁剤(単数又は複数)、コーティング剤(単数又は複数)、可溶化剤(単数又は複数)を含むことができる。適切な結合剤の例には、デンプン、ゼラチン、グルコースなどの天然糖、無水ラクトース、フリーフローラクトース、ベータ-ラクトース、コーンスウィートナー、アカシア、トラガガントもしくはアルギン酸ナトリウムなどの天然及び合成ゴム、カルボキシメチルセルロース及びポリエチレングリコールが含まれる。適切な潤滑剤の例には、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウムなどが含まれる。防腐剤、安定化剤、色素及び着香剤さえも医薬組成物に提供することができる。防腐剤の例には、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸及びp-ヒドロキシ安息香酸のエステルが含まれる。抗酸化剤及び懸濁剤も使用されうる。
【0095】
本明細書で使用される用語「ペプチド」は、ペプチド結合を介して典型的に結合された最大50個までのアミノ酸、例えば5~50個のアミノ酸モノマーから構成されるポリマーをいう。本発明のペプチド及び本発明で使用されるペプチド(そのフラグメント及び変異体を含む)は、化学合成によって又は核酸からの発現によって完全に又は部分的に生成されうる。例えば、本発明のペプチド及び本明細書で使用されるペプチドは、当技術分野で公知のよく確立された標準的な液相又は好ましくは固相ペプチド合成法に従って、容易に調製されうる(例えば、J. M. Stewart and J. D. Young, Solid Phase Peptide Synthesis, 2nd edition, Pierce Chemical Company, Rockford, Illinois (1984)(非特許文献15)、M. Bodanzsky and A. Bodanzsky, The Practice of Peptide Synthesis, Springer Verlag, New York (1984)(非特許文献16)参照)。必要であれば、本明細書で使用されるいずれのペプチドもそれらの安定性を高めるために化学的に修飾されうる。化学的に修飾されたペプチド又はペプチド類似体は、本発明の実施に関して、in vivo又はin vitroでその増加した安定性及び/又は有効性によって特徴付けられるペプチドの任意の機能的化学的等価体を含む。用語ペプチド類似体はまた、本明細書に記載されたペプチドの任意のアミノ酸誘導体をいう。ペプチド類似体は、側鎖への修飾、ペプチド合成の間の非天然アミノ酸及び/又はそれらの誘導体の取り込み、並びに、架橋剤の使用、及びペプチドもしくはそれらの類似体のコンホーメーションの束縛を付与する他の方法を含む(但し、これらに限定されない)手順によって製造されうる。側鎖の修飾の例は、アルデヒドと反応し、次いでNaBH4で還元することによる還元的アルキル化、メチルアセトアミデートでのアミド化、無水酢酸でのアセチル化、シアネートでのアミノ基のカルバミル化、2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)でのアミノ基のトリニトロベンジル化、無水コハク酸と無水テトラヒドロフタル酸でのアミノ基のアルキル化、並びにピリドキサ-5’-ホスフェートでのリジンのピリドキシル化と引き続きのNaBH4での還元によるなどのアミノ基の修飾を含む。アルギニン残基のグアニジノ基は、2,3-ブタンジオン、フェニルグリオキサール及びグリオキサールなどの試薬によるヘテロ環縮合産物の形成によって修飾されうる。カルボキシル基は、o-アシルイソ尿素の形成とこれに続く、例えば対応するアミドへの誘導体化を介したカルボジイミド活性化によって修飾されうる。スルフヒドリル基は、ヨード酢酸もしくはヨードアセトアミドでのカルボキシメチル化、システイン酸への過ギ酸酸化、他のチオール化合物による混合ジスルフィドの形成、マレイミド、無水マレイン酸もしくは他の置換マレイミドとの反応、4-クロロマーキュリー安息香酸塩、4-クロロマーキュリーフェニルスルホン酸、フェニル水銀クロリド、2-クロロマーキュリー-4-ニトリフェノール(2-chloromercuric-4-nitrophenol)及び他の水銀化合物を用いた水銀誘導体の形成、アルカリ性pHでのシアネートでのカルバミル化などの方法によって修飾されうる。トリプトファン残基は、例えば、N-ブロモスクシンイミドによる酸化、又は2-ヒドロキシ-5-ニトロベンジルブロミドもしくはスルホニルハライドでのインドール環のアルキル化によって修飾されうる。チロシン残基は、テトラニトロメタンでニトロ化し、3-ニトロチロシン誘導体を形成することにより変化されうる。ヒスチジン残基のイミダゾール間の修飾は、ヨード酢酸誘導体でのアルキル化、又はジエチルピロカーボネートでのN-カルベチオキシル化によって実現されうる。ペプチド合成の間の非天然アミノ酸及び誘導体の取り込みの例は、ノルロイシン、4-アミノ酪酸、4-アミノ-3-ヒドロキシ-5-フェニルペンタン酸、6-アミノヘキサン酸、t-ブチルグリシン、ノルバリン、フェニルグリシン、オルニチン、サルコシン、4-アミノ-3-ヒドロキシ-6-メチルヘプタン酸、2-チエニルアラニン、及び/又はアミノ酸のD-異性体の使用を含むが、これらに限定されない。ペプチド構造の修飾は、D-アミノ酸によりコードされるリバース配列(reversed sequence)を含むレトロ-インベルソペプチド(retro-inverso peptide)の生成を含む。変更は、タンパク質分解に対する感受性を低下する、酸化に対する感受性を低下する、変異体の配列の結合親和性を変化する(典型的には、親和性を増加するものが望ましい)、及び/又は、関連する変異体/類似体ペプチドの他の物理化学的又は機能的特性を付与するもしくは修飾するものでありうる。
【0096】
参照ペプチドに対して適用される、用語「治療に有効な変異体」は、参照ペプチドと実質的に同一であり、以下に定義するような治療に有効であるアミノ酸配列を有するペプチドを意味する。従って、例えば、この用語は、1以上のアミノ酸残基に関して変更された変異体を含むように受け取られるべきである。好ましくは、このような変更は、6以下のアミノ酸、好ましくは5以下、4以下、更に好ましくは3以下、最も好ましくは1又は2のアミノ酸のみの、挿入、付加、欠失及び/又は置換を含む。天然及び修飾アミノ酸での挿入、付加及び置換が考えられる。変異体は、保存的なアミノ酸の変化を有ことができ、この場合、導入されるアミノ酸は、置換されるものと構造的に、化学的に、又は機能的に同じである。一般に、変異体は、元の配列と、少なくとも50%、60%、70%のアミノ酸配列同一性、好ましくは少なくとも80%の配列同一性、より好ましくは90%の配列同一性、理想的には、少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性を有する。いずれの変異体も、基本的には、疾患のin vitroもしくはin vivoモデルで試験された場合、同じ治療効果を有するか、又は、増強された効果を有しうる。5つのアミノ酸がD-型のアミノ酸で置換された例示的な変異体が、配列番号86として提供される。
【0097】
本発明のペプチドに適用されるとき、「機能性」と交換可能に使用される「治療に有効な」は、PANX1を標的にでき、その機能を調節することができるペプチドを意味する。PANX1のターゲティングを決定する手段は、本明細書に記載されているとおりである。PANX1調節を決定する手段は、本明細書に記載されているとおりであり、当技術分野で知られているとおりである。
【0098】
用語変異体はまた、用語「フラグメント」を包含するように受け取られ、従って、アミノ酸の配列番号1のフラグメントを意味する。典型的には、フラグメントは、長さが3~10の隣接したアミノ酸を有する。一般に、フラグメントは、-5~+3の電荷を有する。ペプチド、フラグメント又は領域の電荷は、Cameselle, J.C., Ribeiro, J.M., and Sillero, A. (1986). Derivation and use of a formula to calculate the net charge of acid-base compounds. Its application to amino acids, proteins and nucleotides. Biochem. Educ. 14, 131-136(非特許文献17)の方法を用いて決定される。
【0099】
本明細書において、用語「配列同一性(sequence identity)」は、配列同一性と配列類似性(sequence similarity)の両方を含むと理解されるべきであり、即ち、参照配列と70%の配列同一性を共有する変異体(又はホモログ)は、変異体の変化した残基の任意の70%が、配列の全長にわたって参照配列の対応する残基と同一であるか、又は当該残基の保存的置換体であるものである。配列同一性は、2つの異なる配列間で実際に一致する文字(キャラクター(characters))の量である。従って、ギャップはカウントされず、測定は2つの配列のより短い部分に関連する。
【0100】
「配列相同性」の用語について、この用語は、変異体(又はホモログ)の変化された残基のパーセントが参照配列の対応する残基と同一であるか又は当該残基の保存的置換体であり、この変異体(又はホモログ)が参照配列と同じ機能を共有するとき、定義されたパーセント類似性又は同一性を参照配列と共有する変異体(又はホモログ)を意味すると理解されるべきである。
【0101】
整列及びパーセント相同性もしくは配列同一性は、当技術分野で公知のソフトウェアプログラムを用いて決定することができ、例えば、1つの整列プログラムはデフォルトパラメータを用いるBLASTである。これらのプログラムの詳細は、以下のインターネットアドレス:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/Blast.cgiに見出すことができる。
【0102】
フラグメントに適用される「C-末端ドメイン」は、フラグメントのc-末端での最初の3つのアミノ酸を意味する。
【0103】
フラグメントに適用される「N-末端ドメイン」は、フラグメントのn-末端での最後の3つのアミノ酸を意味する。
【0104】
参照タンパク質の「相同体」は、参照タンパク質と少なくとも60%、70%、80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の配列相同性を有する、異なる種の植物からのタンパク質を意味すると理解されるべきである。
【0105】
ペプチド又は組成物は、局所、経口、直腸、非経口、筋肉内、腹腔内、動脈内、気管支内、皮下、皮内、静脈内、鼻、膣、口腔又は舌下の経路の投与に適し、これらの経路によって投与されうる。経口投与については、特定用途は、圧縮錠剤、ピル、錠剤、ゲルル(gellules)、ドロップ、及びカプセルで作成される。好ましくは、これらの組成物は、用量あたり、1~250mg、より好ましくは、10~100mgの活性成分を含有する。他の投与形態は,溶液又はエマルジョンを含み、これらは、静脈内、動脈内、皮下、皮内、腹腔内又は筋肉内で注入され得、滅菌又は滅菌可能な溶液から調製される。本発明の医薬組成物はまた、座薬、膣リング、ペッサリー、懸濁液、エマルジョン、ローション、軟膏、クリーム、ゲル、スプレー、溶液又は散布剤の形態であってもよい。本発明の組成物は、局所送達用に製剤化されうる。局所送達は、一般に、皮膚への送達を意味するが、上皮細胞で覆われている体腔、例えば、肺若しくは気道、胃腸管、口腔への送達をも意味する。特に、局所送達のための製剤は、Topical drug delivery formulations edited by David Osborne and Antonio Aman, Taylor & Francis(非特許文献18)に記載されており、この全内容は参照により本明細書に取り込まれる。気道への送達のための組成物又は製剤は、O’Riordanら(O’Riordan et al, Respir Care, 2002, Nov. 47)(非特許文献19)、欧州特許出願公開第2050437号明細書(EP2050437)(特許文献4)、国際公開第2005/023290(WO2005023290)(特許文献5)、米国特許出願公開第2010/098660号明細書(US2010098660)(特許文献6)及び米国特許出願公開第2007/0053845号明細書(US20070053845)(特許文献7)に記載されている。回腸、特に近位回腸へ活性剤を送達するための組成物及び製剤は、マイクロ粒子及びマイクロカプセルを含み、これらでは、活性剤が、酸に抵抗性であるが、回腸のよりアルカリ性の環境で溶解する傾向のあるポリマー若しくは乳タンパク質(daily protein)で形成された保護用マトリックス内にカプセル化される。このような送達系の例は、欧州特許出願第1072600.2号明細書(EP1072600.2)(特許文献8)及び欧州特許出願第13171757.1号明細書(EP13171757.1)(特許文献9)に記載されている。経皮投与の代替の手段は、皮膚パッチの使用によるものである。例えば、活性成分は、ポリエチレングリコール又は液体パラフィンの水性エマルジョンからなるクリームに混合される。活性成分はまた、1~10重量%の濃度で、白色ワックス又は白色軟質パラフィンベースからなる軟膏に、必要な安定剤及び防腐剤などと共に混合されうる。注入可能な形態は、用量あたり10~1000mg、好ましくは10~250mgの活性成分を含有しうる。組成物は、単位用量形態、即ち、単位用量を含有する個別部分の形態、又は単位用量の複数又はサブユニットで製剤化されうる。
【0106】
当業者は、本発明の組成物を1つの適切な用量を容易に決定し、過度の実験をすることなく対象に投与することができる。典型的には、医師は、個々の患者に最も適するであろう実際の用量を決定することができ、実際の用量は、使用される特定の化合物の活性、その化合物の代謝安定性及び活性の長さ、年齢、体重、一般的な健康、性別、食餌、投与の方法及び時間、排出の速度、薬剤の組み合わせ、特定の状態の重篤度、及び個々が受ける治療を含む種々の因子に依存する。本明細書で開示される用量は、平均的な場合の例示である。もちろん、より高い又はより低い用量の範囲が正当な個々の例があり得、これは本発明の範囲内である。必要に応じて、薬剤は0.01~30mg/kg体重、例えば0.1~10mg/kg、より好ましくは、0.1~1mg/kg体重の用量で投与されうる。例示的な実施形態では、10~300mg/日、又は、より好ましくは10~150mg/日の1以上の用量が、炎症性障害の治療のために患者に投与される。
【0107】
特に好ましい実施形態では、本発明の方法及び使用は、1以上の他の活性剤、例えば治療又は予防される疾患の市場で利用可能な既存の薬剤又は薬学的向上剤(エンハンサー(enhancers))と組み合わせてペプチド又は組成物を投与することを含む。このような場合、本発明の化合物は、1以上の他の活性剤と続けて、同時に、又は逐次的に投与されうる。
【0108】
本発明の一実施形態では、ペプチド活性剤は、ペプチド、リンカー、及びin-vivoで複合体の半減期を増加することを意図した抗体分子(又は抗体フラグメント)を含む複合体の形態で投与されうる。
【0109】
「修飾ペプチド」:一実施形態では、本発明のペプチド(ペプチド変異体を含む)は、修飾ペプチドであってもよい。用語「修飾ペプチド」は、用語ペプチドの誘導体と交換可能に使用される。一実施形態では、用語「修飾ペプチド」は、修飾されていないペプチドと比較して以下の特性の1以上を示すように修飾されたペプチドを意味する:典型的にはrpS6ホスホリル化を維持しながら、血漿半減期を増加する、ペプチドの親油性を増加する、修飾ペプチドの腎クリアランスを増加する、及びタンパク質分解に対する修飾ペプチドの耐性を増加する。これらの特性を示すように本発明のペプチドを修飾する種々の方法が本明細書で開示され、これらには、結合パートナー(例えば、アルブミン結合性小分子、大きなポリマー、長寿命血漿タンパク質、又は抗体もしくは抗体フラグメント)とペプチドの複合体形成、環化、N-もしくはC-末端、又は側鎖の付加、基を保護すること、L-アミノ酸をD-異性体で置換すること、アミノ酸修飾、血漿タンパク質の結合性の増加、アルブミン結合性の増加を含む。修飾ペプチドは、本明細書で定義した1以上の基で置換されたペプチド、結合パートナーと複合体形成されたペプチド、又は環化されたペプチドを含むが、これらに限定されない。一般に、ペプチドは、動物のin vivoでの半減期を増加するように修飾される。種々の修飾の方法が以下に提供される。
【0110】
一実施形態では、修飾は、細胞に侵入する能力が増加した本発明のペプチド及び/又は組成物を提供する任意の修飾でありうる。一実施形態では、修飾は、本発明の組成物又はペプチドの半減期を増やす任意の修飾でありうる。一実施形態では、修飾は、本発明の組成物又はペプチドの活性を高める任意の修飾でありうる。一実施形態では、修飾は、本発明の組成物又はペプチドの選択性を増加する任意の修飾でありうる。
【0111】
一実施形態では、基は保護基である。保護基は、N-末端保護基、C-末端保護基、又は側鎖保護基でありうる。ペプチドは、1以上のこれらの保護基を有しうる。
【0112】
当業者は、アミノ酸をこれらの保護基と反応するのに適した技術を知っている。これらの基は、当技術分野で公知の調製方法、例えば米国特許出願公開第2014/120141号明細書(US2014120141)の段落[0104]~[0107]に概説されている方法によって付加することができる。基は、ペプチドに維持されてもよく、又は除去されてもよい。保護基は合成の間に付加されうる。
【0113】
本発明の実施形態では、ペプチドは、飽和又は不飽和の、ヒドロキシル、アミノ、アミノアシル、サルフェートもしくはスルフィド基で置換された又は無置換の、1~29個の炭素原子を有する直鎖もしくは分岐鎖、長鎖もしくは短鎖の1以上から選択される基で置換されうる。N-アシル誘導体は、酢酸、カプリン酸、ミリスチン酸、オクタン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、リノール酸、リノレン酸、リポ酸、オレイン酸、イソステアリン酸、エライジン酸、2-エチルヘキサン酸、ココナッツオイル脂肪酸、タロウ脂肪酸、硬化タロウ脂肪酸(hardened tallow fatty acid)、パーム核脂肪酸、ラノリン脂肪酸、又は同様の酸由来のアシル基を含む。これらは、置換されてもよく、又は置換されなくともよい。置換される場合、これらは、好ましくは、ヒドロキル、又はSO3H、SH、又はS-S(これらに限定されない)などの硫黄含有基で置換されうる。
【0114】
本発明の実施形態では、ペプチドは、R1-X-R2である。
【0115】
R1及び/又はR2基は、それぞれ、ペプチド配列のアミノ末端(N-末端)及びカルボキシル末端(C-末端)に結合する。
【0116】
一実施形態では、ペプチドは、R1-Xである。あるいは、ペプチドは、X-R2である。
【0117】
好ましくは、R1は、H、C1~4アルキル、アセチル、ベンゾイル、又はトリフルオロアセチルである。
【0118】
Xは本発明のペプチドである。
【0119】
R2は、OH又はNH2である。
【0120】
一実施形態では、R1は、H、非環状の置換もしくは非置換脂肪族基、置換もしくは非置換の脂環式(alicyclyl)、置換もしくは非置換複素環、置換もしくは非置換ヘテロアリールアルキル、置換もしくは非置換アリール、置換もしくは非置換アラルキル、tert-ブチルオキシカルボニル、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)、及びR5-CO-(式中、R5はH、非環状の置換もしくは非置換脂肪族基、置換もしくは非置換の脂環式、置換もしくは非置換アリール、置換もしくは非置換アラルキル、置換もしくは非置換複素環、及び置換もしくは非置換ヘテロアリールアルキルによって形成される基から選択される)によって形成される基から選択される。
【0121】
R2は、R1及びR2はα-アミノ酸ではないという条件下で、-NR3R4、-OR3及び-SR3(式中、R3及びR4は、H、非環状の置換もしくは非置換脂肪族基、置換もしくは非置換の脂環式、置換もしくは非置換複素環、置換もしくは非置換ヘテロアリールアルキル、置換もしくは非置換アリール、及び置換もしくは非置換アラルキルによって形成される基から独立して選択される)によって形成される基から選択される。
【0122】
別の好ましい実施形態によれば、R2は、-NR3R4、-OR3又は-SR3であり、式中、R3及びR4は、H、置換もしくは非置換C1~C24アルキル、置換もしくは非置換C2~C24アルケニル、tert-ブチルオキシカルボニル、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)、置換もしくは非置換C2~C24アルキニル、置換もしくは非置換C3~C24シクロアルキル、置換もしくは非置換C5~C24シクロアルケニル、置換もしくは非置換C8~C24シクロアルキニル、置換もしくは非置換C6~C30アリール、置換もしくは非置換C7~C24アラルキル、C3~10員の置換もしくは非置換ヘテロ環(hetericyclyl ring)、及び2~24個の炭素原子及び1~3個の炭素以外の原子の置換もしくは非置換ヘテロアリールアルキルであってアルキル鎖が1~6個の炭素原子であるものによって形成される基から独立して選択される。任意選択的には、R3及びR4は、飽和又は不飽和炭素-炭素結合によって結合され、窒素原子を有する環を形成しうる。より好ましくは、R2は、-NR3R4又は-OR3であり、式中、R3及びR4は、H、置換もしくは非置換C1~C24アルキル、置換もしくは非置換C2~C24アルケニル、置換もしくは非置換C2~C24アルキニル、置換もしくは非置換C3~C10シクロアルキル、置換もしくは非置換C6~C15アリール及びC3~10員の置換もしくは非置換ヘテロ環(hetericyclyl)、3~10員の環及び1~6個の炭素原子のアルキル鎖を有する置換もしくは非置換ヘテロアリールアルキルによって形成される基から独立して選択される。より好ましくは、R3及びR4は、H、メチル、エチル、ヘキシル、ドデシル、又はヘキサデシルによって形成される基から選択される。更に好ましくは、R3はHであり、R4は、H、メチル、エチル、ヘキシル、ドデシル、又はヘキサデシルによって形成される基から選択される。更に好ましい実施形態によれば、R2は、-OH及び-NH2から選択される。
【0123】
本発明の別の実施形態によれば、R1は、H、アセチル、ラウロイル、ミリストイル又はパルミトイルによって形成される基から選択され、R2は、-NR3R4又は-OR3であり、式中、R3及びR4は、H、メチル、エチル、ヘキシル、ドデシル及びヘキサデシルから独立して選択され、好ましくは、R2は-OH又は-NH2である。より好ましくは、R1はアセチル又はパルミトイルであり、R2は-NH2である。
【0124】
好ましい実施形態では、アシル基は、ペプチドの少なくとも1つのアミノ酸のN-末端に結合される。
【0125】
本発明の実施形態では、ペプチドは、側鎖保護基を含むように修飾される。側鎖保護基は、ベンジルもしくはベンジルベースの基、t-ブチルベースの基、ベンジルオキシカルボニル(Z)基、及びアリルオキシカルボニル(alloc)保護基を含む基の1つ以上でありうる。側鎖保護基は、アキラルのグリシンなどのアキラルアミノ酸から誘導されうる。アキラルアミノ酸の使用は、得られたペプチドを安定化する助けとなり、本発明の合成経路を容易にもする。好ましくは、ペプチドは、修飾されたC-末端、好ましくはアミド化されたC-末端を更に含む。アキラル残基は、α-アミノイソ酪酸(メチルアラニン)でありうる。使用される特定の側鎖保護基は、ペプチドの配列及び使用されるN-末端保護基のタイプに依存することが理解されるであろう。
【0126】
本発明の一実施形態では、ペプチドは、ポリエチレングリコールポリマー又は分子量を増加する化合物などの他の化合物の1以上に複合体化される、結合される、又は融合される。分子量を増加する化合物は、典型的には、得られる複合体の10~90%、又は20~50%まで分子量を増加する任意の化合物であり、200~20,000、好ましくは500~10,000の分子量を有しうる。分子量を増加する化合物は、PEG、任意の水溶性(両親媒性又は親水性)ポリマー部分、PEGのホモポリマーもしくはコポリマー、PEGのモノメチル置換ポリマー(mPEG)及びポリオキシエチレングリコール(POG)、ポリリシン、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸、L-コンホーメーションの特定のもの、アルブミン、ゼラチン、脂肪酸、多糖、脂質アミノ酸(lipid amino acid)及びデキストランなどの薬理学的に不活性なタンパク質でありうる。ポリマー部分は、直鎖又は分岐鎖であってよく、500~40000Da、5000~10000Da、10000~5000Daの分子量を有しうる。この化合物は、tatペプチド、ペネトラチン(penetratin)、pep-1などの、任意の適切な細胞透過性化合物でありうる。この化合物は、抗体分子でありうる。この化合物は、親油性部分又はポリマー部分でありうる。
【0127】
親油性置換基及びポリマー置換基は当技術分野で公知である。親油性置換基は、アシル基、スルホニル基、N原子、O原子又はS原子を含み、エステル、スルホニルエステル、チオエステルアミド又はスルホンアミドの部分を形成するものである。親油性部分は、4~30個の炭素原子、好ましくは8~12個の炭素原子を有する炭化水素鎖を含みうる。これは、直鎖もしくは分岐鎖、飽和もしくは不飽和であってよい。炭化水素鎖は、更に置換されていてもよい。これは、シクロアルカン又はヘテロシクロアルカンでありうる。
【0128】
ペプチドは、N-末端、C-末端又はその両方で修飾されうる。ポリマー又は化合物は、好ましくは、アミノ基、カルボキシル基又はチオ基に結合され、任意のアミノ酸残基の側鎖のN-末端又はC-末端によって結合されうる。ポリマー又は化合物は、任意の適切な残基の側鎖に複合体化されうる。
【0129】
ポリマー又は化合物は、スペーサーを介して複合体化されうる。スペーサーは、天然又は非天然アミノ酸、琥珀酸、リシル、グルタミル、アルパラギル、グリシル、β-アラニル、γ-アミノブタノイルでありうる。ポリマー又は化合物は、エステル、スルホニルエステル、チオエステル、アミド、カルバメート、ウレア、スルホンアミドを介して複合体化されうる。当業者は、記載した複合体を調製する適切な手段を知っている。
【0130】
ペプチドは、例えばこれらの循環半減期(circulating half-life)を高めるために、ポリマーへの共有結合での複合体化により化学的に修飾されうる。例示的なポリマー及びこのようなポリマーをペプチドに結合する方法は、米国特許第4,766,106号明細書(U.S. Pat. No 4,766,106)(特許文献11)、米国特許第4,179,337号明細書(U.S. Pat. No 4,179,337)(特許文献12)、米国特許第4,495,285号明細書(U.S. Pat. No4,495,285)(特許文献13)、及び米国特許第4,609,546号明細書(U.S. Pat. No 4,609,546)(特許文献14)に例示されている。追加の具体的ポリマーは、ポリオキシエチル化ポリオール及びポリエチレングリコール(PEG)部分を含む。
【0131】
本発明のペプチドは、保存安定性、薬動力学、及び/又は、有効性、選択性及び薬物相互作用などのペプチドの生物活性の任意の側面を操作するために1以上の修飾を受けうる。ペプチドが受ける化学的修飾は、ポリエチレングリコール(PEG)、モノメトキシプロピレングリコール、デキストラン、ポリ(N-ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、プロピレングリコールホモポリマー、ポリプロピレンオキシド/エチレンオキシドコポリマー、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチル化ポリオール(例えばグリセロール)、及びポリビニルアルコール、コロミン酸又は他の炭水化物ベースのポリマー、アミノ酸のポリマー、及びビオチン誘導体の1つ以上のペプチドへの複合体化を含むが、これらに限定されない。Cys残基でのタンパク質のPEG複合体化は、例えば、Goodson, R. J. & Katre, N. V. (1990) Bio/Technology 8, 343(非特許文献20)及びKogan, T. P. (1992) Synthetic Comm. 22, 2417(非特許文献21)に開示されている。
【0132】
修飾ペプチドはまた、1以上の残基が修飾された(即ち、ホスホリル化、サルフェーション、アシル化、PEG化などによって)配列、及び元の配列に対して修飾された1以上の残基を含む突然変異体を含みうる。アミノ酸配列はまた、検出可能なシグナルをもたらすことができる標識で、直接的又は間接的に修飾さてもよく、このような標識は、放射性同位体、蛍光、及び酵素標識を含むが、これらに限定されない。蛍光標識は、例えば、Cy3、Cy5、アレクサ(Alexa)、BODIPY、フルオロセイン(例えば、FluorX、DTAF、及びFITC)、ローダミン(例えばTRITC)、オーラミン、テキサスレッド、AMCAブルー、及びルシファーイエローを含む。好ましい同位体標識は、3H、14C、32P、35S、36Cl、51Cr、57Co、58Co、59Fe、90Y、125I、131I、及び286Reを含む。好ましい酵素標識は、ペルオキシダーゼ、β-グルクロニダーゼ、β-D-グルコシダーゼ、β-D-ガラクトシダーゼ、ウレアーゼ、グルコースオキシダーゼプラスペルオキシダーゼ、及びアルカリ性ホスファターゼを含む(例えば、米国特許第3,654,090号明細書(U.S. Pat. No. 3,654,090)(特許文献15)、米国特許第3,850,752号明細書(U.S. Pat. No. 3,850,752)(特許文献16)、及び米国特許第4,016,043号明細書(U.S. Pat. No. 4,016,043)(特許文献17)参照)。酵素は、カルボジイミド、ジイソシアネート、グルタルアルデヒドなどのような架橋分子と反応することにより複合体化されうる。酵素標識は、視覚的に検出されうるか、又は、熱量測定技術、分光学的技術、蛍光分光学的技術、電流測定技術もしくは気体定量技術によって測定されうる。アビジン/ビオチン、チラミドシグナル増幅(TSA(商標))などの他の標識システムは、当技術分野で公知であり、商業的に利用可能である(例えば、ABCキット、Vector Laboratories, Inc.、Burlingame、calif.、NEN(登録商標)、Life Science Products Inc.、Boston、Mass.参照)。
【0133】
一実施形態では、ペプチド、変異体及び/又は組成物は、薬物性能の能力を増加するために修飾される。一実施形態では、ペプチド、変異体及び/又は組成物は、安定性を高め、浸透性を高め、維持能力を高め、毒性を除き、及び/又は半減期を増加するために修飾されうる。修飾は、上述したとおりでありうる。例えば、修飾は、N及びC-末端を保護することであり得、修飾されたアミノ酸、環化、アミノ酸の置換、及び/又はマクロ分子又は大きなポリマー又は長寿命の血漿タンパク質への複合体化でありうる。半減期を延ばす戦略は、Strohlら(Strohl, et al, BioDrug, 2015)(非特許文献22)、Schlapschyら(Schlapschy, et al, Protein Eng Des Sel. 2013)(非特許文献23)、Podust,VNら(Podust, VN, et al, Protein Eng Des Sel. 2013)(非特許文献24)、Zhang,Lら(Zhang, L et al, Curr Med Chem. 2012)(非特許文献25)、Gaberc-Porekar,V,ら(Gaberc-Porekar, V, et al, Curr Opin Drug Discov Devel. 2008)(非特許文献26)によって記載されているとおりでありうる。例として、PEG化、脂質化(ペプチド側鎖への脂肪酸の共有結合)、Fcドメイン及びヒト血清アルブミンへの融合、親水性アミノ酸ポリマー、例えばXTEN又はPASとの融合、及び/又は半減期延長タンパク質との融合を使用することが含まれる。
【0134】
ペプチドのin vivoでの半減期を延ばすためのペプチドの修飾は、例えば、以下の文献に記載されている。
【0135】
Strategies to improve plasma half life time of peptide and protein drugs. Werle M, Bernkop-Schnurch A. Amino Acids. 2006 Jun;30(4):351-67(非特許文献27)。
【0136】
長期作用性ペプチド及びタンパク質薬剤の明らかな利点により、このような化合物の血漿半減期を延ばす戦略は、非常に要求されている。短い血漿半減期は、一般に、速い腎クリアランス、並びに体循環の間に起こる酵素的分解による。ペプチド/タンパク質の修飾は、長い血漿半減期につながりうる。ソマトスタチンの全アミノ酸量を短くすることによって、及びL-類似アミノ酸をD-アミノ酸で置換することによって、ソマトスタチンの数分のみと比較して、誘導オクトレオチド(deviate octreotide)の血漿半減期は1.5時間であった。INF-α-2bのPEG(2,40K)複合体は、天然のタンパク質と比較して330倍長い血漿半減期を示した。N-及びC-末端の修飾又はPEG化などの血漿半減期を延ばすための可能な戦略の概説、及び薬剤修飾の有効性を評価する方法を提供することがこのレビューの目的であった。更に、ヒト血液、肝臓及び腎臓の最も重要なタンパク質分解酵素、並びにそれらの開裂特異性及びそれらに対する阻害剤についての基本データが、体循環中のペプチド及びタンパク質薬剤の酵素的開裂を予測するために提供される。
【0137】
Strategic Approaches to Optimizing Peptide ADME Properties. Li Di AAPS J. 2015 Jan; 17(1): 134-143(非特許文献29)
【0138】
タンパク質分解からペプチドを安定化するための戦略
【0139】
構造の修飾を通してペプチドの安定性を高めるために、多くのアプローチが利用可能である。幾つかのアプローチは安定性を改善するだけでなく、他のADME特性を高める。例えば、環化は、安定性と透過性を増加させることができ、マクロ分子への複合体化は、安定性改善し、腎クリアランスを低下することができる。ペプチドの安定性及びADME特性を改善しながら、有効性を維持し、毒性を防ぐことが重要である。
【0140】
・ N-及びC-末端を保護すること
多くの、血液/血漿、肝臓又は腎臓におけるタンパク質分解酵素はエキソペプチダーゼ、アミノペプチダーゼ及びカルボキシぺプチダーゼであり、これらは、N-及びC-末端からペプチド配列を分解する。N-及び/又はC-末端の修飾は、ペプチドの安定性を改善できることが多い。多くの例は、N-アセチル化及びC-アミノ化がたんぱく質分解に対する耐性を増加することを報告している。
【0141】
・ L-アミノ酸をD-アミノ酸で置換すること
天然のL-アミノ酸を非天然のD-アミノ酸で置換することは、タンパク質分解酵素の基質認識及び結合親和性を低下し、安定性を高める。一例はバソプレシンであり、これはL-Argを含有し、ヒトにおいて10~35分の半減期を有する。D-Arg類似体、デスモプレシンは、健康なヒトボランティアにおいて、3.7時間の半減期を有する。がん関連プロテアーゼのウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化剤(uPA)の二環式ペプチド阻害剤の研究では、特定のグリシンをD-セリンで置換すると、マウス血漿において、1.8倍に有効性が改善されるのみでなく、4倍に安定性を増加する。
【0142】
・ アミノ酸の修飾
天然アミノ酸の修飾は、立体障害を導入すること、又は酵素認識を妨害することによってペプチドの安定性を改善することができる。例えば、ゴナドトロピン放出ホルモンは、非常に短い半減期(分)を有するが、1つのGlyがt-ブチル-D-Serで置換され、別のGlyがエチルアミドによって置換されているブセレリンは、ヒトにおいて非常に長い半減期を有する。
【0143】
・ 環化
本発明のペプチドは環化されうる。環化はコンホーメーションの束縛を導入し、ペプチドの柔軟性を低下し、安定性及び透過性を高める。官能基に依存して、ペプチドは、頭-尾(head-to-tail)、頭/尾-側鎖、又は側鎖-側鎖(side-chain-to-side-chain)で環化されうる。環化は、一般に、ラクタム化、ラクトン化、及びスルフィドベースのブリッジ(架橋(bridge))を通して達成される。ジスルフィドのブリッジ(bridge)は、折り畳み及びコンホーメーションの束縛を生じ、これらは有効性、選択性及び安定性を改善しうる。ジスルフィド結合が豊富な多くのペプチド、例えばリナクロチド(linaclotide)、レピルジン(lepirudin)及びジコノチド(ziconotide)が、市場に、又は前臨床もしくは臨床開発にある。一実施形態では、ペプチドは、ペプチドのアミノ末端とカルボキシ末端との間で環化される。一実施形態では、ペプチドは側鎖の間で環化される。一実施形態では、環状ペプチドはホモデチック環状ペプチド、環状イソペプチド、環状デプシペプチド、又は単環式もしくは二環式ペプチドから選択される。ペプチドの環化の方法は、以下に記載されている。
【0144】
Jensen, Knud (2009-09-01). Peptide and Protein Design for Biopharmaceutical Applications. John Wiley & Sons. ISBN 9780470749715(非特許文献30)
【0145】
Wenyan, Xu; Jun, Tang; Changjiu, Ji; Wenjun, He; Ninghua, Tan (2008). "Application of a TLC chemical method to detection of cyclotides in plants". Science Bulletin. 53 (11): 1671-1674. doi:10.1007/s11434-008-0178-8(非特許文献31)
【0146】
Borthwick AD (May 2012). "2,5-Diketopiperazines: Synthesis, Reactions, Medicinal Chemistry, and Bioactive Natural Products". Chemical Reviews. 112 (7): 3641-3716. doi:10.1021/cr200398y. PMID 22575049(非特許文献32)
【0147】
Barber, Carla J. S.; Pujara, Pareshkumar T.; Reed, Darwin W.; Chiwocha, Shiela; Zhang, Haixia; Covello, Patrick S. (2013). "The Two-step Biosynthesis of Cyclic Peptides from Linear Precursors in a Member of the Plant Family Caryophyllaceae Involves Cyclization by a Serine Protease-like Enzyme". Journal of Biological Chemistry. 288 (18): 12500-12510. doi:10.1074/jbc.M112.437947. PMC 3642298. PMID 23486480(非特許文献33)
【0148】
Wenyan Xu; et al. (2011). "Various mechanisms in cyclopeptide production from precursors synthesized independently of non-ribosomal peptide synthetases". Acta Biochimica et Biophysica Sinica. 43 (10): 757-762. doi:10.1093/abbs/gmr062. PMC 3180235. PMID 21764803(非特許文献34)
【0149】
Wenyan Xu; et al. "Plant Cyclopeptides and Possible Biosynthetic Mechanisms"(非特許文献35)
【0150】
David J. Craik (17 March 2006). "Seamless Proteins Tie Up Their Loose Ends". Science. 311 (5767): 1563-7. doi:10.1126/science.1125248. PMID 16543448(非特許文献36)
【0151】
マクロ分子への複合体化
マクロ分子(例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、アルブミン)への複合体化は、ぺプチドの安定性を改善し、腎クリアランスを減少する有効な戦略である。
【0152】
腎クリアランス
多くのペプチドは、in vitroの薬理学的活性の期待を示すが、in vivoでの半減期(分)が非常に短いため、in vivoでの実証に失敗する。ペプチドの迅速なクリアランス及び短い半減期は、これらがうまく薬剤へ開発されるのを阻む。体循環からのペプチドの迅速なクリアランスの主要な原因は、酵素的タンパク質分解又は/及び腎クリアランスである。糸球体は、約8nmの孔サイズを有し、MW<2~25kDaを有する親水性ペプチドは、腎臓の糸球体を通る迅速な濾過の影響を受ける。ペプチドは、尿細管を通して容易に再吸収されないので、これらは、しばしば、高い腎クリアランス及び短い半減期を有する。ペプチドのクリアランスの他のマイナーな経路は、プロテアソーム及び肝臓によるエンドサイトーシス及び分解である。動物モデルにおける全身及び腎クリアランスの間の比較は、腎クリアランスが主要な排せつ経路であると思われるかどうかに関する有益な情報を提供する。
【0153】
腎障害のある患者については、腎機能障害を持つ患者の不適切な投薬が毒性及び効果のない治療の原因になるので、蓄積及び薬物への高い暴露を防止するために、用量の調節がペプチド薬剤について必要でありうる。幾つかの戦略がペプチドの腎クリアランスを低下させ、半減期を延ばすために開発されている。これらは、次に概説される。
【0154】
・ 血漿タンパク質結合を増加する
ペプチドの腎クリアランスは、ペプチドが膜タンパク質又は血清タンパク質に結合されたときに低下される。一例は、内分泌腫瘍の治療の環状ペプチド薬剤のオクトレオチドであり、これはリポプロテインに結合(非結合分率(fraction unbound)0.65)することによりヒトで約100分の半減期を有する。
【0155】
・ アルブミン結合性小分子への共有結合
アルブミン結合性小分子をペプチドに共有結合すると、強く結合した小分子を介してアルブミンと間接的に相互作用することにより、糸球体ろ過を低下し、タンパク質分解の安定性を改善し、半減期を延ばす。
【0156】
・ 大きなポリマーへの複合体化
大きな合成又は天然ポリマー又は炭水化物へペプチドを複合体化すると、それらの分子量及び流体力学的体積を増加することができ、これによって、これらの腎クリアランスが低下する。ペプチドの複合体化に使用される一般的ポリマーはPEG、ポリシアル酸(PSA)、及びヒドロキシエチルデンプン(HES)である。
【0157】
・ 長寿命血漿タンパク質への融合
アルブミン及び免疫グロブリン(IgG)フラグメントなどの血漿タンパク質は、ヒトで19~21日の長い半減期を有する。高いMW(67~150kDa)のため、これらのタンパク質は、低い腎クリアランスを有し、新生児Fc受容体(FcRn)へのこれらの結合は、血管上皮による食作用を通しての排せつを低下する。アルブミン又はIgGフラグメントへのペプチドの共有結合は、腎クリアランスを低下し、半減期を延ばす。
【0158】
バイオをよりよいものにする戦略としての生物製剤の半減期を延ばすための融合タンパク質(Fusion Proteins for Half-Life Extension of Biologics as a Strategy to Make Biobetters)
【0159】
William R. Strohl BioDrugs. 2015; 29(4): 215-239(非特許文献37)
【0160】
Schlapschy, M, Binder, U, Borger, C et al. PASYlation: a biological alternative to PEGylation for extending the plasma half-life of pharmaceutically active proteins. Protein Eng Des Sel. 2013;26(8):489-501(非特許文献38)
【0161】
Podust, VN, Sim, BC, Kothari, D et al. Extension of in vivo half-life of biologically active peptides via chemical conjugation to XTEN protein polymer. Protein Eng Des Sel. 2013;26(11):743-53(非特許文献39)
【0162】
Zhang, L, Bulaj, G. Converting Peptides into Drug Leads by Lipidation. Curr Med Chem. 2012;19(11):1602-18(非特許文献40)
【0163】
Gaberc-Porekar, V, Zore, I, Podobnik, B et al. Obstacles and pitfalls in the PEGylation of therapeutic proteins. Curr Opin Drug Discov Devel. 2008;11(2):242-50(非特許文献41)
【0164】
By Dr Ronald V. Swanson - Long live peptides evolution of peptide half-life extension technologies and emerging hybrid approaches. From Drug Discovery World on line.
Spring 2014(非特許文献42)
【0165】
PEG化(PEGylation)
親水性ポリマーのポリエチレングリコールの長鎖に目的の分子を結合すること、即ちPEG化は、そもそも、免疫系による外来タンパク質の認識を防止するための修飾として着想され、これによって、治療薬(therapeutics)としてのこれらの利用を可能にした。一旦形成されると、非修飾の薬剤に対する抗体は、迅速に中和され、タンパク質薬剤を除去することができる。予想外に、PEG化は、抗体医薬の抗体の非存在下でも、タンパク質の薬物動態を改善する1。単純には、大きな薬剤分子を作成することによって、PEG化は、腎臓によってよりゆっくりと濾過される薬剤を導く。従って、大きさ又は流体力学的半径を増加することが、腎クリアランスを低下させ、半減期を増加するという実験的な観測は、タンパク質及びペプチド薬剤のPEG化のための主要な理由付けとなる。PEG化は、より水溶性のタンパク質又はペプチドを作成すること、及びタンパク質分解酵素による分解からこれらを保護することを含む、分子についての種々の効果を有しうる。PEG化はまた、治療用タンパク質のこれらの類似した細胞性受容体への結合に影響し、通常、親和性を低下しうる。PEGポリマーの大きさ、構造及び結合様式の変化は、結合された薬剤の生物学的活性に影響しうる。
【0166】
第1世代のPEG化方法は試練に満ちていた。しかし、PEG化の化学は非常にシンプルである。このプロセスは、ポリエチレングリコール鎖の、タンパク質又はペプチドの反応性側鎖への共有結合を含む。例えば、PEGは、タンパク質又はペプチドの表面のリジンのアミノ基に容易に結合される2。反応は、pH依存性である。高いpH(8.0以上)で、リジン側鎖のアミノ基は、N-ヒドロキシスクシンイミドを介してPEGに共有結合される。この方法は、典型的には、単一の個別の生成物よりも、タンパク質の異なる部位に結合された異なる数のPEG鎖を含有する生成物のファミリーを生じる3。最初に承認されたPEG化医薬品は、重篤な複合免疫不全用の酵素補充療法としてのウシペグアデマーゼ(Pegademase bovine)(PEG化されたウシアデノシンデアミダーゼ)、及び急性リンパ性白血病の治療用のペグアスパラガーゼ(Pegaspargase)(PEG化されたアスパラギナーゼ)であった1。これらの薬剤は、種々のPEG化された種の複雑な混合物であったが、血清半減期の増加、タンパク質の免役原生の低下を含む天然の酵素を越える改善された治療特性を有していた。PEGの固有多分散性により、品質及びバッチ毎の再現性が困難であった。この制限にもかかわらず、多数のモノ-PEG化された位置異性体の不均一分布物である2種類のPEG化インターフェロン(ペグインターフェロンα-2b及びペグインターフェロンα-2a)がC型肝炎の治療に対してFDA承認されている。これらの薬剤は、2001年及び2002年にそれぞれ販売されるに至った。
【0167】
多くの強化及び変更が基本的なPEG化技術に対してなされている。第2世代のPEG化プロセスは、分岐構造だけでなくPEG結合に対する別の化学の使用を導入した。特に、マレイミド又はヨードアセトアミドなどのシステイン反応性基を持つPEGsは、ペプチド又はタンパク質内の単一残基へのPEG化の標的化を可能にし、最終生成物の不均一性を減少するが、PEG自身の多分散性によりこれを排出しない。
【0168】
PEG化に向けた最初の根本理由は、免役原生を低下することであったが、それにもかかわらず、免役原生PEG化タンパク質の幾つかの例があった。一例は、PEG化された尿酸酸化酵素、即ち痛みを有する患者で血漿尿酸値を低下する酵素である。臨床試験では、痛風を持つ患者のかなり高い割合が治療に応答せず、PEGに特異的な抗体を発生させたが、ウリカーゼタンパク質については発生しなかった2。非免役原生であるとも一般に考えられているPEG化されたリポソームは、幾つかの研究で免役原生であることが見出されている。PEG化されたリポソームは、強い抗-PEG免疫グロブリンM(IgM)応答を引き出す。加えて、PEG-グルクロニダーゼの複数回の注入が、特異的抗-PEGIgM抗体の生成を引き出すことが示され、これによって、身体からPEG修飾されたタンパク質のクリアランスを加速した。
【0169】
修飾剤としてPEGを用いることの主な潜在的欠点は、これが非生分解性であることである。アメリカ食品医薬品局(FDA)は、注入可能な製剤、局所投与製剤、直腸投与製剤及び鼻腔投与製剤を含む医薬品においてビヒクルとして使用するためのPEGを承認している。PEGは、毒性がほとんどなく、腎臓(PEGs<30kDaについて)又は便(PEGs>20kDaについて)のいずれかによってそのまま身体から排せつされる1。動物への幾つかのPEG化タンパク質の繰り返し投与は、尿細管細胞性空胞形成の観測をもたらす。最近、脈絡叢上皮細胞の空胞形成も、大きなPEG(≧40kDa)と複合体形成されたタンパク質で、毒性試験において見出されている。脈絡叢上皮細胞は、脳脊髄液を生じ、血液脳脊髄液関門(blood CSF barrier)を形成する。細胞性空胞形成の長期の陰性の結果は不明であるが、これは幾つかの可能な治療に対して望まない結果を示す。1つの可能な代替は、PEGに代えて生分解性ポリマーで置換することである。ヒドロキシエチルデンプン(HES)等のポリマーは可能な代替である。HESは、非毒性であり、生分解性であり、血液増量剤(blood expander)として使用される。HES化のプロセスは、ペプチドの流体力学半径を増加することによって腎クリアランスを低下することにおいてPEG化と同様に機能するが、生分解性に蓄積に対してより低い傾向が付与されうる。しかし、HES及び他の提案された生分解性ポリマーPEG代替物は、PEGと同様に、多分散性であり、最終生成物と代謝産物の特徴付けを困難にする。両者を和らげる1つの新しい解決は、定義されたポリペプチドをポリマー成分として使用することである。このアプローチは、本開示で後に議論する。
【0170】
脂質化(Lipidation)
ペプチドの半減期を増加するための第2の主要な化学的修飾方法は脂質化であり、これは、ペプチド側鎖への脂肪酸の共有結合を含む4。インスリンの半減期を伸ばすための方法として最初に着想され、当該方法として開発されたものでは、脂質化は、PEG化と同じ半減期の延長の基本的メカニズム、即ち、流体力学半径を増加し、腎臓濾過を低下することを共有する。しかし、脂質部分は、それ自身相対的に小さく、その効果は、循環するアルブミンに対する脂質部分の非共有結合を介して間接的に媒介される。ヒト血清中の大きく(67kDa)、非常に豊富なタンパク質(35~50g/L)であるアルブミンは、生来、脂質を含む分子を身体全体に輸送する機能を持つ。血漿タンパク質への結合も、立体障害によりペプチダーゼによる攻撃からペプチドを保護することができ、重ねて、PEG化で見られるものと類似する。脂質化の1つの意義は、これがペプチドの水溶性を低下するが、ペプチドと脂肪酸の間のリンカーを加工する(engeneering)ことで、例えば、リンカー内でグルタメート又はミニPEGsを使用することによって、これが調節されうることである。リンカーの加工及び脂質部分の変形は、生体内分布の速度を落とすことによって、アルブミンとは独立して、半減期の増加に寄与することができる自己会合(self-aggregation)に影響しうる5。
【0171】
インスリンの先駆的仕事に続いて、種々のペプチド、特に、ヒトグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)類似体、グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド及びGLP-1R/グルカゴン受容体共アゴニストを含む糖尿病スペース(diabetes space)内のペプチドの脂質化が探索されている。2種類の脂質化されたペプチド薬剤が、ヒトにおける使用について現在FDAで承認されている。これらは、両方とも、長期作用型抗糖尿病薬、即ち、GLP-1類似体のリラグルチド及びインスリンデテミルである。
【0172】
PEG化と脂質化の間の、潜在的に、薬理学的に関連する差は、治療上活性なペプチドが非常に大きなPEGに共有結合され、一方、小さな脂肪酸アシルペプチド複合体が大きなアルブミンに非共有結合で結合され、結合及び非結合形態が平衡で存在することである。これは、生体内分布に差を生じ得、これは、異なる組織内に局在化された受容体へアクセスするときに、異なる薬理学を生じる。幾つかの場合では、より制限された生体内分布が望ましい場合があり、他の場合には、大きな組織浸透性が重要でありうる。この問題を取り扱うPEGアプローチの興味のあるバリエーションがSantiらによって開発されており、これには、予想される開裂速度を有する放出可能なPEG複合体が利用される7。
【0173】
PEG化及び脂質化は、両方とも、立体障害を介して遮蔽することによって、及び流体力学半径を増加することを介して循環半減期を延ばすことによって、直接的に又は間接的にプロテアーゼ及びペプチダーゼに対する保護を付与する。両方法は、化学的複合体化を利用し、これらが生物学的に生成されるものであろうと、合成により生成されるものであろと、修飾しているペプチドを生じるのに使用される手段に対して強制的でないということにおいて、柔軟性がある。合成ペプチドを使用する利点は、これらが公知のタンパク質分解開裂のしやすさによる不安定性を含む多くの特定の問題を取り扱うためにデザインされた非天然アミノ酸を取り込むことができるということである。これらは、活性又は可能性が、自由末端に又はC末端アミドなどの修飾された部位に顕著に依存するかどうかの、重要な結合部位の選択に関してもより柔軟性がありうる。
【0174】
古典的遺伝子融合
長寿命の血清タンパク質への古典的遺伝子融合は、PEG又は脂質への化学的複合体とは別の半減期の延長の代替法をもたらす。2種類の主要なタンパク質が、伝統的に、融合パートナーとして使用されており、これらは抗体Fcドメイン及びヒト血清アルブミン(HAS)である。Fc融合は、ペプチド、タンパク質又は受容体細胞外ドメインを抗体のFc部分に融合することを含む。Fcとアルブミンの両方の融合は、ペプチド薬剤の大きさを増加することによって半減期を伸ばすことを実現するだけでなく、両者はまた、身体の自然のリサイクルメカニズム:新生児Fc受容体、FcRnをうまく利用する。FcRnへのこれらのタンパク質のpH依存的結合は、エンドソーム内の融合タンパク質の分解を防止する。これらのタンパク質に基づく融合は、典型的なPEG化又は脂質化されたペプチドよりも非常に長い3~16日の範囲の半減期を有しうる。抗体Fcへの融合は、ペプチド又はタンパク質薬剤の溶解性及び安定性を改善しうる。ペプチドFc融合の例は、デュラグルチド、即ち、現在後期臨床試験にあるGLP-1受容体アゴニストである。ヒト血清アルブミン、脂肪酸アシル化されたペプチドによって開発された同じタンパク質は、他の普及している融合パートナーである。アルビグルチドは、このプラットホームに基づいたGLP-1受容体アゴニストである。Fcとアルブミンの間の主な違いは、Fcの二量体性(dimetic nature)に対するHASの単量体構造であり、これは融合パートナーの選択に依存して二量体又は単量体として融合されたペプチドの提示に導く。ペプチドFc融合の二量体性は、標的受容体が互いに十分近接して空間配置されても、又はそれら自身二量体であっても、アビディティ効果を生じうる。これは望ましいか、又は標的に依存しない。
【0175】
デザインされたポリペプチド融合:XTEN及びPAS
組換え融合の概念の興味をそそる変更は、PEGの機能性類似体である基本的に構造化されていない親水性アミノ酸ポリマーである、融合パートナーとしての、デザインされた複雑さの低い配列の開発である。ポリペプチドプラットホームの固有の生分解性は、PEGに対する潜在的により有益な代替物としてこれを魅力的にする。他の利点は、PEGの多分散性とは対称的な組換え分子の正確な分子構造である。融合パートナーの三次元折り畳みが維持される必要のあるHSA及びFcペプチド融合物と異なり、非構造化パートナーへの組換え融合は、多くの場合、HPLC精製などの高温又は苛酷な条件にかけられる。
【0176】
ポリペプチドのこのクラスの最も進んだものは、XTEN(Amunix)と呼ばれ、864個のアミノ酸長であり、6種のアミノ酸(A、E、G、P、S及びT)より構成される。ポリマーの生分解可能な性質により可能になることは、これが典型的に使用される40kDaPEGsよりもはるかに大きく、付随してより大きな半減期の延長を付与することである。XTENのペプチド薬剤への融合は、本来の分子より60~130倍まで半減期の延長をもたらす。完全に組換えにより生成された2種類のXTEN化された生成物、即ちVRS-859(エキセナチド-XTEN)及びVRS-317(ヒト成長ホルモン-XTEN)が臨床に入っている。フェーズIa試験において、VRS-859には、2型糖尿病を持つ患者において、良好な耐容性を示し、効き目を有することが見出された。VRS-317は、以前に試験されたrhGH生成物と比較して優れた薬物動態学特性及び薬力学特性を記録し、一月に1回の用量の可能性を有する。
【0177】
同様の概念的考察に基づく第2のポリマーは、PAS(XL-Protein GmbH)である9。ランダムコイルポリマーは、わずかに3つの小さな非荷電アミノ酸、即ちプロリン、アラニン及びセリンの更に制限されたセットから構成される。PASの生物物理学的特性と高度に陰性に荷電されたXTENにおける差が、生体内分布及び/又はin vivo活性における差に寄与しうるかどうかはまだ未知であるが、これらのポリペプチドは多数の治療に組み込まれており、融合物の挙動が特徴付けられているので、関連しているであろう。
【0178】
パートナーがFc、HSA、XTEN又はPASであるかどうかにかかわらず、ペプチドタンパク質融合物は、全て、一般的にコード化され、結果として同様の束縛を受ける。1つの制限は、合成ペプチドを使用して非天然アミノ酸を取り込むことができる化学的複合体化を使用する方法とは異なり、天然に存在するアミノ酸のみが取り込まれることである。遺伝子コードを拡張することによってこれを克服する方法が、Ambrx又はSutro等の会社によって開発されているが、これらはまだ広く使用されていない。第2の制限は、ペプチドのN-又はC-末端のいずれかが、パートナーに融合される必要があるということである。しばしば、ペプチド末端は、受容体相互作用に関与し、一方又は両方の末端への遺伝子融合は、活性を大きく損ないうる。PEG又は脂質複合体化の部位は、何処であってもペプチド上であり得、生じた治療剤の生物学的活性を最大にするように最適化されうる。
【0179】
合成ペプチドを半減期の延びたタンパク質と組み合わせるハイブリッド法
遺伝子融合は、歴史的に、半減期の大きな延長についての可能性を提示してきたが、これらは、非天然アミノ酸の結合部位及び取り込み又はペプチド骨格への修飾の柔軟性に関する化学的複合体化、即ちPEG化及び脂質化を用いる方法によってもたらされる利点を欠く。半減期の延長のための、遺伝子融合と化学的複合体化の利点を組み合わせる初期の努力の1つは、後に、バイオテック社(the biotech company)のCovX10,11に対する基礎を形成した技術である、La Jollaのスクリップス研究所(Scripps Research Institute)での研究によって行われた。触媒的アルドラーゼ抗体を使用し、これらの研究者は、この抗体の活性部位のリジンが、ペプチド又は小分子に取り込まれたβ-ジケトンと可逆的な共有結合性エナミン結合を形成するプラットホームを開発した。得られた複合体は、CovXBody(商標)と命名された。このアプローチは、抗体の長い血清半減期を有するペプチド薬剤又は小分子の機能的品質を、遺伝子融合を通してではなく、むしろ化学的結合を通して組み合わせる。この技術の初期の例示に続いて、研究者は、インテグリンを標的とするペプチド模倣型薬理活性基(ペプチドミメティック・ファルマコフォア(peptidomimetic pharmacophore))を基礎とするCovX-Body(商標)プロトタイプの使用を拡張した。この構成に基づく少なくとも3つの分子、即ちGlp-1RアゴニストであるCVX-098、アンジオポイエチン-2結合ペプチドであるCVX-060、及びトロンボスポンジン模倣体であるCVX-045が臨床開発に入っている。
【0180】
最近、XTENポリペプチドはまた、PEGに対して、これを更に直接に類似体にする化学的複合体形成様式で使用されている。この方法を用いて生成された、XTEN化されたペプチドの最初の例は、GLP2-2G-XTENであり、この例では、ペプチドがマレイミド-チオール化学を用いてXTENタンパク質ポリマーに化学的に複合体形成される。化学的に複合体形成されたGLP2-2GXTEN分子は、比較可能なin vitro活性、in vitroでの血漿安定性、及び組換えにより融合されたGLP2-2G-XTENに匹敵するラットでの薬動力学を示した。
【0181】
XTEN又はPASポリペプチドの完全にデザインされた配列中のリジン又はシステイン側鎖などの反応性基の数及び間隔は、これらが構成される制限されたアミノ酸セットにより、部位特異的な(site-directed)変化を通して正確に制御されうる。これは、その配列が多くの反応性基に天然に含有されるFc又はアルブミンを使用する方法を越える程度の追加の柔軟性を提供し、顕著に特化された活性部位の反応性残基に依拠するCovX技術とは対称的な位置にある。加えて、XTEN又はPASの三次構造(tertiary structure)の欠如は、カップリングで及び複合体の精製で使用される条件及び化学を越えたより大きな柔軟性を提供するはずである。
【0182】
まとめとして、利点を組み合わせ、化学的複合体形成及び遺伝子融合法の個別の制限を克服するハイブリッドペプチド半減期延長法が出現している。これらの方法は、単に天然のL-アミノ酸から構成される制限から、又は、N-又はC-末端のいずれかで融合された線状の一方向のペプチドとして単に構成される制限から、長期の半減期を付与するが、治療用ペプチド部分を含まない組換えポリペプチドベースのパートナーに基づく分子の生成を可能とし、これによって、広範囲の、長期間作用するペプチドベースの薬剤に対する扉が開かれる。
【実施例】
【0183】
本発明は、特定の実施例を参照して説明される。これらは、単に具体例であり、例示を目的とするものである。これらは、独占的に請求され、又は説明された本発明の範囲を何れの様式においても制限することを意図しない。これらの実施例は、本発明を実施するために現在考慮されるベストモードを構成する。
【0184】
(実施例1)
ペプチド受容体/標的タンパク質の同定
方法論
CY5-標識されたペプチド(配列番号1)(0.01及び0.05μg/ml)を5528ヒト細胞膜タンパク質(plasma membrane proteins)を発現する固定化されたHEK293細胞に対する結合についてスクリーニングした。スクリーニングは、2つの複製を通して実施され、最初の該当物(hits)を選択し、より特異的な確認アッセイでスクリーニングした。
【0185】
結果
図3は、ヒト膜タンパク質に対する本発明のペプチドの結合親和性を例示する。3種の高選択的標的物(Three Highly Selective Targets)、即ちPanx1、SLC35F2、及びTACR1を同定した。生物学、組織分布、及び複数のアイソホーム(Isoforms)に結合するペプチドに基づいて、PANX1がペプチドに対する一次標的であることが結論づけられた。
【0186】
(実施例2)
本発明のペプチドは、不死化肝細胞においてIL-8の分泌を低下する
方法論
HepG2細胞を、24時間ペプチド(5ng/ml)で処理し、次いで、100ng/mlのLPSで24時間処理した。データは、少なくとも2つの独立した実験の平均±SEMで表した(*p<0.05 **p<0.01 ***p<0.001)。
【0187】
結果
図4に例示されるように、本発明のペプチドはIL-8の分泌を低下した。
【0188】
肝線維症の特徴は、IL-8などの炎症マーカーの分泌を増加させることである。このマーカーの発現を低下することは、このペプチドがこの疾患の状況において効能を有することを示す。
【0189】
(実施例3)
ヒト一次肝星細胞(human primary hepatic stellate cell)における抗線維化活性
方法論
ヒト星細胞をTGF-β1で処理し、α-SMA(平滑筋作用、線維症に対する一次マーカー)の発現を刺激し、次いで、ペプチド(5nM、配列番号1)で処理した。細胞の共焦点画像を取得した。
【0190】
結果
図5は、処理前後のヒト星細胞の共焦点画像を示す。α-SMA発現の減少は、ペプチドの抗線維化活性の証拠である。このペプチドは、等しいモル用量で、エラフィブラノル(Elafibranor)よりも性能が優れていた。
【0191】
(実施例4)
PANX1活性化後の細胞内ペプチド濃度
方法論
本発明のペプチド(配列番号1)を細胞(Caco2)に添加した。PANX1チャネルが、細胞外カルシウムレベルを増加することによって細胞内で活性化された。ペプチドの細胞内濃度は活性化の前後で測定された。
【0192】
結果
特定の生理学的条件下、即ち細胞外ATP又はカルシウムの増加で、パンネキシンチャネルが活性化され、シグナル伝達分子のより大きな流入を可能にする。
図7は、ペプチドの細胞内濃度は、チャネルが活性化されるときに増加されることを示す。これは、ペプチドが、好ましくは、活性化された条件下又は疾患の条件下でチャネルと相互作用するであろうことの証拠である。
図7における緑色素は、膜の色素であり、赤色色素は、標識されたペプチドである。
【0193】
(実施例5)
Retrogenix Panx1の初期同定
多数の画像化研究が実施され、ペプチド(配列番号1)の標的細胞型との相互作用の動力学及び性質を決定した。これらの実験は、ペプチドの標的が細胞内又は細胞外タンパク質であるかどうかを決定することを必要とした。
図8の代表的な画像から、このペプチドのシリーズが、細胞透過に必要であること、及び、ヒト骨格筋細胞(HSKMC細胞)(赤色蛍光)において60分のインキュベーションの後に十分な細胞内蓄積を示したことが決定された。標識されていないCY5色素を用いた対照染色は、この細胞型に取り込まれなかった。この初期の研究は、ペプチド標的が、初期エンドソームに対するマーカーであるEEA1色素と細胞内共染色され、共局在化されることを確認すると同時に、このペプチドが、内側でタンパク質を結合した細胞外膜を細胞内に輸送する役を担っているこれらの細胞内オルガネラと共に配置されているようであることを示した。ゴルジ装置などの他の内部オルガネラ及びミトコンドリアに対するマーカーでの同様の共染色は、オーバーラップを示さなかった。
【0194】
培養物中のペプチドの細胞外膜結合を確認するために、受容体スクリーニングを実施した(Retrogenix)。Retrogenixの細胞マイクロアレイ技術を、CY5標識したペプチド(pep_HTWCFL、配列番号1のCY5標識された変形物)の特異的細胞表面標的相互作用についてのスクリーニングに使用した。
【0195】
異なるインキュベーション条件を使用した、固定した形質転換していないHEK293細胞への試験ペプチドの結合のレベルの研究は、適切なスクリーニング条件である30分間の固体化された細胞で0.01μg/mlの試験ペプチドを示した。この条件下で、試験ペプチドは、固定化されたヒトHEK293細胞に対する結合についてスクリーニングされ、5528全長のヒト細胞膜タンパク質を個別に発現し、タンパク質を分泌した。この初期スクリーニングは、43の一次該当物(hits)に関連した。
【0196】
各一次該当物(hit)は、次に、2種類の対照受容体(CD20(MS4A1)及びEGFR)と共に再発現され、対照ペプチドと同じ濃度の0.01μg/ml及び0.05μg/mlの試験ペプチド、及び他の陽性対照及び陰性対照処理を用いて再試験された。試験ペプチドに対して9つの特定の相互作用が見出された。これらの中には、PANX1(2つの別々の発現クローンから)、SLC35F2、及びTACR1があった。
【0197】
生細胞のマイクロアレイ実験でのフォローアップにおいて、試験ペプチドは、TACR1(サブスタンスP受容体)及びSLC35F2との特異的相互作用を示し、このことは、これらが機能的に関連する相互作用でありうるというより大きな証拠を提供する。固定化された細胞について、PANX1は、バックグラウンドに対して最も大きなシグナルを示し、2つの別々の発現クローンから観測された。固定化された細胞と生細胞の間の実験的差は、生細胞で見られるシグナルの欠如の説明となりうる。
【0198】
図3は、結合性パートナー及び導かれた該当物(hits)の強度を示す。
【0199】
(実施例6)
Panx1カルシウム結合
ペプチド(配列番号1)と結合するPanx1を、Ca2+流入アッセイ及びフローサイトメトリーを用いて試験した。Panx1は、細胞膜でのCa2+イオン及びATPのバランスを調節する重要な役割を担う。この関係は、Panx1の活性をモニターするために活用されうる。Panx1をブロックすることは、ATP刺激に応答して細胞内Ca2+流入の有意な減少を導く。
【0200】
THP-1細胞を、細胞内Ca2+イオンを標識するために30分間FITC蛍光色素とインキュベートした。次に、細胞をATPで刺激し、細胞からのカルシウム流入を駆動し、次いで、この蛍光の増加をフローサイトメトリーで検出する。ATP刺激の前に、カルシウムの流れの低下が観測されるかどうか、この低下がPanx1に対するペプチドの結合によって引き起こされ、従ってATPで媒介されるカルシウム流れを阻害するがどうかを研究するために、細胞を1μM用量のペプチドでインキュベートした。
【0201】
これらの結果は、
図9(A)~(C)に示されている。
【0202】
(実施例7)
APAP(パラセタモール)肝傷害試験
ペプチド(配列番号1)の作用メカニズムに対する極めて重要なものとしてPanx1を例示しているが、本発明者らは、APAP(N-アセチル-パラ-アミノフェノール、パラセタモール)についての治療効果を示したこのペプチド(及びその変異体であるH-{d}W{d}KDE{d}AGKPL{d}V{d}K-OH(配列番号86)及びDEAGKPLV(配列番号90))が、肝傷害のモデルを誘導するかどうかを試験した。Panx1は、肝疾患の病因に大きく影響され、APAPの過剰用量でひどく上方調節される。
【0203】
初期のパイロット試験は、C57BL/6マウス対生理食塩水対照において、200mpkのAPAPが、APAPで誘導される肝傷害の生化学的特徴であるアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)及びアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)の両レベルを有意に増加することを示した。従って、これは、肝傷害試験(trial)での使用に対する最適濃度と考えられる。
【0204】
8週齢のオスC57BL/6マウスを、APAP(200mg/kg)又は生理食塩水投与に先だって、一夜(約16時間)絶食した。最初のAPAPの投薬の後1.5時間に、ペプチド及び10PANX1(高用量で効果のある10Panx1の薬理学的阻害剤)を、10mg/kgの用量で静脈内(IV)で投与し、同じ肝酵素のレベルが2.25及び6時間で観測された。
【0205】
治療剤(treatments)は、予め決められた時間(APAP注入後又は生理食塩水注入後1.5時間)に基づいて投与された。各グループには8~10匹のマウスがおり、これは、PK分析用の3~4匹のマウス及び有効性の終点のための5~6匹のマウスを含む。投与の経路は、試験品についてはIVであり、APAP(200mg/kg)に対してはIPであった。
【0206】
早い時間点では、全てのペプチドは最大80%ALTのレベルを低下し、これに対し、APAP/生理食塩水対照及び非常に性能の優れた10PANXは、ALTで41%の減少を誘導した。同様の傾向が、2.25時間でのASTで観測された。6時間では、APAP/生理食塩水グループのALT及びASTレベルは、それぞれ4倍及び2倍増加した。10PANXの活性は、この時間点で大きく安定したままであり、45%~53%の両肝酵素の有意でない減少を誘導した。ペプチドで処理されたマウスで測定されたAST及びALTのレベルは、APAP対照動物の範囲内で6時間で増加した。これは、最初の2時間で可能な機能性を示すように思われ、そのうえ、マウスで少なくとも3倍長く持続する10PANX1とは異なり、同じように代謝されるペプチドの薬力学的プロファイルの兆候を示す(
図10)。
【配列表】
【国際調査報告】