(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-27
(54)【発明の名称】X線回転陽極
(51)【国際特許分類】
H01J 35/10 20060101AFI20230317BHJP
【FI】
H01J35/10 N
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022548172
(86)(22)【出願日】2020-11-09
(85)【翻訳文提出日】2022-09-29
(86)【国際出願番号】 EP2020081430
(87)【国際公開番号】W WO2021160303
(87)【国際公開日】2021-08-19
(31)【優先権主張番号】GM50022/2020
(32)【優先日】2020-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390040486
【氏名又は名称】プランゼー エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】110003317
【氏名又は名称】弁理士法人山口・竹本知的財産事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【氏名又は名称】山口 巖
(74)【代理人】
【識別番号】100133167
【氏名又は名称】山本 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100169627
【氏名又は名称】竹本 美奈
(72)【発明者】
【氏名】ファイスト,クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ガーゾスコビッツ,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】シャッテ,ユルゲン
(72)【発明者】
【氏名】プランケンシュタイナー,アルノ
(72)【発明者】
【氏名】ビーネルト,クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】フーバー,カール
(57)【要約】
本発明は、炭素系材料からなる環状基体(11、11’、11”)と、前記基体(11、11’、11”)の焦点軌道側に配置された環状の焦点軌道コーティング(12、12’、12”)と、基体に対して半径方向内側に配置された金属の接続部品(13、13’、13”)とを有するX線放射を生成するためのX線回転陽極(10、10’、10”)に関する。前記接続部品の半径方向外側部分は、管状の金属アダプタ(14、14’、14”)によって形成されている。前記アダプタの半径方向外面が、少なくとも部分的に、前記基体の半径方向内面の少なくとも一部に、平面的に且つ材料的結合により、接続されており、前記基体と前記アダプタとの間の材料的結合による接続ゾーンが、前記基体の前記半径方向内面に沿って少なくとも75面積パーセントまで延在している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線放射を生成するためのX線回転陽極(10、10’、10”)であって、
X線回転陽極(10、10’、10”)の回転軸(R)に対して、半径方向内面を有する半径方向内側開口部を有する炭素系材料からなる環状基体(11、11’、11”)と、
前記基体(11、11’、11”)の焦点軌道側に配置された環状の焦点軌道コーティング(12、12’、12”)と、
前記基体に対して半径方向内側に配置され、前記基体(11、11’、11”)を駆動シャフトに接続する役割を果たす金属接続部品(13、13’、13”)と、
を有し、
ここで、前記接続部品(13、13’、13”)の半径方向外側部分が、管状金属アダプタ(14、14’、14”)によって形成され、前記アダプタ(14、14’、14”)の半径方向外面が、前記基体(11、11’、11”)の半径方向内面の少なくとも一部に、少なくとも部分的に、平面的に且つ材料的結合により接続されており、前記基体(11、11’、11”)と前記アダプタ(14,14’,14”)との間の材料的結合による接続ゾーンが、前記基体(11、11’、11”)の半径方向内面に沿って少なくとも75面積パーセントまで延在している、X線放射を生成するためのX線回転陽極。
【請求項2】
前記アダプタ(14、14’、14”)の外周が軸方向に減少することを特徴とする請求項1に記載のX線回転陽極(10、10’、10”)。
【請求項3】
前記アダプタ(14、14’、14”)が回転対称であることを特徴とする請求項1又は2に記載のX線回転陽極(10、10’、10”)。
【請求項4】
前記アダプタ(14、14’、14”)が円錐台状の基本形状を有し、円錐角が155°~205°であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のX線回転陽極(10、10’、10”)。
【請求項5】
前記金属接続部品(13、13’、13”)の半径方向内側部分が、シャフト接続部材(15、15’、15”)によって形成されており、ここで、前記シャフト接続部材(15、15’、15”)が、その半径方向外周において、前記管状アダプタ(14、14’、14”)の半径方向内面に接続され、前記シャフト接続部材(15、15’、15”)の半径方向内側部分が、駆動シャフトとの接続のために使用されることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のX線回転陽極(10、10’、10”)。
【請求項6】
前記シャフト接続部材(15、15’、15”)が、円盤状の基本形状を有し、前記軸方向に垂直な平面内に配置されていることを特徴とする請求項5に記載のX線回転陽極(10、10’、10”)。
【請求項7】
前記シャフト接続部材(15、15’、15”)が、円錐台の基本形状を有しており、ここで、前記円錐角が、90°~100°又は260°~270°であることを特徴とする請求項5に記載のX線回転陽極(10、10’、10”)。
【請求項8】
前記シャフト接続部材(15,15’,15”)が、前記アダプタ(14,14’,14”)の半径方向内面と、前記アダプタの軸方向の高さの40~60%の範囲内で、接続されていることを特徴とする請求項5~7のいずれか1項に記載のX線回転陽極(10,10’,10”)。
【請求項9】
前記シャフト接続部材(15、15’、15”)が、10mm未満の軸方向の厚さを有する薄壁として形成されていることを特徴とする請求項5~8のいずれか1項に記載のX線回転陽極(10、10’、10”)。
【請求項10】
シャフト接続部材(15、15’、15”)の軸方向における最大厚さが、軸方向におけるアダプタの高さの20%未満であることを特徴とする請求項5~9のいずれか1項に記載のX線回転陽極(10,10’,10”)。
【請求項11】
前記アダプタ(14、14’、14”)が、5mm未満の半径方向の厚さを有する薄壁として形成されていることを特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載のX線回転陽極(10、10’、10”)。
【請求項12】
前記アダプタ(14、14’、14”)と前記環状基体(11、11’、11”)とが、互いにはんだ付けされていることを特徴とする請求項1~11のいずれか1項に記載のX線回転陽極(10、10’、10”)。
【請求項13】
前記金属接続部品(13,13’,13”)が、熱ブレーキとして、熱伝導率の低い材料からなる中間部品又は中間層を有することを特徴とする請求項1~12のいずれか1項に記載のX線回転陽極(10、10’、10”)。
【請求項14】
前記金属接続部品(13、13’、13”)が、タングステン、モリブデン及び銅の群からの少なくとも1つの金属、タングステン基合金、モリブデン基合金若しくは銅基合金、又は、タングステン-銅複合材料、モリブデン-銅複合材料若しくは銅複合材料を含むことを特徴とする請求項1~13のいずれか1項に記載のX線回転陽極(10、10’、10”)。
【請求項15】
前記焦点軌道コーティング(12、12’、12”)が存在する焦点軌道側の半径方向外側領域において、環状基体(11、11’、11”)が面取りされていることを特徴とする請求項1~14のいずれか1項に記載のX線回転陽極(10、10’、10”)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1に記載のX線回転陽極に関する。
【背景技術】
【0002】
X線回転陽極は、X線管において使用され、X線管は、例えば、医療診断における画像化プロセスにおいて、又は研究及び産業における材料試験のために、使用される。X線管の作動中、陰極によって放出された電子が、軸を中心に回転するX線回転陽極に向かって加速され、X線は、高エネルギー電子と陽極材料との相互作用の結果として生成される。電子ビームのエネルギーの大部分(約99%)はプロセス中に熱に変換され、放散されなければならない。X線回転陽極の場合、冷却は、通常、主にX線回転陽極の表面からの熱放射によって行なわれる。
【0003】
公知のX線回転陽極は、通常、高温耐性材料(通常、モリブデン合金又はモリブデン合金とグラファイトとの複合体)からなる円盤状又は皿状の基体を有する複合体からなり、この複合体の片側にX線発生材料(通常、タングステン又はタングステン合金)からなる環状の焦点軌道コーティングが配置されている。円盤状又は皿状の基体は、シャフトを介してロータに接続され、このシャフトによって駆動される。X線回転陽極の作動中、焦点軌道コーティングは、電子が衝突する点、即ち焦点、において、極めて高い熱負荷を受ける。焦点は、X線回転陽極の回転に起因して焦点軌道コーティングの表面上を周期的に移動するので、電子は、その間に再び冷却された焦点軌道コーティング材料に連続的に衝突し、熱入力は、X線回転陽極上に迅速に分配され得る。従って、X線回転陽極は、固定陽極よりも著しく高い動力出力で作動させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許公開第20100027754号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第0016485号明細書
【0005】
本発明における関心の的は、低質量を有し、より高い回転周波数に適したX線回転陽極にある。多くの用途では、より高い放射強度が必要とされ、これにより、より高い動力密度と、焦点領域におけるより高い局所的な熱入力とが、もたらされる。これに対処するために、より高い焦点速度に関心があり、これは、所与の焦点軌道直径についてX線回転陽極の回転周波数の増加に相当する。従来のX線回転陽極設計では、最大可能回転周波数は、制限されている:周期的な熱誘起応力に加えて、遠心力がX線回転陽極の材料に作用し、これは、円盤状又は皿状のX線回転陽極の場合、X線回転陽極の内周の領域で最も高くなる周辺方向の応力をもたらす。これらの熱機械的負荷の結果は、金属又は複合体回転陽極における塑性変形であり、これは、特にX線回転陽極の外径領域及び内径領域において、しばしば亀裂形成を伴い、X線回転陽極の耐用年数を制限する。更に、従来の金属回転陽極又は複合体回転陽極の別の欠点は、これらの回転陽極が、高性能用途において、軸受に至る熱流を制御するために薄壁のカップ形状の軸に取り付けられることにある。これにより、全体の高さが大きくなり、機械的剛性が低下する。結果として生じる低周波固有周波数スペクトルでは、最新の高性能回転陽極に必要な高速を実現できない。また、従来の金属回転陽極又は複合体回転陽極は、比較的大きな質量を有し、この質量は、軸受に負荷を与え、高い回転周波数で使用するための障害となる。更なる欠点は、従来の金属回転陽極又は複合体回転陽極において、蓄熱器としての役割を果たす構成要素が低い質量分率を有することである。
【0006】
本発明の課題は、X線回転陽極を更に発展させると共に、軸受が作動中に過負荷になることなく高い回転周波数が可能となるように、可能な限り低い質量を有するX線回転陽極を提供することにある。そのうえ、X線回転陽極は、改善された熱機械的負荷容量を有するべきである。特に、モリブデンをベースとする円盤状又は皿状のX線回転陽極の場合に上述したように発生し得る塑性変形及び亀裂形成は、その発生頻度が大幅に低減されるべきである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この課題は、請求項1に記載のX線回転陽極によって解決される。本発明の有利な発展形態は、従属請求項に記載されている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、炭素系材料からなる環状基体を有する、X線を発生するためのX線回転陽極が提案される。軸方向(これは、その環状基体の軸によって定義され、X線回転陽極の回転軸と一致する。)に関して、環状基体は、2つの対向する端面を有し、作動中に電子ビームに面する端面(焦点軌道面)に環状の焦点軌道コーティングが配置される。X線回転陽極の作動中に、焦点軌道コーティング上に高エネルギー電子が加速され、電子と焦点軌道コーティングの材料との相互作用によって、X線が生成される。(回転軸から外向きに伸び、軸方向に対して直交する平面内にある)半径方向に対して、環状基体は、回転軸に面する半径方向内側にある面、即ち半径方向内面、と、それに対向して半径方向外側にある面、即ち半径方向外面、とを有する。環状基体は、焦点軌道コーティングを機械的に支持する機能を有し、熱吸収及び蓄熱のために重要である。
【0009】
更に、X線回転陽極は、環状基体に対して半径方向内側に配置された金属接続部品を有し、この金属接続部品は、環状基体を駆動シャフトに接続するために使用される。本発明の文脈において、駆動シャフトは、X線回転陽極の一部とはみなされない。
更に、本発明によるX線回転陽極は、金属接続部品の半径方向外側部分が、管状の金属アダプタによって形成されることを特徴とする。管状アダプタは、元々別個の構成要素として製造することができ、この構成要素は、1つ又は複数の他の部品に接続されて金属接続部品を形成する。管状アダプタは、また、モノリシックに製造された接続部品の、一体化された部分部品であってもよく、この場合、管状アダプタは、別個に製造された構成要素ではない。アダプタの半径方向外面(同時に、金属接続部品の半径方向外面に対応する)は、少なくとも部分的に、環状基体の半径方向内面の少なくとも一つのセクションに、平面的に且つ材料的結合により接続されている。環状基体と金属アダプタとの間の材料的結合による接続ゾーンは、環状基体の半径方向内面に沿って、少なくとも75、特に90、特に好ましくは95面積パーセントまで延在する。言い換えれば、環状基体と金属接続部品とは、主に半径方向で互いに当接している。金属接続部品は、環状基体の端面を越えて突出し、その端面に沿って基体に材料的結合により接続されていてもよいが、基体及び接続部品は、主に半径方向において材料的結合により互いに接続されている。
【0010】
金属接続部品の半径方向内側部分は、アダプタに対して半径方向内側に突出する金属シャフト接続部材によって形成される。金属シャフト接続部材は、管状アダプタと同様に、別個の構成要素として製造して材料的結合により管状アダプタに接続することができるが或いは、モノリシックに製造された接続部品の一部分部品であってもよい。シャフト接続部材及び/又は管状アダプタは、好ましくは、薄い壁を有するように設計される。
【0011】
炭素系材料は、特に、グラファイト又は炭素繊維強化炭素(炭素繊維炭素複合体、CFC)を意味すると理解される。グラファイトは、極めて低い密度を特徴とし、高い比熱容量を有し、これは、X線回転陽極が作動中に大量の熱を吸収し貯蔵することを可能にするために重要である。CFC材料は、純粋な炭素マトリックスに埋め込まれた炭素繊維からなる。これらは、材料に高い機械的強度を与える。これらの材料の低い密度は、X線回転陽極の基体を嵩高に設計することを可能にし、その結果、基体は非常に高い熱容量を有し、同時に、X線回転陽極の質量を比較的低く保つことができる。
【0012】
環状とは、本体の半径方向の壁厚が軸方向の延長部(高さ)よりも大きい、本体の中空円筒形状を意味すると理解される。管状とは、本体の半径方向の壁厚が軸方向の高さよりも小さい中空円筒形状を意味すると理解される(壁厚又は高さが変化する場合、半径方向又は軸方向それぞれの最大の広がりを参照されたい)。
【0013】
環状基体又は管状アダプタの幾何学的形状は、幾何学的に正確な中空円筒形状を有する形状に限定されず、即ち、側面の母線は、必ずしも直線である必要はなく、特に湾曲していてもよい。形状は、(連続的である)回転対称性((任意の所望の角度に亘る回転に対する対称性)に限定されず、例えば、n回回転対称性(360°/nの角度に亘る回転に関する対称性)のみを有することもできる。以下では、回転対称性は、任意の角度に亘る回転に関する対称性を指す。
環状基体は、例えば、焦点軌道コーティングが配置されている領域で、焦点軌道側において、半径方向外側に向かって面取りされていてもよい。環状又は管状には、特に、半径方向断面(軸方向を通る平面)の形状、例えば環壁若しくは管壁の厚さ及び/又は外側輪郭が、軸方向において変化する場合、例えば円錐管の場合、が当てはまると解される。管状は、また、特に、壁内に冷却フィンが一体化された管を含む。特に、管状とは、例えば、環状成形体を端面上に支持しその端面上に追加の接続可能性を作り出すために、一部分がフランジのように突出する管も意味するものと理解される。
【0014】
このように、本発明に係るX線回転陽極は、冒頭に記載された円盤状又は皿状のX線回転陽極とも、また、グラファイト製の環状基体が、本発明とは対照的に、円盤状金属製接続部材に軸方向に取り付けられている、例えば特許文献1(シーメンス)記載の回転陽極のような、特許文献の概念とも、構造的に著しく異なる。本発明によるX線回転陽極は、また、グラファイトリングが中実の内側円盤の周りに配置されていて、管状アダプタが存在しない特許文献2(フィリップス)におけるX線回転陽極とも著しく異なる。
【0015】
本発明によるX線回転陽極は、多くの利点を有する:
従来の金属回転陽極又は複合体回転陽極と比較して、本発明によるX線回転陽極は、著しく低い質量を特徴とする。軽量構造は、基体に炭素系材料を使用すること及び金属製接続部品のスリム設計によって達成される。
更に、蓄熱器としての役割を果たす構成要素は、有利には高い質量分率を有する。炭素系基体の環状設計により、その蓄熱容量の最適利用が可能になり、電子ビームショット間の比較的低い補償温度及び低い平均サイクル温度が可能になる。従来の金属回転陽極又は複合体回転陽極とは対照的に、焦点軌道コーティングと接続部品との間には金属接続がなく、これは低い熱伝達抵抗によって特徴付けられる。その結果、基体と接続部品との間の材料的結合による接続ゾーンに沿った顕著な温度勾配が回避され、従って、この接続ゾーンが受ける熱機械的応力は、可能な限り均等になる。コンパクトな形状は、また、最低固有振動数の増加を確実にする。これにより、低質量に加えて、X線回転陽極を高速で使用するための第2の重要な要件が満たされる。炭素系の基体の使用にも拘わらず、高速回転数であっても、外周上の変位が小さく、且つ、焦点軌道角度の変化は、従来の金属回転陽極又は複合体回転陽極に匹敵する小さなものにすぎないことを保証することができる。
【0016】
以下において、金属接続部品の発展形態から出発して、X線回転陽極の有利な発展形態を提示する。提示された手段の多くは、機械的応力を管理可能な状態に保ちながら、回転陽極の質量を低く保つために寄与する。
【0017】
好ましい変形例では、金属アダプタの外周は軸方向に、特に焦点経路側の方向に、減少し、それに応じて環状基体の形状が適合させられる。焦点軌道側の方向におけるこの減少は、X線回転陽極の作動中、特に、金属アダプタと基体との間の接続ゾーンに沿って、より均一な、理想的にはほぼ等温の、温度分布をもたらす。アダプタの外周が焦点軌道側の方向に減少する場合、アダプタと基体との間の接続ゾーン内の領域のうち、軸方向において空間的に焦点軌道コーティングにより近い領域が、半径方向において、焦点軌道コーティングから更に遠くに離れる。このようにして、焦点軌道コーティングとアダプタ/基体の接続ゾーン内の個々の領域との間の異なる距離が平均化され、これは、接続ゾーンに沿った温度分布及び関連する熱誘起応力にプラスの効果を有する。
【0018】
有利な実施形態では、金属接続部品は、回転対称であり、特に、環状アダプタが、回転対称である。
【0019】
有利には、アダプタは、155°~205°、特に155°~180°、特に好ましくは160°~175°、の範囲の円錐角を有する円錐台状の基本形状を有する。角度の範囲指定には、それぞれの限界値が含まれる。円錐角とは、軸方向に対するアダプタ側面の接平面の向きを指し、円錐角は焦点軌道側から測定される。180°の円錐角を有する円錐台は、中空円筒に対応し、90°を超え180°未満の範囲の角度を有する円錐台は、焦点軌道側に向かって先細りになり、180°を超え270°未満の角度を有する円錐台は、反対方向に先細りになり、従って、この場合、金属アダプタの外周は、焦点軌道側に向かって増大する。円錐台形状のアダプタの利点は、特に160°~175°の角度範囲の円錐角について、上記でより詳細に説明したように有利な、ほぼ等温の温度プロファイルをアダプタ/基体接続ゾーンに沿って設定することができ、それにも拘わらずアダプタを比較的容易に且つ安価に製造することができることにある。
【0020】
アダプタの他の有利な実施形態は、軸方向に垂直な平面(回転平面)に対して対称性を有する回転対称形状である。軸受への負荷も最小限に抑えられる。そのような形状の例は、トロイダルの基本形状を有するアダプタである。半径方向断面では、アダプタと基体との接触面は、外側に湾曲した開放シェルの形状を有する。
【0021】
接続領域におけるアダプタと環状基体の高さが互いに釣り合っている場合、即ち、アダプタの軸方向の高さが、接続領域における環状基体の軸方向の高さに対応している場合、有利であることが分かった。
【0022】
金属のシャフト接続部材は、金属の接続部品の半径方向内側の部分であり、既に説明したように、別個の構成要素として製造することができ、その後、この別個の構成要素は、半径方向内側でアダプタと材料的結合により接続される。しかしながら、それは、モノリシックに製造された接続部品の一部分部品であってもよい。特に明記しない限り、以下の考察は、両方の変形を含むべきである。
金属のシャフト接続部材は、その半径方向外周において、管状のアダプタの半径方向内面に接続される。シャフト接続部材の半径方向内側部分は、駆動シャフトへの直接的又は間接的な接続のために使用され、例えば、X線回転陽極を駆動シャフト上に固定するねじ接続のための開口部を有することができる。
【0023】
シャフト接続部材の好ましい実施形態は、環状の円盤状の基本形状を有する。シャフト接続部材は、好ましくは、正確な環状の円盤の形状を有する。この円盤は、有利には、回転平面内に配置される。円盤は平坦である必要はなく、段階を有することもできる。(半径方向断面において、形状は、直線的ではなく、1つ以上の段差を有することができる)。
シャフト接続部材は、円盤の代わりに、円錐台形状で設計することもでき、円錐角は、好ましくは、90°~100°の範囲(軸方向から測定)又は260°~270°の範囲である。この場合、シャフト接続部材は、半径方向断面において回転平面に対して僅かに傾斜している。90°又は270°の円錐台は、回転面にある円盤に相当する。90°を超え180°未満の範囲の角度を有する円錐台は、焦点軌道側に向かって先細りになり、未満180°及び270°超の範囲の角度を有する円錐台は、焦点軌道側に向かって開く。
【0024】
シャフト接続部材及び/又はアダプタは、好ましくは、回転対称性を中断するリリーフスロット又は補強材などの構造を有することができる。シャフト接続部材のリリーフスロットは、一方では、質量を軽減するのに役立ち、他方では、操作中に生じる熱機械的応力を制御しやすくするのに役立つ。
【0025】
シャフト接続部材の重心は好ましくは、特に好ましくは、駆動シャフトが取り付けられるシャフト接続部材の半径方向内側部分も、軸方向においてアダプタの軸方向の延長部の範囲内に位置する。換言すれば、シャフト接続部材の平面重心又は半径方向内側部分は、軸方向において、アダプタの軸方向の延長部の範囲外には位置しない。このコンパクトな設計は、軸受荷重を低減し、最低固有振動数を増加させる。
【0026】
シャフト接続部材は、好ましくは、アダプタの半径方向内面のほぼ中央に接続され、特に、シャフト接続部材は、アダプタの軸方向の高さの40~60%の範囲でアダプタの半径方向内面に接続される。有利には、シャフト接続部材とアダプタとが互いに当接する移行領域は、丸みを帯びており、角の尖った移行部を有していない。
【0027】
シャフト接続部材とアダプタとが別々に製造される場合、両構成要素間の材料的結合による接続は、好ましくは、はんだ付け接続によって行なわれる。特に、はんだ材料としてジルコニウムが考慮される。
【0028】
本発明のX線回転陽極は、全体として、薄壁の構成要素にも拘わらず十分な機械的安定性を有する金属接続部品の薄い構造によって特徴付けられる。アダプタは、好ましくは、半径方向に、5mm未満であるが、少なくとも1.5mmを超える厚さを有する。軸方向におけるシャフト接続部材の厚さは、好ましくは10mm未満、特に5mm未満、であるが、少なくとも1.5mm超である。軸方向におけるシャフト接続部材の最大厚さは、好ましくは、軸方向におけるアダプタの高さの20%未満、特に15%未満、である。
【0029】
熱膨張に関して金属接続部品に適した材料は、特に、モリブデン及びモリブデン基合金(例えば、TZM、MHC)、タングステン又はタングステン基合金並びに銅基合金である。モリブデン基、タングステン基又は銅基合金は、それぞれ、少なくとも50重量%のモリブデン、タングステン又は銅を有する合金を指す。TZMは、0.5重量%のチタン含有量、0.08重量%のジルコニウム含有量、0.01~0.04重量%の炭素含有量、及び(不純物を除いて)残部のモリブデン含有量を有するモリブデン合金であると理解される。この文脈において、MHCは、1.0~1.3重量%のハフニウム含有量、0.05~0.12重量%の炭素含有量、0、06重量%未満の酸素含有量、及び(不純物を除いて)残部のモリブデン含有量を有するモリブデン合金であると理解される。金属接続部品は、また、タングステン-銅複合材料、モリブデン-銅複合材料、銅複合材料、又は、分散強化銅合金などの分散強化合金を含んでもよい。これらすべての材料が共通して有するのは、それらが高温に耐性があり、比較的低い熱膨張係数を有することである。金属接続部品は、特に、異なる材料からも作製することができる。即ち、シャフト接続部材及びアダプタは、異なる材料から構成することができる。
【0030】
金属接続部品は、好ましくは、低熱伝導率を有する材料、特に、例えばZrO2などのセラミック材料、から作製された中間部品又は中間層を有する。この中間部品又は中間層は、熱ブレーキとして作用し、回転陽極軸受の方向への熱の流れを可能な限り抑制することを意図している。熱ブレーキ又は中間層として機能する中間部品は、好ましくは、シャフト接続部材の半径方向内側の領域に配置されている。熱ブレーキは、例えば、シャフト接続部材の半径方向内側に塗布されたコーティングによって又はシャフト接続部材の半径方向内側に配置された環状円盤によって、実現することができる。回転陽極軸受の改良された断熱性のおかげで、公知の高性能X線回転陽極の場合に必要とされるようなシャフトへの取り付けは、最早不要である。従って、全高の低い小型X線回転陽極が達成される。
【0031】
金属接続部品は、管状アダプタを介して、その半径方向外面で、環状基体と材料的結合により接続されている。管状アダプタと環状基体との間の材料的結合による接続は、好ましくは、はんだ付け接続によって行なわれる。ろう材としては、ジルコニウムが好適に用いられる。管状アダプタは、有利には、環状基体に直接はんだ付けされる。材料的結合による接続は、必要に応じて、さねはぎ接続などの形状適合要素によって補強することができる。
【0032】
既に上述したように、環状基体は、焦点軌道コーティングのための機械的支援機能を有し、熱機能(吸熱及び蓄熱)を担う。基体は、特にグラファイトなどの炭素系材料からなる。焦点軌道コーティングは、好ましくは、以下の材料のうちの少なくとも1つから形成される:
i. タングステン、
ii. タングステン基合金、及び/又は
iii. 遷移金属ハフニウム、タンタル又はタングステンのうちの少なくとも1つの炭化物、窒化物又は炭窒化物。
特に、焦点経路コーティングは、26重量%までのレニウム含有量を有するタングステン-レニウム合金から形成され、このとき、レニウム含有量は、好ましくは5~15重量%の範囲である。更に、焦点経路コーティングの材料は、これらの遷移金属ハフニウム、タンタル又はタングステンの2つ以上の混合炭化物であってもよく、これらの遷移金属の2つ以上の混合炭窒化物であってもよい。焦点軌道コーティングの厚さは、通常、0.05~2mmの範囲である。焦点軌道コーティングは、例えば、基体上への焦点軌道コーティングのはんだ付け、又は、溶射、プラズマ溶射、物理気相蒸着(PVD、物理気相蒸着)若しくは化学蒸着(CVD、化学気相蒸着)などの公知の技術を用いて、基体上に形成することができる。好ましくは、焦点軌道コーティングと基体との間に、金属であっても又はセラミックであってもよい少なくとも1つの中間層が配置されている。この中間層は、基体への焦点軌道コーティングの結合及び付着を支援し、また、例えば、焦点軌道コーティングにおける望ましくない炭素拡散を抑制するためのバリア層として設計することもできる。有利なことに、少なくとも1つの中間層は、X線回転陽極の作動中に高エネルギー電子との相互作用により焦点経路コーティングに発生する、基体の方向への亀裂の伝播を抑制するのにも役立つ。1つの金属中間層の場合、この層は、好ましくは、レニウム、モリブデン、タンタル、ニオブ、ジルコニウム、チタン、又はこれらの金属若しくはこれらの金属の組み合わせの化合物若しくは合金から形成される。セラミック中間層は、好ましくは、炭化ケイ素などの炭化物、又は窒化ホウ素若しくは窒化チタンなどの窒化物から形成される。1つの中間層の代わりに、複数の中間層を上下に配置し、中間層スタックを形成することもできる。中間層スタック内において、特に、金属中間層とセラミック中間層とを、交互に配置することができる。
【0033】
添付の図面を参照して、3つの例示的な実施形態の説明に基づいて、本発明をより詳細に説明する。図面は、縮尺どおりには示されていない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1a】X線回転陽極の第1実施形態の斜視断面図。
【
図1c】断面A-Aに沿った
図1aのX線回転陽極の半径方向断面図。
【
図1d】斜視断面図における
図1aのX線回転陽極の温度プロファイル。
【
図2a】X線回転陽極の第2実施形態の斜視断面図。
【
図2c】断面A-Aに沿った
図2aのX線回転陽極の半径方向断面図。
【
図3a】X線回転陽極の第3実施形態の斜視断面図。
【
図3c】断面A-Aに沿った
図3aのX線回転陽極の半径方向断面図。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1aは、X線回転陽極の第1実施形態の概略斜視断面図を示す。X線回転陽極10は、回転軸Rに対して回転対称であり、グラファイト製の環状基体11からなり、その傾斜端面に環状の焦点軌道コーティング12が配置されている。グラファイトは、比較的低い密度を有し、比較的高い比熱容量を特徴とする。作動中、X線を発生させるために、高エネルギー電子が焦点軌道コーティング12に向けて加速される。焦点軌道コーティング12は、約10重量%のレニウム含有量を有するタングステン-レニウム合金からなり、溶射層として環状基体11に塗布される。所望により、より良好な接着のために、そして、炭素拡散に対する拡散バリアとして、基体11と焦点軌道コーティング12との間に、特にレニウム製の1つ又は複数の中間層を配置することができる(
図1aには図示せず)。環状基体11は、半径方向内側に位置する金属接続部品13を介して、駆動軸(図示せず)に接続することができる。開口部16は、駆動軸に取り付けるためのねじ接続を収容するのに役立つ。金属接続部品13は、管状アダプタ14と円盤状シャフト接続部材15とからなり、半径方向及び軸方向の両方向で、基体11によって広げられている輪郭の内部に完全に収まっている。管状アダプタ14は、約160°の円錐角17を有する円錐台形の基本形状を有し、その外径は、焦点軌道側の方向に減少する。管状アダプタ14は、その半径方向外面において、環状ベース本体11の半径方向内面に、はんだ付け接続によって材料的結合により接続されている。環状基体11と管状アダプタ14との間の材料的結合による接続ゾーンは、環状基体11の半径方向内面全体に亘って延在する。焦点軌道側方向への管状アダプタの先細りにより、管状アダプタ14と基体11との間の接続ゾーンに沿って、より均一でほぼ等温の温度分布が達成される。温度曲線は、コンピュータシミュレーションによって決定された温度プロファイルを示す
図1dに見ることができる。より明るい領域は、より高い温度に対応し、一方、灰色の色合いがより暗くなるにつれて、温度は低下する。管状アダプタ14と基体11との間の接続ゾーンに沿った温度曲線は、典型的な作動パラメータに対してほぼ等温である。シャフト接続部材15は、僅かに丸みを帯びた移行領域の中央で管状アダプタ14の半径方向内面と接触する。金属接続部品13(管状アダプタ14及び円盤状シャフト接続部材15の両方)は、薄壁であり、熱膨張を可能な限り低くすることを考慮して、モリブデン若しくはタングステンなどの超耐熱性金属又はこれらの金属に基づく合金(例えば、TZM、MHC)から作製される。
【0036】
図2a~
図2cに示すX線回転陽極10’は、幾分広い焦点軌道コーティング12’を有し、環状基体11’の形状に関して
図1a~
図1cの実施形態とは異なる(角がより丸みを帯びている)。第1の実施形態と比較して、環状アダプタ14’は、僅かに大きい円錐角17’(約170°)を有し、シャフト接続部材15’は、アダプタ14’と中央では係合せず、焦点軌道側の方向にずらされて配置されている。
【0037】
図3a~
図3cに示すX線回転陽極10”は、トロイダル状の基本形状を有するアダプタ14”を有し、基体11”との接触面が外側に凹状に開いている。アダプタ14”は、全体として、2つの先の実施形態に類似して、焦点軌道側の方向に先細りになっている。
【0038】
3つのX線回転陽極10、10’、10”は、全て、低質量のコンパクトな形状を有し、良好な熱機械的特性を特徴とする。それらは、有利には、蓄熱器としての役割を果たす基体の質量分率が高い。加えて、焦点軌道コーティングとX線回転陽極の半径方向内側に位置する領域との間には、金属接続が存在しない。
【符号の説明】
【0039】
10、10’、10” X線回転陽極
11、11’、11” 基体
12、12’、12” 焦点軌道コーティング
13、13’、13” 接続部品
14、14’、14” アダプタ
15、15’、15” シャフト接続部材
16、16’、16” 開口部
17、17’ 円錐角
【国際調査報告】