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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-28
(54)【発明の名称】工業規模の硫酸アンモニウム生産
(51)【国際特許分類】
   C01C 1/24 20060101AFI20230320BHJP
【FI】
C01C1/24 B
C01C1/24 E
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022547812
(86)(22)【出願日】2021-02-04
(85)【翻訳文提出日】2022-09-16
(86)【国際出願番号】 EP2021052670
(87)【国際公開番号】W WO2021156371
(87)【国際公開日】2021-08-12
(31)【優先権主張番号】20156175.0
(32)【優先日】2020-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517161577
【氏名又は名称】セーアーペー ドリー ベスローテン ヴェンノーツハップ
【氏名又は名称原語表記】CAP III B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】ティンヘ,ヨハン トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ウェスタロフ,ヤルノ マルティン
(72)【発明者】
【氏名】プールター,オーラフ
(57)【要約】
本発明は、ベックマン転位反応を実施するステップと、ベックマン転位反応混合物を中和するステップと、第1の水性硫酸アンモニウム相及び水性ε‐カプロラクタム相を分離するステップと、第1の硫酸アンモニウム相を第1の蒸発式結晶化セクションに投入する、結晶状硫酸アンモニウムが得られるステップと、第1の蒸発式結晶化セクションから有機成分が濃縮された母液を放出するステップと、水性ε‐カプロラクタム相を抽出して、抽出されたε‐カプロラクタム相及び第2の水性硫酸アンモニウム相を得るステップと、第1の蒸発式結晶化セクションから放出された母液及び/又は第2の水性硫酸アンモニウム相を第2の蒸発式結晶化セクションに放出するステップであって、蒸発式結晶化は三相系が生じるように実施されるステップとを含む、結晶状硫酸アンモニウムを生産するための方法を提供する。少なくとも液体油性相が三相系から回収される。本発明はさらに、本発明の方法を実行するのに適したプラント、本発明の方法によって得られる結晶状硫酸アンモニウム及び液体油性相を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工業規模のプラントにおいて結晶状の硫酸アンモニウムを生産する方法であって、該プラントは、
― ベックマン転位反応セクション、
― 中和セクション、
― 第1の液液分離セクション、
― 第1及び第2の抽出セクション、
― 第1の溶媒回収セクション、
― 第1及び第2の蒸発式結晶化セクション、並びに
― 第1の固液分離セクション
を具備し、
該方法は、
a)成分
(i)硫酸及び/又はオレウム、並びに
(ii)シクロヘキサノンオキシム
をベックマン転位反応セクションに投入して同成分を反応させて、ε‐カプロラクタムを含む混合物を形成するステップ;
b)得られたε‐カプロラクタムを含む混合物をベックマン転位反応セクションから中和セクションへと放出させるステップ;
c)中和セクションにおいてε‐カプロラクタムを含む混合物にアンモニア及び水を添加するステップであって、これにより、いずれも不純物として有機成分を含む第1の水性硫酸アンモニウム相及び水性ε‐カプロラクタム相を含む中和されたベックマン転位混合物が得られるステップ;
d)中和セクションで得られた第1の水性硫酸アンモニウム相及び水性ε‐カプロラクタム相を第1の液液分離セクションにおいて分離するステップ;
e)ステップd)で得られた第1の水性硫酸アンモニウム相を、
e.1)第1の抽出セクションにおいて第1の有機溶媒で第1の水性硫酸アンモニウム相について抽出を行うステップであって、これにより第1の有機溶媒及びε‐カプロラクタムを含む相と、抽出後の第1の水性硫酸アンモニウム相とが得られるステップ;
e.2)抽出後の第1の水性硫酸アンモニウム相を第1の溶媒回収セクションに投入するステップであって、第1の有機溶媒が回収され、かつ回収後の第1の水性硫酸アンモニウム相が得られるステップ;
e.3)回収後の第1の水性硫酸アンモニウム相を第1の蒸発式結晶化セクションに投入して該セクションにおいて蒸発式結晶化を実施し、第1の蒸発式結晶化セクションの中に結晶状の硫酸アンモニウム及び母液を得るステップであって、母液は第1の蒸発式結晶化セクションに入ってくる回収後の第1の水性硫酸アンモニウム相と比較して有機成分が濃縮された水性硫酸アンモニウム相である、ステップ;
e.4)第1の蒸発式結晶化セクションから母液を放出するステップ;
e.5)第1の蒸発式結晶化セクションから結晶状の硫酸アンモニウムを含むスラリーを放出し、これを第1の固液分離セクションに投入して結晶状の硫酸アンモニウムを回収するステップ
によって処理するステップ;
f)ステップd)で得られた水性ε‐カプロラクタム相を、
f.1)第2の抽出セクションにおいて第2の有機溶媒で水性ε‐カプロラクタム相について抽出を行うステップであって、これにより、第2の有機溶媒及びε‐カプロラクタム相を含む相と、有機成分を含む第2の水性硫酸アンモニウム相とが得られるステップ
によって処理するステップ
を含み、
(i)ステップe.4)で第1の蒸発式結晶化セクションから放出される母液、及び/又は
(ii)ステップf.1)で得られる有機成分を含む第2の水性硫酸アンモニウム相
が第2の蒸発式結晶化セクションに投入され、蒸発式結晶化は、以下の相すなわち
(1)有機成分を含む液体油性相;
(2)結晶状の硫酸アンモニウム相;及び
(3)水性硫酸アンモニウムを含む液相
を含む三相系が生じるように実施され、
(iii)前記三相系から少なくとも液体油性相を回収すること
を特徴とする方法。
【請求項2】
液体油性相は、
― 0.5~25重量%、好ましくは1~20重量%、及びより好ましくは2~15重量%のε‐カプロラクタムを含み、
― 1~30重量%、好ましくは2~25重量%、及びより好ましくは5~20重量%の硫酸アンモニウムを含み、かつ
― 液体油性相に対して500~2000グラムCOD/kg、好ましくは750~2000グラムCOD/kg、及びより好ましくは1000~2000グラムCOD/kgの有機成分含有量を有する、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
液体油性相は焼却装置において燃料として使用され、かつより好ましくは該焼却装置で生産された熱の少なくとも一部が水分の蒸発のために使用される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ステップf.1)で得られる有機成分を含む第2の水性硫酸アンモニウム相から第2の有機溶媒が回収されてから、得られた有機成分を含む第2の水性相が第2の蒸発式結晶化セクションに投入される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
有機成分を含む第2の水性硫酸アンモニウム相から水分が除去されてから、得られた濃縮された第2の水性硫酸アンモニウム相が第2の蒸発式結晶化セクションに投入される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ステップe.5)の第1の蒸発式結晶化セクションからの結晶状硫酸アンモニウムの回収は、
e.5.1)第1の蒸発式結晶化セクションから結晶状硫酸アンモニウムを含むスラリーを放出させて、前記スラリーを第1の固液分離セクションに投入するステップと、
e.5.2)第1の固液分離セクションから結晶状硫酸アンモニウムを放出させて、結晶状硫酸アンモニウムを第1の乾燥セクションに投入するステップであって、乾燥した結晶状硫酸アンモニウムが得られるステップと
を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
プラントは第2の液液分離セクション及び第2の固液分離セクションを具備し、かつステップ(iii)における少なくとも液体油性相の回収は、
(iii.1)第2の蒸発式結晶化セクションから、液体油性相と水性硫酸アンモニウムを含む液相とを含む混合物を放出し、かつ同混合物を、その2相が分離される第2の液液分離セクションに投入するステップと、
(iii.2)分離された液体油性相及び分離された水性硫酸アンモニウムを含む液相を、第2の液液分離セクションから回収するステップと、
(iii.3)第2の蒸発式結晶化セクションから結晶状硫酸アンモニウムを含むスラリーを放出し、かつ同スラリーを、結晶状硫酸アンモニウム及び液体の水性硫酸アンモニウム相が別々に回収される第2の固液分離セクションに投入するステップと
を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
― ステップ(iii.2)で第2の液液分離セクションから回収された水性硫酸アンモニウムを含む液相、及び/又は
― ステップ(iii.3)で第2の固液分離セクションから回収された液体の水性硫酸アンモニウム相
は、第2の蒸発式結晶化セクションに投入される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ステップ(iii.3)で第2の固液分離セクションから放出された結晶状硫酸アンモニウムは水性の溶液で洗浄される、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
ステップ(i)で第2の蒸発式結晶化セクションから得られた結晶状硫酸アンモニウムは続いて溶解セクションに投入され、溶解セクションにおいて結晶状硫酸アンモニウムは水に溶解され、これにより第1の蒸発式結晶化セクションに投入される水性硫酸アンモニウムを含む相が得られる、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
ステップ(iii.1)で第2の蒸発式結晶化セクションから放出されて第2の液液分離セクションに投入される液体油性相と水性硫酸アンモニウムを含む液相とを含む混合物の、液体油性相と水性硫酸アンモニウムを含む液相との重量比率は1未満である、請求項7~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
第1の抽出セクションで使用される第1の有機溶媒及び第2の抽出セクションで使用される第2の有機溶媒は、ベンゼン、トルエン、トリクロロエチレン、アルコール、及びこれらの混合物で構成される群から独立に選択される、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
少なくとも、
― ベックマン転位反応セクション、
― 中和セクション、
― 第1の液液分離セクション、
― 第1及び第2の抽出セクション、
― 第1の溶媒回収セクション、
― 第1及び第2の蒸発式結晶化セクション、並びに
― 第1の固液分離セクション
を具備する工業規模プラントであって、
請求項1~12のいずれか1項に定義されるような方法を実行するために構成されたプラント。
【請求項14】
三相系として以下の相すなわち
(1)有機成分を含む液体油性相;
(2)結晶状の硫酸アンモニウム相;及び
(3)水性硫酸アンモニウムを含む液相
を含む蒸発式硫酸アンモニウム結晶化セクションにおいて硫酸アンモニウム水溶液の蒸発式結晶化により生産された、結晶状硫酸アンモニウム。
【請求項15】
液体油性相であって、
― 0.5~25重量%、好ましくは1~20重量%、及びより好ましくは2~15重量%のε‐カプロラクタムと、
― 液体油性相に対して500~2000グラムCOD/kg、好ましくは750~2000グラムCOD/kg、及びより好ましくは1000~2000グラムCOD/kgの量の有機成分と
を含む液体油性相。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[本発明の技術分野]
本発明は、有機成分を含む水性流から結晶状の硫酸アンモニウムを生産するための工業規模の連続法であって、前記水性流はε‐カプロラクタム生産工程を発生源とする、方法に関する。
【0002】
[本発明の背景]
硫酸アンモニウムは、例えば農業、園芸又は林業で使用するための、窒素及び硫黄を提供する肥料として有益であり、この種の用途には結晶質として利用されることが多い。肥料として容易に使用するためには、硫酸アンモニウム結晶の粒度分布が重大な役割を果たす。一般に、肥料産業では大型の結晶が望ましく、かつ大型の結晶はより扱い易い。平均結晶サイズが比較的大きい結晶は商業価値の高い肥料配合物に使用することが可能であり、従って小型の結晶よりも経済的価値が高い。硫酸アンモニウム結晶は通常、その生産に使用される様々な種類の物質流又は供給原料に由来する様々な有機及び無機不純物を含有する。
【0003】
ε‐カプロラクタムは、とりわけポリアミド6(ナイロン6とも呼ばれる)の生産に使用される重要な有機化学原料である。ε‐カプロラクタムは、硫酸及び/又はオレウムの存在下でシクロヘキサノンオキシムをベックマン転位反応に供することにより調製することができる(例えば、Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, (独), Wiley-VCH, 2018, 「カプロラクタム」の章;https://doi.org/10.1002/14356007.a05_031.pub3を参照のこと)。オレウムは硫酸とSOとの混合物であって、シクロヘキサノンオキシムのε‐カプロラクタムへの転化のための触媒として作用する。転位反応の後、塩基(通常はアンモニア)がベックマン転位混合物に添加されて、中和されたベックマン転位混合物が生じる。中和されたベックマン転位混合物は、典型的には水性硫酸アンモニウム相(本明細書中では「第1の水性硫酸アンモニウム相」と呼ばれる)及び水性ε‐カプロラクタム相を含む。第1の水性硫酸アンモニウム相はさらに若干のε‐カプロラクタムを含有し、かつ水性ε‐カプロラクタム相はさらに若干の硫酸アンモニウムを含有する。加えて、いずれの相も不要な有機成分すなわち不純物を含む。そのような不要な有機成分は、例えばシクロヘキサノンオキシム、シクロヘキサノン、2‐シクロヘキセン‐1‐オン、2‐ヒドロキシシクロヘキサン‐1‐オン、1,2‐シクロヘキサンジオン、及び1,2,3,4,6,7,8,9‐オクタヒドロフェナジンである(例えば、Duら, "Impurity formation in the Beckmann rearrangement of cyclohexanone oxime to yield ε-caprolactam", Industrial and Engineering Chemistry Research, (米), 2017, Vol. 56, No. 48, p. 14207-14213を参照のこと)。
【0004】
第1の水性硫酸アンモニウム相は通常、残存ε‐カプロラクタムを除去するために有機溶媒で抽出される。そうして得られたほとんどε‐カプロラクタムを含まない第1の水性硫酸アンモニウム相から、通常は有機溶媒が回収される。ε‐カプロラクタム生産工程で同時生産される第1の水性硫酸アンモニウム相は、多くの場合50重量%を超える水分と50重量%未満の硫酸アンモニウムとを含有する。加えて、そのような相はベックマン転位反応に由来する不要な有機成分を含有する。
【0005】
水性ε‐カプロラクタム相も有機溶媒で抽出を行うことが可能であり、これによりε‐カプロラクタムを含有する有機相と別の水性硫酸アンモニウム相(本明細書中では「第2の水性硫酸アンモニウム相」と呼ばれる)とが形成される。純粋なε‐カプロラクタムは、ε‐カプロラクタムを含有する有機相から一連の精製・濃縮ステップにより回収される。第2の水性硫酸アンモニウム相からは残存する微量の有機溶媒が通常は回収される。さらにこの第2の水性硫酸アンモニウム相は、ベックマン転位反応由来の不要な有機成分を含有する。
【0006】
上記の第1及び第2の水性硫酸アンモニウム相はいずれも、環境を汚染する有機成分を含有するので簡単に処分することはできない。しかしながら、廃水処理プラントでの上記二相の処理は、相に含まれるアンモニア及び有機成分がいずれも高濃度であることから非常に費用がかかる。
【0007】
中和されたベックマン転位混合物から得られた第1及び第2の水性硫酸アンモニウム相に含まれる有機成分は、水性硫酸アンモニウム相からの蒸発結晶化による純粋な結晶状硫酸アンモニウムの生産を難しくする。蒸発結晶化の際に、有機成分は水相中で濃縮されるようになり、形成される硫酸アンモニウム結晶の中へ容易に混入する。硫酸アンモニウム結晶中への有機成分の混入を低減するために、通常はパージが実施されるが、これにより母液すなわち有機成分が濃縮された水性硫酸アンモニウム相が蒸発式結晶化セクションから連続的又は周期的に放出される。上記パージは有機成分を含有するという事実から、それ自体捨てることはできない。結果として、廃水処理プラントにおける上記パージの費用をかけた処理が必要である。さらに、蒸発式結晶化セクションからのパージ実施のさらなる欠点は、価値のある硫酸アンモニウムも除去されるということである。これは、中和されたベックマン転位混合物の2つの水性硫酸アンモニウム相から入手可能な硫酸アンモニウム結晶の総収量を低減させる。よって、パージの実施は、中和されたベックマン転位混合物からの硫酸アンモニウム結晶生産の経済面に悪影響を及ぼす。
【0008】
既に長期にわたり、中和されたベックマン転位混合物から得られる有機成分を含む第1及び第2の水性硫酸アンモニウム相を処理するための方法を、経済的かつ生態学的に(環境に)配慮したやり方で実行することが必要とされてきた。
【0009】
中国特許第1023790号明細書には、中和されたベックマン転位混合物の硫酸アンモニウム溶液相を処理する方法が記載されている。硫酸アンモニウム結晶が硫酸アンモニウム溶液相から回収され、硫酸アンモニウム溶液相に由来する有機成分は湿式酸化法で酸化される。硫酸アンモニウム結晶は、蒸発によって機能する晶析装置を使用して硫酸アンモニウム溶液相から回収される。有機成分を含有する母液は晶析装置から取り出されて湿式酸化法で処理される。湿式酸化法では、母液は湿式酸化反応器の中で酸素含有ガスと接触せしめられ、その結果としてガス状の酸化生成物及び精製された硫酸アンモニウム溶液が生じる。有機成分の量が減少した精製硫酸アンモニウム溶液は晶析装置に再利用される。中国特許第1023790号明細書は、中和されたベックマン転位混合物の水性ε‐カプロラクタム相を有機溶媒で抽出することにより形成される、硫酸アンモニウムを含有する溶出相の処理について開示していない。よって、中国特許第1023790号明細書は、中和されたベックマン転位混合物から入手可能などちらの種類の水性硫酸アンモニウム相についても処分問題を解決していない。さらに、中国特許第1023790号明細書は、硫酸アンモニウム及び有機成分を含有する水性相から高純度の結晶状硫酸アンモニウムを生産する方法を開示していない。
【0010】
JP4 903 271 6号明細書には、中和されたベックマン転位混合物を処理する方法が開示されている。ε‐カプロラクタム相の分離後、硫酸アンモニウム水溶液は、酸素又は酸素を含有する気体の中で加圧下、150~350℃で熱処理される。JP4 903 271 6号明細書の方法は、中和されたベックマン転位混合物のε‐カプロラクタム相を有機溶媒で抽出することにより形成される、硫酸アンモニウムを含有する水性溶出相の処理について開示していない。よって、JP4 903 271 6号明細書も、中和されたベックマン転位混合物から入手可能などちらの種類の水性硫酸アンモニウム相についても処分問題を解決していない。さらに、JP4 903 271 6号明細書は、硫酸アンモニウム及び有機成分を含有する水性相から高純度の結晶状硫酸アンモニウムを生産する方法を開示していない。
【0011】
欧州特許第1206411号明細書は、i)第1の有機成分を含有する硫酸アンモニウム溶液相と、ii)第2の有機成分を含有する水性ε‐カプロラクタム相とを含む混合物、特に中和されたベックマン転位混合物を処理する方法であって、第1及び第2の有機成分を含有する水性液を形成するステップと、該水性液を精製するために水性液を湿式酸化法に供するステップとを含む方法を開示している。欧州特許第1206411号明細書は、液体油性相の生産について開示していない。さらに、欧州特許第1206411号明細書は、硫酸アンモニウム及び有機成分を含有する水性相から高純度の結晶状硫酸アンモニウムを生産する方法を開示していない。
【0012】
先行技術の方法は、高圧及び高温を組み合わせる必要があり、かつ通常は供給原料として純酸素を使用する方法である、欠点のある湿式酸化を使用する。その過酷な工程条件は、エネルギーを大量消費して高額な加工費用を発生させる。加えて、その不確定な加工費用は、とりわけ純酸素の消費が原因で高額である。さらに、湿式酸化技術に使用されるプラント設備への投資及び保守費用は、使用される過酷な工程条件が原因で非常に高額である。最後に、湿潤空気を用いる技術は、全ての材料を完全に酸化して二酸化炭素及び水にするとは限らない。むしろ、有機成分のもとの質量の約4分の1に相当するいくつかの中間化合物、例えばカルボン酸、が形成される。この理由から、湿式酸化によって処理される液体廃棄物は、最終的な清浄化のための追加の処理工程を必要とする。
【0013】
[発明の概要]
先行技術を踏まえ、本発明の目的は、
― 中和されたベックマン転位混合物から直接得られる、有機成分が混入した第1の水性硫酸アンモニウム相、及び
― 中和されたベックマン転位混合物の水性ε‐カプロラクタム相の加工処理から得られる、有機成分が混入した第2の水性硫酸アンモニウム相
を入手及び/又は処理するための方法を提供することである。
【0014】
同時に、本発明の目的は、有機成分が混入した少なくとも1つの水性硫酸アンモニウム相から高純度の硫酸アンモニウム結晶を生産する方法を提供することである。さらに、本発明の目的は、有機成分を含む液体廃棄物が少量生成され、及び/又は別の用途に利用されるという点で、環境に優しい方法を提供することである。経済的価値が高く費用効率の高い方法を提供することも本発明の目的である。
【0015】
全体として、本発明の目的は、有機成分を含む当初のベックマン転位混合物から高純度の硫酸アンモニウムを生産するための経済的かつ環境に優しい方法を提供することである。
【0016】
前述の目的は、請求項1に記載の方法、請求項13に記載のプラント、請求項14に記載の結晶状硫酸アンモニウム、及び請求項15に記載の液体油性相によって解決される。
【0017】
第1の態様では、本発明は、工業規模のプラントにおいて結晶状の硫酸アンモニウムを生産する方法であって、該プラントは、
ベックマン転位反応セクション、
中和セクション、
第1の液液分離セクション、
第1及び第2の抽出セクション、
第1の溶媒回収セクション、
第1及び第2の蒸発式結晶化セクション、並びに
第1の固液分離セクション
を具備し、
該方法は、
a)成分
(i)硫酸及び/又はオレウム;並びに
(ii)シクロヘキサノンオキシム
をベックマン転位反応セクションに投入して同成分を反応させて、ε‐カプロラクタムを含む混合物を形成するステップ;
b)結果として生じたε‐カプロラクタムを含む混合物をベックマン転位反応セクションから中和セクションへと放出させるステップ;
c)中和セクションにおいてε‐カプロラクタムを含む混合物にアンモニア及び水を添加するステップであって、これにより、いずれも不純物として有機成分を含む第1の水性硫酸アンモニウム相及び水性ε‐カプロラクタム相を含む中和されたベックマン転位混合物が得られるステップ;
d)中和セクションで得られた第1の水性硫酸アンモニウム相及び水性ε‐カプロラクタム相を第1の液液分離セクションにおいて分離するステップ;
e)ステップd)で得られた第1の水性硫酸アンモニウム相を、
e.1)第1の抽出セクションにおいて第1の有機溶媒で第1の水性硫酸アンモニウム相について抽出を行うステップであって、これにより第1の有機溶媒及びε‐カプロラクタムを含む相と、抽出後の第1の水性硫酸アンモニウム相とが得られるステップ;
e.2)抽出後の第1の水性硫酸アンモニウム相を第1の溶媒回収セクションに投入するステップであって、第1の有機溶媒が回収され、かつ回収後の第1の水性硫酸アンモニウム相が得られるステップ;
e.3)回収後の第1の水性硫酸アンモニウム相を第1の蒸発式結晶化セクションに投入して該セクションにおいて蒸発式結晶化を実施し、第1の蒸発式結晶化セクションの中に結晶状の硫酸アンモニウム及び母液を得るステップであって、母液は第1の蒸発式結晶化セクションに入ってくる回収後の第1の水性硫酸アンモニウム相と比較して有機成分が濃縮された水性硫酸アンモニウム相である、ステップ;
e.4)第1の蒸発式結晶化セクションから母液を放出するステップ;
e.5)第1の蒸発式結晶化セクションから結晶状の硫酸アンモニウムを含むスラリーを放出し、これを第1の固液分離セクションに投入して結晶状の硫酸アンモニウムを回収するステップ
によって処理するステップ;
f)ステップd)で得られた水性ε‐カプロラクタム相を、
f.1)第2の抽出セクションにおいて第2の有機溶媒で水性ε‐カプロラクタム相について抽出を行うステップであって、これにより、第2の有機溶媒及びε‐カプロラクタム相を含む相と、有機成分を含む第2の水性硫酸アンモニウム相とが得られるステップ
によって処理するステップ
を含み、
(i)ステップe.4)で第1の蒸発式結晶化セクションから放出される母液、及び/又は
(ii)ステップf.1)で得られる有機成分を含む第2の水性硫酸アンモニウム相
が第2の蒸発式結晶化セクションに投入され、蒸発式結晶化は、三相系:
(1)有機成分を含む液体油性相;
(2)結晶状の硫酸アンモニウム相;及び
(3)水性硫酸アンモニウムを含む液相;
が生じるように実施され、
(iii)前記三相系から少なくとも油性相を回収すること
を特徴とする方法に関する。
【0018】
本発明の方法において、ε‐カプロラクタムは、シクロヘキサノンオキシムが出発物質として使用され、かつ硫酸及び/又はオレウムが触媒として作用するベックマン転位反応(ステップa))によって生産される。ベックマン転位反応混合物は続いてアンモニアで中和され(ステップb)及びc))、その結果中和されたベックマン転位反応混合物が得られる。この中和されたベックマン転位混合物は2相すなわち第1の水性硫酸アンモニウム相及び水性ε‐カプロラクタム相を有し、これらはいずれも不純物として有機成分を含む。中和されたベックマン転位混合物の前記2相はステップd)で互いに分離され、これにより両相はステップe)及びf)でさらに加工処理される。
【0019】
ステップe)における第1の水性硫酸アンモニウム相の処理は、第1の有機溶媒を用いた抽出と、その第1の溶媒の回収により回収後の第1の水性硫酸アンモニウム相を得ることとを含み(ステップe.1及びe.2))、回収後の第1の水性硫酸アンモニウム相は第1の蒸発式結晶化セクションに投入される(ステップe.3))。前記第1の蒸発式結晶化セクションでは蒸発式結晶化が実施されて結晶状の硫酸アンモニウム及び母液が得られる。母液の一部は第1の蒸発式結晶化セクションから放出される(ステップe.4))。第1の蒸発式結晶化セクションにおいて得られた結晶状の硫酸アンモニウムはスラリーとして放出され、結晶状の硫酸アンモニウムを回収するために第1の固液分離セクションに投入される(ステップe.5))。本発明の加工処理ステップe)により高純度の(すなわち純粋かつ大型の)結晶状硫酸アンモニウムが生産される。
【0020】
ステップf)における水性ε‐カプロラクタム相の処理は、第2の抽出セクションにおける第2の有機溶媒を用いた水性ε‐カプロラクタム相の抽出を含む(ステップf.1))。この抽出により、有機成分を含む第2の水性硫酸アンモニウム相が生産される。加えて、ε‐カプロラクタム及び第2の有機溶媒を含む相が得られ、この相から純粋なε‐カプロラクタムが回収される。
【0021】
本発明の方法は、(i)ステップe.4)において放出される母液、又は(ii)ステップf.1)で得られる有機成分を含む第2の水性硫酸アンモニウム相、又は両方が、第2の蒸発式結晶化セクションに投入され、そこで蒸発式結晶化が、三相系すなわち
(1)有機成分を含む液体油性相;
(2)結晶状の硫酸アンモニウム相;及び
(3)水性硫酸アンモニウムを含む液相
が生じるように実施される(すなわち、第2の蒸発式結晶化セクションにおける条件がそうなるように設定されている)ことを特徴とする。
【0022】
少なくとも液体油性相は三相系から回収される。これは、該油性相が硫酸アンモニウム結晶及びε‐カプロラクタムとは別に本発明の方法の別の生成物として得られることを意味する。本発明の方法の液体油性相は、以下にさらに説明されるように別の用途に有利に利用することが可能である。
【0023】
驚くべきことに、本発明の方法は、高品質のε‐カプロラクタム及び高品質の結晶状硫酸アンモニウムを生産する一方で、不純物の排出を低減する。これは、上記に概説したような再利用ループ(i)及び/又は(ii)を実行すること、並びにその再利用の流れに対して第2の蒸発式結晶化を実施して有機不純物を含む液体油性相を生産することにより、達成される。
【0024】
液体油性相の生成は本発明の利点である。前記液体油性相を生産することにより、有機成分を含む液体油性相の形の低体積の副産物が生産されることで液体廃棄物の問題が低減されるかさらには解消される。この液体油性相は、燃焼それ自体又は熱の回収を伴う燃焼のような別の用途に利用することができる。液体油性相は、余分な燃料を加える必要を伴わずに焼却処分することができる。燃焼から回収される熱は、蒸気を生成するために使用すれば好都合である。そのため、本発明はさらに別の生成物として、本明細書中に定義されるような有用な油性相、特に液体油性相であって
― 0.5~25重量%、好ましくは1~20重量%、及びより好ましくは2~15重量%のε‐カプロラクタムと;
― 液体油性相に対して500~2000グラムCOD/kg、好ましくは750~2000グラムCOD/kg、及びより好ましくは1000~2000グラムCOD/kgの量の有機成分と
を含む液体油性相も提供する。
【0025】
本発明はさらに、液体油性相が存在する状態で第2の蒸発式硫酸アンモニウム結晶化セクションにおいて生産された結晶状硫酸アンモニウムを含む。
【0026】
先行技術の方法とは異なり、本発明の方法は、高い(例えば2バール超の)過圧又は120℃を上回る温度のような苛酷な加工処理条件を必要としない。本発明の方法は供給原料として純酸素を必要としない。これは全て、本発明の方法を遂行するためのエネルギー消費量を削減し、かつ本発明の方法を実行するのに必要なプラント設備のための投資額及び保守費用も低減するので、好都合である。しかしながら苛酷な加工処理条件は、先行技術、特に湿式酸化においては一般的なことであった。
【0027】
全体として、本発明の方法は、硫酸アンモニウム結晶及びε‐カプロラクタム、並びに追加として液体油性相という形の高品質の製品を生産する。本発明の方法は、エネルギー消費が少なく、かつ廃水処理プラントで処理する必要のある有機成分を含む液体廃棄物の生産量が低減されることから、低費用で運用することができる。その結果として、ε‐カプロラクタム及び硫酸アンモニウムの生産工程に関する全体的なカーボンフットプリントが改善される。
【0028】
本発明の方法の次に、本発明はさらに、本発明の方法を実行するのに適した工業規模プラントも提供する。該プラントは、設備として少なくとも上記に本発明の方法について記載されたもの、すなわちベックマン転位反応セクション、中和セクション、第1の液液分離セクション、第1及び第2の抽出セクション、第1の溶媒回収セクション、第1及び第2の蒸発式結晶化セクション、並びに第1の固液分離セクションを備えている。
【0029】
本発明の有利な実施形態は従属請求項に示され、かつ下記により詳細に説明されている。
【0030】
[本発明の詳細な説明]
<方法>
本発明の方法は、ベックマン転位反応セクション、中和セクション、第1の液液分離セクション、第1及び第2の抽出セクション、第1の溶媒回収セクション、第1及び第2の蒸発式結晶化セクション、並びに第1の固液分離セクションを具備する工業規模プラントにおいて行なわれる。
【0031】
本発明の方法は、いくつかの相が得られてさらに加工処理される多段階式の方法である。本明細書中で使用されるような用語「相」は、固体、液体又は気体のような、区別可能な物質を指す。本明細書中で使用されるような液相は、溶媒中に、溶解及び/又は非溶解状態の有機成分及び/又は無機成分を含むことができる。本明細書中で使用されるような「水性相」は、溶媒の大部分が水であることを意味する。「溶媒」は、本明細書中で使用されるように、「生成物」(例えばε‐カプロラクタム又は硫酸アンモニウム)が少なくとも部分的にその中に溶解している液体である。「溶媒」及び「生成物」は異なる実体を指す。例えば、水性ε‐カプロラクタム相は、30重量%の水と70重量%のε‐カプロラクタムとを含有していてもよい。溶媒の大部分(この例では100%)が水であるので、これは「水性」と呼ばれる。本明細書中で使用されるような「有機相」は、溶媒の大部分が有機溶媒であることを意味する。
【0032】
本発明の方法で得られる相どうしは、含有成分が異なっているか、又は含有成分の種類は異なっていなくとも少なくとも含有成分の量が異なっている。特定の相の各成分について下記に示される範囲は、同じ相の別の成分について示された任意の範囲と組み合わせることができる。特に、同じ「好ましいレベル」の範囲は同じ相の異なる成分について両立的である。
【0033】
≪ステップa)≫
本発明の方法のステップa)では、硫酸及び/又はオレウム、並びにシクロヘキサノンオキシムという成分がベックマン転位反応セクションに投入される。シクロヘキサノンオキシムは、硫酸及び/又はオレウムが触媒として作用するベックマン転位反応に供される。ベックマン転位反応は発熱性が高く、したがって典型的には冷却システムによって制御される。ベックマン転位セクションで生産された反応混合物はε‐カプロラクタムを含む。
【0034】
≪ステップb)≫
本発明の方法のステップb)では、ε‐カプロラクタムを含むベックマン転位反応混合物がベックマン転位反応セクションから中和セクションへと放出される。本明細書中で使用される用語「放出(すること)」は「除去(すること)」を意味する。
【0035】
≪ステップc)≫
本発明の方法のステップc)は中和セクションで行われる。ステップc)では、ε‐カプロラクタムを含むベックマン転位反応混合物にアンモニア及び水が添加される。これにより中和されたベックマン転位混合物が形成される。前記中和されたベックマン転位混合物は2つの相を含む。1つの相は水性の硫酸アンモニウム相である。これを本明細書中では「第1の水性硫酸アンモニウム相」と称する。第2の相は水性のε‐カプロラクタム相である。中和されたベックマン転位混合物の相はいずれも有機成分の形態の不純物を含む。加えて、いずれの相も不純物として無機成分を含有する可能性がある。水性のε‐カプロラクタム相は、無機不純物として特に硫酸アンモニウムを含有する。
【0036】
本明細書中で使用される用語「有機成分」は、酸化することが可能な有機化合物を指す。これらの被酸化性有機化合物は、該化合物を含む相の中の不要な不純物に相当する。有機成分の種類及び量は、本発明の方法の間に生成される様々な相の間で異なっていてよい。例えば、ステップc)で生成される第1の水性硫酸アンモニウム相は、最も大量の有機成分又は不純物としてε‐カプロラクタムを含む。
【0037】
≪ステップd)≫
本発明の方法のステップd)では、中和されたベックマン転位混合物の第1の水性硫酸アンモニウム相及び水性ε‐カプロラクタム相が、第1の液液分離セクションにおいて互いに分離される。
【0038】
本発明の実施形態では、ステップd)の第1の水性硫酸アンモニウム相は、25~50重量%、好ましくは35~48重量%、及びより好ましくは39~45重量%の硫酸アンモニウムを含む。
【0039】
本発明の別の実施形態では、ステップd)の第1の水性硫酸アンモニウム相は、主な有機成分としてε‐カプロラクタムを含む。第1の水性硫酸アンモニウム相は、さらなる有機成分としてシクロヘキサノンオキシム及びベックマン転位反応の副生成物、例えばシクロヘキサノン、2‐シクロヘキセン‐1‐オン、2‐ヒドロキシシクロヘキサン‐1‐オン、1,2‐シクロヘキサンジオン、及び1,2,3,4,6,7,8,9‐オクタヒドロフェナジンを含む可能性がある。
【0040】
本明細書中で使用される用語「主な有機成分」とは、その有機成分が、ある特定の相に対してグラムCOD/kgで示す量に関して最も大きな割合を占めるということを意味している。頭字語「COD」は「化学的酸素要求量(Chemical Oxygen Demand)」を表わし、本明細書中では所与の相の中の酸化することができる有機成分の量を示すために使用される。よって、頭字語「COD」は、本明細書中では所与の相の中の被酸化性有機成分含有量について述べるために使用される。COD値はASTM D 1252‐95(重クロム酸法)に従って測定される。
【0041】
本発明の別の実施形態では、ステップd)の水性ε‐カプロラクタム相は、50~85重量%、好ましくは55~80重量%、及びより好ましくは65~76重量%のε‐カプロラクタムを含む。
【0042】
本発明のさらなる実施形態では、ステップd)の水性ε‐カプロラクタム相は硫酸アンモニウムを含む。本発明のさらに別の実施形態では、ステップd)の水性ε‐カプロラクタム相は、0.1~3重量%、好ましくは0.15~1.5重量%、及びより好ましくは0.3~1.0重量%の硫酸アンモニウムを含む。
【0043】
本発明の別の実施形態では、ステップd)の水性ε‐カプロラクタム相は、不純物として(εカプロラクタムとは別に)、水性ε‐カプロラクタム相に対して1~40、好ましくは2~25、及びより好ましくは4~15グラムCOD/kgの量の有機成分を含む。
【0044】
≪ステップe)≫
本発明の方法のステップe)では、ステップd)で得られた第1の水性硫酸アンモニウム相が処理される。ステップe)はいくつかのサブステップを含む。
【0045】
本発明の方法のステップe.1)では、第1の抽出セクションにおける第1の有機溶媒を用いた第1の水性硫酸アンモニウム相の抽出が実施される。抽出により、第1の有機溶媒及びε‐カプロラクタムを含む相と、抽出後の第1の水性硫酸アンモニウム相とが生じる。この抽出ステップは、ε‐カプロラクタムが第1の水性硫酸アンモニウム相からほとんど除去されるという利点を有する。抽出されたε‐カプロラクタムは、一級のε‐カプロラクタムを生産するための濃縮工程及び精製工程に供給することができる。同時に、抽出後の第1の水性硫酸アンモニウム相は、不純物としてのε‐カプロラクタムをほとんど喪失している。本発明の実施形態では、抽出後の第1の水性硫酸アンモニウム相はε‐カプロラクタムを実質的に含まない。「ε‐カプロラクタムを実質的に含まない」とは、抽出後の第1の水性硫酸アンモニウム相が、0.005~0.3重量%、好ましくは0.01~0.1重量%、及びより好ましくは0.02~0.05重量%のε‐カプロラクタムを含むことを意味している。
【0046】
本発明の実施形態では、第1の有機溶媒は、芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、C‐C10の脂肪族アルコール及び/又は脂環式アルコールである。本発明のさらなる実施形態では、第1の有機溶媒は、ベンゼン、トルエン、クロロホルム、トリクロロエタン、4‐メチル‐2‐ペンタノール、1‐オクタノール、2‐エチルヘキサノール及びこれらの混合物で構成される群から選択される。別例として、第1の有機溶媒は、ベンゼン、トルエン、トリクロロエチレン、アルコール、及びこれらの混合物で構成される群から選択される。更に別の実施形態では、ベンゼン及びトルエンが好適な第1の有機溶媒である。上記の定義及び好ましい部分群は全て、以下にさらに記載される第2の有機溶媒にも独立に当てはまる。
【0047】
本発明の方法のステップe.2)では、抽出後の第1の水性硫酸アンモニウム相が第1の溶媒回収セクションに投入され、該セクションにおいて第1の有機溶媒及び水性硫酸アンモニウム相が回収される。回収された水性硫酸アンモニウム相は、不純物として有機成分をまだ含有しているが、第1の有機溶媒はほとんど除去される。この回収ステップは、第1の有機溶媒をステップe.1)に再使用することができるという利点を有する。本発明の実施形態では、ステップe.2)の水性硫酸アンモニウム相の有機成分含有量は、ステップd)の第1の水性硫酸アンモニウム相の有機成分含有量よりも低く、ここで有機成分含有量はCODで表される。
【0048】
本発明の方法のステップe.3)では、回収された第1の水性硫酸アンモニウム相が、蒸発式結晶化が実施される第1の蒸発式結晶化セクションに投入される。
【0049】
結晶化セクションにおいて使用することができる晶析装置の例は、Don W. Green及びJames O. Maloney, "Perry's Chemical Engineers Handbook", 7th edition, (米), McGraw Hill, 1997, Section 18, p.44-55に記載されている。晶析装置は、通常は温度20~180℃、圧力2kPa~0.8MPaで運転される。
【0050】
本明細書中で使用されるような水性硫酸アンモニウム相の蒸発による硫酸アンモニウム結晶化は、典型的には、水を蒸発させて残存相を濃縮するための入熱を伴う。水性相からの結晶の生産において蒸発式結晶化に必要な蒸気消費量を低減するために、一連の晶析装置を入熱に関して統合することができる(例えば、I. Kristjansson, Geothermics, (オランダ), 1992, Vol. 21, p.765-771を参照)。これも本発明によれば好ましい。熱統合された一連の晶析装置において、水は、各々の装置がその前の装置よりも低い圧力に保たれて配列された晶析装置において、沸騰せしめられる。水の沸騰温度は圧力の低下につれて低下するので、1つの晶析装置で沸騰により生じた蒸気は次の装置を加熱するために使用することができる。最初の晶析装置(最も高い圧力で作動している)のみが外部熱源を必要とする。これは一般に、一連の装置のうち最初の晶析装置の再沸器の中に高温の蒸気を通すことにより行われる。その結果生じるより低温の蒸気が次の晶析装置を加熱するために使用され、これが同様に続く。これは、一連の晶析装置が温度を下げながら作動することを意味している。この種の結晶化は多重効用式結晶化とも呼ばれる。
【0051】
ステップe.3)の第1の蒸発式晶析装置に供給される、回収後の第1の硫酸アンモニウム相は、25~50重量%、好ましくは35~48重量%、及びより好ましくは39~45重量%の硫酸アンモニウムを含む。
【0052】
ステップe.3)の第1の蒸発式晶析装置に供給される、回収後の第1の硫酸アンモニウム相の有機成分含有量は、回収後の第1の硫酸アンモニウム相に対して0.02~20グラムCOD/kg、好ましくは0.05~15グラムCOD/kg、及びより好ましくは0.1~10グラムCOD/kgである。
【0053】
第1の蒸発式結晶化セクションでは、蒸発式結晶化によって結晶状の硫酸アンモニウム及び母液が得られる。母液は、第1の蒸発式結晶化セクションに入ってくる回収後の第1の水性硫酸アンモニウム相と比較して有機成分が濃縮された水性硫酸アンモニウム相である。通常、母液は硫酸アンモニウムについても濃縮されている。
【0054】
本発明の方法のステップe.4)では、母液が第1の蒸発式結晶化セクションから放出される。母液の一部分の放出はパージとも呼ばれる。ステップe.4)におけるパージは、第1の蒸発式結晶化セクションに残っている母液の有機成分含有量を低減するという利点を有する。第1の蒸発式結晶化セクションに残っている母液中の有機成分含有量を低く維持することにより、形成される硫酸アンモニウム結晶の品質が改善される、すなわち硫酸アンモニウム結晶の着色が少なくなり、有機成分含有量が少なくなり、かつ大型結晶の生産が促進される。第1の蒸発式結晶化セクションの母液中の有機成分含有量の下限値は、決定的なものではなく、より多くの母液がパージされる必要があろうことから主として方法の経済性によって決まる。母液は、当業者に周知の任意の手段によって晶析装置から抜き取ることができる。例えば、清澄液が晶析装置の清澄ゾーンからパージされてもよく、液体サイクロンのオーバフローとして除去される母液がパージされることも可能であり、及び/又は母液が母液循環ラインの取出口を介して除去されることも可能である。第1の蒸発式結晶化セクションが多重効用式結晶化として作動する場合、母液は多重効用式結晶化のいずれの段階からも放出可能である。好ましくは、母液は多重効用式結晶化の最終段階から放出される。
【0055】
本発明の実施形態では、第1の蒸発式結晶化セクションからパージされる母液の流速は、単位時間当たり0.5~30容量部、好ましくは単位時間当たり1~25容量部、より好ましくは単位時間当たり2~20容量部であり、それに従って第1の蒸発式結晶化セクションに供給される回収後の第1の水性硫酸アンモニウム相の流速は単位時間当たり100容量部である。第1の蒸発式晶析装置から抜き取られる母液の流速が低下した場合、母液中の有機成分含有量は、その他の流れの設定、特に第1の蒸発式結晶化セクションに供給される回収後の第1の水性硫酸アンモニウム相の流速が変わらないと仮定すると、一般に増大する。回収後の第1の水性硫酸アンモニウム相の第1の蒸発式晶析装置への供給、及び/又は第1の蒸発式晶析装置からの母液のパージが、非連続的に、又はバッチ式に行われる場合、当然ながら前述の流速は単位時間当たりの平均の供給量又は抜き取り量である。
【0056】
ステップe.4)において第1の蒸発式晶析装置から放出される母液は、通常は、35~60重量%、好ましくは38~55重量%、及びより好ましくは42~52の重量%の硫酸アンモニウムを含む。
【0057】
第1の蒸発式結晶化セクションから放出される母液の有機成分含有量は通常、母液に対して5~150グラムCOD/kg、好ましくは10~75グラムCOD/kg、及びより好ましくは15~50グラムCOD/kgである。
【0058】
本発明の方法のステップe.5)では、結晶状硫酸アンモニウムを含むスラリーが第1の蒸発式結晶化セクションから放出されて、結晶状硫酸アンモニウムを回収するために第1の固液分離セクションに投入される。
【0059】
本明細書中で使用される用語「スラリー」は、固形物を含む水性相を指す。硫酸アンモニウムスラリーは、硫酸アンモニウム結晶、溶解した硫酸アンモニウム、水、及び不純物を含む。典型的には、硫酸アンモニウムスラリーの中に存在する不純物は有機成分である。加えて、無機成分が存在する可能性もある。
【0060】
本発明の実施形態では、ステップe.5)は、
e.5.1)第1の蒸発式結晶化セクションから結晶状硫酸アンモニウムを含むスラリーを放出させて、前記スラリーを第1の固液分離セクションに投入するステップ;
e.5.2)第1の固液分離セクションから結晶状硫酸アンモニウムを放出させて、結晶状硫酸アンモニウムを第1の乾燥セクションに投入するステップであって、乾燥した結晶状硫酸アンモニウムが得られるステップ
を含む。
【0061】
ステップe.5)で得られた硫酸アンモニウム結晶は、硫酸アンモニウムそのものに加えて水分及び不純物を含む。典型的には、硫酸アンモニウム結晶中の不純物は有機成分である。加えて、無機成分が存在する可能性もある。そのような無機成分は、カルシウム塩及び鉄塩並びに珪素含有化合物であってよい。
【0062】
より大型の硫酸アンモニウム結晶は、一般により大きな経済的価値を有することから好まれる。本発明の実施形態では、ステップe.5)で生産される硫酸アンモニウム結晶は0.8mmを超える平均中位径を有する。好ましくは、ステップe.5)で生産される硫酸アンモニウム結晶の平均中位径は1.0mm~4.0mmである。
【0063】
様々な適用向けの高純度の(ほぼ)白色の結晶状硫酸アンモニウムを生産することが望ましい。(ほぼ)白色の高純度の硫酸アンモニウム結晶は、不純物濃度がより高い褐色を帯びた硫酸アンモニウム結晶よりも経済的価値が高い。典型的には、高純度の結晶状硫酸アンモニウムの色は白色、オフホワイト又は淡黄色である。本発明の方法のステップe.5)で生産される硫酸アンモニウム結晶は、ステップe.1)~e.5)の連続した加工処理による高純度結晶である。本発明の実施形態では、ステップe.5)で生産される硫酸アンモニウム結晶の色は白色~オフホワイトである。
【0064】
有機成分の形の不純物を含む有色の硫酸アンモニウム結晶の形成は、より高温での蒸発式結晶化の際に、より顕著である。従って、あまり高温にせずに有機成分を含有する硫酸アンモニウム相を結晶化すると有利である。これは、蒸発式結晶化を実施することが可能な温度範囲を限定する。晶析装置が高温で運転されるのを回避するために、連続して運転可能な晶析装置の数が制限されるようになる。所与の硫酸アンモニウム相を、有色の結晶を形成させず、かつ目に見える固体有機成分を伴わずに結晶化することができる温度は、その所与の硫酸アンモニウム相に含まれる有機成分の量及び組成の両方に左右される。結果として、有機成分の組成が異なる2以上の硫酸アンモニウム相を結晶化しようとする場合、晶析装置において各相に対し異なる最高温度を使用すればよい。好ましくは、有機成分を含有する硫酸アンモニウム相から硫酸アンモニウムを結晶化する蒸発式晶析装置は、120℃より低い温度で運転される。より好ましくは、蒸発式晶析装置は110℃より低い温度で運転される。
【0065】
≪ステップf)≫
本発明の方法のステップf)では、ステップd)で得られた水性ε‐カプロラクタム相が処理される。ステップf)は1以上のサブステップを含む。
【0066】
本発明の方法のステップf.1)では、水性ε‐カプロラクタム相は第2の抽出セクションにおいて第2の有機溶媒で抽出され、それにより第2の有機溶媒及びε‐カプロラクタムを含む相と、有機成分を含む第2の水性硫酸アンモニウム相とが得られる。この水性硫酸アンモニウム相は、ステップd)において中和されたベックマン転位混合物から直接得られる第1の水性硫酸アンモニウム相と区別するために、本開示の全体を通じて「第2の水性硫酸アンモニウム相」と呼ばれる。
【0067】
本発明の実施形態では、第2の水性硫酸アンモニウム相は、0.1~10重量%、好ましくは0.2~8重量%、及びより好ましくは0.5~6重量%の硫酸アンモニウムを含む。
【0068】
本発明のさらなる実施形態では、ステップf.1)の第2の水性硫酸アンモニウム相は、第2の水性硫酸アンモニウム相に対して5~200グラムCOD/kg、好ましくは15~150グラムCOD/kg、及びより好ましくは20~100グラムCOD/kgの有機成分含有量を有する。
【0069】
本発明の別の実施形態では、ステップf.1)の第2の水性硫酸アンモニウム相は、有機成分としてシクロヘキサノンオキシム、ベックマン転位反応の副生成物、例えばシクロヘキサノン、2‐シクロヘキセン‐1‐オン、2‐ヒドロキシシクロヘキサン‐1‐オン、1,2‐シクロヘキサンジオン、及び1,2,3,4,6,7,8,9‐オクタヒドロフェナジン、並びに第2の有機溶媒を含む。
【0070】
ステップd)の第1の水性硫酸アンモニウム相及びステップf.1)の第2の水性硫酸アンモニウム相には、硫酸アンモニウム、水、及び不純物として有機成分を含むという共通点がある。第1及び第2の水性硫酸アンモニウム相は、さらに不純物として無機成分を含有する可能性もある。典型的には、第1及び第2の水性硫酸アンモニウム相は、少なくとも含まれる有機成分及び硫酸アンモニウムの濃度については互いに異なっている。本発明の1つの実施形態では、ステップf.1)の第2の水性硫酸アンモニウム相は、ステップe2)で得られる回収後の第1の水性硫酸アンモニウム相よりも高い有機成分含有量を有し、ここで有機成分含有量はCODで表される。本発明の別の、又はさらなる実施形態では、ステップf.1)の第2の水性アンモニウム相は、ステップd)の第1の水性硫酸アンモニウム相よりも低い硫酸アンモニウム含有量を有し、ここで硫酸アンモニウム含有量は重量%で表される。
【0071】
ステップd)の水性ε‐カプロラクタム相の抽出は、第2の有機溶媒を用いて実施される。第2の有機溶媒は、第1の有機溶媒とは独立に、上記に第1の有機溶媒について定義されたのと同じ溶媒の一覧から選択可能である。実際上は、同じ有機溶媒が第1及び第2の有機溶媒として使用されれば特に有利である。
【0072】
本発明の別の実施形態では、ステップf.1)で得られる有機成分を含む第2の水性硫酸アンモニウム相から第2の有機溶媒が回収されてから、得られた有機成分を含む第2の水性相が第2の蒸発式結晶化セクションに投入される。この追加のステップをf.2)と呼ぶこととするが、同ステップは、第2の有機溶媒が第2の水性硫酸アンモニウム相から再利用され、かつしたがってステップf.1)で再使用することができる、という利点を有する。第2の水性硫酸アンモニウム相から第2の有機溶媒を回収することの別の利点は、前記水性硫酸アンモニウム相が不純物として含む第2の有機溶媒がより少ないということである。
【0073】
第2の水性硫酸アンモニウム相とは別にステップf.1)において第2の抽出セクションで得られる、第2の有機溶媒及びε‐カプロラクタムを含む相は、さらに加工処理される。ステップf.1)の第2の有機溶媒及びε‐カプロラクタムを含む相を起点として一級のε‐カプロラクタムを生産するためのいくつかの濃縮工程及び精製工程は、当業者には周知である。”Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry”, 2018の「カプロラクタム」の章(https://doi.org/10.1002/14356007.a05_031.pub3)には、そのような一級のε‐カプロラクタムを生産するためのいくつかの(工業用の)加工処理について記載されている。さらに、国際公開第02/070475号には、有機溶媒からε‐カプロラクタムを回収及び精製するための方法について記載されている。国際公開第02/070475号は、本発明のε‐カプロラクタムを含む相についても可能なワークアップとして想定される、下記ステップすなわち:a)溶液を水又はアルカリ性水溶液で洗浄してε‐カプロラクタム及び有機溶媒を含む洗浄済み溶液と洗浄残査とを得るステップ、b)洗浄済み溶液から有機溶媒を蒸発させてε‐カプロラクタム生成物を得るステップ、c)場合により、ε‐カプロラクタム生成物を水素化するステップ、d)場合により、ε‐カプロラクタム生成物から水を蒸発させるステップ、e)ε‐カプロラクタム生成物を蒸留してε‐カプロラクタム及び蒸留残査を回収するステップ、f)蒸留残査を水の存在下で有機溶媒により抽出して(i)有機溶媒に溶解したε‐カプロラクタムを含む抽出物及び(ii)水性の流出液を得るステップ、並びにg)抽出物をステップa)又はb)に再利用するステップ、を含む処理手順を開示している。
【0074】
≪第2の蒸発式結晶化≫
本発明の方法において、第2の蒸発式結晶化はいわゆる第2の蒸発式結晶化セクションにおいて実施される。第2のタイプの結晶化セクションには、(i)ステップe.4)で第1の蒸発式結晶化セクションから放出された母液、及び/又は(ii)ステップf.1)で得られた有機成分を含む第2の水性硫酸アンモニウム相、が投入される。
【0075】
本発明の実施形態では、(ii)ステップf.1)で得られた有機成分を含む第2の水性硫酸アンモニウム相から水が除去された後に、結果として生じる濃縮された第2の水性硫酸アンモニウム相が第2の蒸発式結晶化セクションに投入される。
【0076】
第2のタイプの結晶化セクションにおける第2の蒸発式結晶化は、次の三相系すなわち
(1)有機成分を含む液体油性相;
(2)結晶状の硫酸アンモニウム相;及び
(3)水性硫酸アンモニウムを含む液相
が生じるように実施される。
【0077】
「~ように実施される」という用語は、第2の蒸発式結晶化セクションが三相系の生成を可能にする条件の下で運転されることを意味する。特に、非常に多くの水が第2の蒸発式結晶化セクションにおいて水性の供給原料から蒸発せしめられるので、水性硫酸アンモニウム相は硫酸アンモニウム及び有機成分の両方に関して過飽和状態になり、その結果として、有機成分を含む液体油性相(1)及び結晶状の硫酸アンモニウム相(2)が、水性硫酸アンモニウムを含む液相(3)とは別に形成される。第2の蒸発式結晶化セクションの特定の運転条件には、第2の蒸発式結晶化セクションの中の水性硫酸アンモニウムを含む液相の有機成分含有量及び硫酸アンモニウムの重量分率が、それぞれ、水性硫酸アンモニウムを含む液相の母液に対して少なくとも100グラムCOD/kgであってそのうち水性硫酸アンモニウムを含む液相に対して少なくとも5グラムCOD/kgがε‐カプロラクタムに由来すること、かつ硫酸アンモニウムは少なくとも36重量%であることが含まれる。
【0078】
ステップe.3)で実施された第1の蒸発式結晶化と第2の蒸発式結晶化との間の主な差は、第2の蒸発式結晶化には母液の流出がないということである。第2の蒸発式結晶化における水の蒸発によってより濃縮された母液が得られるが、該母液中に有機不純物はもはや溶解できず、硫酸アンモニウムの結晶化だけでなく有機不純物を含む液体油性相の生成ももたらされる。よって、第1及び第2の蒸発式結晶化セクションの間の主な差は有機不純物の濃度であり:第1の蒸発式結晶化セクションでは、硫酸アンモニウムに関して過飽和となって硫酸アンモニウム結晶が別個の相として形成されるが、母液は(不純物を含有する母液の一部分をパージすることにより)有機成分に関して不飽和のままであり別個の液体油性相は形成されない。
【0079】
蒸発条件の次に、第1及び第2の蒸発式結晶化セクションへの供給原料の流れも互いに異なっている。本発明の実施形態では、第2の蒸発式晶析装置への硫酸アンモニウム供給原料(i)及び/又は(ii)は、ステップe.3)で第1の蒸発式結晶化セクションに投入される回収後の第1の水性硫酸アンモニウム相よりも高い有機成分含有量を有し、ここで有機成分含有量はCODとして表現される。さらなる実施形態では、第2の蒸発式晶析装置への硫酸アンモニウム供給原料(i)及び/又は(ii)の硫酸アンモニウム含有量は、ステップe.3)で第1の蒸発式結晶化セクションに投入される回収後の第1の水性硫酸アンモニウム相の硫酸アンモニウム含有量よりも低く、ここで硫酸アンモニウム含有量は重量%で表現される。特に、第2の蒸発式晶析装置への硫酸アンモニウム供給原料(ii)の硫酸アンモニウム含有量は、ステップe.3)で第1の蒸発式結晶化セクションに投入される回収後の第1の水性硫酸アンモニウム相の硫酸アンモニウム含有量よりも低く、ここで硫酸アンモニウム含有量は重量%で表現される。
【0080】
本発明による第2の蒸発式結晶化によって特に液体油性相が生産されるが、これはステップ(iii)において三相系から少なくとも回収される。
【0081】
本明細書中で使用されるような用語「回収される」とは、物質が、生成物の形態で単離され、喪失を免れ、及び/又は別の用途に利用されることを意味する。
【0082】
本発明の実施形態では、液体油性相は、ε‐カプロラクタム、有機成分、硫酸アンモニウム及び水を含む。液体油性相は、第2の蒸発式結晶化の際に非常に多くの水を蒸発させることで有機成分が過飽和状態になり、かつ第2の蒸発式結晶化セクションの水性硫酸アンモニウムを含む液相にはもはや溶解できなくなることで、形成される。
【0083】
少なくとも液体油性相は、第2の蒸発式結晶化セクションにおいて生成された三相系から回収される。この目的のために、本発明の方法を実行するのに適したプラントは、さらに第2の液液分離セクション及び第2の固液分離セクションを具備することが可能であり、それによりステップ(iii)における少なくとも液体油性相の回収は、
(iii.1)第2の蒸発式結晶化セクションから、液体油性相と水性硫酸アンモニウムを含む液相とを含む混合物を放出し、かつ同混合物を、その2相が分離される第2の液液分離セクションに投入するステップ;
(iii.2)分離された液体油性相及び分離された水性硫酸アンモニウムを含む液相を、第2の液液分離セクションから回収するステップ;
(iii.3)第2の蒸発式結晶化セクションから結晶状硫酸アンモニウムを含むスラリーを放出し、かつ同スラリーを、結晶状硫酸アンモニウム及び液体の水性硫酸アンモニウム相が別々に回収される第2の固液分離セクションに投入するステップ
を含む。
【0084】
よって、本発明の方法により、ステップd)の第1の水性硫酸アンモニウム相及びステップf.1)の第2の水性硫酸アンモニウム相から硫酸アンモニウム結晶を得ることができる。
【0085】
本発明のさらなる実施形態では、ステップ(iii.1)で第2の蒸発式結晶化セクションから放出されて第2の液液分離セクションに投入される、液体油性相と水性硫酸アンモニウムを含む液相とを含む混合物の、液体油性相と水性硫酸アンモニウムを含む液相との重量比率は、2:1未満、好ましくは1:1未満である。本発明の別の実施形態では、ステップ(iii.1)で第2の蒸発式結晶化セクションから放出されて第2の液液分離セクションに投入される、液体油性相と水性硫酸アンモニウムを含む液相とを含む混合物の、液体油性相と水性硫酸アンモニウムを含む液相との重量比率は、1:0.5~1:50、好ましくは1:1~1:40、より好ましくは1:2~1:30、最も好ましくは1:4~1:15である。実際に、前記比率が約1:10である時に良好な結果が得られた。
【0086】
本発明の別の実施形態では、
― ステップ(iii.2)で第2の液液分離セクションから回収された水性硫酸アンモニウムを含む液相、及び/又は
― ステップ(iii.3)で第2の固液分離セクションから回収された液体の水性硫酸アンモニウム相
は、第2の蒸発式結晶化セクションに投入される。このことは、第2の液液から回収された水性硫酸アンモニウムを含む液相、及び/又は第2の固液分離セクションから回収された液体の水性硫酸アンモニウム相が、第2の蒸発式結晶化セクションにおいて結晶状硫酸アンモニウムを生産するために使用されるという利点を有する。こうした状況下では、第2の蒸発式結晶化において生産される結晶状硫酸アンモニウムの量は、本発明の方法において最大となる。
【0087】
本発明の別の実施形態では、ステップ(iii.3)で第2の固液分離セクションから放出された結晶状硫酸アンモニウムは、水性の溶液で洗浄される。これは、結晶状硫酸アンモニウムに付随した不純物が除去されるので好都合である。
【0088】
第2の蒸発式結晶化セクションで得られる硫酸アンモニウム結晶は、通常、大きさ及び/又は色の特性、及び/又は固結挙動の点で、第1の蒸発式結晶化セクションから得られるものよりも低品質である。しかしながら、低品質な硫酸アンモニウム結晶にも用途(例えば、あまり要求の厳しくない散布法、例えば手作業で撒く散布法のための肥料としての用途)があり、又は廃棄物として放出することも可能である。本発明による第2の蒸発式結晶化セクションの主な目的は、上記に概説した利点を備えた液体油性相の生成である。本発明の特に有用な実施形態では、ステップ(i)で第2の蒸発式結晶化セクションから得られた結晶状硫酸アンモニウムは続いて溶解セクションに投入され、溶解セクションにおいて結晶状硫酸アンモニウムは水に溶解され、これにより第1の蒸発式結晶化セクションに投入される水性硫酸アンモニウムを含む相が得られる。これは、潜在的により低品質の硫酸アンモニウム結晶を産する画分が加工処理されて、不純物の大部分を含有する液体油性相と、溶解して第1の蒸発式結晶化セクションに再利用することが可能な結晶状の硫酸アンモニウム相とを生じるので、本発明の方法全体としてより高純度の硫酸アンモニウム結晶が得られるという利点を有する。
【0089】
本発明の実施形態では、液体油性相は、1100~1275kg/m、好ましくは1125~1250kg/m、及び最も好ましくは1150~1225kg/mの範囲の密度(温度25℃での計測)を有する。これは、かなり濃い液体油性相、すなわち有機物含有量が高く、かつ水分及び硫酸アンモニウム含有量が低い、容易に燃焼することができる油性相が得られるという利点を有する。
【0090】
本発明のさらなる実施形態では、液体油性相は、0.5~25重量%、好ましくは1~20重量%、より好ましくは2~15重量%のε‐カプロラクタムを含み、かつ液体油性相に対して500~2000グラムCOD/kg、好ましくは750~2000グラムCOD/kg、より好ましくは1000~2000グラムCOD/kgの有機成分含有量を有する。液体油性相中のε‐カプロラクタム及び有機成分についての前述の範囲は、相互にどのようにも組み合わせることができる。特に、同じ「好ましいレベル」の範囲は両立的である。
【0091】
別の実施形態では、液体油性相は、1~30重量%、好ましくは2~25重量%、より好ましくは5~20重量%の硫酸アンモニウムを含む。
【0092】
本発明の方法によって得られた液体油性相は、別の用途に利用することができる。本発明の実施形態では、液体油性相は焼却装置で燃料として使用される。別の実施形態では、液体油性相は焼却装置において燃料として使用され、該焼却装置で生産された熱の少なくとも一部が水分の蒸発のために使用される。
【0093】
<硫酸アンモニウム結晶>
本発明はさらに、第2の蒸発式結晶化セクションに関して上述したような液体油性相及び水性硫酸アンモニウムを含む液相の存在下で蒸発式硫酸アンモニウム結晶化セクションにおいて生産された結晶状硫酸アンモニウムに関する。
【0094】
液体油性相及び水性硫酸アンモニウムを含む液相の存在下で蒸発式硫酸アンモニウム結晶化セクションにおいて生産される硫酸アンモニウム結晶は、0.6mmを超える平均中位径を有することが好ましい。より好ましくは、液体油性相及び水性硫酸アンモニウムを含む液相の存在下で蒸発式硫酸アンモニウム結晶化セクションにおいて生産される硫酸アンモニウム結晶の平均中位径は、0.8mm~3.0mmである。
【0095】
本発明の別の実施形態では、液体油性相及び水性硫酸アンモニウムを含む液相の存在下で生産され、濾別により分離され、水で洗浄された硫酸アンモニウム結晶は、結晶状硫酸アンモニウムに対して0.2~250グラムCOD/kg、好ましくは1~50グラムCOD/kg、最も好ましくは3~15グラムCOD/kgの有機成分含有量を有する。
【0096】
本発明のさらなる実施形態では、液体油性相及水性硫酸アンモニウムを含む液相の存在下で蒸発式硫酸アンモニウム結晶化セクションにおいて生産された硫酸アンモニウム結晶の色は、(淡い)褐色を帯びている。
【0097】
<液体油性相>
本発明はさらに、液体油性相であって、
― 0.5~25重量%、好ましくは1~20重量%、及びより好ましくは2~15の重量%のε‐カプロラクタムと、
― 液体油性相に対して500~2000グラムCOD/kg、好ましくは750~2000グラムCOD/kg、及びより好ましくは1000~2000グラムCOD/kgの量の有機成分と
を含む液体油性相に関する。
【0098】
液体油性相の特性及び使用に関しては、本発明の方法に関して既に述べたのと同じことが当てはまる。
【0099】
<プラント>
本発明はさらに、有機成分を含む水性流から結晶状の硫酸アンモニウムを生産するための硫酸アンモニウム結晶化プラントであって、有機成分を含む水性流はε‐カプロラクタム生産工程に由来する、プラントに関する。
【0100】
本発明のプラントは、少なくともベックマン転位反応セクション、中和セクション、第1の液液分離セクション、第1及び第2の抽出セクション、第1の溶媒回収セクション、第1及び第2の蒸発式結晶化セクション、並びに第1の固液分離セクションを具備する工業規模プラントであって、本発明の方法を実行するために構成されたプラントである。
【0101】
硫酸アンモニウム結晶化プラントの処理能力は、典型的にはε‐カプロラクタムの生産のためにプラントから放出される硫酸アンモニウム相の量に基づいて選択される。
【0102】
本発明の工業規模の硫酸アンモニウムプラントにおける硫酸アンモニウム結晶の生産能力は、1年当たり数千トン(キロトン毎年;kta)の規模である。本発明の実施形態では、工業規模プラントにおける硫酸アンモニウム結晶の生産能力は、10,000トン毎年(10kta)を上回る。好ましくは、工業規模プラントにおける硫酸アンモニウム結晶の生産能力は100kta~2,000ktaである。より好ましくは、工業規模プラントにおける硫酸アンモニウム結晶の生産能力は150kta~1,500ktaである。
【0103】
以降、本発明について図面を参照して説明するが、図面は本発明のある一定の実施形態を示している。しかしながら本発明は特許請求の範囲に定義されたとおりであり、かつ概して本明細書中に記載されたとおりである。本発明は、例証の目的で以下の図に示された実施形態に限定されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0104】
図1】本発明の方法の3つの選択的モードについて示す図。図1Aは、第2の蒸発式結晶化セクションに対して第1の蒸発式結晶化セクションで生産された母液のみが供給される、本発明の方法の選択的モードを示す。図1Bは、第2の蒸発式結晶化セクションに対して、中和されたベックマン転位混合物の水性ε‐カプロラクタム相を抽出することにより生成された第2の水性硫酸アンモニウム相のみが供給される、本発明の方法の選択的モードを示す。図1Cは、第2の蒸発式結晶化セクションに対して、第1の蒸発式結晶化セクションで生産された母液、及び中和されたベックマン転位混合物の水性ε‐カプロラクタム相を抽出することにより生成された第2の水性硫酸アンモニウム相の両方が供給される、本発明の方法の選択的モードを示す。
図2】硫酸アンモニウム及び有機成分を含む2つの供給原料が第2の蒸発式結晶化セクションに供給される本発明の実施形態について示す図。一方では、第1の蒸発式結晶化セクションで生産された母液が第2の蒸発式結晶化セクションに投入される。他方では、中和されたベックマン転位混合物の水性ε‐カプロラクタム相を抽出することにより生成された第2の水性硫酸アンモニウム相が第2の蒸発式結晶化セクションに投入される。第2の蒸発式結晶化セクションでは、液体油性相と、結晶状の硫酸アンモニウム相と、水性硫酸アンモニウムを含む液相とを含む三相系が生じるように、蒸発式結晶化が実施される。液体油性相及び結晶状硫酸アンモニウムが該方法において回収される。
図3】硫酸アンモニウム及び有機成分を含む2つの供給原料が第2の蒸発式結晶化セクションに供給される本発明の別の実施形態について示す図。一方では、第1の蒸発式結晶化セクションで生産された母液が第2の蒸発式結晶化セクションに投入される。他方では、中和されたベックマン転位混合物の水性ε‐カプロラクタム相を抽出することにより生成された第2の水性硫酸アンモニウム相が第2の蒸発式結晶化セクションに投入される。第2の水性硫酸アンモニウム相を第2の蒸発式結晶化セクションに投入する前に、前記相は予備濃縮セクションにおいて濃縮される。第2の蒸発式結晶化セクションでは、液体油性相と、結晶状の硫酸アンモニウム相と、水性硫酸アンモニウムを含む液相とを含む三相系が生じるように、蒸発式結晶化が実施される。三相はいずれもさらに処理される。結晶状の硫酸アンモニウムは溶解セクションにおいて溶解される。液体油性相は該方法において回収される。
図4】ε‐カプロラクタムが生産されるようにシクロヘキサノンオキシムをオレウムの存在下でベックマン転位反応に供する、本発明の実施形態について示す図。ε‐カプロラクタムを含むベックマン転位反応混合物は中和される。中和されたベックマン転位混合物は、2つの相すなわち第1の水性硫酸アンモニウム相及びε‐カプロラクタム相を含む。中和されたベックマン転位混合物の相はいずれもさらに加工処理される。該方法のさらなる過程において、有機成分を含む2つの水性硫酸アンモニウム相が処理される。すなわち一方では、中和されたベックマン転位混合物から直接得られる第1の水性硫酸アンモニウム相が処理される。他方では、中和されたベックマン転位混合物の水性ε‐カプロラクタム相を抽出することにより得られる第2の水性硫酸アンモニウム相が処理される。
【図面の説明】
【0105】
図1は本発明の方法の選択的モードについて示す。
【0106】
図1Aでは、中和されたベックマン転位混合物から得られた第1の水性硫酸アンモニウム相[α]が加工処理されて第1の蒸発式結晶化セクション[I]における蒸発式結晶化に使用される。蒸発式結晶化の際に、結晶状の硫酸アンモニウム[γ]及び母液が得られる。結晶状の硫酸アンモニウム[γ]は回収される。母液は、第1の蒸発式結晶化セクション[I]に入ってくる加工処理後の第1の水性硫酸アンモニウム相と比較して有機成分が濃縮された水性硫酸アンモニウム相である。母液の一部分は、第1の蒸発式結晶化セクション[I]から第2の蒸発式結晶化セクション[a]へと放出される。中和されたベックマン転位混合物から得られた水性ε‐カプロラクタム相の抽出により生成された第2の水性硫酸アンモニウム相[β]は、第2の蒸発式結晶化セクション[a]には投入されない。第2の蒸発式結晶化セクションでは、三相系が生じるように蒸発式結晶化が実施される。前記三相系は、液体油性相、結晶状の硫酸アンモニウム相、及び水性硫酸アンモニウムを含む液相を含む。少なくとも液体油性相[δ]が回収される。
【0107】
図1Bでは、中和されたベックマン転位混合物から得られた第1の水性硫酸アンモニウム相[α]が加工処理されて第1の蒸発式結晶化セクション[I]における蒸発式結晶化に使用される。蒸発式結晶化の際に、結晶状の硫酸アンモニウム[γ]及び母液が得られる。場合により、母液の一部分は第1の蒸発式結晶化セクション[I]から該方法の外側へと放出される(図示せず)。結晶状の硫酸アンモニウム[γ]は回収される。中和されたベックマン転位混合物から得られた水性ε‐カプロラクタム相の抽出により生成された第2の水性硫酸アンモニウム相[β]は、第2の蒸発式結晶化セクション[a]に投入される。第2の蒸発式結晶化セクションでは、三相系が生じるように蒸発式結晶化が実施される。前記三相系は、液体油性相、結晶状の硫酸アンモニウム相、及び水性硫酸アンモニウムを含む液相を含む。少なくとも液体油性相[δ]が回収される。
【0108】
図1Cは、図1A及び図1Bに記載された本発明の方法の選択的モードの組み合わせである。図1Cでは、第1の蒸発式結晶化セクション[I]の母液の一部分が第2の蒸発式結晶化セクション[a]に投入される。加えて、第2の水性硫酸アンモニウム相[β]が第2の蒸発式結晶化セクション[a]に投入される。
【0109】
図2では、蒸発式結晶化セクション[a]の1以上の蒸発式晶析装置(例えば、オスロ型(流動床式)晶析装置、ドラフトチューブバッフル(DTB)晶析装置、強制循環式晶析装置)に、以下の2つの異なる硫酸アンモニウムを含む供給原料[101]及び[102]、すなわち硫酸アンモニウム結晶化セクションからパージされた、有機成分が濃縮された母液[101]と、有機溶媒を用いる粗製の水性ε‐カプロラクタム相の抽出から流出液として得られた、有機成分を含む第2の水性硫酸アンモニウム相[102]とが投入される。場合により、蒸発式結晶化セクション[a]の1以上の蒸発式晶析装置に投入される前に、有機成分を含む第2の水性硫酸アンモニウム相[102]は溶媒回収セクションに投入され、そこで溶媒が回収される(図示せず)。場合により、蒸発式結晶化セクション[a]の1以上の蒸発式晶析装置に投入される前に、有機成分を含む第2の水性硫酸アンモニウム相[102]は予備濃縮セクションに投入され、そこで主として水分が、例えば蒸発及び/又は膜濾過によって、除去される(図示せず)。
【0110】
蒸発式結晶化セクション[a]の1以上の蒸発式晶析装置において蒸発せしめられた水分は、凝縮されて凝縮水[103]として放出される。一般に、凝縮水[103]は廃棄物として処分され、排水処理システムで処理される(図示せず)。場合により、凝縮水[103]は、場合により精製処理(例えば活性炭による吸着処理)の後に、ベックマン転位反応に再使用される(図示せず)。
【0111】
蒸発式結晶化セクション[a]の1以上の蒸発式晶析装置における有機成分の濃度及び硫酸アンモニウムの濃度は非常に高く、三相系すなわち有機成分含有量が高い液体油性相と、水性硫酸アンモニウムを含む液相と、結晶状の硫酸アンモニウム相とが生じる。
【0112】
液体油性相と水性硫酸アンモニウムを含む液相とを含む混合物[104]が蒸発式結晶化セクション[a]の1以上の蒸発式晶析装置から放出されて、液液分離セクション[b]に投入される。この混合物は、さらに結晶状の硫酸アンモニウム相を少量含有することもありうる。液液分離セクション[b]は1以上の分離容器から構成されており、ここでは例えば有機成分含有量が高い液体油性相は最上層として分離し、水性硫酸アンモニウムを含む液相(及び場合により結晶状の硫酸アンモニウム相)は下端層として分離する。
【0113】
液体油性相[106]は液液分離セクション[b]から回収される。場合により、この液体油性相[106]は焼却炉に投入される(図示せず)。液体油性相はさらに、保管されるか、及び/又は燃料として使用若しくは販売されてもよい。場合により、液体油性相を焼却炉で燃焼させることにより生産される熱の一部が蒸気を生成するために使用される(図示せず)。
【0114】
液体の水性硫酸アンモニウム相[105](かつ場合により硫酸アンモニウム結晶を含む固相)も液液分離セクション[b]から放出されて、蒸発式結晶化セクション[a]の1以上の蒸発式晶析装置に投入される。
【0115】
水性硫酸アンモニウムを含む液相と硫酸アンモニウム結晶とを含む、硫酸アンモニウム含有スラリー[108]は、蒸発式結晶化セクション[a]の1以上の蒸発式晶析装置から放出されて、固液分離セクション[c]の1以上の固液分離装置(例えば、(連続)濾過器、遠心分離機、遠心沈降機、水簸カラム、ソルトレッグ、液体サイクロン又はこれらの組み合わせ)に投入される。固液分離セクション[c]では、硫酸アンモニウム湿潤結晶[110]が水性硫酸アンモニウムを含む液相から分離される。場合により、この後に硫酸アンモニウム湿潤結晶の洗浄が行われ、それにより硫酸アンモニウム湿潤結晶は、硫酸アンモニウム湿潤結晶の(表面に付着している)有機成分含有量を低減するために(好ましくは水又は水性硫酸アンモニウム相で)洗浄される(図示せず)。残りの水性硫酸アンモニウム相又は希薄硫酸アンモニウムスラリー[109]は、1以上の蒸発式晶析装置に再度投入される[a]。
【0116】
硫酸アンモニウム湿潤結晶[110]は、乾燥セクション[d]の1以上の乾燥装置(例えば流動床乾燥機)で乾燥せしめられ、それにより水蒸気[120]及び乾燥硫酸アンモニウム結晶[121]が得られて別々に放出される。場合により、乾燥硫酸アンモニウム結晶[121]について、篩過、コーティング、及び/又は他の化合物とのブレンドが行われる(図示せず)。
【0117】
図3では、有機溶媒を用いる粗製の水性ε‐カプロラクタム相の抽出から流出液として得られた有機成分を含む水性硫酸アンモニウム相[201]が、主として水分が除去される予備濃縮セクション[f]に投入される。好ましくは、予備濃縮セクション[f]は、逆浸透膜及び/又は1以上の蒸発器、例えば流下薄膜式、自然対流式、強制対流式、上昇薄膜式、上昇薄膜型プレート式、又はこれらの組み合わせを具備している。場合により、予備濃縮セクション[f]に投入される前に、有機成分を含む水性硫酸アンモニウム相[201]は、溶媒が回収される溶媒回収セクションに投入される(図示せず)。予備濃縮セクション[f]では水が分離されて水流[202]として放出される。一般に、水流[202]は廃棄物として処分され、排水処理システムで処理される(図示せず)。場合により、水流[202]は、場合により精製処理(例えば活性炭による吸着処理)の後に、ベックマン転位反応に再使用される(図示せず)。場合により、水流[202]が(例えば蒸発の結果として)蒸気相である場合、凝縮熱が回収される可能性もある(図示せず)。
【0118】
予備濃縮後流出液[203]は予備濃縮セクション[f]から放出されて、硫酸アンモニウム結晶化セクション[a]の1以上の蒸発式晶析装置(例えば、オスロ型(流動床式)晶析装置、ドラフトチューブバッフル(DTB)晶析装置、強制循環式晶析装置)に投入される。場合により、pH調整のために、硫酸アンモニウム結晶化セクション[a]の1以上の蒸発式晶析装置への投入に先立ってアンモニア(水)が予備濃縮後流出液[203]に投入される(図示せず)。加えて、別の硫酸アンモニウム結晶化セクションからパージされた有機成分を含む水性硫酸アンモニウム相[204]が、硫酸アンモニウム結晶化セクション[a]の1以上の蒸発式晶析装置に投入される。
【0119】
硫酸アンモニウム結晶化セクション[a]の1以上の蒸発式晶析装置において蒸発した水分は、凝縮されて凝縮水[205]として放出される。一般に、凝縮水[205]は廃棄物として処分され、排水処理システムで処理される(図示せず)。場合により、凝縮水[205]は、場合により精製処理(例えば活性炭による吸着処理)の後に、シクロヘキサノンから生産されるシクロヘキサノンオキシムを基にした硫酸アンモニウム及びε‐カプロラクタムを生産するための方法に再使用される(図示せず)。
【0120】
硫酸アンモニウム結晶化セクション[a]の1以上の蒸発式晶析装置における有機成分の濃度及び硫酸アンモニウムの濃度は非常に高く、三相系すなわち有機成分含有量が高い液体油性相と、水性硫酸アンモニウムを含む液相と、結晶状の硫酸アンモニウム相とが生じる。
【0121】
主として有機成分含有量が高い液体油性相と、水性硫酸アンモニウムを含む液相とを含む混合物[206]が、硫酸アンモニウム結晶化セクション[a]の1以上の蒸発式晶析装置から放出されて、液液分離セクション[b]に投入される。この混合物は、さらに結晶状の硫酸アンモニウム相を少量含有することもありうる。液液分離セクション[b]は1以上の分離容器から構成されており、ここでは有機成分含有量が高い液体油性相は最上層として分離し、水性硫酸アンモニウムを含む液相は下端層として分離する。場合により、下端層は結晶状の硫酸アンモニウム相のごく一部分(<4重量%)も含有する。
【0122】
最上層は液体油性相[208]として液液分離セクション[b]から回収される。場合により、この液体油性相[208]は焼却炉(現場にあるもの、又は場合により現場以外にあるもの)に投入される(図示せず)。場合により、液体油性相を焼却炉で燃焼させることにより生産される熱の一部が蒸気を生成するために使用される(図示せず)。
【0123】
水性硫酸アンモニウムを含む液相である下端層(場合により結晶状の硫酸アンモニウム相を含有する)は、水性相[207]として液液分離セクション[b]から放出され、硫酸アンモニウム結晶化セクション[a]の1以上の蒸発式晶析装置に投入される。
【0124】
硫酸アンモニウム含有スラリー[209]は、硫酸アンモニウム結晶化セクション[a]の1以上の蒸発式晶析装置から放出されて、固液分離セクション[c]の1以上の固液分離装置(例えば、(連続)濾過器、遠心分離機、遠心沈降機、水簸カラム、ソルトレッグ、液体サイクロン又はこれらの組み合わせ)に投入される。固液分離セクション[c]では、硫酸アンモニウム湿潤結晶[211]が分離される。場合により、硫酸アンモニウム湿潤結晶の洗浄ステップが含められ、それにより硫酸アンモニウム湿潤結晶は、硫酸アンモニウム湿潤結晶の(表面に付着している)有機成分含有量を低減するために(好ましくは水又は水性硫酸アンモニウム相で)洗浄される(図示せず)。
【0125】
残りの水性硫酸アンモニウムを含む液相又は希薄硫酸アンモニウムスラリー[210]は、硫酸アンモニウム結晶化セクション[a]の1以上の蒸発式晶析装置に再度投入される。
【0126】
硫酸アンモニウム湿潤結晶[211]及び含水相[212]が、硫酸アンモニウム溶解セクション[e]に投入される。好ましくは、含水相[212]は90重量%を超える水分を含む。場合により、含水相[212]は硫酸アンモニウムを含む。一般に、硫酸アンモニウム溶解セクション[e]は、混合用区画及び越流区画を含む1以上の容器で構成される。硫酸アンモニウム溶解セクション[e]からは硫酸アンモニウムの水性流[213]が放出される。好ましくは、硫酸アンモニウムの水性流[213]は、約40重量%の硫酸アンモニウムを含有するが固体の硫酸アンモニウム結晶を含有していない水性相である。好ましくは、硫酸アンモニウムの水性流[213]は硫酸アンモニウム結晶化セクションに供給原料として投入され、そこで結晶状の硫酸アンモニウム、凝縮水及びパージが生産される。
【0127】
図4では、シクロヘキサノンオキシム[1]及びオレウム[2]がベックマン転位セクション[A]に投入される。シクロヘキサノンオキシムは様々な技術によって生産されてよい。1つの選択肢は、硝酸塩の水素添加により得られたヒドロキシルアミンとシクロヘキサノンとを反応させることによりシクロヘキサノンオキシムが形成される、HPO(登録商標)法である。シクロヘキサノンオキシムを生産する別の選択肢は、アンモニア、過酸化水素及びシクロヘキサノンを反応させることによりシクロヘキサノンオキシムが形成される、アンモキシム化法である。シクロヘキサノンオキシムを生産するためのさらなる選択肢は、亜硝酸塩の還元によって得られたヒドロキシルアミンとシクロヘキサノンとを反応させることによりシクロヘキサノンオキシムが形成される、ラシヒ法である。
【0128】
ベックマン転位混合物[3]及びアンモニア水相[4]が中和セクション[B]に添加されて、中和されたベックマン転位混合物[5]が生産される。別例として、アンモニア水相[4]は水及び気体アンモニアの個別の添加に置き換えられる(図示せず)。水性硫酸アンモニウム相及び水性の粗製ε‐カプロラクタム相を含有する中和混合物が、中和セクション[B]で得られる。水性硫酸アンモニウム相は不純物としてε‐カプロラクタム及び有機成分を含む。水性の粗製ε‐カプロラクタム相は不純物として硫酸アンモニウム及び有機成分を含む。
【0129】
中和混合物[5]は液液分離セクション[C]に投入され、ここで水性硫酸アンモニウム相および水性の粗製ε‐カプロラクタム相は相分離によって互いに分離される。水性の粗製ε‐カプロラクタム相[6]及び水性硫酸アンモニウム相[7]が液液分離セクション[C]から出る。
【0130】
水性硫酸アンモニウム相[7]は抽出セクション[F]に投入され、該セクションでは溶媒[8]が添加されて溶解したε‐カプロラクタムが回収される。様々な溶媒、例えばベンゼン、トルエン、トリクロロエチレン、及びアルコール、とりわけ1‐オクタノール及び2‐エチルヘキサノール及びアルコールの混合物を、使用することができる。抽出セクション[F]は、1以上の抽出装置、例えば(向流)抽出塔及びミキサセトラを具備してもよい。ε‐カプロラクタム及び溶媒を含む混合物[9]が抽出セクション[F]から出る。
【0131】
得られた抽出後の水性硫酸アンモニウム相[10]は溶媒回収セクション[G]に投入され、該セクションでは抽出後の水性硫酸アンモニウム相[10]から溶媒が回収されて回収溶媒[11]として放出される。溶媒回収セクション[G]は1以上の蒸留塔及び/又は1以上の蒸気ストリッパを具備する可能性がある。
【0132】
溶媒回収後の水性硫酸アンモニウム相[12]は、pH調整セクション[H]においてpH改変剤[13](好ましくはアンモニア又は硫酸)の添加によりpH調整され、それによりpH調整後の水性硫酸アンモニウム相[14]が得られる。pH調整後の水性硫酸アンモニウム相[14]は、蒸発式結晶化セクション[I]の1以上の蒸発式晶析装置(例えばオスロ型(流動床式)晶析装置、ドラフトチューブバッフル(DTB)晶析装置又は強制循環式晶析装置)に投入される。硫酸アンモニウム晶析装置における水分の蒸発に必要なエネルギー消費量を削減するために、蒸気再圧縮法及び/又は多重効用式蒸発法が適用される可能性もある。硫酸アンモニウム溶解セクション[e]から放出される硫酸アンモニウムの水性流[213]は、蒸発式結晶化セクション[I]の1以上の蒸発式晶析装置に投入される。蒸発式結晶化セクション[I]の1以上の蒸発式晶析装置において蒸発せしめられた水分は、凝縮されて凝縮水[15]として放出される。場合により、凝縮水[15]は、場合により精製処理(例えば活性炭による吸着処理)の後に、ベックマン転位反応に再使用される(図示せず)。パージ[204]が蒸発式結晶化セクション[I]の1以上の蒸発式晶析装置から放出される。パージ[204]は、投入されたpH調整後の水性硫酸アンモニウム相[14]の有機成分含有量と比較して高い有機成分含有量を有する水性硫酸アンモニウム相である、母液である。パージ[204]は、第2の蒸発式結晶化セクション[a]に投入される。
【0133】
硫酸アンモニウム含有スラリー[16]が蒸発式結晶化セクション[I]の1以上の蒸発式晶析装置から放出されて、1以上の固液分離装置[J](例えば(連続)濾過器、遠心分離機、遠心沈降機、水簸カラム、ソルトレッグ、液体サイクロン又はこれらの組み合わせ)に投入され、それにより硫酸アンモニウム湿潤結晶[18]が分離される。その残りの、水性硫酸アンモニウム相又は希薄硫酸アンモニウムスラリー[17]は、蒸発式結晶化セクション[I]の1以上の蒸発式晶析装置に投入される。
【0134】
場合により、硫酸アンモニウム湿潤結晶の洗浄ステップが含められ、それにより硫酸アンモニウム湿潤結晶は、硫酸アンモニウム湿潤結晶の(表面に付着している)有機成分の含有量を低減するために(好ましくは水又は水性硫酸アンモニウム相で)洗浄される(図示せず)。
【0135】
硫酸アンモニウム湿潤結晶[18]は、1以上の乾燥装置[K](例えば流動床乾燥機)で乾燥せしめられ、それにより水蒸気[19]及び乾燥硫酸アンモニウム結晶[21]が放出される。場合により、乾燥硫酸アンモニウム結晶[20]について、篩過、コーティング、及び/又は他の化合物とのブレンドが行われる(図示せず)。
【0136】
抽出セクション[L]では、水性の粗製ε‐カプロラクタム[6]が溶媒[21]で抽出され、それにより水性流出液[22]と、ε‐カプロラクタム及び溶媒を含む混合物[25]とが得られる。様々な溶媒、例えばベンゼン、トルエン、トリクロロエチレン、及びアルコール、とりわけ1‐オクタノール及び2‐エチルヘキサノール及びこれらの混合物を使用することができる。抽出セクション[L]は、1以上の抽出装置、例えば(向流)抽出塔及びミキサセトラを具備する可能性がある。得られた水性流出液[22]は溶媒回収セクション[M]に投入される。
【0137】
溶媒回収セクション[M]では、溶媒が水性流出液[22]から回収されて回収溶媒[23]として放出される。溶媒回収セクション[M]は、1以上の蒸留塔及び/又は1以上の蒸気ストリッパを具備する可能性がある。溶媒回収後に生じる水性流出液[201]は予備濃縮セクション[f]に投入され、該セクションでは主として水分が除去される。好ましくは、予備濃縮セクション[f]は、逆浸透膜及び/又は1以上の蒸発器、例えば流下薄膜式、自然対流式、強制対流式、上昇薄膜式、上昇薄膜型プレート式、又はこれらの組み合わせを具備している。予備濃縮セクション[f]では水が分離され、水流[202]として放出される。一般に、水流[202]は廃棄物として処分され、排水処理システムで処理される(図示せず)。場合により、水流[202]は、場合により精製処理(例えば活性炭による吸着処理)の後に、ベックマン転位反応に再使用される(図示せず)。場合により、水流[202]が(例えば蒸発の結果として)蒸気相である場合、凝縮熱が回収される可能性もある(図示せず)。
【0138】
抽出セクション[L]から放出されたε‐カプロラクタム及び溶媒を含む混合物[24]については、ε‐カプロラクタム精製・濃縮セクション[N]においてさらにワークアップが為され、それにより回収溶媒[25]及び精製ε‐カプロラクタム[26]が得られる。工業的実施では、様々な実施形態のε‐カプロラクタム精製・濃縮セクション[N]が実現される。一般に、これらの実施形態は、抽出、水素添加、イオン交換、結晶化、pH調整及び/又は(真空)蒸留のための装置一式の組み合わせから成っていてよい。
【0139】
図4のセクション[a]、[b]、[c]、及び[e]並びにこれらのセクションを出入りする様々な流れについては上記に図3について記載したとおりである。
【実施例
【0140】
以降の実施例は、より詳細に本発明について、特に本発明のある一定の形態について説明する役割を果たす。しかしながら実施例は、本開示を限定するようには意図されていない。
【0141】
以降の実施例において述べるCOD含量は、ASTM D 1252‐95による重クロム酸法に従って測定される。
【0142】
実施例及び比較実施例は、200ktaを上回るε‐カプロラクタム年間生産能力を備えた、ε‐カプロラクタム及び結晶状硫酸アンモニウムの両方が生産される工業規模の連続運転プラントで実行された。
【0143】
<比較実施例1>
比較実施例1は、図4に示す本発明の実施形態に非常に類似している。しかしながら本比較実施例では、ベンゼン回収後の水性流出液[201]は排水処理システムに投入された。加えて、パージ[204]も排水処理システムに投入された。
【0144】
カプロラクタム工業プラントにおいて、シクロヘキサノンからHPO(登録商標)法によってシクロヘキサノンオキシムが生産された。シクロヘキサノンオキシム[1]は、3段階ベックマン転位反応セクション[A]においてオレウム[2]を用いてε‐カプロラクタムに転化された。得られたベックマン転位混合物[3](過剰量の硫酸中のε‐カプロラクタム硫酸塩)は次に中和セクション[B]においてアンモニア水[4]で中和され、それにより水性の粗製ε‐カプロラクタムと水性硫酸アンモニウム相との中和混合物[5]が得られた。上記2つの相は、液液分離セクション[C]において水性の粗製ε‐カプロラクタム[6]及び水性硫酸アンモニウム相[7]に分離された。
【0145】
水性の粗製ε‐カプロラクタム[6]は、抽出セクション[L]の向流抽出塔においてベンゼン[21]で抽出され、それによりベンゼンを含むε‐カプロラクタム混合物[24]及び水性流出液[22]が得られた。ベンゼンを含むε‐カプロラクタム混合物[24]については、ε‐カプロラクタム精製・濃縮セクション[N]においてさらにワークアップが行われ、それにより回収ベンゼン[25]及び一級のε‐カプロラクタム[26]が得られた。一級のε‐カプロラクタム[26]はナイロン6生産の原料として販売された。水性流出液[22]はベンゼン回収セクション[M]の蒸留塔に供給され、同セクションからはベンゼン[23]が塔頂生成物として回収され、かつベンゼン回収後の水性流出液[201]が塔底生成物として得られた。ベンゼン回収後の水性流出液[201]は、約4重量%の硫酸アンモニウム、約4重量%の有機成分で構成され、残りは主として水であった。比較実施例1では、ベンゼン回収後の水性流出液[201]は排水処理システムに投入され、そこでほとんどのアンモニウム成分及び有機成分が除去された。
【0146】
水性硫酸アンモニウム相[7]は抽出セクション[F]の向流抽出塔の上方部に、ベンゼン[8]は下方部に投入された。ベンゼンを含むε‐カプロラクタムを含む混合物[9]及び抽出後の水性硫酸アンモニウム相[10]が抽出セクション[F]から放出された。抽出後の水性硫酸アンモニウム相[10]はベンゼン回収セクション[G]の蒸留塔に供給され、同セクションからはベンゼン[11]が塔頂生成物として回収され、ベンゼン回収後の水性硫酸アンモニウム相[12]が塔底生成物として得られた。溶媒回収後の水性硫酸アンモニウム相[12]は、pH調整セクション[H]でアンモニア水[13]の添加によりpH値を約5(温度25℃で計測)にpH調整され、それによりpH調整後の水性硫酸アンモニウム相[14]が得られた。
【0147】
このpH調整後の水性硫酸アンモニウム相[14]は、蒸発式結晶化セクション[I]の多重効用式蒸発法を用いる3台のオスロ型晶析装置に投入された。蒸発式結晶化セクション[I]で蒸発せしめられた水分は、凝縮されて凝縮水[15]として放出された。比較実施例1では、パージ[204]が蒸発式結晶化セクション[I]から放出された。該パージ[204]はその後、ほとんどのアンモニウム成分及び有機成分が除去される排水処理システムに投入された。パージ[204]は、水、約40重量%の硫酸アンモニウム、及び有機不純物(パージに対して約40グラムCOD/kg)で構成された。
【0148】
硫酸アンモニウムを含有するスラリー[16]が蒸発式結晶化セクション[I]から放出されて固液分離セクション[J]の遠心分離機に投入され、該セクションでは、水を用いた洗浄の後に硫酸アンモニウム湿潤結晶[18]が分離された。その残りの、いくらかの微細な硫酸アンモニウム結晶を含む硫酸アンモニウム相[17]は蒸発式結晶化セクション[I]に投入された。最後に、硫酸アンモニウム湿潤結晶[18]は乾燥セクション[K]の流動床乾燥機で乾燥せしめられ、それにより水蒸気[19]及び乾燥硫酸アンモニウム結晶[20]が放出された。乾燥硫酸アンモニウム結晶[20]は篩分けされてから高純度の結晶状硫酸アンモニウムとして販売された。乾燥硫酸アンモニウム結晶[20]は、ほぼ3mmの平均中位径を有し、色は白みを帯びていた。
【0149】
<実施例1>
実施例1は、図4に示されるような本発明の実施形態について説明する。
【0150】
比較実施例1に記載された実験の繰り返しであるが、相違点は、本実施例でパージ[204]及びベンゼン回収後の水性流出液[201]が排水処理システムには投入されず、予備濃縮セクション[f]、硫酸アンモニウム結晶化セクション[a]、液液分離セクション[b]、固液分離セクション[c]、及び硫酸アンモニウム溶解セクション[e]を具備する装置に投入されたことである。この装置から、硫酸アンモニウム相の水性流[213]が第1の硫酸アンモニウム結晶化セクション[I]に投入された。液液分離セクション[b]からは、高い有機成分含有量を有する液体油性相[208]が放出されて焼却炉で燃焼された。
【0151】
約4重量%の硫酸アンモニウム、約4重量%の有機物、及び残りが主として水分で構成された、ベンゼン回収後の水性流出液[201]は、予備濃縮セクション[f]の蒸気加熱型流下薄膜式蒸発器に投入され、それにより水分の一部が蒸発せしめられて蒸気[202]として放出された。
【0152】
得られた予備濃縮後の流出液[203]は約8重量%の硫酸アンモニウム、約8重量%の有機成分、及び残りが主として水分で構成されており、予備濃縮セクション[f]の流下薄膜式蒸発器から放出され、pH調整のために先にアンモニア水が投入されてから、硫酸アンモニウム結晶化セクション[a]のオスロ型晶析装置に投入された。加えて、蒸発式結晶化セクション[I]から放出されたパージ[204]は硫酸アンモニウム結晶化セクション[a]のオスロ型晶析装置に投入された。蒸気[202]は、硫酸アンモニウム結晶化セクション[a]のオスロ型晶析装置の熱交換器に供給された。水分は硫酸アンモニウム結晶化セクション[a]のオスロ型晶析装置で蒸発せしめられ、凝縮されて凝縮水[205]として放出された。硫酸アンモニウム結晶化セクション[a]のオスロ型晶析装置の温度は約70℃に維持された。硫酸アンモニウム結晶化セクション[a]のオスロ型晶析装置における有機成分の濃度及び硫酸アンモニウムの濃度は非常に高く、三相系すなわち有機成分含有量が高い液体油性相と、水性硫酸アンモニウムを含む液相と、硫酸アンモニウム結晶を含む固相とが形成された。
【0153】
主として有機成分含有量の高い液体油性相と、水性硫酸アンモニウムを含む液相との混合物[206]が、硫酸アンモニウム結晶化セクション[a]のオスロ型晶析装置から側流として放出され、液液分離セクション[b]の分離容器に投入された。この混合物は少量の微細な硫酸アンモニウム結晶を含有していた。混合物[206]の中の有機成分含有量の高い液体油性相と水性硫酸アンモニウムを含む液相との重量対重量比は平均して1:8であった。液液分離セクション[b]の分離容器では相分離が観察され、それにより液体の油性層は最上層となった。液液分離セクション[b]の分離容器内への平均滞留時間は約1時間であった。最上層は、液液分離セクション[b]の分離容器から有機成分含有量の高い液体油性相[208]として放出された。この液体油性相[208]の典型的な組成は、有機成分含有量(CODとして表記)が液体油性相に対して1000~1500グラム/kg;ε‐カプロラクタムが3~6重量%;硫酸アンモニウムが12~20重量%;水分が18~30重量%であった。この液体油性相[208]の密度(温度25℃で計測)は、液体油性相に対し1150~1220kg/mであった。水性硫酸アンモニウムを含む相である下端層は、液液分離セクション[b]の分離容器から水性相[207]として放出され、硫酸アンモニウム結晶化セクション[a]のオスロ型晶析装置に投入された。
【0154】
硫酸アンモニウム含有スラリー[209]は、硫酸アンモニウム結晶化セクション[a]のオスロ型晶析装置から放出されて固液分離セクション[c]の連続式遠心分離機に投入され、そこで硫酸アンモニウム結晶が分離された。硫酸アンモニウム結晶は、水で洗浄されてから洗浄済み硫酸アンモニウム湿潤結晶[211]として放出された。その残りの、硫酸アンモニウムを含む水性相すなわち希薄硫酸アンモニウムスラリー[210]は、硫酸アンモニウム結晶化セクション[a]のオスロ型晶析装置に再投入された。
【0155】
洗浄済み硫酸アンモニウム湿潤結晶[211]及び水[212]が、硫酸アンモニウム溶解セクション[e]の撹拌容器に投入された。約40重量%の硫酸アンモニウムを含有する硫酸アンモニウム相の水性流[213]が、硫酸アンモニウム溶解セクション[e]の撹拌容器から放出された。硫酸アンモニウム相の水性流[213]は蒸発式結晶化セクション[I]に供給原料として投入された。
【0156】
実施例1において生産された一級のε‐カプロラクタム[28]及び乾燥硫酸アンモニウム結晶[21]のいずれの品質も、比較実施例1のものと同等であった。
【0157】
しかしながら、実施例1では、生産されたε‐カプロラクタム1トン当たりの乾燥硫酸アンモニウム結晶[21]の量が、比較実施例1に対して約3重量%増大した。
【0158】
実施例1の結果を比較実施例1の結果と比較すると、得られるε‐カプロラクタム及び硫酸アンモニウム生成物の量及び品質に悪影響を及ぼすことなく、水性硫酸アンモニウム及び有機成分を含む相の処分を回避することが可能であることが示されている。さらに、実施例1は高純度の結晶状硫酸アンモニウムが3%多く得られることを示している。加えて、余分な燃料を添加することなく焼却可能な液体油性相が得られる。これらの利点は全て、より価値の高い製品の生成、副生成物の処分に関する費用の低減、及び環境への影響の低減を可能にする。全体的な結果として、実施例1は、ポリアミド6及びその共製品を生産するための方法の全体的なカーボンフットプリントを低減した。
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
【国際調査報告】