(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-29
(54)【発明の名称】新型コロナウイルス感染症に対するmRNAワクチンの組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/215 20060101AFI20230322BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20230322BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230322BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20230322BHJP
A61K 9/51 20060101ALI20230322BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20230322BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20230322BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230322BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20230322BHJP
A61K 9/72 20060101ALI20230322BHJP
C12N 15/50 20060101ALI20230322BHJP
【FI】
A61K39/215 ZNA
A61K39/00 G
A61P31/14
A61K9/14
A61K9/51
A61K47/42
A61K47/44
A61K48/00
A61K9/10
A61K9/72
C12N15/50
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022548143
(86)(22)【出願日】2021-02-08
(85)【翻訳文提出日】2022-09-26
(86)【国際出願番号】 US2021017149
(87)【国際公開番号】W WO2021159118
(87)【国際公開日】2021-08-12
(32)【優先日】2020-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】522313994
【氏名又は名称】アールエヌエーイミューン、インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】RNAIMMUNE, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】タン、ションカオ
(72)【発明者】
【氏名】シェン、トン
(72)【発明者】
【氏名】ルー、チュン
(72)【発明者】
【氏名】ホー、ツーヤン
(72)【発明者】
【氏名】ホー、チアシー
(72)【発明者】
【氏名】ルー、パトリック、ワイ.
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
【Fターム(参考)】
4C076AA29
4C076AA65
4C076AA93
4C076BB15
4C076BB16
4C076BB21
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4C084MA05
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4C084NA14
4C084ZB09
4C084ZB33
4C085AA03
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4C085EE01
4C085EE07
4C085GG03
4C085GG04
4C085GG06
4C085GG10
(57)【要約】
【課題】2019年新規コロナウイルス(2019-nCoV)感染の予防及び治療のための強力なmRNAワクチン用の組成物及び方法が提供される。
【解決手段】組成物は、変異エピトープを含むスパイクタンパク質エピトープをコードする1つ以上のmRNA分子、又は重要なウイルス遺伝子をコードするmRNAカクテルを、薬学的に許容される高分子ナノ粒子担体及びリポソームナノ粒子担体とともに含む薬学的組成物を含む。皮下、腹腔内及び筋肉内注射を含む、システム免疫応答を刺激する方法及び治療法が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬学的に許容される担体に配合される、2019-nCoVタンパク質又はタンパク質断片をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)を含むメッセンジャーリボ核酸(mRNA)の有効量を含有し、該mRNA及び前記担体が高分子ナノ粒子を形成する、組成物。
【請求項2】
前記2019-nCoVタンパク質がスパイク(S)タンパク質又はスパイク(S)サブユニットである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ORFが、配列表の配列番号14~31から選択されるペプチドをコードするmRNA分子からなる群より選択される、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ORFが、配列表の配列番号32~49からなる群より選択される、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
前記ORFが、配列表の配列番号50~55から選択されるペプチドをコードするmRNAを含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項6】
前記ORFが、配列表の配列番号91~96からなる群より選択される、請求項4に記載の組成物。
【請求項7】
前記ORFが、配列表の配列番号56~66から選択されるペプチドをコードするmRNAを含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項8】
前記ORFが、配列表の配列番号97~107からなる群より選択される、請求項6に記載の組成物。
【請求項9】
前記ORFが、配列表の配列番号11、13、68、70、72、74及び90から選択されるアミノ酸配列をコードするmRNA分子からなる群より選択される、請求項2に記載の組成物。
【請求項10】
前記ORFが、配列表の配列番号10、12、67、69、71、73及び89からなる群より選択される、請求項8に記載の組成物。
【請求項11】
前記ORFが、配列表の配列番号1、2、3、及び4からなる群より選択される、請求項2に記載の組成物。
【請求項12】
orf1a及び/又はorf1bの全部又は一部を含むmRNAをさらに含み、該mRNAが2019-nCoV非構造タンパク質ポリメラーゼ及び/又はRdRpをコードする、任意の先行請求項に記載の組成物。
【請求項13】
前記ORFが、配列表の配列番号5及び6からなる群より選択されるmRNAである、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記ORFが、エンベロープ(E)、膜(M)、及び/又はヌクレオカプシド(N)タンパク質をコードする2019 nCoVの全て又は一部をコードする、請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
エンベロープ(E)、膜(M)、及び/又はヌクレオキャプシド(N)タンパク質をコードする2019-nCoVの全部又は一部をコードする1つ又は複数のmRNA配列をさらに含む、任意の先行請求項に記載の組成物。
【請求項16】
前記ORFが、配列表の配列番号7、8、及び9からなる群より選択される、請求項14又は15に記載の組成物。
【請求項17】
前記mRNAが、1つ以上のN1-メチル-プソイドウリジン及び/又はプソイドウリジン残基を含む化学的に修飾されたmRNA配列である、任意の先行請求項に記載の組成物。
【請求項18】
前記mRNA中の全てのウリジン残基がN1-メチルプソイドウリジン又はプソイドウリジンである、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記mRNA分子が、3´-UTR、5´-UTRをさらに含み、任意に、(a)組成物を安定化し、(b)前記ORFによってコードされるポリペプチドの発現を増強する追加の要素をさらに含む、任意の先行請求項に記載の組成物。
【請求項20】
前記5´-UTRが、m7Gキャップ構造及び開始コドンを含む、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
前記3´-UTRが停止コドン及びpolyAテールを含む、請求項19又は20に記載の組成物。
【請求項22】
前記ORFを線状インビトロ転写(IVT)系で発現させることを含む、請求項1~21のいずれか1項に記載の組成物を製造する方法。
【請求項23】
プラスミドDNA(pDNA)ベクター送達システムを用いて前記ORF発現を発現させることを含む、請求項1~21のいずれか1項に記載の組成物の製造方法。
【請求項24】
前記組成物が、1つ以上のORFを含み、少なくとも2つのポリペプチドをコードする、請求項1~21のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項25】
前記組成物が、ヒスチジン-リジン共重合体(HKP)を含む高分子ナノ粒子担体をさらに含む、請求項1~21又は24のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項26】
前記HKPが、配列表の配列番号75~88から選択される側鎖を有するポリマーからなる群より選択される、請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
前記ORFを含む組成物をHKPと接触させることを含み、前記mRNAと前記HKPが自己集合してナノ粒子となる、請求項25又は請求項26に記載の組成物の製造方法。
【請求項28】
前記ナノ粒子が脂質をさらに含み、該脂質が任意にカチオン性脂質である、請求項1~21又は請求項24~26のいずれかに記載の組成物。
【請求項29】
請求項1~21、24~26又は28のいずれか1項に記載の組成物の薬学的有効量を前記対象に投与することを含む、2019-nCoV感染を有する対象を治療する方法。
【請求項30】
前記組成物が、投与前又は投与中にネブライザー吸入システムによって霧化される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記ネブライザーシステムが、全呼吸器官薬物送達用の携帯できるネブライザーである、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記組成物が皮下注射によって投与される、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
前記組成物が筋肉内注射によって投与される、請求項29に記載の方法。
【請求項34】
前記組成物が腹腔内注射(i.p)により投与される、請求項29に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年2月7日に出願された米国仮出願第62/971,834号、2020年7月29日に出願された63/058,463号、及び2020年12月24日に出願された63/130,581号の優先権を主張し、それぞれの内容は参照によりその全体としてここに組み込まれるものである。
2019-nCoV感染のワクチン接種、予防及び治療のための予防薬及び治療薬が、それらの使用のための方法とともに提供される。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウイルス(2019-nCoV)感染症:生物学及び病理学
コロナウイルス(CoVs)は、繰り返し種の壁を越えており、一部は重要なヒトの病原体として出現している。過去20年の間に、動物に感染する2つのコロナウイルスが進化し、ヒトでの大流行を引き起こした。SARS-CoV (2002, Betacoronavirus, subgenus Sarbecovirus)とMERS-CoV (2012, Betacoronavirus, subgenus Merbecovirus) [ Drosten et al., New Engl J Med. 2003; 348: 1967-1976;Zaki et al., New Engl J Med. 2012; 367: 1814-1820]. 2019年12月31日、中国湖北省武漢市の武漢市衛生委員会は、武漢の華南海鮮卸売市場(異なる動物種を販売する魚や生きた動物の卸売市場)との関連が共通して報告された、7人の重症例を含む27人の原因不明の肺炎の集団事例を報告した[Wuhan City Health Committee (WCHC).武漢市衛生保健委員会の当市における現在の肺炎流行状況についての説明 2019(2019年12月31日2020年1月14日更新)。公開元:http://wjw.wuhan.gov.cn/front/web/showDetail/2019123108989]。
2019-nCoVは、これまでヒトで確認されていない新型のコロナウイルス株である[Zhu et al., N Engl J Med. 382:727-733 (2020)]。
【0003】
この大流行は急速に拡大し、中国の他の地域や国外にも影響を及ぼしている。現在、アジアの数カ国だけでなく、オーストラリア、ヨーロッパ、北米でも症例が検出されている。2019-nCoVは、呼吸器飛沫を介したヒト-ヒトの接触によって広がるようである[Li et al., N Engl J Med. 2020; 382:1199-1207]。
【0004】
遺伝子解析の結果、2019-nCoVはSARS-CoVと近縁であり、遺伝的にはベータコロナウイルス属にクラスター化し、コウモリ由来のSARS様2株とともにサーベコウイルス亜属の系統Bに明確なクレードを形成していることが明らかとなった。ウイルスゲノムは、コロナウイルスに共通する6つの主要なオープンリーディングフレーム(ORF)と、その他の多数の付属遺伝子から構成されている。さらなる解析の結果、2019-nCoVの遺伝子の一部はSARS-CoVと80%未満の配列同一性を有していた。しかし、CoVの種分類に使用したORF1abの7つの保存されたレプリカーゼ(RdRP)ドメインは、2019-nCoVとSARS-CoVの間で94.6%のAA配列同一であり、両者は同じ種に属することが示唆される。SARS-CoVの細胞受容体として、膜外ペプチダーゼであるAngiotensin converting enzyme II(ACE2)が知られていた。この受容体は、2019-nCoVがヒトの細胞内に侵入する際にも使用されることが示されている。ドメイン266-330(成熟タンパク質の配列に基づく番号付け)は、2019-nCoVとACE2との相互作用に必須であることが示されている[Veljkovicら、F1000Research、2020;9:52.]。
【0005】
新型コロナウイルス(2019-nCoV)の現在の予防法・治療法について
現在、2019-nCoVの全ゲノム287,543個の配列が中国CDC等からGISAID[GISAID, Newly discovered betacoronavirus, Wuhan 2019-2020 (2019); https://www.gisaid.org/.]に提出されており、そのうち1つはGenBankで公開(Accession: MN908947.3)[http://www.ncbi.nlm.nih.gov/genbank/.]されている。現在、2019-nCoV感染を含むコロナウイルス感染症を予防するためのワクチンは、緊急時使用認定ワクチンが2種類のみで、認可されたワクチンはない。
【0006】
mRNAワクチンの利点
ワクチン接種は、疾病予防と制御に対する最も成功した医学的アプローチである。ワクチンの開発と使用の成功により、何千人もの命と多額の資金が救われている。RNAワクチンの主な利点は、実験室でDNAを鋳型にRNAを生産することができることで、鶏卵や他の哺乳類細胞を必要とする従来のワクチン生産よりも安価かつ迅速に生産できる。さらに、mRNAワクチンは、ワクチンの発見と開発を合理化し、新興感染症への迅速な対応を促進する可能性がある[Maruggi et al, Mol Ther. 2019; 27(4): 757-772]。
【0007】
前臨床試験及び臨床試験により、mRNAワクチンは動物モデル及びヒトにおいて安全かつ長期的な免疫応答をもたらすことが示されている。感染症に対するmRNAワクチンは、予防的又は治療的治療として開発することができる。感染性病原体の抗原を発現するmRNAワクチンは、強力なT細胞及び液性免疫応答を誘導することが示されている[Pardi et al.,Nat Rev Drug Discov.2018; 17: 261-279.]。mRNAワクチンを生成するための製造手順は、全病原体ワクチン、弱毒生ワクチン、サブユニットワクチンの製造と比較して、無細胞でシンプルかつ迅速である。この迅速かつシンプルな製造プロセスにより、mRNAは、新興感染症と効果的なワクチンの切実なニーズとの間のギャップを埋めることができる可能性のある有望なバイオ製品になる。
【発明の概要】
【0008】
薬学的に許容される担体中に配合された2019-nCoVタンパク質又はタンパク質断片をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)を含むメッセンジャーリボ核酸(mRNA)の有効量を含む組成物が提供され、ここで、mRNA及び担体がポリマーナノ粒子を形成する。2019-nCoVタンパク質は、スパイク(S)タンパク質又はスパイク(S)サブユニットであり得る。ORFは、配列表の配列番号14~31、又は50~66から選択される配列を有するペプチドなどのペプチドをコードするmRNAであってよい。ORFは、例えば、配列表の配列番号32~49又は配列番号91~107に示されるような配列を有するmRNAを含んでもよい。ORFは、配列番号 No.11、13、68、70、72、74及び90から選択されるアミノ酸配列をコードするmRNA分子から選択されてもよい。ORFは、配列番号1~4、10、12、67、69、71、73又は89のような配列を有していてもよい。
【0009】
これらの組成物はまた、orf1a及び/又はorf1bの全部又は一部を含むmRNAを含んでもよく、ここで、mRNAは2019-nCoV非構造タンパク質ポリメラーゼ及び/又はRdRpをコードしていてもよい。ORFは、配列番号5又は6のような配列を有するmRNAであり得る。ORFは、2019nCoVをコードするエンベロープ(E)、膜(M)、及び/又はヌクレオカプシド(N)タンパク質の全て又は一部をコードしていてもよい。これらの組成物はまた、2019 nCoVをコードするエンベロープ(E)、膜(M)、及び/又はヌクレオキャプシド(N)タンパク質の全て又は一部をコードする1つ又は複数のmRNA配列を含んでもよい。ORFは、配列番号 No.7、8、又は9に示される配列を有するmRNA分子から選択されてもよい。
【0010】
これらの組成物のいずれかにおいて、mRNAは、1つ以上のN1-メチル-プソイドウリジン及び/又はプソイドウリジン残基で化学的に修飾されてもよい。mRNA中のウリジン残基は、全てN1-メチルプソイドウリジン又はプソイドウリジンであり得る。
【0011】
これらの組成物のいずれにおいても、mRNA分子は、3´-UTR、5´-UTRをさらに含み、任意に、(a)組成物を安定化し、(b)ORFによってコードされるポリペプチドの発現を増強する追加の要素をさらに含むことができる。5´-UTRは、m7Gキャップ構造及び開始コドンを含むことができ、及び/又は3´-UTRは、停止コドン及びポリAテールを含むことができる。
【0012】
組成物は、1つ以上のORFを含んでいてもよく、少なくとも2つのポリペプチドをコードしていてもよい。
【0013】
組成物は、ヒスチジン-リジン共重合体(HKP)を含む高分子ナノ粒子担体を含んでもよい。適切なHKPの例には、配列表の配列番号75~88から選択される側鎖を有するポリマーが含まれるが、これらに限定されない。
【0014】
また、線状インビトロ転写(IVT)系で、又はプラスミドDNA(pDNA)ベクター送達系でORFを発現させることによって、上記のような組成物を製造する方法も提供される。
【0015】
上記のような組成物は、ORF(複数可)を含む組成物をHKPと接触させることによって製造されてもよく、ここでmRNAとHKPはナノ粒子に自己集合する。 組成物は、脂質をさらに含んでもよく、ここで、脂質は任意にカチオン性脂質であり得る。
【0016】
また、上記のような組成物の薬学的有効量を対象に投与することにより、2019-nCoV感染症に罹患している対象を治療する方法も提供される。組成物は、投与前又は投与中に、ネブライザー吸入システムによって霧化されてもよい。ネブライザーシステムは、全呼吸器官薬物送達のための携帯用ネブライザーであり得る。組成物は、皮下注射、筋肉内注射、又は腹腔内注射(i.p)により投与されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、最適化されたmRNAワクチン発現構造の模式図である。この構造は、線状インビトロ転写(IVT)発現システム又はプラスミドDNA送達ベクターに含まれる。
【
図2】
図2は、mRNA一過性トランスフェクション後のスパイクタンパク質発現の免疫蛍光分析結果を示している。
【
図3】
図3は、mRNA一過性トランスフェクション後のスパイクタンパク質発現のウェスタンブロット結果である。
【
図4】
図4は、スパイクタンパク質ORFmRNAの配列を示す。
【
図5】
図5は、D614G変異スパイクタンパク質ORF mRNA及びタンパク質配列を示す。
【
図6】
図6は、SARS RBD mRNA配列、及びD614G変異スパイクプロテインORFのアミノ酸配列を示す。
【
図7】
図7は、2019-nCoVのポリペプチドエピトープのmRNA配列及びアミノ酸配列を示す。
【
図8】
図8は、D614G_S6P_DNA及びアミノ酸配列を示す。
【
図9】
図9は、RBD三量体のDNA及びアミノ酸配列を示す。
【
図10】
図10はVUI-202012のDNAとアミノ酸の配列を示す。
【
図13】
図13は、D614G S2Pのアミノ酸配列を示す。
【
図14】
図14は、2019-nCoVのペプチドエピトープをコードするmRNA分子の配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
2019-nCoV感染のワクチン接種、予防及び治療のための予防薬及び治療薬が提供される。医薬用賦形剤と共に製剤化されたmRNA配列を含む医薬組成物が提供される。mRNAベースの医薬製剤の組成物は、コロナウイルス感染及び複製に必要なウイルスタンパク質をコードするmRNA配列、及び特定の担体を含む。好適な担体は、ヒスチジン-リジン共重合体(HKP)、及び/又はHKPプラス脂質、例えばカチオン性脂質である。治療方法、プロセス開発、及び特定の送達経路及びレジメンを含む、これらの医薬組成物を使用するための方法も提供される。
【0019】
2019-nCoVに対するmRNAワクチンのための標的の選択および設計
タンパク質レベルについて、様々な2019-nCoVの予測された遺伝子を特定し、注釈づけした。6つすべての2019-nCoVゲノムの注釈づけ結果は、SARS-CoV様コロナウイルスにおいて確認される7つの機能的タンパク質(pp1a、E2糖タンパク質前駆体、仮想タンパク質sars3a、マトリックスタンパク質、仮想ンパク質sars6、仮想タンパク質sars7a、ヌクレオカプシドタンパク質)を含めて同一であることが見出された[B.Buchfink他、Nat Methods.2015;12:59~60]。これらの結果は、2019-nCoVと、SARS-CoVまたはMERS-CoV様コロナウイルスとの間における類似性および差異を例示している。
【0020】
2019-nCoVについての主たるヒト受容体はヒトアンギオテンシン変換酵素2(ACE2)であると考えられている。2019-nCoV由来のS1タンパク質のドメイン288~330が有望な治療標的および/またはワクチン標的を表している[Veljkovic他、前出]。一般に、2019-nCoVを含めたコロナウイルスのスパイク(S)タンパク質は中和抗体の主要な誘導因子であり、Sタンパク質のS1サブユニットにおける受容体結合ドメイン(RBD)は多数の立体配座的な中和エピトープを含有する[He他、J Immunol.2005;174(8):4908~4915]。このことから、RBDを含有する組換えタンパク質、およびRBD配列をコードするmRNAを含むベクターは、安全かつ効果的な2019-nCoVワクチンを開発するために使用することができることが示唆される。
【0021】
本明細書中に記載されるように、新しいタイプのmRNAワクチン(mRNA-1273)が、2019-nCoVの1つまたは複数のタンパク質に由来する1つまたは複数のエピトープをコードするオープンリーディングフレーム(ORF)を含有するメッセンジャーリボ核酸(mRNA)を含有する免疫原性組成物を使用して開発されている。このmRNAは、ポリマーナノ粒子および/またはリポソームナノ粒子を含有する医薬的に許容され得るキャリアにおいて配合される。組成物は、2019-nCoVに対する特異的免疫応答を対象において誘導するために効果的な量で対象に投与される場合がある。組成物は1つを超えるタイプのmRNA分子を含有する場合がある。それぞれの追加されたコピー体により、組成物の免疫刺激活性が強化される。そのようなmRNAのすべてが、非常に免疫原性であり、かつ、2019-nCoVが上皮細胞に進入する(これは2019-nCoV感染における最初の段階である)ために要求される抗原をコードする。
【0022】
1つの実施形態において、組成物は、2019-nCoVのスパイク(S)タンパク質全体をコードする1つまたは複数のmRNAを含有する(
図3)。このSタンパク質が、宿主細胞受容体に付着するためにウイルスによって使用される。Spikeタンパク質をコードするmRNA配列は長く、したがって、mRNA発現システム調製の効率を改善するために、当該配列を4つの領域に、すなわち、これらの領域の1つ、いくつか、またはすべてが、Spikeタンパク質ドメインについてインフレームで発現したときにはSpikeタンパク質構造に対するmRNA抗原として使用することができる4つの領域に分割した(配列番号1~配列番号4)。エピトープになりそうな24個の短いペプチドフラグメントを標的として選択した(配列番号14~配列番号31)。選択される短いペプチドは20アミノ酸未満であり、好都合には15アミノ酸未満である。短いペプチド配列をコードするmRNA配列を、この技術分野において広く知られている方法を使用して設計した(配列番号32~配列番号49)。
【0023】
さらに、他のコロナウイルスと比較して、2019-nCoVはいくつかの特異な挿入をスパイクタンパク質において有する。2019-nCoVのSタンパク質のそれらの挿入部位におけるアミノ酸残基は、ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)の複製タンパク質gp120またはGagにおけるアミノ酸残基と同一であるか、または類似している。別の実施形態において、ヒト免疫系によって認識される、2019-nCoVとHIV-1との間で同一であるアミノ酸残基をコードする一連のmRNA配列を設計した(配列番号50~配列番号66)。
【0024】
別の実施形態において、mRNAは、スパイクタンパク質のORFのD614Gバリアントをコードする。コロナウイルス疾患2019(COVID-19)の大流行は、SARS-CoV-2によって引き起こされたものであるが、今や世界的パンデミックに急速に拡大している。D614G変異をウイルススパイク(S)タンパク質においてコードする様々なSARS-CoV-2単離株が、それが見出される現場では次第に支配的になっており、このことは、この変化がウイルス伝播を増強することを暗示している。残基614においてアスパラギン酸(D614)およびグリシン(G614)を有するSタンパク質は、機能的特性が異なる。具体的には、G614によりシュードタイプ化したレトロウイルスが、野生型(D614)を有するレトロウイルスよりもはるかに効率的にACE2発現細胞に感染することが見出された。このより大きい感染力は、より少ないS1シェディング(shedding)、およびSタンパク質の偽ビリオンへのより多くの組み込みと相関していた。同様の結果が、SARS-CoV-2のMタンパク質、Nタンパク質、Eタンパク質およびSタンパク質を伴って産生されるウイルス様粒子を使用して得られた。相関分析において、D614G変異を持つスパイクタンパク質は死亡率との有意な正の相関を示した(r=0.43、P=0.022)。これらの結果は、D614G変異を有するスパイクタンパク質は野生型よりも安定であることを示しており、このことは、スパイクのD614G変異を有するウイルスがより効率的に伝染することを示唆する疫学的データと一致している(配列番号10)。Sars-Cov-2の優勢株に対するより効果的な保護をもたらすであろうので、D614G変異を組み込むORFを有するワクチンが作製された。
【0025】
別の実施形態において、mRNAは、D614Gスパイクタンパク質の前駆体S2Pをコードする、配列番号89を有するORFをコードする。
【0026】
別の実施形態において、mRNAは、これまでに特定されているスパイクタンパク質内の他の変異を組み込む、配列番号67を有するORFをコードする。これらには、HV69~70欠失スパイクタンパク質、Y144欠失スパイクタンパク質、N501Y変異スパイクタンパク質、A570D変異スパイクタンパク質、P681H変異スパイクタンパク質、T716I変異スパイクタンパク質、F817P改変スパイクタンパク質、A892P改変スパイクタンパク質、A899P改変スパイクタンパク質、A942P改変スパイクタンパク質、S982A変異スパイクタンパク質、およびD1118H変異スパイクタンパク質が含まれる。これらの知られている変異のいずれかの1つまたは複数をコードするmRNAを含有するワクチン組成物を、本明細書中に記載される方法を使用して調製することができる。
【0027】
他の実施形態において、mRNAは、エンベロープ(E)、膜(M)またはヌクレオカプシド(N)の構造タンパク質を含めた1つまたは複数の他のSARS-CoV-2ウイルスタンパク質コード配列をコードする場合がある。2019-nCoVゲノムは5’-レプリカーゼ(orf1/ab)-構造タンパク質[Spike(S)-エンベロープ(E)-膜(M)-ヌクレオカプシド(N)]-3’の順で並んでおり(Zulma他、2016、Nature Reviews Drug Discovery、15:327~347)、系統Aβ-CoVにおいて特徴的に見出されるヘマグルチニンエステラーゼ遺伝子を欠いている。したがって、2019-nCoVをコードするmRNAのSタンパク質とは異なる、または2019-nCoVをコードするmRNAのSタンパク質に加えての様々なウイルスタンパク質を、mRNAに基づくワクチン接種標的として適用することができる。1つの実施形態において、ウイルスの表面タンパク質が好都合にはmRNAワクチンのための標的である。ORF1aの領域におけるウイルスポリメラーゼに関わるウイルス機能的タンパク質(配列番号5)およびORF1bの領域における複製に関わるウイルス機能的タンパク質(RdRp)(配列番号6)もまた、ワクチン組成物を調製するために使用される場合がある。
【0028】
他のウイルスタンパク質もまた、mRNAワクチンの標的である場合がある。例えば、コロナウイルスの膜(M)タンパク質は、ビリオン組立てにおいて役割を果たす重要なものである。その機能の1つが、スパイクのウイルスエンベロープへの組み込みを媒介することである。ヌクレオカプシドNタンパク質は、典型的には高度に保存されている非常に免疫原性のリンタンパク質である。コロナウイルスのNタンパク質はしばしば、診断アッセイにおけるマーカーとして使用される。コロナウイルス(CoV)のエンベロープ(E)タンパク質は、ウイルスの形態形成および病理発生を含めて多数の役割を感染期間中に果たしている。他の実施形態において、1つまたは複数のウイルス由来のMタンパク質、Nタンパク質およびEタンパク質のすべてまたは一部についてそれらの特異的抗原としてコードするmRNAが、抗原性ワクチン組成物における成分として使用するために選択される場合がある(配列番号7、配列番号8、配列番号9)。
【0029】
様々な改変が、ワクチン組成物を調製するためにmRNA配列においてなされる場合がある。例えば、5’キャップ構造がmRNA配列に付加される場合がある。1つの実施形態において、5’CleanCapが付加される。この構造では、開始用のキャップ化三量体が、天然に存在する5’キャップ構造を生じさせるために使用される。好都合には、ポリAテールが、mRNA安定性を増大させるために配列に付加される。AUまたはGUに富む配列が3’UTRにおいて選択される場合があり、一方で、ランダム配列が、宿主遺伝子配列に対する類似性を低下させるために5’UTPにおいて利用される場合がある。mRNA配列のコドン最適化もまた、翻訳効率を改善するために使用される場合がある。具体的には、存在量がより少ないtRNA種に対応し、したがって、より少ないタンパク質発現をもたらすコドンが、より高レベルのタンパク質発現をもたらす、存在量がより多いtRNAに対応するコドンにより置き換えられる。(Brown他、Protein Expr Purif、2008、59:94~102;Maertens他、2010、Protein Sci、9:1312~1326;Plotkin他、2011、Nat Rev Genet、12:32~42;Kudla他、2009、Science、324:255~258)
【0030】
mRNAワクチン発現効率の改善
哺乳動物細胞におけるmRNA発現効率を改善するために、mRNA安定性が部分的な化学的修飾によって高められる場合がある。翻訳効率をさらに増大させるために、異常なRNAポリメラーゼ活性に由来する短いRNAおよび二本鎖RNAが、例えば、FPLC、HPLC、またはセルロースをマトリックスとして使用するクロマトグラフィーによって除かれる。mRNAワクチンの効能を改善するために、配列最適化が、修飾ヌクレオシド(例えば、プソイドウリジン(φ)、5-メチルシチジン(5mC)など)の使用、Cap-1構造、および翻訳効率が結果として改善される最適化コドンと一緒に使用される場合がある。[修飾ヌクレオシドの使用に関して情報が何かさらにありますか。またはそれは常識ですか。コドン最適化が現段階では常識であると思います。] mRNAのインビトロ転写の期間中には、未成熟mRNAが、自然免疫活性化を刺激することにより翻訳を阻害する共存物として生じることがある(Kariko他、Mol Ther、2008、16(11):1833~40;Andries他、J Control Release、2015(11月10日)、217:337~44)。FPLC精製およびHPLC精製が、これらの共存物を除くために使用される場合がある。
【0031】
本明細書中に記載される組成物において、mRNAのインビトロ転写のための鋳型は、5つのシス作用する構造エレメント、すなわち、5’から3’に、(i)最適化されたキャップ構造、(ii)最適化された5’非翻訳領域(UTR)、(iii)コドン最適化されたコード配列、(iv)最適化された3’UTR、および(v)反復したアデニンヌクレオチドの区間(ポリAテール)を含有する(
図18)。(Murray他、Mol.Cell.Biol.、2007、27、2791~2799;Louis他、Curr.Opin.Genet.Dev.、2011、21、444~451;Ferizi他、Lab Chip、2015、15、3561~3571;Von Niessen他、Mol.Ther.、2019、27、824~836)これらのシス作用する構造エレメントは、半減期および発現レベルを含めたより良好なmRNA特徴のための努力においてさらに最適化される。本明細書中に提供される場合、5’-UTRは開始部を含み、しかしポリペプチドをコードしない(すなわち、5’-UTRは非コードである)。いくつかの実施形態において、本開示の5’-UTRは、7-メチルグアノシン(7mG)配列を有するキャップ構造を含む。3’-UTRは終止コドン(終結シグナルを表すmRNA転写物のコドン)のすぐ下流側(3’)にあり、ポリペプチドをコードしない(非コードである)。ポリAテールは、3’-UTRの下流にあり、かつ多数の連続したアデノシン一リン酸を含有するmRNAの特別な領域である;ポリAテールが効率的なmRNA産生のために要求される。mRNAインビトロ転写鋳型が、mRNA産生の効率のためだけでなく、その後のタンパク質産生またはペプチド産生のためにもまた使用される。
【0032】
いくつかの実施形態において、mRNAが、RNAポリメラーゼ(T7、T3またはSP6)および種々のヌクレオシドの混合物を使用することによって、バクテリオファージプロモーター、最適化UTR、およびコドン最適化配列を含有する線状DNA鋳型からのインビトロ転写(IVT)によって産生される。他の実施形態において、線状DNA鋳型を送達ベクターとしてのプラスミドDNA(pDNA)にクローン化することができる。プラスミドベクターをmRNAワクチン産生のために適合化することができる。一般に使用されるプラスミドには、pSFV1、pcDNA3およびpTK126が含まれ、これらはすべてが市販されている。1つの特異なmRNA発現システムがpEVLである(Grier他、Mol Ther Nucleic Acids、19;5:e306(2016)を参照のこと)。
【0033】
いくつかの実施形態において、mRNAは、すべてのウリジン残基がインビトロ転写の期間中にプソイドウリジン類によって置換される修飾mRNAである。この修飾はmRNAを細胞において酵素分解に対して安定化し、これにより、mRNAの高まった翻訳効率がもたらされる。使用されるプソイドウリジン類として、N1-メチル-プソイドウリジン、またはこの技術分野において広く知られている他の修飾体、例えば、N6-メチルアデノシン(m6A)、イノシン、プソイドウリジン、5-メチルシチジン(m5C)、5-ヒドロキシメチルシチジン(hm5C)、およびN1-メチルアデノシン(m1A)などが可能である。修飾が場合により、ORF、5’UTRおよび3’UTRを含めてmRNA全体にわたって行われる。当業者は、他の修飾RNA残基が、タンパク質の3次元構造を安定化し、タンパク質翻訳を増大させるために使用され得ることを認識しているであろう。
【0034】
効率のレベルを調べるために、実施例3、実施例4および実施例5に記載される実験を行った。
【0035】
mRNAワクチン送達システムとしてのヒスチジン-リシン(HK)ポリペプチド
核酸を標的細胞内に移送するための効果的な手段は、基礎研究環境において、また、臨床適用において両方で重要なツールである。特定のキャリアの有効性が、トランスフェクションされようとする核酸の特徴に依存するので、多様な数々の核酸キャリアが現在要求される[Blakney他、Biomacromolecules、2018、19:2870~2879;Goncalves他、Mol Pharm、2016、13:3153~3163;Kauffman他、Biomacromolecules、2018、19:3861~3873;Peng他、Biomacromolecules、2019、20:3613~3626;Scholz他、J Control Release、2012、161:554~565]。様々なキャリアの中でも、非ウイルス性送達システムが開発されており、多くの局面においてウイルス性送達システムよりも好都合であると報告されている[Brito他、Adv Genet、2015;89:179~233]。例えば、高分子量の分岐型ポリエチレンイミン(PEI、25kDa)が、mRNAではなく、プラスミドDNAのための優れたキャリアである。しかしながら、PEIの分子量を2kDaに低下させることによって、PEIは、mRNAのより効果的なキャリアになる[Bettinger他、Nucleic Acids Res、2001;29:3882~3891]。
【0036】
4つに分岐したヒスチジン-リシン(HK)ペプチドポリマーH2K4bは、高分子量DNAプラスミドの良好なキャリアであることが示されており[Leng他、Nucleic Acids Res、2005;33:e40]、しかし比較的低分子量のsiRNAの不良なキャリアであることが示されている[Leng他、J Gene Med、2005;7:977~986]。H2K4bの2つの富ヒスチジンペプチド類似体、すなわち、H3K4bおよびH3K(+H)4bが、siRNAの効果的なキャリアであることが示され[Leng他、J Gene Med、2005、7:977~986;Chou他、Biomaterials、2014、35:846~855]、だが、H3K(+H)4bの方がやや効果的であるようであった[Leng他、Mol Ther、2012、20:2282~2290]。そのうえ、siRNAのH3K4bキャリアはサイトカインをインビトロおよびインビボにおいて、H3K(+H)4b siRNAポリプレックスよりも有意に大きい程度に誘導した[Leng他、Mol Ther、2012、20:2282~2290]。好適なHKポリペプチドが、国際公開WO/2001/047496、同WO/2003/090719および同WO/2006/060182に記載される(それらのそれぞれの内容がそれらの全体において本明細書中に組み込まれる)。これらのポリペプチドは、リシン側鎖のε-アミノ基と、N末端とが様々なHK配列に結合するリシン骨格(3つのリシン残基)を有する。様々なHKポリペプチドキャリアを、例えば、固相合成を含めて、この技術分野において広く知られている方法によって合成することができる。
【0037】
そのようなヒスチジン-リシンペプチドポリマー(「HKポリマー」)はmRNAキャリアとして驚くほど効果的であること、また、それらは単独であっても、またはリポソームとの組み合わせであっても、標的細胞内へのmRNAの効果的な送達をもたらすために使用できることが見出された。PEIおよび他のキャリアと同様に、初期の結果からは、HKポリマーは、核酸を輸送し、放出するその能力が異なることが示唆された。しかしながら、様々なHKポリマーをペプチド合成機で再現性よく作製することができるので、それらのアミノ酸配列を容易に変化させることができ、それにより、mRNAの結合および放出、同様にまた、HKポリマーおよびmRNAを含有するポリプレックスの安定性の精密な制御が可能である[Chou他、Biomaterials、2014、35:846~855;Midoux他、Bioconjug Chem、1999、10:406~411;Henig他、Journal of American Chemical Society、1999、121:5123~5126]。mRNA分子が1つまたは複数のHKPキャリアと混合されたとき、これらの成分は自己集合してナノ粒子になる。
【0038】
本明細書中に記載されるように、好都合なことにHKポリマーは、リシンが3つのアミノ酸コアに連結される4つの短いペプチド分枝を含む。これらのペプチド分枝は、異なる構成でヒスチジンおよびリシンであるアミノ酸からなる。これらのヒスチジン-リシンペプチドポリマー(HKポリマー)の一般構造が式Iに示され、式中、Rはペプチド分枝を表し、Kはアミノ酸のL-リシンである。
【0039】
【0040】
式Iにおいて、KはL-リシンであり、R1、R2、R3およびR4のそれぞれが独立してヒスチジン-リシンペプチドである。R1~4分枝は本発明のHKポリマーにおいて同じであってもよく、または異なっていてもよい。R分枝が「異なっている」とき、その分枝のアミノ酸配列は、ポリマーにおけるそれ以外のR分岐のそれぞれと異なる。式Iに示される本発明のHKポリマーにおいて使用される好適なR分枝には、下記のR分枝(RA~R-J)が含まれるが、それらに限定されない:
【0041】
RA = KHKHHKHHKHHKHHKHHKHK-(配列番号:79)
RB = KHHHKHHHKHHHKHHHK-(配列番号:80)
RC = KHHHKHHHKHHHHKHHHK-(配列番号:81)
RD = kHHHkHHHkHHHHkHHHk-(配列番号:82)
RE = HKHHHKHHHKHHHHKHHHK-(配列番号:83)
RF = HHKHHHKHHHKHHHHKHHHK-(配列番号:84)
RG = KHHHHKHHHHKHHHHKHHHHK-(配列番号:85)
RH = KHHHKHHHKHHHKHHHHK-(配列番号:86)
RI = KHHHKHHHHKHHHKHHHK-(配列番号:87)
RJ = KHHHKHHHHKHHHKHHHHK-(配列番号:88)
【0042】
mRNA組成物において使用され得る具体的なHKポリマーには、R1、R2、R3およびR4のそれぞれが同じであり、RA~RJから選択されるHKポリマー(表1)が含まれるが、それらに限定されない。これらのHKポリマーは、H2K4b、H3K4b、H3K(+H)4b、H3k(+H)4b、H-H3K(+H)4b、HH-H3K(+H)4b、H4K4b、H3K(1+H)4b、H3K(3+H)4b、およびH3K(1,3+H)4bとそれぞれ称される。これら10例のそれぞれにおいて、大文字「K」はL-リシンを表し、小文字「k」はD-リシンを表す。追加のヒスチジン残基には、H3K4bとの比較で、分枝配列内において下線が引かれる。HKポリマーの命名法は下記の通りである:
1)H3K4bについて、分枝における主要な反復配列が-HHHK-であり、したがって、「H3K」は名称の一部であり、一方、「4b」は分枝の数を示す;
2)4つの-HHHK-モチーフがH3K4bおよび類似体のそれぞれの分枝に存在しており、第1の-HHHK-モチーフ(「1」)がリシンコアに最も近い;
3)H3K(+H)4bは、1つの追加ヒスチジンがH3K4bの第2の-HHHK-モチーフ(モチーフ2)に挿入されるH3K4bの類似体である;
4)H3K(1+H)4bペプチドおよびH3K(3+H)4bペプチドについて、追加のヒスチジンが第1のモチーフ(モチーフ1)および第3のモチーフ(モチーフ3)にそれぞれ存在する;5)H3K(1,3+H)4bについて、2つの追加ヒスチジンが分枝の第1のモチーフおよび第3のモチーフの両方に存在する。
【0043】
【0044】
ゲル遅延アッセイ、ヘパリン置換アッセイおよびフローサイトメトリーを含めてこの技術分野において広く知られている様々な方法を、リポソームに加えてHKポリマーを含有する異なる配合物の性能をmRNAの成功した送達において評価するために実施することができる。好適な方法が、例えば、Gujrati他、Mol.Pharmaceutics、11:2734~2744(2014);Parnaste他、Mol Ther Nucleic Acids、7:1~10(2017)に記載される。
【0045】
細胞内へのmRNA取り込みの検出もまた、SmartFlare(登録商標)技術(Millipore Sigma)を使用して達成することができる。これらのスマートフレアは、スマートフレアがRNA配列を細胞において認識すると、蛍光顕微鏡により分析することができる蛍光における増大をもたらす配列が結合しているビーズである。
【0046】
他の方法には、mRNAからのタンパク質発現を測定することが含まれ、例えば、ルシフェラーゼをコードするmRNAを、この技術分野において広く知られている方法を使用してトランスフェクションの効率を測定するために使用することができる。例えば、参照のこと。これらが、HKPおよびリポソームの配合物を使用してmRNA送達効力を明らかにするために、最新の刊行物(He他、J Gene Med、2021(Feb)、23(2):e3295)では、ルシフェラーゼmRNAを用いて行われた。
【0047】
mRNA送達におけるDOTAPおよびHKキャリアの相乗的活性
H3K(+H)4bとDOTAP(カチオン性脂質)との組み合わせは驚くべきことに、mRNAをMDA-MB-231細胞内に輸送するその能力において相乗的であった(H3K(+H)4b/リポソーム対リポソーム、P<0.0001)。この組み合わせはmRNAのキャリアとして、ポリマー単独およびカチオン性脂質キャリアよりも約3倍および8倍それぞれ効果的であった。すべてのHKペプチドがDOTAP脂質との相乗的活性を明らかにしたわけではなかった。例えば、H3K4bとDOTAPとの組み合わせはルシフェラーゼmRNAのキャリアとして、DOTAPリポソームよりも効果的でなかった。DOTAPのほかに、HKペプチドとともに使用され得る他のカチオン性脂質には、Lipofectin(ThermoFisher)、リポフェクタミン(ThermoFisher)およびDOSPERが含まれる(
図22)。
【0048】
分枝におけるL-リシンがD-リシンにより置き換えられるH3k(+H)4bのD-異性体が、最も効果的なポリマーキャリアであった(H3k(+H)4b対H3K(+H)4b、P<0.05)。mRNAのD-異性体/リポソームキャリアは、H3k(+H)4b単独およびリポソームキャリアよりもほぼ4倍および10倍それぞれ効果的であった。D-H3k(+H)4b/脂質の組み合わせはL-H3K(+H)4b/脂質の組み合わせよりもやや効果的であったにもかかわらず、この比較は統計学的には差がなかった(
図23)。
【0049】
HKポリマーのうちのmRNA用キャリアとしてのH3K(+H)4b
H3K4bおよびH3K(+H)4bの両方がインビトロにおいて核酸のキャリアとして使用される場合がある[Leng他、J Gene Med、2005、7:977~986;Chou他、Cancer Gene Ther、2011、18:707~716]。これらの以前の知見にもかかわらず、H3K(+H)4bは、他の同様な類似体と比較して、mRNAのキャリアとして著しくより良好であった(表2)。
【表2】
【0050】
とりわけ、H3K(+H)4bは、様々な質量:質量(HK:mRNA)比においてH3K4bよりも高いmRNAトランスフェクション効率を有する。4:1の比率では、ルシフェラーゼ発現がH3K(+H)4bに関して、有意な細胞傷害性を伴うことなく、MDA-MB-231細胞においてH3K4bよりも10倍高かった。そのうえ、H3K4bおよびH3K(+H)4bにおけるヒスチジンの割合(質量基準)がそれぞれ68.9%および70.6%であるので、緩衝能は、それらのトランスフェクション差における本質的要因ではないようである。
【0051】
ゲル遅延アッセイにより、mRNAの電気泳動移動度がHKポリマーによって遅れたことが示される。遅延効果が、ペプチド対mRNA質量比が大きくなるとともに増大した。しかしながら、mRNAは、2:1の比率のH3K(+H)4bでは完全に遅れ、これに対してH3K4bによって完全には遅れなかった。このことから、H3K(+H)4bは、mRNA送達のための好適なキャリアとなり得るために好都合であるより安定なポリプレックスを形成することができるであろうことが示唆された。
【0052】
H3K(+H)4bペプチドがmRNAに対してより強固に結合するというさらなる確認が、ヘパリン置換アッセイにより明らかにされた。様々な濃度のヘパリンを、mRNAおよびHKにより形成されるポリプレックスに加えた。より低濃度のヘパリンでは特に、mRNAが、H3K(+H)4bポリマーよりも容易にH3K4bポリマーによって放出されたことが認められた。これらのデータから、H3K(+H)4bはmRNAに結合し、かつ、H3K4bよりも安定なポリプレックスを形成することができたことが示唆される。
【0053】
シアニン-5により標識されるmRNAに関して、H3K4bポリプレックスおよびH3K(+H)4bポリプレックスのMDA-MB-231細胞内への取り込みを、フローサイトメトリーを使用して比較した。異なる時点(1時間、2時間および4時間)で、H3K(+H)4bポリプレックスが、H3K4bポリプレックスよりも効率的に細胞内に移入された(データは示されず)。これらの結果と同様に、蛍光顕微鏡法は、H3K(+H)4bポリプレックスがH3K4bポリプレックスよりも有意に多く酸性エンドソーム小胞内に局在化することを示した(H3K4b対H3K(+H)4b、P<0.001)。興味深いことに、不規則な形状をしたH3K4bポリプレックスは、エンドサイトーシス小胞と重ならなかったので、おそらくは細胞外にあり、また、H3K(+H)4bポリプレックスに関しては認められなかった。
【0054】
HKポリマーおよびカチオン性脂質(すなわち、DOTAP)はともに、プラスミドによるトランスフェクションを有意に、かつ独立して増大させることが知られている[Chen他、Gene Ther、2000、7:1698~1705]。したがって、これらの脂質がHKポリマーと一緒になった場合にmRNAトランスフェクションを増強するかどうかを調べた。注目すべきことに、H3K(+H)4bキャリアおよびH3k(+H)4bキャリアは、DOTAPリポソームよりもmRNAの有意に良好なキャリアあった。H3K(+H)4bとDOTAP脂質との組み合わせは、mRNAをMDA-MB-231細胞内に輸送する能力において相乗的であった。この組み合わせはmRNAのキャリアとして、ポリマー単独およびリポソームキャリアよりも約3倍および8倍それぞれ効果的であった(H3K(+H)4b/脂質対リポソームまたはH3K(+H)4b)。注目すべきことに、すべてのHKペプチドがDOTAP脂質との改善された活性を明らかにしたわけではなかった。H3K4bとDOTAPキャリアとの組み合わせはルシフェラーゼmRNAのキャリアとして、DOTAPリポソームよりも効果的でなかった。DOTAPおよびH3K(+H)4bキャリアの組み合わせは、mRNAを細胞内に輸送するそれらの能力において相乗的であることが見出された[He他、J Gene Med、2020(11月10日):e3295]。
【0055】
mRNAワクチンの投与
本明細書中に記載されるワクチン配合物は、ワクチンを投与するために従来的に使用される投与様式によってどのような投与様式であれ、ヒト対象を含めた対象に投与される場合がある。したがって、組成物は、エアロゾル、分散物、溶液または懸濁物の形態が可能であり、吸入投与、筋肉内投与、経口投与、舌下投与、口腔投与、非経口投与、経鼻投与、皮下投与、皮内投与または局所投与のために配合することができる。用語の非経口には、本明細書中で使用される場合、経皮、皮下、血管内(例えば、静脈内)、筋肉内またはクモ膜下腔内の注射技術または注入技術などが含まれる。
【0056】
本明細書中で使用される場合、ワクチンの効果的な用量は、ワクチンが投与される対象において防御免疫応答をもたらすために要求される用量である。本文脈における防御免疫応答は、2019-nCoVによる抗原暴露を受ける対象において疾患を防止する、または改善するものである。ワクチンが防御免疫応答をもたらすかどうかを判定するために臨床試験を多数の対象において実施する様々な方法が、この技術分野では広く知られている。
【0057】
ワクチンは1回または複数回投与される場合がある。ワクチンに対する免疫応答の最初の測定が、ワクチンを受ける対象において抗体の産生を測定することによって行われる場合がある。抗体産生をこの様式で測定する方法もまた、この技術分野では広く知られている。疾患状態を防止するために、疾患状態の発生を阻害するために、または疾患状態を処置する(疾患状態の1つの症状をある程度緩和する、好ましくは疾患状態の症状のすべてを緩和する)ために要求されるその用量である。医薬的に効果的な用量は、疾患のタイプ、使用される組成物、投与経路、処置中の哺乳動物のタイプ、検討中の具体的哺乳動物の身体的特徴、同時薬物療法、および医学分野の当業者が認識するであろう他の要因に依存する。一般に、0.1mg/kg~100mg/kg体重/日の間での有効成分の量が、配合された組成物の効能に依存して投与される。
【0058】
しかしながら、それらの適用は最近に至るまで、mRNAの不安定性および非効率的なインビボ送達によって制限されてきた。本明細書中に記載される方法は、mRNAワクチンを作製し、ポリペプチド送達システムおよびポリペプチドナノ粒子送達システムとともに使用する方法を提供する。
【0059】
本明細書中に記載される方法は、様々な疾患に対する、とりわけ感染性疾患に対する予防的ワクチンおよび治療的ワクチンを含めたmRNAの臨床適用において使用される場合がある。
【実施例】
【0060】
実施例1:mRNA合成:
CleanCap SARS-COV 2スパイクタンパク質(S1PおよびS2P)と、CleanCap強化型緑色蛍光タンパク質(EGFP)とが発現されるmRNAを合成した。CleanCap SARS-COV 2スパイクタンパク質(S6P)が、TriLink BioTechnologies,Inc.(San Diego、CA)によって製造され、エタノール含有緩衝液におけるセルロースに対するdsRNAの選択的結合によって精製された。10mM HEPES(pH7.2)、0.1mM EDTA、125mM NaCl、16%エタノールおよびセルロース繊維を含有するクロマトグラフィー緩衝液をmRNA生成物と共に微量遠心機スピンカラムに加え、遠心分離した。ほぼ90%のdsRNAをこの手順の後で除去することができた(Baiersdorfer他、2019)。共存物もまた、FPLCおよびHPLCを使用して取り除くことができた(Kariko他、2011)。
【0061】
実施例2:ペプチド(HKポリマー)の調製
HKペプチドポリマーが、メリーランド大学のバイオポリマーコア設備によって、Rainin Voyager合成機(Tucson、AZ)で合成された。
【0062】
実施例3:mRNAのインビトロトランスフェクション
mRNA、EGFP mRNA、およびSARS-COV 2 SPの適切なタンパク質発現を検証するために、mRNAをヒト胚性腎臓293T細胞(293T細胞)に一過性にトランスフェクションした。簡単に記載すると、4.8×105個の細胞を、2mlのDMEM(10%のウシ胎児血清および1%のペニシリン-ストレプトマイシン(ThermoFisher Scientific))を含有する6ウェルプレートに置床した。24時間後、細胞が70%~90%のコンフルエンスになったとき、mRNAを、リポフェクタミンMessengerMAXトランスフェクション試薬(ThermoFisher Scientific)を提供されたプロトコルに従って使用して293T細胞にトランスフェクションした。293T細胞をインビトロタンパク質発現測定のために2日間にわたって培養した。
【0063】
カチオン性リポソームDOTAP(1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン、Roche)、MC3(DLin-MC3-DMA、ChemScene)、およびPLA(ポリ乳酸)と会合する2つのHK型ポリマーを、EGFP mRNA、およびSARS-COV 2 SP mRNAをヒト胚性腎臓293細胞(HEK293細胞)内に輸送するそれらの能力について調べた。簡単に記載すると、4.8×105個の細胞を、2mlのDMEM(10%のウシ胎児血清およびペニシリン-ストレプトマイシン(ThermoFisher Scientific))を含有する6ウェルプレートに置床した。24時間後、細胞が70%~90%のコンフルエンスになったとき、EGFPおよびSPs mRNAを伴う2つのHK型ポリマー配合物をそれぞれのウェルに加えた。293T細胞をインビトロタンパク質発現測定のために2日間にわたって培養した。
【0064】
実施例4:インビトロタンパク質発現測定
免疫蛍光分析:トランスフェクションの2日後、タンパク質発現を、Cytation5細胞イメージング・マルチモードリーダー(Biotek、Winooski、VT)を使用する免疫蛍光イメージングによって測定した。
【0065】
細胞溶解物調製:トランスフェクションの2日後、培養培地を吸引し、細胞を氷冷PBSにより氷上で洗浄した。プロテアーゼ阻害剤(ThermoFisher Scientific)を含む氷冷溶解緩衝液(RIPA、ThermoFisher Scientific)を加え、細胞を4℃で30分間インキュベーションした。細胞を、細胞スクレーパーを使用して集め、超音波処理によって溶解した。10,000gでの遠心分離を4℃で20分間行って、細胞破片をペレット化し、上清を新しい微量遠心機チューブに移した。溶解物のタンパク質濃度をウエスタンブロットのためにBradfordアッセイまたはBCAタンパク質アッセイによって求めた。
【0066】
ウエスタンブロット:簡単に記載すると、ゲルのそれぞれのウェルにおいて、20ug~50ugのタンパク質を、4×SDSサンプル緩衝液(ThermoFisher Scientific)、10×還元性緩衝液(ThermoFisher Scientific)、および追加のddH2O(ThermoFisher Scientific)と一緒にし、総負荷体積を25μl/ウェルとした。混合物を95℃での5分間の加熱によって変性させ、室温に冷却し、遠心分離し、その後、NuPAGE(商標)4~12%,Bis-Trisゲル(ThermoFisher Scientific)に負荷した。電気泳動分離後、ゲルをカセットから取り出し、iBlot(商標)2乾式ブロッティングシステム(ThermoFisher Scientific)を使用して転写した。転写メンブランをTBSTにおける5%無脂肪粉乳によりRTで1時間にわたってブロッキング処理し、一次抗体と4℃で一晩インキュベーションし、TBST緩衝液(TBSにおける0.05%のTween20)により3回洗浄し、HRPコンジュゲート化マウスIgG(H+L)二次抗体(ThermoFisher Scientific、A24512)である二次抗体とRTで1時間インキュベーションした。転写メンブランを、Pierce ECLウエスタンブロッティング基質(ThermoFisher Scientific)によって発色させ、化学発光イメージングシステムを使用して画像化した。
【0067】
実施例5:インビボ配合物調製
1.PNI-Genvoy LNP配合物:脂質ナノ粒子をインビトロアッセイおよびインビボアッセイの両方における陽性コントロールとして、PNI NanoAssemblr(Precision NanoSystems、Vancouver、British Columbia、カナダ)を伴うGenVoyプラットフォームを使用して配合した。
【0068】
2.HKP(+H)配合物:HKP(+H)ストック溶液(10mg/mL)をヌクレアーゼ非含有水において調製した。高濃度ストック溶液を水で4mg/mLに希釈した。mRNA作業溶液(1mg/mL)を1mMクエン酸緩衝液(pH6.0)において調製した。mRNA/HKP(+H)ポリプレックスを、等体積の4mg/mLのHKP(+H)および1mg/mLのmRNAを混合することによって形成させた。HKP(+H)対mRNAの質量比が4:1である。mRNA/HKP(+H)ポリプレックスを使用前に室温で30分間インキュベーションした。それぞれのペプチド型ポリプレックスのサイズを、トランスフェクションまたは注射の前にZetasizer(Malvern Panalytical)を用いて求めた。
【0069】
3.HKP(+H)/DOTAP配合物(後混合されたDOTAP):HKP(+H)ストック溶液(10mg/mL)をヌクレアーゼ非含有水において調製した。高濃度ストック溶液を水で4mg/mLに希釈した。DOTAP(Sigma-Aldrich)は水性緩衝化溶液において1mg/mLである。mRNA作業溶液(1mg/mL)を1mMクエン酸緩衝液(pH6.0)において調製した。最初に、mRNA/HKP(+H)ポリプレックスを、等体積の4mg/mLのHKP(+H)および1mg/mLのmRNAを混合することによって形成させた。mRNA/HKP(+H)ポリプレックスを室温で30分間インキュベーションした。次に、同じ体積のDOTAP対HKP(+H)溶液をmRNA/HKP(+H)ポリプレックスに加えた。HKP(+H)/DOTAP対mRNAの質量比が4:1:1であった。mRNA/HKP(+H)/DOTAPナノ粒子を使用前に室温で30分間インキュベーションした。
【0070】
4.HKP(+H)/MC3配合物またはHKP(+H)/DOTAP配合物(事前混合されたMC3またはDOTAP):HKP(+H)ストック溶液(10mg/mL)をヌクレアーゼ非含有水において調製した。高濃度ストック溶液を水で4mg/mLに希釈した。DOTAPまたはMC3は水性緩衝化溶液において1mg/mLである。mRNA作業溶液(1mg/mL)を1mMクエン酸緩衝液(pH6.0)において調製した。等体積のHKP(+H)およびMC3を4:1の質量比で事前混合し、同じ体積のmRNA対HKP(+H)溶液を事前混合HKP(+H)/MC3に加えた。mRNA/HKP(+H)/MC3ナノ粒子を、事前混合された4mg/mLのHKP(+H)/1mg/mLのMC3と、1mg/mLのmRNAとを混合することによって形成させた。HKP(+H)/MC3対mRNAの質量比が4:1:1である。mRNA/HKP(+H)/MC3ナノ粒子を使用前に室温で30分間インキュベーションした。
【0071】
5.HKP(+H)/PLA NP配合物:HKP(+H)ストック溶液(10mg/mL)をヌクレアーゼ非含有水において調製した。高濃度ストック溶液を水で4mg/mLに希釈した。ポリ-L-乳酸(PLA)ナノ粒子(5mg/mL)を水において調製した。mRNA作業溶液(1mg/mL)を1mMクエン酸緩衝液(pH6.0)において調製した。等体積のHKP(+H)およびmRNAを4:1の質量比で混合した。mRNA/HKP(+H)ポリプレックスを室温で30分間インキュベーションし、その後、HKP(+H)溶液に対する同じ体積のPLAナノ粒子をmRNA/HKP(+H)ナノ粒子に加え、その結果、mRNA/HKP(+H)ポリプレックスをPLAナノ粒子の表面に吸着させた。HKP(+H)/PLA対mRNAの質量比が4:5:1であった。mRNA/HKP(+H)/PLAナノ粒子を使用前に室温で30分間インキュベーションした。
【0072】
実施例6:インビボ動物モデルおよび注射
インビボ研究が、Antibody and Immunoassay Consultants(AIC)Inc(Gaithersburg、MD)で実施された。簡単に記載すると、8匹の6週齢~8週齢のメスBALB/Cをそれぞれの群に、それぞれの群あたり4匹のマウスで無作為化し、30μgのEGFPを異なる配合物とともに右側腹部内に筋肉内注射した。上述される同じ配合物を用いて、CleanCap SARS-COV 2スパイクタンパク質(S6P)ポリプレックスをインビボ分析ならびに抗体価測定および抗体結合のために調製した。
【0073】
28日目に追加免疫化のための2回目の注射を行い、35日目に、血清を抗体価の測定のために採取し、イムノアッセイ(ELISA)によって分析した。
【0074】
結果
免疫蛍光分析
作製から1週間後、製剤をHEK 293T細胞に送達した(
図2)。すべてのHKP(H)群は、in vitroでmRNAを細胞内に運ぶ可能性を証明した。HKP(H)グループのうち,HKP(H)単独グループは,他のグループ及びPNI Genvoy(陽性対照)よりも高いEGFP発現を示した。
【0075】
ウェスタンブロット解析
S1P D614G mRNA 導入群では、細胞表面に発現したスパイクタンパク質は、細胞膜に局在した後、脱落することがわかった(
図3)。細胞表面にはスパイクタンパク質のS2ドメインのみが残存していた。ウェスタンブロットのバンドサイズ(70-80KDa)はこの仮説を支持した。しかし、S2P D614Gのスパイクタンパク質は、完全な180KDaのバンドサイズを示した。
【配列表】
【国際調査報告】