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特表2023-512843移植後不整脈を治療および予防する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-29
(54)【発明の名称】移植後不整脈を治療および予防する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/343 20060101AFI20230322BHJP
   A61K 31/55 20060101ALI20230322BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230322BHJP
   A61P 9/06 20060101ALI20230322BHJP
   A61K 35/545 20150101ALI20230322BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20230322BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20230322BHJP
【FI】
A61K31/343
A61K31/55
A61P43/00 121
A61P9/06
A61K35/545
A61P9/10
A61P9/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022548412
(86)(22)【出願日】2021-02-09
(85)【翻訳文提出日】2022-09-29
(86)【国際出願番号】 US2021017220
(87)【国際公開番号】W WO2021163037
(87)【国際公開日】2021-08-19
(31)【優先権主張番号】62/972,330
(32)【優先日】2020-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517025822
【氏名又は名称】ユニヴァーシティ オブ ワシントン
(71)【出願人】
【識別番号】515178513
【氏名又は名称】ヴァンダービルト ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ノルマン ビョルン
(72)【発明者】
【氏名】ティース ロバート スコット
(72)【発明者】
【氏名】マクレラン ウィリアム ロブ
(72)【発明者】
【氏名】ナカムラ ケンタ
(72)【発明者】
【氏名】マリー チャールズ イー.
【テーマコード(参考)】
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA06
4C086BC32
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA52
4C086MA66
4C086NA05
4C086NA10
4C086ZA36
4C086ZA45
4C086ZC75
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB57
4C087BB64
4C087MA02
4C087MA52
4C087MA66
4C087NA05
4C087NA10
4C087ZA36
4C087ZA45
4C087ZC75
(57)【要約】
有効量のアミオダロンおよびイバブラジンを用いて移植後不整脈を治療および予防することに関する方法および組成物が本明細書に記載される。心筋細胞移植の方法も本明細書に記載され、方法は、インビトロで分化した心筋細胞を、その必要のある対象の心臓組織に投与する工程;および対象の移植後不整脈を減少させるのに有効なある量のアミオダロンおよびある量のイバブラジンを対象に投与する工程を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心筋細胞心臓移植片の対象レシピエントにおける移植後不整脈(engraftment arrhythmia)を治療または改善する方法であって、有効量のアミオダロンおよび有効量のイバブラジンを該対象に投与する工程を含む、方法。
【請求項2】
心筋細胞心臓移植片が、インビトロで分化した心筋細胞を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
インビトロで分化した心筋細胞が、人工多能性幹(iPS)細胞からまたは胚性幹(ES)細胞から分化させたものである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
心筋細胞心臓移植片が、対象にとって自己の幹細胞に由来する、請求項1~3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
心筋細胞心臓移植片が、対象にとって同種異系の幹細胞に由来する、請求項1~3のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
アミオダロンおよびイバブラジンが、心筋細胞心臓移植片と同時に投与される、請求項1~5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
アミオダロンの投与が、心筋細胞心臓移植片の投与前に開始される、請求項1~5のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
イバブラジンの投与が、心筋細胞心臓移植片の投与前に開始される、請求項1~5のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
アミオダロンおよびイバブラジンの両方の投与が、心筋細胞心臓移植片の投与前に開始される、請求項1~5のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
イバブラジンの投与が、心筋細胞心臓移植片の投与と同時または投与後に開始される、請求項1~5のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
アミオダロンの投与が、心筋細胞心臓移植片の投与と同時または投与後に開始される、請求項1~5のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
アミオダロンの投与が、単回ボーラス投与である、請求項1~11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
前記投与が、連続投与または反復投与である、請求項1~11のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
前記投与が、経口投与および/または静脈内注射である、請求項1~13のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
アミオダロンが、100~800mgの用量で1日3回経口投与される、請求項1~14のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
アミオダロンが、IVボーラスによって100~300mgの用量で投与される、請求項1~14のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
アミオダロンが、1.5~2.5μg/mlの血清濃度まで投与される、請求項1~15のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
イバブラジンが、5~15mgの用量で1日2回経口投与される、請求項1~17のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
頻脈がある場合にイバブラジンが投与される、請求項1~18のいずれか一項記載の方法。
【請求項20】
イバブラジンが、毎分150拍(bpm)以下の安静時心拍数を維持するために投与される、請求項1~19のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
アミオダロンおよびイバブラジンの投与が、アミオダロンおよびイバブラジンの投与の不在下で同一型細胞の移植を受けている対象と比較して、移植レシピエントが経験する移植後の増加した心拍数を少なくとも10%減少させる、請求項1~20のいずれか一項記載の方法。
【請求項22】
アミオダロンおよびイバブラジンの投与が、アミオダロンおよびイバブラジンの投与の不在下で同一型心筋細胞の心筋細胞心臓移植を受けている対象と比較して、対象が移植後不整脈を経験する時間の割合を少なくとも10%減少させる、請求項1~21のいずれか一項記載の方法。
【請求項23】
アミオダロンおよびイバブラジンの投与が短期間である、請求項1~22のいずれか一項記載の方法。
【請求項24】
アミオダロンおよびイバブラジンの投与が、不整脈を再発させることなく、移植後不整脈負荷がゼロに達した後に終了される、請求項1~22のいずれか一項記載の方法。
【請求項25】
a)インビトロで分化した心筋細胞を、その必要のある対象の心臓組織に投与する工程;
b)対象の移植後不整脈を減少させるのに有効なある量のアミオダロンおよびある量のイバブラジンを対象に投与する工程
を含む、心筋細胞移植の方法。
【請求項26】
対象において移植後不整脈が、インビトロで分化した心筋細胞を投与されかつアミオダロンおよびイバブラジンを投与されない対象と比較して減少する、請求項25記載の方法。
【請求項27】
インビトロで分化した心筋細胞が、インビトロで胚性幹細胞からまたはiPS細胞から分化させたものである、請求項25または26のいずれか一項記載の方法。
【請求項28】
iPS細胞が、対象にとって自己である、請求項27記載の方法。
【請求項29】
iPS細胞が、対象にとって同種異系である、請求項27記載の方法。
【請求項30】
アミオダロンおよびイバブラジンが、インビトロで分化した心筋細胞と同時に投与される、請求項25~29のいずれか一項記載の方法。
【請求項31】
アミオダロンの投与が、インビトロで分化した心筋細胞の投与前に開始される、請求項25~29のいずれか一項記載の方法。
【請求項32】
イバブラジンの投与が、インビトロで分化した心筋細胞の投与前に開始される、請求項25~29のいずれか一項記載の方法。
【請求項33】
アミオダロンおよびイバブラジンの両方の投与が、インビトロで分化した心筋細胞の投与前に開始される、請求項25~29のいずれか一項記載の方法。
【請求項34】
イバブラジンの投与が、インビトロで分化した心筋細胞の投与と同時または投与後に開始される、請求項25~29のいずれか一項記載の方法。
【請求項35】
アミオダロンの投与が、インビトロで分化した心筋細胞の投与と同時または投与後に開始される、請求項25~29のいずれか一項記載の方法。
【請求項36】
イバブラジンの投与が、単回ボーラス投与である、請求項25~35のいずれか一項記載の方法。
【請求項37】
前記投与が、連続投与または反復投与である、請求項25~36のいずれか一項記載の方法。
【請求項38】
前記投与が、経口投与および/または静脈内(IV)注射である、請求項25~37のいずれか一項記載の方法。
【請求項39】
アミオダロンが、100~800mgの用量で1日3回経口投与される、請求項25~38のいずれか一項記載の方法。
【請求項40】
アミオダロンが、IVボーラスによって100~300mgの用量で投与される、請求項25~39のいずれか一項記載の方法。
【請求項41】
アミオダロンが、1.5~2.5μg/mlの血清濃度まで投与される、請求項25~40のいずれか一項記載の方法。
【請求項42】
イバブラジンが、5~15mgの用量で1日2回経口投与される、請求項25~41のいずれか一項記載の方法。
【請求項43】
頻脈がある場合にイバブラジンが投与される、請求項25~42のいずれか一項記載の方法。
【請求項44】
イバブラジンが、毎分150拍(bpm)以下の安静時心拍数を維持するために投与される、請求項25~43のいずれか一項記載の方法。
【請求項45】
アミオダロンおよびイバブラジンの投与が短期間である、請求項25~44のいずれか一項記載の方法。
【請求項46】
アミオダロンおよびイバブラジンの投与が、不整脈を再発させることなく、移植後不整脈負荷がゼロに達した後に終了される、請求項25~45のいずれか一項記載の方法。
【請求項47】
約1000万個の心筋細胞~約100億個の心筋細胞が、対象に投与される、請求項1~46のいずれか一項記載の方法。
【請求項48】
対象がヒトである、請求項1~47のいずれか一項記載の方法。
【請求項49】
対象が、心血管疾患または心臓事象を有するか、または有するリスクがある、請求項1~48のいずれか一項記載の方法。
【請求項50】
心血管疾患または心臓事象が、アテローム硬化性心疾患、心筋梗塞、心筋症、心不整脈、弁膜狭窄、先天性心疾患、慢性心不全、逆流、虚血、細動、および多形性心室頻脈からなる群より選択される、請求項49記載の方法。
【請求項51】
インビトロで分化した心筋細胞、アミオダロンおよびイバブラジンを含む組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国特許法第119条(e)の下で、2020年2月10日に出願された米国仮出願第62/972,330号の利益を主張するものであり、その内容は参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0002】
技術分野
本明細書に記載の技術は、心血管疾患を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
心血管疾患は、世界中で男性と女性の両方の主な死因であり続けており、発展途上国に急速に影響を及ぼしている。心筋細胞補充療法は、心血管疾患を治療するための活発な調査の分野であり、心筋梗塞後に心機能を回復させることができる。インビトロで培養されたヒト幹細胞は、損傷した心臓に移植するためのヒト心筋細胞を産生するための出発材料として役立ち得る。しかしながら、心臓移植に関連する合併症があり、その1つは、一過性心不整脈の発症をもたらし得る、インビトロで分化した心筋細胞の成熟の欠如である。心筋細胞補充療法後の患者の転帰を改善するために、心臓移植によって引き起こされる不整脈を予防および治療する方法が必要である。
【発明の概要】
【0004】
概要
本明細書に記載される方法は、一部には、アミオダロンおよびイバブラジン処置の組み合わせが、心臓移植を受けている対象において生存を改善し、不整脈負荷を軽減するという発見に関連する。本明細書に記載の方法は、一過性の移植関連不整脈を減少させ、両方の抗不整脈薬で治療された対象の安全性および生存を有意に改善する。
【0005】
一局面では、心筋細胞心臓移植片の対象レシピエントにおける移植後不整脈(engraftment arrhythmia)を治療または改善する方法が本明細書に記載され、該方法は、有効量のアミオダロンおよび有効量のイバブラジンを対象に投与する工程を含む。
【0006】
この局面または任意の他の局面の一態様では、心筋細胞心臓移植片は、インビトロで分化した心筋細胞を含む。別の態様では、インビトロで分化した心筋細胞は、人工多能性幹(iPS)細胞または胚性幹(ES)細胞から分化させたものである。
【0007】
この局面または任意の他の局面の別の態様では、心筋細胞心臓移植片は、対象にとって自己の幹細胞に由来する。
【0008】
この局面または任意の他の局面の別の態様では、心筋細胞心臓移植片は、対象にとって同種異系の幹細胞に由来する。
【0009】
この局面または任意の他の局面の別の態様では、アミオダロンおよびイバブラジンは、心筋細胞心臓移植片と同時に投与される。
【0010】
この局面または任意の他の局面の別の態様では、アミオダロンの投与は、心筋細胞移植片の投与前に開始される。一態様では、投与は、例えば、移植の1日前、2日前、3日前、4日前、5日前、6日前、もしくは7日前、またはそれより前であり得る。
【0011】
この局面または任意の他の局面の別の態様では、イバブラジンの投与は、心筋細胞移植片の投与前に開始される。一態様では、投与は、例えば、移植の1日前、2日前、3日前、4日前、5日前、6日前、もしくは7日前、またはそれより前であり得る。
【0012】
この局面または任意の他の局面の別の態様では、アミオダロンおよびイバブラジンの両方の投与は、心筋細胞心臓移植片の投与前に開始される。一態様では、投与は、例えば、移植の1日前、2日前、3日前、4日前、5日前、6日前、もしくは7日前、またはそれより前であり得る。別の態様では、アミオダロンは、イバブラジンよりも早く、例えば、1日早く、2日早く、3日早く、4日早く、5日早く、または6日早く投与することができる。
【0013】
この局面または任意の他の局面の別の態様では、イバブラジンの投与は、心筋細胞心臓移植片の投与と同時または投与後に開始される。
【0014】
この局面または任意の他の局面の別の態様では、アミオダロンの投与は、心筋細胞心臓移植片の投与と同時または投与後に開始される。
【0015】
この局面または任意の他の局面の別の態様では、アミオダロンの投与は単回ボーラス投与である。
【0016】
この局面または任意の他の局面の別の態様では、投与は連続投与または反復投与である。
【0017】
この局面または任意の他の局面の別の態様では、投与は経口投与および/または静脈内注射である。
【0018】
この局面または任意の他の局面の別の態様では、アミオダロンは、1日3回、100~800mgの用量で経口投与される。
【0019】
この局面または任意の他の局面の別の態様では、アミオダロンは、100~300mgの用量で、IVボーラスによって投与される。
【0020】
この局面または任意の他の局面の別の態様では、アミオダロンは、1.5~2.5μg/mlの血清濃度まで投与される。
【0021】
この局面または任意の他の局面の別の態様では、イバブラジンは、5~15mgの用量で1日2回経口投与される。
【0022】
この局面または任意の他の局面の別の態様では、イバブラジンは、頻脈がある場合に投与される。
【0023】
この局面または任意の他の局面の別の態様では、イバブラジンは、毎分150拍(bpm)以下の安静時心拍数を維持するために投与される。別の態様では、イバブラジンは、60~150bpm、例えば60~140bpm、60~130bpm、60~120bpm、60~110bpm、60~100bpm、60~90bpmまたは60~80bpmの安静時心拍数を維持するために投与される。
【0024】
この局面または任意の他の局面の別の態様では、アミオダロンおよびイバブラジンの投与は、アミオダロンおよびイバブラジンの投与の不在下で同一型細胞の移植を受けている対象と比較して、移植レシピエントが経験する移植後の増加した心拍数を少なくとも10%減少させる。
【0025】
この局面または任意の他の局面の別の態様では、アミオダロンおよびイバブラジンの投与は、アミオダロンおよびイバブラジンの投与の不在下で同一型心筋細胞の移植を受けている対象と比較して、対象が移植後不整脈を経験する時間の割合を少なくとも10%減少させる。別の態様では、対象が移植後不整脈を経験する時間の割合は、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%またはそれ以上減少する。
【0026】
別の局面では、心筋細胞移植の方法が本明細書に記載され、該方法は、a)インビトロで分化した心筋細胞を、その必要のある対象の心臓組織に投与する工程;ならびにb)対象の移植後不整脈を減少させるのに有効なある量のアミオダロンおよびある量のイバブラジンを対象に投与する工程を含む。
【0027】
この局面または任意の他の局面の一態様では、対象において移植後不整脈は、インビトロで分化した心筋細胞を投与されかつアミオダロンおよびイバブラジンを投与されない対象と比較して減少する。
【0028】
この局面または任意の他の局面の別の態様では、インビトロで分化した心筋細胞は、インビトロで胚性幹細胞またはiPS細胞から分化させたものである。
【0029】
この局面または任意の他の局面の別の態様では、iPS細胞は対象にとって自己である。
【0030】
この局面または任意の他の局面の別の態様では、iPS細胞は対象にとって同種異系である。
【0031】
この局面または任意の他の局面の別の態様では、アミオダロンおよびイバブラジンは、インビトロで分化した心筋細胞と同時に投与される。
【0032】
この局面または任意の他の局面の別の態様では、アミオダロンの投与は、インビトロで分化した心筋細胞の投与前に開始される。
【0033】
この局面または任意の他の局面の別の態様では、イバブラジンの投与は、インビトロで分化した心筋細胞の投与前に開始される。
【0034】
この局面または任意の他の局面の別の態様では、アミオダロンおよびイバブラジン両方の投与は、インビトロで分化した心筋細胞の投与前に開始される。
【0035】
この局面または任意の他の局面の別の態様では、イバブラジンの投与は、インビトロで分化した心筋細胞の投与と同時または投与後に開始される。
【0036】
この局面または任意の他の局面の別の態様では、アミオダロンの投与は、インビトロで分化した心筋細胞の投与と同時または投与後に開始される。
【0037】
この局面または任意の他の局面の別の態様では、イバブラジンの投与は単回ボーラス投与である。
【0038】
この局面または任意の他の局面の別の態様では、投与は連続投与または反復投与である。
【0039】
この局面または任意の他の局面の別の態様では、アミオダロンおよびイバブラジンの投与は短期間である。
【0040】
この局面または任意の他の局面の別の態様では、アミオダロンおよびイバブラジンの投与は、不整脈を再発させることなく、移植後不整脈負荷がゼロに達した後に終了される。
【0041】
この局面または任意の他の局面の別の態様では、投与は経口投与および/または静脈内(IV)注射である。
【0042】
この局面または任意の他の局面の別の態様では、アミオダロンは、1日3回、100~800mgの用量で経口投与される。
【0043】
この局面または任意の他の局面の別の態様では、アミオダロンは、100~300mgの用量で、IVボーラスによって投与される。
【0044】
この局面または任意の他の局面の別の態様では、アミオダロンは、1.5~2.5μg/mlの血清濃度まで投与される。
【0045】
この局面または任意の他の局面の別の態様では、イバブラジンは、5~15mgの用量で1日2回経口投与される。
【0046】
この局面または任意の他の局面の別の態様では、イバブラジンは、頻脈がある場合に投与される。
【0047】
この局面または任意の他の局面の別の態様では、イバブラジンは、毎分150拍(bpm)以下の安静時心拍数を維持するために投与される。
【0048】
この局面または任意の他の局面の別の態様では、約1000万個の心筋細胞~約100億個の心筋細胞が対象に投与される。
【0049】
この局面または任意の他の局面の別の態様では、対象はヒトである。
【0050】
この局面または任意の他の局面の別の態様では、対象は、心血管疾患または心臓事象を有するか、または有するリスクがある。別の態様では、心血管疾患または心臓事象は、アテローム硬化性心疾患、心筋梗塞、心筋症、心不整脈、弁膜狭窄、先天性心疾患、慢性心不全、逆流、虚血、細動、および多形性心室頻脈からなる群より選択される。
【0051】
別の局面では、インビトロで分化した心筋細胞、アミオダロンおよびイバブラジンを含む組成物が本明細書に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1A図1A~1Bは、アミオダロンおよびイバブラジン治療が、心臓移植を受けた未処置ブタと比較して、心臓移植を受けたブタの心拍数および不整脈負荷を軽減することを実証している。図1Aは、移植治療の過程(日数)を通しての、未処置ブタ(白丸、抗不整脈なし、n=6)と比較した、アミオダロン/イバブラジン処置を受けたブタ(黒四角、アミオダロン±イバブラジン、n=6)の平均心拍数を示す。
図1B図1A~1Bは、アミオダロンおよびイバブラジン治療が、心臓移植を受けた未処置ブタと比較して、心臓移植を受けたブタの心拍数および不整脈負荷を軽減することを実証している。図1Bは、移植治療の過程(日数)を通しての、未処置ブタ(白丸、抗不整脈なし、n=6)と比較した、アミオダロン/イバブラジン処置を受けたブタ(黒四角、アミオダロン±イバブラジン、n=6)で観察された不整脈の平均パーセンテージ時間を示す。
図2図2は、心臓移植を伴う処置ブタ(黒実線、アミオダロン±イバブラジン、n=6)および未処置ブタ(破線、抗不整脈なし、n=6)における心臓生存のパーセンテージを示す。
図3図3図14は、アミオダロン/イバブラジン処置の存在下および不在下で心臓移植を受けた個々のブタの心拍数および不整脈%を示す。心拍数は、1分当たりの拍動数として報告され、図の左の縦軸に灰色で示される。不整脈負荷は、正常な洞律動と比較した不整脈のパーセント時間として報告され、右の縦軸に黒丸で示される。抗不整脈薬で処置したブタを図3~8に示す。アミオダロン処置は各グラフの上部の黒いバーによって示される一方、イバブラジン処置はチェックのバーによって示される。心臓移植を受けたが抗不整脈処置を受けなかったブタを図9~14に示す。
図4図3の説明を参照のこと。
図5図3の説明を参照のこと。
図6図3の説明を参照のこと。
図7図3の説明を参照のこと。
図8図3の説明を参照のこと。
図9図3の説明を参照のこと。
図10図3の説明を参照のこと。
図11図3の説明を参照のこと。
図12図3の説明を参照のこと。
図13図3の説明を参照のこと。
図14図3の説明を参照のこと。
図15図15は、ブタ(pig/swine)およびヒト用の抗不整脈レジメン用量の一態様を示す。BID:1日2回;PO:経口投与。
図16-1】図16は、研究設計のフローチャートを示す。第1相は、合計9匹の対象からなり、4匹は移植後不整脈(EA)の自然経過を試験するために用いられ、5匹は7つの抗不整脈薬候補をスクリーニングするために用いられた。アミオダロンおよびイバブラジンは、効果の有望な徴候を有することが見出され、さらなる研究のために進められた。第2相は、合計19匹の対象からなった:9匹はアミオダロンおよびイバブラジンによる処置に割り当てられ、8匹は未処置に割り当てられ、2匹は偽移植および抗不整脈薬処置なしで梗塞に割り当てられた。
図16-2】図16-1の説明を参照のこと。
図17図17は、継続的アミオダロンおよび補助的イバブラジン治療の第2相治験についての試験スケジュールを示す。ヒト胚性幹細胞に由来する心筋細胞の移植(0日目)の2週間前に、中央左前下行枝の90分間のバルーン閉塞によって、心筋梗塞(MI)を誘導した。すべての対象が多剤免疫抑制を受けた。処置コホートは、経口アミオダロンと補助的経口イバブラジンとの併用による心拍数コントロールおよび律動コントロールを受けた。
図18図18は、ブタの血漿アミオダロンレベルを示す。液体クロマトグラフィー-質量分析アッセイによって血漿のアミオダロンレベルを測定した。移植後不整脈の電気的成熟および安定化を達成した後に、6匹のブタの継続的経口アミオダロンを中止した。中断後3~4週間を含めて毎週アミオダロンの血清濃度を測定した。
図19図19は、単一のブタにおける移植後不整脈(EA)の様々な形態を示す。この単一のブタでは、正常洞律動(NSR)ならびに促進接合部律動(AJR)、心室頻脈(VT)および促進固有心室律動(AIVR)に類似するEAの3つの形態の例が観察される(対象12)。心拍数、電気軸、およびQRS持続時間の変動に留意されたい。連続律動記録は、宿主伝導系の様々なレベルで相互作用してEAを誘導するhESC-CM移植片からのインパルス発生の複数の病巣を示す。外科的偽対照では持続性不整脈は認められなかった。
図20図20は、hESC-CM移植片の組織学および位置を示す。左パネル:コラーゲン(梗塞)を同定するためのピクロシリウスレッドおよび生存心筋を同定するためのファストグリーンで染色した組織切片。ヒトcTnTで標識された隣接切片は、染色されていないブタの心筋および瘢痕組織内に移植されたhESC-CM移植片を同定する。移植後42日目に、処置切片および無処置切片の両方を得た。右パネル:移植されたhESC-CM移植片は、処置(閉じた四角)と無処置(白丸)との間に同様に位置し、前壁の梗塞領域および梗塞周辺領域を首尾よく標的とした。
図21A図21A~21Bは、移植後不整脈に及ぼすアミオダロンおよびイバブラジンの急性効果を実証する。アミオダロンは、静脈内ボーラスとして有効であり、移植後不整脈を正常な洞または低心拍数に心変換した(図21A)。経口投与されたイバブラジンはEAを有意に遅延させたが、心変換しなかった(図21B)。これらのデータは、EAの律動コントロールおよび心拍数コントロールのため、アミオダロンおよびイバブラジンを組み合わせた抗不整脈戦略を支持する。
図21B図21Aの説明を参照のこと。
図22A図22A~22Bは、ブタの移植後不整脈のためのアミオダロンおよびイバブラジンによる抗不整脈処置を示す。(図22A)心臓死、不安定なEAまたは心不全の主要転帰からの解放についてのカプラン・マイヤー曲線は、未処置と比較して、処置で有意に改善された(p=0.002)。処置ライン上のチックマークは、日和見感染(19および26日目)または計画された安楽死(30日目)による非心臓死を示す。(図22B)全生存についてのカプラン・マイヤー曲線は、未処置と比較して、処置による統計的にボーダーラインの改善を示す(p=0.051)。ニューモシスチス肺炎による死亡。**ブタサイトメガロウイルスによる死亡。略語:CI、95%信頼区間。
図22B図22Aの説明を参照のこと。
図23A図23A~23Fは、心拍数および不整脈負荷に及ぼす抗不整脈処置の効果を実証する。未処置(灰色)と比較した、処置あり(黒)のプールされた1日平均心拍数(図23A)およびプールされた1日平均不整脈負荷(図23B)。移植後30日目に、処置ありと処置なしでは心拍数または不整脈負荷の有意差は観察されなかった。偽移植(薄灰色)は、頻脈または不整脈を誘発しなかった。抗不整脈処置(黒)、未処置(薄灰色)および偽移植(灰色)についての対象レベルの平均1日心拍数(図23C)および不整脈負荷(図23D)。黒色記号によって示される不測死または安楽死。ピーク心拍数(図23E)およびピーク不整脈負荷(図23F)は、未処置(薄灰色)と比較して、処置あり(黒色)で有意に減少した。p<0.05、**p<0.005。
図23B図23Aの説明を参照のこと。
図23C図23Aの説明を参照のこと。
図23D図23Aの説明を参照のこと。
図23E図23Aの説明を参照のこと。
図23F図23Aの説明を参照のこと。
図24図24A~24Bは、移植されたhESC-CM移植片がブタ心筋の拡散プルキンエ伝導系と相互作用することを示す。プルキンエ線維は、生来のブタ心筋全体にメッシュ状ネットワークで分布している(図24A)。左心室自由壁の横断面における心内膜下および心筋内コネキシン40(Cx40)+プルキンエ線維(PF、白色)、スケールバー2mm。心筋内PFは、より高い倍率の挿入図で示される。白の囲み領域のさらなる拡大図は、周囲の心筋細胞とは対照的に、より低いサルコメア含有量(F-アクチン)を示すプルキンエ細胞のギャップ結合に局在するCx40を示し(i.)、T細管(WGA)を欠く(ii)、スケールバー20μm。ヒトに特異的な遅骨格心筋トロポニンI(ssTnI)を特徴とするhPSC-心筋細胞移植片は、Cx40+(白色)PFと相互作用する(図24B)。高倍率の囲み領域は、プルキンエ-移行細胞-移植片(i.、白矢印)と直接プルキンエ-移植片(ii.、白矢印)の相互作用の例を示す、スケールバー500μm(上)または50μm(下)。
図25図25は、コネキシン40がプルキンエ線維を特異的に染色することを実証する。コネキシン40(Cx40)は、周囲の心筋細胞とは対照的に、プルキンエ線維(PF)を特徴づけ、より低いサルコメア含有量(F-アクチン)を示し、T細管(WGA)を欠くPFのギャップ結合に局在する、スケールバー20μm。
【発明を実施するための形態】
【0053】
詳細な説明
心血管疾患を治療するための心臓細胞補充療法における主要な課題の1つは、ヒト幹細胞に由来する心筋細胞(ESおよびiPS心筋細胞)が、天然の心臓組織と完全に一体化する機能的成熟を欠いていることである。その結果、移植誘発性不整脈は、インビトロで分化した心筋細胞が移植された直後に現れ、その間、レシピエントは心臓突然死および心不全のリスクがある。数週間後、移植処置を生き延びた対象は、移植された心筋細胞のインビボ成熟化を反映する正常な洞律動に戻ることが観察されている。これが起こるためには、催不整脈性を回避しかつ心臓移植後の生存を改善するために、宿主心筋との十分な電気的統合が必要である。
【0054】
本明細書に記載される方法は、一部には、アミオダロンおよびイバブラジン処置の組み合わせが、心臓移植を受ける対象において生存を改善し、頻脈を予防し、不整脈負荷を軽減するという発見に関連する。本明細書に記載の方法は、一過性の移植関連不整脈を減少させ、両方の抗不整脈薬で治療された対象の安全性および生存を有意に改善する。
【0055】
定義:
便宜上、本明細書、実施例、および添付の特許請求の範囲で使用されるいくつかの用語および語句の意味を以下に提供する。別段の記載がない限り、または文脈から暗示的でない限り、以下の用語および語句は、以下に提供される意味を含む。定義は、特定の態様を説明するのを助けるために提供され、特許請求される技術の範囲は特許請求の範囲によってのみ限定されるため、特許請求される技術を限定することを意図するものではない。他に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本技術が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。当技術分野における用語の使用と本明細書で提供される定義との間に明らかな矛盾がある場合、本明細書内で提供される定義が優先されるものとする。
【0056】
細胞生物学および分子生物学、および生化学における一般的な用語の定義は、The Merck Manual of Diagnosis and Therapy,19th Edition,Merck Sharp&Dohme Corp.出版、2011(ISBN 978-0-911910-19-3);Robert S.Porter et al.(eds.), The Encyclopedia of Molecular Cell Biology and Molecular Medicine,Blackwell Science Ltd.出版、1999-2012(ISBN 9783527600908);およびRobert A.Meyers(eds.),Molecular Biology and Biotechnology:a Comprehensive Desk Reference,VCH Publishers,Inc.出版、1995(ISBN 1-56081-569-8);Immunology by Werner Luttmann,Elsevier出版、2006;Janeway’s Immunobiology、Kenneth Murphy、Allan Mowat、Casey Weaver(eds.),Taylor&Francis Limited、2014(ISBN 0815345305、9780815345305);Lewin’s Genes XI,Jones&Bartlett Publishers出版、2014(ISBN-1449659055);Michael Richard Green and Joseph Sambrook、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,4th ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,USA(2012)(ISBN 1936113414);Davis et al.,Basic Methods in Molecular Biology,Elsevier Science Publishing,Inc.,New York,USA(2012)(ISBN 044460149X);Laboratory Methods in Enzymology:DNA,Jon Lorsch(ed.)Elsevier,2013(ISBN 0124199542);Current Protocols in Molecular Biology(CPMB)、Frederick M.Ausubel(eds.),John Wiley and Sons,2014(ISBN 047150338X,9780471503385),Current Protocols in Protein Science(CPPS),John E.Coligan(ed.),John Wiley and Sons,Inc.,2005;およびCurrent Protocols in Immunology(CPI)(John E.Coligan,ADA M Kruisbeek,David H Margulies,Ethan M Shevach,Warren Strobe,(eds.)John Wiley and Sons,Inc.,2003(ISBN 0471142735,9780471142737)に見出すことができ、その内容はすべて、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0057】
本明細書で言及される心臓障害、心臓疾患、事象、または心臓損傷(例えば、心筋梗塞)の「治療」とは、心機能を増強し、移植後不整脈を減少させ、および/または治療領域における心筋細胞の生着を増強しかつ/もしくは心筋細胞移植もしくは移植血管新生を増強し、したがって例えば心臓の機能を改善する治療介入を指す。すなわち、心臓の「治療」は、心臓の機能(例えば、梗塞領域内の機能の増強)、および/または本明細書に記載の組成物で治療される他の部位に向けられる。例えば、適切な対照と比較して、少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、30%、40%、50%、75%、90%、100%またはそれ以上減少する心拍数および/または不整脈頻度を測定すること、例えば、2倍、5倍、10倍またはそれ以上の、最大で完全な機能によって評価されるように、心臓の機能を改善する治療アプローチが、有効な治療と考えられる。有効な治療は、有効な治療とみなされるために心疾患または障害の根本原因を治癒またはそれに直接影響を与える必要はない。
【0058】
本明細書で使用される場合、「短期」という用語は、移植後不整脈のためのアミオダロンおよびイバブラジンによる治療に適用される場合、移植後不整脈が起こり続ける間のみの治療を意味する。本明細書では、この薬物の組み合わせによる治療は、移植後不整脈の負荷を軽減し、移植後不整脈が解消された後、不整脈の再発なしに安全に中止できることが実証される。したがって、正確なタイミングは、異なる対象では変動する可能性が高いが、いくつかの態様では、短期治療は、移植後数週間(例えば、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、11週間、12週間、13週間、14週間、15週間、16週間以下)~数ヶ月(例えば、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月以下)程度である。
【0059】
本明細書で使用される場合、「予防」または「予防すること」とは、疾患、障害またはその症状に関して使用される場合、個体が心筋梗塞後に疾患または障害、例えば心不全を発症する可能性の減少を指すが、これは一例にすぎない。例えば、統計的に言えば、同じリスク因子を有し、本明細書に記載の治療を受けていない集団と比較して、疾患または障害の1つまたは複数のリスク因子を有する個体が、障害を発症しないか、または後にもしくはより重症度の低い状態で係る疾患もしくは障害を発症する場合に、疾患または障害を発症する可能性は低下する。疾患の症状を発症しないこと、または軽減(例えば、その疾患または障害について臨床的に許容される尺度で少なくとも10%)もしくは遅延した(例えば、数日、数週間、数ヶ月または数年)症状の発症は、有効な予防と考えられる。
【0060】
「患者」、「対象」および「個体」という用語は、本明細書では同義で使用され、予防的治療を含む治療が提供される動物、特にヒトを指す。本明細書で使用される「対象」という用語は、ヒトおよび非ヒト動物を指す。「非ヒト動物」および「非ヒト哺乳動物」という用語は、本明細書では同義で使用され、すべての脊椎動物、例えば哺乳動物、例えば非ヒト霊長類、(特に高等霊長類)、ヒツジ、イヌ、げっ歯類(例えば、マウスまたはラット)、モルモット、ヤギ、ブタ、ネコ、ウサギ、ウシ、および非哺乳動物、例えばニワトリ、両生類、爬虫類などを含む。局面のいずれかの一態様では、対象はヒトである。局面のいずれかの別の態様では、対象は、疾患モデルとしての実験動物または動物代替物である。局面のいずれかの別の態様では、対象は、コンパニオンアニマル(例えば、イヌ、ネコ、ラット、ブタ、モルモット、ハムスターなど)を含む家畜である。対象は、心血管疾患もしくは心臓事象の治療を以前に受けたことがあるか、または心血管疾患もしくは心臓事象の治療を受けたことがない可能性がある。対象は、心血管疾患を有すると以前に診断されたことがあるか、または心血管疾患と診断されたことがない可能性がある。
【0061】
本明細書で使用される場合、「ヒト幹細胞」という用語は、自己再生し、少なくとも1つの細胞型に分化することができるヒト細胞を指す。「ヒト幹細胞」という用語は、ヒト幹細胞株、ヒト由来人工多能性幹(iPS)細胞、ヒト胚性幹細胞、ヒト多能性細胞、ヒト多能性幹細胞、羊膜幹細胞、胎盤幹細胞またはヒト成体幹細胞を包含する。
【0062】
本明細書で使用される場合、「インビトロで分化した心筋細胞」とは、典型的にはヒト胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、初期中胚葉細胞、側板中胚葉細胞または心臓前駆細胞などの前駆細胞から段階的な分化を経て培養で生成される心筋細胞を指す。
【0063】
本明細書で使用される場合、「抗不整脈」または「抗不整脈薬」という用語は、心不整脈の発症、頻度、および/または重症度を低下させる任意の薬剤(例えば、小分子または薬学的組成物)を指す。抗不整脈薬は、不規則な心律動を治療するため、頻脈の心拍数を減少させるため、徐脈の心拍数を増加させるため、または他に正常な洞律動を促進し、心臓突然死を予防するために使用することができる。
【0064】
幹細胞に関して使用される「由来する」という用語は、分化細胞を幹細胞表現型に再プログラミングすることによって幹細胞が生成されたことを意味する。分化細胞に関して使用される「由来する」という用語は、細胞が幹細胞の分化、例えばインビトロ分化の結果であることを意味する。本明細書で使用される場合、「iPSC-CM」または「人工多能性幹細胞に由来する心筋細胞」は、人工多能性幹細胞に由来する心筋細胞を指すために同義で使用される。
【0065】
「薬学的に許容される」という語句は、健全な医学的判断の範囲内で、合理的な利益/リスク比に見合った、過度の毒性、刺激、アレルギー反応、または他の問題もしくは合併症なしに、ヒトおよび動物の組織と接触して使用するのに適した薬剤、化合物、材料、組成物、および/または剤形を指すために本明細書で使用される。
【0066】
「減少する(decrease)」、「減少した(reduced)」、「減少(reduction)」、または「阻害する」という用語はすべて、本明細書では、特性、レベル、または他のパラメータの統計的に有意な量の減少または緩和を意味するために使用される。いくつかの態様では、「減少させる(reduce)」、「減少(reduction)」または「減少する(decrease)」または「阻害する」とは、典型的には、参照レベル(例えば、所与の未処置)と比較して、少なくとも10%の減少を意味し、例えば、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%またはそれを超える減少を含み得る。本明細書で使用される場合、「減少(reduction)」または「阻害」は、参照レベルと比較して、完全な阻害または減少を包含しない。「完全阻害」とは、参照レベルと比較して100%の阻害である。減少する(decrease)とは、好ましくは、所与の障害がない個体について、正常範囲内として許容されるレベルまでの降下であり得る。
【0067】
「増加した(increased)」、「増加する(increase)」、「増加する(increases)」、または「増強する」または「活性化する」という用語はすべて、本明細書において、特性、レベル、または他のパラメータの統計的に有意な量の増加を一般に意味するために使用され、誤解を避けるために、「増加した」、「増加する」または「増強する」または「活性化する」という用語は、参照レベルと比較して、少なくとも10%の増加、例えば、参照レベルと比較して少なくとも約20%、もしくは少なくとも約30%、もしくは少なくとも約40%、もしくは少なくとも約50%、もしくは少なくとも約60%、もしくは少なくとも約70%、もしくは少なくとも約80%、もしくは少なくとも約90%、もしくは100%以下の増加、もしくは10~100%の任意の増加、または参照レベルと比較して、少なくとも約2倍、もしくは少なくとも約3倍、もしくは少なくとも約4倍、もしくは少なくとも約5倍、もしくは少なくとも約10倍の増加、少なくとも約20倍の増加、少なくとも約50倍の増加、少なくとも約100倍の増加、少なくとも約1000倍の増加、またはそれ以上の増加を意味する。
【0068】
本明細書で使用される場合、「参照レベル」とは、正常な、さもなければ非罹患の細胞集団または組織(例えば、健康な対象から得られた細胞、組織もしくは生物学的試料、または以前の時点で対象から得られた生物学的試料、例えば、疾患と診断される前の患者から得られた細胞、組織もしくは生物学的試料、または本明細書に開示される剤もしくは組成物と接触していない生物学的試料)のマーカーまたはパラメータのレベルを指す。
【0069】
本明細書で使用される場合、「適切な対照」とは、所与の処置と接触または処置された細胞、組織、生物学的試料または集団と比較して、未処置であること以外は同一の、細胞、対象、生物または集団(例えば、本明細書に記載される剤または組成物と接触しなかった細胞、組織または生物学的試料)を指す。例えば、適切な対象とは、アミオダロンおよびイバブラジンが投与されていない対象または組織であり得る。
【0070】
「統計的に有意な」または「有意に」という用語は、統計的有意性を指し、一般に、2標準偏差(2SD)以上の差を意味する。
【0071】
本明細書で使用される場合、「含む(comprising)」という用語は、提示された規定要素に加えて他の要素も存在し得ることを意味する。「含む(comprising)」の使用は、限定ではなく包含を示す。
【0072】
「からなる」という用語は、本明細書に記載されるように組成物、方法、およびそれらの各成分を指し、態様の説明で列挙されない要素を除外する。
【0073】
本明細書で使用される場合、「本質的に、からなる」という用語は、所与の態様に必要な要素を指す。この用語は、本発明のその態様の基本的特性および新規特性または機能的特性に実質的に影響を及ぼさない追加要素の存在を許容する。
【0074】
単数形の用語の「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、文脈が明らかに他を指示しない限り、複数の指示対象を含む。同様に、「または」という単語は、文脈が明らかに他を指示しない限り、「および」を含むことを意図している。本明細書に記載される方法および材料と類似または同等の方法および材料を本開示の実施または試験に使用することができるが、適切な方法および材料を以下に記載する。略語の「例えば(e.g.)」は、ラテン語のexempli gratiaに由来し、非限定的な例を示すために本明細書で使用される。したがって、略語の「例えば」は、用語「例えば(for example)」と同義である。
【0075】
さらに、文脈上別段の要求がない限り、単数形の用語は複数形を含み、複数形の用語は単数形を含むものとする。
【0076】
実施例以外、または他に指示される場合、本明細書で使用される成分または反応条件の量を表すすべての数字は、いかなる場合も、「約」という用語に修飾されていると理解されるべきである。「約」という用語は、百分率に関連して使用される場合、±1%を意味し得る。
【0077】
心血管疾患
心血管疾患は、対象の心臓および/または循環系に影響を及ぼす疾患である。心疾患の非限定的な例としては、アテローム硬化性心疾患、心筋症、心不整脈、先天性心疾患、心筋梗塞、心不全、心肥大、弁膜狭窄、逆流、虚血、細動、および多形性心室頻脈が挙げられる。心血管疾患の症状には、失神、疲労、息切れ、胸痛および動悸が含まれ得るが、これらに限定されない。心血管疾患は、一般に、身体検査、血液検査、および/または心電図(EKG)によって診断される。異常なEKGは、対象が異常な心律動または心不整脈を有するという指標である。不整脈を診断する方法は、当技術分野で公知である。
【0078】
「心臓事象」という用語は、心筋損傷、心筋梗塞、心室細動、狭窄、不整脈などの出来事を指す。
【0079】
心臓の電気生理学的機能および収縮機能は、厳密に制御されたプロセスである。イオンチャネルの調節または収縮機能が心臓の細胞または組織で支障を来すと、時として致命的となり得る心不整脈を引き起こす可能性がある。心疾患は依然として世界中で主要な死因である。
【0080】
ヒト幹細胞に由来する心筋細胞は、心筋梗塞に起因する心血管疾患および心臓損傷の有望な治療として浮上している。しかしながら、既存のモデルにおけるインビトロで分化した心筋細胞の機能的成熟は一般に欠如しており、これらの心筋細胞は移植後に不整脈を引き起こす可能性がある。
【0081】
一局面では、心血管疾患を治療する方法が本明細書に記載される。別の局面では、心筋細胞心臓移植片の対象レシピエントにおける移植後不整脈を治療または改善する方法が本明細書に記載され、該方法は、有効量のアミオダロンおよび有効量のイバブラジンを対象に投与する工程を含む。
【0082】
いずれかの局面のいくつかの態様では、対象は、心血管疾患または心臓事象を有するか、または有するリスクがある。
【0083】
いずれかの局面のいくつかの態様では、心血管疾患を有する対象は、心臓移植を必要としているか、または受けたことがある。いくつかの態様では、対象は、移植後不整脈を有するか、または移植後不整脈と診断される。いくつかの局面では、移植後不整脈を予防または低減する方法が本明細書に記載される。
【0084】
移植後不整脈は、心臓細胞または心筋細胞の移植片の投与後に生じる新たかつ異常な心律動である。移植後不整脈は、心臓移植片の移植後に観察され、一般に、一過性に数日から数週間持続する。移植後不整脈は、対象の心臓突然死および心不全を引き起こす可能性がある。
【0085】
心血管疾患および不整脈を治療する方法は、当技術分野で公知である。心血管疾患、特に不整脈の治療に使用される治療薬の古典的な一例には、抗不整脈薬が含まれる。
【0086】
心臓移植のための心筋細胞
心臓移植では、心筋細胞が心臓の心臓損傷部位に投与される。当業者は、当技術分野で公知の方法によって損傷部位を決定することができる。心臓移植の第一目標は、薬学的治療単独では達成できない電気的安定性および機械的安定性を損傷心筋に提供することである。
【0087】
以下では、対象への移植用の心筋細胞を調製するために使用することができる様々な供給源および幹細胞について説明する。
【0088】
幹細胞とは、有糸分裂細胞分裂によって自身を再生する能力を保持し、より特殊化した細胞型に分化することができる細胞である。大きく3つの哺乳動物幹細胞型には、胚盤胞に見られる胚性幹(ES)細胞、体細胞から再プログラムされた人工多能性幹細胞(iPSC)、および成体組織に見られる成体幹細胞が含まれる。多能性幹細胞の他の供給源には、羊膜由来または胎盤由来の幹細胞が含まれ得る。多能性幹細胞は、3つの胚葉のいずれかに由来する細胞に分化することができる。
【0089】
本明細書に記載される組成物および方法で有用な心筋細胞は、とりわけ、胚性幹細胞および人工多能性幹細胞の両方から分化し得る。一態様では、本明細書で提供される組成物および方法は、胚性幹細胞から分化したヒト心筋細胞を使用する。あるいは、いくつかの態様では、本明細書で提供される組成物および方法は、生存可能なヒト胚から採取された細胞から作製されたヒト心原性細胞の生成または使用を含まない。
【0090】
胚性幹細胞:胚性幹細胞およびそれらの回収方法は、当技術分野で周知であり、例えば、Trounson A O Reprod Fertil Dev(2001)13:523、Roach M L Methods Mol Biol(2002)185:1、およびSmith A G Annu Rev Cell Dev Biol(2001)17:435に記載されている。「胚性幹細胞」という用語は、胚盤胞の内部細胞塊の多能性幹細胞を指すために使用される(例えば、米国特許第5,843,780号、第6,200,806号を参照)。そのような細胞は、体細胞核移植に由来する胚盤胞の内部細胞塊から同様に得ることができる(例えば、米国特許第5,945,577号、第5,994,619号、第6,235,970号を参照)。
【0091】
胚供給源に由来する細胞は、幹細胞バンクまたは他の認識された寄託機関から得られる胚性幹細胞または幹細胞株を含み得る。幹細胞株を産生する他の手段としては、胚盤胞形成前の初期胚(8細胞期前後)からの割球細胞の使用を含む方法が挙げられる。そのような技術は、補助生殖診療所で日常的に実施されている着床前遺伝子診断技術に対応する。単一の割球細胞を確立されたES細胞株と共培養し、次いでそれらから分離して完全にコンピテントなES細胞株を形成する。
【0092】
未分化胚性幹(ES)細胞は、当業者によって容易に認識され、典型的には、高い核/細胞質比および顕著な核小体を有する細胞コロニーで2次元の顕微鏡視野に現れる。いくつかの態様では、本明細書に記載されるヒト心筋細胞は、胚性幹細胞または胚起源の任意の他の細胞に由来しない。
【0093】
人工多能性幹細胞(iPSC):
いくつかの態様では、本明細書に記載の組成物および方法は、人工多能性幹細胞からインビトロで分化した心筋細胞を利用する。iPSCを使用して本明細書に記載される組成物用の心筋細胞を生成する利点は、要望があれば、細胞が、所望のヒト心筋細胞が投与されるのと同じ対象に由来し得ることである。すなわち、体細胞を対象から得て、人工多能性幹細胞に再プログラムした後、ヒト心筋細胞に再分化させて該対象に投与することができる(例えば、自己細胞)。心筋細胞(またはそれらの分化した子孫)は、本質的に自己供給源に由来するため、移植拒絶またはアレルギー反応のリスクは、別の対象または対象の群からの細胞の使用と比較して低下する。これはiPS細胞の利点であるが、代替的な態様では、本明細書に記載の方法および組成物に有用な心筋細胞は、非自己供給源(例えば、同種異系)に由来する。さらに、iPSCの使用により、胚性供給源から得られる細胞の必要性がなくなる。したがって、一態様では、本明細書に記載の方法および組成物で使用するための心筋細胞を生成するために使用される幹細胞は、胚性幹細胞ではない。
【0094】
分化は生理学的状況下では一般に不可逆的であるが、体細胞を人工多能性幹細胞に再プログラムするためのいくつかの方法が近年開発されている。例示的な方法は当業者に公知であり、本明細書で以下に簡単に説明される。
【0095】
再プログラミングとは、分化細胞(例えば、体細胞)の分化状態を変更または逆行させるプロセスである。別の言い方をすれば、再プログラミングとは、細胞の分化を、より未分化な型の細胞またはより原始的な型の細胞に戻すプロセスである。多くの初代細胞を培養下に置くことは、完全に分化した特徴のいくらかの喪失をもたらし得ることに留意すべきである。しかしながら、分化細胞という用語に含まれるそのような細胞を単に培養することは、これらの細胞を非分化細胞(例えば、未分化細胞)または多能性細胞にするわけではない。分化した細胞の多能性への移行は、分化した細胞が培養に置かれた場合に、分化した特徴の部分的な喪失をもたらす刺激を超える再プログラミング刺激を必要とする。再プログラムされた細胞はまた、初代細胞親と比較して、増殖能の喪失を伴わない長期継代の能力という特徴も有し、初代細胞親は一般に培養でごく限られた数の分裂能力を有する。
【0096】
再プログラムされる細胞は、再プログラム前は部分的に分化または最終分化したものであることができる。したがって、細胞は、最終分化した体細胞であり、ならびに成体幹細胞または体性幹細胞に由来し得る。
【0097】
いくつかの態様では、再プログラミングは、分化細胞(例えば、体細胞)の分化状態から多能性状態または多分化能状態への完全な復帰を包含する。いくつかの態様では、再プログラミングは、分化細胞(例えば、体細胞)の分化状態から未分化細胞(例えば、胚様細胞)への完全または部分的な復帰を包含する。再プログラミングは、細胞による特定の遺伝子の発現をもたらす場合があり、その発現は再プログラミングにさらに寄与する。本明細書に記載される特定の態様では、分化細胞(例えば、体細胞)の再プログラミングは、分化細胞に、自己複製能力および3つすべての胚葉系統細胞への分化能力を有する未分化状態をとらせる。これらは人工多能性幹細胞(iPSCまたはiPS細胞)である。
【0098】
体細胞をiPS細胞に再プログラミングする方法は、当技術分野で公知である。例えば、米国特許第8,129,187号B2;第8,058,065号B2;米国特許出願公開第2012/0021519号A1;Singh et al.FrontCell Dev Biol.(2015);およびPark et al.Nature(2008)を参照し、これらは、参照によりその全体が組み入れられる。具体的には、iPSCは、再プログラミング転写因子の組み合わせを導入することによって体細胞から生成される。再プログラミング因子は、例えば、核酸、ベクター、小分子、ウイルス、ポリペプチド、またはそれらの任意の組み合わせであり得る。再プログラミング因子の非限定的な例としては、Oct4(オクタマー結合転写因子-4)、Sox2(性決定領域Y)-box 2、Klf4(クルッペル様因子-4)およびc-Myc因子(例えば、LIN28+Nanog、Esrrb、Pax5 shRNA、C/EBPa、p53 siRNA、UTF1、DNMT shRNA、Wnt3a、SV40 LT(T)、hTERT)または基礎的な再プログラミング因子から1つまたは他の再プログラミング因子を置き換えるか、または再プログラミングの効率を高めることが見出されている化学物質(例えば、BIX-01294、BayK8644、RG108、AZA、デキサメタゾン、VPA、TSA、SAHA、PD025901+CHIR99021(2i)、A-83-01)が挙げられる。
【0099】
体細胞(例えば、生殖系列細胞を排除した身体の任意の細胞;線維芽細胞など)から多能性幹細胞を生成するために使用される特定のアプローチまたは方法は、特許請求される発明にとって重要ではない。したがって、体細胞を多能性表現型に再プログラムする任意の方法は、本明細書に記載される方法での使用に適切であろう。
【0100】
出発細胞の集団から導き出される再プログラミングの効率(すなわち、再プログラムされた細胞の数)は、Shi,Y.,et al.(2008)Cell-Stem Cell 2:525-528,Huangfu,D.,et al.(2008)Nature Biotechnology 26(7):795-797およびMarson,A.,et al.(2008)Cell-Stem Cell 3:132-135によって示されるように、様々な小分子の添加によって高めることができる。再プログラミング効率を高める薬剤のいくつかの非限定的な例としては、可溶性Wnt、Wnt馴化培地、BIX-01294(G9aヒストンメチルトランスフェラーゼ)、PD0325901(MEK阻害剤)、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤、バルプロ酸、5’-アザシチジン、デキサメタゾン、スベロイルアニリド、ヒドロキサム酸(SAHA)、ビタミンCおよびトリコスタチン(TSA)などが挙げられる。
【0101】
本明細書に記載される方法を用いて使用するための多能性幹細胞の誘導を確認するために、単離クローンを、1つ以上の幹細胞マーカーの発現について試験することができる。体細胞に由来する細胞における幹細胞マーカーの発現により、その細胞は人工多能性幹細胞として同定される。幹細胞マーカーとしては、とりわけ、SSEA3、SSEA4、CD9、Nanog、Oct4、Fbx15、Ecat1、Esg1、Eras、Gdf3、Fgf4、Cripto、Dax1、Zpf296、Slc2a3、Rex1、Utf1およびNat1を挙げることができるが、これらに限定されない。一態様では、Oct4またはNanogを発現する細胞が多能性として同定される。そのようなマーカーの発現を検出するための方法には、例えば、RT-PCRおよびコードされたポリペプチドの存在を検出する免疫学的方法、例えば、ウエスタンブロットまたはフローサイトメトリー分析が含まれ得る。いくつかの態様では、検出はRT-PCRだけを伴うのではなく、タンパク質マーカーの検出も含む。細胞内マーカーはRT-PCRによって最もよく同定され得るが、細胞表面マーカーは、例えば免疫細胞化学によって容易に同定される。
【0102】
単離細胞の多能性幹細胞特性は、iPSCが3つの胚葉の各細胞に分化する能力を評価する試験によって確認することができる。一例として、ヌードマウスの奇形腫形成を用いて、単離クローンの多能性特性を評価することができる。細胞をヌードマウスに導入し、細胞から生じる腫瘍について組織学および/または免疫組織化学を行う。例えば、3つすべての胚葉に由来する細胞を含む腫瘍の増殖は、細胞が多能性幹細胞であることをさらに示す。
【0103】
成体幹細胞:成体幹細胞は、出生後もしくは新生児後の生物または成体生物の組織に由来する幹細胞である。成体幹細胞は、胚性幹細胞と比較して、発現するマーカーまたは発現しないマーカーだけでなく、エピジェネティックな差異、例えばDNAメチル化パターンの差異の存在によっても、胚性幹細胞と構造的に異なる。成体幹細胞から分化した心筋細胞もまた、本明細書に記載されるような心臓移植のために使用され得ることが想定される。成体幹細胞を単離する方法は、当技術分野で公知である。例えば、米国特許第9,206,393号B2;および米国出願第2010/0166714号A1を参照し、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0104】
インビトロ分化
本明細書に記載の方法および組成物は、インビトロで分化した心筋細胞を使用する。ESCまたはiPSCからいずれかの細胞型を分化させるための方法は、当技術分野で公知である。例えば、LaFlamme et al.,Nature Biotech 25:1015-1024(2007)を参照し、これは心筋細胞の分化を記載し、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0105】
特定の態様では、ESCまたはiPSCから心筋細胞への段階的な分化は、以下の順序で進行する:ESCまたはiPSC>心原性中胚葉>心前駆細胞>心筋細胞(例えば、Lian et al.Nat Prot(2013);米国出願第2017/0058263号A1;第2008/0089874号A1;第2006/0040389号A1;米国特許第10,155,927号B2;第9,994,812号B2;および第9,663,764号B2を参照、これらの各々の内容は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる)。ESCおよびiPSCを心筋細胞に分化させるための多数のプロトコルが当技術分野で公知である。例えば、薬剤を細胞培養培地に添加または除去して、段階的に心筋細胞への分化を誘導することができる。心筋細胞の分化を促進することができる因子および薬剤の非限定的な例には、小分子(例えば、Wnt阻害剤、GSK3阻害剤)、ポリペプチド(例えば、増殖因子)、核酸、ベクター、およびパターン化基材(例えば、ナノパターン)が含まれる。限定するものではないが、線維芽細胞増殖因子2(FGF2)、形質転換増殖因子β(TGFβ)スーパーファミリー増殖因子-アクチビンAおよびBMP4、血管内皮増殖因子(VEGF)、およびWnt阻害剤DKK-1を含む、心血管発生に必要な増殖因子の添加もまた、心臓系統に沿って分化を導くのに有益であり得る。心筋細胞の分化を促進するのに役立つ因子および条件のさらなる例には、とりわけ、インスリンを欠くB27サプリメント、細胞馴化培地、外部電気ペーシング、およびナノパターン化基材が含まれるが、これらに限定されない。
【0106】
心臓/心筋細胞移植
一局面では、心筋細胞の移植(graft)または移植(transplant)の方法も本明細書に記載され、該方法は、
a)心筋細胞を、その必要のある対象の心臓組織に投与する工程;ならびに
b)対象の移植後不整脈を減少させるのに有効なある量のアミオダロンおよびある量のイバブラジンを対象に投与する工程
を含む。
【0107】
本明細書で使用される場合、「移植する」または「移植」という用語は、所望の効果が生じるように、損傷または修復部位などの所望の部位に導入された細胞の少なくとも部分的な局在化をもたらす方法または経路による、本明細書に記載の細胞、例えば心筋細胞の対象への配置の文脈で使用される。細胞、例えば心筋細胞、またはそれらの分化した子孫(例えば、心臓線維芽細胞など)および心筋細胞は、直接、またはレシピエントの心臓組織、例えば部位もしくはその付近、または心疾患を有する対象の心臓組織に移植することができる。当業者が理解するように、心筋細胞は一般に、心臓が細胞死を含む急性損傷から治癒することができる程度まで増殖しないため、心筋細胞の長期移植が望ましい。いくつかの態様では、該細胞は、任意で、移植された心筋細胞の生存性を支持する、および/または、例えば移植に望ましい位置に投与細胞を保つのを助ける、もしくは対象における天然の心臓細胞との一体化を促進する、足場または生体適合性材料の上または中に移植される。好ましくは、心筋細胞は、本明細書に記載のヒト幹細胞に由来する心筋細胞またはインビトロで分化した心筋細胞である。いくつかの態様では、インビトロで分化した心筋細胞は、インビトロで胚性幹細胞またはiPS細胞から分化させたものである。
【0108】
足場とは、細胞を所望の位置に含むことができるが、生存および機能に必要な環境への因子の侵入または拡散を可能にするゲル、シート、または格子を含むがこれらに限定されない生体適合性材料を含む構造体である。足場に適したいくつかの生体適合性ポリマーは、当技術分野で公知である。
【0109】
当業者は、移植に必要な心筋細胞の数を決定することができる。いくつかの態様では、約1000万個の心筋細胞~約100億個の心筋細胞が対象に投与される。本明細書に記載される様々な局面で使用するために、有効量のヒト心筋細胞は、移植のために少なくとも1×107、少なくとも1.1×107、少なくとも1.2×107、少なくとも1.3×107、少なくとも1.4×107、少なくとも1.5×107、少なくとも1.6×107、少なくとも1.7×107、少なくとも1.8×107、少なくとも1.9×107、少なくとも2×107、少なくとも3×107、少なくとも4×107、少なくとも5×107、少なくとも6×107、少なくとも7×107、少なくとも8×107、少なくとも9×107、少なくとも1×108、少なくとも2×108、少なくとも5×108、少なくとも7×108、少なくとも1×109、少なくとも2×109、少なくとも3×109、少なくとも4×109、少なくとも5×109、少なくとも6×109、少なくとも7×109、少なくとも8×109、少なくとも9×109、少なくとも1×1010個、またはそれ以上の心筋細胞を含み得る。
【0110】
心筋細胞心臓移植を受けている対象において移植後不整脈の発症および重症度を低減するために、本明細書に記載の方法は、有効量のアミオダロンおよび有効量のイバブラジンを対象に投与する工程をさらに含む。これらの抗不整脈薬の組み合わせは、移植後不整脈を低減し治療するための実施例において本明細書で実証される。
【0111】
アミオダロンは、心停止、心室頻脈、および心房細動を治療するために処方されるクラスIII抗不整脈薬である。アミオダロンの類似体および誘導体は当技術分野で公知であり、例えば、米国特許第7,799,799号B2、第9,018,250号B2、およびCarlsson et al.J Med Chem.2002 Jan 31;45(3):623-30を参照し、これらは、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。アミオダロン類似体および誘導体もまた、移植後不整脈の処置に有益であり得ることが企図される。
【0112】
アミオダロンの作用機序は、薬物が電位開口型カリウムチャネルおよび電位開口型カルシウムチャネルを阻害することであり、これは次に心臓活動電位の第3相を延長させる。具体的には、アミオダロンは、カリウムイオンチャネルの細孔形成サブユニットKv11.1(KCNH2遺伝子によってコードされる)を阻害し、電位開口型カルシウムチャネル(CACNA2D2遺伝子によってコードされる)を阻害する。しかしながら、アミオダロンは、電位開口型ナトリウムチャネル活性を阻害することも示されており、これは薬物の催不整脈作用の一因となり得る。
【0113】
アミオダロンの投与は、対象に投与した場合に心拍数を低下させるという点で、ベータ遮断薬様活性を示す。アミオダロンの臨床効果には、心室、ヒス束およびプルキンエ線維の不応期の増加によるQT間隔の延長が含まれる。この効果は心房細動などの不整脈の治療に有益であるが、この効果は催不整脈性となり得る。当技術分野では、アミオダロンおよび他の抗不整脈薬は、用量および治療レジメンに応じて薬物誘発性のQT延長をもたらし得ることが周知である。これは、他の薬物または抗不整脈薬と組み合わせた場合に悪化し得る。
【0114】
イバブラジンは、狭心症、頻脈および心不全の治療に使用されるクラスIf抗不整脈薬である。イバブラジンの類似体および誘導体は当技術分野で公知である。例えば、米国特許第7,879,842号、第7,361,650号、第7,867,996号、および第7,361,649号を参照し、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。ある種のイバブラジンの類似体および誘導体も、本明細書に記載の方法に有益であり得ることが企図される。
【0115】
イバブラジンは、心臓の奇怪(funny)チャネル(HCNチャネルとしても知られる)を阻害することが知られている。HCN遺伝子によってコードされるHCNチャネルの4つのアイソフォームであるHCN1~HCN4が存在する。心臓の奇怪電流(If)の主な機能は、洞房結節のペースメーカー活動を維持することである。イバブラジンで奇怪チャネルを遮断すると、心拍数が全体的に低下する。
【0116】
本明細書に記載のアミオダロンとイバブラジンとの組み合わせは、心筋細胞移植片を有する対象で不整脈の割合および負荷を軽減する。この抗不整脈薬の組み合わせは、実施例に示すように、対象の心血管生存率の改善を示唆した。
【0117】
投与および有効性
一局面では、心臓の疾患、障害、事象、または損傷を治療または改善する方法は、本明細書に記載され、心筋細胞をその必要のある対象に投与する工程、ならびに有効量のアミオダロンおよびイバブラジンを投与する工程を含む。いくつかの態様では、本明細書に記載の方法は、予測される障害、例えば移植後不整脈を予防する。
【0118】
別の局面では、移植後不整脈を治療または改善する方法が本明細書に記載される。
【0119】
本明細書に記載の抗不整脈薬は、対象に不整脈負荷の減少をもたらす任意の適切な経路によって投与することができる。局面のいずれかのいくつかの態様では、「投与する」という用語は、1つまたは複数の薬剤を含む薬学的組成物の投与を指す。投与は、その必要のある対象への直接注射(例えば、標的細胞または組織に直接投与される)、皮下注射、筋肉内注射、経口もしくは経鼻送達、またはそれらの組み合わせによって行うことができる。
【0120】
上述のように、細胞は心臓組織に直接投与される。抗不整脈薬、例えばアミオダロンおよびイバブラジンは、経口、非経口、静脈内(IV)、筋肉内、皮下、経皮、気道(エアロゾル)、肺、皮膚、局所、または注射投与を含むがこれらに限定されない任意の適切な様式で投与することができる。投与は局所的または全身的であり得る。
【0121】
アミオダロンおよびイバブラジンの投与は、両薬物についてIVまたは経口であり得る。したがって、両薬物(またはその類似体)は、経口投与、両方ともIV投与、または一方が経口投与で他方がIV投与のいずれかの組み合わせで投与することができると考えられる。しかしながら、投与の容易さおよび患者のコンプライアンスのために、両薬物が経口投与されることが好ましい。
【0122】
本明細書で使用される「有効量」とは、移植後不整脈を軽減するために必要なアミオダロンおよび/またはイバブラジンまたはその類似体の量を指す。移植後不整脈を予防または軽減することによって、移植細胞の生着および一体化を促進することができ、心不全または心臓突然死のリスクの低減を含む、対象の臨床転帰を改善することができる。これに関連して「軽減する」とは、本明細書に記載のアミオダロンおよびイバブラジンの投与なしに生じるまたは生じると予想される不整脈と比較した、不整脈負荷の少なくとも10%の減少を意味する。不整脈負荷は、本明細書の実施例に記載されているように、または当技術分野で知られるように算出することができる。記載される薬物レジメンなしでの不整脈負荷は75%以上であり得る。これは、アミオダロンおよびイバブラジンの投与によって少なくとも10%減少させることができる。任意の所与の場合について、適切な「有効量」は、日常的な実験のみを用いて当業者によって決定され得ることが理解されよう。
【0123】
局面のいずれかのいくつかの態様では、アミオダロンおよびイバブラジンまたはそれらの類似体の投与は、アミオダロンおよびイバブラジンの投与またはそれらの類似体の投与の不在下で同一型細胞の移植を受けている対象と比較して、移植レシピエントが経験する移植後の増加した安静時心拍数を少なくとも10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上減少させる。
【0124】
したがって、局面のいずれかのいくつかの態様では、アミオダロンおよびイバブラジンまたはそれらの類似体の投与は、アミオダロンおよびイバブラジン投与の不在下で同一型心筋細胞の移植を受けている対象と比較して、移植後不整脈負荷、すなわち、対象が移植後不整脈を経験する時間の割合を少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも99%またはそれ以上減少させる。少なくとも10%の減少は有効な治療と考えられるが、アミオダロンおよびイバブラジンの投与は、最大で移植後不整脈の完全停止を可能にすると考えられる。
【0125】
有効用量は、最初に細胞培養アッセイから推定することができ、用量範囲は、動物(例えば、ブタ)において定式化することができる。細胞培養アッセイおよび動物研究から得られたデータを、ヒトで使用するための投薬量範囲を定式化する際に使用することができる。そのような抗不整脈薬の投薬量は、好ましくは、毒性がほとんどまたは全くないED50を含む血中濃度の範囲内にある。投薬量は、使用される剤形および利用される使用経路または投与経路に応じて、この範囲内で変動し得る。
【0126】
一般に、組成物は、アミオダロンが少なくとも50mg、少なくとも100mg、少なくとも150mg、少なくとも200mg、少なくとも250mg、少なくとも300mg、少なくとも350mg、少なくとも400mg、少なくとも450mg、少なくとも500mg、少なくとも550mg、少なくとも600mg、少なくとも650mg、少なくとも700mg、少なくとも750mg、少なくとも800mg、少なくとも850mg、少なくとも900mg~約1000mgの用量で使用または投与されるように投与される。
【0127】
局面のいずれかのいくつかの態様では、アミオダロンまたはその類似体は、1日3回、100~800mgの用量で経口投与される。局面のいずれかのいくつかの態様では、アミオダロンは、IVボーラスによって100~300mgの用量で投与される。局面のいずれかのいくつかの態様では、アミオダロンは、1.5~2.5μg/mlの血清濃度まで投与される。
【0128】
いくつかの態様では、イバブラジンは、少なくとも1mg、少なくとも2mg、少なくとも3mg、少なくとも4mg、少なくとも5mg、少なくとも6mg、少なくとも7mg、少なくとも8mg、少なくとも9mg、少なくとも10mg、少なくとも11mg、少なくとも12mg、少なくとも13mg、少なくとも14mg、少なくとも15mg、少なくとも16mg、少なくとも17mg、少なくとも18mg、少なくとも19mg~約20mgの用量で投与される。
【0129】
局面のいずれかのいくつかの態様では、イバブラジンまたはその類似体は、5~15mgの用量で、1日2回経口投与される。
【0130】
いくつかの態様では、アミオダロンの投与は単回ボーラス投与である。いくつかの態様では、投与は連続投与または反復投与である。いくつかの態様では、投与は経口投与および/または静脈内注射である。いくつかの態様では、アミオダロンは、1日3回、100~800mgの用量で経口投与される。いくつかの態様では、アミオダロンは、100~300mgの用量でIVボーラスによって投与される。いくつかの態様では、アミオダロンは、1.5~2.5μg/mlの血清濃度まで投与される。いくつかの態様では、イバブラジンは、5~15mgの用量で1日2回経口投与される。いくつかの態様では、イバブラジンは、頻脈がある場合に投与される。いくつかの態様では、イバブラジンは、毎分150拍(bpm)以下の安静時心拍数を維持するために投与される。いくつかの態様では、アミオダロンおよびイバブラジンの投与は短期間である。いくつかの態様では、アミオダロンおよびイバブラジンの投与は、不整脈を再発させることなく、移植後不整脈負荷がゼロに達した後に終了される。
【0131】
本明細書に記載の抗不整脈薬、アミオダロンおよびイバブラジンまたはその類似体は、移植後不整脈および/または心血管疾患を治療するために組み合わせて使用される。本明細書で使用される場合、「組み合わせて」投与されるとは、障害による対象の苦痛の経過中に2つ(またはそれ以上)の異なる治療が対象に送達されること、例えば、対象が障害(心血管疾患または移植後不整脈)と診断された後、障害が治癒もしくは排除される前、または他の理由で治療が中止される前に、2つ以上の治療が送達されることを意味する。いくつかの態様では、一方の治療の送達は、第2の治療の送達が開始された際に依然として行われているため、投与に関して重複がある。これは、本明細書では「同時」または「併用送達」と呼ばれることがある。他の態様では、一方の治療の送達は、他方の治療の送達が始まる前に終了する。いずれの場合のいくつかの態様では、併用投与であるために治療はより効果的である。例えば、第2の治療はより効果的であり、例えば、第2の治療が第1の治療の不在下で投与される場合に見られるよりも、または第1の治療で類似の状況が見られる場合よりも、少ない第2の治療で同等の効果が見られ、または第2の治療は大幅に症状を軽減する。いくつかの態様では、送達は、症状または障害に関連する他のパラメータの減少が、一方の治療を他方の不在下で送達した場合に観察される減少よりも大きいようなものである。2つの治療の効果は、部分的に相加的であってもよく、完全に相加的であってもよく、または相加的より大きくてもよい。送達は、送達される第1の治療の効果が、第2の治療が送達される場合に依然として検出可能であるようなものであり得る。本明細書に記載の抗不整脈薬および/または少なくとも1つの追加治療は、同じもしくは別個の組成物で、同時または逐次に投与することができる。逐次投与の場合、本明細書に記載のアミオダロンを最初に投与することができ、イバブラジンを2番目に投与することができ、または投与の順序を逆にすることができる。薬剤および/または他の治療剤、手順もしくはモダリティは、活動性障害の期間中(例えば、移植後不整脈の期間中)、または寛解もしくは活動性の低い疾患の期間中(例えば、生着前または生着後)に投与することができる。抗不整脈薬は、心臓移植前、治療と同時に、治療後、または生着後の心血管疾患の再燃中に投与することができる。
【0132】
組み合わせて投与する場合、アミオダロンおよびイバブラジンは、例えば単剤療法として、個々に使用される各抗不整脈薬の量または投薬量より高い、低い、または同じ量または投薬量で投与することができる。特定の態様では、アミオダロン、イバブラジン、またはその両方の投与量または投薬量は、個々に使用される各抗不整脈薬の量または投薬量よりも低い(例えば、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、または少なくとも50%)。他の態様では、所望の効果(例えば、心血管疾患の処置)をもたらすアミオダロン、イバブラジン、またはその両方の量または投薬量は、同じ治療効果を達成するために個々に必要とされる各薬剤の量または投薬量よりも低い(例えば、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、または少なくとも50%低い)。
【0133】
局面のいずれかのいくつかの態様では、アミオダロンおよびイバブラジンまたはそれらの類似体は、心筋細胞移植片と同時に投与される。局面のいずれかのいくつかの態様では、アミオダロンの投与は、心筋細胞移植片の投与前に開始される。局面のいずれかのいくつかの態様では、イバブラジンの投与は、心筋細胞移植片の投与前に開始される。局面のいずれかのいくつかの態様では、アミオダロンおよびイバブラジンの両方の投与は、心筋細胞移植片の投与前に開始される。局面のいずれかのいくつかの態様では、イバブラジンの投与は、心筋細胞移植片の投与と同時または投与後に開始される。局面のいずれかのいくつかの態様では、アミオダロンの投与は、心筋細胞移植片の投与と同時または投与後に開始される。
【0134】
局面のいずれかのいくつかの態様では、アミオダロンは、移植の少なくとも1時間前、少なくとも5時間前、少なくとも10時間前、少なくとも15時間前、少なくとも20時間前、少なくとも1日前、少なくとも2日前、少なくとも3日前、少なくとも4日前、少なくとも5日前、少なくとも6日前、少なくとも7日前、少なくとも8日前、少なくとも9日前、少なくとも10日前に開始して投与される。局面のいずれかのいくつかの態様では、イバブラジンは、移植の少なくとも1時間前、少なくとも5時間前、少なくとも10時間前、少なくとも15時間前、少なくとも20時間前、少なくとも1日前、少なくとも2日前、少なくとも3日前、少なくとも4日前、少なくとも5日前、少なくとも6日前、少なくとも7日前、少なくとも8日前、少なくとも9日前、少なくとも10日前に開始して投与される。
【0135】
局面のいずれかのいくつかの態様では、イバブラジンは、心拍数を制御するために、すなわち移植後不整脈で一般的に生じる頻脈を制限または制御するために必要に応じて投与される。そのような態様では、アミオダロンは、移植片投与の前(例えば、開始7日、6日、5日、4日、3日、2日、1日)または同時に投与され、移植後も継続する。
【0136】
局面のいずれかのいくつかの態様では、アミオダロンは、少なくとも1日1回、1日2回、1日3回、またはそれ以上投与される。局面のいずれかのいくつかの態様では、イバブラジンは、少なくとも1日1回、1日2回、1日3回、またはそれ以上投与される。
【0137】
さらなる態様では、他の種類の抗不整脈薬を、対象の治療を補助するために、アミオダロンおよびイバブラジンと同時にまたはそれに加えて投与することができる。
【0138】
特定の態様では、アミオダロンおよび/またはイバブラジンまたはその類似体を、対象の心拍数制御のために、および移植後不整脈の少なくとも1つの症状を軽減するために、必要に応じて投与することができる。本明細書に記載される組成物の投薬量は、医師によって決定され、治療の観察結果に適合するように必要に応じて調整することができる。治療の持続時間および頻度に関して、治療がいつ治療利益を提供するかを決定するために、および投薬量を増加または減少させるか、投与頻度を増加または減少させるか、治療を中止するか、治療を再開するか、または治療レジメンに他の変更を行うかを決定するために、熟練の臨床医が対象を観測することが一般的である。
【0139】
局面のいずれかのいくつかの態様では、本明細書に記載の方法は、移植後不整脈および/または心血管疾患の少なくとも1つの症状を軽減するために、有効量のアミオダロンおよびイバブラジンを対象に投与する工程を含む。本明細書で使用される場合、「心血管疾患の少なくとも1つの症状を軽減する」または「移植後不整脈の少なくとも1つの症状を軽減する」は、心血管疾患(例えば、疲労、息切れ、失神、胸痛)に関連する任意の状態または症状を改善することであり、例えば、不整脈自体の軽減を含む。同等の未治療対照と比較して、そのような減少は、任意の標準技術によって測定した場合に、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%またはそれ以上である。
【0140】
局面のいずれかのいくつかの態様では、初期治療レジメンの後、治療はより低頻度で投与することができる。例えば、3週間連日投与し、投与は、対象の不整脈の発生率によって是認されるように、1日おき、3日おき、毎週、またはより少ない頻度に減らすことができる。あるいは、投与の頻度は同じであるが、量を減らすことができる。
【0141】
局面のいずれかのいくつかの態様では、対象は、最初に、本明細書に記載の心筋細胞移植片を投与する前に、心血管の疾患または障害を有すると診断される。いくつかの態様では、対象は、最初に、細胞を投与する前に、心疾患(例えば、心筋損傷)または障害を発症するリスクがあると診断される。
【0142】
いくつかの態様では、イバブラジンまたはその類似体は、頻脈がある場合に投与される。成人の安静時心拍数は、一般に毎分60~100拍(bpm)である。頻脈は、これよりも多い安静時心拍数である。しかしながら、60~100bpmの安静時心拍数が目標である一方、患者は典型的には150bpms未満の心拍数で対処することができる。したがって、移植後の頻脈には、安静時心拍数を100~150bpm、好ましくは140bpm未満、130bpm未満、120bpm未満、または110bpm未満に維持することを目標として、イバブラジンを投与することができる。
【0143】
別段の説明がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0144】
本開示は、本明細書に記載される特定の方法論、プロトコル、および試薬などに限定されず、したがって変化し得ることを理解されたい。本明細書で使用される用語は、特定の態様のみを説明するためのものであり、特許請求の範囲によってのみ定義される本開示の範囲を限定することを意図するものではない。
【0145】
同定されたすべての特許および他の刊行物は、例えば、本開示に関連して使用され得るそのような刊行物に記載された方法論を説明および開示する目的で、参照により本明細書に明示的に組み入れられる。これらの刊行物は、本出願の出願日前のそれらの開示のためにのみ提供される。これに関するいかなるものも、本発明者らが、先行開示のために、または他の理由で、そのような開示に先行する権利がないことを認めるものとして解釈されるべきではない。日付に関するすべての記述またはこれらの文書の内容に関する表現は、出願人が入手可能な情報に基づいており、これらの文書の日付または内容の正確さに関するいかなる承認も構成しない。
【0146】
本明細書に記載される技術のいくつかの態様は、以下の付番段落のいずれかに従って定義することができる。
1.
心筋細胞心臓移植片の対象レシピエントにおける移植後不整脈(engraftment arrhythmia)を治療または改善する方法であって、有効量のアミオダロンおよび有効量のイバブラジンを該対象に投与する工程を含む、方法。
2.
心筋細胞心臓移植片が、インビトロで分化した心筋細胞を含む、段落1の方法。
3.
インビトロで分化した心筋細胞が、人工多能性幹(iPS)細胞からまたは胚性幹(ES)細胞から分化させたものである、段落2の方法。
4.
心筋細胞心臓移植片が、対象にとって自己の幹細胞に由来する、段落1~3のいずれかの方法。
5.
心筋細胞心臓移植片が、対象にとって同種異系の幹細胞に由来する、段落1~3のいずれかの方法。
6.
アミオダロンおよびイバブラジンが、心筋細胞心臓移植片と同時に投与される、段落1~5のいずれかの方法。
7.
アミオダロンの投与が、心筋細胞心臓移植片の投与前に開始される、段落1~5のいずれかの方法。
8.
イバブラジンの投与が、心筋細胞心臓移植片の投与前に開始される、段落1~5のいずれかの方法。
9.
アミオダロンおよびイバブラジンの両方の投与が、心筋細胞心臓移植片の投与前に開始される、段落1~5のいずれかの方法。
10.
イバブラジンの投与が、心筋細胞心臓移植片の投与と同時または投与後に開始される、段落1~5のいずれかの方法。
11.
アミオダロンの投与が、心筋細胞心臓移植片の投与と同時または投与後に開始される、段落1~5のいずれかの方法。
12.
アミオダロンの投与が、単回ボーラス投与である、段落1~11のいずれかの方法。
13.
前記投与が、連続投与または反復投与である、段落1~11のいずれかの方法。
14.
前記投与が、経口投与および/または静脈内注射である、段落1~13のいずれかの方法。
15.
アミオダロンが、100~800mgの用量で1日3回経口投与される、段落1~14のいずれかの方法。
16.
アミオダロンが、IVボーラスによって100~300mgの用量で投与される、段落1~14のいずれかの方法。
17.
アミオダロンが、1.5~2.5μg/mlの血清濃度まで投与される、段落1~15のいずれかの方法。
18.
イバブラジンが、5~15mgの用量で1日2回経口投与される、段落1~17のいずれかの方法。
19.
頻脈がある場合にイバブラジンが投与される、段落1~18のいずれかの方法。
20.
イバブラジンが、毎分150拍(bpm)以下の安静時心拍数を維持するために投与される、段落1~19のいずれかの方法。
21.
アミオダロンおよびイバブラジンの投与が、アミオダロンおよびイバブラジンの投与の不在下で同一型細胞の移植を受けている対象と比較して、移植レシピエントが経験する移植後の増加した心拍数を少なくとも10%減少させる、段落1~20のいずれかの方法。
22.
アミオダロンおよびイバブラジンの投与が、アミオダロンおよびイバブラジンの投与の不在下で同一型心筋細胞の移植を受けている対象と比較して、対象が移植後不整脈を経験する時間の割合を少なくとも10%減少させる、段落1~21のいずれかの方法。
23.
アミオダロンおよびイバブラジンの投与が短期間である、段落1~22のいずれかの方法。
24.
アミオダロンおよびイバブラジンの投与が、不整脈を再発させることなく、移植後不整脈負荷がゼロに達した後に終了される、段落1~22のいずれかの方法。
25.
a)インビトロで分化した心筋細胞を、その必要のある対象の心臓組織に投与する工程;
b)対象の移植後不整脈を減少させるのに有効なある量のアミオダロンおよびある量のイバブラジンを対象に投与する工程
を含む、心筋細胞移植の方法。
26.
対象において移植後不整脈が、インビトロで分化した心筋細胞を投与されかつアミオダロンおよびイバブラジンを投与されない対象と比較して減少する、段落25の方法。
27.
インビトロで分化した心筋細胞が、インビトロで胚性幹細胞からまたはiPS細胞から分化させたものである、段落25または26のいずれかの方法。
28.
iPS細胞が、対象にとって自己である、段落27の方法。
29.
iPS細胞が、対象にとって同種異系である、段落27の方法。
30.
アミオダロンおよびイバブラジンが、インビトロで分化した心筋細胞と同時に投与される、段落25~29のいずれかの方法。
31.
アミオダロンの投与が、インビトロで分化した心筋細胞の投与前に開始される、段落25~29のいずれかの方法。
32.
イバブラジンの投与が、インビトロで分化した心筋細胞の投与前に開始される、段落25~29のいずれかの方法。
33.
アミオダロンおよびイバブラジンの両方の投与が、インビトロで分化した心筋細胞の投与前に開始される、段落25~29のいずれかの方法。
34.
イバブラジンの投与が、インビトロで分化した心筋細胞の投与と同時または投与後に開始される、段落25~29のいずれかの方法。
35.
アミオダロンの投与が、インビトロで分化した心筋細胞の投与と同時または投与後に開始される、段落25~29のいずれかの方法。
36.
イバブラジンの投与が、単回ボーラス投与である、段落25~35のいずれかの方法。
37.
前記投与が、連続投与または反復投与である、段落25~36のいずれかの方法。
38.
前記投与が、経口投与および/または静脈内(IV)注射である、段落25~37のいずれかの方法。
39.
アミオダロンが、100~800mgの用量で1日3回経口投与される、段落25~38のいずれかの方法。
40.
アミオダロンが、IVボーラスによって100~300mgの用量で投与される、段落25~39のいずれかの方法。
41.
アミオダロンが、1.5~2.5μg/mlの血清濃度まで投与される、段落25~40のいずれかの方法。
42.
イバブラジンが、5~15mgの用量で1日2回経口投与される、段落25~41のいずれかの方法。
43.
頻脈がある場合にイバブラジンが投与される、段落25~42のいずれかの方法。
44.
イバブラジンが、毎分150拍(bpm)以下の安静時心拍数を維持するために投与される、段落25~43のいずれかの方法。
45.
アミオダロンおよびイバブラジンの投与が短期間である、段落25~44のいずれかの方法。
46.
アミオダロンおよびイバブラジンの投与が、不整脈を再発させることなく、移植後不整脈負荷がゼロに達した後に終了される、段落25~45のいずれかの方法。
47.
約1000万個の心筋細胞~約100億個の心筋細胞が、対象に投与される、段落1~46のいずれかの方法。
48.
対象がヒトである、段落1~47のいずれかの方法。
49.
対象が、心血管疾患または心臓事象を有するか、または有するリスクがある、段落1~48のいずれかの方法。
50.
心血管疾患または心臓事象が、アテローム硬化性心疾患、心筋梗塞、心筋症、心不整脈、弁膜狭窄、先天性心疾患、慢性心不全、逆流、虚血、細動、および多形性心室頻脈からなる群より選択される、段落49の方法。
51.
インビトロで分化した心筋細胞、アミオダロンおよびイバブラジンを含む組成物。
【実施例
【0147】
実施例1:アミオダロン/イバブラジン治療は移植関連不整脈を減少させる
心筋細胞補充療法は、活発な調査の分野であり、心筋梗塞後に心機能を回復させることができる。ヒト多能性幹細胞(hPSC)は、インビトロでヒト心筋細胞を産生するための出発材料として役立ち得る。心筋梗塞の大型動物モデルは、この候補治療薬の回復可能性を実証している(Chong et al.,2014;Shiba et al.,2016;Liu et al.,2018)。しかしながら、hPSCに由来する心筋細胞は電気生理学的に未熟であり、大型動物モデルの心不整脈を誘発する(同書。Romagnuolo et al.,2019)。これらの移植誘発性不整脈は、hPSCに由来する心筋細胞が移植された直後に現れ、3~4週間一過性に持続し、その間、レシピエントは心臓突然死および心不全のリスクがある。観察された正常な洞律動への復帰は、移植されたhPSC由来の心筋細胞のインビボ成熟を反映すると仮定され、宿主心筋との完全な電気的一体化を示唆する。
【0148】
これらの一過性の移植関連不整脈を減少させることにより、心筋梗塞患者におけるこの治療薬の安全性プロファイルを有意に改善することができる。心疾患患者に利用可能ないくつかの抗不整脈薬があるが、未成熟心筋細胞の移植は天然の心疾患の病理または以前の治療とは異なるため、心筋細胞補充療法でそれらの有効性を予測することは困難である。結果として、この目的に有効な1つ以上の抗不整脈薬を同定することは、経験的に決定される必要がある。本出願は、ブタにおけるhPSC由来の心筋細胞移植によって引き起こされる心拍数増加および不整脈負荷を減少させた2つの薬物の組み合わせを記載する。
【0149】
実験設計:体重30~40kgのYucatan小型ブタを使用して心筋梗塞をモデル化した。この目的のため、動物を、経皮経管冠動脈形成バルーンを使用して左前下行枝の90分間の閉塞に供した。埋め込まれた心電図記録装置により、試験期間中、心臓の連続遠隔モニタリングが可能であった。hPSC由来の心筋細胞を梗塞の2週間後に投与し、ブタを免疫抑制して移植細胞の免疫拒絶を予防した。合計で5億個の心筋細胞を経皮的経心内膜注射によって送達した。設計により、移植後研究期間は少なくとも30日間であった。対照群(n=6)には抗不整脈薬を投与しなかった。処置群(n=6)は、1.5および2.5μg/mlの目標血清レベルのアミオダロンおよび1日2回5~15mgの経口イバブラジンの負荷用量および維持量からなる併用抗不整脈薬物療法を受けた。
【0150】
新規所見:アミオダロン/イバブラジン療法の使用は、処置されたブタにおける心拍数増加および不整脈負荷を減少させることが見出された。これは、試験期間中の処置動物および対照動物についての以下のプールドデータに反映されている(図1A~1B)。最も意外な結果は、アミオダロン/イバブラジンの組み合わせが死亡率に及ぼす影響であった(図2)。アミオダロン/イバブラジン療法の不在下では、6匹の対照ブタのうち2匹が心室細動で死亡し(図9図11)、4匹が生存した(図10図12~14)。対照的に、アミオダロンおよびイバブラジンで処置した6匹のブタのいずれも心血管合併症で死亡しなかった(図3~8)。
【0151】
結果:この試験における個々の動物のデータを本明細書に提供する(図1A~14)。処置群の最後の2匹の動物(アミオダロン±イバブラジン)は、免疫抑制に関連する合併症(CMV感染再活性化)のために安楽死し、病因が心臓性ではなかったことに留意されたい(図7~8)。
【0152】
要約すると、本明細書で提供される結果は、アミオダロンおよびイバブラジン療法が、未処置動物と比較して心臓移植を受けた動物において心拍数および不整脈負荷を減少させ(図1A~1B)、これらの抗不整脈薬の組み合わせが、細胞補充療法を受けた動物の生存を改善した(図2)ことを示している。
【0153】
参考文献
【0154】
実施例2:移植後不整脈の処置のために試験された抗不整脈薬
体重30~40kgのYucatan小型ブタを使用して心筋梗塞をモデル化した。この目的のため、動物を、経皮経管冠動脈形成バルーンを使用して左前下行枝の90分間の閉塞に供した。埋め込まれた心電図記録装置により、試験期間中、心臓の連続遠隔モニタリングが可能であった。hPSC由来の心筋細胞を梗塞の2週間後に投与し、ブタを免疫抑制して移植細胞の免疫拒絶を予防した。合計で5億個の心筋細胞を経皮的経心内膜注射によって送達した。対照群には抗不整脈薬を投与しなかった一方、処置群には表1に示す抗不整脈薬を投与した。移植後不整脈の治療および予防におけるそれらの有効性を決定するために、いくつかの抗不整脈療法を試験した。表1は、これらの結果をまとめる(以下)。
【0155】
(表1)抗不整脈試験
【0156】
単独で投与した場合、アミオダロンは心拍数の低下に中程度の効果をもたらし、心臓除細動を提供した。イバブラジンは移植モデルで心拍数を下げることができたが、不整脈負荷の軽減に大きな効果はなかった。試験した追加の抗不整脈薬は、移植動物で心拍数または不整脈負荷の軽減に中程度の効果があり、または有意な効果がなかった。
【0157】
試験した薬物から、アミオダロンと経口イバブラジンとの組み合わせが、ブタの心拍数および不整脈負荷の両方を減少させるのに最も有効であることが分かった。特に、アミオダロンおよびイバブラジン療法の以下のレジメンが、移植動物モデルにおいて最も効果的であることが分かった(図15も参照)。
【0158】
ブタ
律動/心拍数制御 アミオダロン200~1200mg BID PO 開始日 移植-7
トラフ目標の1.5~2.5μg/mLまで調整
心拍数制御 イバブラジン 2.5~15mg PO BID prn HR≧150
HR目標<125bpmまで調整
【0159】
比較のために、ヒト対象におけるアミオダロンおよびイバブラジンの典型的な臨床投薬量を以下に列挙する。
【0160】
ヒト
律動/心拍数制御 アミオダロン100~800mg TID PO 開始日 移植-7
心拍数制御 イバブラジン 5~15mg PO BID prn 頻脈
【0161】
要約すると、アミオダロンとイバブラジンとの特定の組み合わせは、アミオダロンとイバブラジンで処置されなかった動物と比較して、細胞療法を受けた動物の心拍数を低下させ、移植後不整脈負荷を軽減する(図1A~2)。
【0162】
実施例3:ヒト心筋細胞の移植によって誘導される移植後不整脈のための薬物療法
背景 心筋梗塞についてのヒト多能性幹細胞に由来する心筋細胞(hPSC-CM)の心筋内移植の大型動物実験では、移植後不整脈(EA)が観察される。一過性ではあるが、EAがもたらすリスクは、臨床移行に対する障壁を提示する。
【0163】
方法 EAを誘導するために、外科的送達または経皮送達によって、梗塞したブタ心臓にhPSC-CMを移植した。抗不整脈薬のスクリーニング後、心臓死の予防およびEAの抑制におけるアミオダロン+イバブラジンの有効性を決定するための前向き研究を行った。
【0164】
結果 EAは全対象で観察され、アミオダロン-イバブラジン処置は耐容性が良好であった。対照コホート(ハザード比0.00;95%信頼区間、0~0.297;p=0.002)の5/8(62.5%)と比較して、処置対象のいずれも心臓死、不安定なEAまたは心不全の主要エンドポイントを経験しなかった。感染による処置コホートにおける2匹の死亡を含む全生存は、処置による改善を示した(ハザード比0.21;95%信頼区間、0.03~1.01;p=0.05)。未処置では、ピーク心拍数は平均305±29拍/分であった一方、処置動物では、ピーク心拍数は185±9拍/分に有意に制限された(p=0.001)。同様に、処置はピークEA負荷を96.8±2.9%から76.5±7.9%に減少させた(p=0.03)。抗不整脈処置は、不整脈の再発なしに処置の約1ヶ月後に安全に中止された。
【0165】
結論 hPSC-CM移植後の移植後不整脈および関連する続発症のリスクは、アミオダロンおよびイバブラジン薬物療法の併用によって有意に低減され得る。
【0166】
序論
心筋梗塞(MI)は、米国および世界中で心不全および死亡の主因のままである(1)。MI中に、約10億個の心筋細胞が永続的に失われ、しばしば衰弱性心不全に至る。現在の治療は、心不全の開始および進行を遅らせることができるが、同所性心臓移植を除いて、失われた心筋を補充するものはなく、利用可能性および適応症が制限されたままである(2)。ヒト多能性幹細胞(hPSC、胚性幹細胞[ESC]およびそれらの再プログラム化された同類である人工多能性幹細胞(iPSC)を含む)は、心筋細胞(CM)の再生可能な供給源である。小動物-マウス、ラット、モルモット-の梗塞心筋へのhPSC由来の心筋細胞(hPSC-CM)の移植は、安定した生着を示した(3~7)。ヒト多能性幹細胞hPSC-CMの移植後の、梗塞を起こした非ヒト霊長類(NHP)における再筋肉化(remuscularization)および機能的利益が記載されている(8~10)。機能的再筋肉化に加えて、ヒトの移植片は、移植後1ヶ月以内に血管形成し、宿主心筋と電気機械的に結合し、少なくとも3ヶ月までの耐久性を維持する。
【0167】
不整脈はより小さな動物では観察されなかったが、本発明者らは、本明細書において移植後不整脈(EA)と称されるNHP(8~10)およびブタ(11)におけるhPSC-CM移植後の異所性不整脈を一貫して観察した。EAは一般に一過性であり、移植の1週間以内に起こり、一般に1ヶ月後に自然に回復する。電気マッピング、オーバードライブペーシング、および電気除細動の研究に基づいて、EAは、移植片または移植片周囲の心筋に限局的に発生し、リエントリー経路ではなく自動病巣として機能するようである(9,11)。EAはNHPで耐容性がかなり良好であるが、Laflamme群(11)は、EAが一部のブタで致死的であり得ることを報告した。このため、EAは、ヒト心筋細胞移植の臨床移行に対する最大の障害として浮上した(12)。
【0168】
ブタはEAに対して高度の感受性を示すため、ブタは心臓血管研究(13)および細胞療法(14)において十分に確立されたモデルであり、その大きなサイズは経皮送達カテーテルの使用を可能にするため、この大きな動物モデルでEAのリスクおよび続発症を軽減するためのアプローチを試験した。研究の第1相では、抗不整脈薬パネルをスクリーニングした。アミオダロンおよびイバブラジンは、律動および心拍数を制御するための最も有望な薬剤としてそれぞれ独立して浮上した。試験の第2相を実施して、アミオダロンおよびイバブラジン併用処置の効果を決定した。興味深いことに、このレジメンは、心臓突然死を減少させ、ならびに頻脈および不整脈を抑制した。
【0169】
方法
hESC-CMの産生
この研究では、2系統のhESCを使用した。以前に記載されたように、最初の対象には、懸濁培養で培養、増殖、および分化したH7(WiCell)に由来する心筋細胞を投与した(8,9,15)。対象の大部分は、撹拌した懸濁培養フォーマットでRUES2(ロックフェラー大学)由来の心筋細胞を投与された。簡潔には、RUES2 hESCを培養して凝集体を形成し、市販の培地(Gibco Essential 8)で増殖させた。心臓分化のために、懸濁液に順応した多能性凝集体を、小分子GSK-3阻害剤およびWnt/β-カテニンシグナル経路阻害剤(Tocris)の時限使用によって、B-27(Gibco)または血清アルブミンを補充したRPMI-1640(Gibco)、MCDB-131(Gibco)またはM199(Gibco)で分化するように誘導した。凍結保存の24時間前に、RUES2 hESC-CMに熱ショックを与えて、収集、凍結保存、解凍および移植後の生存率を高めた。心筋細胞凝集物を、リベラーゼTH(Fisher)およびTrypLE(Gibco)による処置によって解離させ、速度制御された液体窒素冷凍庫を使用して、10μM Y-27632(Stem Cell Technologies)を補充したCryoStor CS10(Stem Cell Technologies)で凍結保存した。移植の約3時間前に、凍結保存したhESC-CMを極低温貯蔵(-150℃~-196℃)から取り出し、37℃の水浴中で解凍した(2分±30秒)。B-27および≧200 Kunitz単位/mL DNase I(Millipore)を補充したRPMI-1640を細胞懸濁液に添加して、凍結保存培地を希釈した。その後の洗浄工程は、細胞懸濁液を濃縮するために、RPMI-1640基本培地を使用して徐々に小さな体積で行った。最後の遠心分離工程では、細胞ペレットを十分な体積のRPMI-1640に再懸濁して、1.6mL中約0.3×109細胞/mLである注射用の標的細胞密度を達成した。ある場合では、より大きい用量の細胞を、血清アルブミンが補充されたRPMIに再懸濁して、約2.3mL中0.43×109細胞/mLの密度にした。細胞懸濁液の最終体積は、最終遠心分離工程の前にサンプリングした計数の結果によって決定した。細胞計数を前述のように行い、500×106個の生細胞の最終総用量を達成した(9)。
【0170】
研究設計
この研究の目的は、心臓再筋肉化療法後の不整脈を減弱させるための薬理学的レジメンを同定することであった。この研究は、2つの相で設計された:第1の相は、EAの自然経過を観察し、有効性について様々な抗不整脈薬をスクリーニングするためであり、第2の相は、有効性について試験するためである(図16)。すべての対象は、6~13月齢の30~40kgの去勢雄Yucatan小型ブタ(S&S農場)であった。第1相では、9匹の対象が、直接外科的経心外膜注射またはその後の経皮的経心外膜注射によって送達される500×106個のhESC-CMによる心臓再筋肉化療法を受けた。最初の4匹の対象(1匹は非梗塞性、3匹は梗塞性)を追跡してEAの自然経過を学習し、2相の薬物試験の臨床エンドポイントおよびパラメータを確立した。その後の5匹の対象に、律動および心拍数に及ぼす効果を決定するために、連続心電図(ECG)モニタリングを伴う抗不整脈薬の全身投与を行った(表2)。第1相の9匹の対象の中で、高い死亡率が観察され、9匹中6匹が、安楽死を必要とする心室細動(VF)または頻脈誘発性心不全を経験した。VFは、不安定なEA>350拍/分(bpm)の頻繁な非持続性エピソードおよび慢性的に上昇した心拍数>150bpmを伴う心不全に関連し、頻脈誘発性であり得る。第1相からの有望な結果に基づいて、第2相は、EA関連死亡を予防するための前向きパイロット薬物試験として開始された。
【0171】
(表2)薬物、投薬量および効果
治療用量で観察される重度の悪心/嘔吐、限定的な臨床的有用性
**重度の徐脈
略語:β1AR、β1-アドレナリン作動性受容体;BID、1日2回;HR、心拍数;EA、移植後不整脈;If,奇怪電流;PO、経口;RyR1、リアノジン受容体1;VT、心室頻脈
【0172】
第2相では、アミオダロンおよびイバブラジンを用いて2剤抗不整脈試験を実施し、MI後2週間でMIおよび経皮的hESC-CM再筋肉化を受けたさらに15匹の対象(処置7匹、未処置6匹および偽移植2匹)を登録した。2匹のさらなる対象が、偽移植対照としての役割を果たすために偽ビヒクル注射を伴うMIを経た(図16図17)。主要エンドポイントは、複合心臓死(不整脈もしくは心不全による自然死、または350bpmを超える頻脈もしくは心不全の徴候によって必要とされる臨床的に指示された安楽死のいずれか)として事前に指定された。事前に指定された二次エンドポイントは、頻脈の抑制、不整脈における時間の割合(不整脈負荷)および不整脈の解消であり、電気的成熟と呼ばれ、48時間連続して不整脈負荷<25%と定義された。抗不整脈治療は、電気的成熟後または移植後30日目のどちらか早い方で中止した。過度の死亡を予防するために、目標の心拍数および不整脈負荷をそれぞれ<150bpmおよび<25%に維持するように処置を調整した。350bpmを超える頻脈がしばしばVFに悪化するという初期の経験に基づいて、350bpmを超える心拍数に達した場合、対象を人道的に安楽死させた。連続遠隔計測ECGを合計8週間(MI後2週間および移植後6週間)監視した。注目すべきことに、対象1および2(未処置)ならびに3および4(処置)は、H7 hESC-CMを受け、対象1、2および3は、経皮送達を採用する前に外科的に移植された。電気的成熟後、長期処置のウォッシュアウトおよびモニタリングのために試験期間を移植後6週間に延長する前に、事前に指定されたエンドポイントとして、対象5を37日目に安楽死させた。
【0173】
動物管理
すべてのプロトコルが承認され、ワシントン大学(UW)動物福祉局および施設内動物管理使用委員会に従って実施された。適宜、動物に水を与え、1日2回給餌した(実験用食餌-5084実験用ブタ飼育用食餌)。外科的処置のために、筋肉内ブトルファノール、アセプロマジンおよびケタミンの組み合わせで麻酔を誘導した。動物に挿管し、イソフルランおよび酸素を使用して人工呼吸して麻酔の手術水準を維持した。各処置を通してバイタルサインを連続的に監視した。すべての動物は、術後鎮痛のためにブプレノルフィンSR-Lab(ZooPharm)の皮下投与を受け、静脈内ユサゾール(Virbac)によって安楽死させた。すべての死後検査は、盲検で委員会認定の獣医病理学者が行った。
【0174】
ブタ心筋梗塞モデル
改変を加えてブタモデルについてNHP(9)で前述した通り、経皮的虚血/再灌流傷害を誘導した。大腿三角に5~8cmの切開を行い、鈍的切開によって大腿動脈を露出させた。血管アクセスを得る前に、ヘパリンを投与して治療的抗凝固を達成した(活性化凝固時間>250秒)。5フレンチガイドワイヤー/イントロデューサシースシステム(Terumo Medical)を大腿動脈に配置し、固定した。連続ECG、観血的動脈圧、パルスオキシメトリおよびカプノグラフィーを処置を通して監視した。不整脈のリスクを最小限に抑えるために、静脈内アミオダロン150mgおよびリドカイン100mgを虚血前に単回ボーラスとして投与した。蛍光透視(OEC 9800 Plus、GE Medical Systems)下で、5-フレンチ ジャドキンスライト2またはホッケースティックガイドカテーテル(Boston Scientific)を上行大動脈内に前進させて、左主冠動脈の小孔に選択的に係合させた。造影剤の手注入(Visipaque)を使用して冠動脈造影を行い、0.035インチの冠動脈ガイドワイヤー(Runthrough NS Extra Floppy,Terumo Medical)を遠位左前下行枝(LAD)に配置した。次いで、適切なサイズの血管形成バルーンカテーテルを、第1の対角分岐動脈の遠位の中央LAD内に配置し、血管造影によって確認されるように、遠位灌流の全体的閉塞に必要な最小圧力まで膨張させた。虚血は、ECGのSTセグメント上昇によって確認された。動物を、換気および血行動態の支援を伴う麻酔下で90分間維持し、その後、バルーンを収縮させて遠位灌流を回復させ、再度、蛍光透視法およびECGによって確認した。再灌流不整脈について動物を観察し、心室細動が発生した場合に外部から電気的に心変換した。回復前に、すべての対象が埋め込み型遠隔計測ユニットおよび中心静脈カテーテル留置を受けた。簡単に説明すると、頸静脈溝の外頸静脈を露出させ、5フレンチの中心静脈カテーテル(Access Technologies)を挿入し、背側の前肩甲骨領域までトンネリングした。頸静脈溝の同じ切開を使用して皮下ポケットに遠隔計測送信機(EMKA easyTEL+)を埋め込み、皮下リードをトンネリングして心尖部を基部に捕捉した。梗塞を含む処置全体の死亡率は10%未満であった。
【0175】
心臓再筋肉化療法
わずかな改変を加えてNHPについて前述した通り(9)、梗塞周囲領域への直接経心外膜注射によって3匹の初期対象(1~3)の細胞移植を行った。簡潔には、部分的な胸骨正中切開を実施して、梗塞した左心室前壁を露出させた。中央虚血領域および外側境界帯を標的とするLADによって範囲が定められる5つの別個の位置に、巾着縫合を予め配置した。巾着縫合糸を針の周りにしっかりと締め付けた後、それぞれ100μLの3回の注射を部分的中止および側方の再配置によって行い、合計15回の注射を行い、総用量の500×106個のhESC-CMを送達した。その後のすべての対象(4~19)は、NOGA-MyoStarプラットフォーム(BioSense Webster)を使用した経皮的経心内膜注射による細胞移植を受けて、最初に左心室の梗塞領域をマッピングし、次いで、それぞれ100μLの16回の別個の心内膜注射で総用量の500×106個のhESC-CMを送達した。注射は、電気解剖マッピングおよび単極電圧による適切な位置への針挿入を用いて、優れた位置およびループ安定性、STセグメントの上昇、および心室性期外収縮(PVC)の存在を伴ってのみ行われた。外科的細胞移植および経皮的細胞移植の両方について、注射の2/3を、視覚的にまたは5~7.5mVの単極電圧によって規定された梗塞周囲境界帯に入れ、残りの1/3を、視覚的にまたは5mV未満の単極電圧として規定された中央虚血領域に入れた。2匹の対象(9および10)は、プロトコルに従って梗塞を起こしたが、偽移植対照としての、役立つ細胞を含まないRMI-1640ビヒクルの偽注射を受けた。
【0176】
免疫抑制療法
すべての対象は、改変を加えて前述したように(9)、異種移植片拒絶を予防するための3剤免疫抑制レジメンを受けた。初期レジメン(対象1~6)では、試験期間にわたって、>400ng/ml(約250~1000mgを1日2回)の血清トラフレベルを維持するために、細胞移植の5日前に経口シクロスポリンAを開始した。移植の2日前に、経口メチルプレドニゾロンを3mg/kgで開始して2週間、次いで残りの研究のために1.5mg/kgまで減量した。移植当日、アバタセプト(CTLA4-Ig,Bristol-Myers Squibb)12.5mg/kgを静脈内投与し、その後2週間毎に投与した。免疫抑制に関連する合併症(主にブタサイトメガロウイルスおよびニューモシスチス肺炎)のために、拒絶の組織学的証拠なしに、対象7~19についてシクロスポリンAのトラフ濃度は300ng/ml超に減少し、メチルプレドニゾロンは1.0mg/kgに減少した。予防的経口セファレキシンをすべての対象に投与して、留置中心静脈カテーテルの感染を予防した。対象3がニューモシスチス肺炎を発症した後、予防的スルファメトキサゾール/トリメトプリムを追加した。内因性ブタサイトメガロウイルスの活性化が対象6で見られた後、予防的バルガンシクロビルおよびプロバイオティクスを追加した。
【0177】
抗不整脈処置
処置対象に、細胞移植の7日前から開始して、経口アミオダロン1000mg~1200mgを1日2回経口負荷し、続いて、1.5μg/ml~4.0μg/mlの定常状態血漿レベルを維持するために、400mg~1000mgの維持用量を1日2回経口負荷した(図18)。イバブラジンは、持続性頻脈が≧150bpmに達した場合に2.5mgで1日2回経口的に開始し、目標心拍数<125bpmのために3日毎に最大15mgまで1日2回調整した。1対象(対象1)を除くすべての対象は、追加の心拍数制御のために補助的イバブラジンを必要とした。電気的成熟が達成された後または移植後30日目のどちらか早い方の後に抗不整脈薬を中止して、処置のウォッシュアウトを可能にし、不整脈の再発を評価した。すべての対象は、合併症なしに抗不整脈レジメンに耐容性であった。未処置および偽移植の対照対象は、MI処置後に抗不整脈薬を投与されなかったが、それ以外はすべての免疫抑制および標準的なケアを受けた。
【0178】
アミオダロン薬物モニタリング
新規な液体クロマトグラフィー-質量分析アッセイを、アミオダロンについて確立して、ブタモデルにおける定常状態の血清レベルをモニタリングし、有効性を確実にしかつ用量依存性毒性を回避するために、経口投与をガイドした。以前のヒト薬物動態研究(16,17)から1.5μg/ml~4.0μg/mlの目標血清レベルを推定した。経口アミオダロン療法の中止後の排出動態もまた、6匹のブタ(対象6、7、8、13、14、16)で毎週トラフ濃度を得ることによって研究した(図18)。
【0179】
心電図検査(ECG)分析
遠隔計測ECGを心筋梗塞の時点からリアルタイムで連続的に監視して、心臓死または不安定EAの主要エンドポイントを検出した。心拍数および不整脈負荷の自動定量化は、ecgAUTO 3.3.5.10ソフトウェアパッケージ(EMKA Technologies)を使用して、委員会認定の心臓専門医によってオフラインで実行された。不整脈は、異所性拍動(例えば、心室性期外収縮)または異所性調律(例えば、固有心室調律、心室頻脈)と定義した。EAは、典型的には、様々な速度および形態の持続性および非持続性の心室頻脈性不整脈として観察されたが、ゆっくりとした狭い複雑な異所性調律も含んでいた(図19)。心拍数および不整脈負荷を5分毎に2分間連続して定量化し(全律動の40%をカウントした)、1日平均として提示した。
【0180】
組織学的分析
組織学的研究を、改変を加えて先に詳述したように行った(8,9)。簡単に説明すると、パラホルムアルデヒドで固定された心臓を解剖して心房および右心室を除去した後、短軸断面を2.5mm間隔で切断した。組織カセットにさらに分配する前に、心臓全体、左心室および各切片の重量を得た。次いで、組織を処理し、パラフィンに包埋し、染色のために4μmの切片を切断した。形態計測のために、梗塞領域をピクロシリウスレッド染色によって同定した。ヒト移植片を抗ヒト心筋トロポニンTによって同定し、アビジン-ビオチン反応(ABCキット、VectorLabs)を用いて染色し、続いてジアミノベンジジン(Sigmafast,Sigma Life Science)により発色検出した(図20)。スライドを全スライドスキャナー(Nanozoomer、Hamamatsu)を使用してデジタル化し、画像を観察し、NDP.view 2.6.13(Hamamatsu)でエクスポートした。梗塞および移植片の領域を、ImageJオープンソースソフトウェアプラットフォームにおける特注のアルゴリズムを使用して分析した(18)。簡単に説明すると、TIFF形式(19)で画像を抽出した後、画像前景をそのピクセルの輝度分布から導出された閾値でセグメント化し、撮像された組織切片を描写するバイナリマスクを得た。色相、輝度および彩度を閾値化することによるその後の色のデコンボリューションは、ピクロシリウスレッド染色によって染色された領域またはヒト心筋トロポニン-Tについて免疫標識された領域のセグメント化を可能にした。瘢痕をびまん性線維症から分離するために、粒径のカットオフを適用した。梗塞サイズおよび移植片サイズを、(面積パーセント×ブロック重量)として算出し、心室全体について合計し、左心室質量または梗塞質量のパーセンテージとしてそれぞれ表した。プルキンエ線維染色のための補足方法を参照されたい。
【0181】
統計分析
Prism 8.4.2ソフトウェア(GraphPad)およびStata 15(StataCorp、テキサス州カレッジステーション)を使用して統計分析およびグラフ化を行った。データは、平均±平均の標準誤差(SEM)として提示される。他に明記しない限り、有意性閾値がP<0.05である両側スチューデントt検定を使用して比較を行った。エラーバーのプロットは、心拍数および不整脈負荷の平均±SEMが2つの処置群において経時的にどのように変化するかを示す。カプラン-マイヤープロットは、心臓死、不安定EAまたは心不全の主要エンドポイント、および総死亡率についての生存曲線を示す。Cox比例回帰モデルを使用して、主要転帰および死亡率について、2つの処置群間のハザード比(HR)を推定する。有意性は尤度比検定に基づいており、HRの信頼区間は、Stataのstcox手順におけるオフセット項の変化に基づいて尤度検定を反転することによって計算される。
【0182】
結果
梗塞ブタモデルにおけるhESC-CMの経皮送達
hESC-CMのカテーテルベースの心内膜送達は、梗塞ブタ心臓の再筋肉化において安全かつ有効であった(図20)。処置群間で心筋梗塞または心筋細胞移植片のサイズの有意差は観察されなかった。処置コホートおよび未処置コホートの平均梗塞サイズは、それぞれ左心室の11.7±1.1%および10.5±2.0%で同等であった(p=0.59)。梗塞サイズに対する移植片サイズもまた、処置および未処置ではそれぞれ2.3±0.7%および2.8±1.3%で同等であった(p=0.74)。hESC-CMの送達は、意図したように梗塞周囲境界帯および中央虚血領域を首尾よく標的とし、以前に報告されたように(8~11)、宿主心筋に移植された別個のhPSC-CM移植片をもたらした。すべての移植片は、前壁、前壁中隔および前外側壁に位置し、ブタで以前に報告されたように(11)、移植後2週間前の初期時点で構造的に未熟に見え、研究の終わりまで成熟度が増加した。
【0183】
移植後不整脈の臨床歴
研究におけるすべての動物のフローチャートを図16に示す。心筋梗塞およびビヒクルの経皮的心臓内注射を受けた二匹の偽移植対象(9および10)において有意な不整脈は認められなかった。ヒト心筋細胞移植を受けたすべての対象は、細胞移植の2~6日後にEAを発症した。EAの開始は、非持続性VTのサルボ(salvo)によって特徴づけられ、これは典型的には、110~250bpmの速度の持続性VTの期間に進行した(図19)。VTは多形性であることが多く、同じ動物が異なる電気軸を示し、異なる時間に広幅および狭幅の両方の複合頻脈を示した。8匹の未処置動物のうち4匹において、EAは、事前に指定された不安定な頻脈のエンドポイント(350bpmを超える持続的な心拍数として定義される)により、致死的であるか、または安楽死を必要とした。さらなる未処置の一症例(対象12)では、300bpmの心拍数でEAの開始直後に急性心不全が臨床的に認められ、獣医学スタッフの推奨に基づいて、対象を安楽死させた。その後、剖検で心不全の徴候を確認した。他のすべての症例において、350bpm超に急速に上昇して(対象11および12)、2つの症例では、安楽死前にVFへ悪化して(対象1および2)、EAが認められた(表3)。4つの不整脈エンドポイントのうち3つは、EAを発症した最初の3日以内に発生し、それらは頻脈性不整脈がほぼ一定であった場合に発生した。平均心拍数は移植後8日目にピークに達し、その後低下し始めた一方、不整脈負荷は8~16日目から頭打ちになり、その後正常化し始めた。未処置コホートの3匹の生き残りのうち、2匹は律動を正常化せず、研究終了時に平均42%の不整脈負荷を経験した(対象15および17)。心拍数および律動を正規化した未処置コホートの単一の対象は、移植後26日目にそうなった(対象11)。
【0184】
(表3)対象の転帰
†処置対未処置
略語:bpm、1分当たりの拍動;EA、移植後不整脈;hESC-CM、ヒト胚性幹細胞に由来する心筋細胞;HF、心不全;HR、心拍数;MI、心筋梗塞;surg、手術;PCP、ニューモシスチス肺炎;pCMV、ブタサイトメガロウイルス;perc、経皮;VF、心室細動
【0185】
抗不整脈効果のための薬物スクリーニング
研究の第1相では、EA心拍数および律動に及ぼす効果について、ナトリウムチャネル、カリウムチャネル、およびベータ-アドレナリン受容体を広く標的とする6つの標準的な抗不整脈薬であるリドカイン(Ib、ナトリウムチャネル阻害剤)、フレカイニド(Ic、ナトリウムチャネル阻害剤)、プロパフェノン(Ic、ナトリウムチャネル阻害剤)、アミオダロン(III、カリウムチャネル阻害剤)、ソタロール(III、カリウムチャネル阻害剤)、およびメトプロロール(β1-アドレナリン受容体阻害剤)をスクリーニングした。さらに、奇怪電流/HCN4チャネル拮抗薬であるイバブラジンを試験した(表1および2)。このシリーズは、決定的であることを意味するのではなく、むしろ候補薬剤を迅速に同定することを意味した。動物をEA中に実験室に持ち込み、麻酔をかけ、抗不整脈薬の短期静脈内注入の効果を研究した。3例において、静脈内アミオダロンは、短時間ではあるが、不安定なEAを350bpm超から典型的には洞律動へとより低い心拍数に首尾よく心変換した(図21A)。経口イバブラジンは、心拍数に対して強い用量依存的効果を実証したが、洞律動を回復させなかった(図21B)。他の薬物のうち5つは、このスクリーニングで有意な効果を示さなかった(リドカイン、フレカイニド、ソタロール、およびメトプロロール)。プロパフェノンは、2回の薬物チャレンジで心拍数を短時間減少させ、洞律動を回復させたが、この薬物は実質的な胃腸毒性に関連しており、さらに研究されなかった(データは示さず)。
【0186】
アミオダロン-イバブラジンは生存を高める
補助的なイバブラジンを伴う継続的アミオダロンは、試験の第2相において、心臓死、不安定なEA>350bpmおよび心不全の複合主要エンドポイントを減少させると考えられた。合計9匹の処置対象、8匹の未処置対象、および2匹の偽移植対象が、同様のベースラインおよび細胞移植特性で試験に登録された(表3)。方法に詳述されているように、処置動物にはボーラスおよび維持用量のアミオダロンを投与し、心拍数を150bpm未満に保つために必要に応じてイバブラジンを投与した。すべての処置対象(100%)は、未処置対象(図22A)の3/8(37.5%)と比較して、主要心臓エンドポイントなしで生存した。主要エンドポイントのハザード比は、抗不整脈処置では0.000(95% CI、0.000~0.297;p=0.002)であった。注目すべきことに、処置対象のうちの2匹(3および6)は、免疫抑制関連合併症(それぞれニューモシスチス肺炎およびブタサイトメガロウイルス)のために移植後19日目および26日目に非心臓死を経験した。全生存の処置企図解析もまた、0.212(95% CI、0.030~1.007;p=0.051)のハザード比で処置コホートに有利であった(図22B)。
【0187】
頻脈および不整脈負荷の抑制
心拍数および不整脈負荷のプールされた個別の対象レベルのデータをそれぞれ図23A~23Bおよび図23C~23Dに示す。平均心拍数は、未処置と比較して抗不整脈処置で有意に低かった。平均心拍数は、未処置動物において移植後7日目に163±35bpmでピークに達し、処置群において心拍数は平均90±10bpm(p=0.03)であった(表3および図23)。処置動物の心拍数は、MIおよび移植前の正常な安静時心拍数と有意に異なる事はなかった(84±1bpm、p=0.21)。移植後、ピーク心拍数は、未処置動物では平均して305±29拍/分であった一方、処置では、頻脈を185±9拍/分に有意に制限した(p=0.001)(図23E)。不整脈負荷は、不整脈で過ごした日の割合として定義された。処置は、ピーク不整脈負荷を96.8±2.9%から76.5±7.9%に減少させた(p=0.03)(図23F)。不整脈の大部分が処置に関係なく回復したため、心拍数または不整脈負荷の差は移植後30日目に認められなかった(図23A~23B)(それぞれp=0.09およびp=0.52)。
【0188】
不整脈の再発なしに電気的成熟を達成したすべての処置対象において、抗不整脈処置を30日目までに安全に中止した(図23)。2匹の処置対象および2匹の未処置対象(それぞれ3、4および15、17)は、電気的に成熟することができず、試験終了時に有意な不整脈を示した。これらの4匹の動物では、処置に関係なく心拍数が十分に制御され、研究の完了まで生存した。平均血清アミオダロンは、中止の1週間以内に0.42±0.12μg/mlで治療量以下であった(図19)。
【0189】
宿主プルキンエ伝導系との移植片相互作用
ブタ心筋におけるhESC-CM移植片の顕微鏡検査は、宿主ブタ心臓の拡散プルキンエ伝導系との相互作用を実証する(図24)。以前の報告(20,21)と一致して、hESC-CM移植片に近接して局在する、左心室(図24A;示されていないビデオデータにより、生来のブタ心筋全体に網目状ネットワークが確認された)全体にわたる壁内プルキンエ線維(PF)の網目状ネットワークが観察された(図24B;示されていないビデオデータにより、遅骨格トロポニンI(ssTnI)を特徴とするhPSC-心筋細胞がコネキシン40+プルキンエ線維と相互作用することが確認された)。コネキシン40(Cx40)は、プルキンエ細胞ギャップ結合(20,22)を特異的に染色し、予想通り、より低いサルコメア含有量およびT細管の欠如が観察される(図25)。
【0190】
考察
hPSC-CMの心筋内移植は、梗塞した心臓を再筋肉化し、機能を回復させるための有望な戦略である(2)。心不全を予防および治療するためのそのような療法は、満たされていない大きな要求に対処する上で重要な進歩であろう。大型動物の研究は、長期有効性を実証しているが、一過性であるが潜在的に致死的な不整脈の有意な安全シグナルも定義している。以前の研究(9~11)で実証されているように、EAは心筋梗塞のための心臓再筋肉化療法の予測可能な合併症である(23)。NHPでは、EAは、典型的には、可変電気軸(8,9)を有する広幅の複合頻脈として現れ、これは、Laflamme研究所によって最近ブタで再現された(11)。EAは、異なる移植片病巣に由来する異所性興奮として観察された電気軸の変化に起因して多形性として本明細書に記載される。興味深いことに、ブタでは、NHPでは見られないパターンである、広幅の複合頻脈と交互する狭幅の複合VTが観察された。理論に束縛されることを望むものではないが、生来のブタ心筋および移植されたブタ心筋の組織学は、広幅の複合拍動が緩徐伝導の機能型心筋に接触する移植片に由来するという仮説、および、ブタ心臓を拡散性に行き渡る壁内プルキンエ線維に移植片が接触する場合に狭幅の複合拍動が生じるという仮説を支持する(20,21)。500×106個のhESC-CMを移植された17匹の対象はすべて、典型的には一過性であるが、ブタの高い死亡率に関連する有意な不整脈負荷を実証した。この研究では、Laflammeらによる最近の研究(11)と比較した場合、EAに関連するより高い罹患率および死亡率が観察された。これは、Yucatan小型ブタモデル、経皮的細胞送達、または細胞産物の違いを反映している。本明細書に記載の実験は、心臓の病的状態の2つの主要な機序を示唆している。第一に、急速なEA>350bpmは、致死的な心室細動に変性する可能性があり、第二に、>230bpmの慢性頻脈のブタで一般的に心不全が続いた(24)。その結果、主要エンドポイントは、抗不整脈試験における過剰な死亡率を制限するためにこれらのパラメータを含んでいた。
【0191】
ベースラインのアミオダロンおよび補助的イバブラジンによる併用抗不整脈処置は、処置されたすべての対象における心臓死、不安定なEAおよび心不全の組み合わされた主要エンドポイントを安全に予防し、EAのリスクが薬理学によって緩和され得ることを示している。処置は、ピーク頻脈および不整脈の有意な減少に関連していた。対象が、電気的成熟と呼ばれる不整脈負荷の持続的改善を経験すると、抗不整脈療法はすべての対象で首尾よく中止された。したがって、短期のアミオダロンおよびイバブラジン処置は、移植片が催不整脈性が低くなるまで電気的安定性を促進した。
【0192】
理論に拘束されることを望むものではないが、抗不整脈処置の利益の機序は、自動性の抑制、心拍数および不整脈負荷の両方の低減に関連し得る。薬物はEAの初期段階(VFへの悪化のリスクが最も高い)中に特に有益である。NHP(9)およびブタ(11)でそれぞれ行われた電気生理学的試験は、EAの病因が、臨床的心室頻脈(25)で典型的に観察されるマクロリエントリーではなく、限局的な自動性の増加であることを示唆している。未処置動物でEAが不安定になると、心拍数は急速に350bpm超まで上昇し、この増加が別個の機序、例えばリエントリーに至る自動性であり得る可能性は排除されなかった。これは、処置が不安定で致命的な不整脈を首尾よく抑制したが、EAを完全に予防することができなかった理由を示唆している。律速EAに対するイバブラジンの有効性は、その薬理学的標的である、未成熟心筋細胞およびhPSC-CMにおいて高度に発現されるHCN4チャネルによって運ばれるIf電流(26)が重要なメディエーターであり得ることを示唆している。イバブラジンは単独ではEAを抑制せず、If電流が律速因子であるが不整脈の唯一の原因ではないことを示唆した。対照的に、アミオダロンは、いくつかの急性注入実験において、EAの負荷を慢性的に減少させ、明らかに洞律動を回復させた(図21A~21B)。主にKチャネル遮断薬として分類されるが、アミオダロンは、Naチャネル、Ca2+チャネルおよびβ-アドレナリン受容体に拮抗することも周知である(27)。したがって、本明細書に開示される有効な薬物の組み合わせの発見の重要性を決して低下させないが、アミオダロンの有効性からEAの機序についての洞察を得ることは困難である。EAの消失は、幹細胞に由来する移植片の成熟と一致し(8,9,28)、催不整脈性の好機は、宿主心筋により類似した状態に達する前のインビボ移植片成熟の期間を反映し得ると考えられる(26,29~33)。移植前の成熟の促進、遺伝子編集、および宿主/細胞相互作用の調節などのさらなる戦略は、不整脈制御のさらなる手段を提供することができる。EAの根底にある機序のさらなる調査は、大型動物モデルにおける表現型決定前に遺伝学的研究、薬理学的研究および電気生理学的研究を行うための高処理プラットフォームの開発によって加速されるであろう。
【0193】
移植後不整脈は、心臓再筋肉化療法の臨床移行に対する最も重要な障壁である。NHPから出現したEAの自然経過およびより最近のブタデータは、EAが回復すると、さらなる不整脈のリスクが低いことを示唆している。この研究は、臨床的に関連する抗不整脈薬処置が致死性不整脈を首尾よく抑制し、電気的静止を達成するために頻脈を制御することができるという概念実証を提供する。これは、心臓再筋肉化療法のための心筋細胞移植の臨床的安全性に関して重要な前進である。
【0194】
この研究は、EAが薬理学的抑制に応答することを実証している。臨床的に妥当な用量のアミオダロンおよびイバブラジンを試験で投与した。
【0195】
結論
心臓再筋肉化療法のブタ梗塞モデルを利用するこの研究では、EAは普遍的に観察され、有意な死亡率を伴った。補助的なイバブラジンと組み合わせたアミオダロンの継続的処置は、心臓死、不安定なEAおよび心不全の組み合わせされた主要エンドポイントを首尾よく予防した。全生存は、抗不整脈処置で有意に改善され、心拍数および律動制御に関連していた。
【0196】
実施例5:補足方法
ブタにおけるパイロット抗不整脈スクリーニング
5匹の梗塞ブタにhESC-CM移植を行い、すべてが常同型EAを示した。対象に複数回の試験抗不整脈薬を投与し、連続的なECGモニタリングによって急性応答を観察した。静脈内薬剤をボーラス用量として2分間にわたって送達した。直接観察によって、毎日の給餌で経口剤を最小限のリンゴ、リンゴソースまたはパンプキンピューレで投与し、用量漸増のために毎日投与した。薬剤間に少なくとも3日間のウォッシュアウト期間を設けた。半減期の延長および排出動態についての懸念を試験するためにアミオダロンを最後の薬剤として投与した。すべての薬剤を少なくとも2匹の対象で試験した。
【0197】
プルキンエ線維組織学
薄片では、組織を切断し、1cm×1cm×3mmにトリミングし、イソペンタンで急速凍結し、OCT(TissueTek)に包埋した。10μm切片を-20°Cの100%メタノールに15分間浸漬し、以下に記載される染色を使用する標準的な免疫蛍光技術で染色した。Leica SP8共焦点顕微鏡で画像を取得した。
【0198】
厚い切片については、移植片を含む1cm×1cm×3mmの組織片を、20°Cの100%メタノールで1時間インキュベーションし、再水和させた(80%メタノール、60%メタノール、0%メタノール、PBSで希釈、各試薬について-20°Cで15分間インキュベーション)。150μmの切片をLeica VT1200s vibratomeで切断し、以下に記載する染色を使用して標準的な免疫蛍光技術で染色した。次いで、染色された切片を、以前に報告されたように(34)、BABBを使用して透徹し、1μmのzステップ増分を有するLeica SP8共焦点顕微鏡で画像化した。
【0199】
プルキンエ線維染色
以下の試薬、すなわちHoechst 33342(DNA,Thermo Fisher Scientific,#62249)、小麦胚芽凝集素-オレゴングリーン(WGA,Thermo Fisher Scientific,#W6748)、ファロイジン-647(F-アクチン、Thermo Fisher Scientific、#A22287)、抗コネキシン40(Cx40、Alpha Diagnostics、#CXN40A)、または抗遅骨格トロポニンI(ss-TnI、Novus、#NBP2-46170)と、2つの抗ウサギ二次抗体(Alexa Fluor 555/647、Thermo Fisher Scientific、#A-31570/A-31573)のうちの1つを用いて、切片を染色した。
【0200】
参考文献
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16-1】
図16-2】
図17
図18
図19
図20
図21A
図21B
図22A
図22B
図23A
図23B
図23C
図23D
図23E
図23F
図24
図25
【国際調査報告】