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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-30
(54)【発明の名称】pH感応性FC変異体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20230323BHJP
   C12N 15/10 20060101ALI20230323BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20230323BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230323BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20230323BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230323BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230323BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230323BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230323BHJP
【FI】
C12N15/13
C12N15/10 200P
C07K16/00 ZNA
C12N15/63 Z
C07K14/47
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022546354
(86)(22)【出願日】2021-01-29
(85)【翻訳文提出日】2022-09-29
(86)【国際出願番号】 KR2021001237
(87)【国際公開番号】W WO2021154046
(87)【国際公開日】2021-08-05
(31)【優先権主張番号】10-2020-0010336
(32)【優先日】2020-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0148372
(32)【優先日】2020-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0148373
(32)【優先日】2020-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518107501
【氏名又は名称】コリア ユニバーシティ リサーチ アンド ビジネス ファウンデーション
【氏名又は名称原語表記】KOREA UNIVERSITY RESEARCH AND BUSINESS FOUNDATION
【住所又は居所原語表記】145,Anam-ro,Seongbuk-gu,Seoul,Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,サン-テク
(72)【発明者】
【氏名】コ,サン-ファン
(72)【発明者】
【氏名】ジョ,ミ-ギョン
【テーマコード(参考)】
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC15
4B065BA02
4B065CA44
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA42
4H045DA76
4H045EA28
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、pH依存的にFcRnに結合及び解離することにより半減期が延長されたFc変異体に関し、本発明のFc変異体は、従来の血中半減期延長Fc変異体よりも優れたpH選択的FcRn結合及び解離能力を示し、血中半減期が最大化された変異体である。よって、体内で短い半減期及び維持時間を有する数多くのペプチド医薬品治療剤に結合し、延長された血中半減期により、長時間にわたって薬効を発揮させる。また、それにより、抗体及びバイオ医薬の投与用量及び頻度を画期的に減少させることができ、新薬開発のコストを減少させることができ、新薬開発の可能性を大幅に向上させることができるという効果がある。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
野生型免疫グロブリン(immunoglobulin)のFc領域に、カバットナンバリングシステム(Kabat numbering system)によるL309Y、Q311M及びQ311Wからなる群から選択されるアミノ酸残基の改変を含む、Fc変異体。
【請求項2】
前記Fc変異体は、L309Y及びM428L、L309Y及びQ311M、またはL309Y、Q311M及びM428Lのアミノ酸残基の改変を含む、請求項1に記載のFc変異体。
【請求項3】
前記Fc変異体は、1)L309Y及びQ311M、2)L309E及びQ311M、3)Q311M及びM428L、4)L309E、Q311M及びM428L、または5)L309Y、Q311M及びM428Lのアミノ酸残基の改変を含む、請求項1に記載のFc変異体。
【請求項4】
前記Fc変異体は、1)L309E及びQ311W、2)Q311W及びM428L、または3)L309E、Q311W及びM428Lのアミノ酸残基の改変を含む、請求項1に記載のFc変異体。
【請求項5】
免疫グロブリンがIgA、IgM、IgE、IgD及びIgGからなる群から選択される、請求項1に記載のFc変異体。
【請求項6】
pH7.0~7.8において野生型免疫グロブリンFc領域に比べてFcRnに対す結合親和性が低い、請求項1に記載のFc変異体。
【請求項7】
pH5.6~6.5において野生型免疫グロブリンFc領域に比べてFcRnに対する結合親和性が高い、請求項1に記載のFc変異体。
【請求項8】
請求項1に記載のFc変異体を含む、ポリペプチド。
【請求項9】
野生型と比較して生体内半減期(Half-life)が延長された、請求項8に記載のポリペプチド。
【請求項10】
請求項1に記載のFc変異体を含む、抗体。
【請求項11】
野生型と比較して生体内半減期が延長された、請求項10に記載の抗体。
【請求項12】
請求項1に記載のFc変異体、請求項8に記載のポリペプチド、請求項10に記載の抗体をコードする、核酸分子。
【請求項13】
請求項12に記載の核酸分子を含む、ベクター。
【請求項14】
請求項13に記載のベクターを含む、宿主細胞。
【請求項15】
請求項1に記載のFc変異体、非ペプチド性重合体及び生理活性ポリペプチドが共有結合により連結されて生体内半減期が延長された、タンパク質結合体。
【請求項16】
生理活性ポリペプチドがヒト成長ホルモン、成長ホルモン放出ホルモン、成長ホルモン放出ペプチド、インターフェロン、コロニー刺激因子、インターロイキン、インターロイキン可溶性受容体、TNF可溶性受容体、グルコセレブロシダーゼ、マクロファージ活性化因子、マクロファージペプチド、B細胞因子、T細胞因子、タンパク質A、アレルギー抑制因子、細胞壊死糖タンパク質、免疫毒素、リンホトキシン、腫瘍壊死因子、腫瘍抑制因子、転移成長因子、α1-アンチトリプシン、アルブミン、アポリポタンパク質E、エリスロポエチン、高グリコシル化エリスロポエチン、血液因子VII、血液因子VIII、血液因子IX、プラスミノーゲン活性化因子、ウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、タンパク質C、C反応性タンパク質、レニン阻害剤、コラゲナーゼ阻害剤、スーパーオキシドディスムターゼ、レプチン、血小板由来成長因子、表皮成長因子、骨形成成長因子、骨形成促進タンパク質、カルシトニン、インスリン、インスリン誘導体、グルカゴン、グルカゴン様ペプチド-1(Glucagon Like Peptide-1)、アトリオペプチン、軟骨誘導因子、結合組織活性化因子、卵胞刺激ホルモン、黄体形成ホルモン、卵胞刺激ホルモン放出ホルモン、神経成長因子、副甲状腺ホルモン、リラキシン、セクレチン、ソマトメジン、インスリン様成長因子、副腎皮質ホルモン、コレシストキニン、膵臓ポリペプチド、ガストリン放出ペプチド、コルチコトロピン放出因子、甲状腺刺激ホルモン、受容体類、受容体拮抗物質、細胞表面抗原、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、抗体フラグメント類及びウイルス由来ワクチン抗原からなる群から選択される、請求項15に記載のタンパク質結合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、pH依存的にFcRnに結合及び解離することにより半減期が延長されたFc変異体に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質治療剤は、疾病ターゲットに対して特異性が非常に高く、副作用や毒性が少ないので、非特異的な低分子化合物治療剤を迅速に代替し、臨床で広く用いられており、現在臨床に用いられているタンパク質治療剤においては、抗体治療剤と抗体Fc領域が融合したFc融合タンパク質治療剤が主流をなしている。
【0003】
治療用抗体は、従来の低分子薬物に比べてターゲットに対して特異性が非常に高く、生体毒性が低く、副作用が少ないだけでなく、約3週間という優れた血中半減期を有するので、最も効果的な癌治療方法の一つとされている。実際に、全世界の巨大製薬会社や研究所において、癌の原因因子をはじめとする癌細胞に特異的に結合して効果的に除去する治療用抗体の研究開発が盛んに行われている。治療用抗体医薬品の開発企業としては、ロシュ、アムジェン、ジョンソン・エンド・ジョンソン、アボット、BMSなどが主に挙げられ、特にロシュは、抗癌治療目的のハーセプチン(Herceptin)、アバスチン(Avastin)、リツキサン(Rituxan)などが代表的な商品であり、この3つの治療用抗体で2012年の世界市場において約195億ドルの売上を達成するなど、大きな利潤を創出しているだけでなく、世界の抗体医薬品市場をリードしている。レミケード(Remicade)を開発したジョンソン・エンド・ジョンソンも、売上の増加により世界抗体市場において急成長を遂げており、アボットやBMSなどの製薬企業も、開発最終段階の治療用抗体を多数保有していることが知られている。その結果として、低分子医薬品が主導権を握っていた世界製薬市場において、疾病ターゲットに対して特異的で、副作用の少ない治療用抗体を含むバイオ医薬品がそれを急速に代替しつつある。
【0004】
しかしながら、抗体及びタンパク質治療剤は、経口投与すると、消化器による吸収率が非常に低く、消化管の内部で変性しやすく、タンパク質分解酵素により容易に分解され、バイオアベイラビリティが非常に低いので、静脈注射や皮下注射で投与しなければならず、顕著な治療効果を得るためには頻繁な接種が必要であるが、血液内での安定性に非常に優れるタンパク質治療剤の一つである抗体においても、治療効果を得るためには高用量の治療用抗体(2~8mg/体重kg)を2~3週間に1回は投与しなければならない。このような注射による頻繁な薬物投与は、患者に大きな痛みや不便をもたらし、浮腫、感染などの局所的及び全身的副作用をもたらすという問題がある。前記問題を解決するためには、当該治療用抗体及びタンパク質治療剤の血液中の半減期を画期的に改善しなければならない。
【0005】
免疫グロブリン(抗体)の生体内半減期は、FcRnに対するFcの結合によりもたらされることが報告されている。免疫グロブリンのFc断片は、非特異的細胞吸収作用を用いて内皮細胞により摂取(uptake)され、次いで酸性エンドソーム内に導入される。FcRnは、エンドソーム内の酸性pH(<6.5)下で免疫グロブリンに結合し、血流内の塩基性pH(>7.4)下で免疫グロブリンを放出する。よって、FcRnは、リソソーム退化経路から免疫グロブリンを回収する。血清免疫グロブリンの数値が減少すると、より多くのFcRn分子を免疫グロブリン結合に用いることができ、免疫グロブリンの量を増加させることができる。反対に、血清免疫グロブリンの数値が上昇すると、FcRnが飽和し、退化して細胞吸収される免疫グロブリンの比率を増加させることができる(非特許文献1)。すなわち、抗体の血中半減期と持続性は、抗体のFc部位とIgG結合リガンドの一つであるFcRn(neonatal Fc receptor)の結合に大きく依存する。免疫白血球または血清補体分子を集め、癌細胞や感染した細胞などの損傷した細胞が除去されるように働く抗体のFc部位はCγ2とCγ3ドメイン間の部位であり、新生(neonatal)受容体FcRnとの相互作用を媒介し、その結合は、エンドソーム(endosome)から血流(bloodstream)に細胞移入した抗体を再循環させる(非特許文献1,2)。この過程は、全長分子の巨大なサイズにより、腎臓濾過(kidney filtration)の阻止に関連し、1週間~3週間の範囲の有利な抗体血清半減期(antibody serum half-life)を有する。また、FcRnに対するFcの結合は、抗体輸送においても重要な役割を果たす。よって、Fc部位は、細胞内輸送(intracellular trafficking)及びリサイクル機序により抗体を循環させ、延長された血清持続性(prolonged serum persistence)を維持する上で必須の役割を果たす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】韓国公開特許第10-2018-0113717号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Ghetie及びWard,Annu.Rev.Immunol.18:739-766,2000
【非特許文献2】Raghavan et al.,1996,Annu Rev Cell Dev Biol 12:181-220
【非特許文献3】Deisenhofer,Biochemistry 20:2361-2370,1981
【非特許文献4】Kabat et al.,Sequence of proteins of immunological interest,5th Ed.,United States Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,1991
【非特許文献5】Molecular Cloning-A Laboratory Manual,3rd Ed.,Maniatis,Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York,2001;Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley&Sons
【非特許文献6】Maniatis,et al.,Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1988
【非特許文献7】Ausubel et al.,In:Current Protocols in Molecular Biology,John,Wiley&Sons,Inc,NY,1994
【非特許文献8】Hardman and Limbird,eds.,Goodman and Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics,10th ed.(2001),Pergamon Press
【非特許文献9】E.W.Martin ed.,Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th ed.(1990),Mack Publishing Co.
【非特許文献10】Merck Index,13th ed.,Merck&Co.Inc.
【非特許文献11】Remington’s Pharmaceutical Science(Mack Publishing Company,Easton PA,18th,1990)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、抗体の血中半減期を延長させるために、細胞内エンドソーム(弱酸性pH条件)におけるFcRnに対する結合力を増加させ、血液(中性pH条件)におけるFcRnに対する結合力を減少させる突然変異を導入した抗体を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明は、pH感応性Fc変異体を提供する。
【0010】
また、本発明は、pH感応性Fc変異体を含むポリペプチドを提供する。
【0011】
さらに、本発明は、pH感応性Fc変異体を含む抗体を提供する。
【0012】
さらに、本発明は、pH感応性Fc変異体、ポリペプチドまたは抗体をコードする核酸分子を提供する。
【0013】
さらに、本発明は、前記核酸分子を含むベクターを提供する。
【0014】
さらに、本発明は、前記ベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0015】
さらに、本発明は、生体内半減期が延長されたタンパク質結合体を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明のFc変異体は、従来の血中半減期延長Fc変異体よりも優れたpH選択的FcRn結合及び解離能力を示し、血中半減期が最大化された変異体である。体内で短い半減期及び維持時間を有する数多くのペプチド医薬品治療剤に結合し、延長された血中半減期により、長時間にわたって薬効を発揮させる。また、それにより、抗体及びバイオ医薬の投与用量及び頻度を画期的に減少させることができ、新薬開発のコストを減少させることができ、新薬開発の可能性を大幅に向上させることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】Q311M及びM428L Fc変異体を含むトラスツズマブのpH6.0及び7.4におけるFcRnとの結合力をELISAにより確認した図である。 PFc29:Q311R及びM428L Fc変異体を含むトラスツズマブ M:Q311M及びM428L Fc変異体を含むトラスツズマブ
図2】L309位のアミノ酸変異体の作製模式図(saturation mutagenesis)、及び各Fc変異体を含むトラスツズマブの発現精製後のSDS-PAGEゲル写真である。
図3】Fc変異体(Q311M、M428L及び309位のアミノ酸変異)を含むトラスツズマブのpH6.0におけるFcRnとの結合力をELISAにより確認した図である。 PFc29:Q311R及びM428L Fc変異体を含むトラスツズマブ FM:L309F、Q311M及びM428L Fc変異体を含むトラスツズマブ IM:L309I、Q311M及びM428L Fc変異体を含むトラスツズマブ MM:L309M、Q311M及びM428L Fc変異体を含むトラスツズマブ VM:L309V、Q311M及びM428L Fc変異体を含むトラスツズマブ TM:L309T、Q311M及びM428L Fc変異体を含むトラスツズマブ AM:L309A、Q311M及びM428L Fc変異体を含むトラスツズマブ YM:L309Y、Q311M及びM428L Fc変異体を含むトラスツズマブ HM:L309H、Q311M及びM428L Fc変異体を含むトラスツズマブ QM:L309Q、Q311M及びM428L Fc変異体を含むトラスツズマブ NM:L309N、Q311M及びM428L Fc変異体を含むトラスツズマブ KM:L309K、Q311M及びM428L Fc変異体を含むトラスツズマブ EM:L309E、Q311M及びM428L Fc変異体を含むトラスツズマブ WM:L309W、Q311M及びM428L Fc変異体を含むトラスツズマブ RM:L309R、Q311M及びM428L Fc変異体を含むトラスツズマブ SM:L309S、Q311M及びM428L Fc変異体を含むトラスツズマブ
図4a】Fc変異体を含むトラスツズマブのpH6.0におけるFcRnとの結合力をELISAにより確認した図である。 PFc29:Q311R及びM428L Fc変異体を含むトラスツズマブ ML:Q311M及びM428L Fc変異体を含むトラスツズマブ YML:L309Y、Q311M及びM428L Fc変異体を含むトラスツズマブ
図4b】Fc変異体を含むトラスツズマブのpH7.4におけるFcRnとの結合力をELISAにより確認した図である。
図4c】Fc変異体を含むトラスツズマブのpH6.0及びpH7.4におけるFcRnとの結合力をELISAにより確認して定量化した図である。
図5】弱酸性環境における結合速度(on rate)及び中性環境における解離速度(off rate)を示す模式図である。
図6a】Fc変異体のpH6.0における結合速度を分析した結果を示す図である。 PFc29:Q311R及びM428L Fc変異体を含むトラスツズマブ PFc41:L309G及びM428L Fc変異体を含むトラスツズマブ ML:Q311M及びM428L Fc変異体を含むトラスツズマブ YML:L309Y、Q311M及びM428L Fc変異体を含むトラスツズマブ
図6b】Fc変異体のpH7.4における解離速度を分析した結果を示す図である。
図6c】Fc変異体の結合速度及び解離速度を分析した結果を示す図である。
図7】L309位のsaturation mutagenesis模式図、及びFc変異体を含むトラスツズマブの発現精製後のSDS-PAGEゲル写真である。
図8】Fc変異体を含むトラスツズマブのpH6.0におけるFcRnとの結合力をELISAにより確認した図である。
図9】Fc変異体を含むトラスツズマブのpH6.0及びpH7.4におけるFcRnとの結合力をELISAにより確認した図である。
図10a】EML変異体を含むトラスツズマブのpH6.0におけるFcFnとの結合力をELISAにより確認した図である。
図10b】EML変異体を含むトラスツズマブのpH7.4におけるFcFnとの結合力をELISAにより確認した図である。
図11】Fc変異体のpH6.0条件におけるFcRnとの結合力を確認するためにFACS分析を行った結果を示す図である。
図12】トラスツズマブ(Trastuzumab)Fc変異体9種の発現及び精製後のSDSPAGE gel写真である(M428L、L309G変異体にQ311L、Q311I、Q311V、Q311T、Q311A、Q311Y、Q311H、Q311KまたはQ311W)。
図13】トラスツズマブFc変異体9種のpH6.0におけるFcRnとの結合力をELISAにより分析した結果を示す図である(M428L、L309G変異体にQ311L、Q311が、Q311V、Q311T、Q311A、Q311Y、Q311H、Q311KまたはQ311W)。
図14】トラスツズマブFc変異体3種のpH6.0及びpH7.4におけるFcRnとの結合力をELISAにより分析した結果を示す図である。
図15】トラスツズマブFc変異体30種の発現及び精製後のSDS-PAGEゲル写真である。
図16】トラスツズマブFc変異体30種のpH6.0におけるFcRnとの結合力をELISAにより分析した結果を示す図である。
図17a】EWL(L309E/Q311W/M428L)変異体のpH6.0及びpH7.4におけるFcRnとの結合力をELISAにより分析した結果を示す図である。
図17b】EWL(L309E/Q311W/M428L)変異体のpH6.0におけるFcRnとの結合力をELISAにより分析した結果を示す図である。
図17c】EWL(L309E/Q311W/M428L)変異体のpH7.4におけるFcRnとの結合力をELISAにより分析した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施例を挙げて本発明について詳細に説明する。しかしながら、これらの実施例は本発明を例示するものにすぎず、本発明がこれらに限定されるものではない。本発明は、請求の範囲及びその均等物の範囲内で様々な変形及び応用が可能である。
【0019】
特に断らない限り、本発明に用いられる全ての技術的及び科学的用語は、本発明が属する分野の当業者により通常理解される意味と同じ意味を有する。本発明に記載されているものと類似または等価の任意の方法及び材料が本発明の実施または試験において用いられるが、好ましい材料及び方法が本発明に記載されている。
【0020】
本明細書全体を通して、天然に存在するアミノ酸に対する通常の1文字及び3文字コードが用いられるだけでなく、Aib(α-アミノイソブチル酸)、Sar(Nmethylglycine)などの他のアミノ酸に対して一般に許容される3文字コードが用いられる。また、本発明において略語で言及したアミノ酸は、次のようにIUPAC-IUB命名法に従って記載したものである。
アラニン:A,アルギニン:R,アスパラギン:N,アスパラギン酸:D,システイン:C,グルタミン酸:E,グルタミン:Q,グリシン:G,ヒスチジン:H,イソロイシン:I,ロイシン:L,リシン:K,メチオニン:M,フェニルアラニン:F,プロリン:P,セリン:S,トレオニン:T,トリプトファン:W,チロシン:Y,バリン:V
【0021】
一態様において、本発明は、野生型免疫グロブリン(immunoglobulin)のFc領域に、カバットナンバリングシステム(Kabat numbering system)によるL309Yのアミノ酸残基の改変を含むFc変異体に関する。
【0022】
一実施例において、本発明のFc変異体は、M428L、Q311M、またはM428L及びQ311Mのアミノ酸残基の置換をさらに含んでもよい。
【0023】
一態様において、本発明は、野生型免疫グロブリン(immunoglobulin)のFc領域に、カバットナンバリングシステム(Kabat numbering system)によるQ311Mのアミノ酸残基の改変を含むFc変異体に関する。
【0024】
一実施例において、本発明のFc変異体は、M428L、L309E、L309Y、M428L及びL309E、またはM428L及びL309Yのアミノ酸残基の置換をさらに含んでもよい。
【0025】
一態様において、本発明は、野生型免疫グロブリン(immunoglobulin)のFc領域に、カバットナンバリングシステム(Kabat numbering system)によるQ311Wのアミノ酸残基の改変を含むFc変異体に関する。
【0026】
一実施例において、本発明のFc変異体は、M428L、L309E、またはM428L及びL309Eのアミノ酸残基の置換をさらに含んでもよい。
【0027】
一実施例において、免疫グロブリンがIgA、IgM、IgE、IgDもしくはIgG、またはそれらの変形であってもよく、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4であってもよく、抗HER2抗体であることが好ましく、トラスツズマブであることがより好ましい。抗体のパパイン分解は、2つのFab断片と1つのFc断片を形成し、ヒトIgG分子において、Fc領域は、Cys226のN末端をパパイン分解することにより生成される(非特許文献3)。
【0028】
一実施例において、野生型免疫グロブリンのFc領域は、配列番号1のアミノ酸配列を含んでもよい。
【0029】
一実施例において、Fc変異体は、配列番号2のアミノ酸配列(Q311M及びM428L)を含んでもよく、配列番号3のアミノ酸配列(L309Y、Q311M及びM428L)を含んでもよい。
【0030】
一実施例において、Fc変異体は、配列番号4のアミノ酸配列(L309E/Q311M/M428L)を含んでもよい。
【0031】
一実施例において、Fc変異体は、配列番号5のアミノ酸配列(L309E/Q311W/M428L)を含んでもよい。
【0032】
一実施例において、野生型免疫グロブリンのFc領域は、配列番号6の塩基配列を含んでもよい。
【0033】
一実施例において、Fc変異体は、配列番号7の塩基配列(Q311M及びM428L)を含んでもよく、配列番号8の塩基配列(L309Y、Q311M及びM428L)を含んでもよい。
【0034】
一実施例において、Fc変異体は、配列番号9の塩基配列(L309E/Q311M/M428L)を含んでもよい。
【0035】
一実施例において、Fc変異体は、配列番号10の塩基配列(L309E/Q311W/M428L)を含んでもよい。
【0036】
一実施例において、配列番号11のアミノ酸配列は、野生型トラスツズマブ重鎖(heavy chain)を含んでもよく、GFNIKDTY、IYPTNGYT及びSRWGGDGFYAMDY配列は、それぞれCDR領域を示す。配列番号11のアミノ酸配列のうち野生型トラスツズマブのFc領域は、225番目から始まる配列に相当する。
【0037】
一実施例において、配列番号12のアミノ酸配列は、野生型トラスツズマブ軽鎖(light chain)を含んでもよく、QDVNTA、SAS、QQHYTTPPT配列は、それぞれCDR領域を示す。
【0038】
一実施例において、本発明のFc変異体は、pH選択的に(依存的に)FcRnとの結合/解離反応が起こるものであってもよい。
【0039】
一実施例において、本発明のFc変異体は、pH7.0~7.8において野生型免疫グロブリンFc領域に比べてFcRnに対する結合親和性が低いものであってもよく、血液の正常pH範囲であってもよく、pH7.2~7.6であってもよい。本発明のFc変異体は、前記pH範囲においてFcRnから解離(dissociation)される程度が野生型Fcドメインと比較して同一または実質的に変化しないものであってもよい。
【0040】
一実施例において、本発明のFc変異体は、pH5.6~6.5において野生型免疫グロブリンFc領域に比べてFcRnに対する結合親和性が高いものであってもよく、エンドソーム内の弱酸性条件であってもよく、pH5.8~6.0であってもよい。本発明のpH感応性Fc変異体は、前記pH範囲においてFcRnに対する結合親和性が野生型Fcドメインと比較して10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上または100%以上増加するものであってもよく、野生型Fcドメインの2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、7倍以上、8倍以上、9倍以上、10倍以上、20倍以上、30倍以上、40倍以上、50倍以上、60倍以上、70倍以上、80倍以上、90倍以上または100倍以上に増加するものであってもよい。
【0041】
本発明において、本発明の免疫グロブリンFc領域にアミノ酸の変異を含む変異体は、親免疫グロブリンFc領域を構成するアミノ酸の改変に応じて定義され、通常の免疫グロブリンナンバリングは、カバットによるEUインデックスに従う(非特許文献4)。
【0042】
本発明の配列番号1~配列番号5のアミノ酸は、カバットナンバリングの221位から始まる。例えば、本願発明の配列番号1の1番目のアミノ酸であるAsp(D,1D)はカバットナンバリングの221Dと同一であり、配列番号2の91番目のアミノ酸であるMet(M,91M)はカバットナンバリングの311Mと同一であり、配列番号3の89番目のアミノ酸であるTyr(Y,89Y)はカバットナンバリングの309Yと同一である。
【0043】
本発明における「トラスツズマブFc変異体」とは、配列番号11のアミノ酸を含む野生型トラスツズマブ重鎖のFc領域を代替して本願発明のFc変異体を導入したものである。また、配列番号12のアミノ酸を含む野生型トラスツズマブ軽鎖を含む。よって、前記「トラスツズマブFc変異体」の作製は、野生型トラスツズマブ重鎖のFc領域を代替して本願発明のFc変異体を導入した発現ベクターを作製し、配列番号12のアミノ酸を含む野生型トラスツズマブ軽鎖を導入した発現ベクターを作製し、それらを動物細胞にトランスフェクションして発現させることにより行われる。
【0044】
本発明における「FcRn」または「新生児Fc受容体」とは、IgG抗体Fc領域に結合するタンパク質を意味し、これは少なくとも部分的にFcRn遺伝子によりコードされる。前記FcRnは、これらに限定するものではないが、ヒト、マウス、ラット、ウサギ及びサルが含まれる任意の有機体由来のものである。当該技術分野で公知のように、機能的FcRnタンパク質は、しばしば軽鎖や重鎖と呼ばれる2つのポリペプチドを含む。軽鎖はβ2マイクログロブリン(β-2-microglobulin)であり、重鎖はFcRn遺伝子によりコードされる。本明細書において、特に断らない限り、FcRnまたはFcRnタンパク質とは、FcRn重鎖とβ2マイクログロブリンの複合体を意味する。
【0045】
本発明における「野生型(wild-type)ポリペプチド」とは、後に改変されると誘導体を生産する非改変ポリペプチドを意味する。野生型ポリペプチドは、自然界で見出されるポリペプチドであってもよく、自然界で見出されるポリペプチドの誘導体または操作されたものであってもよい。野生型ポリペプチドは、ポリペプチドそれ自体、前記野生型ポリペプチドを含む組成物、またはそれをコードするアミノ酸配列を示すものであってもよい。よって、本発明における「野生型免疫グロブリン」とは、アミノ酸残基が改変されると誘導体を生成する非改変免疫グロブリンポリペプチドを意味する。前記用語と互換的に、アミノ酸改変が導入されると誘導体を生成する非改変免疫グロブリンポリペプチドを意味する「親(parent)免疫グロブリン」が用いられる。
【0046】
本発明における「アミノ酸改変」とは、ポリペプチド配列のアミノ酸の置換、挿入及び/または欠失、好ましくは置換を意味する。本発明における「アミノ酸置換」または「置換」とは、野生型ポリペプチド配列の特定の位置においてアミノ酸が他のアミノ酸に代替されることを意味する。例えば、L309Y置換を含むFc変異体とは、野生型免疫グロブリンFc断片のアミノ酸配列において309番目のアミノ酸残基であるロイシンがチロシンに代替されたものを意味する。
【0047】
本明細書における「Fc変異体」とは、野生型免疫グロブリンFc断片と比較して、少なくとも1つのアミノ酸残基の改変を含むものを意味する。本発明において、Fc変異体は、L309Y、Q311M及びM428L(前記ナンバリングはカバットのEUインデックスによるものである)、L309E、Q311M及びM428L(前記ナンバリングはカバットのEUインデックスによるものである)、L309E、Q311W及びM428L(前記ナンバリングはカバットのEUインデックスによるものである)からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸残基の改変を含むことが好ましく、野生型免疫グロブリンFc断片(領域)に比べて、弱酸性条件においてFcRnに対する結合親和性が増加し、中性条件においてFcRnに対する結合親和性が減少し、弱酸性の細胞内エンドソームにおいてFcRnに対する結合速度が向上し、中性の血液において迅速に解離する。
【0048】
本発明は、対応する野生型免疫グロブリンFc断片と比較して、FcRnに対する結合親和性が増加し、かつ/または血清半減期が延長されたFc変異体を提供する。抗体及び他の生理活性分子の生体内半減期(すなわち、対象の血清または他の組織における持続性)は、抗体(または任意の他の薬学的分子)の投与量及び頻度を決定する重要な臨床変数である。よって、生体内半減期が延長された抗体をはじめとする前記生理活性分子は、製薬的に非常に重要である。本発明の置換されたFc変異体の半減期は、野生型Fcドメインと比較して10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上または100%以上増加するものであってもよく、野生型Fcドメインの2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、7倍以上、8倍以上、9倍以上または10倍以上に増加するものであってもよい。
【0049】
本発明のFc変異体は、野生型免疫グロブリンFc断片(領域またはドメイン)と比較して、少なくとも1つのアミノ酸改変を含み、それにより異なるアミノ酸配列を有する。本発明によるFc変異体のアミノ酸配列は、野生型免疫グロブリンFc断片のアミノ酸配列と実質的に相同である。例えば、本発明によるpH感応性Fc変異のアミノ酸配列は、野生型免疫グロブリンのFc断片のアミノ酸配列と約80%以上、好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有する。アミノ酸改変は、分子生物学的方法を用いて遺伝的に行ってもよく、酵素的または化学的方法を用いて行ってもよい。
【0050】
本発明において、トラスツズマブの生産や精製などは、特許文献1(韓国特許出願第10-2017-0045142号)を参照して行うことができる。
【0051】
本発明のFc変異体は、当該技術分野で公知の任意の方法で製造することができる。一実施例において、本発明による免疫グロブリンのFc変異体は、特定のアミノ酸改変を含むポリペプチド配列をコードし、必要に応じて、その後宿主細胞にクローニングされ、発現及び検定される核酸の形成に用いられる。そのための様々な方法が文献(非特許文献5)に記載されている。
【0052】
本発明によるFc変異体をコードする核酸は、タンパク質の発現のために発現ベクターに挿入されてもよい。発現ベクターは、一般に調節もしくは制御(regulatory)配列、選択マーカー、任意の融合パートナー、及び/または追加的要素と作動可能に連結された、すなわち、機能的関係にあるタンパク質を含む。適切な状態において、核酸に形質転換された宿主細胞、好ましくは本発明によるFc変異体をコードする核酸を含有する発現ベクターを培養してタンパク質発現を誘導する方法により、本発明によるFc変異体が生産される。哺乳類細胞、バクテリア、昆虫細胞及び酵母が含まれる様々な好適な宿主細胞が用いられるが、これらに限定されるものではない。外因性核酸を宿主細胞に導入する方法は、当該技術分野で公知であり、用いられる宿主細胞により異なる。生産費が安価で産業的に利用価値の高い大腸菌を宿主細胞とし、本発明によるFc変異体を生産することが好ましい。
【0053】
よって、本発明の範囲には、Fc変異体をコードする核酸を導入した宿主細胞をタンパク質の発現に適した条件下で培養するステップと、宿主細胞から発現したFc変異体を精製または分離するステップとを含む、Fc変異体の製造方法が含まれる。
【0054】
抗体は、当該技術分野で公知の様々な方法で分離または精製することができる。標準精製方法には、クロマトグラフィー技術、電気泳動、免疫沈降、透析、濾過、濃縮及びクロマト分画(chromatofocusing)技術が含まれる。当該技術分野で公知のように、例えば細菌性タンパク質A、G、Lなどの様々な天然タンパク質が抗体に結合し、前記タンパク質が精製に用いられる。時には、特定の融合パートナーによる精製も可能である。
【0055】
一態様において、本発明は、本発明のFc変異体を含むポリペプチドに関する。
【0056】
一実施例において、前記ポリペプチドは、野生型と比較して生体内半減期が延長されたものであってもよい。
【0057】
一態様において、本発明は、Fc変異体または前記ポリペプチドを含む抗体に関する。
【0058】
一実施例において、本発明の抗体は、野生型Fc領域を含む抗体より生体内半減期が延長されたものであってもよい。
【0059】
一実施例において、前記抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ミニボディ(minibody)、ドメイン抗体、二重特異的抗体、抗体模倣体、キメラ抗体、抗体複合体(conjugate)、ヒト抗体もしくはヒト化抗体、またはそれらの断片であってもよい。
【0060】
本発明の抗体は、Fc領域の最適化(L309Y、Q311M及びM428L;L309E、Q311M及びM428L;L309E、Q311W及びM428L)によりFcドメイン(領域)またはそれを含むポリペプチドの半減期を最大化することができる。
【0061】
一態様において、本発明は、本発明のFc変異体、非ペプチド性重合体及び生理活性ポリペプチドが共有結合により連結されて生体内半減期が延長されたタンパク質結合体に関する。
【0062】
一実施例において、本発明によるFc変異体は、タンパク質薬物などの生理活性ポリペプチドの生体内半減期を延長させるためのキャリア(carrier)として有用なものであってもよい。
【0063】
一実施例において、本発明のFc変異体を含むタンパク質結合体は、生体内半減期が大幅に延長された持続性薬物製剤として用いられてもよい。
【0064】
本発明に使用可能な非ペプチド性重合体は、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール-プロピレングリコール共重合体、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリビニルアルコール、ポリサッカライド、デキストラン、ポリビニルエチルエーテル、PLA(ポリ乳酸;polylactic acid)やPLGA(ポリ乳酸-グリコール酸;polylactic-glycolic acid)などの生分解性高分子、脂質重合体、キチン、ヒアルロン酸及びそれらの組み合わせからなる群から選択され、ポリエチレングリコールであることが好ましい。当該技術分野で公知のそれらの誘導体や当該技術分野の技術水準で容易に作製できる誘導体も本発明に含まれる。
【0065】
本発明によるFc変異体に結合されて用いられる生理活性ポリペプチドとしては、血中半減期を延長させる必要があるものであれば、いかなるものを用いてもよい。例えば、ヒトの疾病を治療または予防する目的で用いられるサイトカイン、インターロイキン、インターロイキン結合タンパク質、酵素、抗体、成長因子、転写調節因子、血液因子、ワクチン、構造タンパク質、リガンドタンパク質または受容体、細胞表面抗原、受容体拮抗物質などの様々な生理活性ポリペプチド、それらの誘導体及びアナログが挙げられる。
【0066】
本発明に使用可能な生理活性ポリペプチドとしては、ヒト成長ホルモン、成長ホルモン放出ホルモン、成長ホルモン放出ペプチド、インターフェロン類とインターフェロン受容体類(例えば、インターフェロンα、β及びγ、可溶性1型インターフェロン受容体)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、グルカゴン様ペプチド類(GLP-1)、Gタンパク質共役受容体(G-protein-coupled receptor)、インターロイキン(例えば、IL-1受容体、IL-4受容体)、酵素類(例えば、グルコセレブロシダーゼ(glucocerebrosidase)、イズロン酸-2-スルファターゼ(iduronate-2-sulfatase)、αガラクトシダーゼA、アガルシダーゼα(agalsidase alpha)、β、α-L-イズロニダーゼ(alpha-L-iduronidase)、ブチリルコリンエステラーゼ(butyrylcholinesterase)、キチナーゼ(chitinase)、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(glutamate decarboxylase)、イミグルセラーゼ(imiglucerase)、リパーゼ(lipase)、ウリカーゼ(uricase)、血小板活性化因子アセチルヒドロラーゼ(platelet-activatingfactor acetylhydrolase)、中性エンドペプチダーゼ(neutral endopeptidase)、ミエロペルオキシダーゼ(myeloperoxidase))、インターロイキン及びサイトカイン結合タンパク質(例えば、IL-18bp、TNF結合タンパク質)、マクロファージ活性化因子、マクロファージペプチド、B細胞因子、T細胞因子、タンパク質A、アレルギー抑制因子、細胞壊死糖タンパク質、免疫毒素、リンホトキシン、腫瘍壊死因子、腫瘍抑制因子、転移成長因子、α1-アンチトリプシン、アルブミン、α-ラクトアルブミン(alpha-lactalbumin)、アポリポタンパク質E、エリスロポエチン、高グリコシル化エリスロポエチン、アンジオポエチン(angiopoietin)、ヘモグロビン、トロンビン(thrombin)、トロンビン受容体活性化ペプチド、トロンボモジュリン(thrombomodulin)、血液因子VII、血液因子VIIa、血液因子VIII、血液因子IX、血液因子XIII、プラスミノーゲン活性化因子、フィブリン結合ペプチド、ウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、ヒルジン(hirudin)、タンパク質C、C反応性タンパク質、レニン阻害剤、コラゲナーゼ阻害剤、スーパーオキシドディスムターゼ、レプチン、血小板由来成長因子、上皮細胞成長因子、表皮細胞成長因子、アンジオスタチン(angiostatin)、エンドスタチン(endostatin)、アンジオテンシン(angiotensin)、骨形成成長因子、骨形成促進タンパク質、カルシトニン、インスリン、アトリオペプチン、軟骨誘導因子、エルカトニン(elcatonin)、結合組織活性化因子、組織因子経路阻害剤(tissue factor pathwayinhibitor)、卵胞刺激ホルモン、黄体形成ホルモン、黄体形成ホルモン放出ホルモン、神経成長因子類(例えば、神経成長因子、毛様体神経栄養因子(cilliary neurotrophic factor)、アキソジェネシス因子-1(axogenesis factor-1)、脳性ナトリウム利尿ペプチド(brain-natriuretic peptide)、グリア細胞由来神経栄養因子(glial derived neurotrophic factor)、ネトリン(netrin)、好中球抑制因子(neurophil inhibitor factor)、神経栄養因子、ニュールツリン(neuturin))、副甲状腺ホルモン、リラキシン、セクレチン、ソマトメジン、インスリン様成長因子、副腎皮質ホルモン、グルカゴン、コレシストキニン、膵臓ポリペプチド、ガストリン放出ペプチド、コルチコトロピン放出因子、甲状腺刺激ホルモン、オートタキシン(autotaxin)、ラクトフェリン(lactoferrin)、ミオスタチン(myostatin)、受容体類(例えば、TNFR(P75)、TNFR(P55)、IL-1受容体、VEGF受容体、B細胞活性化因子受容体)、受容体拮抗物質(例えば、IL1-Ra)、細胞表面抗原(例えば、CD2、3、4、5、7、11a、11b、18、19、20、23、25、33、38、40、45、69)、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、抗体フラグメント類(例えば、scFv、Fab、Fab’、F(ab’)2及びFd)、ウイルス由来ワクチン抗原など、様々な種類が挙げられるが、これらに限定されるものではない。抗体断片は、特定の抗原に結合する能力を有するFab、Fab’、F(ab’)2、Fd、scFvからなる群から選択される。
【0067】
一実施例において、Fc変異体を含むタンパク質結合体に抗体薬物が結合されてもよく、癌治療用抗体薬物は、トラスツズマブ(Trastzumab)、セツキシマブ(cetuximab)、ベバシズマブ(bevacizumab)、リツキシマブ(rituximab)、バシリキシマブ(basiliximab)、インフリキシマブ(infliximab)、イピリムマブ(Ipilimumab)、ペムブロリズマブ(Pembrolizumab)、ニボルマブ(Nivolumab)、アテゾリズマブ(Atezolizumab)またはアベルマブ(Avelumab)であってもよい。
【0068】
本発明は、非ペプチド性重合体を介して、前記Fc変異体を生理活性ポリペプチドに共有結合により連結して持続性薬物製剤を製造する方法を含む。
【0069】
本発明による製造方法は、末端に反応基を有する非ペプチド性重合体を介して、生理活性ポリペプチドとFc変異体を共有結合により連結するステップと、生理活性ポリペプチド、非ペプチド性重合体及びFc変異体が共有結合により連結された結合体を分離するステップとを含んでもよい。
【0070】
一態様において、本発明は、本発明のFc変異体、ポリペプチドまたは抗体をコードする核酸分子に関する。
【0071】
本発明の核酸分子は、単離されたものであってもよく、組換えたものであってもよく、一本鎖及び二本鎖形態のDNA及びRNAだけでなく、対応する相補性配列を含むものである。単離された核酸は、天然生成資源から単離された核酸であれば、核酸が単離された個体のゲノムに存在する周辺の遺伝配列から分離された核酸である。鋳型から酵素的または化学的に合成された核酸、例えばPCR産物、cDNA分子またはオリゴヌクレオチドであれば、それらの過程で生成された核酸が単離された核酸分子であると解される。単離された核酸分子とは、別途の断片の形態、またはそれより大きな核酸構築物の成分としての核酸分子を意味する。核酸は、他の核酸配列と機能的関係に配置されると、作動可能に連結される。例えば、プレ配列または分泌リーダー(leader)のDNAは、ポリペプチドが分泌される前の形態であるプレタンパク質(preprotein)として発現すると、ポリペプチドのDNAに作動可能に連結され、プロモーターまたはエンハンサーは、ポリペプチド配列の転写に影響を及ぼすと、コード配列に作動可能に連結され、あるいは、リボソーム結合部位は、翻訳を促進するように配置されると、コード配列に作動可能に連結される。一般に、作動可能に連結されるとは、連結されるDNA配列が隣接して位置することを意味し、分泌リーダーの場合は、隣接して同じリーディングフレーム内に存在することを意味する。しかしながら、エンハンサーは、隣接して位置する必要がない。連結は、都合の良い制限酵素部位におけるライゲーションにより達成される。このような部位が存在しない場合は、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーを通常の方法により用いる。
【0072】
一態様において、本発明は、前記核酸分子を含むベクターに関する。
【0073】
本発明における「ベクター」とは、核酸配列を複製する細胞への導入のために核酸配列を挿入する担体を意味する。核酸配列は、外因性(exogenous)であってもよく、異種(heterologous)であってもよい。ベクターとしては、プラスミド、コスミド及びウイルス(例えば、バクテリオファージ)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。当業者であれば、標準的な組換え技術によりベクターを構築することができる(非特許文献6、7など)。
【0074】
本発明における「発現ベクター」とは、転写される遺伝子産物の少なくとも一部分をコードする核酸配列を含むベクターを意味する。場合によっては、その後RNA分子がタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドに翻訳される。発現ベクターは、様々な調節配列を含む。転写及び翻訳を調節する調節配列と共に、ベクター及び発現ベクターは、他の機能を提供する核酸配列も含む。
【0075】
一態様において、本発明は、前記ベクターを含む宿主細胞に関する。
【0076】
本発明における「宿主細胞」とは、真核生物及び原核生物が含まれるものであって、前記ベクターを複製することができるか、ベクターによりコードされる遺伝子を発現することができる任意の形質転換可能な生物を意味する。宿主細胞は前記ベクターによりトランスフェクト(transfected)または形質転換(transformed)され、それらは外因性の核酸分子が宿主細胞内に送達または導入される過程を意味する。
【0077】
本発明の宿主細胞としては、好ましくは細菌(bacteria)細胞、CHO細胞、HeLa細胞、HEK293細胞、BHK-21細胞、COS7細胞、COP5細胞、A549細胞、NIH3T3細胞などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0078】
一態様において、本発明は、非ペプチド性重合体を介して本発明のFc変異体を生理活性ポリペプチドに共有結合により連結させるステップを含む、生理活性ポリペプチドの生体内半減期を延長させる方法に関する。
【0079】
一態様において、本発明は、本発明のFc変異体、ポリペプチドまたは抗体を含む、癌の予防または治療用薬学的組成物に関する。
【0080】
一実施例において、免疫原性細胞死誘導剤をさらに含んでもよい。
【0081】
一実施例において、免疫原性細胞死誘導剤は、アントラサイクリン系抗癌剤、タキサン系抗癌剤、抗EGFR抗体、BKチャネル作用薬、ボルテゾミブ(Bortezomib)、強心配糖体(cardiac glycoside)、シクロホスファミド系抗癌剤、GADD34/PP1阻害剤、LV-tSMAC、Measlesウイルス、ブレオマイシン(bleomycin)、ミトキサントロン(mitoxantrone)及びオキサリプラチン(oxaliplatin)からなる群から選択される少なくとも1つであってもよく、アントラサイクリン系列抗癌剤は、ダウノルビシン(daunorubicin)、ドキソルビシン(doxorubicin)、エピルビシン(epirubicin)、イダルビシン(idarubicin)、ピキサントロン(pixantrone)、サバルビシン(sabarubicin)またはバルルビシン(valrubicin)であってもよく、タキサン系抗癌剤は、パクリタキセル(paclitaxel)またはドセタキセル(docetaxel)であってもよい。
【0082】
本発明の癌の予防または治療用薬学的組成物は、化学的抗癌薬物(抗癌剤)などと共に投与すると、癌細胞の死滅効果により従来の抗癌剤の癌治療効果を増加させることができる。併用投与は、前記抗癌剤と同時にまたは順次行われてもよい。前記抗癌剤の例としては、DNAアルキル化剤(DNA alkylating agents)としてメクロレタミン(mechlorethamine)、クロラムブシル(chlorambucil)、フェニルアラニン(phenylalanine)、マスタード(mustard)、シクロホスファミド(cyclophosphamide)、イホスファミド(ifosfamide)、カルムスチン(carmustine:BCNU)、ロムスチン(lomustine:CCNU)、ストレプトゾトシン(streptozotocin)、ブスルファン(busulfan)、チオテパ(thiotepa)、シスプラチン(cisplatin)、カルボプラチン(carboplatin)、抗癌抗生剤(anti-cancer antibiotics)としてアクチノマイシンD(dactinomycin:actinomycin D)、プリカマイシン(plicamycin)、マイトマイシンC(mitomycin C)、植物アルカロイド(plant alkaloids)としてビンクリスチン(vincristine)、ビンブラスチン(vinblastine)、エトポシド(etoposide)、テニポシド(teniposide)、トポテカン(topotecan)、イリノテカン(iridotecan)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0083】
一実施例において、癌には、白血病(leukemias)、急性リンパ性白血病(acute lymphocytic leukemia)、急性非リンパ性白血病(acute nonlymphocytic leukemia)、慢性リンパ性白血病(chronic lymphocytic leukemia)、慢性骨髄性白血病(chronic myelogenous leukemia)、ホジキン病(Hodgkin’s Disease)、非ホジキンリンパ腫(non-Hodgkin’s lymphomas)、多発性骨髄腫(multiple myeloma)などのリンパ腫(lymphomas)、脳腫瘍(brain tumor)、神経芽細胞腫(neuroblastoma)、網膜芽細胞腫(retinoblastoma)、ウィルムス腫瘍(Wilms Tumor)、骨腫瘍(bone tumor)、軟部肉腫(soft-tissue sarcomas)などの小児固形腫瘍(childhood solid tumor)、肺癌(lung cancer)、乳癌(breast cancer)、前立腺癌(prostate cancer)、尿路癌(urinary cancer)、子宮癌(uterine cancer)、口腔癌(oral cancer)、膵臓癌(pancreatic cancer)、黒色腫(melanoma)及びその他皮膚癌(skin cancer)、胃癌(stomach cancer)、卵巣癌(ovarian cancer)、脳腫瘍(brain tumor)、肝癌(liver cancer)、喉頭癌(laryngeal cancer)、甲状腺癌(thyroid cancer)、食道癌(esophageal cancer)、睾丸癌(testicular cancer)などの成人の一般的な固形腫瘍(common solid tumor)が含まれ、本発明において予防または治療する癌の種類は、限定されるものではない。
【0084】
本発明における「予防」とは、本発明による薬学的組成物の投与により癌の発生、拡散及び再発を抑制または遅延させるあらゆる行為を意味する。
【0085】
本発明における「治療」とは、本発明の組成物の投与により癌細胞を死滅させるか、癌の症状を好転または有利に変化させるあらゆる行為を意味する。本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者であれば、大韓医学協会などから提示された資料を参照することにより、本発明の組成物が効果を発揮する疾患の正確な基準を把握することができ、改善、向上及び治療された程度を判断することができるであろう。
【0086】
本発明において、有効成分と組み合わせて用いられる「治療学的に有効な量」とは、対象疾患を予防または治療するのに有効な組成物の薬学的に許容される塩の量を意味し、本発明の組成物の治療学的に有効な量は、様々な要素、例えば投与方法、標的部位、患者の状態などによって異なる。よって、人体に用いる場合、投与量は、安全性と効率性を共に考慮して適量を決定すべきである。動物実験により決定した有効量から、ヒトに用いられる量を推定することもできる。有効な量を決定の際に考慮するこれらの事項は、例えば非特許文献8及び9に記載されている。
【0087】
本発明の薬学組成物は、薬学的に有効な量で投与する。本発明における「薬学的に有効な量」とは、医学的治療に適用できる合理的な利益/リスク比で疾患を治療するのに十分であり、副作用を起こさない程度の量を意味し、有効用量レベルは、患者の健康状態、癌の種類、重症度、薬物の活性、薬物に対する感受性、投与方法、投与時間、投与経路及び排出率、治療期間、配合または同時用いられる薬物が含まれる要素、並びにその他医学分野で公知の要素により決定される。本発明の組成物は、単独でまたは他の治療剤と併用して投与してもよく、従来の治療剤と順次または同時に投与してもよく、単一または多重投与してもよい。前記要素を全て考慮して副作用なく最小限の量で最大限の効果が得られる量を投与することが重要であり、これは当業者により容易に決定される。
【0088】
本発明の薬学組成物は、薬学的に許容される添加剤をさらに含んでもよく、ここで、薬学的に許容される添加剤としては、デンプン、ゼラチン化デンプン、微結晶セルロース、乳糖、ポビドン、コロイド性二酸化ケイ素、リン酸水素カルシウム、ラクトース、マンニトール、飴、アラビアガム、α化デンプン、トウモロコシデンプン、粉末セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、オパドライ、デンプングリコール酸ナトリウム、カルナウバロウ、合成ケイ酸アルミニウム、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、白糖、グルコース、ソルビトール、タルクなどが用いられる。本発明による薬学的に許容される添加剤は、前記組成物に対して0.1重量部~90重量部含まれることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0089】
また、本発明の組成物は、生物学的製剤に通常用いられる担体、希釈剤、賦形剤またはそれらの2つ以上の組み合わせを含んでもよい。薬学的に許容される担体は、組成物を生体内に送達するのに適したものであれば、特に限定されるものではなく、例えば非特許文献10に記載された化合物、食塩水、滅菌水、リンゲル液、緩衝食塩水、グルコース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセリン、エタノール及びそれらの成分の1成分以上を混合して用いてもよく、必要に応じて、抗酸化剤、緩衝液、静菌剤などの他の通常の添加剤を添加してもよい。また、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤及び滑沢剤をさらに添加して水溶液、懸濁液、乳濁液などの週利用剤形、丸薬、カプセル、顆粒または錠剤に製剤化してもよい。さらに、当該分野における適正な方法、または非特許文献11に開示されている方法により、各疾患または成分に応じて製剤化することが好ましい。
【0090】
本発明の組成物は、目的とする方法に応じて非経口投与(例えば、静脈内、皮下、腹腔内または局所に注射剤形で適用)または経口投与することができ、投与量は、患者の体重、年齢、性別、健康状態、食餌、投与時間、投与方法、排泄率、疾患の重症度などによりその範囲が異なる。本発明による組成物の1日投与量は、0.0001~10mg/mLであり、好ましくは0.0001~5mg/mLである。1日1回または数回に分けて投与することがより好ましい。
【0091】
本発明の組成物の経口投与のための液体製剤としては、懸濁剤、内用液剤、乳剤、シロップ剤などが挙げられるが、通常用いられる通常の希釈剤である水、流動パラフィン以外にも種々の賦形剤、例えば湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などを共に含んでもよい。非経口投与のための製剤には、滅菌水溶液剤、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥剤、坐剤などが含まれる。
【0092】
一態様において、本発明は、本発明のFc変異体をコードする核酸分子を含むベクターを含む宿主細胞を培養するステップと、前記宿主細胞により発現したFc変異体を回収するステップとを含む、野生型より生体内半減期が延長されたFc変異体の製造方法に関する。
【0093】
一態様において、本発明は、本発明のポリペプチドをコードする核酸分子を含むベクターを含む宿主細胞を培養するステップと、前記宿主細胞により発現したポリペプチドを回収するステップとを含む、野生型より生体内半減期が延長されたFc変異体を含むポリペプチドの製造方法に関する。
【0094】
一態様において、本発明は、本発明の抗体をコードする核酸分子を含むベクターを含む宿主細胞を培養するステップと、前記宿主細胞により発現した抗体を精製するステップとを含む、野生型より生体内半減期が延長されたpH感応性Fc変異を含む抗体の製造方法に関する。
【0095】
一実施例において、抗体の精製には、濾過、HPLC、陰イオン交換もしくは陽イオン交換、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、アフィニティークロマトグラフィーまたはそれらの組み合わせが用いられ、Protein Aを用いるアフィニティークロマトグラフィーが好ましい。
【実施例
【0096】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。しかしながら、これらの実施例は本発明を例示するものにすぎず、本発明がこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0097】
L309Yのアミノ酸残基改変Fc変異体
<1-1>Fc変異体(Q311M/M428L)の生産及び精製
先行研究において半減期延長効果が知られているYTEのM252Y、LSのM428Lに見られるように、FcRn結合力が向上した変異体はMetが他のアミノ酸に置換されていることが確認された(野生型Fcドメインのアミノ酸配列:配列番号1)。これらの理由から、抗体FcのFcRn結合部位におけるMetはFcRnに対するpH依存的な結合力を阻害するアミノ酸であると判断した。PFc29(Q311R及びM428L Fc変異体)に導入するとFcRn結合力を実際に阻害するか否かを確認するために、トラスツズマブ重鎖(配列番号11)にFc変異体(Q311M/M428L)変異体(配列番号2)を導入したトラスツズマブ-MLを作製し、Expi293F動物細胞にトランスフェクションした。具体的には、まず、フリースタイル293発現(Freestyle 293 expression)培養液(Gibco社,12338-018)30mLに、前記Q311にMetを導入したFc変異体(Q311M/M428L)の重鎖遺伝子と軽鎖遺伝子を1:1の割合で混合した。次に、PEI(Polyethylenimine)(ポリサイエンス社,23966):変異体遺伝子=4:1の割合で混合して常温で20分間静置し、1日前に2×10細胞/mLの密度になるように分注して培養したExpi293F細胞株と混合した。振盪培養器にて37℃、125rpm及び8%COの条件で7日間培養し、その後遠心分離して上清のみ採取した。その後、25×PBSを用いて平衡(equilibrium)にし、0.2μmフィルター(メルクミリポア社)及びボトルトップフィルター(bottle top filter)を用いて濾過した。濾過した培養液にプロテインAレジン500μLを注入し、4℃で16時間攪拌した。その後、カラムを流してレジンを回収し、5mLのPBSで洗浄して3mLの100mMグリシン(pH2.7)バッファに溶出し、次いで1M Tris-HCl pH8.0を用いて中和させた。バッファを変えるために、遠心濾過器ユニット(centrifugal filter units)3K(メルクミリポア社)を用いた。
【0098】
<1-2>Fc変異体(Q311M/M428L)のpH依存的な結合力の確認
実施例1-1で精製したトラスツズマブ-MLのFcRnに対するpH依存的な結合力をELISAにより確認した。具体的には、0.05M NaCO(pH9.6)に、4μg/mLに希釈した前記IgG Fc変異体を50μLずつ平底ポリスチレン(Flat Bottom Polystyrene)High Bind 96ウェルマイクロプレート(costar)にて4℃で16時間固定化した。その後、100μLの4%スキムミルク(ゲノムベース;GenomicBase)(in 0.05% PBST pH6.0)にて常温で2時間ブロッキングした。0.05%PBST(pH6.0)180μLで4回ずつ洗浄し、その後1%スキムミルク(in 0.05% PBST,pH6.0)で連続希釈したFcRn 50μLを各ウェルに分注し、常温で1時間反応させた。洗浄過程後に、抗GST-HRPコンジュゲート(GEヘルスケア社)50μLを用いて、常温で1時間抗体反応を行って洗浄した。その後、1-Step Ultra TMB-ELISA基質溶液(Substrate Solution)(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を50μLずつ添加して発色させ、次いで2M H2SO4を50μLずつ注入して反応を終了させ、Epochマイクロプレート分光光度計(Microplate Spectrophotometer)(BioTek社)を用いて分析した。
【0099】
その結果、FcRnとの結合力を阻害するものと予想されていたMetがむしろpH6.0でPFc29よりよく結合し、pH7.4ではPFc29と同等の結合力を示すことが確認された。すなわち、Q311M変異体は、pH6.0でPFc29よりよく結合し、pH7.4ではPFc29と同等の結合力を示す(図1)。
【0100】
<1-3>FcRn結合力が向上したFc変異体の探索
実施例1-1で選択したQ311M及びM428Lの変異を有するFc変異体より向上したFcRn結合力を有する変異体をさらに見出そうとした。具体的には、L309位にL、G、P、C、Dを除く15種のアミノ酸を導入した変異体15種を実施例1-1と同様に作製し、動物細胞で培養して精製した(図2)。
【0101】
<1-4>Fc変異体を含む抗体のpH依存的な結合力の確認
実施例1-3で精製した変異体のpH6.0におけるFcRnに対する結合力を確認するために、実施例1-2と同様にELISA分析を行った。その結果、pH6.0で最も結合力が高いL309Y、Q311M及びM428L(トラスツズマブ-YML)(図3のYM,以下ではYMLという,配列番号3)変異体が確保された(図3)。よって、選択したYML変異体のFcRnに対するpH依存的な結合力をELISAにより測定した。その結果、従来のPFc29(Q311R及びM428L Fc変異体)及び実施例1-1で選択したML変異体(Q311M及びM428L Fc変異体)よりも、pH6.0におけるFcRnとの結合力が高いことが分かった。また、pH7.4においては同程度の解離を示した(図4a~図4c)。
【0102】
<1-5>Fc変異体のFcRnに対する血中半減期延長効果の確認
血中半減期の延長のためにはFcRnに対するFcのpH依存的な結合力が重要であるので(図5参照)、Souders et al 2015を参照して、弱酸性環境における結合瞬間速度(on rate)及び中性環境における解離瞬間速度(off rate)を実施例1-1及び1-4で選択したトラスツズマブ-ML(Q311M及びM428L Fc変異体)及びトラスツズマブ-YML(L309Y、Q311M及びM428L Fc変異体)において確認した。その対照群として、従来のPFc29(Q311R及びM428L Fc変異体)及びPFc41(L309G及びM428L Fc変異体)を用いた。具体的には、NI-NTAバイオセンサ(Pall Fortebio社)に40μg/mLのHisタグ付けしたヒトFcRnを3分間固定化した。その後、pH6.0のPBSバッファを基準(baseline)とし、次いで700nMの各抗体Fc変異体(in PBS pH6.0)を20秒間結合させた。弱酸性環境(pH6.0)でFcRnに抗体Fc変異体が結合した状態において、pH7.4のPBSにバッファを変えて5秒間解離させ、バイオレイヤー干渉法(biolayer interferometry assay)(BLItz,Pall Fortebio社)により測定した。このようにして測定したデータ(sensorgram)において、各pHの線形区間(pH6.0,結合(association):2秒/pH7.4,解離(dissociation):1秒)の傾きにより結合瞬間速度と解離瞬間速度を確認した。その後、Fc変異体の比較のために、各Fc変異体の傾き値を除算して比率を求めた。結合速度比と解離速度比の平均をスコアリング(scoring)し、結合速度と解離速度が最も速いFc変異体を確認した。その結果、半減期延長効果が最も大きくなると期待される抗体Fc変異体(YML,配列番号3)を選択した(図6a~図6c)。
【実施例2】
【0103】
Q311Mのアミノ酸残基改変Fc変異体
<2-1>Q311M/M428L突然変異を有するトラスツズマブFc変異体の生産及び精製
先行研究によれば、FcRn結合力が向上した変異体はMetが他のアミノ酸に置換されていることが分かる(野生型Fcドメインのアミノ酸配列:配列番号1)。これらの理由から、抗体FcのFcRn結合部位におけるMetはFcRnに対するpH依存的な結合力を阻害するアミノ酸であると判断した。よって、Metを本発明者らが見出したPFc29(Q311R/M428L)に導入するとFcRn結合力を実際に阻害するか否かを確認するために、本実験を行った。
【0104】
より具体的には、野生型トラスツズマブ重鎖(heavy chain)(配列番号11)にFc変異体(Q311M/M428L,配列番号2)を導入した重鎖発現ベクターと、野生型トラスツズマブ軽鎖(配列番号12)発現ベクターを作製した。その後、2つのベクターをExpi293F動物細胞にトランスフェクションした。トランスフェクションの1日前に、Expi293F細胞を2×10細胞/mLの密度になるように300mL継代培養し、その翌日、PEI(Polyethylenimine,ポリサイエンス社,23966)を用いてトランスフェクションした。まず、フリースタイル293発現培養液(Gibco社,12338-018)30mLに、変異体の重鎖遺伝子と軽鎖遺伝子を1:1の割合で混合した。次に、PEI:変異体遺伝子=4:1の割合で混合して常温で20分間静置し、その前日に継代培養しておいた細胞に混合し、振とう(shaking)COインキュベーターにて37℃、125rpm、8%COの条件で7日間培養し、その後遠心分離して上清のみ採取した。その後、25×PBSを用いて平衡(equilibrium)にした。ボトルトップフィルター及び0.2μmのフィルター(メルクミリポア社)を用いて濾過した。濾過した培養液にタンパク質A樹脂500μLを注入し、4℃で16時間攪拌し、その後カラムを流した。レジン(resin)を回収し、5mLのPBSで洗浄して3mLの100mMグリシンpH2.7緩衝液に溶出し、次いで1M Tris-HCl pH8.0を用いて中和させた。緩衝液を変えるために、遠心濾過器ユニット3K(メルクミリポア社)を用いた。
【0105】
<2-2>精製したトラスツズマブ(trastuzumab)Fc変異体(Q311M/M428L)のELISA分析
実施例2-1で精製したトラスツズマブ-MLのFcRnに対するpH依存的な結合力を測定するために、ELISAを行った。
【0106】
より具体的には、FcRnに対するpH依存的な結合力を確認するために、0.05M NaCO pH9.6に、4μg/mLに希釈したIgG Fc変異体をそれぞれ50μLずつ平底ポリスチレンhigh bind 96ウェルマイクロプレート(costar)にて4℃で16時間固定化し、その後100μLの4%脱脂乳(ゲノムベース)(in 0.05% PBST pH6.0/pH7.4)にて常温で2時間ブロッキング(blocking)した。0.05%PBST(pH6.0/pH7.4)180μLで4回ずつ洗浄し、その後1%脱脂乳(in 0.05% PBST pH6.0/pH7.4)で順次希釈(serially dilution)したFcRn 50μLを各ウェルに分注し、常温で1時間反応させた。洗浄後に、抗GST-HRP抗体複合体(anti-GST-HRP conjugate)(GEヘルスケア社)50μLずつを用いて、常温で1時間抗体反応を行って洗浄した。1-Step Ultra TMB-ELISA基質溶液(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を50μLずつ添加して発色させ、その後2M H2SO4を50μLずつ注入して反応を終了させ、次いでEpochマイクロプレート分光光度計(BioTek社)を用いて分析した。その結果、FcRnとの結合力を阻害するものと予想されていたMetがむしろpH6.0でPFc29よりよく結合し、pH7.4ではPFc29と同等の結合力を示すことが確認された(図1)。
【0107】
すなわち、実験前の予測とは逆に、Q311M突然変異は、pH6.0で結合力を向上させることが確認された。
【0108】
<2-3>FcRn結合力が向上したFc変異体の追加探索及び動物細胞の発現精製
前述したように選択したQ311M/M428Lより向上した結合力を有する変異体を見出そうとした。具体的には、FcRnに結合するために重要であることが知られているL309位にL、G、P、C、Dを除く15種のアミノ酸を導入した変異体15種を実施例2-2と同様に動物細胞で培養して精製した(図7)。
【0109】
<2-4>精製したトラスツズマブ(trastuzumab)Fc変異体のELISA分析
前述したように実施例2-3で作製した変異体のpH6.0におけるFcRnに対する結合力を確認するために、ELISAを行った。
【0110】
より具体的には、FcRnに対するpH依存的な結合力を確認するために、0.05M NaCO pH9.6に、4μg/mLに希釈したIgG Fc変異体をそれぞれ50μLずつ平底ポリスチレンhigh bind 96ウェルマイクロプレート(costar)にて4℃で16時間固定化し、その後100μLの4%脱脂乳(ゲノムベース)(in 0.05% PBST pH6.0)にて常温で2時間ブロッキング(blocking)した。0.05%PBST(pH6.0)180μLで4回ずつ洗浄し、その後1%脱脂乳(in 0.05% PBST pH6.0)で順次希釈(serially dilution)したFcRn 50μLを各ウェルに分注し、常温で1時間反応させた。洗浄後に、抗GST-HRP抗体複合体(GEヘルスケア社)50μLを用いて、常温で1時間抗体反応を行って洗浄した。1-Step Ultra TMB-ELISA基質溶液(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を50μLずつ添加して発色させ、その後2M H2SO4を50μLずつ注入して反応を終了させ、次いでEpochマイクロプレート分光光度計(BioTek社)を用いて分析した。その結果、PFc29よりpH6.0における結合力が高い野生型トラスツズマブ重鎖(heavy chain)(配列番号11)にFc変異体(L309Y/Q311M/M428L,配列番号3)を導入した重鎖と野生型トラスツズマブ軽鎖(配列番号12)が結合したトラスツズマブ-YML、野生型トラスツズマブ重鎖(heavy chain)(配列番号11)にFc変異体(L309E/Q311M/M428L,配列番号3)を導入した重鎖と野生型トラスツズマブ軽鎖(配列番号12)が結合したトラスツズマブ-EML(配列番号4)の2種の変異体を確保した(図8)。
【0111】
<2-5>Trastuzumab Fc変異体(L309Y/Q311M/M428L(YML),L309E/Q311M/M428L(EML))のpH依存的なFcRn結合力の分析
実施例2-4で精製したトラスツズマブ-YML、トラスツズマブ-EML(配列番号4)の2種の変異体のFcRnに対するpH依存的な結合力を確認するために、ELISAを行った。
【0112】
より具体的には、FcRnに対するpH依存的な結合力を確認するために、0.05M NaCO pH9.6に、4μg/mLに希釈したIgG Fc変異体をそれぞれ50μLずつ平底ポリスチレンHigh Bind 96ウェルマイクロプレート(costar)にて4℃で16時間固定化した。その後、100μLの4%脱脂乳(ゲノムベース)(in 0.05% PBST pH6.0/pH7.4)にて常温で2時間ブロッキング(blocking)した。0.05%PBST(pH6.0/pH7.4)180μLで4回ずつ洗浄し、その後1%脱脂乳(in 0.05% PBST pH6.0/pH7.4)で順次希釈(serially dilution)したFcRn 50μLを各ウェルに分注し、常温で1時間反応させた。洗浄後に、抗GST-HRP抗体複合体(GEヘルスケア社)50μLずつを用いて、常温で1時間抗体反応を行った。洗浄後に、1-Step Ultra TMB-ELISA基質溶液(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を50μLずつ添加して発色させ、その後2M H2SO4を50μLずつ注入して反応を終了させ、次いでEpochマイクロプレート分光光度計(BioTek社)を用いて分析した。
【0113】
その結果、YMLはEMLよりpH6.0条件でPFc29より高い結合力を示すが、YMLにおいては、pH7.4でも結合力が向上することが確認された(図9)。
【0114】
よって、pH7.4ではPFc29と同等の結合力を示すと共に、pH6.0では向上した結合力を示すEML変異体においてpH依存的な結合力が向上し、それにより抗体の再循環過程が向上し、血中半減期が延長されるものと判断した(図10a~図10b)。
【実施例3】
【0115】
Q311Wのアミノ酸残基改変Fc変異体
<3-1>PFc41(L309G,M428L)のQ311位における17種のアミノ酸置換変異体の作製及び分析
先行研究において半減期が延長されたPFc41(L309G,M428L)及びPFc29(Q311R及びM428L Fc変異体)をベースにL309Gを固定し、Q311位においてQ、C、Rを除く17種のアミノ酸に置換された変異体をバクテリアディスプレイで分析できるように、pMopac12-NlpA-Fc変異体プラスミド(variants plasmid)を作製した。作製したプラスミドに対して、FACSを用いてpH6.0条件におけるヒトFcRnに対する結合力が向上した変異体を選択するために、FACS分析を行った。その結果、先行研究により見出されたPFc29よりpH6.0で結合力が向上し、Q311位においてL、I、V、T、A、Y、H、K、Wに置換された9つの変異体を選択した(M428L、L309G Fc変異体にQ311L、Q311I、Q311V、Q311T、Q311A、Q311Y、Q311H、Q311KまたはQ311W)(図11)。
【0116】
<3-2>PFc41(L309G,M428L)においてQ311位にL、I、V、T、A、Y、H、K、W変異体を含むトラスツズマブ(trastuzumab)Fc変異体の生産及び精製
実施例3-1で選択した9種の変異体の抗体フォーマットにおける特性を確認するために、野生型トラスツズマブ重鎖(heavy chain)(配列番号11)にFc変異体を導入した重鎖発現ベクターと、野生型トラスツズマブ軽鎖(配列番号12)発現ベクターを作製した。その後、Expi293F動物細胞にトランスフェクションした。
【0117】
より具体的には、トランスフェクションの1日前に、Expi293F細胞を2×10細胞/mLの密度になるように30mL継代培養し、その翌日、PEI(Polyethylenimine,ポリサイエンス社,23966)を用いてトランスフェクションした。まず、フリースタイル293発現培養液(Gibco社,12338-018)3mLに、変異体の重鎖遺伝子と軽鎖遺伝子を1:1の割合で混合した。次に、PEI:変異体遺伝子を4:1の割合で混合して常温で20分間静置し、その前日に継代培養しておいた細胞に混合し、振とうCOインキュベーターにて37℃、125rpm、8%COの条件で7日間培養し、その後遠心分離して上清のみ採取した。その後、25×PBSを用いて平衡(equilibrium)にした。ボトルトップフィルター及び0.2μmのフィルター(メルクミリポア社)を用いて濾過した。濾過した培養液にタンパク質A樹脂100μLを注入し、4℃で16時間攪拌し、その後カラムを流してレジン(resin)を回収した。その後、1mLのPBSで2回洗浄し、その後1mLの100mMグリシンpH2.7バッファに溶出(elution)し、次いで1M Tris-HCl pH8.0を用いて中和させた。バッファを変えるために、遠心濾過器ユニット30K(メルクミリポア社)を用いた。終了した試料をSDS-PAGEゲルにより確認した(図12)。
【0118】
<3-3>精製したトラスツズマブFc変異体のELISA分析
野生型トラスツズマブ重鎖(heavy chain)(配列番号11)にFc変異体を導入した重鎖と野生型トラスツズマブ軽鎖(配列番号12)が結合したトラスツズマブ変異体のFcRnに対するpH依存的な結合力を測定するために、ELISA測定を行った。まず、pH6.0条件におけるFcRnに対する結合力を確認するために、0.05M NaCO pH9.6に、4μg/mLに希釈したIgG Fc変異体をそれぞれ50μLずつ平底ポリスチレンhigh bind 96ウェルマイクロプレート(costar)にて4℃で16時間固定化した。その後、100μLの4%脱脂乳(ゲノムベース)(in 0.05% PBST pH6.0)にて常温で2時間ブロッキング(blocking)した。0.05%PBST(pH6.0)180μLで4回ずつ洗浄し、その後1%脱脂乳(in 0.05% PBST pH6.0)で順次希釈(serially dilution)したFcRn 50μLを各ウェルに分注し、常温で1時間反応させた。洗浄後に、抗GST-HRP抗体複合体(GEヘルスケア社)50μLずつを用いて、常温で1時間抗体反応を行って洗浄した。1-Step Ultra TMB-ELISA基質溶液(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を50μLずつ添加して発色させ、その後2M H2SO4を50μLずつ注入して反応を終了させた。その後、Epochマイクロプレート分光光度計(BioTek社)を用いて分析した。その結果、pH6.0条件においてFcRnに対する結合力が向上した上位3つの変異体(L309G/Q311Y/M428L,L309G/Q311H/M428L,L309G/Q311W/M428L)を選択した(図13)。
【0119】
選択した3種のトラスツズマブ変異体のFcRnに対するpH依存的な結合力を測定するために、ELISA測定を行った。まず、FcRnに対するpH依存的な結合力を確認するために、0.05M NaCO pH9.6に、4μg/mLに希釈したIgG Fc変異体をそれぞれ50μLずつ平底ポリスチレンhigh bind 96ウェルマイクロプレート(costar)にて4℃で16時間固定化した。その後、100μLの4%脱脂乳(ゲノムベース)(in 0.05% PBST pH6.0/pH7.4)にて常温で2時間ブロッキングした。0.05%PBST(pH6.0/pH7.4)180μLで4回ずつ洗浄し、その後1%脱脂乳(in 0.05% PBST pH6.0/pH7.4)で順次希釈(serially dilution)したFcRn 50μLを各ウェルに分注し、常温で1時間反応させた。洗浄後に、抗GST-HRP抗体複合体(GEヘルスケア社)50μLずつを用いて、常温で1時間抗体反応を行い、洗浄過程を行った。1-Step Ultra TMB-ELISA基質溶液(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を50μLずつ添加して発色させ、その後2M H2SO4を50μLずつ注入して反応を終了させ、次いでEpochマイクロプレート分光光度計(BioTek社)を用いて分析した。
【0120】
その結果、pH6.0条件でFcRnに対する結合力がPFc29より向上したが、pH7.4でもPFc29より結合力が向上し、pH依存的な結合力は向上しなかった(図14)。
【0121】
<3-4>Saturation mutagenesis及び動物細胞の発現及び精製
実施例3-3で選択した3種の変異体(L309G/Q311Y/M428L,L309G/Q311H/M428L,L309G/Q311W/M428L)のうち、先行研究において既に知られているQ311Hを除き、Q311YまたはWを含み、L309位においてF、I、M、V、T、A、Y、H、Q、N、K、E、W、R、Sに置換された15種のトラスツズマブ変異体30種を発現するためのプラスミドを作製した。作製した発現用ベクターを用いて、トラスツズマブ変異体30種を前述した方法と同様に動物細胞で培養し、その後精製し、SDS-PAGEゲルにより確認した(図15)。
【0122】
<3-5>トラスツズマブFc変異体のpH6.0条件におけるFcRnに対するELISA分析
実施例3-4の30種のトラスツズマブ変異体のFcRnに対するpH6.0における結合力を測定するために、ELISA測定を行った。まず、FcRnに対するpH依存的な結合力を確認するために、0.05M NaCO pH9.6に、4μg/mLに希釈したIgG Fc変異体をそれぞれ50μLずつ平底ポリスチレンhigh bind 96ウェルマイクロプレート(costar)にて4℃で16時間固定化し、その後100μLの4%脱脂乳(ゲノムベース)(in 0.05% PBST pH6.0)にて常温で2時間ブロッキングした。0.05%PBST(pH6.0)180μLで4回ずつ洗浄し、その後1%脱脂乳(in 0.05% PBST pH6.0)で順次希釈(serially dilution)したFcRn 50μLを各ウェルに分注し、常温で1時間反応させた。洗浄後に、抗GST-HRP抗体複合体(GEヘルスケア社)50μLずつを用いて、常温で1時間抗体反応を行って洗浄した。1-Step Ultra TMB-ELISA基質溶液(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を50μLずつ添加して発色させ、その後2M H2SO4を50μLずつ注入して反応を終了させ、次いでEpochマイクロプレート分光光度計(BioTek社)を用いて分析した。その結果、pH6.0においてPFc29より結合力が向上したL309E/Q311W/M428L(EWL,配列番号8)変異体を見出した(図16)。
【0123】
<3-6>L309E/Q311W/M428L(EWL)突然変異を導入したトラスツズマブFc変異体のpH依存性FcRn結合力の分析
野生型トラスツズマブ重鎖(heavy chain)(配列番号11)にEWL Fc変異体(配列番号5)を含む重鎖とトラスツズマブ軽鎖(配列番号12)が結合したトラスツズマブ-EWLのFcRnに対するpH依存的な結合力を測定するために、ELISAを行った。まず、FcRnに対するpH依存的な結合力を確認するために、0.05M NaCO pH9.6に、4μg/mLに希釈したIgG Fc変異体をそれぞれ50μLずつ平底ポリスチレンHigh Bind 96ウェルマイクロプレート(costar)にて4℃で16時間固定化し、その後100μLの4%脱脂乳(ゲノムベース)(in 0.05% PBST pH6.0/pH7.4)にて常温で2時間ブロッキングした。0.05%PBST(pH6.0/pH7.4)180μLで4回ずつ洗浄し、その後1%脱脂乳(in 0.05% PBST pH6.0/pH7.4)で順次希釈(serially dilution)したFcRn 50μLを各ウェルに分注し、常温で1時間反応させた。
【0124】
洗浄後に、抗GST-HRP抗体複合体(GEヘルスケア社)50μLずつを用いて、常温で1時間抗体反応を行って洗浄した。1-Step Ultra TMB-ELISA基質溶液(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を50μLずつ添加して発色させ、その後2M H2SO4を50μLずつ注入して反応を終了させ、次いでEpochマイクロプレート分光光度計(BioTek社)を用いて分析した。その結果、PFc29よりpH6.0条件でヒトFcRnに対してよく結合し、pH7.4条件でPFc29より低い結合力を示した(図17a~図17c)。よって、変異体EWLは、pH依存的な結合力を向上させ、それにより抗体の再循環過程を最大化し、血中半減期を延長させるものと予測される。
図1
図2
図3
図4a
図4b
図4c
図5
図6a
図6b
図6c
図7
図8
図9
図10a
図10b
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17a
図17b
図17c
【配列表】
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【国際調査報告】