(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-30
(54)【発明の名称】吸入送達のための核酸又はタンパク質を担持した肺サーファクタント粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7088 20060101AFI20230323BHJP
A61K 38/00 20060101ALI20230323BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20230323BHJP
A61K 9/127 20060101ALI20230323BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20230323BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230323BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230323BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20230323BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230323BHJP
A61K 38/19 20060101ALI20230323BHJP
C12N 15/88 20060101ALI20230323BHJP
C07K 14/46 20060101ALN20230323BHJP
C07K 14/785 20060101ALN20230323BHJP
【FI】
A61K31/7088
A61K38/00
A61K47/44
A61K9/127
A61K47/42
A61P11/00
A61K48/00
A61K31/713
A61P35/00
A61K38/19
C12N15/88 Z ZNA
C07K14/46
C07K14/785
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022547235
(86)(22)【出願日】2021-02-05
(85)【翻訳文提出日】2022-09-30
(86)【国際出願番号】 KR2021001516
(87)【国際公開番号】W WO2021158053
(87)【国際公開日】2021-08-12
(31)【優先権主張番号】10-2020-0013867
(32)【優先日】2020-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514260642
【氏名又は名称】コリア アドバンスド インスティチュート オブ サイエンス アンド テクノロジィ
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パク ジホ
(72)【発明者】
【氏名】オ チャンヒ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA19
4C076AA93
4C076AA95
4C076BB27
4C076CC14
4C076CC15
4C076CC27
4C076EE41
4C076EE51
4C076EE57
4C076FF31
4C076FF68
4C084AA02
4C084AA13
4C084BA03
4C084BA44
4C084DA19
4C084MA05
4C084MA13
4C084MA24
4C084MA56
4C084NA12
4C084NA13
4C084ZA59
4C084ZB22
4C084ZB26
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA13
4C086MA24
4C086NA12
4C086NA13
4C086ZA59
4C086ZB22
4C086ZB26
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045CA52
4H045EA20
4H045EA50
(57)【要約】
肺サーファクタントとして産生されるリポソームにタンパク質又は核酸が連関された複合体は、タンパク質又は核酸の構造を何ら損なうことなく、その本来の形態及び機能をin vivo投与中に保存しながら、肺に選択的に送達され得るだけでなく、連関されたタンパク質又は核酸(遺伝子)を肺胞内に存在する肺サーファクタント膜と効果的に融合させることによって周囲の細胞に効率的に送達することもでき、毒性がほとんどなく、構造安定性に優れているという利点がある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質又は核酸の送達のための組成物であって、
肺サーファクタントを用いて調製されたリポソームに結合したタンパク質又は核酸である、組成物。
【請求項2】
前記リポソームに結合したタンパク質又は核酸が、正に帯電したタンパク質又はペプチドを介して前記リポソームに連関されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記正に帯電したタンパク質がプロタミンである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記リポソームに結合したタンパク質が負に帯電したタンパク質である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物がリポソーム結合タンパク質又は核酸を選択的に肺に送達するためのものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記肺サーファクタントがII型肺胞細胞で産生されるリポタンパク質複合体である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記肺サーファクタントが膜タンパク質を含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記複合体がII型肺胞細胞由来肺癌細胞を標的とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記複合体が250nm~1200nmの範囲の平均直径を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
タンパク質又は核酸の送達のための組成物を調製する方法であって、
肺サーファクタントを溶解する第1の溶液を調製する工程と、
前記肺サーファクタントが溶解した調製溶液を乾燥させることにより脂質膜を形成する工程と、
結合標的タンパク質又は核酸を溶解して水和させる第2の溶液で前記形成された脂質膜を処理することにより、肺サーファクタントを用いて調製されたリポソームに結合標的タンパク質又は核酸を結合させた複合体を調製する工程と、
を含む、方法。
【請求項11】
前記結合標的タンパク質又は核酸が溶解した前記第2の溶液で処理することにより、前記形成された脂質膜を水和する工程において、正に帯電したタンパク質又はペプチドが溶解した第3の溶液も処理して、前記タンパク質又は核酸を、前記正に帯電したタンパク質又はペプチドにより前記リポソームに結合させる、請求項10に記載の組成物を調製する方法。
【請求項12】
前記組成物を調製する方法を行う際に、1重量部の前記結合標的タンパク質又は核酸に対して100重量部~140重量部の前記肺サーファクタントを用い、同時に1molの前記結合標的タンパク質又は核酸に対して1mol~10molの前記正に帯電したタンパク質又はペプチドを使用する、請求項11に記載の組成物を調製する方法。
【請求項13】
前記組成物を調製する方法を行う際に、1重量部の前記結合標的タンパク質又は核酸に対して100重量部の前記肺サーファクタントを用い、同時に1molの前記結合標的タンパク質又は核酸に対して10molの前記正に帯電したタンパク質又はペプチドを使用する、請求項11に記載の組成物を調製する方法。
【請求項14】
前記組成物を調製する方法を行う際に、1molの前記結合標的タンパク質又は核酸に対して0.5mol~20molの前記正に帯電したタンパク質又はペプチドを使用する、請求項11に記載の組成物を調製する方法。
【請求項15】
前記水和工程が30℃~90℃の温度で行われる、請求項10に記載の組成物を調製する方法。
【請求項16】
前記水和工程を行った後に前記複合体の直径を調整する工程を更に含む、請求項10に記載の組成物を調製する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負に帯電したタンパク質又は核酸を肺の奥深くに送達するために生体適合性の肺サーファクタント粒子及び正に帯電したプロタミンタンパク質を用いて粒子形成を最適化する方法に関する。負に帯電したタンパク質又は核酸を担持するために、正に帯電したプロタミンを媒体として引力によって粒子と組み合わせることを試みた。その理由は、タンパク質又は核酸の構造を損なうことなく本来の形態を保存した状態で送達されることを意図するものだからである。
【背景技術】
【0002】
肺疾患の患者数は年々著しく増加しており、肺疾患を有する全患者のうち、呼吸器ウイルス感染を伴う患者は死亡率が最も高いカテゴリーに属している。したがって、肺を選択的に標的とし、構造を損なうことなく本来の形態及び機能を保存した状態で薬物又はタンパク質を送達することができる送達システムが必要とされている。
【0003】
特に、呼吸器感染症を引き起こすウイルスの中でも、インフルエンザ及びコロナウイルスは主に肺胞領域のII型肺胞細胞に感染する。そのため、免疫増強剤及び抗ウイルス剤を肺胞領域、特にII型肺胞細胞に効率的に送達する手法が必要とされている。
【0004】
II型肺胞細胞は肺サーファクタントを分泌して貯蔵するように機能し、肺サーファクタントは呼吸の間の肺の張力を調節する役割を果たす。この肺サーファクタントは、脂質と膜タンパク質とで構成される(非特許文献1)。
【0005】
肺サーファクタントを用いてタンパク質又は核酸を肺胞に送達すれば、肺胞内の肺サーファクタント膜との融合により、タンパク質又は核酸を肺胞内で長期間維持することができ、タンパク質又は核酸が肺サーファクタントを分泌及び貯蔵するII型肺胞細胞を効果的に標的とし得ることが期待された。本発明は、肺サーファクタントを用いて調製されたリポソームにタンパク質又は核酸が結合した複合体を調製することにより完成された。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Eur Respir J. 1999 Jun; 13(6):1455-76
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、肺へのタンパク質又は核酸の選択的送達のためのタンパク質又は核酸の送達のための複合体を提供することである。
【0008】
本発明の別の目的は、肺へのタンパク質又は核酸の選択的送達のためのタンパク質又は核酸の送達のための複合体を調製する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するためには、本発明は、タンパク質又は核酸の送達のための複合体であって、肺サーファクタントを用いて調製されたリポソームに結合したタンパク質又は核酸である、複合体を提供する。
【0010】
本発明はまた、タンパク質又は核酸の送達のための複合体を調製する方法であって、
肺サーファクタントを溶解する第1の溶液を調製する工程と、
前記肺サーファクタントが溶解した調製溶液を乾燥させることにより脂質膜を形成する工程と、
結合標的タンパク質又は核酸を溶解して水和させる第2の溶液で前記形成された脂質膜を処理することにより、肺サーファクタントを用いて調製されたリポソームに結合標的タンパク質又は核酸を結合させた複合体を調製する工程と、
を含む、方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様で提供される肺サーファクタントを用いて調製されたリポソームにタンパク質又は核酸が結合した複合体は、in vivoで投与された場合にタンパク質又は核酸の構造を損なうことなく、本来の形態及び機能を保存しながら肺に選択的に送達することができる。さらに、この複合体は、肺胞内に存在する肺サーファクタント膜と効率的に融合して、結合したタンパク質又は核酸(遺伝子)を周囲の細胞に効率的に送達し、また毒性が低く、構造安定性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】肺サーファクタントを用いたタンパク質担持方法の模式図を示す図である。
【
図2】緑色蛍光タンパク質(GFP)及び肺サーファクタントの量をそれぞれ50μg及び5mgで固定した状態で、緑色蛍光タンパク質(GFP)1molに対して、プロタミンの量をモル比で1:1、1:5、1:10、1:20に増加させて緑色蛍光タンパク質(GFP)担持率、粒径及び電荷を測定した結果を示す図である。
【
図3】緑色蛍光タンパク質を担持した肺サーファクタント粒子の形状を電子顕微鏡(TEM)下で観察した写真を示す図である。
【
図4】完成した粒子の安定性を評価するために、生体と同様の環境であるFBS(ウシ胎児血清)を10%(容量/容量)含有する培養培地に粒子を入れた後の37℃における経時的な粒径及びGFP蛍光の変化を確認した結果、並びに粒子毒性を確認した結果を示す図である。
【
図5】対照群であるプロタミン-タンパク質複合体(Pro-GFP)で、ヒト肺胞上皮細胞(HPAepic)、マクロファージ(Raw264.7)、又はII型肺胞細胞由来肺癌細胞(A549)をそれぞれ24時間処理した後の共焦点顕微鏡下で観察される細胞内送達を確認した結果を示す図である。
【
図6】肺サーファクタント-タンパク質-プロタミン(Surf-Pro-GFP)粒子でヒト肺胞上皮細胞(HPAepic)を24時間処理した後に共焦点顕微鏡下で観察される細胞内送達を確認した結果を示す図である。
【
図7】肺サーファクタント-タンパク質-プロタミン(Surf-Pro-GFP)粒子でマクロファージ(Raw264.7)を24時間処理した後に共焦点顕微鏡下で観察される細胞内送達を確認した結果を示す図である。
【
図8】肺サーファクタント-タンパク質-プロタミン(Surf-Pro-GFP)粒子でII型肺胞細胞由来肺癌細胞(A549)を24時間処理した後に共焦点顕微鏡下で観察される細胞内送達を確認した結果を示す図である。
【
図9】実際の小動物マウスモデルにおいて肺サーファクタント-タンパク質-プロタミン(Surf-Pro-GFP)粒子が良好に肺に送達されたかどうかを確認するために、吸入により対照GFPタンパク質のみを肺に送達した場合と肺サーファクタント-タンパク質-プロタミン(Surf-Pro-GFP)粒子を送達した場合を比較した結果を示す図である。
【
図10】経時的に肺サーファクタント-タンパク質-プロタミン(Surf-Pro-GFP)粒子の臓器分布を確認するために、肺サーファクタント-タンパク質-プロタミン(Surf-Pro-GFP)粒子を1mgの肺サーファクタントに基づいて作製した後、吸入によりマウス動物モデルに粒子を送達し、経時的にタンパク質及び粒子の臓器分布を確認した結果を示す図である。
【
図11】1mgの肺サーファクタントに基づいて肺サーファクタント-タンパク質-プロタミン(Surf-Pro-GFP)粒子を製造して吸入により該粒子をマウス動物モデルに送達した後、経時的にタンパク質及び粒子の臓器分布を確認した結果である
図10の結果を定量化したグラフを示す図である。
【
図12】肺サーファクタントを用いた核酸担持方法の模式図を示す図である。
【
図13】DLS装置を用いてsiRNA-プロタミン複合体のサイズ及び電荷を測定した結果を示す図である。
【
図14】肺サーファクタント-プロタミン-siRNA(Surf-Pro-siRNA)粒子でII型肺胞細胞由来肺癌細胞(A549)を24時間処理した後に共焦点顕微鏡下で観察される細胞内送達を確認した結果を示す図である。
【
図15】肺サーファクタントを用いてLuc-siRNAのタンパク質発現低下能を確認するために、発光を示すA549細胞(A549-luc)をLuc-siRNAで処理した後、IVIS装置により発光を確認した結果を示す図である。
【
図16】II型肺胞細胞由来肺癌細胞(A549-luc)を各実験群で処理した後にMTT法により細胞死率を確認した結果(左)及び肺サーファクタントを用いてLuc-siRNAのタンパク質発現低下能を確認するためにIVIS装置により発光を確認した定量結果(右)を示す図である。
【
図17】既存の文献を通じてII型肺胞細胞由来肺癌細胞(A549-luc)においてアポトーシスを誘導することができるsiRNAとして知られるKRAS-siRNA及びRPN2-siRNAと、肺サーファクタントとを用いてMTT法によってアポトーシス効果を確認した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
この発明の実施形態は、様々な他の形態に修正することができ、本発明の範囲は、後述する実施形態に限定されない。本発明をより正確に説明するために本発明の実施形態が与えられることは、この分野に関する平均的な知識を有する当業者によって十分理解される。
【0015】
さらに、本明細書全体の要素の「包含」は、他の要素を除外しないが、具体的に明記されていない限り、他の要素を含めることができる。
【0016】
本発明は、タンパク質又は核酸の送達のための複合体であって、肺サーファクタントを用いて調製されたリポソームに結合したタンパク質又は核酸である、複合体を提供する。
【0017】
リポソームへのタンパク質又は核酸の結合は、リポソームの内部に結合及び/又は封入され得るか、又はリポソームの外側に結合され得る。
【0018】
肺サーファクタントは、生物由来肺サーファクタントとすることができ、本発明においては、実施例を通じて、タンパク質又は核酸の送達のための複合体を生物由来肺サーファクタントを用いて調製した。さらに、肺サーファクタントは、生物由来肺サーファクタントに限定されず、模倣生物由来肺サーファクタント、合成肺サーファクタント、及び半合成(すなわち、修飾天然)肺サーファクタントを含むことができる。
【0019】
生物由来肺サーファクタントを模倣するサーファクタント、又は合成若しくは半合成肺サーファクタントは、生物由来肺サーファクタントとのタンパク質相同性を10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%及び90%超有する。
【0020】
この場合、リポソームに結合したタンパク質は、正に帯電したタンパク質又はペプチドによりリポソームに結合する。正に帯電したタンパク質としては、プロタミン、ヒストン、リゾチーム等を用いることができ、好ましくは、FDA承認のプロタミンを使用することができる。
【0021】
正に帯電したタンパク質又はペプチドは、カチオン性アミノ酸に富むドメインを含むタンパク質又はペプチドであることが好ましい。カチオン性アミノ酸としては、アルギニン、ヒスチジン、及びリジンが挙げられる。例えば、アルギニン高含有タンパク質としては、プロタミンが挙げられる。
【0022】
したがって、リポソームに結合するタンパク質は、負電荷を有するタンパク質であることが好ましい。正に帯電したプロタミンをリンカーとして使用して負に帯電したタンパク質を担持させるが、その理由は、タンパク質構造を損なうことなく、本来のタンパク質形態を保存した状態でタンパク質を送達するためである。
【0023】
リポソームに結合する核酸は、例えば、DNA又はRNAとすることができ、RNAは、例えば、mRNA(メッセンジャーRNA)、rRNA(リボソームRNA)、tRNA(トランスファーRNA)、snRNA(核内低分子RNA)、snoRNA(核小体低分子RNA)、aRNA(アンチセンスRNA)、miRNA(マイクロRNA)、siRNA(低分子干渉RNA)、又はpiRNA(piwi相互作用RNA)とすることができる。
【0024】
さらに、核酸は、遺伝子治療剤を含む。
【0025】
タンパク質又は核酸の送達のための複合体は、リポソームに結合したタンパク質又は核酸を肺に選択的に送達することができ、これは、リポソームを形成する肺サーファクタント及び肺サーファクタント膜と、肺内に存在する細胞との間の相互作用に起因する。
【0026】
より具体的には、肺サーファクタントは、II型肺胞細胞で産生される脂質及びタンパク質で構成される脂質-タンパク質複合体とすることができる。すなわち、肺サーファクタントは、哺乳動物の肺から収集された哺乳動物の肺サーファクタントを含んでもよい。この場合、哺乳動物は、ヒトであってもよく、ヒト以外の動物、具体的には、ブタ又はウシであってもよい。
【0027】
一般に、天然の肺サーファクタントがII型肺胞細胞に分泌され保存されるため、肺サーファクタントに基づくリポソームは、II型肺胞細胞を効率的に標的とし、結合したタンパク質及び核酸を送達することができる。
【0028】
脂質-タンパク質複合体における脂質という用語は、一般に両親媒性である天然、合成又は半合成(すなわち、修飾天然)化合物を指す。脂質は、典型的には、親水性成分及び疎水性成分を含む。脂質としては、リン脂質、脂肪酸、脂肪アルコール、トリグリセリド、ホスファチド、油、糖脂質、脂肪族アルコール、ワックス、テルペン及びステロイドが挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。「半合成(又は修飾天然)化合物」とは、何らかの方法で化学修飾された天然化合物を指す。
【0029】
リン脂質の例としては、天然及び/又は合成リン脂質が挙げられる。
【0030】
使用可能なリン脂質としては、ホスファチジルコリン(飽和及び不飽和)、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトール、スフィンゴ脂質、ジアシルグリセリド、カルジオリピン、セラミド及びセレブロシドが挙げられるが、必ずしもそれらに限定されるわけではない。例えば、リン脂質としては、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジラウリルホスファチジルコリン(DLPC)(C12:0)、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)(C14:0)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジフィタノイルホスファチジルコリン、ノナデカノイルホスファチジルコリン、アラキドイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)(C18:1)、ジパルミトレオイルホスファチジルコリン(C16:1)、リノレオイルホスファチジルコリン(C18:2)、ミリストイルパルミトイルホスファチジルコリン(MPPC)、ステロイルミリストイルホスファチジルコリン(SMPC)、ステロイルパルミトイルホスファチジルコリン(SPPC)、パルミトイルオレオイルホスファチジルコリン(POPC)、パルミトイルパルミトレオイルホスファチジルコリン(PPoPC)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、パルミトイルオレオイルホスファチジルエタノールアミン(POPE)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン(DMPE)、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)、ジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)、パルミトイルオレオイルホスファチジルグリセロール(POPG)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)、ジミリストイルホスファチジルセリン(DMPS)、ジステアロイルホスファチジルセリン(DSPS)、パルミトイルオレオイルホスファチジルセリン(POPS)、大豆レシチン、卵黄レシチン、スフィンゴミエリン、ホスファチジルイノシトール、ジホスファチジルグリセロール、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジン酸及び卵ホスファチジルコリン(EPC)が挙げられるが、必ずしもそれらに限定されるわけではない。
【0031】
脂肪酸及び脂肪アルコールの例としては、ステロール、パルミチン酸、セチルアルコール、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、フィタン酸、ジパルミチン酸等が挙げられるが、必ずしもそれらに限定されるわけではない。脂肪酸の例としては、パルミチン酸が挙げられる。
【0032】
脂肪酸エステルの例としては、パルミチン酸メチル、パルミチン酸エチル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸コレステリル、パルミチン酸パルミチル、パルミチン酸ナトリウム、パルミチン酸カリウム、及びトリパルミチン等が挙げられるが、必ずしもそれらに限定されるわけではない。
【0033】
一方、肺サーファクタントは膜タンパク質を含有する。この膜タンパク質の存在は、II型肺胞細胞を選択的かつ効果的に標的化することを可能にする。膜タンパク質は、SP-A、SP-B、SP-C、及びSP-Dからなる群から選択される少なくとも1つの天然サーファクタントポリペプチド、その一部又は混合物を含むことができる。例示的なペプチドは、天然サーファクタントポリペプチドの少なくとも約1個~50個のアミノ酸、又は5個、10個、15個、20個、25個、30個、35個、40個、45個若しくは50個のアミノ酸断片を含有することができる。例示的なSP-Bポリペプチドは、SP-Bの少なくとも約1個~50個のアミノ酸、又は5個、10個、15個、20個、25個、30個、35個、40個、45個若しくは50個のアミノ酸断片を含有することができる。SP-Bペプチドは、アミノ末端ペプチド又はカルボキシ末端ペプチドであり得る。例示的なSP-Bペプチドは、25アミノ酸のアミノ末端ペプチドであり得る。
【0034】
本発明の別の実施形態においては、肺サーファクタントは、組換えにより生成されたサーファクタントポリペプチドを含むことができる。組換えSP-A、SPB、SP-C、SP-D又はその一部は、様々な既知の手法を用いて適切な原核生物又は真核生物の発現系においてSP-A、SP-B、SP-C、SP-D又はその一部をコードするDNA配列を発現させることにより得ることができる。組換えベクターは、サーファクタントポリペプチド又はその一部をコードする単離された核酸を含有するように容易に適合し、組換えベクターを含む宿主細胞、並びにかかるベクター及び宿主細胞の調製方法、並びに組換え手法によるコードされたポリペプチドの産生におけるそれらの使用は十分に知らされている。サーファクタントポリペプチド又はその一部をコードする核酸配列は、少なくとも1つの調節配列に作動可能に連結されたサーファクタントポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む発現ベクター中に提供され得る。発現ベクターの設計は、形質転換される宿主細胞の選択及び/又は発現に望ましいタンパク質の種類等の因子に依存し得ることを理解しなければならない。ベクターのコピー数、コピー数の制御能力、及びベクターによってコードされる任意の他のタンパク質(例えば、抗生物質マーカー)の発現を考慮するべきである。例えば、標的の核酸は、融合タンパク質又はポリペプチドを含むタンパク質又はポリペプチドを産生し、培養によって増殖した細胞においてキナーゼ及びホスファターゼポリペプチドの発現及び過剰発現を引き起こすために使用することができる。
【0035】
サーファクタントポリペプチド又はその一部を発現させるために、宿主細胞を組換え遺伝子でトランスフェクトすることができる。宿主細胞は、任意の原核生物又は真核生物細胞であり得る。例えば、ポリペプチドは、細菌細胞、例えば大腸菌(E.coli)、昆虫細胞、酵母又は哺乳動物細胞において発現され得る。これらの例では、宿主細胞がヒト細胞である場合、生体内にあってもなくてもよい。他の適切な宿主細胞は、当業者に知られている。さらに、宿主細胞は、ポリペプチドの発現を最適化するために、宿主において典型的に見出されないtRNA分子で補うことができる。ポリペプチドの発現を最大化するのに適した他の方法は、当業者に知られている。ポリペプチドを調製する方法は、当該技術分野においてよく知られている。例えば、サーファクタントポリペプチド又はその一部をコードする発現ベクターをトランスフェクトした宿主細胞を、ポリペプチドの発現を可能にするために適切な条件下で培養することができる。ポリペプチドは、ポリペプチドを含有する細胞及び培地の混合物から分泌及び単離され得る。或いは、ポリペプチドは細胞質的に保存することができる。次いで、細胞を採取し、溶解し、細胞溶解物からタンパク質を単離する。
【0036】
サーファクタントポリペプチドとサーファクタント脂質とは、静水圧相互作用により相互作用する。荷電アミノ酸は脂質の極性ヘッド基と相互作用し、疎水性アミノ酸はリン脂質アシル側鎖と相互作用する。例えば、SP-B及びSP-Cは疎水性タンパク質である。SP-B及びSP-Cの両方がアニオン性脂質(例えば、ホスファチジルグリセロール(PG))に優先的に結合する。SP-A及びSP-Dは親水性タンパク質であり、グリセロリン脂質、スフィンゴリン脂質、スフィンゴ糖脂質、リピッドA及びリポグリカンを含む広範囲の両親媒性脂質と相互作用する。SP-AはDPPCに結合する。一例として、SP-B模倣体であるKL4と、天然サーファクタント中の脂質、又は界面活性剤に含有される脂質との静水圧相互作用が観察される。例えば、KL4ペプチド中のリジン残基はDPPCの荷電ヘッド基と相互作用し、疎水性ロイシン残基はホスファチジルグリセロールのリン脂質アシル側鎖と相互作用する。
【0037】
一方、肺サーファクタントを用いて調製したリポソームにタンパク質が結合した複合体の平均直径範囲は特に限定されない。本発明の幾つかの実施形態においては、平均直径の範囲は、250nm~1200nm、260nm~1200nm、270nm~1200nm、280nm~1200nm、290nm~1200nm、300nm~1200nm、250nm~1150nm、250nm~1120nm、250nm~1110nm、260nm~1150nm、270nm~1120nm、280nm~1110nm、298nm~1108nm、又は298.9nm~1108nmであり得る。又は、平均直径の範囲を1μm以下とすることができ、1μm以上であると、肺胞にリポソームを送達することが困難となる場合がある。
【0038】
複合体の平均直径は、押出機キットを用いて複合体を調製する際に用いる肺サーファクタント、正に帯電したタンパク質又はペプチドの量を調整することにより適切に制御することができる。
【0039】
タンパク質又は核酸の送達のための複合体は、吸入によって肺に送達することができる。吸入器(乾燥粉末吸入器及び定量吸入器を含む)及びネブライザー(アトマイザーとしても知られる)等の吸入装置を使用して、結合したタンパク質又は核酸を肺に送達することができる。
【0040】
例示的な乾燥粉末吸入器は、Inhale Therapeutic Systemsから得ることができる。乾燥粉末吸入器は、3Mから得ることもできる。
【0041】
本発明の別の態様において、本発明は、タンパク質又は核酸の送達のための複合体を調製する方法であって、
肺サーファクタントを溶解する第1の溶液を調製する工程(工程1)と、
肺サーファクタントが溶解した調製溶液を乾燥させることにより脂質膜を形成する工程(工程2)と、
結合標的タンパク質又は核酸を溶解した第2の溶液で形成された脂質膜を処理することにより、肺サーファクタントを用いて調製されたリポソームに結合標的タンパク質又は核酸を結合させた複合体を調製する工程(工程3)と、
を含む、方法を提供する。
【0042】
以下、本発明の一態様で提供されるタンパク質又は核酸の送達のための複合体を調製する方法について、段階的に詳細に説明する。
【0043】
本発明の一態様で提供されるタンパク質又は核酸の送達のための複合体を調製する方法において、工程1は、リポソームを形成する肺サーファクタントが溶解した第1の溶液を調製する工程である。
【0044】
肺サーファクタントを溶解するために用いられる溶媒の種類としては、肺サーファクタントを容易に溶解できる任意の溶媒を制限なく用いることができ、一実施形態においては、クロロホルム、メタノール等を単独又は組み合わせて用いることができる。
【0045】
肺サーファクタント特有の性質により、肺サーファクタントを用いて調製されたリポソームは、肺に存在する細胞との相互作用により肺を選択的に標的とする効果を有する。
【0046】
一方、肺サーファクタントは、II型肺胞細胞で産生される脂質とタンパク質とで構成される複合体(すなわち、脂質-タンパク質複合体)であり、肺サーファクタントは、膜タンパク質を含有することが好ましい。
【0047】
一態様においては、タンパク質又は核酸が肺サーファクタントを用いて調製されたリポソームに結合した複合体は、II型肺胞細胞を標的とすることができる。
【0048】
しかしながら、これは、本発明による肺サーファクタントで調製したリポソームのII型肺胞細胞又はII型肺胞細胞に由来する肺癌細胞への送達の限定を意図するものではなく、肺送達の一例にすぎない。
【0049】
本発明の一態様で提供されるタンパク質又は核酸の送達のための複合体の調製方法において、工程2は、肺サーファクタントが溶解した調製溶液を乾燥させて脂質膜を形成する工程である。
【0050】
脂質膜を形成する方法は、従来既知の方法により行うことができ、一実施形態においては、肺サーファクタントが溶解した溶液をガラスバイアルに入れ、室温で乾燥させて脂質膜を形成する。
【0051】
本発明の一態様で提供されるタンパク質又は核酸の送達のための複合体を調製する方法において、工程3は、結合標的タンパク質又は核酸を溶解した第2の溶液で形成された脂質膜を処理することにより、肺サーファクタントを用いて調製したリポソームに結合標的タンパク質又は核酸を結合させた複合体を調製する工程である。
【0052】
ここで、結合標的タンパク質又は核酸が溶解した第2の溶液で処理することにより、形成された脂質膜を水和する工程において、正に帯電したタンパク質又はペプチドが溶解した第3の溶液も処理して、正に帯電したタンパク質又はペプチドによるリポソームへのタンパク質又は核酸の結合を誘導させる。
【0053】
上述のように、ほとんどのタンパク質又は核酸は負に帯電している。したがって、結合標的タンパク質又は核酸が負電荷を有する場合、脂質膜の水和工程では正に帯電したタンパク質又はペプチドが溶解した第3の溶液を共に処理する。このようにして、正に帯電したタンパク質又はペプチドを介して、肺サーファクタントを用いて調製したリポソームの内部及び/又は外部に、結合標的タンパク質又は核酸を安定に結合させることができる(
図1)。
【0054】
肺サーファクタントを用いて調製したリポソームの内側及び/又は外側に、結合標的タンパク質又は核酸が安定に結合している場合、in vivoで投与する際にタンパク質又は核酸の構造を損なうことなく、本来のタンパク質又は核酸の形態が保存された状態で肺に送達することができる。
【0055】
本発明の一態様は、負に帯電したタンパク質又は核酸を肺の奥深くに送達するために生体適合性の肺サーファクタント粒子及び正に荷電したプロタミンタンパク質を用いる粒子形成方法を最適化するための発明である。この最適化は、タンパク質又は核酸の送達のための複合体を調製する方法を実施する際に以下のように肺サーファクタント、結合標的タンパク質又は核酸、及び正に帯電したタンパク質又はペプチドの量を指定することによって達成することができる。
【0056】
より具体的には、タンパク質又は核酸の送達のための複合体を調製する方法を実施する場合、1重量部の結合標的タンパク質又は核酸に対して、100重量部~140重量部の肺サーファクタントを使用する。
【0057】
同時に、1molの結合標的タンパク質又は核酸に対して1mol~10molの正に帯電したタンパク質又はペプチドを用いることが好ましい。
【0058】
さらに、1重量部の結合標的核酸に対して0.5重量部~20重量部の正に帯電したタンパク質又はペプチドを用いることが好ましい。
【0059】
(結合標的核酸の重量)/(正に帯電したタンパク質又はペプチドの重量)は、例えば、0.5、0.75、1、1.25、1.5、2、4であり得、好ましくは1であり得る。
【0060】
さらに、結合標的核酸と正に帯電したタンパク質又はペプチドとの複合体の重量に対する肺サーファクタントの質量比は、1:1~1:20とすることができ、例えば、1:1~1:18、1:2~1:15、1:2~1:13、1:2~1:8、1:8~1:10、又は1:5~1:15とすることができる。
【0061】
肺サーファクタントの場合、1重量部の結合標的タンパク質又は核酸に対して100重量部~130重量部の肺サーファクタントを用いることができる。
【0062】
好ましくは、1重量部の結合標的タンパク質又は核酸に対して100重量部~120重量部の肺サーファクタントを用いることができる。
【0063】
より好ましくは、1重量部の結合標的タンパク質又は核酸に対して100重量部~110重量部の肺サーファクタントを用いることができる。
【0064】
最も好ましくは、1重量部の結合標的タンパク質又は核酸に対して100重量部の肺サーファクタントを用いることができる。
【0065】
同時に、正に帯電したタンパク質又はペプチドの場合には、1molの結合標的タンパク質又は核酸に対して2mol~10molの正に帯電したタンパク質又はペプチドを用いることができる。
【0066】
好ましくは、1molの結合標的タンパク質又は核酸に対して4mol~10molの正に帯電したタンパク質又はペプチドを用いることができる。
【0067】
より好ましくは、1molの結合標的タンパク質又は核酸に対して6mol~10molの正に帯電したタンパク質又はペプチドを用いることができる。
【0068】
より好ましくは、1molの結合標的タンパク質又は核酸に対して8mol~10molの正に帯電したタンパク質又はペプチドを用いることができる。
【0069】
最も好ましくは、1molの結合標的タンパク質又は核酸に対して10molの正に帯電したタンパク質又はペプチドを用いることができる。
【0070】
本発明の一実施形態においては、結合標的タンパク質又は核酸の量を50μgで固定し、肺サーファクタントの量を5mgで固定した場合、正に荷電したタンパク質又はペプチドの量が1molの結合標的タンパク質又は核酸に基づいて変化するにつれて変化する結合標的タンパク質又は核酸の結合効率(%)の結果を
図2に実証する。
図2のグラフにおいて、x軸上の比率は、1molの結合標的タンパク質又は核酸に対する正に帯電したタンパク質又はペプチドの使用molを意味する。
【0071】
1molの結合標的タンパク質に対して1mol、5mol、10mol、及び20molの正に帯電したタンパク質又はペプチドを用いた場合、結合標的タンパク質の結合効率(%)は徐々に増加したが、10molを超える量では、結合標的タンパク質の結合効率(%)は有意に低下した。さらに、正に帯電したタンパク質又はペプチドの量が10molを超えると、粒径が異常に凝集する傾向を示し、粒子の電荷が変動して不安定な形状を示した。
【0072】
すなわち、
図2の結果から、1molの結合標的タンパク質又は核酸に対して1mol~10mol、特に10molの正に帯電したタンパク質又はペプチドを用いた場合にのみ、結合標的タンパク質又は核酸の優れた結合効率(%)が達成されることが確認された。
【0073】
要約すると、タンパク質又は核酸の送達のための複合体を調製する方法を実施する場合、1重量部の結合標的タンパク質又は核酸に対して100重量部の肺サーファクタントと、1molの結合標的タンパク質又は核酸に対して10molの正に帯電したタンパク質又はペプチドを同時に用いることが最も好ましい。
【0074】
一方、水和工程は、脂質膜を容易に水和させることができるものであれば制限なく行うことができる。例えば、水和は、30℃~90℃、35℃~90℃、40℃~90℃、45℃~90℃、30℃~80℃、30℃~70℃、30℃~60℃、30℃~50℃、30℃~45℃、35℃~55℃、40℃~50℃の温度範囲、又は45℃の温度で行うことができる。
【0075】
また、水和工程を行った後に複合体の直径を調整する工程を更に含むことができる。本発明の一実施形態においては、複合体の直径を、押出機キットを用いて調整したが、特にこれに限定されるものではない。
【0076】
肺サーファクタントを用いて調製したリポソームにタンパク質又は核酸が結合した複合体の平均直径範囲は特に限定されない。本発明の幾つかの実施形態においては、平均直径の範囲は、250nm~1200nm、260nm~1200nm、270nm~1200nm、280nm~1200nm、290nm~1200nm、300nm~1200nm、250nm~1150nm、250nm~1120nm、250nm~1110nm、260nm~1150nm、270nm~1120nm、280nm~1110nm、298nm~1108nm、又は298.9nm~1108nmであり得る。又は、平均直径の範囲を1μm以下とすることができ、1μm以上であると、肺胞にリポソームを送達することが困難となる場合がある。
【0077】
本発明の一態様で提供される肺サーファクタントを用いて調製されたリポソームにタンパク質又は核酸が結合した複合体は、in vivoで投与された場合にタンパク質又は核酸の構造を損なうことなく、本来の形態及び機能を保存しながら肺に選択的に送達することができる。さらに、この複合体は、肺胞内に存在する肺サーファクタント膜と効率的に融合して、結合したタンパク質又は核酸(遺伝子)を周囲の細胞に効率的に送達し、また毒性が低く、構造安定性に優れている。これらは、後述する実施例及び実験例によって支持される。
【0078】
これより、本発明を以下の実施例及び実験例によって詳細に説明する。
【0079】
しかしながら、以下の実施例及び実験例は、本発明の例示のためであるにすぎず、本発明の内容は実施例及び実験例に限定されるものではない。
【実施例】
【0080】
実施例1:タンパク質担持肺サーファクタント系粒子の調製
肺サーファクタントは強い負電荷を有し、ほとんどのタンパク質は弱い負電荷を有することから、正に帯電したプロタミンタンパク質を中間リンカーとして用いて、タンパク質と肺サーファクタントとの間の結合を誘導した。
【0081】
具体的な実験手順は以下の通りである。
(1)クロロホルムとメタノールの混合溶液(2:1、容量:容量)に肺サーファクタント粉末(製造元:Yuhan Corporation/製品名:NEWFACTEN)を10mg/mlの濃度で溶解することにより肺サーファクタント溶液を調製した。
【0082】
(2)プロタミンを蒸留水に2mg/mlの濃度で溶解することによりプロタミンタンパク質溶液を調製した。
【0083】
(3)緑色蛍光タンパク質(GFP)を蒸留水に0.5mg/mlの濃度で溶解して緑色蛍光タンパク質溶液を調製した。
【0084】
(4)(1)で調製した肺サーファクタント溶液をガラスバイアルに入れ、溶媒を蒸発させて脂質膜を形成した。
【0085】
(5)(2)で調製したプロタミンタンパク質溶液及び(3)で調製した緑色蛍光タンパク質溶液を、肺サーファクタント脂質膜を形成したガラスバイアルに入れ、この混合物を温度45℃のホットプレート上で混合して肺サーファクタント脂質膜を水和させた。水和プロセス中に産生された粒子は、押出機キットを用いて400nmの平均直径を有するようにした。このプロセスにおいて、プロタミンタンパク質及び緑色蛍光タンパク質は、肺サーファクタント系粒子の内側及び/又は外側に結合した。
【0086】
(6)その後、粒子中の未結合タンパク質を、100kDa膜を用いた透析により除去した。
【0087】
肺サーファクタントを用いたタンパク質担持方法の模式図を
図1に示す。
【0088】
<実施例1>では、結合標的タンパク質又は核酸として緑色蛍光タンパク質(GFP)を用いた。その理由は、緑色蛍光タンパク質は蛍光を発しているため、定量的に確認することが有利であり、ほとんどのタンパク質と同様に、弱い負電荷を有するからである。
【0089】
緑色蛍光タンパク質は約26.9kDaの分子量を有し、DLS(動的光散乱)装置により電荷を測定すると、約-5mV~-7mVの負電荷を有する。対応する内容を以下の表1に示す。
【0090】
【0091】
一方、緑色蛍光タンパク質(GFP)、結合標的タンパク質又は核酸の最大結合効率(%)を達成するために、肺サーファクタント及びプロタミンの量を種々制御しながら、タンパク質に結合した肺サーファクタント系粒子を上述の工程を経て調製した。
【0092】
より具体的には、比率最適化のため、粒子の調製に用いた緑色蛍光タンパク質(GFP)及び肺サーファクタントの量を50μg及び5mgで固定し、プロタミンの量を変化させた。モデルタンパク質である緑色蛍光タンパク質(GFP)の量を50μgで固定し、肺サーファクタントの量を5mgで固定した状態で、プロタミンの量を緑色蛍光タンパク質(GFP)のmolと比較して1(1:1 mol/mol)倍~20(1:20 mol/mol)倍で使用した。
【0093】
さらに、細胞内取り込みを観察するために、肺サーファクタントを以下のように非常に疎水性で難水溶性の色素であるDiIで追加標識した。
【0094】
より具体的には、赤色色素DiIをメタノールに1.25mg/mlの濃度で溶解させた溶液を別途調製した。(1)で調製した肺サーファクタント溶液とDiIを溶解させた溶液とを混合し、肺サーファクタントとDiIとを質量比1000:1で混合できるように調整した。混合溶液をガラスバイアルに入れ、溶媒を蒸発させて脂質膜を形成した。以降の処理は、上述した工程(5)及び(6)と同様にして行った。
【0095】
実験例1:肺サーファクタント及びプロタミンの量による緑色蛍光タンパク質(GFP)、結合標的タンパク質又は核酸の担持率(%)の変化の評価
<実施例1>における透析により粒子中の未結合タンパク質を除去する前後の緑色蛍光タンパク質(GFP)蛍光を介して粒子中の結合タンパク質の量を比較することにより、担持率(%)変化を評価した。上述のように、緑色蛍光タンパク質(GFP)の量を50μgで固定した。
【0096】
緑色蛍光タンパク質(GFP)及び肺サーファクタントの量をそれぞれ50μg及び5mgで固定した状態で、緑色蛍光タンパク質(GFP)の担持率、粒径及び電荷を、緑色蛍光タンパク質(GFP)の1molに対して1:1、1:5、1:10、1:20のモル比でプロタミンの量を増加させてDLSで測定した。
【0097】
【0098】
図2は、緑色蛍光タンパク質(GFP)及び肺サーファクタントの量をそれぞれ50μg及び5mgで固定した状態で、緑色蛍光タンパク質(GFP)1molに対して、プロタミンの量をモル比で1:1、1:5、1:10、1:20に増加させて緑色蛍光タンパク質(GFP)担持率、粒径及び電荷を測定した結果を示す図である。
【0099】
図2に示すように、モル比を、1:10を超えるように高めると、担持率が低下するだけでなく、粒径も異常に凝集する傾向を示し、粒子の電荷が変動して不安定な形状を示した。そこで、最終的に、1molの緑色蛍光タンパク質(GFP)に対して10molのプロタミンを使用することにした。
【0100】
以上をまとめると、1重量部の結合標的タンパク質又は核酸(GFP)に対して100重量部の肺サーファクタントと、1molの結合標的タンパク質(GFP)に対して1mol~10molのプロタミン、特に10molのプロタミンを用いて<実施例1>のタンパク質が結合した肺サーファクタント系粒子を調製することが好ましいことが確認された。
【0101】
図3に示すように、緑色蛍光タンパク質を担持した肺サーファクタント粒子の形状を、粒子の透過型電子顕微鏡写真により観察した。これにより、円形で均一なナノ粒子が良好に製造されていることを確認した。
【0102】
結合標的タンパク質又は核酸(GFP)の1重量部に対して肺サーファクタント100重量部と結合標的タンパク質1molに対してプロタミン10molとを用いて調製した粒子を、以下の実験例においてタンパク質担持肺サーファクタント系粒子として用いた。
【0103】
実験例2:粒子安定性の評価
完成した粒子の安定性を評価するため、生体と同様の環境である10%FBS(ウシ胎児血清)を含有する培養培地に粒子を入れ、37℃で経時的に粒子のサイズを比較した。さらに、粒子の安定性は、ネブライザー処理前後の粒径を比較することにより試験した。さらに、II型肺胞細胞由来のA549肺癌細胞に対する粒子毒性を試験した。
【0104】
【0105】
表2に示すように、粒子の安定性を、ネブライザー処理前後の粒径を比較することにより確認した。粒子の安定性を、ネブライザー処理前に約261nmのサイズの粒子が形成され、ネブライザー処理後に約253.8nmのサイズの粒子が形成されたことを確認することによって検証した。
【0106】
【0107】
図4は、完成した粒子の安定性を評価するために、生体と同様の環境であるFBS(ウシ胎児血清)を10%(容量/容量)含有する培養培地に粒子を入れた後の37℃における経時的な粒径の変化を確認した結果を示す図である。
【0108】
図4に示すように、粒子のサイズを120分まで1時間毎にDLS装置で調べたところ、サイズは変化せず、粒子がin vivo環境において安定であることを確認した。さらに、GFPの蛍光が変化しなかったことを確認することにより、担持されたタンパク質が対応する環境において変性していないことを確認した。
【0109】
さらに、粒子自体の毒性を評価するため、II型肺胞細胞由来肺癌細胞株A549を96ウェルプレート(5000細胞/ウェル)に分散させ、1日後に肺サーファクタントに基づいて0.01mg/ml、0.05mg/ml、0.1mg/ml、0.5mg/ml、及び1mg/mlの濃度の粒子で該細胞を処理した。約1時間後、培地をPBSで置き換え、24時間後に細胞死率を確認した。その結果、1mg/mlの濃度で処理しても、粒子毒性は認められなかった。
【0110】
実験例3:細胞種別肺サーファクタント粒子の細胞内送達効率の評価
肺サーファクタント-タンパク質-プロタミン(Surf-Pro-GFP)粒子の細胞内送達を確認した。
【0111】
まず、肺サーファクタントによる細胞内送達効果を検証するために、肺サーファクタントを含まないプロタミン-タンパク質複合体(Pro-GFP)を対照として用い、細胞内送達が達成されたか否かを判定した。7μgのタンパク質(GFP)に基づいて、プロタミンを1:10のモル比で混合し、複合体を形成した。この複合体は、約1364nmの平均直径、及び15.3mVの正電荷を有した。調製した対照複合体でヒト肺胞上皮細胞(HPAepic)、マクロファージ(Raw264.7)、又はII型肺胞細胞由来肺癌細胞(A549)をそれぞれ24時間処理し、共焦点顕微鏡により細胞内送達を確認した。このとき、細胞を実験の24時間前に6ウェルプレート(30000細胞/ウェル)で継代培養した。
【0112】
【0113】
図5は、対照群であるプロタミン-タンパク質複合体(Pro-GFP)で、ヒト肺胞上皮細胞(HPAepic)、マクロファージ(Raw264.7)、又はII型肺胞細胞由来肺癌細胞(A549)をそれぞれ24時間処理した後の共焦点顕微鏡下で観察される細胞内送達を確認した結果を示す図である。
【0114】
図5に示すように、核をヘキスト色素で5分間染色し(青色)、共焦点顕微鏡下でタンパク質蛍光(緑色)を観察したところ、3つの細胞群のいずれにおいても細胞内送達が円滑に起こらなかったことが確認された。
【0115】
次に、肺サーファクタント-タンパク質-プロタミン(Surf-Pro-GFP)粒子で同じ細胞を処理した。0.2mgの肺サーファクタント粒子をDiI蛍光(メタノール中1.25mg/ml)で標識し、粒子(赤色)及びタンパク質(緑色)が細胞内に良好に送達されたかどうかを確認した。24時間の処理後、細胞核をヘキストで染色し、共焦点顕微鏡下で細胞内送達を確認した。このとき、細胞を実験の24時間前に6ウェルプレート(30000細胞/ウェル)で継代培養した。
【0116】
【0117】
図6は、肺サーファクタント-タンパク質-プロタミン(Surf-Pro-GFP)粒子でヒト肺胞上皮細胞(HPAepic)を24時間処理した後に共焦点顕微鏡下で観察される細胞内送達を確認した結果を示す図である。
【0118】
図7は、肺サーファクタント-タンパク質-プロタミン(Surf-Pro-GFP)粒子でマクロファージ(Raw264.7)を24時間処理した後に共焦点顕微鏡下で観察される細胞内送達を確認した結果を示す図である。
【0119】
図8は、肺サーファクタント-タンパク質-プロタミン(Surf-Pro-GFP)粒子でII型肺胞細胞由来肺癌細胞(A549)を24時間処理した後に共焦点顕微鏡下で観察される細胞内送達を確認した結果を示す図である。
【0120】
図6、
図7及び
図8に示すように、Surf-Pro-GFP粒子はヒト肺胞上皮細胞(HPAepic細胞)にはほとんど送達されないことが確認された。また、Surf-Pro-GFP粒子がマクロファージ(Raw264.7)にほとんど送達されないことも確認された。一方、II型肺胞細胞由来肺癌細胞(A549)の場合、肺サーファクタントとの相互作用により粒子が細胞内に良好に送達され、粒子に担持されたタンパク質も細胞内に良好に送達されることがわかった。
【0121】
実験例4:動物マウスモデルにおける肺サーファクタント粒子の送達効率の評価
実際の小動物マウスモデルにおいてSGP粒子が肺に良好に送達されたかどうかを確認するために、吸入により対照GFPタンパク質のみを肺に送達した場合と、SGP粒子を送達した場合とを比較した。このとき、タンパク質又はSGP粒子を、SCIREQのネブライザーを用いた吸入によりマウスに送達した。15μgのタンパク質及び同量のタンパク質結合SGP粒子を吸入によって動物モデルに送達した。1時間後、実際の小動物マウスモデルにおいてSurf-Pro-GFP粒子が肺に良好に送達されたかどうかを確認するために、吸入により対照GFPタンパク質のみを肺に送達した場合と、Surf-Pro-GFP粒子を送達した場合とを比較した。このとき、タンパク質又はSGP粒子を、SCIREQのネブライザーを用いた吸入によりマウスに送達した。15μgのタンパク質と同量のタンパク質結合SGP粒子を吸入により動物モデルに送達した後、1時間後に肺を切除し、IVIS装置を用いて肺内のGFPシグナルを分析した。
【0122】
【0123】
図9は、実際の小動物マウスモデルにおいてSurf-Pro-GFP粒子が良好に肺に送達されたかどうかを確認するために、吸入により対照GFPタンパク質のみを肺に送達した場合とSurf-Pro-GFP粒子を送達した場合を比較した結果を示す図である。
【0124】
図9に示すように、GFPタンパク質のみを送達した場合、GFPタンパク質は肺全体に広がらず、気道に濃縮されたが、一方、<実施例1>のSurf-Pro-GFP粒子として送達された場合、GFPタンパク質は肺全体に送達された。
【0125】
実験例5:動物マウスモデルにおける吸入後の経時的な肺サーファクタント粒子の臓器分布の評価
時間によるSurf-Pro-GFP粒子の臓器分布を確認するため、1mgの肺サーファクタントに基づいてSurf-Pro-GFP粒子を調製し、次いでマウス動物モデルに吸入により送達し、時間に応じたタンパク質及び粒子の臓器分布を確認した。このとき、粒子をDiI(メタノール中1mg/ml)蛍光で標識し、GFP蛍光によりタンパク質を観察した。吸入送達後、マウスを0時間、1時間、6時間、及び24時間インキュベートし、臓器を取り出した。次いで、粒子の分布を確認した。臓器におけるDiRの分布を、LiCoR装置を用いて確認した。さらに、GFPシグナルを、取り出した臓器においてIVIS装置を用いて測定した。
【0126】
【0127】
図10は、経時的にSurf-Pro-GFP粒子の臓器分布を確認するために、Surf-Pro-GFP粒子を1mgの肺サーファクタントに基づいて作製した後、吸入によりマウス動物モデルに粒子を送達し、経時的にタンパク質及び粒子の臓器分布を確認した結果を示す図である。
【0128】
図10に示すように、臓器におけるDiRの分布を確認すると、24時間まで肺にのみ粒子が分布していることが確認された。
図10において、赤色は臓器自発蛍光を示し、緑色は肺サーファクタント粒子を示す。
【0129】
【0130】
図11は、1mgの肺サーファクタントに基づいて肺サーファクタント-タンパク質-プロタミン(Surf-Pro-GFP)粒子を製造して吸入により該粒子をマウス動物モデルに送達した後、経時的にタンパク質及び粒子の臓器分布を確認した結果である
図10の結果を定量化したグラフを示す図である。
【0131】
図11に示すように、粒子とタンパク質の両方が肺にのみ24時間存在し、粒子及びタンパク質のシグナルの傾向は類似していた。このことから、吸入により送達された粒子及びタンパク質は肺内に良好にとどまり、他の臓器に拡散しないことが確認された。
【0132】
実施例2:核酸担持肺サーファクタント系粒子の調製
<2-1>プロタミン-siRNA複合体の調製
核酸担持肺サーファクタント系粒子を調製するため、プロタミン-siRNA(Pro-siRNA)複合体を以下のようにして調製した。まず、siRNAを蒸留水に10nmol/mLの濃度で溶解することによってsiRNA溶液を調製し、プロタミンを1mg/mLの濃度で蒸留水に溶解することによってプロタミンタンパク質溶液を調製した。このとき、siRNAとプロタミンの質量比に応じたサイズ及び電荷を測定するために、siRNAとプロタミンを2nmolのsiRNAに基づいて0.5:1、0.75:1、1:1、1.25:1、1.5:1、2:1、4:1の質量比で混合し、この混合物を室温で約15分間反応させてsiRNA-プロタミン複合体を調製した。
【0133】
図12は、肺サーファクタントを用いた核酸担持方法の模式図を示す。
【0134】
調製したプロタミン-siRNA複合体のサイズ及び電荷を、DLS装置を用いて測定し、その結果を
図13に示す。結果より、siRNAとプロタミンの質量比が増加するにつれて、プロタミン-siRNA複合体が負に帯電することが確認された。一方、負に帯電した肺サーファクタントに良好に担持される正に帯電した複合体を選択することが効率的である。そこで、
図13からわかるように、核酸担持肺サーファクタント系粒子を、サイズ約200nm、正電荷20mV、及び質量比1:1を有する複合体を選択することによって調製した。
【0135】
<2-2>siRNA結合肺サーファクタント系粒子の調製
実施例<2-1>で調製したプロタミン-siRNA複合体を用いてsiRNA結合肺サーファクタント系粒子を調製するため、肺サーファクタント(Newfacten)をクロロホルムとメタノール(2:1)の溶液に10mg/mLの濃度で溶解することにより、肺サーファクタント溶液を調製した。次いで、実施例<2-1>で調製したプロタミン-siRNA複合体に対して質量比1:5又は1:10の肺サーファクタント溶液をガラスバイアルに入れ、溶媒を蒸発させて脂質膜を形成した。その後、siRNA-プロタミン複合体を脂質膜に添加し、約45℃以上で水和処理を行い、siRNA結合肺サーファクタント系粒子を調製した。
【0136】
調製したsiRNA結合肺サーファクタント系粒子のサイズ及び電荷を、DLS装置を用いて測定した結果を下記表3に示す。
【0137】
【0138】
表3に示すように、肺サーファクタント単独の電荷は約-40mVであり、複合体が肺サーファクタントに良好に担持されたとき、最終粒子も同様の電荷を有していた。複合体に対する肺サーファクタントの比率を変化させたところ、粒子を1:10の比率で製造した場合、サイズが約250nm及び-35mVの粒子が製造されたことを確認した。
【0139】
実験例6:II型肺胞細胞由来肺癌細胞への肺サーファクタント粒子の送達効率の評価
実施例2で調製した肺サーファクタント-プロタミン-siRNA(Surf-Pro-siRNA)粒子のII型肺胞細胞由来肺癌細胞への送達を確認した。肺サーファクタントによる肺細胞への送達の効果を検証するために、実施例<2-1>で調製した肺サーファクタントを含まないプロタミン-siRNA(Pro-siRNA)を対照として用い細胞内送達を確認した。
【0140】
まず、A549細胞を6ウェルプレート(20000細胞/ウェル)で培養し、1日後に陰性対照、プロタミン-フルオレセイン-siRNA複合体、及び肺サーファクタント-プロタミン-フルオレセイン-siRNA(Surf-Pro-siRNA)で細胞を処理した。このとき、全群を処理したsiRNAの濃度を2nmol/mLに固定した。約24時間培養した後、共焦点顕微鏡下で細胞を写真撮影し、その結果を
図14に示す。
【0141】
図14に示すように、Pro-siRNAのみを用いた場合には、II型肺胞細胞由来A549肺癌細胞に効果的に送達されないことが確認された。一方、肺サーファクタントを用いてsiRNAを送達すると、II型肺胞細胞由来肺癌細胞に効果的に送達できることが確認された。
【0142】
実験例7:肺サーファクタントを用いたsiRNAのタンパク質発現低下能の確認
実施例2で調製した核酸担持肺サーファクタント系粒子を用いてsiRNAのタンパク質発現阻害効果を確認するために、以下の実験を行った。具体的には、陰性対照siRNAとルシフェラーゼsiRNA自体の効果を比較するため、ルシフェラーゼsiRNAを、複合体を介して送達した場合と肺サーファクタント粒子の形態で送達した場合との効果差を確認するため、及び細胞培養環境におけるリポフェクタミン3000と肺サーファクタントとの効率の違いを確認するため、以下の実験を行った。
【0143】
まず、A549-ルシフェラーゼ細胞を24ウェルプレート(30000細胞/ウェル)で培養し、陰性対照、プロタミン-ルシフェラーゼsiRNA複合体(Pro-Luc-siRNA)、肺サーファクタント-プロタミン-陰性対照siRNA(Surf-Pro-NC-siRNA)、肺サーファクタント-プロタミン-ルシフェラーゼsiRNA(Surf-Pro-Luc-siRNA)、及びリポフェクタミン3000-ルシフェラーゼsiRNA(LF-Luc-siRNA)で細胞を処理した。このとき、各群を約200pmol/mLの濃度のsiRNAで処理した。細胞を24時間培養し、細胞培地を洗浄した後、細胞を更に24時間培養してタンパク質発現を減少させた。次いで、各ウェルを10μLのルシフェリン(12.5mg/mL)で処理して発光を確認し、IVIS装置を用いて発光を測定した。さらに、細胞死率を確認するためにMTTアッセイを行った。結果を
図15及び
図16に示す。
【0144】
その結果、プロタミン-ルシフェラーゼsiRNA複合体単独ではタンパク質発現低下能が確認できず、ルシフェラーゼsiRNAを肺サーファクタント粒子の形態で送達した場合、タンパク質発現低下能を確認することができた。対照群と比較すると、統計的に有意な差があったが、効率はリポフェクタミンのものよりも低かった。しかしながら、肺サーファクタントとは異なり、リポフェクタミンはin vivoでは全く使用できないという欠点があるため、肺サーファクタント粒子は肺におけるin vivoトランスフェクションに有効に使用され得る。
【0145】
実験例8:肺サーファクタントを用いた肺癌アポトーシスの確認
まず、A549-ルシフェラーゼ細胞を24ウェルプレート(30000細胞/ウェル)で培養し、陰性対照、プロタミン-ルシフェラーゼsiRNA複合体(Pro-Luc-siRNA)、肺サーファクタント-プロタミン-陰性対照siRNA(Surf-Pro-NC-siRNA)、肺サーファクタント-プロタミン-ルシフェラーゼsiRNA(Surf-Pro-Luc-siRNA)、及びリポフェクタミン3000-ルシフェラーゼsiRNA(LF-Luc-siRNA)で細胞を処理した。このとき、各群を約200pmol/mLの濃度のsiRNAで処理した。細胞を24時間培養し、細胞培地を洗浄した後、細胞を更に24時間培養してタンパク質発現を減少させた。次いで、各ウェルを10μLのルシフェリン(12.5mg/mL)で処理して発光を確認し、IVIS装置を用いて発光を測定した。さらに、細胞死率を確認するためにMTTアッセイを行った。結果を
図15及び
図16に示す。
【0146】
その結果、プロタミン-ルシフェラーゼsiRNA複合体単独ではタンパク質発現低下能が確認できず、ルシフェラーゼsiRNAを肺サーファクタント粒子の形態で送達した場合、タンパク質発現低下能を確認することができた。対照群と比較すると、統計的に有意な差があったが、効率はリポフェクタミンのものよりも低かった。しかしながら、肺サーファクタントとは異なり、リポフェクタミンはin vivoでは全く使用できないという欠点があるため、肺サーファクタント粒子は肺におけるin vivoトランスフェクションに有効に使用され得る。
【0147】
KRASサイレンシングsiRNA(ヒト)
センス:5’-GUCUCUUGGAUAUUCUCGA-3’(配列番号1)
アンチセンス:3’-UCGAGAAUAUCCAAGAGAC-5’(配列番号2)
【0148】
RPN2サイレンシングsiRNA(ヒトリボホリンII)
センス:5’-GGCCACUGUUAAACUAGAACA-3’(配列番号3)
アンチセンス:3’-GUCCGGUGACAAUUUGAUCUU-5’(配列番号4)
【0149】
A549-ルシフェラーゼ細胞を24ウェルプレート(30000細胞/ウェル)で培養し、陰性対照、リポフェクタミン3000-RPN2 siRNA(LF-RPN2-siRNA)、肺サーファクタント-プロタミン-RPN2 siRNA(Surf-Pro-RPN2-siRNA)、リポフェクタミン3000-KRAS siRNA、及び肺サーファクタント-プロタミン-KRAS-siRNA(Surf-Pro-KRAS-siRNA)で細胞を処理した。このとき、各群を約300pmol/mLの濃度のsiRNAで処理した。細胞を24時間培養し、細胞培地を洗浄した後、細胞を更に24時間培養してタンパク質発現を減少させた。次いで、MTTアッセイを行い、細胞死率を確認した。結果を
図17に示す。
【0150】
図17に示すように、KRAS-siRNA及びRPN2-siRNAの両方を肺サーファクタント粒子の形態で細胞に送達した場合、II型肺胞細胞由来肺癌に対して優れたアポトーシス能を示した。比較のためにリポフェクタミンで処置した群も同様の結果を示した。このことから、吸入によって送達される本発明による実施例のsiRNA担持肺サーファクタント粒子は、肺におけるタンパク質発現の抑制に優れていることが確認された。
【0151】
したがって、本発明による肺サーファクタント粒子は、肺疾患において誘導される異常なタンパク質発現を抑制する手段としてsiRNA等の核酸を肺細胞に効果的に送達するために用いることができる。代表的な肺疾患である肺癌は、様々な癌遺伝子によって引き起こされ、対応するタンパク質が過剰発現するにつれて悪化する傾向がある。したがって、肺癌を抑制するためには癌遺伝子を阻害できる技術が必要であり、本発明による核酸担持肺サーファクタント系粒子を用いてその阻害を達成することができる。
【0152】
実施例3:タンパク質担持肺サーファクタント系粒子の調製-2
以下の実験工程を経て、免疫タンパク質GM-CSF担持肺サーファクタント系粒子を調製した。
【0153】
具体的な実験手順は以下の通りである。
(1)クロロホルムとメタノールの混合溶液(2:1、容量:容量)に肺サーファクタント粉末(Newfacten)を10mg/mlの濃度で溶解することにより肺サーファクタント溶液を調製した。
【0154】
(2)GM-SCFを蒸留水に10μg/mlの濃度で溶解することによりGM-SCF溶液(1ml)を調製した。
【0155】
(3)GM-SCFの10倍モルの硫酸プロタミン溶液を調製した。
【0156】
(4)上記(1)で調製した肺サーファクタント(1mg)を用いて脂質膜を形成した。
【0157】
(5)(2)で調製した1mlのGM-SCF溶液及び(3)で調製した硫酸プロタミン溶液を、脂質膜に加え、温度約45℃のホットプレート上で混合して肺サーファクタント脂質膜を水和させた。水和プロセス中に産生された粒子は、押出機キット(ナノ粒子化)を用いて400nmの平均直径を有するようにした。このプロセスにおいて、プロタミンタンパク質及びGM-SCFは、肺サーファクタント系粒子に結合した。
【0158】
(6)粒子に担持されていないタンパク質を除去するため、蒸留水中で100kDa膜を用いて少なくとも8時間透析を行った。
【0159】
(7)DLS装置を用いて調製した粒子のサイズ及び電荷を測定し、ELISAキットを用いて調製した粒子に担持されたGM-SCFの量を測定した。
【0160】
結果を以下の表4に示す。
【0161】
【0162】
負に帯電した免疫タンパク質である10μgのGM-CSFを、電荷を用いて1mgの肺サーファクタントに担持させた。その結果、GM-CSFを担持した肺サーファクタント粒子は、約300nmのサイズ、及び約-20mVの電荷を有することが確認された。担持されていないタンパク質を除去した後に担持されたGM-CSFの量を測定したところ、約1.06μgのタンパク質が担持されていることが確認された。これにより、免疫タンパク質であるGM-CSFを、プロタミンを用いて肺サーファクタント系粒子に効率的に担持できることが確認された。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2022-10-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質又は核酸の送達のための組み合わせ物であって、
肺サーファクタントを用いて調製されたリポソームに結合したタンパク質又は核酸である、組み合わせ物。
【請求項2】
前記リポソームに結合したタンパク質又は核酸が、正に帯電したタンパク質又はペプチドを介して前記リポソームに連関されている、請求項1に記載の組み合わせ物。
【請求項3】
前記正に帯電したタンパク質がプロタミンである、請求項2に記載の組み合わせ物。
【請求項4】
前記リポソームに結合したタンパク質が負に帯電したタンパク質である、請求項1に記載の組み合わせ物。
【請求項5】
前記組み合わせ物がリポソーム結合タンパク質又は核酸を選択的に肺に送達するためのものである、請求項1に記載の組み合わせ物。
【請求項6】
前記肺サーファクタントがII型肺胞細胞で産生されるリポタンパク質複合体である、請求項1に記載の組み合わせ物。
【請求項7】
前記肺サーファクタントが膜タンパク質を含有する、請求項1に記載の組み合わせ物。
【請求項8】
前記複合体がII型肺胞細胞由来肺癌細胞を標的とする、請求項1に記載の組み合わせ物。
【請求項9】
前記複合体が250nm~1200nmの範囲の平均直径を有する、請求項1に記載の組み合わせ物。
【請求項10】
タンパク質又は核酸の送達のための組み合わせ物を調製する方法であって、
肺サーファクタントを溶解する第1の溶液を調製する工程と、
前記肺サーファクタントが溶解した調製溶液を乾燥させることにより脂質膜を形成する工程と、
結合標的タンパク質又は核酸を溶解して水和させる第2の溶液で前記形成された脂質膜を処理することにより、肺サーファクタントを用いて調製されたリポソームに結合標的タンパク質又は核酸を結合させた組み合わせ物を調製する工程と、
を含む、方法。
【請求項11】
前記結合標的タンパク質又は核酸が溶解した前記第2の溶液で処理することにより、前記形成された脂質膜を水和する工程において、正に帯電したタンパク質又はペプチドが溶解した第3の溶液も処理して、前記タンパク質又は核酸を、前記正に帯電したタンパク質又はペプチドにより前記リポソームに結合させる、請求項10に記載の組み合わせ物を調製する方法。
【請求項12】
前記組み合わせ物を調製する方法を行う際に、1重量部の前記結合標的タンパク質又は核酸に対して100重量部~140重量部の前記肺サーファクタントを用い、同時に1molの前記結合標的タンパク質又は核酸に対して1mol~10molの前記正に帯電したタンパク質又はペプチドを使用する、請求項11に記載の組み合わせ物を調製する方法。
【請求項13】
前記組み合わせ物を調製する方法を行う際に、1重量部の前記結合標的タンパク質又は核酸に対して100重量部の前記肺サーファクタントを用い、同時に1molの前記結合標的タンパク質又は核酸に対して10molの前記正に帯電したタンパク質又はペプチドを使用する、請求項11に記載の組み合わせ物を調製する方法。
【請求項14】
前記組み合わせ物を調製する方法を行う際に、1molの前記結合標的タンパク質又は核酸に対して0.5mol~20molの前記正に帯電したタンパク質又はペプチドを使用する、請求項11に記載の組み合わせ物を調製する方法。
【請求項15】
前記水和工程が30℃~90℃の温度で行われる、請求項10に記載の組み合わせ物を調製する方法。
【請求項16】
前記水和工程を行った後に前記複合体の直径を調整する工程を更に含む、請求項10に記載の組み合わせ物
を調製する方法。
【国際調査報告】