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特表2023-513157抗ジニトロフェノールキメラ抗原受容体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-30
(54)【発明の名称】抗ジニトロフェノールキメラ抗原受容体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20230323BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20230323BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20230323BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230323BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20230323BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230323BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230323BHJP
   C07K 14/725 20060101ALI20230323BHJP
   C07K 16/44 20060101ALI20230323BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230323BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20230323BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20230323BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20230323BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230323BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230323BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/12
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N15/867 Z
C12N5/10
C07K19/00
C07K14/725
C07K16/44
A61P35/00
A61K35/12
A61K35/17
A61K35/28
A61P43/00 121
A61K39/395 E
A61K39/395 T
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022547674
(86)(22)【出願日】2021-02-02
(85)【翻訳文提出日】2022-09-30
(86)【国際出願番号】 US2021016177
(87)【国際公開番号】W WO2021158523
(87)【国際公開日】2021-08-12
(31)【優先権主張番号】62/969,931
(32)【優先日】2020-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515045617
【氏名又は名称】シアトル チルドレンズ ホスピタル (ディービーエイ シアトル チルドレンズ リサーチ インスティテュート)
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】ジェンセン,マイケル シー.
(72)【発明者】
【氏名】マッセイ,ジェイムズ エフ.
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ジョセフ ケー.
【テーマコード(参考)】
4B065
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4B065CA46
4C085AA13
4C085EE03
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB37
4C087BB44
4C087BB64
4C087BB65
4C087CA05
4C087MA16
4C087MA66
4C087NA13
4C087NA14
4C087ZB26
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA50
4H045DA76
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
本明細書で提供される実施形態は、抗ジニトロフェノールキメラ抗原受容体(CAR)を含む方法および組成物を含む。いくつかの実施形態は、このCARをコードする核酸、この核酸によってコードされるポリペプチド、この核酸またはポリペプチドを含む細胞、およびこの細胞を利用した方法を含む。いくつかの実施形態は、ジニトロフェノール(DNP)およびその誘導体の使用をさらに含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸であって、該CARが、
ジニトロフェノール(DNP)部分に特異的に結合するリガンド結合ドメイン;
スペーサー;
膜貫通ドメイン;および
細胞内シグナル伝達ドメイン
を含む、核酸。
【請求項2】
前記リガンド結合ドメインが、配列番号1~12のいずれか1つに示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の核酸。
【請求項3】
前記リガンド結合ドメインが、配列番号1~12のいずれか1つに示されるアミノ酸配列を含む、請求項2に記載の核酸。
【請求項4】
前記リガンド結合ドメインが、配列番号1、2、9または10に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の核酸。
【請求項5】
前記リガンド結合ドメインが、配列番号1、2、9または10に示されるアミノ酸配列を含む、請求項4に記載の核酸。
【請求項6】
前記スペーサーが、
(好ましくは2個以上かつ)12個以下の連続したアミノ酸残基からなる短いスペーサー、
(好ましくは2個以上かつ)119個以下の連続したアミノ酸残基からなる中程度の長さのスペーサー、および
119個よりも多い個数の連続したアミノ酸残基からなる長いスペーサー
からなる群から選択される、請求項1~5のいずれか1項に記載の核酸。
【請求項7】
前記スペーサーが、
IgG4ヒンジドメインを含む短いスペーサー、
IgG4ヒンジ-CH3ドメインを含む中程度の長さのスペーサー、および
IgG4ヒンジ-CH2-CH3ドメインを含む長いスペーサー
からなる群から選択される、請求項1~6のいずれか1項に記載の核酸。
【請求項8】
前記スペーサーが、少なくとも229個の連続したアミノ酸残基からなる長いスペーサーである、請求項1~7のいずれか1項に記載の核酸。
【請求項9】
前記膜貫通ドメインが、CD28の膜貫通ドメインを含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の核酸。
【請求項10】
前記細胞内シグナル伝達ドメインが、CD3ζの一部および/または4-1BBの一部を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の核酸。
【請求項11】
選択用遺伝子、細胞表面選択マーカー、または切断可能なリンカーをコードするポリヌクレオチドをさらに含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の核酸。
【請求項12】
前記選択用遺伝子が、ジヒドロ葉酸レダクターゼの二重変異体(DHFRdm)を含む、請求項11に記載の核酸。
【請求項13】
前記細胞表面選択マーカーが、切断型EGFR(EGFRt)、切断型Her2(Her2tG)および切断型CD19(CD19t)からなる群から選択される、請求項11または12に記載の核酸。
【請求項14】
前記切断可能なリンカーが、P2A、T2A、E2AおよびF2Aからなる群から選択されるリボソームスキップ配列を含む、請求項11~13のいずれか1項に記載の核酸。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載の核酸を含むベクター。
【請求項16】
レンチウイルスベクターを含む、請求項15に記載のベクター。
【請求項17】
輸液用の細胞集団を作製する方法であって、
請求項1~14のいずれか1項に記載の核酸を細胞に導入する工程;および
輸液に十分な数の細胞集団を得るのに適した条件で前記細胞を培養する工程
を含む方法。
【請求項18】
請求項1~14のいずれか1項に記載の核酸によってコードされるキメラ抗原受容体(CAR)。
【請求項19】
請求項1~14のいずれか1項に記載の核酸または請求項18に記載のキメラ抗原受容体(CAR)を含む細胞。
【請求項20】
CD4+T細胞、CD8+T細胞、前駆T細胞または造血幹細胞に由来する細胞である、請求項19に記載の細胞。
【請求項21】
前記CD8+T細胞が、ナイーブCD8+T細胞、セントラルメモリーCD8+T細胞、エフェクターメモリーCD8+T細胞およびバルクCD8+T細胞からなる群から選択されるCD8+細胞傷害性Tリンパ球である、請求項20に記載の細胞。
【請求項22】
前記セントラルメモリーCD8+T細胞が、CD45RO陽性かつCD62L陽性である、請求項21に記載の細胞。
【請求項23】
前記CD4+T細胞が、ナイーブCD4+T細胞、セントラルメモリーCD4+T細胞、エフェクターメモリーCD4+T細胞およびバルクCD4+T細胞からなる群から選択されるCD4+ヘルパーTリンパ球である、請求項20に記載の細胞。
【請求項24】
前記ナイーブCD4+T細胞が、CD45RA陽性、CD62L陽性かつCD45RO陰性である、請求項23に記載の細胞。
【請求項25】
エクスビボの細胞である、請求項19~24のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項26】
インビボの細胞である、請求項19~24のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項27】
哺乳動物細胞である、請求項19~26のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項28】
ヒト細胞である、請求項19~27のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項29】
請求項18に記載のキメラ抗原受容体(CAR)と、
標的細胞に付着させたジニトロフェノール(DNP)部分と
を含む組成物であって、
前記CARが、前記DNP部分に特異的に結合することを特徴とする、組成物。
【請求項30】
前記DNP部分が、前記標的細胞に結合する抗体またはその抗原結合断片を介して、該標的細胞に付着している、請求項29に記載の組成物。
【請求項31】
前記DNP部分が、前記標的細胞の表面に組み込まれた脂質を介して、該標的細胞の表面に付着している、請求項29に記載の組成物。
【請求項32】
前記脂質が、極性頭部基と疎水基を含む、請求項31に記載の組成物。
【請求項33】
前記極性頭部が、コリン、ホスファチジルコリン、ホスホコリン、スフィンゴミエリン、ホスホエタノールアミン、糖残基、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ピペリジン、およびトリメチルアルセノエチルホスフェートから選択される基を含む、請求項32に記載の組成物。
【請求項34】
前記疎水基が、脂肪鎖またはテルペノイド部分を含む、請求項32または33に記載の組成物。
【請求項35】
前記疎水基がエーテル結合を含み、該エーテル結合が、前記極性頭部基と前記脂肪鎖の間に位置する、請求項32~34のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項36】
前記脂肪鎖が、C10-20アルキル鎖を含む、請求項34または35に記載の組成物。
【請求項37】
前記脂質が、エーテルリン脂質(PLE)である、請求項31~36のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項38】
前記標的細胞が、がん細胞である、請求項29~37のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項39】
前記がん細胞が、乳がん細胞、脳腫瘍細胞、大腸がん細胞、腎臓がん細胞、膵臓がん細胞および卵巣がん細胞からなる群から選択される、請求項38に記載の組成物。
【請求項40】
前記標的細胞がエクスビボの細胞である、請求項29~39のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項41】
前記標的細胞がインビボの細胞である、請求項29~39のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項42】
前記標的細胞が哺乳動物細胞である、請求項29~41のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項43】
前記標的細胞がヒト細胞である、請求項29~42のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項44】
対象においてがんを治療または緩和する方法であって、
ジニトロフェノール(DNP)部分を含む組成物と組み合わせて、請求項19~28のいずれか1項に記載の細胞を対象に投与することを含む方法。
【請求項45】
前記細胞を投与した後に前記組成物を投与する、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記組成物を投与した後に前記細胞を投与する、請求項44に記載の方法。
【請求項47】
前記細胞と前記組成物を同時に投与する、請求項44に記載の方法。
【請求項48】
前記組成物が、前記がんを標的とするように構成されている、請求項44~47のいずれか1項に記載の方法。
【請求項49】
前記DNP部分が、前記がんに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片に連結されている、請求項44~48のいずれか1項に記載の方法。
【請求項50】
前記DNP部分が葉酸に連結されている、請求項44~48のいずれか1項に記載の方法。
【請求項51】
前記DNP部分が脂質に連結されている、請求項44~48のいずれか1項に記載の方法。
【請求項52】
前記脂質が、極性頭部基と疎水基を含む、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記極性頭部が、コリン、ホスファチジルコリン、ホスホコリン、スフィンゴミエリン、ホスホエタノールアミン、糖残基、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ピペリジン、およびトリメチルアルセノエチルホスフェートから選択される基を含む、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記疎水基が、脂肪鎖またはテルペノイド部分を含む、請求項52または53に記載の方法。
【請求項55】
前記疎水基がエーテル結合を含み、該エーテル結合が、前記極性頭部基と前記脂肪鎖の間に位置する、請求項52~54のいずれか1項に記載の方法。
【請求項56】
前記脂肪鎖が、C10-20アルキル鎖を含む、請求項54または55に記載の方法。
【請求項57】
前記脂質が、エーテルリン脂質(PLE)である、請求項52~56のいずれか1項に記載の方法。
【請求項58】
前記がんが、乳がん細胞、脳腫瘍細胞、大腸がん細胞、腎臓がん細胞、膵臓がん細胞および卵巣がん細胞からなる群から選択される標的細胞を含む、請求項44~57のいずれか1項に記載の方法。
【請求項59】
前記細胞が、前記対象から得られた自家細胞である、請求項44~58のいずれか1項に記載の方法。
【請求項60】
前記対象が哺乳動物である、請求項44~59のいずれか1項に記載の方法。
【請求項61】
前記対象がヒトである、請求項44~60のいずれか1項に記載の方法。
【請求項62】
対象においてがんを治療するための、ジニトロフェノール(DNP)部分を含む組成物と組み合わせた請求項19~28のいずれか1項に記載の細胞の使用。
【請求項63】
対象においてがんを治療するための医薬品の製造における、ジニトロフェノール(DNP)部分を含む組成物と組み合わせた請求項19~29のいずれか1項に記載の細胞の使用。
【請求項64】
医薬品において使用するための、請求項19~28のいずれか1項に記載のCAR T細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2020年2月4日に出願された「抗ジニトロフェノールキメラ抗原受容体」という名称の米国仮特許出願第62/969,931号の優先権を主張するものであり、この出願は引用によりその全体が本明細書に援用される。
【0002】
配列表の参照
本願は電子形式の配列表とともに出願されたものである。この配列表は、SCRI269WOSEQLISTのファイル名で2021年2月2日に作成された約43kbのファイルとして提供されたものである。この電子形式の配列表に記載の情報は、引用によりその全体が本明細書に援用される。
【0003】
本明細書で提供される実施形態は、抗ジニトロフェノールキメラ抗原受容体(CAR)を含む方法および組成物を含む。いくつかの実施形態は、このCARをコードする核酸、この核酸によってコードされるポリペプチド、このポリペプチドを含む細胞、およびこの細胞を利用した方法を含む。いくつかの実施形態は、ジニトロフェノール(DNP)およびその誘導体の使用をさらに含む。
【背景技術】
【0004】
キメラ抗原受容体(CAR)を有するT細胞の養子細胞移入を利用した免疫療法は、がんの治療方法として効果的である。CARの構造には、抗原結合ドメイン、スペーサードメイン、膜貫通ドメイン、および1つ以上の共刺激活性化ドメインが含まれる。CAR T細胞は、患者またはドナーから得られたT細胞から作製してもよい。場合によっては、CARは、細胞表面上の特定の抗原に結合することによりその機能を発揮し、その抗原を提示している細胞の溶解を引き起こす。所望の細胞表面抗原を標的とし、毒性が低減されるように、CARのリガンド結合ドメインの設計に注目して様々な研究がなされているが、CAR T細胞を利用したさらなる治療法が今なお求められている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸であって、該CARが、
ジニトロフェノール(DNP)部分に特異的に結合するリガンド結合ドメイン;
スペーサー;
膜貫通ドメイン;および
細胞内シグナル伝達ドメイン
を含むことを特徴とする核酸を含む。
【0006】
いくつかの実施形態において、前記リガンド結合ドメインは、配列番号1~12のいずれか1つで示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、前記リガンド結合ドメインは、配列番号1~12のいずれか1つに示されるアミノ酸配列を含む。
【0007】
いくつかの実施形態において、前記リガンド結合ドメインは、配列番号1、2、9または10に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、前記リガンド結合ドメインは、配列番号1、2、9または10に示されるアミノ酸配列を含む。
【0008】
いくつかの実施形態において、前記スペーサーは、(好ましくは2個以上かつ)12個以下の連続したアミノ酸残基からなる短いスペーサー、(好ましくは2個以上かつ)119個以下の連続したアミノ酸残基からなる中程度の長さのスペーサー、および119個よりも多い個数の連続したアミノ酸残基からなる長いスペーサーからなる群から選択される。
【0009】
いくつかの実施形態において、前記スペーサーは、IgG4ヒンジドメインを含む短いスペーサー、IgG4ヒンジ-CH3ドメインを含む中程度の長さのスペーサー、およびIgG4ヒンジ-CH2-CH3ドメインを含む長いスペーサーからなる群から選択される。
【0010】
いくつかの実施形態において、前記スペーサーは、少なくとも229個の連続したアミノ酸残基からなる長いスペーサーである。
【0011】
いくつかの実施形態において、前記膜貫通ドメインは、CD28の膜貫通ドメインを含む。
【0012】
いくつかの実施形態において、前記細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3ζの一部および/または4-1BBの一部を含む。
【0013】
いくつかの実施形態は、選択用遺伝子、細胞表面選択マーカー、または切断可能なリンカーをコードするポリヌクレオチドをさらに含む。いくつかの実施形態において、前記選択用遺伝子は、ジヒドロ葉酸レダクターゼの二重変異体(DHFRdm)を含む。いくつかの実施形態において、前記細胞表面選択マーカーは、切断型EGFR(EGFRt)、切断型Her2(Her2tG)および切断型CD19(CD19t)からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、前記切断可能なリンカーは、P2A、T2A、E2AおよびF2Aからなる群から選択されるリボソームスキップ配列を含む。
【0014】
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、本明細書で提供される核酸のいずれか1つを含むベクターを含む。いくつかの実施形態において、前記ベクターは、レンチウイルスベクターを含む。
【0015】
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、輸液用の細胞集団を作製する方法であって、
本明細書で提供される、抗DNP CARをコードする核酸のいずれか1つを細胞に導入する工程;および
輸液に十分な数の細胞集団を得るのに適した条件で前記細胞を培養する工程
を含む方法を含む。
【0016】
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、本明細書で提供される核酸のいずれか1つによってコードされるCARを含む。
【0017】
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、本明細書で提供されるCARのいずれか1つを含む細胞を含む。
【0018】
いくつかの実施形態において、前記細胞は、CD4+T細胞、CD8+T細胞、前駆T細胞または造血幹細胞に由来する細胞である。いくつかの実施形態において、前記CD8+T細胞は、ナイーブCD8+T細胞、セントラルメモリーCD8+T細胞、エフェクターメモリーCD8+T細胞およびバルクCD8+T細胞からなる群から選択されるCD8+細胞傷害性Tリンパ球である。いくつかの実施形態において、前記セントラルメモリーCD8+T細胞は、CD45RO陽性かつCD62L陽性である。いくつかの実施形態において、前記CD4+T細胞は、ナイーブCD4+T細胞、セントラルメモリーCD4+T細胞、エフェクターメモリーCD4+T細胞およびバルクCD4+T細胞からなる群から選択されるCD4+ヘルパーTリンパ球である。いくつかの実施形態において、前記ナイーブCD4+T細胞は、CD45RA陽性、CD62L陽性かつCD45RO陰性である。
【0019】
いくつかの実施形態において、前記細胞はエクスビボの細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞はインビボの細胞である。
【0020】
いくつかの実施形態において、前記細胞は哺乳動物細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞はヒト細胞である。
【0021】
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、本明細書で提供されるCARのいずれか1つと、標的細胞に付着させたDNP部分とを含む組成物であって、前記CARが、前記DNP部分に特異的に結合することを特徴とする組成物を含む。
【0022】
いくつかの実施形態において、前記DNP部分は、前記標的細胞に結合する抗体またはその抗原結合断片を介して、該標的細胞に付着している。
【0023】
いくつかの実施形態において、前記DNP部分は、葉酸部分を介して前記標的細胞に付着している。
【0024】
いくつかの実施形態において、前記DNP部分は、前記標的細胞の表面に組み込まれた脂質を介して、該標的細胞の表面に付着している。いくつかの実施形態において、前記脂質は、極性頭部基と疎水基を含む。いくつかの実施形態において、前記極性頭部は、コリン、ホスファチジルコリン、ホスホコリン、スフィンゴミエリン、ホスホエタノールアミン、糖残基、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ピペリジン、およびトリメチルアルセノエチルホスフェートから選択される基を含む。いくつかの実施形態において、前記疎水基は、脂肪鎖またはテルペノイド部分を含む。いくつかの実施形態において、前記疎水基はエーテル結合を含み、該エーテル結合は、前記極性頭部基と前記脂肪鎖の間に位置する。いくつかの実施形態において、前記脂肪鎖は、C10-20アルキル鎖を含む。いくつかの実施形態において、前記脂質はエーテルリン脂質(PLE)である。
【0025】
いくつかの実施形態において、前記標的細胞はがん細胞である。いくつかの実施形態において、前記がん細胞は、乳がん細胞、脳腫瘍細胞、大腸がん細胞、腎臓がん細胞、膵臓がん細胞および卵巣がん細胞からなる群から選択される。
【0026】
いくつかの実施形態において、前記標的細胞はエクスビボの細胞である。いくつかの実施形態において、前記標的細胞はインビボの細胞である。
【0027】
いくつかの実施形態において、前記標的細胞は哺乳動物細胞である。いくつかの実施形態において、前記標的細胞はヒト細胞である。
【0028】
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、対象においてがんを治療または緩和する方法であって、
DNP部分を含む組成物と組み合わせて、本明細書で提供される抗DNP CAR T細胞のいずれか1つを対象に投与することを含む方法を含む。
【0029】
いくつかの実施形態において、前記細胞を投与した後に前記組成物を投与する。いくつかの実施形態において、前記組成物を投与した後に前記細胞を投与する。いくつかの実施形態において、前記細胞と前記組成物を同時に投与する。
【0030】
いくつかの実施形態において、前記組成物は、前記がんを標的とするように構成されている。
【0031】
いくつかの実施形態において、前記DNP部分は、前記がんに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片に連結されている。
【0032】
いくつかの実施形態において、前記DNP部分は葉酸に連結されている。
【0033】
いくつかの実施形態において、前記DNP部分は脂質に連結されている。いくつかの実施形態において、前記脂質は、極性頭部基と疎水基を含む。いくつかの実施形態において、前記極性頭部は、コリン、ホスファチジルコリン、ホスホコリン、スフィンゴミエリン、ホスホエタノールアミン、糖残基、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ピペリジン、およびトリメチルアルセノエチルホスフェートから選択される基を含む。いくつかの実施形態において、前記疎水基は、脂肪鎖またはテルペノイド部分を含む。いくつかの実施形態において、前記疎水基はエーテル結合を含み、該エーテル結合は、前記極性頭部基と前記脂肪鎖の間に位置する。いくつかの実施形態において、前記脂肪鎖は、C10-20アルキル鎖を含む。いくつかの実施形態において、前記脂質はエーテルリン脂質(PLE)である。
【0034】
いくつかの実施形態において、前記がんは、乳がん細胞、脳腫瘍細胞、大腸がん細胞、腎臓がん細胞、膵臓がん細胞および卵巣がん細胞からなる群から選択される標的細胞を含む。
【0035】
いくつかの実施形態において、前記細胞は、前記対象から得られた自家細胞である。
【0036】
いくつかの実施形態において、前記対象は哺乳動物である。いくつかの実施形態において、前記対象はヒトである。
【0037】
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、対象においてがんを治療するための、DNP部分を含む組成物と組み合わせた、本明細書で提供される抗DNP CAR T細胞のいずれか1つの使用を含む。
【0038】
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、対象においてがんを治療するための医薬品の製造における、DNP部分を含む組成物と組み合わせた、本明細書で提供される抗DNP CAR T細胞のいずれか1つの使用を含む。
【0039】
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、医薬品において使用するための、本明細書で提供される抗DNP CAR T細胞のいずれか1つを含む。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】(i)DNP部分;(ii)ポリエチレングリコール(PEG)部分;(iii)極性頭部;および(iv)疎水性尾部を含むDNP-エーテルリン脂質(DNP-PLE)の一実施形態を示す。
【0041】
図2A】MDA-MB-231対照細胞と、抗DNP-Alexa Fluor 488抗体とともにインキュベートしたMDA-MB-231対照細胞のフローサイトメトリーデータを示す。
【0042】
図2B】MDA-MB-231対照細胞と、抗DNP-Alexa Fluor 488抗体とともにインキュベートしたMDA-MB-231対照細胞と、5μMのDNP-PLEで標識し、抗DNP-Alexa Fluor 488抗体で染色したMDA-MB-231細胞のフローサイトメトリーデータを示す。
【0043】
図2C】MDA-MB-231対照細胞と、抗DNP-Alexa Fluor 488抗体とともにインキュベートしたMDA-MB-231対照細胞と、500nMのDNP-PLEで標識し、抗DNP-Alexa Fluor 488抗体で染色したMDA-MB-231細胞のフローサイトメトリーデータを示す。
【0044】
図2D】MDA-MB-231対照細胞と、抗DNP-Alexa Fluor 488抗体とともにインキュベートしたMDA-MB-231対照細胞と、50nMのDNP-PLEで標識し、抗DNP-Alexa Fluor 488抗体で染色したMDA-MB-231細胞のフローサイトメトリーデータを示す。
【0045】
図2E図2A図2Dに示したフローサイトメトリーデータのヒストグラムプロットを示す。
【0046】
図3A】抗DNP-Alexa Fluor 488抗体とともにインキュベートしたMDA-MB-231対照細胞の共焦点画像を示す。
【0047】
図3B】5μMのDNP-PLEとともにインキュベートしたMDA-MB-231細胞の共焦点画像を示す。
【0048】
図3C】5μMのDNP-PLEとともにインキュベートし、抗DNP-Alexa Fluor 488抗体で染色したMDA-MB-231細胞の共焦点画像を示す。
【0049】
図3D】1μMのDNP-PLEとともにインキュベートし、抗DNP-Alexa Fluor 488抗体で染色したMDA-MB-231細胞の共焦点画像を示す。
【0050】
図4】抗DNP CARを発現させるための、長いスペーサーを有する第2世代CARカセットの概略図を示す。
【0051】
図5A】抗DNP CAR H9細胞と共培養したMDA-MB-231対照細胞の共焦点画像を示す。
【0052】
図5B】5μMのDNP-PLEで染色し、抗DNP CAR H9細胞と共培養したMDA-MB-231細胞の共焦点画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0053】
本明細書で提供される実施形態は、抗ジニトロフェノールキメラ抗原受容体(CAR)を含む方法および組成物を含む。いくつかの実施形態は、このCARをコードする核酸、この核酸によってコードされるポリペプチド、このポリペプチドを含む細胞、およびこの細胞を利用した方法を含む。いくつかの実施形態は、ジニトロフェノール(DNP)およびその誘導体の使用をさらに含む。
【0054】
導入遺伝子により改変したT細胞の養子移入は、選択された条件下(例えばCD19 B細胞系の悪性腫瘍など)において成功を収めているものの、あらゆる形態のがんに見られるが正常な健常細胞では見られないような単一の標的抗原が存在しないことから、T細胞養子移入療法をその他の種類のがんでも使用できるように一般化することは難しいとされている。CAR T細胞療法は、多くの人々が苦しんでいる様々な種類のがんの治療に使用することができるが、その開発は、がん細胞上に提示された数万種類もの抗原(例えばCARの標的となる抗原)を同定し、それを綿密に調査する必要があるという厄介な課題によって妨げられている。本明細書で述べる実施形態のいくつかでは、この課題は、DNP-エーテルリン脂質(DNP-PLE)を使用することによって解決される。このDNP-PLEは、腫瘍細胞と会合して、DNPに特異的なCARを有するT細胞に対して固有の標的分子を提示することによって該CARと相互作用し、その結果、DNPを提示する腫瘍細胞の溶解を誘導する。このようなアプローチを取ることによって、数万種類もの固有の抗原に特異的なCARを同定し検証する必要性がなくなる。
【0055】
本明細書で提供される実施形態のいくつかは、DNP部分に対する特異性または選択されたアフィニティーもしくはアビディティを有するCARを含む。いくつかの実施形態において、DNP部分は、腫瘍細胞の表面に会合または結合することができる分子に連結されている。いくつかの実施形態において、前記分子はPLEである。いくつかの実施形態において、前記分子は、細胞に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片を含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、前記DNP-PLEまたはその他のDNP分子と、前記CARを有するT細胞とを用いて、抗腫瘍性T細胞の反応性に標的指向性を持たせる方法を実施することができる。いくつかの実施形態において、DNP-PLEは、腫瘍細胞の細胞膜に組み込まれるように設計された構造を有する合成分子であり、この合成分子のDNP部分が、腫瘍細胞の細胞膜の外層に隣接するように配置され、かつDNP部分に対して所望のアフィニティー、特異性またはアビディティを有するCARを有するT細胞との所望の相互作用が可能となる向きまたは近さで細胞外空間に提示されるように構成されている。同様に、いくつかの実施形態において、本明細書で述べるCARは、このCARの抗DNPリガンド結合ドメインが、DNP-PLEを担持する腫瘍細胞との所望の相互作用が可能となる向きもしくは近さ、またはDNP-PLEを担持する腫瘍細胞に対して所望のアビディティが得られる向きもしくは近さでT細胞の細胞膜上に提示されるように設計されたユニークな構造を有する。したがって、いくつかの実施形態において、本明細書で述べるDNP-PLE分子およびCARは、治療に重要な特徴を備えるものであり、抗DNPに特異的なCARを併用して、あるいはこのようなCARを併用せずに、医薬品としてDNP-PLE分子を使用することを想定している。これとは別の実施形態として、本明細書で述べるCARおよびDNP-PLE分子のうちのいずれか1つ以上は、がんなどのヒト疾患または病態の治療または緩和に有用である。
【0056】
別の実施形態は、PLE分子に連結されたDNP部分を標的として、これと相互作用するCARであって、細胞(好ましくはT細胞)において、構成的に発現されてもよく、制御下に置かれてもよいCAR;該CARをコードする核酸;前記核酸またはCARを有する細胞(好ましくはT細胞);これらの製造方法;およびこれらの組成物を使用して、ヒトのがんなどの疾患を治療する方法に関する。本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、WO2018/148224、WO2019/156795、WO2019/144095、U.S.2019/0224237およびPCT/US2019/044981に開示された態様を含む(これらの文献は引用によりその全体が本明細書に明示的に援用される)。
【0057】
用語の定義
本明細書において、「核酸」または「核酸分子」は、ポリヌクレオチドを指し、例えば、デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)、オリゴヌクレオチド、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により得られる断片、ならびにライゲーション、切断、エンドヌクレアーゼ作用およびエキソヌクレアーゼ作用のいずれかにより得られる断片などが挙げられる。核酸分子は、天然のヌクレオチドモノマー(DNAやRNAなど)、または天然のヌクレオチドの類似体(例えば、天然のヌクレオチドのエナンチオマー)からなるモノマー、またはこれらの組み合わせから構成されていてもよい。修飾ヌクレオチドは、糖部分および/またはピリミジン塩基部分もしくはプリン塩基部分に修飾を有していてもよい。糖部分の修飾としては、例えば、ハロゲン、アルキル基、アミンまたはアジド基による1つ以上のヒドロキシル基の置換が挙げられ、糖部分はエーテル化またはエステル化されていてもよい。さらに、糖部分全体が、立体構造的に類似の構造や電子的に類似の構造と置換されていてもよく、このような構造として、例えば、アザ糖または炭素環式糖類似体が挙げられる。修飾塩基部分としては、アルキル化プリン、アルキル化ピリミジン、アシル化プリン、アシル化ピリミジン、およびその他の公知の複素環置換基が挙げられる。核酸モノマーは、ホスホジエステル結合またはこれと似た結合により連結することができる。ホスホジエステル結合と似た結合としては、ホスホロチオエート結合、ホスホロジチオエート結合、ホスホロセレノエート結合、ホスホロジセレノエート結合、ホスホロアニロチオエート(phosphoroanilothioate)結合、ホスホロアニリデート(phosphoranilidate)結合、ホスホロアミデート結合などが挙げられる。「核酸分子」は、「ペプチド核酸」も包含し、これは、ポリアミド主鎖に付加された天然の核酸塩基または修飾核酸塩基を含む。核酸は、一本鎖であってもよく、二本鎖であってもよい。本明細書において、「コードする」は、遺伝子、cDNA、mRNAなどのポリヌクレオチド中の特定のヌクレオチド配列が、所定のアミノ酸配列などの別の巨大分子を合成するための鋳型として機能するという特性を指す。したがって、特定の遺伝子に対応するmRNAが転写および翻訳されて、細胞またはその他の生物系においてタンパク質が産生された場合、その遺伝子はこのタンパク質をコードする。「ポリペプチドをコードする核酸配列」には、同じアミノ酸配列をコードするあらゆる縮重ヌクレオチド配列が含まれる。「特異的」または「特異性」は、結合パートナーに対するリガンドの特性、あるいはリガンドに対する結合パートナーの特性を指してもよく、例えば、相補的形状、電荷、または疎水性結合に関与する特異性が挙げられる。結合に関与する特異性としては、立体特異性、領域選択性および/または化学選択性が挙げられる。いくつかの実施形態において、腫瘍細胞に会合または連結させることが可能な、PLE分子に連結または会合させたDNP部分に特異的なキメラ抗原受容体をコードする核酸の作製方法を提供する。
【0058】
「ベクター」または「コンストラクト」は、細胞に異種核酸を導入するために使用される核酸であり、様々な調節エレメントを含むことができることから、細胞において異種核酸を発現させることができる。ベクターとしては、プラスミド、ミニサークル、酵母またはウイルスゲノムが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、前記ベクターは、プラスミド、ミニサークル、ウイルスベクター、DNAまたはmRNAである。いくつかの実施形態において、前記ベクターは、レンチウイルスベクターまたはレトロウイルスベクターである。いくつかの実施形態において、前記ベクターは、レンチウイルスベクターである。
【0059】
本明細書において、「キメラ受容体」は、標的分子に結合する抗体配列やその他のタンパク質配列のリガンド結合ドメインを含む合成設計された受容体を指し、このリガンド結合ドメインは、スペーサードメインを介して、T細胞受容体またはその他の受容体の1つ以上の細胞内シグナル伝達ドメイン(例えば、共刺激ドメイン)に連結されている。キメラ受容体は、人工T細胞受容体、キメラT細胞受容体、キメラ免疫受容体、あるいはキメラ抗原受容体(CAR)とも呼ぶことができる。キメラ受容体を利用することによって、モノクローナル抗体もしくはその結合断片またはその他のリガンド結合ドメインの特異性をT細胞に移植することができ、キメラ受容体の発現に必要なコード配列は、レトロウイルスベクターやレンチウイルスベクターなどのウイルスベクターを使用してT細胞に移入される。CARは、例えば、CARが標的とする特定の細胞表面抗原を発現または提示する標的細胞に対する指向性をT細胞に付与することを目的として設計された遺伝子組換えT細胞受容体である。「養子細胞移入」と呼ばれる方法によって、まず対象からT細胞を得た後、所望の抗原に特異的な受容体が発現されるようにT細胞を遺伝子操作する。次に、このT細胞を患者に再導入する。再導入されたT細胞は、細胞に提示された抗原を提示する分子を認識し、これを標的として結合する。このようなCARは、免疫受容体を発現する細胞に、選択された特異性を移植することができる遺伝子組換え受容体である。研究者によっては、「キメラ抗原受容体」すなわち「CAR」は、抗体または抗体断片、スペーサー、シグナル伝達ドメインおよび膜貫通領域を含むものであると理解されている。本明細書に記載のCARは、様々な構成要素すなわちドメイン(例えば、エピトープ結合領域(例えば、抗体断片、scFvまたはそれらの一部)、スペーサー、膜貫通ドメインおよび/またはシグナル伝達ドメインなど)が遺伝子組換えされており、これよって驚くべき効果が得られたことから、本明細書の開示を通して、CARの各構成要素はそれぞれ独立したエレメントとして明確に区別できることが多い。
【0060】
「一本鎖可変領域断片(scFv)」は、10~25個のアミノ酸からなる短いリンカーペプチドで連結された、免疫グロブリンの重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)を含んでいてもよい融合タンパク質である。短いリンカーペプチドは、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個もしくは25個のアミノ酸、またはこれらの数値のいずれか2つを上下限とする範囲内の個数のアミノ酸を含んでいてもよい。リンカーは、通常、柔軟性を持つようにグリシンに富んでいるとともに、溶解性を持つようにセリンまたはトレオニンに富んでおり、VHのN末端とVLのC末端を連結することができ、あるいは、VHのC末端とVLのN末端を連結することができる。scFvは、定常領域が除去されており、リンカーが導入されているにもかかわらず、元の免疫グロブリンの特異性が保持されている。scFvは抗原に特異的である場合がある。本明細書において、「抗原」または「Ag」は、免疫応答を惹起する分子を指す。この免疫応答は、抗体産生もしくは特定の免疫担当細胞の活性化、またはこれらの両方に関与していてもよい。抗原は、組換え技術により作製、合成および製造することができ、あるいは生体試料から得ることもできる。このような生体試料として、組織試料、腫瘍試料、細胞または体液(例えば、血液、血漿または腹水)が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書に記載の実施形態のいくつかにおいて、本明細書に記載の実施形態による方法のいずれかによって作製された細胞(好ましくはT細胞)を含む組成物を提供する。いくつかの実施形態において、前記細胞(好ましくはT細胞)は、腫瘍細胞に会合または連結させることが可能な、PLE分子に連結または会合させたDNP部分に特異的なscFvを含むキメラ抗原受容体を含む。
【0061】
「抗原特異的結合ドメイン」は、低い結合親和性または高い結合親和性(fM~mMの結合力)で、タンパク質上のエピトープに特異的に結合するタンパク質またはタンパク質ドメインを含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、前記融合タンパク質は、免疫応答を調節するタンパク質またはその一部を含む。いくつかの実施形態において、前記タンパク質は抗原特異的結合ドメインを含む。
【0062】
いくつかの種類の「スペーサー」を本明細書で述べる。CARに関してのスペーサーとは、ポリペプチドスペーサーを指し、このスペーサーの長さは、キメラ抗原受容体の結合もしくはキメラ抗原受容体との相互作用を増強することができ、またはCAR T細胞療法に付随する有害な副作用を低減もしくは最小限に抑えることができるように構成されるか、このような利点が得られるように選択される。いくつかの実施形態において、CARの短いスペーサードメインは、2個~12個または2個~約12個のアミノ酸を有し、IgG4のヒンジ領域配列の全体もしくはその一部、またはそのバリアントの全体もしくはその一部を含む。いくつかの実施形態において、CARの中程度の長さのスペーサードメインは、2個~119個または2個~約119個のアミノ酸を有し、IgG4のヒンジ領域配列とCH3領域からなる配列の全体もしくはその一部、またはそのバリアントの全体もしくはその一部を含む。いくつかの実施形態において、CARの長いスペーサードメインは、2個~229個または2個~約229個のアミノ酸を有し、IgG4のヒンジ領域配列とCH2領域とCH3領域からなる配列の全体もしくはその一部、またはそのバリアントの全体もしくはその一部を含む。いくつかの実施形態において、スペーサーの長さもしくはその配列またはその両方は、腫瘍細胞に会合または連結させることが可能な、PLE分子に連結または会合させたDNP部分との所望のアビディティまたは相互作用に基づいて選択される。
【0063】
「膜貫通ドメイン」は、細胞膜二重層に存在する疎水性タンパク質領域であり、生体膜に埋め込まれるタンパク質を繋ぎ止める役割を果たす。膜貫通ドメインのトポロジーは、膜貫通型のαヘリックスであってもよいが、これに限定されない。キメラ抗原受容体を有する遺伝子組換えT細胞の作製方法の実施形態のいくつかにおいて、前記ベクターは、膜貫通ドメインをコードする配列を含む。前記方法の実施形態のいくつかにおいて、前記膜貫通ドメインは、CD28の膜貫通配列またはその断片を含み、このCD28の膜貫通配列またはその断片は、10アミノ酸長、11アミノ酸長、12アミノ酸長、13アミノ酸長、14アミノ酸長、15アミノ酸長、16アミノ酸長、17アミノ酸長、18アミノ酸長、19アミノ酸長、20アミノ酸長、21アミノ酸長、22アミノ酸長、23アミノ酸長、24アミノ酸長、25アミノ酸長、26アミノ酸長、27アミノ酸長もしくは28アミノ酸長、またはこれらの長さのいずれか2つによって定義される範囲内の長さである。前記方法の実施形態のいくつかにおいて、CD28の膜貫通配列またはその断片は、28アミノ酸長である。いくつかの実施形態において、本発明のキメラ受容体は膜貫通ドメインを含む。この膜貫通ドメインは、キメラ受容体を細胞膜に繋ぎ止める役割を果たす。
【0064】
「共刺激ドメイン」または「細胞内シグナル伝達ドメイン」は、本明細書に照らせば、一般的な通常の意味を有し、例えば、TCR/CD3複合体のCD3ζ鎖などによって提供される一次シグナルに加えて、活性化、増殖、分化、サイトカイン分泌などの(ただしこれらに限定されない)T細胞応答を媒介するシグナルをT細胞に提供するシグナル伝達部分が挙げられるが、これに限定されない。共刺激ドメインとして、CD27、CD28、4-1BB、OX40、CD30、CD40、ICOS、リンパ球機能関連抗原1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3などの分子全体、またはCD83と特異的に結合するリガンド全体、またはこれらの一部が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、共刺激ドメインは、他の細胞内メディエーターと相互作用することによって、活性化、増殖、分化およびサイトカイン分泌のいずれか1つ以上を含む細胞応答を媒介する細胞内シグナル伝達ドメインである。
【0065】
本明細書において、「マーカー配列」は、目的のタンパク質を有する細胞または目的のタンパク質を選択または追跡するために使用されるタンパク質をコードする。本明細書に記載の実施形態において、本明細書で提供される融合タンパク質は、フローサイトメトリーなどの実験において選択可能なマーカー配列を含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、マーカーは、Her2tG、CD19tまたはEGFRtである。
【0066】
本明細書において、「リボソームスキップ配列」は、翻訳中のリボソームにリボソームスキップ配列を「スキップ」させてペプチド結合の形成を妨げ、リボソームスキップ配列の直後の領域から翻訳させるという機能を有する配列を指す。例えば、いくつかのウイルスはリボソームスキップ配列を有することから、単一の核酸から複数のタンパク質を連続して翻訳することができ、翻訳されたタンパク質はペプチド結合によって連結されずに別個のタンパク質として得られる。本明細書において、リボソームスキップ配列は「リンカー」配列として使用される。本明細書で提供する核酸の実施形態のいくつかにおいて、本発明の核酸は、キメラ抗原受容体をコードする配列とマーカータンパク質をコードする配列との間にリボソームスキップ配列を含むことから、キメラ抗原受容体とマーカータンパク質は、ペプチド結合によって連結されずに共発現される。いくつかの実施形態において、前記リボソームスキップ配列は、P2A配列、T2A配列、E2A配列またはF2A配列である。いくつかの実施形態において、前記リボソームスキップ配列はT2A配列である。いくつかの実施形態において、2つのキメラ抗原受容体の間にリボソームスキップ配列が存在し、キメラ抗原受容体のうちの1つとマーカーの間に第2のリボソームスキップ配列が存在する。
【0067】
本明細書において、2,4-ジニトロフェノール(2,4-DNPまたは単にDNP)は、式HOC6H3(NO2)2で示される有機化合物であり、本明細書に照らせば、一般的な通常の意味を有する。DNPは、特に、防腐剤、非選択的な生物濃縮農薬、除草剤などとして使用されている。また、DNPは、硫化染料、木材用防腐剤およびピクリン酸の製造における中間体化学物質である。本明細書に記載の実施形態のいくつかにおいて、DNPは、脂質上の標的部分であり、キメラ抗原受容体によって認識され、キメラ抗原受容体の結合を受ける。いくつかの実施形態において、ハプテンは、DNPまたはその誘導体である。いくつかの実施形態において、脂質は、リン脂質(例えばエーテルリン脂質(PLE)など)である。
【0068】
本明細書で述べる「脂質」は、炭素鎖、脂肪酸または脂肪酸誘導体を含む有機化合物の1種であり、通常、水には溶解しないが、疎水性溶媒または有機溶媒に混和または混合することができる。脂質としては、脂肪、ワックス、脂溶性ビタミン、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、スフィンゴ脂質、セレブロシド、セラミド、またはリン脂質が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書では、極性頭部基と疎水性部分または疎水基を有していてもよい両親媒性脂質について述べている。本明細書で述べる「疎水基」すなわち疎水性部分は、水を反発し、極性を持たない傾向がある分子または分子の一部である。疎水性部分として、アルカン、油または脂肪を挙げることができる。また、脂質として、グリセロ脂質、グリセロリン脂質、スフィンゴ脂質、ステロール脂質、プレノール脂質、サッカロ脂質またはポリケチドを挙げることができるが、これらに限定されない。本明細書に記載の実施形態において、脂質を含む複合体を提供する。いくつかの実施形態において、前記脂質は、極性頭部基および疎水性部分を含む。いくつかの実施形態において、前記疎水性部分は、疎水性の炭素鎖テールである。いくつかの実施形態において、疎水性炭素鎖テールは、飽和炭素鎖テールまたは不飽和炭素鎖テールである。いくつかの実施形態において、疎水性炭素鎖テールは、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個もしくは25個の炭素原子、またはこれらの数値のいずれかによって定義される範囲内の数の炭素原子を含む。いくつかの実施形態において、前記疎水性部分は、ステロイドまたはコレステロールである。いくつかの実施形態において、前記脂質は、グリセロ脂質、グリセロリン脂質、スフィンゴ脂質、ステロール脂質、プレノール脂質、サッカロ脂質またはポリケチドを含む。いくつかの実施形態において、前記脂質はエーテルリン脂質である。いくつかの実施形態において、前記脂質は分岐アルキルテールを含む。
【0069】
いくつかの実施形態において、前記脂質はスフィンゴ脂質である。スフィンゴ脂質は、スフィンゴイド塩基からなる主鎖を含んでいてもよく、このような主鎖として、例えば、スフィンゴシンを含む一連の脂肪族アミノアルコールが挙げられる。R基が水素原子のみからなるスフィンゴ脂質は、セラミドである。一般的なその他のR基としては、ホスホコリン(R基がホスホコリンの場合、スフィンゴミエリンが得られる)、または様々な糖モノマーまたは糖ダイマー(R基が糖モノマーの場合はセレブロシドが得られ、R基が糖ダイマーの場合はグロボシドが得られる)が挙げられる。セレブロシドおよびグロボシドは、スフィンゴ糖脂質の総称で知られている。いくつかの実施形態において、前記脂質はスフィンゴ糖脂質である。
【0070】
本明細書によれば、前記脂質は、極性頭部基および疎水基を含む。いくつかの実施形態において、前記疎水基は、脂肪鎖などの脂肪酸を含む。前記脂肪酸は、飽和脂肪酸であってもよく、不飽和脂肪酸であってもよい。いくつかの実施形態において、前記疎水基は、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を含む。いくつかの実施形態において、前記疎水基は、ステロイドまたはコレステロールなどのテルペノイド脂質を含む。いくつかの実施形態において、前記疎水基は、エーテル結合を含み、該エーテル結合は、前記極性頭部基と前記脂肪鎖の間に位置する。いくつかの実施形態において、前記脂質はエーテルリン脂質である。いくつかの実施形態において、前記極性頭部基は、コリン、ホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、ホスホエタノールアミン基、オリゴ糖残基、糖残基、ホスファチジルセリンまたはホスファチジルイノシトールを含む。いくつかの実施形態において、前記糖はグリセロールまたは糖アルコールである。
【0071】
いくつかの実施形態において、前記脂質は単鎖アルキルリン脂質である。
【0072】
いくつかの実施形態において、前記脂質は、エデルホシン、ペリホシン、エルシルホスホコリンなどの、合成アルキルリン脂質構造を含む。いくつかの実施形態において、前記脂質は、リゾホスファチジルコリン、エデルホシン、エルシルホスホコリン、D-21805またはperfisoneである。このような脂質は、例えば、van der Luiら(“A new class of anticancer alkylphospholipids uses lipid rafts as membrane gateways to induce apoptosis in lymphoma cells” Mol Cancer Ther 2007; 6(8), 2007(この文献は引用によりその全体が本明細書に明示的に援用される))によって報告されている。本明細書に記載の脂質の実施形態のいくつかにおいて、極性頭部基内のコリンはピペリジン部分と置換することができる。いくつかの実施形態において、前記脂質は、抗がん性アルキルリン脂質である。抗がん性リン脂質は、van der Luiら(“A new class of anticancer alkylphospholipids uses lipid rafts as membrane gateways to induce apoptosis in lymphoma cells” Mol Cancer Ther 2007; 6(8), 2007(この文献は引用によりその全体が本明細書に明示的に援用される))によって報告されている。
【0073】
いくつかの実施形態において、本明細書で提供する脂質は、細胞膜と相互作用することを特徴とする構造上互いに関連した合成抗腫瘍剤類である。これらの合成脂質類はアルキルリン脂質であり、例えば、van Blitterswijkら(“Anticancer mechanisms and clinical application of alkylphopholipids” Biochimica et Biophysica Acta 1831 (2013)663-674(この文献は引用によりその全体が本明細書に援用される))によって報告されている。このような合成アルキルリン脂質として、エデルホシン、ミルテホシン、ペリホシン、エルシルホスホコリンまたはErufosineが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、前記脂質は、エデルホシン、ミルテホシン、ペリホシン、エルシルホスホコリンまたはErufosineである。いくつかの実施形態において、前記脂質は、リゾホスファチジルコリンの安定な類似体である。いくつかの実施形態において、前記脂質は、エデルホシンのチオエーテル結合バリアント、または1-ヘキサデシルチオ-2-メトキシメチル-rac-グリセロ-3-ホスホコリンである。いくつかの実施形態において、前記脂質は、LysoPC、エデルホシン、イルモホシン、ミルテホシン、ペリホシン、エルシルホスホコリンまたはErufosineである。
【0074】
本明細書で述べる「極性頭部基」は、脂質(リン脂質など)の親水基である。本明細書で述べる「リン脂質」は、両親媒性の特性を有することから、脂質二重層を形成することができる特別な種類の脂質である。リン脂質分子は、少なくとも1つの疎水性脂肪酸「テール」と、親水性の「頭部」すなわち「極性頭部基」を含む。本明細書の実施形態において、リン脂質またはエーテルリン脂質は極性頭部基を含む。いくつかの実施形態において、前記極性頭部基は、ホスホコリン、ピペリジン部分またはトリメチルアルセノエチルホスフェート部分を含む。いくつかの実施形態において、前記脂質は標的部分を含み、この標的部分はDNPであることが好ましく、CARは、該標的部分との相互作用を介して、前記脂質と連結されるか、または前記脂質と連結されるように構成されている。いくつかの実施形態において、前記脂質は、極性頭部基(例えば芳香環を含む極性頭部基)とアルキル炭素鎖を含む。本発明の実施形態において、1つ以上の前記脂質を含む複合体を提供する。いくつかの実施形態において、前記脂質は、極性頭部基を含む。いくつかの実施形態において、前記脂質はエーテルリン脂質である。いくつかの実施形態において、エーテルリン脂質は標的部分を含み、この標的部分はDNPであることが好ましく、CARは、該標的部分との相互作用および/または結合を介して、エーテルリン脂質と連結されるか、またはエーテルリン脂質と連結されるように構成されている。いくつかの実施形態において、エーテルリン脂質は、極性頭部基とアルキル炭素鎖を含む。いくつかの実施形態において、前記極性頭部基は、コリン、ホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、ホスホエタノールアミン基、オリゴ糖残基、糖残基、ホスファチジルセリンまたはホスファチジルイノシトールを含む。いくつかの実施形態において、前記極性頭部基は、ホスホコリン、ピペリジン部分またはトリメチルアルセノエチルホスフェート部分を含む。いくつかの実施形態において、前記脂質はエーテルリン脂質(PLE)である。いくつかの実施形態において、前記糖は、グリセロールまたは糖アルコールである。いくつかの実施形態において、前記極性頭部基は、糖類基を含む。いくつかの実施形態において、前記脂質は、マンノースを含む頭部基を含む。いくつかの実施形態において、前記極性頭部基は、スフィンゴシンを含む。いくつかの実施形態において、前記極性頭部基は、グルコースを含む。いくつかの実施形態において、前記極性頭部基は、二糖類、三糖類または四糖類を含む。いくつかの実施形態において、前記脂質は、グルコシルセレブロシドである。いくつかの実施形態において、前記脂質は、ラクトシルセラミドである。いくつかの実施形態において、前記脂質は糖脂質である。いくつかの実施形態において、前記糖脂質は、n-グルコース、n-ガラクトース、N-アセチル-n-ガラクトサミンなどの糖単位を含む。いくつかの実施形態において、前記脂質は、ステロールなどの炭化水素環を含む。
【0075】
いくつかの実施形態において、前記脂質の極性頭部基は、グリセロールまたは糖アルコールを含む。いくつかの実施形態において、前記脂質の極性頭部基は、リン酸基を含む。いくつかの実施形態において、前記脂質の極性頭部基は、コリンを含む。いくつかの実施形態において、前記脂質はホスファチジルエタノールアミンである。いくつかの実施形態において、前記脂質はホスファチジルイノシトールである。いくつかの実施形態において、前記脂質は、スフィンゴイド塩基からなる主鎖を含む。いくつかの実施形態において、前記脂質は、コレステロールまたはその誘導体などのステロール脂質を含む。いくつかの実施形態において、前記脂質はサッカロ脂質を含む。いくつかの実施形態において、前記極性頭部基は、コリン、リン酸塩またはグリセロールを含む。
【0076】
いくつかの実施形態において、前記脂質は糖脂質である。いくつかの実施形態において、前記脂質は糖類を含む。いくつかの実施形態において、前記脂質は、スフィンゴシンに由来するものである。いくつかの実施形態において、前記脂質は、グリセロ糖脂質またはスフィンゴ糖脂質である。
【0077】
いくつかの実施形態において、前記脂質は、疎水性分岐鎖を有するエーテル脂質である。
【0078】
本明細書で述べる「テルペノイド」は、5炭素イソプレン単位に由来する分子である。ステロイドおよびステロールは、テルペノイド前駆体から製造することができる。例えば、ステロイドおよびコレステロールは、テルペノイド前駆体から生合成することができる。
【0079】
本明細書で述べる「エーテルリン脂質(PLE)」は、極性頭部基の1つ以上の炭素原子が、より一般的なエステル結合ではなく、エーテル結合を介してアルキル鎖に結合された脂質である。いくつかの実施形態において、極性頭部基はグリセロールである。
【0080】
いくつかの種類の「スペーサー」が本明細書において述べられている。脂質に関して、脂質はスペーサーを含んでいてもよく、例えば、脂質の極性頭部基に連結されたスペーサーを含んでいてもよく、このスペーサーによって、標的部分(好ましくはDNP)が脂質から隔てられ、かつ該脂質に連結または会合された細胞からも隔てられることによって、所望の向きにすることができたり、立体障害を小さくして所望の自由度を得ることができる。脂質のスペーサーは、PEGスペーサー、ハプテンスペーサー、小さなペプチドまたはアルカン鎖を含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、ハプテンスペーサーは、2個のハプテン(ハプテン(2×)スペーサー)を含む。いくつかの実施形態において、脂質は、アルカン鎖などの疎水基を含む。いくつかの実施形態において、アルカン鎖は、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個もしくは18個の炭素原子、またはこれらの数値のいずれか2つを上下限とする範囲内の数の炭素原子を含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、前記PEGスペーサーは、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個もしくは16個のPEG分子、またはこれらの数値のいずれか2つを上下限とする範囲内の数のPEG分子を含む。スペーサーの長さおよびその種類は、細胞(例えばT細胞)上に提示された抗DNP CARに対して所望のアフィニティーまたはアビディティが得られる向きまたは近さで標的部分(好ましくはDNP)が提示されるように選択することが好ましい。
【0081】
本明細書において、「T細胞」または「Tリンパ球」は、どのような哺乳動物種から得られたものであってもよく、例えば、サル、イヌ、ヒトなどから得られたものであってもよく、霊長類から得られたものであることが好ましい。いくつかの実施形態において、T細胞は、レシピエント対象と同種(同種であるが別のドナーに由来するもの)である。いくつかの実施形態においては、T細胞は自家T細胞である(ドナーとレシピエントは同じである)。いくつかの実施形態において、T細胞は同系である(ドナーとレシピエントは異なるが、一卵性双生児である)。
【0082】
いくつかの実施形態において、前記T細胞は、抗原を経験したことのある「メモリー」T細胞(TM細胞)であることが好ましい。いくつかの実施形態において、前記細胞は前駆T細胞である。いくつかの実施形態において、前記前駆T細胞は造血幹細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、ナイーブCD8+T細胞、セントラルメモリーCD8+T細胞、エフェクターメモリーCD8+T細胞およびバルクCD8+T細胞からなる群から選択されるCD8+細胞傷害性Tリンパ球である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、ナイーブCD4+T細胞、セントラルメモリーCD4+T細胞、エフェクターメモリーCD4+T細胞およびバルクCD4+T細胞からなる群から選択されるCD4+ヘルパーTリンパ球である。
【0083】
本明細書において、「細胞傷害性Tリンパ球(CTL)」は、細胞表面上にCD8を発現するTリンパ球(例えばCD8+T細胞)を指す。いくつかの実施形態において、このような細胞は、抗原を経験したことのある「メモリー」T細胞(TM細胞)であることが好ましい。いくつかの実施形態において、融合タンパク質を分泌させるための細胞を提供する。いくつかの実施形態において、前記細胞は、細胞傷害性Tリンパ球である。本明細書において、「セントラルメモリー」T細胞(または「TCM」)は、抗原を経験した細胞傷害性Tリンパ球(CTL)であり、ナイーブ細胞と比較して、その表面上にCD62L、CCR-7および/またはCD45ROを発現するが、CD45RAを発現していないか、CD45RAの発現が低下しているCTLを指す。いくつかの実施形態において、融合タンパク質を分泌させるための細胞を提供する。いくつかの実施形態において、前記細胞はセントラルメモリーT細胞(TCM)である。
【0084】
いくつかの実施形態において、セントラルメモリー細胞は、ナイーブ細胞と比較して、CD62L、CCR7、CD28、CD127、CD45RO、および/またはCD95の発現が陽性であるが、CD54RAの発現が低下していることがある。本明細書において、「エフェクターメモリー」T細胞(または「TEM」)は、抗原を経験したT細胞であり、セントラルメモリー細胞と比較して、その表面上にCD62Lを発現していないか、CD62Lの発現が低下しており、ナイーブ細胞と比較して、CD45RAを発現していないか、CD45RAの発現が低下しているT細胞を指す。いくつかの実施形態において、融合タンパク質を分泌させるための細胞を提供する。いくつかの実施形態において、前記細胞はエフェクターメモリーT細胞である。いくつかの実施形態において、エフェクターメモリー細胞は、ナイーブ細胞またはセントラルメモリー細胞と比較して、CD62Lおよび/またはCCR7の発現が陰性であり、CD28および/またはCD45RAの発現が陽性であってもよく、陰性であってもよい。
【0085】
本明細書において、「ナイーブ」T細胞は、抗原を経験していないTリンパ球であり、セントラルメモリー細胞またはエフェクターメモリー細胞と比較して、CD62Lおよび/またはCD45RAを発現しており、CD45ROを発現していないTリンパ球を指す。いくつかの実施形態において、融合タンパク質を分泌させるための細胞を提供する。いくつかの実施形態において、前記細胞はナイーブT細胞である。いくつかの実施形態において、ナイーブCD8+Tリンパ球は、ナイーブT細胞の表現型マーカーの発現によって特徴付けられ、ナイーブT細胞の表現型マーカーとしては、CD62L、CCR7、CD28、CD127、および/またはCD45RAが挙げられる。
【0086】
本明細書において、「T細胞」または「Tリンパ球」は、どのような哺乳動物種から得られたものであってもよく、例えば、サル、イヌ、ヒトなどから得られたものであってもよく、霊長類から得られたものであることが好ましい。いくつかの実施形態において、T細胞は、レシピエント対象と同種(同種であるが別のドナーに由来するもの)である。いくつかの実施形態において、T細胞は自家T細胞である(ドナーとレシピエントは同じである)。いくつかの実施形態において、前記T細胞は同系である(ドナーとレシピエントは異なるが、一卵性双生児である)。
【0087】
本明細書において、「前駆T細胞」は、胸腺へと遊走して、前駆T細胞となることができるリンパ球前駆細胞を指し、前駆T細胞はT細胞受容体を発現しない。すべてのT細胞は、骨髄中の造血幹細胞に由来する。造血幹細胞由来の造血前駆細胞(リンパ球系前駆細胞)は胸腺に定着して細胞分裂により拡大増殖し、未熟な胸腺細胞の大集団を作り出す。ごく初期の胸腺細胞はCD4もCD8も発現せず、したがって、ダブルネガティブ(CD4-CD8-)細胞に分類される。これらはその発達が進むにつれて、ダブルポジティブ胸腺細胞(CD4+CD8+)となり、最終的にシングルポジティブ(CD4+CD8-またはCD4-CD8+)胸腺細胞に成熟して、その後、胸腺から末梢組織に放出される。
【0088】
本明細書において、「CD8 T細胞」または「キラーT細胞」は、がん細胞、ウイルス感染細胞、または損傷した細胞を殺傷することができるTリンパ球である。CD8 T細胞は、がん細胞またはウイルスによって産生されて免疫応答を刺激することができるタンパク質、または特異的抗原を認識する。CD8 T細胞のT細胞受容体が抗原を認識すると、このCD8 T細胞は提示された抗原に結合し、細胞を破壊することができる。
【0089】
本明細書において、「セントラルメモリーT細胞(TCM)」は、抗原を経験したCTLであり、ナイーブ細胞と比較して、その表面上にCD62LまたはCCR-7、およびCD45ROを発現するが、CD45RAを発現していないか、CD45RAの発現が低下しているCTLを指す。いくつかの実施形態において、セントラルメモリー細胞は、ナイーブ細胞と比較して、CD62L、CCR7、CD28、CD127、CD45RO、および/またはCD95の発現が陽性であり、CD54RAの発現が低下している。本明細書において、「エフェクターメモリー」T細胞(または「TEM」)は、抗原を経験したT細胞であり、セントラルメモリー細胞と比較して、その表面上にCD62Lを発現していないか、CD62Lの発現が低下しており、ナイーブ細胞と比較して、CD45RAを発現していないか、CD45RAの発現が低下しているT細胞を指す。いくつかの実施形態において、エフェクターメモリー細胞は、ナイーブ細胞またはセントラルメモリー細胞と比較して、CD62Lおよび/またはCCR7の発現が陰性であり、CD28および/またはCD45RAの発現が陽性であってもよく、陰性であってもよい。本明細書において、「エフェクターT細胞(TE細胞)」は、抗原を経験した細胞傷害性Tリンパ球であり、セントラルメモリーT細胞またはナイーブT細胞と比較して、CD62L、CCR7、および/またはCD28を発現していないか、CD62L、CCR7、および/またはCD28の発現が低下しており、かつグランザイムBおよび/またはパーフォリンが陽性であるTリンパ球を指す。いくつかの実施形態において、融合タンパク質を分泌させるための細胞を提供する。いくつかの実施形態において、前記細胞はエフェクターT細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、セントラルメモリーT細胞またはナイーブT細胞と比較して、CD62L、CCR7および/またはCD28を発現していないか、CD62L、CCR7および/またはCD28の発現が低下しており、かつグランザイムBおよび/またはパーフォリンが陽性である。
【0090】
本明細書で述べる「併用療法」とは、2種以上の薬剤または治療法を使用して治療を行うことを指す。また、併用療法は、例えば、単一の疾患を治療するために複数の治療法を使用することも指し、これを目的として複数の医薬製剤が併用されることが多い。さらに、併用療法は、別々の薬剤を処方および投与して2種以上の有効成分を投与することも含む。いくつかの実施形態において、腫瘍微小環境を改変するための遺伝子組換え免疫細胞を投与することを含む併用療法を提供する。いくつかの実施形態において、前記併用療法は、腫瘍微小環境における免疫応答の抑制を調節するための遺伝子組換え免疫細胞を投与することを含む。いくつかの実施形態において、前記併用療法は、腫瘍細胞および免疫抑制細胞の増殖を最小限に抑えるための遺伝子組換え免疫細胞を、これを必要とする対象(例えばヒト)に投与することを含む。いくつかの実施形態において、前記併用療法は、抗がん療法、抗感染症療法、抗細菌療法、抗ウイルス療法または抗腫瘍療法の効率を向上させるための遺伝子組換え免疫細胞を、これを必要とする対象(例えばヒト)に投与することを含む。いくつかの実施形態において、前記併用療法は、阻害剤を投与することをさらに含む。いくつかの実施形態において、前記阻害剤は酵素阻害物質ではない。いくつかの実施形態において、前記阻害剤は酵素阻害剤である。いくつかの実施形態において、前記併用療法は、阻害剤または抗体もしくはその結合断片の治療投与量を投与することを含む。いくつかの実施形態において、前記抗体またはその結合断片は、ヒト化されていてもよい。いくつかの実施形態において、前記併用療法は、CAR発現T細胞を、これを必要とする対象(例えばヒト)に投与することをさらに含む。
【0091】
本明細書で述べる「対象」または「患者」は、例えば、実験、診断、予防および/または治療を目的として、本明細書に記載の実施形態を使用または投与してもよいあらゆる生物を指す。対象または患者として、例えば、動物が挙げられる。いくつかの実施形態において、前記対象は、マウス、ラット、ウサギ、非ヒト霊長類またはヒトである。いくつかの実施形態において、前記対象は、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマ、イヌ、ネコ、霊長類またはヒトである。
【0092】
本明細書で述べる「がん」は、体内の他の部位に浸潤または拡散することがある異常細胞の増殖を伴う疾患群である。本明細書に記載の方法を用いて処置することができる対象としては、がんを有すると特定または選択された対象が挙げられ、該がんとしては、大腸がん、肺がん、肝臓がん、乳がん、腎臓がん、前立腺がん、卵巣がん、皮膚がん(悪性黒色腫を含む)、骨がん、白血病、多発性骨髄腫、または脳腫瘍などが挙げられるが、これらに限定されない。がん患者の特定および/または選択は、臨床的評価または診断的評価によって行うことができる。いくつかの実施形態においては、腫瘍関連抗原または腫瘍関連分子が知られており、該腫瘍としては、悪性黒色腫、乳がん、脳腫瘍、扁平上皮腫、大腸がん、白血病、骨髄腫、または前立腺がんなどが挙げられる。前記がんとしては、B細胞リンパ腫、乳がん、脳腫瘍、前立腺がん、および/または白血病が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、1種以上の腫瘍形成性ポリペプチドが、腎臓がん、子宮がん、大腸がん、肺がん、肝臓がん、乳がん、腎臓がん、前立腺がん、卵巣がん、皮膚がん(悪性黒色腫を含む)、骨がん、脳腫瘍、腺癌、膵臓がん、慢性骨髄性白血病または白血病に関連している。
【0093】
いくつかの実施形態において、対象において、前述のがんの1種以上を治療、緩和または抑制する方法を提供する。いくつかの実施形態において、前記がんは、乳がん、卵巣がん、肺がん、膵臓がん、前立腺がん、悪性黒色腫、腎臓がん、膵臓がん、神経膠芽腫、神経芽腫、髄芽腫、肉腫、肝臓がん、大腸がん、皮膚がん(悪性黒色腫を含む)、骨がんまたは脳腫瘍である。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の治療法のいずれかの投与を受ける対象、例えば、本明細書に記載の、DNPに対して選択的なアビディティを有するCARを有するT細胞とDNP-PLEの投与を受ける対象は、さらに、別のがん療法を実施するために選択され、この別のがん療法として、がん治療薬、放射線療法、化学療法またはがん療法薬が挙げられる。いくつかの実施形態において、提供されるがん療法薬として、アビラテロン、アレムツズマブ、アナストロゾール、アプレピタント、三酸化ヒ素、アテゾリズマブ、アザシチジン、ベバシズマブ、ブレオマイシン、ボルテゾミブ、カバジタキセル、カペシタビン、カルボプラチン、セツキシマブ、化学療法薬の組み合わせ、シスプラチン、クリゾチニブ、シクロホスファミド、シタラビン、デノスマブ、ドセタキセル、ドキソルビシン、エリブリン、エルロチニブ、エトポシド、エベロリムス、エキセメスタン、フィルグラスチム、フルオロウラシル、フルベストラント、ゲムシタビン、イマチニブ、イミキモド、イピリムマブ、イクサベピロン、ラパチニブ、レナリドミド、レトロゾール、ロイプロリド、メスナ、メトトレキサート、ニボルマブ、オキサリプラチン、パクリタキセル、パロノセトロン、ペムブロリズマブ、ペメトレキセド、プレドニゾン、ラジウム223、リツキシマブ、Sipuleucel-T、ソラフェニブ、スニチニブ、タルク胸膜腔内注入用懸濁剤、タモキシフェン、テモゾロミド、テムシロリムス、サリドマイド、トラスツズマブ、ビノレルビンまたはゾレドロン酸が挙げられる。
【0094】
本明細書で述べる「腫瘍微小環境」は、腫瘍が存在する細胞環境である。腫瘍微小環境には、周囲血管、免疫細胞、線維芽細胞、骨髄由来の炎症性細胞、リンパ球、シグナル伝達分子または細胞外マトリックス(ECM)が含まれうるが、これらに限定されない。
【0095】
CARをコードする特定の核酸
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、PLE分子に会合または連結されたDNP部分に特異的なCARをコードする1つ以上の核酸を含む。いくつかの実施形態において、DNP部分は、抗体または葉酸に会合または連結されている。いくつかの実施形態において、DNP部分は、抗DNP CAR(T細胞上の抗DNP CARまたは抗DNP CARの構成要素(リガンド結合ドメインなど))に対して所望のアフィニティーまたはアビディティが得られる向きまたは近さで細胞外の細胞表面上に提示されている。いくつかの実施形態において、CARは、DNP部分に結合する選択されたリガンド結合ドメイン、所望の長さの選択されたスペーサー、膜貫通ドメイン、および細胞内シグナル伝達ドメインを含む。このCARは、腫瘍細胞に会合または付着していてもよいDNP-PLEに対するアフィニティーまたはアビディティが所望の程度まで向上するような向き、またはこのDNP-PLEに対して所望のアフィニティーまたはアビディティが得られる向きで、T細胞の表面上に提示されることが好ましい。
【0096】
いくつかの実施形態において、1つ以上の核酸は、本明細書に記載の1つ以上のCARのリガンド結合ドメインをコードし、このリガンド結合ドメインは、抗体に由来するVH配列とVL配列を含むscFvドメインを含む。いくつかの実施形態において、このVH配列およびVL配列は、リンカーを介して連結されている。表1は、一連のCARの実施形態の例を示し、表2は、特定のCARの構成要素の配列を示す。具体的には、表2は、本明細書に記載の1つ以上の核酸によってコードされるVH配列、VL配列およびリンカーの実施形態の例を示している。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の1つ以上のCARのリガンド結合ドメインをコードする1つ以上の核酸は、配列番号1~12のいずれかに示されるアミノ酸配列と少なくとも70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の同一性を有するアミノ酸配列を含むリガンド結合ドメインをコードする。いくつかの実施形態において、前記1つ以上の核酸は、配列番号1~12のいずれかに示されるアミノ酸配列を含むリガンド結合ドメインをコードする。いくつかの実施形態において、前記1つ以上の核酸は、配列番号1、2、9または10に示されるアミノ酸配列と少なくとも70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の同一性を有するアミノ酸配列を含むリガンド結合ドメインをコードする。
【表1】
【表2-1】

【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【表2-5】
【0097】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の1つ以上の核酸は、2~12個の連続したアミノ酸残基を有する短いスペーサーを含む。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の1つ以上の核酸は、2~119個の連続したアミノ酸残基を有する中程度の長さのスペーサーをコードする。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の1つ以上の核酸は、119個を超える個数の連続したアミノ酸残基を有する長いスペーサーをコードする。いくつかの実施形態において、この長いスペーサーは、2~229個の連続したアミノ酸残基を有する。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の核酸は、IgG4ヒンジドメインを含む短いスペーサー、IgG4ヒンジ-CH3ドメインを含む中程度の長さのスペーサー、およびIgG4ヒンジ-CH2-CH3ドメインを含む長いスペーサーからなる群から選択されるスペーサーをコードする。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の核酸は、長いスペーサーをコードする。
【0098】
いくつかの実施形態において、前記膜貫通ドメインは、CD28の膜貫通ドメインを含む。
【0099】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の核酸は、CD3ζの一部および/または4-1BBの一部を含む細胞内シグナル伝達ドメインをコードする。
【0100】
いくつかの実施形態は、選択用遺伝子、細胞表面選択マーカー、または切断可能なリンカーをコードするポリヌクレオチドをさらに含む。いくつかの実施形態において、前記選択用遺伝子は、ジヒドロ葉酸レダクターゼの二重変異体(DHFRdm)を含む。いくつかの実施形態において、前記細胞表面選択マーカーは、切断型EGFR(EGFRt)、切断型Her2(Her2tG)および切断型CD19(CD19t)からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、前記切断可能なリンカーは、P2A、T2A、E2AおよびF2Aからなる群から選択されるリボソームスキップ配列を含む。
【0101】
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、本明細書で提供される核酸のいずれか1つを含むベクターを含む。いくつかの実施形態において、前記ベクターは、レンチウイルスベクターを含む。
【0102】
特定のCAR
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、DNP部分に特異的に結合するCARを含む。いくつかの実施形態において、前記DNP部分は、PLE分子と会合している。いくつかの実施形態において、前記DNP部分は、抗体または葉酸と会合している。いくつかの実施形態において、前記CARは、本明細書で提供される核酸のいずれか1つ以上によってコードされる。
【0103】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の、本発明で使用されるCARのリガンド結合ドメインは、抗体に由来するVH配列とVL配列を含むscFvドメインを含む。いくつかの実施形態において、このVH配列およびVL配列は、リンカーを介して連結されている。本明細書に記載の1つ以上のCARにおいて使用されるVH配列、VL配列およびリンカーの例を表2に示す。いくつかの実施形態において、本明細書に記載のCARのリガンド結合ドメインは、配列番号1~12のいずれかに示されるアミノ酸配列と少なくとも70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、本明細書に記載のCARのリガンド結合ドメインは、配列番号1~12のいずれかに示されるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、本明細書に記載のCARのリガンド結合ドメインは、配列番号1または2に示されるアミノ酸配列と少なくとも70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、本明細書に記載のCARのリガンド結合ドメインは、配列番号1、2、9または10に示されるアミノ酸配列と少なくとも70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0104】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のCARは、2~12個の連続したアミノ酸残基を有する短いスペーサーを含む。いくつかの実施形態において、本明細書に記載のCARは、2~119個の連続したアミノ酸残基を有する中程度の長さのスペーサーを含む。いくつかの実施形態において、本明細書に記載のCARは、119個を超える個数の連続したアミノ酸残基を有する長いスペーサーを含む。いくつかの実施形態において、本明細書に記載のCARは、2~229個の連続したアミノ酸残基を有する長いスペーサーを含む。いくつかの実施形態において、本明細書に記載のCARは、IgG4ヒンジドメインを含む短いスペーサー、IgG4ヒンジ-CH3ドメインを含む中程度の長さのスペーサー、およびIgG4ヒンジ-CH2-CH3ドメインを含む長いスペーサーからなる群から選択されるスペーサーを含む。いくつかの実施形態において、本明細書に記載のCARは、長いスペーサーを含む。
【0105】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のCARは、CD28の膜貫通ドメインを含む膜貫通ドメインを含む。いくつかの実施形態において、本明細書に記載のCARは、CD3ζの一部および/または4-1BBの一部を含む細胞内シグナル伝達ドメインを含む。
【0106】
いくつかの実施形態において、DNP部分は、細胞(例えばT細胞)によって提示されてもよいCAR上に提示された抗体またはその抗原結合断片に結合している。
【0107】
いくつかの実施形態において、前記DNP部分は脂質に連結されている。いくつかの実施形態において、前記脂質は、極性頭部基と疎水基を含む。いくつかの実施形態において、前記極性頭部は、コリン、ホスファチジルコリン、ホスホコリン、スフィンゴミエリン、ホスホエタノールアミン、糖残基、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ピペリジン、およびトリメチルアルセノエチルホスフェートから選択される基を含む。いくつかの実施形態において、前記疎水基は、脂肪鎖またはテルペノイド部分を含む。いくつかの実施形態において、前記疎水基はエーテル結合を含み、該エーテル結合は、前記極性頭部基と前記脂肪鎖の間に位置する。いくつかの実施形態において、前記脂肪鎖は、C10-20アルキル鎖を含む。いくつかの実施形態において、前記脂質はPLEである。脂質に連結されたDNP部分の一実施形態を図1に示す。
【0108】
CARを含む特定の細胞
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、本明細書で提供されるCARのいずれか1つを含む細胞、および/または本明細書で提供されるCARをコードする核酸のいずれか1つを含む細胞を含む。
【0109】
いくつかの実施形態において、前記細胞は、CD4+T細胞、CD8+T細胞、前駆T細胞または造血幹細胞に由来するものである。いくつかの実施形態において、前記CD8+T細胞は、ナイーブCD8+T細胞、セントラルメモリーCD8+T細胞、エフェクターメモリーCD8+T細胞およびバルクCD8+T細胞からなる群から選択されるCD8+細胞傷害性Tリンパ球である。いくつかの実施形態において、前記セントラルメモリーCD8+T細胞は、CD45RO陽性かつCD62L陽性である。いくつかの実施形態において、前記CD4+T細胞は、ナイーブCD4+T細胞、セントラルメモリーCD4+T細胞、エフェクターメモリーCD4+T細胞およびバルクCD4+T細胞からなる群から選択されるCD4+ヘルパーTリンパ球である。いくつかの実施形態において、前記ナイーブCD4+T細胞は、CD45RA陽性、CD62L陽性かつCD45RO陰性である。
【0110】
いくつかの実施形態において、前記細胞はエクスビボの細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞はインビボの細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は哺乳動物細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞はヒト細胞である。
【0111】
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、本明細書に記載のCARの1つ以上を含む細胞集団を作製することを含む。いくつかの実施形態において、本明細書に記載のCARを含む細胞集団は、この細胞集団を必要とする対象(例えばがん患者)に投与される輸液に組み込まれる。いくつかの実施形態は、本明細書で提供されるCARまたはその構成要素をコードする核酸のいずれか1つ以上を導入することを含む。いくつかの実施形態は、輸液に十分な数の細胞集団を得るのに適した条件で前記細胞を培養することをさらに含む。
【0112】
特定の治療法
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、対象においてがんを治療、抑制または緩和する方法を含む。このような方法のいくつかは、本明細書で提供される抗DNP CAR T細胞のいずれか1つを対象に投与する工程を含み、診断評価もしくは臨床評価またはその両方に基づいて、このような治療法を受ける対象を選択する工程を含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、前記抗DNP CAR T細胞は、DNP部分を含む抗腫瘍抗原抗体もしくはその抗原結合断片またはDNP-PLEなどの、DNP部分を含む組成物と組み合わせて対象に投与される。
【0113】
いくつかの実施形態において、前記細胞を投与した後に、DNP部分を含む抗腫瘍抗原抗体もしくはその抗原結合断片またはDNP-PLEなどのDNP部分を投与する。いくつかの実施形態において、DNP部分を含む抗腫瘍抗原抗体もしくはその抗原結合断片またはDNP-PLEなどのDNP部分を投与した後に、前記細胞を投与する。いくつかの実施形態において、DNP部分を含む抗腫瘍抗原抗体もしくはその抗原結合断片またはDNP-PLEなどのDNP部分と前記細胞とを同時に投与する。
【0114】
いくつかの実施形態において、DNP部分を含む組成物(DNP-PLEなど)は、がんを標的とするように構成されているか、がんを標的とするのに適している。別の態様として、いくつかの実施形態では、DNP部分は、がんに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片に連結されている。
【0115】
前記DNP部分は脂質に連結されていることが好ましい。いくつかの実施形態において、前記脂質は、極性頭部基と疎水基を含む。いくつかの実施形態において、前記極性頭部は、コリン、ホスファチジルコリン、ホスホコリン、スフィンゴミエリン、ホスホエタノールアミン、糖残基、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ピペリジン、およびトリメチルアルセノエチルホスフェートから選択される基を含む。いくつかの実施形態において、前記疎水基は、脂肪鎖またはテルペノイド部分を含む。いくつかの実施形態において、前記疎水基はエーテル結合を含み、該エーテル結合は、前記極性頭部基と前記脂肪鎖の間に位置する。いくつかの実施形態において、前記脂肪鎖はC10-20アルキル鎖を含む。いくつかの実施形態において、前記脂質はPLEである。
【0116】
いくつかの実施形態において、前記がんは、乳がん細胞、脳腫瘍細胞、大腸がん細胞、腎臓がん細胞、膵臓がん細胞および卵巣がん細胞からなる群から選択される標的細胞を含む。
【0117】
いくつかの実施形態において、前記抗DNP CAR T細胞は、前記対象から得られた自家細胞である。いくつかの実施形態において、前記対象は哺乳動物である。いくつかの実施形態において、前記対象はヒトである。
【0118】
特定の組成物、システムおよびキット
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、本明細書で提供される抗DNP CARのいずれか1つと、標的細胞に付着させたジニトロフェノール(DNP)部分とを含む組成物であって、前記CARが、前記DNP部分に特異的に結合することを特徴とする組成物を含む。
【0119】
いくつかの実施形態において、前記DNP部分は、前記標的細胞に結合する抗体またはその抗原結合断片を介して、該標的細胞に付着している。
【0120】
いくつかの実施形態において、前記DNP部分は、前記標的細胞の表面に組み込まれた脂質を介して、該標的細胞の表面に付着している。いくつかの実施形態において、前記脂質は、極性頭部基と疎水基を含む。いくつかの実施形態において、前記極性頭部は、コリン、ホスファチジルコリン、ホスホコリン、スフィンゴミエリン、ホスホエタノールアミン、糖残基、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ピペリジン、およびトリメチルアルセノエチルホスフェートから選択される基を含む。いくつかの実施形態において、前記疎水基は、脂肪鎖またはテルペノイド部分を含む。いくつかの実施形態において、前記疎水基はエーテル結合を含み、該エーテル結合は、前記極性頭部基と前記脂肪鎖の間に位置する。いくつかの実施形態において、前記脂肪鎖は、C10-20アルキル鎖を含む。いくつかの実施形態において、前記脂質はPLEである。
【0121】
いくつかの実施形態において、前記標的細胞はがん細胞である。いくつかの実施形態において、前記がん細胞は、乳がん細胞、脳腫瘍細胞、大腸がん細胞、腎臓がん細胞、膵臓がん細胞および卵巣がん細胞からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、前記標的細胞はエクスビボの細胞である。いくつかの実施形態において、前記標的細胞はインビボの細胞である。いくつかの実施形態において、前記標的細胞は哺乳動物細胞である。いくつかの実施形態において、前記標的細胞はヒト細胞である。
【0122】
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、抗DNP CARをコードする核酸のいずれか1つと、DNP部分を含む組成物とを含むシステムおよび/またはキットを含む。いくつかの実施形態において、前記DNP部分は、抗体またはその抗原結合断片に連結されている。いくつかの実施形態において、前記DNP部分は脂質に連結されている。
【実施例
【0123】
実施例1-DNP-PLEで標識された細胞に結合する抗DNP抗体
50nM、500nMまたは5μMのDNP-PLEを含む完全培地の存在下で腺癌由来MDA-MB-231細胞を一晩インキュベートした。MDA-MB-231細胞を抗DNP-Alexa Fluor 488抗体と接触させた後、フローサイトメトリーを実施することによって、細胞膜へのDNP-PLEの組み込みを分析した。対照細胞では、未処理のMDA-MB-231細胞と抗DNP-Alexa Fluor 488抗体で染色したMDA-MB-231細胞の間でシフトは観察されなかった(図2A)。5μMのDNP-PLEで処理した細胞では、未処理の対照細胞から処理した細胞への明らかなシフトが観察された(図2B)。50nMのDNP-PLEで処理した細胞では、未処理の対照細胞から処理した細胞へのシフトはこれよりも小さいことが観察された(図2D)。500nMのDNP-PLEで処理した細胞では、未処理の対照細胞から処理した細胞へのシフトはこれらの中間であった(図2C)。図2A図2Dに示したデータのヒストグラムを図2Eに示す。
【0124】
さらなる研究では、1μMまたは5μMのDNP-PLEとともにMDA-MB-231細胞を一晩インキュベートした後、洗浄し、共焦点顕微鏡法で撮影し、細胞のどこにDNP-PLEが組み込まれたのかを確認した。核はDAPIで染色し(i)、細胞表面はコムギ胚芽凝集素(WGA)で染色し(ii)、DNPは抗DNP-Alexa Fluor 488抗体で染色した(iii)。図3Aは、抗DNP-Alexa Fluor 488抗体とともにインキュベートしたMDA-MB-231対照細胞の共焦点画像を示す。図3Bは、5μMのDNP-PLEとともにインキュベートしたMDA-MB-231細胞の共焦点画像を示す。図3Cは、5μMのDNP-PLEとともにインキュベートし、抗DNP-Alexa Fluor 488抗体で染色したMDA-MB-231細胞の共焦点画像を示す。図3Dは、1μMのDNP-PLEとともにインキュベートし、抗DNP-Alexa Fluor 488抗体で染色したMDA-MB-231細胞の共焦点画像を示す。抗DNP抗体による染色は、細胞表面に局在することが特定されたことから(iii)、DNP-PLEが細胞表面に組み込まれたことが確認された(図3C図3D)。さらに、この研究から、DNP部分が抗体の結合によってアクセス可能であることが確認された。
【0125】
実施例2-抗DNP CARの作製
図4は、一例としての、抗DNP CARをコードするポリヌクレオチドの構成要素を示す。この抗DNP CARは、リーダー配列、抗DNP scFvを含むリガンド結合ドメイン、スペーサー、CD28の膜貫通ドメイン、41BBドメインとCD3ζドメインを含む細胞内共刺激ドメイン、P2A配列、DHFRdmを含む選択マーカー、T2A配列、およびEGFRtを含む細胞表面選択マーカーを含む。
【0126】
様々な抗DNP CARをコードする一連のポリヌクレオチドを調製する。これらのポリヌクレオチドのいくつかは、長いスペーサー、中程度の長さのスペーサー、短いスペーサーなどの、スペーサーが異なる様々なCARをコードする。また、これらのポリヌクレオチドのいくつかは、抗DNPリガンド結合ドメインが異なる様々なCARをコードし、例えば、様々な抗DNP抗体に由来する様々なscFvを有するCARをコードする(例えばBrunger, A.T., et al., (1991) Journal of Molecular Biology, 5:239-56を参照されたい(この文献は引用によりその全体が本明細書に援用される))。リガンド結合ドメインのいくつかは、VH配列とVL配列を含む。また、リガンド結合ドメインの別のいくつかは、リンカーで連結されたVH配列とVL配列を含む。表1は、調製される一連のCARを示し、表2は、これらのCARの構成要素の配列を示している。例えば、長いスペーサーを有するAb-1(1BAF)のVH-リンカー-VLからなるリガンド結合ドメインを含むCARは、NH末端からCOOH末端の方向に、[配列番号29、GM-CSFのシグナル配列][配列番号1、抗DNP scFv(Ab-1;1BAF)のVH][配列番号19、リンカー][配列番号2、抗DNP scFv(Ab-1;1BAF)のVL][配列番号:20、長いスペーサー:IgG4ヒンジ-CH2(L235D)-CH3][配列番号23、CD28tm][配列番号24、4-1BB][配列番号25、CD3ζ][P2Aの核酸][配列番号28、DHFRdm]および[配列番号28、GM-CSF受容体のシグナル配列に連結されたEGFRt]からなるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを含む。
【0127】
実施例3-抗DNP CAR T細胞の作製
長いスペーサーを有する抗DNP CARをコードするポリヌクレオチドをH9細胞(CD4+CD3+皮膚Tリンパ球)に形質導入した。形質導入した細胞をメトトレキサートで選択した。フローサイトメトリーを用いて、形質導入細胞上のEGFRt細胞表面マーカーの有無を定量的に評価することによって形質導入効率を測定した。フローサイトメトリープロットから、92%が陽性の抗DNP CAR H9集団が示された。
【0128】
実施例4-DNP-PLEで標識された細胞に結合する抗DNP CAR
5μMのDNP-PLEとともにMDA-MB-231細胞を一晩インキュベートし、洗浄し、抗DNP CAR T細胞と共培養した。共焦点顕微鏡法で細胞を撮影し、抗DNP CAR T細胞とDNP標識細胞の間の相互作用を確認した。核はDAPIで染色し(i)、細胞表面はコムギ胚芽凝集素(WGA)で染色し(ii)、DNPは抗DNP-Alexa Fluor 488抗体で染色した((iii)および(iv))。さらに、抗CD3抗体(赤色)を用いて、H9 CAR T細胞とMDA-MB-231細胞を識別した。各カラー画像の下に、共焦点画像全体を構成する各層、すなわち、核(i)、細胞表面(ii)、DNP-PLE(iii)および(iv)抗DNP CAR H9細胞をグレースケールで示している。
【0129】
抗DNP CAR H9細胞と共培養した非標識MDA-MB-231対照細胞を図5Aに示す。この図では、MDA-MB-231細胞とH9細胞の間での結合は認められなかった。図5Aの左上の画像は、(i)~(iv)の画像をすべて重ね合わせた共焦点画像を示す。抗DNP CAR H9細胞と共培養したDNP-PLE標識MDA-MB-231細胞を図5Bに示す。この図では、MDA-MB-231細胞とH9細胞の間での相互作用が認められた。図5Bの左上の画像は、(i)~(iv)の画像をすべて重ね合わせた共焦点画像を示す。図5Bでは、細胞間のシナプス形成が示されたことから、標的細胞の表面に露出したDNPが抗DNP CARによって認識されたことが確認された。この研究から、抗DNP CARがDNPで標識した細胞に結合できることが確認された。
【0130】
実施例5-インビトロにおける抗DNP CARの活性
クロム放出アッセイとサイトカイン産生アッセイを利用して、インビトロにおける抗DNP CARの活性を測定する。例えば、Gonzalez, S., Naranjo, A., Serrano, L. M., Chang, W.-C., Wright, C. L., & Jensen, M. C. (2004). Genetic engineering of cytolytic T lymphocytes for adoptive T-cell therapy of neuroblastoma. The Journal of Gene Medicine, 6(6), 704-711を参照されたい(この文献は引用によりその全体が本明細書に明示的に援用される)。
【0131】
クロム放出アッセイを行うには、標的細胞を51Crとともに一晩インキュベートする。DNP-PLEで標識する標的細胞には、培地にDNP-PLEをさらに加えて、51Crとともに一晩インキュベートする。翌日、標的細胞を洗浄し、5000個/ウェルの濃度で96ウェルプレートに播種する。エフェクター細胞としての、CD8+抗DNP CAR T細胞およびmock T細胞(通常、急速拡大培養法の8~16日目のもの)を洗浄し、E:T比を様々に変えて(30:1、10:1、3:1、1:1)、標的細胞とともに3連で播種し、37℃で4時間共培養する。また、対照としての51Crの放出を評価するため、何も添加していない培地に各標的細胞株を播種する。さらに、51Crの最大放出を評価するため、各標的細胞株を播種し、2%SDSで溶解する。対照群は6連で実験を行う。共培養後、上清を採取し、LUMAプレートに播種し、一晩かけて乾燥させる。翌日、Top Countシンチレーションカウンターで試料を測定する。特異的溶解率は以下の式で計算する。
【数1】
【0132】
クロム放出アッセイでは、様々な抗DNP CAR T細胞の相対的な溶解活性レベルを、DNPで標識された細胞に対して測定する。非標識K562対照細胞は、抗DNP CAR T細胞と接触させても溶解が誘導されない。陽性対照として、TCRを介してT細胞を活性化するOKT3細胞を使用する。抗DNP CAR T細胞は、DNPで標識された細胞の特異的な溶解を誘導する。
【0133】
サイトカイン放出アッセイを行う。DNP-PLEで標識する標的細胞には、培地にDNP-PLEを加えて一晩インキュベートする。翌日、すべての標的細胞を回収し、洗浄し、5×104個/ウェルの濃度で96ウェルプレートに播種する。エフェクター細胞としての、CD8+抗DNP CAR T細胞およびmock T細胞(通常、急速拡大培養法の8~16日目のもの)を洗浄し、標的細胞とともに播種し(1×105個/ウェル)、37℃で24時間共培養する。24時間後に上清を採取し、Bio-Plex(登録商標)200システム(バイオ・ラッド)を使用して、上清中のIFN-γ、TNF-αおよびIL-2の濃度を測定する。抗DNP CAR T細胞により放出されたサイトカイン量を測定する。DNP標識細胞では、抗DNP CAR T細胞との接触により、IFN-γ、IL-2およびTNF-αの放出が誘導される。
【0134】
実施例6-インビボでのDNP-PLEによるターゲティングとDNP-PLEの組み込み
インビボの腫瘍部位におけるDNP-PLEによるターゲティングとDNP-PLEの取り込みを試験する。マウス群への頭蓋内注射により神経膠芽腫(U87細胞)を樹立した後、DNP-PLEをマウスに静脈内注射する。DNP-PLE注射後の様々な時点において、マウスを屠殺し、脳を摘出する。具体的には、神経膠芽腫の同所性異種移植片を有するマウスに、DNP-PLEを静脈内投与し、14日間にわたり脳を評価する。48時間後に脳の組織切片を作製する。核はDAPIで染色する。さらに、蛍光標識した抗DNP抗体を用いて染色を行い、細胞膜に組み込まれたDNP-PLEが利用可能かどうかを調べる。神経膠芽腫は、同じ対象の腫瘍がない対側脳半球と比べて、過剰量のDNP-PLEを保持している。蛍光画像では、正常な健常組織と比べて腫瘍は非常に明るく示される。この結果から、腫瘍の細胞膜にDNP-PLEが選択的に取り込まれ、DNP部分が結合に利用可能であることが確認される。
【0135】
腺癌細胞(MDA-MB-231)または骨肉腫細胞(143B)をマウスの脇腹に注射して腫瘍を樹立することによって、類似した研究を行う。各マウス群において、皮下注射により腫瘍を樹立した後、DNP-PLEをマウスに静脈内注射する。DNP-PLE注射後の様々な時点において、マウスを屠殺し、腫瘍を摘出する。腫瘍を採取し、蛍光標識した抗DNP抗体を用いて速やかに撮影し、DNP-PLEの有無を確認する。3種のがんのいずれにおいても、DNP-PLEが特異的に取り込まれ、数日にわたってDNP-PLEが保持されることが示される。
【0136】
実施例7-インビボでの抗DNP CARの活性
異種移植片モデルを使用して、インビボでの抗DNP CARの活性を測定する。マウスへの頭蓋内注射により、神経芽腫(Be2)または神経膠腫(U87、U251TもしくはT98)を樹立する。DNP-PLEの頭蓋内注射と、抗DNP CAR T細胞の頭蓋内注射をマウスに行う。対照群には、抗DNP CAR T細胞のみを頭蓋内注射する。DNP-PLEの頭蓋内注射と組み合わせて抗DNP CAR T細胞の頭蓋内注射を行ったマウスでは、対照群と比べて生存率が上昇し、腫瘍負荷が経時的に軽減され、かつ/または腫瘍体積が減少する。
【0137】
腺癌細胞(MDA-MB-231)をマウスの脇腹に注射して腫瘍を樹立することによって、類似した研究を行う。対照群以外の各マウス群において、皮下注射により腫瘍を樹立した後、DNP-PLEをマウスに静脈内注射する。次に、抗DNP CAR T細胞をマウスに静脈内投与する。DNP-PLEを静脈内注射したマウスでは、対照群と比べて生存率が上昇し、腫瘍負荷が経時的に軽減され、かつ/または腫瘍体積が減少する。
【0138】
本明細書で使用されている「含む(comprising)」という用語は、「含む(including)」、「含む(containing)」または「特徴とする(characterized by)」という用語と同義であるとともに、オープンエンドで包括的な意味であり、本明細書には記載されていないさらなる要素や工程を除外するものではない。
【0139】
前述の説明は、本発明のいくつかの方法および材料を開示するものである。本発明の方法および材料は、変更することができ、製造方法および器具も変更することができる。このような変更は、本明細書に開示された本発明の実施または本開示を考慮に入れて、当業者であれば容易に理解することができる。したがって、本発明は、本明細書に開示された特定の実施形態に限定されず、本発明の真の範囲および要旨において可能なあらゆる変更およびその他の実施形態を包含する。
【0140】
本明細書において引用された公開特許出願、非公開特許出願、特許および学術文献を含む(ただしこれらに限定されない)すべての参考文献は、引用によりその全体が本明細書に援用され、本明細書の一部を構成する。引用により援用された文献、特許または特許出願が本明細書の開示内容と矛盾する場合、このような矛盾事項よりも本明細書の記載が採用および/または優先される。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5A
図5B
【配列表】
2023513157000001.app
【国際調査報告】