IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エレックス メディカル プロプライエタリー リミテッドの特許一覧

特表2023-513178直接レーザ線維柱帯形成方法及び装置
<>
  • 特表-直接レーザ線維柱帯形成方法及び装置 図1
  • 特表-直接レーザ線維柱帯形成方法及び装置 図2
  • 特表-直接レーザ線維柱帯形成方法及び装置 図3a
  • 特表-直接レーザ線維柱帯形成方法及び装置 図3b
  • 特表-直接レーザ線維柱帯形成方法及び装置 図3c
  • 特表-直接レーザ線維柱帯形成方法及び装置 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-30
(54)【発明の名称】直接レーザ線維柱帯形成方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   A61F 9/008 20060101AFI20230323BHJP
   A61B 3/10 20060101ALI20230323BHJP
【FI】
A61F9/008 130
A61F9/008 120
A61B3/10 100
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022547854
(86)(22)【出願日】2021-02-08
(85)【翻訳文提出日】2022-08-05
(86)【国際出願番号】 AU2021050102
(87)【国際公開番号】W WO2021155445
(87)【国際公開日】2021-08-12
(31)【優先権主張番号】2020900344
(32)【優先日】2020-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503375669
【氏名又は名称】エレックス メディカル プロプライエタリー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ELLEX MEDICAL PTY LTD
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベンソン エリック
(72)【発明者】
【氏名】ハーホフ デビッド
【テーマコード(参考)】
4C316
【Fターム(参考)】
4C316AA01
4C316AA05
4C316AB02
4C316AB11
4C316AB16
4C316FC12
(57)【要約】
患者の眼(25)の緑内障を処置するための装置及び方法が提供される。処置レーザビームを患者の眼の線維柱帯網に差し向けることで、房水流体の排出改善を促進する反応を開始させる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の眼(25)の緑内障を処置するための眼科装置(18)であって、処置レーザビーム(21)を送給する処置レーザモジュール(20)と、前記処置レーザビーム(21)が原因で患者の眼(25)内例えばその患者の眼(25)の線維柱帯網(7,12,13)に形成されたマイクロキャビテーション例えばマイクロバブルを検出する検出システム(40)と、を備える眼科装置。
【請求項2】
患者の眼(25)の緑内障を処置するための眼科装置(18)、とりわけ請求項1に係る眼科装置であって、処置レーザビーム(21)を送給する処置レーザモジュール(20)と、患者の眼(25)の線維柱帯網(7,12,13)の所在個所及び/又は形状例えば潜在的非対称性を検出する検出システム(40)と、を備える眼科装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の装置(18)であって、前記検出システム(40)が、患者の眼(25)の線維柱帯網(7,12,13)の所在個所及び/又は形状例えば潜在的非対称性及び/又はマイクロキャビテーション例えばマイクロバブルを検出するため、断層撮像システムを備え及び/又は光干渉断層撮像(OCT)システム(48)を備える装置。
【請求項4】
請求項1~3のうち何れかに記載の装置(18)であって、同軸プローブビーム(38)を発するアイプローブサブシステム(27)を備える装置。
【請求項5】
請求項1~4のうち何れかに記載の装置(18)であって、前記ビーム群(21,27A)が、患者の眼(25)の強膜(2,11)より後方、例えば患者の眼(25)の線維柱帯網(7,12,13)へと集束される装置。
【請求項6】
緑内障を処置するための眼科装置(18)、とりわけ請求項1又は2に係る眼科装置(18)であって、スキャナ(22)及び対物集束レンズ(24)に処置レーザビーム(21)を送給する処置レーザモジュール(20)と、同軸プローブビーム(38)を発するアイプローブサブシステム(27)と、を備え、前記ビーム群(21,38)が患者の眼(25)の強膜(2,11)より後方、線維柱帯網(7,12,13)へと集束される装置(18)であり、前記アイプローブサブシステム(27)内に検出器(45)が備わり、その検出器によって、前記プローブビーム(38)に由来する後方散乱光が感知され、且つ、前記処置レーザビーム(21)が前記線維柱帯網(7,12,13)内のメラニン細胞に損傷を引き起こすことが原因で形成されるマイクロバブルの形成が検出される眼科装置。
【請求項7】
請求項1~6のうち何れかに記載の装置(18)であって、前記検出システム(40)の情報に依存しつつ前記処置レーザビーム(21)を変調するエネルギ制御システム(50)を備える装置。
【請求項8】
請求項1~7のうち何れかに記載の装置(18)であって、更に、光干渉断層撮像(OCT)システムが備わるアイプローブサブシステム(27)を備え、そのOCTシステムが更に、前記処置レーザビーム(21)の送給に先立ち前記線維柱帯網(7,12,13)の所在個所を判別する装置。
【請求項9】
請求項1~8のうち何れかに記載の装置(18)であって、フォトディテクタ(45)が備わるアイプローブサブシステム(27)を備える装置。
【請求項10】
請求項1~9のうち何れかに記載の装置(18)であって、前記プローブビーム(38)が前記処置レーザビーム(21)により代理される装置。
【請求項11】
請求項1~10のうち何れかに記載の装置(18)であって、前記処置レーザビーム(21)の波長がメラニン細胞の吸収域内にあり、前記プローブビーム(38)が赤外線である装置。
【請求項12】
強膜(2,11)を介し線維柱帯網(7,12,13)の所在個所及び/又は形状例えば潜在的非対称性を判別し、マイクロバブルが十分生じうるビームエネルギで以てその個所まで処置レーザビーム(21)を送給することを特徴とする緑内障処置方法。
【請求項13】
請求項12記載の緑内障処置方法であって、前記処置レーザビーム(21)のエネルギが、マイクロバブル又はマイクロキャビテーションの影響、及び/又は、前記線維柱帯網(7,12,13)の所在個所及び/又は形状例えば潜在的非対称性の影響を踏まえ、制御及び調整される緑内障処置方法。
【請求項14】
請求項12又は13記載の緑内障処置方法であって、まず光干渉断層撮像(OCT)システム(48)を用い前記線維柱帯網(7,12,13)の所在個所を識別した上で前記処置レーザビーム(21)をその個所に差し向け、予め設定されているレーザエネルギ照射量をその個所に送給するか、前記光干渉断層撮像(OCT)システム(48)によりマイクロバブルが検出されるまでそのエネルギ照射量を増加させるかする、緑内障処置方法。
【請求項15】
請求項12~14のうち何れかに記載の方法であって、前記ビーム群が、エネルギ制御システム(50)例えばプロセッサ(33)及びコントローラ(32)からの入力に係るパターンに追従する方法。
【請求項16】
請求項12~15のうち何れかに記載の方法であって、前記パターンが、ある内半径(R1)からある外半径(R2)まで延びる放射状線(15)を備えており、それらの半径が、線維柱帯網(7,12,13)の見込み位置の端部に相当している方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は人眼の眼科処置、より具体的にはレーザビームを用いた緑内障の処置であり、房水流体の排出改善を促進する反応を開始させるためレーザビームを線維柱帯網に差し向けるものに関する。
【0002】
本発明は、患者の眼の緑内障を処置するための眼科装置に関する。
【0003】
本発明は、更に、緑内障を処置する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
緑内障は、視神経又は網膜への損傷の結果として視覚が損なわれる疾病であり、先進国での失明のうち約25%の原因となっている。その損傷の一般的誘因に、房水として知られる眼内流体の圧力上昇がある。この眼球内圧上昇により網膜神経節細胞の漸進的な死が引き起こされ、視神経を介し脳に視覚情報を伝える軸索が損傷する。この房水流体は、虹彩直下にある毛様体からの進入と、虹彩の縁、即ち虹彩が角膜と出会いその角膜が強膜に移り変わっていくところを取り巻いており線維柱帯網として知られる環状海綿状組織を通じ生じる平衡排出と、を伴う身体の働きによって定常的に且つ低速で置換される。排出は、線維柱帯網からシュレム管と呼ばれる構造へと至り最終的には身体の循環系に至る態で発生する。
【0005】
眼内圧力上昇の主因は、環状の線維柱帯網の機能不全による流体の進入・退出間不平衡によるものである。この線維柱帯網には、その線維柱帯環の周囲に分布する導管を通じた流体の排出という働きがあるものの、加齢に伴いそれらの導管が細胞残骸で目詰まりしてしまう。排出を改善するためこれまで試みられてきた方法には、投薬によるものと外科的手段によるものとがある。レーザ線維柱帯形成術として知られる最近の方法は、十分な強度で以て線維柱帯網上へとパルス状集束レーザビームを差し向けることで、色素沈着したメラニン細胞を損傷させて生物学的変化を開始させることにより、その線維柱帯網の非濾過領域からの細胞で以てレーザ損傷部位を再生息化することに、依拠している。それらの細胞が幹細胞として振る舞い新鮮で機能的な細胞を産生することがわかっており、線維柱帯網による排出がそれにより復活することがわかっている。
【0006】
現在、線維柱帯網へのレーザビームの送給は、その眼に接触配置させた光学素子を助けとして眼の角膜を通じ斜めにレーザビームを差し向け、その素子に組み込まれている鏡により横方向に向かい線維柱帯網へとそのレーザビームを差し向けることによって、果たされている。この処置方法は選択的レーザ線維柱帯形成術即ちSLTとして知られている。このシステムでは、眼科医がその光学素子を回動させて線維柱帯網周囲の複数領域を処置することが求められる。十分な強度が達成されたときには、マイクロバブルの産生によりその反応を識別することができる。マイクロバブルが産生され、それが検出されたことは、その処置レーザエネルギが十分であることを示している。
【0007】
この方法の短所は幾通りかある:医師がそのビームを線維柱帯網(TM)上の所望スポットへと正確に差し向けるのが、難しいことがある;その手順にて、負傷及び感染のリスクを避けるための多大な熟練が必要とされる;そして、その手順がかなり長々しいので、患者の不快感を招くことがある。
【0008】
この技術の改善版には、Belkinによる特許出願(特許文献1)にて提唱されたもの、即ち強膜を介し線維柱帯網へと処置レーザビームを差し向けるものがある。この方法の欠点は、理想的な照射量もTMの厳密位置も未知であり、実際にはTMの厳密位置が未知であり且つ所要エネルギ照射量が不確かであるにも関わらずそれらパラメタ双方がアプリケーションにて仮定されることである。虹彩に対するTMの位置又は直径は個々人間で様々であり、一般にはそれを強膜経由で見出すことができない。メラニン細胞に損傷を引き起こすのに必要なビーム強度は、その規模が個々人間で変動する強膜内散乱及び吸収により、また線維柱帯網沿いでの位置取りにより左右されるため、速やかに決定することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許出願公開第2015/0366706号明細書(A1)
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Vol 9, No. 7 of Biomedical Optics Express - “Selective retina therapy enhanced with optical coherence tomography for dosimetry control and monitoring: a proof of concept study” by Daniel Kauffman
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、処置レーザビームの位置取り及び強度を自動制御しうる余地があり、且つ手順開始後におけるその手順と手術者との関わり合いが最小限となる様式にて、眼の線維柱帯網を処置する方法又は装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的は、線維柱帯網付近の1個又は複数個の領域に差し向けられたプローブ光ビームに由来する光の後方散乱反射を検出及び分析することでエネルギ照射量を決定し、そのエネルギ照射量で以て眼の強膜を通じある個所へと処置レーザビームを送給することによって、達成される。
【0013】
本発明は、眼に接触する光学系無しで眼の前方から強膜を通じ選択的レーザ線維柱帯形成術手順を実行しうる、複雑でない手段を提供するものである。
【0014】
更に、広い意味では、線維柱帯網の位置を正確に知る必要はないものの、後述の方法は、その位置を判別しうる十分に正確な方法となりうる。
【0015】
本発明は、更に、パルス状処置レーザビームを強膜より後方、眼の線維柱帯網へと集束させる緑内障処置方法又は装置であり、プローブ光ビームが光干渉断層撮像サブシステムに結合されていて、そのサブシステムによって、線維柱帯網の所在個所が識別され、且つ処置レーザビームのエネルギが増大するフェーズにてマイクロバブルがいつ形成されたかが検出されること、を特徴とする方法として記述することができる。
【0016】
別の形態に従い、本発明を、パルス状処置レーザビームを強膜より後方、眼の線維柱帯網へと集束させる緑内障処置方法又は装置であり、(虹彩の中央を基準とし)内半径・外半径に亘る、ある大きさのセグメント化線を、走査(スキャン)手段を用い順次投射すること、並びに線維柱帯網内メラニン細胞に損傷を発生せるのに十分なものとなるようそのレーザビームエネルギを設定すること、を特徴とする方法として記述することができる。
【0017】
処置レーザビームエネルギは初期テスト、即ちマイクロバブルが形成されるまで各回径方向走査後にエネルギを増大させ、気体液体界面の発生に起因しプローブ光ビームの後方散乱強度に生じる変化によりその形成を検出するテストを、実行することによって決定される。
【0018】
レーザプローブビームは、処置ビームと同じものとすることも、より最適な波長及び強度を有する別個なレーザビームとすることもできる。
【0019】
本発明のある代替的形態では、TMの所在個所を多数、例えば8通り又は16通り以上の径方向位置にて判別すること並びに補間を実行することで、その所在個所が様々な放射方向にて判別される。それらの個所が、参照位置として後刻用いられる虹彩の外直径を基準として、ディジタルイメージング手段を用い記録される。
【0020】
本明細書では、認識頂ける通り、半透明な組織における散乱があるため処置ビームが強膜のすぐ後方に集束するわけではないけれども、この条件を、ビームが集束される条件と呼ぶこととする。
【0021】
本発明のある付加的態様によれば、本発明のタスクが、患者の眼の緑内障を処置するための眼科装置であって、処置レーザビームを送給する処置レーザモジュールと、その処置レーザビームが原因で患者の眼内、特にその患者の眼の線維柱帯網に形成されたマイクロキャビテーション、特にマイクロバブルを検出する検出システムと、を備える眼科装置により、解決される。
【0022】
それぞれマイクロバブルたるマイクロキャビテーションの所在個所及び/又は時間及び/又はレベルがよりよくわかるので、眼に送給されるエネルギを最小化すること並びにその処置の継続時間を最短化することができる。
【0023】
そうである限り、その検出システムにより付加的位置制御を行い、線維柱帯網におけるマイクロキャビテーションの位置を制御することができる。
【0024】
これ単独でも、既存の緑内障処置方法の上首尾な更なる発展形である。
【0025】
本発明の更なる態様によれば、本件の当座のタスクが、患者の眼の緑内障を処置するための眼科装置であって、処置レーザビームを送給する処置レーザモジュールと、その患者の眼の線維柱帯網の2又は3次元所在個所及び/又は形状、特に潜在的非対称性を検出する検出システムと、を備える眼科装置により、解決される。
【0026】
処置に先立ちその所在個所及び/又は形状がよりよくわかるので、眼に送給されるエネルギを最小化すること並びにその処置の継続時間を最短化することができる。
【0027】
従って、一方では、その検出システムに付加的位置制御を実装することで、線維柱帯網の位置及び形状を、好ましくも処置レーザモジュールの起動に先立ち検出することができる。
【0028】
即ち、その設定装置をも、眼を計測するための眼科装置、とりわけその眼の線維柱帯網を計測するための眼科装置を備えるものとすることができる。
【0029】
他方で、その検出システムによる位置制御により、マイクロキャビテーションの位置を制御することができる。
【0030】
これ単独でも、既存の緑内障処置方法の上首尾な更なる発展形である。
【0031】
マイクロキャビテーションの位置を、好ましくもその処置中にライブで、補正することもできる。
【0032】
どちらの場合でも、その検出システムによりもたらされる情報に従い処置レーザビームを変調することができる。
【0033】
その検出システムを、様々なやり方で構築することができる。
【0034】
構成的に単純だがそれでいて精密なソリューションを、マイクロキャビテーション検出用断層撮像システムをその検出システムに具備させることで、実現することができる。
【0035】
これに加え又は代え、その検出システムを、その所在個所及び/又は形状、特に潜在的非対称性、及び/又はマイクロキャビテーションを検出する、光干渉断層撮像(OCT)システムが備わるものとすることができる。
【0036】
その検出システムを、より多くの部材、例えばカメラ、コントローラ、プロセッサ、スキャナ(走査器)等が備わるものとすることができる。
【0037】
更に上首尾なことに、本装置を、同軸プローブビームを発するアイプローブサブシステムを備えるものとすることができる。これにより、眼内の処置サイトをひときわ良好に観察することが可能となる。
【0038】
ビームが患者の眼の強膜より後方、患者の眼の線維柱帯網に集束されるので、その眼の非接触処置を何ら問題なしに実行することができる。
【0039】
本発明のタスクは、加えて、緑内障処置用の眼科装置であり、スキャナ及び対物集束レンズに処置レーザビームを送給する処置レーザモジュールと、同軸プローブビームを発するアイプローブサブシステムと、を備え、それらビームを患者の眼の強膜より後方、線維柱帯網へと集束させる装置であり、好ましくはそのアイプローブサブシステム内に検出器が備わり、その検出器によって、そのプローブビームに由来する後方散乱光が感知され、且つ、その処置レーザビームが線維柱帯網内メラニン細胞に損傷を引き起こしたことが原因で形成されるマイクロバブルの形成が検出される装置により、履行される。
【0040】
このソリューションは、有益で実現可能な装置であり本発明を良好に実現可能なものを述べている。特に、眼に送給されるエネルギを最小化すること並びにその処置の継続時間を最短化することもできる。
【0041】
更に、ひときわ上首尾なことに、本装置を、その検出システムの情報に依存しつつ処置レーザビームを変調するエネルギ制御システムが備わるものと、することができる。この場合、その処置レーザビームの所要エネルギを、マイクロキャビテーション又はマイクロバブルの形成に、及び/又は、その眼の処置対象エリア例えば線維柱帯網の形状に、従属させることができる。
【0042】
とりわけ、エネルギ制御システムが好適に設計されていれば、それによって、処置レーザビームのエネルギレベルの強度、継続時間等を、マイクロキャビテーション又はマイクロバブルの形成の開始、進行、強度等に従い決定することができる。
【0043】
ある代替的構成方法によれば、上首尾なことに、アイプローブサブシステムを、処置レーザビームの送給に先立ち更に線維柱帯網の所在個所を判別する光干渉断層撮像(OCT)システムが備わるものと、することができる。これにより、本装置を、構造的に単純なやり方で実現することが可能となる。
【0044】
アイプローブサブシステムを、フォトディテクタが備わるものとすることで、その眼の個別処置エリアの観測をよりコンパクトに実行することができる。
【0045】
ご理解頂けるように、処置レーザビームとプローブビームとを互いに独立に供給することができる。プローブビームを処置レーザビームと同一のものとすれば、本装置の構成を更に単純化することができる。
【0046】
用いられるレーザビームに関しひときわロバストでエラーがないデザインを、その処置レーザビームの波長をメラニン細胞の吸収域内、プローブビームを赤外線とすることで、実現することができる。
【0047】
本発明の更なる態様によれば、本件のタスクが、強膜を介し線維柱帯網の所在個所及び/又は形状を判別すること、並びにマイクロバブルが十分生じうるビームエネルギで以てその個所まで処置レーザビームを送給すること、を特徴とする緑内障処置方法により解決される。これにより、ひときわ局所的に精密な処置となるので、マイクロバブルを発生させるのに必要なエネルギをごく精密に設定することができる。
【0048】
これにより、その眼に送給されるエネルギを最小化すること並びにその処置の継続時間を最短化することができる。
【0049】
ある非常に上首尾なバージョンのプロセスでは、そのエネルギが、マイクロバブルの影響、及び/又はマイクロキャビテーションのサイズの影響、及び/又は線維柱帯網の所在個所及び/又は形状の影響を踏まえ、制御及び調整される。
【0050】
更に、上首尾なことに、最初のステップにて光干渉断層撮像システムを用い線維柱帯網の所在個所を識別し、それを受け処置レーザビームをその個所に差し向け、並びに、予め設定されているレーザエネルギ照射量をその個所に送給するか或いはその断層撮像システムによりマイクロキャビテーションが検出されるまでそのエネルギ照射量を増加させるように、することができる。これにより、その眼上の処置サイトをひときわ精密に判別することができ、その上で好適強度のレーザビームによりひときわ優しく処理することができる。
【0051】
ひときわ好適なプロセス変種では、ビームを、エネルギ制御システム例えばプロセッサ及びコントローラからの入力に係るパターンに追従させる。このやり方はひときわ上首尾たりうるものであり、それにより、マイクロバブルが形成されるまで、即ち線維柱帯網の処置が十分であることが示されるまでに、十分なエネルギしかその処置エリアに印加されえないようにすることができる。
【0052】
また、上首尾なことに、そのパターンを、ある内半径R1からある外半径R2まで延びる放射状線又は放射状セグメントを備えるものとし、それらの半径を、線維柱帯網の見込み位置の端部に対応付けることができる。これにより、その眼のうち緑内障の処置が絶対に必要な類のエリアのみを、その処置レーザビームで以て処置することが可能となる。
【0053】
この点でやはり言える通り、本願記載の諸方法を本願記載の更なる技術的諸特徴、とりわけその装置の諸特徴により補足することにより、それらの方法を首尾よく更に発展させることができ、また方法細部をより一層精密に表現又は定式化可能とすることができる。
【0054】
ここに明示的に注記されうる通り、前掲の諸形態及び/又は言及事項の何れの特徴も、望みであれば、諸効果、諸特徴及び諸長所が加重的に結合及び達成されるよう組み合わせることができる。
【0055】
当然のこと、実施形態の前掲諸例は本発明の当初設計に過ぎない。従って、本発明のその実施形態はそれらの変種に限定されない。
【0056】
それら自体が、或いは何らかの潜在的な組合せにおいて、それらが最新技術に比し新規であるである限り、本願記載のあらゆる特徴が、本発明にとり精粋的なものであることを主張する。
【0057】
以下の添付図面に描かれている2個の好適実施形態の記述により、本発明をより好適に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1】線維柱帯網により縁どられている眼の断面を示す図である。
図2】眼の前面外観を示す図である。
図3a】眼上に投射されうるレーザスポットパターンを示す図である。
図3b】眼上に投射されうるレーザスポットパターンを示す図である。
図3c】眼上に投射されうるレーザスポットパターンを示す図である。
図4】本発明の好適実施形態の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
図1によれば、患者(図示せず)の左眼25の角膜1は強膜2につながっている。流体で満たされている前眼房3が、水晶体5を取り巻く色素上皮又は虹彩4により閉止されている。後眼房6は硝子体液が入っているところであり、眼の最大体積部分を代表している。角膜の外縁と虹彩の外縁との間に横たわっているのが線維柱帯網7であり、それを介しシュレム管8内への排出が行われる。線維柱帯網7は三角形断面を有している。
【0060】
図2には、医師が目の当たりにするであろう態で左眼25が示されている。図示の通り、瞳9が虹彩10により囲まれている。その隣にある白い強膜11が線維柱帯網12を隠しているが、図では幅を強調し破線間に示してある。
【0061】
この線維柱帯網7又は12の幅は典型的には350μmオーダであり、その深さは50~150μmオーダである。
【0062】
本発明のある好適実施形態に係るシステムでは、プローブ光ビーム38(図4参照)が送給され、それにより図3aに示すパターンに従い走査される。
【0063】
図3aによれば、線維柱帯網13は、ある内半径R1及び外半径R2を有する「不確定環」14内に位置している。
【0064】
プローブビームは、内半径R1・外半径R2間の短い放射状線15に沿った横断を、眼25の周りを巡り、約1~10度程度の角度16により隔てられた幾通りかの向きにて反復する。
【0065】
角度16の選択は、処置継続時間と十分な線維柱帯組織損傷密度との間の折衷である。
【0066】
放射状線15が示されているが、内半径R1・外半径R2間を横断する他の策、例えば図3bの如く円形路を辿るジグザグセグメント15や図3cの如き角度付放射状線15も採ることができる。
【0067】
これらのパターンの湾曲形態も用いることができよう。
【0068】
語「線」が用いられているが、これはそのビームの経路のことを指しており、顕微鏡レベルでは、その反応路が、プローブビーム38の線上配列離散化位置に対応する不連続スポット群で構成されている。
【0069】
そのパターンは、在来型のガルバノメータ二軸スキャナ22(図4参照)その他の装置により生成される。
【0070】
本処置のもう一つの肝要側面は、線維柱帯網7、12又は13内メラニン細胞を損傷させるのに必要なエネルギの決定にある。
【0071】
従来のSLTに係る認識によれば、確と損傷させる途の一つは、線維柱帯網7、12又は13内で気相ガスバブルが形成されるまでそのエネルギを増大させることである。
【0072】
従来は、その発生が医師により観測されていたが、本発明によれば、マイクロバブルの産生が、観測又は処置レーザビーム21(図4参照)、好ましくは観測ビームの後方散乱反射における変化により、検出される。
【0073】
図4には、処置レーザビーム21の送給とバブル検出とを達成しうる光学配列につき、第1の見込みある実施形態の概要が描かれている。
【0074】
図4によれば、処置レーザモジュール20が入射レーザ処置ビーム21を生成する。
【0075】
この処置レーザモジュール20は、何らかの必須な減衰器、ビーム調光器及びシャッタ(個別図示せず)を有している。
【0076】
処置レーザモジュール20を出たレーザ処置ビーム21は二軸スキャナ22に差し向けられ、そこからダイクロイック又は部分反射器23を経て集束レンズ24を通り眼25上へと送られる。
【0077】
アイプローブシステム27は、プローブ光ビーム38と、後に詳論する検出システム40とで構成されている。
【0078】
アイプローブシステム27に出入りする光、特にプローブビーム38は、処置レーザビーム路42と実質的に一致する光路41を有しており、それら光路41及び42の結合が反射器26により果たされている。
【0079】
この反射器26は、想定されている反射及び透過波長向けに仕立てられたダイクロイックミラー(別途参照せず)とするのが望ましい。
【0080】
眼25を位置特定し監視するため、カメラ28により、反射器23にて反射された光が捕捉される。
【0081】
このカメラ28により、走査パターンの決定及び将来参照用記録の提供に使用可能な画像も得られる。
【0082】
患者の眼25の動きの最小化を支援するため、患者が見つめるところである注視スポット(別途参照せず)が設けられる。この注視スポットは可視光ランプ29により生成され、レンズ30により平行光化され、部分反射器31によりカメラ28の別途光路43内に持ち込まれる。
【0083】
処置レーザモジュール20及びスキャナ22がコントローラ32により制御される一方、プロセッサ33は、手術者、カメラ28及びアイプローブシステム27の許で必要な電子及びデータ処理を実行する。ディスプレイ34は手術者向けインタフェースを提供する。
【0084】
眼科システムで一般的なその他の諸部材、例えば手術者向けの観察用眼鏡、照明スリットランプ又は照準ビームについては明瞭化のため示していないが、医用レーザ工学の分野に習熟した者であれば、それらを図4に示されている諸部材と統合することができる。
【0085】
システム全体を眼25に対し移動させ、ビーム21,38を合焦させることができる。
【0086】
とりわけ、カメラ28の焦点が処置レーザ21及びプローブビーム38のそれより数百μm近めであるので、確と、それら処置及びプローブビーム21,38が強膜2,11下に合焦しているときカメラ28が強膜2又は11上に合焦することとなる。
【0087】
次に、それが幾通りかの形態を採りうることを踏まえ、アイプローブシステム27につき詳論する。
【0088】
特に、アイプローブシステム27又はその構成諸部材により、本検出システム40又は少なくともその構成部材を実現することができ、またその逆も成り立つ。
【0089】
上述した実施形態に相応しい形態の一つは、アイプローブシステム27が、プローブ光ビーム38の反射ビーム38を検出可能なフォトディテクタ45を備えるものである。
【0090】
このプローブ光ビーム38を、処置レーザビーム21と同じものとしてもよいし、その機能向けに最適化された別個の光ビームとすることもできる。
【0091】
線維柱帯網7、12又は13のメラニン細胞に損傷をもたらすのに必要となる、処置レーザビーム21のレーザエネルギを決定するため、バブル形成が検出されるまでレーザエネルギを増大させつつ、放射状セグメント15の経路の一つに沿い処置レーザビーム21により反復的に走査する。
【0092】
他のセグメントで以て気化を確と達成させるため、この閾値パワーがマージン、例えば20%のマージン付で記録及び格納される。その上で、そのパターン全体が、その格納されているエネルギにて、そのレーザセットで以て走査される。
【0093】
上掲の実施形態及び方法は機能的たりうるが、眼に送給されるエネルギを最小化するため並びに処置の継続時間を最短化するためには、線維柱帯網7、12又は13の位置をより良好に所在特定するのが望ましい。
【0094】
線維柱帯網7、12又は13の具体的所在個所は、特に、アイプローブシステム27に光干渉断層撮像(OCT)システム48を組み込んだものによって、所在特定することができる。この配列が、第2の好適実施形態のそれを代表している。
【0095】
OCT法は、非特許文献1なる論文に記載の通り、網膜処置におけるレーザ照射量を決定するため成功裏に用いられてきた。この事例の適用先は網膜であり、透明媒質が注目層と隣り合っている。
【0096】
しかしながら、本発明の技術は半不透明な強膜2,11を介し適用されるものであり、吸収及び散乱の両者にも関わらず、TMを含め眼25の外層のプロファイルを生成することができる。
【0097】
OCTで提供される動作方法は数通りあり、際立っているのがAスキャンと呼ばれる静的深さプロファイリング、Bスキャンと呼ばれる物体(この場合は眼)表面沿い横断、並びにMスキャンと呼ばれAスキャンで構成されるムービーである。
【0098】
領域による反射率の変化、例えばマイクロバブルの発生によるそれを検出できるのは、Mスキャンを実行しているときである。
【0099】
OCTシステムは商業的に入手可能なものであり、走査又はスペクトロメータ(分光計)原理を基礎としている。
【0100】
功利的には、本発明ではスペクトロメータ原理を用いることが望ましい。
【0101】
本発明では、線維柱帯網7、12又は13を巡るプロファイルが、強膜角膜連接部から径方向外方に向かい約1~2mmに亘りOCTビームで走査することによって、生成される。このプロファイルをもとに、線維柱帯網7、12又は13を良好な精度で以て識別及び所在特定することができ、虹彩外縁又は強膜角膜境界に対するその径方向所在個所をディジタル記録することができる。
【0102】
この作業を眼25周囲の様々な個所で反復することで、諸結果の補間を通じそのプロセッサにより、線維柱帯網マップを生成することができる。
【0103】
処置向けのターゲットを所在特定した後はOCTに係るプローブビーム38がそのターゲットに位置決めされ、そこをAスキャンモードに保ちつつ処置レーザビーム21を動作させる。
【0104】
そのOCTシステムにより反応が検出されるまで、処置レーザビーム21により送給されるパルスのエネルギを増加させていく。
【0105】
そのエネルギが記録され、線維柱帯網7、12又は13の周縁沿いにある他領域に対する以後の送給用に用いられる。
【0106】
代替的な照射量決定手法には、処置レーザビーム21を、線維柱帯網7、12又は13上のある単一の個所に合焦させたままとし、AスキャンモードにてOCTにより反応が検出されるまで反復的な低エネルギパルスを送給し、その後はその処置を一時停止させてターゲットを次の個所に動かす、というものがある。
【0107】
この方法にとり肝要なことは、それらの細胞の緩和よりも高速でエネルギパルスを送給しなければならないこと、またそれによりその細胞内の合計エネルギをマイクロバブル形成ポイントまで増加させることである。
【0108】
別の代替的手法には、初めはより小照射量のエネルギとし、マイクロバブル形成に相当する変化に備えOCT信号を監視しつつ、線維柱帯網7、12又は13上の同じ個所へと、エネルギを増大させつつ反復的なパルスを送給する、というものがある。反応が達成されたら、処置レーザビーム21を一時停止させ、次の個所へと進ませる。
【0109】
この代替的方法がうまく稼働するのは、パルス速度がそれらの細胞の熱緩和よりも低速であり、それらの細胞にて、次のパルスの到来に先立ち先行パルス由来のエネルギを散逸させうる場合である。
【0110】
これらの方法の双方で、同じ照射量情報を得て線維柱帯網7、12又は13上の後続個所向けに用いることができる。
【0111】
ここではパルス状レーザを参照したが、連続波(CW)レーザを用いてもよい。
【0112】
処置レーザビーム21は、メラニン細胞により好適に吸収されうる波長のものであり、SLTでは通常は緑色レーザ(532nm)が用いられるが、800nmに及ぶ長めの波長を用い強膜2,11内により良好に浸透させることもできる。
【0113】
OCTシステム48を赤外波長域にて動作させ、強膜2,11内で良好に透過させることができよう(800nm~1550nm)。
【0114】
処置レーザ及びOCTレーザの両者を単一モジュール内に統合することができ、それによって、そのシステムの残余部分への統合中にそれらの共直線性を確保することができる。
【0115】
好ましくは、そのイメージングカメラにより、眼全体を、対物レンズ付近に搭載されたLEDにより生成可能な近赤外光、例えば700nm~900nmにて観察する。
【0116】
処置レーザビーム21のエネルギを変調するため、装置18はエネルギ制御システム50、好ましくは検出システム40の一部分たるそれを備えている。
【0117】
これにより、検出されたマイクロキャビテーションとりわけマイクロバブルとの関連で、及び/又は、線維柱帯網7、12又は13の検出個所及び/又は形状、とりわけ非対称性との関連で、消費エネルギ即ちビームエネルギを調整することが、格段に容易となる。以上は本発明の神髄についての概観を提供するものであり、本分野でよく知られており又は光機械分野の技術者により良好に理解される諸部材又は細部は含まれていない。
【符号の説明】
【0118】
1 角膜、2 強膜、3 前眼房、4 虹彩、5 水晶体、6 後眼房、7 線維柱帯網、8 シュレム管、9 瞳、10 虹彩、11 強膜、12 線維柱帯網、13 線維柱帯網、14 不確定環、15 放射状線又は放射状セグメント、16 角度、18 眼科装置、20 処置レーザモジュール、21 入射処置レーザビーム、22 二軸スキャナ、23 ダイクロイック又は部分反射器、24 集束レンズ、25 眼、26 反射器、27 アイプローブサブシステム、28 カメラ、29 赤色ランプ、30 レンズ、31 部分反射器、32 コントローラ、33 プロセッサ、34 ディスプレイ、38 プローブビーム、40 検出システム、41 プローブビームの光路、42 処置レーザビーム路、43 別途光路、45 フォトディテクタ、48 光干渉断層撮像(OCT)システム、50 エネルギ制御システム、R1 内半径、R2 外半径。
図1
図2
図3a
図3b
図3c
図4
【国際調査報告】