(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-30
(54)【発明の名称】抗CD3および抗CD123二重特異性抗体およびその使用
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20230323BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230323BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20230323BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230323BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20230323BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
A61P35/00
A61P35/02
A61K39/395 N
A61K39/395 D
C12N15/13
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022547913
(86)(22)【出願日】2020-03-30
(85)【翻訳文提出日】2022-09-29
(86)【国際出願番号】 CN2020082151
(87)【国際公開番号】W WO2021155635
(87)【国際公開日】2021-08-12
(31)【優先権主張番号】202010080449.9
(32)【優先日】2020-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】522312126
【氏名又は名称】北京智仁美博生物科技有限公司
(71)【出願人】
【識別番号】522312137
【氏名又は名称】智翔(上海)医▲葯▼科技有限公司
(71)【出願人】
【識別番号】522312159
【氏名又は名称】重▲慶▼智翔金泰生物制▲葯▼股▲フン▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼ 志▲剛▼
(72)【発明者】
【氏名】▲ハオ▼ 小勃
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ 雪萍
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼ 玉▲蘭▼
(72)【発明者】
【氏名】郭 晶晶
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA13
4C085AA16
4C085BB11
4C085DD62
4H045AA11
4H045BA09
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA22
4H045EA31
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、ヒトCD3Eに対する抗原結合部分および/またはヒトCD123に対する抗原結合部分を含む二重特異性抗体を提供する。また、本発明は、前記二重特異性抗体の医学的使用および生物学的使用をさらに提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトCD3Eに対する抗原結合部分を含む二重特異性抗体であって、
前記ヒトCD3Eに対する抗原結合部分は、
配列番号1に記載のHCDR1、
配列番号2に記載のHCDR2、
配列番号3に記載のHCDR3、
配列番号4に記載のLCDR1、
配列番号5に記載のLCDR2、および
配列番号6に記載のLCDR3を含み、
ここで、HCDRおよびLCDRはKabatに従って定義される、
二重特異性抗体。
【請求項2】
ヒトCD123に対する抗原結合部分を含む二重特異性抗体であって、
前記ヒトCD123に対する抗原結合部分は、
配列番号7に記載のHCDR1、
配列番号8に記載のHCDR2、
配列番号9に記載のHCDR3、
配列番号4に記載のLCDR1、
配列番号5に記載のLCDR2、および
配列番号6に記載のLCDR3を含み、
ここで、HCDRおよびLCDRはKabatに従って定義される、
二重特異性抗体。
【請求項3】
ヒトCD3Eに対する抗原結合部分およびヒトCD123に対する抗原結合部分を含む二重特異性抗体であって、
好ましくは、前記ヒトCD3Eに対する抗原結合部分は、
配列番号1に記載のHCDR1、
配列番号2に記載のHCDR2、
配列番号3に記載のHCDR3、
配列番号4に記載のLCDR1、
配列番号5に記載のLCDR2、および
配列番号6に記載のLCDR3を含み、ならびに/あるいは
前記ヒトCD123に対する抗原結合部分は、
配列番号7に記載のHCDR1、
配列番号8に記載のHCDR2、
配列番号9に記載のHCDR3、
配列番号4に記載のLCDR1、
配列番号5に記載のLCDR2、および
配列番号6に記載のLCDR3を含み、
ここで、HCDRおよびLCDRはKabatに従って定義される、
二重特異性抗体。
【請求項4】
請求項3に記載の二重特異性抗体であって、前記ヒトCD3Eに対する抗原結合部分および前記ヒトCD123に対する抗原結合部分は、同一の軽鎖可変領域を含み、好ましくは、同一の軽鎖を含み、ならびに/あるいは
同一のヒンジ領域を備える重鎖定常領域を2種類含むIgG1抗体であり、前記ヒンジ領域のアミノ酸配列は配列番号10に記載される、二重特異性抗体。
【請求項5】
請求項3または4に記載の二重特異性抗体であって、第1の重鎖定常領域および第2の重鎖定常領域を含むIgG1抗体であり、そのうち
前記第1の重鎖定常領域の354番目および366番目のアミノ酸は、それぞれCおよびWであり、前記第2の重鎖定常領域の349、366、368および407番目のアミノ酸は、それぞれC、S、AおよびVであり、ならびに/あるいは
前記第1の重鎖定常領域および第2の重鎖定常領域の234、235および331番目のアミノ酸は、それぞれF、EおよびSであり、
抗体定常領域のアミノ酸位置は、EU numberingに従って決定される、
二重特異性抗体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の二重特異性抗体であって、前記ヒトCD3Eに対する抗原結合部分は、配列番号11に記載の重鎖可変領域、および配列番号12に記載の軽鎖可変領域を含み、ならびに/あるいは
前記ヒトCD123に対する抗原結合部分は、配列番号13に記載の重鎖可変領域、および配列番号12に記載の軽鎖可変領域を含む、
二重特異性抗体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の二重特異性抗体であって、前記ヒトCD3Eに対する抗原結合部分および/または前記ヒトCD123に対する抗原結合部分は、一本鎖抗体(scfv)またはFab断片を含み、
好ましくは、前記ヒトCD3Eに対する抗原結合部分はFab断片を含み、前記ヒトCD123に対する抗原結合部分はFab断片を含み、または
前記ヒトCD3Eに対する抗原結合部分はFab断片を含み、前記ヒトCD123に対する抗原結合部分は一本鎖抗体(scfv)を含み、または
前記ヒトCD3Eに対する抗原結合部分は一本鎖抗体(scfv)を含み、前記ヒトCD123に対する抗原結合部分はFab断片を含み、または
前記ヒトCD3Eに対する抗原結合部分は一本鎖抗体(scfv)を含み、前記ヒトCD123に対する抗原結合部分は一本鎖抗体(scfv)を含む、
二重特異性抗体。
【請求項8】
請求項3に記載の二重特異性抗体であって、前記抗体は第1のアームおよび第2のアームを備え、そのうち前記第1のアームはヒトCD3Eに対する抗原結合部分を含み、前記第2のアームはヒトCD123に対する抗原結合部分を含み、そのうち、
前記第1のアームは、配列番号11に記載の重鎖可変領域のアミノ酸配列、配列番号31に記載の重鎖定常領域のアミノ酸配列、配列番号12に記載の軽鎖可変領域のアミノ酸配列、および配列番号32に記載の軽鎖定常領域のアミノ酸配列を含み、
前記第2のアームは、配列番号13に記載の重鎖可変領域のアミノ酸配列、配列番号30に記載の重鎖定常領域のアミノ酸配列、配列番号12に記載の軽鎖可変領域のアミノ酸配列、および配列番号32に記載の軽鎖定常領域のアミノ酸配列を含む、
二重特異性抗体。
【請求項9】
ヒトCD3Eに対する抗原結合部分およびヒトCD123に対する抗原結合部分を含む二重特異性抗体であって、
同一のヒンジ領域を備える重鎖定常領域を2種類含むIgG1抗体であり、前記ヒンジ領域のアミノ酸配列は配列番号10に記載される、二重特異性抗体。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の二重特異性抗体を含む、医薬組成物。
【請求項11】
請求項10に記載の医薬組成物であって、CD123陽性腫瘍を予防または治療するために用いられる、医薬組成物。
前記CD123陽性腫瘍は、好ましくは急性骨髄性白血病(AML)および芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍(BPDCN)からなる群から選ばれる。
【請求項12】
請求項1~9のいずれか1項に記載の二重特異性抗体、または請求項10または11に記載の医薬組成物の、CD123陽性腫瘍を予防または治療するための医薬の製造における、使用。
前記CD123陽性腫瘍は、好ましくは急性骨髄性白血病(AML)および芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍(BPDCN)からなる群から選ばれる。
【請求項13】
CD123陽性腫瘍の予防または治療方法であって、請求項1~9のいずれか1項に記載の二重特異性抗体、または請求項10または11に記載の医薬組成物を、それを必要とする個体に投与することを含む、方法。
前記CD123陽性腫瘍は、好ましくは急性骨髄性白血病(AML)および芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍(BPDCN)からなる群から選ばれる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の同士を参照)
本出願は、2020年2月5日に出願された中国特許出願第202010080449.9号の優先権を主張するものであり、ここでその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、抗体医薬の分野に関し、具体的には、ヒトCD3Eに対する抗原結合部分および/またはヒトCD123に対する抗原結合部分を含む二重特異性抗体、ならびにその医学的使用および生物学的使用を提供する。
【背景技術】
【0003】
二重特異性抗体(bispecific antibody:BsAb)は2つの異なる抗原結合部分を含む人工抗体である。二重特異性抗体は生物医薬分野、特に腫瘍免疫治療に広く応用されている。CD3を標的とする二重特異性抗体は、1つのアームがT細胞表面TCR受容体複合体中のCD3Eサブユニットと結合でき、もう1つのアームが腫瘍抗原を標的とする。このようにして、二重特異性抗体は、非組織適合性複合体(MHC)を依存的に、T細胞特異的に腫瘍細胞を殺傷に向け直すことができる。
【0004】
二重特異性抗体のプラットフォームは多く、構造が複雑である。抗体構造区分ではFc断片有りおよびFc断片無しの2つの種類に大別できる。Fc断片無しの二重特異性抗体は、2つの抗体のVH領域およびVL領域からなるか、またはFab断片からなり、このような二重特異性抗体のの主な代表はBiTE、DART、TandAbs、bi-nanobodyなどが挙げられる。このような二重特異性抗体の優勢は軽重鎖のミスマッチがないことにあり、欠点は半減期が短く、臨床応用が不便であることである。Fc断片有りの二重特異性抗体は伝統的なモノクローナル抗体の構造を保持し、そしてFc断片の生物学的機能を媒介することができる。このような二重特異性抗体の代表的なものは、KIH IgG、crossmab、DVD-Ig、Triomabなどが挙げられ、インビボ半減期が長く、かつ、ADCC、CDC活性(Hongyan Liu, Abhishek Saxena, Sachdev S. Sidhu, et al. Fc engineering for Developing Therapeutic Bispecifc Antibodies and Novel Scaffolds. Front. Immunol. 2017;8:38)を備えてもよい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このため、二重特異性抗体の幅広い適用性に鑑み、当該技術分野では新規な二重特異性抗体の開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様によれば、本発明は、ヒトCD3Eに対する抗原結合部分を含む二重特異性抗体を提供し、前記ヒトCD3Eに対する抗原結合部分は、
配列番号1に記載のHCDR1(重鎖CDR1)、
配列番号2に記載のHCDR2(重鎖CDR2)、
配列番号3に記載のHCDR3(重鎖CDR3)、
配列番号4に記載のLCDR1(軽鎖CDR1)、
配列番号5に記載のLCDR2(軽鎖CDR2)、および
配列番号6に記載のLCDR3(軽鎖CDR3)を含み、
ここで、HCDRおよびLCDRはKabatに従って定義される。
【0007】
第2の態様によれば、本発明は、ヒトCD123に対する抗原結合部分を含む二重特異性抗体を提供し、前記ヒトCD123に対する抗原結合部分は、
配列番号7に記載のHCDR1(重鎖CDR1)、
配列番号8に記載のHCDR2(重鎖CDR2)、
配列番号9に記載のHCDR3(重鎖CDR3)、
配列番号4に記載のLCDR1(軽鎖CDR1)、
配列番号5に記載のLCDR2(軽鎖CDR2)、および
配列番号6に記載のLCDR3(軽鎖CDR3)を含み、
ここで、HCDRおよびLCDRはKabatに従って定義される。
【0008】
第3の態様によれば、本発明は、ヒトCD3Eに対する抗原結合部分およびヒトCD123に対する抗原結合部分を含む二重特異性抗体を提供する。
第3の態様のいくつかの実施形態において、前記ヒトCD3Eに対する抗原結合部分は、
配列番号1に記載のHCDR1、
配列番号2に記載のHCDR2、
配列番号3に記載のHCDR3、
配列番号4に記載のLCDR1、
配列番号5に記載のLCDR2、および
配列番号6に記載のLCDR3を含み、
ここで、HCDRおよびLCDRはKabatに従って定義される。
【0009】
第3の態様のいくつかの実施形態において、前記ヒトCD123に対する抗原結合部分は、
配列番号7に記載のHCDR1、
配列番号8に記載のHCDR2、
配列番号9に記載のHCDR3、
配列番号4に記載のLCDR1、
配列番号5に記載のLCDR2、および
配列番号6に記載のLCDR3を含み、
ここで、HCDRおよびLCDRはKabatに従って定義される。
【0010】
第3の態様のいくつかの実施形態において、前記ヒトCD3Eに対する抗原結合部分および前記ヒトCD123に対する抗原結合部分は同一の軽鎖可変領域を含む。
第3の態様のいくつかの実施形態において、前記二重特異性抗体は同一のヒンジ領域を備える重鎖定常領域を2種類含むIgG1抗体であり、前記ヒンジ領域のアミノ酸配列は配列番号10に記載される。
第3の態様のいくつかの実施形態において、前記二重特異性抗体は第1の重鎖定常領域および第2の重鎖定常領域を含むIgG1抗体であり、そのうち、前記第1の重鎖定常領域の354番目および366番目のアミノ酸はそれぞれCおよびWであり、前記第2の重鎖定常領域の349、366、368および407番目のアミノ酸はそれぞれC、S、AおよびVであり、抗体定常領域アミノ酸位置はEU numberingに従って決定される。
第3の態様のいくつかの実施形態において、前記二重特異性抗体は第1の重鎖定常領域および第2の重鎖定常領域を含むIgG1抗体であり、そのうち前記第1の重鎖定常領域および第2の重鎖定常領域の234、235および331番目のアミノ酸はそれぞれF、EおよびSであり、抗体定常領域アミノ酸位置はEU numberingに従って決定される。
【0011】
第1の態様および第3の態様のいくつかの実施形態において、前記ヒトCD3Eに対する抗原結合部分は、配列番号11に記載の重鎖可変領域、および配列番号12に記載の軽鎖可変領域を含む。
【0012】
第2の態様および第3の態様のいくつかの実施形態において、前記ヒトCD123に対する抗原結合部分は、配列番号13に記載の重鎖可変領域、および配列番号12に記載の軽鎖可変領域を含む。
上記のいずれかの態様のいくつかの実施形態において、前記ヒトCD3Eに対する抗原結合部分は一本鎖抗体(scfv)またはFab断片を含む。
上記のいずれかの態様のいくつかの実施形態において、前記ヒトCD123に対する抗原結合部分は一本鎖抗体(scfv)またはFab断片を含む。
【0013】
第3の態様のいくつかの実施形態において、前記抗体は第1のアームおよび第2のアームを備え、そのうち前記第1のアームはヒトCD3Eに対する抗原結合部分を含み、前記第2のアームはヒトCD123に対する抗原結合部分を含み、そのうち、
前記第1のアームは、配列番号11に記載の重鎖可変領域のアミノ酸配列、配列番号31に記載の重鎖定常領域のアミノ酸配列、配列番号12に記載の軽鎖可変領域のアミノ酸配列、および配列番号32に記載の軽鎖定常領域のアミノ酸配列を含み、
前記第2のアームは、配列番号13に記載の重鎖可変領域のアミノ酸配列、配列番号30に記載の重鎖定常領域のアミノ酸配列、配列番号12に記載の軽鎖可変領域のアミノ酸配列、および配列番号32に記載の軽鎖定常領域のアミノ酸配列を含む。
【0014】
第4の態様によれば、本発明は、第1乃至第3の態様のいずれかの態様に記載の二重特異性抗体を含む医薬組成物を提供する。
第4の態様のいくつかの実施形態において、CD123陽性腫瘍を予防または治療するための医薬組成物を提供する。
【0015】
第5の態様によれば、本発明は、第1乃至第3の態様のいずれかの態様に記載の二重特異性抗体、または第4の態様に記載の医薬組成物、CD123陽性腫瘍を予防または治療するための医薬の製造における使用を提供する。
【0016】
第6の態様によれば、本発明は、第1乃至第3の態様のいずれかの態様に記載の二重特異性抗体、または第4の態様に記載の医薬組成物を、それを必要とする個体に投与することを含むCD123陽性腫瘍の予防または治療方法提供する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】フローサイトメトリーを用いて組換え抗CD123モノクローナル抗体と細胞表面のCD123との特異的結合を分析する結果を示す図である。
【
図2】フローサイトメトリーを用いてH7A3ヒト化変異体H7A3-h2-m5+L27E5とMV-4-11細胞表面のCD123との結合を分析する結果を示す図である。
【
図3】ELISAを用いて二重特異性抗体CD3E×CD123とCD3EおよびCD123の2種類の抗原との結合を分析する結果を示す図である。
【
図4】フローサイトメトリーを用いて二重特異性抗体CD3E×CD123とJurkat-Dual細胞表面のCD3Eとの結合能を分析する結果を示す図である。
【
図5】フローサイトメトリーを用いて二重特異性抗体CD3E×CD123とMV-4-11細胞表面のCD123との結合能を分析する結果を示す図である。
【
図6】CD123陽性腫瘍細胞の存在下で二重特異性抗体CD3×CD123のJurkat-Dualに対する活性化の結果を示す図である。ここで、図のAは、二重特異性抗体CD3×CD123、抗CD3Eモノクローナル抗体H3B8+L27E5、抗CD123モノクローナル抗体H7A3-h2-m5+L27E5、および抗CD3Eモノクローナル抗体H3B8+L27E5と抗CD123モノクローナル抗体H7A3-h2-m5+L27E5との組み合わせのJurkat-Dualに対する活性化の結果であり、図のBは、CD123陽性標的細胞の存在下で二重特異性抗体CD3×CD123、二重特異性抗体対照試料Xmab14045およびHIgGのJurkat-Dualに対する活性化の結果、並びにCD123陰性標的細胞の存在下で二重特異性抗体CD3×CD123および二重特異性抗体対照試料Xmab14045のJurkat-Dualに対する活性化の結果を示す図である。
【
図7】二重特異性抗体CD3E×CD123によって媒介されて精製されたT細胞CD123陽性腫瘍細胞に対する殺傷の結果を示す図である。
【
図8】フローサイトメトリーを用いて検出れた二重特異性抗体CD3E×CD123がCD123陽性腫瘍細胞の存在下で特異的にT細胞を活性化し、CD69の発現を上方制御した結果を示す図である。
【
図9】フローサイトメトリーを用いて検出れた二重特異性抗体CD3E×CD123がCD123陽性腫瘍細胞の存在下でT細胞増殖を促進する結果を示す図であり、ここで、図のAは、二重特異性抗体CD3×CD123、抗CD3Eモノクローナル抗体H3B8+L27E5、抗CD123モノクローナル抗体H7A3-h2-m5+L27E5、および抗CD3Eモノクローナル抗体H3B8+L27E5と抗CD123モノクローナル抗体H7A3-h2-m5+L27E5との組み合わせがCD123陽性腫瘍細胞の存在下でT細胞増殖を促進する結果であり、図のBは、二重特異性抗体CD3×CD123および二重特異性抗体対照試料Xmab14045がCD123陽性腫瘍細胞の存在下でT細胞増殖を促進する結果である。
【
図10】二重特異性抗体CD3E×CD123で治療されたhCD34
+ヒト化MV-4-11細胞腫瘍モデルのマウス腫瘍体積の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔配列説明〕
配列番号1は、抗ヒトCD3Eモノクローナル抗体H3B8+L27E5の重鎖可変領域H3B8のHCDR1のアミノ酸配列である。
配列番号2は、抗ヒトCD3Eモノクローナル抗体H3B8+L27E5の重鎖可変領域H3B8のHCDR2のアミノ酸配列である。
配列番号3は、抗ヒトCD3Eモノクローナル抗体H3B8+L27E5の重鎖可変領域H3B8のHCDR3のアミノ酸配列である。
配列番号4は、軽鎖可変領域L27E5のLCDR1のアミノ酸配列である。
配列番号5は、軽鎖可変領域L27E5のLCDR2のアミノ酸配列である。
配列番号6は、軽鎖可変領域L27E5のLCDR3のアミノ酸配列である。
配列番号7は、抗ヒトCD123モノクローナル抗体H7A3-h2-m5+L27E5の重鎖可変領域H7A3-h2-m5のHCDR1のアミノ酸配列である。
配列番号8は、抗ヒトCD123モノクローナル抗体H7A3-h2-m5+L27E5の重鎖可変領域H7A3-h2-m5のHCDR2のアミノ酸配列である。
配列番号9は、抗ヒトCD123モノクローナル抗体H7A3-h2-m5+L27E5の重鎖可変領域H7A3-h2-m5のHCDR3のアミノ酸配列である。
配列番号10は、ヒンジ領域のアミノ酸配列である。
【0019】
配列番号11は、ラットモノクローナル抗体WM03-C6のヒト化重鎖変異体H3B8のアミノ酸配列である。
配列番号12は、ラットモノクローナル抗体WM03-C6のヒト化の軽鎖変異体L27E5のアミノ酸配列である。
配列番号13は、ヒト化バージョンH7A3-h2-m5のアミノ酸配列である。
配列番号14は、ヒト(Homo sapiens)CD3E細胞外領域(hCD3E)のアミノ酸配列である。
配列番号15は、ヒト(Homo sapiens)CD3D細胞外領域(hCD3D)のアミノ酸配列である。
配列番号16は、蟹喰猿(カニクイザル:Macaca fascicularis)CD3E細胞外領域(mfCD3E)のアミノ酸配列である。
配列番号17は、蟹喰猿(Macaca fascicularis)CD3D細胞外領域(mfCD3D)のアミノ酸配列である。
配列番号18は、マウス(Mus musculus)CD3E細胞外領域(mCD3E)のアミノ酸配列である。
配列番号19は、マウス(Mus musculus)CD3D細胞外領域(mCD3D)のアミノ酸配列である。
配列番号20は、ヒト(Homo sapiens)CD123サブタイプ1細胞外領域(hCD123-SP1)のアミノ酸配列である。
【0020】
配列番号21は、蟹喰猿(Macaca fascicularis)CD123サブタイプ1細胞外領域(mfCD123-SP1)のアミノ酸配列である。
配列番号22は、マウス(Mus musculus)CD123サブタイプ1細胞外領域(mCD123-SP1)のアミノ酸配列である。
配列番号23は、Hisタグのアミノ酸配列である。
配列番号24は、マウス(Mus musculus)IgG2a抗体のFc断片(mFc)のアミノ酸配列である。
配列番号25は、ヘテロダイマーのヒトIgG1サブタイプのFc変異体FcKのアミノ酸配列である。
配列番号26は、ヘテロダイマーのヒトIgG1サブタイプのFc変異体FcHのアミノ酸配列である。
配列番号27は、ヒト(Homo sapiens)IgG1サブタイプ抗体重鎖定常領域のアミノ酸配列である。
配列番号28は、ヒトIgG1サブタイプ抗体重鎖定常領域変異体IgG1Hのアミノ酸配列である。
配列番号29は、ヒトIgG1サブタイプ抗体重鎖定常領域変異体IgG1Kのアミノ酸配列である。
配列番号30は、ヒトIgG1サブタイプ抗体重鎖定常領域変異体IgG1m3-Hのアミノ酸配列である。
【0021】
配列番号31は、ヒトIgG1サブタイプ抗体重鎖定常領域変異体IgG1m3-Kのアミノ酸配列である。
配列番号32は、ヒト(Homo sapiens)κサブタイプ軽鎖定常領域のアミノ酸配列である。
配列番号33は、ヒト(Homo sapiens)λサブタイプ軽鎖定常領域のアミノ酸配列である。
配列番号34は、モノクローナル抗体WM03-C6の重鎖可変領域のアミノ酸配列である。
配列番号35は、モノクローナル抗体WM03-C6の軽鎖可変領域のアミノ酸配列である。
配列番号36は、抗ヒトCD123の一本鎖抗体S8F3のアミノ酸配列である。
配列番号37は、抗ヒトCD123の一本鎖抗体S8F3の重鎖可変領域S8F3VHのアミノ酸配列である。
配列番号38は、抗CD123抗体CSL362の重鎖アミノ酸配列である。
配列番号39は、抗CD123抗体CSL362の軽鎖アミノ酸配列である。
配列番号40は、Hole変異含有IgG1m3サブタイプのXmab14045の結合するCD123の重鎖のアミノ酸配列である。
配列番号41は、Knob変異含有IgG1m3サブタイプのXmab14045の結合するCD3EのscFv構造のアミノ酸配列である。
配列番号42は、Xmab14045の軽鎖のアミノ酸配列である。
【0022】
〔定義〕
以下の定義および方法は、本発明をより明確に定義し、本発明の実践において当業者を指導するために提供されるものである。特に断らない限り、本明細書に記載された全ての用語は、当業者によって一般的に理解される意味を有する。本明細書に引用される全ての特許文献、学術論文及びその他の公開出版物は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0023】
本明細書に抗体構造を説明する際、アミノ酸位置番号に関する説明は、ヒトIgG1抗体のEU numbering定義を参照されたいが、これは当業者には周知であり、かつ容易に照会し入手可能である。また、本明細書では、EU numberingの位置に合わせて変異を記述する場合、天然抗体配列に対して発生する変異を指す。
【0024】
本明細書に記載の用語「Fc断片」、「Fc領域」、「Fc部分」または類似の用語とは、抗体重鎖定常領域の一部を指し、ヒンジ領域(hinge)、定常領域のCH2断片およびCH3断片を含む。ヒトIgG1抗体のEU numberingの定義を参照すると、Fc断片は抗体定常領域における216~447番目のアミノ酸配列である。
【0025】
本明細書に記載の用語「Fab(fragment antigen binding)断片」、「Fab部分」または類似の用語とは、完全な抗体をパパイン処理した後に生成される、抗原に結合可能な抗体断片を指し、完全な軽鎖(VL-CL)、重鎖可変領域およびCH1断片(VH-CH1)を含む。
【0026】
本明細書に記載の用語「一本鎖抗体(scfv:single chain fragment variable)」とは、一般的に遺伝子工学技術を用いて構築された一本鎖構造の抗体を指し、重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)を含むポリペプチド鎖である。重鎖可変領域および軽鎖可変領域の間には、通常、重鎖可変領域と軽鎖可変領域とが抗原を結合できる正しい配座に折り畳まれるようにフレキシブルな連結ペプチド(可撓性リンカー)が設計されている。
【0027】
本明細書に記載の用語「抗原結合部分」とは、抗体構造のうち抗原結合能を決定する部分を指す。抗体構造のうち抗原結合能を決定する主要な部分がCDRであり、したがってCDRも抗原結合部分の中核的な構成要素であることは、当業者にとって理解すべきである。二重特異性抗体構築において、「抗原結合部分」の例としては一本鎖抗体(scfv)またはFab断片を含むが、これらに限らない。
【0028】
本明細書に記載の用語「二重特異性抗体」とは、2つの異なる抗原を結合する能力を持つ抗体であって、2つのFc断片とそれぞれ融合した2つの抗原結合部分からなる抗体を指す。
【0029】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の「二重特異性抗体」とは、ヒトIgG1抗体に基づく二重特異性抗体を指し、かつ、本明細書中に記載の改変構造に加えて、ヒトIgG1抗体の基本的な特徴および機能を有する。本明細書に記載の「二重特異性抗体」は、ヒトIgG2抗体のような他の免疫グロブリンサブタイプにも基づくものであってもよいことは当業者に知られている。
【0030】
相補決定領域(CDR、通常CDR1、CDR2およびCDR3が有り)は、可変領域のうち抗体の親和性および特異性への影響が最も大きい領域であることが当業者に知られている。VHまたはVLのCDR配列には、kabat定義およびChothia定義という2つの一般的な定義方式がある(例えば、Kabat、「Sequences of Proteins of Immunological Interest」,National Institutes of Health, Bethesda,Md.(1991)、A1-Lazikani et al.,J. Mol. Biol. 273:927-948(1997)、およびMartin et al.,Proc. Natl. Acad. Sci.USA86:9268-9272(1989)を参照)。所与の抗体の可変領域配列について、VHおよびVL配列におけるCDR領域配列は、Kabat定義またはChothia定義に基づいて決定することができる。本発明のいくつかの実施形態において、Kabatを用いてCDR配列を定義する。
【0031】
所与の抗体の可変領域配列について、可変領域配列におけるCDR領域配列は様々な方法で分析することができ、例えばオンラインソフトウェアAbysis(http://www.abysis.org/)を用いて決定することができる。
【0032】
本明細書に記載の用語「特異的結合」とは、2つの分子間の非ランダム結合反応、例えば、抗体と抗原エピトープとの結合を指す。
【0033】
CD3分子はT細胞膜上の重要な分化抗原であり、成熟T細胞の特徴的な標識でもある。CD3はγ、δ、εおよびζという4種類の鎖またはγ、δ、ε、ζおよびη(ζおよびηは、相同異性体であり)という5種類の鎖からなり、CD3γε、CD3δεおよびCD3ζζ(またはCD3ζη)という3種のダイマーからなり、かつT細胞膜上に発現されている。CD3γ、δおよびεという3本の鎖には、高度に保存された酸性アミノ酸残基(γはグルタミン酸、δおよびεはアスパラギン酸)を含有し、塩橋を介して非共有結合でT細胞受容体(TCR)αおよびβ鎖上の塩基性アミノ酸残基と結合して安定なTCR-CD3複合体構造を形成している。当該複合体はT細胞の活性化シグナルを伝達してTCR構造を安定することができる。CD3の各鎖の細胞内領域には、いずれもITAM(免疫受容体チロシン活性化モチーフ)構造を含有し、当該構造は、CD3分子が細胞内シグナル伝達を媒介する基礎である。TCRが特異的に抗原(MHC分子が提示した抗原ペプチド)を識別し結合した後、T細胞内におけるチロシンタンパク質キナーゼリン酸化ITAM上のチロシン残基は、SH2領域含有チロシンタンパク質キナーゼ(ZAP-70)を募集し、シグナルをT細胞の細胞質内に伝達して細胞内活性化機序を起動し、このためCD3はTCRが抗原を識別して発生した活性化シグナルを伝達する機能を有し、T細胞の活性化を誘導する第1のシグナルである。
【0034】
CD123は、ヒトインターロイキン-3(IL-3)受容体α鎖とも呼ばれ、サイトカイン受容体スーパーファミリーメンバーに属し、分子量は約40KDaであり、I型膜貫通糖タンパク質である。インターロイキン-3受容体は、α鎖(CD123)およびβ鎖(CD131)からなるヘテロ二量体である。IL-3とCD123とが結合した後、CD131からシグナル伝達を提供し、さらに造血細胞および免疫細胞の機能を調整し、内皮細胞増殖を刺激する(Testa et al.,Biomark Res.2:4(2014))。
【0035】
CD123は、主に発現在骨髄前駆細胞、形質細胞様樹状細胞、単核細胞(単球)、好塩基球および少量のB細胞サブセット(Munoz L et al,Haematologica.86(12):1261-9)。約80%のAML患者の前幼若細胞はCD123を過剰発現しており、CD123抗原の過剰発現がAMLの不良予後と比較的低い寛解率(緩和率)に対応することが研究により示されている(Testa U et al,Blood. 2002;100(8))。多くのAML患者は初期治療に対する反応は良好であるが、まだ一部の患者(60~80%)は完全に寛解(緩和)に達するために強固な治療を必要とする。
【0036】
第1の態様によれば、本発明は、ヒトCD3Eに対する抗原結合部分を含む二重特異性抗体を提供する。前記ヒトCD3Eに対する抗原結合部分は、
配列番号1に記載のHCDR1、
配列番号2に記載のHCDR2、
配列番号3に記載のHCDR3、
配列番号4に記載のLCDR1、
配列番号5に記載のLCDR2、および
配列番号6に記載のLCDR3を含み、
ここで、HCDRおよびLCDRはKabatに従って定義される。
【0037】
第2の態様によれば、本発明は、ヒトCD123に対する抗原結合部分を含む二重特異性抗体を提供する。前記ヒトCD123に対する抗原結合部分は、
配列番号7に記載のHCDR1、
配列番号8に記載のHCDR2、
配列番号9に記載のHCDR3、
配列番号4に記載のLCDR1、
配列番号5に記載のLCDR2、および
配列番号6に記載のLCDR3を含み、
ここで、HCDRおよびLCDRはKabatに従って定義される。
【0038】
第3の態様によれば、本発明は、ヒトCD3Eに対する抗原結合部分およびヒトCD123に対する抗原結合部分を含む二重特異性抗体を提供する。
第3の態様のいくつかの実施形態において、前記ヒトCD3Eに対する抗原結合部分は、
配列番号1に記載のHCDR1、
配列番号2に記載のHCDR2、
配列番号3に記載のHCDR3、
配列番号4に記載のLCDR1、
配列番号5に記載のLCDR2、および
配列番号6に記載のLCDR3を含み、
ここで、HCDRおよびLCDRはKabatに従って定義される。
【0039】
第3の態様のいくつかの実施形態において、前記ヒトCD123に対する抗原結合部分は、
配列番号7に記載のHCDR1、
配列番号8に記載のHCDR2、
配列番号9に記載のHCDR3、
配列番号4に記載のLCDR1、
配列番号5に記載のLCDR2、および
配列番号6に記載のLCDR3を含み、
ここで、HCDRおよびLCDRはKabatに従って定義される。
【0040】
第3の態様のいくつかの実施形態において、前記ヒトCD3Eに対する抗原結合部分および前記ヒトCD123に対する抗原結合部分は同一の軽鎖可変領域を含む。
第3の態様のいくつかの具体実施形態において、前記ヒトCD3Eに対する抗原結合部分および前記ヒトCD123に対する抗原結合部分には、同一の軽鎖を含み、当該実施形態は、軽鎖および重鎖の正確な組み立てに有利であり、好ましい実施形態の1つでもある。
【0041】
第3の態様のいくつかの実施形態において、前記二重特異性抗体は、2種類の同一のヒンジ領域を備える重鎖定常領域を含むIgG1抗体であり、前記ヒンジ領域のアミノ酸配列配列番号10に示すように、天然ヒトIgG1抗体定常領域の216~230番目の配列に置換され、抗体定常領域アミノ酸位置はEU numberingに従って決定される。
【0042】
第3の態様のいくつかの実施形態において、前記二重特異性抗体は、第1の重鎖定常領域および第2の重鎖定常領域を含むIgG1抗体であり、そのうち第1の重鎖定常領域の354番目および366番目のアミノ酸は、それぞれCおよびWであり、第2の重鎖定常領域の349、366、368および407番目のアミノ酸は、それぞれC、S、AおよびVであり、抗体定常領域アミノ酸位置はEU numberingに従って決定される。
【0043】
抗体Fc領域を保留する二重特異性抗体を構築する場合、以下の2つの角度から二重特異性抗体の構造を最適化することができる。その1は、重鎖のヘテロマー化であり、その2は軽鎖および重鎖の正確な組み立てである。いくつかの実施形態において、2種類のFc断片は、重鎖のヘテロマー化を確保することができる変異を含む。KIH技術(knob-in-hole:KIH)は、重鎖のヘテロマー化を解決する戦略である。一般的には、KIH技術とは、CH3領域のアミノ酸配列を改造することで異種の不完全抗体同士の対にするの(ペアリング)に有利な構造を形成することを指し、二重特異性抗体を構成すると同時に、正常な抗体の構造をできるだけ維持することができる。いくつかの実施形態において、用いられるKIH技術は、1つのFc断片の354番目および366番目のアミノ酸をそれぞれCおよびWとすること、もう1つのFc断片の349、366、368および407番目のアミノ酸をそれぞれC、S、AおよびVとすることを含む。KIH技術の指導については、例えば、「An efficient route to human bispecific IgG」, A. Margaret Merchant et al., Nature Biotechnology, Volume 16, 1998を参照されたく、この文献の全文を援用により本明細書に組み込む。
【0044】
第3の態様のいくつかの実施形態において、前記二重特異性抗体は、第1の重鎖定常領域および第2の重鎖定常領域を含むIgG1抗体であり、そのうち第1の重鎖定常領域および第2の重鎖定常領域の234、235および331番目のアミノ酸は、それぞれF、EおよびSであり、抗体定常領域アミノ酸位置はEU numberingに従って決定される。
【0045】
第3の態様のいくつかの実施形態において、2種類の重鎖定常領域のCH2断片の234番目、235番目および331番目のアミノ酸は、それぞれF、EおよびSであり、抗体Fc断片によって媒介される抗体依存性細胞障害(ADCC)を低減することができ、二重特異性抗体の体内での副作用を減少させる可能性がある。上記の変異の指導について、例えば、「The binding affinity of human IgG for its high affinity Fc receptor is determined by multiple amino acids in the CH2 domain and is modulated by the hinge region」, Stephen M. Canfield et al., J. Exp. Med. Volume 173, 1991を参照されたく、この文献の全文を援用により本明細書に組み込む。
【0046】
第1および第3の態様のいくつかの実施形態において、ヒトCD3Eに対する抗原結合部分は、配列番号11(配列番号1に記載のHCDR1、配列番号2に記載のHCDR2、および配列番号3に記載のHCDR3を含む)に記載の重鎖可変領域、および配列番号12に記載の軽鎖可変領域(配列番号4に記載のLCDR1、配列番号5に記載のLCDR2、および配列番号6に記載のLCDR3を含む)を含む。
【0047】
第2および第3の態様のいくつかの実施形態において、ヒトCD123に対する抗原結合部分は、配列番号13(配列番号7に記載のHCDR1、配列番号8に記載のHCDR2、および配列番号9に記載のHCDR3を含む)に記載の重鎖可変領域、および配列番号12に記載の軽鎖可変領域(配列番号4に記載のLCDR1、配列番号5に記載のLCDR2、および配列番号6に記載のLCDR3を含む)を含む。
【0048】
上記のいずれかの態様のいくつかの実施形態において、前記ヒトCD3Eに対する抗原結合部分は一本鎖抗体(scfv)またはFab断片を含む。
【0049】
上記のいずれかの態様のいくつかの実施形態において、前記ヒトCD123に対する抗原結合部分は一本鎖抗体(scfv)またはFab断片を含む。
【0050】
二重特異性抗体は2種類の異なる抗原に対する2つの異なる抗原結合部分を備え、抗原結合部分は一本鎖抗体(scfv)またはFab断片という2種類の形でを含むことができ、そこで、所与の2種類の抗原に対する場合、二重特異性抗体の抗原結合部分は、Fab+Fab、Fab+scfv、scfv+Fab、およびscfv+scfvという4種の組み合せの方式を配置することができる。
【0051】
上記のいずれかの態様のいくつかの具体実施形態において、前記ヒトCD3Eに対する抗原結合部分はFab断片を含み、前記ヒトCD123に対する抗原結合部分はFab断片を含む。
【0052】
上記のいずれかの態様のいくつかの具体実施形態において、前記ヒトCD3Eに対する抗原結合部分はFab断片を含み、前記ヒトCD123に対する抗原結合部分は一本鎖抗体(scfv)を含む。
【0053】
上記のいずれかの態様のいくつかの具体実施形態において、前記ヒトCD3Eに対する抗原結合部分は一本鎖抗体(scfv)を含み、前記ヒトCD123に対する抗原結合部分はFab断片を含む。
【0054】
上記のいずれかの態様のいくつかの具体実施形態において、前記ヒトCD3Eに対する抗原結合部分は一本鎖抗体(scfv)を含み、前記ヒトCD123に対する抗原結合部分は一本鎖抗体(scfv)を含む。
【0055】
本明細書において、二重特異性抗体が2つの「アーム(腕)」を備えることも記載されており、中間を境に二重特異性抗体を2つのアームに分けることができる。二重特異性抗体は、Fc断片および抗原結合部分(Fab断片または一本鎖抗体)から構成することができる。Fc断片およびFab断片から構成するアームは、その構造が一般的な抗体に類似し、完全な重鎖および軽鎖を含有するため、このようなアームの構造はFc+Fabと表すことができ、重鎖(Fc+Fabにおける重鎖可変領域およびCH1断片)+軽鎖(Fabにおける軽鎖部分)とも表すことができる。2つのアームのいずれもFab断片形式の抗原結合部分を含有する場合、これによって形成される二重特異性抗体の構造は天然抗体に近いので、これが好ましい実施形態の1つである。
【0056】
第3の態様のいくつかの実施形態において、前記抗体は第1のアームおよび第2のアームを備え、そのうち第1のアームはヒトCD3Eに対する抗原結合部分を含み、第2のアームはヒトCD123に対する抗原結合部分を含み、そのうち、
前記第1のアームは、配列番号11に記載の重鎖可変領域のアミノ酸配列、配列番号31に記載の重鎖定常領域のアミノ酸配列、配列番号12に記載の軽鎖可変領域のアミノ酸配列、および配列番号32に記載の軽鎖定常領域のアミノ酸配列を含み、
前記第2のアームは、配列番号13に記載の重鎖可変領域のアミノ酸配列、配列番号30に記載の重鎖定常領域のアミノ酸配列、配列番号12に記載の軽鎖可変領域のアミノ酸配列、および配列番号32に記載の軽鎖定常領域のアミノ酸配列を含む。
【0057】
上記のいずれかの態様のいくつかの実施形態において、前記二重特異性抗体の重鎖定常領域は、ヒトIgG1サブタイプまたは選択されたヒトIgG1サブタイプの各種の変異体、例えば、IgG1H、IgG1K、IgG1m3-HまたはIgG1m3-Kである。
上記のいずれかの態様のいくつかの実施形態において、前記二重特異性抗体の軽鎖定常領域は、ヒトκサブタイプまたはヒトλサブタイプであり、ヒトκサブタイプであることが好ましい。
【0058】
第4の態様によれば、本発明は、第1乃至第3の態様のいずれかの態様に記載の二重特異性抗体を含む医薬組成物を提供する。
いくつかの実施形態において、前記医薬組成物は薬学的に許容される担体、賦形剤、希釈剤などをさらに含む。
いくつかの実施形態において、前記医薬組成物は、CD123陽性腫瘍、例えば、急性骨髄性白血病(AML)および芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍(BPDCN)を予防または治療するためのものである。
いくつかの実施形態において、医薬組成物は、潤滑剤(例えばタルク、ステアリン酸マグネシウムおよび鉱物油)、潤湿剤、乳化剤、懸濁化剤、防食剤(例えば安息香酸、ソルビン酸およびプロピオン酸カルシウム)、甘味剤および/または調味剤などをさらに含んでもよい。
【0059】
いくつかの実施形態において、本発明に係る医薬組成物は錠剤、丸剤、粉剤、トローチ剤、エリキシル剤、懸濁液、乳剤、溶液、シロップ剤、坐剤またはカプセル剤などの形態で製剤化することができる。
いくつかの実施形態において、本発明に係る医薬組成物は、任意の生理学的に許容される投与方式で送達することができる。これら投与方式は、経口投与、胃腸外投与、経鼻投与、直腸投与、腹腔内投与、血管内注射、皮下投与、経皮投与、吸入投与などを含むが、これらに限らない。
いくつかの実施形態において、所望な純度のある試薬と、必要に応じて薬学的に許容される担体、賦形剤などを配合し、貯蔵(保存)のために凍結乾燥製剤または水溶液の形で治療用の医薬組成物を製剤化することができる。
【0060】
第5の態様によれば、本発明は、第1乃至第3の態様のいずれかの態様に記載の二重特異性抗体、または第4の態様に記載の医薬組成物、CD123陽性腫瘍を予防または治療するための医薬の製造における使用を提供する。
第5の態様のいくつかの実施形態において、前記CD123陽性腫瘍は急性骨髄性白血病(AML)および芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍(BPDCN)からなる群から選ばれる。
【0061】
第6の態様によれば、本発明は、第1乃至第3の態様のいずれかの態様に記載の二重特異性抗体、または第4の態様に記載の医薬組成物を、それを必要とする個体に投与することを含むCD123陽性腫瘍の予防または治療方法を提供する。
第6の態様のいくつかの実施形態において、前記CD123陽性腫瘍は急性骨髄性白血病(AML)および芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍(BPDCN)からなる群から選ばれる。
【0062】
なお、上記の詳細な説明は、当業者がより明確に本発明の内容を理解できるようにするためのものだけであり、いずれかの態様を限定する意図ではないことを理解すべきである。当業者は、前記実施形態にさまざまな変更及び変形をすることができる。
【0063】
以下の実施例は、単に説明のためのものであり、本発明の範囲を限定する目的ではない。
【実施例】
【0064】
実施例1:組換えタンパク質の製造
CD3E×CD123二重特異性抗体の製造および同定の過程において、複数種類の異なる組換えタンパク質を用いる必要があり、ヒトCD3E細胞外領域(hCD3E、配列番号14)、ヒトCD3D細胞外領域(hCD3D、配列番号15)、サルCD3E細胞外領域(mfCD3E、配列番号16)、サルCD3D細胞外領域(mfCD3D、配列番号17)、マウスCD3E細胞外領域(mCD3E、配列番号18)、マウスCD3D細胞外領域(mCD3D、配列番号19)およびヒトCD123サブタイプ1細胞外領域(hCD123-SP1、配列番号20)、サルCD123サブタイプ1細胞外領域(mfCD123-SP1、配列番号21)、マウスCD123サブタイプ1細胞外領域(mCD123-SP1、配列番号22)を含む。これらの組換えタンパク質は、いずれも大量の翻訳後修飾(例えば、グリコシル化またはジスルフィド結合など)を有するため、哺乳類細胞発現系を用いることにより、組換えタンパク質の構造および機能をさらに維持するのに有利である。なお、精製を容易にするため、非抗体系の組換えタンパク質のC末端に、Hisタグ(配列番号23)またはマウス抗体IgG2aのFc断片(mFc、配列番号24)を加え、またはKIH(Knob-Into-Hole)技術に基づいてヘテロダイマーのヒトIgG1サブタイプのFc変異体(FcK、配列番号25またはFcH、配列番号26)を形成する。組換え抗体を製造する場合、抗体重鎖定常領域は、ヒトIgG1サブタイプ(配列番号27)または選択されたヒトIgG1サブタイプの各種の変異体であってもよく、例えばIgG1H(配列番号28)、IgG1K(配列番号29)、IgG1m3-H(配列番号30)またはIgG1m3-K(配列番号31)であり、軽鎖定常領域はヒトκサブタイプ(配列番号32)またはヒトλサブタイプ(配列番号33)である。
【0065】
Uniprotデータベースにおける各種の目的の組換えタンパク質のアミノ酸配列に基づき、上記の各種の組換えタンパク質の遺伝子(Hisタグ、mFcまたはFcコード遺伝子を含む)を設計し合成する。通常の分子生物学技術を用いて合成された各種の組換えタンパク質遺伝子を適切な真核発現ベクター(例えば、invitrogen社のpcDNA3.1など)にクローンし、その後リポソーム(例えば、invitrogen社の293fectinなど)またはその他のトランスフェクション試薬(例えば、PEIなど)を用いて製造された組換えタンパク質発現プラスミドを、HEK293細胞(例えば、invitrogen社のHEK293F)にトランスフェクションさせ、無血清懸濁培養条件下で3~5日間培養した。その後遠心などにより培養上清を回収した。
【0066】
Hisタグ融合発現した組換えタンパク質は、金属キレート親和性クロマトグラフィーカラム(例えば、GE社のHisTrap FFなど)を用いて培養上清における組換えタンパク質に対してさらに精製した。mFc融合発現した組換えタンパク質および組換え抗体は、ProteinA/G親和性クロマトグラフィーカラム(例えば、GE社のMabselect SUREなど)に対してさらに精製した。その後、脱塩カラム(例えば、GE社のHitrap desaultingなど)を用いて組換えタンパク質保存用緩衝液をPBS(pH7.0)または他の適切な緩衝液に置換する。必要に応じて、抗体試料を濾過して除菌し、その後分注して-20℃に保存することができる。
【0067】
実施例2:固定軽鎖に基づくCD123マウス免疫ライブラリの構築
共通軽鎖に基づくCD3E×CD123二重特異性抗体を構築するために、特定の抗CD3Eモノクローナル抗体軽鎖可変領域を選択し、CD123抗原の体内親和性成熟を経たマウス重鎖可変領域に配合し、通常の分子生物学的手段を用いて一本鎖抗体(scFv)ライブラリを構築し、CD123に対する特異的抗体をスクリーニングするために使用する。
【0068】
hCD123-SP1-HisおよびmfCD123-SP1-His組換えタンパク質を用いて6~8週齢のBALB/cマウスを交差免疫した後、脾細胞を収集した。マウスリンパ球分離液(達科為生物技術股扮有限公司、CAT#DKW33-R0100)を用いてマウス脾臓リンパ球を分離し、細胞全RNA抽出キット(天根生化科技(北京)有限公司、CAT#DP430)を用い、分離したリンパ球を全RNAの抽出を行った。抽出した全RNAをテンプレートとして第1の鎖cDNA合成キット(CAT#K1621、Thermo scientific)を用いて抗体の重鎖可変領域を合成した。PCR増幅法などの従来の分子生物学的手段を用い、ヒトおよび蟹喰猿CD3Eを特異的に識別するラットモノクローナル抗体WM03-C6(特許WO2016116626A1に記載のモノクローナル抗体20E5-F10の配列を参照し、重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号34に記載され、軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号35に記載される)の軽鎖可変領域、およびCD123組換え抗原でマウスを免疫して得たマウス重鎖可変領域を得た。その後オーバーラップ伸長PCR技術を用いて一本鎖抗体(scFv)を構築し、製造したマウス一本鎖抗体遺伝子を担体pADSCFV-S(実験技術手順は、中国特許出願第201510097117.0号の実施例1を参照)にクローンし、scFvライブラリを構築した。この抗体ライブラリのライブラリ容量は1.2×10E8に達し、正解率は65%であった。
【0069】
実施例3:固定軽鎖のCD123マウス免疫ライブラリのスクリーニング
3.1 抗ヒトCD123マウス一本鎖抗体のスクリーニング
実施例1で製造された組換えhCD123-SP1-hisを抗原として、固相スクリーニング戦略(実験プロトコールは、バクテリオファージ展示:汎用実験マニュアル/(米)Clackson,T.、(米)Lowman,H.B.編集、馬嵐ら翻訳。化学工業出版社、2008.5を参照)を用いて実施例2で構築されたマウス一本鎖抗体を展示するバクテリオファージライブラリをスクリーニングし、結合、溶出、中和、感染、増幅の方式で合計3回スクリーニングを行い、最終的にヒトCD123に特異的に結合する一本鎖抗体S8F3(配列番号36)1株を得た。
【0070】
通常の分子生物学的手段を用いてS8F3の重鎖可変領域S8F3VH(配列番号37)および軽鎖可変領域WM03-C6VK(配列番号35)をコードするヌクレオチド配列を、それぞれヒト重鎖定常領域および軽鎖定常領域をコードするヌクレオチド配列が融合された真核発現ベクター(例えば、invitrogen社のpcDNA3.1など)にクローニングし、全抗体S8F3VH+C6VKを組み合わせて発現させた。同時に、米国特許US20140178364A1を参照し、抗CD123抗体CSL362(重鎖アミノ酸配列は配列番号38に記載され、軽鎖アミノ酸配列は配列番号39に記載される)製造して陽性対照抗体として後続の研究に用いられる。
【0071】
3.2 組換え抗CD123モノクローナル抗体の親和性分析
Biacore X100を用いて表面プラズマ共鳴技術により抗CD123抗体の親和性を測定した。アミノコンジュゲーションキットキット(Amino Conjugation Kit)(BR-1000-50)、ヒト抗体捕獲キット(BR-1008-39)、CM5チップ(BR100012)およびpH7.4の10× HBS-EP(BR100669)などの関連試薬および消耗品は、すべてGE healthcareから購入した。キットに関する取扱説明書に従い、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(1-Ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl) carbodiimide hydrochloride:EDC)およびN-ヒドロキシスクシンイミド(N-Hydroxysuccinimide:NHS)を用いてカルボキシル化CM5チップ表面を活性化し、10mM、pH5.0の酢酸ナトリウムで抗ヒトIgG(Fc)抗体(捕獲抗体)を25μg/mLまで希釈させた後に、流速10μL/minで注射して約10000個の応答単位(RU)のカップリング量を実現した。捕獲抗体を注射した後、1Mエタノールアミンを注射して未反応基をブロックした。動力学的測定では、抗CD123抗体(S8F3VH+C6VKおよびCSL362)を0.5~1μg/mLまで希釈し、10μL/minで注射し、100RU程度の抗体が抗ヒトFc抗体に捕獲されるように確保した。その後hCD123-SP1-hisを一連の濃度勾配(例えば、2.47nM、7.4nM、22.2nM、66.7nM、200nM)に設定し、25℃、30μL/minで低濃度から高濃度まで注射し、結合時間は120sであり、解離時間は600~2400sであり、10μL/minで3MのMgCl2溶液を30s注射してチップ表面を再生した。Biacore X100評価ソフトウェアのバージョン2.0.1を用いて結合速度(Kon)および解離速度(Koff)を1:1結合モデルフィッティング結合と解離センサーマップから計算した。比率Koff/Konで解離平衡定数(KD)を計算した。フィッティング結果を表1に示す。
【0072】
表1:組換え抗CD123モノクローナル抗体のhCD123-SP1-hisへの結合の親和定数
【表1】
【0073】
3.3 組換え抗CD123モノクローナル抗体結合細胞表面CD123抗原の同定
成長対数期のKG-1a(ヒト急性骨髄性白血病細胞、中国医学科学院基礎医学研究所細胞資源センターから購入)を取り、遠心後1%のBSAを含むPBS緩衝液で2×10
6個/mLまで再懸濁し、100μL/ウェルで96ウェルV底板に敷き、遠心後に上清を取り除いた。被検試料S8F3VH+C6VK、対照試料CSL362、およびHIgG非関連抗体(A01006、ヒトIgG対照(全分子、精製)、GenScript社)を、PBS緩衝液でそれぞれ5μg/mLおよび0.5μg/mLの最終濃度に調製し、細胞を含有するウェルに加え、4℃で1時間インキュベートした。その後200μLのPBS緩衝液で3回洗浄し、ヤギ抗ヒトIgG-FITC(中杉金橋、ZF-0308)二次抗体(100μL/ウェル)を加えて4℃、暗所で30分間インキュベートした。その後200μLのPBS緩衝液で3回洗浄し、PBS緩衝液100μLで再懸濁した後フローサイトメトリー(ACEA,Novocyte)でFITCチャネルを検出した。その結果、S8F3VH+C6VKはCD123陽性細胞KG-1aに特異的に結合できることが示された(
図1)。
【0074】
実施例4:WM03-C6モノクローナル抗体のヒト化および活性同定
4.1 WM03-C6ヒト化設計
ラットのモノクローナル抗体WM03-C6に対してヒト化研究を行い、その免疫原性を低減させた。
【0075】
ヒト化方案は、古典的なフレームワーク移植戦略を採用した(J immunol.169、1119-1125、2002)。WM03-C6の重鎖可変領域および軽鎖可変領域を、それぞれIMGTデータベースにおけるヒト抗体生殖細胞遺伝子配列に比べて適切な生殖細胞遺伝子配列を選択して抗体のフレームワーク領域1~3(FR1+FR2+FR3)を提供し、適切なJ領域遺伝子配列を選択してフレームワーク領域4(FR4)を提供した。このテンプレートは、例えば、抗体の相対的な全長、CDRの大きさ、抗体フレームワーク領域(FR)および超可変領域(CDR)との接合部に位置するアミノ酸残基、配列全体の相同性などの複数種類の要因に基づいて選択することができる。選択されたテンプレートは、親相補決定領域(CDR)の適切な配座(コンフォメーション)を可能な限り維持するために、複数の配列の混合物であってもよく、または共有テンプレートであってもよい。同時に、抗体超可変領域(CDR)における脱アミノ基部位NGがもたらす可能性のあるタンパク質不均一性(異質性)を回避するため、ヒト化後の抗体軽重鎖に対してそれぞれ変異設計を行った。最終的には、ヒト化の軽鎖変異体L27E5(配列番号12)およびヒト化重鎖変異体H3B8(配列番号11)を得た。
【0076】
4.2 WM03-C6ヒト化モノクローナル抗体の親和性分析
実施例3.2を参照し、抗ヒトIgG(Fc)抗体をCM5チップ表面にカップリングし、抗CD3E抗体(WM03-C6およびH3B8+L27E5)を、0.5~1μg/mLまで希釈した。10μL/minで注射し、350~400RU程度の抗体が抗ヒトFcの抗体に捕獲されるように確保する。その後、hCD3E-hisを一連の濃度勾配(例えば、6.17nM、18.5nM、55.6nM、167nM、500nM)に設定し、25℃、30μL/minで低濃度から高濃度まで注射し、結合時間は120sであり、解離時間は600~1800sであり、10μL/minで3MのMgCl2を30s注射してチップ表面を再生した。Biacore X100評価ソフトウェアのバージョン2.0.1を用いて結合速度(Kon)および解離速度(Koff)を1:1結合モデルフィッティング結合と解離センサーマップから計算した。比率Koff/Konで解離平衡定数(KD)を計算した。フィッティング結果を表2に示す。
【0077】
表2:WM03-C6ヒト化モノクローナル抗体結合hCD3E-his親和定数
【表2】
【0078】
実施例5:S8F3のインビトロ親和性成熟
標的抗原に対する二重特異性抗体の特異性を高め、二重特異性抗体の投与過程における組織分布と殺傷効率を強めるために、S8F3重鎖可変領域に対してインビトロ親和性成熟を行った。通常の分子生物学的手段を用いてS8F3重鎖可変領域のCDR3に変異を導入することにより、S8F3VHに基づくCDR3変異ライブラリを構築した。設計した変異方案は、表3に示す通りであり、構築ライブラリ容量は1.7×10E8であり、正解率は86%である。
【0079】
表3:S8F3VH-CDR3変異ライブラリ設計方案
【表3】
【0080】
ダブルベクターバクテリオファージ展示システム(実験技術手順は中国特許出願第201510097117.0号に記載の実施例5を参照)に基づいて、固相スクリーニングの方法により、hCD123-SP1抗原を用いて構築したS8F3VH-CDR3変異ライブラリに対して合計3回のスクリーニング濃縮を行い、最終的に親和性が向上した重鎖可変領域変異体H7A3を得た。得られたH7A3可変領域をコードするヌクレオチド配列を、ヒト重鎖定常領域をコードするヌクレオチド配列が融合された真核発現ベクターにクローニングし、L27E5軽鎖発現ベクターと組み合わせて全抗体を発現させた。
【0081】
実施例3.2を参照してBiacore X100を用いてS8F3重鎖変異体H7A3に対する親和性測定を行い、結果を表4に示す通りである。
【0082】
表4:S8F3重鎖変異体のhCD123-SP1-hisへの結合の親和定数
【表4】
【0083】
実施例6:H7A3のヒト化およびその活性同定
抗ヒトCD123マウスモノクローナル抗体重鎖H7A3のヒト化は古典的なフレームワーク移植戦略を採用した。実施例4を参照してH7A3の重鎖可変領域に対するCDR移植を行い、ヒト化バージョンH7A3VH-h2を得、同時に抗体の配座および親和性を確保するために、ヒト化抗体フレームワーク領域のいくつかの重要なアミノ酸(例えばI69、R71、T73、A75)に対して回復変異を行い、最終的にヒト化バージョンH7A3-h2-m5(配列番号13)を得た。ヒト化抗体のアミノ酸配列に基づいて抗体可変領域遺伝子を設計し合成し、真核発現ベクターにクローニングし、共通軽鎖L27E5を配合してヒトIgG1バージョン全抗体を発現させた。
【0084】
実施例3.2を参照してBiacore X100を用いてH7A3ヒト化バージョンH7A3-h2-m5に対して親和性測定を行い、結果を表5に示す通りである。
【0085】
表5:H7A3ヒト化バージョンのhCD123-SP1-hisへの結合の親和定数
【表5】
【0086】
成長対数期のMV-4-11(ヒト急性単核細胞白血病細胞、南京科佰生物科技有限公司から購入)を取って、遠心後、1%のBSAを含むPBS緩衝液で2×10
6個/mLに再懸濁し、100μL/ウェルで96ウェルV底板に敷き、遠心後に上清を取り除いた。被検試料H7A3-h2-m5+L27E5、対照試料CSL362およびHIgG非関連抗体(A01006、ヒトIgG対照(全分子、精製)、GenScript社)を、PBS緩衝液でそれぞれ初期濃度100nMから3倍段階希釈して合計9つの最終濃度点として調製し、細胞を含有するウェルに加えて4℃で1時間インキュベートした。その後、200μLのPBS緩衝液で3回洗浄し、ヤギ抗ヒトIgG-FITC(中杉金橋、ZF-0308)を100μL/ウェルで加え、4℃、暗所で30分間インキュベートした。その後、200μLのPBS緩衝液で3回洗浄し、PBS緩衝液100μLで再懸濁した後フローサイトメトリー(ACEA,Novocyte)でFITCチャネルを検出した。結果は、
図2に示すように、H7A3-h2-m5+L27E5がCD123陽性細胞MV-4-11とよく結合することができ、KD値は3.1nMである。
【0087】
実施例7:二重特異性抗体の製造
CD3Eモノクローナル抗体の重鎖可変領域H3B8およびCD123モノクローナル抗体の重鎖可変領域H7A3-h2-m5をコードするヌクレオチド配列を、それぞれ適切な真核発現ベクターにクローニングし、共通軽鎖に基づくヘテロダイマーを構築した。すなわち、CD3E抗体の重鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列を、Knob変異のIgG1定常領域IgG1m3-Kをコードするヌクレオチド配列が融合された真核発現ベクターにクローニングし、CD123抗体の重鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列を、Hole変異のIgG1定常領域IgG1m3-Hをコードするヌクレオチド配列を含有する真核発現ベクターにクローニングし、共通軽鎖L27E5の可変領域VKをコードするヌクレオチド配列を、ヒト軽鎖定常領域CKをコードするヌクレオチド配列が融合された真核発現ベクターにクローニングした。同時に、候補分子と臨床で研究しているCD3E×CD123二重特異性抗体との生物学の活性を比較するために、特許WO2017210443を参照してと同一のFc構造に基づくXmab14045(配列番号40、配列番号41、配列番号42)を構築した。
【0088】
構築されたH3B8-IgG1m3-Kを発現し、H7A3-h2-m5-IgG1m3-Hを発現しおよびL27E5-CKを発現する3つの真核発現ベクターを、リポソームを用いてHEK293F細胞に同時トランスフェクションさせ、無血清懸濁培養条件下で3~5日間培養し、その後遠心などにより培養上清を回収した。培養上清における二重特異性抗体に対してProteinA/G親和性クロマトグラフィーカラム(例えば、GE社のMabselect SUREなど)で精製を行い、その後、脱塩カラム(例えば、GE社のHitrap desaultingなど)で組換えタンパク質保存用緩衝液をPBS(pH7.0)または他の適切な緩衝液に置換した。脱塩後、タンパク質溶液を、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)でSuperdex200(GE)により精製して標的タンパク質を得た。必要に応じて抗体試料を濾過して除菌することができ、その後分注して-20℃に保存して用意することができる。
【0089】
実施例8:二重特異性抗体の親和性分析
実施例3.2および4.2を参照し、Biacore X100を用いて表面プラズマ共鳴技術により抗CD3Eモノクローナル抗体H3B8+L27E5、抗CD123モノクローナル抗体H7A3-h2-m5+L27E5、二重特異性抗体CD3×CD123(CD3×CD123 BsAb)、および対照抗体Xmab14045に対して親和性測定を行い、親和性フィッティング結果を表6および表7に示す。
【0090】
表6:二重特異性抗体CD3×CD123のhCD123-SP1-hisへの結合の親和定数
【表6】
【0091】
表7:二重特異性抗体CD3×CD123のCD3Eへの結合の親和定数
【表7】
【0092】
実施例9:二重特異性抗体がCD3EとCD123との2種類の抗原を同時に識別する能力の同定
通常ELISA方法を用いて二重特異性抗体CD3×CD123(CD3×CD123 BsAb)のCD3EとCD123との2種類の抗原の同時結合を検出した。CD123-SP1-mFc抗原を、96ウェルELISAプレート(3μg/mL、100μL/ウェル)で被覆し、4℃で一晩被覆した。ブロッキング液PBS-0.1%Tween20-3%牛乳を用いて37℃で1時間ブロッキングした後、それぞれ抗CD123モノクローナル抗体H7A3-h2-m5+L27E5、抗CD3Eモノクローナル抗体H3B8+L27E5および二重特異性抗体CD3×CD123(10μg/mL、100μL/ウェル)を、それぞれ重複で2つのウェルに加え、37℃で1時間インキュベートした。PBS-0.1%Tween20でELISAプレートを洗浄し、その後CD3E-his抗原(1μg/mL、100μL/ウェル)を加えて37℃で1時間インキュベートした。PBS-0.1%Tween20でELISAプレートを洗浄し、その後HRPマウス抗his IgG(cw0285M、北京康為世紀生物科技有限公司)を加えて37℃で1時間インキュベートした。PBS-0.1%Tween20でELISAプレートを洗浄し、OPD基質発色液を加えて5~10分間後1MのH
2SO
4で発色を停止し、マイクロプレートリーダーにより492nm/630nmの二波長における光学濃度値を測定した。ELISA分析結果、
図3に示すように、二重特異性抗体CD3×CD123は、CD3EとCD123との2種類の抗原を同時に識別することができる。
【0093】
実施例10:二重特異性抗体が細胞表面CD3EおよびCD123を識別する能力の同定
10.1 二重特異性抗体が細胞表面CD3Eを識別する能力の同定
成長対数期のJurkat-Dual細胞(jktd-isnf、Invivogenから購入)を取って、遠心後1%のBSAを含むPBS緩衝液で2×10
6個/mLに再懸濁し、100μL/ウェルで96ウェルV底板に敷き、遠心後に上清を取り除いた。二重特異性抗体対照試料Xmab14045、抗CD3Eモノクローナル抗体H3B8+L27E5、HIgG非関連抗体(A01006、ヒトIgG対照(全分子、精製)、GenScript社)、および二重特異性抗体CD3×CD123(CD3×CD123 BsAb)をPBS緩衝液で希釈し、400nMを初期濃度とし、前の3つの濃度点に対して2倍希釈し、その後の5つの濃度点に対して3倍希釈し、合計8つの濃度点とし、細胞を含有するウェルに加え、4℃で1時間インキュベートした。その後200μLのPBS緩衝液で3回洗浄し、ヤギ抗ヒトIgG-FITC(中杉金橋、ZF-0308)を100μL/ウェルで加え、4℃、暗所で30分間インキュベートした。その後200μLのPBS緩衝液で3回洗浄し、PBS緩衝液100μLで再懸濁した後フローサイトメトリー(ACEA、Novocyte)でFITCチャネルを検出した。結果は、二重特異性抗体CD3×CD123がJurkat-Dual細胞表面のCD3Eとをよく結合できることが示されており、結合強度が対照試料Xmab14045よりも弱く、実施例9の親和性測定結果と同様である(
図4)。
【0094】
10.2 二重特異性抗体が細胞表面CD123を識別する能力の同定
成長対数期のMV-4-11細胞を取って遠心後、1%BSAを含むPBS緩衝液で2×10
6個/mLに再懸濁し、100μL/ウェルで96ウェルV底板に敷き、遠心後に上清を取り除いた。PBS緩衝液で試料を希釈し、二重特異性抗体対照試料Xmab14045、抗CD123モノクローナル抗体H7A3-h2-m5+L27E5、二重特異性抗体CD3×CD123(CD3×CD123 BsAb)およびHIgG非関連抗体(A01006、ヒトIgG対照(全分子、精製)、GenScript社)を、それぞれ100nMの初期濃度から3倍段階希釈して合計9つの濃度点とし、細胞を含有する96ウェルプレートに加え、4℃で1時間インキュベートした。その後200μLのPBS緩衝液で3回洗浄し、ヤギ抗ヒトIgG-FITC(中杉金橋、ZF-0308)を100μL/ウェルで加え、4℃、暗所で30分間インキュベートした。その後200μLのPBS緩衝液で3回洗浄し、PBS緩衝液100μLで再懸濁した後フローサイトメトリー(ACEA、Novocyte)でFITCチャネルを検出した。結果は、二重特異性抗体CD3×CD123がCD123陽性細胞MV-4-11表面のCD123とをよく結合できることが示されており、KD値は7.08nMであり、Xmab14045(KD=6.07nM)と相当する(
図5)。
【0095】
実施例11:二重特異性抗体で媒介されたJurkat-Dual細胞の特異的活性化
成長対数期にあるMV-4-11細胞(CD123
+細胞)を収集し、遠心後1640培地で2×10
6個/mLまで再懸濁し、50μL/ウェルで細胞プレートに敷き、遠心後に上清を取り除いた。成長対数期のJurkat-Dual細胞(Invivogenから購入)収集し、遠心後1640培地で2×10
6個/mLまで再懸濁し、50μL/ウェルで細胞プレートに加えて1:1の最終的なE:T割合を得た。その後、初期濃度6nMから4倍段階希釈してなる8つの濃度点の二重特異性抗体CD3×CD123(CD3×CD123 BsAb、50μL/ウェル)を加えた。二重特異性抗体対照試料Xmab14045、抗CD3Eモノクローナル抗体H3B8+L27E5、抗CD123モノクローナル抗体H7A3-h2-m5+L27E5、H3B8+L27E5とH7A3-h2-m5+L27E5との組み合せ(H3B8+L27E5 & H7A3-h2-m5+L27E5)、CD123陰性標的細胞(BAF3細胞)、およびHIgG非関連抗体(A01006、ヒトIgG対照(全分子、精製)、GenScript社)は対照群として設置され、それぞれ二重特異性抗体CD3×CD123の濃度と同一の濃度を使用した。20時間インキュベートした後、上清を取って、QUANTI-Luc(登録商標)取扱説明書(QUANTI-Luc、Invivogen、rep-qlc2)を参照しては異なる条件下で媒介された腫瘍細胞のJurkat-Dual細胞に対する特異的活性化を検出し分析した(
図6のA~B)。
【0096】
実施例12:二重特異性抗体CD3×CD123で媒介して精製されたT細胞の表面活性化分子の発現およびCD123陽性腫瘍細胞に対する殺傷
12.1 ヒト末梢血単核細胞(PBMC)の分離
正常なボランティアの血液(各50mL)を採取し、すべてのボランティアがインフォームドコンセントを締結した。
【0097】
ボランティアの入選基準は、次の通りである。
1.年齢が18歳を超え、
2.HIV、HBV感染がなく、
3.血液ルーチン検査は正常であり、
4.妊婦または授乳中の女性でない。
Ficoll密度勾配遠心法を用いてボランティア全血細胞からPBMCを分離して得、1640培地に培養した。
【0098】
12.2 二重特異性抗体で媒介して精製されたT細胞のCD123陽性腫瘍細胞を殺傷する検出
成長対数期のMV-4-11細胞(CD123
+細胞)収集し、遠心後1640培地で1×10
6個/mLまで再懸濁し、50μL/ウェルで細胞プレートに敷いた。その後、初期濃度1nMから4倍段階希釈してなる8つの濃度点の二重特異性抗体CD3×CD123(CD3×CD123 BsAb、50μL/ウェル)を加えた。T細胞陰性選別キット取扱説明書(BD IMaq human T lymphocyte enrichment set-DM、BD、557874)に従ってPBMCから精製のT細胞(5×10
6個/mL、50μL/ウェル)を選別して得、最終的なET比(effector-target ratio)は5:1となった。同時に、標的細胞単独の対照(MV-4-11細胞)、効果細胞単独の対照(T)、培地単独の空白対照を設定し、そして培地を用いて体積が150μLになるまで補充した。20時間インキュベートした後、上清を取って、cytoTox96(登録商標)非放射性細胞毒性検出試薬取扱説明書(cytoTox96(登録商標) Non-Radioactive Cytotoxicity Assay、promega、G1780)に従って二重特異性抗体CD3×CD123で媒介されたT細胞の腫瘍細胞に対する殺傷率を検出し分析した。結果は、二重特異性抗体CD3×CD123がCD123陽性腫瘍細胞に対するT細胞の殺傷を特異的に媒介できることが示されており、CD123陰性腫瘍細胞(BAF3細胞)に対する殺傷効果が示されていなかった(
図7)。
【0099】
12.3 二重特異性抗体がT細胞を特異的に活性化した後の表面活性化分子発現の同定
上記12.2項の実験において、上清を取った後の細胞をPBS緩衝液で2回洗浄し、抗ヒトCD3-APC(ebioscience社、17-0037-42)および抗ヒトCD69-PE(ebioscience社、11-0069-42)というフローサイトメトリー用抗体を加えて4℃、暗所で30分間インキュベートした後に、PBS緩衝液で2回洗浄し、PBS緩衝液100μLで再懸濁した後フローサイトメーター(ACEA NovoCyte)により検出し、二重特異性抗体CD3×CD123(CD3×CD123 BsAb)処理後のCD3陽性細胞群(MV-4-11細胞)における活性化マーカーCD69の発現の相違を比較した。結果は、二重特異性抗体CD3×CD123が、陽性腫瘍細胞の存在下で、T細胞表面CD69の発現を特異的に上方制御することができ、CD123陰性腫瘍細胞(BAF3細胞)がT細胞表面CD69の発現を上方制御できないことが示されている(
図8)。
【0100】
実施例13:二重特異性抗体で媒介されたT細胞のインビトロ増殖実験
13.1 ヒト末梢血単核細胞(PBMC)の分離
実施例12.1を参照し選別してPBMCを得た。
【0101】
13.2 二重特異性抗体で媒介されたT細胞のインビトロ増殖実験
T細胞陰性選別キット取扱説明書(BD IMaq human T lymphocyte enrichment set-DM、BD、557874)を参照し、PBMCから選別して精製のT細胞を得た。CFSE着色取扱説明書に従って精製のT細胞に対して(CFSE、eBioscience、65-0850-84)着色し、1640培地で2×10
6個/mLまで再懸濁し、50μL/ウェルで細胞培養プレートに加えた。成長対数期のMV-4-11(CD123
+細胞)を収集し、遠心後1640培地で5×10
5個/mLまで再懸濁し、50μL/ウェルで細胞プレートに敷き、最終的なET比(effector-target ratio)は4:1となった。その後、初期濃度0.25nMから4倍段階希釈してなる8つの濃度点の二重特異性抗体CD3×CD123(CD3×CD123 BsAb、50μL/ウェル)、およびXmab14045を加えた。別途で、0.25nM濃度点の対照(群)としてそれぞれ抗CD3Eモノクローナル抗体H3B8+L27E5単独、抗CD123モノクローナル抗体H7A3-h2-m5+L27E5単独、およびH3B8+L27E5とH7A3-h2-m5+L27E5との組み合せ(H3B8+L27E5 & H7A3-h2-m5+L27E5)を設定した。なお、0.25nM濃度点の二重特異性抗体CD3×CD123がCD123陰性腫瘍細胞(BAF3細胞)の存在下で作用させる対照(群)をさらに設定した。5日間インキュベートした後、PBS緩衝液で2回洗浄し、抗ヒトCD3-APC(ebioscience、17-0037-42)というフローサイトメトリー用抗体を用いて4℃、暗所で30分間インキュベートした後に、PBS緩衝液で2回洗浄し、PBS緩衝液100μLで再懸濁した後、フローサイトメトリー(ACEA、Novocyte)でT細胞増殖の状況を検出した(
図9A~B)。
【0102】
実施例14:CD34+マウスモデルにおける二重特異性抗体の活性同定
42匹(32匹を群分け、10匹を予備し)20~24週齡の雌性hCD34+ヒト化マウス(澎立生物医薬技術(上海)有限公司から購入)を選択し、100μLの1×107個のMV-4-11細胞および100μLのMatrigelを均一に混合させた後に皮下注射によりマウスの背中の右側に接種し、接種前に3~4%イソフルランでマウス麻酔させた。腫瘍が平均で約50~80mm3程度まで増殖した際に、32匹の腫瘍担持マウスを末梢血中のhCD45+の割合および腫瘍体積に基づいて群ごとに8匹ずつ4群に無作為に分けた。群分け投与当日を0日目と定義した。試験は、二重特異性抗体CD3×CD123の0.01mg/kg群、0.1 mg/kg群、0.5mg/kg群および陰性対照群(IgG1m3、0.5mg/kg)という4群とし、群ごとに8匹であり、0日目、3日目、7日目、14日目および21日目に尾静脈注射投与し、合計5回投与した。相対腫瘍阻害率(TGI)に基づいて療効評価を行い、動物の体重変化および死亡状況に基づいて安全性の評価を行った。
【0103】
実験過程において動物の精神状態は全般的に良好であり、インビボ実験終了時(24日目)には、陰性対照群(IgG1m3 i.v.0.5mg/kg投与量群、G1群)に比べて、投与群動物は対照群に比べて体重に有意差がなかった(P>0.05)。二重特異性抗体CD3×CD123は、0.5mg/kgの投与量下で(G2群)を測定したところ、腫瘍の増殖を顕著に阻害する効果があり、相対腫瘍阻害率TGI(%)は97.35%であり、かつ6匹の動物の腫瘍はほとんど完全に消退し、同期陰性対照群(G1群)に比べて極めて有意差がある(p<0.001)。二重特異性抗体CD3×CD123の0.1mg/kg投与量群(G3群)の動物は、投与後の腫瘍体積の増加が緩慢であり、相対腫瘍阻害率TGI(%)は52.08%であり、同期陰性対照群(G1群)に比べて有意差があり(p<0.05)、G4は二重特異性抗体CD3×CD123の0.01mg/kg投与量群である。二重特異性抗体CD3×CD123の腫瘍増殖と明らかな用量-効果関係(dose-effect relationship)があり、各群の動物のそれぞれの時間点の腫瘍増殖状況は
図10に示す通りである。ここで、G1群に比べて一元配置分散分析/Dunnett-t検定統計を用いた場合、*は、P<0.05を表し、**は、P<0.01を表し、***は、P<0.001を表す。重複測定/Bonferroni補正統計を用いた場合、###はP<0.001を表す。
【0104】
上記のように、本発明は一般的な説明および具体実施形態を用いて詳細に説明したが、当業者には本発明に基づき修正または改良できることが自明である。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲での変更や改良を加えることは、本発明に係る特許請求の範囲に含まれている。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2022-09-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトCD3Eに対する抗原結合部分を含む二重特異性抗体であって、
前記ヒトCD3Eに対する抗原結合部分は、
配列番号1に記載のHCDR1、
配列番号2に記載のHCDR2、
配列番号3に記載のHCDR3、
配列番号4に記載のLCDR1、
配列番号5に記載のLCDR2、および
配列番号6に記載のLCDR3を含み、
ここで、HCDRおよびLCDRはKabatに従って定義される、
二重特異性抗体。
【請求項2】
ヒトCD123に対する抗原結合部分を含む二重特異性抗体であって、
前記ヒトCD123に対する抗原結合部分は、
配列番号7に記載のHCDR1、
配列番号8に記載のHCDR2、
配列番号9に記載のHCDR3、
配列番号4に記載のLCDR1、
配列番号5に記載のLCDR2、および
配列番号6に記載のLCDR3を含み、
ここで、HCDRおよびLCDRはKabatに従って定義される、
二重特異性抗体。
【請求項3】
ヒトCD3Eに対する抗原結合部分およびヒトCD123に対する抗原結合部分を含む
、二重特異性抗体。
【請求項4】
請求項3に記載の二重特異性抗体であって、
前記ヒトCD3Eに対する抗原結合部分は、
配列番号1に記載のHCDR1、
配列番号2に記載のHCDR2、
配列番号3に記載のHCDR3、
配列番号4に記載のLCDR1、
配列番号5に記載のLCDR2、および
配列番号6に記載のLCDR3を含み
、
ここで、HCDRおよびLCDRはKabatに従って定義される、
二重特異性抗体。
【請求項5】
請求項3に記載の二重特異性抗体であって、
前記ヒトCD123に対する抗原結合部分は、
配列番号7に記載のHCDR1、
配列番号8に記載のHCDR2、
配列番号9に記載のHCDR3、
配列番号4に記載のLCDR1、
配列番号5に記載のLCDR2、および
配列番号6に記載のLCDR3を含み、
ここで、HCDRおよびLCDRはKabatに従って定義される、
二重特異性抗体。
【請求項6】
請求項3
~5のいずれか1項に記載の二重特異性抗体であって、前記ヒトCD3Eに対する抗原結合部分および前記ヒトCD123に対する抗原結合部分は、同一の軽鎖可変領域を含み、好ましくは、同一の軽鎖を含み、ならびに/あるいは
同一のヒンジ領域を備える重鎖定常領域を2種類含むIgG1抗体であり、前記ヒンジ領域のアミノ酸配列は配列番号10に記載される、二重特異性抗体。
【請求項7】
請求項3
~6のいずれか1項に記載の二重特異性抗体であって、第1の重鎖定常領域および第2の重鎖定常領域を含むIgG1抗体であり、そのうち
前記第1の重鎖定常領域の354番目および366番目のアミノ酸は、それぞれCおよびWであり、前記第2の重鎖定常領域の349、366、368および407番目のアミノ酸は、それぞれC、S、AおよびVであり、ならびに/あるいは
前記第1の重鎖定常領域および第2の重鎖定常領域の234、235および331番目のアミノ酸は、それぞれF、EおよびSであり、
抗体定常領域のアミノ酸位置は、EU numberingに従って決定される、
二重特異性抗体。
【請求項8】
請求項1
、3~
7のいずれか1項に記載の二重特異性抗体であって、前記ヒトCD3Eに対する抗原結合部分は、配列番号11に記載の重鎖可変領域、および配列番号12に記載の軽鎖可変領域を含
む、
二重特異性抗体。
【請求項9】
請求項2、3~7のいずれか1項に記載の二重特異性抗体であって、
前記ヒトCD123に対する抗原結合部分は、配列番号13に記載の重鎖可変領域、および配列番号12に記載の軽鎖可変領域を含む、
二重特異性抗体。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか1項に記載の二重特異性抗体であって、前記ヒトCD3Eに対する抗原結合部分および/または前記ヒトCD123に対する抗原結合部分は、一本鎖抗体(scfv)またはFab断片を含み、
好ましくは、前記ヒトCD3Eに対する抗原結合部分はFab断片を含み、前記ヒトCD123に対する抗原結合部分はFab断片を含み、または
前記ヒトCD3Eに対する抗原結合部分はFab断片を含み、前記ヒトCD123に対する抗原結合部分は一本鎖抗体(scfv)を含み、または
前記ヒトCD3Eに対する抗原結合部分は一本鎖抗体(scfv)を含み、前記ヒトCD123に対する抗原結合部分はFab断片を含み、または
前記ヒトCD3Eに対する抗原結合部分は一本鎖抗体(scfv)を含み、前記ヒトCD123に対する抗原結合部分は一本鎖抗体(scfv)を含む、
二重特異性抗体。
【請求項11】
請求項3に記載の二重特異性抗体であって、前記抗体は第1のアームおよび第2のアームを備え、そのうち前記第1のアームはヒトCD3Eに対する抗原結合部分を含み、前記第2のアームはヒトCD123に対する抗原結合部分を含み、そのうち、
前記第1のアームは、配列番号11に記載の重鎖可変領域のアミノ酸配列、配列番号31に記載の重鎖定常領域のアミノ酸配列、配列番号12に記載の軽鎖可変領域のアミノ酸配列、および配列番号32に記載の軽鎖定常領域のアミノ酸配列を含み、
前記第2のアームは、配列番号13に記載の重鎖可変領域のアミノ酸配列、配列番号30に記載の重鎖定常領域のアミノ酸配列、配列番号12に記載の軽鎖可変領域のアミノ酸配列、および配列番号32に記載の軽鎖定常領域のアミノ酸配列を含む、
二重特異性抗体。
【請求項12】
ヒトCD3Eに対する抗原結合部分およびヒトCD123に対する抗原結合部分を含む二重特異性抗体であって、同一のヒンジ領域を備える重鎖定常領域を2種類含むIgG1抗体であり、前記ヒンジ領域のアミノ酸配列は配列番号10に記載される、二重特異性抗体。
【請求項13】
請求項
3~
12のいずれか1項に記載の二重特異性抗体を含む、医薬組成物。
【請求項14】
請求項3~12のいずれか1項に記載の二重特異性抗体を含み、CD123陽性腫瘍を予防または治療するために用いられる、医薬組成物。
【請求項15】
請求項14に記載の医薬組成物であって、前記CD123陽性腫瘍は
、急性骨髄性白血病(AML)および芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍(BPDCN)からなる群から選ばれる、
医薬組成物。
【国際調査報告】