(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-30
(54)【発明の名称】中枢神経系損傷を診断するためのインビトロの方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/573 20060101AFI20230323BHJP
G01N 33/531 20060101ALI20230323BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20230323BHJP
C07K 16/40 20060101ALI20230323BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20230323BHJP
【FI】
G01N33/573 A
G01N33/531 A
C07K16/18 ZNA
C07K16/40
C12Q1/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022548504
(86)(22)【出願日】2021-02-05
(85)【翻訳文提出日】2022-10-11
(86)【国際出願番号】 US2021016740
(87)【国際公開番号】W WO2021158865
(87)【国際公開日】2021-08-12
(32)【優先日】2020-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522316504
【氏名又は名称】ペルセウス サイエンス グループ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】コーネル-ベル、アン、エイチ.
【テーマコード(参考)】
4B063
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ79
4B063QR48
4B063QS33
4B063QX02
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA50
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、外傷性脳損傷(TBI)又は脳卒中などの中枢神経系(CNS)の損傷を診断するための高感度のインビトロの方法を提供する。この方法は、CNS損傷イベントを起こしていると疑われる対象の血液の試料を、バイオマーカーであるプロテインキナーゼCのガンマアイソフォーム(PKCg又はPKCγ)のタンパク質分解断片を検出可能な少なくとも1種類の抗体と接触させることを含み、この断片は神経損傷の結果生じる興奮毒性環境において形成されるPKCgのタンパク質分解断片に相当する。本質的に100%の精度でのCNS損傷の診断を提供する本発明の診断方法において有用である、新しい抗PKCg抗体も開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中枢神経系(CNS)を含む損傷を診断するためのインビトロの方法であって、
a)CNS損傷を受けたと疑われる対象からの血液の試料を、プロテインキナーゼCのガンマアイソフォーム(PKCg)の固有のエピトープ(unique epitope)であって、PKCgの1つ又は複数のタンパク質分解断片に保持されているエピトープに結合する少なくとも1種類の抗体と接触させること、及び
b)前記少なくとも1種類の抗体とPKCg又はそのタンパク質分解断片との結合複合体の形成を検出することを含み、
前記試料中に形成された前記結合複合体の存在はCNS損傷を示す、
前記方法。
【請求項2】
前記試料は、PKCgの固有のエピトープであって、PKCgの395番目~697番目のアミノ酸の配列内にあるエピトープとそれぞれが結合複合体を形成する少なくとも2種類の異なる抗体と接触される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記CNS損傷は外傷性脳損傷である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記CNS損傷は脳卒中である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1種類の抗体はPKCgの395番目~697番目のアミノ酸の配列内にあるエピトープを認識する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1種類の抗体はPKCgの405番目~414番目のアミノ酸の配列内にあるエピトープを認識する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1種類の抗体はPKCgの673番目~697番目のアミノ酸の配列内にあるエピトープを認識する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記血液の試料は、PKCgの少なくとも1つのタンパク質分解断片上に存在するエピトープと結合複合体を形成可能な少なくとも2種類の抗体と接触される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つのタンパク質分解断片は、33kDa~36kDa、42kDa~48kDa、49kDa~52kDa、及び53kDa~60kDaを含む群から選択される分子量を有する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ヒトPKCg又はPKCgのタンパク質分解断片に結合可能な、抗体又はその抗原結合部分であって、前記抗体の抗原結合部分は、以下の表に挙げられるCDRのセットの群から選択される、CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、CDR-L1、CDR-L2、及びCDR-L3の6種類のCDRのセットを含む、前記抗体又はその抗原結合部分。
【表1】
【請求項11】
以下からなる群から選択されるVHドメイン及びVLドメインを含む、抗PKCg抗体又はその抗原結合部分。
【表2】
【請求項12】
請求項1~9に記載の中枢神経系損傷の診断のためのインビトロの方法における、請求項10及び請求項11に記載の抗PKCg抗体のうちいずれか1つの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外傷性脳損傷又は脳卒中などの中枢神経系を含む外傷性虚血イベントの発生及び重症度を迅速に診断するための改善されたインビトロの方法に関する。この方法は、中枢神経系に対する損傷後の血液脳関門の破綻の結果として血流中に入るプロテインキナーゼCのガンマアイソフォーム(PKCγ)及びPKCγのタンパク質分解断片の存在を検出するためのモノクローナル抗体の使用を含む。
【背景技術】
【0002】
外傷性脳損傷(TBI)は、世界の主な死亡原因の一つであり、成人の身体障害の主要な原因である(Langlois et al., J. Head Trauma Rehabil., 21(5): 375-378 (2006))。米国におけるTBIの発生率は脳卒中に匹敵するが若年者に影響を及ぼすので、医療の負担がより大きくなる。米国では毎年およそ5百万の新たなTBIの症例が生じており、推定年間費用は6000億ドルである(Yu et al., Brain Res., 1287: 157-163 (2009)); Mammis et al., Surg. Neurol., 71:(5), 527-531 (2009))。
【0003】
外傷性脳損傷(TBI)による障害は、グルタミン酸受容体によって優位に媒介される電気的な活性及び神経伝達物質の活性の両方により、「興奮毒性」ともいわれる神経細胞の過剰興奮性をもたらす(Barr et al., Brain Inj., 26: 58-66 (2012))。TBIは虚血性障害でもある。陽電子放射断層撮影を用いて、Veenithらは、TBI後の虚血脳容積及び低酸素脳容積が対象患者と比べて大きいことを報告している(Veenith et al., JAMA Neurol., 73(5): 542-550 (2016))。TBIにより虚血及び低酸素が非重複領域において生じ、酸化的代謝の広範囲にわたる減少がTBIの大部分の症例で見られる(Vespa, P.M., JAMA Neurol., 73(5): 504-505 (2016))。
【0004】
「脳卒中」は、脳機能の限局的な喪失を伴う、血管起源の急速に進行する症候群として臨床的に定義される。脳卒中は、脳の一部への血液供給が突然遮断された場合(虚血性脳卒中)、又は脳内の血管が破裂して脳細胞を囲う空間に血液が流出した場合(出血性脳卒中)に起こる。米国では40秒に1人が脳卒中を起こしている。そのうちの85%(年間およそ750,000の症例)が虚血性であり、脳に血液を供給する血管内の閉塞の結果である。脳卒中の残りの15%は、CNS血管が断裂し血液が脳内に蓄積した場合に起こる(スタンフォード脳卒中センター)。
【0005】
外傷性脳損傷又は脳卒中の迅速な診断は、患者の回復にとって不可欠である。診断及び医学的介入の遅れは、臨床的悪化及び身体障害の一因となり得る。早期の診断によって、医師が適切な緊急介入をより効果的に選択することが可能になる。正確で確実な診断の評価の遅れは、脳が血流再開に応答が可能な限られた時間を無駄にし、大部分の永久的な損傷が生じた後の出血のリスクを顕著に上昇させる(Marler, J.R., Ann. Emerg. Med., 33: 450-451 (1999))。虚血性脳卒中についてのDEFUSE 3臨床試験(NIH承認臨床試験)により、患者が「順調」であると最後に知られた後の血管内処置について6~24時間の時間枠が検証された。血栓除去の時間枠は6~16時間である(Albers et al., N. Engl. J. Med., 378: 708-718 (2018))。2つの電気生理学研究により、重大な損傷はスポーツに関連した脳震盪を起こした8日後に影響を及ぼしており、45日目までに回復したが、運動選手の臨床症状は5~8日間で明らかに回復したことを実証した。この知見は、生理的動揺は明らかな「臨床的回復」のかなり後も持続することを示す(McCrea et al., J. Head Trauma Rehabil., 25: 283-292 (2010); Barr et al., Brain Inj., 26: 58-66 (2012))。中程度の外傷性頭部損傷により緊急治療室に運ばれた患者には、基本的な神経学的検査が行われ、MRI又はCTスキャンなどの神経画像検査が行われてもよい。脳損傷の重症度に依存して、利尿剤、抗てんかん薬、及び/又は昏睡誘発剤などの特定の薬物が投与されてもよい。浮腫及び虚血の後の脳組織への損傷を最小限にするために外科手術が必要とされることがある(Herring et al., Med. Sci. Sports Exerc., 38(2): 395-399 (2006))。
【0006】
脳から血液へのグルタミン酸の放出
脳は、TBI後の虚血及び神経の広範囲な脱分極(電気的活性)に対して特に脆弱である。このような状況下で、通常は情報処理に関与しているシグナルが大きく遮断される。グルタミン酸(Glu)は、最初は神経末端から、最終的にはアストロサイトが関与する逆輸送により、大量に放出される(Szatkowski et al., Trends Neurosci., 17(9):359-365 (1994); Rossi et al., Nature, 403: 316-321 (2000); Phillis et al., Brain Res., 868(1): 105-112 (2000))。アストロサイトは、細胞質の遊離Ca2+の迅速な上昇を伴ってグルタミン酸に応答するグルタミン酸感受性イオンチャネルを有している(Cornell-Bell et al., Science, 247(4941): 470-473 (1990))。アストロサイトは、血液脳関門の制御において重要な役割を果たす。
【0007】
脳間質空間、又はいわゆる「細胞外空間」は、神経細胞と毛細血管の間の狭い空間である。間質空間中のグルタミン酸の直接測定には、脳内への微小透析カニューレの顕微手術による挿入が必要とされる(Chefer et al., Curr. Protoc. Neurosci., 47(1): 7.1.1-7.1.28 (2009); Baker et al., Neurochem., 57(4): 1370-1379 (1991))。ヒト及び齧歯類における微小透析研究は、TBIにおいて間質のグルタミン酸が即座に上昇することを実証している(Guerriero et al., Curr. Neurol. Neurosci. Rep., 15:27 (2015))。グルタミン酸の間質での上昇は、損傷後4日までに消失し、レベルは外傷後の死亡率と直接相関していたことがヒトで記録されている(Chamoun et al., J Neurosurg., 113(3): 564-570 (2010); 上述のGuerriero et al.)。脳における興奮性アミノ酸、すなわち、グルタミン酸及びアスパラギン酸の神経毒作用は文書で十分に裏付けされており、血液中のグルタミン酸含有量と急性虚血の重症度との相関が示されてきた(Castillo et al., Stroke, 27: 1060-1065 (1996); Castillo et al., Lancet, 349: 79-83 (1997))。脳の損傷、及び進行性脳卒中との関連は、グルタミン酸放出の増加又はグルタミン酸取り込みの低下に起因すると考えられる(Davalos et al., Stroke, 28: 708-710 (1997))。
【0008】
PKCgの活性化
プロテインキナーゼCガンマ(PKCγ又はPKCg)は、脳損傷の後、持続的に活性化され神経細胞膜に移行される。PKCgは、Ca2+の上昇及び脂質の上昇(ジアシルグリセロール(DAG)曝露)によりPKCgの活性化及び細胞膜への移行が引き起こされるまで小胞内に含有される、高度に制御された細胞質酵素である(Mogami et al., J. Biol. Chem., 278(11): 9896-9904 (2003))。PKCgの完全な活性化には、Ca2+、DAG、及びホスファチジルセリンが必要とされる(Oancea et al., Cell, 95:307-318 (1998); Nishizuka, Y., Science, 258: 607-614 (1992); Kaibuchi et al, J. Biol. Chem., 258: 6701-6704 (1983); Saido et al., Biomed. Biochim. Acta, 50(4-6): 485-489 (1991))。これらの条件が満たされると、PKCgは間質空間に放出される。グルタミン酸興奮毒性は、PKCgの細胞内分布及び定量的放出に直接関与する(Selvatici et al., J. Neurosci. Res., 71: 64 -71 (2002); Domanska-Janik et al., J. Neurochem., 58(4): 1432-1439 (1992); O'Reagan et al., Neurosci. Lett., 185: 191-194 (1995); Lee et al., J. Clin. Invest., 106(6): 723-731 (2000))。グルタミン酸興奮毒性は、PKCgの活性化、神経細胞から間質空間へのPKCg放出を誘発し、PKCgの末梢循環への移行を可能にする血管脳関門の破綻を引き起こす。これは近年のPKCgバイオマーカーアッセイの根拠である(Cornell-Bell et al., US Pat. No. 6,268,223)。PKCgの放出は損傷の増大と共に増加し(Selvatici et al., Neurochem. Int., 49(8): 729-736 (2006))、損傷が治まると消失する。これによりPKCgはTBI又は脳卒中などのCNS損傷における脳損傷の程度を測定する理想的なバイオマーカーとなる。
【0009】
PKCgの局在
PKCgは脳及び脊髄のみで発現し、その局在は神経細胞に限定されている(Saito, N. and Shirai, Y., J. Biochem., 132: 683-687(2002))。PKCgは脳内において固有の神経細胞分布及び細胞内局在を示し、PKCgのmRNAは脳及び脊髄でのみ見られる(Tanaka, C. and Saito, N., Neurochem. Int., 21: 499-512 (1992); 上述のSaito, N. and Shirai, Y.)。PKCgは、海馬、大脳皮質、小脳、視床下部、及び網膜を含む多くの脳領域に免疫学的に局在していた(Huang, K.-P., and Huang, F. L., Biochem. Biophys. Res. Commun., 139: 320-326 (1986); 上述のSaito, N. and Shirai)。PKCgのC1ドメイン及びC2ドメインはDAG及びCa2+にそれぞれ結合する。PKCgのC1ドメインは2つのシステインリッチリピート(C1A及びC1B)からなり、これらの両方が高い親和性でDAGに結合する(Ono et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86: 4868-4871 (1989))。電子顕微鏡下で、活性化前にPKCgは、神経核、樹状突起、樹状突起のスパイン、軸索、及びシナプス終末を含む神経細胞の細胞質中に局在している(Kose et al., J. Neurosci., 8: 4262-4268 (1988))。GFP(緑色蛍光タンパク質)標識PKCgを用いるライブイメージングにより、Gタンパク質共役型受容体又はCa2+イオノフォアの刺激時に、このアイソザイムの活性化及び細胞における細胞質と細胞膜との間での迅速な循環が明らかになった(Sakai et al., J. Cell Biol., 139: 1465-1476 (1997))。PKCgの動態的変動は、Ca2+及びDAGによる活性化に応答して生じる。PKCgの移行はこの酵素の基本的な分子機構である。Ca2+及びDAGによりPKCgが活性化されると、前述のようにGタンパク質共役型受容体に対する二次メッセンジャーの応答に続き、PKCgは神経細胞の細胞膜を通過して脳間質中に入ることになる(上述のSakai et al.)。PKCgの末梢血への移行を可能にする血管脳関門(BBB)の破綻が大脳虚血により誘発される(Hawkins, B.T. and Davis, T.P., Pharmacol. Rev., 57: 173-185 (2005); Yang, Y. and Rosenberg, G.A., Stroke, 42: 3323-3328 (2011))。
【0010】
虚血後の血管脳関門の破綻
血管脳関門(BBB)は脳微小血管の内皮細胞により形成され、末梢循環と中枢神経系の間のダイナミックインターフェースを提供する。BBBは、中枢神経系(CNS)に出入りする分子の輸送を制御し、適切な神経細胞の機能に必要とされる神経細胞環境の厳しく管理された化学的組成を維持する(Sweeney et al., Physiol. Rev., 99(1): 21-78 (2019))。虚血性脳卒中条件下で、BBBのタイトジャンクション完全性の低下は、両方向の傍細胞透過性の増加を引き起こし、脳の血管原性脳浮腫、出血性変化、及び死亡率の上昇の直接的な原因となる(Sandoval, K.E. and Witt, K.A., Neurobiol. Dis., 32(2): 200-219 (2008))。多くの種類の実験的急性脳損傷の後にBBB透過性の亢進が起こったことが報告されている(Yang, Y. and Rosenberg, G.A., Stroke, 42: 3323-3328 (2011))。脳震盪の流体衝撃モデル及びびまん性衝撃加速モデル、並びに低酸素虚血などの他の種類の脳傷害、及び成体ラットにおける放射線脳炎が、BBB透過性の増大に付随して起こる。BBB完全性の喪失の病因は、直接的な機械的破壊、又は炎症若しくは興奮毒性などの特定の機構に起因するものであると考えられてきた(Adelson et al., Acta Neurochir. Suppl., 71: 104-106 (1998))。VEGFからのBBB透過性の増大は、輸送される物質の大きさにより限定されており、大きさが小さいほどBBBの通過が向上されることを示唆している(Ay et al., Brain Res., 1234: 198-205 (2008); Mikitsh, J.L. and Chacko, A.M., Perspect. Medicin. Chem., 6: 11-24 (2014))。
【0011】
PKCg断片
CNS損傷を診断するためのバイオマーカーの標的としてPKCgを用いる以前の方法に関する技術的問題は、末梢血中の完全長PKCgに対するシグナルは患者によって異なるので、PKCg検出に着目したアッセイが偽陰性結果をもたらすことがあることである。これは、PKCgの血液脳関門の横断をもたらす一連の事象において完全長PKCgタンパク質がタンパク質分解断片に分解され、したがって、インタクトなタンパク質を標的とする検出方法は減少している標的を検索するものであるという事実に部分的に起因する。
【0012】
脳虚血の間質部位は、損傷を受けた神経細胞からの高Ca2+、リン脂質、及び高レベルのDAG、並びに有毒なレベルの神経伝達物質及びPKCgを標的とするプロテアーゼを伴う興奮毒性環境である。PKCgのタンパク質分解断片は、1970年代以来、同定及び特徴解析がなされてきた(Inoue et al., J. Biol. Chem., 252: 7610-7616 (1977))。虚血性の興奮毒性環境は、末梢循環への放出に先立つPKCg断片の形成の一因となるタンパク質分解酵素が豊富に存在する。発明者らは、末梢血試料中に出現するPKCgタンパク質分解断片が、さらなるCNS損傷バイオマーカーとなり得ることを特定した。
【0013】
ヒトPKCgは以下のアミノ酸配列を有する。
【化1】
【0014】
PKCgタンパク質分解の全ての部位は、C3/C4制御ドメインのすぐN末端側に位置するV3可変領域中に位置している。Kishimoto et al., J. Biol. Chem., 264(7): 4088-4092 (1989)を参照のこと。以下に再現するPKCgポリペプチド配列において、可変領域(V1、V2、V3)は一重下線で示し、制御ドメイン(C1、C2、C3/C4)は二重下線で示す。
【化2】
【0015】
V3ドメインには、Ser321とSer322の間及びPhe338とPhe339の間にカルパイン切断部位が存在する。
【0016】
カルパインはロイシン残基又はバリン残基(P2)で物質を優先的に切断するが、全ての物質がこれに従うわけではない。親水性アミノ酸(Pro、Asp/Glu、Ser、及びThr)を含む第二の認識部位もまた関与している。カルパインは細胞タンパク質の通常の分解を引き起こさないが、むしろそれらの物質の限定的な分解を誘発し、多くの例では実際に酵素PKCgを含む多くの細胞系を活性化する(Zhivotovsky et al., Biochem. Biophys. Res. Comm., 230(3): 481-488 (1997))。
【0017】
PKCgの断片は、PKCg分子の結合ドメインを同定した初期の生化学研究から同定された分子量により名付けられてきた。文献で最初に同定されたPKCg断片は、PKCg触媒ドメイン(V3)からの50kDaの断片である(Inoue et al., J. Biol. Chem., 252: 7610-7616 (1977))。後の研究(上述のKishimoto et al. (1989))は、49kDa及び47kDaの2つの触媒断片を同定し、カルパイン消化の後に36kDaの制御ドメインが同定された。これらのアイソザイムからの45~50kDaの断片はキナーゼの触媒ドメインを含み、33~38kDaの断片はPS/ホルボールエステル結合ドメインを含んでいた(上述のHuang, K.P. and Huang, F.L. (1986))。PKCgについて、50kDa、45kDa、38kDa、36kDa、35kDa、及び33kDaの断片が再確認された(Huang, K.P. and Huang, F. L., J. Biol. Chem., 261: 14781-14787 (1986))。列挙されたこれらのPKCg断片は、定量可能であり、臨床血液試料中で安定なタンパク質分解の持続性産物であることが現在は実証されている。本発明は、CNS損傷の定量的診断アッセイにおけるこれらの断片の使用手段を提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
現在のところ、CNS損傷の短期間及び長期間の影響を最小限にするための迅速で効果的な医学介入を可能にする、外傷性脳損傷又は脳卒中の発生及び重症度を診断するための迅速で簡便な信頼性の高い方法が必要とされている。本発明は、外傷性脳損傷又は脳卒中などの中枢神経系損傷を受けていると疑われる対象から採血された静脈血試料中のPKCg及びPKCgタンパク質分解断片の存在を検出することによる、CNS神経細胞に対する損傷を診断するための新しいインビトロの方法を提供する。中枢神経系を含む虚血イベント後の静脈血中のPKCg及びPKCg断片のスクリーニングは、(1)損傷によって生じるグルタミン酸受容体の活性化により、このシグナル伝達物質は厳重に制御されている、(2)このバイオマーカーは神経及び脊髄の神経細胞中にのみ認められる、(3)PKCgは細胞外空間中への基本的な漏出を伴わずに厳重に制御されている、(4)グルタミン酸の興奮毒性によって生じる血管脳関門の破綻は、PKCg及びPKCg断片のBBBの通過を可能にし、末梢血試料中の検出が可能になるので、特に有利である。49~52kDaの断片などのタンパク質分解断片の分析は、この断片は正常ヒト血漿中にほとんど見られずシグナルが低いので、この断片がTBIの超高感度な指標として使用され得ることを示す。PKCgの断片を用いるCNS損傷の診断におけるこの上昇と共に、本明細書に記載される抗体である1H1(PKC11)、5H1(PKC13)、及び7H1(PKC14)の多重化された組み合わせは、同様に損傷の診断を改善し得ることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、中枢神経系(CNS)損傷の迅速で正確な診断のための新しいインビトロの方法に関する。この方法は中枢神経系を含む損傷を受けたと疑われる対象の末梢血の試料を得ること、及びPKCg及びPKCg断片の存在について前記試料を分析することを含む。PKCg及びPKCgタンパク質分解断片は健康な個人の血流中には通常存在しないが、中枢神経系を含む外傷イベント又は虚血イベントの後に血液脳関門(BBB)を通過して血流中に移行する。この方法は、末梢血中に存在するPKCg及びPKCg断片のレベルを分析することにより対象における損傷の重症度を決定することも可能である。
【0020】
好ましい実施形態では、本発明は、外傷性脳損傷(TBI)を受けたと疑われる対象におけるTBIの診断のための新しい方法に関する。別の実施形態では、本発明は脳卒中を受けたと疑われる対象における脳卒中の新案のための新しい方法に関する。好ましい実施形態では、この方法はインビトロのアッセイを介して行われ、ここで、末梢血試料中のバイオマーカーは、バイオマーカー上に存在する少なくとも1つのエピトープに対する1種類又は複数種類のモノクローナル抗体と抗体がバイオマーカーと結合複合体を形成し得る条件下で接触され、前記複合体は当技術分野で既知の方法で検出され得る。本明細書に詳述される発見によると、診断の精度及び診断され得る速度は、PKCガンマアイソフォームの特定の固有のエピトープを含むPKCgの特定のタンパク質分解断片に結合可能な抗PKCg抗体の少なくとも1種を利用することにより、驚くほど大きく改善される。
【0021】
本発明の方法によれば、末梢血(例えば静脈血)の試料は、TBI又は脳卒中などのCNS損傷を受けたと疑われる対象から得られ、この血液試料は、中枢神経系における虚血イベントのバイオマーカー指標、特に試料中の天然のタンパク質キナーゼCのガンマアイソフォーム(以下、PKCγ又はPKCg)及びPKCgの1つ又は複数の固有のタンパク質分解断片(分解産物)の存在について分析される。健康な個人の末梢血中では通常は認められないこれらのPKCgバイオマーカーは、中枢神経系の損傷の後、血管脳関門(BBB)を通過して血流中に移行することが可能である。血流中のPKCg及び/又はPKCgタンパク質分解断片の存在は、対象がCNS損傷を受けたことの指標である。本明細書に開示されるデータは、TBI及び脳卒中損傷の発生の診断に要求される方法の精度の上昇を示す。さらに、TBI又は脳卒中の後に末梢血中に存在するPKCgバイオマーカーの絶対レベル(量)は損傷の重症度の指標を与えるものであり、PKCg及び/又はPKCgタンパク質分解断片のレベルが高い場合は外傷イベントがより重症であることを示す。「レベルが高い」は、例えば、正常な対象(つまり、CNS損傷を受けていない対象)の末梢血試料中で認められるバックグラウンドレベルとの比較であることを意味する。さらに、これらのバイオマーカーはTBI又は脳卒中のほぼ直後に血流中に出現するので、本願方法は、外傷イベントの直後又は数分以内の迅速で正確な診断を提供するために、野外又は緊急治療室において救急隊員により実行されてもよい。
【0022】
好ましい実施形態では、TBIを受けた又は脳卒中を起こした個人を同定する方法の精度及び信頼度は90%以上またはそれより大きく上昇し(すなわち、10人中9人以上の患者の正確な診断)、本明細書に記載される抗PKCgモノクローナル抗体のうちの少なくとも2種類に対する検出レベルを組み合わせる(多重化する)ことで、100%に近いレベルにさえ上昇する。プローブする試料からの検出シグナルを本明細書に記載される2種類以上の抗体と組み合わせることにより、診断の信頼度が基本的に試料の100%(完全な精度)まで改善された。
【0023】
さらなる試みにおいて、TBI又は脳卒中の診断の精度及び信頼度を改善するため、発明者らは、TBI又は脳卒中の患者からの血液試料のプローブ結果と本明細書に記載される抗PKCgモノクローナル抗体との組み合わせにより、診断の精度及び信頼度が改善されたPKCg/PKCgタンパク質分解断片の「プロファイル」またはパターンが提供されることを発見した。抗PKCg抗体がTBI又は脳卒中の血漿試料中で接触された場合に感受性が高く、特異性が高く、擬陽性結果が少ない、PKCg断片を認識する固有の抗体を同定した。
【0024】
さらに、本明細書に記載される新しいインビトロの方法は、血液試料中の完全長PKCg(63~73kDa)及び本明細書に記載される特定のPKCgタンパク質分解断片のレベル(濃度)の定量化を可能にし、これらのPKCgバイオマーカーのレベルが高いことは中枢神経系の損傷がより重度であることの指標であるので、それによりCNS損傷の重症度の信頼できる指標が提供される。侵襲の少ないこの診断法は、救急車又は緊急治療室の人員により容易に行うことができ、静脈血試料及び本明細書に記載されるアッセイキットを用いて行うことができ、前記キットは迅速で信頼できる診断のために必要な構成要素を全て含むことになる。
【0025】
別の実施形態では、本発明はまた、ヒトPKCgに結合可能な新しい抗体及びその抗原結合断片を提供し、前記抗体の可変領域は、以下の表に定義されるCDRのセットの群から選択される、6種類の相補性決定領域(CDR)(すなわち、CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、CDR-L1、CDR-L2、及びCDR-L3)のセットを含む。
【表1】
【0026】
他の実施形態では、本発明の抗PKCg抗体は、VH(重鎖可変領域)ドメイン及びVL(軽鎖可変領域)ドメインを含み、2つの可変領域は以下からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【表2】
【0027】
定義
本明細書で使用される場合、「虚血イベント」との用語は、組織への血流の排出の一時的又は永久的な減少に起因する、任意の潜在的に有害な発作、具体的には、本発明に関しては、中枢神経系(CNS)の一部への血流、特に頭蓋血流を遮断し、中枢神経系の損傷をもたらす任意のイベント又は生理的な出来事をいう。具体的な虚血イベントとしては、外傷性脳損傷(TBI)、脳卒中、又はCNSへの血流の遮断をもたらす他のイベントが挙げられる。
【0028】
本明細書で使用される場合、「抗体」との用語は、「免疫グロブリン」と同義であることを意図している。本明細書で使用される場合、「抗体」との用語は天然抗体、及び通常は抗体の「活性断片」といわれる天然抗体の生物学的に活性な誘導体、例えば、Fab’断片、F(ab’)2断片、又はFv断片、並びに単一ドメイン抗体及び単鎖(scFv)抗体をいう。抗体の活性断片は、完全長(非断片化)抗体により認識される抗原に結合する能力を保持している。
【0029】
指定された要素又はステップの1又は複数「を含んでいる」(又は「含む」)として本明細書に記載される組成物又は方法は、オープンエンドであり、指定された要素又はステップは必須であるが、組成物又は方法の範囲内で他の要素又はステップが含まれていてもよいことを意味する。冗長さを回避するため、指定された要素又はステップの1又は複数「を含んでいる」と記載される任意の組成物又は方法は、指定された同じ要素又はステップ「から本質的になっている」(又は「から本質的になる」)、対応するより限定された組成物又は方法も記載し、この組成物又は方法は指定された必須の要素を含み、組成物又は方法の基本的で新規な特徴に物質的に影響しない追加の要素又はステップを含んでいてもよいことを意味することを理解されたい。指定された要素又はステップの1又は複数「を含んでいる」又は「から本質的になっている」として本明細書に記載される任意の組成物又は方法はまた、任意の他の要素又はステップを除外して、指定された要素又はステップ「からなっている」(又は「からなる」)、対応するより限定されたクローズエンドの組成物又は方法も記載することを理解されたい。本明細書に記載される任意の組成物又はステップにおいて、任意の指定された必須の要素又はステップはそれぞれその要素又はステップの既知の又は開示された等価物に置き換えられてもよい。
【0030】
本明細書で使用される場合、「対象」又は「患者」との用語は、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、ウマ、ブタ、ウサギ、イヌ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ネコ、モルモット、又は齧歯類を含む、任意の脊椎動物であり得る。「患者」は、疾患、障害、又は損傷を患っている哺乳類対象をいう。
【0031】
本明細書で使用される場合、「PKCgの固有のタンパク質分解断片」との用語は、プロテインキナーゼCの他の天然のアイソフォーム、例えば、プロテインキナーゼCアルファアイソフォーム(PKCa、PKCα)又はプロテインキナーゼCベータアイソフォームI又はII(PKCb
i又はPKCb
ii;PKCβ
i又はPKCβ
ii)などでは認められないエピトープを含む、PKCgの任意の断片を意味する。例えば、本明細書に記載される抗体は、例えばPKCa上に、対応するセグメント(連続したアミノ酸残基の範囲)を有しないPKCgのセグメントを指向する。以下の、PKCgとPKCaの配列比較を参照のこと。
【化3】
【0032】
本明細書で使用される場合、「PKCgの固有のエピトープ」との用語は、抗原性であり、PKCa、PKCbi、又はPKCbiiなどの他のプロテインキナーゼCアイソフォームのアミノ酸配列中に完全な同族を有していない、PKCgの完全長配列内に認められるポリペプチド配列をいう。本明細書に記載される調査研究から、PKCgの固有のエピトープの2つの例が、405~414番目のアミノ酸(配列番号35)及び673~697番目のアミノ酸(配列番号36)に位置される。候補となる他の固有のエピトープは、PKCgの306~318番目のアミノ酸を含むポリペプチド(配列番号37)である。プロテインキナーゼCの他のアイソフォームを用いて、PKCgとPKCaの前述のような類似配列アライメント比較を行い、上述で同定されたエピトープがPKCgの固有のエピトープであることを確認した。そのような固有のエピトープを含む免疫原性コンストラクトを用いてPKCgの固有のエピトープに対する抗体を産生してもよく、これによりプロテインキナーゼCの他のアイソフォームに対するPKCgの特異的な(differential)染色が可能になる。例えば、本発明に係る抗体を誘発するため、ニュージーランドホワイト種のウサギをこれらの固有ペプチド配列のうちの2種類(配列番号35及び配列番号36)で免疫化した。以下で論じるように、これらの固有のエピトープに対して産生された抗体は、完全長PKCg及び中枢神経系損傷の診断に適したPKCgタンパク質分解断片のそれぞれを認識(に結合)する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】正常(対照)とTBI患者の末梢血試料における抗PKCg抗体の結合を検出するために使用された化学発光キャピラリーELISAの結果を示す図である。
図1は、1H1/1K1(PKC11)、5H1/5K1(PKC13)、又は7H1/7K3(PKC14)のVH/VL構成成分を有する抗体で染色された正常血漿試料と比較された場合の、TBIシグナルの大幅な上昇を示す。95%信頼限界での平均値と標準誤差を比較する両側独立スチューデントt検定分析は、GraphPad Prism 8ソフトウェアを用いて完了した。
【
図2A】正常(対照)対象とTBI血漿試料における、抗PKCg抗体であるPKC11で染色された血漿試料におけるPKCgのレベル(化学発光単位)を示す図である。PKCg/PKCg断片のレベルは、正常対照と比較してTBI患者の血漿において上昇を示す。
【
図2B】正常(対照)対象とTBI血漿試料における、抗PKCg抗体であるPKC13で染色された血漿試料におけるPKCgのレベル(化学発光単位)を示す図である。PKCg/PKCg断片のレベルは、正常対照と比較してTBI患者の血漿において上昇を示す。
【
図2C】正常(対照)対象とTBI血漿試料における、抗PKCg抗体であるPKC14で染色された血漿試料におけるPKCgのレベル(化学発光単位)を示す図である。PKCg/PKCg断片のレベルは、正常対照と比較してTBI患者の血漿において上昇を示す。
【
図3】2種類のモノクローナル抗体であるPKC11(1H1/1K1)及びPKC13(5H1/5K1)による染色を用いる正常試料とTBI血漿試料の多重化分析を示す図である。図は、PKC11(黒色のバー)及びPKC13(灰色のバー)が多重化された場合の、TBI試料のシグナルの上昇を示す。
【
図4A】PKC11で染色されたTBI血漿と正常血漿のROC曲線を示す図である。白色のドットは感度及び擬陽性が計算されたポイントを表す。化学発光1137;P=0.4の擬陽性を伴うP=0.91の感度。
【
図4B】PKC13で染色されたTBI血漿と正常血漿のROC曲線を示す図である。白色のドットは感度及び擬陽性が計算されたポイントを表す。化学発光6630;(P=0.58)の擬陽性を伴うP=0.91の感度。
【
図4C】PKC14で染色されたTBI血漿と正常血漿のROC曲線を示す図である。白色のドットは感度及び擬陽性が計算されたポイントを表す。化学発光1320;P=0.66の擬陽性を伴うP=0.906の感度。
【
図5】PKC11(1H1)、PKC13(5H1)、及びPKC14(7H1)で染色された正常試料とTBI試料の化学発光シグナルの統計的比較を示す図である。95%信頼限界での平均値と標準誤差を比較する両側独立スチューデントt検定分析は、GraphPad Prism 8ソフトウェアを用いて完了した。
【
図6】正常ヒト血漿試料H011(上のグラフ)及びTBI患者試料T265(下のグラフ)からのPKC13により認識されたPKCg及びPKCgタンパク質分解断片の分布を示す図である。
【
図7A】PKC11で染色されたTBI血漿試料におけるPKCgの49~52kDa断片のROC曲線分析を示す図である。
【
図7B】PKC13で染色されたTBI血漿試料におけるPKCgの49~52kDa断片のROC曲線分析を示す図である。
【
図7C】PKC14で染色されたTBI血漿試料におけるPKCgの49~52kDa断片のROC曲線分析を示す図である。
【
図8】PKC11、PKC13、及びPKC14で染色された脳卒中血漿試料と正常血漿試料の多重化分析を示す図である。図は、脳卒中シグナルがPKC11、PKC13、又はPKC14で染色された正常血漿試料と比較された場合の大幅な上昇を示す。95%信頼限界での平均値と標準誤差を比較する両側独立スチューデントt検定分析は、GraphPad Prism 8ソフトウェアを用いて完了した。
【
図9A】PKC11で染色された脳卒中血漿試料におけるPKCgのレベル(化学発光単位)を示す図である。
【
図9B】PKC13で染色された脳卒中血漿試料におけるPKCgのレベル(化学発光単位)を示す図である。
【
図9C】PKC11とPKC13の両方で染色された脳卒中血漿試料と正常血漿試料の多重化分析結果を示す図である。
【
図10A】PKC11で染色された脳卒中試料と正常試料における種々のPKCgタンパク質分解断片のレベルを示す統計分析を説明する図である。95%信頼限界での平均値と標準誤差を比較する両側独立スチューデントt検定分析は、GraphPad Prism 8ソフトウェアを用いて完了した。
【
図10B】PKC13で染色された脳卒中試料と正常試料における種々のPKCgタンパク質分解断片のレベルを示す統計分析を説明する図である。95%信頼限界での平均値と標準誤差を比較する両側独立スチューデントt検定分析は、GraphPad Prism 8ソフトウェアを用いて完了した。
【
図10C】PKC14で染色された脳卒中試料と正常試料における種々のPKCgタンパク質分解断片のレベルを示す統計分析を説明する図である。95%信頼限界での平均値と標準誤差を比較する両側独立スチューデントt検定分析は、GraphPad Prism 8ソフトウェアを用いて完了した。
【
図11A】PKC11で染色された脳卒中患者試料における49~52kDaのPKCg断片のROC曲線分析を示す図である。
【
図11B】PKC13で染色された脳卒中患者試料における49~52kDaのPKCg断片のROC曲線分析を示す図である。
【
図11C】PKC14で染色された脳卒中患者試料における49~52kDaのPKCg断片のROC曲線分析を示す図である。
【
図12】PKC13で染色された脳卒中患者試料における42~48kDaのPKCg断片のROC曲線分析を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明は、外傷イベント又は虚血イベントにより引き起こされた中枢神経系の損傷を検出するための迅速で正確な方法を記載する。特に、本発明は、外傷性脳損傷(TBI)又は脳卒中の診断のための新しいインビトロの方法に関する。TBI又は脳卒中などの中枢神経系における外傷イベントは、細胞損傷に起因する生化学的混乱をもたらす。これらの生化学的混乱としては、脳を含む虚血イベントの指標である血流中でのバイオマーカーの出現が挙げられ、これらのバイオマーカーは、中枢神経系における虚血発作の信頼できる指標として検出及び定量化されてもよい。
【0035】
本発明の方法の診断標的は、プロテインキナーゼCのガンマアイソフォーム(PKCγ又はPKCg)でああり、これは、正常な状態では中枢神経系に限局しているが、TBI又は脳卒中の後など、CNS障害後に血管脳関門の外側に出現する。さらに、CNS損傷に起因するCNS間質の興奮毒性環境により、完全長PKCgが1又は複数のタンパク質分解断片に分解され、これらの断片もCNS損傷を受けている個人の末梢血中に出現する。そのような末梢のPKCg及びPKCgのタンパク質分解断片は、血管脳関門が開放されると血液試料中で検出可能であるので、PKC断片が優位に検出されてプロテインキナーゼCの他のアイソフォームと区別可能である場合は、TBI及び脳卒中を含むCNS損傷の潜在的な診断上の指標を提供する。本発明は、そのような高感度の検出方法が可能であることを証明し、CNS損傷を受けたと疑われる対象からの末梢血のインビトロでの分析からCNS損傷を完全で正確に決定するための具体的な材料及び方法を提供する。
【0036】
したがって、末梢血試料中のPKCg及びPKCgタンパク質分解断片の検出は、中枢神経系を含む外傷イベント又は虚血イベントの早期の診断上の指標であるので、早期の検出及び早期の処置が可能になる。また、有利なことに、TBIを受けた又は脳卒中を起こした個人の静脈血中で検出されるPKCg及びタンパク質分解断片の量は、組織損傷の程度に比例しており、したがって、本明細書に記載されるような末梢血試料中のPKCg/PKCg断片のレベルを定量化するためのアッセイは、中枢神経系において持続する外傷の程度の指標である。
【0037】
PKCg/PKCgタンパク質分解断片は虚血イベントの結果として血流中に移行するので、本発明のインビトロの方法は、TBI又は脳卒中の迅速で信頼できる診断を提供する点において、特にCNS損傷の早期の検出及び処置により永久的な損傷の防止が可能な重要な期間内で、特に有利である。したがって、好ましくは、血液試料は、虚血イベントの直後又は虚血イベント後できるだけ早く、好ましくはCNS損傷の時間の6~24時間以内に、より好ましくはCNS損傷の時間の6~16時間以内に、外傷性脳損傷を受けた又は脳卒中を起こしたと疑われる対象から採血される。
【0038】
本願方法は、生物学的試料中のタンパク質の存在を検出/定量化するための当該技術分野で公知の任意の技術を用いてもよい。例えば、血液試料中のPKCg及び1又は複数PKCgタンパク質分解断片の存在を検出可能であるサンドイッチ型のアッセイを用いてもよい。この方法によれば、CNS損傷を受けたと疑われる患者からの生物学的試料は、標的PKCgタンパク質及び1又は複数のそのタンパク質分解断片を分離及び固定化する検出容器中に投入される。固定化された標的タンパク質/ポリペプチドは、次に、PKCgタンパク質上の固有のエピトープに対して産生された第1の抗PKCg(一次)抗体と、PKCg/一次抗体結合複合体の形成が促進される条件下で接触される。試料混合物の残りから任意の未結合のタンパク質/抗体を除去するために、続いて洗浄ステップが行われてもよい。次に、一次抗体に結合可能な、検出可能に標識された(例えば、蛍光タグに結合された)二次抗体が標的/一次抗体複合体と接触され、検出可能な標識(例えば、蛍光シグナル)が検出され、試料中に存在するPKCg及び/又はPKCgタンパク質分解断片の量が計算される。
【0039】
TBI又は脳卒中を診断するための本願方法において、試料中のタンパク質の存在を検出するための、当該技術分野の任意の既知のインビトロの方法を用いてもよい。好ましくは、PKCgの結合パートナー、すなわち、PKCgと会合複合体を形成可能なペプチド、免疫グロブリン、小分子、又は他の部分と試料を接触させることにより、哺乳類対象からの血液試料中でPKCgが検出される。より好ましくは、試料中のPKCgは、PKCg/抗PKCg抗体結合複合体を形成するための本明細書に記載されるような抗PKCgモノクローナル抗体を用いて検出される。また、PKCg/抗PKCg抗体結合複合体の検出及び定量化は、これらに限定されないが、ガスクロマトグラフィー質量分析、薄層クロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、高圧液体クロマトグラフィー、酵素結合免疫吸着検定法などを含む、当該技術分野において周知である方法により行われてもよい。好ましくは、血液試料は、以下に記載する蛍光アッセイ又は化学発光キャピラリーアッセイ法により分析される。
【0040】
他の実施形態では、本発明は、CNS損傷などの持続が疑われる対象の血液試料から外傷性脳損傷又は脳卒中を診断するための、ポイントオブケアアッセイキットに関する。ポイントオブケアアッセイキットは、本発明の方法によるTBI又は脳卒中の診断のための迅速免疫アッセイに必要とされる全ての材料を含むことになる。これらの材料としては、試薬、容器、患者情報の迅速なダウンロードのためのコンピューターと無線接続可能な携帯型読み取り機、装置、及び/又はこの方法を行うために必要とされる説明書が挙げられる。ポイントオブケアアッセイキットは、TBI又は脳卒中などの虚血イベントの確定診断に基づいて患者を迅速にトリアージするための救急医療従事者による使用に特に適している。
【0041】
本発明の診断方法を説明する実施例が、以下に記載される。実施例は、発明を実施するために有用な方法及び試薬を実証するものであり、発明の範囲を限定することなく発明を説明することを意図している。本開示及び当業者の通常のレベルの観点から、実施者は、開示される主題の範囲から逸脱することなく多数の変更、修正、及び代替が適用され得ることを理解するだろう。
【実施例】
【0042】
実施例1.ウサギにおける抗PKCgモノクローナル抗体の産生
ニュージーランドホワイト種のウサギにおいてPKCgに対するモノクローナル抗体を産生した。1匹のニュージーランドホワイト種のウサギを、PKCgの395~697番目のアミノ酸を含む303アミノ酸のポリペプチドで免疫化した。
【0043】
【0044】
2番目のニュージーランドホワイト種のウサギを、アミノ酸配列:LGGRGPGGRP(配列番号35)を含む405~414番目のアミノ酸(ペプチド#1)とアミノ酸配列:FTYVNPDFVHPDARSPTSPVPVPVM(配列番号36)を含む673~697番目のアミノ酸(ペプチド#2)とを含むPKCgのC3/C4触媒ドメイン由来の固有の配列を有する2本の短いぺプチドで免疫化した。ペプチド#1及びペプチド#2は、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)キャリアタンパク質に複数のペプチドを連結するための反応部位として使用されるN末端のシステイン残基を用いて合成された。
【0045】
両ウサギの免疫化は、以下のような標準的な78日間のプロトコール(ImmunoPrecise Antibodies社、カナダ、バンクーバー ビクトリア)にしたがった。すなわち、0日目:対照血清の採取/免疫前出血、1日目:完全フロイントアジュバント中の0.25mgの抗原で免疫化するための一次接種、14日目:不完全フロイントアジュバント中の0.1mgの抗原での追加免疫、28日目:血清採取(ウサギ1匹あたり25ml)、42日目:不完全フロイントアジュバント中の0.10mgの抗原での2回目の追加免疫、56日目:2回目の血清採取(ウサギ1匹あたり25ml)及び不完全フロイントアジュバント中の0.10mgも抗原での3回目の追加免疫、72日目:ウサギ1匹あたり50mlの血清採取、78日目:ウサギにおける抗体濃度を検証するためのELISA力価測定。
【0046】
接種に先立って、一次免疫のための完全フロイントアジュバント(CFA)中に各ペプチド(抗原)を1:1で混合した。(上述の78日目のプロトコールに記載される)その後の追加免疫接種は、不完全フロイントアジュバント(ICFA)中の1:1の抗原混合物で行われた。ペプチドとアジュバントの混合物を4つの等分量に分け、各ウサギの前肢及び後肢の4箇所に皮下注射した。
【0047】
各ウサギについて28日目、56日目、及び72日目に試験出血を行い、間接ELISAにより血清を試験した。両方のウサギの力価はウサギモノクローナル抗体試験手順に適していることが実証された。両方のウサギは、間接ELISAにおいて類似した力価を示した。間接ELISAは、より良好な検出のためにシグナルを増幅するため、両方の種類の抗体を用いる。間接ELISA法は、以下のように行われた。96穴プレートを抗原と共にインキュベートし、非特異的結合を阻害するために洗浄した。一次抗体を添加して洗浄した。酵素結合二次抗体を添加して洗浄した。間接抗体は比色分析評価項目のために酵素結合されており、これによりプレートに結合された抗体の分光計を用いた定量化が可能になる。
【0048】
上述の血清採取のそれぞれにつき、各ウサギからおよそ30mlのヘパリン処理済全血を採血し、B細胞の培養のためにプールした。各ウサギの全血から末梢血単核球(PBMC)を単離し、上清を40×96穴プレート中で培養し、9日目にPKCgに対する間接ELISAにより選別した。抗原陽性細胞をInvitrogen RNA溶解緩衝液(ThermoFisher社)中で保存し、-80℃で保管した。
【0049】
個々のRNA試料からcDNAを合成し、2ラウンドのPCRを行って、クローニングのための抗体可変領域cDNAを調製した。ウサギIgG重鎖cDNA及びウサギIgGκ軽鎖cDNAを哺乳類発現ベクター中にクローニングした。発現コンストラクトをHEK293細胞中に同時遺伝子導入し、細胞培養上清をサンドイッチELISAで検定した。Multi-Antigen Print ImmunoAssay、MAPIA(Lyashchenko et al., J. Immunol. Methods, 242(1-2): 91-100 (2000))を用いて、遺伝子導入された細胞培養上清をさらに試験した。
【0050】
上位28の陽性クローンを第III相クローニングに進めた。ぞれぞれ1.5mlの遺伝子導入上清中で、22種類のクローンをさらに試験した。細胞培養上清がニトロセルロース膜上に固定化された後、標準的な発色性の免疫現像(immunodevelopment)を用いる抗体検出が行われる、Chembio Diagnostic Systems Multi-Antigen Print ImmunoAssay(MAPIA)法を用いる50mlスケールの発現/精製のために5種類のクローンを選択した(表1参照)。
【0051】
【表3】
表1中の5クローンのDNA配列を決定した。
【0052】
ウサギIgG抗体重鎖及びIgG抗体軽鎖のDNA配列分析
ウサギIgG重鎖を単離及び配列決定したところおよそ1200bpであった。ウサギのカッパー軽鎖を単離及び配列決定したところおよそ700bpであった。表1の各クローンからの重鎖及び軽鎖(1H1/1K1、4H1/4K1、7H1/7K3、20H1/20K3、及び5H1/5K1)のDNA配列は全て、可変領域内において異なる配列を有することが特定された。単離されたDNAによりコードされる5種類のクローンの可変領域アミノ酸配列を以下の表2に示す。各クローンについての3つの重鎖相補性決定領域(CDR-H1、CDR-H2、及びCDR-H3)及び3つの軽鎖相補性決定領域(CDR-L1、CDR-L2、及びCDR-L3)を表2において下線で示した。
【0053】
【0054】
配列データは、回収された全ての抗体クローンが異なる可変領域配列を有していることを示しており、このことは、回収された全てのウサギモノクローナル抗体がPKCgタンパク質上の異なるエピトープに結合することを示唆している。
【0055】
5種類のモノクローナル抗体のクローニング、発現、及び精製
各クローンに対するウサギIgG重鎖DNA及び各クローンに対するウサギカッパー軽鎖DNAを別々にCMV発現ベクター中にクローニングした。リンパ球をポリエチレングリコールの存在下でウサギ骨髄細胞(240E-W)と融合させた。結果として生じるハイブリドーマクローンを中間対数期に達するまで組織培養培地中で増殖させた(ImmunoPrecise社の独自方法)。ハイブリドーマをIgG、IgM、及びIgAにアイソタイプ分類し、IgGアイソタイプを発現したクローンを選択した。Chembio Diagnostic Systems社により開発されたMulti-Antigen Print Immunoassay(MAPIA)(Lyashchenko et al., J. Immunol. Methods, 242(1-2): 91-100 (2000))を用いて、クローンをProteintech社の組換えRKCG(カタログag5910)でプローブした。クローニングされた重鎖及び軽鎖から作製した抗PKCgモノクローナル抗体を結合活性について試験し、PKC11(1H1/1K1)、PKC13(5H1/5K1)、及びPKC14(7H1/7K3)とそれぞれ呼ばれる、3種類の高親和性抗PKCg mAbを追加の試験のために選択した。
【0056】
実施例2.ヒト血漿試料からのTBIの診断におけるPKCgタンパク質分解断片への抗PKCgモノクローナル抗体結合の分析
上述のPKC11、PKC13、及びPKC14の3種類の選択されたウサギモノクローナル抗体を用いて、TBI又は脳卒中の患者から得られた血液の試料中のPKCg及びPKCgタンパク質分解断片の存在を検出した。以下の結果は、3種類のウサギモノクローナル抗体の全てが、正常ヒト血漿(対照)からの臨床試料とTBI又は脳卒中の患者からの血漿からの臨床試料について固有の染色パターンを示すことを実証している。各抗体についての異なる断片の染色プロファイル、及び正常臨床血漿試料とTBI試料についてみられる効果を定量化するため、モノクローナル抗体で染色(複合体化)された各試料について、複合体特異的化学発光シグナルをグラフ化した。キャピラリー電気泳動化学発光免疫測定法(Raybiotech社、ジョージア州、ノークロス)を用いて、33個のTBI血漿試料と12個の正常ヒト対照血漿試料のコホートについてシグナルレベルを生成した。
【0057】
受信者動作特性(ROC)曲線による抗体/PKCg結合データの分析
前記3種類のモノクローナル抗体についてのPKCg/PKCgタンパク質分解断片結合プロファイルをTBI患者及び脳卒中患者の血漿と正常対象(対照)からの血漿とで比較する分析について、上述の臨床コホートにおける感度と擬陽性(1-特異性)試料との重複の確率をROC曲線により比較した。この目的のための感度は、陽性の試験結果が陽性の疾患(TBI又は脳卒中)と重複した確率(P)[P(Test+|Disease+)として記載された。擬陽性についての類似の試験として、疾患が存在しない場合に陽性の試験が存在する条件である[P(Test+|Disease-)を用いた。Excelのピボットテーブルアプリケーションを用いて、健康試料と疾患試料の数を計数した。(=SUM 個々の疾患試料)/全疾患試料の合計)を用いて感度を計算した。(=SUM 各個人の健康試料/全健康試料の合計)を用いて擬陽性を計算した。特異性は(1-擬陽性)として定義される。この統計的方法は、感度を最大にし、擬陽性の確率を同定する。健康試料と疾患試料の間の各ROC曲線のカットオフ値を計算した後、それらの確率で表される化学発光シグナル総量と関連付けた。PKC11抗体、PKC13抗体、及びPKC14抗体で染色された各試料コホートについてのカットオフ値は、以下の各グラフにおいて線で示される。
【0058】
化学発光キャピラリーELISAによる正常試料及びTBI試料の分析
正常血漿試料及びTBI血漿試料の全てを、化学発光キャピラリーELISAアッセイによりPKCg及びPKCgタンパク質分解断片の存在について、3種類の抗PKCgモノクローナル抗体のそれぞれでスクリーニングした。有利に、本開示の免疫プローブとしてPKCg及びPKCg断片の検出抗体を用いる化学発光キャピラリーELISAは、潜在的な外傷性脳損傷又は脳卒中の後の個人の静脈血の試料中に存在するPKCg及び/又はPKCgタンパク質分解断片の存在を検出するための高感度の方法を提供する。
【0059】
TBI試料のアッセイ
簡潔に言うと、この実施例における化学発光キャピラリーELISAを実施するため、試薬及び正常臨床試料とTBI臨床試料からの個人の血漿を、(RayBiotech Life社のAuto-Westernサービスを用いて)自動ウエスタンブロット装置にロードした。第1のステップにおいて、試料はキャピラリー中に自動でロードされる。次に、タンパク質がスタッキング及び分離マトリックスを通って電気泳動的に移動するので、それらは大きさにより分離される。次に、分離されたタンパク質は独自の光活性化捕捉化学によりキャピラリー壁上に固定化される。標的タンパク質、すなわちPKCg及び/又はPKCgタンパク質分解断片は、一次抗体、すなわち本明細書に記載されるウサギモノクローナル抗体を用いて同定され、HRP結合二次抗体であるヤギ抗ウサギIgG抗体及び化学発光基質を用いて免疫プローブされる。各ピークのベースライン、分子量、及び定量的化学発光シグナルをプロットする電気泳動図が作成される。定量的シグナルは、電気泳動図ごとの各分子量のバンドについて抽出された。式(C2-C1/C1)を用いて定量的化学発光シグナルのそれぞれを生成した。式中、C2は曲線下面積であり、C1はその試料についてのベースラインである。この特異的化学発光測定は、PKC11抗体、PKC13抗体、又はPKC14抗体で染色された後に、TBI又は脳卒中の血漿試料と比較した全ての正常ヒト血漿の比較において用いられた。GraphPad Prism 8ソフトウェアを用いて統計的比較がなされた。結果として生じる特異的化学発光シグナルは、ピコグラム/mlの範囲の感度で検出及び定量化され、TBIバイオマーカー、すなわち、PKCg、及び/又はPKCgタンパク質分解断片の直接測定を提供する。
【0060】
自動ウエスタンブロット技術を用いて合計で201個のヒト血漿試料を分析した。正常ヒト血漿試料をPKC11(n=13)、PKC13(n=13)、及びPKC14(n=14)で染色した(と接触させた)。各ウサギモノクローナル抗体を用いて、少なくとも13個の個別の正常ヒト血漿試料を分析した。5つの別個のデータの比較からの反復計算について説明すると、合計で56個の正常ヒト血漿試料をキャピラリーELISAアッセイにより分析した。TBI患者からの血漿もまた、PKC11(n=34)、PKC13(n=33)、及びPKC14(n=33)に対して分析した(と接触させた)。各ウサギモノクローナル抗体及びモノクローナル抗体の組み合わせについて、少なくとも33個の個別の試料を分析した。合計で145個のTBI血漿試料を実行し、5つの別個のデータから関連付けた。
【0061】
全ての統計的比較は、GraphPad Prism 8ソフトウェア(GraphPad Software社、カリフォルニア州、ラ・ホーヤ)を用いて実行した。正常コホートとTBI試料のコホートからの化学発光シグナルを比較した。パラメーターの分布を推測する両側独立スチューデントt検定を実行した。Welchの補正を用いて、両試料の等しいSDについて試験した。P値はP<0.05で有意である。95%信頼レベルで平均値及び標準誤差を計算した。
【0062】
抗PKCg mAbであるPKC11、PKC13、及びPKC14で染色されたTBI血漿試料と正常血漿試料の複合シグナルの比較
Chemiluminescent Capillary Western Blot Analysis(ジョージア州、RayBiotech社)を用いて、PKC11、PKC13、及びPKC14で染色された正常ヒト血漿と外傷性脳損傷血漿の試料におけるPKCgシグナルの特徴付けを行った。95%信頼限界で両側独立スチューデントt検定を用いて統計比較を行った。試験した3種類のウサギモノクローナル抗体のそれぞれについて、正常血漿試料と比較された場合、TBI血漿試料について顕著に高い化学発光シグナルが存在していた。結果を
図1に示す。
【0063】
図1で見られるように、個々の試料(正常とTBI)の染色パターンは、異なるウサギモノクローナル抗体であるPKC11、PKC13、及びPKC14に固有であり、各抗体については、正常血漿試料に対してTBI血漿試料においてシグナルが高かった。
【0064】
抗PKCg mAbでプローブされた個々の試料についての染色パターンを
図2に示す。正常ヒト血漿試料(n=13人)を、PKC11抗体(パネルA)、PKC13抗体(パネルB)、及びPKC14抗体(パネルC)で染色された外傷性脳損傷試料(n=34人)と比較した。
【0065】
PKC11、PKC13、及びPKC14での染色パターンは固有である。PKC11 TBI試料(T)の高いピークはT130、T223、T247を含んでいるのに対し、PKC13はT220、T233、T240、T265、T266、T293、T305でピークに達し、PKC14はT079、T209、T258でピークに達する。TBIの陽性診断は、PKC11について試料の91%(30/33のTBI試料がバックグランドを超える)、PKC13について試料の91%(31/34のTBI試料が陽性)、PKC14について試料の91%(30/33のTBI試料が陽性)で行われた。
【0066】
TBI試料の多重分析
以下で実証されるように、PKCgに対する2種類のモノクローナル抗体に対する化学発光結合の結果を組み合わせる(本明細書では「多重化する」ともいう)ことにより、TBI診断の精度及び信頼度における顕著な改善がもたらされることが発見された。TBI試料に対するPKC11抗体及びPKC13抗体のPKCg結合結果の多重化の結果を、PKC11を黒色の縦線、及びPKC13を灰色の縦線として、
図3に示す。
【0067】
TBIの陽性診断に対する結果として生じる効果を決定するためにPKC11とPKC13を多重化した。PKC11とPKC13に対する化学発光結果を組み合わせることにより、抗体が個別に評価された場合の91%のTBI陽性診断から、組み合わされた抗体についての100%のTBI陽性(34/34のTBI(+)試料がバックグランドライン、又はバックグランドラインより上)に改善された。PKC14との多重化はこの(100%精度の)診断をさらに改善はしなかった(データは示さず)。
【0068】
正常ヒト血漿とTBI試料のPKC11及びPKC13の抗体染色を同時にプロットしたところ、2種類の抗体間の染色の違いを示した。いくつかの試料、例えば、T022、T130、及びT223については、PKC11 mAb化学発光シグナルはPKC13 mAbシグナルを超えたが、TBI試料であるT265及びT266については、PKC11 mAbで染色された同じ試料についての低いシグナルと比べて、非常に高いシグナルが示された。
図3における水平カットオフ(線)は、PKC11+PKC13多重化抗体のROC曲線適合分析に由来する1137化学発光単位である。このレベルより高いシグナルはいずれも、標的PKCg及びPKCgタンパク質分解断片標的バイオマーカーに結合する抗体の検出に基づく予測TBI(+)試料を表す。PKC11 mAbとPKC13 mAbの多重化に対してPKC14 mAbを追加しても、ROC曲線分析又はTBI陽性試料の診断は改善されなかった(データは示さず)。
【0069】
抗PKCg mAbで染色されたTBI血漿試料と正常血漿試料の分析
正常及びTBI患者からの血漿試料をPKC11モノクローナル抗体、PKC13モノクローナル抗体、又はPKC14モノクローナル抗体で処理し、PKCg及びPKCgタンパク質分解断片の存在について上述の化学発光アッセイにより分析した。TBI血漿試料と正常血漿試料についてのROC曲線の結果を
図4A~
図4Cに示す。正常試料とTBI試料のいくつかのサブセットを実行したところ、いくつかの反復測定が生じて最終的に145個のTBI試料が解析された。
【0070】
図4に示される結果は、3種類の抗体全てが、異なる特異性及び擬陽性と共に91%を超える感度に達したことを実証している。PKC11(パネルA)は、91%の感度、58%の特異性、及び42%の擬陽性であった。PKC13(パネルB)は、91%の感度、42%の特異性、及び58%の最も高い擬陽性を示した。PKC14(パネルC)は、94%の感度、70%の特異性、及び30%の擬陽性を示した。
【0071】
擬陽性の確率を示す患者への影響は、患者が追加の採血を受け、試料中のPKCgレベルを確認するためのPKCgアッセイの再試験が必要となり得るということである。これは、CNS損傷の効果を減弱させるための有効治療の処方にとって時間が最も重要である診断環境においては重要な要因である。正常より高いレベルのPKCgの別の指標により、患者に対する他の臨床的問題を同定するための神経学的検査及び介入性の放射線検査を患者は受けることになる。擬陽性の発生率及び確率が高い場合は、TBIの迅速で正確な診断の臨床的利点は失われる。このことは、感度が改善されたTBI診断アッセイを非常に望ましいものにする。
【0072】
PKC11抗体、PKC13抗体、及びPKC14抗体によるPKCg/PKCgタンパク質分解断片の検出
PKC11、PKC13、及びPKC14で染色された正常試料及びTBI試料の化学発光シグナルの統計比較を行った。結果を
図5に示す。統計比較は、両側独立スチューデントt検定である(GraphPad Prism 8)。
図5のグラフは、平均値及び標準誤差を示し、*は95%信頼レベルでの有意性を表し、P値は有意性のある測定について記載される。
図5で見られるように、各モノクローナル抗体は、正常血漿及びTBI血漿について固有の染色パターンを示す。PKCgの49~52kDa断片は、3種類の抗体の全てについて一般的であり、TBI(+)の診断を改善する。3種類の抗体は全て、正常血漿と比べてTBI試料において顕著に高いレベルの49~52kDa断片の検出を示す。
【0073】
PKC11抗体は、49~52kDa断片について正常血漿と比べてTBI血漿に対するシグナルの顕著な増大を示し、PKC11は、正常血漿の試料と比べてTBI血漿において完全長PKCg(63~73kDa)に対して最も高いシグナルを示す。
【0074】
PKC13抗体は、PKCg/PKCg断片標的の結合に対して最も高いシグナル応答を示す。PKC13は、42~48kDa、49~52kDa、及び53~60kDaの断片に対するシグナルの顕著な増大を有し、TBI(+)の診断を改善する。
【0075】
PKC14抗体は、49~52kDa断片の検出に対するシグナルの顕著な増大を有する。最も高いシグナルは53~60kDaの断片に対するものであったが、42~48kDaに対するシグナルは正常試料とTBI試料で顕著な違いはなかった。
【0076】
正常血漿試料とTBI血漿試料の抗体染色バンドの比較
図6は、TBI患者の血漿試料(T265)(下部パネル)と比較した正常ヒト血漿試料(H011)(上部パネル)における、PKC13で認識されるPKCg及びPKCgタンパク質分解断片の典型的な特異的分布を示す。
【0077】
図6の結果は、正常ヒト血漿において、49~52kDa断片の存在が非常に稀であることを実証している。対照的に、PKC13は、TBI血漿において49~52kDa断片を高いレベルで検出し、これによりTBI(+)を診断する能力が促進される。
【0078】
PKC11、PKC13、PKC14で染色された49~52kDa断片の受信者動作特性(ROC)曲線
ウサギモノクローナル抗体であるPKC11(A)、PKC13(B)、PKC14(C)で染色されたPKCgの49~52kDa断片について、ROC曲線を作成した。結果を
図7A、
図7B、及び
図7Cに示す。
【0079】
図7中の黒色の丸はTBI血漿試料を示す。白色の丸は擬陽性を伴わない最大感度を表す。灰色の丸は擬陽性、すなわち、PKCgの49~52kDa断片に対して陽性反応を示す正常血漿試料を示す。
【0080】
図7Aにおいて、710化学発光単位(白色の丸)以上のシグナルを有するPKC11で染色された試料のROC曲線は、TBI陽性であった。この点まで擬陽性は存在しないが(P=0.64の感度、P=0.0の擬陽性、及びP=1.0の特異性)、630化学発光単位で1つの擬陽性が存在する。これは、これらの条件下でPKCgの49~52kDa断片について陽性に染色された、唯一の正常(又はTBIではない)ヒト血漿試料である。追加の試験により、この試料は、実際にはCNS損傷について陽性の試料であると示されることもある。これにより、感度が、曲線B及び曲線Cにおいて見られるように、P=0.9を超えることになり得る。
【0081】
図7Bは、TBI血漿と比較した正常ヒト血漿に対するPKCgの49~52kDa断片のPKC13染色を示す。白色の丸は、試料のシグナルが658化学発光単位以上であり、TBI(+)試料である点を特定する。この点における感度はP=0.95、特異性はP=1.0、擬陽性はP=0.0であった。2つの正常ヒト血漿試料より低いシグナルで同定されたTBI陽性試料が1つのみ存在する。582化学発光単位及び579化学発光単位で2つの擬陽性正常血漿試料が同定された(灰色の丸)。対応する感度はP=0.95であるが、擬陽性の確率はこれらの2点でP=0.5及びP=1.0まで上昇する。
【0082】
図7Cは、TBI血漿と比較した正常ヒト血漿に対するPKCgの49~52kDa断片のPKC14染色を示す。白色の丸は、試料のシグナルが299化学発光単位であることを特定し、これと同じ又はこれ以上でシグナルを有するいずれの試料もTBI陽性であると特定される。この点において、感度はP=0.92であり、擬陽性はP=0であり、特異性はP=1.0である。低い化学発光シグナルを有する3つの擬陽性試料(灰色の丸)及び追加のTBI(+)が存在する。これらの追加の点について、感度はP=1.0まで上昇し、擬陽性はP=0.33の確率まで上昇する。
【0083】
TBIについての結論
上で示したデータは、本発明の新しいインビトロの方法は、静脈血の試料から外傷性脳損傷を診断するための、簡便で、迅速で、信頼できるツールを提供することを実証している。上述のキャピラリー化学発光アッセイなどの標準的なアッセイを用いて、上述のPKC11、PKC13、及びPKC14の3種類のウサギモノクローナル抗体の全てがCNS損傷についてのPKCg/PKCgタンパク質分解断片バイオマーカー上の固有のエピトープを認識し、各抗体がこれらのバイオマーカーについて固有の染色パターンを示し、それにより単独で又は組み合わせて、外傷性脳損傷の発生及び重症度を決定するための信頼できる診断ツールを提供することが実証された。
【0084】
結果はまた、49~52kDa断片は、通常はTBI(+)試料でのみ認められ、したがって、PKCg/PKC断片は、本発明の方法により試験された対象におけるTBIの診断を改善する。ROC曲線により分析された49~52kDa断片の感度は、試験された3種類のモノクローナル抗体の全てについてP=0.91の確率を超えており、臨床TBI診断の理想的な増幅器となる。
【0085】
33~36kDa断片、42~48kDa断片、53~60kDa断片などの別の断片は、49~52kDa断片よりもROC分析による感度が低く(P≦0.9)、同様の擬陽性の確率の上昇も伴う。したがって、これらの別の断片は、前記3種類のモノクローナル抗体で染色された試料におけるTBIの診断をそれほど促進しないが、依然としてTBIの有用で信頼できる指標を提供する。さらに、1又は複数の通常のPKCgタンパク質分解断片を認識する抗PKCg抗体のいずれか2つを組み合わせることにより、診断の精度が100%まで改善される。
【0086】
実施例3.ヒト血漿試料からの脳卒中の診断におけるPKCgタンパク質分解断片に結合する抗PKCgモノクローナル抗体の分析
上述の化学発光キャピラリーELISAアッセイにしたがってPKC11 mAb、PKC13 mAb、及びPKC14 mAbで染色することにより、PKCg及びPKCgタンパク質分解断片の存在について、脳卒中を起こしたと診断された対象からの血漿試料を分析した。結果は、本発明の新しい方法は脳卒中を起こしたと疑われる患者において脳卒中を検出するための迅速で信頼できる診断方法を提供することを実証している。
【0087】
正常血漿試料と脳卒中血漿試料におけるPKCgの検出
化学発光キャピラリーアッセイを用いたPKC11、PKC13、及びPKC14での脳卒中試料の染色は、正常ヒト血漿試料に対して脳卒中血漿試料において顕著に高いレベルのPKCgを示した。
図8は、各モノクローナル抗体(PKC11、PKC13、及びPKC14)で染色された脳卒中試料と正常血漿試料の全ての寄与試料からのシグナルの集計を示す。TBI血漿試料について実証されたように、各モノクローナル抗体は固有の染色パターンを示す。
【0088】
多重化抗体を用いたPKCgの検出
前述の化学発光キャピラリーELISAアッセイにしたがって、PKC11モノクローナル抗体及びPKC13モノクローナル抗体で個別に及び多重化して(PKC11とPKC13の両方で)染色することにより、PKCg及びPKCgタンパク質分解断片の存在について脳卒中患者からの血漿試料を分析した。結果を
図9A~
図9Cに示す。Sを付した番号の試料は脳卒中患者から得られたものであり、Hを付した番号の試料は正常(非脳卒中)個人から得られたものである。
【0089】
結果は、本発明の新しい方法が、脳卒中イベントを受けた患者における脳卒中の発生を検出するための、迅速で、信頼できる診断方法を提供することを実証している。さらに、結果は、異なるPKCg断片特異性を有する抗PKCg抗体を多重化することにより、この診断の確実性が改善されることも示唆している。
【0090】
図9Aにおける脳卒中患者の血漿試料と比較した正常ヒト血漿の個別の試料のPKC11染色は、ベースラインより大きい7/10個の陽性脳卒中試料を示す(70%検出)。
図9Bに示されているPKC13染色は、ベースラインを超える9個の脳卒中試料を示す(9/11、又は82%検出)。
図9Cに示されるように、PKC11とPKC13が多重化された場合、陽性の脳卒中診断の検出の増加は、ベースラインを超える10個の脳卒中試料で計算される(10/11、又は91%検出)。
図9A及び
図9Bは、
図9A中の試料S013における高い陽性シグナル及び
図9B中の試料S017における高い陽性シグナルなど、異なる化学発光パターンを示す。したがって、アッセイにおいてPKC11 mAb及びPKC13 mAbの感度及び特異性を組み合わせることにより、脳卒中の診断精度は91%まで改善する。
図9中の水平ベースラインは、3445化学発光単位を表す。
【0091】
正常血漿試料と脳卒中血漿試料におけるPKCg断片の検出
PKC11、PKC13、及びPKC14で染色された正常血漿試料及び脳卒中血漿試料の化学発光シグナルの統計比較を行った。結果を
図10A~
図10Cに示す。統計比較は、両側独立スチューデントt検定分析(GraphPad Prism 8を使用)である。
図10のグラフは、平均値及び標準誤差を示し、*は95%信頼レベルでの有意性を表し、P値は有意性のある測定について記載される。
【0092】
図10Aは、PKC11 mAbと接触させた脳卒中試料について63~73kDaのPKCg断片及び49~52kDaのPKCg断片で高いピークを示すが、これらの違いは正常ヒト血漿と比較された場合は統計的に有意ではなかった。PKC11で染色された脳卒中血漿試料と比較された場合、正常ヒト血漿においてPKCgの53~60kDa断片について有意なピークが存在する。
【0093】
図10Bは、PKC13 mAbで染色された対照血漿に対して脳卒中試料における42~48kDaのPKCg断片の存在の有意な増加を示す(P=0.038)。正常ヒト血漿と比較された場合、49~52kDa断片は脳卒中血漿において高く、有意に近かった(P=0.06)。恐らく、試料数が大きくなると、PKCgの49~52kDa断片について脳卒中(+)試料の有意な増加を示すであろう。PKC13で染色された正常試料と比較された場合、95~105kDaでのより分子量の大きいバンドが脳卒中試料において顕著であった。PKC13で染色された脳卒中試料においては63~73kDa断片は明らかではなかった。
【0094】
図10Cは、PKC14 mAbでプローブされた正常ヒト血漿と脳卒中血漿の染色を示す。この抗体は、有意に特異的な染色バンドを示さず、試験された他の2種類の抗体より低いシグナルを有する。
【0095】
正常血漿試料と脳卒中血漿試料におけるPKCgの49~52kDa断片の検出
図11A~
図11Cは、PKC11(パネルA)、PKC13(パネルB)、及びPKC14(パネルC)でそれぞれ染色された正常血漿試料と脳卒中血漿試料におけるPKCgの49~52kDa断片のROC曲線分析を示す。
【0096】
ROC曲線分析は、PKC11、PKC13、及びPKC14で染色された正常血漿試料と脳卒中血漿試料からの個別の49~52kDa断片の高い感度を示し、このことは、脳卒中の診断についてのPKCgの49~52kDaタンパク質分解断片に対するアッセイの診断的有用性の向上を支持する。
図11Aに示される分析はわずかな試料(n=3)のみに対するものであるが、感度は高いまま(P=1.0)であり、擬陽性はない(P=0)。白色の丸は、PKC11で染色された797化学発光単位を超えるシグナルでの脳卒中陽性試料を同定する。灰色の丸は、602化学発光単位での健康な対照を示す。
【0097】
49~52kDa断片のPKC13染色について、
図11Bに示されるように、感度は高いまま(P=1.0)であり、擬陽性はなく(P=0)、特異性は(P=1.0)である。白色の丸は、999化学発光単位を示し、この値より高いシグナルはいずれも脳卒中陽性試料を表す。582化学発光単位及び579化学発光単位でシグナルを有する2個の健康な対照試料が存在する(灰色の丸)。
【0098】
49~52kDa断片のPKC14染色の結果は、
図11Cに示されるように、この断片が脳卒中の診断のための重要な診断標的であることを支持している。断片のそれぞれからの全体の複合シグナルは低いが(例えば、
図10)、アッセイの感度は非常に高いまま(P=1.0)であり、擬陽性は0である(特異性P=0)。白色の丸は、257化学発光単位であり、この値より高いシグナルは脳卒中陽性試料を表す。健康な(非脳卒中)血漿試料(灰色の丸)は、白色の丸に対して化学発光シグナルが低い。
【0099】
正常血漿試料と脳卒中血漿試料における代替的なPKCg断片の検出
正常ヒト血漿試料と比較した脳卒中試料の分析は、PKCg断片が脳卒中陽性診断に貢献し得る程度を説明している。PKC11、PKC13、及びPKC14で染色されたPKCgの33~36kDa断片、42~48kDa断片、及び53~60kDa断片のROC分析は、49~52kDa断片で見られた感度(P>0.9)に到達しないが、それにより、脳卒中の診断に対する改善の程度を変化させることに貢献する。結果を(以下の)表3に示す。
【0100】
例えば、PKC13染色はP=0.7~P=0.8の範囲の感度、P=0.2以下の擬陽性、及びP=0.8~P=1.0の特異性を示す。42~48kDa断片及び53~60kDa断片のシグナルに対する貢献は、2200化学発光単位を超え、擬陽性の確率は低いレベル(20%)である。
【0101】
表3の他の例は、63~73kDa断片に対する脳卒中の診断の大きな貢献は、P=0.5の感度、P=0.3の擬陽性、及びP=0.7の特異性を有するPKC11からである。対照的に、PKC13は63~73kDa断片に対して応答を示さない(表3参照)。PKC14は、688化学発光単位のシグナルで63~73kDa断片に対する応答を示すが、感度が低く、擬陽性が高い(感度P=0.5、擬陽性P=0.5)。
【0102】
【0103】
したがって、感度が高く、特異性が高く、擬陽性が低いPKCg断片からのシグナルは、脳卒中(+)診断を促進することが示される。
【0104】
PKC13 mAbで染色された正常血漿試料と脳卒中血漿試料におけるPKCgの42~48kDa断片についてのROC曲線
図12は、PKC13で染色された正常試料と脳卒中試料の42~48kDaのPKCg断片についてのROC曲線分析を示す。PKCgの42~48kDa断片のPKC13による染色は、擬陽性が0であり、P=0.8の感度及びP=1.0の特異性を示す。
図12の黒色の点は脳卒中(+)試料を表し、灰色の点は正常健康対照を表す。白色の点は2213化学発光シグナルに相当する。2213化学発光単位以上のシグナルを有する試料は、脳卒中診断について陽性であると考えられる。42~48kDa断片のPKC13染色などのPKCg断片からのシグナルは、比較的高い感度、高い特異性、及び低い擬陽性を有し、脳卒中(+)診断の精度を向上させる。
【0105】
結論
回収された全てのウサギモノクローナル抗体が異なる可変領域配列を有し、PKCgタンパク質上の異なるエピトープに結合する。ウサギモノクローナル抗体のうちの3種類、すなわち、PKC11、PKC13、及びPKC14は、定量的化学発光キャピラリーウエスタンブロット技術を用いて、TBIを受けたと診断された患者及び脳卒中を起こしたと診断された患者の血漿試料におけるPKCg及びPKCgタンパク質分解断片を検出する能力について、正常(対照)対象からの血漿試料と比較して分析された。
【0106】
ウサギモノクローナル抗体であるPKC11、PKC13、及びPKC14は、完全長PKCgタンパク質上に存在する固有のエピトープに結合することができる。さらに、これら3種類のウサギモノクローナル抗体の全てが、CNS損傷及びBBBを通過して末梢循環への輸送の結果として生じる32~36kDa、42~48kDa、49~52kDa、及び53~60kDaのPKCgタンパク質分解断片上に存在するエピトープを認識する。
【0107】
PKC11及びPKC13は、完全長PKCg及びPKCgタンパク質分解断片に対する強いシグナル(結合)を示す。PKCgタンパク質分解断片に対するPKC11抗体とPKC13抗体の多重化は、血漿試料におけるTBI又は脳卒中の診断を大幅に向上させる。PKC11、PKC13、及びPKC14の染色から組み合わせられたPKCgのタンパク質分解断片の分析は、試験された臨床試料における種々の程度のTBI及び脳卒中の両方に対する検出率(診断)を改善し得る。特に、PKCgの49~52kDa断片は正常ヒト血漿にはほとんど認められないので、試料におけるこの断片の存在は、TBI試料及び脳卒中(+)の両方の診断を大幅に改善し、脳卒中(+)試料及びTBI(+)試料の両方において高い感度、低い擬陽性、及び高い特異性を示す。
【0108】
したがって、上述されるように、静脈血試料からのPKCgタンパク質分解断片及びPKCgの存在を検出及び定量化するための本発明の新しいインビトロの方法は、患者における外傷性脳損傷又は脳卒中などのCNS損傷の発生の迅速で、信頼できる診断を可能にする。本発明はまた、TBI及び脳卒中を診断するための新しいインビトロの方法における使用に特に適した固有のモノクローナル抗体を提供し、これらの抗体は、完全長PKCgタンパク質上に存在する少なくとも1つのエピトープを認識(及び前記エピトープと検出可能な結合複合体を形成)し、上述の少なくとも1つのPKCgタンパク質分解断片上に存在する少なくとも1つの固有のエピトープを認識(及び前記エピトープと結合複合体を形成)し、この結合複合体は生物学的試料中の検出バイオマーカーについて当該技術分野で知られている任意のプロセスにより検出されてもよい。
【0109】
本明細書に記載された文献、特許出願、特許、及び他の文書は、その全体が参照により取り込まれる。上述の実施例は一例にすぎず、限定することを目的としていない。開示される方法に対する自明な変形及び本発明の代替的な実施形態は、上述の開示を考慮して当業者に明らかになるであろう。そのような自明な変形物及び代替物は全て本明細書に記載される発明の範囲内であると考えられる。
【配列表】
【国際調査報告】