(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-30
(54)【発明の名称】生物学的試料を分析するためのデバイス及び方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/447 20060101AFI20230323BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20230323BHJP
【FI】
G01N27/447 315B
G01N33/53 M
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022548685
(86)(22)【出願日】2021-02-10
(85)【翻訳文提出日】2022-10-07
(86)【国際出願番号】 EP2021053143
(87)【国際公開番号】W WO2021160641
(87)【国際公開日】2021-08-19
(32)【優先日】2020-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】522317844
【氏名又は名称】ダイヤモンド インヴェンション ユージー (ハフトゥングスベシュレンクト)
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【氏名又は名称】森本 敏明
(74)【代理人】
【識別番号】100181906
【氏名又は名称】河村 一乃
(72)【発明者】
【氏名】ハインソーン,ナターシャ
(72)【発明者】
【氏名】アニエルスキー,アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】ニードル,ロバート
(57)【要約】
本発明は、生物学的試料(S)を分析するためのデバイス(1)に関し、前記デバイス(1)は:生物学的試料(S)を受け取るための基材(2)であって、液体の移動相に溶かした生物学的試料(S)中の分子を、該分子の分子量及び/又は極性に応じて保持する固定相を形成するように構成された繊維材料(F)を備えるか、又はそれからなる、前記基材(2)と;第1の電極(41)及び第2の電極(42)であって、第1の軸(A1)に沿って配置され、第1の電極(41)と第2の電極(42)との間に電位差が与えられると、第1の軸(A1)に沿って作用する電場が発生するように構成される、前記第1の電極(41)及び前記第2の電極(42)と、を備え、その結果、生物学的試料(S)が含有する荷電分子が第1の軸(A1)に沿って基材(2)を通り移動可能になり、かつ/又は分子量、極性及び/又は電荷により分離可能になり、ここで前記基材(2)は、生物学的試料(S)を溶解することができる化学溶解剤(L)を含む。さらに、該デバイス(1)を用いた生物学的試料(S)を分析するための方法が提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的試料(S)を分析するためのデバイス(1)であって、
- 生物学的試料(S)を受け取るための基材(2)であり、液体移動相に溶かした生物学的試料(S)中の分子を、前記分子の分子量及び/又は極性に応じて保持できる固定相を形成するように構成された繊維状材料(F)を含むか、又はそれからなる、前記基材(2)と、
- 第1の電極(41)及び第2の電極(42)であり、第1の軸(A1)に沿って配置され、かつ電位差が前記第1の電極(41)と前記第2の電極(42)との間に与えられる場合に前記第1の軸(A1)に沿って作用する電場が発生するように構成されて、その結果、前記生物学的試料(S)が含有する帯電分子が前記第1の軸(A1)に沿って前記基材(2)を通って移動可能になり、及び/又はその分子量、極性及び/又は電荷によって分離可能になる、前記第1の電極(41)及び前記第2の電極(42)と、
を備え、
前記基材(2)は、前記生物学的試料(S)を溶解することができる化学溶解剤(L)を含み、
前記デバイス(1)は、第3の電極(43)を備え、前記第2の電極(42)及び前記第3の電極(43)は、前記第1の軸(A1)に対して非平行である第2の軸(A2)に沿って配置され、かつ電位差が前記第2の電極(42)と前記第3の電極(43)との間に加えられる場合に前記第2の軸(A2)に沿って作用する電場が発生するように構成されることを特徴とする、
前記デバイス(1)。
【請求項2】
前記溶解剤(L)は、乾燥形態で前記基材(2)内に配置され、生物学的試料(S)が溶解されるように、前記基材(2)へ液体の生物学的試料(S)を適用する際に前記溶解剤(L)は溶けることが可能であることを特徴とする、請求項1に記載のデバイス(1)。
【請求項3】
前記基材(2)は、液体移動相に対して不浸透性であるバリア構造(B)を備え、前記バリア構造(B)は、前記基材(2)に少なくとも1つの流路を形成し、前記流路は前記液体移動相に対して浸透性であり、かつ前記流路は前記バリア構造(B)によって区画されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載のデバイス(1)。
【請求項4】
前記第1の電極(41)、前記第2の電極(42)及び/又は前記第3の電極(43)は、前記基材(2)の繊維状材料(F)に埋め込まれるか、又は前記基材(2)の繊維状材料(F)に接続され、特に前記第1の電極(41)、前記第2の電極(42)及び/又は前記第3の電極(43)は、前記基材(2)上に印刷されていることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のデバイス(1)。
【請求項5】
前記第2の電極(42)は、前記第1の軸(A1)に垂直な断面積を備え、前記断面積は、前記第1の電極(41)の前記第1の軸(A1)に垂直な断面積よりも小さく、特にその結果、前記生物学的試料(S)中の帯電分子が前記第1の電極(41)と前記第2の電極(42)との間の電場を介して移動しながら前記基材(2)内に集束するようになることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のデバイス(1)。
【請求項6】
前記第1の電極(41)は、グリッド構造(41b)を形成することを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載のデバイス(1)。
【請求項7】
DNAポリメラーゼ及びPCRプライマーが前記基材(2)内に配置され、その結果、前記生物学的試料(S)のDNA配列を、前記PCRプライマーが前記DNA配列に相補的なDNA配列を含有する場合に、前記DNAポリメラーゼによってPCRにより増幅することができることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載のデバイス(1)。
【請求項8】
前記デバイス(1)は、前記基材(2)と接触しているポリマーゲル(H)、特にヒドロゲルを備え、その結果、前記ポリマーゲル(H)と前記基材(2)との間で液体が交換可能になり、特に前記ポリマーゲル(H)は、物理パラメータを設定すること、特に温度、pH、若しくはイオン強度を変えること、電磁放射を与えること、又は化学反応を開始することによって切り替え可能であり、その結果、前記ポリマーゲル(H)と前記基材(2)との間で液体が交換されることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載のデバイス(1)。
【請求項9】
前記デバイス(1)は、前記基材(2)の加熱、特に周期的な加熱のための加熱素子(70)を備え、特に前記加熱素子(70)は加熱電極として形成され、前記加熱電極は、導電性の接触タブ(71)を介して前記デバイス(1)の外部に接続され、前記第1及び第2の接触タブ(71)の末端(72)は、電圧源の極に電気的に接続されるように構成され、その結果、電流が加熱電極を流れることにより、その電気抵抗によって前記基材(2)を加熱することを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載のデバイス(1)。
【請求項10】
前記基材(2)は、生物学的試料が含有する分子を標識するためのマーカーを含み、特に前記マーカーは、色素を含むか、又は前記マーカーは、酸化還元特性によって検出可能であることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載のデバイス(1)。
【請求項11】
前記デバイス(1)は、前記生物学的試料(S)が含有する分子を、光学検出器(80)、特にカメラ、より特にスマートフォン若しくはタブレットコンピュータなどの携帯型デバイスに内蔵されるカメラによって分析することができるように、少なくとも部分的に透明であることを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載のデバイス(1)。
【請求項12】
前記デバイス(1)は、前記繊維状材料(F)を備える複数の層(10、20、30)を備え、前記複数の層(10、20、30)の繊維状材料(F)が基材(2)を形成するように、前記複数の層(10、20、30)は互いの上に配置され、前記複数の層(10、20、30)は、前記第1の軸(A1)に対して非平行のそれぞれの平面に延び、その結果、前記生物学的試料(S)が含有する帯電分子が、前記第1の電極(41)と前記第2の電極(42)との間の前記第1の軸(A1)に沿って作用する電場によって、前記複数の層(10、20、30)を介して移動可能になり、特に前記複数の層(10、20、30)が延びる前記平面は、前記第2の軸(A2)に平行であり、その結果、前記生物学的試料(S)が含有する帯電分子が、それぞれの層(10、20、30)内で移動可能になり、かつその分子量、極性及び/又は電荷によって分離可能になることを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載のデバイス(1)。
【請求項13】
前記デバイス(1)は、第1の層(10)の前記繊維状材料(F)が前記溶解剤(L)を含む、第1の層(10)と、前記生物学的試料(S)が第2の層(20)を通過する際に第2の層(20)が前記生物学的試料(S)を濾過するように構成される、前記第1の層(10)と接触している第2の層(20)と、第3の層(30)が前記第2の電極(42)及び前記第3の電極(43)を備える、前記第2の層(20)と接触している第3の層(30)とを備え、その結果、前記生物学的試料(S)中の分子が、前記第2の電極(42)と前記第3の電極(43)との間に作用する電場を用いて、前記第3の層(30)において分子量、極性及び/又は電荷によって分離可能になり、特に前記第3の層(30)の繊維状材料(F)は、前記マーカー及び/又は前記DNAポリメラーゼ及び前記PCRプライマーを含み、特に前記第3の層(30)の繊維状材料(F)は、前記加熱素子(70)と接触しており、特に前記ポリマーゲル(H)は、前記第1の層(10)及び/又は前記第2の層(20)に配置されていることを特徴とする、請求項12に記載のデバイス(1)。
【請求項14】
a. 生物学的試料(S)が前記溶解剤(L)と接触し、その結果、前記生物学的試料(S)が溶解されるように、前記生物学的試料(S)を前記基材(2)に適用し;
b. 前記生物学的試料(S)が前記基材(2)を通り移動し、その分子量、極性及び/又は電荷によって分離されるように、電位差を前記第1の電極(41)と前記第2の電極(42)との間に与え;
c. 任意に、前記生物学的試料(S)のDNA配列が前記基材(2)中でPCRにより増幅されるように、前記基材(2)を周期的に加熱し;
d. 任意に、前記生物学的試料(S)がその分子量、極性及び/又は電荷によって分離されるように、電位差を前記第2の電極(42)と前記第3の電極(43)との間に与え、特に前記第2の電極(42)と前記第3の電極(43)との間の電流又は電圧を経時的に測定し、測定した電流又は電圧から前記生物学的試料(S)の特性を導出し;かつ
e. 任意に、前記生物学的試料(S)を、前記基材(2)中の前記マーカーを検出することにより分析する、
請求項10~13のいずれか一項に記載のデバイス(1)により生物学的試料(S)を分析するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的試料(生物試料)、例えば環境試料(例えば環境水試料)又はヒト若しくは動物の試料(例えば血液、唾液又は喀痰)を分析するためのデバイス及び方法に関するものである。特に、本デバイス及び本方法は、生物学的試料中に存在する病原体(例えば、細菌、ウイルス、真菌、原虫、蠕虫又は節足動物)を同定し、任意に分類学的に分類するために使用することができる。これらの病原体は、特に特徴的な核酸又はタンパク質を分析することによって同定することができる。
【背景技術】
【0002】
国際公開第2013/094316号、国際公開第2014/025500号、国際公開第2017/040947号には、このような生物学的試料を分析して病原体を特定することができる先行技術のデバイスが記載されている。
【0003】
国際公開第2013/094316号は、流路内のDNAの垂直方向又は水平方向の移動を制御することができるマイクロ/ナノ流体アナライザーを開示し、このデバイスは、基材上に設けられた導電膜と、前記導電膜に電圧を印加するための第1の電極と、前記導電膜上に設けられた第1の絶縁膜の一方の側の端面から他方の側の端面へ溶液の流路として働く溝部と、開口している前記流路の上面と、前記溝部の両側面に対向して設けられた少なくとも一対の電極端子と、前記電極端子のそれぞれに接続された配線に電圧を印加するための第2の電極及び第3の電極とを備える。本デバイスは、第2の電極と第3の電極との間の電気信号を測定することにより、試料を分析できるように構成されている。
【0004】
国際公開第2014/025500号では、生物学的分析のための自動マイクロ流体チップが記載されている。DNA抽出用の耐熱性プロテイナーゼを含むあらかじめロードされた液体抽出溶液を含有するチップの第1のドメインに、試料アクセプターを介して試料を導入することができる。チップは、PCR試薬を含有する第2のドメインへの側路をさらに備え、抽出されたDNA試料の一画分を、チップのPCR反応チャンバーで増幅することができる。増幅後のDNA溶液はキャピラリー電気泳動にかけられ、DNAアナライザーで検出することができる。
【0005】
国際公開第2017/040947号には、多孔質セルロースマトリックスと、基材内の流路を規定する疎水性バリアからなる基材と、流路の容積内に配置された導電性材料とを含む、DNAを電気化学的に分析するのに適したデバイスが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2013/094316号
【特許文献2】国際公開第2014/025500号
【特許文献3】国際公開第2017/040947号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
先行技術によるこれらの解決策は、分析する前に試料を外部で、かつ手動で処理しなければならなく、及び/又はそれぞれのデバイスを通る液体の流れを制御するためにポンプなどの追加のデバイスが必要であるという欠点を有している。さらに、特定の分析の工程によって、顕微鏡又は光度計などの光学機器も必要となる。
【0008】
したがって、本発明の目的は、先行技術の上述の欠点に鑑みて改良された、生物学的試料を分析するためのデバイス及び方法を提供することである。特に、本発明の目的は、液体生物学的試料を取り込み、試料中の細胞から生体分子(例えば、DNA、RNA又はタンパク質)を自動的に抽出し、任意にその生体分子を増幅し、生体分子を自動的に検出し、かつ試料検出によるデジタルデータを生体分子を同定するソフトウェアに送ることができる生物学的試料を分析するためのデバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、独立請求項1及び15の主題によって達成される。本発明の実施形態は、従属請求項2~14として請求され、以下に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施形態に従うデバイスの分解斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に描かれたデバイスの一部を示し、第1の層、第2の層、及び第3の層の詳細を示す図である。
【
図3】
図3~
図6は、本発明の第1の実施形態に従うデバイスの異なる動作モードを示す図である。
【
図4】
図3~
図6は、本発明の第1の実施形態に従うデバイスの異なる動作モードを示す図である。
【
図5】
図3~
図6は、本発明の第1の実施形態に従うデバイスの異なる動作モードを示す図である。
【
図6】
図3~
図6は、本発明の第1の実施形態に従うデバイスの異なる動作モードを示す図である。
【
図7】
図7は、本発明に従うデバイスの基材における生物学的試料中の分子の光学的検出を示す図である。
【
図8】
図8は、第1の電極を具備する蓋を備える本発明に従うデバイスのさらなる実施形態を示す図である。
【
図9】
図9は、カバー層上に配置された抵抗加熱素子を備える本発明に従うデバイスのさらなる実施形態を示す図である。
【
図10】
図10は、第4の層に配置された抵抗加熱素子を備える本発明に従うデバイスのさらなる実施形態を示す図である。
【
図11】
図11は、第1の電極と第2の電極との間の基材層を通る斜めの試料経路を実現する本発明に従うデバイスのさらなる実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の第1の態様は、生物学的試料を分析するためのデバイスに関し、該デバイスは、生物学的試料を受け取るための基材を備え、該基材は、液体移動相に溶かした生物学的試料中の分子の分子量及び/又は極性に応じて該分子を保持する固定相を形成するように構成された繊維状材料を備えるか、又はそれからなる。
【0012】
該デバイスは、少なくとも2つの電極(特に第1の電極及び第2の電極)をさらに備え、該2つの電極は、第1の軸に沿って配置され、かつ電位差(すなわち電圧)が電極(特に第1の電極及び第2の電極)の間に与えられる際に第1の軸に沿って作用する電場が発生するように構成され、その結果、生物学的試料に含有される荷電分子(例えば、DNA、RNA及び/又はタンパク質)が、その分子量、その極性及び/又はその電荷によって、第1の軸に沿って基材を通り移動可能(特に電気泳動的に移動可能)になり、及び/又は(特に電気泳動的に)分離可能になる。
【0013】
さらに、本発明によれば、該基材は、生物学的試料を溶解することができる化学溶解剤(chemical lysing agent)を含む。
【0014】
本明細書の文脈において、「生物学的試料」という用語は、生命体(すなわち、原核生物及び/又は真核生物)を含有する試料、又はヒト若しくは動物などの生物から得られた試料を意味する。特に、生物学的試料は生体分子を含有する。
【0015】
本明細書で使用される「生体分子」という用語は、生命体によって産生される分子、例えば、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、タンパク質、炭水化物、脂質、代謝産物又は他の小分子を表す。
【0016】
本明細書の文脈において「繊維状材料」とは、繊維(すなわち材料の細長い鎖)を含む、又はそれからなる材料であり、特に繊維の間に細孔を有し、より特に100nm~1000nm、より特に500nm~900nm、最も特に約700nmの平均孔径を有するものである。
【0017】
基材は、クロマトグラフィー効果、すなわちデバイスの電極によって発生する付加的な電場の有無に応じて、その分子量及び/又は極性(それらの分子量、それらの極性又はその両方)に応じて液体移動相に溶かした生物学的試料の分子を保持することができる。特に、分子量に応じて溶けた分子を保持する能力は繊維状材料の細孔径に依存し、かつ極性に応じた溶解分子を保持する能力は繊維状材料の疎水性及び/又は電荷に依存する。特に、生物学的試料中の分子の極性は、その疎水性及び/又は電荷に依存する(すなわち、場合によって、分子は疎水性であるが、同時に電荷を備えることもある、例えば、トリメチルアンモニウム)。
【0018】
本明細書の文脈において、「極性」という用語は、原子群がもはや電気的に中性でない原子群の電荷の分離を表す。特に、極性は、電気双極子モーメントによって定量化することができる。
【0019】
該デバイスの電極は、任意の形状を備え、任意の適切な、すなわち導電性材料から形成されてもよい。
【0020】
電極により発生する電場での生物学的試料の分子の電気泳動移動度は、使用する溶媒(=バッファー)中の純電荷と分子量とに依存するが、より大きな分子は小さな分子より移動速度が遅く、高電荷分子は低電荷分子より移動速度が速い。また、繊維状材料の疎水性によって、基材中の分子の移動度が分子の極性に依存することもある。
【0021】
本明細書で使用する「溶解する(lyse)」又は「溶解(lysis)」という用語は、生物細胞の細胞膜の穿孔を意味し、特にこれにより細胞膜の破壊と細胞生体分子の放出をもたらす。本明細書の文脈における「化学溶解剤」とは、生物細胞を溶解することができる化学物質である。
【0022】
特定の実施形態では、化学溶解剤は、アルカリ化合物を含み、特に、生物学的試料を基材上で化学溶解剤と接触させたときに、生物学的試料のpHが11以上となるのに十分な量で与えられるものを含む。例えば、アルカリ化合物としては、NaOH又はKOHが挙げられる。
【0023】
特定の実施形態では、化学溶解剤は、両親媒性化合物、例えば、洗剤又は界面活性剤を含む。
【0024】
特に、両親媒性化合物は、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS、CAS番号151-21-3)、3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホナート(CHAPS、CAS番号75621-03-3)、3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホナート(CHAPSO,CAS番号82473-24-3)、2-[4-(2,4,4-トリメチルペンタン-2-イル)フェノキシ]エタノール(Triton-X、CAS番号9002-93-1)、ポリソルベート、より特にポリソルベート20(ポリオキシエチレン(20)-ソルビタンモノラウラート、CAS番号9005-64-5)又はポリソルベート80(ポリオキシエチレン(20)-ソルビタンモノラウラート、CAS番号9005-65-6)から選択される。
【0025】
特定の実施形態では、化学溶解剤は、キレート剤、特にエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA、CAS番号60-00-4)を含む。本明細書で使用されるとおりのキレート剤は、中心原子、特に金属と配位結合を形成することができる配位子である。
【0026】
特定の実施形態では、化学溶解剤は、リゾチームを含む。リゾチームは、ペプチドグリカン中のN-アセチルムラミン酸とN-アセチル-D-グルコサミン残基との間のb-1,4グリコシド結合を加水分解することができる酵素である。
【0027】
特定の実施形態では、化学溶解剤は、両親媒性化合物、特にCHAPS、及びリゾチームを含む。
【0028】
特定の実施形態では、化学溶解剤は、両親媒性化合物、特にSDS、及びアルカリ化合物、特にNaOHを含む。
【0029】
特定の実施形態では、化学溶解剤は、両親媒性化合物及びキレート剤を含む。
【0030】
本デバイスの基材に含まれる化学溶解剤の利点は、分析対象となる目的の生体分子を供給するために、追加の化学薬剤及び/又は外部デバイス(フレンチプレス、ソニケーターなど)を用いた別個の溶解工程が不要であることである。それにより、本発明によるデバイスは、調製時間を短縮し、かつ追加の化学薬剤及び外部デバイスの費用を節約することができる。また、該デバイスは外部電極なしで使用可能である。また、溶解剤と組み合わせることで、特に実験室の外のオンサイトでの分析において、該デバイスの利用性が向上する結果となる。
【0031】
化学溶解剤の効果に加えて、生物細胞は、本発明によるデバイスにおいて、例えばそれらが加えられる繊維状材料の特性によって物理的に溶解されてもよい。例えば、生物学的試料を基材上で乾燥させることは、浸透圧ショックによる細胞溶解を誘導することができる。これには、特に、浸透圧ショックによる膜穿孔の誘発をサポートする、両親媒性化合物及びキレート剤を含む化学溶解剤との組み合わせが有利である。
【0032】
該デバイスは外部ポンプなしで機能し、繊維材料のクロマトグラフィー効果が、試料のサイズ依存的分離に適用される。細胞残屑、特にDNAの場合は望ましくないタンパク質の混入は、繊維材料の粗いフィルター効果によって除去することができる。その後、分析対象の分子を細かく分離するために電場をかける。この工程では、生体分子が液体浸透繊維網を介して活発に引きこまれる。注目すべきは、生体分子は、(活発な)液体の流れなしに分離されてもよく、繊維状基材に形成された試料流路の特定の位置で単離されてもよい。
【0033】
特定の実施形態では、該デバイスは、携帯可能である。つまり、該デバイスは、手で持ち運べるように構成されており、実験室外の場所に簡単に持ち運んで、オンサイトで分析することが可能である。
【0034】
特定の実施形態では、第1の軸は、デバイスの動作構成に垂直に延びる。
【0035】
特定の実施形態では、第1の軸は、デバイスの動作構成に(垂直方向に関して)斜めに延びる。これにより、生物学的試料中の分子のバンドを光学的に検出した場合に、該バンドが水平面に沿う投影で互いに隣り合って配列するように、生物学的試料が分離されるという利点がある。
【0036】
特定の実施形態では、繊維状材料は、ガラス繊維、ポリアミド、セルロース、ニトロセルロース、ビスコース、PEG、アクリルアミド、又はキトサンから選択される。
【0037】
特定の実施形態では、溶解剤は乾燥した状態で基材内に配置され、該溶解剤は、生物学的試料が溶解(lyse)されるように、液体生物学的試料を基材へ適用する際に溶けることが可能である(dissolvable)。
【0038】
特に、これにより、使用前のデバイスの保管時間を長くすることができる。
【0039】
特定の実施形態では、溶解剤は、基材内の溶解リザーバ、すなわち、繊維状材料内の中空部に配置される。
【0040】
特定の実施形態では、基材は、液体移動相に対して不浸透性であるバリア構造を備え、該バリア構造は、バリア構造が区画する、基材内の液体移動相に浸透性の少なくとも1つの流路を形成する。特に、水性移動相の場合、バリア構造は水不浸透性である。特に、疎水性の移動相(例えば、油やベンゼンなどの有機溶媒ベースのもの)の場合、バリア構造は親水性である。
【0041】
本明細書の文脈では、「浸透性(permeable)」という用語は、部品又は材料が液体物質によって濡れる及び/又は浸透する能力を意味する。
【0042】
特定の実施形態では、バリア構造は、ワックス、プラスチック(特にプラスチック箔)、ワニス、接着剤、又は含浸剤、特に炭化水素、より特に油を含む。
【0043】
特定の実施形態では、基材は、バリア構造によって囲まれる、液体移動相に対して浸透性(特に水浸透性)である繊維状材料の部分領域を備え、特に該部分領域は第1の軸に対して垂直である。
【0044】
特定の実施形態では、本デバイスは第3の電極を備え、第2の電極及び第3の電極は、第1の軸に対して非平行である第2の軸に沿って配置され、かつ第2の電極及び第3の電極は、第2の電極と第3の電極との間に電位差(すなわち電圧)が印加される場合に、第2の軸に沿って作用する電場が発生するように構成される。
【0045】
特定の実施形態では、第2の軸は第1の軸に対して垂直である。
【0046】
特定の実施形態では、第1の電極、第2の電極及び/又は第3の電極は、基材の繊維状材料に埋め込まれるか、又は基材の繊維状材料に接続される。
【0047】
これにより、製造時に基材と別個の電極とを組み立てる必要がなくなり、デバイスの製造が簡素化されるという利点がある。
【0048】
特定の実施形態では、第1の電極、第2の電極及び/又は第3の電極は、基材上に印刷される。
【0049】
導電性インクを用いた印刷方法により、低コストで容易にデバイスを製造することができる。さらに、印刷によって、これらの電極を繊維状材料の異なる層の間に配置することができ、これにより電気信号(特に経時的な電流又は電圧)を使用して分離した成分を分析する場合に有利になる(下記参照)。
【0050】
特定の実施形態では、第2の電極は、第1の軸に垂直な断面積を備え、この断面積は、第1の電極の第1の軸に垂直な断面積よりも小さく、その結果、生物学的試料中の帯電分子が第1の電極と第2の電極との間の電場を通り移動しながら基材内に集束するようにする。その際、電極の断面積は、第1の電極と第2の電極との間の電場ベクトルに影響を与える。第2の電極は断面積が小さいため、電場は第2の電極に向かって収束し、その結果、帯電分子が収束する。
【0051】
特定の実施形態では、第1の電極は、特に、液体移動相に対して浸透性である(特に水浸透性である)基材の部分領域上に少なくとも部分的に延在し、障壁構造によって囲まれたグリッド構造を形成している。
【0052】
特定の実施形態では、グリッド構造は、第1の軸に対して垂直である。
【0053】
特定の実施形態では、グリッド構造は、並列に配置された複数のロッドによって形成される。
【0054】
特定の実施形態では、第1の電極、第2の電極及び/又は第3の電極は、それぞれの導電性の接触タブによってデバイスの外部に接続され、接触タブの末端は、電圧源の極に電気的に接続されるように構成される。
【0055】
特定の実施形態では、第1の電極は導電性の接触タブによってデバイスの外部に接続され、接触タブの末端は電圧源の極に電気的に接続されるように構成されている。
【0056】
特定の実施形態では、第2の電極は導電性の接触タブによってデバイスの外部に接続され、接触タブの末端は電圧源の極に電気的に接続されるように構成されている。
【0057】
特定の実施形態では、第3の電極は導電性の接触タブによってデバイスの外部に接続され、接触タブの末端は電圧源の極に電気的に接続されるように構成されている。
【0058】
特定の実施形態では、DNAポリメラーゼ及びPCRプライマー(言い換えれば、PCR試薬)が基材内に配置されており、その結果、PCRプライマーがDNA配列に相補的なDNA配列を含有する場合に、生物学的試料のDNA配列はDNAポリメラーゼによってPCRにより増幅することができるようにする。
【0059】
本明細書の文脈では、「PCR」という用語は、PCRプライマー(通常15~35塩基長を有する一本鎖オリゴヌクレオチド)及びDNAポリメラーゼ(例えばTaq又はPfuポリメラーゼ)を用いてDNA又はRNAのテンプレートからDNAを増幅する方法であるポリメラーゼ鎖反応を示す。
【0060】
DNAポリメラーゼは、DNA依存性又はRNA依存性のDNAポリメラーゼであってもよく、言い換えれば、DNA重合のテンプレートとしてDNA又はRNAを用いることができるものであってもよい。
【0061】
特定の実施形態では、デオキシリボヌクレオチド、特にデオキシアデノシン三リン酸(dATP)、デオキシシチジン三リン酸(dCTP)、デオキシグアノシン三リン酸(dGTP)及びデオキシチミジン三リン酸(dTTP)の混合物が基材に配置される。これらのデオキシリボヌクレオチドがDNAポリメラーゼの基質として働き、デバイスの多孔質基材内でDNAを増幅する。
【0062】
特定の実施形態では、本デバイスは、ポリマーゲルと基材との間で液体が交換可能であるように、基材と接触しているポリマーゲル、特にヒドロゲルを備える。
【0063】
特定の実施形態では、ポリマーゲルは、アクリルアミド、アクリル酸、N-イソプロピルアクリルアミド(NIPAM、CAS番号2210-25-5)、又は炭水化物、特にアガロースを含む。
【0064】
特定の実施形態では、ポリマーゲルと基材との間で液体が交換されるように、ポリマーゲルは物理的なパラメータを設定することで切り替え可能である。
【0065】
切り替え可能なポリマーゲルは、液体状態とゲル化状態との間で切り替えることができる。
【0066】
基材とポリマーゲルとの間で交換された液体は、特に基材内でPCRを行う際の基材の加熱時に、生物学的試料を基材内に引き込むため、又は基材の乾燥を防ぐために適用することができる。
【0067】
特定の実施形態では、物理パラメータの設定とは、温度を変えること、pHを変えること、イオン強度を変えること、電磁放射を提供すること、又は化学反応を開始させることである。
【0068】
特定の実施形態では、本デバイスは、基材の加熱、特に周期的な加熱のための加熱素子を備える。特に、加熱素子は、基材に配置されたPCR試薬を周期的に加熱するように構成されている(例えば、最大約60回)。特に、加熱素子は、ポリマーゲルと基材との間で液体が交換されるように、ポリマーゲルを加熱するように構成されている。
【0069】
加熱素子を内蔵することで、PCR及びポリマーゲルの制御・切り替えの実施などの機能が外部デバイスなしで行えるようになり、実験室外でのセッティングでのデバイスの利用性が向上する利点を有する。
【0070】
特定の実施形態では、加熱素子は、加熱電極として形成される。
【0071】
特定の実施形態では、加熱電極は導電性の第1及び第2の接触タブを介してデバイスの外部に接続され、前記第1及び第2の接触タブの末端は電圧源の極に電気的に接続されるように構成され、その結果、電流が加熱電極を流れ、それによりその電気抵抗によって基材が加熱されるようにする。
【0072】
特定の実施形態では、加熱素子は、繊維状材料に埋め込まれるか、又は繊維状材料に隣接して配置される。
【0073】
これにより、デバイスの製造が容易になる利点がある。
【0074】
特に、加熱素子を用いて基材を周期的に加熱することにより、PCRプライマーがDNA配列に相補的なDNA配列を含有している場合に、生物学的試料のDNA配列をDNAポリメラーゼ及びPCRプライマーにより増幅することができる。或いは又はさらに、加熱素子を用いた加熱により、基材に含まれる切り替え可能なポリマーゲルを切り替えることができる。
【0075】
特定の実施形態では、本デバイスは、基材を周期的に冷却するための冷却素子を備える。冷却素子は、加熱素子と別個であってもよい。
【0076】
特定の実施形態では、本デバイスは加熱冷却素子を備え、言い換えればこの素子は、基材を加熱及び冷却するように、特に積極的に冷却するように構成されている。特に、基材を周期的に加熱・冷却するように構成されている。
【0077】
基材を冷却することは、基材内でPCRを行う場合に特に有利である。この目的のために、加熱素子及び冷却素子、又は加熱と冷却を組み合わせた素子は、DNA二次構造が融解する融解温度(例えば94℃~98℃)、PCRプライマーがテンプレートDNAの相補的DNA又はRNA配列にアニールするアニール温度(例えば45℃~65℃)及びDNAポリメラーゼがDNAを重合する伸長温度(例えば68℃~72℃)の間を周期的にサイクルするように構成されている。冷却デバイスにより、これらの温度間のサイクルの速度が向上する。
【0078】
特定の実施形態では、加熱冷却素子は、基材を周期的に加熱及び冷却するように構成されたペルチェ素子である。
【0079】
特定の実施形態では、基材は、生物学的試料が含有する分子を標識するためのマーカーを含み、特に、前記マーカーは色素を含むか、又は前記マーカーはその酸化還元特性によって検出可能である(以下、酸化還元マーカー(redox marker)と呼ぶ)。
【0080】
特定の実施形態では、酸化還元マーカーは、キノン、フェロセン(ビス(η5-シクロペンタジエニル)鉄、CAS番号102-54-5)、テトラチアフルバレン(CAS番号31366-25-3)、ルテニウム-テルピリジン錯体、コバルトセン(ビス(シクロペンタジエニル)コバルト、CAS番号1277-43-6)、カリウムヘキサシアノフェレート(例えば:CAS番号13943-58-3)、又はピロロキノリンキノン(CAS番号72909-34-3)である。
【0081】
特定の実施形態では、これらの化合物は、ペルオキシダーゼ、特に西洋わさび(horse radish)ペルオキシダーゼ、オキシダーゼ、特にグルコースオキシダーゼ、又はホスファターゼ、特にアルカリホスファターゼなどの酵素と組み合わせて適用することができ、前記酵素は酸化還元マーカーを分解し、酸化還元マーカーに起因する酸化還元電位は、第1の電極及び第2の電極によって測定される。
【0082】
特定の実施形態では、酸化還元マーカーはフェロセンであり、酵素はペルオキシダーゼ、特に西洋わさびペルオキシダーゼである。
【0083】
特定の実施形態では、酸化還元マーカーはピロロキノリンキノンであり、酵素はグルコースオキシダーゼ-FADH2(FADH2に結合したグルコースオキシダーゼ)である。
【0084】
特定の実施形態では、マーカーは、基材内のマーカーリザーバ又はセンサーリザーバに配置される。
【0085】
特定の実施形態では、マーカーは、抗体、アプタマー、ペプチド、又はハイブリダイゼーションプローブである。
【0086】
本デバイスに組み込むマーカーの利点は、個別の標識工程及び追加の構成要素の必要がないことである。
【0087】
本明細書の文脈では、「ハイブリダイゼーションプローブ」という用語は、一本鎖DNA又はRNAにハイブリダイズすることができるオリゴヌクレオチドを表す。
【0088】
特定の実施形態では、ハイブリダイゼーションプローブは、一本鎖DNA又はRNAのループ構造及び二本鎖DNA又はRNAのステム構造を含み、前記ステムは、ハイブリダイゼーションプローブの5’末端及び3’末端で相補的ヌクレオチド配列をアニーリングすることにより形成される。特に、ハイブリダイゼーションプローブの一端が蛍光体を含有することができ、かつハイブリダイゼーションプローブの両端がステム構造を形成する場合に、ハイブリダイゼーションプローブの他端が蛍光体の蛍光を消光することができるクエンチャーを含むことができる。特に、ループ構造が相補的なDNA又はRNAの配列とハイブリダイズする場合、ステム構造が分解し、蛍光体とクエンチャーとの分離が生じるため、蛍光が消光される。
【0089】
本明細書において、アプタマーという用語は、三次元構造を有するDNA分子、RNA分子又はペプチドを示し、該DNA分子、RNA分子又はペプチドは、その三次元構造により標的分子を特異的に結合することが可能である。
【0090】
特定の実施形態では、生物学的試料に含有される分子を光学検出器によって分析することができるように、本デバイスは少なくとも部分的に透明である。
【0091】
特定の実施形態では、該光学検出器は、カメラ、特に、スマートフォン又はタブレットコンピュータなどの携帯型デバイスに内蔵されるカメラである。
【0092】
特定の実施形態では、本デバイスは、繊維状材料を含む複数の層を備え、これらの層は、互いの上に配置され(例えば、垂直軸に沿って積層され)、その結果、これらの層の繊維状材料が、基材を形成し、ここでこれらの前記基材は第1の軸に非平行なそれぞれの平面に延び、その結果、生物学的試料が含有する荷電分子が、第1の電極と第2の電極との間で第1の軸に沿って作用する電場によってこれらの層を介して移動可能であり、特に層が延びる平面が、第2の軸に平行であり、その結果、生物学的試料が含有する荷電分子がそれぞれの層内で移動可能であり、その分子量、極性及び/又は電荷によって分離可能になる。
【0093】
つまり、第1の電極と第2の電極とは、生物学的試料の成分が複数の層を介して移動するように配置され、第2の電極と第3の電極(該当する場合)とは、生物学的試料が一層内で移動するように配置されている。
【0094】
このような層構造は、これらの層を製造し積層することで本デバイスを容易に製造することができ、モジュール設計を実現することができるという利点があり、これは利用者の必要に応じて特定の層を選択、複合、変更することができることを意味する。
【0095】
これらの層の繊維状材料が一体となり基材を形成する。特に、これは、それぞれの層の繊維状材料が、隣接する層の繊維状材料と接触することによって実現される。
【0096】
特定の実施形態では、本デバイスは、第1の層の繊維状材料が溶解剤を含む第1の層(溶解層とも呼ばれる)と、生物学的試料が第2の層を通過する際に第2の層が生物学的試料を濾過するように構成されている第1の層と接触する第2の層(フィルタ層とも呼ばれる)と、第2の層と接触する第3の層(分析層とも呼ばれる)とを備える。
【0097】
繊維状材料は、特にフィルター層の繊維状材料は、(平均)孔径が100nm~1000nm、より特に500nm~900nm、最も特に約700nmで構成することができる。
【0098】
特定の実施形態では、第1の層は、第1の電極を備え、前記第1の電極は、第1の層に、特に埋め込まれ、より特に印刷されている。
【0099】
特定の実施形態では、第3の層は、第2の電極を含み、前記第2の電極は、第3の層に、特に埋め込まれ、より特に印刷されている。
【0100】
特定の実施形態では、第3の層は第3の電極をさらに備え、それにより、第2の電極と第3の電極の間に作用する電場を利用して、第3の層で生物学的試料中の分子を、分子量、極性及び/又は電荷によって分離することができる。第3の電極は、第3の層に埋め込まれていてもよく、特に第3の層に印刷されていてもよい。
【0101】
特定の実施形態では、第1の層は、液体移動相に対して不浸透性、特に水不浸透性であるバリア構造を備え、該バリア構造は、基材内の液体移動相に対して浸透性(特に水浸透性)である少なくとも1つの流路を形成し、該少なくとも1つの流路はバリア構造によって区画されており、特に第1の層が液体移動相に対して浸透性(特に水浸透性)であり、かつバリア構造によって囲まれる繊維状材料の第1の(部分)領域を備える。
【0102】
特定の実施形態では、第2の層は、液体移動相に対して不浸透性、特に水不浸透性であるバリア構造を備え、該バリア構造は、基材内の液体移動相に対して浸透性(特に水浸透性)である少なくとも一つの流路を形成し、該少なくとも一つの流路はバリア構造によって区画されており、特に該第2の層は、液体移動相に対して浸透性(特に水浸透性)であり、かつバリア構造によって囲まれる繊維状材料の第2の(部分)領域を備える。
【0103】
特定の実施形態では、第3の層は、液体移動相に対して不浸透性、特に水不浸透性であるバリア構造を備え、該バリア構造は、基材内の液体移動相に対して浸透性(特に水浸透性)である少なくとも1つの流路を形成し、該少なくとも1つの流路はバリア構造によって区画されており、特に第3の層が液体移動相に対して浸透性(特に水浸透性)であり、かつバリア構造によって囲まれる繊維状材料の第3の(部分)領域を備える。
【0104】
特定の実施形態では、第3の層の繊維状材料、特に第3の領域は、マーカー及び/又はDNAポリメラーゼ及びPCRプライマー(及び特にデオキシリボヌクレオチドもまた)を含む。
【0105】
特定の実施形態では、第3の層の繊維状材料、特に第3の領域は、加熱素子と接触している。
【0106】
特定の実施形態では、ポリマーゲルは、第1の層及び/又は第2の層に配置される。
【0107】
特定の実施形態では、第1の層は、ポリマーゲルを挿入するための開口部を備える。特定の実施形態では、第2の層は、ポリマーゲルを挿入するための開口部を備える。特定の実施形態では、第1の層及び第2の層は、それぞれの開口部を備え、第1の層及び第2の層が積層される際にこれらの開口部が重なり、その結果、第1の層及び第2の層が積層される際に少なくとも1つのポリマーゲルを開口部に配置できるようにする。
【0108】
そこでは、第1の層、第2の層、第3の層が前述の複数の層に備えられている。
【0109】
特定の実施形態では、本デバイスは、液体移動相に対して不浸透性である少なくとも1つのカバー層をさらに備え、該カバー層は、基材、特に第1の層又は第3の層を覆うように構成される。特に、該カバー層は箔材から形成されている。
【0110】
特定の実施形態では、カバー層は、第1の層を覆うように構成された第1のカバー層と、第3の層を覆うように構成された第2のカバー層とを備える。
【0111】
特定の実施形態では、カバー層、特に第1のカバー層は、カバー層と第1の層とが積層される際に、第1の層の第1の領域と重なり、特に一致する開口部を備え、その結果、試料が開口部を介して基材、特に第1の領域上に適用することができるようにする。
【0112】
特定の実施形態では、カバー層、特に第2のカバー層は、加熱素子を備え、特に、該加熱素子は、カバー層に埋め込まれ、より特に、カバー層に印刷される。ここでは、特に、加熱素子は、加熱電極などの抵抗ヒーターである。
【0113】
特定の実施形態では、本デバイスは、基材、特に第1の層又は第3の層、又はカバー層を覆うように構成されたカバー又は蓋を備える。
【0114】
特定の実施形態では、カバー又は蓋は、カバー層及び/又は第1の層の第1の領域及び/又は第3の層の第3の領域の開口部を覆うように構成される。
【0115】
特定の実施形態では、カバー又は蓋は、第1の電極を備える。特に、第1の電極はグリッド構造を形成する(上記説明参照)。特に、第1の電極は、カバー又は蓋に埋め込まれ、特に印刷されている。
【0116】
本発明の第2の態様は、第1の態様によるデバイスにより生物学的試料を分析するための方法に関し、該生物学的試料が溶解剤と接触して、生物学的試料の溶解をもたらすように、生物学的試料が基材に適用される。
【0117】
特定の実施形態では、電位差(すなわち電圧)が第1の電極と第2の電極との間に与えられ、その結果、生物学的試料が基材を介して移動し、その結果、その分子量、極性及び/又は電荷によって分離されるようにする。
【0118】
特定の実施形態では、基材は、生物学的試料のDNA配列がPCRによって基材内で増幅されるように、周期的に加熱される。
【0119】
特定の実施形態では、生物学的試料がその分子量、極性及び/又は電荷によって分離されるように、電位差が第2の電極と第3の電極との間に与えられる。
【0120】
特定の実施形態では、第2の電極と第3の電極の間の電流が経時的に測定され、測定された電流から生物学的試料の特性が導出される。この方法はアンペロメトリー又はアンペロメトリック分析と呼ばれることもある。
【0121】
特定の実施形態では、少なくとも1つの追加の電極が第2の電極と第3の電極との間に設けられ、電位差が第2の電極と各追加の電極との間に与えられ、第2の電極と第3の電極との間の電流及び第2の電極と少なくとも1つの追加の電極との間の電流が経時的に測定され、そして生物学的試料の特性が測定電流から導出される。これにより、時間分解能が向上するという利点がある。
【0122】
特定の実施形態では、第4の電極、第5の電極及び第6の電極が第2の電極と第3の電極との間に設けられ、電位差が第2の電極と第4の電極、第2の電極と第5の電極、及び第2の電極と第6の電極との間に与えられ、第2の電極と第3の電極、第2の電極と第4の電極、第2の電極と第5の電極、及び第2の電極と第6の電極との間の電流が経時的に測定され、生物学的試料の特性が測定電流から導出される。この方法は、5電極サイクリックアンペロメトリと呼ばれることもある。
【0123】
特定の実施形態では、第2の電極と第3の電極との間の電圧を経時的に測定し、測定された電圧から生物学的試料の特性が導出される。この方法はサイクリックボルタメトリーと呼ばれることもある。
【0124】
特定の実施形態では、第2の電極又は第3の電極で消費又は生成された電荷が測定され、生物学的試料の特性が測定された電荷から導出される。この方法はクーロメトリーとも呼ばれることがある。
【0125】
特定の実施形態では、第2の電極と第3の電極との間のインピーダンス又は抵抗が経時的に測定され、生物学的試料の特性が測定したインピーダンス又は抵抗から導出される。
【0126】
つまり、生体分子、特にDNA分子の電気泳動的な移動時には、繊維状材料に配置された電極と液体とが電気回路の抵抗として機能する。適切なソフトウェアを使って、これを特に特性電流信号として分離プロセスをモニターするために適用することができる。これらの特徴的な分子のデータから、電気泳動的に移動する分子の量と種類とを決定することができる。
【0127】
特定の実施形態では、生物学的試料は、基材中のマーカーを検出することによって分析される。
【0128】
本明細書において、単一の分離可能な特徴の代替の特徴が「実施形態」として記載されている場合、そのような代替の特徴は自由に組み合わせて、本明細書に開示される本発明の分離した実施形態を形成することができると理解されるものとする。
【0129】
項目
項目1.
生物学的試料(S)を分析するためのデバイス(1)であって、
- 生物学的試料(S)を受け取るための基材(2)であって、前記基材(2)は、液体移動相に溶かした生物学的試料(S)中の分子を、前記分子の分子量及び/又は極性に応じて保持する固定相を形成するように構成された繊維状材料(F)を含むか、又はそれからなる、前記基材(2)と、
- 第1の電極(41)及び第2の電極(42)であって、前記第1の電極(41)及び前記第2の電極(42)は、第1の軸(A1)に沿って配置され、かつ電位差が前記第1の電極(41)と前記第2の電極(42)との間に与えられる場合に、前記第1の軸(A1)に沿って作用する電場が発生するように構成され、その結果、生物学的試料(S)が含有する帯電分子が第1の軸(A1)に沿って前記基材(2)を通って移動可能にし、及び/又は前記帯電分子の分子量、極性及び/又は電荷によって分離可能にする、前記第1の電極(41)及び前記第2の電極(42)と、
を備え、
前記基材(2)は、前記生物学的試料(S)を溶解することができる化学溶解剤(L)を含む、
ことを特徴とする、前記デバイス(1)。
項目2. 前記溶解剤(L)は、乾燥形態で前記基材(2)内に配置され、生物学的試料(S)を溶解するように、前記基材(2)への液体生物学的試料(S)の適用時に前記溶解剤(L)は溶けることが可能であることを特徴とする、項目1に記載のデバイス(1)。
項目3. 前記基材(2)は、前記液体移動相に対して不浸透性であるバリア構造(B)を備え、前記バリア構造(B)は、前記バリア構造(B)によって区画される前記基材(2)において前記液体移動相に浸透性の少なくとも1つの流路を形成することを特徴とする、項目1又は2に記載のデバイス(1)。
項目4. 前記デバイス(1)は、第3の電極(43)を備え、前記第2の電極(42)及び前記第3の電極(43)は、第1の軸(A1)に対して非平行である第2の軸(A2)に沿って配置され、かつ前記第2の電極(42)と前記第3の電極(43)との間に電位差が加えられる場合に前記第2の軸(A2)に沿って作用する電場が発生するように構成されることを特徴とする、項目1~3のいずれか一項に記載のデバイス(1)。
項目5. 前記第1の電極(41)、前記第2の電極(42)及び/又は前記第3の電極(43)は、前記基材(2)の繊維状材料(F)に埋め込まれるか、又は前記基材(2)の繊維状材料(F)に接続され、特に前記第1の電極(41)、前記第2の電極(42)及び/又は前記第3の電極(43)は、前記基材(2)に印刷されることを特徴とする、項目1~4のいずれか一項に記載のデバイス(1)。
項目6. 前記第2の電極(42)は、前記第1の軸(A1)に垂直な断面積を備え、前記断面積は、前記第1の電極(41)の前記第1の軸(A1)に垂直な断面積よりも小さく、その結果、前記生物学的試料(S)中の帯電分子が前記第1の電極(41)と前記第2の電極(42)の間の電場を通って移動しながら前記基材(2)内に集束するようにすることを特徴とする、項目1~5のいずれか一項に記載のデバイス(1)。
項目7. 前記第1の電極(41)は、グリッド構造(41b)を形成することを特徴とする、項目1~6のいずれか一項に記載のデバイス(1)。
項目8. DNAポリメラーゼ及びPCRプライマーは、前記基材(2)内に配置され、その結果、前記生物学的試料(S)のDNA配列は、PCRプライマーが前記DNA配列に相補的なDNA配列を含有する場合にDNAポリメラーゼによってPCRにより増幅することができることを特徴とする、項目1~7のいずれか一項に記載のデバイス(1)。
項目9. 前記デバイス(1)は、ポリマーゲル(H)と基材(2)との間で液体が交換可能であるように、ポリマーゲル(H)、特にヒドロゲルを基材(2)と接触して備え、特に前記ポリマーゲル(H)は、ポリマーゲル(H)と基材(2)との間で液体を交換するように、物理パラメータを設定すること、特に温度、pH、若しくはイオン強度を変えること、電磁放射を与えること、又は化学反応を開始させることによって切り替え可能であることを特徴とする、項目1~8のいずれか一項に記載のデバイス(1)。
項目10. 前記デバイス(1)は、基材(2)の加熱、特に周期的な加熱のための加熱素子(70)を備え、特に前記加熱素子(70)は、加熱電極として形成され、前記加熱電極は、導電性の接触タブ(71)を介して前記デバイス(1)の外部に接続されており、前記第1及び第2の接触タブ(71)の末端部(72)は、電圧源の極に電気的に接続されるように構成されており、その結果、電流が前記加熱電極を流れることにより、その電気抵抗によって前記基材(2)を加熱することを特徴とする、項目1~9のいずれか一項に記載のデバイス(1)。
項目11. 前記基材(2)は、生物学的試料が含有する分子を標識するためのマーカーを含み、特に前記マーカーは、色素を含むか、又は前記マーカーは、酸化還元特性によって検出可能であることを特徴とする、項目1~10のいずれか一項に記載のデバイス(1)。
項目12. 前記生物学的試料(S)が含有する分子を、光学検出器(80)、特にカメラ、より特にスマートフォン若しくはタブレットコンピュータなどの携帯型デバイスに内蔵されるカメラによって分析することができるように、前記デバイスは、少なくとも部分的に透明であることを特徴とする、項目1~11のいずれか一項に記載のデバイス(1)。
項目13. 前記デバイス(1)は、繊維状材料(F)を備える複数の層(10、20、30)を備え、前記複数の層(10、20、30)の繊維状材料(F)が基材(2)を形成するように、前記複数の層(10、20、30)が互いの上に配置され、前記複数の層(10、20、30)は、第1の軸(A1)に非平行のそれぞれの平面に延び、その結果、生物学的試料(S)が含有する帯電分子が、第1の電極(41)と第2の電極(42)との間の前記第1の軸(A1)に沿って作用する電場によって、前記複数の層(10、20、30)を通り移動可能になり、特に前記複数の層(10、20、30)が延びる平面は、第2の軸(A2)に平行であり、その結果、生物学的試料(S)が含有する帯電分子は、それぞれの層(10、20、30)で移動可能になり、かつそれらの分子量、極性及び/又は電荷によって分離可能になることを特徴とする、項目1~12のいずれか一項に記載のデバイス(1)。
項目14. 前記デバイスは、第1の層(10)の繊維状材料(F)が溶解剤(L)を含む、第1の層(10)と、生物学的試料(S)が前記第2の層(20)を通過する際に第2の層(20)が前記生物学的試料(S)を濾過するように構成される、前記第1の層(10)と接触している第2の層(20)と、第3の層(30)が前記第2の電極(42)及び前記第3の電極(43)を備える、前記第2の層(20)と接触している第3の層(30)とを備え、その結果、前記生物学的試料(S)中の分子が、前記第2の電極(42)と前記第3の電極(43)との間に作用する電場を用いて、前記第3の層(30)において、分子量、極性及び/又は電荷によって分離可能になり、特に前記第3の層(30)の繊維状材料(F)は、前記マーカー及び/又は前記DNAポリメラーゼ及び前記PCRプライマーを含み、特に前記第3の層(30)の繊維状材料(F)は、前記加熱素子(70)と接触しており、特に前記ポリマーゲル(H)は、前記第1の層(10)及び/又は前記第2の層(20)に配置されていることを特徴とする、項目13に記載のデバイス(1)。
項目15.
a. 生物学的試料(S)が前記溶解剤(L)と接触し、その結果、前記生物学的試料(S)が溶解されるように、前記生物学的試料(S)を基材(2)に適用し;
b. 前記生物学的試料(S)が基材(2)を通り移動し、その分子量、極性及び/又は電荷によって分離されるように、電位差を前記第1の電極(41)と前記第2の電極(42)との間に与え;
c. 任意に、前記生物学的試料(S)のDNA配列が前記基材(2)中でPCRにより増幅されるように、前記基材(2)を周期的に加熱し;
d. 任意に、前記生物学的試料(S)がその分子量、極性及び/又は電荷によって分離されるように、電位差を前記第2の電極(42)と前記第3の電極(43)との間に与え、特に前記第2の電極(42)と前記第3の電極(43)との間の電流又は電圧を経時的に測定し、測定した電流又は電圧から生物学的試料(S)の特性を導出し;かつ
e. 任意に、生物学的試料(S)を、基材(2)中のマーカーを検出することにより分析する、
項目1~14のいずれか一項に記載のデバイス(1)により、生物学的試料(S)を分析するための方法。
【0130】
本発明は、以下の実施例及び図によってさらに説明され、そこからさらなる実施形態及び利点を引き出すことができる。これらの実施例は、本発明を説明するためのものであり、その範囲を限定するものではない。
【0131】
図1は、第1の軸A1に沿って積層された複数の層を備える本発明によるデバイス1を示す。デバイス1は、
図1の図に従って上から下へ:追加のバリア構造Bを備える繊維状材料Fからそれぞれ形成される、カバー60、カバー層50、第1の層10、第2の層20及び第3の層30、並びにさらなるカバー層50を備える。
【0132】
ここで説明する例では、デバイス1で使用する液体移動相は、特に水性である。その結果、繊維状材料Fは、水浸透性を有し、繊維状材料Fは、特に紙である。また、カバー60、カバー層50、及びバリア構造Bは、特に水不浸透性である。もちろん、疎水性液体移動相(例えば有機溶媒ベース)をデバイス1で使用する場合、繊維状材料Fは特に疎水性(したがって疎水性液体移動相に対して浸透性)であり、かつカバー60、カバー層50及びバリア構造Bは特に親水性又は水浸透性(したがって疎水性液体移動相に対して不浸透性)である。
【0133】
カバー60及び2つのカバー層50は、特にデバイス1の輸送及び保管中に、第1の層10、第2の層20及び第3の層30を水及び汚染の侵入から保護する。上部カバー層50は、カバー60が取り除かれた後に生物学的試料Sが第1の層10に適用することができる開口部51(特に長方形の形状)を備える。
【0134】
図1に描かれた実施形態では、第1の層10は、バリア構造Bによって囲まれた繊維状材料Fの第1の領域(特に長方形の形状)を備える(バリア構造Bはクロスハッチ模様で表示されている)。この繊維状材料Fは、以下に規定するように、基材2の一部を形成している。上部カバー層50が第1の層10の上に配置される場合、上部カバー層50の開口部51は、第1の層10のアクセス可能な(すなわち、バリア構造Bによって覆われていない)繊維状材料Fの第1の領域と一致する。
【0135】
図1は、さらに、下部カバー層50の下方に配置された加熱素子70を表示している。デバイス1の動作中、第3の層30が加熱素子70によって加熱できるように、下部カバー層50は特に下部カバー層50と直接接触し、かつ下部カバー層50は第3の層30と直接接触している。
【0136】
図2は、デバイス1の第1の層10、第2の層20及び第3の層30の詳細を示し、分かりやすくするために、カバー層50、カバー60及び加熱素子70を省略している。
【0137】
図2に示すとおり、第1の層10の繊維状材料Fの第1の領域2aは、特に第1の層10の繊維状材料Fに埋め込まれ、かつ本質的に均等に全体に分布する化学溶解剤Lを含む。溶解剤Lは、生物学的試料Sが含有する細胞(細菌、古細菌又は真核生物)を、例えば脂質膜の変性及び/又は細胞構造の一部であるタンパク質の分解によって、溶解することができるものである。特に、溶解剤Lは、乾燥又は凍結乾燥された形態で繊維状材料Fに配置され、例えば液体生物学的試料Sの適用によって、又は切り替え可能なポリマーゲルH(下記参照)からの液体の放出によって、液体が加えられる際に溶けることが可能になっている。
【0138】
第1の層10は、第1の層10の平面内に延びる導電性材料の平行なロッド又はバー41cを備えるグリッド構造41bとして成形される第1の電極41をさらに備える。バー41cは、アクセス可能な繊維状材料Fの第1の領域2aの周りに配置されたフレーム41d(特に長方形の形状)によって囲まれている。接触タブ41aは、特に同じ導電性材料であり、電極41、特にフレーム41dを第1の層10の端部に接続し、その結果、接触タブ41が外部電圧源の正極又は負極に電気的に接続できるようにする。電極41は、特に、第1の層10の繊維状材料Fに印刷され、すなわち導電性インクによって印刷されている。
【0139】
さらに、第1の層10は、切り替え可能なポリマーゲルHを収容する円形開口部11を備える。開口部11は、基材2の一部を形成するアクセス可能な繊維状材料Fの第1の領域2aからバリア構造Bによって分離されており、それによりポリマーゲルHから放出された液体が第1の層10を介して基材2に接近できないようにされている。
【0140】
第1の層10と同様に、第2の層20は、バリア構造Bによって囲まれた、コーティングされていないアクセス可能な繊維状材料F(特に長方形の形状)の第2の領域2bを備え、第2の領域2bのコーティングされていない繊維状材料Fは、基材2の一部を形成している。第2の層20の前記第2の領域2bは、第1の層10と第2の層20とを重ね合わせたときに、第1の層10の第1の領域2aと一致する。また、第2の層20は、第1の層10と第2の層20とを重ね合わせたときに第1の層10の開口部11と一致する円形の開口部21を有している。開口部21には、さらにポリマーゲルHが収容されていてもよいし、又は第1の層10及び第2の層20の開口部11、21が共同でポリマーゲルHを収容していてもよい。
【0141】
第3の層30は、バリア構造Bに囲まれた自由にアクセスできる(すなわちバリア構造Bによって覆われていない)繊維状材料F(特に長方形の形状を有する)の第3の領域2cを備える。第3の領域2cは、第1の層10の第1の領域2a及び第2の層20の第2の領域2bより大きい(
図2においてはさらに右側に延びている)。第1の層10、第2の層20及び第3の層30が互いの上に積層されると、第3の領域2cが第1の層10の第1の領域2a及び第2の層20の第2の領域2bと重なり、その結果、繊維状材料Fの3つの領域2a、2b、2cが一体となり、以下に規定するとおり生物学的試料Sが移動できる流路を提供する基材2を形成するようにする。
【0142】
第3の領域の繊維状材料Fは、PCR試薬P(すなわち、DNAポリメラーゼ、PCRプライマー及びデオキシリボヌクレオチド)を含有し、これは特に乾燥又は凍結乾燥の形態で提供され、かつ第3の層30の繊維状材料F中に特に均等に分布している。これにより、繊維状材料に提供されたPCRプライマーに相補的な配列を有するDNA又はRNAを含有する液体生物学的試料Sが第3の層30の繊維状材料Fに入り、繊維状材料Fの第3の領域2cが適切な溶融温度、アニール温度及び伸長温度に周期的に加熱及び冷却されれば、繊維状基質F内で相補的なDNA又はRNA配列がPCRにより増幅され得る。
【0143】
さらに、第3の層30は、第3の領域2cの対向する縁部に配置され、かつ接触タブ42a、43aによって第3の層30のそれぞれの外縁部に接続される第2の電極42及び第3の電極43を備え、その結果、第2の電極42及び第3の電極43が極(特に接触タブ42a、43aを介して外部電圧源の対極)に電気的に接続できるようにする。
【0144】
さらに、第1の層10、第2の層20及び第3の層30が互いに重ねられると、第1の層10及び第2の層20の開口部11、21に配置された1つ又は複数のポリマーゲルHは、以下にさらに規定するとおり、ポリマーゲル(複数可)Hから第3の層30の繊維状材料Fに液体が放出されるように、及び/又は第3の層30の繊維状材料Fからポリマーゲル(複数可)Hに液体が引き込まれるように、第3の層30の第3の領域2cと接触している。
【0145】
特に、層10、20、30を製造するために、繊維状材料Fの薄いシートが提供され、任意に適切なサイズに切断される。その後、これらの層は、バリア構造Bを形成するために特にワックスなどの疎水性材料でコーティングして、第1及び第2の層10、20の開口部11、21を特に切り出す。次いで第1の電極41、第2の電極42及び第3の電極43は、導電性インクを用いて第1の層10及び第3の層30に印刷することができる。最後に、溶解剤Lを第1の層10に塗布することができ、特に溶解剤Lを含有する液体溶液を第1の長方形領域2aに塗布し、その後、第1の層10を乾燥させる。同様に、PCR試薬Pは、液体溶液として第3の層の第3の領域2c上に塗布され、その後、乾燥することができる。次いで、層10、20、30を互いに積層し、第1の層10及び/又は第2の層20の開口部11、21内にポリマーゲルHを適用することができる。最後に、
図1に描かれているように、カバー層50及びカバー60をこの積層したものに配置することができる。
【0146】
以下、
図3~
図6を参照して、デバイス1の使用について説明する。
【0147】
図3に示すように、最初に、第1の層10の第1の領域2aに、例えば手動又は自動でピペットにより試料Sを第1の領域2aの繊維状材料Fに適用する。これにより、特に、繊維状材料Fに配置された乾燥した溶解剤Lが液体の生物学的試料Sで溶け、生物学的試料S中の細胞が溶解剤Lによって溶解され、よって、これらの細胞からDNA、RNA、タンパク質などの生体分子が放出される。
【0148】
第1の層10の繊維状材料Fの第1の領域2aは、第2の層20の第2の領域2b及び第3の層30の第3の領域2cに接しているため、溶解した液体生物学的試料Sは、その後、毛細管力により第2の領域2b及び第3の領域2cの繊維状材料Fに引き込まれる。そこでは、生物学的試料Sを溶かす液体が移動相として機能し、層10、20、30の繊維状材料Fが固定相として機能し、これにより、繊維状材料F、特に第2の層20の第2の領域2bがクロマトグラフィー効果により生物学的試料Sの成分を分子量によって分離して生物学的試料Sを濾過する。このようにして、特に、細胞残屑などの大きな粒子は、生物学的試料の生体分子(すなわち、DNA、RNA及びタンパク質)から分離され、特に、第2の層20の繊維状材料Fに残留することができる。任意に、繊維状材料Fは、繊維状材料Fの疎水性及び生物学的試料Sの溶媒に依存して、極性によって生物学的試料を分離するように適合させることも可能である。
【0149】
第1の層10から第2の層20、第3の層30への生物学的試料の移動を容易にするために、第1及び第2の層10、20の開口部11、21に膨潤可能な(液体を取り込むことが可能な)ポリマーゲルHを配置して、第1の層10、第2の層20及び第3の層30を通して生物学的試料の溶媒を吸引することができる。
【0150】
或いは又はさらに、デバイス1は、クロマトグラフィーの移動相及び/又は電気泳動バッファーとして機能する液体リザーバに配置することができる。
【0151】
図4に示すように、特に接触タブ41a、42aを外部電圧源の対極に接続することによって、第1の層10の第1の電極41と第3の層30の第2の電極42との間に電場を与え、生物学的試料Sの成分を第1の層10から第2の層20及び第3の層30へ電気泳動的に移動させることができる。特に、
図4に描かれているように、第1の電極41に負の電位を印加し、第2の電極42に正の電位を印加してもよい。特に、生物学的試料SをpH約6~約8の間の範囲のバッファーに溶かす場合、生物学的試料S中のほとんどの生体分子(DNA、RNA、タンパク質)は、負に帯電している。そのため、第1の電極41が負電位であり、かつ第2の電極42が正電位である場合、ほとんどの生体分子は、第3の層30の第2の電極42に向かって電気泳動的に移動するであろう。
【0152】
図3~
図6に描かれたセットアップにおいて、第1の電極41は、第1の層10の第1の領域2a全体に延びるグリッド電極であり、第2の電極42は、第1の電極41よりも第1の軸A1に垂直な断面積が小さい細長い長方形のタブとして形成されている。
【0153】
したがって、
図4に示すとおり、
図4の試料経路SPで示すように、生物学的試料Bは、第1の層10及び第2の層20を通過して第3の層30に至る間に集束される。すなわち、第2の電極42がより小さいことに起因する電場の収束の結果、生物学的試料の分子は、第3の層30のより小さな部分領域に濃縮することになる。
【0154】
特に、
図5に示されるように、PCR試薬P及び生物学的試料Sを含有する第3の層30は、その後、第3の層30の下の加熱素子70によって周期的に加熱(及び任意に冷却)されて、生物学的試料Sが含有するDNA又はRNAのPCR増幅(PCR試薬70aの加熱)が実行される。PCR反応の加熱サイクル中に第3の層30が乾燥しないように、特に加熱素子70による加熱(ポリマーゲルHが温度切り替え可能な場合は、切り替え可能なポリマーゲル70bの加熱)により、第1の層及び/又は第2の層の開口部11、21内に配置したポリマーゲルHを活性化して第3の層30に液体を放出させてもよい。もちろん、特に生物学的試料Sが含有する核酸以外の生体分子(例えば、タンパク質)の解析が望まれる場合には、PCRのステップを省略することもできる。
【0155】
最後に、
図6に示すように、生物学的試料Sが含有する(特に先に増幅された)分子を、第3の層30において電気泳動により分離することができる。このため、第3の層30の面内に電場が発生するように、第2の電極42と第3の電極43との間に電位差が加えられる。特に、第2の電極42を電圧源の負極92に接続し、第3の電極43を電圧源の正極91に接続することができ、その結果、負に帯電した生体分子(DNA、RNA、タンパク質など)が第2の電極42から第3の電極43へ移動するようにする。
【0156】
電圧源は、第2の電極42と第3の電極43との間に定電圧を供給するように構成されてもよいし、又は第3の層30を介して定電流を供給するように構成されてもよい。電気泳動の際、第3の層30に流れる電流を電流計を用いて経時的に測定してもよいし(電圧源から定電圧を供給する場合)、第2の電極42と第3の電極43との間の電圧を電圧計を用いて経時的に測定してもよい(電圧源から定電流を供給する場合、測定方法はサイクリックボルタンメトリーと称される)。得られた電流又は電圧の時間トレースを使用して、生物学的試料Sの生体分子、特に核酸の特性を分析することができる。代替としては、生体分子の特性を、電量分析又はインピーダンス測定によって分析することもできる。
【0157】
或いは、又はさらに、生物学的試料中の(又は生物学的試料から増幅された)生体分子は、マーカー分子によって分析されてもよく、マーカー分子は、特に、生物学的試料Sの導入前に第3の層30の繊維状材料F中に乾燥又は凍結乾燥の形態で配置することができる。核酸の場合、マーカー分子は、例えば、標的DNA又はRNA配列に特異的に結合することができる、例えば分子ビーコンなどのハイブリダイゼーションプローブであり得る。タンパク質が検出対象である場合、マーカー分子は、例えば、目的のタンパク質のエピトープに特異的に結合する抗体であり得る。マーカー分子は、色素又は蛍光体などの光学的に検出可能な分子と結合(例えば共有結合)することができ、マーカーが目的の生体分子に特異的に結合すると色が変化し、又は発光や蛍光を発する。或いは、マーカー分子はまた、化学反応により変色する物質又は蛍光若しくは発光する物質の1つ又は複数を含んでいてもよい。蛍光の場合は、蛍光体の吸光度スペクトルと重なる波長の光を、例えば外部光源により照射してもよい。
【0158】
マーカーが発する光を検出するために、外部の光検出器80を用いてもよい。その一例が
図7に描かれており、光検出器80は、レンズ81を有するカメラである。この場合、デバイス1は、検出光の量を最大化するために、少なくとも部分的に透明であってもよい。このため、例えば、カバー層50及び/又はカバー60は、透明な材料から形成されてもよい。
【0159】
デバイス1及び特に適用マーカーMは、放出された光が、スマートフォン又はタブレットコンピュータなどのモバイルデバイスの市販のカメラによって検出され得るように、構成されてもよい。これにより、特に環境試料のオンサイトの分析など実験室の外での用途において、デバイス1の利用性が向上する。
【0160】
光学的な検出の代わりに、マーカー分子はその酸化還元特性によって検出することも可能である。
【0161】
もちろん、記載の生物学的試料S中の生体分子の解析は、事前の電気泳動の有無にかかわらず行うことができる。
【0162】
図8は、本発明によるデバイス1のさらなる実施形態を示している。このデバイス1が
図1に示すデバイスと異なる点は、カバー60の代わりに蓋61を備え、蓋61の中又はその上に第1の電極41(グリッド電極)が配置されていることである。蓋61は、ヒンジ62によって上部カバー層50に取り付けられてもよい。特に、第1の電極41は、蓋61に印刷されている(すなわち、導電性インクを塗布することにより印刷されている)。第1の電極41と第2の電極42との間に電位差を加えることにより生物学的試料Sの電気泳動が開始されるように、蓋61が閉じられる際、第1の電極41が第1の層10の第1の領域2aに直接的に配置される。
【0163】
図9及び
図10は、加熱素子70が抵抗ヒーター、より特に加熱電極として形成されているデバイス1の実施形態を示している。加熱電極は、下部カバー層50(
図9)、又は代替的に第3の層30と下部カバー層50との間に配置されたさらなる第4の層100(
図10)に配置されてもよく、特に印刷(すなわち、導電性インクを適用することによって)されてもよい。
【0164】
加熱電極は、長方形フレーム75で囲まれた平行ロッド74から構成されるグリッド73と、グリッド73を各層の端部に接続する接触タブ71とを備え、両末端72を電圧源の極に接続して加熱電極を介して電流を発生し、加熱電極の電気抵抗により発熱させることができる。
【0165】
このように加熱電極を組み込むことで、外付けの加熱デバイスが不要になる。
【0166】
図11は、繊維状材料Fの第1の層10、第2の層20及び第3の層30並びにカバー層50及びカバー60を有する本発明によるさらなるデバイス1を示す。デバイス1は、以下の相違点を除いて、
図1に示す実施形態と特に同一である:第1の層10は、グリッド電極の代わりに、第1の領域2aの左縁に(
図11の図で)位置する細長いタブとして形作られた第1の電極41を備え、第3の層30は、第3の領域2cの右縁に位置する第2の電極42のみを備える。さらに、第2の層20の第2の領域2bは、第1の層10の第1の領域2aに対して右側にオフセットされており、第3の層30の第3の領域2cは、第2の層20の第2の領域2bに対して右側にオフセットされている。これにより、結果として、第1の層10、第2の層20及び第3の層30の繊維状材料Fが第1の軸A1に沿って形成する試料経路SP又は流路は、第1の電極41と第2の電極42との間で垂直軸に対して斜めに延在することになる。特に、生物学的試料中の負電荷の分子を移動させて電気泳動分離するために、第1の電極41を電圧源の負極92に接続し、第2の電極42を電圧源の正極91に接続することができる。これにより、生物学的試料が分離され、生物学的試料中の分子のバンドは、バンドが光学的に検出される際に第2の領域2bに平行な平面に沿った投影で互いに隣り合うように配列される。
【0167】
【国際調査報告】