(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-30
(54)【発明の名称】SARS-COV-2の迅速検出検査
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20230323BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20230323BHJP
C12Q 1/37 20060101ALI20230323BHJP
C07K 7/04 20060101ALI20230323BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230323BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230323BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N21/64 F
G01N21/64 E
C12Q1/37 ZNA
C07K7/04
A61P31/14
A61K45/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022548736
(86)(22)【出願日】2021-02-09
(85)【翻訳文提出日】2022-10-05
(86)【国際出願番号】 IL2021050155
(87)【国際公開番号】W WO2021156878
(87)【国際公開日】2021-08-12
(32)【優先日】2020-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522318564
【氏名又は名称】エヌエルシー ファーマ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】NLC PHARMA LTD
【住所又は居所原語表記】B.S.R Tower No. 4, 7 Mesada Street, 26th Floor, Bnei-Brak, Israel
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アラド ドリト
【テーマコード(参考)】
2G043
2G045
4B063
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043AA03
2G043BA17
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2G045AA25
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2G045FA11
4B063QA18
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4H045BA16
4H045BA70
4H045FA33
(57)【要約】
本発明は、試料中のSARS-CoV-2ウイルスを検査するための方法、組成物及びキットに関する。本方法は、3CLプロテアーゼによって開裂可能で、ペプチド化合物フラグメントを生成するペプチド化合物に当該試料を接触させることにより、ウイルスの3CLプロテアーゼの存在を決定する。ペプチド化合物フラグメントを検出することにより、ウイルスの存在を確認する。
【選択図】
図14
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の試料における重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染を診断する方法であって、前記方法はSARS-Co-V2ウイルスの3CL-プロテアーゼを検出する試薬を含む組成物に前記試料を接触させることを含み、前記試料中の前記3CL-プロテアーゼの存在がSARS-Co-V2感染の指標となる、方法。
【請求項2】
COVID-19に罹っていることが疑われる対象の試料におけるSARS-CoV-2ウイルスを検出する方法であって、SARS-CoV-2ウイルスの3CLプロテアーゼの活性をモニターする試薬を含む組成物に前記試料を接触させることを含み、前記試料中の前記3CLプロテアーゼの活性レベルが前記試料におけるSARS-CoV-2の存在の指標となる、方法。
【請求項3】
前記試料は、粘液、唾液、咽喉洗い液、鼻洗い液、髄液、痰、尿、精液、汗、糞便、血漿、血液、気管支肺胞上皮液、膣液、涙液、組織生検物及び、鼻咽頭、中咽頭、中鼻甲介、前鼻及び頬側の各ぬぐい液からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記試料は、唾液試料、頬側試料又は鼻咽頭試料である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記試薬は、前記3CLプロテアーゼの活性をモニターする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記試薬は、前記3CLプロテアーゼの基質ペプチドであって、前記ペプチドは、前記3C-Lプロテアーゼによる前記基質ペプチドの開裂に関する検出可能なシグナルを発生する少なくとも1個の部分に結合している、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記検出可能なシグナルを、前記シグナルの測定に適したデバイスで記録する又は読み取ることを更に含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記検出可能な部分は、ドナー部分とアクセプター部分のフェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)対であり、前記基質ペプチドの開裂が前記FRET対からのシグナルを発生又は調節する、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記ドナーフルオロホア基は、CAL Fluor(登録商標)Gold 540、CAL Fluor(登録商標)オレンジ560、Quasar(登録商標)670、Quasar(登録商標)705、5-FAM(それぞれ5-カルボキシフルオレセイン、スピロ(イソベンゾフラン-1(3H),9’-(9H)キサンテン)-5-カルボン酸、3’,6’-ジヒドロキシ-3-オキソ-6-カルボキシフルオレセインとも称される)、5-ヘキサクロロ-フルオレセイン([4,7,2’,4’,5’,7’-ヘキサクロロ-(3’,6’-ジピバロイル-フルオレセイニル)-6-カルボン酸])、6-ヘキサクロロ-フルオレセイン([4,7,2’,4’,5’,7’-ヘキサクロロ-(3’,6’-ジピバロイルフルオレセイニル)-5-カルボン酸])、5-テトラクロロ-フルオレセイン([4,7,2’,7’-テトラクロロ-(3’,6’-ジピバロイルフルオレセイニル)-5-カルボン酸])、6-テトラクロロ-フルオレセイン([4,7,2’,7’-テトラクロロ-(3’,6’-ジピバロイルフルオレセインyl)-6-カルボン酸])、5-TAMRA(5-カルボキシテトラメチルローダミン、キサンチリウム、9-(2,4-ジカルボキシフェニル)-3,6-ビス(ジメチル-アミノ)、6-TAMRA(6-カルボキシテトラメチルローダミン、キサンチリウム、9-(2,5-ジカルボキシフェニル)-3,6-ビス(ジメチルアミノ)、EDANS(5-((2-アミノエチル)アミノ)ナフタレン-1-スルホン酸)、1,5-IAEDANS(5-((((2-インドアセチル)アミノ)エチル)アミノ)ナフタレン-1-スルホン酸)、DABCYL(4-((4-(ジメチルアミノ)フェニル)アゾ)安息香酸)、Cy5(インドジカルボシアニン-5)、Cy3(インド-ジカルボシアニン-3)、及びBODIPY FL(2,6-ジブロモ-4,4-ジフルオロ-5,7-ジメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン-3-プロピオン酸)、ROX及びこれらの好適な誘導体からなる群から選択され、更なる例として、フルオレセイン、フルオレセインクロロトリアジニル、ローダミングリーン、ローダミンレッド、テトラメチルローダミン、FITC、オレゴングリーン、Alexa Fluor(登録商標)488(例えばAF488)、FAM、JOE、HEX、テキサスレッド、TET、TRITC、シアニン系染料及びチアジカルボシアニン染料が挙げられるがこれらに限定されない、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ドナー部分は量子ドットである、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記ドナー部分及びアクセプター部分は、前記ドナーから前記アクセプターへのエネルギー移動を許容する配置で前記ペプチドに結合することで、FRETプロセスにより蛍光の消光をもたらす、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記ドナー部分及びアクセプター部分は、3以下又は5以下のアミノ酸残基によって分離されている、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記ドナー部分及びアクセプター部分は、10以下のアミノ酸残基によって分離されている、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記ドナー部分及びアクセプター部分は、15以下のアミノ酸残基によって分離されている、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
前記ドナー部分及びアクセプター部分は、20以下のアミノ酸残基によって分離されている、請求項8に記載の方法。
【請求項16】
前記アクセプター部分は放射性である、請求項8に記載の方法。
【請求項17】
前記アクセプター部分は、テトラメチル-6-カルボキシローダミン(TAMRA)、及びBlack Hole Quencher-1(BHQ-1)、Black Hole Quencher-2(BHQ-2)、Black Hole Quencher-3(BHQ-3)を含むBlack Hole Quencher (BHQ)からなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項18】
前記FRET対は、下記Alexa Fluor(登録商標)488(AF488)(ドナー)/BHQ1(アクセプター)、AF488(ドナー)/QSY9(アクセプター)、EDANS(ドナー)/DABCYL(アクセプター)から選択される、請求項8に記載の方法。
【化1】
【請求項19】
前記ペプチドのC末端は前記アクセプター部分に結合し、前記ペプチドのN末端は前記ドナー部分に結合する、請求項8に記載の方法。
【請求項20】
前記ペプチドのC末端は前記アクセプター部分に結合し、前記ドナー部分はN末端から3残基以下のアミノ酸に結合する、請求項8に記載の方法。
【請求項21】
前記ドナー部分は分離部分に結合する、請求項8に記載の方法。
【請求項22】
前記検出可能な部分は、前記基質ペプチドの開裂領域の一端に結合する化学発光シグナリング部分であり、アクセプター部分が前記基質ペプチドの同開裂領域の他端に結合する、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項23】
前記化学発光シグナリング部分は1,2-ジオキセタン化合物である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記検出可能な部分はプロ酵素であり、基質ペプチドの開裂に際して活性化され、その触媒活性の検出を通じて検出される、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項25】
前記プロ酵素は、プロトロンビン(第II因子)又はこのカスケード内の他の酵素である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記基質ペプチドは8~12のアミノ酸の配列を有する、請求項6~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記基質ペプチドは、配列番号13~23からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記基質ペプチドは、配列番号13のアミノ酸配列を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記基質ペプチドのアミノ酸配列は、配列番号24~33からなる群から選択される配列からなる、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記基質ペプチドは、配列番号1~10からなる群から選択される配列である、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記基質ペプチドは、配列番号8の配列である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記試料は唾液試料であり、前記組成物はアンチパイン、AC-DEVD-CHO、アプロチニン、エグリンC、GW、PMSF及び2,6PDAからなる群から選択されるプロテアーゼ阻害剤を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項33】
前記プロテアーゼ阻害剤はPMSF及びGWを含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記試料は頬側試料であり、前記組成物はPMSF、GW、アプロチニン、エグリンC及びペプスタチンからなる群から選択されるプロテアーゼ阻害剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項35】
前記プロテアーゼ阻害剤はPMSF、GW、アプロチニン及びエグリンCを含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
SARS-CoV-2以外のウイルスのウイルスプロテアーゼの少なくとも1種の基質に前記試料を接触させることを更に含み、前記少なくとも1種の基質に開裂のないことが前記試料に前記ウイルスが存在しないことの指標となる、請求項1に記載の方法。
【請求項37】
シグナルの読み取りに適した前記装置は光学的又は分光学的装置である、請求項7に記載の方法。
【請求項38】
前記光学的又は分光学的装置はモジュラー式である、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記光学的又は分光学的装置は、蛍光、ルミネッセンス又は燐光を測定するための、ポータブルで高感度な蛍光分光光度計(フルオロメーター)、ルミノメーター、蛍光顕微鏡又はこれらの組み合わせとして作動するように構成される、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
前記光学的又は分光学的装置は、劇場、レストラン、職場等の公共エリアの入口に便利に設置される、請求項37に記載の方法。
【請求項41】
前記光学的又は分光学的装置は、小型化されて、公共エリア、職場、家庭での迅速なポイントオブケア診断に利用される、請求項37に記載の方法。
【請求項42】
前記光学的又は分光学的装置は、励起モジュール、試料チャンバー及び取得及び/又は検出器モジュールを備える、請求項37に記載の方法。
【請求項43】
前記試料チャンバーは、ポイントオブケア診断のための複数試料のラボ用高スループット、迅速多重化分析用の蛍光マルチプレートリーダーである、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記光学的又は分光学的装置は計算ユニットを更に備える、請求項42に記載の方法。
【請求項45】
前記取得及び/又は検出器モジュールと前記計算ユニットは単一ユニットとして統合され、蛍光発光の取得、その強度の測定、蛍光発光データの処理、及び場合によっては可読形式での表示及び/又は外部メモリー又はユーザーインターフェイスへの出力をするように設計される、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記取得モジュールはスマートフォン、又は所望の測定に適したモバイルデバイス又はガジェットの一部である、請求項42~45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記検出器は、電子増倍電荷結合素子(EMCCD)イメージャ、電荷結合素子(CCD)イメージャ、アバランチフォトダイオード(APD)、光電子増倍管(PMT)、サイエンティフィック相補型金属酸化膜半導体(sCMOS)イメージャ又は、スマートフォンカメラ、独立型カメラ又はモバイルデバイス若しくはガジェットのいずれかのカメラのCMOSイメージャであり、前記検出器は、焦点合わせ装置及びコンピュータリンクを有することができる、請求項42~45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記検出器は、スマートフォンカメラのCMOSイメージャである、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
シグナル測定に適した前記デバイスはラテラルフローデバイスである、請求項1に記載の方法。
【請求項50】
前記ラテラルフローデバイスは、スティック方式又は積層方式である、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記ラテラルフローデバイスは、ニトロセルロース膜又はセルロース(紙)膜に基づく、請求項49に記載の方法。
【請求項52】
前記ラテラルフローデバイスは、前記ウイルスの家庭用又はポイントオブケア検出に適している、請求項49~51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
請求項1~52のいずれか一項に記載の方法の実施に適したマイクロ流体チップ又はラボオン-チップ。
【請求項54】
配列番号25~33に記載のアミノ酸配列を含み、長さが14アミノ酸以下である、単離ペプチド。
【請求項55】
検出可能な部分を更に含む、請求項54に記載の単離ペプチド。
【請求項56】
配列番号2~10のいずれか一つのアミノ酸配列からなる、請求項54又は55に記載の単離ペプチド。
【請求項57】
固体支持体に結合した、請求項54~56のいずれか一項に記載の単離ペプチドを含む、製造品。
【請求項58】
前記固体支持体は、試験管、マイクロタイタープレート、マイクロタイターウエル、ビーズ、ディップスティック、ポリマー微粒子、磁性微粒子、ニトロセルロース、セルロース又はチップアレイである、請求項57に記載の製造品。
【請求項59】
試料中のSARS-CoV-2検出用の診断キットであって、請求項54~56のいずれか一項に記載の単離ペプチド又は請求項57又は58に記載の製造品、及び前記ペプチドの開裂を検出するための試薬を含むキット。
【請求項60】
前記SARS-CoV-2以外のウイルスの存在を特異的に検出する少なくとも1種の試薬試薬を更に含む、請求項59に記載の診断キット。
【請求項61】
COVID-19に罹っていることが疑われる対象の試料中のSARS-CoV-2ウイルスの生体分子的診断のためのヘテロジニアスアッセイ方法であって、前記アッセイの間、固相が他のアッセイ成分から分離され、前記方法は、
(A)一般式:
X-Y-Z
(式中、
i)YはSARS-CoV-2 3CLプロテアーゼで開裂可能な基質ペプチドであり、
ii)前記3CLプロテアーゼによるX-Y-Zの開裂は開裂生成物X-Y’及びY”-Z(式中、Y’及びY”は前記基質ペプチドYの2個の開裂フラグメントである)を生成し、
iii)Zは2相分離系の分離相に結合可能な任意の分離部分であり、
iv)前記開裂剤X-Y-Zは前記3CLプロテアーゼの自然基質の隣接部を形成せず、及び
v)Xは、前記3CLプロテアーゼによる前記基質ペプチドの開裂に関する検出可能なシグナルを発生でき、これによって前記試料中の3CLプロテアーゼ活性をモニタリングする、検出可能な部分である)
で表される開裂剤を含む組成物に前記試料を接触させる工程であって、
前記検出可能なシグナルと相関する3CLプロテアーゼの活性レベルは、i)試料中のSARS-CoV-2ウイルスの存在を示し、ii)試料中のSARS-CoV-2ウイルスの定量を可能とする工程と、
(B)前記シグナルの測定に適したデバイスでシグナルを記録又は読み取る工程と
を含む方法。
【請求項62】
前記検出可能な部分Xは、酵素、フルオロホア、クロモホア、タンパク質、プロ酵素、化学発光物質及びラジオアイソトープからなる群から選択される標識薬を含む、請求項61に記載の方法。
【請求項63】
前記分離部分Zは、免疫学的結合剤、磁性結合部分、ペプチド結合部分、アフィニティー結合部分、核酸部分、ビオチン/ストレプトアビジン部分、量子ドット、メタマテリアル、導電性ポリマー部分、デンドリマー部分、クラウンエーテル又はインプリンティングポリマー部分、アプタマー部分、電気化学的結合部分及び金属ナノ粒子部分からなる群から選択される、請求項61又は62に記載の方法。
【請求項64】
前記検出可能な部分Xは蛍光性部分である、請求項61又は62に記載の方法。
【請求項65】
SARS-CoV-2感染症の治療を必要とする対象の前記感染症を治療する方法であって、
(a)請求項1の方法に従って前記対象におけるSARS-CoV-2感染症を診断する工程と、
(b)前記対象を治療する工程と
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2020年2月9日出願の米国特許仮出願第62/972,005号の優先権を主張するものであり、当該特許出願の全内容を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
【0002】
配列表に関する陳述
2021年2月9日付で作成された70,597,807バイトの82013Sequence Listing.txtという名称のASCIIファイルを本出願と同時に提出し、これを本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
【0003】
技術分野
本発明は全体としてウイルス検知と迅速診断の分野に関し、詳細には検査試料中のSARS-CoV-2の検出方法、検出試薬及び検出キットに関する。本方法は、3C-Lプロテアーゼの検出を含む。
【背景技術】
【0004】
現在のパンデミックの管理において、適時で正確なCOVID-19テストは欠かせない。COVID-19の病原体は重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)であり、これはコロナウイルスファミリー、コロナウイルスサブファミリー、β-コロナウイルス属の新しく出現したメンバーであり、SARS-CoVウイルスやMERS-CoVウイルスはこの新メンバーに含まれる。これらウイルスは、過去20年間の重症急性呼吸器症候群(SARS)のアウトブレイクに関与している。米国特許第10,130,701号明細書B2は弱毒化コロナウイルスSARS-CoVを開示し、このウイルスは自身の病原性を低下せしめる変異レプリカーゼ遺伝子を含んでいる。
【0005】
SARS-CoV-2のウイルスゲノムは、サイズ約30kbの一本鎖陽方向RNAであり、多数のオープンリーディングフレームを含む。ウイルスゲノムの2/3は16個の非構造タンパク質(nsp1~16)をコードするのに対し、ゲノムの残部は4個の構造タンパク質と9個のアクセサリータンパク質(Orf3a、Orf3b、Orf6、Orf7a、Orf7b、Orf8、Orf9b、Orf9c及びOrf10)をコードする。幾つかの非構造タンパク質は、プロテアーゼ活性やRNA依存性RNAポリメラーゼ活性等の酵素活性を有する。
【0006】
SARS-CoV-2は、鼻口中においてSARS-CoV及びMERSよりもかなり高いレベルで増殖するため、症状が出る前の人達や無症状の人達が相当高いレベルでウイルスを環境中に放出する。従って、感染者の多くが、当人が感染していることに気付かずにウイルスを撒き散らしてしまう。このような理由から、このウイルスの拡散を著しく遅らせるために、また将来の集団サーベイランスを良いものとするためには、迅速、低コスト、且つ正確なSARS-CoV-2の検出方法が非常に重要となる。
【0007】
現在、分子的技法である定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(qRT PCR)が、呼吸分泌物由来の試料を用いるSARS-CoV-2の検出の標準的な基準である。PCR検査のサイクル閾値(CT)は、標的試料の指数的増幅のためのPCRで使用されるCT値を示し、試料中のウイルス負荷と反比例の関係にある。CT40は、ハイエンドPCR技法によって検出可能な最小ウイルス負荷として受け入れられている。しかし、上述のように、下流での応用のために多数回のPCR反応を行うためのコストと組織的な複雑さ故に、CT40は実際に利用可能であるものの、推奨されていない。しかも、SARS-CoV-2ウイルスは経時的に常に変異するため、流行中のウイルス株の個体群に遺伝子的変異をもたらし、通常のPCR検査で区別できなくなる。従って、検査によって評価されるウイルスゲノムの一部分に何らかの特定変異が起きた場合、SARS-CoV-2の検出のためのどの分子的試験を利用しても、偽陰性の結果が頻繁に出るようになる。最後に、PCRに基づくアッセイでは核酸フラグメントが生存か死滅(分解途中又は不活性なウイルス)かの区別ができないため、偽陽性の結果を出す可能性がある。
【0008】
現在のSARS-CoV-2ウイルスを検出するために、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)に基づく幾つかの分子アッセイや、ウイルス又はウイルス抗原に対する抗体そのものを検出する目的での迅速検査が最近開発されている。にもかかわらず、これら免疫化学アッセイの殆どにおいては偽陰性や偽陽性の結果が多数でるため、最近では成功を見ない。これらアッセイはまた、ウイルス産物が活性か不活性かの区別ができないという同様の問題を有している。
【0009】
更に、新型ウイルスの特定のタンパク質に対する抗体(例えば、モノクローナル抗体)は、直ちに且つ常時入手可能とは言えない。抗体の産生には生物学的システムを利用する。抗体の産生には免疫応答の誘導が欠かせない。しかし、この手順は、内因性タンパク質又は動物を死滅させる可能性がある毒性化合物と同様の構造を有する標的タンパク質を区別してしまう可能性がある。抗体のインビボ生産に関する他の問題は、抗体が生理的条件でのみ働くことである。これによって、抗体の機能と応用の範囲が制限される。ELISAの問題として、異なる動物から産生された同じ抗体が構造と機能において著しく異なることを最後に述べるが、大事なことであるため、本明細書で触れておく。この結果、ある分析対象の検出のためのいかなるELISAベースのバイオアッセイやバイオセンシングシステムも、感度と特異性に差があり、校正や普遍化が難しいと思われる。
【0010】
このように、ここ数十年、抗体認識が標準的な基準であった反面、新しいデザイン、タンパク質の貯蔵寿命の限界、時間のかかる洗浄工程及び製造規模のスケールアップに関する上述のような問題が多数ある。これらの問題を解決するには、多大なコストをかけた難しい研究プログラムが必要である。最近、上述のPCR法及びイムノアッセイが開発されてSARS-CoV-2ウイルスの存在又は当該ウイルスへの暴露を検出してきたが、これら方法やアッセイはウイルスの残滓が活性なのか変性しているのかを区別しない。現在利用できる検査方法はないため、SARS-CoV-2ウイルス等のウイルスの存在を、感染の初期段階において正確に且つ迅速に検出できる改善された検査が必要である。このような検査は、感染期間とその後の回復をモニター可能とするため、COVID-19の症状を呈する人達に有益である。更に、迅速、高感度、且つ選択的な検査は、非感染者を検疫から解放することから、COVID-19が疑われる人達に有益である。また、手作業の介入の必要を避ける自動検査の必要性もある。このような検査は、検査プロセス中の感染によるCOVID-19拡散を防止する。
【0011】
多くのウイルスは増殖の際に、ポリタンパク質を生成するために、ウイルスの遺伝子物質を転写・翻訳する。ポリタンパク質は、最終的に、必須のウイルスがコードするシステインプロテアーゼによって生物学的に活性なタンパク質に開裂される。この3C様プロテアーゼ(3CLpro)は正式にはC30エンドペプチダーゼとして知られ、コロナウイルスに存在する主たるプロテアーゼである。このプロテアーゼはコロナウイルスのポリタンパク質を11の保存部位で切断する、SARS-CoV-1及びSARS-CoV-2に存在するウイルス増殖を担う主たるプロテアーゼである。両ウイルスは、3C様システインプロテアーゼを有し、この酵素は、ピコルナウイルス3Cプロテアーゼと類似するものの同一ではない開裂部位特異性を示すことから、「3C様プロテアーゼ(3CLプロテアーゼ)」という用語で示される。本発明者らの米国特許第7,635,557号明細書は、試料中のSARS-CoV-1ウイルスの検査のための方法、組成物及びキットを開示する。本方法は、3CLプロテアーゼによって開裂されて、ペプチド化合物フラグメントを生成し得るペプチド化合物に当該試料を接触させることにより、3CLプロテアーゼの存在を決定する。ペプチド化合物フラグメントの検出はウイルスの存在を立証するものである。
【0012】
3CLプロテアーゼ活性の定量はウイルス診断へのユニークなアプローチを提供する。診断テストは、鼻咽頭ぬぐい液(スワブ)、唾液、頬側ぬぐい液、他等の臨床試料を回収し、特別な分析プローブ(例えば、アミノ末端及びカルボキシ末端でドナーフルオロホアやクエンチャーフルオロホア)に結合するユニークなウイルス開裂配列を含むペプチド基質の存在下でインキュベートすることを前提とする。そして、活性SARS CoV-23CLプロテアーゼの存在はペプチドの開裂によって検出することができ、この開裂はいずれかの適切な分析技法(例えば、蛍光又は発光スペクトロスコピー、テラヘルツスペクトロスコピー、ラテラルフロー等)によって容易に定量され得る可視シグナルをもたらす。
【発明の概要】
【0013】
特に定義しない限り、本明細書で使用する全ての技術及び/又は科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者により通常理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと同様の又は等価な方法及び材料を、本発明の実施形態の実践又は試験に使用することができるが、例示的な方法及び/又は材料を下に記載する。矛盾する場合、定義を含む特許明細書が優先する。加えて、材料、方法、及び実施例は単なる例示であり、必ずしも限定を意図するものではない。
【0014】
本発明の実施形態の方法及び/又は装置の実施には、手作業、自動又はそれらの組み合わせによって選択タスクを実施又は遂行することが含まれ得る。更に、本発明の方法及び/又は装置の実施形態の実際の装置化及び装備に従えば、オペレーティングシステムを利用するハードウエア、ソフトウエア、ファームウエア又はこれらの組み合わせによって、幾つかの選択されたタスクが実施可能となる。
【0015】
例えば、本発明の実施形態に従って選択されるタスクを実行するためのハードウエアは、チップ又は回路として実装することができる。ソフトウエアに関しては、本発明の実施形態に従う選択されたタスクは、任意の適切なオペレーティングシステムを利用するコンピュータによって実行される複数のソフトウエアの指令として実装することができる。本発明の一例示的実施形態においては、本明細書に記載の方法及び/又は装置に関する例示的実施形態に従う一以上のタスクは、複数の指令を実行するためのコンピューティングプラットフォーム等のデータプロセッサによって遂行される。任意でこのデータプロセッサは、指令及び/又はデータを保存するための揮発メモリー及び/又は、指令及び/又はデータを保存するための不揮発性ストレージ(例えば、磁気ハードディスク及び/又はリムーバブル媒体等)を含み得る。ネットワークとの接続を設けることもできる。ディスプレイ及び/又はユーザー入力デバイス(キーボードやマウス等)も設けることができる。
【0016】
本発明は、対象の試料における重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染を診断する方法であって、該方法はSARS-Co-V2ウイルスの3CL-プロテアーゼを検出する試薬を含む組成物に試料を接触させることを含み、試料中の3CL-プロテアーゼの存在がSARS-Co-V2感染の指標となる方法の実施形態を開示する。
【0017】
他の実施形態において、COVID-19に罹っていることが疑われる対象の試料におけるSARS-CoV-2ウイルスを検出する方法は、SARS-CoV-2ウイルスの3CLプロテアーゼの活性をモニターする試薬を含む組成物に試料を接触させることを含み、試料中の3CLプロテアーゼの活性レベルが試料におけるSARS-CoV-2の存在の指標となる。
【0018】
特定の実施形態において、試料は粘液、唾液、咽喉洗い液、鼻洗い液、髄液、痰、尿、精液、汗、糞便、血漿、血液、気管支肺胞上皮液、膣液、涙液、組織生検物及び鼻咽頭、中咽頭、中鼻甲介、前鼻及び頬側の各ぬぐい液からなる群から選択される。
【0019】
他の実施形態において、検出可能な部分(moiety)は蛍光性部分である。特定の実施形態において、検出可能な部分は、ドナー部分とアクセプター部分のフェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)対であり、基質ペプチドの開裂がFRET対からのシグナルを発生又は調節する。ドナー部分の具体例は量子ドットである。
【0020】
ある実施形態において、ドナー部分とアクセプター部分は、ドナーからアクセプターへのエネルギー移動を許容する配置でペプチドに結合することで、FRETプロセスにより蛍光の消光をもたらす。他の幾つかの実施形態において、ドナー部分とアクセプター部分は3以下、5以下、10以下、15以下又は20以下のアミノ酸残基によって分離されている。
【0021】
更なる実施形態において、アクセプター部分は放射性又は非放射性である。本発明で使用されるアクセプターの具体例としては、テトラメチル-6-カルボキシローダミン(TAMRA)、及びBlack Hole Quencher-1(BHQ-1)、Black Hole Quencher-2(BHQ-2)、Black Hole Quencher-3(BHQ-3)を含むBlack Hole Quencher (BHQ)が挙げられる。FRET対の具体例は、Alexa Fluor(登録商標)488(AF488)(ドナー)/BHQ1(アクセプター)、AF488(ドナー)/QSY9(アクセプター)、EDANS(ドナー)/DABCYL(アクセプター)である。
【0022】
【0023】
他の実施形態において、ペプチドのC末端はアクセプター部分に結合し、ペプチドのN末端はドナー部分に結合する。更に他の実施形態において、ペプチドのC末端はアクセプター部分に結合し、ドナー部分はN末端から3残基以下のアミノ酸に結合する。特定の実施形態において、ドナー部分は分離部分(separating moiety)Zに結合する。
【0024】
更なる実施形態において、検出可能な部分は基質ペプチドの開裂領域の一端に結合する化学発光シグナリング部分であり、アクセプター部分は基質ペプチドの開裂領域の他端に結合する。化学発光シグナリング部分の例としては、1,2-ジオキセタン化合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
また更なる実施形態において、検出可能な部分はプロ酵素であり、これは基質ペプチドの開裂に際して活性化され、その触媒活性の検出を通じて検出される。プロ酵素の例としては、プロトロンビン(第II因子)又はこのカスケード内の他の酵素が挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
ある実施形態において、基質ペプチドYは8~12のアミノ酸の配列を有する。特定の実施形態において、この配列は配列番号13~23、具体的に配列番号13、より具体的に配列番号24~33及び配列番号1~10からなる群から選択されるアミノ酸配列である。
【0027】
ある実施形態において、本発明の方法で検査される試料は唾液試料であり、本組成物はアンチパイン、AC-DEVD-CHO、アプロチニン、エグリンC、GW、PMSF及び2,6PDAからなる群から選択されるプロテアーゼ阻害剤を更に含む。本試料は頬側試料であってもよく、本組成物はPMSF、GW、アプロチニン、エグリンC及びペプスタチンからなる群から選択されるプロテアーゼ阻害剤を含む。
【0028】
他の実施形態において、本発明の方法はSARS-CoV-2以外のウイルスのウイルスプロテアーゼの少なくとも1種の基質に試料を接触させることを更に含み、少なくとも1種の基質に開裂のないことが試料にウイルスが存在しないことの指標となる。
【0029】
更なる実施形態において、本発明の方法においてシグナルの読み取りに適した装置は光学的又は分光学的装置である。この光学的又は分光学的装置はモジュラー式でもよい。より更なる実施形態において、この光学的又は分光学的装置は、蛍光、ルミネッセンス又は燐光を測定するための、ポータブルで高感度の蛍光分光光度計(フルオロメーター)、ルミノメーター、蛍光顕微鏡又はこれらの組み合わせとして作動するように構成される。これらの光学的又は分光学的装置は、劇場、レストラン、仕事場等の公共エリアの入口に便利に置くことができる。また、これらは小型化して、公共エリア、職場、家庭での迅速なポイントオブケア診断に利用することができる。
【0030】
更に他の実施形態において、本アッセイはフルオートマチックのロボットシステムに適用することができる。光学的又は分光学的装置は、蛍光リーディングモジュール、試料ハンドリング機構及びディスペンサー/ピペットモジュールを備える。試料を試料ハンドリング機構にロードし、ここにて処理され、ディスペンサー/ピペットモジュールによって全試薬が添加される。その後、試料の蛍光を測定することでモニターし、指定のソフトウエアで分析する。本実施形態は、複数患者の迅速ラボ用、高スループット診断を意図している。
【0031】
また更なる実施形態において、光学的又は分光学的装置は励起モジュール、試料チャンバー及び取得及び/又は検出器モジュールを備える。試料チャンバーは、ポイントオブケア診断のための複数試料のラボ用高スループット、迅速多重化分析用の蛍光マルチプレートリーダーであってもよい。
【0032】
特定の実施形態において、光学的又は分光学的装置は計算ユニットを更に備える。他の特定の実施形態において、取得及び/又は検出器モジュールと計算ユニットは単一ユニットとして統合され、蛍光発光の取得、その強度の測定、蛍光発光データの処理、及び場合によっては可読形式での表示及び/又は外部メモリー又はユーザーインターフェイスへの出力をするように設計される。
【0033】
更に他の特定の実施形態において、取得モジュールはスマートフォン、又は所望の測定を行うのに適した又はガジェットである。
【0034】
幾つかの実施形態において、検出器は電子増倍電荷結合素子(EMCCD)イメージャ、電荷結合素子(CCD)イメージャ、アバランチフォトダイオード(APD)、光電子増倍管(PMT)、サイエンティフィック相補型金属酸化膜半導体(sCMOS)イメージャ又は、スマートフォンカメラ、独立型カメラ又はモバイルデバイス若しくはガジェットのいずれかのカメラのCMOSイメージャである。本検出器は、焦点合わせ装置やコンピュータリンクを有してもよい。
【0035】
特定の実施形態において、検出器はスマートフォンカメラのCMOSイメージャである。幾つかの実施形態において、このシグナル測定に適したデバイスはラテラルフローデバイスで、スティック方式又は積層方式にすることができる。特定の実施形態において、ラテラルフローデバイスはニトロセルロース膜又はセルロース(紙)膜に基づく。ラテラルフローデバイスは、ウイルスの家庭用又はポイントオブケア検出に適している。
【0036】
本発明はまた、本発明のいずれかの実施形態の方法の実施に適したマイクロ流体チップ又はラボオン-チップを提供する。
【0037】
本発明の他の様相は、配列番号25~33のアミノ酸配列を含む単離ペプチドであり、このペプチドは14アミノ酸残基以下である。この単離ペプチドは検出可能な部分を更に含む。特定の実施形態において、この単離ペプチドは配列番号2~10のいずれか一つのアミノ酸配列からなる。
【0038】
本発明の更なる様相は、固体支持体に結合した本発明の単離ペプチドを含む製造品である。固体支持体は、試験管、マイクロタイタープレート、マイクロタイターウエル、ビーズ、ディップスティック、ポリマー微粒子、磁性微粒子、ニトロセルロース、セルロース又はチップアレイとすることができる。
【0039】
本発明のまた更なる様相は、試料中のSARS-CoV-2検出用の診断キットである。本キットは、本発明の単離ペプチド又は製造品及びペプチドの開裂を検出するための試薬を含む。このキットは、SARS-CoV-2以外のウイルスの存在を特異的に検出する少なくとも1種の試薬を更に含む。
【0040】
本発明の他の様相に従えば、対象の重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染を診断する方法であって、SARS-Co-V2ウイルスの3CL-プロテアーゼを検出する試薬を含む組成物に対象の試料を接触させることを含み、試料中の3CL-プロテアーゼの存在がSARS-Co-V2感染の指標となる方法が提供される。
【0041】
本発明の他の様相に従えば、COVIDに罹っていることが疑われる対象の試料におけるSARS-CoV-2ウイルスを検出する方法であって、SARS-CoV-2ウイルスの3CLプロテアーゼの活性をモニターする試薬を含む組成物に試料を接触させることを含み、試料中の3CLプロテアーゼの活性レベルが試料におけるSARS-CoV-2の存在の指標となる方法が提供される。
【0042】
本発明の実施形態に従えば、試料は粘液、唾液、咽喉洗い液、鼻洗い液、髄液、痰、尿、精液、汗、糞便、血漿、血液、気管支肺胞上皮液、膣液、涙液、組織生検物からなる群から選択される。
【0043】
本発明の実施形態に従えば、試料は唾液試料又は頬側試料である。
【0044】
本発明の実施形態に従えば、剤は3CLプロテアーゼの活性をモニターする。
【0045】
本発明の実施形態に従えば、剤は3CLプロテアーゼの基質ペプチドであって、該ペプチドは、SARS-CoV-2の3C-Lプロテアーゼによるペプチドの開裂に関する検出可能なシグナルを発生する少なくとも1個の部分に結合している。
【0046】
本発明の実施形態に従えば、ペプチドは10~12アミノ酸である。
【0047】
本発明の実施形態に従えば、少なくとも1個の部分はFRET対であり、ペプチドの開裂によってFRET対からシグナルが発生する。
【0048】
本発明の実施形態に従えば、FRET対はAF488とBHQ1である。
【0049】
本発明の実施形態に従えば、FRET対はEDANSとdabcylである。
【0050】
本発明の実施形態に従えば、基質ペプチドは分離部分を更に含む。
【0051】
本発明の実施形態に従えば、試薬は一般式:
X-Y-Z
(式中、
YはSARS-CoV-2の3CLプロテアーゼの基質ペプチドを含み、3CLプロテアーゼによるX-Y-Zの開裂は開裂生成物X-Y’及びY’’-Z(式中、Y’はYの第1開裂生成物であり、Y’’はYの第2開裂生成物である)を生成し、
Xは検出可能な部分を含み、そして
Zは2相分離系の分割相に結合可能な分離部分を含む)で表され、
X-Y-Zは3CLプロテアーゼの自然基質の隣接部を形成しない。
【0052】
本発明の実施形態に従えば、検出可能な部分Xは、酵素、フルオロホア、クロモホア、タンパク質、プロ酵素、化学発光物質及びラジオアイソトープからなる群から選択される標識薬を含む。
【0053】
本発明の実施形態に従えば、分離部分Zは、免疫学的結合剤、磁性結合部分、ペプチド結合部分、アフィニティー結合部分及び核酸部分からなる群から選択される。
【0054】
本発明の実施形態に従えば、基質ペプチドは配列番号13~23からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0055】
本発明の実施形態に従えば、基質ペプチドは配列番号13のアミノ酸配列を含む。
【0056】
本発明の実施形態に従えば、基質ペプチドのアミノ酸配列は、配列番号24~33からなる群から選択される配列からなる。
【0057】
本発明の実施形態に従えば、基質ペプチドは配列番号1~10からなる群から選択される配列である。
【0058】
本発明の実施形態に従えば、基質ペプチドは配列番号8の配列である。
【0059】
本発明の実施形態に従えば、基質ペプチドは蛍光部分に結合する。
【0060】
本発明の実施形態に従えば、試料が唾液試料の場合、本組成物はアンチパイン、AC-DEVD-CHO、アプロチニン、エグリンC、GW、PMSF及び2,6PDAからなる群から選択されるプロテアーゼ阻害剤を含む。
【0061】
本発明の実施形態に従えば、プロテアーゼ阻害剤はPMSF及びGWを含む。
【0062】
本発明の実施形態に従えば、試料が頬側試料の場合、本組成物はPMSF、GW、アプロチニン、エグリンC及びペプスタチンからなる群から選択されるプロテアーゼ阻害剤を含む。
【0063】
本発明の実施形態に従えば、プロテアーゼ阻害剤はPMSF、GW、アプロチニン及びエグリンCを含む。
【0064】
本発明の実施形態に従えば、本方法はSARS-CoV-2以外のウイルスのウイルスプロテアーゼの少なくとも1種の基質に試料を接触させることを更に含み、少なくとも1種の基質に開裂がないことが試料にウイルスが存在しないことの指標となる。
【0065】
本発明の他の様相に従えば、配列番号25~34のアミノ酸配列を含む単離ペプチドであり、14アミノ酸以下のペプチドが提供される。
【0066】
本発明の実施形態に従えば、この単離ペプチドは検出可能な部分を更に含む。
【0067】
本発明の実施形態に従えば、この単離ペプチドは配列番号2~10のいずれか一つのアミノ酸配列からなる。
【0068】
本発明の他の様相に従えば、固体支持体に結合した本発明に記載の単離ペプチドを含む製造品が提供される。
【0069】
本発明の実施形態に従えば、固体支持体はビーズである。
【0070】
本発明の他の様相に従えば、試料中のSARS-CoV-2検出用の診断キットであり、本明細書に記載のペプチド又は本明細書に記載の製造品及びペプチドの開裂を検出するための試薬を含むキットが提供される。
【0071】
本発明の実施形態に従えば、診断キットは、SARS-CoV-2以外のウイルスの存在を特異的に検出する少なくとも1種の試薬を更に含む。
【0072】
本発明の他の様相に従えば、SARS-CoV-2感染症の治療を必要とする対象の前記感染症を治療する方法であって、
(a)請求項2の方法に従って対象におけるSARS-CoV-2感染症を診断することと、
(b)対象を治療することと
を含む方法が提供される。
【0073】
様々な実施形態は各種利益を可能とし、各種の応用と共に利用することができる。一又はそれ以上の実施形態の詳細を添付の図面と以下の記載で明らかにする。記載の技術の他の特徴、目的及び長所は、明細書の記載と図面及び請求の範囲から明らかとなろう。
【0074】
本明細書に開示した実施形態は、添付の図面と共になされた以下の詳細な説明とからより良く理解されるであろう。本明細書に含まれ、記載された図面は説明を目的するものであり、本開示の範囲を限定しない。また、これら図面においては、ある要素のサイズが誇張されることもあるため、説明目的のスケールとは限らないことを記す。サイズ及び相対的なサイズは、本開示を実施するために実際に低減したことには必ずしも該当しない。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【
図1】Histrapカラムから溶出される異なる画分のSDS PAGEゲルを示す。溶出はイミダゾール濃度20mMから250mMまでの19段階の直線勾配で行った。500mMのイミダゾールでの最終溶出を利用して全てのタンパク質の溶出を確実にした。(1+2)18℃及び30℃のそれぞれにおける誘導微生物培養からの全細胞ライゼート。3CLproはライゼートに明らかに存在し、18℃の誘導では、3CLproがより大量であることが示される。(3)Histrapカラムに結合後の18℃誘導ライゼートのフロースルー。
【
図2】229e-3CLproの純度とSARS-CoV-2 3CLproのTEV-開裂を評価するSDS PAGEゲルを示す。(1)ブルーアイで前染色されたタンパク質ラダー。(2)保存用バッファー2中の精製229e-3CLpro。(3)非開裂SARS-CoV-2 3CLpro。(4+5)30℃で1時間と4℃で一晩のそれぞれにおけるTEV-開裂SARS-CoV-2 3CLpro。各試料はHistrapカラムにロードし、非結合フロースルーを回収した。開裂系は約1.7kDa以下であった。(6)ブランクレーン。(7+8)4℃と30℃のそれぞれにおける非精製、TEV-開裂SARS-CoV-2 3CLpro。TEV-プロテアーゼ(28kDa)が確認できる。(9+10)4℃と30℃のそれぞれにおけるTEV-開裂後の、Histrapカラムに結合したタンパク質の溶出。TEV-プロテアーゼが確認され、少量は非開裂SARS-CoV-2-3CLproと思われる。
【
図4】異なる5種の基質(配列番号2~6)と市販の基質(配列番号1)に対する3CLPro活性の比較を示すグラフである。
【
図5A】
図5A~5Fは、異なる5種の試験基質(配列番号2~6)と市販の基質(配列番号1)を用いる3CLPro活性及び唾液活性を示すグラフである。
【
図6】4種の異なる基質(配列番号7~10)に対する3CLPro活性の比較を示すグラフである。
【
図7A】
図7A~7Dは、4種の異なる基質(配列番号7~10)を用いた3CLPro活性及び唾液活性を示すグラフである。
【
図8】本発明の方法による検出機構を概略的に示す。
【
図9】本発明の方法を利用するSARS-CoV-2検出のための酵素活性試験を示す。
【
図10】頬側試料と鼻咽頭(NP)試料の試験結果を示す。各バーは、各対象から得られたマッチした鼻咽頭試料と頬側試料を比較する5個の健全対照(HC)試料対6個の患者試料の平均スロープ値を表す。
【
図11】頬側試料と鼻咽頭(NP)試料の試験結果を示す。
【
図12】患者の開放(discharge)とのオーバーレイの結果を示す。ボックス(P12~P16、P18、P21及びP24)は、プロテアーゼアッセイの結果から48時間以内に開放された患者を示す。少なくとも3個の患者試料は、対照に対して依然として有意なプロテアーゼ活性を示した。これらの結果は、PCR値又は臨床的症状の解消に基づく患者の開放を再考慮すべきことを明らか示している。
【
図13】PCR CT値(サイクル閾値)との関連結果を示す。各バーは、7個の患者試料の平均スロープ比を示し、試料は、3CLプロテアーゼアッセイのための試料採取の48時間以内にマッチするPCR CT値が決定された患者の試料である。3CLプロテアーゼの結果は、ウイルス負荷の代替的な値となり得るCt値と一致している。
【
図14】発症以降のアッセイ結果と日数のオーバーレイを示す。活性な3CLプロテアーゼの証拠は、試験の3週間以上前に最初の症状が見られた各個体からの試料においてなおも確認できた。
【
図15】試料安定性プロファイルを示す。4℃で維持された試料は、バックグラウンドを超える、酵素活性の約40~50%を24時間保持した。0~2時間の間に最も顕著な減少が起きた。0時間から-20℃に維持された試料は48時間の時点でも活性を維持した。頬側及び鼻(中鼻腔介)マトリックスは同等な結果を示した。
【
図16】Covid-19陽性患者25例の実験の範囲内での、患者試料のスロープと平均対照プロテアーゼのスロープとの比を示すグラフである。
【
図17A】
図17のA~Cは、様々な遺伝子の本発明アッセイの感度とPCRアッセイの感度との比較を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0076】
以下の説明において、本願の様々な様相を説明する。説明のため、本願のより良い理解を提供する目的で、具体的構造と詳細を明らかにする。然しながら、本願が本明細書に記載される具体的詳細がなくとも実施可能であることは当業界の技術者にとって明白であろう。更に、本願の曖昧さを回避するために、周知の特徴は省略又は簡略化することがある。
【0077】
請求項で使用する「含む(comprising)」は「オープンエンド」であり、記載した要素、又はその構造的若しくは機能的等価物、加えて記載していない要素を意味する。以降に挙げる手段に限定されるとは解釈されず、他の要素や工程を排除しない。参照される記載の特徴、整数、工程又は成分の存在を特定すると解釈される必要があるが、一以上の他の特徴、整数、工程、成分又はそれらのグループの存在又は付加を排除しない。従って、表現「X及びZを含む組成物」の範囲は、成分X及びZのみからなる組成物に限定すべきでない。また表現「工程x及びzを含む方法」の範囲は、これら工程のみからなる方法に限定すべきでない。「からなる(consisting of)」は「含み且つそれに限定される」を意味する。「実質的に~からなる(consisting essentially of)」は、組成物、方法又は構造が付加的な成分、工程及び/又は部材を含んでもよいが、これら付加的な成分、工程及び/又は部材が権利請求対象の組成物、方法又は構造の基本的且つ新規な特徴を実質的に変更しない場合に限ることを意味する。
【0078】
特に言及しない限り、本明細書における「約(about)」は当業界における通常の許容誤差内と理解され、例えば、平均値の2個の標準偏差の範囲内である。一実施形態において、「約」は、用いられる数の報告される数値の10%以内、好ましくは用いられる数の報告される数値の5%以内を意味する。例えば、「約」は言及される数値の10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%、0.05%又は0.01%以内であることが即座に理解される。他の実施形態において、「約」は、例えば利用する実験技術に関するバラツキの広めの許容誤差を意味し得る。特定の値のこのようなバラツキは当業者に理解されており、本発明の文脈の範囲内にある。具体的には、「約1~約5」の数値範囲は、明確に記載された約1~約5の値を含むだけでなく、示された範囲にある具体的な個々の数値と下位の範囲を含むと解釈すべきである。従って、2、3、4等の個々の値、例えば1~3、2~4、3~5の下位範囲、更には1、2、3、4、5又は6の個々の数字がこの数値範囲に包含される。同様の方針は、最小値又は最大値として記載されるただ一つの数値にも適用される。文脈から明確でないかぎり、本明細書の全ての数値は「約」によって修飾される。その他の類似な用語、例えば、「実質的に(substantially)」、「略(generally)」、「まで(up to)」等は、用語や数値が絶対的なものでないように修飾すると解釈すべきである。このような用語は状況によって定義され、当業者にはこれらによって修飾された用語が理解される。これには、所定の実験、技術又は数値測定に使用される機器に関して見込まれる実験誤差、技術的誤差及び機器関連誤差の程度(範囲)が最低限含まれる。本明細書に数値範囲を示す全ての場合において、その数値範囲内にある数(分数又は整数)のいずれもがその範囲に含まれることを意味する。「間の範囲(ranging/ranges between)」というフレーズは、第1の指示数と第2の指示数の範囲、「範囲から(ranging/ranges from)」は第1の指示数から第2の指示数までの範囲であり、これらは本明細書において交換可能に使用され、第1の指示数と第2の指示数及びその間の分数及び整数の全てを含むことを意味する。
【0079】
本明細書に記載の「方法(method)」は、所定のタスクを達成するための方式、手段、技術及び手続きを意味する。これらの例としては、化学、薬理学、生物学、生化学及び医学の各分野の実務者に知られているこれら方式、手段、技術及び手続き、或いは公知の方式、手段、技術及び手続きから実務者が容易に開発できるこれら方式、手段、技術及び手続きが挙げられるが、これらに限定されない。本明細書に記載の「治療する(treating)」とは、病態の進行を無くすること、実質的に阻害、遅延又は回復させること、臨床的又は審美的な病状を実質的に改善すること、又は臨床的若しくは審美的な病状の出現を実質的に防止することを意味する。本明細書に記載の「診断する(diagnosing)」は、対象におけるウイルスの有無を決定すること、感染症を分類すること、感染症の重度を決定すること、ウイルスの増殖をモニターすること、病理学的結果及び/又はウイルスを有する対象の回復見込みを予測すること、及び/又はウイルスを有する対象をスクリーニングすることを意味する。
【0080】
本明細書に記載の「及び/又は(and/or)」は、関連して挙げられリスト項目の一以上の組み合わせのいずれか又は全てを意味する。特に定義しない限り、本明細書で使用する全ての用語(技術用語及び科学用語を含む)は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者によって通常理解されると同様の意味を有する。通常使われる辞書に定義される用語等の各用語は、明細書の文脈及び関連する技術分野における意味と矛盾しない意味を有すると解釈すべきであり、明確に定義されない限り、理想化された又は過度に形式的な意味と解釈すべきではないことが更に理解されよう。簡潔さ及び/又は明快さのために、良く知られている機能や構造は詳細に記載しないことがある。本明細書の文脈で明確に断らない限り、明細書中の単数形の「a」「an」及び「the」は複数形への言及も含む。例えば、「1種の化合物(a compound)」又は「少なくとも1種の化合物(at least one compound)」は、複数の化合物を含み、それらの混合物も包含することができる。
【0081】
ある要素が他の要素の「上にある(on)」、「結合している(attached to)」、「結合している(connected to)」、「カップリングしている(coupled with)」、「接触している(contacting)」等と表現されている場合、他の要素に直接結合しているか接触していることも、介在要素も存在することもあると理解される。これに対し、例えばある要素が他の要素の「直接上にある(directly on)」、「直接取り付けられている(directly attached to)」、「直接結合している(directly connected to)」、「直接カップリングしている(directly coupled with)」、「直接接触している(directly contacting)」と表現されている場合、介在要素は無い。構造又は形状が他の形状に「隣接する(adjacent)」と表現される場合、隣接形状に重なるか下に位置する部分が存在してもよいことも、当業者には理解されよう。
【0082】
本発明は試験試料中のSARS-CoV-2の検出のための方法、試薬及びキットを提供し、3C-Lプロテアーゼの検出を含む。本発明は、ウイルスの増殖と伝搬に必要であり、且つ細胞性アポトーシスにおいて役割を担う、SARS-CoV-2-コード化酵素の活性形体を選択的に検出する3C-Lプロテアーゼアッセイを利用するCOVID-19の診断に関する。(ウイルスフラグメントとは異なり)生ウイルスを検出することにより、感染状態を診断することが更に可能となる。
【0083】
本発明を実施する間に、本発明者らは、無症状患者と有症状患者の両者から得られる上気道試料及び口内試料にSARS-CoV-2ウイルスを見出し得ることを示した。この活性アッセイは15分以内に結果を提供する(
図3A~C、
図4、
図5A~F、
図6及び
図7A~Dを参照)。更に、本発明者らは、初期症状のある個体と無症状個体を含む、回復した各個体において、持続的で活性なウイルスリザーバーを検出できた。
【0084】
更に本発明を実施する間に、本発明者らは更なるコロナウイルス(表4~6)の3CLプロテアーゼ活性も検出できることを示した。異なるコロナウイルスを検出できる機構ベースのアッセイを行う能力によって、新たな変異が起こってもアッセイ能力が低減しないことが保証される。このアッセイは、ピコルナウイルスでなく、コロナウイルスの同定に特異的であることを示した(表4~6参照)。
【0085】
この試験は試験遂行の速さと精度が高いため、人が密集した施設(例えば、老人ホームや学校)におけるポイントオブケア(POC)迅速診断に特に適している。この検査は無症状の個体を確実に検出することから、旅行業界における利用と医療従事者に対しても好適である。この提案される診断検査を利用すれば、排水試料/プールした試料の検査による集団モニタリングも実施可能である。このアッセイ方式は、家庭内検査に簡単に適用できる。
【0086】
本発明の第1の様相に従えば、対象の試料における重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染を診断する方法であって、当該方法はSARS-Co-V2ウイルスの3CL-プロテアーゼを検出する試薬を含む組成物に試料を接触させることを含み、試料中の当該3CL-プロテアーゼの存在がSARS-Co-V2感染の指標となる方法が提供される。
【0087】
他の実施形態において、COVID-19に罹っていることが疑われる対象の試料におけるSARS-CoV-2ウイルスを検出する方法は、SARS-CoV-2ウイルスの3CLプロテアーゼの活性をモニターする試薬を含む組成物に試料を接触させることを含み、試料中の3CLプロテアーゼの活性レベルが試料におけるSARS-CoV-2の存在の指標となる。この活性レベルによって、試料中のSARS-CoV-2ウイルスの定量も可能となる。
【0088】
幾つかの実施形態において、検出可能な部分は蛍光性部分である。特定の実施形態において、検出可能な部分は、ドナー部分とアクセプター部分のフェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)対であり、基質ペプチドの開裂がFRET対からのシグナルを発生又は調節する。ドナー部分の具体例は量子ドットである。
【0089】
更なる様相において本発明は、COVID-19に罹っていることが疑われる対象の試料中のSARS-CoV-2ウイルスの生体分子的診断のためのヘテロジニアスアッセイ方法であって、アッセイの間、固相が他のアッセイ成分から分離される。当該方法は、
(A)一般式:
X-Y-Z
(式中、
i)YはSARS-CoV-2 3CLプロテアーゼで開裂可能な基質ペプチドであり、
ii)3CLプロテアーゼによるX-Y-Zの開裂は開裂生成物X-Y’及びY’’-Z(式中、Y’及びY’’は基質ペプチドYの2個の開裂フラグメントである)を生成し、
iii)Zは2相分離系の分離相に結合可能な任意の分離部分であり、
iv)開裂剤X-Y-Zは3CLプロテアーゼの自然基質の隣接部を形成せず、及び
v)Xは、3CLプロテアーゼによる基質ペプチドの開裂に関する検出可能なシグナルを発生でき、これによって試料中の3CLプロテアーゼ活性をモニタリングする、検出可能な部分である)
で表される開裂剤を含む組成物に試料を接触させる工程であって、
当該検出可能なシグナルと相関する3CLプロテアーゼの活性レベルは、i)試料中のSARS-CoV-2ウイルスの存在を示し、ii)試料中のSARS-CoV-2ウイルスの定量を可能とする工程と、
(B)このシグナルの測定に適したデバイスでシグナルを記録又は読み取る工程と
を含む方法を提供する。
【0090】
幾つかの実施形態において、検出可能な部分Xは、酵素、フルオロホア、クロモホア、タンパク質、プロ酵素、化学発光物質及びラジオアイソトープからなる群から選択される標識薬を含む。分離部分Zは、免疫学的結合剤、磁性結合部分、ペプチド結合部分、アフィニティー結合部分、核酸部分、ビオチン/ストレプトアビジン部分、量子ドット、メタマテリアル、導電性ポリマー部分、デンドリマー部分、クラウンエーテル又はインプリンティングポリマー部分、アプタマー部分、電気化学的結合部分及び金属ナノ粒子部分からなる群から選択される。
【0091】
特定の実施形態において、試料は粘液、唾液、咽喉洗い液、鼻洗い液、髄液、痰、尿、精液、汗、糞便、血漿、血液、気管支肺胞上皮液、膣液、涙液、組織生検物及び鼻咽頭、中咽頭、中鼻甲介、前鼻及び頬側の各ぬぐい液からなる群から選択される。
【0092】
他の実施形態において、検出可能な部分Xは蛍光性部分である。特定の実施形態において、検出可能な部分Xは、ドナー部分とアクセプター部分のフェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)対であり、基質ペプチドの開裂がFRET対のシグナルを発生又は調節する。ドナー部分の具体例は量子ドットである。
図8は本発明の本方法による検出機構を概略的に示す。
図9は、本発明の方法を利用するSARS-CoV-2検出のために酵素活性試験を示す。
【0093】
ある実施形態において、ドナー部分とアクセプター部分は、FRETプロセスにより蛍光の消光をもたらす、ドナーからアクセプターへのエネルギー移動を許容する配列のペプチドに結合する。他の実施形態において、ドナー部分とアクセプター部分は3以下、5以下、10以下、15以下又は20以下のアミノ酸残基によって分離されている。
【0094】
本発明の本様相に従って検査され得る対象は、感染の症状があってもなくてもよい。これら対象は、感染の保菌者でも非保菌者でもよい。本アッセイの非常に高い確度と感度によって、非常に低レベルのSARS-CoV-2ウイルスの検出が可能となることが理解されよう。従って、本方法は、初期感染後非常に間もない対象の試料中の、或いは他の手段(臨床的評価、分子、抗原、抗体を各ベースとする検査)によって陰性と判定されたが、未だ活性ウイルスを低レベルで含む試料においてもウイルスの検知に利用できる。更に、本方法は無症状対象の試料中のウイルスの検出に利用できる。
【0095】
特定の実施形態において、本発明の方法は、COVID-19に罹っていることが知られている対象への暴露から1日以内の、COVID-19の症状を示さない対象から採取した試料にて実施される。
【0096】
他の特定の実施形態において、本発明の方法は、COVID-19に罹っていることが知られている対象への暴露から2日以内の、COVID-19の症状を示さない対象から採取した試料にて実施される。
【0097】
更に他の特定の実施形態において、本発明の方法は、COVID-19に罹っていることが知られている対象への暴露から3日以内の、COVID-19の症状を示さない対象から採取した試料にて実施される。
【0098】
更に特定の実施形態において、本発明の方法は、COVID-19に罹っていることが知られている対象への暴露から4日以内の、COVID-19の症状を示さない対象から採取した試料にて実施される。
【0099】
更に特定の実施形態において、本発明の方法は、COVID-19に罹っていることが知られている対象への暴露から5日以内の、COVID-19の症状を示さない対象から採取した試料にて実施される。
【0100】
特定の実施形態において、本発明の方法は、COVID-19に罹っていることが知られている対象への暴露から6日以内の、COVID-19の症状を示さない対象から採取した試料にて実施される。
【0101】
他の特定の実施形態において、本発明の方法は、COVID-19に罹っていることが知られている対象への暴露から7日以内の、COVID-19の症状を示さない対象から採取した試料にて実施される。
【0102】
更に他の特定の実施形態において、本発明の方法は、COVID-19に罹っていることが知られている対象への暴露から7日以内の、COVID-19の症状を示さない対象から採取した試料にて実施される。
【0103】
更に特定の実施形態において、本発明の方法は、サイクル閾値CT40以下でのPCR検査が陰性又は陽性の対象から採取した試料にて実施される。
【0104】
SARS-CoV-2ウイルスの3CLプロテアーゼは、34kDトリプシン様システインプロテアーゼである。特定の実施形態に従えば、この3CLプロテアーゼは配列番号34のアミノ酸配列を含む。
【0105】
SARS-CoV-2を検出しうる試料の例としては、唾液、粘液、咽喉洗い液、鼻洗い液、髄液、痰、尿、精液、汗、糞便、血漿、血液、気管支肺胞上皮液、膣液、涙液、組織生検物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0106】
幾つかの実施形態において、試料は汚水試料である。
【0107】
他の実施形態において、試料は唾液を含む。
【0108】
試料は、口、喉の奥又は頬の内側(例えば、頬側ぬぐい液の使用)から採取することができる。
【0109】
試料を得るために使用できるぬぐい液の例としては、頬ぬぐい液や中咽頭及び鼻咽頭ぬぐい液が挙げられる。
【0110】
SARS-CoV-2ウイルスの3CLの活性を決定するために、酵素の基質となるペプチドを用いることができる。このペプチドは、3CLプロテアーゼによる開裂に関する検出可能なシグナルを発生する少なくとも1個の部分に結合する。
【0111】
通常このペプチドは、8~30のアミノ酸長であり、より好ましくは10~20アミノ酸長、更により好ましくは10~15アミノ酸長である。特定の実施形態に従えば、このペプチドは14アミノ酸長以下である。特定の実施形態に従えば、このペプチドは8~12アミノ酸長である。
【0112】
本明細書に記載のペプチドは天然の或いは非天然起源のアミノ酸を含むことができる。
【0113】
用語「アミノ酸」は、20の天然由来アミノ酸や、例えばヒドロキシプロリン、ホスホセリン、ホスホスレオニンを含む、インビボでしばしば後翻訳的に修飾されるアミノ酸、及び、2-アミノアジピン酸、ヒドロキシリシン、イソデスモシン、ノルバリン、ノルロイシン及び/又はニチン等を含む他の特殊アミノ酸を含むと理解される。更に、用語「アミノ酸」はアミノ酸のD体及びL体を共に包含する。
【0114】
以下の表A及びBに、本発明の幾つかの実施形態で使用できる、天然起源のアミノ酸(表A)、また特殊又は修飾アミノ酸(例えば合成アミノ酸、表B)を挙げる。特殊アミノ酸はアッセイにおけるノイズを低減するために用いることができることが理解されよう。
【0115】
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】
本ペプチドのアミノ酸配列は、SARS-CoV-2の3CLによって開裂可能なものを選択する。好ましくは、このペプチドは、ヒト試料における同様なアッセイ条件下ではヒトリノウイルス(HRV)の3Cの基質とはならない。他の実施形態において、このペプチドは、同一のアッセイ条件下で、ヒト試料中のSARS-CoV-2の3CL活性とコロナウイルスファミリーに含まれる他のヒト病原(例えば、CoV-229E)とを区別できるように選択される。
【0120】
特定の実施形態に従えば、本ペプチドは配列番号13~23のアミノ酸配列の少なくとも一を含む。
【0121】
他の実施形態において、本ペプチドは配列番号13~23のアミノ酸配列と少なくとも90%同一な配列を含む。
【0122】
特定の実施形態に従えば、本ペプチドは配列番号13のアミノ酸配列を含む。
【0123】
SARS-CoV-2の3CLの効果的な基質として上に示した、配列番号13のアミノ酸配列を含むペプチドの配列の例は、配列番号24~33である。
【0124】
特定の実施形態において、本アッセイで使用されるペプチドは、配列番号24~33の配列と少なくとも90%同一なアミノ酸配列を有する。
【0125】
他の実施形態において、本アッセイで使用されるペプチドは、配列番号1~12の配列と少なくとも90%同一なアミノ酸配列を有する。
【0126】
本発明のペプチドのアミノ酸は、保存的又は非保存的に置換されていてもよい。
【0127】
特定の実施形態に従えば、ペプチドのアミノ酸は保存的に置換されている。
【0128】
本発明において「保存的な置換」とは、ペプチドの天然配列に存在するアミノ酸と、天然型又は非天然型のアミノ酸又は同様の立体的性質を有するペプチド模倣物との置換を意味する。置換される天然アミノ酸の側鎖は極性又は疎水性であり、保存的置換は、同様に極性又は疎水性(置換アミノ酸の側鎖として同じ立体的性質を有することに加えて)である天然型アミノ酸、非天然型アミノ酸又はペプチド模倣物部分との間で行われるべきである。
【0129】
天然型アミノ酸は通常その性質によってグループ分けされるため、立体的に類似の非荷電アミノ酸による荷電アミノ酸の本発明に係る置換は保存的置換と考えられるという事実を心に留めておくことで、天然型アミノ酸との保存的置換は容易に決定できる。
【0130】
非天然型のアミノ酸による保存的な置換を起こすためには、当業界で良く知られるアミノ酸類似体(合成アミノ酸)も使用できる。天然型のアミノ酸のペプチド模倣物は、知識を有する実務者によく知られている文献に文書化されている。
【0131】
保存的な置換を実施する際、置換アミノ酸はオリジナルのアミノ酸と同一又は同様の官能基を側鎖に有する必要がある。
【0132】
本発明において「非保存的な置換」とは、親配列に存在するアミノ酸の、異なる電気化学的及び/又は立体的性質を有する他の天然起源又は非天然起源のアミノ酸による置換を意味する。従って、置換アミノ酸の側鎖は、置換される天然アミノ酸の側鎖よりも著しく大きくても(又は小さくても)良く、及び/又は置換される天然アミノ酸より著しく異なる電子的性質を示す官能基を有することができる。この種の非保存的な置換の例としては、フェニルアラニン又はシクロヘキシルメチルグリシンのアラニンによる置換、イソロイシンのグリシンによる置換、--NH--CH[(--CH2)5--COOH]--CO--のアスパラギン酸による置換が挙げられる。
【0133】
特定の実施形態に従えば、基質ペプチドのアミノ酸配列は配列番号25~33からなる群から選択される。
【0134】
特定の実施形態に従えば、この基質は配列番号31のアミノ酸配列を有し、Xはシステイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン又はリシンである。特定の実施形態に従えば、Xはシステインである。
【0135】
特定の実施形態に従えば、この基質は配列番号30のアミノ酸配列を有し、Xはシステイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン又はリシンである。特定の実施形態に従えば、Xはシステインである。
【0136】
このように、本発明者ら企図する配列の例は配列番号38又は39の配列である。
【0137】
本発明のペプチドは、ペプチド合成の分野の当業者に良く知られているいずれの技法によっても合成できる。固相ペプチド合成であれば、多くの技法の要約を次の文献:Stewart, J. M. and Young, J. D. (1963), "Solid Phase Peptide Synthesis," W. H. Freeman Co. (San Francisco); and Meienhofer, J (1973). "Hormonal Proteins and Peptides," vol. 2, p. 46, Academic Press (New York)に見出すことができる。古典的な溶液合成の報告としては、Schroder, G. and Lupke, K. (1965). The Peptides, vol. 1, Academic Press (New York)を参照されたい。
【0138】
一般に、ペプチド合成法は1個以上のアミノ酸又は適切に保護されたアミノ酸を成長ペプチド鎖に順次付加することを含み、第1のアミノ酸のアミノ基又はカルボキシル基のいずれかが適切な保護基によって保護されている。保護又は修飾されたアミノ酸は、不活性な固体支持体に付加できるか、或いはアミド結合を形成するために適切な条件下で適切に保護された相補的な(アミノ又はカルボキシル)基を含む配列中において次のアミノ酸を付加することにより溶液中で用いることができる。次に、この保護基を新規に付加したアミノ酸残基から外し、次のアミノ酸(適切に保護された)を更に付加すること等を行うが、このプロセスは洗浄工程を伴うことが普通である。所望のアミノ酸全てが正しい配列にリンクされた後、残存する保護基(及び全ての固体支持体)全てを同時に又は継続的に除去して、最終的なペプチド化合物を得る。この一般的な手続きに簡単な変更を加えることにより、例えば、(キラル中心をラセミ化しない条件下で)保護されたトリペプチドを適切に保護されたジペプチドとカップリングして、脱保護後にペンタペプチドを形成する等により、1個以上のアミノ酸を同時に成長鎖に付加することが可能である。
【0139】
ペプチド合成の更なる記述は、米国特許第6,472,505号に開示される。本発明のペプチド化合物の好ましい調製方法は、固体支持体を利用する固相ペプチド合成を含む。大規模ペプチド合成はAndersson Biopolymers, 2000, 55(3), 227-50に記載される。
【0140】
上述のように、本発明の様相の本ペプチドは、SARS-CoV-2の3C-Lプロテアーゼによるペプチドの開裂に関する検出可能なシグナルを発生する少なくとも1個の部分に結合している。
【0141】
幾つかの実施例帯において、検出可能な部分は、当業者に知られているいずれかの共役方法を利用することで、本発明のペプチドに化学的に共役(カップリング)することができる。例えば、検出可能な部分は次を利用して本明細書に記載の基質ペプチドに共役することができる。N-ヒドロキシスクシンイミドの3-(2-ピリジルジチオ)プロピオン酸エステル(N-スクシイミジル3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネートとも称される)(SDPD)(Sigma社、Cat. No. P-3415)(例えば、Cumber et al. 1985, Methods of Enzymology 112: 207-224)を参照、グルタルアルデヒド共役法(例えば、G.T. Hermanson 1996, "Antibody Modification and Conjugation, in Bioconjugate Techniques, Academic Press, San Diego参照)、又はカルボジイミド共役法[例えば、J. March, Advanced Organic Chemistry: Reaction's, Mechanism, and Structure, pp. 349-50 & 372-74 (3d ed.), 1985、B. Neises et al. 1978, Angew Chem., Int. Ed. Engl. 17:522、A. Hassner et al. 1978, Tetrahedron Lett. 4475、E.P. Boden et al. 1986, J. Org. Chem. 50:2394及びL.J. Mathias 1979, Synthesis 561参照]。
【0142】
追加的に又は代替的に、検出可能な部分は、本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドと検出可能な部分をコードする核酸配列とを翻訳的に融合することによりペプチドと共役する。
【0143】
検出可能なシグナルは、例えば、蛍光シグナル、燐光シグナル、放射性シグナル、カラーシグナル(クロモホアからの発光等)等の直接検出可能なシグナルである。また、検出可能なシグナルは、例えば、プロ酵素(詳細は以降で更に説明)等の間接的に検出可能なシグナルである。検出可能な部分の他の例は、米国特許出願公開第2005/0048473号明細書に詳細に記載され、この全体を本明細書を構成するものとしてここに援用する。
【0144】
タンパク質分解的な基質の開裂をモニターするために当業界で知られているいずれのアッセイも、本発明の本様相に従って利用することができる。
【0145】
一実施形態において、アッセイはホモジニアスアッセイである。本明細書で「ホモジニアスアッセイ」とは、他のアッセイ成分からシグナリング部分を分離する必要がないアッセイを意味する。
【0146】
本組成物は、SARS-CoV-2ウイルスの存在の検査対象試料に接触させる。ウイルスが試料中に存在する場合、ウイルス3CLプロテアーゼも存在する。このプロテアーゼは基質を開裂させ、シグナリング部分からのシグナルの変化を観察できる。この種のホモジニアス蛍光・比色アッセイは当業界で知られている。例えば、Biochemistry, Allinger, Wang Q. M. et al., "A continuous calorimetric assay for rhinovirus-14 3C protease using peptide p-nitroanilides as substrates" Anal. Biochem. Vol. 252, pp. 238-45 (1997)、及びBasak S. et al. "In vitro elucidation of substrate specificity and bioassay of proprotein convertase 4 using intramolecularly quenched fluorogenic peptides" Biochem. J. Vol. 380, pp. 505-14 (2004)を参照されたい。
【0147】
一実施形態において、前記3CLプロテアーゼによる基質ペプチドの開裂に関する検出可能シグナルを発生するペプチドに結合する部分は、フェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)対であり、基質ペプチドの開裂によりFRET対からシグナルを発生させる。以降更に説明するように、このFRET対はドナー部分とアクセプター部分からなる。
【0148】
例えば生化学系における分子間の相互作用を検出する常法は、分子の一を取り出し、何が起きるかを顕微鏡で観察することである。この方法は、空間に偶然起こる相互作用を推定する、分子相互作用の直接測定である。通常の広視野顕微鏡の問題点は、回折の限界が観測可能要素であることである。従って、広視野顕微鏡で解像可能な体積要素は通常、10-15mオーダーであり、これはほぼ立方ミクロンに相当する。しかし、検出が必要な相互作用し合う生体分子単位は10-22mオーダーの非常に小さな体積である。これは、通常の広視野顕微鏡が提供するよりも数オーダー小さい。相互作用を推測するためには共ローカリゼーションを利用することができるが、共ローカリゼーションによって分子相互作用が観察される確率は非常に低い。そこで、検出体積を著しく低下することが可能なFRETが利用される。
【0149】
上述のように、FRET無放射のエネルギー移動であり、この「無放射」が特に重要である。この無放射のエネルギー移動は、励起状態における相互作用分子対のドナーとアクセプターの間の双極子-双極子カップリングに基本的に基づく。これは光子の微々たる放出ではなく、ドナーとアクセプターによる再吸収である。
【0150】
本発明で利用できるFRET定量には多数のアプローチがある。
1)増感発光は、励起と発光のクロストークを校正するアルゴリズムを利用する直接2チャンネルイメージング技法である。
2)アクセプター光ブリーチング(ドナー脱消光と称されることもある)は、アクセプターが光ブリーチされた場合に増加したドナーの発光を計測できる技法である。
3)蛍光寿命イメージングマイクロスコピーFRET(FILM FRET)は、ドナーの蛍光寿命の変化を検出できる技法である。
4)フロオロホアドナースペクトラルイメージングは、波長一ヶ所以上での励起を伴い、ドナー及びアクセプターに両者のスペクトルプロファイルを測定する技法である。
【0151】
FRET対のドナーが例えば青色光で通常に励起された場合、相互転換と予備緩和によってドナーは高励起状態から第1の電子励起状態に非常に早く緩和される。ここから、無放射崩壊相互転換か、光子放出による放出経路のいずれかによって基底状態に戻ることができる。この場合、ドナーの分子軌道はアクセプターの軌道にエネルギー的にカップリングし、双極子-双極子カップリングが起こることで、より非常に短い励起状態寿命の無放射崩壊のためのエクストラチャンネルを創出する。この結果、ドナーの実際の発光量は低下しする。言い換えれば、FRETの増感発光が起これば、ドナーはクエンチされる。同時に、ドナーの放射発光がクエンチされると、アクセプターはこのプロセスにより同じ双極子-双極子カップリングの結果励起され、蛍光の発光が始まる。従って、このプロセスでドナーを励起することにより、発光がアクセプターからも部分的に吸収される。
【0152】
ドナーフルオロホアが励起される単一の励起源が存在することから、増感発光は恐らく最もシンプルなFRET方法である。シグナルをドナー蛍光とアクセプター蛍光の両者から選ばれる発光フィルターを利用して集める。アクセプター蛍光はドナーの存在下で増加するが、ドナー蛍光はアクセプターの存在下で減少する。その後、蛍光強度のレシオメトリー的変化を利用してFRETを測定することができる。これが最も直接的なFRETプロセス測定のアプローチである。このアプローチは、本質的にプロセスにおけるドナー分子のクエンチングに基づくため、アクセプターの蛍光強度を増加させる。このアプローチで記録されるスペクトルイメージは実際に、ドナー(DD)励起時のドナー発光とドナー(DA)励起時のアクセプター発光である。これら強度値の比はFRET効率を示し得る。
【0153】
しかし、以降に説明するドナーのブリードスルーとアクセプターの直接励起のため、上述のようにFRETの直接測定は実用的ではない。これは基本的には2個のフルオロホア(ドナーとアクセプター)間のクロストークである。このように、このアプローチを持って定量的に正確なFRETデータを得ることは非常に難しい。試料中のFRETの存在又は不在を確立するためには、対象実験を追加する必要がある。
【0154】
上の制限にもかかわらず、ドナー又はアクセプターの発光の変化からFRETを推測することは可能である。FRETの定量に使用される主たるパラメータは効率Eであり、これは基本的には、アクセプターにエネルギーを移した励起ドナーの数を、ドナーに吸収された光子の数で割ったものである。従って、これは基本的にはエネルギーをアクセプターに移したドナーの比である。FRET効率Eは次の比として表すことができる。
【0155】
【数1】
(式中、RはFRET効率が50%の場合(励起ドナー分子の半分がそのエネルギーをアクセプターに移す場合)のドナーとアクセプターの距離を表すフェルスター半径(通常ナノメーターのオーダー)であり、rはドナーとアクセプターの距離である)。rはr
6であるため、依存性が非常に急峻となる。従って、FRET効率Eの測定はドナーとアクセプター間の距離rを評価することができる。
【0156】
FRET効率を測定する方法は幾つか存在する。ここで考えるべき重要な点はスペクトルの形状である。通常の励起スペクトルは、常にスペクトルの青色部に向かうテールを有し、スペクトルの赤色部で急峻である。通常の発光スペクトルは、励起スペクトルに対し逆対称を呈し、スペクトルの青色部で急峻であるが、テールは赤に向かう。従って、アクセプターはドナーを励起することなく特異的に励起できるが、ドナーは通常アクセプターを励起することなく励起できない。同様に、ドナー発光はアクセプターを検出することなく検出できるが、アクセプター発光はドナーを検出することなく特異的に検出できない。このように、アクセプターの特異的励起とドナーの特異的な検出は、顕微鏡によるFRET測定に非常に関連するようになる。
【0157】
上述のドナーとアクセプターの間のクロストークの理由から、このアプローチは、ドナーとアクセプターが同一の分子、例えば同一のペプチドにある場合にのみ可能である。この場合、ドナーとアクセプターの化学量論は各画素において一定に保たれる。このことは、例えば、生理学的パラメータ(カルシウム等)の変化又はホスホリル化を測定できるバイオアッセイやバイオセンサーにおいて有効である。従って、増感発光の測定値は迅速な力学的変化の検出に有益とすることができ、FRETダイナミックレンジが大きく、ドナーとアクセプターの化学量論比は1:1に固定される場合に蛍光タンパク質を調べる際に特に有益である。
【0158】
増感発光FRETは、例えば適切なフィルターによる広範囲イメージングのような種々の光学的及び分光学的装置で実施することができる。増感発光FRETは、本アプローチに置いて2種のスぺクトルイメージのみを得ればよいことから、非常に迅速である。しかし、このアプローチは、励起状態の差のみを測定可能であり、ドナーとアクセプターの化学量論比が一定(基本的に多くの場合、同一分子の異なる箇所にラベルをしなければならないことを意味する)であるべきであるため、定量的ではない。言い換えれば、また特に本発明において、増感発光は、所定の目的物(ある病原のDNA分子等)の存在又は不在に関する予備的な情報を得るためのシンプルなFRET方法として利用される。この場合得られた結果により、試料中の分子の存在の初期的な示唆が提供される。この初期的な示唆に基づくと、このシステムは校正可能である。更に、本発明のアルゴリズムは、FRET測定の他のアプローチに基づく、試料の更なる定量感度測定とすることができる。この様相を以下に示す。
【0159】
幾つかの理想的な状況において、アクセプターを励起することなくドナーを特異的に励起でき、且つアクセプターの蛍光のみをモニターできるならば、エネルギー移動がある場合にアクセプター発光を観察できるであろう。従って、ドナーが励起され、アクセプターのみが検出される場合、イメージを得ることが可能である。上で検討した問題点は、アクセプターが直接励起され、アクセプターチャンネルにおいてドナーのブリードスルーが起こるということである。従って、ドナーが励起され、記録されたアクセプター発光が増感発光と同一視されない場合、イメージは基本的に直接励起とブリードスルーを含んでしまっている。従って、どのくらいのアクセプターが通過するかを正確に測定することは不可能である。しかし、アクセプターが励起ピークにおいて直接励起されるのであれば、アクセプターの量を正確に測定することが可能である。通常ドナーがアクセプターの最大励起において励起されないという明らかな理由から、アクセプターの量を正確に測定することができ、非常に特異的な測定となる。
【0160】
同一の分子についてのモル吸光係数(ε)は一定なので、同一のスペクトルにおける2個の特定の励起間の比は一定である。従って、最大励起におけるアクセプター励起によって、ドナー最大発光におけるアクセプターの量を正確に決定することが可能である。ドナーブリードスルーについても全く同じ状況である。ドナーの発光スペクトルが重なるため、ドナーとアクセプターを共に含む試料中のアクセプターを正確に測定することができないが、アクセプターが存在しない特定波長におけるドナーは測定することができる。
【0161】
実際に、FRET測定値の補正ファクターは次のように決定される。まず、ドナーのみを含む試料について、(a)アクセプター最大発光(アクセプター検出チャンネルへのドナーブリードスルーの波長)におけるドナー発光及び(b)ドナー最大発光におけるドナー発光との間の強度比S1を決定する。次に、アクセプターのみを含む試料について、(a)ドナー最大励起におけるアクセプター励起及び(b)アクセプター最大励起との間の強度比S2を決定する。そして、ドナーとアクセプターの両者を含む試料を測定し、ドナー存在下でアクセプターのみを励起することにより、どのくらいのアクセプターが直接励起されるかを決定することができる。
【0162】
このように、FRET実験においてはドナーを発現した後、まずブリードスルー補正を決定する。このドナーをアクセプターの非存在下、試料中で励起するため、二つのスペクトルイメージ、即ち、ドナー最大発光波長(FD)とアクセプターの発光波長(FF)において測定されるドナーが記録される。従って、ブリードスルーについての補正(スカラー)比S1はS1=FF/FDである。この比はスペクトロメーターの設定と使用するドナーのみに依存し、ドナーのみの試料を用いて一度だけ校正される。
【0163】
同様に、直接励起についての補正が導入される。ドナー非存在下の試料中でアクセプターが測定される。二つのスペクトルイメージ、即ち、ドナー最大励起波長(FD)とアクセプターの励起波長(FA)において励起されるアクセプターが記録される。従って、直接励起についてのスカラー比S2はS2=FF/FAである。この比は顕微鏡の設定と使用するアクセプターのみに依存し、アクセプターのみの試料を用いて一度だけ校正される。従って、増感発光については、ドナーがアクセプター励起によって励起されないとした場合、次の3種のイメージが得られる。
1)ドナー励起/アクセプター発光(FF)、
2)ブリードスルー比S1を決定するためのドナー励起/ドナー発光(FD)、及び
3)直接励起のスカラー比S2を決定するためのアクセプター励起/アクセプター発光(FA)。
【0164】
次に、調整されたイメージ強度FFを調整されたアクセプター強度FAで割ることにより、実FRET効率と相互作用分子割合に比例する見掛けFRET効率を得る。このスケーリングは、通常の光学機器(広視野スペクトロメーターや適切なフィルター付きカメラ等)の大部分に容易に導入される。フィルターホイール又は共焦点顕微鏡に対し素早くフィルターを変更できるため、測定は全体として早くできる。しかしこの方法は、スケーリングと補正の後で得られるイメージが相互作用分子の相対濃度に比例し、上述の外校正に依存するため、依然として半定量的である。この方法のシグナル/ノイズ比も、3個の別個の試料を測定する必要があるスケーリングのために低くなる。更に、分子のスペクトルは環境に対して不変であるべきで、例えば、液体環境でも細胞質環境でも同じでなければならない。幸運にも、これは多くの蛍光タンパク質にあてはまる。
【0165】
FRET測定への他のアプローチはアクセプターフォトブリーチングであり、これは実際に定量的である。アクセプターフォトブリーチングは、ドナー蛍光エネルギーの一部がアクセプターに移動する際にFRETにおいてドナー蛍光がクエンチされるという事実に基づく方法である。しかし、アクセプターフルオロホアが蛍光によりフォトブリーチングを止めることで、ドナーのエネルギーの一部を利用するため、ドナー蛍光の全体としての増加に至る。この現象はFRET効率を計算するために利用することができる。この計算は、アクセプターのフォトブリーチング後のアクセプター強度からアクセプター存在下でのドナー強度を引き、この結果をブリーチング後のドナー強度で割ることにより実行される。
【0166】
このアプローチの有利な点は、非常に安定且つ定量的なことである。このアプローチにおいて、ドナーは励起され、次いでその発光が記録される。FRETが起こった場合、FRETが無放射性崩壊のための実際のチャンネルであるため、ドナーはクエンチされて、発光強度は減少する。この方法において、ドナー強度は最初にアクセプターの不在下で測定される必要があり、次いでFRET効率が計算される。問題は、このアプローチが、アクセプターの不在下でドナーが測定される別個の実験が行われるべきことを仮定とすることである。しかし、これは完全に異なる配置と異なる分子濃度であろうし、上述の定量に関する問題があるために別個の測定は回避されるべきである。解決策は、完全に飽和してそれ以上の光子を吸収できないまでにアクセプターを特異的に励起することであり、次いでドナーを再測定する。アクセプター励起の間に前記アクセプターフルオロホアを一時的且つ可逆的に暗所状態(例えば、三重項状態)とすることでも、それ以上の光子の吸収が防止されるであろう。このようなプロセスは「アクセプター飽和」とも呼ばれる。
【0167】
一般に、フルオロホアは光子吸収と後続の低エネルギーレベル(通常、基底状態)から高エネルギーレベル(通常、第一励起状態)への電子の励起を通じて励起することができる。この電子はフォノンを介して一部のエネルギーを失うことがあり、その後光子を放出(蛍光又は自然放出として知られるプロセス)しつつ、自発的に基底状態に戻る。蛍光放出の寿命は通常数ナノ秒である。フルオロホアの励起電子の第2の緩和メカニズム(蛍光以外)は、三重項への系間交差を通じたメカニズムである。このような遷移は量子化学的に禁制であるため、断面積は比較的低レベルで、寿命は通常マイクロ秒(蛍光寿命より著しく長い)である。更に、電子は続いて他のメタ安定電子レベルに移動することができる(例えば、他の分子との衝突)。特に、これら遷移は光子の放出を伴わない(或いは放出の効率が非常に低い)。従って、これら状態は実際には暗室状態と考えられる。本発明において、アクセプターはもはや励起ドナーとはエネルギーをシェアできないので、アクセプター電子の三重項への電子的系間交差と追加的な暗室状態はFRETの頓挫に寄与する。この頓挫は、暗室状態がアクセプター励起のモジュレーション時間に対して一時的(マイクロ秒からミリ秒)である限り、また各遷移が可逆である限り、本発明において有用である。従って、アクセプター励起中にアクセプターフルオロホアが一時的且つ可逆的な暗室状態(例えば、三重項状態)に入るプロセスは、本明細書においても「アクセプター飽和」の定義に包含される。
【0168】
このアプローチにおいて、アクセプターが飽和すると、ドナーがクエンチされないようになり、発光強度が上がることになる。これは実際に、アクセプター不在時と同じ状況である。この方法におけるFRETの見かけの効率は次のとおりである。
【0169】
【数2】
(式中、F
Dは、ドナーが活性アクセプターによってクエンチされた時に記録されたドナースペクトルイメージ、F
D
≠は、アクセプターがフォトブリーチされた時に記録されたドナースペクトルイメージ)。これは実施例の項でより詳細に定義する。
【0170】
このアプローチは半定量的ではあるものの、複雑な真の効率の比率に比例する示度を提供する。従って、この意味から寧ろ強度ベースの方法としては最も定量的な方法であり、増感発光測定に行われる外校正を必要としない。この方法におけるブリーチングによって、コントロールは実際内部である。
【0171】
上述のFRET蛍光技法と共に、近接ライゲーション(PLA)、二分子蛍光補完(BiFC)、蛍光相間スペクトロスコピー(FCS)等、他の先進的な分光学的技法が本発明に利用できる。
【0172】
本明細書において「ドナーフルオロホア」とは、初期の電子励起状態において無放射双極子-双極子カップリングを通じてアクセプターフルオロホアにエネルギーを移すことができる感光性蛍光性分子を意味する。ドナーフルオロホアは、ブライト(高い量子収率と高い吸収係数を有する)で、安定(長い蛍光励起状態と低フォトブリーチングを有する)で、しかもアクセプターフルオロホア励起光に無感度でなければならない。
【0173】
本明細書において「アクセプターフルオロホア」とは、初期の基底電子状態において無放射双極子-双極子カップリングを通じてドナーフルオロホアからエネルギーを受容することができる感光性蛍光性分子を意味する。このアクセプターフルオロホアは、ドナーフルオロホアから大きなフェルスター距離R0(アクセプターフルオロホアの吸収スペクトルとドナーフルオロホアの蛍光発光スペクトルとの高度のスペクトル的重なり)と低いフォトブリーチングを有していなければならないし、その蛍光発光スペクトルとドナーフルオロホア蛍光発光スペクトルとの間にクロストークが無いドナーフルオロホア励起光に感度があってはならないし、光励起下での蛍光放出の可逆的飽和を行う能力がなければならない。
【0174】
本発明で使用される合成フルオロホアは、以下の表Cに挙げられる一般的又は個別のフルオロホアを含むことができるが、これらに限定されない。
【0175】
【0176】
本発明のペプチドと共に使用できるドナーフルオロホアの例としては、CAL Fluor(登録商標)Gold 540、CAL Fluor(登録商標)オレンジ560、Quasar(登録商標)670、Quasar(登録商標)705、5-FAM(それぞれ5-カルボキシフルオレセイン、またスピロ(イソベンゾフラン-1(3H),9’-(9H)キサンテン)-5-カルボン酸、3’,6’-ジヒドロキシ-3-オキソ-6-カルボキシフルオレセインとも称される)、5-ヘキサクロロ-フルオレセイン([4,7,2’,4’,5’,7’-ヘキサクロロ-(3’,6’-ジピバロイル-フルオレセイニル)-6-カルボン酸])、6-ヘキサクロロ-フルオレセイン([4,7,2’,4’,5’,7’-ヘキサクロロ-(3’,6’-ジピバロイルフルオレセイニル)-5-カルボン酸])、5-テトラクロロ-フルオレセイン([4,7,2’,7’-テトラクロロ-(3’,6’-ジピバロイルフルオレセイニル)-5-カルボン酸])、6-テトラクロロ-フルオレセイン([4,7,2’,7’-テトラクロロ-(3’,6’-ジピバロイルフルオレセインyl)-6-カルボン酸])、5-TAMRA(5-カルボキシテトラメチルローダミン、キサンチリウム、9-(2,4-ジカルボキシフェニル)-3,6-ビス(ジメチル-アミノ)、6-TAMRA(6-カルボキシテトラメチルローダミン、キサンチリウム、9-(2,5-ジカルボキシフェニル)-3,6-ビス(ジメチルアミノ)、EDANS(5-((2-アミノエチル)アミノ)ナフタレン-1-スルホン酸)、1,5-IAEDANS(5-((((2-インドアセチル)アミノ)エチル)アミノ)ナフタレン-1-スルホン酸)、DABCYL(4-((4-(diメチルアミノ)フェニル)アゾ)安息香酸)、Cy5(インドジカルボシアニン-5)、Cy3(インド-ジカルボシアニン-3)、及びBODIPY FL(2,6-ジブロモ-4,4-ジフルオロ-5,7-ジメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン-3-プロピオン酸)、ROX及びこれらの好適な誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。更なる例としては、フルオレセイン、フルオレセインクロロトリアジニル、ローダミングリーン、ローダミンレッド、テトラメチルローダミン、FITC、オレゴングリーン、Alexa Fluor(例えばAF488)、FAM、JOE、HEX、テキサスレッド、TET、TRITC、シアニン系染料及びチアジカルボシアニン染料が挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態に従えば、フルオロホアはAF488又はEDANSである。
【0177】
一実施形態において、ドナー部分は量子ドットである。量子ドットは半導体材料から造られる被覆ナノクリスタルで、発光スペクトルがナノクリスタルサイズによってコントロールされている。量子ドット広範な吸収スペクトルを示すので、単一の励起源による同時多色蛍光が可能となる。量子ドットは、アミノ(PEG)又はカルボキシル量子ドットのストレプトアビジンへの結合体(米国、カリフォルニア州、ヘイワード、Quantum Dot Corporation)等の小分子やリンカー部分の多数によって修飾され得る。
【0178】
本発明の幾つかの実施形態において、ドナー部分とアクセプター部分は、FRETにより蛍光の消光をもたらす、ドナーからアクセプターへのエネルギー移動を許容する配列のペプチドに結合する。
【0179】
一実施形態において、ドナー部分とアクセプター部分は3以下又は5以下のアミノ酸残基によって分離されている。他の実施形態において、ドナー部分とアクセプター部分は10以下のアミノ酸残基によって分離されている。更に他の実施形態において、ドナー部分とアクセプター部分は15以下のアミノ酸残基によって分離されている。更に他の実施形態において、ドナー部分とアクセプター部分は20以下のアミノ酸残基によって分離されている。
【0180】
幾つかの実施形態において、上述のFRET効率Eはそれ自体、どんな検出機器によってもクエンチ効果が最低限検出できること以外は限定されない。アクセプターの存在下でドナーから放出される蛍光が少なくとも10%、例えば15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%、99.9%、またはそれら以上減少した場合に蛍光は「消光した」と考えられる。
【0181】
上述のように、本発明で使用されるアクセプター部分は、FRET機構及び利用される技法によって、放射性でも非放射性でもよい。幾つかのアクセプターフルオロホア、例えばテトラメチル-6-カルボキシローダミン(TAMRA)は、ドナーフルオロホアから吸収されたエネルギーを、やはり検出可能ではあるがドナーフルオロホアの発光とは区別可能なシグナルタイプを利用するための波長にて再放出できる。Black Hole Quencher-1(BHQ-1)、Black Hole Quencher-2(BHQ-2)、Black Hole Quencher-3(BHQ-3)を含む各Black Hole Quencher(BHQ)等の他のアクセプター部分は元々の蛍光がないため、上述の背景的な問題が実質的に無く、他のアクセプターと共に見られる。各Black Hole Quencherは、殆ど全てのドナーフルオロホアをクエンチするために使用でき、例えばBiosearch Technologies,Inc.(米国、カリフォルニア州、ノヴァート)の市販品として入手できる。
【0182】
本発明で企図されるFRET対の例としては、フルオレセインイソチオシアネート/テトラメチル-6-カルボキシローダミン(FITC/TAMRA)、フルオレセインアミダイト/TAMRA(FAM/TAMRA)、FAM/black hole quencher-1(FAM/BHQ1)、AF488とBHQ1(AF488/BHQ1)、及びEDANSとDabcyl(EDANS/dabcyl)が挙げられる。
【0183】
一実施形態において、ペプチドのC末端はアクセプター部分に結合し、ペプチドのN末端はドナー部分に結合する。
【0184】
他の実施形態において、ペプチドのC末端はアクセプター部分に結合し、ドナー部分はN末端から3個以内のアミノ酸に結合する。
【0185】
更に他の実施形態において、ドナー部分は、それ自身が基質配列の一部ではない分離部分に(例えばシステインに)結合する。
【0186】
FRET対を含む企図するペプチドは、配列番号1~10のペプチドを含む。一実施形態において、このペプチドは配列番号2~10のペプチドである。特定の実施形態において、このペプチドは配列番号8のアミノ酸配列を有する。
【0187】
本発明の他の実施形態において、シグナリング部分は化学発光シグナリング部分である。この化学発光シグナリング部分は、基質の開裂領域の一端に結合し、アクセプター部分は同じ開裂領域の他端に結合する。その全内容を本明細書に援用する米国特許第6,243,980号は、化学発光性1,2-ジオキセタン化合物をシグナリング部分として使用することを含むこの種の検出システムを開示している。仮に試料中にウイルスのプロテアーゼが存在しなければ、基質の開裂は起こらない。1,2-ジオキセタンの分解に起因するエネルギーはアクセプター部分に移り、1,2-ジオキセタンの発光スペクトルとは異なる波長で放出される。基質が開裂した場合、アクセプター部分が1,2-ジオキセタンから分離され、ジオキセタン化合物からの化学発光が観察される。
【0188】
SARS-CoV-2の3CLプロテアーゼの酵素活性は、その全内容を本明細書に援用するWang, Q. M. et al. “A continuous colorimetric assay for rhinovirus-14 3C protease using peptide p-nitroanilides as substrates” Anal. Biochem. Vol. 252, pp. 238-45 (1997)に記載の色素源基質を用いて検出することができる。タグ付き基質を使用してプロテアーゼの開裂能を決定する。使用される第1のペプチド基質はp-ニトロアニリンを用いてタグ付けされる。p-ニトロアニリンがペプチドから開裂する場合、シグナルが発生する。この開裂によって芳香性π電子系が形成され、この電子系の存在により、電磁スペクトルの405nmレンジが吸収される。開裂されたp-ニトロアニリンのナノモル吸光係数は104mol-1cm31である。
【0189】
また、蛍光タグが一端に結合し、クエンチャーが他端に結合した基質が造られる。ペプチドが開裂すると、蛍光が検出される。他のタグは、発色反応を利用する同様の原理を利用している。
【0190】
他の実施形態において、3CLプロテアーゼ活性を検出するために利用されるアッセイは、ヘテロジニアスアッセイである。「ヘテロジニアスアッセイ」は、アッセイの間に固相が他のアッセイ成分から分離されるアッセイである。この場合、基質は次の一般式:
X-Y-Z
(式中、Yはウイルスプロテアーゼの基質を含み、前記ウイルスプロテアーゼによるX-Y-Zの開裂で開裂生成物X-Y’及びY”-Z(式中、Y’はYの第1開裂生成物であり、Y’はYの第2開裂生成物である)が生成し、
Xは検出可能な部分を含み、そして
Zは2相分離系の分割相に結合可能な分離部分を含む)
を有することができる組成物中に含まれ、前記X-Y-Zは前記ウイルスプロテアーゼの自然基質の隣接部を形成しない。
【0191】
検出可能な部分Xは、直接又は間接に検出でき、酵素、フルオロホア、クロモホア、タンパク質(例えば、エピトープタグ)、化学発光物質及びラジオアイソトープ等のラベル化剤を含むことができる。
【0192】
分離部分Zは、2相分離系の分離相(例えば、固相と液相)に直接又は間接に結合することができる。分離部分Zの例としては、免疫学的結合剤、磁性結合部分、ペプチド結合部分、アフィニティー結合部分及び核酸部分が挙げられる。
【0193】
本発明の組成物は、試料のインキュベーションに先立って、同時に又は続いて、分離系と共にインキュベートすることができる。
【0194】
検出可能な部分が分離部分に結合しない対策を講じるべきである。
【0195】
一実施形態において、本発明の検出可能な部分はプロ酵素である。従って、基質の開裂に際して、この酵素は活性化されて検出(酵素の触媒活性の検出により)することができる。このようなプロ酵素の例はこのカスケードにおけるプロトロンビン(第II因子)や他の酵素である。
【0196】
本明細書に記載の実施形態のいずれかにおいて、いずれの部分も共有結合で直接又は、両端にカップリング官能基を有するスペーサー分子を介して間接的にペプチドに結合することができる。このようなリンカーの例としては、アルキル、グリコール、エーテル、ポリエーテル、ポリヌクレオチド、ポリペプチドの各分子が挙げられる。
【0197】
ヘテロジニアスアッセイへの利用に好適な固相としては、試験管、マイクロタイタープレート、マイクロタイターウエル、ビーズ、ディップスティック、ポリマー微粒子、磁性微粒子、ニトロセルロース、チップアレイ、当業者に馴染みのある他の各種固相が挙げられるが、これらに限定されない。ヘテロジニアスアッセイで使用されるシグナリング基は当業者に知られているいずれかのラベルが可能である。このようなラベルには、放射性、比色分析、蛍光性、発光性の各ラベルが含まれる。
【0198】
プロテアーゼ検出のためのヘテロジニアス化学発光アッセイは、その全内容を本明細書に援用する米国特許第56,243,980号明細書に開示されている。一実施形態において、本発明のホモジニアス又はヘテロジニアスアッセイの方法は、ウイルス疾患に感染したと思われる対象に検査中の医療スタッフが曝される必要なく結果が得られるように自動化される。例えば、対象はクリーンルーム(例えば、P3タイプの実験室等)で検査することができる。この対象は、この部屋に入る前に、上述のタイプのラベル化ペプチドでコートした固相を含むことができる診断キットをピックアップ又は入手することができる。固相は、例えば、前もってペプチドに浸漬したティッシュや、妊娠検査に使われるような検査スティックとすることができる。対象は、固相上の予め設けられたスポットに試料(例えば、唾液試料)を供給することができる。
【0199】
その後、試料を含む固相をインキュベートして酵素反応を発生させる。一実施形態において、反応温度は37℃に制御して、酵素反応に最適な条件を提供する。インキュベーションが完了すると、検査対象の試料を分光測定器で測定することができるが、測定はリモートコントロールを利用しても、室外からマニュアルで操作できる機械システムを利用してもよい。試料は定量的な比色検出又はUV検出で検査することができる。試験後、試料はオートシステム又は、試料を捨てる遠隔操作ハンドルにて廃棄することができる。
【0200】
一実施形態において、本明細書に記載のペプチドは一端にてビオチン部分に、他端にてHCGホルモンに結合される。3CLプロテアーゼは、妊娠検査(又は同様の検査)のための構造のラテラルフローデバイスを利用して検出することができる。
【0201】
検出可能なシグナルを分析又はモニタリングする方法は当業界で知られている。一実施形態において、アッセイはマルチウエルプレート(例えば、96又は384ウエルプレート)で行われ、プレートリーダー(例えば、TMGプレートリーダー)がシグナルの検出に利用される。これは、特に教育の場(例えば、学校や大学)等の公共スペースや旅行関連の場(例えば、空港やホテル)における迅速な検出に適切であり得る。
【0202】
本発明において、光学的及び分光学的装置の多くの異なる配置が可能である。例えば、本発明の光学的装置は蛍光、発光又は燐光測定のためのモジュールとして、またポータブルで高感度な蛍光分光光度計(フルオロメーター)、ルミノメーター、蛍光顕微鏡又はそれらの組み合わせとして作動するよう構成することができる。これら光学的装置は、劇場、レストラン、職場等の公共の場の入口に便利に置くことができる。これらのサイズ縮小バージョンは、公共エリア、職場及び家庭内における迅速なポイントオブケア診断に利用することができる。
【0203】
本発明の光学的装置の励起モジュール、試料チャンバー及び受容モジュールは、望まれる応用や特定の応用に適するように構成することができる。例えば、試料チャンバーは、ポイントオブケア診断の複数試料のラボ用のハイスループット迅速マルチプル化分析の蛍光マルチプレートリーダーとして選択することができる。
【0204】
幾つかの実施形態において、蛍光の発光を受け入れて、その強度を測定し、蛍光発光データを処理し、任意的にその結果を可読フォーマットとして表示する、及び/又は外部メモリー又はユーザーのインターフェースに出力するように設計された単一ユニットと検出器及び計算ユニットを組み合わせる。他の特定の実施形態において、受容モジュールは、所望の測定を行うのに適したスマートフォン又はモバイルデバイス若しくはガジェットの一部であることができる。ある実施形態において、検出器は、電子多重化電荷結合素子(EMCCD)イメージャ、電荷結合素子(CCD)イメージャ、アバランチフォトダイオード(APD)、光電子増倍管(PMT)、サイエンティフィック相補型金属酸化膜半導体(sCMOS)イメージャ又は、スマートフォンカメラ、独立型カメラ又はモバイルデバイス若しくはガジェットのいずれかのカメラのCMOSイメージャである。本検出器は、焦点合わせ装置やコンピュータリンクを有してもよい。特定の実施形態において、この検出器はスマートフォンカメラのCMOSイメージャである。
【0205】
更に特定の実施形態において、受容モジュール付きの試料チャンバーには蛍光顕微鏡が設置され、或いは前記光学デバイスは、単一ケースにインストールされた合体フルオロメーターと蛍光顕微鏡であるか、前記光学デバイスは蛍光顕微鏡に組み込まれている。前記顕微鏡は、単一分子のローカリゼーションからの原データをビデオ又は一連の静止画像として創出し、顕微鏡で創出したこの原データを更に処理し、前記蛍光発光強度データと前記顕微鏡原データを統合し、分子相互作用と単一分子のナノメータープロキシミティに関する情報を可読フォーマットで、又は前記情報を外部メモリー又はユーザーインターフェイスへ出力して提供するように設計されている。特定の実施形態において、前記試料チャンバーは、複数試料の試料多重化に適した多重化分光学的又はイメージングデバイスまたはその一部である。このような多重化デバイスの一例は上述のマイクロプレートリーダーである。
【0206】
フルオロメーターの機能を使用する場合、励起源は、所定の波長帯又は前記ドナーフルオロホア又は前記アクセプターフルオロホアそれぞれのピーク波長付近で前記ドナーフルオロホア励起光及び前記アクセプターフルオロホア励起光を発光するように構成された広範囲スペクトルハロゲンランプ、アークランプ、水銀灯から選択することができる。この場合の励起モノクロメーターは光電子増倍管(PMT)とすることができ、発光モノクロメーターは回折格子とすることができる。
【0207】
顕微鏡の機能を使用する場合、第1及び第2の励起モノクロメーターはそれぞれ第1及び第2の励起フィルターである。前記発光モノクロメーターが前記ドナーフルオロホアの発光の狭波長ビームを伝えるよう構成された発光フィルターである一方、これらフィルターは対応する励起源からの光の励起波長の狭波長ビームを選択して伝えるよう構成されている。
【0208】
本発明において検出可能なシグナルを分析するための他のデバイスは、ラテラルフローデバイスであり、これはスティック方式又は積層方式にすることができる。ラテラルフローデバイスは標準的なニトロセルロース膜又はセルロース(紙)膜に基づく。このタイプのデバイスは、ウイルスの家庭用又はポイントオブケア検出に適している。
【0209】
特定の実施形態において、本発明のバイオアッセイはマイクロ流体チップ又はラボオン-チップに利用される。本発明の方法はこのようなチップを実行するに利用することができる。
【0210】
CELLSCAN(登録商標)(米国、ニューヨーク州、ニューヨーク、Medis Technologies, Ltd.)は、プロテアーゼ活性のモニタリングに使用できるサイトメーターである。CELLSCANの心臓部は10,000までのウエルを有するセルキャリアーである。CELLSCANサイトメーターの説明書及びガンや自己免疫疾患の診断のための他の使用例はwww(dot)medisel(dot)com.を参照されたい。
【0211】
CELLSCANプローブには、上述のようなペプチド基質がロードされている。このペプチド基質には、開裂領域の一端にドナー部分が、同開裂領域の他端にアクセプター部分がタグ付けされている。検査試料はプローブにロードされる。活性なプロテアーゼが存在するならば、CELLSCANは開裂したペプチドによる蛍光を検出する。試料中の活性プロテアーゼの存在と濃度は、活性ウイルスを示唆し、患者の感染(保菌)状態を示す指標となる。
【0212】
他の実施形態において、ティッシュペーパーをベースとする自動化システムをSARS-CoV-2の検出に利用することができる。SARS-CoV-2の3CLプロテアーゼに特異的なカラータグ付きペプチド基質(上に開示の)の溶液を調製する。ティッシュ(例えば、ウエットワイプティッシュ)を基質化合物溶液に浸漬して湿潤を保つ。SARS-CoV-2ウイルスを含むことが疑われる試料をティッシュに接触させる。SARS-CoV-2ウイルスが存在するならば、3CLプロテアーゼがタグ付きペプチド配列を開裂し、反応液が発色するか、変色する。
【0213】
色のついた反応生成物の検出には幾つかの可能性がある。定性分析に関しては、発色反応は視覚的に検知することができる。定性分析については、蛍光又は色を検出するために、ティッシュを分光学的アナライザーに移送する。このプロセスは、アッセイの実施者を感染から守るために自動化することができる。
【0214】
特定の実施形態に従えば、本アッセイはSARS-CoV-2を30分未満で、好ましくは20分未満で検出することができる。
【0215】
上述のように、対象の試料に一旦SARS-CoV-2が検出されれば、この対象をSARS-CoV-2感染(即ち、COVID-19を有する)と診断することが可能である。
【0216】
従って、本発明の他の様相に従えば、対象における重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染を診断する方法であって、当該方法はSARS-Co-V2ウイルスの3CL-プロテアーゼを検出する試薬を含む組成物に前記対象の試料を接触させることを含み、試料中の前記3CL-プロテアーゼの存在がSARS-Co-V2感染の指標となる方法が提供される。
【0217】
本明細書において、「診断する」は、対象におけるウイルスの有無を決定すること、感染症を分類すること、感染症の重度を決定すること、ウイルスの増殖をモニターすること、病理学的結果及び/又はウイルスを有する対象の回復見込みを予測すること、及び/又はウイルスを有する対象をスクリーニングすることを意味する。
【0218】
一実施形態において、3CL-プロテアーゼの活性がモニターされ、一定量(例えば、陰性対照の試料に存在する活性)を超える活性は、対象がCOVID-19を有することの指標となる。3CL-プロテアーゼ活性のモニタリングは上で説明した。
【0219】
他の実施形態において、試料中の3CL-プロテアーゼの量が決定され、一定量(例えば、陰性対象の試料に存在する量)を超える酵素量は、対象がCOVID-19を有することを示す。
【0220】
試料中の3CL-プロテアーゼの定量は、以降に要約するようなタンパク質レベル又はポリヌクレオチドレベルに近づけることができる。
【0221】
3CL-プロテアーゼの発現及び/又は活性の検出方法
3CL-プロテアーゼの発現レベルは、当業界で知れられている方法により決定することができる。通常、これらの方法は3CLプロテアーゼに特異的に結合することができる抗体に基づく。従って、幾つかの実施形態に従う本発明は、血清イムノグロブリン、ポリクローナル抗体又はそのフラグメント(即ち、その免疫反応性誘導体)又はモノクローナル抗体又はそのフラグメントの使用も企図している。モノクローナル抗体又はその精製フラグメントは、抗原結合領域の少なくとも一部を有し、その例としては以下に記載するフラグメント、キメラ又はヒト化抗体、相補性決定領域(CDR)が含まれる。3CLプロテアーゼの検出に利用可能な抗体の一例は市販品である(Novus Biologicals、カタログ番号:NBP1-78110)。
【0222】
本発明の3CLプロテアーゼ抗体には、種々のタイプの検出可能な部分又はレポーター部分が結合することができる。これらの例としては、放射性同位体([125]ヨウ素等)、燐光化学物質、化学発光化学物質、蛍光化学物質(フルオロホア)、酵素、蛍光ポリペプチド、アフィニティタグ、及び陽電子放出断層撮影(PET)又は核磁気共鳴画像法(MRI)により検出される分子(コントラスト剤)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0223】
好適なフルオロホアの例は本明細書に先に記載のものである。蛍光検出可能な部分に結合した際の抗体の検出に利用可能な蛍光検出方法としては、例えば蛍光活性化フローサイトメトリー(FACS)、免疫蛍光共焦点マイクロスコピー、蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(FISH)、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)が挙げられる。
【0224】
多数の種類の酵素が抗体[例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HPR)、β-ガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼ(AP)]に結合でき、酵素結合抗体の検出は、ELISA(例えば、溶液内)、酵素結合免疫組織染色アッセイ(例えば、固定組織における)、酵素結合化学発光アッセイ(例えば、電気泳動で分離したタンパク質混合物における)又は当業界で知れられている他の方法[例えば、Khatkhatay MI. and Desai M., 1999. J Immunoassay 20:151-83; Wisdom GB., 1994. Methods Mol Biol. 32:433-40、Ishikawa E. et al., 1983. J Immunoassay 4:209-327、Oellerich M., 1980. J Clin Chem Clin Biochem. 18:197-208、Schuurs AH. and van Weemen BK., 1980. J Immunoassay 1:229-49を参照)を利用して行われる。
【0225】
アフィニティタグ(即ち、結合対の一メンバー)は、対応する抗体によって認識可能な抗原[例えば、抗DIG抗体によって識別されるジゴキシゲニン(DIG))、又はタグに対して高い親和性を有する分子[例えば、ストレプトアビジン及びビオチン]であることができる。この抗体、或いはアフィニティタグに結合する分子は蛍光ラベルされることも、上述の酵素に結合することもできる。
【0226】
ストレプトアビジン分子又はビオチン分子を抗体に結合するには、当業界で広く実施されている各種方法を利用することができる。例えばビオチン分子は、実施例のセクションに記載するビオチンプロテインリガーゼ(例えばBirA)の認識配列を介して本発明の抗体に結合させることができる。これは、Denkberg, G. et al., 2000. Eur. J. Immunol. 30:3522-3532に従う。また、ストレプアビジン分子は一本鎖Fv等の抗体フラグメントに結合させることができる。これは基本的に次に記載される。Cloutier SM. et al., 2000. Molecular Immunology 37:1067-1077、Dubel S. et al., 1995. J Immunol Methods 178:201、Huston JS. et al., 1991. Methods in Enzymology 203:46、Kipriyanov SM. et al., 1995. Hum Antibodies Hybridomas 6:93、Kipriyanov SM. et al., 1996. Protein Engineering 9:203、Pearce LA. et al., 1997. Biochem Molec Biol Intl 42:1179-1188)。
【0227】
ウエスタンブロット
この方法では、アクリルアミドゲルによって他のタンパク質から基質を分離した後、この基質を膜(例えば、ナイロン又はPVDF)に移す。その後、基質の存在を基質に特異的な抗体で検出し、今度は抗体結合試薬で検出する。抗体結合試薬は、例えば、プロテインA又は他の抗体であることができる。抗体結合試薬は、上述のように放射ラベルされるか酵素結合されてもよい。検出はオートラジオグラフィー、比色反応又は化学発光とすることができる。本方法によれば、電気泳動におけるアクリルアミドゲル中の移動距離を示す膜上の相対的位置により、基質の定量と同定が共に可能となる。
【0228】
ラジオイムノアッセイ(RIA)
本方法は一形式において、所望のタンパク質(即ち、基質)が、アガロースビーズ等の沈殿可能なキャリアーに固定された特異的抗体と放射ラベル化された抗体結合タンパク(例えば、I125でラベルされたプロテインA)と共に沈殿する。沈澱ペレットにおける放射カウントは基質の量に比例する。
【0229】
RIAの他の形式においては、ラベル化基質と非ラベル化抗体とを結合するタンパク質を用いる。量不明の基質を含む試料を各種の量で添加する。ラベル化基質からの沈殿カウントの減少は、添加試料中の基質の量に比例する。
【0230】
蛍光活性化セルソーティング(FACS)
本方法では、細胞中の基質を基質特異的抗体によってインサイチューで検出する。基質特異的抗体はフルオロホアに結合する。検出は、光ビームを通過させた際の各細胞から放出される光の波長を読みとる細胞ソーティング機によって行う。この方法では、2種以上の抗体を同時に用いることができる。
【0231】
免疫組織染色
本方法では、基質特異的抗体によって固定細胞中の基質をインサイチューで検出する。基質特異的抗体は酵素結合か、フルオロホアへ結合させることができる。検出は顕微鏡観察と主観的又は自動化された評価によって行われる。酵素結合抗体を用いるなら、比色反応が必要となろう。免疫組織染色はその後、例えばヘマトキシリン染色やギムザ染色を使用して細胞核をカウンター染色することが多いことが理解されよう。
【0232】
SARS-CoV-2感染の陰性診断が確立した場合、本発明者らは、対象に診断結果を知らせるために発するメッセージや通知を更に想定している。
【0233】
SARS-CoV-2感染の陽性診断が確立した場合、本発明者らは、感染症の治療及び/又は管理を更に想定している。
【0234】
COVIDの治療の例としては、抗ウイルス薬の投与、抗ウイルス療法、入院、人工呼吸、観血的モニター、最終的な薬剤、鎮静、集中治療入り、外科的介入、入院、隔離が挙げられる。
【0235】
更なる実施形態に従えば、感染陽性と診断された場合、本方法では対象の隔離推奨の提供が更に考慮される。
【0236】
本発明のペプチドを含むキットも提供される。異なるキット成分を別々の容器に梱包しておき、使用直前に混合することができる。このような成分の個別梱包によれば、活性成分の機能を失うことなく長期保存が可能になる。2種以上の成分が同じ容器に存在する実施形態も企図される。キットの一例は次の試薬の1種以上を含むことができる。即ち、a)ヘテロジニアスアッセイで使用するウオッシュバッファー試薬、b)基質分解能があるプロテアーゼを含まない陰性対照試薬、c)基質分解能があるプロテアーゼを含む陽性対照、(d)シグナリング基からの検出可能シグナルを出現させるためのシグナル発生試薬、及び(e)適切な回収バッファー(試料タイプに適合した)と共に、シリンジ、喉スワブや他の試料回収デバイス等の試料回収手段である。
【0237】
一実施形態において、陽性対照において用いるプロテアーゼは配列番号34のアミノ酸配列を含む。
【0238】
他の実施形態において、陽性対照において用いるプロテアーゼはヒスチジンタグ(例えば、配列番号35の配列)を含む。
【0239】
一実施形態において、陰性対照において用いるプロテアーゼは配列番号36のアミノ酸配列を含む。
【0240】
複数ウイルス検出キットでは、1種以上のウイルスが上述のように検出され、各々のマルチパネル検出キットは共通のテーマに従って設計されることが好ましいであろう。具体的には、同一又は同様の疾病の起因となる異なるウイルス、同じ組織や器官に感染するウイルス、同一のファミリー、サブファミリー等に分類されるウイルス等の系統的に近い関係にあるウイルス、唾液、鼻水、血液、尿、糞便等の同一体液中で検出され得るウイルス、常在ウイルス、同一体液他に広がるウイルス等である。
【0241】
キットに包含される試薬類は、異なる成分の棚持ちが維持され、容器の材料に吸着されないか、その材料によって変化しないいずれかのタイプの容器に入れて供給することができる。例えば、ガラスシールのアンプルは、凍結乾燥試薬、又は中性で不活性なガス(窒素等)下で包装されたバッファーを含むことができる。アンプルは、ガラス、有機ポリマー(ポリカーボネート、ポリスチレン等)、セラミック、金属、又は同様な試薬を保持するために通常利用される他のいずれかの材料等の好適な材料のいずれかで構成することができる。好適な容器の他の例としては、アンプルやエンベロープと同様な材料から作ることができ、アルミニウムや合金等のホイル内張りを有してもよいシンプルな瓶が挙げられる。他の容器の例としては試験管、バイアル、フラスコ、ボトル、シリンジ等が挙げられる。容器類は無菌アクセスポートを有することができる(注射針で破って開けられるストッパー付きの瓶等)。他の容器としては、直ぐに取り除ける膜で分離された2コンパートメントであって、膜の除去に際して成分が混合される容器が挙げられる。除去可能な膜は、ガラス、プラスチック、ゴム、他の各膜である。
【0242】
本キットは、プロテアーゼ分析に好適なバッファーも含むことができる。
【0243】
唾液を分析するためのバッファーの一例は5mMのBolt(DTT安定化)、50mMのTris(pH:8.0)及び0.75MのNa2SO4を含む。このバッファーは、BSA(例えば0.2mg/mL)を更に含むことができる。本キットは、SARS-CoV2の3CLプロテアーゼに対しては不活性なプロテアーゼ阻害剤も含むことができる。このプロテアーゼ阻害剤には、アンチパイン、AC-DEVD-CHO、アプロチニン、エグリンC、GW、PMSF及び2,6PDAの少なくとも1種が含まれるが、これらに限定されない。特定の実施形態に従えば、このプロテアーゼ阻害剤はPMSF及びGWを含む。
【0244】
頬側試料用のキットはプロテアーゼ阻害剤も含むことができる。このようなプロテアーゼ阻害剤はSARS-CoV2の3CLプロテアーゼに対して不活性であることが好ましい。企図されるプロテアーゼ阻害剤の例としては、PMSF、GW、アプロチニン、エグリンC及びペプスタチンの少なくとも1種が含まれるが、これらに限定されない。特定の実施形態に従えば、このプロテアーゼ阻害剤はPMSF、GW、アプロチニン及びエグリンCを含む。
【0245】
キット類は説明物と共に供給することもできる。説明書は印刷紙媒体でも他の媒体でもよく、及び/又はフロッピーディスク、CD-ROM、DVD-ROM、Zipディスク、ビデオテープ、オーディオテープ等の電子的可読媒体として供給することができる。詳細な説明書きは物理的にキットには入らないが、ユーザーはキットの製造者又は販売者によって指定されるインターネットのウエブサイトを案内されるか、電子メールとして説明書の供給を受けることができる。
【0246】
上で叙述した本発明の各種実施形態及び様相、及び以下の請求の範囲にて請求した事項についての実験的根拠を次の実施例に示す。
【実施例】
【0247】
以下、次の実施例を記載するが、これらは上の説明と共に本発明の幾つかの実施形態を非限定的に説明するものである。
【0248】
一般に、本明細書に記載の専門用語及び本発明で利用される実験室手続きは、分子、生化学、微生物学及び組換えDNAの各用語・技術を包含する。このような技術は文献に詳述されている。例えば次の文献を参照されたい。“Molecular Cloning: A laboratory Manual” Sambrook et al., (1989)、“Current Protocols in Molecular Biology” Volumes I-III Ausubel, R. M., ed. (1994)、Ausubel et al., “Current Protocols in Molecular Biology”, John Wiley and Sons, Baltimore, Maryland (1989); Perbal, “A Practical Guide to Molecular Cloning”, John Wiley & Sons, New York (1988)、Watson et al., “Recombinant DNA”, Scientific American Books, New York、Birren et al. (eds) “Genome Analysis: A Laboratory Manual Series”, Vols. 1-4, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York (1998)、米国特許第4,666,828号、第4,683,202号、第4,801,531号、第5,192,659号及び第5,272,057号明細書に記載の方法、“Cell Biology: A Laboratory Handbook”, Volumes I-III Cellis, J. E., ed. (1994)、Freshney, Wiley-Lissによる“Culture of Animal Cells - A Manual of Basic Technique” , N.Y. (1994), Third Edition、“Current Protocols in Immunology” Volumes I-III Coligan J. E., ed. (1994)、Stites et al. (eds)、“Basic and Clinical Immunology” (8th Edition), Appleton & Lange, Norwalk, CT (1994)、Mishell and Shiigi (eds)、“Selected Methods in Cellular Immunology”, W. H. Freeman and Co., New York (1980)。利用可能なイムノアッセイは、例えば次の特許・科学文献に詳述されている。例えば次の文献を参照されたい。米国特許第3,791,932号、第3,839,153号、第3,850,752号、第3,850,578号、第3,853,987号、第3,867,517号、第3,879,262号、第3,901,654号、第3,935,074号、第3,984,533号、第3,996,345号、第4,034,074号、第4,098,876号、第4,879,219号、第5,011,771号、及び第5,281,521号明細書、“Oligonucleotide Synthesis” Gait, M. J., ed. (1984)、“Nucleic Acid Hybridization” Hames, B. D., and Higgins S. J., eds. (1985)、“Transcription and Translation” Hames, B. D., and Higgins S. J., eds. (1984)、“Animal Cell Culture” Freshney, R. I., ed. (1986)、“Immobilized Cells and Enzymes” IRL Press, (1986)、“A Practical Guide to Molecular Cloning” Perbal, B., (1984)及び“Methods in Enzymology” Vol. 1-317, Academic Press、“PCR Protocols: A Guide To Methods And Applications”, Academic Press, San Diego, CA (1990)、Marshak et al., “Strategies for Protein Purification and Characterization - A Laboratory Course Manual” CSHL Press (1996)。これらの全てを、本明細書に記載されているがごとくここに援用する。他の一般的な参考文献が本書に亘って提供される。これらに記載の手続きは、当業界で良く知られているはずであり、読者の利便性のために提供される。これらに含まれる情報の全てを本明細書に援用する。
【0249】
実施例1
3CLプロテアーゼのクローニングと生産
クローニング
バクテリア発現ベクターpET14bを、大腸菌中の各種プロテアーゼ発現用の骨格として選択した。所望のプロテアーゼはXbaI及びBamHI制限酵素を利用してクローニングされるため、XbaI及びBamHI制限サイトをインサートに隣接させた。
【0250】
2種のウイルスプロテアーゼ、即ちSARS-CoV-2の3CLプロテアーゼ(3CLpro)(リファレンスゲノムアクセッション番号:NC_045512)及びヒトコロナウイルス229e 3CLpro((リファレンスゲノムアクセッション番号:NC_002645)を産生し、精製した。各プロテアーゼは、N末端の6×HISタグに直接続くTEVプロテアーゼ開裂部位(ENLYFQG)を有するように設計され、適時HISタグを取り外せるようにした。必要なDNA配列は、XbaI及びBamHI制限サイトを含む二本直鎖DNAフラグメント(IDTからのgブロック)としてオーダーした。
【0251】
発現
ロゼッタBL21 E. Coliを、各プロテアーゼのORFを有するpET14bプラスミドで形質転換し、単一コロニーを一晩培養して増殖させた。翌日、500mLのLB(アンピシリン含む)に接種し、OD600が0.6になるまで増殖させた。IPTGを最終濃度が1mMとなるよう加え、培養物を18℃で一晩インキュベートしてタンパク質を発現させた。
【0252】
タンパク質の精製
タンパク質精製の全ての工程は氷上又は4℃で行った。微生物細胞を遠心し、ペレットを結合バッファー25mLに再懸濁した。続いて、この試料を超音波処理(30秒を3サイクル、サイクル間は60秒)に付した。細胞のデブリは、12,000gで20分間の遠心の後、0.22μmシリンジフィルターを用いる無菌濾過によって除去した。FFHistrapカラム(Cytiva社)を10カラム体積(CV)の水で洗浄した後、10CVの結合バッファーで洗浄した。次に、試料をこのカラムに流速1mL/minでアプライした。280及び230nmでの吸光度レベルがベースラインに戻るまで、少なくとも10CVの結合バッファーでこのカラムを洗浄した。結合バッファーと溶出バッファーを混合して所望のイミダゾール濃度を達成することにより段階的に溶出を行い、各分画を回収した。不特定のタンパク質を濃度20mM、50mM、80mM及び100mMのイミダゾール(各フラクション1mL)で溶出した。次に、ウイルスプロテアーゼを、250mMのイミダゾールを含む4mLのバッファーで溶出した。溶出後、試料を定量し、Zeba脱塩カラム(Thermo-Fisher社)を用いてバッファーを保存用バッファーに交換した。精製されたタンパク質は-20℃で保存した。
【0253】
Histrapカラムからのプロテアーゼ溶出プロファイルをSARS-CoV-2プロテアーゼ用に一度最適化した。溶出の最適化においては、イミダゾール濃度の直線勾配を用いて、各分画を回収した。イミダゾール濃度は、最初の20mMから最後の250mMまで1mL毎の19段階で上げた。続いて、500mMのイミダゾール3mLを用いて、全てのタンパク質がカラムから確実に溶出されるようにした。
図1に溶出プロファイルを示す。これらの結果から、100mMまでのイミダゾール濃度を選べば、不純物を除去することができた。続いて、イミダゾール濃度を250mMとして3CLプロテアーゼを最終的に溶出した。
【0254】
タンパク質の純度をクマシ染色SDS-PAGEゲルで分析した。
図2に示すように、229eとSARS-CoV-2 3Cproは共に>93%(デンシトメトリーによる、それぞれレーン2及び3)の高純度で得られた。SARS-CoV-2 3Cproに対してウエスタンブロットを行い、SARS-CoV-2 3Cproに対する抗体を用いてそのバンドを特異的に検出した。
図3参照。
【0255】
2007年以降に出版公開された研究結果によって、3CLproへのC末端又はN末端HISタグの付加は酵素活性に酷く影響することが示された(Grum-Tokars et al., Virus Research, 2007)。従って、HISタグを、TEVプロテアーゼによる精製の後に開裂可能な開裂可能タグ(ENLYFQG -配列番号37)として付加した。この精製SARS-CoV-2 3CLproをTEVプロテアーゼで開裂し、未開裂プロテアーゼと活性を比較した。開裂は異なる2条件下で行った(30℃、1時間又は4℃、一晩)。TEVプロテアーゼはNew England Biolabsから入手し、HISタグが含まれる。このように、反応液をHistrapカラムに通してフロースルーを回収することにより、TEV-プロテアーゼと潜在的な未開裂3CLproは続いて開裂3CLproから除くことができる。3CLproの開裂は、
図2(未開裂の分子量:35.6kDa、開裂の分子量:33.9kDa)からわかるように、達成された。
【0256】
実施例2
3CL活性至適に対する反応条件
最終的且つ至適な反応条件を見出すために、幾つかのパラメータについて試験した。
【0257】
反応安定剤(BSA):
0.2mg/mLのBSAと共に室温で5時間インキュベートした酵素は、酵素活性に変化が無かった。
【0258】
還元剤:
DTT及びTCEPが酵素活性に影響を及ぼすかどうかを各種濃度で試験した。5mMのDTTが酵素活性保持に最も効果的であることが示された。DTT-Bolt(Invitrogen Cat. B0009)は改善された効果を示した。
【0259】
グリセロール、NaCl及びNa2SO4:
これらパラメータは潜在的な酵素メディエーターとして試験した。NaClとグリセロールに関しては、酵素活性へのポジティブな効果が認められなかった。Na2SO4は酵素活性を増強した。濃度0.75MのNa2SO4を選択した。
【0260】
pH-酵素活性:
pH-酵素活性を幅広いpH範囲(6.5、7、7.4、8、8.5)で試験した。酵素活性はpHを8.0(最大活性)まで上昇させると増加し、pH8.5において減少した。
【0261】
推奨される最終的なアッセイ条件を次に示す。黒色で非結合性のフラットボトムの96ウエル(REF 655900 Greiner Bio-one)、100μLの反応体積(50μLの基質溶液を50μLの酵素/唾液/スパイク溶液に添加)、BMG CLARIOstar plus(発光/励起波長:340/510nm、ゲイン:2,000(プレートリーダーの感度))で反応をモニターし、酵素濃度:150、300ng/反応物、基質濃度:5μM、反応バッファー:5mMのBolt(DTT安定化)、50mMのTris(pH:8.0)、0.75MのNa2SO4及び0.2mg/mLのBSA。
【0262】
まとめの実験を行い、至適化の取り組み、最終的なアッセイ条件及び反応速度の向上を検証した。アッセイは、300ngの3CLスパイクの有無の条件下で5μLの唾液を45μLの反応バッファーに加えることにより行った。反応は50μLの10μMキット用基質(キット商品BPS cat. 79955-1から5μMの最終濃度)を添加して開始した。3個の異なる唾液試料を試験し、試料Yとして
図3A~Cに示す。
【0263】
図3A~3C及び表1に明確に示されるように、至適化手順の結果、市販品バッファー(186RFU/分)及び開始時バッファー(110RFU/min)と比較すると、最終的なバッファー条件(2,986RFU/分)で酵素活性の顕著な向上が認められた。オーダー一桁を超える改善が記録された。この向上効果は、唾液臨床試料条件と3CLproのスパイクの元で維持された。市販品バッファー(303RFU/分)及び開始時バッファー(82RFU/min)と比較して最終的なバッファー(1,586)でスパイク効果(Δ)が認められた。これは、S/N比で0.1~0.5-1である10倍~5倍の向上と解釈される。
【0264】
【0265】
実施例3
基質の配列とFRET対が3CL特異的且つ唾液非特異的な活性に及ぼす影響
5種の基質を設計し、公知のキット用基質(Biosyn)と比較した。
キット基質:Dabcyl-KTSAVLQSGFRKME-EDANS(配列番号1)
基質#1:Dabcyl-TSAVLQSGFRK-EDANS(A4760-1 - 配列番号2)
基質#2:Dabcyl-TSAVLQSGF-EDANS(A4760-2 - 配列番号3)
基質#3:Dabcyl-AVLQSGF-EDANS(A4760-3 - 配列番号4)
基質#4:Dabcyl-AVLQSGFRK-EDANS(A4760-4 - 配列番号5)
基質#5:Dabcyl-TSAVLQSGFYK-EDANS(A4760-5 - 配列番号6)
【0266】
これらの酵素反応には、最終的且つ至適アッセイ条件下(即ち、5μMの基質)で150ng/ウエルの酵素を使用した。実験は3個の異なる唾液試料で行った。代表的な結果を示す。
【0267】
【0268】
【0269】
アッセイ感度向上のために、4種の追加的基質を合成し、BHQ1/AF488FRET対(Cambridge research biochemicals社)で試験した。
基質#1:[BHQ-1]-TSAVLQSGFRK-[Cys(AF488)]-アミド(4168-3) - 配列番号7
基質#2:[BHQ-1]-TSAVLQSGF-[Cys(AF488)]-RK-アミド(41469-2) - 配列番号8
基質#3:[BHQ-1]-AVLQSGF-[Cys(AF488)]-RK-アミド(41470-2) - 配列番号9
基質#4:[BHQ-1]-AVLQSGFRK-[Cys(AF488)]-アミド(A4771-1) - 配列番号10
【0270】
次のアッセイ条件を採用した。
方法:発光/励起:488/535nm、ゲイン:1,400
バッファー:5mMのBolt(DTT)、50mMのTris pH8.0、0.75MのNa2SO4(基質開裂に影響するBSAを含まず)
基質濃度:1μM
【0271】
3個の異なる唾液試料で試験した。代表的な結果を
図6及び
図7A~Dに示し、表3にまとめる。
【0272】
【0273】
新規基質は、(bioSYNTHESISペプチドに比べて)高いアッセイ感度を示した。基質2(配列番号8)は、S/N比がオーダー2桁を超える単位で向上した(0.1~12.5)。
【0274】
SARS-CoV-2 3CL Pro 比酵素活性の評価
SARS-CoV-2の3CL Proの比酵素活性を4種の異なる基質(Biosyn#1、6及び7、及びBPS基質)で試験し、ヒトリノウイルス(HRV)及び普通ヒトコロナウイルス種CoV-229Eに関する酵素活性と比較した。ラン条件:基質濃度が5μM、酵素濃度が150ng/反応物。
BPS基質(cov19) - Dabcyl-KTSAVLQSGFRKME-EDANS(配列番号1、79955-1、BPS Bioscience)
Biosyn#1(cov19) - Dabcyl-TSAVLQSGFRK-EDANS(配列番号2、A4760-1、bioSYNTHESIS)
Biosyn#6(229e) - Dabcyl-YGSTLQAGLRK-EDANS(配列番号11、A4911-1、bioSYNTHESIS)
Biosyn#7(HRV) - Dabcyl-LEALFQGP[Asp-(EDANS)SQ[アミド](配列番号12、A4911-2、bioSYNTHESIS)。
【0275】
結果を以下の表4及び5にまとめる。
【0276】
【0277】
【0278】
HoCoV-19の比酵素活性は表4及び5に示す結果から導くことができる。Biosyn#1基質には交差反応性が認められた。HoCoV-19の酵素活性は、Biosyn#1基質に対するHCoV-229Eの酵素活性と同様であった。この交差反応性は、3CLプロテアーゼの高い進化的保存からある程度期待された。しかし、BPSとBiosyn#6基質はHCoV-229Eプロテアーゼに対してよりもSARS-CoV-2に対してより高い活性を有していた。活性におけるこの差は、ウイルス同士を識別する因子となり得る。
【0279】
完全な特異性(交差反応性が無い)は、多くの普通に存在する風邪ウイルスやHRVに認められた。Biosyn#7基質はHRVに特異的であった。
【0280】
SARS-CoV-2、HCoV-229E及びHRV3CLの酵素活性(RFU/min)とペプチド(配列番号8)を用いた3Cプロテアーゼを表6にまとめる。基質濃度:1μM、酵素濃度:150ng/反応物。
【0281】
【0282】
実施例4
唾液の非特異的プロテアーゼ活性阻害を最大化するための阻害剤カクテルの至適化
プロテアーゼ阻害剤をバッファーに加える目的は、唾液の非特異的な活性を低減し、S/N比を増加させることである。唾液試料中の3CLプロテアーゼに対する競争的酵素活性アッセイを利用して29種の阻害剤を調べた。
【0283】
アンチパイン、AC-DEVD-CHO、アプロチニン、エグリンC、GW、PMSF及び2,6PDAは全て唾液中の非特異的プロテアーゼ活性を減少させ、3CL特異的活性の目立った阻害は無かった。
【0284】
種々の阻害剤カクテルも試験した。
カクテル1(PMSF、GW、アプロチニン、ペプスタイン及びヘパリン)
カクテル2(PMSF及びGW)
カクテル3(PMSF、GW及びアプロチニン)
【0285】
各種阻害剤カクテルの間に顕著な差は認められなかった。
【0286】
実施例5
頬側試料の非特異的プロテアーゼ活性阻害を最大化するための阻害剤カクテルの至適化
頬側試料中の3CLプロテアーゼに対する競争的酵素活性アッセイを利用して29種の阻害剤を調べた。
【0287】
PMSF、GW、アプロチニン、エグリンC及びペプスタインは全て唾液中の非特異的プロテアーゼ活性を減少させ、3CL特異的活性の目立った阻害は無かった。
【0288】
阻害剤で最上の4種はエグリンC、GW、PMSF及び2,6PDAであった。
【0289】
種々の阻害剤カクテルも試験した。
カクテル1(PMSF、GW)
カクテル2(エグリンC、GW、PMSF及び2,6PDA)
【0290】
カクテル2はカクテル1よりも大きく非特異的プロテアーゼを低減した。
【0291】
実施例6
試料の保存
試料(頬側、NMT及びスパイク)を4℃で保存したところ、24時間後の酵素活性が約50%保持されていた。最も大きく活性が減少したのは0~2時間であった。全試料において、酵素活性は4~8時間の間は安定であった。しかしながら、4℃で24時間後及び凍結/融解サイクル(試料を-20℃で保存)後には、3CL組換えプロテアーゼの頬側及びNMT各ぬぐい液へスパイクが明確に検出される。
【0292】
実施例7
3CL活性アッセイとPCR試験との比較
本アッセイ感度を各種遺伝子(RdR遺伝子-
図17A、E遺伝子-
図17B及びN遺伝子-
図17C)に対するPCRアッセイの感度と比較した。3CLプロテアーゼ活性の高い比は、高いウイルスRNAコピー数を示すPCRのCt値と相関することがわかる。
【0293】
表7にまとめるように、3CLプロテアーゼ活性アッセイを利用すると、発症後1か月より後で採取した試料からポジティブな結果が得られた。
【0294】
【0295】
更に、本願に関する優先権書類の全体を、本明細書を構成するものとしてここに援用する。
【配列表フリーテキスト】
【0296】
配列番号1: 合成ペプチド、1位はDabcylが5’に結合、14位はEDANSが3’に結合
配列番号2: 合成ペプチド、1位はDabcylが5’に結合、11位はEDANSが3’に結合
配列番号3: 合成ペプチド、1位はDabcylが5’に結合、9位はEDANSが3’に結合
配列番号4: 合成ペプチド、1位はDabcylが5’に結合、7位はEDANSが3’に結合
配列番号5: 合成ペプチド、1位はDabcylが5’に結合、9位はEDANSが3’に結合
配列番号6: 合成ペプチド、1位はDabcylが5’に結合、11位はEDANSが3’に結合
配列番号7: 合成ペプチド、1位はBHQ-1が結合、12位はAF488が結合、12位はアミド化
配列番号8: 合成ペプチド、1位はBHQ-1が結合、10位はAF488が結合、10位はアミド化
配列番号9: 合成ペプチド、1位はBHQ-1が結合、8位はAF488が結合、10位はアミド化
配列番号10: 合成ペプチド、1位はBHQ-1が結合、10位はAF488が結合、10位はアミド化
配列番号11: 合成ペプチド、1位はDabcylが結合、11位はEDANSが3’に結合
配列番号12: 合成ペプチド、1位はDabcylが5’に結合、9位はEDANSが結合、11位はアミド化
配列番号13: 合成ペプチド
配列番号14: 合成ペプチド
配列番号15: 合成ペプチド
配列番号16: 合成ペプチド
配列番号17: 合成ペプチド
配列番号18: 合成ペプチド
配列番号19: 合成ペプチド
配列番号20: 合成ペプチド
配列番号21: 合成ペプチド
配列番号22: 合成ペプチド
配列番号23: 合成ペプチド
配列番号24: 合成ペプチド
配列番号25: 合成ペプチド
配列番号26: 合成ペプチド
配列番号27: 合成ペプチド
配列番号28: 合成ペプチド
配列番号29: 合成ペプチド
配列番号30: 合成ペプチド、12位はXaaは任意の天然アミノ酸
配列番号31: 合成ペプチド、10位はXaaは任意の天然アミノ酸
配列番号32: 合成ペプチド、8位はXaaは任意の天然アミノ酸
配列番号33: 合成ペプチド、10位はXaaは任意の天然アミノ酸
配列番号34: SARS-CoV-2ウイルスの3CLプロテアーゼ
配列番号35: ヒスチジンタグと開裂可能な配列を有する、SARS-CoV-2ウイルスの3CLプロテアーゼ
配列番号36: HRV 3Cプロテアーゼの配列
配列番号37: 開裂可能なタグ
配列番号38: 合成ペプチド
配列番号39: 合成ペプチド
【配列表】
【国際調査報告】