(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-30
(54)【発明の名称】水平細胞
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20230323BHJP
C07K 14/705 20060101ALI20230323BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230323BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20230323BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20230323BHJP
A61P 27/10 20060101ALI20230323BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230323BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20230323BHJP
【FI】
C12N15/12
C07K14/705 ZNA
C12N5/10
C12N15/864 100Z
A61P27/02
A61P27/10
A61K48/00
A61K35/76
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022548826
(86)(22)【出願日】2021-02-12
(85)【翻訳文提出日】2022-10-03
(86)【国際出願番号】 GB2021050358
(87)【国際公開番号】W WO2021161045
(87)【国際公開日】2021-08-19
(32)【優先日】2020-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507299817
【氏名又は名称】ユーシーエル ビジネス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100141195
【氏名又は名称】西澤 恵美子
(72)【発明者】
【氏名】リッツィ ブリニューリ,マッテオ
(72)【発明者】
【氏名】オーバースビー-パウエル,ケイト ルイーズ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA91Y
4B065AA93X
4B065AA93Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA13
4C084MA16
4C084MA17
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4C084NA14
4C084ZA331
4C084ZA332
4C087AA01
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4C087MA17
4C087MA58
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA33
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA50
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、視力を改善する方法に関する。具体的には、本発明は、薄明視および明所視の照明範囲で水平細胞を活性化(過分極化)するための核酸分子の使用、ならびに例えば「黄斑」の変性または喪失後の視覚機能を改善するための前記核酸分子の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平細胞における遺伝子産物の発現が視力を改善する、前記遺伝子産物をコードする核酸分子に作動可能に連結されたプロモーターを含む発現構築物。
【請求項2】
前記遺伝子産物が、ヒト水平細胞において内因的に発現される膜タンパク質、他の興奮性細胞型において内因的に発現される膜タンパク質、または化学遺伝学的もしくは光遺伝学的アクチュエーターから選択される、請求項1に記載の発現構築物。
【請求項3】
前記膜タンパク質がニューロン受容体、イオンチャネルまたはイオンポンプである、請求項2に記載の発現構築物。
【請求項4】
前記遺伝子産物の発現が水平細胞を過分極させる、請求項2に記載の発現構築物。
【請求項5】
前記遺伝子産物がカリウムコンダクタンスを媒介する、請求項2から4のいずれか1項に記載の発現構築物。
【請求項6】
カリウムコンダクタンスを媒介する前記遺伝子産物が光遺伝学的アクチュエーターである、請求項5に記載の発現構築物。
【請求項7】
カリウムコンダクタンスを媒介する前記遺伝子産物が、光感受性カリウムチャネルまたはカリウムベースの光感受性アクチュエーターである、請求項5または6に記載の発現構築物。
【請求項8】
前記遺伝子産物がカリウムチャネルに連結した化学感受性受容体である、請求項3に記載の発現構築物。
【請求項9】
前記遺伝子産物がh4mDiである、請求項8に記載の発現構築物。
【請求項10】
前記プロモーターが水平細胞優先的なプロモーターであるか、または水平細胞特異的なプロモーターである、先行請求項のいずれか1項に記載の発現構築物。
【請求項11】
前記プロモーターがGja10プロモーター、Gja10プロモーターの機能を維持するその断片またはそのバリアントである、請求項10に記載の発現構築物。
【請求項12】
先行請求項のいずれか1項に記載の発現構築物を含むベクター。
【請求項13】
ウイルスクターである、請求項12に記載のベクター。
【請求項14】
前記ウイルスベクターがAAVベクターである、請求項13に記載のベクター。
【請求項15】
前記AAVベクターがAAV8ベクターである、請求項14に記載のベクター。
【請求項16】
請求項1から11のいずれか1項に記載の発現構築物、または請求項12から15のいずれか1項に記載のベクターを含む医薬組成物。
【請求項17】
網膜ジストロフィーを治療する方法における使用のための、請求項12から15のいずれか1項に記載のベクターまたは請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記網膜ジストロフィーが、色覚異常、青錐体一色型色覚(BCM)、黄斑変性(加齢黄斑変性およびシュタルガルト病を含む)および錐体-桿体ジストロフィーなどの錐体ジストロフィーまたは黄斑ジストロフィーである、請求項17に記載の使用のためのベクターまたは医薬組成物。
【請求項19】
前記錐体ジストロフィーが、錐体光受容体の減少または錐体光受容体の機能の低下によって特徴付けられる、請求項18に記載の使用のためのベクターまたは医薬組成物。
【請求項20】
前記錐体ジストロフィーが、錐体光受容体の全体的な減少または錐体光受容体の局所的な喪失によって特徴付けられる、請求項18または19に記載の使用のためのベクターまたは医薬組成物。
【請求項21】
錐体光受容体の局所的な喪失が黄斑において生じる、請求項20に記載の使用のためのベクターまたは医薬組成物。
【請求項22】
前記網膜ジストロフィーが、色覚異常、青錐体一色型色覚(BCM)、黄斑変性(加齢黄斑変性およびシュタルガルト病を含む)および錐体-桿体ジストロフィーから選択される、請求項17から21のいずれか1項に記載の使用のためのベクターまたは医薬組成物。
【請求項23】
前記ベクターまたは医薬組成物の投与後に視力が改善される、請求項17から22のいずれか1項に記載の使用のためのベクターまたは医薬組成物。
【請求項24】
前記ベクターまたは医薬組成物の投与後に薄明視および/または明所視が改善される、請求項23に記載の使用のためのベクターまたは医薬組成物。
【請求項25】
水平細胞への前記ベクターの送達が、水平細胞を人為的に過分極化することを可能にする、または水平細胞の外向きコンダクタンスを増加させる、請求項17から24のいずれか1項に記載の使用のためのベクターまたは医薬組成物。
【請求項26】
請求項12から15のいずれか1項に記載のベクターまたは請求項16に記載の医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む、錐体ジストロフィーまたは黄斑ジストロフィーを治療する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、視力(vision)を改善する方法に関する。具体的には、本発明は、薄明視および明所視の照度範囲で水平細胞(horizontal cells)を活性化(過分極化)するための核酸分子の使用、ならびに例えば「黄斑(macula)」の変性または喪失後の視覚機能を改善するための前記核酸分子の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
網膜は光を検出し、視覚情報を処理して脳に伝達する。光受容体に当たる光子は、電気信号へと変換され、異なる視覚的特徴を抽出し、この情報を網膜の出力ニューロンである網膜神経節細胞へ伝達する並列双極細胞(BC)経路に供給される(47)。この「垂直」経路(光受容体からBC、網膜神経節細胞まで)に沿った信号は、水平細胞(HC)を含む抑制性ニューロンによって調節される。水平細胞は、それぞれ光受容体と双極細胞にフィードバックおよびフィードフォワード信号を提供する側方に突出した介在ニューロンである。
【0003】
中心-周辺構成は、視覚系の基本的な特徴である。それは、単一細胞レベルおよび知覚レベルの両方で、網膜と脳において観察されている。中心-周辺構成の標準的な仮説によれば、周辺と中心との間の競合的拮抗作用により、視野の隣接部分のコントラストの違いが強調される。これは、中心の灰色領域が暗い周辺と明るい周辺に囲まれたときに輝度の違いが知覚される「同時コントラスト錯視」によって例示されるように思われる。図式は典型的には、「プラス」記号と「マイナス」記号を用いてこの対立を指し示し、反応に対する異なる影響を区別している。
【0004】
競合的周辺仮説に異議が唱えられたことはなく、その直感的な魅力ゆえに、神経科学の教科書の公理となっている。ここに提示されているデータは、中心-周辺構成が「側方コントラスト増強」に関与しているという概念に異議を唱えるものである。
【発明の概要】
【0005】
本発明者らは、正常な視力を持つ対象と特定の遺伝性網膜疾患を持つ対象における精神物理学と、等価なマウスモデルにおける網膜回路の操作との組み合わせを使用することにより、網膜の中心-周辺構成の現在のモデルを再検討する必要があることを実証した。
【0006】
本発明者らは、網膜の中心-周辺構成が単に拮抗的(競争的)に作用するのではないことを初めて確認した。代わりに、本発明者らは、刺激の周辺の平均輝度が「中心」におけるコントラストエンコーディングを拘束することを示した。結果として、時間または空間におけるコントラストの変化は、それ自体ではなく、常に周辺の状況に関連して下流のニューロンに伝達される。このように、中心-周辺構成は、基本的に適応的な性質を持っており、ピークコントラスト感度を自身の平均輝度に対して調整している。これらの回路によって提供される高速な側方適応は、周辺内の輝度とコントラストの差動的な効果を駆動する。
【0007】
このデータに照らして、本発明者らは、Kufflerによる古典的な受容野研究(3)、「周辺コントラスト抑制」(19)、およびコントラスト増強(4)を含む、いくつかの観察および現象を再解釈した。この再解釈は、知覚の基本的な特徴の異なる理解につながる。
【0008】
重要なことに、本発明者らは、マウスにおいてこの相互作用を媒介する特定の回路(錐体-水平細胞-桿体)を同定した。
【0009】
本発明者らは、健康な網膜において、赤色および緑色の錐体光受容体が、それらが検出している光レベルを、周辺の網膜の桿体光受容体および錐体光受容体に送信していることを示した。特に、錐体光受容細胞は、水平細胞を過分極させ、それにより、標的の桿体と錐体光受容体の動作範囲を調整することができる。結果として、シナプス後光受容体の最適な感度範囲は、周辺領域の明るさと等価な光レベルに再調整される。これらの状況下では、桿体光受容体が、薄明視の光条件下でも視覚に積極的に貢献できることが示されている。
【0010】
マウスでは、1種類の水平細胞(円錐から桿状の水平細胞)のみが存在することが知られている。これらのモデルでは、錐体光受容体の変性が、水平細胞の天然の入力を剥奪する。フィードバックメカニズムが存在しない場合、桿体光受容体は、より明るい光の下で全体的な視覚に寄与することができない(または効果的に寄与できない)。錐体光受容体から桿体光受容体へのフィードバックメカニズムは、光受容体を双極細胞に接続するシナプス間に側方の接続を形成する水平細胞を介して機能する。本発明者らは、錐体光受容体機能を欠いたマウスにおいて、水平細胞を人為的に過分極させることにより、錐体光受容体によるフィードバックと同様な様式で、桿体光受容体の最適光感度範囲をシフトできることを示す。結果として、より明るい光におけるマウスの視力が改善された。したがって、本明細書に示されるデータは、側方適応メカニズムの操作が、薄明視光レベルにおいて桿体光受容体をより錐体様にするために使用されうることを示している。
【0011】
同様な有益な効果が患者においても期待される。しかしながら、ヒトでは複数の種類の水平細胞が存在することが知られている。本発明者らは、周辺内の錐体の活性化が、錐体が媒介する視覚を改善できることを示したが、これは、側方輝度適応も錐体が媒介する視覚の適切な機能にとって重要であることを示唆している。したがって、錐体が局所的に失われている患者(例えば、黄斑変性)の水平細胞を標的とする治療法は、残存する錐体および桿体の視力の改善に遭遇し得るであろう。錐体型と桿体型の水平細胞を区別して標的化できる可能性がある。よって、本発明者らは、網膜における古典的な中心-周辺構成のこれまで知られていなかった機能を同定した。
【0012】
これらの結果は驚くべきものである。当業者は、側方入力によって桿体光受容細胞の機能を改善することを考慮しなかったであろう。桿体光受容体は一般に、感度に必要な強い増幅によって動作範囲が「飽和」するため、高い光強度では機能できないと考えられている。桿体光受容体シグナル伝達の飽和は、最終的に桿体と錐体で生成された信号を網膜内で統合する必要があるため、視覚処理を破壊する可能性がある。薄明視光レベルではこの干渉を避けるために、錐体の活性は桿体の活性を抑制すると考えられている。
【0013】
この構成は、網膜変性患者の視力を改善するために利用されうる。黄斑変性などの一般的な網膜変性疾患における側方入力の喪失は、残存する視力を損なうことが示されている。したがって、水平細胞は潜在的な治療標的として同定される。水平細胞は、多くの理由から臨床的に良い標的である。第一に、光受容体が変性して網膜から失われた場合、他の型の網膜細胞のほとんどが残存し、それらの接続を保持することが知られている。これは、病変内の水平細胞を標的化することを可能とし、つまり、治療は必ずしも、残存する視力を破壊したり、損なうおそれを生じたりはしないであろう(例えば、オンターゲット効果が視覚的な副作用を直接引き起こす可能性は低い)。第二に、水平細胞は側方に突き出た細胞型であるため、小さな領域の直接的な治療がはるかに広い領域にわたって治療効果を生む可能性がある。したがって、本発明は、網膜ジストロフィーに非常に関連が高い。
【0014】
記述されている効果は、全ての錐体光受容体が影響を受ける条件の場合には全体的なものとなり得るが、錐体細胞が消失した領域または機能不全の領域がある場合には局所的なものとなり得る。錐体光受容体の大部分は、網膜の中心である黄斑にある小さな領域に局在している。黄斑は、正確な視覚のために最も重要な網膜の領域である。黄斑変性の患者は一般に、病変のすぐ外側の生き残った網膜を固視または高視力課題のために使用している。しかしながら、この領域にははるかに少ない錐体光受容体しかなく、存在する桿体光受容体は、変性した網膜の錐体光受容体からのフィードバックの欠如による影響を受ける。
【0015】
錐体機能を欠く条件の場合、データは、水平細胞を介したゲイン制御の欠如がコントラスト感度の低下を導くであろうことを示唆している。この効果は、色覚異常の患者とマウスの両方で観察される。側方ゲイン制御の欠如は、色覚異常の患者が日光を「まぶしい」と表現し、正常な視力の対象が許容できるレベルよりも相当低い光レベルを嫌う理由も説明しうる。加齢黄斑変性(AMD)およびシュタルガルト病などの錐体細胞の変性が関与する状態に関して、ここに示すデータは、網膜の変性部位に隣接する領域でゲイン制御が損なわれ、その結果、視力が低下することを明らかにしている。
【0016】
視力は偏心度の増加とともに急速に低下するため、変性した黄斑領域に隣接する視覚機能の改善は、非常に有益となり得る。重要なことに、これは中心窩機能が残されている患者と同様に、偏心固視に依存している患者にも当てはまるであろう。さらに、データは、光受容体機能を維持または回復することを目的とした遺伝子補充または細胞置換戦略が、側方入力の維持または回復のために、直接治療されたものよりもかなり広い領域にわたって視力の改善を維持しうることを示唆している。
【0017】
本発明の核酸、医薬組成物および方法は、光受容体の変性を伴う障害の治療のために使用されうる。特に本発明は、進行した錐体ジストロフィーまたは黄斑ジストロフィー(シュタルガルト病などの遺伝性MD、およびAMD)を有する患者の治療に使用できることが想定される。本発明は、錐体光受容細胞の顕著な喪失を示す色覚異常の患者にも利益をもたらし得るであろう。
【0018】
したがって、本発明は、遺伝子産物に作動可能に連結されたプロモーターを含む発現構築物であって、水平細胞における遺伝子産物の発現が視力を改善させる、発現構築物を提供する。好ましい実施形態では、本発明は、遺伝子産物に作動可能に連結されたプロモーターを含む発現構築物であって、水平細胞における遺伝子産物の発現が薄明視および/または明所視を改善させる、発現構築物を提供する。
【0019】
また、以下も提供される:
・本発明の発現構築物を含むベクターまたは宿主細胞;
・本発明の発現構築物またはベクターを含む医薬組成物;
・網膜ジストロフィーを治療する方法において使用するための、本発明のベクターまたは医薬組成物;ならびに
・本発明のベクターまたは医薬組成物を対象に投与することを含む、錐体ジストロフィーまたは黄斑ジストロフィーの治療方法。
【0020】
配列表
配列番号1-マウスGja10の部分的なプロモーター配列
【0021】
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1-1】等輝度周辺入力は、ヒト対象におけるコントラストエンコーディングを改善する。 a)実験手順の模式図。コントラスト感度閾値の測定には、二肢強制選択(2-alternative forced-choice)課題を使用した。対象にCRTモニターの中心に置かれたスポットを固視するよう指示した。刺激には、時間的または空間的に変調され、固視点の両側に提示される円刺激を用いた。対象には、刺激がどちらの側に提示されたかを指し示すように求めた。刺激を感知する能力は、強制選択反応によって決定した。特に断りのない限り、刺激は直径1°、偏心度6°、4Hzの正弦波時間変調とした。 b)正常な視力の対象(n=8)における時間コントラスト感度は、低輝度の周辺(0.15cd/m
2)により、輝度を一致させた周辺(27.7cd/m
2)に対して低下した。標的刺激の平均輝度は2つの条件間で変わらなかった。 c)正常な視力の対象において、固定コントラスト(40%)での視覚は、等輝度周辺によって改善される。試験した偏心度(5°)では、周辺は視力閾値をほぼ2倍にし、これは、logMARスケールで0.52から1.03のシフトに等価である(n=6)。エラーバーは標準偏差を示す。 d)1°の刺激の周りに黒色の環帯を広げると、コントラストエンコーディングの累積的な低下が導かれる(n=9)。この周辺の効果は、中心からの距離に比例して減衰する。 e)低輝度の背景に配置された刺激の周辺に等輝度環帯を追加すると、コントラスト感度が向上した。小さな直径0.3°の刺激と一定範囲の環帯幅を使用すると、コントラスト感度が最小の環帯幅以上でのみ改善されることが明らかになった(矢印で指し示されている)。中心窩の近くに配置された刺激の場合、この関数は上方向および左方向にシフトし(0.3°偏心度および2°偏心度)、これは、より小さな受容野のサイズと一致する(n=6)。 f)網膜回路の模式図。水平細胞(HC)を介したフィードバック回路にはHCと表示されている。S-M錐体およびL錐体光受容体ならびに桿体光受容体が示されている。CBC:錐体双極細胞、RBC:桿体双極細胞、All:全てのアマクリン細胞、GC:神経節細胞。 g)さまざまな遺伝的状態における寄与的な光受容体の型を示す模式図。周辺効果に寄与する細胞型を同定するために、異なる遺伝的条件を有する対象を試験した。試験した条件は以下を含む:正常な視力の対象(全ての光受容体が機能している)、色覚異常(桿体のみの視力)、青錐体一色型色覚(BCM、桿体およびS-錐体視覚)、先天性停止性夜盲症(CSNB、錐体のみの視力)、ボーンホルム眼疾患(BED、1つの錐体オプシンの欠如;試験した3人の患者のうち2人はM-オプシン、1人の患者がL-オプシン)。BED患者では、サイレント置換により、各光受容体型の分離が可能となった。詳細については、実施例1を参照。 h)正常な視力の対象(n=8、上のトレース)とは異なり、等輝度周辺は、色覚異常の患者(n=5、低輝度周辺の下から1、2、3、4、6番目のトレース)、および青錐体一色型色覚の患者(n=3、低輝度周辺の上から2番目、3番目、5番目のトレース)においては、不一致の周辺よりもわずかな改善しかもたらさず、これは、効果を媒介する錐体光受容体の重要な役割を指し示している。 i)周辺は同様に桿体、錐体、および桿体-錐体を介した視覚に影響を与える。ボーンホルム眼病患者における桿体光受容体の選択的刺激(低輝度周辺の下から1、2、3番目のトレース、n=3)は、桿体光受容体に対する周辺輝度の影響が、抑制的ではなく、ポジティブなものであることを示した。同様の効果が、錐体のみを介した視覚でも観察された(CSNB患者、n=2、低輝度周辺の下から4番目と5番目のトレース)。比較のために、桿体光受容体と錐体光受容体の両方を刺激した正常な視力の対象を一番上のトレースに示す(n=8、
図1bのデータ)。 j)等輝度周辺は、桿体のみが媒介する視覚(低輝度周辺の下から1番目と2番目のトレース)、錐体のみが媒介する視覚(低輝度周辺の下から3番目と5番目のトレース)および桿体と錐体が媒介する視覚(低輝度周辺の上から1番目と3番目のトレース)について、2人のボーンホルム眼病患者(各人のデータは三角形と円形のマーカーで区別されている)の視力を改善した。桿体光受容体と錐体光受容体の両方の同時刺激は、干渉を導かず、最高のコントラスト感度を導いた。全てのコントラスト感度値は、1/コントラスト閾値(1/c)として計算される。表示されている値は平均値で、陰影領域は標準偏差を示しており、p値はチューキーの事後多重比較検定を使用した一元配置分散分析(b);対応のあるt検定(c)またはダネットの事後多重比較検定を使用した一元配置分散分析(d、h、i、j)により計算した。
****p<0.0001、
***p<0.001、
**p<0.01、
*p<0.05。
【
図2-1】周辺平均輝度は、コントラストエンコーディングのゲインを制御する。 a)白色の高輝度(64cd/m
2)環帯で刺激領域を囲むと、低輝度の環帯と同様にコントラスト感度が低下した。効果も累積的であり、薄いエッジ(0.05°の環帯幅)では効果全体を再現するには不十分であった(n=9)。 b)周辺の輝度に一致するまで刺激領域の平均輝度を増加させることにより、時間コントラスト感度の閾値が改善された(y切片における下のトレース)。周辺輝度を低い値にシフトさせると(x軸の位置11の矢印)、ピークコントラスト感度もシフトした(曲線状、y切片における上のトレース)。最も感度の高いエンコーディングは、刺激と周辺が等輝度の場合に生じ、刺激と周辺(高低のいずれも)の間の輝度の差は、コントラストエンコーディングの感度を低下させた(n=10)。 c)いくつかの周辺輝度値(陰影付きの矢印)の効果をさまざまな平均刺激輝度値で比較した。コントラストエンコーディング関数(対応する陰影)は、周辺輝度の増加に伴って右にシフトしたが、最大コントラスト感度は同等のままであった(n=4)。 d)1セットのデータ(最高輝度に設定された周辺で収集)の多項式フィッティングを使用して、残りの3セットのデータのフィッティングを予測するための計算を行った。入力ゲインの計算(上のグラフ)は、反応ゲインの計算(下のグラフ)よりも、輝度条件間のシフトをより良好に捉えていた。 e)反応および入力ゲインについて計算されたフィッティングのr
2値の比較(それぞれr
2=0.94とr
2=0.53)。 f)固有コントラストの高い等輝度環帯は、環帯内のパターンの空間周波数に依存的な様式で抑制効果を示した(チェッカーの場合はn=8 - 0度/サイクルで下から開始しているトレース;正弦の場合はn=6 - 0度/サイクルで上から開始しているトレース)。低周期、高周波数のパターンは、エンコードに影響を与える様式において灰色と違いはなかったが、低周波数はコントラスト感度の低下を引き起こした。 g)これと一致して、低い空間周波数パターン(0.97°/チェック)と高い固有コントラストを持つ環帯のみがエンコーディングに影響し(黒のトレース、n=8;星印付きの値)、その一方で、より高い周波数パターン(0.32°/チェック)を含む環帯は影響を与えなかった(上のトレース、n=8)。星印は0%コントラストの周辺と比較した有意性を示している。全てのコントラスト感度値は、1/コントラスト閾値(1/c)として計算される。表示されている値は平均値で、陰影の領域は標準偏差を示し、p値はダネットの事後比較検定を用いて、一元配置分散分析により計算した。
****p<0.0001、
***p<0.001、
**p<0.01、
*p<0.05。
【
図3-1】桿体光受容体への側方入力の回復後における視力の改善。 a)周辺輝度は、マウスにおけるコントラストのエンコーディングに影響を与える。視運動行動は、コンピューター画面の中心に配置された高さ1°のドリフトする正弦波パターンによって駆動した。刺激提示中、画面の残りの部分は、低輝度(左側のボックス)、等輝度(中央のボックス)、または高輝度(右側のボックス)に設定した。試行間の合間には、画面を中央のボックスのレベルに設定した。等輝度(中央のボックス)の条件において、野生型マウス(上のトレース、n=9)は、低輝度および高輝度の条件と比較してコントラスト感度の増加を示したが、Cnga3
-/-マウス(下のトレース、n=9)は増加を示さなかった。これらの結果は、正常な視力のヒト対象および色覚異常の患者の結果と類似している(
図2aを参照)。 b)コントラスト感度は、さまざまな空間周波数のフルスクリーン格子刺激で測定した。Cnga3
-/-マウス(n=9)では、試験した全ての値で、野生型マウス(n=5)と比較してコントラスト感度が同様に低下していた。 c)水平細胞におけるhM4Diの発現を駆動するために使用されたAAV構築物の模式図。一方のAAVベクターにはCreを駆動するGja10プロモーターが含まれており、もう一方のAAVベクターにはloxPが導入された(flexed)hM4DiとGFPのカセットが含まれていた。 d)マウス網膜の水平細胞におけるloxPが導入された(floxed)トランスジーンの発現の画像例(ホールマウント、スケールバー=50μm)。 e)水平細胞の化学遺伝学的活性化は、網膜の外側の機能を改善する。0.1cd/m
2の異なる時間周波数の刺激に対する網膜電図反応のフーリエ解析(実施例1を参照)。hM4DiアクチベーターCNOの腹腔内注射の前と後で試験を繰り返した。見せかけのPBSとhM4Diを注射した眼のデータが、それぞれ左と右のパネルに示されている。PBSを注射した眼(左のパネル、n=8)では有意差は観察されなかったが、hM4Diを注射した眼(右のパネル、上のトレース、n=8)では周波数変調の有意な改善が観察された。 f)hM4DiまたはPBS溶液の注射後の眼におけるコントラスト感度を測定するために、視運動行動を使用した。hM4DiアクチベーターCNOの腹腔内注射の前と後で試験を繰り返した。PBSを注射した眼(左のパネル、n=9)では有意差は観察されなかったが、hM4Diを注射した眼(右のパネル、n=9)ではコントラスト感度の有意な改善が観察された。 g)「積分発火」モデルの単純な段階的放出バージョンは、ここで報告されている効果の挙動を捕捉する。時間的に変調された中心(右上のグラフ、振動しているトレース)と変調されていない周辺(左上のグラフ、水平なトレース)を有する中心-周辺刺激をモデルニューロンに提示した。ガウス差分の受容野モデルを使用して、刺激の空間サンプリングをシミュレートした。受容野の除算的周辺成分は、入力軸に沿ってエンコーディング関数をスケーリングしていた(左下のグラフ、S型曲線のトレース)。 h)結果として、最大の変調は周辺輝度に比例し、異なる刺激が所与の周辺輝度(右下のパネルgにも示されている1つの条件)に対して最適にエンコードされる。 i)AAV2/2ベクターによる水平細胞のまばらな標識は、樹状突起および軸索終末の側方変位を実証している(スケールバー:上のパネルは50μm、下のパネルは25μm)。 j)左のパネル:ピークを揃えた中心-周辺構成の古典的な「ガウス差分」モデルの模式図。右のパネル:中心分布と周辺分布のピーク間のシフトを含む代替モデル、 k)重複するガウス分布を持つ中心-周辺受容野の古典的なモデルでは、中心が主にそれ自体のゲインを決定する。解剖学的構造を反映した空間オフセットを導入することで、周辺がコンテキストをより正確に表すゲインを設定できるようになる。異なる標準偏差を有するガウス分布を試験した(異なる陰影の濃さによって同定される)。全ての条件で、中心と周辺間のシフトがコンテキスト表現を改善した。全てのコントラスト感度値は、1/コントラスト閾値(1/c)として計算される。表示されている値は平均値で、陰影領域は標準偏差を示しており、p値はチューキーの事後多重比較検定を使用した一元配置分散分析(a、b)、またはシダックの事後多重比較検定を使用した双方向分散分析(e、f)により計算した。
****p<0.0001、
***p<0.001、
**p<0.01、
*p<0.05。
【
図4-1】側方入力の障害は、黄斑変性の残存する視力に影響を与える。 a)片側の仮想「暗点」は、正常な視力の対象におけるコントラストエンコーディングに影響を与える。刺激に対してより中心またはより周囲に配置された幅4°の半環帯は、コントラスト感度の閾値を有意に悪化させた(n=6、エラーバーは標準偏差を示す)。 b)マイクロペリメトリーは、シュタルガルト病患者の変性領域の機能マッピングを可能とした。ここでは、マイクロペリメトリーのスコアが眼底反射の画像に重ねて表示されている。色は、各場所の感度スコアをデシベル(dB)で指し示している。十字は平均固視位置を指し示している。この測定は、病変に近い位置と遠い位置におけるコントラスト感度(画像では、それぞれ円周のみの白丸と塗りつぶした白丸で指し示されている)を比較するための刺激配置の指針を提供した。刺激の配置は、試験した患者ごとに異なっていた。 c)パネル(b)に示されているのと同じ患者の黄斑病変の見た目と範囲を示している短波長(486nm)網膜眼底自己蛍光画像。白丸と黒丸は、試験された近位および遠位の位置を指し示している。対応する患者のデータは、パネルdの上2つのトレースで見ることができ、パネルeでは患者14と記されている。 d)シュタルガルト病の5人の患者のデータ。白丸は、病変に近い位置で測定されたコントラスト閾値を指し示している;黒丸は、病変の遠位の位置で測定されたコントラスト閾値を指し示している。黒の線は、低輝度の周辺で行われた測定値を結びつけている;灰色の線は、等輝度の周辺で行われた測定値を結びつけている。 e)各位置における各患者の低輝度周辺に対する等輝度のコントラスト感度の比として表したdからのデータ。等輝度周辺と低輝度周辺のコントラスト感度の比は、変性領域から離れた場所に配置された刺激では有意に大きくなっており、ダネットの事後多重比較検定(a)を使用した一元配置分散分析または対応のあるf-検定(e)を用いてp値を計算した。
****p<0.0001、
***p<0.001、
**p<0.01、
*p<0.05。
【
図5】等輝度周辺は、空間コントラスト感度関数を向上させる。 異なる空間周波数のガボールパッチを1.75°の環帯幅(n=9)に囲まれた1°の刺激領域内に提示した。全てのコントラスト感度値は、1/コントラスト閾値(1/c)として計算される。表示されている値は平均値であり、陰影の領域は標準偏差を示し、p値はチューキーの事後多重比較検定を用いて、一元配置分散分析により計算した。
****p<0.0001、
***p<0.001、
**p<0.01、
*p<0.05。
【
図6】「刺激の直径」、「環帯の直径」および「環帯幅」を示す模式図。 環帯幅は、(環帯の直径-刺激の直径)/2として定義した。
【
図7】環帯効果の解剖学的限界は、刺激の大きさに依存しない。 配線の置換に起源することを示唆する周辺効果の最小直径。小さい直径の刺激(0.3°の直径、下のトレース)と、より大きな直径の刺激(0.5°の直径、上のトレース)を使用して、6°の偏心度(n=6)における環帯効果の輪郭をマッピングした。等輝度環帯幅を増加させて、コントラスト感度の閾値を測定した。大きな刺激で得られた曲線は、小さな刺激で得られた曲線に対して上方にシフトしていることに注目されたい。両方の刺激に対する最低のコントラスト感度が、同じ幅の環帯で見られた(矢印で指し示されている)。環帯幅をさらに大きくすると、両方の刺激に対するコントラスト感度が同様の割合で改善された。表示されている値は平均値であり、陰影の領域は標準偏差を示している。
【
図8】桿体のみにより媒介される視覚におけるコントラスト感度は、周辺輝度の影響を受ける ボーンホルム眼病の2人の患者(7Hzの時間周波数における一番上と下から2番目のトレースと、7Hzの時間周波数における上から2番目と一番下のトレース)の時間コントラスト感度関数。サイレント置換により、桿体光受容体の選択的な刺激が可能となった。どちらの患者も、試験した全ての周波数において、等輝度(上の2つのトレース)の周辺に対して、低輝度(下の2つのトレース)の周辺により、コントラスト感度が悪化した。
【
図9】錐体のみにより媒介される視覚におけるコントラスト感度は、周辺輝度の影響を受ける 先天性停止性夜盲症(CSNB)の2人の患者(一番下と上から3番目のトレースと、上から2番目と下から2番目のトレース)の時間コントラスト感度関数。どちらの患者も、コントラスト感度は、低輝度(黒色の接続線)の周辺に対して、等輝度(灰色の接続線)の周辺によって改善された。正常な視力の対象の比較データが示されている(一番上のトレースと下から3番目のトレース、n=8、表示されている値は平均値であり、標準偏差は陰影により表示、
図1bに示されているデータ)。
【
図10】適応メカニズムを示唆する高輝度と低輝度の同等な効果 正常な視力の対象における低輝度、等輝度、および高輝度周辺との時間コントラスト感度の比較。コントラスト閾値は、6°の偏心度に置いた1°の刺激を使用して、4Hzの時間正弦波変調で測定した。低輝度周辺または高輝度周辺の効果は、同じ対象で試験したが、別の試験セッションにおいて行った(n=9)。等輝度条件を各セッションで繰り返した。値は平均値、エラーバーは標準偏差を示している。
【
図11】周辺輝度は、刺激のコントラストエンコーディング特性を調整する 中心と周辺の輝度の差によって決定されるピークコントラスト感度。y切片における上のトレース:時間コントラスト感度閾値をさまざまな周辺輝度値で測定した(n=9)。周辺輝度が平均刺激輝度(矢印)と等輝度である場合に高い感度が得られ、不一致の輝度レベルでは徐々に低下した。y切片における下のトレース:単一の値に設定された周辺輝度を使用して、さまざまな平均刺激輝度値で実験を繰り返した(矢印、
図2bのデータ)。表示されている値は平均値であり、陰影の領域は標準偏差を示している。
【
図12】修正版の視運動行動学的パラダイムで得られたコントラスト感度関数 1°の高さの正弦波刺激を使用して、野生型(n=4、上のトレース)およびCnga3
-/-マウス(n=4、下のトレース)のコントラスト感度関数を取得することができた。予想されたとおり、コントラスト感度の値は、同じ刺激をフルスクリーンで表示した場合に得られるものと比べて減少していた(
図3b)。表示されている値は平均値であり、陰影の領域は標準偏差を示している。
【
図13-1】個々のシュタルガルト病患者のマイクロペリメトリーデータと眼底自己蛍光画像 試験した全てのシュタルガルト病患者(n=5)のマイクロペリメトリーデータと眼底自己蛍光画像。左の列:眼底画像に重ね合わせた固視安定性(散乱シェーディング、実施例1を参照)。眼底自己蛍光データは、マイクロペリメトリーの前に取得した。中央の列:眼底写真に重ね合わせたマイクロペリメトリーから得られた感度値。バーは感度をデシベルで示している。十字は、左と中央の列の画像の平均固視点を指し示している。重ね合わせた白丸は、病変の近位(中心配置)および遠位(周囲配置)のコントラスト感度の精神物理学的試験に使用された刺激の大きさと場所を指し示している。右の列:短波長(486nm)の眼底自己蛍光画像。萎縮領域は、全ての患者で信号の減少を示している。
【
図14】ゲインの数学的モデルと、入出力関数に対するそれらの予測される影響。 ゲインを入力の除算または減算で実装した場合(それぞれ左上と左下のパネル)と、反応の除算または減算で実装した場合(それぞれ右上と右下のパネル)の、異なるゲイン値(対応する陰影で指し示される)における入出力関数を示す模式図。除算メカニズムを介してゲインを実装すると(上のパネル)、関数がスケーリングされるが、減算メカニズムを介して実装すると、スケーリングされずに関数がシフトする(下のパネル)。ゲイン係数を入力に適用すると、シフト/スケーリングがx軸に沿って生じ(左側のパネル)、反応に適用すると、y軸に沿って生じる(右側のパネル)。説明のために、異なる計算には異なるゲイン係数値が適用されていることに留意されたい。
【
図15】同時コントラスト錯視における輝度知覚変化の測定 a)同時コントラスト錯視における輝度知覚の変化の大きさを、テンプレートマッチング課題を使用してヒトの対象において測定した。陰極線管モニターを使用して、それぞれの中心に小さな正方形が配置された均一な灰色の領域の2つのセットを対象に提示した。画面の下半分に表示されている「標的」セットは、中心と周辺の間で2%のコントラスト差を示し、試験セッションの間ずっと変更を加えなかった。画面の上半分では、60%の白色(34.9cd/m
2)と100%の白色(63.7cd/m
2)の間の範囲で、各試行の所定の値に「試験周辺」を設定した。次に、「標的中心」の見た目と一致するまで、「試験中心」の見た目を変更するよう、対象に求めた。 b)試験周辺と標的周辺の間の輝度差が大きくなると、試験中心を標的中心の輝度に一致させる際のエラーが大きくなることを示している、全ての試験対象(n=9)からの平均データの平均(ラインフィットr
2=0.92)。エラーバーは標準偏差を示す。
【
図16】中心-周辺輝度の差によって課せられるコントラスト感度と輝度知覚との間の反相関。 a)テンプレートマッチングおよびコントラスト感度課題に対する中心と周辺間の固有のコントラストの影響。テンプレートマッチング課題のエラーの大きさ(標準化した試験スコアがフィッティングされたy切片上で0の位置にある線、r
2=0.92、
図15bに示されているデータ)は、コントラスト感度(標準化した試験スコアがフィッティングされたy切片上で1の位置より上の線、r
2=0.98)が低下するにつれて増加した。同じ対象(n=4)と、同じ中心および周辺の輝度値が、2つの課題のために使用されたことに注目されたい。 b)テンプレートマッチングスコアとコントラスト感度スコアとの間の相関(ラインフィット、r
2=0.88;スピアマン相関=1)。
【
図17】周辺輝度は、コントラスト感度に対する迅速な影響を媒介する。 周辺媒介効果は、周辺輝度への長時間の適応を必要としない。2人の正常な視力の対象における低輝度、等輝度、および高輝度周辺の時間コントラスト感度の比較(等輝度周辺で最高のコントラスト感度を有する2つのトレースは、1人の対象に対応し、等輝度周辺で最低のコントラスト感度を有する2つのトレースは、第2の対象に対応している)。コントラスト閾値は、6°の偏心度に置いた1°の刺激を使用して、4Hzの時間正弦波変調で測定した。黒丸は、試験セッション全体を通して設定された背景の輝度で行われた測定を示す。刺激提示間の反応期間中に背景輝度を等輝度に設定し、刺激の開始と一致して減少または増加させただけの場合、非常に類似した測定値が得られた(白丸)。これら2つの異なる提示パラメータを用いて得られた測定値の類似性は、周辺における輝度の影響が適応メカニズムの遅さによるものではなく、周辺が中心へのフィードバックを高速に提供することを示している。
【発明を実施するための形態】
【0023】
詳細な説明
本明細書で使用される用語は、本発明の特定の実施形態のみを説明するものであり、限定を意図するものではないことを理解されたい。
【0024】
また、本明細書および添付の特許請求の範囲において、単数形の「1つ(a)」、「1つ(an)」、および「その(the)」は、特に断りのない限り、複数形の言及を含んでいる。したがって、例えば、「ポリヌクレオチド」への言及は「複数のポリヌクレオチド」を含み、「プロモーター」への言及は「複数のプロモーター」を含み、「ベクター」への言及は2つ以上のそのようなベクターを含み、「分子」への言及は2つ以上のそのような分子などを含む。
【0025】
本明細書で使用される場合、核酸分子という用語は、コード配列、発現構築物、またはベクターを含むが、これらに限定はされない。
【0026】
「網膜障害」または「網膜ジストロフィー」という用語は、網膜の疾患として定義されうる。網膜障害は、光受容細胞の進行性の喪失および付随する視力の喪失によって特徴付けられうる。あるいは、網膜障害は、光受容細胞機能の進行性または定常性の喪失、および付随する視力の喪失によって特徴付けられうる。障害またはジストロフィーは、遺伝性または後天性でありうる。一つの側面では、障害は、色覚異常、青錐体一色型色覚(BCM)、および黄斑変性(加齢黄斑変性およびシュタルガルト病を含む)を含むリストから選択される。
【0027】
「患者」および「対象」という用語は、交換可能に使用されうる。患者は、好ましくは哺乳動物である。哺乳動物は、ウマ、ウシ、ヒツジもしくはブタなどの商業的に飼育されている動物、マウスもしくはラットなどの実験動物、またはネコ、イヌ、ウサギ、もしくはモルモットなどのペットでありうる。患者は、より好ましくはヒトである。対象は、男性でも女性でもよい。対象は、好ましくは、上述の網膜障害またはジストロフィーのうちの1つを発症するリスクがある、またはそれを有すると同定される。
【0028】
本明細書で使用される場合、「治療する(treat)」、「治療すること(treating)」、「治療(treatment)」という用語は、治療的処置と予防的または防止的措置の両方を指し、その目的は、望ましくない生理学的状態、障害または疾患を防止または減速(軽減)すること、あるいは有益または望ましい臨床結果を得ることである。有益なまたは所望の臨床結果は、症状の軽減;状態、障害または疾患の程度の減少;状態、障害または疾患の状況の安定化(すなわち、悪化していない);状態、障害または疾患の発症の遅延または進行の遅延;状態、障害または疾患状況の回復;検出可能または検出不可能にかかわらず、状態、障害または疾患の寛解(部分的または全体的にかかわらない)、または増強もしくは改善を含むが、これらに限定はされない。治療は、過剰なレベルの副作用を伴わずに臨床的に有意な反応を引き出すことを含む。
【0029】
本明細書において引用した全ての刊行物、特許および特許出願は、参照によりその全体が組み込まれる。
【0030】
遺伝子産物
本明細書において提供されるものは、膜タンパク質などの遺伝子産物をコードする核酸分子である。水平細胞の過分極を引き起こす任意の遺伝子産物が、本発明において使用されうる。本明細書において提供されるものは、水平細胞を過分極させる遺伝子産物をコードする核酸分子である。本明細書において提供されるものは、遺伝子産物をコードする核酸分子であって、水平細胞における遺伝子産物の発現が、水平細胞を過分極させる、核酸分子である。本明細書において提供されるものは、遺伝子産物をコードする核酸分子であって、水平細胞における遺伝子産物の発現が、視覚を改善するために水平細胞を過分極させる、核酸分子である。本明細書において提供されるものは、遺伝子産物をコードする核酸分子であって、水平細胞における遺伝子産物の発現が、それを必要とする対象の視力を改善するために水平細胞を過分極させる、核酸分子である。本明細書において提供されるものは、遺伝子産物をコードする核酸分子であって、水平細胞における遺伝子産物の発現が、それを必要とする対象における薄明視および/または明所視を改善するために水平細胞を過分極させる、核酸分子である。
【0031】
例えば、膜タンパク質は、ヒト水平細胞において内因的に発現されるイオンチャネル、イオンポンプ、またはGタンパク質共役受容体、または正味の外向きコンダクタンスを生成する他の興奮性細胞型(excitable cell type)において内因的に発現されるチャネル、ポンプまたは受容体、例えば、タンデムポアドメイン「リーク」カリウムチャネル(K2p1-18)、電位依存性カリウムチャネル(Kv1-9)、Ca2+活性化カリウムチャネル(BK、SKおよびIKチャネル)、内向き整流カリウムチャネル(例えば、Kir1-8)、クロライドチャネル、およびイオンポンプといったものでありうる。膜タンパク質はまた、野生型タンパク質の機能を保持する上記タンパク質のバリアントであってもよい。
【0032】
一実施形態では、水平細胞の過分極は、イオンチャネルによって媒介される。好ましくは、水平細胞の過分極は、カリウムチャネルによって媒介される。一実施形態では、カリウムチャネルは、タンデムポアドメイン「リーク」カリウムチャネル(K2pチャネル)、電位依存性カリウムチャネル(Kvチャネル)、Ca2+活性化カリウムチャネル(BK、SKまたはIKチャネル)、または内向き整流カリウムチャネル(Kirチャネル)でありうる。哺乳動物種由来のカリウムチャネルの具体例は、タンデムポアドメイン「リーク」カリウムチャネル(K2p1-18)、電位依存性カリウムチャネル(Kv1-9)、Ca2+活性化カリウムチャネル(BK、SKおよびIKチャネル)、および内向き整流カリウムチャネル(例えば、Kir1-8)を含む。別の実施形態では、膜タンパク質は、クロライドチャネルまたはイオンポンプである。
【0033】
イオンチャネルまたはイオンポンプなどの膜タンパク質は、例えば、本発明のベクターにおける送達後に、水平細胞で過剰発現される野生型タンパク質でありうる。また、膜タンパク質は、上記のいずれかのタンパク質のバリアントであってもよく、例えば、野生型タンパク質の機能を保持したバリアントであってもよい。
【0034】
イオンチャネルまたはイオンポンプなどの膜タンパク質は、構成的に活性でありうる。あるいは、イオンチャネルまたはイオンポンプなどの膜タンパク質は、光遺伝学的アクチュエーター(optogenetic actuator)であってもよい。光遺伝学的アクチュエーターは、電気化学信号を生成できる光活性化または光駆動型のタンパク質である。「光遺伝学的」および「光感受性」(light-sensitive)という用語は、当技術分野では交換可能に使用され得る。
【0035】
本発明の光遺伝学的アクチュエーターは、好ましくは、カリウムコンダクタンスを媒介(mediate)することによって水平細胞の過分極を媒介する。光遺伝学的アクチュエーターは、水平細胞の過分極を媒介する光感受性カリウムチャネルベースのアクチュエーターを含みうる。光遺伝学的アクチュエーターは、カリウムチャネルに連結された光制御膜タンパク質を含みうる。光遺伝学的アクチュエーターは、光感受性カリウムチャネルまたはカリウムチャネルに連結された光活性化分子を含みうる。そのような光遺伝学的アクチュエーターは、遺伝子改変されて(engineered)おり、当技術分野で知られている。
【0036】
例えば、一実施形態では、光遺伝学的アクチュエーターは、光感受性合成カリウムチャネルである。一実施形態では、光遺伝学的アクチュエーターは、水平細胞の過分極をもたらす光感受性合成カリウムチャネルである。本発明において有用な例示的な光感受性合成カリウムチャネルは、BLINK1およびBLINK2を含む。
【0037】
BLINK1は、青色光によって誘導されるK+チャネル1である、Cosentino et al., 2015 ("Engineering of a light-gated potassium channel" Science, Vol. 348, Issue 6235, pp. 707-710)に記載されている。BLINK1は、植物のLOV2-Jα光感受性モジュールを小さなウイルスカリウムチャネルKcvに融合させることによって遺伝子改変された。BLINK1は、カリウム選択性および高い単一チャネルコンダクタンスを含むKcvの生物物理学的特徴を示すが、青色光で可逆的に光活性化する。BLINK1チャネルの開口は、細胞をカリウム平衡電位に過分極させる。
【0038】
BLINK2は、Alberio et al., 2018 ("A light-gated potassium channel for sustained neuronal inhibition". Nat Methods 15(11):969-976)に開示されているように、BLINK1の最適化されたバージョンである。特に、BLINK2は、BLINK1と比較して、より高い表面発現をニューロンにおいて示し、ゼブラフィッシュ、ラット、およびマウスの3つの動物モデルで発火を効率的に抑制した。BLINK2に特有なものは、数十分続く照明後の活性である。この特性は、例えば、神経因性疼痛の場合、または行動学的動物実験において、有毒な長時間照明への暴露を伴わずに、長いニューロン抑制を達成するのに有利である。したがって、好ましい実施形態では、光感受性合成カリウムチャネルは、BLINK2またはそのバリアントである。
【0039】
別の実施形態では、光遺伝学的アクチュエーターは、2成分光学サイレンサー系を含みうる。別の実施形態では、光遺伝学的アクチュエーターは、光活性化アデニリルシクラーゼ(PAC)および小環状ヌクレオチド依存性カリウムチャネルSthK(PAC-Kアクチュエーター)を含む2成分光学サイレンサー系を含みうる。PACは、リンカーを介してシクラーゼドメインに結合したフラビン(BLUF)ドメインを使用する青色光受容体からなる青色光活性化シクラーゼである。それらは、さまざまな種で同定されており、さまざまな光感受性と酵素反応速度を提供している。適切なPACは、NgPAC1、bPAC、TpPAC、OaPACおよびlc-PACを含む、Bernal Sierra et al., 2018 ("Potassium channel-based optogenetic silencing". Nat Commun 9, 4611)に記載されているものを含む。前述の各PACは、カリウムコンダクタンスの光活性化増加を提供するために、本発明においてSthKと組み合わせて使用されうる。特に、SthK-NgPAC1、SthK-bPAC、SthK-TpPAC、SthK-OaPAC、およびSthK-lc-PACのいずれかが、本発明におけるアクチュエーターとして使用されうる。
【0040】
したがって、本明細書において提供されるものは、カリウムチャネルを含む光遺伝学的アクチュエーターをコードする核酸分子に作動可能に連結されたプロモーターを含む発現構築物である。好ましい実施形態において、本明細書において提供されるものは、光感受性カリウムチャネルを含む光遺伝学的アクチュエーターをコードする核酸分子に作動可能に連結されたプロモーターを含む発現構築物である。好ましい実施形態では、本明細書に提供されるものは、カリウムチャネルに連結された光活性化分子を含む光遺伝学的アクチュエーターをコードする核酸分子に作動可能に連結されたプロモーターを含む発現構築物である。
【0041】
好ましい実施形態では、光遺伝学的アクチュエーターは、BLINK2、BLINK1、またはNgPAC1、bPAC、TpPAC、OaPAC、lc-PACなどの小環状ヌクレオチド依存性カリウムチャネルに連結された光活性化アデニリルシクラーゼ(PAC)から選択される。
【0042】
また、前述の光遺伝学的アクチュエーターの1つのバリアントをコードする核酸分子に作動可能に連結されたプロモーターを含む発現構築物も提供され、ここで、バリアント光遺伝学的アクチュエーターはカリウムコンダクタンスを媒介するように機能する。
【0043】
水平細胞における前記光遺伝学的アクチュエーターの発現は、水平細胞への正常な、錐体由来の光入力を模倣する。あるいは、イオンチャネルまたはイオンポンプなどの膜タンパク質は、化学遺伝学的アクチュエーター(chemogenetic actuator)であってもよく、これは、それらが細胞シグナル伝達を変更するために合成リガンドによって活性化または阻害される遺伝子改変された受容体であることを意味する。水平細胞における前記化学遺伝学的アクチュエーターの発現および前記合成リガンドの投与(全身または局所)は、水平細胞の過分極を引き起こす。
【0044】
遺伝子産物が光遺伝学的アクチュエーターである場合、前記遺伝子産物の発現は錐体細胞からの入力を模倣する。このように、光感受性膜タンパク質の発現は、水平細胞が光に反応して過分極し、シナプス後部の光受容体を光レベルの増加に合わせて動的に再調整する天然のメカニズムを再現する。遺伝子産物が化学遺伝学的アクチュエーターまたは構成的に活性なタンパク質である場合、活性化は、最適な光感度の範囲が静的に高い局所領域を生成し、それによって薄明視および明所視が改善される。
【0045】
また、本明細書において提供されるものは、カリウムチャネルを含む化学遺伝学的アクチュエーターをコードする核酸分子に作動可能に連結されたプロモーターを含む発現構築物である。
【0046】
遺伝子産物は、内在性または外来性の分子による活性化または不活性化が水平細胞の過分極を導く、イオンチャネルまたはイオンポンプに連結された受容体でありうる。例えば、遺伝子産物は、カリウムチャネルに連結された化学感受性受容体(chemosensitive receptor)でありうる。適切な受容体は、ニューロンGPCRなどのGタンパク質共役受容体(GPCR)を含む。特定の生物学的に不活性な化学物質(デザイナードラッグ)にのみ反応するように遺伝子改変されたGPCRが、当技術分野で知られている。例示的な改変GPCRは、デザイナードラッグによって排他的に活性化されるデザイナーレセプター(DREADD)として知られている。一つの側面によれば、DREADDを発現しないニューロン(例えば水平細胞)はデザイナードラッグに反応しないが、DREADDを発現する細胞は低濃度のデザイナードラッグに強く反応する。したがって、DREADDなどの遺伝子改変されたGPCRを発現するように水平細胞を改変しうると考えられる。
【0047】
適当なデザイナーレセプターは、hM3Dq(不活性なクロザピン代謝物であるクロザピン-N-オキシド(CNO)により活性化され得るヒトM3ムスカリン性(hM3)受容体の改変体)、hM4Di(不活性なクロザピン代謝物クロザピン-N-オキシド(CNO)により活性化され得るヒトM4ムスカリン(hM4)受容体の改変体)またはKORD(不活性化合物サルビノーリンB(SALB)により活性化され得るヒトカッパオピオイド(KOR)受容体の改変体)を含む。水平細胞集団内における2つの遺伝子改変されたGPCRの共発現が、ニューロンの活性を双方向に制御するために使用されうる。
【0048】
一つの側面では、核酸分子は、古細菌および細菌などの微生物に天然に見出される光感受性タンパク質をコードするオプシン遺伝子またはそのバリアントを含む。適切なオプシンの例は、バクテリオロドプシン(プロトンポンプ)、ハロロドプシン(イオンポンプ)、チャネルロドプシン(イオンチャネル)、およびそれらのバリアントを含む。また、レプトスファエリア・マキュランス(Leptosphaeria maculans)真菌オプシン(「Mac」)も開示される。オプシンタンパク質は、阻害性オプシンタンパク質でありうる。阻害性オプシンタンパク質は、NpHR eNpHR 1.0、eNpHR 2.、eNpHR 3.0、SwiChR、SwiChR 2.0、SwiChR 3.0、Arch、ArchT、Arch 3.0、ArchT 3.0、iChR、iC++、ChloC、Slow ChloC、iC1C2、iC1C2 2.0、およびiC1C2 3.0からなる群から選択されうる。
【0049】
水平細胞における本発明の遺伝子産物の発現は、前記細胞を人為的に過分極させ、かつ/または細胞の外向きコンダクタンスを増加させることを可能とする。水平細胞の過分極は、細胞が接触する桿体および/または錐体光受容体シナプスの動作範囲を調整する。したがって、水平細胞の過分極の最終的な結果は、桿体光受容体がより明るい照明下(すなわち、薄明視または明所視の範囲)でより良い信号を送ることとなる。したがって、水平細胞における本開示の遺伝子産物の発現は、標準的な手段を用いて測定されるように、視力を改善し、コントラスト感度を改善し、生理学的光レベルへの嫌悪を減らし、フリッカー融合閾値を低下させうる。好ましくは、水平細胞における人為的な過分極および/または外向きコンダクタンスの増加は、カリウムチャネルを含む遺伝子産物によって媒介される。
【0050】
発現構築物
本発明の核酸分子は、発現構築物の形態で提供されうる。発現構築物は、上記のように核酸分子に作動可能に連結された制御配列を含む。したがって、発現構築物は、in vivoにおける本発明の遺伝子産物の発現を可能にする。「作動可能に連結された」という用語は、記載された構成要素が、それらが意図した様式で機能することを可能にする関係にある並置を指す。コード配列に「作動可能に連結された」制御配列は、制御配列と適合する条件下でコード配列の発現が達成されるようにライゲーションされる。次いで、典型的には、これらの発現構築物は、ベクター(例えば、プラスミドまたは組換えウイルスベクター)内に提供される。そのような発現カセットは、宿主対象に直接的に投与されてもよい。
【0051】
本発明の発現構築物またはベクターは、薄明視または明所視を改善する。「改善」とは一般に、視力低下、コントラスト感度低下、生理学的光レベルへの嫌悪、フリッカー融合閾値の低下、または色覚異常における錐体機能の喪失に関連するその他の表現型、青錐体一色型色覚(BCM)、黄斑変性(加齢黄斑変性およびシュタルガルト病を含む)または錐体桿体ジストロフィーの1つ以上の改善を意味する。
【0052】
本発明の発現カセットまたはベクターの特性は、また、実施例に記載されているものに基づく技術を使用して試験され得る。特に、本発明の発現カセットを本発明のベクター中に組み込んで、マウスなどのCnga3-/-試験動物の網膜に送達し、効果を観察して対照と比較することができる。好ましくは、対照は、未処置であるか、または本発明の配列ではなくレポーター遺伝子を含むものなどの対照ベクターで処置された同じ動物の他方の眼である。コントラスト感度は、実施例1および5に記載されているように、視運動試験を使用して決定されうる。網膜電図(ERG)は、光刺激に反応して網膜内の神経細胞および非神経細胞によって生成される電気的活動を測定する診断試験であり、よって、網膜の機能を測定するために使用されうる。ヒト対象においては、コントラスト感度および視力を測定するように設計された実施例に開示されたものを含む精神物理学的試験、およびフリッカー融合パラダイム、「羞明」または「光嫌悪」を含む主観的測定もまた使用されうる。コントラスト感度と視力のさらなる日常的な臨床尺度は、スネレンチャートとペリー-ロブソンチャートを含む。
【0053】
水平細胞における本発明の発現構築物の発現は、前記細胞を人為的に過分極させ、かつ/または細胞の外向きコンダクタンスを増加させることを可能とする。水平細胞の過分極は、細胞が接触する桿体および/または錐体光受容体シナプスの動作範囲を調整する。したがって、本発明の発現構築物は、水平細胞に送達された場合、桿体光受容体における最適な光感受性の範囲を増加させ、それによって薄明視および明所視を改善しうる。
【0054】
プロモーター
本明細書に開示されるものは、上記の核酸分子に作動可能に連結されたプロモーターを含む発現構築物である。プロモーターは、構成的または条件的に活性でありうる。
【0055】
プロモーターは、好ましくは水平細胞優先的(horizontal cell-preferred)または水平細胞特異的(horizontal cell-specific)なプロモーターまたはそのバリアントである。水平細胞優先的な発現は、光受容細胞などの他の細胞型よりも水平細胞において多く存在する発現として定義され得る。水平細胞特異的な発現は、水平細胞にのみ存在し、他の細胞型には存在しない発現として定義されうる。水平細胞特異的な発現は、他の細胞型、特に光受容細胞よりも水平細胞において約10倍、20倍、50倍、または100倍以上多い発現として定義されうる。水平細胞および他の細胞型における発現は、当業者に知られている任意の適切な標準的技術によって測定され得る。例えば、RNA発現レベルが定量的リアルタイムPCRによって測定され得る。タンパク質発現は、ウェスタンブロッティングまたは免疫組織化学によって測定され得る。
【0056】
水平細胞で特異的に発現し、したがって水平細胞特異的な発現を可能にするプロモーターを持つ遺伝子は、ギャップ結合アルファ-10タンパク質(Gja10)を含む。
【0057】
一つの側面では、プロモーターは、Gja10のプロモーター配列、またはGja10プロモーターの機能を保持するそのプロモーター配列の断片もしくはそのプロモーター配列のバリアントを含む。
【0058】
一つの側面では、プロモーターは、ヒトGja10プロモーターの連続したヌクレオチドの配列、またはヒトGja10プロモーターの機能を保持するそのバリアントを含む。一つの側面では、プロモーターは、Gja10プロモーターの機能を保持する、ヒトGja10プロモーターの配列の少なくとも400nt、450nt、500nt、600nt、700nt、800nt、900nt、1.0kb、1.5kb、2.0kb、2.5kb、3.0kbまたは3.5kbの連続した配列を含む。一つの側面では、プロモーターは、Gja10プロモーターの機能を保持する、ヒトGja10プロモーターの配列の400nt、450nt、450nt、500nt、600nt、700nt、800nt、900nt、1.0kb、1.5kb、2.0kb、2.5kb、3.0kbまたは3.5kb以下の連続した配列を含む。一つの側面では、プロモーターは、ヒトGja10プロモーターの連続したヌクレオチドの配列、またはヒトGja10プロモーターの機能を保持し、それに対して少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%または95%の配列同一性を有するそのバリアントを含む。
【0059】
一つの側面では、プロモーターは、ヒトGja10プロモーターの連続したヌクレオチドの配列、または全長ヒトGja10プロモーターに対して少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%または95%の配列同一性を有し、ヒトGja10プロモーターの機能を保持するバリアントを含む。一つの側面では、プロモーターは、ヒトGja10プロモーターの連続したヌクレオチドの配列、またはヒトGja10プロモーターの400nt、450nt、450nt、500nt、600nt、700nt、800nt、900nt、1.0kb、1.5kb、2.0kb、2.5kb、3.0kb、または3.5kbに対して少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、または95%の配列同一性を有するそのバリアントを含む。
【0060】
一つの側面では、プロモーターは、マウスGja10プロモーターの連続したヌクレオチドの配列、またはGja10プロモーターの機能を保持するそのバリアントを含む。一つの側面では、プロモーターは、Gja10プロモーターの機能を保持する、マウスGja10プロモーターの配列の少なくとも400nt、450nt、500nt、600nt、700nt、800nt、900nt、1.0kb、1.5kb、2.0kb、2.5kb、3.0kbまたは3.5kbの連続した配列を含む。一つの側面では、プロモーターは、Gja10プロモーターの機能を保持する、マウスGja10プロモーターの配列の400nt、450nt、450nt、500nt、600nt、700nt、800nt、900nt、1.0kb、1.5kb、2.0kb、2.5kb、3.0kbまたは3.5kb以下の連続した配列を含む。一つの側面では、プロモーターは、マウスGja10プロモーターの連続したヌクレオチドの配列、またはGja10プロモーターの機能を保持し、それに対して少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%または95%の配列同一性を有するそのバリアントを含む。一つの側面では、プロモーターは、マウスGja10プロモーターの連続したヌクレオチドの配列、または全長マウスGja10プロモーターに対して少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%または95%の配列同一性を有し、Gja10プロモーターの機能を保持するバリアントを含む。一つの側面では、プロモーターは、マウスGja10プロモーターの連続したヌクレオチドの配列、またはマウスGja10プロモーターの400nt、450nt、450nt、500nt、600nt、700nt、800nt、900nt、1.0kb、1.5kb、2.0kb、2.5kb、3.0kb、または3.5kbに対して少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、または95%の配列同一性を有するそのバリアントを含む。
【0061】
一つの側面では、プロモーターは、配列番号1の配列、またはそれと少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%の配列同一性を有し、Gja10プロモーターの機能を保持する配列を含む。別の側面では、プロモーターは、Gja10プロモーターの機能を保持する、配列番号1の配列の少なくとも400nt、500nt、600nt、700nt、800nt、900nt、1.0kb、1.5kb、2.0kb、2.5kb、3.0kbまたは3.5kbの連続した配列を含む。一つの側面では、プロモーターは、配列番号1の全長に対して少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含み、このバリアントはGja10プロモーターの機能を保持する。一つの側面では、プロモーターは、配列番号1の配列の400nt、500nt、600nt、700nt、800nt、900nt、1.0kb、1.5kb、2.0kb、2.5kb、3.0kbまたは3.5kbに対して少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む。
【0062】
プロモーターと同様に、1つ以上の他の調節エレメントもまた存在しうる。例えば、本発明のプロモーターは、1つ以上のさらなるプロモーターまたはエンハンサーまたは遺伝子座制御領域(LCR)とタンデムで使用され得る。
【0063】
本発明の核酸分子は、遺伝子治療ベクター、リポソーム、ナノ粒子(例えば、ポリマーナノ粒子、固体脂質ナノ粒子、または圧縮DNAナノ粒子)、デンドリマー、ポリプレックス、またはポリマーミセルによって投与されてもよい。
【0064】
ベクター
本発明の核酸分子が遺伝子治療ベクターによって投与される際、ベクターは任意の型のものでありうる。例えば、ベクターは、プラスミドベクターまたはミニサークルDNAベクターでありうる。
【0065】
典型的には、本発明のベクターはウイルスベクターである。ウイルスベクターは、単純ヘルペスウイルス、アデノウイルスまたはレンチウイルスに基づくものでありうる。アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターまたはその誘導体は、一般に非病原性であるため、特に魅力的である;ほとんどの人は、このウイルスに感染しているが、悪影響はない。さらに、眼組織の免疫特権により、眼は有害な免疫反応から大幅に免除される。
【0066】
典型的には、本発明のベクターは、好ましくはゲノムの各末端に1つずつ、2つの逆方向末端反復(ITR)を含む。ITR配列はシスで作用して機能的な複製起点を提供し、細胞のゲノムへのベクターの組み込みと切除を可能とする。AAVゲノムは、典型的には、AAVウイルス粒子のパッケージング機能をコードするrepおよび/またはcap遺伝子などのパッケージング遺伝子を含む。rep遺伝子は、タンパク質Rep78、Rep68、Rep52およびRep40またはそれらのバリアントのうちの1つ以上をコードする。cap遺伝子は、VP1、VP2、およびVP3またはそのバリアントなどの1つ以上のキャプシドタンパク質をコードする。これらのタンパク質は、AAVウイルス粒子のキャプシドを構成する。
【0067】
AAVゲノムは、AAVの任意の天然由来の血清型または分離株またはクレードに由来しうる。
【0068】
当業者は、共通の一般知識に基づいて、本発明で使用するためのAAVの適切な血清型、クレード、クローン、または分離株を選択することができる。好ましい側面では、血清型はAAV8である。水平細胞以外の細胞を標的とする場合、他の血清型が好ましい場合がありうる。例えば、AAV2/5またはAAV2である。
【0069】
好ましくは、AAVゲノムは患者への投与のために誘導体化される。典型的には、上記の機能を保持しながら最小限のウイルス配列を含めるように、AAVゲノムを大幅に切り詰めることが可能である。誘導体化は、ベクターと野生型ウイルスとの組換えのリスクを低減し、標的細胞にウイルス遺伝子タンパク質が存在することによる細胞性免疫反応の誘発を回避する。誘導体は、1つ以上の天然に存在するAAVウイルスのキメラ型、シャッフル型またはキャプシド修飾型の誘導体でありうる。
【0070】
全てのAAV血清型のゲノムは、多数の異なるキャプシドタンパク質の中に封入され得る。例えば、AAV2は、その天然のAAV2キャプシド(AAV2/2)中にパッケージ化することも、他のキャプシドでシュードタイピングすることもできる(例えば、AAV1キャプシド中のAAV2ゲノム;AAV2/1、AAV5キャプシド中のAAV2ゲノム;AAV2/5、およびAAV8キャプシド中のAAV2ゲノム;AAV2/8)。
【0071】
キメラ型、シャッフル型、またはキャプシド修飾型の誘導体は、典型的には、ウイルスベクターに1つ以上の所望の機能を提供するために選択される。したがって、これらの誘導体は、AAV2のような天然に存在するAAVゲノムを含むAAVウイルスベクターと比較して、遺伝子導入効率の向上、免疫原性(体液性または細胞性)の低下、トロピズム範囲の変更、および/または特定の細胞型の標的化の改善を示しうる。
【0072】
遺伝子導入効率の向上は、細胞表面での受容体または共受容体結合の改善、内在化の改善、細胞内および核への輸送の改善、ウイルス粒子の被覆除去の改善、一本鎖ゲノムの二本鎖形態への変換の改善によって影響されうる。また、効率の向上は、ベクターの用量が必要のない組織への投与によって希釈されないような、向性範囲の変更または特定の細胞集団の標的化にも関連しうる。
【0073】
キメラ型キャプシドタンパク質は、天然に存在するAAV血清型の2つ以上のキャプシドコード配列間の組換えによって生成されるものを含む。これは、例えば、ある血清型の非感染性キャプシド配列を異なる血清型のキャプシド配列と同時にトランスフェクトし、指向性選択を使用して、所望の特性を有するキャプシド配列を選択するマーカーレスキューアプローチによって実行されうる。異なる血清型のキャプシド配列は、新規のキメラ型キャプシドタンパク質を生成するために、細胞内での相同組換えによって変更され得る。
【0074】
キメラ型キャプシドタンパク質は、キャプシドタンパク質配列を遺伝子改変して、異なるキャプシドタンパク質間で特定のキャプシドタンパク質ドメイン、表面ループ、またはアミノ酸残基を移動させることによって生成されうる。シャッフル型キャプシドタンパク質は、DNAシャッフリングまたはエラー誘発性PCRによって生成されうる。
【0075】
キャプシド遺伝子の配列はまた、天然の野生型配列に特定の欠失、置換、または挿入を導入するために遺伝子改変されていてもよい。特に、キャプシド遺伝子は、キャプシドコード配列のオープンリーディングフレーム内、またはキャプシドコード配列のN末端および/またはC末端に、無関係のタンパク質またはペプチドの配列を挿入することによって改変されていてもよい。無関係なタンパク質またはペプチドは、有利には、特定の細胞型に対するリガンドとして作用し、それによって標的細胞への結合を改善するか、または特定の細胞集団へのベクターの標的化の特異性を改善するものでありうる。また、無関係のタンパク質はまた、産生プロセスの一部としてウイルス粒子の精製を補助するタンパク質、すなわちエピトープまたはアフィニティータグであってもよい。挿入部位は、典型的には、ウイルス粒子の他の機能、例えば、ウイルス粒子の内在化、輸送を妨害しないように選択される。当業者は、共通の一般知識に基づいて、挿入に適した部位を同定することができる。
【0076】
本発明はさらに、天然のAAVゲノムのものとは異なる順序および構成でのAAVゲノムの配列の提供を包含する。本発明はまた、1つ以上のAAV配列または遺伝子を別のウイルス由来の配列で置換すること、または2つ以上のウイルス由来の配列から構成されるキメラ遺伝子で置換することを包含する。そのようなキメラ遺伝子は、異なるウイルス種の2つ以上の関連するウイルスタンパク質由来の配列から構成されうる。
【0077】
AAVウイルスには複製能力がない。したがって、典型的には、ヘルパーウイルス機能、好ましくはアデノウイルスヘルパー機能もまた、AAV複製を可能にする1つ以上の追加の構築物上に提供されるであろう。
【0078】
疑義を避けるために、本発明は、本発明のベクターを含むAAVウイルス粒子も提供する。本発明のAAV粒子は、ある血清型のITRを有するAAVゲノムまたは誘導体が、異なる血清型のキャプシド中にパッケージングされているトランスキャプシド化形態を含む。本発明のAAV粒子はまた、2つ以上の異なる血清型由来の未修飾キャプシドタンパク質の混合物がウイルスエンベロープを構成するモザイク形態も含む。AAV粒子はまた、キャプシド表面に吸着したリガンドを有する化学的に修飾された形態も含む。例えば、そのようなリガンドは、特定の細胞表面受容体を標的化する抗体を含みうる。
【0079】
本発明はさらに、本発明のベクターまたはAAVウイルス粒子を含む宿主細胞を提供する。
【0080】
本発明のベクターは、遺伝子治療用のベクターを提供するために、当技術分野で知られている標準的な手段によって調製されうる。したがって、十分に確立されたパブリックドメインのトランスフェクション、パッケージング、および精製方法を使用して、適切なベクター調製物を調製することができる。
【0081】
本発明において使用するための特に好ましいパッケージ化ウイルスベクターは、AAV5またはAAV8キャプシドタンパク質と組み合わせたAAV8血清型またはAAV2の誘導体化ゲノムを含む。
【0082】
上記の追加の構築物は全て、プラスミドまたは宿主細胞中の他のエピソーム要素として提供されうる。あるいは、1つ以上の構築物が、宿主細胞のゲノム中に組み込まれていてもよい。
【0083】
外来性タンパク質
コントラスト感度の改善は、水平細胞の過分極を引き起こす外来性成分の送達に起因するものであってもよい。例えば、過分極を導く正味の外向き電流を伝導するイオンチャネル、イオンポンプ、もしくはプロトンポンプのうちの1つ以上、または内在性または外来性の分子による活性化または不活性化が水平細胞の過分極を導くイオンチャネルもしくはイオンポンプに連結された受容体。
【0084】
タンパク質治療薬を細胞に送達する手段は、当技術分野において知られている。例えば、本発明のタンパク質は、水平細胞への送達を助けるペプチドにコンジュゲートされていてもよい。h4mDiなどの本発明のペプチドは、細胞透過性ペプチド(CPP)にコンジュゲートされていてもよい。本発明のCPPは、組織への物質の取り込みを助ける。本発明のCPPは、物質の細胞内更新(update)を助ける。本発明のCPPは、物質のトランスサイトーシスを増強する。細胞内更新(update)は、当業者により当技術分野で知られている方法によって測定され得る。
【0085】
低分子
水平細胞に投与することで、その過分極を導くことができる低分子もまた提供される。例えば、正味の内向き電流を構成的に伝導するイオンチャネルまたはイオンポンプをブロックする低分子、またはそのようなコンダクタンスの上流または下流の受容体またはシグナル伝達成分をブロックする低分子は、水平細胞の過分極を引き起こすのに役立つであろう。低分子は、リポソーム、CPP、硝子体内注射、またはそれらの組み合わせを使用して、水平細胞に送達されてもよい。
【0086】
医薬組成物
本発明は、本発明の核酸(コード配列、発現構築物、またはベクター)、タンパク質、または低分子を含む薬学的組成物を提供する。組成物は、さらに、当業者によく知られている薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤、アジュバント、緩衝剤、安定剤、および/または他の材料を含んでいてもよい。そのような物質は、非毒性であるべきであり、活性成分の効能を妨げるべきではない。
【0087】
担体または他の物質の正確な性質は、投与経路(例えば、直接的な網膜、網膜下または硝子体内への注射)に応じて、当業者により決定されうる。
【0088】
医薬組成物は、典型的には液体の形態である。液体医薬組成物は一般に、水、石油、動物または植物油、鉱油または合成油などの液体担体を含む。生理食塩水、塩化マグネシウム、デキストロースもしくは他の糖溶液、またはエチレングリコール、プロピレングリコールもしくはポリエチレングリコールなどのグリコールが含まれていてもよい。場合によっては、プルロン酸(PF68)0.001%などの界面活性剤が使用されうる。
【0089】
患部に注射する場合、活性成分は、発熱物質を含まず、適切なpH、等張性および安定性を有する水溶液の形態となるであろう。当業者は、例えば、塩化ナトリウム注射液、リンゲル注射液、乳酸加リンゲル注射液、ハルトマン液などの等張性媒体を使用して、適切な溶液を調製することが十分にできる。必要に応じて、防腐剤、安定剤、緩衝剤、酸化防止剤、および/または他の添加剤が含められうる。
【0090】
遅延放出のために、ベクターは、生体適合性ポリマーから形成されたマイクロカプセル中、または当技術分野で既知の方法に従うリポソーム担体系中など、徐放用に調合された医薬組成物中に含まれていてもよい。投与量および投与レジメンは、組成物の投与を担当する医師の通常の技術の範囲内で決定され得る。活性剤の投与量は、使用の理由、個々の対象、および投与方法に応じて変動しうる。投与量は、対象の体重、年齢および健康状態、ならびに化合物または組成物に対する耐性に基づき調整されうる。
【0091】
宿主細胞
本発明は、さらに、本明細書に開示される核酸分子(コード配列、発現構築物、もしくはベクター)、またはAAVウイルス粒子を含む宿主細胞を提供する。本明細書に開示される核酸分子(例えば、コード配列、発現構築物、またはベクター)を生成するために、任意の適切な宿主細胞が使用され得る。一般に、そのような細胞は、トランスフェクトされた哺乳動物細胞であるが、他の細胞型、例えば昆虫細胞も使用され得る。哺乳動物細胞の生産系に関しては、AAVベクターではHEK293およびHEK293Tが好ましい。また、BHKまたはCHO細胞も使用されうる。
【0092】
治療方法および医療用途
本発明の核酸分子(コード配列、発現構築物およびベクターを含む)、タンパク質、低分子および組成物は、網膜障害を治療および/または予防するための方法において使用され得る。
【0093】
特に、本開示の核酸分子および組成物は、錐体光受容体の喪失または錐体光受容体機能の喪失に起因する網膜障害を治療するための方法において使用されうる。障害の例は、遺伝性網膜障害または後天性網膜障害を含む。例えば、本開示の核酸分子および組成物は、色覚異常、青錐体一色型色覚(BCM)、黄斑変性(加齢黄斑変性およびシュタルガルト病を含む)ならびに錐体桿体ジストロフィーのいずれか1つを治療するための方法において使用されうる。
【0094】
例えば、本明細書において提供されるものは、網膜障害を治療および/または予防するための方法において使用するための核酸分子(コード配列、発現構築物およびベクターを含む)であって、カリウムチャネルを含む光遺伝学的アクチュエーターをコードする核酸分子に作動可能に連結されたプロモーターを含む核酸分子である。また、本明細書では、網膜障害を治療および/または予防するための方法において使用するための核酸分子も提供され、ここで、核酸分子は、光感受性カリウムチャネルを含む光遺伝学的アクチュエーターをコードする核酸分子に作動可能に連結されたプロモーターを含んでいる。また、本明細書では、網膜障害を治療および/または予防するための方法において使用するための核酸分子も提供され、ここで、核酸分子は、カリウムチャネルに連結された光制御膜タンパク質を含む光遺伝学的アクチュエーターをコードする核酸分子に作動可能に連結されたプロモーターを含んでいる。
【0095】
好ましい実施形態では、光遺伝学的アクチュエーターは、BLINK2、BLINK1、またはNgPAC1、bPAC、TpPAC、OaPACおよびlc-PACなどの小環状ヌクレオチド依存性カリウムチャネルに連結された光活性化アデニリルシクラーゼ(PAC)から選択される。また、前述の光遺伝学的アクチュエーターの1つのバリアントをコードする核酸分子に作動可能に連結されたプロモーターを含む発現構築物も提供され、ここで、バリアント光遺伝学的アクチュエーターはカリウムコンダクタンスを媒介するように機能する。
【0096】
また、それを必要とする患者の網膜障害を治療または予防するための方法も提供され、前記方法は、治療有効量の上記核酸分子または組成物を患者に投与することを含む。
【0097】
また、それを必要とする患者の網膜障害またはジストロフィーを治療または予防するための方法における、上記核酸分子または組成物の使用も提供される。
【0098】
また、網膜障害の治療または予防のための薬剤の製造における核酸分子または組成物の使用も提供される。
【0099】
本開示の核酸分子および組成物は、正常な中心窩機能を有する患者または偏心固視に依存する患者に投与されうる。患者は無症候性であってもよく、かつ/または疾患の素因を有していてもよい。したがって、本発明はまた、対象が上記の網膜障害の1つを発症するリスクがあるかどうか、または有するかどうかを同定するステップを含む方法または使用も提供する。
【0100】
本開示の核酸分子、低分子、または組成物の予防有効量が、対象に投与されてもよい。本発明の文脈における予防有効量は、残存する視力の顕著な改善を伴って、または伴わずに、疾患のさらなる進行を防ぐ量である。
【0101】
あるいは、疾患の症状が対象に現れた後における本開示の核酸分子、低分子、または組成物の投与は、残存する視力に顕著な改善をもたらしうる。したがって、本明細書で使用される場合、「治療有効量」は、哺乳動物に投与された場合に、所望の治療効果を生み出すのに有効である、本明細書に記載の核酸の量を意味する。
【0102】
錐体光受容体機能の喪失に関連する網膜障害は、色覚異常、青錐体一色型色覚(BCM)、黄斑変性(加齢黄斑変性およびシュタルガルト病を含む)、および錐体桿体ジストロフィーを含む。したがって、本発明の有益なまたは望ましい臨床結果は、側方ゲイン制御の増大、コントラスト感度の増大、所与のコントラストでの視力の増大、フリッカー融合閾値の増大、および/または正常な視力の対象によって許容されるものよりも、または治療前の同じ患者と比較して相当に低い光レベルに対する障害の減少を含む。本発明による遺伝子補充は、光受容体機能を保存または回復させ、その結果、側方入力が保存または回復されることにより、直接治療した部分よりも広い範囲で視力が改善されうる。
【0103】
核酸分子および医薬組成物は、直接的な網膜、網膜下、または硝子体内への注射によって患者に投与されうる。これは、水平細胞への直接的な送達を含む。核酸分子および組成物は、任意の他の細胞集団に侵入することなく、水平細胞を特異的に標的化しうる。
【0104】
本明細書に開示される核酸分子または組成物の用量は、さまざまなパラメータに従って、特に、治療される患者の年齢、体重、および状態、投与経路、ならびに必要なレジメンに従って決定されうる。医師は、任意の特定の患者に必要とされる投与経路および投与量を決定することができるであろう。
【0105】
典型的な単回用量は、形質導入を必要とする残存網膜組織の量に応じて、1010から1012個のゲノム粒子である。ゲノム粒子は、本明細書では、配列特異的な方法(リアルタイムPCRなど)で定量化が可能な一本鎖DNA分子を含むAAVキャプシドとして定義される。その用量は単回用量として提供されうるが、もう片方の眼について繰り返されてもよく、または、本明細書に開示されるベクターなどの核酸が何らかの理由(外科的合併症など)で網膜の正しい領域を標的化していない場合に繰り返されてもよい。治療は、好ましくは各眼に対する単回の恒久的治療であるが、例えば、数年後における反復注射および/または異なるAAV血清型での反復注射が考慮されてもよい。
【0106】
本明細書に開示される核酸分子および組成物は、網膜障害の治療および/または予防のための任意の他の療法と組み合わせて使用され得る。
【0107】
本明細書に開示される核酸分子および組成物は、キットにパッケージ化されてもよい。キットには使用説明書が含まれうる。
【実施例】
【0108】
本発明者らは、等価なマウスモデルにおける網膜回路の操作および理論的なモデリングとともに、正常な視力の対象および特定の遺伝性網膜疾患を有する対象における精神物理学の組み合わせを使用することによって、視覚における中心-周辺構成の役割を調査した。
【0109】
[実施例1]方法
ヒト対象における精神物理学実験
本研究は、ヘルシンキ宣言の教義に準拠しており、ムーアフィールズ眼科病院倫理委員会によって承認された。研究に参加する前に、対象からインフォームドコンセントが得られたか、それぞれ親と子供から同意と賛同が得られた。全ての精神物理学的試験に、中心固視点の左または右における刺激の存在を検出する二肢強制選択課題を含めた。顎当て/ヘッドレストにより、課題中の頭の位置と視距離を維持した。刺激は、ガンマ補正したCRTモニターを顎当てから0.8mに配置して提示した。左眼にパッチを当てたシュタルガルト病患者での実験を除き、全ての課題を両眼で実施した。刺激は、MATLAB(登録商標)(MathWorks Inc、Natick、MA、USA)で生成し、VisageMKII Stimulus Generator(Cambridge Research Systems Ltd、Rochester、UK)によってCRTモニターに配信した。コントラスト感度閾値は、QUESTアルゴリズム手順を使用して決定した(48)。全ての試験で、一定数の反転(最小14、最大28)を使用して、対象の閾値を推定した。刺激は2秒間提示し、対象はタイムアウト制限なしで回答することを許された。閾値は、コントラスト感度(推定閾値の逆数として計算)として提示されている。正常な視力の対象は18~52歳の男性12人と女性10人を含んでいた。3人の対象が全ての試験を完了した。他の全ての対象が、試験の一部分を完了した。対象はモニターの中心に置かれた固視点を固視しなければならなかった。
【0110】
刺激は、固視点と同じ高さで、指定された同一の左または右の偏心度で提示した。左または右の提示は無作為化し、コンソールの左または右のボタンを押すことにより、刺激をどこで知覚したかを報告するよう、対象に求めた。シュタルガルト病患者(および正常な視力の対象における対応する対照実験)では、刺激提示の位置は、マイクロペリメトリーデータに基づいて選択した(以下を参照)。大部分の実験では、サイレント置換法(Estevez et al.1982)を使用して、S-錐体の活性化を除外した。この方法の理論的根拠は、桿体入力との相互作用からのS-錐体経路の以前に報告された解剖学的分離から生じる差異の可能性を否定することであった。錐体機能が破壊された患者(色覚異常および青錐体一色型色覚)における試験は全て、黒から白への軸に沿って変調された非選択的刺激を用いて行った。正常な視力の対象における黒から白への刺激を使用した比較試験は、主要な所見を確認した。時間的に変調された刺激は、マイケルソンコントラスト正弦波として提示した。刺激の開始時には0.2秒の勾配を使用した。空間変調刺激には、ガボールパッチを使用した。提示したコントラストの範囲は0.1~30%の間で変動させた。これらの最小値または最大値に達した測定閾値はなかった。ボーンホルム眼病の患者は、網膜において3つのクラスのオプシンのみを発現する(試験した患者のうち2人では、発現はS-/M-/ロドプシンであり、3人目ではS-/L-/ロドプシンであった)。本発明者らは、最大3つのクラスのオプシンの分離を可能にするCRTモニターを使用して、これらの患者の桿体光受容体分離刺激を生成し、試験刺激で桿体光受容体を特異的に活性化することができた。複数の輝度を含む周辺環帯を、各輝度専用の同じ領域を有するように較正した。
【0111】
全ての環帯について、「幅」は環帯の外半径と内半径の差として定義した。
【0112】
1人の対象の典型的な試験セッションでは、通常、コントラスト感度の閾値を6~7回測定できる。1回のセッションで1時間を超えて試験された対象はなかった。セッションがさまざまな実験値(例えば、さまざまな周辺輝度値または刺激周波数値)の試験からなる場合は、これらを疑似ランダムな順序で対象に提示した。コントラスト感度関数を構築するために、さまざまなサイクル周波数で正弦波的に変調された刺激を使用して時間コントラスト閾値を測定した。単一の測定試験を4Hzサイクル周波数で行った。空間コントラスト閾値は、さまざまなコントラストで、さまざまな固定空間周波数を有するガボールパッチを提示することによって測定した。逆に、空間視力の測定は、さまざまな空間周波数で40%コントラストのガボールパッチを提示することによって行った。小規模な一連の実験では、中心に刺激が提示されている間だけ、周辺を変化させた(不一致の周辺への適応を試験/回避するため)。この場合、周辺は、刺激が提示されるまで等輝度とし、選択が行われて試行が終了した後、等輝度に戻した。
【0113】
シュタルガルト病患者におけるマイクロペリメトリーと眼底自己蛍光画像
マイクロペリメトリーは、Nidek MP-1(Nidek Technologies、Padova、Italy)を使用して単眼で実施した。2.5%フェニレフリン塩酸塩溶液と1%トロピカミド点眼液を使用して、瞳孔を散大させ、毛様体筋麻痺を行った。
【0114】
試験の前に、Spectralis OCT(Heidelberg Engineering、Heidelberg、Germany)を使用して、単一の経中心窩水平線スキャンを取得した。これは、解剖学的中心窩を自動的に特定し、試験グリッドの正確な中心窩配置を容易にする補助として、Nidek MR-1の製造元のソフトウェアによってインポートして使用した。試験は、4アポスチルブ(1.27cd/m2)のバックグラウンド、200ミリ秒持続するゴールドマンサイズIIIの刺激、および4~2dBの全点閾値ブラケット法試験ストラテジーから成っていた。カスタマイズされた試験グリッドは、前述のように44の試験位置から構成されていた(46)。グリッドパターンは、中心に凝縮された間隔を持つ放射状のデザインで、黄斑および傍黄斑領域をカバーしていた。全てのテストを、ほぼ暗い(薄明視)光条件下で行った。各網膜位置の感度は、最も暗い可視刺激が見つかるまで光強度を繰り返し調整することによって決定した。各試験位置の感度は、値が高いほど感度が高いことを指し示す0dBから20dBのスケール(MR-1スケール)で決定した。右眼のデータのみを使用した。マイクロペリメトリーの結果を使用して、各シュタルガルト病患者の暗点の機能的境界を推定した。スコアが0~1dBの試験位置(すなわち、最も明るい刺激のみが検出された、または刺激がまったく検出されなかった網膜の位置)を暗点として定義し、精神物理学的試験のために、これらの位置の側方に隣接して刺激を配置した。コントラスト感度のQUEST推定を開始する前に、本発明者らは、刺激位置を実験的に試験することによって位置の適合性を確認した;患者に対して1度の試験刺激(黒い背景に静的な灰色の円)が見えるかどうかを尋ねた。必要に応じて、患者がそれをはっきりと見ることができると報告するまで、試験刺激を側方に移動させた(図に示される位置)。固視安定性は、マイクロペリメトリー試験を開始する前に、25Hzで5~15秒間サンプリングすることによって決定した。眼底画像は、白色光反射イメージングによって取得した。短波長(486nm)眼底自己蛍光は、Heidelberg Spectralis走査型光検眼鏡を使用して取得した。
【0115】
AAVベクターの作製と試験
マウスGja10プロモーター由来の3.5Kbの配列を、マウスゲノムDNAからPCRによって増幅し、Creリコンビナーゼの遺伝子を含むAAVウイルスベクター中にクローニングした。AAV2/8粒子は、以前に記載されているようにして生成し、力価を測定した(Nishiguchi et al.,2015)。野生型およびCnga3-/-成体マウスにおいて網膜下注射を行った。ベクターの特異性に関する試験は、Ai9(lox-STOP-lox-tdTomato、Allen Institute)マウスの網膜下注射によって行った。各眼に2回の注射を行った(それぞれ上半球および下半球)。2μlのウイルス(力価1×1013vg/ml)を注射した。2種類のウイルス(pAAV-Gja10-CreおよびpAAV-lox-STOP-lox-Hm4D)の同時注射の場合には、注射前に2×1013vg/mlの等量をバイアル中で混合した。精製後、ウイルスを滅菌PBS-MKで適切な力価に希釈した。対照の注射は、同量のPBS-MKで行った。各マウスについて、一方の眼にウイルス注射を無作為に割り当て、もう一方の眼に見せかけの注射を割り当てた。マウスは全て、網膜下注射後、行動試験の前に少なくとも3週間回復させた。まばらに標識された水平細胞の画像化には、本発明者らは、若い成体の野生型マウスにおけるAAV2/2ベクターの網膜下注入によって水平細胞が標識された既存のデータセットを利用した。AAV2/2-YC3.6. YC3.6ベクターは、YFPとCFPを組み合わせたカルシウムセンサーであるが(49)、この研究では標識目的でのみ使用した。水平細胞形質導入の定量化は、カルビンジン抗体(Swant、1:500希釈)で共染色することによって行った。
【0116】
ゲイン制御モデルのフィッティング
図2Cに示したデータフィットは、3次多項式を各データセット(同じ周辺内に提示された刺激)にフィッティングすることによって得た。周辺輝度の影響が、入力ゲイン制御モデルまたは反応ゲイン制御モデルのどちらによって、より適切に記述されるかを試験するために、これらのデータセットの1つに対して得られたフィット(75%周辺、f(x)=0.33x
3-1.36x
2+2.11x+0.02)を、この値と他の全ての輝度値との比率で割った。入力ゲイン制御モデルでは、多項式の独立変数に除算係数を適用した。反応ゲイン制御モデルでは、除算係数を従属変数に適用した。
【0117】
マウスの視運動行動
マウスの視運動反射を、回転ドラムをシミュレートする4つのコンピューター画面からなるセットアップ(Cerebral Dynamics、NY、USA)において試験した。網膜下注射の内容を知らされていない実験者が、行動の採点を行った。時計回りと反時計回りの二肢強制選択を使用した。試験が1%のコントラスト内で7回の反転を完了した時点で閾値を決定した。全ての視力試験は、固定の100%コントラストで行った。コントラスト感度試験は、表示の空間周波数で行った。試験初日、開始前に10分間、マウスをセットアッププラットフォームに適応させた。各マウスについて全ての試験を各条件で4回繰り返した。化学遺伝学的ツールであるHm4Diを活性化するために、試験が行われる1~3時間前にクロザピン-N-オキシド化合物をマウスの腹腔内に注射した。次の試験を実施する前に24時間経過させて、外来性受容体のCNO媒介性活性化を終結させた。
【0118】
薄い刺激による視運動試験を同じセットアップで行った(4つの画面全てに刺激を表示)。刺激は、Matlabのカスタムスクリプトで生成し、画面の中心に配置された左または右方向にドリフトする正弦波からなっていた。マウスに提示するコントラストは、QUEST階段法を使用して決定した。周辺(1度の高さの刺激を除き、画面全体からなる)は、黒、灰色(正弦波刺激の中間点と一致)、または白のいずれかであった。異なる光レベルへの適応を避けるために、試行間(interatrial)の合間には、全ての画面を灰色にし、「周辺」はドリフト刺激と同時にのみ提示した。
【0119】
網膜電図(ERG)
記録を行う前に、5:3:42の比率のメデトミジン塩酸塩(1mg/ml)、ケタミン(100mg/ml)、および水の0.007ml/g混合物を腹腔内に注射して、動物を麻酔した。1.0%トロピカミドを使用して瞳孔を完全に拡張させた。マウス左頬の皮下に外側電極を挿入した。Viscotears 0.2%液体ゲル(Dr. Robert Winzer Pharma/OPD Laboratories、Watford、UK)を一滴、電極と眼の間に置いた。バンドパスフィルターのカットオフ周波数は0.312Hzと1000Hzであった。一連のフリッカーは、以前に報告されているようにして(Nishiguchi et al.,2015)、0.1cd/m2の光強度で行った。試験した周波数は、1、3、6、9、12、15Hzであった。CNO注射の前に3回、注射後に3回繰り返した。繰り返しのたびに、マウスを動かして位置を変えた。麻酔薬の同一の注射では導入時間(1~3時間)がカバーされないため、CNO注射の前後の試験は異なる日に行った。
【0120】
中心-周辺モデルと周辺シフトモデル
本発明者らがヒトとマウスの視覚で同定したゲイン制御中心-周辺相互作用のロジックを捉えるために、光受容細胞のシナプス終末の単純なモデルを構築した。このモデルは、積分発火ニューロンの段階的なバージョンである。モデルの終末は、光入力と膜電位の間に瞬間的な線形関係を有し、また、膜電位とシナプス放出の間にシグモイド関係(ヒルの式で定義)を有する。さらに、膜電位は、時間の経過とともに静止膜電位(Vr)にまで減衰する傾向がある。
【0121】
このモデルは、次の3つの方程式に基づいている:
1) Vint=Vr-i*w
2) Vt=Vint+(Vt-1-Vint)*e-dt/τm
3) リリース=Vt
s/(Vt
s+hs)
【0122】
ここで、Vrは静止膜電位、i*wは(過分極)加重光入力、Vtは時間tにおける膜電位、Vt-1は前の時間ステップにおける膜電位、τmは減衰時定数である。次に、傾きsと半飽和点hを有するヒルの式(式3)を使用して、終末からの段階的なシナプス放出が膜電位から計算される。
【0123】
次に、モデル終末に4%のコントラスト、5Hzの正弦波刺激を提示した。周辺入力は、「中心」と「周辺」の両方が中心の2Dガウス関数によって重み付けされた2D空間光刺激である空間受容野モデルを使用して、終末に直接的にモデル化した。これらのシミュレーションでは、定数は次のように設定した:w=0.5、s=15、h=5、およびτm=10。試験において報告されたデータでは、5つの入力光レベルを周辺に適用した(値1~5)。中心に提示された10の異なる光レベルの推移のデータを
図3kに示す(値は0.1から50の間で等間隔)。モデリングはnumpyライブラリを使用してPythonで行った。
【0124】
解剖学的構造から示唆されるように、中心と周辺との間に空間的シフトを導入することの効果をモデル化するため、ガウス分布を使用して中心と周辺の入力を模倣した。中心の輝度が周辺の輝度の1.2倍となる刺激の効果を考慮した。周辺分布への総光入力は、中心と周辺の両方の輝度値に重みを割り当て(上記の刺激と一致するそれぞれ1.2と1)、2つの刺激によってカバーされる領域を測定することによって、モデル化した。このシミュレーションを、中心への光入力と周辺分布が徐々にシフトして離れる50種類の空間シフト値に対して行った。
図3kのデータは、16の異なる標準偏差値を持つ周辺ガウス分布の結果を示している。
【0125】
組織学的分析
組織学的分析のための眼は、死後に採取した。網膜を抽出し、4%のPFAで一晩固定した。画像化の品質を最大化し、Ai9マウスならびにpAAV-Gja10-CreとpAAV-EF1A-DIO-hM-4Di-EGFPを同時に注射したマウスにおける蛍光タンパク質の発現の検証を助けるために、組織学的クリアリング手順(Costantini et al.,2015から適応)を網膜全体に対して行った。ライカ共焦点顕微鏡で画像を取得した。
【0126】
統計
特に明記しない限り、平均化されたデータは平均±標準偏差として表される。各実験に使用した統計的検定は、図の対応する説明に記載されている。
【0127】
[実施例2]正常な視力を有する対象における精神物理学
標準的な中心-周辺構成仮説によれば、拮抗作用は、受容野内の刺激強度の違いを増強する計算をもたらす。模式図は典型的には、「プラス」記号と「マイナス」記号を用いてこの対立を指し示し、反応に対する異なる影響を区別している。反応抑制メカニズムは、原則として、隣接する領域の反応の除算または減算によって、この相互作用を仲裁し得る。これは、中心-周辺モデルにおける反応ゲイン変調の実装を導いた。しかしながら、このロジックに従うと、水平細胞への光入力を模倣する(それらを過分極化する)ことは、隣接する領域における光信号を抑制して、全てが暗く見えるようにしてしまい、これらの細胞が変化を伝えるのを難しくする、言い換えれば、視覚を悪化させるであろう。
【0128】
反応抑制の重要な特徴は、それが関数に引き起こすシフトに比例して傾きを変えないことである。このため、反応抑制メカニズムは、ウェーバーの法則により要約される、非常によくサポートされている知覚の特性(10)に直接違反することになる。
【0129】
単一ニューロンレベルでは、実験結果は周辺が抑制的な効果を発揮し得ることを示しているように見えることから(3)、周辺抑制の仮説的な機能におけるこの欠陥は不可解である。さらに、これらの単一の細胞での結果は、同時コントラスト錯視(
図15、
図16)、ヘルマングリッド、マッハバンド、およびこれが有用となり得る数多くの自然主義的なシナリオなどの知覚効果を説明するために使用されており、知覚レベルで側方抑制を確認しているように見える。単一細胞受容野と精神物理学的知覚野のサイズと特性の間の優れた一致(11)、(12)は、本発明者らが、抑制モデルの不備を解決するために、ヒト対象の中心-周辺構成の機能を実験的に探査することを可能とした。
【0130】
最初の一連の実験において、本発明者らは、コントラスト感度に対する周辺輝度の影響を特徴付け、そして、時間的および空間的なコントラスト感度閾値の両方が、低輝度(0.15cd/m
2;
図1b、
図5、
図17)の周辺よりも、等輝度(27.7cd/m
2)の周辺によって有意に改善されることを確立した。これらの知見から、この処置が空間的および時間的コントラスト感度を改善することが期待される。これは、ペリー-ロブソンチャート、読書速度の向上、および/または例えば、テレビを見ているときの動画を見る能力を含む、標準的な尺度を用いた臨床試験において明らかとなるであろう。
【0131】
固定コントラスト刺激で視力を測定した場合にも同様の結果が得られ(
図1c)、これは、最大視力が細胞密度などの解剖学的特徴によって決定されるだけでなく(13)、周辺入力によっても制御され得ることを指し示している。これらの実験から、本発明者らは、(上述の)時間的および空間的コントラスト感度の改善が、高コントラスト刺激に関連しており、それゆえ、設定されたコントラストにおける視力を改善するであろうと結論付けた。したがって、治療は、薄明視輝度レベルでスネレンチャートを使用して臨床的に測定される視力を改善しうる。
【0132】
次に、本発明者らは、環帯幅、刺激のサイズ、および偏心度を変化させることによって、周辺の空間パラメータに対する効果の依存性を決定した(
図1d、1e、2a、6、および
図7)。結果は、この効果が古典的な中心-周辺受容野(3)、(16)、(17)および知覚野(11)、(12)のサイズ、特徴、および解剖学(14)、(15)と一致する空間構成によって媒介されることを示唆している。重要なことに、この効果を観察するためには、最小サイズの半径(6度の偏心度で約250μm)が必要とされ(
図1e)、これが刺激位置内の局所的なフィードバックによるものでも、ギャップジャンクションで接続された細胞のネットワークによるものでもないことを指し示している。
【0133】
次に、本発明者らは、さまざまな中心および周辺の輝度値の影響を探査した。高輝度(64cd/m
2)の環帯は、低輝度の周辺と同様にコントラストエンコーディングを劣化させた(
図2a、
図10)。実際、周辺輝度と刺激輝度の間に差を設けると、ピーク(等輝度)条件に比べてコントラスト感度が低下した(
図2b、y切片における下のトレース)。さらに、周辺輝度を異なる値に変更すると、ピークコントラスト感度が、対応する等輝度条件にシフトした(
図2b、y切片における上のトレース、
図11)。これらの結果は、周辺が適応機能を有しており、それが、ピークコントラスト感度をそれ自身の平均輝度に調整することを示唆している。
【0134】
[実施例3]周辺平均輝度の入力ゲイン制御機能
周辺の輝度は、したがって、通常仮定されている抑制的機能とは異なる役割を果たしている可能性がある。刺激に対するニューロンの反応機能は、反応をスケーリングするか、または入力をスケーリングすることによって、2つの異なる方法で「対抗」または「抑制」し得る。もちろん、同じニューロン内での2つの組み合わせも可能である。以前の研究では、「正規化」という総称の下で、これら2つの計算間の類似性が強調されていた(19)。代わりに、本発明者らは、それらを計算にさまざまな結果をもたらす基本的に異なるメカニズムと見なすだけで、視覚処理の重要な機能を理解することができると提案する。
【0135】
本発明者らはまず、中心-周辺が競合的/抑制的フィードバックおよび関連する真の強化を提供するという示唆の内部ロジックを検討した。原則として、反応抑制は、隣接する領域の反応を除算または減算することによって側方の差異を強化し、本質的に、それらをサイレンシングするように作用する。これがおそらく、反応抑制が中心-周辺モデルにおいて仮説的に実装されている理由である。正規化メカニズムの特性が重複しているため、このようなモデルは、限られた範囲の入力値で視覚特性を適切に再現でき、それゆえ、一部の実験データに妥当なフィッティングを提供することができる。
【0136】
しかしながら、反応抑制の重要な特徴は、入力ゲイン制御メカニズムとは異なり、それが関数に引き起こすシフトに比例してゲインを変更しないことである。このため、反応抑制メカニズムは、ウェーバーの法則のような視覚の特性を記述する一群のモデル(10)に直接違反することになる:反応抑制が「除算的」な効果を持つ場合(
図14、右上のパネル)、ゲインはシフトよりも速い速度で劣化する。これは、視覚に関して言えば、ウェーバーの法則などのモデルで予測されるように、視覚の相対感度が、周辺の平均輝度に比例したままではなく、平均輝度が増加するにつれて低下することを意味するであろう。減算的な反応抑制メカニズムでは、関数はシフトするが、傾きは変化しない(
図14、右下のパネル)。
【0137】
したがって、側方減算的反応抑制メカニズムを仮定することは、2つのシナリオのうち1つをサポートすることを意味する:全ての光レベルで最大感度(数光子のオーダー)を課す急勾配の関数、または可視範囲全体(109log)をカバーする非常に浅い関数であって、その結果、感度が非常に低い関数(105~106光子のオーダー)。したがって、減算的反応抑制は、十分に確立された視覚の特性とも矛盾する。ウェーバーの法則などのモデルによって本質的に説明される知覚の特性は、視覚知覚(10)、(44)および他の系(45)における実験によって非常によくサポートされているため、本発明者らは、側方反応抑制が視覚系における中心-周辺相互作用の誤った解釈であると提案する。
【0138】
どの計算がデータを最もよく説明するかを決定するために、本発明者らは、入力のフィッティングと反応の除算を比較した(
図2d、e)。本発明者らは、周辺輝度によって引き起こされる関数のスケーリングが、入力ゲインの計算(18)によって十分に予測され、反応ゲインの計算よりも良好であることを見出した。これは、抑制メカニズムではなく適応メカニズムとして、周辺を再解釈すべきであることを示唆しているため、重要な所見である。反応を除算するのではなく、入力を除算することによって、データを数学的に最もよく説明できることは、周辺が抑制的なフィードバックではなく、適応的なフィードバックを提供するという解釈が正しいことの証拠となる。したがって、これは、水平細胞の過分極が視覚機能を改善する可能性を有するという理論を支持し、現在の理論を覆すのを助ける。
【0139】
これまでの研究は、入力と反応の計算の重要な結果について曖昧なまま、それらを「正規化」という総称で括ってきた(19)。入力または反応の除算は、どちらも興奮の減少を媒介し得る。これは、Kufflerの古典的な受容野マッピング(3)などの実験が、反応抑制モデルの誤った受容につながった理由を説明する。しかしながら、視覚の基本的な特性を考慮して、相対感度を保持できるのは除算的入力ゲインのみである点で、この2つの計算は基本的に異なるものである。輝度が比例的にエンコードされる結果として、同じ輝度でも2つの異なるコンテキストでは異なって見えるであろうが、これはコントラストの真の増強とはならない。
【0140】
本発明者らは、同時コントラストテンプレートマッチング課題において変更された輝度知覚の大きさを測定することによって、これを実験的に検証した(
図15a、
図16)。これは、コントラストの「真」の増強がないこと、すなわち、増強が知覚閾値を変更せず、したがって、対象が他の方法では見ることができない何かを見ることを可能にしないということの証拠となる。これは、ヒト対象においてコントラスト推定を測定する研究によって強くサポートされているが、予測された増強を実証できておらず、代わりに、閾値を超えるコントラスト差の線形推定が見出されている(20)。これは、現在の理論が覆されるべきであるという本発明者らの主張を強化している。
【0141】
[実施例4]遺伝性網膜疾患の対象における中心-周辺相互作用の探査
視覚系の多くの回路は、中心-周辺構成を有すると説明されている(22)、(23)(5)(6)(3)。これは、本質的に競合的であるとして特徴付けられている錐体と桿体との間の側方相互作用を含んでいる(5)、(6)、(23)。この回路を介した抑制的フィードバックは、桿体の信号と錐体の信号の光に依存した分離を助け、最も適切な型の光受容体が信号をエンコードすることを保証すると考えられている。提案されている側方光受容体のサイレンシングは、本開示の仮説と矛盾する。
【0142】
本発明者らは、特定の光受容体クラス(
図1g)に機能欠損を有する対象を試験することで、どちらの仮説(競合的/抑制的と適応的)がこの中心-周辺相互作用を説明するかを直接的に解決できるであろうと考えた。正常な視力の対象と同様に、本発明者らは、等輝度周辺が、錐体のみの視力を有する患者(24)(
図1i、低輝度周囲の下から4番目および5番目のトレース、
図9)および単一の錐体クラスの分離がサイレント置換(26)によって得られ得る患者(25)(
図1j、低輝度周辺の下から3番目と5番目のトレース)において、コントラスト感度を改善することを見出した。
【0143】
興味深いことに、本発明者らは、桿体分離刺激を使用した場合にも、これらの患者に同様の効果があることを見出した(
図1i、低輝度周辺の下から1番目、2番目、および3番目のトレース、および
図1j、低輝度周辺の下から1番目および2番目のトレース、
図8)(25)。この結果は、桿体光受容体が、高薄明視条件において機能し、周辺入力により抑制されないことを示しており、これは、桿体に関する2つの従来的な概念と矛盾している。最後に、全てのL/M-錐体の機能を欠いている患者(25)では、側方入力ゲインメカニズムの効果は実質的に減少しており、これは、L/M-錐体がコントラストエンコーディングにおける周辺駆動の改善を媒介することを示唆している(
図1h、低輝度周辺の一番下から8番目までのトレース)。まとめると、これらの結果は、錐体が、側方に変位した錐体と桿体の入力ゲイン変調を駆動することを示している。さらに、桿体光受容体のシグナル伝達が周辺入力によって抑制されないという事実は、中心-周辺相互作用の標準的なモデルと矛盾し、代わりに本発明者らの理論を肯定している。
【0144】
これで、コントラスト感度/視力に対する周辺効果の根底にある細胞型の特徴付けが完了した。患者のデータを総合すると、周辺の錐体が、中心の桿体と錐体の両方の信号処理を変更することが示唆される。これは、これまでに示されたことはない。これは、外網膜回路におけるこの細胞の既知の接続性のために、水平細胞がこれらの効果を媒介しうることを大いに示唆している。
【0145】
[実施例5]マウスにおける網膜回路の操作
側方に変位した錐体および桿体の入力ゲイン変調の根底にある回路を調査するために、本発明者らは、マウスにおいて介入的アプローチを取ることにした。
【0146】
彼らはまず、マウスがヒトと同様に、コントラスト感度課題を実行する際に周辺輝度への依存を示すかどうかを試験した。これを達成するために、彼らは、異なる輝度値によって囲まれた、薄い1°の高さの正弦波刺激によって駆動される視運動行動を用いて、コントラスト感度を測定した(
図3a、模式図)。ヒトの対象では、彼らは、周辺の輝度が一致しないと、刺激に対するコントラスト感度が低下することを見出した(
図3a、上のトレース、
図12)。ヒトの対象で得られた結果と一致して、暗い周辺の輝度と明るい周辺の輝度は、エンコーディングに同程度の影響を与えた。
【0147】
次に、本発明者らは、全色盲の患者と同様に錐体光受容体の機能を欠いているCnga3
-/-色覚異常マウスモデルで同じ試験を行った(27)。本発明者らは、Cnga3
-/-マウスでは、正常視覚(野生型)マウスと比較して、等輝度周辺では感度が低下すること、また、等輝度と輝度不一致条件との間の変化が減少することを見出した(
図3aの下のトレース、
図12)。
【0148】
本発明者らはまた、十分に確立された(28)、(29)、高スループットのフルスクリーン視運動行動を使用して、野生型とCnga3
-/-マウスとの間におけるコントラスト感度の大きな違いを観察した(
図3b)。これは以前にも観察されている。しかしながら、以前には、桿体の固有の特性により、特定の限界を超えると桿体は機能できなくなると考えられていた。マウスおよびヒトにおける今回のデータに照らして、本発明者らは、錐体から生じる側方適応は通常、薄明視光レベルにおける桿体のエンコーディング能力を改善し、よって、少なくとも部分的に、全色盲のマウスおよびヒトに見られる視覚機能の低下を説明すると結論付けた。
【0149】
これらの結果がヒト対象における観察と一致することを確認した後、本発明者らは、この回路を直接操作することを目指した。錐体と他の光受容体との間の相互作用を媒介することが知られているニューロンのクラスの1つは、水平細胞である(
図1g)。特定のサブタイプ(H1)は、錐体を桿体に接続し、そして、いくつかの種で同定されている(11)、(23)、(5)、(6)。その機能は繰り返し調査されており、マウスにおいて錐体から桿体の方向に信号を伝達することが一貫して確認されている(23)、(30)、(5)。さらに、その軸索投射は、古典的な中心-周辺構成のサイズと一致しており(3)、(31)、単一の網膜神経節細胞の古典的な周辺に寄与することが直接的に示されている(6)、(32)。以前の研究は、光受容体が水平細胞から脱分極性の側方入力を受け取ることを示しており、抑制的な機能の示唆が導かれていた(5、6、22)。しかしながら、この回路の機能は、これらの実験からは決定することができない。
【0150】
この問題を直接的に解決するために、本発明者らは、水平細胞の機能を操作し、網膜のエンコーディングおよび挙動に対する影響を測定した。以前に示唆されているように(5)、水平細胞の活性化が桿体経路に対して抑制効果を有するならば、コントラスト感度の低下が見られると本発明者らは予想した。しかしながら、本明細書において提示された仮説は正しく、錐体の欠損したCnga3
-/-マウスにおける水平細胞の過分極は、錐体から桿体への入力を模倣し、日光条件でのコントラスト感度を向上させるべきである。仮説を検証するために、本発明者らは、水平細胞特異的なGja10プロモーター(5)、(35)を有するAAV2/8ベクター系(
図3c)を用いて、水平細胞において化学遺伝学的過分極性アクチュエーターhM4Di(33)、(34)を発現させた(
図3d;形質導入の平均は29%±11%)。
【0151】
本発明者らは、網膜電図(ERG)によって、光受容体および双極細胞における電圧変調に対する水平細胞過分極の効果を評価した。一方の眼にリン酸緩衝生理食塩水(PBS)による見せかけの注射を行い、もう片方にはhM4Diベクターを投与し、麻酔をかけたCnga3
-/-マウスに対して、さまざまな時間周波数のフリッカー刺激を提示した。ERGトレースのフーリエ変換の分析は、PBSを注射した眼における化学遺伝学的アクチュエーターであるクロザピンN-オキシド(CNO)の注射の前後で、提示された刺激に対応する周波数の表現に有意差がないことを示した(
図3e、左のパネル)。代わりに、hM4Diで処置した眼から得られたERGは、試験された刺激周波数においてパワー値に有意な増加を示した(
図3e、右のパネル)。
【0152】
本発明者らは、視運動試験を行うことにより、これがコントラストエンコーディングの行動測定における改善にもつながるかどうかを調査した。薬物を介した過分極の誘導前には、hM4Diを注射した眼と見せかけの注射をした眼との間に有意差はなかった(
図3f、左のパネル)。しかしながら、活性化剤であるCNOの腹腔内注射の1~3時間後には、hM4Diを注射された眼のコントラスト感度は、有意な上方シフトを示した(
図3f;右のパネル)。これらの結果は、H1水平細胞の活性化が、昼光条件下で桿体の機能を抑制するのではなく、むしろ向上させることを直接的に示している。また、これは、錐体光受容体が水平細胞を介して桿体に通常与える効果を模倣することにより、桿体のみを介した視覚の障害を部分的に元に戻すことができることも示している(5)、(23)、(32)、(36)。
【0153】
これらの実験により、本発明者らは、特定の細胞標的(水平細胞)を確立し、細胞標的の過分極を使用して桿体光受容体の機能獲得を達成しうることを実証した。CNOは承認済みの抗精神病薬であり、患者における長期的アクチュエーターとして使用できる可能性がある。アクチュエーターの用量は、当初の注射で達成された発現レベルに完全に依存するのではなく、過分極を最適なレベルに設定するために、個々の患者において用量設定されうる。
【0154】
[実施例6]解剖学的情報に基づいたモデリング
本発明者らは、彼らの結果が説明するメカニズムのロジックを捉えるための単純なモデルを構築した。除算的な入力ゲイン制御機能を備えた周辺は、コントラストの変化が絶対的にではなく、周辺の平均輝度に関連して、下流のニューロンに伝達される(
図3h)という、ヒトとマウスの両方の視覚で得られた結果を要約することができた(
図3g)。シナプスのメカニズムに関する詳細な研究は、彼らのモデルと一致している(37)。幅は異なるがピークが揃っている2つのガウス分布が中心-周辺構成を説明すると広く考えられているが(16)、(17)(
図3j、左のパネル)、側方入力のこの分布をサポートする実験的証拠は存在していない。実際、中心-周辺の古典的な「メキシカンハット」形状は、共に整列させたガウス分布または2つのシフトしたガウス分布のいずれかに起源し得る(
図3j)。ヒトを含む他の種で報告されているように(38)、水平細胞のまばらな標識は、それらがマウスの外網状層に沿って長い軸索を伸ばすことを明らかにした(
図3i)。この特徴は、中心入力と周辺入力の分布間にずれを生じさせる。このシフトにより、中心が独自のゲインを決定することが妨げられ、代わりに周辺によるコンテキスト輝度の独立したサンプリングが可能となるであろう(
図3k)。これは、エンコーディングを調整する側方フィードバックを実装する自律性を可能とするように解剖学的構造が設計されていることを指し示しており、これは、少なくとも1つの細胞型について、標準的な整列ガウス差分モデルに異議を唱えるものである。これと一致して、行動レベルでも、周辺媒介効果の最小の変位が明らかである(
図1e)。
【0155】
[実施例7]黄斑変性における側方相互作用
発明者らは、中心-周辺構成について同定された機能が、近くの領域または残された中心窩への側方入力が欠落しているであろう、加齢黄斑変性およびシュタルガルト病(39)を含む網膜の中心部で錐体光受容体が失われている一般的な障害に関連しうると推論した。結果として、これらの患者は、日常的な課題のための視力とコントラスト感度が低下しており、さらに偏心した位置の網膜に頼らざるを得ない可能性がある。
【0156】
発明者らはまず、刺激を完全に取り囲むのではなく、刺激に隣接する領域の輝度を変更することで、正常な視力の対象におけるコントラスト感度をゆがめることができるかどうかを試験した。実際、幅4°の半環帯は、コントラスト感度の有意な悪化を導き(
図4a)、これは、人工暗点が隣接領域における視覚欠損を引き起こし得ることを示している。この結果は、健康な人であっても、正常な側方入力の一部が欠けているだけでも、視覚処理に影響を与えるのに十分であることを示しており、これは、局所的な変性または機能不全、つまり黄斑変性疾患のみを有する患者においても視力が損なわれる可能性が高いことを示唆している。
【0157】
本発明者らは、これが黄斑変性の患者にも当てはまりうると推論した。そこで彼らは、マイクロペリメトリー試験を使用して、シュタルガルト病患者の網膜中心部の機能をマッピングした(
図4b、
図13)。このアプローチは、各患者の萎縮領域の近位および遠位の位置でコントラスト感度を試験するための刺激の配置をガイドした(
図4c、
図13)。
【0158】
シュタルガルト病患者におけるコントラスト感度は、正常な視力の対象と比較して低く、病変の遠位に比べて近位の方が低くなっていた。周辺の効果を測定するために、本発明者らは、等輝度または低輝度の環帯に囲まれた場合における各位置内のコントラスト感度閾値間の特定の比較を行った。
【0159】
患者は、変性領域の遠位に提示された刺激に対して、近位の場所よりも有意に大きなコントラスト感度における周辺媒介ゲインを示した(
図4d、e)。この患者コホートから得られた結果は、黄斑変性が残存する光受容体から周辺入力を奪い、その結果、視覚の質が低下することを示唆している。
【0160】
全体として、本発明者らは、黄斑変性の患者の残存する視力が、組織の一般的な変性のためだけでなく、特に通常は黄斑に由来する側方適応が失われることによっても、低下することを示している。これは、本発明の治療ストラテジーによって視力を改善できる患者集団が存在することを立証している。
【0161】
実施形態
1.遺伝子産物をコードする核酸分子に作動可能に連結されたプロモーターを含む発現構築物であって、水平細胞における遺伝子産物の発現が水平細胞を過分極させる、発現構築物。
2.水平細胞における遺伝子産物の発現が、それを必要とする対象の視力を改善する、1の発現構築物。
3.水平細胞における遺伝子産物の発現が、薄明視および/または明所視を改善する、2の発現構築物。
4.遺伝子産物が、ヒト水平細胞において内因的に発現される膜タンパク質、他の興奮性細胞型において内因的に発現される膜タンパク質、または化学遺伝学的もしくは光遺伝学的アクチュエーターから選択される、1から3のいずれか1つの発現構築物。
5.光感受性遺伝子産物に作動可能に連結されたプロモーターを含む発現構築物であって、水平細胞における遺伝子産物の発現が、それを必要とする対象において視力を改善する、発現構築物。
6.プロモーターが、Gja10プロモーターまたは、ヒトGja10プロモーターの配列に対して少なくとも70%、75%、80%、85%または90%の配列同一性を有し、Gja10プロモーターの機能を維持するそのバリアントである、5の発現構築物。
7.プロモーターが、Gja10プロモーター、Gja10プロモーターの機能を維持するその断片またはヒトGja10プロモーターの配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するバリアントである、5の発現構築物。
8.遺伝子産物が、カリウムコンダクタンスなどの過分極性コンダクタンスを媒介する、1から7のいずれか1つの発現構築物。
9.膜タンパク質が、カリウムチャネルである、8の発現構築物。
10.遺伝子産物が、カリウムベースの光感受性アクチュエーターまたは光感受性合成カリウムチャネルを含む、4または8の発現構築物。
11.カリウムベースの光感受性アクチュエーターが、カリウムチャネルに連結された光制御膜タンパク質を含む、10の発現構築物。
12.遺伝子産物が、光感受性合成カリウムチャネルを含む、10の発現構築物。
13.遺伝子産物がBLINK1またはBLINK2である、8~12の発現構築物。
14.カリウムベースの光感受性アクチュエーターが、光活性化アデニリルシクラーゼ(PAC)および小環状ヌクレオチド依存性カリウムチャネルSthKを含む2成分光学サイレンサー系を含む、10の発現構築物。
15.PACが、NgPAC1、bPAC、TpPAC、OaPACまたはlc-PACから選択される、14の発現構築物。
16.プロモーターが、水平細胞優先的なプロモーターまたは水平細胞特異的なプロモーターである、前記の側面のいずれか1つの発現構築物。
17.プロモーターが、Gja10プロモーター、またはその断片もしくはバリアントである、16の発現構築物。
18.プロモーターが、Gja10プロモーターの全長に対して少なくとも70%、75%、80%、85%または90%の配列同一性を有し;場合により、プロモーターがヒトまたはマウスGja10プロモーターである、17の発現構築物。
19.プロモーターが、Gja10プロモーターの全長の400nt、450nt、500nt、600nt、700nt、800nt、900nt、1.0kb、1.5kb、2.0kb、2.5kb、3.0kbまたは3.5kbに対して少なくとも70%、75%、80%、85%または90%の配列同一性を有し;場合により、プロモーターがヒトまたはマウスのGja10プロモーターである、17の発現構築物。
【0162】
参考文献
【0163】
【0164】
【0165】
【0166】
【配列表】
【国際調査報告】