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  • 特表-細胞株を保管及び輸送するための系 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-30
(54)【発明の名称】細胞株を保管及び輸送するための系
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20230323BHJP
   C12M 3/00 20060101ALN20230323BHJP
   C07K 14/78 20060101ALN20230323BHJP
   C12N 11/02 20060101ALN20230323BHJP
【FI】
C12N5/071
C12M3/00 Z
C07K14/78
C12N11/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022548884
(86)(22)【出願日】2021-02-12
(85)【翻訳文提出日】2022-10-05
(86)【国際出願番号】 ES2021070101
(87)【国際公開番号】W WO2021160919
(87)【国際公開日】2021-08-19
(31)【優先権主張番号】PCT/ES2020/070100
(32)【優先日】2020-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】ES
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522319778
【氏名又は名称】レディーセル, エス.エル.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ソト フェルナンデス, クリスティナ
(72)【発明者】
【氏名】バスケス サンチェス, マリア アンヘレス
(72)【発明者】
【氏名】ゴンバウ スアレス, ロウルデス
(72)【発明者】
【氏名】パラオ リュチ, ヘラルド
(72)【発明者】
【氏名】カブレ エスティヴィル, アレクサンドル
(72)【発明者】
【氏名】オーブイ, ローラン
【テーマコード(参考)】
4B029
4B033
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B029AA21
4B029BB11
4B029CC03
4B033NA16
4B033NB22
4B033NB33
4B033NB58
4B033ND20
4B033NG05
4B065AA90X
4B065BC41
4B065BC45
4B065BD39
4B065CA60
4H045AA20
4H045AA30
4H045CA40
4H045EA60
(57)【要約】
本発明は、特定の細胞輸送培地とゼラチンマトリックスとの組み合わせに基づく、細胞株のin vitro保管及び輸送のための系に関する。本発明の系は、HEK-293細胞株及びCaco-2細胞株の生存が、少なくとも96時間の保管及び/又は輸送の間実質的に変化しないままであるため、それらを輸送するのに特に適している。本発明はまた、細胞株のin vitro輸送のための方法、並びに前記細胞株を輸送するためのキットを目的とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞株のin vitro保管及び輸送のための系であって、
a)
i.Leibovitz L-15基礎培地
ii.FBS
iii.HEPES
iv.グルタミン
v.ペニシリンとストレプトマイシンとの混合物
を含む細胞輸送培地と
b)凝固したゼラチンマトリックスと
を含む、系。
【請求項2】
a)
i.78体積%~88.5体積%のLeibovitz L-15基礎培地
ii.8体積%~12体積%のFBS
iii.2.5体積%~6体積%のHEPES
iv.0.5体積%~2体積%のグルタミン
v.0.5体積%~2体積%の、ペニシリンとストレプトマイシンとの混合物
を含む細胞輸送培地と
b)輸送培地1ml当たり10~50mgのゼラチンの凝固したマトリックスと
を含む、請求項1に記載の系。
【請求項3】
細胞株が、HEK-293細胞株及びCaco-2細胞株から選択される、請求項1又は2に記載の系。
【請求項4】
凝固したマトリックスが、タイプAゼラチンで作られている、請求項1から3のいずれかに記載の系。
【請求項5】
細胞株が、その輸送のために支持体上に固定化されている、請求項1から4のいずれか一項に記載の系。
【請求項6】
支持体が、ペトリ皿、マルチウェルプレート、トランスウェル膜インサート、生体模倣系、3D培養用の合成支持体、ガラスプレート、スライド又は細胞接着を促進するように予め被覆された任意のタイプの支持体から選択される、請求項5に記載の系。
【請求項7】
輸送が室温で行われる、請求項1から6のいずれか一項に記載の系。
【請求項8】
細胞株のin vitro保管及び/又は輸送のための方法であって、
A)支持体に固定化されている細胞株を、
a)
i.Leibovitz L-15基礎培地
ii.FBS
iii.HEPES
iv.グルタミン
v.ペニシリンとストレプトマイシンとの混合物
を含む細胞輸送培地と
b)ゼラチンマトリックスと
を含む系で被覆すること、
B)15℃~25℃の温度でゼラチンマトリックスを凝固させること、
C)細胞株を15℃~25℃の温度で96時間まで保管及び/又は輸送すること、
を含む、方法。
【請求項9】
系が、
a)
i.78体積%~88.5体積%のLeibovitz L-15基礎培地
ii.8体積%~12体積%のFBS
iii.2.5体積%~6体積%のHEPES
iv.0.5体積%~2体積%のグルタミン
v.0.5体積%~2体積%の、ペニシリンとストレプトマイシンとの混合物
を含む細胞輸送培地と
b)輸送培地1ml当たり10~50mgのゼラチンのマトリックスと
を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
支持体が、ペトリ皿、マルチウェルプレート、トランスウェル膜インサート、生体模倣系、3D培養用の合成支持体、ガラスプレート、スライド又は細胞接着を促進するように予め被覆された任意のタイプの支持体から選択される、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
凝固したマトリックスが、タイプAゼラチンで作られている、請求項8から10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
保管及び/又は輸送される細胞株が、HEK-293細胞株及びCaco-2細胞株から選択される、請求項8から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
細胞株のin vitro輸送及び保管のためのキットであって、
a.請求項1から4及び6から7のいずれか一項に記載の系
b.細胞株を固定化するための支持体
を含む、キット。
【請求項14】
支持体が、ペトリ皿、マルチウェルプレート、トランスウェル膜インサート、生体模倣系、3D培養用の合成支持体、ガラスプレート、スライド、又は細胞接着を促進するように予め被覆された任意のタイプの支持体から選択される、請求項13に記載のキット。
【請求項15】
細胞株、好ましくはHEK-293細胞株及びCaco-2細胞株の保管及び/又は輸送のための、請求項1から7に記載の系の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞株の保管及び輸送の分野に属する。より詳細には、本発明は、特定の細胞輸送培地とゼラチンマトリックスとの組み合わせに基づく、細胞株のin vitro保管及び輸送のための系に関する。本発明の系は、HEK-293細胞株及びCaco-2細胞株の生存及び生存率が、少なくとも96時間の保管及び/又は輸送の間実質的に変化しないままであるため、それらを輸送するのに特に適している。本発明はまた、細胞株のin vitro輸送のための方法、並びに前記細胞株を輸送するためのキットを目的とする。
【背景技術】
【0002】
細胞培養物は、均一であってもなくても(共培養物)、生存生物で起こるいくつかの遺伝的、生化学的、代謝的又は生理的過程の有用なモデルを構成することができる。それらの使用の容易さは、動物に対する最終実験又はヒトに対する臨床アッセイを実施する前に多数の条件を分析可能にする。in vitroモデルは、新しい治療標的を検証するため、高性能の系でシーズ(seeds)を選択するため、新しい分子の作用機構を定義するため、及び一般に生物医学、バイオテクノロジー又は化粧品研究のためのツールを構成する。
【0003】
一般に、すべての細胞培養に基づくモデルは、限られた貯蔵寿命を有する。したがって、培養細胞は様々な分化段階を経て、それらを適切なモデルにする特性を維持するために連続操作を必要とする。異なるin vitro細胞モデルの操作及び生成におけるこれらの制限は、それらを時折しか使用しないユーザに対して実施困難にし、一般に、それらの最終形式でのモデルの商品化を制限する。
【0004】
これに加えて、細胞株を輸送する場合、時間が経過するにつれて細胞生存が低下し、これにより、ある特定の細胞株の輸送は、即時使用可能な形式での市販が実行不可能になる。したがって、細胞生存時間及び細胞生存率を改善して保管及び輸送を容易にすることを可能にし、したがって、これらの即時使用可能な細胞モデルの商品化を可能にする細胞株輸送系及び/又は細胞株輸送培地を開発する必要がある。
【0005】
いくつかの先行技術文献、例えば欧州特許第1650292号などは、細胞株の輸送を改善するための解決策を記載している。しかしながら、この先行技術文献に記載されている輸送系及び方法は、すべてのタイプの細胞株を輸送するのに最適ではない。例えば、HEK-293細胞株は非常に感受性が高く、24時間超の生存率を有し、それにより、即時使用可能な形式での市販が不可能になる。
【0006】
したがって、HEK-293などの最も感受性の高い細胞株の生存及び生存率を、このタイプの細胞が即時使用可能な形式で市販され得るように、48時間超、好ましくは72時間超に延長可能にする新しい細胞株輸送系を開発する必要がある。
【0007】
本発明は、様々な細胞株、特にHEK-293細胞株の生存及び生存率を72時間超の期間、さらには96時間まで可能にする、原則として、これらのタイプの細胞を即時使用可能な形式で任意の大陸へ輸送可能にするin vitro保管及び輸送系を提供する。本発明の系は、HEK-293細胞及びCaco-2細胞株を輸送するのに特に適しており、有用であることが証明されている。
【発明の概要】
【0008】
本発明の主な目的は、細胞株のin vitro保管及び輸送のための系であって、
a)
i.Leibovitz L-15基礎培地
ii.FBS
iii.HEPES
iv.グルタミン
v.ペニシリンとストレプトマイシンとの混合物
を含む細胞輸送培地と
b)凝固したゼラチンマトリックスと
を含む、系である。
【0009】
これ以降、この保管及び/又は輸送系を本発明の系と称する。
【0010】
本発明の別の目的は、本発明の系の使用に基づく細胞株のin vitro保管及び/又は輸送のための方法である。この方法を本発明の方法と称する。
【0011】
さらなる目的は、本発明の系と、輸送される細胞株を固定化するための支持体とを含むキットに関する。これを本発明のキットと称する。
【0012】
本発明の最後の目的は、細胞株を保管及び/又は輸送するための、好ましくはHEK-293細胞株及びCaco-2細胞株を輸送するための本発明の系の使用によって表される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、モックHEK-293の細胞生存率についての、本発明の輸送系への曝露後と、これらの細胞の培養のための通常の培地(D6046)への曝露後との比較である。
図2図2は、HEK-293 MATE1の細胞生存率についての、本発明の輸送系への曝露後と、これらの細胞の培養のための通常の培地(D6046)への曝露後との比較である。
図3図3は、Caco-2細胞における細胞単層の完全性の維持に関する、現在のCaco-2細胞輸送系(CacoReady)と比較した本発明の輸送系への曝露後の比較である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
細胞株のin vitro保管及び輸送のための系
本発明の主な態様は、細胞株のin vitro保管及び輸送のための系であって、
a)
i.Leibovitz L-15基礎培地
ii.FBS
iii.HEPES
iv.グルタミン
v.ペニシリンとストレプトマイシンとの混合物
を含む細胞輸送培地と
b)凝固したゼラチンマトリックスと
を含む、系を指す。
【0015】
より具体的かつ好ましい様式では、本発明の細胞株のin vitro保管及び輸送のための系は、
a)
i.78体積%~88.5体積%のLeibovitz L-15基礎培地
ii.8体積%~12体積%のFBS
iii.2.5体積%~6体積%のHEPES
iv.0.5体積%~2体積%のグルタミン
v.0.5体積%~2体積%の、ペニシリンとストレプトマイシンとの混合物
を含む細胞輸送培地と、
b)輸送培地1ml当たり10~50mgのゼラチンの凝固マトリックスと
を含む。
【0016】
本発明の保管及び輸送系は、驚くべきことに、72時間を超えて細胞生存率を維持する能力を示した。これまで24時間を超える運送時間を支援することができなかったHEK-293細胞の場合、96時間後に少なくとも80%の細胞生存率が観察された。Caco-2細胞の場合、本発明の保管及び輸送系は、室温での細胞の輸送を可能にし、単層の完全性を少なくとも11日間まで変化させずに維持することが観察された。
【0017】
pHは、細胞株の生存率、特にHEK-293及びCaco-2細胞に影響を及ぼす主要なパラメータの1つである。本発明の著者らは、バッファー剤であるHEPESの共同作用及びLeibovitz L-15基礎培地の作用が、細胞の生存及び生存率が著しく改善されるように安定な生理的pHを維持する能力を本発明の系に提供することを観察した。
【0018】
本発明の保管及び輸送系の別の必須要素は、凝固ゼラチンマトリックスである。これにより、細胞の保護、並びにそれらの機能的特性の維持が可能になる。ゼラチンはまた、細胞の適切なガス交換を保証する。
【0019】
使用されるゼラチンは好ましくはタイプAゼラチンであるが、任意のタイプの天然又は市販のゼラチンを本発明の系に関連して使用することができる。
【0020】
上述のように、本発明の系は、任意の細胞型の輸送を可能にするが、ストレス状況に特に感受性が高い細胞株を保管及び輸送するのに特に適している。これに関して、この系は、HEK-293細胞並びにCaco-2細胞を輸送するために適合され、特に適している。
【0021】
本発明の系を使用するためには、最初に、細胞が輸送のために支持体上に固定化されていなければならない。これは、細胞輸送を可能にする任意のタイプの支持体を使用することができる。特定の実施形態では、支持体は、ペトリ皿、マルチウェルプレート、トランスウェル膜インサート、生体模倣系、3D培養用の合成支持体、ガラスプレート、スライド、又は細胞接着を促進するように例えばコラーゲン、ポリリジン若しくは他の同様の要素による被覆などの被覆に予め供された任意のタイプの支持体から選択される。
【0022】
細胞がそれらの適切な機能状態及び適切なコンフルエンス状態に達した時が、それらが本発明の系で被覆される準備ができた時である。本発明の文脈では、適切な機能状態は、目的のアッセイのために割り当てられた機能を実行できる培養物の生細胞の状態であると理解される。それらが前記適切な機能状態及び適切なコンフルエンスに達すると、本発明の系が追加され、ゼラチンのおかげで、細胞が完全に固定化されており、それらが最終目的地に達するまでそれらの機能状態を維持することを保証する。ゼラチンは、輸送過程中に細胞が受ける機械的ストレスを制限及び低減する。
【0023】
生理的ストレスを減少させる輸送培地、並びに細胞の機械的ストレスを減少させるゼラチンの共同作用のおかげで、細胞がその最適な機能状態でそれらの目的地に到達するための適切な輸送条件を提供する相乗効果がもたらされる。
【0024】
本発明の系は、特別な輸送条件を必要とせず、実際に室温での細胞株の輸送を可能にするという利点を有する。このことは、冷凍又は特別な輸送条件を必要とする他の系を上回る利点を表す。
【0025】
細胞株を保管及び/又は輸送するための方法
本発明の第2の態様は、細胞株のin vitro保管及び/又は輸送のための方法であって、
A)支持体に固定化されている細胞株を、
a)
i.Leibovitz L-15基礎培地
ii.FBS
iii.HEPES
iv.グルタミン
v.ペニシリンとストレプトマイシンとの混合物
を含む細胞輸送培地と
b)ゼラチンマトリックスと
を含む系で被覆すること、
B)15℃~25℃の温度でゼラチンマトリックスを凝固させること、
C)細胞株を15℃~25℃の温度で96時間まで保管及び/又は輸送すること、
を含む、方法に関する。
【0026】
特定の実施形態では、本方法は、
a)
i.78体積%~88.5体積%のLeibovitz L-15基礎培地
ii.8体積%~12体積%のFBS
iii.2.5体積%~6体積%のHEPES
iv.0.5体積%~2体積%のグルタミン
v.0.5体積%~2体積%の、ペニシリンとストレプトマイシンとの混合物
を含む細胞輸送培地と
b)輸送培地1ml当たり10~50mgのゼラチンのマトリックスと
を使用することを含む。
【0027】
本方法の第1段階(段階A)は、移送される細胞培養物を調製し、収容することを目的とする。この目的のために、本発明の系で細胞を被覆する前に、細胞は、各細胞型について決定された密度で播種される。それらが目的とするアッセイのタイプに従って、細胞株は、1つのタイプの支持体又は別のタイプの支持体上に播種される。培養物は、適切な機能及びコンフルエンスに達するまで必要な限り長く維持されなければならず、好ましくは必要に応じて48~72時間毎に培地を交換される。
【0028】
細胞輸送のための任意の適切な支持体を使用することができるが、特に、使用される支持体は、ペトリ皿、マルチウェルプレート、トランスウェル膜インサート、生体模倣系、3D培養用の合成支持体、ガラスプレート、スライド、又は細胞接着を促進するように例えばコラーゲン、ポリリジン若しくは他の同様の要素による被覆などで予め被覆された任意のタイプの支持体から選択される。
【0029】
適切な機能状態に達したら、細胞株は、本方法の段階Aに従って、輸送培地と、液体状態でなければならないゼラチン溶液とを含む本発明の系で被覆される。ゼラチン溶液は、溶媒として作用する輸送培地にゼラチンを溶解することによって調製される。輸送培地を溶媒として使用することにより、本発明の方法に従って保管及び/又は輸送された細胞株が培養物の機能的特性を維持し、その結果、最終目的地に到達したらすぐに使用可能であることが達成される。
【0030】
使用されるゼラチンは好ましくはタイプAゼラチンであるが、任意のタイプの天然又は市販のゼラチンを本発明の系に関連して使用することができる。
【0031】
段階B)では、ゼラチンマトリックスを15℃~25℃の温度で凝固させ、それにより、細胞を固定化され、安定化される。ゼラチン層は、細胞の物理的保護を表し、細胞が輸送過程から生じる機械的ストレスにより良好に耐え得るようにする。
【0032】
輸送(段階C)は、15℃~25℃の温度で行われ、48時間超、好ましくは72時間超、好ましくは96時間までの運搬を可能にする。
【0033】
目的地に到達し、固定化されている培養物が使用される場合に、プレートは、完全に液化するまで、好ましくは37℃、湿度90%及びCO 5%で1.5~4時間、細胞インキュベータ内で固体ゼラチンと共にインキュベートされる。次いで、それを吸引によって除去し、問題の細胞に特異的な培養培地を適用し、使用するまで細胞を37℃において、湿度90%/CO 5%でインキュベートする。
【0034】
本発明の方法は、任意のタイプの細胞株に適用可能であるが、HEK-293及びCaco-2から選択される細胞株を保管及び/又は輸送するのに特に適している。
【0035】
細胞株輸送用キット
別の態様では、本発明は、細胞株のin vitro輸送及び保管のためのキットであって、
a.本発明による細胞株のin vitro保管及び/又は輸送のための系、
b.輸送される細胞株を固定化するための支持体
を含む、キットに関する。
【0036】
本発明のキットの細胞保管及び輸送系は、上記の用語及びパラメータにおける輸送培地及びゼラチンマトリックスの両方を含む。
【0037】
支持体に関して、キットは、細胞輸送のための任意の適切な支持体を含むことができるが、好ましい実施形態では、使用される支持体は、ペトリ皿、マルチウェルプレート、トランスウェル膜インサート、生体模倣系、3D培養用の合成支持体、ガラスプレート、スライド、又は細胞接着を促進するように例えばコラーゲン、ポリリジン若しくは他の同様の要素による被覆で予め被覆された任意のタイプの支持体から選択される。
【0038】
本発明のキットは、原則として任意のタイプの細胞株の輸送に有用であるが、HEK-293細胞株及びCaco-2細胞株から選択される細胞株を保管及び/又は輸送するのに特に適している。
【0039】
使用
本発明の最後の態様は、本発明の系の使用によって表される。
【0040】
本発明の系は、原則として、任意の細胞株の保管及び/又は輸送を可能にするが、ストレス状況に最も感受性が高い細胞株の輸送のために特別に設計及び開発されている。
【0041】
好ましくは、本発明の系は、HEK-293細胞株及びCaco-2細胞株の保管及び/又は輸送に有用である。
【0042】
本発明の系は、細胞の100%の細胞生存率を72時間維持し、細胞型に応じて96時間又はそれ以上後に細胞の少なくとも80%の細胞生存率を維持可能にすることが観察された。したがって、本発明の系は、細胞、及びHEK-293及びCaco-2などの特に感受性の高い細胞の、任意の大陸の任意の場所への運送及び輸送を実用的に可能にする。
【0043】
以下の実施例は、本発明の例示に役立つが、決して本発明の範囲を限定する目的のものではない。
【実施例
【0044】
実施例1:モックHEK-293及びHEK-293 MATE1細胞の細胞生存率
異なる輸送手段を用いた72時間(3日)後及び96時間(4日)後の細胞生存率を試験するために、モックHEK-293及びHEK-293 MATE1細胞に対して一連のアッセイを行った。この比較研究で分かるように、本発明の輸送組成物の改善された生存効果が、このタイプの細胞に一般的に使用される維持培地(初期輸送培地)に対して実証された。
【0045】
以下の調合物をアッセイした:
Hepes非含有初期輸送培地(D6046+0% H):
-DMEM D6046低グルコース 85.5%(Sigma);
-10% FBS(Biowest);
-L-グルタミン 1%(Lonza);
-Pen/Strep 1%(Lonza);及び
-タイプAゼラチン 25mg/ml(Sigma)。
【0046】
初期輸送培地+5% Hepes(D6046+5% H):
-DMEM D6046低グルコース 80.5%(Sigma);
-10% FBS(Biowest);
-Hepes 5%(Gibco);
-L-グルタミン 1%(Lonza);
-Pen/Strep 1%(Lonza);及び
-タイプAゼラチン 25mg/ml(Sigma)。
【0047】
Hepes非含有の新たな輸送培地(L15+0% H):
-Leibovitz L-15培地 85.5%(Sigma);
-10% FBS(Biowest);
-グルタミン 1%(Lonza);
-ペニシリン-ストレプトマイシン 1%(Lonza);及び
-タイプAゼラチン 25mg/ml(Sigma)。
【0048】
新たな輸送培地+5% Hepes(L15+5% H):
-Leibovitz L-15培地 80.5%(Sigma);
-10% FBS(Biowest);
-Hepes 5%(Gibco);
-グルタミン 1%(Lonza);
-ペニシリン-ストレプトマイシン 1%(Lonza);及び
-タイプAゼラチン 25mg/ml(Sigma)。
注:体積/体積%
【0049】
比較研究を細胞に対して行った。モックHEK-293細胞及びHEK-293 MATE1細胞の両方を、ポリ-D-リジン被覆96ウェルプレートに50,000細胞/ウェルの密度で播種した。播種の24時間後、全コンフルエンスに達したので、培地を除去し、200μl/ウェルの輸送培地を添加した。プレートをフローキャビン内で落ち着かせ、パラフィルムで密封し、次いで23℃の人工気候室に置いた。
【0050】
プレートを、72時間及び96時間の輸送培地への曝露時間後に液化した。プレートをCOインキュベータ内に37℃において90分間導入することによって輸送培地を液化した。ゼラチンが液化したら、輸送培地を除去し、HEK-293維持培地を適用した(100μl/ウェル)。
【0051】
24時間後、細胞生存率を、Alamar Blueを使用してアッセイした(HEK-293維持培地中10% Alamar Blueを110μl/ウェル、COインキュベータ中で2時間のインキュベーション)。
【0052】
細胞生存率のパーセンテージを、輸送培地(TM)の適用前の時間0における対照細胞のRFU(相対蛍光単位)の正味値に対して計算した:
生存率%=100*(TM後の正味RFU)/(TM前の正味RFU)
【0053】
群間の有意差を、スチューデントのt検定(対応なし)を用いて検証した。p≦0.05の値を統計的に有意とみなした。以下の表1及び表2は、モックHEK-293細胞及びHEK-293 MATE1細胞の両方に対する比較アッセイの結果を示す。結果は、図1(モックHEK-293)及び図2(HEK-293 MATE1)においても観察することができる。
【0054】
モックHEK-293細胞を用いた結果は、HEPESバッファーの非存在下で、Leibovitz L15基礎培地の使用とDMEM D6046の使用との差が生存の明らかな改善を提供することを72時間で既に実証している。この差は、HEPESをDMEM D6046 培地に添加するがLeibovitz L15基礎培地には添加しない場合に最小化される。しかし、HEPESをL15培地に添加すると、DMEM D6046培地との差は非常に有意であることが観察される。HEPES含有又は非含有のL15培地間の比較においても有意差が観察される。これは、細胞生存におけるこのバッファーの重要性を示している。しかし、全体として見ると、これらの結果は、Leibovitz L-15基礎培地とHEPESバッファーとの組み合わせが、72時間後のモックHEK-293細胞の生存にとって極めて重要であることを示唆している。
【0055】
96時間では、結果は類似していたが、差は強調されており、5% HEPES含有Leibovitz L-15基礎培地の使用は、他の対照と比較して極めて有意に細胞生存率を増加させる。
【0056】
72時間後のHEK-293 MATE1細胞における結果は、モックHEK-293細胞における結果と類似しているが、生存に対するHEPESの影響がすべての比較においてより有意であることが観察される。
【0057】
96時間では、同様のパターンが観察されるが、推測され得ることは、HEK-293 MATE1細胞の生存に対するL-15基礎培地の相対的重要性が、モックHEK-293細胞よりも本発明の系においてより重要であるということである。これは、HEPESが96時間後の生存において重要でないことを暗示するものではなく、HEK-293 MATE1細胞及びモックHEK-293細胞において72時間後及び96時間後の両方での細胞生存率の有意な改善における、Leibovitz L-15基礎培地と一緒にHEPESバッファーを使用することの相乗効果を再度示唆している。
【0058】
結論として、アッセイしたL-15+5% HEPES組成物は、室温での細胞輸送を可能にし、細胞生存率を4日間まで実質的に変化させずに維持する。
【0059】
4日間の室温への曝露後、L15+5% HEPESに基づく輸送培地は、HEK-293モック及びMATE1の細胞生存率をそれぞれ100%及び80%維持する。
【0060】
実施例2:Caco-2細胞における細胞完全性の評価
異なる輸送手段を用いた4日間(96時間)及び11日間(264時間)においてCaco2細胞の細胞層の完全性を評価するために、一連のアッセイを行った。現在利用可能な輸送手段は、最大4日間の行程が可能であり、そのため本発明の輸送系がこの時間障壁を克服できるかどうかを試験することが求められた。この比較研究で分かるように、本発明の輸送組成物の、現在の手段に対して改善された生存効果が実証された。このために、細胞の単層完全性を、細胞単層の経上皮抵抗(TEER)を測定することによって試験期間後に評価した。
【0061】
以下の調合物をアッセイした:
現在の輸送組成物(SM CR):
・DMEM低グルコース 85.5%(Sigma);
・10% FBS(Biowest);
・L-グルタミン 1%(Lonza);及び
・ペニシリン-ストレプトマイシン 1%(Lonza);
・タイプAゼラチン 25mg/ml(Sigma)。
【0062】
本発明の輸送組成物(SM L15):
・グルタミン含有L-15培地(Leibovitz)80.5%(Sigma);
・FBS 10%(Biowest);
・Hepes 5%(Gibco);
・L-グルタミン 1%(Lonza);
・ペニシリン-ストレプトマイシン 1%(Lonza);及び
・タイプAゼラチン 25mg/ml(Sigma)。
【0063】
Caco維持培地(播種及びプレートの維持に使用):
・DMEM低グルコース(D6046 Sigma)
・FBS 10%(Biowest)
・L-グルタミン 1%(Lonza)
・ペニシリン-ストレプトマイシン 1%(Sigma)
注:体積/体積%
【0064】
試験を実施するために以下の装置を使用した:
-生物学的キャビネット
-COインキュベータ
-人工気候室
-上皮電圧/オーム(TEER)メーター-EVOM2
-Corningブランドの96ウェルトランスウェルプレート中の経上皮電気抵抗を測定するためのSTX100C96特定電極
【0065】
比較研究を、CacoReady 96ウェル製品について内部で規定された製造手順に従って、Caco2細胞に対して実施した。
【0066】
細胞播種を、4つの96ウェルプレート(#3392、Corning)に11,000細胞/ウェルの密度で行った。培養物を13日間維持し、およそ48時間毎に培地を交換した。
【0067】
播種後14日目に、全コンフルエンスに達した後、培地を取り出し、輸送培地を頂端(apical)区画に75μL及び基底区画に235μL添加した。プレートをフローキャビネット内で温め、パラフィルムで密封し、続いて23℃の人工気候室に置いた。
【0068】
プレートを、輸送培地への4日の曝露時間後(18日目)及び11日曝露時間後(25日目)に液化した。プレートをCO2インキュベータ内に37℃において4時間置くことによって輸送培地を液化した。輸送培地が液化したら、輸送培地を除去し、Caco2維持培地を適用した(75μL/頂端+235μL/基底)。
【0069】
液化の48時間後、培地交換を、細胞単層の経上皮抵抗(TEER)をランダムに測定して細胞障壁の完全性をチェックする過程の25日目及び32日目まで2日毎に行う。
表3はこのスケジュールを要約している。
【0070】
経上皮抵抗は、正味のTEER値に対してシードウェルの膜面積を掛けることによって計算される。
TEER=Ω*cm2
・Corning 96ウェル参照#3392の膜面積は0.143cmに等しい
・CacoReady製品仕様は、TEER≧500Ω.cmの測定値に対して細胞単層の正しい状態を確立する。
【0071】
現在の輸送培地(SM CR)及び本発明の輸送系(SM L15)についての細胞単層の経上皮抵抗について得られた結果を、それぞれ4日間及び11日間の期間について表4に詳述する。これらの結果はまた、図3にグラフで詳述されている。
【0072】
図から分かるように、現在の輸送手段(SM CR)は、TEER結果が確立された限界仕様の範囲外であるため、単層の完全性を11日間維持することができない。
【0073】
対照的に、これらの結果は、本発明の系(SM L15)が室温でのCaco2細胞の輸送を可能にし、単層の完全性を少なくとも11日間不変に維持することを実証し、これは現在存在する組成物と比較して有意な改善を表す。
図1
図2
図3
【国際調査報告】