(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-30
(54)【発明の名称】止血組成物及び関連する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/722 20060101AFI20230323BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20230323BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20230323BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20230323BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20230323BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20230323BHJP
A61K 31/426 20060101ALI20230323BHJP
A61P 7/04 20060101ALI20230323BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20230323BHJP
【FI】
A61K31/722
A61K9/14
A61K47/02
A61K9/08
A61K9/10
A61K47/12
A61K31/426
A61P7/04
A61P1/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022549251
(86)(22)【出願日】2021-02-17
(85)【翻訳文提出日】2022-10-04
(86)【国際出願番号】 US2021018353
(87)【国際公開番号】W WO2021167963
(87)【国際公開日】2021-08-26
(32)【優先日】2020-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506192652
【氏名又は名称】ボストン サイエンティフィック サイムド,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】BOSTON SCIENTIFIC SCIMED,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】グリムズビー、ジェシカ エル.
(72)【発明者】
【氏名】ライデッカー、ローレン
(72)【発明者】
【氏名】フレドリクソン、ジェラルド
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076AA22
4C076AA29
4C076BB21
4C076BB31
4C076CC19
4C076DD25Z
4C076DD30Z
4C076DD43Z
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC82
4C086GA13
4C086GA14
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA43
4C086NA14
4C086ZA53
(57)【要約】
患者の標的部位を治療するための組成物並びに関連するキット及び方法が本明細書に記載されている。組成物は、例えば、止血薬及びpH薬を含有し得る。治療方法は、胃腸系における組織の出血を低減させるために、医療機器を介して患者の胃腸系に止血薬及びpH薬を送達及び適用すること含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの止血薬と、
少なくとも1つのpH薬と
を含む組成物であって、
前記pH薬に対する前記止血薬の重量比(止血薬:pH薬)は、10:1~1:10の範囲である、組成物。
【請求項2】
前記少なくとも1つの止血薬は、トリポリリン酸塩と架橋されたキトサン、およびキトサン酢酸塩、キトサンコハク酸塩、キトサングルタミン酸塩、キトサングリコール酸塩、キトサンクエン酸塩などのキトサン塩又はそれらの組み合わせなどのキトサン塩のうちの少なくともいずれか一方を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記少なくとも1つのpH薬は、炭酸水素ナトリウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、次サリチル酸ビスマス又はそれらの組み合わせを含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
粉末の形態をなす、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
溶液又は懸濁液の形態をなす、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記止血薬の平均粒子直径は、約100μm~約750μmであり、例えば約200μm~約550μm又は約400μm~約550μmである、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物の総重量に対して約10重量%~約90重量%の前記少なくとも1つの止血薬を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
約5g~約35gの前記少なくとも1つの止血薬を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物と、医薬品又は治療薬とを含むキット。
【請求項10】
前記医薬品は、ファモチジンなどのヒスタミン-2遮断薬を含む、請求項9に記載のキット。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物を含むキットであって、前記組成物は第1の組成物であり、かつ、前記キットは生体適合性モノマー又はポリマーを含む第2の組成物をさらに含む、キット。
【請求項12】
前記第2の組成物は、医薬品又は治療薬をさらに含み、任意選択で、前記医薬品は、ファモチジンなどのヒスタミン-2遮断薬を含む、請求項11に記載のキット。
【請求項13】
請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物又は請求項9~12のいずれか一項に記載のキットを含む医療機器。
【請求項14】
胃腸出血を治療するための、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物又は請求項9~13のいずれか一項に記載のキットの使用方法。
【請求項15】
前記組成物は、内視鏡手術における胃腸組織への適用のために粉末として製剤される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
患者を治療する方法であって、
患者の胃腸系内に医療機器を導入することと、
前記医療機器によって、出血している胃組織を含む前記患者の標的部位に少なくとも1つの止血薬を適用することと、
前記少なくとも1つの止血薬を適用してから30秒以内に前記標的部位に少なくとも1つのpH薬を適用することにより、前記標的部位のpHを増加させることと
を含み、
前記少なくとも1つの止血薬は、前記胃組織の出血を低減させる、方法。
【請求項17】
前記少なくとも1つのpH薬は、炭酸水素ナトリウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、次サリチル酸ビスマス又はその組み合わせを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記少なくとも1つの止血薬及び前記少なくとも1つのpH薬は、同時に前記標的部位に適用される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記少なくとも1つのpH薬は、前記少なくとも1つの止血薬を適用した1秒~30秒後に適用される、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記少なくとも1つの止血薬は、前記少なくとも1つのpH薬も含む組成物として適用され、及び前記少なくとも1つのpH薬は、前記組成物を適用した1秒~30秒後に適用される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記少なくとも1つの止血薬は、キトサンを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
前記少なくとも1つの止血薬は、粒子形態で適用され、前記少なくとも1つの止血薬は、トリポリリン酸塩と架橋されたキトサン、キトサン塩又はその混合物を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項23】
前記少なくとも1つのpH薬は、溶液として、懸濁液として又は粒子形態で適用される、請求項16に記載の方法。
【請求項24】
前記少なくとも1つの止血薬及び前記少なくとも1つのpH薬を適用した後、治療薬又は医薬品を適用することをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項25】
前記医薬品を適用することを含み、及び前記医薬品は、ヒスタミン-2遮断薬を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
キトサン塩、トリポリリン酸塩と架橋されたキトサン又はそれらの混合物と、
炭酸水素ナトリウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、次サリチル酸ビスマス及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つのpH薬と
を含む組成物を患者の胃腸系の標的部位に適用することを含み、
前記標的部位は、出血している胃組織を含み、
前記組成物は、前記胃組織の出血を低減させる、
方法。
【請求項27】
前記pH薬に対する前記止血薬の重量比(止血薬:pH薬)は、10:1~1:10の範囲である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記組成物は、第1の組成物であり、
前記方法は、前記第1の組成物を適用した後に前記標的部位に第2の組成物を適用することをさらに含み、
前記第2の組成物は、前記第1の組成物の前記少なくとも1つのpH薬と同一又は異なる少なくとも1つのpH薬を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記第2の組成物は、前記第1の組成物を適用した1秒~30秒後に適用される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記組成物は、第1の組成物であり、
前記方法は、前記第1の組成物を適用した後に前記標的部位に第2の組成物を適用することをさらに含み、
前記第2の組成物は、治療薬又は医薬品を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項31】
前記第2の組成物は、ヒスタミン-2遮断薬を含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
キトサン塩、トリポリリン酸塩と架橋されたキトサン又はその混合物と、
炭酸水素ナトリウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、次サリチル酸ビスマス又はその組み合わせから選択される少なくとも1つのpH薬と
を含む組成物であって、
前記pH薬に対する前記止血薬の重量比(止血薬:pH薬)は、10:1~1:10の範囲である、組成物。
【請求項33】
粉末の形態をなす、請求項32に記載の組成物。
【請求項34】
前記組成物の総重量に対して約10重量%~約90重量%の前記少なくとも1つの止血薬を含む、請求項32に記載の組成物。
【請求項35】
前記止血薬の平均粒子直径は、約200μm~約550μmである、請求項32に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療用物質並びに関連する調製方法及び治療方法に関する。例えば、本発明は、組織を治療するのに有用な止血物質を含む。
【背景技術】
【0002】
大出血、すなわち内部及び外部の創傷による出血は、失血及び感染の危険性を含む多くの医学的問題を引き起こす。種々の医療処置は、一時的な又は持続性の出血を引き起こし得る。消化管出血は、外部の創傷と異なり、数時間から数日間にわたって続き得る滲出及び再出血を呈し得、これにより結果として大量に失血し、患者が死亡する可能性がある。例えば、消化管又は他の臓器内で行われる内視鏡手術は、結果として創傷を生じさせる可能性、又は患者が胃腸出血を含む状態で苦しむ可能性がある。クリップなどの医療機器は、内出血を治療するために使用することができるが、不注意によってさらなる組織損傷を引き起こし得、又はより大きい創傷に対して十分な大きさでない場合がある。生体吸収性の物質は、止血及び凝固が阻止される胃の厳しい環境に耐えることができないことでさらなる不利益を生じる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明は、治療用物質並びにその調製方法及び治療方法を含む。例えば、本発明は、少なくとも1つの止血薬と、少なくとも1つのpH薬とを含む組成物を含み、pH薬に対する止血薬の重量比(止血薬:pH薬)は、10:1~1:10の範囲である。本明細書におけるいくつかの例では、止血薬は、キトサンを含む。例えば、止血薬は、キトサン酢酸塩、キトサンコハク酸塩、キトサングルタミン酸塩、キトサングリコール酸塩、キトサンクエン酸塩、又はその組み合わせなどのキトサン塩、及びトリポリリン酸塩と架橋されたキトサンのうちの少なくともいずれか1つを含み得る。pH薬は、例えば、炭酸水素ナトリウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、次サリチル酸ビスマス又はそれらの組み合わせを含み得る。本発明のいくつかの態様によれば、組成物は、粉末、溶液又は懸濁液の形態である。止血薬の平均粒子直径は、約200μm~約550μm又は約400μm~約550μmなど、約100μm~約750μmであり得る。いくつかの例では、組成物は、組成物の総重量に対して約10重量%~約90重量%の少なくとも1つの止血薬を含む。追加的又は代替的に、組成物は、約5g~約35gの止血薬を含み得る。
【0004】
本発明は、医薬品又は治療薬と共に、上記に記載される組成物を含むキットを含む。いくつかの例では、組成物は、第1の組成物であり、及びキットは、生体適合性モノマー若しくはポリマー又は医薬品若しくは治療薬を含む第2の組成物をさらに含む。本発明のいくつかの態様によれば、医薬品は、ファモチジンなどのヒスタミン-2遮断薬を含む。
【0005】
上記又は本明細書における他の箇所で記載される組成物及び/又はキットを含む医療機器も本明細書で開示される。本発明は、胃腸出血を治療するための組成物及び/又はキットの使用も含む。例えば、組成物は、内視鏡手術における胃腸組織への適用のために粉末として製剤され得る。
【0006】
本発明は、患者を治療する方法であって、患者の胃腸系内に医療機器を導入することと、医療機器によって患者の、出血している胃組織を含む標的部位に少なくとも1つの止血薬を適用することと、標的部位に少なくとも1つのpH薬を適用することにより、標的部位のpHを増加させることとを含み、少なくとも1つの止血薬は、胃組織の出血を低減させる、方法も含む。pH薬は、少なくとも1つの止血薬を適用してから30秒以内に適用され得る。いくつかの例では、pH薬は、炭酸水素ナトリウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、次サリチル酸ビスマス又はその組み合わせを含む。方法は、止血薬及びpH薬が同時に標的部位に適用されること、止血薬を適用した1秒~30秒後にpH薬が適用されること、及び/又は少なくとも1つのpH薬も含む組成物として止血薬が適用されて当該組成物を適用した1秒~30秒後に少なくとも1つのpH薬が適用されること、のうちの少なくともいずれか1つを含み得る。いくつかの例では、止血薬は、キトサンを含む。例えば、止血薬は、キトサン塩、トリポリリン酸塩と架橋されたキトサン又はそれらの混合物を含み得る。止血薬は、粒子形態で適用され得る。いくつかの例では、止血薬及びpH薬は、粒子形態でそれぞれ適用される。いくつかの例では、pH薬は、溶液として、懸濁液として又は粒子形態で適用される。方法は、少なくとも1つの止血薬及び少なくとも1つのpH薬を適用した後、治療薬又は医薬品を適用することをさらに含み得る。例えば、方法は、ヒスタミン-2遮断薬を含む医薬品を適用することを含み得る。
【0007】
本明細書では、キトサン塩、トリポリリン酸塩と架橋されたキトサン又はそれらの混合物と、炭酸水素ナトリウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、次サリチル酸ビスマス及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つのpH薬とを含む組成物を患者の胃腸系の標的部位に適用することを含む患者を治療する方法であって、標的部位は、出血している胃組織を含み、組成物は、胃組織の出血を低減させる、方法も提供される。いくつかの例では、pH薬に対する止血薬の重量比(止血薬:pH薬)は、10:1~1:10の範囲である。いくつかの例では、組成物は、第1の組成物であり、及び方法は、第1の組成物を適用した後に標的部位に第2の組成物を適用することをさらに含み、第2の組成物は、第1の組成物の少なくとも1つのpH薬と同一又は異なる少なくとも1つのpH薬を含む。第2の組成物は、治療薬又は医薬品、例えばヒスタミン-2遮断薬をさらに含み得る。第2の組成物は、例えば、第1の組成物を適用した1秒~30秒後に適用され得る。
【0008】
本明細書に組み込まれ、その一部を構成する添付の図面は、種々の例示的な実施形態を例示し、説明と共に、開示される実施形態の原理を説明する役割を果たす。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】本発明のいくつかの態様に係る例示的な治療方法を示す図。
【
図1B】本発明のいくつかの態様に係る例示的な治療方法を示す図。
【
図1C】本発明のいくつかの態様に係る例示的な治療方法を示す図。
【
図2A】本発明のいくつかの態様に係る別の例示的な治療方法を示す図。
【
図2B】本発明のいくつかの態様に係る別の例示的な治療方法を示す図。
【
図2C】本発明のいくつかの態様に係る別の例示的な治療方法を示す図。
【
図3A】本発明のいくつかの態様に係る別の例示的な治療方法を示す図。
【
図3B】本発明のいくつかの態様に係る別の例示的な治療方法を示す図。
【
図3C】本発明のいくつかの態様に係る別の例示的な治療方法を示す図。
【
図3D】本発明のいくつかの態様に係る別の例示的な治療方法を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の態様は、下記でさらに詳細に記載される。参照により援用される用語及び/又は定義と矛盾する場合、本明細書で提供される用語及び定義が優先される。
本明細書で使用されるように、用語「含む」、「含んでいる」又はその任意の他の変化形は、一連の要素を含むプロセス、方法、組成物、製品又は器具が、それらの要素のみを含むのではなく、明示的に列挙されていないか又はそのようなプロセス、方法、組成物、製品若しくは器具に本来備わっている他の要素を含むように、非排他的包含をカバーすることが意図される。用語「例示的」は、「理想的」ではなく、「実例」という意味で使用される。
【0011】
本明細書で使用されるように、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その」は、文脈により別段の指示がない限り、複数の指示対象を含む。用語「およそ」及び「約」は、言及される数又は値とほとんど同一であることを指す。本明細書で使用されるように、用語「およそ」及び「約」は、特定の量又は値の±5%を包含することが理解されるべきである。
【0012】
本発明の実施形態は、物質、例えば治療薬及び組織の治療のための関連する方法を含む。本明細書における方法は、例えば、止血システムの一部として、組織の止血を行うための内視鏡による物質の送達を含む。本明細書における止血システムは、生体適合性であり、及び/又は生物学的物質に由来する1つ以上の生体物質を含む1つ以上の化合物を含み得、化合物は、少なくとも部分的に又は完全に生体吸収性であり得る。例えば、組織への適用時、少なくとも一部の物質は、徐々に溶解し、及び/又は体内に吸収され得る。いくつかの場合、一部の物質は、胃腸系を介して吸収され、及び/又は体から除去されるように適用部位から剥離し得る。本発明の実施形態は、胃腸組織の治療に係るシステム及び方法に特に関連して記載され得るが、患者における任意の治療部位が本明細書で開示される例示的なシステム及び方法によって標的とされ得ることが理解される。
【0013】
本明細書における物質は、創傷組織及び/又は患部組織を含む種々の種類の組織を治療するために使用され得る。例えば、物質は、種々の状態と関連し、及び/又は医療処置後の胃腸出血を治療するのに有用であり得る。治療される組織は、例えば、やけど、裂傷、外傷、炎症、潰瘍、穿孔、微小な穿孔及び治療又は修復を必要とする他の種類の組織を含み得る。本明細書における物質は、接着剤及び/又は縫合糸若しくはステープルなどの医療機器、及び/又は組織を固定又は保護するための別の医療装置又は方法の代替として、又はそれと組み合わせて使用され得る。少なくとも1つの例では、物質は、標的部位で組織の出血を阻止、停止又は予防するために適用され得る。
【0014】
本明細書におけるシステムが適用され得る例示的な部位は、例えば、食道、胃、小腸(例えば、十二指腸、空腸及び/又は回腸)、及び/又は大腸(例えば、盲腸、結腸、直腸及び/又は肛門管)などの胃腸系の組織を含むが、これらに限定されない。本明細書における物質は、疾患若しくは傷害に起因する損傷を受けた組織に適用され得、及び/又は医療処置後に組織に適用され得る。
【0015】
胃腸出血は、例えば、食道、胃及び小腸を含む上部消化管で起こり得る。胃は、例えば、一般に約1.5~約3.5の範囲であるその比較的低pHのため、出血を停止させることが難しい環境を形成する。この低pH、すなわち酸性のpHは、酵素活性(例えば、ペプシンプロテアーゼであり、これは、一般に、タンパク質を分解する消化中に低pHで機能する)を促進する一方で、止血に関与するタンパク質依存性の生化学的プロセスを妨げるこのような生化学的プロセスは、例えば、血小板凝集、血液凝固並びに血小板血栓及び形成されたフィブリン血栓の安定を含む。
【0016】
胃の酸性環境は、血栓形成を弱めるだけではなく、フィブリン溶解を介して血栓分解を増加させ得る。例えば、胃を含む胃腸系の低pHは、緊急の止血に影響を与え、出血している組織部位で血小板血栓及びフィブリン血栓を形成する初期の凝固プロセスを阻止し得る。さらに、フィブリン血栓は、酸性のタンパク分解性の環境で分解及び/又は破裂の作用を受けやすいため、低pHは、初期のフィブリン血栓がすでに形成された後でも持続性の止血を阻止し得る。本明細書における組成物及びその物質は、組織を治療するために内視鏡で適用された場合、胃腸系の低pH環境に対処するように製剤され得る。例えば、本明細書における物質は、初期の血栓形成及び持続性の止血を促進するために、胃腸系、例えば胃の低pH環境に対抗しながら、標的部位で出血を低減、阻止、停止、及び/又は予防するのに有用であり得る。本明細書における組成物は、pH薬を伴わない1つ以上の止血薬、止血薬を伴わない1つ以上のpH薬、又は少なくとも1つのpH薬と組み合わせた少なくとも1つの止血薬を含み得る。本明細書における組成物は、任意の順序で標的部位、例えば出血している組織に適用され得る。理論によって束縛されないが、1つ以上の止血薬及び1つ以上のpH薬を同時に又は時間を置かずに適用することは、低pH環境で緊急の止血を促進するための相乗効果を奏し得ると考えられる。
【0017】
本明細書におけるシステムは、止血薬としての役割を果たす1つ以上の物質を含み得る。止血薬は、天然物質、又は天然物質由来、又は元々少なくとも部分的に合成されたものであり得る。例えば、止血薬は、セルロース、デンプン(例えば、ジャガイモ若しくは他の植物のデンプン)及び/又はグリコーゲンを含む1つ以上の多糖(例えば、キトサン、天然ゴム、アルギナート)を含み得る。少なくとも1つの例では、止血薬は、荷電しており、例えば陽イオン性であり得る。
【0018】
本明細書におけるいくつかの例では、止血薬は、任意選択で、1つ以上の他の止血薬と組み合わせてキトサンを含有し得る。キトサンは、甲殻類外骨格の構成要素であるキチンに由来するグルコサミン単位から形成される線状の多糖である。
【0019】
【化1】
キトサンは、水酸化ナトリウムなどのアルカリ試薬によるキチンの脱アセチル化によって一般に調製され、水溶性物質を生成する。キトサンは、抗菌性であり、陽イオン性であり、天然の生体接着性の特性を有し、これは、キトサンが、粘膜などの負に荷電した表面に結合して血液成分、例えば赤血球などを濃縮して凝固を促進することを可能にする。例えば、キトサン物質は、血漿から水分を吸収し、血液成分、例えば赤血球、血小板及び血液タンパク質を濃縮して、一般に偽血栓と本明細書で称される、初期の非フィブリン血栓を形成する。
【0020】
本明細書における止血システムは、生体適合性の塩の形態のキトサンを含み得る。例えば、塩は、キトサンを酢酸(キトサン酢酸塩を形成する)又は乳酸(キトサン乳酸塩を形成する)などの適切な共役酸と組み合わせることによって調製され得る。他の考え得る有機酸は、コハク酸(キトサンコハク酸塩)、グルタミン酸(キトサングルタミン酸塩)、グリコール酸(キトサングリコール酸塩)及びクエン酸(キトサンクエン酸塩)を含むが、これらに限定されない。いくつかの例では、止血薬は、キトサン酢酸塩を含み得る。追加的に又は代替的に、本明細書における止血システムは、トリポリリン酸塩(TPP:tripolyphosphate)などの別の物質と架橋されたキトサンを含み得る。例えば、TPPと架橋されたキトサンは、TPPナトリウムとキトサンとを組み合わせることによって調製され得る。理論によって束縛されないが、TPPと架橋されたキトサンを使用することは、塩のような他の止血薬と比較して、胃又は胃腸系の他の部分のような低pH環境において利点を有すると考えられる。キトサン塩は、一般に、食塩水又はリン酸緩衝食塩水(PBS:phosphate-buffered saline)のような生理学的な媒質と組み合わされた場合、やや酸性のpHを有する。一例として、キトサン酢酸塩は、例えば、塩からの酢酸イオンの解離を考慮すると、食塩水又はPBSに追加された場合、6未満、例えば3~6、4~5.5又は5~6のpHを有し得る。比較すると、TPPと架橋されたキトサンは、一般に、同じ生理学的な媒質に追加された場合、より高いpH、例えば食塩水又はPBSに追加された場合、7以上、例えば7~12、7~8、7.4~10又は7.6~9のpHなど、より中性又はやや塩基性のpHを有する。従って、TPPと架橋されたキトサンを酸性環境で止血薬として組織に適用することは、組織に局所的な中和効果を付与し得る。
【0021】
いくつかの例では、止血薬は、粒子形態であり得、例えば粉末として製剤され得る又は液体形態であり得、例えば生体適合性の液体などによりスプレーとして製剤され得る。粒子形態である場合、止血薬は、例えば、内視鏡による送達に適した医療機器を介した、内部の出血している部位への投与を容易にする粒径を有し得る。本明細書におけるいくつかの例によれば、止血薬の粒子は、約100μm~約500μm、約150μm~約550μm、約200μm~約550μm、約200μm~約450μm、約300μm~約450μm、約400μm~約550μm、約450μm~約650μm又は約500μm~約600μmなど、約100μm~約750μmの平均粒子直径を有し得る。液体形態である場合、止血薬は、数ある例の中で、水若しくは水溶液(例えば、食塩水)又はアルコールなどの生体適合性の液体中に溶解又は懸濁され得る。
【0022】
本明細書における物質及び止血システムは、1つ以上のpH薬と組み合わせた1つ以上の止血薬を含み得、pH薬は、消化管、例えば胃の酸性度に対抗することを支援し得る。TPPと架橋されたキトサンが止血薬として使用される場合、止血薬及びpH薬の両方は、酸性環境で組織に局所的な中和効果を付与し得る。例示的なpH薬は、炭酸水素ナトリウム、アルミニウム(例えば、水酸化アルミニウム)、カルシウム(例えば、炭酸カルシウム)、マグネシウム(例えば、水酸化マグネシウム)、次サリチル酸ビスマス及びその組み合わせを含むが、これらに限定されない。pH薬は、粒子形態を有し、例えば粉末として製剤され得、又は液体形態を有し、例えば生体適合性の液体などによりスプレーとして製剤され得る。いくつかの例では、pH薬は、炭酸水素ナトリウムを含み得る。粒子形態である場合、pH薬は、例えば、内視鏡による送達に適した医療機器による、出血している部位への投与を容易にする粒径を有し得る。pH薬の粒子は、止血薬と同一又は異なる平均粒子直径を有し得る。本明細書におけるいくつかの例では、止血薬及びpH薬は、例えば、適した医療機器の中を通って送達を容易にする同一又は同様の粒径を有し得る。
【0023】
上記のように、本明細書における組成物は、任意の所望の順序で標的部位に適用され得る。いくつかの例では、少なくとも1つの止血薬は、少なくとも1つのpH薬の前、後又は同時に組織に適用され得る。例えば、止血薬及びpH薬は、任意選択で組み合わされ、止血混合物の形態の組成物を形成し得る。組織への適用前に止血薬及びpH薬を組み合わせることは、いくつかの場合に治療を容易にし得る。いくつかの例では、止血薬は、最初に組織に適用され、その後、任意選択で止血混合物の形態の1つ以上の他の止血薬及び/又はpH薬が適用され得る。いくつかの例では、pH薬は、最初に組織に適用され、その後、任意選択で止血混合物の形態の1つ以上の他のpH薬及び/又は止血薬が適用され得る。
【0024】
止血薬及びpH薬のそれぞれは、標的組織を治療的に処置するのに適した量で適用され得る。止血薬の量は、標的部位の性質、例えば大出血の程度及び/又は標的部位のサイズ並びに止血薬のタイプ(上記で述べられるように、TPPと架橋されたキトサンによって提供される任意の中和能力を含む)に基づいて決定され得る。同様に、pH薬の量は、標的部位及びその周辺のpH(標的部位及びその周辺で中性の若しくは中性に近いpHを形成するのに必要とされる、pH薬の量及びTPPと架橋されたキトサンの場合の止血薬の量のうちの少なくともいずれか一方など)、標的部位の性質、並びに適用される止血薬のタイプ及び量に基づいて決定され得る。本明細書におけるいくつかの態様によれば、標的部位に適用される止血薬の量は、約1g~約50g、例えば約5g~約35g、約10g~約20g、約8g~約15g、約1g~約10g、約25g~約45g、約30g~約40g又は約15g~約20gの範囲であり得る。
【0025】
混合物の場合、止血薬は、混合物の総重量に対して約10重量%~約99重量%の量で存在し得る。例えば、止血薬(すなわち止血薬の総量)は、混合物の総重量に対してすべて重量で約20%~約99%、約30%~約99%、約40%~約99%、約50%~約99%、約60%~約99%、約70%~約99%又は約80%~約99%の量で存在し得る。さらに、例えば、pH薬は、混合物の総重量に対して約1重量%~約90重量%の量で存在し得る。例えば、pH薬(すなわちpH薬の総量)は、混合物の総重量に対してすべて重量で約10%~約90%、約10%~約80%、約10%~約70%、約10%~約60%、約10%~約50%、約10%~約40%、約10%~約30%又は約10%~約20%の量で存在し得る。
【0026】
本明細書における物質を使用する治療の例示的方法は、
図1A~1C、2A~2C及び3A~3Eに関連して下記に記載される。図面は、患者の出血している組織表面100に、止血薬を含む組成物を送達するための例示的方法を示す。例えば、組織100は、食道、胃又は小腸の組織など、患者の胃腸系に存在し得る。組織100は、切り傷、裂傷又は他の創傷などの標的部位110を含む。例えば、標的部位110は、例えば、傷害に起因する又は生検などの医療処置の一部としての裂けた又は切られた組織に由来し得る。
【0027】
図1Aでは、組成物120は、医療機器500、例えばカテーテルを介して標的部位110に適用され得る。本例では、組成物120は、止血薬及びpH薬を含み、両方とも粒子形態、又は両方とも液体形態である。例えば、止血薬の粒子(例えば、キトサン塩及び/又はTPPと架橋されたキトサンを含む粒子)並びにpH薬の粒子(例えば、炭酸水素ナトリウムの粒子)は、組み合わされて組成物120を形成し得、任意選択で標的部位110への適用前に保存され得る。
【0028】
組成物120が適用されると、初期のバリア、例えば物理的バリアが形成されて組織の上を覆い(
図1Bを参照されたい)、緊急の止血が開始される。上記のように、止血薬は、血漿から水分を吸収し、血液成分、例えば赤血球、血小板及び/又は血液タンパク質を凝集させて、偽血栓を形成するように機能し得る。いくつかの場合、止血薬は、上記のように、標的部位110及びその周辺でpHを増加させ得る。同時に、pH薬は、標的部位110及びその周辺で中性のpH、例えば約7のpH付近までpHを増加させて、凝固を促進し得る。組成物120の適用時、組成物120中に存在するpH薬及び/又は止血薬は、数秒以内に作用し始めて、標的部位110及び標的部位110のごく近い範囲内で胃酸を中和し得る。pH薬及び/又は止血薬は、ある期間、例えば約10分間~約1時間、例えば約15分間~約45分間又は約30分間にわたり、標的部位110及びその周囲の領域に対して中和効果を維持し得る。この時間枠内において、血小板血栓及びフィブリン血栓130は、
図1Cに示すように、標的部位110で形成されて持続性の止血を促進し得る。フィブリン血栓130が形成されると、組織治癒プロセスが継続し得、少なくとも一部の組成物120は、徐々に溶解し、及び/又は体内に吸収され得る。
【0029】
いくつかの例では、1つ以上のpH薬は、1つ以上の止血薬の適用前又は後に標的部位110に適用され得、止血薬は、それのみで、又は同一又は異なるpH薬と共に適用され得る。例えば、
図1A~1Cの組成物120は、第1の組成物であり得、第1の組成物120と同一又は異なるpH薬である少なくとも1つのpH薬を含む第2の組成物は、第1の組成物120を適用した後に適用され得る。さらなるpH薬の適用は、バリア又はマスクをさらに増強するか又は作り出すことを促進して、標的部位110及びその周辺でpHを中和し得る。第2の組成物は、第1の組成物120の適用後、任意の時点で適用され得る。例えば、第2の組成物は、第1の組成物120の適用の数秒から数分以内、例えば約10分、約5分、約1分、約30秒又は約5秒、例えば1秒~10分、5秒~5分又は10秒~30秒以内に適用され得る。フィブリン血栓130が形成されると、組織治癒プロセスが継続し得、少なくとも一部の第1及び第2の組成物は、徐々に溶解し、及び/又は体内に吸収されて持続性の止血を促進し得る。第1及び第2の組成物は、同一の医療機器500を使用して適用され得る(例えば、医療機器500の同一又は異なるルーメンを使用して)又は異なる医療機器を使用して適用され得る。例えば、第1の組成物は、第2の組成物と異なる医療機器により適用され得、第1及び第2の組成物は、同時に及び/又は順に適用され得る。
【0030】
図2A~2Cは、止血薬及びpH薬が標的部位110に別々に順次適用される別の例示的な方法を示す。1つ以上の止血薬を含む第1の組成物140(pH薬を欠く)は、
図2Aに示すように、医療機器500を介して最初に標的部位110に適用される。
図2Bに示すように、標的部位を覆う初期のバリアの形成のわずかに後又はその直後に、1つ以上のpH薬を含む第2の組成物145(止血薬を欠く)は、
図2Cに示すように適用される。第1の組成物140及び第2の組成物145はそれぞれ、粒子又は液体形態であり得る。例えば、第1の組成物140は、粒子形態のキトサン塩及びTPPと架橋されたキトサンのうちの少なくともいずれか一方などの、粒子形態の止血薬を含み得、第2の組成物145は、粒子形態で又は液体溶液として製剤された炭酸水素ナトリウムなどのpH薬を含み得る。最初に止血薬を適用することにより、緊急の止血(及び任意選択でTPPと架橋されたキトサンの場合などのように局所的な中和効果)を付与し得、その後、pH薬を適用することにより、標的部位110の酸性環境を中和することを促進して、標的部位110及びその周辺で形成されたフィブリン血栓を安定化させたり、その存続期間を延長したりすることを促進し得る。
図1A~1Cの例と同様に、第2の組成物145は、第1の組成物140の適用後、任意の時点で適用され得る。例えば、第2の組成物145は、第1の組成物140の適用の数秒から数分以内、例えば約10分、約5分、約1分、約30秒又は約5秒、例えば1秒~10分、5秒~5分又は10秒~30秒以内に適用され得る。フィブリン血栓130が形成されると、組織治癒プロセスが継続し得、少なくとも一部の第1及び第2の組成物は、徐々に溶解し、及び/又は体内に吸収されて持続性の止血を促進し得る。第1及び第2の組成物140、145は、同一医療機器500を使用して適用され得る(例えば、医療機器500の同一若しくは異なるルーメンを使用して)又は異なる医療機器を使用して適用され得る。理論によって束縛されることを望むものではないが、止血薬及びpH薬を別々に適用することは、pH薬が止血薬の活性に干渉する、例えばpH薬が初期の緊急の止血に負の影響を与える危険性を低減させるなど、1つ以上の利益をもたらし得ると考えられる。
【0031】
他の例では、第1の組成物140は、1つ以上のpH薬を含み得(止血薬なし)、第2の組成物145は、1つ以上の止血薬を含み得る(pH薬なし)。例えば、粉末、例えば炭酸水素ナトリウムの粒子に起因し得る粉っぽい残留物を取り除くために、pH薬は、液体形態において、例えばスプレーとして最初に標的部位110に適用され、その後、キトサン塩の粒子、及びTPPと架橋されたキトサンの粒子のうちの少なくともいずれか一方などのキトサンを含む粒子が適用され得る。
【0032】
本明細書におけるいくつかの例によれば、モノマー及び/又はポリマーは、1つ以上の止血薬及び1つ以上のpH薬に加えて組織に適用され得る。モノマー/ポリマーは、標的部位でパッチを形成することによって組織治癒を促進し得る。従って、例えば標的部位及び/又はその周辺において、モノマーが重合するか、又はポリマーが架橋して、胃腸環境における分解から止血薬を保護するさらなるバリアを形成し得る。このようなモノマー/ポリマーは、標的部位への適用のために液体、例えば溶液として製剤され得る。他の例では、モノマー/ポリマーは、標的部位への適用のために粉末として製剤され得る。本発明に有用な例示的なモノマー/ポリマーは、ヒドロゲル、オレオゲル及びその混合物を含むが、これらに限定されない。本開示のいくつかの態様によれば、モノマー/ポリマーは、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポロキサマー、ポリオキサミン、ポリビニルアルコール、乳酸-グリコール酸共重合体、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリ(L-グルタミン酸)、ポリ酸無水物、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、ポリアニリン又はその組み合わせから選択され得る。追加的に又は代替的に、モノマー/ポリマーは、アルギン酸塩、例えばアルギン酸ナトリウム、及びヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシルプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース及びカルボキシメチルセルロースなどの1つ以上のセルロースポリマーのうちの少なくともいずれか1つを含み得る。いくつかの例では、モノマー/ポリマーは、止血薬と架橋するのに適した官能基を含み得る。例えば、モノマー/ポリマーは、キトサンのアミン基及び他の基のうちの少なくともいずれか一方との架橋に適した官能基を含み得る。例示的な官能基は、例えば、エステル及びアルデヒドを含み、例えばN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS:N-hydroxysuccinimide)エステルを含む。
【0033】
任意選択で、pH薬は、上記列挙されたモノマー/ポリマーなどの1つ以上のモノマー/ポリマーによって封入され得る。少なくとも1つの例では、粉末形態の止血薬及び同様に粉末形態の1つ以上のモノマー/ポリマー中に封入されるpH薬は、同時に又は連続して標的部位(例えば、標的部位110)に適用され得る。次いで、標的部位で物質を可溶化し、例えば相補的な官能基の架橋などの反応を介して、標的部位を覆う保護バリアの形成を促進するために、所望のpHの液体が止血薬及び封入されたpH薬に適用され得る。
【0034】
モノマー/ポリマーの適用を含むこのような1つの例は、
図3A~3Eにおいて表される。本例では、少なくとも1つの止血薬及び少なくとも1つのpH薬の組み合わせを含む第1の組成物160は、
図3Aに示すように、医療機器500を介して最初に標的部位110に適用される。第1の組成物160は、粒子形態又は液体形態であり得る。初期のバリアが、
図3Bに示すように形成され、標的部位110を覆うと、モノマー及び/又はポリマーを含む第2の組成物170が、
図3Cに示すように適用される。その後、第2の組成物170中に存在するモノマー又はポリマーは、
図3Dに示すように、重合(モノマーの場合)又は架橋(ポリマーの場合)して、適用された第1の組成物160の止血薬及びpH薬並びに標的部位110を覆うパッチ200を形成し得る。
【0035】
第2の組成物170は、1つ以上の他の化合物、例えばpH薬及び治療薬、すなわち医薬品をさらに含み得る。少なくとも1つの例では、第2の組成物170は、胃での酸の産生を減少させる医薬品を含む。例えば、第2の組成物170は、ファモチジンなどのヒスタミン-2遮断薬を含み得る。このような医薬品は、患者の長期の治癒プロセスに適した環境を維持するために、胃における酸性条件を中和することを促進するpH効果の延長を提供し得る。
【0036】
モノマー又はポリマーは、第1の組成物160の適用の数秒/数分以内に適用され得る。例えば、第2の組成物170は、第1の組成物160の適用の数秒から数分以内、例えば約10分、約5分、約1分、約30秒又は約5秒、例えば1秒~10分、5秒~5分又は10秒~30秒以内に適用され得る。
【0037】
図3Dに関して上記したように、パッチ200は、標的部位110を覆って、フィブリン血栓が形成されることを可能にし得る。フィブリン血栓の形成中及び/又は後、パッチ200は、標的部位110に、第2の組成物170中に存在する治療薬、すなわち医薬品を放出して、
図3Eに示すように、非酸産生領域210を形成するとともに維持し得る。非酸産生領域210は、標的部位110及びその周辺でpHの長期のコントロールを可能にし得る。フィブリン血栓が形成されると、組織治癒プロセスが継続し得、少なくとも一部の第1及び第2の組成物160、170は、徐々に溶解し、及び/又は体内に吸収され得、持続性の止血が達成され得る。
【0038】
本明細書における組成物を含む止血システムは、数時間から数日間から数週間の範囲である一定の期間、例えば組織が治癒することを可能にするのに十分な期間にわたり、標的部位での出血を停止、低減、阻止、及び/又は予防することを促進し得る。いくつかの場合、標的部位は、止血薬及びpH薬の1回の適用により治癒し得る。いくつかの場合、標的部位は、再出血し得、この場合、止血薬の1つ以上のさらなる適用は、任意選択で1つ以上のpH薬と組み合わせて又は順次適用され得る。例えば、上記で説明し、及び/又は
図1A~1C、2A~2C、又は3A~3Eに示す方法のいずれも繰り返され得る。さらに、例えば、医療従事者は、定期的に再出血をチェックし得る。再出血が起こった場合、さらなる組成物(例えば、止血薬、pH薬及び/又はモノマー/ポリマーを含む)は、標的部位に適用され得る。
【0039】
本明細書における組成物及び方法は、治療法の一部分であり得る。例えば、患者が、内視鏡手術において、本明細書における物質で治療されると、患者は、胃酸の産生を低減させることを支援する1つ以上の薬剤を服用するように勧められ得る。例えば、患者は、定められた間隔において経口で制酸薬を服用するように勧められ得る。
【0040】
本発明の他の実施形態は、本明細書で開示される実施形態の仕様及び実施を考慮して当業者に明らかになるであろう。本明細書及び例は、例示的なものにすぎないことが意図され、本発明の真の範囲及び趣旨は、下記の請求項によって示される。
【国際調査報告】